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第105回 アビガン承認見送り、医療関係者が今明らかにした催奇形性以外の問題点

約2週間前、ある医療関係者とお会いして「懐かしい」薬の名前を耳にした。それは抗インフルエンザ薬のファビピラビル(商品名:アビガン)のことである。新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)の特効薬になるかもと一時大騒ぎになったこの薬については、本連載の第7回と第44回で触れている。しかし、複数の治療薬が登場した今となっては非常に影が薄くなっていて、正直、私個人もほぼ忘れかけていた存在だ。簡単にこれまでの経緯をまとめるとRNAポリメラーゼ阻害薬の作用機序をもつ同薬は、新型コロナウイルスが同じRNAウイルスであったため、新型コロナのパンデミック初期にドラッグ・リポジショニングとして注目を浴びた。この時期に藤田医科大学による特定臨床研究(観察研究)もスタートしており、2020年5月4日、新型インフルエンザ等特別措置法に基づく緊急事態宣言延長時の記者会見で、安倍 晋三首相(当時)は「すでに3,000例近い投与が行われ、臨床試験が着実に進んでいます。こうしたデータも踏まえながら、有効性が確認されれば、医師の処方の下、使えるよう薬事承認をしていきたい。今月(5月)中の承認を目指したいと考えています」と発言したほどだった。その後、特定臨床研究では有効性が示せず、製造販売元の富士フイルム冨山化学が単盲検試験による企業治験を実施。結果は主要評価項目の「症状(体温、酸素飽和度、胸部画像所見)の軽快かつPCR検査で陰性化するまでの期間」で、アビガン群で11.9日、プラセボ群で14.7日となり、調整後ハザード比(HR)は1.593(95%信頼区間[CI]:1.024~2.479、p=0.0136) 。アビガン群で有意に症状を改善することが示された。ところが厚生労働省の薬事・食品衛生審議会(薬食審)医薬品第二部会は2020年12月21日の審議で「単盲検試験という設定が結果に与えた影響について議論され、現時点で得られたデータから有効性を明確に判断することは困難」と結論付け、承認は見送られた。当時はクウェートとカナダでプラセボ対照の二重盲検試験が進行中だったことから、これらなど追加の結果次第で再度審議が行われることとなった。そして、クウェートで中等症~重症で入院中の新型コロナ患者を対象に症状回復までの期間を主要評価項目にした治験の結果は翌2021年1月に速報で公表され、プラセボ群との間で統計学的有意差が認められず、さらにカナダで軽症~中等症の新型コロナ患者を対象にクウェートの治験同様、症状回復するまで期間を主要評価項目にしていた治験も昨年11月に統計的有意差は認められなかったと発表された。一方、富士フイルム側も承認見送り確定後、新たな試験デザインで日本国内での治験を再度実施していた。この試験では重症化リスク因子がある発症早期の新型コロナ患者を対象に主要評価項目を重症化率に設定して昨年4月にスタート。そして先月11日、試験へのエントリーを3月末で終了することをひっそりと発表していた。その理由をプレスリリースでは以下のように説明している。「今般、従来株と比べて重症化率が低いオミクロン株が流行し、最近本治験に組み入れられた患者のほとんどがオミクロン株感染者であると推定される中、現在の治験プロトコルで試験を継続しても、『アビガン』の重症化抑制効果の検証が困難になることや、プラセボを用いた試験継続は被験者の利益に繋がらないことから、当社は、本試験への新たな被験者の組み入れを終了することを決めました」この文章を素直に読めば、試験の進行が思わしくないだろうことは容易に想像がつく。ちなみに治験が開始された昨年4月以降、何度も感染拡大の波がありながら、いまだに続いていることを不思議に思う向きもあるかもしれない。しかし、この試験の対象はワクチン非接種者。しかも、その後、重症化予防を意図した治療薬も複数承認されていることを考えれば、被験者集めが相当難航した結果だろうと考えられる。さて冒頭の医療関係者は私に「あの時」の内情を話してくれた。それは承認見送りになった時のこと、つまりその理由である。ちなみにこの2週間、私はほかの関係者にもこの件をぶつけてみて、冒頭の関係者のいう話はおおむね正しいのだろうと判断した。この関係者が挙げた承認見送りの理由は大きくわけて2つあった。まず、試験が前述のように単盲検であり、プラセボ群では症状悪化の際の救済措置としてのファビピラビル投与が認められていたため、実薬群と比べてプラセボ群からの脱落があまりにも多かった点が問題となったとのこと。この点に関しては単盲検試験という設定が適切ではなかったとの意見は当時からあったが、第77回でも触れた通り、当時の新型コロナの致死率や対抗手段の乏しさから考えればやむを得なかっただろうと私個人は考えている。そしてこの試験デザインは想像以上に試験結果に影響を与えていたことになる。もう1点の理由は主要評価項目の評価の在り方についてだ。主要評価項目では、「体温の改善(37.4℃以下)」「酸素飽和度の改善(96%以上)」「胸部画像所見が最悪の状態から改善」の3条件が満した症例で、PCR検査を48時間間隔で2回行い、ともに陰性だった患者において投与開始から1回目のPCR検査陰性までの期間を比較していた。しかし、このうちの「胸部画像所見」という、ある種の主治医バイアスが入り込む余地がなくもない項目について、撮影時期の設定がなく、その結果、撮影枚数なども症例や施設によってまちまち過ぎたというのだ。この関係者によると、「撮影枚数が多い症例によっては極端に良いとこ取り、悪いところ取りができてしまうので、撮影枚数が少ない症例と比較して信頼性、妥当性を担保できると判断するのは困難だった」というのだ。これならば単盲検という試験デザインを抜きにしても科学的な評価は難しいだろう。私も「あの時」の承認見送りにかなり納得がいったポイントだ。同時にこのことを知ると部会での審議は科学的には相当厳格に対応していたこともわかるし、その時点で承認をしていなくて良かったと胸を撫でおろしてしまう。ご存じのようにファビピラビルはかなり高い催奇形性を有することが動物実験から分かっている。このために抗インフルエンザ薬の承認の時ですら、当初目指していた季節性インフルエンザの適応症ではなく、「新型または再興型インフルエンザウイルス感染症(ただし、ほかの抗インフルエンザウイルス薬が無効または効果不十分なものに限る)」とされ、パンデミック発生時に国が出荷の可否を決めるという「あるのにない薬」状態だった。この当時、私は厚労省の関係者に「なにもそこまで厳格にせずに問診の際に医師に妊娠の有無やその可能性を確認したうえで投与する形を徹底すれば良いのではないか?」と尋ねたが、「広範に使われるインフルエンザ治療薬では『蟻の一穴』は十分に起こりえます。そうではないと断言できますか?」とやや色をなして反論された記憶がある。残念ながらこの懸念はこのコロナ禍で現実のものとなっている。千葉県のいすみ医療センターで昨年8~9月の第5波の最中、前述の観察研究で配布されていたファビピラビルを妊孕性がある患者も含めた男女98人の自宅療養者に処方していた件である。この件について、センター側は「緊急避難的でやむを得なかった」と説明しており、あの当時では未曽有の事態だったことを考えれば、私自身も過度に批判するつもりもなく同様にやむを得なかっただろうと思う。とはいえ、催奇形性による被害が起きれば、それは不可逆のものだ。今回冒頭の関係者の話を聞いて、非常時の新薬承認の難しさと恐ろしさを改めて思い知らされた次第だ。

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新型コロナによる血栓・出血リスク、いつまで高い?/BMJ

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は深部静脈血栓症、肺塞栓症および出血のリスク因子であることが、スウェーデンにおけるCOVID-19の全症例を分析した自己対照ケースシリーズ(SCCS)研究およびマッチドコホート研究で示された。スウェーデン・ウメオ大学のIoannis Katsoularis氏らが報告した。COVID-19により静脈血栓塞栓症のリスクが高まることは知られているが、リスクが高い期間やパンデミック中にリスクが変化するか、また、COVID-19は出血リスクも高めるかどうかについては、ほとんどわかっていなかった。著者は、「今回の結果は、COVID-19後の静脈血栓塞栓症の診断と予防戦略に関する推奨に影響を与えるだろう」とまとめている。BMJ誌2022年4月6日号掲載の報告。スウェーデンのCOVID-19全患者約105万7千例を解析 研究グループは、スウェーデン公衆衛生庁の感染症サーベイランスシステム「SmiNet」を用い、2020年2月1日~2021年5月25日の期間における新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)検査陽性例(初感染者のみ)の個人識別番号を特定するとともに、陽性者1例につき年齢、性別、居住地域をマッチさせた陰性者4例を特定し、入院、外来、死因、集中治療、処方薬等に関する各登録とクロスリンクした。 SCCS研究では、リスク期間(COVID-19発症後1~7日目、8~14日目、15~30日目、31~60日目、61~90日目、91~180日目)における初回深部静脈血栓症、肺塞栓症または出血イベントの発生率比(IRR)を算出し、対照期間(2020年2月1日~2021年5月25日の期間のうち、COVID-19発症の-30~0日とリスク期間を除いた期間)と比較。マッチドコホート研究では、COVID-19発症後30日以内における初回および全イベントのリスク(交絡因子[併存疾患、がん、手術、長期抗凝固療法、静脈血栓塞栓症の既往、出血イベント歴]で補正)を対照群と比較した。 解析対象は、SCCS研究ではCOVID-19患者105万7,174例、マッチドコホート研究では対照407万6,342例であった。COVID-19発症後数ヵ月間は有意に高い 対照期間と比較し、深部静脈血栓症はCOVID-19発症後70日目まで、肺塞栓症は110日目まで、出血は60日日目までIRRが有意に増加した。とくに、初回肺塞栓症のIRRは、COVID-19発症後1週間以内(1~7日)で36.17(95%信頼区間[CI]:31.55~41.47)、2週目(8~14日)で46.40(40.61~53.02)であった。また、COVID-19発症後1~30日目のIRRは、深部静脈血栓症5.90(5.12~6.80)、肺塞栓症31.59(27.99~35.63)、出血2.48(2.30~2.68)であった。 交絡因子補正後のCOVID-19発症後1~30日目のリスク比は、深部静脈血栓症4.98(95%CI:4.96~5.01)、肺塞栓症33.05(32.8~33.3)、出血1.88(1.71~2.07)であった。率比は、重症COVID-19患者で最も高く、スウェーデンでの流行の第2波および第3波と比較し第1波で高かった。同期間におけるCOVID-19患者の絶対リスクは、深部静脈血栓症0.039%(401例)、肺塞栓症0.17%(1,761例)、出血0.101%(1,002例)であった。

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COVID-19に対する中和抗体薬「ソトロビマブ」の有効性(解説:小金丸博氏)

 ソトロビマブ(商品名:ゼビュディ点滴静注液)はSARS-CoV-2に対して抗ウイルス作用を発揮することが期待されている中和抗体薬である。Fc領域にLS改変と呼ばれる修飾が入ることで長い半減期を達成する。今回、重症化リスク因子を1つ以上有する軽症~中等症のCOVID-19患者に対するソトロビマブの有効性と安全性を検討した第III相多施設共同プラセボ対照無作為化二重盲検試験の最終結果がJAMA誌オンライン版に報告された。被験者1,057例を対象とした解析では、無作為化後29日目までに入院または死亡した患者の割合は、プラセボ投与群(529例)が6%(30例)だったのに対し、ソトロビマブ投与群(528例)では1%(6例)であった(相対リスク減少率:79%)。副次評価項目である救急外来受診の割合や致死的な呼吸状態悪化の割合などでもソトロビマブ投与群で有意に減少しており、軽症~中等症のCOVID-19に対して重症化予防効果を示した。 本試験の重要なLimitationとして、変異株に対する有効性が検討されていないことが挙げられる。2020年8月~2021年3月に割り付けが行われた試験であり、その後世界的に流行したオミクロン変異株は含まれていない可能性が高い。オミクロン変異株に対するソトロビマブの中和活性は若干の減弱にとどまり、有効性が期待できると考えられているが、BA.2系統に対してはBA.1系統に対してよりも中和活性が低下する可能性が指摘されている。今後、ソトロビマブの中和活性が低い変異株が出現する可能性は考えられるため、SARS-CoV-2の最新の流行株の情報に注視し、適応を検討する必要がある。 主な有害事象としてソトロビマブ投与群では下痢を2%に認めたものの、ソトロビマブに関連した重篤な有害事象は認めなかった。ただし、まれな有害事象を検出するには症例数が不十分であり、さらなる知見の集積が必要である。 本試験の中間解析の結果を参考に、本邦においても2021年9月27日に特例承認された。COVID-19の重症化リスク因子を有し、酸素投与を要しない患者を対象に投与を行う。本臨床試験の組み入れ基準等を参考に、重症化リスク因子としては、薬物治療を要する糖尿病、肥満(BMI 30kg/m2以上)、慢性腎障害(eGFR 60mL/分/1.73m2未満)、うっ血性心不全(NYHA心機能分類クラスII以上)、慢性閉塞性肺疾患などが想定される。発症早期に投与することが望ましく、症状出現から7日以内が投与の目安となる。

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第105回 6月の日医会長選、中川氏が再出馬表明も波乱の兆し?

日本医師会(日医)の中川 俊男会長が、6月に行われる次期会長選への事実上の立候補を表明した。ただし、表明の場となった日医臨時代議員会では、大票田といえる大阪府や愛知県の医師会の代議員らから、批判的な質疑が行われた。また今回も、中川氏のスキャンダルを狙っているメディアがおり、中川氏の再選は安泰とはいえない。診療報酬改定で横倉平均を意識した発言中川氏は3月27日に開かれた臨時代議員会の閉会のあいさつで、「現執行部の残り3ヵ月の任期を全力疾走で全うする」と述べたうえで、「私個人としては、ウィズコロナからポストコロナ時代の医療のあり方を、日本医師会として政府に提言するという重大な使命を負っていると認識している。新たな決意をもって、全国の医師会の先生方と議論を深めつつ、共に進んでいきたいと思っている」として、次期会長選への立候補を事実上表明した。中川氏は臨時代議員会の冒頭で、2022年度診療報酬改定について、「プラス0.43%であり、直近4回の改定における平均値のプラス0.42%と同じ水準になった」と言及。横倉会長時代に行われた4回の改定率の平均である0.42%を、0.1%上回った“功績”を暗に示した。そのうえで、「次の診療報酬改定をプラス改定につなげていけるものになったと考える。また、絶対次につなげていかなければならないと強い覚悟を持っている」と次回診療報酬のプラス改定を立候補表明の前振りにしていた。リフィル処方箋とオンライン診療で相次ぐ質問しかしながら、代議員からは批判的な質問が寄せられた。たとえば、茂松 茂人代議員(大阪、大阪府医師会長)は、反復利用できるリフィル処方箋の導入が、改定率との交換条件だったとの報道があると指摘。また、中央社会保険医療協議会(中医協)の在り方が形骸化しているとの懸念を示した。中川氏は交換条件について「まったくそんな事実はない」と明言。中医協の在り方に対しては「中医協を元の権威あるものに、最終的にはすべて中医協が決定するという方向性に戻したい」との考えを示した。柵木 充明代議員(愛知県医師会会長)は、リフィル処方箋の導入(マイナス0.1%)などによるマイナス要因を考慮すれば、診療報酬はマイナス改定ではないかと指摘した。これに対し、昨秋まで中医協委員を務めた松本 吉郎常任理事は「全体の改定率は過去4回と比べて遜色ない数字だ」と回答した。岩崎 泰政代議員(広島県医師会副会長)は、診療報酬改定でオンライン診療の割合を「1割以下」とする要件が撤廃された点に懸念を表明した。城守 国斗常任理事はオンライン診療を実施している医療機関の診療内容を詳細に把握し、自医療機関と違う地域の患者へのオンライン診療の件数などについて報告を求める考えを示した。「医師会への信頼を取り戻さなければならない」と大阪府医会長執行部側の“防戦”の感が否めない。会長選の大票田となる大阪と愛知が、中川執行部に対して懸念を抱えていることが明らかになり、次期会長選に波乱が起きる可能性も出てきた。とくに茂松氏は、3月24日に開かれた府医の臨時代議員会で、府医会長選に4選出馬することを表明するとともに、「医師会組織に対する国民の信頼が下がっている。私たちがコロナ対策にしっかり取り組んでいることを理解してもらいながら、医師会への信頼を取り戻していかなければならない」と強調。「中医協を飛び越える形での導入過程を考えても、リフィル処方の件は問題があるのでないか」と述べ、日医執行部に対する不信感を露わにしている。今夏参院選で試練を受ける日医の集票力日医会長選終了後の7月に参議院選の投開票が行われる。横倉氏に比べて政治とのパイプが細いと言われてきた中川氏だけに、臨時代議員会では「当面の最大の課題は、参議院選挙で組織内候補がどのくらい得票して当選するかに尽きる」と述べた。ただし、2019年7月の参院選では、日医の政治団体・日本医師連盟が擁立した羽生田 俊候補は再選を果たしたものの、看護連盟や薬剤師連盟の候補の得票数を下回り、前回選挙(2013年)の得票数から約9万7,000票も減らした(約15万2,000票)。今夏の参院選の組織内候補である自見 はなこ氏は、前回選挙(2016年)で約21万票を獲得し、社会保障系当選者でトップだったが、その後、新型コロナ感染拡大下の政治資金パーティーの開催などが報じられた。そのマイナスイメージが今回の参院選でどのような影響をもたらすのか。それは中川氏の政治力に対する評価にも関わってくるだろう。前回会長選において、僅差で敗れた横倉派の恨みは消えていない。中川執行部の中にも横倉派の役員がいる。会長選ではひと波乱が起きるかもしれないが、コロナの収束が見えない中、医療人の政争だけは避けてもらいたいものだ。

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オミクロン株患者の症状報告、喉の痛みや嗅覚障害の割合は?/Lancet

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の症状研究のアプリとして知られる「ZOE COVID」の登録者について調べたところ、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)オミクロン変異株を特徴付ける症状の有病率と、デルタ変異株の同有病率は異なることが示された。英国・キングス・カレッジ・ロンドンのCristina Menni氏らが、ZOE COVIDに登録した6万例超を対象に行った解析結果を報告した。オミクロン変異株の症状は、明らかに下気道に関与したものが少なく、入院となる可能性も低かった。オミクロン変異株はデルタ変異株よりも重症化リスクは低いことが明らかになっている。結果を踏まえて著者は、「オミクロン変異株は、発症の期間は短いが感染性の可能性はあることを示している。今回得られたデータは、労働衛生政策および公衆衛生アドバイスに影響を与えると思われる」とまとめている。Lancet誌オンライン版2022年4月7日号掲載の報告。COVID-19症状研究アプリの登録者データを解析 研究グループは、ワクチン接種を受けた集団における、発症率、入院リスクおよび症状の持続期間の違いを定量化する前向き縦断観察研究を行った。「ZOE COVID」に登録し、検査結果と症状を自己報告した参加者のデータを収集して解析。英国在住の16~99歳、BMI値15~55で、いずれかのCOVID-19ワクチンを2回以上接種しており、症候性PCR検査陽性またはSARS-CoV-2イムノクロマトグラフィの結果を、試験期間中ログに記録していた参加者を適格とした。 主要アウトカムは、発症(アプリでモニタリングした32症状)または入院で、陽性検査結果の判定前後7日以内の発生率について、オミクロン変異株流行中とデルタ変異株流行中を比較した。喉の痛みはオミクロン株のほうが有意に多い 2021年6月1日~2022年1月17日に、ZOEアプリでSARS-CoV-2陽性の検査結果と症状を報告した6万3,002例を特定し解析した。被験者を、年齢、性別、ワクチン接種回数でマッチングし、1対1の割合でデルタ変異株流行期間(2021年6月1日~11月27日、デルタ変異株罹患率70%超、4,990例)とオミクロン変異株流行期間(2021年12月20日~2022年1月17日、オミクロン変異株罹患率70%超、4,990例)の群に割り付けた。 嗅覚障害は、オミクロン変異株流行期間中のほうがデルタ変異株流行期間よりも有意に少なかった(16.7% vs.52.7%、オッズ比[OR]:0.17、95%信頼区間[CI]:0.16~0.19、p<0.001)。 喉の痛みは、オミクロン変異株流行期間中のほうがデルタ変異株流行期間よりも有意に多かった(70.5% vs.60.8%、OR:1.55、95%CI:1.43~1.69、p<0.001)。 入院率は、オミクロン変異株流行期間中のほうがデルタ変異株流行期間よりも有意に低率だった(1.9% vs.2.6%、OR:0.75、95%CI:0.57~0.98、p=0.03)。

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デルタ株、オミクロン株感染に対するBNT162b2の3回目接種の感染/発症、入院予防効果(解説:山口佳寿博氏/田中希宇人氏)

 今回取り上げたMoreiraらの論文(Moreira ED Jr, et al. N Engl J Med. 2022 Mar 23. [Epub ahead of print])はBNT162b2(商品名:コミナティ筋注)の3回目接種の効果を検証した第III相試験の結果を提示したものである。この論文の解釈において注意しなければならない点は、試験が施行された時期の背景ウイルスが現在の問題ウイルスであるオミクロン株ではなく、それ以前のVOC(Variants of concern)であるという事実である。すなわち、Moreiraらの論文に示された内容は、現在、あるいは近未来において、“Real-world”で深刻な問題を提起するであろうオミクロン株に対する抑制効果を示すものではない。それ故、本論評ではMoreiraの論文に基づき一世代前の変異株であるデルタ株に対するBNT162b2の3回目接種による予防効果とAndrewsら(Andrews NA, et al. N Engl J Med. 2022 Mar 2.)が発表したオミクロン株に対する3回目接種の予防効果を比較し、両者の差を説明する液性免疫、細胞性免疫の動態について考察する。デルタ株に対するBNT162b2の3回目接種による感染、入院予防効果 Moreiraらは2回目ワクチン接種より中央値で約11ヵ月後に3回目接種を施行した18歳以上の症例を対象として3回目接種より中央値で2.5ヵ月の経過を観察した。治験開始は2021年7月1日、デ-タ集積締め切りは2021年10月5日であった。この時期の主たる背景ウイルスはデルタ株であり、治験の結果はデルタ株に対する予防効果を示すものである。3回目接種後のデルタ株感染予防効果は2ヵ月未満で94.8%、2~4ヵ月で93.3%であった。ワクチン2回接種後の感染予防効果は3%/月の割合で低下するので(Thomas SJ, et al. N Engl J Med. 2021;385:1761-1773.)、2回接種11ヵ月後には60%前後まで低下していたはずである。すなわち、2回接種後の時間経過に伴い低下したデルタ株に対する感染予防効果は、3回目接種により2回目接種後の最大値付近(90~95%)まで回復した。しかしながら、一度回復したデルタ株感染予防効果はその後の時間経過に伴い再度低下した。 重症化予防の1つである入院予防効果は2回目接種5ヵ月後にも90%台の高い値を維持し(Tartof SY, et al. Lancet. 2021;398:1407-1416.)、3回目ワクチン接種による入院予防効果の底上げは著明なものではない(Thompson MG, et al. Morb Mortal Wkly Rep. 2022;71:139-145.)。オミクロン株に対するBNT162b2の3回目接種による感染、入院予防効果 Andrewsらはオミクロン株に対するBNT162b2の2回接種、3回接種の効果を報告した。オミクロン株に対する発症予防効果(感染予防効果とほぼ同等)はワクチン2回接種2~4週後に65.5%であったものが接種後25週以上経過すると8.8%まで低下した。定性的に同様の結果は英国健康安全保障庁(UKHSA)からも報告されている(UKHSA. Technical Briefing. 2021 Dec 31.)。ワクチン2回接種後25週以降に8.8%まで低下したワクチンの発症予防効果は3回目ワクチン接種2~4週後には67.2%まで回復した。しかしながら、3回目接種から10週以上経過するとワクチンの発症予防効果は45.7%まで再度低下した。 オミクロン株に対する入院予防効果は2回目接種2~24週後には72%であったものが25週以上で52%まで低下するが、3回目接種2週以降には88%まで回復する(UKHSA. Technical Briefing. 2021 Dec 31.)。しかしながら、それ以降は再度低下する(UKHSA. Technical Briefing. 2022 Jan 14.)。以上のようにオミクロン株に対するワクチンの感染/発症、入院予防効果はデルタ株に対する予防効果に比べ、いかなる時間帯でも低値を維持する。デルタ株、オミクロン株に対するワクチン接種後の液性免疫、細胞性免疫の動態 まず初めにBooster(免疫増強)という言葉について考えたい。従来、ワクチン接種による生体の免疫反応において1回目接種による免疫記憶細胞(B細胞、T細胞)の誘導をPriming、2回目接種による免疫記憶細胞の賦活化をBoostingと表記されてきた。コロナRNAワクチンに関する論文では3回目接種をBoosterと呼称されることが多いが、厳密には、2回目ワクチンを1回目のBooster、3回目ワクチンを2回目のBoosterと定義すべきである。また、液性免疫(B細胞)と細胞性免疫(T細胞)に対するPrimingとBoostingは必ずしも並行しないことにも注意する必要がある。 1回目ワクチン接種(Priming)から2~4週以降に液性免疫を形成するのは記憶B細胞の賦活化である。2回目ワクチン接種(1回目Booster)より3.5ヵ月後における賦活化された記憶B細胞の変異株S蛋白RBD(Receptor binding domain)に対する認識は、デルタ株で85%であるがオミクロン株では42%と低い(Tarke A, et al. Cell. 2022;185:847-859.)。その結果、オミクロン株に対する中和抗体価は2回目接種後でも検出限界近傍の低値を呈する(山口. 日本医事新報. 2022;5111:28.)。これはオミクロン株S蛋白に存在する数多くの遺伝子変異による強力な液性免疫回避に起因する。すなわち、オミクロン株に対する液性免疫においては2回目までのワクチン接種はPriming効果しかなく、3回目接種以降に初めてBooster効果を発現する。一方、デルタ株に対する液性免疫においては2回目接種以降にBooster効果が発現する。 オミクロン株に対するワクチン2回接種後の感染/発症予防効果は6ヵ月以内には低いながらも有効域に存在し、感染/発症予防効果の動態をほぼ無効の液性免疫からは説明できず、細胞性免疫(記憶CD4+-T、記憶CD8+-T細胞)の関与を考慮する必要がある。S蛋白にはCD4+-T細胞によって認識される抗原決定基(Epitope)が167個、CD8+-T細胞によって認識されるEpitopeが224個存在する(Ahmed SF, et al. Viruses. 2022;14:79.)。デルタ株ではCD4+-T細胞に対するEpitopeの91%、CD8+-T細胞に対するEpitopeの94%が保持されるため、デルタ株に対する細胞性免疫は野生株に対する細胞性免疫とほぼ同じレベルに維持される。一方、オミクロン株ではCD4+-T細胞に対するEpitopeの72%、CD8+-T細胞に対するEpitopeの86%が保持されるので、オミクロン株に対する細胞性免疫は有効ではあるがデルタ株に比べ少し低い(Tarke A, et al. Cell. 2022;185:847-859.)。2回目のワクチン接種により賦活化されたCD4+-T細胞は液性免疫と共同してデルタ株感染を抑制する。一方、2回目ワクチンのオミクロン株感染抑制には液性免疫の寄与はほぼゼロで、主としてCD4+-T細胞がその役割を担う。CD8+-T細胞の賦活化はデルタ株、オミクロン株に感染した生体細胞を殺傷/処理し重症化を阻止する。 3回目ワクチン接種後にはオミクロン株に対する記憶B細胞の賦活化が初めて有効化し、オミクロン株に対する感染予防はデルタ株の場合と同様に液性免疫とCD4+-T細胞賦活の共同作業として発現する。ワクチン接種後のCD4+-T細胞、CD8+-T細胞性免疫は時間経過と共に緩徐ではあるが低下することが報告されており(Barouch DH, et al. N Engl J Med. 2021;385:951-953.)、オミクロン株における2回目ならびに3回目ワクチン接種後の感染/発症予防効果、入院予防効果の時間的低下を招来する。 現状のRNAワクチンは武漢原株のS蛋白をPlatformとして作成されたものである。それ故、オミクロン株が有する多数の変異がワクチン接種後の記憶B細胞(液性免疫)、記憶T細胞(細胞性免疫)の働きを抑制/修飾する。その結果、現状ワクチンのオミクロン株制御効果は不十分で、2022年1月3日にイスラエルで、3月29日に米国で、高齢者に対する4回目のワクチン接種(3回目Booster)が開始された(Magen O, et al. N Engl J Med. 2022 Apr 13. [Epub ahead of print]; The Washington Post. updated. 2022 Mar 29.)。このように、現状ワクチンを用いたオミクロン株制御は複雑な様相を呈し、今後、何回のワクチン接種が必要であるかを結論できない混沌とした時代に突入している。この問題を解決するためにはオミクロン株特異的ワクチンの開発が必要である。2022年1月下旬、Pfizer社とModerna社はオミクロン株のS蛋白をPlatformにしたオミクロン株特異的ワクチンの臨床治験を開始したと発表した。これらの新ワクチンの開発が成功すれば、現在混沌としているオミクロン株に対するワクチン脆弱性に関する多くの問題が解決する可能性があり、両製薬会社の努力に期待したい。

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第105回 進まないリフィル処方に首相も「使用促進」を明言、日医や現場の“抵抗”の行方は?

マリンスタジアムの“野球感染”リスクを現地取材こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。この日曜日は、「第76回 『空気感染』主流説報道続々“野球感染”リスクは球場によって大きく異なる可能性も」でも書いた、千葉のZOZOマリンスタジアムに、“野球感染”リスクの取材がてら野球観戦に出かけて来ました。ちょうど1週間前に完全試合を成し遂げた千葉ロッテマリーンズ・佐々木 朗希投手の登板日とあって、球場は超混雑。試合途中、スクリーンには「満員御礼」の掲示が出るほどでした。この日も佐々木投手は8回までパーフェクトピッチングで、「まさか2回連続か」と、球場全体がざわつき始めた9回は100球を超えたと言うことでマウンドには上がらず、ファンを大層残念がらせました。降板については議論が分かれるところです。スポーツライターの浜田 昭八氏は日本経済新聞のコラムで、2007年の日本シリーズ、中日-日ハム戦での中日・山井 大介投手の降板を例に出し、「野球的には正しい。だがエンターテインメントとしてはどうか」と問題提起しています。一方、佐々木投手の育ての親でもあるロッテのピッチングコーディネーター・吉井 理人氏は自身のブログに「マリーンズベンチもよく8回で降板させました。(6回で代えてほしかったけど)」と書いています。私自身は浜田氏の意見も一理あると思います。いずれにせよ、佐々木投手は本当に大事に育てられているなと感じた次第です。豪速球投手はとにかく故障が心配です。MLB挑戦の日まで、腕、肘が壊れないことを願うばかりです。そうそう、“野球感染”リスクについては、プロの球団本拠地球場の中でも海に至近で風が強いZOZOマリンスタジアムは、感染リスクが最も低いだろうと実感しました。熱狂的といわれるロッテ・ファンですが、皆さん、観戦中、礼儀正しくマスクをきちんと着用していました。リフィル利用化可のチェック欄があらかじめ線で消された処方箋もさて今回は、本連載でも「第92回 改定率で面目保つも「リフィル処方」導入で財務省に“負け”た日医・中川会長」「第96回 2022年診療報酬改定の内容決まる(前編)オンライン診療初診から恒久化、リフィル処方導入に日医が苦々しいコメント」で取り上げたリフィル処方について再び書いてみたいと思います。今年の診療報酬改定で4月から処方箋様式が変更され、「リフィル可」「調剤実施回数」の項目が追加、一定期間内、処方箋を反復利用できるようになりました。しかし、現場の医師や医師の団体の“抵抗”もあってか、リフィル処方は当初の予想よりも進んでいないようです。メディファクス等の報道によれば、リフィル利用化可のチェック欄が印刷時に最初から線で消された(リフィルの指示を医師も出せない)処方箋が出回っている地域もあるようです。大阪保険医協会は「リフィル処方反対」を表明日本医師会の中川 俊男会長は3月27日に開かれた臨時代議委員会において、リフィル処方について「医師の判断で処方し、健康観察も医学管理も医師が行う。薬剤師はこれまで通り医師の処方に基づいた調剤を行う。薬剤師の医学的判断が介入する余地はない」とこれまでの見解を改めて強調するとともに、「慎重に判断していただきたい」と呼び掛けたそうです。また、大阪保険医協会は「リフィル処方反対」を表明しています。同協会は「当院ではリフィル処方(処方箋の使いまわし)は患者さんの健康上の観点から原則行っておりません」という文面の院内掲示用ポスターを会員に配布したとのことです。「使いまわし」という表現に、強い忌避感が感じられます。なお、このポスターは同協会のホームページにも掲載、ダウンロードできるようになっています。「患者・国民目線からその積極的活用が図られるべき」と財務省そうした普及への医師側の“抵抗”が続く中、財務省主計局は、社会保障がテーマとなった4月13日の財政制度等審議会財政制度分科会で、2022年度診療報酬改定で導入されたリフィル処方について、「患者・国民目線からその積極的活用が図られるべき」と強く主張しました。財政制度等審議会財政制度分科会の資料によれば、財務省主計局は、「『長期Do処方』に代表される、診療密度が薄く頻繁な外来受診こそが、待合室の混雑、待ち時間の長さ、その割に短い診療時間といった国民が日頃体験する我が国外来医療の実態につながっており、頻回の受診による身体的・経済的負担と相俟って、患者の通院負担を重いものとし、利便性も損なわせてきた」と従来の「長期Do処方」に代表される漫然とした外来診療を批判しています。そして、「リフィル処方箋の導入により、患者は、医療機関に行かずとも、医師及び薬剤師の適切な連携のもと、一定期間内に処方箋を反復利用できるようになる。患者の通院負担が軽減され、利便性が向上する効果は明らかであり、もとより国民の導入への期待は高いものがあった。感染防止の観点から不要不急の通院を避けたい事情が患者側に生じている新型コロナ禍において、導入のニーズは高まっており、 時宜を得た導入となった」と、今改定でのリフィル処方導入を高く評価しています。「対応しない方針を掲げている事例を精査する必要がある」その上で、「患者・国民目線からその積極的活用が図られるべきである。令和4年度診療報酬改定において見込まれた再診の効率化による医療費適正化効果を着実に達成すべきことは当然である。患者の希望やニーズの充足を阻害する動きがないかといった運用面を含めたフォローアップを徹底するとともに、制度の普及促進に向けて周知・広報を図るべきである。あわせて、積極的な取組を行う保険者を各種インセンティブ措置により評価していくべきである」と、普及促進やインセンティブ導入の必要性を強調しています。また、「患者の症状によってではなく医療機関としてリフィル処方に対応しない方針を掲げている事例や、処方箋のリフィル可欄に患者への特段の説明や患者の同意がなく打消し線が入っている事例等について、精査する必要がある」と、“抵抗”の動きを暗に牽制しています。岸田首相は「リフィル処方の使用促進」を明言財務省が提案してきた様々な改革案の中で、やっと導入が実現したリフィル処方。昨年末の大臣合意では、リフィル処方の導入・活用促進による医療費効率化効果は改定率換算でマイナス0.10%(医療費470億円程度)と見込まれています。その普及・定着は、医療費削減のため、そしてこれからの「効率的で質の高い医療提供体制の整備」のためにも、財務省がなんとしても取り組まなければならないことなのです。財政制度等審議会財政制度分科会が開かれた4月13日には、経済財政諮問会議も開かれています。そこで岸田 文雄首相は、「コロナ禍での経験や受診行動の変容を踏まえ、かかりつけ機能が発揮される制度整備や新たに導入したリフィル処方の使用促進など、医療・介護サービス改革の継続・強化に取り組む」と述べました。また、鈴木 俊一財務大臣も「大臣合意に基づき導入したリフィル処方箋は、診療報酬改定の目玉であり、周知・広報の徹底や、保険者のインセンティブ措置の活用により、利用促進が図られるべき」と語っています。本連載の「第80回 『首相≒財務省』vs.『厚労省≒日本医師会』の対立構造下で進む岸田政権の医療政策」でも詳しく述べたように、岸田首相の医療政策については、「首相≒財務省」の構造は現在も変わっていません。改定率がプラスだったからといって、それに安心し、後出しのようにリフィル処方に「慎重な判断」を求め“抵抗”する日本医師会のスタンスは、「財務省≒首相」に盾を突いているようにも見えます。リフィル処方は普通に考えても患者の利便性が高まる制度です。開業医の利害だけを考え、このまま闇雲に反対していても、日本医師会や現場の開業医たちにあまり良いことは起こらないと思うのですが…。皆さん、どう思われますか。

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5~11歳への新型コロナワクチンの副反応の頻度は?/厚生労働省

 厚生労働省の厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会と薬事・食品衛生審議会薬事分科会医薬品等安全対策部会安全対策調査会は、4月13日に合同会議を開催し、最新のワクチン(新型コロナウイルス感染症[COVID-19]を含む)の動向の報告が行われ、その内容が公表された。 とくにCOVID-19ワクチンの5~11歳への接種では、接種による副反応報告は医療機関からの報告が6件(0.0028%)、製造販売業者からの報告数が2件(0.0009%)だった(推定接種回数:21万5,368接種)。なお、重篤な副反応や死亡の報告はなかった。■副反応疑い報告の状況について・集計期間:2022年2月21日~3月20日・推定接種回数:1回目 21万5,368接種・副反応疑い報告:医療機関報告数 6(0.0028%)製造販売業者報告数 2(0.0009%)・副反応報告について医療機関、製造販売業者合わせて21件あり(4月1日現在)、いずれも軽快、回復している。(重篤度が重い2例)組織球性壊死性リンパ節炎(10歳・女)心筋炎、心膜炎、ウイルス性咽頭炎の所見(7歳・男)(重篤度が重くない症状など)血管迷走神経反射、異常感、嘔吐、苦悶感など 審議会では、上記の報告から小児ワクチン接種に関する論点として次の2点を提起し、今後も検討を行っていく。・小児(5~11歳用)ワクチン接種後の事例についても、国内外における報告状況を注視していくとともに、引き続き評価・分析を行っていく。また、最新の報告状況などを踏まえ、必要に応じ、周知・注意喚起を行っていく。・小児(5~11歳用)ワクチン接種後の報告状況についても、現時点においては、引き続き、ワクチンの接種体制に影響を与える程の重大な懸念は認められないと考えてよいか。※4月13日現在、5~11歳に適応承認がされているCOVID-19ワクチンはBNT162b2(Pfizer-BioNTech製)のみである。

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ノババックス製ワクチン承認、添付文書を公開/厚生労働省

 厚生労働省は4月19日、ノババックス製の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)ワクチンについて製造販売を承認(国内の申請者は武田薬品工業)。併せて、ノババックス製ワクチンの添付文書を公開した。一般名は組換えコロナウイルス(SARS-CoV-2)ワクチン、販売名はヌバキソビッド筋注。国内で承認を得た4種類目のワクチンとなる。ノババックス製は添付文書によると2~8℃の冷蔵保管が可能ノババックス製は、ファイザー製とモデルナ製のメッセンジャーRNA(mRNA)ワクチン、アストラゼネカ製のウイルスベクターワクチンとは異なる、遺伝子組換えスパイク蛋白ナノ粒子ワクチンで、添付文書によると冷蔵保管(2~8℃)が可能。これまでのワクチン接種でアレルギー反応が出た人への使用を想定している。<ノババックス製COVID-19ワクチンの添付文書情報>6. 用法及び用量初回免疫:1回0.5mLを2回、通常、3週間の間隔をおいて、筋肉内に接種する。追加免疫:1回0.5mLを筋肉内に接種する。7. 用法及び用量に関連する注意7.1 接種対象者本剤の接種は18歳以上の者に行う。SARS-CoV-2の流行状況や個々の背景因子等を踏まえ、ベネフィットとリスクを考慮し、追加免疫の要否を判断すること。7.2 接種回数初回免疫:本剤は2回接種により効果が確認されていることから、原則として、他のSARS-CoV-2に対するワクチンと混同することなく2回接種するよう注意すること。7.3 接種間隔初回免疫:1回目の接種から3週間を超えた場合には、できる限り速やかに2回目の接種を実施すること。追加免疫:通常、本剤2回目の接種から少なくとも6ヵ月経過した後に3回目の接種を行うことができる。 本ワクチンについて、米国およびメキシコで行われた第III相無作為化プラセボ対照試験では、ワクチンの有効性は90.4%(95%CI:82.88~94.62)。英国で行われた第III相無作為化プラセボ対照試験では、ワクチンの有効性は89.7%(95%CI:80.2~94.6)であった。 厚労省は1億5,000万回分の供給を受ける契約を結んでおり、来月下旬から約10万回分を自治体に配送する予定。

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第108回 小児の原因不明の重症肝炎が欧州や米国で増えている

肝炎の主な原因ウイルスが見当たらない原因不明の重症肝炎が欧州や米国の10歳頃までの幼い小児に増えています1)。英国で主に10歳までの74例(49例がイングランド、13例がスコットランド、残りはウェールズと北アイルランド)、スペインで13歳までの3例が4月8日までに見つかっています2,3)。また、米国のアラバマ州で1~6歳の9例が見つかっており1,4)、デンマークとオランダでも似た病状が報告されています。英国とスペインのそれら小児に4月12日時点で死亡例はありませんが全員が入院を要し、何人かは非常に重篤であり、7例は肝臓移植を受けています。米国アラバマ州でも9例中2例が肝臓移植を必要としました4)。風邪を引き起こすウイルスの一員として知られるアデノウイルスがそれら重症肝炎の原因かもしれません。Scienceのニュースによると英国ではアデノウイルスが多ければ半数から検出されています1)。また、アラバマ州の9例では全員からアデノウイルスが検出されました。英国でのそれら急な重症肝炎の最初の10件は健康な小児に発生したものでした3)。ほんの一週間前まではいたって健康だった小児に発生しうる重症肝炎は深刻な事態だと英国イングランドのBirmingham Children’s Hospitalの小児肝臓研究医師Deirdre Kelly氏は言っています1)。ただし同氏によると幸いほとんどは自ずと回復しています。先週14日には英国スコットランドでの原因不明の小児重症肝炎流行の詳細がEurosurveillance誌に掲載されました5)。同地でのその流行は3~5歳の原因不明重症肝炎小児5人がわずか3週間にグラスゴーの小児病院で認められたことを受けて先月末3月31日に察知されました。スコットランドでのそのような肝炎の通常の発生数は年間4例未満ですが、流行察知後の調査の結果、今年に入ってから4月12日までに10歳以下の小児13人が原因不明の急な肝炎で入院していました。それら13例のうち1例以外は今年3~4月に生じています。飲食物の毒あたりやおもちゃなどの有害物質が原因かと当初は考えられましたが、今ではウイルスに目が向けられています。肝炎の主な原因であるA、B、C、E型肝炎ウイルスは英国やスペインの小児から見つかっていません。一方、ワクチン非接種の何人かからは入院の少し前か入院時に新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)が検出されました。また、多ければ半数からは肝炎の原因となることは通常稀なはずのアデノウイルスが検出されました。アデノウイルスは呼気中の液滴に含まれるかそれらが付着した表面や感染者に触れることで伝染し、嘔吐・下痢・結膜炎・風邪症状を引き起こすことが知られます。現時点ではそういうアデノウイルス絡みの原因が有力視されています。肝炎の原因となることがおよそ稀なアデノウイルスの仕業であるならそうさせる何らかの事態を背景にしているのでしょう。これまでとは一線を画す症候群と紐づく新たな変異株が発生しているかもしれないし、免疫が未熟な幼い小児をすでにありふれた変異株が酷く害しているのかもしれないとスコットランドの研究者はEurosurveillance誌で述べています5)。SARS-CoV-2感染(COVID-19)流行で足止めを食らった幼い小児はいつもなら接しているはずのアデノウイルスなどのウイルスの面々といまだ馴染めず免疫が頼りないままで未熟である恐れがあります。ノッティンガム大学のウイルス学者Will Irving氏によるとロックダウン明けの小児にいつものウイルス感染が増えており、アデノウイルス感染もその一つに含まれます1)。全員からアデノウイルスが検出された米国アラバマ州の9例のうち5例にはもっぱら胃腸炎の原因として知られる41型アデノウイルスが認められ、どうやら関連があるらしいとアラバマ州保健部門は言っています4)。アデノウイルス原因説が有力とはいえそれ以外の要因の検討もなされています1)。たとえば先立つCOVID-19の免疫への影響が他の感染を生じやすくしているのかもしれません。あるいはCOVID-19の長期の後遺症の一つと考えられなくもありません。それに未知の毒物に端を発している可能性もあります。参考1)Mysterious hepatitis outbreak sickens young children in Europe as CDC probes cases in Alabama / Science2)Increase in hepatitis (liver inflammation) cases in children under investigation / UK Health Security Agency3)Acute hepatitis of unknown aetiology - the United Kingdom of Great Britain and Northern Ireland / WHO4)Investigations of nine young children with adenovirus are underway / Alabama Department of Public Health (ADPH)5)Investigation into cases of hepatitis of unknown aetiology among young children, Scotland, 1 January 2022 to 12 April 2022 / Eurosurveillance

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新型コロナ第6波の重症化率と致死率/厚生労働省

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の第6波のピークアウトがあいまいな中で、すでに第7波の気配もみられている。陽性者数が一番多かった新型コロナ第6波では、どれくらいの重症化率、致死率だったのだろう。 4月13日に厚生労働省で開催された新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボードで「第6波における重症化率・致死率について(暫定版)」が資料として発表された。新型コロナ第6波の重症化率と致死率、11万9,109例を対象に算出 解析は石川県、茨城県、広島県のデータを使用し、2022年1月1日~2月28日の期間における新型コロナ感染者11万9,109人を対象とした。年齢階級別、ワクチン接種歴別に重症化率および致死率を暫定版として算出した。 新型コロナの重症者は、人工呼吸器使用、ECMO使用、ICUなどで治療のいずれかの条件に当てはまる患者と定義し、重症化率は、経過中重症に至ったが死亡とならなかった患者、重症化して死亡した患者、重症化せず死亡した患者の合計を感染者数で割ったもの、死亡者は、新型コロナの陽性者であって、死因を問わず亡くなった者とした。 解析の結果、60代から新型コロナの重症化率と致死率が上昇し、とくにワクチン接種がない場合は、40代からも上昇していた。【全体】(単位は%)10代未満:重症化率0.02 致死率0.0010代:重症化率0.00 致死率0.0020代:重症化率0.02 致死率0.0030代:重症化率0.01 致死率0.0040代:重症化率0.05 致死率0.0250代:重症化率0.12 致死率0.0360代:重症化率0.58 致死率0.2970代:重症化率2.03 致死率1.2380代:重症化率4.25 致死率3.6790代以上:重症化率6.48 致死率6.21【3回ワクチン接種歴あり】10代未満:重症化率0.00 致死率0.0010代:重症化率0.00 致死率0.0020代:重症化率0.00 致死率0.0030代:重症化率0.00 致死率0.0040代:重症化率0.00 致死率0.0050代:重症化率0.00 致死率0.0060代:重症化率0.31 致死率0.3170代:重症化率0.95 致死率0.6380代:重症化率2.15 致死率1.7990代以上:重症化率0.97 致死率0.97【ワクチン接種歴なし】10代未満:重症化率0.02 致死率0.0010代:重症化率0.00 致死率0.0020代:重症化率0.00 致死率0.0030代:重症化率0.03 致死率0.0040代:重症化率0.09 致死率0.0950代:重症化率0.50 致死率0.1760代:重症化率1.72 致死率0.6370代:重症化率3.83 致死率2.0080代:重症化率7.62 致死率6.6390代以上:重症化率9.76 致死率9.33※なお、これらの数字は2022年3月31日時点のステータスに基づき算出されており、今後重症者数や死亡者数は増加する可能性がある点に留意してほしいと注意を促している。

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第97回 巨額のコロナ補助金による公立病院の収益改善を問題視/財務省

<先週の動き>1.巨額のコロナ補助金による公立病院の収益改善を問題視/財務省2.GW中も新型コロナ患者に対応できる体制確保を求める通知/厚労省3.コロナ禍で自殺者数が増加、自殺総合対策大綱の見直しへ/政府4.「かかりつけ医」以外の受診に定額負担、フリーアクセス抑制5.精神科の医療保護入院、「廃止」の文言を撤回/厚労省6.岸田首相、リフィル処方箋の推進を/経済財政諮問会議1.巨額のコロナ補助金による公立病院の収益改善を問題視/財務省13日に開催された財政制度等審議会の分科会において、財務省が新型コロナウイルス対策に投じられた巨額の補助金をめぐって医療機関経営実態の「見える化」を提言した。感染拡大中の病床確保支援、医療従事者への慰労金、院内感染対策、ワクチン接種体制確保などのために、緊急包括支援交付金として6兆円、病床確保のための緊急支援金0.3兆円などと、低く見積もっても約8兆円が使われた。病床確保料を受け取りながらも新型コロナ患者の受入れをしなかった病院が問題視されたこともあり、医療機関などへの財政支援の効果の検証が求められる。2020年度決算では、新型コロナ関連の補助金に支えられた形で、国公立病院の収益が急改善している。853病院ともっとも数が多い公立病院の合計収益は、2019年度における980億円の赤字から2020年度には1,251億円の黒字になるなど、国立病院機構傘下の140病院、地域医療機能推進機構の57病院を含む国公立病院の決算の分析結果を示した。費用対効果の面で補助金額が適切だったかどうか、問題提起する狙いがある。(参考)国公立病院の収益が急改善 20年度、コロナ巨額補助金で(東京新聞)コロナ対応に国費16兆円、4割が医療体制強化に…財務省幹部「検証が必要」財務省(読売新聞)コロナ対策、病院に8兆円 無駄排除へ実態検証欠かせず(日経新聞)2.GW中も新型コロナ患者に対応できる体制確保を求める通知/厚労省厚生労働省は、今年のゴールデンウィークを前に、各医療機関や自治体に対して、連休中に新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者や疑い患者の増加が想定されるとして、引き続き診療・検査体制や入院体制を維持・確保することが重要とする通知を13日に発出した。とくに高齢者施設等における医療支援の更なる強化を始めとした流行再拡大への対応が求められる。連休時における発熱患者等の診療・検査医療機関やコロナ患者の受入れ医療機関など、十分な医療提供体制の事前調整や、COVID-19疑い例の相談窓口など、連休時においてもその体制を引き続き確保することなどが全9項目にまとめられている。(参考)ゴールデンウィーク等の連休時の保健・医療提供体制の確保について(厚労省)連休時も確保病床など即座に稼働できる準備を 厚労省、診療・検査・入院体制確保を要請(CBnews)ゴールデンウィーク中も十分な医療提供が行える体制を地域関係者で協議し、準備・周知を―厚労省(Gem Med)3.コロナ禍で自殺者数が増加、自殺総合対策大綱の見直しへ/政府厚労省「自殺総合対策の推進に関する有識者会議」は15日に報告書をとりまとめ、公表した。わが国では1998年以降、14年連続して年間自殺者数が3万人を超えていたものの、2006年に制定された自殺対策基本法や政府の自殺総合対策大綱に基づく取り組みの結果、2万人台に減少するなど、成果を挙げていた。しかし、2021年は女性や小中高生の自殺者が増え、総数は11年ぶりに前年を上回った。このため、女性や子供への支援強化として相談窓口の拡充や、若者の自殺対策のさらなる推進、報道等への対応を含め、今年の夏に政府は、現在の自殺総合対策大綱を見直す方針。(参考)女性、子ども「深刻な状況」 自殺対策の指針、見直しに向け報告書(朝日新聞)自殺対策、精神科医療につなぐ連携体制強化を 厚労省が有識者会議の報告書を公表自殺総合対策の推進に関する有識者会議報告書(厚労省)4.「かかりつけ医」以外の受診に定額負担、フリーアクセス抑制13日に開催された財務省財政制度等審議会の分科会において、「かかりつけ医」以外を受診した場合に、患者に対して新たな定額負担を求める意見が出された。これは2015年にも政府内で検討されていたが、「かかりつけ医」の定義が曖昧なため見送られた経緯がある。2025年には団塊世代が75歳以上となるため医療費の抑制が課題となっており、これに対して「量重視」のフリーアクセスを、必要な時に必要な医療にアクセスできる「質重視」に切り替えていく必要があるとし、財務省はこれを今年の夏の「骨太方針2022」に盛り込みたいとしている。なお、今年の夏には参議院選挙もあり、どこまで具体化するか注目したい。(参考)外来受診時の定額負担、再び俎上に「かかりつけ医」制度とセットで財務省提案(CBnews)「かかりつけ医」と医療の今後(読売新聞)5.精神科の医療保護入院、「廃止」の文言を撤回/厚労省厚労省は、14日に開催された「地域で安心して暮らせる精神保健医療福祉体制の実現に向けた検討会」において、精神科病院に強制的に入院させる「医療保護入院」について、将来的な「廃止」という文言を削除した。民間団体「精神医療人権センター」によると、日本の精神科の強制入院率は欧州の3~4倍、人口100万人当たりで比較すると約15倍と世界的に見ても大きい。前回の検討会では、将来的な廃止も視野に入れ縮小する考えを示していたが、日本精神科病院協会(日精協)の委員が反発したため、表現を後退させた形。今後も、医療保護入院の見直しについては、できる限り入院治療に頼らない治療を行うことを原則として、それでも入院治療が必要な場合、できる限り本人の意思を尊重する形で任意入院を行うことが重要であるとした。入院医療を必要最小限にするための予防的取り組みの充実や、医療保護入院から任意入院への移行、退院促進に向けた制度・支援など、より一層の権利擁護策の充実を求めている。(参考)医療保護入院、廃止も視野に縮小へ 「任意」や退院促す(福祉新聞)医療保護入院、「廃止」を削除 精神科、厚労省が表現後退(東京新聞)第9回「地域で安心して暮らせる精神保健医療福祉体制の実現に向けた検討会」6.岸田首相、リフィル処方箋の推進を/経済財政諮問会議今年の診療報酬改定で導入されたリフィル処方だが、現場では再診料が減ることを懸念した医療機関などによりあまり活用されていない。この現状に対して、岸田総理は13日に開催された経済財政諮問会議で、リフィル処方の使用促進を含む医療・介護サービス改革の継続・強化に取り組むことを明らかにした。民間議員からは、コロナの感染拡大を機に外来の受診回数が減少したデータを提示し、薬のみの診療は患者にとって過度な通院負担であった可能性があると指摘。患者の希望を確認、尊重する必要性があると求めた。(参考)岸田首相 諮問会議でリフィル処方の使用促進求める コロナ禍の経験踏まえた医療改革の継続・強化を(ミクスオンライン)「リフィル処方箋」医師及び腰「薬剤師が管理」抵抗 患者ニーズ置き去り(日経新聞)

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国内コロナ患者の血栓症合併、実際の抗凝固療法とは/CLOT-COVID Study

 国内において、変異株により感染者数の著しい増加を認めた第4波以降に新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に罹患した際の血栓症の合併頻度や予防的抗凝固療法の実態に関するデータが不足している。そこで尼崎総合医療センターの西本 裕二氏らは国内16施設共同で後ろ向きコホート研究を実施した。その結果、とくに重症COVID-19患者で予防的抗凝固療法が高頻度に行われていた。また、血栓症の全体的な発生率は実質的に低いものの、COVID-19が重症化するほどその発生率は増加したことが明らかになった。ただし、画像検査を受けた患者数が少ないため実質的な発生率が低く見積もられた可能性もあるとしている。Journal of Cardiology誌オンライン版2022年4月5日号掲載の報告。 研究者らが実施したCLOT-COVID Study(日本におけるCOVID-19患者での血栓症・抗凝固療法の診療実態を明らかにする研究)は、2021年4~9月に国内16施設でPCR検査によりCOVID-19と診断された入院患者を登録した後ろ向き多施設共同研究で、第4波と第5波でのCOVID-19患者の血栓症の合併頻度や予防的抗凝固療法の実態を把握することなどを目的に実施された。対象者は予防的抗凝固療法の種類と用量に応じて7グループ(予防用量の未分画ヘパリン[UFH]、治療用量のUFH、予防用量の低分子ヘパリン[LMWH]、治療用量のLMWH、直接経口抗凝固薬[DOAC]、ワルファリン、その他)に分類された。 主な結果は以下のとおり。・COVID-19と診断されて入院したのは2,894例で、平均年齢(±SD)は53±18歳、男性は1,885例(65%)であった。また、平均体重(±SD)は68.9±18.5kg、平均BMI(±SD)は25.3±5.4kg/m2であった。・D-ダイマーが測定された患者(2,771例)の中央値は0.8μg/mL(四分位範囲:0.5~1.3)であった。・1,245例(43%)が予防的抗凝固療法を受け、その頻度は軽症9.8%、中等症61%、重症97%とCOVID-19の重症度が高くなるほど増えた。・抗凝固療法に使用された薬剤の種類や投与量は、参加施設間で大きく異なったが、予防用量UFHは55%(685例)、治療用量UFHは13%(161例)、予防用量LMWHは16%(204例)、治療用量LMWHは0%、DOACは13%(164例)、ワルファリンは1.5%(19例)、その他は1.0%(12例)で使用された。・入院中、下肢の超音波検査は38例(1.3%)、下肢の造影CTは126例(4.4%)が受け、55例(1.9%)で血栓症を発症した。そのうち39例(71%)は静脈血栓塞栓症(VTE)で、VTE診断時のD-ダイマーは18.1μg/mL(四分位範囲:6.6~36.5)、入院から発症までの日数の中央値は11日(四分位範囲:4〜19)であった。・血栓症の発生率は、軽症0.2%、中等症1.4%、重症9.5%とCOVID-19が重症化するにつれて増加した。・57例(2.0%)で大出血が発生した。・158例(5.5%)が死亡し、その死因の81%はCOVID-19肺炎による呼吸不全であった。 研究者らは、COVID-19入院患者への予防的抗凝固療法は重症例になるほど高頻度に行われていたが、治療方針が参加施設間で大きく異なっており、各施設の判断や使用可能な薬剤が異なっていた可能性を示唆した。また今後、国内のCOVID-19患者に対する至適な予防的抗凝固療法についてその適応や抗凝固薬の種類、用量を明らかにすべく、さらなる研究が望まれると結んだ。

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3回目接種3ヵ月後、日本の医療従事者での抗体価は

 追加接種(3回目接種)前に400U/mL前後だった抗体価は、追加接種1ヵ月後には2万~3万U/mLに増加し、3ヵ月後にはコミナティ筋注(ファイザー)、スパイクバックス筋注(モデルナ)ともにおおむね半分の1万~1万5,000U/mLに低下していることが報告された。なお追加接種約1ヵ月後の抗体価は、スパイクバックス筋注接種者で統計学的に有意に高値であった。1~2回目にコミナティ筋注を接種した国立病院機構(NHO)、地域医療機能推進機構(JCHO)の職員における前向き観察研究によるもので、順天堂大学の伊藤 澄信氏が4月13日開催の第78回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会、令和4年度第1回薬事・食品衛生審議会薬事分科会医薬品等安全対策部会安全対策調査会(合同開催)で報告した。<研究概要>新型コロナワクチン追加接種(3回目接種)にかかわる免疫持続性および安全性調査(コホート調査)調査内容:・体温、接種部位反応、全身反応(日誌)、胸痛発現時の詳細情報・副反応疑い、重篤なAE(因果関係問わず)のコホート調査による頻度調査・SARS-CoV-2ワクチン追加接種者の最終接種12ヵ月までのブレークスルー感染率、重篤なAE(因果関係問わず)、追加接種者の最終接種12ヵ月後までのCOVID-19抗体価(調査対象者の一部、予定)・抗体価等測定のための採血は接種前、1、3、6、12ヵ月後(予定)調査対象:初回接種としてコミナティ筋注、追加接種としてコミナティ筋注またはスパイクバックス筋注を受けたNHO、JCHO職員・今回の報告のデータカットオフは2022年4月1日 抗体価の推移について主な結果は以下の通り。[コミナティ筋注を追加接種]・追加接種としてコミナティ筋注の投与を受けたのは2,931人(医師16.0%/看護師45.6%、女性68.0%、20代19.5%/30代25.0%/40代25.9%/50代21.2%/60歳以上8.4%)。・このうち抗N抗体陰性の487人について抗S抗体価をみたところ、追加接種前幾何平均抗体価は386U/mL(95%CI:357~418)だったのに対し、追加接種1ヵ月後は19,771U/ mL(18,629~20,984)となり、幾何平均抗体価倍率は51.2(47.7~55.1)倍だった。・年代別にみると、追加接種前は20代で634U/mLだったのに対し60歳以上では232 U/mLと年齢が高いほど低く、追加接種1ヵ月後では20代で22,474U/mL(追加接種前の35.4倍)、60歳以上では22,381U/mL(96.3倍)だった。・接種から3ヵ月後の抗体価が測定された440人について、3ヵ月後の幾何平均抗体価は10,376U/mL(9,616~11,196)だった。[スパイクバックス筋注を追加接種]・追加接種としてスパイクバックス筋注の投与を受けたのは890人(医師13.9%/看護師41.2%、女性62.1%、20代27.5%/30代26.1%/40代23.7%/50代17.5%/60歳以上5.1%)。・このうち抗N抗体陰性の482人について抗S抗体価をみたところ、追加接種前幾何平均抗体価は454U/mL(417~494)だったのに対し、追加接種1ヵ月後は29,422U/mL(27,495~31,483)となり、幾何平均抗体価倍率は64.8(60.3~69.7)倍だった。・年代別にみると、追加接種前は20代で701U/mLだったのに対し60歳以上では294 U/mLと年齢が高いほど低く、追加接種1ヵ月後では20代で32,080U/mL(追加接種前の45.8倍)、60歳以上では33,383U/mL(113.4倍)だった。・接種から3ヵ月後の抗体価が測定された92人について、3ヵ月後の幾何平均抗体価は14,719U/mL(12,380~17,500)だった。[全体のまとめ]・追加接種前抗N抗体が陰性で、追加接種1ヵ月後の抗体価を測定した972人の追加接種前抗体価は年齢が高くなるにつれて低値をとり、女性は高かった(ワクチン種別、2・3回目接種間隔で調整した重回帰分析)。・3回目追加接種1ヵ月後の幾何平均抗体価はコミナティ筋注19,771U/mL、スパイクバックス筋注29,422U/mL、幾何平均抗体価倍率はそれぞれ51.2倍、64.8倍で、スパイクバックス筋注の方が高かった。抗体価については、性・年齢および接種間隔を調整した重回帰分析で、スパイクバックス筋注の方が統計学的に有意に高値であった。・3回目接種3ヵ月後抗体価はコミナティ筋注、スパイクバックス筋注とも追加接種1ヵ月後の抗体価に比しておおむね半分に低下した。・幾何平均抗体価倍率は年齢とともに増加し、結果として1ヵ月後の幾何平均抗体価は年齢ごとの差はわずかで、女性がやや低値だった。

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第104回 国産コロナ治療薬のネガティブ情報が流出、策士の仕業か!?

なんとも騒がしい。そんなに騒ぐべきことなのか? 何のことかというと以下の記事だ。「コロナの新飲み薬、動物実験で胎児に異常 塩野義『妊婦への使用は推奨されない』」(東京新聞)新聞記事を見ればわかるが、大元は共同通信の記事である。塩野義製薬が2月に条件付き早期承認制度で申請を行った新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)の経口薬で3CLプロテアーゼ阻害薬(開発番号:S-217622)の動物実験で、催奇形性が確認されたという内容だ。その後の続報でこれが妊娠ウサギで起きていたことがわかっている。そしてこの件を報道各社が一斉に報じたことで13日に塩野義製薬がコメントを発表。その内容を見ても第一報は共同通信らしきことがうかがえる。コメントでは一般的な非臨床試験での結果であること、すでに厚生労働省や医薬品医療機器総合機構(PMDA)に報告済みで、前述の承認申請でもデータを提出済みとしている。また、確認された催奇形性は臨床用量を上回るものだったことも記述がある。そもそも多くの方がご存じのように非臨床試験での催奇形性試験は、だいたい臨床用量・曝露量の10倍程度が一つの目安で、それ以内で催奇形性が認められた場合はおおむね添付文書に記載がされ、妊婦への投与が禁忌になる。そして、これまたすでにご存じのように特例承認されたMSDの新型コロナ治療薬のモルヌピラビル(商品名:ラゲブリオ)でも催奇形性は報告されている。モルヌピラビルはプロドラッグなので、体内での主要代謝物のN-ヒドロキシシチジン(NHC)になり細胞に取り込まれる。非臨床試験では、NHC臨床曝露量の8倍相当量で妊娠ラットの器官形成期に催奇形性と胚・胎児致死、3倍相当量以上で胎児の発育遅延、NHC臨床曝露量の18倍相当量で妊娠ウサギの器官形成期の胎児体重の低値が認められている。このため妊婦または妊娠している可能性のある女性は禁忌で、妊娠可能な女性は投与中と最終投与後一定期間は適切な避妊を行うよう求められている。塩野義製薬が申請中のS-217622では、実際に臨床用量の何倍でこうした結果が出たかは現時点では不明。しかし、報道の影響で塩野義製薬の株価は12日終値の1株7,440円から、翌13日には最安値で6,252円まで1,000円以上下落。14日になってやや持ち直したが、株価は6,000円台後半をウロウロしている。塩野義製薬にとっては半ば迷惑な話だろう。そして今回の報道でSNS上などを見ていると、医師のアカウントから「これで発売されても使いにくくなった」という趣旨の発言は少なからず見受けられる。ちなみに過去の本連載(第101回)で触れたようにS-217622は現時点では有効性もまだ十分に示せているとは言えない。催奇形性が報告されていないファイザーのニルマトレルビル/リトナビル(商品名:パキロビッド)がすでに発売されているため、そのような反応も当然だろう。もっともニルマトレルビル/リトナビルについては、いまだ供給量が少なく、院外処方の対応薬局は東京都内ですら10軒程度と言われる点が泣き所になっているようだ。さてその一方で一般人の反応を見ると、これはこれで悩ましい。やはり以前の本連載(第95回)でも記述したが、SNS上でやたらと「国産新型コロナ治療薬」にこだわる発言をする人などは、S-217622に期待を寄せていることが多い。またこうした人はドラッグ・リポジショニングで注目されながら、いまだ有効性を示す決定打のデータがない新型インフルエンザ治療薬ファビピラビル(商品名:アビガン)や駆虫薬のイベルメクチン(商品名:ストロメクトール)を早く承認すべきと声高に叫ぶ人たちと重なる。そうした人たちが今回どんな反応をしているか覗いてみると、「やっぱりアビガンのほうがましだったということはないですか」や「塩野義には悪いけど、やっぱりイベルメクチン」といった反応が散見される。しかしだ。ファビピラビルは臨床曝露量同程度かそれを下回る用量でサル、マウス、ラット、ウサギ、イベルメクチンも最高推奨用量の0.2倍でマウス、ラット、ウサギでの催奇形性がそれぞれ認められている。いずれも催奇形性だけ見れば、むしろS-217622やラゲブリオよりも慎重に扱わなければならない薬だ。このようなSNS上の動向を見るにつけ、ため息が出てしまう。そして今回、私が何とも奇妙だと思っていることがある。それは今回の第一報が「関係者への取材でわかった」とされている点だ。現在申請中であることを考えれば、催奇形性のデータを知っているのは(1)厚生労働省の医薬生活衛生局、(2)PMDA、または(3)塩野義製薬の内部ということになる。記者としての経験から推論すると、この中で情報を流した可能性が最も低いのは(3)塩野義製薬内部である。記者にしてみれば、この丈夫を流すのに何のメリットもないどころか今回の過剰反応のようなデメリットのほうが大きいからだ(ただ、前述の本連載でこの新薬候補に触れた時の状況を考えると可能性はなくもない)。となると残る2者がリーク元として考えられる。だとすると、なぜこの時期にこの情報を出したのだろうか? と正直いぶかってしまう。もしかして「早期承認の声が大きいことを懸念して鎮静化させるためのリークか?」とも勘ぐってしまう。ちなみに私は陰謀論がかなり嫌いなほうだ。そうした私自身が勘ぐってしまうほど、今回のリークは常道で考えれば誰にとってもメリットがない。「関係者」が悪気なく口走ったのだとするなら、少しは控えてはどうかと言ってしまうのは上から目線すぎるだろうか?

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ファイザー製ワクチン4回目、オミクロン株への予防効果は/NEJM

 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のB.1.1.529(オミクロン変異株)の流行中に行った新型コロナウイルス感染症(COVID-19)ワクチンのBNT162b2(Pfizer-BioNTech製)の4回目接種は、3回のみ接種と比べて、SARS-CoV-2感染率およびCOVID-19重症化率を低下した。イスラエル・ワイツマン科学研究所のYinon M. Bar-On氏らが、オミクロン変異株流行中に同ワクチン4回目を接種した60歳以上125万人超を対象に行った試験の結果を報告した。イスラエルでは、2022年1月2日に、60歳以上を対象としたBNT162b2ワクチンの4回目接種を開始していた。NEJM誌オンライン版2022年4月5日号掲載の報告。対COVID-19感染・重症化予防効果を疑似ポアソン回帰で分析 研究グループはイスラエル保健省データベースを用いて、オミクロン変異株流行期間中(2022年1月10日~3月2日)にCOVID-19ワクチン4回目接種の対象だった60歳以上125万2,331人に関するデータを抽出・解析した。 感染率と重症COVID-19について、ワクチン4回目接種後8日以上経過した(4回接種)群と、3回のみ接種した(3回接種)群、また4回目接種後3~7日(4回接種早期)群を比較。発生率は疑似ポアソン回帰モデルを用い、年齢、性別、人口統計上の集団、暦日によって補正を行い推算した。重症COVID-19、3回接種群が4回接種群の3.5倍 補正前の重症COVID-19発生率は、4回接種群が1.5/10万人に対し、3回接種群は3.9/10万人、4回接種早期群は4.2/10万人だった。 疑似ポアソン回帰分析の結果、重症COVID-19の補正後発生率は、3回接種群が4回接種後4週経過群と比べて3.5倍(95%信頼区間[CI]:2.7~4.6)高かった。また4回接種早期群は、4回接種後4週経過群と比べて2.3倍(1.7~3.3)高かった。 3回接種群の同発生率は、4回目接種後2週経過群と比べても2.4倍(2.0~2.9)高かった。COVID-19重症化に対するワクチン予防効果は、4回目接種後6週間は減弱がみられなかった。 補正前の感染率は、4回接種群が177/10万人、3回接種群は361/10万人、4回接種早期群は388/10万人だった。補正後感染率は、3回接種群が4回接種後4週経過群と比べて2.0倍(95%CI:1.9~2.1)高く、4回接種早期群は4回接種後4週経過群よりも1.8倍(1.7~1.9)高かった。しかしながら、感染に対するワクチンの予防効果は、ワクチン接種後約4週間でピークに達し、その後は徐々に減弱し、8週後には感染リスクは3回接種群とほぼ同等だった。

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第104回 パワハラ事件に大甘の医療界、旭川医大、大津市民の幕引きの背後に感じた“バーター”の存在

大津市民病院は院長も辞任へこんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。先週末は野球観戦三昧でした。木曜は神宮球場に行き、中日・高橋 宏斗投手の初勝利を観てきました。金曜朝からは開幕したMLBの試合を観て過ごしました。ロサンゼルス・エンジェルスの大谷 翔平投手、サンディエゴ・パドレスのダルビッシュ 有投手ともに好投したのですが、ともに勝ち投手にはなれませんでした。気になったのはヒューストン・アストロズとの開幕4連戦、大谷選手のバットが総じて湿っていたことです。……と日曜日にここまで書いていたら、「千葉ロッテマリーンズの佐々木 朗希投手がとんでもない試合をしている」との情報が。その後、ネットの1球速報をチェックしながら、間接的にですが完全試合の瞬間に立ち会いました。それにしても、初完投で19奪三振、28年ぶりの完全試合とはまさにとてつもない偉業です。ニュース映像やYouTubeなどでこの日の投球を見たのですが、2年連続首位打者のオリックス・バッファローズの吉田 正尚選手から面白いように三振を取っていたのが印象的でした。ところで佐々木投手をリードしていたのは市立和歌山高校からドラフト1位で入ったばかりの松川 虎生捕手です。佐々木投手は日曜のテレビのインタビューで「18歳なのか18年目なのかわからない」とコメントしていました。完全試合捕手としては史上最年少かつ、ルーキー選手が務めたのも史上初とのことです。松川捕手の今後の活躍も気になるところです。さて、先週「第103回 大津市民病院の医師大量退職事件、『パワハラなし』、理事長引責辞任でひとまず幕引き」で書いた大津市民病院ですが、またまた新たな動きがあり、理事長に続いて院長辞任も明らかになりました。「辞任って辞めないこと?責任って何?」と思うような人事地方独立行政法人・市立大津市民病院は4月8日、若林 直樹院長の辞任(4月17日付)を発表しました。あわせて若林氏の「今般の医師の人事案件に関し患者、市民に大変な心配と不安をかけている責任を痛感し、診療体制の刷新を図るため院長職を辞する」とするコメントも出しました。もっとも、若林氏は今後も地方独立行政法人の副理事長職と、同病院の院長代行に留まって病院運営に携わり、診療も続けるとのことです。普通の人が聞いたら「辞任って辞めないこと?責任って何?」と思うような人事です。なお若林氏の院長辞任とあわせて、新しい院長も発表されました。後任は、済生会滋賀県病院(栗東市)の院長補佐で脳神経外科医の日野 明彦氏とのことです。北脇 城前理事長の後任理事長については人選中とのことです。ちなみに日野氏は北脇氏、若林氏と同じく京都府立医大の出身です。結局、同病院の外科や脳神経外科は京大が排除され、府立医大勢で占められることになるのでしょうか。先行きが気になります。旭川医大、新学長、新病院長で再スタート医療界の類似のパワーハラスメント事件ということでは、北の地、北海道・旭川でも新たな動きがありました。旭川医科大学の新学長に4月1日付で西川 祐司前副学長が就任したのです。西川学長は昨年11月、学内の教授らによる投票で選ばれていました。旭川医大の吉田 晃敏前学長の職員へのパワハラや数々の不適切な言動等については、本連載でも「第43回 ドタバタ続きの旭川医大、ワンマン学長の言動を文科省が静観する理由」「第64回 「辞任」ではなく「解任」の可能性も…、老害、旭川医大学長のお粗末な退陣劇」で取り上げてきました。新学長就任がここまで遅れたのは、吉田前学長を解任するか、辞任を認めるかについて、文部科学省で2月まで協議が続いたためです。文科省、解任ではなく辞任を受理吉田前学長をめぐっては、教職員へのパワハラや不適切支出などの問題行為が指摘され、同大の学長選考会議が昨年6月、文部科学相に解任を申し出ていました。一方、解任(クビ)は避けたい吉田氏は辞任届けを文科省に提出していました。各紙の報道によれば、解任申し出を受け文科省は吉田前学長に事情を聴くなどしたものの、問題行為については否定していたとのことです。平行線が続くなか、2月25日に大学が「新体制移行を最優先したい」として解任申し出を取り下げ、3月3日に末松 信介文部科学大臣が吉田前学長の辞任を認めた、という流れです。旭川医大では西川学長が就任した同じ4月1日、吉田前学長と対立して病院長を解任された古川 博之氏が病院長兼副学長として復職しました。古川氏は、吉田前学長が2020年11月に新型コロナのクラスターが発生した市内の病院について「コロナを完全になくすためには、あの病院がなくなるしかない」と発言した学内会議を録音し外部に漏えいしたとして解任されました。古川氏は録音と漏えいを否定しており、患者らが解任撤回を求める署名活動を行っていました。「誰がどう聞いてもパワハラにはならない」と前学長なお、辞任が決まった1週間後の3月8日、吉田前学長は代理人の弘中 惇一郎弁護士(カルロス・ゴーンの弁護を引き受けるも逃げられてしまった弁護士です)とともに記者会見を開いています。各紙報道によれば、会見で吉田前学長は、混乱を招いたことを陳謝する一方、「私自身はまったく特別なことはしていないが、いわゆるクーデターという形になって私が悪いとなった。自分が身を引くのが一番。混乱の責任をとって私が辞任の手続きをとった」「パワハラだと言われて資料を出されても、誰がどう聞いてもパワハラにはならない」と、一連の事件をクーデターだと説明するとともに、パワハラを全面否定したとのことです。「パワハラは認めず」「混乱の責任を取って辞任」大津市民病院、旭川医大のケースで共通しているのは、どちらもパワハラを訴えられた方が「パワハラは認めず」「混乱の責任を取って辞任」している点です。「混乱の責任」とは、わかるようでよくわからない説明です。こうしたことから伺い知れるのは、パワハラの存在証明が法律的に相当難しいだろう、ということです。ただし、「法律的にはセーフだが実社会ではアウト」ということは多々あります。最近話題の芸能界、映画界でのセクハラもその範疇に入る例が多いでしょう。パワハラを起こした本人もその自覚があるからこそ職を辞していると思われますが、「第三者委員会がパワハラ認定しなかった」「文科省が解任しなかった」ことをもって、「自分はシロだった」と“後出し”で言うのはかっこ悪く、虫のいい話です。運営安定化を最優先させるための“バーター”の存在そうした虫のいい話になってしまうのは、パワハラやセクハラに関して、医療界がこれまで甘過ぎる対応をしてきたからではないでしょうか。今回の旭川医大に関する文科省の対応は、大学側からの取り下げを待って辞表を受理するかたちとなっています。一方の大津市民病院は、第三者委員会の「パワハラはなかった」報告書を待って、理事長、院長が退任するかたちとなっています。何となく、大学や病院の運営の安定化を最優先させるための“バーター”の存在が見え隠れします。旭川医大では、「解任にするにはまだ証拠が足りない。それを調べていては学生や病院の患者に迷惑になる。もうここは辞表を受理して辞めてもらう代わりに、新しい体制でスタートしてもらおう」といった文科省の意向が働いたのではないでしょうか。一方の大津市民病院では、「パワハラはなかったことにして罪は問わない代わりに辞めてもらおう。ただ今後も主導権は府立医大に取っていただく」といった大津市の意向があったのではないでしょうか。「悪いものは悪い」こととして厳しく罰し、相応の罰を科すような仕組みが機能しない世界では、同じような事件が再び起こるに違いありません。国と国の間の戦争でも、大学と大学の間のジッツ争いでも、組織内の権力抗争においても、その真理は変わらないと思います。

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新型コロナ後遺症、多岐にわたる症状と改善時期/東京感染症対策センター

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の第7波が懸念される中で新規の陽性患者だけでなく、COVID-19の後遺症の報告も医療機関で上がっている。厚生労働省は、2021年12月に「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療の手引き 別冊 罹患後症状のマネジメント(暫定版)」を作成し、全国の医療機関に診療の内容を示したところである。 今回、東京都は、3月24日に開催された東京都新型コロナウイルス感染症モニタリング会議で「都立・公社病院の外来を受診した後遺症患者の症例分析」を発表した。これは、都の感染症に関する政策立案、危機管理、調査・分析などの感染症対策を行う東京感染症対策センター(東京iCDC)が取りまとめたもの。 分析の結果、症状では「倦怠感」「息切れ」「頭痛」などの症状が多く、出現時期も2週間未満での発症が多かった。 東京都では、HP上で後遺症の症状、体験談、相談窓口などを紹介する「新型コロナウイルス感染症 後遺症リーフレット」を作成・公開し、後遺症診療の啓発につとめている。調査の概要・対象:都立・公社病院のコロナ後遺症相談窓口から自院の外来受診につながった症例など、都立・公社病院の外来を受診した後遺症が疑われる患者の症例・期間:令和3年5月10日~令和4年1月28日に受診した症例・症例数:230例 年齢:50代、40代、30代の順 性別:男(60%)、女(40%) 重症度:軽症(54%)、不明(28%)、中等症I(8%)の順COVID-19後遺症の主訴の多くが倦怠感、息切れ、頭痛の3つ 次に調査結果の概要を示す。【1.後遺症の症状】・全症状(複数回答)倦怠感(93人)、息切れ(44人)、頭痛(38人)の順で多く、その他が128人・主症状(単一回答)倦怠感(52人)、息切れ(25人)、頭痛(23人)の順で多く、その他が49人・後遺症の症状の数(症例データ)1つ(35%)、2つ(27%)、3つ(27%)の順・訴える症状の数(相談窓口データ)2つ(34%)、1つ(30%)、3つ(19%)の順 症状は上位3つの主訴が多いが、「その他」も多く、多岐にわたる症状が多い。また、全体の65%が2つ以上の症状を訴えていたことが判明した。【2.後遺症の出現時期と改善状況】・後遺症の出現時期[発症からの期間](n=213)2週間未満(116人)、2週間以上1ヵ月未満(46人)、1ヵ月以上3ヵ月未満(40人)の順・直近受診日における改善状況(n=125)改善(68人)、症状継続(54人)、他院紹介(3人)の順 全体の約54%がCOVID-19発症から2週間未満であり、症状が継続していた。また、改善状況では全体の54%が直近受診日において改善していた。【3.治療・検査】 後遺症の治療法は確立されていないが、都立・公社病院では、症状に応じた検査・薬の処方など、対症療法を行っている。(1)倦怠感(n=52)・検査:血液検査(33人)、胸部X線(17人)、脳・頭部MRI(14人)など・治療:漢方薬(23人)、抗うつ薬(5人)、解熱鎮痛薬(4人)など(2)息切れ(n=25)・検査:胸部X線(20人)、血液検査(14人)、心電図(8人)など・治療:漢方薬(4人)、解熱鎮痛薬(4人)、咳止め薬(4人)など(3)頭痛(n=23)・検査:血液検査(16人)、脳・頭部MRI(9人)、心電図、胸部X線(ともに7人)など・治療:解熱鎮痛薬(9人)、漢方薬(4人)など 改善時期では、倦怠感が発症から1~3ヵ月、3~6ヵ月がほぼ同じ割合で多く、息切れは1~3ヵ月、頭痛は3~6ヵ月の回答が多かった。 東京iCDCは、以上の結果から「時間の経過とともに改善がみられる事例がある一方で、コロナ罹患時よりも重い症状となる事例、症状が長期に遷延し、仕事などを休まざるをえない事例もみられた。コロナ発症時から1~2ヵ月以上症状が継続するなど、後遺症が疑われる場合は、無理な活動は避け、かかりつけの医療機関や相談窓口などへ相談をしてほしい」と結んでいる。

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ウクライナ語を新たに追加、医療通訳サービス活用を/日医

 ウクライナからの避難者やその親族等の支援として、日本医師会では医療通訳サービスに、2022年4月6日より新たにウクライナ語を追加した。同サービスは医師賠償責任保険の付帯サービスとして実施されているもので、ウクライナ語を含む19言語に対応。通訳者を介して話すことができる電話医療通訳とアプリを活用した機械翻訳の2つのサービスからなる。同日開催された日本医師会定例記者会見で、松本 吉郎常任理事が発表した。併せて、新型コロナウイルス感染症の影響や未収金発生状況等について審議結果をまとめた「令和2年・3年度外国人医療対策委員会報告書」の内容が公開された。特別な設備は不要、電話1本で利用可能 同サービスは当初東京オリンピックの開催に伴う外国人患者増加に向けた施策の一環として開始されたものだが、現在も継続されている。[電話医療通訳サービス概要]対応言語:19言語(英語・中国語・韓国語・ポルトガル語・スペイン語・ベトナム語・タイ語・ロシア語・タガログ語・フランス語・ヒンディー語・モンゴル語・ネパール語・インドネシア語・ペルシャ語・ミャンマー語・広東語・アラビア語・ウクライナ語)対応時間:毎日8:30~24:00利用対象者:開設者・管理者が日本医師会A1会員である医療機関の医師・職員利用料:A1会員1人当たり年間20回まで無料※ウクライナから避難された患者やその親族における電話医療通訳については、対象言語に関わらず、年間20回の回数制限を除外して対応利用方法:事前登録完了後に通訳直通電話番号を案内→電話1本で利用可能外国人COVID-19患者への対応や未収金の発生防止にも活用を 「令和2年・3年度外国人医療対策委員会報告書」では、新型コロナワクチン接種のための手続きが日本語が十分に使える状況にない来日外国人にとって非常に難易度が高いこと、日本人と比べ自宅療養の比率が高くなる傾向が報告されていること、陽性判明から入院・入所までの手続きにおけるコミュニケーションが十分にとれていないケースも散見されることなどが指摘されている。 また、未収金の発生状況についても、厚生労働省「医療機関における外国人患者の受入に係る実態調査」(令和3年3月)よりデータがまとめられている。令和2年10月の1ヵ月間で、外国人患者の受入実績のある2,195病院のうち、363病院(16.5%)が外国人患者による未収金を経験していた。発生件数は平均4.4件、総額は平均37.0万円で、500万円を超える事例が6件あり、最高額は約989万円だった。 松本氏は、ウクライナからの避難民や新型コロナ感染症患者への対応はもちろん、未収金の発生防止対策の1つとしても、円滑なコミュニケーション推進のために医療通訳サービスを活用してほしいと話した。

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こういうランダム化比較試験は仕方ない?(解説:後藤信哉氏)

 日本ではランダム化比較試験の多くが薬剤の臨床開発の一環としての治験として行われている。治験でないランダム化比較試験には薬を売るためのseeding trial(種まき試験)が多い。企業の利益と臨床試験が直結するため、規制当局による厳格な規制がなければ資本は何をするかわからない。 経済利益と直結する臨床試験と異なり、本研究は新型コロナウイルスという脅威にさらされた人類の治療法探索の一環として施行された研究である。新型コロナウイルス感染は血栓症のリスクを増やす。血栓イベント予防効果のある抗血小板薬は感染症の予後を改善するかもしれないとの仮説が検証された。 筆者は知らなかったが、世界には肺炎の予後改善を目指したREMAP-CAP試験という各種薬剤の効果を検証する継続的なランダム化比較試験の基盤があるらしい。本研究では新型コロナウイルス肺炎にてICU入院あるいは機械的補助循環・呼吸を要した重症例1,557例を対象とした。試験のendpointは登録後21日以内の機械的補助循環・呼吸を外れた日数とした。日数-1は死亡、日数22は無事退院となる。ランダム化はオープンラベルでアスピリン・P2Y12阻害薬使用ないし不使用である。 重篤な出血は増えるようだが、生存できる可能性は抗血小板薬を使ったほうがよい方向に見えるが統計学的に差異はなかった。1,400例以上集めても差がなかったことが示された。論文の著者はREMAP-CAP Writing Committee for the REMAP-CAP Investigatorsで個人ではない。人類のために能力のあるものが臨床試験にて医療のシステム的改善にチャレンジするとのランダム化比較試験のお手本のような例だと筆者は思う。

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