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肥満患者における鎮静下消化器内視鏡検査中の低酸素症発生に対する高流量式鼻カニュラ酸素化の有用性(解説:上村直実氏)

 消化器内視鏡検査は苦痛を伴う検査であると思われていたが、最近は多くの施設で苦痛を軽減するため、検査時に鎮静薬や鎮痛薬を用いた鎮静法により大変楽に検査を受けられるようになっている。しかし、内視鏡時の鎮静に対する考え方や方法は国によって大きく異なっている。米国では、内視鏡検査時の鎮静はほぼ必須であり、上下部消化管内視鏡検査受検者のほぼすべてが完璧な鎮静効果を希望するため、通常、ベンゾジアゼピン系薬品とオピオイドの組み合わせを使用して実施される。具体的には、ベンゾジアゼピン系催眠鎮静薬のミダゾラムとオピオイド鎮痛薬のフェンタニルの組み合わせが、最も広く利用されている。保険診療システムが異なるわが国でも、日本消化器内視鏡学会のガイドラインにおいて「経口的内視鏡の受容性や満足度を改善し、検査・治療成績向上に寄与する」ことから検査時の鎮静が推奨されると明記されており、多くの施設においてミダゾラムの使用が一般的になっている。 一方、内視鏡検査時の鎮静に関して最もよくみられる有害事象は、呼吸抑制、気道閉塞、胸壁コンプライアンスの低下に伴う低酸素血症である。とくに肥満者に多くみられる合併症であり、時に重篤になる場合もあるため注意が必要である。今回、中国・上海の大学病院3施設でBMIが28以上の肥満者を対象として鎮静を伴う検査時の低酸素血症を予防する手段として、加湿・加温された高濃度の酸素を最大60L/minという高流量で供給する高流量式鼻カニュラ(HFNC)を介した酸素投与の有用性を検証する目的で、通常の鼻カニュラを対照として施行された多施設ランダム化比較試験の結果が、2025年2月のBMJ誌において報告された。 本試験で使用された鎮静法は、麻酔科医師の指導の下にsufentanilと静脈麻酔薬のプロポフォールが用いられているが、日本では「消化器内視鏡診療におけるプロポフォールの不適切使用について ―注意喚起―」が日本消化器内視鏡学会から提起されているように、本剤は麻酔科医師の監視の下に使用することが義務付けられている点に注意が必要である。非常に強い鎮静効果を有する鎮静法における肥満者の低酸素血症予防が重要であると思われるが、本試験の結果では通常の鼻カニュラに比べて低酸素血症を引き起こす頻度が20%から2%に劇的に減少し、HFNCの有用性が明らかにされたものであり、将来的にはわが国にも導入されることが期待される。 最後に、消化器内視鏡検査を受ける患者さんにとって検査時の鎮静は賛否両論あるようで、「楽に検査を受けられる」「苦しい検査は受けたくない」とする鎮静賛成派と「検査の最中に意識がなくなるのは嫌」「内視鏡の画像を見たいので」という否定派に分かれている。内視鏡医にも肯定派と否定派がいて、最近では肯定派の医師が多くなっているが、鎮静に用いる薬剤の有用性とリスクに熟知することが重要であることは言うまでもない。

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肥満者の鎮静下内視鏡検査、高流量鼻カニューレ酸素投与で低酸素症が減少/BMJ

 肥満患者への鎮静下消化管内視鏡検査中に、高流量鼻カニューレ(HFNC)を介し酸素投与を行うことで、他の有害事象が増加することなく、低酸素症、無症候性呼吸抑制、および重度低酸素症の発生率が有意に減少した。中国・上海交通大学のLeilei Wang氏らが、上海の大学病院3施設で実施した無作為化並行群間比較試験の結果を報告した。HFNCによる酸素投与は、正常体重患者における鎮静下消化管内視鏡検査中の低酸素症の発生率を減少させるが、肥満患者におけるHFNCを介した酸素投与に関する見解には議論の余地があった。BMJ誌2025年2月11日号掲載の報告。通常の鼻カニューレ群とHFNC群に無作為化 研究グループは、肥満(BMI≧28)および米国麻酔学会(ASA)クラスI~IIで、鎮静下消化管内視鏡検査を受ける予定の18~70歳の患者を、通常の鼻カニューレ群とHFNC群に1対1の割合で無作為に割り付け、プロポフォールと低用量sufentanilによる鎮静処置中にそれぞれ酸素投与を行った。 主要アウトカムは、処置中の低酸素症(75%≦SpO2<90%・<60秒)の発生率とした。副次評価項目は、処置中の無症候性呼吸抑制(90%≦SpO2<95%・すべての時間)、重度低酸素症(SpO2<75%・すべての時間、または75%≦SPO2<90%・>60秒)、およびその他の有害事象とした。鎮静下内視鏡検査中の低酸素症の発生率は、21.2%vs.2.0% 2021年5月6日~2023年5月26日に1,000例が登録され、無作為化された。このうち、同意撤回などを除く984例(平均年齢49.2歳、女性36.9%[363例])が試験を終了し、最大解析対象集団(FAS)として包含された。 鼻カニューレ群と比較してHFNC群で、低酸素症の発生が有意に減少した。低酸素症の発生率はHFNC群2.0%(10/497例)、鼻カニューレ群21.2%(103/487例)であった(群間差:-19.14、95%信頼区間[CI]:-23.09~-15.36、p<0.001)。 無症候性呼吸抑制はHFNC群5.6%(28/497例)、鼻カニューレ群36.3%(177/487例)であり(群間差:-30.71、95%CI:-35.40~-25.92、p<0.001)、重度低酸素症はそれぞれ0%(0/497例)、4.1%(20/487例)であった(-4.11、-6.26~-2.48、p<0.001)。 その他の鎮静関連の有害事象は、両群間で差は認められなかった。

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退院時の説明が不十分だと責任発生?【医療訴訟の争点】第6回

症例入院患者は退院した後、直ちに入院前と同様の生活を送ってよいわけではなく、食事や運動制限を段階的に緩和していくなど、生活していく中で留意すべき事項がある。また、退院後に、急変が生じた場合はもちろん、それに至る前の異常が生じた場合には速やかに受診をしてもらう必要がある。このようなことから、療養方法の指導の適否が問題となる。今回は、退院時の説明義務の違反の有無等が争われた東京地裁令和5年3月23日判決を紹介する。<登場人物>患者69歳・男性十二指腸乳頭部腫大と診断され、内視鏡的乳頭部切除術および胆管・膵管ステント留置術後。切除組織の病理検査結果が深部断端陽性であったため、追加切除のため受診。原告患者の妻子被告総合病院(大学病院)事案の概要は以下の通りである。平成27年7月28日他院の上部消化管内視鏡検査にて十二指腸乳頭部腫大を疑われ、生検にてGroup3と診断された。11月10日上記施設にて、内視鏡的乳頭部切除術および胆管・膵管ステント留置術を受けた。術後切除組織による病理検査の結果報告にて深部断端陽性(断面にがんが露出した状態)と診断され、追加切除を検討すべき旨の説明を受けた。患者は被告病院での手術を希望した。12月16日上記施設にて、留置していた膵管ステントおよび胆管ステントを抜去した。平成28年1月15日患者は妻子とともに被告病院消化器外科を受診。A医師から、治療方法には経過観察と膵頭十二指腸切除術の2つがある旨の説明がなされた。患者は、膵頭十二指腸切除術を受けることを決めた。1月25日被告病院に入院。患者はA医師から亜全胃温存膵頭十二指腸切除術の説明を受け、同意書に署名した。1月26日A医師の執刀で本件手術が実施された。1月30日胆管空腸ドレーンを抜去2月2日膵管空腸ドレーンを抜去2月5日ドレーン抜去部から膿状の排液が認められた。2月6日腹部の造影CT検査にて膵頭部摘除部に膵液瘻、仮性嚢胞形成過程の疑いと診断された。このため、ドレーン抜去部から再度ドレーンの留置を試みるが、皮下への挿入となり、膵空腸吻合部の腔(cavity)に到達せず、抗生物質の投与による保存的治療を実施した。2月8日瘻孔造影検査にて瘻孔からcavityが造影されたため、ドレーン抜去部から再度ドレーンの留置を試みたが、ドレーンが入らず、翌日に超音波ガイド下の穿刺ドレナージを予定した。2月9日再度瘻孔造影検査を行い、cavity内にドレーン(ファイコン14Fr)を留置し、以後、生理食塩水による洗浄ドレナージを実施した。2月15日再度瘻孔造影検査を行い、cavityに留置するドレーンをファイコン 14Frからピッグテールカテーテル(ソフトタイプ)に交換した。2月25日再度、瘻孔造影検査を行い、造影の結果、膵腸吻合部に小腔が確認されたため、ソフトピッグテールカテーテルを留置。2月29日ソフトピッグテールカテーテルを抜去3月1日患者に退院後の療養指導・説明3月2日退院(再診日は3月11日予定)3月9日午後4時頃自宅療養中の患者は、妻に対し、お腹が痛いから2階で休むと述べ、寝室がある2階に上がった。午後5時30分頃2階から音が聞こえたため、妻が2階に上がると、患者が倒れていたため、救急要請。午後5時49分救急隊が到着したが、本件患者は既に心停止の状態であった。午後6時21分頃病院に到着する直前に無脈性電気活動の状態。病院において、心肺蘇生措置、気管挿管、アドレナリンの投与等を受けたが、自己心拍は再開せず。午後7時43分死亡実際の裁判結果本件の争点は、ドレーン抜去のタイミングの適否をはじめとして多岐にわたるが、本稿では、退院時の説明義務違反について取り上げる。退院時の説明義務について、原告(患者家族)は、患者および退院後のキーマンとなる家族に対し、説明用の資料を作成して、退院に至る総合的な判断の具体的な内容、退院時の病状、退院後のリスク、退院後の生活における留意事項等について具体的に説明すべきであったと主張した。これに対し、裁判所は、A医師が2月29日にドレーンを抜去し、患者に対し、明日(3月1日)一日様子を見て大丈夫であれば明後日に退院となる旨を伝えたことを指摘し、「本件病院の医師は、本件患者に対し、退院に至る判断の具体的な内容および退院時の病状について、ドレーンを抜去しても問題がなく、病状が軽快したから退院となる旨、大まかに説明したものと認められる。よって、被告病院の医師に、退院に至る判断の具体的な内容および退院時の病状について、説明義務違反があったと認めることはできない」とした。また、裁判所は、被告病院の看護師が退院前日に、退院後の注意点として、食事については手術後の食事指導のパンフレットを参考にすること入浴および飲酒は次の外来(3月11日)まで控えること激しい運動は避けること重い荷物を持つことは避けること38度を超える発熱がある場合、吐気・嘔吐がある場合、食事・水分がまったく取れない場合、傷口が痛い・腫れる・血が出る場合、腹痛がある場合で心配なときは、被告病院に電話連絡し、受診したほうがいいかなどについて医師または看護師に相談することを説明したことや薬剤部の職員(原文ママ)が、患者に対し退院時の処方について用法用量の説明をしたこと栄養士が、患者および妻に対し食事指導を行ったこと等を指摘し、「被告病院の看護師は、本件患者に対し、本件説明書を用いて、退院後の生活における留意事項および受診の目安を説明し、また、被告病院の栄養士および薬剤部の職員も、本件患者に対し、食事上の留意事項や服薬に関する事項を説明したから、被告病院の医療従事者は、患者に対し退院後の生活における留意事項等を説明したと認められる」とした。なお、「本件説明書」とは「退院に向けての確認事項」と題する書面とのことであり、判決文からは記載内容の詳細は定かでないが、上記の看護師の説明内容として認定されている事項に沿う記載がなされている書面と推察される。注意ポイント解説本件訴訟では、退院時の説明について、被告病院は「被告病院の医師は、退院前日の3月1日、本件患者に対し、食事は消化の良い物を食べ、脂質の多い食事は避けること、運動は軽めの散歩等とし、激しい運動は避けること等を指示するとともに、腹痛や発熱等の症状が出た場合には直ちに来院するよう指示し、…本件患者の理解も良好であった」と主張した。しかし、判決文では、上記のとおり、「ドレーンを抜去しても問題がなく、病状が軽快したから退院となる旨、大まかに説明した」との判断にとどまっている。これは、被告病院の主張したような説明をしたことにつき、説明に用いた書面もなく、カルテに説明内容の記載もなかったためと推察される。そうであるとすれば、退院時の療養指導に関して必要な説明がされたと認定できず、説明義務違反があると判断される可能性もあり得たと思われる。このような状況であったにもかかわらず、裁判所が「説明義務違反がない」と判断したのは、被告病院の看護師が「退院に向けての確認事項」と題する書面を用いて、退院後の生活における留意事項および受診の目安を説明していたことや、被告病院の栄養士や薬剤部の職員が、食事上の留意事項や服薬に関する事項の説明をしていることの記録・記載があったことに加え、退院時に説明が求められる内容は、医師による説明でなければならないとは言えないものであったこと(コメディカルによる説明が許容されるものであったこと)によると考えられる。本来は、退院時の説明についても医師が説明を行い、その記録が残っていることが望まれるところであるが、看護師や薬剤部職員、栄養士らほかの医療職の説明により、退院時に説明すべき事項が補完された例と言える。また、医師自身が説明した内容について、カルテにきちんと記載しておくことが望まれることや、ある程度の定型的な留意事項についてはあらかじめ説明書を用意しておく(その上で、当該症例に即した個別の留意事項について追記等を行いつつ説明する)ことの有益性が改めて確認された例とも言える。医療者の視点多忙な勤務医にとって、患者への説明時間の確保は難解なテーマです。昨今では、単に病状説明をするだけではなく、誰に、どのような内容を、どれだけ詳しく説明し、さらにその説明を聞いた患者さん側がどの程度理解されたかなど、事細かにカルテに記載しなければなりません。働き方改革の影響もあり、一人ひとりの患者さんに多くの時間を割けない状況になっているため、(1)定型の説明文書を記載しておく、(2)チーム内の医師同士やコメディカルと説明業務を分担する、などの工夫が重要となります。ただし、当然のことながら、患者さんごとに病状/病態、背景、併存症などが異なるため、各患者さんに個別の注意喚起をする必要もあります。必要十分な説明を患者さんに届けるには、業務の効率化やチーム医療の推進が肝要です。Take home message退院にあたっての一般的な留意事項は定型の説明書を用いることも含め、医師の説明内容を記録化する(定型の説明書を用いる場合、当該症例に即した個別の留意事項について追記等を行いつつ説明し、コピーを残す)ことが重要である。医師に限らず、看護師らコメディカルが、それぞれの立場から留意事項を説明することもまた有益である。キーワード療養方法の指導としての説明義務退院時や診療の結果、入院させないで帰宅させて自宅で経過観察をする際に、生活上の留意事項やどのような症状が生じたときに病院を受診すべきか等につき指示・説明をする義務。患者に対する診療行為の一環として行われるものであり、患者の生命・身体の安全そのものを保護する見地から導かれる説明義務であり、治療法の選択に関する説明義務が患者の自己決定権の尊重を根拠に置くのとは根拠を異にする。

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GLP-1受容体作動薬、内視鏡検査の誤嚥リスクに影響するか/BMJ

 2型糖尿病患者に上部消化管内視鏡検査を行う際、検査前のSGLT-2阻害薬と比較してGLP-1受容体作動薬の使用では、肺吸引のリスクは上昇しないものの、内視鏡検査中止のリスクが高いことが、米国・ハーバード大学医学大学院のWajd Alkabbani氏らの調査で示された。研究の成果は、BMJ誌2024年10月22日号に掲載された。米国のコホート研究 研究グループは、2型糖尿病患者の上部消化管内視鏡検査において、検査前のGLP-1受容体作動薬投与は、SGLT-2阻害薬投与に比べ肺吸引や検査中止のリスクを上昇させるかを評価する目的で、コホート研究を行った(ハーバード大学医学大学院薬剤疫学・薬剤経済学科などの助成を受けた)。 米国の2つの商用医療データベースを用いて、2016年1月1日~2023年8月31日に、上部消化管内視鏡検査前の30日以内にGLP-1受容体作動薬またはSGLT-2阻害薬を使用した18歳以上の2型糖尿病患者を特定した。 4万3,354例を解析の対象とした。内視鏡検査前に2万4,817例(平均年齢59.9歳、女性63.6%)がGLP-1受容体作動薬を、1万8,537例(59.8歳、63.7%)がSGLT-2阻害薬を使用していた。サブグループ解析でも全般に肺吸引リスクに差はない 主要アウトカムである内視鏡検査当日または翌日の肺吸引の1,000人当たりの重み付けリスクは、GLP-1受容体作動薬群が4.15、SGLT-2阻害薬群は4.26であり、両群で同程度であった(統合リスク比:0.98、95%信頼区間[CI]:0.73~1.31)。 内視鏡検査に使用した麻酔の種類や肥満度に基づくサブグループ解析でも、両群間に肺吸引リスクの差を認めなかった。また、個々のGLP-1受容体作動薬とSGLT-2阻害薬の比較でも、全般に肺吸引リスクに差はなく、エキセナチド-リキシセナチドのみリスクが高かった(統合リスク比:2.49、95%CI:1.36~4.59)が、症例数が少なく精度は低かった。BMI値≧30で検査中止リスクが高かった 副次アウトカムである内視鏡検査中止の1,000人当たりの重み付けリスクは、SGLT-2阻害薬群が4.91であったのに対し、GLP-1受容体作動薬群は9.79と増加していた(統合リスク比:1.99、95%CI:1.56~2.53)。 サブグループ解析では、BMI値≧30の患者でGLP-1受容体作動薬群の検査中止リスクが高かった(統合リスク比:2.60、95%CI:1.65~4.06)が、BMI値<30の患者では差を認めなかった(0.99、0.51~1.94)。また、SGLT-2阻害薬群と比較して、セマグルチド皮下注、デュラグルチド、エキセナチド-リキシセナチド、チルゼパチドは検査中止リスクが高かった。 著者は、「これらの知見は、無作為化試験によるエビデンスがない現在、内視鏡検査を必要とする患者に対する検査前のプロトコールの作成に役立つ可能性がある」としている。

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GLP-1受容体作動薬が消化管の内視鏡検査に影響か

 上部消化管内視鏡検査(以下、胃カメラ)や大腸内視鏡検査では、患者の胃の中に食べ物が残っていたり腸の中に便が残っていたりすると、医師が首尾よく検査を進められなくなる可能性がある。新たな研究で、患者がオゼンピックやウゴービといった人気の新規肥満症治療薬(GLP-1受容体作動薬)を使用している場合、このような事態に陥る可能性の高くなることが明らかになった。米シダーズ・サイナイ病院の内分泌学者で消化器研究者のRuchi Mathur氏らによるこの研究結果は、「JAMA Network Open」に10月1日掲載された。 GLP-1受容体作動薬には胃残留物の排出を遅延させる作用があり、便秘を引き起こすこともある。このため、この薬の使用者では、全身麻酔を必要とする処置を受ける際に食べ物を「誤嚥」するリスクが増加する可能性のあることが指摘されている。Mathur氏らは、GLP-1受容体作動薬使用者では消化管に残留物が見られることがあり、それが内視鏡検査で鮮明な画像を得る上で障害になる可能性があると考えた。 そこでMathur氏らは、2023年1月1日から6月28日の間に胃カメラか大腸内視鏡検査、またはその両方を受けた過体重または肥満の患者209人のデータを後ろ向きに解析した。209人中70人がGLP-1受容体作動薬使用者(GLP-1群、平均年齢62.7歳、女性36人)、残りの139人は非使用者(対照群、平均年齢62.7歳、女性36人)であった。胃カメラのみを受けたのはGLP-1群23人、対照群46人、大腸内視鏡検査のみを受けたのはGLP-1群23人、対照群45人、両方の検査を受けたのはGLP-1群24人、対照群48人だった。 胃カメラのみを受けた対象者のうち胃残留物が認められた者の割合は、GLP-1群で17.4%(4人)であった。これに対し、対照群と、胃カメラと大腸内視鏡検査の両方を受けた患者で、胃残留物が認められた対象者はいなかった。 また、大腸内視鏡検査または胃カメラと大腸内視鏡検査の両方を受けた患者のうち、「腸管の準備が不十分」(便が残存しているなど腸管洗浄が不十分な状態)であった者の割合は、GLP-1群で21.3%(10/47人)に上ったのに対し、対照群では6.5%(6/93人)であった。 ただし、研究グループは良い知らせとして、GLP-1受容体作動薬使用の有無に関係なく、対象患者において誤嚥、呼吸困難、誤嚥性肺炎は発生しなかったことを挙げている。 それでも研究グループは、「胃や腸に食物や便が残留するリスクの上昇は憂慮すべきことだ」と注意を促す。なぜなら、そのような状態での内視鏡検査は、「病変の見逃しや患者の不満、処置のキャンセル、医療資源の浪費といった重大なリスク」をもたらすからだという。 研究グループは、「本研究結果は、内視鏡検査前のGLP-1受容体作動薬の使用に関するガイドラインの更新が必要かどうかを判断するために、さらなる研究が必要であることを示唆するものだ」との見方を示している。

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喀血の原因は、58年前の○○【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第264回

喀血の原因は、58年前の○○2024年7月、アメリカの選挙演説をしていたドナルド・トランプ氏が狙撃されるという事件がありました。そのため、ここらへんで一度、弾丸関連の異物論文を復習しておこうと思うのが異物論文専門医です。大昔に受けた傷跡や異物などがその後、数十年の時を経て顕在化するというのはよくあります。異物論文の世界では、70年後に心筋梗塞を起こした症例などが有名です1)。さて、今日紹介するのは喀血例の報告です。アルツハイマー病や脳卒中の既往がある81歳の退役軍人が、喀血によって搬送されました。喀血の原因はいくつもありますが、高齢男性においては通常、結核、肺アスペルギルス症、喫煙などが想起されます。Shrinath V, et al. 'You bleed in war and you bleed in peace: Hemoptysis in a case with retained intra-thoracic bullet fragments decades after the injury.’ Lung India. 2024 Jul 1;41(4):331-332.酸素飽和度の低下もなく、バイタルサインは安定していました。喀血は鼻出血と同じように、一度止まってしまえば意外としばらく出血しないことが多いです。当然、原因があるならそれを解決しなければ、再喀血するリスクがあるわけですが。この高齢男性の喀血の原因は何だったのでしょうか?胸部X線画像では、陳旧性の肺の陰影のようなものが数個胸部に見られました。うーん、これが喀血を起こすものだろうか。確かに、過去に重症肺炎や結核の既往があったり、塵肺があったりすると、こういった石灰化が見られますが、それが急性喀血の原因にはなりにくいです。「もしかして吐血じゃね?」ということで、上部消化管内視鏡検査が行われましたが、何も異常はなく、むしろ声帯に血液が付着していることがわかりました。「ああ、これはやっぱり喀血だ」ということで、気管支鏡検査が行われました。しかし、気管支腫瘍や異物などは見られませんでした。胸部造影CTでは、左下葉と背中の皮下に金属影が確認されました。胸部X線写真正面像だけでは胸郭内・胸郭外のどちらに石灰化があるのか不明ですが、胸部CTではその場所が明らかとなります。皮下の金属影とくれば、アレでしょう。「これは戦時中の弾丸でしょうか?」こんな会話が診察室で行われたのかもしれません。そう、これは58年前、軍務に就いていたときに散弾銃で撃たれ、除去された弾丸と除去できなかった弾丸があるようでした。年齢や基礎疾患も考慮して、気管支動脈塞栓術までは行われませんでした。止血剤の投与で軽快退院しています。半世紀以上を経て、喀血を起こすというのは過去に類を見ないもので、現時点で「弾丸関連喀血」の世界最長記録であると論文中に記載されています。1)Burgazli KM, et al. An unusual case of retained bullet in the heart since World War II: a case report. Eur Rev Med Pharmacol Sci. 2013 Feb;17(3):420-1.

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最近増加している好酸球性食道炎に生物学的製剤は有効か?(解説:上村直実氏)

 好酸球性消化管疾患は、食道・胃・十二指腸・小腸・大腸の消化管のいずれかに好酸球が浸潤して炎症を引き起こすアレルギー性疾患の総称であるが、確定診断が難しいことから比較的まれな疾患で厚生労働省の指定難病として告示されている。胸焼け、腹痛、下痢といったさまざまな消化器症状を引き起こすが、一般的には好酸球性食道炎と胃から大腸までのいずれかもしくは複数の部位に炎症の主座を有する好酸球性胃腸炎に大別されているが、最近の診療現場では好酸球性食道炎が増加している。つかえ感や胸焼けを慢性的に自覚する患者に対して行われる上部消化管内視鏡検査で、本疾患に特徴的な内視鏡所見である縦走溝や輪状溝および白苔を認めた際に行う生検組織を用いた組織学的検査により確定診断されるケースが多いが、健康診断や人間ドックなどで受けた内視鏡検査の際に偶然発見される無症状の症例も増加している。本疾患が気管支喘息などのアレルギー性疾患の合併率が高いことも、留意しておくべきである。 わが国における好酸球性食道炎に対する治療は、保険適用になっていないプロトンポンプ阻害薬やステロイド吸入薬の内服が使用される場合が多いが、それでも症状が改善しない場合は、全身性ステロイドの内服や原因として疑われる食材を除去する食事療法が行われている。以上の一般的治療でも症状が難治性の場合、海外では生物学的製剤の開発が進みつつある。難治性のアトピー性皮膚炎や気管支喘息および鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎の治療薬であるインターロイキンIL-4/IL-13のシグナル伝達を阻害する完全ヒト型モノクローナル抗体であるデュピルマブが、好酸球性食道炎に対しても承認されている。すなわち、2022年12月22日号のNEJM誌に掲載された国際共同試験の結果において、12歳以上の好酸球性食道炎患者を対象としたデュピルマブ週1回皮下投与は、組織学的寛解率を改善すると共に嚥下障害症状を軽減することが明らかとなり、さらに11歳以下の小児を対象とした第III相無作為化試験において組織学的所見の改善を認めた結果が、2024年6月27日号のNEJM誌に掲載されると同時に米国などで承認されている。 今回、好酸球を減少させる抗IL-5受容体αモノクローナル抗体であるベンラリズマブの有用性と安全性を検証した第III相多施設共同無作為化二重盲検プラセボ対照試験「MESSINA試験」の結果も、2024年6月27日号のNEJM誌で報告された。試験の結果、好酸球性食道炎に対し、ベンラリズマブはプラセボと比較して組織学的寛解率が有意に高かったものの、嚥下障害の症状に関しては有意な改善は認められなかった。以前の報告から、ベンラリズマブは血液、骨髄、肺、胃、食道組織における好酸球のほぼ完全な減少をもたらす薬剤であり、好酸球性食道炎の治療薬としても期待されたが、浸潤好酸球の減少が症状の改善につながらなかった結果から、今後、好酸球浸潤と症状発現の機序が残された課題と思われる。 現在、国内においてPPIや生物学的製剤も含めて好酸球性食道炎に対して保険適用となっている薬剤は皆無であるが、今後、増加傾向のあるアレルギー疾患である好酸球性食道炎の新たな知見に注目しておく必要があると思われた。

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二項対比で鑑別する【国試のトリセツ】第37回

§2 診断推論二項対比で鑑別するQuestion〈109E47〉12歳の女児。間欠的腹痛と下痢とを主訴に来院した。生来健康であったが、3カ月前から間欠性の腹痛と1日数回の下痢とが出現した。2カ月前から体重が2kg減少し、腹痛と下痢とが改善しないため受診した。痔瘻を認める。粘血便を認めない。血液所見赤血球400万、Hb9.8g/dL、Ht33 %、白血球6,000、血小板35万。血液生化学所見総蛋白6.3g/dL、アルブミン3.0g/dL、総ビリルビン0.9mg/dL、AST30 IU/L、ALT35IU/L。CRP2.5mg/dL。下部消化管内視鏡検査で予想されるのはどれか。(a)偽膜(b)憩室(c)敷石像(d)ポリープ(e)輪状潰瘍

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治療に対する不安を軽くするには?【もったいない患者対応】第3回

治療に対する不安を軽くするには?登場人物今日来た患者さん、とても不安が強くて治療の説明をしてもなかなか必要性を理解してもらえないんです。なぜそんなに不安が強いのかな?どうやら同じ病気の友達にいろいろ言われたらしく…。副作用が多いからやめたほうがいいとか…。患者さんは友達の体験談に大きな影響を受けるからね。ですよね。どうすればいいんでしょう?先生は同じ治療を安全に受けた患者さんをたくさん知ってるよね?そのことに少し触れてみるのはどうだろう?実体験を例に挙げるたとえば、患者さんが下部消化管内視鏡検査(大腸カメラ)を受ける予定で、その説明を医師から受けるとします。しかし実は事前に知人から、「大腸カメラはすごく痛いよ!」「大腸カメラで大腸に穴が空いた人がいるらしいよ!」「前日の下剤がつらすぎて二度と受けたくない!」という話を聞いていたとしたら、患者さんはどういう思いを抱いているでしょうか? 「たった1人の事例が自分に当てはまるとは限らないし、個人差はあるに決まっているだろうから信用しない」などと冷静に判断できる人はおそらくいないでしょう。誰もが「自分も同じ目にあうかもしれない」と強い不安を抱くはずです。患者さんにとって、“親しい人からの体験談”ほど大きな影響を与えるものはないからです。そこで、私たちもそれを逆手にとり、不安が強い患者さんには「参考程度」に体験談をお伝えするのも1つの手です。たとえば、私は大腸カメラを2度受けた経験があるので、「私も大腸カメラを受けたことがあるんですが、全然痛くなかったんですよ。もちろん個人差はあると思いますが…」「私も下剤を飲んだとき夜中に何度かトイレに起きたのですが、お腹が痛くてつらい、ということはなかったです」と伝えています。実際に同じ検査や治療を受けた患者さんの事例を、個人情報に注意しながら例に出してみてもよいでしょう。もちろん、「n=1」の体験談は医学的には大きな意味をもちませんから、「個人差はありますよ」「ケースバイケースですよ」という補足説明は必要ですし、リスクについてはデータをもとに客観的な情報を提供すべきです。しかし、「実際にそういう感想もある」と知っておくことが、患者さんの心理的負担を少し軽くするのは間違いないでしょう。「相反する例」をうまく使う治療や検査の必要性をきちんと理解してもらうなら、「相反する例」をうまく利用するのも1つの手です。患者さんに「AはBです」と伝えたいときに、「AがBでなかったらどうなるか」を引き合いに出し、対比を浮き彫りにして理解してもらいやすくする、という手法です。たとえば、化学療法を受ける予定の患者さんに制吐薬を処方するとします。医師にとって、化学療法に制吐薬を併用するのは当たり前のことですが、患者さんにとっては初めての体験です。そこで、「吐き気止めを処方しておきますね」と言うだけで済ませるのではなく、「もし吐き気止めを使わないと、〇〇という状況になることが予想されます(〇%くらいの人に吐き気が起こると言われています)ので、吐き気止めを処方しますね」というふうに話します。他にも、たとえば輸血が必要な患者さんに対しては、「もし輸血をしないと〇〇になってしまうので、今日は輸血を行いましょう」というように伝えることが可能です。もちろん「脅す」という意味ではありません。治療の必要性を理解するためには、「治療をしなかった未来」を具体的に思い描いていただくことが有効だという意味です。これとは少し違うものの、似た例をあげてみます。以前、私の指導医は、肝臓切除の手術前に必ず、「実は、昔は肝臓は切れない臓器だと言われていました。肝臓は血管の塊だからです。いまはいろんな道具が出てきて、ようやく切れるようになったんです」と説明していました。技術が進歩する前は肝臓を「切ることすらできなかった」と伝えることで、「出血リスクが高すぎて手術が困難だった昔」を引き合いに出し、出血リスクの大きさを患者さんが理解しやすくしていたのです。

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上部消化管内視鏡検査(胃カメラ)の略語はどれが正しい?【知って得する!?医療略語】第23回

第23回 上部消化管内視鏡検査(胃カメラ)の略語はどれが正しい?病院によって上部消化管内視鏡検査の略語が違うようなのですが・・・そうですね。上部消化管内視鏡の略語表記は、施設や医師によりさまざまで混乱しますね。≪医療略語アプリ「ポケットブレイン」より≫【略語】EGD【日本語】上部消化管内視鏡(検査)【英字】esophagogastroduodenoscopy【分野】消化器【診療科】消化器内科・消化器外科【関連】upper gastrointestinal endoscopy実際のアプリの検索画面はこちら※「ポケットブレイン」は医療略語を読み解くためのもので、略語の使用を促すものではありません。筆者が最初に勤務した病院では上部消化管内視鏡検査、通称「胃カメラ」をGIF(gastrointestinal fiber scope)と表現していました。その後、転勤した先では、上部消化管内視鏡検査はGS(gastroscopy)と表現する医師が多く、一部の医師はES(endoscope)と表現していました。さらに別の病院に転勤すると、今度はGFと表記され、同じ上部内視鏡検査でも病院や医師により表記がまったく異なるのを目の当たりにしました。また最近では、上部消化管内視鏡検査をFGS(fiber gastroscopy)と表記している病院に遭遇しました。普段、見かけない表記なので調べてみると、1971年(昭和46年)に書かれた「消化管内視鏡の現状」という内視鏡に関する総説論文に出会いました。同論文によれば、1963年10月に町田製作所(千葉県我孫子市)が日本初の国産の胃内視鏡「FGS」を発表しました。その後、1964年にオリンパス光学工業(現・オリンパス)より「GTF」(通称、ファイバーカメラ)が発表されます。また町田製作所はファイバー食道鏡FES、十二指腸ファイバースコープ(FDS)を発表し、一方でオリンパス光学工業は食道ファイバースコープEF、十二指腸ファイバースコープJF-Bを発表しています。その後のオリンパス光学よりGIFシリーズの内視鏡が登場しています。上部消化管内視鏡の開発は、硬性胃鏡から始まり、軟性胃鏡、胃カメラ、ファイバースコープ、電子スコープへ発展を遂げると同時に、胃と食道、十二指腸それぞれ個別に開発された内視鏡が、食道から十二指腸まで1つの内視鏡で観察できるように進化してきました。内視鏡に関するさまざまな略語表記が存在するのは、内視鏡の開発の歴史が影響しているかもしれません。筆者が確認できた、上部消化管内視鏡検査を意図して記載された表記は以下の通りです。GIF:gastrointestinal fiberGS:gastroscopyES:endoscopyFGS:fiber gastroscopyGF:gastric fiberEGD:esophagogastroduodenoscopyGFS:gastrointestinal fiber scopyなお、現在でも使用されている「GIF」や「GF」は海外では通用しない表現で、国際的にはEGD(esophagogastroduodenoscopy)が公式な略語となっています(消化器内視鏡学会 消化器内視鏡用語集 第4版)。現場で混乱が生じないよう、表記が統一されていくことを願います。1)竹本 忠良. 東女医大誌. 1971;41:813-830.2)丹羽 寛文. Gastroenterol Endosc. 2009;51:2392-2413.3)鷲塚 信彦. SENI GAKKAISHI. 2008;64:258-261.4)藤野 雅之. Gastroenterol Endosc. 2008;50:3613-3618.5)日本消化器内視鏡学会用語委員会:消化器内視鏡用語集 第4版

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【第221回 】液体窒素を飲むとどうなるか?

液体窒素を飲むとどうなるか?いらすとやより使用私の子供がとあるYouTubeチャンネルの動画を見ていたとき「液体窒素を口に含んでも大丈夫」と言っていました。確かにそうかもしれない、と私も思いました。熱したフライパンに水を垂らしたとき、水滴は玉になったままフライパンの上を転がるのと同じ原理ということです。しかし、間違って飲んでしまったらどうなるんだろう…。ちょっと気になったので調べてみました。まとまった報告はなく、症例報告をいくつか紹介してみます。Kim DW.Stomach Perforation Caused by Ingesting Liquid Nitrogen: A Case Report on the Effect of a Dangerous Snack.Clin Endosc. 2018 Jul;51(4):381-383.これは13歳の男児が遊園地でお菓子を食べたところ、突然腹痛を訴えて来院した症例報告です。このお菓子は、液体窒素でキンキンに冷えていたことがわかりました。腹部CT検査で、消化管穿孔を起こしていることがわかり、緊急手術で胃穿孔が判明しました。液体窒素そのものか、ただ冷えていたことが原因なのかどうか、何とも言えない症例ではありますね。Zheng Y, et al. Barotrauma after liquid nitrogen ingestion: a case report and literature review.Postgrad Med. 2018 Aug;130(6):511-514.これは、25歳男性が液体窒素を含んだ自家製飲料を摂取した後に、急性腹症を起こした症例です。精査の結果、胃穿孔を起こしていることがわかり、緊急手術となりました。Pollard JS, et al.A lethal cocktail: gastric perforation following liquid nitrogen ingestion.BMJ Case Rep. 2013 Jan 7;2013:bcr2012007769.液体窒素を含むアルコール飲料を摂取した後に、胃穿孔を起こした18歳女性の症例報告です。胃の損傷の程度が大きかったため、Roux-en-Y再建による胃全摘術が必要でした。胃穿孔ばかり続きます。痛そうです。胃全摘はかなりシビアですね。Knudsen AR, et al.Gastric rupture after ingestion of liquid nitrogen.Ugeskr Laeger. 2009 Feb 9;171(7):534.28歳男性が、煙を吐き出して周囲を驚かせるために液体窒素15mLを飲み、その後重度の腹部膨満と縦隔気腫があったという症例報告です。小弯部を中心に胃が破裂していたため、開腹手術で縫合されました。上部消化管内視鏡検査では、冷却による潰瘍性病変などはありませんでした。おや?4つ目の報告は、ちょっと胃潰瘍とは異なる機序のようですね。実は、液体窒素による胃の傷害は、冷却による粘膜障害ではないとされています。ドライアイスなどを飲み込むと、長時間冷温に曝露されるので胃潰瘍のリスクがあるのですが、液体窒素はおそらくそれよりも早く気化します。液体窒素は、加熱されると数百倍に膨張することが問題になります。これによって、胃が極度に膨張して傷害を受けるのではないか、ということです。まぁ…どちらの機序が優勢にしても、こんなもんを飲み込むなんて狂気の沙汰ですから、決してマネしないように。ちなみにドライアイスを飲んだらどうなるかというと…実はこの連載の3回目で紹介しています。

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医師のがん検診受診状況は?/1,000人アンケート

 定番ものから自費で受ける最先端のものまで、検査の選択肢が多様化しているがん検診。CareNet.comが行った『がん検診、医師はどの検査を受けている?/医師1,000人アンケート』では、40~60代の会員医師1,000人を対象に、男女別、年代別にがん検診の受診状況や、検査に関する意見を聞いた。その結果、主ながん種別に受ける割合の多い検査が明らかとなったほか、今後受けたい検査、がん検診に感じる負担など、さまざまな角度から意見が寄せられた(2022年8月26~31日実施)。40代男性医師の約半数、がん検診を受けていない Q1「直近の健康診断や人間ドックで、どのがん検査を受けましたか?(複数選択)」では、男性ではどの年代でも、胃がん(40代41%、50代52%、60代59%)、大腸がん(同28%、同41%、同50%)の順に検査を受けた割合が多かった。「がん検診を受けていない」と回答した人は年代で大きく差があり、40代が47%、50代が31%、60代が23%となっており、40代男性の約半数が、がん検診を受けていないことが明らかになった。 女性では、40代と50代では、ともに乳がん(40代53%、50代47%)の検査を受けた割合が最も多く、次いで40代では子宮頸がん(52%)、胃がん(45%)、50 代では胃がん(45%)、子宮頸がん(44%)の順に多かった。60代は、胃がんが最多(64%)で、次いで乳がん(52%)、子宮頸がん(42%)の順となっている。「がん検診を受けていない」と回答した人は、どの年代も20%台で大きな差はなかった。女性の場合、乳がんや子宮頸がんといった若年層でも比較的リスクが高いとされるがんが多いことが、この結果に影響しているかもしれない。胃がん検診で最も多いのは経口内視鏡検査 Q2「胃がん検診の際に受けた検査はどれですか?(複数選択)」では、男女どの年代も経口内視鏡検査を受けた割合が最も多かった(男性29%、女性31%)。自由回答で、胃がん検診に対して寄せられたコメントとして、バリウムX線検査や内視鏡検査について、以下のようなものがあった。・バリウムではなくて内視鏡をファーストチョイスにしてほしい。(心臓血管外科、40代、女性)・胃のバリウム造影はあまり意味がないのではないでしょうか。(泌尿器科、40代、男性)・経口内視鏡の苦痛の軽減方法は鎮静以外にないものか、今後の技術の進歩に期待。(内科、60代、女性)・胃カメラは経鼻が入らないので、さらに細径の内視鏡開発を望みます。(泌尿器科、50代、男性)コメントが多く寄せられた「乳がん検診の痛み」 Q3では、男女で別の質問項目を設けた。男性に対しては前立腺がんについて聞いたところ、年代が上がるにつれて検査を受けた割合が増加し、40代ではわずか9%だが、50代では33%、60代では48%がPSA検査を受けていた。 女性に対しては乳がんについて聞いた。マンモグラフィ検査を受けた割合は各年代とも50%を超えており、超音波検査は30%前後であった。乳がん検診の痛みに対する以下のようなコメントが10件ほど寄せられた。・マンモグラフィはもっと痛みの少ない撮影法が開発されてほしい。毎回憂うつです。(眼科、40代、女性)・乳がん検診はMRIが最適だろうに、なぜ広がらないのかわかりません。そもそもマンモグラフィは非常に痛みが強く、その割に感度特異度とも不十分で改善点ありまくりなのに、まったく改善する見込みなし。(内科、50代、女性)・マンモグラフィが痛すぎるので、それに代わる痛くない検査がいい。(精神科、50代、女性)自費で受けた検査、今後受けたい検査 Q5では、自費で受けたことがある検査について聞いた。最も多かったのは腫瘍マーカー検査で、男女ともにどの年代も10%以上あり、最多の60代男性では24%だった。続いて脳ドックが男女ともに各年代10%前後であった。 Q6の自由回答のコメントでは、今まで受けたことはないが今後積極的に受けたい検査として、下部消化管内視鏡検査を挙げた人が14人、がん遺伝子検査が11人、がん線虫検査が10人、PET検査が9人、腫瘍マーカー検査が3人だった。ただし、線虫検査や腫瘍マーカー検査については、検査の精度に対して以下のような懐疑的な意見もいくつか寄せられた。・線虫検査などは偽陰性が問題だと思う。(泌尿器科、40代、女性)・腫瘍マーカーで早期発見は無理で、普段偽陽性ばかり見ているので、しっかりと有用性の評価をしないといけないと思う。(呼吸器内科、50代、男性)コロナ禍で検診を受けにくい状況も がん検診を受けにくい理由として、忙しくて受ける余裕がないという意見が多数寄せられた。具体的には、内視鏡検査や婦人科がんの検診は予約が取りづらいといったことや、週末に受診できる施設が少ないといった理由のほか、コロナ禍で検診を受けにくくなったという声も複数上がった。アンケート結果の詳細は以下のページに掲載中。がん検診、医師はどの検査を受けている?/医師1,000人アンケート

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CPと表記される医療用語が15種類…「誤解を招く医療略語」の解決に役立つポケットブレインとは?

 電子カルテの普及により多職種間で患者情報を共有しやすくなり、紙カルテ時代とは比にならないくらい業務効率は改善したー。はずだったのだが、今度は医療略語の利用頻度の増加による『カルテの読みにくさ』という新たな課題が浮上している。 医療略語は忙しい臨床現場で入力者の負担軽減に寄与する一方で、略語の多用や種類の増加が、職種間での情報共有における新たな弊害になっている可能性がある。また、診療科や職種により医療略語の意味が異なるため、“医療事故”のリスク因子にもなりかねない。増加の一途をたどる医療略語に、医療現場はどう対処していけばよいのだろうか。 そんな医療略語の課題解消に乗り出したのが、病院向け経営支援システムを扱うメディカル・データ・ビジョン株式会社だ。同社は医療IT企業の強みを生かし、医療略語辞書アプリ『ポケットブレイン』を昨年12月7日にリリースした。本アプリは電子カルテに書かれた英字略語を検索できる臨床現場支援ツールで、これを使えばカルテや各種検査レポートで分からない医療略語に遭遇した際、スマートフォンでサクサク検索できる。その開発者で医師の加藤 開一郎氏が昨年12月17日に記者会見を開き、医療略語の現状やアプリの開発経緯とその意義を語った。CPと略語表記されうる医療用語は15種類 医療略語は“さまざまな意味に解釈し得る”がゆえに誤解を招くものが存在する。加藤氏はその理由を「識別性の低さ」と話し、その一例として英字2文字で15種類もの意味を持つ『CP』を挙げた。≪CPと略語表記されうる医療用語≫・カプセル・ケアプラン・CP療法・大腸ポリープ・クロラムフェニコール・セルロプラスミン遺伝子・口蓋裂・脳性麻痺・毛細管圧・皮膚型ポルフィリン症・収縮性心外膜炎・半規管麻痺・臨床心理士・Child-Pugh分類・慢性動脈周囲炎 一方で、同氏は“略語の不統一”という問題も指摘している。これは、事実上は同じ物を指しているにもかかわらず、複数の医療略語が存在することだ。「上部消化管内視鏡検査」をその最たる例として挙げ、「学会でも略語表記の統一をアナウンスはされているが、現場ではさまざまな略語が使用されている」とコメントした。≪上部消化管内視鏡検査を意味して記載された略語≫*1)EGD:esophagogastroduodenoscopy2)GS:gastroscopy3)GIF:gastrointestinal fiber4)GF:gastric fiber5)GFS:gastlic fiber scopy6)ES:endscopy*:出典:ポケットブレイン説明資料医療略語の出現速度に書籍が追いついていない また、同氏は医師の働き方改革についても言及し、「医師の働き方改革と言われる一方で、内科、外科、救急医の減少傾向に歯止めがかからない。心ある医療者がかろうじて現場に踏みとどまっているのが現状だ。とにかく、医師・看護師の業務負担を減らすため、事務的な業務は積極的に事務職への代行を推進する必要がある。しかし、カルテを読む難しさがそれを阻んでおり、その大きな原因が英字略語や英語表記にあると考える。本アプリを開発した目的の1つは医師の業務代行にある」と強調した。 現在、医療略語に関する書籍は多数出版されているが、書籍でページをめくり医療略語を探すのは物理的に時間を要する。さらに、医療略語の出現速度に書籍の改訂ペースが追いついていない。片や、ネット検索は英字略語のみでは適切な情報に辿り着かず、適切な日本語との組み合わせ検索というもうひと手間が必要である。「それらの問題を解決したのが本アプリ『ポケットブレイン』」と同氏はコメント。 ポケットブレインは毎日情報が更新される成長型アプリで、未収載略語の追加・修正依頼、古い略語の削除等の依頼等、ユーザとの双方向性を重要視している。また、重要な機能の1つに“略語の属性情報”と“補足情報”がある。属性情報が分かることにより、目の前のカルテに書かれている英字略語に対し、その和訳を当てはめて良いかどうかの判断が可能となる。これにより医師以外の職種にも汎用性が高い仕様になっている。医療用語は医療を行うための共通言語 現在、日本医療機能評価機構の病院機能評価の機能種別版評価項目<3rdG:Ver2.0>において“略語の標準化”もポイントになっている。そのため、各病院独自のデータベースを構築する施設もあれば、略語の使用を登録制にしている病院もあるという。これを踏まえ、「同社は病院の業務スマホ向け版ポケットブレインの準備を進め、各病院の略語集にも対応していく予定」だという。 医療略語に限らず、医療用語は医療を行うための共通言語であり、インフラと言っても過言ではない。職種を超えた情報共有が求められる今日、カルテを早く正確に読める対策が求められる。 なお、本アプリに関連する連載をCareNet.comにて公開している。「知って得する!?医療略語」

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新型コロナ、消化管内視鏡検査で飛沫からの感染リスクは?

 消化管内視鏡検査(GIE)は、早期発見と多くの疾患の治療に有用である一方で、医療スタッフが患者の分泌物の飛沫によって感染するリスクがあり、COVID-19パンデミック下においては危険度の高い処置と考えられている。本研究は、横浜市立大学病院の研究チームが、検査を実施する医療スタッフが曝露する可能性のある唾液および消化液により、SARS-CoV-2陽性となる割合を検証した。Digestive endoscopy誌オンライン版2021年2月6日号に掲載。 本研究では、2020年6月1日~7月31日に横浜市立大学病院でGIEを受けたすべての患者が登録された。全員から3mL の唾液と共に、上部消化管内視鏡の場合は胃液10mLを、下部消化管内視鏡の場合は腸液10mLを採取した。主要評価項目は、唾液および胃腸液中のSARS-CoV-2陽性率で、SARS-CoV-2の血清抗体価や患者の背景情報についても併せて解析した。 主な結果は以下のとおり。・調査期間中、計783例の唾液および消化液(上部消化管内視鏡:560、下部消化管内視鏡:223)を採取、分析した。・唾液サンプルに対するRT-PCRは、いずれもSARS-CoV-2陽性を示さなかった。・消化液サンプルの2.0%(16/783例、上部消化管内視鏡:13/560例、下部消化管内視鏡:3/223例)において、SARS-CoV-2陽性反応を示した。・RT-PCR陽性症例と陰性症例との間において、年齢、性別、内視鏡検査の目的、投薬、抗体検査陽性率については、いずれも有意差が見られなかった。・血清抗体検査においては、被験者の3.9%がCOVID-19抗体を有していたが、消化液のRT-PCRとの間に関連は見出されなかった。 これらの結果について、研究チームは「唾液中に検出可能なウイルスを持たない患者においても、消化管にSARS-CoV-2が存在するケースが確認された。内視鏡検査の医療スタッフは、処置を行う際に感染を認識する必要がある」と指摘。ただし、ウイルスが消化液中でどのくらいの時間留まり、感染性を保つかについてはデータが限られており、消化管におけるSARS-CoV-2の特徴や臨床的重要性を明らかにするにはさらなる研究が必要としている。

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大腸にテントウ虫を認めた1例【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第175回

大腸にテントウ虫を認めた1例Wikipediaより使用基礎疾患のない59歳の男性の下部消化管内視鏡スクリーニング検査中、検査医はビックリしました。なぜって、横行結腸にテントウ虫がいたからです!!!えええええっ!Tahan V, et al.An Unusual Finding of a Ladybug on Screening ColonoscopyACG Case Rep J . 2019 Aug 15;6(8):e00174.ナミテントウですよ。横行結腸にいたのは。 ちょっと待って、口か肛門、どっちから入ったの!?テントウ虫を飲み込んだら普通、消化されますよね。 しかし、下部消化管内視鏡検査をしたら、大腸に虫がいたという報告は実はいくつかあります。 “異物界"で有名なのが「横行結腸のゴキブリ」です1)。これは、ゴキブリの外殻がうまく消化されないことがあって、ゴキブリの形が残ってしまうという現象です。 おええ。よくよく考えると、テントウ虫が肛門から入って、ヨイショヨイショと横行結腸まで来るというのは考えにくいです。となると、やはり上から来たと考えるのが妥当ですよね。例のごとく、著作権の問題があってココに画像を貼れないのが残念ですが、上にあるWikipediaの写真のような、かわいいテントウ虫が横行結腸に転がっていたのです。 ぜひ原文をチェックしてみてください。テントウ虫の生死については書いていませんでしたが、たぶん死んでいたと思います。考察には、処置前に飲んだポリエチレングリコールが、胃や小腸の消化酵素でテントウ虫を消化するのを防いだのかもしれないと書かれていました。「ladybug」をPubMedでタイトル検索すると、わずか18件しか見つからず、 そのうち異物として報告されたのは、これが初めての例になります。1)Kumar AR, et al. An unusual finding during screening colonoscopy: a cockroach! Endoscopy. 2010;42 Suppl 2:E209-10.

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PPI服用や便秘がフレイルに影響

 フレイルと腹部症状の関連性はこれまで評価されていなかったー。今回、順天堂東京江東高齢者医療センターの浅岡 大介氏らは病院ベースの後ろ向き横断研究を実施し、フレイルの危険因子として、プロトンポンプ阻害薬(PPI)の使用、サルコペニア、低亜鉛血症、FSSG質問表(Frequency Scale for the Symptoms of GERD)でのスコアの高さ、および便秘スコア(CSS:Constipation Scoring System)の高さが影響していることを明らかにした。Internal Medicine誌2020年6月15日号掲載の報告。 同氏らは、2017~19年までの期間、順天堂東京江東高齢者医療センターの消化器科で、65歳以上の外来通院患者313例をフレイル群と非フレイル群に分け、フレイルの危険因子を調査した。患者プロファイルとして、骨粗しょう症、サルコペニア、フレイル、栄養状態、上部消化管内視鏡検査の所見、および腹部症状の質問結果(FSSG、CSS)を診療記録から入手した。 おもな結果は以下のとおり。・対象者は、男性134例(42.8%)、女性179例(57.2%)、平均年齢±SDは75.7±6.0歳で、平均BMI±SDは22.8±3.6kg/m2だった。・そのうち71例(22.7%)でフレイルを認めた。・一変量解析では、高齢(p<0.001)、女性(p=0.010)、ヘリコバクターピロリ菌の除菌成功(p=0.049)、PPIの使用(p<0.001)、下剤の使用(p=0.008)、サルコペニア(p<0.001)、骨粗しょう症(p<0.001)、低亜鉛血症(p=0.002)、低アルブミン血症(p<0.001)、リンパ球数の低下(p=0.004)、CONUT(controlling nutritional status)スコアの高さ(p<0.001)、FSSGスコアの高さ(p=0.001)、CSSスコアの高さ(p<0.001)がフレイルと有意に関連していた。・また、多変量解析の結果でもフレイルと有意に関連していた。高齢[オッズ比(OR):1.16、95%信頼区間[CI]:1.08~1.24、p<0.001]、PPI使用(OR:2.42、95%CI:1.18~4.98、p=0.016)、サルコペニア(OR:7.35、95%CI:3.30~16.40、p<0.001)、低亜鉛血症(OR:0.96、95%CI:0.92~0.99、p=0.027)、高FSSGスコア(OR:1.08、95%CI:1.01~1.16、p=0.021)、高CSSスコア(OR:1.13、95%CI:1.03~1.23、p=0.007)。

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クローン病〔CD : Crohn’s disease〕

1 疾患概要■ 概念・定義クローン病(Crohn’s disease: CD)は消化管の慢性肉芽腫性炎症性疾患であり、発症原因は不明であるが、免疫異常などの関与が考えられる。小腸、大腸を中心に浮腫や潰瘍を認め、腸管狭窄や瘻孔など特徴的な病態を生じる。■ 疫学主として若年者(10代後半~30代前半)に好発する。年々増加傾向にあり、わが国のCDの有病率は最近15年間で約4倍に増加、患者数4万人以上と推測され、日本では1.8:1.0の比率で男性に多い。現在も増加していると考えられる。■ 病因原因はいまだ不明であるが、遺伝的素因と食事などの環境因子の両者が関与し、消化管局所の免疫学的異常により、慢性の肉芽腫性炎症が持続する多因子疾患である。喫煙が増悪因子とされている。ほかに長鎖脂肪酸、多価不飽和脂肪酸、精製糖質の過剰摂取などが増悪因子として想定されている。■ 症状主症状は腹痛(70%)、下痢(80%)、体重減少・発熱(40~70%)である。肛門病変はCD患者の半数以上にみられ、先行する場合も多い(36~81%)。検査値の異常として、炎症所見(白血球数、CRP、血小板数、赤沈)の上昇、低栄養(血清総蛋白、アルブミン、総コレステロール値の低下)、貧血を示す。■ 分類正しい治療を考える上で、病変部位、疾患パターン、活動度・重症度の把握が重要である。病変部位は小腸型、小腸大腸型、大腸型の3つに大きく分類される。日本では小腸型20%、小腸大腸型50%、大腸型30%とされている。疾患パターンとして炎症型、狭窄型、瘻孔形成型の3通りに分類することが国際的に提唱されている。さらに疾患活動性として、症状が軽微もしくは消失する寛解期と、症状のある活動期に分けられる。重症度を客観的に評価するために、CD活動指数CDAI(表1)、IOIBDなどがあるが、日常診療に適した重症度分類は現在のところまだないため、患者の自覚症状、臨床所見、検査所見から総合的に評価する。画像を拡大する■ 予後CDは再燃、寛解を繰り返し慢性に経過する疾患である。病初期は消化管の炎症が中心であるが、徐々に狭窄型・瘻孔型へ移行し、手術が必要となる症例が多い。2000年に提唱されたCDの分類法であるモントリオール分類(表2)では発症時年齢、罹患範囲、病気の性質により分類されている。病型や病態は罹患期間により比率が変化し、Cosnes氏らは診断時に炎症型が85%であっても、20年後には88%が狭窄型から瘻孔型へ移行すると報告している 。累積手術率は発症後経過年数とともに上昇し、生涯手術率は80%以上になるという報告もある。海外での累積手術率は10年で34~71%である。わが国の累積手術率も、10年で70.8%、初回手術後の5年再手術率は16~43%、10年で26~67%と報告されている。とくに瘻孔型では手術率、術後再発率とも高くなっている。死亡率に関しては、Caravanらのメタ解析によるとCDの標準化死亡率は1.5(1.3~1.7)と算出されている。死亡率は過去30年で減少傾向にあるが、CDの死亡率比は一般住民よりやや高いとの報告がある。わが国では、やや高いとする報告と変わらないとする報告があり、死亡因子としては肝胆道疾患、消化管がん、肺がんが挙げられている。画像を拡大する2 診断 (検査・鑑別診断も含む)■ 診断基準厚生労働省の診断基準(表3)に沿って診断を行う。2018年に改訂した診断基準(案) ではCDAI(Crohn’s disease activitiy index)や合併症、炎症所見、治療反応に基づくECCO(European Crohn’s and colitis organisation )(表4)の分類に準じた重症度分類(軽症、中等症、重症)が記載されている。画像を拡大する■ 診断の実際若年者に、主症状である腹痛(70%)、下痢(80%)、体重減少・発熱(40~70%)が続いた場合CDを念頭に置く。肛門病変はCD患者の半数以上にみられ、先行する場合も多い(36~81%)。血液検査にて炎症所見、低栄養、貧血がみられたら、CDを疑い終末回腸を含めた下部消化管内視鏡検査および生検を行う。診断基準に含まれる特徴的な所見および生検組織にて、非乾酪性類上皮肉芽腫が検出されれば診断が確定できる。病変の範囲、治療方針決定のためにも、上部消化管内視鏡検査、小腸X線造影検査を行うべきである。CDと鑑別を要する疾患として、腸結核、腸型ベーチェット病、単純性潰瘍、非ステロイド系抗炎症薬(NSAIDs)潰瘍、感染性腸炎、虚血性腸炎、潰瘍性大腸炎などがあるため、服薬歴の確認・便培養・ツベルクリン反応およびクォンティフェロン(QFT)、病理組織検査を確認する。診断のフローチャートを図に示す。画像を拡大する1)画像検査所見(1)下部消化管内視鏡検査、小腸バルーン内視鏡検査検査前に、問診やX線にて強い狭窄症状がないか確認する。60~80%の患者では大腸と終末回腸が罹患する。病変は非連続性または区域性に分布し、偏側性で介在部はほぼ正常である。活動性病変として、縦走潰瘍と敷石像が特徴的な所見である。小病変としてはアフタや不整形潰瘍が認められる。(2)上部消化管内視鏡検査胃では、胃体上部小弯側の竹の節状外観、前庭部のたこいぼびらん・不整形潰瘍が認められる。十二指腸では、球部と下行脚に好発し、多発アフタ、不整形潰瘍、ノッチ様陥凹、結節状隆起が認められる。(3)消化管造影検査(X線検査)病変の大きさや分布、狭窄の程度、瘻孔の有無について簡単に検査ができる。所見の特徴は、縦走潰瘍、敷石像、非連続性病変、瘻孔、非対称性狭窄(偏側性変形)、裂孔、および多発するアフタがある。(4)その他近年、機器の性能向上および撮影技法の開発により、超音波検査、CT、MRIにより腸管自体を詳細に描出することが可能となった。小腸病変の診断に、経口造影剤で腸管内を満たし、造影CT検査を行うCT enterography(CTE)や、MRI撮影を行うMR enterography(MRE)が欧米では広く用いられており、わが国の一部の医療施設でも用いられている。撮影法の工夫により大腸も同時に評価ができるMR enterocolonography(MREC)も一部の施設では行われており、検査が標準化されれば、繰り返し行う場合も侵襲が少なく、内視鏡が到達できない腸管の評価にも有用と考えられる。2)病理検査所見CDには病理診断上、絶対的な基準となるものがなく、種々の所見を組み合わせて診断する。生検診断をするにあたっては、その有無を多数の生検標本で連続切片を作成し検討する。組織学的所見として重要なものは(1)全層性炎症像、(2)非乾酪性類上皮肉芽腫の検出、(3)裂溝、(4)潰瘍である。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)CDは発症原因が不明であり、経過中に寛解と再燃を繰り返すことが多い。CDの根治的治療法は現時点ではないため、治療の目標は病勢をコントロールし、炎症を繰り返すことによる患者のQOL低下を予防することにある。そのため薬物療法、栄養療法、外科療法を組み合わせて症状を抑えるとともに、栄養状態を維持し、炎症の再燃や術後の再発を予防することが重要である。■ 内科治療(主に薬物治療として)活動期の治療と寛解期の治療に大別される。活動期CDの治療方針は、疾患の重症度、病変範囲、合併症の有無、患者の社会的背景を考慮して決定する。初発のCDでは、診断および病変範囲、重症度の確定と疾患に関する教育や総合的指導のため、専門医にコンサルトすることが望ましい。また、ステロイド依存や免疫調節薬の投与経験がない場合においても、生物学的製剤の投与に関しては専門医にコンサルトすべきである。わが国における平成30年度 CD治療指針、および各治療法の位置づけ(表5)を示す。画像を拡大する1)5-ASA製剤CDに適応があるのはメサラジン(商品名:ペンタサ)、サラゾスルファピリジン(同:サラゾピリン)の経口薬である。治療指針においては軽症~中等症の活動期の治療、寛解維持療法、術後再発予防のための治療薬として推奨されている。CDの寛解導入効果および寛解維持効果は限定的であるが有害性は低い。腸の病変部に直接作用し炎症を抑えるため、製剤の選択には薬剤の放出機序に注意して病変範囲によって決める必要がある。2)ステロイド(GS)5-ASA製剤無効例、全身症状を有する中等症以上の症例で寛解導入に有効である。関節症状、皮膚症状、眼症状などの腸管外合併症を有する場合や、発熱、CRP高値などの全身症状が著明な場合は、最初からステロイドを使用する。寛解維持効果はないため、副作用の面からも長期投与は避けるべきである。ステロイド依存となった場合は、少量の免疫調節薬(アザチオプリン〔AZA〕、6-メルカプトプリン〔6-MP〕)を併用し、ステロイドからの離脱を図る。軽症あるいは中等症例の回盲部病変の寛解導入には、全身性副作用を軽減し局所に作用するブデソニド(同:ゼンタコート)9mg/日の投与が有効である。3)免疫調節薬(AZA、6-MPなど)免疫調節薬として、AZA(同:イムラン、アザニン)、6-MP(同:ロイケリン)が主なものであり、AZAのみ保険適用となっている。AZAと6-MPは寛解導入、寛解維持に有効であり、ステロイド減量効果を有する。欧米の使用量はAZA 2.0~3.0mg/kg/日、6-MP 50mg/日または1.5mg/kg/日であるが、日本人は代謝酵素の問題から用量依存性の副作用が生じやすく、欧米より少量のAZA(50~100mg/日)、6-MP(20~50mg/日)が投与されることが多い。チオプリン製剤の副作用の中で、服用開始後早期に発現する重度の急性白血球減少と全脱毛がNUDT15遺伝子多型と関連することが明らかとされている。2019年2月よりNUDT15遺伝子多型検査が保険適用となっており、初回チオプリン製剤治療前には本検査を施行し、表6に従ってチオプリン製剤の適応を判断することが推奨される。AZA/6-MPの効果発現は緩徐で2~3ヵ月かかることが多いが、長期に安定した効果が期待できる。適応としてステロイド減量効果、難治例の寛解維持目的、瘻孔病変、術後再燃予防、抗TNF-α抗体製剤を使用する際の相乗効果があげられる。画像を拡大する4)抗体製剤(1)抗TNF-α抗体製剤わが国ではインフリキシマブ(同:レミケード)、アダリムマブ(同:ヒュミラ)が保険適用となっている。抗TNF-α抗体製剤は、CDの寛解導入、寛解維持に有効で外瘻閉鎖維持効果を有する。適応として、中等症~重症のステロイド・栄養療法が無効な症例、重症例で膿瘍や狭窄がない治療抵抗例、抗TNF-α抗体製剤で寛解導入された症例の寛解維持療法、膿瘍がコントロールされた肛門病変が挙げられる。早期に免疫調節薬と併用での導入が治療成績がよいとの報告があるが、副作用と医療費の問題もあり、全例導入は避けるべきである。早期導入を進める症例として、肛門病変を有する症例、穿孔型の症例、若年発症が挙げられる。(2)抗IL12/23p40抗体製剤2017年5月より中等症から重症の寛解導入および維持療法としてウステキヌマブ (同:ステラーラ)が使用可能となっている。導入時のみ点滴静注(体重あたり、55kg以下260㎎、55kgを超えて85kg以下390㎎、85kgを超える場合520㎎)、その後は12週間隔の皮下注射もしくは活動性が高い場合は8週間隔の皮下注射であり、投与間隔が長くてもよいという特徴がある。また、安全性が高いことも特徴である。腸管ダメージの進行があまりない炎症期の症例に有効との報告がある。肛門病変への効果については、まだ統一見解は得られていない。(3)抗α4β7インテグリン抗体製剤2018年11月より中等症から重症の寛解導入および維持療法としてベドリズマブ (同:エンタイビオ)が使用可能となっている。インフリキシマブ同様0週、2週、6週で投与後維持療法として8週間隔の点滴静注 (30分/回)を行う。抗TNF-α抗体製剤failure症例よりもnaive症例で寛解導入および維持効果を示した報告が多い。日本での長期効果の報告に関してはまだ症例数も少なく、今後のデータ集積が必要である。5)栄養療法活動期には腸管の安静を図りつつ、栄養状態を改善するために、低脂肪・低残渣・低刺激・高蛋白・高カロリー食を基本とする。糖質・脂質の多い食事は危険因子とされている。「クローン病診療ガイドライン(2011年)」では、栄養療法はステロイドとともに主として中等症以上が適応となり 、痔瘻や狭窄などの腸管合併症には無効である。1日30kcal/kg以上の成分栄養療法の継続が再発防止に有効であるが、長期にわたる成分栄養療法の継続はアドヒアランスの問題から困難であることも少なくない。総摂取カロリーの半分を成分栄養剤で摂取すれば、寛解維持に有効であることが示されており、1日900kcal以上を摂取するhalf EDが目標となっている。6)抗菌薬メトロニダゾール、シプロフロキサシンなどの抗菌薬は中等度~重症の活動期の治療薬として、肛門部病変の治療薬として有効性が示されている。病変部位別の比較では小腸病変より大腸病変に対して有効性が高いとされる。7)顆粒球・単球吸着療法(granulocyte/monocyte apheresis: GMA)2010年より大腸病変のあるCDに対しGMAが適応拡大となった。GMAは単独治療の適応はなく、既存治療の有効性が乏しい場合に併用療法として考慮すべきである。施行回数は週1回×5回を1クールとして、最大2クールまで施行する。8)内視鏡的バルーン拡張術(endoscopic balloon dilatation: EBD)CDは、経過中に高い確率で外科手術を要する疾患であり、手術適応の半数以上は腸管狭窄である。EBDは手術回避の目的として行われる内視鏡的治療であり、治療指針にも取り上げられている。適応としては、腸閉塞症状を伴う比較的短く(3cm以下)屈曲が少ない良性狭窄で、深い潰瘍や瘻孔を伴わないものである。適応外としては、細径内視鏡が通過する程度の狭窄、強度に屈曲した狭窄、長い狭窄、瘻孔合併例、炎症や潰瘍が合併している狭窄である。■ 外科的治療CDの外科的治療は内科的治療で改善しない病変のみに対して行い、QOLの改善が目的である。腸管病変に対する手術では、原則として切除をなるべく小範囲とし、小腸病変に対しては可能な症例では狭窄形成術を行い、腸管はなるべく温存する。5年再手術率16~43%、10年で32~76%と高く、可能な症例では腹腔鏡下手術が有効である。緊急手術、穿孔、広範囲膿瘍形成、複数回の開腹手術既往、腸管外多臓器への複雑な瘻孔などは開腹手術が選択される。厚生労働省研究班治療指針によるCDの手術適応は表7の通りである。完全な腸閉塞、穿孔、大量出血、中毒性巨大結腸症は緊急に手術を行う。狭窄病変については、活動性病変は内科治療、線維性狭窄で口側拡張の著しいもの、短い範囲に多発するもの、狭窄の範囲が長いもの、瘻孔を伴うもの、狭窄症状を繰り返すものは手術適応となる。肛門病変は、難治性で再発を繰り返す痔瘻・膿瘍が外科的治療の対象となる。治療として、痔瘻根治術、シートン法ドレナージ、人工肛門造設(一時的)、直腸切断術が選択される。治療の目標は症状の軽減と肛門機能の保持となる。画像を拡大する4 今後の展望現在、各種免疫を ターゲットとした治験が行われており、進行中の治験を以下に示す。グセルクマブ(商品名:トレムフィア):抗IL-23p19抗体(点滴静注および皮下注射製剤)Upadacitinib:JAK1阻害薬(経口)E6011:抗フラクタルカイン抗体(静注)Filgotinib:JAK1阻害薬(経口)BMS-986165:TYK2阻害療法(経口)5 主たる診療科消化器内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療・研究に関するサイト難病情報センター CD(一般利用者と医療従事者向けの情報)東京医科歯科大学消化器内科 「潰瘍性大腸炎・クローン病先端治療センター」(一般利用者向けの情報)JIMRO IBD情報(一般利用者と医療従事者向けの情報)患者会に関するサイトIBDネットワーク(IBD患者と家族向け)1)日比紀文 監修.クローン病 新しい診断と治療.診断と治療社; 2011.2)難治性炎症性腸管障害に関する調査研究班プロジェクト研究グループ 日本消化器病学会クローン病診療ガイドライン作成委員会・評価委員会.クローン病診療ガイドライン: 2011.3)NPO法人日本炎症性腸疾患協会(CCFJ)編.潰瘍性大腸炎の診療ガイド. 第2版.文光堂; 2011.4)日比紀文.炎症性腸疾患.医学書院; 2010.5)渡辺守.IBD(炎症性腸疾患を究める). メジカルビュー; 2011.公開履歴初回2013年04月11日更新2020年03月09日

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若年者に増加しているヒトパピローマウイルス陽性中咽頭がんに対する標準的放射線化学治療(解説:上村直実氏)-976

 中咽頭がんは頭頸部がんの1つで、日本では年間の罹患者数が数千人であるのに対して、米国では毎年5万人が罹患し1万人が死亡する疾患である。生命予後とともに嚥下や発生などの機能の温存が重要で、手術療法とともに放射線化学療法が用いられる機会が多いのが特徴的である。 近年、中咽頭がんの原因の1つとしてヒトパピローマウイルス(HPV)が同定された後、HPV関連(p16陽性)がんと非関連(p16陰性)がんに大別され、前者は後者に比べて若年者に多く、予後が良いのが特徴であり、罹患者が急増していることで注目されている。 HPV関連の中咽頭がんに対する低侵襲治療法の代表として、放射線治療+シスプラチンを用いる放射線化学療法が標準治療とされている。最近、EGFR阻害薬セツキシマブがシスプラチンと比較して副作用が少ない治療として注目されている折、2018年11月15日のLancet誌にHPV陽性中咽頭がんを対象とした放射線化学療法に関する同じ内容の多施設共同RCTの結果が報告された。研究された場所は北米(米国とカナダ)と欧州(英国、アイルランドとオランダ)で異なっているが、得られた研究結果はほぼ同様である。「放射線療法+セツキシマブは放射線療法+シスプラチンに比べて重度の有害事象リスクには差がなく、生存率や再発率の延長に寄与しない」、すなわち「現時点では、HPV陽性中咽頭がんに対する放射線化学療法としては放射線療法+シスプラチンが標準レジメンである」との結論であった。 欧州と北米の異なる2つのグループが同時期に同様の臨床試験を行い、同じ結果を得た訳であるが、私が専門としているピロリ菌と胃がんの関連に関する世界初の疫学研究報告も、1991年の同じ号のNEJM誌に「ピロリ菌は胃がんの発生に関与している」との結果がスタンフォード大学とハワイ大学から同時に掲載された。さらに、低悪性度の胃MALTリンパ腫がピロリ菌の除菌により消退する研究結果が、1993年のLancet誌に英国とドイツから同時に報告されたことを思い出した。「世界には、同時期に同じアイデアを持って研究しているグループが最低でも3組ある」と言われた恩師の言葉が懐かしく思われた。 最後に、上部消化管内視鏡検査の際に、機器の発達に伴って咽頭や食道の観察精度が向上して、内視鏡的切除の対象となる上皮内がんとして発見される症例が劇的に増加していることは、日本独自の保険診療体制によることを強調したい。

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小児の胃酸関連疾患の治療課題とPPIなどの薬物療法

 2018年7月13日アストラゼネカ株式会社は、第一三共株式会社と共同販売するプロトンポンプ阻害薬(PPI)エソメプラゾール(商品名:ネキシウム)が、1歳以上の小児への追加承認を本年1月に受け、4月に同薬の懸濁用顆粒分包が新発売されたことを期し、「進化する酸関連疾患治療~子どもの酸関連疾患の治療課題とPPIがもたらす変革を考える~」をテーマとするメディアセミナーを開催した。セミナーでは、小児の胃食道逆流症など酸関連疾患の診療と今後の展望などが解説された(写真は、左:中山 佳子氏、右上:木下 芳一氏、右下:清水 俊明氏)。小児向け治療薬の臨床試験数が少ない日本の現状 はじめに中山 佳子氏(信州大学医学部小児医学教室 講師)を講師に迎え、「小児酸関連疾患の実情とアンメットニーズ」をテーマに講演が行われた。 冒頭、エソメプラゾールが、ほかの国から10年近く遅れて小児適応が承認されたことに触れ、わが国の小児医薬品の開発状況を概説した。今回の小児適応拡大は、2006年に日本小児栄養消化器肝臓学会から出された要望が、ようやく実ったもの。現在でも成人治療薬の約20%程度しか小児適応がないという。とくに小児領域では、対象年齢層(新生児~思春期)が広いこと、対象患者数・投与量の少なさによる採算性からメーカの躊躇などの理由があると、世界的にみても治験数が少ないわが国の問題点を指摘した。 つぎに小児の酸関連疾患の特徴として胃食道逆流症と胃潰瘍、十二指腸潰瘍について説明を行った。小児の胃潰瘍、十二指腸潰瘍ではPPIが有効 小児の胃食道逆流症は、10歳未満の患児3.2%にあると推測され、14歳まででは約3.7万の患児がいると推計されている。こうした患児の主訴は「嘔吐・嘔気」「腹痛」であり、胸やけや呑酸の訴えがない、またはできないために、見逃されやすいという。そのため、咳嗽や喘鳴、体重減少・成長不良、胸痛など消化管外症状について、医療者が医療面接で気付き、本症を想定できるかが重要だと語る。 小児の胃食道逆流症診療では、診断として上部消化管造影検査、食道pHモニタリング、上部消化管内視鏡検査などが実施される。また、鑑別診断では、好酸球性食道炎、消化性潰瘍、代謝性アシドーシスなどとの鑑別が必要となる。治療では、家族への説明、生活指導から始まり、授乳方法の改善(少量頻回、増粘ミルク、アレルギー疾患用ミルクなど)、そして、PPIなどの薬物療法へと移行する。実際、エソメプラゾールで治療する場合、1日10~20mgを約2週間投与し、症状の改善を確認。有効ならば、4~8週間の治療継続を行うことになるが、無効・再燃例では、小児専門医に紹介が必要となる。 小児の胃潰瘍、十二指腸潰瘍では、十二指腸潰瘍の頻度が高く、主症状は年齢により異なるという。新生児~乳児期では反復性の嘔吐、消化管出血、幼児期では臍周囲痛など非特異的な痛み、学童期では上腹部圧痛を伴う心窩部痛が多くなる。とくに患児が主訴で「お腹がモヤモヤする」と訴えた場合、十二指腸潰瘍を疑い、必要な検査などの施行が望まれる。また、危険兆候として、夜間睡眠中の腹痛による覚醒、嘔吐や貧血、ヘリコバクター・ピロリ感染の家族歴も参考になる。診断では、臨床所見のほか、検査で腹部エコーや上部消化管内視鏡検査で潰瘍の診断を確実にすることが必要とされる。治療では、PPIが著効するため、1歳以上の本症確定例の小児ではエソメプラゾール10~20mgを第1選択薬として、早期の症状消失、潰瘍治癒を促すとしている。 最後に中山氏は、「小児の酸関連疾患では、腹痛や嘔吐などを繰り返すため、患児は活動制約、成長障害などの合併症を来しうるとともに その保護者もケアの負担や成長への不安など日常で苦労が重積する。こうした疾患に早期診断、早期治療介入をすることで、患児と保護者のQOLの改善につなげていく必要がある。また、PPIのアンメットニーズとして、長期投与、1歳未満の乳児への使用、ヘリコバクター・ピロリ除菌への補助などまだ解決されるべきことも多い」と課題を呈し、講演を終了した。小児に使用できない治療薬の保険承認への呼び水に セミナー後半では、木下 芳一氏(島根大学医学部内科学講座第二 教授)を座長に、清水 俊明氏(順天堂大学大学院医学研究科 小児思春期発達・病態学講座 主任教授)と中山氏をパネリストに「幼児・小児の酸関連疾患の早期発見、早期診断・治療につなげるには」をテーマにパネルディスカッションが行われた。 ディスカッションでは、「酸関連疾患、早期発見のコツ」について木下氏が尋ねたところ、清水氏が「不規則な位置や時間に腹痛があれば酸関連疾患を疑う。家族歴の聴取も大事だ」と回答し、中山氏が「患児向けに『胸やけ』などの言葉の言いかえをあらかじめ示しておく。保護者に患児の表情や気になる点を細かく聴取するべき」と回答し、臨床に役立つポイントが語られた。また、今後の展望について、清水氏は「今回のエソメプラゾールの保険適用が、別の小児に使用できない治療薬の保険承認への呼び水になればよいと思う」と述べ、中山氏は「安全に患児に使える治療薬の拡大を望みたい」と語り、ディスカッションを終えた。■参考アストラゼネカ ニュースリリースプロトンポンプ阻害剤「ネキシウム」の小児用法・用量の追加を目指し、新たに臨床試験を開始

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マントル細胞リンパ腫〔MCL: Mantle cell lymphoma〕

1 疾患概要■ 概念・定義マントル細胞リンパ腫(mantle cell lymphoma:MCL)は、1992年にBanks氏らにより独立した疾患単位として提唱された悪性リンパ腫である。WHO分類第4版では、核不整を伴う小型、中型のリンパ球が単調に増殖するB細胞腫瘍であり、Cyclin D1遺伝子の転座を伴うと定義される1)。■ 疫学MCLは、非ホジキンリンパ腫の3~10%を占め、中年から高年層に多く、好発年齢は60歳前後で、男性に多く発症する1)。わが国においては、悪性リンパ腫の2~4%程度と報告されており、比較的まれな病理組織型である。■ 病因14q32に存在する免疫グロブリン重鎖遺伝子(IgH)と11q13に存在するCCND1遺伝子の相互転座 t(11;14)(q13;q32)により、Cyclin D1の過剰発現が生じて腫瘍細胞増殖を促進すると考えられている。さらに近年の分子生物学的研究の成果により、染色体転座に加えMCL発症に重要な役割を果たしていると考えられる遺伝子変異が同定されている。DNA修復に関わるATM遺伝子、クロマチン修飾に関わるWHSK1、MLL2およびMEF2B遺伝子、NFκBに関わるBIRC3遺伝子、Notchシグナルに関わるNOTCH1/2遺伝子などである。また、MCLの一部においてB細胞受容体(B-cell receptor:BCR)を介したシグナル伝達が恒常的に活性化しており、染色体転座および遺伝子変異と同様にMCLの発症に関与していると考えられている。とくにNFκBやBCRシグナルに関わる分子は、MCLにおける重要な治療標的と考えられるようになり、それらを標的とした分子標的薬の臨床導入も検討されている。Cyclin D1陰性例がMCLの5%以下に認められるが、そのような症例はCyclin D2、D3の過剰発現が確認されており、少数例の解析ではあるが、Cyclin D1陽性の典型例と陰性例で臨床的特徴や予後は変わらないと報告されている。■ 症状MCLの初発症状は、その他の非ホジキンリンパ腫と同様にリンパ節腫大で発症することが多く、特有の症状はない。しかし、MCLは90%近い患者において初発時に臨床病期III期・IV期の進行期であり、表在リンパ節腫大・脾腫以外に、節外病変に伴う症状を高頻度に認める。骨髄浸潤は50~70%に認める。消化管浸潤が20~30%に認められるため、腹部膨満・腹痛・下痢などの消化器症状を主訴として、消化器内科を受診して発見される患者も比較的多い。また、眼窩の腫脹で眼科を受診し、リンパ腫が疑われる場合もあり、多彩な症状で発見されることが特徴である。■ 分類MCLは、病理組織学的に腫瘍細胞は小型~中型の比較的均一な細胞の増殖からなり、腫瘍細胞にはアポトーシス像や分裂像をほとんど認めず、このような形態を示す例が9割近くを占める。その他に芽球様型(blastoid variant)、多形性型(pleomorphic variant)および小細胞型(small cell variant)と呼ばれる細胞形態学的亜型に分類される。さらに、腫瘍の組織構築によりびまん性、結節性およびマントルゾーンパターンに分類される。芽球様型および多形性型は、高悪性度型として予後不良と考えられている1)。■ 予後MCLの予後予測は、中高悪性度リンパ腫に対する予後予測因子である国際予後指標(international prognostic index:IPI)によりおおむね予測が可能であるが、より正確に予後を予測するモデルとしてMCL国際予後指標(mantle cell lymphoma IPI:MIPI)が提唱された2)。MIPIは、年齢、performance status(PS)、LDHおよび白血球数の4つの因子によりlow/intermediate/highの3群のリスクに分類するものである。全生存期間(overall survival:OS)中央値は、low risk群で中央値に到達せず、intermediate risk群 51ヵ月、high risk群 29ヵ月であり、予後層別化が可能であった。一方でMIPIは、計算式によりスコアを求める必要があるため煩雑であることから(図1)、より簡便にしたsimplified MIPI(s-MIPI)が提唱された(図2)。s-MIPIによる各群のOS中央値は、low risk群で中央値に到達せず、intermediate risk群 51ヵ月、high risk群 29ヵ月であった。さらにKi-67陽性強度が独立した予後因子であるとされている。画像を拡大する画像を拡大する2 診断 (検査・鑑別診断も含む)■ 病理組織学的診断MCLの診断は、リンパ節生検などによる腫瘍組織の病理組織学的診断がもっとも重要である。生検検体は、可能な限り新鮮検体、ホルマリン固定検体および凍結保存検体の3種類に分別して処理すべきである。ホルマリン固定検体を用いたHE染色にて形態学的に悪性リンパ腫が疑われれば、免疫組織学的検査を追加する。MCLはCD20などのB細胞マーカーに加えて、CD5が陽性で、Cyclin D1が腫瘍細胞の核に陽性となる。また、新鮮検体を用いてflow cytometry法により細胞表面抗原検索を併せて行う。通常MCLは、CD5、CD19、 CD20、 CD22、 CD79aが陽性で、CD10およびCD23が陰性である。染色体分析では、t(11;14)(q13;q32)が陽性となることが多く、病理組織学的診断を補強する意味で有用である。病理組織学的に、慢性リンパ性白血病/小リンパ球性リンパ腫、濾胞性リンパ腫および辺縁帯リンパ腫などが鑑別となる。そのため、免疫組織学的検査や細胞表面抗原検査の所見が、鑑別上重要である。■ 臨床病期診断悪性リンパ腫の治療方針を決定するうえで、臨床病期診断は重要である。リンパ節病変の評価として頸部から骨盤部のCT、骨髄検査が必須である。また、近年悪性リンパ腫の臨床病期診断におけるFDG-PETの有用性が指摘されており可能な限り実施する。その他、MCLは前述のように、消化管病変を有することが多いため、上部消化管内視鏡に加え、下部消化管内視鏡検査を行うことが望ましい。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)抗CD20モノクローナル抗体であるリツキシマブと高用量シタラビンを併用した強力な寛解導入療法に引き続いて、自家造血幹細胞移植大量化学療法(自家移植)を実施する治療戦略が、現時点でもっとも良好な病勢制御が期待でき、自家移植の適応を有する65歳以下の未治療進行期MCL患者における標準的治療法である。Geisler氏らの北欧グループによるR-maxi-CHOP/大量シタラビン療法3)やMD Anderson Cancer CenterによるHyperCVAD/MA療法4)の報告が、いずれも第II相試験の結果ではあるが、その根拠となっている。わが国においては、日本臨床腫瘍研究グループ(Japan Clinical Oncology Group:JCOG)よりR-high-CHOP/CHASER療法に引き続く、LEED療法を前処置とした自家移植の有効性が報告されている5)。自家移植の適応のない65歳を超える高齢のMCL患者では、わが国においてはR-CHOP療法が標準的治療法の1つとして位置付けられている。CHOP療法とR-CHOP療法を比較した臨床試験において、奏効割合でR-CHOP療法が有意に優れていたが、OSには有意差は認められなかった6)。一方、メタ解析では、リツキシマブ併用化学療法が化学療法群と比較してOSを延長することが示され、R-CHOP療法を含むリツキシマブ併用化学療法が標準的治療法と位置付けられた7)。また、R-CHOP療法とそれに引き続くリツキシマブ維持療法はOSを延長することが報告されている8)。ドイツからの報告では、R-CHOP療法と比較してベンダムスチン(商品名: トレアキシン)とリツキシマブ併用(BR)療法で有意にOSが延長したと報告された9)。さらにプロテアソーム阻害薬であるボルテゾミブ(同: ベルケイド)を併用したVR-CAP療法が、R-CHOP療法と比較して無増悪生存期間を延長することが第III相試験で示された10)。いずれも試験治療群が標準的治療法となり得るデータであった。わが国においてもMCLを含むB細胞リンパ腫に対するリツキシマブ維持療法および未治療MCLに対するボルテゾミブが保険承認され、さらにMCLを含む未治療低悪性度B細胞リンパ腫に対し、2016年12月に適応が拡大された。MCLにおいてB細胞受容体シグナルの恒常的活性化が認められており、同シグナルに関わるBruton’s tyrosine kinase(BTK)が有望な治療標的と考えられる。イブルチニブ(同:イムブルビカ)は、経口BTK阻害薬であり、再発・治療抵抗性MCLに対して高い有効性が示された11)。わが国においても再発・治療抵抗性MCLに対して2016年12月に適応が拡大され、再発・治療抵抗性MCLに対する重要な治療選択肢の1つに位置付けられている。4 今後の展望65歳以上の未治療MCL患者を対象とするイブルチニブ併用BR療法の有効性を検討する国際共同ランダム化第III相試験が、わが国も含めた国際共同試験として実施されている。同試験の結果により、自家移植非適応未治療MCL患者に対する新たな標準的治療法が、確立される可能性がある。また、免疫調整薬(Immunomodulatory drug: IMiD)であるレナリドミドは、リツキシマブとの併用で未治療MCLに対して第II相試験により高い有効性が示されており12)、MCLに対する今後の臨床開発が期待されている。5 主たる診療科血液内科、血液腫瘍科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報National Comprehensive Cancer Network(NCCN)NCCN guidelines for treatment of cancer by site: Non-Hodgkin lymphomas(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)European Society for Medical Oncology (ESMO)ESMO guidelines: Haematological malignancies(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)1)Swerdlow SH, et al. WHO classification of tumours of haematopoietic and lymphoid tissues. 4th ed. World Health Organization;2008.2)Hoster E, et al. Blood. 2008;111:558-565.3)Geisler CH, et al. Br J Haematol. 2012;158:355-362.4)Bernstein SH, et al. Ann Oncol. 2013;24:1587-1593.5)Ogura M, et al. ASCO annual meeting 2015. Abstract #8565.6)Lenz G, et al. J Clin Oncol. 2005;23:1984-1992.7)Schulz H, et al. J Natl Cancer Inst. 2007;99:706-714.8)Kluin-Nelemans HC, et al. N Engl J Med. 2012;367:520-531.9)Rummel MJ, et al. Lancet. 2013;381:1203-1210.10)Robak T, et al. N Engl J Med. 2015;372:944-953.11)Wang ML, et al. N Engl J Med. 2013;369:507-516.12)Ruan J, et al. N Engl J Med. 2015;373:1835-1844.公開履歴初回2015年07月14日更新2017年05月23日

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