サイト内検索|page:141

検索結果 合計:2896件 表示位置:2801 - 2820

2801.

新型コロナ危機に直面した米国ニューヨークの今【臨床留学通信 from NY】番外編

番外編:新型コロナ危機に直面した米国ニューヨークの今米国は3月30日現在、世界1位の感染者数であり、その中心はニューヨークです。私はいま、最前線でCOVID-19の患者を数多く診療しており、今回はニューヨークの現状と私が勤務するMount Sinai Beth Israelの最新の状況をお伝えします。まず、基本的に一般生活は外出禁止令が出ており、厳しく制限されています。原則、仕事は在宅勤務です。例外的に、ライフラインに関わる医療従事者や薬局、スーパーなどは勤務が許されています。外出禁止といっても、1人でのランニングはできます。レストランは、持ち帰りのみの営業が許可されています。なお、小学校でもリモートラーニングのシステム整備が急ピッチで進められ、子供の教育が停滞しないよう対策が取られ始めています。日常生活では、握手をしない(日本では日常的ではありませんが)、顔を触らない、手指消毒が推奨されています。マスクは個人的に効くと思いますが、CDCは推奨していません。おそらく、少しでも医療従事者が使う数を確保するためだと思われます。私は元々、主に私服で仕事をしていましたが、現在は病院ですべてスクラブに着替え、使用済みスクラブは持ち帰りません。幸い、院内にスクラブの自動販売機のようなものがあり、使用済を持っていくと新しいものに取り替えられるため、持ち帰って洗濯する必要がありません。そして、帰宅したら風呂に直行です。米国の病院では、基本的に自分の携帯電話を診療に使います(日本のように配備品がないのです)。 ご存じのように、携帯電話はかなり汚いので扱いが難しいのですが、アルコール消毒すると壊れてしまうかもしれないので、帰宅後はビニール袋に入れておくといいのかもしれません。当院はすべての医療資源をCOVID-19対策に注ぐため、待機的手術は全て中止し、人工呼吸器およびICUの人員を確保しています。また基本的には救急医、内科医、集中治療医が主担当となりますが、他科の医師も診療に加わっている病院もあるようです。人工呼吸器については、トランプ大統領が戦時中の法案を発動させ、ゼネラルモーターズ(GM)に製造を命じました。日本においても対岸の火事と思わず、人工呼吸器を製造して来たるパンデミックに備えるべきと考えます。また、現段階の日本においても医療従事者は診る患者さんは、基本的にCOVID-19と考えて対応すべきだと思います。感冒症状や発熱、呼吸困難があれば疑うのはもちろんですが、腹痛、下痢、頭痛などの症状で来院することもあります。COVID-19によるストレスで例えば心筋梗塞が誘発されることもあるでしょう。タコツボ型心筋症が発症することもあるようです。したがって、急性心筋梗塞だと思って急いで対応をする前に、ひと呼吸おいて、感染防御をしてから対応することも必要であり、医療従事者の暴露を考えると、さまざまな侵襲的処置もひとまず保存的処置にならざるを得ないケースもあると思います。当初、病院ではN95を推奨していませんでしたが、今はN95の上にサージカルマスクを被せ、N95を週1で交換するというルールになっています。ガウンは手術用ではなく、薄いガウンを使用しています。ゴーグルも使用していますが、挿管など暴露が多い場合は、顔全体を覆うフェイスシールドを使用しており、長時間の処置が必要な場合は、スペーススーツなども使います。病院としては、ICUベッドを2~3倍に増やして対応を強化しようとしています。救急医、内科医、集中治療医だけではこの人類の脅威に対応しきれず、他科の協力も必須です。当院のCOVID-19治療は3月30日現在、陽性でも症状が自宅レベルであればできるだけ自宅に帰し、Physician Assistantが電話で症状をフォローするという方針を取っています。入院レベルの患者で胸部X線で肺炎像もしくはSpO2≦94%の低下があれば、ヒドロキシクロロキン(抗マラリア薬)を400mg 1日2回、2回目の後QT(QTc)延長がないかを確認後、400mgを1日1回で4日続けています。アジスロマイシンも効果があるかもしれないと言われており、こちらもQT(QTc)に注意しながら投与しています。現在は500mgを1回投与、その後、250mgで4日投与しています。重症例にはアクテムラを使っており、当院でも今後おそらくRCTが行われると思われます。採血はCRP以外にFerritin、D-Dimer、LDHを取っており、2日後に再度採血しています(米国では基本的にCRPを取りません)。これらの治療内容は日々刻々と変わっており、この内容が正しいとは限りませんので、その点をご留意ください。工野先生へのご質問がありましたら、ぜひこちらへお寄せください。Twitter:@ToshikiKuno

2802.

第1回 医療関係者が医療関係者を「バイ菌」扱いしちゃダメだろ

病院が風評被害に遭うケース増えるこんにちは。医療ジャーナリストの萬田桃(まんだ・もも)です。今週から、医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件について、あれやこれや書いていきたいと思います。東京は桜の満開が過ぎました。春分の日からの連休には、お花見スポットは結構な人出となりました。「宴会中止!」のお達しがあったことで、多くの人が歩き飲みしながらお花見をしていました。私も目黒川沿いを少し歩いたのですが、タコス屋の前ではコロナを忘れてコロナビールを飲んでいる人もいました。パンデミックを一瞬忘れたかのような花見客の浮かれ具合に、「これは1〜2週間後、東京が危ないかも」と心配になりました。案の定、東京都は今、大変なことになっています。今週気になったのは、新型コロナウイルスによる病院の風評被害のニュースです。病院内で感染拡大が生じた兵庫県姫路市の仁恵病院が通院患者らへの風評被害が広がっているとして、3月16日に県医師会と市医師会にその具体例を報告しました。同院は3月8日に看護師の感染を発表。その後、看護師の親族、別の看護師、入院患者についてもPCR検査の陽性が判明、3月24日までに14人の新型コロナウイルスへの感染が確認されています。感染発表後、同病院に通院していた患者が、ほかの医療機関を受診しようとすると診察を拒否されたり、病院職員が他の医療機関を受診したりしようとすると、「役所を通してほしい」などと言われたとのことです。通院患者が薬局で処方を渋られた、といったケースも報告されています。県医師会などへの報告後も、こうした診療拒否は収まらず、姫路市は、不確かな情報に基づいて不当な対応をしないようホームページで呼びかける事態に至っています。同様の問題は医師や看護師の感染が確認された兵庫県小野市の北播磨総合医療センターでも起きているとの報道もありました。「悲鳴に近い悲しい報告」風評被害というと通常は「根拠のない噂によって害を受けること」を指します。「あの病院はウイルスを町中に撒き散らしている!」となると風評ですが、「あの病院からの患者は感染リスクがあるので怖い」となると、風評と呼ぶにはちょっと厳しいかもしれません。実際のところ、全患者にPCR検査をして「陰性ですから安心して診察してください」とするわけにはいかないので、このあたり、感染者が出た医療機関での紹介・逆紹介の判断は難しいところです。問題は一般人による誹謗中傷ではなく、医療機関が、あるいは薬局が診療拒否、調剤拒否をしようとした点でしょう。医療機関は薬局を含めて、社会的なインフラです。近隣の医療機関が危機に陥れば、それなりの体制を整えてカバーしようと動くのが、あるべき姿のはずです。「自分の病院、薬局が逆の立場だったら」という発想が湧かなかったのか、と不思議に感じます。そう言えば、少し前のニュースになりますが、日本災害医学会が、新型コロナウイルス感染症の対策に携わった医療者が不当な批判にさらされているとし、これに強く抗議する声明を発表しました。声明では、「悲鳴に近い悲しい報告」が同学会に寄せられているとして、活動を終えて戻った職場で「バイ菌」扱いされるなどのいじめ行為を受けたり、子供が保育園・幼稚園から登園自粛を求められたりしたケースを紹介しています。さらには職場の管理者から、今回の救助活動に参加したことに対して謝罪を求められた医療者もいた、ということです。本来クールで、科学的であるはずの医学会が、「悲鳴に近い悲しい報告」と感情的な文言を使っていたのが印象的でした。おそらく、新型コロナウイルスと医療者、医療機関の戦いはこれから本番を迎えるでしょう。パンデミックを目前にしての、現場の医療関係者たちの足並みの揃わなさ(他人への思いやりのなさ)に、いささか心がざわついている今日この頃です。

2804.

第1回 人工呼吸器不足を視野に、重症COVID-19への血栓溶解薬の試験を準備中

血栓形成を伴いうる急性呼吸窮迫症候群(ARDS)に陥ったが、人工呼吸器治療が受けられないまたは人工呼吸が用を成さない重篤な新型コロナウイルス感染(COVID-19)患者に、血栓溶解薬t-PA(アルテプラーゼ)が有効かどうかを調べる試験の準備を、米国の3病院が進めています1)。米国人のおよそ30%(9,600万人)が新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に感染し、そのうち5%(480万人)が入院し、それら入院患者の40%(190万人)は集中治療室(ICU)に入り、ICU患者の約半数96万人が人工呼吸を必要とすると米国病院協会(AHA)は最近予想しています2-4)。しかし2009年の調査によると、用途一通りをこなす人工呼吸器は米国の急性期病院にわずか6万2,000台ほどしかなく、人工呼吸が必要なCOVID-19患者に人工呼吸器が十分に行き渡らないかもしれません。それに人工呼吸を受けることができたところで、死を免れることがかなり困難なケースがあるようです。たとえば先月末にLancet誌に掲載された、中国武漢でのICU入室の重度COVID-19(重度SARS-CoV-2肺炎)患者52例のデータ解析によると、その多く(35例、67%)がARDSに陥り、人工呼吸器使用患者の約70%(37例)が死亡しています5)。そのような人工呼吸が用を成さないARDS合併COVID-19患者にt-PAが有効な可能性があり、ARDSによる死亡をプラスミノーゲン活性化薬・ウロキナーゼやストレプトキナーゼが防ぎうることが、2001年の臨床試験(第I相試験)で示唆されています6)。この試験では呼吸療法が奏効しなかった、重症ARDS患者20例中30%にウロキナーゼやストレプトキナーゼの有効性が認められました。今回、ハーバード大学の病院(Beth Israel Deaconess)、コロラド大学の病院(Anschultz Medical Campus)、コロラド州デンバーの市民病院(Denver Health)の3病院が始める試験で、別のプラスミノーゲン活性化薬・t-PAが使われるのは、同薬が出血リスクはウロキナーゼやストレプトキナーゼと変わらず、血栓溶解作用はより強力だからです。t-PAは治療の手立てがなくなったCOVID-19患者にまず投与され、効果があれば対象患者が速やかに拡大されます。試験では2つの投与経路(静注と気道)への直接注入が検討され、マサチューセッツ工科大学(MIT)発のベンチャー企業Applied BioMath社は同薬の投与法の調節に役立ちうる計算法を開発しています。脳卒中や心臓発作に使われているt-PAのメーカーRoche傘下Genentech社はすでに同薬を寄付しており、有望な結果がひとまず得られて試験が拡大すれば、それに応じる予定です。参考1)A stopgap measure to treat respiratory distress / MIT2)Worst-Case Estimates for U.S. Coronavirus Deaths / NewYorkTimes3)United States Resource Availability for COVID-19 / Society of Critical Care Medicine4)Moore HB,et al. J Trauma Acute Care Surg. 2010 Mar 20.[Epub ahead of print]5)Yang X, et al. Lancet. 2020 Feb 24.[Epub ahead of print]6)Hardaway RM, et al. Am Surg. 2001 Apr;67:377-82.

2805.

第1回 先週の注目ニュースをキャッチアップ!

<先週の動き>1.2022年以降の高齢者の社会保障の負担が議論に2.データヘルス改革で医療・介護情報の連携と利活用がさらに進む3.第2期健康・医療戦略が内閣府で取りまとめがなされる4.新型コロナウイルス感染症対策のため、全国の病床確保が進む1.2022年以降の高齢者の社会保障の負担が議論に2020年3月26日に社会保障審議会・医療保険部会が開催された。これは、2019年12月19日に内閣府の経済・財政一体改革推進委員会において定められた新経済・財政再生計画改革工程表に示されている内容に基づいたもの。今回は社会保障の給付の負担の見直しであるが、医療保険での負担割合を、マイナンバーによる金融資産の把握に基づいて行うという方向性を打ち出そうとしたが、金融資産のみではなく不動産の保有状況も慎重に議論すべきだとの意見が出され、結論は出なかった。2022年以降には団塊の世代が後期高齢者となり、現状の社会保障の負担方式では2025年以降の社会保障の持続は厳しく、患者負担引き上げの可能性があり、そのため医療機関や介護関連業界に影響が出る可能性が高い。団塊世代が後期高齢者入りするまでに、後期高齢者の窓口負担について検討される。全世代型社会保障検討会議の中間報告において示された方向性に基づき最終報告に向けて検討を進め、遅くとも2022年度初までに改革を実施できるよう、2020年夏までに成案を得て、速やかに必要な法制上の措置を講ずるという。今後も議論の方向性には注目したい。(参考)第19回社会保障審議会介護給付費分科会介護報酬改定検証・研究委員会(厚生労働省)新経済・財政再生計画 改革工程表2019ー概要ー(内閣府)2.データヘルス改革で医療・介護情報の連携と利活用がさらに進む厚生労働省が進めているデータヘルス改革に必須の医療・介護の情報利活用について、いよいよ具体的な議論が動き出した。3月26日に、「健康・医療・介護情報利活用検討会」の下部組織として「医療等情報利活用ワーキンググループ」の第一回が開催された。少子高齢化に伴う医療・介護分野で予想される労働者不足を乗り越えるために、健康・医療・介護分野のデータやICTの活用で、労働生産性を高め、サービスの質を維持することが目標であり、そのためにデータヘルス改革の一里塚とも言える。そのために、電子カルテの標準化や患者情報共有システムの基盤整備などが議論される。ワーキンググループでは、今後の工程表を今年の夏を目途に取りまとめる方向であり、すでに整備が進んでいる全国の医療・介護ネットワークを通して、患者情報や処方内容、検査値などの利活用がさらに進む方向になると考えられる。(参考)第1回 健康・医療・介護情報利活用検討会 医療等情報利活用ワーキンググループ(厚労省)3.第2期健康・医療戦略が内閣府で取りまとめがなされる3月27日に、内閣府において健康・医療戦略推進本部が開催され、世界最高水準の医療の研究開発の推進や、予防・健康づくりを中心とした、質の高い民間サービスの創出、わが国の優れた医療サービスを積極的に国際展開していくアジア・アフリカ健康構想の推進を柱とする、新たな健康・医療戦略を取りまとめ、討論がなされた。今回打ち出された医療分野研究開発推進計画では、政府が講ずべき医療分野の研究開発並びにその環境の整備及び成果の普及に関する施策の集中的かつ計画的な推進を図るものについて、医薬品、医療機器・ヘルスケア、再生・細胞医療・遺伝子治療、ゲノム・データ基盤、疾患基礎研究、シーズ開発・研究基盤の6つの統合プロジェクトが推進されることが決められた。また、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)などの新興感染症に関する研究開発として、今年の2月13日に第1弾として、診断法開発、治療法開発、ワクチン開発等の研究開発を実施が打ち出されているが、さらに3月10日に第2弾として追加既存薬をCOVID-19に活用するための臨床研究や迅速検査機器開発などを加速させることが決定されている。第2期計画の期間は、2020~24年度の5年間となっている。(参考)健康・医療戦略推進本部(第二十八回)(首相官邸)4.新型コロナウイルス感染症対策のため、全国の病床確保が進む新型コロナウィルス感染者の報告が都市部を中心として伸び続けているのに対応して、厚労省は全国の病院の稼働状況などをインターネット上に公開する方針を決定した。すでに、3月18日に厚生労働省新型コロナウイルス感染症対策推進本部より、各都道府県などに「新型コロナウイルス感染症患者等の入院病床の確保について」とする事務連絡がなされている。これによると、感染症指定医療機関に限らず一般の医療機関においても、感染症病床および一般病床を含め病床を確保してもなお、「地域での感染拡大により、入院を要する患者が増大し、重症者や重症化するおそれが高い者に対する入院医療の提供に支障をきたすと判断される場合」に行われる感染爆発に備える対応として、事前に病床確保に動いている。今後予想される、感染患者数が自治体の感染症指定医療機関のキャパシティを超えた場合に向けた対策としてさらに進めていっており、地域ごとに呼吸器やECMOなどの稼働状況を把握するのが目的であることが考えられる。(参考)新型コロナウイルス感染症患者等の入院病床の確保について(依頼)事務連絡 令和2年3月18日(厚生労働省新型コロナウイルス感染症対策推進本部)全国の病院の稼働状況など ネット上で公開へ 厚労省(NHK)

2806.

アルナイラムとVir社、siRNAによるCOVID-19治療薬を共同開発

 Vir Biotechnology社およびアルナイラム社は、2020年3月4日、両社の既存の提携関係を拡大し、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の原因ウイルスであるSARS-CoV-2を標的とする RNAi治療薬の開発と実用化も共同で行うと発表した。 この合意で、アルナイラム社のsiRNA(低分子干渉 RNA)新規コンジュゲートの最新の肺への薬剤送達技術、およびVir Biotechnology社の感染症の専門知識と能力を合わせ、SARS-CoV-2および他のコロナウイルスによる感染症の治療薬として、一つ以上のsiRNAの開発を前進させる。 今回の共同開発ではとくに、コロナウイルスが高度に保存されたRNA領域を標的とするものとして、アルナイラム社が最近特定したsiRNAの開発に注力する。 アルナイラム社はこれまで、現存するSARS-CoVおよびSARS-CoV-2のすべてのゲノムを標的とする350以上のsiRNAをデザイン・合成してきた。これらの中で有力なsiRNA候補薬についてVir社が抗ウイルス作用をin vitroおよびin vivoで評価し、開発候補薬を選定するという。

2807.

COVID-19、家族内感染まで3~8日/Lancet

 シンガポールでは、2020年2月、新型コロナウイルス感染症(coronavirus disease 2019、COVID-19)の3つの小規模感染者集団(cluster)―中国からの団体旅行、社内会議、教会―が特定された。同国保健省のRachael Pung氏らの研究チームは、これらの集団の疫学的および臨床的な調査の結果を、Lancet誌オンライン版2020年3月16日号で報告した。COVID-19の36例中17例でSARS-CoV-2陽性 研究チームは、COVID-19と確定診断された患者との面談および入院診療記録を用いて疫学および臨床データを収集した。同時に、実地調査を行い、原因ウイルスである重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)への接触機会や、可能性のある伝播経路を追跡した。 2020年2月15日現在、36例のCOVID-19患者が確認され、検疫で425人の濃厚接触者が見つかっている。患者は、3つの小規模感染者集団(A群[中国からの団体旅行者と小売店店員]11例、B群[社内会議出席者]20例、C群[教会訪問者]5例)と関連していた。36例のうち17例がSARS-CoV-2陽性で、2例(いずれもC群)が症状発現の14日前に中国へ旅行していた。A群の2例とB群の17例は、居住または旅行先の国の保健当局によって報告された。潜伏期間中央値4日、家族内2次感染までの間隔3~8日 感染伝播データの解析では、個々の小規模感染者集団内の初発患者は確実には特定できなかったが、A群では2件の小売店の店員と観光案内人が、2例のCOVID-19患者が見つかった中国広西チワン族自治区からの団体旅行者と接触していた(2020年1月22または23日)。C群では、5例の行動が重複したのは2020年1月19日のみで、この日に全員が同じ教会を訪れており、ここで曝露した可能性が最も高い。 B群では、報告された行動の詳細から、国際的な企業の会議中に感染した可能性が最も高いと推測された。この会議は、2020年1月20~22日に開催され、19ヵ国の支社から少なくとも111人が参加した。中国本土からの参加者17人が含まれ、このうち少なくとも1人は武漢市から来訪していた。結果として、直近の中国への渡航歴のない6人がSARS-CoV-2陽性となった。また、会議のプログラムには、事業発表会や研修会のほか、小分科会形式の討論、食事付きの歓迎会、チーム育成のためのゲーム、市内バス見学などが含まれた。 家族内感染者集団を除くと、19例から推定感染時期と発症日の情報が得られた。潜伏期間中央値は4日(IQR:3~6)であった。家族内の3次感染の可能性(初発患者ではない患者からの感染)を考慮しなければ、家族内の初発患者から2次感染患者までの発症間隔は3~8日だった。また、未知の1例の初発患者が個々の感染者集団で感染爆発の種をまいたと仮定すると、感染の31%が1人の患者(B群の53歳、男性、英国人)と関連し、32例では前方感染はないことがわかった。発熱と咳が高頻度、症状は早期消退するも検査陽性で入院長期化 SARS-CoV-2陽性の17例(年齢中央値40歳[IQR:36~51]、女性59%)では、発熱(15例、88%)と咳(14例、82%)が最も頻度の高い症状であった。咽頭痛は8例(47%)に認めた。母親から感染した生後6ヵ月の男児(A群)は、入院後に最初のスパイク状の発熱が発現するまで無症状だった。胸部X線画像上の肺陰影は入院時に8例(53%)にみられ、入院中にさらに4例で発現した。入院中にリンパ球減少(<1.1×109/L)が6例、血小板減少(<150×109/L)が4例に認められた。症状発現から入院までの期間中央値は4日(IQR:3~9)だった。 ほとんどの患者は合併症がなく、症状は数日で消退した。鼻咽頭スワブを用いたPCR検査でSARS-CoV-2陽性が持続したため、入院が長期化した(入院期間中央値6日、範囲:3~9)。鼻プロングによる酸素供給を要する患者が1例、挿管と集中治療を要する急性呼吸窮迫症を呈する患者が2例みられ、4例がロピナビル・リトナビルによる実験的治療を受けた。2020年3月7日現在、3つの小規模感染者集団に死亡例はない。軽症例を含む患者との濃厚接触者で、積極的症例探索を これらの知見を踏まえ、著者は、「SARS-CoV-2は市中感染の可能性があり、武漢市の封鎖や旅行制限の前に、中国からの旅行者が多かった国では、COVID-19の国内小規模感染者集団が存在すると推測される」と考察し、「各国は、一般的な肺炎やインフルエンザ様疾患の患者、および体調が優れない中国からの旅行者との接触者を監視することで、COVID-19の国内小規模感染者集団の検出と封じ込めの強化に重点的に取り組む必要がある。感染者集団を封じ込め、感染拡大を防ぐには、軽症例との接触を含め、患者との濃厚接触者において積極的症例探索(active case-finding)を行うことが重要である」と述べている。

2808.

COVID-19、182ヵ国の対応・管理能力は/Lancet

 COVID-19のアウトブレークを踏まえ、公衆衛生上のリスクとイベントに対する既存の健康安全保障能力を評価する目的で182ヵ国の国際保健規則(IHR)年次報告を解析した結果を、スイス・世界保健機関(WHO)のNirmal Kandel氏らが報告した。世界各国のアウトブレークに対する予防、検知および対応の能力は大きく異なっているが、半数の国は高い運用即応性を備えており、COVID-19を含む衛生緊急事態に対して、効果的に対応できることが示唆されたという。IHRで強調されているように、感染症のアウトブレークなど公衆衛生上のリスクを管理するためには、事象を予防、検知し、対応する公衆衛生対策が不可欠である。解析を踏まえて著者は、「COVID-19に関する国家の即応能力を十分理解するには、地域リスク評価からの知見が必要である。また、アウトブレークの制御に対するグローバルな即応を強化するには、単一ではなく複数国家での能力構築(capacity building)と協力(collaboration)が必要である」とまとめている。Lancet誌オンライン版2020年3月18日号掲載の報告。182ヵ国の2018年国際保健規則年次報告などを解析 研究グループは、182ヵ国のIHR年次報告と各国の年次報告関連データを用い、(1)予防(prevent)、(2)検知(detect)、(3)対応(respond)、(4)管理(enabling function:資源と調整能力)、(5)運用準備(operational readiness)の5項目の能力について、2018年のデータを解析し、各国を5段階(レベル1:最低~レベル5:最高)で評価した。 WHOが定める6地域レベルでのデータも同様に解析した。約半数が公衆衛生上の緊急事態に対する運用準備能力あり 予防能力あるいは対応能力がレベル1または2は、それぞれ52ヵ国(28%)および60ヵ国(33%)で、その多くは低~低中所得国であった。一方、予防能力あるいは対応能力がレベル4または5は、それぞれ81ヵ国(45%)および78ヵ国(43%)で、これらの国々は運用準備が整っていることが示唆された。 138ヵ国(76%)では、他の項目と比較して検知のスコアが高かった。44ヵ国(24%)は、感染症アウトブレークなどを含む公衆衛生上のリスクと事象に対する有効な管理能力がなく(レベル1が7ヵ国[4%]、レベル2が37ヵ国[20%])、102ヵ国(56%)は管理能力がレベル4または5であった。 32ヵ国(18%)は、運用即応性が低く(レベル1が2ヵ国[1%]、レベル2が30ヵ国[17%])、104ヵ国(57%)は新興感染症のアウトブレークに対する予防、検知および管理の運用準備ができていた(レベル4が66ヵ国[36%]、レベル5が38ヵ国[21%])。

2809.

新型コロナ治療薬の有力候補、「siRNA」への期待

2019年末に中国湖北省武漢で最初の症例が確認された新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は世界各地への感染が急速に拡大しており、世界保険機関(WHO)はパンデミック(世界的大流行)と認定した。国内でも医療機関や行政の関連機関により懸命な対策が進められている。コロナウイルスの種類コロナウイルスは、ヒトに日常的に感染するウイルスと動物から感染する重症肺炎ウイルスの2つのタイプに分類される。ヒトに日常的に感染するコロナウイルスはこれまで4種知られており、風邪の原因の10~15%を占めている。そして、ほとんどの子供はこれらのウイルスに6歳までに感染するとされている。一方で、重症肺炎ウイルスには、2002年末に中国広東省から広まった重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARS-CoV)および2012年にサウジアラビアで発見された中東呼吸器症候群コロナウイルス(MERS-CoV)、さらに2019年の新型コロナウイルス(SARS-CoV遺伝子と80%程度の類似性があることからSARS-CoV-2と命名された)が含まれる。COVID-19の臨床的特徴COVID-19は2020年3月22日現在、世界で30万人以上が感染し、さらに感染が拡大しているという驚異的な勢いで蔓延しており、致死率は2%程度とされている。感染者数はSARSやMERSに比べるとはるかに多いが、致死率はSARSで10%、MERSは34%であることからCOVID-19は最も低いといえる。SARSの感染源はキクガシラコウモリ、MERSはヒトコブラクダとされており、COVID-19の感染源はまだ不明であるが、SARSとよく似ていることからおそらくコウモリと考えられている。このように動物の種を超えて感染するコロナウイルスは重症化しやすい。COVID-19やSARSの感染経路は、患者と濃厚に接触することによる飛沫感染、ウイルスに汚染された環境にふれることによる接触感染が考えられているが、MERSは限定的であるとされている。新型コロナウイルスの実体コロナウイルスはプラス鎖一本鎖のRNAをゲノムとして持つウイルスで、感染すると上気道炎や肺炎などの呼吸器症状を引き起こす。コロナウイルスはそのRNAゲノムがエンベロープに包まれた構造を持ち、感染にはウイルス表面に存在する突起状のタンパク質(スパイクタンパク質)が必要である。スパイクタンパク質は感染細胞表面の受容体に結合することで、ウイルスが細胞内に取り込まれ感染するが、SARS-CoV-2の受容体はアンジオテンシン変換酵素2(ACE2)受容体であり、SARS-CoVの受容体と同じである。スパイクタンパク質は王冠(crown)に似ていることから、ギリシャ語にちなみコロナcoronaと名付けられた。COVID-19治療の現状通常1つの薬を開発するには10年以上の年月と300億円以上の費用が必要とされており、SARSやMERSなどのこれまでの重症肺炎コロナウイルス感染症に対する特異的な治療法はいまだになく、ワクチンや抗ウイルス薬も開発されていない。そのため、COVID-19に対しても現状では熱や咳などの症状を緩和するという対症療法が中心である。しかし、エイズウイルスであるHIV感染症やエボラ出血熱に対して有効性の認められた薬やインターフェロン療法がSARSやMERSに対しても有効であったことから、COVID-19での利用も検討されている。治療薬・ワクチンの開発動向現在、COVID-19に対する治療薬の開発は大手製薬会社を中心に世界的に精力的に進めれられている。ワクチンの開発も急速に進められているが、従来の組換えタンパク質や不活化ウイルスを抗原とするワクチンは製造用のウイルス株や組換え株を樹立するのに時間がかかるうえに、安定的に製造できる工程を確立するのにさらに時間がかかる。一方で、近年の次世代シークエンサー技術の進歩によりウイルスのゲノム情報が簡単に解読されるようになった。およそ3万塩基長のSARS-CoV-2の全ゲノム情報も、2020年1月中旬に中国の研究チームが公表した。そのため、ゲノム情報を利用した新たな治療法の開発も進められている。最も早く臨床試験が始まりそうなのが、米国アレルギー・感染症研究所とModerna社が開発しているメッセンジャーRNA(mRNA)をベースにしたワクチンである。遺伝子発現の流れにおいては、ゲノムDNAからmRNAが転写され、mRNAからタンパク質が翻訳される。タンパク質ではなく、ウイルス表面のスパイクタンパク質をつくるmRNAを細胞に接種するとスパイクタンパク質が産生され、それを抗原とする免疫が誘導される。mRNAは化学合成できるため、ゲノム情報が公開されてから治験薬を製造するまでにわずか40日程度であったとされている。さらに、国内ではDNAワクチンというスパイクタンパク質を発現するDNAを接種するという特徴ある開発研究も、大阪大学とバイオベンチャーのアンジェス、さらにタカラバイオが加わって行われている。しかし、このような抗体を利用する手法では、抗体依存性感染増強という、初感染よりも再感染のほうが重篤な影響を及ぼす危険性があることも指摘されており、大規模な臨床試験が必要とされる。そこで、抗体を利用せずにゲノム情報を利用した治療法として、近年、siRNA(small interfering RNA)によるRNA干渉(RNA interference, RNAi)法による核酸医薬品開発が進められている。siRNAとはsiRNAは21塩基程度の小さな二本鎖RNAであり、化学合成できる。siRNAはヒト細胞内でRISC(RNA-induced silencing complex)と呼ばれる複合体に取り込まれて一本鎖化し、その片方のRNA鎖と相補的な配列を持つRNAを切断する。コロナウイルスのようにRNAをゲノムとして持つウイルスに対しては、ゲノムから産生されたタンパク質を標的とするよりもゲノムRNAを標的にするほうがより直接的な効果が期待できる。実際、RNA干渉は植物・菌類・昆虫などではRNAウイルス感染から自身を守る生体防御機構として働く。siRNA核酸医薬品開発の最前線米国Alnylam Pharmaceuticals社が開発した世界で最初のsiRNA核酸医薬品はアミロイドニューロパチーの原因遺伝子を抑制するものであり、2018年に米国・欧州で承認され、2019年には日本でも承認された。Alnylam Pharmaceuticals社は、Vir Biotechnology社と共同で、すでにSARS-CoV-2に対する350種類以上のsiRNA候補を設計・合成しその有効性のスクリーニングを開始し、肺への送達システムも開発しているようである。また、筆者らのグループは、siRNAの配列選択法はきわめて重要であることを明らかにしており、内在の遺伝子発現にはほとんど影響を及ぼさず、感染したコロナウイルスのみを特異的に抑制するsiRNA配列を選択できる方法論を開発している。そのような方法を用いれば、たくさんのsiRNAをスクリーニングする最初のステップを回避でき、開発の時間をさらに短縮することができる。siRNA核酸医薬品への期待感染症は、過ぎてしまえば忘れられてしまう疾患である一方で、SARS-CoV-2のように、SARS-CoVの改変型ともいえるウイルスが再燃してパンデミックをひき起こす場合もある。そのため、どこまで開発に時間と費用を使えるか、すなわち、いかに効率よく感染症治療薬を開発できるかは全人類にとってきわめて重要な課題といえる。siRNA核酸医薬品は、ゲノム情報に基づいて比較的短時間で、かつ副作用を回避して特異性の高い医薬品を開発できる可能性があり、新しい時代の医薬品として大きな期待を寄せている。講師紹介

2810.

COVID-19のCT所見、919例の系統的レビュー

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のCT画像の特徴についてさまざまな論文が公表されているが、まとまった文献レビューはまだない。今回、南カリフォルニア大学ケック医科大学のSana Salehi氏らが、PubMed、Embase(Elsevier)、Google Scholar、世界保健機関のデータベースから系統的に文献を検索、レビューし、その結果を報告した。American Journal of Roentgenology誌オンライン版2020年3月14日号に掲載。 主なレビュー結果は以下のとおり。・COVID-19の初期のCT画像では、すりガラス陰影(GGO)が両側肺野、多葉性に末梢または後部に分布し、主に下葉に見られた。・初期のCT画像で、GGOに浸潤影が重なった非定型の所見が少数の患者(主に高齢者)に見られた。・まれに中隔肥厚、気管支拡張症、胸膜肥厚、胸膜下病変が見られた(主に後期)。・胸水、心膜液、リンパ節腫脹、cavitation、CT Halo sign、気胸が疾患の進行とともにまれに見られることがある。・中期のCT画像では、GGOの数・大きさの増加、GGOの多巣性浸潤影への進行、中隔肥厚、crazy-paving pattern(すりガラス陰影内部に網状影を伴う所見)が見られ、症状発現後10日前後でCT所見が最も重症となった。・COVID-19患者がICUに移る最も多い原因は急性呼吸窮迫症候群であり、この患者集団の主な死因である。・臨床的改善に相当する画像所見は通常、発症後14日目以降に見られ、浸潤影が徐々に解消され、病変や関わる葉の数が減少する。

2811.

COVID-19標準治療薬を決めるべく国際共同治験を実施/国立国際医療研究センター

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の国内発生の初期から本感染症患者の診療にあたってきた国立国際医療研究センター(NCGM)は、3月23日にメディア勉強会を開催し、アメリカ国立衛生研究所(NIH)と共同で抗ウイルス薬remdesivir(ギリアド・サイエンシズ)の医師主導治験を行うと発表した。勉強会ではNCGMの国際感染症センター長の大曲 貴夫氏が、治験の概要と今後の展開について説明した。どれがCOVID-19の標準治療薬として有望か 大曲氏は冒頭で高齢男性のCOVID-19症例を呈示し、「発症から重症化への進行が速いのが特徴」と述べ、人工呼吸器をつけて容体が好転し装置を外すまで1ヵ月を要したという。また、COVID-19では、致死率が高齢になるほど上がるとの中国の報告を示した。 現在、わが国で検討中の候補薬は、抗HIV薬ロピナビル・リトナビル(商品名:カレトラ)、インフルエンザ治療薬ファビピラビル(同:アビガン)、吸入ステロイド薬シクレソニド(同:オルベスコ)、セリンプロテアーゼ阻害薬ナファモスタット(同:フサンほか)/カモスタット(同:フオイパンほか)、抗ウイルス薬remdesivir(日本未承認)の5剤であり、ウイルスの増殖を抑える機能を持つ治療薬が期待されている。今後、「薬剤の不用意な使用を控えるために、まず標準治療薬を決めることが重要」と同氏は治験の意義を説明した。 今回、治験で使用されるremdesivirは、ウイルスRNA産生の減少を引き起こし、RSウイルス、コロナウイルスなどの1本鎖RNAウイルスに対し抗ウイルス活性を示すことが見いだされている。実際、2019年のエボラ出血熱流行時に使用され、安全性プロファイルも確立されている。また、SARS-CoV-2を含む複数のコロナウイルスでの抗ウイルス活性も示されているという。アダプティブCOVID-19治療試験の概要 remdesivirの治験は、本剤の安全性および有効性を検証する他施設共同無作為化二重盲検プラセボ対照比較臨床試験で実施され、「アダプティブCOVID-19治療試験」(ACTT)と呼称されている。また、試験の特徴としては、アダプティブであるので、別の治療法が有効であると判明した場合、その治療法が新たな試験的治療法と比較するための対照群となる点である。 ACTTは、日本だけでなくアメリカ、韓国、シンガポールなど約75の医療機関で実施される国際多施設共同試験であり、当初の被験者数は440例とされている(ただし新治療群の追加により再計算もあり得る)。主要評価項目は15日における被験者の臨床状態で判断され、その評価項目は死亡、入院(5態様)、入院なし(2態様)など8項目で評価される。 試験の選択基準では、COVID-19感染を示唆する症状で入院している患者で試験手順などを順守・同意する患者などが対象となる(ALT/AST高値、eGFR50未満または透析者、妊娠または授乳中などの患者は除外される)。 治験介入は2群で実施、被験者は無作為化され実薬またはプラセボの投与を受ける。実薬は1日目に200mg負荷用量を静脈内投与され、入院期間中に100mg維持用量が1日1回静注投与される。治験の結果は、ギリアド・サイエンシズ社から公表される予定。 今回の治験以外にもNCGMでは、COVID-19の包括的治療・研究開発戦略として症状により段階的にシクレソニド、remdesivir、ファビピラビル、ナファモスタット、 救命治療(免疫調整薬など)などによる治療の研究を行う。 大曲氏は、最後に本症の患者登録による観察研究に触れ「1人1人の患者登録が大事になる。患者からの細かい情報が今後の研究を進展させるので、登録をお願いしたい」と期待をこめた。

2812.

新型コロナウイルスの侵入過程を阻止する薬剤を同定/東大医科研

 東京大学医科学研究所分子発癌分野の井上 純一郎教授らのグループは、3月18日に「新型コロナウイルス感染初期のウイルス侵入過程を阻止、効率的感染阻害の可能性がある薬剤を同定」したとする会見を開き、同時にプレスリリースを同研究所のホームぺージに公開した。 現在世界各国で新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の治療薬、ワクチンの開発が行われている中で同グループは、COVID-19の原因ウイルスであるSARS-CoV-2が細胞に侵入する最初の過程であるウイルス外膜と細胞膜との融合を、セリンプロテアーゼ阻害剤ナファモスタット(商品名:フサンほか)が、従来発表されている融合阻害剤カモスタット(同:フオイパンほか)に比べて10 分の1以下の低濃度で膜融合を阻害することを見出した。 現在の研究でSARS-CoV-2が人体に感染するには、細胞の表面に存在する受容体タンパク質(ACE2受容体)に結合したのち、ウイルス外膜と細胞膜の融合を起こすことが重要であり、この融合を阻害すると感染を阻害することができる。 同グループでは、MERSコロナウイルスでの研究結果1)をもとに、ナファモスタットやカモスタットの作用を調べたところ、「ナファモスタットは1-10nMという低濃度で顕著にウイルス侵入過程を阻止した。このことから、ナファモスタットはSARS-CoV-2感染を極めて効果的に阻害する可能性を持つと考えられる」と示唆している。 また、ナファモスタット、カモスタットはともに急性膵炎などの治療薬として、「すでに国内で長年処方されてきた薬剤であり、安全性については十分な臨床データが蓄積され、速やかに臨床治験を行うことが可能」としている。 両剤の特徴として「ナファモスタットは点滴静注のため、投与後の血中濃度は今回の実験で得られたSARS-CoV-2 Sタンパク質の膜融合を阻害する濃度を超えることが推測され、臨床的にウイルスのヒト細胞内への侵入を抑えることが期待される。一方、カモスタットは経口剤であり、内服後の血中濃度はナファモスタットに劣ると思われるが、他の新型コロナウイルス薬剤と併用することで効果が期待できるかもしれない」と説明している。 なお、本研究は国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)による感染症研究国際展開戦略プログラム(J-GRID)の支援を受けている。■参考新型コロナウイルス感染初期のウイルス侵入過程を阻止、効率的感染阻害の可能性がある薬剤を同定

2813.

COVID-19への抗HIV薬ロピナビル・リトナビル、RCTで有意差認めず/NEJM

 重症COVID-19入院成人患者において、抗HIV薬のロピナビル・リトナビルは標準治療よりも有効とはいえないとの見解を、中国・National Clinical Research Center for Respiratory DiseasesのBin Cao氏らが、199例を対象に行った非盲検無作為化比較試験の結果、示した。SARS-CoV-2による重症疾患の効果的な治療としての薬物療法はまだ判明していない。結果を踏まえて著者は、「重症患者においてさらなる試験を行い、効果的と思われる治療の確認・除外を行う必要がある」と述べている。NEJM誌オンライン版2020年3月18日号掲載の報告。標準治療に加えてロピナビル・リトナビルを1日2回14日間投与 研究グループは、検査でSARS-CoV-2感染が確認され、COVID-19による肺炎が胸部画像検査で認められ、循環空気呼吸時に動脈血酸素飽和度(SaO2)94%以下、または酸素分圧(PaO2)/吸入酸素濃度(FiO2)が300mmHg未満の18歳以上の患者を対象に試験を行った。 被験者を無作為に2群に分け、一方には標準治療に加えロピナビル・リトナビル(それぞれ400mgと100mg)を1日2回14日間投与し、もう一方の群には標準治療のみを行った。 主要エンドポイントは、臨床的改善までの期間で、7分位尺度で2ポイント以上の改善または退院のいずれか早いほうとした。臨床的改善までの期間、28日死亡率も、標準治療のみ群と比べて有意差なし 適格被験者199例が無作為化を受けた(ロピナビル・リトナビル群99例、標準治療群100例)。 臨床的改善までの期間について、ロピナビル・リトナビル群と標準治療群に有意差はなかった(臨床的改善に関するハザード比[HR]:1.24、95%信頼区間[CI]:0.90~1.72)。 28日死亡率も、ロピナビル・リトナビル群19.2%、標準治療群25.0%で有意差はなかった(群間差:-5.8ポイント、95%CI:-17.3~5.7)。また、さまざま時点でウイルスRNAが検出可能だった患者の割合も両群で同程度だった。 修正ITT解析では、ロピナビル・リトナビル群は標準治療群に比べ、臨床的改善までの期間中央値が1日短いことが観察された(HR:1.39、95%CI:1.00~1.91)。 ロピナビル・リトナビル群では消化管関連の有害事象発現頻度が高かったが、重篤な有害事象の発現頻度は標準治療群で高かった。ロピナビル・リトナビル群の13例(13.8%)が、有害事象のために早期に服用中止となった。

2814.

重症COVID-19肺炎にアクテムラの第III相試験開始/ロシュ

 ロシュ社(スイス)は3月19日、米国食品医薬品局(FDA)と連携し、米国生物医学先端研究開発局(BARDA、米国保健福祉省の事前準備・対応担当次官補局の一部門)と共同で無作為化二重盲検プラセボ対照第III相臨床試験を開始すると発表した。同試験では、重症 COVID-19肺炎による成人入院患者におけるアクテムラ(一般名:トシリズマブ)と標準的な医療措置の併用の安全性および有効性をプラセボと標準的な医療措置の併用と比較する。 同試験は、上記の条件でアクテムラを投与する初の国際臨床試験で、米国を含む世界の患者約330例を対象として4月上旬から登録開始予定で、主要評価項目および副次評価項目は、臨床状態、死亡率、人工呼吸器および集中治療室(ICU)に関わる変数としている。 現在までに、COVID-19肺炎患者治療のためのアクテムラの有効性および安全性を検討する複数の独立した臨床試験が実施されているが、COVID-19の治療におけるアクテムラの安全性・有効性に関して十分に管理された研究はなく、公表されたエビデンスも限られている。 なお現在、アクテムラは、FDAを含む保健当局から、COVID-19治療薬としては承認されていない。

2815.

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療の手引き・第1版/厚生労働省

 厚生労働省より、『新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療の手引き・第1版』の周知について、事務連絡が発出されている。本手引きは2020年3月6日時点の情報を基に作成され、17日に第1版が発行された。 概要は以下のとおり。はじめに1. 病原体・臨床像 1)感染経路・潜伏期・感染可能期間・季節性 2)臨床像 3)血液検査所見 4)画像所見2. 症例定義・診断・届出 1)症例定義 2)病原体診断 3)届出3. 治療 1)人工呼吸実施時の注意点 (1)気管挿管手技 (2)人工呼吸管理 (3)ECMO (4)中国・武漢からの報告および今後の集中治療の方向性4. 抗ウイルス薬5. 院内感染防止 1)個人防護具 2)換気 3)環境整備 4)廃棄物 5)患者寝具類の洗濯 6)食器の取り扱い 7)死後のケア 8)職員の健康管理6. 退院・生活指導 1)退院等基準 2)生活指導

2816.

COVID-19とインフルの重感染例/CDC

 呼吸器疾患に影響するウイルスが共検出される可能性は周知の事実である。今回、中国・中日友好医院のXiaojing Wu氏らは、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)とA型インフルエンザウイルスに重感染した症例について報告。上気道の検体検査が偽陰性になる、または、ほかの呼吸器ウイルスとの重感染によって新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が過少診断される可能性を示唆した。研究者らは「明らかな病因が特定された場合、とくに臨床マネジメントの決定に影響を及ぼす場合は、より広範なウイルス検査が必要になるかもしれない」としている。CDCのEMERGING INFECTIOUS DISEASES誌オンライン版2020年3月11日号のリサーチレターに報告された。 今回報告された症例は2019年12月18日~2020年1月22日まで武漢に滞在していた69歳男性で、この症例の臨床経過は以下のとおり。<帰宅後1月23日>発熱と空咳が出現、同日に中日友好医院の診療所を受診。血液検査:白血球数5.70×109/L(参照範囲3.5~9.5×109/L)およびリンパ球数2.18×109/L(参照範囲1.1~3.2×109/L)。胸部CT:肺の右下葉にすりガラス状結節を認めた。鼻咽頭スワブによる採取検体をrRT-PCR検査した結果、SARS-CoV-2陰性、A型インフルエンザウイルス陽性だったため、オセルタミビルによる治療を行った。その後退院し、自宅待機した。<退院後1月30日>発熱が持続し呼吸困難の悪化を訴え、病院を再受診。急性呼吸窮迫症候群(ARDS)を呈していたことから、A型インフルエンザウイルスによる重度の肺炎として治療が行われた。血液検査:白血球数8.23×109/L、リンパ球数0.77×109/L。胸部レントゲン:両側肺に滲出期のびまん性陰影を認めた。<再入院から4日後>酸素化と胸部症状は改善。潜在的な病原体を特定するため、気管支鏡検査を実施しメタゲノム解析(mNGS)用の 気管支肺胞洗浄液(BALF)を得た。<2月5日>同時に採取された鼻咽頭スワブは陰性だったが、mNGSはSARS-CoV-2ゲノムの98.69%をカバーし、99.8%の同一性を示したため、翌日、患者はクリティカルケアを行うために指定病院に移送された。この症例から研究者らはCOVID-19診断における2つの課題を強調した。1)上気道検体からのSARS-CoV-2検出感度は不十分な可能性がある。今回、鼻咽頭スワブ検体によるrRT-PCR法では、患者が集中治療室入室前はSARS-CoV-2が陰性だったが、mNGSを併用したことで特定された。したがって、臨床的に疑いが強い場合には、BALFのような適切な検体が必要かもしれない。2)COVID-19の一般的な臨床症状(発熱、咳、呼吸困難など)がインフルエンザの症状に類似するため、他の呼吸器疾患とCOVID-19の区別は困難である。COVID-19患者の血液検査では白血球とリンパ球の減少、胸部CTではすりガラス状の混濁と両側肺病変が見られる。しかし残念ながら、A型インフルエンザウイルスおよび他ウイルスによる呼吸器感染症もこれらの特性を有している。この場合のSARS-CoV-2とA型インフルエンザウイルスの同時検出は、とくにSARS-CoV-2が陰性であるが別のウイルスが陽性である患者の場合、検出に対する追加の課題が残っていると考えられる。

2817.

新型コロナ、エアロゾルで3時間生存可能/NEJM

 アメリカ国立アレルギー・感染症研究所(NIAID)のNeeltje van Doremalen氏らは、エアロゾル(粒子径5μm未満)での新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)とコロナウイルス(SARS-CoV-1)の表面安定性について比較した結果、SARS-CoV-2はエアロゾル内で3時間、物質の表面上では2~3日生存できることを示唆した。NEJM誌オンライン版2020年3月17日号のCORRESPONDENCEに報告した。 研究者らはSARS-CoV-2とSARS-CoV-1のエアロゾル中の安定性を評価するためにSARS-CoV-2(MN985325.1)およびSARS-CoV-1Tor2(AY274119.3)株を用い、各ウイルスのエアロゾルや物質表面上(プラスチック、ステンレス鋼、銅、段ボール)での減衰率を調査した。 主な結果は以下のとおり。・SARS-CoV-2はエアロゾルの状態で3時間生存可能だった。感染力価として空気1Lあたりの50%組織培養感染値量(TCID50)は103.5から102.7に低下、SARS-CoV-1の観察結果(TCID50:104.3から103.5へ低下)と類似していた。・物質表面での生存について、SARS-CoV-2とSARS-CoV-1で類似し、それぞれ銅や段ボールよりもプラスチックやステンレス鋼の表面で安定した。また、これらへの表面の付着72時間後までを観察した結果、ウイルス力価は大幅に低下した(プラスチックのTCID50/mLは、SARS-CoV-2で103.7から100.6、SARS-CoV-1で103.4から100.7へ低下。48時間後のステンレス鋼のTCID50/mLは、SARS-CoV-2で103.7から100.6、SARS-CoV-1で103.6から100.6へ低下)。・銅では、4時間後にSARS-CoV-2が、8時間後にSARS-CoV-1が測定されなくなった。 ・段ボールでは、8時間後にSARSCoV-1が、24時間後にSARS-CoV-2が測定されなくなった。・両ウイルスは、すべての実験条件でウイルス力価が指数関数的に減少した。・エアロゾル状態でのSARS-CoV-2とSARS-CoV-1の半減期は類似しており、推定中央値は約1.1〜1.2時間だった(95%信頼区間[CI]:0.64〜2.64、0.78~2.43)。・両ウイルスの半減期は銅でも同じ傾向を示し、段ボールではSARSCoV-1よりSARS-CoV-2のほうが長かった。・両ウイルスの最長生存率をステンレスとプラスチックで調べたところ、SARS-CoV-2の半減期の推定中央値は、それぞれ5.6時間と6.8時間だった。・両ウイルスの半減期の推定差について、段ボール以外は小さかった。

2818.

第38回 高電位(差)の基準、いくつ知ってる?(後編)【Dr.ヒロのドキドキ心電図マスター】

第38回:高電位(差)の基準、いくつ知ってる?(後編)「高電位(差)…」のタイトルにも関わらず、前回はQRS波の「高さ」よりも「向き」(電気軸)に注目した内容になってしまいました(笑)。前回と同じ症例を用いて、いよいよ“高すぎる”QRS波の考え方について解説します。謎の言葉“ライオン“や“エステ”などが登場しますが、読み進めると真相が明らかになるでしょう。では、さっそくDr.ヒロのレクチャーにご注目あれ!症例提示35歳、男性。腎移植後の急性拒絶反応のため、血液透析を再導入。その後、10年以上維持透析中。特別な自覚症状はなし。血圧150/90mmHg、脈拍82/分。Hb:11.9g/dL、BUN:67mg/dL、Cre:14.2mg/dL、K:4.8mEq/L。定期検査として施行された心電図を示す(図1)。(図1)定期検査の心電図[再掲]画像を拡大する【問題1】代表的な左室高電位の診断基準を念頭に置き、心電図(図1)がそれらに該当するか考察せよ。解答はこちら該当しない解説はこちら今回も前回と同じ、若年ながら維持透析がなされている男性の心電図を扱います。タイトル通り、今回のメインテーマは「QRS波高」について考えること。Dr.ヒロの系統的判読の語呂合わせでは、“クルッと”の“ル”で、R波“スパイク・チェック”の部分に該当します。「向き」「高さ」そして「幅」の3つを確認しましょう。「高さ」では、“高すぎる”と“低すぎる”の条件に該当しないかを確認するのが主なプロセスです。今回の例では“低すぎる”のほうは一見して考えにくく(細かな数値ではなく“常識”としてわかるセンスが欲しい)、主に“高すぎる”かどうかについて焦点を当てて見ていくことにします。“答えなき質問で負けん気に火がつく”心電図でQRS波高が“高すぎる”、すなわち「(左室)高電位」(increased QRS voltage)と診断するための基準ですが、果たして皆さんはいくつ言えるでしょうか? 2個?3個?それとも5個ですか? 基準に登場する細かな数値を必死で覚えようとするあまり、心電図が嫌いになるようでは本末転倒なので、最終的にはボク流のオススメな考え方に着地して安心してもらうつもりです。前フリとして、少ーしだけ昔話を。10年ほど前のことですが、今でも昨日のことのように思い出されるエピソードがあります。当時、ボクはピチピチ!?の大学院生でした。循環器レジデントも終え、臨床にもある程度手応えを感じ、心電図に関しても以前のような“劣等生”ではなくなっていた頃です。病棟だったか研究室だったかは忘れましたが、心電図や不整脈に詳しいX先生から試問を受けました。【X先生】「高電位の診断基準は? 10個は言えるわな。」【Dr.ヒロ】「えっ?10個ですか! V1のS波とV5のR波を足して35mmとか、V5かV6でしたっけ、20…いくつでしたかね…」【X先生】「V5が26mm、V6は20mmな*1。そいでほかは?」【Dr.ヒロ】「え? まだあるんですか…」【X先生】「あるよ。何言ってんのよ。肢誘導とかもあるだろ。先生は心電図のごくごく表面しか知らないな。あのなぁ、本当のプロになりたかったらな、こんなん10個は空で言えないと失格なんだよ!」そう言って、正解は教えないままその先生はボクの元を去りました。*1:今回紹介する基準とは若干違います。欧米の文献と日本人の違いなどもあるのでしょうか。前置きが長くなりましたが、こんな経緯があったためか、「高電位(差)」という言葉を聞くと、今でも無性にチャレンジスピリットが湧いてくるんです! ですから、今回のレクチャーはいつも以上に熱いです(笑)。早速はじめましょう。次のリスト(図2)を見てください。(図2)こんなに覚えられない!…「左室肥大」の診断基準画像を拡大するボクが事あるごとに参照しているガイドライン的文献1)からの引用です。タイトルは「左室肥大の診断基準」ですが、その大半が「左室高電位」の条件で占められていることがわかるでしょう。はじめに言っておきますが、これを必死で覚える必要はありません(誰も本気でしようと思わないでしょうが)。当然、項目一つ一つを解説することも、皆さんに覚えてもらうこともボクの本意ではありません。なので、この中の“定番商品”に値する有名な3つの診断基準パッケージから紹介していきます。“最も有名な『そこのライオン』基準”まずは“そこのライオン”から。「また!何言ってんの、この人?」って思った方、英字を見てください。ね、“そこの(Sokolow)ライオン(Lyon)でしょ(笑)。■Sokolow-Lyon基準2)■ “そこのライオン”(1)SV1+RV5(or V6) ≧ 35mm(2)RaVL ≧ 11mmこの基準は有名です。(1)は先ほどの会話にも登場していましたが、ボクが最初に覚えたもので、この和を「Sokolow-Lyon(S-L) index」と呼びます。『V1のS波(深さ)とV5のR波(高さ)を足して35mmね。心電図ってそうやって読むのか。なんか高尚だなぁ』、そんな風に感じた記憶があります。実際はV5でもV6でもいい(大きいほうを採用)のですが、V5が用いられることが多いかもしれません。このような“◯+△”型のクライテリアは、もとは「RI+SIII」2)に始まり、一般的に「左室パターン」(第17回)のQRS波形を呈する“イチエル・ゴロク”(I、aVL、V5、V6)のどれかと“その反対側”から構成されると考えると理解しやすいです。肢誘導界の円座標を頭に思い描けば、IIIは“Iの反対側”ですし、胸部誘導ではV5・V6の反対側と言ったらV1ですよね。この“反対側”では、左室のど真ん前に位置する”イチエル・ゴロク”(側壁誘導)でR波として表現される左室成分がS波として反映されているのだと考えれば良いのです。心電図(図1)で見てみましょう。「SV1」、「RV5」、そしてS-L indexが「R+S:3.88mV」と表示されています。これがそうです。「3.88mV」を長さに直せば「38.8mm」となるので、このSokolow-Lyon基準では「左室高電位」に該当します。“そこのライオンで気をつけること“Sokolow-Lyon基準の原典3)はなんと、70年前の論文です。それが今もなお生き続けていることは称賛すべきですが、S-L indexに関しては、いくつか問題点が指摘されています。何と言っても、対象の「年齢」や「性別」が考慮されていないという点です。25歳の男性も80歳の女性も同じ35mm(3.5mV)で判定するのです。冷静に考えると、これってオカシイですよね。健診の心電図や心エコーでの計測値だって、年齢・性別に応じた基準値が設けられています。今回の症例は若年ながら病気を有していますが、同年代の大半の男性はそうではなく、健康だと思います。「RV5(or RV6)」は左室の“パワー”(起電力)を反映するものですから、本人も心臓も元気みなぎる若年男性では、ピンッと立ったスパイクとなり、高率に基準(1)を満たしてしまうことが知られています。左室高電位は左室肥大の条件の一つです。その病的意義を考えると、若くて健康な男性に「左室肥大(疑い)」を頻発させてしまうこの基準は、あまり現実にそぐわないのかもしれません。同様なことが男女問わずアスリート(競技者)にも言われています*2。*2:普段、日本で診療しているとあまり意識されないかもしれませんが、「人種」も考慮すべき一因です。それを解決する一つの方法として、若い男性についてはカットオフを35mmではなく「50mm」にしたほうがいいという声があります4)。国内の心電計メーカーでも同様な点を踏まえて、年齢・性別に応じた高電位差の基準として、20~30歳前後の男性では50mm前後を自動診断の閾値として採用しているところがあるようです。ですから、今回の心電図(図1)では、左室高電位の基準に満たないというのがボクの見解になります。では、一方の(2)「RaVL≧11mV」ではどうでしょうか? 前回のレクチャーで述べましたが、今回のように「左脚前枝ブロック」(LAFB)の心電図では、「肢誘導が“縦に伸びる”」ことに注意する必要があるのでした。つまり、肢誘導のQRS波高が本来よりも“かさ増し”されている場合があるのです。そのため、IやaVLを含む高電位基準はそのままでは使えない可能性が高いです。そこで、LAFBでは、胸部誘導を用いるほう方がいいという意見5)はもっともかもしれません(あまり浸透していませんが)。もう一つは、“そこのライオン”基準をmodifyするやり方で、“2割増し”の「13mm」をカットオフにする考え方1)。ボク自身はこれがお気に入りです。今回の心電図では、RaVLは「11mm基準」にも該当しませんが、この点は知っておくと“物知り”だと思われること確実です。若かりし頃のボクは、基準(2)を覚えたのが嬉しくて、LAFBなのに「11mm」基準のまま“フェイク”の「左室高電位」を乱発していた日々が恥ずかしく思い出されます*3。読者の皆さんもご注意あれ。*3:投稿した論文でreviewerに指摘された記憶も…(笑)“こなれた男女は意外とふくよか?”2つ目のユニークな基準は、“こなれた男女、サイズは3L”です。正式にはCornell基準ですが、ここでもボク流を受容する大きな心を持ってくださいね(笑)。ニューヨークからの報告ですから、なんかオシャレ、いや~こなれてマス。■Cornell基準6)■ “こなれた男女、サイズは3L”(i)SV3+RaVL > 28mm(男性)(ii)SV3+RaVL > 20mm(女性)“男女”は性別ごとに基準が違いますよ、ということ。今回取り上げる中で唯一「性差」が考慮されている点は評価できるのですが、実際には驚くぐらい浸透していません(ボクもよく忘れます)。この基準を涼しい顔で言える人はタダモノではないはず! なお、女性に関しては「+2mm」して「22mm」のほうがいいという議論もあり、なおややこしいことになっています7)。(図1)の男性では、「SV3=17mm」、「RaVL=9mm」なので、一応セーフでしょうか。ちなみに、“サイズは3L”は「SV3+RaVL」を思い出しやすくするためにつけています。ただ、V3誘導がaVL誘導の“反対側”とはイメージしにくいため、個人的にはこうもしないと覚えられません…。“浪費エステはポイント制“紹介する3つ目はRomhiltとEstesの二氏らによる診断基準です。ボク流に言うと“浪費エステはポイント制”です。だんだん無理くり感が…。■Romhilt-Estesスコア8)■ “浪費エステ”(A)肢誘導:R波(or S波)≧ 20mm(B)SV1(or V2) ≧ 30mm(C)RV5(or V6) ≧ 30mmこの“浪費エステ”は「左室肥大」を診断するために開発されたスコアリングシステム(それが“ポイント制”とした意味です)で、そこからQRS波高に関連する部分を抜き出しています(残りの条件に関しては、次回述べる予定)。(A)~(C)いずれか一つを満たすときに「3点」とします*3。これまでと少し数値が異なる点がややこしいでしょうか。でも、これが一つの“完成品”なので文句は言えません。*3:最高13点。4点以上で「probable/likely」、5点以上で「definite/present/certainly」とされる。今回の心電図は(A)~(C)のいずれも該当しません。“最近の心電計と現実的な対応”さて、ここまでの話、いかがですか? 『とっても覚えられないよ(泣)』なんて方も少なくないと予想します。それでも、“そこのライオン”と“こなれた男女”そして“浪費エステ”の3つの診断基準で7個…。前述のX先生の要望には及びません。ただ、これだけでも多くの人にとって、長期間正しく暗記できるレベルを越えていると思います。やはり“記憶”に関してはコンピュータに任せましょう(Dr.ヒロでいう“カンニング法”)。最近の心電計の波形認識・診断システムには、たくさんの左室高電位基準が網羅されており、心電計が「高電位」と言ったら素直にそうなのかと認める姿勢も悪くないとボクは思います。心電図(図1)でも、「高電位(左室に対応する誘導)V1、V5」と表記されていますね。これは普段から最後に自動診断にも必ず目を通すクセをつけておくことで決して忘れません。ただ、先ほど述べた年齢・性別の影響や、S-L indexだけ満たして、ほかはすべて該当しない時に、それを「高電位」と診断するかどうかの最終判断が、われわれ“人間”の仕事です。もう一つ。ボクの教科書は、原則、数値の暗記にこだわらないスタンスなので、次のやり方を紹介しておきましょう9)。この手法、“(ブイ)シゴロ密集法”とでも名付けましょうか。“シゴロ”はV4、V5、V6のことで、このR波が3つとも空をつんざくほどの勢いで直上の誘導領域まで届いているときに「左室高電位」と診断する方法です。別症例の心電図(図3)を見てください。(図3)左室高電位はブイシゴロに注目!画像を拡大する赤太枠で囲った部分にご注目あれ! この心電図は閉塞性肥大型心筋症で通院中の80歳、女性のものです。たしかに“(ブイ)シゴロ密集法”陽性で、典型的なST-T変化も伴いますので、バリッバリの「左室肥大」が疑われます。この場合、今回述べた「左室高電位」基準をほぼすべて満たしますが、これを得意のエイヤッでV4~V6誘導だけの“見た目”で診断しちゃえというのがDr.ヒロ流。こうすることで細かな数値と決別することができるんです。この感覚で、もう一度心電図(図1)を見直してみましょう。するとV6誘導がおとなしめなので、その意味でも「該当しない」と言っていいのではないでしょうか。“おわりに”以上、話し出すとキリがないのですが、2回に分けて “高すぎる”QRS波形の考え方についてお送りしました。最後の最後で一言。私たちは普段「高電位」のことを“ハイ・ボル(テージ)”(high voltage)などと呼んでしまいがちですが、ボクの調べた限りでは“和製英語”のようです(間違ってたらゴメンナサイ)。「increased QRS voltage」というのが正しいそう。知らなかった方は気を付けてくださいね。次回は、“Romhilt-Estes”(浪費エステ)のスコアを用いて「左室肥大」について考えてみましょう。では! …とまぁ、とかく“欲張り”なDr.ヒロなのでした。Take-home MessageQRS波高が“高すぎる”の診断基準はたくさんあり、可能な範囲で代表的なものをおさえておこう。数値を覚えるのが苦手なら、“(ブイ)シゴロ密集法”がオススメかも!?1):Hancock EW, et al. Circulation. 2009 Feb 19.[Epub ahead of print]2):Gubner R, et al. Arch Intern Med.1943;72:196-209.3):Sokolow M, et al. Am Heart J. 1949;37:161-186.4):Macfarlane PW, et al. Adv Exp Med Biol.2018;1065:93-106.5):Bozzi G, et al. Adv Cardiol.1976;16:495–500.6):Casale PN, et al. Circulation. 1987;75:565-572.7):Dahlöf B, et al. Hypertension.1998;32:989-997.8):Romhilt DW, et al. Estes EH Jr. Am Heart J.1968;75:752-758.9):杉山裕章. 心電図のみかた、考え方[応用編]. 中外医学社;2014.p.125-149.【古都のこと~梅宮大社】京都の梅を語りましょう。『古都のこと』でも既にいくつか紹介していますが*1、今回は右京区梅津の梅宮大社(うめのみやたいしゃ)です。松尾大社からも徒歩で行ける距離にあります。元々は山城国にあり*2、平城京を経て嵯峨天皇の皇后であった橘嘉智子により平安時代前期に現在の場所に遷座されたとのこと。御祭神として酒解神(さかとけのかみ)を本殿に祀ります。文字通り“酒造の神様”ですね*3。訪れたのは、梅産祭(うめうめまつり)が休日に重なった日でしたが、新型コロナウイルスの影響で、恒例の梅ジュース・清酒の振る舞いも中止になっていました。参拝者も少なく、どんよりとした気分が立ちこめていましたが、境内および四季折々の花が美しい回遊式庭園のある神苑には、至る所で紅白梅が元気に花を咲かせていました。桜とは異なる種類の春の訪れ。来年こそは、この感動をより多くの方々と共有したいなぁと心の底から思いました。*1:北野天満宮を筆頭に、岡崎別院、随心院でも扱った。*2:綴喜(つづき)群井出町付近とされる。橘諸兄(もろえ)の母県犬養三千代(あがたいぬかいみちよ)が橘氏の氏神として創祀したと伝わる。三千代は藤原不比等の夫人となったため、藤原氏の摂政・関白の家筋が橘氏長者も代行し、春日神社(藤原氏の氏神)同様に梅宮大社にも崇敬を捧げた。*3:他に橘嘉智子が梅宮神に祈願し皇子(仁明天皇)を授かったことから、授子安産の神徳もあるとされる。本殿横の「またげ石」を跨ぐと子を授かると伝わる。

2819.

コロナショック in ドイツ【空手家心臓外科医、ドイツ武者修行の旅】第6回

突然の回診中止! 自宅待機となった同僚ドイツの辺境にあるグライフスヴァルトでは、何となく他人事だった新型コロナウイルス感染症(COVID-19)ですが、3月に入りついに初感染が確認されました。「他人事」と言ってもドイツではかなり早い段階からCOVID-19関連のニュースで持ちきりでした。1月中旬には所属病院から「COVID-19患者が来院した際のマニュアル」が配布されました。2月に入る頃にはすでに連日ニュースで報道されていて、ダイヤモンド・プリンセス号の映像がドイツのテレビで流れない日はありませんでした。2月後半になりイタリアでの感染者数が急激に増え出した頃、私の身の回りでも突然ピリッとした空気が流れ始めました。ちょうど休暇明けのドイツ人の同僚と一緒に病棟の回診をしていたのですが、彼女の院内PHSに電話がかかってきて、何やら話始めました。するとどんどん彼女の顔が曇っていくのがわかりました。「何で?」「納得いかない」と言ったセリフを口にしたかと思うと、険しい顔をして突然回診を中止し、病棟から出て行きました。私は、唖然として見送ったのですが…しばらくすると教授がやってきて、「彼女は先週イタリアに旅行してたんだ。だから今後2週間の自宅待機となった」と言われました。COVID-19問題がいきなり身近な所までやってきたことにビックリしました。帰りたいけど帰れない遠い日本ドイツでは当初、日常生活で目立った混乱は感じていなかったのですが、3月に入ってから写真のようにトイレットペーパーがスーパーから消える事態が発生しました。「うーん、どこの国もいざってときに取る行動は同じなのか…」また、さまざまなイベントの中止や、感染が確認された地域で学校が休校になるなど、2週間ほど遅れて日本の対応を追いかけているような印象です。3月中旬に2週間の休暇を取って日本へ一時帰国の準備をしていたのですが、教授から「下手したらドイツへの入国制限がかかる可能性もあるんじゃないか? できたらやめて欲しいんだけど…」と言われてキャンセルすることにしました。3月9日現在、ドイツでも感染者数は一気に増加して、当分は騒ぎが収まる気配がありません。私の帰国もだいぶ先のことになりそうです。

2820.

新型コロナ肺炎、その他の肺炎と比較した臨床的特徴

 新型コロナ(2019-nCoV)肺炎とその他の肺炎の臨床的特徴に関する比較研究が行われ、新型コロナ肺炎では肝機能障害の発生頻度が高く、またLDHおよびα-HBDHの値がマーカーとなる可能性が示唆された。中国・安徽医科大学のDahai Zhao氏らによる、Clinical Infectious Diseases誌オンライン版3月12日号掲載の報告。 2020年1月23日から2月5日まで、中国・安徽省の2病院において、19例の新型コロナ肺炎患者と15例の非新型コロナ肺炎患者が登録された。1日おきに咽頭スワブまたは喀痰検体が採取され、リアルタイムRT-PCRにより2019-nCoV感染の有無が確認された。非新型コロナ肺炎患者については、入院後7日間での3回の連続的なリアルタイムRT-PCRで陰性だった場合に、確定された。 主な結果は以下のとおり。・すべての患者に、COVID-19の確定症例への暴露歴あるいは、発症前の湖北省への旅行歴があった。・平均年齢は、新型コロナ肺炎患者が48歳(IQR:27~56)、非新型コロナ肺炎患者が35歳(IQR:27~46)であった。・慢性疾患の併存歴は、新型コロナ肺炎患者が3例(15.79%)、非新型コロナ肺炎患者が3例(20%)。血清検査の結果、新型コロナ肺炎患者でコクサッキーウイルスおよびマイコプラズマ陽性が1例ずつ、非新型コロナ肺炎患者でマイコプラズマ陽性が2例確認された。・発症までの期間中央値は、新型コロナ肺炎患者で8日(IQR:6~11)、非新型コロナ肺炎患者で5日(IQR:4~11)であった。・いずれの場合も臨床症状は類似しており、ともに多くみられたのは発熱(新型コロナ肺炎:78.95% vs.非新型コロナ肺炎:93.33%)、咳(47.37% vs.80%)であった。・CT所見について、入院時両側性病変を有していたのは新型コロナ肺炎患者で15例(78.95%)、非新型コロナ肺炎患者では4例(26.7%)であった。多発性病変およびすりガラス影がみられたのは、新型コロナ肺炎患者で17例(89.47%)、非新型コロナ肺炎患者では1例(6.67%)のみであった。・臨床検査結果について、新型コロナ肺炎患者では、非新型コロナ肺炎患者と比較してAST(>40U/L;27.78% vs.0%、p=0.03)、ALT(>50U/L;27.78% vs.0%、p=0.03)、γ-GT(>45 U/L;44.44% vs.0%、p=0.004)、LDH(>250U/L;31.58% vs.0%、p=0.02)、α-HBDH(>182U/L;75% vs.20%、p=0.01)の異常な増加がみられた。・新型コロナ肺炎患者はロピナビルとリトナビル、対症療法により治療され、非新型コロナ肺炎患者は抗生物質(モキシフロキサシン)と対症療法により治療された。2020年2月14日までに、ICU入室が必要とされた患者はいなかった。 著者らは、本研究の限界としてサンプルサイズの小ささと、症例が軽症患者に限られる点を挙げた上で、CT検査がスクリーニングの一助になる可能性と、新型コロナ肺炎患者では肝機能関連マーカー(ALT、ASTおよびγ-GT)とLDH、α-HBDHの異常値がみられる頻度が高く、肝障害や他の臓器障害を引き起こす可能性があると指摘している。

検索結果 合計:2896件 表示位置:2801 - 2820