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第10回 下肢の痛み【エキスパートが教える痛み診療のコツ】

第10回 下肢の痛み腰・下肢痛と言われるように、腰痛疾患に伴う下肢痛もよく見られます。統計によりますと、日本では約30万人以上の患者さんが、腰・下肢痛、坐骨神経痛、神経根障害などとして診断されています。今回は、この下肢の痛みを取り上げたいと思います。腰椎疾患・血管疾患・末梢神経障害の3分類で考える下肢の痛みは、大きく分けて腰椎疾患由来の痛み、血管疾患由来の痛み、末梢神経障害由来の痛みに分類されます。1)腰椎疾患由来の痛み腰痛疾患に由来する痛みで、一般的には坐骨神経痛と称されます。椎骨や椎間板によって腰神経が圧迫されるために、対応する下肢や臀部に放散するしびれや痛みが生じます。具体的には、脊椎管狭窄症や椎間板へルニアなどの疾患によって、病変部の神経が圧迫されて下肢痛が生じます。下図に示されるように、それぞれの病変部に応じて痛みが感じられます。神経圧迫がなくても、炎症によって責任神経に沿って痛みを感じることがあります。画像を拡大する2)血管疾患由来の痛み血管疾患は、動脈由来と静脈由来とに分類されます。動脈由来では、閉塞性動脈硬化症(ASO)が代表的疾患です。動脈の血流が悪くなりますと、運動時のみに痛みを感じていたのが、次第に安静時にも痛みを感じるようになります。また、下肢に痛みを急激に感じるときには、血栓などによる急性下肢動脈閉塞の可能性も高く、緊急対応が必要になりますので注意しなくてはなりません。静脈由来では、蛇行静脈が見られたり、下肢が腫脹したりする下肢静脈瘤が最も多く認められております。下肢が急に腫れて痛みを感じる場合には、深部静脈血栓症の可能性もありますので、十分に注意する必要があります。3)末梢神経障害由来の痛み下肢の末梢神経が、圧迫されたり、絞扼されたりすると、その神経の支配領域に一致した痛みを伴います。異常感覚性大腿神経痛が代表的疾患ですが、この場合は大腿外側に痛みや痺れが見られます。その他に気を付けなければならない下肢痛としては、複合性局所疼痛症候群(CRPS)があります。この疾患は、外傷後などに遷延する四肢の痛みで、皮膚の異常感覚や色調異常などが見られます。時に、注射穿刺後に生じることもあります。また、帯状疱疹、蜂窩織炎、足底腱膜炎などは、よく見られる疾患です。仙腸関節痛や大腿骨頭壊死などでも下肢痛が見られます。シンスプリントやアキレス腱断裂は、運動後に生じる下肢痛です。長期間にわたって痛みを訴えたり、事故や労災などが関与したりしている場合には、心理社会的な要因が存在することもありますので注意が大切です。次回は陰部・肛門痛について述べます。1)服部政治ほか 日本における慢性疼痛を保有する患者に関する大規模調査. ぺインクリニック25:1541-1551.2004.2)山村秀夫ほか編. 痛みを診断する.有斐閣;1984.p.25-263)花岡一雄ほか監修. 痛みマネジメントupdate 日本医師会雑誌. 2014;143:S146-147

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SCARLET試験:敗血症関連凝固障害に対する遺伝子組み換えヒト可溶性トロンボモジュリンの有効性(解説:小金丸博氏)-1066

 敗血症関連凝固障害はINR延長や血小板数低下で定義され、28日死亡率と相関することが報告されている。遺伝子組み換えヒト可溶性トロンボモジュリン(rhsTM)製剤は、播種性血管内凝固(DIC)が疑われる敗血症患者を対象とした第IIb相ランダム化試験の事後解析において、死亡率を下げる可能性が示唆されていた。 今回、敗血症関連凝固障害に対するrhsTM製剤の有効性を検討した第III相試験(SCARLET試験)の結果が発表された。本試験は、26ヵ国159施設が参加した二重盲検プラセボ対照ランダム化比較試験であり、集中治療室に入室した心血管あるいは呼吸器障害を伴う敗血症関連凝固障害患者を対象とした。プライマリアウトカムに設定した28日全原因死亡率は、rhsTM投与群が26.8%(106/395例)、プラセボ投与群は29.4%(119/405例)であり、両群間に有意差を認めなかった(p=0.32)。絶対リスク差は2.55%(95%信頼区間:-3.68~8.77)だった。重篤な出血有害事象の発生率は、rhsTM投与群が5.8%、プラセボ投与群は4.0%だった。 本試験では、敗血症関連凝固障害に対するrhsTM製剤の投与は、28日全原因死亡率を有意に低下させることができなかった。有効性を示せなかった要因として、(1)約20%の患者がベースライン時に凝固障害の基準を満たしていなかったこと、(2)プラセボ投与群の死亡率が予想より高かったこと、(3)深部静脈血栓症予防に用いたヘパリンがrhsTMの効果を弱めた可能性があること、(4)試験に参加した159施設中55施設では登録患者数が1例であり、有効性の結果に影響した可能性があることが挙げられている。 サブグループ解析では、ベースラインのAPACHE IIスコア25点未満の患者(439例)は28日全原因死亡率がrhsTM投与群で低く(リスク差:4.66%)、25点以上の患者(283例)はrhsTM投与群で高かった(リスク差:-1.45%)。また、ヘパリンを投与された患者(416例)は28日全原因死亡率がrhsTM投与群で高く(リスク差:-0.87%)、ヘパリンを投与されなかった患者(384例)はrhsTM投与群で低かった(リスク差:6.25%)。敗血症患者の病態は不均一であり、敗血症関連凝固障害に対して一律にrhsTMを投与しても有効性を見いだせないかもしれない。しかしながら、サブグループ解析や事後解析の結果はrhsTM投与が有効な病態が存在することを示唆しており、今後の研究結果を待ちたい。

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第13回 頭部外傷 その原因は?【救急診療の基礎知識】

●今回のPoint1)発症様式を必ずチェック!突然発症は要注意!2)失神は突然発症だ!心血管性失神を見逃すな!3)外傷の背景に失神あり。必ず前後の痛みの有無をチェック!【症例】65歳女性。来院当日、娘さんとスーパーへ出掛けた。レジで並んでいる最中に倒れ、後頭部を打撲した。目撃した娘さんが声を掛けると数十秒以内に反応があったが、頭をぶつけており、出血も認めたため救急車を要請した。●搬送時のバイタルサイン意識清明血圧152/88mmHg脈拍100回/分(整)呼吸18回/分SpO296%(RA)体温36.5℃瞳孔3/3mm+/+既往歴高血圧(61歳~)、脂質異常症(61歳~)内服薬アムロジピン(Ca拮抗薬)、アトルバスタチン(スタチン)外傷患者に出会ったら高齢者が外傷を理由に来院することは非常に多く、軽症頭部外傷、胸腰椎圧迫骨折、大腿骨頸部骨折などは、しばしば経験します。「段差につまずき転倒した」「滑って転倒した」など、受傷原因が明確であれば問題ないのですが、受傷前の状況がはっきりしない場合には注意して対応する必要があります。大切なのは「なぜけがを負ったのか」、すなわち受傷機転です。結果として引き起こされた外傷の対応も重要ですが、受傷原因のほうが予後に直結することが少なくありません。失神の定義突然ですが、失神とは何でしょうか?意識消失、一過性全健忘、痙攣、一過性脳虚血発作などと明確に区別する必要があります。失神は一般的に、(1)瞬間的な意識消失発作、(2)姿勢保持筋緊張の消失、(3)数秒~数分以内の症状の改善を特徴とします。(1)~(3)を言い換えれば、それぞれ(1)突然発症、(2)外傷を伴うことが多い、(3)意識障害は認めないということです。失神は表1のように分類され、この中でも心血管性失神は見逃し厳禁です1)。決して忘れてはいけない具体的な疾患の覚え方は“HEARTS”(表2)です2)。これらは必ず頭に入れておきましょう。画像を拡大する画像を拡大する外傷の原因が失神であることは珍しくありません。Bhatらのデータによると、外傷患者の3.3%が失神が契機となったとされています3)。姿勢保持筋緊張が消失するために、立っていられなくなり倒れるわけです。完全に気を失わなければ手が出るかもしれませんが、失神した場合には、そのまま頭部や下顎をぶつけるようにして受傷します。頭部打撲、頬部打撲、下顎骨骨折などに代表される外傷を診たら、なぜ手が出なかったのか、失神したのかもしれない、と考える癖を持つとよいでしょう。痛みの有無を必ず確認外傷患者を診たら、誰もが疼痛部位を確認すると思います。Japan Advanced Trauma Evaluation and Care(JATEC)にのっとり、身体診察をとりながら、疼痛部位を評価しますが、その際、今現在の痛みの有無だけでなく、受傷時前後の疼痛の有無も確認しましょう。クモ膜下出血、大動脈解離のそれぞれ10%は失神を主訴に来院します。発症時に頭痛や後頸部痛の訴えがあればクモ膜下出血を、胸痛や腹痛、背部痛を認める場合には大動脈解離を一度は鑑別診断に入れ、疑って病歴や身体所見、バイタルサインを解釈しましょう。検査前確率を意識して適切な検査のオーダーを失神患者にとって、最も大切な検査は心電図です。各国のガイドラインでも心電図は必須の検査とされています。しかし、その場で診断がつくことはまれです。症状が現時点ではないのが失神ですから、検査を施行しても捕まらない、当たり前といえば当たり前です。房室ブロックに代表される不整脈が、その場でキャッチできればもうけものといった感じでしょう。また、心電図に異常を認めるからといって、心臓が原因とは限らないことにも注意しましょう。たとえばクモ膜下出血では90%以上に心電図変化(Big U wave、Prolonged QTc、ST depression など)が出るといわれます。ST低下を認めたからといって、心原性のみを考えていては困るわけです。本症例では、来院時の心電図でST低下が認められ、心原性の要素を考えて初療医は対応していました。しかし、受傷時に頭痛を訴えていたことが娘さんから確認できたため、クモ膜下出血を疑い頭部CT検査を施行し、診断に至りました。外傷患者を診たら受傷機転を考えること、はっきりしない場合には失神/前失神を鑑別に入れて病歴を聴取しましょう。“HEARTS”に代表される心血管性失神の可能性を考慮し、所見(収縮期雑音、血圧左右差、深部静脈血栓症の有無など)をとるのです。鑑別に挙げなければ、頭部外傷患者の下腿を診ることさえないでしょう。1)坂本 壮.救急外来 ただいま診断中!.中外医学社;2015.2)Brignole M,et al. Eur Heart J. 2018;39:1883-1948.3)Bhat PK,et al. J Emerg Med. 2014;46:1-8.

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敗血症関連凝固障害への遺伝子組換えトロンボモジュリン製剤、第III相試験結果/JAMA

 敗血症関連凝固障害がみられる重症患者の治療において、遺伝子組換えヒト可溶性トロンボモデュリン(rhsTM)製剤ART-123はプラセボと比較して、28日以内の全死因死亡率を改善しないことが、ベルギー・Universite Libre de BruxellesのJean-Louis Vincent氏らが実施した「SCARLET試験」で示された。研究の詳細はJAMA誌オンライン版2019年5月19日号に掲載された。rhsTMは、播種性血管内凝固症候群(DIC)が疑われる敗血症患者を対象とする無作為化第IIb相試験の事後解析において、死亡率を抑制する可能性が示唆されていた。26ヵ国159施設のプラセボ対照無作為化試験 本研究は、日本を含む26ヵ国159施設が参加する二重盲検プラセボ対照無作為化第III相試験であり、2012年10月~2018年3月の期間に患者登録が行われた(Asahi-Kasei Pharma America Corporationの助成による)。 対象は、心血管あるいは呼吸器の障害を伴う敗血症関連凝固障害で、集中治療室に入室した患者であった。被験者は、rhsTM(0.06mg/kg/日、最大6mg/日、静脈内ボーラス投与または15分注入)またはプラセボを投与する群に無作為に割り付けられ、1日1回、6日間の治療が行われた。 主要エンドポイントは、28日時の全死因死亡であった。28日全死因死亡率:26.8% vs.29.4% 816例が登録され、このうち800例(平均年齢60.7歳、男性54.6%)が試験を完遂し、最大の解析対象集団(FAS)に含まれた。rhsTM群が395例、プラセボ群は405例であった。 28日全死因死亡率は、両群間に有意な差は認めなかった(rhsTM群26.8%[106/395例]vs.プラセボ群29.4%[119/405例]、p=0.32)。絶対リスク差は2.55%(95%信頼区間[CI]:-3.68~8.77)だった。 サブグループ解析では、ヘパリンの投与を受けた患者(416例)は、28日全死因死亡率がrhsTM群で低かった(差:-0.87%、95%CI:-9.52~7.77)のに対し、ヘパリンの投与を受けていない患者(384例)は、rhsTM群のほうが高かった(6.25%、-2.72~15.22)。 重篤な出血有害事象(頭蓋内出血、生命に関わる出血、担当医が重篤と判定した出血イベントで、赤血球濃厚液1,440mL[典型的には6単位]以上を2日で輸血した場合)の発生率は、rhsTM群が5.8%(23/396例)、プラセボ群は4.0%(16/404例)であった。 なお著者は、これらの知見に影響を及ぼした可能性のある原因として、次のような諸点を挙げている。(1)患者の約20%が、ベースライン時に凝固障害の基準を満たさなかった、(2)プラセボ群の死亡率が、試験開始前にサンプルサイズの算出に使用した予測値よりも高かった、(3)深部静脈血栓症の予防に用いたヘパリンが、rhsTMの効果を減弱させた可能性がある、(4)無作為化の際に施設で層別化したが、159施設中55施設は登録患者が1例のみであり、効果の結果に影響を及ぼした可能性がある。

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脳内出血生存例への抗血小板療法は安全か/Lancet

 脳内出血の生存例は、出血性および閉塞性の血管疾患イベントのリスクが高いが、これらの患者で抗血小板薬が安全に使用可能かは明らかでないという。英国・エジンバラ大学のRustam Al-Shahi Salman氏らRESTART試験の研究グループは、抗血栓療法中に脳内出血を発症した患者への抗血小板療法は、これを行わない場合と比較して脳内出血再発率が低い傾向にあり、安全性は保持されることを示した。研究の詳細はLancet誌オンライン版2019年5月22日号に掲載された。再発リスクが閉塞性血管イベント抑制効果を上回るかを検証 研究グループは、脳内出血の再発予防における抗血小板薬の有効性を評価し、再発のリスクが閉塞性血管イベントの抑制効果を上回るかを検証する目的で、非盲検エンドポイント盲検化無作為化試験を行った(英国心臓財団の助成による)。 対象は、抗血栓療法中に脳内出血を発症したため治療を中止し、その後、発症から24時間以上生存し、閉塞性血管疾患の予防のために抗血栓薬(抗血小板薬、抗凝固薬)の投与を受けている年齢18歳以上の患者であった。 被験者は、抗血小板療法を行う群と行わない群に無作為に割り付けられた。主要アウトカムは、最長5年の症候性脳内出血の再発とした。再発率:4% vs.9%、閉塞性血管イベント発生率:15% vs.14% 2013年5月~2018年5月までに、脳内出血生存例537例(発症からの期間中央値76日[IQR:29~146])が登録された。抗血小板療法群に268例、非血小板療法群には269例(1例が脱落)が割り付けられた。追跡期間中央値は2.5年(IQR:1.0~3.0、追跡完遂率:99.3%)だった。 ベースラインの全体の平均年齢は76歳、約3分の2が男性で、92%が白人であった。62%が脳葉出血で、88%に1ヵ所以上の閉塞性血管疾患(ほとんどが虚血性心疾患、脳梗塞、一過性脳虚血発作)の既往があり、割り付け時に約4分の3が高血圧、4分の1が糖尿病や心房細動を有していた。 脳内出血再発率は、抗血小板療法群が4%(12/268例)と、非血小板療法群の9%(23/268例)に比べ低い傾向がみられたものの、有意な差はなかった(補正後ハザード比[HR]:0.51、95%信頼区間[CI]:0.25~1.03、p=0.060)。 主な出血イベント(再発性症候性脳内出血[主要アウトカム]、外傷性頭蓋内出血など)の発生率は、抗血小板療法群が7%(18例)、非血小板療法群は9%(25例)であり、有意差は認めなかった(補正後HR:0.71、95%CI:0.39~1.30、p=0.27)。また、主な閉塞性血管イベント(脳梗塞、心筋梗塞、腸間膜虚血、末梢動脈閉塞、深部静脈血栓症など)の発生率は、それぞれ15%(39例)および14%(38例)と、こちらも両群に有意差はみられなかった(1.02、0.65~1.60、p=0.92)。 著者は、「脳内出血例における閉塞性血管疾患の予防ための抗血栓療法では、抗血小板療法による脳内出血の再発リスクの増加はきわめてわずかであり、おそらく2次予防において確立された抗血小板薬の有益性を超えるものではない」とまとめ、「現在、別の無作為化試験が進行中であり、本試験と合わせたメタ解析や、適切な検出力を持つ信頼性の高い無作為化試験が求められる」としている。

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第12回 呼吸困難 意外に多い呼吸困難の原因とは?【救急診療の基礎知識】

●今回のPoint1)呼吸数に注目し、帰してはいけない患者を見逃さないようにしよう!2)バイタルサインは必ず普段のADLで評価しよう!3)検査は事前確率に応じて、適切な検査を提出・実施しよう!【症例】70歳男性。来院当日、奥さんと買い物中に呼吸困難を自覚した。途中、近くのベンチで休み症状は改善傾向にあったが、心配となり帰宅途中にかかりつけのクリニックを受診した。原因は何が考えられるか? どのようにアプローチするべきだろうか?●受診時のバイタルサイン意識清明血圧152/98mmHg脈拍100回/分(整)呼吸24回/分SpO295%(RA)体温36.2℃瞳孔3/3mm+/+既往歴高血圧(51歳~)、2型糖尿病(54歳~)内服薬アムロジピン(Ca拮抗薬)、メトホルミン(メトホルミン塩酸塩)「意識障害」の後は、救急外来や一般の外来で出会う頻度の多い主訴のうち、時に重篤な場合がある症候を、順に取り上げていこうと思います。今回は「呼吸困難」です。X線やCT検査をすれば大抵の診断はつきますが、画像で異常が認められない場合やそもそも重症度を見誤り、適切な画像検査を行わず見逃してしまうことがあるため注意が必要です。高齢者の呼吸困難の原因呼吸困難の患者を診たら、(1)心不全などの心疾患、(2)肺炎などの肺疾患、(3)上部消化管出血などの貧血、(4)過換気症候群などの心因性の4つに分類し、考えて対応しています。若年者が急性の呼吸困難を訴えた場合には、気胸や喘息が鑑別の上位にあがりますが、高齢者ではどうでしょうか? 原因は多岐にわたりますが、頻度を考慮し、[1]心不全、[2]肺炎、[3]COPD(慢性閉塞性肺疾患)の急性増悪、[4]肺血栓塞栓症の4つをまずは念頭に鑑別を進めるとよいでしょう1)。初療時の鑑別のポイント:やはり“Hi-Phy-Vi”が大切!細かいことは抜きにして、[1]~[4]の鑑別ポイントを改めて理解しておきましょう。●病歴(History):発症様式に注目!一般的に肺炎やCOPDの急性増悪が突然発症することはありません。数日前、最低でも数時間前から咳嗽や発熱などの症状を認めるはずです。それに対して、後負荷がドカッと上がるびまん性肺水腫を主病態とする心不全や、肺血栓塞栓症は急激な発症様式を呈することが多く、救急外来でもしばしば出会います。真のonsetをきちんと聴取し、いつから症状を認めているのかを正確に把握しましょう。心不全の既往、発作性夜間呼吸困難は、心不全らしい所見であり、既往歴やいつ(就寝中、労作時など)症状を認めるかなども忘れずに聴取しましょう。就寝前までおおむね問題なかった患者が、夜間に突然呼吸が苦しくなった場合には、素直に考えれば肺炎よりも心不全らしいですよね。●身体所見(Physical):左右差に注目!呼吸音、心音、頸部所見(頸静脈怒張の有無)、下肢の浮腫や左右差などの身体所見は、ごく当然にとる必要があることは言うまでもありませんが、発症初期では聴取が難しい、III音は聴く努力をしながらもやっぱり難しいし、足の浮腫もいつからなんだか…など実際の現場では悩ましいことが多いのも事実です。最も簡単な方法は、左右差に注目することです。呼吸音に左右差があれば、肺炎らしく(初期では全吸気時間で聴取:holo crackles)、両側に喘鳴を聴取すれば心不全らしいでしょう。当たり前ですが、何となく聴診していると明らかな喘鳴の聴取は容易でも、わずかな場合や肺炎の初期の副雑音をキャッチできないことは珍しくありません。下腿の浮腫は、両側性の場合には心不全を示唆しますが、左右差を認める場合には、肺血栓塞栓症の原因の大半を占める深部静脈血栓症の存在を示唆します(エコーを当てれば瞬時に判断できます)。Thinker's sign(Dahl's sign)は、呼吸困難を軽減させるための姿勢によって生じた所見であり、慢性の呼吸不全の存在を示唆します2)。気管短縮や呼吸音の減弱、心窩部心尖拍動とともに患者の肘や膝上の皮膚所見も確認する癖を持ちましょう。●バイタルサイン(Vital signs):脈圧に注目!「呼吸困難を訴えるもののSpO2の低下がない」これは逆に危険なサインです。頻呼吸で何とか代償しようとしている、もしくは気道狭窄を示唆し、異物や喉頭蓋炎、アナフィラキシーの可能性を考え対応するようにしましょう。SpO2の低下を認め、[1]~[4]を鑑別する場合には、脈圧がヒントになります。肺炎など感染症が関与している場合には、通常脈圧は開大します。それに対して心機能が低下しているなどアウトプットが低下している場合には、脈圧が低下します。両者が混在する場合や、普段の患者背景にもよりますが、脈圧が低下している場合には、虚血に伴う心不全、submassive以上の肺血栓塞栓症など重篤な病態を早期に見抜く手掛かりになります。呼吸困難患者の脈圧が低下している場合には、早期に心電図を確認することをお勧めします(ST変化などの虚血性変化、洞性頻脈・SIQIIITIIIなどの肺血栓塞栓症らしい所見をチェック)。普段のADLと比較!初療時には酸素を必要としていた患者さんの中には、精査中にoffにすることができる場合があります。そのような場合には安心しがちですが、もう一歩踏み込んでバイタルサインを確認しましょう。ストレッチャー上のバイタルサインではなく、普段と同様のADLの状態でのバイタルサインを評価してほしいのです。本症例の原因は肺血栓塞栓症でしたが、安静時には酸素を要さず、呼吸回数は落ち着いてしまいました。しかし、帰宅前に歩行をしてもらうとSpO2が低下し、呼吸困難症状の再燃を認めたのです。肺血栓塞栓症は、過換気症候群や原因不明として見逃されることがあり、私は普段と同様のADLで(1)他に説明がつかない頻呼吸、(2)他に説明がつかない低酸素、(3)他に説明がつかない頻脈の場合には、疑って精査するように努めています3)。さいごに呼吸困難を訴える患者では、胸部X線、CT検査ですぐに確認したくなりますが、それのみではなかなか確定診断は難しく、また、肺炎と心不全は両者合併することも珍しくありません。D-dimerも役には立ちますが、それのみで肺血栓塞栓症や大動脈解離を診断・除外するものではありません。“Hi-Phy-Vi”を徹底し、鑑別疾患を意識して検査結果をオーダー、解釈することを常に意識しておきましょう。1)Ray P, et al. Crit Care. 2006;10:R82.2)Patel SM, et al. Intern Med. 2011;50:2867-2868.3)坂本壮. 救急外来ただいま診断中!. 中外医学社;2015.p.216-230.

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がん患者の深部静脈血栓症、再発率は2倍以上/日本循環器学会

 がんは深部静脈血栓症(VTE)の強力なリスク因子である。がん患者のVTE発症頻度は非がん患者に比べ高く、その発症率は近年増加している。しかし、がん関連VTEに関する研究は十分ではなく、適切な管理については明らかになっていない。天理よろづ相談所病院 循環器内科 坂本二郎氏らは、がん関連VTEの臨床的な特徴、管理、臨床的転帰をリアルワールドで評価する多施設後ろ向きコホート研究COMMAND-VTEレジストリを行い、その結果を第83回日本循環器学会学術集会で発表した。 COMMAND-VTEレジストリは、2010年1月~2014年8月、わが国の29施設において行われた。VTE疑い患者1万9,634例のうち、分析対象となった急性症候性VTE患者は3,027例であった。 全コホートをActive cancer群(がん治療中患者、手術施行予定患者、転移患者、終末期患者)695例、がん既往歴あり群243例、がん既往歴なし群2,089例の3つに分けて比較した。 主な結果は以下のとおり。・Active cancer群は他の2群に比べ、年齢が低く66.5歳であった。また重篤な出血(10%)、貧血の既往(76%)が他の2群に比べ高かった。・抗凝固薬累積中止率(1年間)はActive cancer群で最も高く44%、がん既往歴あり群、がん既往歴なし群はともに27.0%であった。・症候性VTE累積再発率(1年間)はActive cancer群で最も高く12%。がん既往歴あり群/なし群ではそれぞれ5%/3%であった。・重篤な出血累積発生率(1年間)はActive cancer群で最も高く15%。がん既往歴あり群/なし群ではそれぞれ6%/5%であった。・ワルファリンのコントロール指標である至適範囲内時間(TTR)はActive cancer群で最も低く61%。がん既往歴あり群/なし群ではそれぞれ67%/76%であった。・総死亡はActive cancer群で最も高く50%。がん既往歴あり群/なし群ではそれぞれ12%/6%であった。 Active cancer(がん治療中患者、手術施行予定患者、転移患者、終末期患者)はVTEの再発、重篤な出血、総死亡に関する予後不良因子であった。また、Active cancer群では抗凝固薬の投与中止が頻繁で、ワルファリンのコントロールも不良であった。

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重症患者の薬物療法に間欠的空気圧迫法併用はVTE予防メリットなし(解説:中澤達氏)-1022

 国際多施設共同無作為化比較試験(Pneumatic Compression for Preventing Venous Thromboembolism trial:PREVENT試験)で、静脈血栓塞栓症(VTE)の薬物予防法を受けている重症患者において、付加的な間欠的空気圧迫法を薬物予防法のみと比較したが、近位下肢深部静脈血栓症の発生は減少しなかった。 急性期脳卒中患者(発症後3日以内、身体機能低下、身辺動作の自立度低下あり)を対象とするCLOTS 3試験(間欠的空気圧迫法によって、3.6%のリスク減少)とは異なる結果となった。CLOTS 3試験では、間欠的空気圧迫法を用いない患者にVTE発生が12.1%という高率であったため、間欠的空気圧迫法の予防効果が検知された。本試験は、両群ともVTE発症率が4%程度と低く、90日後の全死因による死亡が26%と高いため有意差がつかなかった。それだけヘパリンのVTE予防効果が大きいということだ。 CLOTS 3試験で脳出血患者は間欠的空気圧迫法の使用によりVTE患者を約1/3に減少させ、脳梗塞患者以上の予防効果があったということから考えると、本試験では盲検法ができなかったことにより、出血傾向の患者に間欠的空気圧迫法が適応されている患者へのヘパリン使用量が恣意的に減少した可能性もある。 総合的に解釈すると、重症ICU患者にはヘパリンによるVTE予防が第一選択で、間欠的空気圧迫法はヘパリン投与が困難な患者に適応となる。皮膚トラブルの合併がなければヘパリンと間欠的空気圧迫法の併用も可能、ということであろう。CLOTS 3試験CLOTS Trials Collaboration. Effectiveness of intermittent pneumatic compression in reduction of risk of deep vein thrombosis in patients who have had a stroke (CLOTS 3): a multicentre randomised controlled trial Lancet 2013, 382: 516-24.

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VTE予防、薬物療法と間欠的空気圧迫法併用のメリットは?/NEJM

 静脈血栓塞栓症(VTE)の薬物予防法を受けている重症患者において、付加的な間欠的空気圧迫法を薬物予防法のみと比較したが、近位下肢深部静脈血栓症の発生は減少しなかった。サウジアラビアのキング・サウド・ビン・アブドゥルアジーズ健康科学大学のYaseen M. Arabi氏らが、重症患者のVTE予防における薬物予防法と間欠的空気圧迫法併用の有効性を検証した、国際多施設共同無作為化比較試験「Pneumatic Compression for Preventing Venous Thromboembolism trial:PREVENT試験)の結果を報告した。VTE予防において、間欠的空気圧迫法と薬物予防法の併用により深部静脈血栓症の発生が減少するかについてはエビデンスが不足していた。NEJM誌オンライン版2019年2月18日号掲載の報告。ICU入室後48時間以内に薬物予防法のみと間欠的空気圧迫法併用を無作為化 PREVENT試験は2014年7月~2018年8月に、サウジアラビア、カナダ、オーストラリアおよびインドの20施設で行われた。 対象は、参加施設の国内基準に基づく成人(14歳以上、16歳以上または18歳以上)の内科的、外科的または外傷性の重症患者計2,003例で、集中治療室(ICU)入室後48時間以内に、未分画/低分子ヘパリンによるVTEの薬物予防法に加えて毎日18時間以上の間欠的空気圧迫法を受ける間欠的空気圧迫法併用群(991例)と、薬物予防法のみの対照群(1,012例)に無作為に割り付けた。 主要評価項目は、週2回の下肢エコーにより検出された新たな近位下肢深部静脈血栓症の発生で、無作為化後の暦日3日後からICU退室・死亡・完全離床・試験28日目までのいずれか最初に生じるまででとした。薬物予防法のみと間欠的空気圧迫法併用とで、深部静脈血栓症の発生に有意差なし 間欠的空気圧迫法の使用時間中央値は22時間/日(四分位範囲:21~23時間/日)、使用期間中央値は7日間(同:4~13日)であった。 主要評価項目の発生は、間欠的空気圧迫群957例中37例(3.9%)、対照群985例中41例(4.2%)であった(相対リスク:0.93、95%信頼区間[CI]:0.60~1.44、p=0.74)。 VTE(肺血栓塞栓症または下肢深部静脈血栓症)は、間欠的空気圧迫法併用群991例中103例(10.4%)、対照群1,012例中95例(9.4%)に生じ(相対リスク:1.11、95%CI:0.85~1.44)、90日後の全死因による死亡はそれぞれ990例中258例(26.1%)および1,011例中270例(26.7%)で確認された(相対リスク:0.98、95%CI:0.84~1.13)。 なお、本研究結果について著者は、検出力が低かったこと、盲検法を実施できなかったこと、各施設が使用した間欠的空気圧迫装置が異なったことなどを挙げて限定的であると述べている。

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外来がん患者でのリバーロキサバンの血栓予防効果/NEJM

 Khoranaスコアが2以上の高リスク外来がん患者に対し、リバーロキサバンの投与により、試験期間180日間において、静脈血栓塞栓症や静脈血栓塞栓症による死亡などのリスクに有意な低下はみられなかったことが報告された。一方でリバーロキサバン投与期間中については、同イベントの発生は約6割低下し、重大出血の発生も低かった。米国・クリーブランドクリニックのAlok A. Khorana氏らが、800例超を対象に行った第III相無作為化プラセボ対照二重盲検試験の結果で、NEJM誌2019年2月21日号で発表した。全身性のがん治療を受けている外来患者は、静脈血栓塞栓症について異なるリスクが認められる。一方で、これらの患者の血栓予防のベネフィットについては確認されていなかった。下肢近位DVT、肺塞栓症、静脈血栓塞栓症による死亡などの複合エンドポイントを比較 研究グループは、静脈血栓塞栓症リスクの指標となるKhoranaスコアが2以上の、高リスク外来がん患者を対象に試験を行った。 スクリーニング時点で深部静脈血栓症(DVT)の認められなかった被験者を無作為に2群に分け、一方にはリバーロキサバン(10mg)を、もう一方の群にはプラセボを、最長180日間まで連日投与し、8週間ごとにスクリーニングを実施した。 主要有効性エンドポイントは、客観的に確認された下肢近位DVT、肺塞栓症、症候性上肢DVTまたは下肢遠位DVT、静脈血栓塞栓症による死亡の複合エンドポイントで、180日目まで評価した。 同集団を対象にした事前規定の補助解析では、投与期間中(試験薬の初回投与から最終投与プラス2日後まで)の同複合エンドポイントを評価した。 主要安全性エンドポイントは、重大出血とした。投与期間中のエンドポイント発生リスク、リバーロキサバン群は6割低下に 試験に登録された1,080例のうち、49例(4.5%)にスクリーニング時に血栓症が認められた。 無作為化を受けた841例のうち、180日目までに主要エンドポイントが発生したのは、リバーロキサバン群420例中25例(6.0%)、プラセボ群421例中37例(8.8%)だった(ハザード比[HR]:0.66、95%信頼区間[CI]:0.40~1.09、p=0.10)。 事前規定の投与期間中についての解析では、主要エンドポイントの発生は、リバーロキサバン群11例(2.6%)、プラセボ群27例(6.4%)だった(HR:0.40、95%CI:0.20~0.80)。 重大出血の発生は、リバーロキサバン群405例中8例(2.0%)、プラセボ群404例中4例(1.0%)だった(HR:1.96、95%CI:0.59~6.49)。

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andexanet alfa、第Xa因子阻害薬による大出血に高い止血効果/NEJM

 andexanet alfaは、第Xa因子阻害薬の使用により急性大出血を来した患者において、抗第Xa因子活性を著明に低下させ、良好な止血効果をもたらすことが、カナダ・マックマスター大学のStuart J. Connolly氏らが行ったANNEXA-4試験で示された。研究の詳細は、NEJM誌オンライン版2019年2月7日号に掲載された。andexanet alfaは、第Xa因子阻害薬の中和薬として開発された遺伝子組み換え改変型ヒト第Xa因子不活性体で、2018年、米国食品医薬品局(FDA)の迅速承認プログラムの下、アピキサバンまたはリバーロキサバン治療中に出血を来し、抗凝固薬の中和を要する患者への投与が承認を得ている。本試験は2016年に中間解析の結果が発表され、現在、エドキサバン投与例を増やすために、継続試験としてドイツで患者登録が続けられ、2019年中には日本でも登録が開始される予定だという。andexanet alfa投与後の抗第Xa因子活性の変化と止血効果を評価 本研究は、北米および欧州の63施設が参加した非盲検単群試験であり、2015年4月~2018年5月の期間に、中間解析の対象となった67例を含む352例が登録された(Portola Pharmaceuticalsの助成による)。 対象は、年齢18歳以上、第Xa因子阻害薬投与から18時間以内に急性大出血を発症した患者であった。被験者には、andexanet alfaが15~30分でボーラス投与され、その後2時間をかけて静脈内投与された。 主要アウトカムは2つで、(1)andexanet alfa投与後の抗第Xa因子活性の変化率、(2)静脈内投与終了から12時間後の止血効果が、事前に規定された基準で「きわめて良好」または「良好」と判定された患者の割合であった。 andexanet alfaの有効性の評価は、大出血が確認され、ベースラインの抗第Xa因子活性が75ng/mL以上(エノキサパリン投与例では0.25IU/mL以上)のサブグループで行った。andexanet alfaの止血効果は82%で良好以上、活性低下は効果を予測せず 対象の平均年齢は77歳で、48例(14%)が心筋梗塞、69例(20%)が脳卒中、67例(19%)が深部静脈血栓症、286例(81%)が心房細動、71例(20%)が心不全、107例(30%)が糖尿病の病歴を有していた。 また、128例(36%)がリバーロキサバン、194例(55%)がアピキサバン、10例(3%)がエドキサバン、20例(6%)がエノキサパリンの投与を受けていた。主な出血部位は、頭蓋内が227例(64%)、消化管が90例(26%)だった。254例(72%)が有効性評価の基準を満たした。 有効性評価では、アピキサバン群(134例)は抗第Xa因子活性中央値がベースラインの149.7ng/mLからandexanet alfaのボーラス投与終了時には11.1ng/mLへと、92%(95%信頼区間[CI]:91~93)低下し、リバーロキサバン群(100例)は211.8ng/mLから14.2ng/mLへと、92%(88~94)低下した。また、エノキサパリン群(16例)は0.48IU/mLから0.15IU/mLへと、75%(66~79)低下した。3剤とも、この効果が静脈内投与終了時まで、ほぼ維持されていた。 andexanet alfaの静脈内投与終了から4、8、12時間後の抗第Xa因子活性中央値のベースラインからの変化率は、アピキサバン群がそれぞれ-32%、-34%、-38%、リバーロキサバン群が-42%、-48%、-62%だった。 andexanet alfaの止血効果の評価は249例で行われた。このうち204例(82%)が、「きわめて良好」(171例)または「良好」(33例)と判定された。これには、アピキサバン群の83%、リバーロキサバン群の80%、エノキサパリン群の87%が含まれ、頭蓋内出血の80%、消化管出血の85%が該当した。 30日以内に49例(14%)が死亡し、34例(10%)に血栓イベントが認められた。全体として、抗第Xa因子活性の低下は止血効果を予測しなかった(AUC:0.53、95%CI:0.44~0.62)が、頭蓋内出血の患者ではある程度の予測因子であった(0.64、0.53~0.74)。 著者は、82%というandexanet alfaの止血効果は、ビタミンK拮抗薬治療に伴う大出血に対するプロトロンビン複合体製剤の試験で観察された72%に匹敵するとした。一方、抗第Xa因子活性低下は頭蓋内出血での臨床効果を予測したとはいえ、抗第Xa因子活性の測定は難しく、実臨床において有用となる可能性はほとんどないだろうと指摘している。

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足関節骨折のギプス固定、3週間に短縮可/BMJ

 安定型足関節外果単独骨折(Weber分類タイプB)の治療において、ギプスまたは装具による3週間固定の有効性は、従来の6週間ギプス固定と比較して非劣性であることが認められ、最適固定期間は6週から3週へ安全に短縮できる可能性が示唆された。フィンランド・オウル大学病院のTero Kortekangas氏らが、多施設共同無作為化非劣性臨床試験の結果を報告した。安定型Weber分類タイプB腓骨骨折は、最も多い足関節骨折で、膝下に6週間ギプスをすることで非観血的に治療することができる。この治療戦略の臨床アウトカムは一般的に良好であることが示されているが、長期にわたるギプス固定は有害事象のリスク増加と関連しており、ギプス固定の至適期間に関する質の高いエビデンスは不足していた。BMJ誌2019年1月23日号掲載の報告。約250例で6週間ギプス固定とギプスまたは装具による3週間固定を比較 研究グループは、2012年12月22日~2015年6月6日の期間で、フィンランドの主要外傷センター2施設において、静止X線写真により足関節外果(腓骨)単独骨折(Weber分類タイプB)を認めた16歳以上の患者247例を登録。患者を6週間ギプスで固定する(6週ギプス)群84例、3週間ギプスで固定する(3週ギプス)群83例、または3週間装具で固定する(3週装具)群80例に1対1対1の割合で無作為に割り付け、52週間追跡した(追跡調査最終日2016年6月6日)。 主要評価項目は、52週時のOlerud-Molander Ankle Score(OMAS:0~100点、スコアが高いほど転帰良好で症状が少ないことを示す)で、非劣性マージンは-8.8点と定義した。副次評価項目は、足関節機能、疼痛、QOL、足関節の動き、X線写真で、6週、12週、52週時に評価した。ギプスまたは装具を用いた3週間固定、6週間ギプス固定に対して非劣性 無作為化された247例中、212例(86%)が試験を完遂した。52週時のOMAS(平均±SD)は、6週ギプス群87.6±18.3点、3週ギプス群91.7±12.9点、3週装具群89.8±18.4点であり、52週時の群間差は、3週ギプス群vs.6週ギプス群で3.6点(95%信頼区間[CI]:-1.9~9.1、p=0.20)、3週装具群vs.6週ギプス群1.7点(95%CI:-4.0~7.3、p=0.56)であった。いずれの比較においても、95%CIの下限値は事前に定義した非劣性マージン-8.8点を上回り、非劣性が認められた。 群間で統計的有意差が確認されたのは副次評価項目のみで、有害事象については6週ギプス群と比較し両3週固定群で足関節底屈および深部静脈血栓症の発症がわずかに改善した。

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アキレス腱断裂、手術・非手術とも再断裂リスクは低い/BMJ

 アキレス腱断裂の手術療法は、非手術療法に比べ、再断裂のリスクが有意に低いもののその差は小さく(リスク差:1.6%)、他の合併症のリスクが高い(リスク差:3.3%)ことが、オランダ・ユトレヒト大学医療センターのYassine Ochen氏らの検討で示された。アキレス腱断裂は遭遇する頻度が高く、最近の研究では発生率の増加が報告されている。観察研究を含まない無作為化対照比較試験のみのメタ解析では、手術療法は非手術療法に比べ、再断裂リスクが有意に低い(リスク差:5~7%)が、他の合併症のリスクは16~21%高いとされる。BMJ誌2019年1月7日号(クリスマス特集号)掲載の報告。観察研究を加えたメタ解析 研究グループは、アキレス腱断裂の手術療法と非手術療法における再断裂、合併症、機能的アウトカムを比較する目的で、文献を系統的レビューし、メタ解析を行った(研究助成は受けていない)。 手術療法には低侵襲修復術、観血的修復術が、非手術療法にはキャスト固定、機能装具が含まれた。アキレス腱断裂以外の合併症は、創感染、腓腹神経損傷、深部静脈血栓症、肺塞栓症などであった。 医学関連データベース(2018年4月25日現在)を用いて、アキレス腱断裂の手術療法と非手術療法を比較した無作為化対照比較試験および観察研究を選出した。データの抽出は、4人のレビュアーが2人1組で、所定のデータ抽出ファイルを用いて別個に行った。アウトカムは変量効果モデルを用いて統合し、リスク差、リスク比、平均差と、その95%信頼区間(CI)を算出した。再断裂率:全体重負荷では手術が良好、加速的リハビリでは差なし 29件の研究に参加した1万5,862例が解析に含まれた。無作為化対照比較試験が10件(944例[6%])、観察研究が19件(1万4,918[94%])で、手術療法が9,375例、非手術療法は6,487例であった。全体の加重平均年齢は41歳(範囲:17~86)、男性が74%で、フォローアップ期間の範囲は10~95ヵ月だった。 再断裂率(29件[100%]で検討)は、手術群が2.3%と、非手術群の3.9%に比べ有意に低かった(リスク差:1.6%、リスク比:0.43、95%CI:0.31~0.60、p<0.001、I2=22%)。 合併症の発生率(26件[90%]で検討)は、手術群は4.9%であり、非手術群の1.6%に比し有意に高かった(リスク差:3.3%、リスク比:2.76、95%CI:1.84~4.13、p<0.001、I2=45%)。合併症発生率の差の主な原因は、手術群で創傷/皮膚感染症の発生率が2.8%と高いことであった(非手術群は0.02%)。非手術群で最も頻度の高い合併症は深部静脈血栓症(1.2%)だった(手術群は1.0%)。 スポーツ復帰までの平均期間(4件[14%]で検討)にはばらつきがみられ、手術群で6~9ヵ月、非手術群では6~8ヵ月の幅があり、メタ解析におけるデータの統合はできなかった。また、仕事復帰までの期間(9件[31%]で検討、そのうち6件は情報が不十分のため3件のデータを統合)にも、両群間に差を認めなかった。 全体重負荷による再断裂率は、早期(4週以内、9件[31%]で検討、リスク比:0.49、95%CI:0.26~0.93、p=0.03、I2=9%)および後期(5週以降、15件[52%]で検討、0.33、0.21~0.50、p<0.001、I2=0%)のいずれもが、手術群で有意に良好であった。 早期可動域訓練による加速的リハビリテーション時の再断裂率(6件[21%]で検討)は、手術群と非手術群に差を認めなかった(リスク比:0.60、95%CI:0.26~1.37、p=0.23、I2=0%)。 統合効果推定値に関して、無作為化対照比較試験と観察研究の間に差はみられなかった。 著者は、「アキレス腱断裂の管理の最終的な決定は、個々の患者に特異的な因子および共同意思決定(shared decision making)に基づいて行う必要がある」と指摘し、「本レビューは、手術療法後の客観的アウトカムの評価のメタ解析では、質の高い観察研究を加えることの潜在的な便益を強調するものである」としている。

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がん患者の静脈血栓塞栓症予防、アピキサバンが有望/NEJM

 がん患者は静脈血栓塞栓症のリスクが高いとされる。カナダ・オタワ大学のMarc Carrier氏らAVERT試験の研究グループは、中等度~高度の静脈血栓塞栓症リスク(Khoranaスコア≧2)を有し、化学療法を開始した外来がん患者では、アピキサバンにより静脈血栓塞栓症の発生が抑制されることを示し、NEJM誌オンライン版2018年12月4日号で報告した。Khoranaスコアは静脈血栓塞栓症のリスクが高いがん患者を同定し、予防治療により便益を得ると考えられる患者の選定に役立つ可能性がある。また、直接経口抗凝固薬は、がん患者の血栓予防薬として、利便性や費用も含め、非経口薬よりも優れる可能性が示唆されている。静脈血栓塞栓症の予防におけるアピキサバンの有用性を評価 本研究は、化学療法を開始した外来がん患者の静脈血栓塞栓症の予防におけるアピキサバンの有用性を評価する二重盲検プラセボ対照無作為化試験である(カナダ保健研究機構およびBristol-Myers SquibbとPfizerの提携組織の助成による)。 対象は、年齢18歳以上、新規に診断されたがんまたは完全/部分寛解後に進行した既知のがんを有し、治療期間が最短でも3ヵ月の化学療法を新たに開始する患者であった。Khoranaスコア(0~6点、点数が高いほど静脈血栓塞栓症のリスクが高い)は、≧2(中等度~高度のリスク)とした。 被験者は、アピキサバン(2.5mg×2回/日)またはプラセボを投与する群に無作為に割り付けられた。 主要な有効性評価項目は180日後の静脈血栓塞栓症(近位深部静脈血栓症、肺塞栓症)の発現であり、主な安全性評価項目は大出血エピソードとした。 2014年2月~2018年4月の期間に、カナダの13施設で574例(アピキサバン群291例、プラセボ群283例)が無作為割り付けの対象となり、563例(288例、275例)が修正intention-to-treat解析に含まれた。静脈血栓塞栓症の発生率はアピキサバン群が有意に低い 全体の平均年齢は61歳、女性が58.2%であった。がん種は多い順に、婦人科がん(25.8%)、リンパ腫(25.3%)、膵がん(13.6%)であった。転移病変を有する固形がんの患者が、アピキサバン群に73例、プラセボ群には67例含まれた。治療期間中央値はそれぞれ157日、155日、追跡期間中央値は両群とも183日だった。 追跡期間中の静脈血栓塞栓症の発生率は、アピキサバン群が4.2%(12/288例)と、プラセボ群の10.2%(28/275例)に比べ有意に低かった(ハザード比[HR]:0.41、95%信頼区間[CI]:0.26~0.65、p<0.001)。治療期間中の静脈血栓塞栓症の発生率は、それぞれ1.0%(3例)、7.3%(20例)であり、アピキサバン群で有意に低かった(0.14、0.05~0.42)。 一方、大出血エピソードの発生率は、アピキサバン群は3.5%(10/288例)であり、プラセボ群の1.8%(5/275例)に比し有意に高かった(HR:2.00、95%CI:1.01~3.95、p=0.046)。治療期間中の大出血の発生率は、それぞれ2.1%(6例)、1.1%(3例)であり、有意差は認めなかった(1.89、0.39~9.24)。 死亡率はアピキサバン群が12.2%(35例)、プラセボ群は9.8%(27例)であった(HR:1.29、95%CI:0.98~1.71)。死亡した62例中54例(87%)の死因は、がんまたはがんの進行に関連していた。 著者は、「全生存に差がないのは、最も一般的な死因である進行がんの患者が多かったという事実を反映している可能性がある。静脈血栓塞栓症の予防が死亡率の低減に結びつくのが理想だが、この課題に取り組むには、異なるデザインの、より大規模な試験を要するだろう」としている。

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冠動脈疾患の心不全、洞調律患者に対するリバーロキサバンの効果(COMMANDER HF)検証すべき仮説だったのか?(解説:高月誠司氏)-927

 本研究は、冠動脈疾患の心不全、洞調律患者に対するリバーロキサバンの効果を検証する二重盲検の多施設ランダム化比較試験である。プラセボ群とリバーロキサバン2.5mgを1日2回投与群の2群に分け、主要アウトカムは全死亡、心筋梗塞、脳卒中の複合エンドポイントである。なぜ洞調律の冠動脈疾患の心不全例にリバーロキサバンを投与するのか、という疑問をまず持たれると思う。リバーロキサバンは非弁膜症性の心房細動の脳梗塞予防、深部静脈血栓症および肺血栓塞栓症の予防・治療薬である。本研究の背景には慢性心不全増悪後に心不全の再入院や死亡を起こすことが多く、その原因としてトロンビン関連の経路により惹起された、炎症や内皮機能不全や動脈・静脈血栓症が考えられると記載されている。思い切った仮説を検証しに行ったものである。確かに重症心不全例は心房細動や深部静脈血栓症を合併しやすく、本研究では登録時に心房細動例は除外されたものの、その後に発症した隠れ心房細動例には、若干の効果があるかもしれない。 5,022例の患者がランダム化され、フォローアップの中央値は21.1ヵ月であった。結果は、主要アウトカムの1年あたりの発症率は、リバーロキサバン群で25.0%、プラセボ群で26.2%で、有意差を認めなかった(ハザード比[HR]:0.94、95%信頼区間[CI]:0.84~1.05、p=0.27)。本研究では冠動脈疾患患者が対象で、93.1%の患者が抗血小板薬を内服し、34.8%の患者は2剤の抗血小板薬を内服していた。当然、出血性の合併症が危惧される。結果、致死的な大出血は両群間で差がなかったが、ISTHによる大出血がリバーロキサバン群でプラセボ群よりも多かった(年間発症率2.04% vs.1.21%、HR:1.68、95%CI:1.18~2.39、p=0.003)。また、プロトコールからの脱落率はリバーロキサバン群で年間あたり16.3%、プラセボ群で13.6%。理由の内訳は出血イベントがリバーロキサバン群で多かった。 本研究の結果はある意味予想どおりのnegative studyである。それを研究者が正直に発表すること、そしてnegative studyであっても雑誌がしっかり評価し公表することはきわめて大事である。ただ本研究の仮説、冠動脈疾患で洞調律の慢性心不全に抗凝固療法が有効か、これが検証すべき仮説だったかどうか、皆さんはどう感じられるだろうか。

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リバーロキサバン、退院後投与の血栓予防効果は?/NEJM

 静脈血栓塞栓症(VTE)のリスクが高い内科疾患による入院患者に対し、退院後45日間のリバーロキサバン投与はプラセボと比較して、大出血の発生率は低かったが、症候性VTEおよびVTEに起因する死亡リスクを有意に低下させることはなかった。米国・Northwell Health at Lenox Hill HospitalのAlex C. Spyropoulos氏らが、リバーロキサバンの退院後VTE予防効果を検証した多施設共同無作為化二重盲検試験「MARINER試験」の結果を報告した。内科疾患で入院した患者には退院後のVTEリスクが残るが、こうした患者における血栓予防療法の延長が果たす役割については議論の的になっていた。NEJM誌オンライン版2018年8月26日号掲載の報告。VTE高リスク内科疾患入院患者、約1万2,000例を対象に検討 研究グループは、2014年6月~2018年1月に36ヵ国671施設において、VTE高リスク(修正IMPROVE VTEリスクスコアが4以上、または2~3かつ血漿Dダイマーが施設基準値上限の2倍以上)で、内科疾患(左室駆出率45%以下の心不全、急性呼吸不全または慢性閉塞性肺疾患の増悪、急性虚血性脳卒中、あるいは急性感染症またはリウマチ疾患を含む炎症性疾患)により3~10日間入院した40歳以上の患者1万2,024例を対象に試験を行った。被験者は、退院時にリバーロキサバン群(10mgを1日1回45日間、ただし投与量は腎不全で調整)またはプラセボ群に、無作為に1対1の割合で割り付けられた。 主要有効性評価項目は、症候性VTE(深部静脈血栓症または非致死性肺塞栓症)もしくはVTEに起因する死亡の複合アウトカム。主な安全性評価項目は大出血であった。症候性VTEまたはVTE関連死の発生に有意差なし 無作為化された1万2,024例のうち、1万2,019例がintention-to-treat解析に組み込まれた。 複合アウトカムの発生率は、リバーロキサバン群0.83%(50/6,007例)、プラセボ群1.10%(66/6,012例)で、リバーロキサバンの優越性は示されなかった(ハザード比[HR]:0.76、95%信頼区間[CI]:0.52~1.09、p=0.14)。事前に定義された副次評価項目である症候性非致死性VTEの発生率は、リバーロキサバン群0.18%、プラセボ群0.42%であった(HR:0.44、95%CI:0.22~0.89)。 大出血は、リバーロキサバン群で5,982例中17例(0.28%)、プラセボ群で5,980例中9例(0.15%)に認めた(HR:1.88、95%CI:0.84~4.23)。 なお、本試験は、イベントの発生が少ないため試験途中で目標症例数1万2,000例にプロトコールが変更されたが、それでもイベント数は必要とした161例に達せず、登録中止となっている。

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下肢静脈瘤患者の深部静脈血栓症予防は必須か?(解説:中澤達氏)-861

 下肢静脈瘤と診断された成人患者では、深部静脈血栓症(DVT)のリスクが有意に高いことが明らかにされた。下肢静脈瘤は一般的にみられるが、重大な健康リスクと関連することはまれである。「下肢静脈瘤を放置しておいて、悪いことは起きますか?」 普段、下肢静脈瘤の血管内焼灼術をしている私たち血管外科医にとって、外来でよく受ける質問である。その度に、「大丈夫です。肺梗塞になる人はほとんどいません」 と答えている。 対照群には未診断の下肢静脈瘤を有する患者が含まれている可能性があること、下肢静脈瘤の重症度については調べていないことなどを考慮しても、下肢静脈瘤患者21万人と対照21万人を比較した結果であることから、DVTの頻度は数倍高い可能性がある。調べてみると、同様の結果の先行研究もある。しかし、もしこれが事実だとしても一次性下肢静脈瘤の患者に予防的内服、弾性ストッキング継続が望ましいとは思えない。なぜなら、下肢静脈瘤の有病率は、30歳以上の女性で20~30%と高頻度な疾患だからだ。 血管外科医としてさらなる興味は、静脈瘤の治療をすればDVTのリスクが下げられるか? という点である。ぜひ、前向き研究の結果が知りたいものだ。

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第1回 経口ステロイドは短期服用でも有害事象リスク増【論文で探る服薬指導のエビデンス】

 経口ステロイド薬は多岐にわたる疾患に使われていて、多くの疾患の治療に必須の薬剤であることに疑いの余地はありません。しかし、長期服用した場合の有害事象もよく知られているところです。では、経口ステロイド薬を短期服用した場合はどうなのでしょうか? 私は、短期服用した場合の有害事象はそれほど多くはないだろう、となんとなく思っていたのですが、その認識を改める契機となった研究を紹介します。Short term use of oral corticosteroids and related harms among adults in the United States: population based cohort study.Waljee AK ,et al. BMJ. 2017;357:j1415.この研究は、2012~14年にかけて、医療保険に加入している18~64歳の米国人154万8,945例の記録を分析したものです。そのうち32万7,452例(21.1%)が何らかの病気に対して少なくとも1回以上、短期的にステロイド薬を服用していました。論文内では30日未満を短期と定義し、30日~5ヵ月にわたり追跡調査を行っています。5分の1の人が、3年間で1回は経口ステロイド薬を使用していたというのは、本邦とは使用の感覚が少し違うのかもしれません。組み入れられている患者の条件は次のとおりでした。・平均年齢:服用群45.5±11.6歳、非服用群44.1±12.2歳・服用期間:平均6日間(四分位範囲:6~12日)、7日以上服用は47.4%(15万5,171例)・基礎疾患や過去1年以内のステロイド使用歴なし・prednisone当量の服用量:中央値20mg/日(四分位範囲:17.5~36.8mg/日)、40mg/日以上は23.4%(7万6,701例)・主な服用理由:上気道感染症、椎間板障害、アレルギー、気管支炎、下気道疾患(これら5症状が全体の約半数)アウトカムとして服用開始30日以内および31~90日の敗血症、深部静脈血栓症、骨折リスクを評価しています。平均6日間服用で敗血症、深部静脈血栓症、骨折リスクが上昇ステロイド薬服用群で1,000人・年当たりの発生頻度がもっとも高かったのは骨折(21.4件)、次いで静脈血栓塞栓症(4.6件)、敗血症による入院(1.8件)です。下記の表のように、5~30日目の非服用群の自然発生リスクと比較して、服用群の敗血症リスクは5.30倍、静脈血栓症リスクは3.33倍、骨折リスクが1.87倍という結果で、いずれも統計学的に有意差があります。1日20mg以下という比較的低用量であっても有意差は保持されていますが、高用量になるほどリスクが増加する傾向にあります。リスク上昇傾向は31~90日後には下がるものの、それでも服用者総計の敗血症は2.91倍、静脈血栓塞栓症は1.44倍、骨折は1.40倍と有意差は保持されています。相対的な数値ですので実臨床上の感覚としては大幅に増えるというほどのものではないかもしれませんが、一定の認識は持っておいたほうがよさそうです。ちなみに、40mg以上服用の5~30日の発症率比が20~39mg/日よりも低く出ているものもありますが、症例数が少なく信頼区間の幅が極めて広いため、これをもってして20~39mg/日よりリスクが低いとは言い切れません。また、31~90日目の有害事象発症率比はやはり高用量になるほど大きい傾向にあります。画像を拡大するステロイド薬の服用理由別のリスク評価はどうなのでしょうか? ステロイド薬の服用に至った理由は呼吸器系症状か筋骨格系症状かによらず、ステロイド薬服用群では各リスクが上昇する傾向が示唆されています。筋骨格系症状で服用した群の発症率比がやや多いようですが、単純に服用量が多かったという可能性も考えられます。画像を拡大するなお、年齢別、性別、人種別でのリスク評価では、おおむね年齢が高いほどリスクが上がる傾向があるようですが、人種差や性差はさほど見られませんでした。本研究の結果をもって、実際の処方提案などの介入方法を変えるという類のものではなさそうですが、経口ステロイド薬の有害事象のモニタリングは服用が短期間、低用量であっても相応の注意をもって行ったほうがよさそうです。Short term use of oral corticosteroids and related harms among adults in the United States: population based cohort study.Waljee AK ,et al. BMJ. 2017;12;357:j1415.

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下腿潰瘍、表在静脈逆流への早期焼灼術で迅速な治癒/NEJM

 静脈疾患は、下腿の潰瘍形成の最も一般的な原因である。英国・ケンブリッジ大学病院のManjit S. Gohel氏らは、表在静脈逆流への早期の静脈内焼灼術は待機的な静脈内焼灼術に比べ、静脈性下腿潰瘍の治癒を迅速化し、潰瘍のない期間を延長することを示した(EVRA試験)。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2018年4月24日号に掲載された。圧迫療法は、静脈性潰瘍の治癒を改善するものの、静脈高血圧の根本原因を治療するものではない。表在静脈逆流の治療は潰瘍の再発率を低下させるが、表在静脈逆流への早期静脈内焼灼術が、潰瘍の治癒に及ぼす効果は明らかにされていない。早期静脈内治療の役割を評価 EVRA試験は、静脈性下腿潰瘍患者への圧迫療法の補助療法としての、表在静脈逆流への早期静脈内治療の役割を評価する多施設共同無作為化対照比較試験である(英国国立健康研究所[NIHR]医療技術評価プログラムの助成による)。 2013年10月~2016年9月の期間に、英国の20施設に450例の静脈性下腿潰瘍患者が登録された。参加者は、圧迫療法を受け、無作為割り付け後2週間以内に表在静脈逆流への早期静脈内焼灼術を受ける群(早期介入群:224例)、または圧迫療法を受け、潰瘍が治癒後あるいは治癒しない場合は無作為化割り付け後6ヵ月時に、待機的に静脈内焼灼術を考慮する群(待機的介入群:226例)に割り付けられた。 主要アウトカムは、潰瘍が治癒するまでの期間とした。副次アウトカムは、24週時の潰瘍治癒率、1年時の潰瘍再発率および潰瘍がない期間の長さ(無潰瘍期間)、患者報告による健康関連QOLであった。潰瘍治癒までの期間:56日 vs.82日、無潰瘍期間:306日 vs.278日 ベースラインの平均年齢は、早期介入群が67.0±15.5歳、待機的介入群は68.9±14.0歳で、女性はそれぞれ43.3%、46.9%であった。静脈性下腿潰瘍の治癒に影響を及ぼすと考えられる潰瘍の持続期間や大きさ、深部静脈血栓症の既往歴は両群でほぼ同様だった。 早期介入群は、待機的介入群に比べ潰瘍治癒までの期間が短く、潰瘍治癒を達成した患者が多かった(潰瘍治癒のハザード比[HR]:1.38、95%信頼区間[CI]:1.13~1.68、p=0.001)。潰瘍治癒までの期間中央値は、早期介入群が56日(95%CI:49~66)、待機的介入群は82日(69~92)だった。 24週時の潰瘍治癒率は、早期介入群が85.6%、待機的介入群は76.3%であった。事後解析における12週時の潰瘍治癒率は、それぞれ63.5%、51.6%であった。また、全体の1年以内の潰瘍治癒率は89.7%(404/450例)で、早期介入群は93.8%(210/224例)、待機的介入群は85.8%(194/226例)であり、群間差は8.0ポイント(95%CI:2.3~13.5)だった。 1年以内に潰瘍治癒を達成した404例のうち、フォローアップ期間終了前に再発した患者の割合は、早期介入群が11.4%(24/210例)、待機的介入群は16.5%(32/194例)であった(再発率の群間差:0.08イベント/人年、95%CI:-0.02~0.18)。また、1年時の無潰瘍期間中央値は、306日(IQR:240~328)、278日(175~324)だった(p=0.002)。 疾患特異的QOLを評価するAberdeen Varicose Vein Questionnaireのスコアでは、明確な差はないものの、全般に早期介入群で低く、良好な傾向がみられた。EQ-5D-5Lにも、明らかな差は認めなかった。また、静脈内焼灼術の手技に関連する最も頻度の高い合併症は、疼痛および深部静脈血栓症であった。 著者は、「静脈内治療を早期に行えば、潰瘍がより迅速に治癒することが示された」とまとめ、「このベネフィットは、質の高い圧迫療法の有無にかかわらず観察され、これは両群とも治癒率が良好であったことの説明となる可能性がある。また、有効性が高い圧迫療法は無作為化試験以外では一般的ではないと考えられ、リアルワールドでは治癒までにもっと長い期間を要する。したがって、早期静脈内治療による潰瘍治癒の改善効果は、実臨床のほうが本試験よりも高い可能性がある」と考察を加えている。

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【第113回】麻雀がもたらした悲劇的な1例

【第113回】麻雀がもたらした悲劇的な1例 いらすとやより使用 私は医学生の頃、三度の飯より麻雀が好きというくらい麻雀を打っていました。も、も、も、も、もちろん、お金なんて1円も賭けていない、健康麻雀ですよッ!麻雀は現在では全自動卓が当たり前になっていますが、安くても数十万円するあんな大きなモノが学生に買えるはずがなく、仲間内では“手積み”でプレイするのが一般的でしょう。金持ちの同級生は自動麻雀卓を買っていましたが。 Zhang GS, et al.Mah-Jong-related deep vein thrombosis.Lancet. 2010;375:2214.かの有名なLancetに、麻雀の論文があることをご存じでしょうか。これは、麻雀の本場である中国から投稿された短報です。2009年、左下肢痛を訴えた40歳女性が来院しました。下肢は赤くパンパンに腫脹していました。問診してみると、どうやら彼女は連続8時間も麻雀に興じており、なんとその間ほとんど水分を摂らなかったというのです。下肢エコーを見てみると、見事なドデカイ深部静脈血栓症があるではありませんか。経口避妊薬を常用しており、もともと多少なりとも血栓症があったのかもしれませんが、8時間に及ぶ死闘が引き金になったのは確かなようです。あまりにひどかったので、入院して低分子ヘパリンで治療が施されました。その後、リハビリなどを経て、無事2ヵ月後に退院したそうです。麻雀は、全自動卓でないと、1局あたり1時間に及ぶこともあります。その間、足を動かさずにじっとしているわけですから、ほとんどエコノミークラス症候群と同じ状況です。麻雀の対局中は、立ち上がって対戦者の手牌をのぞき込むわけにはいきませんので、ふくらはぎを揉んだり足を動かしたり、工夫をしないといけないかもしれませんね。熱中して、水分を摂るのを忘れないようにしたいです。ちなみに長時間の麻雀は痙攣のリスクもあると報告されています。てんかんの既往がある人は注意したほうがよいかもしれません1)。というわけで、麻雀に熱中している医学生・医師諸君、気を付けたまえ!1)An D, et al. Epilepsy Behav. 2015;53:117-119.

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