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1977年Gruentzigが世界で初めて臨床応用して以来、経カテーテル冠動脈インターベンション(PCI)の進歩は留まるところを知らないように見える。しかしながら、いわゆる「質の保証(Quality assurance)」の観点から、本治療法の急速な普及と適応拡大には、懸念を示す論議も少なくない。PCIには一定の技術的修練が必要なこと、その合併症が直ちに生命を危うくしうること、そして緊急に外科的処置を行う必要がありうることが、術者や施設のあり方についての議論の根底にある。 本論文は「心臓外科部門の有無」と「非緊急PCIの予後」の関係について検証しようとする前向き無作為化非劣性試験である。主たる結果は「心臓外科部門のない施設における非緊急PCIの1年までの予後は、同部門を有する施設に対して劣らない」とするものである。こうしたメッセージはさらなるPCI施設の広がりに繋がるようにも見えるが、本邦への外挿については困難が多い。つまり、こうした「医療手順」の比較試験では、1) 極端な患者組み入れバイアスが生じやすいこと、2) 実施地域の「医療システム」から大きく影響を受けること、に注意すべきである。この要素の理解のためには、Supplementary Appendix(本論文の電子版では28ページにおよぶ)をも通読する必要があるかも知れない。 本試験の期間中、心臓外科部門のない施設で6,694例がスクリーニングされ、5,392例が組み入れ基準を満たしていたが、実際にランダム化されたのは3,691例である。組み入れ可能症例の31.5%にあたる1,701例がランダム化されなかったわけだが、彼らがどのように扱われ、どういった転帰であったか、本論文は語っていない。「行間に除外基準がある」ことは、本試験結果の解釈を曖昧にし、現場適用を難しくするだろう。 本論文は「施設」の差異とPCIのアウトカムの関係にフォーカスしているわけだが、「術者」の状況は本邦とかなり異なっている。この試験には経験に富んだ68人の「術者」が参加しているが、そのうち34人は外科のある施設のみでPCIを行ない、残りの34名は両方のタイプの施設でPCIすると記載されている。つまり外科のない施設のみでPCIをしている「術者」は1人もいないことになる。通常、「施設」と「術者」が一体である本邦では、本論文の結果を「外科のない施設でもPCIは大丈夫」などと単純に解釈出来ないことは自明であろう。 上述のごとく、いくつかの試験デザイン上の限界があり、またマサチューセッツ州以外のエリアへの外挿の困難さはあるにしても、こうした「医療手順」の適切性を検討するという、いわば「高い視点」の論文が出版される意義は大きい。本論文では施設間の治療成績のばらつきを指摘し、モニタリングやベンチマークの重要性にも言及している。残念ながら本邦では、医療の質を担保するための、医師個人や施設の資格について記載した診療ガイドラインは殆どない。