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bempedoic acid、高リスクのスタチン不耐患者の1次予防に有効/JAMA

 心血管イベントのリスクが高いスタチン不耐の患者の1次予防において、bempedoic acidはプラセボと比較して、4項目の主要有害心血管イベント(MACE:心血管死、非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中、冠動脈血行再建)の発生率が有意に低く、有害事象の頻度は全般に同程度であることが、米国・クリーブランドクリニックのSteven E. Nissen氏らが実施した「CLEAR Outcomes試験」で示された。研究の成果は、JAMA誌オンライン版2023年6月24日号に掲載された。32ヵ国1,250施設の無作為化臨床試験 CLEAR Outcomes試験は、32ヵ国1,250施設が参加した無作為化臨床試験であり、2016年12月~2019年8月の期間に、患者の登録が行われた(Esperion Therapeuticsの助成を受けた)。 対象は、年齢18~85歳、LDLコレステロール(LDL-C)値が100mg/dL(2.59mmol/L)以上で、初発の心血管イベントのリスクが高い臨床的特徴を有し、スタチン不耐で臨床的イベントの既往歴のない1次予防の患者であった。 被験者は、bempedoic acid(180mg、1日1回)またはプラセボを経口投与する群に無作為に割り付けられた。 有効性の主要アウトカムは、無作為化から、4項目MACEのいずれかが最初に発生するまでの期間であった。 スタチン不耐の1万3,970例(最大の解析対象集団)のうち、4,206例(30%)が1次予防の基準を満たした。2,100例がbempedoic acid群に、2,106例はプラセボ群に割り付けられた。1次予防患者全体の平均年齢は67.9(SD 6.8)歳、59.0%が女性で、66.1%は糖尿病であり、19.3%はスタチン、8.0%はエゼチミブの投与を受けていた。平均LDL-C値は142.5mg/dL、平均HDL-C値は51.0mg/dL、トリグリセライドの中央値は161.8mg/dLだった。6ヵ月でLDL-C値が21.3%、hsCPRが21.5%減少 治療開始から6ヵ月後に、LDL-C値は、bempedoic acid群ではベースラインの142.2mg/dLから108.2mg/dLへと34.0mg/dL(最小二乗平均[LSM])低下し、プラセボ群では142.7mg/dLから138.6mg/dLへと3.8mg/dL(LSM)低下しており、プラセボ群と比較してbempedoic acid群は30.2mg/dL(LSM)(21.3%)低かった。 また、高感度C反応性蛋白(hsCRP)は、bempedoic acid群ではベースラインの2.39mg/Lから6ヵ月後には1.75mg/Lへと0.34mg/L(LSM)低下し、プラセボ群では2.44mg/Lから2.52mg/Lへと0.01mg/L(LSM)増加しており、プラセボ群と比較してbempedoic acid群は0.56mg/L(LSM)(21.5%)低かった。 フォローアップ期間中央値39.9ヵ月の時点で、主要エンドポイント(4項目MACE)の発生率は、プラセボ群が7.6%(161イベント)であったのに対し、bempedoic acid群は5.3%(111イベント)と有意に低かった(補正後ハザード比[HR]:0.70、95%信頼区間[CI]:0.55~0.89、p=0.002)。 副次エンドポイントである3項目MACE(心血管死、非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中)の発生率は、bempedoic acid群が良好であった(bempedoic acid群4.0% vs.プラセボ群6.4%、HR:0.64[95%CI:0.48~0.84]、p<0.001)。また、致死的または非致死的心筋梗塞(1.4% vs.2.2%、HR:0.61[95%CI:0.39~0.98])、心血管死(1.8% vs.3.1%、0.61[0.41~0.92])、全死因死亡(3.6% vs.5.2%、0.73[0.54~0.98])の発生率も、bempedoic acid群で優れた。 一方、致死的または非致死的脳卒中(bempedoic acid群1.3% vs.プラセボ群1.8%、HR:0.76[95%CI:0.46~1.26])と、冠動脈血行再建(2.4% vs.3.2%、0.71[0.49~1.03])の頻度には両群間に差を認めなかった。 重篤な有害事象(bempedoic acid群19.9% vs.プラセボ群20.8%)や投与中止をもたらした有害事象(9.9% vs.9.9%)の頻度は両群間で同程度であった。肝酵素上昇(4.5% vs.2.6%)や腎臓の有害事象(10.3% vs.8.1%)はbempedoic acid群で多かった。また、高尿酸血症(12.1% vs.6.3%)、痛風(2.6% vs.2.0%)、胆石症(2.5% vs.1.1%)もbempedoic acid群で高頻度だった。 著者は、「この研究は大規模臨床試験のサブグループのアウトカムを報告したものであり、今回の結果は有益性の決定的なエビデンスというより、仮説を生成するものとして解釈すべきである」としている。

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コルヒチンは変形性関節症の進行を抑制する?

 2000年以上前から抗炎症薬として使用されてきたコルヒチンが、膝関節や股関節の人工関節置換術が必要となる状態を遅らせるのに役立つ可能性があるようだ。低用量のコルヒチンを使用していた高齢者では、プラセボを使用していた高齢者と比べて、その後2年間に膝関節や股関節の人工関節置換術を受けた人の割合が低かったとする研究結果を、シント・マールテン・クリニック(オランダ)のMichelle Heijman氏らが、「Annals of Internal Medicine」に5月30日発表した。 変形性関節症(Osteoarthritis;OA)は、老化を含むさまざまな原因により関節が変形して痛みや腫れが生じた状態を指す。OAの治療薬は痛みの緩和には有効だが、現状では、痛みの原因となっている関節の破壊を遅らせる薬はない。一方、コルヒチンは長年にわたってOAとは異なる種類の関節炎をもたらす痛風に対して処方されてきた。また、心膜炎の患者に対しても同薬が使用されることがある。 コルヒチンは、特定の炎症性サイトカインの産生を抑制することで効果を発揮するが、そのサイトカインはOAの進行にも関与しているとの指摘がある。そこで、Heijman氏らのグループは、2020年に報告された、低用量コルヒチンによる心血管イベントの予防効果を検討した臨床試験において、コルヒチンが投与された患者では、膝関節や股関節の人工関節置換術の施行率も低い可能性があると考え、同試験のデータの探索的な解析を行った。同試験では、5,522人の安定冠動脈疾患患者(平均年齢66歳)のうち2,762人が低用量コルヒチン(1日当たり0.5mg)投与群に、残る2,760人がプラセボ投与群にランダムに割り付けられていた。 その結果、追跡期間中央値28.6カ月の間に膝関節または股関節の人工関節置換術を受けた患者の割合は、低用量コルヒチン投与群では2.5%、プラセボ投与群では3.5%であり、低用量コルヒチン群の方が低いことが示された(発生率:0.90対1.30件/100人年、ハザード比0.69、95%信頼区間0.51〜0.95)。 Heijman氏によると、解析したデータには患者のOAの有無に関する情報が含まれていなかった。しかし、人工股関節全置換術や人工膝関節全置換術を受ける患者の大多数は、重度のOAを理由にそれらの手術を受けることから、同氏らは、今回の解析結果にコルヒチンによる関節炎の進行抑制効果が反映されているのは確かだとの考えを示している。 Heijman氏らは、「ただし、この研究には留意すべき点がある。それは、本研究が低用量コルヒチンによる心筋梗塞や脳卒中などの心血管イベントの予防効果を調べるために実施された臨床試験のデータを解析したものである点だ」と強調する。つまり、この解析結果は、低用量コルヒチンが実際に変形性膝関節症や変形性股関節症の進行を抑制したことを証明するものではないということだ。同氏は、「それでも解析結果は、OAの治療におけるコルヒチンの有用性を調べる研究を実施することの説得力ある論拠になる」と主張している。 その上でHeijman氏は、「その結果が明らかになるまでは、コルヒチンをOAの治療薬として使用することは推奨できない」との見解を示す。そして、「もしOAに対するコルヒチンの効果が確認できれば、OAの患者に対して安全で有効な治療法を提供できるようになる」と話している。 米ホスピタル・フォー・スペシャル・サージャリーのリウマチ専門医であるLinda Russell氏も、「この解析結果だけでは、コルヒチンが人工関節置換術を遅らせることを証明するには不十分」との見解を示す。同氏は、試験に参加する前から手術が予定されていた患者が何人いたのかが不明である点も指摘している。 Russell氏は、人工関節置換術を要する状態になるのを予防したり、遅らせたりするためにOAの患者ができることとして、必要に応じた減量や関節を支える筋肉の強化を挙げている。

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第161回 高齢者に熱中症対策を促す際、エアコンより厄介なのは…

ウクライナ危機に端を発した燃料費の高騰により、大手電力7社が申請していた6月からの電気料金の値上げが決定した。値上げ率は各社で異なるが、15.3~39.7%と大幅な値上げだ。これだけの値上げとなると、暑くなる時期にエアコンの使用を控える人も出てくるだろう。しかも、よりによってこの時期に記録的な暑さとなっている。5月17日には全国250地点以上で30℃超の真夏日となり、岐阜県揖斐川町では5月として観測史上最高の35.1℃の猛暑日を記録した。翌18日も各地で真夏日となり、東京都では5月中旬としては観測史上初の2日連続の真夏日。しかも、今年の6~8月は平年と比べ、かなり酷暑になると予想されている。2022年6~8月は国内で平均気温統計を開始した1898年以降、2番目の暑さだったと言われているが、もしかしたらそれを超えるかもしれない状況だ。こうなると危惧されるのが熱中症患者の増加だ。消防庁によると、2022年5~9月の全国の熱中症による救急搬送者の累計は7万1,029人。前年の2021年同時期の4万7,877人より大幅に増加し、搬送者数の調査が開始された2008年以降では3番目に多い数となった。この増加は前述した昨年の暑さのレベルで説明がつく。ちなみに2020年のコロナ禍以降、ユニバーサルマスク推奨で熱中症が増えたのではないかと、一部の人が指摘することがある。しかし、2019~21年までの夏の熱中症搬送者の累計は右肩下がり。2020年は東日本を中心に2019年よりも年平均気温が高かったにもかかわらずだ。この点は日本救急医学会・日本臨床救急医学会・日本感染症学会・日本呼吸器学会による「新型コロナウイルス感染症の流行を踏まえた熱中症診療に関するワーキンググループ」が公表した「新型コロナウイルス感染症流行下における熱中症対応の手引き(第2版)」でも、論文調査結果からマスク着用が熱中症の危険因子となるエビデンスはないと明記されている。熱中症に弱いのは高齢者であることはよく知られている。高齢者では体液貯留機能も有する筋肉量も若年者より減少していることが多く、さらに腎機能低下により老廃物排出時にはより多くの水分が必要となる傾向にあり、そもそも脱水気味であることが一因だ。さらに加齢による感覚機能の低下で暑さに対する感度も低下している。過去のデータを見ると、熱中症で死亡した高齢者では約9割がエアコンを使用していなかったというデータもあるが、これはたぶん節約というよりは暑さに対する感度の低下が要因ではないかと個人的には考えている。しかし、ここに今回のような電気料金の大幅な値上げがあると、独居老人を中心に「電気料金を節約する」という行動が強まり、今夏は高齢者の熱中症増加が深刻化する可能性は十分にある。その意味で熱中症対策として頻繁に耳にする「暑い時には適切にエアコンを使う」という呼びかけの強化は必須だろう。もっとも電気料金の問題を脇に置けば、実は高齢者へのエアコンの使用推奨は、まだハードルが低いかもしれない。というのも、たとえば「真夏日、猛暑日予報の日は午前10時~午後3時過ぎぐらいまでの間は、緩やかにでもエアコンを使い続けてください」などの呼びかけも可能だからだ。こうした注意喚起は“実行しやすさ”がカギとなるため、極論を言えば、高齢者にありがちな、なんとなくテレビをつけているのと同じ感覚で使うことを推奨することはできなくもない。しかし、この熱中症対策についての記事を書く、あるいは自分の周囲に呼びかける際に私がいつも頭を悩ませてしまうのは、「喉の渇きがなくとも水分補給を」というフレーズである。前述の感覚機能の低下により、高齢者では喉の渇きを感じるのがやや周回遅れになりがちという点を踏まえてのことだが、言うほど簡単ではない。テレビやエアコンのつけっぱなしとは違い、なんとなくはできない行為だ。介護施設や同居人がいる高齢者宅ならば、周囲が気を配り定期的にお茶の時間を設けるなど自然な形で水分摂取の習慣を作ることも可能だろう。だが、独居高齢者ではよほど本人が自覚的に時間を決めて水分を取るなどの几帳面さがない限り、結構、難易度が高いのではないかと思う。多くの高齢者個人が熱中症対策で日内の定期的な水分摂取を習慣化することが容易ならば、よくある高齢者の服薬アドヒアランスの低下は問題にならないだろう。私自身はまだ高齢者ではないものの、尿酸値が高めのため、高尿酸血症の患者向けパンフレットにある「1日2L以上の水分摂取を」という推奨を意識して実行している。しかし、高齢者よりは喉の渇きに鋭敏であるはずなのに、真夏でもこの2Lのクリアはなかなか大変である。ちなみに自分の場合、どのように習慣付けているかというと、まず起床直後すぐに500mLペットボトルの半分近くの水分を摂取し、それから排尿を済ませてペットボトルの残りを飲み切る。その後は仕事場のPC脇に満タンにした2Lのペットボトルを置き、仕事の合間にちびちびこれを飲む。視覚的に残りが確認できるので夜7時くらいまでにこれを飲み切る。水分摂取の励行だけでも高齢者にとってはそれなりにハードルが高いと思われるのだが、最近では「熱中症予防のためには水分だけではなく塩分も」とメディアで呼びかけている。これは医学的には極めて正しいが、喉の渇きも感じないのに水分も取って、さらに塩分も取れと言われても高齢者では混乱してしまうのではないだろうか? ドラッグストアで売られている経口補水液を使えば良いとは言っても、こうした非日常的な対応はやはり簡単ではない。そう考えた時に、今でも地方ではありがちな高齢者が三々五々集まって「漬物をつまみながら、お茶を飲む」という習慣は、過度にならないのならば水分と塩分を同時に摂取できる合理的なものだと感じ入ってしまうのだが、コミュニティが希薄化している都市部ではそうはいかないケースも多い。私は地方の実家に高齢の両親がおり、やはり近所の人が時おり集まってお茶を飲むこともあるのを知ってはいる。これに加えて念のため、厚生労働省が行っている「あんぜんプロジェクト」の尿の色で脱水症状をチェックするという試みを伝えて、両親に注意を促しているものの、それでも心もとない。その意味では単に「喉の渇きがなくとも水分摂取を」の言葉だけでなく、実践しやすい事例を探しているのだが、ピンとくるものは少ない。この機会に読者の皆さんから「私はこんなふうに指導してますよ」という事例があれば、ぜひともお知恵を拝借したい。

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糖質過剰摂取は糖尿病患者のみならず万人にとって生活習慣病リスクを高める危険性がある?―(解説:島田俊夫氏)

 私たちは生きるために食物を食べることでエネルギーを獲得している。その主要なエネルギー源は3大栄養素であり、その中でも代表的なエネルギー源が糖質である。 糖質の摂り過ぎは糖尿病患者では禁忌だということは周知されている。しかし健康人においてさえ、糖の摂り過ぎには注意が必要だとの警鐘を告げる論文も散見され、その中には糖質過剰摂取1,2)が3大死因に密接に関連し、生活習慣病を引き起こす可能性について言及した論文も少なくない。しかしながら、エビデンスレベル不ぞろいの論文が混在しており、玉石混交の中で可能な限り厳密に分析・評価し、糖質過剰摂取に関する情報の真実を明らかにすべく行われた、中国・四川大学のYin Huang氏らにより解析されたUmbrella Review(包括的Review)が、BMJ誌の2023年4月5日号に期せずして掲載された。一読に値するとの思いで取り上げた。Umbrella Reviewの概略 今回のUmbrella Reviewのデータソースは、検索により、観察研究のメタアナリシスにおける74のユニークなアウトカムと無作為化対照試験のメタアナリシスでの9アウトカムを含む、8,601のユニークな論文から73のメタアナリシスと83の健康アウトカムを特定した。健康に関するアウトカム83項目中、食事由来の糖質摂取と有意な関連を認めた45項目の内訳、内分泌/代謝系18項目、心血管系10項目、がん7項目、その他10項目(神経精神、歯科、肝臓、骨、アレルギーなど)に関して有害性が確認された。 食事の砂糖消費量の最高と最低では、体重の増加(加糖飲料)(クラスIVエビデンス)および異所性脂肪の蓄積(加糖)(クラスIVエビデンス)と関連していることを示唆した。低品質のエビデンスでは、1食分/週の砂糖入り飲料消費の増加は、痛風の4%リスク(クラスIIIエビデンス)増加と関連し、250mL/日の砂糖入り飲料消費の増加は、冠動脈疾患(クラスIIエビデンス)および全死因死亡(クラスIIIエビデンス)のそれぞれ17%および4%のリスク増加と関連することを示した。さらに、低品質のエビデンスでは、フルクトース消費量が25g/日増加するごとに、膵臓がんのリスクが22%増加(クラスIIIエビデンス)することを示した。 現時点では糖質過剰摂取の有害性をすなおに受け入れることが賢い選択だと考えるが、全面的に信じることはせず、多少の疑問を残しておくことが大事である。糖質の過剰摂取が肥満を招くことは欧米ではすでに受け入れられており、糖尿病のみならず肥満是正に糖質制限食が好んで使用されていることを考えれば、今回の解析結果は理にかなっている。その反面、長期にわたる糖質制限食に関しては議論の多いところであり3,4)、安全性への不安が根強く残っていることも忘れてはならない。現時点では、長期の糖質制限食への不安が払拭されない限りは、この結果を無条件に受け入れるのは時期尚早ではないかと考える。

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糖類の過剰摂取、心代謝疾患リスクを増大/BMJ

 食事による糖類(単糖類、二糖類、多価アルコール、遊離糖、添加糖)の過剰な摂取は、一般的に健康にとって益よりも害が大きく、とくに体重増加、異所性脂肪蓄積、心血管疾患などの心代謝疾患のリスク増大に寄与していることが、中国・四川大学のYin Huang氏らの検討で示された。研究の成果は、BMJ誌2023年4月5日号で報告された。糖類摂取と健康アウトカムの関連をアンブレラレビューで評価 研究グループは、食事による糖類の摂取と健康アウトカムの関連に関する入手可能なすべての研究のエビデンスの質、潜在的なバイアス、妥当性の評価を目的に、既存のメタ解析のアンブレラレビューを行った(中国国家自然科学基金などの助成を受けた)。 データソースは、PubMed、Embase、Web of Science、Cochrane Database of Systematic Reviews、および参考文献リスト。対象は、急性または慢性の疾患のないヒトにおいて、食事による糖類の摂取が健康アウトカムに及ぼす影響を評価した無作為化対照比較試験、コホート研究、症例対照研究、横断研究に関する系統的レビューとメタ解析であった。 8,601本の論文から、73件のメタ解析と83項目の健康アウトカム(観察研究のメタ解析から74項目、無作為化対照比較試験のメタ解析から9項目)が特定された。体重増加、異所性脂肪蓄積と有意な関連 83項目の健康アウトカムのうち、食事による糖類の摂取と有意な関連が認められたのは、有害な関連が45項目(内分泌/代謝系:18項目、心血管系:10項目、がん関連:7項目、その他:10項目[神経精神、歯科、肝、骨、アレルギーなど])、有益な関連が4項目であった。 エビデンスの質(GRADE)が「中」の有害な関連としては、食事による糖類の摂取量が最も少ない集団に比べ最も多い集団では、体重の増加(砂糖入り飲料)(エビデンスクラス:IV)および異所性脂肪の蓄積(添加糖)(エビデンスクラス:IV)との関連が認められた。 エビデンスの質が「低」の有害な関連では、砂糖入り飲料の摂取量が週に1回分増加するごとに痛風のリスクが4%(エビデンスクラス:III)増加し、1日に250mL増加するごとに、冠動脈疾患が17%(エビデンスクラス:II)、全死因死亡率が4%(エビデンスクラス:III)、それぞれ増加した。 また、エビデンスの質が「低」の有害な関連として、フルクトースの摂取量が1日に25g増加するごとに、膵がんのリスクが22%高くなることが示唆された(エビデンスクラス:III)。 著者は、「既存のエビデンスはほとんどが観察研究で、質が低いため、今後、新たな無作為化対照比較試験の実施が求められる」と指摘し、「糖類の健康への有害な影響を低減するには、遊離糖や添加糖の摂取量を1日25g(ほぼ小さじ6杯/日)未満に削減し、砂糖入り飲料の摂取量を週1回(ほぼ200~355mL/週)未満に制限することが推奨される」としている。

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スタチンのプレイオトロピック効果はあるの?(解説:平山篤志氏)

 4S試験以来スタチンによる心血管イベント抑制効果が明らかにされ、さらに追加解析でスタチンにはLDL-コレステロール(LDL-C)低下効果に加えて、抗炎症、抗酸化などのプレイオトロピック効果があると示唆されてきた。このような背景から機序の異なるLDL-C低下薬であるエゼチミブやPCSK-9阻害薬を用いた大規模臨床試験では、スタチンに追加することでLDL-Cを低下させる効果で有効性が示されてきた。 しかし、今回のベムペド酸(bempedoic acid)を用いたCLEAR Outcome試験では、対象がスタチン不耐性の患者であるためコントロール群にはスタチンが使用されていない。にもかかわらず、ベムペド酸治療群で、有意なLDL-Cと高感度CRPの低下とともに心血管イベントを有意に減少した。このことは、スタチン不耐性の患者でも使用可能な薬剤が示されたことだけでなく、スタチンのプレイオトロピック効果についても疑問を投げかけたことになる。 では、なぜ高LDL-Cが炎症を引き起こすのか? LDL-Cを低下させることで炎症が抑制されるのか?については、近年、血管内視鏡で大動脈の自然プラーク破綻を観察した小松らの研究から、プラーク内で生成されたコレステロール結晶が自然破綻した後に全身で炎症を惹起する可能性が注目されている。今後展開される多くの研究により解明されるであろう。 米国心臓病学会(ACC)で発表されたとき、ベムペド酸にエゼチミブを加えることでさらなるイベント抑止効果が得られたのではないか?という質問が出された。すでにエゼチミブ単独でイベント低下効果が示されている(EWTOPIA75)ことから、予測される結果であるが、FDAが試験での使用を認めなかったとのことであった。今後、実臨床ではエゼチミブの併用で多用されるであろう。ただ、ベムペド酸が高尿酸血症痛風の頻度を上げることには注意が必要である。

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循環器領域における「睡眠呼吸障害の診断・治療ガイドライン」改訂で“睡眠”も心血管リスク因子に/日本循環器学会

 睡眠呼吸障害(sleep disordered breathing:SDB)が循環器疾患の重要なリスク因子であることが明らかになり、2010年に『循環器領域における睡眠呼吸障害の診断・治療に関するガイドライン』が発刊された。あれから13年、3月11日に『循環器領域における睡眠呼吸障害の診断・治療に関するガイドライン』の2023年改訂版が発刊され、第87回日本循環器学会学術集会の「ガイドラインに学ぶ2」において、葛西 隆敏氏(順天堂大学大学院医学研究科 循環器内科 准教授)が改訂ポイントを6つに絞り、改訂の背景や臨床に役立つ点を発表した。『循環器領域における睡眠呼吸障害の診断・治療に関するガイドライン』は“睡眠”を意識 SDBは、さまざまな循環器疾患に合併し、循環器疾患の悪化に関与するだけではなく、循環器疾患の発症そのものに関与することも示唆されている1)。AHAは2010年にCardiovascular Health Promotionとして、7つの修正可能な因子(適正体重の維持、禁煙、運動習慣、健康的な食習慣、血圧・血清脂質・血糖値のコントロール)をLife’s Simple7として示してきたが、「睡眠」の重要性がエビデンスの構築により高まり、2022年の改訂では追加されLife‘s Essential 8になっている。 今回、本邦の『循環器領域における睡眠呼吸障害の診断・治療に関するガイドライン』にもその点が反映され、以下の6項目が改訂された。葛西氏は「とくに診断における定義・スクリーニング、検査時のスコアリングルールがアップデートされており重要」と述べ、「以前から多くの先生に引用されていたであろう“心血管疾患ごとのSDB合併頻度”についても改訂し、HFpEFなどの疾患項目数を増やした」と説明した(本GL図8参照)。また、現状の循環器診療においてSDB診断がなされているかを知るために福島県立医科大学の医師らがJROAD-DPCからその傾向を調査したところ、「入院患者のみのデータではあるが、2012~19年の期間に急性心筋梗塞以外でのSDB診断は若干増加したものの、全体としては未診断が散見され、検査の実施率も心房細動以外では低下傾向」であったことを言及し、「入院中検査は点数が算定できないことも要因の1つだが、循環器医に対して、SDB診断の普及啓発が必要である」とも話した。<『循環器領域における睡眠呼吸障害の診断・治療に関するガイドライン』2023年版の主な改訂点>1)正常睡眠と睡眠障害:より循環器領域の内容に特化する形へ変更2)診断:最近の定義・スコアリングルールに関する内容にupdate3)疫学:有病率などをより近年のデータにupdate4)病態:近年提唱された新たな病因・病態生理について言及5)治療:全体をupdateするとともに、エビデンスが出ている治療(舌下神経電気刺激療法[保険収載]、中枢性睡眠時無呼吸への横隔神経電気刺激療法[保険未収載]など)の可能性に関して言及6)各疾患との関連と治療:項目を拡充し、高血圧以外の循環器疾患リスク因子にも言及。多数のエビデンスが報告された不整脈(とくに心房細動)や心不全に関して、細分化し項目を分けた。 主な変更点は以下のとおり。1)正常睡眠と睡眠障害睡眠呼吸障害以外に循環器医が注意すべき睡眠問題として、睡眠過不足、睡眠関連運動障害(むずむず脚症候群[restless legs syndrome:RLS]、周期性四肢運動[periodic limb movement in sleep:PLMS])にもフォーカスを当てた。2)診断呼吸器学会が発行している「睡眠時無呼吸症候群(SAS)の診療ガイドライン2020」同様にSDBの診断基準は国際睡眠障害分類の第3版(ICSD-3)に準じ、成人の閉塞性睡眠時無呼吸症候群(obstructive sleep apnea:OSA)の診断基準の1つに「患者が高血圧、気分障害、認知機能障害、冠動脈疾患、脳卒中、うっ血性心不全、心房細動、あるいは2型糖尿病と診断されている」と書かれている点を踏襲。『循環器領域における睡眠呼吸障害の診断・治療に関するガイドライン』2023年版では、スクリーニングと診断の違いを明記した(表10参照)。なお、OSAの診断基準とCPAP治療の保険適用の基準が異なる点に注意が必要。また、心房細動や粗動、うっ血性心不全、あるいは神経疾患の存在は、中枢性睡眠時無呼吸(central sleep apnea with Cheyne-Stokes respiration:CSA-CSR)を合併しやすい点も重要。3)疫学各心血管疾患でのSDB合併頻度は肺高血圧症(89.0%)が最も高く、治療抵抗性高血圧(83.0%、AHI≧10)、心房細動(81.4%)、HFrEF(76.0%)と続く。これを踏まえ患者を診察してもらうことで、これまで以上にリスク患者をあぶりだせる可能性。4)病態OSAの機序の記載を大幅に変更し、「上気道の解剖学的異常、上気道の神経性調節異常、呼吸調節系の不安定性、覚醒閾値」について、『循環器領域における睡眠呼吸障害の診断・治療に関するガイドライン』2023年版では具体的な説明を加えた。5)治療・OSAに対する舌下神経電気刺激療法(CPAPが受けられない患者に適用)の項が追加。・生活習慣是正については睡眠薬のうち非ベンゾジアゼピン系睡眠薬やオレキシン受容体拮抗薬の処方検討を考慮してもよい。・OSAの薬物療法については上気道解剖学的要因、上気道神経性調節異常などに対しそれぞれ言及。・CSR-CSA治療に対しては心不全治療薬ARNIが追加。・そのほかのSDB治療については弾性ストッキングが追加。6)各疾患との関連と治療これまで「各論」としていた項目の名称を変更し、高血圧をはじめとする13疾患にカテゴライズ。とくにSDBのリスク因子となる高血圧、糖尿病、CKD、高尿酸血症のほか、多数のエビデンスが報告された頻脈性不整脈(上室)などの内容を充実させた(表35~45参照)。

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尿酸値が上がりにくいアルコールは?~日本人8万人のデータ

 飲酒は高尿酸血症の重要なリスク因子だが、アルコール飲料の種類ごとの血清尿酸値への影響の詳細はわかっていない。今回、聖路加国際病院の福井 翔氏らが、日本人7万8,153人の健康診断データを用いて横断研究を実施した結果、飲酒量をエタノール含有量で統一した場合、ビールでの血清尿酸値上昇は大きく、ワインでは中程度の上昇、日本酒での上昇はわずかで有意ではなかったことが示された。JAMA Network Open誌2023年3月17日号に掲載。尿酸値はアルコール飲料によって上昇の程度が異なる 本研究は、2012年10月1日~2021年10月31日に聖路加国際大学で健康診断を実施した20歳以上の参加者を対象とした横断研究で、ビール、日本酒、焼酎、ワイン、ウイスキーの摂取量をエタノール含有量で統一し、血清尿酸値との関連を評価した。血清尿酸値は健康診断時に測定した。エタノール20gを含む各アルコール飲料を基準飲酒単位(ビール500mL、日本酒167mL、焼酎100mL、ワイン208mL、ウイスキー62.5mL)とした。 アルコール飲料の種類ごとの尿酸値への影響を横断研究した主な結果は以下のとおり。・本研究には計7万8,153人が参加し、平均年齢は47.6歳(標準偏差:12.8歳)、男性が3万6,463人(46.7%)、習慣飲酒者は4万5,755人(58.5%)であった。・主にビールを飲んでいる群では、男女とも一貫して血清尿酸値がアルコール摂取量に関連しており、1日1単位摂取におけるβ係数は、男性で0.14mg/dL(95%信頼区間:0.11~0.17mg/dL、p<0.001)、女性で0.23mg/dL(同:0.20~0.26mg/dL、p<0.001)だった。・主に日本酒を飲んでいる群では、血清尿酸値はわずかに上昇したが有意ではなく、β係数は、男性で0.05mg/dL(同:-0.01~0.10、p=0.10)、女性で0.04mg/dL(同:-0.05~0.14、p=0.38)だった。・主に焼酎を飲んでいる群では、血清尿酸値が中程度上昇し、β係数は、男性で0.05mg/dL(同:0.03~0.08、p<0.001)、女性で0.11mg/dL(同:0.07~0.16、p<0.001)だった。・主にワインを飲んでいる群では、血清尿酸値が中程度上昇し、β係数は、男性で0.12mg/dL(同:0.06~0.17、p<0.001)、女性で0.12mg/dL(同:0.08~0.16、p<0.001)だった。・主にウイスキーを飲んでいる群では、男性のβ係数は0.18mg/dL(同:0.10~0.27、p<0.001)と高かったが、女性で0.06mg/dL(同:-0.05~0.16、p=0.27)だった。 本結果から、エタノール含有量を統一した場合も飲酒と血清尿酸値の関連の程度がアルコール飲料によって異なることが示唆された。男女ともアルコール飲料ではビールが一貫して高い血清尿酸値と関連していたが、日本酒は血清尿酸値の変化と関連していなかった。

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スタチン不耐患者、bempedoic acidがCVリスクに有効か/NEJM

 スタチンの服用が困難なスタチン不耐(statin-intolerant)患者において、ATPクエン酸リアーゼ阻害薬ベンペド酸(bempedoic acid)はプラセボと比較し、LDLコレステロール値を低下し、主要有害心血管イベント(心血管死、非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中、冠動脈血行再建)のリスクを低下することが示された。一方でベンペド酸投与により、脳卒中、心血管死、全死因死亡のそれぞれのリスクは低減せず、また痛風や胆石症発生リスクはやや増大した。米国・クリーブランドクリニックのSteven E. Nissen氏らによる二重盲検無作為化プラセボ対照試験の結果で、NEJM誌オンライン版2023年3月4日号で発表された。ベンペド酸は、LDL値を低下し筋肉関連の有害事象の発生リスクは低いが、心血管アウトカムへの影響は明らかになっていなかった。“スタチン不耐”でCVD、または高リスクの患者を対象に試験 研究グループは、容認できない副作用のためにスタチン服用ができない、または困難な患者(スタチン不耐患者)で、心血管疾患が認められるか、または同リスクの高い患者1万3,970例を対象に試験を行った。 被験者を無作為に2群に分け、一方(6,992例)にはベンペド酸180mgを、もう一方(6,978例)にはプラセボを、それぞれ経口投与した。 主要エンドポイントは、心血管死、非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中、冠動脈血行再建の4つのうちのいずれかの発生と定義した主要有害心血管イベントだった。心筋梗塞、冠動脈血行再建の発生率、ベンペド酸で各2割程度減少 追跡期間中央値は40.6ヵ月。ベースラインのLDLコレステロール値は、両群共に139.0mg/dLであり、6ヵ月後の低下幅は、ベンペド酸群がプラセボ群より29.2mg/dL大きく、減少率の群間差は21.1ポイントだった。 主要エンドポイントの発生率は、ベンペド酸群(11.7%)がプラセボ群(13.3%)より有意に低かった(ハザード比[HR]:0.87、95%信頼区間[CI]:0.79~0.96、p=0.004)。 心血管死、非致死的脳卒中、非致死的心筋梗塞の複合発生率は、8.2% vs.9.5%(HR:0.85、95%CI:0.76~0.96、p=0.006)、また心筋梗塞(致死的・非致死的)の発生率は3.7% vs.4.8%(0.77、0.66~0.91、p=0.002)、冠動脈血行再建の発生率は6.2% vs.7.6%(0.81、0.72~0.92、p=0.001)で、ベンペド酸群がプラセボ群より有意に低かった。 一方でベンペド酸は、脳卒中(致死的・非致死的)、心血管死、全死因死亡への有意な影響はみられなかった。さらに、痛風(ベンペド酸群3.1% vs.プラセボ群2.1%)、胆石症(2.2% vs.1.2%)の発生率はベンペド酸群で高く、同様に血清クレアチニン値、尿酸値、肝酵素値もベンペド酸群でわずかだが上昇が認められた。

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冠動脈疾患の一次予防に関する診療ガイドライン、11年ぶりに改訂/日本循環器学会

 『2023年改訂版 冠動脈疾患の一次予防に関する診療ガイドライン』が第87回日本循環器学会年次集会の開催に合わせ発刊され、委員会セッション(ガイドライン部会)において、藤吉 朗氏(和歌山県立医科大学医学部衛生学講座 教授)が各章の改訂点や課題について発表した。冠動脈疾患の一次予防に関する診療ガイドラインは全5章構成 冠動脈疾患の一次予防に関する診療ガイドラインは日本高血圧学会、日本糖尿病学会、日本動脈硬化学会をはじめとする全11学会の協力のもと、これまでの『虚血性心疾患の一次予防ガイドライン(2012年改訂版)』を引き継ぐ形で作成された。今回の改訂では、一次予防の特徴を踏まえ「冠動脈疾患とその危険因子(高血圧、脂質、糖尿病など)の診療に関わるすべての医療者をはじめ、産業分野や地域保健の担当者も使用することを想定して作成された。また、2019年以降に策定された各参加学会のガイドライン内容も冠動脈疾患の一次予防に関する診療ガイドラインと整合性のある形で盛り込み、「一般的知識の記述は最小限に、具体的な推奨事項をコンパクトに提供することを目指した」と藤吉氏は解説した。 冠動脈疾患の一次予防に関する診療ガイドラインは全5章で構成され、とくに第2章の高血圧や脂質異常などに関する内容、第3章の高齢者、女性、CKD(慢性腎臓病)などを中心に改訂している。 冠動脈疾患の一次予防に関する診療ガイドライン全5章のなかで変更点をピックアップしたものを以下に示す。冠動脈疾患の一次予防に関する診療ガイドライン第2章の改訂点<高血圧>・『高血圧治療ガイドライン2019』(日本高血圧学会)に準拠。・血圧の診断については、SBP/DBP(拡張期/収縮期血圧)130~139/80~89mmHg群から循環器疾患リスクが上昇してくるため、その名称を従来の「正常高値血圧」から「高値血圧」とした。また、診察室血圧と家庭血圧の間に差がある場合、家庭血圧による診断を優先する。・降圧目標について、75歳以上の高齢者は原則140/90mmHg未満とするが、高齢者でも厳格降圧(130/80mmHg未満)の適応となる併存疾患を有しており、かつ厳格降圧の忍容性ありと判断されれば過降圧に注意しながら130/80mmHg未満を目指すことが記されている。・降圧薬の脳心血管病抑制効果の大部分は、薬剤の特異性よりも降圧の度合いによって規定されている。その点を前提に、降圧薬治療の進め方に関する図を掲載した(p.22 図4)。<脂質異常>・脂質異常は『動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版』(日本動脈硬化学会)に準拠し、危険因子の包括的評価(p.26 図5)にて、治療方針を決定する(p.23 表8)。・治療すべき脂質の優先順位を明確化した(1:LDL-C、2:non-HDL-C、3:TG/HDL-C)。<糖尿病・肥満>・糖尿病の診断早期から適切な血糖管理・治療が重要で、その理由は、糖尿病診断前のHbA1cが上昇していない耐糖能異常の段階から冠動脈疾患(CAD)リスクが上昇するため。・2型糖尿病の血糖降下薬の特徴が表で明記されている(p.31 表13)。・糖尿病患者においてCADの一次予防を目的としてアスピリンなどの抗血小板薬をルーチンで使用することを推奨しない、とした。これは近年のエビデンスを踏まえた判断であり、以前のガイドラインとは若干異なっている。<運動・身体活動>・運動強度・量を説明するため、身体活動の単位である「METs(メッツ)」や、主観的運動強度の指標である「Borg指数」に関する図表(p.42 表16、図6)を掲載し、日常診療での具体的指標を示した。<喫煙・環境要因、CAD発症時対処に関する患者教育・市民啓発、高尿酸血症とCAD>・禁煙に関する新たなエビデンスを記載し、新型タバコについても触れている。・寒冷や暑熱などの急激な温度変化がCAD誘発リスクを高めること、大気汚染からの防御などに触れている。冠動脈疾患の一次予防に関する診療ガイドライン第3章の改訂点・本章はポリファーマシー、フレイル、認知症、エンドオブライフに注目して作成されている。<高齢者>・75歳までは活発な高齢者が増加傾向である。また年齢で一括りにすると個人差が大きいため、個別評価の方法について冠動脈疾患の一次予防に関する診療ガイドラインに記載した。<女性>・CADリスクの危険因子は男性と同じだが、女性の喫煙者は男性喫煙者に比してその相対リスクが高くなる傾向がある。また、脂質異常症と更年期障害を同時に有する女性に対しては、禁忌・慎重投与に該当しないことを確認したうえでホルモン補充療法を考慮する、とした。<慢性腎臓病(CKD)>・高中性脂肪(高TG)血症を有するCKDに対する注意喚起として、フィブラート系薬剤は、高度腎機能障害を伴う場合には、ペマフィブラート(肝臓代謝)は慎重投与、それ以外のフィブラート系は禁忌であることが記載された。 このほか、冠動脈疾患の一次予防に関する診療ガイドラインで推奨した危険因子の包括的管理に関連し、第2章では包括的管理や予測モデルについて、また第4章にはリスク予測からみた潜在性動脈硬化指標に関する記載を加えた。第5章「市民・患者への情報提供」では市民への急性心筋梗塞発症時の対応や、心肺蘇生法・AEDなどについて触れている。 最後に同氏は「将来的には患者プロファイルを入力することで、必要な情報がすぐに算出・表示できるようなアプリを多忙な臨床医のために作成していけたら」と今後の展望を述べた。 冠動脈疾患の一次予防に関する診療ガイドラインの全文は日本循環器学会のホームページでPDFとして公開している。詳細はそちらを参照いただきたい。

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腎結石再発予防にヒドロクロロチアジドは有効か?/NEJM

 再発リスクの高い腎結石患者において、ヒドロクロロチアジド(1日1回12.5mg、25mg、50mgいずれかの用量)の投与を受けた患者とプラセボの投与を受けた患者との間で、再発率に実質的な違いはみられないことが、スイス・ベルン大学のNasser A. Dhayat氏らの検討で示された。腎結石は、腎臓に影響する最もよくみられる疾患で再発のリスクが高いという特徴がある。腎結石再発にはサイアザイド系利尿薬が広く使用されているが、プラセボと比較した有効性に関するデータは限られており、用量反応データも限定的であった。NEJM誌2023年3月2日号掲載の報告。プラセボ対照無作為化試験で、ヒドロクロロチアジドの用量反応効果を評価 研究グループは、腎結石再発予防に関するヒドロクロロチアジドの用量範囲の評価を目的に、二重盲検無作為化プラセボ対照試験「NOSTONE試験」を行った。再発性カルシウム含有腎結石患者を、ヒドロクロロチアジドを12.5mg、25mgまたは50mgのいずれかの用量で1日1回投与する群とプラセボを1日1回投与する群に無作為に割り付け追跡調査した。 試験の主要目的は、主要エンドポイント(腎結石の症状を有する再発または放射線学的再発)への用量反応効果を調べることであった。放射線学的再発は、画像診断で新たな結石を認めた場合またはベースラインの画像診断で観察された結石の増大と定義した。安全性も評価された。最大用量50mg群でも対プラセボ率比0.92 患者416例が無作為化を受け、中央値2.9年間追跡された。 主要エンドポイントの発生は、プラセボ群60/102例(59%)、ヒドロクロロチアジド12.5mg群62/105例(59%)で、対プラセボ率比は1.33(95%信頼区間[CI]:0.92~1.93)、同25mg群61/108例(56%)、率比1.24(95%CI:0.86~1.79)、同50mg群49/101例(49%)、率比0.92(0.63~1.36)であった。 ヒドロクロロチアジドの用量と、主要エンドポイントのイベント発生との間に関連は認められなかった(p=0.66)。 プラセボの投与を受けた患者よりもヒドロクロロチアジドの投与を受けた患者で、低カリウム血症、痛風、新規発症の糖尿病、皮膚アレルギー、ベースライン値の150%を超える血漿クレアチニン値の報告がより多かった。

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尿酸の上昇は心房細動発症と関連

 さまざまな疫学調査より高い尿酸値は心房細動(AF)の独立したリスクとされている。今回、スウェーデン・カロリンスカ研究所のMozhu Ding氏らがスウェーデンのAMORISコホート研究から尿酸の上昇がAFの新規発症と関連することを報告した。Journal of the American Heart Association誌1月12日号からの報告。33万9,604例を対象に追跡調査 心血管系疾患の評価において尿酸値の役割はますます重要となっているが、AFとの関係は明確でない。本研究では、尿酸値とAFの新規発症リスクとの関連について検討した。 スウェーデンのAMORIS(Apolipoprotein-Mortality Risk)コホートにおいて、ベースライン時(1985~96年)に30~60歳で心血管疾患のない33万9,604例を対象に、2019年12月31日までAF発症した登録者を追跡調査。Cox回帰モデルを用い、潜在的な交絡因子で調整し、心血管疾患の発症で層別し、尿酸とAFの関連を検討した。 平均25.9年の追跡期間中に、4万6,516例のAF発症があった。尿酸の四分位が最も低い場合と比較して、上位3つの四分位はそれぞれAFのリスク上昇と用量反応的に関連していた。 調整後のハザード比は、第2四分位が1.09(95%信頼区間[CI]:1.06~1.12)、第3四分位が1.19(95%CI:1.16~1.23)、第4四分位が1.45(95%CI:1.41~1.49)だった。 これらの関連は、高血圧、糖尿病、心不全、冠動脈疾患の発症の有無にかかわらず同様だった。尿酸を繰り返し測定している人のサブサンプルでは、用量反応パターンがさらに裏付けられた。 以上から尿酸の上昇は、心血管疾患および心血管危険因子を持つ人だけでなく、持たない人においても、心房細動のリスク上昇と関連していた。尿酸を下げることがAFの予防につながるかどうかは、今後も研究が必要となる。

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健康の大疑問

健康常識をアップデートせよNY在住・新進気鋭の専門医が、最新の知見を駆使し、健康情報の真偽を問う。白髪の原因はストレス?腸内細菌が認知機能を高める?痛風にプリン体制限は有効?高血圧の薬は一生飲み続けてOK?ウォーキングは1日何歩までがベスト?次世代エイジングケアNMNサプリの正体とは?若者の大腸がんが急増している本当の理由とは?乳酸菌は風邪予防になる?断食で長生きが可能となる?グルコサミンは変形性膝関節症の痛みを改善する?ビタミンDで骨は強くなる?音楽が健康に及ぼす影響とは? ……etc.画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。    健康の大疑問定価1,100円(税込)判型新書判頁数188頁発行2023年1月著者山田 悠史

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「肥満」との違いは?肥満症診療ガイドライン改訂

 11月24日に日本肥満学会(理事長:横手 幸太郎氏[千葉大学医学部附属病院長])は、『肥満症診療ガイドライン2022』についてプレスセミナーを開催した。 セミナーでは、肥満症の現況や治療に関する解説と今回刊行されたガイドラインの概要が説明された。また、本ガイドラインは12月2・3日に那覇市で開催される第43回日本肥満学会(会長:益崎 裕章氏[琉球大学大学院 医学研究科 内分泌代謝・血液・膠原病内科学講座 教授])で発刊される。肥満症とはBMI25以上で何らかの健康障害がある人 はじめに理事長の横手 幸太郎氏が「わが国における肥満症の現況と肥満症診療ガイドライン2022の位置づけ」をテーマに講演を行った。 肥満とは、「脂肪組織に脂肪が過剰に蓄積した状態」をいい、わが国ではBMI25以上が肥満とされている。その数は、年を経て全世界で増えており、とくにアメリカやアフリカで増加している。 肥満になると糖尿病、高血圧、脂質異常症などの健康障害のほか、膝・腰・足首などへの運動器障害、睡眠時無呼吸症候群などが生じるリスクが高くなる。 そこで、BMIが25以上あり、一定の健康障害(糖尿病、高血圧、脂質異常症、痛風など11項目)がある人を「肥満症」として、医学的に治療が必要な対象者としている(BMI35以上は高度肥満症)。 肥満症の治療は、食事療法、運動療法、行動療法、薬物療法、外科療法と5つの考え方があり、他職種連携によるチーム医療がなされる必要がある。実際、一番身近な保健指導の介入により6ヵ月後のHbA1cは-0.2%減少、中性脂肪は-81.5%減少など改善効果が報告されている1)。 肥満に関して最近のトピックスとしては、若い女性にはBMI18.5未満の「やせ過ぎ」の女性がむしろ増えていることやそのやせ過ぎが将来的に骨粗鬆症や不妊のリスクとなること、高齢者の肥満ではフレイルなどとの関連も考慮し、無理な減量よりも筋肉量維持や増強に心がけることなども指摘されている。 横手氏は終わりに本ガイドラインの目的について「体重を減らすことにメリットがある。『やせるべき人』を選び出す、そして、適切に治療と予防を行うことである」と述べ講演を終えた。小児や高齢者の肥満にも言及 続いて、同学会のガイドライン作成委員会委員長の小川 渉氏(神戸大学大学院医学研究科 糖尿病・内分泌内科 教授)が「肥満症診療ガイドライン2022の改訂のポイント」をテーマに、今回の改訂内容や今後の展望などを解説した。 本ガイドラインは、2006年、2016年と発刊され、今回の2022年版では、主に「肥満症治療の目標と学会が目指すもの」「高度肥満症」「小児の肥満」「高齢者の肥満」「肥満症の治療薬」「コラム」について改訂が行われた。 「肥満症治療の目標と学会が目指すもの」と「高度肥満症」では、肥満症治療指針について「肥満症」と「高度肥満症」とで目標、治療などの治療方針が異なることが記載された。とくに肥満の外科治療の減量・代謝改善手術では保険適用の内容などが改訂された。薬物治療についてはGLP-1受容体作動薬の治験に関して言及され、セマグルチドの68週後の体重変化率についてプラセボ-2.1%に対し、セマグルチド-13.2%と有意な体重減少があったこと、また、本試験が学会の定める肥満症の診断基準に基づいて作成されたプロトコ-ルで実施された試験であることなどが記載されている2)。 「高齢者の肥満」では、日本老年医学会のガイドラインの内容 と統一性を考慮して改訂され、 高齢者肥満症の減量目標をフレイル予防と健康障害発症予防の両者も考慮し「BMI22~25」の範囲とすることが記載され、過剰な減量には留意が必要とされている。 「小児の肥満」では、将来の成長を考慮しBMIではなく、肥満度で判定し、身体面だけでなく、肥満に伴う「いじめ」など生活面への配慮も記載されている。 「肥満症の治療薬」では、「肥満の治療」ではなく、「肥満症の治療」という基本概念のもと、記載の整備と概念を明確化したほか、改訂では製薬企業の開発担当者とも意見交換を行い、評価基準と適応基準は必ず同一ではないことが記載されている。 その他、今回の改訂では「肥満へのスティグマ」についても触れられ、肥満の原因が個人への帰責事由という偏見からくる社会的スティグマと肥満を自分自身の責任とする個人的スティグマへの配慮が述べられている。 最後に小川氏は「肥満症の課題は、認知度がまだ低く、社会的な浸透もメタボリックシンドローム(72.5%)や肥満(81.8%)と比較しても、肥満症(58.3%)は低い。このガイドラインが、診療に役立つだけでなく社会の啓発に寄与することを期待する」と抱負を述べ、レクチャーを終えた。

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アロプリノール、痛風歴ない虚血性心疾患患者も改善させる?/Lancet

 痛風の既往がない60歳以上の虚血性心疾患患者において、アロプリノールは標準治療と比較し、非致死的心筋梗塞・非致死的脳卒中・心血管死の複合アウトカムに差はないことが、英国・ダンディー大学のIsla S. Mackenzie氏らが実施した「ALL-HEAT試験」の結果、示された。アロプリノールは痛風の治療に用いられる高尿酸血症治療薬であるが、これまでの研究でいくつかの心血管パラメーターに関して好ましい効果があることが示唆されていた。Lancet誌2022年10月8日号掲載の報告。痛風既往のない虚血性心疾患患者約6,000例を対象に無作為化試験 ALL-HEAT試験は、イングランドおよびスコットランドの地域の医療センター18施設で実施された多施設共同前向き無作為化非盲検試験である。2014年2月7日~2017年10月2日の期間に、プライマリケア診療所424施設において、60歳以上で痛風の既往がない虚血性心疾患患者5,937例を登録し、アロプリノール群と標準治療群に1対1の割合で無作為に割り付けた。 アロプリノール群では、eGFRが30~59mL/分/1.73m2の患者には100mg/日を2週間、その後は300mg/日、eGFRが60mL/分/1.73m2以上の患者には100mg/日を2週間、300mg/日を2週間、その後は600mg/日(300mgを1日2回)を投与した。 なお、当初は中等度または重度の腎機能障害(eGFR:60mL/分/1.73m2未満)患者は除外されたが、2016年4月4日にプロトコールが修正され、中等度腎機能障害(eGFR:30~59mL/分/1.73m2)患者は組み入れ可能となった。 主要評価項目は非致死的心筋梗塞・非致死的脳卒中・心血管死の複合で、修正intention-to-treat集団(無作為化後に除外基準のいずれかを満たすことが判明した患者を除外)を対象に解析が行われ、Cox比例ハザードモデルを用いてハザード比(HR)を推定し、アロプリノール群の標準治療群に対する優越性を検証した。安全性解析対象集団は、標準治療群は修正intention-to-treat集団、アロプリノール群はアロプリノールを少なくとも1回服用した患者とした。非致死的心筋梗塞・非致死的脳卒中・心血管死の複合に有意差なし 無作為化された5,937例のうち216例が除外され、修正intention-to-treat集団は5,721例であった(アロプリノール群2,853例、標準治療群2,868例)。患者背景は年齢(平均±標準偏差)72.0±6.8歳、男性4,321例(75.5%)、白人5,676例(99.2%)で、平均追跡期間は4.8年であった。 主要評価項目の複合心血管イベントは、アロプリノール群で314例(11.0%、100人年当たり2.47件)、標準治療群で325例(11.3%、100人年当たり2.37件)に発生した。HRは1.04(95%信頼区間[CI]:0.89~1.21、p=0.65)であり、両群間に有意差は認められなかった。副次評価項目である全死因死亡は、アロプリノール群288例(10.1%)、標準治療群303例(10.6%)であった(HR:1.02、95%CI:0.87~1.20、p=0.77)。

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低BMIの蛋白尿リスクに“朝食抜き”が影響

 蛋白尿は心血管疾患と死亡率の重要な予測因子であり、いくつかの研究では、朝食を抜くことと蛋白尿の有病率との関連性が報告1)されている。また、朝食を抜くと肥満のリスクが高まることも明らかになっている。そこで、村津 淳氏(りんくう総合医療センター腎臓内科)らは蛋白尿が肥満の人でよく見られることに着目し、朝食を抜くことによる蛋白尿の有病率とBMIとの関連について調査を行った。その結果、蛋白尿は低BMIと関連性が見られ、低BMIの人の場合には、朝食を抜くことに注意する必要があることが示唆された。本研究結果はFront Endocrinol誌8月19日号に掲載された。. 本研究者らは、正常な腎機能者における朝食抜きと蛋白尿の有病率との関連に対するBMIの臨床的影響を評価することを目的に、2008年4月~2018年12月までの期間に市中病院で健康診断を受け、腎疾患の既往がなく、推定糸球体濾過量(eGFR)が60mL/min/1.73m2 以上であった2万6,888例 (男性:1万5,875例、女性:1万1,013例) を対象に横断研究を実施した。 本研究では、週3日以上朝食を食べていない者を「朝食抜き」と定義。そのほか、対象者には喫煙、アルコール多飲、運動不足、睡眠不足、間食の有無、深夜/夕食時の生活行動、既往歴(高血圧・糖尿病・脂質異常症・脳卒中・高尿酸血症・冠動脈疾患)についてアンケートを行った。また、朝食抜きと蛋白尿の有病率との関連性はBMI(kg/m2)を3つのサブグループ(男性:

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痛風発作、心血管イベントの一過性の増加と関連/JAMA

 痛風患者では、心血管イベントの経験者は非経験者と比較して、イベント発生前の0~120日以内に痛風発作を発症する確率が有意に高く、痛風発作後の心血管イベントの一過性の増加と関連する可能性があることが、英国・ノッティンガム大学のEdoardo Cipolletta氏らの調査で示された。研究の成果は、JAMA誌2022年8月2日号に掲載された。イングランドの後ろ向き観察研究 研究グループは、痛風発作が痛風患者における心血管イベントのリスクを一過性で増加させるとの仮説の検証を目的に、後ろ向き観察研究を行った(ノッティンガム大学などの助成を受けた)。 解析には、1997年1月1日~2020年12月31日の期間にイングランドのClinical Practice Research Datalinkに登録された電子健康記録(EHR)のデータが用いられた。 観察期間中に痛風を発症した患者を対象に多変量コホート内症例対照研究(nested case-control study)を行い、痛風発作と心血管イベントを有する患者において、季節と年齢を補正した自己対照ケースシリーズ(self-controlled case series)による解析を実施した。 痛風発作は、次の3つの要件のうち1つ以上を満たす場合と定義された。(1)総合診療医の記録で痛風発作の診断コードの記載、(2)退院時の診断で、痛風による入院の記述、(3)プライマリケア施設で痛風と診断され、その日に非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)またはグルココルチコイド、コルヒチンを処方されている。 主要アウトカムは、心血管イベント(急性心筋梗塞、脳卒中)とされた。痛風発作後0~60日に、心血管イベントリスクが最も高い 新規に痛風と診断された6万2,574例(平均年齢76.5歳、男性69.3%)がコホート内症例対照研究に含まれた。このうち1万475例が心血管イベントを発症し、残りの5万2,099例(マッチさせた対照)は心血管イベントを伴わない痛風患者であった。 心血管イベントを発症した痛風患者は、これを伴わない痛風患者に比べ、痛風発作の確率が、過去0~60日以内(204/1万475例[2.0%]vs.743/5万2,099例[1.4%]、補正後オッズ比[OR]:1.93、95%信頼区間[CI]:1.57~2.38)、過去61~120日以内(170/1万475例[1.6%]vs.628/5万2,099例[1.2%]、1.57、1.26~1.96)の双方で有意に高かった。 これに対し、過去121~180日以内の痛風発作の確率は、心血管イベント発症痛風患者と非発症痛風患者で有意な差はなかった(148例[1.4%]vs.662例[1.3%]、補正後OR:1.06、95%CI:0.84~1.34)。 一方、自己対照ケースシリーズ(1,421例)では、1,000人日当たりの心血管イベントの割合は、痛風発作前の150日以内または発作後181~540日が1.32(95%CI:1.23~1.41)であったのに比べ、痛風発作後0~60日は2.49(2.16~2.82)、61~120日は2.16(1.85~2.47)、121~180日は1.70(1.42~1.98)と、高い値を示した。 また、痛風発作前の150日以内または発作後181~540日と比較して、痛風発作後0~60日以内における1,000人日当たりの心血管イベントの罹患率の差は1.17(95%CI:0.83~1.52)で、補正後罹患率比(IRR)は1.89(95%CI:1.54~2.30)であり、痛風発作後61~120日では、それぞれ0.84(95%CI:0.52~1.17)/1,000人日および1.64(95%CI:1.45~1.86)、121~180日では0.38(0.09~0.67)/1,000人日および1.29(1.02~1.64)であった。 著者は、「痛風は、NLRP-3インフラマソームの活性化に起因する好中球が豊富な急性炎症で特徴づけられる。好中球性炎症は、動脈硬化性プラークの不安定性や破綻をもたらす。プラーク内の活性化した炎症細胞は、メタロプロテイナーゼやペプチダーゼなどの宿主応答タンパク質のアップレギュレーションを引き起こし、酸化ストレスを促進するが、これらはすべてプラークの不安定化に寄与する。これは、心血管イベントと直近の痛風発作との関連の説明となる可能性がある」と指摘している。

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利尿薬の処方カスケードを発見し、高尿酸血症薬の中止を提案【うまくいく!処方提案プラクティス】第49回

 今回は、処方カスケードを起こしやすい薬剤の代表である利尿薬と高尿酸血症治療薬に関する提案です。処方カスケードを発見するには処方順序や経緯を知ることが重要です。薬歴に処方開始の理由やその後のフォロー内容をまとめておくことで、処方カスケードを食い止めるきっかけになります。患者情報90歳、男性(施設入居)基礎疾患左放線冠脳梗塞、認知症、高血圧服薬管理施設職員処方内容1.オルメサルタンメドキソミル・アゼルニジピン配合錠HD 1錠 朝食後2.クロピドグレル錠50mg 1錠 朝食後3.ラベプラゾール錠10mg 1錠 朝食後4.アトルバスタチン錠10mg 1錠 朝食後5.フェブキソスタット錠10mg 1錠 朝食後本症例のポイントこの患者さんは脳梗塞の既往があるものの、施設内独歩が可能で、排泄や食事も自立していて、ADLは良好でした。血圧の推移は130〜140/70〜80であり、現行の治療薬で安定していました。高尿酸血症治療薬を服用していますが、痛風発作の既往はありません。代理で訪問診療に同行することになったため、担当薬剤師の薬歴を確認したところ、「OP:尿酸値のフォロー、過去にアゾセミド服用」とありました。記録をさかのぼって確認すると、過去に下腿浮腫のためアゾセミド錠30mgを服用していたことがわかりました。その1ヵ月後の血液検査では尿酸値:11.3mg/dLと高値であったことから、フェブキソスタット10mgが追加されていました。その2週間後には下腿浮腫は消失したため、アゾセミドは中止となっていました。<薬歴から考察したこと>(1)アゾセミドによる尿酸値上昇→フェブキソスタット追加アゾセミドなどのループ利尿薬は、尿酸と同じトランスポーターを競合的に阻害するため、尿酸排泄が低下したと考えられる。利尿作用により腎糸球体ろ過量が減少し、尿酸排泄が低下した可能性もある1)。これらの作用により尿酸値が上昇し、フェブキソスタットが追加されたのではないか。(2)アゾセミド中止後の高尿酸血症の治療評価が必要今回の尿酸値上昇は、原発の高尿酸血症の可能性は低く、アゾセミドによる二次性の高尿酸血症と考察した。そのためアゾセミド中止後の尿酸値のフォローは重要であり、純粋なフェブキソスタットの治療評価とはせずに、継続の必要性を検討する必要がある。以上のことから、高尿酸血症の治療評価を医師に直接提案することとしました。処方提案と経過医師に、上記の(1)(2)の考察を共有し、都合のよいタイミングで採血を行って高尿酸血症の治療評価ができないか相談しました。ちょうど定期採血のタイミングであったことから、すぐに尿酸値や腎機能を評価することとなりました。2週間後の診療で共有された血液検査の結果は、尿酸値:3.6mg/dL、Scr:0.89mg/dL、BUN:17.5mg/dLであり、フェブキソスタットは中止となりました。その後の定期採血結果でも、尿酸値:6.7mg/dLと基準値内を推移していて、関節痛の症状や母趾の腫脹などの痛風症状もなく、無症状で経過しています。薬歴には、「OP:高尿酸血症治療管理 ●月●日〜フェブキソスタット中止(中止時の尿酸値:3.6mg/dL→中止後の尿酸値:6.7mg/dL)。再上昇に注意して要モニタリング」と変更の経緯とその後のフォロー内容を残しました。1)ダイアート錠 インタビューフォーム

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ないがしろにできない高齢者の関節痛、その注意点は?【Dr.山中の攻める!問診3step】第15回

第15回 ないがしろにできない高齢者の関節痛、その注意点は?―Key Point―急性の単関節炎では、化膿性関節炎、結晶性関節炎(痛風/偽痛風)、関節内出血(外傷、血友病)を考える結晶性関節炎と化膿性関節炎は合併することがある関節液の白血球が5万/μL以上なら化膿性を示唆するが、それ以下でも否定はできない症例:81歳 男性主訴)左膝関節痛現病歴)2週間前に左肘関節痛あり。整形外科でシャント感染を疑われたが、治療ですぐに軽快。昨日深夜の転倒後から左膝関節腫脹を伴う関節痛あり。夕方からは発熱もあった。本日近医の検査でCRP 22だったため、救急室に紹介受診となった。既往歴)アルツハイマー型認知症、糖尿病腎症:3年前に血液透析を開始身体所見)意識清明、体温38.6℃、血圧149/61mmHg、脈拍108回/分、呼吸回数20回/分、SpO2 100%(室内気)眼瞼結膜は軽度の蒼白あり、胸腹部に異常所見なし、左膝関節に腫脹/熱感/圧痛あり経過)血液検査でWBC 12,000/μL、Hb 10.8 g/dL、Cr 6.15 mg/dL、CRP 23.9 mg/dLであった左膝関節のレントゲン写真では半月板に線状の石灰化を認めた関節穿刺を施行し、やや混濁した黄色の関節液を採取した(図1)。関節液のWBCは 9,000/μL(好中球86%)であった。白血球に貪食された菱形および長方形の結晶を認めた(図2)グラム染色および関節液培養では細菌を検出しなかった偽痛風と診断しNSAIDsにて軽快した画像を拡大する◆今回おさえておくべき臨床背景はコチラ!高齢者における関節痛の訴えは多い化膿性関節炎を見逃すと関節の機能障害が起こる急性vs.慢性、単関節vs.多関節、炎症性vs.非炎症性を区別することで、鑑別診断を絞り込むことができる【STEP1】患者の症状に関する理解不足を解消させよう【STEP2-1】症状を確認する急性発症か慢性発症か。急性は2週間以内、慢性は6週間以上の症状持続である単関節炎か多関節炎か。単関節炎は1つの関節、多関節炎は5関節以上の関節に炎症がある【STEP2-2】炎症性か非炎症性か炎症性では30分以上続く朝のこわばり(多くは1時間以上)、安静後に増悪、体を動かしていると次第に改善する関節に熱感、発赤、腫脹があれば炎症性である炎症性は血沈やCRP上昇を認める【STEP3】鑑別診断を絞り込む2)3)脊椎関節炎には反応性関節炎、乾癬性関節炎、炎症性腸疾患関連関節炎、強直性脊椎炎、分類不能脊椎関節炎が含まれる(表1)画像を拡大する<参考文献・資料>1)MKSAP19. Rheumatology. 2022. p1-17.2)Harrison’s Principles of Internal Medicine. 21th edition. 2022 p2844-2880.3)山中 克郎ほか. UCSFに学ぶできる内科医への近道. 南山堂. 2012. p211-221.

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過去のものとは言わせない~SU薬の底力~【令和時代の糖尿病診療】第6回

第6回 過去のものとは言わせない~SU薬の底力~最近、新薬に押されてめっきりと処方数が減ったSU薬。低血糖を来しやすい、血糖変動が大きくなるなど罵詈雑言を並べ立てられ、以前はあれほど活躍していたのにもかかわらず、いまや悪者扱いされている。私が研修医のころは、経口薬といえばSU薬(BG薬はあったもののほとんど使われなかった)、注射剤といえばインスリン(それも速効型と中間型の2種類しかない)、加えて経口薬とインスリンの併用などはご法度だった時代である。同じような時代を生きてきた先生方にこのコラムを読んでいただけるか不安だが、今回はSU薬をテーマに熟年パワーを披露してみたい。最近の若手医師はこの薬剤をほとんど使用しなくなり、臨床的な手応えを知らないケースも多いだろう。ぜひ、つまらない記事と思わずに読んでいただきたい。もしかしたら考え方が変わるかもしれない。SU薬は、スルホンアミド系抗菌薬を研究していた際に、実験動物が低血糖を示したことで発見されたというユニークな経緯を持つ。1957年に誕生し、第一~三世代に分けられ、現在使用されているのは第二世代のグリベンクラミドとグリクラジド、第三世代のグリメピリドである。血糖非依存性のインスリン分泌促進薬で、作用機序は膵臓のβ細胞にあるSU受容体と結合してATP依存性K+チャネルを遮断し、細胞膜に脱分極を起こして電位依存性Ca2+チャネルを開口させ、細胞内Ca2+濃度を上昇させてインスリン分泌を促進する。血糖降下作用は強力だが、DPP-4阻害薬やGLP-1受容体作動薬と違い、血糖非依存性のため低血糖には注意が必要で、日本糖尿病学会の治療ガイドには、使用上の注意として(1)高齢者では低血糖のリスクが高いため少量から投与を開始する、(2)腎機能や肝機能障害の進行した患者では低血糖の危険性が増大する、と記載されている。この2点に気を付けていただければ、コストパフォーマンスが最も良好な薬剤かと思われる。まずはこの一例を見ていただきたい。75歳男性。罹病歴29年の2型糖尿病で、併存疾患は高血圧、脂質異常症、高尿酸血症および肺非結核性抗酸菌症。三大合併症は認めていない。α-GI薬から開始し、その後グリニド薬に変更したが、14年前からSU薬+α-GI(グリメピリド1mg+ボグリボース0.9mg/日)に変更。体重も大きな増減なく標準体重を維持し、HbA1cは6%台前半で低血糖症状もなく、経過は良好であった。そこで主治医は、朝食後2時間値70~80mg/dLが時折見られることから無自覚低血糖の可能性も加味し、後期高齢者になったのを機にグリメピリドを1mgから0.5mgに減量したところ、HbA1cがなんと1%も悪化してしまった。症例:血糖コントロール(HbA1c)および体重の推移この患者には肺病変があるのでもともと積極的な運動はできず、HbA1cの季節性変動もない。また、食事量も変わりなく体重変化もないため、SU薬の減量がもっともらしい原因として考えられた。よって、慌てて元の量に戻したケースである。このような症例に出くわすことは、同世代の先生方には十分理解してもらえるだろう。いわゆる「由緒正しき日本人糖尿病」で、非肥満のインスリン分泌が少し低い患者である。これを読んでも、あえてSU薬を使う必要があるのかという反論もあろう。新しい経口糖尿病治療薬は、血糖降下作用のみならず大血管障害などに対し少なくとも非劣性であることが必要だが、最近の薬剤はむしろ大血管障害や腎症に対しても優越性を持つ薬剤が出てきているではないか。さらには、血糖依存性で低血糖が起こりにくく、高齢者にも使用しやすい。確かにそのとおりなのだが、エビデンスでいうとSU薬も負けてはいないのだ。次に説明する。最近の報告も踏まえたSU薬のエビデンス手前みそにはなるが、まずはわれわれの報告1)から紹介させていただく。2型糖尿病患者における経口血糖降下薬の左室心筋重量への影響画像を拡大するネットワークメタ解析を用いて、2型糖尿病患者における左室拡張能を左室心筋重量(LVM)に対する血糖降下薬の効果で評価した結果、SU薬グリクラジドはプラセボと比較してLVMを有意に低下させた唯一の薬剤だった(なお、この時SGLT2阻害薬は文献不足により解析対象外)。左室拡張能の関連因子として、酸化ストレス、炎症性サイトカイン、脂肪毒性、インスリン抵抗性、凝固因子などが挙げられるが、なかでも線溶系活性を制御する凝固因子PAI-1(Plasminogen Activator Inhibitor-1)の血中濃度上昇は、血栓生成の促進、心筋線維化、心筋肥大、動脈硬化の促進および心血管疾患の発症と関連し、2型糖尿病患者では易血栓傾向に傾いていることが知られている。このPAI-1に着目し、2型糖尿病患者におけるSU薬の血中PAI-1濃度への影響をネットワークメタ解析で比較検討したところ、グリクラジドはほかのSU薬に比して血中PAI-1濃度を低下させた2)。これは、ADVANCE研究においてグリクラジドが投与された全治療強化群では心血管疾患の発症が少なかったことや、ACCORD研究においてグリクラジド以外の薬剤が投与された治療強化群での心血管疾患発症抑制効果は見られなかったことなど、大規模試験の結果でも裏付けられる。また、Talip E. Eroglu氏らのReal-Worldデータでは、SU薬単剤またはメトホルミンとの併用療法はメトホルミン単独療法に比べて突然死が少なく、さらにグリメピリドよりグリクラジドのほうが少ないという報告3)や、Tina K. Schramm氏らのnationwide studyでは、SU薬単剤はメトホルミンと比較して死亡リスクや心血管リスクを増加させるが、グリクラジドはほかのSU薬より少ないという報告4)もある。過去のものとは言わせない~SU薬の底力~以上より、SU薬のドラッグエフェクトによる違いについても注目すべきだろう。SU薬は血糖降下作用が強力で安価なため、世界各国では2番目の治療薬として少量から用いられており、わが国でも、やせ型の2型糖尿病患者の2~3剤目として専門医に限らず多く処方されている。結論として、SU薬の使用時は単剤で用いるよりは併用するほうが望ましく、少量で使用することにより安全で確実な効果が発揮できる薬剤だと理解できたかと思う。また、私見ではあるが、高齢者糖尿病が激増している中で、本来ならインスリンが望ましいが、手技的な問題や家庭状況により導入が難しい例、あるいは厳格なコントロールまでは必要ないインスリン分泌の少ない例などは良い適応かと考える。おまけに、とても安価である。決してお払い箱の薬剤ではないことも付け加えさせていただく!1)Ida S, et al. Cardiovasc Diabetol. 2018;17:129.2)Ida S, et al. Journal of Diabetes Research & Clinical Metabolism. 2018;7:1. doi:10.7243/2050-0866-7-1.3)Eroglu TE, et al. Br J Clin Pharmacol. 2021;87:3588-3598.4)Schramm TK, et al. Eur Heart J. 2011;32:1900-1908.

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