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第285回 訪問看護と有料老人ホームに規制強化の動き、現場からは「こんなもので本当にホスピス型住宅における過剰なサービス提供にブレーキをかけられるのか」との厳しい声も

ホスピス型住宅の「実態ない診療報酬請求」事件に関連して厚生労働省などで規制の動きこんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。この週末は、百名山ハンターをしている山仲間に付き合って、紀伊半島の大峰山(八経ヶ岳)と大台ケ原(日出ヶ岳)を登ってきました。東京から京都経由で橿原神宮に入り、レンタカーでぐるりと回って3日間で2峰を落とす(しかも雨の中)という強行軍です。というわけで高市 早苗・自民党新総裁の故郷、奈良県の山間の細い国道、県道を250キロ近く走って実感したのですが、奈良を含め紀伊半島はとても山深くかつ神秘的ですね。中でも大峰山(熊野古道の一部も走っています)は修験道の山としても知られており、山上ヶ岳は今でも宗教的理由から女人禁制が守られており、女人結界門から先は女性の入山が認められていません。日本ではもうほとんどないと言われる女人規制の山が存在する県から、日本初の女性総理が誕生するかもしれないとは……。昨今の政治状況を鑑みるになかなかに意味深なことであるなあと思いながら奈良を後にしました。さて今回は、「第280回 ターミナルケア・ビジネスの危うさ露呈、『医心館』で発覚した『実態ない診療報酬請求』、調査結果の解釈はシロなのかグレーなのか?(前編)」、「第281回 同(後編)」で書いた、アンビスホールディングス(東京都中央区、代表取締役CEO柴原 慶一)の子会社のアンビス(東京都中央区)が運営する末期がん患者や難病患者向けのホスピス型住宅「医心館」で発覚した「実態ない診療報酬請求」事件に関連して、厚生労働省などで興味深い動きがありましたので、それについて書いてみたいと思います。報告書は“グレー”と言っているのに“我々はシロだった”と強引に解釈アンビスホールディングスが8月8日に公表した特別調査委員会の報告書は、「本件通知(厚労省通知)に定める訪問看護時間に比して明らかに短時間であると認められる事例や、複数名訪問の同行者を欠いたと認められる事例が存した。また、勤怠記録と訪問看護記録の齟齬並びに確定時期の異常値に照らせば、訪問実態に疑義を呈さざるを得ない事例も存した」として、記録の不備、営利優先の発想の存在、法令遵守の意識の低さ、業務遂行を確保する組織体制の不十分さなど、さまざまな問題点を指摘、「批判を受けるに値する」としつつも「多額の診療報酬を受けるために架空の事実をねつ造したような悪質な不正請求の事案とまでは認められない」としました。この報告書を受けてアンビスホールディングスは「訪問看護における医療行為が実態のあるものと特別調査委員会により判断されたものと認識」「看護実態について根拠資料の記載が不十分であると認定されたケースは、記録の登録ミス及び記載不足などによる形式的なエラーがその大部分を占めるものと認識」などと、意図的な不正請求はなかった点を強調するコメントを出しました。報告書は”グレー”と言っているのに”我々はシロだった”と強引に解釈しているようで違和感を覚えたのですが、厚労省もやはり同様の違和感を抱いたようです。2026年改定では、主治医が指示書に必要性を明記している場合に限り頻繁な提供を認める方針厚労省は10月1日、中央社会保険医療協議会(中医協)の総会で、有料老人ホームなどで訪問看護を過剰に提供する事業者への規制を強化する方針を明らかにしました。ホスピス型有料老人ホームの入居者らを対象に、一部の事業者による不正な診療報酬請求の横行が疑われることを踏まえたものです。「不正」とは具体的には、必要ないのに「1日3回」の頻繁な訪問や、複数人での訪問、報酬加算が得られる早朝・夜間や深夜の実施などです。2026年度の診療報酬改定で、主治医が指示書に必要性を明記している場合に限り、頻繁な提供を認めることになりそうです。報酬自体も引き下げられるかもしれません。ホームと資本・提携関係のある介護サービス事業所や居宅介護支援事業所の利用を契約条件とすることなどを禁止に続く10月3日、厚労省は「有料老人ホームにおける望ましいサービス提供のあり方に関する検討会」を開催し、これまでの議論の課題と論点を整理した取りまとめの素案を提示しました。同検討会は住宅型有料老人ホームなどでの過剰な介護サービスの提供、いわゆる「囲い込み」や、高齢者住まいの入居者紹介事業者への高額な紹介手数料の問題などを議論してきました。素案では、入居契約とケアマネジメント契約が独立していること、契約締結やケアプラン作成の順番といったプロセスにかかる手順書やガイドラインをまとめておき入居希望者に対して明示すること、契約締結が手順書やガイドライン通りに行われているかどうかなどを行政が事後チェックできる仕組みを作ることなどが挙げられています。また入居契約において、ホームと資本・提携関係のある介護サービス事業所や居宅介護支援事業所の利用を契約条件とすることや、そうした外付けサービスを利用する場合に家賃優遇といった条件付けを行うことや、かかりつけ医やケアマネジャーの変更を利用者に強要することを禁止する措置を設ける方針も挙げられました。さらに、中重度の要介護者や医療ケアを要する要介護者などを⼊居対象とする有料⽼⼈ホームについては、現⾏の届け出制から登録制に切り替える案も提示されました。アンビスが運営しているホスピス型住宅は、施設のカテゴリーとしては「住宅型有料老人ホーム」に位置付けられます。住宅型とは、施設内のスタッフではなく、外部(といっても、併設の訪問看護ステーション、訪問介護事業所を使うケースが大半ですが)スタッフによって看護・介護を提供します。この素案が仮にそのまま制度化されるとなると、ホームと資本・提携関係のある介護サービス事業所や居宅介護支援事業所の利用を強制できなくなるわけで、現実にそんなことが可能かどうかは別として、経営的には少なからぬダメージとなるでしょう。医療法人理事長と訪問看護会社の社長がホスピス型住宅の適正化を要望このように、悪質な有料老人ホームへの締め付けは一見強まっているように見えますが、まだまだ「甘い」と指摘する人もいます。10月3日付のメディファクスは、ホスピス型住宅で不正・過剰請求や居者の不利益が生じていることに関連して、医療法人社団悠翔会の佐々木 淳理事長と、訪問看護の会社Graceの西村 直之代表取締役が厚労省を訪問、鰐淵 洋子厚労副大臣らに要望書を提出、適正化を訴えたと報じています。同記事によれば、「要望書では、ホスピス型住宅を運営する企業で、不正請求が明らかになった事例を指摘。不正が発覚した企業への監査が必要だとした。さらに、他の企業でも不正・過剰請求が起きているのではないか、と懸念を示している」としています。対応した鰐淵副大臣も問題意識を示したとのことです。悠翔会の佐々木氏は首都圏を中心に多数の在宅医療のクリニックを経営するとともに、内閣府の規制改革推進会議専門委員(健康・医療・介護)も務める論客です。その佐々木氏は自身のXにこの厚労省訪問についてポスト、中医協が検討する「主治医が指示書に必要性を明記している場合に限り、頻繁な提供を認める」案では甘く「このままだと例によって本丸は無傷、まじめな事業所のとばっちりで終わるパターンだと思います」と書いています。さらに佐々木氏は「こんなもので本当にホスピス型住宅における過剰なサービス提供にブレーキをかけられると思っているのでしょうか。すでに私たちは一部のホスピス型住宅運営者から『1日3回の訪問看護が必要と指示書に記載せよ』と具体的なリクエストを受けています。もちろん週に数回の訪問で十分な安定した患者にそんな指示を書けるわけがありません。しかし、この要求を拒絶すれば、主治医としての関わりが終わるだけ。結局、言われるがままに指示書を書いてくれる医者を囲い込み、ますますブラックボックス化するのでしょう」と中医協案への懸念を示しています。「ホスピス型住宅を新しい施設類型に定義し直し、特定施設と同様、包括報酬にすればいい」そして佐々木氏は「事実上の施設看護を在宅・訪問看護として取り扱うことの弊害」を指摘、「ホスピス型住宅を新しい施設類型に定義し直し、特定施設と同様、包括報酬にすればいいのではないでしょうか。無駄な看護を押し売りする必要はなくなるし、無駄な社会保障費の支出も大幅に圧縮できるはずです」と大胆な改革案を提案しています。まったくの正論と言えるでしょう。住宅型とは名ばかりで、併設するステーションから自前のスタッフに頻回に訪問させているのでは、介護付き有料老人ホーム、すなわち特定施設と何ら変わりはありません。介護付き有料老人ホームとは異なる特定施設の新類型をつくり、報酬もマルメて(包括化して)しまえば、そうそうアコギなことはできなくなるのではないでしょうか。しかしながら、残念なことに来年は介護報酬改定がありません。再来年の改定に向けて、有料老人ホームの類型や特定施設の制度の抜本的見直しが進むことを期待したいと思います。

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第284回 自由診療クリニックで相次ぐ再生医療等安全性確保法がらみの事件(後編)  個人輸入のウイルスベクターがカルタヘナ法に抵触し治療中止、怪しげな遺伝子治療はこれで駆逐に向かうか?

高市新総裁誕生で社会保障政策はどうなる?こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。自民党に初の女性総裁が誕生しました。高市 早苗総裁はこのまま行けば、日本初の女性総理大臣に就任します。社会保障分野での目立った実績はありませんが、第3次安倍内閣で総務大臣をしていた2015年には、「新公立病院改革ガイドライン」の策定に関与し、地域医療構想に沿った公立病院の病床機能分化・連携強化を推し進めました。菅 義偉元首相と同様、病院経営や病院リストラに関しては一定の素養がある(石破 茂現首相はそうした素養ゼロ)とみられます。総裁選のマニフェストに「地域医療・福祉の持続・安定に向け、コスト高に応じた診療・介護報酬の見直しや人材育成支援を行います」と書いていることを踏まえると、苦境に立つ医療機関(とくに病院)経営を考慮して、来年の診療報酬改定にはそれなりの追い風となる気もしますが、一方で、病院再編に向けては大ナタを振るうかもしれません。とは言え、社会保障財源不足の状況は変わりません。また、連立政権の枠組みも不安定で、法案成立にも相当苦労するでしょう(「新たな地域医療構想」を定めた医療法改正案はまだ成立していません)。総理大臣就任後の社会保障政策を注視したいと思います。さて、今回も前回に引き続き、都内のクリニックで発覚した、再生医療等安全性確保法がらみの事件について書いてみたいと思います。こちらは、同法に加えて遺伝子改変した動植物が拡散することを防ぐ「遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律(カルタヘナ法)」にも抵触したケースでした。中国から個人輸入した未承認の医薬品を進行・末期がんの患者に対し自由診療で使用8月22日付の朝日新聞等の報道によると、厚生労働省と環境省は同日、医療法人社団DAP・北青山D.CLINIC(東京都渋谷区)の阿保 義久院長に対し、カルタヘナ法に基づく措置命令を下し、手続きを経ていない製剤の適切な廃棄などを命じました。カルタヘナ法に基づく自由診療への措置命令は初めてとのことです。同クリニックは「CDC6shRNA治療」と称して、中国から個人輸入した未承認の医薬品を進行・末期がんの患者に対し自由診療で使用していました。「CDC6shRNA治療」はがん細胞の無限増殖を促すタンパク質であるCDC6を標的とした遺伝子治療で、CDC6に対応するshRNAをレンチウイルスベクターを使ってがん細胞に送達し、CDC6の発現をノックダウンするというもの。ウイルスベクターを用いる治療法のため、カルタヘナ法に基づく届け出が必要にもかかわらず、届け出が行われていませんでした。 遺伝子治療は、昨年改正された再生医療等安全性確保法で新たに規制対象に含まれることになりました(施行は2025年5月31日)。改正前は「細胞加工物」を用いる治療が規制対象であり、体内で直接遺伝子の導入・改変を行う治療法(核酸やウイルスベクター等を用いたもの)は対象外でした。しかし、多種多様、有象無象の遺伝子治療が自由診療の医療機関などで広がりを見せていることを背景に、安全性・信頼性を担保するために、新たに規制対象となりました。同クリニックは改正再生医療等安全性確保法に則った届け出の準備を進める過程で、「CDC6shRNA治療」がカルタヘナ法に基づいた承認も必要だと認識し、厚労省に相談したことでカルタヘナ法に違反した状態だったことが判明、今回の措置命令となりました。遺伝子組換え生物等を取り扱う際に、生物多様性への悪影響を未然に防止するために規制措置を講じることを目的としたカルタヘナ法カルタヘナ法は、遺伝子組換え生物等を取り扱う際に、生物多様性への悪影響を未然に防止するために規制措置を講じることを目的とした法律です。バイオセーフティに関する国際合意「カルタヘナ議定書」に基づいて2004年に施行されました。医療分野に限らず、農業分野、食品分野など遺伝子組換え生物を扱うあらゆる分野が対象となります。遺伝子治療を実施する際は、遺伝子組換え生物ごとに第一種使用(環境中への拡散を防止しないで行う使用等)、第二種使用(環境中への拡散を防止しつつ行う使用等)の認定を受け、厚生労働省への申請および承認が必要となります。今回のレンチウイルスを用いたin vivo(患者体内)の遺伝子治療は第一種使用に該当し、同法の規制対象だったわけですが、用いたウイルスは「複製能力を持たず自然条件下で組み換えを起こすことは極めて低いこと」等の理由で、同クリニックは規制対象外だと判断していたとのことです。患者への同意文書には「がん細胞に特異的に発生するCDC6というたんぱくを消去するための遺伝子を投与する」と記載 各紙報道によれば、同クリニックでは、この「CDC6shRNA治療」を2009年以降、末期がん患者等3,000人以上に提供していました。患者への同意文書には「がん細胞に特異的に発生するCDC6というたんぱくを消去するための遺伝子を投与する」と記載、治療は1週間に1〜2回の頻度で、9月3日付の日経バイオテクの報道によれば、「料金は1回当たり約30万円〜80万円」だったそうです。ちなみに、現在、「CDC6shRNA治療」が保険適用されている国はどこにもなく、臨床試験にも至っていません。国内では、がん患者などを対象に、科学的根拠が十分ではない遺伝子治療が、全額患者の自費負担になる自由診療として多く実施されています。実際、この「CDC6shRNA治療」も、インターネットで検索すると北青山D.CLINIC以外にも実施していそうなところがいくつか出てきます。こうした医療機関においても、仮にウイルスベクターを用いているとすれば、すぐにでも再生医療等安全性確保法とカルタヘナ法に則った対応が必要になります。北青山D.CLINICのホームページに掲載された「遺伝子治療の現況と経緯」と題する報告には、「遺伝子治療の一時停止」を詫びるとともに、「本治療の早期再開が必要な患者さん方の期待に応えられるよう速やかに治療の再開を果たすべく再生医療等安全性確保法及びカルタヘナ法の手続きに急ぎ着手しております。同法の申請手続きにおいて、行政府の承認、許可を得るのに相応の時間を要すると聞いておりますが、可及的速やかに治療の再開が果たせるように尽力いたします」と書かれています。しかし、現実問題としてその再開は難しそうです。遺伝子治療がダメでもエクソソーム療法が、規制当局と医療機関のイタチごっこはまだまだ続く改正された再生医療等安全性確保法では、核酸等を用いる医療技術は最も高いリスクが想定される「第一種再生医療等技術」に分類されました。これによって、適用対象の治療を提供するには、医療機関が第一種再生医療等提供計画を作成し、特定認定再生医療等委員会を経た上で、厚生労働大臣へ計画を提出。厚生科学審議会(再生医療等評価部会)への諮問を経て、承認されることが必要です。さらに、医療機関が国内外の施設に製剤の製造を委託するには、特定細胞加工物等製造施設を届け出た上で、医薬品医療機器総合機構の調査を経て、許可や認定を受けなければなりません。今回のケースでは、製造元の中国企業の製造施設を届け出て調査を受ける必要が出てきます。9月8日付の日経バイオテクはこうした手続きと承認に至るまでのハードルの高さを指摘、「『事実上、きちんとしたエビデンスが蓄積された提供計画でないと厚生科学審議会は通らないと見られる。また、PMDAの調査もハードルは高い』と厚労省の関係者は指摘します」と書いています。というわけで、エビデンスが希薄にもかかわらず患者から暴利を貪る怪しげな遺伝子治療は、日本においては実質的に駆逐に向かいそうです。しかし、再生医療に詳しい知人の記者は、「まだまだ抜け道がある。その一つがエクソソーム療法だ」と話します。「第189回 エクソソーム療法で死亡事故?日本再生医療学会が規制を求める中、真偽不明の“噂”が拡散し再生医療業界混乱中」でも書いたように、日本では細胞培養上清液やエクソソームは細胞断片であり、細胞には当たらないと整理されており、再生医療等安全性確保法の対象外となっています。インターネットで検索するとエクソソームを用いたがん治療を提供している自由診療の医療機関がたくさんヒットします。怪しげながん治療法を提供している医療機関の中には、法律のハードルが高くなった遺伝子治療からエクソソーム療法に鞍替えするところも多数出てくるでしょう。前回書いた「一般社団法人」の問題とあわせて、自由診療の医療機関で提供される怪しげな治療法を巡っては、規制当局と医療機関のイタチごっこはまだまだ続きそうです。

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第281回 ターミナルケア・ビジネスの危うさ露呈、「医心館」で発覚した「実態ない診療報酬請求」、調査結果の解釈はシロなのかグレーなのか?(後編)

「批判を受けるに値する」としつつも「架空の事実をねつ造したような悪質な不正請求の事案とまでは認められない」と報告書こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。先週9月11日木曜の東京の豪雨、すごかったですね。私は所用で大阪に行かなければならず、羽田空港にいました。14時搭乗予定が、「空港近辺に雷雲がある」との理由で15時搭乗に、乗ってからは「雷雲が近づいているので飛び立てない」ということで、結局2時間ほど機内に待機し、離陸したのは17時過ぎでした。今の世の中は便利なもので、スマホで「国土交通省 川の防災情報」サイトの「レーダー雨量」に行けば、ほぼリアルタイムで雨の状況が把握できます。14時の段階でチェックしたら、雨雲はまだ空港の北西5キロほどのところにあって30分以上は大丈夫そうでした。実際、空港が暴風雨の状態になったのは15時過ぎでした。管制が14時の段階から離陸を全面的にストップしていたのは果たして妥当だったのか、素人ながら疑問に感じました。その後の羽田空港の大混乱を考えると、暴風雨になる前に飛行機をもう少し飛ばしておけなかったのかと思った次第です。ちなみに、「国土交通省 川の防災情報」サイトの「レーダー雨量」は民間が提供する類似のアプリ(これらも国交省の同じデータを使っている)よりも正確で、とても役立ちます。自分のいる場所が何分後に雨になるか、どれくらい激しい雨になるかがかなり正確にわかります。ご存じない方は、一度覗いてみることをお勧めします。さて、前回に続いて、アンビスホールディングス(東京都中央区、代表取締役CEO柴原 慶一)の子会社のアンビス(東京都中央区)が運営する末期がん患者や難病患者向けのホスピス型住宅「医心館」で発覚した「実態ない診療報酬請求」事件について書いてみたいと思います。アンビスホールディングスが8月8日に公表した特別調査委員会の報告書は、「本件通知(厚労省通知)に定める訪問看護時間に比して明らかに短時間であると認められる事例や、複数名訪問の同行者を欠いたと認められる事例が存した。また、勤怠記録と訪問看護記録の齟齬並びに確定時期の異常値に照らせば、訪問実態に疑義を呈さざるを得ない事例も存した」として、さまざまな記録の不備、営利優先の発想の存在、法令遵守の意識の低さ、業務遂行を確保する組織体制の不十分さなど、さまざまな問題点を指摘、「批判を受けるに値する」としつつも「多額の診療報酬を受けるために架空の事実をねつ造したような悪質な不正請求の事案とまでは認められない」としました。「訪問看護における医療行為が実態のあるものと特別調査委員会により判断された」とアンビスが見解報告書を受けた後、アンビスホールディングスは「特別調査委員会の調査報告書受領に関するお知らせ」を公表しました。「お知らせ」では「本件調査での影響額としては63 百万円あまり(調査対象期間売上総額の0.05%程度)と僅少なもの」と報告、この金額について「訪問看護記録を検証した場合に、看護実態を示す記載が不十分であると認定されたものであり、看護実態がないと認定されたものではございません」とするとともに、「訪問看護における医療行為が実態のあるものと特別調査委員会により判断されたものと認識」「看護実態について根拠資料の記載が不十分であると認定されたケースは、記録の登録ミス及び記載不足などによる形式的なエラーがその大部分を占めるものと認識」など、意図的な不正請求はなかった点を強調しています。報告書は、端的に言えば“上場企業にもかかわらず運営体制はグダグダでひどすぎる”という内容でした。「批判を受けるに値する」という厳しい指摘もありました。しかし当のアンビスホールディングスは「訪問看護には実態があった。不正請求はなかったと判断された」と少々ズレた受け止め方をしていることに強い違和感を覚えたのですが、同様の違和感はマスコミの報道でも感じました。マスコミ報道も「実態ない診療報酬の請求」を問題視するグレー派と完全シロ派に二分特別調査委員の調査報告書が出ると、共同通信や全国紙の多くは、6,300万円という金額にフォーカスしてその内容を報じました。たとえば、最初にこの件をスクープした共同通信は8月8日付で「実態ない診療報酬の請求判明 医心館、訪問看護で6,300万円」と題する記事を発信、「医療保険が適用される訪問看護は原則30分の訪問が必要だが、報告書は数分程度の短時間の訪問が9,900件あったと指摘。『複数のスタッフで訪問した』と加算報酬を請求していたが、実態が認められないケースも約1,300件あった」と「実態ない診療報酬の請求」を強調する内容となっています。一方、8月11日付の現代ビジネスは「【結果はシロだった】ホスピス最大手・医心館「不正請求疑惑」…スクープ報道と『違いすぎた』調査報告書の内容」と題する記事を発信しています。この記事は、「特別調査委員会による報告書が公表された。その結果は『診療保険請求の要件を満たしていない可能性が高い案件は全体の0.05%程度であり、それ自体も、記録の不整備等に起因する事案であって、架空の事実を捏造したような悪質な不正請求の事案とまでは認められない』というものだった」と不正請求ではなく「シロ」だった点を強調、同社の看護職員の「報道があってから、(私たちが)悪人扱いされることも多くありました。正直、辛かったです。裏どりが甘い、放火的な報道に振り回された4ヵ月でしたが、報告書が『不正は認められない』と発表したことに心の底から安心しています」という言葉を紹介しつつ、「社内では、独自調査として報道を続けてきた共同通信社に対する訴訟も求める声も高まっているようだ」と、共同通信がまるで完全な”誤報”を放ったかのような、アンビス寄りの内容となっています。共同通信は報告書公表後に「会社の見解に社員反発」と続報普通に考えれば、不正請求は意図的にやろうが、記録の不備やミスで起ころうが、「不正」に変わりはありません。「不正請求の指示」が確認されなかったとしても、記録の不備など社内体制の未熟さによってルールを逸脱した請求が行われていたのは確かなわけで、あの調査報告書をもってして「シロ」と断言するのは言い過ぎではと思っていたら、8月27日付の共同通信が続報を放ちました。「コンプライアンス部長が改ざん指示、でも「組織的不正はない」 ホスピス住宅最大手「医心館」、会社の見解に社員反発」と題された記事は、報告書公表後に取材に応じた社員の声を報じています。同記事は、「『会社の発表を見て、びっくりしました』。医心館で働く看護師、尾形 里佳さん(仮名)はそう話す。『調査報告書を読めば、「不正がなかった」と言い切るのは無理があると思う』」という声を紹介するとともに、「アンビス社の複数の現・元社員は取材に対し、こう証言した。『必要ない人まで1日3回の訪問予定表が30分単位で組まれ、短時間で済んだ場合でも、予定表通りすべて30分実施したと記録していた』『複数人での訪問対象者の中には、必要ない人もいて、1人でやった場合でも、2人で訪問したことにしていた』」と単純な記載ミスではなかったと報じています。さらに同記事は、「尾形さんら複数の現・元社員は『社長が知らなかった』とする説明に『納得できない」と口をそろえる。(中略)今も医心館で働く尾形さんはこう話した。『社長は全社員向けに『反省している』というメールを送ってきたが、『不正はなかった』と言っている時点で、とてもそうは思えない。私たち社員は大切にされていないと以前から感じていた。私を含め、辞めようと思っているスタッフは多い。経営陣が交代して、会社を変えてほしい』」と続け、報告書に対する社の対応に不満を抱いている社員の存在を報じています。現代ビジネスも共同通信も、社員の声を持ってきて、それぞれ「シロ」「グレー(あるいはクロ?)」と言わせているのが対照的で非常に興味深いです。果たして、どちらが真実なのでしょうか。有料老人ホームの経営コンサルタントがIRに記載された「医心館」の経営概要を分析ホスピス型住宅は施設のカテゴリーとしては「住宅型有料老人ホーム」に位置付けられます。住宅型とは、施設内のスタッフによってではなく、外部から(といっても併設した訪問看護ステーション、訪問介護事業所からですが)訪問するスタッフによって看護・介護を提供するビジネスモデルです。2000年に介護保険制度が創設され、特定施設入所者生活介護という外付けのサービス提供の仕組みができて急増した施設カテゴリーですが、そもそも訪問看護や訪問介護の「不正請求」を生みやすい事業形態として、当初から問題視されてきました。有料老人ホームの経営コンサルティングに長年携わってきたタムラプランニング&オペレーティング社長の田村 明孝氏は、同社のWebサイトに連載しているコラムの4月10日公開分(タイトル「アンビス社IRから見た「医心館」の経営とは」)に、「『医心館』の経営はどのように行われていたか、密室性が高く分かりづらい。というのは、マスコミの取材や筆者のような外部からの見学は基本的に断られるからだ。そこで、同社が発表する決算報告書などのIRから、どのような運営が行われているか窺ってみることとする」と書き、IRに記載された「医心館」の経営概要を分析した上で次のように記しています。「一般的な住宅型有料老人ホームより高収益を稼ぎ出す打ち出の小槌は訪問看護」「通常、有料老人ホーム事業を開設するには、(中略)どんなに急ピッチで急いでも、年に2から3ホームが限界だ。この10倍のピッチとなり、かなり荒い運営が想像される。『医心館』が、このような、なんとも恐ろしいピッチで開設されていることに驚いた。さらに驚くのは、毎月1,000名もの入居者(退院患者?)を病院や医療機関から受け入れ、800人以上の癌末期患者を新規入居させ、その後約1月で亡くなるということだ。残りの200人未満は癌末以外の入居者で、1ヵ月以上の生存率なのだろう。この入居者は別表7や8(訪問看護において「特別な取扱いの対象」となる利用者を定めた表)に該当する難病指定患者などが多いだろうかと、邪推が働く。1室あたり売上高=年間売り上げ予想額/定員数/12カ月/稼働率この計算結果は77万円となる。一般的な住宅型有料老人ホームの売り上げ(居住費・食費・光熱費等・介護報酬)が48万円(厚労省調べ)に対して、はるかに高い売り上げとなる。この売上の差は診療報酬で、高収益を稼ぎ出す打ち出の小槌は、訪問看護だと納得できる。驚異的なスピード感で人の死を看取ることに、怖さを感じるのは筆者だけだろうか」。6,300万円は「調査委員会が勝手に決めた独自の推定による判断基準に基づいた甘い算定」と田村氏田村氏はさらに調査報告書が公表された後、9月8日にも新しいコラム(タイトル「アンビス報告書による不正請求額は6,300万円?63億円の間違いでは?」)を公開、6,300万円という金額の低さに対し「調査委員会が示しているように、本来の不正請求の実調とはかけ離れた、調査委員会が勝手に決めた独自の推定による判断基準に基づいた甘い算定となっている。通常、看護記録がなかった、看護実態と記録が合致しないなどの事項は、不正請求とされるのが一般的であることから鑑みると、こんな低い不正請求金額で済むはずもない。本年2月、同様に訪問看護不正請求を報道されたサンウェルズの調査委員会による不正請求額が約28億円であることから鑑みても、アンビスの不正請求額が6,300万円では社会が納得するはずもない」と強い疑義を呈しています。その上で、前述した「お知らせ」について「一連の報道に対する、上場企業としての社会的責任を負った企業の回答とは程遠く、報告書をも曲解して自己弁護に走るアンビスの姿勢からは、反省するどころか、調査委員会の再発防止策の提言を受け入れる気配も見て取れない。(中略)多死化の時代を迎えて、ホスピス住宅の適切な在り方を社会全体で考えていく必要があることからも、一連の報道に基づく事実関係をはっきりさせ、社会的信用を取り戻すべくホスピス住宅の新たな制度の創設の必要がある」と、ホスピス住宅業界の健全化を強く訴えています。有料老人ホームをはじめとする高齢者住宅業界の発展と健全化に長年携わってきた田村氏だからこそ言い切れる「正論」だと感じました。多死社会はこれから本格化します。2040年まで死亡数は増加傾向でピーク時には年間170万人になると推計されています。それに伴い、ホスピス型住宅のニーズも高まっていくでしょう。サンウェルズやアンビスの不正請求や「実態ない診療報酬請求」が顕在化してくる状況は、支払基金や地方厚生局(つまり国)のチェックの甘さと、業界の自浄作用のなさの表れとも言えます。田村氏が指摘するように、ホスピス住宅の新たなレギュレーションを早急に整備する必要がありそうです。

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第280回 ターミナルケア・ビジネスの危うさ露呈、「医心館」で発覚した「実態ない診療報酬請求」、調査結果の解釈はシロなのかグレーなのか?(前編)

アンビス運営のホスピス型住宅で起きていたと報道された診療報酬の不正請求について特別調査委員会が報告書を公表こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。この週末はいろいろなことがありました。石破 茂首相が突然、退陣表明をしました。各紙報道を読む限り、どうやら参院選大敗の責任をとったのではなく、自民党内の権力闘争に敗れた結果ということのようです。自民党は相変わらず国民の生活そっちのけで、旧態依然とした党内抗争を続けています。そのこと自体が参院選の敗北含めた国民離れを招いていることに気付いていないのでしょうか。謎です。ロサンゼルス・ドジャースの山本 由伸投手が、ノーヒット・ノーランを最後のワンアウトで逃したのも残念な結果でした。なぜ山本投手はあそこでカットボールを投げたのでしょう(この日結構投げていたので狙われた可能性も) 。素人考えですが、スプリットを低めに落としておけば楽に三振を取れたような気もします。こちらも謎です。さて、2025年8月8日、アンビスホールディングス(東京都中央区、代表取締役CEO柴原 慶一)は、同社子会社運営のホスピス型住宅で診療報酬の不正請求があったとの報道に関し、特別調査委員会の報告書を公表しました。報告書は「通知に係る法的認識の不十分さや記録の不整備」により、診療報酬請求の要件を満たしていなかった事案があったとする一方で、「多額の診療報酬を受けるために架空の事実をねつ造したような悪質な不正請求の事案とまでは認められない」と結論付けました。この報告書によって、「不正請求はなかった」と一件落着したように見えますが、なかなかどうして、その後も不正行為の存在を報じる報道もあり、問題の収束にはまだ時間がかかりそうです。「医心館」併設の訪問看護ステーションで不正に診療報酬を請求していた疑いがあると共同通信が報道アンビスホールディングスの子会社のアンビス(東京都中央区)は、末期がん患者や難病患者向けのホスピス型住宅「医心館」を全国で運営しています。同社は名古屋大学出身の医師、柴原 慶一氏が2013年に設立。末期がんや難病の人を最期まで看取る施設が少ないことから急成長し、8月末日現在、全国で約130ヵ所を展開するまでになっています。ホスピス型住宅は、施設のカテゴリーとしては「住宅型有料老人ホーム」に位置付けられます。住宅型とは、施設内のスタッフではなく、外部(といっても、併設の訪問看護ステーション、訪問介護事業所を使うケースが大半ですが)スタッフによって看護・介護を提供します。今年3月、共同通信がこの「医心館」において併設する訪問看護ステーションで不正に診療報酬を請求した疑いがある、と報じたことをきっかけに、医心館のケア内容に注目が集まることになりました。訪問看護だけでなく訪問介護についても不正があったようだとの続報も「【独自】ホスピス最大手で不正か 全国120ヵ所『医心館』」と題された3月23日付の共同通信の記事は次のように書いています。「『医心館』のうち複数のホームで、併設の訪問看護ステーションが入居者への訪問について実際とは異なる記録を作り、不正に診療報酬を請求していたとみられることが23日、内部文書や複数の元社員の証言で分かった。元社員らは、必要ないのに訪問して過剰に報酬を請求する行為も常態化していたと指摘している」。さらに、「末期がんなどの患者への訪問看護では、必要があれば1日3回まで診療報酬を請求でき、複数人での訪問には加算が付く。訪問時間は原則、30分以上と定められている。関東のそれぞれ別の地域で働いていた複数の看護師によると、医心館では併設のステーションの看護師らが入居者の居室を巡回。いずれも『必要性に関係なく全員、最初から1日3回訪問と決まっていた』と証言した。『実際には大半が数分間の訪問だったが『30分』と記録していた』『1人で訪問した場合でも複数人での訪問として、報酬を請求していた』などと口をそろえた」と具体的な請求方法について元職員の証言をベースに報じました。さらに共同通信は4月27日、「医心館、訪問介護でも不正請求か ホスピス最大手、会社ぐるみ疑い」と題するニュースを発信、「『医心館』を巡り、訪問介護でも不正・過剰な介護報酬を請求していたとみられることが27日、複数の現・元社員の証言で分かった。共同通信が入手した社内のオンライン会議の動画では、会社ぐるみで不正を行っていた疑いも判明した」と報じ、「医心館では看護・介護とも入居者への訪問予定表が1日ごとに作成される。『予定表通りに実施した』として記録を作り、報酬を請求していたが、実際には予定通り訪問しないことが多かった」などという元職員の証言を紹介しています。「批判を受けるに値する」としつつも「多額の診療報酬を受けるために架空の事実をねつ造したような悪質な不正請求の事案とまでは認められない」と報告書こうした不正請求疑惑に対し、アンビスホールディングスは、3月27日に社外の弁護士や会計士で構成された特別調査委員会を設置、報道内容に関わる事実関係として、(1)1日3回の訪問看護を設定する必要性の有無、(2)短時間訪問の実態、(3)複数名での訪問看護を設定する必要性および複数名訪問看護の実態、(4)(1)~(3)の検討結果等を踏まえたアンビスによる診療報酬請求の当否、(5)類似事案の有無、について調査を進めてきました。8月8日に公表された調査の結果では、「本件通知(厚労省通知)に定める訪問看護時間に比して明らかに短時間であると認められる事例や、複数名訪問の同行者を欠いたと認められる事例が存した。また、勤怠記録と訪問看護記録の齟齬並びに確定時期の異常値に照らせば、訪問実態に疑義を呈さざるを得ない事例も存した」として、さまざまな記録の不備、営利優先の発想が認められること、訪問看護におけるルートの設定及び人員配置の問題性、法令遵守の意識の低さ、業務遂行を確保する組織体制が不十分であったこと、社内におけるコミュニケーションの不足など、さまざまな問題点を指摘、「批判を受けるに値する」としつつも「多額の診療報酬を受けるために架空の事実をねつ造したような悪質な不正請求の事案とまでは認められない」としました。厚労省通知に定める「訪問看護」の実態を欠く事案は診療報酬額で約5,300万円に相当調査の結果、明らかに短時間の訪問と見なされた訪問看護記録は6万5,227件で、そこから複数名の訪問看護を要すると判断される記録を除く9,990件は、通知に定める「訪問看護」の実態を欠く事案であると判定、診療報酬額で約5,300万円に相当するとしました。加えて、訪問看護記録上は複数名訪問となっていたが実態が認められなかったと判定したのは1,352件(約359万円)でした。この他、調査の過程で、本社コンプライアンス部の運営指導対策の一環として、タイムカードの写しが書き換えられていたことも判明しています。職員の勤怠記録と訪問看護記録の食い違いがあった訪問看護または訪問介護業務について、ほかの資料などからも、サービス提供の実態があったと確認できなかった事案が970件(約514万円)あったとしました。 特別調査委員会は、正確な記録を残していなかった、通知との適合性確認を十分行わないなど法令順守の意識が低かった、現場任せの運用で適切な訪問看護業務を遂行するための組織体制が整備されていなかった、などの点が訪問実態に疑義のある事案が発生した原因になったと分析。再発防止策として、正確な記録作成の徹底、適正な訪問ルートの作成とそれに見合った人員配置、内部統制の再構築などを提言しています。アンビスホールディングスは「影響額は僅少なもの」と発表調査報告書を受けた後、8月8日にアンビスホールディングスは「特別調査委員会の調査報告書受領に関するお知らせ」を公表、「本件調査での影響額としては63 百万円あまり(調査対象期間売上総額の0.05%程度)と僅少なもの」と報告、この金額について「訪問看護記録を検証した場合に、看護実態を示す記載が不十分であると認定されたものであり、看護実態がないと認定されたものではございません」とするとともに、「訪問看護における医療行為が実態のあるものと特別調査委員会により判断されたものと認識」「看護実態について根拠資料の記載が不十分であると認定されたケースは、記録の登録ミス及び記載不足などによる形式的なエラーがその大部分を占めるものと認識」など、意図的な不正請求はなかった点を強調しています。そして、訪問看護の提供実態の根拠となる資料の記載が不十分であるとの指摘には、「調査報告書の指摘を真摯に受け止め、改善に努める」「組織構造の変更・人員配置の適正化で記録の不備が起きにくい体制を構築するとともに、少額ではあるものの誤謬が発生したことに対し、より一層ミスが起きにくい組織体制を実現するよう取り組んでいく」としました。気になった報告書の内容とアンビスの解釈のズレ特別調査委員会の報告書は、端的に言えば”上場企業にもかかわらず、運営体制はグダグダでひどすぎる”という内容でした。「批判を受けるに値する」という厳しい指摘もありました。しかし当のアンビスホールディングスは「訪問看護には実態があった。不正請求はなかったと判断された」と少々ズレた受け止め方をしています。加えて、業績に対する影響の話とはいえ「6,300万円は売上総額の0.05%程度で僅少」という捉え方にも違和感を覚えます。株主対策として「僅少」と言いたいのかもしれませんが、診療報酬には税金も入っており、単なる企業の売上とは意味合いが異なります。普通、医療機関が6,300万円も不正請求をしたら、保険医療機関取り消しとなるでしょう。ズレ、違和感は、マスコミの報道でも感じました。共同通信や全国紙の多くが「実態のない診療報酬の請求額が6,300万円あった」ことにフォーカスしていた一方で、「結果はシロ」「共同通信社に対する訴訟も求める声も高まっている」と、真逆ともとれる報道をするメディアもありました。一体、どちらの解釈が正しいのでしょうか?(この項続く)

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第257回 新型コロナ感染9週連続増加 変異株「ニンバス」拡大、百日咳も同時流行/厚労省

<先週の動き> 1.新型コロナ感染9週連続増加 変異株「ニンバス」拡大、百日咳も同時流行/厚労省 2.消化器外科医、2040年に約5,000人不足 がん手術継続に黄信号/厚労省 3.医療ネグレクト対応、緊急時の同意なし医療に法的責任問わず/こども家庭庁 4.往診5年で4割増 高齢者中心に需要拡大も過剰提供を懸念/厚労省 5.末期がん患者に未承認治療3千件超 都内クリニックに措置命令/厚労省 6.がん治療後の肝炎再活性化で患者死亡、情報共有不足が背景に/神戸市 1.新型コロナ感染9週連続増加 変異株「ニンバス」拡大、百日咳も同時流行/厚労省新型コロナウイルスの感染者が全国的に増加している。厚生労働省によると、8月11~17日に約3,000の定点医療機関から報告された感染者数は2万2,288人で、1医療機関当たり6.3人となり、9週連続で前週を上回り、入院患者も1,904人と増加した。例年、夏と冬に流行のピークがあり、今年もお盆や夏休みの人の移動を背景に感染拡大が続いている。流行の中心はオミクロン株の派生型「NB.1.8.1」で、俗称「ニンバス」と呼ばれる株。国立健康危機管理研究機構によれば20日時点で国内検出の28%を占め、同系統を含めると全体の8割以上になる。感染力は従来株よりやや強いが、重症化リスクは大きく変わらないとされている。症状は、発熱や咳に加え「カミソリを飲み込んだような強い喉の痛み」が特徴で、筋肉痛や関節痛を伴う例も報告されている。ワクチンは重症化予防に有効と考えられており、WHOも監視下の変異株に指定している。都道府県別では、宮崎が最多の14.7人、鹿児島12.6人、埼玉11.5人と続き、東京や大阪など大都市圏では比較的低水準に止まっている。厚労省は「手洗いや咳エチケット、エアコン使用時の換気など基本的な感染対策を徹底してほしい」と呼びかけている。新学期開始で人の動きが再び活発化する9月中旬ごろまで増加が続く可能性が指摘される。一方、百日咳も同時流行しており、8月10日までの週に3,211人が報告され、年初からの累計は6万4千人超となった。子供を中心に長引く咳を呈し、乳児では重症化するリスクが高い。国内外で増加傾向にあり、厚労省は原因を分析中。コロナと百日咳が並行して拡大する中、専門家は体調不良時には早めに医療機関を受診し、感染拡大防止に努めるよう求めている。 参考 1) 変異ウイルス「NB.1.8.1」“感染力やや強い”(NHK) 2) 新型コロナ感染者、全国平均で9週続けて増加 例年夏に流行 厚労省(朝日新聞) 3) “カミソリをのみ込んだような強烈な喉の痛み” 新型コロナ「ニンバス」感染拡大 百日せきも流行続く(読売テレビ) 2.消化器外科医、2040年に約5,000人不足 がん手術継続に黄信号/厚労省厚生労働省の「がん診療提供体制のあり方に関する検討会」は、2040年にがん手術を担う消化器外科医が約5,000人不足するとの推計をまとめた。需要側では初回手術を受ける患者数が2025年の約46万5千人から40年には約44万人へ微減する一方、供給側の減少が急速に進む。外科医の約7割を占める消化器外科では、日本消化器外科学会の所属医師(65歳以下)が25年の約1万5,200人から40年に約9,200人へ39%減少し、需給ギャップは5,200人規模に拡大すると見込まれている。背景には若手医師の敬遠がある。消化器外科は10時間を超える食道がん手術や夜間・休日の救急対応など負担が大きい一方、給与水準は他科と大差がない。修練期間も長く、労働と報酬のバランスが「割に合わない」とされ、2002年から20年間で医師数は2割減少した。他方、麻酔科や内科は増加しており、診療科間での偏在が深刻化している。こうした現状に、学会や大学病院は人材確保策を模索する。北里大学は複数医師で患者を担当し、緊急時の呼び出しを減らし、富山大学は長時間手術の交代制を導入、広島大学は若手の年俸を1.3倍に引き上げた。学会は拠点病院への人材集約により休暇確保や経験蓄積を両立させたい考えを示している。報告書はまた、放射線治療では、装置の維持が難しくなる可能性や、薬物療法では地域格差が生じやすい点にも言及。今後は都道府県単位で医療機関の集約化やアクセス確保を検討し、効率的な医療提供体制を整える必要があるとしている。高齢化が進み85歳以上のがん患者は、25年比で45%増えると見込まれる中、医師不足は治療継続に直接影響し得る。厚労省は、就労環境や待遇改善に報酬面での配慮を進め、がん医療の持続可能性確保に向けた施策を急いでいる。 参考 1) 2040年を見据えたがん医療提供体制の均てん化・集約化に関するとりまとめ(厚労省) 2) がん手術担う消化器外科医、2040年に5000人不足 厚労省まとめ(毎日新聞) 3) 消化器外科医の不足深刻…厳しい勤務で若手敬遠、「胃や腸のがん患者の命に関わる」学会に危機感(読売新聞) 4) 消化器外科医「5,000人不足」 がん診療「病院集約を」厚労省検討会、40年推計(日経新聞) 3.医療ネグレクト対応、緊急時の同意なし医療に法的責任問わず/こども家庭庁こども家庭庁は8月、保護者の思想や信条を理由に子供に必要な医療を拒否される「医療ネグレクト」について、緊急時に医療機関が保護者の同意なく治療を実施した場合でも、刑法や民法上の責任は基本的に問われないと定め、7日付の事務連絡で明示するとともに、法務省とも協議済みとしている。救命手術などで同意が得られなくても「社会的に正当と認められる医療行為」であれば刑事責任は生じず、急迫の危害を避ける行為であれば悪意や重大な過失がない限り、民事責任も免れると解説している。背景には医療現場からの実態報告がある。こども家庭庁が救命救急センターを有する88医療機関を対象に行った調査では、2022年4月~24年9月までに24機関から計40件の医療ネグレクト事例が報告された(回答施設の3割弱に相当)。多くの事例では保護者への説明を尽くし同意を得る努力が行われたが、同意取得が不可能または時間的猶予がない場合、医療機関の判断で治療が行われていた。調査では対応の工夫として「児童相談所と事例を共有」が75%、「日頃から顔の見える関係作り」が59%と挙げられた。一方で、児相との「切迫度認識の差」や「帰宅可否を巡る判断の齟齬」など課題も指摘された。児相のノウハウ不足を補うため、具体的事例や対応方法を管内で共有することの重要性も強調されている。こども家庭庁は、平時からの地域ネットワーク構築や事例共有を通じ、迅速かつ適切な対応体制の整備を自治体に要請。現場の医師にとっても、緊急時に同意がなくとも治療に踏み切れる法的整理は大きな後押しとなるが、児相との連携強化や判断基準の共有が今後の課題となる。 参考 1) 令和6年度子ども・子育て支援等推進調査研究事業の報告書の内容及びそれを踏まえた取組(こども家庭庁) 2) 緊急時の保護者同意ない医療「法的責任負わず」こども家庭庁(MEDIFAX) 3) 救命救急センターの3割弱で医療ネグレクトの報告 思想などに起因する事例、22年4月-24年9月に40件(CB news) 4) 令和6年度 保護者の思想信条等に起因する医療ネグレクトに関する調査研究報告書(三菱UFJ) 4.往診5年で4割増 高齢者中心に需要拡大も過剰提供を懸念/厚労省厚生労働省の統計によると、医師が自宅を訪ねる往診が過去5年で1.4倍に増加した。2024年は月27万5,001回と前年比11.2%増で、とくに75歳以上の高齢者が利用の8割を占め、前年比19.6%増の23万件超となった。在宅高齢者の急変時対応や有料老人ホームなどでの需要が増え、夜間・休日対応を外部委託する医療機関の広がりが背景とみられる。一方、コロナ禍では15歳未満の往診が急増。外来受診制限や往診報酬の特例引き上げにより、2023年には月1万7,000件を超えた。深夜の乳幼児往診では1回5万円弱の報酬が得られるケースもあり、自治体の小児医療無償化と相まって都市部で利用が拡大した。しかし、2024年度の報酬改定で特例は縮小され、15歳未満の往診は63.8%減少した。往診の拡大は救急搬送の抑制につながる利点がある一方、診療報酬目的で必要性の低い往診を増やす事業者がいるとの指摘もある。厚労省もこの問題を把握しており、必要に応じて中央社会保険医療協議会(中医協)で、在宅医療報酬の見直しを議論する考えを示している。訪問診療は計画的に実施される在宅医療の柱で、2024年は月208万回、患者数110万人。これに対し往診を受けた患者は約20万人に止まる。往診の増加が高齢社会に不可欠な在宅医療の充実につながるのか、それとも過剰提供の温床となるのか、制度の在り方が問われている。 参考 1) 令和6年社会医療診療行為別統計の概況(厚労省) 2) 医師の往診5年で4割増 高齢者の利用拡大、過剰提供の懸念も(日経新聞) 5.末期がん患者に未承認治療3千件超 都内クリニックに措置命令/厚労省厚生労働省と環境省は8月22日、東京都渋谷区の「北青山D.CLINIC」(阿保 義久院長)に対し、カルタヘナ法に基づく措置命令を出した。自由診療に対する同法の命令は初めて。同院は2009年以降、末期がん患者らに「CDC6shRNA治療」と称する遺伝子治療を提供してきたが、必要な承認を得ていなかった。治療には遺伝子を組み込んだレンチウイルスが用いられ、製剤は院長が中国から個人輸入していた。これまでに3千件以上行われたが、有効性や安全性は科学的に確認されていない。患者への同意文書では「がん細胞に特異的に発生するCDC6というたんぱくを消去する遺伝子を投与する」と説明されていた。両省は製剤の不活化・廃棄と再発防止策の報告を命じた。現時点で健康被害や外部漏洩は確認されていないという。クリニックは6月以降治療を中止しており、今後は法に基づき申請するとしている。厚労省によると、自由診療での遺伝子治療は、科学的根拠が不十分なまま患者が全額自費で受けるケースが国内で広がっている。昨年の法改正で「再生医療等安全性確保法」の対象にも加わったが、今回の事例は十数年にわたり違法状態が続いていたことを示している。厚労省は今後、医療機関に法令順守の徹底を求めている。 参考 1) 「遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律」に基づく措置命令について(厚労省) 2) 未承認「がん遺伝子治療」に措置命令 カルタヘナ法、自由診療で初(毎日新聞) 3) がん自由診療に措置命令 都内クリニック手続き怠り(東京新聞) 4) がんに対する自由診療の遺伝子治療めぐり、厚労省などが措置命令(朝日新聞) 6.がん治療後の肝炎再活性化で患者死亡、情報共有不足が背景に/神戸市8月21日、神戸市立西神戸医療センターは、70代男性患者が医療事故で死亡したと発表した。男性は2023年10月に悪性リンパ腫と診断され、B型肝炎ウイルスを保有していることを自ら申告していた。化学療法にはB型肝炎ウイルスを再活性化させる作用を持つ薬が含まれるため、予防目的で核酸アナログ製剤が併用処方されていた。しかし、2024年に悪性リンパ腫が完全寛解した後、担当医が患者のB型肝炎感染を失念し、薬の処方を中止。継続されていたウイルス量の検査でも増加傾向を見落とし、2025年1月に男性は急性肝炎を発症し、入院から18日後に死亡した。男性の担当医は免疫血液内科の医師で、B型肝炎治療を専門とする消化器内科ではなかった。事故後、病院は消化器内科以外の医師が核酸アナログ製剤を処方できない仕組みを導入するなど再発防止策を取っている。北垣 一院長は会見で「重大な結果を招いたことは大変残念で、深く反省している」と謝罪、遺族にも経緯を説明し、理解を得たとしている。B型肝炎の再活性化をめぐっては、化学療法や免疫抑制療法の患者における発症リスクが広く知られており、定期的な検査と予防的投薬の継続が学会ガイドラインでも推奨されている。今回の事故は、がん治療後も必要な薬の中止と検査結果の見落としが重なり、致死的転帰を招いた典型例となった。同様の事故は他施設でも発生しており、今年5月には名古屋大学医学部附属病院で、リウマチ治療を受けていた70代女性が検査不備によりB型肝炎再活性化で死亡していたことが公表されている。専門家は、複数診療科にまたがる患者管理における情報共有とチェック体制の徹底が再発防止に不可欠だと指摘している。 参考 1) B型肝炎ウイルス感染を失念、投薬を誤って中止し患者死亡…西神戸医療センターが遺族に謝罪(読売新聞) 2) 薬剤処方を誤って中止、患者死亡 神戸の市立病院が謝罪(共同通信) 3) 「担当医が患者の申告を失念」 70代男性が急性肝炎で死亡 神戸(朝日新聞)

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在宅患者がやってきた【救急外来・当直で魅せる問題解決コンピテンシー】第4回

在宅患者がやってきたPoint在宅患者は、外来に通院できない事情がある。外来患者よりもより医療を必要としている人達だ!在宅患者・家族は、最期まで在宅生活を送れないさまざまな事情も抱えている。患者・家族をはじめ在宅チームは、急変時に病院バックベッドの存在があるから、在宅で頑張れる!在宅医療の普及で、患者・家族、医療者もWin-Winに!症例88歳女性。肝内胆管がん、多発肝転移、リンパ節転移、骨転移あり。消化器科主治医からは「いつでも調子が悪くなったら病院に戻ってきていいよ」と言われたうえで、A病院からB診療所に紹介され、訪問診療が開始された。高齢の夫と長男の妻の3人暮らし。キーパーソンの長男は海外に単身赴任中。嫁に行った長女はよく顔を見にきてくれる。疼痛コントロールも良好であった。訪問診療開始1ヵ月後、長男の妻より「今朝から左手の力が入らない、移動も困難になっている」とB診療所に電話あり。トルーソー症候群(悪性腫瘍の凝固能亢進による脳梗塞)の可能性ありと判断された。在宅医は「今回脳梗塞が疑われるが、原病に伴うものであるため、在宅での継続加療も可能」と長男の妻に話したが、長男の妻の強い希望で、A病院に救急紹介された。A病院では頭部CT、頭部MRIが施行され、左右多発脳梗塞(トルーソー症候群)と診断された。長男の妻は仕事と介護で疲れもピークに達しており、「入院させてほしい」と強い希望があった。救急では入院主治医決定に難航した。原疾患の消化器内科か、脳梗塞の神経内科か。“大人の事情”の協議の末、今回は神経内科で入院加療となった。「最期まで在宅でと決まってなかったの? どうして救急に送ってくるんでしょうね」と救急当番の研修医はボソッと心なくつぶやいてしまった。「『これって在宅医が悪いの?』、『患者・家族が悪いの?』って、そんな視点をもつ医者はロクな医者にならないぞ」と指導医に叱られた。「『病気をみずして人をみろ』が実践できたら、入院主治医決定に迷うことはないんだけどね」と、悲しそうに指導医はつぶやいた。おさえておきたい基本のアプローチどんな患者さん達が在宅医療を受けているのだろうか?在宅患者の85%以上は要介護状態にあり、要介護1~5の患者がそれぞれ10~20%ずつ存在する。在宅患者の基礎疾患は多様であり、とくに循環器疾患・認知症・脳血管疾患を抱える患者の割合が大きい(図1)1)。治癒が期待できない患者(末期悪性腫瘍や人工呼吸器を使用している患者、遺伝性疾患や神経筋難病など)は約15%を占める。図1 疾患別の患者割合在宅医療を受けている患者達は、表1のような状況で、ぎりぎりで在宅生活を送っている実情を理解しておこう。病院に紹介されて疾患だけ治して、家にポイッと帰すだけでは、よい医療の質は保たれないのだ。「病気をみずして、人をみよ」とまさしく体現しているのだ。表1 在宅医療利用患者の生活背景事情独居老々介護在宅介護困難で、施設(グループホーム、老人ホームなど)に入所中家族は働いており、昼間の介護者不在で、ほぼ毎日デイサービス利用している上記などの理由で特養などの施設へ入所したいが、空き待ちの間、在宅医療を受けている一方、患者は在宅療養を受けたくてもなかなかそれができないのが現状なんだ。図2のように、在宅療養移行や継続の阻害要因と、在宅医療推進にあたっての課題が、厚生労働省からもあげられている2)。24時間の在宅医療提供体制や、在宅医療・介護サービス供給量の拡充だけでなく、在宅療養者のバックベッドの確保・整備や、介護する家族支援は欠かせないことが、理解できるだろう。疾病をもつ患者の生活も支えていくことは、医療全体の医療費負担の軽減にもつながるんだ。図2 在宅療養移行・継続阻害要因と在宅医療推進の課題画像を拡大するそんな状況でようやく在宅療養が受けられたが、在宅療養が継続できなくなって病院に紹介されてくるときに、「あ~、ダメだ。病院にお世話にならないといけなくなってしまったぁぁぁ」という患者・家族の思いや在宅医の忸怩たる思いを慮って、病院の受け入れ側医師は優しく温かく良医としての矜持をもって受け入れてほしい。在宅医療を選択することは、在宅で必ずしも死を選択しているわけではなく、まだ準備ができていない患者・家族もいる、在宅で死を迎えたいと思っていても気が変わる場合もある、そんな多様性を病院の受け入れ医師は知っておかないといけない。落ちてはいけない・落ちたくないPitfallsまず、在宅患者は、外来に通えないという前提があることを理解しよう!訪問診療の対象にある患者は、外来通院できない患者に絞られることをまず前提として理解いただきたい。外来診療に通えない人とは、疾患の重症度が高く、多疾患併存状態も多く、通えない事情として身体的要因だけでなく社会的要因も考慮しなければならないだろう。実際に、高齢者を対象として在宅医療の有無の観点から入院患者の特徴と救急車搬送により入院となる割合の違いを明らかにすることを目的とした研究がある3)。在宅医療がある症例はない症例と比較して認知症やがんなど併存症を伴う割合や低栄養および低ADL患者である割合が高く、在院日数の長期化がみられ、介護施設へ転院となる割合が高かった。また、がんをはじめ多くの主傷病において救急車搬入により入院となる割合が高かった。この研究結果を踏まえて、外来患者よりも在宅患者のほうが救急車搬入による入院が多い実態を肝に銘じていただき、患者にも家族にも優しい対応をお願いしたい。米国では、高齢者を対象に在宅医療サービスを開始したところ、登録前の1年間と登録後で同じ患者で比較して、ERの訪問が約30%、入院が10%減少したという報告もある4)。やはり在宅医療は患者・家族、医療者にとって、Win-Winな制度と考えられるだろう。Pointなぜ在宅医療を受けているのか? という理由をまず考えてみよう!急激なADLの低下出現…在宅生活本当に続けられる!?冒頭の症例の患者は末期がんの状態であり、ADLの低下は予想されていた。しかし脳梗塞による急激なADL低下に、主介護者である長男の妻より、在宅加療継続は難しいとのお話があり、入院加療となった。長男の妻は仕事で日中介護できず、在宅生活も1ヵ月近くなっており介護疲れもあった。入院後にもカンファレンスを行い、元々入っていた訪問看護以外に訪問介護導入も可能とお話したが、実母を看取った経験も踏まえて、在宅加療を継続する自信がないとのことだった。本人の気持ちも確認したが、このまま入院でよいとのお話であった(長男の妻によると、ご本人は周囲の状況を察してあまりわがままは言えない性格とのことだった)。キーパーソンの息子も帰国したが、入院加療を続けてほしいとのお話であり、転院調整中にA病院でお亡くなりになった。在宅医療は病気だけをみていたのでは始まらない。生活背景や心理的背景も考慮して、家族も支えていかないといけない。無理矢理在宅を継続することで、長男の妻が精神的にも肉体的にも追い詰められて、本当に体を壊してもいけないのだ。また海外駐在の息子さんがいるというのも、権利意識やインフォームド・コンセントにも気を遣い、診療方針決定に大きく影響を受け、そういうことまで配慮してこそ在宅医療はうまくいくのだ。高齢者は、疾病でも外傷でも容易にADLが低下する。疾病の重症度だけで帰宅可能と判断しても、実際は帰宅後の介護負担が増加して、より危険にさらされる状況になってしまうことは珍しくない。尿路感染だけ診断して安易に帰宅させた老々介護の高齢女性が、自宅で転倒し大腿骨近位部骨折を併発して、救急車で舞い戻ってきたという事例もある。ときには患者家族と救急担当医の間で患者の押し付け合いのような現象が生じる。しかし、無理に帰宅させて病状が悪化するのでは、判断が甘いといわざるを得ない。帰宅後に病態の見落としが判明する場合もある。在宅医療を受けている患者の入院・帰宅の判断の際には、帰宅後の介護負担を十分に考慮し、メディカルソーシャルワーカーなどを通じて、ケアマネジャーや在宅主治医などと連携して、帰宅後の介護や医療提供を考慮するように心がけたい5)。Point継続しておうちで過ごせそうでしょうか? ケアマネ・在宅主治医にも相談してみましょう在宅患者・家族みんなが、最期まで在宅と考えているわけではない前述の患者も、最期まで在宅と決めて、訪問診療を開始したわけではない。退院の際に病院主治医から「困ったときは入院も考慮します」と話があり、その言葉が、患者・家族・在宅チームの安心につながっていた。在宅医療を含む自宅療養を受ける際にその患者や家族が抱える問題意識として、症状急変時の対応に不安があること、症状急変時すぐに入院できるか不安があることが、図2に示されている。他のケースでも、最期は病院でと病院主治医と約束し、在宅医療開始になった患者がいる。1人は肺がん末期で、呼吸苦や疼痛はオピオイド増量でコントロールしていたが、急激に呼吸状態が悪化し、訪問看護が呼ばれ、訪問看護からの連絡で往診のうえ、家族の希望も踏まえて紹介元の病院に紹介したが、24時間以内に亡くなった。もう1人は、肝細胞がん末期、胸水腹水貯留で、腹水除去などを在宅で行っていたが、深夜呼吸苦が増悪し、在宅酸素導入したが、家族が病院紹介を希望され、この方も24時間以内に亡くなった。結構ぎりぎり最期(死ぬ直前)まで患者も家族も在宅で頑張っているんだ。「だったら最期くらい家で看取ればいいのに」なんて冷たい言い方をしてはいけない。最後の最後につらそうにしている患者を家族が在宅で看ていられなくなってしまう気持ちもわかってあげよう。家族は医療者ではなく素人であり、死に対する免疫はないのだから。オンタリオの研究では、家で看取ると思っていても、最後は不安になって16%の人は救急車を呼ぶという6)。ぎりぎりまで在宅で患者に寄り添った家族にやさしい言葉をかけられる医療者こそ、心の通った医療者なんだ。Point病院主治医に、困ったらおいでと言われていたのですね。よくここまでおうちで頑張りましたね在宅看取りのはずなのに、どうして救急搬送してしまうのか?在宅看取りを希望していても、心配で在宅主治医や訪問看護師を呼ぶ前に119番通報してしまう家族もいるものと理解しよう。気が変わるのは仕方のないこと。むしろ絶対に気が変わったらダメなんて言ったら、在宅医療は推進できない。蘇生処置を行わない意思表示(DNAR:Do Not Attempt Resuscitation)のある終末期がん患者の臨死時に救急車要請となる理由を救急救命士への半構造的面接により検討した研究論文7)では、(1)DNARに関する社会的整備が未確立(臨死時救急車以外病院搬送手段がないなど)(2)救急車の役割に対する認識不足(蘇生処置をせずに救急搬送が可能という認識の住民や医師がいるなど)(3)看取りのための医療支援が不十分(4)介護施設での看取り体制が不十分(5)救急隊に頼れば何とかなるという認識(何かあったときは119番という住民感情があるなど)(6)在宅死を避けたい家族の思い(家族が在宅死に対する地域社会の反応を気にするなど)(7)家族の動揺(DNARの意思が揺らぐ家族など)といった7つの理由が明らかになったとしている。Pointとっさに、救急車を呼んでしまったのですね。最期にこんなにバタバタするとは想像しなかったですよね。状態が悪いのを見ているのはつらいので、無理もないですよワンポイントレッスン在宅側からの取り組み─在宅看取りの文化の醸成に向けて─在宅医療を受けていても、救急車を呼び、今まで関係のなかった病院に搬送されると、死亡判定後、警察が来て検死が始まる。警察が事情を聴きに家まで来てしまうのだ。「まさか警察が来て事情聴取を受けるなんてぇ…」と、思いがけない最期に憤りや後悔をあらわにする家族もいる。家族に後悔が残らないようにするための在宅側からの取り組みを紹介する。在宅医療を地域住民に啓発しよう2014年厚生労働省より全国1,741市町村別に在宅死の割合が発表されたが、全国平均12.8%に対し、筆者のクリニックがある永平寺町は6.7%であり、福井県下でも最下位だった。永平寺町内には福井大学医学部附属病院がそびえたち、町民の生活風景のなかに大学病院があることで、何かあれば大学病院に行けばよいとの住民感情もあっただろう。大学病院なのに町立病院のような親近感をもたれているといえばそのとおりなんだけど…。そんな状況を受け、2019年8月1日に永平寺町立在宅訪問診療所(24時間体制の在宅支援診療所)が設立された。開設の約1年前から町の福祉保健課、地域包括支援センターとともに永平寺町民に向けて、在宅医療についての説明会を約2年間にわたって計70回行い、在宅医療が何なのかの啓発活動に専念した。最期がイメージしやすいパンフレットを作成がんの末期で病院から紹介いただく患者でも、最期に向けてどのような経過を辿っていくのかイメージできず、強い不安を感じている患者・家族がほとんどだ。そこで当院ではパンフレットを作成し、タイミングをみて、パンフレットを用いながら、今後の変化について、説明している(図3)。図3 最期をイメージするためのパンフレット緩和ケア普及のための地域プロジェクトがフリーで提供している「これからの過ごし方」というパンフレットも大変参考になる8)。ほかにも、疼痛などの評価ツールなども掲載されているので、ぜひ参考にされたい(緩和ケア普及のための地域プロジェクト)。救急車を呼んでしまうと、その先には!?最期のときに焦って救急車を呼んでしまうと、救命のために心臓マッサージや気管挿管が行われ、病院で最期を迎えた場合は、警察による検死も行われることもあるとパンフレットや口頭でお伝えしている。119番をコールする前に、訪問看護か在宅医にコールを! ということで、24時間連絡可能な連絡先が記載された用紙をお渡しし、家の目立つところに掲示してもらっている。最期に呼ぶのはあわてない、あわてない…最期が近いと予測されている場合、また真夜中などにおうちで息を引き取った場合、あわてずに翌朝、当方に連絡してもらえればよいこともお伝えしている。息を引き取る瞬間にご家族や医療者がもし立ち会えなかったとしても、在宅主治医が死後24時間以内に往診し診察すれば、死亡診断書が書けるのだ。家族も夜はなるべく休んでいただくよう説明している。参考1)厚生労働省. 在宅患者の状況等に関するデータ.2)厚生労働省. 在宅医療の動向.3)たら澤邦男 ほか. 日本医療マネジメント学会雑誌. 2020;21:70-78.4)De Jonge E, Taler G. Caring. 2002;21:26-29.5)太田凡. 日本老年医学会雑誌. 2011;48:317-321.6)Kearney A, et al. Healthc Q. 2010;13:93-100.7)鈴木幸恵. 日本プライマリ・ケア連合学会誌. 2015;38:121-126.8)緩和ケア普及のための地域プロジェクト(厚生労働科学研究 がん対策のための戦略研究). これからの過ごし方について.執筆

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第234回 乳腺外科医事件で無罪判決、医師は司法とメディアに憤りを表明/東京高裁

<先週の動き>1.乳腺外科医事件で無罪判決、医師は司法とメディアに憤りを表明/東京高裁2.全国6割の病院が赤字経営、病院団体が診療報酬改定の見直しを要請3.医師国試合格率92.3%、女性割合が過去最高-新卒100%は4校/厚労省4.電子カルテ情報共有サービス始動、2025年度本格運用へ/厚労省5.急増する訪問看護、請求適正化へ指導体制を強化/厚労省6.病床適正化進む長崎、大学病院が1割削減しハイケアユニットを新設/長崎大1.乳腺外科医事件で無罪判決、医師は司法とメディアに憤りを表明/東京高裁2025年3月12日、東京高裁は、手術後に女性患者に対する準強制わいせつ罪を問う事件で、被告である乳腺外科医師に対し、2度目の無罪判決を言い渡した。この判決は、同医師が2016年に女性の胸をなめたとされる事件に関するもので、東京地裁と高裁の1・2審判決を踏襲し、検察の控訴を棄却した。同医師は、逮捕から6年以上を経て、ようやく無罪判決を得た。事件の背景には、女性患者が麻酔から覚醒する際に発生したせん妄による幻覚の可能性が指摘されている。東京高裁は、この幻覚が被害を訴える証拠として否定できないことを認めた。また、DNA鑑定に関しても、唾液の付着に関する疑念があり、医師がわいせつ行為を行った証明は不十分とされた。これにより、無罪判決が支持された。同医師は、判決後に記者会見を開き、警察や検察の過剰な信頼と誤った決定が、自らの生活と家族に与えた影響を強く批判した。弁護団は、無罪判決が遅すぎることを指摘し、医師の無罪確定までの苦悩を強調した。また、医師の間で職業的な萎縮が広がり、とくに乳腺外科を避ける傾向が強まる中、患者への影響を懸念する意見も出された。今回の法的な遅延は、裁判所が適切に判断を下さなかったことが原因であり、無罪判決を再度上訴できる現行制度に対する疑問も提起された。とくに、無罪判決後の検察の控訴が理不尽であり、米英のように無罪判決に対して控訴を許可しない制度の導入が必要だとする意見もみられた。参考1)乳腺外科医に再び無罪判決 「患者の胸なめたと断定できず」 東京高裁、差し戻し審(産経新聞)2)無罪の乳腺外科医「長かった」「強い憤り」 事件で「医師萎縮」の指摘も(産経新聞)3)ふたたび「無罪」になった乳腺外科医、捜査機関やマスコミに憤り「生活や仕事そして家族を奪われた」(弁護士ドットコム)4)乳腺外科医事件に再び無罪判決 弁護団は「遅すぎる」と批判 「長くて辛い日々だった」と医師(ジャーナリスト・江川紹子)2.全国6割の病院が赤字経営、病院団体が診療報酬改定の見直しを要請昨年春の診療報酬改定後、全国の病院の経営が急速に悪化し、6割以上が赤字に陥っていることが明らかになった。日本医師会と6つの病院団体が実施した調査によると、2024年6~11月までの経常利益が赤字の病院は61.2%に達し、前年同期比で10.4ポイント増加。補助金を除いた医業利益でも69.0%が赤字となり、前年から4.2ポイント悪化した。経営悪化の主因は、物価や人件費の上昇に診療報酬が追いついていないことだ。調査では、水道光熱費が前年同期比3.1%増、院内清掃などの委託費が4.2%増と報告された。給与費も2.7%増加しており、多くの病院が経費の増加に対応しきれず、経営難に陥っている。とくに、病床利用率が90%を超えなければ黒字化できない病院もあり、持続的な医療提供が困難な状況。この危機的状況を受け、日本医師会と6つの病院団体は3月12日、合同声明を発表し、診療報酬の見直しを政府に求めた。2026年度の診療報酬改定に向けて、物価や賃金の上昇を反映できる仕組みを導入する必要があると主張。補助金による短期的な支援にとどまらず、中長期的な医療費の適正配分を求めた。日本医療法人協会の太田 圭洋副会長は「病床を満床にしなければ経営が成り立たないのは異常な状況。地域の病院が突然閉鎖する危機が迫っている」と警鐘を鳴らした。また、全国自治体病院協議会の野村 幸博副会長は「公立病院では人事院勧告による賃上げが求められ、さらに経営が厳しくなっている」と述べ、自治体病院の窮状を訴えた。調査では、2024年6~11月の医業収益が前年同期比1.9%増加している一方で、給与費や光熱費の増加がそれを上回り、多くの病院が赤字に転落していることが判明。このままでは、地域医療の維持が困難になると懸念されている。病院団体は、診療報酬を適正に改定し、賃金や物価の変動に即応できる仕組みを導入することが不可欠だと指摘。日本医師会の松本 吉郎会長は「このままでは、ある日突然病院が地域から消えてしまう。国民の命と健康を守るため、診療報酬の見直しは急務だ」と強調した。今回の調査結果を受け、政府・与党内でも支援策の検討が進むとみられるが、財政的な制約の中でどのような対策を講じるかが課題である。地域医療崩壊を防ぐため、迅速かつ具体的な対応が求められている。参考1)【緊急調査】2024年度診療報酬改定後の病院経営状況調査の結果等について(日本医師会)2)“全国6割以上の病院が赤字” 調査団体「地域医療は崩壊寸前」(NHK)3)「地域から医療機関なくなる」と医師会が危機感…病院の6割超が赤字、診療報酬改定で経営難(読売新聞)4)2024年度改定後、病床利用率上昇も医業利益率と経常利益率は悪化(日経ヘルスケア)5)日医と6病院団体が声明 26年度診療報酬改定「物価・賃金上昇対応の仕組みを」地域医療崩壊に危機感(ミクスオンライン)3.医師国試合格率92.3%、女性割合が過去最高-新卒100%は4校/厚労省厚生労働省は3月14日、第119回医師国家試験の合格状況を発表した。受験者1万282人に対し、合格者は9,486人で、合格率は92.3%だった。前年の92.4%から0.1ポイント減少したものの、過去10年で2番目に高い合格率となった。新卒者の合格者数は9,029人、合格率は95.0%で、2年連続で9,000人を上回った。男女別の合格率は、男性が91.8%、女性が93.1%と、女性の合格率が上回った。合格者に占める女性の割合は36.3%と過去最多を記録した。学校別では、国際医療福祉大学医学部が新卒・既卒ともに合格率100.0%を達成した。新卒合格率100.0%は、同大学のほか、福井大学医学部、金沢大学医薬保健学域、三重大学医学部の計4校だった。一方、同日に発表された第118回歯科医師国家試験の合格率は70.3%で、前年の66.1%から4.2ポイント増加した。参考1)第119回医師国家試験の合格発表について(厚労省)2)医師国家試験、合格率92.3% 新卒合格者は2年連続で9千人上回る(CB news)3)医師国家試験2025、国際医療福祉大100%合格…学校別合格率(リセマム)4.電子カルテ情報共有サービス始動、2025年度本格運用へ/厚労省厚生労働省は健康・医療・介護情報利活用検討会の「医療等情報利活用ワーキンググループ」を3月13日に開催し、電子カルテ情報共有サービスについて2025年度中の本格運用を目指し、モデル事業が開始することとした。まず、愛知県の藤田医科大学病院を中心に試験運用が始まり、全国の医療機関や患者が電子カルテ情報を共有できる仕組みが構築される。モデル事業では、運用上の課題を明確化し、とくに「病名」情報の取り扱いについて慎重にルールを策定する必要がある。患者が自身のカルテ情報を閲覧できる一方で、未告知や診断過程の誤解を防ぐための設定が求められている。これに伴い、医療現場の負担や患者との信頼関係の維持を考慮し、慎重な運用が必要とされる。また、患者の同意に関する法的根拠が未確立であるため、現段階では個人情報保護法に基づき、医療機関と支払基金間の委託契約を通じて対応することになった。さらに、情報共有の推進と並行し、サイバーセキュリティ対策の強化も求められており、来年度の対策チェックリストが策定された。モデル事業の結果を踏まえた運用ルールの確立が、全国展開の成功の鍵となる。拙速な導入は、医療現場や患者の不安を招き、DX推進の障害になりかねないため、慎重かつ丁寧な議論が求められる。参考1)第24回健康・医療・介護情報利活用検討会医療等情報利活用ワーキンググループ(厚労省)2)電子カルテ情報共有サービスの検討事項について(同)3)電子カルテ情報共有サービスのモデル事業、まず藤田医大病院中心に開始、「病名」の取り扱いルールなども検討-医療等情報利活用ワーキング(Gem Med)5.急増する訪問看護、請求適正化へ指導体制を強化/厚労省厚生労働省は、3月12日に開かれた中央社会保険医療協議会(中医協)において、訪問看護ステーションの監視体制を強化する方針を発表した。広域で運営する事業者や診療報酬の高額請求を行う事業所を対象に指導を強化し、4月以降に新たな指導の枠組みを導入する。背景には、訪問看護の急増と、それに伴う高額請求の増加がある。厚労省によると、訪問看護ステーションの数は直近5年間で約1.5倍に増加。とくに、年間請求額が2億5千万円以上の事業所は12.8倍に急増した。また、1件当たりの請求額が50万円以上の事業所も7倍に増えている。これらの増加に対し、厚労省は「不適切な請求が行われている可能性がある」とし、監査体制の強化に踏み切った。新たな指導体制では、地方厚生局と都道府県に加え、厚労省本省も関与。これにより、複数都道府県で運営される大規模事業者への監査を強化する。さらに、請求額の多い事業所を選定し、適正な請求方法を指導する。また、eラーニングによる集団指導を検討し、訪問看護ステーション全体の適正化を図る。訪問看護は、重度患者の在宅療養支援など重要な役割を担う。その一方で、末期がん患者向けの高額報酬を悪用し、必要以上の訪問回数を請求するケースも指摘されている。厚労省は「利用者の状態に応じた適正なサービス提供を促すため、新たな監査体制を整備する」としている。参考1)訪問看護ステーションの指導監査について(厚労省)2)厚労省、訪問看護の指導監査強化 広域や高額請求の事業者が対象(共同通信)3)訪問看護の「指導」を強化へ 高額請求、不適切なケースも 厚労省(朝日新聞)4)高額請求の訪看事業所に「教育的指導」へ 来年度の早期から 厚労省(CB news)6.病床適正化進む長崎、大学病院が1割削減しハイケアユニットを新設/長崎大長崎大学病院(長崎市)は、4月1日より一般病床を現在の827床から98床削減し、729床とする方針を発表した。新型コロナウイルス感染症拡大以降、同院の入院患者数は4年間で2万5千人以上減少し、病床の稼働率も低下。さらに、県の地域医療構想では2025年度における長崎地区の高度急性期病床数が651床と推計され、同病院を含む5医療機関の予定病床数908床を大幅に上回ることから、病床数の適正化が求められていた。また、病院経営の効率化も背景にある。文部科学省によると、大学病院が100床規模で病床を削減するのは全国的にも極めて珍しいが、病床削減による補助金の活用により経営改善も視野に入れている。病床削減と同時に、同院では集中治療室(ICU)と一般病床の中間に位置する「ハイケアユニット(HCU)」8床を新設。急変のリスクが高い患者を受け入れ、より手厚い医療提供を行う体制を整える。また、削減後のスペースを活用し、理学療法士らを増員し、超急性期のリハビリテーション強化を進める方針だ。長崎市内では、長崎みなとメディカルセンターも、2月に30床の削減を実施するなど、地域の医療機関で病床適正化が進んでいる。県医療政策課は「地域の病床数は十分に確保されており、大きな問題はない」としているが、今後も少子高齢化による医療需要の変化に応じた病院経営の見直しが求められる。参考1)長崎大学病院 需要の低下で98床削減へ 経営改善の狙いも(NHK)2)長崎大学病院 一般病床を1割削減…来月から「機能適正化」、患者数減少など背景(長崎新聞)3)長崎大学病院も来月から病床を1割超削減 メディカルセンターに続き…原因は?(長崎文化放送)

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糖尿病を有する終末期がん患者におけるシックデイ時の薬物療法を提案【うまくいく!処方提案プラクティス】第63回

 今回は、胃がん終末期の患者に関して、食事摂取量低下時の重篤な副作用を予防するために薬剤師から能動的に処方調整を提案した事例を紹介します。終末期がん患者では、病勢の進行に伴う全身状態の変化に応じたきめ細やかな薬物療法の調整がとくに重要となります。患者情報85歳、男性基礎疾患胃底部がん(門脈腫瘍塞栓あり)、2型糖尿病(罹患歴35年)、第12腰椎圧迫骨折ADL移乗・移動は全介助、食事は自立、オムツ使用生活環境ホスピス入所中、24時間看護体制下で療養食事摂取量通常の2割程度(1週間前は5割)介入時の検査値HbA1c 7.1%処方内容1.メトホルミン錠500mg 1錠 分1 朝食後2.シタグリプチン錠25mg 1錠 分1 朝食後3.デキサメタゾン錠4mg 1錠 分1 朝食後4.ランソプラゾール錠15mg 1錠 分1 朝食後5.アンブロキソール錠15mg 3錠 分3 毎食後本症例のポイント終末期がんによる全身状態の悪化に伴い、食事摂取量が5割から2割へと急激に低下しました。現行処方を確認したところ、以下の懸念点が浮かび上がりました。メトホルミンによる乳酸アシドーシスのリスク高齢(85歳)食事摂取量の著明な低下がん終末期による全身状態悪化血糖コントロールに影響を与える因子デキサメタゾンによる血糖上昇作用食事摂取量低下による血糖値の変動リスク終末期における治療方針の検討QOLを重視した血糖管理目標の設定低血糖リスクの回避医師への提案と経過以下の内容について情報提供を行いました。【現状報告】食事摂取量:5割→2割に低下がんの進行状況(門脈腫瘍塞栓あり)デキサメタゾン併用による血糖変動リスク【懸念事項】乳酸アシドーシスのリスク因子→食事摂取量低下、がん終末期による代謝異常、高齢終末期における治療方針→症状緩和優先の方針、QOLを考慮した血糖管理目標の設定【提案内容】メトホルミンの中止シタグリプチンによる血糖管理の継続症状観察の強化・継続医師には提案を採用いただき、メトホルミンの中止が決定しました。施設スタッフに状況を説明し、食事摂取状況や血糖値の推移、全身状態の変化、苦痛症状がないかどうかを観察いただくよう伝えました。中止1週間後でも重篤な血糖上昇や乳酸アシドーシス症状はなく、QOLは維持していました。考察本症例では、以下の点が適切な介入につながったと考えています。1.終末期における薬物療法の考え方:QOLを重視した処方調整、リスク・ベネフィットバランスの見直し、過少・過剰医療の回避2.多職種連携の重要性:医師との適切な情報共有、施設スタッフとの密な連携、観察ポイントの明確化3.先制的な介入の意義:重篤な副作用の予防、終末期QOLの維持、安全な薬物療法の実現終末期がん患者の薬物療法管理では、病勢の進行に応じた柔軟な対応が求められます。とくに食事摂取量の変化など、全身状態に影響を与える因子については、早期に気付いて対応することが重要です。本事例は、薬剤師による予防的な処方調整提案が、終末期患者のQOL維持に貢献した例と言えます。ホスピスにおける薬剤師の役割として、患者の状態変化を予測した先制的な介入の重要性を再認識させられた症例となりました。

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第213回 医療機関に迫る変化と課題、コロナ後の医療構造再編

経営悪化の先にあるもの2024年も残り3ヵ月となり、今春(令和6年度)の診療報酬改定の影響がみえてきました。多くの入院医療機関では、病床稼働率の低下に苦慮しているところが増えているのではないでしょうか?当院でも、近隣の病院でも同様の悩みがあり、コロナ前には一時的な病床稼働率の低下が、冬場に回復する傾向がみられましたが、現在は深刻な影響が続いています。従来の「医師不足」や「看護師不足」による医療崩壊とは異なるものが、新しい形で医療機関に迫っているようです。患者不足の原因まず、医療機関側に原因があると考えられます。今春の診療報酬改定により、急性期一般病床1(旧7:1病床)の平均在院日数が18日以内から16日以内に短縮されました。さらに、医療・看護必要度の見直しも影響しています。急性期病床における「重症度、医療・看護必要度」の評価が変更され、B項目が算定から外れたことや、A項目の「救急搬送後の入院」が、従来の5日から2日に短縮されたことで、急性期病床が絞り込まれました。これにより、軽症患者の早期退院や転院が求められ、結果として入院患者数が減少しています。患者側の原因としては、受療動向の変化が挙げられます。軽度の発熱や呼吸困難で来院した高齢患者は、以前であれば「精査目的」で入院することが一般的でした。しかし、コロナ禍を経て、多くの高齢者は「病院は快適な場所ではなく、長く滞在したい場所ではない」と感じるようになりました。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響で、面会制限や認知症の進行、ADLの低下を経験したことから、病院での不必要な入院を避ける傾向が強まっています。その結果、軽症の肺炎や心不全であっても、入院を希望せず、外来通院での治療を選ぶ患者が増加しています。また、訪問診療の急速な普及も要因の1つです。現在、わが国で訪問診療を受けている患者さんは100万人を超えています(在宅患者が100万人を突破、診療報酬も月1,000億円に[日経メディカル])。とくに重症の末期がん患者などが、在宅での療養を選ぶケースが増えています。地域によっては、人工呼吸器管理が必要な患者でも、訪問診療やサービス付き高齢者住宅では看取り対応が可能となっています。これまで、末期がん患者は症状が悪化すれば入院していましたが、現在は訪問診療や介護サービスを活用して在宅療養を続けるケースが多くなり、入院患者はより治療に特化した重症患者に限られている傾向があります。訪問診療や訪問看護の認知度向上により、急性期医療機関の役割が変わり、外来受診や訪問診療で療養を続ける患者が増加しています。このため、急性期医療機関への入院は難度の高い手術や高額な治療材料を用いたケースに限られるようになり、ADLの低下や嚥下困難など治癒が難しい症例は積極的に院外に移す傾向が強まっています。コロナ禍によって定期受診の間隔が広がったこと、後期高齢者の増加に伴い、大病院への通院や入院患者数の減少傾向が顕著です。2025年の地域医療構想に向けて政府は病床削減に取り組んでいたのが(病床数を最大20万削減 25年政府目標、30万人を自宅に[日経新聞])功を奏したとも言えますが、医療の構造変化のスピードがCOVID-19で早まったため、2025年までに実現を目指していた「地域医療構想」の必要病床数以上に医療ニーズが減少してしまい、大部分の医療機関で患者不足に見舞われたというのが真実の姿ではないでしょうか。今後の展望政府は、後期高齢者の増加と労働人口の減少に向けて、2040年を見据えた「新たな地域医療構想等に関する検討会」を立ち上げ、対策を検討しています。とくに75歳以上の高齢者に対する医療・介護の提供体制が今後の課題です。85歳以上の高齢者に対しては、積極的な手術や高度な医療を控える傾向がみられます。心臓手術の件数も減少し、代わりに低侵襲手術が増加しています。今後も内視鏡やロボット手術などの技術革新により、外来手術が増加し、入院期間が短縮されるものと予想されます。全国に整備されたICUやHCU病床も、コロナ禍以降の稼働率低下が問題となっていますが、今後は外来手術センターの設立や回復期への早期転院によって、必要な病床数がさらに減少し、病床再編が求められるでしょう。中小規模の病院では、従来の急性期医療にこだわらず、地域包括医療病棟などへの転換が進むと考えられます。また、政府が進める医療と介護の連携強化が重要となり、病院間の情報共有をデジタル化することで業務効率化が求められます。一般の開業医にとっても、今後、高齢者の歩行能力が低下してしまうと在宅での生活や通院が困難となり、さらに人口の高齢化が進んでいる場合、外来患者数の減少が進むため、新しい患者の獲得のためには、訪問診療の提供や施設などとの連携が必要になると思われます。参考1)在宅患者が100万人を突破、診療報酬も月1,000億円に(日経メディカル)2)自宅でのみとり急増 緊急事態宣言境に、終末期医療も 受診控え、面会制限影響か・慈恵医大など(時事通信)3)増える「老衰」「在宅みとり」人生の最期どう迎えるか(NHK)4)病床数を最大20万削減 25年政府目標、30万人を自宅に(日経新聞)5)新たな地域医療構想等に関する検討会(厚労省)

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東海大学医学部 外科学系腎泌尿器科学領域【大学医局紹介~がん診療編】

小路 直 氏(教授/診療科長)梅本 達哉 氏(助教)青木 芽衣子 氏(臨床助手)講座の基本情報医局独自の取り組み・特徴当科は、泌尿器悪性腫瘍(前立腺がん、腎臓がん、尿路上皮がんなど)に対するロボット支援手術、および腹腔鏡手術を多数実施しています。また、良性疾患である前立腺肥大症、および尿路結石症に対して、幅広い内視鏡手術を多数実施しており、個々の状況に応じた術式で対応しています。特徴ある医療技術として、本学が先進医療として開始し、2022年から保険収載された“前立腺針生検法:MRI撮影および超音波検査融合画像によるもの”、また2023年に先進医療として承認された“集束超音波治療器を用いた前立腺がん局所焼灼・凝固療法”があり、国内外の診療、および研究を牽引しています。地域のがん診療における医局の役割主に神奈川県西部の医療圏の患者さんの多くを診療させていただいています。当院は、三次救急も担っているため、外傷や重症尿路感染症の診察も行うことがあります。また、当科で行っている高度な医療を求める国内外の広い地域の患者さんも多く受診しています。今後医局をどのように発展させていきたいか標準医療を高い精度で実施しつつ、個々の患者さんに対応できる医療技術の選択肢を提供できる診療科を目指します。医工連携は重要なテーマとして考えており、すでに交流のある電気通信大学や東京農工大学との連携により、東海大学独自の診療を確立していきたいと思います。力を入れている治療/研究テーマ治療に関してはロボット支援手術全般、研究テーマとしては「転移性腎がんに対する薬物療法後の待機的腎摘除(Deferred cytoreductive nephrectomy:Deferred CN)の有効性」、「下大静脈腫瘍塞栓を有する腎がんに対する薬物療法後の待機的手術」に現在は力を入れています。腎がんに対する薬物治療の効果は免疫チェックポイント阻害薬(ICI)を主軸とした併用療法の出現により劇的に向上しました。ICIの時代におけるDeferred CNの適応や有効性に関してはまだ明らかになっておらず、当院ではICI併用レジメンを半年以上投与し、外科的CRが達成される症例をDeferred CNの主な適応として治療を行っています。下大静脈腫瘍塞栓を有する症例に対してもICI-分子標的薬併用レジメンを使用し、可能な限り腫瘍塞栓を縮小させた状態でロボット支援手術を併用することにより手術侵襲の軽減が得られると考えています。医局でのがん診療/研究のやりがい、医学生/初期研修医へのメッセージ臓器ごと、がんの種別でチームが分かれていないため、すべてのがんに対して診断や治療を行うことができます。その背景には医局の人数が少ないことも関係していますが(笑)、若手の先生にとっては大きな魅力だと思います。また、当科は臨床に強く、症例数も豊富なため入局後早期から多くの経験を積めると思います。医局の雰囲気が良いことも特徴で、若手の先生方の成長をしっかりとサポートできる環境は整っていますので、興味を持っていただけると嬉しいです。同医局を選んだ理由医学科5年の臨床実習で初めて泌尿器領域に触れ、多彩な疾患と幅広い手技に興味を持ちました。特にロボット支援手術や内視鏡手術における豊富な経験と、絶えず最先端・最良を追求する学究的かつ誠意ある柔軟な姿勢に魅力を感じ、入局を決めました。学生として、研修医として、専攻医として、いかなる時にも熱意をもってご指導いただき、医局の先生方ひとりひとりが私の医師人生のロールモデルとなっています。現在学んでいること入局1年目として、まずは病棟管理の基本を学んでいます。感染症の急性期治療から末期がんの緩和治療まで、患者さんにとっての最善を考え、チームで相談しながら実践しています。また処置や内視鏡手術、ロボット手術の助手など、上級医の先生の手技を学びながら、技術の修得に日々励んでいます。今後のキャリアプラン泌尿器科医として一人前になることが第一で、その後は大学院進学や留学で見聞を広めたいと考えています。悪性腫瘍、とくに尿路上皮がんを専門領域として研究や論文執筆にも挑戦したいと思っていましたが、入局すると女性医師として女性患者さんからの需要を肌で感じ、最近では女性泌尿器疾患にも取り組む意欲が湧いています。いずれにしても、大学病院で最先端の治療と研究、そして患者さんのための医療に邁進するつもりです。東海大学医学部 外科学系腎泌尿器科学領域住所〒259-1143 神奈川県伊勢原市下糟屋143問い合わせ先sunashoj@tokai.ac.jp医局ホームページ東海大学医学部外科学系腎泌尿器科学領域専門医取得実績のある学会日本泌尿器科学会日本癌治療学会日本内視鏡外科学会日本泌尿器内視鏡・ロボティクス学会日本排尿機能学会日本メディカルAI学会研修プログラムの特徴(1)ロボット支援手術、腹腔鏡手術など、豊富な症例数を経験することが出来ます(2)先進医療などの新しい医療技術を経験することが出来ます(3)関連病院を活用し、地域医療を勉強する期間をつくっています

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末期がん患者に対する全身療法は効果なし

 化学療法、免疫療法、標的療法、ホルモン療法は、がんが進行して終末期に近い状態になったがん患者の生存率を改善しないことが、新たな研究で明らかになった。米イエール大学がんセンターのMaureen Canavan氏らによるこの研究結果は、「JAMA Oncology」に5月16日掲載された。Canavan氏は、「末期がん患者に治療を施しても生存率の改善は認められなかった。がん専門医はこの研究結果を患者に説明し、治療目標に関する話し合いを見直すべきだ」と述べている。 末期がん患者に対する全身性抗がん療法(SACT)は、入院率や集中治療室の利用率の増加、ホスピスへの移行の遅れ、生活の質(QOL)の悪化、医療費の増加と関連することが示されている。米国臨床腫瘍学会(ASCO)と全国品質フォーラム(NQF)は、このことを踏まえ、末期がん患者の終末期ケアを改善するために、「死亡前14日以内に化学療法を受けた患者の数」をNQF 021と呼ぶ指標として設定した。NQF 021の対象は、化学療法以外にも免疫療法や標的療法など全ての全身療法に拡大されつつある。 Canavan氏らは、電子健康記録のデータベースを用いて、死亡前14日以内に末期がん患者に実施されたSACTと患者の全生存期間(OS)との関連を検討した。対象患者は、2015年1月1日から2019年12月31日までの間に米国の280カ所のがんクリニックでステージIVのがん(乳がん、大腸がん、非小細胞肺がん、膵臓がん、腎細胞がん、尿路上皮がん)の治療を受けた18歳以上の成人患者7万8,446人(平均年齢67.3歳、女性52.2%)であった。患者は、死亡前14日以内および30日以内のSACT実施率に基づき、がん種ごとに、実施率の最も低いQ1群から最も高いQ5群の5群に分類された。 対象患者の中で最も多かったのは非小細胞肺がん患者3万4,201人(43.6%)、次いで多かったのは大腸がん患者1万5,804人(20.1%)であった。解析の結果、がん種にかかわりなく、生存率についてQ1群とQ5群の間に統計学的に有意な差は認められないことが明らかになった。 Canavan氏はイエール大学のニュースリリースの中で、「われわれは、末期がん患者に対する腫瘍学的治療が生存率の改善と関連しているのか、あるいは治療継続は無駄であり、緩和ケアや支持療法に重点を移すべき時期があるのかを調べたかった」と述べている。 研究グループは、2022年に発表した研究で、末期がん患者に対する全身療法では、抗がん薬の使用が徐々に減少しつつある一方で免疫療法の使用が増加していることを報告していた。研究グループは、「SACTの実施状況は全体的には変わっておらず、死期が近い末期がん患者の約17%が、本研究で無駄な可能性が示唆された治療を今も受けている」と述べている。 研究グループは、「医師は、追加治療がいつ無駄になるのかを見極め、終末期近くのケアの目標について患者と話し合うことで、患者により良いサポートを提供することができる」と結論付けている。一方Canavan氏は、「この情報が、がん専門医が治療を継続するのか否か、あるいは転移を有する患者を支持療法に移行させるか否かを決める際に役立つことを願っている」と述べている。

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第206回  ALS女性患者嘱託殺人裁判が改めて問う、積極的安楽死が日本で認められるための条件

こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。野球シーズンが始まりました。米国MLBでは、ロサンゼルス・ドジャースの大谷 翔平選手の元通訳、水谷 一平氏の違法賭博問題はまだ収束の兆しが見えず、大谷選手にも疑惑の目が向けられているようです。セントルイス・カージナルスとの開幕4連戦も打率2割6分9厘、ホームランなしと湿った成績で、賭博問題が少なからず影響している気もしました。私はといえば、金曜日の神宮球場のNPB開幕戦、東京ヤクルトスワローズ対中日ドラゴンズを観戦に行ってきました。昨シーズン、“令和の米騒動”で話題となったドラゴンズの視察です。巨人から移籍した中田翔選手のホームランは見ごたえがあったのですが、若手中心の野手陣の守備がひどく(とくにクリスチャン・ロドリゲス内野手)、今年もAクラス入りは厳しいのではと感じた次第です。さて、今回は、判決から少々時間が経ってしまいましたが、ALSの女性患者に対する嘱託殺人罪や別の殺人罪に問われた医師、大久保 愉一被告(45)の裁判員裁判の判決公判が3月5日にありましたので、判決文の内容を紹介しつつ、この事件について改めて書いてみたいと思います。判決で川上 宏裁判長は、嘱託殺人について、「被告人は、医師でありながら、被害者とのSNS上での短いやり取りのみでその嘱託に応じ、診察や意思確認もろくにできないわずか15分程度の面会で軽々しく殺害に及んでいる。130万円の報酬の受領を持って行動に移していることも併せて考慮すれば、被告人が、真に被害者を思って犯行に及んだとは考え難く、利益を求めた犯行であったといわざるを得ない。(中略)被告人の生命軽視の姿勢は顕著であり、強い避難に値する」として、懲役18年(求刑懲役23年)を言い渡しました。大久保被告は共犯者である山本 直樹被告(46)とその母と共謀し山本被告の父親を殺害したとする殺人罪にも問われていましたが、この判決で共犯が認められました。なお、大久保被告の弁護側は3月18日、懲役18年とした京都地裁判決を不服として控訴しました。「死を望む女性患者の自己決定権を保障する憲法13条に違反する」と弁護側は主張ALSの女性患者の嘱託殺人については、本連載でも何度か取り上げてきました。事件発覚当初の2020年8月には、「第17回 安楽死? 京都ALS患者嘱託殺人事件をどう考えるか(前編)」、「第18回 同(後編)」で、日本における積極的安楽死の罪の根拠となっている1991年に起きた「東海大学安楽死事件」と 1998年に起きた「川崎協同病院事件」について振り返り、ある有識者の「(この事件は)安楽死議論の対象にもならない」というコメントを紹介しつつ、「果たして本当にそうでしょうか。少なくとも、医療関係者も目を逸らしてきた、積極的安楽死についての議論を再開するきっかけにはなると思うのですが、どうでしょう」と問い掛けました。そして裁判が始まった直後の今年1月には、「第195回 ALS患者嘱託殺人、主犯とされる医師の裁判員裁判始まる、被告は『願いをかなえるためにやった』と証言」において、「嘱託殺人罪の適用を『死を望む女性患者の自己決定権を保障する憲法13条に違反する』とする弁護側の主張が、どこまで通るのかが裁判のポイントになりそうです」と書きました。13条の「生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利」は「個人が生存していることが前提」大久保被告が憲法13条に違反することを根拠に無罪を訴えていたことに対し、川上裁判長は、同条に書かれている生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利は、「個人が生存していることが前提であると解釈されることなどからすれば、たとえ恐怖や苦痛に直面している状況であったとしても、憲法13条から直ちに『自らの死を援助してくれる医療従事者がいる場合に、その医療従事者が刑事罰から免れるように求める権利』などが導き出されるものではない。したがって、憲法13条違反を直接的な理由・根拠として本件に嘱託殺人罪を適用しないとの結論を採用することはできない」と断じました。患者の症状の判断や、本人や家族等への説明や意思確認など詳細な手順を明示今回の事件、起こった当初は「安楽死議論の対象にもならない」との批判もありましたが、京都地裁判決では、嘱託殺人罪を問わない要件を細かく明示しており、その点では議論が半歩くらいは進んだ、と言えるでしょう。判決では、「死期が間近に迫り、耐え難い肉体的苦痛に苦しんでいる患者や、本件の被害者のように、現代の医学では病状の進行を止めることができず、迫り来る死や、自立的な意思伝達手段の喪失のおそれに直面して日々恐怖に怯えたり、絶望したりしつつも、身体的な自由がきかないことで自殺することもままならないような患者」の存在について言及、そうした患者からの嘱託についても例外なく嘱託殺人罪を当てはめてしまえば、患者らの嘱託に応えようとする医療従事者は現れず、患者らに耐え難い苦痛や恐怖・絶望を強いることになり酷であるとして、「可罰的違法性がないとして嘱託殺人罪に問うことが相当ではないと評価される事案の存在はあり得る」としました。しかし、そのためには、少なくとも、「(1)上記のような状況下にある患者らに対し、その病状による苦痛等の除去・緩和のために他に取るべき手段がなく、かつ、患者が自らの置かれた状況を正しく認識した上で、自らの命を絶つことを真摯に希望するような場合に、(2)医療従事者が、1)医学的に行うべき治療や検査等を尽くし、他の医師等の意見等も徴して、患者の症状をそれまでの経過等も踏まえて診察し、死期が迫るなど現在の医学では改善不可能な症状があること、それによる苦痛等の除去・緩和のために他に取るべき手段がないことなどを慎重に判断し、2)その診察・判断を基に、患者に対して、患者の現在の症状や予後を含めた今後の見込み、取り得る選択肢の有無等について可能な限り説明を尽くし、それらについての正しい認識に基づいた患者の意思を確認するほか、患者の意思をよく知る近親者や関係者等の意見も参考に、患者の意思の真摯性及びその変更の可能性の有無を慎重に見極めた上で、3)患者自身の依頼を受けて、苦痛の少ない医学的に相当な方法を用い、4)事後検証可能なように、それら一連の過程を記録化することなどが最低限必要であるというべきである」――としました。1991年「東海大学安楽死事件」で横浜地裁判決が示した積極的安楽死が許容されるための4要件「安楽死」については、回復が見込めない患者の死期を医師が薬剤を使用するなどして早める「積極的安楽死」と、終末期の患者の人工呼吸器や人工栄養などを中止する「消極的安楽死」の2つの概念があります。前者の「積極的安楽死」は、現在の日本においては今回の裁判のように、嘱託殺人罪や殺人罪などに問われることになります。積極的安楽死の罪の根拠となっているのは、1991年に起きた「東海大学安楽死事件」と 1998年に起きた「川崎協同病院事件」です。東海大学安楽死事件では、家族の要望を受けて末期がんの患者に塩化カリウムを投与し、患者を死に至らしめた医師が殺人罪に問われました。1995年、横浜地裁は、被告人を有罪(懲役2年執行猶予2年)とする判決を下しました(控訴せず確定)。患者自身による死を望む意思表示がなかったことから、罪名は嘱託殺人罪ではなく、殺人罪になりました。この判決では、医師による積極的安楽死が例外的に許容されるための要件として、1)患者が耐えがたい激しい肉体的苦痛に苦しんでいること2)患者は死が避けられず、その死期が迫っていること3)患者の肉体的苦痛を除去・緩和するために方法を尽くし他に代替手段がないこと4)生命の短縮を承諾する患者の意思表示が明示されていることという4つの要件が提示されました。フランスは「死への積極的援助」を導入する法案を発表今回の京都地裁判決は、日本において積極的安楽死が認められる要件をさらに詳細に定めたとも言えるでしょう。「東海大学安楽死事件」の横浜地裁判決で示された積極的安楽死が例外的に認められる4要件に加えて、医療従事者が具体的にどのような手順を踏むべきかをより具体的に示したからです。もっとも、患者の症状の判断や、本人や家族等への説明や意思確認など、相当厳格かつ慎重な手順を踏まなければならず、実際の臨床の現場で実行に移されるかどうかは未知数です。ALS女性患者嘱託殺人裁判の判決が出た1週間後の3月12日、共同通信は「フランスのマクロン大統領は3月11日までに、終末期患者に厳格な条件の下で致死量の薬の投与を認める『死への積極的援助』を導入する法案を発表した」と報じました。自身で死を決断できる能力があり、短期・中期的に死の恐れがある重病に冒され、苦痛を和らげることができない成人に限って安楽死を認めるという法案です。5月から議会で審議するとしています。報道によれば、フランスでは2016年に終末期患者の意識を低下させる鎮静薬投与を医師に認める法律が成立したものの、オランダなどで認められた患者の意思により医師が薬物などで死に導く安楽死や、スイスで認められているような医師が処方した薬物を患者が自ら使用する自殺ほう助はまだ禁じられています。今回の「死への積極的援助」を導入する法案はそうした現状を打破するためのものと言えそうです。オランダ、スイス、そしてフランスなどの安楽死容認に向けての動きが、今後、日本における積極的安楽死の議論にどう影響してくるかが注目されます。

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がん治療中のその輸液、本当に必要ですか?/日本臨床腫瘍学会

 がん患者、とくに終末期の患者において最適な輸液量はどの程度なのか? 第21回日本臨床腫瘍学会学術集会(JSMO2024)で企画されたシンポジウム「その治療、やり過ぎじゃないですか?」の中で、猪狩 智生氏(東北大学大学院医学系研究科緩和医療学分野)が、終末期がん患者における輸液の適切な用い方について、ガイドラインでの推奨や近年のエビデンスを交え講演した。「輸液の減量」をがん治療中の腹痛や悪心の治療オプションに 猪狩氏はまず実際の症例として、70代の膵頭部がん(StageIV)患者の事例を紹介した:1次治療(GEM+nab-PTX)後にSDとなったものの、8ヵ月後に腹痛、悪心で緊急入院し、がん性腹膜炎、麻痺性イレウスと診断。中心静脈確保、絶食補液管理(1日2,000mL)となり、腹痛に対しオピオイドを開始したものの症状コントロール困難となった。 このようなケースで治療オプションとなるのは、オピオイドの増量や制吐薬、ステロイド、オクトレオチドの使用などだが、同氏は「輸液の減量も症状緩和のための手段の1つとして加えてほしい」と話した。輸液量で予後は変わるか?また大量の輸液で増悪する可能性のある症状とは 近年報告されているエビデンスとしては、終末期のがん患者において輸液1日1,000mL群(63例)と100mL群(66例)を比較した結果、全生存期間について群間の有意差はなかったという多施設共同無作為化比較試験の報告がある1)。一方で腹膜転移のあるがん患者226例を対象に実施された前向き観察研究では、輸液1日1,000mL群と200mL群の比較において、1,000mL群で浮腫、腹水、胸水の増悪が認められやすかったと報告されている2)。「終末期がん患者の輸液療法に関するガイドライン 2013年版」3)では、終末期がん患者に対する大量輸液で増悪する可能性のある病態・症状としては以下が挙げられている:・浮腫→疼痛、倦怠感・胸水、腹水の増加→腹痛、腹部膨満感、呼吸苦、咳嗽・気道分泌の増加→呼吸苦、咳嗽、喘鳴・せん妄→身の置き所のなさ、疼痛の閾値低下・消化管分泌物の増加→嘔吐、悪心、腹痛 これらの知見から猪狩氏は、終末期がん患者に対する多量の輸液は、全生存期間の延長効果も乏しく、むしろ各種症状を増悪させる可能性があることを指摘した。症状緩和に適した輸液量と減量を検討するタイミング では、実際に症状緩和に適した輸液量とはどのくらいなのか? 日本、韓国、台湾の2,638例を対象に実施された前向き観察研究では、Good Death Scale(GDS)という評価尺度(症状緩和や死の受容といった観点から患者が穏やかな死を迎えられたかの医療者評価)を用いた評価の結果、1日250~499mLの輸液を投与された患者で有意にGDSが高かった4)。 実臨床で輸液の減量を検討するタイミングについて猪狩氏は、Palliative Performance Scale(PPS)20%以下(ADLがベッド上で全介助、食事の経口摂取は少量、意識レベルもややdrowsy)が1つの目安となるのではないかと提案。「PPS20%以下のタイミングがいま投与している輸液量がこのままでいいのかを振り返る1つのポイント。輸液を完全にやめる必要はないが、患者さんの苦痛症状や家族の希望に応じて、減量を選択肢の1つに加えていただきたい」と話して講演を締めくくった。

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調剤後薬剤管理指導が“格上げ”、対象の薬と患者が拡大【早耳うさこの薬局がざわつくニュース】第127回

2024年度の調剤報酬改定の内容が確定しました。これまでの改定は華々しく何かがスタートしたりしましたが、あまり浮足立った感じはなく、しっかりと地に足が着いた改定のように感じます。今回は2024年度の調剤報酬改定によって新設や変更となった加算を紹介します。「調剤後薬剤管理指導料」が加算→指導料に変更薬学管理料の「調剤後薬剤管理指導加算」が廃止され、「調剤後薬剤管理指導料」が新設されます。2020年度改定で新設された調剤後薬剤管理指導加算は、薬剤を服用中の患者に対する薬剤師のフォローアップを評価する目的で新設された点数でした。その基本的な考え方は受け継がれつつ加算から指導料へ変更されたということは、これらの指導が評価されて格上げされたと考えてよいでしょう。調剤後薬剤管理指導加算の対象となっていた糖尿病薬の範囲はインスリンとSU薬でしたが、「糖尿病用剤」に拡大され、また対象患者に慢性心不全患者が追加されました。調剤後薬剤管理指導加算では、かかりつけ薬剤師管理指導料の算定患者では算定できませんでしたが、調剤後薬剤管理指導料では算定患者に対してフォローアップを実施した場合でも算定ができるようになります。加算から指導料になっても60点という点数に変更はありません。しかし、この調剤後のフォローアップが踏襲され、しかも対象が広がったということは、これを積極的に取り組んでいる薬局が評価されたということでとてもうれしいです。調剤後薬剤管理指導料を算定できる薬局は、地域支援体制加算を算定可能として届出をしている薬局です。ベースが地域支援体制加算というのは、今後も基本要件になってくる可能性は高いでしょう。「在宅移行初期管理料」が新設在宅訪問を開始する際には、あらかじめ患者さん宅やケアマネジャーさんを訪問してさまざまな確認をすると思いますが、その加算や指導料はとくにありませんでした。今回、患者さんが病院から退院するときなど、在宅医療に移行する際の薬学管理に対する評価として、新たに「在宅移行初期管理料」が導入されます。退院直後などに薬局薬剤師が患者宅を訪問し、服薬状況の確認や薬剤の管理などの必要な指導を実施した場合に、1回に限り230点を算定できます。1回だけの算定とはいえ230点は大きいですし、その1回を確実に意味のあるものにしようという気合と責任が芽生えますよね。ただし、認知症や精神疾患、小児、末期がんなど条件を満たす患者さんのうち、とくに重点的な服薬支援を行う必要性があると判断された場合に限る、とされているので、対象となる患者さんの注意が必要です。私は、日々患者さんのために頑張っている薬局や薬剤師が報われてほしいと思ってこのコラムを書いていますが、今回の改定内容を読み込めば読み込むほど、薬局がどんどん増え、薬剤師は稼げると言われた時代は過ぎ去り、地域医療のために実績を上げている薬局や薬剤師が生き残る時代に突入したのだなという実感がします。今回新設・変更された項目に対する取り組みや実績が今後の報酬改定で評価されればよいなと思います。

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緩和ケアにおける低ナトリウム血症【非専門医のための緩和ケアTips】第71回

第71回 緩和ケアにおける低ナトリウム血症電解質異常には、いろいろな種類がありますが、遭遇する機会が最も多いものが「低ナトリウム血症」でしょう。頻度は高くとも、程度によっては意識障害や痙攣といった重篤な症状を引き起こします。緩和ケアでは、低ナトリウム血症とどのように向き合えば良いのでしょうか?今回の質問訪問診療で診ている終末期がん患者さん、低ナトリウムにどの程度介入すべきかを悩んでいます。低ナトリウム血症の原因は、SIADH(抗利尿ホルモン不適合分泌症候群)だと考えています。水分制限も考えるのですが、口渇が苦痛のようで、厳密に取り組むのは難しそうです。がん患者の低ナトリウム血症の原因として、しばしば見かけるのがこのSIADHですね。抗利尿ホルモンが不適切に分泌されることで水分の再吸収が過剰となり、低ナトリウムに至ります。この病態は、さまざまな原因で生じることが知られており、痛みや吐き気といった、がん患者でよく経験する症状でも悪化します。SIADHの治療は、原因除去と併行して、低ナトリウムの程度によっては水分制限を行います。回復可能な病態の高齢者に生じたSIADHに関しては、これらに取り組むことで改善することが通常です。ただし、緩和ケア領域で悩ましいのはここからです。改善可能な原疾患がないことが多いため、厳しい闘いを強いられます。水分制限も、今回のように口渇がある場合には、どこまで厳密に行うかは悩ましいところです。ここで考えるべきは予想される予後とのバランスでしょう。予想される予後が月単位を切っている状況であれば、すでにコントロール困難な低ナトリウム血症に対して、厳密な介入はデメリットのほうが大きい、と判断する専門家が大半でしょう。もちろん、この辺りは関係者で擦り合わせながら取り組むべき領域です。患者は口渇感を和らげるために飲水を望みますが、実はここでは口腔ケアも有効です。スポンジブラシなどで口の中を湿らしながらケアすることで、口渇感が和らぐことが知られており、検討するのも良いかもしれません。口腔ケアは病態改善だけでなく、症状緩和の観点からも重要なので、積極的に看護師と相談したい分野です。近年、予後が比較的保たれる状況での低ナトリウム血症に対する介入に、新たな選択肢が増えました。心不全患者に使用されていたトルバプタンが、2020年にSIADHへ適応拡大されたのです。予後の問題から私は処方経験があまりありませんが、状況によっては選択肢になるでしょう。ただし、採血でナトリウムを頻回に確認する必要があり、在宅医療における有効性は難しいところがあります。今日のTips今日のTipsがん患者の低ナトリウム血症、SIADHに注意しよう。

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社会的苦痛って何だろう【非専門医のための緩和ケアTips】第43回

第43回 社会的苦痛って何だろう緩和ケアについては、医師でもあまり聞き慣れない言葉や分野が出てくるかと思います。今日のテーマ「社会的苦痛」というのも、わかりにくい例の1つではないでしょうか。今日の質問緩和ケアについて勉強していると必ず出てくる「社会的苦痛」という単語。医療者としては具体的に何をすればよいのでしょうか?「社会的苦痛」、少なくとも私の年代の医学部教育では出てこなかった用語です。しかし、緩和ケアを実践していく中では非常に大切な概念なのです。イメージしやすいよう具体的な例を見ていきましょう。――80歳で骨転移を伴う肺がん患者さん。骨転移部の痛みを訴えます。医師のあなたは外来で診察、評価して鎮痛薬を処方します。腎機能などをチェックした上で、NSAIDsや症状によってはオピオイドも必要になるでしょう。こういった身体症状に対する症状の緩和はイメージしやすいですよね。でも、この患者さんが置かれた状況に対して、薬剤の処方だけで十分な支援が提供できているでしょうか?聞けばこの患者さん、年の近い高齢の奥さんと二人暮らしだそうです。もともと家の中では伝い歩きで生活していましたが、痛みが強くなって排泄のたびに手助けが必要となり、奥さんの負担が急激に重くなっています。ご本人たちは自宅で過ごしたいと考えていますが、介護の負担がさらに大きくなるようなら、在宅療養は諦めざるを得ないでしょう…。こうした状況は、皆さんも日常的に目にするでしょう。このような、「疾患によって引き起こされる、生活や社会活動に対する影響」を「社会的苦痛」と呼んでいます。医師としては介護保険の活用や見直しを勧め、今後の病状変化や介護負担の予測をケアマネジャーと共有することが重要です。今回のような高齢者の場合、社会的苦痛の議論は要介護状態に対する支援や介護者の負担軽減が中心になります。一方、若年者の場合、たとえばまだ幼いお子さんがいる終末期がん患者さんであれば、家事・育児支援やお子さんとのコミュニケーション支援が必要でしょう。一家の稼ぎ手であれば休職や退職による家計の困窮状態を避ける支援が必要です。家計だけでなく、社会とのつながりを保つ意味でも、患者さんの就労支援はとても重視されるようになっています。このように解きほぐしていくと、社会的苦痛に対して医師が担う役割を認識しやすくなります。患者さんごとの状況に合わせ、病気の見通しや注意点を共有することで、さまざまな支援の可能性が見出せます。具体的なケアプラン作成などは介護職が対応してくれるでしょうが、専門職と情報を共有し、しっかり連携することが大切です。「社会的苦痛」の概念を知ると、多職種で取り組むことの必然性も理解できるでしょう。今回のTips今回のTips「社会的苦痛」の概念を理解することで、緩和ケアの実践の幅が広がります。

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自宅コロナ死、4割は同居家族あり/COVID-19対策アドバイザリーボード

 第109回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボードが、12月7日に開催された。その中で「新型コロナ患者の自宅での死亡事例に関する自治体からの報告について」が報告された。 調査期間中776名の自宅で死亡した者の解析から、死亡者の79%が70代以上であり、基礎疾患がある者が69%、親族などと同居が42%いた。また、ワクチン接種歴も不明が34%で一番多いものの、「3回接種」も28%と多かった。 政府では、「Withコロナに向けた政策の考え方」に則り、今後必要な医療資機材の提供、国民への正確な知識の普及に努めるとしている。 以下に概要を示す。70代以上の高齢者で、基礎疾患がある人は死亡が多い【調査概要】期間: 2022年7月1日~8月31日地域:全国都道府県条件:新型コロナウイルス感染症患者(死後陽性確認者も含む)で自宅にて死亡した者を本年10月に都道府県を通じ、その年齢、基礎疾患、同居の有無、ワクチン接種歴、死亡に至るまでの経過などを調査(ただし自宅療養中に症状が悪化し、医療機関に入院した後に死亡した事例は除く)。【結果概要】 合計776名(男性460名、女性316名)(死亡時の年齢構成) 80代以上が58%、70代以上が21%、60代以上が9%(基礎疾患の有無) 「あり」が69%、「なし」が19%、「不明」が12%(ワクチンの接種歴) 「不明」が34%、「3回」が28%、「未接種」が20%(単身・同居などの状況) 「不明」が48%、「同居」が42%、「単身」が10% その他の事項は次のとおり。・死亡直前の診断時の症状の程度について、軽症・無症状が41.4%、中等症が13.1%、重症が7.1%、不明または死亡後診断が38.4%・生前に陽性が判明した者は70.1%、死後に陽性が判明した者は29.9%・発生届の届出日が死亡日よりも前であった事例が50.6%、発生届の届出日が死亡日と同日であった事例が31.2%、発生届の届出日が死亡日以降であった事例が17.9%、不明が0.3%・自宅療養の希望ありが22.8%、希望なしが10.3%、不明者および死後陽性が判明した者が66.9%発熱がなく、毎日訪問介護を受けていても死亡のケースも【具体的な死亡事例について】・救急搬送の搬入時の検査で陽性が判明したケース。・家族や親族などに自宅で倒れているところを発見されたケース。・陽性が判明したが、本人や家族の意思により自宅療養を希望したケース。・高齢であることや末期がんであることにより自宅での看取りを希望したケース。・自宅療養中に急速に重症化して死亡したケース。・同居家族から感染し、自宅での死亡につながったケース。・コロナ以外の要因で死亡し、死後に陽性が判明したケース。・入院や宿泊療養、治療を希望しないケース。・浴槽で意識がなくなっているところを同居家族に発見されたケース。・入院調整や宿泊療養の対象となるも、直後に死亡したケース。・主治医からの健康観察や訪問看護を受けていたものの、死亡したケース。・自宅訪問するも応答なく、警察に協力依頼を行ったケース。・症状があったが検査や受診を受けずに、死後に陽性が判明したケース。・家族は入院を希望していたが、自宅療養となり、死亡したケース。・発熱がなく、毎日訪問介護を受けていたが、死亡したケース。【自治体での取組事例】・体調の変化・悪化の早期把握のため、自宅療養開始時の説明、ホームページ、SMSなどで電話相談窓口への連絡を自宅療養者に対して周知。・療養者支援センターを開設。若年層にはSMSを利用して調査を実施し、保健所が電話で調査すべき対象者を重症化リスクが高い方に絞ることで連絡遅滞を防ぐ改善を行った。・陽性者からの要請があった場合、感染防護対策を行ったうえで、直ちに現場に向かう体制を施行。【今後の対応】 「Withコロナに向けた政策の考え方」の考え方に則り、入院治療が必要な患者への対応の強化、発熱外来や電話診療・オンライン診療の体制強化、治療薬の円滑な供給、健康フォローアップセンターの拡充と自己検査キットの確保などの対策を進めるとともに、国民への情報提供と重症化リスクなどに応じた外来受診・療養への協力の呼びかけなどに取り組んでいく。

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せん妄ガイドライン2022年版第2版の主な改訂点を解説

 日本サイコオンコロジー学会 / 日本がんサポーティブケア学会編『がん医療におけるこころのケアガイドラインシリーズ 1 がん患者におけるせん妄ガイドライン 2022年版』(金原出版)を刊行した。2019年の初版に続く改訂2版となる。改訂作業にあたった京都大学医学部附属病院緩和ケアセンター/緩和医療科 精神科医の谷向 仁氏に、主な変更点やポイントを聞いた。 がん患者さんは精神的な問題を抱えることが多いのですが、その対応は医療者個人の診療経験などによってばらつきが認められています。この経験による判断はもちろん大切なのですが、一方でさまざまなバイアスによる影響も懸念されます。 『がん医療におけるこころのケアガイドラインシリーズ』は、がん患者さんの精神的問題に対する対応法の基本となる部分の均てん化を図ることを目的として、多くの医療分野で近年使用されている「Minds診療ガイドライン作成マニュアル」に基づきまとめられています。 2019年の『せん妄ガイドライン』初版にはじまり、今夏刊行の『患者-医療者間のコミュニケーションガイドライン』『遺族ケアガイドライン』、そして現在シリーズ4冊目となる不安と抑うつをテーマとした『がん患者の気持ちのつらさ(仮)』を作成中です。せん妄ガイドラインはオピオイドほかがん特有のトピックを主に解説 せん妄とは、身体的異常や使用薬剤が直接的原因となって引き起こされる意識障害です。あらゆる疾患で起こり得るものですが、がん患者ではその頻度が高く、特に終末期がん患者では80~90%に認められると報告されています。また、骨転移に伴う高カルシウム血症や脳転移、症状緩和の目的で使用されるオピオイドやステロイドなど、がん患者に特有ともいえる背景を有します。さらには、がん患者のみならず家族も含めてのケアが重要となります。 せん妄ガイドラインではこのようながん特有のせん妄に関するトピックに対して、がん患者でのこれまでの質の高い研究報告を中心にシステマティックレビューを行い、検討したものをまとめています。せん妄ガイドライン改訂版ではせん妄予防視点の臨床疑問を追加 せん妄ガイドライン2019年版を発刊以後、その内容について多くの紹介の機会を頂きました。その際、さまざまなコメントと共に、今後の改定に際しての要望も頂いておりました。今回のせん妄ガイドライン改訂版では、それらの貴重なご意見を可能な限り採用して補強するように努めました。せん妄ガイドライン第2版の主な改訂点は主に以下の通りです。1)総論5「終末期せん妄のケアとゴール」の章を新設2)総論6「病院の組織としてせん妄にどう取り組むか」の章を新設3)III章の臨床疑問に「1.予防のための非薬物療法」「2.予防のための抗精神病薬」「6.症状軽減のためのトラゾドン」の3つを追加4)IV章「臨床の手引き」を新設 せん妄は発症後の対応が中心であった一昔前と異なり、近年では「せん妄を発症させない」予防が非常に重要と考えられるようになってきています。2020年度診療報酬改定で新設された「せん妄ハイリスクケア加算」はまさにせん妄予防を評価するという流れを反映したものです。せん妄予防では医師、看護師、薬剤師など多職種によるチーム医療、そして、組織としての取り組みが非常に重要となります。 また、ガイドラインの結果を臨床にどのように活かすことができるかという具体的な手引きの要望も多く聞かれたことから、まず薬物療法についての解説を加えました。さらに、可逆性のせん妄対応とは大きく異なり、不可逆性の転帰が多い終末期せん妄に対する解説を充実させました。せん妄ガイドラインをがん診療に携わるすべての医療者に がん患者さんのせん妄に初めに遭遇するのは、せん妄診療を行う精神科医や心療内科医ではなく、がん治療に携わる医療者です。また、予防、早期発見と対応(原因検索とその対応)が大切であり、これらをチームで展開することが求められます。がん治療に携わる医師はもちろんのこと、看護師、薬剤師の方々などがん医療に携わるすべての医療者に手に取っていただき、せん妄ガイドラインを日々の診療に役立てていただきたいと思っています。書籍紹介『がん患者におけるせん妄ガイドライン 2022年版』

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医療訴訟を回避するカルテ術【Dr.倉原の“俺の本棚”】第54回

【第54回】医療訴訟を回避するカルテ術医療トラブルになったとき、証拠としてのカルテが非常に重要になります。この理由は、医療訴訟での事実認定がカルテに依存していることが挙げられるようです。医師と弁護士のダブル免許を持っている山崎 祥光氏が、北野病院で講演してきた「カルテの書き方」のスライドを、北野病院院長の吉村 長久氏が中心となって編さんされた本で、非常に完成度が高いです。『トラブルを未然に防ぐカルテの書き方』吉村 長久, 山崎 祥光/編. 医学書院. 2022年2月発売私は臨床医を約15年続けていますが、幸運なことにこれまで医療訴訟を起こされたことはありません。しかし、医療トラブルの経験はあります。進行期の悪性疾患で助かる見込みがない患者が急変して亡くなったときに、遠方から初めて会う家族がやってきて激怒したのです。私は怒りに対して申し訳ないという謝罪の意を示しましたが、これは当初「非を認めた」ととられてしまいました。終末期がんがどのようなものかを後日しっかりと説明することで納得されたのですが、「場合によっては訴訟」と言われたことは、今でも記憶に残っています。「遠方の家族も含めて、みんなで情報を共有すべきであったし、死が近づいていることを本人が家族に話しやすい方向にもっていくべきだった。あなたの怒りももっともだ」という意味での謝罪だったのですが、医療内容に関して非を認めてしまうような印象を与えてしまったようです。一番ベストな方法は、「医療責任ではなく、患者家族のつらいお気持ちに対して謝罪の意を表明した」などというカルテ記載を心掛けて、決して責任に対して謝罪したわけではないことがわかればよいそうです。その時に罵倒されることを回避できるわけではありませんが、後日医療訴訟に発展した場合の防衛策になります。この本は病状説明、同意書、処置などに関する医療トラブルの例を挙げつつ、プロによる「カルテにはこう書こう」という具体案が提示されています。医療訴訟の医学書なんて、これまでになかったので、かなり新鮮でした。「患者の病状理解が悪い」「進言するが聞き入れられず」みたいな感じで、感情を入れてカルテを書いてしまいがちな人は必読です。当院は外国人結核の患者さんがよく入院してくるんですが、片言で日本語を話す外国人のカルテに「S)大丈夫デス!」のように書いてしまう自分がいます。悪意があるわけではないのですが…。『トラブルを未然に防ぐカルテの書き方』編集吉村 長久, 山崎 祥光出版社名医学書院定価3,960円(税込)刊行年2022年

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新型コロナ自宅死亡例は高齢者が多い/アドバイザリーボード

 4月27日に開催された政府の新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボードで「新型コロナ患者の自宅での死亡事例に関する自治体からの報告について」が公開された。 本報告では、令和4年1月1日~3月31日までの間に自宅で死亡された5態様(例:自宅療養中に死亡、入院調整中などに死亡、死亡後に陽性確認など)の新型コロナウイルス感染症患者について、都道府県を通じ、年齢、基礎疾患、同居の有無、ワクチン接種歴、死亡に至るまでの経過などを調査、集計したもの。【死亡者の概要】対象者:計555人(男性352人、女性203人)1)死亡時の年齢構成:80代(55%)、70代(24%)、60代(10%)2)基礎疾患の有無:あり(64%)、なし(25%)、不明(11%)3)ワクチン接種歴:2回(39%)、不明(38%)、未接種(16%)4)単身・同居などの状況:家族などと同居(46%)、不明(40%)、単身(14%)5)死亡直前の診断時の症状の程度については、軽症・無症状が43.4%、中等症が7.0%、重症が2.2%、不明または死亡後の診断が47.4%6)生前に陽性が判明して自宅療養中に死亡した者は65.8%、死後に陽性が判明した者は34.2%7)発生届の届出日が死亡日よりも前であった事例が36.2%、発生届の届出日が死亡日と同日であった事例が39.8%、発生届の届出日が死亡日以降であった事例が24.0%8)自宅療養の希望ありが20.4%、希望なしが11.5%、不明者および死後に陽性が判明した者が68.1%【具体的な死亡事例について(抜粋)】・陽性が判明したが、本人や家族の意思により自宅療養を希望するケースがあった。・救急搬送の搬入時の検査で陽性が判明するケースがあった。・高齢であることや末期がんであることにより自宅での看取りを希望するケースがあった。・入院調整や宿泊療養の対象となるも、直後に死亡するケースがあった。・本人の意思により医療機関での受診や検査を希望しないケースがあった。 政府は、今後の対応として、保健・医療体制を強化しながら、オミクロン株の特徴を踏まえ、自宅療養者が確実に医療を受けることができる環境整備が重要であり、自宅療養者に対応する医療機関や発熱外来の拡充、重症化リスクのある患者を対象とした経口治療薬や中和抗体薬の迅速な投与体制の確保などの対応を実施していくことで、地域における医療体制の充実に取り組むとしている。【参考:各都道府県の自宅療養への取組事例(抜粋)】(健康観察の重点化)・陽性判明後、当日届出があった患者の携帯電話あてにショートメッセージで夜間などの緊急時連絡先などを知らせるようにした。また、固定電話のみの患者への連絡を優先するようにした。・保健所から電話連絡を取る対象を、重症化リスクの高い対象に重点化するため限定した。1月下旬からは40歳未満で基礎疾患などのない、ワクチン2回接種済みの方以外、2月上旬からは50歳未満で基礎疾患等の無い方以外の方に注力。(外注による休日対応)・自宅療養者と2日間連絡が取れなかった場合、平日のみ消防局職員の協力により自宅を訪問していたが、土日についても、別事業で委託している業者に訪問の協力を依頼することとし、毎日訪問できる体制に改めた。(看取りの対応)・コロナに感染する前から基礎疾患のため終末期で、家族が自宅での看取りを希望した場合には、在宅医、訪問介護と連携し、自宅看取りの対応を行った。

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