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鉤虫症の治療、emodepside vs.アルベンダゾール/Lancet

 タンザニアで実施された第IIb相無作為化二重盲検実薬対照優越性試験において、カルシウム依存性カリウム(SLO-1)チャネルに作用し寄生虫の麻痺と咽頭ポンピング運動の阻害を引き起こすemodepsideは、アルベンダゾールと比較し高い有効性が認められた。スイス熱帯公衆衛生研究所のLyndsay Taylor氏らが報告した。ただし、emodepsideの安全性について、観察された有害事象はおおむね軽度であったものの、アルベンダゾールと比較して発現頻度が高かった。結果を踏まえて著者は、「emodepsideが有望な駆虫薬の候補であることが確固たるものとなったが、安全性と有効性のバランスを考慮する必要がある」とまとめている。emodepsideは現在、オンコセルカ症および土壌伝播蠕虫感染症に対する強力な駆虫薬の候補として臨床開発中である。WHOは公衆衛生問題として2030年までに土壌伝播蠕虫の撲滅を目指しているが、現行の治療法は土壌伝播蠕虫感染症に対する効果が不十分で、薬剤耐性も懸念されていた。Lancet誌2024年8月17日号掲載の報告。12~60歳の約300例をemodepside群とアルベンダゾール群に無作為化 研究グループは、タンザニア・ペンバ島のshehiasと呼ばれる行政区画の7ヵ所において、便1g当たりの鉤虫卵(EPG)48個以上の便検体が2検体、かつ1個以上の鉤虫卵検出のKato-Katz厚塗抹標本が2枚以上確認された12~60歳の鉤虫感染者を、emodepside群とアルベンダゾール群に1対1の割合で無作為に割り付けた。層別因子はベースラインの感染強度(軽度:48~1,999EPG、中等度以上:≧2,000EPG)であった。 emodepside群ではemodepside 5mg錠×6(合計30mg)とアルベンダゾールのプラセボ1錠、アルベンダゾール群ではアルベンダゾール400mg錠×1とemodepsideのプラセボ6錠を投与した。 主要アウトカムは治癒率(投与後14~21日目に鉤虫陰性が確認された参加者の割合)であった。有害事象は投与後3時間、24時間、48時間および14~21日目に評価した。 2022年9月15日~11月8日(4つの行政区画のコミュニティで実施)、ならびに2023年2月15日~3月15日(3つの行政区画の中学校で実施)に計1,609例が鉤虫症の検査を受け、308例で鉤虫陽性が確認された。このうち293例が、emodepside群(146例)およびアルベンダゾール群(147例)に割り付けられ投与を受けた。鉤虫症治癒率はemodepside群97%、アルベンダゾール群81% 鉤虫症の治癒率はemodepside群96.6%、アルベンダゾール群81.2%で、アルベンダゾール群と比較してemodepside群で有意に高く、emodepsideの優越性が認められた(オッズ比[OR]:0.14、95%信頼区間[CI]:0.04~0.35、p=0.0001)。 有害事象の発現率は、emodepside群79%(115/146例)、アルベンダゾール群42%(61/147例)であった。emodepside群で最も多くみられた有害事象は霧視で、投与後3時間で39%(57/146例)、24時間で38%(55/146例)報告された。そのほかemodepside群でよくみられた有害事象は、投与後3時間での頭痛(38%)と浮動性めまい(30%)であり、同群の有害事象319件のうち298件(93%)が軽度であった。アルベンダゾール群の主な有害事象は、投与後3時間での頭痛(18%)と浮動性めまい(10%)であった。重篤な有害事象は報告されなかった。

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慢性的なカフェイン摂取で心血管疾患リスクが増加

 コーヒーや紅茶などのカフェイン入りの飲み物は、世界中で朝食の定番になっているが、飲み過ぎは良くないようだ。1日に400mg超のカフェイン摂取は健康な人の心血管疾患のリスクを高める可能性のあることが、新たな研究で示唆された。Zydus Medical College and Hospital(インド)のNency Kagathara氏らによるこの研究結果は、米国心臓病学会アジア学術集会(ACC Asia 2024、8月16〜18日、インド・デリー)で発表された。 この研究では、18〜45歳の正常血圧で健康な成人92人(男性62%、30歳超60%、都市居住者79.3%)を対象に、慢性的なカフェイン摂取が心臓にもたらす影響が検討された。慢性的なカフェイン摂取とは、週に5日以上、1年以上にわたってカフェイン含有飲料を摂取している場合と定義された。全ての対象者は、3分間の踏み台昇降運動を行い、運動終了の1分後と3分後に血圧と心拍数の測定を受けた。 対象者の19.6%が1日当たり400mg超のカフェインを摂取していた。このカフェイン摂取量は、1日当たり4杯のコーヒー、2本のエナジードリンク、または10缶の炭酸飲料の摂取に相当する。特に摂取量が多かったのは、女性、ビジネスや管理職に従事している人、都市居住者であった。 解析の結果、1日400mg超のカフェインの慢性的な摂取は自律神経系に影響し、経時的に心拍数と血圧を有意に上昇させることが示された。さらに、1日600mg超のカフェインを摂取している人では、3分間の踏み台昇降運動から5分後の血圧と心拍数の測定でも、値が有意に上昇したままであった。 Kagathara氏は、「カフェインは自律神経系に影響を及ぼすため、カフェインを習慣的に摂取すると、健康な人でも高血圧やその他の心血管系イベントのリスクにさらされる可能性がある。これらのリスクに対する認識を高めることは、全ての人の心臓の健康を改善する上で不可欠だ」と述べている。 高血圧は、冠動脈疾患、心不全、慢性腎臓病、認知症のリスク増加と関連していると研究グループは説明する。高血圧の発症には、カフェインの摂取以外にも、飲酒、喫煙、年齢、家族の病歴、塩分摂取などが寄与する可能性がある。身体活動量を増やし、栄養価の高い食事を摂取し、その他のライフスタイルを是正することは、血圧を下げ、心臓病のリスクを低下させるのに役立つ。 なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。

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腰痛予防には普段の姿勢の確認を(Dr.坂根のすぐ使える患者指導画集)

患者さん用画 いわみせいじCopyright© 2023 CareNet,Inc. All rights reserved.説明のポイント(医療スタッフ向け)診察室での会話医師患者医師患者医師患者医師患者医師患者医師患者普段、どんな仕事をされていますか?パソコン業務が多くて、デスクワークが中心です。それですと、運動不足になりがちですね。そうなんです。それに、腰痛になりやすくて…。確かに、デスクワークが中心だと、腰痛が気になりますね。そうなんです。腰痛を予防するには座る姿勢も大切ですね。確かに、私、あまり姿勢が良くなくて、画 いわみせいじ「猫背」と言われるんです。なるほど、腰にかかる負担は、立っているのを100とすると、猫背の姿勢は185にもなります。良い姿勢にすると140になります。そんなに違うんですか。良い姿勢にしないといけませんね。時々、鏡をみて自分の姿勢をチェックするのもいいですね。それに、座りっぱなしではなく、一度、立ち上がるのも良いかもしれません。それはいいですね。やってみます。(嬉しそうな顔)ポイント腰痛予防のために良い姿勢を心がけ、鏡などで自分の姿勢をチェックすることの大切さを説明します。Copyright© 2023 CareNet,Inc. All rights reserved.

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クチコミの対応、あれこれ【Dr. 中島の 新・徒然草】(545)

五百四十五の段 クチコミの対応、あれこれ台風10号(サンサン)には振り回されてしまいましたね。2024年8月29日朝に鹿児島県の薩摩川内市に上陸し、九州、四国を通った後に、9月1日正午頃に東海沖で熱帯低気圧になったわけですが、その間の迷走で広範囲に冠水した町もあったようです。大阪での雨は大したことがなかったものの、万一に備えていろいろな予定や行事が中止になりました。何でも強行しがちだった昭和の頃に比べれば隔世の感があります。時代とともに人々の対応も進歩しているのでしょう。さて、今回はGoogleマップのクチコミの話です。実は知り合いの開業医の先生が、あのクチコミでの誹謗中傷は何とかならんものか、と愚痴をこぼしておられました。クチコミというのはGoogleで医療機関を検索すると、地図や写真と共に「3.1 ★★★☆☆ Google のクチコミ(156)」などと黄色い星で表示されるものです。この一連の表示の中で、「3.1」は5点満点の平均値で、大きい数字ほど高評価★★★☆☆というのは平均値を見やすくしたもの(156)というのは評価した人の数なのでしょう。さらにこの部分をクリックすると、文章での評価も出てきます。星を付けただけでなく、さらに言いたいことがある人用ですね。全体の3割程度の人が文章でも評価しているようです。何に対しても評価があるのか、大阪府庁とか大阪地方裁判所、大阪拘置所みたいな行政機関まで星を付けられています。Googleマップの評価自体がされていなかったのは、私が調べた範囲では大阪府警察本部と大阪刑務所くらいでした。「刑務所のメシがまずい」みたいな評価があっても良さそうな気もしますが。このGoogleマップのクチコミについては、メディアでも何かと話題になっています。2024年5月のニュースでは、兵庫県尼崎市の某眼科診療所がクチコミに悪質な書き込みをされた件を扱っています。クチコミには「レーシック手術を受けたが左目だけで、右目はレンズを入れられた」「何も症状もないのにまた勝手に一重まぶたにされた」「噂を信じず他の眼科へ行くことをお勧めします。気を付けて下さい」とあったとのこと。で、その眼科診療所は投稿者に削除要請をしたものの、回答がなかったので訴訟を起こしたそうです。結果として、被告に対して、投稿記事の削除と200万円の損害賠償の支払いを命じる判決が出たのですが、それまでに3年間の歳月を要したのだとか。幸い勝訴判決を得たものの、診療所にとっては大変な労力だったことでしょう。また、2024年4月のニュースには、Googleマップのクチコミに、不当な内容が投稿されても削除してもらえず利益が侵害されたとして、都内63ヵ所の医療機関や個人が、Googleに対して総額140万円余りの損害賠償を求めて集団訴訟を起こした、とあります。裁判自体は現在進行中とのこと。今まではまったく気にしていなかったGoogleマップのクチコミですが、あらためて私の勤務する大阪医療センターのものを読んでみると、いろいろな評価がされていました。星の数も最高の5個から最低の1個までいろいろ。星5個の評価では「ドクター、ナース、検査技師、事務の方、その他のスタッフさん、皆さん、本当に全員が優しくて感じよかったです」とありました。一方、最低の星1個のほうでは「以前かかっていた他県の市立病院と比べて、全体的に雰囲気がギスギスしていると感じた」「○○科に入院したのですが、医師の説明不足が不満でした。説明しても理解できないであろうという見下した態度に憤りを感じました」という記載があり、人により評価はいろいろのようです。中には名指しの評価もあり、「△△科の先生がとても親身になって、たくさんアドバイスしてくれました」から「▲▲科の××医師はいい加減に患者を扱っている」まで、読んでいて思わず身がすくみそうになりました。私自身は良くも悪くも名前すら挙がっておらず、ホッと一息。それにしても、名指しで非難されたら凹むだろうな、と容易に想像できるのですが、これらの先生たちはご自分の言われようを知っているのでしょうか。市内のクリニックの中には、「オーナーからの返信」という機能を利用して、1つ1つの投稿に返信しているところもありました。「××様 せっかくご来院いただいたのに不快な思いをさせてしまいました。スタッフ一同で今後の改善に努めて参ります。貴重なご意見をいただき、ありがとうございました」といった類の文言です。これ、よほどマメじゃないとできないでしょうね。ついいろいろ見てしまいましたが、クチコミの中には投稿者の一方的な思い込みや、文句を言う先が間違っているとしか思えないものも散見されました。訴訟沙汰になるのも無理はない気がします。無責任な書き込みをなくす方法と考えられるのは、こういったクチコミのシステム自体をやめるか、すべての投稿者の実名を出すかくらいでしょうか。Googleの対応も進化してくれることを祈りたいと思います。最後に1句台風が 去っても残る クチコミぞ

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anorexia nervosa(神経性やせ症)【病名のルーツはどこから?英語で学ぶ医学用語】第11回

言葉の由来「神経性やせ症」は英語で“anorexia nervosa”といいます。この病名はギリシャ語の“anorexia”とラテン語の“nervosa”に由来します。“anorexia”は、「否定」を表す“an”と「食欲」を表す“orexia”をつなげた単語で、文字通り「食欲がない」ことを意味します。一方、“nervosa”はラテン語で神経を表す“nervus”に由来し、「神経性の」という意味です。“anorexia nervosa”という病名は、19世紀後半に英国のウィリアム・ガル医師によって付けられたとされています。彼は、「主に若い女性に発生する、極度の衰弱を特徴とする特異な病気」について複数の症例を報告し、精神的および神経的な要因が関与するとして、このような病名を付けました。“anorexia nervosa”に関連する医学用語として、“bulimia nervosa”(神経性大食症)があります。“bulimia”は“anorexia”と同じくギリシャ語です。“bulimia”は牛を意味する“bous”と、飢えを意味する“limos”を組み合わせた単語で、「牛のような飢え」、つまり「異常な食欲」を意味します。“bulimia nervosa”は“anorexia nervosa”が名付けられた約100年後の1970年代に、英国の精神科医ジェラルド・ラッセル医師が命名しました。当時は“anorexia nervosa”の疾患の一部と考えられていましたが、過食とそれに続く補償行動を特徴とする精神的な障害である“bulimia nervosa”は、“anorexia nervosa”とは異なる病気である、と定義したのです。併せて覚えよう! 周辺単語無月経amenorrhea徐脈bradycardia骨粗鬆症osteoporosis栄養失調malnutrition認知行動療法cognitive behavioral therapyこの病気、英語で説明できますか?Anorexia nervosa is an eating disorder characterized by an intense fear of gaining weight, a distorted body image, and extreme efforts to control weight, often through severe calorie restriction and excessive exercise. This can lead to dangerous health complications due to malnutrition.講師紹介

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第112回 エリスロシン錠の在庫が尽きる薬局続出

エリスロシン®錠争奪戦15時頃、外来の患者さんも残り10人くらいになり、ラストスパートをかけようというとき。「先生、調剤薬局から疑義照会が来ています」と外来ナースが横からいつものFAX用紙を見せてきました。湿布を貼る場所を書き忘れたかなと思いながら見てみると、「エリスロシン錠の在庫がありません」の文字が。どうやら、販売元のヴィアトリス製薬で生産に問題が発生し、供給が不安定になっているようです。エリスロシン錠をめぐる騒動は、静かに、しかし確実に広がっています。7月には限定出荷の通知がありましたが、処方が多い呼吸器内科や耳鼻咽喉科で、その影響を実感し始めています。呼吸器内科領域のエリスロシン処方びまん性汎細気管支炎(DPB)という、気管支がびまん性に拡張する疾患があります。喀痰に悩まされる方が多いです。悩まされるだけならまだしも、耐性緑膿菌を保菌したり、細菌感染症で入院を繰り返したり、わりと社会生活上インパクトが大きな慢性呼吸器疾患です。1980年代前半のDPBの5年生存率はわずか42%でした。しかし、エリスロマイシンの低用量投与が導入されると、その生存率は劇的に改善され1)、若くして亡くなるという事例は減りました。エリスロマイシンの効果は単なる抗菌作用にとどまらず、抗炎症効果も持っています。このため、細菌感染を予防するだけでなく、気道の炎症を抑える効果があるとされています。DPBの予後改善はこの抗炎症効果によるものと考えられています2)。基本的にはDPBをはじめとした気管支拡張症に対してエビデンスが蓄積されてきた薬剤ですが、肺Mycobacterium avium complex(MAC)症に対しても有効とされています3)。肺MAC症は、マクロライド、エタンブトール、リファンピシンを用いた多剤併用治療が行われますが、このマクロライドが示すのは、アジスロマイシンあるいはクラリスロマイシンです。エリスロマイシンの抗菌活性は決して高くなく、上述した抗炎症効果によって臨床的悪化を食い止める働きがあります。そのため、MACに対してクラリスロマイシンやアジスロマイシンとの間に交差耐性はないことが知られています。DPBに有効というだけでなく、MACに対するデメリットも少ないということで、エリスロマイシンを長期投与されている呼吸器内科通院中の患者さんは多いです。拡大解釈されて、気管支拡張症にも用いられています。マクロライドスイッチにご注意を冒頭の続きです。エリスロシン錠の在庫がありません問題ですが、「エリスロマイシン錠」やクラリスロマイシンに余波が広がりつつあるということが懸念材料です。まず、「エリスロシン錠」と「エリスロマイシン錠」は、厳密には一般名が異なる製品です。エリスロシン錠の一般名は、「エリスロマイシンステアリン酸塩」で、エリスロマイシン錠の一般名は、シンプルに「エリスロマイシン」です。エリスロマイシン錠は、エリスロシン錠の後発医薬品でないのです。実は、適応菌種などに微妙な差が存在します(表)。画像を拡大する表. エリスロシン錠とエリスロマイシン錠の適応菌種・適応症・効能効果(赤字が異なる部分)今回出荷が問題になっているのはエリスロシン錠ですが、現在「エリスロマイシン錠」の処方が増えていると聞いています。さらに、クラリスロマイシンの処方が一部地域で増えつつあるそうです。代替薬としてクラリスロマイシンが提示されることが、まれにあるようです。副鼻腔炎や気管支拡張症に長期間クラリスロマイシンの単剤治療を適用すると、マクロライド耐性の非結核性抗酸菌を助長する可能性があります4)。そのため、エリスロシン錠からクラリスロマイシンへスイッチ、というのは代替薬としては推奨できないと考えてよいでしょう。参考文献・参考サイト1)Kudoh S, et al. Improvement of survival in patients with diffuse panbronchiolitis treated with low-dose erythromycin. Am J Respir Crit Care Med. 1998 Jun;157(6 Pt 1):1829-1832. 2)Tanabe T, et al. Clarithromycin inhibits interleukin-13-induced goblet cell hyperplasia in human airway cells. Am J Respir Cell Mol Biol. 2011 Nov;45(5):1075-1083. 3)Komiya A, et al. Long-term, low-dose erythromycin monotherapy for Mycobacterium avium complex lung disease: a propensity score analysis. Int J Antimicrob Agents. 2014 Aug;44(2):131-135.4)Griffith DE, et al. Clinical and molecular analysis of macrolide resistance in Mycobacterium avium complex lung disease. Am J Respir Crit Care Med. 2006 Oct 15;174(8):928-934.

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飲酒による死亡率上昇、ワイン好きや食事中に飲む人は低減か

 高齢者において、アルコール摂取パターンと健康関連や社会経済リスクが、死亡率にどのような影響を与えるかについて、英国の60歳以上を対象とした大規模コホート研究が実施された。その結果、少量のアルコール摂取であっても死亡率が高くなることが示された。また、ワインを好み、食事中のみ飲酒する習慣がある場合、死亡率の増加が低減される可能性があることも示唆された。スペイン・マドリード自治大学のRosario Ortola氏らによる報告。JAMA Network Open誌2024年8月12日号に掲載。 本研究では、UK Biobankに登録された60歳以上を対象に、2023年9月~2024年5月までのデータを解析した。参加者の飲酒パターンは、1日当たりの平均アルコール摂取量(g)により、次のように分類した:たまに飲酒する群(≦2.86g/日)、低飲酒量群(男性:2.87~20.00g/日、女性:2.87~10.00g/日)、中飲酒量群(男性:20.01~40.00g/日、女性:10.01~20.00g/日)、高飲酒量群(男性:>40.00g/日、女性:>20.00g/日)1)。また、食事中のみ飲酒する人、食事外でも飲酒する人に分類された。酒の種類について、ワインの嗜好の有無でも分類された。解析では追跡開始後2年間の死亡を除外し、飲酒パターンや嗜好を含む潜在的交絡因子を調整した。平均アルコール摂取状況、食事中の飲酒、ワイン嗜好と、全死因死亡率、がん死亡率、心血管疾患(CVD)死亡率との関連について、Cox回帰分析によりハザード比(HR)および95%信頼区間(CI)を算出した。 主な結果は以下のとおり。・参加者は13万5,103例、年齢中央値64.0歳(IQR 62.0~67.0)、女性6万7,693例(50.1%)であった。追跡期間の中央値12.4年(範囲 2.0~14.8)において、死亡者数は1万5,833例であり、うち、がんによる死亡7,871例、CVDによる死亡3,215例であった。・飲酒パターンと死亡率について、たまに飲酒する群と比較した結果、低~高飲酒量のすべての群で死亡率の上昇と関連していた。 【高飲酒量群】全死因死亡HR:1.33(95%CI:1.24~1.42)、がん死亡HR:1.39(1.26~1.53)、CVD死亡HR:1.21(1.04~1.41) 【中飲酒量群】全死因死亡HR:1.10(95%CI:1.03~1.18)、がん死亡HR:1.15(1.05~1.27) 【低飲酒量群】がん死亡HR:1.11(95%CI:1.01~1.22)・低~高飲酒量のすべての群で、健康関連リスクまたは社会経済的リスクのある人は、リスクのない人よりも全死因死亡率が高かった。・食事中のみ飲酒する人は、健康関連リスクまたは社会経済的リスクのある人において、食事外でも飲酒する人と比較して、全死因死亡率およびがん死亡率の低下と関連していた。 【健康関連リスク者】全死因死亡HR:0.93(95%CI:0.89~0.97)、がん死亡HR:0.92(0.86~0.99) 【社会経済的リスク者】全死因死亡HR:0.83(95%CI:0.78~0.89)、がん死亡HR:0.85(0.78~0.94)、CVD死亡HR:0.86(0.75~1.00)・ワインの嗜好がある人は、健康関連リスクまたは社会経済的リスクのある人において、全死因死亡率の低下と関連していた。 【健康関連リスク者】全死因死亡HR:0.92(95%CI:0.87~0.97) 【社会経済的リスク者】全死因死亡HR:0.84(95%CI:0.78~0.90)、がん死亡HR:0.89(0.80~0.99)・ワイン嗜好と食事中の飲酒パターンを持つ人において、高飲酒量群では全死因死亡率、がん死亡率、CVD死亡率、中飲酒量群では全死因死亡率とがん死亡率、低飲酒量群ではがん死亡率について、超過リスクが低減した。 著者らは本結果について、社会経済的または健康関連のリスクのある人では、低飲酒量であっても、とくにがんによる死亡と有害な関連性が認められた一方で、ワインを好む人や食事中のみの飲酒により、アルコール関連超過死亡率の減少がみられ、この要因を解明するためのさらなる調査が必要だと指摘している。

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Guardant360CDx、EGFR exon20挿入変異肺がんに対するamivantamab+化学療法のコンパニオン診断として承認/ガーダントヘルス

 ガーダントヘルスジャパンは2024年8月26日、リキッドバイオプシー検査Guardant360 CDx がん遺伝子パネル(Guardant360 CDx)について、Johnson&Johnson(法人名:ヤンセンファーマ)が申請中の「EGFR遺伝子エクソン20挿入変異を有する手術不能又は再発非小細胞肺(NSCLC)」に対するamivantamabと化学療法の併用療法に関するコンパニオン診断として承認を取得したと発表。 肺がんは世界において罹患率や死亡率が高いがんの1つであり、NSCLCは全肺がんの約80〜85%を占めている。日本を含む東アジアにおける実臨床データのレトロスペクティブ解析では、NSCLC患者から約2.4%のEGFR遺伝子エクソン20挿入変異がGuardant360 CDxによって検出されている。 Guardant360 CDxは、2022年3月に承認された進行固形がん患者を対象とする包括的がん遺伝子パネル検査である。74のがん関連遺伝子を一度に調べると同時に、国内で承認された複数のがん治療薬に対するコンパニオン診断機能を併せ持つ。 Guardant360 CDx は下記のコンパニオン診断として承認されている。・KRAS G12C:(非小細胞肺がん)ソトラシブ・HER2 変異:(非小細胞肺がん)トラスツズマブ デルクステカン・EGFRエクソン20挿入変異:(非小細胞肺がん)amivantamab・BRAF V600E変異:(結腸・直腸がん)エンコラフェニブ、ビニメチニブおよびセツキシマブ・BRAF V600E変異:(結腸・直腸がん)エンコラフェニブおよびセツキシマブ・HER2コピー数異常:(結腸・直腸がん)トラスツズマブおよびペルツズマブ・KRAS/NRAS野生型:(結腸・直腸がん)セツキシマブ、パニツムマブ・MSI-High:(結腸・直腸がん)ニボルマブ・MSI-High:(固形がん)ペムブロリズマブ■関連記事フェスゴ配合皮下注発売でHER2陽性乳がん・大腸がんへの投与時間短縮に期待/中外

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日本人不眠症患者に対するdaridorexantの第III相ランダム化二重盲検プラセボ対症試験

 久留米大学の内村 直尚氏らは、日本人不眠症患者を対象にdaridorexantの有効性および安全性を評価した国内第III相二重盲検プラセボ対症試験の結果を報告した。Sleep Medicine誌2024年10月号の報告。 対象は、国内95施設より登録された不眠症患者490例。対象患者はdaridorexant 50mg群(163例)、daridorexant 25mg群(163例)、プラセボ群(164例)にランダムに割り付けられた。4週間の治療後、7日間プラセボを投与し、30日間の安全性フォローアップ調査を実施した。主要有効性エンドポイントは、プラセボ群と比較したdaridorexant 50mg群における4週目の主観的総睡眠時間(sTST)および主観的睡眠潜時(subjective latency to sleep onset:sLSO)のベースラインからの変化とした。副次的エンドポイントとして、プラセボ群と比較したdaridorexant 25mg群における4週目のsTSTおよびsLSOも評価した。安全性エンドポイントは、有害事象およびVAS(Visual Analog Scale)による翌朝の眠気を含めた。 主な結果は以下のとおり。・daridorexant 50mg群は、プラセボ群と比較し、sTSTの有意な増加、sLSOの有意な減少を認めた。【sTST】最小二乗平均差(LSMD):20.3分、95%信頼区間(CI):11.4~29.2、p<0.001【sLSO】LSMD:−10.7分、95%CI:−15.8~−5.5、p<0.001・daridorexant 25mg群においても、プラセボ群と比較し、有意な改善が認められた。【sTST】LSMD:9.2分、95%CI:0.3~18.1、p=0.042【sLSO】LSMD:−7.2分、95%CI:−12.3~−2.0、p=0.006・全体的な有害事象の発生率は、群間で同様であり(50mg群:22%、25mg群:18%、プラセボ群:23%)、最も多い有害事象は眠気であり、用量依存性が認められた(50mg群:6.8%、25mg群:3.7%、プラセボ群:1.8%)。・しかし、daridorexant群は、翌朝の眠気のVAS値を増加させることはなかった。・治療中止後のリバウンドや離脱関連症状は認められなかった。 著者らは「日本人不眠症患者に対するdaridorexantは、忍容性が良好で、主観的な睡眠アウトカムの有意な改善を示した。また、残留効果は認められなかった」とまとめている。

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高用量タンパク質投与、人工呼吸器装着患者には無益/Lancet

 人工呼吸器を要する重症患者への高用量タンパク質投与は標準量タンパク質投与と比較して、健康関連QOLを悪化させ、集中治療室(ICU)入室後180日間の機能的アウトカムを改善しなかった。オランダ・マーストリヒト大学のJulia L. M. Bels氏らPRECISe study teamが、同国とベルギーで実施した「PRECISe試験」の結果を報告した。先行研究で、重症患者へのタンパク質投与量の増加が、筋萎縮を緩和し長期的アウトカムを改善する可能性が示されていた。Lancet誌オンライン版2024年8月17日号掲載の報告。高用量(2.0g/kg/日)vs.標準量(同1.3g/kg/日)の無作為化試験 PRECISe試験は、オランダの5病院とベルギーの5病院で行われた研究者主導の多施設共同並行群間二重盲検無作為化比較試験である。機械的人工呼吸器を装着した重症患者への経腸栄養によるタンパク質投与について、高用量(すわなち1日当たり2.0g/kg)が標準量(同1.3g/kg)と比較して、健康関連QOLと機能的アウトカムを改善するかどうかを評価した。試験組み入れ基準は、ICU入室後24時間以内に侵襲的人工呼吸器による管理を開始し、同装着期間が3日以上と予想されることとした。除外基準は、経腸栄養禁忌、瀕死状態、BMI値18未満、透析不要コードの腎不全、または肝性脳症であった。 患者は双方向ウェブ応答システムを介して、2つの試験群に対応した4つの無作為化ラベルの1つ(すなわち各群2つの無作為化ラベルを有する標準または高タンパク質群)に、1対1対1対1の割合で無作為に割り付けられた。無作為化には置換ブロック法が用いられ、ブロックサイズは8および12で試験施設ごとに層別化した。参加者、ケア提供者、研究者、アウトカム評価者、データ分析者、独立データ安全性監視委員会はすべて割り付けについて盲検化された。 患者は、1.3kcal/mLおよび0.06g/mLのタンパク質(標準タンパク質)または1.3kcal/mLおよび0.10g/mLのタンパク質(高タンパク質)を含む経腸栄養剤を投与された。本試験の栄養介入は、患者のICU入室中で経腸栄養が必要とされた期間(最長90日)に限定された。 主要アウトカムは、無作為化後30日、90日、180日時点でのEuroQoL 5-Dimension 5-level(EQ-5D-5L)健康効用値(health utility score)で、ベースラインのEQ-5D-5L健康効用値で補正し評価した。180日間の試験期間中、高タンパク質でEQ-5D-5L健康効用値が低い 2020年11月19日~2023年4月14日に935例が無作為化された。うち335例(35.8%)が女性、600例(64.2%)が男性で、465例(49.7%)が標準タンパク質群に、470例(50.3%)が高タンパク質群に割り付けられた。 標準タンパク質群の430/465例(92.5%)と、高タンパク質群の419/470例(89.1%)が、主要アウトカムの評価を受けた。 主要アウトカムである無作為化後180日間のEQ-5D-5L健康効用値(30日、90日、180日時点で評価)は、高タンパク質群の患者が標準タンパク質群の患者より低く、平均群間差は-0.05(95%信頼区間[CI]:-0.10~-0.01、p=0.031)であった。 安全性アウトカムに関して、全フォローアップ期間中の死亡確率は標準タンパク質群0.38(SE 0.02)、高タンパク質群0.42(SE 0.02)であった(ハザード比:1.14、95%CI:0.92~1.40、p=0.22)。 高タンパク質群の患者では、消化管不耐性症状の発生頻度が高かった(オッズ比:1.76、95%CI:1.06~2.92、p=0.030)。その他の有害事象の発現頻度は群間で差がなかった。

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がん関連適応の肝切除、トラネキサム酸で周術期合併症が増加/JAMA

 がん関連適応の肝切除を受ける患者において、トラネキサム酸は出血または輸血を減少させず周術期合併症を増加させることが示された。カナダ・Sunnybrook Health Sciences CentreのPaul J. Karanicolas氏らHPB CONCEPT Teamが、多施設共同無作為化プラセボ対照試験「HeLiX試験」の結果を報告した。トラネキサム酸は多くの種類の手術で出血および輸血を減少させることが知られているが、がん関連適応の肝切除を受ける患者における有効性は明らかにされていなかった。JAMA誌オンライン版2024年8月19日号掲載の報告。プラセボ対照無作為化試験で術後7日間の赤血球輸血を評価 研究グループは、トラネキサム酸がプラセボとの比較において肝切除後7日間の赤血球輸血を減らすか否かを調べた。2014年12月1日~2022年11月8日に、肝胆膵手術専門の3次医療センター(カナダ10施設、米国1施設)で被験者を募り、術前麻酔開始時にトラネキサム酸(1gボーラス投与後、8時間かけて1gを点滴投与)またはマッチングプラセボを投与し90日間追跡調査した。 主要アウトカムは、術後7日以内の赤血球輸血とした。 適格基準を満たし試験参加に同意したがん関連適応の肝切除を受けるボランティア患者1,384例が無作為化を受けた。被験者、手術担当医、データ収集者は割り付けについて盲検化された。輸血発生と術中の出血量に有意差なし、合併症はトラネキサム酸群で高率 主要解析には被験者1,245例が組み入れられた(トラネキサム酸群619例、プラセボ群626例)。平均年齢は63.2歳、女性39.8%、大腸がん肝転移の診断患者56.1%で、周術期の特性は群間で類似していた。 赤血球輸血は、トラネキサム酸群16.3%(101例)、プラセボ群14.5%(91例)で発生した(オッズ比[OR]:1.15[95%信頼区間[CI]:0.84~1.56]、p=0.38、絶対群間差:2%[95%CI:-2~6])。 手術中の出血量(トラネキサム酸群817.3mL、プラセボ群836.7mL、p=0.75)、7日間の推定総出血量(それぞれ1,504.0mL、1,551.2mL、p=0.38)はいずれも両群間で同程度であった。 トラネキサム酸投与を受けた被験者は、プラセボ投与を受けた患者と比較して、合併症の発現頻度が有意に高かった(OR:1.28[95%CI:1.02~1.60]、p=0.03)。静脈血栓塞栓症の発現頻度に有意差は認められなかった(OR:1.68[95%CI:0.95~3.07]、p=0.08)。

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非喫煙者の42%に肺がんと関連する肺結節所見

 45歳以上の非喫煙者(喫煙未経験者と元喫煙者)1万人以上を対象にした研究で、42.0%もの人に肺がんと関連する可能性のある肺結節が1つ以上認められたことが報告された。非喫煙者の肺がんリスクは、通常は低いと考えられている。この論文の上席著者を務めたフローニンゲン大学医療センター(オランダ)心胸部画像診断科教授のRozemarijn Vliegenthart氏は、「この数字は予想以上に高く、喫煙者のハイリスク集団で報告されている肺結節の発生率に近いものだった」と述べている。この研究の詳細は、「Radiology」に8月13日掲載された。 研究グループの説明によると、胸部CT検査で肺結節が見つかるのは珍しいことではなく、肺がんの高リスク集団においては初期肺がんの兆候である可能性が高い。また、肺結節の発生率とサイズに関する過去の研究の大半は、ヘビースモーカーの肺がん検診データに基づくものであり、現在の肺結節の管理に関する推奨のほとんどもこの集団をベースにしている。そのため、低リスク集団において肺結節が見つかった場合に現在のガイドラインに準拠すると、不必要な追加検査の実施につながる恐れもあるという。 Vliegenthart氏らは今回の研究で、45歳以上の非喫煙者1万431人(平均年齢60.4歳、女性56.6%、喫煙未経験者46.1%、元喫煙者53.9%)を対象に、肺結節の発生率とサイズの分布を年齢と性別ごとに調査した。 その結果、対象者の42.0%(4,377人、男性47.5%、女性37.7%)に1つ以上の肺結節が確認され、この割合は年齢とともに上昇することが明らかになった。また、臨床的に意味のある肺結節(結節サイズが6〜8mm以上)が認められた対象者の割合は11.1%で、この割合も年齢とともに上昇していた。さらに、男性の方が女性よりも肺結節が見つかる確率と複数の結節を持っている確率が高いことも示された。 ただしVliegenthart氏は、「これらの肺結節のほとんどは、がんではなかった。これらの非喫煙者での肺がん発症率は0.3%と極めて低く、発見された臨床的に意味のある結節や対応が必要とされる結節のほとんどが良性であることを示唆している」とフローニンゲン大学のニュースリリースで述べている。それでも、これらの結節が見つかった場合には、現行のがん検診ガイドラインに従った追加検査と診察が必要となる。 研究グループは、欧米諸国では喫煙者が減少傾向にあることに言及した上で、「肺がん検診のガイドラインを更新することが重要だ」との考えを示している。またVliegenthart氏は、「このような喫煙者の減少傾向に鑑みると、非喫煙者の肺結節に関する基礎的かつ包括的なデータを提供した今回の研究結果の重要性が増す」とニュースリリースの中で述べている。 なお、米国肺協会(ALA)によれば、肺結節はがん以外にも、大気汚染、関節リウマチのような慢性炎症性疾患、結核のような感染症によっても引き起こされるという。また、非喫煙者の肺結節は、交通事故や健康問題でX線検査やCT検査を受けたときに偶然、発見されることが多いという。

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緑内障患者では皮膚カロテノイドレベルが認知機能と関連している

 強力な抗酸化作用を持つカロテノイドの体内レベルが低いことが、緑内障患者の認知機能低下と関連がある可能性を示すデータが報告された。島根大学医学部眼科学講座の谷戸正樹氏らが、皮膚で非侵襲的に測定したカロテノイドレベルと認知機能テストの結果との関連を解析した結果であり、詳細は「Current Issues in Molecular Biology」に7月3日掲載された。 緑内障は視神経の障害によって視野の不可逆的な異常が進行する疾患で、高齢化を背景に患者数が増加しており、国内の失明原因のトップを占めている。認知症も高齢化を背景に患者数が増加しており、両者ともに神経変性疾患であるという共通点があって、発症や進行に活性酸素の関与が想定されている。一方、野菜や果物に豊富に含まれているカロテノイドは強い抗酸化作用があり、これらの神経変性疾患に対して保護的に働く可能性が示唆されている。とはいえ、体内のカロテノイドの測定には採血が必要なこともあり、眼科領域での研究はあまり進んでいない。しかし近年、反射分光法を用いて体内のカロテノイドを皮膚レベルで測定する技術が確立され、新たな展開を迎えている。 谷戸氏らはこの測定法を用いて、緑内障患者のカロテノイドレベルと認知機能や眼科所見との関係性を検討した。解析対象は、同大学医学部附属病院眼科外来の緑内障患者406人(812眼)。緑内障以外の眼底疾患が併存している患者は除外されている。主な特徴は、平均年齢が79.5±7.6歳、男性56.2%で、病型は約6割(57.6%)が原発開放隅角緑内障であった。皮膚カロテノイド(SC)レベルは0~1,200au(任意単位)の間で評価され、研究参加者の平均は325.1±19.3auだった。 認知症のスクリーニングに用いられているMini-Cogというテストで、5点中2点以下の場合を「認知症の疑いあり(陽性)」と判定したところ、28人(6.9%)がこれに該当した。認知症の疑いの陽性群と陰性群を比較すると、年齢は陽性群が高く有意差が認められ(79.5±7.6対69.0±11.3歳、P<0.0001)、SCレベルも前者が低値という有意差が認められた(269.5±86.5対329.2±120.4au、P=0.01)。性別の分布やBMI、血圧、喫煙者率などには有意差がなかった。陽性群の眼科所見(56眼)を陰性群(756眼)と比較すると、陽性群は眼圧が高く、視力と視野感度は低く、有水晶体眼が少ない(白内障手術後が多い)という有意差が認められた。緑内障のタイプの分布は差がなかった。 次に、SCレベルを従属変数として混合回帰モデルで検討した結果、現喫煙、心拍数高値とともに、認知症の疑いが陽性であることが、SCレベルが低いことの独立した関連因子として特定された。反対に女性であることはSCレベルが高いことの独立した正の関連因子として特定された。年齢やBMI、血圧、視力、視野感度などは、SCレベルの独立した関連因子ではなかった。 続いて視野感度を従属変数とする検討を施行。その結果、眼圧高値、有水晶体眼、眼科手術の既往などとともに、認知症の疑いが陽性であることが、視野感度の独立した負の関連因子として特定された。年齢や性別、現喫煙、BMI、血圧、心拍数、およびSCレベルは、視野感度の独立した関連因子ではなかった。 著者らは本研究が横断的デザインで行われているという限界点を述べた上で、「緑内障患者において、Mini-Cogで評価した認知機能の低下がSCレベルの低下と関連していた。これは、認知機能低下抑制のため、カロテノイドレベルを維持するという戦略に潜在的なメリットがあることを示唆している」と総括している。一方、本研究ではカロテノイドの視野感度に対する保護的作用は示唆されなかったが、カロテノイドの神経保護作用の報告もあることから、「さらなる研究が求められる」としている。

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めまい(BPPV以外)【いざというとき役立つ!救急処置おさらい帳】第18回

前回は良性発作性頭位めまい症(BPPV)の患者さんの対応を紹介しました。今回は、続きとしてBPPV以外のめまいの対応を紹介します。再度STANDINGアルゴリズムを見てください(図1)。図1 STANDINGアルゴリズム画像を拡大する頭位変換でめまいが誘発されず、継続して眼振がある(Spontaneous)症例を提示します。私は自発性眼振は在宅や施設では経験がないので、救急外来に運ばれてきた症例を提示します。<症例>68歳、女性主訴めまい現病歴朝起床時から、ふわふわする感じがあった。その後、次第に回転性めまいとなり増悪。めまいのため体動困難となり救急要請。既往歴高血圧、高脂血症BP:132/80、HR:84、SPO2:99%(室内気)身体所見めまいが強くて開眼や診察が困難ではステップを追って診察してみましょう。(1)まずは治療を行うこの患者さんのようにめまい症状が強いと、独歩で受診したり、施設内で診察したりすることが難しいため救急搬送となります。こういった場合、私は治療と検査を優先します。まず「目を開けたらめまいがする」という病歴の時点でBPPVの可能性は否定的で、中枢性めまいと末梢性めまいを鑑別することが重要です。めまいや悪心が強い場合は満足に診察できません。まず治療を行いましょう。末梢性めまいに対する治療は多数あります。その中で比較的エビデンスがあるのが、抗ヒスタミン薬とメトクロプラミドであり、点滴静注を実施します1)。頭部CTはどうするか悩みますが、私は基本的に撮影しています。まともに診察ができない状況ですので脳出血が否定できないためです。この患者さんはCT撮影で出血は否定され、薬が効いてきたのか開眼できるようになりました。(2)眼振の方向(Nystagmus direction)を確認眼振ですが、基本的に1.方向交代性、2.垂直成分の有無、を評価します。私は、前庭神経障害による眼振の発生機序を説明する際に、林 寛之先生のSTEP beyond resident2)を基にした図を用いています(図2)。図2 眼振の発生機序画像を拡大する図に示すように前庭神経は左右から眼球を押しています。左が障害されると、正中を保てなくなり左に寄ります。しかし、正中を見るために右へ素早く戻る、それが右水平方向性の眼振となります。前庭神経が障害された場合、垂直成分はありません。また、両側同時に障害されることはないため、振り子のように左右均等に出たり、時間によって眼振の向きが変わったりすることもありません。この患者さんの眼振は右水平方向性の眼振で垂直成分はなく、方向交代もありませんでした。よって、左の前庭神経障害が疑われます。(3)Head impulse testよく勘違いされるのですが、Head impulse testを問題なく実施できた場合、「中枢性の可能性がある」となります。図3をみてください。図3 Head impulse test(Aはスムーズに行えており、Bは遅れている)画像を拡大する指を示して正中を注視してもらいながら、頭部を右に回旋します。すると眼球が左に動きます。もし右の前庭神経障害があれば、眼球を左へ動かす動きが障害されてしまい眼球の運動がやや遅れます。Head impulse testの問題なく行えれば前庭神経の障害ではないため「中枢性の可能性が高い」(図3のA)となり、少し遅れる場合は前庭神経の障害がありそうで「末梢性の可能性が高い」(図3のB)となります。この遅れは非常に微細で、Slowカメラなどを用いて撮影する必要があります。一度YouTubeなどでHead impulse testを見てみてださい。(4)立って歩けるか確認最後が問題なく歩けるかどうか? です。これは体感失調の有無を評価しています。「最後の最後に歩けるかどうかかよ~」と思うかもしれませんがかなり重要です。小脳梗塞を生じている患者さんはまともに歩けません。これを評価するためには「めまいで歩けない状態から改善する」必要がありますので、早期のめまい治療を実施しています。本症例はHead impulse testをするときには症状が大分改善していて、問題なく歩けました。何らかの末梢性めまいとして帰宅とし、症状が続くようであれば耳鼻科受診を勧めました。2回にわたってめまいの対処法を紹介しました。めまいは苦手意識が高い人が多く、MRIがないと不安になります。これらの内容が少しでも役に立てばと思います。 1)Muncie HL, et al. Am Fam Physician. 2017;95:154-162.2)林 寛之. Step Beyond Resident 3. 羊土社;2006.

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寄り道編(8)ハチ毒へのアンモニア【臨床力に差がつく 医薬トリビア】第57回

※当コーナーは、宮川泰宏先生の著書「臨床力に差がつく 薬学トリビア」の内容を株式会社じほうより許諾をいただき、一部抜粋・改変して掲載しております。今回は、月刊薬事61巻11号「臨床ですぐに使える薬学トリビア」の内容と併せて一部抜粋・改変し、紹介します。寄り道編(8)ハチ毒へのアンモニアQuestionハチに刺された時に、アンモニア水を塗れば解毒できる?

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押さえておきたい「合理的配慮」のポイント【実践!産業医のしごと】

押さえておきたい「合理的配慮」のポイント2016(平成28)年4月より、改正障害者雇用促進法が施行され、雇用分野における「合理的配慮」の提供が義務とされました。合理的配慮とは、障害のある人が障害のない人と同じように保障されるとともに、教育や就業、その他社会生活において平等に参加できるように周囲が配慮することを指します。現在、すでに法の施行から8年が経過していますが、合理的配慮は職場において十分に浸透したとはいえない状況にあります。合理的配慮への対応が不十分な職場がある一方で、合理的配慮の求めにどこまでも対応しようとして苦慮する職場もあるようです。産業医は合理的配慮に直接関わる立場ではないものの、仕事と人を適合させることが役割です。働く人の専門家の立場として意見を述べ、必要に応じて主治医との連携、職場や人事等も含めた、関係者間の調整的なハブの立場として関わることが求められています。今回は、合理的配慮について解説していきます。職場における合理的配慮は、仕事に支障となる障壁を解消する措置である合理的配慮の概念は米国の発祥で、障害を理由とする差別を禁止した連邦法である「障害を持つアメリカ人法(Americans with Disabilities Act:ADA)」の制定を機に広まります。法学者の長谷川 珠子氏によると、ADAにおける合理的配慮は、「障害」を持ち、かつ当該職務に対して「適格性」を有する人を適用(保護)の対象としています1)。「適格性」とは、合理的配慮があれば(あるいはなくとも)「職務の本質的機能」の遂行ができる人を指し、合理的配慮があっても「当該職務の本質的機能」を遂行できない人は、障害者であっても保護の対象とはならない、とされています。ジョブ型の雇用である米国らしい法律ともいえますが、合理的配慮とは、仕事をするために障壁となっている事柄に関して必要かつ適切な調整を行うこと、と捉えるのが基本です。日本で厚生労働省が制定した「合理的配慮指針」2)では、合理的配慮の説明として「障害者である労働者の有する能力の有効な発揮の支障となっている事情を改善するために事業主が講ずべき…(中略)…措置」と記載されています。基本的な考え方は米国と大きく変わらず、合理的配慮とは働くために必要な合理性がある配慮であり、障壁のために本来のパフォーマンスを発揮できない場合には調整を行う必要がある、という考え方です。実際にあった職場における合理的配慮の申し出合理的配慮の申し出があった場合に、企業はどのように合意を形成していくのが望ましいのでしょうか。下記は、私が担当する企業で、精神障害を持つ方から合理的配慮の申し出があったケースです。過集中の傾向があり、業務中に疲労がたまったときは、自由に休憩させてほしい。不安が高まるため、納期のない自分のペースでできる仕事を担当したい。過去のトラウマを思い出すため、仕事でミスをしても厳しく指導しないでほしい。合理的配慮を進める際に、カギとなるのは対話です。何が障壁となるかは、当事者である本人にしかわかりません。精神障害の場合、さらに個別性は高く、画一的な配慮はまったく意味をなさないこともあります。また、すべての要求に応じようとすると、職場に負担がかかり、公正性の観点からも問題が生じることがあります。結局のところ、必要なステップを踏みながら、関係者の間で建設的に対話をする以外の方法はありません。合意形成のステップ配慮する事柄を決めるための合意形成のステップを示します。以下の流れで進めていきます。1)当事者からの意思表明(申し出)2)希望や理由を聞き取りながら職場と本人で話し合いを行う3)過度な負担(設備、費用等)とならない範囲で対応を検討する4)職場で対応できる内容を本人に伝え、理由も説明する5)お互いに合意した配慮を実施する6)定期的にその内容や程度について見直し・改善をする対話を通じて、職場と当事者の理解を深め、双方に納得感がある合意が得られることが重要です。また配慮が困難な場合でも、対話を尽くし、代替案が取れないか等、互いに納得できるプロセスを経るように意識しましょう。先ほどの例で挙げたケースは対話の結果、以下の内容で合意を得ました。  合理的配慮の例画像を拡大する「合理的配慮」は記録に残して、定期的に見直す合理的配慮の内容に合意した際は、確認書として記録に残すことが重要です。その際に必要なのは以下の4点です。1)従業員側の希望する配慮とその理由2)企業側が実施できない配慮とその理由3)対話によって決定した合意的配慮の事柄4)本人および企業側の署名合理的配慮は、上司の異動や組織変更などがあっても継続するように留意します。また、環境や業務の変化によって必要とする配慮が変わることもあるため、定期的に見直すようにしましょう。合理的配慮が浸透している職場は、すべての人が働きやすい合理的配慮が浸透している職場は、障害の有無にかかわらず、すべての労働者にとって働きやすい職場であるはずです。働く人の障壁を排除することによって能力を発揮でき、仕事のパフォーマンスが向上します。合理的配慮とは個別性への対応であり、産業医はときに組織の潤滑油となり、労働者と企業側の間に立つ専門家としての機能が求められています。合理的配慮を理解し、安心して働ける職場を支援しましょう。参考文献・参考サイト1)アメリカにおける「合理的配慮」について/日本学術振興会 長谷川珠子 2)合理的配慮指針(平成27年厚生労働省告示第117号)/厚生労働省

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第228回 パワハラの訴えを撤回させようとまたパワハラ 札幌医大教授が今年2回目の懲戒処分で停職合計8ヵ月に

台風10号の大雨で北陸新幹線経由が注目こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。台風10号には皆さんほとほと参ったのではないでしょうか。大雨に見舞われた地域の方々だけではなく、出張や旅行などで“東海道”や“山陽道”を移動しようとする人も大変だったようです。飛行機や東海道新幹線が止まる中、関西方面から関東へは、まず福井の敦賀に出て、北陸新幹線経由で東京に向かう、というルートが注目されていました。JR西日本も北陸新幹線と特急列車サンダーバード(大阪から敦賀への特急列車)を増発するほどでした。これからも台風などによって似た気象状況は頻繁に起きそうです。皆さんもこの迂回ルート、頭の片隅に入れておくといいかもしれません。パワハラを断固として認めずあくまでも「必要な指導だった」と兵庫県知事断続的な雨が続いたこの週末、私はMLBのドジャース戦や、兵庫県の斎藤 元彦知事のパワハラの疑いなどを告発する文書をめぐって開かれた県議会調査特別委員会(百条委員会)のライブ中継を観るなどして時間を潰しました。証人尋問での斎藤知事の受け答えで感心したのは、「パワハラをしていた」を断固として認めないその意志の強さです。あくまでも「必要な指導だった」と無表情で言ってのける鉄面皮振りは、ホラー映画を観ているようでした。さらに、委員から「出張先で玄関の20メートルほど手前で公用車を降りて歩かされ、出迎えた職員らをどなり散らしたのは事実か」問われたのに対し、「歩かされたことを怒ったのではなく、円滑な車の進入経路を確保していなかったことを注意した」と説明していたのにも驚きました。それにしても、百条委員会の委員たち(各党の県議会議員)はちょっと追及が甘過ぎますね。誰も知事を追い詰め、しどろもどろにさせることができませんでした。各紙報道によれば、百条委員会終了後、報道陣から進退を問われた斎藤知事は「知事としての仕事を果たすのが私の責任」と続投の意思を改めて表明、「職員からの人望や信頼感が1ミリもないということはないと思っている。信頼関係を再構築する」と話したとのことです。信頼感が“ミリ単位”かつ、レームダック状態となりそうな斎藤知事で、今後の兵庫県政は大丈夫なのでしょうか。心配になります。札幌医科大パワハラ事件で2回目の懲戒処分ということで、今回は8月に各紙で報道された、札幌医科大学(札幌市)におけるパワハラ問題について書いてみたいと思います。札幌医科大は8月8日、今年5月に教員2人にパワハラなどをしたとして停職3ヵ月になった50代男性教授について、処分直前の4月、同教授が被害を訴えたと推測した相手に対して申し出を撤回するよう求めていたことがわかったとして、新たに停職5ヵ月の処分を行いました。停職期間は計8ヵ月となりました。さらに、この教授の処分軽減のために動いていた50歳代の准教授も停職 1ヵ月の処分を受けました。パワハラで就業環境を害したほか、アカハラも行い研究、教育環境を害したこの教授については、昨年に複数人からハラスメント被害の申し出があり、大学側は調査の結果その事実を認定し、今年5月29日に停職3ヵ月の処分を行ったばかりでした。このときの処分は、「所属する教員2名に対して、パワーハラスメントを行い、就業環境を害したほか、うち1名に対してはアカデミックハラスメントも行い、研究、教育環境を害した」(同大プレスリリースより)ことが理由でした。部下を呼び出し処分の撤回・軽減に向けた嘆願書作成に協力するよう強く要請今回のパワハラは、5月の処分が下る前、調査が進んでいる段階で起きていました。同大学が8月8日に出したプレスリリースの「職員の懲戒処分について」によれば、「4月、当該教授は、自らの懲戒処分を軽減するため、ハラスメントの申出人と類推した教室員に対し、ハラスメントの申出の有無を尋ねるなどの不利益な取扱いを行ったほか、ハラスメントの申出の撤回を求めるなどのパワー・ハラスメントを行った」とのことです。一方、准教授については、「現状の教室体制を維持するため、当該教室員に対し、ハラスメントに係る証言内容等を確認するなどの不利益な取扱いを行ったほか、当該教授の懲戒処分への反証の協力を求めるパワー・ハラスメントを行った」とのことです。端的に言えば、ハラスメントの申出人と思われる部下を呼び出し、申し出をしたかどうかを問い詰め、処分の撤回・軽減に向けた嘆願書の作成に協力するよう強く要請した、ということです。しかし、大学によれば、この「申し出人だと思われる部下」はハラスメントを訴え、認定された2人とは別の人物だったとのことです。教授と准教授は要請する相手を間違ってしまったようです。なお、8月9日付の東京読売新聞によれば、教授の代理人弁護士は同紙の取材に対し、「教授はパワハラをしておらず今回も事実誤認がある。処分内容も重すぎで、社会的相当性を逸脱した懲戒権の乱用だ」と話したとのことです。嘆願書作成への協力要請に応じず、一連のやり取りの証拠を大学に提出北海道の経済誌『財界さっぽろ』8月号(7月15日発行)は、「法廷闘争に発展も…札幌医科大学、名物教授パワハラ停職の波紋」と題する記事を掲載、事件の経緯をより詳細に報じています。同記事によれば、処分を受けた教授は「がん治療においては世界的エキスパート」で「全国ネットの人気テレビ番組でも取り上げられたこともある」X氏です。X氏のパワハラを大学に申し立てたのは同じ医局に所属する3人の医師で、計30件のパワハラの申し立てたとのことです。しかし、学内調査の結果、最終的にパワハラの被害者として認定されたのは2人、6ケースでした。「医者を辞めろ」と怒鳴りつけたり、新規患者の担当や手術を行わせないようにしたり、学位論文の作成を意図的に妨害したりしたことなどがパワハラと認定されました。今年5月の処分は、この2人に対するパワハラが認定された結果として下されたものでした。しかし、処分前、調査の過程では3人の申し立てが検討されていました。それを知ったX氏が准教授とともに、学内調査で最終的に認定されなかったもう1人の医師を呼び出し、処分の撤回や嘆願書作成に協力するよう求めたというのです。この医師はその要請に応じず、一連のやり取りの証拠を大学に提出、それが2回目の処分につながったというのが真相のようです。同記事によれば、「(5月の)処分発表後、X氏は弁護士を通じて、裁判所に停職撤回の仮処分命令を申し立てた。しかし、審査の結果この申し立ては却下された」とのことです。有名ドキュメンタリー番組に登場の医師X氏は、関西地方の私立医大を卒業後、国立大学医学部の医局に入局。複数病院の勤務などを経て、40代で札幌医大の教授に就任しました。手術支援ロボットを駆使した手術で脚光を浴び、NHKや民放の有名なドキュメンタリー番組などでロボット手術のエキスパートとして取り上げられたこともあります。つまり、X氏は札幌医大にとってはまさにスター医師だったわけです。ただ、『財界さっぽろ』の記事は、「目立つ教授だけに最新機材を自分の科にどんどん導入し、他科とのパワーバランスが崩れるようなもこともあったようです」、「外部の人間には人当たりが良いが、就任当初からハラスメント気質があったようです」といった関係者の言葉を紹介しています。何年にもわたるパワハラの積み重ねが、被害者たちの怒りに火を付けるこの連載でも、「第104回 パワハラ事件に大甘の医療界、旭川医大、大津市民の幕引きの背後に感じた“バーター”の存在」、「第154回 日本はパワハラ、セクハラ、性犯罪に鈍感、寛容すぎる?WHO葛西氏解任が日本に迫る意識改造とは?(前編)」、「第227回 東京女子医大第三者委員会報告書を読む(後編)『“マイクロマネジメント”』と評された岩本氏が招いた『どん底のどん底』より深い“底”」などで、医療界におけるパワハラについて書いてきました。共通するのは、パワハラを行う人間は、1回、2回のパワハラが問題になるのではなく、何年にもわたるパワハラの積み重ねが、被害者たちの怒りに火を付け、内部告発などにつながっているという点です。それはあたかも、コップにポツリ、ポツリと溜まった水がある時点で満杯となって溢れ出すかのようです。パワハラを行う人の多くは相手の気持ちを慮ることをしないので、限界を超えてしまったことに気付きません。結果、告発された時はすでに手遅れ、ということになります。「第154回」でも書きましたが、欧米先進国では、パワハラやセクハラについては表沙汰になった(訴えられた、告発された)段階でほぼアウト、というのが常識です。そもそも複数の人間から告発された段階で、仕事の能力以前にその人の人間性やリーダシップに疑問符が付けられてしまいます。そうした意味では、札幌医大の教授も、兵庫県知事も、人の上に立つ人間ということでは、法律以前の問題としてすでにアウトと言えるのかもしれません。

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高齢のCKD患者、タンパク質制限は本当に必要?

 軽度または中等度の慢性腎臓病(CKD)を有する高齢者におけるタンパク質摂取量と全死亡率を調査した結果、タンパク質摂取量が多いほど死亡リスクが低く、タンパク質摂取の利点が欠点を上回る可能性があることを、スウェーデン・カロリンスカ研究所のAdrian Carballo-Casla氏らが明らかにした。JAMA Network Open誌2024年8月1日号掲載の報告。 健康な高齢者では健康を維持するために一定のタンパク質を摂取することが推奨されているが、CKD患者ではCKDのステージ進行を抑制することを目的として、タンパク質摂取量を制限することが推奨されている。しかし、軽度または中等度のCKDを有する高齢者のタンパク質摂取を制限した場合の全般的な健康への影響については十分なエビデンスが得られていない。 そこで研究グループは、60歳以上の地域在住成人で構成されたスウェーデンおよびスペインの3つのコホート研究の縦断的データを統合し、国際腎臓病ガイドライン機構(KDIGO)の分類によるCKDステージ1~3の高齢者における総タンパク質、動物性タンパク質、植物性タンパク質の摂取量と10年全死亡率との関連性を推定し、その結果をCKDを有さない高齢者(対照群)の結果と比較した。参加者は2001年3月~2017年6月に募集され、最長で2024年1月まで追跡された。食事や死亡率に関する情報がない参加者、CKDステージが4または5の参加者、腎代替療法を受けている参加者、および腎移植を受けた参加者は除外された。 タンパク質摂取量は、食事歴および食物摂取頻度調査票により推定された。穀物、豆類、ナッツ類、その他の植物由来のタンパク質は植物性タンパク質とみなされ、乳製品、肉、卵、魚類、その他の動物由来のタンパク質は動物性タンパク質とみなされた。Cox比例ハザードモデルを用いて、タンパク質摂取量と死亡率の関連性についてハザード比(HR)および95%信頼区間(CI)を推定した。 主な結果は以下のとおり。●合計1万4,399例(CKD群:4,789例、対照群:9,610例)が解析に含まれた。CKD群は女性が2,726例(56.9%)、平均年齢が78.0(SD 7.2)歳であった。追跡期間中に、両群合わせて1,468例が死亡した。●CKD群では、総タンパク質摂取量が多いほど死亡リスクが低くなることが示された。 ・1.00g/kg/日vs.0.80g/kg/日のHR 0.88(95%CI:0.79~0.98) ・1.20g/kg/日vs.0.80g/kg/日のHR 0.79(95%CI:0.66~0.95) ・1.40g/kg/日vs.0.80g/kg/日のHR 0.73(95%CI:0.57~0.92) ・1.60g/kg/日vs.0.80g/kg/日のHR 0.67(95%CI:0.51~0.89)●CKD群の各タンパク質摂取量0.20g/kg/日増加当たりの死亡のHRは、総タンパク質、動物性タンパク質、植物性タンパク質で同等であった。 ・総タンパク質のHR 0.92(95%CI:0.86~0.98) ・動物性タンパク質のHR 0.88(95%CI:0.81~0.95) ・植物性タンパク質のHR 0.80(95%CI:0.65~0.98)●CKD群の総タンパク質摂取量0.20g/kg/日増加当たりの死亡のHRは、75歳未満でも75歳以上でも同等であった(相互作用のp=0.51)。 ・75歳未満のHR 0.94(95%CI:0.85~1.04) ・75歳以上のHR 0.91(95%CI:0.85~0.98)●総タンパク質摂取量と死亡率との逆相関は、対照群のほうがCKD群よりも大きかった(相互作用のp=0.02)。 ・CKD群のHR 0.92(95%CI:0.86~0.98) ・対照群のHR 0.85(95%CI:0.79~0.92) これらの結果より、研究グループは「高齢者を対象としたこのマルチコホート研究では、総タンパク質、動物性タンパク質、植物性タンパク質の摂取量が多いほど、CKD患者の死亡リスクが低いことが示された。CKDを有さない人では関連性がより強く、軽度または中等度のCKDを有する高齢者ではタンパク質摂取の利点が欠点を上回る可能性があることを示唆している」とまとめた。

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アトピー性皮膚炎へのデュピルマブ、5年有効性・安全性は?

 デュピルマブで治療を受けたアトピー性皮膚炎患者を最長5年追跡調査したコホート研究において、デュピルマブの臨床的有効性は維持された。一方で3分の2の患者は3週ごとまたは4週ごとの投与量に漸減し、23.8%の患者が治療を中止した。治療中止の主な理由は有害事象、無効であった。これまで日常診療でのアドピー性皮膚炎に対するデュピルマブの、長期の有効性と安全性に関するデータは限られていた。オランダ・ユトレヒト大学医療センターのCeleste M. Boesjes氏らが、JAMA Dermatology誌オンライン版2024年8月7日号で報告した。 研究グループは、日常診療で最長5年間治療を受けたアトピー性皮膚炎の小児、成人および高齢者における、デュピルマブ治療の臨床的有効性と治療中止の理由を評価する前向き多施設コホート研究を行った。 BioDayレジストリ(オランダの大学病院4施設とその他10施設で登録)を用いて、2017年10月~2022年12月にデュピルマブによる治療を受けたすべての年齢のアトピー性皮膚炎患者を特定し、研究対象とした。 臨床的有効性は、小児(18歳未満)、成人(18~64歳)、高齢者(65歳以上)で層別化を行い、Eczema Area and Severity Index(EASI)、Investigator Global Assessment(IGA)、そう痒Numeric Rating Scale(NRS)で評価した。さらに、TARC値、好酸球数などを評価。デュピルマブを中止した患者について、中止の理由を評価した。 主な結果は以下のとおり。・計1,286例のアトピー性皮膚炎患者(年齢中央値38歳[四分位範囲[IQR]:26~54]、男性726例[56.6%])がデュピルマブによる治療を受けた(小児130例、成人1,025例、高齢者131例)。・追跡期間中央値は87.5ヵ月(IQR:32.0~157.0)。・ほとんどの患者が最長5年の治療期間にわたりアトピー性皮膚炎のコントロールを維持しており、EASIが7以下の患者は78.6~92.3%、そう痒NRSが4以下の患者は72.2~88.2%であった。・全患者の最大70.5%の投与間隔が延長し、ほとんどが300mgの3週ごとまたは4週ごと投与となっていた。・治療開始5年後、EASIスコア平均値は2.7(95%信頼区間[CI]:1.2~4.2)、そう痒NRS平均値は3.5(2.7~4.3)であった。・EASI、IGAについて、観察期間を通じて年齢群間に統計学的有意差がみられたが、その差(52週時点でEASIは0.3~1.6、IGAは0.12~0.26)は非常に小さかった。そう痒NRSについては、統計学的有意差はみられなかった。・TARC中央値は、1,751pg/mL(95%CI:1,614~1,900)から治療開始6ヵ月で390pg/mL(368~413)へ大幅に低下し、低値を維持した。・好酸球数中央値は16週まで一時的に上昇したが、その後は経時的に統計学的有意な低下がみられた。・合計306例(23.8%)がデュピルマブを中止し、中止までの期間中央値は54.0週(IQR:29.0~110.0)であった。多く報告された中止の理由は、有害事象98例(7.6%)、無効85例(6.6%)であった。41例(3.2%)がデュピルマブ投与を再開し、これらの患者の大半で奏効が認められた。

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ペムブロリズマブ、非小細胞肺がん術前・術後補助療法に承認/MSD

 MSDは2024年8月28日、抗PD-1抗体ペムブロリズマブ(商品名:キイトルーダ)について、非小細胞肺がん(NSCLC)における術前・術後補助療法の国内製造販売承認事項一部変更の承認を取得したと発表。 今回の承認は、臨床病期II、IIIAまたはIIIB(T3-4N2、UICC/AJCC 第8版)の周術期NSCLC患者797例(日本人82例を含む)を対象とした、国際共同第III相試験であるKEYNOTE-671試験の結果に基づいている。同試験において、ペムブロリズマブ・化学療法併用による術前療法とペムブロリズマブ術後療法の組み合わせは、化学療法による術前補助療法とプラセボの術後療法の組み合わせと比較して、全生存期間(OS)および無イベント生存期間(EFS)を有意に延長した(OS HR:0.72、95%信頼区間[CI]:0.56~0.93、p=0.00517、EFS HR:0.58、95%CI:0.46~0.72、p<0.001)1)。 安全性解析対象例396例中383例(96.7%)(日本人39例含む)に副作用が認められた。主な副作用(20%以上)は、悪心216例(54.5%)、好中球数減少169例(42.7%)、貧血143例(36.1%)、白血球数減少111例(28.0%)、疲労108例(27.3%)、便秘107例(27.0%)および食欲減退92例(23.2%)であった。

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