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心電図所見から夜間の自殺企図を予測できる?

 精神疾患と心電図所見の関連については多くの研究が行われている。新たな研究として、自殺企図歴のある日本人の精神疾患患者を対象に、夜間の自殺企図と心電図の波形との関連が検討された。その結果、早期再分極を示す心電図により、夜間の自殺企図を予測できる可能性のあることが示された。東京慈恵会医科大学附属柏病院精神神経科の亀山洋氏らによる研究結果であり、「Neuropsychopharmacology Reports」に3月17日掲載された。 早期再分極パターン(early repolarization pattern;ERP)は、心電図におけるQRS-ST接合部(J点)の上昇(スラーやノッチと呼ばれる波形)を特徴とする。ERPは男性に多く、健常人にも見られるが、精神疾患との関連が報告されており、自殺企図などの衝動性と関連する可能性も示唆されている。自殺行動は夜間の時間帯に多いことが知られているため、その危険性を事前に予測することが重要となる。 そこで著者らは、自殺企図歴があり、2015年1月から2023年1月に東京慈恵会医科大学附属柏病院精神神経科を受診、または身体科入院中に精神神経科が介入した精神疾患患者で、心電図検査を行った人を対象とする後ろ向き症例対照研究を行い、心電図におけるERPと夜間の自殺企図との関連を検討した。全身状態が悪いなど心電図に影響が及ぶ可能性のある患者、自殺企図の時間帯が不明な患者、夜間(18時~6時)の心電図しか記録されていない患者などは対象から除外し、日中に記録された最初の心電図を用いて評価した。 評価対象者43人(男性17人、女性26人)のうち、ERPのある患者は21人(平均年齢46.9±18.7歳、男性9人)、ERPのない患者は22人(同55.7±19.1歳、同8人)だった。自殺企図が夜間に行われたのは、男性、女性のどちらも11人ずつだった。夜間の自殺企図の割合は、ERPのある患者で76.2%、ERPのない患者で31.8%だったが、この差は統計学的に有意ではなかった。 自殺企図の行われた時間帯を比較すると、ERPのある患者では早朝5時と夜間21時が最も多かった。一方、ERPのない患者では8時と14時が最も多く、早朝や夜間の自殺企図は少ないという特徴が見られた。また、心電図所見を比較したところ、心拍数、QRS間隔、QTc間隔について、ERPの有無で有意な差は認められなかった。 さらに、夜間の自殺企図との関連を検討するため、ERP、男性、50歳代を独立変数としてロジスティック回帰分析を行った。その結果、ERPは夜間の自殺企図に対する有意な予測因子であることが明らかとなった(オッズ比5.25、95%信頼区間1.32~20.8)。一方、男性(同2.50、0.61~10.2)および50歳代(同3.07、0.22~43.3)に関しては、夜間の自殺企図の有意な予測因子ではなかった。 以上の結果について著者らは、単一施設での後ろ向き研究であること、症例数が少なかったことなどから一般化可能性には限界があるとした上で、結論として、「ERPと夜間の自殺企図との関連が明らかになり、ERPから夜間の自殺企図を予測できる可能性が示唆された」と述べている。

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50年代のすでに廃れた治療法に、もう一度光が当たるのか?(解説:野間重孝氏)

 冠状静脈洞減圧術(Coronary Sinus Decompression:CSD)という名称で呼ばれる処置は、奇しくも1950年代のほぼ同時期に、まったく異なった2つの分野で開発された。1つはこの論文の研究対象となっている冠動脈疾患治療目的のCSDであり、もう1つは先天性心疾患の治療目的で開発されたCSDである。混乱を避ける意味でも、まず後者について簡単に解説した後、本題に入りたいと思う。 先天性心疾患治療目的のCSDは冠静脈洞の形態異常や機能障害を有する患者の治療目的で開発されたもので、冠静脈洞型心房中隔欠損症、冠静脈洞閉鎖、冠静脈洞狭窄などを対象としており、そもそもは冠静脈洞型心房中隔欠損症を対象として開発された。もちろん開胸手術であり、当時、施行には高度なテクニックが必要であった。後に、より安全に施行できるデバイスの開発がなされ現在でもまだ行われているが、冠静脈洞型心房中隔欠損症そのものがきわめてまれな疾患のため、一部の専門の方を除いてはおそらくご存じでない方が多いのではないかと推察する。ここでは、とにかく今回の論文の内容とこの先天性心疾患治療手技は、名前は同じでもまったく別のものである点にのみご注意いただければ十分である。 さて、そこで問題の冠動脈疾患治療目的のCSDである。すでにおわかりのとおり、1950年代には経皮的冠動脈形成術はもちろん、バイパス手術も存在しなかった。その代わりに画期的な治療法として注目されていたのが、当時新しく開発されたCSDだった。具体的には開胸の後、冠静脈を露出させ、拡張術や冠静脈洞にバイパス手術が行われた。この治療法のメカニズムについてはいろいろと議論がなされるが、基本的にはわかりやすいもので、血液は高圧領域(つまり動脈領域)から低圧領域(つまり静脈領域)に流れるのだから、両領域の圧格差を大きくし、さらに静脈血をすばやく取り除くことで流れをよくすれば、より多くの血液が流れるであろうというものである。よく心筋灌流再分布であるとか冠微小循環の改善などを挙げる人がいるが、50年代にそのような概念はまだ確立されてはいなかった。 当時の研究法は現在とは違い厳密な統計学を用いた方法ではなかったから、その結果の解釈には一定の限界があるが、胸痛の改善、運動能力の向上、左室機能の改善、死亡率の低下などの利点が数多く報告された一方、当然のことながらプラセボ効果の可能性、研究・評価方法の欠陥、長期的な効果の検証不足などが指摘され、結局決着がつかないまま次の時代に移行していった。つまり、冠動脈バイパスなどの直接的な治療法の時代が訪れたのである。私たち研究者がよくよく反省しなければならない点をあえて挙げると、時代が変わると前の時代に問題になっていたことの究明から驚くほど急速に関心が遠のくことである。これは肺性心のメカニズムが現代に至るまで謎に包まれていることでも理解できるのではないかと思う。CSDの真の効果、メカニズムが解明されないまま次の時代に移行してしまったことが、本論文の解釈にも大きな影響を与えているのである。 今回の研究は冠静脈洞減圧デバイス(CSR)を難治性狭心症患者に経皮的に埋め込み、症状改善効果をRCTにより検証することだった。主要評価項目はアデノシン負荷MRIによる虚血面積減少量、運動耐容量、生活の質であった。重要な点は、CSRというデバイスの開発によって、心臓カテーテル手技に習熟した医師ならば特別なリスクを見込むことなく、経静脈的にデバイスの留置が可能になったという点である。結果は、CSR埋め込み群とプラセボ群で冠動脈血流量に差は見られなかったが、一方CSR群ではプラセボ群に比して日常の狭心症頻度が減少するという、矛盾したとも取れるものとなった。 まず、読者の中にはこの試験デザインに疑問を持った方が多かったのではないだろうか。というのは、研究対象が「従来の治療法である冠動脈バイパスやPCIで十分な症状改善が得られない重症冠動脈疾患患者」となっているからである。しかし、その一方で試験ではトレッドミル負荷なども行われているのである。トレッドミル負荷の対象になる冠動脈疾患患者が、果たして「きわめて重症な冠動脈疾患患者」といえるのかという問題である。しかし、ここは研究者たちの意見に耳を傾ける必要があるようだ。 彼らが今回対象とした患者は、・冠動脈疾患の診断を受けていること。・少なくとも2回の冠動脈バイパス術またはPCIを受けていること。・週に少なくとも1回は狭心症状を経験していること。・運動負荷試験で有意な狭心症を認めること。 とある。 つまり、現在有効といわれている治療法では狭心症状を改善することができない患者を「重症冠動脈患者」と呼んだということである。たとえば左冠動脈主幹部の90%狭窄は重症冠動脈疾患に決まっている。しかし、ほかに狭窄がなければバイパス1本で症状は軽快し、生命予後は確実に延長する。しかしそうした網の目から漏れてしまう難治性の狭心症患者がおり、それを彼らは「重症冠動脈疾患患者」と呼んだのである。これは冠動脈疾患を単に虚血領域の広さや狭窄の重症度とは別の尺度として受け入れられてよいものではないか、と評者は考えるものである。しかし、冠血流の実際の改善が認められない中での症状の軽快のメカニズムが明らかにならないことには、明確な評価を下すことは難しいのではないだろうか。また、長期フォローの結果も示されなければならないだろう。 現段階で評者は本論文を是とも非とも判断しかねるが、冠動脈疾患にはまだわれわれが知らない何かが潜んでいる可能性については考えを巡らせているところである。ただし、このような補助療法の有効性が認められたとしても、現在行われている機械的な血行再建術に取って代わるものではないことは断言しておかざるを得ないだろう。

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年齢や婚姻状況で異なる、「世帯の人数」と心理的苦痛の関係

 日本の全国調査データを活用して、年齢・性別や婚姻状況により、世帯の人数と心理的苦痛の関係が異なるかどうかを調べる研究が行われた。その結果、若い世代や未婚者では、世帯の人数が少ないほど心理的苦痛の強い人が多いという関係が認められた。奈良県立医科大学県民健康増進支援センターの冨岡公子氏らによる研究結果であり、「Frontiers in Public Health」に3月11日掲載された。 一人暮らしや少人数の世帯は増加の一途をたどっている。2024年4月には「孤独・孤立対策推進法」が施行され、孤独や孤立への総合的な対策が必要とされている。これまでにも世帯の人数とがんや認知症、幸福感、メンタルヘルスなどとの関連が研究されているが、世帯の人数が及ぼし得る影響は、年齢や性別、配偶者の有無などにより異なる可能性がある。 そこで著者らは、厚生労働省による2019年の「国民生活基礎調査」のデータを用いて、世帯の人数と心理的苦痛との関係を詳細に分析した。「K6」という尺度で評価された「こころの状態」の結果で、合計得点が13点以上の場合を「心理的苦痛が強い」と定義。世帯の人数は5人以上、3~4人、2人、1人に分類し、年齢層、性別、婚姻状況ごとに調査した。 20歳未満の人などを除外した結果、研究対象者は40万5,560人(男性19万3,346人、女性21万2,214人)となった。心理的苦痛が強い人の割合は、男性3.6%、女性4.7%と有意な男女差が認められた。年齢層ごとにみると、男女とも、心理的苦痛が強い人は25~29歳で最も多く、30~60歳で減少、65~74歳で最も少なく、75歳以降で再び増加していた。 次に、世帯の人数と心理的苦痛との関連を検討するため、社会経済状況や生活習慣、現病歴などの影響を調整した上でロジスティック回帰分析を行った。その結果、世帯の人数が少ないほど心理的苦痛の強い人が多いという有意な量反応関係が、男性で20~59歳、女性では20~39歳の年齢層で認められた(全て傾向性P<0.001)。すなわち、5人世帯と比べたオッズ比(95%信頼区間)は、3~4人、2人、1人世帯の順に、20~39歳の男性では1.09(0.97~1.23)、1.33(1.13~1.56)、1.96(1.64~2.34)、40~59歳の男性では1.02(0.90~1.16)、1.17(1.02~1.36)、1.52(1.28~1.81)、20~39歳の女性では0.98(0.88~1.08)、1.40(1.22~1.60)、1.78(1.50~2.11)だった。一方、これより上の年齢層では、同様の関係は認められなかった。 性別と婚姻状況で層別化すると、男女とも未婚者でのみ、同様に世帯の人数が少ないほど心理的苦痛の強い人が多かった(男女とも傾向性P<0.001)。5人世帯と比べたオッズ比(95%信頼区間)は、同順に、男性では1.16(0.999~1.35)、1.46(1.22~1.75)、1.89(1.58~2.26)、女性では1.02(0.89~1.17)、1.37(1.16~1.63)、1.64(1.37~1.96)だった。 今回の結果について著者らは、若年層は高齢者と比べて地域社会とのつながりが希薄であり、少人数世帯の場合に孤立や孤独を感じやすいと説明。一方、特に60~74歳の女性は、世帯の人数が2~4人の場合、5人以上や一人暮らしよりも心理的苦痛の強い人が多かったことに言及し、婚姻状況により家事や介護の負担に差が生じやすいことを付け加えている。 以上から著者らは、因果関係は示されていないとした上で、「世帯の人数が少ないほど心理的苦痛の強い人が多いことを示す量反応関係が、性別に関係なく、若い世代と未婚者で認められた」と結論。「高齢者だけでなく若年者にも、単身世帯だけでなく少人数世帯にも目を向ける必要がある」と述べている。

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第194回 マイナ保険証を救急搬送に活用開始、全国展開を目指す実証事業/総務省

<先週の動き>1.マイナ保険証を救急搬送に活用開始、全国展開を目指す実証事業/総務省2.高齢者施設の服薬は昼1回に統一で安全性向上を/老年薬学会3.医療機関のサイバーセキュリティ対策チェックリストを改訂/厚労省4.地域医療を支えるため、医学生への修学資金貸与制度の充実を提案/文科省5.紅麹サプリの健康被害受け、機能性表示食品の安全性の強化を/自民党6.介護保険料の地域差拡大、大阪市の介護保険料は全国最高の9,249円に/厚労省1.マイナ保険証を救急搬送に活用開始、全国展開を目指す実証事業/総務省2024年4月、マイナンバーカードを利用した保険証(マイナ保険証)の利用率が過去最高の6.56%に達したが、利用率の低さが依然として課題となっている。5月17日、総務省消防庁はマイナ保険証を活用した救急搬送の実証事業を開始すると発表した。神奈川、兵庫、宮崎の3消防本部で実施され、救急隊員が現場でマイナ保険証を読み取り、患者の情報を迅速に把握し、医療機関へ搬送する。実証結果を踏まえ、2025年度中に全国展開を目指す。厚生労働省は、データと住民基本台帳情報の突合による「紐付け誤り防止」や動画広報、利用率の高い自治体・医療関係団体の表彰などを実施しているほか、さらに医療機関での利用促進に向けた具体策も進められている。マイナ保険証の利用率は病院で13.73%、医科クリニックで5.87%、歯科クリニックで10.91%、調剤薬局で5.71%とされ、さらなるPRと支援が求められている状況。5月15日に開かれた社会保障審議会・医療保険部会では、若年者世代へのPR強化や医療機関での声掛けの強化が提案され、専用レーンの設置や国家公務員の率先利用も呼びかけられている。その一方で、マイナ保険証に対する不信感も問題となっている。過去に他人の情報が紐付けられたり、保険診療の窓口負担の割合が誤って表示されたりするトラブルが相次ぎ、2024年4月までに新たに529件の紐付けミスが確認された。政府の点検作業で発覚した同様のミスは合計で9,000件を超えている。政府は、従来の健康保険証の新規発行を2024年12月2日から停止し、マイナ保険証の利用を基本とする方針を強化している。医療機関での利用促進策とともに、妊産婦支援の強化を目指す会議も設立され、正常分娩への保険適用が検討されている。これにより、マイナ保険証の普及と共に、医療サービスの質の向上が期待される。参考1)マイナ救急実証事業の開始(総務省消防庁)2)マイナ保険証の利用促進等について(厚労省)3)「マイナンバーカードによる医療機関受診」促進策を更に進めよ、正常分娩の保険適用も見据えた検討会設置-社保審・医療保険部会(1)(Gem Med )4)マイナ保険証、救急搬送に活用 23日から実証第1弾 総務省消防庁(時事通信)5)マイナンバーシステム、機能利用進まず 改善求められるデジタル庁(朝日新聞)2.高齢者施設の服薬は昼1回に統一で安全性向上を/老年薬学会5月17日に日本老年薬学会は、高齢者施設における服薬回数の簡素化を推奨する提言を発表した。この提言では、施設の入居者が多くの薬を服用している現状に対し、服薬回数を減らし、なるべく昼1回にまとめることを求めている。目的は、誤薬リスクを減らし、本人や職員の負担を軽減することである。高齢者施設では、認知機能や運動機能が低下した入居者が多く、複数薬を管理することが困難とされている。これに対し、職員数が多い昼間の時間帯に服薬を集約することで、誤薬のリスクを低減し、職員の負担が軽減できるとされる。具体的には、服薬のタイミングを昼に変更できる薬や効き目が長く続く薬に切り替えることが提案されている。提言の作成に関わった薬剤師の丸岡 弘治氏は、「服薬回数を減らすことは医療安全上のメリットにもつながる」と述べている。学会代表理事である秋下 雅弘氏も、「この取り組みはすべての高齢者に必要であり、今後は医療機関や在宅介護にも呼びかけたい」と語る。ただし、すべての薬が昼の服薬に適しているわけではなく、安全性や効果に影響がないかを慎重に確認する必要がある。提言では、医師や薬剤師が協議し、適切な薬を特定することが求められている。また、本人や家族への理解を得ること、療養場所が変わった際の見直しも重要となる。高齢者施設の服薬管理は、職員の勤務シフトに合わせて朝、昼、夕、眠前に行われているが、この提言に基づき、昼1回の服薬に簡素化することで、誤薬リスクの低下と負担軽減が期待されている。なお、提言は、老年薬学会のウェブサイトで公開されている。超高齢社会を迎えるわが国では、多数の併存疾患を抱える高齢者が増加しており、施設のマンパワー不足やポリファーマシーの問題が深刻となっている。服薬簡素化はこれらの課題に対応するための1つの解決策となり得る。今後も、医療・介護・福祉の専門職が協力し、提言の実施を進めることが求められている。参考1)高齢者施設の服薬簡素化提言(老年薬学会)2)高齢者施設での服薬は「昼1回」に 負担軽減へ老年薬学会が提言(毎日新聞)3)高齢者施設での服薬は昼1回に…飲み間違いや飲み忘れ防止、職員の負担減へ老年薬学会提言(読売新聞)3.医療機関のサイバーセキュリティ対策チェックリストを改訂/厚労省厚生労働省は「医療機関におけるサイバーセキュリティ対策チェックリスト」を2024年度版に改訂した。これにより、サーバへのセキュリティパッチ適用など、2023年度版では参考項目としていた事項が正式なチェック項目として追加された。このチェックリストは、厚労省の「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」に基づき、優先的に取り組むべきセキュリティ対策をまとめたもの。2024年度版では、サーバへのセキュリティパッチ適用、端末PCでのアクセス利用権限の設定、インシデント発生時のバックアップと復旧手順の確認などが正式なチェック項目となった。また、サイバー攻撃を想定した事業継続計画(BCP)の策定については、今後、参考資料となる手引きを作成する予定。そのほか、このチェックリストには、医療法第25条第1項に基づく立ち入り検査時に使用されることが明記された。これにより、厚労省への問い合わせが多かった使用用途についての明確化が図られた。また、各チェック項目の末尾には、具体的なチェック内容を解説するマニュアルの章番号が追記されている。今回の改訂により、医療機関はセキュリティ対策の強化を図り、サイバー攻撃からの防御を一層強化することが求められる。厚労省は引き続き、医療機関のセキュリティ対策を支援し、患者情報の保護を進めていく方針。参考1)令和6年度版「医療機関におけるサイバーセキュリティ対策チェックリスト」及び「医療機関におけるサイバーセキュリティ対策チェックリストマニュアル~医療機関・事業者向け~」について(厚労省)2)サイバーセキュリティ対策チェックリスト改訂、厚労省 サーバへのセキュリティパッチ適用を正式な項目に(CB news)4.地域医療を支えるため、医学生への修学資金貸与制度の充実を提案/文科省文部科学省は、5月17日に「医学教育の在り方に関する検討会」を開催し、診療参加型臨床実習の推進と充実を強調する第2次中間取りまとめ案を提示した。この中で、医師の偏在解消を図るための教育上の方策として、地域枠の医学学生に対する修学資金貸与制度の充実が、最も有効であるとする意見が出された。診療参加型臨床実習は、医学生が医師の指導監督の下で実際の医療行為を行うことで、診断・治療に関する思考力や対応力を養うもの。2021年の医師法改正により、一定基準を満たした学生が実習中に医療行為を行うことが可能となり、大学では実習の連続した配属期間を確保する取り組みが進められている。また、医師の地域偏在を解消するため、地域枠の活用が推進されている。特定診療科の範囲を選択する「診療科選定地域枠」や大学特別枠などが導入され、修学資金貸与制度を活用して地域医療への貢献を促すことが有効とされている。奈良県立医科大学の今村 知明教授は、「修学資金貸与制度の充実を求め、地域のニーズに応じた柔軟な運用が必要だ」と指摘するとともに、大学病院の役割として、教育・研究・診療の三役を担うことが強調され、国による後押しが求められている。とくに、大学病院で働く医師の待遇改善やキャリアインセンティブの提供が必要とされ、「大学病院がその役割を果たすためには、文科省や厚労省、自治体の連携が必要だ」と述べる。さらに医学研究の充実も重要な課題とされ、研究医枠の増員や研究環境の整備が求められた。若手研究者のキャリアパスを明確にし、研究を続けるモチベーションを高めるための支援が必要であると指摘されている。文科省は、今回の取りまとめを踏まえて、今後の医学教育に関する施策を進める方針。とくに、医師の地域偏在解消と医学研究の充実を図るため、大学や地域との連携を強化し、持続可能な医療提供体制の確立を目指す。参考1)第10回 今後の医学教育の在り方に関する検討会(文科省)2)第二次中間取りまとめ(案)(同)5.紅麹サプリの健康被害受け、機能性表示食品の安全性の強化を/自民党小林製薬(大阪)の「紅麹」サプリメントによる健康被害を受け、自民党は5月16日に政調、消費者問題調査会・厚生労働部会合同会議を開き、機能性表示食品の安全性を強化する提言案をまとめた。提言案では、健康被害情報の報告ルールの明確化や定期点検の義務化を求めており、安全性強化で消費者保護につなげたいとしている。自民党の消費者問題調査会と厚生労働部会の合同会議で示された提言案には、以下の内容が含まれている。健康被害情報の報告ルールの明確化:行政への報告対象や報告期限を明確にし、企業が報告義務を順守するよう求める。定期点検の義務化:事業者が食品の届け出内容を定期的に点検・自己評価し、その結果を消費者庁に報告しなければ販売できなくすることを提案。GMP認証の義務化:サプリメントの製造において、品質・衛生管理に関する指針「GMP(適正製造規範)」の認証取得を義務付ける。さらに消費者庁の専門家検討会でも、以下の点が議論されている。報告義務の強化:企業が報告の是非を判断せず、症状の重篤度に関わらず健康被害を報告することを義務付ける方向で検討されている。また、情報公開基準を明確にすることで企業の風評被害の懸念を軽減する方策も議論されている。サプリメントの特化規制:成分が濃縮されたサプリメントの安全性を食品と同じ基準で評価できないため、サプリメントに特化した規制を求める声が上がっている。自民党は、この提言案を来週にも政府に提出する予定。これにより、機能性表示食品の安全性が強化され、消費者の健康被害を防ぐ取り組みが進むことが期待される。参考1)届け出後の定期点検義務化 機能性表示食品で自民原案(東京新聞)2)自民 紅麹問題再発防止へ ルール明確化など求め提言案まとめる(NHK)3)機能性表示食品の健康被害情報報告ルールの明確化も議論 消費者庁の検討会の見直しポイント(産経新聞)6.介護保険料の地域差拡大、大阪市の介護保険料は全国最高の9,249円に/厚労省厚生労働省は、各地の自治体など全国1,573の保険者を調査。介護保険の第1号保険料の全国の市町村の動向を取りまとめ、公表した。2024~26年度にかけて65歳以上の高齢者が支払う介護保険料の全国平均は月額6,225円で、最も高いのは大阪市の9,249円、最も低いのは東京都小笠原村の3,374円だった。地域差の原因は、高齢者の割合や介護事業者の参入状況、自治体の財政状況が影響している。大阪市は単身高齢者が多く、保険料が高額な一方、小笠原村は高齢化率が低く、保険料が抑えられている。各自治体は保険料の引き上げを抑えるための対策を講じており、一例として千葉県栄町は、介護予防活動を推進し、保険料を低く抑えている。国立社会保障・人口問題研究所の推計によると、2039年には65歳以上の高齢者が3,900万人を超え、介護サービスの需要が高まり、保険料の上昇が予想されている。厚労省は、所得別の負担見直しやケアプランの有料化を検討している。淑徳大学の結城 康博教授は、「抜本的な制度改革がなければ地域間の格差が広がる」と指摘し、介護保険料は2000年の制度開始時の月2,911円から2040年には9,000円程度に達すると見込まれている。介護保険料の地域差は、今後も続くと予想され、国や各自治体は対応策を講じる必要がある。参考1)全国 介護保険料マップ(NHK)2)介護保険料、月6225円 24~26年度全国平均 65歳以上、3.5%増(日経新聞)3)上昇傾向の介護保険料 目立つ地域差 サービス利用減で引き下げも(朝日新聞)4)介護保険料“格差”今後も拡大か 若い世代にも影響(FNN)【動画】5)第9期介護保険事業計画期間における介護保険の第1号保険料及びサービス見込み量等について(厚労省)

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この錠剤、飲みにくいのでつぶしてください【非専門医のための緩和ケアTips】第76回

第76回 この錠剤、飲みにくいのでつぶしてください私自身、クスリを飲むたび体感するのですが、錠剤って、大きさによっては飲みにくいですよね…。錠剤と水を口に含み、ごっくんとしたけれど、きれいに水だけを飲み込んでいたことが何度もあります。そんな体験が続くと、精神的にも負担です。緩和ケアではとくに嚥下機能の落ちている患者さんが多いので、クスリの飲みやすさは重要です。今回の質問患者さんから「先生に出してもらった痛み止め、よく効いたのですが錠剤は苦手です。つぶして出してもらえますか?」と相談されました。私としては希望に応えようと思って、粉砕で処方したところ、薬局から「この医療用麻薬はつぶせません」と連絡がありました。その時は忙しかったので、粉砕できないことだけ患者さんに説明し、納得してもらったのですが…。ご質問ありがとうございます。医療用麻薬の処方でたまに経験する「ピットフォール」(落とし穴)ですね。がんの鎮痛で処方するオキシコドンの錠剤でよく経験するケースです。オキシコドン錠は、ゆっくりと吸収されることで鎮痛効果が12時間程度持続するようにつくられています。粉砕すると想定以上のスピードで吸収されてしまうため、粉砕した処方はできません。さらに、最近では、オキシコドン錠は乱用防止のための加工がされています。錠剤の強度を上げ、粉砕することが困難な錠剤になっています。また、水に溶かそうとするとゲル状になるよう加工されています。加工の理由は、オピオイド乱用への対策です。米国を中心にオピオイド錠を粉末にして鼻腔から吸う、水に溶かして注射をするといったオピオイドによる薬物中毒問題は深刻化しており、製薬メーカーも対策をせざるを得ない状況になっています。日本では、あまりオピオイドが処方されてこなかったことや、処方や薬局での管理上の厳密さが求められるため、米国ほど大きな問題にはなっていませんが、注意は必要です。処方する側の私たちは、こうした知識を持ったうえで、患者さんの服薬問題にどのように取り組むべきでしょうか? まずは、患者さんへの指導と内服状況の確認に取り組むことが大切です。「飲みにくいクスリ」は飲まなくなります。「最近、痛みが強くなって…」といった訴えがあれば、きちんと服薬できているか、剤形の問題で服薬できないことがないかをチェックしましょう。オキシコドン錠に乱用防止加工がされる前のエピソードです。知り合いの医師が診ていた患者さんで、「オキシコドン錠をかみ砕いて飲んでいる」という方がいたそうです。その患者さんはもともと錠剤の服薬困難があり、ほかの薬剤はすべて散剤で処方されていました。オキシコドンだけが錠剤で処方されていたため、かみ砕いていたのですが、服薬後には非常に眠くなっていたそうです。本来は12時間程かけてゆっくり吸収されるはずの成分が一気に吸収されるのですから、非常に危険な状態です。処方時には、錠剤で処方することについて何らかの説明はあったのでしょうが、問題なく内服できるかといったフォローが十分でなかった可能性があります。患者さんも、あまり気に留めていなかったのかもしれません。オピオイドも散剤、貼付薬、坐薬、注射薬など、さまざまな剤形があります。患者さんごとに使い分け、正しく服薬できるように本人をはじめ、薬剤師さんにも確認するとよいでしょう。今回はオピオイド処方の隠れたピットフォールについてお伝えしました。今回のTips今回のTips粉砕できないオピオイドがあることを理解し、飲みやすさを確認しよう。

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認知症を予防する食品は?栄養、3つの小話【外来で役立つ!認知症Topics】第17回

「フレンチパラドックス」が赤ワインブームに火をつけた知人とレストラン等で食事をするとき、「ではワインでいこう」となることがある。銘柄などに詳しくない人の集まりなら、「赤か白か」程度の選択になる。このような場合、十中八九が赤で決まる。この20年近くはそうなったと思う。それ以前、筆者が20代から40歳頃にかけてはまったく逆だった。渋くて重い赤ワイン好きなどはまず例外的、ほぼ皆が甘く軽やかな味の白を選ぶのが常だった。それが1995年以降に逆転して今に続く赤ワインブームが定着する。その原因がフレンチパラドックスである。パラドックス、矛盾とは? 赤ワインで有名なフランスのボルドー地方などでは、動物性脂肪の摂取が多いのに冠状動脈疾患の発症率が少ないことを指す。加えて認知症の発症も少ないことが一流医学雑誌で報告された。そこに赤ワインが関係する可能性が指摘された。さらに白ワインに比べて赤ワインに多く含まれる抗酸化物質ポリフェノールに鍵があると考えられた。日本のマスコミでは、「みのもんた」による赤ワイン健康法のTV番組などもあって、わが国の赤ワイン人気は一気に爆発した。「まごたちわやさしい」バランスの良い地中海食さて外来で、「認知症にならない、脳に良い食品は何か?」と尋ねられることは多い。そこで筆者は、数年に1度は、認知症、予防、栄養などのキーワードでレビューを探して、読んでいる。最近の結論としては次のようになる。「TVのコマーシャルでやっているようなサプリではありません。食品の個々の栄養素とか成分でもないそうです。食材と栄養の組み合わせ、ここから相乗的に効果が生まれるようです」。つまり「まごたちわやさしい※」のようにまんべんなくバランス食を、ということだ。※「まごたちわやさしい」とは、バランスの良い食事の考え方で、取り入れたい食材の頭文字からできた言葉(ま:豆類、ご:ごま・ナッツ類、た:卵、ち:チーズ・乳製品、わ:わかめ・海藻類、や:野菜、さ:魚、し:しいたけ・キノコ類、い:いも)。そのような食事の代表は地中海食だろう。これについては、少なくとも疫学的に循環器疾患そして認知症の予防効果がある。つまり認知症ではない人における知的低下率を減少させ1)、アルツハイマー病の発症率を低下させるとレビューがなされている2)。このように疫学的に確立した食事パターンは地中海食しかない。この地中海食を患者さんに説明する際は、「動物性脂肪中心のいわば欧米食とは違う。欧米食に、魚や野菜という伝統的な和食風をアレンジ」とその特徴をまとめる。また地中海食の特徴とされる食品のうち、日本人には馴染みが薄い食品として以下を紹介している。精白されていない全粒穀物、豆類、ナッツ、そしてオリーブオイル、これらを摂取するのも良いかもしれないと説明する。なお最近では、地中海食は伝統的に孤食ではないことに注目するものもある。脳に不可欠なオメガ3不飽和脂肪酸を摂れる食品は?さて地中海食も和食も、1つのポイントが必須脂肪酸のオメガ3不飽和脂肪酸にあると思う3)。ヒト脳の60%は脂肪でできている。それだけに脂肪酸は脳の統制と機能を決定する最重要物質と考えられている。とくに必須脂肪酸は、健康維持のために必要であるにもかかわらず、体内では作れないため食事から摂取する必要があるものをいう。必須脂肪酸としては、オメガ6不飽和脂肪酸のリノール酸、オメガ3不飽和脂肪酸のα-リノレン酸が代表である。これらは脳の神経細胞膜の重要成分であるだけでなく、神経伝達物質を合成したり細胞膜の流動性を維持したりすることに関与している。さらに免疫機能の構成分子にも関与する。ヒト脳の成長は5、6歳頃には終了するが、必須脂肪酸のうちオメガ3不飽和脂肪酸は、その後も脳の発達に重要である。とくに食事から摂るDHA(ドコサヘキサエン酸)は網膜と大脳皮質には必要で、これがあって視力と脳の発達が可能になると考えられている。なおアルツハイマー病者では、脳の海馬、大脳皮質、小脳において必須脂肪酸が不足すると症状がさらに悪くなるという報告もある。こうした必須脂肪酸を食事から上手に摂取するなら、DHAやEPA(エイコサペンタエン酸)が豊富なサンマ、サバ、マグロなど青魚が良いことが知られている。ところがオメガ3不飽和脂肪酸を含む植物油はあまりない。その例外は、シソ油、エゴマ油である。なおエゴマ油は、シソ科の植物“エゴマ”の種子を搾った油、シソ油は、シソの実を搾った油である。図. 脂肪酸の分類画像を拡大する赤ワインの認知症予防効果、現在の評価は?終わりに、赤ワインが認知症予防になるという説への現在の評価は、あまり信憑性がないとしている。酒を称賛する言葉に「酒は百薬の長」があるように、飲み方次第では赤ワインもそうだろう。そこで「赤ワインの適切な飲酒量は?」との質問には、なにかの医学雑誌で読んだTwo glasses of wine(約230mL≒日本酒1合のアルコール)とお答えしている。参考1)Sofi F, et al. Am J Clin Nutr. 2010;92:1189-1196.2)Singh B, et al. J Alzheimers Dis. 2014;39:271-282.3)Dighriri IM, et al. Cureus. 2022;14:e30091.

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心不全の退院後フォローアップ【日常診療アップグレード】第4回

心不全の退院後フォローアップ問題82歳男性。慢性心不全で外来通院中であったが、市中肺炎を契機に心不全が増悪し入院となった。ループ利尿薬の投与で症状は軽快した。明日(入院10日目)、退院の予定である。次回の外来予約を1週間後に設定した。

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漢方診療のポイント【漢方カンファレンス】第1回

漢方診療のポイント本連載で最も習得していただきたいことがこの漢方診療のポイントです。漢方の勉強を始めた初期の段階でしばしば陥りがちなことには、キーワードに飛びついて漢方薬を選択してしまうことが挙げられます。また、勉強して知識がついてくると、さまざまな異常が目についてしまい、どこから手をつけてよいかわからなくなってしまうこともあります。漢方診療で迷子になってしまわないように、症例を考える際の道標というべき漢方処方のプロセスがこの漢方診療のポイントです。ここでは下の表に沿って漢方診療のポイントを解説します。【漢方特有の問診・診察】問診では、主訴や経過などは現代医学と同じですが、患者の全身状態を陰陽や気血水などの漢方医学的概念に翻訳するため、温冷刺激に対する反応、食欲、飲水(口渇)、排便、排尿、月経(女性)、睡眠などを確認します。また、漢方特有の診察として、脈診、舌診、腹診があります。漢方診療のポイント(1)病態は寒が主体(陰証)か、熱が主体(陽証)か?(冷えがあるか、温まると症状は改善するか、倦怠感は強いか、など)(2)虚実はどうか(症状の程度、脈・腹の力)(3)気血水の異常を考える(4)主症状や病名などのキーワードを手掛かりに絞り込む1. 病態は寒が主体(陰証)か、熱が主体(陽証)か?最初に陰陽の判断を行い、可能であれば六病位(陽証:太陽病、少陽病、陽明病、陰証:太陰病、少陰病、厥陰病)の判定をします。急性疾患では六病位で考えやすいのですが、慢性疾患では陰と陽が入り交じって判定しづらい場合もあります。陰陽の判断が難しければいったん保留として、次の気血水の異常から考えることもあります。寒が主体(陰証)寒がり、入浴で温まると心地よい、入浴で症状が軽減する、熱い風呂に長く入る、冷房が苦手、厚着である、冷えの自覚がある、横になりたい程の強い倦怠感がある熱が主体(陽証)暑がり、入浴時間は短い、冷房を好む、冷ますと心地よい【注意点】悪寒は太陽病のサイン全身の冷えと強い倦怠感があれば少陰病〜厥陰病を考える冷えの自覚がある場合は冷えの部位を確認する(全身型:陰証、四肢末端型:瘀血、冷えのぼせ型:気逆)2. 虚実はどうか虚実の判定は、基本的には脈や腹壁の反発力の強弱によって行います。虚→脈が弱、腹力が軟弱実→脈が強、腹力が充実局所に着目した場合、激しい疼痛、局所反応が大きい熱感や腫脹が目立つ場合が実証太陽病では発汗傾向の有無も虚実の判定に有用(自汗あり:虚、自汗なし:実)3. 気血水の異常を考える血→症状と月経との関連は?瘀血:四肢末端の冷え、舌暗赤色、舌下静脈の怒張、臍傍の圧痛血虚:こむら返り、脱毛、集中力の低下、皮膚の乾燥水毒→症状と天候、低気圧との関連は?頭痛、めまい、心下の振水音、浮腫気気虚:倦怠感、疲れやすい、食欲不振、食後の眠気気欝:抑うつ傾向、のどのつまり、膨満感気逆:冷えのぼせ、動悸、驚きやすい腎虚→下肢の冷え・痛み、腰痛、夜間頻尿、易疲労感4. 主症状や病名などのキーワードを手掛かりに絞り込む以下に例を示します。肩こり→葛根湯(かっこんとう)食欲不振→六君子湯(りっくんしとう)、人参湯(にんじんとう)頭痛→五苓散(ごれいさん)、呉茱萸湯(ごしゅゆとう)更年期障害→加味逍遙散(かみしょうようさん)、当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)次回以降は症例から漢方診療のポイント(表)に沿って処方決定をしていますので、是非この流れを身につけてください。

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少し高い血圧でも脳・心血管疾患のリスクは2倍/横浜市大

 わが国で心疾患は死因順位の第2位であるが、若年から中年における血圧分類と心血管疾患(CVD)イベントとの関連に関するエビデンスは乏しかった。そこで、桑原 恵介氏(横浜市立大学 医学部公衆衛生学・大学院データサイエンス研究科)らの研究グループは、関東・東海地方に本社のある企業など10数社による職域多施設共同研究“Japan Epidemiology Collaboration on Occupational Health Study”(J-ECOHスタディ)に参加した高血圧の治療中ではない就労者8万1,876人を9年間追跡調査した。その結果、「少し高い血圧」の段階から脳・心血管疾患の発症リスクが高まることが確認された。これらの結果は、Hypertension Research誌オンライン版2024年4月8日に掲載された。高値血圧が就労者の心血管リスクになり得る可能性 研究グループは、J-ECOHスタディの前向きコホートデザインによる縦断的データを用い検討を行った。参加者は、ベースライン時に降圧薬を服用していない20~64歳の就労者8万1,876人。血圧分類は、2010年度または2011年度の血圧値を『高血圧治療ガイドライン2019』に基づき、正常血圧、正常高値血圧、高値血圧、I度高血圧、II度高血圧、III度高血圧の6群に分類した。脳・心血管疾患発症の定義は、コホート内で脳・心血管疾患、疾病休業、死亡の3種類の登録制とした。追跡期間は2012~21年の最大9年間。統計解析はCox比例ハザードモデルを用いハザード比(HR)を算出した。 主な結果は以下のとおり。・追跡期間中に334例の心血管イベント、75例の心血管死亡、322例の全死因死亡がみられた。・正常血圧を基準とした心血管イベントの多変量調整HRは、正常高値血圧が1.98(95%CI:1.49~2.65)、高値血圧が2.10(95%CI:1.58~2.77)、I度高血圧が3.48(95%CI:2.33~5.19)、II度高血圧が4.12(95%CI:2.22~7.64)、III度高血圧が7.81(95%CI:3.99~15.30)だった。・最も集団寄与危険度割合が高かったのは高値血圧で17.8%、次いでI度高血圧で14.1%、正常高値血圧で8.2%と続いた。・以上の結果から、少し高い血圧(正常高値血圧)の段階から脳・心血管疾患発症リスクに対する取り組みが必要であることが明らかとなった。 この結果を受け研究グループは「健康診断で血圧があまり高い値でなくとも、就労者本人が意識的に血圧管理に取り組んでいくことが期待される。とくに、企業や保健医療専門職は、そうした就労者の取り組みを後押ししていくことが求められる」とコメントしている。

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片頭痛患者における睡眠障害併存が中枢性感作に及ぼす影響

 片頭痛患者では、睡眠障害が見られることが多く、このことがQOLに影響を及ぼす。また、中枢感作は、片頭痛の重症度や慢性化と関連している可能性がある。獨協医科大学の鈴木 圭輔氏らは、併存する睡眠障害の数が中枢感作の影響を介して頭痛関連障害に及ぼす影響を調査した。Frontiers in Neurology誌2024年2月26日号の報告。 連続した片頭痛患者215例を対象に、横断的研究を実施した。不眠症の定義は、ピッツバーグ睡眠質問票(PSQI)総スコア5超とした。レム睡眠行動障害の可能性は、RBDスクリーニングスコア5以上と定義した。日中の過度な眠気の定義は、エプワース眠気尺度(ESS)スコア10以上とした。睡眠時無呼吸症候群の疑いの定義は、いびきまたは睡眠時無呼吸症候群の症状が3夜/週以上とした。中枢感作の評価には、Central Sensitization Inventory(CSI)を用いた。 主な結果は以下のとおり。・片頭痛患者でみられた睡眠障害は、レストレスレッグス症候群(25.6%)、不眠症(71.6%)、日中の過度な眠気(34.4%)、睡眠時無呼吸症候群(10.2%)、レム睡眠行動障害の疑い(21.4%)であった。・1つ以上の睡眠障害が認められた片頭痛患者は、87.0%であった。・睡眠障害のない状態を基準とした多項ロジスティック回帰分析では、調整係数を補正したのち、3つ以上の睡眠障害が併発すると、片頭痛評価尺度(MIDAS)スコアの有意な上昇が認められた。・媒介分析では、他の変数を調整した後、睡眠障害の数の増加は、MIDASスコアに直接的な影響を及ぼし、CSIスコアとの間接的な関連が示唆された。 著者らは、「片頭痛関連障害と複数の睡眠障害との関連性が認められており、これは部分的に中枢感作により媒介されている可能性が示唆された」としている。

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早期再発TN乳がんへのアテゾリズマブ上乗せ、予後を改善せず(IMpassion132)/ESMO BREAST 2024

 切除不能な局所進行または転移を有する早期再発トリプルネガティブ乳がん(TNBC)患者を対象に、化学療法に抗PD-L1抗体アテゾリズマブを上乗せした第III相IMpassion132試験の結果、PD-L1陽性患者においても予後が改善しなかったことを、シンガポール・国立がんセンターのRebecca A. Dent氏が欧州臨床腫瘍学会乳がん(ESMO Breast Cancer 2024、5月15~17日)で報告した。 IMpassion130試験において、進行TNBCへの1次治療としてのアテゾリズマブ+nab-パクリタキセル併用療法は、PD-L1陽性患者の全生存期間(OS)を改善した。しかし、早期再発TNBCにおけるデータは限られている。そこで研究グループは、治験医師選択の化学療法にアテゾリズマブまたはプラセボを上乗せして、病勢進行または許容できない毒性が認められるまで継続した場合の有効性と安全性を評価した。・試験デザイン:第III相二重盲検プラセボ対照無作為化比較試験・対象:アントラサイクリンおよびタキサンを含む早期TNBCの治療完了後12ヵ月以内に再発した手術不能な局所進行または転移を有するTNBC患者※・試験群(アテゾリズマブ群):治験医師選択の化学療法(カペシタビン1,000mg/m2を21日サイクルの1~14日目に1日2回経口投与、またはカルボプラチンAUC 2+ゲムシタビン1,000mg/m2を21日サイクルの1・8日目に静注)+アテゾリズマブ(1,200mgを21日ごとに静注)・対照群(プラセボ群):上記の治験医師選択の化学療法+プラセボ・評価項目:[主要評価項目]PD-L1陽性集団(SP142によるPD-L1発現状況が1%以上)におけるOS[副次評価項目]無増悪生存期間(PFS)、奏効率(ORR)、安全性・層別化因子:選択された化学療法、内臓転移(肺、肝臓)の有無、PD-L1発現状況※2018年1月からPD-L1が陰性でも陽性でも登録されたが、IMpassion130試験の結果により、2019年8月からはPD-L1陽性患者に限定された。 主な結果は以下のとおり。・合計594例が登録され、うちPD-L1陽性は354例(アテゾリズマブ群177例、プラセボ群177例)であった。・両群の患者特性はバランスがとれていた。アテゾリズマブ群は年齢中央値48歳(範囲:23~77)、無病期間が6ヵ月未満であったのは66%、肺および/または肝転移ありは60%であった。プラセボ群はそれぞれ48歳(範囲:25~83)、69%、62%であった。両群ともに治験医師選択の化学療法としてカルボプラチン+ゲムシタビンが選択されたのは73%であった。・追跡期間中央値9.8ヵ月時点で、アテゾリズマブ上乗せによるPD-L1陽性患者のOSの有意な改善は認められなかった(ハザード比[HR]:0.93[95%信頼区間[CI]:0.73~1.20]、p=0.59)。 -アテゾリズマブ群:OSイベント発生70%、OS中央値12.1ヵ月(95%CI:10.1~15.1) -プラセボ群:OSイベント発生72%、OS中央値11.2ヵ月(95%CI:9.0~13.3)・PFS中央値は、アテゾリズマブ群4.2ヵ月(95%CI:3.7~5.6)、プラセボ群3.6ヵ月(95%CI:3.4~4.2)で有意差は認められなかった(HR:0.84[95%CI:0.67~1.06])。・未確定のORRは、アテゾリズマブ群40%(95%CI:32~48)、プラセボ群28%(95%CI:21~36)であった(群間差11%[95%CI:>0~22])。・奏効期間中央値は、アテゾリズマブ群6.6ヵ月(95%CI:4.6~8.0)、プラセボ群4.1ヵ月(95%CI:3.5~5.8)であった(HR:0.73[95%CI:0.48~1.11])。・これらの結果は、PD-L1陰性集団を含む修正ITT集団でも同様の傾向にあった。・安全性解析集団(587例)における有害事象の発現率は両群でおおむね同等で、新たな安全性シグナルは報告されなかった。

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未治療MCL、免疫化学療法+イブルチニブ±ASCT(TRIANGLE)/Lancet

 未治療・65歳以下のマントル細胞リンパ腫(MCL)患者において、自家造血幹細胞移植(ASCT)+免疫化学療法へのイブルチニブ追加はASCT+免疫化学療法に対する優越性を示したが、ASCT後のイブルチニブの投与継続により有害事象が増加した。ドイツ・ミュンヘン大学病院のMartin Dreyling氏らEuropean Mantle Cell Lymphoma Networkが欧州13ヵ国およびイスラエルの165施設で実施した無作為化非盲検第III相優越性試験「TRIANGLE試験」の結果を報告した。結果を踏まえて著者は、「導入療法および維持療法にイブルチニブを追加することは、65歳以下のMCL患者の1次治療の一部とすべきで、イブルチニブを含むレジメンにASCTを追加するかどうかはまだ決定されていない」とまとめている。Lancet誌オンライン版2024年5月2日号掲載の報告。治療成功生存期間(FFS)を評価 TRIANGLE試験の対象は、組織学的にMCLと確定診断された未治療の、Ann Arbor病期II~IV、測定可能な病変が1つ以上、Eastern Cooperative Oncology Groupのパフォーマンスステータスが2以下の、ASCTの適応がある18~65歳の患者であった。 研究グループは、被験者をASCT+免疫化学療法群(A群)、ASCT+免疫化学療法+イブルチニブ群(A+I群)、免疫化学療法+イブルチニブ群(I群)の3群に、試験グループおよびMCL国際予後指標リスクで層別化し、1対1対1の割合で無作為に割り付けた。 3群とも導入免疫化学療法は、R-CHOP(リツキシマブ+シクロホスファミド+ドキソルビシン+ビンクリスチン+prednisone)と、R-DHAP(リツキシマブ+デキサメタゾン+シタラビン+シスプラチン)またはR-DHAOx(リツキシマブ+デキサメタゾン+シタラビン+オキサリプラチン)を交互に6サイクル行った。A+I群およびI群ではR-CHOPサイクルの1~19日目にイブルチニブ(560mg/日経口投与)を追加した。その後、A群およびA+I群ではASCTを施行し、A+I群ではASCT後に、I群では導入免疫化学療法に引き続き、イブルチニブによる維持療法(560mg/日経口投与)を2年間継続した。なお、3群とも、リツキシマブ維持療法を3年間追加することが可能であった。 主要評価項目は、治験責任医師評価による治療成功生存期間(failure-free survival:FFS[導入免疫化学療法終了時に安定、進行、または死亡のうちいずれかが最初に起こるまでの期間と定義])で、3つのペアワイズ片側ログランク検定により比較し、ITT解析を行った。 2016年7月29日~2020年12月28日に、計870例(男性662例、女性208例)が無作為化され(A群288例、A+I群292例、I群290例)、そのうち866例が導入療法を開始した。イブルチニブ併用+ASCTで3年治療成功生存率88%、ただしGrade3~5の有害事象が増加 追跡期間中央値31ヵ月において、3年FFS率はA群72%(95%信頼区間[CI]:67~79)、A+I群88%(84~92)であり、A+I群のA群に対する優越性が認められた(ハザード比[HR]:0.52、片側98.3%CI:0.00~0.86、片側p=0.0008)。一方、I群の3年FFS率は86%(95%CI:82~91)であり、A群のI群に対する優越性は示されなかった(HR:1.77、片側98.3%CI:0.00~3.76、片側p=0.9979)。A+I群とI群の比較検討は現在も進行中である。 有害事象については、導入療法中またはASCT中のGrade3~5の有害事象の発現率について、R-CHOP/R-DHAP療法とイブルチニブ併用R-CHOP/R-DHAP療法で差は認められなかった。 一方、維持療法中または追跡調査中においては、ASCT+イブルチニブ(A+I群)が、イブルチニブのみ(I群)やASCT(A群)と比較してGrade3~5の血液学的有害事象および感染症の発現率が高く、A+I群では血液学的有害事象50%(114/231例)、感染症25%(58/231例)、致死的感染症1%(2/231例)が、I群ではそれぞれ28%(74/269例)、19%(52/269例)、1%(2/269例)が、A群では21%(51/238例)、13%(32/238)、1%(3/238例)が報告された。

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遺伝性網膜変性症、CRISPR-Cas9遺伝子治療が有望/NEJM

 CEP290遺伝子変異による遺伝性網膜変性症患者において、EDIT-101の単回投与は忍容性が良好で光受容体機能の改善が示された。米国・ハーバード大学医学部のEric A. Pierce氏らが、第I/II相非盲検単回投与漸増試験「BRILLIANCE試験」の結果を報告した。CEP290関連遺伝性網膜変性症は、早期に重度の視力低下を引き起こす。EDIT-101は、CEP290のイントロン26(IVS26バリアント)を標的としたCRISPR-Cas9生体内遺伝子編集治療。今回の結果を受けて著者は、「CEP290のIVS26変異体やその他の遺伝子変異による遺伝性網膜変性症の治療において、CRISPR-Cas9生体内遺伝子編集治療のさらなる研究を支持するものである」とまとめている。NEJM誌オンライン版2024年5月6日号掲載の報告。小児を含む遺伝性網膜変性症患者14例が対象 研究グループは、スクリーニング時に3歳以上で、CEP290遺伝子のIVS26変異によるホモ接合体または複合ヘテロ接合体の遺伝性網膜変性症を有する患者を対象とし、prednisone(0.5mg/kg/日)経口投与の3日後に経毛様体扁平部硝子体切除を行い、視力が悪いほうの眼(試験眼)にEDIT-101を300μLまで単回網膜下注射した。術後はprednisoneを4週間投与し、その後15日間で漸減した。 主要アウトカムは、有害事象および用量制限毒性を含む安全性であった。重要な有効性の副次アウトカムは、最高矯正視力のベースラインからの変化、暗順応下全視野刺激試験(FST)で測定した網膜感度、Ora-Visual Navigation Challenge(Ora-VNC)mobility testのスコア、National Eye Institute Visual Function Questionnaire-25(NEI VFQ-25)(成人)またはChildren's Visual Function Questionnaire(CVFQ)(小児)で測定した視覚関連QOLスコアであった。 計14例がEDIT-101の投与を受けた。成人は12例(中央値37歳[範囲17~63]、17歳の1例は最初の同意取得後18歳となり、その後に投与)、小児は2例(9歳、14歳)で、成人には低用量(2例)、中間用量(5例)、高用量(5例)を、小児には中間用量を投与した。ベースラインの試験眼の最良矯正視力(logMAR)の範囲は0.6~3.9であった。用量制限毒性はなし、有効性アウトカム3項目のうち1項目以上改善患者64% 治療または処置に関連した眼の、重篤な有害事象ならびに用量制限毒性は認められなかった。眼以外の重篤な有害事象は4件、治療に関連した眼の有害事象は22件発生した。 14例のうち4例(29%)で、最高矯正視力のベースラインからの変化に関する臨床的に意味のある改善(事前に規定された閾値0.3 logMAR)が認められた。 赤色光を用いたFSTによる網膜感度の評価では、6例(43%)で視覚的に意味のある改善が認められ、うち5例は少なくとも1つの他の重要な副次アウトカムの改善を示した。Ora-VNC mobility testによるベースラインから3点以上の改善は4例(29%)で、視覚関連QOLのベースラインから有意な改善(4ポイント以上上昇)は6例(43%)で認められた。 最高矯正視力、FSTによる赤色光に対する網膜感度、またはOra-VNC mobility testのいずれかがベースラインから意味のある改善を示した患者は、9例(64%)であった。

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尿検査で前立腺がん生検スキップの可否を判定

 前立腺がんが見つかった際の最も重要な疑問は、それが即座に治療が必要な進行性のがんなのか、それとも進行が遅く経過観察で済むがんなのかということだ。その答えを得るために現時点で利用できる唯一の方法は生検である。しかし、新たな研究で、MyProstateScore2.0(MPS2)と呼ばれる尿検査が、侵襲的な生検に代わる新たな検査法になり得る可能性が示された。米ミシガン大学医学部病理学および泌尿器科学分野教授のArul Chinnaiyan氏らによるこの研究の詳細は、「JAMA Oncology」に4月18日掲載された。Chinnaiyan氏は、「この検査で陰性であれば、進行性前立腺がんでないことはほぼ確実だ」と話している。 論文の共著者である同大学泌尿器科学分野のJohn Wei氏は、「前立腺がんに対する治療アプローチは、過去数十年の間に根本的に変化した。20年前には、あらゆる種類の前立腺がんを探し出して治療するのが普通だった。ところが今では、進行の遅いタイプのがんは治療する必要がないとされている」と話す。 過去数十年間、前立腺特異抗原(PSA)検査は、前立腺がんを発見するために日常的に使われていた。しかし、この検査のみでは、進行性のがんと成長の緩徐ながんを区別することは困難であり、そのため、過剰治療が行われることもしばしばであった。こうしたことから、現在でのPSA検査の使用頻度は以前に比べると格段に低くなっている。 ミシガン大学の研究グループが最初のMyProstateScoreテスト(MPSテスト)を開発したのは、10年ほど前に遡る。MPSテストは、前立腺がん抗原3遺伝子(PCA3)とTMPRSS2:ERGの2種類の遺伝子の共発現と血清PSAレベルを組み合わせて、悪性度の高いがんのリスクを推定する。Chinnaiyan氏は、「MPSテストの性能は優れているが、十分と言えるものではなかった」と話す。同氏は、「MPSテストや現在市販されている他のテストには、まだアンメットニーズが残されている。これらのテストは前立腺がんを検出しはするものの、概して、臨床的に重要な悪性度の高い前立腺がんの検出精度についてはそれほど優れているとは言えない。今回のMPS2テストの開発で推進力となったのは、このアンメットニーズに応えることだった」と話す。 前立腺がんの悪性度のレベルは、グリソンスコアで評価される。グリソンスコアがグレード2(GG2)以上の腫瘍は、グレード1(GG1)の腫瘍よりも成長して転移する可能性が高い。今回、Chinnaiyan氏らは、5万8,000以上の遺伝子発現の解析を行い、悪性度の高い前立腺がんの指標となり得る54種類の遺伝子について遺伝子候補パネルを作成して評価した。その上で、最終的に、最初のMPSテストに組み込まれていた2遺伝子を含む18種類の遺伝子をMPS2テストに組み入れた。 743人から成る検証コホートでMPS2テストの性能を確かめたところ、このテストはその他の検査法よりもGG2以上の腫瘍の検出精度が高く、重要なことに、GG1レベルの腫瘍を100%近くの精度で除外できることが示された。さらにMPS2テストは、患者が不必要な生検を回避するのにより効果的であることも示された。不必要な生検が回避される割合は、PSA検査のみに基づくと11%であったのに対し、MPS2テストでは最大で41%に達すると推定された。 Wei氏は、「MPS2テストにより、生検が必要ではないはずの10人に4人が、MPS2テストで低リスクと判定され、自信を持って生検をスキップできる」と話す。同氏はさらに、「過去に生検を受けたことがある患者の場合には、このテストはとりわけ効果を発揮する」と語る。過去の生検で陰性と判定された男性のPSAレベルが上がり始めた場合には、通常なら2度目の生検が示唆される。しかし、MPS2テストにより、そのような男性の半数近くで生検は不要と判定されることになるからだ。 現在、MPS2テストはミシガン大学のスピンオフ企業であるLynxDx社を通じてのみ入手可能である。

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減量の鍵は摂取時間帯の制限ではなく摂取カロリーの減少

 減量のためのダイエット法の一つとして近年「時間制限食」が人気だが、減量にとって重要なのは摂取時間帯を制限することではなく、摂取カロリーの減少であることを示すデータが報告された。米ジョンズ・ホプキンス大学医学部のNisa Maruthur氏らの研究結果であり、米国内科学会年次総会(ACP2024、4月18~20日、ボストン)で4月19日に発表されるとともに、論文が「Annals of Internal Medicine」に同時掲載された。 時間制限食(time-restricted eating;TRE)が減量に役立つとする報告が増えているが、その効果が、摂取時間帯を制限することに伴う摂取カロリーの減少から独立したものであるのかどうかは依然として明らかになっていない。そこでMaruthur氏らは、摂取カロリーを一定にした上で、TREと通常の食事パターン(usual eating pattern;UEP)の減量効果を比べる無作為化比較試験を行った。なお、研究背景として述べられているところによると、肥満成人が食事摂取の時間帯を1日4~10時間に制限すると、摂取カロリーが自然に約200~550kcal減少して、2~12カ月間にわたって体重低下が続くというエビデンスがあるという。 この研究の参加者は、肥満のある前糖尿病または食事療法を行っている糖尿病の成人41人(平均年齢59歳、女性93%、平均BMI36)。無作為に1:1で2群に分け、TRE群は食事摂取可能な時間帯を10時間以内に限定し、午後1時までに1日の摂取カロリーの80%を摂取することとした。一方のUEP群は食事摂取可能な時間帯を16時間以内として、午後5時以降に1日の摂取カロリーの50%以上を摂取することとした。1日の摂取カロリーと栄養バランスは両群で等しくなるように設定した。介入前の体重は、TRE群95.6kg(95%信頼区間89.6~101.6)、UEP群103.7kg(同95.3~112.0)で、介入期間は12週間だった。 主要評価項目である介入期間中の減量幅は、TRE群が2.3kg(同1.0~3.5)、UEP群は2.6kg(同1.5~3.7)であり、平均差は0.3kg(同-1.2〜1.9)であって、減量効果は同等と考えられた。また、副次的評価項目として設定されていた血糖関連指標の変化も有意差がなかった。この結果を基に研究者らは、「TREが流行しているが、日々の摂取カロリーを減らせば、いつ食べても体重は減少する」と結論付けている。 この論文に対して、米イリノイ大学のKrista Varady氏、Vanessa Oddo氏が付随論評を寄せている。両氏はMaruthur氏らの研究報告を高く評価した上で、「それでも肥満者がTREを試みる価値がある」としている。具体的には、「TREの人気の高まりは、その容易さによるものである可能性が最も高い。つまり、カロリー計算が必要ないということが、支持される理由だ。摂取可能な時間枠を設けることは、それだけで1日の摂取量を減らすのに役立ち、結果として減量に効果的である」と述べている。

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過換気症候群の受診が多くなる・少なくなる気温は何℃?【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第257回

過換気症候群の受診が多くなる・少なくなる気温は何℃?「今日は過換気症候群がたくさん来るわよ」と研修医の私に言った看護師さんがいました。彼女の予想どおり、その日の救急当直は過換気症候群の患者さんがたくさん受診しました。受診の予想なんてできるんだろうか…と思いながら幾星霜。それに言及してくれた論文が刊行されました。Wang J, et al. Impact of ambient temperature, diurnal temperature range on hyperventilation syndrome emergency admission: a time-series analysis in Beijing, China.BMJ Open. 2024 Feb 22;14(2):e080318.この研究では、北京赤十字救急センターにおいて、過換気症候群の緊急入院における周辺の温度と日内温度範囲の関連を調べることを目的としています。病名はICD-10で定義され、相対湿度、風速、降水量、季節性傾向、曜日を調整した曝露因子として、過換気症候群の搬送と周囲の温度・日内温度範囲との関連を調べました。その結果、驚くべきことに、周囲の温度と過換気症候群受診の間にはU字カーブが確認されたのです(図1)。画像を拡大する図1. 気温と過換気症候群の受診の関係(文献より日本語に翻訳して引用)(CC BY 4.0)過換気症候群のリスクは12℃で最小となりました。この過換気症候群の受診と気温のより強い関連は、女性と44歳以下で観察されました。また、気温の日内変動と過換気症候群受診の関係は逆U字カーブであることが示されました(図2)。とくに、気温変動が極端に小さい場合にはリスクは低くなるという結果でした。画像を拡大する図2. 日内気温変動と過換気症候群の受診の関係(文献より日本語に翻訳して引用)(CC BY 4.0)気温と過換気症候群の発生というのはいろいろな研究グループが調査しているようですが、この研究では12℃が受診頻度が低い、日内変動が小さいほど受診頻度が低いということが示されました。確たる理由はわかっていません。外部環境が落ち着いていると、比較的呼吸がラクなのかもしれません。夏や冬のように急激に気温が変化するタイミングで過換気症候群が起こりやすいのでしょうか。

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第211回 医師は必見!“見返りなしでも逮捕”された事件

実は昨年秋からこの4月まで私はある裁判を傍聴するため、札幌に5回も出張した。保険薬局チェーン・アイン薬局を展開するアインファーマシーズ(以下、アイン)の元社長と元取締役がKKR札幌医療センター(以下、同センター)の敷地内薬局の整備を巡り、同センター事務部長と共に公契約関係競売等妨害罪に問われた裁判である。事件のあらましは以下のようなものだ。同センターが公募型プロポーザル方式の企画競争入札で敷地内薬局事業者の選定中、元事務部長が企画提案書の提出期限後にアイン元取締役に企画内容の再提案を打診。これに応じてアイン側が2度も企画提案書を再提出し、優先交渉権を獲得した。最終的に同センターの敷地内薬局を開業するに至った。この際の企画提案書提出期限後の再提出が刑法第96条の6第1項で定める公の競売や入札での公正さを欠く偽計として罪に問われたのである。結論を言うと、札幌地裁は4月18日の判決で、元事務部長に懲役1年・執行猶予3年(求刑懲役1年)、アイン元社長と元取締役にそれぞれ懲役6ヵ月・執行猶予2年(求刑懲役10ヵ月)を言い渡した。アイン側の2被告はこの判決を不服として5月1日付で札幌高裁に控訴している。裁判の争点さて、この経過を聞くと、「それがなぜ罪になのか?」と疑問に思う人もいるだろう。まず、前提条件として同センターの位置付けがある。KKRは国家公務員共済組合連合会の略称で、国家公務員の年金や福祉事業に関する業務を加入共済組合と共同で行うことを目的に設立され、国家公務員共済組合法に基づき運営されている。職員は「みなし公務員」の地位にあり、KKRが運営する全国32医療機関はすべて公的病院の扱いだ。一方、「公募型プロポーザル方式」という言葉もあまり馴染みがない人も少なくないだろう。類似するものとしては一般競争入札があり、これは公募に応じて参加した事業者の中で評価点が最も高い提案者を落札者とし、契約を締結する。ただ、一般競争入札の場合、性能・仕様があらかじめ定まった物品の購入などで行われることが多く、「評価の高い提案≒入札価格」の場合がほとんど。これに対し、公募型プロポーザル方式は、あらかじめ性能・仕様を定めることが困難か複雑な事業に関して、公募に参加した事業者が企画提案を行い、その中で評価点が最も高い提案者を優先交渉権者とし、そこから具体的な契約交渉を行う。前述のように性能・仕様をあらかじめ定めることが困難だからこそ、優先交渉権者との間で具体的な話し合いの下、条件などを詰め、実施主体にとって有利な契約締結に導くことができるメリットがある。この性格の違い上、一般競争入札は公募時に示した条件の変更は原則不可能だが、公募型プロポーザルではこの点が柔軟に対応できる。ただ、公募型プロポーザルのデメリットは一般競争入札に比べ、契約締結まで時間を要することである。さて今回の事案は、公募した企画提案の提出期限後、他社の提案なども参照できた元事務部長が、アインが優先交渉権者になるよう、元取締役らに企画提案書の再提出を打診。これに応じたアイン側が2度にわたって企画提案書を再提出して優先交渉権を獲得したことが、刑法第96条の6第1項に定める「偽計又は威力を用いて、公の競売又は入札で契約を締結するためのものの公正を害すべき行為をした者は、3年以下の拘禁刑若しくは250万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する」の偽計に当たり、逮捕・起訴された。これに対しアイン側の2被告の弁護人は「公募型プロポーザルは、随意契約(特定の事業者を選んで交渉の上、契約)の一種で入札には当たらない」との学説を引用して争点とし、加えて元社長の弁護人は、元社長が案件提出期限とその後の再提出不可を認知していなかったと主張し、故意性と元取締役との共謀性を否定した。しかし、結果として、両被告の弁護人の主張が退けられ、前述の判決となった。判決では、まず国家公務員共済組合法に基づき、▽KKRが設置する病院は福祉事業の一環として設置▽職員は罰則適用で公務員の扱い▽KKRの事業計画や予算は事業年度ごとに財務大臣の認可が必要▽業務執行や財産状況は財務大臣が監督、監査▽理事長や一定の理事、幹事は財務大臣の任命や認可を受けて理事長が任命、などの性格を踏まえ、KKRが行う事業はあくまで「公」と改めて認定。さらに公募型プロポーザルが「入札」に相当するかについては、▽過去の判例などから会計法上の随意契約であっても競争入札と同様の内容や性質があれば、刑法第96条の6第1項が定める「入札」に相当▽今回の公募型プロポーザルは審査項目と一定の客観性・公平性を担保した審査基準を設定▽審査項目内では敷地内薬局事業者がセンターに支払う賃料という一般競争入札の落札価格にも似た経済的・客観的項目を相当程度重視▽非公表の予定価格の設定、不特定多数の参加者の公募、参加事業者は互いに他の事業者の提示内容を知らずに企画を提案▽あらかじめ定めた基準で提案順位を付けるなど手続の競争性を担保、などの理由から「入札」に該当するとの判断を示し、有罪を言い渡した。ちなみに元事務部長がアイン側に再提出を促したのは、審査項目内で最多配点だった敷地内薬局開設者が同センターに支払う賃料が公募に応じたほかの事業者と比較して低額だったためだ。最高賃料の事業者が有利なことを見越して、元事務部長はアインが優先交渉権者になれるよう、賃料を引き上げた企画提案書の再提出を求めたのである。その結果、アイン側が提示した月額賃料は当初の450万円から750万円まで引き上げられて優先交渉権者となり、最終的に敷地内薬局の開設契約に至っている。アイン薬局への便宜、人情が足かせに!?元事務部長はなぜアインを優先交渉権者にしようとしたのか? このケースでは少なからぬ人が「元事務部長は便宜を図る代わりに賄賂を受け取っていたのではないか?」と推測するだろう。実際、今回3被告が問われた公契約関係競売等妨害罪に問われた過去の事件の多くは同時に贈収賄罪でも立件されている。ところがこの事件では贈収賄罪は適用されておらず、公判での検察の陳述や尋問でもそれを示唆するような内容はまったくなかった。さらに判決では元事務部長に関して「犯行動機は、医療センターの経営改善を意図したものであり、当該事業者と癒着して私腹を肥やしたような事情はないものの、当該特定の事業者を選定しなければならないとする十分な理由は認められず」と言及し、本人の私利私欲とは無縁であることをわざわざ強調している。さらにここでも多くの人が「経営改善が目的ならば、最初からアインより高額な月額賃料を提案した事業者を優先交渉権者にすれば良いだろう」と疑問に思うはずだ。さて、ではどうして元事務部長は金銭的見返りもないのにここまでアインに便宜を図ったのだろうか? 裁判で元事務部長は「アインが信頼できる会社だから」と述べているが、それも極めてあいまいなもの。実はこの点をうかがい知れる背景情報が裁判で明らかになっている。元事務部長とアイン元取締役は、共に北海道では甲子園出場常連校の野球部OB同士で、旧知の間柄だったのである。私の世代では高校の体育会系の伝統的頂点は野球部。しかも甲子園常連校のOB同士ならば、半ば“鉄の結束”になっているはずである。つまり「仲間内に仕事を渡したい」という義理・人情の色彩が濃厚にうかがわれるのだ。率直に言って、この手の事例は民間では吐いて捨てるほどあるはず。たまたま、公的病院が舞台だったため、刑法に抵触してしまったと言える。もっとも今回の事件は、ある種、検察の“見込み違い”もあったのではないかとの指摘が関係者の間でささやかれている。前述のように公契約関係競売等妨害罪が適用される事件では、贈収賄罪や官製談合防止法違反で同時に立件されることが少なくない。“見込み違い”とは、検察が当初、この件で贈収賄罪も疑って立件に踏み切ったが、結果的にその証拠はなかった、いわば「大山鳴動して鼠一匹」だったのではとの見方だ。裁判傍聴マニアが驚いた検察側の姿勢ここからは推測になるが、指摘はそれほど外れてはいないと個人的には踏んでいる。一応、これでも検察案件の刑事事件の裁判傍聴はそこそこに経験がある。その自分が今回の裁判の初公判でビックリしたことがあった。検察側の出廷者が比較的若い女性検察官1人だったことである。検察が注力している案件の場合、出廷する検察官は2~3人であることが多い。そしてその中にはパッと見で熟練と思われる年配の男性検察官が含まれていることがほとんどだ。やや女性差別と言われてしまうかもしれないが、日本の官公庁は今でも男性社会であることに異議を唱える人は少ないだろう。要は今回の事件が検察にとっても拍子抜けだったかもしれないのは、ここからもうかがえると個人的には解釈している。しかし、奇しくもこの一件は、公の立場では、義理・人情をベースにした不公正も罪として成立するという現実を世の中に示した。公的病院の医師が知っておくべきこと今回、敢えてこの件を紹介したのは、これまでの個人的な取材の経験から、医師も含む公的病院の勤務者には、この公の場にいるという意識の濃淡が人によってかなり格差があると感じているからだ。とくに医師の場合、公的病院でも外部の大学病院医局が派遣元になっていると、かなりこの“公”の意識が曖昧なままの人を散見する。たとえば先日、公的病院である東京労災病院の整形外科医が特定の医療器具を使用する見返りとしてメーカーから現金を受け取っていたとして贈収賄罪で逮捕されている。これは明確な私利に基づく行為だが、公的病院の勤務者の自覚に欠いていることは明らかである。改めて強調するが、金銭・物品の見返りがなくとも、知己のある相手に不公正な便宜を図っただけでも罪になることを改めて示したという点で、今回の判決はかなり意味のあるものと言える。この点を改めて医療従事者に認識して欲しいと切に願っている。

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映画「チャーリーとチョコレート工場」【夢の国は「中毒」の国!?その「悪夢」とは?(嗜癖症)】Part 1

今回のキーワード嗜癖(アディクション)物質の嗜癖症行動の嗜癖症人間関係の嗜癖症嗜癖症スペクトラム子育て(家庭環境)の違いテーマパークお祭り皆さんはテーマパークが好きですか? とくに子供は大好きですよね。おいしいお菓子やすてきなグッズが至るところに並べられ、乗り物は選びたい放題。そして歌とダンスのパレードにキャストからのおもてなし。まさに夢の国。子供も大人も楽しめる、ザ・エンターテイメントです。そんなところにはずっといたい! でも、もし本当にずっといたら、どうなるでしょうか?今回は、嗜癖(しへき)をテーマに、映画「チャーリーとチョコレート工場」を取り上げます。この映画を通して、精神医学の視点から、嗜癖症について掘り下げます。そして、何ごともハマりすぎることはとくに子供に有害である理由を解説します。そこから、この映画の教訓を一緒に導いてみましょう。4人の子供たちはすでに何にハマってる?-3つの嗜癖チョコレート職人ウォンカが作ったチョコレートは世界中で大人気。しかし、彼のチョコレート工場の中は完全非公開であり、謎に満ちていました。そんなある日、彼は以下の告知を出します。「工場見学に5人の子供をご招待します。金色の招待チケットが、世界中で売られているどれかのチョコレートの包み紙の中にそれぞれ1枚ずつ、全部で5枚入っています。さらにそのうちの1人は想像を絶する特別な賞品がもらえます。」世界中がチケット争奪で大騒ぎとなる中、運良く引き当てた5人の子供が工場見学に揃ってやってきます。まず、そのうちの4人がすでにハマっていることを通して、嗜癖を大きく3つに分けてみましょう。なお、嗜癖(しへき)(アディクション)とは、嗜好の癖、つまり嗜んで好きになり癖(習慣)になる状態で、依存のより広い概念として現在心療内科・精神科で使われるようになっています。日常会話では「ハマる」「病みつき」「〇〇中毒」と言い換えられます。(1)チョコレートにハマる―物質の嗜癖1人目のオーガスタスは、大のチョコレート好きの食いしん坊。小学生にして、すでに体格は大人並みの肥満体形です。1つ目の嗜癖は、何かを体に摂取することにハマる、つまり物質の嗜癖です。これは、チョコレートなどの食べ物のほかに、アルコール、コーヒー、タバコ、ドラッグ(薬物)などが挙げられます。(2)買い物またはゲームにハマる―行動の嗜癖2人目のベルーカは、お金持ちで何でも自分のものにしたがる欲しがり屋さん。経営者である父親の財力によって、小学生にして手に入れられないものはありません。招待チケットも、父親のチョコレートの買い占めによって手に入れました。また、3人目のマイクは、激しい戦闘ゲームにハマる中学生のゲーマー。大勢のテレビリポーターの前でもゲームをやめずに「死ね!ぶっ殺す!」と叫び、知ったかぶりで反抗的でした。2つ目の嗜癖は、何かをすることにハマる、つまり行動の嗜癖です。これは、買い物(浪費癖)やゲームのほかに、ギャンブル、コレクション(収集癖)、抜毛癖、美容形成(醜形恐怖)、自傷行為(情緒不安定)、万引き(窃盗癖)、性癖、ポルノ(セックス)などが挙げられます。(3)ちやほやされることにハマる―人間関係の嗜癖4人目のバイオレットは、ガム噛みの世界ジュニアチャンピオン。部屋中にいくつものトロフィーが飾られています。テレビレポーターたちの前でも、世界記録挑戦中のためにガムを噛み続け、「私が一番」「私が特賞をもらう」と勝つことにこだわります。3つ目の嗜癖は、人と何かでかかわることにハマる、つまり人間関係の嗜癖です。これは、ちやほやされること(承認)のほかに、バッシング、虚言癖、世話好き(共依存)、甘え癖(依存)、支配すること(モラルハラスメント・DV)などが挙げられます。次のページへ >>

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