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肥満症への胃バイパス手術の長期的効果は良好

 肥満症の治療に胃や腸の外科的手術が登場し半世紀以上が経った。術後の患者の健康状態や効果などに違いはあるのだろうか。このテーマについて、米国・ブリガムヤング大学運動科学部のTaggert J. Barton氏らの研究グループは、胃バイパス手術の健康への長期的な効果について評価を行った。その結果、術後10年を経てもBMIの低下が維持されていたことが判明した。この研究結果はObesity誌オンライン版2025年10月8日号に掲載された。代謝・肥満手術群は身体活動により体力を維持する必要がある 研究グループは、代謝・肥満手術(MBS)関連の減量が健康に及ぼす長期的な影響を探るために前向き試験「the Utah Obesity Study」の一部から、MBS患者群(82例)と対照となる非手術群(88例)のデータを収集した。フィットネスは修正ブルースプロトコルを用いた最大・亜最大トレッドミル試験で評価した。亜最大運動試験は手術前(ベースライン)および11.5年後に実施した。170例の参加者から抽出したサブグループ(97例)は、ベースラインから2年後および6年後に最大トレッドミルテストも実施した。体重とBMIは各訪問時に記録した。群間比較におけるトレッドミル走行時間は、性別と体重で調整した。 主な結果は以下のとおり。・事前の推測のとおり、全フォローアップ時点で手術群は非手術群よりBMIおよび体重が低かった(p<0.0001)。・性別、ベースライン時のトレッドミル時間、体重で調整した11.5年間のトレッドミル時間は、全フォローアップ時点で手術群が非手術群より有意に長かった(p<0.01)。・しかし、手術群の体力面での優位性は時間の経過とともに徐々に低下した。 以上の結果から、研究グループは「MBS患者において、当初は体重減少によって劇的な体力面でのメリットが得られたが徐々に低下した。しかし、10年以上経過しても非手術群よりも高い値を維持した。身体活動を重視することは、肥満手術後の体力改善を維持するのに役立つ可能性がある」と結論付けている。

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日本の大学生の過度な飲酒とうつ病との関連性は

 アルコール摂取とうつ病との関連性は、いまだ明らかになっていない。また、アジアの大学生を対象とした大規模研究で、この関連性の検証は行われていない。筑波大学の斉藤 剛氏らは、日本の大学生を対象に、過度な飲酒とうつ病との関連性を検証するため横断的研究を行った。Neuropsychopharmacology Reports誌2025年9月号の報告。 2019年4月〜2020年1月に、日本の2つの大学で定期健康診断を受けた20歳以上の学部生および大学院生を対象に調査を実施した。自記式質問票を用いて、飲酒頻度、1日当たりの飲酒量、過去1ヵ月間の過度な飲酒、うつ病自己評価尺度(CES-D)スコア、人口統計学的データの評価を行った。 主な結果は以下のとおり。・分析対象は学生4,535例。内訳は、男性2,775例(61.2%)、女性1,760例(38.8%)。・過度な飲酒者は、男性で1,076例(66.3%)、女性で548例(33.7%)であった。・1,474例(32.5%)がうつ病を有しており、そのうち528例(35.8%)は過度な飲酒者であった。・ロジスティック回帰分析では、複数の変数で調整した後でも、うつ病は大量飲酒との逆相関が認められた(オッズ比:0.59、95%信頼区間:0.36〜0.98)。 著者らは「アジアの大学生において、過度な飲酒とうつ病の負の相関が確認された。年齢や人種別に、アルコール摂取とうつ病との関係をより詳細に調査する必要がある」としている。

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雪崩遭難者の窒息を新たな携帯型安全装置が防ぐ/JAMA

 雪山で雪崩に巻き込まれ埋没すると通常35分以内に窒息死に至り、適時な救助が不可能となる場合が多い。生存率向上のため窒息を遅らせる新たな戦略の開発が求められている中、イタリア・Eurac ResearchのFrederik Eisendle氏らは、酸素補給やマウスピースを必要とせず、雪崩によって堆積した雪(デブリ)から遭難者の気道へ空気を送り込む新たな携帯型雪崩安全装置の有効性を、介入的無作為化二重盲検臨床試験で調べた。模擬埋没の間、致命的となる低酸素血症や高炭酸ガス血症を遅延させたことが示されたという。JAMA誌オンライン版2025年10月8日号掲載の報告。無作為化試験で、50cm以上の雪に覆われた状態の雪崩シミュレーションを受け評価 試験は2023年1月~3月に、イタリアの4機関で組織され1地点で実施された。18~60歳の健康なボランティアが登録された。 被験者は、安全装置群(Safeback SBXを使用)または対照群(シャム装置使用)に無作為に割り付けられ、うつ伏せで50cm以上の雪に覆われた状態の、命の危険がある雪崩シミュレーションを受けた。Safeback SBXはノルウェー・Safeback SEの製品で、欧州連合(EU)においてレベルIIの個人用保護具として分類されている。 安全装置群では、35分経過後も埋没状態だった被験者は直ちにシャム装置群に移行し、非盲検対照フェーズを完了した。シミュレーション中、被験者の安全確保と生理学的データを集めるためにバイタルパラメーターが継続モニタリングされた。 主要アウトカムは、介入群と対照群を比較した、35分間のモニタリング中の、パルスオキシメーターで測定した酸素飽和度(SpO2)が80%未満(イベント)になるまでの時間。副次アウトカムは、雪の中での異なる距離(エアポケットからエアポケットまたはバックパックの空気排出口までが25cmまたは50cm)での酸素濃度や二酸化炭素濃度などであった。SpO2が80%未満になったことにより試験終了となるリスクが有意に低下 36例が無作為化され、24例が試験を完了し最終解析に含まれた。被験者は年齢中央値27(四分位範囲[IQR]:25~32)歳、13例(54%)が男性であった。 安全装置群では、埋没時間中央値35.0(IQR:35.0~35.0)分においてイベントの報告はなかった。対照群では埋没時間中央値6.4(4.8~13.5)分において7件のイベントが報告された。 安全装置群は、SpO2が80%未満になったことにより試験終了となるリスクが有意に低かった(log-rank・Breslow検定によるp<0.001)。 安全装置群と対照群の同一ポイントにおいて、エアポケット内の二酸化炭素濃度は1.3%(95%信頼区間:1.0~1.6)vs.6.1%(5.1~7.1)であり、酸素濃度は19.8%(19.5~20.1)vs.12.4%(11.2~13.5)であった。

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未治療のマントル細胞リンパ腫、イブルチニブ+リツキシマブがPFS改善/Lancet

 未治療のマントル細胞リンパ腫において、イブルチニブ(BTK阻害薬)+リツキシマブ(抗CD20抗体)の併用療法は免疫化学療法と比較して、無増悪生存期間(PFS)を有意に改善したことが、英国・University Hospitals Plymouth NHS TrustのDavid J. Lewis氏らENRICH investigatorsが行った無作為化非盲検第II/III相優越性試験「ENRICH試験」の結果で示された。イブルチニブは、初回治療の免疫化学療法に上乗せすることでPFSの延長が示されている。ENRICH試験では、60歳以上の未治療のマントル細胞リンパ腫患者を対象に、化学療法を併用しないイブルチニブ+リツキシマブ併用療法と、標準的な免疫化学療法(R-CHOP療法[リツキシマブ、シクロホスファミド、ドキソルビシン、ビンクリスチン、プレドニゾロン]またはリツキシマブ+ベンダムスチン)を比較した。著者は、「本検討はわれわれが知る限り、イブルチニブ+リツキシマブ併用の有効性を実証した初の無作為化試験である」としたうえで、「マントル細胞リンパ腫の高齢患者の初回治療として、イブルチニブ+リツキシマブ併用を新たな標準治療と見なすべきである」と述べている。Lancet誌オンライン版2025年10月3日号掲載の報告。英国、スウェーデン、ノルウェー、フィンランド、デンマークの66施設で評価 ENRICH試験は、英国、スウェーデン、ノルウェー、フィンランド、デンマークの66施設で行われた。60歳以上で未治療のマントル細胞リンパ腫(Ann-Arbor分類StageII~IV、ECOG-PSスコア0~2)の患者を、イブルチニブ+リツキシマブ群(介入群)またはリツキシマブ+免疫化学療法群(対照群)に1対1の割合で無作為に割り付けた。試験担当医師が選択した免疫化学療法で層別化した。 介入群の被験者は、無作為化前に選択された免疫化学療法の適合スケジュール(R-CHOP療法21日ごと、またはリツキシマブ+ベンダムスチン療法28日ごと)に基づき、イブルチニブ560mgを1日1回経口投与+各サイクル初日にリツキシマブ375mg/m2の静脈内投与を6~8サイクル投与した。 R-CHOP療法は、21日サイクルの初日にシクロホスファミド750mg/m2、ドキソルビシン50mg/m2、ビンクリスチン1.4mg/m2を投与、各サイクル1~5日目にプレドニゾロン100mgを投与した。リツキシマブ+ベンダムスチン療法は、各サイクル1日目と2日目にベンダムスチン90mg/m2を投与し、各サイクルの1日目にリツキシマブ375mg/m2を投与する組み合わせで構成された。 導入期終了時に反応を示した両群の全患者は、8週ごと2年間、リツキシマブの維持投与を受けた。また介入群に割り付けられた患者は、疾患進行または許容できない毒性が出現するまでイブルチニブの投与が継続された。 主要評価項目は、試験担当医師の評価に基づくPFSで、選択した免疫化学療法で層別化を行い、ITT集団で解析が行われた。追跡期間中央値47.9ヵ月のPFS中央値、リツキシマブ+免疫化学療法よりも優れる 2016年2月15日~2021年6月30日に、397例が無作為化された。このうちR-CHOP療法の無作為化前選択は107例(27%)、リツキシマブ+ベンダムスチン療法の無作為化前選択は290例(73%)であった。 全体で、199例が介入群に、198例が対照群(R-CHOP療法53例、リツキシマブ+ベンダムスチン療法145例)に無作為化された。年齢中央値は、介入群74歳(四分位範囲:70~77)、対照群74歳(70~78)であった。296例(75%)が男性、101例(25%)が女性であり、人種に関するデータは収集されなかった。 追跡期間中央値47.9ヵ月の時点で、PFS中央値は介入群が対照群よりも有意に優れることが示された(補正後ハザード比[HR]:0.69、95%信頼区間[CI]:0.52~0.90、p=0.0034)。また、介入群のR-CHOP療法群に対するHRは0.37(95%CI:0.22~0.62)、同リツキシマブ+ベンダムスチン療法に対するHRは0.91(0.66~1.25)であった。 導入期および維持期を通じて、Grade3以上の有害事象が報告されたのは、介入群67%、対照群70%であった。

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心血管疾患は依然として世界で最多の死因

 心血管疾患(CVD)は依然として世界で最も多い死因であり、CVDによる死亡は世界中での全死亡の3分の1を占めていることが、新たな研究で明らかになった。米ワシントン大学心血管健康指標プログラムのディレクターを務めるGregory Roth氏らによるこの研究は、「Journal of the American College of Cardiology」に9月24日掲載された。 同誌の編集者である米イェール大学医学部教授のHarlan Krumholz氏は、「この報告は警鐘だ。CVDは依然として世界の主要な死因であり、その負担はCVDに対する対応力が最も低い地域で急速に増加している」と指摘している。その一方で同氏は、「ただし、CVDのリスクとその対策法については明らかになっている。各国が効果的な医療政策と制度をすぐにでも実行すれば、何百万もの命を救うことができる」と述べている。 この研究では、世界疾病負担研究(GBD 2023)で対象とされた375種類の疾患の中でCVDに焦点を当て、1990年から2023年までの間に、世界の204の国と地域におけるCVD全体の負担を評価した。また、虚血性心疾患、脳出血、脳卒中などのCVDの主要なサブ疾患や、CVDに影響を与える高血圧、喫煙、肥満、血糖異常、食事に関連するリスク(複数の食品・栄養素の不足や過剰摂取を総合した食事リスク要因)、大気汚染などの12種類の変更可能なリスク因子についても分析した。 その結果、CVDによる障害調整生存年(DALY)は、1990年の3億2000万から2023年には4億3700万と1.4倍増加した。DALYとは、早期死亡による失われた年数と障害を抱えて生きた年数を合算した、疾患によって失われた健康な年数を示す指標である。また、CVDによる死亡者数も1990年の1310万人から2023年には1920万人に達していた。CVDによるDALYの79.6%(3億4700万)は生活習慣に関連するリスク因子に起因することも判明した。内訳は、肥満や空腹時高血糖などの代謝リスク因子が67.3%、喫煙や飲酒、偏食などの行動リスク因子が44.9%、大気汚染や鉛曝露などの環境・職業リスク因子が35.8%であった。 さらに、2023年には世界でのCVD罹患者数は6億2600万人に達し、中でも虚血性心疾患(2億3900万人)と末梢動脈疾患(1億2200万人)の罹患者が多いと推定された。このほか、多くの地域で男性のCVDによる死亡率は女性よりも高いことや、リスクは50歳を過ぎると急激に上昇すること、CVDによるDALYの最も低い国と最も高い国の間には16倍の差が認められることも判明した。 Roth氏は、「最も重要で予防可能なリスク因子に焦点を当て、効果的な政策や実証済みで費用対効果の高い治療を組み合わせることで、非感染性疾患による早期死亡を減らすことができる」と指摘する。同氏はさらに、「各国はわれわれの研究結果から、心血管の健康状態を改善するための信頼できるエビデンスと政策立案に向けた一種の提言を見つけることができる」と付言している。 さらにRoth氏は、「本研究により、所得レベルだけでは説明できないCVDの負担の大きな地域差が明らかになった。こうした差を踏まえれば、地域ごとに最も関連性の高いリスク因子をターゲットにした健康政策を立てることが可能になる」と話している。

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カンガルーケアが早産児の脳の発達を促す

 出生後の肌と肌のふれあいは、早産児の脳の発達を促す助けとなる可能性のあることが、新たな研究で示された。この種のケアは、カンガルーなどの有袋類が子どもをお腹の袋に入れて育てる様子にちなんで「カンガルーケア」とも呼ばれている。この研究では、32週未満で生まれた早産児において、カンガルーケアの時間が長ければ長いほど感情やストレスの調節に関わる脳の領域で著しい発達が見られたという。米バーク神経学研究所言語発達・回復研究室のKatherine Travis氏らによるこの研究結果は、「Neurology」に9月24日掲載された。 Travis氏は、「早産児のカンガルーケアには多くの利点があることが示されている。先行研究では、早産児のカンガルーケアは親子の絆の強化、睡眠や心肺機能、発達の改善、さらには痛みやストレスの軽減に関連することが示されている」と言う。同氏はまた、「極早産児に関するわれわれの研究は、カンガルーケアが初期の脳発達の形成にも影響を与える可能性があることを示しており、生後最初の数週間に早産児に提供されるケアの潜在的な重要性が浮き彫りになった」と米国神経学会(AAN)のニュースリリースの中で述べている。 この研究では、平均在胎週数29週の早産児88人(女児49%)の発達を調査した。早産児の平均体重は約2.7ポンド(約1.2kg)で、入院期間は平均2カ月だった。入院中の早産児に対するカンガルーケアの時間の長さ(1回当たりの時間と1日当たりの合計時間を含む)を調べた。家族の1日当たりの訪問回数は平均1回、1回当たりのカンガルーケアの時間は70分程度(30分〜2時間弱の間)で、ケアの73%は母親によるものだった。入院期間全体を通じて実施されたカンガルーケアの時間は1日当たり平均24分だった。 早産児は退院前、正期産に相当する40週前後に当たる時期に脳画像検査を受けた。脳画像検査は、脳の特定の領域をつなぐ通信ネットワークとして機能する白質に焦点を当てて行われた。 その結果、カンガルーケアの時間が長ければ長いほど、注意力や感情の調節をサポートする帯状束と、感情処理や記憶に関わる領域をつなぐ前視床放線の2つの重要な脳領域の活動が上昇していることが明らかになった。また、この関連は出生時の在胎期間、脳画像検査を実施した時点での週齢、社会経済的状況、家族の訪問頻度といった脳の発達に影響を与え得る他の要因の調整後も有意であった。 Travis氏は、「カンガルーケアは、早産児に親との絆を通じた家族としてのつながりをもたらすだけでなく、脳内での新たな接続を促して赤ちゃんの全体的な脳の健康状態を改善している可能性がある」と考察している。 しかし残念ながら、多くの新生児集中治療室(NICU)ではカンガルーケアをサポートできる体制が整備されていないと、付随論評の著者らは指摘している。著者の一人であるウェスタン大学(カナダ)児童心理学分野のEmma Duerden氏は、「多くのNICUでは、物理的なスペース、スタッフの体制、同時に求められるケアへの対応、家族が長時間付き添うための限られたリソース、現行のケアのルーチンの変更に伴う問題が依然として障壁となっている」と論評の中で述べている。 Travis氏らは、この研究の規模や観察研究の性質から、カンガルーケアと脳の発達の間に直接的な因果関係を示すことはできず、今回示されたのは関連性にとどまると述べている。また、今後の研究では、生後間もない時期に提供されるケアの経験が、どのように脳の発達を形作り、子どもの健やかな成長をサポートするのか、さらに解明を進めるべきであるとの見解を示している。

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直腸異物はどの年齢に多いか?【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第292回

直腸異物はどの年齢に多いか?私は普段直腸異物を診ていないのですが、直腸異物に関する論文はたぶん消化器科医よりたくさん読んでいると思います。それはそれでコワイな…。高位まで移行した物体では直腸穿孔や腹膜汚染を伴うことがあり、これらは出血や敗血症性ショックに至る重篤な合併症を引き起こしかねません。Bhasin S, et al. Rectal foreign body removal: increasing incidence and cost to the NHS. Ann R Coll Surg Engl. 2021;103:734-737.これは、イギリスにおいて2010~19年で直腸内異物除去のために病院で処置を受けた患者を対象とした研究です。イギリス国内で合計約3,500例、1年間で約389例に相当するとされています。国内では、年間約348ベッド日が使用されたと報告されています。直腸異物の患者さん、約85%が男性であり、年齢分布は20代前半と50代前半にピークがありました。10代から20代に変わるタイミングで爆増しているので、性的嗜好が大きく影響していることが推察されます。50代で多くなる理由はちょっとわかりません…。高齢化とともに便秘などの問題が増えることで、排便困難を解決しようとする過程で意図せず異物が挿入されてしまう、といったことが推測されますが、これも想像の域を出ません。小児(10~14歳)の小さなピークも観察されており、もしかすると虐待なども含まれているのかなと邪推しますが、これも理由は不明です。医療資源への財政負担もこの論文では提示されており、著者らは年間の保守的な推計で約34万ポンド(約6,800万円)と算出しています。公衆衛生的観点では、著者らは本事象の増加はインターネット上でのポルノの普及や多様な性具の入手と関連している可能性があるとしています。ただ、この統計データは手術コードに依存するため、因果まで推定できるわけではありません。確実なのは、20代で急に増えるということくらいでしょうか。

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第284回 医療界にも逆風か、連立解消で揺れる自民党のお相手探し

INDEX聞いてないよ公明党の手腕新たなカップル成立は医療界のリスクか聞いてないよ予想もしなかった「下駄の雪」*が牙をむいた。自公連立からの公明党の離脱のことである。前回の本連載を読んでいただければわかるが、私自身はまったくこのことを予想していなかった。最終的には自民党も公明党も互いにしがみつくと思っていたし、公明党が連立離脱を公にした後に会ったある自民党議員も「寝耳に水だった」と話していた。*下駄の裏にくっついた雪のように、力ある者に付いていく者を指す政界用語この離脱は医療政策にも一定の影響を及ぼすと個人的には考えている。公明党は「福祉の党」「平和の党」を金看板に掲げているが、私自身はこれを真に受けるつもりはない。以前からも国政選挙の政策比較時に言及しているが、私の端的な公明党の評価は1999年の小渕 恵三政権下で行われた地域振興券に始まる「元祖バラマキ政党」である。バラマキは商品券や給付金だけでなく、行政サービスの場合もある。そして行政サービスのバラマキでは、医療界にとっては前向きなものもある。その代表格がワクチン接種である。公明党の手腕同党は自民党、共産党と並んで地方の都道府県議会や市区町村議会に議員を送り込んでおり、その総数は2024年末時点で2,855人。野党第1党である立憲民主党でさえ839人で、その3分の1弱に過ぎない。この豊富な地方議員を使って、公明党議員が地方議会での質問、予算要求、陳情などで自治体の独自助成を勝ち取る。これを広げながら地方→都道府県→国への「上げ潮」型アプローチで定期接種化を求めていく。実例を挙げれば、2006年の東京都千代田区と北海道名寄市で高齢者向け肺炎球菌ワクチン接種費用の助成、2023年度から東京都が帯状疱疹ワクチンの接種費を助成する区市町村への補助事業を開始した時なども公明党が活発に動いている。後に両ワクチンとも国の定期接種化が実現した。また、現時点で定期接種化は実現していないが、昨今登場したRSウイルスワクチンについても、一部の自治体では接種の助成が始まっている。このうち愛知県大府市で2025年8月から始まった妊婦・高齢者での接種費用助成も公明党が盛んに議会で要望したものだ。これらは公明党のバラマキ政策の中でも功罪の「功」に属するものである。さらに、多くの医療者にとって記憶に新しいであろう今年3月の高額療養費の負担上限引き上げ凍結にも、公明党は一役買っている。この時は全国がん患者団体連合会が各方面に要望活動を展開し、凍結への大きな流れを作ったことはよく知られている。この凍結決定直後、同連合会理事長の天野 慎介氏に、私が理事を務める日本医学ジャーナリスト協会で講演してもらったことがある。その際に天野氏らはこの活動で数多くの与野党議員に会った時のことを語っている。「さまざまな法律・政策が通る時は、与党が自らそれを提案し、それに野党から批判の声が上がることがありますが、最後は結局、与党が一番強い。どれだけ野党が厳しく追及して、どれだけ世論が盛り上がろうとも、与党がその気にならなければ絶対に動かない。これは私が今まで約15年、患者団体を通じた要望活動をしてきて学んだこと。最後は与党が動いてくれないと絶対ダメ。与党が動くパターンは2つあり、1つは自民党の中から声が上がること。今回の場合は“このままじゃダメだ、参議院議員選挙に負ける”という声が上がったことが大きかった。もう1つのパターンは連立を組んでいる公明党から自民党に声がいくこと。今回の場合は斉藤 鉄夫代表が複数回にわたって総理と会って、“高額療養費を変えるべきだ、あるいは凍結すべきだ”と言っていただいたことが決定打になっている」。天野氏のこの発言は、まさに患者の命を守るために最前線で闘った人の言葉で、かつ経験と覚悟に裏打ちされた内容である。少なくともそこに嘘やごまかしが入り込む余地はないと私は考えている。このような事実を見る限り、医療関連では一定の役割を果たしてきたと言えるだろう。世間では「下駄の雪」「政教一致政党」と揶揄され、私も前述のように「元祖バラマキ政党」と批判的に捉えている部分もあるが…。新たなカップル成立は医療界のリスクかそして最新のニュースを見る限り、自民党は公明党に代わって日本維新の会に触手を伸ばしていると報じられている。日本維新の会は高額療養費の負担上限引き上げに反対はしていたものの、そもそも政策として「国民医療費総額の年間4兆円削減」を公言している。その1つがOTC類似薬の保険外しである。私自身はこの政策自体を否定はしないが、さすがに一律で対応するのは問題ありと考えている。ちなみに、日本維新の会が先日の参院選で掲げたマニフェスト内で「社会保険料を下げる改革」として記述していたものを箇条書きすると、以下のようになる。OTC類似薬の保険適用除外費用対効果に基づく医療行為や薬剤の保険適用除外の促進人口減少等により不要となる約11万床の病床を、不可逆的な措置を講じつつ次の地域医療構想までに削減(感染症等対応病床は確保)電子カルテ普及率100%達成電子カルテを通じた医療情報の社会保険診療報酬支払基金に対する電磁的提供の実現診療報酬体系の再構築後発医薬品の使用原則化医薬分業制度の見直し職種間の役割分担の見直し・タスクシフト地域フォーミュラリの導入高齢者の医療費窓口負担を原則「7割引」に見直しこども医療費の無償化さて、これらがどう動くのか? 国政から目が離せない状況になっている。

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下垂体性ADH分泌異常症〔Pituitary ADH secretion disorder〕

1 疾患概要■ 定義抗利尿ホルモン(ADH)であるバソプレシン(AVP)は、視床下部の視索上核および室傍核に存在する大細胞性AVPニューロンで産生されるペプチドホルモンである。血漿浸透圧の上昇または循環血漿量の低下に応じて下垂体後葉から分泌され、腎集合管における水の再吸収を促進することで体液恒常性の維持に重要な役割を果たす。下垂体性ADH分泌異常症には、AVP分泌不全により多尿を呈する中枢性尿崩症と、低浸透圧環境下にも関わらずAVP分泌が持続し低ナトリウム血症を呈する抗利尿ホルモン不適切分泌症候群(SIADH)が含まれる。■ 疫学わが国における中枢性尿崩症の患者数は約5,000~1万人程度と推定されている1)。一方、SIADHの患者数は不明であるが、低ナトリウム血症は電解質異常の中で最も頻度が高く、全入院患者の2~3%で認められる。軽度の低ナトリウム血症を呈する患者を含めると、とくに高齢者では相当数に上ると推定されている1)。■ 病因中枢性尿崩症とSIADHの主な病因をそれぞれ表1および表2に示す。特発性中枢性尿崩症は視床下部や下垂体後葉に器質的異常を認めないが、一部はリンパ球性漏斗下垂体後葉炎に由来する可能性がある。続発性中枢性尿崩症は視床下部や下垂体の腫瘍や炎症、手術、外傷などによりAVPニューロンが障害され、AVP産生および分泌が低下することで発症する。SIADHの原因としては、中枢神経疾患、肺疾患、異所性AVP産生腫瘍、薬剤などが挙げられる。表1 中枢性尿崩症の病因特発性家族性続発性(視床下部-下垂体系の器質的障害):リンパ球性漏斗下垂体後葉炎胚細胞腫頭蓋咽頭腫奇形腫下垂体腫瘍(腺腫)転移性腫瘍白血病リンパ腫ランゲルハンス細胞組織球症サルコイドーシス結核脳炎脳出血・脳梗塞外傷・手術表2 SIADHの病因中枢神経系疾患髄膜炎脳炎頭部外傷くも膜下出血脳梗塞・脳出血脳腫瘍ギラン・バレー症候群肺疾患肺腫瘍肺炎肺結核肺アスペルギルス症気管支喘息腸圧呼吸異所性バソプレシン産生腫瘍肺小細胞がん膵がん薬剤ビンクリスチンクロフィブレートカルバマゼピンアミトリプチンイミプラミンSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)■ 症状中枢性尿崩症では、口渇、多飲、多尿を認め、尿量は1日1万mLに達することもある。血液は濃縮され高張性脱水に至り、上昇した血漿浸透圧により渇中枢が刺激され、強い口渇が生じて大量の水を飲むことになるが、摂取した水は尿としてすぐに排泄される。SIADHでは、頭痛、悪心、嘔吐、意識障害、痙攣など低ナトリウム血症に伴う症状が出現する。急速に血清ナトリウム濃度が低下した場合には重篤な症状が早期に出現するが、慢性の低ナトリウム血症では症状が軽度にとどまることがある。■ 予後中枢性尿崩症は、妊娠時や頭蓋内手術後の一過性発症を除き自然回復はまれであるが、飲水が可能な状態であれば生命予後は良好である。一方で、渇感障害を伴う場合や飲水が制限される場合には高度の高張性脱水を呈し、重篤な転機をたどることがある。実際、渇感障害を伴う尿崩症患者はそうでない患者に比べ、血清ナトリウム濃度150mEq/L以上の高ナトリウム血症の発症頻度が有意に高く、さらに重症感染症による入院や死亡率も有意に高いと報告されている2)。続発性中枢性尿崩症やSIADHの予後は、原因となる基礎疾患に依存する。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)「間脳下垂体機能障害と先天性腎性尿崩症および関連疾患の診療ガイドライン2023年版」3)に記載された診断の手引きを表3および表4に示す。表3 中枢性尿崩症の診断の手引きI.主症候1.口渇2.多飲3.多尿II.検査所見1.尿量は成人においては1日3,000mL以上または40mL/kg以上、小児においては2,000mL/m2以上2.尿浸透圧は300mOsm/kg以下3.高張食塩水負荷試験(注1)におけるバソプレシン分泌の低下:5%高張食塩水負荷(0.05mL/kg/分で120分間点滴投与)時に、血漿浸透圧(血清ナトリウム濃度)高値においても分泌の低下を認める(注2)。4.水制限試験(飲水制限後、3%の体重減少または6.5時間で終了)(注1)においても尿浸透圧は300mOsm/kgを超えない。5.バソプレシン負荷試験(バソプレシン[ピトレシン注射液]5単位皮下注後30分ごとに2時間採尿)で尿量は減少し、尿浸透圧は300mOsm/kg以上に上昇する(注3)。III.参考所見1.原疾患の診断が確定していることがとくに続発性尿崩症の診断上の参考となる。2.血清ナトリウム濃度は正常域の上限か、あるいは上限をやや上回ることが多い。3.MRI T1強調画像において下垂体後葉輝度の低下を認める(注4)。IV.鑑別診断多尿を来す中枢性尿崩症以外の疾患として次のものを除外する。1.心因性多飲症:高張食塩水負荷試験で血漿バソプレシン濃度の上昇を認め、水制限試験で尿浸透圧の上昇を認める。2.腎性尿崩症:家族性(バソプレシンV2受容体遺伝子の病的バリアントまたはアクアポリン2遺伝子の病的バリアント)と続発性[腎疾患や電解質異常(低カリウム血症・高カルシウム血症)、薬剤(リチウム製剤など)に起因するもの]に分類される。バソプレシン負荷試験で尿量の減少と尿浸透圧の上昇を認めない。[診断基準]確実例:Iのすべてと、IIの1、2、3、またはIIの1、2、4、5を満たすもの。[病型分類]中枢性尿崩症の診断が下されたら下記の病型分類をすることが必要である。1.特発性中枢性尿崩症:画像上で器質的異常を視床下部-下垂体系に認めないもの。2.続発性中枢性尿崩症:画像上で器質的異常を視床下部-下垂体系に認めるもの。3.家族性中枢性尿崩症:原則として常染色体顕性遺伝形式を示し、家族内に同様の疾患患者があるもの。(注1)著明な脱水時(たとえば血清ナトリウム濃度が150mEq/L以上の際)に高張食塩水負荷試験や水制限試験を実施することは危険であり、避けるべきである。多尿が顕著な場合(たとえば1日尿量が1万mLに及ぶ場合)は、患者の苦痛を考慮して水制限試験より高張食塩水負荷試験を優先する。多尿が軽度で高張食塩水負荷試験においてバソプレシン分泌の低下が明らかでない場合や、デスモプレシンによる治療の必要性の判断に迷う場合には、水制限試験にて尿濃縮力を評価する。(注2)血清ナトリウム濃度と血漿バソプレシン濃度の回帰直線において傾きが0.1未満または血清ナトリウム濃度が149mEq/Lのときの推定血漿バソプレシン濃度が1.0pg/mL未満(中枢性尿崩症)。(注3)本試験は尿濃縮力を評価する水制限試験後に行うものであり、バソプレシン分泌能を評価する高張食塩水負荷試験後に行うものではない。なお、デスモプレシンは作用時間が長いため水中毒を生じる危険があり、バソプレシンの代わりに用いることは推奨されない。(注4)高齢者では中枢性尿崩症でなくても低下することがある。表4 SIADHの診断の手引きI.主症候脱水の所見を認めない。II.検査所見1.血清ナトリウム濃度は135mEq/Lを下回る。2.血漿浸透圧は280mOsm/kgを下回る。3.低ナトリウム血症、低浸透圧血症にもかかわらず、血漿バソプレシン濃度が抑制されていない。4.尿浸透圧は100mOsm/kgを上回る。5.尿中ナトリウム濃度は20mEq/L以上である。6.腎機能正常7.副腎皮質機能正常8.甲状腺機能正常III.参考所見1.倦怠感、食欲低下、意識障害などの低ナトリウム血症の症状を呈することがある。2.原疾患の診断が確定していることが診断上の参考となる。3.血漿レニン活性は5ng/mL/時間以下であることが多い。4.血清尿酸値は5mg/dL以下であることが多い。5.水分摂取を制限すると脱水が進行することなく低ナトリウム血症が改善する。IV.鑑別診断低ナトリウム血症を来す次のものを除外する。1.細胞外液量の過剰な低ナトリウム血症:心不全、肝硬変の腹水貯留時、ネフローゼ症候群2.ナトリウム漏出が著明な細胞外液量の減少する低ナトリウム血症:原発性副腎皮質機能低下症、塩類喪失性腎症、中枢性塩類喪失症候群、下痢、嘔吐、利尿剤の使用3.細胞外液量のほぼ正常な低ナトリウム血症:続発性副腎皮質機能低下症(下垂体前葉機能低下症)[診断基準]確実例:IおよびIIのすべてを満たすもの。中枢性尿崩症では、多尿の鑑別診断として、浸透圧利尿(尿浸透圧300mOsm/kgH2O以上)と低張性多尿(尿浸透圧300mOsm/kgH2O以下)を区別する必要がある。実臨床では、糖尿病に伴う浸透圧利尿の頻度が高い。低張性多尿の場合は、高張食塩水負荷試験、水制限試験およびバソプレシン負荷試験、デスモプレシン試験により、中枢性尿崩症、腎性尿崩症、心因性多飲症を鑑別する。SIADHでは、低ナトリウム血症と低浸透圧にもかかわらずAVP分泌の抑制がみられないことが診断上重要である。血清総蛋白や尿酸値の低下など血液希釈所見を伴うことが多い。SIADHは除外診断であり、低ナトリウム血症を呈するすべての疾患が鑑別対象となる。とくに続発性副腎皮質機能低下症は、SIADHと同様に細胞外液量がほぼ正常な低ナトリウム血症を呈し臨床像も類似するため、両者の鑑別は極めて重要である。3 治療中枢性尿崩症の治療にはデスモプレシンを用いる。水中毒を避けるため、最小用量から開始し、尿量、体重、血清ナトリウム濃度を確認しながら投与量および投与回数を調整する。その際、少なくとも1日1回はデスモプレシンの抗利尿効果が切れる時間帯を設けることが、水中毒による低ナトリウム血症の予防に重要である。SIADHの治療では、血清ナトリウム濃度が120mEq/L以下で中枢神経症状を伴い迅速な治療を要する場合には、3%食塩水にて補正を行う。ただし、急激な補正は浸透圧性脱髄症候群(ODS)の危険性があるため、血清ナトリウム濃度を頻回に測定しつつ、補正速度は24時間で8~10mEq/L以下にとどめる。血清ナトリウム濃度が125mEq/L以上の軽度かつ慢性期の症例では、1日15~20mL/kg体重の水分制限を行う。水分制限で改善が得られない場合には、入院下でAVPV2受容体拮抗薬トルバプタンの経口投与を検討する。4 今後の展望わが国においてAVP濃度は従来RIA法で測定されているが、抗体が有限であること、測定のためにアイソトープを使用する必要があること、さらに結果判明まで数日を要することなど、複数の課題を抱えている。近年、質量分析法によるAVP測定が試みられており、これらの課題を克服できるのみならず、高張食塩水負荷試験の所要時間短縮につながる可能性が報告されており4)、次世代の検査法として期待されている。一方、SIADHの治療においては、ODSの予防を重視した安全な低ナトリウム血症治療を実現するため、機械学習を用いた治療予測システムの開発が進められている5)。現在は社会実装に向けた精度検証が進行中であり、将来的には実臨床における安全かつ効率的な治療選択を支援するツールとなることが期待される。5 主たる診療科内分泌内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター 下垂体性ADH分泌異常症(指定難病72)(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)間脳下垂体機能障害に関する調査研究(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報中枢性尿崩症(CDI)の会(患者とその家族および支援者の会) 1) 難病情報センター 下垂体性ADH分泌異常症(指定難病72) 2) Arima H, et al. Endocr J. 2014;61:143-148. 3) 間脳下垂体機能障害と先天性腎性尿崩症および関連疾患の診療ガイドライン作成委員会,厚生労働科学研究費補助金難治性疾患政策研究事業「間脳下垂体機能障害に関する調査研究」班. 日内分泌会誌. 2023;99:18-20. 4) Handa T, et al. J Clin Endocrinol Metab. 2025 Jul 30.[Epub ahead of print] 5) Kinoshita T, et al. Endocr J. 2024;71:345-355. 公開履歴初回2025年10月17日

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アルツハイマー病の隠れた危険因子、「てんかん」との密接な関係【外来で役立つ!認知症Topics】第34回

アルツハイマー病(AD)や認知症の予防因子、とくに介入可能性のあるものについては、近年のLancet誌の特集が最も有名であることは、本連載ですでに紹介した。その作業部会では、危険因子に関する論文を蓄積してレビューし、重要因子を確認する作業を行い、最新情報が発信されている。さて筆者は、介入可能な危険因子として、「てんかん」が遠からず注目されるのではないかと思う。今回は、この「てんかん」とADの関係を述べる。高齢者のてんかんは見過ごされやすいてんかんは長年、子供の病気と思われてきた。また、高齢者のてんかんでは、痙攣を伴わないことも多いので、それと気付かれにくい。最も多い「焦点意識減損発作(旧名:複雑部分発作)」では、以下のような症状がみられる。心ここにあらずといった様子で、ぼーっとしている口をもごもごさせる奇妙な動作を繰り返すこのようなてんかん発作や、発作後もうろう状態下でも、ある程度複雑な行動ができることは記憶に留めたい。たとえば、赤信号では止まって、青になると歩き出せる。入浴中の発作なら、風呂を出て服を着ることもある。誰かと会話中の発作なら、会話内容がとんちんかんになっても続く。こうしたてんかんでは、意識が完全に回復するまで数十分程度かかる。そして、その間のことを覚えていない。なお臨床研究からは、こうしたてんかんを伴うAD患者では、認知機能低下が加速することがわかっている。互いに影響し合うADとてんかん高齢者のてんかんとADの関係に注目する最大の理由は、併発率が非常に高いことにある。AD患者は、健康成人に比べて、てんかんのリスクが3.1倍高まり、逆にてんかん患者におけるADの発症率は1.8倍高いことが、メタ解析から示されている1)。また、病理学的にADと確定診断された446例のうち17%が、AD診断後に新たなてんかん発作を生じ、その89%が全般性強直間代発作だったとされる2)。さらに、長期に繰り返した脳波測定からは、ADの前臨床期という早い段階で、意識障害を伴う局所性のてんかんが高頻度にみられることも報告されている3)。一方、子供の頃に発症したてんかんとADに関しては、動物実験から、認知機能低下やアミロイドの沈着がまだみられない若い時期でも、神経回路の過剰な興奮と「てんかんの準備状態」を確認した報告がある。またヒトの研究でも、常染色体顕性のAD遺伝子を持つ者、APOE4遺伝子を持つ者、晩発性ADの危険性の高い者では、無症状期であっても、認知課題を負荷した時、てんかんとの関係が深い「海馬」の過剰活動を認めることが知られる。実験レベルでは、アミロイドβとタウは、神経の過剰活動を起こすことで、てんかん性の活動を惹起する。逆に、てんかんに関わる神経ネットワークの過剰興奮は、アミロイドβとタウの比率を崩し、AD病理の端緒になるとされる。以上のように、基礎研究と疫学研究の両面から、ADとてんかんとの双方向関係が示唆されている。診断の鍵は「脳波」にありてんかんの診断根拠は、「発作間欠期てんかん性放電(IED)」の確認にある。24時間連続脳波計の記録によれば、AD患者の22~53%が臨床的な発作はないにもかかわらず、こうしたてんかん性放電を示したとされる。この存在率は一般の健康成人よりも明らかに高い。このような脳波の異常は、実際のてんかん発作を引き起こさないが、一過性の認知機能障害につながると考えられている。既述のように、近年、脳波上のてんかん活動は、ADによくみられる併存症でありながら、しばしば見過ごされてきたと強調されている4)。なお、以上に述べた臨床的、基礎的知見は、レビー小体型認知症(DLB)でも同様の傾向がみられる。臨床現場でみられる特徴的な「物忘れ」筆者は、認知症を心配して受診された新規患者では、原則として脳波検査を施行する。個人的な経験として、全患者の約5%でてんかん性の異常脳波所見と臨床症状を確認し、治療をしている。こうした患者さんの物忘れに関する訴えは特徴的なので、診断にとても役立つ。訴えには2種類ある。記憶が「プツン」と途切れて、まったく思い出せないこの多くは焦点意識減損発作など、発作そのものだろう。「プツン」がない時でも、本来10あった記憶能力が8か9に下がっているという自覚があるこの訴えは興味深い。実はIEDは、認知機能に対して慢性の悪影響を及ぼすが、動物実験によれば、この放電は海馬と大脳皮質との間の情報伝達を阻害し、記憶障害をもたらす。この現象が「記憶力が8か9に下がっている」という主観的表現になるのだろう。治療に関しては、てんかんと認知症との合併例では、抗てんかん薬により多くのてんかん発作は消失する。それに伴い、少なからぬ例でQOLの改善が自覚される。もっとも、認知機能の改善については、経験上、てんかんが治ると良くなるケースもあるが、メタアナリシスレベルの評価では、まだ肯定的な結論は示されていない。なお、新世代の抗てんかん薬には、こうした合併例での認知機能低下を抑える効果が期待されている。終わりに、ADやDLBが疑われる患者で脳波検査が行われることは少ないようだ。しかし、診断の精度を高め、治療の効率を上げるためにも、脳波は取っておきたい。また、若い頃に発症したてんかんのある人が、認知機能の評価を受ける機会も多くない。若い頃からてんかんのある人が50代以降になられた際には、一度は認知機能のチェックをすることをお勧めしたい。参考文献1)Dun C, et al. Bi-directional associations of epilepsy with dementia and Alzheimer's disease: a systematic review and meta-analysis of longitudinal studies. Age Ageing. 2022;51:afac010.2)Mendez MF, et al. Seizures in Alzheimer's disease: clinicopathologic study. J Geriatr Psychiatry Neurol. 1994;7:230-233.3)Vossel KA, et al. Seizures and epileptiform activity in the early stages of Alzheimer disease. JAMA Neurol. 2013;70:1158.4)Chen TS, et al. .The Role of Epileptic Activity in Alzheimer's Disease. Am J Alzheimers Dis Other Demen. 2024;39:15333175241303569.

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双極症患者の自殺予防に有効な薬物治療は

 双極症患者は、一般集団よりも自殺率および死亡率が高いことが知られている。韓国・Korea University College of MedicineのSol A. Park氏らは、同国の双極症患者におけるリチウム、バルプロ酸、非定型抗精神病薬の長期投与が自殺企図および自殺に及ぼす影響を検討した。Journal of Affective Disorders誌2026年1月1日号の報告。 研究チームは、2002〜20年に双極症と診断され、リチウム、バルプロ酸、カルバマゼピン、非定型抗精神病薬(リスペリドン、クエチアピン、オランザピン、アリピプラゾール、ziprasidone)を2回以上処方された韓国人患者4万4,694例(平均年齢31.09±9.81歳、女性58.07%)の医療保険請求データを用いて分析を行った。各薬剤の投与期間中の自殺企図および自殺リスクの評価にはCox比例回帰を用いた。 主な結果は以下のとおり。・リチウム単独投与(ハザード比[HR]:0.608、95%信頼区間[CI]:0.434〜0.852)およびバルプロ酸単独投与(HR:0.740、95%CI:0.577〜0.949)における自殺リスクは、リチウム、バルプロ酸、非定型抗精神病薬を併用しない場合と比較し、それぞれ39.2%および26.0%の減少が認められた。・個別分析では、リチウムと非定型抗精神病薬を併用した場合の自殺リスクは0.154(95%CI:0.055〜0.428)であった。・リチウム、バルプロ酸、非定型抗精神病薬を併用した場合のHRは0.235(95%CI:0.056〜0.980)であった。・バルプロ酸単独投与のHRは0.251(95%CI:0.090〜0.698)、バルプロ酸と非定型抗精神病薬を併用した場合のHRは0.302(95%CI:0.152〜0.599)であった。 著者らは「リチウム単独またはバルプロ酸単独投与による治療中に、双極症患者の自殺リスクは減少した。自殺リスクの高い双極症患者において、非定型抗精神病薬はリチウムまたはバルプロ酸と併用した場合の自殺リスクの減少と関連していた」としている。

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2025年度医療安全管理者養成研修のご案内/医療安全学会

 日本医療安全学会(理事長:大磯 義一郎氏)は、2025年度の医療安全管理者養成研修アドバンスドコースを開催する。 この研修は、現場で「使える」医療安全の知識を体系的に修得することを目的とし、実践的な事例や演習を通じ、知識を「行動」へとつなげる応用力とリーダーシップを培い、現場の医療安全をリードできる人材としての成長を目指す。講師は、医療や法学、医療安全のエキスパートが担当する。 主催学会の大磯氏は、「医療安全管理者としての基本的な理解に加え、より高いレベルでの医療安全管理への理解と実践の機会を提供することを目的に、本アドバンスドコースを企画した。本コースが、日本医療安全学会の医療安全管理者養成研修修了者に限らず、医療安全や質改善に関心を持つ多くの方にとって、有意義な学びと交流の場となることを願っている。現場の課題解決に直結する「次の一歩」を共に考える場として、ぜひご参加していただきたい」とコメントしている。 コースの概要は以下のとおり。●対象者:医師・看護師・薬剤師・医療安全管理者・医療従事者全般 ーこんな方におすすめ! ・医療事故の再発防止策を学びたい方 ・インシデント・アクシデントのリスク管理を強化したい方 ・医療安全の最新ガイドラインを学びたい方 ・職場の安全文化を向上させたい方 ・医療安全に関わるすべての医療従事者 ※本コースは、医療安全や質の改善に興味がある医療者であれば、どなたでも受講できます。  本コースの受講のみでは厚生労働省が定める医療安全管理者の資格要件を満たしません。●開講日程: Day1 11月23日(日) 10:00~17:00 医療安全のDX最前線とそのリスクマネジメント Day2 12月14日(日) 10:00~17:00 実践編-現場力を高める技術と手法 Day3 12月21日(日) 10:00~17:00 組織文化とチームワークで支える医療安全●開催形式:Live配信(Zoom)●募集期間:各日程1週間前まで●募集定員:100名●参加費:1回のみ受講7,000円/2回受講14,000円/全3回セット受講18,000円 2024年度医療安全管理者養成研修参加者割引 1回のみ受講5,000円/2回受講10,000円/全3回セット受講12,000円 *本会はインボイス未登録となります。 *免税事業者となりますので消費税請求はありません。 *受講料は、お支払いの後、いかなる理由があっても返金できないのでご注意ください。●医療安全管理者養成研修アドバンスドコースの概要はこちら

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うつ病と就労:パーソナルリカバリーを目指した治療とは

 1992年、世界精神保健連盟はメンタルヘルス問題に関する世間の意識を高め、偏見をなくし、正しい知識を普及することを目的として、10月10日を「世界メンタルヘルスデー」と定め、その後、世界保健機関(WHO)も協賛し、正式な国際デー(国際記念日)となった。 2025年9月、世界メンタルヘルスデーに合わせてルンドベック・ジャパンによるプレスセミナーが行われ、慶應義塾大学の菊地 俊暁氏と株式会社ベータトリップの林 晋吾氏が医師の立場、当事者の立場からそれぞれ講演を行った。うつ病の治療とリカバリー うつ病におけるリカバリーの概念は症状が軽減し、医師の視点で改善と評価できる状態である“臨床的リカバリー”と、患者個人の指標・目標に対して本人が「良くなった」と実感できる状態である“パーソナルリカバリー”の2種類があり、両者は必ずしも一致しない。医師の視点から見て症状が改善しているか、という点だけではなく患者自身が個人の価値観や目標に対して回復しているかという点も重要である。 また、パーソナルリカバリーに関連する社会機能に関してはすぐに戻らない例が多く、日常生活や社会生活を送るための社会機能は治療開始から半年後で回復している患者は約3割、2年経っても約4割と社会機能が十分に回復していないことが多い。また認知機能の障害が見られることがあり、とくに記憶力・集中力・判断力・処理速度などが低下しやすく、仕事のパフォーマンス低下の要因となっている。うつ病におけるリカバリーの評価:VGOAL-J study では、どのような治療が社会機能を含めたパーソナルリカバリーに有効であるのか。抗うつ薬による機能的/パーソナルリカバリーの効果について評価した試験がVGOAL-J studyである。 試験の概要は以下のとおり。対象:20~65歳で有給の就労をしており、DSM-5の基準に従って診断された大うつエピソードを経験している人。主な指標:抗うつ薬(ボルチオキセチン)の投与を開始した対象者において以下の2つの主要な指標を測定した。GAS-D(Goal Attainment Scale for Depression):12週間にわたる目標を達成した割合の変化や、12週時点での目標を達成した割合を評価。患者と医療従事者が協力して患者ごとに治療目標を設定し、目標に向けて進捗経過を測定する。WPAI(Work Productivity and Activity Impairment Questionnaire):24週間にわたる労働生産性の変化を評価。 結果はベースラインと比較して、GAS-Dスコアは8週、12週、24週で有意に増加していた。また、設定した目標の達成率は24週時点で6割以上であった。 WPAIはベースラインと比較して4週以降から有意な改善が観察され、経時的にパフォーマンスが戻ってきていることが示された。 有害事象は121例中67例で発現したが、軽度なものが多く、試験中止に至った有害事象および死亡例は報告されていない。 この結果から、抗うつ薬を継続して投与する、すなわち治療継続の有効性と重要性が示唆された。一方で、目標未達成者への追加支援は今後の課題であるとした。うつ病と働くこと:復職はゴールではない 林氏は2010年にパニック障害を発症し、その後うつ病を併発、休職・復職・転職を繰り返し、約7年で寛解に至った。現在は患者家族向けコミュニティ「エンカレッジ」を運営しており、経験者の立場からうつ病と就労について講演を行った。 復職しても以前と同じように働けるわけではなく、林氏は新しい困難と向き合う日々が続いた。出勤はできても午後になると集中力が途切れ、簡単な資料をまとめるにも以前の数倍の時間がかかる、さらに終業後は疲れ果てて家で何もできず、生活の他の部分が回らなくなってしまった。この状態を「職場の人からは普通に働いているように見えていたかもしれません。でも実際は、必死に取り繕っていました。」と林氏は語った。 働きながら感じた課題に対して、ひとつひとつ工夫をしながら対策していく中で気づいたのは「小さな目標設定」の重要性であった。 例えば、毎朝8時に起きる、予定がなくても身だしなみを整える、など日常生活に根ざした小目標を設定する。最初は「ちっぽけ」と感じても、達成感を積み重ねることで回復や生産性改善の実感に繋がっていった。家族からの「先月より安定している」という声が大きな励みとなった。支援を繋ぐために うつ病と共に生きることは、本人だけでなく家族や職場にも影響を与えるため、医療、職場、そして家族が“共通の物差し”を持つことが大切である。 林氏は、GAS-DやWPAIのような同じ評価軸の物差しを共有することで、周囲が本人の状況を理解しやすくなり、より適切な支援につながると強調した。 「復職はゴールではなくスタートです。小さな目標を積み重ねることで、回復と働き続ける力が生まれます。医療・職場・家族が一緒になって支えることで、うつ病と共に生きる道は開けていくのだと思います」と林氏は講演を締めくくった。ルンドベック・ジャパンのうつ病に対する取り組みと社会啓発 ルンドベック・ジャパンはデンマークに本社を置くグローバル製薬企業であり、精神神経領域に特化し、70年以上の歴史を持つ。「脳の健康を推し進め、人々の人生を変える」をパーパスに掲げている。 2013年から世界メンタルヘルスデーに合わせて各国で啓発活動を展開しており、日本では毎年、患者団体・医療関係者・行政・NGOなどと連携した啓発活動を実施している。 世界メンタルヘルスデーに合わせたセミナーやイベントを継続的に実施しており、一般向けセミナーやシンボルカラーによるライトアップなどを予定している。

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多発性骨髄腫のグローバル試験の日本人サブセット結果/日本血液学会

 高リスクのくすぶり型多発性骨髄腫(SMM)においてダラツムマブと経過観察を比較したAQUILA試験の日本人集団解析が発表された。 2025年1月に発表された全体結果では、ダラツムマブ単剤療法は積極的経過観察よりも、SMMの進行または死亡までの期間(PFS)を有意に延長し、全生存期間も延長を示している。 日本人患者は28例(DARA群15例、観察群13例)であった。日本人の5年PFS率はDARA群46.3%、観察群7.7%であった(ハザード比[HR]:0.25、95%信頼区間[CI]:0.10〜0.65)。全奏効率(ORR)はDARA群86.7%、観察群7.7%という結果を示した(相対リスク比:11.27、95%CI:1.70〜74.84)。SLiM-CRAB進行までの期間はDARA群36.2ヵ月、観察群16.4ヵ月であった(HR:0.39、95%CI:0.17〜0.90)。これらは全体集団と一貫した結果であった。日本人におけるGrade3/4の治療関連有害事象(TEAE)発現は33.3%、重篤なTEAEは46.7%に観察されたが、投与中止に至ったAE、死亡に至ったAEはなかった。 未治療の移植非適応多発性骨髄腫(MM)に対するD-VRdとVRdを比較したCEPHEUS試験の日本人集団解析について発表された。全体集団ではVRd群に比べD-VRd群でより深く持続的な奏効ならびにPFSの改善が認められていた。 日本人患者は22例(D-VRd群9例、VRd群13例)、患者背景は全体集団と全体的に同様であった。主要評価項目であるMRD陰性率はD-VRd群77.8%、VRd群46.2%であった(オッズ比[OR]:4.08、95%CI:0.60〜27.65)。12ヵ月以上の持続的MRD陰性率はD-VRd群55.6%、VRd群38.5%であった(OR:2.00、95%CI:0.36〜11.23)。これらは全体集団と一貫した結果であった。Grade3/4のTEAEはD-VRd群100%、VRd群84.6%で、新たな安全性シグナルは特定されなかった。

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ESMO2025スタート!注目演題を集めた特設サイトオープン

 10月17~21日(現地時間)、欧州最大の腫瘍学会であるESMO2025(欧州臨床腫瘍学会年次総会)が、ドイツ・ベルリンとオンラインのハイブリッド形式で開催される。 ケアネットがするオンコロジーを中心とした医療情報キュレーションサイトDoctors'Picks(医師会員限定)では、ESMO2025のスタートに合わせて、数千を超す演題の中から、複数のエキスパートが専門分野の注目演題をピックアップした特設サイトをオープンした。 「ESMO2025特設サイト」では、「肺がん」「消化器がん」「乳がん」「泌尿器がん」のカテゴリに分け、ESMO視聴サイトの該当演題へのリンクを、エキスパートのコメントとともに紹介している。 エキスパートが選定した、各がん種別の注目演題の一部は下記のとおり。このほかにも多くのユーザーが注目すべき演題を紹介している。各がん種のOral演題を一覧にした「演題スケジュール」も作成したので視聴の参考にしていただきたい。【肺がん(1)】水柿 秀紀氏(北海道がんセンター)によるまとめ【肺がん(2)】和久田 一茂氏(静岡がんセンター)によるまとめ【消化器がん(1)】山本 駿氏(国立がん研究センター中央病院 頭頸部・食道内科)によるまとめ【消化器がん(2)】大内 康太氏(東北大学 臨床腫瘍学分野)によるまとめ【消化器がん(3)】稲垣 千晶氏(近畿大学 腫瘍内科)によるまとめ【乳がん】能澤 一樹氏(名古屋市立大学 臨床研究戦略部)によるまとめ【泌尿器がん】竹村 弘司氏(虎の門病院)によるまとめ――――――――――Doctors’Picks ESMO2025 特設サイト―――――――――― 学会終了後は、視聴レポートやまとめ記事なども続々アップしていく予定だ。

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複数回のPSA検査、基準値超過となる割合は?/BMJ

 イングランドのプライマリケアにおける前立腺がん診断前の前立腺特異抗原(PSA)検査の受検状況は、患者によって大きく異なることが明らかにされた。複数回受検した患者の中には推奨より頻回であった患者も多く、過剰検査の懸念があり、また記録上症状なしの患者やPSA値が低い患者にもPSA再検査が行われていたという。英国・オックスフォード大学のKiana K. Collins氏らが、イングランドのプライマリケアにおけるPSA検査の利用実態を明らかにする目的で実施したオープンコホート研究の結果を報告した。結果を踏まえて著者は、「過剰検査のリスクを低減しながら患者への最大限の利益を確保するため、エビデンスに基づく適切なPSA再検査間隔を決定するための研究が喫緊に必要である」とまとめている。BMJ誌2025年10月8日号掲載の報告。プライマリケアでPSA検査を受けている約1,023万6,000例のデータを解析 研究グループは、Clinical Practice Research Datalink(CPRD)Aurumから得られた電子カルテに日常的に収集されているデータを、がん登録(National Cancer Registration and Analysis Service:NCRAS)、病院エピソード統計(Hospital Episodes Statistics:HES)、および国家統計局(Office for National Statistics:ONS)の死亡登録データをリンクさせ、2000~18年に一般診療所1,442施設に登録され、少なくとも1年の追跡期間があり、研究開始前に前立腺がんの診断を受けておらず、研究期間中に18歳超であった男性患者1,023万5,805例について解析した。 主要評価項目は、年齢標準化PSA検査率を、集団ベースの経時的傾向と年間変化率を用いて解析した。混合効果負の二項回帰モデルにより個々の患者のPSA検査率比を、また、線形混合効果モデルにより個々の患者のPSA再検査間隔の長さに関連する因子を検討した。すべての結果は、地域、貧困状況、年齢、民族、前立腺がんの家族歴、症状の有無およびPSA値別に解析した。複数回PSA検査を受けた患者のうち、70%以上は基準値超過が一度もなし 152万1,116例が少なくとも1回PSA検査を受け、全体で合計383万5,440回のPSA検査が行われた。これらの患者のうち48.4%(73万5,750例)は複数回の検査を受け、72.8%(53万5,990例)は年齢別紹介基準値を超えるPSA値を示すことはなかった。 再検査間隔の中央値は12.6ヵ月(四分位範囲:6.2~27.5)であった。 検査率は、地域、貧困状況、民族、家族歴、年齢、PSA値、症状によって異なっていた。検査を受けた患者では、年齢が高い、白人以外の民族、前立腺がんの家族歴あり、または過去にPSA値上昇があった場合に再検査間隔が短くなった。 地域や貧困状況によって検査率に大きなばらつきがあるにもかかわらず、これらのグループ間で再検査間隔の長さは同程度であった。

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2024~25コロナワクチンの重症化予防効果/NEJM

 2024~25年新型コロナウイルス感染症(COVID-19)ワクチン接種は、重度臨床アウトカムのリスク低下と関連していたことが、米国・Veterans Affairs(VA)St. Louis Health Care SystemのMiao Cai氏らによる退役軍人を対象としたコホート研究の結果で示された。SARS-CoV-2感染症の臨床的重症度が低下し、COVID-19ワクチンの一般接種率は毎年減少傾向にあり、臨床的に重要なアウトカムに対するワクチンの有効性に関する新たなエビデンスが必要とされていた。NEJM誌オンライン版2025年10月8日号掲載の報告。COVID-19ワクチンとインフルエンザワクチンの同日接種vs.インフルエンザワクチン単独接種を比較 研究グループは、退役軍人省の電子医療データベースを用いて無作為化比較試験を模倣した観察研究を実施した。 対象は、2024年9月3日~12月31日にVA医療機関を受診した18歳以上の退役軍人で、2024~25年COVID-19ワクチンとインフルエンザワクチンを同日に接種した人(16万4,132例)と、インフルエンザワクチンのみを接種した人(13万1,839例)。被験者を最長180日間またはアウトカム発生のいずれか早いほうまで追跡した。 主要アウトカムは、COVID-19関連救急外来受診、COVID-19関連入院、およびCOVID-19関連死の複合とした。 逆確率加重法により介入群と対照群のベースラインの差を補正し、6ヵ月時点におけるアウトカムのリスク(1万人当たり)をロジットリンクと二項分布を用いた重み付け一般化推定方程式を用いて推定し、ワクチンの有効性(1-リスク比)を算出した。COVID-19ワクチン接種で、COVID-19関連救急外来受診・入院・死亡のリスクが減少 6ヵ月追跡時点で、COVID-19ワクチンの推定有効率(接種群vs.非接種群)はCOVID-19関連救急外来受診に関して29.3%(95%信頼区間[CI]:19.1~39.2、1万人当たりのリスク差:18.3、95%CI:10.8~27.6)、COVID-19関連入院に関して39.2%(21.6~54.5、7.5、3.4~13.0)、COVID-19関連死に関して64.0%(23.0~85.8、2.2、0.5~6.9)であった。 また、複合アウトカムに対するCOVID-19ワクチンの推定有効率は28.3%(95%CI:18.2~38.2、1万人当たりのリスク差:18.2、95%CI:10.7~27.5)であった。 COVID-19ワクチンによるアウトカムのリスク低下は、年齢(65歳未満、65~75歳、75歳以上)、主要な併存疾患の有無、および免疫状態の事前に規定されたサブグループのすべてにおいて一貫して認められた。

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DANFLU-2試験:高齢者に対する高用量インフルエンザワクチンの入院予防効果(解説:小金丸博氏)

 DANFLU-2試験は、高齢者に対する高用量インフルエンザワクチンの入院予防効果を検証した大規模臨床試験である。デンマークの全国行政健康登録を用いた実践的・非盲検・無作為化比較試験で、2022~23年から3シーズンにかけて実施された。試験には65歳以上の高齢者33万2,438人(平均年齢73.7±5.8歳)が登録され、高用量ワクチン(1株当たり抗原60μg)接種群と標準用量ワクチン(1株当たり抗原15μg)接種群に割り付けられた。その結果、高用量群では主要評価項目であるインフルエンザまたは肺炎による入院を経験した人がより少なく、相対リスクは5.9%減少したが、統計的に有意ではなかった(p=0.14)。副次評価項目として、高用量群においてインフルエンザによる入院の減少(相対リスク減少率:43.6%)、心肺疾患による入院の減少(同:5.7%)、あらゆる原因による入院の減少(同:2.1%)を示した。 近年、高齢者に対するインフルエンザ予防として「高用量ワクチン」が注目されてきた。これまでの標準用量との比較試験で、抗体応答の向上のみならず、検査確定インフルエンザの発症および入院を一定程度抑える効果が報告されてきた。DANFLU-2試験では、標準用量と比較して主要評価項目に設定した「インフルエンザあるいは肺炎による入院」を有意に低下させなかった。これは従来の試験で示されてきた高用量ワクチンの有利性と一見矛盾する結果であったが、その理由として、主要評価項目の選択が影響した可能性が考えられる。本試験ではアウトカムに「肺炎入院」を含めた複合エンドポイントを採用したため、非インフルエンザ性の肺炎(誤嚥性や細菌性肺炎)が多数を占めれば、インフルエンザワクチンの効果が相対的に希釈され得る。加えて実地条件下では、季節間のウイルス活動変動、被験者の背景免疫(過去のワクチン接種歴など)が影響した可能性がある。 同時にスペインから報告されたGALFLU試験との統合解析では、インフルエンザまたは肺炎による入院、心肺疾患による入院、検査で確認されたインフルエンザによる入院、およびあらゆる原因による入院において有意な減少が示された。これらのデータはこれまでの報告と一致して、重篤な転帰に対する高用量ワクチンの臨床的有益性を標準用量ワクチンよりも支持している。 米国や欧州では高齢者に対する高用量インフルエンザワクチンがすでに導入され、各国ガイドラインでも推奨されている。本邦では2024年12月に製造販売承認を取得し、60歳以上を対象に2026年秋から使用可能となる見込みである。このワクチンが定期接種に組み込まれるか、市場に安定供給されるかによって推奨される接種対象は左右されると思われるが、要介護施設入所者(フレイル高リスク群)、虚血性心疾患や慢性閉塞性肺疾患などの重症化リスクのある基礎疾患を持つ者、85歳以上の超高齢者や免疫不全者など抗体応答が弱いと想定される人では、積極的に高用量ワクチンを選択すべき集団として妥当であると考える。

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ノーベル賞をとる秘訣【Dr. 中島の 新・徒然草】(602)

六百二の段 ノーベル賞をとる秘訣とうとう関西万博が終わってしまいましたね。私はついぞ行かずじまいでした。後で考えてみると、職場から電車1本で行けたのに惜しいことをしたものです。風に吹かれながら夜の海の上の大屋根リングを歩いたらどんなに気持ち良かっただろう、と思わずにはいられません。せめてYouTubeの映像を見て行った気になることにしましょう。さて、2025年の秋、日本から2人ものノーベル賞受賞者が誕生しました。これで日本出身かつ日本国籍の受賞者は通算27人となります。国別では、アメリカ(410人)、イギリス(133人)、ドイツ(85人)、フランス(68人)、スウェーデン(34人)に次ぐ第6位!「ノーベル賞大国」と言っても過言ではありません。ちなみに、愛媛県出身の中村 修二氏(青色LED)は米国籍のためアメリカに、長崎生まれのカズオ・イシグロ氏も英国籍のためイギリスにカウントしています。ノーベル賞で思い出すのは1990年代前半のこと。放射線科にいた私はMRI装置を操作しながら、当時ノーベル賞を受賞したばかりのPCRについて研修医に質問しました。 中島 「PCRってどんな原理なわけ?」 研修医 「温度の上げ下げだけで微量のDNAを大量コピーできる技術ですよ」 中島 「もう少し詳しく教えてくれるかな」 研修医 「ざっくり言えば、温度を上げて2本鎖DNAを1本鎖に分け、温度を下げてそれぞれから再び2本鎖を作る。それを繰り返して倍々に増やすんです」 中島 「なるほど。2本が4本に、4本が8本に……という具合か」 研修医 「ええ。ポイントは、高温でも失活しない酵素を使ったことです。イエローストーン国立公園の高温環境に棲む微生物から採ってきたそうですよ」 中島 「あそこは熱湯の中でも生きている奴がいるらしいからな」 研修医 「この技術のおかげでDNA研究が一気に進みましたから。本当にすごすぎます」 一口に研修医といっても前職はいろいろなので、PCRのことをよく知っていても不思議ではありません。でも、彼が詳しいのはPCRだけでなく画像診断機器も!ちょうどわれわれが扱っていたのがMRIだったこともあり、話題はCTへ移りました。 研修医 「1970年代にノーベル賞をとったCTも、実はうまい裏技が使われているんです」 中島 「へえー」 研修医 「CTの原理はご存じですよね」 中島 「被写体にさまざまな角度からX線を照射し、透過量から内部構造を逆算するってやつでしょ」 研修医 「そのとおり。でも当時のコンピュータには、そんな複雑な計算をするパワーがなかったんです」 中島 「じゃあ、どうしたわけ?」 研修医 「発明者のハウンズフィールドは、正確な計算を捨てて近似解を使ったんです」 そう言って彼は手近な紙に図を描いてみせてくれました。中央の物体に、いろいろな方向から直線を引いたものです。後で調べてみると、それは逆投影法と呼ばれる手法でした。 研修医 「こうすると計算量が一気に減るんですよ」 中島 「なるほどねえ」 研修医 「その後のCTの活躍は言うまでもありません」 中島 「確かに」 当時の脳外科医たちが「神様からの贈り物だ!」と言ったとか。その気持ちはよくわかります。暗闇を手探りで歩いていたところに、突然懐中電灯を渡されたようなもの。世界の見え方が一変したことでしょう。 研修医 「僕が本当に言いたいのはここからなんです」 中島 「は?」 研修医 「PCRにしてもCTにしても、新発見そのものだけでなく、その後の社会へのインパクトがすごかったということです」 まだ話の先が見えん。 研修医 「だから中島先生。もしノーベル賞を狙うなら、新規性だけでなく、世の中への影響も必要なんですよ」 なるほど、なるほど。 中島 「ありがとう。今の話、すごくタメになったよ」 研修医 「先生に喜んでもらえて良かったです。ぜひ頑張ってください」 中島 「よっしゃあああ!」 そのときの私は感動したものの、その後に何か画期的な成果を上げたわけではありません。正確に言えば、彼のアドバイスが役に立たなかったのではなく、私が役立てることができなかったということです、すみません。それでも、こうして何十年後かにケアネットを通じて皆さんに伝えているわけですから。誰かが彼の言葉を役に立ててくれたら、もうそれで十分!研究の新規性と、その社会的インパクト。それこそが、ノーベル賞をとるための秘訣ですね。読者の皆さま、ぜひ、あの研修医のアドバイスをお役立てください。最後に1句 万博が 終われば次は ノーベル賞

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ドキドキして眠れません【漢方カンファレンス2】第7回

ドキドキして眠れません以下の症例で考えられる処方をお答えください。(経過の項の「???」にあてはまる漢方薬を考えてみましょう)【今回の症例】50代女性主訴不眠既往40歳、50歳に胃潰瘍生活歴パート病歴数年前に不審者が自宅に侵入した被害にあった後から不眠になった。寝つきが悪く、小さな物音でも目が覚めてしまい、中途覚醒2〜3回。また日中も動悸がある。近医を受診して心電図異常はなく、ゾルピデム5mgを処方されたが効果が不十分、できたら睡眠薬は飲みたくないと受診。現症身長158cm、体重45.1kg。体温35.8℃、血圧110/60mmHg、脈拍90回/分 整。経過初診時「???」エキス3包 分3を処方した。(解答は本ページ下部をチェック!)1ヵ月後寝つきがよくなった。中途覚醒はまだある。2ヵ月後動悸、悪夢がなくなった。眠れるようになり、睡眠薬を飲まない日もある。4ヵ月後睡眠良好。睡眠薬は不要になった。1年後漢方薬も飲まずに眠れているとのことで終診。問診・診察漢方医は以下に示す漢方診療のポイントに基づいて、今回の症例を以下のように考えます。【漢方診療のポイント】(1)病態は寒が主体(陰証)か、熱が主体(陽証)か?(冷えがあるか、温まると症状は改善するか、倦怠感は強いか、など)(2)虚実はどうか(症状の程度、脈・腹の力)(3)気血水の異常を考える(4)主症状や病名などのキーワードを手掛かりに絞り込む【問診】<陰陽の問診> 寒がりですか? 暑がりですか? 体の冷えを自覚しますか? 横になりたいほどの倦怠感はありませんか? 暑がりです。 冷えは感じません。 睡眠不足がつらくて、きついですが横になりたくはありません。 入浴では長くお湯に浸かるのが好きですか? 冷房や暖房は苦手ですか? 湯船には浸からずほとんどシャワーです。冷房は苦手ではありません。暖房はすぐに顔が赤くなるので嫌いです。 入浴するとのぼせませんか? はい、すぐに顔がのぼせるので湯船に浸かることはあまりないです。 のどは渇きますか? 飲み物は温かい物と冷たい物のどちらを好みますか? のどはあまり渇きません。 冷たい物、温かい物どちらも好きです。 <飲水・食事> 1日どれくらい飲み物を摂っていますか? 食欲はありますか? 1日1.5Lくらいです。 食欲はあります。 <汗・排尿・排便> 汗はよくかくほうですか? 尿は1日何回出ますか? 夜、布団に入ってからは尿に何回行きますか? 便秘や下痢はありますか? 汗はよくかきます。 尿は8〜10回/日です。 夜はトイレに行きません。 便は毎日出ます。下痢もしません。 <睡眠> 何時に寝て、何時に起きますか? 寝つきはよいですか? 途中で目が覚めますか? 悪夢をみませんか? 日中の眠気はありませんか? 毎晩23時に就寝して、6時に起きます。 1時間以上寝つけません。 2〜3度目が覚めてしまいます。 毎晩のように悪夢をみます。追いかけられるような夢です。 日中は仕事で気を張っていて眠くありません。 <ほかの随伴症状> 全身倦怠感はありますか? 帰宅後にぐったりしませんか? 朝、調子が悪いですか? きつい感じはありますが、休んでも楽にはなりません。 帰宅後もとくにぐったりする感じはありません。 帰宅しても気が休まらず、落ち着かない感じです。 とくに朝調子が悪いということはありません。 足はむくみませんか? のどのつまりはありませんか? みぞおちがつかえたり、お腹が膨れる感じはありませんか? 抜け毛が多い、皮膚の乾燥はありませんか? 動悸はありませんか? 足はむくみません。 のどはつまりません。 つかえやお腹の張る感じはありません。 抜け毛や皮膚の乾燥はありません。 動悸をよく感じます。 イライラはありませんか? 落ち込むことはありませんか? 不安を感じることが多いですか? 驚きやすくありませんか? イライラしません。 落ち込みはありません。 不安はそこまで強くないと思っています…。 小さな物音にもすぐにビクッとなります。 ほかに困っている症状はありますか? 可能であれば睡眠薬をやめたいです。 【診察】顔色は普通。脈診ではやや浮・弱の脈、脈拍も90回/分程度とやや多い(数脈[さくみゃく])。また、舌は暗赤色、湿潤した白苔が少量、舌下静脈の怒張あり。腹診では腹力は軟弱、胸脇苦満(きょうきょうくまん)・心下痞鞕(しんかひこう)はなし、腹直筋の緊張あり、腹部大動脈の拍動あり(心下悸[しんかき]、臍上悸[せいじょうき]、臍下悸[せいかき])、両側臍傍の圧痛なし。四肢の触診で冷感なし。カンファレンス 今回は、不眠の症例です。 不眠を訴える患者さんは多いですね。うつ病や不安障害のような精神疾患のほか、睡眠時無呼吸症候群やレストレスレッグス症候群などの器質的疾患は見逃さないようにしています。 そうですね。若年世代ではゲームやスマホを原因とする不適切な睡眠衛生が問題となるケースも増えていますね。それでは、漢方診療のポイント(1)陰陽の判断からいきましょう。 暑がりで入浴はシャワー、冷房は苦手でない、自覚的・他覚的に冷えなしと陽証です。 陽証だね。六病位はどうだろう? 陽証で太陽病の悪寒・発熱なく、陽明病を示唆する熱感、腹満、便秘もないから今回も少陽病ですね。 少陽病だね。次は漢方診療のポイント(2)の虚実の判断にいこう。 脈は弱、腹力は軟弱とあるので虚証です。 今回の症例は陽証・虚証ですね。漢方診療のポイント(3)気血水の異常はどうでしょうか? 今回の症例は不審者に自宅侵入されたことをきっかけとして不眠が出現していて、気の異常と考えられますね。 「気のせいです」っていわないところが漢方治療のいいところだね。お気の毒な症例だけれども…。 気が動転してしまっている感じですね。 そう! 気が動転するように、逆走することを気逆(きぎゃく)とよぶよ(気逆については本ページ下部の「今回のポイント」の項参照)。 気逆は更年期障害、パニック発作とイメージするとわかりやすいですね。そのような症状に悩む患者さんが目に浮かびます。 本症例の気逆の症状を挙げてみてください。 顔色は普通なので顔面紅潮はありません。 ただし、「暖房は顔がすぐに赤くなるから嫌い」とあるのは気逆だね。気逆の患者さんではのぼせるから入浴や暖房が嫌という人は多いよね。 動悸や驚きやすいことも気逆ですね。 気逆の代表的な症状ですね。睡眠の特徴はどうですか? 入眠困難、中途覚醒でしょうか? 入眠困難、中途覚醒は気逆の特徴とはいえません。睡眠に関して気逆で必ず聞くことは悪夢の有無です。不眠の患者さんには必ず問診しましょう。 動悸や悪夢がある場合は竜骨(りゅうこつ)と牡蛎(ぼれい)という気を鎮める作用がある生薬が含まれる漢方薬が適応になるよ。竜骨は哺乳動物の化石、牡蛎は貝のカキの殻で、どちらも炭酸カルシウムが主成分だね。ほかの生薬より重量があるため、重鎮安神薬(じゅうちんあんじんやく)といわれます。 悪夢の有無はあまり気にしたことはありませんでした。 悪夢に加えて、気逆の他覚所見として、腹診での腹部大動脈の拍動があります。今回の症例でも、心下悸、臍上悸、臍下悸と3ヵ所で拍動が触れています。最も上部の心窩部で触れる拍動が心下悸で、この場所が触れる頻度が少ないことから病的意義が大きいとされます。腹動が触れる患者さんには、「悪夢をみませんか?」、「驚きやすいですか?」と診察中に質問するとよいですよ。 具体的には「携帯電話がなるとビクッとしませんか?」、「後ろから呼びかけられると驚きませんか?」などと聞くとよいね。 おぉ。問診のコツですね。 気逆以外に気血水の異常はありますか? 全身倦怠感は気虚ですね。眠れずにきつそうです。 気逆には、気虚が合併しやすいからね。 いつもドキドキしていると疲れてしまいますね。のどのつまり、腹満感、不安感などはなく気鬱は目立ちません。 そうですね。鬱々しているというよりビクビクした感じですね。気鬱の要素は少ないようです。 水毒はありません。 血の異常では血虚はなく、舌の暗赤色、舌下静脈の怒張が瘀血です。 そうだね。本症例をまとめよう。 解答・解説【解答】本症例は、陽証・虚証・気逆に対して用いる桂枝加竜骨牡蛎湯(けいしかりゅうこつぼれいとう)で治療をしました。【解説】竜骨と牡蛎が含まれる漢方薬には柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)、柴胡桂枝乾姜湯(さいこけいしかんきょうとう)(牡蛎のみ)、桂枝加竜骨牡蛎湯があります。このうち、桂枝加竜骨牡蛎湯が最も虚証の漢方薬で、太陽病の桂枝湯(けいしとう)に竜骨と牡蛎が加わった構成です。古典にはいわゆる性的神経衰弱で、妙に性欲が亢進して夢精、夢交といった病態に用いると書かれています。添付文書では神経質、小児夜尿症、神経衰弱、遺精などのほか、陰萎にも適応になり、性的な愁訴が目立つ場合に用います。「高齢者の性的逸脱行動に桂枝加竜骨牡蛎湯が有効であった2症例」という報告もあります1)。しかし、実際の臨床では性的愁訴ではなく、虚弱で神経質な人でドキドキ、ビクビクと不安と緊張が強く、眠れない、動悸がするなどの場合に用いることが多いです。柴胡加竜骨牡蛎湯は少陽病・実証で、腹力や胸脇苦満が強く、過度のストレスによりイライラ、過緊張、抑うつが目立つ場合に用います。柴胡桂枝乾姜湯は少陽病・虚証でより華奢なタイプで、ストレスを溜め込んで疲弊している状態に用います。職場ではがんばれるけれども、家に帰ったらぐったり疲れてしまうような疲労感が特徴です。気逆はドキドキしやすいといった患者さんのもともとの性格に加え、何かショッキングなことが起こった後に生じることが多くあります。実際に、東日本大震災後のPTSD様症状に柴胡桂枝乾姜湯が有効であったRCTがあります2)。当科でも福岡西方沖地震後のめまい感に柴胡加竜骨牡蛎湯が有効であった症例を経験しました。今回のポイント「気逆」の解説気の異常は気虚(ききょ)、気鬱(きうつ)、気逆の3つに分類します。気の異常に共通して、変動性、発作的、朝調子が悪い、憂うつ感を伴うなどの特徴があります。気逆は気の循環の失調で、主に上から下へ巡る気が、逆走することによって起こります。更年期障害でみられるホットフラッシュが代表で、顔にのぼせが出現する、さらに上半身は熱いが下肢が冷える上熱下寒(じょうねつげかん)といわれる冷えのぼせがみられます。また、パニック発作のような動悸も気逆の症状です。気逆の治療は、桂皮(けいひ)、黄連(おうれん)といったのぼせを改善させる生薬や竜骨、牡蛎といった気を鎮める作用のある生薬で治療します。気が胸腹部を支点として上方へ発作性に舞い上がるという意味から、のぼせや顔面紅潮以外にも頭痛、胸満感、発作性咳嗽、嘔吐(吐き気は少ない)などの症状も気逆と考えます。麦門冬湯(ばくもんどうとう)は発作性の咳嗽に用いられますが、古典には「大逆上気(たいぎゃくじょうき)」と記載があります。また、気逆の精神症状として、驚きやすい、悪夢をみる、焦燥感があります。また気逆には程度の差はあれ、全身倦怠感などの気虚の状態を伴うことが多いです。今回の鑑別処方不眠を大きく3つ「ドキドキして不眠」、「疲労困憊で不眠」、「気が昂って不眠」に分けて考えます。「ドキドキして不眠」は動悸や悪夢を伴う気逆として竜骨や牡蛎が含まれる漢方薬で治療することを解説しました。「疲労困憊で不眠」では、第6回で解説したように、「眠るにも体力が必要」として、全身倦怠感や日中の眠気など気虚のみが目立つ場合は補中益気湯の適応です。気虚に加えて、ストレスから精神的な症状も目立つ場合には酸棗仁湯(さんそうにんとう)や加味帰脾湯(かみきひとう)を用います。酸棗仁湯や加味帰脾湯は気を補う作用以外にも酸棗仁(さんそうにん)などの精神安定作用がある生薬が含まれます。酸棗仁湯は疲れ過ぎてかえって眠れない、加味帰脾湯はあれこれとつまらないことが気になる、思い悩んで憂鬱、悲哀感がある場合に用います。酸棗仁湯が不眠に対して有効であったというRCT論文から12本を抽出したシステマティックレビュー3)や、担がん患者において加味帰脾湯を投与した群で、Insomnia Severity Indexが有意に改善したというRCTの報告4)があります。「気が昂ぶって不眠」では交感神経の過緊張状態が持続して不眠をきたしている場合で、イライラや胸脇苦満を伴えば柴胡剤(さいこざい)の適応です。抑肝散(よくかんさん)や加味逍遙散(かみしょうようさん)も柴胡が含まれることから広義の柴胡剤です。抑肝散は「怒り」が投与目標になりますが、現代の日本人は怒りをうちに秘めて、怒りの自覚がない例も多く眼瞼けいれんや舌のぴくつきなど怒りのサインを見逃さないようにする必要があります。抑肝散加陳皮半夏(よくかんさんかちんぴはんげ)は胃腸症状を伴う場合や抑肝散よりも怒りがやや弱い場合に用います。加味逍遙散はホットフラッシュやイライラを伴う更年期障害や月経前症候群、多くの不定愁訴がある場合に適応です。柴胡加竜骨牡蛎湯や柴胡桂枝乾姜湯は柴胡剤で、かつ気逆に対する作用をもつことから「ドキドキ」と「気の昂ぶり」の要素を併せもつことになります。加味逍遙散よりもさらにイライラや顔面紅潮が強い熱感を伴う場合は、より鎮静・清熱作用の強い黄連解毒湯(おうれんげどくとう)が適応になります。参考文献1)田原英一ほか. 日東医誌. 2003;54:957-961.2)Numata T, et al. Evid Based Complement Alternat Med. 2014;2014:683293.3)Xie CL, et al. BMC Complement Altern Med. 2013;13:18.4)Lee JY, et al. Integr Cancer Ther. 2018;17:524-530.

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