サイト内検索|page:93

検索結果 合計:2898件 表示位置:1841 - 1860

1841.

AZ製ワクチン接種後のVITT、免疫グロブリン療法による治療転帰/NEJM

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対するアデノウイルスベクターワクチンの、まれな副作用であるワクチン誘発性免疫性血栓性血小板減少症(VITT)の治療として、高用量免疫グロブリン静注(IVIG)療法と抗凝固薬の併用療法が推奨されている。カナダ・マックマスター大学のAlex Bourguignon氏らは、ChAdOx1 nCoV-19(AstraZeneca製)の接種後にカナダで確認されたVITTの、最初の3例におけるIVIG療法について報告した。NEJM誌オンライン版2021年6月9日号掲載の報告。3例とも動脈血栓症を発症 3例はいずれもインド血清研究所で製造されたワクチンを接種していた。また、63~72歳と高齢であるが、カナダでは、VITTは若年者に多いという欧州の報告に基づき、ChAdOx1 nCoV-19の使用を55歳以上に限定していたことが背景としてある。3例のうち1例は女性であった。 2例が四肢動脈血栓症、3例が脳静脈および脳動脈血栓症を発症した。注目すべきは、3例全例が1つ以上の動脈血栓症を発症したことで、高齢のVITT患者は動脈血栓症を呈しやすい可能性が推察された。 また、ヘパリンおよび血小板第4因子(PF4)に対する血小板活性化のパターンはさまざまであり、血清におけるVITTの兆候は不均一であることが示唆された。3例ともIVIG療法により抗体誘発性の血小板活性化が低下した。VITTを発症した3例の臨床経過【症例1】 72歳女性。特記すべき既往歴なし。接種7日後に左下肢痛と跛行を発症し、発症8日後に入院。画像診断にて、左浅大腿動脈と深部大腿動脈の閉塞、腹腔動脈と右腓骨動脈の部分的血栓を伴う副腎血栓を認めた。ヘパリン起因性血小板減少症(HIT)は疑われなかったことから未分画ヘパリンの投与を開始し、3日後に外科的塞栓摘出術を実施。その頃にはVITTが疑われ、アルガトロバン投与を開始するも、5日間で血小板数の改善を認めず、高用量IVIGを投与した。その後、血小板数は増加し、アピキサバン経口投与を行い、退院となった。【症例2】 63歳男性。心血管リスク因子および血栓症の既往歴なし。接種18日後に左下肢けいれんを認め、その4日後に急性呼吸困難を発症。接種24日後に救急外来受診、造影CTにて左下肢急性動脈血栓症と広範囲の肺塞栓症を認め、低分子ヘパリンのtinzaparinを投与し、外科的塞栓摘出術を施行。VITTが疑われたため、ヘパリンからフォンダパリヌクスへ変更するとともにIVIG投与。その後、新たな血栓症は発症しなかったが、下肢遠位部の血栓残存のため足尖部の虚血性壊死となり、本報告時点では切断術の待機中。【症例3】 69歳男性。2型糖尿病、高血圧症、閉塞性睡眠時無呼吸症候群、前立腺がん(最近診断されステージはまだ不明)の既往あり。血栓症の既往なし。9ヵ月前に経カテーテル大動脈弁置換術を受けた際にヘパリンが投与され、その後1日1回アスピリン(81mg)を服用中。 接種12日後に、頭痛と混乱状態、進行性の左半身脱力を主訴に入院。入院3日目に左半身脱力の増強、出血性変化を伴う右中大脳動脈梗塞が確認され、VITTと診断した。さらに、右内頸動脈、右大脳横静脈洞とS状静脈洞、右内頸静脈、肝静脈、下肢遠位部静脈に血栓を認め、肺塞栓症も発見された。フォンダパリヌクスとIVIGで治療し、片麻痺は持続したが新たな血栓症は認めなかった。その後、血小板減少症が再発しIVIGを追加投与。その後、接種後47~62日の期間に血漿交換療法を13回行い、徐々に血小板数は回復し正常化した。

1842.

子供への新型コロナワクチン、学会が声明発表/日本小児科学会

 2021年6月16日、日本小児科学会は新型コロナワクチンの子供への接種について、学会としての見解を発表した。「新型コロナワクチン~子どもならびに子どもに接する成人への接種に対する考え方~」と題したこの声明では、子供を感染から守るためには、周囲の成人が免疫を獲得することが重要とし、まずは成人の接種が優先されるべきで、とくに医療的ケア児等や重篤な基礎疾患のある子供に関わる業務従事者、そして健康な子供に関わる業務従事者は、職種・勤務形態を問わずワクチンを接種することが重要とした。 そのうえで子供自身への接種に関しては、以下のように提言している。健康な子供 12歳以上はワクチン接種に意義がある。小児でもまれにある重篤化や同居する高齢者への感染リスクを防止できる。接種前に本人と養育者への十分な説明が必要となり、できれば個別接種が望ましい。ワクチン接種を希望しない子供と養育者が特別扱いされない配慮が必要となる。重篤な基礎疾患がある子供 基礎疾患がある子供はCOVID-19感染時に重症化する可能性があり、接種対象年齢の子供はワクチン接種でそれを防ぐことが期待できる。ただし、子供は副反応の頻度が高いことが報告されており、主治医と養育者による体調管理と接種後の観察が重要となる。 学会は、引き続き情報収集を行い、内容は随時アップデートする可能性があるとしている。

1843.

第62回 医療界からもブーイング、東京五輪開催の問題点

東京と大阪の大規模接種センターの開設もあり、日本では5月になってから、新型コロナのワクチン接種が遅まきながら加速し始めた。先行するアメリカやイギリス、イスラエルでは、1回目接種率が約4割に達すると、新規感染者数が大幅に減少している。一方、日本は5月末現在で約7%。同じペースで接種が進むと仮定して試算すると、1回目接種率は6月末で20%、7月中旬で30%、同月末でようやく40%に達する見込みだという。五輪開催時に1回目接種率は4割に達せずコロナ禍で開催か中止かくすぶり続けている東京五輪は、7月23日~8月8日での開催を予定されている。先に示したワクチンの1回目接種率が40%に達するのは、17日間の開催予定期間も後半に差し掛かった頃だろう。そのような状況では、五輪開催に伴う再びの感染拡大や医療逼迫などが当然懸念される。東京五輪を待ち望んでいる人もいるが、中止や延期を求めている人も多い。オンライン署名サイト「Change.org」では、五輪中止を求める署名が42万筆を突破した。この数字は、同サイト日本語版が2012年に開設されて以降、最も多いという。また、ボランティアは約8万人のうち、約1万人が辞退。海外選手の事前合宿の受け入れを辞退する自治体も相次いだ。新型コロナの感染者を受け入れている病院の窓には「医療は限界・五輪やめて!」「もうカンベン・オリンピックはむり!」というメッセージが貼り出された。しかし菅 義偉首相には、このような状況を気にする節はない。菅内閣は昨年9月の発足時、65%と歴史的な高支持率を得たが、その後はコロナ対策が評価されず、今年5月には支持率が半減。秋までに行われる衆議院選で勝利し、自民党総裁選で再選されるには、東京五輪の開催と成功が不可欠となっているのだろう。観客や国内関係者を除いた組織委の感染試算当の東京オリンピック・パラリンピック組織委員会は、感染状況をどう予測しているのだろうか。同組織委は6月11日、海外から訪れる選手および関係者の新規感染者数などの試算を公表した。新規感染者数は大会期間中、1日当たり7.7人で、入院はピーク時で11.7人、軽症や無症状による宿泊療養者数は57.6人とした。大会期間中、選手と関係者は計7万7,000人が滞在するとの前提で、過去のイベントによる感染者の発生状況などを踏まえて試算した。これはワクチン接種を考慮しない条件での試算で、実際は大幅に減少する可能性があると組織委は説明する。しかし、都内の観客数はピーク時の7月31日で22万5,000人、大会関係者やボランティアなどを合わせると、大会のために都内に集まる人数は最も多い日で34万人と想定されているにもかかわらず、観客や国内関係者の感染については試算に含まれていない。都合のいい試算と言わざるを得ない。ボランティアなどに実施されないワクチン接種医療人の間から東京五輪中止を求める声が上がる中、医療関連団体では大阪府保険医協会が6月10日、中止を求める声明を発表した。声明ではまず、選手が立ち入るエリアで活動するボランティアには一部を除きワクチン接種が実施されず、送迎を担う運転手はワクチン接種もPCR検査も行われないことが国会の質疑で明らかになった点を指摘した。また、6月9日に国会で行われた党首討論で、東京五輪の開催理由について説明を求められた菅首相は、質問の核心に答えず、1964年の東京オリンピックの思い出話で貴重な党首討論の時間を費やしたことも指摘。さらに、中止の際に科せられるとの違約金や罰金にも言及し、開催中止は国民の命を守ることに直結しており、賠償金と天秤にかけるのは論外と断じた。開催の意義を説明できず、開催した場合のリスクを過小評価している状況で強行するようでは、国民の不安は解消されず、いくら歴史的スポーツの祭典だと持ち上げても心から楽しめるわけがない、というのが開催国に暮らす1人としての偽らざる本音である。

1844.

ワクチン2回接種で、デルタ株に90%超の入院回避効果

 ファイザー社とアストラゼネカ社の新型コロナウイルスワクチンが、2回の接種でB.1.617.2系統の変異株「デルタ株(インド型)」による入院回避に非常に高い効果を示すことが明らかになった。英・イングランド公衆衛生庁(PHE)が、14日付のプレスリリースで発表した。 PHEでは、2021年4月12日~6月4日の間に「デルタ株」感染が確認された1万4,019例を対象に分析を実施。その結果、2回接種で入院治療を回避できる有効性は、ファイザー社のワクチンが96%、アストラゼネカ社のワクチンが92%であり、いわゆる英国型の変異株「アルファ株」に対する有効性と同等だったという。当局では、先のワクチンについて「デルタ株」感染による死亡を防ぐ効果についても研究を進めており、ほかの変異株と同様に効果は高いと予測している。

1845.

D-ダイマー高値COVID-19入院患者、治療的 vs.予防的抗凝固療法/Lancet

 D-ダイマー値上昇の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)入院患者に対し、リバーロキサバンやエノキサパリンなどによる治療的抗凝固療法は、予防的抗凝固療法に比べ臨床アウトカムを改善せず、一方で出血リスクを増大したことが示された。米国・デューク大学のRenato D. Lopes氏らが、600例超を対象に行った多施設共同非盲検(評価者盲検)無作為化比較試験「ACTION試験」の結果で、著者は「経口抗凝固療法適応のエビデンスがない場合は、リバーロキサバンおよびその他の直接経口抗凝固薬の治療的投与は避けなくてはならない」と警鐘を鳴らした。COVID-19は、有害転帰につながる血栓形成促進との関連が示されているが、これまで治療的抗凝固療法がCOVID-19入院患者の転帰を改善するかどうかは不明だった。Lancet誌2021年6月12日号掲載の報告。治療的抗凝固療法としてリバーロキサバンを30日間投与 研究グループはブラジル31ヵ所の医療機関で、COVID-19で入院した18歳以上の患者を対象に試験を行った。被験者はD-ダイマー値上昇が認められ、無作為化時点でCOVID-19の症状継続期間が最長で14日だった。 被験者を治療的抗凝固療法群と予防的抗凝固療法群に割り付け、治療群には、臨床的安定な患者に対してはリバーロキサバン(1日20mgまたは15mg)を投与し、臨床的不安定な患者にはエノキサパリン皮下投与(1mg/kgを1日2回)または未分画ヘパリン皮下投与(目標抗Xa濃度:0.3~0.7IU/mL)を行った後にリバーロキサバンを30日間投与した。 予防群に対しては、入院標準治療のエノキサパリンまたは未分画ヘパリンを投与した。 有効性の主要アウトカムは、死亡までの期間、入院期間または30日目までの酸素補充を要した期間の階層的解析結果で、勝利比メソッド(比率1超は治療的抗凝固療法のアウトカムがより良好)を用いてITT集団で評価した。 安全性の主要アウトカムは、30日間の大出血、または臨床的に関連する非大出血だった。治療的抗凝固療法で出血リスクは3.64倍に 2020年6月24日~2021年2月26日にかけて、3,331例をスクリーニングし、うち615例を無作為化した(治療的抗凝固療法群311例、予防的抗凝固療法群304例)。臨床的安定な患者は576例(94%)で、不安定な患者は39例(6%)だった。治療群の患者1例が同意の取り下げでフォローアップが完遂できず、主要解析に含まれなかった。 有効性の主要アウトカムは両群で差が認められなかった(勝利比:0.86、95%信頼区間[CI]:0.59~1.22、p=0.40)。この傾向は、臨床的安定な患者と不安定な患者それぞれで、一貫していた。 安全性の主要アウトカムについては、大出血または臨床的に関連する非大出血の発生率は、予防群2%(7例)に対し、治療群8%(26例)だった(相対リスク:3.64、95%CI:1.61~8.27、p=0.0010)。試験薬のアレルギー反応は、治療群2例(1%)、予防群3例(1%)で報告された。

1846.

皮膚病変からコロナ重症度もわかる?その具体的な症状とは

 新型コロナ患者での皮膚病変が報告されているが、具体的にはどのような症状なのだろうか。福田 知雄氏(埼玉医科大学総合医療センター皮膚科 教授)がメディアセミナーにおいて、「皮膚は健康のバロメーター ~意外と多いコロナの皮膚症状、爪からわかる健康状態~」と題し、皮膚病変が新型コロナ重症度判定にも有用な可能性を示唆した(主催:佐藤製薬)。蕁麻疹などの皮膚症状でコロナ重症度も判別できる 福田氏はまず、昨年3月にイタリアの皮膚科医が報告した論文1)を挙げ、「彼らは“新型コロナ(以下、COVID-19)病棟の多くの患者に皮膚症状が出ていた”ことに注目し調査を実施した。その結果、20.4%(18/88例)に皮膚症状(紅斑性皮疹、広範囲の蕁麻疹、水痘様皮疹など)が認められたことを報告した」と説明。しかし、この段階ではCOVID-19と重症度の相関関係は認められておらず、その後9月に発表されたドイツの研究者の論文2)で、COVID-19のリスク層別化などに役立つ可能性が示唆された。これを踏まえ同氏は、「ある症状はより軽度のCOVID-19の経過を示す臨床的徴候であり、別の症状はより重度の経過を示す赤旗であることが示された。つまり、どんな皮膚症状から何がわかるのか、皮膚症状の理解を深めておくことがCOVID-19の指標確認にもなる」とコメントした。 そこで、同氏はCOVID-19患者での注意すべき皮膚症状3)のパターンとして、斑状丘疹状皮疹、蕁麻疹、水痘様皮疹、点状出血、しもやけ、そして網状皮斑(リベド)を提示。なかでも“網状皮斑パターン”が見られる患者には新型コロナ重症例が多いことから、「皮膚病変からコロナを疑ったら血液検査にて凝固亢進などのチェックも必要」と注意を促した。 以下に新型コロナ重症度別の主な皮膚病変を示す。(軽症例)・凍傷様の浮腫および紅斑状の皮疹(Chilblain-like eruptions on fingers and toes) 若年層の軽症例に観察、平均して2週間後に消失。 手指より足趾/足裏に出現。・点状出血/紫斑を伴う皮疹(Rash with petechiae/purpuric rash) 鑑別診断には薬疹、他の細菌/ウイルス感染に伴う発疹など。・多形紅斑様皮疹(Erythema multiforme‐like rash) 軽症の経過をとる傾向がある。小児に多く見られる。 鑑別診断には単純ヘルペス感染症に伴う多形紅斑など。(重症例)・水痘様皮疹(Chickenpox-like rash) 中年患者の体幹に認められた。 イタリアの症例では、重症患者88例のうち1例で水痘様皮疹が観察された。・蕁麻疹様皮疹(Urticarial rash) 発熱を伴う蕁麻疹様皮疹は新型コロナと判断してよい。広範囲で見られるとCOVID-19が重症化する傾向。 蕁麻疹も重症ならCOVID-19も重症になる傾向。・斑状丘疹状皮疹(Maculopapular rash) 最も頻度が高い皮疹で、新型コロナの重篤な経過と関連。 小児ではまれ、成人では重篤な経過をたどる指標になる可能性がある。 鑑別診断には、はしか、EBウイルス感染症、薬疹、移植片対宿主病など・男性型脱毛症(Androgenetic alopecia) 男性ホルモンであるアンドロゲンは新型コロナウイルスのスパイクタンパク質を促進するTMPRSS2プロテアーゼに関与するだけではなく、免疫抑制作用を持っている。男性型脱毛症の特徴的な症状である前頭部-側頭部および頭頂部の退行とCOVID-19による肺炎の発症に対し、関連性が示唆されている。 これらを総括し、「COVID-19の皮膚症状は、早期診断、陽性患者のトリアージおよびそのリスク層別化に役立つ可能性がある。凍傷様の肢端の皮疹、紫斑・多形紅斑様の皮疹は、無症状あるいは軽症の小児や若年成人の患者に認められる。対照的に、先端部の虚血性病変や斑状皮疹は、より重篤な経過をたどる成人患者に多く見られる。発熱を伴う蕁麻疹は、COVID-19が確認されていない場合の初期症状であるため、診断上の意義がある」とまとめた。 このほか、爪による健康状態の判別にも触れ、「健康な人の爪はきれいなピンク色で、艶があり、滑らかで押すとうっすら白くなる。爪は年齢、生活週間、基礎疾患など、爪に影響を与える因子は極めて多い」と患者の爪の健康状態の確認も重要であることを述べ、締めくくった。

1847.

1日1,600人にコロナワクチン接種、その秘訣とは?/高砂市医師会インタビュー

 全国的に集団接種が実施されているが、多くは被接種者が各ブースを周る形式である。だが、兵庫県高砂市では、接種~経過観察までの被接種者の移動をなくし、接種者が巡回する接種者移動型を採用した。なぜ、同市はこの『接種者移動型』システムを思いつき、ワクチンの供給開始(同市へのワクチン供給は4月中旬)とともに集団接種を始めることが出来たのかー。それには、早期より行政からの相談があり、同市医師会主導のもとでシステム構築したことに秘訣があったようだ。今回、医師会長の増田 章吾氏(増田内科医院)に実際の動線や関係者の内訳、そしてどのようにアイデアをまとめたのかインタビューした。日頃の行政との連携が実を結んだ 高砂市は兵庫県南部播磨平野の東部に位置し、東に加古川が流れ、南に瀬戸内播磨灘を臨む。総人口は8万9,452人。そのうち65歳以上が2万6,266人と人口の3割を高齢者が占める“超高齢社会”のため、優先被接種者が多い自治体である。 そこで、同医師会がワクチン接種の協議を始めたのは昨年末のこと。まずは医師会の理事会メンバー内で話し合い、年明けには医師会内でワクチン検討委員会を発足。内科、小児科などワクチン対応の知識に長けた医師らを軸に、集団接種会場の設営に向けた動きが始まった。増田氏は「医師会の会員数は現在114名。そのうち約95%の会員がこの集団接種に貢献してくれている」と説明。実際にこの接種会場では医師4~6名体制が敷かれており多くの医師会メンバーの協力が必要不可欠であったが、参加できない医師はなんらかの理由を抱えているため参加の強要はしていないという。この参加率について、「これはコロナ禍のワクチン接種を災害と同等に捉えるように周知した結果」だと話した。 兵庫県といえば26年前の阪神淡路大震災の被災地であり、日頃の災害に対する意識の高さが影響しているのかもしれない。今回の初動の早さについて同氏は「実は、災害対策については足踏み状態が続いている。しかし、今回の件は日頃からの行政との連携が取れていたからこそ。そして、理事会など小規模な会議を頻繁に開催していたこと、それぞれが意思を持って協力し合い物事を進めたことが今回の設営のスピードに大きく影響した」と強調した。集団接種で対応に慣れたら個別接種へ 接種会場では、監督責任のある医師、ミキシング・接種者の看護師、ミキシング・予診確認者の保健師、そしてミキシング・相談対応者の薬剤師らが各役割を担うが、多くの者は平日に通常業務を行っているため、現在も集団接種は土日のみ実施している。また、個別接種を先行せず集団接種を優先した理由として、「初めてのワクチンに医師1人で対応するのはリスクや負担が大き過ぎる。集団接種で経験を重ねれば個別接種でも対応がイメージできる」と説明した。さらに、「予約の混乱を避けるために年齢を区切って対応しており、現時点で80歳以上への1回目の接種を終了した。現在は75~79歳、65~74歳の接種を順次進めている」と話した。発案~準備期間はおよそ3ヵ月、各人が努力惜しまず 話し合いが進み、実際に準備に着手したのは2月頃。会場設営に関しては医師会では進めることができないため、「もちろん行政主導でお願いした。ただし、デモンストレーションを行った際には協力してくれた市民、市職員、医療者らもその場で問題点を数十項目ほど挙げるなど、改善するための意見は遠慮なく発言した。日頃から協力関係であったからこそ、準備でもお互いの主導権を尊重しながら進められた」と振り返った。 また、接種会場には医師だけではなく看護師や薬剤師の協力も欠かせない。一般的には医師会と行政がバラバラに依頼状を送ることも多いが、今回は連名で看護師や薬剤師会宛に協力依頼をかけたことで「必要な人員の確保も滞りなく済ませることができた」とも話した。<高砂市の設営状況・対応医療者数>◆実施方法:接種者移動型(接種~経過観察まで被接種者は着席し、接種者が移動する方式)◆1日あたりの接種人数:約800~1,600名・実施日:土日のみ(通常業務を行う医師が輪番制で行うため)・実施場所:総合体育館・最大収容人数:144名(72名×2エリア)・医師:4~6名・保健師:8名(6名:予診票確認・相談、2名:ミキシングなど) ・看護師:12名(6名:接種者[1群に各1名×6群]、4名:6群の見回り[2名×2エリア]、2名:ミキシングなど)・薬剤師:2名(ミキシング、相談)・事務職:12名(1群に各2名配備、接種看護師と共に2エリアを受け持つ)・救急救命士:3名(緊急配備)・救急車:1台(緊急配備、高砂市民病院へ搬送)◆その他、市民病院で1日あたりの接種人数:約600~1,200名 6月初めより各医療機関での個別接種も開始意外と重要、パーテーションは顔が見える高さに 接種時の工夫点については、「会場を設営した当初、個人保護などの観点でパーテーションは顔も隠れるほど高いものを使用していた。ところが、実際に使用してみると、被接種者の様子がまったくわからず、何かが起こっていても察知することが難しいことが判明した。そこで、行政を通じて業者に顔が見えるくらいの高さのパーテーションの準備をお願いし、現在はそれを使用している。われわれの設営会場では12人の被接種者を1群として、それを3~4名体制のもとで接種・見回りを行っているが、パーテーションの設えを変更したことで、被接種者の状態把握が容易になった」と語った。ワクチン接種で苦戦した点、実際の救急搬送例は意外にも… 80歳以上の高齢者の場合、約2割は会場で車椅子を利用したが、独歩可能な方が入り口や出口で転倒してしまった例があった。「アナフィラキシーなど万が一のために救急隊と救急車を常に配備しているが、それで出動した例は現時点ではない。しかし、転倒により頭部に擦り傷を負い、救急隊が対応を行った例が2件あった」と話した。 最後に、問題になっている余剰ワクチンについて伺うと、「ワクチンが廃棄されないようワクチン接種に協力いただいている保健師、看護師、薬剤師など、被接種者に接する機会の多い医療者を優先に対応を進めている」と語った。 今回の取材を通じて、医師会館と市の保健センターが隣接している土地柄、ワクチン接種での相談は直ぐに対応でき、行政と連携が図れるだけではなく、双方が協力関係を築く意識を持ち合わせている点が高砂市の強みであることもわかった。―――――――――――――――――――増田 章吾(ますた しょうご)氏兵庫県高砂市医師会会長・増田内科医院院長昭和58年神戸大学卒。同年神戸大学医学部附属病院第二内科入局し、兵庫県立成人病センター、加古川市民病院に勤務。平成8年に増田内科医院を開業。平成14年高砂市医師会理事、平成26年同市医師会副会長を経て平成28年より現職。―――――――――――――――――――

1848.

第64回 COVID-19のmRNAワクチン接種後の心筋炎~主に若い男性の2回目接種後に発生

米国で新型コロナウイルス感染症(COVID-19)mRNAワクチン2回目接種後の心筋炎/心膜炎が16~24歳の若者に想定より多く認められており、その検討を含む米国疾病予防管理センター(CDC)専門家会議が今週18日に急遽開催されます。その開催を報じた先週10日の米国小児科学会(AAP)ニュース1)によると30歳以下の若者のPfizer/BioNTechかModernaのCOVID-19 mRNAワクチン接種後の心筋炎/心膜炎は有害事象記録VAERS(Vaccine Adverse Event Reporting System)に475例報告されており、それらのうち転帰がわかっている285人中270人は退院し、ほとんど(およそ81%)は完全に回復しています。15人は依然として入院していて3人は集中治療室(ICU)にいます。2回目接種後の16~17歳の心筋炎/心膜炎の報告数は79例で、その数は想定数2~19例を上回っています。18~24歳での報告数は196例で、やはり想定数8~83例を上回っていました。500万人超がPfizer/BioNTechのワクチン接種済みのイスラエルでは去年2020年12月から2021年5月に心筋炎の報告が275例あり2)、それらのうち148例はワクチン接種のころに生じたものであり、米国と同様に多くは2回目の接種後で、主に16~19歳の若い男性に認められました。イスラエルはワクチンと心筋炎の関連を調査中ですが、2回目のワクチン接種と16~30歳の若い男性の心筋炎発症は関連するかもしれないと現時点では判断されています。CDCによると幸い経過はおおむね良好なようで、mRNAワクチン接種後に心筋炎/心膜炎を呈して手当を受けた患者のほとんどは薬の投与や休息で良くなっており、速やかに回復しています3)。心筋炎/心膜炎の同定の主な手がかりは胸痛です。Pfizer/BioNTechワクチン接種後に心筋炎や心筋心膜炎を生じた14~19歳の男児7人の詳細を記したPediatrics誌の報告4)によると全員が2回目接種後4日以内の胸痛により受診しました。また、5人は発熱があり、他に息切れ、疲労感、両腕の痛み、吐き気、嘔吐、頭痛、食欲不振、脱力感が1人以上に認められました5)。7人とも多臓器炎症症候群(MIS-C)ではなく、2~6日間の入院で全員回復しました。7人のうち6人は非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)治療を受け、それらの3人の治療はNSAIDだけで済みました。4人は免疫グロブリン静注とコルチコステロイドで治療されました。MIS-Cではない一過性のCOVID-19ワクチン接種後心筋炎に静注免疫グロブリンやコルチコステロイドをきまって投与すべきかどうかは定かではありません。ワクチン接種後7日以内に胸痛、息切れ、動悸が認められたら受診することをCDCは要請しています3)。医療従事者は小児や若い成人がそれらの症状を呈して来院したら心筋炎/心膜炎を疑い、まずは心電図、トロポニン、C反応性タンパク質(CRP)や赤血球沈降速度などの炎症マーカーの検査を試みる必要があります。それらが正常ならおそらく心筋炎/心膜炎ではないでしょう6)。心筋炎はCOVID-19に伴って生じうることも知られています。たとえば大学の感染運動選手1,597人を調べた最近の報告では心臓MRIを含む検査で2.3%に心筋炎が認められています7,8)。参考1)CDC confirms 226 cases of myocarditis after COVID-19 vaccination in people 30 and under/AAP2)Surveillance of Myocarditis (Inflammation of the Heart Muscle) Cases Between December 2020 and May 2021 (Including) / Israel Ministry of Health3)Myocarditis and Pericarditis Following mRNA COVID-19 Vaccination/CDC4)Marshall M,et al,. Pediatrics. 2021 Jun 4:e2021052478.5)Report details 7 cases of myocarditis after COVID-19 vaccination/AAP6)Clinical Considerations: Myocarditis and Pericarditis after Receipt of mRNA COVID-19 Vaccines Among Adolescents and Young Adults/CDC7)Daniels CJ, et al,JAMA Cardiol. 2021 May 27. [Epub ahead of print]8)Study: Cardiac MRI Effective in Detecting Asymptomatic, Symptomatic Myocarditis in Athletes / Ohio State University

1849.

子供への新型コロナワクチン、接種を進めるべき9つの理由

 2021年6月1日、日本におけるCOVID-19ワクチンの接種対象が、16歳から12歳に引き下げられた。海外での子供を対象とした治験のデータ等を踏まえたものだ。Pediatrics誌2021年6月号には、子供へのワクチン接種を進めるべきとする提言が掲載されている。 この中で、成人へのワクチン接種が進むことでCOVID-19の感染流行は抑えられるものの、ワクチン忌避者や抗体価の低下によって、COVID-19を根絶することは難しいとし、今後も散発的な発生や時折の大流行という形で存続する可能性がある、とした。それを踏まえ、子供の臨床試験でワクチンの有用性が明らかになれば、子供たちへのワクチン接種を義務付けることが重要だとし、その根拠として下記を挙げている。1)子供の感染は多くの場合で無症候か軽症だが、まれに小児多系統炎症性症候群(MIS-C)や肺疾患のかたちで重症化する。2)子供が感染してウイルスを排泄することで、親や教師、他の子供に感染する可能性がある。3)子供の感染は無症候のことが多く、他の予防策では十分ではない。4)変異株によって長期的に免疫が低下したとしても、感染や再接種への対応を早めることができる。5)高い接種率と集団免疫獲得のためには、子供へのワクチン接種が必要である。6)英国で発生したような変異株は、子供への感染力がより強い。7)子供の予防接種プログラムは、国際的に感染症減少に大きな成果を上げた実績がある。8)子供の予防接種にあたって、十分に整備された国際的なインフラがある。9)教師への予防接種に続いて子供への予防接種を行うことで、学校の開校を加速させ、子供たちの活動を正常化させることができる。 米国小児科学会は、2020年12月までに200万例を超える小児感染者が発生したと報告しており、22の州に住む子供達の有病率を調べたところ、10万人あたり17.2人の入院率が明らかになり、カナダでは臨床症状が確認された例の1.9%を占め、うち約7%が集中治療を受けた。5歳未満の子供でも重症化することがあり、12~17歳では重症化する割合が高いことが報告されている。さらに、川崎病に類似したMIS-Cは学童期の子どもに最も多く発生し、平均年齢は8歳だった。 著者らは、上記の点に加え、妊婦や高齢者への感染防止の観点からもワクチンの子供への有用性が確認され次第、子供への接種を義務化し、継続的に大規模な予防接種キャンペーンを行うべきだとしている。

1850.

第58回 ワクチン接種50回/日以上の病院に日額10万円交付/厚労省

<先週の動き>1.ワクチン接種50回/日以上の病院に日額10万円交付/厚労省2.オンライン診療、初診でも条件付きで抗がん剤など処方可能に3.骨太方針2021原案、コロナ対策を最優先に4つの原動力を推進4.医学部「地域枠」定員増の延長など、医師確保を目指す知事の会が提言5.全国推計2万人、医療的ケア児の支援法が今秋にも施行へ1.ワクチン接種50回/日以上の病院に日額10万円交付/厚労省厚生労働省は、新型コロナウイルスワクチン接種を担う医療機関への支援策として、個別接種を1日50回以上実施した病院に対して1日当たり10万円の交付を行うことを明らかにした。さらに、人員体制を整えた上で、1週間のうち1日でも条件を満たした週が7月末までに4週間を超えた病院に対しては、医師1人につき7,550円/時、看護師ら1人当たり2,760円/時を上乗せで補助する。また、診療所に対しては、7月末までに(1)1週間で100回以上の接種を4週以上実施した場合2,000円/回、(2)1週間で150回以上の接種を4週以上実施した場合3,000円/回を交付する。なお、いずれの要件も満たさない週に限り、診療所が1日当たり50回以上接種すれば、1日につき10万円を定額で交付する。(参考)資料「新型コロナワクチンをめぐる主な課題と対応・支援策(個別接種を行う医療機関の皆さまへ)」について(厚労省)1日50回超の接種、病院に1日当たり10万円交付 診療所にも手厚く支援、厚労省(CBnewsマネジメント)2.オンライン診療、初診でも条件付きで抗がん剤など処方可能に厚労省は、新型コロナウイルス感染により自宅療養している患者などについては、オンライン診療の初診でも、診療報酬における薬剤管理指導料「1」の対象となる薬剤(抗悪性腫瘍薬、免疫抑制薬、抗不整脈薬、抗てんかん薬など)の処方を、条件付きで認めることを通知した。初診でそれらの薬剤を処方するには、対面診療が原則である。ただし、自宅療養中などを理由に対面診療を実施できない場合には、看護師が患者の側に同席した上で、医師が処方の必要性を判断し、対面診療を含めて必要なフォローアップを行うことを前提に、当該薬剤のうち緊急的に必要な薬剤の処方を実施できることとなった。(参考)資料「新型コロナウイルス感染症の拡大に際しての電話や情報通信機器を用いた診療等の時限的・特例的な取扱いに関するQ&A」の改定について(日本病院会)オンライン診療 抗がん剤など 初診から条件付きで処方 厚労省(NHK)3.骨太方針2021原案、コロナ対策を最優先に4つの原動力を推進9日に開催された内閣府の経済財政諮問会議では、経済財政運営と改革の基本方針(骨太方針)の原案がまとめられた。今回の方針は、新型コロナ対策に最優先で取り組みつつ、1.グリーン社会の実現、2.官民挙げたデジタル化の加速、3.日本全体を元気にする活力ある地方創り~新たな地方創生の展開と分散型国づくり~、4.少子化の克服・子供を産み育てやすい社会の実現と、4つの課題に重点的な投資を行うことが発表された。社会保障制度改革については、(1)感染症を機に進める新たな仕組みの構築、(2)団塊の世代の後期高齢者入りを見据えた基盤強化・全世代型社会保障改革が示され、今回のコロナウイルス対応の検証や、救急医療・高度医療の確保の観点を踏まえ、病院の連携強化や機能強化・集約化の促進を通じて、将来の医療需要に沿った病床機能の分化・連携により地域医療構想を推進する。(参考)経済財政運営と改革の基本方針 2021(仮称)(原案)(内閣府)「医療資源の散財」が課題、地域医療構想の推進、診療報酬の包括化等で「病院の集約化」進めよ―骨太方針2021・原案(GemMed)4.医学部「地域枠」定員増の延長など、医師確保を目指す知事の会が提言医師不足に悩む岩手県、新潟県など12県の知事で組織する「地域医療を担う医師の確保を目指す知事の会」は、9日にWeb会議を開き、医師の養成体制強化のために、医学部の教育体制充実に対する財政支援や大学医学部の入学定員のうち「地域枠」の臨時定員増の延長などを国に求める提言を決議した。今後、国や厚労省に対して、さらなる実効性のある医師不足・偏在対策の働きかけを行なっていくだろう。(参考)医学部定員増、延長を 医師不足の12県知事会提言(茨城新聞)医学教育充実へ財政支援など提言 知事の会が決議(日経新聞)5.全国推計2万人、医療的ケア児の支援法が今秋にも施行へ医療的ケア児に対して、国や自治体による支援を義務づける「医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律」が11日に参議院本会議にて全会一致で可決、成立した。全国に人工呼吸器など医療的な援助が必要な医療的ケア児は2万人いると推計されるが、医療的ケア児が適切な支援を受けられるように、学校や保育所に喀痰吸引が可能な看護師や保育士を配置することなどを自治体や国に対して求める。今年の9月から施行される見通し。(参考)「医療的ケア児」支援する法律が成立 秋にも施行へ(NHK)「医療的ケア児支援法」が可決 全国医療的ケア児者支援協議会が提言活動を行ってきた医療的ケア児支援が自治体の責務に(認定NPO法人フローレンス)

1851.

アトピー検査キットをコロナ重症化判定に適応追加/塩野義

 塩野義製薬は6月7日、アトピー性皮膚炎の重症度を診断する検査キット「HISCL TARC試薬」について、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)陽性患者の重症化予測の補助を使用目的とする適応追加の承認を同日付で取得したと発表した。COVID-19の発症初期から重症化リスクを判別することで、リスクに応じた最適な措置につなげ、医療体制の逼迫や医療崩壊を回避する一助となることが期待される。現在、保険適用を申請中。 「HISCL TARC試薬」は、2014年にシスメックスと共同開発したTARC1)を測定する検査キットで、すでにアトピー性皮膚炎の重症度評価の補助を目的とした体外診断用医薬品として使用されている。国立国際医療研究センターによる臨床研究では、COVID-19重症化患者においては、発症初期から血清中のTARC値が低いことが確認されており、1回の測定で患者の重症化を早期に予測できる分子マーカーとしてTARCの有用性が示されているという。 1) 71 個のアミノ酸で構成されるタンパク質で、Th2細胞を炎症部位に遊走させるケモカイン群の1 つ。 COVID-19の重症化予測マーカーとしては、2021年2月に保険適用を受けたシスメックス社の「HISCL IFN-λ3試薬」があり、主に入院患者に対して重症化の兆候を早期に把握することを目的に使用されている。塩野義製薬は、今回の適応追加承認により、COVID-19発症初期から重症化リスクを判別することで、リスクの高い患者を入院管理、リスクの低い患者を宿泊療養や自宅療養とするなど個別に最適な措置につなげていくことが期待されるとコメントしている。

1852.

AZ製ワクチン、血小板減少症を伴う血栓症5例の共通点/NEJM

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対するアデノウイルスベクターワクチンChAdOx1 nCoV-19(AstraZeneca製)の接種により、まれではあるが重篤な血栓症が発生する。ノルウェー・オスロ大学病院のNina H. Schultz氏らは、ChAdOx1 nCoV-19初回接種後7~10日に血小板減少症を伴う静脈血栓症を発症した5例について詳細な臨床経過を報告した。著者らは、このような症例を「vaccine-induced immune thrombotic thrombocytopenia(VITT):ワクチン誘発性免疫性血栓性血小板減少症」と呼ぶことを提案している。NEJM誌2021年6月3日号掲載の報告。初回接種後、血小板減少症を伴う静脈血栓症を発症した5例の臨床経過 ノルウェーでは、ChAdOx1 nCoV-19の接種が中止された2021年3月20日の時点で、13万2,686例が同ワクチンの初回接種を受け、2回目の接種は受けていなかった。ChAdOx1 nCoV-19の初回接種後10日以内に、32~54歳の健康な医療従事者5例が特異な部位の血栓症と重度の血小板減少症を発症し、そのうち4例は脳内大出血を来し、3例が死亡した。【症例1】37歳女性。接種1週間後に頭痛を発症、翌日救急外来受診。発熱と頭痛の持続、重度の血小板減少症が確認され、頭部CTで左横静脈洞およびS状静脈洞に血栓を認めた。低用量ダルテパリンの投与を開始、翌日に小脳出血と脳浮腫を認め、血小板輸血と減圧開頭術を行うも、術後2日目に死亡。【症例2】42歳女性。接種1週間後に頭痛発症、3日後の救急外来受診時には意識レベル低下。横静脈洞とS状静脈洞の静脈血栓症と、左半球の出血性梗塞を認めた。手術、ダルテパリン投与、血小板輸血、メチルプレドニゾロン、免疫グロブリン静注が行われたが、2週間後に頭蓋内圧上昇および重度の出血性脳梗塞により死亡。【症例3】32歳男性。接種1週間後に背部痛を発症し救急外来受診。喘息以外に既往なし。重度の血小板減少症と、胸腹部CTで左肝内門脈および左肝静脈の閉塞と、脾静脈、奇静脈および半奇静脈に血栓を認めた。免疫グロブリンとプレドニゾロンで治療し、12日目に退院。【症例4】39歳女性。接種8日後に腹痛、頭痛で救急外来受診。軽度の血小板減少症、腹部エコー正常により帰宅するも、2日後に頭痛増強で再受診。頭部CTで深部および表在性大脳静脈に大量の血栓と、右小脳出血性梗塞を確認。ダルテパリン、プレドニゾロン、免疫グロブリンで治療し、10日後に退院(退院時、症状は消失)。【症例5】54歳女性。ホルモン補充療法中であり、高血圧の既往あり。接種1週間後、左半身片麻痺等の脳卒中症状で救急外来受診。造影静脈CTでは全体的な浮腫と血腫の増大を伴う脳静脈血栓症を認め、未分画ヘパリン投与後に血管内治療により再開通したが、右瞳孔散大が観察され、ただちに減圧的頭蓋骨半切除術を行うも、その2日後にコントロール不能の頭蓋内圧上昇がみられ治療を中止。全例、ヘパリン投与歴はないがPF4/ヘパリン複合体に対する抗体価が高い 免疫学的検査および血清学的検査等の結果、5例全例に共通していたのは、血小板第4因子(PF4)-ポリアニオン複合体に対する高抗体価のIgG抗体が検出されたことであった。しかし、いずれの症例もヘパリン曝露歴はなかった。 そうしたことから著者は、これらの症例を特発性ヘパリン起因性血小板減少症のまれなワクチン関連変異型として、VITTと呼ぶことを提案。そのうえで、「VITTは、まれではあるが健康な若年成人に致命的な影響を与える新しい事象であり、リスクとベネフィットを徹底的に分析する必要がある。なお、今回の研究結果からVITTは、ChAdOx1 nCoV-19の安全性を評価した過去の研究結果よりも頻繁に起こる可能性があることが示唆される」と述べている。

1853.

モデルナ製ワクチン、現時点でアナフィラキシー・死亡例なし/厚労省

 厚生労働省は6月9日の厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会で、5月21日に承認されたモデルナ社のコロナウイルス修飾ウリジンRNAワクチン(SARS-CoV-2)「COVID-19ワクチンモデルナ筋注」による副反応の報告事例を初めて公表した。それによると、国内での接種が始まった5月22日から30日までの時点で17例の副反応が疑われる症状が報告されていた。いずれも症状の程度は「重くない」と評価され、アナフィラキシーや死亡例は確認されなかった。 公表資料によると、5月22~30日における「COVID-19ワクチンモデルナ筋注」の推定接種者数は、9万241人だった。このうち、49~96歳の男女計17例でワクチン接種による副反応が疑われる症状が医療機関から報告されたという(報告頻度は0.02%)。17例いずれも接種当日に単独もしくは複数の症状が発生しており、皮疹・発疹・紅斑(3例)、血管迷走神経反射、頭痛、浮動性めまい、動悸、そう痒症(各2例)、過敏症、異常感、感覚異常、血圧上昇、悪心・嘔吐、羞明、冷感、咽頭刺激感、口腔咽頭不快感、蕁麻疹(各1例)が報告された。  なお、5月30日までの時点におけるアナフィラキシーおよび死亡例の報告はなかった。

1855.

050)新型コロナワクチン2回目接種後の3日間【Dr.デルぽんの診察室観察日記】

第50回 新型コロナワクチン2回目接種後の3日間ゆるい皮膚科勤務医デルぽんです☆先月の連載で1回目接種の様子を漫画にしましたが、今回は2回目のお話。皆さまの周囲でも、2回目接種を終えた方がどんどん増えているのではないかと思われます。私の周囲では2回目接種の後に発熱した人が多く、中には1週間くらい倦怠感が続いた、という人もいました。私の場合どうだったかというと、1回目よりも接種部位疼痛が強く出た以外は、とりわけ大きな症状もなく、発熱の心配は杞憂に終わりました(笑)。若い女性スタッフほど熱を出しているような印象で、翌日に熱が出て動けなくなった、という話も聞いていたので、いつ発熱してもいいよう枕元に解熱剤や水筒を用意していたのですが、微熱すら出ず。常時平熱のまま、接種後の3日間を乗り切りました。勤務先の医局は、高齢男性の医師がほとんどを占めるのですが、1回目接種の時は筋肉痛の話などで盛り上がっていた医局も、2回目接種ともなると副反応の話題は一切出ないほど。熱が出たり寝込んだりという話は耳にしませんでした。「やはり若い方に反応が出やすいという話は本当なのだな」と、ひとり納得したのでした(笑)。接種から2週間がたち、新型コロナへの抗体も獲得できているはず。早く一般の方々への接種が進むとよいなと願っています。それでは、また~!

1856.

ファイザー製ワクチン、12~15歳への第III相試験結果/NEJM

 12~15歳の思春期児において、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)ワクチンBNT162b2(Pfizer-BioNTech製)の安全性プロファイルは良好で、抗体反応は16~25歳よりも上回り、同年代で観察された新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対するワクチン有効率は100%と、高い有効性が示された。米国・シンシナティ小児病院のRobert W. Frenck Jr氏らが、進行中の第III相国際無作為化プラセボ対照試験の結果を報告した。ごく最近まで、新型コロナウイルスワクチンは、16歳未満児への使用は認められていなかった。NEJM誌オンライン版2021年5月27日号掲載の報告。2回目接種後7日以降の発症予防効果を検証 試験は観察者盲検にて行われ、12歳以上の被験者を1対1の割合で無作為に2群に分け、一方にはBNT162b2(30μg)を、もう一方にはプラセボを、21日間隔で2回投与した。免疫原性の目的は、12~15歳被験者のBNT162b2に対する免疫応答が、16~25歳と比較して非劣性であることとした。 12~15歳の被験者について、BNT162b2の安全性(反応原性と有害事象)と、2回目接種後7日以降に発症し感染が確認されたCOVID-19に対する有効性を評価した。2回接種後7日目以降の発症、BNT162b2は0例、プラセボ群16例 全体で12~15歳の被験者は2,260例で、BNT162b2接種者は1,131例、プラセボ接種者は1,129例だった。 他の年齢群と同様に12~15歳群でも、BNT162b2の安全性・副反応プロファイルは良好だった。反応原性(reactogenicity)は注射部位痛(79~86%)、疲労感(60~66%)、頭痛(55~65%)など主として一過性で軽度~中等度だった。ワクチンに関連した重篤な有害事象はなく、全体として重度の有害事象は少なかった。 12~15歳の16~25歳に対する、2回接種後のSARS-CoV-2 50%中和抗体の幾何平均比は、1.76(95%信頼区間[CI]:1.47~2.10)で、非劣性の基準(両側95%CI下限が0.67超)を満たしており、12~15歳群の反応がより大きかったことが示された。 SARS-CoV-2感染既往エビデンスがない被験者で、2回接種後7日目以降のCOVID-19発症者は、BNT162b2群では認められなかった一方で、プラセボ群では16例に認められた。観察されたワクチン有効率は、100%(95%CI:75.3~100)だった。

1857.

コロナ関連急性呼吸不全の呼吸管理:高流量鼻腔酸素or ヘルメット型非侵襲換気?(解説:山口佳寿博氏)-1402

 新型コロナ感染症に惹起された急性低酸素性呼吸不全(ARDS)の病理/形態、分子生物学的異常は、本感染症が発生した2020年の早い段階で明らかにされた(Ackermann M, et al. N Engl J Med. 2020;383:120-128., 山口. CLEAR!ジャーナル四天王-1265)。その結果、コロナARDSの病理/形態学的特徴は;(1)ARDSの通常所見としてのDiffuse alveolar damage(DAD)、(2)特異的所見として、血管内皮細胞炎(Endothelialitis)、血管増生賦活遺伝子と抑制遺伝子の不均衡に起因する著明な血管増生(Angiogenesis)を伴う肺微小循環血栓形成(TMA:Thromboembolic microangiopathy)であることが判明した。 血管内皮細胞炎/血管増生は、コロナ以外の原因によるARDSでも認められるが(Osuchowski MF, et al. Lancet Respir Med. 2021;9:622-642.)、コロナARDSではとくに著明な現象である。これらの病理/形態学的異常から、コロナARDSの呼吸生理学的特徴は;(1)肺胞虚脱/無気肺に起因する右-左血流短絡(Shunt:VA/Q=ゼロ)を含む低VA/Q領域の形成、(2)TMAに起因する肺胞死腔(Alveolar dead space:VA/Q=無限大)を含む高VA/Q領域の形成、(3)肺胞中隔病変(肺胞膜、肺毛細血管)に起因する拡散障害(Diffusion limitation)と考えることができる。これら3要因によって重篤な低酸素血症が惹起されるが、拡散障害の寄与率は低い。 ここで注意しなければならない点は、微小血管損傷を伴わない低VA/Q領域では、低酸素性肺血管攣縮(HPV:Hypoxic pulmonary vasoconstriction)によって肺血流は損傷部位から正常部位に再分布し低酸素血症を是正するが、ARDS肺にあっては、低VA/Q領域のHPVが麻痺しており(HPV paralysis)、肺血流の再分布が起こらず低酸素血症の是正は簡単ではない(Yamaguchi K. Chapter 9, p.149-172, 2020. In: Structure-Function Relationships in Various Respiratory Systems -Connecting to the Next Generation, Springer-Nature, Tokyo, Japan.)。高VA/Q領域のTMA病変部位からはHPV paralysisに陥っている低VA/Q領域に肺血流が再分布し、低酸素血症をさらに悪化させる。すなわちHPV paralysisは、ARDS肺における低酸素血症を治療抵抗性に移行させる重要な要因の1つである。治療抵抗性の重篤な低酸素血症は、“Refractory hypoxemia”と定義される。 本論評で取り上げたGriecoらの論文(Grieco DL, et al. JAMA. 2021;325:1731-1743.)は、首から上をHelmetで覆い非侵襲的呼吸管理(NIV:Non-invasive ventilation)を行うHelmet型NIVと鼻腔を介する高流量酸素投与(HFNO:High-flow nasal oxygen)の効果を、イタリア4施設のICUにおける多施設ランダム化比較試験によって検討したものである(HENIVOT Trial)。対象患者は、両側肺に浸潤陰影を認め、PaO2/FIO2値が200以下のARDS患者で、基礎的薬物治療として低用量デキサメタゾン(サイトカイン産生抑制薬)が100%の患者に、レムデシビル(抗ウイルス薬)が81%の患者に投与されていた。HFNO群(54例)では、高流量酸素(60L/min)投与を少なくとも48時間継続した後HFNOを離脱する方法がとられた。Helmet型NIV群(53例)では、Peak inspiratory flow:100L/min、Pressure support:10~12cmH2O、PEEP:10~12cmH2Oの初期設定の下48時間の呼吸管理が施行され、その後、Helmet型NIVを離脱する方法がとられた。以上のような2群において、28日間の観察期間における呼吸管理に関連する種々の指標が比較された。 その結果、Primary outcomeである28日間における補助呼吸管理が必要であった日数においては両群間で有意差を認めなかったが、Secondary outcomesとして設定された治療失敗率(気管内挿管率)、侵襲的機械呼吸補助が必要な日数に関してはHelmet型NIV群において有意に良い結果が得られた。以上より、症例数が少ないために確実な結果とは言い切れないが、Griecoらの論文は、コロナARDSの低酸素血症の治療にはHFNOよりもHelmet型NIVを適用することがより妥当であることを示唆した。 Helmet型NIVは、通常のFace-mask型NIVならびにHFNOに比べ、患者の密閉度が高い、安定したPEEPを維持できる、会話可能などの患者耐用能が高い、呼吸筋仕事量を低く抑え呼吸筋疲労を抑制できる、などの利点がある。コロナなど種々の感染症に起因する呼吸不全の管理では、患者から排出される感染微生物の周囲環境への播種をどのようにして防御するかが、ICUなどの施設内感染を予防するうえで非常に重要な問題である。Helmet型NIVでは吸気側、呼気側に微生物除去用Filterを装着することによって患者をHelmet内に密閉・隔離できるので、ICU内感染防御の面からはFace-mask型NIV、HFNOに比べ確実に優れている。しかしながら、Helmet型NIVはCO2の再呼吸が発生しやすく、上肢浮腫の発生頻度が高くなる欠点を有する(Munshi L, et al. JAMA. 2021;325:1723-1725.)。 HFNOにおいても装置の改良が進み、現在では、吸入気酸素濃度を21%から100%の間で調節できる機種が臨床の現場で使用されている。HFNOにおいても高流量酸素吸入(30L/min以上)によって気道内圧が上昇しPEEP様効果が発現する。しかしながら、HFNOにおけるPEEPはHelmet型NIVなどによる通常のPEEPとは異なり、気道内圧の変動に伴う受動的なもので、呼気相の早期に肺胞内圧は上昇するが呼気終末には肺胞内圧は低下する。そのため、肺ガス交換の維持に必要な呼気終末の肺胞Recruitmentの程度は、Helmet型NIVに比べHFNOで低いと考えなければならない。 コロナARDSの呼吸管理において今後考えなければならない重要事項の1つは、肺損傷部位に発生するHPV paralysisに対する治療法の確立である。HPV paralysisは治療抵抗性の低酸素血症を惹起するので、いくら酸素投与法を工夫してもHPV paralysisを是正しない限り、肺のガス交換効率ならびに生体の酸素化状態を劇的に改善させることができない。HPVは細葉内に存在する直径100~300μmの筋性肺細動脈の収縮によって生じるが、ARDSなどの損傷肺にあっては、肺細動脈壁における種々の血管拡張物質合成酵素の過剰発現がHPVの減弱に関与する。過剰発現する血管拡張物質合成酵素の中で、構造型、誘導型のNO合成酵素(eNOS、iNOS)ならびに構造型、誘導型のCyclooxygenase(COX-1、COX-2)がHPV paralysisの発生に重要な役割を果たすことが判明しており、これらの酵素を阻害することでARDSのHPV paralysisは有意に回復することが動物実験レベルで示されている(Naoki N, et al. Eur Respir J. 2002;20:43-51.)。臨床的に安全に投与できるのはCOX阻害薬(インドメタシン、アスピリンなど)であるので、今後、これらの薬物投与下でHelmet型NIV、HFNOの効果を検証する治験を期待したい。 Chowらは、小規模の観察研究ではあるが(アスピリン投与群:98例、非投与群:314例)、コロナ感染症患者にあって侵襲的機械呼吸の導入率、ICU入院率、病院内死亡率が、何らかの理由でアスピリン投与を受けていた群で有意に低いことを示した(Chow J, et al. Anesth Analg. 2021;132:930-942.)。さらに、アスピリンがARDSの発症/進行リスクを低下させるという直接的報告も散見される(Erlich JM, et al. Chest. 2011;139:289-295., Chen W, et al. Crit Care Med. 2015;43:801-807. , Panka BA, et al. Shock 2017;47:13-21.)。これらの報告は、アスピリンがHPV paralysisを抑制しコロナ重症例の肺ガス交換異常を改善するという、本論評で展開した仮説を支持する臨床的知見として興味深い。 アスピリンは、上述した血管拡張物質産生抑制に加え、トロンボキサンA2合成阻害を介して血小板凝集に起因する血栓性病変の発現を抑制、さらには、IL-6の産生抑制を介してCytokine stormの進行を抑制する(Chow J, et al. Anesth Analg. 2021;132:930-942.)。すなわち、アスピリンはARDSの発症/進行を抑制、血栓性病変を予防、HPV paralysisを是正し肺ガス交換効率を維持する作用を有し、ARDSに対する“廉価な総合薬”と考えることができる。今後、古き廉価なアスピリンがコロナ感染症などに併発したARDSの分野において正しく再評価されることが望まれる。

1858.

第61回 昭和大麻酔科で大量論文不正、MBA持つ元教授が「指導態度が高圧的」な講師を評価し続けた理由

約1年かけて100本以上の論文を調査こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。この週末はMLBの中継を中心に、だらだらとテレビを観て過ごしたのですが、民放やNHKの報道番組などで、オリンピック関連の話題を若干肯定的に、明るい話題として伝えるようになってきたのが、気になりました。政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身 茂会長に対するバッシングもなんなのでしょう。尾身氏のオリンピック開催によるリスク等に関する発言に、政権与党側が相当イラついているようです。菅 義偉首相がオリンピックに関して「平和の祭典」などとトンチンカンなコメントしかしないので、尾身氏が万全のリスク管理の必要性を説いたに過ぎないと思うのですが……。さて今回は、昭和大学(東京都品川区)の麻酔科医による論文不正について書いてみたいと思います。昭和大は5月28日、麻酔科学講座の講師だった上嶋 浩順医師が2015~20年に発表するなどした計142本の論文に不正があった、と発表しました。うち117本に捏造や改ざんがあったとして調査委員会(委員長:中村 明弘昭和大学理事、薬学部長)は論文の撤回を上嶋氏に勧告しました。また、昨年5月12日付けで上嶋氏を懲戒解雇、一部の論文で不適切に共著者になっていた同講座教授の大嶽 浩司医師を降格の処分としました。この論文不正は昨年3月、上嶋氏が論文を投稿したJournal of Anesthesia(日本麻酔科学会の英文機関誌)の編集長から同学会に報告があったことで発覚しました。同誌から調査依頼を受けた昭和大は調査委員会を設置して調査を開始、その直後、上嶋氏と大嶽氏が連名で執筆した論文計6本について、掲載した日米の学術誌が「不正があった」などとして撤回、その事実が昨年7月に新聞等で大きく報道され、表沙汰となりました。2人の連名の論文が100本以上に上ったことから調査委員会は約1年かけて不正の内容を調査し、今回の公表に至ったというわけです。142本の論文に不正、うち117本に捏造や改ざん昭和大が公表した「昭和大学における研究活動の不正行為に関する調査結果概要」によると、調査の対象となったのは論文147本と、執筆に関わった上嶋氏と大嶽氏、部下の医局員2名の計4名です。論文147本のうち、上嶋氏は原著論文9本、Letter to the Editor 74本、出版前の原著論文4本の捏造と、原著論文1本、症例報告1本の改ざんを認めました。さらに症例報告4本、Letter to the Editor 16本はデータがなく、捏造ではないことを証明できないため、調査委員会は捏造と認定しました。このほかに、本人が認めていない症例報告1報、Letter to the Editor2本を改ざん、症例報告1報、「関連領域と話題」1本、Letter to the Editor3本を捏造と認定しています。最終的に、捏造、改ざんがあった論文は合計117本に上りました。さらに、131本では論文作成に貢献していない人が共著者に入るなど、不適切なオーサーシップが認められたとして大嶽氏のほか、医局員2人の不正も認定しました。助教の1人は関係のない論文の著者となり学位を申請するよう指示され、それに従ったとのことです。2人については学位取り消しとなりました。なお、捏造・改ざんが認定された論文のデータ処理や解析は上嶋氏が単独で行っており、ほかの共著者については研究不正への関与は認められなかった、とのことです。元教授はMBAを持つ異色の麻酔科医上嶋氏は2004年関西医科大学卒で、同大、倉敷中央病院、埼玉医科大学国際医療センターなどを経て2015年から昭和大麻酔科で働いていました。気道管理と超音波ガイド下神経ブロックが専門で、多数の論文のほか、気道管理や神経ブロックの解説書の著書もあります。そんな氏が、なぜこのような大量の論文不正を行ったのでしょう。調査委員会の報告書によれば、不正の「発生要因」として「上嶋氏の研究不正に対する意識の欠如」「研究内容の確認体制の欠如」「著者としての責任に対する認識及び知識・理解の欠如」を挙げています。中でも、「研究内容の確認体制」はほぼ機能していなかったようです。報告書によれば、上嶋氏の臨床業務姿勢が極めて勤勉で、学外から臨床技術に対して高い評価を受けていたことから、大嶽氏が信頼に値する講座員と評価、共著者の選出を含めて一任しており、上嶋氏は「論文投稿前に相談や研究内容の確認を行わず、独断で論文投稿を行うようになっていた」とのことです。一方、大嶽氏も、上嶋氏が積極的に臨床研究を行い、多くの論文を執筆し、公表していることを評価しており、「研究内容の定期的な確認を行っていなかった」としています。その大嶽氏は1998年東京大学医学部卒、帝京大学医学部附属市原病院、シカゴ大学ビジネススクールMBA課程、帝京大学医学部附属病院、自治医科大学を経て2013年から昭和大学麻酔科学講座の教授を務めていました。MBAも持つ異色の麻酔科医で、マッキンゼー・アンド・カンパニーで経営コンサルタントの経験もあります。昭和大麻酔科講座教授に就任後も遠隔ICUのサービスを提供する会社の取締役も一時務めています。ひょっとしたら目線や興味が学外に向かう分、医局運営が他人任せで疎かになっていたのかもしれません。「意見を言うことで指導を受けられなくなることを恐れ」た部下たち報告書はそうした「発生要因」に加え、「講座内での不適切な指導体制」の存在も指摘しています。それによれば、上嶋氏は「末梢神経ブロックの若手医師への教育・指導を期待されて本学に着任。麻酔科学講座において他の医師へ末梢神経ブロックの指導を行っていたが、指導態度が高圧的であり、誰も意見を言えない状況であった」としています。さらに同氏が医局内の末梢神経プロックの指導対象者を自ら選出していたため、「意見を言うことで指導を受けられなくなることを恐れて指示に従わざるを得なかったと共著者は調査に対して回答している」と報告書は書いています。ひょっとしたら上嶋氏の下に付けば、論文数が少なくても学位はなんとかなる、といった評判でもあったのかもしれません。学位が取り消されてしまっては元も子もありませんが。背景に「業績に基づく組織運営体制」と麻酔科学会ところで、この事件については、日本麻酔科学会も5月28日に「上嶋浩順氏論文に関する調査報告書」を公表しています。Journal of Anesthesiaが日本麻酔科学会の英文機関誌であったことから、同学会は「上嶋浩順氏論文調査特別委員会」(委員長:川口 昌彦奈良県立医科大学附属病院教授)を組織、上嶋氏が所属した昭和大、埼玉医科大学国際医療センター、関西医大、岡山大に調査依頼を行い、それをとりまとめた報告書、という体裁です。この報告書では、昭和大時代の論文のみに捏造と改ざんが認められたとしています(昭和大の調査結果は同大報告書とほぼ同じ内容)。この報告書では、不正行為の発生要因として、「上嶋氏の研究公正に対する意識の欠如」「研究実施体制の不備」「研究データの管理体制の欠如 」「著者としての責任に対する認識欠如」など、昭和大の報告書と共通する要因が書かれている一方で、「業績に基づく組織運営体制」の問題点についても、次のように指摘しています。「多くの大学と同様に、昭和大学においても、診療科や個人の評価には、臨床業務実績や研究業績が用いられている。上嶋氏は、自身の昇進だけでなく、医局員の任期更新や医局員のリクルートのため、共著者としての論文提供が必要であった。そのため、研究への関与なく、筆頭著者、共著者となる習慣が医局内に認められた。麻酔科内の組織運営の責任者である大嶽氏は、このような体制を知りつつ、その体制改善の努力を怠っていたことは、今回の研究不正が継続的に行われてしまった背景要因として大きい」。どこの大学の医局にも大なり小なり存在するであろう、臨床業務実績・研究業績至上主義に触れているのは、興味深いところです。大嶽氏にとっても、大量の論文を発表する上嶋氏は「医局にとって役立つ」存在であったことは間違いありません。多少の人格的なマイナス面より“業績”を重視するのは、医学部にはよくあることです。昭和大の事件を聞いて、「そんなことあるよなあ」としみじみと思った大学病院の勤務医は少なくないのではないでしょうか。それにしても、この連載をはじめて1年余り、旭川医大、三重大、昭和大と、なぜこうも麻酔科医ばかりが目立った事件を起こしてしまうのでしょう。次また何か起こったら、腰を据えて取材してみようかと思います。

1859.

ワクチン接種前の屋内大規模ライブ、抗原検査と予防策で感染者なし

 COVID-19感染拡大を防ぐため、多くの国で屋内での集団イベントが禁止され、経済に大きな影響を与えてきた。2020年年末にスペインで行われた、迅速抗原検査(Ag-RDT)を使った予防策の有効性を評価した試験の結果が、The Lancet Infectious Diseasesオンライン版2021年5月27日号に掲載された。 試験はスペイン・バルセロナのライブ会場で開催され、参加者登録はコンサート当日(2020年12月12日)午前中に行われた(この時点でのスペインのワクチン接種率はほぼ0%:編集部注)。鼻咽腔検体を使ったAg-RDT検査で陰性だった成人1,047例を5時間のイベントに参加する群と、帰宅して通常生活に戻る群に無作為に割り付け(年齢・性別で層別して無作為化)、イベント参加群465例、対照群495例を最終解析の対象とした。 スクリーニング会場とコンサート会場の入口では体温をモニターし、参加群全員にN95マスクを配布し、イベント中の着用を義務付けた。900人を収容する会場は十分な換気が行われ、会場内はソーシャルディスタンスをとる必要はなく、歌やダンスも可能とした。アルコールも提供され、飲みものを飲むときだけマスクを外すことが許可された。参加群のイベント滞在時間中央値は2時間40分だった。 抗原検査に使った鼻咽頭検体は、RT-PCR検査および細胞ウイルス培養により分析された。イベントの8日後に再度鼻咽頭検体を採取し、Ag-RDT、RT-PCR検査、およびTMA法で分析を行った。 主な結果は以下のとおり。・ベースライン時点で、実験群13/465例(3%)、対照群15/495例(3%)が、Ag-RDTで陰性だったにもかかわらず、TMA法で陽性となった。RT-PCR検査は両群で1例が陽性となり、細胞ウイルス培養は全例が陰性だった。・イベント8日後、対照群の2例(1%未満)がAg-RDTとPCRで陽性となったが、参加群はいずれも全例が陰性だった。 研究者らは、迅速に行える抗原検査とあわせ、マスク着用をはじめとした十分な感染防止対策をとることで、安全に大規模イベントを行える可能性があるとしている。

1860.

薬剤師がワクチンの「打ち手」になる日が来る!?【早耳うさこの薬局がざわつくニュース】第69回

新型コロナウイルスワクチンが承認されて怒涛の接種ラッシュが始まると思いきや、意外とペースがゆっくりなのね…と感じている人も少なくないでしょう。接種ペースを上げて、より多くの人がより早くワクチンを接種して集団免疫を獲得するための打開策として、なんと「薬剤師をワクチンの打ち手に」というワードが急浮上しました。日本薬剤師会の山本信夫会長は5月19日、「要請があれば協力できるように研修内容の検討を始める」と発言し、前向きな姿勢を示した。内科医らでつくる民間団体が5月17日、薬剤師を活用することを求める署名約2万4,000人分を河野行政・規制改革相に提出。(ともに2021年5月19日付 読売新聞オンライン)河野太郎・行政改革相は5月18日、ワクチン接種の打ち手について「当然に薬剤師も検討の対象になる」との認識を示した。(2021年5月19日付 朝日新聞Digital)5月24日には日本薬剤師会の山本信夫会長が官邸に招かれ、医療従事者であり、免許取得者が30万人を超える薬剤師にも打ち手として期待を寄せる。(2021年5月26日付 日本経済新聞Web)コロナワクチンの接種率が高い米国では、薬局薬剤師がワクチン接種をしているという報道に影響されたのかな?と思いますが、国によって法律は異なるため、薬剤師が行える業務の範囲も異なることがしばしばあります。実際、米国や英国では薬剤師による注射が認められていますが、日本では医師法によって認められていません。しかし、このように薬剤師への期待が高まって署名が集まったことは、素直に大変うれしく思います。実現するには現行法を改正したり、医師に理解を求めたりする必要があるため時間がかかると思いますが、早くも日本薬剤師会は研修内容の検討を始めるとあり、実際に長崎国際大学薬学部では薬剤師向けに筋肉注射の研修会が開かれました。在宅対応で注射の調製を積極的にしている薬局はまだまだ少ないため、多くの薬局薬剤師は注射の扱いにあまり慣れてはいないでしょうし、日常的に調製や払い出しを行っている病院薬剤師であっても実際に注射を人に打ったことはないでしょう。ワクチンの打ち手になるとしたら相当の研修が必要になるため、これからの動きに注目したいと思います。今回は見送りでも、薬剤師による注射は「オーバーエクステンション」このように「薬剤師がワクチンの打ち手に」という話題は盛り上がりましたが、5月31日の厚生労働省の検討会によって、現時点では見送りとされました。誤解を恐れずに言うと、今回ワクチン接種の担い手になることがなくても、薬剤師がワクチン接種を想定して練習をしているということを示すことが、今後の薬剤師や薬局の役割を変えていくことにつながるのではないかと思います。経営学の用語で「オーバーエクステンション」という言葉があります。私の師匠の1人である伊丹 敬之氏が提唱した言葉で、その企業が持つ資源や能力を超えた事業に挑むという戦略で、短期的に見ればリスクがあるけれども成功すれば長期的な大きな利益が期待できるというものです。ワクチン接種は薬剤師にとってまさに「オーバーエクステンション」なのではないかと思います。リスクは実現しなかったときに、研修や勉強に費やした時間が無駄になることくらいでしょう。ワクチンの調製や経過観察にとどまらず、接種自体を多くの薬局薬剤師が行えるようになったら、もしかしたら来年には薬局でワクチン接種ということになるかもしれません。約6万店も存在して多すぎると言われ続けた薬局が活躍する日も近い!?と期待しています。

検索結果 合計:2898件 表示位置:1841 - 1860