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はじめに糖尿病により発がんおよびがん死のリスクが増加する可能性が、近年注目されている1)。また、糖尿病を有する患者ががんになると、生命予後、術後予後が不良であることが報告されている。本稿では両者の関連についてレビューする。糖尿病とがんの関連性糖尿病とがんは、食事、運動不足、喫煙、飲酒など、さまざまな生活要因を介して相互関連している(図1)が、さらに治療薬の関与も示唆されてきている。図1を拡大する糖尿病患者が世界的に急増していることから、糖尿病の予防だけでなく、がん予防対策、がん検診の有効性、さらには糖尿病治療薬に関する研究と診療での認識が重要となってきた。糖尿病では、心血管疾患による死亡が増加するが、がん死の多いわが国では、糖尿病においてもがんは死亡の主因である。そこで、日本でも、日本糖尿病学会と日本癌学会が合同で国民および医療者に対するステートメントを発表している2)(表)。表を拡大する参考を拡大する疫学的エビデンス筆者らが行ったメタアナリシスによると、糖尿病患者は非糖尿病患者に比べて、がんを発症するリスクが約1.2倍と有意に高値であった3)(図2)。図2を拡大するまた、この数値はがんによる死亡リスクについてもほぼ同様3)で、国内外で認められている。さらに、人種間、男女間の比較においても、いずれも糖尿病患者でよりがんのリスクが上昇する傾向を認め、さらにアジア人は非アジア人よりも上昇率が高いことが判明した4)。日本人においては、臓器別でみると、大腸がん、肝臓がん、膵臓がんの有意なリスク上昇と関連していた2)。糖尿病による発がん機序糖尿病とがんの関連性には、高インスリン血症、高血糖、肥満、炎症、糖尿病治療薬などさまざまな因子が複雑に関与している2)(図3)。図3を拡大する1)高インスリン血症2型糖尿病は、インスリン抵抗性と代償性高インスリン血症を特徴とする。さらに2型糖尿病患者では、肥満や運動不足が多く、高インスリン血症がさらに進行する。インスリンは、insulin-like growth factor-1(IGF-1)受容体を介してがんを誘発することが想定されおり、動物実験で証明されている。一方ヒトでは、1型糖尿病のがんリスクは2型糖尿病より低いものの、一般人との比較では結論に達していない。 なお、糖尿病患者での前立腺がんのリスクが低値であることには、以下の機序が想定されている。糖尿病患者では、性ホルモン結合グロブリンが低値であり、さらにインスリン抵抗性によりテストステロン産生が低下するためにテストステロン低下症が少なくない。 前立腺がんは、テストステロン依存性であるため、糖尿病患者では前立腺がんのリスクが低下する。ただし人種差があるため、日本人を含むアジア人ではこの傾向を認めていない(図2)。2)高血糖2型糖尿病のがん細胞増殖や転移は、高血糖で促進されることが報告されている。また、血糖値とがんリスクには正の相関があることも報告されている。さらに高血糖は、酸化ストレスを高め、それが発がんの第1段階であるDNA損傷を引き起こすことも提唱されている。インスリン分泌不全が2型糖尿病の特徴とされる日本人・韓国人でも私たちの分析でがんリスクの増加を認めたことは、この仮説に合致し、近年発表された前向き研究統合解析でも血糖値とがん死リスクの正の相関傾向が示されている5)。疫学データの限界疫学データではバイアスが少なからず伴い、計算で完全に調整することはできない。とくに、糖尿病の診断は自己申告であることが多いこと、糖尿病患者は通院しているためにがんを発見しやすいなどにより妥当性が低下する。糖尿病に伴うがんリスクは、過大評価されている可能性があり、若干割り引いて解釈することも重要である。参考文献1)Noto H, et al. J Diabetes Investig. 2013; 4: 225-232.2)糖尿病と癌に関する委員会. 糖尿病. 2013; 56: 374-390.3)Noto H, et al. Endocr Pract. 2011; 17: 616-628.4)Noto H, et al. J Diabetes Investig. 2012; 3: 24-33.5)Seshasai SR, et al. N Engl J Med.2011; 364: 829-841.