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第19回 侮ってはいけない尿路結石【救急診療の基礎知識】

●今回のPoint1)鑑別すべき疾患を知ろう!2)まず、エコーをしよう!3)感染症の合併には要注意!【症例】28歳女性。来院当日の昼食時に左下腹部痛を自覚した。生理痛に対して使用していた市販の非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)を内服し様子をみていたが、症状が改善しないため救急外来を受診した。特記既往はなく、定期的な内服薬はない。●搬送時のバイタルサイン意識清明血圧128/75mmHg脈拍100回/分(整)呼吸20回/分 SpO299%(RA)体温36.3℃瞳孔2.5/2.5mm +/+既往歴、内服薬:定期内服薬なし尿路結石の診断尿路結石は頻度が高く、誰もが診たことがあるでしょう。自身で罹ったことがある人もいるかもしれません。痛みが強く救急外来を受診するケースも多く、楽な姿勢がないのでのたうち回っているのが典型的です。指圧が有効なこともあり、痛い部分をぐっと親指で圧迫していることもよくありますね。尿路結石の診断は、CTで検査すればつきますが、疑い症例全例に検査するのはお勧めできません。被曝の影響は常に考えておく必要があり、また、鑑別疾患が想起されていなければ、単純もしくは造影CTを検査するべきかは判断できません。CTを検査しないと診断できないのでは、クリニックなどそもそも検査ができない場所では診断ができなくなってしまいます。STONE score(表)表 STONE score -目の前の患者は尿路結石か-画像を拡大する尿路結石症例は複数回経験すれば、“らしさ”を見積もることができるようになるでしょう。実際に診たことがない、または経験が少ない場合には“STONE score”は頭に入れておきましょう(表)。絶対的なものではありませんが、急性発症の痛みを訴える男性が嘔気・嘔吐や血尿を伴う場合にはらしいことがわかります。腹痛に加えて嘔気・嘔吐を認めると、どうしても消化器疾患を考えがちですが、尿路結石も評価することを忘れないようにしましょう。尿路結石の鑑別疾患は?尿路結石の鑑別疾患は多岐に渡りますが、50歳以上では腹部大動脈瘤切迫破裂を、女性では卵巣茎捻転、異所性妊娠を、右側の痛みであれば虫垂炎や胆石、胆管・胆嚢炎は、必ず意識するようにしましょう。腎梗塞など他の疾患も鑑別に挙がりますが、重症度や緊急度の問題から、前述したものを考え初療にあたることをお勧めします。必要な検査は?:尿検査も大切だが、エコーは超大事尿潜血陽性は、尿路結石を確定させるものではありません。切迫破裂や虫垂炎でも陽性になることはあります。STONE scoreにも含まれており、“らしさ”を見積もる根拠とはなりますが、いかなる検査も検査前確率が重要であって、検査の陽性・陰性のみを理由に疾患を確定・除外できるものではありません。尿路結石らしさを裏付ける検査と共に、鑑別すべき疾患を除外することが必要です。腹部大動脈瘤は破裂してしまうと判断は難しいですが、大動脈瘤を検出するにはエコーが有用です。また、手術が必要な異所性妊娠や卵巣茎捻転ではモリソン窩の液体貯留などをFAST※を施行し確認することが大切です。エコーは非侵襲的かつ迅速に施行可能な検査であり、腹痛患者では必須の検査といえるでしょう。尿路結石の場合には、石自体をエコーで確認することは難しいですが、水腎症を認めることは少なくありません。疼痛部位に一致した側の水腎症を認める場合には、尿路結石らしさが非常に増します。尿路結石? と思ったら鑑別疾患を意識してエコーをあてましょう。※FAST:focused assessment with sonography for trauma尿検査でわかることも多い尿検査は潜血の有無だけでなく、確認すべきことがあります。鑑別疾患を意識すればわかると思いますが、女性では妊娠の可能性を考えておく必要があります。妊娠反応が陽性か否かで、鑑別疾患は異なり、対応も変わるため常に意識しておきましょう。全例に妊娠反応を検査する必要はありませんが、否定できない場合には行うべきでしょう。もう1点、意識しておくべきこととして、感染の関与があげられます。腎盂腎炎は抗菌薬のみで治療可能なことが多いですが、尿路結石など閉塞機転が存在する場合には、いくら広域な抗菌薬を選択しても状態は悪化します。感染の関与を示唆する発熱や呼吸数の増加、悪寒戦慄などを伴う場合には泌尿器科医などと連携し、外科的介入も考慮することを忘れないようにしましょう。CTは尿路結石の既往がある非高齢者では、上記のような合併症がなければ撮影する必要はありません。しかし、エコーでその他の疾患が疑わしく、エコーで確定できない場合には撮影します。また、初発で結石の位置や大きさの把握が必要な場合には撮影も考慮します。常に検査をオーダーするときには、なんのために施行するのかを意識することが重要です。さいごに尿路結石は救急外来など外来診療において非常に頻度の高い疾患です。多くはNSAIDsで症状は改善し、事なきを得ることが多いですが、尿路結石のようでそうではない重篤な疾患であることや、敗血症を伴うことも少なくありません。根拠をもって対応できるように今一度整理しておきましょう。尿路結石の既往がある非高齢者では、発熱などの合併症がなければCTは検査するべきではありません。1)Moore CL, et al. BMJ.2014;348:g2191.

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プレゼンを鍛える総理大臣ごっこ【Dr. 中島の 新・徒然草】(316)

三百十六の段 プレゼンを鍛える総理大臣ごっこ中島「報告を聴く相手は忙しいのだから、要領よくやってくれ」若者「いつも中島先生にそう言われているので、心掛けてはいるのですけど」中島「そういえば先生は、ちょうど救急外来の発表することになっとったんやな」若者「そうなんですよ」中島「ちょうどいい機会なんで、僕を安倍総理と思ってプレゼンしてみよか」若者「なんですか、それ?」中島「相手を総理大臣と思ったら、要領よく適度な緊張感でしゃべれるやろ」若者「それはそうかもしれませんけど」中島「〇〇先生。総理大臣の安倍です。救急外来について教えてください」若者「い、いきなり総理大臣になっちゃうんですか!」やってみてわかりましたが、総理大臣ごっこというのは、意外に効果があります。中島「2次救急ではどのように患者さんを診ているのですか?」若者「患者さんがやってきたらですね、まずは最初に救急隊のほうからその方の倒れていた状況とか聴いて、もし御家族がついて来ていたら外で待ってもらって、できたらその間に、初診の人だったら受診手続きを」中島「相手は総理大臣や、そんな長い話は聴かんぞ。なんでも5秒以内や!」若者「救急隊から引き継いで、僕らは検査とか病歴とか問診とか」中島「順番が無茶苦茶や。それに病歴と問診は同じやないか」5秒以内というのは、長ったらしい内容を早口で言え、ということではありません。結論を先に言って、相手を飽きさせないことが大切です。中島「『まずは病歴と身体診察をした後に検査を行います』やろ!」若者「さすが中島先生、うまいですね」中島「中島先生やなくて安倍総理大臣や、今は」若者「わかりました、総理大臣。問診、診察、検査の順です」中島「検査とはどのようなものですか。総理大臣にもわかるように教えてください」若者「たとえば発熱の患者さんだったら、いろいろ感染症とか肺炎とか髄膜炎とかが疑われるので、血液培養とか、それと炎症の程度をみるために、白血球数とかCRPという血液中の……」中島「何っ! プーチン大統領から電話が? ちょっと席を外させてもらうよ」若者「総理、待ってください! プーチンさんは後でいいです!」中島「君が言いたいのは、血液・尿検査と心電図と画像検査ですか?」若者「そ、そうです」中島「なぜ私のほうが良く知っているんですかね」若者「総理、すみません」中島「それに『とか』をたくさん使うと、プレゼンのピントがぼけますよ」若者「気を付けます」ごっこ遊びをすると、いつの間にか役に没入してしまいます、不思議なことに。中島「では画像検査とは具体的にどのようなものですか」若者「頭部外傷の患者さんだったら、頭部CTとか、胸部レントゲンも肺炎を疑った場合には必要になってきて、時にはMRIもですね、どうしても撮らなくてはならない時は上の先生と相談した上で」中島「おや、トランプ大統領が来たみたいなんで、今日はこの辺で」若者「ちょ、ちょっと待ってください、総理。いきなりトランプ大統領ですか!」中島「端的に単純レントゲン、CT、MRIということですか?」若者「そうです。総理、ありがとうございます」中島「『画像検査は大きくわけて3つあります』と最初に言うと、相手の注意をひきつけることができますね」若者「仰る通りです、総理!」もう若者にとっての中島は、総理大臣以外の何者でもないようです。中島「それでは治療の事についてお聞きします」若者「ぜひお願いします」中島「胃がんがあったら、手術して胃をとってしまうのですか?」若者「いやいや、そんなことまでは救急室ではやりません。というか、できません」中島「そうすると主に簡単な創傷処置とか投薬とかですか?」若者「その通りです」中島「急ぐ投薬にはどのようなものがありますか?」若者「急ぐ投薬ですか。それは例えば、血圧の下がっている人は脱水とか敗血症とか考えてですね、輸液とか血圧を上げるお薬を使うために、まず静脈ルートというか、薬を入れるために腕の静脈から……」中島「習近平国家主席から至急の電話が来たみたいです」若者「ちょ、ちょっと待ってください。国家主席は待たせておきましょう」中島「あの人を待たせると後がややこしいからな。皆そうだけど」若者「5秒、5秒だけでいいです」中島「じゃあ疾患と治療をセットで言ってください。〇〇には△△とか」若者「あの肺炎だったらCTRXとかですね、感染症には抗菌薬をいって」中島「肺炎も感染症のうちではないのですか?」若者「そ、そうです」中島「じゃあ私が疾患を言うから、先生の治療を教えてください。低血糖には?」若者「グルコースです」中島「アナフィラキシーには?」若者「アドレナリンです」中島「痙攣発作には?」若者「ジアゼパムです」中島「やればできるじゃないですか」若者「ありがとうございます。総理!」アホらしい「ごっこ遊び」ですが、効果は抜群!読者の皆さんも、ぜひ試してみて下さい。最後に1句 5秒だけ 5秒ください 安倍総理!

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若年性特発性関節炎〔JIA:juvenile idiopathic arthritis〕

1 疾患概要■ 概念・定義若年性特発性関節炎(juvenile idiopathic arthritis:JIA)は、滑膜炎による関節の炎症が長期間繰り返す結果、関節軟骨および骨破壊が進行し関節拘縮や障害を引き起こすいまだ原因不明の慢性の炎症性疾患であり、小児期リウマチ性疾患の中で最も頻度が多い。「16歳未満で発症し、6週間以上持続する原因不明の関節炎で、他の病因によるものを除外したもの」と定義されている1)(表)。表 JIAの分類基準(ILAR分類表、2001、Edmonton改訂)画像を拡大する■ 疫学本疾患の頻度は、わが国では海外の報告と同程度の小児人口10万人対10〜15人といわれ、関節リウマチの1/50~1/100程度である。■ 病因、発症病理各病型により病態が大きく異なることが知られている。全身型は、自己免疫よりも自己炎症の要素が強い。関節型に包含される少関節型やリウマトイド因子(rheumatoid factor:RF)陽性多関節型は、自己抗体の頻度が高く液性免疫の関与が強い。RF陰性多関節型や腱付着部炎関連型ではHLA遺伝子多型の関与が示されている。いずれも活性化したT細胞やマクロファージが病態に深く関わっていると推測されている。また、家族歴が参考となる病型を除き、通常家族性発症は認めない。近年、炎症のメカニズムについての知見が集積し、関節炎の炎症病態形成における炎症性サイトカインの関与が認識されるようになった。全身型ではインターロイキン(interleukin:IL)-1βとIL-6が、関節型では腫瘍壊死因子(tumornecrosis factor:TNF)-α、IL-1β、IL-6のいずれもが、炎症の惹起・維持に主要な役割を果たしている。現在治療として重要な地位を占める生物学的製剤の臨床応用が、全身炎症と関節炎症における個々のサイトカインの役割について重要な示唆を与えている。■ 症状1)全身型発熱、関節痛・関節腫脹、リウマトイド疹、筋肉痛や咽頭痛などの症状を呈する。3割は発症時に関節症状を欠く。マクロファージ活性化症候群(macrophage activation syndrome:MAS)(8%)、播種性血管内凝固症候群(5%)などの重篤な合併症に注意を要する。2)関節型(1)少関節型関節痛・関節腫脹、可動域制限、朝のこわばりなどに加え、ぶどう膜炎の合併が見られる。少関節型に伴うぶどう膜炎は女児、抗核抗体(antinuclear antibody:ANA)陽性例に多く無症候性で前部に起こり、放置すれば失明率が高い(15~20%)。5〜10年の経過では、3割が無治療、5割が無症状であった。ぶどう膜炎は10〜20%に認め、関節炎発症後5年以内に発病することが多い。関節機能は正常~軽度障害が98%で、最も関節予後はよい。(2)多関節型(RF陰性)関節痛・関節腫脹、可動域制限、朝のこわばりに加え、4割で発熱を認める。5〜10年の経過では、3割が無治療で4割が無症状であった。関節可動域制限や変形を認める例があるものの、95%が関節機能正常~軽度障害と、少関節型に次いで関節予後はよい。(3)多関節型(RF陽性)この病型は関節リウマチに近い病態である。関節痛・関節腫脹・可動域制限・朝のこわばりが著明で、初期にすでに変形を来たしている例もある。皮下結節は2.5%と欧米の報告(30%)に比べ少ない。5〜10年の経過では、無治療はわずか8%で、無症状は3割とほとんどの患者が治療継続し、症状も持続していた。可動域制限を7割、変形を2割で認め、16%に中等度~重度の関節機能障害を認める。■ 分類疾患は、原因不明の慢性関節炎を網羅するため7病型に分けられているが、病型ごとの頻度は図1に示した通りである2)。ここでは、わが国の小児リウマチ診療の実情に合わせ、本疾患群を病態の異なる「全身型」(弛張熱、発疹、関節症状などの全身症状を主徴とし、症候の1つとして慢性関節炎を生じる)、「関節型」(関節炎が病態の中心となり、関節滑膜の炎症による関節の腫脹・破壊・変形を引き起こし機能不全に陥る)の2群に大別して考えていくことにする。また、乾癬や潰瘍性大腸炎などに併発して、二次的に慢性関節炎を呈するものは「症候性」と別に分類する。図1 JIA発症病型の割合画像を拡大する■ 予後全身型、関節型JIAとも、生物学的製剤が出現する以前は全患者の75%に程度の差はあるが身体機能障害が存在していたものの、普及した後は頻度が明らかに減少した。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)日本小児リウマチ学会と日本リウマチ学会は、共同でJIAの適切な診断と標単的な治療について、わが国の一般小児診療に関わる医師のために「初期診療の手引き2015年版」3)を作成しているので、詳細は成書にてご確認願いたい。1)全身型JIA全身型JIAではIL-6とIL-6受容体が病態形成の核となっていることが判明しており、高サイトカイン血症を呈する代表的疾患である。症状としては、とくに弛張熱が特徴的で、毎日あるいは2日毎に定まった時間帯に38~40℃に及ぶ発熱が生じ、数時間すると発汗とともに解熱する。発熱時は体全体にリウマトイド疹という発疹が出現し、倦怠感が強く認められる。本病型は、敗血症、悪性腫瘍、特殊な感染症あるいは感染症に対するアレルギー性反応などを除外した上で診断される。検査所見では、左方移動を伴わない好中球優位(全分画の80~90%以上)の白血球数の著増を認め、血小板増多、貧血の進行などが特徴である。赤血球沈降速度(erythrocyte sedimentation rate:ESR)、CRP値、血清アミロイドA値が高値となる。凝固線溶系の亢進があり、D-ダイマーなどが高値となる。炎症が数ヵ月以上にわたり慢性化すると、血清IgG値も高値となる。フェリチン値の著増例では、MASへの移行に注意が必要である。IL-6/IL-6Rの他に、IL-18も病態形成に重要であることが判明しており、血清IL-18値の著増も特徴的である。関節炎の診断には前述の通り、血清MMP-3値が有用である。鑑別診断として、深部膿瘍や腫瘍性病変が挙げられるが、これらの疾患に対して通常治療薬として使用するグルココルチコイド(glucocorticoid:GC)は疾患活動性を修飾し原疾患の悪化などを来す可能性がある。これらの鑑別のため、画像検査としては18F-FDG-positron emission tomography(PET)やガリウムシンチグラフィーが有用である。全身炎症の強く生じている全身型の急性期には骨髄(脊椎、骨盤、長管骨など)や脾臓への集積が目立つことが多い。2)関節型JIA関節炎が長期に及ぶと関節の変形(骨びらん、関節脱臼/亜脱臼、骨性強直)や成長障害が出現し、患児のQOLは著しく障害される。また、関節変形による変形性関節症様の病態が出現することもある。少関節炎では下肢の関節が罹患しやすく、多関節炎では左右対称に大関節・小関節全体に見られる。関節炎症の詳細な臨床的把握(四肢・顎関節計70関節+頸椎関節の診察)、血液検査による炎症所見の評価(赤沈値、CRP)、血清反応による関節炎の評価(MMP-3、ヒアルロン酸、FDP-E)、病型の判断(RF、ANA)を行う。また、抗CCP抗体は関節型で特異的に検出されるため、診断的意義と予後推定に有用である。関節部位の単純X線検査では、発症後数ヵ月の間は一般的には異常所見は得られないため、有意な所見がなくても本症を否定できない。関節炎が長期間持続した例では、X線検査で関節裂隙の狭小化や骨の辺縁不整などを認める。また、罹患関節の造影MRIにより、関節滑液の貯留と増殖性滑膜炎の存在を確認することも重要である。関節の炎症を検出し得る検査法として、MRIに加え超音波検査が有用である。ただし、発達段階の小児の画像評価を行う際は、成人と異なり、関節軟骨の厚さや不完全骨化に多様性があるため注意して評価する。鑑別疾患として、感染性関節炎、他の膠原病に伴う関節炎、整形外科的疾患(とくに十字靭帯障害)、小児白血病が挙げられる。外来診療で多いのは「成長痛」で、夕方から夜にかけて膝や足関節の痛みを訴えるところがJIAとの相違点である。関節型では関節炎が診察により明確に認められる対称性関節炎であり、関節症状は早朝から午前中に悪化する。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)■ 全身型(図2)図2 全身型に対する治療画像を拡大する1)初期対応全身型JIAにおいて非ステロイド抗炎症薬(NSAIDs)で対応が可能な例は確かに存在するが一部の症例に限られる。したがってGCが全身型JIA治療の中心であるが、これまでしばしば大量GCが漫然と長期にわたり投薬されたり、種々の免疫抑制薬も併用され続けたが不応である患児、MASへ病態移行した患児などを診療する機会も多く見受けられた。NSAIDs不応例にはプレドニゾロン(prednisolone:PSL)1~2mg/kg/日が適用される。メチルプレドニゾロン・パルス療法を行い、後療法としてPSL0.5~0.7mg/kg/日を用いると入院期間の著しい短縮に繋がる場合もある。免疫抑制薬としてシクロスポリン、メトトレキサート(methotrexate:MTX)が加えられることもあるが、少なくとも単独で活動期にある全身型の炎症抑制はできず、また併用効果も疑問である。また、関節炎に対しMTXの効果が期待されるが、一般に有効ではない。このことは、関節型JIAと全身型JIAとでは関節炎発症の機序が異なることを示唆している。本病型は、基本的には大量GCだけが炎症抑制効果をもつと考えられてきた。GCは他の薬剤と異なり、副腎という器官が生成する生理的活性物質そのものである。GCの薬理作用はすでに身体に備わっている受容体、細胞内代謝機構などを介して発現するので、一定量投与の後に減量に入ると、安定していたこれらの生体内機構の機能縮小が過剰に生じるため、直ちに再燃が起こることがある。したがってGCの減量はごく微量ずつ漸減するのが原則となる。2)生物学的製剤(抗IL-6レセプター抗体:トシリズマブ〔商品名:アクテムラ〕)の投与難治性JIAの場合、以下の条件を満たしたら、速やかに専門医に相談し、トシリズマブ(tocilizumab:TCZ)の投与を検討すべきである。(1)治療経過でGCの減量が困難である場合(2)MASへの病態転換が考えられる場合(3)治療経過が思わしくなく、次の段階の治療を要すると判断された場合TCZによる全身型JIAに対する治療は、臨床治験を経てわが国で世界に先駆けて認可され、使用経験が増加することで、有効性が極めて高く、副作用は軽微である薬剤であることが現在判明している。エタネルセプトなどの抗TNF治療薬の散発的な報告によると効果は10~30%程度といわれている。また、IL-1レセプターアンタゴニストは本症に有効であるとの報告が海外であるが、わが国でもカナキヌマブ(同:イラリス)が臨床試験を経て2018年7月に適用を取得することができた。■ 関節型(図3)図3 関節型への治療画像を拡大する1)診断確定まで臨床所見、関節所見、検査所見から診断が確定するまで1~2週間は要する。この間、NSAIDsであるナプロキセン(同: ナイキサン)、イブプロフェン(同: ブルフェンほか)を用いる。鎮痛効果は得られることが多く、一部の例では関節炎そのものも鎮静化するが、鎮痛に成功しても炎症反応が持続していることが多く、2〜3週間の内服経過で炎症血液マーカーが正常化しない場合は、次のステップに移る。NSAIDsにより鎮痛および炎症反応の正常化がみられる例ではそのまま維持する。2)MTXを中心とした多剤併用療法RF陽性型、ANA陽性型およびRF/ANA陰性型のうち多関節型の症例は、できるだけ早くMTX少量パルス療法に切り替える。当初スタートしたNSAIDsの効果が不十分であると判断された場合にも、MTX少量パルス療法へ変更する。MTXの効果発現までには少なくとも8週間程度の期間が必要で、この期間を過ぎて効果が不十分と考えられた例では、嘔気や肝機能障害が許容範囲内であるならば、小児最大量(10mg/m2)まで増量を試みる。また、即効性を期待して治療の初めからPSL5~10mg/日を加える方法も行われている。この方法では効果の発現は2~4週間と比較的早い。MTX効果が認められる時期(4~8週間)になれば、PSLは漸減し、維持量(3~5mg/日)とする。PSLによる成長障害や骨粗鬆症などの副作用の心配は少なく、かえって炎症を充分に抑制するため骨・軟骨破壊は多くない。3)生物学的製剤治療前述のMTXを中核におく併用療法にても改善がみられない症例では、生物学的製剤の導入を図る。生物学的製剤の導入の時期は、MTX投与後3〜6ヵ月が適当で、以下の場合が該当する。(1)「初期診療の手引き」に沿って3ヵ月間以上治療を行っても、関節炎をはじめとする臨床症状および血液炎症所見に改善がなく治療が奏効しない場合(2)MTX少量パルス療法およびその併用療法によってもGCの減量が困難またはステロイド依存状態にあると考えられる場合(3)MTX基準量にても忍容性不良(嘔気、肝機能障害など)である場合わが国では2008年にヒト化抗IL-6レセプター抗体トシリズマブ、2009年にはTNF結合蛋白であるエタネルセプト(同:同名)、2011年にはヒト化TNF抗体アダリムマブ(同:ヒュミラ)に加え、2018年にはCD28共刺激シグナル阻害薬アパタセプト(同: オレンシア)がいずれも臨床試験の優れた安全性および有効性の結果をもって、関節型JIAの症例に対して適応拡大を取得した。安全性についても、重篤な副作用はいずれの薬剤についてもみられていない。4 今後の展望上述の通り、わが国では、JIA治療に関わる生物学的製剤(全身型:トシリズマブ、カナキヌマブ、関節型:エタネルセプト、アダリムマブ、トシリズマブ、アバタセプト)が適用を取得したことで、小児リウマチ診療は大きく変貌し、“CARE”から“CURE”の時代が到来したと、多くの診療医が実感できるようになっている。今後もさまざまな生物学的製剤の開発が予定されており、その薬剤の開発、承認および臨床現場への早期実用化を目指すために、わが国での小児リウマチ薬の開発から承認までの問題点を可視化し、将来に向けての提案を行っている。5 主たる診療科小児科、(膠原病リウマチ内科、整形外科)※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報日本小児リウマチ学会(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)日本リウマチ学会(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)小児慢性特定疾病情報センター 若年性特発性関節炎(一般利用者向けと医療従事者向けの公費助成などのまとまった情報)難病情報センター 若年性特発性関節炎(一般利用者向けと医療従事者向けの公費助成などのまとまった情報)患者会情報若年性特発性関節炎(JIA)親の会「あすなろ会」(患者とその家族および支援者の会)1)Fink CW. J Rheumatol. 1995;22:1566-1569.2)武井修治. 小児慢性特定疾患治療研究事業を利活用した若年性特発性関節炎JIAの二次調査.小児慢性特定疾患治療研究事業.平成19年度総括・分担研究報告書. 2008;102~113.3)日本リウマチ学会小児リウマチ調査検討小委員会. 若年性特発性関節炎初期診療の手引き(2015年). メデイカルレビュー社:2015.公開履歴初回2020年03月09日

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COVID-19、年代別の致命率は~4万例超を分析

 4万4,000例を超える新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の疫学的調査結果が報告された。2020年2月11日時点で、中国で診断された全症例の記述的、探索的分析の結果が示されている。CCDC(中国疾病管理予防センター)のYanping Zhang氏らによるChinese journal of Epidemiology誌オンライン版2020年2月17日号掲載の報告。COVID-19症例の年齢分布や致命率を分析 著者らは、2020年2月11日までに報告されたすべてのCOVID-19症例を、中国の感染症情報システムから抽出。以下の6つの観点で分析を実施した:(1)患者特性の要約、(2)年齢分布と性比の分析、(3)致命率(死亡例数/確定例数、%で表す)と死亡率(死亡例数/総観察時間、per 10 person-days[PD]で表す)の算出、(4)ウイルスの広がりの地理的時間的分析、(5)流行曲線の構築、(6)サブグループ解析。 患者特性はベースライン時に収集され、併存疾患は自己申告による病歴に基づく。症例は、確定(咽頭スワブでのウイルス核酸増幅検査陽性)、疑い(症状と暴露状況に基づき臨床的に診断された症例)、臨床診断(湖北省のみ、COVID-19と一致する肺造影像疑いの症例)、無症候(検査陽性だが、発熱やから咳などの症状がみられない症例)に分類された。 流行曲線における発症日は、本調査中に患者が発熱または咳の発症を自己申告した日付として定義。重症度は、軽度(非肺炎および軽度肺炎の症例が含まれる)、中等度(呼吸困難[呼吸数≧30/分、血中酸素飽和度≦93%、PaO2/FiO2比<300、および/または24~48時間以内に>50%の肺浸潤])、重度(呼吸不全、敗血症性ショック、および/または多臓器障害)に分類された。COVID-19の致命率は2.3% COVID-19症例の年齢分布や致命率を分析した主な結果は以下のとおり。・計7万2,314例の患者記録が分析された。内訳は、確定が4万4,672例(61.8%)、疑いが1万6,186例(22.4%)、臨床診断が1万567例(14.6%)、無症候が889例(1.2%)。以下のデータはすべて確定例での分析結果。・年齢構成は、9歳以下が416例(0.9%)、10~19歳が549例(1.2%)、20~29歳が3,619例(8.1%)、30~39歳が7,600例(17.0%)、40~49歳が8,571例(19.2%)、50~59歳が1万8例(22.4%)、60~69歳が8,583例(19.2%)、70~79歳が3,918例(8.8%)、80歳以上が1,408例(3.2%)。・男性が51.4%、湖北省で診断された症例が74.7%を占め、85.8%で武漢市と関連する暴露が報告された。・重症度は、軽度が3万6,160例(80.9%)、中等度が6,168例(13.8%)、重度が2,087例(4.7%)、不明が257例(0.6%)。・併存疾患は、高血圧が2,683例(12.8%)、 糖尿病1,102例(5.3%)、心血管疾患874例(4.2%)、慢性呼吸器疾患511例(2.4%)、がん107例(0.5%)であった。・1,023例が死亡し、全体の致命率は2.3%。・年齢層別の死亡数(致命率、死亡率[per 10 PD])は、9歳以下はなし、10~19歳が1例(0.2%、0.002)、20~29歳が7例(0.2%、0.001)、30~39歳が18例(0.2%、0.002)、40~49歳が38例(0.4%、0.003)、50~59歳が130例(1.3%、0.009)、60~69歳が309例(3.6%、0.024)、70~79歳が312例(8.0%、0.056)、80歳以上が208例(14.8%、0.111)。・併存疾患別の死亡数は、致命率および死亡率が高い順に、心血管疾患92例(10.5%、0.068)>糖尿病80例(7.3%、0.045)>慢性呼吸器疾患32例(6.3%、0.040)>高血圧161例(6.0%、0.038)>がん6例(5.6%、0.036)。なお、併存疾患のない患者で死亡は133例発生し、致命率は0.9%、死亡率は0.005 per 10 PDであった。・発症の流行曲線は1月23~26日頃および2月1日にピークに達し、その後減少傾向にある。・COVID-19は、2019年12月以降に湖北省から外部に広がり、2020年2月11日までに、31省すべてに広がった。・1,716例の医療従事者が確定例に含まれ、5例が死亡している。 著者らは、COVID-19は確定例の約81%で軽度であり、致命率は2.3%と非常に低いとしている。1,023例の死亡のうち、過半数が60歳以上および/または併存疾患を有しており、軽度または中等度の患者では死亡は発生していない。しかし、COVID-19が急速に広がったことは明らかで、湖北省から中国本土の残りの地域に広がるまでたった30日しかかからなかったと指摘。多くの人が春節の長い休暇から戻った現在、流行のリバウンドに備える必要があるとしている。

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フルベストラント+capivasertib、AI耐性進行乳がんでPFS延長(FAKTION)/Lancet Oncol

 capivasertibは、セリン/スレオニンキナーゼAKTの3つのアイソフォームすべてを強力に阻害するAKT阻害薬である。本剤の無作為化二重盲検プラセボ対照第II相試験(FAKTION試験)において、アロマターゼ阻害薬(AI)に耐性の進行乳がん患者に対し、フルベストラントにcapivasertibを追加することで無増悪生存期間(PFS)が有意に延長することを、英国・カーディフ大学のRobert H. Jones氏らが報告した。Lancet Oncology誌オンライン版2020年2月5日号に掲載。 本試験の対象は、英国の19病院において、18歳以上、ECOG PS 0〜2、エストロゲン受容体(ER)陽性、HER2陰性で、AIで再発/進行した手術不能の転移/局所進行乳がんの閉経後女性。登録された参加者は無作為に1対1に割り付けられ、病勢進行、許容できない毒性、追跡不能、同意の撤回まで、フルベストラント500mg(1日目)を28日ごとに投与(1サイクル目の15日目に負荷用量を追加)、capivasertib 400mgまたはプラセボを4日間投与3日間休薬の週間スケジュール(1サイクル目の15日目から開始)で1日2回経口投与した。主要評価項目はPFS(片側α:0.20)。参加者募集は終了し、試験は追跡期間中である。 主な結果は以下のとおり。・2015年3月16日~2018年3月6日にスクリーニングされた183例中140例(76%)が適格基準を満たし、フルベストラント+capivasertib(capivasertib 群、69例)またはフルベストラント+プラセボ(プラセボ群、71例)に無作為に割り付けられた。・PFSの追跡期間中央値は4.9ヵ月であった(IQR:1.6〜11.6)。・PFSの初回解析時(2019年1月30日)までにPFSイベントが112例に発生し、capivasertib群は69例中49例(71%)、プラセボ群は71例中63例(89%)であった。・PFS中央値はcapivasertib群が10.3ヵ月(95%CI:5.0~13.2)、プラセボ群が4.8ヵ月(同:3.1~7.7)で、未調整のハザード比(HR)は0.58(95%CI: 0.39~0.84)でcapivasertib群が優位であった(両側p=0.0044、片側log rank検定p=0.0018)。・Grade3/4の主な有害事象は、高血圧(capivasertib群69例中22例[32%]vs.プラセボ群71例中17例[24%]、下痢(10例[14%]vs.3例[4%])、発疹(14例[20%]vs. 0例)、感染症(4例[6%]vs. 2例[3%])、疲労(1例[1%]vs.3例[4%])であった。・重篤な有害事象はcapivasertib群でのみ発生し、急性腎障害(2例)、下痢(3例)、発疹(2例)、高血糖(1例)、意識喪失(1例)、敗血症(1例)、嘔吐(1例)であった。・非定型肺炎による死亡1例は、capivasertibの治療関連と評価された。・capivasertib群のもう1例の死亡原因は不明で、それ以外の両群における死亡(capivasertib群19例、プラセボ群31例)はすべて疾患関連であった。

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低リスク妊娠、第3期のルーチン超音波は周産期予後を改善せず(解説:前田裕斗氏)-1152

 低リスク単胎妊娠において、妊娠第3期にルーチンで超音波検査を行うことで重度有害周産期アウトカムを減少できるかどうかをみたRCTである。研究理解のためにはまず日本との違いを押さえることが必要だ。本研究の通常診療群では毎回子宮底長測定のみを行い、臨床的に必要と判断された場合のみ超音波検査を行い、介入群では28~30週、34~36週の間に1回ずつ計2回の超音波検査を追加している。一方日本では28~36週まで2週間ごと、37週以降は1週間ごとに健診を行う。健診ごとに毎回超音波検査を行う施設も多い。健診回数や毎回超音波検査が有害アウトカムを減らす確固たるエビデンスはないが、4回を下回る健診回数では周産期死亡率が増えるとコクランのSystematic Reviewでは報告されている。 結果は介入群では出産前の在胎不当過小(SGA)胎児の検出率は高いが、重度有害周産期アウトカムの発生減少には結び付かなかった。著者らは考察で今回の結果を説明しうる可能性について複数挙げているが、なかでもSGA胎児の中で健康な小さいだけの胎児と病的な発育不全を見分ける方法が確立されていないことは大きいだろう。もちろん、低リスク患者ではそもそも病的な発育不全の頻度が低いことも有害アウトカムの減少を認めなかった一因である。10パーセンタイルを下回る/上回ることのない限り胎児推定体重によって分娩時のマネジメントはさほど変わらない。今回の研究結果で認めた分娩誘発やSGAの診断(周産期アウトカムの改善を伴わない)の増加による母体へのストレスを考えれば、妊娠第3期でのルーチン超音波検査は不要とする考えもあるだろう。 一方日本の現状に照らしてみれば、今回の研究結果を活かすにはいくつか問題がある。まず外的妥当性の問題がある。参加者の平均年齢が31歳であるため、より高齢妊娠の割合が高い施設には適応し難い。さらに日本は欧米と比べ出生体重が小さいため、より低出生体重児の検出が求められる可能性もある。次に、実務上の問題として現在日本ではほぼ毎回か、隔週で超音波検査を行う施設がほとんどであるため、他施設と比較されることになる超音波検査をルーチンで使用しないという方針は実質取りえない。 本研究の結果を日本で活かすとすれば、健診の一部を助産師による外来とする、超音波検査での評価を毎回でなく1回おきにするなどで健診による医療者負担を軽減することが挙げられる。有害な周産期アウトカムを増やさず、医療者負担を軽減できればハイリスク症例へ割く時間を増やすことや持続可能な周産期医療の達成にもつながる。さらに、今後分娩施設の集約化に伴い地域によっては助産師が主体的に分娩を管理する必要が出てくる可能性もあるが、その際の安全性を支持した論文ともいえるだろう。しかし、本研究は自宅や助産施設での分娩がほとんどを占めるオランダからの論文であり、あくまで訓練を受けた助産師による管理、そして必要があれば超音波検査を行うという前提があることに注意が必要だ。

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PM2.5短期曝露の入院リスク・コスト増、敗血症や腎不全でも/BMJ

 微小粒子状物質(PM2.5)への短期曝露は、これまでほとんど知られていなかった敗血症、体液・電解質異常、急性・非特定腎不全による入院リスクや入院日数、入院・急性期後治療費の大幅な増加と関連していることが判明した。すでに知られている、同曝露と心血管・呼吸器疾患、糖尿病、パーキンソン病などとの関連もあらためて確認され、それらの関連はPM2.5濃度が、世界保健機関(WHO)がガイドラインで規定する24時間平均曝露濃度未満の場合であっても一貫して認められたという。米国・ハーバード大学医学大学院のYaguang Wei氏らが、米国のメディケアに加入する高齢者約9,500万例のデータを解析した結果で、著者は「PM2.5への短期曝露が、経済的負担を少なからず増加していた」と述べ、WHOのガイドライン更新について言及した。BMJ誌2019年11月27日号掲載の報告。相互排他的214疾患群の入院リスク・コストとの関連を検証 研究グループは、2000~12年のメディケアにおける入院患者の支払請求データを基に、相互排他的214疾患群について、入院リスク・コストとPM2.5短期曝露との関連を調べる時間層別化ケースクロスオーバー解析を行った。対象は、出来高払い(fee-for-service)プランで入院医療を受けた65歳以上の9,527万7,169例。気象変数の非線形交絡作用を補正した条件付きロジスティック回帰分析で評価した。 主要アウトカムは、214疾患群の入院リスク、入院数、入院日数、入院・急性期後治療費、入院中の死亡により失われた統計的生命価値(=死亡を回避するためのコストを評価するために用いられる経済的価値)だった。敗血症、体液・電解質異常、急性・非特定腎不全とも関連 PM2.5への短期曝露と入院リスクとの正の関連が、敗血症、体液・電解質異常、急性・非特定腎不全といった、これまでに一般的だがほとんど検討がされていなかった疾患でも見つかった。 そのような正の関連は、心血管・呼吸器疾患、パーキンソン病、糖尿病、静脈炎、血栓性静脈炎、血栓塞栓症でも認められ、これまでの研究結果が再確認された。さらにこれらの関連は、WHOがガイドラインで規定するPM2.5の24時間平均曝露濃度を下回っている場合でも一貫して認められた。 これまでほとんど検討されていなかった疾患については、PM2.5への短期曝露1μg/m3増加が年間の、入院数2,050件(95%信頼区間[CI]:1,914~2,187)増、入院日数1万2,216日(1万1,358~1万3,075)増、入院・急性期後治療費3,100万ドル(2,400万ユーロ、2,800万ポンド)(ドルの95%CI:2,900万~3,400万)増、失われた統計的生命価値25億ドル(20億~29億)増とそれぞれ関連していた。 すでに知られていた疾患との関連については、PM2.5への短期曝露1μg/m3増加が年間の、入院数3,642件(95%CI:3,434~3,851)増、入院日数2万98日(1万8,950~2万1,247)増、入院・急性期後治療費6,900万ドル(6,500万~7,300万)増、失われた統計的生命価値41億ドル(35億~47億)増とそれぞれ関連していた。■「敗血症」関連記事敗血症、新規の臨床病型4つを導出/JAMA

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州による敗血症治療のプロトコール導入は、成人敗血症の院内死亡の減少に寄与したか(解説:吉田敦氏)-1141

 12歳の男児が敗血症で死亡したことを受け、ニューヨーク州は2013年に「Rory’s Regulations」を定めた。この規則はすべての急性期病院に対し、敗血症の早期診断と治療開始に関するプロトコールを導入し(たとえば抗菌薬ならば3時間以内に開始)、診療にあたること、ならびにその順守に関して職員の教育を行うとともに、順守割合と臨床的転帰について報告を求めたものである。 本研究はプロトコール導入が実際に成人の院内死亡の減少に寄与したかを、本規則が定められていない対照4州と比較して明らかにしようとした。プライマリーアウトカムは30日院内死亡率で、ニューヨーク州では規則導入の前後で26.3%から22.0%であったのに対し、対照4州では該当期間の変化は22.0%が19.1%となっており、ニューヨーク州では患者・病院特性と規則導入前からの傾向を調整しても、対照州に比べその減少幅は有意に大きかった。ただしセカンダリーアウトカムでは対照州に比較し、ICU入室率の減少幅は差がなく、入院期間の短縮幅とC. difficile発症率の減少幅はやや大きく、CVカテーテル使用率の減少幅は少なかった。 本研究は509ヵ所の病院を含む、合計101万の敗血症入院を解析した非常に大規模な試験である。ニューヨーク州の敗血症死亡率はもともと対照州より高かったが、対照州と比較して、病院の特徴が異なり(100床以下の医療機関や、規模の小さなICUが多い一方、教育病院の割合が高いなど)、ICU入室率やCVカテーテル使用率も低かった。つまり対照州のほうが、もともと規模の大きな病院でICUに入室させやすく、CVカテーテル使用率も高かったといえるであろう。また本研究では患者・病院特性の調整が行われたとはいえ、ニューヨーク州ではほかに患者背景、重症度、合併症、受診までの時間や経緯、医療保険などに、複雑かつ多様な要因があることも否めない。したがってニューヨーク州独自の事情が強く影響している下での、敗血症死亡率の低下、ICU滞在期間短縮を目指した努力が行われた結果をみていると考えたほうがよいと思われる。 複雑かつ多様な要因が影響している中、規則による介入が現場の診療の向上に寄与したかどうか、本論文のようにポジティブに関連付けることには、議論があるかもしれない。ニューヨーク州でのプロトコールの順守状況については情報がなく、さらにアウトカム指標としては5個のみで介入の効果をみているに過ぎない。現場での向上のプロセスの詳細は含まれていないが、介入によって実際のプロセスが具体的にどう変わり、どのように定着したか、読み手としてはそこが知りたいところではないだろうか。現在プロトコール導入を行う州が増えているとのことであるが、各州で行われているプロセス改善を目的とした現場での状況について、詳細な報告がまとめられることに期待したい。

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経口の糞便移植で死亡例、その原因は?/NEJM

 糞便微生物移植(FMT)の臨床試験に参加した被験者で、死亡1例を含む4例のグラム陰性菌血症が発生していたことが明らかにされた。米国・ハーバード大学医学大学院のZachariah DeFilipp氏らによる報告で、そのうち術後にESBL産生大腸菌(Escherichia coli)血症を発症した2例(1例は死亡)は、別々の臨床試験に参加していた被験者であったが、ゲノムシークエンスで同一ドナーのFMTカプセルが使用されていたことが判明したという。著者は、「有害感染症イベントを招く微生物伝播を限定するためにもドナースクリーニングを強化するとともに、異なる患者集団でのFMTのベネフィットとリスクを明らかにするための警戒を怠らない重要性が示された」と述べている。FMTは、再発性/難知性クロストリジウム・ディフィシル感染症の新たな治療法で、その有効性・安全性は無作為化試験で支持されている。他の病態への研究が活発に行われており、ClinicalTrials.govを検索すると300超の評価試験がリストアップされるという。NEJM誌オンライン版2019年10月30日号掲載の報告。使用されていたのは検査強化前の冷凍FMTカプセル 研究グループは、術後にESBL産生大腸菌血症を発症した2例(1例は死亡)について詳細な調査報告を行った。 まずドナースクリーニングと、カプセル製剤手順を検証したところ、ドナースクリーニングは施設内レビューボードと米国食品医薬品局(FDA)による承認の下で行われており、集められたドナー便はブレンダーでの液化や遠心分離などの処置を経て懸濁化され、熱処理などを受けて製剤化が行われていた。ただし、2019年1月にFDAの規制レビューを受けてドナースクリーニングを強化していたが、件の2例に使用されたFMTカプセルは2018年11月に製造されたものであったという。この時に強化された内容は、ESBL産生菌、ノロウイルス、アデノウイルス、ヒトTリンパ親和性ウイルス タイプ1およびタイプ2抗体を検査するというものであった。規制レビューを受けた後も、それ以前に製剤化・冷凍保存されていたFMTカプセルについて、追加の検査や廃棄はせず試験に使用されていた。FMT前の被験者の便検体からはESBL産生菌は未検出 患者(1)は、C型肝炎ウイルス感染症による肝硬変の69歳男性で、難治性肝性脳症の経口カプセルFMT治療に関する非盲検試験に参加した被験者であった。2019年3月~4月に、15個のFMTカプセルを3週間に5回にわたって移植。術後17日(2019年5月)までは有害事象は認められなかったが、発熱(38.9度)と咳を呈し、胸部X線で肺浸潤を認めレボフロキサシンによる肺炎治療が行われた。しかし、臨床的改善が認められず2日後に再受診。患者(1)は、その際に前回受診時での採血の血液培養の結果でグラム陰性桿菌が確認されたことを指摘され、ピペラシリン・タゾバクタムによる治療を開始し入院した。培養されたグラム陰性桿菌を調べた結果、ESBL産生大腸菌であると同定された。患者(1)の治療はその後カルバペネムに切り替えられ、さらに14日間のメロペネム投与(入院治療)、さらにertapenem投与(外来治療)を完了後、臨床的安定性を維持している。フォローアップ便検体のスクリーニングでは、ESBL産生菌は検出されなかった。 患者(2)は、骨髄異形成症候群の73歳男性で、同種異系造血幹細胞移植の前後に経口カプセルFMTを行う第II相試験に参加していた。15個のFMTカプセルを、造血幹細胞移植の4日前と3日前に移植。造血幹細胞移植の前日に、グラム陰性菌血症リスクを最小化するためのセフポドキシム予防投与を開始した。しかし、造血幹細胞移植後5日目(最終FMT後8日目)に発熱(39.7度)、悪寒、精神症状の異変を呈した。血液培養の採血後、ただちに発熱性好中球減少症のためのセフェピム治療を開始したが、その晩にICU入室、人工呼吸器装着となる。予備血液培養の結果、グラム陰性桿菌の存在が示され、メロペネムなど広域抗菌薬を投与するが、患者の状態はさらに悪化し、2日後に重篤な敗血症で死亡した。最終血液培養の結果、ESBL産生大腸菌が検出された。 なお患者(1)(2)とも、FMT前の便検体からESBL産生菌は検出されなかったという。

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「日本版敗血症治療ガイドライン2020」の改訂ポイントを公開

 2019年10月2~4日に行われた第47回日本救急医学会総会・学術集会において、2020年夏に向け2回目の改訂作業が進む「日本版敗血症治療ガイドライン2020(J-SSCG2020)」の編集方針と改訂ポイントをテーマにしたパネルディスカッションが行われた。日本版敗血症治療ガイドライン2020改訂のポイント 冒頭に、2016年の日本版敗血症治療ガイドライン(J-SSCG2016)の作成委員会委員長を務めた藤田医科大学教授の西田 修氏が前回改訂を振り返った。「敗血症のガイドラインとしては『敗血症診療国際ガイドライン(SSCG)』があり、2004年に初版が刊行され、2020年には4回目の改訂が予定される同ガイドラインは国際的評価も高い。作成当初はこれを訳せばいいのでは、という声も多かった」と振り返った。敢えて日本版敗血症治療ガイドラインを作成した意義については、「日本独自の視点も大切にしながら、国際ガイドラインに劣らない質を追求し、それを人材育成につなげることを目指した」と述べた。日本版敗血症治療ガイドラインは当初は日本集中治療医学会が作成し、1回目の改訂にあたる日本版敗血症治療ガイドライン2016からは、同学会と日本救急医学会の合同作成となっている。 続いて、日本版敗血症治療ガイドライン2020作成委員会共同委員長を務める大阪大学准教授の小倉 裕司氏が、今回の改訂のポイントを述べた。「J-SSCG2016から委員は4割が入れ替わり、一般臨床の場で役立つ、SSCGにはない斬新な内容を取り入れる、時間的要素を取り入れ見せ方を工夫する、若手医師の積極的な参加を促して次世代育成を目指す、という4点を重視した」と述べた。 日本版敗血症治療ガイドライン2020の作成における特徴は以下のとおり。日本版敗血症治療ガイドライン2016から引き継がれた点も多い。・広い普及を目指す…一般の臨床家に使いやすく、質の高いガイドラインとする・適切な判断をサポート…臨床上必要なクリニカルクエスチョン(CQ)であれば、質の高いエビデンスの有無にかかわらず、すべてを取り上げる・質の担保/透明性の向上…若手メンバー中心に各領域を横断してサポートや査読を行う独立組織「アカデミックガイドライン推進班」を設置/パブリックコメントを複数回募集敗血症治療ガイドライン日本版独自の内容 日本版敗血症治療ガイドライン2020から新たに加わった内容・変更点は以下のとおり。・CQが89→117(予定)と約1.5倍に・神経集中治療・ストレス潰瘍・Patient-and family-centered care・Sepsis Treatment Systemの4領域を新たに追加・8領域の作成に多職種のワーキング・グループが参加・CQを24のバックグラウンドクエスチョン(BQ)と92のフォアグラウンドクエスチョン(FQ)に分け、FQはさらにエビデンスの強固さによって3つのグレードに分類 体温管理・ICU-AW、PICS、小児、神経集中治療の領域は、敗血症診療国際ガイドラインに含まれない日本版独自の内容となる。改訂ごとに増える内容を臨床の現場で有効に使ってもらうため、ダイジェスト版・電子版の発行とあわせ、今回新たにアプリ開発を進めるなど、多様な手段で新ガイドラインを提供する計画だ。また、ガイドライン策定にあたってのシステマティックレビューから複数の論文が生まれる、診療報酬改定に影響を与えるなど、副次的な効果も出ているという。また、敗血症に世間の関心が高まる中、日本集中治療医学会、日本救急医学会、日本感染症学会の3学会合同で一般向け情報サイト「敗血症.com」を設置・運営し、積極的な情報提供も行っている。 日本版敗血症治療ガイドライン2020は2020年春の公開、夏の刊行が予定されており、ダイジェスト版、英語版も続いて出版される。

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ストレス関連障害、重症感染症発症と関連/BMJ

 ストレス関連障害は、その後の命に関わる感染症のリスクと関連することが、アイスランド大学のHuan Song氏らによるスウェーデンの住民を対象とした同胞・適合対照コホート研究で明らかにされた。関連性は家族的背景や身体的・精神的並存疾患を調整後に確認されている。精神的ストレスは、免疫力を低下し感染症への罹病性を増す可能性があり、ヒトおよびその他の動物における一連の実験的研究で、精神的ストレスと急性呼吸器感染症との関連性が示唆されている。しかしながら、髄膜炎や敗血症のような命に関わる重症感染症との関連についてはデータが限定的であった。BMJ誌2019年10月23日号掲載の報告。敗血症、心内膜炎、髄膜炎など死亡率が高い感染症のリスクを検証 検討はスウェーデン住民を対象に、1987~2013年にストレス関連障害(外傷後ストレス障害[PTSD]、急性ストレス反応、適応障害、その他のストレス反応)を有した14万4,919例を特定し、ストレス関連障害と診断されていない同胞18万4,612例および一般住民からの適合対照144万9,190例と比較した。 主要評価項目は、高死亡率の重症感染症(敗血症、心内膜炎、髄膜炎またはその他の中枢神経系感染症など)であった初発入院または外来受診の1次診断(Swedish National Patient Registerで確認)、およびそれらの感染症またはあらゆる原因の感染症による死亡(Cause of Death Registerで確認)とした。 複合交絡因子について調整後、Coxモデルを用いてこれら命に関わる感染症のハザード比を推算した。発生増大リスクは同胞ベース解析で1.47倍、住民ベース解析で1.58倍 ストレス関連障害診断時の平均年齢は37歳(5万5,541例、男性38.3%)であった。 平均追跡期間8年の間に、命に関わる感染症の発生(1,000人当たり)は、ストレス関連障害群2.9、同診断のない同胞群1.7、同診断のない適合対照群1.3であった。 同診断のない同胞群と比較して、ストレス関連障害群は命に関わる感染症リスクの増大が認められた。ハザード比は、あらゆるストレス関連障害については1.47(95%信頼区間[CI]:1.37~1.58)、PTSDは1.92(1.46~2.52)であった。 同様の増大リスクは、住民ベースの適合対照との比較でも認められた。ハザード比は、あらゆるストレス関連障害については1.58(95%CI:1.51~1.65、同胞ベース解析における増大リスクとの差に関するp=0.09)、PTSDは1.95(1.66~2.28、p=0.92)。 ストレス関連障害は、検証したすべての重症感染症と関連していた。最も相対リスクが高かったのは髄膜炎(同胞ベース解析で1.63[95%CI:1.23~2.16])、次いで心内膜炎(1.57[1.08~2.30])であった。また、「ストレス関連障害診断時の年齢が若い」および「精神科合併障害の併存」、とくに「薬物使用障害」においてハザード比が高かった。一方で、ストレス関連障害の診断後最初の年にSSRI薬を使用していた場合は、ハザード比が減弱されていた。

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低リスク妊娠、第3期のルーチン超音波は有益か?/BMJ

 低リスク単胎妊娠において、妊娠第3期に超音波検査をルーチンに行うことは通常ケアと比較して、出産前の在胎不当過小(SGA)胎児の検出率を高めるが、重度有害周産期アウトカムの発生減少には結びつかないことが明らかにされた。オランダ・アムステルダム大学医療センターのJens Henrichs氏らが、1万3,046例の妊婦を対象に行った無作為化比較試験の結果で、著者は「妊娠第3期に超音波検査をルーチンに行うことを支持しない結果であった」とまとめている。BMJ誌2019年10月15日号掲載の報告。妊娠28~30週、34~36週に超音波検査を提供し通常ケアと比較 研究グループは2015年2月1日~2016年2月29日にかけて、オランダ国内の助産施設60ヵ所を通じて登録した、16歳以上の低リスク単胎妊娠の妊婦を対象に無作為化比較試験を行った。 施設では通常のケアとして、定期的な子宮底長測定と、臨床的に必要な超音波検査を行った。試験開始3、7、10ヵ月の各時点で、被験者の3分の1をコントロール群から介入群に割り付け、介入群に対しては、通常ケアに加え、妊娠28~30週、34~36週に2回のルーチン超音波検査を提供した。両群に対して同様の多専門的アプローチを行い、胎児発育の特定とケアを行った。 主要アウトカムは、複合重度有害周産期アウトカム(周産期死亡、Apgarスコア4未満、意識障害、仮死、てんかん発作、補助呼吸、敗血症、髄膜炎、気管支肺異形成症、脳室内出血、脳室周囲白質軟化症、壊死性腸炎と規定)だった。副次アウトカムは、母体の重篤な病的状態、自然分娩・出生だった。重度有害周産期アウトカム発生、介入群32%、コントロール群19% 試験には1万3,520例(平均妊娠22.8週)が登録され、解析には、オランダ全国周産期レジストリまたは病院記録のデータがある1万3,046例(介入群7,067例、コントロール群5,979例)が包含された。 SGA胎児の検出率は、コントロール群19%(78/407例)に対し、介入群は32%(179/556例)と有意に高率だった(p<0.001)。 一方で、主要アウトカム発生率は、介入群1.7%(118例)、コントロール群1.8%(106例)だった。交絡因子を補正後、両群には有意差は認められなかった(オッズ比[OR]:0.88、95%信頼区間[CI]:0.70~1.20)。 なお、介入群ではコントロール群に比べ、誘発分娩の発生率が高く(OR:1.16、95%CI:1.04~1.30)、陣痛促進の発生率は低かった(0.78、0.71~0.85)。母体のアウトカムとその他の産科学的介入について有意な差はなかった。

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終末期には患者家族との意思疎通に訓練が必要

 2010年10月2日~4日の3日間、都内において「第47回 日本救急医学総会・学術集会」(会長:田中 裕[順天堂大学大学院医学研究科救急災害医学 教授])が、「不断前進、救命救急 今、ふたたび『仁』」をテーマに開催された。 学会では、「病院前診療」「心肺蘇生」「外傷診療」「敗血症診療」などをテーマに特別講演、シンポジウム、パネルディスカッションをはじめ、さまざまな企画が開催されたほか、市民向けには敗血症の説明講座やAEDを使用した実技講習会などが開催された。 本稿では、終末期の現場で患者や残された家族にどのように医療者がコミュニケーションをとるか、救急現場で要望の高いテーマについてお届けする。遅れている日本の事前指示書の作成 「高齢者救急」の口演の中で「VitalTalkを用いた救急・集中治療領域End-of-Life Discussionトレーニング:米国での経験から」をテーマに、伊藤 香氏(帝京大学医学部救急医学講座)が、自己の米国での研修体験から終末期の現場で必要とされる医師のコミュニケーショントレーニングについて講演した。 超高齢化社会の進展に伴い、終末期診療での自己決定は大切な課題となっている。しかし、事前指示書の所有率は、米国では40%であるのに対し、わが国ではわずか5%と進んでいない現状である。厚生労働省の意識調査でも「事前指示書の作成に賛成」が70%近くにも上っているにも関わらず、実際に作成した人は8%程度であると同氏は「日本でのアドバンスケアプランニング(ACP)の不足」を指摘する。 一例として帝京大学附属病院の救命センターの例を挙げ、75歳以上の高齢者の受診率が40%を超え、そのうちの60%近くが初療室や翌日に亡くなっている。わが国では、死の直前まで、侵襲的な集中治療を受け、亡くなるケースが多いことを報告。こうした医療の遠因には、ACPの不足もあると同氏は指摘した。“VitalTalk”を日本で普及させるために 米国と日本の違いとして、救急の現場では、死というデリケートな問題に近いことから、患者家族へのコミュニケーションスキルの向上が望まれ、新任の外科・外科集中治療の修練を受けた際に、End-of-Life(EOL)discussionコース(VitalTalk)の受講が米国では必須だったという。 “VitalTalk”とは、あらゆる重症疾患患者とその家族が対象となり、医療者と患者・患者家族のよりよいコミュニケーションを目指して、アメリカで作られた対話訓練法である。同氏が受講したカリキュラムでは、集中治療室入室中の患者家族に模した役者を相手に、延命治療終了などの意思決定にまつわる話し合いの仕方をトレーニングしたという。具体的には、相手の感情を読み取り、理解可能な手段(イラストなどへの落とし込み)などで、的確に伝えることを訓練するものであり、その効果として、患者の疾患への理解度の向上、より良い医療の提供や訴訟リスクの低下がみられるとされる。 コースでは、深刻なニュースを患者家族に伝える方法の「Ask-Tell-Ask」や感情を言語化する「NURSE」、診療のゴールについて話し合う「REMAP」などを学ぶという。具体的に「NURSE」とは、突然の悪い知らせに直面し、戸惑う患者家族の感情に寄り添うための会話スキルで、家族の様子を観察しながら、抱いていると予想される感情に名前を付けて(Name)、理解を示し(Understand)、尊重し(Respect)、支援(Support)、探索(Explore)する共感力養成のトレーニングである。トレーニングは、半日または1日コースがあり、医師、看護師などが受講をしている。 同氏は、現在“VitalTalk”の日本語版開発に携わっており、「総合診療や緩和ケアのみならず、集中治療や救急に携わる医療者にも広げていきたい」と今後の展望を語り、講演を終えた。 2020年の「日本救急医学総会・学術集会」は、11月18日~20日の会期で岐阜県にて開催される。

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12週間ごとに投与する新規乾癬治療薬「スキリージ皮下注75mgシリンジ0.83mL」【下平博士のDIノート】第34回

12週間ごとに投与する新規乾癬治療薬「スキリージ皮下注75mgシリンジ0.83mL」 今回は、ヒト化抗ヒトIL-23p19モノクローナル抗体製剤「リサンキズマブ(商品名:スキリージ皮下注75mgシリンジ0.83mL)」を紹介します。本剤は、初回および4週時の後は12週ごとに皮下投与する薬剤です。少ない投与頻度で治療効果を発揮し、長期間持続するため、中等症から重症の乾癬患者のアンメットニーズを満たす薬剤として期待されています。<効能・効果>本剤は、既存治療で効果不十分な尋常性乾癬、関節症性乾癬、膿疱性乾癬、乾癬性紅皮症の適応で、2019年3月26日に承認され、2019年5月24日に発売されています。<用法・用量>通常、成人にはリサンキズマブとして、1回150mgを初回、4週後、以降12週間隔で皮下投与します。なお、患者の状態に応じて1回75mgを投与することができます。<副作用>尋常性乾癬、関節症性乾癬、膿疱性乾癬、乾癬性紅皮症の患者を対象とした国内外の臨床試験(国際共同試験3件、国内試験2件:n=1,228)で報告された全副作用は219例(17.8%)でした。主な副作用は、ウイルス性上気道感染27例(2.2%)、注射部位紅斑15例(1.2%)、上気道感染14例(1.1%)、頭痛12例(1.0%)、上咽頭炎10例(0.8%)、そう痒症9例(0.7%)、口腔ヘルペス8例(0.7%)などでした。150mg投与群と75mg投与群の間に安全性プロファイルの違いは認められていません。なお、重大な副作用として、敗血症、骨髄炎、腎盂腎炎、細菌性髄膜炎などの重篤な感染症(0.7%)、アナフィラキシーなどの重篤な過敏症(0.1%)が報告されています。<患者さんへの指導例>1.この薬は、乾癬の原因となるIL-23の働きを抑えることで、皮膚の炎症などの症状を改善します。2.体内の免疫機能の一部を弱めるため、ウイルスや細菌などによる感染症にかかりやすくなります。感染症が疑われる症状(発熱、寒気、体がだるい、など)が現れた場合には、速やかに医師に連絡してください。3.この薬を使用している間は、生ワクチン(BCG、麻疹、風疹、麻疹・風疹混合、水痘、おたふく風邪など)の接種はできないので、接種の必要がある場合には医師に相談してください。4.入浴時に体をゴシゴシ洗ったり、熱い湯船につかったりすると、皮膚に過度の刺激が加わって症状が悪化することがありますので避けてください。5.風邪などの感染症にかからないように、日頃からうがいと手洗いを心掛け、体調管理に気を付けましょう。インフルエンザ予防のため、流行前にインフルエンザワクチンを打つのも有用です。<Shimo's eyes>乾癬の治療として、以前より副腎皮質ステロイドあるいはビタミンD3誘導体の外用療法、光線療法、または内服のシクロスポリン、エトレチナートなどによる全身療法が行われています。近年では、多くの生物学的製剤が開発され、既存治療で効果不十分な場合や難治性の場合、痛みが激しくQOLが低下している場合などで広く使用されるようになりました。現在発売されている生物学的製剤は、本剤と標的が同じグセルクマブ(商品名:トレムフィア)のほか、抗TNFα抗体のアダリムマブ(同:ヒュミラ)およびインフリキシマブ(同:レミケード)、抗IL-12/23p40抗体のウステキヌマブ(同:ステラーラ)、抗IL-17A抗体のセクキヌマブ(同:コセンティクス)およびイキセキズマブ(同:トルツ)、抗IL-17受容体A抗体のブロダルマブ(同:ルミセフ)などがあります。また、2017年には経口薬のPDE4阻害薬アプレミラスト(同:オテズラ)も新薬として加わりました。治療の選択肢は大幅に広がり、乾癬はいまやコントロール可能な疾患になりつつあります。本剤の安全性に関しては、ほかの生物学的製剤と同様に、結核の既往歴や感染症に注意する必要があります。本剤の投与は基本的に医療機関で行われると想定できますので、薬局では併用薬などの聞き取りや、生活指導で患者さんをフォローしましょう。本剤は、初回および4週後に投与し、その後は12週ごとに投与します。国内で承認されている乾癬治療薬では最も投与間隔が長い薬剤の1つとなります。通院までの間の体調を記録する「体調管理ノート」や、次回の通院予定日をLINEの通知で受け取れる「通院アラーム」などのサービスの活用を薦めるとよいでしょう。参考日本皮膚科学会 乾癬における生物学的製剤の使用ガイダンス(2019年版)アッヴィ スキリージ Weekly 体調管理ノート

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関節リウマチに対する3剤目の経口JAK阻害薬「スマイラフ錠50mg/100mg」【下平博士のDIノート】第30回

関節リウマチに対する3剤目の経口JAK阻害薬「スマイラフ錠50mg/100mg」今回は、ヤヌスキナーゼ(JAK)阻害薬「ペフィシチニブ臭化水素酸塩(商品名:スマイラフ錠50mg/100mg)」を紹介します。本剤は、1日1回の服用でJAKファミリーの各酵素(JAK1/2/3、チロシンキナーゼ2[TYK2])を阻害し、関節リウマチによる関節の炎症や破壊を抑制します。<効能・効果>本剤は、既存治療で効果不十分な関節リウマチ(関節の構造的損傷の防止を含む)の適応で、2019年3月26日に承認され、2019年7月10日より発売されています。なお、過去の治療において、メトトレキサート(MTX)をはじめとする少なくとも1剤の抗リウマチ薬などによる適切な治療を行っても、疾患に起因する明らかな症状が残る場合に投与します。<用法・用量>通常、成人はペフィシチニブとして150mg(状態に応じて100mg)を1日1回食後に投与します。なお、中等度の肝機能障害がある場合は、50mg/日を投与します。<副作用>後期第II相試験、第III相臨床試験2件および継続投与試験の4試験における安全性併合解析において、本剤が投与された患者1,052例中810例(77.0%)に副作用が認められました。主な副作用は、上咽頭炎296例(28.1%)、帯状疱疹136例(12.9%)、血中CK増加98例(9.3%)などでした(承認時)。なお、重大な副作用として、帯状疱疹(12.9%)、肺炎(ニューモシスチス肺炎などを含む)(4.7%)、敗血症(0.2%)などの重篤な感染症、好中球減少症(0.5%)、リンパ球減少症(5.9%)、ヘモグロビン減少(2.7%)、消化管穿孔(0.3%)、AST(0.6%)・ALT(0.8%)の上昇などを伴う肝機能障害、黄疸(5.0%)、間質性肺炎(0.3%)が報告されています。<患者さんへの指導例>1.この薬は、ヤヌスキナーゼという酵素を阻害することにより、関節の炎症や腫れ、痛みなどの関節リウマチによる症状を軽減します。2.持続する発熱やのどの痛み、息切れ、咳、倦怠感などの症状が現れた場合はすぐにご連絡ください。3.痛みを伴う発疹や皮膚の違和感、局所の激しい痛み、神経痛などが現れた場合は速やかに受診してください。4.この薬を服用している間は、生ワクチン(麻疹、風疹、おたふく風邪、水痘・帯状疱疹、BCGなど)の接種ができません。接種の必要がある場合には主治医に相談してください。5.(妊娠可能年齢の女性の場合)この薬を服用中および服用終了後少なくとも1月経周期は、適切な避妊を行ってください。6.本剤を服用中の授乳は避けてください。<Shimo's eyes>関節リウマチの薬物療法は近年大きく進展しています。関節破壊の進行抑制を含めた病態コントロールのため、発症初期にはMTXをはじめとする従来型疾患修飾性抗リウマチ薬(cDMARDs)が使用されます。MTXなどを十分量で用いても効果不十分な場合には、生物学的製剤であるTNF阻害薬(インフリキシマブ、エタネルセプト、アダリムマブなど)やIL-6阻害薬(トシリズマブなど)、T細胞活性抑制薬(アバタセプト)、もしくは低分子標的薬であるJAK阻害薬(トファシチニブ、バリシチニブ)が使用されます。本剤は、関節リウマチに用いる3剤目のJAK阻害薬で、JAK1、JAK2、JAK3およびTYK2を阻害し、関節の炎症や破壊を抑制します。生物学的製剤は点滴または皮下注射での投与となりますが、しばしば発疹などの投与時反応や注射部位疼痛が問題となることがあります。JAK阻害薬は経口投与のため、非侵襲性の治療を望む患者さんや自己注射が困難な患者さんであっても、好みや生活環境に合わせた治療を選択することができると期待されています。また、本剤は相互作用も少なく、1日1回投与であるため、高齢者でも使用しやすいと考えられます。留意点としては、中等度の肝機能障害を有する患者については投与量の制限があることが挙げられます。また、本剤は免疫反応に関与するJAK経路の阻害により、結核、肺炎、敗血症などの感染症リスクが増大する懸念があることから、既存のJAK阻害薬2剤と同様に、生物学的製剤や他のJAK阻害薬などの免疫を抑制する薬剤との併用はできません。承認時の臨床試験では、副作用として12.9%で帯状疱疹が報告されているので、とくに高齢の患者さんでは、使用前に帯状疱疹ワクチン接種の有無などについて確認し、服用後に帯状疱疹が現れる可能性について注意喚起をしておく必要があるでしょう。

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敗血症診療規則の導入で死亡低減/JAMA

 米国ニューヨーク州の病院は、プロトコール化された敗血症診療(Rory's Regulations)の実施が義務付けられている。米国・ピッツバーグ大学のJeremy M. Kahn氏らは、この診療規則の有効性に関する調査を行い、導入以降ニューヨーク州は、非導入の他州に比べ敗血症による死亡が減少していることを示した。研究の詳細は、JAMA誌2019年7月16日号に掲載された。2013年以降、ニューヨーク州の病院は、敗血症管理においてエビデンスに基づくプロトコールの実施とともに、プロトコール順守や臨床アウトカムに関する情報の州政府への報告が義務付けられている。敗血症診療規則導入前後で敗血症入院例のアウトカムを比較 研究グループは、ニューヨーク州の敗血症診療規則と、敗血症による入院患者のアウトカムの関連を評価する目的で、後ろ向きコホート研究を行った(米国医療研究品質庁[AHRQ]の助成による)。 解析には2011年1月1日~2015年9月30日の、ニューヨーク州と規則非導入の対照4州(フロリダ州、メリーランド州、マサチューセッツ州、ニュージャージー州)の成人敗血症入院患者の退院時のデータを用いた。規則導入前後で複数回測定された時系列データを比較解析した。 2013年のニューヨーク州の敗血症診療規則の導入前(2011年1月1日~2013年3月31日)と導入後(2013年4月1日~2015年9月30日)の敗血症による入院について評価を行った。 主要評価項目は、30日院内死亡率とした。副次評価項目は、集中治療室入室率、中心静脈カテーテル使用率、Clostridium difficile感染率、入院期間であった。敗血症診療規則の導入で入院期間が有意に短縮 最終解析には509施設に入院した敗血症患者101万2,410例が含まれた。平均年齢は69.5(SD 16.4)歳、女性が47.9%であった。敗血症診療規則導入前の入院患者数は、ニューヨーク州が13万9,019例、対照4州は28万9,225例であり、導入後はそれぞれ18万6,767例および39万7,399例であった。 補正前30日院内死亡率は、敗血症診療規則導入前がニューヨーク州26.3%、対照4州22.0%で、導入後はそれぞれ22.0%および19.1%であった。患者および病院の背景因子と、導入前の一時的な傾向や季節性で補正すると、導入後の30日院内死亡率はニューヨーク州が対照4州に比べ有意に低下した(導入前後で複数回測定された時系列データの比較値の同時検定のp=0.02)。 たとえば、敗血症診療規則導入後の第10(最終)四半期(2015年7月~9月)の補正後絶対死亡率は、対照4州と比較したニューヨーク州の予測値よりも3.2%(95%信頼区間[CI]:1.0~5.4)有意に低かった(p=0.004)。 敗血症診療規則導入により、両群間で集中治療室入室率の有意な差は認めなかったが(同時検定のp=0.09)(第10四半期の補正後の両群差:2.8%、95%CI:-1.7~7.2、p=0.22)、ニューヨーク州は対照4州に比べ、入院期間が有意に短縮し(p=0.04)(0.50日、-0.47~1.47、p=0.31)、Clostridium difficile感染率(p<0.001)(-1.8%、-2.6~-1.0%、p<0.001)、中心静脈カテーテル使用率(p=0.02)(4.8%、2.3~7.4、p<0.001)は有意に増加した。 著者は、「ベースラインの死亡率がニューヨーク州と対照4州で異なるため、これらの知見が、この研究には含まれない他州に一般化可能かどうかは不明である」としている。

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Sepsisの4タイプの表現型の提唱とその評価(解説:吉田敦氏)-1077

 敗血症にはさまざまな症例が含まれ、臨床症状・徴候のスペクトラムは幅広い。このため臨床病型を分別し、より精確なマネジメントにつなげようとする試みはこれまで長く続けられてきた。2016年には「敗血症および敗血症性ショックの国際コンセンサス定義 第3版(Sepsis-3)」が発表され、定義も新しくなり、SOFA(PaO2/FiO2、血小板数、ビリルビン、平均動脈圧、Glasgow Coma Scale[GCS]、クレアチニン)・qSOFA(収縮期血圧、呼吸数、GCS)が導入されたが、このような試みはそれ以前からのものである。今回3個の観察コホート研究と3個のランダム化臨床試験(合計6個)から得られたデータを後方視的に解析することで、病型自体導出できるのか、できるならば病型はいくつか、導出された病型の妥当性・再現性はどうか、検討が行われた。 本研究はピッツバーグ大学を中心として行われたもので、この中にはSOFA・qSOFAの提唱に使われたSENECA試験も含まれている。6試験はそれぞれ特色を有するが、最も影響する因子は組み入れ基準(inclusion criteria:Sepsis-3のものもあれば、以前のSIRSを用いたものも、重症敗血症を来した肺炎のものもある)と場所(Emergency departmentのほか、ICUのみならず内科病棟も)であろう。導出されたタイプはα、β、γ、δの4種類であり、概して、αは異常値が少なく、臓器障害が少ないタイプ、βは慢性疾患を有する高齢者に多いタイプ、γは炎症関連バイオマーカーの上昇が大きなタイプ、δは乳酸値やトランスアミナーゼの上昇と低血圧を特徴とするタイプであった。炎症マーカーの上昇と凝固異常・血管内皮細胞の異常はγ・δで、腎障害のマーカーの異常はβ・δで、心血管および肝臓のマーカーの異常はδで多く、来院時のSOFAスコアと死亡率もやはりδで最も高かった。 興味深いのは、これら4タイプは生体側の免疫反応と深く関連している一方で、それぞれがさまざまな感染巣(focus)の患者を含んでおり、タイプの導出にも、菌血症の証明や、原因微生物の分類・種類、菌の侵入門戸を問うていない点である。微生物側の詳しい因子を含めることなく、導出されたこれら4タイプによる成績に、もし微生物側の因子も加えて解析したら、結果はどうであろうか。今回のような複数の大規模試験の集合であっても、どれほどの差が認められるか予測し難いところがあるが、それこそが臨床医が日常的に敗血症・菌血症例を診療する際に、「感染臓器」・「微生物」・「患者個々の背景・基礎疾患」の3因子を重ね合わせて考え、評価する、その思考プロセスに似てはいないだろうか。 本検討で得られた結論は、背景と重症度が異なる集団であっても、27以上のバイオマーカーから導出された4表現型が、再現性よく臨床的重症度・予後と相関するというものであった。臨床応用にはまだ距離はあろうが、たとえばバイオマーカーから4タイプを導出するプログラムを電子カルテに実装しておき、敗血症疑い例の初期評価の進行に同期させつつ、自動的に表示させるようにするのも、有用かもしれない。本検討の所見のさらなる評価の継続とともに、実用にもまた期待したいところである。

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SCARLET試験:敗血症関連凝固障害に対する遺伝子組み換えヒト可溶性トロンボモジュリンの有効性(解説:小金丸博氏)-1066

 敗血症関連凝固障害はINR延長や血小板数低下で定義され、28日死亡率と相関することが報告されている。遺伝子組み換えヒト可溶性トロンボモジュリン(rhsTM)製剤は、播種性血管内凝固(DIC)が疑われる敗血症患者を対象とした第IIb相ランダム化試験の事後解析において、死亡率を下げる可能性が示唆されていた。 今回、敗血症関連凝固障害に対するrhsTM製剤の有効性を検討した第III相試験(SCARLET試験)の結果が発表された。本試験は、26ヵ国159施設が参加した二重盲検プラセボ対照ランダム化比較試験であり、集中治療室に入室した心血管あるいは呼吸器障害を伴う敗血症関連凝固障害患者を対象とした。プライマリアウトカムに設定した28日全原因死亡率は、rhsTM投与群が26.8%(106/395例)、プラセボ投与群は29.4%(119/405例)であり、両群間に有意差を認めなかった(p=0.32)。絶対リスク差は2.55%(95%信頼区間:-3.68~8.77)だった。重篤な出血有害事象の発生率は、rhsTM投与群が5.8%、プラセボ投与群は4.0%だった。 本試験では、敗血症関連凝固障害に対するrhsTM製剤の投与は、28日全原因死亡率を有意に低下させることができなかった。有効性を示せなかった要因として、(1)約20%の患者がベースライン時に凝固障害の基準を満たしていなかったこと、(2)プラセボ投与群の死亡率が予想より高かったこと、(3)深部静脈血栓症予防に用いたヘパリンがrhsTMの効果を弱めた可能性があること、(4)試験に参加した159施設中55施設では登録患者数が1例であり、有効性の結果に影響した可能性があることが挙げられている。 サブグループ解析では、ベースラインのAPACHE IIスコア25点未満の患者(439例)は28日全原因死亡率がrhsTM投与群で低く(リスク差:4.66%)、25点以上の患者(283例)はrhsTM投与群で高かった(リスク差:-1.45%)。また、ヘパリンを投与された患者(416例)は28日全原因死亡率がrhsTM投与群で高く(リスク差:-0.87%)、ヘパリンを投与されなかった患者(384例)はrhsTM投与群で低かった(リスク差:6.25%)。敗血症患者の病態は不均一であり、敗血症関連凝固障害に対して一律にrhsTMを投与しても有効性を見いだせないかもしれない。しかしながら、サブグループ解析や事後解析の結果はrhsTM投与が有効な病態が存在することを示唆しており、今後の研究結果を待ちたい。

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敗血症関連凝固障害への遺伝子組換えトロンボモジュリン製剤、第III相試験結果/JAMA

 敗血症関連凝固障害がみられる重症患者の治療において、遺伝子組換えヒト可溶性トロンボモデュリン(rhsTM)製剤ART-123はプラセボと比較して、28日以内の全死因死亡率を改善しないことが、ベルギー・Universite Libre de BruxellesのJean-Louis Vincent氏らが実施した「SCARLET試験」で示された。研究の詳細はJAMA誌オンライン版2019年5月19日号に掲載された。rhsTMは、播種性血管内凝固症候群(DIC)が疑われる敗血症患者を対象とする無作為化第IIb相試験の事後解析において、死亡率を抑制する可能性が示唆されていた。26ヵ国159施設のプラセボ対照無作為化試験 本研究は、日本を含む26ヵ国159施設が参加する二重盲検プラセボ対照無作為化第III相試験であり、2012年10月~2018年3月の期間に患者登録が行われた(Asahi-Kasei Pharma America Corporationの助成による)。 対象は、心血管あるいは呼吸器の障害を伴う敗血症関連凝固障害で、集中治療室に入室した患者であった。被験者は、rhsTM(0.06mg/kg/日、最大6mg/日、静脈内ボーラス投与または15分注入)またはプラセボを投与する群に無作為に割り付けられ、1日1回、6日間の治療が行われた。 主要エンドポイントは、28日時の全死因死亡であった。28日全死因死亡率:26.8% vs.29.4% 816例が登録され、このうち800例(平均年齢60.7歳、男性54.6%)が試験を完遂し、最大の解析対象集団(FAS)に含まれた。rhsTM群が395例、プラセボ群は405例であった。 28日全死因死亡率は、両群間に有意な差は認めなかった(rhsTM群26.8%[106/395例]vs.プラセボ群29.4%[119/405例]、p=0.32)。絶対リスク差は2.55%(95%信頼区間[CI]:-3.68~8.77)だった。 サブグループ解析では、ヘパリンの投与を受けた患者(416例)は、28日全死因死亡率がrhsTM群で低かった(差:-0.87%、95%CI:-9.52~7.77)のに対し、ヘパリンの投与を受けていない患者(384例)は、rhsTM群のほうが高かった(6.25%、-2.72~15.22)。 重篤な出血有害事象(頭蓋内出血、生命に関わる出血、担当医が重篤と判定した出血イベントで、赤血球濃厚液1,440mL[典型的には6単位]以上を2日で輸血した場合)の発生率は、rhsTM群が5.8%(23/396例)、プラセボ群は4.0%(16/404例)であった。 なお著者は、これらの知見に影響を及ぼした可能性のある原因として、次のような諸点を挙げている。(1)患者の約20%が、ベースライン時に凝固障害の基準を満たさなかった、(2)プラセボ群の死亡率が、試験開始前にサンプルサイズの算出に使用した予測値よりも高かった、(3)深部静脈血栓症の予防に用いたヘパリンが、rhsTMの効果を減弱させた可能性がある、(4)無作為化の際に施設で層別化したが、159施設中55施設は登録患者が1例のみであり、効果の結果に影響を及ぼした可能性がある。

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敗血症、新規の臨床病型4つを導出/JAMA

 敗血症は異質性の高い症候群だという。米国・ピッツバーグ大学のChristopher W. Seymour氏らは、患者データを後ろ向きに解析し、宿主反応パターンや臨床アウトカムと相関する敗血症の4つの新たな臨床病型を同定した。研究の成果は、JAMA誌オンライン版2019年5月19日号に掲載された。明確に分類された臨床病型が確立されれば、より精確な治療が可能となり、敗血症の治療法の改善に結び付く可能性があるため、検討が進められていた。敗血症の4つの臨床病型の頻度、臨床アウトカムとの相関、死亡率などを評価 研究グループは、臨床データから敗血症の臨床病型を導出し、その再現性と、宿主反応バイオマーカーや臨床アウトカムとの相関を検討し、無作為化臨床試験(RCT)の結果との潜在的な因果関係を評価する目的で、後ろ向きにデータ解析を行った(米国国立衛生研究所[NIH]などの助成による)。 敗血症の臨床病型は、ペンシルベニア州の12の病院(2010~12年)を受診し、6時間以内にSepsis-3の判定基準を満たした2万189例(1万6,552例のunique patientを含む)のデータから導出した。 再現性と、生物学的パラメータおよび臨床アウトカムとの相関性の解析には、2次データベース(2013~14年、全4万3,086例、3万1,160例のunique patientを含む)、肺炎に起因する敗血症の前向きコホート研究(583例)および3件の敗血症のRCT(4,737例)のデータを用いた。 評価項目は、導出された臨床病型(α、β、γ、δ)の頻度、宿主反応バイオマーカー、28日および365日時点の死亡率、RCTのシミュレーション出力とした。敗血症の臨床病型の実臨床における効用性確立には、新たな研究が必要 解析コホートには、敗血症患者2万189例(平均年齢64[SD 17]歳、男性1万22例[50%]、SOFAスコアの最長24時間平均値3.9[2.4]点)が含まれた。検証コホートは、4万3,086例(67[17]歳、男性2万1,993例[51%]、3.6[2.0]点)であった。 導出された敗血症の4つの臨床病型のうち、α型の頻度が最も高く(6,625例、33%)、この型は入院中の昇圧薬の投与日数が最も短かった。β型(5,512例、27%)は高齢で慢性疾患や腎不全の罹患者が多く、γ型(5,385例、27%)は炎症の測定値が上昇した患者や肺機能不全の患者が多く、δ型(2,667例、13%)は肝不全や敗血症性ショックの頻度が高かった。 検証コホートでも、敗血症の臨床病型の分布はほぼ同様であった。また、臨床病型によるバイオマーカーのパターンには、一貫した違いが認められた。 解析コホートの累積28日死亡率は、α型が5%(unique patient、287/5,691例)、β型が13%(561/4,420例)、γ型が24%(1,031/4,318例)、δ型は40%(897/2,223例)であった。すべてのコホートと試験における28日および365日死亡率は、δ型が他の3つの型に比べ有意に高かった(p<0.001)。 シミュレーションモデルでは、治療に関連するアウトカム(有益、有害、影響なし)は、これら敗血症の臨床病型の分布の変化と強く関連した(たとえば、早期目標指向型治療[EGDT]のRCTで臨床病型の頻度を変化させると、>33%の有益性から>60%の有害性まで、結果の可能性が変動した)。 著者は、「実臨床におけるこれら臨床病型の有用性を確定し、試験デザインやデータの解釈に有益な情報をもたらすには、さらなる研究を要する」としている。

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