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第145回 5類移行でコロナ対策本部廃止、公費負担による無料検査などは中止へ/政府

<先週の動き>1.5類移行でコロナ対策本部廃止、公費負担による無料検査などは中止へ/政府2.コロナ後遺症の診療報酬、5月8日から特定疾患療養管理料を加算へ/厚労省3.緊急避妊薬の市販化、パブコメで97%が賛成/厚労省4.進まぬ電子処方箋、普及に向け、導入拡大を加速化/厚労省5.少子化対策の財源の議論開始、社会保険料や税で/財務省6.認知症患者の遺族が寄付金3億円をめぐって金沢医科大学を提訴/石川1.5類移行でコロナ対策本部廃止、公費負担による無料検査などは中止へ/政府政府は、新型コロナウイルス感染の感染症法での位置付けが5月8日に季節性インフルエンザなどと同じ「5類」に移行するのに伴い、新型コロナウイルス感染症対策本部を同日に廃止することを閣議決定した。5類移行後の公費負担での対応が大きく変わり、新型コロナウイルスのPCR検査や抗原検査を病院や診療所で行う場合も、検査キットを使用する場合も自己負担となる。また、各自治体による検査キット配布事業も終了となる。ただし、医療機関や介護施設などで陽性患者が発生した場合、医療スタッフなどへの検査を都道府県が実施する場合のみ行政検査として無料で実施される。そのほか、外来診療も従来は公費負担で行われていたものが、インフルエンザとほぼ同じ程度の自己負担が必要となり、入院時の医療費も同様に保険診療となるが、9月末までは、高額療養費制度の自己負担限度額から2万円を減額する措置が講じられる。5月8日以降は、医療機関では「コロナ患者である」ことだけを理由とした診療拒否は「応招義務違反」となり、自院での対応が困難な場合には他の「対応可能な医療機関に対応を依頼する」あるいは「患者に対して対応可能な医療機関を伝える」ことを行うことが必要となる。(参考)政府 「5類」移行に伴い新型コロナ対策本部の廃止を決定(NHK)コロナ5類 感染した時は? 医療費負担 外出 療養支援 相談 証明書(同)コロナ「5類」正式決定 5月8日からどうなる?(同)「新型コロナウイルス感染症の感染症法上の位置づけの変更に伴う新型コロナウイルス感染症に係る診療報酬上の臨時的な取扱いについて」等の一部訂正について(厚労省)5月8日以降、「コロナ感染のみ」を理由とした診療拒否は不可、自院対応困難な際は「対応可能医療機関を患者に伝える」等の配慮を-厚労省(Gem Med) 2.コロナ後遺症の診療報酬、5月8日から特定疾患療養管理料を加算へ/厚労省厚生労働省は新型コロナウイルスに感染後のいわゆる「後遺症」について患者を診た医療機関の診療報酬を加算することを各都道府県に対して通知した。新型コロナ感染症の位置付けが「5類」に移行する5月8日から開始となる。加算対象は、新型コロナ感染と診断された3ヵ月目以降も後遺症が2ヵ月以上続く患者に対して、診療の手引きを参考にした診療に対して3ヵ月に1度、特定疾患療養管理料147点を加算する。支払いを受けるには、都道府県が公表している罹患後症状に悩む方の診療を行っている医療機関のリストに掲載されている必要がある。期限は令和6年3月31日。(参考)味覚・記憶障害など1年以上続くこともある「コロナ後遺症」、診療報酬を加算(読売新聞)コロナ後遺症の診療、3か月ごと147点 報酬特例で評価へ、来年3月まで(CB news)「新型コロナウイルス感染症の感染症法上の位置づけの変更に伴う新型コロナウイルス感染症に係る診療報酬上の臨時的な取扱いについて」にかかる疑義解釈資料の送付について[その2](厚労省)「コロナ後遺症の専門医療機関」を各都道府県で本年(2023年)4月28日までに選定し、公表せよ-厚労省(Gem Med)3.緊急避妊薬の市販化、パブコメで97%が賛成/厚労省厚生労働省は「医療用から要指導・一般用への転用に関する評価検討会議」で緊急避妊薬を市販薬とするスイッチOTC化について検討を重ねてきた。去年12月から今年の1月にかけて厚生労働省が実施したパブリックコメントの結果、市販化に賛成の意見が約4万6,000件、反対の意見が約300件と、全体の約97%が賛成する内容だった。厚労省は5年前にも同様の検討を行ったが、このときは転売の可能性や不十分な性教育などを理由に「時期尚早」として見送られた経緯がある。しかし、2019年にはオンライン処方も可能になるなど環境の変化もあり、今後、同省は専門家を交えた検討会議の議論をもとに、結論を出す見込み。(参考)緊急避妊薬OTC化の議論、5月以降に 厚労省、パブコメ整理で大きくずれ込む(日刊薬業)緊急避妊薬の市販化 パブコメに4万6300件の意見 97%が賛成(毎日新聞)第22回 医療用から要指導・一般用への転用に関する評価検討会議(厚労省)4.進まぬ電子処方箋、普及に向け、導入拡大を加速化/厚労省厚生労働省は、4月28日に第2回電子処方箋推進協議会を開催した。この中で電子処方箋の導入状況は、4月23日時点で全国3,352施設で運用開始されていた。内訳は病院9、医科診療所250、歯科診療11、薬局3,082。同日公開された公的病院への導入計画に係る調査結果では、回答した施設のうち、令和5年度中に電子処方箋の導入予定の病院が214施設だった。寄せられた意見の中には、オンライン資格確認などシステム利用が伸び悩んでおり、導入後に電子処方箋の利用が伸びるのか疑問といった声が上げられている。電子処方箋導入施設の面的拡大を重点的に行うため、導入意欲が特に高く、稼働中または近日中に稼働予定の病院「気仙沼市立本吉病院」、「静岡市立静岡病院」、「公立松任石川中央病院」、「公立西知多総合病院」、「徳島市民病院」、「長崎みなとメディカルセンター」を中心に周辺施設の導入拡大を加速化する方針を固めた。(参考)第2回 電子処方箋推進協議会 資料(厚労省)電子処方箋「面的拡大」、導入意欲高い病院など中心に 厚労省(CB news)【電子処方箋】“面的拡大”、6病院を列挙/リフィル機能など先行検証/「気仙沼市立本吉病院」「静岡市立静岡病院」、「公立松任石川中央病院」、「公立西知多総合病院」、「徳島市民病院」、「長崎みなとメディカルセンター」(ドラビズ on-line)5.少子化対策の財源の議論開始、社会保険料や税で/財務省財務省は4月28日に財政制度等審議会を開催、少子化対策の議論に着手した。わが国でも、最終学歴が大卒以上の女性の出生こども数は近年増加しており、女性が出産・育児でキャリアを中断することに伴う機会費用が相当な額にのぼっていることが示唆されている。このため女性の出産支援がさらに必要であり、現時点では少子化対策予算として令和5年度の予算では国費6.3兆円が計上されているが、諸外国と比較すると、現金給付の割合が低いとの指摘もあり、財源について「企業を含む社会・経済の参加者全員が広く負担する新たな枠組みの検討が必要」と指摘がなされた。出席した委員からは社会保険料や税の組み合わせを財源とする意見が出た。この前日、内閣府は第2回のこども未来戦略会議を開催しており、財源について、社会保険料引き上げの案が浮上しているが、経済界や労働団体からは消費税を含む幅広い税財源の検討を求める声が出されていた。(参考)少子化財源、消費税含め議論を 労使、現役負担増に懸念-こども会議(時事通信)少子化財源、財制審で議論開始 「社会保険料や税で」(日経新聞)財政制度等審議会 財政制度分科会 財政各論(2)(財務省)財政制度等審議会 財政制度分科会 財政各論(3)(同)第2回 こども未来戦略会議(内閣府)6.認知症患者の遺族が寄付金3億円をめぐって金沢医科大学を提訴/石川認知症の疑いがある高齢患者の寄付をめぐって、3億円の寄付を患者にさせたのは無効だとして、患者の遺族が大学病院と当時の主治医を相手取って2億4,000万円余りの損害賠償請求を求める裁判を金沢地裁に起こした。訴えられたのは金沢医大病院。遺族によれば、患者は一昨年の1月に同院に入院し、認知機能の低下が指摘され検査結果で大脳の萎縮などが確認された。同年5月に大学創立50周年の募金に対して3億円を寄付し、同年10月に90歳で亡くなった。遺族がこの寄付を知ったのは死亡後。遺族らは「家族に確認することなく、認知機能の低下に乗じて非常識な金額を寄付させた」と主張し、金沢医科大学と当時の病院長で主治医だった男性に対し2億4,000万円余りの賠償を求めており、大学側は「寄付は正当な手続きをして受け入れている。今後、訴状内容を確認してから対応したい」としている。(参考)父親の3億円寄付「異常で不当」 遺族が金沢医大を提訴(産経新聞)認知症疑い患者の3億円寄付、原告代理人「寄付が原因で借金残る」「極めて異常な額」(読売新聞)認知症なのに「3億円を寄付させた」 遺族が金沢医大病院側を提訴(朝日新聞)認知機能低下の患者に巨額の寄付持ち掛け 遺族らが金沢医科大学を提訴(日テレ)

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糖類の過剰摂取、心代謝疾患リスクを増大/BMJ

 食事による糖類(単糖類、二糖類、多価アルコール、遊離糖、添加糖)の過剰な摂取は、一般的に健康にとって益よりも害が大きく、とくに体重増加、異所性脂肪蓄積、心血管疾患などの心代謝疾患のリスク増大に寄与していることが、中国・四川大学のYin Huang氏らの検討で示された。研究の成果は、BMJ誌2023年4月5日号で報告された。糖類摂取と健康アウトカムの関連をアンブレラレビューで評価 研究グループは、食事による糖類の摂取と健康アウトカムの関連に関する入手可能なすべての研究のエビデンスの質、潜在的なバイアス、妥当性の評価を目的に、既存のメタ解析のアンブレラレビューを行った(中国国家自然科学基金などの助成を受けた)。 データソースは、PubMed、Embase、Web of Science、Cochrane Database of Systematic Reviews、および参考文献リスト。対象は、急性または慢性の疾患のないヒトにおいて、食事による糖類の摂取が健康アウトカムに及ぼす影響を評価した無作為化対照比較試験、コホート研究、症例対照研究、横断研究に関する系統的レビューとメタ解析であった。 8,601本の論文から、73件のメタ解析と83項目の健康アウトカム(観察研究のメタ解析から74項目、無作為化対照比較試験のメタ解析から9項目)が特定された。体重増加、異所性脂肪蓄積と有意な関連 83項目の健康アウトカムのうち、食事による糖類の摂取と有意な関連が認められたのは、有害な関連が45項目(内分泌/代謝系:18項目、心血管系:10項目、がん関連:7項目、その他:10項目[神経精神、歯科、肝、骨、アレルギーなど])、有益な関連が4項目であった。 エビデンスの質(GRADE)が「中」の有害な関連としては、食事による糖類の摂取量が最も少ない集団に比べ最も多い集団では、体重の増加(砂糖入り飲料)(エビデンスクラス:IV)および異所性脂肪の蓄積(添加糖)(エビデンスクラス:IV)との関連が認められた。 エビデンスの質が「低」の有害な関連では、砂糖入り飲料の摂取量が週に1回分増加するごとに痛風のリスクが4%(エビデンスクラス:III)増加し、1日に250mL増加するごとに、冠動脈疾患が17%(エビデンスクラス:II)、全死因死亡率が4%(エビデンスクラス:III)、それぞれ増加した。 また、エビデンスの質が「低」の有害な関連として、フルクトースの摂取量が1日に25g増加するごとに、膵がんのリスクが22%高くなることが示唆された(エビデンスクラス:III)。 著者は、「既存のエビデンスはほとんどが観察研究で、質が低いため、今後、新たな無作為化対照比較試験の実施が求められる」と指摘し、「糖類の健康への有害な影響を低減するには、遊離糖や添加糖の摂取量を1日25g(ほぼ小さじ6杯/日)未満に削減し、砂糖入り飲料の摂取量を週1回(ほぼ200~355mL/週)未満に制限することが推奨される」としている。

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添付文書改訂:フォシーガが左室駆出率にかかわらず使用可能に、アセトアミノフェンが疾患・症状の縛りなく使用可能に ほか【下平博士のDIノート】第119回

フォシーガ:左室駆出率にかかわらず使用可能に<対象薬剤>ダパグリフロジン(商品名:フォシーガ錠5mg/10mg、製造販売元:アストラゼネカ)<承認年月>2023年1月<改訂項目>[削除]効能・効果に関連する注意左室駆出率の保たれた慢性心不全における本薬の有効性および安全性は確立していないため、左室駆出率の低下した慢性心不全患者に投与すること。[追加]臨床成績左室駆出率の保たれた慢性心不全患者を対象とした国際共同第III相試験(DELIVER試験)の結果を追記。<Shimo's eyes>これまで、本剤は「左室駆出率の保たれた慢性心不全における本薬の有効性および安全性は確立していないため、左室駆出率の低下した慢性心不全患者に投与すること」とされていましたが、この記載は削除され、左室駆出率を問わず使用可能となりました。これは、左室駆出率が40%超の慢性心不全患者を対象に行われた国際共同第III相試験(DELIVER試験)の結果に基づいた変更です。なお、SGLT2阻害薬のエンパグリフロジン(商品名:ジャディアンス)も、2022年4月に左室駆出率にかかわらず使用可能となっています。アセトアミノフェン:疾患や症状の縛りなく「鎮痛」で使用可能に<対象薬剤>アセトアミノフェン製剤(商品名:カロナールほか)<承認年月>2023年2月<改訂項目>[削除]効能・効果下記の疾患ならびに症状の鎮痛頭痛、耳痛、症候性神経痛、腰痛症、筋肉痛、打撲痛、捻挫痛、月経痛、分娩後痛、がんによる疼痛、歯痛、歯科治療後の疼痛、変形性関節症[追加]効能・効果各種疾患および症状における鎮痛<Shimo's eyes>アセトアミノフェン製剤(カロナールほか)について、疾患や症状の縛りなく「鎮痛」の目的での使用が認められました。厚生労働省の「医療上の必要性の高い未承認薬・適応外薬検討会議」を踏まえた変更です。欧米の先進諸国で使用できる医療用医薬品がわが国では保険診療において使用できない「ドラッグラグ」解消の1つであり、効能または効果は疾患名の列挙ではなく「各種疾患および症状における鎮痛」とすることが適切とされました。シルガード9:2回接種が追加され、接種無料に<対象薬剤>組換え沈降9価ヒトパピローマウイルス様粒子ワクチン(酵母由来)(商品名:シルガード9水性懸濁筋注シリンジ、製造販売元:MSD)<承認年月>2023年3月<改訂項目>[追加]用法・用量9歳以上15歳未満の女性は、初回接種から6~12ヵ月の間隔を置いた合計2回の接種とすることができる。[追加]用法・用量に関連する注意9歳以上15歳未満の女性に合計2回の接種をする場合、13ヵ月後までに接種することが望ましい。なお、本剤の2回目の接種を初回接種から6ヵ月以上間隔を置いて実施できない場合、2回目の接種は初回接種から少なくとも5ヵ月以上間隔を置いて実施すること。2回目の接種が初回接種から5ヵ月後未満であった場合、3回目の接種を実施すること。この場合、3回目の接種は2回目の接種から少なくとも3ヵ月以上間隔を置いて実施すること。<Shimo's eyes>本剤は、わが国で3番目に発売されたHPVワクチンです。既存薬の1つである2価ワクチン(商品名:サーバリックス)は、子宮頸がんの主な原因となるHPV16型と18型の感染を、もう1つの既存薬である4価ワクチン(同:ガーダシル)は上記に加えて尖圭コンジローマなどの原因となる6型と11型の感染を予防します。本剤は、これら4つのHPV型に加えて、31型・33型・45型・52型・58型の感染も予防する9価のHPVワクチンです。本剤について、9歳以上15歳未満の女性に対する計2回接種の用法および用量を追加する一変承認が取得されました。これまでは計3回接種となっていましたが、接種回数が減ることで、ワクチン接種者や医療者の負担軽減が期待できます。また、既存の2価/4価ワクチンは定期接種の対象で、小学6年生~高校1年生相当の女子は公費助成によって無料で接種を受けることができますが、これまで本剤は任意接種で自費での接種でした。2023年3月7日の厚生労働省の厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会で、小学校6年生~15歳未満までに対する9価HPVワクチンの2回接種も、4月1日から定期接種化することが決定され、自費から公費接種に移行する準備が進められます。エンハーツ:HER2低発現乳がんにも使用可能に<対象薬剤>トラスツズマブ デルクステカン(T-DXd、商品名:エンハーツ点滴静注用100mg、製造販売元:第一三共)<承認年月>2023年3月<追記項目>[追加]効能・効果化学療法歴のあるHER2低発現の手術不能または再発乳癌<Shimo's eyes>HER2低発現乳がんを標的にしたわが国初の治療薬となります。HER2低発現乳がんとはHER2陰性乳がんの新たな下位分類で、細胞膜上にHER2タンパクがある程度発現しているものの、HER2陽性に分類するほどの量ではない乳がんのことを指し、再発・転移のある乳がんの約50%を占めるとされます。本剤はこれまで有効な治療選択肢のなかったHER2低発現乳がんに対する薬剤となります。化学療法による前治療を受けたHER2低発現の乳がん患者を対象としたグローバル第III相臨床試験(DESTINY-Breast04)の結果に基づく申請となりました。この試験では、再発・転移のあるHER2低発現乳がん患者557例(494例はホルモン受容体[HR]陽性、63例人はHR陰性)が、3週間ごとにT-DXdを投与する群(373例)と、医師の選択した化学療法を受ける群(184例)にランダムに割り付けられました。その結果、エンハーツ投与群では、無増悪生存期間(PFS)および全生存期間(OS)のいずれにも改善が認められました。PFSとOSの中央値は、T-DXd投与群で9.9ヵ月と23.4ヵ月、医師の選択した化学療法群で5.1ヵ月と16.8ヵ月でした。なお、本適応追加に関連して、ロシュ・ダイアグノスティックスのがん組織または細胞中のHER2タンパク検出に用いる組織検査用腫瘍マーカーキット「ベンタナultraView パスウェーHER2(4B5)」が3月3日に一変承認され、HER2低発現の乳がん患者を対象とした本剤のコンパニオン診断薬として使用できることになりました。

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水素吸入で院外心停止患者の救命・予後改善か/慶大ほか

 心停止の際に医療従事者が近くにいないなど、即座に適切な処置が行われなかった場合、1ヵ月の生存率は8%とされる。また、生存できた場合でも、救急蘇生により臓器に血液と酸素が急に供給されることで、非常に強いダメージが加わり(心停止後症候群と呼ぶ)、半数は高度な障害を抱えてしまう。このような心停止後症候群を和らげる治療として、体温管理療法があるが、その効果はいまだ定まっていない。そこで、東京歯科大学の鈴木 昌氏(慶應義塾大学グローバルリサーチインスティテュート特任教授)らの研究グループは、病院外で心停止となった後に循環は回復したものの意識が回復しない患者を対象に、体温管理療法と水素吸入療法を併用し、効果を検討した。その結果、死亡率の低下と後遺症の発現率の低下が認められた。本研究結果は、eClinicalMedicine誌2023年3月17日号に掲載された。 HYBRID II試験は、日本国内の15施設で2017年2月~2021年9月に実施された多施設共同二重盲検プラセボ対照比較試験である。心臓病のために病院外で心停止となり、心肺蘇生により循環が回復したものの意識が回復しない20~80歳の患者73例が対象となった。対象患者を体温管理療法と同時に、2%水素添加酸素を吸入する群(水素群:39例)、水素添加のない酸素を吸入する群(対照群:34例)に分け、18時間吸入させた。主要評価項目は、90日後に主要評価項目は脳機能カテゴリー(CPC)1~2(脳神経学的予後良好)を達成した患者の割合、副次評価項目は90日後のmodified Rankin Scale(mRS)スコア(0[まったく症候がない]~6点[死亡]で評価)、90日後の生存率などであった。 主な結果は以下のとおり。・主要評価項目の90日後にCPC 1~2を達成した患者の割合は、対照群が39%であったのに対し、水素群では56%であった(リスク比[RR]:0.72、95%信頼区間[CI]:0.46~1.13、p=0.15)。・副次評価項目の90日後のmRSスコアの中央値は、対照群が5点(四分位範囲[IQR]:1~6)であったのに対し、水素群は1点(IQR:0~5)であり、有意に低かった(p=0.01)。・mRSスコア0点の達成率は、対照群が21%であったのに対し、水素群は46%であり、有意に高率であった(RR:2.18、95%CI:1.04~4.56、p=0.03)。・90日後の生存率は、対照群が61%であったのに対し、水素群が85%であり、有意に生存率が上昇した(RR:0.39、95%CI:0.17~0.91、p=0.02)。・90日後までの有害事象の発現率は、対照群88%、水素群95%であった。重篤な有害事象の発現率は、対照群21%、水素群18%であった。有害事象は、いずれも水素吸入に起因するものではないと判断された。 研究グループは、「新型コロナウイルス感染症による救急医療のひっ迫の結果、本研究は早期終了となったため、目標症例数の90例には到達しなかった。そのため、水素吸入療法の有効性を検証するには至らなかった。しかし、水素吸入療法により90日後の生存率や症状や障害がない患者の割合が有意に上昇したことから、水素吸入療法は、心停止後症候群に陥った患者の意識を回復させ、神経学的後遺症を残さないようにする画期的な治療法になることが期待できる」とまとめた。

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第153回 閣議決定、法案提出でマイナ保険証への一本化と日本版CDC創設がいよいよ始動

マイナ保険証関連法案と日本版CDC法案を閣議決定こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。大きな盛り上がりを見せたワールド・ベースボール・クラシック(WBC)ですが、この原稿を書いている段階ではまだ優勝は決まっていません。個人的に衝撃を受けたのは、3月15日(現地時間)、1次ラウンド・プールDの第4戦のプエルトリコ対ドミニカ共和国の戦いです。プエルトリコは9回にクローザー、エドウィン・ディアス投手を投入、3者連続三振に打ち取って見事勝利を収めました。しかし、ディアス投手はその直後、マウンド上で選手たちと喜び過ぎて右膝の膝蓋腱を断裂、今季絶望となってしまったのです(プエルトリコは準々決勝でメキシコに破れました)。ディアス投手はニューヨーク・メッツの”守護神”で一度聴いたら耳から離れない独特の登場曲・Narcoも有名です。昨シーズン終了後には救援投手では史上最高の5年1億200万ドル(約136億円)で契約延長したばかり。WBC出場がMLB選手にとってどれだけリスクがあるのかをまざまざと示す結果になってしまいました。今回のWBCには大谷 翔平投手やダルビッシュ 有投手などが参加していますが、今後はこうしたスター選手の出場が抑えられる可能性もありそうです。さて、今回は3月7日に政府が閣議決定した2つの法案について書いてみたいと思います。一つはマイナンバーカード関連、そしもう一つは日本版CDC、国立健康危機管理機構関連の法案です。2024年秋に健康保険証を廃止しマイナ保険証に一体化政府は3月7日、2024年秋に健康保険証を廃止し、マイナンバーカードに一体化する関連法改正案を閣議決定しました。カードを持たない人には保険証の代わりに「資格確認書」を健保組合などの保険者が発行します。ただ、有効期限が1年の更新制となるだけでなく、医療機関を受診する際は現行と同様、マイナ保険証に比べて窓口負担が重くなります。マイナンバーカードを保険証として使うマイナ保険証については、昨年10月、河野 太郎デジタル大臣が一本化を表明して以来、この連載でも「第132回 健康保険証のマイナンバーカードへの一体化が正式決定、『懸念』発言続く日医は『医療情報プラットフォーム』が怖い?」などで度々書いてきました。今年2月には全国保険医団体連合会(保団連)が「健康保険証を廃止する理由は一つもない」として、法案撤回を厚生労働大臣に求める動きもありました。しかし、この閣議決定によって、マイナ保険証の普及・定着が加速されると共に、マイナンバーカード取得の事実上の義務化もなされたことになります。マイナンバーの利用範囲拡大で気になるHPKIカードの今後関連法案は、健康保険法やマイナンバー法など13の法律の改正案からなり、国会では束ね法案としてまとめて審議されます。マイナンバーは、利用できる範囲が法律で社会保障と税、それに災害対策の3分野に限定されていますが、今回の改正案によって国家資格の手続きや自動車に関わる登録、外国人の行政手続きなどの分野にも範囲が広がるとしています。さらに、こうした分野について、すでに法律に規定されている事務に「準ずる事務」であれば、法律を改正しなくてもマイナンバーの利用が可能になるとのことです。「国家資格の手続き」で思い出したのは、「第146回 病院・診療所16施設、薬局138施設と低調な滑り出しの電子処方箋、岸田首相肝いりの医療DXに暗雲?」で書いたHPKIカードの存在です。電子処方箋の発行に必要とされるHPKIカードは、厚生労働省が所管する医師をはじめとする27個の医療分野の国家資格を証明するためのシステムです。電子処方箋を発行する医師・歯科医師、そして電子処方箋を調剤済みにする薬剤師ごとにHPKIカードによる電子署名が必要とされています。ただ、2022年12月末時点で取得しているのは医師の11%、薬局の薬剤師の7%に留まっており、1月26日から運用開始となった電子処方箋が低調なスタートになった一因として指摘されていました。素人考えですが、マイナンバーカードも国家資格の手続きに使えるとなれば、HPKIカードはもう必要ないのではないでしょうか。厚生労働省の意向を汲んでHPKIカード導入の旗振りをしてきた医療関係団体への配慮はもちろん必要ですが、このデジタル社会、あえて古い仕組みに拘泥する理由はありません。この際、医療現場での医療者の資格確認も、基本マイナンバーカードに一本化すべきだと思いますが、皆さんいかがでしょう。国立健康危機管理研究機構設置は2025年以降同じ日、医療関連の政策でもう一つ閣議決定されたのは、国立感染症研究所と国立国際医療研究センターを統合し、新たな専門家組織として「国立健康危機管理研究機構」を設立する新法案です。米国で感染症対策を中心的に担う疾病対策センター(CDC)をモデルとする国立健康危機管理研究機構については、この連載でも「第140回 次のパンデミックに備え感染症法等改正、そう言えば感染症の『司令塔機能』の議論はどうなった?」でも書きました。いよいよ法案ができ、実現に向けて動き出したというわけです。なお、設立するための国立健康危機管理研究機構法案のほか、現在の両組織の業務を引き継ぎ、新たな業務を加えるため、感染症法や新型インフルエンザ等対策特別措置法、地域保健法も改正するとのことです。国立健康危機管理研究機構はCDCをモデルに、感染研の基礎研究と、国立国際医療研究センターの臨床医療のそれぞれの機能を併せ持つ、感染症研究の拠点を目指すとしています。内閣官房に設置する内閣感染症危機管理統括庁(内閣官房に秋ごろ設置予定)の求めに応じ、政策決定に必要な知見を提供したり、治療薬などの研究開発力を強化したりするとのことです。設置は2025年度以降としています。科学的根拠に基づいて政府に物が言える日本版CDCにこの連載の140回を書いた時点では不明だった法人形態ですが、特別の法律により設立される法人(特殊法人)で、政府が全額出資する形となります。厚生労働大臣による広範な監督権限が付与される予定で、理事長・監事は厚労大臣が任命、副理事長・理事は厚労大臣の認可を得て理事長が任命することとなりました。新型コロナウイルス感染症のパンデミックで政策のご意見番として機能してきた「新型コロナウイルス感染症対策専門家会議」は、時として政府や厚労省が上手くコントロールできない状況もあったようです。そうした反省も踏まえての厚労省管轄の特殊法人と考えられます。しかし、新たに設立される国立健康危機管理研究機構では、逆に感染症対策において専門家を国がコントロールし過ぎたり、政府判断を追認するだけの専門家組織になってしまうのではないかという危険性も指摘されています。国の組織であっても、科学的根拠に基づいて政府にきちんと物が言えるような日本版CDCができることを願っています。

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第136回 マイナ保険証の代わりの資格確認書、窓口負担は増額の方針/厚労省

<先週の動き>1.マイナ保険証の代わりの資格確認書、窓口負担は増額の方針/厚労省2.健康保険証の廃止、マイナ保険証義務化に反対、医師274人が国を提訴へ/東京保険医協会3.「かかりつけ医機能」報告は、無床診療所も在宅医療機関も報告対象に/厚労省4.コロナ後遺症に対応する医療機関のリストを全都道府県で公表を/厚労省5.梅毒報告件数が過去最多に、3月に無料の即日検査などを実施/東京都6.製薬企業の寄付講座、大学内で不適切なメールを発信した医師が懲戒処分/広島大1.マイナ保険証の代わりの資格確認書、窓口負担は増額の方針/厚労省厚生労働大臣は2月24日の記者会見で、2024年秋に健康保険証の廃止に伴ってマイナンバーカードによる「マイナ保険証」を持たない人への資格確認書について、加藤厚労大臣は、患者の窓口負担を割高にする方針を明らかにした。厚生労働省は、デジタル庁の「マイナンバーカードと健康保険証の一体化に関する検討会」の中間取りまとめについての議論のため、同日に社会保障審議会医療保険部会を開催した。これによれば、マイナンバーカードを取得せず、オンライン資格認証が得られない人については、無償で資格確認書を発行するが、有効期間は最大1年となる見込み。なお、デジタル庁はマイナンバーカードの申請を推進のため、カード申請すると2万円分のマイナポイントを付与してきたが、このキャンペーンによる申請期限については2月28日までとして延期は行わないとしている。(参考)「マイナンバーカードと健康保険証の一体化に関する検討会」中間とりまとめについて(厚労省)資格確認書の無償発行に異論なし 社保審・医療保険部会(CB news)医療の窓口負担、「資格確認書」ならマイナ保険証より割高に 厚労相(朝日新聞)2万円付与のマイナポイント、カード申請期限は2月28日まで-「延長はしない」と河野大臣(CNET Japan)2.健康保険証の廃止、マイナ保険証義務化に反対、医師274人が国を提訴へ/東京保険医協会政府が進めている、2024年秋に健康保険証を廃止し、マイナンバーカードを健康保険証として運用する「マイナ保険証」の導入を、医療機関に義務付けたのは違法だとして、東京保険医協会の医師、歯科医ら274人が2月22日に、国に対してマイナ保険証の導入義務の無効と1人10万円の慰謝料を求める訴訟を東京地裁に起こした。東京保険医協会は、去年12月にまとめられた中医協の答申書に対して、12月26日に厳重な抗議をしていたが、オンライン資格確認のシステム導入の原則義務化の撤回を求めていた。(参考)オンライン資格確認 「義務化」撤回訴訟へ(東京保険医協会)マイナ保険証、導入義務化は違憲 保険医274人が東京地裁に提訴(毎日新聞)“マイナ保険証 導入義務はリスク負担大きい” 医師ら提訴(NHK)3.「かかりつけ医機能」報告は、無床診療所も在宅医療機関も報告対象に/厚労省岸田内閣は2月24日に、全世代型社会保障構築会議を開き、持続可能な社会保障制度を構築するために、健康保険法などの改正案について議論した。この改正案には、出産育児一時金を後期高齢者医療制度からの支援金の導入のほか、後期高齢者医療制度の後期高齢者負担率の見直し、かかりつけ医機能が発揮される報告制度についても含まれている。出席した委員からは、厚生労働省が従来から行なっている「病床機能報告」と令和7年4月から開始される「かかりつけ医機能」の報告制度との違いについて質問があり、担当官から「『かかりつけ医機能』報告の対象には無床診療所や、在宅医療機関が含まれる」と回答がなされた。今後、具体化がさらに進む見込み。(参考)「かかりつけ医機能」報告、無床診なども対象 厚労省が見通し示す(CB news)全世代対応型の持続可能な社会保障制度を構築するための健康保険法等の一部を改正する法律案について(全世代型社保構築会議)(内閣府)4.コロナ後遺症に対応する医療機関のリストを全都道府県で公表を/厚労省厚生労働省は全国の都道府県に対し、コロナ後遺症の患者を診療する専門医療機関のリストを4月28日までにホームページなどで公表するよう、2月20日付で事務連絡を行った。厚労省によれば、2月現在でリストを公表しているのは約4割の都道府県にとどまっており、格差が認められている。国立国際医療研究センターの報告によれば、新型コロナウイルス感染の後遺症は、感染から1年半後にも4人に1人が記憶障害や集中力の低下、嗅覚異常といった後遺症を訴えていることが明らかになっている。(参考)新型コロナウイルス感染症の罹患後症状に悩む方の診療をしている医療機関の選定及び公表等について(厚労省)コロナ後遺症を診る医療機関、都道府県に選定と公表を要請 厚労省(朝日新聞)コロナ後遺症対応医療機関のリスト公表へ 厚労省、都道府県に作成要請(CB news)「コロナ後遺症の専門医療機関」を各都道府県で本年(2023年)4月28日までに選定し、公表せよ-厚労省(Gem Med)“コロナ後遺症” 症状と傾向は 感染1年半後でも4人に1人が訴え(NHK)Epidemiology of post-COVID conditions beyond 1 year:a cross-sectional study.5.梅毒報告件数が過去最多に、3月に無料の即日検査などを実施/東京都東京都は都内の令和4年の梅毒報告数が3,677件と、平成11(1999)年の調査開始以来、過去最多になったと発表した。最近は女性の報告数が増加しており、直近10年で約40倍なっている。年齢別では、男性は20~50代、女性は20代が多くを占めている。東京都は梅毒の急増に対応するため、3月に梅毒に関する正しい知識の普及と早期発見に向けて、即日検査を行うほか、3月22日には医療従事者向けオンライン講習会の実施など集中的な取り組みを行う。(参考)梅毒患者が過去最多、女性は10年で40倍 都内で昨年3,677人(朝日新聞)性感染症の梅毒が急増 来月 無料の検査会場設置へ 東京都(NHK)都内で梅毒が急増しています!3月にとくべつ検査など早期発見・治療につながる取組を行います(東京都)6.製薬企業の寄付講座、大学内で不適切なメールを発信した医師が懲戒処分/広島大学広島大学は2月22日に、製薬企業の寄付金によって開設された寄付講座の医師が、不正行為をしたとの公益通報を受け、調査の結果、同僚医師らへ不適切なメール送信を行なったことを確認したと発表した。不適切とされたメールは寄付金を受けた製薬企業の製品の使用推奨を求める内容で、医師の行為は違法行為に当たらないが、利益相反の観点で、不適切な行為とし、2ヵ月の停職とする懲戒処分としたが、同日付で医師は依願退職した。大学によれば、この寄付講座は2018年度に開設され、製薬企業から3年間で4,500万円を拠出を受けた。医師は同僚向けのメールに「院内採用が条件で寄付の2年延長が約束された」と記載し、2019年12月、当該の医薬品が院内採用が決まった後は処方を働きかけていた。(参考)広島大医師が不適切メール 寄付講座巡り、違法性否定(共同通信)製薬会社の寄付講座巡り不適切メール 広島大医師を懲戒処分(産経新聞)広大 “利益相反の観点から問題あった” 寄付講座めぐり謝罪(NHK)広島大学 寄付講座めぐり医師がグラクティブの使用働き掛け「利益相反の観点から問題」調査会が報告書(ミクスオンライン)

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第149回 医師免許はそんなに簡単に不正取得できるのか?ALS嘱託殺人で発覚した厚生労働省の“謎ルート”

厚生労働省の手続きの瑕疵を批判する声は意外と少ないこんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。この週末、関東は寒気が去って暖かい陽気となりました。近所にある梅も七分咲きとなり、春が近づいているのを感じました。同時に花粉も飛び始めたようで、早速アレロックを飲む羽目となりました。ただ、今年は花粉症と新型コロナウイルス感染症の鑑別云々といった報道はほとんどみられません。こちらもやっと“春到来”ということのようです。さて、今回は難病のALS(筋萎縮性側索硬化症)患者の嘱託殺人事件の捜査途上で発覚した、医師免許の不正取得事件について書いてみたいと思います。20年ほど前に事件となった大学医学部の裏口入学や、5年前に事件となった女性や複数年浪人生に対する不当な差別入試は大々的に報道され、社会問題ともなりました。しかし、この医師免許の不正取得については、厚生労働省の手続きの瑕疵を批判する声は意外と少なく、あまり話題になっていません。謎です。嘱託殺人事件の捜査の過程で医師免許不正取得も明らかに2月7日、京都地方裁判所は、難病のALSの患者を本人の依頼で殺害したとして嘱託殺人の罪で起訴された元医師・山本 直樹被告(45)に対し、この事件とは別に自分の父親を殺害した罪に問われた裁判員裁判において、懲役13年を言い渡しました。山本被告は20日までにこの判決を不服として控訴しました。山本被告は12年前、ALS患者の嘱託殺人の罪で同じく起訴されている医師の大久保 愉一被告(44)と自分の母親と共に、父親(当時77)を入院先の病院から連れ出し、何らかの方法で殺害したとして、殺人の罪に問われていました。山本被告と大久保被告が2019年に、難病のALSを患っていた京都市の女性から依頼を受けて殺害した嘱託殺人事件については、事件発覚当時、本連載の「第17回 安楽死? 京都ALS患者嘱託殺人事件をどう考えるか(前編)」、「第18回 同(後編)」でも書きました。各紙報道等によれば、山本被告と大久保被告は学生時代に知り合ったそうです。その後、病死に見せかけて高齢者を殺害する方法を説く電子書籍を共著で出版。大久保被告はブログなどで安楽死を肯定する持論を展開するなどし、ALS患者の嘱託殺人へとつながっていったと見られています。この嘱託殺人事件の捜査の過程で、山本被告の父親の殺人事件が浮上し、さらに山本被告の医師免許不正取得も明らかとなりました。医政局医事課に務めていた大久保被告のアドバイス山本被告は灘高校卒業後、浪人を経て東京医科歯科大学に入学するも、2006年に学費未納で中退しています。その後、韓国の医師免許を取得したとして、2009年10月付で日本の医師国家試験の受験資格認定を受け、翌2010年の国家試験に合格し、医師免許を取得しました。報道等によれば、医師免許の不正取得は、当時厚労省医政局医事課に試験専門官として務めていた大久保被告のアドバイスに従ったとのことです。山本被告は裁判で「恥ずかしく申し訳ないことだが、大久保被告の提案で、韓国の医大を卒業したという嘘の書類を厚労省に提出して資格を得た」と話しています。国外の医学部を卒業し医師国家試験を受けるルートとは山本被告は、「韓国の医大を卒業した」という嘘の書類で日本の医師国家試験の受験資格を得て同試験を受験、見事合格して医師免許を得たわけです。少なくとも国家試験に合格するだけの医学知識、学力等はあったということになります。さすが灘高出身です。そもそも海外の医大の卒業資格で日本の医師国家試験を受けるというのは、どんな仕組みなのでしょうか。日本で医師の資格を得るには、通常国内の医学部で6年間学んで卒業し、国家試験を受ける必要があります。一方、海外の医学部を卒業した場合、厚生労働大臣の受験資格認定が必要となります。その場合、現状では2つのルートがあります。1)医師国家試験の受験資格認定を受け、医師国家試験を受ける。2)医師国家試験予備試験受験資格認定を受け、その後医師国家試験予備試験を受験、同試験に合格してから、さらに1年以上の診療及び公衆衛生に関する実地修練の後に、医師国家試験を受験する。2)の予備試験受験資格は、先進国並みの医師養成カリキュラムがない後進国で医師教育を受けた人向けで、予備試験、本試験と関門が2つあることになります。なお、受験資格認定には医師教育を受けた国の医師免許が必要ですが、予備試験受験資格認定には医師教育を受けた国の医師免許がなくても受けられるようです。ちなみに2022年2月に実施された第116回医師国家試験では1万61人の受験者のうち合格者は9,222人、合格率は91.7%でした。このうち、前者の受験資格認定と後者の予備試験受験資格認定からの受験者は160人で合格者は78人、合格率48.8%と国内医学部からの受験生の合格率の約半分でした。海外医学部卒業証明書や海外医師免許証の写しが欠落、医師免許取り消しに山本被告については、韓国の医師免許を取得したとして受験資格を得ているので、2)ではなく、認定されれば受験できる1)のルートを取ったとみられます。ただ、煩雑な書類作成に加え、厚労省の厳格な書類審査もあるため、医政局医事課の試験専門官だった大久保被告がどのような手順で山本被告に受験資格を与えることができたか、多くの謎が残ります。事件発覚後の2021年12月24日、厚労省は「医師国家試験の受験資格を満たしていなかった」として、厚生労働大臣の職権で山本被告の医師免許を取得した2010年5月7日まで遡って取り消した、と発表しました。報道等によれば、厚労省が受験資格認定申請書を改めて確認したところ、山本被告の海外医学部卒業証明書や海外医師免許証の写しが欠落していたとのことです。また、韓国で大学に通えるだけの出国期間も確認できませんでした。厚労省は当時の医事課職員に調査したものの受理した職員を特定できず、さらに山本被告は同省の聞き取りを拒んだとのことです。厚労省は、「海外医学部の卒業証明書は複数の職員で原本を確認するなど、再発防止に努める」としましたが、受験資格認定がずさんだった理由についてはきちんと説明がされていません。まだ他にも受験資格認定を不正に受け、医師免許を不正取得した医師がいる可能性はあります。もし、そうだとしたら大問題です。ひょっとしたら、厚労省はこの問題がうやむやになるのを待っているのかもしれません。本丸である大久保被告の裁判で、そのあたりの謎も解明されることを願います。メキシコから帰国して国家試験をすべり続けた友人の教訓とここまで書いてきて、高校時代のある友人のことを思い出しました。彼は医師の子弟でしたが、日本の医学部に合格できるだけの学力がつかず、数年浪人した後、メキシコの医大に入学しました。そこで無事医師となり、現地で心臓カテーテル治療の名医となりました。メキシコで結婚し、奥さんもできたのですが、日本の父親から家を継げと懇願されて渋々帰国。日本の病院でカテーテル検査の“手伝い”をしながら、日本の医師国家試験の受験勉強をしました。25年ほど前、メキシコの医師免許が受験資格認定対象だったのか予備試験受験資格だったのかはわかりませんが、何度かすべり、最終的に彼は医師国家試験に合格できず、日本で医師として働く道は閉ざされてしまいました。もう10年以上会っていないので、彼が今何をしているかわかりません。ただお金を積んで海外で医師になっても、最終的に日本の医師国家試験を合格できるだけの“頭”がないと、その後は大変だなと感じた次第です。ちなみに最近では、医師志望者向けのハンガリーの医大の広告を度々見かけますが、厚労省の「医師国家試験受験資格認定について」のサイト1)には、こんな注意書きが赤字で書かれてあります。最近、卒業後に日本の医師国家試験の受験資格が得られる旨認可を厚生労働省から受けていること等を示して、外国の医学校への入学を勧誘する広告を行っている例が見受けられますが、厚生労働省は、外国の医学校を卒業した方から、医師国家試験の受験資格認定の申請があった後に、当該申請者個々人の能力や、当該申請者が受けた教育等を審査することとなっており、海外の医学校等に対し、当該医学部の卒業生への医師国家試験の受験資格を一律に認定することはありません。このため、こうした外国の医学校等を卒業されても、日本の医師国家試験の受験資格が認められないことが十分想定されますのでご注意下さい。現在、2023年の医学部入試がたけなわです。メキシコの医大に行った私の友人のように、どれだけ勉強しても学力がつかない子供をどうしても医学部に入れたい、医師にしたい、と考えている親御さんは重々お気を付けください。参考1)医師国家試験受験資格認定について/厚生労働省

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「骨転移診療ガイドライン」-新たな課題を認識しつつ改訂

 『骨転移診療ガイドライン』の改訂第2版が2022年12月に発刊された。2015年に初版発刊後、骨修飾薬の使用方法や骨関連事象のマネジメントなどの医学的エビデンスが蓄積されてきたことを踏まえ、7年ぶりの改訂となる。今回、骨転移診療ガイドライン作成ワーキンググループのリーダーを務めた柴田 浩行氏(秋田大学大学院医学系研究科臨床腫瘍学講座)に、2022年の改訂のポイントや疫学的データの収集などの課題について話を聞いた。骨転移診療ガイドラインは機能維持を念頭に置いた がん治療で病巣を取り除けたとしても身体機能の低下によって生活の質(QOL)が低下してしまっては、患者の生きがいまでも損なわれてしまうかもしれない。骨転移はすべてのがんで遭遇する可能性があり1)柴田氏らはがん患者の骨転移がもたらす身体機能の低下をいかにして防ぐことができるのかを念頭に置いて『骨転移診療ガイドライン』を作成した。「骨転移が生じる患者の多くはStageIVではあるが、外科的介入に対するエビデンスが蓄積されつつあることから、今回の改訂には多くの整形外科医にご参加いただき、外科領域のClinical Questionを増やした」と話し、「作成メンバーが、診断・外科・放射線・緩和・リハビリテーションと看護の5領域に分かれて取り組んだ点も成果に良く反映されている」と骨転移診療ガイドライン作成時の体制について説明した。 治療については、上市から10年が経過した骨修飾薬(BMA:ビスホスホネート製剤、RANKL抗体薬)に関する長期経過報告がまとめられ、近年では骨修飾薬を投与することで骨関連事象の発生が低下していること、骨修飾薬投与前の歯科検診や投与中のカルシウム値の補正が行われていることなどが示された(p.15 総説3)。一方で、その投与間隔や至適投与期間を有害事象やコスト面から検討する必要性も指摘され課題になっている。 それらを踏まえ、「標準的な診療の概要を示し、骨転移患者の診療プロセスの改善や患者アウトカムの改善を期すること」を目的とし、4つの総説(1.骨転移の病態、2.骨転移の診断、3.骨転移の治療とケア、4.高齢者・サルコペニア・フレイル患者の骨転移治療)、Background Question(36個)、Clinical Question(38個)、Future Research Question(41個)を盛り込んだ。骨転移診療ガイドラインで読んでおきたい項目 『骨転移診療ガイドライン』を作成し、その成果をモニターする上で疫学的な情報は不可欠であるが、「骨転移の実態を知ることはなかなかに困難である」と同氏は話した。がんの罹患状況は2016年に厚生労働省がスタートさせた『全国がん登録』2)の集計結果などを参考にするが、そこには遠隔転移の記載のみで、骨転移を含む個別の転移部位については登録されない。結果、がんの『転移部位』はすべて“転移”に包含されてしまい、どの部位への転移なのかを入力する項目がないことから、「その集計結果から骨転移の実数などを把握できない。現在の骨転移に関する必要情報はカルテを直接調べるしかないのが実情」と残念がった。なお、『骨転移診療ガイドライン』には日本の調査例として胸椎~腰椎の組織学的骨転移の剖検報告3)が示されており、それによると乳がんや前立腺がんでは75%、肺がんや甲状腺がんでは50%、消化器がん(消化器、肝胆膵)では20%前後の骨転移が認められている。このデータは約25年前のものであるが、2010~16年に米国の医療保険データベースを用いた研究結果と傾向は同様であった(p.2 総説1)。 このほか、『骨転移診療ガイドライン』で読んでおきたい項目は以下のとおり。・CQ5「骨転移を有する原発不明がん患者において、骨転移巣を用いた遺伝子パネル検査は原発巣の同定に有効か?」・CQ8「病的骨折や切迫骨折のリスクのある四肢長管骨の骨転移に手術は有効か?」・CQ19「過去に外照射を受けた骨転移の痛みの緩和に再照射は有効か?」・CQ37「去勢抵抗性前立腺がん骨転移においてラジウム-223内用療法は有効か?」・FRQ31「骨転移の治療に外照射と骨修飾薬(BMA)の併用は有効か?」・FRQ32「骨代謝マーカーは骨転移を有するがん患者の治療モニタリングに有用か?」・FRQ39「病的骨折のある患者の外科的治療後にリハビリテーション医療は有用か?」・FRQ40「痛みのある骨転移患者に対するマネジメント教育は有効か?」骨転移診療ガイドラインの作成から患者の未来を変えたい さらに同氏は「ガイドラインの改訂というのは医療者側の知識のアップデートだけではなく、患者への骨転移の病態啓発や、骨転移に関する症状の有無を問診する際などの医師と患者の医療面接おいても重要」だと話した。さらに骨転移診療ガイドラインの内容を基に同氏は患者が理解を深めやすい資料作成にも意欲的に取り組み、秋田大学医学部附属病院ではオリジナル漫画を患者に配布している。また、昨今、盛んに行われる骨転移キャンサーボードも「多施設間で行うことも新たな情報や知識、視点が加わることになるので実施することをお薦めする」と話した。 ガイドラインは発刊後もその使用状況や患者アウトカムの改善についてモニタリングが必要で、作成して終わりではない。『骨転移診療ガイドライン』の場合は発刊1年以降を目途に、臨床的アウトカム(1:骨転移のがん種別頻度、2:外科的介入の割合、3:放射線治療の割合、4:骨修飾薬の使用割合、5:ADLの評価[通院、入院治療の別]など)への影響に関して調査を行う予定である点にも触れた。 最後に同氏はガイドラインを山登りに例え、「ガイドラインは“山岳ガイド”のようなもの。トップクライマーは遭難のリスクを冒してでも前人未踏の頂きを目指すかもしれないが、山岳ガイドは登山客を遭難させる冒険はできない。派手さはなくとも、安全に、確実に登頂できるように先導することが重要。もちろん、もっと高い頂きを目指す必要は常にあるが、現状でそれが無理なら技術を磨いたりルートを開拓したりする必要がある」と話し、医師の知識のアップデートに留まらず、患者一人ひとりの病態に応じて参考にされることや骨転移診療ガイドラインの課題が新たな臨床試験の推進力になることを願った。

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SNRI使用と口渇リスク

 口腔乾燥症や口渇は唾液量の減少および欠如を起因とする状態であり、特定の薬剤の使用に続発してみられる。Joseph Katz氏らは、口腔乾燥症患者とセロトニンノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)使用との関連を分析した。その結果、SNRIを使用している患者は、使用していない患者と比較し、口渇リスクが約5倍であることが明らかとなった。結果を踏まえて著者らは、SNRIを処方する専門医、唾液の産生やQOLへのSNRIによる影響を認識していない医師、口腔乾燥症の治療に携わっている歯科医師にとって、本結果は有益な情報であろうと報告している。Quintessence International誌オンライン版2023年1月10日号の報告。 2015年6月~2022年9月の期間に、米国・フロリダ大学の統合データであるi2b2を用いて、口渇の診断(ICD-10)およびSNRI使用に関するデータを抽出した。オッズ比の算出には、MedCalc Softwareを用いた。 主な結果は以下のとおり。・SNRI使用の口渇リスクのオッズ比は、5.95(95%CI:5.47~6.48、p<0.0001)であった。・性別または年代別のSNRI使用による口渇リスクのオッズ比は、以下のとおりであった。 ●女性:5.48(95%CI:4.97~6.02、p<0.0001) ●男性:5.48(同:4.56~6.95、p<0.0001) ●小児:2.87(同:1.19~6.96、p=0.0192) ●成人:4.46(同:4.09~4.86、p<0.0001)・使用するSNRIごとの口渇リスクのオッズ比は、以下のとおりであった。 ●ベンラファキシン:5.83(同:5.12~6.60、p<0.0001) ●デュロキセチン:6.97(同:6.33~7.67、p<0.0001) ●desvenlafaxine:5.24(同:3.65~7.52、p<0.0001) ●ミルナシプラン:9.61(同:5.66~16.31、p<0.0001)

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第146回 病院・診療所16施設、薬局138施設と低調な滑り出しの電子処方箋、岸田首相肝いりの医療DXに暗雲?

コロナ5類移行は5月8日に決定こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。政府は1月27日、新型コロナウイルスの感染症法上の分類を5月8日に「5類」に引き下げることを正式決定しました。5類移行後は新型インフルエンザ等対策特別措置法の適用外となり、入院勧告や行動制限といった強い措置は取られなくなります。特措法に基づく緊急事態宣言やまん延防止等重点措置もなくなり、飲食店の営業時間の短縮といった要請もできなくなります。コロナ疑いの発熱患者は、原則すべての一般医療機関で受診できるよう対応施設を段階的に広げていくとしています。治療や入院といった医療費の公費負担は段階的に縮小する方針です。マスク着用の指針も緩和されます。原則着用を求めていた屋内については、個人の判断に委ねるようにする方針です。諸々の具体策は3月上旬を目処に公表するとしています。この180度の方針転換に日本国民は果たしてついていけるでしょうか?「屋外では季節を問わずマスクの着用は原則不要」との方針が国から示されているのに、大半の人が屋外でも未だに律儀にマスクをしています(飲み屋ではマスクを外して大声で話していますが)。5月連休明けに国民がどんな動きをするか見ものです。マイナ保険証の基盤である「オンライン資格確認等システム」を用いた仕組みさて今回は1月26日から運用開始となった電子処方箋について書いてみたいと思います。厚生労働省は26日から運用が始まった電子処方箋について、対応する医療機関・薬局のリストをホームページで公表しました。1月25日に公表した対応施設は154施設(うち病院・診療所16施設、薬局138施設)ときわめて低調な滑り出しとなりました。電子処方箋は、これまでの紙で交付していた処方箋をデジタル情報にし、オンラインでやりとりを行うというもの。医師は患者に電子処方箋の番号を伝え、薬剤師は患者の示した番号をもとにネットで処方箋情報を閲覧し処方します。マイナ保険証の基盤である「オンライン資格確認等システム」を用いた仕組みで、国が推進しようとしている医療DXの柱の一つに位置付けられています。厚生労働省のホームページなどによれば、電子処方箋によって医療機関・薬局間の処方箋のやり取りが効率化されるとされています。とくに医療機関には、処方箋の発行業務の効率化や、処方データを活用した診察・処方の実現が期待されています。薬局には、処方箋の受付に関わる業務の効率化や、処方データを活用した調剤、服薬指導の実現が期待されています。一方、患者自身も電子的に記録された処方薬のデータを自ら閲覧できるため、健康管理にも寄与すると期待されています。「オンライン資格確認等システム」を導入する医療機関はまだまだ少ないそれなのに、スタート時のこの低調ぶりはなんでしょう。厚生労働省は1月からの運用スタートに向け、幾度も医療機関向けの説明会を開いてきました。直近では昨年12月にオンラインによる説明会を開いています。大きな課題の一つは、マイナ保険証の基盤である「オンライン資格確認等システム」を導入する医療機関がまだまだ少ない点です。導入が進んでいるのは対象となる医療機関や薬局のうち45%に留まっているとのことです(1月15日時点)。マイナ保険証の本格運用は、電子処方箋より1年4ヵ月も早い2021年10月にスタートしています。それでも普及は遅く、業を煮やした政府は2022年8月、オンライン資格確認(いわゆるマイナンバーカードの保険証利用)導入の2023年4月からの原則義務化を決定しました。また、従来保険証の2024年秋の廃止も決定しています(「第124回 医療DXの要「マイナ保険証」定着に向けて日医を取り込む国・厚労省の狙いとは(前編)未対応は最悪保険医取り消しも」、「第125回 同(後編)かかりつけ医制度の議論を目くらましにDX推進?」参照)。もっとも、世界的な半導体不足、専用機器の納入遅れ、医療機関に出向きシステム改修を行う業者不足などもあって、全国の病院や診療所におけるシステム導入は遅れています。結局、オンライン資格確認の原則義務化には半年の猶予期間が設けられ、期限は2023年9月末に変更されています。ちなみにこのシステム改修を行う業者不足は電子処方箋対応にも影響が出ていて、NHKニュースなどの報道によれば、電子処方箋のモデル事業を行った山形県酒田市では、あわせて23の医療機関や薬局が参加することになっていましたが、実際に1月26日時点で運用が始まったのは5つの施設に留まっているとのことです。HPKIカードの取得は医師で11%もう一つの大きな課題は、処方箋の発行や閲覧に必要な「HPKIカード」の取得が進んでいないことです。HPKIは「Healthcare Public Key Infrastructure」の略称で、厚生労働省が所管する医師をはじめとする27個の医療分野の国家資格を証明することができる仕組みです。電子処方箋を発行する医師・歯科医師、電子処方箋を調剤済みにする薬剤師ごとに、HPKIカードによる電子署名が必要とされています。しかし、2022年12月末時点で取得しているのは医師の11%、薬局の薬剤師の7%に留まっているそうです。その背景には資格確認システムに対する政府の曖昧な姿勢もあるようです。1月22日付の日本経済新聞は「電子処方箋、低調なスタートに 医師ら資格取得1割のみ」と題する記事でHPKIカード取得の低さを報じるとともに、「資格取得に関する政府の姿勢があいまいなことが足を引っ張る」と書いています。HPKIカードの利用を始めるには発行費用がかかることに加え、カードリーダーの購入、ソフトウェアのインストールなど結構な手間がかかります。しかし、今回運用がスタートした電子処方箋以外に医療現場で必要とされる場面がないため、普及してきませんでした。その一方で、政府はマイナンバーカードの用途拡大を進めようとしています。医療者の資格確認もマイナンバーカードに一本化すべきだという意見も出てきています。マイナンバーカードは運転免許証とも紐付け可能なのですから、医師などの国家資格との紐付けもやろうと思えばすぐにでもできそうです。しかし、HPKIカード導入の旗振りをしてきた医療関係団体や、既に導入した医療機関等への遠慮もあってか、今後の方針を明確に打ち出せない状況のようです。マイナンバーカードは「デジタル社会のパスポート」と岸田首相コンピューターやネットの世界は日進月歩で、いつまでも古いシステムや仕組みにこだわっていては、円滑な普及が妨げられてしまうのは世の常です。マイナンバーカードを医療者が常時携行することの是非はともかく、何種類ものカードがあって、それらが混在して運用されるシステムが望ましいかと言えば、それは否でしょう。岸田 文雄首相は23日に開会した通常国会の施政方針演説で、マイナンバーカードは、「デジタル社会のパスポート」だと重要性を強調、「医療面では、スマートフォン一つあれば、診察券も保険証も持たずに、医療機関の受診や薬剤情報の確認ができるようになる」とメリットを説明しました。「デジタル社会のパスポート」というなら、医療者の資格確認もこれでやってしまったほうがシンプルだし、わかりやすいと思います。電子処方箋について言えば、より普及させ、患者にとっての利便性を高めるために、「第126回 アマゾン処方薬ネット販売と零売薬局、デジタルとアナログ、その落差と共通点(前編)」、「第127回 同(後編)」でも書いたように、服薬指導のプロセスの見直しもぜひ検討してもらいたいと思います。もし、患者の希望によって、あるいは一部の薬剤においてそのプロセスを省略することができれば、電子処方箋の運用はもっとスムーズになるはずだからです。たとえば患者はオンライン診療を受けるだけで(オンライン服薬指導を受けなくても)、薬剤が手元に届くようになればどれだけ便利でしょう。それこそDXの世界だと思いますが、皆さんいかがでしょう。

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第131回 新型コロナウイルス、4月以降に「5類」に移行へ/政府

<先週の動き>1.新型コロナウイルス、4月以降に「5類」に移行へ/政府2.処方の見返りに奨学寄付金を求めた元教授に有罪判決/三重3.全国の都道府県がん拠点病院、地域がん拠点病院を新たに指定/厚労省4.オンライン資格確認の導入のさらなる促進を/厚労省5.東工大と医科歯科大、統合後の新名称は「東京科学大学」に6.サイバー攻撃の共有・公表ガイダンスをパブリックコメント募集/内閣府1.新型コロナウイルス、4月以降に「5類」に移行へ/政府岸田総理は、感染症法で現在「2類相当」として取り扱っている新型コロナウイルスについて重症化率が2022年夏時点で60歳未満が0.01%、80歳以上でも1.86%と季節性インフルエンザ並みになったとして、麻疹や風疹と同じ「5類」扱いとする方針を固めた。今後は、一般の医療機関でも新型コロナウイルスの患者の受け入れは可能としている。厚生労働省では、ワクチンの公費負担での接種対象を高齢者とするほか屋内でのマスク着用のあり方など、今後の方針について検討を開始している。来週には、専門家からなる厚生科学審議会で今後の方針について議論を行う。(参考)新型コロナ 今春「5類」移行検討 公費負担など本格議論へ(NHK)コロナ「5類」移行、5月の連休前後案も…ワクチン公費負担は高齢者ら限定検討 (読売新聞)コロナ、今春にも「5類」に 首相指示、公費負担縮小へ マスク着用「見直す」(日経新聞)2.処方の見返りに奨学寄付金を求めた元教授に有罪判決/三重三重大学附属病院の臨床麻酔部において、薬の処方の見返りに、奨学寄付金を受け取ったことで、第三者供賄罪と詐欺罪に問われた元教授の被告に対して、1月19日津地方裁判所は、懲役2年6ヵ月、執行猶予4年の判決を言い渡した。判決によれば、2018年3月に、被告に対して小野薬品工業の薬剤「オノアクト」を大量に発注するように依頼された見返りに、被告が代表を務める一般社団法人に現金200万円を振り込ませた疑い。さらに、2019年から2020年には、手術患者60人あまりに対して、この薬剤を使用したように装って、未投薬にもかかわらず、約82万円の診療報酬を詐取した。被告は、この他に元講師と共謀して日本光電工業(東京都)の医療機器納入で便宜供与の見返りに、一般社団法人の口座に寄付金名目で200万円を振り込ませていた。(参考)三重大病院元教授に有罪判決 薬剤納入で供賄と詐欺罪 地裁判決(毎日新聞)病院汚職200万円は「賄賂」 地裁判決 三重大元教授有罪(読売新聞)三重大病院汚職事件 元教授に執行猶予付き有罪判決(NHK)3.全国の都道府県がん拠点病院、地域がん拠点病院を新たに指定/厚労省厚生労働省は1月19日に「がん診療連携拠点病院等の指定に関する検討会」を開催し、昨年「がん診療提供体制のあり方に関する検討会」からの提言を踏まえて定められた、がん診療連携拠点病院等の整備指針に基づき、2023年4月から「がん診療連携病院」を新たに指定することとした。全国の都道府県がん診療連携拠点病院は一般型49施設、特例型2施設、地域がん診療連携拠点病院は一般型325施設などが指定される見込み。検討会の意見を踏ませて、加藤厚労大臣が指定の手続きを行い、本年4月1日から新たながん診療拠点として指定される。なお、一部の病院では指定要件を充足していないため指定を見送ることも検討されたが、充足の見込みがたっておらず「空白医療圏」となってしまうため指定となった病院もみられた。(参考)都道府県がん拠点病院51施設、地域がん拠点病院350施設など、本年(2023年)4月1日から新指定-がん拠点病院指定検討会(Gem Med)第22回がん診療連携拠点病院等の指定に関する検討会(厚労省)がん診療連携拠点病院の指定要件(同)4.オンライン資格確認の導入のさらなる促進を/厚労省厚生労働省は、1月16日に社会保障審議会医療保険部会を開催し、オンライン資格確認などシステムについて討議を行った。今年4月に施行される保険医療機関・薬局のオンライン資格確認導入の義務化について、令和4年度末時点で「現在紙レセプトでの請求が認められている医療機関・薬局」については、やむを得ない事情があるとして、期限付きの経過措置を設けられたが、猶予期間の延長について、保険者らからは延長を懸念する声が上がった。医療機関・薬局でのオンライン資格確認システムの導入は、顔認証付きカードリーダー申込数は、義務化対象施設では97.7%と高いものの、準備完了は義務化対象施設でも52.6%と伸び悩みがみられていることが明らかになった。国としては、来年秋には、現行の健康保険証がマイナンバーカードに1本化されることもあり、令和5年3月末までのさらなる導入の加速化を図りたいとしている。(参考)第162回社会保障審議会医療保険部会(厚労省)マイナカード、進まぬ活用 医療、免許どうなるか(産経新聞)オンライン資格確認、電子処方箋など医療DXの推進には国民の理解が不可欠、十分かつ丁寧な広報に力を入れよ-社保審・医療保険部会(Gem Med)オンライン資格確認の導入猶予、延長をけん制 社保審・部会で複数委員(CB news)5.東工大と医科歯科大、統合後の新名称は「東京科学大学」に東京工業大学と東京医科歯科大学が2024年に統合されるのを受けて、大学側は新たな大学の名称を「東京科学大学(英語表記:Institute of Science Tokyo)」とすることを1月19日に発表した。両大学は新大学の目指す姿として、「両大学の尖った研究をさらに推進」、「部局などを超えて連携協働し『コンバージェンス・サイエンス』を展開」、「総合知に基づき未来を切り拓く高度専門人材の輩出」、「イノベーションを生み出す多様性、包摂性、公平性を持つ文化」を謳っており、できる限り早期の統合を目指して、今月中に大学設置・学校法人審議会へ提出することを決定している。(参考)新大学名称を「東京科学大学(仮称)」として 大学設置・学校法人審議会への提出を決定(東京医科歯科大学)東工大・医科歯科大、統合後の新名称「東京科学大学」に(日経新聞)東京科学大「皆が覚えられる名に」「親しみが大事」…「工業」「医科」使用も見送り(読売新聞)「東京科学大学」正式発表、略称は「科学大」…英語「Institute of Science Tokyo」(同)6.サイバー攻撃の共有・公表ガイダンスをパブリックコメント募集/内閣府内閣官房内閣サイバーセキュリティセンターは、近年、サイバー攻撃の脅威の高まりを受けて、被害を受けた組織が攻撃の内容や被害情報について外部に共有するためのガイダンス案を作成し、現在パブリックコメントを募集している。日本病院会の相澤会長は、1月17日の定例記者会見で、サイバーセキュリティに関する責任の範囲について統一基準を明確化するとともに費用負担について国側に求める方針を明らかにした。今後、日本病院会はサイバー攻撃に対する対応について、厚生労働省に対して提言をまとめたいとしている。なお、パブリックコメントは1月30日が締切となっている。(参考)「サイバー攻撃被害に係る情報の共有・公表ガイダンス(案)」に関する意見募集について(内閣府)サイバー攻撃被害「枠組み超えた情報連携が必要」内閣官房がガイダンス案公表、フローやFAQも(CB news)サイバーセキュリティ対策における医療機関・ベンダー等の間の責任分解、現場に委ねず、国が「統一方針」示すべき?日病・相澤会長(Gem Med)

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日本人統合失調症入院患者における残存歯数とBMIとの関係

 統合失調症入院患者において、BMIに対する歯の状態の影響に関するエビデンスはほとんどない。新潟大学の大竹 将貴氏らは、日本人統合失調症入院患者の残存歯数とBMIとの関連を調査するため、横断的研究を実施した。その結果、歯の喪失や抗精神病薬の多剤併用が統合失調症入院患者のBMIに影響を及ぼすこと、また、統合失調症入院患者は一般集団よりも歯の喪失が多いことが示唆された。Neuropsychiatric Disease and Treatment誌2022年11月7日号の報告。 統合失調症入院患者212例を対象に、BMIに対する潜在的な予想因子(年齢、性別、残存歯数、抗精神病薬処方数、クロルプロマジン換算量、抗精神病薬の種類)の影響を評価するため、重回帰分析を行った。次に、統合失調症入院患者と日本人一般集団3,283例(平成28年歯科疾患実態調査[2016年])の残存歯数を比較するため、年齢および性別を共変量として共分散分析を行った。 主な結果は以下のとおり。・重回帰分析では、残存歯数(標準偏回帰係数:0.201)と抗精神病薬処方数(同:0.235)がBMIと有意に相関していることが示された。・共分散分析では、統合失調症入院患者の平均残存歯数(14.8±10.9)は、日本人一般集団(23.0±8.1)と比較し有意に少なかった。

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第140回 次のパンデミックに備え感染症法等改正、そう言えば感染症の「司令塔機能」の議論はどうなった?

改正感染症法案、岸田文雄首相の約束通り今国会で成立こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。この週末は、友人の版画家、宇田川 新聞氏の個展「木版画パラダイス」を観に、池袋のB-galleryに行って来ました。「宇田川新聞」と言われても、ピンと来ないかもしれませんが、テレビ東京系で放映されている「出川哲朗の充電させてもらえませんか?」1)で、赤色、緑色、黒色を使った特徴的なイラストを描いている(厳密には彫っている)版画家と言えばおわかりかと思います。芸能人の表情を絶妙にとらえたシンプルでほのぼのとした版画は、いつ見てもほっとします。彼女(女性です)との付き合いはもう25年近くになりますが、最近の売れっ子ぶりには頭が下がります。ただ、ギャラリーで「オリジナルの作品より、出川番組関連の版画の方が多いんじゃない?」と本音を言ったら、しょぼんとうなだれていました。芸術家は扱いが難しいです。あの独特の版画の実物を見たい方はぜひ覗いてみて下さい2)。さて、今回は先ごろ成立した感染症法改正と、検討が進められている(はずの)、「司令塔機能」について書いてみたいと思います。改正感染症法案は、参院選前の岸田 文雄首相の約束通り、今国会で成立しました。もう一つの“公約”とも言うべき、一元的に感染症対策を行う新しい「司令塔機能」については、その後、あまり報道もありません。一体どうなっているのでしょうか。地域医療支援病院や特定機能病院などと協定を結び医療の提供を義務付け新型コロナウイルス対応の教訓を活かし、今後の感染症のまん延(パンデミック)に備えるための改正感染症法などが11月2日、参院本会議で可決され、成立しました。都道府県は地域医療支援病院や特定機能病院などとあらかじめ協定を結び、病床確保や発熱外来といった医療の提供を義務付けることになります。協定に沿った対応をしない医療機関には勧告や指示を行うほか、場合によっては承認の取り消しもあり得るとされています。施行(協定を締結する規定も)は来年、2023年4月1日付です。医療の提供が義務付けられるのは、自治体などが運営する「公立・公的医療機関」(約6,500施設)、400床以上で大学病院中心の「特定機能病院」(87施設)、200床以上で救急医療が可能な「地域医療支援病院」(685施設)です。また、都道府県は上記を含む全国すべての医療機関と、医療提供を事前に約束する協定を結べるようになります。都道府県は平時から計画をつくり、病床、発熱外来、人材派遣などの数値目標を盛り込み各医療機関への割り当てを決めます。医療機関は協議に応じる義務はありますが、実際に協定を結ぶかは任意です。付則には、新型コロナの感染症法上の位置付けについて速やかに検討するよう政府に求める文言も加わりました。これについては、法案成立直前の11月29日、加藤 勝信厚生労働大臣は会見で、新型コロナを感染症法の「2類相当」から「5類」に見直す検討を本格的に始める方針を示しています。なお、感染症法とあわせて医療法や予防接種法、新型インフルエンザ等対策特別措置法、検疫法なども一括で改正されています。特別措置法では、厚生労働大臣が協力を要請した時に限って、歯科医師、診療放射線技師、臨床検査技師、臨床工学技士、救急救命士にワクチン接種を認めました。検疫法では、水際対策により実効性をもたせるため、入国後の個人に自宅待機などを指示できるようにしたうえ、待機中の体調報告に応じない場合の罰則が設けられました。一般の民間病院や診療所については、協定締結は任意この3年間あまりの医療機関のドタバタぶり、個々の医療機関に対する国の権限のなさ(お願いしかできず命令できなかった)を考えると、地域医療支援病院や特定機能病院などへの病床確保や発熱外来といった医療提供の義務付けは、とても意味のあることで、特定機能病院などの承認を取り消す行政処分も含まれていることから、相当の強制力を持つことも確かです。ただ一方で、一般の民間病院や診療所については、都道府県との協議に応じなければならないものの、協定締結は任意のため、どの程度協力を得られるかは不透明です。今回のパンデミックでも、とくに民間病院や診療所の対応に批判が集まったことからも、協議から協力に至るプロセスをもう少し明確にしておく必要がありそうです。岸田首相がぶち上げたもう一つの大きな計画さて、今回の感染症法等の改正は、岸田首相が今年6月15日、通常国会の閉会を受けて行った記者会見で語った「新型コロナをはじめとする感染症に対する新対策」の中に盛り込まれていたことです。岸田首相はこの時、「昨年の総裁選で約束したとおり、国・地方が医療資源の確保等についてより強い権限を持てるよう法改正を行う。医療体制については、(2021年)11月の「全体像(次の感染拡大に向けた安心確保のための取り組みの全体像)」で導入した医療機関とあらかじめ協定を締結する仕組みなどについて、法的根拠を与えることでさらに強化する」と語っていました(「第114回 コロナ新対策決定、協定結んだ医療機関は患者受け入れ義務化、罰則規定も」参照)。当時は参議院選挙を睨んだパフォーマンスと見る向きもありましたが、岸田首相は感染症法改正については、約束を守ったと言えるかもしれません。岸田首相はこの時、もう一つの大きな計画をぶち上げています。それは、一元的に感染症対策を行う「内閣感染症危機管理庁」の新設と、国立感染症研究所と国立国際医療研究センターを統合して「日本版CDC」をつくるというものです。そう言えば、この計画について、最近は話をあまり聞きません。「内閣感染症危機管理庁」を内閣官房に設置し司令塔機能を強化岸田首相の6月15日の会見では、新型コロナウイルスを含む今後の感染症に対応する「内閣感染症危機管理庁」を内閣官房に設置し、司令塔機能を強化することを表明していました。内閣感染症危機管理庁は、感染症の危機に備えて「首相のリーダーシップの下、一元的に感染症対策を行う」組織で、同庁の下で平時から感染症に備え、有事の際は物資調達などを担う関係省庁の職員を同庁の指揮下に置き、一元的な対策を行うとしました。トップには「感染症危機管理監(仮称)」が置かれる予定とのことでした。さらにこの時は、厚労省における平時からの感染症対応能力の強化も表明しています。その施策の目玉は、研究機関である国立感染症研究所と、高度な治療・研究の拠点である国立国際医療研究センターを統合、米疾病対策センター(CDC)をモデルとした、いわゆる「日本版CDC」を厚労省の下に創設するというものでした。この2つの計画は6月17日、新型コロナウイルス感染症対策本部において正式決定しています。新型コロナウイルス感染症対策本部が公表した司令塔機能の具体的な姿その後、内閣官房の新型コロナウイルス感染症対策本部は9月2日、「新型コロナウイルス感染症に関するこれまでの取組を踏まえた次の感染症危機に備えるための対応の具体策」を公表し、その中で、司令塔機能の具体的な姿を提示しました。それによれば、司令塔となる「内閣感染症危機管理統括庁(仮称)」については、2023年度中の設置を目指すとして、以下の組織、業務等にするとしています3)。1)感染症対応に係る司令塔機能を担う組織として「内閣感染症危機管理統括庁(仮称)」を設置し、感染症対応に係る総合調整を、平時・有事一貫して所掌する。総理・官房長官を直接助ける組織として内閣官房に設置し、長は官房副長官クラス、内閣官房副長官補を長の代行とし、厚生労働省の医務技監を次長相当とする等、必要な体制を整備する。2)統括庁は、平時から、感染症危機を想定した訓練、普及啓発、各府省庁等の準備状況のチェック等を行う。3)緊急事態発生時は初動対応を一元的に担う(内閣危機管理監と連携して対応)。4)特措法適用対象となる感染症事案発生時は、同法の権限に基づき、各府省庁等の対応を強力に統括する。各府省庁の幹部職員を庁と兼務させる等により、政府内の人材を最大限活用する。これら有事の際の招集職員はあらかじめリスト化し十分な体制を確保する。5)平時・有事を通じて厚生労働省の新組織(いわゆる日本版CDC)とは密接な連携を保ち、感染症対応において中核的役割を担う厚生労働省との一体的な対応を確保する。6)必要となる法律案を次期通常国会に提出し、2023年度中に設置することを目指す。――これらの案から見えてくるのは、今回のコロナ禍にあって、統率がとれなかった各省庁を強力にコントロールしたい、という内閣の強い意思です。とくに、厚生労働省(今回官邸の言うことを聞かなかった、対応がグダグダだったという批判もありました)とそこにつくる新組織(日本版CDC)をきちんと統括したい、という強い思いが伝わって来ます。国立感染症研究所と国立国際医療研究センターを統合した「日本版CDC」この「具体策」では、国立感染症研究所と、国立国際医療研究センターを統合して作る新組織、「日本版CDC」についても提示しています。それによれば、新組織については、1)厚生労働省における平時からの感染症対応能力を強化するため、健康局に「感染症対策部(仮称)」を設置し、内閣感染症危機管理統括庁(仮称)との連携の下、平時からの感染症危機への対応準備に係る企画立案や感染症法等に係る業務を行う。2)国立感染症研究所と国立研究開発法人国立国際医療研究センターを統合し感染症等に関する科学的知見の基盤・拠点国際保健医療協力の拠点、高度先進医療等の総合的な提供といった機能を有する新たな専門家組織を創設する。3)必要となる法律案を次期通常国会に提出し感染症対策部の設置及び厚生労働省の一部業務移管は2024年度の施行、新たな専門家組織の創設については2025年度以降の設置を目指す。――などとなっています。専門家組織をきっちりコントロールしたい厚労省内閣感染症危機管理統括庁と、厚生労働省、日本版CDCが整備されれば、機動的かつ科学的な対応が100%可能になるかのように書かれてある点が気になります。今回のパンデミックで機能してきた「新型コロナウイルス感染症対策専門家会議」のような、ある意味“第三者”の立場で検討・提言する組織についての記述は、日本版CDCの中に「新たな専門家組織を創設する」と書かれています。ただ、厚労省傘下にしっかり置いて、専門家組織をきっちりコントロールしようという意図が透けて見えます。また、専門家組織が感染症の専門家ばかりで、臨床や医学研究の分野に偏りそうな点も気がかりです。危機管理やIT、経済対策、メディア対策など、医学以外の分野の専門家もしっかりとメンバーに入れておくべきだと思いますがいかがでしょう。さらに、現在、国立感染症研究所は国立の機関、国立研究開発法人 国立国際医療研究センターは国立研究開発法人と、組織形態が異なります。仮に、組織が圧倒的に大きい国立国際医療研究センターに国立感染症研究所が身を寄せる形で統合するとなれば、組織は国立研究開発法人ということになります。国からは一応は独立した組織になるとすれば、危機管理統括庁や厚生労働省がどういう形で影響力を及ぼすかも今後の大きな検討課題でしょう。現在のところ、厚労省が中心となって、これらの新組織の詳細を詰めているとのことです。内閣感染症危機管理統括庁は2023年度中の設置、日本版CDCは2025年以降の設置を目指すとされていますが、実際の稼働まで、まだまだひと悶着、ふた悶着ありそうです。参考1)出川哲朗の充電させてもらえませんか?/テレビ東京2)宇田川新聞個展《木版画パラダイス》(12/13(火)〜12/25(日)、池袋B-gallery、14:00〜18:00、月曜休廊)3)新型コロナウイルス感染症に関するこれまでの取組を踏まえた次の感染症危機に備えるための対応の具体策/新型コロナウイルス感染症対策本部

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第124回 マイナカード、救急医療や生活保護受給者でも活用へ/政府

<先週の動き>1.マイナカード、救急医療や生活保護受給者でも活用へ/政府2.社会保障、高齢者も経済力に見合った負担を/厚労省3.糖尿病の病名の変更を要望/日本糖尿病協会4.社会保障に対する意識調査、「高齢者の負担増はやむをない」4割強/健保連5.財務省提案の「要介護1と2の保険外し」案に反論も/財務省6.マイナカードによるオンライン資格確認システム義務化に反対/保団連1.マイナカード、救急医療や生活保護受給者でも活用へ/政府総務省消防庁は第二次補正予算の概要を公表した。マイナンバーカードを用いた「オンライン資格確認等システム」を活用することで、傷病者の医療情報などを閲覧できるようにして、救急業務の迅速化・円滑化に向けたシステム構築の検討のため、1億円の予算を要求した。また、厚生労働省は社会保障審議会の生活困窮者自立支援および生活保護部会を11月14日に開催し、生活保護受給者の医療機関の受診時に、これまで用いてきた医療券の代わりにマイナンバーカードを原則とすることとし、医療扶助の適正化のため、福祉事務所による早期の把握や改善を助言する案を提案しており、同省では来年の通常国会以降に関連法案を提出する見通し。なお、生活保護費は令和2年度実績で3.5兆円(国費2.6兆円)であり、その約半分を医療扶助、約3割を生活扶助が占めている。(参考)令和4年度総務省消防庁 第2次補正予算(案)について(消防庁)生活困窮者自立支援制度及び生活保護制度の見直しに関するこれまでの議論の整理(中間まとめ)案(厚労省)マイナンバーカード活用の救急システム構築検討へ 総務省消防庁が第2次補正予算案概要を公表(CB news)マイナカードで生活保護受給者の受診状況を早期に把握 厚労省(毎日新聞)2.社会保障、高齢者も経済力に見合った負担を/厚労省内閣府は11月11日に全世代型社会保障構築会議を開き、子育て世代への支援拡充や持続的な社会保障制度を実現するため、高齢者にも経済力に見合った負担を求めていく方針を固めた。これを受け、厚生労働省は11月17日に社会保障審議会を開催し、現在は年66万円となっている75歳以上の後期高齢者の年間保険料の上限額を、現在よりも14万円引き上げ80万円とする見直し案を提案した。後期高齢者全体の1%強が影響を受けるが、これによって現役世代の負担は1人当たり年間平均300~1,100円軽減する見込み。(参考)第8回 全世代型社会保障構築会議(内閣府)第158回 社会保障審議会医療保険部会(厚労省)全世代型社会保障 年金、医療、介護 制度改正の焦点(産経新聞)75歳以上の4割が負担増…年金収入153万円超の医療保険料引き上げ案を提示(読売新聞)3.糖尿病の病名の変更を要望/日本糖尿病協会日本糖尿病協会は、糖尿病に対する社会的偏見が、不正確な情報や知識に起因する誤った認識により生じることが多いとして、「糖尿病」という病名について、糖尿病のある人がどのように感じているかを調査した。その結果、糖尿病の患者約1,100人のうち、糖尿病という名前に抵抗感や不快感があると90.2%が回答し、病名を変更したほうがいいと79.8%が回答した。糖尿病という病名にまつわる負のイメージを放置することで、糖尿病をもつ人が社会活動で不利益を被るのみならず、治療に向かわなくなるという弊害があるため、糖尿病であることを隠さずにいられる社会を作っていく必要があるとして、今後、1~2年のうちに新たな病名について、日本糖尿病学会とも連携して、変更を求めていくとしている。(参考)糖尿病の病名変更を提唱へ“不正確でイメージ悪い”専門医団体(NHK)糖尿病「名称変えて」 団体調査、患者の9割不快感 怠惰・不摂生…負の印象つながりかねず(日経新聞)糖尿病にまつわる“ことば”を見直すプロジェクト(日本糖尿病学会・日本糖尿病協会)4.社会保障に対する意識調査、「高齢者の負担増はやむをない」4割強/健保連11月16日、健康保険組合連合会(健保連)は「医療・介護に関する国民意識調査」を発表した。健保連は平成19年から定期的にわが国の公的医療保険・介護保険制度や医療提供体制に対する国民の認識について意識調査を行っており、令和4年もwebアンケート方式で3,000人を対象に実施した。少子高齢化が進む中で、1人の高齢者を支える現役世代の人数が今後も減り続けることが予想されることについて、今後高齢世代の負担が重くなることはやむを得ないとする回答(42.3%)が、現役世代の負担増はやむを得ないとする回答(19.5%)を上回った。年齢別でも、70歳以上の高齢者の45.8%が高齢世代の負担増についてやむを得ないと回答していた。また、健康保険について1人当たり月額16,300円(令和2年)の健康保険料について、「非常に重いと感じる」「やや重いと感じる」と回答した割合は合計68.7%となり、負担感が強いことが明らかになっている。(参考)医療・介護に関する国民意識調査(健保連)高齢世代の負担増、4割超「やむを得ない」健保連・国民意識調査(CB news)5.財務省提案の「要介護1と2の保険外し」案に反論も/財務省財務省は、11月に開催した財政制度等審議会・財政制度分科会において、2024年度の介護保険制度改正で、要介護1・2のサービスの見直しについて言及した。この中で、要支援者に対する訪問介護・通所介護は、地域支援事業へ移行を完了したが、要介護1・2への訪問介護・通所介護についても効果的・効率的なサービス提供を可能にするため、段階的に地域支援事業への移行を目指す方向性を提案した。今後、75歳以上の高齢者が2030年頃まで増加し、その後も要介護認定率や1人当たり介護給付費がことさらに高い85歳以上人口の増加が見込まれており、膨らみ続ける介護費の抑制に対応する。この方針に対して、現場の介護関係者からは批判が出ており、自治体側の受け皿が十分に整っていないまま給付を削減することについて反対の意見が出ている。(参考)社会保障(財務省)“要介護1と2の保険外し”、財務省が一部見送りを容認 「段階的にでも実施すべき」と提言(JOINT)要介護1、2のサービス切り離しに現場反発…なぜ? 厚労省が介護保険給付から市町村事業に移行案(東京新聞)6.マイナカードによるオンライン資格確認システム義務化に反対/保団連全国保険医団体連合会(保団連)は、政府が医療機関等に2023年3月末までのオンライン資格確認の原則義務化や、2024年度秋から保険証廃止を進める方針について、マイナンバーによるオンライン資格確認システムやマイナンバーと保険証の一体化について、撤回を求める意見を発表した。保険医協会、保険医会会員に対して今年の10月14月~31日に行ったアンケートの回答(計4,747)のうち医科診療所62%、歯科診療所28%、病院6%が回答しており、保険証廃止については65%が反対、賛成はわずか9%のみであり、マイナンバーカード利用に不慣れな患者への窓口応対の増加やマイナンバーカードの携帯・持参が困難な患者(単身高齢者など)への対応など保険証廃止による医療現場や患者への影響・危惧する意見が多く寄せられた。また、2023年4月のオンライン資格確認の義務化については、運用開始済みが26%、準備中が54%、導入しない・できないが14%にも上ることが明らかとなった。このほか、オンライン資格確認について運用開始済みと回答した回答者(n=1,242)のうち、利用患者がほとんどいないとする意見が83%であり、十分な議論がされていないとして義務化の撤回を求めている。(参考)保険証廃止・オンライン資格確認義務化 意識・実態調査(保団連)オン資義務化・マイナ保険証の「撤回」を 保団連が会見(MEDIFAX)

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PEACEを受講しよう【非専門医のための緩和ケアTips】第39回

第39回 PEACEを受講しよう緩和ケアが広がるにつれて専門誌や書籍も増え、独学でも学びやすくなりました。一方で、緩和ケアは個別性が高かったりコミュニケーションの要素が多かったり、書籍だけでは学べない部分も多くあります。今回は、そうした部分が学べる研修会をご紹介します。今日の質問緩和ケアについて学ぶには、何をすればいいでしょうか? 緩和ケアの連携は地域の実情によって異なる部分も多く、そういった面を学ぶのは本だけでは難しく感じます。ご質問いただいた方の着眼点は素晴らしいですね。おっしゃるとおり、地域の医療機関同士の連携や、在宅療養への移行などの際には地域ごとに事情が異なります。こうした座学では学びにくい領域って、どのように学べばよいのでしょうか? そんな方にお薦めなのが、今回ご紹介する「PEACE」という研修会です。PEACEの正式名称は、「がん等の診療に携わる医師等に対する緩和ケア研修会(Palliative care Emphasis program on symptom management and Assessment for Continuous medical Education)」と長いため、PEACEの略称や単に「緩和ケア研修会」と呼ばれています。この研修会は、厚生労働省の委託事業として日本緩和医療学会と日本サイコオンコロジー学会がコンテンツを作成しています。事前学習としてE-learningを受講し、グループワークを含む集合研修に1日参加する、というのがその内容。対象は「がん等の診療に携わるすべての医師・歯科医師、緩和ケアに従事するその他の医療従事者」です。E-learning緩和ケア概論/全人的苦痛と包括的アセスメント/がん疼痛/呼吸困難/消化器症状/気持ちのつらさ/せん妄/コミュニケーション/療養場所の選択と地域連携/ACP、看取りのケア、家族・遺族のケアが必修コンテンツです。集合研修コミュニケーションのロールプレイ/全人的苦痛や症状緩和に関するケーススタディ/療養場所の選択と地域連携に関するケーススタディ/患者を支える仕組みについてのレクチャーといった、一人では学びにくいテーマのグループワークが中心です。がん拠点病院では、年に1回以上PEACEを開催することが施設要件になっているため、どの地域でも受講可能です。開催スケジュールは各都道府県の担当部署のサイトに公開されており、「都道府県名+緩和ケア講習会」などで検索すれば出てきます。地域の基幹病院の緩和ケアに関わる医療者と一緒に学ぶことは、連携構築の上での大きな機会となるでしょう。新型コロナの影響で集合研修をオンラインで開催するケースもあり、遠方でも参加しやすくなっています。少し注意が必要なのが内容の「レベル感」です。あくまでも基本的な緩和ケアについて学ぶ研修会であり、受講者の多くが初期研修医を含めた若手です。ベテランの方からすると少し簡単に感じられるかもしれません。一人では学べないことを学び、顔の見える関係をつくるための貴重な機会として、ぜひPEACEを活用してみてください。今回のTips今回のTips地域のがん拠点病院で開催されているPEACEを受講してみましょう。PEACEプロジェクトホームページ/日本緩和医療学会

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海外の著名医師が日本に集結、Coronary Week 2022開催について【ご案内】

 2022年12月1日(木)~3日(土)、The 8th International Coronary Congress(ICC2022)をJPタワーホール&カンファレンスにて開催する。本会は初の試みである「Coronary Week 2022」として、第25回日本冠動脈外科学会学術大会および第34回日本冠疾患学会学術集会と同時開催する。現在、以下24名のInternational Facultyの来日が決定している。―――John D. Puskas (USA)Professor of Cardiovascular SurgeryIcahn School of Medicine at Mount Sinai New York, NYChairman, Department of Cardiovascular SurgeryMount Sinai Morningside (formerly Saint Luke’s),Mount Sinai Beth Israel and Mount Sinai West (formerly Roosevelt) HospitalsNew York, NYDavid P. Taggart (UK)Professor of Cardiovascular Surgery at the University of OxfordMario F. Gaudino (USA) Faisal G. Bakaeen (USA)Stephen Fremes (USA) Bob Kiaii (USA)Husam H. Balkhy (USA) Gianluca Torregrossa (USA)Sigrid E. Sandner (Austlia) Torsten Doenst (Germany)Vipin Zamvar (UK) Piroze Davierwala (Canada)Michael E Farkouh (Canada) James Tatoulis (Australia)Ki-Bong Kim (Korea) Umberto Benedetto (UK)Gil Bolotin (Israel) Sotirios Prapas (Greece)Jeong Seob Yoon (Korea) Oh-Choon Kwon (Korea)Theodoros Kofidis (Singapore) Chusak Nudaeng (Thai)Nuttapon Arayawudhikul (Thai) Chawalit Wongbuddha (Thai)――― Program Chairの荒井 裕国氏(東京医科歯科大学 名誉教授/JA長野厚生連 北信総合病院 統括院長)は「冠動脈外科領域でこれほど多数の豪華海外メンバーが本邦に集結するイベントは初めてであり、ぜひ、この機会にジョイントセッションでの講演にご参加ください。多数のご来場をお待ち申し上げております」と参加を呼びかける。【Coronary Week 2022開催概要】●The 8th International Coronary Congress 会期:2022年12月1日(木)〜3日(土) Program Chair:荒井 裕国(東京医科歯科大学 名誉教授/JA長野厚生連 北信総合病院 統括院長/日本冠動脈外科学会 理事長) ホームページはこちら●第25回日本冠動脈外科学会学術大会 会期:2022年12月1日(木)〜2日(金) 会長:高梨 秀一郎(川崎幸病院心臓病センター心臓外科 主任部長/国際医療福祉大学三田病院 教授 心臓外科部長) ホームページはこちら●第34回日本冠疾患学会学術集会 会期:2022年12月1日(木)〜3日(土) 会長:内科系/中村 正人(東邦大学医療センター大橋病院 循環器内科)    外科系/渡邉 善則(東邦大学医療センター大森病院 心臓血管外科) ホームページはこちら【会場】JPタワーホール&カンファレンス【参加登録】登録方法:オンライン参加登録はこちら参加費: 条件によって異なる※参加登録サイトにてご確認ください。【お問い合わせ】ICC2022 運営事務局E-mail:jacas25@nip-sec.com

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第132回 健康保険証のマイナンバーカードへの一体化が正式決定、「懸念」発言続く日医は「医療情報プラットフォーム」が怖い?

現行の健康保険証を2024年秋に廃止こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。週末の土曜日、日本シリーズの第1戦を神宮球場で観戦してきました。今年は投手層が厚いオリックス・バッファローズが優位だろうと踏んでいたのですが、初戦は東京ヤクルトスワローズの老練、小川 泰弘投手がオリックスの山本 由伸投手に投げ勝つ展開。終盤では村上 宗隆選手のホームランも飛び出して、ヤクルトの強さを印象付ける試合となりました。第2戦も、オリックス優位の展開で進むも、土壇場でヤクルトが追い付き結局12回引き分けに。今年の日本シリーズも最後までもつれそうな予感がします。それにしても連日4〜5時間もかかっている試合時間は、観る側も疲弊します。野球ファンを減らさないためにも、試合時間はいろいろな意味で要検討項目だと感じました。さて、今回は再びマイナンバーカード保険証について書いてみたいと思います。政府は10月13日、現行の健康保険証を2024年秋に廃止し、マイナンバーカードを保険証として使う「マイナ保険証」に切り替える方針を正式に発表しました。ほぼほぼ既定路線だったスケジュールとカード取得の“義務化”が正式決定したわけですが、その直後から、カードの手続きができない高齢者はどうする、情報漏えいは大丈夫か、保険証読み取り装置(カードリーダー)が間に合わない……、など医療界のみならず各方面から“反対”や“懸念”の声が沸き起こっています。日頃DX、DXと喧伝するマスコミですら、マイナ保険証に否定的な報道をするところも出てくる始末です。マイナカード申請枚数は全国民の56.2%岸田 文雄総理大臣は13日、河野 太郎デジタル大臣や加藤 勝信厚生労働大臣、寺田 稔総務大臣とマイナンバーカードについて協議。その後、河野デジタル大臣が記者会見を開き「デジタル社会を新しく作っていくための、マイナンバーカードはいわばパスポートのような役割を果たす」と述べ、2024年の秋に現在使われている健康保険証を廃止し、マイナンバーカードに一体化した形に切り替えると発表しました。廃止の時期が来てもマイナンバーカードを取得していない人などに対しては、取得の働きかけを進めていくと同時に、何らかの対応を検討するとしました。マイナンバーカードについて政府は、来年3月末までにほぼすべての国民に行き渡ることを目標としています。ただ、10月11日時点の申請枚数は、全国民の56.2%に留まっており、普及率を一層高めていく方針とのことです。河野デジタル大臣の記者会見の後、加藤厚労大臣も会見を開き、「システム改修などの対応に必要な予算は経済対策に盛り込んでいく。岸田総理大臣からは国民や医療関係者から理解が得られるよう丁寧に取り組んでいく必要があると指示があった。医療関係者や関係省庁などと連携して取り組みを進めていきたい」と述べました。切り替えまでにマイナンバーカードを取得できなかった人への対応については、「保険料を納めている方々は保険診療を受ける当然の権利を持っている。いろいろな事情で手元にカードを持っていない人が必要な保険診療を受ける際に、どういう手続きをしていくのか、今後しっかりと検討していく」と述べたとのことです。医療関係団体が全面協力する姿勢を示していたことは“とても不思議”マイナンバーカード保険証については、本連載でも、「第124回 医療DXの要「マイナ保険証」定着に向けて日医を取り込む国・厚労省の狙いとは(前編)未対応は最悪保険医取り消しも」と、「第125回 医療DXの要「マイナ保険証」定着に向けて日医を取り込む国・厚労省の狙いとは(後編)かかりつけ医制度の議論を目くらましにDX推進?」で詳しく書きました。連載では、厚生労働省と三師会(日本医師会、日本歯科医師会、日本薬剤師会)が合同で開催した「オンライン資格確認等システムに関するWEB説明会」の内容を紹介し、マイナ保険証のシステムは将来的に、レセプト・特定健診等情報の共有に加えて、予防接種、電子処方箋情報、電子カルテ等の医療情報についても共有・交換できるようになり、「全国医療情報プラットフォーム」の構築につながる、と書きました。このプラットフォームが稼働すれば、患者の受療行動や、医療機関で提供された治療や投薬の情報が丸裸になります。そうなると、それらのデータを基に、究極的に効率化された(ムダを省いた)医療提供の仕組みが国によってデザインされ、医療機関にも求められるようになるでしょう。さらには、重複受診、重複投与、ムダな薬剤投与、的外れの治療などが他医にもバレてしまいます。そう考えると、日本医師会など、医療関係団体が概ね協力する姿勢を示していることが“とても不思議”であると書きました。日本医師会はこれまで、かかりつけ医制度やリフィル処方など、効率的な医療提供体制構築や医療費削減に資するような政策には頑なに反対してきたからです。というわけで、125回では、「かかりつけ医制度の議論などを目くらましにして、医療DXの推進を一気に進めようとしているとしたら、岸田首相や財務省もなかなかの策士と言える」、「加藤厚労相は、親日医の姿勢を見せつつ、マイナ保険証を突破口として医療DXを強力に推進するために岸田首相から医療界に送り込まれた“刺客”という見方もできるかもしれない」と、少々うがった見方をしたのですが、流石に日本医師会もここに来て、「これはまずいかも」と気がついたのか、10月13日前後から、マイナ保険証を牽制するような発言が目立って来ました。日本医師会の松本吉郎会長が「懸念」発言各紙報道等によれば、日本医師会の松本 吉郎会長は、「保険証廃止、マイナ保険証に一本化」が正式決定する前日、10月12日に開かれた定例会見で、「健康保険証の廃止を決定するのであれば、まずは国民に理解をしていただく、その時点(2024年秋)で、マイナンバーカードを取得していない人がいるのであれば、その対応が、非常に大きな問題だ。医療現場でも、負荷がかかったり、混乱が生じたりする可能性もある。それを含めて、しっかりと手当てをして頂きたい」などと発言しました。さらに1週間後の10月19日の定例記者会見で松本会長は、「反対はしていないが、カードがまだあまり普及していない状況を考えると、2年後の原則廃止は可能かどうか、非常に懸念をしている。保険証の廃止によって、医療機関に適切な時期に適切な状態で受診できないことがもし起こるとすると、国民は非常に困る。医療現場の混乱も招く」と話し、政府による国民への説明や、関係者との議論の必要性を訴えたとのことです。また、オンライン資格確認が療養担当規則で2023年度から原則義務化されることについても、各地域の医療機関や医師会から様々な懸念が寄せられているとして、「原則義務化の例外対象の再検討を厚労省に求めている」とも話しました。「全国医療情報プラットフォーム」の“恐ろしさ”8月に開かれた厚労省と三師会(日本医師会、日本歯科医師会、日本薬剤師会)が合同で開催した「オンライン資格確認等システムに関するWEB説明会」説明会では、三師会の担当理事たちは「早く導入しましょう。役立ちます」と訴えていました。なのにこの腰砕け振りはなんでしょう。国が構築しようとしている「全国医療情報プラットフォーム」の“恐ろしさ”が今になってやっとわかってきたということでしょうか。ちなみに、「マイナ保険証に一本化」が正式決定する前日の12日、政府は首相官邸で医療分野のデジタル化の推進をめざす「医療DX推進本部」(本部長・岸田首相)の初会合を開いています。「全国医療情報プラットフォーム」の創設、電子カルテの表記を統一して正確な情報共有につなげる「電子カルテ情報の標準化」、診療報酬の算定にかかる計算様式を共通化する「診療報酬改定DX」の3つを重点項目と定め、これらを省庁横断で進めるよう岸田首相は関係閣僚に指示したとのことです。2023年春にも具体的な工程表がまとまる予定です。ここで一気に進めないと医療・介護の効率化は永遠に進まない世の中こぞってDX、DXと言う割に、まったく進んでいない日本のDX。そんな中で行政面ではマイナンバーカードの普及の遅れが、DX推進を妨げていると指摘されてきました。カードを義務化し、保険証をマイナ保険証に一本化する背景には、マイナンバーカードをとにかく普及させたいという国の思惑があります。実は、今年6月に示した経済財政運営の指針「骨太の方針」には、「保険証の原則廃止を目指す」と書かれていました。例年「骨太の方針」には大胆な改革案が書かれるのが常ですが、そこに書かれていた「原則」の文字を敢えてなくし、期限を2024年秋と明示、事実上のカード義務化を決定した点に政府の本気度が見て取れます。医療界も含め、反対派は多いですが、流石にここで一気に進めないと、日本のDX、そして医療・介護の本当の効率化は永遠に進まない予感もします。マイナ保険証のカードリーダーなどインフラ整備の問題や、現行の保険証の取り扱い、高齢者にどうマイナンバーカードを取得させマイナ保険証に移行させるか、高齢医師の医療機関がマイナ保険証に対応できるか、など課題は多いと思いますが、新しい制度には、課題があるのが当たり前です。岸田首相がまたまた世の中の声を聞き過ぎて、マイナ保険証の普及・定着が腰砕けにならないことを願うばかりです。

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第116回 他院の受診歴や診療内容がマイナポータルで閲覧可能に/厚労省

<先週の動き>1.他院の受診歴や診療内容がマイナポータルで閲覧可能に/厚労省2.インフルエンザ予防接種、コロナワクチンと同時接種容認へ/厚労省3.女性差別の医学部不正入試の東京医科大に1,800万円賠償判決/東京地裁4.特定健診、医療費抑制効果なし/京都大学5.高齢者のオーラルフレイル(口腔機能低下)で死亡リスクが2倍以上に/東京都健康長寿医療センター6.刑務所の受刑者のワクチン接種に遅れ、コロナウイルス感染者が急増1.他院の受診歴や診療内容がマイナポータルで閲覧可能に/厚労省厚労省は9月5日マイナンバーカード取得者向けサイト「マイナポータル」で閲覧できる情報の拡充を発表した。これまでは、特定健診等情報・薬剤情報だけだったものが、9月11日からは過去3年分の「診療情報」を閲覧できるようになり、医療機関名、受診歴、診療行為内容などの閲覧が可能となる。ただし、診療レセプトベースのため、画像診断や病理診断などの結果の閲覧はできない。この他、医療機関同士で情報共有も可能になるが、まだ対応している医療機関が少ないため、医療機関間での対応が課題となっている。(参考)「全国で医療情報を確認できる仕組みの拡大」の運用開始について(厚労省)マイナポータルで診療情報閲覧 11日から(産経新聞)医療機関で受診歴を共有可に マイナポータルで閲覧も 11日から(朝日新聞)診療情報の閲覧11月から可能に、画像診断など 過去3年分のデータを共有(CB news)2.インフルエンザ予防接種、コロナワクチンと同時接種容認へ/厚労省松野博一官房長官は9月9日の記者会見において、今年の冬には新型コロナウイルスとインフルエンザの同時流行が懸念されるため、ワクチンの同時接種が可能になったことを踏まえ、感染防止目的で接種を推進することを明らかにした。厚生労働省はこれに先立ち、9月5日に開催された厚生科学審議会の予防接種・ワクチン分科会予防接種基本方針部会で、10月から65歳以上のインフルワクチン定期接種が始まることを積極的に呼びかけることを決定した。今冬のインフルエンザワクチンは、平成27年以降で最大の供給量となる約3,521万本(成人量では7,042万回分に相当)を確保できる見込み。(参考)今シーズン(2022/23)のインフルエンザワクチンについて(厚労省)インフルワクチン、高齢者らへ開始時期など周知 コロナ同時流行懸念(朝日新聞)コロナ・インフルのワクチン同時接種容認 厚労省、安全性問題なし(産経新聞)3.女性差別の医学部不正入試の東京医科大に1,800万円賠償判決/東京地裁東京医科大学が、医学部入試において、女性や浪人生が不利になるように得点を調整していた問題で、同大に受験して不合格となった女性28人が慰謝料を含め、合計1億5,000万円余りの損害賠償を求めた裁判で、東京地裁は9月9日に同大に対して、合計1,800万円を賠償するよう命じる判決を下した。平城恭子裁判長は「性別という自らの努力や意思で変えることのできない属性を理由に女性を一律に不利益に扱った」と批判した。同大は「判決内容を精査して、対応を検討する」とコメントした。(参考)女性差別の不正入試 東京医科大に賠償命じる判決 東京地裁(朝日新聞)医学部不正入試 東京医科大に1,800万円賠償命令 東京地裁(毎日新聞)4.特定健診、医療費抑制効果なし/京都大学京都大学の人間健康科学科准教授の福間 真悟氏らは、2014年1~12月に特定健診を受けた11万3,302例を対象に特定保健指導の介入3年後の効果を調べた。その結果、特定保健指導は、外来患者の訪問日数の減少(1.3日減少)と関連していたが、医療費、投薬回数、入院回数とは関連していなかったことが明らかとなった。政府や厚生労働省は、これまで糖尿病などの生活習慣病の発症や重症化を予防する目的で特定健康診査の特定保健指導を推奨していたが、2020年には心血管リスク低減効果が認められなかったことも明らかになっていた。厚生労働省の「特定健診・特定保健指導の見直しに関する検討会」でも、アウトカム評価を入れるなど2024年度からはじまる第4期に向け、特定健診・特定保健指導について議論が先月まとめており、今後さらに見直しを迫られると考えられている。(参考)メタボ健診に医療費抑制効果なし(時事通信 2022/9/5)特定健診(メタボ健診)における特定保健指導に医療費抑制効果なし(京都大学)特定健診・特定保健指導の効率的・効果的な実施方法等について(議論のまとめ)(厚生労働省)Impact of the national health guidance intervention for obesity and cardiovascular risks on healthcare utilisation and healthcare spending in working-age Japanese cohort: regression discontinuity design(BMJ Open)5.高齢者のオーラルフレイル(口腔機能低下)で死亡リスクが2倍以上/東京都健康長寿医療センター高齢者の2割は口腔状態に問題があり、問題がない高齢者に比べて要介護リスクや死亡リスクが2倍超となることが、東京都健康長寿医療センター研究所の研究で明らかとなった。報告によれば、歯の数、咀嚼や嚥下の困難感、舌の力、舌口唇運動機能、咀嚼力の6項目で評価し、3項目以上該当した場合はオーラルフレイルと定義したところ、高齢者のうち19.3~20.4%がオーラルフレイルであり、そうでない人と比べて低栄養状態である割合が2.17倍高く、4年間の追跡調査により、オーラルフレイルの人は、死亡リスクが2.1倍、要介護認定が2.4倍になることが明らかとなった。以前から、口腔機能低下が、全身状態や生活にも大きく影響を与えることがわかっており、歯科医師が入院患者の口腔の管理を行うことによって、在院日数が削減できたり、肺炎発症を抑制することが判明しており、今後、医科歯科連携の強化が求められる。(参考)高齢期における口腔機能の重要性-オーラフレイルの観点から-(健康長寿医療センター)口腔状態に問題ある高齢者は要介護や死亡リスクが2倍超、地域で「オーラルフレイル改善」の取り組み強化を-都健康長寿医療センター(GemMed)医師以外の医療従事者の確保について(厚労省)6.刑務所の受刑者のワクチン接種に遅れ、コロナウイルス感染者が急増新型コロナウイルスワクチンの受刑者への接種が遅れていることが読売新聞などの報道で明らかになった。接種には住所のある自治体の発行した接種券が必要だが、受刑者の多くは服役先に住民票がないため、新型コロナウイルスのワクチン接種に遅れが発生した。このため、刑務所内で受刑者の感染者は急増しており、実際に熊本刑務所では、全収容者の約半数の159人が感染したことが判明しており、自治体側が接種券の二重発行を懸念したため、受刑者は後回しになってしまったために生じている。今後、自治体による柔軟な対応が求められる。(参考)服役先に住民票なし・家族が接種券送ってくれない…感染者急増の受刑者、接種に遅れ(読売新聞)刑務所で受刑者159人感染、全収容者の約半数「ずっと部屋の中にいる…防ぐのは難しい」(読売新聞)

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第125回 医療DXの要「マイナ保険証」定着に向けて日医を取り込む国・厚労省の狙いとは(後編)かかりつけ医制度の議論を目くらましにDX推進?

“新改良ワクチン”FDA承認、日本も早晩申請、承認か?こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。さて、「第122回 米国では使わない2価の“旧改良ワクチン”を日本は無理やり買わされる?国のコロナワクチン対策への素朴な疑問」で書いた“新改良ワクチン”に関して新しい動きがありました。米国食品医薬品局(FDA)は8月31日、米・モデルナ、米・ファイザーと独・ビオンテックがそれぞれ開発したオミクロン株のBA.4とBA.5に対応するワクチン、いわゆる“新改良ワクチン”ついて、追加接種に対する緊急使用の許可を出しました。モデルナのワクチンは18歳以上、ファイザー・ビオンテックのワクチンは12歳以上の、それぞれ追加接種に対する緊急使用の許可です。なお、初回接種としては使えず、追加接種に限定されるとのことです。また、今回の承認によって、従来型ワクチンは追加接種に利用できなくなるそうです。“新改良ワクチン”はいずれも、オミクロン株のBA.4とBA.5に対応する成分と、従来の新型コロナウイルスに対応する成分の2種類を含む2価ワクチンです。翌9月1日には、米疾病対策センター(CDC)がこの“新改良ワクチン”の接種を推奨すると発表しています。ちなみに日本において両社が申請中の2価ワクチンは、BA.1に対応する成分と、従来の新型コロナウイルスに対応する成分の2種類を含む“旧改良ワクチン”です。ただし、ファイザーは9月1日、日本国内でも “新改良ワクチン”の製造販売の承認を厚生労働省に近く申請すると発表しています。“旧改良ワクチン”は今月中旬に予定されている専門部会を経て承認されれば、当初予定の10月中旬からの接種開始を前倒しし、9月中にも始まる見通しです。しかし、もっと効くと予想される“新改良ワクチン”がその後すぐに投入されるとなると、現場の混乱も予想されます。そもそも、“新改良ワクチン”がもうすぐ出るのに、“旧改良ワクチン”を積極的に打とうという人が現れるでしょうか。また、“新改良ワクチン”を承認したら、国が契約して買ってしまった(と思われる)“旧改良ワクチン”は廃棄処分となるのでしょうか。今後の新型コロナワクチンの動きがとても気になります。マイナンバーと保険証情報の紐付けはすでに終了済みさて今回は、前回に続いてマイナンバーカードを保険証として使う「マイナ保険証」マイナンバーカードを保険証として使う「マイナ保険証」について書いてみたいと思います。せっかくなので、私も先週、スマホを使ってマイナポータルというアプリからマイナ保険証の申請をやってみました。マイナンバーカードはすでに持っており、マイナポータルも利用したことがあるので、申請手続きは躓くこともなくスムーズに行きました。実際に申請を行って驚いたことが一つあります。「申請」を行うと、特に保険者や保険証番号等の情報を入力しなくても瞬時にマイナンバーカードがマイナ保険証になったのです。どうやら、保険者(健保組合や国保を運営する市町村など)においては既に、マイナンバーと保険証情報の紐付けは終わっており、我々国民の「申請」とはその紐付けを「了承」するということのようなのです。皆さん、知っていましたか?インフラはすでに相当程度出来上がっているものの、「国民に納得してもらう」作業が莫大に残っているというのが、マイナンバーカードと言えそうです。カード自体の発行も含めて……。ただ、つくづく思うのはこうした各種申請作業は70代以降の高齢者にはかなりハードルが高いだろうということです。個人的には、スマホも持たずキャッシュレスサービスの利用もしない90代の父親に、どうやったらマイナポイントを取得させ、使わせるかに頭を悩ませています。医療関係団体のこぞって協力する姿勢がとても不思議前回は、厚生労働省と三師会(日本医師会、日本歯科医師会、日本薬剤師会)が合同で開催した「オンライン資格確認等システムに関するWEB説明会」の内容を紹介し、マイナ保険証のシステムは将来的に、レセプト・特定健診等情報の共有に加えて、予防接種、電子処方箋情報、電子カルテ等の医療情報についても共有・交換できるようになり、「全国医療情報プラットフォーム」の構築につながると書きました。このプラットフォームができれば、患者の受療行動や、医療機関で提供された治療や投薬の情報が丸裸になります。そうなると、当然それらのデータを基に、究極的に効率化された(ムダを省いた)医療提供の仕組みが国によってデザインされ、医療機関にも求められるようになるでしょう。さらには、重複受診、重複投与、ムダな薬剤投与、的外れの治療などが他医にもバレてしまいます。そう考えると、日本医師会をはじめ、医療関係団体がこぞって協力する姿勢を示していることがとても不思議です。日本医師会はこれまで、かかりつけ医制度やリフィル処方など、効率的な医療提供体制に資するような政策には頑なに反対してきました。一体、どうしたのでしょうか?ポイントは3度目となる厚生労働大臣に就いた加藤勝信氏考えられる一つのポイントは、8月に発足した新内閣において、3度目となる厚生労働大臣に就いた加藤 勝信氏ではないかと推察されます。今年6月、中川 俊男前会長から松本 吉郎新会長に替わった日本医師会は、悪化していたと言われる政権との関係の再構築を目指しています。そこに過去に厚労相を経験し、日医とも良好な関係にあった加藤氏の厚労相就任は、まさに朗報、渡りに船であったに違いありません。一方、とにかくDXを推進したい岸田 文雄首相は、特に何の実績も残せなかった牧島 かれん氏に替えて河野 太郎氏をデジタル大臣に据え、さらにDXを目に見える形で推進しやすい医療分野の牽引役として、加藤氏を厚労相に据えました。加藤氏なら日医をうまく説得しつつ、マイナ保険証、ひいては医療DXをうまく進めてくれると期待したのではないでしょうか。加藤厚労相が作った自民党「医療DX令和ビジョン2030」日本医師会は、「加藤氏なら日医にそんなにアコギなことはしないだろう。目一杯協力しよう」と考えたのかもしれません。ただ、ちょっとその見立ては甘いかもしれません。6月7日に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針」(骨太方針2022)でオンライン資格確認(いわゆるマイナンバーカードの保険証利用)の2023年4月からの原則義務化と、現行の保険証の原則廃止の方向性が示されました。その3週間前の5月17日、自由民主党政務調査会の社会保障制度調査会・デジタル社会推進本部、健康・医療情報システム推進合同PTは「医療DX令和ビジョン2030」の提言を発表しました1)。骨太方針への記載を意識しての提言と思われますが、このビジョン取りまとめの中心人物の一人が加藤氏です。同ビジョンは、日本の医療分野の情報のあり方を根本から解決するため、1)「全国医療情報プラットフォーム」の創設、2)電子カルテ情報の標準化、3)「診療報酬改定DX」の取り組み、を並行して進めるよう提言。これにより、患者・国民には診療の質の向上、重複検査・投薬の回避、医療保険の制度運営にかかる国民負担の軽減などのメリットが、医療関係者には医療サービスの向上や電子カルテにかかる費用の低減などのメリットが、システムベンダには医療サービスの高度化に向けて競争するという構造改革の実現などのメリットが生じるとしています。「全国医療情報プラットフォーム」で全ての診療行為をガラス張りにそう考えると、加藤厚労相は、親日医の姿勢を見せつつ、マイナ保険証を突破口として医療DXを強力に推進するために岸田首相から医療界に送り込まれた“刺客”という見方もできるかもしれません。加藤厚労相も、今よりももっと“上”を目指すには、日医との関係構築よりも社会保障費や医療費の削減に注力することの方が重要だということはわかっているはずです。松本新会長になってから、かかりつけ医の議論も低調気味の印象です。ひょっとしたら、マイナ保険証に協力するからそこにはもうあまり触れないで欲しい、といった手打ちがあったのかもしれません。そもそも、医療費抑制のためには、かかりつけ医制度を面倒な議論をしてつくるより、「全国医療情報プラットフォーム」をつくってすべての診療行為をガラス張りにして、理詰めで制限をかけていくほうが、効率が良いに違いありません。かかりつけ医制度の議論などを目くらましにして、医療DXの推進を一気に進めようとしているとしたら、岸田首相や財務省もなかなかの策士と言えるでしょう。DX推進で『首相≒財務省≒厚労省』vs.『日本医師会』に変質か?デジタル庁では、財務省主計官、内閣官房内閣審議官などを歴任し、医療・社会保障に詳しい向井 治紀氏が参与として働いています。その向井氏は7月12日に開かれた日本医業経営コンサルタント協会主催のセミナーで講演し、「骨太方針2022」に盛り込まれた「診療報酬改定DX」などについて言及しました。ミクスOnlineなどの報道によれば、向井氏は「診療報酬改定DX」について、「医療保険業務全体のコストを削減し、将来的には保険料も公費も含めて全体のコスト削減になることを念頭に置いている」と述べ、保険証の原則廃止が骨太方針に盛り込まれたことについては、「今回の閣議決定は、政府として大胆な決定をしたとご理解いただきたい」と強調したとのことです。さらに医療DXの推進について、「デジタル庁も厚労省としっかりタッグを組まないといけない。重要なのは、どういう政府の推進体制であるか(中略)。縦割りでうまくいかなかった例が医療の世界でも社会保障の世界でも多数ある。そういうことがないような体制を作れるように大島厚生労働事務次官と話をしていきたい」と語ったそうです。マイナ保険証と医療DXが政策の前面に出てきたことで、「第80回 『首相≒財務省』vs.『厚労省≒日本医師会』の対立構造下で進む岸田政権の医療政策」などで度々書いてきたこの対立構造は今後、「首相≒財務省≒厚労省」vs.「日本医師会」に徐々に変質していくのかもしれません。参考1)「医療DX令和ビジョン2030」の提言/自由民主党政務調査会 社会保障制度調査会・デジタル社会推進本部 健康・医療情報システム推進合同PT

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第124回 医療DXの要「マイナ保険証」定着に向けて日医を取り込む国・厚労省の狙いとは(前編)未対応は最悪保険医取り消しも

普及進まぬマイナンバーカード保険証こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。夏の甲子園が終わり、脱力していたらロサンゼルス・エンジェルスの身売り話が飛び込んで来ました。来季以降の大谷 翔平選手の去就に注目が集まる中、MLBでは喜ばしい話題もありました。シアトル・マリナーズ球団会長付特別補佐兼インストラクターのイチロー氏が27日(日本時間28日)、球団殿堂入り(MLBの野球殿堂ではなく球団独自の殿堂です)のセレモニーで15分を超える英語のスピーチを行い、超満員のスタンドを沸かせました。決して流暢とは言えない英語ながら、ユーモア溢れるそのスピーチは、英語での学会発表が苦手な皆さんにも参考になるのではないでしょうか1)。さて、世の中、相変わらずDX(デジタル・トランスフォーメーション)流行りです。ということで今回は、8月24日に開催された、医療機関向けの「オンライン資格確認等システムに関するWEB説明会」について書いてみたいと思います。「オンライン資格確認等システム」とは、マイナンバーカードを保険証として使う「マイナ保険証」のことで、これからの日本の医療DXの要とも言われています。ただ、その普及の割合はまだまだ低く、岸田 文雄首相も進捗の遅さにイラついているとも言われています。厚生労働省と三師会による合同説明会厚生労働省と三師会(日本医師会、日本歯科医師会、日本薬剤師会)が合同で開催した「オンライン資格確認等システムに関するWEB説明会」は、8月24日夜、18時30分からYouTube上で開催されました。約1万6,000人が参加し、医療関係者の関心の高さがうかがえました2)3)。冒頭、厚生労働省の伊原 和人保険局長が挨拶し、オンライン資格確認は「今後のデータヘルスの甚盤になる仕組み」と語り、「原則義務化されることを踏まえ、速やかに顔認証付きカードリーダーが届けられるよう従来の受注生産を事前生産にすることにしており、導入の準備を進めていただきたい」と要請。続いて日本医師会、日本歯科医師会、日本薬剤師会の3師会の担当役員も挨拶し、揃って「早く導入しましょう。大変役立ちます」と訴えかけました。説明会の後半には、顔認認証付きカードリーダーのメーカーのプレゼンまで盛り込んだそのプログラムからは、遅々として進まぬマイナ保険証の普及・定着に対する、厚労省(と医療DX推進本部の長となる岸田首相)の焦りが伝わってくるようでもありました。中医協答申でオンライン資格確認導入の原則義務化が決定この説明会は、8月10日に開かれた中央社会保険医療協議会において、オンライン資格確認(いわゆるマイナンバーカードの保険証利用)導入の原則義務化が決定したことを受けて、急遽開催が決まったものです。6月7日に閣議決定されていた「経済財政運営と改革の基本方針」(骨太方針2022)で、オンライン資格確認を2023年4月から原則義務化し、現行の保険証の原則廃止の方向性は示されていました。8月10日、中医協が後藤 茂之厚生労働大臣(当時)に答申し、それが正式決定となったのです。保険医療機関運営の“法律”である「保険医療機関及び保険医療養担当規則」にその旨が定められることになったことで、マイナ保険証導入に向けての強制力は一段と強まったと言えるでしょう。「原則義務化」で例外もあるにはあるのですが、その例外は院長が高齢などの理由から紙レセプトでの請求が認められているごくわずかの保険医療機関・薬局に限られ、全体の4%ほどに過ぎません。ほとんどの医療機関はあと7ヵ月の間に「マイナ保険証」に対応しなければならないのです。ちなみに、既に運用開始した医療機関等は2022年8月14日時点で26.8%だそうです。なお、8月10日の中医協ではマイナ保険証対応に向け、医療機関、薬局向けの補助の拡充や、マイナ保険証を使う患者の自己負担の方が高いという現状の問題点を解決するための、10月1日からの診療報酬上の加算の取り扱いの見直しも決定しています。「全国医療情報プラットフォーム」の創設につなげるオンライン資格確認等システム、いわゆるマイナ保険証は、日本の医療DXの基盤になるものと位置づけられています。「骨太方針2022」では、マイナ保険証のシステムを、当初のレセプト・特定健診等情報の共有に加えて、予防接種、電子処方箋情報、電子カルテ等の医療情報についても共有・交換できるようにし、「全国医療情報プラットフォーム」の創設につなげるとしています。なお、今回の説明会の資料では、オンライン資格確認のメリットとして、次の2点が強調されていました。1)医療機関・薬局の窓口で、患者の方の直近の資格情報等(加入している医療保険や自己負担限度額等)が確認できるようになり、期限切れの保険証による受診で発生する過誤請求や手入力による手間等による事務コストが削減。2)マイナンバーカードを用いた本人確認を行うことにより、医療機関や薬局において特定健診等の情報や薬剤情報を閲覧できるようになり、より良い医療を受けられる環境に(マイナポータルでの閲覧も可能)。導入しなければ「保険医療機関等の指定の取り消し事由になりうる」24日の説明会そのものは制度概要の説明から、体制整備に向けての医療機関に対する補助金の仕組みの解説など、事務的に進みましたが、「導入義務対象機関が来年4月導入に間に合わない場合にどうなるか」という質問に対して、厚生労働省保険局医療介護連携政策課の水谷 忠由課長が「保険医療機関等の指定の取り消し事由になりうる。療担規則が順守されないと地方厚生局で丁寧な指導を受けることになり、個別事案ごとに適宜判断される」との回答には、関係者は驚いたのではないでしょうか。救済措置の検討も予定されているようですが、救済措置は「関係者それぞれがしっかり対応を進めることを大前提に、それでもやむを得ない場合について検討する」(水谷課長)とのことです。救済措置の状況を待つことなく医療機関は「オンライン資格確認等システム導入に向けた顔認証付きカードリーダーの申し込み、システムベンダーとの契約を一刻も早く進めて欲しい」と水谷課長は強調していました。受療行動や、医療機関で提供された治療や投薬の情報が丸裸にさて、マイナ保険証の原則義務化で一体何が起るでしょうか。説明会では医療機関側の業務の効率化が盛んに強調されていましたが、国が最も期待するのは、先に示したメリットのうち2)であることは明らかでしょう。「全国医療情報プラットフォーム」が整備されれば、レセプト情報、さらに電子カルテ情報まで情報共有が行われることになります。この日の説明会でも、閲覧可能な情報が現行の薬剤情報、特定健診情報に加えて、9月からは透析、医療機関名の情報が、2023年5月からは手術情報が追加されると報告されています。患者の受療行動や、医療機関で提供された治療や投薬の情報が丸裸にされるということは、それらのデータを基に、究極的に効率化された(ムダを省いた)医療提供の仕組みがデザインされ、それが現場に要求されることを意味します。どこまでの情報が開示されるようになるかわかりませんが、重複受診、重複投与、ムダな薬剤投与、的外れの治療などが、他医にもばれてしまうわけで、「日本医師会をはじめ、医療関係団体がよくこぞって協力するな」というのが私の正直な感想です。「自院の治療は他の医師に見られたくない」というのが、多くの医師の本音でもあるからです。「首相≒財務省」vs.「厚労省≒日本医師会」の対立構造に変化?岸田首相は7月の参院選勝利を受け、8月10日に内閣改造を行いました。新内閣では加藤 勝信氏が3度目となる厚生労働大臣に就きました。親日医と見られる加藤厚労相が再び登用されただけでなく、厚労副大臣には日医推薦の羽生田 俊参議院議員が選ばれています。今年6月、中川 俊男前会長から松本 吉郎新会長に替わってからの政府の日本医師会への寄り添い振りは、やや気持ちが悪いくらいです。7月の参議院選挙直後、本連載の「第117回 医師法違反は手術だけではない!工学技士に手術をさせた病院が研修すべき『もう一つのこと』」で、「これから財務省主導の医療政策が、医療提供体制改革の“本丸”(病院の再編や、かかりつけ医の制度化など)に、どこまで切り込んでいくかが注目されます」と書きましたが、マイナ保険証と医療DXが政策の前面に出てきたことで、「第80回 『首相≒財務省』vs.『厚労省≒日本医師会』の対立構造下で進む岸田政権の医療政策」などで度々書いてきた、この対立構造に少なからぬ変化が出てきたように見えます。(この稿続く)。参考1)イチロー氏のフルスピーチ2)厚生労働省・3師会 医療機関向けライブ配信/厚生労働省 保険局3)厚生労働省・3師会 医療機関向けライブ配信 当日資料/厚生労働省 保険局

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