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令和日本の悲劇【Dr. 中島の 新・徒然草】(534)

五百三十四の段 令和日本の悲劇梅雨が来ない一方、気温はどんどん上がってきました。気が付けば少しでも涼しい場所を求めて移動している自分がいます。出先の駐車場が暑かったら、建物の中とかに避難ですね。さて先日、現代の日本でこんなことが起こるのか、ということに出くわしました。その患者さんは総合診療科で前の医師から引き継いだ70代の男性。3ヵ月に1回、降圧薬やら漢方薬やらを取りに来ています。この人の問題はお金がないということ……らしい。患者「先生、年金生活で苦しいんですわ。ちょっと薬を減らすことはできませんか?」そう言われたら、私も俄然ヤル気が出てきます。そもそも普段から、ポリファーマシーを何とかしたいと思っていたところ。なので「わかりました。ぜひとも薬を減らしましょう!」ということで、まずは何に効いているかわからない漢方を中止することを提案しました。すると……患者「先生、この漢方はぜひ続けたいんです。他の薬でお願いします」そうかな。じゃあ胃薬を止めたらどうですか?そう提案したのですが。患者「胃薬も続けたいんです」そう抵抗されました。仕方ないので、降圧薬を工夫して終わりました。まあ折に触れて少しずつ減らすよう提案するといたしましょう。ところがその後に、思いがけないことを言われたわけです。患者「実は○○科で調べてもらっていた病気がありましてね」聞けば、悪性腫瘍の疑いでフォローされていたものがあったそうです。患者「3年前に自分で勝手に行くのをやめていたんで、また調べてもらえないかと思いまして」中島「何で行くのをやめたんですか?」患者「お金の問題で」すでに○○科の担当医は異動でいなくなっています。で、即座に画像検査をしてみました。すると私のような素人がみても進行しています!当然のことながら、画像検査の結果を踏まえて○○科に紹介しました。後日、○○科のカルテを見てみると……ちゃんと受診はしてくれたのですが、なんとこの方、お金がないからといってそれ以上の検査も治療も拒否して帰ってしまっていたのです。いやいやお金を掛けるべきは漢方や胃薬ではなくて悪性腫瘍の治療でしょう、と誰もが考えるはず。でも、ご本人はそうは思わなかったみたいですね。で、○○科は終診となり、私の外来には通院し続けることになりました。診察のたびに「今ならまだ間に合いますよ」とか「お金のことなら医療相談室に行ってみてはどうですか」とかアドバイスはしようと思っています。でも、お金がないからといって治療を諦めるというのも悲しい話です。そんなものはテレビドラマの架空の話だと思っていました。実際に行くかどうかはご本人の意思になりますが、先に医療相談室に声だけは掛けておこうと考えています。そうそう。英会話練習の時にこの患者さんの役になりきってロールプレイをやってみると、医師役をしていたChatGPTに「治療が優先じゃないか。病院には経済的な問題を担当する専門家がいるから余計な心配はするな」と叱られてしまいました。まあ、普通はそう言われますよね。ということで、何かと考えさせられた外来診療でした。また新たな展開があったら報告させていただきます。最後に1句梅雨来たる 金はなくとも 治療先

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手足の先が冷えて困ります【漢方カンファレンス】第3回

手足の先が冷えて困ります以下の症例で考えられる処方をお答えください。(経過の項の「???」にあてはまる漢方薬を考えてみましょう)【今回の症例】40代女性主訴冷え、頭痛既往38歳:左卵巣嚢胞摘出術、アレルギー性鼻炎病歴幼少時にはしもやけができていた。10 年くらい前から手足先の冷えを自覚するようになった。冬には手足先が冷えて夜になかなか寝つけない。また、しばしば頭痛があり、その度に鎮痛剤を飲んでいる。X年11月に当科を受診。現症身長155cm、体重60.5kg。体温36.9℃、血圧128/77mmHg、脈拍66回/分 整。心音・呼吸音ともに異常なく、両下肢浮腫なし・筋力低下なし、後脛骨動脈・足背動脈の触知良好。経過初診時「???」エキス3包 分3で治療を開始。(解答は本ページ下部をチェック!)3週間後足冷えは少しよくなった。6週間後寒くなったが夜間の足の冷えが少ない。頭痛の頻度も減った。問診・診察漢方医は以下に示す漢方診療のポイントに基づいて、今回の症例を以下のように考えます。【漢方診療のポイント】(1)病態は寒が主体(陰証)か、熱が主体(陽証)か?(冷えがあるか、温まると症状は改善するか、倦怠感は強いか、など)(2)虚実はどうか(症状の程度、脈・腹の力)(3)気血水の異常を考える(4)主症状や病名などのキーワードを手掛かりに絞り込む【問診】<冷えの確認>寒がりですか? 暑がりですか? 体のどの部分が冷えますか?寒がりです。手足の先が冷えます。それ以外に腰や背中などに冷えを感じることはないですか?そのあたりでは感じません。<温冷刺激に対する反応を確認>入浴で長くお湯に浸かるのが好きですか? 冷房は好きですか?熱いお風呂に入るのが好きですが長くは入りません。冷房は好きでも嫌いでもありません。飲み物は温かい物と冷たい物のどちらを好みますか?いまは寒い時期なので温かい物を飲むことが多いです。<ほかの随伴症状を確認>ほかに困っている症状はありますか?しばしば頭痛があります。またときどき、腰痛で困ることもあります。倦怠感があったり、疲れやすかったりしませんか?毎日、忙しいですが基本的には元気なほうです。頭痛はどんなときに悪くなりますか?月経や天気と関係はありますか?下肢が冷えてくると頭が痛くなることが多い気がします。天気との関連はありませんが、月経前に頭痛が多いです。寒くなるとしもやけができたり、手指の色が変わったりしませんか? 下肢がむくみますか? 月経困難はありますか?子供のころはしもやけができていました。冬に冷たい水を触ると手指が白くなります。むくみはありません。月経時の痛みで鎮痛剤が必要です。【診察】顔色は正常で、四肢末端を触ると冷感があった。また、脈診では表在性に触れず、指を深く押し込んだところで触れる沈で、反発力の弱い脈(脈:沈、弱)、腹力は中等度より軟弱であった。カンファレンス寒がりですが、自覚症状と触診では手足末端に冷えがありますね。ただし、入浴時間は長くない、強い倦怠感もありません。本症例は真の冷えである陰証ではなさそうですね。素晴らしい!全身の冷えタイプは、入浴が長い、冷房が嫌いなどに加え、横になりたいなどの強い倦怠感を伴うことが多い傾向にあります。本症例の陰陽の判断は難しいですが、いわゆる本格的な陰証ではないことは判断できます。冷えの部位からは四肢末端型の冷えと考えられそうです。漢方診療のポイント(2)の虚実の判定ですが、今回は脈の反発力が弱く、腹力も軟弱ですから虚証になります。四肢末端が中心の冷えは生体内の赤い物質「血」が隅々まで巡らない病態「瘀血」と考えて治療をするよ。下肢が冷えてくると頭痛がするというのも何かのヒントになるのでしょうか?下肢が冷えると悪化するということは寒を示唆する所見になります。本症例では、四肢末端の血の流れを改善させる冷えの治療が必要と考えます。いいところに気づいたね。漢方では症状の増悪・寛解因子を確認することが大切だよ。気温の低下で悪化する場合や入浴で温めると楽になる場合は冷えの存在を考えるし、雨天や低気圧で悪化する症状は気血水で水の異常、月経と関連する症状は血の異常と考えることができるんだ。本症例の頭痛は、下肢が冷えると悪くなる、天候ではなく、月経に関連するということで漢方診療のポイント(3)の気血水の異常は血の異常(瘀血)と考えるのですね。さらに本症例は、頭痛や腰痛、しもやけの既往があり、冷水で手指が白くなることも漢方診療のポイント(4)になります。本症例をまとめると以下のようになります。【漢方診療のポイント】(1)病態は寒が主体(陰証)か、熱が主体(陽証)か?寒がり、手足先が冷える、強い倦怠感はない、下肢が冷えると頭痛が増悪→陰証の傾向はあるが本格的な陰証ではない:四肢末端型の冷えタイプ(2)虚実はどうか脈:弱、腹力:中等度より軟弱→虚証(3)気血水の異常を考える四肢末端が冷える、月経前に頭痛がある、月経困難→瘀血(4)主症状や病名などのキーワードを手掛かりに絞り込む頭痛、腰痛、しもやけ、冷水で手指が白く変色する解答・解説【解答】本症例は、温めて四肢末端の血流を改善させる当帰四逆加呉茱萸生姜湯(とうきしぎゃくかごしゅゆしょうきょうとう)で治療を行いました。【解説】当帰四逆加呉茱萸生姜湯は、手足末端の冷えを使用目標に用いる代表的な漢方薬です。手足末端の冷え以外にも腰痛や頭痛を訴えることが多いです。凍傷やレイノー症状に対する第1選択の漢方薬ともいわれています。構成生薬の当帰(とうき)・桂皮(けいひ)・細辛(さいしん)は末梢血管を拡張して四肢末梢の血行を改善させて、呉茱萸(ごしゅゆ)と生姜(しょうきょう)は内臓を温める働きがあります。また、四肢末端型の冷えで、普段からむくむ傾向があり、月経困難などを伴う場合には当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)が適しています。今回のポイント「冷えの鑑別」の解説漢方で「冷え」といえば寒が主体の陰証が代表的ですが、それ以外の要因でも冷えを生じます。陰証の冷えは、体幹部を中心として全身に冷えが生じることが典型です。そのほかにも下半身は冷えるが上半身はのぼせる冷えのぼせタイプ、手足の先が中心に冷える四肢末端タイプがあります。陰証の冷えの症例に対して適切に温める治療を行うためにまずそれらの冷えタイプを除外する必要があります。【全身の冷えタイプ】全身的に寒が存在する陰証の冷えです。治療は生体を温める熱薬(附子[ぶし]や乾姜[かんきょう]など)を含む漢方薬を用います。【冷えのぼせタイプ】生体を廻る「気」が上方に偏在する(気逆)の病態。足は冷えるが赤ら顔、という冷えのぼせ状態。風呂やコタツなどの温熱刺激では、かえってのぼせが悪化して、足は温まらない。治療には、逆上した気を下方に巡らせる、桂皮を含む漢方薬が適応になります。【四肢末端の冷えタイプ】生体を廻る赤い液体「血」が隅々まで廻らない「瘀血」の病態。治療は当帰という生薬が含まれる当帰芍薬散、当帰四逆加呉茱萸生姜湯などが代表的です。ただし、実際の患者では、以上の3型は単独で出現するとは限らず、多くは複数が合併しています。

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寒がりですか? 体が冷えますか?【漢方カンファレンス】第2回

寒がりですか?体が冷えますか?以下の症例で考えられる処方をお答えください。(経過の項の「???」にあてはまる漢方薬を考えてみましょう)【今回の症例】70代女性主訴冷え症、下肢浮腫既往62歳:胃がん手術病歴胃がんの手術後から下痢をするようになり、冷えを自覚するようになった。また、65歳頃から両下肢の浮腫が出現、とくに外出後に増悪。外出すると両下肢の浮腫が増悪して下腿の筋肉がこわばってカチカチになり、数日間持続する。X年7月にS病院を受診し、心・肝・腎機能、甲状腺機能などの精査を受けたが異常なく、弾性ストッキングや塩分制限の指導を受けたが下肢浮腫は持続した。また、こむら返りもあり、芍薬甘草湯(しゃくやくかんぞうとう)の製剤で治療されたが効果がなかった。漢方治療目的に8月に当科を紹介受診。現症身長148cm、体重39.5kg。体温35.1℃、血圧99/59mmHg、脈拍66回/分 整、呼吸数12回/分。心音・呼吸音ともに異常なく、両下肢浮腫が軽度あり。経過初診時「???」エキス3包 分3で治療を開始。(解答は本ページ下部をチェック!)2週間後便に形が出てきた、こむら返りがなくなった。6週間後胃がん術後から長期間続いていた下痢が改善した。遠出をしたが、下肢の浮腫が増悪しなかった。以後、漢方治療を継続して経過良好である。問診・診察漢方医は以下に示す漢方診療のポイントに基づいて、今回の症例を以下のように考えます。【漢方診療のポイント】(1)病態は寒が主体(陰証)か、熱が主体(陽証)か?(冷えがあるか、温まると症状は改善するか、倦怠感は強いか、など)(2)虚実はどうか(症状の程度、脈・腹の力)(3)気血水の異常を考える(4)主症状や病名などのキーワードを手掛かりに絞り込む【問診】<冷えの確認>寒がりですか?体のどの部分が冷えますか?寒がりです。とくに下肢ですが、体全体が冷えますね。<温冷刺激に対する反応を確認>入浴で長くお湯に浸かるのが好きですか? 冷房は好きですか?はい、お風呂に長く入るのが好きです。冷房は嫌いです。飲み物は温かい物と冷たい物のどちらを好みますか?冷たい物を飲むと下痢が悪化するので夏でもあまり冷たい飲み物は飲みません。<ほかの随伴症状を確認>ほかに困っている症状はありますか?胃の手術後から下痢が始まりました。ほかには、長時間歩くと足がむくみます。倦怠感があったり、疲れやすかったりしませんか?外出するとすぐに疲れて座りたくなります。【診察】顔色は蒼白で、四肢を触ると冷感を感じた。※漢方の診察といえば脈、舌、腹の診察が特有ですが、今回はあえて省略します。しかし、患者の顔色や歩行の様子を診る(視診)、また実際に四肢や患部を触診して他覚的な温度を確認することも漢方治療では重要な診察です。カンファレンスまずは陰陽の判断が出発点ということですね。本症例では、主訴が冷え症なので陰証でよさそうです。冷えが主訴だからといって陰証とは限りませんよ。きちんと問診、診察をして総合的に陰陽の判断を行うことが大事です。漢方医の問診に注目してほしい。陰陽の判断のために、冷えの部位や温冷刺激に対する生体の反応を詳しく聞く必要があるんだ。本症例では冷えが体全体にあって、長湯が好きで、冷房や冷たい飲み物を好まないといった陰証の特徴が揃っているといえるよ。倦怠感を質問しているのはなぜですか?冷えの程度が強くなり全身に及んだ場合を陰証のなかでも、陰証の真っ只中である少陰病(しょういんびょう)と診断します。少陰病では生体の反応力の低下により、座りたい、横になりたいなどの倦怠感を伴います。そのため倦怠感の有無も冷えを確認するために着目する必要があります。本症例では、外出するとすぐに座りたくなるとあるので少陰病と考えてもよさそうです。また虚実に関しては、少陰病では闘病反応は乏しいため、虚実はすべて虚証になります。冷えと倦怠感の関係、少陰病は虚証であることがわかりました。実際に患者の腹部や四肢を触診して他覚的な冷感を確認することも大事だよ。私の診察では必ず靴下を脱いでもらって四肢の冷えを確認してるよ。下肢の足首から前脛骨部を触診すると、あたかも検者の体温が患者に吸われていくようにひんやりと感じる場合は、附子(ぶし)を含む漢方薬の適応になるといわれているよ1)。附子はトリカブトの根を減毒処理したもので、代表的な温める作用が強い生薬なんだ。陰証では寒があることから温める治療を行うのですね。本症例は冷え以外にも、下痢や浮腫などがありますね。いいところに気づきましたね。下痢や浮腫は漢方診療のポイント(3)の気血水の異常として、漢方医学的な水分バランスの異常である「水毒」と判断できます。本症例をまとめると以下のようになります。【漢方診療のポイント】(1)病態は寒が主体(陰証)か、熱が主体(陽証)か?体が冷える、冷房が嫌い、倦怠感→陰証(少陰病)(2)虚実はどうか少陰病は実証はなく虚証となる(脈と腹の診療は今回は省略)(3)気血水の異常を考える下痢、浮腫→水毒(4)主症状や病名などのキーワードを手掛かりに絞り込む冷え、下痢、浮腫、倦怠感解答・解説【解答】本症例は、陰証で、水毒を治療する真武湯(しんぶとう)で治療を行いました。【解説】真武湯は、陰証の葛根湯(かっこんとう)ともいわれ、陰証の代表的な漢方薬です。応用範囲の広い漢方薬で、新陳代謝の低下と胃腸機能の低下から生じる倦怠感、下痢、めまい、浮腫などのさまざまな症状に対して活用されます。真武湯は5つの生薬から構成されます(茯苓[ぶくりょう]、朮[じゅつ]、芍薬[しゃくやく]、生姜[しょうきょう]、附子)。茯苓と朮は水分代謝をよくして、尿量を増やして浮腫を改善します。附子や生姜は温めて冷えを改善させ、新陳代謝を活発にします。今回のポイント「陰陽」の解説漢方治療では、陰陽が一番基本的な考え方であり、診断の出発点です。生体に外来因子が加わった際の生体反応の形式であり、熱性の病態を「陽証」、寒性の病態を「陰証」の2型で捉えます。陽証では活動性、発揚性、陰証では非活動性、沈降性などの特徴があります。また多くの病気は、基本的には陽証で始まり、陰証に向かって進んでいきます。そのため、急性疾患では陽証であることが多く、虚弱者、高齢者、慢性疾患など、長期にわたる疾患では新陳代謝の低下などから冷えを伴って陰証になることが多い傾向にあります。陰陽の判定は、暑がり・寒がり、薄着・厚着の傾向、冷水・温かい湯茶を好む、長湯ができる・できない、冷房が好き・嫌い、症状が温まると改善する・冷えると悪化するなどの問診や、脈の浮沈、顔色(赤ら顔・顔面蒼白)、体や患部の熱感・冷感などの診察により総合的に判断します。陽証と陰証はさらに3つずつの病期に分類され、六病位(ろくびょうい)とよばれます。参考1)寺澤捷年, 花輪壽彦 編. 漢方診療二頁の秘訣. 冷えの診察法. 金原出版;2004:p.86-87.

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漢方診療のポイント【漢方カンファレンス】第1回

漢方診療のポイント本連載で最も習得していただきたいことがこの漢方診療のポイントです。漢方の勉強を始めた初期の段階でしばしば陥りがちなことには、キーワードに飛びついて漢方薬を選択してしまうことが挙げられます。また、勉強して知識がついてくると、さまざまな異常が目についてしまい、どこから手をつけてよいかわからなくなってしまうこともあります。漢方診療で迷子になってしまわないように、症例を考える際の道標というべき漢方処方のプロセスがこの漢方診療のポイントです。ここでは下の表に沿って漢方診療のポイントを解説します。【漢方特有の問診・診察】問診では、主訴や経過などは現代医学と同じですが、患者の全身状態を陰陽や気血水などの漢方医学的概念に翻訳するため、温冷刺激に対する反応、食欲、飲水(口渇)、排便、排尿、月経(女性)、睡眠などを確認します。また、漢方特有の診察として、脈診、舌診、腹診があります。漢方診療のポイント(1)病態は寒が主体(陰証)か、熱が主体(陽証)か?(冷えがあるか、温まると症状は改善するか、倦怠感は強いか、など)(2)虚実はどうか(症状の程度、脈・腹の力)(3)気血水の異常を考える(4)主症状や病名などのキーワードを手掛かりに絞り込む1. 病態は寒が主体(陰証)か、熱が主体(陽証)か?最初に陰陽の判断を行い、可能であれば六病位(陽証:太陽病、少陽病、陽明病、陰証:太陰病、少陰病、厥陰病)の判定をします。急性疾患では六病位で考えやすいのですが、慢性疾患では陰と陽が入り交じって判定しづらい場合もあります。陰陽の判断が難しければいったん保留として、次の気血水の異常から考えることもあります。寒が主体(陰証)寒がり、入浴で温まると心地よい、入浴で症状が軽減する、熱い風呂に長く入る、冷房が苦手、厚着である、冷えの自覚がある、横になりたい程の強い倦怠感がある熱が主体(陽証)暑がり、入浴時間は短い、冷房を好む、冷ますと心地よい【注意点】悪寒は太陽病のサイン全身の冷えと強い倦怠感があれば少陰病〜厥陰病を考える冷えの自覚がある場合は冷えの部位を確認する(全身型:陰証、四肢末端型:瘀血、冷えのぼせ型:気逆)2. 虚実はどうか虚実の判定は、基本的には脈や腹壁の反発力の強弱によって行います。虚→脈が弱、腹力が軟弱実→脈が強、腹力が充実局所に着目した場合、激しい疼痛、局所反応が大きい熱感や腫脹が目立つ場合が実証太陽病では発汗傾向の有無も虚実の判定に有用(自汗あり:虚、自汗なし:実)3. 気血水の異常を考える血→症状と月経との関連は?瘀血:四肢末端の冷え、舌暗赤色、舌下静脈の怒張、臍傍の圧痛血虚:こむら返り、脱毛、集中力の低下、皮膚の乾燥水毒→症状と天候、低気圧との関連は?頭痛、めまい、心下の振水音、浮腫気気虚:倦怠感、疲れやすい、食欲不振、食後の眠気気欝:抑うつ傾向、のどのつまり、膨満感気逆:冷えのぼせ、動悸、驚きやすい腎虚→下肢の冷え・痛み、腰痛、夜間頻尿、易疲労感4. 主症状や病名などのキーワードを手掛かりに絞り込む以下に例を示します。肩こり→葛根湯(かっこんとう)食欲不振→六君子湯(りっくんしとう)、人参湯(にんじんとう)頭痛→五苓散(ごれいさん)、呉茱萸湯(ごしゅゆとう)更年期障害→加味逍遙散(かみしょうようさん)、当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)次回以降は症例から漢方診療のポイント(表)に沿って処方決定をしていますので、是非この流れを身につけてください。

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便通異常症 慢性便秘(12)薬物療法:漢方【一目でわかる診療ビフォーアフター】Q110

便通異常症 慢性便秘(12)薬物療法:漢方Q110慢性便秘で困っている42歳女性。とくに既往がなく、器質的な原因もないようだ。下剤を希望されているが、こだわりが強く西洋薬ではなく漢方薬を希望されている。腹部診察時、臍部に手を当てると冷感が強い。何を処方しようか?

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心不全患者と漢方薬の意外な親和性【心不全診療Up to Date】第11回

第11回 心不全患者と漢方薬の意外な親和性Key Points西洋薬のみでは困ることが多い心不全周辺症状との戦い意外とある! 今日からの心不全診療に活かせる漢方薬とそのエビデンスその1 西洋薬のみでは困ることが多い心不全周辺症状との戦いわが国における心不全患者数は増加の一途を辿っており、とくに高齢心不全患者の増加が著しいことは言わずもがなであろう。そして、その多くが、高血圧や心房細動、貧血、鉄欠乏といった併存症を複数有することも明らかとなっている。つまり、高齢心不全診療はMultimorbidity(多疾患併存)時代に突入しており、単に心臓だけを診ていてもうまくいかないことが少なくない1)。日本心不全学会ガイドライン委員会による『高齢心不全患者の治療に関するステートメント』では、「生命予後延長を目的とした薬物治療より生活の質(QOL)の改善を優先するべき場合が少なくない」とされており、高齢心不全ではとくに「QOLをいかに改善できるか」も重要なテーマとなっている。では、その高齢心不全患者において、QOLを低下させている原因は何であろうか。もちろん心不全による息切れなどの症状もあるが、それ以外にも、筋力低下、食思不振、倦怠感、不安、便秘など実に多くの心不全周辺症状もQOLを低下させる大きな原因となっている。しかしながら、これらの症状に対して、いわゆる“西洋薬”のみでは対処に困ることも少なくない。そこで、覚えておいて損がないのが、漢方薬である。漢方薬と聞くと、『the職人技』というようなイメージをお持ちの方もおられると思うが、実は先人の知恵が集結した未来に残すべき気軽に処方できる漢方薬も意外と多く、ここではわかりやすく簡略化した概念を少しだけ説明する。漢方の概念は単純な三大法則から成り立っており、人間の身体活動を行うものを気、血、水(津液)、精とし、これらが体内のさまざまな部分にあり、そしてそれが体内を巡ることで、生理活動を行うと考えられている。それぞれが何を意味するかについては図1をご覧いただきたい。(図1)画像を拡大するでは、どのように病気が起こり、どのようにそれを治療すると先人が考えたか、それを単純にまとめたものが図2である。(図2)画像を拡大するこのように、気・血・水のバランスが崩れると病気になると考えられ、心不全患者に多いとされているのが、気虚、血虚、瘀血、水毒(水滞)であり、その定義を簡単な現代用語で図3にまとめた。(図3)画像を拡大するそう、この図を見ると、心不全患者には、浮腫を起こす水毒だけでなく、倦怠感を引き起こす気虚、便秘を引き起こす瘀血など、心不全周辺症状にいかに対処するかについて、漢方の世界では昔からおのずと考えられていたのではないかと個人的には思うわけである。では、具体的に今日から役立つ漢方処方には何があるか、説明していきたい。その2 意外とある!今日からの心不全診療に活かせる漢方薬とそのエビデンス今日からの心不全診療に活かせる漢方薬、それをまとめたものが、図4である2)。(図4)画像を拡大するまずは即効性のある処方から説明していこう。漢方といえばすぐには効かないという印象があるかもしれないが、実は即効性のある処方も多くある。たとえば、高齢者の便秘に対してよく用いられる麻子仁丸がそれに当たる。また効果のある患者(レスポンダー)の割合も多く、高齢のATTR心アミロイドーシス患者の難治性便秘に対して有効で即効性があったという報告もある3)。なお、心不全患者でもよく経験するこむら返りに対して芍薬甘草湯が有名であるが、この処方には甘草が多く含まれており、定期内服には向かず、繰り返す場合は、効果の面からも疎経活血湯がお薦めである(眠前1~2包)4)。また、心不全患者のサルコペニア、身体的フレイルに対しては、牛車腎気丸、人参養栄湯が有効な場面があり、たとえば人参養栄湯については、高齢者に対する握力や骨格筋への良い影響があったという報告もある5)。心不全患者の食思不振、倦怠感に対しては、グレリン(食欲亢進ホルモン)の分泌抑制阻害作用が報告されている六君子湯6)、補中益気湯、人参養栄湯が、そして不安、抑うつ、不眠などの精神的フレイルに対しては、帰脾湯、加味帰脾湯がまず選択されることが多い。これらの処方における基礎研究なども実は数多くあり、詳細は参考文献2を参照にされたい。そして、心不全患者で最も多い症状がうっ血であり、それに対しても漢方薬が意外と役立つことがある。うっ血改善のためにはループ利尿薬をまず用いるが、慢性的に使用することで、RAAS系や交感神経系の亢進を来し、腎機能障害、電解質異常、脱水などの副作用もよく経験する。そんな利尿薬のデメリットを補完するものとして漢方薬の可能性が最近注目されている。うっ血改善目的によく使用する漢方は図4の通りであるが、今回は研究面でもデータの多い五苓散を取り上げる。五苓散の歴史は古く、約1,800年前に成立した漢方の古典にも記載されている薬剤で、水の偏りを正す水分バランス調整薬として経験的に使用されてきた。五苓散のユニークな特徴としては、全身が浮腫傾向にあるときは尿量を増加させるが、脱水状態では尿量に影響を与えないとされているため7)、心不全入院だけでなく、高齢心不全患者でときどき経験する脱水による入院、腎機能障害などが軽減できる可能性が示唆され、その結果として医療費の軽減効果も期待される。五苓散は、脳外科領域で慢性硬膜下血腫に対する穿頭洗浄術による血腫除去後の血腫再発予防を目的として、経験的に使用されることも多い。そのDPCデータベースを用いた研究において入院医療費を比較した結果、五苓散投与群のほうが非投与群と比較して有意に低かったという報告がある8)。五苓散の心不全患者への実臨床での有用性についても、症例報告、ケースシリーズ、症例対照研究などによる報告がいくつかある2)。これらの結果から、心不全患者において五苓散が有用な症例が存在することは経験的にわかっているが、西洋薬のように大規模RCTで検証されたことはなく、そもそも漢方エキス製剤の有用性を検証した大規模RCTは過去に一度も実施されていない。そこへ一石を投じる試験、GOREISAN-HF trialが現在わが国で進行中であり、最後に紹介したい。この試験は、うっ血性心不全患者を対象とし、従来治療に五苓散を追加する新たなうっ血戦略の効果を検証する大規模RCTである9)。目標症例数は2,000例以上で、現在全国71施設にて進行中であり、この研究から多くの知見が得られるものと期待される。循環器領域は、あらゆる領域の中でとくにエビデンスが豊富で、根拠に基づいた診療を実践している領域である。今後は、最新の人工知能技術なども駆使しながら、さらに研究が進み、西洋医学、東洋医学のいいとこ取りをして、患者さんのQOLがより向上することを切に願う。1)Forman DE, et al. J Am Coll Cardiol. 2018;71:2149-2161.2)Yaku H, et al. J Cardiol. 2022;80:306-312.3)Imamura T, et al. J Cardiol Cases. 2022;25:34-36.4)土倉 潤一郎ほか. 再発性こむら返りに疎経活血湯を使用した33例の検討. 日本東洋医学雑誌. 2017;68:40-46.5)Sakisaka N, et al. Front Nutr. 2018;5:73.6)Takeda H, et al. Gastroenterology. 2008;134:2004-2013.7)Ohnishi N, et al. Journal of Traditional Medicines. 2000;17:131-136.8)Yasunaga H, et al. Evid Based Complement Alternat Med. 2015;2015:817616.9)Yaku H, et al. Am Heart J. 2023;260:18-25.参考1)Kracie:漢方セラピー2)TSUMURA MEDICAL SITE 「心不全と栄養~体に優しく、バランスを整える~」

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従来の薬剤治療up dateと新規治療薬の位置付け【心不全診療Up to Date】第2回

第2回 従来の薬剤治療up dateと新規治療薬の位置付けKey Pointsエビデンスが確立している心不全薬物治療をしっかり理解しよう!1)生命予後改善薬を導入、増量する努力が十分にされているか?2)うっ血が十分に解除されているか?3)服薬アドヒアランスの良好な維持のための努力が十分にされているか?はじめに心不全はあらゆる疾患の中で最も再入院率が高く1)、入院回数が多いほど予後不良といわれている2)。また5年生存率はがんと同等との報告もあり3)、それらをできる限り抑制するためには、診療ガイドラインに準じた標準的心不全治療(guideline-directed medical therapy:GDMT)の実施が極めて重要となる4)。なぜこれから紹介する薬剤がGDMTの一員になることができたのか、その根拠までさかのぼり、現時点での慢性心不全の至適薬物療法についてまとめていきたい。なお、現在あるGDMTに対するエビデンスはすべて収縮能が低下した心不全Heart Failure with reduced Ejection Fraction(HFrEF:LVEF<40%)に対するものであり、本稿では基本的にはHFrEFについてのエビデンスをまとめる。 従来の薬剤治療のエビデンスを整理!第1回で記載したとおり、慢性心不全に対する投薬は大きく2つに分類される。1)生命予後改善のための治療レニン–アンジオテンシン–アルドステロン系(RAAS)阻害薬(ACE阻害薬/ARB、MR拮抗薬)、β遮断薬、アンジオテンシン受容体-ネプリライシン阻害薬(ARNI)、SGLT2阻害薬、ベルイシグアト、イバブラジン2)症状改善のための治療利尿薬、利水剤(五苓散、木防已湯、牛車腎気丸など)その他、併存疾患(高血圧、冠動脈疾患、心房細動など)に対する治療やリスクファクター管理なども重要であるが、今回は上記の2つについて詳しく解説していく。1. RAAS阻害薬(ACE阻害薬/ARB、MR拮抗薬)1)ACE阻害薬、ARB(ACE阻害薬≧ARB)【適応】ACE阻害薬のHFrEF患者に対する生命予後および心血管イベント改善効果は、1980年代後半に報告されたCONSENSUSをはじめ、SOLVDなどの大規模臨床試験の結果により、証明されている5,6)。無症候性のHFrEF患者に対しても心不全入院を抑制し、生命予後改善効果があることが証明されており7)、症状の有無に関わらず、すべてのHFrEF患者に投与されるべき薬剤である。ARBについては、ACE阻害薬に対する優位性はない8–11)。ブラジキニンを増加させないため、空咳がなく、ACE阻害薬に忍容性のない症例では、プラセボに対して予後改善効果があることが報告されており12)、そのような症例には適応となる。【目標用量】ATLAS試験で高用量のACE阻害薬の方が低用量より心不全再入院を有意に減らすということが報告され(死亡率は改善しない)13)、ARBについても、HEAAL試験で同様のことが示された14)。では、腎機能障害などの副作用で最大用量にしたくてもできない症例の予後は、最大用量にできた群と比較してどうなのか。高齢化が進み続けている実臨床ではそのような状況に遭遇することが多い。ACE阻害薬についてはそれに対する答えを示した論文があり、その2群間において、死亡率に有意差は認めず、心不全再入院等も有意差を認めなかった15)。つまり、最大”許容”用量を投与すれば、その用量に関係なく心血管イベントに差はないということである。【注意点】ACE阻害薬には腎排泄性のものが多く、慢性腎臓病患者では注意が必要である。ACE阻害薬/ARB投与開始後のクレアチニン値の上昇率が大きければ大きいほど、段階的に末期腎不全・心筋梗塞・心不全といった心腎イベントや死亡のリスクが増加する傾向が認められるという報告もあり、腎機能を意識してフォローすることが重要である16)。なお、ACE阻害薬とARBの併用については、心不全入院抑制効果を報告した研究もあるが9,17)、生存率を改善することなく、腎機能障害などを増加させることが報告されており11,18)、お勧めしない。2)MR拮抗薬(スピロノラクトン、エプレレノン)【適応】スピロノラクトンは、RALES試験にて重症心不全に対する予後改善効果(死亡・心不全入院減少)が示された19)。エプレレノンは、心筋梗塞後の重症心不全に対する予後改善効果が示され20)、またACE阻害薬/ARBとβ遮断薬が85%以上に投与されている比較的軽症の慢性心不全に対しても予後改善効果が認められた21)。以上より、ACE阻害薬/ARBとβ遮断薬を最大許容用量投与するも心不全症状が残るすべてのHFrEF患者に対して投与が推奨されている。【目標用量】上記の結果より、スピロノラクトンは50mg、エプレレノンも50mgが目標用量とされているが、用量依存的な効果があるかについては証明されていない。なお、EMPHASIS-HF試験のプロトコールに、具体的なエプレレノンの投与方法が記載されているので、参照されたい21)。【注意点】高カリウム血症には最大限の注意が必要であり、RALES試験の結果発表後、スピロノラクトンの処方率が急激に増加し、高カリウム血症による合併症および死亡も増加したという報告もあるくらいである22)。血清K値と腎機能は定期的に確認すべきである。ただ近年新たな高カリウム血症改善薬(ジルコニウムシクロケイ酸ナトリウム水和物)が発売されたこともあり、過度に高カリウム血症を恐れる必要はなく、できる限り予後改善薬を継続する姿勢が重要と考えられる。またRALES試験でスピロノラクトンは女性化乳房あるいは乳房痛が10%の男性に認められ19)、実臨床でも経験されている先生は多いかと思う。その場合は、エプレレノンへ変更するとよい(鉱質コルチコイド受容体に選択性が高いのでそのような副作用はない)。2. β遮断薬(カルベジロール、ビソプロロール)【適応】β遮断薬はWaagsteinらが1975年に著効例7例を報告して以来(その時は誰も信用しなかった)、20年の時を経て、U.S. Carvedilol、MERIT−HF、CIBIS II、COPERNICUSなどの大規模臨床試験の結果が次々と報告され、30~40%の死亡リスク減少率を示し、重症度や症状の有無によらずすべての慢性心不全での有効性が確立された薬剤である23–26)。日本で処方できるエビデンスのある薬剤は、カルベジロールとビソプロロールだけである。カルベジロールとビソプロロールを比較した研究もあるが、死亡率に有意差は認めなかった27)。なお、慢性心不全治療時のACE阻害薬とβ遮断薬どちらの先行投与でも差はないとされている28)。【目標用量】用量依存的に予後改善効果があると考えられており、日本人ではカルベジロールであれば20mg29)、ビソプロロールであれば5mgが目標用量とされているが、海外ではカルベジロールであれば、1mg/kgまで増量することが推奨されている。【注意点】うっ血が十分に解除されていない状況で通常量を投与すると心不全の状態がかえって悪化することがあるため、少量から開始すべきである。そして、心不全の増悪や徐脈の出現等に注意しつつ、1~2週間ごとに漸増していく。心不全が悪化すれば、まずは利尿薬で対応する。反応乏しければβ遮断薬を減量し、状態を立て直す。また徐脈などの副作用を認めても、中止するのではなく、少量でも可能な限り投与を継続することが重要である。3. 利尿薬(ループ利尿薬、サイアザイド系利尿薬、トルバプタン)、利水剤(五苓散など)【適応】心不全で最も多い症状は臓器うっ血によるものであり、浮腫・呼吸困難などのうっ血症状がある患者が利尿薬投与の適応である。ただ、ループ利尿薬は交感神経やRAS系の活性化を起こすことが分かっており、できる限りループ利尿薬を減らした状態でいかにうっ血コントロールをできるかが重要である。そのような状況で、新たなうっ血改善薬として開発されたのがトルバプタンであり、また近年利水剤と呼ばれる漢方薬(五苓散、木防已湯、牛車腎気丸など)もループ利尿薬を減らすための選択肢の1つとして着目されており、心不全への五苓散のうっ血管理に対する有効性を検証する大規模RCTであるGOREISAN-HF試験も現在進行中である。この利水剤については、また別の回で詳しく説明する。【注意点】あくまで予後改善薬を投与した上で使用することが原則。低カリウム血症、低マグネシウム血症、腎機能増悪、脱水には注意が必要である。新規治療薬の位置付け上記の従来治療薬に加えて、近年新たに保険適応となったHFrEF治療薬として、アンジオテンシン受容体-ネプリライシン阻害薬(Angiotensin receptor-neprilysin inhibitor:ARNI)、SGLT2阻害薬(ダバグリフロジン、エンパグリフロジン)、ベルイシグアト、イバブラジンがある。上記で示した薬物療法をHFrEF基本治療薬とするが、効果が不十分な場合にはACE阻害薬/ARBをARNIへ切り替える。さらに、心不全悪化および心血管死のリスク軽減を考慮してSGLT2阻害薬を投与する。第1回でも記載した通り、これら4剤を診断後できるだけ早期から忍容性が得られる範囲でしっかり投与する重要性が叫ばれている。服薬アドヒアランスへの介入は極めて重要!最後に、施設全体のガイドライン遵守率を改めて意識する重要性を強調しておきたい。実際、ガイドライン遵守率が患者の予後と関連していることが指摘されている28)。そして何より、処方しても患者がしっかり内服できていないと意味がない。つまり、内服アドヒアランスが良好に維持されるよう、医療従事者がしっかり説明し(この薬がなぜ必要かなど)、サポートをすることが極めて重要である。このような多職種が介入する心不全の疾病管理プログラムは欧米のガイドラインでもクラスIに位置づけられており、ぜひ皆様には、このGDMTに関する知識をまわりの看護師などに還元し、チーム医療という形でそれが患者へしっかりフィードバックされることを切に願う。1)Jencks SF, et al. N Engl J Med.2009;360:1418-1428.2)Setoguchi S, et al. Am Heart J.2007;154:260-266. 3)Stewart S, et al. Circ Cardiovasc Qual Outcomes.2010;3:573-580.4)McDonagh TA, et al.Eur Heart J. 2022;24:4-131.5)CONSENSUS Trial Study Group. N Engl J Med. 1987;316:1429-1435.6)SOLVD Investigators. N Engl J Med. 1991;325:293-302.7)SOLVD Investigators. N Engl J Med. 1992;327:685-691.8)Pitt B, et al.Lancet.2000;355:1582-1587.9)Cohn JN, et al.N Engl J Med.2001;345:1667-1675.10)Dickstein K, et al. Lancet.2002;360:752-760.11)Pfeffer MA, et al.N Engl J Med. 2003;349:1893-1906.12)Granger CB, et al. Lancet.2003;362:772-776.13)Packer M, et al.Circulation.1999;100:2312-2318.14)Konstam MA, et al. Lancet.2009;374:1840-1848.15)Lam PH, et al.Eur J Heart Fail.. 2018;20:359-369.16)Schmidt M, et al. BMJ.2017;356:j791.17)McMurray JJ, et al.Lancet.2003;362:767-771.18)ONTARGET Investigators. N Engl J Med.2008;358:1547-1559.19)Pitt B, et al. N Engl J Med.1999;341:709-717.20)Pitt B, et al. N Engl J Med.2003;348:1309-1321.21)Zannad F, et al. N Engl J Med.2011;364:11-21.22)Juurlink DN, et al. N Engl J Med.2004;351:543-551.23)Packer M, et al.N Engl J Med.1996;334:1349-1355.24)MERIT-HF Study Group. Lancet. 1999;353:2001-2007.25)Dargie HJ, et al. Lancet.1999;353:9-13.26)Packer M, et al.N Engl J Med.2001;344:1651-1658.27)Düngen HD, et al.Eur J Heart Fail.2011;13:670-680.28)Fonarow GC, et al.Circulation.2011;123:1601-10.29)日本循環器学会 / 日本心不全学会合同ガイドライン「急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)」

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吸入配合剤に併用された漢方【処方まる見えゼミナール(眞弓ゼミ)】

処方まる見えゼミナール(眞弓ゼミ)吸入配合剤に併用された漢方講師:眞弓 久則氏 / 眞弓循環器科クリニック院長動画解説若い女性に柴胡清肝湯が処方されました。併用薬はステロイド・β刺激配合吸入薬とアジスロマイシン。なぜ、この患者にこの薬なのか、眞弓先生こだわりの漢方薬の選択について語ります。

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事例035 加味逍遙散エキスの査定【斬らレセプト シーズン2】

解説不定愁訴を訴えていた64歳男性が更年期障害と診断され、投与された加味逍遙散エキスがC事由(医学的理由による不適当)にて査定となりました。医師は査定事由に思い当たることがないとのことで、査定された理由を調べるために、当該医療機関が使用している加味逍遙散エキスの添付文書をみてみました。効能または効果の欄には、「体質虚弱な婦人で肩がこり、疲れやすく(中略)、時に便秘の傾向がある次の諸症」とあり、諸症の中に更年期障害も含まれていました。傷病名の適用はあると考えましたが、文の前段に「婦人」と表現されています。主に女性に対して使用される漢方薬であって、男性への投与は適用外として判断されたものであろうと推測しました。複数他社の添付文書を参照したところ、同じ加味逍遙散エキスでも男女の区別がない場合もあるなど効能および効果の差が確認できました。男女が異なっていても加味逍遙散エキスは複数社が販売しています。添付文書の証と事例の身体状況が特徴的に一致しており、診断病名も添付文書に表示されていたため、適用があるものと考え、著効があったことを加えて再審査請求をしましたが、原審通りでした。保険診療における医薬品の使用は、療養担当規則第19条に、厚生労働大臣の定める医薬品以外の原則使用禁止が定められています。この表現の中には、医薬品ごとに承認された効能・効果・用法・用量なども含まれます。「など」には、性差や年齢も含まれるとして、規則が厳格に適用されたものと考えられます。薬剤システムとレセプトシステムに、男性への投与時に注意が表示されるように設定変更をして査定対策としました。(※ 販売元社名は割愛しました)

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特発性後天性全身性無汗症〔AIGA:acquired idiopathic generalized anhidrosis〕

1 疾患概要■ 定義発汗を促す環境(高温、多湿)においても発汗がみられないものを無汗症とよぶ。そして、「後天的に明確な原因なく発汗量が低下し、発汗異常以外の自律神経および神経学的異常を伴わない疾患」を特発性後天性全身性無汗症(acquired idiopathic generalized anhidrosis:AIGA)と定義する1)。■ 疫学2011年に国内の大学病院神経内科、皮膚科94施設を対象に行った調査では過去5年間のAIGA患者数は145例であった1)。男性が126例を占め、発症年齢は1~69歳まで幅広いものの、10~40歳代にかけて多くみられた。その後に報告された単施設で結果でもおおむね同様の傾向にある2-4)。また、症例報告のほとんどは本邦からの報告となっている。まれな疾患ではあるが、患者の生活環境によっては無汗に気付かれないこと、後述するようにコリン性蕁麻疹として治療されている例もあり、実際にはより多くの患者がいる可能性がある。しかし、最近ではAIGAの存在が徐々に認知されるようになってきたためか、受診・紹介患者は増えてきている印象もある。■ 病因全身無汗になる病態として次の3つがありうる。(1)交感神経の中の発汗神経の障害(Sudomotor neuropathy)(2)特発性純粋発汗不全(Idiopathic pure sudomotor failure:IPSF)(3)特発性汗腺不全(Sweat gland failure)しかし、臨床経験上(1)(3)はまれであり、またその証明も難しいことから、AIGAの多くが(2)に相当する。(2)の具体的機序としては汗腺分泌部とその周囲のマスト細胞上のアセチルコリン受容体の発現低下が推定されている5)。本病型(IPSF)には減汗性/無汗性コリン性蕁麻疹として主に皮膚科領域から報告されてきたものも含まれる。■ 症状激しい運動や暑熱環境にさらされると無汗による体温上昇のためにほてり感、顔面紅潮、めまい、悪心、動悸などの症状がみられ、容易に熱中症に陥る。手掌や足底、腋窩は障害されにくく、また、前額も発汗が保たれやすい傾向がある。四肢は無汗でも体幹は低汗にとどまっている例もみかける。患者の6~8割程度に発汗誘発時のコリン性蕁麻疹を伴う(IPSF)。明瞭な膨疹が出現せずピリピリとした痛痒さを訴えるだけのこともある。体幹・四肢の無汗のために代償性に生じた顔面の多汗が主訴となることがあり、問診に際して注意が必要となる。■ 予後長期予後に関する大規模な調査はないが生命予後は良い。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)■ 鑑別のステップと検査無汗症の分類を図1に示す6)。先天性・遺伝性には無汗性/低汗性外胚葉形成不全症、先天性無痛無汗症、ファブリー病などがある。一方、後天性には種々の神経疾患、内分泌・代謝異常症、シェーグレン症候群、薬剤性などの要因による続発性のものがある。これらを除いた特発性とせざるをえない無汗症のうち、無汗部位が髄節性(分節性)でなくほぼ全身に及ぶものがAIGAとなる。診断基準を表6)に示す。図1 無汗症の分類画像を拡大する表 特発性後天性全身性無汗症(AIGA)の診断基準A明らかな原因なく後天性に非髄節性の広範な無汗/減汗(発汗低下)を呈するが、発汗以外の自律神経症候および神経学的症候を認めない。Bヨードデンプン反応を用いたミノール法などによる温熱発汗試験で黒色に変色しない領域もしくはサーモグラフィーによる高体温領域が全身の25%以上の範囲に無汗/減汗(発汗低下)がみられる。● 参考項目1.発汗誘発時に皮膚のピリピリする痛み・発疹(コリン性蕁麻疹)がしばしばみられる。2.発汗低下に左右差なく、腋窩の発汗ならびに手掌・足底の精神性発汗は保たれていることが多い。3.アトピー性皮膚炎はAIGA に合併することがあるので除外項目には含めない。4.病理組織学的所見:汗腺周囲のリンパ球浸潤、汗腺の委縮、汗孔に角栓なども認めることもある。5.アセチルコリン皮内テストもしくはQSARTで反応低下を認める。6.抗SS-A抗体陰性、抗SS-B抗体陰性、外分泌腺機能異常がないなどシェーグレン症候群は否定する。A+BをもってAIGA と診断する。(中里良彦ほか. 特発性後天性全身性無汗症診療ガイドライン改訂版. 自律神経.2015;52:352-359.より引用)■ 検査1)温熱発汗試験簡易サウナ、電気毛布などを用いて加温により患者の体温を上昇させて発汗を促し、ミノール法などで発汗の有無を評価する(図2)。正常人では15 分程度の加温により全身に発汗点を認める。サーモグラフィーでは、発汗のない領域に一致して体温の上昇が認められる。無汗部の面積の評価に有用。図2  AIGA患者でのミノール法所見画像を拡大する発汗反応(黒点部分)が低下している2)薬物性発汗試験(1)局所投与5%塩化アセチルコリン(オビソート:0.05~0.1mL)を皮内注射する。正常人では数秒後より立毛と発汗がみられ、5~15 分後までに注射部位を中心に発汗を認める。汗腺自体の発汗機能を評価できる。(2)定量的軸索反射性発汗試験(QSART:quantitative sudomotor axon reflex tests)アセチルコリンをイオントフォレーシスにより皮膚に導入し、軸索反射による発汗を定量する試験。AIGAでは、発汗が誘発されない。(3)皮膚生検AIGAのうち、特発性純粋発汗不全(IPSF)では光顕上、汗腺に顕著な形態異常を認めないが、汗腺周囲にリンパ球浸潤を認めるときがある。(4)血清総IgE値測定IPSF では血清総IgE値が高値の場合がある。(5)血清CEA値測定高値の症例でその値が発汗状態と相関することから、個々の症例における治療効果の指標になりうる。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)1)ステロイド全身投与現存する治療法のうち最も効果が期待できる方法である。点滴パルス療法(メチルプレドニゾロン500~1000 mg/日、3日間連続投与)が用いられることが多い。後療法として30mg/日程度の経口投与を行う場合もある。また、経口内服療法(30~60mg/日)のみで開始して漸減する方法などもとられる。パルス療法の回数や後療法の適否・容量については一定の見解がない。反応がみられる例では、パルス療法直後から2週間程度までに効果が表れ、また、コリン性蕁麻疹や疼痛発作もみられなくなる。ステロイド治療によって寛解する例がある一方、部分寛解にとどまる例、症状が再燃する例、そして、ステロイドにまったく反応しない例がある。パルス療法はおおむね3回程度行われていることが多いが、まったく反応がえられない例では漫然と繰り返すよりも、他の治療法への切り替えまたは積極的に発汗トレーニングによる理学療法を取り入れる。2)抗ヒスタミン薬内服ヒスタミンがアセチルコリンによる発汗を抑制することから試みられる7)。ただし抗コリン作用のない好ヒスタミン薬を選択すること。効果が明瞭でない場合には通常量より増量してみることも必要。3)免疫抑制剤内服シクロスポリンの内服(2~5mg/kg/日)が効果を示すことが知られるが、報告症例数は少ない。4)その他の内服療法漢方薬である紫苓湯、葛根湯、または塩酸ピロカルピン(や塩酸セビメリン)などの投与も試みる価値がある。5)理学療法薬物療法に頼りがちであるが、発汗を刺激するための発汗トレーニングは補助療法として、また、再発予防として重要である。熱中症に陥らない範囲、また、コリン性蕁麻疹によるピリピリ感が苦痛にならない程度に、半身浴や徐々に運動負荷をかけるなど工夫する。5 主たる診療科皮膚科および神経内科。ただし、発汗異常を取り扱っている医療機関であることが必要。※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター 特発性後天性全身性無汗症(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)1)中里良彦ほか. 特発性後天性全身性無汗症診療ガイドライン. 2013;50:67-74.2)柳下武士. 日本皮膚科学会雑誌. 2021;131:35-41.3)小野慧美ほか. 発汗学. 2016;23:23-25.4)中里良彦. 自律神経. 2018;55:86-90.5)Sawada Y, et al. J Invest Dermatol. 2010;130:2683-2686.6)中里良彦ほか. 特発性後天性全身性無汗症診療ガイドライン改訂版. 自律神経. 2015;52:352-359.7)Suma A, et al. Acta Derm Venereol. 2014;94:723-724.公開履歴初回2021年9月22日

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第29回 オンライン診療恒久化の流れに「かかりつけ医」しか打ち出せない日医の限界

初診も含めたオンライン診療、平時も解禁へこんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。コロナも少しは収まったということで、10ヵ月振りに88歳の父親が一人暮らしをしている愛知の実家に帰りました。父親の関心と愚痴はいつも自分の病気や体調のこと。今回は「最近、足が冷たく、しびれも感じる」と今までなかった不調を訴えてきました。聞くと、行きつけの近所の診療所では「それは老化ですね」と言われ、ツムラの107番(牛車腎気丸)を処方されたとのこと。107番の効きはまったく実感できずに近所の鍼灸院に通いだした、と話していました。私の見立ては下肢閉塞性動脈硬化症なのですが、医師に「老化ですね」とだけ言われ、症状も改善せずに戸惑っている90歳近い老人に息子としてどう対処したらいいものか、困ってしまいました。さて、今回は全国ニュースでも喧しい「オンライン診療」について書いてみたいと思います。この連載では、菅 義偉総理大臣が誕生したまさにその日、9月16日付で「オンライン診療めぐり日医と全面対決か? 菅総理大臣になったらグイグイ推し進めるだろうこと」と題して、菅政権にとってオンライン診療は規制緩和やデジタル化推進の象徴であり、日本医師会との軋轢が今後一層深まるのでは、と書きました。菅首相は政権発足初日に田村 憲久厚生労働相に「オンライン診療の恒久化」を指示しました。その後、恒久化へのシナリオは着実に進んでいます。10月7日、政府の規制改革推進会議は「議長・座長会合」を開き、オンライン診療・服薬指導について「デジタル時代に合致した制度として恒久化を行う」という方針を確認しました。そして、翌8日には田村厚労相が平井 卓也デジタル改革相、河野 太郎行政改革相と会談。初診も含めたオンライン診療の原則解禁について3大臣が合意しました。今後、厚労省の「オンライン診療の適切な実施に関する指針の見直しに関する検討会」において、安全性を確認しながら対象などを改めて整理することになっています。「かかりつけ医やかかりつけ医機能を基軸に」と中川会長一方、日本医師会の中川俊男会長は先週14日の定例記者会見で、3大臣による合意に対する見解を発表しました。中川氏は、日医のオンライン診療に対する基本的なスタンスは、9月24日会見時の「解決困難な要因によって、医療機関へのアクセスが制限されている場合に、対面診療を補完するもの」という考え方から変わらないとしたうえで、「安全性と信頼性をオンライン診療の必須条件として位置付けていかなければならない。さらに有効性も担保される必要がある」とし、「安全性と信頼性の確保に向けては、かかりつけ医やかかりつけ医機能を基軸にすべきだ」と述べました。なお、かかりつけ医機能については、7年前の2013年8月に、日医と四病院団体協議会が合同で提言した「医療提供体制のあり方」1)の中で示された定義を改めて説明した、とのことです。この時の提言では、かかりつけ医を「なんでも相談できる上、最新の医療情報を熟知して、必要な時には専門医、専門医療機関を紹介でき、身近で頼りになる地域医療、保健、福祉を担う総合的な能力を有する医師」と定義、具体的なかかりつけ医機能4項目も明示しています。資格もなく曖昧な「かかりつけ医」の概念オンライン診療に関する議論において、「かかりつけ医」の定義を持ち出してきた点に、全面解禁に反対する日本医師会の理論武装の弱さを感じます。「かかりつけ医」は、医療の世界でよく使われる言葉ですが、日医と四病院団体協議会が定義した内容が国民に十分に浸透、定着しているとは言えません。そもそも、この定義に合致した医師を養成する仕組みや、研修制度などをベースにきちんとオーソライズする仕組みもありません。つまり、現状で日医が定義し提唱する「かかりつけ医」とは、地域で診療する医師の一つの理想像、“絵に描いた餅”に過ぎないのです。オンライン診療の安全性と信頼性の確保に向け、「かかりつけ医やかかりつけ医機能を基軸すべきだ」と言われたところで、その概念が曖昧で確固たる実態がないままでは、議論を進めようがありません。コロナ収束までの時限的措置として特例的に規制緩和されたオンライン診療ですが、一定数の患者が新たにそこに流れた、ということは、かかりつけ医や主治医を持たない(あるいはかかりつけていた医師への受診にこだわらない)国民がそれだけいた、ということです。かかりつけ医というものに対しては、日医が考えているほど、国民は期待していないのかもしれません。「オンライン健康相談にも診療報酬を」オンライン診療に関連し、中川会長は「オンライン健康相談」に対するかかりつけ医の関わり方についても言及しています。これは10月7日の定例会見で話されたもので、民間企業が提供するオンライン健康相談サービスについて、国による定義付けや業界ガイドラインの作成などのルールづくりが必要だ、と提言。さらに、かかりつけ医が診療行為の一環としてオンライン健康相談を行った場合は、診療報酬で適切に評価することも提案しました。医師以外での相談業務にはオンライン健康相談ではなく「オンライン生活相談」等の名称とすることも提案しました。さらに、厚生労働省の「オンライン診療の適切な実施に関する指針」で、医師以外による「遠隔健康医療相談」において「受診不要の指示・助言」も可能とする点も、「原則的にできないようにすべき」と述べています(遠隔健康医療相談については、本連載「医師の質・能力、実はどうでもいい? LINEヘルスケア事件の先にある世界」を参照)。時代に逆行する考え方こうした中川会長の一連の発言を聞いていると、「健康相談すらも医師しかできない業務にしろ」と言っているように聞こえます。しかし、これはいささか時代に逆行する考え方ではないでしょうか? 現在、「医師の働き方改革」の中で、タスクシフティングが議論されています。具体的にタスクシフト、タスクシェアの対象として検討が始まった医師の業務の中に、「健康相談」は入ってはいないようですが、診療前の健康相談までを医師のルーチンワークに入れてしまったら、医師のハードワークはいつまでたっても解消されないのではないでしょうか。「かかりつけていてもかかりつけ医ではない」レギュレーションをオンライン診療恒久化の流れに対し、「対面原則」「かかりつけ医、かかりつけ医機能を基軸」を押し通すなら、ここは改めて「かかりつけ医」というものを再定義し、きちんとした専門資格として世の中に問うべきだと思いますが、皆さんはどうお考えでしょうか?中川会長自身も14日の会見ではかかりつけ医の定義について、技術革新・ICT化などが進んだことを背景に「見直し、ブラッシュアップする時期かもしれない」と述べていますが、資格化については言及していません。絵をどれだけブラッシュアップしても絵のままだと思うのですが…。私としては、88歳の老人の不定愁訴に対し、診断名も告げず「老化ですね」と言うだけで、漢方薬を適当に処方するような医師は、「かかりつけていてもかかりつけ医ではない」という、厳しめのレギュレーションを設けてもらいたい、と思う今日この頃です。参考1)医療提供体制のあり方/日本医師会・四病院団体協議会

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第17回 治療編(1)薬物療法・その4【エキスパートが教える痛み診療のコツ】

第17回 治療編(1)薬物療法・その4前回侵害受容性疼痛に対し、わが国で非麻薬系オピオイドとして使用されているトラマドール製剤とブプレノルフィン貼付薬について解説しました。今回は、さらに痛みの程度が強い患者さんに使用する麻薬系オピオイドのコデイン、モルヒネ、フェンタニルについて説明したいと思います。(1)コデイン<作用機序>コデインは、投与量の5~15%が肝臓で代謝されることで、CYP2D6により産出されるモルヒネとなり、鎮痛効果が得られます。産出されたモルヒネがオピオイド受容体と結合することで、鎮痛効果を発揮します。<投与上の注意>モルヒネと同様に考えて使用します。コデインリン酸塩散には1%、10%、原末があります。また、コデインリン酸塩錠には5mg、20mgがあります。通常は、1回20mg錠を1日3回投与します。ただし、モルヒネ換算には幅があり、鎮痛作用を目的にする場合には、鎮咳目的の場合と異ってかなりの量が必要になります。1%散として使用する場合には、1回2g、1日3回6gの投与になりますので、漢方薬並みの用量となります。通常は麻薬扱いですが、 内容量が少ない1%散、5mg錠は、投与量と関係なく非麻薬扱いになります。副作用として、嘔気・嘔吐、食欲低下、便秘、口渇、ふらつき、傾眠、意識消失などがあります。(2)モルヒネ<作用機序>オピオイドの基本薬です。オピオイド受容体と結合して鎮痛効果を発揮します。<投与上の注意>次の項に示した合成麻薬フェンタニルの基本薬物になります。錠剤は10mgですが、いきなり10mg錠剤ではなく、末として3mg、5mg、8mgと段階的に体が慣れてくるたびに増量していきます。もちろん、途中で疼痛が緩和されれば、その投与量で維持していきます。また、1日の投与量が15mgに達すれば、フェンタニル貼付剤の適応(文末の表を参照)になります。(3)フェンタニル貼付剤<作用機序>モルヒネと同様、強オピオイドに分類されます。オピオイド受容体と結合して鎮痛効果を発揮します。<投与上の注意>フェンタニル貼付剤には、3日用の「デュロテップMTパッチ」、1日用の「フェントスパッチ」「ワンデュロパッチ」が適応されます。モルヒネ経口剤で30mgが「フェントスパッチ1mg」「デュロテップMTパッチ2.1mg」「ワンデュロパッチ0.84mg」に相当します。貼付剤なので、貼付する部位を毎回ずらしていきます。また、温度が高くなると、吸収が増えるので、入浴などの際には気を付けなければなりません。そのために、入浴が好きな患者さんでは、1日用のパッチを入浴前にいったん外し、入浴後に再度貼付される方もいます。なお、本剤の投与に際してはeラーニングの受講が必要です。モルヒネおよびフェンタニルは、医療用麻薬に分類される強オピオイドであり、乱用、依存、退薬症候、長期処方に伴う鎮痛耐性、鎮痛過敏、腸機能、性腺機能障害などに注意が必要です。貼付剤では掻痒、発赤などの皮膚症状が見られることがありますので、貼付部位をローテーションすることが重要です。以上、痛み治療の第3段階における薬物について、その作用機序、投与における注意点などを述べさせていただきました。難治性疼痛患者さんに接しておられる読者の皆様に少しでもお役に立てれば幸いです。次回は神経ブロックについて解説します。1)花岡一雄ほか監修. 痛みマネジメントupdate 日本医師会雑誌. 2014;143:S156-S157

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事例006 漢方薬・柴苓湯エキスの査定【斬らレセプト シーズン2】

解説今回は、複数社から販売されている漢方薬全般によくある査定をお届けします。事例では瘢痕拘縮の改善に「柴苓湯」が著効したとの研究論文を参考に投与されていました。柴苓湯の添付文書を見ると、その適応には瘢痕拘縮の記載がありません。そのため、投与根拠である傷病名に適応病名が無いとして医学的に保険診療適用は認められないとA査定になったものです。多くの漢方薬では保険適用の承認時に、症状緩和を目的とした表現が多用されています。ここまでなら大丈夫と幅広く処方され、査定の対象となる事例をよく見かけます。保険診療では、共助と患者に対する医療安全を基本に、「保険医療機関及び保険医療養担当規則(以下「療担」)」第19条において、「厚生労働大臣の定める医薬品以外の原則使用禁止」が定められています。この表現の中には、「医薬品に承認された効能・効果・用法・用量など」も含まれます。それを超えた使用は、療担第18条において特殊療法等に分類され原則禁止とされています。また、傷病名に対する適応が認められていないと査定対象となります。まれに、レセプトの当初請求時に医学的必要性が詳記されている場合には、保険診療の適用から外れていても、医師の裁量権が認められることもあります。関連学会のレポートなどで、いかに良い成果発表があったとしても、必ず保険診療の適用があるか確かめてから投与されることが、査定を減らすために必要となります。

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第8回 新型コロナ予防・治療・メンタルヘルスへの活用が期待される漢方薬の可能性

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対する既存薬の活用が期待される一方、新型コロナの感染予防・軽傷者の重症化予防やメンタルヘルスに対する漢方薬の活用が注目されている。日本東洋医学会では、漢方薬などによる対症療法とその後の重症化の有無との関連を調べるため、医療機関に症例の報告を呼び掛けている1)。また、薬局・薬店からなる日本中医薬研究会は新型コロナ治療の予防・治療に対し、中国漢方である中医薬(中国伝統医薬)の有効性を探るため、日中の医師や薬剤師らによるウェブ交流会を4月に行った。振り返ると、2009年の新型インフルエンザ流行時には、麻黄湯や銀翹散、小柴胡湯などの漢方薬に抗ウイルス作用が確認されている。タミフルやリレンザといった抗インフルエンザ治療薬に麻黄湯などの漢方薬を合わせて使うと一定の効果が見られたという。COVID-19に関連し、中国は3月、顕著な治療効果が見られたという「三薬三方(三つの処方と薬)」を選出し、清肺排毒湯、化湿敗毒方、宣肺敗毒方という3つの中医薬を推奨している。このうち、COVID-19用に創薬され、軽症から重症までカバーするという清肺排毒湯には麻黄湯と小柴胡湯が構成生薬の一部として使われている。新型コロナの感染確認者の91.5%が中医薬を使い、臨床治療の効果観察では、中医薬の総有効率は90%超に上っているという。日本国内においても、清肺排毒湯を日本で処方可能なエキス剤で作り、軽症者の重症者化予防に処方している医療機関がある。無症状者を含めた予防には、免疫力を高める効果が報告されている補中益気湯や十全大補湯などがある。メンタルヘルスに関しては、新型コロナによる自粛生活で、高齢者を中心に運動不足による持病悪化や、ストレスや経済的不安によるうつ病症状を訴える人が増えている。また、経済の悪化に伴う失業者の増加により、累計自殺者数が27万人増との試算もある。「コロナうつ」への対応も重要な課題だが、精神科や心療内科の受診をためらう人は少なからずいる。それに比べると、漢方薬はハードルがいくぶん低くなるようだ。ストレス緩和効果が得られる漢方薬には、加味逍遙散や柴胡加竜骨牡蛎湯、酸棗仁湯などがある。ただ、漢方薬は西洋薬の処方のようにはいかないのはご存じの通り。漢方薬は病名ではなく、患者個々人の体質と症状に対する処方が原則だ。漢方薬においても、現段階でCOVID-19への特効薬がない以上、予防段階では体力を付けて免疫力を上げる、感染したら発熱しないようにする、発熱したら早く治るようにするというように、段階によって使う漢方薬が異なり、患者ごとに症状を見ながら処方を判断しなければならない。ただ、新型コロナウイルスは変異の速いRNAウイルスの一種で、現在効いている新薬がいつ効かなくなるかわからない懸念がある。漢方薬を扱っている医療従事者は「免疫力の強化を本来重視する漢方薬は、変異に対してもある程度有効なのでは」と期待している。1)COVID-19一般治療に関する観察研究ご協力のお願い(日本東洋医学会)

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「しょっちゅうこむら返りになる」という患者さん【Dr. 坂根の糖尿病外来NGワード】第29回

■外来NGワード「この薬さえ、飲んでおけば大丈夫です!」(運動療法に触れない)「何か、運動しなさい!」(あいまいな運動指導)「糖尿病の合併症ですよ。もっと血糖値を下げないと!」(医学的脅し)■解説 有痛性筋痙攣(muscle cramp)、いわゆる「足がつる」状態や「こむら返り」は、健康な人でも久しぶりに運動したときなどに起こります。一方、糖尿病や肝硬変の患者さんでは、ふくらはぎなどの下肢だけでなく、上肢に起こる人もいます。高齢者糖尿病ではとくに頻度が高く、日中にも症状が出現することが報告されています。また、利尿薬、スタチン、β2刺激薬(吸入薬)を使用している人は、リスクが高まるといわれています。この有痛性筋痙攣は、時に睡眠を妨げ、患者さんのQOL(生活の質)を低下させる恐れがあります。しかし、この「こむら返り」をかかりつけ医に相談していない事例も多いようです。高リスクの患者さんには、よく眠れているか確認してみましょう。症状が出たときの対処法としては、膝を押さえ下腿三頭筋を他動的に伸展させる方法がよく用いられています。芍薬甘草湯などの漢方薬が汎用されますが、寝る前のストレッチや足の軽い運動なども効果があるので、運動療法と併せて治療を行うことが大切です。 ■患者さんとの会話でロールプレイ患者最近、夜中に足がつることが多くて…。医師それは大変ですね。最近、血糖が高い状態が続いているので、何か関係しているのかも。患者やっぱり、糖尿病のせいなんですか?(やや不安そうな顔)医師影響は考えられますね。整形外科的な疾患ではないと思うので…。患者夜中に、痛くて目が覚めてしまうんです。どうしたらいいですか?医師漢方薬などもありますが、もっといい方法がありますよ。患者なるべく薬は増やしたくないので、教えてほしいです!(興味津々)医師寝る前にできる、簡単な足の運動です。ちょっと、一緒にやってみませんか?患者(実際に足を動かして)これぐらいなら、一人でもできそうです。医師お風呂上がりやテレビを見ているとき、歯磨きの後などでもいいので、寝る前にぜひやってみてください。患者はい。わかりました。(嬉しそうな顔)■医師へのお勧めの言葉「寝る前にできる、簡単な足の運動です。ちょっと、一緒にやってみませんか?」1)餘目千史ほか.日本糖尿病教育・看護学会誌. 2016;20:211-220.

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グレリンとがん悪液質 シリーズがん悪液質(7)【Oncologyインタビュー】第14回

近年注目されている空腹ホルモングレリンと悪液質の関係。食欲亢進にとどまらないグレリンの作用について、当分野のエキスパートである鹿児島大学大学院 乾 明夫氏に聞いた。グレリンと悪液質の関係―グレリンの作用とはどのようなものでしょうか。グレリンは1999年に日本人研究者が発見した胃から分泌される空腹ホルモンで、脳の視床下部にある神経ペプチドY(NPY)に作用して摂食行動を促進します。このグレリン/NPYという空腹系システムは、人類が長い間生き残ってきた根幹の1つといえるでしょう。―グレリンは悪液質とどう関係しているのでしょうか。悪液質における重要な2つのポイントは、食欲不振と骨格筋萎縮です。食欲不振では体重が減少しますが、体重減少には体脂肪量と骨格筋量の両方の減少があります。がん悪液質では骨格筋量の減少が主体です。グレリンは、下流のNPYを活性化して食欲を促進します。それと同時に消化管運動、とくに空腹期運動を促進します。胃内に食物があると食欲が抑制されますが、そういった食後期の消化管運動を空腹期運動に変換させることも明らかになっています。もう1つは、成長ホルモン/インスリン様成長因子-1(GH/IGF-1)分泌を促して成長を促進します。成長ホルモンの減少は骨格筋量の減少を引き起こしますので、グレリンにより骨格筋量が増加することになります。このことは一部の小人症がグレリン受容体の異常によることからも認識されていました。グレリンは、食欲を促進し、消化管運動を促進し、骨格筋量を増加する。いずれも、がん悪液質に関係するものです。がんでは飢餓への応答が破綻している―グレリンはがん悪液質に重要な役割を果たしているのですね。実際にがん悪液質では、グレリンの空腹系システムは、どのように変化しているのでしょうか。通常、飢餓になると、グレリン/NPYシグナルが亢進して食欲を促進すると同時に、基礎代謝を抑制します。食べたものを効率よく取り込む仕組みになっているわけです。この飢えに対する応答機構は非常に強力で、たとえば、ネズミを絶食させ餌を与えると、ネズミは体重が戻るまで食べ続けます。その間、食欲促進とともに基礎代謝が低下するよう視床下部で調整されており、セットポイントといわれる元の体重になるまで、その状態が続きます。このセットポイントは人間の場合も同様です。がん悪液質の定義が5%の体重減少(通常起こりえない)なのもこのためです。一方、がんの場合は食欲が十分促進されない、基礎代謝も上がったまま下がらない。つまり、飢えに対する応答が行われていない状況なのです。これにはいくつかの原因があります。がんでは、がん細胞自体や周辺の免疫担当細胞から炎症性サイトカインが出ており、実際に測定するとTNFα、IL-1β、IL-6といった炎症性サイトカインが患者さんの血中では大きく増えています。原因の1つ目は、この炎症性サイトカインがグレリンの分泌を強力に抑制し、グレリンの量が減少してしまうということです。2つ目はグレリン作用抵抗性です。炎症性サイトカインは、満腹系のコルチコトロピン放出因子(CRF)やレプチンの放出を促進します。満腹系を強化することによって、グレリン/NPYの作用を相殺してしまうことになります。3つ目は、アシル基が取れたグレリン(デスアシルグレリン)の増加です。グレリンはアシル化されることで生物活性を発揮する、つまり食欲を促進します。悪液質では、このアシル化グレリンが減少しています。つまり、グレリンが抑制されたうえに、残っているグレリンは活性型が少ない。また、グレリンの作用が満腹系システムで抑制されているわけです。―飢餓への応答破綻にグレリンが大きく関与しているわけですね。グレリンの障害は、上記以外でも起こるのでしょうか。胃がんを例にとってみます。グレリンの産生細胞は胃に多く存在しますが、がんが浸潤すると、グレリン産生細胞が破壊されます。また、手術でグレリン産生細胞を大量に取ってしまう。こういったことで、胃がんでは体重が落ちる方が多いですし、悪液質が高度に起こることがあります。また、抗がん剤も関係します。多くのがんで用いられる5FUや白金製剤は、消化管細胞からセロトニンを放出させます。セロトニンは満腹中枢を刺激し、グレリン分泌を抑制します。こういったことも悪液質につながることがあります。グレリンによるがん悪液質の改善は、その先につながるか。―グレリンの作用が改善すると悪液質も改善するのでしょうか。グレリン産生腫瘍の一例報告があるのですが、その患者さんは体重減少が起きずに経過し、終末期まで悪液質が起こらなかったそうです。これはヒトにおいてもグレリンの悪液質に対する可能性を示していると思います。また、漢方薬でも人参養栄湯(ニンジンヨウエイトウ)、六君子湯(リックンシトウ)は、グレリン/NPYに作用します。これらも、体重減少を防ぐ作用、がん悪液質を改善させる効果が報告されています。グレリンアゴニストについても、臨床治験で、食欲促進と骨格筋量の改善が明らかになっています。―悪液質の改善によるサバイバルの結果はまだ出てませんが、どうお考えですか。ヒトでは時間がかかりますが、基本的には何らかの形でサバイバルの改善を示していくべきだと思います。抗がん剤のサバイバル、その多くは数ヵ月から半年程度と言われてまいりました。また、QOLが悪化する場合も認められます。前述の薬剤を用い、QOLを向上するとともにサバイバルが延びるということは、大きな意味があると思います。

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甘草の重複から偽アルドステロン症を疑い、ただちに医師に電話【うまくいく!処方提案プラクティス】第9回

 今回は、整形外科領域で処方頻度の高い芍薬甘草湯による副作用の初期徴候と経過を把握することがキーとなった症例を紹介します。普段から症状や併用薬を確認することが副作用の早期発見に功を奏しました。処方提案後には、副作用が軽減したかモニタリングすることも重要です。患者情報80歳、女性(外来)、体重:70kg基礎疾患:腰部脊柱管狭窄症、高血圧症、脂質異常症血  圧:おおよそ130/70台を推移月1回整形外科を受診しており、薬剤は薬袋で自己管理している。処方内容(すべて継続処方薬)1.アムロジピン錠5mg 1錠 分1 朝食後2.フロセミド錠20mg 1錠 分1 朝食後3.リマプロストアルファデクス錠5μg 3錠 分3 毎食後4.メコバラミン錠500μg 3錠 分3 毎食後5.芍薬甘草湯7.5g 分3 毎食後6.ロスバスタチン錠5mg 1錠 分1 夕食後7.酸化マグネシウム錠500mg 2錠 分2 朝夕食後本症例のポイントこの患者さんは、腰部脊柱管狭窄症による下肢の痛みや冷えのため芍薬甘草湯が処方されていました。投薬対応中に普段と何か変わったことはないか確認したところ、「最近、手足がだるくて、筋肉痛やこむら返りが起きる。市販薬を購入して服用しているけれど、むしろひどくなっている気がする」と聴取しました。市販薬の内容を確認すると、こむら返りや筋肉の痙攣に良いと聞いて購入した芍薬甘草湯エキス2.4g(商品名:コムレケア)であり、処方されている芍薬甘草湯と重複(甘草として12.0g/日)していました。市販薬の名称からは同じ漢方薬であるとは思わなかったようです。処方薬の芍薬甘草湯を服用中に手足のだるさや筋肉痛、こむら返りなどの症状が生じていることから偽アルドステロン症の可能性が疑われ、さらに市販薬を追加服用したことで症状の増悪に至ったと考察しました。さらに、双方の芍薬甘草湯によって降圧コントロールで服用しているフロセミドによる低カリウム血症が生じて、筋力低下や筋肉痛が生じている可能性もあると考え、医師への連絡が必要と考えました。<偽アルドステロンの注意点>偽アルドステロン症は甘草に含まれるグリチルリチンの活性代謝物であるグリチルリチン酸が、ナトリウム貯留や血圧上昇などのミネラルコルチコイド様作用を発揮することにより生じる。主な初期徴候は、手足のだるさ、しびれ、ツッパリ感、こわばり、筋肉痛、四肢脱力など。甘草2.5g/日以上、グリチルリチン100mg以上で発生リスクが高まるが、それ未満でもリスクはあるので注意が必要。利尿薬(とくにカリウム排泄型)が投与されている場合には、低カリウム血症を生じやすく、重篤化しやすい。処方提案とその後の経過患者さんに事情を話して投薬対応を一旦待っていただき、医師へ電話連絡することにしました。継続処方されている芍薬甘草湯による偽アルドステロン症の可能性があり、市販薬の芍薬甘草湯を購入して服用したことでさらに症状を助長させている可能性について報告し、今後の対応を相談しました。また、フロセミド服用で低カリウム血症が生じている可能性も考えられるため、血清カリウムの採血も提案しました。その結果、医師より処方薬と市販薬の芍薬甘草湯を中止するよう指示があったうえで、患者さんはすぐに再診となり、血清カリウムの評価のため採血検査が行われました。その2週間後に診察フォローがありましたが、予想どおり血清カリウム値が2.6mEq/Lと低カリウム血症でした。血圧推移は安定しており、浮腫もないことからフロセミドも中止となりました。今回問題となった手足のだるさや筋肉痛、こむら返りについては、芍薬甘草湯を中止して症状は改善し、再燃なく経過しています。ポケット医薬品集2019年版重篤副作用疾患別対応マニュアル 偽アルドステロン症

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アドヒアランス不良のカリウム薬の中止提案【うまくいく!処方提案プラクティス】第3回

 今回は、長期間にわたってカリウム薬を服用していたことに着目した症例です。患者さんより聴取した不満を契機に医師へ血液検査結果を基にした中止提案を行い、中止後の検査値や自覚症状に問題がないことを医師および患者さんと確認し、無事に中止することができました。患者情報外来患者、70歳、女性、身長:154cm、体重:52kg現病歴:高血圧、骨粗鬆症投薬時に、毎食後の服薬が苦痛で、L−アスパラギン酸カリウムの服用をよく忘れるとの相談あり(医師には伝えていない)。市販薬やサプリメントの使用はなし。食事は規則正しく1日3食で、食事摂取量にむらはなし。処方内容(1、3の内科からの処方薬は10年以上服用中)1.テルミサルタン錠20mg 1錠 分1 朝食後2.アルファカルシドールカプセル0.25μg 1カプセル 分1 朝食後3.L−アスパラギン酸カリウム錠300mg 3錠 分3 毎食後症例のポイント患者さんは上記1と3の処方薬を長年服用していますが、L−アスパラギン酸カリウムを毎食後に服用することを苦痛に感じていました。たびたびあった服用忘れを医師には伝えていなかったため、アドヒアランスが良好だということを前提に処方が継続されている可能性がありました。L−アスパラギン酸カリウムは、薬剤性低カリウム血症のカリウム補給に用いられることが多くあります。低カリウム血症の原因となる薬剤として、漢方薬(芍薬甘草湯など市販薬にも成分として含まれるので要注意)や利尿薬(とくにループ利尿薬)、グリチルリチン酸、インスリンが挙げられますが、この患者さんの処方内容からは薬剤性の低カリウム血症が生じている可能性は低いと考えられました。患者さんから聞き取った範囲では、1日3食しっかりと食事を摂取していることから、食事でカリウムが著しく不足しているとも考えにくいです。直近の血液検査結果を持参してもらうと、アドヒアランス不良であったにもかかわらず、血清カリウム値は4.5mEq/Lと充足しており、中止しても大きな影響はないと推察しました。医師に血液検査結果と患者さんの希望について話をしてみたところ、そもそもL−アスパラギン酸カリウムの処方を開始したのは前医のため処方意図がわからないこと、血清カリウムなどのL−アスパラギン酸カリウムの評価を失念されていたことが発覚し、L−アスパラギン酸カリウムの処方が中止となりました。その際、次回診察の際にカリウム値の採血を提案しました。低カリウム血症とは、血清カリウム値が3.5mEq/L未満の場合であり、2.5~3.0mEq/Lが中等症、2.5mEq/L未満は重症と定義されている。2.5mEq/L未満の重症ないし急速な低下時には、心臓(不整脈)、筋肉(筋力低下・倦怠感・麻痺・筋痙攣)、消化管(イレウス・食欲不振・嘔気)、腎臓(多尿・腎機能障害)などに症状が出現する。とくにジギタリス製剤服用中の患者では致死的不整脈が起こりやすいので、血清カリウム値のモニタリングが重要となる。処方提案と経過L−アスパラギン酸カリウムの中止から1ヵ月後に患者さんが再来局されました。血液検査で血清カリウム値は4.1mEq/Lと基準値内であり、食欲不振や倦怠感・筋力低下による症状などの低カリウム血症に基づく症状もありませんでした。患者さんは薬局に相談したことで負担となっていた薬剤を中止できたことを喜んでくださり、信頼関係の構築にもつながって血圧・血液検査の提示や相談の機会も増えました。

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