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ケアネットをご覧の皆さま、こんにちは。国立国際医療研究センター 国際感染症センターの忽那です。このタイトルの連載は「新興再興感染症の気を付け方」についてまったりと、そしてときにまったりと、つまり一貫してまったりと学んでいくコーナーです。前回はBorrelia miyamotoiの微生物学的な特徴、国外での疫学についてご紹介いたしましたが、今回は日本国内の疫学、臨床像、治療、そして気を付け方についてご紹介したいと思います。Borrelia miyamotoiの日本国内の疫学2011年からBorrelia miyamotoiによる感染症が海外でも報告され、日本でもそのうち感染例が出るのではないかと、まことしやかにささやかれ始めました。そもそも日本で最初に見つかった微生物ですからね。そして、ついに日本国内からもBorrelia miyamotoi感染症が報告される日が来ました。Borrelia miyamotoiは、ライム病グループのボレリア属と同じマダニに媒介されるという特徴や、海外ではライム病との共感染が示唆される事例が相次いでいたことから、わが国でも疑い例を含むライム病患者408例の血清でBorrelia miyamotoiのPCRが行われたところ、2例でBorrelia miyamotoi遺伝子が検出されたことから、ライム病との共感染のBorrelia miyamotoi感染症と考えられました1)。この2例はどちらも北海道在住の方で、発症2週間以内にマダニに咬まれていました。日本でも……日本でも回帰熱に感染するのですッ! このうち1例はより詳細な症例報告があります2)。この方は、北海道の山中で仕事をしている際に前胸部をマダニに咬まれており、その12日後、マダニ刺咬部前胸部に、遊走性紅斑が出現したため病院へ受診しています。ライム病に典型的な遊走性紅斑であったことから、当初ライム病と診断されセフトリアキソン1g/日を7日間投与され症状は消失しています。ボレリア抗体が陽性ということで、ライム病として届出が行われましたが、後日PCR法でBorrelia miyamotoi の遺伝子が検出されたことから、回帰熱としても届出が行われました。やはりライム病との共感染の頻度が高いようです。北海道ではマダニの調査も行われており、マダニの種類によって異なるものの、シュルツェマダニなどのマダニが数%の頻度でBorrelia miyamotoiを保有していることが明らかになっています3)。ライム病は北海道以外にも長野県などで報告があること、またシュルツェマダニは北海道だけでなく、全国に分布していることから北海道以外の地域でもBorrelia miyamotoiに感染する可能性はあると考えられます。Borrelia miyamotoiの臨床像、治療、そして気を付け方Borrelia miyamotoi感染症は、まだ報告例が少ないことから臨床像についてもまだ未知な部分が多いのですが、ロシアで報告された46例では高熱、頭痛、倦怠感、筋肉痛、関節痛といった非特異的な症状の頻度が高かったようです4)。46例中9例で遊走性紅斑が認められていますが、これはおそらくライム病との共感染と考えられます。Borrelia miyamotoi感染症は回帰熱グループなんですが、このロシアの報告でも5例だけで繰り返す発熱エピソードが観察されており、他の回帰熱グループと比べるとそんなに発熱は回帰しないんじゃないかと考えられています。ちょっとテンション下がりますね。また、免疫不全者では、慢性髄膜炎の原因にもなるようです5)。治療についても未知な部分は多いのですが、元々ボレリア属はいろんな抗菌薬が効きまくる微生物であり、これまでにペニシリンGやセフトリアキソン、ドキシサイクリンで治療されています。おそらくライム病と同じように、これらの抗菌薬が有効と考えられます。治療期間は2週間というものが多いようですが、適切な治療期間については不明です。 また、治療の際に注意すべき点として、スピロヘータ特有の問題であるJarisch-Herxheimer反応があります5)。治療開始後に発熱やショック状態を呈することがあり、治療を開始したら、しばらくは慎重に経過観察をしましょう。最後に、Borrelia miyamotoi感染症の気を付け方ですが、これまでに明らかになっている疫学や臨床像から、ライム病を疑った患者ではBorrelia miyamotoiの共感染も考えるシュルツェマダニなどの生息する地域でマダニに曝露して10~14日後に高熱を伴う非特異的症状を呈した患者で、原因がわからないもの(とくに回帰性発熱を呈する患者)ではBorrelia miyamotoi感染症を考えるあたりが落としどころになるかと思います。これからマダニの季節がやってきます。読者の皆さまもときどきBorrelia miyamotoiについて、思いを馳せてみてください……。次回は、日本上陸間近と懸念されている「チクングニア熱」の気を付け方に迫りたいと思います!1)Sato K, et al. Emerg Infect Dis. 2014;20:1391-1393.2)兼古稔. 日臨救医誌. 2015;18:63-67.3)Takano A, et al. PLoS One. 2014;9:e104532.4) Platonov AE, et al. Emerg Infect Dis. 2011;17:1816-1823.5) Gugliotta JL, et al. N Engl J Med. 2013;368:240-245.