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体内での金属の蓄積は心血管疾患の悪化をもたらす?

 カドミウムやウラン、コバルトなどの環境中に存在する金属が、人間の体内に蓄積して心血管疾患を悪化させる可能性のあることが、米コロンビア大学のKatlyn McGraw氏らの研究で示唆された。研究参加者から採取された尿検体に含まれるさまざまな金属の濃度上昇に伴い、心血管疾患の重要な要素である硬く石灰化した動脈の指標も上昇することが判明したという。研究結果は、「Journal of the American College of Cardiology」に9月18日掲載された。 McGraw氏は同大学のニュースリリースの中で、「本研究結果から、金属への曝露をアテローム性動脈硬化症と心血管疾患の重要なリスク因子として考慮することの重要性が明らかになった。これが、金属曝露をターゲットにした新たな予防戦略や治療戦略につながる可能性がある」と述べている。 アテローム性動脈硬化とは、動脈の内側に脂肪でできたプラークが蓄積して血管が徐々に硬くなる状態をいう。アテローム性動脈硬化から動脈に不健康なカルシウムの沈着物の蓄積につながることもある。 この研究でMcGraw氏らは、2000~2002年の研究登録時には心血管疾患がなかった米国の6,418人の中高年の大規模データベースを用いて、環境中の有毒な金属への曝露がアテローム性動脈硬化の誘因となっているのかを調べた。参加者から採取された尿検体を用いて、心血管疾患との関連がすでに指摘されている6種類の環境中の金属(カドミウム、コバルト、銅、タングステン、ウラン、亜鉛)の10年間の尿中濃度を測定し、それぞれの金属について、尿中濃度が最も低い群から最も高い群まで4群に分類した。カドミウムについては、一般的にタバコの煙を介しての曝露が多い。一方、他の5種類の金属は、農業用肥料やバッテリー、石油生産、溶接、鉱業、核エネルギー生成に関係している。 その結果、カドミウムの尿中濃度が最も高い群では最も低い群と比べて、冠動脈石灰化レベルが試験開始時点で51%、10年間の観察期間中では75%高いことが示された。同様に、金属の尿中濃度が最も低い群と比べた最も高い群での10年間の冠動脈石灰化レベルは、タングステンでは45%、ウランでは39%、コバルトでは47%高いことも示された。一方、銅と亜鉛に関しても、尿中濃度が最も高い群では、最も低い群と比べて冠動脈石灰化レベルが銅で33%高く、亜鉛で57%高かったが、試験開始時(それぞれ55%と85%の増加)と比べると、増加の幅は縮まっていた。 さらに、尿中の金属濃度が特に高い地域があることも判明した。例えば、ロサンゼルスに住む人では尿中のタングステンとウランの濃度が著しく高く、カドミウム、コバルト、銅の濃度もやや高いことが明らかになった。 McGraw氏は、「公害は心血管の健康にとって最大の環境リスクである。産業活動や農業活動を通じてこれらの金属が環境中に広く放出されていることを考慮すると、今回の研究は、曝露を抑制して心血管の健康を守るために、人々の意識を高め、規制措置を講じる必要性を示しているといえる」と述べている。

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腎臓結石の残存破片の排出には超音波が有効

 腎臓結石は外科的に除去しても半数の患者で小さな破片が腎臓に残ってしまう。こうした患者の約25%では、5年以内に、大きくなった破片を除去する再手術が必要になる。しかし、このような残存破片に対しては、超音波により結石を移動させて体内から排出できる可能性のあることが、新たな研究で明らかになった。このような超音波を用いた処置を受けた患者での再発リスクは、受けなかった患者よりも70%低いことが示されたという。米ワシントン大学医学部の泌尿器科医であるJonathan Harper氏らによるこの研究の詳細は、「The Journal of Urology」に8月14日掲載された。 この研究では、5mm以下の残存結石を持つ成人を、超音波の振動を利用して結石を移動させる治療(超音波推進〔ultrasonic propulsion〕)を受ける群(超音波推進群、40人)と対照群(42人)にランダムに割り付け、5年間での腎臓結石の再発率を比較した。腎臓結石の再発は、結石の成長、結石に関連した緊急診療または手術とした。超音波推進では、患者が覚醒している状態で、医師が超音波プローブを使って破片を尿管(腎臓から膀胱へ尿を運ぶ管)に近付けた。研究グループによると、破片は尿管に近づくと自然に排出される可能性が高いのだという。 その結果、5年間での再発までの平均時間は、超音波推進群で1,530±92日、対照群で1,009±118日であり、前者の方が52%長いことが示された。また、再発したのは治療群では40人中8人、対照群では42人中21人で、超音波推進群での再発リスクは対照群に比べて70%低かった(ハザード比0.30、95%信頼区間0.13〜0.68)。 Harper氏は、「この研究の主なポイントは、結石の破片を体内から排出することで再発リスクが低下すること、そして、そのような破片の排出には、非侵襲的な携帯型超音波装置による治療が効果的であるということだ」と述べている。 Harper氏はワシントン大学のニュースリリースの中で、「超音波推進は、大きな可能性を秘めている。将来的には、歯のクリーニングと同じくらい、一般的な処置になる可能性がある。問題を引き起こす可能性のある小さな結石が体内にある場合には、クリニックを予約して30分程度の処置を受けるだけで済むからだ」と述べ、「これは腎臓結石の治療に革命をもたらす可能性がある」と期待を示している。

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第213回 医療機関に迫る変化と課題、コロナ後の医療構造再編

経営悪化の先にあるもの2024年も残り3ヵ月となり、今春(令和6年度)の診療報酬改定の影響がみえてきました。多くの入院医療機関では、病床稼働率の低下に苦慮しているところが増えているのではないでしょうか?当院でも、近隣の病院でも同様の悩みがあり、コロナ前には一時的な病床稼働率の低下が、冬場に回復する傾向がみられましたが、現在は深刻な影響が続いています。従来の「医師不足」や「看護師不足」による医療崩壊とは異なるものが、新しい形で医療機関に迫っているようです。患者不足の原因まず、医療機関側に原因があると考えられます。今春の診療報酬改定により、急性期一般病床1(旧7:1病床)の平均在院日数が18日以内から16日以内に短縮されました。さらに、医療・看護必要度の見直しも影響しています。急性期病床における「重症度、医療・看護必要度」の評価が変更され、B項目が算定から外れたことや、A項目の「救急搬送後の入院」が、従来の5日から2日に短縮されたことで、急性期病床が絞り込まれました。これにより、軽症患者の早期退院や転院が求められ、結果として入院患者数が減少しています。患者側の原因としては、受療動向の変化が挙げられます。軽度の発熱や呼吸困難で来院した高齢患者は、以前であれば「精査目的」で入院することが一般的でした。しかし、コロナ禍を経て、多くの高齢者は「病院は快適な場所ではなく、長く滞在したい場所ではない」と感じるようになりました。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響で、面会制限や認知症の進行、ADLの低下を経験したことから、病院での不必要な入院を避ける傾向が強まっています。その結果、軽症の肺炎や心不全であっても、入院を希望せず、外来通院での治療を選ぶ患者が増加しています。また、訪問診療の急速な普及も要因の1つです。現在、わが国で訪問診療を受けている患者さんは100万人を超えています(在宅患者が100万人を突破、診療報酬も月1,000億円に[日経メディカル])。とくに重症の末期がん患者などが、在宅での療養を選ぶケースが増えています。地域によっては、人工呼吸器管理が必要な患者でも、訪問診療やサービス付き高齢者住宅では看取り対応が可能となっています。これまで、末期がん患者は症状が悪化すれば入院していましたが、現在は訪問診療や介護サービスを活用して在宅療養を続けるケースが多くなり、入院患者はより治療に特化した重症患者に限られている傾向があります。訪問診療や訪問看護の認知度向上により、急性期医療機関の役割が変わり、外来受診や訪問診療で療養を続ける患者が増加しています。このため、急性期医療機関への入院は難度の高い手術や高額な治療材料を用いたケースに限られるようになり、ADLの低下や嚥下困難など治癒が難しい症例は積極的に院外に移す傾向が強まっています。コロナ禍によって定期受診の間隔が広がったこと、後期高齢者の増加に伴い、大病院への通院や入院患者数の減少傾向が顕著です。2025年の地域医療構想に向けて政府は病床削減に取り組んでいたのが(病床数を最大20万削減 25年政府目標、30万人を自宅に[日経新聞])功を奏したとも言えますが、医療の構造変化のスピードがCOVID-19で早まったため、2025年までに実現を目指していた「地域医療構想」の必要病床数以上に医療ニーズが減少してしまい、大部分の医療機関で患者不足に見舞われたというのが真実の姿ではないでしょうか。今後の展望政府は、後期高齢者の増加と労働人口の減少に向けて、2040年を見据えた「新たな地域医療構想等に関する検討会」を立ち上げ、対策を検討しています。とくに75歳以上の高齢者に対する医療・介護の提供体制が今後の課題です。85歳以上の高齢者に対しては、積極的な手術や高度な医療を控える傾向がみられます。心臓手術の件数も減少し、代わりに低侵襲手術が増加しています。今後も内視鏡やロボット手術などの技術革新により、外来手術が増加し、入院期間が短縮されるものと予想されます。全国に整備されたICUやHCU病床も、コロナ禍以降の稼働率低下が問題となっていますが、今後は外来手術センターの設立や回復期への早期転院によって、必要な病床数がさらに減少し、病床再編が求められるでしょう。中小規模の病院では、従来の急性期医療にこだわらず、地域包括医療病棟などへの転換が進むと考えられます。また、政府が進める医療と介護の連携強化が重要となり、病院間の情報共有をデジタル化することで業務効率化が求められます。一般の開業医にとっても、今後、高齢者の歩行能力が低下してしまうと在宅での生活や通院が困難となり、さらに人口の高齢化が進んでいる場合、外来患者数の減少が進むため、新しい患者の獲得のためには、訪問診療の提供や施設などとの連携が必要になると思われます。参考1)在宅患者が100万人を突破、診療報酬も月1,000億円に(日経メディカル)2)自宅でのみとり急増 緊急事態宣言境に、終末期医療も 受診控え、面会制限影響か・慈恵医大など(時事通信)3)増える「老衰」「在宅みとり」人生の最期どう迎えるか(NHK)4)病床数を最大20万削減 25年政府目標、30万人を自宅に(日経新聞)5)新たな地域医療構想等に関する検討会(厚労省)

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第78回 4種類あるエラーバーについて【統計のそこが知りたい!】

第78回 4種類あるエラーバーについて医学論文や医薬品の添付文書の図に、薬剤の血漿中薬物濃度の平均の推移が時間軸に沿って示されているのをよく目にすると思います。図1のように、ある薬剤の血漿中薬物濃度は投与後に上昇し、徐々に低下していくことがよくわかります。ここで注目してほしいのは、平均の上下に示されているエラーバーです。これが誤差を表していることは分かりますが、その正確な意味は何でしょうか。図1は平均±標準偏差との注記がありますので、標準偏差を誤差として示していることがわかりますが、エラーバーは標準偏差だけではありません。図1 単回投与したときの血漿中濃度推移(平均値±標準偏差)■エラーバーの種類エラーバーは誤差の程度を表すためのもので、主に以下の4つが使い分けられます。±標準偏差(SD:standard deviation)±標準誤差(SE:standard error)95%信頼区間(CI:confidence interval)パーセンタイル(percentile)これらには、標準偏差、95%信頼区間、標準誤差の順にエラーバーの幅が狭くなるという性質があります。■標準偏差標準偏差はデータのばらつきを示す指標です。mean±SDは平均±標準偏差のことで、平均と標準偏差から集団の特徴を表したものです。データが正規分布に従うことがわかっている場合、mean±SDの範囲にデータの約68%が収まり、mean±2×SDの範囲に約95%、mean±3×SDの範囲にデータの約100%が収まります(図2)。図2 標準偏差のデータのばらつきを示すグラフ例エラーバーに標準偏差を適用するのは、標本データが、どのような特徴をもっているのかを記述したいときになります。■標準誤差標準誤差は、母集団から抽出されたサンプルの標本平均を求める場合、「標本平均の値が母平均に対してどの程度ばらついているか」を表すものです。次の計算式のように標本標準偏差÷サンプルサイズの平方根で算出され、サンプルサイズが大きくなるほど標準誤差は小さな値になります。エラーバーに標準誤差を適用するのは、母集団の推定量のバラツキ(=精度)を表したいケースです。■95%信頼区間95%信頼区間は、「平均±1.96×標準誤差」で算出されます。信頼度95%とは、標本調査を100回行ったら、標本平均が信頼区間の幅に収まることは95回、外れることは5回あるということです。信頼区間は信頼度95%で求めるのが通常ですが、信頼度99%で求めることもあります。信頼度95%の信頼区間を「95%CI」、信頼度99%の信頼区間を「99%CI」と言います。95%信頼区間が、臨床研究では最もよく用いられています。論文では、ハザード比やオッズ比、リスク比などの解析でよく目にするのではないでしょうか。図3は、ある抗がん剤併用群とプラセボ群を比較し、OS(Overall Survival:全生存期間)を表していますが、ハザード比の95%信頼区間が1.0を含んでいないので、併用群優位(有意差あり)と判断することができます。このように、臨床研究は1回しか行われていませんが、同様の研究を複数回実施したと仮定した場合、統計的に取り得る値を、95%信頼区間の幅をエラーバーで示しています。図3 OSの解析結果■パーセンタイル臨床検査値などの場合、中性脂肪や尿中アルブミンなどは、とびぬけて高い値(外れ値)をとる場合があります。このように外れ値があるデータは、正規分布の当てはまりが悪いので、平均±標準偏差ではなく、25パーセンタイル(第1四分位点)から75パーセンタイル(第3四分位点)までの範囲(四分位範囲)で示すことがあります。パーセンタイル値は、データを大きい方から順に並べて100個に区切り、小さい方からどの位置にあるかを示します。つまり、50パーセンタイルは、「小さいほうから50/100のところにあるデータ(中央値)」という位置を示す用語です。なお、「パーセンタイル」は百分率の「パーセント」とは異なります。パーセントは、率を表し、たとえば50%は「半数」という全体に占める割合を示します。データのばらつきを表すために、最大値、第3四分位点、中央値、第1四分位点、最小値を「箱」と「ひげ」で表した、箱ひげ図もよく用いられます(図4)。図4 データのばらつきを示す「箱ひげ図」エラーバーに四分位範囲を適用するのは、このように、データに外れ値がある場合には、外れ値の影響を受けにくいからです。以上のように、エラーバーには、±標準偏差、±標準誤差、95%信頼区間、パーセンタイルの4つが使い分けられているので、論文を読む際にはエラーバーが何で示されているかを確認することが大切になります。■さらに学習を進めたい人にお薦めのコンテンツ統計のそこが知りたい!第1回 「標準偏差」と「標準誤差」の使い分けは第3回 エラーバーはいつも対称とは限らない第6回 パーセンタイルと四分位範囲

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掌蹠角化症〔PPK:palmoplantar keratoderma〕

1 疾患概要■ 概念・定義掌蹠角化症は、手掌と足底の高度な過角化を主な臨床症状とする疾患群である。主として遺伝的素因により生じるが、非遺伝性の病型もある。掌蹠角化症の中には、掌蹠角化症の皮膚症状に加えて、がんあるいは他臓器の異常を伴うまれな遺伝性疾患も存在し、このような疾患群は掌蹠角化症症候群と呼ばれる。これらの合併症が重篤になると生命予後が悪化する。臨床所見ならびに病理組織像の検討のみから病型を決定するのは困難な場合が多く、遺伝歴の詳細な聴取、最終的には遺伝子変異の同定が必要となる。■ 疫学長島型掌蹠角化症の頻度は、日本および中国ではそれぞれ1万人当たり1.2人ならびに3.1人と見積もられている。ボスニア型掌蹠角化症の頻度はスウェーデンの北部(ボスニア湾沿岸地域)で、一般人口当たり0.3~0.55%(1万人当たり30~55人)と報告されている。筆者らは、2015年に掌蹠角化症の患者数についての全国1次アンケート調査を行った。全国の500床以上の病院の皮膚科ならびに小児科にアンケート用紙を送付して掌蹠角化症全国疫学調査を施行した。この調査では、過去5年間に期間を限定し、掌蹠角化症患者の家系の数、患者数を回答してもらうようにした。型が明らかな家系についてはそれぞれの型の家系の数、患者数の記載を依頼した。また、自由記載欄も設け、アンケート調査についての感想・要望などを記載も求めた。全国690施設の皮膚科ならびに小児科にアンケート用紙を送付した。うち325施設より回答を得た。病型が明らかな家系は113家系、患者数は147例(人口100万人当たり1.2人)であった。約9割は大学病院にて診断されていた。人口100万人当たりの患者数でみると、青森県が最多で、100万人当たり30.6人であった。■ 病因掌蹠角化症を構成するそれぞれの疾患は、大部分が遺伝性疾患である。原因遺伝子に遺伝子変異が生じることにより個々の疾患が引き起こされる。現在、個々の疾患の遺伝子変異は(掌蹠角化症を構成する)大多数の疾患において同定されている。■ 症状手掌と足蹠の過角化が存在する。過角化の程度や罹患部位は、個々の病型により異なる。過角化の状態も病型によりさまざまである。過角化の臨床症状に加え、手掌と足蹠の潮紅を伴う病型(わが国では最も多い病型である長島型掌蹠角化症)もある。■ 分類日本皮膚科学会作成の「掌蹠角化症診療の手引き」では、(1)びまん性角化を示す掌蹠角化症、(2)限局型・先天性爪甲肥厚症・線状・点状掌蹠角化症、(3)掌蹠角化症症候群の3群に分類している。びまん性角化を示す掌蹠角化症には8疾患、限局型・先天性爪甲肥厚症・線状・点状掌蹠角化症には9疾患、掌蹠角化症症候群には22疾患が含まれている。■ 予後びまん性角化を示す掌蹠角化症、限局型・先天性爪甲肥厚症・線状・点状掌蹠角化症は、生命予後は良い。掌蹠角化症症候群のうち、がん、拡張型心筋症を合併するものがあり、これらの疾患を合併すると予後不良である。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)図の病型診断アルゴリズムにしたがって、おおよその病型の見当を付ける。これは外来において視診で行える。Transgrediensとは、掌蹠を超えて、指趾背側や手首、足首、アキレス腱部にまで皮疹が拡大していることである。日本皮膚科学会の掌蹠角化症診療の手引きを参考にすると、調べるべき原因遺伝子が判明する。上記の臨床的診断に引き続いて、患者より採血を行い、白血球よりDNAを抽出、病型の原因遺伝子の塩基配列を決定する。病因遺伝子変異を同定することが出来れば、病型が診断できる。可能であれば、家族の遺伝子変異同定も診療上非常に有益である。。家系図を描くことができれば、遺伝形式が判明し、確定診断に役立つとともに、患者ならびに家族に対して遺伝カウンセリングを行うことができる。図 (遺伝性・非症候性)掌蹠角化症の病型診断アルゴリズム画像を拡大する3 治療 (治験中・研究中のものも含む)掌蹠角化症は症例数が少なく、大規模な治験が不可能である。そのためエビデンスレベルの高い治療法は確立されていない。現在、有効とされている治療法は、症例報告に基づくものである。1)外用療法サリチル酸ワセリンや尿素軟膏などの角質溶解剤の塗布やカルシポトリオール含有軟膏の塗布を行う。2)皮膚切削術コーンカッター、長柄カミソリ、生検用パンチ、眼科剪刀などを用いて肥厚した角質を除去する。3)内服療法レチノイド内服を行う。ただし、この薬剤には催奇形性があるので、妊婦または妊娠している可能性のある女性には投与してはならない。また、エトレチナートに対し、過敏症の既往歴のある患者、肝障害のある患者、腎障害のある患者、ビタミンA製剤投与中の患者、ビタミンA過剰症の患者には禁忌である。エトレチナートを処方するときには、処方のたびに所定の様式の文書での同意を得る。4)合併症に対する治療絞扼輪や皮膚がんなどの合併症に対しては早期発見に留意し、外科的に対処する。難聴、食道がん、歯周病、心筋症、真菌症、細菌感染症などの合併症に対しては専門医に治療を依頼すると同時に適切な抗真菌薬や抗生物質の投与などを行う。5)患者自身によるケア掌蹠に亀裂ができて疼痛をともなう場合、長柄カミソリなどを用いて、角質を削り、就寝時にワセリンを使用して密封療法(ODT)を行う。掌蹠の亀裂がなくなり、疼痛がやわらぐ。4 今後の展望核酸医薬低分子干渉RNA(siRNA)を用いる治療法も報告されている。KRT6A遺伝子に対するsiRNAを用いて、培養ヒト表皮角化細胞とマウスの皮膚におけるケラチン6aタンパク質の発現を抑制したという報告もある。この治療法は、先天性爪甲厚硬症患者にも使用されており、将来実行可能な方法であるがいまだ明らかになっていない部分もある。リードスルー薬を治療に用いたという報告もある。5例の長島型掌蹠角化症の患者に対してリードスルー薬としてゲンタマイシンを使用して有効であったという報告もあるが、報告例が少なく現時点ではその有効性についての結論は出ていない。ただ、ゲンタマイシンは安全かつ簡便に使用が可能で、本症以外の疾患でも効果が期待されているので、将来有望な治療薬であろう。5 主たる診療科皮膚科、小児科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター 掌蹠角化症(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)掌蹠角化症診療の手引き(医療従事者向けのまとまった情報)公開履歴初回2024年10月14日

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いよいよ多変量解析 その1【「実践的」臨床研究入門】第48回

対数変換を行い、新たな変数を作成する前回まで、仮想データ・セットを用い、無料の統計解析ソフトであるEZR(Eazy R)の操作手順も交えて、変数の型とデータ・セット記述方法の使い分け(連載第46回参照)、表1(患者背景表)の作成方法(連載第47回参照)について解説しました。今回からは、いよいよ多変量解析の実践的な手法について、EZR(Eazy R)の操作手順を含めて解説していきたいと思います。これまでに、われわれのResearch Question(RQ)の交絡因子として下記の要因を挙げることにしました(連載第45回参照)。年齢、性別、糖尿病の有無、血圧、eGFR、蛋白尿定量、血清アルブミン値、ヘモグロビン値これらの要因のうち、蛋白尿定量(UP)は連続変数データですが、その分布は右に裾を引いたような歪んだ分布であることを、ヒストグラム(度数分布図)を描いて示しました(連載第46回参照)。このような分布が歪んだデータは、対数変換を行って正規分布に近似させることができます。多変量解析において、対数変換は重要な前準備の1つです。変数を必要に応じて対数変換することにより、外れ値の影響を減らし多変量解析モデルが安定化する、などの意義があります。ここでは、EZRを用いて1.対数変換を実行2.新たな変数を作成3.対数変換後のデータ分布を比較する方法について説明します。はじめに、オリジナルの仮想データ・セットを以下の手順でEZRに取り込みます。仮想データ・セットをダウンロードする※ダウンロードできない場合は、右クリックして「名前をつけてリンク先を保存」を選択してください。「ファイル」→「データのインポート」→「Excelのデータをインポート」次に「アクティブデータセット」→「変数の操作」→「連続変数を対数変換する」を選択そうすると下記のポップアップウィンドウが開きます。「変数(1つ以上選択)」では「UP」を選択します。「対数変換の底」は「自然対数(底はe)」を選んでください(詳細は省略しますが、生物統計学の領域では常用対数より自然対数を用いることが多いようです)。「新しい変数名または複数の変数に対する接頭文字列」には、たとえば「Loge_UP」と入力してみましょう。そして、「OK」ボタンをクリックすると、下図の出力ウィンドウで、新しい変数として「Loge_UP」が作成されたことが示されます。Rコマンダーの画面(下図)からデータセットの「表示」をクリックし、「Loge_UP」が追加されたことも確認してみてください。それでは、歪んだ分布であったUPを対数変換したLoge_UPのヒストグラムをEZRの以下の手順で比較してみましょう(連載第46回参照)。「グラフと表」→「ヒストグラム」を選択下記のポップアップウィンドウが開きますので、「変数(1つ選択)」はそれぞれ「UP」と「Loge_UP」を、「群別する変数(0~1つ選択)」は「treat」を指定してください。その他はデフォルト設定のままで「OK」をクリックしてみましょう。画像を拡大する下のようなUP、Loge_UPのヒストグラム(比較群分けごと)が描けたでしょうか。右に裾を引いたような歪んだUPの分布が、対数変換(Loge_UP)することにより正規分布に近似したものとなりました。画像を拡大する

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事例009 アミノレバンEN配合散の査定【斬らレセプト シーズン4】

解説肝硬変フォロー中の患者に対して肝不全用成分栄養剤のアミノレバンEN配合散(以下「同散」)を投与したところ、A事由(医学的に適応と認められないもの)にて査定となりました。突合点検結果連絡書にての連絡であったために、査定が当院の責によるものなのか査定理由を調べてみました。同散の添付文書による効能・効果には「肝性脳症を伴う慢性肝不全患者の栄養状態の改善」とあります。肝硬変は慢性肝不全に分類されます。肝硬変に伴う栄養状態の改善を目的に投与もできるのではないかと考えられます。しかしながら、肝硬変の病名のみでは、肝性脳症が伴っているかどうかはわかりません。肝性脳症を伴っていることが、レセプトデータの病名や症状詳記などから確実に読み取れることが必要なのです。コンピュータ審査では、症状詳記などが記載されていない場合、添付文書に記載された内容とレセプト内容を事務的に判定されています。したがって、今回の事例では、病名もしくは症状詳記などの記載がなかったため、「病名不足」と判定されてA事由にて査定となったものと推測できます。レセプトチェックシステムには登録されており、アラームも表示されていました。今後はアラームに従い、肝性脳症の付与が必要なことを周知して査定対策としています。同様の事例を精査したところ、「アルコール性肝硬変、慢性肝炎、C型慢性肝炎」のいずれかの病名にて「肝性脳症」が記載されていない場合にも査定となっていたことを報告いたします。

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歯の数は日本人の平均余命にどの程度影響するか?

 これまでの研究において、歯の喪失が認知症リスクの増加と関連していることが報告されている。しかし、歯の数と認知症のない平均余命や認知症の有無によらない平均余命との関連を調査した研究は、これまでほとんどなかった。東北大学の木内 桜氏らは、日本人高齢者の歯の数と認知症のない平均余命や認知症の有無によらない平均余命との関連を調査するため、プロスペクティブコホート研究を実施した。Journal of the American Medical Directors Association誌2024年11月号の報告。 2010〜20年の10年間フォローアップ調査を行った。対象は、日本の9つの自治体に在住する、機能的に自立した65歳以上の高齢者。歯の数は、20本以上、10〜19本、1〜9本、0本に分類した。アウトカムとして、10年間のフォローアップ期間中における認知症の発症および死亡率を収集した。歯の数に応じ、認知症のない平均余命や認知症の有無によらない平均余命を推定するため、multistate modelingを用いた。 主な結果は以下のとおり。・対象は、4万4,083人(男性の割合:46.8%)。・平均年齢は73.7±6.0歳。・フォローアップ期間中に、認知症を発症した割合は17.3%、死亡率は21.4%であった。・歯の数が少ないことは、20本以上の歯を持つ場合と比較し、認知症リスク増加と関連していた。【10〜19本】ハザード比(HR):1.14、95%信頼区間(CI):1.07〜1.22【1〜9本】HR:1.15、95%CI:1.08〜1.22【0本】HR:1.13、95%CI:1.05〜1.21・歯の数が少ないことは、20本以上の歯を持つ場合と比較し、死亡率増加とも関連が認められた。【10〜19本】HR:1.13、95%CI:1.05〜1.22【1〜9本】HR:1.27、95%CI:1.19〜1.37【0本】HR:1.47、95%CI:1.36〜1.59・65歳時点での認知症のない平均余命は、歯が20本以上の人のほうが、0本の人と比較し、長かった。【男性】20本以上:16.43年、0本:14.40年【女性】20本以上:18.88年、0本:17.12年・65歳時点での認知症の有無に関わらない平均余命においても、同様であった。【男性】20本以上:17.84年、0本:15.42年【女性】20本以上:22.03年、0本:19.79年 著者らは「歯の数が多いと、認知症のない平均余命および認知症の有無に関わらない平均余命が長くなることが示唆された」と結論付けている。

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ステロイド薬の使用で糖尿病のリスクが2倍以上に

 ステロイド薬の全身投与により糖尿病の発症リスクが2倍以上高くなることを示唆するデータが報告された。英オックスフォード大学のRajna Golubic氏らが、欧州糖尿病学会(EASD 2024、9月9~13日、スペイン・マドリード)で発表した。 ステロイド薬は強力な抗炎症作用があり、喘息や関節リウマチなどの多くの疾患の治療で用いられていて、特に自己免疫性疾患の治療では欠かせないことが少なくない。ステロイド薬にはさまざまな副作用があり、そのうちの一つとして、血糖値の上昇、糖尿病リスクの増大が挙げられる。副作用リスクを下げるために、症状が現れる部位が呼吸器や皮膚などに限られている場合には、吸入や外用による局所投与が優先的に行われるが、局所投与では疾患コントロールが十分できない場合や全身性疾患の治療では、内服や注射などによる全身投与が必要となる。 今回の研究の背景としてGolubic氏は、「ステロイド薬による治療を受けている患者において、糖尿病の新規発症リスクがどの程度増大するかという点に関する既存の情報は、比較的小規模な研究に基づくものに限られていた。われわれは、この臨床疑問の正確な答えを得るために、よりサンプルサイズの大きなデータを用いた研究を行いたいと考えた」と述べている。そして、得られた結果は、「ステロイド薬が血糖値に及ぼす影響が、糖尿病のリスクを高める可能性があるという従来からの疑いを裏付けるものとなった」と述べている。 この研究では、2013年1月~2023年10月にオックスフォード大学病院に入院した成人患者45万1,606人(年齢中央値52歳、女性55%、白人69%)が解析対象とされた。これらの患者は全員、入院時点では糖尿病でなく、ステロイド薬の全身投与を受けていなかった。多くの患者は1週間以内に退院していた。 この患者群のうち1万7,258人(3.8%)に対して、入院中にステロイド薬(プレドニゾロン、ヒドロコルチゾン、デキサメタゾンなど)の全身投与が行われていた。ステロイド薬の使用目的は主に、自己免疫疾患や炎症性疾患、感染症などの治療だった。 ステロイド薬の全身投与を受けた1万7,258人のうち316人(1.8%)が、入院中に糖尿病を発症していた。それに対して、ステロイド薬の全身投与を受けていなかった43万4,348人の中で糖尿病を発症したのは3,430人(0.8%)だった。年齢と性別の影響を調整後、ステロイド薬の全身投与を受けた患者の糖尿病発症リスクは2.6倍高いことが明らかになった。 Golubic氏は医療従事者に向けて、「われわれの研究データによって、ステロイド薬の全身投与による糖尿病発症リスクをより正確に予測できるようになった。これにより、ステロイド薬の全身投与を要する患者に対して、より計画的なケアを進められるようになるのではないか」とコメント。また、ステロイドの内服薬が処方されることのある喘息や関節炎などの患者に対しては、「糖尿病のモニタリングを受けるべきだ」と助言している。 なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。

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禁煙すると心房細動のリスクは短期間で低下する

 喫煙は心房細動のリスク因子だが、禁煙に成功するとそのリスクは速やかに低下することが明らかになった。米カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)のGregory Marcus氏らの研究によるもので、詳細は「JACC: Clinical Electrophysiology」に9月11日掲載された。研究者らは、「元喫煙者だからといって心房細動になると運命付けられてはいない」と述べている。 心房細動は不整脈の一種で、心臓の上部にある心房と呼ばれる部分が不規則に拍動する病気。このような拍動が現れた時の自覚症状として、動悸やめまいなどを生じることがある。しかしより重要なことは、心臓の中に血液の塊(血栓)が形成されやすくなり、その血栓が脳の動脈に運ばれるという機序での脳梗塞が起こりやすくなる点にある。このようにして起こる脳梗塞は、梗塞の範囲が広く重症になりやすい。 喫煙と心房細動の関連について、本論文の上席著者であるMarcus氏は、「喫煙が心房細動のリスクを高めるという強力なエビデンスがある。しかしその一方で、喫煙者が禁煙した場合の心房細動に関するメリットは明らかでなかった」とし、「われわれは禁煙によって心房細動の発症リスクが下がるのか、それともリスクは変わらないのかを知りたかった」と、研究背景を述べている。 この研究には、英国の大規模疫学研究「UKバイオバンク」に参加している現喫煙者や元喫煙者、14万6,772人(平均年齢57.3±7.9歳、女性48.3%)のデータが用いられた。このうち10万5,429人(71.8%)は元喫煙者、3,966人(2.7%)は研究期間中に禁煙した人で、3万7,377人(25.5%)は喫煙を続けていた。 平均12.7±2.0年の追跡で、1万1,214人(7.6%)が心房細動を発症した。年齢、性別、人種、BMI、教育歴、心血管合併症の既往、飲酒習慣、累積喫煙量(パックイヤー)を調整した上で心房細動の発症リスクを比較。すると、現喫煙者を基準として元喫煙者ではリスクが13%低く(ハザード比〔HR〕0.87〔95%信頼区間0.83~0.91〕)、研究期間中に禁煙した人では18%低かった(HR0.82〔同0.70~0.95〕)。 この結果についてMarcus氏は、「喫煙者に対し、今から禁煙したとしても遅すぎることはなく、また過去の喫煙歴があるからといって心房細動を発症する運命にあるわけではないことを示す、説得力のある新たなエビデンスを得られた。現在喫煙している人や長年喫煙してきた人でも、禁煙によって心房細動のリスクを下げられる」と話している。同氏はまた米国心臓病学会発のリリースの中で、「われわれの研究結果はおそらく、禁煙後には速やかに心房細動のリスクが低下することを示しているのではないか」とも述べている。

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進行メラノーマに対するオプジーボとヤーボイの併用療法が生存期間を延長

 ニボルマブ(商品名オプジーボ)とイピリムマブ(商品名ヤーボイ)の2種類の免疫チェックポイント阻害薬の併用療法により、進行メラノーマ患者の生存期間を大幅に延長できる可能性のあることが、10年にわたる追跡調査により明らかになった。米ワイル・コーネル・メディスンのJedd Wolchok氏らによるこの研究の詳細は、「The New England Journal of Medicine(NEJM)」に9月15日掲載された。Wolchok氏は、「これは、慣例を変える試験だった。対象患者の平均生存期間は現在6年を超えている。追跡3年時点でがんの進行が認められなかった患者は、10年後も再発や他の病気を発症することなく生存している可能性が高い」と話している。 がん細胞は、免疫チェックポイントという正常な免疫システムを利用して免疫細胞の攻撃を回避することが知られている。ニボルマブとイピリムマブはともに、T細胞にブレーキをかけるシグナルを阻害することでT細胞を活性化し、がん細胞を攻撃させる。 今回報告された研究は、ランダム化二重盲検第III相試験(CheckMate 067)の10年間の追跡調査の結果である。この試験では、世界21カ国のセンターで治療を受けた進行メラノーマ患者945人が、ニボルマブとイピリムマブによる併用療法を受ける群(併用療法群、314人)、ニボルマブ単剤療法を受ける群(ニボルマブ群、316人)、イピリムマブ単剤療法を受ける群(イピリムマブ群、315人)にランダムに割り付けられていた。治療は、病態進行や許容できない毒性が認められるか、患者が治療に対する同意を撤回するまで続けられた。 最低10年に及ぶ追跡期間における全生存期間中央値は、併用療法群で71.9カ月、ニボルマブ群で36.9カ月、イピリムマブ群で19.9カ月であった。併用療法群の死亡リスクはイピリムマブ群に比べて47%、ニボルマブ群の死亡リスクはイピリムマブ群に比べて37%低かった。メラノーマ特異的生存期間の中央値は、併用療法群では120カ月を超え(中央値には未到達)、ニボルマブ群で49.4カ月、イピリムマブ群で21.9カ月であった。さらに、3年間生存し、病態進行が認められなかった患者での10年間のメラノーマ特異的生存率は、併用療法群で96%、ニボルマブ群で97%、イピリムマブ群で88%であった。研究グループは、これらの治療では薬剤を長期にわたって服用する必要があることを安全性の懸念事項としていたが、追跡期間中に長期毒性は認められなかったという。 本研究には関与していない、米フォックス・チェイスがんセンター外科部長のJeffrey Farma氏は、「この追跡調査は、進行メラノーマ患者に対する免疫療法でわれわれが成し遂げた進歩と、状況がいかに劇的に変化したかを改めて浮き彫りにするものだ。本研究結果は、10年後も生存率が向上し続けていることを裏付けている」と述べている。 論文の共著者である米ダナ・ファーバーがんセンターのメラノーマセンターおよび免疫腫瘍学センター所長であるF. Stephen Hodi氏は、「この試験は現時点では、免疫療法の長期的な効果と免疫療法の併用で治療効果が改善する可能性を患者に説明する上で重要な要素となっている」と話す。同氏はさらに、「10年間の追跡調査を経て、われわれは、進行メラノーマを管理可能な慢性疾患に変え得る治療法が存在することを、患者に自信を持って伝え、将来に対する自信を持たせることができるようになった」と喜びを表している。

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呼吸によりマイクロプラスチックが脳に侵入する?

 人間の脳から初めて、顕微鏡でしか確認できない微小なプラスチック粒子(マイクロプラスチック)が検出された。ベルリン自由大学(ドイツ)のLuis Fernando Amato-Lourenco氏とサンパウロ大学(ブラジル)のThais Mauad氏らが率いる研究グループが、剖検された15人の成人のうちの8人において、脳の嗅覚を司る領域である嗅球からマイクロプラスチックが検出されたことを報告した。空気中に浮遊する小さなマイクロプラスチックはあらゆる場所に存在するため、生涯にわたって呼吸を通じて吸い込まれた可能性が高いと見られている。詳細は、「JAMA Network Open」に9月16日掲載された。 マイクロプラスチックは、すでに人間の肺や消化管、肝臓、血液、精巣、そして精液からも検出されている。これまで長い間、人間の身体で保護的な役割を担う血液脳関門(blood-brain barrier;BBB)がマイクロプラスチックの脳への侵入を防いでいると考えられてきた。しかし、今回報告された新たな研究により「マイクロプラスチックが嗅球を介して脳に移行する経路が存在する可能性が示された」と研究グループは説明している。 Mauad氏は、この研究の資金を提供したプラスチック使用削減を推進する団体であるプラスチック・ヘルス・カウンシルのニュースリリースの中で、「マイクロプラスチックよりもはるかに小さなナノプラスチックは体内に入り込みやすいため、体内のプラスチック粒子の蓄積量はさらに増えるかもしれない」との見方を示している。同氏は、「心配なのは、これらの粒子が細胞に取り込まれて身体の機能に影響を及ぼすことだ」と付け加えている。 この新たな研究は、ブラジルのサンパウロの住民で、死後にルーチンの剖検が実施された15人から採取された脳組織を用いて行われた。死亡時の年齢は33~100歳(平均年齢69.5歳、男性12人)だった。 その結果、15人中8人の脳の嗅球で、合計16個の合成ポリマー(プラスチック)の粒子と繊維(粒子75%、繊維25%)が確認された。合成ポリマーの中で最も多かったのはポリプロピレン(43.8%)であった。マイクロプラスチックの粒子径は5.5〜26.4μm、平均繊維長は21.4μmだった。ポリプロピレンは、包装材から衣料品、家庭用品に至るまで、あらゆるものに使用されている最も一般的なプラスチックだ。研究グループは、「こうした結果は、室内環境が体内に吸い込まれたマイクロプラスチックの主な発生源であることを示唆している」と述べている。 では、マイクロプラスチックはどのようにして脳に侵入するのだろうか。Amato-Lourenco氏らは、鼻粘膜が脳脊髄液と相互作用し、鼻の奥の骨構造(篩骨)の微細な「穿孔」を介してマイクロプラスチックが嗅球に侵入する可能性を指摘している。この研究には関与していない米ロングアイランド・ジューイッシュ医療センターのWells Brambl氏は、「鼻で呼吸するとき、嗅神経が直接的な知覚メカニズムとして吸い込んだプラスチック粒子を検知し、反応する。そこにはBBBは存在しないことから、脳への直接的なアクセスがもたらされる。そして最も重要なのは、嗅神経の真上には意識の中枢と考えられている前頭葉と前頭前野があることだ」と説明する。 マイクロプラスチックが脳の健康に影響を与える可能性について、Amato-Lourenco氏らは「まだ不明」としているものの、「可能性はある」との見方を示している。同氏らは、「脳におけるマイクロプラスチックに起因する神経毒性作用の可能性と、プラスチックによる環境汚染の広がりを考慮すると、パーキンソン病や筋萎縮性側索硬化症(ALS)などの神経変性疾患の有病率が増加している状況下では、今回の研究結果は懸念をもたらすものだ」と述べている。

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脳卒中後には睡眠パターンが変わる?

 一晩の正常な睡眠時間は6〜8時間と考えられているが、脳卒中生存者の中でこの健康的な睡眠時間を維持できている人は半数以下に過ぎないことが、新たな研究で明らかにされた。この研究では、脳卒中の既往がある人の多くで、一晩の睡眠時間が長過ぎるか短過ぎるかのいずれかであることが示されたという。米デューク大学医学部のSara Hassani氏らによるこの研究の詳細は、「Neurology」に9月11日掲載された。 論文の筆頭著者であるHassani氏は、「適切な睡眠時間は、理想的な脳と心臓の健康に不可欠だと考えられている。長過ぎたり短過ぎたりする睡眠は脳卒中後の回復に影響し、生活の質(QOL)を低下させる可能性がある。この研究結果を受けて、脳卒中の既往がある人が睡眠問題を抱えていないかを検査し、問題がある人の睡眠習慣を改善する方法を検討すべきだ」と主張している。 この研究では、米国国民健康栄養調査(NHANES)の2005年から2018年のデータを用いて、18歳以上の成人3万9,559人を対象に、正常な睡眠時間を維持している人の割合を、自己報告による脳卒中の既往がある人とない人との間で比較した。対象者の中で脳卒中の既往があることを報告したのは1,572人であった。対象者は2年おきに、ウィークデーと週末の夜間の睡眠時間についての報告が求められており、その報告内容を基に、睡眠時間を、「短い」(6時間未満)、「正常」(6〜8時間)、「長い」(8時間超)の3つのカテゴリーに分類した。 その結果、3つの年齢層(18〜44歳、45〜64歳、65歳以上)を問わず、脳卒中の既往がある人ではない人に比べて、「正常」な睡眠時間を維持している人が少ない傾向にあり、その割合は、18〜44歳では32%対54%、45〜64歳では47%対55%、65歳以上では45%対54%であった。年齢や体重、高血圧などの睡眠に影響を与え得る因子を考慮して解析した結果、脳卒中の既往がある人ではない人に比べて、睡眠時間が8時間超であることを報告する可能性が54%(オッズ比1.54、95%信頼区間1.22〜1.94)、6時間未満であることを報告する可能性が50%(同1.50、1.21〜1.85)有意に高いことが示された。 Hassani氏はNeurology誌のニュースリリースの中で、「過去の研究では、脳卒中は睡眠障害、特に睡眠時無呼吸と関連付けられている。脳卒中の既往がある人には、不眠症や過度の眠気などの症状がよく見られるが、そうした症状は、脳卒中自体の直接的または間接的な結果として生じている可能性がある。今後の研究では、脳卒中と睡眠時間の関係をさらに調査し、睡眠時間が脳卒中後の転帰に与える影響を明らかにする必要がある」と述べている。

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セラピー犬は医療従事者の気分を改善する

 セラピー犬は、病院の患者の気分を明るくするのと同じように、医療従事者の気分を高めるのにも役立つことが、新たな研究で明らかになった。この研究では、セラピー犬セッションにより、米国中西部の外科病棟と集中治療室で働く少数の医療従事者の気分の改善したことが確認されたという。詳細は、「International Journal of Complementary & Alternative Medicine」に7月26日掲載された。 論文の筆頭著者である、米オハイオ州立大学統合健康センターのBeth Steinberg氏は、「病院のスタッフが、われわれが連れて行った犬と一緒に座り、その日の出来事を話しながら涙を流すのを何度も目撃した」と振り返る。同氏はさらに、「たいていの人は、傍に座ってじっと話を聞いてくれる、偏見のない、毛むくじゃらのやさしい動物に親しみを感じるものだ。犬は、あなたの容貌やその日の気分など気にしない。ただ、あなたが自分を必要としていることを感じ取り、寄り添ってくれるのだ」と述べている。 Steinberg氏は、オハイオ州立大学ウェクスナー医療センターのスタッフの精神的・情緒的健康の改善を目的に考案されたセラピー犬プログラム「Buckeye Paws」の共同創設者だ。Buckeye Pawsは、パンデミックが過重労働の医療従事者に打撃を与え始める直前の2020年3月に設立された。 このプログラムが実際に効果を上げているのかどうかを調べるため、研究グループは64人の医療従事者を対象にセラピー犬セッションを実施した。参加者には、医師、看護師、ナースプラクティショナー、呼吸療法士、リハビリテーション療法士、患者ケア担当者、病棟事務員が含まれていた。 Steinberg氏は、「この研究への参加者は信じられないほど簡単に集まった。『セラピー犬との交流の効果を調べる研究を実施する』と言うと、すぐに多くの人が『参加します』と答えたからだ」と振り返る。同氏は、「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が病院に大きな打撃を与える以前でさえ、スタッフはすでにストレスやバーンアウト(燃え尽き症候群)、仕事への意欲の欠如に悩まされていた」と話す。 ほとんどが病院のスタッフのボランティアで構成されたBuckeye Pawsのハンドラーは、2021年10月から2022年3月までの間に、8週間にわたり週3回、認定セラピー犬7頭を連れてきて、試験参加者と交流させた。参加者は、犬と好きなだけ交流できたが、犬との交流の前後に、ストレス、バーンアウト、ワークエンゲージメントを測定する評価尺度に回答するとともに、気分について自己申告することが求められた。介入の効果はセッション待機者を対照群として検討された。 医療従事者とセラピー犬とのやり取りのほとんどは、臨床ワークステーションやチームルーム、休憩室でのほんの数分間程度のものだったが、結果として、短時間のセッションでも医療従事者に大きな影響を与えることが示された。ストレス、バーンアウト、ワークエンゲージメントについては介入による有意な改善は認められなかったものの、セラピー犬とのセッションを受けた人では、対照群と比べて自己報告による気分が有意に向上していた。 研究グループは、「われわれの研究結果は、入院患者の治療を行う慌ただしい臨床の現場で、動物を用いた介入が医療従事者の気分の改善を通じて即時のベネフィットをもたらす可能性があることを示唆している」と述べている。 Buckeye Pawsは2022年3月に拡大し、現在はオハイオ州立大学の学生と教職員に、セラピー犬による支援を提供している。研究グループによると、現在、このプログラムには29チームの犬ハンドラーチームが参加しており、さらに11チームがトレーニング中、8チームがそのプロセスを開始しているという。

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1日2回以上の歯磨きで児童のレジリエンス向上か―貧困下で特に顕著

 歯磨きの頻度が高い子どもはレジリエンスが高く、特に貧困に該当する子どもでこの関係が強固であるとする研究結果が報告された。東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科公衆衛生学分野※の藤原武男氏らの研究によるもので、詳細は「BMC Oral Health」に8月10日掲載された。 貧困は健康リスク因子の一つとして位置付けられていて、成長過程にある子どもでは、その影響が成人後にも及ぶ可能性も指摘されている。また幼少期の貧困は、レジリエンスの低下につながることが報告されている。レジリエンスとは、ストレスやトラブルに対応して逆境から立ち直る精神的な回復力であり、レジリエンスの高さは、うつ病や不安症などのメンタルヘルス疾患のリスクの低さと関連がある。 幼少期の貧困そのものは修正困難であるため、レジリエンスの発達にはコストのかからない修正可能な因子を見いだす必要がある。一方、これまでの研究から、歯磨きの頻度が幼少期の自己管理能力と関連することや、歯磨き頻度が低い小学生に不登校が多いことなどが報告されている。これらを背景として藤原氏らは、子どもの歯磨きの頻度とレジリエンスとの関連を検討し、その関連が貧困の有無によって異なるのかを検討した。 この研究は、東京都足立区内の全ての公立小学校の生徒を対象に行われた、「足立区子どもの健康生活実態調査」のデータを利用する縦断的研究として実施された。2015年に小学1年生5,355人の貧困、レジリエンス、および歯磨きの頻度などが調査され、4,291人の保護者が回答(回答率80.1%)。2018年に子どもたちが小学4年生になった段階で追跡調査を行い、3,519人(追跡率82.0%)が回答し、データ欠落のない3,458人(平均年齢9.59±0.49歳、男児50.6%)を解析対象とした。 貧困は、1年生時点で(1)世帯収入300万円未満、(2)物理的剥奪(経済的理由のため、本やスポーツ用品、必要度の高い家電製品を購入できないなど)が一つ以上、(3)支払い困難(給食費、住宅ローン、電気代、電話代、健康保険料などを払えない)が一つ以上――のいずれかに該当する場合と定義した。レジリエンスは、「子どものレジリエンス評価スケール(CRCS)」という指標で評価した。CRCSは「最善を尽くそうとする」、「からかいや意地悪な発言にうまく対処する」、「必要な時に適切な助けを求める」などの8項目の質問から成り、合計100点満点に換算するもので、スコアが高いほどレジリエンスが高いと評価される。 1年生時点での貧困児童の割合は23.0%だった。歯磨きの頻度については、1日2回以上が77.5%であり、貧困に該当する場合はその割合が有意に低かった(79.4対71.4%、P<0.001)。レジリエンスを表すCRCSのスコアは、1年生時点で46.87±12.11点、4年生時点では69.27±16.3点だった。4年生時点のCRCSスコアを、1年生時点の貧困の有無と歯磨きの頻度別に見ると、貧困なしの場合、歯磨き頻度が1日2回未満では67.6点、1日2回以上では70.8点、貧困ありでは同順に62.0点、68.0点だった。 レジリエンスに影響を及ぼし得る因子(性別、同居中の親・祖父母の人数、母親の年齢・教育歴・就労状況・メンタルヘルス状態〔K6スコア〕)を調整後、1年生時点で貧困に該当していた子どもはそうでない子どもに比べて、4年生時点のCRCSスコアが有意に低かった(-1.53点〔95%信頼区間-2.91~-0.15〕)。また、1年生時点の歯磨き頻度が1日2回以上の子どもは2回未満の子どもに比べて、4年生時点のCRCSスコアが有意に高かった(3.50点〔同2.23~4.77〕)。 次に、前記の調整因子のほかに1年生時点のCRCSスコアも調整したうえで、1年生時点の歯磨き頻度と4年生時点のCRCSスコアとの関係を、貧困の有無別に検討した。すると、貧困なしの場合、歯磨き頻度が1日2回未満と以上とで、CRCSスコアに有意差がなかったが(0.65点〔-0.57~1.88〕)、貧困に該当する場合は、1年生時点の歯磨き頻度が1日2回以上の群のCRCSスコアの方が有意に高かった(2.66点〔0.53~4.76〕)。 これらの結果に基づき著者らは、「日本の小学生を対象とした縦断的研究により、1日2回以上の歯磨きが子どものレジリエンスの発達に及ぼし得る影響は、貧困に該当する子どもでより顕著であることが明らかになった。歯磨きという実践しやすい行動に焦点を当てた保健政策が、貧困児童の精神的健康にとって役立つのではないか」と述べている。 なお、歯磨きが貧困児童のレジリエンスにプラスの影響を与えることの理由として、以下のような考察が加えられている。まず、貧困という環境では種々の要因から炎症が発生しやすく、慢性炎症がレジリエンスを低下させると報告されているが、歯磨きによって炎症が抑制されることでレジリエンスへの負の影響も抑えられるのではないかという。また、歯磨きという“少し面倒な”ライフスタイルを保つことが、子どもの自己管理能力とレジリエンスを醸成する可能性があるとのことだ。(HealthDay News 2024年9月24日)※東京医科歯科大学は東京工業大学と統合し2024年10月1日より、国立大学法人「東京科学大学」に改称予定。

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リンパ節腫脹の有無を確認する方法

患者さん、それは…リンパ節腫脹 かもしれません!リンパ節は、正常でも顎下部や頸部に直径1 cm以下で軟らかく、鼠径部では直径2 cm以下のものに触れることがあり、「リンパ節腫脹」の場合はそれ以上の大きさになります。以下のような症状はありませんか?□発熱している□しこりが 1個以上触れる□しこりが動かない□表面に凹凸がある□圧痛/自発痛がある□しこりが硬い□喉や歯の痛みがある □身体がだるい□関節も腫れている□腫れているのは1ヵ所だけだ◆そのリンパ節腫脹は…全身疾患のせいかも!?• 38℃以上の発熱はありますか• 体重が5%以上減っていませんか(例:急に55㎏→52㎏くらいにやせた)• 寝ていて下着を取り換えなければならないほど、汗をかきますか?出典:内科学第10版_リンパ節腫脹、MSDマニュアルプロフェッショナル版_リンパ節腫脹監修:福島県立医科大学 会津医療センター 総合内科 山中 克郎氏Copyright © 2022 CareNet,Inc. All rights reserved.

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第232回 医学研究における国内受賞者の“ある共通点”、ノーベル賞から考えたこと

ここ2週間ほどのニュースの中心は、衆院解散と来たる総選挙が多くを占めている。渦中の新首相・石破 茂氏は、首相就任後、その言動の変節が話題となっている。その1つが選択的夫婦別姓を巡る問題である。総裁選中は「選択的なのだから否定する理由はない」としていたが、10月8日の参院代表質問では「夫婦の氏に関する具体的な制度のあり方については、国民の間にさまざまな意見があるものと承知している。 家族の在り方の根幹に関わる問題でもある。政府といたしましては国民の意見や国会における議論の動向を踏まえ、必要な検討を行いたい」と賛否すら明示しない官僚答弁に終始した。さてこのジェンダー問題は医学界でも長年指摘されてきた。昨今のわかりやすい事例を挙げるならば、東京医大をはじめとする複数の医学部で発覚した入試の女性差別問題である。もちろんこうしたことは氷山の一角に過ぎないだろう。そもそもパワハラ、アカハラ、セクハラなどの各種ハラスメントに対する認識が社会に定着し始めたのは、まだ最近のことだからだ。そしてちょうどこの時期、ノーベル賞各賞の受賞者が発表されたが、生理学・医学賞に着目してみると、創設以来の受賞者229人のうち女性受賞者は今年までで13人、全体の5.7%とかなり少ない。実はこれでもノーベル賞の自然科学系各賞の中では最も多い。ちなみに医学界では名高いアルバート・ラスカー医学研究賞(全4部門)の今年までの女性受賞比率は8.3%である。もちろん工学、農学、医学などを含む広義の自然科学系の研究に女性が進出した歴史はまだ浅いと言わざるを得ないことを鑑みれば、少なくとも現時点での世界標準の医学関連賞の女性受賞比率は一桁後半が妥当なのだろう。そうした中で南ドイツのエバーハルト・カール大学テュービンゲンの生化学研究所で創薬を研究する秤谷 隼世(はかりや はやせ)氏らが今年9月に「Health Science Report」に発表した「Gender disparities among prestigious biomedical award recipients in Japan: A cross sectional study(日本の権威ある生物医学賞受賞者での男女格差:横断的研究)」1)の内容が興味深い。秤谷氏が調べた医学賞とその結果研究は医学・生物医学系の研究に与えられる武田医学賞(創設1954年)2)、上原賞(同1985年)3)、慶應医学賞(同1996年)4)の受賞者を対象に行っている。「なぜこの3賞?」と思う人も少なくないだろう。これは論文に理由が記載されている。まず、これらがいずれも創設以来の受賞者全員の身元が公開されていること。武田医学賞は歴史が長く、慶應医学賞は国内と海外各1名が毎年選出されるため、国内受賞者と海外受賞者の男女比を比較できること、上原賞は前記2つの賞の中間的年代に設立されたためとしている。また、賞としては有名でも人文科学、社会科学、自然科学のさまざまな分野から候補者が入る賞に関しては、医学・生物医学領域での潜在的なバイアスと区別するため除外された。結論から言うと、この3賞内の重複受賞者、慶應医学賞の海外研究者部門を除く2023年までの国内総受賞者182人のうち女性は2人のみ。全受賞者に占める女性受賞比率はたった1.1%。なんという低さだろう。しかも、慶應医学賞の海外研究者部門の女性受賞比率は11.1%なのにだ。しかし、論文内の記述で私がもっとも驚いたのは初の女性受賞者が2015年の武田医学賞とごく最近だったこと。残る1人も武田医学賞の受賞者だ。論文内では、各賞の全受賞者の最終学位(博士号)取得から受賞までの平均年数を26~30年と算出している。ちなみにこの数字は慶應医学賞の海外研究者部門は32年、2023年までのラスカー受賞者は30年である。つまるところ日本人研究者も外国人研究者も博士号取得から受賞できるような実績を示すまでに要する時間はほぼ同じであり、女性受賞率が慶應医学賞海外研究者部門やラスカー賞に比べ、これら3賞では極端に低いことには日本特有の原因があると推察される。論文ではその一因として女性研究者の博士号取得者の少なさがあるのではないかと推定している。カギとなるのは前述のように博士号取得から受賞まで30年前後という期間を考慮した約30年前の女性研究者の博士号取得実態。論文内では1995年の自然科学分野の博士号取得者に占める女性割合は、日本が15.6%に対してアメリカが41.1%と報告しているもっとも論文では、より直近の2014〜23年に限定して国内3賞の女性受賞比率を算出しても3.8%に過ぎず、1995年時点の博士号取得者の女性比率から見てもかなり低いことに疑問を呈している。そこでもう1つの要因として推定しているのが3賞の選考過程である。選考委員名が完全に公開されている慶應医学賞の選考委員男女比は、最新の2023年が男性12人、女性4人だったが、2021年時点では男性12人、女性1人。いずれにせよ男女比が極めて不均衡である。また、武田医学賞と上原賞は、候補者選定時に、ほぼ男性のみである過去の受賞者からの推薦が可能となっている。無意識に意識した受賞者像このようなことから、論文では今回わかった国内3賞の女性受賞比率が著しく低い点について、アンコンシャス・バイアス(無意識な偏見)が働いていたのではないかとの考察を示している。ちなみにアンコンシャス・バイアスの傍証として、武田医学賞では受賞資格に国籍は問わないとしているにもかかわらず、過去の受賞者に外国人がいないことも挙げている。ざっくりまとめるならば、日本人男性社会の典型とも言えた医学界では、医学関連賞の候補者、受賞者の決定時に無意識に「日本人男性」を選出していたのではないかというわけだ。この指摘に対しては「いや、ちょっとジェンダー問題に偏り過ぎな見方では?」との声もあるかもしれない。しかし、私はこの論文の指摘には一理ありと思っている。まず、今回の論文を読んでふと私の頭に浮かんで参照したのがドイツのベーリンガーインゲルハイムの日本法人・日本ベーリンガーインゲルハイムが主催している卓越した医学研究論文に贈られるベルツ賞である。というのも前述の論文で分析対象となった武田医学賞、上原賞は、それぞれ日本を起源とする武田薬品、大正製薬の関連財団が主催している。内外差が見えてくるのではないかと考えたのだ。ベルツ賞創設は1964年と歴史は古い。前述の3賞と決定的に違うのは、毎年あらかじめ決めたテーマで公募する点だ。また、受賞者は論文共著者も含まれる。ざっと過去からの受賞者を眺めまわすと、極めて懐かしいご重鎮の名前があちこちに登場する。さてこの受賞者一覧5)を眺めまわし、明らかに女性とわかる名前を拾い上げて算出した女性受賞比率は3.8%。前述の3賞よりも明らかに高い。しかも、最も早い時期では1970年代に女性受賞者がいる。この違いはやはりドイツと日本の国情や文化ではないだろうか? 「それこそアンコンシャス・バイアスでは?」と言われそうだが、ドイツのほうが社会としてジェンダー問題の解消面で日本の一歩先を行っていることに異論がある人はいないだろう。この点の“傍証”とも言える事実もある。ベルツ賞の選考委員は賞創設時から公開されているのだが、その多くは古き良き(悪しき?)日本を代表する男性のご重鎮ばかり。だが、1つ異なるのは創設時から日本法人トップの外国人が加わっていた点である。ちなみに近年のベーリンガー日本法人はトップが日本人だった時期もあり、その時期は彼ら(2人)が選考に参加している。しかし、ともに外資系を渡り歩いてきたことで有名な人である。こうした点からもドイツ・日本、あるいは内外のジェンダーに関する認識の違いが影響している可能性は否定できない。グローバル化で医学賞にも変化そして今回の論文で唯一の女性受賞者がいた武田医学賞だが、最初の受賞者が2015年と知って前述のように驚いた反面、この時期にハッとした。ご存じのように同賞の大元の母体と言ってよい武田薬品は、浪花商人のコテコテ内資製薬企業から海外進出を果たし、2008年には米・ミレニアム社、2011年にはスイス・ナイコメッド社を買収して、本格的なグローバル化へと突き進んだ。2014年には創業以来初の外国人社長であるクリストフ・ウェバー氏が就任し、2019年には約7兆円もの巨額の資金を投じてアイルランドのシャイアー社を買収して、メガファーマ入りした。実は2008年のミレニアム社買収後、武田は元ミレニアム社長のデボラ・ダンサイア氏を初の女性取締役に迎え、2015年にはウェバー氏の下で組織された経営陣グループ「武田エグゼクティブチーム」に初めて女性のラモナ・セケイラ氏(現同社グローバル ポートフォリオ ディビジョン プレジデント)を迎えている。ちなみにセケイラ氏は、大学で分子遺伝子学と分子生物学を学んでいる。要は国を超えた感覚が移入されたことは、武田医学賞にも間接的に変化をもたらしたのではないかと私は勝手ながら推察している。となるとこの医学界でのジェンダー問題解決には“黒船到来”が必要ということなのか? いや、もうそんな悠長なことを言っていたら、それこそ日本沈没だと思うのだが。参考1)Hakariya H, et al. Health Sci Rep. 2024;7:e70074.2)武田医学賞:歴代受賞者一覧3)上原記念生命科学財団:これまでの上原受賞者4)慶應義塾医学進行基金:慶應医学賞受賞者一覧5)ベルツ賞:過去の受賞者

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海外旅行が資産形成になる意外な理由とは【医師のためのお金の話】第85回

海外旅行は贅沢品の王様ではないでしょうか。海外に行くためには、お金だけではなく、たくさんの時間も必要です。ただでさえ医師は忙しい。そんな私たちが海外旅行するのは、とてもハードルが高いですね。時間のなさだけではなく、周囲からの目も気になるところ。「旅行に行く」印象をカモフラージュするため、旅行がてらに学会参加する医師は珍しくありません。あなたも一度ぐらい、学会ついでに旅行したことがあるのではないでしょうか。また、昨今の超円安のために、海外旅行に行くハードルはさらに高まりました。主要国では、日本より物価の安い国を見つけることすら難しい状況です。しかし、娯楽と思われている海外旅行が、実は資産形成にとても役立つと聞くと驚くのではないでしょうか。「またまた、そんな大げさな」という声が聞こえてきそうですね。しかし、私は本気で海外旅行は資産形成に役立つと考えています。今回は、私が海外旅行を資産形成の一環と捉えている理由をお話ししてみましょう。院長就任後1ヵ月で2週間も海外旅行へ!?私事ですが、2024年8月にジョージアとトルコを2週間旅行しました。今回は、コロナ禍明け6回目の海外旅行です。医師なのに2週間も海外旅行に行くとは、かなりぶっ飛んだ奴だと思う方が多いかもしれません。たしかに、私の行動はフツーではないです。2000年代前半のサラリーマン大家など皆無の時代に、不動産投資に徒手空拳で飛び込みました。株式投資では、リーマンショックやコロナショックで大底まで買い下がります。きっとアタマのネジの緩んだ人に違いない…。もちろん、そのような意見を全否定はしませんが、私は協調性のある常識人を自任しています。その証拠に(?)海外旅行の1ヵ月前に、従業員数約1,200人の医療法人グループの院長に就任しました。院長に推された理由は、院内の調整役として適任だからだそうです。また母校の大学からは、臨床教授を拝命しています。職場や医局と波風立てず、良好な関係を築いている証左だと考えています。このように一見すると常識人である私が、なぜ2週間も海外旅行に行くという普通の人がしない行動をするのでしょうか。その理由は、非日常の体験が資産形成に非常に役立つと考えているからです。海外旅行には資産形成に必要なものが全てある!?社会人になってからの海外旅行では、計画性、体調管理、そしてトラブルに対する機転が重要です。限られた予算と時間の中で、いかにして自分の行きたい所を組み込むかは難しい。あらゆる情報を集めて、自分の頭で考えなければいけません。滞りなく旅行を続けるには体調管理が必須です。また、インターネットが発達した世の中ではありますが実際に海外に行くと予定どおりに事は進まないのです。今回、私はジョージアとトルコを2週間かけて旅行しましたが、案の定トラブルの連続でした。ネットや書籍で得られる情報には限界があるため、どうしても現地での判断が必要となります。限られた時間と情報の中から、如何にして最善の選択をするのかが海外旅行では重要です。いわゆる判断力が問われる局面ですね。たとえばジョージアではコーカサス山脈のロシア国境10kmの小さな村に滞在しました。行きは日帰りツアーに便乗したのですが、途中で脱落して私だけ宿泊しました。しかし、首都のトビリシまで戻る手段の情報をネットではどうしても得られません。現地で色々な人を捕まえて拙い英語でやり取りして、ようやく帰る手段を確保しました。このような経験は、私にとって決して特別なものではありません。いわゆる道なき道を行くような感覚は、起業や資産形成にも通じます。強制的に常識を塗り替える海外旅行に行く最大のメリットは、日本での常識をリセットすることだと思います。海外という住み慣れた日本とはまったく異なる環境に身を置くことで、日常に染まった脳内の風景を強制的に塗り替えるのです。常識を塗り替えることで、新たな気付きや閃きを得られる機会が増します。同じ環境に居続けるとなかなか面白いアイデアは浮かんできません。しかし、周りの環境を強制的に変化させると、新たなアイデアが降ってくる可能性が高まります。このことは、資産形成においてとても重要です。たとえば、2ヵ国目に行ったトルコでは、凄まじい通貨安が進行しています。通貨安の国の実際がどのようなものかを知りたくてトルコに行きましたが、現地の人には思ったほど緊迫感がありませんでした。一方、値札がどんどん差し替えられる日常は、日本人的な感覚では驚きでした。一般的に通貨安の国は、海外から見ると物価が安いと思われています。しかし実際にトルコに行ってみると、日本より少し安いかなぐらいで、極端に物価が安いという印象はありませんでした。ユーロや米国ドル建ての物価は決して安くなく、単にトルコリラの額面上の金額がどんどん上がっているだけです。ある程度はネット情報で知っていましたが、実際に現地で経験すると、身をもって通貨安の国が置かれている状況を理解できました。通貨安は日本でも大問題です。日本の常識に縛られていては、投資や事業で思わぬ落とし穴にはまる可能性があります。どうやって安全に資産形成を進めていくのか。海外の先行事例を肌感覚として理解することは、資産形成においてとても重要ではないかと思います。

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日本におけるうつ病に対するベンゾジアゼピン長期使用の分析

 うつ病および不眠症を合併している患者では、持続的な不眠症のマネジメントのために抗うつ薬と併用してベンゾジアゼピン薬(BZD)やZ薬などの睡眠薬がよく使用される。しかし、うつ病患者に対する睡眠薬の長期使用に関連する要因は、あまりよくわかっていない。久留米大学の土生川 光成氏らは、不眠症を合併したうつ病患者に対する睡眠薬併用の長期的な状況を分析した。Journal of Psychiatric Research誌2024年10月号の報告。 抗うつ薬と睡眠薬(BZD /Z薬)を開始したうつ病患者351例のデータをレトロスペクティブに分析し、12ヵ月時点での睡眠薬の長期使用率と関連する要因を調査した。長期使用についてロジスティック回帰分析を用いて、不眠症重症度を縦断的に評価した32例の患者において、睡眠薬継続群と中止群の間で不眠症重症度を比較した。 主な結果は以下のとおり。・12ヵ月間睡眠薬を使用した患者の割合は、66.1%であった。・多重ロジスティック回帰分析では、睡眠薬の長期使用と関連していた因子は、併用治療開始時の睡眠薬のジアゼパム換算量5mg超、うつ病診断前の慢性不眠症、入院であった(各々、p<0.01)。・不眠症重症度の不十分な改善と睡眠薬長期使用との関連も示唆された。・これらの結果の信頼性は、睡眠薬への依存、睡眠薬使用に対する患者の態度、鎮静性抗うつ薬や抗精神病薬など他剤で治療されている患者の除外など、さまざまな因子により弱められた。 著者らは「本結果は、不眠症を合併したうつ病患者の治療戦略に役立つ可能性がある。睡眠薬の長期使用を避けるには、併用治療開始時の投与量(5mg以下)を適切に維持する必要があり、難治性不眠症にはBZD/Z薬の代替治療を行う必要がある」と結論付けている。

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男性乳がんの病理学的特徴と生存期間

 男性の乳がんは女性の乳がんと同様の治療戦略で管理されている。今回、中国・空軍軍医大学西京病院のMeiling Huang氏らは、自施設における男性乳がんの臨床病理学的特徴、治療、生存期間について後ろ向きに分析・報告した。American Journal of Men's Health誌2024年9・10月号に掲載。 本研究は2006年8月~2024年3月に西京病院に入院した男性乳がん患者66例を対象とした。データは病院記録と西京病院の乳がんデータベースから収集した。 主な結果は以下のとおり。・男性乳がんの罹患率は2018年から増加傾向にあり、女性乳がん患者よりも高齢であった。・最も多い組織型は浸潤がんで、ホルモン受容体陽性であった。・計62例(93.9%)に修正根治的乳房切除術が施行されていた。・化学療法は39例(59.1%)、内分泌療法は14例(21.2%)、放射線療法は9例(13.6%)に施行されていた。・全生存期間中央値は46.7ヵ月(0.9~184.8ヵ月)で、最新データでは58例(87.9%)が生存している。・生存期間と有意に関連する因子は、年齢(χ2=3.856、p=0.050)、エストロゲン受容体(χ2=10.427、p=0.005)、分子タイプ(χ2=10.641、p=0.031)、p63(χ2=2.631、p<0.001)、内分泌療法(χ2=31.167、p<0.001)であった。 著者らは「これらの結果は男性乳がんに関する貴重な知見を提供し、標準治療の参考となる」としている。

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