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第52回 40~50代は必見!ワクチンオタクの筆者が薦める新型コロナ以外のワクチン4選

コロナ禍の影響で私自身が週刊誌などから新型コロナウイルス感染症(COVID-19、以下、新型コロナ)について取材を受ける機会が増えている。もちろん週刊誌なども最初はいわゆる「大御所」の医師にあの手この手でコンタクトを取ろうとするのだが、こうした医師たちは多忙なことに加え、取材を受ける場合でも新聞、テレビなどの大手メディアに予定を押さえられていることが多く、捕まえにくい。そんなことで第2候補、第3候補としてコロナ禍でのさまざまなテーマで取材依頼が舞い込んでくる。まあ、同じメディアに身を置くゆえに頼みやすいことも影響しているのだろう。先日もある取材依頼があったのだが、それは珍しく直接的にコロナに関連するものではなかった。たまたま、SNSのFacebookに書いた私の投稿に知人の編集者が目を止めて、取材をさせてほしいと連絡があったのだ。その投稿とは私のワクチン接種歴である。3月半ば、私は国立国際医療研究センターで国内未承認のダニ脳炎ウイルスに対する3回目のワクチン接種を完了。これにより過去約2年で20種類のワクチン接種を終了した。以下はこの間に私がワクチン接種を完了した感染症である。A型肝炎B型肝炎麻疹風疹ポリオジフテリア破傷風百日咳おたふく風邪帯状疱疹腸チフス狂犬病コレラヒトパピローマウイルス髄膜炎(B群も含む)インフルエンザダニ脳炎黄熱病肺炎球菌日本脳炎現在私は51歳。この年齢と照らし合わせておやっと思うものもあるだろう。たぶん、その筆頭は麻疹風疹ではないだろうか。私の場合、どちらも罹患歴もなく、これまでワクチン接種歴もなかった。風疹に関しては男子がワクチン接種対象となっていなかった年代、なおかつたまたま罹患したことがなかった。麻疹は私の世代でも1歳時にワクチン接種を受けるはずだが、ある事情によりワクチン接種をスキップしてしまった。それは生後3ヵ月の頃、当時4歳だった姉が麻疹を発症、姉か私のいずれかを隔離するわけにもいかず、かかりつけ医が私に免疫グロブリンを注射。当時こうしたケースは1歳時点でのワクチン接種で抗体が作られにくいと考えられ、通常の接種をスキップされてしまっていたのである。また、学生時代にバックパッカーだったこともあり、当時は抗体価持続期間10年と言われていた黄熱病ワクチンを接種したことがある。現在では抗体持続期間は生涯とされている。しかし、当時のイエローカードは10年経過した段階で無効と思い廃棄してしまっていた。そんなこんなで再接種した次第である。そもそも、なぜこんなにワクチンを打ったのか? きっかけは2つある。最初のきっかけは2018年2月4日にさかのぼる。この日は語呂合わせで「風疹の日」で、たびたび流行していた風疹のワクチン接種を呼びかけるイベントが成田空港で行われていた。その取材に赴き、妊娠中に風疹に感染し、先天性風疹症候群の娘さんを出産した「風疹をなくそうの会『hand in hand』」共同代表の可児 佳代氏の講演を聞いた。可児氏の娘・妙子(たえこ)さんは先天性風疹症候群により生まれつき目、耳、心臓に重い障害を持ち、闘病の末に18歳で短い命を終えていた。妙子さんの写真を手に話す可児氏の姿に衝撃を受け、その後しばらくぼーっとしたまま空港内を徘徊したのを覚えている。この時のイベントで実施していた無料抗体検査を受け、後日郵送で届いた結果で私にはやはり抗体がないことが判明した。そこで知人の医師に相談し、麻疹風疹混合ワクチンを接種した。多くの方がご存じのように、かつては麻疹風疹もワクチン接種は1回のみだったが、その後ワクチン接種での抗体獲得状況に関する研究が進み、2回接種で抗体獲得がほぼ確実になることが分かった。今では麻疹風疹ともワクチン接種は2回が原則となっている。この時は知人の医師と2回目をどうしようか話し合ったが、医師からは「流行地域に行くならばまた来月接種するというのもありかもしれないが、そうでなければ1~2年後でいいのではないか?」と提案され、そのようにすることになった。そうこうするうちに2019年に家族と南アジアのブータンを旅行することになったのが第2のきっかけだ。このとき渡航前に調べたところ、現地では狂犬病、腸チフス、日本脳炎、コレラといった感染症のリスクがあることが分かった。たまたま前述の知人の医師のところでは国内未承認のものも含め、これらのワクチンがすべて接種できることがわかり、早速接種することにした。その際に知人医師のところではかなり数多くのワクチンを接種できることが分かった。経歴にもある通り、私は災害現場や海外の紛争地の取材などもする。その意味では数多くのワクチンを接種しておいて損はない。ということで、次々に接種し始めたのである。知人医師のところで接種できなかったダニ脳炎、髄膜炎B群、帯状疱疹(シングリックス)は国立国際医療研究センターのトラベルクリニックで接種した。ちなみにこのうちヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチンに関しては、接種を申し出た際に知人医師からは「もういいんじゃないの?」と笑われた。そりゃ50代の不活発なおじさんにはほぼ不要である。ただ、ご存じのようにHPVワクチンに関してはさまざまな問題が噴出している。その報道にかかわる際にこのワクチンに懐疑的な人たちから「じゃあ、あなたは接種したんですか?」と問われて、接種していないと答えればそれだけで揚げ足を取られかねない。ということで、少しでも説得力を付けるために接種したというのが実際だ。さて前置きが長くなったが、ではどんな取材を受けたかというと、端的に言えば「新型コロナをきっかけにワクチンに関する関心が高まっている今、一般の人に接種をお薦めするワクチンを教えて欲しい」というテーマだった。ちなみに取材依頼元の週刊誌のメイン購読層は40~50代の男性である。そこで私がお薦めしたのが麻疹風疹ワクチン、HPVワクチン、おたふく風邪ワクチン、破傷風ワクチンである。麻疹風疹ワクチンを薦めたのは、私のような公的に風疹ワクチンを接種する機会がなかった1962年4月2日~1979年4月1日に生まれた男性は、近年の風疹流行の媒介者であることが明らかなため、国が2019年~2022年3月末までの3年間は無料で抗体検査と予防接種を受けられるクーポンを発行しており、一部の男性にとっては確実にお得だからだ。しかも、このクーポンで抗体がないと判定されてワクチンが接種される際は、基本的に麻疹風疹混合ワクチンが選択される。つまり、主に空気感染し一度流行すると厄介な麻疹の阻止にもつながるという接種者個人はもちろん、社会全体にとっても「2度おいしい」のである。HPVに関しては、ご存じのように性感染症であり、男性ではオーラルセックスなどをきっかけに中咽頭がんに罹患するおそれがある。中咽頭がんは胃がんや大腸がんのように定期健診もなく、見つかった段階でかなり進行しているケースも少なくない。そして手術や化学放射線療法の合併症である発声困難や味覚障害でQOLが著しく低下するケースもあるほか、最悪は死に至る。それがワクチン接種で大幅にリスクを低下させることができる。おたふく風邪ワクチンは睾丸炎による男性不妊の予防、破傷風ワクチンは災害ボランティア活動などで比較的感染の機会が多いというのが推奨理由である。まあ、この辺は本サイトの読者である医療者の方々からは異論があるかもしれないが、少なくとも個人的には大きく外れてはいないと思っている。ちなみにこれまでこの接種にかかった費用は約40万円。もはや趣味の域であると言っても差し支えなく、私自身も最近では「趣味はワクチン接種」と公言している。実際、趣味の域を極めるべく、将来的には国内で接種が不可能なEU承認のエボラワクチン、中国のみで承認のE型肝炎ワクチン、アメリカのみで承認の炭疽菌ワクチンもコロナ禍終息後に機会があれば接種してみたいところ。これは冗談ではなく真面目な話。もちろん飛行機に乗って接種しに行きますので、何らかの情報や伝手がある方は編集部にご一報ください(笑)。ちなみにどの雑誌に掲載されるかというと、一部では男性でも購入しにくいと言われる数少ないカタカナ名の男性週刊誌である。まあ、どんな反応があるか、それともまったく反応がないのか、個人的にもちょっと興味がある。

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子宮頸がんの原因となるHPV型の約90%をカバーする「シルガード9水性懸濁筋注シリンジ」【下平博士のDIノート】第71回

子宮頸がんの原因となるHPV型の約90%をカバーする「シルガード9水性懸濁筋注シリンジ」今回は、「組換え沈降9価ヒトパピローマウイルス(HPV)様粒子ワクチン(商品名:シルガード9水性懸濁筋注シリンジ、製造販売元:MSD)」を紹介します。本剤は、子宮頸がんなどの原因となる7つのHPV型と、尖圭コンジローマなどの原因となる2つのHPV型の感染を予防する9価のHPVワクチンです。<効能・効果>本剤は、HPV6、11、16、18、31、33、45、52および58型の感染に起因する以下の疾患の予防の適応で、2020年7月21日に承認され、2021年2月24日より発売されています。なお、本剤の予防効果の持続期間は確立していません。子宮頸がん(扁平上皮細胞がんおよび腺がん)およびその前駆病変(子宮頸部上皮内腫瘍[CIN]1、2および3ならびに上皮内腺がん[AIS])外陰上皮内腫瘍(VIN)1、2および3ならびに腟上皮内腫瘍(VaIN)1、2および3尖圭コンジローマ<用法・用量>9歳以上の女性に、1回0.5mLを合計3回(2回目は初回接種の2ヵ月後、3回目は6ヵ月後)、筋肉内に注射します。1年以内に3回の接種を終了することが望ましいですが、2回目は初回から少なくとも1ヵ月以上、3回目は2回目から少なくとも3ヵ月以上の間隔を置いて接種することとされています。9歳以上15歳未満の女性は、初回接種から6~12ヵ月の間隔をおいた合計2回の接種とすることができます(2023年3月改訂)。9歳以上15歳未満の女性に合計2回の接種をする場合、13ヵ月後までに接種することが望ましいとされています。なお、医師が必要と認めた場合には、他ワクチンと同時に接種することができますが、本剤と他ワクチンを混合して接種することはできません。<安全性>日本人を含む後期第II相/第III相国際共同試験(001試験)において、注射部位の副反応は、本剤接種後5日間で7,071例中6,414例(90.7%)に認められ、主なものは疼痛6,356例(89.9%)、腫脹2,830例(40.0%)、紅斑2,407例(34.0%)、そう痒感388例(5.5%)、内出血137例(1.9%)、腫瘤90例(1.3%)、出血69例(1.0%)でした。また、全身性の副反応は、本剤接種後15日間で7,071例中2,090例(29.6%)に認められ、主なものは頭痛1,033例(14.6%)、発熱357例(5.0%)、悪心312例(4.4%)、浮動性めまい211例(3.0%)、疲労166例(2.3%)、下痢87例(1.2%)、口腔咽頭痛73例(1.0%)、筋肉痛69例(1.0%)でした。日本人を対象とした国内第III相臨床試験(008試験)では、注射部位の副反応は、本剤接種後5日間で100例中95例(95.0%)に認められ、主なものは疼痛93例(93.0%)、腫脹42例(42.0%)、紅斑33例(33.0%)、そう痒感4例(4.0%)、出血3例(3.0%)、熱感3例(3.0%)でした。また、全身性の副反応は、本剤接種後15日間で100例中14例(14.0%)に認められ、主なものは発熱3例(3.0%)、頭痛2例(2.0%)、悪心2例(2.0%)、感覚鈍麻2例(2.0%)、腹痛2例(2.0%)でした。なお、重大な副作用として、過敏症反応(アナフィラキシー、気管支痙攣、蕁麻疹)、ギラン・バレー症候群、血小板減少性紫斑病、急性散在性脳脊髄炎(ADEM)(いずれも頻度不明)が設定されています。国内外の臨床試験における安全性検討対象1万3,408例では、過敏症3例および蕁麻疹20例が副反応として報告されています。ギラン・バレー症候群、血小板減少性紫斑病およびADEMは臨床試験において認められていませんが、本剤と同一の有効成分を含むワクチン(商品名:ガーダシル)と同様に設定されました。<患者さんへの指導例>1.ワクチン接種により、子宮頸がんや尖圭コンジローマなどの原因となる9つのHPV型に対する抗体ができ、今後の感染を予防します。2.接種後に血管迷走神経反射として失神が現れることがあります。接種後30分程度は、背もたれや肘掛けのある安全ないすに座っていてください。3.本剤接種後に、注射部位だけでなくほかの部位に激しい痛み(筋肉痛、関節痛、皮膚の痛みなど)やしびれ、脱力などが現れて長時間持続する場合は、速やかに医師に相談してください。4.十分な予防効果を得るために、必ず本剤を3回接種してください。通常の接種スケジュールは、初回接種の2ヵ月後に2回目、初回接種の6ヵ月後に3回目となります。<Shimo's eyes>わが国において、年間約1万人が子宮頸がんに罹患し、毎年約2,900人が死亡しています。患者数・死亡者数ともに近年増加傾向にあり、子宮頸がん発症のピークが出産年齢と重なることが問題となっています。子宮頸がんの95%以上はHPV感染が原因で、感染経路は主に性的接触です。性交渉の経験がある女性のうち、50~80%が生涯で一度以上の感染を経験すると推計されていて、そのうちの一部が将来的に高度前がん病変や子宮頸がんを発症します。本剤は、わが国で3番目に発売されたHPVワクチンです。いずれの製剤も筋肉内注射で、計3回接種が必要です。既存薬の1つである2価ワクチン(商品名:サーバリックス)は、子宮頸がんの主な原因となるHPV16型と18型の感染を予防します。もう1つの既存薬である4価ワクチン(同:ガーダシル)は、上記に加えて尖圭コンジローマなどの原因となる6型と11型の感染も予防します。4価ワクチンは、2020年12月に男性も接種が可能となりました(公費助成の対象外)。本剤は、2021年2月に発売された9価ワクチンで、前述の4つのHPV型に加えて、31型・33型・45型・52型・58型の5つのHPV型のウイルス様粒子も含有することで、約90%の子宮頸がんを予防することが期待されています。既存2剤は定期接種の対象で、小学6年生~高校1年生相当の女子は公費助成によって無料で接種を受けることができます。発売当初は本剤は任意接種でしたが、2023年4月から本剤についても定期接種の対象となりました。HPVワクチンは、今後のHPVの感染を予防するものであり、すでにHPVに感染している細胞からのウイルス排除や進行抑制には効果はありません。したがって、性交渉を経験する前に接種することが最も効果的ですが、性交渉の経験があっても、予防対象のHPV型に感染していなければ効果が期待できます。HPVワクチンについては、過去に疼痛や運動障害などの副反応が大きく報道され、2013年6月に厚生労働省より「積極的な勧奨の一時差し控え」が発表されました。世界では接種完遂率が80%を超える国もある中、わが国の接種率は0.3%と非常に低い水準にとどまっています。一方で、2017年11月に、厚生労働省専門部会は、HPVワクチン接種後に報告された多様な症状とHPVワクチンとの因果関係を示す根拠は報告されていないと発表しています。近年、国が地方自治体に定期接種対象者への周知を徹底するよう求めるなど、接種率向上に向けた動きがみられています。※2023年8月、厚生労働省の情報などをもとに、一部内容の修正を行いました。参考1)PMDA 添付文書 シルガード9水性懸濁筋注シリンジ2)子宮頸がんとHPVワクチンに関する正しい理解のために(日本産科婦人科学会)3)海外のHPVワクチンの現状(MSD)

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新型コロナワクチン、予診票で確認すべきポイントは?/厚労省

 4月12日以降に予定されている高齢者への新型コロナワクチン接種開始を前に、厚生労働省は3月26日、新型コロナワクチン「予診票の確認のポイント」を公開した。予診票記載の14項目について接種前に確認すべき点がまとめられている。事務職員が確認可能な項目、最終的に医師の確認が必要な項目についても整理されている。既往症、現在の治療内容についての確認ポイント 予診票には、「現在何らかの病気にかかって治療(投薬など)を受けていますか」という問いが設けられ、抗凝固薬(血をサラサラにする薬と表記)の利用状況を問う項目が設けられている。確認ポイントとしては、とくに以下に該当するかに注意して接種の判断をするよう求めている:・基礎疾患の状態が悪化している場合や全身状態が悪い場合 体調が回復してから接種することが大切なため、体調が悪いときの接種は控える。体調がよくなった頃に、改めて次の接種を相談するよう説明する。接種後の軽度の副反応が重篤な転帰に繋がることのないよう、とくに慎重に予防接種の適否を判断する必要がある。・免疫不全、血が止まりにくい病気のある場合や、抗凝固薬を服用している場合 免疫不全のある方は、新型コロナウイルス感染症の重症化のリスクが高いとされている。米国CDCの見解では、現時点で、有効性と安全性に関する確立されたデータはないが、他の接種不適当者の条件に該当しなければ、接種は可能としている。 血が止まりにくい病気のある方や、抗凝固薬を服用している方は、筋肉内出血のリスクがあるため、接種後2分以上、強めに接種部位を圧迫してもらう必要はあるが、接種は可能(なお、抗血小板薬を服用している方は、筋肉内出血のリスクではないとされているので、接種は可能。ただし、止血に時間がかかる可能性があることに留意が必要)※なお厚労省では、「血をサラサラにする薬を飲まれている方へ」と題した情報提供用資料も公開している。・アレルギー疾患のある方 アレルギー歴についての確認ポイントを参照。アレルギー歴についての確認ポイント 予診票には、「薬や食品などで、重いアレルギー症状(アナフィラキシーなど)を起こしたことがありますか」という問いが設けられ、「薬・食品など原因となったもの」が記載できる。ここでの確認のポイントとしては、下記のようにまとめられている:・接種するワクチンの成分に対し重度の過敏症の既往のある人は、接種不適当者に該当・1回目の接種でアナフィラキシーを起こした人は、2回目の接種はできない・食物アレルギー、気管支喘息、アトピー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎(花粉症含む)、蕁麻疹、アレルギー体質等だけでは、接種不適当者にはならず、接種するワクチンの成分に関係のないものに対するアレルギーを持つ方も接種は可能・ただし、即時型のアレルギー反応の既往歴がある人は、接種要注意者として、接種後30分間の経過観察をする さらに、「接種するワクチンの成分」について、ファイザー社のワクチンに含まれるポリエチレングリコールや、交差反応性が懸念されているポリソルベートが含まれる製品例や、接種判断の考え方が解説されている。 今回発表された「予診票の確認のポイント」では、上記2項目を含め、下記の全14項目について、確認のポイントとその解説がまとめられている。1~4、13は事務職員等が確認可能とされ、その他の項目も、記入の有無などの確認は事務職員等が行うことができるとされている。5~12、14については、最終的に医師が確認した上で接種を判断する必要があるとしたうえで、これらの項目も、記載内容を医師以外の医療従事者があらかじめ確認することで、医師の予診の時間が短縮されると考えられるとしている。[確認のポイントが示された予診票記載の14項目]1.新型コロナワクチンの接種を初めて受けますか。2.現時点で住民票のある市町村と、クーポン券に記載されている市町村は同じですか。3.「新型コロナワクチンの説明書」を読んで、効果や副反応などについて理解しましたか。4.接種順位の上位となる対象グループに該当しますか。5.現在何らかの病気にかかって治療(投薬など)を受けていますか。6.その病気を診てもらっている医師に今日の予防接種を受けてよいと言われましたか。7.最近1か月以内に熱が出たり、病気にかかったりしましたか。8.今日、体に具合が悪いところがありますか。9.けいれん(ひきつけ)を起こしたことがありますか。10.薬や食品などで、重いアレルギー症状(アナフィラキシーなど)を起こしたことがありますか。11.これまでに予防接種を受けて具合が悪くなったことはありますか。12.現在妊娠している可能性(生理が予定より遅れているなど)はありますか。または、授乳中ですか。13.2週間以内に予防接種を受けましたか。14.今日の予防接種について質問がありますか。

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「アタラックス-P」の名称の由来は?【薬剤の意外な名称由来】第43回

第43回 「アタラックス-P」の名称の由来は?販売名アタラックス®-Pカプセル25mg・50mg・散10%・ドライシロップ2.5%※アタラックス®-Pシロップ、アタラックス®-P注射液はインタビューフォームが異なるため、今回は情報を割愛しています。ご了承ください。一般名(和名[命名法])ヒドロキシジンパモ酸塩(JAN)効能又は効果蕁麻疹、皮膚疾患に伴うそう痒(湿疹・皮膚炎、皮膚そう痒症)神経症における不安・緊張・抑うつ用法及び用量皮膚科領域には、ヒドロキシジンパモ酸塩として、通常成人1日85~128mg(ヒドロキシジン塩酸塩として50~75mg)を2~3回に分割経口投与する。 神経症における不安・緊張・抑うつには、ヒドロキシジンパモ酸塩として、通常成人1日128~255mg(ヒドロキシジン塩酸塩として75~150mg)を3~4回に分割経口投与する。 なお、年齢、症状により適宜増減する。警告内容とその理由該当しない禁忌内容とその理由禁忌(次の患者には投与しないこと)1.本剤の成分、セチリジン、ピペラジン誘導体、アミノフィリン、エチレンジアミンに対し過敏症の既往歴のある患者 2.ポルフィリン症の患者3.妊婦又は妊娠している可能性のある婦人※本内容は2021年3月17日時点で公開されているインタビューフォームを基に作成しています。※副作用などの最新の情報については、インタビューフォームまたは添付文書をご確認ください。1)2019年3月改訂(第6版)医薬品インタビューフォーム「アタラックス®-Pカプセル25mg・アタラックス®-Pカプセル50mg/アタラックス®-Pドライシロップ2.5% / アタラックス®-P散10%」2)Pfizer PROFESSIONALS:製品情報

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流し雛から万葉の心を偲ぶ、生きるとは何か?【Dr.中川の「論文・見聞・いい気分」】第33回

第33回 流し雛から万葉の心を偲ぶ、生きるとは何か?皆さんは、子供の頃を思い出すことはありませんか?自分は、最近その現象が増えてきています。ふとした拍子に幼少期の出来事が、今ここで体験したようにフラッシュバックするのです。人は、疲れたり辛いできごとが重なったりした時に昔を思い出すと言います。コロナ禍の影響かもしれません。それとも単なる老化が顕在化しているだけかもしれません。「オーイ、流すぞ!」眼に浮かんだのは、自分と姉そして父親とで、小さな竹船に載せられた素焼きの陶器で作られた雛人形を川に流し放つ瞬間です。何十年間も忘れていた風景ですが、突然鮮明に蘇ってきました。自分は石川県金沢市の生まれで、実家の近くを犀川が走っています。「ふるさとは遠きにありて思ふもの・・」という一節で有名な、金沢ゆかりの詩人である室生犀星のペンネームにも冠する清流です。場面は、その犀川の河原の水辺です。流し雛(ながしびな)は、祓い人形と同様に身の穢れを水に流して清める意味の民俗行事で、雛祭りの原型とのことです。自分の頭の中の情景は事実ではなく、童話や小説の一節を原体験のように思い起こしただけかもしれません。3歳年長の姉に確認すると、明確に記憶しておりました。夢ではなく、実体験が脳裏に焼き付いていたのです。おそらくは1964年の東京オリンピック前後のことです。姉が6歳、自分が3歳前後に姉弟同時に「麻疹(はしか)」に感染し、無事に治癒した際に雛を流したのです。天然痘(もがさ)は、高い死亡率に加え、治癒しても瘢痕を残すことから、世界中で悪魔の病気と恐れられてきた有史以来の感染症です。麻疹も古来より生命に関わる大病とされており、たびたび大流行を繰り返し、天然痘より死亡率が高く「天然痘は器量定め、麻疹は命定め」とも云われ恐れられていたそうです。古都といわれる金沢でも現在は、流し雛を行っている家庭はないでしょう。しかし、当時の我が家では、実行していたのです。流すための人形を、父に連れられて瀬戸物屋に買いにいった場面も姉は記憶していました。近所の商店で流し雛を販売しているほどに、普及した行事であったのです。銀(しろかね)も金(くがね)も玉も何せむにまされる宝子にしかめやも万葉集に収められている、山上憶良の歌です。701年に遣唐使として入唐、帰国し当時有数の学識者であった憶良は、庶民の生活に密着した歌で万葉集中に独自の境地を開いています。この歌は、子を思う親の気持ちは昔も今も変わらないことを示すものとして有名です。8世紀の初め、約1300年以前に詠われたものですが、当時の乳児死亡率は高く、多くの親は自らの赤子の死を経験していたはずです。当時は疫病が主たる死因でした。天然痘や麻疹などの流行の記録があり、出生時平均余命は20歳より短いものであったようです。死が身近であるだけに生を繋ぎ成長する子供には限りない愛情をもって育て慈しんでいたことでしょう。いにしえの人々は常に死の危険にさらされていました。生きていることの危うさを感じつつ、今日を生き抜いたことに感謝して暮らしていたに違いありません。日々、口にする食事もありがたかったでしょう。恵みをもたらし、時には荒れ狂い命を脅かす大自然にも畏怖の念をもって接していたでしょう。自然にあふれた環境で生の喜びに満ちた時をすごす、なんと人間らしい幸せな人生でしょうか。万葉の時代に遡るまでもなく、自分自身の幼少期には、麻疹からの生還を家族を挙げて祝っていたのです。当時は、麻疹で命を失う子供もまだまだいたということでしょう。一方、現代はどうでしょうか。医療は進歩し平均寿命は飛躍的に延びました。死の危険を実感することはなく、生きていることがあたり前になりました。その中で、人間は「生きる」ことへの感謝を忘れてしまったのではないでしょか。進歩したのは医学・医療だけではありません。コンピュータやインターネットが普及し便利になりました。しかし便利になることと幸せになることは別かもしれません。便利さと引き換えに多くの大切なものを失う可能性もあります。移植医療や再生医療、そして人工知能も大切で今後も発展していくでしょう。その発展を推進する力として私も参画したいという思いはあります。しかし、それらの最新医療が日常の現実となった時に、人間はその利益と引き換えに何を失うのでしょうか。もしかすると、人間としての本質を失ってしまう可能性もあるのです。今後の医学の進歩を社会に真に還元するためには、人間の真の幸せとは何かという考察に基づいた精神的な裏づけが必要でしょう。また、次の世代を担う若い医師たちにも「真の幸せ」とは何かを考えつつ仕事をしていただきたいと願います。なぜなら医学がいかに発達しようとも、私たちの心は万葉の時代と変わっていない何かが必ず残っているはずですから。

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HPVワクチン接種と33の重篤な有害事象に関連なし、韓国/BMJ

 韓国のヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチン接種を受けた11~14歳の女子において、コホート分析では33種の重篤な有害事象のうち片頭痛との関連が示唆されたものの、コホート分析と自己対照リスク間隔分析(self-controlled risk interval[SCRI] analysis)の双方でワクチン接種との関連が認められた有害事象はないことが、同国・成均館大学校のDongwon Yoon氏らの調査で示された。研究の成果は、BMJ誌2021年1月29日号に掲載された。HPVワクチン接種後の重篤な有害事象は、このワクチンの接種に対する大きな懸念と障壁の1つとなっている。HPVワクチンの安全性に関する実臨床のエビデンスは、西欧では確立しているが、アジアのエビデンスは十分ではないという。韓国の大規模データベースを用いたコホート研究 研究グループは、韓国の思春期女子におけるHPVワクチン接種と重篤な有害事象の関連を評価する目的で、コホート研究を実施した(韓国Government-wide R&D Fund project for infectious disease research[GFID]などの助成による)。 韓国予防接種登録情報システムと国立保健情報データベースのデータを統合し、2017年に11~14歳だった女子の同年1月~2019年12月の大規模データベースを構築した。 44万1,399人のデータが解析に含まれた。このうち、38万2,020人が42万9,377回のHPVワクチン接種を受け(HPVワクチン接種群)、残りの5万9,379人はHPVワクチン接種を受けず、8万7,099回の日本脳炎ワクチンまたは破傷風・ジフテリア・無細胞性百日咳混合ワクチンの接種を受けた(HPVワクチン非接種群)。 主要アウトカムは、33種の重篤な有害事象とした。重篤な有害事象には、内分泌(グレーブス病、橋本甲状腺炎など)、消化器(クローン病、潰瘍性大腸炎など)、心血管(レイノー病、静脈血栓塞栓症など)、筋骨格・全身性(強直性脊椎炎、ベーチェット症候群など)、血液(特発性血小板減少性紫斑病、ヘノッホ-シェーンライン紫斑病)、皮膚(結節性紅斑、乾癬)、神経系(ベル麻痺、てんかんなど)の疾患が含まれた。 主解析はコホートデザインで行い、SCRI分析を用いて2次解析を実施した。4価ワクチン接種者で片頭痛が増加 ワクチン接種時の平均年齢は、HPVワクチン接種群が12.42(SD 0.82)歳、HPVワクチン非接種群は11.84(0.56)歳であった。接種群のうち38.7%は1回、61.3%は2回のHPVワクチン接種を受け、29万5,365人が4価、8万6,655人は2価ワクチンの接種を受けた。合計51万6,476回のHPVワクチン接種が行われた。 コホート分析では、たとえば橋本甲状腺炎(10万人年当たりの発生率:接種群52.7 vs.非接種群36.3、補正後率比[RR]:1.24、95%信頼区間[CI]:0.78~1.94)や、関節リウマチ(168.1 vs.145.4、0.99、0.79~1.25)などではHPVワクチン接種との関連はみられず、唯一の例外として片頭痛(1,235.0 vs.920.9、1.11、1.02~1.22)で関連が認められた。 SCRI分析による2次解析では、片頭痛(補正後相対リスク:0.67、95%CI:0.58~0.78)を含め、HPVワクチン接種と重篤な有害事象には関連がないことが確かめられた。 フォローアップ期間の違いやHPVワクチンの種類別でも、結果の頑健性は高かった。また、2価ワクチン接種者では、片頭痛の有意な増加はみられなかった(補正後RR:1.07、0.96~1.20)が、4価ワクチン接種者では非接種者に比べ片頭痛が有意に増加していた(1.13、1.03~1.24)。 著者は、「これらの結果は、西欧の集団でHPVワクチン接種の安全性を示した試験と一致する」とまとめ、「片頭痛に関する矛盾した知見については、その病態生理と関心対象の集団を考慮して慎重に解釈すべきである」と指摘している。

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ジフテリア、破傷風、百日咳【今、知っておきたいワクチンの話】各論 第7回

今回はジフテリア、破傷風、百日咳がテーマである。現在この3疾患のいずれかをカバーしうる国産ワクチンは、破傷風トキソイド、二種混合(DT:ジフテリア/破傷風混合トキソイド)、三種混合(DPT:ジフテリア/百日咳/破傷風混合)、四種混合(DPT-IPV:ジフテリア/百日咳/破傷風/不活化ポリオ)ワクチンの計4種類がある。DPT-IPVワクチンは乳幼児期(0~1歳)に計4回、DTワクチンは学童期(11~12歳)に1回、定期接種で使用されているが、その他のDPTワクチンと破傷風トキソイドは、制度として定められた接種時期はなく、主にキャッチアップワクチンとして使用されている。諸外国と比較し、わが国の現行の小児定期接種スケジュールの問題点は何だろうか。また、破傷風トキソイドおよびDPTワクチンのキャッチアップとして、接種タイミングをどう考えればよいかについては、意外に知られていない。そこで本稿では、それぞれの疾患とワクチンに触れながら、上記ポイントについて述べる。ワクチンで予防できる疾患 ~ジフテリア・百日咳・破傷風の概要~まず、ジフテリア・百日咳・破傷風、3疾患を比較して外観する。ジフテリア、百日咳、破傷風の疾患頻度は、百日咳>破傷風>>>ジフテリアの順で多く、百日咳は年間1万5,000例以上(うち入院264例、死亡は1例:2019年1))、破傷風は年間数十~100例前後2)(うち死亡は10例前後3))である。百日咳、破傷風ともに、追加接種を行わなければ、乳幼児期の予防接種の効果が減弱するため、小児や成人での感染が問題となっている。これら2疾患の追加接種については今回のメインテーマであり、次項で述べる。ジフテリアの感染事例は国内では20年以上発生していない4)。しかし、諸外国では、感染が流行している地域があるため、海外渡航時または渡航者からの輸入感染に備えるべく、ワクチンにより免疫を獲得しておくことが重要である。以下、各疾患について概説する(詳細は成書を参照)。1)ジフテリアとはジフテリアはジフテリア菌(Corynebacterium diphtheriae)による感染症で、主に上気道粘膜に感染する4)。鼻ジフテリア、咽頭ジフテリア、喉頭ジフテリアなどの病型があり、その他眼瞼結膜、中耳、陰部、皮膚などに感染することもある。わが国では1945年に約8万6 千人(うち約10%が死亡)の届出患者がいたが、ワクチン接種の普及と共に患者数は減少し、1991~2000 年の10年間では21人(うち死亡が2人)にまで激減。2類感染症・全数報告届出疾患であるが、1999年の1例(死亡例)を最後に届出はみられていない。わが国では流行がみられないジフテリアであるが、ロシアでは政権崩壊の煽りをうけて、1990年代にワクチン供給が不足した。それに伴い、住民の免疫低下から、12万5,000人の患者が発生し、4,000人以上が死亡して、欧州を巻き込むなど国際的問題となった事例がある。予後に関わる合併症としては心筋炎があり、無治療の場合の致命率は5~10%と高い。諸外国では散発的に発生していることから、ルーチンワクチンとして接種を推奨することが大切である。2)百日咳百日咳は百日咳菌による急性気道感染症で、長期にわたり続く咳が特徴である。特に新生児や乳児が罹患すると、無呼吸発作などを来たし致死的となることから、乳児の周囲の人がワクチンを接種することにより、乳児に感染させないことが大切である。また、意外に知られていないのが、百日咳の感染経路は飛沫感染だが、基本再生産数※は16-21と非常に高く、空気感染する麻疹とほぼ同等の強い感染力を持つ(麻疹の基本再生産数:12-18)。特に成人の感染者は症状が軽いため、本人が気付かないうちに、乳幼児の感染源となりうる。※基本再生産数集団にいるすべての人間が感染症に罹る可能性をもった(感受性を有した)状態で、1人の感染者が何人に感染させうるか、感染力の強さを表す。つまり、数が多い方が感染力がより強いということになる百日咳は2018年1月から全数報告指定疾患となり、診断した場合は全例届出が必要となった5)。2018~2019年の届出症例数はそれぞれ年間11,190例1)、15,974例6)であった。5~15歳が全体の6割強と多く、成人の中では30~40代が最も多かった(図参照)。乳幼児期の予防接種の効果は最終接種から4~12年で低下することがわかっており、追加接種プログラムがないわが国の課題となっている。図 届け出ガイドラインの診断基準を満たした百日咳患者症例の年齢分布画像を拡大する百日咳はアジスロマイシンにて治療が可能であるが、しばしばその他ウイルス性上気道炎やマイコプラズマなどとの鑑別が困難なことから、診断されていないケースも多いことが推測される。診断するための検査方法としてLAMP法が2016年に保険収載されたため、後鼻腔(咽頭)ぬぐい液にて診療所でも検査・診断がしやすくなっている。後述する百日咳ワクチンの国内での追加接種の必要性を検討するためにも、疫学調査が重要となるため、積極的に検査・診断したい疾患といえる。3)破傷風破傷風は破傷風菌が産生する神経毒素により強直性痙攣を引き起こし、最悪の場合、呼吸筋麻痺を来たし致死的となる7)。破傷風の治療薬として抗破傷風ヒト免疫グロブリン(TIG)とペニシリンがあるが、診断早期に投与する必要があり、しばしば早期診断が難しいことから、予防することが大切である。破傷風は芽胞の状態で土壌内に潜み、外傷や土いじりなどを契機に傷口から侵入する。侵入部位が特定されていない破傷風の症例も多く、軽微な創傷部位からも感染しうる。また、破傷風菌の芽胞は土壌内に広く分布するため、接触を避けることは日常生活上ほぼ不可能である。これらのことから、ワクチン接種以外の方法で完全に破傷風感染から予防するのは難しいことがわかる。破傷風は小児期に複数回の破傷風含有(二種/三種/四種混合)ワクチンを接種していても、追加接種を行わなければ、最終接種から10年ほどで抗体価は低下する。わが国では破傷風ワクチンの追加接種プログラムがなく、任意接種となっていることから免疫を持たない成人が多数いる。そのため、破傷風感染事例の95%以上が小児期に破傷風含有ワクチンの定期接種制度が存在しなかった40歳以上の成人である。ワクチンの概要と接種スケジュール破傷風トキソイド、および二種/三種/四種混合ワクチンいずれのワクチンも安全で、ワクチン特異的な副反応はない。三種/四種混合ワクチンは、他のワクチンに比し副反応として発熱を呈することがやや多いが、2~3日の経過観察で自然に解熱する。ここでは、特に重要性の高い、破傷風トキソイドおよび三種混合ワクチンの追加接種について述べる。1)破傷風トキソイド(表1)罹患すれば効果的な治療薬がなく致死的な疾患のため、先進国であるわが国においてもすべての人が接種推奨対象者である。1967年以前に出生した人は、小児期に破傷風を含むワクチンが定期接種化されていなかった年代のため、まずは破傷風トキソイドを3回接種することにより基礎免疫を付け(0、1、6ヵ月後)、その後10年毎の追加接種(ブースト)を推奨する。1968年以降の生まれの人は、小児期に基礎免疫が終了しているため、最終接種から10年毎のブースト(追加接種)を推奨する。特に、「土」などに接触する機会の多い農作業者や工事現場の従事者、不衛生な環境に曝露しやすい被災地域での支援や災害などの際も、破傷風トキソイドの追加接種の重要性は高い。破傷風トキソイドを含むワクチンの中でも、11~12歳に定期接種とされているDTワクチンの接種率は、7~8割と定期接種ワクチンの中でも低い。破傷風の9割以上は成人発症だが、このDTワクチンを接種しなかった高校生が破傷風を発症した事例も報告されており8)、定期接種をしっかり完了させることも非常に重要である。外傷時は、傷の深さや汚染度によって、破傷風トキソイドに加え、免疫グロブリン投与の必要性を検討する9)。表1 破傷風トキソイド ワクチンの概要画像を拡大する(こどもとおとなのワクチンサイト.破傷風トキソイドの表より引用)2)百日咳含有ワクチン(三種/四種混合ワクチン)現在、小児の定期接種で使用されている百日咳含有ワクチンといえば四種混合(DPT-IPV)ワクチンであるが、2012年11月以前は三種混合(DPT)ワクチンと不活化ポリオワクチン(2012年8月までは経口ポリオワクチン)が用いられていた。現在は、三種混合ワクチンとしてトリビック(商品名)が流通しており、後述する百日咳の追加接種として、わが国で用いることができる唯一の国産ワクチンである。しかし、定期接種として使用される四種混合ワクチンとは違い、制度として接種プログラムに組み込まれていないため、三種混合ワクチンの使い所は、あまり知られていない。なお、海外にはTdap(ティーダップ)という成人用の三種混合ワクチンが広く使用されているが、わが国でも2016年2月にトリビックの添付文書が改定され、成人への接種が可能となっている。では、トリビックはどういう状況で推奨すべきだろうか。百日咳含有ワクチンは、わが国では生後3ヵ月以降にしか接種できず、複数回の接種が必要な不活化ワクチンである。そのため、免疫が付けられない新生児や乳児をケアする母親やその家族など、乳児の周りの人がワクチン接種をすることで乳児を守る“コクーン(繭)戦略”という概念が最も重要とされているワクチンの1つである。わが国では、0~1歳時に定期接種として四種混合ワクチンを4回定期接種するが、それ以降、百日咳含有ワクチンを接種する機会は、制度としては存在しない。一方、多くの諸外国では4歳以降で百日咳含有ワクチンの追加接種を行っている(表2)。その理由は、百日咳の抗体は最終接種から4~12年で低下し、再度感染しうる状態まで免疫が低下することがわかっているからである。実際にわが国でも先述の百日咳感染者の報告で、5~15歳の感染者の8割以上は、乳幼児期に4回の百日咳含有ワクチン接種していたにも関わらず、百日咳に罹患している1,6)。つまり、わが国も諸外国にならい、学童期の追加接種を行うことで、この年代の感染者を減らすことが期待できる。さらに、欧米などでは妊婦に対する百日咳含有ワクチンの接種も推奨している。実際、妊婦(妊娠後期)に対し百日咳含有ワクチンを接種することで、乳児の百日咳感染数が減少したという研究報告もある10)。乳児をケアする母親およびその同居家族は、年代に関わらず、百日咳含有ワクチンの追加接種を行うことで、乳児を百日咳から守ることが望ましい。表2 諸外国における百日咳ワクチンの接種スケジュール 接種時期と回数画像を拡大する日常診療で役立つ接種のポイント(例:ワクチンの説明方法や接種時の工夫)破傷風トキソイド軽微な傷を契機に、土壌中に存在する芽胞がいつ侵入してくるかわからないこと、また有効な治療法がないことからも、全年齢に免疫を付けておくことが推奨される。1967年以前に生まれた人は、3回接種(0、1ヵ月以降、6ヵ月以降)の基礎免疫を行い、その後は、1968年以降に生まれた人と同様、10年ごとの追加接種を推奨する。特に土などに接触する機会や外傷を負うリスクの高い人(農作業者、工事現場、被災地支援など)には積極的に推奨したい。三種混合ワクチン(トリビック)前述の通り、百日咳については追加接種がなければ3~4回の最終接種後、4~12年で抗体は低下し、百日咳に感染しうる状態となる。感染すると致命的となりうる乳児をケアする可能性のある家族(同居家族も含む)への追加接種を推奨する。また、2018~2019年の発生報告で最も感染者の多いことがわかっている学童期への追加接種も積極的に行うことが大切である。具体的には、下記3つの推奨タイミングがある(いずれも任意接種としての扱い)。(注:トリビックの添付文書に記載のある適応年齢は、11~12歳および成人である。つまり(1)は添付文書外使用となることに注意する)(1)5~6歳(年長):MR 2期を接種するタイミングに合わせて、トリビックの接種を推奨する(抗体価が最も低下する9歳11)の前に接種が可能なこと、2019年までの感染者報告では5~15歳が全体の8割を占めることから、接種タイミングとして理にかなっている)(2)11~12歳:DTワクチンの定期接種に相当する年代であり、DTワクチンの代わりにトリビック(三種混合ワクチン)の接種を推奨する。(3)成人:特にこれから妊娠予定や乳児をケアする家族、妊娠可能年齢の女性など(妊婦に対しての接種は、わが国の添付文書上、有益性投与となっている)今後の課題・展望今後、わが国でも諸外国のように、百日咳含有ワクチン(トリビック)の学童期に対する追加接種が定期接種化されることが望まれる。さらに、欧米のように、妊婦に接種推奨が可能な整備がされると、より早期乳児を百日咳から守ることに繋がる可能性がある。また、成人のキャッチアップワクチンとして、破傷風トキソイドを広く推奨できるよう、プライマリケア医および一般市民に対する啓発を続けることが重要と考える。参考となるサイト(公的助成情報、主要研究グループ、参考となるサイト)こどもとおとなのワクチンサイト予防接種啓発ツール 厚生労働省百日咳ワクチン接種推奨ポスター 日本小児科学会1)全数報告サーベイランスによる国内の百日咳報告患者の疫学-2019年疫学週第1週~52週-[2020年1月8日現在](国立感染症研究所)2)発生動向調査年別報告数一覧(その1:全数把握)[2013年2月16日現在報告数](国立感染症研究所)3)破傷風 2008年末現在(IASR.2009;30;p.65-66.)4)ジフテリアとは[2020年10月27日 改訂](国立感染症研究所)5)感染症法に基づく医師届出ガイドライン(初版)百日咳 [平成30年4月25日](国立感染症研究所)6)全数報告サーベイランスによる国内の百日咳報告患者の疫学-2018年疫学週第1週~52週-[2019年1月7日現在](国立感染症研究所)7)破傷風とは[2021年1月12日 改訂](国立感染症研究所)8)2期のDTが未接種であった10代の破傷風発症事例(IASR.2018;39:p.27.)9)外傷後の破傷風予防のための破傷風トキソイドワクチンおよび抗破傷風ヒト免疫グロブリン投与と破傷風の治療(IASR.2002;23:p.4-5.)10)海外の百日せき含有ワクチンの予防接種スケジュールと百日咳対策(IASR.2017;38:p.37-38.)11)年齢/年齢群別の百日咳抗体保有状況.2018年~2018年度感染症流行予測調査より(国立感染症研究所)講師紹介

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「ゾレア」の名称の由来は?【薬剤の意外な名称由来】第38回

第38回 「ゾレア」の名称の由来は?販売名ゾレア皮下注用75mg、ゾレア皮下注用150mgゾレア皮下注75mgシリンジ、ゾレア皮下注150mgシリンジ一般名(和名[命名法])オマリズマブ(遺伝子組換え) (JAN)効能又は効果○気管支喘息(既存治療によっても喘息症状をコントロールできない難治の患者に限る)○季節性アレルギー性鼻炎(既存治療で効果不十分な重症又は最重症患者に限る)○特発性の慢性蕁麻疹(既存治療で効果不十分な患者に限る)用法及び用量<気管支喘息>通常、オマリズマブ(遺伝子組換え)として1回75~600mgを2又は4週間毎に皮下に注射する。1回あたりの投与量並びに投与間隔は、初回投与前血清中総IgE濃度及び体重に基づき、下記の投与量換算表により設定する。<季節性アレルギー性鼻炎>通常、成人及び12歳以上の小児にはオマリズマブ(遺伝子組換え)として1回75~600mgを2又は4週間毎に皮下に注射する。1回あたりの投与量並びに投与間隔は、初回投与前血清中総IgE濃度及び体重に基づき、下記の投与量換算表により設定する。投与量換算表(1回投与量)4週間毎投与画像を拡大する2週間毎投与画像を拡大する投与量換算表では、本剤の臨床推奨用量である0.008mg/kg/[IU/mL]以上(2週間間隔皮下投与時)又は0.016mg/kg/[IU/mL]以上(4週間間隔皮下投与時)となるよう投与量が設定されている。<特発性の慢性蕁麻疹>通常、成人及び12歳以上の小児にはオマリズマブ(遺伝子組換え)として1回300mgを4週間毎に皮下に注射する。警告内容とその理由該当しない禁忌内容とその理由禁忌(次の患者には投与しないこと)本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者※本内容は2021年2月10日時点で公開されているインタビューフォームを基に作成しています。※副作用などの最新の情報については、インタビューフォームまたは添付文書をご確認ください。1)2019年12月改訂(第16版)医薬品インタビューフォーム「ゾレア®皮下注用75mg/ゾレア®皮下注用150mg・ゾレア®皮下注75mgシリンジ/ゾレア®皮下注150mgシリンジ」2)ノバルティスファーマ:DR’sNet

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「タリオン」の名称の由来は?【薬剤の意外な名称由来】第37回

第37回 「タリオン」の名称の由来は?販売名タリオン錠5mgタリオン錠10mgタリオンOD錠5mgタリオンOD錠10mg一般名(和名[命名法])ベポタスチンベシル酸塩(JAN)効能又は効果<成人>アレルギー性鼻炎、蕁麻疹、皮膚疾患に伴う掻痒(湿疹・皮膚炎、痒疹、皮膚掻痒症)<小児>アレルギー性鼻炎、蕁麻疹、皮膚疾患(湿疹・皮膚炎、皮膚掻痒症)に伴う掻痒用法及び用量<成人>通常、成人にはベポタスチンベシル酸塩として1回10mgを1日2回経口投与する。なお、年齢、症状により適宜増減する。<小児>通常、7歳以上の小児にはベポタスチンベシル酸塩として1回10mgを1日2回経口投与する。警告内容とその理由該当しない(現段階では定められていない)禁忌内容とその理由(原則禁忌を含む)禁忌(次の患者には投与しないこと)本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者※本内容は2021年2月3日時点で公開されているインタビューフォームを基に作成しています。※副作用などの最新の情報については、インタビューフォームまたは添付文書をご確認ください。1)2018年1月改訂(第13版)医薬品インタビューフォーム「タリオン®錠5mg/タリオン®錠10mg・タリオン®OD錠5mg/タリオン®OD錠10mg」2)田辺三菱製薬:製品情報

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COVID-19の論文が量産され過ぎな件【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第179回

COVID-19の論文が量産され過ぎな件pixabayより使用私は普段から医学論文を読んでいるのですが、テーマやジャーナルのレベルを絞りながら読むように心掛けています。最近、COVID-19の論文が多過ぎて、オイオイそれはおかしいやろと驚いたので、せっかくだからこの連載でちょっと考察してみたいと思います。中世から近現代にかけてよくわからない論文が流行した時期もあるので、PubMedで検索可能な1900年以降の医学論文について「タイトル検索」を実施してみました。検索時に、PubMedに[title]というタグを入れることで、医学論文のタイトルにその語句が含まれたものだけを抽出する方法があるのです。たとえば、伝統的な感染症である、「結核(tuberculosis)」をタイトル検索すると、1950年代に論文数の第1ピークを起こし、その後現代にいたるまで数多くの論文が刊行されています。その数、14万を超えます。さすがですね、結核。画像を拡大するマラリア(malaria)は4.7万件、梅毒(syphilis)は1.7万件、麻疹は「measles」で1.5万件、「rubeola」で200件です。世界的に有名な感染症なのに、ここらへんは、思ったより少ないですね。そ、そ、そ、そしてCOVID-19は途中で病名が変わったにもかかわらず、なんと6.1万件です。1年足らずで、なんとマラリアの総件数超え!!!いやいや、おかしいでしょうと。PubMedユーザーに困った現象も起こしていまして、たとえば「肺炎(pneumonia)」で、やたらCOVID-19が引っかかるようになったのです。現在、約5万件がヒットしますが、2020年にいきなり3倍に増えているのです。グラフがビューン。細かくみると、この多くがCOVID-19 pneumoniaによる増加だとわかります(矢印)。画像を拡大する…というわけで、COVID-19の論文が量産され過ぎている現状が透けて見えるわけです。アクセプトの閾値が下がっているため、査読リテラシーが問われる案件であると危惧しております。ひどいものでは、「COVID-19時代の原因不明の肺炎」(中身を見てみるとPCR陰性で病原微生物がよくわからなかったというヒドイもの)という論文もあって、よくこんな論文をアクセプトしたなぁと感心するものもありました。

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COVID-19、重症患者で皮膚粘膜疾患が顕著

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)入院患者の皮膚症状に関する報告が寄せられた。これまで皮膚粘膜疾患とCOVID-19の臨床経過との関連についての情報は限定的であったが、米国・Donald and Barbara Zucker School of Medicine at Hofstra/NorthwellのSergey Rekhtman氏らが、COVID-19入院成人患者296例における発疹症状と関連する臨床経過との関連を調べた結果、同患者で明らかな皮膚粘膜疾患のパターンが認められ、皮膚粘膜疾患があるとより重症の臨床経過をたどる可能性が示されたという。Journal of the American Academy of Dermatology誌オンライン版2020年12月24日号掲載の報告。COVID-19入院成人患者296例のうち35例が少なくとも1つの疾患関連の発疹 研究グループは2020年5月11日~6月15日に、HMO組織Northwell Health傘下の2つの3次医療機能病院で前向きコホート研究を行い、COVID-19入院成人患者における、皮膚粘膜疾患の有病率を推算し、形態学的パターンを特徴付け、臨床経過との関連を描出した。ただし本検討では、皮膚生検は行われていない。 COVID-19入院成人患者の発疹症状と臨床経過との関連を調べた主な結果は以下のとおり。・COVID-19入院成人患者296例のうち、35例(11.8%)が少なくとも1つの疾患関連の発疹を呈した。・形態学的パターンとして、潰瘍(13/35例、37.1%)、紫斑(9/35例、25.7%)、壊死(5/35例、14.3%)、非特異的紅斑(4/35例、11.4%)、麻疹様発疹(4/35例、11.4%)、紫斑様病変(4/35例、11.4%)、小水疱(1/35例、2.9%)などが認められた。・解剖学的部位特異性も認められ、潰瘍(13例)は顔・口唇または舌に、紫斑病変(9例)は四肢に、壊死(5例)は爪先に認められた。・皮膚粘膜症状を有する患者は有さない患者と比較して、人工呼吸器使用(61% vs.30%)、昇圧薬使用(77% vs.33%)、透析導入(31% vs.9%)、血栓症あり(17% vs.11%)、院内死亡(34% vs.12%)において、より割合が高かった。・皮膚粘膜疾患を有する患者は、人工呼吸器使用率が有意に高率であった(補正後有病率比[PR]:1.98、95%信頼区間[CI]:1.37~2.86、p<0.001)。・その他のアウトカムに関する差異は、共変量補正後は減弱し、統計的有意性は認められなかった。

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インフルエンザ【今、知っておきたいワクチンの話】各論 第6回

今回は、ワクチンで予防できる疾患、VPD(vaccine preventable disease)として、「インフルエンザ」を取り上げる。ワクチンで予防できる疾患インフルエンザは、インフルエンザウイルスによる急性呼吸器感染症であり、わが国では毎年12月〜3月頃に流行する。感染経路は飛沫感染や接触感染であり、発熱、頭痛、全身倦怠感、筋肉痛や関節痛が出現し、鼻汁や咳などの呼吸器症状が続くが、いわゆるかぜ症候群と比較して、全身状態が強いことが特徴である。多くは自然回復するが、肺炎、気管支炎、中耳炎、急性脳症などを合併し重症化することもある。免疫が不十分な乳幼児や高齢者、基礎疾患のある場合は、特に重症化しやすいため注意が必要である。手洗いや咳エチケットによる感染対策に加え、ワクチンによる予防が重要な疾患である。ワクチンの概要インフルエンザワクチンの概要を表1に示す。インフルエンザは毎年流行する株が異なることから、WHO(世界保健機関)が推奨する株の中から、期待される有効性や供給可能量などを踏まえた上で、A型2亜型とB型2系統による4価ワクチンが製造されている。表1 インフルエンザワクチン画像を拡大する1)ワクチンの効果インフルエンザウイルスが体内に侵入し(感染)、体内でウイルスが増殖することによって一定の潜伏期間を経た後に症状が出現(発病)する。多くは自然回復するが一部は重い合併症を起こし死亡する場合もある(重症化)。インフルエンザワクチンは、ウイルスの“感染”を完全に抑えることは難しく、“発病”については一定の効果が認められているが麻疹風疹ワクチンのような高い効果はない。最も大きな効果は“重症化”を予防することである。国内の研究では、65歳以上の高齢者福祉施設に入所している高齢者において34〜55%の発病を予防し、82%の死亡を阻止する効果があるとされており、6歳未満の小児を対象とした2015/16シーズンの研究では発病防止に対するインフルエンザワクチンの有効性は約60%と報告されている1)。2)集団免疫による効果図1はある集団における感染症の広がりを示している2)。青は免疫を持っていなくて健康な人、黄は免疫を持っていて健康な人、赤は免疫を持っていなくて感染してしまい感染力のある人である。すべての人が免疫を持っていない集団では、感染力のある人が加わるとあっという間に感染は拡大してしまう(上段)。数名しか免疫を持っていない集団では、感染症は免疫を持っていない人を介して拡大する(中央)。しかし、免疫を持っている人が大多数を占める集団では、感染は広がりにくく、免疫を持っていない少数の人にも感染しにくくなる(下段)。この効果を“集団免疫”という。インフルエンザワクチンには個々の感染、発病予防に対する効果は限定的であるが、多くの人がワクチン接種を行うことにより、集団における感染拡大、重症化予防につながるのである。図1 集団免疫による効果画像を拡大する3)接種対象者生後6ヵ月以上のすべての人が接種対象となるが、乳幼児、高齢者、基礎疾患のある人は重症化リスクが高いため特に推奨される。また、これらの人にうつす可能性がある人(家族、医療従事者、介護者、保育士など)に対しても接種が推奨される。わが国においては、65歳以上の高齢者、もしくは60〜64歳未満で心臓、腎臓もしくは呼吸器の機能障害があって身の回りの生活が極度に制限される人、あるいはヒト免疫不全ウイルスにより免疫機能に障害があって日常生活がほとんど不可能な人は、予防接種法に基づく定期接種の対象となっている。4)接種禁忌と卵アレルギーへの対応インフルエンザワクチンによるアナフィラキシーの既往がある場合を除いて、ほとんどの人が問題なく接種可能である。ワクチンの製造過程で卵白成分が使用されていたため、以前は卵アレルギーがある場合には要注意とされていたが、卵アレルギーのある人に重度のアレルギー反応が起こる可能性が低いことがわかっており、現在では軽度の卵アレルギーでは通常通り接種でき、重症卵アレルギーのある場合でもアレルギー対応可能な医療機関であれば接種可能とされている3)。接種スケジュール(接種時期・接種回数)インフルエンザワクチンの効果持続期間は2週間〜5ヵ月程度である。毎年流行するピークの時期は異なるが、おおよそ12月〜3月に流行するため、10月〜11月頃に接種することが望ましい。わが国におけるインフルエンザワクチン接種量と接種回数については表2の通りである。6ヵ月〜13歳未満は2回接種、13歳以上は1回接種が基本とされているが、諸外国における接種方法とは異なっている。世界保健機関(WHO)においては9歳以上の小児および健康成人では1回接種が適切である旨の見解が示されており、米国予防接種諮問委員会(ACIP)も、9歳以上は1回接種とし、生後6ヵ月〜8歳未満の乳幼児についても前年度2回接種していれば、次年度は1回のみの接種で良いとされている4)。なお、接種回数と効果に関しては、日本のインフルエンザワクチン添付文書において、6ヵ月〜3歳未満では2回接種による抗体価の上昇が認められたものの、3〜13歳未満では1回接種と2回接種とで免疫にほぼ差がなかったというデータが示されている(図2)。表2 わが国におけるインフルエンザワクチン接種量と接種回数画像を拡大する図2 年齢別中和抗体陽転率画像を拡大する日常診療で役立つポイント「ワクチン接種してもインフルエンザにかかったため、効果がないのではないか?」「一度もインフルエンザにかかったことがないから自分は大丈夫」などという理由で、ワクチン接種を希望しないケースも少なくない。前述のように個人免疫としての効果は限定的であるが、重症化しやすい集団を守るためにも、集団免疫の効果について丁寧に説明してワクチン接種につなげていきたい。接種回数については意見が分かれるところであるが、9歳以上は1回接種でも問題がなく、9歳未満の小児においても、3歳以上の場合には前年2回接種していれば1回接種でも良いかもしれない。このあたりについては、本人および家族の希望に加えて、ワクチンの需要と供給のバランスをふまえて、できるだけ多くの人がワクチン接種を受けられるように個々での判断が求められる。今後の課題・展望2020/21シーズンにおいては、インフルエンザと新型コロナウイルス感染症との同時流行が危惧されており、発熱患者の判断について困難が生じてくるものと予想される。現時点において新型コロナウイルス感染症はワクチンでの予防が難しいため、ワクチンのあるインフルエンザの流行をできる限り抑えることが重要である。インフルエンザの感染拡大、重症化予防のためにも、できるだけ多くの人に対して積極的にワクチン接種を行い、地域における集団免疫を獲得できるようにして頂きたい。参考となるサイトこどもとおとなのワクチンサイト予防接種に関するQ&A集.日本ワクチン産業協会1)インフルエンザQ&A.厚生労働省2)Building Trust in Vaccines.NIH(アメリカ国立衛生研究所).3)Flu Vaccine and People with egg allergies.CDC(米国疾病管理予防センター).4)Grohskopf LA,et al. MMWR Recomm Rep.2020;69:1-24.5)インフルエンザHAワクチン(商品名:ビケンHA)添付文書講師紹介

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インフルエンザは1,000分の1、COVID-19余波でその他感染症が激減

 日本感染症学会と日本環境感染学会を中心に各医学会や企業・団体が連携し、感染症の予防に向けた啓発活動を行う共同プロジェクト「FUSEGU2020」は、2021年に開催が予定されるオリンピックを鑑み、注意すべき感染症と2020年の感染症流行の状況を解説するメディアセミナーを行った。 セミナーにおいて、防衛医科大学校内科学(感染症・呼吸器)教授の川名 明彦氏が「国際的マスギャザリングに向け、注意すべき感染症」と題した発表を行った。川名氏は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)流行を受け、その他の感染症の流行状況に大きな変化が生じている状況を紹介した。 オリンピックをはじめとした大規模イベント時にはインバウンド感染症(罹患した外国人の訪日を契機として持ち込まれた感染症)に警戒が必要となる。首都圏にとどまらず全国のホストタウンにおいても流行のリスクを踏まえ、事前の周知・対応が重要な感染症として結核・麻疹・デング熱・侵襲性髄膜炎菌感染症が挙げられた。 しかし、COVID-19拡大につれて海外との往来は制限され、東京オリンピックは延期が決定。緊急事態宣言に伴い外出自粛となり、宣言解除後もリモートワーク推進や会合自粛の流れが続いている。4月以降は訪日外国人数が例年の1,000分の1以下という極めて低い水準で推移しており、日常生活においては手洗い、マスク、換気、ソーシャルディスタンスの確保などが習慣化している。 こうした状況に伴い、今年はCOVID-19以外の主だった感染症の発症数が激減している。たとえば、インフルエンザの12月第1週の報告数は63(昨年同期:4万7,200)、流行の基準とされる定点当たりの新規患者数も0.01(同:9.52、流行開始の目安は1.0)と激減しており、冬の流行シーズンに入った現在も大規模な流行の報告はない。 ほかにも、2013年の流行時には年間1万4,344人、昨年も2,306人の感染者を出した風疹は12月第1週までの累計報告数が99人、昨年744人だった麻疹は同13人といずれも激減。人との接触機会の減少とともに、麻疹の場合は患者に訪日外国人の割合が多く、訪日者の減少が大きな要因として考えられるという。 川名氏は「患者の受診抑制による未診断、といった要因も考えられるため慎重な判断が必要だが、COVID-19感染防止対策が接触・飛沫感染を主な感染経路とするその他感染症の流行に抑制的に作用していることは間違いないだろう」と解説。一方で、淋菌感染症、性器クラミジア感染症、梅毒となった性感染症については例年と比較した発症数に大きな変化はなく、「こうした感染症には異なる予防対策が必要になるだろう」とした。

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第31回 ワクチン浸透のシナリオにインフルワクチン難民の出現は好機?

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)流行下でのインフルエンザ同時流行を懸念して今年のインフルエンザワクチンの接種は異例の事態となっている。厚生労働省が事前に「高齢者優先」を呼び掛けて10月1日からスタート。今シーズンは例年よりも多い成人量換算で約6,640万人分のワクチンが確保されたというが、高齢者以外への接種が本格的に始まった10月26日からわずか1週間ほど経た現在、すでにワクチン接種の予約受付を停止した医療機関も相次いでいるという。実は、私はまさにインフルエンザワクチンスタート日の10月1日に接種している。これはたまたま馴染みの医療機関がかかりつけの高齢者には既に9月中旬~下旬に接種を開始し、さらに高齢者での接種者増加も十分に見込んだ発注を終えていたこともあり、高齢者の接種希望者が多くない平日の午後を中心に高齢者以外の接種予約も進めていたからである。ちなみに面識のある複数の開業医に話を聞くと、一様に今年はインフルエンザワクチンの接種希望者が多く、しかも一見さんの割合が多いと口にする。ある知り合いの医師は、Facebookでの投稿で10月だけで3,000人に接種したと記述していたのだから驚く。ワクチン接種の予約を停止した医療機関の多くは、12月までの入荷を見越しても、もはやこれ以上の接種予約を受け付けるのは不可能という判断らしい。そうした中でワクチン接種を求めてさまよう「ワクチン難民」も出始めているという。私のような仕事をしていると、この手の状況や家族が重病になった時に「どこへ行けば?」的な相談が来ることが少なくない。実際、今回も「どこに行けば打てるんだろうか?」「子供が受験生なので何とかならないかな?」という相談がもはや10件以上来ている。たぶん医療従事者の皆さんは私以上にその手の相談攻勢にさらされていると思われる。これらに対しては相談者の居住地域の開業医一覧が乗っている医師会のHPがあれば、それを教えて個別の医療機関に問い合わせするよう促し、各医療機関にワクチンが再入荷するであろう11月下旬前後まで落ち着いて待つように伝えるぐらいしかできない。そして、今回そうした相談を寄せてくる人に見事に共通しているのが、これまでほとんどインフルエンザワクチンの接種歴がないこと。それゆえかかりつけ医もなく、情報も不足しているので「ワクチン難民」という状況である。これを自業自得と言ってしまうのは簡単だが、ちょっと見方を変えるとこれがワクチンへの一般人の理解を浸透させる新たなチャンスにも見えてくる。改めて言うまでもないが、ワクチンとは基本的に健康な人に接種するものである。しかも、その効果は予防あるいは重症化リスクの低下であり、接種者は実感しにくい。この点は検査値や自覚症状の改善が実感できる薬とは根本的に受け止め方が異なる。根拠の曖昧な反ワクチン派がはびこってしまう根底には、このように侵襲が伴うにもかかわらず効果を自覚しにくい、そして時として副反応が報告されてしまうワクチン特有の構造的な問題が一因と考えられる。そして、ワクチンの中でも比較的信頼度の低いものの代表格がインフルエンザワクチンである。これは一般人のワクチンに対する直感的な理解が「ワクチン=予防=打ったら完全にその感染症にかからない」であり、インフルエンザワクチンは麻疹風疹のワクチンのようなほぼ完全に近い予防効果は期待できない。ところがこうした「誤解」が不信感の種になりやすいのである。実際、毎年インフルエンザシーズンになるとTwitterなどでは「インフルエンザワクチンは効かない」「ワクチン打ったのにかかったから、もう2度と打ちたくない」など、反ワクチン派に親和性の高い言説が飛び交う。ここでは釈迦に説法だが、インフルエンザワクチン接種による予防効果、つまり一般人の理解に基づく「ほぼ完全に予防できる効果」に近い数字は、たとえば小児では2013年のNEJMにVarsha K. Jainらが報告した6割前後というデータがある。これに加え重症化のリスクを低減でき、18歳未満でのインフルエンザ関連死は65%減らせるし、18歳以上の成人での入院リスクを5割強減らす。私は今回個人的に相談をしてきた人にはこうした話を必ずしている。彼らに知ってもらいたいのは「ワクチンの中には完全な予防効果が期待できないものの、重症化のリスクを減らす種類のものがあり、その接種でも意味がある」ということだ。とりわけ今のようなCOVID-19流行下では、医療機関は発熱患者が受診した際にその鑑別で頭を悩ませることになる。すでに日本感染症学会は「今冬のインフルエンザとCOVID-19に備えて」でインフルエンザとCOVID-19の鑑別について、患者の接触歴やその地域での両感染症の流行状況、さらにインフルエンザに特徴的な突然の発熱や関節痛、COVID-19に特徴的な味覚・嗅覚障害などの症状を加味して、どちらの検査を優先させるかを決定するよう提言している。しかし、それでも多くの医師は事前鑑別には苦労するだろう。その中で予めインフルエンザワクチンを接種していれば、鑑別の一助にはなるだろう。そうしたことも私は相談者に話している。前述した「チャンス」とはまさにこのような、なんだかよく分からないけど今の雰囲気の中でインフルエンザワクチン接種を切望し、今後流れ次第で親ワクチン派、反ワクチン派のいずれにでも転びかねない人に少しでも理解を深めてもらうチャンスである。正直、メディアの側にいるとワクチンの意義という非常に地味なニュースほど一般に浸透しにくいことを痛いほど自覚している。だからこそ繰り返し伝えること、そして身近な人に確実に伝えることを辛抱強くやるしか方法はないと常に考えている。そしてこれは多忙で患者とじっくり話す時間が取れないことが多い状況であることは承知のうえで、医療従事者の皆さんにも実践してほしいことである。

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流行性耳下腺炎(ムンプス)【今、知っておきたいワクチンの話】各論 第3回

ワクチンで予防できる疾患(疾患について・疫学)ムンプスもしくは流行性耳下腺炎は、ワクチンで予防できる疾患Vaccine Preventable Diseaseの代表疾患である。1)ムンプスの概要感染経路:飛沫感染潜伏期:12~24日周囲に感染させうる期間:耳下腺腫脹の7日前から発症後9日頃まで感染力(R0:基本再生産数):11~14注)R0(基本再生産数):集団にいるすべての人間が感染症に罹る可能性をもった(感受性を有した)状態で、1人の感染者が何人に感染させうるか、感染力の強さを表す。つまり、数が多い方が感染力は強いということになる。感染症法:5類感染症(小児科指定医療機関による定点観測、直ちに届出が必要)学校保健安全法:第2種感染症(耳下腺、顎下腺または舌下腺の腫脹が発現した後5日を経過し、かつ全身状態が良好になるまで)2)ムンプスの臨床症状(表)ムンプスは、多彩な経過や合併症に特徴がある1)。ムンプスは主に唾液による飛沫によりヒト-ヒト感染を起こす。感染から発症までの潜伏期間は典型例で17~18日と非常に長いうえ、発症する6日前から唾液や尿中にウイルスが排泄され感染性がある。さらに、感染しても平均30%は不顕性感染で終わる。不顕性感染は低年齢者に多く,年齢があがるほど症状が現れやすく腫脹も長期化する傾向にある。ただし,無症状でも唾液中のウイルスには感染性がある。耳下腺の腫脹は最も有名かつ高頻度の症状で,発症者のうち90~95%に出現するとされる。しかし、前述の通り感染者全体では70%前後にすぎず、腫脹も両側とは限らない。ここで重要な点として,耳下腺や顎下腺の腫脹は他のウイルス感染症でも起こるため、発熱と耳下腺腫脹だけでムンプスとは確定診断できない。したがって「熱と耳下腺腫脹があった」だけではムンプス罹患といえず、ワクチン不要と判断すべきでない。耳下腺腫脹に続いて多い症状は、思春期以降の男性に起こる睾丸炎で、感染者の1/3に起こるほど多い。片側性の腫脹が多く、睾丸が萎縮し精子数も減少するが、完全な不妊に至ることはまれとされる。女性では感染者の5%に卵巣炎が起こるが,不妊との関連はいまだ証明されていない。このほか無菌性髄膜炎から脳炎、乳腺炎、膵炎といった症状も知られている。無症候の髄液細胞数増多は感染者の50%に認められるとの報告もある。このようにムンプスは潜伏期間が長く、無症候性感染が多いうえ、発症前からウイルスを排泄する。つまり、発症者や接触者を隔離しても伝搬は防げない。表 自然感染の症状とワクチンの合併症1)画像を拡大する3)ムンプスの疫学4~5年おきに大きな流行があり、年間報告数は4~17万例で推移している。ここ数年では、2016年に比較的大きな流行が確認されており、2020年の再流行が懸念されていた(図1)。合併症として問題になる難聴について日本耳鼻咽喉科学会が実施した調査によると2)、上記2年間の流行中に少なくとも335例がムンプス難聴と診断されていた。調査デザインの限界から考えると、症例はもっと多いことが推定される。図1 ムンプスウイルス診断名別分離・検出報告数の推移(2000年1月~2019年9月)画像を拡大するワクチン概要単味の生ワクチンであり、年齢を問わず0.5mLを皮下注する。正確には、ワクチンキットに付属している溶解液0.7mLをバイアル瓶に注入したうち0.5mLを吸い出して接種する。ワクチンで一般にみられるアレルギー反応、接種部位の腫脹、短時間の発熱、といった副反応のほかに特異的なものはない。弱毒化した病原性ウイルスそのものを接種する生ワクチンであり、妊娠中の女性には接種は禁忌である。また、接種後2ヵ月間は妊娠を避けるべきである。同様にステロイドを含む免疫抑制薬を投与中、もしくは免疫抑制状態にある患者も接種禁忌である。現時点では任意接種に位置付けられており、自治体などの補助がなければ接種費用は自己負担となる。なお、先進国の中で日本だけが定期接種化されていない(図2)。図2 世界のムンプスワクチンの接種状況画像を拡大する(From data reported to WHO by 193 WHO Member States as of February 2015より引用)国内では、鳥居株を用いたタケダと星野株を用いた第一三共の2製品が流通している。両者とも無菌性髄膜炎の発生頻度は同様(鳥居株が1/1,600、星野株が1/2,300)。国際的に広く流通しているJeryl-Lynn株は、国産品に比べて免疫獲得能がやや低い一方で無菌性髄膜炎の発症は少ない。接種スケジュール「1ヵ月以上の間隔で2回以上の接種」が原則となる。添付文書では生後24ヵ月~60ヵ月の間に接種することが望ましいとされているが、妊娠中などの禁忌がなければ成人でも接種可能である(図3)。画像を拡大するその他の注意事項は以下の通りである。他の生ワクチン接種:27日以上空ける(4週目の同じ曜日から接種可能)不活化ワクチン接種:6日以上空ける(翌週の同じ曜日から接種可能)輸血およびガンマグロブリン製剤の投与:投与3ヵ月以降に接種ガンマグロブリンを200mg/kg以上の大量投与:投与6ヵ月以降に接種ワクチン接種後14日以内にガンマグロブリン製剤投与:投与後3ヵ月以降に再接種ステロイドや免疫抑制剤:投与中止後6ヵ月以降に接種罹患歴については前述の通り、医療機関でムンプスウイルス感染を証明された場合のみ意義ありとして、臨床症状のみで罹患歴としないことが望ましい。ムンプス成分を3回以上接種しても医学的には問題はない。Jeryl-Lynn株ワクチンを採用している先進国によってはむしろ、10年程度で抗体価が低下することによる“Secondary vaccine failure”への対策として追加接種を検討している。また、ウイルス曝露の早期にワクチン接種することで発症を予防する曝露後緊急接種について、麻疹や水痘では有効性が確認されているが、ムンプスワクチンでは無効と考えられてきた。しかし、2017年に“The New England Journal of Medicine”で一定の効果が報告されるなど3)、近年ムンプスワクチンの接種戦略は世界的に見直しが検討されつつある。ただし、この研究で用いられたのはJeryl-Lynn株を含むMMRワクチンであり、日本製品とは素性が異なる。また、日本のムンプスワクチンには曝露後接種の適応はない。日常診療で役立つ接種ポイント(例.ワクチンの説明方法や、接種時の工夫)外来などでは、おおむね以下の点について説明することが望ましい。「いわゆる『おたふく風邪』を予防するワクチンです。1回接種の予防効果は75~80%で、確実な予防のために2回接種しましょう」「『おたふく風邪』で死亡することはまれですが、多様な合併症が起きます。特に難聴は、年間300人前後も発症している可能性があるうえ、もし発症すると回復不能です」「感染から発症まで2週間以上と長いことや、感染しても1/3は無症状のままウイルスを広げている、といった特性から発症者の隔離は意味がなく、確実な予防法はワクチンだけです」「接種間隔を伸ばすメリットはないので、幼稚園などの集団生活を始める前に2回接種を済ませましょう」「海外へ移住する方は、お子さんだけでなく大人も接種を検討しましょう。幼少時に耳下腺が腫れた、というだけではムンプスとは限りませんし、追加接種しても問題ありません」今後の課題・展望ワクチンギャップ解消の機運を受け、厚生労働省の厚生科学審議会は2012年に「広く接種を促進することが望ましい」と7つのワクチンを提示した4)。これら7つのうち、2020年現在いまだに定期接種化を果たしていないのはムンプスだけになった。これには、1989年のMMR統一株ワクチンによる無菌性髄膜炎が大きく影響している。それまで積極的だったワクチン行政を決定的に転回させ、日本にワクチンギャップが生まれる遠因ともなった渦中のムンプスワクチンが、その影響を最後まで受けているともいえる。しかし、そもそも自然感染に比べれば現行ワクチンでも無菌性髄膜炎の発症率は1/20以下であるし、さらに1歳前後で早期接種すると無菌性髄膜炎の発生率が減ることが明らかになってきた。そして、現在、無菌性髄膜炎の発生率は、MMR統一株ワクチン当時の1/10にまで減っている。ムンプスワクチン定期接種化のメリットは感覚的にも明らかだが、医療経済学的な試算でも有効性は示されており5)、学術団体からも繰り返し要望が出ている。しかしながら、無菌性髄膜炎が減ったことでワクチン接種の効果を自然感染と比較する調査のハードルは高くなっており、承認申請のために治験を通過する必要がある輸入ワクチンの導入やワクチン株の新規開発を一層難しくなっている。一方、諸外国では、Jeryl-Lynn株ワクチン2回接種後の感染が問題となっており、不活化ワクチンの新規開発や曝露後接種の検討なども始まっており、日本と世界の現状は乖離しつつある。2020年1月の厚生科学審議会の評価小委員会では、ムンプスワクチンについて審議が行われたが、明確な方針決定には至らなかった6)。 参考となるサイトこどもとおとなのワクチンサイト1)おたふくかぜワクチンに関するファクトシート2)2015-2016年にかけて発症したムンプス難聴の大規模全国調査3)Cardemil CV, et al. N Engl J Med. 2017;377:947-956.4)予防接種制度の見直しについて(第二次提言)5)大日康史、他. ムンプスの疾病負担と定期接種化の費用対効果分析.厚生労働科学研究費補助金(新興・再興感染症研究事業)「水痘、流行性耳下腺炎、肺炎球菌による肺炎等の今後の感染症対策に必要な予防接種に関する研究(研究代表者:岡部信彦)」、平成15年度から平成17年度総合研究報告書.p144-154:2006.6)厚生科学審議会(予防接種・ワクチン分科会予防接種基本方針部会)第37回講師紹介

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マスク・手袋などのPPEによる皮膚疾患をどう防ぐか

 COVID-19感染流行の長期化に伴い、フェイスマスク・手袋をはじめとした個人用防護服(PPE)の長期着用を要因とした医療者の皮膚疾患が報告されている。こうした皮膚疾患への対応と予防策について、Seemal R. Desai氏らがJournal of the American Academy of Dermatology誌のリサーチレターで提言している。 サージカルマスク・N95マスク・ゴーグル・フェイスシールドなどのPPEは、マスク表面やストラップの摩擦によって耳の後ろや鼻梁、あるいは顔全体に接触皮膚炎を引き起こす、という報告がある。 さらに、マスクに使用されている接着剤、ストラップのゴム、不織布のポリプロピレン、クリップの金属などが接触皮膚炎や蕁麻疹を引き起こす、密着性の高いN95マスクが皮膚を痛める、さらにマスク装着時にこもる湿気が皮膚炎や感染症を引き起こす、といった可能性もある。 提唱されている予防策は、・サージカルマスクは、ストラップの触れる耳の後ろにアルコールフリーのドレッシング材を貼る。・N95マスクは、アルコールフリーのバリアフィルム(スプレータイプではないもの)をマスクが直接接触する部分に貼り、着用前に90秒間乾燥させる。顔のサイズに合ったマスクを使い、顔に過度の圧力をかけないようにする。 いずれの場合でも、朝と就業後に無香料で毛穴が詰まりにくい洗顔料で顔を洗う、2時間に1回、15分間はマスクを外す時間を設ける、装着1時間前には保湿剤で顔を保湿する、といったことが推奨されている。ワセリンベースの製品はマスクの密着性を妨げる可能性があるため推奨されていない。 米国疾病予防管理センター(CDC)によると、全医療者における職業病の10~15%を接触皮膚炎が占めており、中でも手袋に関連するアレルギー性皮膚炎が多い。保湿を行い、PPE使用前に手を清潔にしてよく乾かすことが、皮膚疾患に対しての共通した予防策になるという。

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事例008 特異的IgE半定量・定量の査定【斬らレセプト シーズン2】

解説今回事例は、「D015 13 特異的IgEの査定」です。39種類の実施は、“View39”とも称され、気管支喘息、鼻アレルギー、蕁麻疹、アトピー性皮膚炎などのI型アレルギー疾患を誘発するアレルギー抗原を特定するために使用されます。これは査定が多い検査の1つです。今回のようにアレルギー性皮膚炎が確定していない状態では、検査の適応がないとして、病名不足もしくは病名不備を理由にA事由(医学的に適応と認められないもの)として査定されたものです。I型アレルギー以外の検査適応病名がレセプトに記載されていたとしても、同月実施などの検査間隔が短い場合や、項目の重複は査定対象となります。医学的な妥当性がレセプト内容から読み取れるように、あらかじめ病名の追加や症状詳記の記載が査定対策として必要です。また、医学的理由を記載した後に2回目の実施の場合、血液採取料が算定されていないと同一検体からの実施と判断され、検査項目の重複部分は査定対象となります。これらの点は常にご留意ください。

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Dr.長門の5分間ワクチン学

第1回 ワクチンの基礎第2回 接種の実際第3回 被接種者の背景に応じた対応第4回 接種時期・接種間隔第5回 予防接種の法律・制度第6回 Hibと肺炎球菌第7回 麻疹風疹・おたふく第8回 水痘・BCG・4種混合第9回 肝炎・日本脳炎第10回 インフルエンザ・ロタウイルス第11回 子宮頸がんワクチン・渡航ワクチン第12回 トラブルシューティング CareNeTV総合内科専門医試験番組でお馴染みの長門直先生が、自身の専門の1つである感染症について初講義。医療者が感じているワクチンにまつわる疑問を各テーマ5分で解決していきます。テーマは「ワクチンの基礎」をはじめとした総論5回と「麻疹風疹・おたふく」など各論7回。全12回で完結のワクチン学を、CareNeTV初お目見えのホワイトボードアニメーションでテンポよくご覧いただけます。第1回 ワクチンの基礎医療者でも意外と知らなかったり、間違って覚えていることが多いのがワクチン接種。第1回は「ワクチンの基礎」として、まず最初に押さえておきたい、「ワクチンの種類」と「ワクチンを取り扱う上で覚えておきたいこと」をまとめました。ワクチンの種類の違いは?アジュバントの意味は?ワクチンの保存方法で気を付けたいことは?「ワクチン学」の講義時間はたったの5分。CareNeTV初お目見えのホワイトボードアニメーションでテンポよく解説していきます。第2回 接種の実際今回の「ワクチン学」のテーマは「ワクチン接種の実際」。医療者からよく質問に出る「ワクチンの接種方法」と「ワクチン接種後の対応」について確認していきます。ワクチン接種方法では、皮下注射と筋肉注射の具体的な方法を確認していきます。接種部位は?使用する針の太さは?長さは?角度は?そして、ワクチン接種後の対応については、意外と知られていないことや、間違って覚えてしまっていることを解決していきます。第3回 被接種者の背景に応じた対応被接種者が抱える背景によって、ワクチン接種の可否や気を付けておきたいことを確認していきます。今回「ワクチン学」で取り上げる被接種者の背景は8つ。(1)早産児・低出生体重児(2)妊婦・成人女性(3)鶏卵アレルギーがある人(4)発熱者(5)痙攣の既往歴のある人(6)慢性疾患のある小児(7)HIV感染症の人(8)輸血・γ-グロブリン投与中の人。それぞれに応じた対応をポイントに絞り、解説していきます!第4回 接種時期・接種間隔接種時期・接種間隔は予防接種ごとに決められています。今回は、原則と被接種者からよく聞かれる質問、そしてその対応を確認します。小児の場合、不活化ワクチンの第1期接種では、なぜ複数回接種する必要があるのか?成人や高齢者の場合は?生ワクチンで押さえておきたいポイント。被接種者からよく聞かれる質問は「感染症潜伏期間の予防接種は可能かどうか」など、3つをピックアップしました。第5回 予防接種の法律・制度法律・制度の観点から定期接種、任意接種を確認します。近年の法改正の流れ、それぞれの費用負担の違い、現在の対象疾病の種類。副反応に関する制度では、報告先と救済申請先を確認。また、医療者の中でも賛否が分かれるワクチンの同時接種についても言及します。第6回 Hibと肺炎球菌今回から各論に入ります。まずはHibワクチンと肺炎球菌ワクチン。よくある質問とそれぞれの特徴を見ていきます。よくある質問は「Hibワクチンや肺炎球菌ワクチンは中耳炎の予防になるの?」「肺炎球菌ワクチンは2つあるけどどう違うの?」。それぞれの特徴では、Hibワクチンは接種スケジュールのパターン、肺炎球菌ワクチンは2種類の成分、接種対象者と接種方法を確認していきます。第7回 麻疹風疹・おたふく今回は生ワクチンシリーズ。麻疹風疹、MR、ムンプスを確認します。内容は、それぞれの接種時期をはじめ、2回接種する理由、非接種者が感染者と接触した場合の対応について。そして2018年に大流行した風疹についてはより具体的に「ワクチン接種者からの感染はあるのか?」「ワクチン接種した母親の母乳を飲んだ乳児への影響」「妊娠中の女性への風疹ワクチン対応」など、よくある疑問を解決していきます!第8回 水痘・BCG・4種混合今回は水痘・BCG・4種混合ワクチン。それぞれの接種回数、接種時期をはじめ、注意すべき点について触れていきます。水痘ワクチンでは2回接種する理由を確認します。そして、医療現場で課題となりやすいBCGワクチンの懸濁の仕方については、均一に溶かすポイントを紹介。さらに、4種混合ワクチンの追加接種を忘れた場合の対応、ポリオワクチンの現状について学んでいきます。第9回 肝炎・日本脳炎今回は、肝炎、日本脳炎。肝炎は渡航ワクチンとして使われる任意接種のA型肝炎ワクチンと定期接種のB型肝炎ワクチン、そして医療保険適用となる母子感染予防のB型肝炎ワクチンについて見ていきます。それぞれの接種スケジュールとB型肝炎ワクチンの現場で迷うことを解決します。日本脳炎は、接種スケジュールの確認に加え、日本小児科学会が言及している標準的接種時期以前の発症リスクについて紹介します。 第10回 インフルエンザ・ロタウイルス今回は冬から春にかけて流行するインフルエンザ、ロタウイルス。それぞれのワクチンを接種するタイミングとおさえておきたいポイントを確認します。インフルエンザワクチンは定期接種対象者、卵アレルギーの被接種者の方への対応、予防効果について。ロタウイルスワクチンは1価と5価、それぞれの有効性、接種スケジュールの違い、接種する時期、期間を学んでいきます。第11回 子宮頸がんワクチン・渡航ワクチン今回は、女性のHPV関連疾患を予防する2種類の子宮頸がんワクチンと海外渡航者に気を付けてほしい渡航ワクチンについて触れていきます。子宮頸がんワクチンは2種類の違いとそれぞれの接種スケジュール、日本における接種率激減に対するWHOの見解を確認します。渡航ワクチンは数ある中から黄熱ワクチン、狂犬病ワクチン、髄膜炎菌ワクチンの有効性と接種推奨地域を見ていきます。第12回 トラブルシューティングワクチンは通常、定期接種ですが、不慮の事態で至急打たなければならない場合があります。最終回はそのようなワクチンの“トラブルシューティング”を取り上げます。具体的には、感染者と接触した際の緊急ワクチン接種、外傷時の破傷風トキソイド接種、針刺し時の対応です。さらに、ワクチンの接種間隔に関する規定の改正など、2019年から2020年の大きなトピックを3つ取り上げてワクチン学をまとめていきます。

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