サイト内検索|page:9

検索結果 合計:416件 表示位置:161 - 180

161.

研究方法に疑問(解説:野間重孝氏)-898

 まず評者は精神疾患の専門家ではないので、うつ病そのものに関しての踏み込んだ議論はしないことをお断りして、この論文評を始めることをお許しいただきたい。 この問題を考える場合、2つの方向があることをまず考えておく必要がある。第1は、まずうつ病は冠動脈疾患(CAD)のリスクファクターであるのか否かという問題。そして、もしそうであったとしたなら、それは予後規定因子としてどのくらいの重みを持っているのか。第2は、急性冠症候群(ACS)の患者はどの程度の割合でうつ病を発症するのか。そして、うつ病を発症することが、その予後にどのような影響を与えるのかという問題の立て方である。つまり、両方向から問題が立てられるのである。ただ、ここで注意を促しておきたいのは、第1の問いが真であったとして、うつ病患者でCADに罹患したものを無作為に振り分けて、片方にうつ病の治療を続行し、もう片方にプラセボを投与するといった研究は倫理的に許されるものではなく、大規模な疫学研究の結果を待つか、結果として治療が行われたり行われなかったりしたretrospective studyのメタアナリシスを待つしかないということである。こういうところに臨床研究の限界がある。 うつ病とCADを巡る問題は、1990年代から議論が始まったが、議論は混乱するばかりでなかなか結論が得られなかった。最大の原因は一言で言えば、うつ病をどう定義するかの問題でなかなか一致点が見いだされなかったことである。確かに狭い意味ではDSM-IVにmajor depressive disorder(大うつ病と訳される)が定義されているが、抑うつ状態やいわゆる仮面うつ病まで含めて、うつ病をどの範囲でどう定義すべきかには議論が多く、現在でも一致をみていない。上記第2の問題にしても、ACSになれば将来のこと、家族のことを考えて誰しも抑うつ的になるだろう。それと持続的なうつ病とをどう区別するのか。また自分がACSを経験したことは、大抵の人には大きな心の傷となっているだろう。それをうつ状態と呼んでよいのか。問題は尽きない。 そうした混乱の中で疫学研究のまとめ、メタアナリシスにより一応の勧告に当たるものが出されたのが、2014年の米国心臓病学会によるstatementである。しかしその表現は“American Heart Association should elevate depression to the status of a risk factor for adverse medical outcome in patients with acute coronary syndrome”と、決して歯切れのよいものではなかった。実際、他の学会・団体は、まだはっきりとしたstatementを発表するには至っていない。この論文評を書くに当たって調べてみると、CADにうつ病を合併すると、心事故および致死的不整脈による死亡が3~4倍になるとの記載を見つけて、評者自身驚いている。つまり、まだ結論が出ていない問題なのだが、そういった極端な発言をする専門家(?)もいるのである。 そこでもう1つの問題として持ち上がるのが、それではACS後の抑うつ状態を含めたうつ病への治療はACSの予後改善をもたらすのか否かという観点からの問いである。この問題については、すでに二度にわたって比較的大きな臨床研究が行われており(van Melle JPら. 2007年、Glassman AHら. 2009年)、いずれにおいても有意な改善効果は認められなかった。今回は、韓国のJae-Min Kimらが中心となって、一連の研究の中でも有望視された選択的セロトニン再取り込み阻害薬エスシタロプラムを、ACS後の抑うつ状態にある患者に無作為に投与してこの効果を確かめたものである。結果、MACEの発生でp=0.03、個別イベントでは心筋梗塞の発生でp=0.04とわずかではあるが改善が認められたが、その他の項目(全死因死亡、心臓死、PCI)には差がみられなかったと報告された。 著者らは「さらなる研究で、今回の所見の一般普遍化について評価したい」と述べているが、評者にはその前に研究方法に問題があるように思えてならない。まず、著者らはMACE(彼らの使用法ではmajor adverse cardiac events)を全死因死亡、心筋梗塞、PCIとし、追加的評価項目に心臓死を挙げて定義しているが、それでよいのだろうか。主要心血管イベント(MACE:major adverse cardiovascular events)といえば、通常は血管死(中枢神経系外の出血死を除く心血管/脳血管起因)、非致死性心筋梗塞、非致死性脳卒中(虚血性、出血性および不明な脳卒中)と定義される。今回の場合、心臓に問題を絞っているから脳卒中を問題にしないとするなら、全原因心臓死、非致死性心筋梗塞、狭心症の再発などとすべきで、全原因死亡やPCIは不適当ではなかったか。まず心臓以外の疾患での死亡が、なぜ問題にされなければならないのか。とくにうつ病を対象とした場合、自殺死なども含まれてしまうことも指摘しておきたい。さらにPCIを行うか否かは相当程度、主治医の恣意的な判断が加わるもので、こういった研究のエンドポイントとしては不適切である。研究方法そのものに問題がある以上、この研究をこれ以上続けられても、評価のしようがない。 議論のある分野に思い切って踏み込んだこと自体は評価したいが、その研究方法は評価できず、また、その結果もこの分野の議論に大きな一石を投じる内容ではないと言わざるを得ないと考えた。

162.

ファブリー病に世界初の経口治療薬が登場

 2018年7月7日、アミカス・セラピューティスク株式会社は、同社が製造・販売する指定難病のファブリー病治療薬のミガーラスタット(商品名:ガラフォルド)が、5月に承認・発売されたことを期し、「ファブリー病治療:新たな選択肢~患者さんを取り巻く環境と最新情報~」と題するメディアラウンドテーブルを開催した。希少代謝性疾患の患者に治療を届けるのが使命 はじめに同社の会長兼CEOのジョン・F・クラウリー氏が挨拶し、「『希少代謝性疾患の患者に高品質の治療を届けるように目指す』ことが我々の使命」と述べた。また、企業責任は「患者、患者家族、社会に希少疾病を通じてコミットすることで『治療にとどまらない癒しをもたらすこと』」と企業概要を説明した。今後は、根治を目標に遺伝子治療薬の開発も行っていくと展望を語った。なお、クラウリー氏は、実子がポンぺ病を発症したことから製薬会社を起業し、治療薬を開発したことが映画化されるなど世界的に著名な人物である。治療選択肢が増えたファブリー病 つぎに衞藤 義勝氏(脳神経疾患研究所 先端医療研究センター長、東京慈恵会医科大学名誉教授)が、「日本におけるファブリー病と治療の現状」をテーマに、同疾患の概要を解説した。 ライソゾーム病の一種であるファブリー病は、ライソゾームのαガラクトシダーゼの欠損または活性低下から代謝されるべき糖脂質(GL-3)が細胞内に蓄積することで、全身にさまざまな症状を起こす希少疾病である。 ファブリー病は教科書的な疫学では4万例に1例とされているが、実際には人種、地域によってかなり異なり、わが国では新生児マススクリーニングで7,000例に1例と報告されている。臨床型ではファブリー病は、古典型(I型)、遅発型(II型)、ヘテロ女性型に分類され、古典型が半数以上を占めるとされる。 ファブリー病の主な臨床症状としては、脳血管障害、難聴、角膜混濁・白内障、左室肥大・冠攣縮性狭心症・心弁膜障害・不整脈、被角血管腫・低汗症、タンパク尿・腎不全、四肢疼痛・知覚異常、腹痛・下痢・便秘・嘔気・嘔吐など全身に症状がみられる。また、年代によってもファブリー病は症状の現れ方が異なり、小児・思春期では、慢性末梢神経痛、四肢疼痛、角膜混濁が多く、成人期(40歳以降)では心機能障害が多くなるという。 診断では、臨床症状のほか、臨床検査で酵素欠損の証明、尿中のGL-3蓄積、遺伝子診断などで確定診断が行われる。また、早期診断できれば、治療介入で症状改善も期待できることから、新生児スクリーニング、ハイリスク群のスクリーニングが重要だと同氏は指摘する。とくに女性患者は軽症で症状がでないこともあり、放置されている場合も多く、医療者の介入が必要だと強調した。 ファブリー病の治療では、疼痛、心・腎障害、脳梗塞などへの対症療法のほか、根治的治療として現在は酵素補充療法(以下「ERT」と略す)が主に行われ、腎臓などの臓器移植、造血幹細胞などの細胞治療が行われている。とくにERTでは、アガルシダーゼαなどを2週間に1回、1~4時間かけて点滴する治療が行われているが、患者への身体的負担は大きい。そこで登場したのが、シャペロン治療法と呼ばれている治療で、ミガーラスタットは、この治療法の薬に当たる。同薬の機序としては、体内の変異した酵素を安定化させ、リソソームへの適切な輸送を促進することで、蓄積した物質の分解を促す。また、経口治療薬であり、患者のアドヒアランス向上、QOL改善に期待が持たれている。将来的には、学童期の小児にも適用できるように欧州では臨床研究が進められている。 最後に同氏は、「ファブリー病では、治療の選択肢が拡大している一方で、個々の治療法の効果は不明なことも多い。現在、診療ガイドラインを作成しているが、エビデンスをきちんと積んでいくことが重要だと考える」と語り、講演を終えた。酵素補充保療法とスイッチできるミガーラスタット つぎにデリリン・A・ヒューズ氏(ロイヤルフリーロンドンNHS財団信託 血液学領域、ユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドン)が、「ファブリー病治療の新たな選択肢:ミガーラスタット塩酸塩」をテーマに講演を行った。 はじめに自院の状況について、ライソゾーム病の中ではファブリー病がもっとも多いこと、患者数が年15%程度増加していることを報告し、家族内で潜在性の患者も多いことも知られているため、早期スクリーニングの重要性などを強調した。 英国のガイドラインでは、診断後の治療でERTを行うとされているが、その限界も現在指摘されている。ERTの最大の課題は、治療を継続していくと抗体が形成されることであり、そのため酵素活性が中和され、薬の効果が出にくくなるという。また、細胞組織内の分泌が変化すると、末期では細胞壊死や線維化が起こり、この段階に至るとERTでは対応できなくなるほか、点滴静注という治療方法は患者の活動性を阻害することも挙げられている。実際、15年にわたるERTのフォローアップでは、心不全、腎不全、ペースメーカー、突然死のイベント発生が報告され、効果が限定的であることが判明しつつあるという1)。そして、ミガーラスタットは、こうした課題の解決に期待されている。 ミガーラスタットの使用に際しては、ファブリー病の確定診断と使用に際しての適格性チェック(たとえば分泌酵素量や遺伝子検査)が必要となる。ERTと異なる点は、使用年齢が16歳以上という点(ERTは8歳から治療可能)、GFRの検査が必要という点である。 最後に同氏は、シャペロン療法の可能性について触れ「病態生理、診療前段階、治療とその後の期間、実臨床でもデータの積み重ねが大切だ」と語り、講演を終えた。ミガーラスタットの概要一般名:ミガーラスタット製品名:ガラフォルド カプセル 123mg効能・効果:ミガーラスタットに反応性のあるGLA遺伝子変異を伴うファブリー病用法・用量:通常、16歳以上の患者に、1回123mgを隔日経口投与。なお、食事の前後2時間を避けて投与。薬価:14万2,662.10円/カプセル承認取得日:2018年3月23日発売日:2018年5月30日

163.

そもそも術前リスク評価をどう考えるべきか(解説:野間重孝 氏)-891

 循環器内科はさまざまな院内サービスを行っているが、その中でも最も重要なものの1つが、心疾患を持つ(もしくは持つと疑われる)患者が心臓外のmajor surgeryを受ける場合のリスク評価に対するコンサルトに答えることではないかと思う。この場合、大体の医師が心疾患による追加的なリスクをまったく考える必要のない群を最軽症とし、これは絶対に手術は無理というものを最重症として5段階評価を考え、それなりの文章を考えて回答している、というあたりが実情なのではないかと思う。 ただ、その場合でも、はっきり○○%という数字を書き込むという方は、まずいらっしゃらないと推察する。というのは、そのようなエビデンスはどこにも存在しないからだ。この問題を考える場合、次のような視点を最低限持っておく必要があると考えるので、箇条書きにしてみる。 ○想定されるリスクは手術技術や機材の進歩、麻酔技術の進歩により変化していくもの  であって、一定ということはあり得ない。 ○上記と関連して、現在効果がないとされている技術(たとえばTAVIなど)も、  技術、機材の進歩により、リスク軽減に有効とされる時が来る可能性が十分にある  ことを想定しておく必要がある。 ○大変記載しにくい事実ではあるが、手術リスクは一般論ではなく、組織の設備、環境  や術者、アシストするスタッフの質、麻酔科医の技量に大きく依存する。 ○どこまでを標準的な術前スクリーニング検査とするかは、国情、医療事情により決定  されるもので、国、地域により一定ではない。また組織によっても異なる。 ○手術リスクをどのように評価するかには、異なった立場がある。患者の最大酸素摂取  量(peak oxygen uptake)を重要とするものもあれば、また、解剖学的な病態  (たとえば冠動脈狭窄の部位と程度)を重視するやり方もあり、どれが正しい、正確  であるかというエビデンスはない(疾病者の最大酸素摂取量をどう求めるかに議論が  あるのはもちろんである)。 ○上記でいえば、わが国は画像診断に比較的重きを置く傾向がある。実際、冠動脈疾患  でいえば、その存在が疑われる症例で冠動脈造影CT検査が行われないという事態は  想定しがたいが、これはわが国がOECD加盟国中CTの普及率、保有台数が第1位で  あるという事情と無縁ではない。 ○国、地域により、主な対象とされる疾患が異なる。欧米のリスク評価はどうしても  冠動脈疾患の比重が大きくなるが、わが国にそれをそのまま応用してよいという保証  はまったくない。たとえば、ACC/AHA、ESC/ESAともに2014年にガイドラインの  改訂を行っているが、これをそのままわが国で用いてよいという保証はない。 ○時代によりリスクに組み込まれる疾患が異なってくる。代表的なものが心房細動の  リスクをどう考えるかで、社会の高齢化と強く関連している。 ○手術リスクをどう位置付けるかは、そのmajor surgeryが対象とする疾患により  異なるはずである。悪性疾患を代表とする生命予後に直結する疾患と、機能予後に  深く関連するようなものでも生命予後には直接結びつかないものとでは、  リスクに対する考え方が異ならなければならない。 読者の皆さんの中にはもっと多くの事項が勘案されるべきだとお考えの方もいらっしゃると思うが、順不同ながらまず代表的なものは出し尽くしているのではないかと思う。 さて、こうした観点を踏まえて本論文を読み返してみると、大変失礼な言い方になるが、その発想があまりにもナイーブなのではないかというのが、私の正直な感想である。 「経験ある麻酔科医によるリスク評価」というが、「主観的」リスク評価をするに当たって、どの程度の術前スクリーニング検査が行われているのだろうか。私も第一線病院で30年以上診療に当たっている者(しかも古いタイプの医師)の1人として、患者に慎重に問診し、慎重な診察を行えば、かなりの確率でリスクを評価できるという自信がないわけではない。しかし、2018年の現在、そのような「主観的な」評価が許されるわけがないではないか。まず心エコー図を中心とした画像診断で状態を把握し(心エコー図の結果のみでリスク評価をしてはならないことはすでに証明されている)、正確な数字や別の観点からの画像が欲しい場合には、MRIやシンチグラムなども併用する。冠動脈疾患の可能性があれば、当然冠動脈造影CT検査を行う。場合によってはカテーテル検査も行う。そのうえで判断を下す。当たり前ではないか。NT pro-BNPについて言及されているが、今どき術前血液検査にBNPもしくはNT pro-BNPの項目が含まれていない採血を行う組織など、少なくともわが国には存在しないと思う。それでも5段階評価くらいはできても数値化まではできない。 エルゴメータによる運動負荷検査が取り上げられているが、現実的とは言えないと思われる。全身状態によってはエルゴメータをこぐことができないことは言うまでもないが、それだけではなく、もし実際に重症冠動脈疾患があった場合、運動負荷そのものが大変に危険であるという事実が指摘されなければならないだろう。少なくとも現在わが国で循環器を専門にしている医師が、狭心症を強く疑われている患者に対していきなり運動負荷を行うということはまずないのではないだろうか。運動負荷がぶっつけで行われる場合があるとするなら、学校検診などで心電図異常を指摘された明らかに健康な若年者に対して形式的なスクリーニングを行うような場合だろうが、これはまったく性格の異なったものであることはご説明するまでもないだろう。議論が冠動脈疾患に偏ったが、大動脈弁狭窄症やDCMなどでも同様の議論がなされることは言うまでもない。 DASIスコアとは――本文に細かい説明がないが――12項目の簡単な質問にYes/No方式で答えていくもので、各項目に重み付けがされており、最後に合計して計算式に当てはめることで、患者の最大酸素摂取量の予測ができるものである。全身状態の悪い患者も対象としなければならない場合、最大酸素摂取量の目安にしようとするならば現実的な方法といえる。本論文によればDASIスコアのみが有効なスクリーニング法だったとあるが、これは本研究のようなデザインをすれば当たり前なのではないだろうか。十分なスクリーニング結果を踏まえない担当医の「主観的」判断と全身状態によって結果に誤差が出て当然の運動負荷と、全員に安全かつ公平に行えるスコアリングを比べれば、結果は比べる前から明らかなのではないのか。本来術前リスク評価とは、どの方法が優れているといった議論の対象ではなく、可能な手段を総動員して行うべきものなのである。 そのほか、著者らのいうmorbidity and mortalityとは何か。なぜ30日を観察期間としたのか。たとえば術後2週間たって心筋梗塞が起こった場合、それと手術をどう関係付けるのか。疑問は多いのだが、それらにはこれ以上触れない。 というわけで、本研究が臨床医の素朴な疑問に答えようとした姿勢は評価するものの、研究の発想、方法はまったく評価できないというのが評者の受けた感想だったのだが、読者の皆さんはどう思われただろうか。

164.

FFRジャーナルClub 第10回

FFR Journal Clubでは、FFRをより深く理解するために、最新の論文を読み、その解釈を議論していきます。第10回目の今回は、急性心筋梗塞モデルにおいて、局所の心筋ダメージの、責任血管・非責任血管のFFR・微小循環機能に及ぼす影響を検討した論文を読んでみたいと思います。急性心筋梗塞の非責任病変評価におけるFFRの有用性に関しては、種々の報告があります。急性期にも評価可能であるとする報告のほか、心筋梗塞急性期の微小循環障害は、非責任病変にも及び、左室拡張末期圧上昇も相まって、冠血流の低下、ひいては圧較差の減少・FFR値の偽高値を来しうると考察するものまでさまざまです。本研究はその議論に対する1つの考察として行われました。第10回 ST上昇型心筋梗塞におけるFFRLee JM, et al. Influence of Local Myocardial Damage on Index of Microcirculatory Resistance and Fractional Flow Reserve in Target and Nontarget Vascular Territories in a Porcine Microvascular Injury Model. JACC Cardiovasc Interv. 2018; 11: 717-724.Argyrios Ntalianis, et al. Fractional flow reserve for the assessment of nonculprit coronary artery stenoses in patients with acute myocardial infarction. J Am Coll Cardiol Intv. 2010; 3: 1274-1281.麻酔下ヨークシャー豚(体重20〜35kg)モデルを用いた。経大腿動脈アプローチにて7Frガイドカテーテルを左冠動脈に使用した。IVUSにてLAD、LCXの血管径を確認したのち、それぞれの径に合わせて1.5〜2.0mmバルーンを拡張させ狭窄を作成した。Abbott社製圧・温度センサー付きガイドワイヤーを用いて、LADおよびLCXにおけるFFR / IMRを計測した。最大充血惹起においては、血圧低下を招かないようニコランジル2mgの冠動脈内投与を使用した。BaselineのFFR / IMR計測を行ったのち、マイクロスフェア(100μm、105)を、over-the-wire balloon先端からLADに選択的に注入することにより微小循環障害を生じさせた。マイクロスフェアは5回注入し、各注入後にFFR / IMRを計測した。また安静時の圧記録データを抽出し、自動解析アルゴリズムを用いてiFRを計算した。バルーン拡張により作成された狭窄の面積狭窄率area-stenosisは、LAD 48.1%、LCX 47.9%と同等であった。微小循環障害を生じる前のFFRはLAD 0.89±0.01、LCX 0.94±0.01と、LADで有意に低値であった。IMRはLAD 18.4±5.8 U、LCX 17.9±1.2 Uと、有意差は認めなかった。LADへのマイクロスフェア初期容量の注入により、IMRは18.4±5.8 Uから、30.6±6.8 Uと上昇した。またFFR値も0.89±0.01 から、0.93±0.01へ上昇した。マイクロスフェア5回の注入後には、IMRは77.7±15.7 Uまで上昇、FFRも0.98±0.01と著明に上昇した。IMRの上昇は、主にTmn(mean transit time)の増加によるもので、Pd(冠動脈遠位部圧)には変化は見られなかった。また左室拡張末期圧は、投与前5.5±1.1 mmHgから、5回投与後9.7±0.7mmHgと上昇した。画像を拡大する画像を拡大する一方、LCXにおいては、FFR、IMRとも変化を認めなかった。IMR値は、baselineではLADとLCXで同等の値であったが、マイクロスフェア投与後にはLADで有意に高値となった。FFR値に関しては、baselineでは(LAD、LCXの狭窄率は同等であったが)LADの方がLCXより低値を示したが、マイクロスフェア投与後にはLADで有意に高値となった。iFRおよびresting Pd/Paについても観察されているが、LADではFFR同様に増加する傾向が見られたが、その変化は有意なものではなかった。またLCXにおけるiFR、resting Pd/Paは、マイクロスフェア投与後も変化を認めなかった。画像を拡大する画像を拡大する(本論文Supplementary Appendixより引用)考察・私見AMI症例における急性期PCIの際にFFRガイドは使用できるか? この疑問は古くから存在し、FFR初期にも多くの研究がなされている。心筋梗塞領域では、急性期には微小血管塞栓・破綻、心筋浮腫・出血など、多くの要因から冠動脈ステント治療後にも冠血流が阻害されている。その最も高度な状況がNo-flow現象である。冠血流が低下すると、冠動脈狭窄部における圧損失は減少し、FFR値は上昇する。完全なNo-flowの状態では、高度狭窄が残存していても、FFR値はほぼ1.0となる。その微小循環障害の影響がどの程度存在するかは、心筋側の要素も大きいため、予測が困難であることから、梗塞責任血管においては、FFRは使用できない。一方、STEMI症例における非梗塞責任血管の狭窄評価にFFRは適応できるのか? 心筋梗塞発症の基となる微小血管機能障害は、梗塞血管のみならず非梗塞責任血管にも存在している、という報告もある(Uren NG, et al. N Engl J Med. 1994;331:222-227.)。非梗塞責任血管に微小血管機能障害が存在すれば、その程度に応じて最大充血時の冠血流は低下、そのためFFR値では狭窄を過小評価しうることになる。また理論的には、左室拡張末期圧の上昇も冠血流を阻害し、FFR値に影響を及ぼしている可能性がある。これらの因子は、非梗塞責任血管におけるFFR値の偽高値を来しうることになる。しかし、今回の論文では、非梗塞責任血管における微小循環障害の所見は認めず、左室拡張末期圧などの影響も少ないことがわかる。STEMI症例の非梗塞責任血管におけるFFR値の正確性が確認されたことになる。Ntalianisらは、臨床AMI例において、非梗塞責任血管に存在する中等度病変のFFRを、急性期primary PCI直後、慢性期に再評価し比較した。結果、その再現性は高く、急性期の評価も妥当と考えられるものであった。われわれの施設からも8例を登録し、急性期、約30日後に再計測したが、LVEDPが17mmHgから13mmHgへ低下したのに対し、FFR値は4例でまったく一致、残りの4例でも変化は0.02程度であった。最近、DEFINE-FLAIR試験のサブ解析から、ACS症例の非責任血管ではその後のイベント予測にFFRよりもiFRが有用である可能性につき報告された(Gotberg M, et al. J Am Coll Cardiol. 2017;70:1379-1402.)。画像を拡大する画像を拡大する(上記論文より引用)しかし、もともとACS症例においては、非梗塞責任血管に存在する病変も、安定狭心症の病変と比しハイリスクであると考えられている。FFRで見られた差は妥当な範囲とも考えられる。今回読んだ本論文の結果から考察すると、非梗塞責任血管のFFR値は、通常時に計測するものと同等であり、急性期に計測すること自体は問題ないと考えられる。ただし、その治療方針に関しては、急性期の血行動態を考慮し総合的に判断する必要があり、deferした病変においては通常の病変より不安定である可能性を考慮し、慎重な扱いが必要であったことが示唆される。一方、安静時の血流は非梗塞責任血管において多少増加している可能性があり、iFR値は偽低値を示す可能性がある。このことはiFRによりPCI適応を判断すると、通常の安定狭心症に用いた場合よりもover indicationとなる可能性がある。しかし、前述のFLAIRのデータでは、予後の悪化につながっておらず、逆に妥当とも言える結果であった。非梗塞責任血管の安静時血流増加の機序を考えると、梗塞による心機能低下に対し健常部が代償的に過収縮となり、その需要の増大に伴い冠血流が増加していると考えられる。すなわちある程度大きな範囲の梗塞であることが予測され、そのような病態では非責任血管の病変もその後のリスクが高くなり、そのようなハイリスク病変の識別にiFRが有効であった可能性も考えられる。同一症例で、FFR / iFRを計測し、FFR高値、iFR低値と乖離を示す病変の予後を観察する必要があり(FLAIR studyのFFR計測群では、各施設にはブラインドであるが、安静時データからiFRのデータが中央解析されており)、FLAIRのサブ解析が待たれる。

165.

FAME2試験、5年追跡調査の結果は?/NEJM

 安定冠動脈疾患患者において、冠血流予備量比(fractional flow reserve:FFR)ガイドによるPCI戦略は薬物療法単独と比較し、5年間の複合エンドポイント(死亡、心筋梗塞、緊急血行再建術)の発生を有意に低下させた。ベルギー・アールスト心血管センターのPanagiotis Xaplanteris氏らが、無作為化非盲検試験FAME 2試験の5年追跡結果を報告した。血行動態的に著しい狭窄のない患者は、薬物療法のみでも長期転帰は良好であったという。NEJM誌オンライン版2018年5月22日号掲載の報告。FFR≦0.80の安定冠動脈疾患患者約900例を対象に追跡試験 研究グループは、2010年5月15日~2012年1月15日に、欧州および北米の28施設において、冠動脈造影で50%以上の狭窄を認めた安定冠動脈疾患患者1,220例を登録した。すべての狭窄病変についてFFRを測定し、FFR≦0.80の患者888例を、PCI+薬物療法群と薬物療法単独群に1対1の割合で無作為に割り付けた。 主要評価項目は、死亡、心筋梗塞および緊急血行再建術の複合エンドポイントであった。複合エンドポイントの発生:PCI+薬物療法群13.9%、薬物療法単独群27.0% 5年時点の複合エンドポイントの発生率は、PCI+薬物療法群が薬物療法単独群より有意に低かった(13.9% vs.27.0%、ハザード比[HR]:0.46、95%信頼区間[CI]:0.34~0.63、p<0.001)。この差は、緊急血行再建術によるものであった(6.3% vs21.1%、HR:0.27、95%CI:0.18~0.41)。死亡率はそれぞれ5.1%および5.2%(HR:0.98、95%CI:0.55~1.75)、心筋梗塞は8.1%、12.0%で(HR:0.66、95%CI:0.43~1.00)、両群間に有意差はなかった。 なお、複合エンドポイントの発生率はPCI+薬物療法群と登録コホート群とで差はなかった(それぞれ13.9%および15.7%、HR:0.88、95%CI:0.55~1.39)。また、CCS分類II~IVの狭心症の患者の割合は、3年時点ではPCI+薬物療法群が薬物療法単独群より有意に低かったが、5年時点ではPCI+薬物療法群が低かったものの有意差はみられなかった。

166.

ドクターXを探せ?(解説:今中和人氏)-858

 この論文はさまざまな科の20術式について、非待期的(入院後3日以内)に手術が行われた症例の手術死亡率(在院死亡+30日以内の死亡)と術者の年齢・性別との関連を検討している。対象は4年間の全米のMedicare受給者の89万例で、49%が整形外科手術、38%が一般外科手術、12%が心臓血管外科手術、1%がその他の手術だった。 世の中には、脳外科・形成外科などの顕微鏡下手術、泌尿器科の経尿道手術、大動脈ステントグラフトなど、もっぱら術者1人で行う術式もあるが、多くの手術はチームで行われ、術者だけでなく誰が助手かが非常に重要である。思い返せば私も駆け出しの頃、術者を務めれば自分が手術したつもりでいたが、実際には助手に回って下さったメンター頼みだったし、勘所だけは彼らが処置してくれたこともあった。独り立ち早々の時期、心得不足の助手と厳しい症例を手術したことはまれであった。丁寧に縫合しても、助手が糸をたるませればひどい出血に見舞われるのだ。手術は個人力以上にチーム力である。このことはどんなに強調しても、し足りない。だから管理職は組み合わせを考えて担当を指名するし、当番表にも一定の配慮を求める。チーム力を最大にするため、私は夜中に出ていって緊急手術の助手に回ることはザラにあり、結果に対しては自分が責任を負う。さらに各人のモチベーションやとくに欧米では報酬も大きな要因だ。高リスク手術の術者指名は、そんな甘い話や単純な話でないと知れば、本論文の20の術式にもっぱら1人で行う手術は1つもないのに、術者のみのプロファイルで成績を論じるのは見識不足であることは自明であろう(類似論文も同じ)。 さらに再認識すべきなのは、アウトカム=術前状態+手術+術後管理 の公式。術前状態は手術に負けず劣らず重要で、事実、本論文の腹部大動脈瘤手術は、たぶんほとんどが破裂なので死亡率12%、大腸直腸切除も多くは穿孔なので11%と、術者の年齢なんてどこ吹く風の高さだ。そして状態が悪い症例ほど待てないので、夜間や休日は厳しい症例が多くなるが、40歳以下の外科医も60歳以上の外科医も平等にオンコールを割り振られるわけがなく、重症例はオンコールが多い若めの外科医に偏るのだ。また、たとえば冠動脈3枝バイパスは、ICDコードが同じでも非待期手術でも、electrical stormやショック状態の症例と、「明日やりましょうか」という不安定狭心症の症例ではおよそ別もの。そして非待期例ほどバリエーションだらけで、リスク補正と言うは易いが行うは難く、「同じICDコードだから」と死亡率を直接比較するのはかなり無理がある。 なお、一部の例外を除き、外科医も夜間や休日に働きたいわけではなく、嬉々としているように見えるのは前向きに取り組むべく士気を高めているだけなので、是非、麻酔科や内科系の先生の温かいご理解をお願いしたい。 4万5,000人もの執刀医について詳細に検討されたこの論文で興味深かった知見は、平均年齢が50.5歳と意外に高いこと。女性外科医は全体の10%を占めるが、残念ながら心臓血管外科手術の執刀は2%、整形外科は3%とひどく不人気な一方、一般外科は10%超、婦人科(子宮切除)は30%と、専門科選択の格差が国際的であること。さらに、40歳未満の外科医の手術件数のうち女性の執刀は20%だが、60歳以上では3%にまで低下し、年齢が高いと女医の人数が少ないのは時代背景の反映だろうだが、1人あたりの執刀数も6割に減る。一方、男性外科医の手術件数はあまり減っていない。つまり、いくつになっても非待期的な手術も手掛けているのは圧倒的に男性で、後期高齢者もチラホラ。良く言えば、男性外科医は現役への情熱を持ち続けている、リスクと職責を担い続けている、とも言えるが、悪く言えば老害。うがった見方をすれば、高額な養育費や若い夫人との生活費やローンが見え隠れするし、「引退しても家庭に居場所がない」なんて話も、日本では大声でささやかれている。 本論文は多数の手術症例と外科医についてさまざまに解析した労作ではあるが、しばしば執刀医しか見えていない一般人に向けて、現場から乖離した認識で、「若い外科医は成績がイマイチだ」という、芳しからぬ波紋を発信してしまった。失礼ながら予想どおり、主要著者らの所属は内科と公衆衛生で、筆頭著者は(ドクターXのファンかどうかはともかく)日本人のようだ。少数の共著者の外科医は何をどの程度commitしたのか不明だが、「事件は会議室じゃない、現場で起こってるんだ!」という古の名ゼリフを思い出す。繰り返すが、手術はチーム力。机上を離れてしばらく現場に在籍なさるとよろしいように思われる。

167.

SGLT2阻害薬は死亡率、心血管イベントの低減に最も有用(解説:吉岡成人氏)-856

2型糖尿病の治療薬の選択 糖尿病の治療薬の選択に対して、日本糖尿病学会では患者の病態に応じて薬剤を選択することを推奨しているが、米国糖尿病学会ではメトホルミンを第一選択薬とし、心血管疾患の既往がある患者では、SGLT2阻害薬ないしはGLP-1受容体阻害薬を併用することを推奨している。その背景には、EMPA-REG OUTCOME試験、CANVASプログラム、LEADER試験、SUSUTAIN-6などの臨床試験によって、これらの薬剤が心血管イベントに対して一定の抑制効果を示したことが挙げられる。 それでは、SGLT2阻害薬とGLP-1受容体阻害薬との比較ではどうなのか、日本で最も使用されているDPP-4阻害薬と比較した場合はどうなのだろうかという疑問に答える論文が報告された。ネットワークメタ解析での比較 通常のメタ解析では治療介入を行ったランダム化比較試験(RCT)を統合して介入の効果を検証するが、3種類以上の介入の効果を比較検討することはできない。Zheng SLらはネットワークメタ解析の手法を用いて、実際のhead-to-headの試験を行うことなく、多数のRCTの結果を統計学的に併合して直接的、間接的な比較を行った結果を報告している。本論文では各薬剤を使用して12ヵ月間以上観察された236件のRCTを抽出し、各薬剤とコントロール群、DPP-4阻害薬とGLP-1受容体作動薬、DPP-4阻害薬とSGLT2阻害、GLP-1受容体阻害薬とSGLT2阻害の各群において、全死亡を主要アウトカム、心血管死、心不全、心筋梗塞と不安定狭心症、脳卒中を二次アウトカムとして薬剤間の有用性を検証している(Zheng SL, et al. JAMA. 2018 Apr 17;319: 1580-1591. )。SGLT2阻害の有用性が明らかに 各群における対象患者の平均年齢は50代前半から後半までと比較的若く、HbA1cも8.2%前後で、罹病期間が長く血糖コントロールが不良な患者は多く含まれてはいない。しかし、全死亡については、GLP-1受容体阻害薬とSGLT2阻害薬はコントロール群、およびDPP-4阻害薬投与群に比較して有意に減少させており、GLP-1受容体作動薬投与群とSGLT2阻害薬投与群との間には有意差はなかった。この傾向は心血管死亡率についても同様であった。一方、心不全イベントについては、SGLT2阻害の有用性が最も高く、コントロール群、DPP-4阻害薬投与群に対してのみならず、GLP-1受容体投与群に対しても有意に心不全イベントの抑制効果を示していた。 欧米では、2型糖尿病の治療に対して、低血糖や体重増加を来しにくい薬剤が推奨されており、メトホルミンが第一選択薬となっている。今回の結果は、心血管イベントによる死亡が多い欧米人にあっては、SGLT2阻害が第二選択薬としてのポジションをより強固なものにした印象を与える。日本でも、虚血性心疾患のハイリスク患者、心不全患者、糖尿病腎症の患者などでは積極的に、SGLT2阻害薬が使用されつつある。しかし日本人の糖尿病患者では欧米に比較して心血管イベントは少なく、65歳以上の高齢者が多く、インスリン分泌も低い。これらの点を考慮すると、現在広く用いられているDPP-4阻害が重用される現状はしばらく続くのかもしれない。

168.

日本人の学歴・職歴と認知症の関連に糖尿病は関与するか

 欧米では、低い社会経済的地位(SES)と認知症との関連は生活習慣病(糖尿病)を介すると報告されている。しかし、わが国では低SESと認知症の関連は研究されていない。今回、敦賀看護大学(福井県)の中堀 伸枝氏らの研究から、低SESと認知症の間のメディエーターとして、生活習慣病の役割はきわめて小さいことが示唆された。BMC Geriatrics誌2018年4月27日号に掲載。 本研究は、富山県認知症高齢者実態調査のデータを用いた後ろ向き症例対照研究である。富山県在住の65歳以上(入院および非入院)の人をサンプリングレート0.5%で無作為に選択、うち1,303人が参加に同意した(回答率84.8%)。全体として、認知症137人および認知症ではない対照1,039人を同定した。必要に応じて、参加者と家族または代理人との構造化インタビューを実施し、参加者の病歴、生活習慣(喫煙および飲酒)、SES(学歴および職歴)を調査した。Sobel検定を用いて、低SESが生活習慣病を介した認知症の危険因子である可能性を調べた。 主な結果は以下のとおり。・認知症のオッズ比(OR)は、低学歴(6年以下)の参加者で高学歴の参加者より高く(年齢・性別での調整OR:3.27、95%CI:1.84~5.81)、また、事務の職歴より肉体労働の職歴を持つ参加者で高かった(年齢・性別での調整OR:1.26、95%CI:0.80~1.98)。・職歴について調整後、低学歴の参加者における認知症のORは3.23~3.56であった。・以前の習慣的な飲酒歴および糖尿病・パーキンソン病・脳卒中・狭心症/心血管疾患の病歴が、認知症リスクを増加させることが認められた。・学歴は、飲酒、喫煙、糖尿病、パーキンソン病、脳卒中、心血管疾患に関連していなかった。・職歴は、糖尿病および脳卒中に関連していた。・低学歴と認知症の関連における糖尿病の役割は、きわめて限られていることが示された。

169.

治療前のLDL-コレステロール値でLDL-コレステロール低下治療の効果が変わる?(解説:平山篤志氏)-852

 2010年のCTTによるメタ解析(26試験、17万人)でMore intensiveな治療がLess intensiveな治療よりMACE(全死亡、心血管死、脳梗塞、心筋梗塞、不安定狭心症、および血行再建施行)を減少させたことが報告された。ただ、これらはすべてスタチンを用いた治療でLDL-コレステロール値をターゲットとしたものではないこと、MACEの減少も治療前のLDL-コレステロール値に依存しなかったことから、2013年のACC/AHAのガイドラインに“Fire and Forget”として動脈硬化性血管疾患(ASCVD)にはLDL-コレステロールの値にかかわらず、ストロングスタチン使用が勧められる結果になった。 しかし、CTT解析後にスタチン以外の薬剤、すなわちコレステロール吸収阻害薬であるエゼチミブを用いたIMPROVE-IT、さらにはPCSK9阻害薬を用いたFOURIER試験など、非スタチンによるLDL-コレステロール低下の結果が報告されるようになり、今回新たな34試験27万人の対象でメタ解析の結果が報告された(CTTの解析に用いられた試験がすべて採用されているわけではない)。 その結果、More intensiveな治療がLess intensiveな治療よりアウトカムを改善したことはこれまでの解析と同じであったが、全死亡、心血管死亡において治療前のLDL-コレステロール値が高いほど有意に死亡率低下効果が認められた。心筋梗塞の発症も同様の結果であったが、脳梗塞については治療前の値の差は認められなかった。治療前のLDL-コレステロール値について、CTTによれば値にかかわらず有効であるとされていたが、本メタ解析の結果はLDL-コレステロール値が100mg/dL以上であれば死亡率も低下するということを示している。 近年、IMPROVE-ITもFOURIER試験も心筋梗塞や脳梗塞の発症は有意に低下させるが、死亡率低下効果がないのは、治療前のLDL-コレステロール値が100mg/dLであることが要因であると推論している。 このメタ解析は、LDL-コレステロール値の心血管イベントへ関与を示唆するとともに、“Lower the Better”を示したものである点で納得のいくものである。しかし、4Sが発表された1994年とFOURIERが発表された2017年の20年以上の間に、急性心筋梗塞の死亡率が再灌流療法により減少したこと、心筋梗塞の定義がBiomarkerの導入で死亡には至らない小梗塞まで含まれるようになったことも、LDL-コレステロール減少効果で死亡率に差が出なくなった原因かもしれない。 今後のメタ解析は、アウトカムが同一であるというだけなく、時代による治療の変遷も考慮した解析が必要である。

170.

ACS症例におけるDAPTの期間は6ヵ月と12ヵ月のいずれが妥当か?(解説:上田恭敬氏)-848

 急性冠症候群症例(不安定狭心症、ST非上昇型急性心筋梗塞、ST上昇型急性心筋梗塞)を対象として、抗血小板薬2剤併用療法(DAPT)の期間を6ヵ月とする群と12ヵ月以上とする群に無作為に割り付ける、韓国における多施設無作為化比較試験であるSMART-DATE試験の結果が報告された。 本試験では、韓国の31施設において2,712症例の急性冠症候群症例が、6ヵ月間のDAPT群(1,357症例)または12ヵ月以上のDAPT群(1,355症例)に無作為に割り付けられた。主要エンドポイントは18ヵ月時点での全死亡、心筋梗塞、脳卒中の複合エンドポイントで、副次エンドポイントは主要エンドポイントの各構成要素、ステント血栓症(definite or probable)、出血性イベント(BARC type 2~5)である。 主要エンドポイントは、6ヵ月DAPT群で4.7%、12ヵ月以上DAPT群で4.2%と差を認めなかった。副次エンドポイントは、全死亡と脳卒中、ステント血栓症については群間に差を認めなかったが、心筋梗塞の発症は6ヵ月DAPT群で有意に高頻度に認められた(1.8% vs.0.8%、p=0.02)。出血性イベントは、6ヵ月DAPT群で2.7%、12ヵ月以上DAPT群で3.9%と有意な差は認めなかった(p=0.09)。 以上より、18ヵ月時点での主要エンドポイントに関しては、12ヵ月以上DAPTに対する6ヵ月DAPTの非劣性が示されたものの、主要エンドポイントの構成要素の1つである心筋梗塞の発症が6ヵ月DAPTで有意に高頻度であったために、6ヵ月DAPTが12ヵ月以上DAPTと同等に安全とは結論できなかったとしている。 通常、主要エンドポイントの結果が重要視され、副次エンドポイントの結果を強く主張することは控えるべきとされるが、本論文の記載は妥当なものと思われる。また、比較的低リスクの症例が登録されたかもしれないというselection biasの可能性などいくつかのlimitationが指摘されているが、それらはむしろ群間差をなくす方向に作用すると思われ、その中でも心筋梗塞の発症が6ヵ月DAPTで有意に高頻度であったことはやはり注目すべきである。著者も指摘しているように、現時点では、12ヵ月以上DAPTが急性冠症候群症例における標準的治療であることは揺らがず、安易にDAPT期間を短縮すべきではないと考える。

171.

2型DMの死亡率、SGLT2 vs.GLP-1 vs.DPP-4/JAMA

 2型糖尿病患者において、SGLT2阻害薬またはGLP-1受容体作動薬の使用は、DPP-4阻害薬使用、プラセボ、未治療と比べて、死亡率が有意に低いことが示された。また、DPP-4阻害薬の使用は、プラセボ、未治療よりも、死亡率は低下しないことも示された。英国・Imperial College Healthcare NHS Foundation TrustのSean L. Zheng氏らによるネットワークメタ解析の結果で、JAMA誌2018年4月17日号で発表された。2型糖尿病治療について、SGLT2阻害薬、GLP-1受容体作動薬、DPP-4阻害薬を比較した臨床的な有効性は明らかになっていなかった。ネットワークメタ解析で、全死因死亡を評価 研究グループは、発刊から2017年10月11日までのMEDLINE、Embase、Cochrane Library Central Register of Controlled Trials、および公表されているメタ解析を検索し、2型糖尿病患者が登録され、追跡期間が12週間以上、SGLT2阻害薬、GLP-1受容体作動薬、DPP-4阻害薬を相互に比較またはプラセボ、未治療と比較した無作為化試験を選定した。 1人の研究者がデータのスクリーニングを行い、2人の研究者が重複抽出して、ベイジアン階層ネットワークメタ解析を行った。 主要アウトカムは全死因死亡で、副次アウトカムは心血管(CV)死、心不全(HF)死、心筋梗塞(MI)、不安定狭心症、脳卒中であった。安全性のエンドポイントは、有害事象および低血糖症の発現であった。対照群と比較して、SGLT2阻害薬群、GLP-1受容体作動薬群は有意に低下 236試験、無作為化を受けた被験者17万6,310例のデータが解析に組み込まれた。 対照(プラセボまたは未治療)群と比較して、SGLT2阻害薬群(絶対リスク差[ARD]:-1.0%、ハザード比[HR]:0.80[95%確信区間[CrI]:0.71~0.89])、GLP-1受容体作動薬群(ARD:-0.6%、HR:0.88[95%CrI:0.81~0.94])は、全死因死亡率が有意に低かった。DPP-4阻害薬群との比較においても、SGLT2阻害薬群(-0.9%、0.78[0.68~0.90])、GLP-1受容体作動薬群(-0.5%、0.86[0.77~0.96])は死亡率が低かった。 DPP-4阻害薬群は、対照群との比較で全死因死亡率の有意な低下が認められなかった(0.1%、1.02[0.94~1.11])。 SGLT2阻害薬群(−0.8%、0.79[0.69~0.91])、GLP-1受容体作動薬群(−0.5%、0.85[0.77~0.94])は、対照群との比較において、CV死についても有意に減少した。 SGLT2阻害薬群は、HFイベント(−1.1%、0.62[0.54~0.72])、MI(−0.6%、0.86[0.77~0.97])についても、対照群と比べて有意に少なかった。 GLP-1受容体作動薬群は、SGLT2阻害薬群(5.8%、1.80[1.44~2.25])、DPP-4阻害薬群(3.1%、1.93[1.59~2.35])と比べて、試験中止となった有害事象の発現リスクが高かった。

172.

民谷式 内科系試験対策ウルトラCUE Vol.2

第5回 膠原病/アレルギー 第6回 神経 第7回 循環器1 第8回 循環器2  内科系試験に対応した全3巻の基本講座の第2巻です。試験内容が異なる認定内科医と総合内科専門医試験ですが、学生の頃に学んだことを復習するというスタートラインは同じ。全13領域で出題頻度の高いテーマを、わかりやすいシェーマと明快な講義で総復習しましょう。題名の「CUE」は放送業界用語の「キュー」、『臨床的有用性』(Clinical Utility)、そしてパーキンソン病医療における「CUE」から来ています。つまり、「動こうとしてもはじめの一歩が踏み出せない状態」に対して、このレクチャーが試験勉強を始める一歩を踏み出すきっかけになってほしいという思いです。講師の民谷先生の実臨床経験を組み込んだクリアな解説は、とても役に立ちます。専門外や苦手科目からチェックして、次のステップへ進んでください。第5回 膠原病/アレルギー 膠原病の領域は、類縁疾患を含めると疾患が非常に多く、症状が多彩なのが特徴です。民谷式では疾患を大きく3つに分類し、それぞれの特徴をオリジナルのシェーマと症例問題をもとに解説していきます。第6回 神経 神経の疾患は非常に多岐にわたりますが、どこが障害してどんな症状が出るかを理解するためには、まずは正常な状態を理解するのが得策。わかりやすく簡略化してある民谷式のオリジナルシェーマで重要疾患の病態生理を再整理してください。第7回 循環器1 出題範囲が広い循環器領域で、まず押さえるべき疾患は虚血性心疾患と心不全。狭心症と心筋梗塞の病態の違いや心電図の見方、エコーの基本となる解剖生理など、基礎をしっかりと復習します。第8回 循環器2 出題範囲が広い循環器領域。循環器の後半は弁膜症と心筋症、そして不整脈について復習します。心臓で起こったことが、心電図ではどう見えるのか?民谷式のシェーマを用いてわかりやすく解説しているので、知識の整理に役立ちます。

173.

心血管疾患併存の痛風、フェブキソスタット vs.アロプリノール/NEJM

 心血管疾患を有する痛風患者に対し、非プリン型キサンチンオキシダーゼ阻害薬フェブキソスタット(商品名:フェブリク)は、プリン塩基類似体キサンチンオキシダーゼ阻害薬アロプリノールに比べ、心血管系有害事象の発生に関して非劣性であることが示された。一方で、全死因死亡や心血管死亡の発生率は、いずれもフェブキソスタット群のほうが高かった。米国・コネティカット大学のWilliam B. White氏らが、6,190例を対象に行った多施設共同無作為化二重盲検非劣性試験の結果で、NEJM誌2018年3月29日号で発表した。フェブキソスタット群とアロプリノール群に無作為に割り付け 研究グループは、心血管疾患を有する痛風患者6,190例を無作為に2群に分け、一方にはフェブキソスタットを、もう一方にはアロプリノールを投与した。被験者について、腎機能による層別化も行った。 主要評価項目は、心血管死・非致死的心筋梗塞・非致死的脳卒中・緊急血行再建術を要した不安定狭心症の複合エンドポイント。事前に規定した非劣性マージンは、同複合エンドポイントのハザード比1.3とした。フェブキソスタットとアロプリノールともに主要評価項目の発生は約10~11% 追跡期間は最長85ヵ月、中央値は32ヵ月だった。被験者のうち、試験レジメンを中止したのは56.6%、追跡中断となったのは45.0%だった。 修正intention-to-treat(ITT)解析の結果、主要評価項目の発生は、フェブキソスタット群の335例(10.8%)、アロプリノール群の321例(10.4%)で認められた。同発生に関するフェブキソスタット群のアロプリノール群に対するハザード比は1.03(片側98.5%信頼区間[CI]上限値:1.23、非劣性p=0.002)であり、非劣性が認められた。 全死因死亡、心血管死亡の発生率は、いずれもフェブキソスタット群がアロプリノール群より高率で、ハザード比はそれぞれ1.22(95%CI:1.01~1.47)、1.34(同:1.03~1.73)だった。 なお、実際に被験者が治療を受けている期間のイベント発生の解析と、修正ITT解析では、主要評価項目や全死因死亡、心血管死亡に関する結果は同等だった。

174.

PCI後のDAPT、6ヵ月 vs.12ヵ月以上/Lancet

 急性冠症候群に対する薬剤溶出ステント(DES)での経皮的冠動脈インターベンション(PCI)実施後、抗血小板薬2剤併用療法(DAPT)において、6ヵ月投与群が12ヵ月以上投与群に対して、18ヵ月時点で評価した全死因死亡・心筋梗塞・脳卒中の複合エンドポイントの発生について非劣性であることが示された。一方で、心筋梗塞発症リスクは、6ヵ月投与群が約2.4倍高かった。韓国・成均館大学校のJoo-Yong Hahn氏らが、2,712例を対象に行った無作為化非劣性試験の結果で、Lancet誌オンライン版2018年3月9日号で発表した。結果を踏まえて著者は、「DAPT投与は短期間が安全であるとの結論に達するには、厳しい結果が示された。過度の出血リスクがない急性冠症候群患者のPCI後のDAPT期間は、現行ガイドラインにのっとった12ヵ月以上が望ましいだろう」と述べている。18ヵ月時点の心血管イベントリスクを比較 研究グループは2012年9月5日~2015年12月31日に、韓国国内31ヵ所の医療機関を通じて、不安定狭心症、非ST上昇型心筋梗塞、ST上昇型心筋梗塞のいずれかが認められ、DESによるPCIを受けた患者2,712例について、非盲検無作為化非劣性試験を行った。急性冠症候群でPCI実施後のDAPT期間6ヵ月の群が、同じく12ヵ月以上の群に比べて非劣性かを評価した。 主要評価項目は、PCI実施後18ヵ月時点の全死因死亡、心筋梗塞、脳卒中のいずれかの複合エンドポイントとし、ITT解析で評価した。per protocol解析も行った。 副次評価項目は、PCI実施後18ヵ月時点の、主要評価項目に含まれた各イベントの発生、Academic Research Consortium(ARC)の定義に基づくdefinite/probableステント血栓症、BARC出血基準に基づくタイプ2~5の出血の発生だった。6ヵ月群の心筋梗塞リスクが2.41倍 被検者のうち、DAPTの6ヵ月投与群は1,357例、12ヵ月以上投与群は1,355例だった。P2Y12阻害薬としてクロピドグレルを用いたのは、6ヵ月群の1,082例(79.7%)、12ヵ月以上群の1,109例(81.8%)だった。 主要評価項目の発生は、6ヵ月群63例(累積イベント発生率:4.7%)、12ヵ月以上群56例(同:4.2%)で認められ、6ヵ月群の非劣性が示された(群間絶対リスク差:0.5%、片側上限値95%信頼区間[CI]:1.8%、事前規定の非劣性マージンは2.0%で非劣性のp=0.03)。 全死因死亡率は6ヵ月群が2.6%、12ヵ月以上群が2.9%と両群で同等だった(ハザード比[HR]:0.90、95%CI:0.57~1.42、p=0.90)。脳卒中発症率についても、それぞれ0.8%と0.9%であり、両群で同等だった(同:0.92、0.41~2.08、p=0.84)。 一方で心筋梗塞発症率については、6ヵ月群が1.8%に対し12ヵ月以上群が0.8%だった(HR:2.41、95%CI:1.15~5.05、p=0.02)。 ステント血栓症については、それぞれ1.1%と0.7%で、両群に有意差はなかった(p=0.32)。BARC出血基準2~5の出血発生頻度も、それぞれ2.7%、3.9%と有意差はなかった(p=0.09)。 per protocol解析の結果は、ITT解析の結果と類似していた。 著者は、「6ヵ月投与群の心筋梗塞リスクの増大と幅広い非劣性マージンによって、DAPTの短期間投与が安全であると結論付けることはできない」と述べている。

175.

降圧治療、自己モニタリングに効果はあるか?/Lancet

 血圧コントロールが不十分な高血圧患者における降圧薬の用量調整法として、血圧の自己モニタリングは、遠隔モニタリング併用の有無にかかわらず、診察室での用量調整に比べ、1年後の収縮期血圧を有意に低下させることが、英国・オックスフォード大学のRichard J. McManus氏らが行ったTASMINH4試験で示された。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2018年2月27日号に掲載された。自己モニタリングによる降圧薬の用量調整に関しては、相反する試験結果が報告されており、遠隔モニタリングの正確な位置付けは、明らかにされていないという。1年後の収縮期血圧を3群で比較 TASMINH4は、降圧薬の用量調整における、血圧の自己モニタリングおよび自己モニタリング+遠隔モニタリングの効果を、通常治療と比較する非盲検無作為化対照比較試験(英国国立衛生研究所[NIHR]などの助成による)。 年齢35歳以上、3剤以内の降圧薬治療を行っても診察室血圧が140/90mmHg以上の高血圧患者が、血圧の自己モニタリング、自己モニタリング+遠隔モニタリング(遠隔モニタリング群)、通常治療(診察室での医師による用量調整)の3つの群に1対1対1の割合で無作為に割り付けられた。参加者と担当医には、割り付け情報が知らされた。 主要アウトカムは、12ヵ月後の受診時の収縮期血圧であった。 英国の142の一般医(GP)施設に1,182例が登録され、1,173例が割り付けの対象となった。ベースラインの平均年齢は66.9歳(SD 9.4)、半数強が男性で、平均収縮期血圧は153.1/85.5(SD 14.0/10.3)mmHg、高血圧診断からの平均経過期間は10.2年(SD 8.4)であった。プライマリケアへの導入が推奨される可能性 解析には、1,003例(85%、自己モニタリング群328例、遠隔モニタリング群327例、通常治療群348例)が含まれた。 12ヵ月時の平均収縮期血圧は、自己モニタリング群が137.0(SD 16.7)mmHg、遠隔モニタリング群は136.0(16.1)mmHgと、通常治療群の140.4(16.5)mmHgに比べいずれも有意に改善し、通常治療との補正平均差(AMD)は、自己モニタリング群が-3.5mmHg(95%信頼区間[CI]:-5.8~-1.2、p=0.0029)、遠隔モニタリング群は-4.7mmHg(-7.0~-2.4、p<0.0001)であった。 自己モニタリング群と遠隔モニタリング群との間には、有意な差を認めなかった(AMD:-1.2mmHg、95%CI:-3.5~1.2、p=0.3219)。多重代入を含む感度分析でも、同様の結果が得られた。 6ヵ月時の平均収縮期血圧は、自己モニタリング群が140.4(SD 15.7)mmHgと、通常治療群の142.5(15.4)mmHgとの間に差はなかった(AMD:-2.1、95%CI:-4.3~0.1、p=0.0584)が、遠隔モニタリング群は139.0(16.8)mmHgであり、通常治療群に比べ有意な改善が認められた(-3.7、-5.9~-1.5、p=0.0012)。 有害事象の発生状況は3群で類似しており、不安感にも差を認めなかった。心血管イベント(初発心房細動、狭心症、心筋梗塞、冠動脈バイパス術/血管形成術、脳卒中、末梢血管疾患、心不全)は、自己モニタリング群が12例、遠隔モニタリング群が11例、通常治療群は9例にみられた。 著者は、「自己モニタリングは、それを望むすべての高血圧患者の血圧管理法として、プライマリケアにおいて推奨可能であり、理想的には、遠隔モニタリングシステムを組み込んだ有用性の高い家庭血圧計の供給が求められる」としている。

176.

FFRジャーナルClub 第8回

FFRジャーナルClubでは、FFRをより深く理解するために、最新の論文を読み、その解釈を議論していきます。第8回目の今回は、3枝においてFFRを計測することにより、その患者の総合的なリスクを評価する試みにつき検討した3V FFR-FRIENDS studyの報告を読みたいと思います。本研究は、韓国のKoo先生の声かけにより、日本、中国のPhysiology仲間で集まり多施設研究をしよう、と始まったものであり、この研究をきっかけとして、この領域における韓国と日本の密な連携が始まったkeyとなる研究です。第8回 3V FFR-FRIENDS StudyFFRをガイドにしたPCIは、AngioガイドのPCIやOMT単独よりも予後が良好であることがFAME I、FAME II試験により示され、中等度狭窄をFFR値に基づきdeferする治療選択は安全であると考えられている。しかし、個々の症例においては、FFR陰性にも関わらずdeferした後にイベントを発生する症例も報告されている。このイベント発生に関与する因子は何か? 予測は可能か? 1つの病変のみでなく、患者レベルのリスクを評価することができないか? これらの疑問に対する回答を見つけるべく企画されたのが3V FFR-FRIENDS Study(three-vessel fractional flow reserve for the assessment of total physiologic atherosclerotic burden and its clinical impact in patients with coronary artery disease)である。3V FFR-FRIEMDS studyは、total physiologic atherosclerotic burdenとして、3枝のFFRの値を合計した3V-FFRを求め、その臨床的意義を検討することが目的である。Lee JM, et al. Clinical implications of three-vessel fractional flow reserve measurement in patients with coronary artery disease. European Heart Journal 2017 Aug 19.[Epub ahead of print]3V FFR-FRIENDS studyは、前向き、国際多施設共同研究で、3V-FFR値別の2年間の臨床予後MACE(心臓死、心筋梗塞、虚血による冠血行再建)を検討することが主要評価項目である。日本、韓国、中国の3ヵ国12施設が参加し、2011年11月~2014年3月まで1,136例(3,298枝)が登録された。対象は30%以上の狭窄が3枝に存在し、3枝のFFR計測に成功した症例。RCAあるいはLCXが末梢左室枝を有さない小血管であった場合(100症例が該当した)は、他の2枝で計測したFFRを平均し、その値を3倍することにより3V-FFR値とした。PCI施行の判断は術者に任されたが、FFR 0.80以下をPCI推奨とし、ステント治療を行った症例(572枝、17.3%)では、ステント後のFFRを計測、その値を3V-FFRに使用した。FFR 0.80であったがPCIはdeferされた症例が314枝(11.5%)あり、その理由は、造影上有意狭窄でないから(185枝、58.9%)、びまん性病変(48枝、15.3%)、以前の所見と比べ変化ないから(31枝、9.9%)、非侵襲的検査で陰性(17枝、5.4%)、灌流域が狭いから(15枝、4.8%)、そのほか(17枝、5.4%)であった。全症例1,136例の%DS中央値は36%、FFR中央値は0.91、3枝のFFR合計値(3V-FFR)の中央値は2.72であった。この3V-FFR中央値2.72を基準とし、High 3V-FFR群(555症例)とLow 3V-FFR群(581症例)に分割した。Low 3V-FFR群では、HT、DMの合併、PCIの既往が多く、また造影上も%DSが高く、病変長は長く、各枝FFR値は低値であった(0.86±0.08 vs.0.93±0.06)。下図に3V-FFRと2年MACE予測値の関係を示す。画像を拡大する1枝以上にPCIを行った症例は赤丸、すべての病変に内科治療が選択された症例が青丸で示されている。治療の有無に関わらず3V-FFRとMACEの間にはほぼ同等の相関が存在した。3V-FFR 0.1増加に伴うHazzard Ratioは0.736であった。3V-FFR値にて2群に分割した際のイベント発生曲線を下記に示す。画像を拡大するLow 3V-FFR群では、High 3V-FFR群に比し、有意に2年MACE rateが高かった(7.1% vs.3.8%、HR:2.205、95%CI:1.201~4.048、p=0.011)。この差は、主には虚血由来の冠血行再建であった(6.2% vs.2.7%、HR:2.568、95%CI:1.283~5.140、p=0.008)。*虚血由来の血行再建は、25例(62.5%)がACS、9例が病変の進行を伴う狭心症症状の増悪、残りは非侵襲的検査陽性であった。2年MACEを予測する3V-FFR値のBCV(best cutoff value)は2.59であり、このBCVにて2群に分けた場合のイベント曲線が『supplementary files』に掲載されている。2群間の差はより顕著であり、3枝のFFRが全て0.80以上であった789例の検討においても、同様の結果が得られた(下図右)。画像を拡大する考察・私見本研究は、total physiologic atherosclerotic burdenの指標として3V-FFRを提唱したものであり、この3V-FFRが患者レベルのイベント予測マーカーとして有用であるか検討された。あくまでも解剖学的なplaque burden自体を計測しているわけではないので、‘plaque burden’ではなく‘physiologic atherosclerotic burden’なのである。これはFunctional SYNTAX scoreの概念につながるものであるが、SYNTAX scoreが有意病変ごとのリスク評価値を加算していくのに対し、3V-FFRは狭窄として有意でないものも含め全ての存在する病変の結果得られたFFR値を加算するものである。すなわちその時点では有意でない病変であっても、冠動脈全体への広がりがリスクを表している可能性を示すものである。今回の研究の対象となっているのは、比較的軽度の病変を有する症例である。FFRの中央値が0.91という点を見ても、かなり多くの軽度病変が含まれていることがわかる。そのような対象群であっても、3V-FFRと2年MACEに有意な負の相関が存在し、Low 3V-FFR群ではHigh 3V-FFRと比し2倍のMACEリスクを有し、さらに3V-FFR値はMACEの独立した予測因子であった。FFRを計測することにより、それに基づきPCIが行われるため、さまざまな状況の3V-FFR値が存在しうる。3枝とも非有意病変であり、そのFFR値を合算した場合、また有意病変に対しPCIを行い、改善したpost stent FFR値を含め計算された場合、この両者は同じ値となりうる。この両者のリスクに差はないのか? 本研究では、内科治療が選択された場合もPCIが行われた場合も、3V-FFR値によるその後の2年MACEリスク予測値は同等であった(前掲図)。ステント後にFFRの改善不良例が15%程度存在することが報告されている。そのような症例は3V-FFR値が低値となり、元より有意病変の存在する症例と同様、その後のリスクを有していることがわかる。ステント後のFFR改善不良は、その後の再血行再建のみでなく、患者レベルのイベントリスクと考えられる。LADに多く、CKDの関与などが報告されているが、その予後に関しては現在われわれも多施設前向き研究として検討を進めているところである(Fuji study)。本文考察中には、各枝のFFR値(per-vessel FFR)は0.90±0.08と高値であったがMACEリスクと関連を示した、とある。この結果はJohnson NPらの報告したメタアナリシス(Johnson NP, et al. JACC.2014;64:1641-1654.)のメッセージとつながるもので、FFR値は連続的な値であり、その値がその後の予後を表しうると考えられる。ただし、注意をしなければならないのは、この結果からFFR 0.81~0.90のような症例に対してもPCIを適応する、ということには決してならない、という点である。今回の検討自体でも、per-vessel FFRとイベント発生について解析されたものが『supplementary files』に掲載されている。画像を拡大する本図からわかることは、内科治療を選択したFFR>0.80の症例におけるイベント発生リスクはほぼ一定であり、少なくとも、そのFFR値を有する病変に対してPCIを行なった場合よりもリスクは低い、という点である。これは、DEFER study、FAME studyにおけるメッセージと同様であり、決して今回の結果から、3V-FFR値が低値であるからといって、per vessel FFRが0.80以上の病変にPCIを行う理由にはならない。本研究の最も大きな意義は、FFRは血行再建の適応決定のみに使用する指標ではなく、その値自体に連続的なリスクを表す意義があり、患者のリスクを表す指標としても有用であることを示した点にある。

177.

ORBITA試験:冷静な判断を求む(解説:野間重孝氏、下地顕一郎氏)-800

 COURAGE試験において安定狭心症に対するPCIは、薬物療法に比してMIや死亡を減らすことができないことが示され、現在では症状の改善を主目的として施行されている。そこで狭心症状という主観的なアウトカムが、PCIのプラセボ効果による修飾を受けているのではないかとの設問を立て、PCIのプラセボ手術(sham operationといった方が一般的か)を用いてこれを検証したところ、PCIは症状の改善すら薬物療法に対しての優位性を示せなかったというのが本論文の結論であった。倫理的な問題は後述するとして、手法としては完全であった点では評価されなければならないと思われる。 しかし、一方で懸念されるのは、この結果が拡大解釈されることである。Lancet同号のeditorialでは「安定狭心症に対するPCIの息の根をとめるか?」という激しいタイトルで、「薬物療法に対して不応な症例ですらPCIは無益」で「すべてのguidelineでPCIを格下げすべきである」と感情的とさえいえる論評が加えられているが、本試験の筆頭著者であるAl-Lameeさえもこれには異論を唱えている。注意しなければならないのは以下の2点であると考える。 まず挙げられなければならない点は、RCTの常としてリアルワールドを反映していないということである。本論文ではmedical therapyとして週1~3の電話相談、しかも家庭血圧と家庭心拍を密にモニターしているが、実臨床では実現不可能であろう。この点は筆者も十分理解しており、「労作性狭心症に対するPCIを絶対にするなという意味ではない。すべての患者が何剤もの抗狭心症薬を永遠に内服することをよしとするわけではない」、「リスクの低いPCI手技をして薬剤を減らすことを望む」患者にはPCIが治療選択となることを述べている点は看過されてはならないと思う。 もう1点は、重症虚血の症例にまでこの結果を適用してはならないということである。COURAGE試験のサブ解析でも、SPECT上のischemic burdenを5%以上減じればMIや死亡を減らすことができることと、PCI群でischemic burdenの有意な減少が得られたことを報告している。先行研究において、血行再建によってもたらされる利益が薬物療法を上回る閾値は10%以上の重症虚血であったこと、さらにLMT含む重症虚血が除外されているCOURAGE試験での治療前値が8%台であったことを考慮すると、COURAGE試験の結果を重症虚血に安易に拡大解釈することは危険なのは明らかであろう。同様に重症虚血を除外している本試験の結果は、もちろん重症虚血例に対して拡大解釈することはできない。現に本試験では、約1/3の症例でFFR/iFRで虚血が証明されていない。ちなみに本試験でも、FFR/iFRやドブタミン負荷心エコーではPCI群で虚血の改善をみている。すなわち現時点で“軽症の虚血においては”、血行再建は生命予後にも症状の緩和にも明らかな優位性を見いだせないということ以上の解釈はできず、すべての安定狭心症に対して血行再建を行うことが無益だという解釈は誤りである。 さらに、論文評として議論しておかなければならないのが、プラセボ手術の問題であろう。このような研究法(観血的な偽治療)が初めて試されたのは、腎動脈焼灼術による血圧変化を検討したrandomized studyにおいてだった。この時は、シースは挿入するがそれ以降の積極的な操作は何も行わないというものだったのだが、賛否両論が沸き起こったのを記憶している。今回はpressure wireを挿入するなど本格的手技に準ずる手技が行われており、しかも4例で合併症が、3例で大出血がみられたのである。安全性に問題のあるプラセボ治療は、プラセボ治療とはいえない。関係者の再考を促したいとともに、このような対照の取り方が、どのような目的であれ、無制限に拡大していくことを憂慮するものである。 ただし、本試験から虚心に学ぶべきことも多い。当然だが術前の虚血評価と薬物の最適化は重要であること、ましてangiographicにも中等度狭窄に対してのPCIは厳に非難されるべきものであること(実際、業績が欲しくて不必要なPCIが行われているケースが多々みられることは、残念ながら事実)、PCIのリスクがあまりに高い軽症の虚血の患者には厳重な薬物療法の選択肢も十分ありうることなどである。一方で、重症虚血の患者に対してひとたびPCIによる血行再建の選択をした際には、虚血を残すことなく解除することが絶対の前提であることは確認しておきたい。そのためにはCTOを含めた複雑病変に対する治療技術、angioguideのみでは見落としがちな病変をimaging device、FFR/iFRを駆使して完全血行再建を行うstrategyの構築が重要で、これが不可能なのであればCABGを選択して完全血行再建を目指すべきである。

178.

カナキヌマブ投与によるCRP低下と心血管イベントの関連:CANTOS無作為化比較試験の2次解析(解説:今井 靖 氏)-796

 カナキヌマブは、インターロイキン-1β(IL1β)に対するモノクローナル抗体であるが、CANTOS試験(Canakinumab Anti-Inflammatory Thrombosis Outcomes Study)はこのカナキヌマブ(3用量[50mg、150mg、300mg])およびプラセボを割り付け3ヵ月に1回皮下注射を行う無作為化比較対照試験で、心筋梗塞の既往がある炎症性アテローム性動脈硬化症患者に、標準治療(脂質低下治療を含む)に加えて追加投与がなされた。その結果として、主要心血管イベント(MACE[Major Adverse Cardiovascular Event]:心血管死、非致死性心筋梗塞および非致死性脳卒中からなる複合エンドポイント)の発現リスクがプラセボ群に比べ有意に15%低下することが示され(150mg、300mg投与群で有効性が証明された)、昨年秋に大いに話題となった。またそのような心血管イベント抑制のみならず、事前に規定された盲検化での悪性腫瘍に関する安全性評価において、カナキヌマブ投与患者ではプラセボ群に比較し肺がんによる死亡率を77%、発症率を67%低下させたと報告されており、炎症低下抑制薬が動脈硬化性疾患、がん治療に導入される可能性・将来性を示した画期的な研究といえる。 今回はこのCANTOS試験の2次解析であるが、どのような患者群が治療に最も奏効するのか、また炎症マーカーである高感度CRPの低下が各々の患者の臨床効果と相関するのかを明らかにするために、事前に規定されていた研究を報告するものである。著者らは、カナキヌマブの主要心血管イベント、心血管死亡、全死亡率に対する効果について治療時における高感度CRPに基づいて評価した。また、到達した高感度CRP値に関連する背景因子を補正するために多変量解析モデルを用い、残存する交絡因子の大きさを確認するために多変量感受性解析を行った。追跡期間のメディアンは3.7年であった。患者の基礎背景に大きな相違は認められなかった。しかしながらカナキヌマブに割り付けられ、高感度CRPが2mg/L未満に到達した患者では主要心血管イベントが25%低下した(多変量解析における補正ハザード比=0.75、95%信頼区間:0.66~0.85、p<0.0001)。しかし、高感度CRPが2mg/L以上であった症例では明らかな有効性は示されなかった。同様に高感度CRPが2mg/L未満に到達した患者においては心血管死亡 (補正ハザード比=0.69、95%信頼区間:0.56~0.85、p=0.0004) 、全死亡 (補正ハザード比=0.69、0.58~0.81、p<0.0001)と低下し、両者とも31%のリスク比低下が得られているが、高感度CRPが2mg/L以上であるものでは効果が認められなかった。同様に、用量、交互作用等も考慮に入れた解析において、予定外の冠動脈血行再建を要する不安定狭心症による入院のような事前に規定されていた副次エンドポイント、高感度CRPのメディアン、高感度CRPの50%以上の低下(半減)、高感度CRPのメディアン%の低下においても臨床的有意差が確認された。 この研究から、カナキヌマブの単回投与による高感度CRPの低下度は、繰り返す治療から最大の効果が最も得られる患者を検出する、最もシンプルな方法といえる。また、カナキヌマブにより“炎症が低く抑えられれば抑えられるほどより良い”ということも示された点で意義深い。

179.

高感度トロポニンIが陰性だったら、胸痛患者を安心して帰宅させることができるのか?(解説:佐田 政隆 氏)-779

 1人で当直をしていて、胸痛を主訴に来院した患者に対して、帰宅させて大丈夫かどうかと悩んだことがある医師も多いと思う。何も異常ありませんので、明日、昼間に再来院して精密検査をしましょうと言って帰したところ、急性冠症候群で、家で心肺停止になることなどは絶対に避けなければならない。通常、心電図、胸部レントゲン、心エコーなどが施行されると思うが、非常に些細な変化で、非循環器専門医では、判断に迷うことがたびたびあるのではないだろうか。また、心電図、通常の心エコーではまったく異常を来さない、左回旋枝の急性心筋梗塞や不安定狭心症があるのも事実である。 そういった状況で、血液検査は有用である。白血球、CPK、CPK-MB、AST、LDH、CRPなどが上昇していれば急性冠症候群が強く疑われる。また、全血で迅速診断できる、ヒト心臓由来脂肪酸結合蛋白(H-FABP)とトロポニンT検出キットも臨床で頻用されている。しかし、このような検査は発症から数時間経過しないと上昇しないことがあり、感度、特異度とも十分とはいえない。そういった中、近年注目されているのが、高感度トロポニンI検査である。 本論文においては、9ヵ国からの19試験のシステマティックレビューが行われ、22,457症例に関してメタ解析が行われた。心筋トロポニンI値5ng/L未満は、30日時点の心筋梗塞/心臓死の陰性適中率が99.5%と高く、有用であるとの報告である。しかし逆にいうと、心筋トロポニンI値5ng/L未満であった11,012例中0.5%に当たる60例が、30日以内に、心筋梗塞もしくは心臓死を経験している。 以上を踏まえると、胸痛を訴えて受診した患者で、心筋トロポニンI値が5ng/L未満であるから、急性冠症候群を否定できるので帰宅させることは決してできないと考えられる。受診していながらも、急性冠症候群を見落とされ、命を失う患者が1人でもあってはならない。私は、特異度は低くても、感度を100%にするようにと、学生や医局員にはいつも話している。そのためには、丁寧な問診、各種検査を駆使することが重要である。高感度トロポニンI検査が利用できる現在でも、急性冠症候群をあやしいと思ったら、取りあえず入院させて、心電図や血液検査の、数時間おきのフォローアップが重要である。

180.

アスピリン+リバーロキサバンで冠動脈疾患の死亡減少/Lancet

 安定冠動脈疾患患者の治療において、アスピリンに低用量リバーロキサバンを併用すると、主要血管イベントが減少し、大出血の頻度は増加するもののベネフィットは消失せず、死亡が有意に低減することが、カナダ・マックマスター大学のStuart J Connolly氏らが行ったCOMPASS試験で示された。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2017年11月10日号に掲載された。冠動脈疾患は世界的に合併症や死亡の主要な原因で、急性の血栓イベントの結果として発症する。Xa因子阻害薬やアスピリンは血栓イベントを低減させるが、安定冠動脈疾患患者におけるこれらの併用や、個々の薬剤の比較検討は行われていないという。約2万5,000例が参加したプラセボ対照無作為化試験 COMPASS試験は、安定冠動脈疾患および末梢動脈疾患の外来患者において、アスピリンおよびリバーロキサバンのそれぞれ単剤療法と、これらの併用療法の有用性を評価する多施設共同二重盲検プラセボ対照無作為化試験(Bayer AG社の助成による)。本報告では、冠動脈疾患患者の結果が提示された。 対象は、過去20年の間に心筋梗塞の既往歴があり、冠動脈の多枝病変を有し、安定または不安定狭心症の既往歴があり、多枝病変に対する経皮的冠動脈インターベンション(PCI)または冠動脈バイパス移植術を受けた冠動脈疾患患者であった。 被験者は、30日間の導入期の後、低用量リバーロキサバン(2.5mg、1日2回、経口)+アスピリン(100mg、1日1回)、リバーロキサバン(5mg、1日2回、経口)、アスピリン(100mg、1日1回、経口)を投与する群に、1対1対1の割合でダブルダミー下に無作為に割り付けられた。患者、担当医、中央判定の医療スタッフには治療割り付け情報がマスクされた。 有効性の主要アウトカムは、心筋梗塞・脳卒中・心血管死の発現とした。 2013年3月12日~2016年5月10日の期間に、33ヵ国558施設で2万7,395例が登録され、2万4,824例(91%)がランダム化の対象となった。併用群が8,313例、リバーロキサバン単独群が8,250例、アスピリン単独群は8,261例であった。併用により主要アウトカム、死亡率が低減 平均フォローアップ期間は1.95年で、全体の平均年齢は68.3歳、男性が80%(1万9,792例)を占めた。 主要アウトカムの発生率は、併用群が4%(347/8,313例)と、アスピリン単独群の6%(460/8,261例)に比べ有意に低かった(ハザード比[HR]:0.74、95%信頼区間[CI]:0.65~0.86、p<0.0001)。これに対し、リバーロキサバン単独群の主要アウトカムの発生率は5%(411/8,250例)であり、アスピリン単独群の6%(460/8,261例)との間に有意差を認めなかった(HR:0.89、95%CI:0.78~1.02、p=0.094)。 大出血の発生率は併用群が3%(263/8,313例)と、アスピリン単独群の2%(158/8,261例)に比べ有意に高く(HR:1.66、95%CI:1.37~2.03、p<0.0001)、出血の発生率はリバーロキサバン単独群が3%(236/8,250例)であり、アスピリン単独群の2%(158/8,261例)に比し、有意に高かった(HR:1.51:95%CI:1.23~1.84、p<0.0001)。 最も頻度の高い大出血の発生部位は消化器で、併用群が2%(130例)、リバーロキサバン単独群が1%(84例)、アスピリン群は1%(61例)であった。死亡率は、併用群が3%(262/8,313例)であり、アスピリン単独群の4%(339/8,261例)と比較して有意に低かった(HR:0.77、95%CI:0.65~0.90、p=0.0012)。 著者は、「低用量リバーロキサバン+アスピリンの全体的なベネフィットは有意であり、アスピリン単独に比べ死亡が23%減少した。高リスク集団では、合併症や死亡が実質的に減少する可能性がある」と指摘している。

検索結果 合計:416件 表示位置:161 - 180