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抗CD3/CD20二重特異性抗体エプコリタマブ、再発難治性濾胞性リンパ腫に適応拡大の承認を取得/ジェンマブ

 ジェンマブは、2025年2月20日 、抗CD3/CD20二重特異性抗体エプコリタマブ(商品名:エプキンリ)について、2つ以上の前治療歴を有する再発又は難治性の濾胞性リンパ腫(Grade1~3A)に対する用法・用量を追加する製造販売承認事項一部変更承認を厚生労働省より取得した。 今回の承認はRR FLを含む成熟B細胞性非ホジキンリンパ腫を対象に、エプコリタマブ単剤の安全性および有効性を評価した海外非盲検多施設共同第I/II相臨床試験(EPCORE NHL-1/GCT3013-01試験)と国内第I/II相臨床試験(EPCORE NHL-3/GCT3013-04試験)等の結果に基づいている。 海外第I/II相臨床試験(EPCORE NHL-1/GCT3013-01試験、第II相パート インドレントB細胞性非ホジキンリンパ腫コホート)において、治療歴が2回以上のRR FL(Grade1~3A)患者128例を対象に行われ、全奏効率(ORR)は82.0%、完全奏効(CR)率は62.5%であった。同試験で別途設定されたFL最適化コホートでは、86例のFL(Grade1~3A)を対象に、サイトカイン放出症候群(CRS)を低減させるために推奨された3ステップ漸増について評価を行った。その結果、2ステップ漸減では66.4%であったCRS発現割合が48.8%となった。 国内第I/II相臨床試験(EPCORE NHL-3/GCT3013-04試験、第II相パートFLコホート)は治療歴が2回以上のRR FL(Grade1~3A)を対象に行われ、ORRは95.2%、CR率は76.2%であった。両試験での主な副作用は、CRS、注射部位反応、発疹、好中球数減少等であった。追加された用法用量・再発又は難治性の大細胞型B細胞リンパ腫(びまん性大細胞型B細胞リンパ腫/高悪性度B細胞リンパ腫/原発性縦隔大細胞型B細胞リンパ腫)、再発又は難治性の濾胞性リンパ腫(Grade3B):2ステップ漸増・再発又は難治性の濾胞性リンパ腫(Grade1~3A):3ステップ漸増

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米国、中絶禁止法施行の州で乳児死亡率が上昇/JAMA

 米国において中絶禁止法を導入した州では、施行後の乳児死亡率が、施行前の乳児死亡率に基づく予測値と比べて上昇したことが明らかにされた。乳児死亡の相対増加率は、先天異常による死亡で大きく、黒人や南部の州などベースラインの乳児死亡率が平均より高い集団でも大きかったという。米国・ジョンズ・ホプキンズ・ブルームバーグ公衆衛生大学院のAlison Gemmill氏らが報告した。最近の中絶禁止法の施行が乳児死亡率に及ぼす影響については十分に理解されておらず、また、中絶禁止法が乳幼児の健康における人種的・民族的格差とどのように相互作用するかについてはエビデンスが限られていた。JAMA誌オンライン版2025年2月13日号掲載の報告。2012~23年の全米データを解析 研究グループは、2012年1月~2023年12月までの全米50州およびコロンビア特別区(ワシントン)の出生および死亡証明書のデータから、生後28日未満の新生児および生後1年未満の乳児の死亡数、ならびに出生総数を半年ごとに集計した。 主要アウトカムは乳児死亡率(1,000出生当たり)で、全集団および人種/民族別、死亡時期別(新生児期vs.それ以外)、死因別(先天異常vs.それ以外)に算出した。 曝露要因は完全な中絶禁止または妊娠6週目以降の中絶禁止で、ベイズパネルモデルを用いて、それら中絶禁止を法的に導入した14州の乳児死亡率を、中絶禁止を法的に導入していない州の乳児死亡率ならびに当該14州の中絶禁止法施行前の乳児死亡率に基づく予測値と比較した。乳児死亡は中絶禁止法施行前より5.6%増加 中絶禁止法を導入した州では、施行後の乳児死亡率が予測値よりも高かったことが判明した(予測値5.93 vs.実測値6.26[/1,000出生]、絶対増加:0.33[95%信用区間[CrI]:0.14~0.51]、相対増加率:5.60%[95%CrI:2.43~8.73])。この結果、中絶禁止法が導入された14州において、中絶禁止が影響した期間の乳児の過剰死亡は478例と推定された。 非ヒスパニック系黒人集団では他の人種/民族集団と比較して乳児死亡率の上昇が大きく、乳児死亡数(/1,000出生)は予測値10.66に対して実測値11.81で、絶対増加は1.15(95%CrI:0.53~1.81)、相対増加率は10.98%(95%CrI:4.87~17.89)であった。 先天異常による乳児死亡(/1,000出生)は、予測値1.24に対して実測値1.37(絶対増加0.13[95%CrI:0.04~0.21]、相対増加率:10.87%[95%CrI:3.39~18.08])、先天異常以外の原因による乳児死亡(/1,000出生)は、予測値4.69に対して実測値4.89(絶対増加:0.20[95%CrI:0.02~0.38]、相対増加率:4.23%[95%CrI:0.49~8.23])であった。 テキサス州の動向が全体的な結果に大きな影響を及ぼしていることが認められ、南部の州のほうがそれ以外の州より大きな増加がみられた。

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世界初、遺伝子編集ブタ腎臓の異種移植は成功か/NEJM

 米国・マサチューセッツ総合病院の河合 達郎氏らは、遺伝子編集ブタ腎臓をヒトへ移植した世界初の症例について報告した。症例は、62歳男性で、2型糖尿病による末期腎不全のため69の遺伝子編集が施されたブタ腎臓が移植された。移植された腎臓は直ちに機能し、クレアチニン値は速やかに低下して透析は不要となった。しかし、腎機能は維持されていたものの、移植から52日目に、予期しない心臓突然死を来した。剖検では、重度の冠動脈疾患と心室の瘢痕化が認められたが、明らかな移植腎の拒絶反応は認められなかった。著者は、「今回の結果は、末期腎不全患者への移植アクセスを拡大するため、遺伝子編集ブタ腎臓異種移植の臨床応用を支持するものである」とまとめている。NEJM誌オンライン版2025年2月7日号掲載の報告。69の遺伝子編集を組み込んだブタ腎臓を2型糖尿病による末期腎不全患者に移植 移植に用いたブタ(Yucatanミニブタ)は、3つの主要な糖鎖抗原を除去し、7つのヒト遺伝子(TNFAIP3、HMOX1、CD47、CD46、CD55、THBD、EPCR)を導入して過剰発現させ、ブタ内在性レトロウイルスを不活性化するなど、計69の遺伝子編集を組み込んだ。 レシピエントは、2型糖尿病による末期腎不全の62歳男性であった。心筋梗塞、副甲状腺摘出術が既往で、2018年に献腎移植を受けたが、2023年5月にBKウイルス感染および糖尿病性腎症の再発により移植腎が機能不全となり、血液透析中であった。 マサチューセッツ総合病院の集学的チームによる包括的評価と、独立した精神科医および倫理委員会による評価を経て、移植を実施した。 免疫抑制療法は、前臨床研究に基づき、抗胸腺細胞グロブリン(ウサギ)、リツキシマブ、Fc修飾抗CD154モノクローナル抗体(tegoprubart)および抗C5抗体(ラブリズマブ)、タクロリムス、ミコフェノール酸とprednisoneを併用した。移植腎は機能していたが、糖尿病性虚血性心筋症に伴う不整脈で心臓突然死 移植手術は、冷虚血時間4時間38分で終了した。移植したブタ腎臓は移植後5分以内に尿を産生し、最初の48時間で6L超に達した。その後、尿量は1日1.5~2Lで安定した。患者の血漿クレアチニン値は、術前の11.8mg/dLから術後6日目には2.2mg/dLに低下した。 術後8日目に血漿クレアチニンが2.9mg/dLに上昇し、発熱、圧痛、尿量の減少を認めたが、感染症の検査は陰性であった。抗体介在性拒絶反応が疑われたため、メチルプレドニゾロン、トシリズマブを投与した。投与前の腎生検で、急性T細胞介在性拒絶反応(Banffグレード2A)が確認された。 術後9日目および10日目にメチルプレドニゾロンおよび抗胸腺細胞グロブリンを投与し、タクロリムスとミコフェノール酸を増量し、さらに補体C3阻害薬のペグセタコプランを投与した。トシリズマブの追加投与は行わなかった。その後、患者の尿量は増加し、血漿クレアチニン値は低下した。 術後18日目、血漿クレアチニン値2.5mg/dLで退院した。34日目に再び上昇したが、水分補給により1.57mg/dLまで低下した。推算糸球体濾過量(eGFR)は40~50mL/分/1.73m2であった。 術後25日目に皮下創感染症が発生し、外科的に一部切開するとともに、抗菌薬(リネゾリド、メロペネム)の投与を開始し、排膿ドレナージを実施した。緑膿菌陽性の後腹膜貯留液が排出された。切開は37日目に閉鎖し、2週間培養陰性および腹部CTにより貯留液の消失が確認されことから、51日目にドレーンを抜去した。 術後51日目、患者は外来を受診した。水分摂取量が少なく血漿クレアチニン値が2.7mg/dLと比較的高値であったため、補液を実施した。それ以外は、うっ血性心不全の症状はなく、身体所見も腎臓超音波検査でも異常は認められなかった。血圧、心拍数、呼吸数もすべて正常であった。 しかし、夕方に突然、呼吸困難に陥り、蘇生に努めたが術後52日目に亡くなった。剖検の結果、重度のびまん性冠動脈疾患を伴う心臓肥大、びまん性左室線維化などが認められ、これらはすべて糖尿病性虚血性心筋症によるものと考えられた。急性心筋梗塞、肺塞栓症、肺炎、他の臓器の炎症または薬物毒性は認められなかったことから、重症虚血性心筋症に伴う不整脈による心臓突然死と結論付けられている。

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検査等の定型的な手技、過失責任は?【医療訴訟の争点】第9回

症例診療時の医療処置ではさまざまな手技が行われるが、患者の病態(原因疾患の部位や大きさ・進行度などを含む)に応じて手技内容が異なるものと、患者の病態により左右されることの少ない定型化された機械的所作の手技とがある。今回は、機械的所作と言いうる要素が比較的大きいマンモトーム生検における局所麻酔の手技の過失の有無等が争われた東京地裁平成28年5月25日判決を紹介する。<登場人物>患者43歳(被告病院初診時)・女性人間ドックにて左乳腺腫瘤疑いと指摘されて被告病院を受診。原告患者本人被告総合病院(大学病院)事案の概要は以下の通りである。平成23年(2011年)1月12日人間ドックを受診し、左乳腺腫瘤疑いを指摘された。1月19日被告病院を紹介受診。被告病院にて、超音波検査やマンモグラフィ検査、細胞診等を受けたが、積極的に悪性を疑わせる所見が認められなかったことから、約6ヵ月後に経過観察をする方針となった。<以後、数ヵ月ごとに被告病院を受診し、穿刺吸引細胞診、乳腺MRI検査等を受けた>平成24年(2012年)10月17日超音波検査及びマンモグラフィ検査を受けた。10月19日被告病院を受診し、主治医のA医師(乳腺外科15年目)より説明を受け、エコーガイド下マンモトーム生検を受けることとなった。なお、A医師は、「治療に関する説明・同意書」を用いて、同生検の目的や方法を説明したほか、生じ得る合併症として、発生頻度の比較的高い出血や皮下血腫などについては説明したが、「予想される不利益」として気胸についての記載はなく、A医師も気胸が発生する可能性については説明しなかった。10月30日エコーガイド下マンモトーム生検を実施するにあたり、B医師(研修医終了後3年目)が局所麻酔を行ったところ、手技中に咳き込み、マンモトーム生検は中止となった。室内気でSpO2 100%、血圧は150 mmHg台と高かったものの、その後、111/75mmHgに戻り、心拍数は86/分、呼吸音にラ音はなく、皮下気腫が生じた場合に生じる頸部皮膚の握雪感も認めなかった。気胸が生じた可能性を考慮し胸部X線検査を行ったが、異常所見は認められなかった。10月31日原告は胸痛が出現したため被告病院の救急外来を受診した。胸部X線検査で左気胸が認められたため、被告病院の呼吸器外科を受診し、胸腔ドレーン挿入などの治療を受けた。実際の裁判結果裁判所は、以下の点を指摘し、「原告に生じた左気胸は、マンモトーム生検の局所麻酔を行った際に胸腔内まで麻酔針が貫通し、肺を穿刺したことによって生じた医原性気胸である」と認定した。一般に、気胸の病因による分類の一つに、医療行為に伴う医原性気胸があること本件では、マンモトーム生検の局所麻酔を行っている最中に原告に咳嗽が生じ、気分不快等を訴えたことマンモトーム生検中止の直後から原告には胸痛や息苦しさが生じていたものと認められることマンモトーム生検を行った平成24年10月30日当日の胸部X線検査では、原告に明らかな異常所見は認められなかったものの、翌31日も、原告の胸痛等の症状が持続し、同日の胸部X線検査及び胸部単純CT検査において、左気胸と診断されたこと裁判所は、本件の局所麻酔について、以下の点を指摘した。エコーガイド下マンモトーム生検の麻酔針の穿刺による合併症として気胸を指摘する文献は証拠上見当たらないこと(生検に伴う「合併症」として「乳房が小さい場合や病変が深部にあるとき、まれに局所麻酔の注射針で気胸を生じることがある」旨の文献の記載があるが、これは直接的には摘出生検に係る記載であり、エコーガイド下マンモトーム生検の麻酔針の穿刺に関するものとは読めないこと)エコーガイド下マンモトーム生検の局所麻酔を行うに当たっては、筋層直上に位置しており胸腔やその内部にある肺と至近距離にある部位(レトロマンマリースペース)まで麻酔針を到達させることが重要とされていることレトロマンマリースペースの位置からすると、麻酔針が胸腔内まで貫通し、肺を穿刺する一般的な危険性を有することは否定できないこと術者はモニター画面上で針先を中心に継続的な確認を行いながら自ら針の刺入等の操作を行っており、針先が明確に確認できなくなれば、針を回転させる等の方法で針先位置を確認し直した上で穿刺を継続し、あるいは刺入し直す等の方法で対応していること針治療や肺・胸腔穿刺(胸膜穿刺)、胸膜生検、中心静脈栄養法のための鎖骨下静脈穿刺、気管支鏡による経気管支肺生検なども同様に胸腔近傍において針の穿刺を行う手技ではあるが、エコーガイド下マンモトーム生検の麻酔針の胸腔内への貫通によって気胸を生じる例が極めてまれであることエコーガイド下マンモトーム生検の麻酔針の穿刺については、一定の抽象的な危険性や制約はあるものの、突発的な体動の発生や超音波による描出が特に困難な事情等特段の事情があれば別論、一般的には前記のような手段を講じ通常の注意義務を尽くすことによって胸腔内への貫通を防止し得ることが通常であることかかる事項を指摘した上で、裁判所は、以下のとおり判示し、手技上の過失(注意義務違反)があったものと推認されるとした。「本件マンモトーム生検の局所麻酔において、超音波画像で麻酔針の針先が確実に描出できていなかった可能性をもって、原告に生じた医原性気胸が不可避であったものと断ずることはできず、本件マンモトーム生検の局所麻酔において原告の胸腔内まで麻酔針を貫通させ、肺を穿刺したことについて、B医師には、針先の十分な確認を怠り、あるいは、超音波画像の評価を誤って麻酔針を進入させた手技上の注意義務違反ないし過失があったものと推認せざるを得ない」その上で、過失を覆す証拠がないとして、本件マンモトーム生検の局所麻酔の手技の過失を認めた。注意ポイント解説本件は、専ら施術における機械的所作の手技により、発症率が極めて低い合併症が生じたことにつき、手技上の過失が認められた事案である。裁判所が、エコーガイド下マンモトーム生検の麻酔針の穿刺については、一定の抽象的な危険性や制約はあることを指摘し、これによる気胸の合併症報告が極めてまれであること等を指摘し、通常の注意義務を尽くすことによって胸腔内への貫通を防止し得るとした上で、発生した合併症(気胸)について、「針先の十分な確認を怠り、あるいは、超音波画像の評価を誤って麻酔針を進入させた手技上の注意義務違反ないし過失があったものと推認せざるを得ない」としたことが注目される。かかる裁判所の判断は、患者の病態(原因疾患の部位や大きさ・進行度などを含む)に応じて手技内容が左右されることの少ない機械的所作の手技については、同様に当てはまる可能性がある。このため、機械的所作の手技の結果、発生がまれな合併症が生じた場合には、医療者の過失(注意義務違反)が推認される可能性があることに留意する必要がある。この場合、処置時(手技実施時)において、通常のケースと異なる配慮が必要な状態であったことや予想外の事態が生じたことをカルテ記載等で示せない限り、責任を回避することは困難と考えられる。医療者の視点本事案の裁判所の判断は、機械的所作とされる手技においても、術者の適切な確認が求められることを示しています。たとえば、中心静脈穿刺では、エコーガイド下であっても患者の体動や解剖学的個体差により、血管穿刺が困難になり、誤って胸膜を穿刺するリスクがあります。このような状況では、針先の動きを慎重にモニタリングし、異常があれば即座に対応する判断力が重要です。また、術中に通常と異なる状況が生じた場合、それを記録し、客観的な説明ができるよう備えておくことが、後のリスク管理につながります。安全な医療の提供には、技術の習熟だけでなく、想定外の事態に対応する柔軟な判断力と、それを記録・説明する意識が不可欠です。Take home message患者の病態(原因疾患の部位や大きさ・進行度などを含む)に応じて手技内容が左右されることの少ない機械的所作の手技の結果、発生がまれな合併症が生じた場合には、医療者の過失(注意義務違反)が推認される可能性がある。処置時(手技実施時)に通常と異なる事態が生じていたのであれば、そのことを記録しておく必要がある。キーワード合併症と医療者の責任合併症の中には、医療行為により不可避的に生じるものと、医療者の過失(注意義務違反)により生じるものとがある。悪しき結果が生じた場合にそのすべてが医療者の責任とされるものではないが、医療者の過失(注意義務違反)により生じたものについては、医療者に責任が発生する。このため、医療事故をめぐる紛争においては、患者側に生じた悪しき結果が、患者側の主張する医療者の過失(注意義務違反)によって生じたものであるのか、不可避の合併症であるのかが争われることも多い。この場合、医学文献・論文を用いての立証に加え、協力医の意見書の提出がされることや、裁判所の選任する鑑定医による鑑定がなされることもある。

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ASCO-GI 2025会員レポート

レポーター紹介2025年1月23~25日に米国臨床腫瘍学会消化器がんシンポジウム(ASCO-GI 2025)が米国・サンフランシスコで開催された。東北大学・腫瘍内科の笠原 佑記氏(上部消化器がん担当)と大内 康太氏(下部消化器がん担当)が重要演題をピックアップし、結果を解説する。食道がんPhase II study of neoadjuvant chemotherapy with fluorouracil, leucovorin, oxaliplatin and docetaxel for resectable esophageal squamous cell carcinoma.(abstract#418)切除可能な局所進行食道扁平上皮がんに対する、フルオロウラシル、ロイコボリン、オキサリプラチン、ドセタキセル(FLOT療法)による術前化学療法の安全性と有効性を評価した、日本発の第II相多施設共同試験の結果が報告された。病理学的奏効率(pRR)は43.4%(95%信頼区間[CI]:29.8~57.7、p=0.00002)であり、主要評価項目を達成した。また、R0切除率は83.0%、病理学的完全奏効率(pCR)は13.2%と良好な結果が得られた。とくに注目すべき点として、DCF(ドセタキセル+シスプラチン+5-FU)療法で課題とされる発熱性好中球減少症の発生率が1.9%と相対的に低かったことが挙げられる。これにより、FLOT療法は効果と安全性のバランスに優れた新たな治療選択肢となりうる可能性が示された。胃がんNivolumab (NIVO) + chemotherapy (chemo) vs chemo as first-line (1L) treatment for advanced gastric cancer/gastroesophageal junction cancer/esophageal adenocarcinoma (GC/GEJC/EAC): 5-year (y) follow-up results from CheckMate 649.(abstract#398)ニボルマブ+化学療法の有効性と安全性について、CheckMate 649試験の5年フォローアップデータが報告された。PD-L1 CPS≧5の患者群における全生存期間(OS)中央値は、ニボルマブ+化学療法群で14.4ヵ月(95%CI:13.1~16.2)、化学療法単独群で11.1ヵ月(95%CI:10.1~12.1)であり、ハザード比(HR)は0.71(95%CI:0.61~0.82)であった。60ヵ月時点の生存割合は、ニボルマブ+化学療法群で16%、化学療法単独群で6%であった。昨年のASCO-GI 2024で報告された48ヵ月時点での生存割合(それぞれ17%、8%)と比較すると、ニボルマブ併用により生存率の改善と長期奏効がもたらされていることが示唆される。本試験の結果は、CheckMate 649試験が胃がんの1次治療の標準を大きく変えた重要な試験であることをあらためて認識させるものであった。Final analysis of the randomized phase 2 part of the ASPEN-06 study: A phase 2/3 study of evorpacept (ALX148), a CD47 myeloid checkpoint inhibitor, in patients with HER2-overexpressing gastric/gastroesophageal cancer (GC).(abstract#332)HER2陽性胃・食道胃接合部がんの2次・3次治療における、抗CD47抗体evorpacept併用療法の有効性と安全性を評価した第II相無作為化比較試験(ASPEN-06)の結果が報告された。evorpaceptは、CD47に対する高い親和性を持ちつつ、不活性化されたFc領域を有することで、従来のCD47阻害による課題の1つであった赤血球減少を回避しながら、抗体依存性細胞貪食(ADCP)を増強することが可能な薬剤である。本試験では、トラスツズマブ+ラムシルマブ+パクリタキセル(TRP群)と、これにevorpaceptを併用した群(Evo-TRP群)に患者を無作為に割り付けた。奏効率(ORR)は、Evo-TRP群で40.3%、TRP群で26.6%であり、主要評価項目であるヒストリカルコントロール(ラムシルマブ+パクリタキセル療法、想定奏効率30%)との比較では統計学的有意差を示すことはできなかった(p=0.095)。しかしながら、治療前の生検にてHER2陽性が確認された患者に限定すると、Evo-TRP群の奏効率は54.8%と高く、evorpaceptが抗HER2療法の効果を高める可能性が示唆された。evorpaceptは、その作用機序からトラスツズマブ以外の抗体薬との併用においても抗腫瘍効果の増強が期待できる薬剤であり、今後のさらなる臨床応用の発展が期待される。大腸がんASCO-GI 2025では、切除不能大腸がんにおけるTargeted TherapyとImmunotherapyの双方においてPractice changingな発表が行われた。本稿では3つの注目演題を中心に報告する。BREAKWATER: Analysis of first-line encorafenib + cetuximab + chemotherapy in BRAF V600E-mutant metastatic colorectal cancer.(abstract#16)1つ目の注目演題は、BRAF V600E変異を有する未治療の切除不能大腸がん患者を対象に実施されたBREAKWATER試験である。 BRAF V600E変異陽性大腸がんに対しては、BEACON試験(Kopetz S, et al. N Engl J Med. 2019;381:1632-1643.)の結果から、現在は2次治療あるいは3次治療でエンコラフェニブ+セツキシマブ(EC)の2剤併用療法もしくはエンコラフェニブ+セツキシマブ+ビニメチニブの3剤併用療法が標準治療として用いられている。2剤併用療法と3剤併用療法の使い分けについては、BEETS試験(abstract#164)の結果から2剤併用療法の有用性が示されたが、3ヵ所以上の遠隔転移など予後不良因子を有する群においては3剤併用療法が有用である可能性が示唆された。今回報告されたBREAKWATER試験は、 BRAF V600E変異陽性の切除不能大腸がんに対する1次治療として、EC±化学療法と標準治療を比較した非盲検多施設共同第III相試験である。本試験は当初、EC群、EC+mFOLFOX6併用療法群もしくは標準治療群の3群に割り付けを行う試験デザインで開始されたが、その後EC+mFOLFOX6併用療法群もしくは標準治療群の2群に1対1で割り付ける試験デザインに変更された。2022年の欧州臨床腫瘍学会(ESMO Congress 2022)では、Safety Lead-inパートにおける忍容性とPK(薬物動態)の解析結果に加え、少数例での予備的なデータではあるが有望な抗腫瘍効果が示され、注目を集めていた。ASCO-GI 2025では、主要評価項目の1つであるEC+mFOLFOX6併用療法群および標準治療群における盲検下独立中央判定(BICR)による奏効率の主解析結果、OSの中間解析結果および安全性に関する報告が行われた。EC+mFOLFOX6併用療法群に236例が、標準治療群に243例が無作為に割り付けられ、原発巣占居部位を含む患者背景に有意な偏りは認めなかった。データカットオフ時点での確定奏効率は、EC+mFOLFOX6併用療法群が標準治療群に比べて有意に高い結果であった(60.9%vs. 40.0%、オッズ比:2.443[95%CI:1.403~4.253]、p=0.0008)。中間解析時点でのOSの中央値は、EC+mFOLFOX6併用療法群で未到達(95%CI:19.8~NE)、標準治療群で14.6ヵ月(95%CI:13.4~NE)であり、immatureではあるがHR:0.47(95%CI:0.318~0.691)という驚くべき数値をもってEC+mFOLFOX6併用療法群で有意に延長していた(p=0.0000454)。Grade3/4の治療関連有害事象(TRAE)発現割合は、EC+mFOLFOX6併用療法群で69.7%、標準治療群で53.9%であり、安全性のプロファイルはこれまで報告されているものと一致していた。以上の結果を受け、FDA(米国食品医薬品局)は2024年12月に BRAF V600E変異陽性の切除不能大腸がんの1次治療としてエンコラフェニブ+セツキシマブ+mFOLFOX6併用療法を迅速承認しており、本邦においても承認が待たれる。また、今後は BRAF阻害薬がfrontlineで投与される可能性が高いことから、 BRAF阻害薬を含む治療に耐性となった BRAF V600E変異陽性切除不能大腸がんに対する2次治療以降の治療戦略の開発にも注目していきたい。First results of nivolumab (NIVO) plus ipilimumab (IPI) vs NIVO monotherapy for microsatellite instability-high/mismatch repair-deficient (MSI-H/dMMR) metastatic colorectal cancer (mCRC) from CheckMate 8HW.(abstract#LBA 143)2つ目の注目演題は、CheckMate-8HW試験である。MSI-HまたはdMMRの切除不能大腸がんに対する免疫チェックポイント阻害薬(ICI)として、現行のガイドライン(『大腸治療ガイドライン医師用 2024年版』大腸研究会編)では、第III相試験(KEYNOTE-177試験)の結果から1次治療においてはペムブロリズマブ単剤療法が、第II相試験(KEYNOTE-164試験、CheckMate 142試験)の結果からICI未投与の既治療例においてはペムブロリズマブ単剤療法、ニボルマブ(Nivo)単剤療法もしくはイピリムマブ+ニボルマブ(Ipi+Nivo)併用療法がそれぞれ強く推奨されている。しかし、Nivo単剤療法とIpi+Nivo併用療法とを直接比較した試験はこれまでに行われていなかった。CheckMate-8HW試験は、ICI未投与のMSI-H/dMMR切除不能大腸がんを対象として、Ipi+Nivo併用療法の有効性と安全性をNivo単剤療法または医師選択化学療法と比較検討した多施設共同非盲検第III相試験である。昨年開催されたASCO-GI 2024では、本試験の主要評価項目の1つである1次治療におけるIpi+Nivo併用群と医師選択化学療法群とを比較したBICRの評価による無増悪生存期間(PFS)の解析結果が報告され、HR:0.21(95%CI:0.13~0.35)と大きなインパクトを伴ってIpi+Nivo併用群で有意にPFSが延長していた。ASCO-GI 2025では、もう1つの主要評価項目である、全治療ラインにおけるIpi+Nivo併用群とNivo単剤群とを比較したBICRの評価によるPFSの解析結果、および安全性に関する報告が行われた。Ipi+Nivo併用群に354例が、Nivo単剤群に353例が無作為に割り付けられ、PD-L1発現状態や遺伝子異常を含む患者背景に有意な偏りは認めなかった。データカットオフ時点でのPFSの中央値は、Ipi+Nivo併用群で未到達(53.8~NE)、Nivo単剤群で39.3ヵ月(22.1~NE)であり、Ipi+Nivo併用群で有意に延長していた(HR:0.62、95%CI:0.48~0.81、p=0.0003)。BICRに基づく確定奏効率は、Ipi+Nivo併用群で71%(95%CI:65~76)、Nivo単剤群で58%(95%CI:52~64)であり、有意にIpi+Nivo併用群で高かった(p=0.0011)。Grade3/4のTRAE発現割合は、Ipi+Nivo併用群で22%、Nivo単剤群で14%であり、安全性のプロファイルはこれまで報告されているものと一致していた。CheckMate-8HW試験の結果から、主要評価項目であるPFSの比較において、ASCO-GI 2024では標準化学療法に対する優越性が、今回のASCO-GI 2025ではNivo単剤療法に対する優越性が検証されたことから、Ipi+Nivo併用療法はMSI-H/dMMRの切除不能大腸がんに対する標準治療として確立されていくものと予想される。今後の課題としては、2剤併用療法を用いることで想定される免疫関連有害事象のリスクマネジメントが挙げられ、また本試験ではニボルマブの最長投与期間が2年に設定されていたため、長期病勢制御が得られた場合の適切な治療期間についてはさらなる検討が必要と考えられる。Final analysis of modified (m)-FOLFOXIRI plus cetuximab versus bevacizumab for RAS wild-type and left-sided metastatic colorectal cancer: The DEEPER trial (JACCRO CC-13). (abstract#17)3つ目の注目演題は、DEEPER試験である。本試験はRAS野生型切除不能大腸がんの1次治療において、3剤併用化学療法(mFOLFOXIRI)のパートナーとして、抗EGFR抗体薬(セツキシマブ)と抗VEGF抗体薬(ベバシズマブ)のいずれがより適しているかを比較検討した無作為化第II相試験である(Shiozawa M, et al. Nat Commun. 2024;15:10217.)。主要評価項目は最大腫瘍縮小率(DpR)に設定され、2021年の米国臨床腫瘍学会年次総会(2021 ASCO Annual Meeting)では、セツキシマブ(CET)併用群ではベバシズマブ(BEV)併用群に比べて有意にDpRが高いことが報告された。ASCO-GI 2025では、副次評価項目である生存期間(PFSおよびOS)に関する最終解析の結果が報告された。本試験ではCET併用群に179例、BEV併用群に180例が無作為に割り付けられ、それぞれ159例、162例がper protocol setとして解析対象となった。データカットオフ時点での左側症例におけるPFSの中央値はCET併用群で13.9ヵ月(95%CI:12.2~17.5)、BEV併用群で12.1ヵ月(95%CI:10.9~14.1)であり、両群間で有意な差は認めなかった(HR:0.81[95%CI:0.63~1.05]、p=0.11)。左側症例におけるOSの中央値はCET併用群で45.3ヵ月(95%CI:37.6~53.1)、BEV併用群で41.9ヵ月(95%CI:34.1~48.7)であり、両群間で有意な差は認めなかった(HR:0.85[95%CI:0.64~1.12]、p=0.25)。一方で、RAS/BRAF遺伝子野生型の左側症例(178例)に対象を限定して行われた探索的な解析では、PFSの中央値はCET併用群で14.8ヵ月(95%CI:12.6~19.4)、BEV併用群で11.9ヵ月(95%CI:10.8~14.6)であり、CET併用群で有意にPFSが延長していた(HR:0.71[95%CI:0.52~0.97]、p=0.029)。OSの中央値はCET併用群で50.2ヵ月(95%CI:39.9~56.0)、BEV併用群で40.2ヵ月(95%CI:33.5~48.8)であり、CET併用群では50ヵ月を超えるOS中央値が示されたものの、統計学的有意差は認めなかった(HR:0.74[95%CI:0.53~1.05]、p=0.091)。さらに、RAS/BRAF遺伝子野生型の左側症例から肝限局転移症例を除外して行われた探索的な解析(125例)では、OSの中央値はCET併用群で50.2ヵ月(95%CI:39.6~60.1)、BEV併用群で38.6ヵ月(95%CI:30.5~45.2)であり、CET併用群で有意にOSが延長していた(HR:0.60[95%CI:0.40~0.90]、p=0.014)。これらの結果から、RAS/BRAF遺伝子野生型の左側症例、なかでも非肝限局転移症例においてはmFOLFOXIRI+セツキシマブ併用療法が有望な治療オプションとなる可能性が示されたが、皮疹や下痢などの有害事象発現のリスクや、あくまで探索的な解析結果である点には十分留意してdecision makingに反映する必要がある。なお、未治療のRAS/BRAF遺伝子野生型の左側症例を対象とした非盲検多施設共同第III相試験(TRIPLETE試験、Rossini D, et al. J Clin Oncol. 2022;40:2878-2888.)では、抗EGFR抗体薬(パニツムマブ)に併用する化学療法として3剤併用療法(mFOLFOXIRI)の2剤併用療法(mFOLFOX)に対する優越性が検討されたが、積極的に3剤併用療法を選択するエビデンスは示されなかった。したがって、RAS/BRAF遺伝子野生型の左側症例に対する1次治療において、抗EGFR抗体薬に2剤併用療法を選択するのか、3剤併用療法を選択するのかという点についても引き続き議論が必要であるが、DEEPER試験で示された転移臓器との関連がキーポイントとなるかもしれない。今回紹介した注目演題で検討された試験治療は、いずれも有望な抗腫瘍効果を示した一方で、従来の標準治療に比べて相応の有害事象発現リスクの上昇を伴うものである。今後のトランスレーショナルリサーチ(TR)研究によって、真にベネフィットが期待される患者集団の絞り込みや、耐性克服につながる治療戦略が開発されることを期待したい。

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第252回 “タカる”厚生労働省(後編) 医師偏在対策で”僻地”の医師手当増額の財源を保険者からの資金拠出で賄うことを決定

創薬と医師偏在の2つの施策で民間に資金拠出を求めるこんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。この連休は大学時代の山仲間と毎年恒例の八ヶ岳冬山トレーニングに行ってきました。いつもガイド兼パーティーリーダーをお願いしている原村在住の先輩が膝の靭帯を痛めて今回は不参加。ということで冬山初心者向けの縞枯山に登ることにしました。北八ヶ岳ロープウエイで一気に中腹の坪庭まで登る手もあったのですが、それではラクすぎるので明け方に山麓駅に着いて下から登りはじめました。それでも3時間余りでピークに着いてしまい、全員少々不完全燃焼。南八ヶ岳、南アルプス、中央アルプスの眺望は楽しめたものの、一度ラクをすると次からどんどんラクなほうを選ぶのが人間です。反省会では、来年は再び6時間超のコースに戻そうかと仲間と真剣に話し合った次第です。さて今回も前回に続いて、厚生労働省の“タカり”とも取れるもう一つの施策について書いてみたいと思います。政府は2月14日、地域医療構想の見直し、医師偏在是正、医療DX推進などを盛り込んだ医療法改正案を閣議決定し、国会に提出しました。このうち、医師偏在是正に関する法案は、本連載の「第245回 『医師偏在是正に向けた総合的な対策パッケージ』まとまる、注目された『規制的手法』は大甘、『経済的インセンティブ』も実効性に疑問」で書いた、厚労省の医師偏在対策推進本部が 2024年12月25日に公表した「総合的な対策パッケージ」を法律に落とし込んだものです。この中の「経済的インセンティブ」の対策では、「重点医師偏在対策支援区域における支援のうち、当該区域の医師への手当増額の支援については、全ての被保険者に広く協力いただくよう保険者からの負担を求める」として、保険者(健保組合等)からの資金拠出を求めるかたちになっています。提出された医療法改正案の「要綱」の「医師手当事業等に関する事項」には、「医師手当事業に要する費用は、医療情報基盤・診療報酬審査支払機構(基盤機構)が都道府県に対して交付する医師手当交付金をもって充てる」とし、「基盤機構は、年度ごとに、医療保険者等から医師手当拠出金及び医師手当関係事務費拠出金(医師手当拠出金等)を徴収し、医療保険者等は医師手当拠出金等を納付する義務を負う」と書かれています。被用者保険関係5団体は「『保険給付と関連性の乏しい使途』に保険料を充当することは、著しく妥当性を欠く」と批判厚生労働省は、2024年8月30日に「近未来健康活躍社会戦略」の中で「医師偏在対策総合パッケージの骨子案」を提示、「厚生労働省医師偏在対策推進本部」等で総合パッケージに向けた検討が進められて来ました。この間、11月20日に開催された「新たな地域医療構想等に関する検討会」で具体的な医師偏在対策案が厚労省から提示されましたが、この時、「経済的インセンティブについて医療保険者などにも一定の負担を求めてはどうか」との提案が行われました。突然出てきた保険者にお金を出させようという案を牽制すべく、健康保険組合連合会、全国健康保険協会、日本経済団体連合会、日本商工会議所、日本労働組合総連合会の被用者保険関係5団体は11月29日に、「経済的インセンティブの財源として、『保険給付と関連性の乏しい使途』に保険料を充当することは、著しく妥当性を欠く」という趣旨の意見書を福岡 資麿厚労相に提出しました。しかし、最終的にこの意見書が反映されることはなく、保険者からの資金拠出は決定しました。前回書いた創薬支援基金構想に対する米国研究製薬工業協会(PhRMA)の大反対のような効果は得られなかったわけです。もっとも、12月19日に社会保障審議会医療保険部会で配布された「医師偏在対策に関するとりまとめ」の資料には、医師への手当増額の支援の財源を保険者からの負担(財源のすべてを保険者負担)で賄う施策の説明の後に、次のような一文が申し訳程度(保険者へのガス抜きの意味で?)に記されています。「なお、1)地域に必要な医療提供体制の確保は国・都道府県の責務であり、公的責任において負担するものであること、2)そのための地域医療介護総合確保基金が消費税財源により措置されていること、3)医師の人件費は医療費の一部であり、保険者は現に診療報酬を通じて必要な負担をしていること等の理由から、医師偏在対策にかかる費用を保険者の拠出財源に求めることには合理性がなく、保険給付と関連性の乏しい使途に保険料を充当することは、著しく妥当性を欠くとの意見もあった」。保険者は「お金を出しているからモノも言える」状況に変わる可能性も保険料は本来、医療の給付に使われるものです。それを、国や行政が十分な対策を講じてこなかった医師偏在対策において、医師が足りていない地域(重点医師偏在対策支援区域)の医師の給与増額に使うのは明らかに筋違いの施策と言えます。診療報酬での手当も検討されたようですが、診療報酬で僻地の医師の人件費を手当すると、患者の自己負担額に跳ね返ってしまいます。直接の支援というかたちに落ち着いたのには、そうした理由もあったのかもしれません。これまで、不採算地域の医療には、補助金や地方交付税など税金を使った支援が行われてきました。今回だけ税金ではなく保険者に財源拠出を求めるのは明らかに異例のことです。保険者には相当な痛手となりますが、逆に「お金を出しているからモノも言える」状況に変わる可能性もあります。「医師の給与増額を手助けしてやっているのに、なぜ僻地の医師が増えないんだ」と言えるわけです。この施策の今後が注目されます。厚労省の施策のグダグダ振りがとみに顕著、コロナ対策疲れなのか単純に厚労官僚の能力が低下なのか?というわけで、2回に分けて「“タカる”厚生労働省」の施策について書いてきました。どちらも税金を使っての予算措置ではなく、製薬企業や保険者に資金の拠出をタカらざるを得なかったのは、財務省を説得できるだけの施策ではなかったからでしょう。前回書いた創薬支援基金(仮称)構想は、同様の役割を担う機関として内閣府所管の国立研究開発法人・日本医療研究開発機構(AMED)がすでにあるのに、新たに立ち上げる必然性が感じられませんでした。今回書いた医師が足りていない地域(重点医師偏在対策支援区域)の医師の給与増額の財源を保険者からの拠出財源に求めることについても、果たしてそれで医師偏在が本当に解消されるかどうか不透明です。「そんなことに税金は使えない。自分たち(厚労省)でなんとかしろ」と財務省から言われたとしても不思議ではありません。もう一点、巷間まことしやかに噂されているのは、厚労省の新規天下り先確保のための施策ではないかということです。経済誌ZAITENの3月号は「厚労省『天下り先新設計画』に外資系製薬団体が激怒」と題する記事で創薬支援基金(仮称)構想について報じているのですが、同記事は「無理筋な政策を厚労省が強引に進めようとする背景には、どうやら天下り先の拡大がある」と書いています。AMEDをテコ入れするのではなく、新たな団体を作って理事長や副理事長を置き、数千万円の報酬を支払おうと言うのですから、創薬支援基金(仮称)構想についてはそんな批判もあながち的外れではなさそうです。それにしても、“タカり”のような無理筋の施策を強引に進めたり、実効性に疑問符だらけの「医師偏在是正に向けた総合的な対策パッケージ」をまとめたり、さらには現行の地域医療構想の最終年を2025年度から2026年度に伸ばさざるを得なくなったりと、厚労省のグダグダ振りがとみに顕著だと感じるのは私だけでしょうか。コロナ対策疲れなのか、あるいは単純に厚労官僚の能力が低下しているだけなのか……。いろいろな意味でこちらも心配です。

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抜管前の絶食は不要?【論文から学ぶ看護の新常識】第4回

抜管前の絶食は不要?抜管直前まで絶食をせずに経腸栄養を継続しても抜管失敗に影響がないことが示された。Mickael Landais氏らの研究で、Lancet Respiratory Medicine誌の 2023年4月号に掲載された。集中治療室の患者における抜管前の絶食と比較した抜管直前までの経腸栄養の継続:非盲検、クラスターランダム化、並行群間、非劣性試験研究グループは、集中治療室(ICU)の患者を対象に、挿管抜管前の絶食と比較して、経腸栄養を継続した場合に抜管失敗率が変わらないかを評価するための非盲検、クラスターランダム化、並行群間比較試験を実施した。フランス国内のICU22施設を対象とし、施設単位で、経腸栄養継続群(抜管直前まで経腸栄養を継続)と、絶食群(抜管前6時間の絶食および胃内容物の持続吸引を行う)に、1:1の割合で無作為に割り付けた。対象患者は、(1)ICU入室後48時間以上の侵襲的人工呼吸管理を受けている、(2)抜管決定時点で24時間以上幽門前経腸栄養を受けている18歳以上の患者とした。主要評価項目は、抜管後7日以内の再挿管または死亡からなる複合指標(抜管失敗)とし、Intention to treat(ITT)解析およびPer protocol解析の双方で評価し、非劣性マージンは10%に設定した。副次評価項目として抜管後14日以内の肺炎発症率を含めた。結果は以下の通り。ITT解析(1,130例)では、経腸栄養継続群の617例中106例(17.2%)で抜管失敗が発生した。一方、絶食群では、513例中90例(17.5%)で抜管失敗が発生し、事前に定義された非劣性基準を満たした(絶対差異:-0.4%、95%信頼区間[CI]:-5.2~4.5)。Per protocol解析(1,008例)では、経腸栄養継続群の595例中101例(17.0%)で抜管失敗が発生したのに対し、絶食群では、413例中74例(17.9%)であった(絶対差異:-0.9%、95%CI:-5.6~3.7)。抜管後14日以内の肺炎発生数は、経腸栄養継続群で10例(1.6%)、絶食群で13例(2.5%)であった(発生率比0.77、95%CI:0.22~2.69)。ICUの重症患者において、抜管までの経腸栄養の継続は、6時間の絶食と胃内容物の持続吸引を併用した方法と比較して、抜管後7日以内の抜管失敗率に関して非劣性であることが示された。このため、ICU重症患者において、抜管直前までの経管栄養の継続が、絶食に代わる選択肢のひとつとなる可能性を示唆している。挿管チューブの抜管前には誤嚥を予防する目的で絶食を習慣的に行っている施設が多いと思いますが、患者の栄養不足や医療者の作業負担の増加という課題も指摘されています。今回の研究では、「抜管前まで経腸栄養を続ける群」と「6時間の絶食と胃内容物持続吸引を行う群」の2群をクラスターランダム化比較試験(RCT)という方法で比較しています。日本では朝食分を抜いて午前中抜管しても、12時間近く絶食のため、6時間の絶食という方法でも、絶食時間は短い印象です。本研究は「非劣性」を評価していますが、これは新しい介入が従来法より明らかに劣っていないかを統計的に確かめる枠組みです。抜管後7日以内の再挿管や死亡を「抜管失敗」と定義し、その発生率があらかじめ設定した許容範囲(非劣性マージン)を超えないかどうかを調べました。その結果、経腸栄養継続群での抜管失敗率は従来の絶食群とほぼ同等で、事前設定した範囲を超える悪化はみられませんでした。14日以内の肺炎発症率も大きな差はなく、リスク面での不利益が示されなかったことは臨床にとって重要です。以上から、抜管前の絶食が当然とされてきた現場において、今後患者さんの栄養を損なわずに抜管を行う新しい選択肢となる可能性があります。とくに長期間挿管されていた患者さんの場合、1食抜くだけでも筋肉量の低下につながる可能性があります。また、できるだけ患者さんが3食摂取できることは、QOLの向上や、人道的な観点からも重要であると考えます。ぜひ臨床現場での活用を検討してください。論文はこちらLandais M, et al. Lancet Respir Med. 2023;11(4): 319-328.

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睡眠時無呼吸症候群の鑑別で見落としがちな症状とは?

 帝人ファーマは「家族となおそう睡眠時無呼吸」と題し、1月27日にメディア発表会を行った。今回、内村 直尚氏(久留米大学 学長)が「睡眠時無呼吸症候群とそのリスク」について、平井 啓氏(大阪大学大学院人間科学研究科/Cobe-Tech株式会社)が「睡眠医療のための行動経済学」について解説した。睡眠時無呼吸症候群の現状 まず、内村氏は睡眠障害について、国際分類第3版に基づく診断分類を示した。・不眠症 ・睡眠関連呼吸症候群 ・中枢性過眠症 ・概日リズム睡眠覚醒症候群 ・睡眠時随伴症群 ・睡眠時運動障害群 ・その他の睡眠障害 ・身体疾患及び神経疾患に関する睡眠障害 このなかの睡眠関連呼吸症候群に該当する睡眠時無呼吸症候群(Sleep Apnea Syndrome:SAS)は、無呼吸が一晩(7時間の睡眠中)に30回以上、または睡眠1時間あたりに無呼吸および低呼吸が5回以上起こる状態を指す。国内の潜在患者数は940万人以上で、30~60代の約7人に1人が該当するというが、CPAP(Continuous Positive Airway Pressure)治療を受けている患者数は約73万人と、潜在患者の10%に満たないと言われている。 治療法の第一は生活習慣の是正(睡眠時の体位の工夫、禁煙、禁酒)や減量であるが、日中の眠気などの臨床症状が強い中~重症例に用いるCPAPをはじめ、無呼吸低呼吸指数(AHI)による重症度分類や併存疾患に応じたさまざまな方法がある。現在国内で保険適用となっているのは、OA(口腔内装置)療法(CPAP治療の適応とならない軽~中等症)、口蓋垂軟口蓋咽頭形成術(CPAP、OAいずれも使用できない症例)に加え、舌下神経電気刺激療法がある。医師が押さえておきたい患者像 続いて、SAS患者の主な特徴としては、喫煙者、寝酒の習慣化、肥満傾向、そして高血圧症や糖尿病、脂質異常症などの既往歴を有することなどが挙げられるが、痩せている女性でも疾患リスクを有している点には注意が必要である。その理由について同氏は、「SASの発症は顔などの形態的特徴が強く関わっているため、頸が短い・太い、頸の周囲に脂肪が付いている、下顎が小さい、下顎が後方に引っ込んでいる、歯並びが悪い、舌や下の付け根が大きい患者では夜間の血中酸素濃度が低下しやすいため」と指摘。患者自身ができるセルフチェックについても触れ、「鏡の前で大きく口を開けて舌を下に出した時、口蓋垂が見えていない場合には、形態的に上気道が狭い可能性がある」と解説した。さらに同氏はSASによる疾患発症リスクについても言及し、「睡眠の障害はもちろん、血中酸素濃度の低下がさまざまな疾患リスクの引き金となる。たとえば、高血圧症の発症リスクは1.42~2.89 倍1)、脳卒中においては1.75~3.3倍2)にもなる。また、CPAPを装着することで、致死的心血管イベントの累積発生率3)がとくに重症OSA群で抑制される」と述べ、「起床時の頭痛、薬物治療を行っても改善されない夜間高血圧症例の場合にもSASの可能性4)があることから、そのような症状を有する患者には検査を勧めてほしい」ともコメントした。患者・家族と医療者がすれ違う理由と5つのバイアス 続いて平井氏が行動経済学の側面から解説した。同氏は患者と医療者では「見えている世界や景色が違う」とし、「慢性疾患は患者にとって、森の中を抜けていくような感覚だが、家族や医療者は俯瞰的に森全体を捉え、将来リスク、出口がどこにあるのかが見えている。患者は主観的な世界観を、家族や医療者は合理的な世界観を持っている」と説明した。また、行動経済学的に人の意思決定は常に合理的であるわけではなく、バイアスが生じることがあり、「通常、人間の考え方は損失回避的であり、それが自然な反応であることを医療者も理解が必要」ともコメントした。<5つのバイアス>・現在バイアス:将来の利益よりも、現在の利益を優先してしまう・利用可能性バイアス:意思決定において身近で目立つ情報を優先して用いてしまう・現状維持バイアス:自分の慣れた方法を変えることに大きな抵抗を感じる・正常性バイアス:自分は大丈夫だと思う・確証バイアス:自分にとって都合のよい情報を集める さらに、患者と医療者のすれ違い解消法として、フレーミング効果*やリバタリアン・パターナリズム**の活用を推奨し、今回のセミナーにゲスト出演した北斗 晶さんと佐々木 健介さん夫妻が、それぞれの睡眠時の状況を説明するために二人で一緒に病院を受診した点について、「コミットメントとナッジの視点から非常に有用である」と同氏は評価した。*同じ現象のポジティブな側面とネガティブな側面のどちらに焦点を当てるかで意思決定が変化すること。**「選択の自由」を尊重しつつも、望ましい行動を自然に選びやすくする環境や仕組みを提供する考え方。ナッジとは行動を始めやすくし、選択のしやすさや選択肢を提供すること。一方のコミットメントは行動を継続させ、実行を確実にする。 なお、帝人ファーマはいびきや睡眠時無呼吸症候群(SAS)に悩む方のためのポータルサイト「睡眠時無呼吸なおそう.com」5)を運営しており、これを利用することで、セルフチェックや専門の医療機関を検索することが可能である。■参考文献1)Peppard PE, et al. N Engl J Med. 2000;342:1378-1384.2)Good DC, et al. Stroke. 1996;27:252-259.3)Marin JM, et al. Lancet. 2005;365:1046-1053.4)日本循環器学会編:2023年改訂版循環器領域における睡眠呼吸障害の診断・治療に関するガイドライン5)帝人ファーマ:睡眠時無呼吸なおそう.com日本呼吸器学会:睡眠時無呼吸症候群(SAS)の診療ガイドライン2020大竹文雄ほか. 医療現場の行動経済学. 2024. 東洋経済新報社

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日本の乳がん統計、患者特性・病理・治療の最新データ

 2022年にNCD(National Clinical Database)乳がん登録に登録された日本国内1,339施設の乳がん症例10万2,453例の人口学的・臨床病理学的特徴を、兵庫医科大学の永橋 昌幸氏らがBreast Cancer誌2025年3月号に報告した。 日本乳学会では1975年に乳がん登録制度(Breast Cancer Registry)を開始し、2012年からはNCD乳がん登録のプラットフォームへ移管された。NCDに参加する医療機関で新たに乳がんと診断された患者は、乳房手術の有無にかかわらず登録対象となっており、2012~21年の10年間で累計89万2,021例が登録されている。 主な結果は以下のとおり。・女性患者は10万1,793例(99.4%)で、診断時の年齢中央値は62歳(四分位範囲:50~73歳)、29.4%が閉経前であった。・1万5,437例(15.2%)がStage0、4万2,936例(42.2%)がStageIと診断された。・エストロゲン受容体、プロゲステロン受容体、ヒト上皮成長因子受容体2(HER2)の陽性率は、それぞれ78.7%、69.4%、12.8%であった。・遠隔転移のない9万7,154例のうち、4万521例(41.7%)が乳房温存手術を受け、5,780例(5.9%)が乳房切除時に乳房再建手術を受けていた。・6万6,894例(68.9%)がセンチネルリンパ節生検を受け、7,155例(7.4%)がセンチネルリンパ節生検に続き腋窩リンパ節郭清を受けていた。・乳房温存手術を受けた4万521例のうち、2万9,500例(72.8%)が全乳房照射を受けていた。・分子標的治療の有無にかかわらず術前化学療法を受けた1万3,950例のうち、4,308例(30.9%)が病理学的完全奏効(pCR)を達成し、とくにホルモン受容体陰性/HER2陽性の患者でpCR率が最も高く、60.5%であった。

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統合失調症の陰性症状に対する抗精神病薬+スルフォラファンの有用性

 統合失調症の陰性症状に対する確立された治療法はほとんどなく、多くの患者では、陽性症状軽減後も陰性症状が持続している。酸化ストレス、炎症、ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)に関わるエピジェネティックな変化は、統合失調症の病態生理と関連していると考えられている。中国・中南大学湘雅二医院のJing Huang氏らは、統合失調症の陰性症状軽減に対する抗酸化作用を有するHDAC阻害薬であるスルフォラファンの有効性を評価するため、24週間の二重盲検プラセボ対照試験を実施した。The Journal of Clinical Psychiatry誌2025年1月20日号の報告。 統合失調症(DSM-V基準)患者を2020年8月〜2022年8月に募集した。対象患者は、抗精神病薬とスルフォラファン(1,700mg/日)を併用したスルフォラファン群とプラセボを併用した対照群に2:1でランダムに割り付け、24週間投与を行った。解析対象患者は、スルフォラファン群53例、対照群24例。主要アウトカムは、陽性・陰性症状評価尺度(PANSS)の陰性症状スコアの変化とした。 主な結果は以下のとおり。・スルフォラファン群は、対照群と比較し、PANSS陰性症状総スコア(p=0.01)およびPANSS陰性因子スコア(p=0.02)の有意な減少が認められた。・最も顕著な差は、24週目にみられ(p≦0.01)、24週時点でのエフェクトサイズは大きかった(d=0.8)。・スルフォラファンの陰性症状軽減効果は、PANSSの抑うつ症状および認知因子の変化により得られる作用ではなかった。 著者らは「高用量スルフォラファンの併用投与は、統合失調症患者の陰性症状改善に寄与する可能性が示唆された。この陰性症状軽減の臨床的意義については、さらなる評価が必要とされる」と結論付けている。

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医薬品供給不足の現在とその原因は複雑/日医

 日本医師会(会長:松本 吉郎氏[松本皮膚科形成外科医院 理事長・院長])は、「医薬品供給等の最近の状況」をテーマに、メディア懇談会を2月19日に開催した。懇談会では、一般のマスメディアを対象に現在問題となっている医薬品の安定供給の滞りの原因と経過、そして、今後の政府への要望などを説明した。 はじめに松本氏が挨拶し、「2020年夏頃より医薬品供給などに問題が生じてきたが、4年経過しても解決していない。後発医薬品だけではない、全体的な問題であり、その解消に向けて医師会も政府などに要望してきた。複合的な問題であるが、早く解消され、安心・安全な医薬品がきちんと医師、患者さんに届くことを望む」と語った。安定供給に立ちはだかる内的要因と外的要因 「医薬品供給等の最近の状況について」をテーマに同会常任理事の宮川 政昭氏(宮川内科小児科医院 院長)が、長引く医薬品供給停滞について、その現状と問題点を説明した。 医薬品の安定供給問題には、採算性の低下、国の関与不足、トレーサビリティの問題・情報開示などの内的要因と地政学リスク、材料の特定国への依存、日本独自の品質要求などの外的要因が交錯し、問題を複雑化している。 2025年2月18日時点での厚生労働省医療用医薬品供給状況の発表でも、通常出荷されていない割合は約21.9%、そのうち後発医薬品の割合が約60%、先発医薬品や長期収載医薬品なども12.7%という状況。 医薬品の供給不足に関しては、供給体制を強化する必要があるが、安定供給は国民の健康を守るために重要な課題であり、安全保障の観点からも重要と述べるとともに、医療用医薬品不足の原因としては、「品質問題」「海外依存リスク」「国内生産基盤の強化」の3つがあると提示した。(1)品質問題 2020年頃より顕在化するようになった後発医薬品メーカーの品質問題の不祥事による厚生労働省の行政処分。厚労省、日本ジェネリック製薬協会が何度も自主点検を行っても、こうした事態が解消されずにいる。2023年の先発医薬品メーカーも含めた日本製薬団体連合会主導の自主点検でも、「一部承認書との相違の整理あり」の案件が3,281件(37.6%)と、いまだ約4割に相違があることは非常に問題だという。実際、自主点検で報告された代表事例として、製造方法の改変、規格の齟齬、承認書と関連文書の矛盾、承認書からの追加・省略事例、文書化されていない口頭伝承などがあった。今後の対応としては、とくに「組織ガバナンス」の問題として、「経営レベルでのガバナンス強化」「品質管理システムの徹底」「従業員の意識改革」などが期待されると説明した。(2)海外依存のリスク 厚労省が、サプライチェーン調査を実施したところ、安定確保医薬品カテゴリーAの21成分の原薬原材料の供給経路につき、8成分が単一国、5成分が2ヵ国、8成分が3ヵ国以上だった。仕入先国では、中国、韓国、インドが多く、特定の国への集中は考慮する必要があると問題を提起した。厚労省の対策会議などでは、供給が単一国の場合はその供給の複数国化や、医薬品メーカーの代替供給源の探索を行う際の補助事業、供給リスク管理のためのマニュアル作成事業などが提案され、これらを推進することで、材料などの安定的な供給を進めていると紹介した。(3)国内生産基盤の強化 医薬品の安定供給確保には、国内の製造基盤を維持・強化することが不可欠であり、GMP(Good Manufacturing Practice:医薬品の製造管理および品質管理)基準適合の設備導入や、政府支援による生産拠点整備が求められる。一方で、後発医薬品メーカーによっては工場の老朽化が進んでおり、懸念材料となっている。建て替えには数百億円の費用が必要とされるが、政府などの支援がないのが現状。また、単純に薬価を上げれば安定供給になるわけでもないので、安定供給のために製薬企業全体として国に対策を協力してもらい、国家の安全保障としての枠組み作りを国に要望したいと語った。医薬品流通体制の3つの課題 次に「医薬品の流通体制」について、現状、インフルエンザ治療薬、局所麻酔薬、テオフィリン徐放性製剤が不足しており、地域医師会などから悲痛な声が医師会に届いていることを報告した。そして、医薬品の流通体制の問題点として「共同開発」「委受託製造」「1社流通」の3つの問題を上げた。 「共同開発」では、後発医薬品メーカーの開発コスト削減などメリットがある一方で、製造販売承認では開発各社が安定性試験などの資料をそろえ、申請をしなければならない煩雑さがある。「委受託製造」では、品質管理のばらつき、コスト削減による品質低下、緊急対応の難しさなどがあると指摘する。「1社流通」では、効率的な流通、コスト削減、品質管理の保持ができる一方で、従来からある医薬品供給の遅れ、価格の固定化、安定供給への懸念などさまざまな課題が提起されている。実際、日本保険薬局協会の調査でも「製薬企業・卸から理由の説明を受けたことがある薬局」は約7%で、丁寧な情報提供がないなど流通改善のガイドラインなどが順守されていないという。 終わりに宮川氏は、「医薬品に関連するさまざまな問題を説明した。今後、マスメディアにはこうした現状を理解してもらい、適切な報道をしていただきたい」と述べ、懇談会を終えた。

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アテゾリズマブ、胞巣状軟部肉腫に適応追加/中外

 中外製薬は、2025年2月20日、アテゾリズマブ(商品名:テセントリク)について、切除不能な胞巣状軟部肉腫に対する適応追加承認を取得したと発表。 今回の承認は、切除不能な胞巣状軟部肉腫に対するアテゾリズマブの有効性および安全性を評価した国内第II相臨床試験であるALBERT試験、および米国国立がん研究所主導の海外第II相臨床試験の成績に基づいている。 胞巣状軟部肉腫は、悪性軟部肉腫の1%未満と超希少がんの1つで、日本人における年間発症数は15〜40名と推定されている。大腿を中心に四肢に発症することが多く、思春期およびAYA世代(15〜35歳)での発症が多くみられる。切除不能な胞巣状軟部肉腫は予後不良で標準治療は確立されていない。

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非代償性肝硬変、スタチン+抗菌薬併用療法は有効か/JAMA

 スタチンは肝硬変患者の門脈圧を低下させ、肝硬変合併症のリスクを軽減し、生存期間を延長する可能性が示唆されており、広域スペクトル抗菌薬であるリファキシミンは肝性脳症の再発リスクを低下させ、肝硬変患者にみられる腸内細菌叢の顕著な異常を改善することが知られている。スペイン・バルセロナ病院のElisa Pose氏らLIVERHOPE Consortiumは、「LIVERHOPE試験」において、非代償性肝硬変患者の慢性肝不全の急性増悪(acute-on-chronic liver failure:ACLF)の予防では、プラセボと比較してシンバスタチン+リファキシミンの併用療法はその発生率を抑制せず、肝硬変の合併症や有害事象の頻度は同程度であることを示した。研究の詳細は、JAMA誌オンライン版2025年2月5日号で報告された。欧州14病院のプラセボ対照第III相試験 LIVERHOPE試験は、非代償性肝硬変患者におけるシンバスタチン+リファキシミン併用療法の有用性の評価を目的とする二重盲検プラセボ対照第III相試験であり、2019年1月~2022年12月に欧州の14病院で患者を登録した(Horizon 20/20 programの助成を受けた)。 年齢18歳以上で、肝硬変合併症の発症リスクが高く死亡率も高いとされるChild-Pugh分類のBまたはCの非代償性肝硬変と診断された患者を対象とした。被験者を、標準治療に加え、シンバスタチン(20mg/日)+リファキシミン(1,200mg/日)の投与を受ける群、またはプラセボ群に無作為に割り付け、12ヵ月間投与した。 主要エンドポイントは、欧州肝臓学会/慢性肝不全(EASL-CLIF)の定義によるACLFの判定基準を満たす臓器不全を伴う肝硬変の重症合併症の発現とした。肝硬変の合併症の頻度も同程度 237例(平均年齢57歳、男性72%、アルコール性肝硬変80%、Child-Pugh分類B 194例、同C 43例)を登録し、シンバスタチン+リファキシミン群に117例、プラセボ群に120例を割り付けた。追跡期間中央値は両群とも365日だった。 少なくとも1回のACLFを発症した患者は、シンバスタチン+リファキシミン群が21例(17.9%)、プラセボ群は17例(14.2%)であり、ハザード比(HR)は1.23(95%信頼区間[CI]:0.65~2.34)と両群間に有意な差を認めなかった(p=0.52)。 副次アウトカムである肝移植または死亡例は、シンバスタチン+リファキシミン群で22例(18.8%、肝移植5例、死亡17例)、プラセボ群で29例(24.2%、肝移植12例、死亡17例)であった(HR:0.75、95%CI:0.43~1.32、p=0.32)。また、肝硬変の合併症(腹水[新規、増悪]、細菌感染、肝性脳症、急性腎障害、消化管出血)は、それぞれ50例(42.7%)および55例(45.8%)に発現した(HR:0.93、95%CI:0.63~1.36、p=0.70)。シンバスタチン+リファキシミン群でのみ横紋筋融解症が3例 有害事象の発生率は両群で同程度であった(シンバスタチン+リファキシミン群426件[101例、86.3%]vs.プラセボ群419件[100例、83.3%]、p=0.59)。有害事象の種類別の解析でも、両群間に頻度の差があるものはなかった。 重篤な有害事象(シンバスタチン+リファキシミン群44例[37.6%]vs.プラセボ群 50例[41.7%]、p=0.79)および致死的有害事象(17例[14.5%]vs.17例[14.2%]、p>0.99)についても、発生率は両群で同程度だった。注目すべき点として、横紋筋融解症が、プラセボ群ではみられなかったのに対し、シンバスタチン+リファキシミン群で3例(2.6%)に認めたことが挙げられる。 著者は、「シンバスタチンとリファキシミンの併用療法は、肝機能検査所見、腎機能検査所見、肝機能障害の重症度の指標であるModel for End-Stage Liver Disease(MELD)スコアも改善しなかった」「今回の結果は、肝性脳症の再発予防以外の目的で、肝硬変患者の管理にリファキシミンを使用することを支持しない」「本研究の参加者は中等度~重度の肝機能障害を伴う肝硬変であり、これらの知見が、進行度の低い肝硬変患者にも当てはまるかは不明である」としている。

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新たな慢性血栓症、VITT様血栓性モノクローナル免疫グロブリン血症の特徴/NEJM

 ワクチン起因性免疫性血小板減少症/血栓症(またはワクチン起因性免疫性血栓性血小板減少症、VITT)は、血小板第4因子(PF4)を標的とする抗体と関連し、ヘパリン非依存性であり、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対するアデノウイルスベクターワクチンまたはアデノウイルス感染によって誘発される急性の血栓症を特徴とする。オーストラリア・Flinders UniversityのJing Jing Wang氏らの研究チームは、VITT様抗体と関連する慢性的な血栓形成促進性の病態を呈する患者5例(新規症例4例、インデックス症例1例)について解析し、新たな疾患概念として「VITT様血栓性モノクローナル免疫グロブリン血症(VITT-like monoclonal gammopathy of thrombotic significance:VITT-like MGTS)」を提唱するとともに、本症の治療では抗凝固療法だけでなく他の治療戦略が必要であることを示した。研究の詳細は、NEJM誌オンライン版2025年2月12日号に短報として掲載された。本研究は、カナダ保健研究機構(CIHR)などの助成を受けた。従来のVITTとは異なる病態の血栓症の病因か 対象となった5例すべてが慢性の抗凝固療法不応性血栓症を呈し、間欠性の血小板減少症を伴っていた。これらの患者はM蛋白の濃度が低く(中央値0.14g/dL)、各患者でM蛋白がVITT様抗体であることが確認された。 また、PF4上の抗体のクローン型プロファイルと結合エピトープは、ワクチン接種やウイルス感染後に発症する急性疾患で観察されるものとは異なっており、これは別個の免疫病因を反映した特徴であった。さらに、VITT様抗体は、一般的なヘパリン起因性血小板減少症(HIT)の抗体とは異なり、ヘパリン非依存性に血小板を活性化することが示された。 VITT様MGTSという新たな疾患概念は、このような従来のVITTとは異なる病態を示す慢性的な抗PF4抗体による血栓症の病因として、ほとんどの抗PF4障害、および明確な原因のない異常や再発性の血栓症を説明可能であることが示唆された。抗PF4抗体、M蛋白が新たな治療標的となる可能性 新規の4例の中には、VITT様の特性を有する血小板活性化抗PF4抗体が検出されたため、MGTSを疑い、ブルトン型チロシンキナーゼ阻害薬イブルチニブによる治療を行ったところ、血栓症が抑制された症例を認めた。 また、従来の抗凝固療法を含むさまざまな治療を行っても、血栓症と血小板減少症が再発したため、MGTSを疑ってボルテゾミブ+シクロホスファミド+ダラツムマブ療法を施行したところ、血小板数が正常化し、M蛋白および抗PF4抗体が検出されなくなり、血栓症が改善した症例もみられた。 著者は、「慢性血栓症患者の診断に抗PF4抗体およびM蛋白の検査を追加することで、VITT様MGTSの早期発見が可能になると考えられる」「既存のVITT治療に加え、経静脈的免疫グロブリン療法(IVIG)やイブルチニブ、ボルテゾミブ+ダラツムマブなどを適用することで、より効果的な治療戦略を構築できるだろう」「これらの知見は、他の自己免疫性血小板減少症や血栓症における新たな治療標的としての抗PF4抗体およびM蛋白の役割を研究する基盤となる」としている。

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関節リウマチ発症リスクのある者は特徴的な腸内細菌叢を有する

 関節リウマチ(RA)発症リスクのある者は、特徴的な腸内細菌叢を有するという研究結果が「Annals of the Rheumatic Diseases」に11月8日掲載された。 RA患者やそのリスクを有する者は、健康な者と比べて異なる腸内細菌叢を有することが知られているが、RAに進行する患者の腸内細菌叢の詳細な状態は明らかになっていない。英リーズ大学のChristopher M. Rooney氏らは、RA発症リスクを有する者を対象に、RAを発症した者と発症しなかった者に分け、腸内細菌叢の構造や機能、経時的な変化を比較した。RA発症リスクを、抗環状シトルリン化ペプチド(CCP)抗体が陽性で、新たな筋骨格症状が存在し、かつ臨床的な滑膜炎がないものと定義し、このリスクを有する124人の被験者を特定した(うち30人がRAに進行)。また、19人には15カ月にわたり5つの時点で経時的なサンプリングを行った(うち5人がRAに進行)。 その結果、ベースライン時において、CCP陽性のRA発症リスクを有する者では、RAを発症しなかった者と比べてプレボテラセアエ属の占有率が有意に高いことが分かった。また、経時的サンプリングから、RAに進行した者では、発症10カ月前の時点で腸内細菌叢の多様性が減少して不安定な状態になっていることが明らかになった。一方、RA非発症者ではこのような現象は認められなかった。著者らによると、この結果はRA発症前の腸内細菌叢の変化は遅れて起こることを示唆しており、これにはプレボテラセアエ属が関与している可能性が考えられるという。さらに、RAの発症へ進んでいく過程での腸内細菌叢の構造変化は、アミノ酸代謝の増加と関連することも示された。 著者らは「RA発症リスクを有する者の腸内細菌叢は特徴的であり、その中にはプレボテラセアエ属が過剰になることが含まれる。このような腸内細菌叢の特徴は、従来から指摘されているRAのリスク因子と矛盾するものでなく、関連性も認められる」と述べている。なお、複数の著者が、あるバイオ医薬品企業との利益相反(COI)に関する情報を明らかにしている。

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PCI適応を考察する。人間は本質的に保守的だが、変革を誓います!【Dr.中川の「論文・見聞・いい気分」】第81回

PCIの隆盛と適切性評価の流れ循環器領域のカテーテル治療といえば、PCI(経皮的冠動脈インターベンション)が代表です。急性心筋梗塞に代表される急性冠症候群(ACS)に対して、PCIが果たした役割は大きいものがあります。PCIが考案されるまでは、血行再建術はバイパス手術だけでした。1977年に初めてバルーン血管形成術が行われ半世紀が経過しました。デバイスの進歩、治療技術の確立により、本邦では年間に約25万件のPCIが行われるまで普及しました。とくに薬物溶出性ステントの登場から普及の過程は素晴らしいものでした。最新鋭の治療法とされたPCIも、安定狭心症への適応について厳密な評価が求められる時代がやってきました。その端緒となったのがCOURAGE試験1)です。その結果を踏まえて米国では2011年以降は、適切な適応(appropriate use)のもとでのPCI施行を遵守するために検証が行われるようになりました。さらに、ORBITA試験2)やISCHEMIA試験3)も、安定狭心症へのPCI適応を厳格化すべきという課題を投げかけました。それらの結果を受けて本邦でも、PCI治療の診療報酬算定要件に虚血の証明を行うことが2019年から必須となりました。スタチンなどの薬物療法の進歩により、動脈硬化性プラークの安定化や進行抑制が可能となり、内科的治療によるリスク管理が重視されるようになりました。FFR(冠血流予備量比)を用いた生理学的評価により、病変の機能的意義がより精密に判断できるようになり、肉眼的に狭窄があるだけでは必ずしもPCIを第1選択として施行すべきでないことがわかってきました。世界的には安定狭心症に対するPCI施行数が減少しています。しかし、日本ではこのトレンドが十分に反映されているとは言い難い面があります。依然としてPCI施行数の多さが、医師の技術力や病院の評価につながるような風潮すら存在しています。人間は本質的に保守的である童話作家の新美 南吉(1913~43)の、『おじいさんのランプ』という作品をご存じでしょうか。ネタバレ気味に紹介します。老人(巳之助)が孫(東一)に自身の人生と灯油ランプにまつわる物語を語って聞かせる構成です。東一がかくれんぼをしているときに、蔵の中でランプを見つけ、それをいじっていると、巳之助がやってきて、昔、彼がランプ屋だった頃の話を語りはじめます。当時、少年だったおじいさんは、町で初めてランプを知り、その明るさに感動します。自分の村も明るくしたいという思いから、普及を目指しランプ売りとなります。「畳の上に新聞をおいて読める」と宣伝しながら、文盲であることを恥じた彼は、字を習い書物を読むことを覚えます。時代が進んで、電気によって、ランプが駆逐されるという話に彼は慌てるのです。頑強に反対しましたが、村に電気を引くことが決定します。逆恨みして、電気の導入を決めた区長の家に放火しようとするのです。その時に手元にマッチがなく、不便な火打ち石を持ってきたせいで、火がつけられず、「いざというとき役に立たねえ」と火打ち石に悪態をつくのです。その瞬間、彼はランプが役立っていた時代も終わり電気の時代が来たことを悟り、放火を思いとどまります。家に引き返して、すべてのランプに火を灯して木にぶら下げると石を投げて壊し、泣きながらランプに別れを告げるのです。ランプ屋を廃業し、町に出て本屋を始めます。おじいさんは、東一に諭して結びます。「…それでも世の中が進歩して自分の商売が役に立たなくなったらすっぱりそいつを捨てて、昔にすがりついたり時代を恨んだりしてはいけないんだ」若い時には新進の気性に富んでいた人間も、保守的になることは避けられないのです。過去の栄光に囚われるのではなく、受け入れ難い時代の変化を受け入れ、捨て難い自らの立場や利権を捨てる覚悟決めた巳之助の姿に、潔さと真の強さを感じ、思わず涙します。このストーリーに心動かされるのは、子供よりも大人ではないでしょうか。医師が新しいエビデンスを受け入れ、それに基づいて診療スタイルを変えることは決して容易ではありません。単に技術的な問題ではなく、人間の本質的な特性としての保守性が関係するからです。まず、長年にわたりPCIが最善な治療法とされてきた歴史があります。医師が自らの成功体験を否定することは難しく、PCIで良好な結果を得た過去の経験があると、それを覆すようなエビデンスが出ても、受け入れにくい傾向があります。医療の現場は経済的な要因も絡みます。PCIは比較的高額な治療法であり、病院の収益にとって重要な位置を占めます。新しいエビデンスに基づいて治療方針を抑制的な方向に変換することが、経済的インセンティブと必ずしも一致しないこともあります。しかし、医療は科学的知見に基づくべきものです。変化を促すためには、第一に医師自身が最新のエビデンスを正しく理解し、それに基づいた診療を行う意識を持つことが不可欠です。インターベンション専門医としての葛藤と誓い私は循環器内科医としてPCIを専門とし、多くの患者を治療してきました。今回、この内容の文章を執筆することには葛藤がありました。PCIを盲目的に礼賛し、症例数が増えるような方向性の文章のほうが、短期的には有利な立場も否定はできません。しかし、本当に患者の利益を最優先に考えるなら、PCIの適応を厳格に判断し、不必要な治療を避ける姿勢が必要です。教授職として後進の医療者の育成に携わる立場としても、この視点を重視すべきだと考えます。医師としてのキャリア、患者の利益、経済的側面、倫理的判断の間で葛藤しながらも、「最も患者のためになる選択は何か」を問い続けることを誓います。参考1)Boden WE, et al. N Engl J Med. 2007;356:1503-1516.2)Al-Lamee R, et al. Lancet. 2018;391:31-40.3)Maron DJ, et al. N Engl J Med. 2020;382:1395-1407.

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「1社流通の医薬品」は患者に迷惑をかける?【早耳うさこの薬局がざわつくニュース】第146回

日本保険薬局協会(NPhA)が、薬局における医薬品流通の現状について2024年11~12月に調査を行い、その結果を1月23日に発表しました。回答した薬局はNPhA所属の4,551薬局で、300薬局以上のいわゆるチェーン薬局が87%を占めています。医薬品の流通が滞っていて、薬局で医薬品が不足していて、それがまだ続いている…ということはもう誰がどう見ても明らかなので、今回はこの調査で新たに明らかになった3点について紹介します。卸が限定されている医薬品の流通についてまずは、いわゆる1社流通の医薬品についてです。1社流通の医薬品を取り扱ったことがあるのは、わからないと回答した薬局を除いた3,495薬局のうち2,550薬局で、73%にも上りました。そのうち、1社流通であるために患者さんに迷惑をかけたことがある薬局は65%でした。フリーコメントでは、代替発注先がなく、納品遅延・欠品で患者さんの薬物治療に支障が出たという事例が多く寄せられています。また、1社流通の医薬品を扱っている薬局において、なぜ1社流通なのか? という説明をきちんと受けた薬局は7%であり、ほとんどの薬局はその理由を説明されていないことがわかりました。ちなみに、その理由の多くは「対象患者が限定的」「特殊な流通・保管が必要」「高薬価」「トレーサビリティ管理が必要」などでした。休日の卸の配送について次に、休日の対応についてです。土曜・日曜・祝日のいずれかに営業している薬局は70%でした。土曜日の定期配送に対応してくれる卸がいないと回答したのが58%、日曜日の定期配送に対応してくれる卸がいないと回答したのが64%で、薬局と卸の営業日のギャップがあるようです。ただし、この回答は都道府県によってばらつきが大きいこともわかりました。後発品から先発品への変更の事務連絡について後発品から先発品への変更調剤を可能とする「変更調剤の取扱いについて」の事務連絡(2024年3月15日発出)については、85%の薬局がメリットがあると感じたと回答しました。本事務連絡は期間限定ではありますが、これが恒常的に認められた場合には、待ち時間の削減や疑義照会に係る負担軽減、患者さんの継続服用が可能になるなどの、薬局だけでなく患者さんのメリットも大いにあるという意見が多く出されました。いまさら、どこも医薬品が不足していて供給が不安定とわかった…なんていう報告は、もう聞き飽きていて目新しくもなんでもありません。その点では、NPhAは会員薬局の課題にきちんとフォーカスした調査を行っていると感じました。自分たちが困っている事実をきちんと数字をもって公表・主張するというのはとても大事なことです。今回明らかになった課題を解決するような施策が提案・採用されるには要望書を提出するなどのロビー活動が必要かと思いますが、こういった活動はぜひ続けてほしいです。あまり話題になっていないのが残念ではありますが、厚生労働省などもきちんと目を向けてくれるといいなと思います。

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妊娠可能年齢の女性と妊婦を守るワクチン 後編【今、知っておきたいワクチンの話】総論 第8回

本稿では「妊娠可能年齢の女性と妊婦を守るワクチン」について取り上げる。これらのワクチンは、女性だけが関与するものではなく、その家族を含め、「彼女たちの周りにいる、すべての人たち」にとって重要なワクチンである。なぜなら、妊婦は生ワクチンを接種することができない。そのため、生ワクチンで予防ができる感染症に対する免疫がない場合は、その周りの人たちが免疫を持つことで、妊婦を守る必要があるからである。そして、「胎児」もまた、母体とその周りの人によって守られる存在である。つまり、妊娠可能年齢の女性と妊婦を守るワクチンは、胎児を守るワクチンでもある。VPDs(Vaccine Preventable Diseases:ワクチンで予防ができる病気)は、禁忌がない限り、すべての人にとって接種が望ましいが、今回はとくに妊娠可能年齢の女性と母体を守るという視点で、VPDおよびワクチンについて述べる。今回は、ワクチンで予防できる疾患、生ワクチンの概要の前編に引き続き、不活化ワクチンなどの概要、接種スケジュール、接種で役立つポイントなどを説明する。ワクチンの概要(効果・副反応・不活化・定期または任意・接種方法)妊婦に生ワクチンの接種は禁忌である。そのため妊娠可能年齢の女性には、事前に計画的なワクチン接種が必要となる。しかし、妊娠は予期せず突然やってくることもある。そのため、日常診療やライフステージの変わり目などの機会を利用して、予防接種が必要なVPDについての確認が重要となる。そこで、以下にインフルエンザ、百日咳、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)、RSウイルス(生ワクチン以外)の生ワクチン以外のワクチンの概要を述べる。これら生ワクチン以外のワクチン(不活化ワクチン、mRNAワクチンなど)は妊娠中に接種することができる。ただし、添付文書上、妊娠中の接種は有益性投与(予防接種上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ接種が認められていること)と記載されているワクチンもあり注意が必要である。いずれも妊娠中に接種することで、病原体に対する中和抗体が母体の胎盤を通じて胎児へ移行し、出生児を守る効果がある。つまり、妊婦のワクチン接種が母体と出生児の双方へ有益ということになる。(1)インフルエンザ妊婦はインフルエンザの重症化リスク群である。妊婦がインフルエンザに罹患すると、非妊婦に比し入院率が高く、自然流産や早産だけでなく、低出生体重児や胎児死亡の割合が増加する。そのため、インフルエンザ流行期に妊娠中の場合は、妊娠週数に限らず不活化ワクチンによるワクチン接種を推奨する1)。また、妊婦のインフルエンザワクチン接種により、出生児のインフルエンザ罹患率を低減させる効果があることがわかっている。生後6ヵ月未満はインフルエンザワクチンの接種対象外であるが、妊婦がワクチン接種することで、胎盤経由の移行抗体による免疫効果が証明されている1,2)。接種の時期はいつでも問題ないため、インフルエンザ流行期の妊婦には妊娠週数に限らず接種を推奨する。妊娠初期はワクチン接種の有無によらず、自然流産などが起きやすい時期のため、心配な方は妊娠14週以降の接種を検討することも可能である。流行時期や妊娠週数との兼ね合いもあるため、接種時期についてはかかりつけ医と相談することを推奨する。なお、チメロサール含有ワクチンで過去には自閉症との関連性が話題となったが、問題がないことがわかっており、胎児への影響はない2)。そのほか2024年に承認された生ワクチン(経鼻弱毒生インフルエンザワクチン:フルミスト点鼻薬)は妊婦には接種は禁忌である3)。また、経鼻弱毒生インフルエンザワクチンは、飛沫または接触によりワクチンウイルスの水平伝播の可能性があるため、授乳婦には不活化インフルエンザHAワクチンの使用を推奨する4)。(2)百日咳ワクチン百日咳は、成人では致死的となることはまれだが、乳児(とくに生後6ヵ月未満の早期乳児)が感染した場合、呼吸不全を来し、時に命にかかわることがある。一方、百日咳含有ワクチンは生後2ヵ月からしか接種できないため、この間の乳児の感染を予防するために、米国を代表とする諸外国では、妊娠後期の妊婦に対して百日咳含有ワクチン(海外では三種混合ワクチンのTdap[ティーダップ]が代表的)の接種を推奨している5,6)。百日咳ワクチンを接種しても、その効果は数年で低下することから、アメリカ疾病予防管理センター(CDC)は2回目以降の妊娠でも、前回の接種時期にかかわらず妊娠する度に接種することを推奨している。百日咳は2018年から全数調査報告対象疾患となっている。百日咳感染者数は、コロナ禍前の2019年は約1万6千例ほどであったが、コロナ禍以降の2021~22年は、500~700例前後と減っていた。しかし、2023年は966例、2024年(第51週までの報告7))は3,869例と徐々に増加傾向を示している。また、感染者の約半数は、4回の百日咳含有ワクチンの接種歴があり、全感染者のうち6ヵ月~15歳未満の小児が62%を占めている8)。さらに、重症化リスクが高い6ヵ月未満の早期乳児患者(計20例)の感染源は、同胞が最も多く7例(35%)、次いで母親3例(15%)、父親2例(10%)であった9)。このように、百日咳は、小児の感染例が多く、かつ、ワクチン接種歴があっても感染する可能性があることから、感染源となりうる両親のみならず、その兄弟や同居の祖父母にも予防措置としてワクチン接種が検討される。わが国で、小児や成人に対して接種可能な百日咳含有ワクチンは、トリビック(沈降精製百日咳ジフテリア破傷風混合ワクチン)である。本ワクチンは、添付文書上、有益性投与である(妊婦に対しては、予防接種上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ接種が認められている)10)が、上記の理由から、丁寧な説明と同意があれば、接種する意義はあるといえる。(3)RSウイルスワクチン2024年より使用可能となったRSウイルスワクチン(組み換えRSウイルスワクチン 商品名:アブリスボ筋注用)11)は、新生児を含む乳児におけるRSウイルス感染症予防を目的とした妊婦対象のワクチンである(同時期に承認販売開始となった高齢者対象のRSウイルスワクチン[同:アレックスビー筋注用]は、妊婦は対象外)。アブリスボを妊娠中に接種すると、母体からの移行抗体により、出生後の乳児のRSウイルスによる下気道感染を予防する。そのため接種時期は妊娠28~36週が最も効果が高いとされている12)(米国では妊娠32~36週)。また、本ワクチン接種後2週間以内に児が出生した場合は、抗体移行が不十分と考えられ、モノクローナル抗体製剤パリミズマブ(同:シナジス)とニルセビマブ(同:ベイフォータス)の接種の必要性を検討する必要があるため、妊婦へ接種した日時は母子手帳に明記することが大切である13)。乳児に対する重度RSウイルス関連下気道感染症の予防効果は、生後90日以内の乳児では81.8%、生後180日以内では69.4%の有効性が認められている14)。これまで、乳児のRSウイルス感染の予防には、重症化リスクの児が対象となるモノクローナル抗体製剤が利用されていたが、RSウイルス感染症による入院の約9割が、基礎疾患がない児という報告もあり15)、モノクローナル抗体製剤が対象外の児に対しても予防が可能となったという点において意義があるといえる。一方で、長期的な効果は不明であり、わが国で接種を受けた妊婦の安全性モニタリングが不可欠な点や、他のワクチンに比し高額であることから、十分な説明と同意の上での接種が重要である。(4)COVID-19ワクチンこれまでの国内外の多数の研究結果から、妊婦に対するCOVID-19ワクチン接種の安全性は問題ないことがわかっており16,17)、前述の3つの不活化ワクチンと同様に、妊婦に対する接種により胎盤を介した移行抗体により出生後の乳児が守られる。逆にCOVID-19に感染した乳児の多くは、ワクチン未接種の妊婦から産まれている17)。妊婦がCOVID-19に罹患した場合、先天性障害や新生児死亡のリスクが高いとする報告はないが、妊娠中後期の感染では早産リスクやNICU入室率が高い可能性が示唆されている17)。また、酸素需要を要する中等症~重症例の全例がワクチン未接種の妊婦であったというわが国の調査結果もある17)。妊婦のCOVID-19重症化に関連する因子として、妊娠後期、妊婦の年齢(35歳以上)、肥満(診断時点でのBMI30以上)、喫煙者、基礎疾患(高血圧、糖尿病、喘息など)のある者が挙げられており、これらのリスク因子を持つ場合は産科主治医との相談が望ましい。一方で、COVID-19ワクチンはパンデミックを脱したことや、インフルエンザウイルス感染症のように、定期的流行が見込まれることから、2024年度から第5類感染症に変更され、ワクチンも定期接種化された。よって、定期接種対象者である高齢者以外は、妊婦や、基礎疾患のある小児・成人に対しても1回1万5千円~2万円台の高額なワクチンとなった。接種意義に加え、妊婦の基礎疾患や背景情報などを踏まえた総合的・包括的な相談が望ましい。また、COVID-19ワクチンについては、いまだにフェイクニュースに惑わされることも多く、医療者が正確な情報源を提供することが肝要である。接種のスケジュール(小児/成人)妊婦と授乳婦に対するワクチン接種の可否について改めて復習する。ワクチン接種が禁忌となるのは、妊婦に対する生ワクチンのみ(例外あり)であり、それ以外のワクチン接種は、妊婦・授乳婦も含めて禁忌はない(表)。表 非妊婦/妊婦・授乳婦と不活化/生ワクチンの接種可否についてただし、ワクチンを含めた薬剤投与がなくても流産の自然発生率は約15%(母体の年齢上昇により発生率は増加)、先天異常は2~3%と推定されており、臨界期(主要臓器が形成される催奇形性の感受性が最も高い時期)である妊娠4~7週は催奇形性の高い時期である。たとえば、ワクチン接種が原因でなくても後から胎児や妊娠経過に問題があった場合、実際はそうでなくても、あのときのあのワクチンが原因だったかも、と疑われることがあり得る。原因かどうかの証明は非常に困難であるため、妊娠中の薬剤投与と同様に、医療従事者はそのワクチン接種の必要性や緊急性についてしっかり患者と話し、接種する時期や意義について理解してもらえるよう努力すべきである。※その他注意事項生ワクチンの接種後、1~2ヵ月の避妊を推奨する。その一方で、仮に生ワクチン接種後1~2ヵ月以内に妊娠が確認されても、胎児に健康問題が生じた事例はなく、中絶する必要はないことも併せて説明する。日常診療で役立つ接種ポイント1)妊娠可能年齢女性とその周囲の家族について妊孕性(妊娠する可能性)が高い年代は10~20代といわれているが、妊娠可能年齢とは、月経開始から閉経までの平均10代前半~50歳前後を指す。妊娠可能年齢の幅は非常に広いことを再認識することが大切である。また、妊婦や妊娠可能年齢の女性を守るためには、その周囲にいるパートナーや同居する家族のことも考慮する必要があり、その年齢層もまちまちである(同居する祖父母や親戚、兄弟など)。患者の家族構成や背景について、かかりつけ医として把握しておくことは、ワクチンプラクティスにおいて、非常に重要であることを強調したい。2)接種を推奨するタイミング筆者は下記のタイミングでルーチンワクチン(すべての人が免疫を持っておくと良いワクチン)について確認するようにしている。(1)何かしらのワクチン接種で受診時(とくに中高生のHPVワクチン、インフルエンザワクチンなど)(2)定期通院中の患者さんのヘルスメンテナンスとして(3)患者さんのライフステージが変わるタイミング(進学・就職/転職・結婚など)今後の課題・展望妊娠可能年齢の年代は受療行動が比較的低く、基礎疾患がない限りワクチン接種を推奨する機会が限られている。また、妊娠が成立すると、基礎疾患がない限り産科医のみのフォローとなるため、妊娠中に接種が推奨されるワクチンについての情報提供は産科医が頼りとなる。産科医や関連する医療従事者への啓発、学校などでの教育内容への組み込み、成人式などの節目のときに情報提供など、医療現場以外での啓発も重要であると考える。加えて、フェイクニュースやデマ情報が拡散されやすい世の中であり、妊婦や妊娠を考えている女性にとっても重大な誤解を招くリスクとなりうる。医療者が正しい情報源と情報を伝える重要性が高いため、信頼できる情報源の提示を心掛けたい。参考となるサイト(公的助成情報、主要研究グループ、参考となるサイト)妊娠可能年齢の女性と妊婦のワクチン(こどもとおとなのワクチンサイト)妊娠に向けて知っておきたいワクチンのこと(日本産婦人科感染症学会)Pregnancy and Vaccination(CDC)参考文献・参考サイト1)Influenza in Pregnancy. Vol. 143, No.2, Nov 2023. ACOG2)産婦人科診療ガイドライン 産科編 2023. 日本産婦人科学会/日本産婦人科医会. 2023:59-62.3)経鼻弱毒生インフルエンザワクチン フルミスト点鼻液 添付文書4)経鼻弱毒生インフルエンザワクチンの使用に関する考え方. 日本小児科学会予防接種・感染症対策委員会(2024年9月2日)5)Tdap vaccine for pregnant women CDC 6)海外の妊婦への百日咳含有ワクチン接種に関する情報(IASR Vol.40 p14-15:2019年1月号)7)感染症発生動向調査(IDWR) 感染症週報 2024年第51週(12月16日~12月22日):通巻第26巻第51号8)2023年第1週から第52週(*)までに 感染症サーベイランスシステムに報告された 百日咳患者のまとめ 国立感染症研究所 実地疫学研究センター 同感染症疫学センター 同細菌第二部 9)全数報告サーベイランスによる国内の百日咳報告患者の疫学(更新情報)2023年疫学週第1週~52週 2025年1月9日10)トリビック添付文書11)医薬品医療機器総合機構. アブリスボ筋注用添付文書(2025年1月9日アクセス)12)Kampmann B, et al. N Engl J Med. 2023;388:1451-1464.13)日本小児科学会予防接種・感染症対策委員会. 日本におけるニルセビマブの使用に関するコンセンサスガイドライン Q&A(第2版)(2024年9月2日改訂)14)Kobayashi Y, et al. Pediatr Int. 2022;64:e14957.15)妊娠・授乳中の新型コロナウイルス感染症ワクチンの接種について 国立感染症成育医療センター16)COVID-19 Vaccination for Women Who Are Pregnant or Breastfeeding(CDC)17)山口ら. 日本におけるCOVID-19妊婦の現状~妊婦レジストリの解析結果(2023年1月17日付報告)講師紹介

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ネフローゼ症候群疑い・腎静脈血栓症の検査【日常診療アップグレード】第24回

ネフローゼ症候群疑い・腎静脈血栓症の検査問題42歳男性。1ヵ月前から徐々に両下腿浮腫と体重増加を自覚している。最近2週間は倦怠感が強く、2日前から両側の腹痛も出現してきたため病院を受診した。既往歴はなく投薬は受けていない。バイタルサインは呼吸回数22回/分を除き異常なし。両下腿に著明な圧痕性浮腫を認める。血液検査ではアルブミン2.2g/dL、総コレステロール320mg/dL、クレアチニン1.3mg/dL。尿検査はタンパク3+、赤血球10/hpf、白血球10/hpf、尿タンパク/クレアチニン比5600mg/gCrである。腹部〜骨盤CTでは、両側の腎静脈に血栓を認めた。抗核抗体は陰性で、補体低下は認めない。B型およびC型肝炎、HIV、梅毒の検査は陰性である。抗ホスホリパーゼA2受容体抗体(抗PLA2R抗体)をオーダーした。

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第255回 低酸素の高地で過ごしているようにする薬がミトコンドリア病を治療

低酸素の高地で過ごしているようにする薬がミトコンドリア病を治療酸素とヘモグロビンの親和性を高め、標高4,500mの高地で過ごしているかのようにする低分子薬HypoxyStatがマウスのミトコンドリア病を治療しました1,2)。酸素はヒトが生きていくのに不可欠で、200を超える生化学反応に携わります。しかし過剰な酸素は有害であり、ミトコンドリアの不調で生じるミトコンドリア病は酸素のそういった負の側面と関連します。ミトコンドリア病は全身の酸素消費を損なわせ、電子伝達系の複合体Iサブユニットを欠くNdufs4欠損マウスが示すように組織内の酸素を過剰にします。Ndufs4欠損マウスは小児ミトコンドリア病の中で最も一般的なリー症候群の病状を呈します。組織の酸素摂取が不得手で静脈酸素濃度の上昇を示すミトコンドリア病患者もNdufs4欠損マウスと同様の酸素過剰を示します。注目すべきことに、富士山より高い標高4,500mにいるときと同等の低酸素吸入を続けることでNdufs4欠損マウスの組織酸素過剰が減って寿命が延長し、病気が進行した時点での神経病変さえ回復させうることが示されています3)。また、ミトコンドリアのタンパク質フラタキシン欠損で生じるフリードライヒ運動失調症を模すマウスの運動障害が低酸素で緩和しています4)。酸素が少ない高地で人類が何世紀にもわたって住み続けていることから火を見るよりも明らかですが、ヒトが低酸素環境に容易に順応しうることが最近完了した第I相試験で確認されています5)。試験には健康な5人が参加し、動脈血酸素飽和度(SaO2)がおよそ85%になるまで徐々に低酸素環境に馴染んでもらうことが無理なく受け入れられました。リー症候群やフリードライヒ運動失調症のようなミトコンドリア病患者が高地に住まずとも、絶えず低酸素環境で過ごすことはやろうと思えばできなくもありません。たとえばアスリートが高地環境でのトレーニングを模すための低酸素構築システムが販売されています。しかし閉鎖空間で過ごさなければならず、生きづらさといったら半端ないでしょう。鼻カニューレやマスクを介して低酸素ガスを届ける携帯装置ならより自由に動けますが、動作不良で著しい低酸素になる恐れがあり、下手したら死んでしまうかもしれません。どうやら、ミトコンドリア病患者が常に低酸素の状態に居続けられるようにすることは今のところ大変な手間です。そこで米国・サンフランシスコのグラッドストーン研究所のチームは、体内組織を低酸素状態にするより安全で現実的な手段に取り組み、経口投与のHypoxyStatを生み出しました。HypoxyStatはヘモグロビンの酸素結合親和性を高め、S字型の酸素ヘモグロビン解離曲線(ODC)を左にずらして組織で酸素が解離し難くなるようにします。Ndufs4欠損マウスに明確な発病前からHypoxyStatを投与したところ、生存期間が3倍超も延び、体重が増え、体温も上がり、振る舞いや神経病変が改善しました。また、病気がだいぶ進行して広範囲に及ぶ神経病変、体温低下、行動異常が明確となる時点からの投与でも生存が有意に延長し、それら病変が緩和しました。HypoxyStatはミトコンドリア病のみならず低酸素環境が有益な脳や心血管の疾患の治療にも役立ちそうです。HypoxyStatを作ったチームの先立つ研究では、低酸素治療が有益かもしれない75を超える単一遺伝子起源疾患が見つかっています。低酸素順応は血糖値を下げるなどの全身代謝への効果があり、原因が生まれつき以外の代謝疾患にも有益かもしれません。高地に住むヒトに心血管疾患、肥満、糖尿病が少ないことは低酸素治療の有益さを物語っており、どうやら低酸素はまれな遺伝疾患から一般的な慢性疾患までを含む多種多様な疾患の治療法となりうるようです。さらには、ODCを左ではなく右にずらして組織に酸素がより届くようにするHypoxyStatとは真反対の作用の薬が今回の成果を手がかりにして生み出せるかもしれません2)。参考1)Blume SY, et al. Cell. 2025 Feb 12. [Epub ahead of print]2)Daily drug captures health benefits of high-altitude, low-oxygen living / Eurekalert 3)Ferrari M, et al. Proc Natl Acad Sci USA. 2017;114:E4241-E4250. 4)Ast T, et al. Cell. 2019;177:1507-1521.5)Berra L, et al. Respir Care. 2024;69:1400-1408.

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