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H.pylori除菌治療、最も有効なレジメンは?/BMJ

 複数あるヘリコバクター・ピロリ(H.pylori)除菌治療の有効性と忍容性について、中国・安徽医科大学のBao-Zhu Li氏らが、システマティックレビューとネットワークメタ解析により評価を行った。結果、14種類の除菌治療に関するデータが入手でき、解析の結果、標準治療とされている抗菌薬3剤併用7日間の効果が最も低く、最も有効であるのは、併用療法(抗菌薬3剤+PPI阻害薬)で、次いで抗菌薬3剤+生菌10~14日間、レボフロキサシンベースのトリプル治療10~14日間、ハイブリッド治療14日間、逐次的治療10~14日間であることが示唆された。標準治療は除菌効果が低いとして、多くの新たなレジメンが導入され、効果が高いものがあることも報告されている。しかし、各治療間の比較や最適な治療を特定する検討はこれまで限定的であった。BMJ誌オンライン版2015年8月19日号掲載の報告。14種類の除菌治療データをネットワークメタ解析 研究グループは、言語や日付を限定せず、Cochrane Library、PubMed、Embaseを検索し、成人を対象としたH.pylori除菌治療の無作為化試験の全文報告を特定し、除菌率が最も高く、同時に一般的な有害事象の尤度が最も低い除菌治療を調べた。 検索により1万5,565試験が特定された。143試験が適格基準を満たし、14種類の除菌治療に関するデータが入手でき解析に組み込んだ(intention to treat解析被験者数3万2,056例)。最も有効性が高かったのは併用療法(抗菌薬3剤+PPI阻害薬)7日間 有効性アウトカムに関する比較は91件で、そのうち直接比較されたものは34件であった。 除菌効果は、標準療法を含めすべての治療で有効であったが、有効性のランク付けで最も高位だったのは「併用療法(抗菌薬3剤+PPI阻害薬)7日間」で、次いで「併用療法10~14日間」「抗菌薬3剤+生菌10~14日間」「レボフロキサシンベースのトリプル治療(PPI阻害薬+レボフロキサシン+抗菌薬)10~14日間」「ハイブリッド治療14日間(PPI阻害薬+アモキシシリン7日間、PPI阻害薬+アモキシシリン+クラリスロマイシン+メトロニダゾール[5-nitroimidazole] 7日間)」「逐次的治療10~14日間(PPI阻害薬+アモキシシリン5~7日間、PPI阻害薬+クラリスロマイシン+メトロニダゾールまたはアモキシシリン5~7日間)であった。 忍容性もすべての治療で良好であると認められたが、同ランクが最高位であった「抗菌薬3剤+生菌7日間」「レボフロキサシンベースのトリプル治療7日間」は、有害事象の報告割合も高かった。

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1分でわかる家庭医療のパール ~翻訳プロジェクトより 第23回

第23回:消化性潰瘍とH. pylori感染症の診断とH. pylori除菌治療について監修:吉本 尚(よしもと ひさし)氏 筑波大学附属病院 総合診療科 消化器病領域で遭遇する頻度が多い疾患の1つに消化性潰瘍が挙げられますが、その原因のほとんどが、ヘリコバクター・ピロリ菌感染とNSAIDsの使用によるものと言われています。ヘリコバクター・ピロリ菌には日本人の約50%弱が感染していると言われ、がんの発生にも関与しているため、どのような人にどのような検査・治療を行うべきかを理解しておくことが重要です。 除菌治療に関連して、カリウムイオン競合型アシッドブロッカー(P-CAB)などの新しい治療薬も販売されていますが、日本での除菌適応は「H. pylori 陽性の胃潰瘍、十二指腸潰瘍、胃MALTリンパ腫、特発性血小板減少性紫斑病、早期胃がんに対する内視鏡的治療後胃、ヘリコバクター・ピロリ感染胃炎」で、胃炎の場合には上部消化管内視鏡での確認が必須となっていることに注意が必要です。いま一度、既存の診断と除菌治療戦略について知識の整理をしていただければ幸いです。 タイトル:消化性潰瘍とH. pylori感染症の診断とH. pylori除菌治療について以下、 American Family Physician 2015年2月15日号1)より一部改変H. pyloriはグラム陰性菌でおよそ全世界の50%以上の人の胃粘膜に潜んでいると言われ、年代によって感染率は異なる。十二指腸潰瘍の患者の95%に、胃潰瘍の患者の70%の患者に感染が見られる。典型的には幼少期に糞口感染し、数十年間持続する。菌は胃十二指腸潰瘍やMALTリンパ腫、腺がんの発生のリスクとなる。病歴と身体所見は潰瘍、穿孔、出血や悪性腫瘍のリスクを見出すためには重要であるが、リスクファクターと病歴、症状を用いたモデルのシステマティックレビューでは機能性dyspepsiaと器質的疾患を、明確に区別できないとしている。そのため、H. pyloriの検査と治療を行う戦略が、警告症状のないdyspepsia(胸やけ、上腹部不快感)の患者に推奨される。米国消化器病学会では、活動性の消化性潰瘍消化性潰瘍の既往のある患者、dyspepsia症状のある患者、胃MALTリンパ腫の患者に検査を行うべきとしている。現在無症状である消化性潰瘍の既往のある患者へ検査を行う根拠は、H. pyloriを検出し、治療を行うことで再発のリスクを減らすことができるからである。H. pyloriを検出するための検査と治療の戦略は、dyspepsiaの患者のほか、胃がんのLow Risk群(55歳以下、説明のつかない体重減少や進行する嚥下障害、嚥下痛、嘔吐を繰り返す、消化管がんの家族歴、明らかな消化管出血、腹部腫瘤、鉄欠乏性貧血、黄疸などの警告症状がない)の患者に適当である。内視鏡検査は55歳以上の患者や警告症状のある患者には推奨される。H. pyloriの検査の精度は以下のとおりである。<尿素呼気試験>感度と特異度は100%に達する。尿素呼気試験は除菌判定で選択される検査の1つであり、除菌治療終了から4~6週間空けて検査を行うべきである。プロトンポンプ阻害薬(PPI)は、検査の少なくとも2週間前からは使用を控えなければならず、幽門側胃切除を行った患者では精度は下がる。<便中抗原検査>モノクローナル抗体を用いた便中抗原検査は、尿素呼気試験と同等の精度を持ち、より安くて簡便にできる検査である。尿素呼気試験のように便中抗原検査は活動性のある感染を検出し、除菌判定に用いることができる。PPIは検査の2週間前より使用を控えるべきだが、尿素呼気試験よりもPPIの使用による影響は少ない。<血清抗原>血清抗原検査は血清中のH. pyloriに特異的なIgGを検出するが、活動性のある感染か、既感染かは区別することができない。そのため除菌判定に用いることはできない。検査の感度は高いが、特異的な検査ではない(筆者注:感度 91~100% 特異度 50~91%)2)。PPIの使用や、抗菌薬の使用歴に影響されないため、PPIを中止できない患者(消化管出血を認める患者、NSAIDsの使用を続けている人)に最も有用である。<内視鏡を用いた生検>内視鏡検査による生検は、55歳以上の患者と1つ以上の警告症状のある患者には、がんやその他の重篤な原因の除外のために推奨される。内視鏡検査を行う前の1~2週間以内のPPIの使用がない患者、または4週間以内のビスマス(止瀉薬)や抗菌薬の使用がない患者において、内視鏡で施行される迅速ウレアーゼテストはH. pylori感染症診断において精度が高く、かつ安価で行える。培養とPCR検査は鋭敏な検査ではあるが、診療所で用いるには容易に利用できる検査ではない。除菌治療すべての消化性潰瘍の患者にH. pyloriの除菌が推奨される。1次除菌療法の除菌率は80%以上である。抗菌薬は地域の耐性菌の状況を踏まえて選択されなければならない。クラリスロマイシン耐性率が低い場所であれば、標準的な3剤併用療法は理にかなった初期治療である。除菌はほとんどの十二指腸潰瘍と、出血の再発リスクをかなり減らしてくれる。消化性潰瘍が原因の出血の再発防止においてはH. pyloriの除菌治療は胃酸分泌抑制薬よりも効果的である。<標準的3剤併用療法>7~10日間の3剤併用療法のレジメン(アモキシシリン1g、PPI、クラリスロマイシン500mgを1日2回)は除菌のFirst Lineとされている。しかし、クラリスロマイシン耐性が増えていることが、除菌率の低下に関連している。そのため、クラリスロマイシン耐性のH. pyloriが15%~20%を超える地域であれば推奨されない。代替療法としては、アモキシシリンの代わりにメトロニダゾール500mg1日2回を代用する。<Sequential Therapy(連続治療)>Sequential TherapyはPPIとアモキシシリン1g1日2回を5日間投与し、次いで5日間PPI、クラリスロマイシン500mg1日2回、メトロニダゾール500mg1日2回を投与する方法である。全体の除菌率は84%、クラリスマイシン耐性株に対して除菌率は74%である。最近の世界規模のメタアナリシスでは、sequential therapyは7日間の3剤併用療法よりも治療効果は優れているが、14日間の3剤併用療法よりも除菌率は劣るという結果が出ている。<ビスマスを含まない4剤併用療法>メトロニダゾール500mg1日2回またはチニダゾール500mg1日2回を標準的な3剤併用療法に加える治療である。Sequential Therapyよりも複雑ではなく、同様の除菌率を示し、クラリスロマイシンとメトロニダゾール耐性株を有する患者でも効果がある。クラリスロマイシンとメトロニダゾールの耐性率が高い地域でも90%にも及ぶ高い除菌率であるが、クラリスロマイシンを10日間服用する分、sequential therapyよりも費用が掛かってしまう。除菌判定H. pyloriの除菌判定のための尿素呼気試験や便中抗原の試験の適応は、潰瘍に関連したH. pylori感染、持続しているdyspepsia症状、MALTリンパ腫に関連したH. pylori感染、胃がんに対しての胃切除が含まれる。判定は除菌治療が終了して4週間後以降に行わなければならない。※本内容は、プライマリケアに関わる筆者の個人的な見解が含まれており、詳細に関しては原著を参照されることを推奨いたします。 1) Fashner J , et al. Am Fam Physician. 2015;91:236-242. 2) 日本ヘリコバクター学会ガイドライン作成委員会.H. pylori 感染の診断と治療のガイドライン 2009 改訂版

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ピロリ菌に対する経口組み換え型ワクチンに関する第III相試験(解説:上村 直実 氏)-392

 胃潰瘍や十二指腸潰瘍および胃がんの最大要因であることが判明したピロリ菌に対する、経口組換え型ワクチンに関する大規模な第III相試験の結果が、中国から報告された。6~15歳の健康児童4,464例を対象とした、無作為化二重盲検プラセボ対照試験が行われた結果、接種後1年以内における新たなピロリ菌感染は、ワクチン摂取群2,199例中14例(0.63%)がプラセボ群2,204例中50例(2.24%)に比べて有意に低率であった。さらに、接種後3年間のワクチン摂取群の累積感染率(1.36%)もプラセボ群(3.86%)に比べて有意に低率であった。なお、獲得免疫評価に関する検討では、特異的な抗ウレアーゼBサブユニットの血清IgGと唾液中IgAの平均抗体価は、ベースラインでは両群で同等だったが、ワクチン接種後の3年時点までワクチン群が有意に高値であった。 日本人の多くは、免疫寛容状態である5歳未満にピロリ菌に感染して、ごく少数の例外を除き、学童期以降には感染しないものとされている。環境の異なる中国においては、6歳以上でも年間1%以上の感染が存在することが推測され、小児期におけるワクチンの有用性が高いことが示唆された。 わが国では若年者のピロリ菌感染率が激減しており、さらに2013年にはピロリ感染胃炎に対する除菌治療が保険適用となり、感染予防を目的としたワクチン接種の有用性が低下していることは確かである。しかし、世界中の約半数が感染していると推測されているピロリ菌に対する有効性の高いワクチンの開発は、非常に重要な課題であり、とくに感染率が高率のまま推移している開発途上国においては、本研究に使用されたワクチンの臨床的有用性に関しては大きな期待が抱かれるであろう。

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「P-CAB」で酸関連疾患治療は変わるのか

 2015年4月14日、東京都中央区で武田薬品工業株式会社と大塚製薬株式会社の共催により、「酸関連疾患の最新情報 ~治療の現状と課題解決に向けて~」をテーマに、酸関連疾患メディアセミナーが開催され2つの講演が行われた。酸関連疾患の現状と既存PPIの課題 はじめに、三輪 洋人氏(兵庫医科大学 内科学消化管科 主任教授)により本セミナーのテーマとなる「酸関連疾患の最新情報 ~治療の現状と課題解決に向けて~」の講演が行われた。 日本の胃食道逆流症(GERD)患者は、1990年代後半から年々増加しており、三輪氏によると「検診を受けた患者の約15%でGERDが見つかる」という。 GERD治療では、第1選択薬としてプロトンポンプ阻害薬(PPI)が使用されるが、PPIを服用しているにもかかわらず「GERD患者の約3人に2人が週1回以上GERD症状を感じる」という報告もある。GERD診療ガイドラインでもPPIの使用は推奨されているが、既存PPIには現在4つの課題が挙げられている。1)酸に不安定であるため、腸溶性製剤にする必要がある、2)最大効果を得るまでに内服後約3~5日間を要する、3)夜間に認められる酸分泌を十分に抑制できない、4)(代謝の関係で)酸分泌抑制効果に個人差がみられる、の4つである。 2015年2月に発売された酸分泌抑制薬タケキャブ(カリウムイオン競合型アシッドブロッカー[P-CAB]、一般名:ボノプラザン)は、内服開始後、数時間で最大効果を発揮する点や、代謝酵素(CYP2C19)の影響を受けにくい点が特徴である。P-CABは即効性を持つだけでなく、より強力に胃酸分泌を抑制する必要があるピロリ菌除菌や、重度のGERDでも効果を発揮するという特徴もある。 しかし、GERDなどの酸関連疾患は慢性疾患であり、再発しやすいため継続的に薬剤が処方される傾向がある。三輪氏は、「薬剤服用の負担を減らすためにも、飲食習慣や生活習慣の改善も大切である」と指摘した。P-CABの特性 中村 浩己氏(武田薬品工業 メディカルアフェアーズ部長)より「P-CABの阻害特性や臨床試験成績」の報告が行われた。 今回発売されたボノプラザンは、プロトンポンプを抑制するだけではなく、管腔側(acid space)に高濃度かつ持続的に貯留するため長時間胃酸分泌抑制効果を発揮する。実際、ピロリ菌除菌(PH>5を長期間保つ必要がある)の効果を検討した二重盲検比較試験では、ボノプラザン20mgとアモキシシリン、クラリスロマイシンの3剤併用投与終了4週後に1次除菌率92.6%、2次除菌率98.0%という結果が得られている。 GERD患者を対象とした第III相試験でも、ボノプラザン20mg投与4週で96.6%、投与8週で99.0%の治癒率であり、「ボノプラザン20mg投与4週の治癒率と、ランソプラゾール30mg投与8週の治癒率が同程度であった」と中村氏は述べた。 ロサンゼルス分類グレード別ではC/DのGERD重症患者の治癒率は、ボノプラザン20mg投与4週で96.0%、投与8週で98.7%であり、再発率は投与24週後で4.7%であることが明らかにされた。また、CYP2C19活性が高くボノプラザンが速やかに代謝されてしまうEM(extensive metabolizer)型に対して、治癒率は、投与4週で96.1%、投与8週で98.9%であり、再発率は投与24週後で1.8%であることも示された。 中村氏は、「以上の結果から、ボノプラザンは治癒率および再発抑制に関して、従来のPPIの課題を克服する薬剤である。しかしながら、長期の安全性については、今後も注視していく必要がある」と述べた。 P-CABの登場で酸関連疾患の治療がどのように変わっていくのか、P-CABの位置付けがどうなるのか、今後の動向に注目していきたい。

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事例43 アスピリン/ランソプラゾール(商品名: タケルダ)配合錠の査定【斬らレセプト】

解説事例では、不安定狭心症で通院中の患者に、アスピリンにランソプラゾールが配合されたタケルダ®を投与したところA事由(医学的に適応と認められないもの)を理由に査定となった。同剤の剤添付文書の「効能または効果」を見てみると、「次の疾患または術後における血栓・塞栓形成の抑制(胃潰瘍または十二指腸潰瘍の既往がある患者に限る)に適用がある」として、狭心症(慢性安定狭心症、不安定狭心症)、心筋梗塞、虚血性脳血管障害(一過性脳虚血発作[TIA]、脳梗塞)、冠動脈バイパス術(CABG)あるいは経皮経管冠動脈形成術(PTCA)施行後が、対象疾患として掲げられている。同剤投与の前提条件には「胃潰瘍または十二指腸潰瘍の既往」があることが、定められているのである。事例では、レセプト上からは既往の有無の判断がつかないことから、査定となったものと推測できる。対応として、投与対象者は胃潰瘍もしくは十二指腸潰瘍の既往のある患者に限定し、レセプトに「胃潰瘍もしくは十二指腸潰瘍の既往あり」のコメント記入を行っていただくよう医師にお願いした。なお、アスピリン薬とランソプラゾール薬の併用投与の場合の取り扱いも同様である。支払基金などでは、この取り扱いに対して、当分の間は返戻対応を行うとされているようであるが、査定となった事例も確認している。

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Low Dose AspirinにNet Clinical Benefitはない! ~Negativeな結果、しかし、わが国にとってはPositiveな試験(解説:平山 篤志 氏)-282

 先日、シカゴで行われたAHAにて日本発の大規模臨床試験がLate Clinical Braking Trialで取り上げられた。高血圧、脂質異常症、あるいは糖尿病を持つ65~85歳の高齢者1万4464人を対象に、平均5年間のアスピリンの1次予防効果を検討した試験であった。オープンラベル試験ではあったが、データ解析がブラインドで行われ、1次エンドポイントである心血管死、脳梗塞、心筋梗塞の発症には差がなかったという結果であった。 ただ、TIAや非致死性心筋梗塞の発症はアスピリンで有意に抑えられていたことが反映されなかったのは、平均5年間でのイベント発症率が両群それぞれ2.77%(アスピリン群)、2.96%(非投与群)ときわめて低いという背景があったことが考えられる。わが国では高齢のハイリスク群であっても低イベントであることから、効果よりアスピリンに伴う出血のリスクがより増加することによるデメリットが反映された結果だったと考えられる。非致死的ではないが頭蓋内出血やくも膜下出血がアスピリン群で増加しており、さらに胃潰瘍、消化管出血の副作用も有意にアスピリン群で多かった。このことから、わが国ではハイリスクであっても1次予防のLDAのNet Clinical Benefitはないとしたことは大きな意義がある。 ただ、この試験の持つ意味は結果より1万4000人という対象を5年間Follow Upしたこと、さらにイベントをブラインドで評価したこと、さらに現在のわが国での正確なイベント発生率を明らかにしたことが意義ある論文として、JAMA誌に掲載されたことである。 ただ、Lost to Follow-Upが各群で10%以上認めたことは低いイベント発症率からすると結果に影響が出る可能性もあり、今後わが国の臨床試験で精度を高めるためのシステムの構築が必要と考えられる。いずれにしろ、本研究を達成されたグループ(Japan Primary Prevention Project:JPPP)に敬意を表するとともに、今後さらなる解析が行われてアスピリンの有効な集団が明らかにされることを期待するものである。

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事例28 エソメプラゾール(商品名: ネキシウム)20mgの査定【斬らレセプト】

解説事例では、プレドニゾロン錠(ステロイド剤)の投与で発症することがある胃潰瘍または十二指腸潰瘍の予防に、ネキシウム®カプセル20mgを投与していた事例である。レセプトのコメントにもその旨を記載した。しかし、適応外としてC事由(医学的理由による不適当と判断されるもの)で査定となった。査定となったことが突合点検結果連絡書で届いたので、ネキシウム®カプセル20mgに再発抑制の効能があるのか、添付文書を確認した。効能には「非ステロイド性抗炎症薬投与時における胃潰瘍又は十二指腸潰瘍の再発抑制と、低用量アスピリン投与時における胃潰瘍又は十二指腸潰瘍の再発抑制」のみが記載されており、ステロイド剤に対する胃潰瘍又は十二指腸潰瘍の再発抑制は記載されていなかった。このことから、適応外を理由に査定となったものであろう。医学的理由にて投与の必要性があったとしても、よほどの必要性がない限り添付文書の記載が優先されるという事例であった。

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オメプラゾールのメラニン阻害効果を確認

 米国・R&Dエスティローダー社のMary S Matsu氏らは、プロトンポンプ阻害薬(PPI)オメプラゾール(商品名:オメプラールほか)に、メラニン形成の減少効果があることを、仮説に基づくマウスとヒト皮膚モデルでの検証試験の結果、確認したことを報告した。Journal of Investigative Dermatology誌オンライン版2014年10月22日号の掲載報告。 オメプラゾールは、消化性潰瘍や逆流性食道炎の治療で用いられるプロトンポンプ阻害薬(PPI)で、胃壁細胞のP-type H+/K+ ATPaseであるATP4Aを不可逆的に阻害することによって作用する。 研究グループは、オメプラゾールおよび同種薬について、B16マウス黒色腫細胞とヒト表皮メラニン細胞、および再生ヒト皮膚モデルにおいて、μmol濃度でのメラニン形成を阻害することを発見した。 主な所見は以下のとおり。・UV照射を受けた被験者の皮膚にオメプラゾールを局所適用したところ、未治療コントロールと比較して、3週間後に有意な色素レベル低下が認められた。・オメプラゾールは、精製されたヒト・チロシナーゼの活性への有意な阻害効果はみられなかった。また、チロシナーゼmRNA、dopachrome tautomerase(DCT)、Pmel17またはMITF mRNAへの有意な阻害効果もみられなかった。・メラニン細胞がATP4Aを発現しないにもかかわらず、転移GolgiネットワークにおいてATP7Aを発現した。ATP7Aは、銅輸送P-type ATPaseで、発現はチロシナーゼにおける銅獲得の要求によるものであった。・メラニン細胞での銅凝集増大に応じた転移Golgiネットワークから形質膜へのATP7A再局在化は、オメプラゾールによって阻害された。・オメプラゾール治療は、EndoH感受性チロシナーゼの比率を増大した。これは、チロシナーゼ成熟を阻害したことを示すものである。・加えてオメプラゾールは、分解を増大するシクロヘキシミドにおいて、チロシナーゼタンパク質量を減らした。

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事例15 特定疾患療養管理料(佐薬に対する胃炎)の査定【斬らレセプト】

解説腰痛と慢性胃炎を主病とする患者に対してB000 特定疾患療養管理料を算定したところ、F100注5特定疾患処方管理加算と併せてC査定(医学的理由による不適当:社会保険)となった。慢性胃炎は、特定疾患療養管理料対象の「生活習慣病等の別に厚生労働大臣が定める疾患を主病」に該当している。では、なぜ査定されたのであろうか?事例をよく見ると、腰痛症に対して消炎鎮痛剤のロキソニン®が7日間処方されている。それと同一処方で慢性胃炎に対してセルベックス®が7日分処方されている。ロキソニン®服用に起因する副作用の胃炎に対する予防を目的に、消化性潰瘍用剤のセルベックス®が使用されていると考えられる。明らかに「主病である慢性胃炎」ではなく、佐薬として使用されたと認められるとして査定となったものである。「慢性胃炎」の病名があるからと言って、実質主病ではないと判断できる事例では、特定疾患療養管理料の対象とならない場合もあることに留意されたい。特定疾患処方管理加算も同様の理由で査定となっている。

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吐下血の出血量を過小評価したため死亡に至ったケース

消化器最終判決判例時報 1446号135-141頁概要慢性肝炎のため通院治療を受けていた43歳男性。1988年5月11日夕刻、黒褐色の嘔吐をしたとして来院して診察を受けた。担当医師は上部消化管からの出血であると診断したが、その夜は対症療法にとどめて、翌日検査・診察をしようと考えて帰宅させた。ところが翌朝吐血したため、ただちに入院して治療を受けたが、上部消化管からの大量出血によりショック状態に陥り、約17時間後に死亡した。詳細な経過患者情報43歳男性経過昭和61年5月20日初診。高血圧症、高脂血症、糖尿病、慢性肝炎と診断され、それ以来昭和63年5月7日までの間に月に7~8回の割合で通院していた。血液検査結果では、中性脂肪461、LAP 216、γ-GTP 160で、そのほかの検査値は正常であったことから、慢性アルコール性肝炎と診断していた。昭和63年5月11日19:40頃夕刻に2回吐血したため受診。この際の問診で、「先程、黒褐色の嘔吐をした。今朝午前3:00頃にも嘔吐したが、その時には血が混じっていなかった」と述べた。担当医師は上部消化管からの出血であると認識し、胃潰瘍あるいは胃がんの疑いがあると考えた(腹部の触診では圧痛なし)。そのため、出血の原因となる疾患について、その可能性が高いと判断した出血性胃炎と診療録に記載し、当夜はとりあえず対症療法にとどめて、明日詳細な検査、診察をしようと考え、強力ケベラG®、グルタチオン200mg(商品名:アトモラン)、肝臓抽出製剤(同:アデラビン9号)、幼牛血液抽出物(同:ソルコセリル)、ファモチジン(同:ガスター)、メトクロプラミド(同:プリンペラン)、ドンペリドン(同:ナウゼリン)、臭化ブトロピウム(同:コリオパン)を投与したうえ、「胃潰瘍の疑いがあり、明日検査するから来院するように」と指示して帰宅させた。5月12日07:00頃3度吐血。08:30頃タクシーで受診し、「昨夜から今朝にかけて、合計4回の吐血と下血があった」と申告。担当医師は吐き気止めであるリンゴ酸チエチルぺラジン(同:トレステン)を筋肉注射し、顔面蒼白の状態で入院した。09:45血圧120/42mmHg、脈拍数114、呼吸数24、尿糖+/-、尿蛋白-、尿潜血-、白血球数16,500、血色素量10g/dL。ただちに血管を確保し、5%キシリトール500mLにビタノイリン®、CVM、ワカデニン®、アデビラン9号®、タジン®、トラネキサム酸(同:トランサミン)を加えた1本目の点滴を開始するとともに、側管で20%キシリトール20mL、ソルコセリル®、ブスコパン®、プリンペラン®、フェジン®を投与し、筋肉注射で硫酸ネチルマイシン(同:ベクタシン)、ロメダ®を投与した。引き続いて、2本目:乳酸リンゲル500mL、3本目:5%キシリトール500mLにケベラG®を2アンプル、アトモラン®200mgを加えたもの、4本目:フィジオゾール500mL、5本目:乳酸リンゲルにタジン®、トランサミン®を加えたもの、の点滴が順次施行された。11:20頃しきりに喉の渇きを訴えるので、看護師の許しを得て、清涼飲料水2缶を飲ませた。11:30頃2回目の回診。14:00頃3回目の回診。血圧90/68mmHg。14:20頃いまだ施行中であった5本目の点滴に、セジラニドを追加した。14:30頃酸素吸入を開始(1.5L/min)。15:00頃顔面が一層蒼白になり、呼吸は粗く、胸元に玉のような汗をかいているのに手足は白く冷たくなっていた。血圧108/38mmHg。16:00頃血圧低下のため5本目の点滴に塩酸エチレフリン(同:エホチール)を追加した。17:00頃一層大量の汗をかき拭いても拭いても追いつかない程で、喉の渇きを訴え、身の置き所がないような様子であった。血圧80/--mmHg18:00頃4回目の回診をして、デキストラン500mLにセジラニド、エホチール®を加えた6本目の点滴を実施し、その後、クロルプロマジン塩酸塩(同:コントミン)、塩酸プロメタジン(同:ヒベルナ)、塩酸ぺチジン(同:オピスタン)を筋肉注射により投与し、さらにデキストランL 500mLの7本目の点滴を施行した。5月13日00:00頃看護師から容態について報告を受けたが診察なし。血圧84/32mmHg01:30頃これまで身体を動かしていたのが静かになったので、家族は容態が落ち着いたものと思った。02:00頃異常に大きな鼾をかいた後、鼻と口から出血した。看護師から容態急変の報告を受けた担当医師は人工呼吸を開始し、ジモルホラミン(同:テラプチク)、ビタカンファー®、セジラニドを筋肉注射により投与したが効果なし。02:45死亡確認(入院から17時間25分後)。当事者の主張患者側(原告)の主張吐血が上部消化管出血であると認識し得たのであるから、すみやかに内視鏡などにより出血源を検索し、止血のための治療を施すべきであり、また、出血性ショックへと移行させないために問診を尽くし、バイタルサインをチェックし、理学的所見などをも考慮して出血量を推定し、輸血の必要量を指示できるようにしておくべきであった。担当医師はこれまでに上部消化管出血患者の治療に当たった経験がなく、また、それに適切に対応する知識、技術に欠けていることを自覚していたはずであるから、このような場合、ほかの高次医療機関に転院させる義務があった。病院側(被告)の主張5月11日の訴えは、大量の出血を窺わせるものではなく、翌日の来院時の訴えも格別大量の出血を想起させるものではなかった。大量の出血は結果として判明したことであって、治療の過程でこれを発見できなかったとしてもこれを発見すべき手がかりがなかったのであるから、やむを得ない。裁判所の判断上部消化管出血は早期の的確な診断と緊急治療を要するいわゆる救急疾患の一つであるから、このような患者の治療に当たる医師には、急激に重篤化していくこともある可能性を念頭において、ただちに出血量に関して十分に注意を払ったうえで問診を行い、出血量の判定の資料を提供すべき血液検査などをする注意義務がある。上部消化管出血の患者を診察する医師には、当該患者の循環動態が安定している場合、速やかに内視鏡検査を行い、出血部位および病変の早期診断、ならびに治療方法の選択などするべき注意義務がある。上部消化管出血が疑われる患者の治療に当たる医師が内視鏡検査の技術を習得していない場合には、診察後ただちに検査および治療が可能な高次の医療機関へ移送すべき注意義務がある。本件では容態が急激に重篤化していく可能性についての認識を欠き、上記の注意義務のいずれをも怠った過失がある。約6,678万円の請求に対し、請求通りの支払い命令考察吐血の患者が来院した場合には、緊急性を要することが多いので、適切な診察、検査、診断、治療が必要なことは基本中の基本です。吐血の原因としては、胃潰瘍や十二指腸潰瘍などの消化性潰瘍、急性胃粘膜病変、食道および胃静脈瘤破裂、ならびにMallory-Weiss症候群などが挙げられ、出血源が明らかになったもののうち、これらが90~95%を占めています。そして、意外にも肝硬変患者の出血原因としては静脈瘤59%、胃炎8.2%、胃潰瘍5.4%、十二指腸潰瘍6.8%、その他10.2%と、必ずしも静脈瘤破裂ばかりが出血源ではないことには注意が必要です。本件の場合、担当医師が当初より上部消化管からの出血であることを認識していながら、それが急激に重篤化していく可能性のある緊急疾患であるという認識を欠いており、そのため適切な措置を講ずることができなかった点が重大な問題と判断されました。さらに後方視的ではありますが、当時の症状、バイタルサインや血液検査などの情報から、推定出血量を1,000~1,600mLと細かく推定し、輸血や緊急内視鏡を施行しなかった点を強調しています。そのため判決では、原告の要求がそのまま採用され、抗弁の余地がないミスであると判断されました。たとえ診察時に止血しており、全身状態が比較的落ち着いているようにみえても、出血量(血液検査)や、バイタルサインのチェックは最低限必要です。さらに、最近では胃内視鏡検査も外来で比較的容易にできるため、今後も裁判では消化管出血の診断および治療として「必須の検査」とみなされる可能性があります。そのため、もし緊急で内視鏡検査ができないとしたら、その対応ができる病院へ転送しなければならず、それを怠ると本件のように注意義務違反を問われる可能性があるので、注意が必要です。消化器

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【第22回】唐辛子は胃がんのリスク?

【第22回】唐辛子は胃がんのリスク? 写真注:ハラペーニョ(Wikipediaより引用)唐辛子の辛味成分は、カプサイシンが主であることはよく知られています。大量のカプサイシンを食べると、カプサイシン感受性神経の機能が障害され、胃潰瘍を引き起こすとされています。では、唐辛子をたくさん食べると胃がんになりやすいのでしょうか?Lopez-Carrillo L, et al.Capsaicin consumption, Helicobacter pylori positivity and gastric cancer in Mexico.Int J Cancer. 2003;106:277-282.この研究は唐辛子の摂取量と発がん率を調べたもので、胃がんを有する234人とコントロール患者として468人が登録されました。唐辛子を大量に摂取している人(1日あたりハラペーニョ9~25本相当)は、低摂取の人(ハラペーニョ0~3本相当)と比較して、胃がんを発症するリスクが有意に高いことがわかりました(オッズ比 1.71、95%信頼区間:0.76~3.88、p=0.026)。ハラペーニョで換算するあたり、まさにメキシコの研究といった感じですね(それにしてもハラペーニョを1日10本、20本と食べる人が本当にいるのでしょうか)。また、唐辛子の摂取量とヘリコバクター・ピロリの感染の有無が胃がんの発症リスクに与える影響には関連性はみられず、メキシコにおける唐辛子の摂取は胃がん発症の独立危険因子であると考えられました。そのため、この研究ではハラペーニョなどの唐辛子の食べ過ぎには注意が必要であると警告されています。韓国のキムチも辛い料理として有名ですが、これも胃がんのリスクではないかと論じられた研究があります(World J Gastroenterol. 2005;11:3175-3181.)。余談ですが、キムチは英語表記でkimchiと書きます。kimuchiと書かれることもありますが、1996年3月に国際食品規格委員会(CODEX)のアジア部会で正式にkimchiの英語表記が認められました。

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効かないGERD治療は日本人の労働生産性低下と有意に関連

 胃食道逆流症(GERD)は、仕事や日常生活の労働生産性に大きな負荷をかける疾患であり、効果のないGERDの治療は、労働生産性のより大きな損失と有意な関連があることが、慶應義塾大学の鈴木 秀和氏らによる研究で明らかになった。Neurogastroenterology and motility誌オンライン版 2014年2月25日号の報告。 GERDは生活の質を損なう。しかし、日本におけるGERDと労働生産性との関連については、十分に調査されていない。本研究では、日本の労働者を対象にWEBベースの横断研究を行い、治療によりGERDの症状が軽減した群と、なお症状が持続している群とで労働生産性に対する影響を比較した。GERDの労働生産性への影響は、WEB上のWPAI問診票(Work Productivity and Activity Impairment Questionnaire)およびGERD臨床徴候重症度アンケートにより評価した。人口統計情報、病歴、薬物療法に対する満足度も調査した。 主な結果は以下のとおり。・研究に登録された2万例のうち、胃腸の悪性腫瘍、消化性潰瘍、上部消化管手術の既往がある患者、就労していない人を除外した650例について分析した。・治療してもGERDの症状が持続している群は、症状が軽減した群と比較し、労働生産性(11.4±13.4時間/週)が有意に低く、absenteeism※1(0.7±3.1時間/週)、presenteeism※2(10.7±12.6時間/週)、コスト(2万100±2万6,800円/週)、日常生活の労働生産性(71.3% [95%CI: 69.0~73.7])の面でも劣っていた。・GERD症状が持続している群におけるGERD治療に対する不満レベルは、仕事および日常生活の労働生産性の低下と有意な相関を認めた(p <0.001)。※1 absenteeism:就業中の患者が、障害が原因で休業をすることにより生じる生産性の損失※2 presenteeism:就業中の患者が、就業はしているものの、障害がない状態と比べて生産性が落ちていることによってもたらされる生産性の損失

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避難所で発症した消化性潰瘍、約9割が出血性―東日本大震災後の症例対照研究

 避難所生活は、大規模災害後における出血性潰瘍の強力なリスク因子であることが、東北大学大学院の菅野 武氏らによる研究で明らかになった。著者らは「大規模災害時には、酸抑制薬を使用するなど、ストレス誘発性消化性潰瘍を減少させることが重要である」と結論づけている。Journal of gastroenterology誌オンライン版2014年2月15日号の報告。 著者らは以前、東日本大震災後の消化性潰瘍の症例数が前年に比べ1.5倍、出血性潰瘍の症例数が2.2倍に増加したことを報告した。本研究では、東日本大震災後の出血性潰瘍のリスク因子について検討した。 被災地の主要7病院において、震災後3ヵ月間で内視鏡的に消化性潰瘍と診断されたすべての患者のカルテをレトロスペクティブに検討した。対象を内視鏡的所見および検査所見に基づいて、出血性潰瘍の227例と出血性ではない102例に分けた。出血性潰瘍の一般的なリスク因子に加え、地震後特有の交絡因子として避難所生活についても分析に含めた。潜在的な交絡因子を調整するため、多重ロジスティック回帰分析を用いた。 主な結果は以下のとおり。・消化性潰瘍患者329例のうち、87例(27%)が避難所生活を送っていたことが明らかになった。・避難所で発症した消化性潰瘍の大多数(87例中76例)は、出血性であった。・多変量回帰分析の結果、避難所生活は出血性潰瘍の強力なリスク因子であった(オッズ比[95%CI]:4.4[2.1~9.6]、p<0.0001)が、潰瘍疾患の進行度とは独立していた。

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胃酸分泌抑制薬によるビタミンB12欠乏症の危険性(コメンテーター:上村 直実 氏)-CLEAR! ジャーナル四天王(168)より-

本論文では、米国の大手保険会社に加入している330万人のデータベースを用いて、1997年~2011年にビタミンB12欠乏症の診断を受けた2万5,956例をCase群、同疾患と診断されていない者から、性・年齢および人種をマッチさせた18万4,199例をControl群として、両群におけるプロトンポンプ阻害薬(PPI)とH2ブロッカー(H2RA)の処方状況を比較検討した。 その結果、2年以上PPIの処方を受けていた者はCase群3,120例(12.0%)・Control群1万3,210例(7.2%)であり、H2RAの処方はCase群1,087例(4.2%)・Control群5,897例(3.2%)であった。 この解析から、PPIまたはH2RAを2年以上内服すると、ビタミンB12欠乏症の発症リスクが、PPIで1.65倍(95%CI:1.58~1.73)、H2RAで1.25倍(同:1.17~1.34)に増大する可能性が示唆されている。 最近、海外から大規模データベースを用いたCase-Controlやコホート研究が盛んに報告されている。大規模データベースを用いた研究の利点はサンプルサイズが大きい点であるが、逆に個々の症例に関する詳細な情報が乏しいものも散見される。本研究でも、ビタミンB12に関する血液検査の頻度がControl群に比べてCase群で多いバイアスも否定できない。また、ビタミンB12の血中濃度に影響する多くの因子を含む多変量解析も必要であろう。 したがって、本研究結果の解釈は『胃酸分泌抑制薬を長期に用いる際にはビタミンB12の欠乏症に注意するように!』が妥当と思われる。日本でもNational Data Baseが待望されているが、今後大規模データベースを用いた臨床研究を行う際には、研究デザイン、対象の取り方、方法の精度および解析方法に、細心の注意が必要である。

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胃酸分泌抑制薬の長期服用、ビタミンB12欠乏症リスク増大/JAMA

 プロトンポンプ阻害薬(PPI)やヒスタミンH2受容体拮抗薬(H2RA)の長期服用は、ビタミンB12欠乏症の発症リスクを、1.25~1.65倍に増大することが明らかになった。米国の大手保険会社・カイザーパーマネンテのJameson R. Lam氏らが、同社保険プランの加入者データを用い、ビタミンB12欠乏症の診断を受けた約2万6,000例とその対照群について行った症例対照試験の結果、報告した。結果を受けて著者は、「胃酸分泌抑制薬を処方する際は、リスクとベネフィットのバランスを考慮すべきであることが示唆された」とまとめている。JAMA誌2013年12月11日号掲載の報告より。ビタミンB12欠乏症の約2万6,000例と対照群約18万4,000例を比較 研究グループは、米国の保険プラン「北カリフォルニア・カイザーパーマネンテ」の加入者のうち、1997~2011年にビタミンB12欠乏症の診断を受けた2万5,956例について、同診断を受けなかった18万4,199例を比較する症例対照研究を行った。ビタミンB12欠乏症と、それ以前のPPI、H2RAの処方との関連について分析を行った。 分析には、薬剤処方、臨床検査、診断のそれぞれデータベースを使用した。ビタミンB12欠乏症リスク、2年以上PPI処方で1.65倍、同H2RA処方で1.25倍 その結果、ビタミンB12欠乏症と診断された人のうち、2年以上PPIの処方を受けていた人は3,120例(12.0%)、同H2RAの処方を受けていた人(PPI処方はなし)は1,087例(4.2%)だった。いずれも受けていなかった人は、2万1,749例(83.8%)だった。 一方、ビタミンB12欠乏症の診断を受けていなかった人で、2年以上PPIの処方を受けていた人は1万3,210例(7.2%)、同H2RAの処方を受けていた人は5,897例(3.2%)だった。いずれも受けていなかった人は16万5,092例(89.6%)。 2年以上PPIまたはH2RAの処方を受けていた人は、いずれもビタミンB12欠乏症リスクの増大が認められた。オッズ比は、PPI群が1.65(95%信頼区間:1.58~1.73)、H2RA群は1.25(同:1.17~1.34)だった。 また、PPIの処方が1.5錠/日超の人は、0.75錠/日未満の人に比べ同リスクが高く、オッズ比は1.95(同:1.77~2.15、p=0.007)だった。 著者は、「胃酸分泌抑制薬服用の既往および現在使用は、ビタミンB12欠乏症と有意な関連があった」と結論し、そのうえで「この結果は、胃酸分泌抑制薬の処方についてリスクとベネフィットのバランスを考慮すべきであることを示唆するものである」と述べている。

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NSAIDsにより消化性潰瘍が穿孔し死亡したケース

消化器概要肺気腫、肺がんの既往歴のある67歳男性。呼吸困難、微熱、嘔気などを主訴として入退院をくり返していた。経過中に出現した腰痛および左足痛に対しNSAIDsであるロキソプロフェン ナトリウム(商品名:ロキソニン)、インドメタシン(同:インダシン)が投与され、その後も嘔気などの消化器症状が継続したが精査は行わなかった。ところがNSAIDs投与から12日後に消化性潰瘍の穿孔を生じ、緊急で開腹手術が行われたが、手術から17日後に死亡した。詳細な経過患者情報肺気腫、肺がん(1987年9月左上葉切除術)の既往歴のある67歳男性。慢性呼吸不全の状態であった経過1987年12月3日呼吸困難を主訴とし、「肺がん術後、肺気腫および椎骨脳底動脈循環不全」の診断で入院。1988年1月19日食欲不振、吐き気、上腹部痛が出現(約1ヵ月で軽快)。4月16日体重45.5kg5月14日症状が安定し退院。6月3日呼吸困難、微熱、嘔気を生じ、肺気腫と喘息との診断で再入院。6月6日胃部X線検査:慢性胃炎、「とくに問題はない」と説明。6月7日微熱が継続したため抗菌薬投与(6月17日まで)。6月17日軟便、腹痛がみられたためロペラミド(同:ロペミン)投与。6月20日体重41.5kg、血液検査で白血球数増加。6月24日抗菌薬ドキシサイクリン(同:ビブラマイシン)投与。6月26日胃もたれ、嘔気が出現。6月28日食欲低下も加わり、ビブラマイシン®の副作用と判断し投与中止。6月29日再び嘔気がみられ、びらん性胃炎と診断、胃粘膜保護剤および抗潰瘍薬などテプレノン(同:セルベックス)、ソファルコン(同:ソロン)、トリメブチンマレイン(同:セレキノン)、ガンマオリザノール(同:オルル)を投与。7月4日嘔気、嘔吐に対し抗潰瘍薬ジサイクロミン(同:コランチル)を投与。7月5日嘔気は徐々に軽減した。7月14日便潜血反応(-)7月15日嘔気は消失したが、食欲不振は継続。7月18日体重40.1kg。7月19日退院。7月20日少量の血痰、嘔気を主訴に外来受診。7月22日腰痛および膝の感覚異常を主訴に整形外科を受診、鎮痛薬サリチル酸ナトリウム(同:ネオビタカイン)局注、温湿布モムホット®、理学療法を受け、NSAIDsロキソニン®を1週間分投与。以後同病院整形外科に連日通院。7月25日血尿が出現。7月29日出血性膀胱炎と診断し、抗菌薬エノキサシン(同:フルマーク)を投与。腰痛に対してインダシン®坐薬、セルベックス®などの抗潰瘍薬を投与。7月30日吐物中にうすいコーヒー色の吐血を認めたため外来受診。メトクロプラミド(同:プリンペラン)1A筋注、ファモチジン(同:ガスター)1A静注。7月31日呼吸不全、嘔気、腰と左足の痛みなどが出現したため入院。酸素投与、インダシン®坐薬50mg 2個を使用。入院後も嘔気および食欲不振などが継続。体重40kg。8月1日嘔吐に対し胃薬、吐き気止めの投薬開始、インダシン®坐薬2個使用。8月2日10:00嘔気、嘔吐が持続。15:00自制不可能な心窩部痛、および同部の圧痛。16:40ブチルスコポラミン(同:ブスコパン)1A筋注。17:50ペンタジン®1A筋注、インダシン®坐薬2個投与。19:30痛みは軽快、自制の範囲内となった。8月3日07:00喉が渇いたので、ジュースを飲む。07:30突然の血圧低下(約60mmHg)、嘔吐あり。08:50医師の診察。左下腹部痛および嘔気、嘔吐を訴え、同部に圧痛あり。腹部X線写真でフリーエアーを認めたため、腸閉塞により穿孔が生じたと判断。15:00緊急開腹手術にて、胃体部前壁噴門側に直径約5mmの潰瘍穿孔が認められ、腹腔内に食物残渣および腹水を確認。胃穿孔部を切除して縫合閉鎖し、腹腔内にドレーンを留置。術後腹部膨満感、嘔気は消失。8月10日水分摂取可能。8月11日流動食の経口摂取再開。8月13日自分で酸素マスクをはずしたり、ふらふら歩行するという症状あり。8月15日頭部CTにて脳へのがん転移なし。白血球の異常増加あり。8月16日腹腔内留置ドレーンを抜去したが、急性呼吸不全を起こし、人工呼吸器装着。8月19日胸部X線写真上、両肺に直径0.3mm~1mmの陰影散布を確認。家族に対して肺がんの再発、全身転移のため、同日中にも死亡する可能性があることを説明。8月20日心不全、呼吸不全のため死亡。当事者の主張患者側(原告)の主張慢性閉塞性肺疾患では低酸素血症や高炭酸ガス血症によって胃粘膜血流が低下するため胃潰瘍を併発しやすく、実際に本件では嘔気・嘔吐などの胃部症状が発生していたのに、胃内視鏡検査や胃部X線検査を怠ったため胃潰瘍と診断できなかった。さらに非ステロイド系消炎鎮痛薬はきわめて強い潰瘍発生作用を有するのに、胃穿孔の前日まで漫然とその投与を続けた。病院側(被告)の主張肺気腫による慢性呼吸器障害に再発性肺がんが両肺に転移播種するという悪条件の下で、ストレス性急性胃潰瘍を発症、穿孔性腹膜炎を合併したものである。胃穿孔は直前に飲んだジュースが刺激となって生じた。腹部の術後経過は順調であったが、肺気腫および肺がんのため呼吸不全が継続・悪化し、死亡したのであり、医療過誤には当たらない。ロキソニン®には長期投与で潰瘍形成することはあっても、本件のように短期間の投与で潰瘍形成する可能性は少なく、胃穿孔の副作用の例はない。インダシン®坐薬の能書きには消化性潰瘍の可能性についての記載はあるが、胃潰瘍および胃穿孔の副作用の例はない。たとえ胃潰瘍の可能性があったとしても、余命の少ない患者に対し、腰痛および下肢痛の改善目的で呼吸抑制のないインダシン®坐薬を用いることは不適切ではない。裁判所の判断吐血がみられて来院した時点で出血性胃潰瘍の存在を疑い、緊急内視鏡検査ないし胃部X線撮影検査を行うべき注意義務があった。さらに検査結果が判明するまでは、絶食、輸液、止血剤、抗潰瘍薬の投与などを行うべきであったのに怠り、鎮痛薬などの投与を漫然と続けた結果、胃潰瘍穿孔から汎発性腹膜炎を発症し、開腹手術を施行したが死亡した点に過失あり。原告側合計4,188万円の請求に対し、2,606万円の判決考察今回のケースをご覧になって、「なぜもっと早く消化器内視鏡検査をしなかったのだろうか」という疑問をもたれた先生方が多いことと思います。あとから振り返ってみれば、消化器症状が出現して入院となってから胃潰瘍穿孔に至るまでの約60日間のうち、50日間は入院、残りの10日間もほとんど毎日のように通院していたわけですから、「消化性潰瘍」を疑いさえすればすぐに検査を施行し、しかるべき処置が可能であったと思います。にもかかわらずそのような判断に至らなかった原因として、(1)入院直後に行った胃X線検査(胃穿孔の58日前、NSAIDs投与の45日前)で異常なしと判断したこと(2)複数の医師が関与したこと:とくにNSAIDs(ロキソニン®、インダシン®)は整形外科医師の指示で投与されたことの2点が考えられます(さらに少々考えすぎかも知れませんが、本件の場合には肺がん術後のため予後はあまりよくなかったということもあり、さまざまな症状がみられても対症療法をするのが限度と考えていたのかも知れません)。このうち(1)については、胃部X線写真で異常なしと判断した1ヵ月半後に腰痛に対して整形外科からNSAIDsが処方され、その8日後に嘔吐、吐血までみられたのですから、ここですぐさま上部消化管の検査を行うのが常識的な判断と思われます。しかもこの時に、ガスター®静注、プリンペラン®筋注まで行っているということは、当然消化性潰瘍を念頭に置いていたと思いますが、残念ながら当時患者さんをみたのは普段診察を担当していない消化器内科の医師でした。もしかすると、今回の主治医は「消化器系の病気は消化器内科の医師に任せてあるのでタッチしない」というスタンスであったのかも知れません。つまり(2)で問題提起したように、胃穿孔に至る過程にはもともと患者さんを診ていた内科主治医消化器系を担当した消化器内科医腰痛を診察しNSAIDsを処方した整形外科医という3名の医師が関与したことになります。患者側からみれば、同じ病院に入院しているのだから、たとえ診療科は違っても医者同士が連絡しあい、病気のすべてを診てもらっているのだろうと思うのが普通でしょう。ところが実際には、フリーエアーのある腹部X線写真をみて、主治医は最初に腸閉塞から穿孔に至ったのだろうと考えたり、前日までNSAIDsを投与していたことや消化性潰瘍があるかもしれないという考えには辿り着かなかったようです。同様に整形外科担当医も、「腰痛はみるけれども嘔気などの消化器症状は内科の先生に聞いてください」と考えていたろうし、消化器内科医は、「(吐血がみられたが)とりあえずはガスター®とプリンペラン®を使っておいたので、あとはいつもの主治医に任せよう」と思ったのかも知れません。このように本件の背景として、医師同士のコミュニケーション不足が重大な影響を及ぼしたことを指摘できると思います。ただしそれ以前の問題として、NSAIDsを処方したのであれば、たとえ整形外科であっても副作用のことに配慮するべきだし、もし消化器症状がみられたのならば内科担当医に、「NSAIDsを処方したけれども大丈夫だろうか」と照会するべきであると思います。同様に消化器内科医の立場でも、自分の専門領域のことは責任を持って診断・治療を行うという姿勢で臨まないと、本件のような思わぬ医事紛争に巻き込まれる可能性があると思います。おそらく、各担当医にしてみればきちんと患者さんを診察し、(内視鏡検査を行わなかったことは別として)けっして不真面目であったとか怠慢であったというような事例ではないと思います。しかし裁判官の判断は、賠償額を「67歳男性の平均余命である14年」をもとに算定したことからもわかるように、大変厳しい内容でした。常識的に考えれば、もともと肺気腫による慢性呼吸不全があり、死亡する11ヵ月前に肺がんの手術を行っていてしかも両側の肺に転移している進行がんであったのに、「平均余命14年」としたのはどうみても不適切な内容です(病院側弁護士の主張が不十分であったのかもしれません)。しかし一方で、そう判断せざるを得ないくらい「医師として患者さんにコミットしていないではないか」、という点が厳しく問われたケースではないかと思います。今回のケースから得られる教訓として、自分の得意とする分野について診断・治療を行う場合には、最後まで責任を持って担当するということを忘れないようにしたいと思います。また、たとえ専門外と判断される場合でも、可能な限りほかの医師とのコミュニケーションをとることを心掛けたいと思います。消化器

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