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安定胸痛への標準治療+CTA、5年アウトカムを改善/NEJM

 安定胸痛の患者に対し、標準治療に加えCT冠動脈造影(CTA)を行うことで、5年間の冠動脈疾患死または非致死的心筋梗塞の発生リスクは約4割低下することが示された。侵襲的冠動脈造影や冠血行再建術の5年実施率は、いずれも増加は認められなかったという。英国・エジンバラ大学のDavid E. Newby氏らによる、Scottish Computed Tomography of the Heart(SCOT-HEART)試験の結果で、NEJM誌2018年9月6日号で発表された。安定胸痛の患者への評価では、CTAにより診断の確実性が増すことが示されていたが、5年後の臨床アウトカムに及ぼす影響は不明であった。5年冠動脈疾患死または非致死的心筋梗塞の発生を評価 SCOT-HEART試験では、安定胸痛を有し、その評価を目的に循環器診療所に紹介された18~75歳の患者4,146例を対象に、非盲検多施設共同並行群間比較試験を行った。 研究グループは被験者を無作為に2群に分け、一方の群には標準治療に加えCTAを(2,073例)、もう一方には標準治療のみを行った(2,073例)。 主要評価項目は、5年時点における冠動脈疾患死または非致死的心筋梗塞の発生だった。予防療法・抗狭心症療法の実施率がCTA併用群で1.3~1.4倍 追跡期間中央値は4.8年、2万254患者年を追跡した。 主要評価項目の5年発生率は、標準治療群3.9%(81例)に対し、CTA群2.3%(48例)と、CTA群が有意に低かった(ハザード比[HR]:0.59、95%信頼区間[CI]:0.41~0.84、p=0.004)。 侵襲的冠動脈造影と冠血行再建術の実施率は、追跡開始当初の数ヵ月間はCTA群で標準治療群より高率だったが、5年時点では両群で同程度に認められた。侵襲的冠動脈造影の実施者は、CTA群491例、標準治療群502例(HR:1.00、95%CI:0.88~1.13)、冠血行再建術はそれぞれ279例、267例だった(同:1.07、0.91~1.27)。 一方で、予防療法や抗狭心症療法を開始した患者の割合は、CTA群が標準治療群より多かった。予防療法のオッズ比は1.40(95%CI:1.19~1.65)、抗狭心症療法は同1.27(1.05~1.54)だった。 心血管系の原因による死亡、心血管以外の原因による死亡、全死因死亡の発生率は、いずれも両群で有意差は認められなかった。

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高血圧患者への降圧と脂質低下療法、その長期的効果は?/Lancet

 高血圧患者における、降圧療法および脂質低下療法が心血管死、全死因死亡に及ぼす長期的な効果は十分には検証されていないという。英国・ロンドン大学クイーンメアリー校のAjay Gupta氏らは、ASCOT試験終了後に10年以上の長期フォローアップを行い(ASCOT Legacy試験)、Ca拮抗薬ベースの治療レジメンによる降圧療法と、スタチンによる脂質低下療法は、高血圧患者の死亡を長期に改善することを示した。Lancet誌オンライン版2018年8月26日号掲載の報告。英国の参加者を16年フォローアップ ASCOT Legacy試験では、ASCOT試験の英国からの参加者において、フォローアップ期間16年の死亡に関する調査が行われた(Pfizerの助成による)。 ASCOT試験は、1998年2月~2000年5月に北欧、英国、アイルランドで患者登録が行われた2×2ファクトリアルデザインの多施設共同無作為化試験。対象は、年齢40~79歳、心血管疾患のリスク因子を3つ以上有し、直近3ヵ月以内の冠動脈性心疾患や狭心症、脳血管イベントの既往歴がない高血圧患者であり、主要評価項目は非致死的心筋梗塞および致死的冠動脈性心疾患であった。 ASCOT試験の降圧療法アーム(BPLA)に登録された患者は、ベースライン時に、アムロジピンまたはアテノロールベースの降圧療法を受ける群に無作為に割り付けられた。さらに、BPLAのうち総コレステロール値が6.5mmol/L以下で脂質低下療法歴のない患者が、脂質低下療法アーム(LLA)として、アトルバスタチンまたはプラセボを投与する群に無作為に割り付けられ、残りの患者は非LLAとされた。 2人の医師が独立に、全死因死亡、心血管死(冠動脈性心疾患死、脳卒中死)、非心血管死の判定を行った。Ca拮抗薬は脳卒中死を、スタチンは心血管死を抑制 ASCOT Legacy試験に含まれたのは、8,580例(ベースラインの平均年齢64.1歳[SD 8])で、3,282例(38.3%)が死亡した。内訳は、アテノロールベース治療群1,640/4,275例(38.4%)、アムロジピンベース治療群1,642/4,305例(38.1%)であった。 また、LLAの4,605例中1,768例が死亡した。内訳は、アトルバスタチン治療群865/2,317例(37.3%)、プラセボ群903/2,288例(39.5%)であった。 全死亡例のうち1,210例(36.9%)が心血管関連の原因によるものであった。BPLAの患者では、全死因死亡はアテノロールベース治療群とアムロジピンベース治療群に有意な差はなかったが(補正後ハザード比[HR]:0.90、95%信頼区間[CI]:0.81~1.01、p=0.0776)、脳卒中による死亡は、アムロジピンベース治療群がアテノロールベース治療群に比べ有意に少なかった(0.71、0.53~0.97、p=0.0305)。 BPLAとLLAに交互作用は認めなかったが、非LLAの3,975例では、アムロジピンベース治療群がアテノロールベース治療群に比べ心血管死が有意に少なかった(補正後HR:0.79、0.67~0.93、p=0.0046)。LLAの4,605例では有意な差はなく、2つの降圧療法の効果の差は、患者がLLAか非LLAかに依存していた(交互作用のp=0.0220)。 LLAでは、アトルバスタチン治療群がプラセボ群よりも心血管死が有意に少なかった(HR:0.85、0.72~0.99、p=0.0395)。 著者は、「全体として、ASCOT Legacy試験は、血圧とコレステロールへの介入が心血管アウトカムに長期的な利益をもたらすとの見解を支持するものである」としている。

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第2回 洞調律を知る【Dr.ヒロのドキドキ心電図マスター】

第2回:「洞調律を知る」洞調律、またはサイナス・リズム…言葉だけは知っていても、心電図で何がどうならそういえるのか? 今ひとつ曖昧な人にDr.ヒロがズバッとレクチャーします。今回は、洞調律“ではない”場合の表現もあわせて学びましょう。症例提示57歳。女性。降圧薬を内服中。犬の散歩中に転倒。左腕を強打して救急受診。骨折と診断され、待機的に手術が予定されることとなった。入院時心電図(図1)に関して整形外科よりコンサルトされた。(図1)来院時心電図画像を拡大する【問題1】心電図所見として正しくないものを2つ選べ。1)洞調律2)異所性心房調律3)ST低下4)左室高電位(差)5)反時計回転解答はこちら 1)、5)解説はこちら 左腕骨折で整形外科に入院となった女性です。手術が前提であったためか、入院時に心電図がとられています。自動診断では、(1)房室接合部調律、(2)左室肥大、(3)ST-T異常となっています。1)×:R-R間隔は整で、きれいにP-QRSが並んでいるようですが、P波の様式が洞調律とは異なります。I、V4~V6でフラット、II,aVFで下向き(陰性)となっており、洞調律の条件を満たしません。2)◯:洞調律ではなく、固定のP波を伴う心房調律がこう呼ばれます。3)○:II、aVF(ともに軽度)、そしてV4~V6誘導でST低下があります。4)◯:“スパイク・チェック”(第1回参照)を思い出して、V5,V6誘導のR波の高さに反応して下さい。「V5またはV6誘導でR波高が26mm超なら左室高電位」という基準は余裕があれば覚えましょう。5)×:胸部誘導の移行帯に注目します。V2~V3誘導の間でR波の高さがS波の深さと逆転しており、これは正常です。“洞調律の定義、知ってる?”というわけで、今回ポイントにしたいのは、ズバリ「洞調律を正しく診断できる」。ただただコレだけ。普段、「洞調律って何ですか?」と医学生や研修医の先生に聞くと、『えー、P波があってQRS波がレギュラーで…』『P波とQRS波が1:1の関係でずっと続いて…』というのが代表的な答え。だとすると、今回の心電図も“洞調律”になってしまいますよね。でも否。洞調律(サイナス・リズム、略してサイナス)は洞結節が心臓の収縮ペースを統率している状態を表し、概念的にはみんな知ってます。残念ながら、体表面の心電図では洞結節の活動(興奮)を直接とらえることはできません。そこで、その“命令”に従い、はじめに興奮する心房の興奮様式から判断するんです。具体的にはP波の向きで決めています。詳しく解説するため、別症例の心電図を示します(図2)。(図2)正常洞調律[34歳・女性]画像を拡大する(図2)は34歳、女性のものです。R-R間隔は整で、QRS波の直前にはコンスタントにP波があります。肢誘導も胸部誘導も左から4拍目のP波の向き(極性)に着目すると、I、II、aVF、V4、V5、V6誘導で上向き、aVR誘導で下向きであり、洞調律と判断できるんです。(図中赤矢印:↗)ここで皆さん、いいですか?「イチニエフ・ブイシゴロ。そしてアールに注目!」なんだか呪文みたいでしょ。これは、I、II、aVF、V4~V6とaVRを見なさいってこと。僕はこれを“イチニエフの法則”と呼んでいます。「イチニエフ・ブイシゴロで上向き(陽性)、アールで下向き(陰性)」が洞調律の定義なんです。そして、一括りに「洞調律」といってもイチニエフ・ブイシゴロ以外の誘導の場合、P波の向きには個人差があり、洞調律の判定には使わないので、P波は原則見ないでOK。イチニエフの法則さえおさえれば、洞結節はほぼ規則的に興奮しますし、途中で電気の伝達に妨げがなければ、R-R間隔も整、かつ、P:QRSも1:1になります。これで多くの人が洞調律の定義と考える内容がほぼ自動的に満たされますが、これはあくまでも結果なので、本質は「P波の向き」にあることをきちんと理解して下さい。もちろん、同じ形のP波がコンスタントにあるかどうかも見ますが、それはR-R間隔が整であれば基本見なくてもOKです。ちなみに、全部で7個の誘導でチェックするなんて面倒と思う方はいますか?実は、簡易的に「II誘導とaVR誘導だけ」に着目した“ニアル(II・aVR)法”(ボクが勝手にそう呼んでるだけ)もあります。実際に「II:陽性、aVR:陰性だけでOKだよ」とする本もあります。肢誘導の円座標を思い浮かべて、心房内の興奮はaVR誘導から離れ、II誘導の方向に向かうからですね。しかし、ボク的には他のチェックとの兼ね合いもあり、やはり“イチニエフ法”がイチ押しです。“異所性心房調律って言えたらステキ”ということで、今回の心電図(図1)は洞調律ではなく、異所性心房調律が正解でした。循環器専門医だと、「異所性」に関して、さらに“心房のどこが起源か”なんてのが多少気になりますが(自動診断の「房室接合部」、もっと言うと「冠静脈洞」を疑います)、深入りは禁物。非専門医であれば異所性心房調律と言えるだけで“おつり”が来ます(笑)【問題2】整形外科の先生に「STが下がっているけど、この人は狭心症なんですか?オペいけます?」と尋ねられた。どう答えるか。解答はこちら ST低下は左室肥大に伴う二次性変化、耐術性は問題なし解説はこちら “ST変化は心筋虚血の「専売特許」にあらず”これはオマケの問題です。ちまたには、「ST低下=虚血性心疾患」と思っている人がたくさんいます。安静時心電図のST低下は狭心症のST低下ではないことが大半です。不安定狭心症などのひどい病態は別ですが。この人は普段まったく無症状だそう。その上、高血圧で治療中。ブイゴロク(V5、V6)の左側胸部誘導で高電位(差)プラスST-T変化(この人はT波異常はなし)と言ったら…そう、左室肥大(LVH)で説明可能です。以上を基に心電図から疑われる診断名異所性心房調律(冠静脈洞調律)左室肥大という訳で…、「いやー、先生。この人は心電図で左室肥大が疑われますし、ST変化はそのせいですかね。患者さんから話を聞くには、平時から駅の階段や坂道などはスイスイのスイーッみたいで、胸部症状の自覚なんかも全然ないようです。あと、ちょっとマニアックな異所性心房調律という基本リズム(調律)だったりもしますが、これも普通は特に問題になりません。一応、できたら心エコーしますけど、整形の手術なら全身麻酔でも問題ないと思いますよ」。そう答えられたら、アナタはスゴい!Take-home Message洞調律かどうかはP波の「向き」で決めよ:イチニエフ法(またはニアル法)安静時ST低下は虚血性ではないことが大半【古都のこと~Y字の鴨川~】「鴨川はY字なんだよ」こちらに来たばかりの時、そう教えられました。高野川と賀茂川の水が出会う場所、奥には糺(ただす)の森の深遠な霊気が漂います。市内のごくありふれた風景が、無常観を綴った鴨長明にはどう映っていたのでしょうか。悠久の時の流れ、“うたかた”の自分を感じながら、仕事場に向かう日もあります。

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中等度CVDリスクへのアスピリン1次予防効果は?/Lancet

 心血管疾患リスクが中等度の55~60歳以上の患者に対し、アスピリン100mgを毎日投与しても、プラセボと比較して心血管イベントの発生率に有意差は認められなかったという。米国・ブリガム&ウィメンズ病院のJ. Michael Gaziano氏らが、7ヵ国の約1万3,000例を対象に5年間追跡したプラセボ対照無作為化比較試験「ARRIVE試験」の結果を、Lancet誌オンライン版2018年8月26日号で発表した。心血管イベント1次予防におけるアスピリン投与については、なお議論の的となっている。ARRIVE試験では、中等度リスクを有する患者におけるアスピリンの有効性と安全性の評価が行われた。55歳以上の男性、60歳以上の女性を対象に 試験は2007年7月5日~2016年11月15日にかけて、7ヵ国、501ヵ所の医療機関を通じ、心血管疾患リスクが中等度(特定リスクの因子数で規定)の55歳以上の男性、または60歳以上の女性、合わせて1万2,546例を対象に行われた。消化管出血やその他の出血リスクが高い患者、および糖尿病患者は除外された。 被験者をコンピュータ生成無作為化コードにより1対1の割合で2群に分け、一方にはアスピリン腸溶錠(100mg)を、もう一方にはプラセボをそれぞれ1日1回投与した。患者、研究者、その他の治療・データ解析者は、割付治療についてマスキングされた。 主要有効性エンドポイントは、心血管死、心筋梗塞、不安定狭心症、脳卒中、一過性脳虚血発作(TIA)の複合アウトカム。安全性エンドポイントは、出血イベントおよびその他の有害イベント発生だった。解析はいずれもintention-to-treat集団にて行った。アスピリンよりもリスクマネジメント戦略の効果が勝る? 追跡期間中央値は、60ヵ月だった。有効性のエンドポイント発生率は、アスピリン群4.29%(269/6,270例)、プラセボ群4.48%(281/6,276例)で、有意な差はみられなかった(ハザード比[HR]:0.96、95%信頼区間[CI]:0.81~1.13、p=0.6038)。 一方、消化管出血の発生は、プラセボ群0.46%(29例)に対し、アスピリン群は0.97%(61例)と2倍強認められた(HR:2.11、95%CI:1.36~3.28、p=0.0007)。 重篤な有害事象発生率については両群とも20%程度(アスピリン群20.19%、プラセボ群20.89%)、有害事象全般の発生率はともに80%強(82.01%、81.72%)と、いずれも同程度だった。治療関連の有害事象については、プラセボ群13.54%に対しアスピリン群16.75%と、より高率に認められた(p<0.0001)。 死亡の報告は、アスピリン群2.55%(160/6,270例)、プラセボ群2.57%(161/6,276例)で有意差はなかった(HR:0.99、95%CI:0.80~1.24、p=0.9459)。 これらの結果について著者は、「イベント発生率が予想よりも大幅に低かった。おそらく、近年のリスクマネジメント戦略が功を奏しており、試験対象が実質的に低リスク集団になっていたと思われる」と指摘し、中等度リスク患者におけるアスピリンの1次予防を検証する試験にはならなかったとしている。そのうえで、「先行研究で公表されている低リスク集団に観察されたアスピリン効果の所見が、今回の試験でもみられた」とまとめている。

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研究方法に疑問(解説:野間重孝氏)-898

 まず評者は精神疾患の専門家ではないので、うつ病そのものに関しての踏み込んだ議論はしないことをお断りして、この論文評を始めることをお許しいただきたい。 この問題を考える場合、2つの方向があることをまず考えておく必要がある。第1は、まずうつ病は冠動脈疾患(CAD)のリスクファクターであるのか否かという問題。そして、もしそうであったとしたなら、それは予後規定因子としてどのくらいの重みを持っているのか。第2は、急性冠症候群(ACS)の患者はどの程度の割合でうつ病を発症するのか。そして、うつ病を発症することが、その予後にどのような影響を与えるのかという問題の立て方である。つまり、両方向から問題が立てられるのである。ただ、ここで注意を促しておきたいのは、第1の問いが真であったとして、うつ病患者でCADに罹患したものを無作為に振り分けて、片方にうつ病の治療を続行し、もう片方にプラセボを投与するといった研究は倫理的に許されるものではなく、大規模な疫学研究の結果を待つか、結果として治療が行われたり行われなかったりしたretrospective studyのメタアナリシスを待つしかないということである。こういうところに臨床研究の限界がある。 うつ病とCADを巡る問題は、1990年代から議論が始まったが、議論は混乱するばかりでなかなか結論が得られなかった。最大の原因は一言で言えば、うつ病をどう定義するかの問題でなかなか一致点が見いだされなかったことである。確かに狭い意味ではDSM-IVにmajor depressive disorder(大うつ病と訳される)が定義されているが、抑うつ状態やいわゆる仮面うつ病まで含めて、うつ病をどの範囲でどう定義すべきかには議論が多く、現在でも一致をみていない。上記第2の問題にしても、ACSになれば将来のこと、家族のことを考えて誰しも抑うつ的になるだろう。それと持続的なうつ病とをどう区別するのか。また自分がACSを経験したことは、大抵の人には大きな心の傷となっているだろう。それをうつ状態と呼んでよいのか。問題は尽きない。 そうした混乱の中で疫学研究のまとめ、メタアナリシスにより一応の勧告に当たるものが出されたのが、2014年の米国心臓病学会によるstatementである。しかしその表現は“American Heart Association should elevate depression to the status of a risk factor for adverse medical outcome in patients with acute coronary syndrome”と、決して歯切れのよいものではなかった。実際、他の学会・団体は、まだはっきりとしたstatementを発表するには至っていない。この論文評を書くに当たって調べてみると、CADにうつ病を合併すると、心事故および致死的不整脈による死亡が3~4倍になるとの記載を見つけて、評者自身驚いている。つまり、まだ結論が出ていない問題なのだが、そういった極端な発言をする専門家(?)もいるのである。 そこでもう1つの問題として持ち上がるのが、それではACS後の抑うつ状態を含めたうつ病への治療はACSの予後改善をもたらすのか否かという観点からの問いである。この問題については、すでに二度にわたって比較的大きな臨床研究が行われており(van Melle JPら. 2007年、Glassman AHら. 2009年)、いずれにおいても有意な改善効果は認められなかった。今回は、韓国のJae-Min Kimらが中心となって、一連の研究の中でも有望視された選択的セロトニン再取り込み阻害薬エスシタロプラムを、ACS後の抑うつ状態にある患者に無作為に投与してこの効果を確かめたものである。結果、MACEの発生でp=0.03、個別イベントでは心筋梗塞の発生でp=0.04とわずかではあるが改善が認められたが、その他の項目(全死因死亡、心臓死、PCI)には差がみられなかったと報告された。 著者らは「さらなる研究で、今回の所見の一般普遍化について評価したい」と述べているが、評者にはその前に研究方法に問題があるように思えてならない。まず、著者らはMACE(彼らの使用法ではmajor adverse cardiac events)を全死因死亡、心筋梗塞、PCIとし、追加的評価項目に心臓死を挙げて定義しているが、それでよいのだろうか。主要心血管イベント(MACE:major adverse cardiovascular events)といえば、通常は血管死(中枢神経系外の出血死を除く心血管/脳血管起因)、非致死性心筋梗塞、非致死性脳卒中(虚血性、出血性および不明な脳卒中)と定義される。今回の場合、心臓に問題を絞っているから脳卒中を問題にしないとするなら、全原因心臓死、非致死性心筋梗塞、狭心症の再発などとすべきで、全原因死亡やPCIは不適当ではなかったか。まず心臓以外の疾患での死亡が、なぜ問題にされなければならないのか。とくにうつ病を対象とした場合、自殺死なども含まれてしまうことも指摘しておきたい。さらにPCIを行うか否かは相当程度、主治医の恣意的な判断が加わるもので、こういった研究のエンドポイントとしては不適切である。研究方法そのものに問題がある以上、この研究をこれ以上続けられても、評価のしようがない。 議論のある分野に思い切って踏み込んだこと自体は評価したいが、その研究方法は評価できず、また、その結果もこの分野の議論に大きな一石を投じる内容ではないと言わざるを得ないと考えた。

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ファブリー病に世界初の経口治療薬が登場

 2018年7月7日、アミカス・セラピューティスク株式会社は、同社が製造・販売する指定難病のファブリー病治療薬のミガーラスタット(商品名:ガラフォルド)が、5月に承認・発売されたことを期し、「ファブリー病治療:新たな選択肢~患者さんを取り巻く環境と最新情報~」と題するメディアラウンドテーブルを開催した。希少代謝性疾患の患者に治療を届けるのが使命 はじめに同社の会長兼CEOのジョン・F・クラウリー氏が挨拶し、「『希少代謝性疾患の患者に高品質の治療を届けるように目指す』ことが我々の使命」と述べた。また、企業責任は「患者、患者家族、社会に希少疾病を通じてコミットすることで『治療にとどまらない癒しをもたらすこと』」と企業概要を説明した。今後は、根治を目標に遺伝子治療薬の開発も行っていくと展望を語った。なお、クラウリー氏は、実子がポンぺ病を発症したことから製薬会社を起業し、治療薬を開発したことが映画化されるなど世界的に著名な人物である。治療選択肢が増えたファブリー病 つぎに衞藤 義勝氏(脳神経疾患研究所 先端医療研究センター長、東京慈恵会医科大学名誉教授)が、「日本におけるファブリー病と治療の現状」をテーマに、同疾患の概要を解説した。 ライソゾーム病の一種であるファブリー病は、ライソゾームのαガラクトシダーゼの欠損または活性低下から代謝されるべき糖脂質(GL-3)が細胞内に蓄積することで、全身にさまざまな症状を起こす希少疾病である。 ファブリー病は教科書的な疫学では4万例に1例とされているが、実際には人種、地域によってかなり異なり、わが国では新生児マススクリーニングで7,000例に1例と報告されている。臨床型ではファブリー病は、古典型(I型)、遅発型(II型)、ヘテロ女性型に分類され、古典型が半数以上を占めるとされる。 ファブリー病の主な臨床症状としては、脳血管障害、難聴、角膜混濁・白内障、左室肥大・冠攣縮性狭心症・心弁膜障害・不整脈、被角血管腫・低汗症、タンパク尿・腎不全、四肢疼痛・知覚異常、腹痛・下痢・便秘・嘔気・嘔吐など全身に症状がみられる。また、年代によってもファブリー病は症状の現れ方が異なり、小児・思春期では、慢性末梢神経痛、四肢疼痛、角膜混濁が多く、成人期(40歳以降)では心機能障害が多くなるという。 診断では、臨床症状のほか、臨床検査で酵素欠損の証明、尿中のGL-3蓄積、遺伝子診断などで確定診断が行われる。また、早期診断できれば、治療介入で症状改善も期待できることから、新生児スクリーニング、ハイリスク群のスクリーニングが重要だと同氏は指摘する。とくに女性患者は軽症で症状がでないこともあり、放置されている場合も多く、医療者の介入が必要だと強調した。 ファブリー病の治療では、疼痛、心・腎障害、脳梗塞などへの対症療法のほか、根治的治療として現在は酵素補充療法(以下「ERT」と略す)が主に行われ、腎臓などの臓器移植、造血幹細胞などの細胞治療が行われている。とくにERTでは、アガルシダーゼαなどを2週間に1回、1~4時間かけて点滴する治療が行われているが、患者への身体的負担は大きい。そこで登場したのが、シャペロン治療法と呼ばれている治療で、ミガーラスタットは、この治療法の薬に当たる。同薬の機序としては、体内の変異した酵素を安定化させ、リソソームへの適切な輸送を促進することで、蓄積した物質の分解を促す。また、経口治療薬であり、患者のアドヒアランス向上、QOL改善に期待が持たれている。将来的には、学童期の小児にも適用できるように欧州では臨床研究が進められている。 最後に同氏は、「ファブリー病では、治療の選択肢が拡大している一方で、個々の治療法の効果は不明なことも多い。現在、診療ガイドラインを作成しているが、エビデンスをきちんと積んでいくことが重要だと考える」と語り、講演を終えた。酵素補充保療法とスイッチできるミガーラスタット つぎにデリリン・A・ヒューズ氏(ロイヤルフリーロンドンNHS財団信託 血液学領域、ユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドン)が、「ファブリー病治療の新たな選択肢:ミガーラスタット塩酸塩」をテーマに講演を行った。 はじめに自院の状況について、ライソゾーム病の中ではファブリー病がもっとも多いこと、患者数が年15%程度増加していることを報告し、家族内で潜在性の患者も多いことも知られているため、早期スクリーニングの重要性などを強調した。 英国のガイドラインでは、診断後の治療でERTを行うとされているが、その限界も現在指摘されている。ERTの最大の課題は、治療を継続していくと抗体が形成されることであり、そのため酵素活性が中和され、薬の効果が出にくくなるという。また、細胞組織内の分泌が変化すると、末期では細胞壊死や線維化が起こり、この段階に至るとERTでは対応できなくなるほか、点滴静注という治療方法は患者の活動性を阻害することも挙げられている。実際、15年にわたるERTのフォローアップでは、心不全、腎不全、ペースメーカー、突然死のイベント発生が報告され、効果が限定的であることが判明しつつあるという1)。そして、ミガーラスタットは、こうした課題の解決に期待されている。 ミガーラスタットの使用に際しては、ファブリー病の確定診断と使用に際しての適格性チェック(たとえば分泌酵素量や遺伝子検査)が必要となる。ERTと異なる点は、使用年齢が16歳以上という点(ERTは8歳から治療可能)、GFRの検査が必要という点である。 最後に同氏は、シャペロン療法の可能性について触れ「病態生理、診療前段階、治療とその後の期間、実臨床でもデータの積み重ねが大切だ」と語り、講演を終えた。ミガーラスタットの概要一般名:ミガーラスタット製品名:ガラフォルド カプセル 123mg効能・効果:ミガーラスタットに反応性のあるGLA遺伝子変異を伴うファブリー病用法・用量:通常、16歳以上の患者に、1回123mgを隔日経口投与。なお、食事の前後2時間を避けて投与。薬価:14万2,662.10円/カプセル承認取得日:2018年3月23日発売日:2018年5月30日

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そもそも術前リスク評価をどう考えるべきか(解説:野間重孝 氏)-891

 循環器内科はさまざまな院内サービスを行っているが、その中でも最も重要なものの1つが、心疾患を持つ(もしくは持つと疑われる)患者が心臓外のmajor surgeryを受ける場合のリスク評価に対するコンサルトに答えることではないかと思う。この場合、大体の医師が心疾患による追加的なリスクをまったく考える必要のない群を最軽症とし、これは絶対に手術は無理というものを最重症として5段階評価を考え、それなりの文章を考えて回答している、というあたりが実情なのではないかと思う。 ただ、その場合でも、はっきり○○%という数字を書き込むという方は、まずいらっしゃらないと推察する。というのは、そのようなエビデンスはどこにも存在しないからだ。この問題を考える場合、次のような視点を最低限持っておく必要があると考えるので、箇条書きにしてみる。 ○想定されるリスクは手術技術や機材の進歩、麻酔技術の進歩により変化していくもの  であって、一定ということはあり得ない。 ○上記と関連して、現在効果がないとされている技術(たとえばTAVIなど)も、  技術、機材の進歩により、リスク軽減に有効とされる時が来る可能性が十分にある  ことを想定しておく必要がある。 ○大変記載しにくい事実ではあるが、手術リスクは一般論ではなく、組織の設備、環境  や術者、アシストするスタッフの質、麻酔科医の技量に大きく依存する。 ○どこまでを標準的な術前スクリーニング検査とするかは、国情、医療事情により決定  されるもので、国、地域により一定ではない。また組織によっても異なる。 ○手術リスクをどのように評価するかには、異なった立場がある。患者の最大酸素摂取  量(peak oxygen uptake)を重要とするものもあれば、また、解剖学的な病態  (たとえば冠動脈狭窄の部位と程度)を重視するやり方もあり、どれが正しい、正確  であるかというエビデンスはない(疾病者の最大酸素摂取量をどう求めるかに議論が  あるのはもちろんである)。 ○上記でいえば、わが国は画像診断に比較的重きを置く傾向がある。実際、冠動脈疾患  でいえば、その存在が疑われる症例で冠動脈造影CT検査が行われないという事態は  想定しがたいが、これはわが国がOECD加盟国中CTの普及率、保有台数が第1位で  あるという事情と無縁ではない。 ○国、地域により、主な対象とされる疾患が異なる。欧米のリスク評価はどうしても  冠動脈疾患の比重が大きくなるが、わが国にそれをそのまま応用してよいという保証  はまったくない。たとえば、ACC/AHA、ESC/ESAともに2014年にガイドラインの  改訂を行っているが、これをそのままわが国で用いてよいという保証はない。 ○時代によりリスクに組み込まれる疾患が異なってくる。代表的なものが心房細動の  リスクをどう考えるかで、社会の高齢化と強く関連している。 ○手術リスクをどう位置付けるかは、そのmajor surgeryが対象とする疾患により  異なるはずである。悪性疾患を代表とする生命予後に直結する疾患と、機能予後に  深く関連するようなものでも生命予後には直接結びつかないものとでは、  リスクに対する考え方が異ならなければならない。 読者の皆さんの中にはもっと多くの事項が勘案されるべきだとお考えの方もいらっしゃると思うが、順不同ながらまず代表的なものは出し尽くしているのではないかと思う。 さて、こうした観点を踏まえて本論文を読み返してみると、大変失礼な言い方になるが、その発想があまりにもナイーブなのではないかというのが、私の正直な感想である。 「経験ある麻酔科医によるリスク評価」というが、「主観的」リスク評価をするに当たって、どの程度の術前スクリーニング検査が行われているのだろうか。私も第一線病院で30年以上診療に当たっている者(しかも古いタイプの医師)の1人として、患者に慎重に問診し、慎重な診察を行えば、かなりの確率でリスクを評価できるという自信がないわけではない。しかし、2018年の現在、そのような「主観的な」評価が許されるわけがないではないか。まず心エコー図を中心とした画像診断で状態を把握し(心エコー図の結果のみでリスク評価をしてはならないことはすでに証明されている)、正確な数字や別の観点からの画像が欲しい場合には、MRIやシンチグラムなども併用する。冠動脈疾患の可能性があれば、当然冠動脈造影CT検査を行う。場合によってはカテーテル検査も行う。そのうえで判断を下す。当たり前ではないか。NT pro-BNPについて言及されているが、今どき術前血液検査にBNPもしくはNT pro-BNPの項目が含まれていない採血を行う組織など、少なくともわが国には存在しないと思う。それでも5段階評価くらいはできても数値化まではできない。 エルゴメータによる運動負荷検査が取り上げられているが、現実的とは言えないと思われる。全身状態によってはエルゴメータをこぐことができないことは言うまでもないが、それだけではなく、もし実際に重症冠動脈疾患があった場合、運動負荷そのものが大変に危険であるという事実が指摘されなければならないだろう。少なくとも現在わが国で循環器を専門にしている医師が、狭心症を強く疑われている患者に対していきなり運動負荷を行うということはまずないのではないだろうか。運動負荷がぶっつけで行われる場合があるとするなら、学校検診などで心電図異常を指摘された明らかに健康な若年者に対して形式的なスクリーニングを行うような場合だろうが、これはまったく性格の異なったものであることはご説明するまでもないだろう。議論が冠動脈疾患に偏ったが、大動脈弁狭窄症やDCMなどでも同様の議論がなされることは言うまでもない。 DASIスコアとは――本文に細かい説明がないが――12項目の簡単な質問にYes/No方式で答えていくもので、各項目に重み付けがされており、最後に合計して計算式に当てはめることで、患者の最大酸素摂取量の予測ができるものである。全身状態の悪い患者も対象としなければならない場合、最大酸素摂取量の目安にしようとするならば現実的な方法といえる。本論文によればDASIスコアのみが有効なスクリーニング法だったとあるが、これは本研究のようなデザインをすれば当たり前なのではないだろうか。十分なスクリーニング結果を踏まえない担当医の「主観的」判断と全身状態によって結果に誤差が出て当然の運動負荷と、全員に安全かつ公平に行えるスコアリングを比べれば、結果は比べる前から明らかなのではないのか。本来術前リスク評価とは、どの方法が優れているといった議論の対象ではなく、可能な手段を総動員して行うべきものなのである。 そのほか、著者らのいうmorbidity and mortalityとは何か。なぜ30日を観察期間としたのか。たとえば術後2週間たって心筋梗塞が起こった場合、それと手術をどう関係付けるのか。疑問は多いのだが、それらにはこれ以上触れない。 というわけで、本研究が臨床医の素朴な疑問に答えようとした姿勢は評価するものの、研究の発想、方法はまったく評価できないというのが評者の受けた感想だったのだが、読者の皆さんはどう思われただろうか。

168.

FAME2試験、5年追跡調査の結果は?/NEJM

 安定冠動脈疾患患者において、冠血流予備量比(fractional flow reserve:FFR)ガイドによるPCI戦略は薬物療法単独と比較し、5年間の複合エンドポイント(死亡、心筋梗塞、緊急血行再建術)の発生を有意に低下させた。ベルギー・アールスト心血管センターのPanagiotis Xaplanteris氏らが、無作為化非盲検試験FAME 2試験の5年追跡結果を報告した。血行動態的に著しい狭窄のない患者は、薬物療法のみでも長期転帰は良好であったという。NEJM誌オンライン版2018年5月22日号掲載の報告。FFR≦0.80の安定冠動脈疾患患者約900例を対象に追跡試験 研究グループは、2010年5月15日~2012年1月15日に、欧州および北米の28施設において、冠動脈造影で50%以上の狭窄を認めた安定冠動脈疾患患者1,220例を登録した。すべての狭窄病変についてFFRを測定し、FFR≦0.80の患者888例を、PCI+薬物療法群と薬物療法単独群に1対1の割合で無作為に割り付けた。 主要評価項目は、死亡、心筋梗塞および緊急血行再建術の複合エンドポイントであった。複合エンドポイントの発生:PCI+薬物療法群13.9%、薬物療法単独群27.0% 5年時点の複合エンドポイントの発生率は、PCI+薬物療法群が薬物療法単独群より有意に低かった(13.9% vs.27.0%、ハザード比[HR]:0.46、95%信頼区間[CI]:0.34~0.63、p<0.001)。この差は、緊急血行再建術によるものであった(6.3% vs21.1%、HR:0.27、95%CI:0.18~0.41)。死亡率はそれぞれ5.1%および5.2%(HR:0.98、95%CI:0.55~1.75)、心筋梗塞は8.1%、12.0%で(HR:0.66、95%CI:0.43~1.00)、両群間に有意差はなかった。 なお、複合エンドポイントの発生率はPCI+薬物療法群と登録コホート群とで差はなかった(それぞれ13.9%および15.7%、HR:0.88、95%CI:0.55~1.39)。また、CCS分類II~IVの狭心症の患者の割合は、3年時点ではPCI+薬物療法群が薬物療法単独群より有意に低かったが、5年時点ではPCI+薬物療法群が低かったものの有意差はみられなかった。

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ドクターXを探せ?(解説:今中和人氏)-858

 この論文はさまざまな科の20術式について、非待期的(入院後3日以内)に手術が行われた症例の手術死亡率(在院死亡+30日以内の死亡)と術者の年齢・性別との関連を検討している。対象は4年間の全米のMedicare受給者の89万例で、49%が整形外科手術、38%が一般外科手術、12%が心臓血管外科手術、1%がその他の手術だった。 世の中には、脳外科・形成外科などの顕微鏡下手術、泌尿器科の経尿道手術、大動脈ステントグラフトなど、もっぱら術者1人で行う術式もあるが、多くの手術はチームで行われ、術者だけでなく誰が助手かが非常に重要である。思い返せば私も駆け出しの頃、術者を務めれば自分が手術したつもりでいたが、実際には助手に回って下さったメンター頼みだったし、勘所だけは彼らが処置してくれたこともあった。独り立ち早々の時期、心得不足の助手と厳しい症例を手術したことはまれであった。丁寧に縫合しても、助手が糸をたるませればひどい出血に見舞われるのだ。手術は個人力以上にチーム力である。このことはどんなに強調しても、し足りない。だから管理職は組み合わせを考えて担当を指名するし、当番表にも一定の配慮を求める。チーム力を最大にするため、私は夜中に出ていって緊急手術の助手に回ることはザラにあり、結果に対しては自分が責任を負う。さらに各人のモチベーションやとくに欧米では報酬も大きな要因だ。高リスク手術の術者指名は、そんな甘い話や単純な話でないと知れば、本論文の20の術式にもっぱら1人で行う手術は1つもないのに、術者のみのプロファイルで成績を論じるのは見識不足であることは自明であろう(類似論文も同じ)。 さらに再認識すべきなのは、アウトカム=術前状態+手術+術後管理 の公式。術前状態は手術に負けず劣らず重要で、事実、本論文の腹部大動脈瘤手術は、たぶんほとんどが破裂なので死亡率12%、大腸直腸切除も多くは穿孔なので11%と、術者の年齢なんてどこ吹く風の高さだ。そして状態が悪い症例ほど待てないので、夜間や休日は厳しい症例が多くなるが、40歳以下の外科医も60歳以上の外科医も平等にオンコールを割り振られるわけがなく、重症例はオンコールが多い若めの外科医に偏るのだ。また、たとえば冠動脈3枝バイパスは、ICDコードが同じでも非待期手術でも、electrical stormやショック状態の症例と、「明日やりましょうか」という不安定狭心症の症例ではおよそ別もの。そして非待期例ほどバリエーションだらけで、リスク補正と言うは易いが行うは難く、「同じICDコードだから」と死亡率を直接比較するのはかなり無理がある。 なお、一部の例外を除き、外科医も夜間や休日に働きたいわけではなく、嬉々としているように見えるのは前向きに取り組むべく士気を高めているだけなので、是非、麻酔科や内科系の先生の温かいご理解をお願いしたい。 4万5,000人もの執刀医について詳細に検討されたこの論文で興味深かった知見は、平均年齢が50.5歳と意外に高いこと。女性外科医は全体の10%を占めるが、残念ながら心臓血管外科手術の執刀は2%、整形外科は3%とひどく不人気な一方、一般外科は10%超、婦人科(子宮切除)は30%と、専門科選択の格差が国際的であること。さらに、40歳未満の外科医の手術件数のうち女性の執刀は20%だが、60歳以上では3%にまで低下し、年齢が高いと女医の人数が少ないのは時代背景の反映だろうだが、1人あたりの執刀数も6割に減る。一方、男性外科医の手術件数はあまり減っていない。つまり、いくつになっても非待期的な手術も手掛けているのは圧倒的に男性で、後期高齢者もチラホラ。良く言えば、男性外科医は現役への情熱を持ち続けている、リスクと職責を担い続けている、とも言えるが、悪く言えば老害。うがった見方をすれば、高額な養育費や若い夫人との生活費やローンが見え隠れするし、「引退しても家庭に居場所がない」なんて話も、日本では大声でささやかれている。 本論文は多数の手術症例と外科医についてさまざまに解析した労作ではあるが、しばしば執刀医しか見えていない一般人に向けて、現場から乖離した認識で、「若い外科医は成績がイマイチだ」という、芳しからぬ波紋を発信してしまった。失礼ながら予想どおり、主要著者らの所属は内科と公衆衛生で、筆頭著者は(ドクターXのファンかどうかはともかく)日本人のようだ。少数の共著者の外科医は何をどの程度commitしたのか不明だが、「事件は会議室じゃない、現場で起こってるんだ!」という古の名ゼリフを思い出す。繰り返すが、手術はチーム力。机上を離れてしばらく現場に在籍なさるとよろしいように思われる。

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SGLT2阻害薬は死亡率、心血管イベントの低減に最も有用(解説:吉岡成人氏)-856

2型糖尿病の治療薬の選択 糖尿病の治療薬の選択に対して、日本糖尿病学会では患者の病態に応じて薬剤を選択することを推奨しているが、米国糖尿病学会ではメトホルミンを第一選択薬とし、心血管疾患の既往がある患者では、SGLT2阻害薬ないしはGLP-1受容体阻害薬を併用することを推奨している。その背景には、EMPA-REG OUTCOME試験、CANVASプログラム、LEADER試験、SUSUTAIN-6などの臨床試験によって、これらの薬剤が心血管イベントに対して一定の抑制効果を示したことが挙げられる。 それでは、SGLT2阻害薬とGLP-1受容体阻害薬との比較ではどうなのか、日本で最も使用されているDPP-4阻害薬と比較した場合はどうなのだろうかという疑問に答える論文が報告された。ネットワークメタ解析での比較 通常のメタ解析では治療介入を行ったランダム化比較試験(RCT)を統合して介入の効果を検証するが、3種類以上の介入の効果を比較検討することはできない。Zheng SLらはネットワークメタ解析の手法を用いて、実際のhead-to-headの試験を行うことなく、多数のRCTの結果を統計学的に併合して直接的、間接的な比較を行った結果を報告している。本論文では各薬剤を使用して12ヵ月間以上観察された236件のRCTを抽出し、各薬剤とコントロール群、DPP-4阻害薬とGLP-1受容体作動薬、DPP-4阻害薬とSGLT2阻害、GLP-1受容体阻害薬とSGLT2阻害の各群において、全死亡を主要アウトカム、心血管死、心不全、心筋梗塞と不安定狭心症、脳卒中を二次アウトカムとして薬剤間の有用性を検証している(Zheng SL, et al. JAMA. 2018 Apr 17;319: 1580-1591. )。SGLT2阻害の有用性が明らかに 各群における対象患者の平均年齢は50代前半から後半までと比較的若く、HbA1cも8.2%前後で、罹病期間が長く血糖コントロールが不良な患者は多く含まれてはいない。しかし、全死亡については、GLP-1受容体阻害薬とSGLT2阻害薬はコントロール群、およびDPP-4阻害薬投与群に比較して有意に減少させており、GLP-1受容体作動薬投与群とSGLT2阻害薬投与群との間には有意差はなかった。この傾向は心血管死亡率についても同様であった。一方、心不全イベントについては、SGLT2阻害の有用性が最も高く、コントロール群、DPP-4阻害薬投与群に対してのみならず、GLP-1受容体投与群に対しても有意に心不全イベントの抑制効果を示していた。 欧米では、2型糖尿病の治療に対して、低血糖や体重増加を来しにくい薬剤が推奨されており、メトホルミンが第一選択薬となっている。今回の結果は、心血管イベントによる死亡が多い欧米人にあっては、SGLT2阻害が第二選択薬としてのポジションをより強固なものにした印象を与える。日本でも、虚血性心疾患のハイリスク患者、心不全患者、糖尿病腎症の患者などでは積極的に、SGLT2阻害薬が使用されつつある。しかし日本人の糖尿病患者では欧米に比較して心血管イベントは少なく、65歳以上の高齢者が多く、インスリン分泌も低い。これらの点を考慮すると、現在広く用いられているDPP-4阻害が重用される現状はしばらく続くのかもしれない。

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日本人の学歴・職歴と認知症の関連に糖尿病は関与するか

 欧米では、低い社会経済的地位(SES)と認知症との関連は生活習慣病(糖尿病)を介すると報告されている。しかし、わが国では低SESと認知症の関連は研究されていない。今回、敦賀看護大学(福井県)の中堀 伸枝氏らの研究から、低SESと認知症の間のメディエーターとして、生活習慣病の役割はきわめて小さいことが示唆された。BMC Geriatrics誌2018年4月27日号に掲載。 本研究は、富山県認知症高齢者実態調査のデータを用いた後ろ向き症例対照研究である。富山県在住の65歳以上(入院および非入院)の人をサンプリングレート0.5%で無作為に選択、うち1,303人が参加に同意した(回答率84.8%)。全体として、認知症137人および認知症ではない対照1,039人を同定した。必要に応じて、参加者と家族または代理人との構造化インタビューを実施し、参加者の病歴、生活習慣(喫煙および飲酒)、SES(学歴および職歴)を調査した。Sobel検定を用いて、低SESが生活習慣病を介した認知症の危険因子である可能性を調べた。 主な結果は以下のとおり。・認知症のオッズ比(OR)は、低学歴(6年以下)の参加者で高学歴の参加者より高く(年齢・性別での調整OR:3.27、95%CI:1.84~5.81)、また、事務の職歴より肉体労働の職歴を持つ参加者で高かった(年齢・性別での調整OR:1.26、95%CI:0.80~1.98)。・職歴について調整後、低学歴の参加者における認知症のORは3.23~3.56であった。・以前の習慣的な飲酒歴および糖尿病・パーキンソン病・脳卒中・狭心症/心血管疾患の病歴が、認知症リスクを増加させることが認められた。・学歴は、飲酒、喫煙、糖尿病、パーキンソン病、脳卒中、心血管疾患に関連していなかった。・職歴は、糖尿病および脳卒中に関連していた。・低学歴と認知症の関連における糖尿病の役割は、きわめて限られていることが示された。

172.

治療前のLDL-コレステロール値でLDL-コレステロール低下治療の効果が変わる?(解説:平山篤志氏)-852

 2010年のCTTによるメタ解析(26試験、17万人)でMore intensiveな治療がLess intensiveな治療よりMACE(全死亡、心血管死、脳梗塞、心筋梗塞、不安定狭心症、および血行再建施行)を減少させたことが報告された。ただ、これらはすべてスタチンを用いた治療でLDL-コレステロール値をターゲットとしたものではないこと、MACEの減少も治療前のLDL-コレステロール値に依存しなかったことから、2013年のACC/AHAのガイドラインに“Fire and Forget”として動脈硬化性血管疾患(ASCVD)にはLDL-コレステロールの値にかかわらず、ストロングスタチン使用が勧められる結果になった。 しかし、CTT解析後にスタチン以外の薬剤、すなわちコレステロール吸収阻害薬であるエゼチミブを用いたIMPROVE-IT、さらにはPCSK9阻害薬を用いたFOURIER試験など、非スタチンによるLDL-コレステロール低下の結果が報告されるようになり、今回新たな34試験27万人の対象でメタ解析の結果が報告された(CTTの解析に用いられた試験がすべて採用されているわけではない)。 その結果、More intensiveな治療がLess intensiveな治療よりアウトカムを改善したことはこれまでの解析と同じであったが、全死亡、心血管死亡において治療前のLDL-コレステロール値が高いほど有意に死亡率低下効果が認められた。心筋梗塞の発症も同様の結果であったが、脳梗塞については治療前の値の差は認められなかった。治療前のLDL-コレステロール値について、CTTによれば値にかかわらず有効であるとされていたが、本メタ解析の結果はLDL-コレステロール値が100mg/dL以上であれば死亡率も低下するということを示している。 近年、IMPROVE-ITもFOURIER試験も心筋梗塞や脳梗塞の発症は有意に低下させるが、死亡率低下効果がないのは、治療前のLDL-コレステロール値が100mg/dLであることが要因であると推論している。 このメタ解析は、LDL-コレステロール値の心血管イベントへ関与を示唆するとともに、“Lower the Better”を示したものである点で納得のいくものである。しかし、4Sが発表された1994年とFOURIERが発表された2017年の20年以上の間に、急性心筋梗塞の死亡率が再灌流療法により減少したこと、心筋梗塞の定義がBiomarkerの導入で死亡には至らない小梗塞まで含まれるようになったことも、LDL-コレステロール減少効果で死亡率に差が出なくなった原因かもしれない。 今後のメタ解析は、アウトカムが同一であるというだけなく、時代による治療の変遷も考慮した解析が必要である。

173.

ACS症例におけるDAPTの期間は6ヵ月と12ヵ月のいずれが妥当か?(解説:上田恭敬氏)-848

 急性冠症候群症例(不安定狭心症、ST非上昇型急性心筋梗塞、ST上昇型急性心筋梗塞)を対象として、抗血小板薬2剤併用療法(DAPT)の期間を6ヵ月とする群と12ヵ月以上とする群に無作為に割り付ける、韓国における多施設無作為化比較試験であるSMART-DATE試験の結果が報告された。 本試験では、韓国の31施設において2,712症例の急性冠症候群症例が、6ヵ月間のDAPT群(1,357症例)または12ヵ月以上のDAPT群(1,355症例)に無作為に割り付けられた。主要エンドポイントは18ヵ月時点での全死亡、心筋梗塞、脳卒中の複合エンドポイントで、副次エンドポイントは主要エンドポイントの各構成要素、ステント血栓症(definite or probable)、出血性イベント(BARC type 2~5)である。 主要エンドポイントは、6ヵ月DAPT群で4.7%、12ヵ月以上DAPT群で4.2%と差を認めなかった。副次エンドポイントは、全死亡と脳卒中、ステント血栓症については群間に差を認めなかったが、心筋梗塞の発症は6ヵ月DAPT群で有意に高頻度に認められた(1.8% vs.0.8%、p=0.02)。出血性イベントは、6ヵ月DAPT群で2.7%、12ヵ月以上DAPT群で3.9%と有意な差は認めなかった(p=0.09)。 以上より、18ヵ月時点での主要エンドポイントに関しては、12ヵ月以上DAPTに対する6ヵ月DAPTの非劣性が示されたものの、主要エンドポイントの構成要素の1つである心筋梗塞の発症が6ヵ月DAPTで有意に高頻度であったために、6ヵ月DAPTが12ヵ月以上DAPTと同等に安全とは結論できなかったとしている。 通常、主要エンドポイントの結果が重要視され、副次エンドポイントの結果を強く主張することは控えるべきとされるが、本論文の記載は妥当なものと思われる。また、比較的低リスクの症例が登録されたかもしれないというselection biasの可能性などいくつかのlimitationが指摘されているが、それらはむしろ群間差をなくす方向に作用すると思われ、その中でも心筋梗塞の発症が6ヵ月DAPTで有意に高頻度であったことはやはり注目すべきである。著者も指摘しているように、現時点では、12ヵ月以上DAPTが急性冠症候群症例における標準的治療であることは揺らがず、安易にDAPT期間を短縮すべきではないと考える。

174.

2型DMの死亡率、SGLT2 vs.GLP-1 vs.DPP-4/JAMA

 2型糖尿病患者において、SGLT2阻害薬またはGLP-1受容体作動薬の使用は、DPP-4阻害薬使用、プラセボ、未治療と比べて、死亡率が有意に低いことが示された。また、DPP-4阻害薬の使用は、プラセボ、未治療よりも、死亡率は低下しないことも示された。英国・Imperial College Healthcare NHS Foundation TrustのSean L. Zheng氏らによるネットワークメタ解析の結果で、JAMA誌2018年4月17日号で発表された。2型糖尿病治療について、SGLT2阻害薬、GLP-1受容体作動薬、DPP-4阻害薬を比較した臨床的な有効性は明らかになっていなかった。ネットワークメタ解析で、全死因死亡を評価 研究グループは、発刊から2017年10月11日までのMEDLINE、Embase、Cochrane Library Central Register of Controlled Trials、および公表されているメタ解析を検索し、2型糖尿病患者が登録され、追跡期間が12週間以上、SGLT2阻害薬、GLP-1受容体作動薬、DPP-4阻害薬を相互に比較またはプラセボ、未治療と比較した無作為化試験を選定した。 1人の研究者がデータのスクリーニングを行い、2人の研究者が重複抽出して、ベイジアン階層ネットワークメタ解析を行った。 主要アウトカムは全死因死亡で、副次アウトカムは心血管(CV)死、心不全(HF)死、心筋梗塞(MI)、不安定狭心症、脳卒中であった。安全性のエンドポイントは、有害事象および低血糖症の発現であった。対照群と比較して、SGLT2阻害薬群、GLP-1受容体作動薬群は有意に低下 236試験、無作為化を受けた被験者17万6,310例のデータが解析に組み込まれた。 対照(プラセボまたは未治療)群と比較して、SGLT2阻害薬群(絶対リスク差[ARD]:-1.0%、ハザード比[HR]:0.80[95%確信区間[CrI]:0.71~0.89])、GLP-1受容体作動薬群(ARD:-0.6%、HR:0.88[95%CrI:0.81~0.94])は、全死因死亡率が有意に低かった。DPP-4阻害薬群との比較においても、SGLT2阻害薬群(-0.9%、0.78[0.68~0.90])、GLP-1受容体作動薬群(-0.5%、0.86[0.77~0.96])は死亡率が低かった。 DPP-4阻害薬群は、対照群との比較で全死因死亡率の有意な低下が認められなかった(0.1%、1.02[0.94~1.11])。 SGLT2阻害薬群(−0.8%、0.79[0.69~0.91])、GLP-1受容体作動薬群(−0.5%、0.85[0.77~0.94])は、対照群との比較において、CV死についても有意に減少した。 SGLT2阻害薬群は、HFイベント(−1.1%、0.62[0.54~0.72])、MI(−0.6%、0.86[0.77~0.97])についても、対照群と比べて有意に少なかった。 GLP-1受容体作動薬群は、SGLT2阻害薬群(5.8%、1.80[1.44~2.25])、DPP-4阻害薬群(3.1%、1.93[1.59~2.35])と比べて、試験中止となった有害事象の発現リスクが高かった。

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民谷式 内科系試験対策ウルトラCUE Vol.2

第5回 膠原病/アレルギー 第6回 神経 第7回 循環器1 第8回 循環器2  内科系試験に対応した全3巻の基本講座の第2巻です。試験内容が異なる認定内科医と総合内科専門医試験ですが、学生の頃に学んだことを復習するというスタートラインは同じ。全13領域で出題頻度の高いテーマを、わかりやすいシェーマと明快な講義で総復習しましょう。題名の「CUE」は放送業界用語の「キュー」、『臨床的有用性』(Clinical Utility)、そしてパーキンソン病医療における「CUE」から来ています。つまり、「動こうとしてもはじめの一歩が踏み出せない状態」に対して、このレクチャーが試験勉強を始める一歩を踏み出すきっかけになってほしいという思いです。講師の民谷先生の実臨床経験を組み込んだクリアな解説は、とても役に立ちます。専門外や苦手科目からチェックして、次のステップへ進んでください。第5回 膠原病/アレルギー 膠原病の領域は、類縁疾患を含めると疾患が非常に多く、症状が多彩なのが特徴です。民谷式では疾患を大きく3つに分類し、それぞれの特徴をオリジナルのシェーマと症例問題をもとに解説していきます。第6回 神経 神経の疾患は非常に多岐にわたりますが、どこが障害してどんな症状が出るかを理解するためには、まずは正常な状態を理解するのが得策。わかりやすく簡略化してある民谷式のオリジナルシェーマで重要疾患の病態生理を再整理してください。第7回 循環器1 出題範囲が広い循環器領域で、まず押さえるべき疾患は虚血性心疾患と心不全。狭心症と心筋梗塞の病態の違いや心電図の見方、エコーの基本となる解剖生理など、基礎をしっかりと復習します。第8回 循環器2 出題範囲が広い循環器領域。循環器の後半は弁膜症と心筋症、そして不整脈について復習します。心臓で起こったことが、心電図ではどう見えるのか?民谷式のシェーマを用いてわかりやすく解説しているので、知識の整理に役立ちます。

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心血管疾患併存の痛風、フェブキソスタット vs.アロプリノール/NEJM

 心血管疾患を有する痛風患者に対し、非プリン型キサンチンオキシダーゼ阻害薬フェブキソスタット(商品名:フェブリク)は、プリン塩基類似体キサンチンオキシダーゼ阻害薬アロプリノールに比べ、心血管系有害事象の発生に関して非劣性であることが示された。一方で、全死因死亡や心血管死亡の発生率は、いずれもフェブキソスタット群のほうが高かった。米国・コネティカット大学のWilliam B. White氏らが、6,190例を対象に行った多施設共同無作為化二重盲検非劣性試験の結果で、NEJM誌2018年3月29日号で発表した。フェブキソスタット群とアロプリノール群に無作為に割り付け 研究グループは、心血管疾患を有する痛風患者6,190例を無作為に2群に分け、一方にはフェブキソスタットを、もう一方にはアロプリノールを投与した。被験者について、腎機能による層別化も行った。 主要評価項目は、心血管死・非致死的心筋梗塞・非致死的脳卒中・緊急血行再建術を要した不安定狭心症の複合エンドポイント。事前に規定した非劣性マージンは、同複合エンドポイントのハザード比1.3とした。フェブキソスタットとアロプリノールともに主要評価項目の発生は約10~11% 追跡期間は最長85ヵ月、中央値は32ヵ月だった。被験者のうち、試験レジメンを中止したのは56.6%、追跡中断となったのは45.0%だった。 修正intention-to-treat(ITT)解析の結果、主要評価項目の発生は、フェブキソスタット群の335例(10.8%)、アロプリノール群の321例(10.4%)で認められた。同発生に関するフェブキソスタット群のアロプリノール群に対するハザード比は1.03(片側98.5%信頼区間[CI]上限値:1.23、非劣性p=0.002)であり、非劣性が認められた。 全死因死亡、心血管死亡の発生率は、いずれもフェブキソスタット群がアロプリノール群より高率で、ハザード比はそれぞれ1.22(95%CI:1.01~1.47)、1.34(同:1.03~1.73)だった。 なお、実際に被験者が治療を受けている期間のイベント発生の解析と、修正ITT解析では、主要評価項目や全死因死亡、心血管死亡に関する結果は同等だった。

177.

PCI後のDAPT、6ヵ月 vs.12ヵ月以上/Lancet

 急性冠症候群に対する薬剤溶出ステント(DES)での経皮的冠動脈インターベンション(PCI)実施後、抗血小板薬2剤併用療法(DAPT)において、6ヵ月投与群が12ヵ月以上投与群に対して、18ヵ月時点で評価した全死因死亡・心筋梗塞・脳卒中の複合エンドポイントの発生について非劣性であることが示された。一方で、心筋梗塞発症リスクは、6ヵ月投与群が約2.4倍高かった。韓国・成均館大学校のJoo-Yong Hahn氏らが、2,712例を対象に行った無作為化非劣性試験の結果で、Lancet誌オンライン版2018年3月9日号で発表した。結果を踏まえて著者は、「DAPT投与は短期間が安全であるとの結論に達するには、厳しい結果が示された。過度の出血リスクがない急性冠症候群患者のPCI後のDAPT期間は、現行ガイドラインにのっとった12ヵ月以上が望ましいだろう」と述べている。18ヵ月時点の心血管イベントリスクを比較 研究グループは2012年9月5日~2015年12月31日に、韓国国内31ヵ所の医療機関を通じて、不安定狭心症、非ST上昇型心筋梗塞、ST上昇型心筋梗塞のいずれかが認められ、DESによるPCIを受けた患者2,712例について、非盲検無作為化非劣性試験を行った。急性冠症候群でPCI実施後のDAPT期間6ヵ月の群が、同じく12ヵ月以上の群に比べて非劣性かを評価した。 主要評価項目は、PCI実施後18ヵ月時点の全死因死亡、心筋梗塞、脳卒中のいずれかの複合エンドポイントとし、ITT解析で評価した。per protocol解析も行った。 副次評価項目は、PCI実施後18ヵ月時点の、主要評価項目に含まれた各イベントの発生、Academic Research Consortium(ARC)の定義に基づくdefinite/probableステント血栓症、BARC出血基準に基づくタイプ2~5の出血の発生だった。6ヵ月群の心筋梗塞リスクが2.41倍 被検者のうち、DAPTの6ヵ月投与群は1,357例、12ヵ月以上投与群は1,355例だった。P2Y12阻害薬としてクロピドグレルを用いたのは、6ヵ月群の1,082例(79.7%)、12ヵ月以上群の1,109例(81.8%)だった。 主要評価項目の発生は、6ヵ月群63例(累積イベント発生率:4.7%)、12ヵ月以上群56例(同:4.2%)で認められ、6ヵ月群の非劣性が示された(群間絶対リスク差:0.5%、片側上限値95%信頼区間[CI]:1.8%、事前規定の非劣性マージンは2.0%で非劣性のp=0.03)。 全死因死亡率は6ヵ月群が2.6%、12ヵ月以上群が2.9%と両群で同等だった(ハザード比[HR]:0.90、95%CI:0.57~1.42、p=0.90)。脳卒中発症率についても、それぞれ0.8%と0.9%であり、両群で同等だった(同:0.92、0.41~2.08、p=0.84)。 一方で心筋梗塞発症率については、6ヵ月群が1.8%に対し12ヵ月以上群が0.8%だった(HR:2.41、95%CI:1.15~5.05、p=0.02)。 ステント血栓症については、それぞれ1.1%と0.7%で、両群に有意差はなかった(p=0.32)。BARC出血基準2~5の出血発生頻度も、それぞれ2.7%、3.9%と有意差はなかった(p=0.09)。 per protocol解析の結果は、ITT解析の結果と類似していた。 著者は、「6ヵ月投与群の心筋梗塞リスクの増大と幅広い非劣性マージンによって、DAPTの短期間投与が安全であると結論付けることはできない」と述べている。

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降圧治療、自己モニタリングに効果はあるか?/Lancet

 血圧コントロールが不十分な高血圧患者における降圧薬の用量調整法として、血圧の自己モニタリングは、遠隔モニタリング併用の有無にかかわらず、診察室での用量調整に比べ、1年後の収縮期血圧を有意に低下させることが、英国・オックスフォード大学のRichard J. McManus氏らが行ったTASMINH4試験で示された。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2018年2月27日号に掲載された。自己モニタリングによる降圧薬の用量調整に関しては、相反する試験結果が報告されており、遠隔モニタリングの正確な位置付けは、明らかにされていないという。1年後の収縮期血圧を3群で比較 TASMINH4は、降圧薬の用量調整における、血圧の自己モニタリングおよび自己モニタリング+遠隔モニタリングの効果を、通常治療と比較する非盲検無作為化対照比較試験(英国国立衛生研究所[NIHR]などの助成による)。 年齢35歳以上、3剤以内の降圧薬治療を行っても診察室血圧が140/90mmHg以上の高血圧患者が、血圧の自己モニタリング、自己モニタリング+遠隔モニタリング(遠隔モニタリング群)、通常治療(診察室での医師による用量調整)の3つの群に1対1対1の割合で無作為に割り付けられた。参加者と担当医には、割り付け情報が知らされた。 主要アウトカムは、12ヵ月後の受診時の収縮期血圧であった。 英国の142の一般医(GP)施設に1,182例が登録され、1,173例が割り付けの対象となった。ベースラインの平均年齢は66.9歳(SD 9.4)、半数強が男性で、平均収縮期血圧は153.1/85.5(SD 14.0/10.3)mmHg、高血圧診断からの平均経過期間は10.2年(SD 8.4)であった。プライマリケアへの導入が推奨される可能性 解析には、1,003例(85%、自己モニタリング群328例、遠隔モニタリング群327例、通常治療群348例)が含まれた。 12ヵ月時の平均収縮期血圧は、自己モニタリング群が137.0(SD 16.7)mmHg、遠隔モニタリング群は136.0(16.1)mmHgと、通常治療群の140.4(16.5)mmHgに比べいずれも有意に改善し、通常治療との補正平均差(AMD)は、自己モニタリング群が-3.5mmHg(95%信頼区間[CI]:-5.8~-1.2、p=0.0029)、遠隔モニタリング群は-4.7mmHg(-7.0~-2.4、p<0.0001)であった。 自己モニタリング群と遠隔モニタリング群との間には、有意な差を認めなかった(AMD:-1.2mmHg、95%CI:-3.5~1.2、p=0.3219)。多重代入を含む感度分析でも、同様の結果が得られた。 6ヵ月時の平均収縮期血圧は、自己モニタリング群が140.4(SD 15.7)mmHgと、通常治療群の142.5(15.4)mmHgとの間に差はなかった(AMD:-2.1、95%CI:-4.3~0.1、p=0.0584)が、遠隔モニタリング群は139.0(16.8)mmHgであり、通常治療群に比べ有意な改善が認められた(-3.7、-5.9~-1.5、p=0.0012)。 有害事象の発生状況は3群で類似しており、不安感にも差を認めなかった。心血管イベント(初発心房細動、狭心症、心筋梗塞、冠動脈バイパス術/血管形成術、脳卒中、末梢血管疾患、心不全)は、自己モニタリング群が12例、遠隔モニタリング群が11例、通常治療群は9例にみられた。 著者は、「自己モニタリングは、それを望むすべての高血圧患者の血圧管理法として、プライマリケアにおいて推奨可能であり、理想的には、遠隔モニタリングシステムを組み込んだ有用性の高い家庭血圧計の供給が求められる」としている。

179.

ORBITA試験:冷静な判断を求む(解説:野間重孝氏、下地顕一郎氏)-800

 COURAGE試験において安定狭心症に対するPCIは、薬物療法に比してMIや死亡を減らすことができないことが示され、現在では症状の改善を主目的として施行されている。そこで狭心症状という主観的なアウトカムが、PCIのプラセボ効果による修飾を受けているのではないかとの設問を立て、PCIのプラセボ手術(sham operationといった方が一般的か)を用いてこれを検証したところ、PCIは症状の改善すら薬物療法に対しての優位性を示せなかったというのが本論文の結論であった。倫理的な問題は後述するとして、手法としては完全であった点では評価されなければならないと思われる。 しかし、一方で懸念されるのは、この結果が拡大解釈されることである。Lancet同号のeditorialでは「安定狭心症に対するPCIの息の根をとめるか?」という激しいタイトルで、「薬物療法に対して不応な症例ですらPCIは無益」で「すべてのguidelineでPCIを格下げすべきである」と感情的とさえいえる論評が加えられているが、本試験の筆頭著者であるAl-Lameeさえもこれには異論を唱えている。注意しなければならないのは以下の2点であると考える。 まず挙げられなければならない点は、RCTの常としてリアルワールドを反映していないということである。本論文ではmedical therapyとして週1~3の電話相談、しかも家庭血圧と家庭心拍を密にモニターしているが、実臨床では実現不可能であろう。この点は筆者も十分理解しており、「労作性狭心症に対するPCIを絶対にするなという意味ではない。すべての患者が何剤もの抗狭心症薬を永遠に内服することをよしとするわけではない」、「リスクの低いPCI手技をして薬剤を減らすことを望む」患者にはPCIが治療選択となることを述べている点は看過されてはならないと思う。 もう1点は、重症虚血の症例にまでこの結果を適用してはならないということである。COURAGE試験のサブ解析でも、SPECT上のischemic burdenを5%以上減じればMIや死亡を減らすことができることと、PCI群でischemic burdenの有意な減少が得られたことを報告している。先行研究において、血行再建によってもたらされる利益が薬物療法を上回る閾値は10%以上の重症虚血であったこと、さらにLMT含む重症虚血が除外されているCOURAGE試験での治療前値が8%台であったことを考慮すると、COURAGE試験の結果を重症虚血に安易に拡大解釈することは危険なのは明らかであろう。同様に重症虚血を除外している本試験の結果は、もちろん重症虚血例に対して拡大解釈することはできない。現に本試験では、約1/3の症例でFFR/iFRで虚血が証明されていない。ちなみに本試験でも、FFR/iFRやドブタミン負荷心エコーではPCI群で虚血の改善をみている。すなわち現時点で“軽症の虚血においては”、血行再建は生命予後にも症状の緩和にも明らかな優位性を見いだせないということ以上の解釈はできず、すべての安定狭心症に対して血行再建を行うことが無益だという解釈は誤りである。 さらに、論文評として議論しておかなければならないのが、プラセボ手術の問題であろう。このような研究法(観血的な偽治療)が初めて試されたのは、腎動脈焼灼術による血圧変化を検討したrandomized studyにおいてだった。この時は、シースは挿入するがそれ以降の積極的な操作は何も行わないというものだったのだが、賛否両論が沸き起こったのを記憶している。今回はpressure wireを挿入するなど本格的手技に準ずる手技が行われており、しかも4例で合併症が、3例で大出血がみられたのである。安全性に問題のあるプラセボ治療は、プラセボ治療とはいえない。関係者の再考を促したいとともに、このような対照の取り方が、どのような目的であれ、無制限に拡大していくことを憂慮するものである。 ただし、本試験から虚心に学ぶべきことも多い。当然だが術前の虚血評価と薬物の最適化は重要であること、ましてangiographicにも中等度狭窄に対してのPCIは厳に非難されるべきものであること(実際、業績が欲しくて不必要なPCIが行われているケースが多々みられることは、残念ながら事実)、PCIのリスクがあまりに高い軽症の虚血の患者には厳重な薬物療法の選択肢も十分ありうることなどである。一方で、重症虚血の患者に対してひとたびPCIによる血行再建の選択をした際には、虚血を残すことなく解除することが絶対の前提であることは確認しておきたい。そのためにはCTOを含めた複雑病変に対する治療技術、angioguideのみでは見落としがちな病変をimaging device、FFR/iFRを駆使して完全血行再建を行うstrategyの構築が重要で、これが不可能なのであればCABGを選択して完全血行再建を目指すべきである。

180.

カナキヌマブ投与によるCRP低下と心血管イベントの関連:CANTOS無作為化比較試験の2次解析(解説:今井 靖 氏)-796

 カナキヌマブは、インターロイキン-1β(IL1β)に対するモノクローナル抗体であるが、CANTOS試験(Canakinumab Anti-Inflammatory Thrombosis Outcomes Study)はこのカナキヌマブ(3用量[50mg、150mg、300mg])およびプラセボを割り付け3ヵ月に1回皮下注射を行う無作為化比較対照試験で、心筋梗塞の既往がある炎症性アテローム性動脈硬化症患者に、標準治療(脂質低下治療を含む)に加えて追加投与がなされた。その結果として、主要心血管イベント(MACE[Major Adverse Cardiovascular Event]:心血管死、非致死性心筋梗塞および非致死性脳卒中からなる複合エンドポイント)の発現リスクがプラセボ群に比べ有意に15%低下することが示され(150mg、300mg投与群で有効性が証明された)、昨年秋に大いに話題となった。またそのような心血管イベント抑制のみならず、事前に規定された盲検化での悪性腫瘍に関する安全性評価において、カナキヌマブ投与患者ではプラセボ群に比較し肺がんによる死亡率を77%、発症率を67%低下させたと報告されており、炎症低下抑制薬が動脈硬化性疾患、がん治療に導入される可能性・将来性を示した画期的な研究といえる。 今回はこのCANTOS試験の2次解析であるが、どのような患者群が治療に最も奏効するのか、また炎症マーカーである高感度CRPの低下が各々の患者の臨床効果と相関するのかを明らかにするために、事前に規定されていた研究を報告するものである。著者らは、カナキヌマブの主要心血管イベント、心血管死亡、全死亡率に対する効果について治療時における高感度CRPに基づいて評価した。また、到達した高感度CRP値に関連する背景因子を補正するために多変量解析モデルを用い、残存する交絡因子の大きさを確認するために多変量感受性解析を行った。追跡期間のメディアンは3.7年であった。患者の基礎背景に大きな相違は認められなかった。しかしながらカナキヌマブに割り付けられ、高感度CRPが2mg/L未満に到達した患者では主要心血管イベントが25%低下した(多変量解析における補正ハザード比=0.75、95%信頼区間:0.66~0.85、p<0.0001)。しかし、高感度CRPが2mg/L以上であった症例では明らかな有効性は示されなかった。同様に高感度CRPが2mg/L未満に到達した患者においては心血管死亡 (補正ハザード比=0.69、95%信頼区間:0.56~0.85、p=0.0004) 、全死亡 (補正ハザード比=0.69、0.58~0.81、p<0.0001)と低下し、両者とも31%のリスク比低下が得られているが、高感度CRPが2mg/L以上であるものでは効果が認められなかった。同様に、用量、交互作用等も考慮に入れた解析において、予定外の冠動脈血行再建を要する不安定狭心症による入院のような事前に規定されていた副次エンドポイント、高感度CRPのメディアン、高感度CRPの50%以上の低下(半減)、高感度CRPのメディアン%の低下においても臨床的有意差が確認された。 この研究から、カナキヌマブの単回投与による高感度CRPの低下度は、繰り返す治療から最大の効果が最も得られる患者を検出する、最もシンプルな方法といえる。また、カナキヌマブにより“炎症が低く抑えられれば抑えられるほどより良い”ということも示された点で意義深い。

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