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SFTSに気を付けろッ!その2【新興再興感染症に気を付けろッ!】

国立国際医療研究センター 国際感染症センターの忽那です。この「新興再興感染症に気を付けろッ!」は、新興再興感染症への適切な気を付け方について、まったりと学ぶコーナーです。前回は、重症熱性血小板減少症候群(SFTS)についての概説をさせていただきましたが、今回はSFTSに潜む謎に迫りたいと思います。SFTSの謎(1)高い致死率SFTSの日本での致死率は29%と非常に高いのですが、一方で中国のSFTS症例の致死率は12~15%程度であり、日本のおよそ半分程度です。同じSFTSなのに、なぜこのような致死率の違いが生まれるのでしょうか?まず、ウイルスの病原性の違いについて、中国のSFTSウイルスと日本のSFTSウイルスは、遺伝子学的にはかなり昔に分かれているということが判明しています1)。つまり、最近になって中国から日本にやって来たというわけではなく、おそらくかなり昔から日本に潜んでいたウイルスということになります。しかし、この中国のSFTSウイルスと日本のSFTSウイルスの病原性についての違いは、これまでのところ明らかではありませんので、致死率の違いは、ウイルスの病原性の違いによるものとは言いにくいと思われます。では、人種間の違いでしょうか? その可能性はあるかもしれませんが、遺伝子が比較的近い日本人と中国人で死亡率に大きく違いがあるとは思えません。では、なぜ日本ではSFTSの致死率が高いのでしょうか。もしかしたら日本では、重症症例のみが診断されているという可能性があるかもしれません。中国でも当初は致死率が30%程度とされていましたが、現在の致死率まで下がっており、軽症例が診断されるようになったことが、原因の1つと考えられます。日本でも当初は厚生労働省の提示した症例定義(前回の表をご参考ください)というものがあり、これに該当しない軽症例は検査されなかったために、死亡率が高く出ているということなのかもしれません。SFTSは、高齢者で致死率が高いとされています。現在、日本では農村部の高齢者を中心に症例が報告されていますが(図1)、実際には若年者もSFTSに感染しているけれど、診断されていないだけなのかもしれません。今後、軽症の若年者も診断されるようになり、致死率が下がってくる、という可能性はあるかと思います。画像を拡大するSFTSの謎(2)発生地域の分布前述のように西日本で感染が見られていますが、東日本ではまったく感染者は報告されていません。SFTSは、主にタカサゴキララマダニとフタトゲチマダニによって媒介されるダニ媒介感染症と考えられています。タカサゴキララマダニは、西日本に多く分布していますが、フタトゲチマダニは日本全域に見られるマダニです。実際にSFTSウイルスは、北海道や宮城県など東日本でも遺伝子が検出されています(図2)2)。また、SFTS抗体を持つ動物も、東日本で見つかっています。しかし、実際に感染者が出ているのは西日本に限局しており、最東端は和歌山県です。なぜこのような偏りが生まれるのか……。画像を拡大する考えられる原因としては、ダニのSFTSウイルス保有率の違いでしょうか。SFTSウイルスを持つダニの比率が、西日本のほうが高いのかもしれません。現にシカのSFTSウイルス抗体陽性率は西高東低といわれており、ダニのウイルス保有率を反映しているのでしょうか。このマダニのSFTSウイルス保有率については、今後サーベイランスの結果が待たれるところです。東日本でもマダニからSFTSウイルスの遺伝子が検出されているということから、まれであるかもしれませんが、東日本でもSFTSが発生するかもしれません。東日本で勤務する医療従事者も、白血球と血小板減少を伴う発熱疾患ではSFTSを鑑別に挙げるようにしましょう(あとデング熱も)。SFTSの謎(3)適切な感染対策SFTSは広義のウイルス性出血熱であり、エボラ出血熱と同様に、血液・体液を介してヒト-ヒト感染が起こりうると考えられています。実際に、患者家族や医療従事者でのヒト-ヒト感染事例も複数報告されています3)。しかし、SFTS疑い(あるいは確定例)でどのような感染対策を行えばよいのかについては、まだきちんとした方針がありません。国立国際医療研究センター 国際感染症センターの作成した『重症熱性血小板減少症候群(SFTS)診療の手引き』2)を一例として公開しておりますので、ご参考ください。これまでにSFTS患者から感染した医療従事者は、採血の介助や気管挿管をした際に感染したと考えられており、また、ご遺体に触れた家族や納棺師も感染しています4)。診療の際には標準予防策を徹底する必要がありますし、SFTSの患者さんは亡くなられた際にウイルス量が最も多くなっているため、亡くなられた際の埋葬の方法についても注意が必要です。というわけで、とくに解決策を提示することなくお送りした「SFTSに気を付けろッ!」ですが、いかがでしたでしょうか。次回は、個人的な激アツトピックである「Borrelia miyamotoi感染症の気を付け方」について取り上げたいと思います。1)Takahashi T, et al. J Infect Dis. 2014;209:816-827.2)国立国際医療研究センター 国際感染症センター. 重症熱性血小板減少症候群(SFTS)診療の手引き. 第3 版. 2014. (参照2015.3.27)3)Kim WY, et al. Clin Infect Dis. 2015 Feb 18. [Epub ahead of print]4)Gai Z, et al. Clin Infect Dis. 2012;54:249-252.

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病院‐地域連携のコツ 糖尿病腎症の透析予防

 2015年2月5日、都内にて「糖尿病腎症の透析予防」をテーマにプレスセミナー(主催:ノボ ノルディスクファーマ株式会社)が開催された。本セミナーでは、糖尿病患者の腎障害が重症化して透析導入となることを防ぐため、病院と地元行政が連携して行っている新たな取り組みが発表された。■1人当たり年間500万円! 経済を圧迫する透析患者の医療費 高齢化が進展する日本において、透析による医療費増が財政圧迫の原因として課題となっている。透析患者の医療費は1人当たり年間500万超、総額約1.4兆円にも上り、とくに高齢化の進む地方自治体では深刻な問題となってきている。 糖尿病腎症は、15年以上にわたって新規透析導入の原因疾患の第1位となっており、現在その約44%を占めている。透析につながる糖尿病腎症の悪化は、患者のQOLの低下だけではなく医療経済への影響が大きいため、厚生労働省による「健康日本21(第2次)」では、「糖尿病腎症による年間新規透析導入患者数の減少」が目標の1つとなっている。■行政と医療機関が連携するための3つのツールとは 上記のような国の政策を受けて、平井 愛山氏(千葉県循環器病センター 理事)は、糖尿病腎症の悪化による透析予防に対して、具体的な3つの対応策を紹介した。(1)「疫病管理MAP」を用いて、透析導入の可能性が高い患者を抽出し、優先的に介入する。(2)「透析予防指導ツール」を用いて、多職種が効率的に患者指導を行う。(3)「透析予防指導ワークフロー」を導入し、地域ぐるみの患者支援を実現する。 平井氏は、「今回の取り組みで、よりハイリスクな患者を優先して治療対象とし、多職種と連携して地域に根付いた質の高い患者指導を実践していくことが可能となった」と述べた。■優先的に治療患者を選定するには 平井氏が発案した「疾病管理MAP(以下、MAP)」は、尿検査(U-Alb、U-pro)と採血(eGFR、HbA1c)という簡便な検査結果を表計算ソフトにまとめることで、糖尿病患者の集団を危険度別に分類できる。この結果、効率的に治療患者を選定することができるという。MAPを用いることで、漏れのない腎症の評価と対象患者への積極的な指導介入が期待され、現在全国19の医療機関が導入している。■看護師・栄養士が連携して行う糖尿病透析予防指導とは 平井氏は、「糖尿病透析予防指導を実践するためには、『絵を用いた視覚的な指導』を『テーマを絞って』『短時間・頻回に』行うことが重要である」と強調した。そのうえで、多職種による協議を重ねて作成した「透析予防指導ツール(以下、指導ツール)」を基に、看護師による血圧・病態などの患者教育や栄養士による食事レシピ指導を紹介した。指導ツールをあらかじめ作成しておくことで、患者の診察の待ち時間などを利用した、短時間で効率的な指導を実践することが可能になるという。■地域連携における地元保健師が果たす役割とは 梅津 順子氏(埼玉県皆野町役場 健康福祉課)は、「透析予防指導ワークフロー(以下、指導ワークフロー)」を用いた医療機関と行政保健師の連携について紹介した。指導ワークフローを用いることで、病院から地域への情報提供をスムーズに行うことができる。地元保健師は指導ワークフローを基に患者宅を訪問し、指導内容の理解状況の確認・再指導やメンタルサポート、病院へのフィードバックをすることもできる。 梅津氏は、「指導ワークフローを基に地元保健師が患者の生活の場に赴くことで、患者の治療を困難とする原因を把握し、医療機関と共有することができた」と述べた。■今後の展望 継続した医療連携を行っていくためには、職域を越え、同じミッションを共有することで地域が一丸となって取り組む必要がある。平井氏は、「日本慢性疾患重症化予防学会」を立ち上げ、この取り組みを広げようとしている。同学会では、一人多病な高齢者の透析導入ハイリスク患者の抽出方法を確立し、透析予防に向け職種を越えた医療と行政の連携・協働を支援していく。 平井氏は、「本学会の取り組みは、特別な道具や薬を使用することなく、専門医がいない医療過疎地域でも糖尿病腎症の透析への悪化予防を期待できるものである」と強調した。

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PD4-5 Blood draws injections, blood pressure readings in the at-risk arm, and flying might not be associated with increases in arm volume: a prospective study.(Ferguson CM, USA)

患側上肢の採血、静脈注射、血圧測定および飛行は腕のボリュームの増加にはつながらないようである:前向き試験乳がん術後のリンパ浮腫に関する研究である。リンパ浮腫の一般的なリスク因子として、腋窩郭清や所属リンパ節領域への照射、術前の高いBMIが挙げられる。患者はしばしば採血や静脈注射、血圧測定、傷、飛行機による旅行、過度な運動を避けるようにアドバイスされている。しかしこれらの推奨は症例レベルの情報に基づいており、これらを避けた方がよいという確かなデータはない。そこで、患側上肢の採血、静脈注射、血圧測定、外傷および飛行が与える上肢ボリュームへの影響を大規模前向きコホート試験にて評価した。新規乳がん患者で術前、化学療法と放射線治療終了後および3~7ヵ月ごとに、ペロメトリーで両側上肢の測定を行い、上肢のボリューム変化を、片側術後では相対的ボリューム変化(RVC)、両側術後では体重で補正したボリューム変化(WAC)で定量化した。また、患者に対する質問紙も用いた。組み入れ基準は、3ヵ所以上上肢の測定がなされていること、術後6ヵ月以上経過していること、片側または両側乳房術後であることである。710人(片側560人、両側150人)、計860乳房で手術が行われた。治療の内訳は、センチネルリンパ節生検のみ64.5%、郭清18.8%、所属リンパ節領域までの照射は19%、化学療法38%、内分泌療法77%であった、リンパ浮腫をRVCまたはWAC 10%以上と定義したとき、24ヵ月で7.05%に認められた。単変量解析によるリスク因子評価は図のごとくである。多変量解析でRVCまたはWACの増加に関して、腋窩郭清はp<0.0001と有意に高く、外傷はp=0.0524とボーダーラインながら有意に高かった。【図】図を拡大する結論として、患側上肢の採血、静脈注射、血圧測定および飛行のようなリスク因子と上肢のボリュームとの間に、有意な関係は認められなかった。多変量解析で外傷は上肢のボリューム増加と関連していた。これらのデータは現在のガイドラインをサポートするものではなく、患者教育を改善するために有用であろうと著者は結んでいる。考えてみれば、患側上肢への針刺しなどがリンパ浮腫に与える影響に関して、しっかりとした研究はなかった。そのため臨床上有益なものとして紹介させていただいた。

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リクシアナ効能追加で静脈血栓症、心房細動に広がる治療選択肢

 2014年11月26日、都内にて「経口抗凝固療法の新潮流」をテーマにプレスセミナー(主催:第一三共株式会社)が開催された。本セミナーは、今年9月に同社のリクシアナ(一般名:エドキサバン)が、「非弁膜症性心房細動患者における虚血性脳卒中及び全身性塞栓症の発症抑制(AF)」および「静脈血栓塞栓症(深部静脈血栓症及び肺血栓塞栓症)の治療及び再発抑制(VTE治療・二次予防)」に対する、効能追加承認を取得したことを受けて行われたものである。ここでは、孟 真氏(横浜南共済病院 心臓血管外科部長)によって講演された静脈血栓塞栓症にフォーカスし、レポートする。静脈血栓塞栓症とは 「静脈血栓塞栓症」は深部静脈血栓症と肺血栓塞栓症に大別される。静脈壁損傷、血流停滞、凝固異常などが原因となって脚部、下腹部などに血栓が発生する疾患が、深部静脈血栓症である。血栓が血流に乗って肺へ到達し、肺動脈が詰まると、致死的な肺塞栓症となる。現在の静脈血栓治療の課題 静脈血栓塞栓症は抗凝固療法で予後が改善するというエビデンス1)に基づき、これまで本邦では注射薬(へパリン、Xa阻害薬)と経口薬(ワルファリン)による治療が行われてきた。しかし、効果に個人差があり、細やかな用量調節が必要、頻回な採血が必要、経口薬は効果発現に時間がかかる、薬物・食物間に相互作用が多い、などの課題が存在する。リクシアナへの期待 リクシアナは日本で2011年7月に発売された。これまで「下肢整形外科手術施行患者における静脈血栓塞栓症の発症抑制」の適応があったが、本年9月26日、「静脈血栓塞栓症(深部静脈血栓症及び肺血栓塞栓症)の治療及び再発抑制」もリクシアナの適応となった。 この適応拡大の科学的根拠となった第III相臨床試験がHokusai-VTE study2) だ。Hokusai-VTE study は37ヵ国439施設から8,292例の急性静脈血栓塞栓症患者(初期治療としてへパリン投与)が登録された無作為化二重盲検非劣性国際共同治験。対象はエドキサバン60mgまたは30mgを1日1回投与する群と、ワルファリンを投与する群のいずれか2群に無作為に割り付けられた。主要有効性評価項目は症候性静脈血栓塞栓症の再発、主要安全性項目は、重大な出血または重大ではないが臨床的に意義のある出血とされた。 本試験の結果、有効性の1次エンドポイントと設定された症候性静脈血栓塞栓症の再発は、エドキサバン群 130/4,118例(3.2%)とワルファリン群 146 /4,122例(3.5%)に発生し、ワルファリンに対するエドキサバンの非劣性が示された(ハザード比 0.89、95%信頼区間0.70~1.13、非劣性の p<0.001)。安全性の1次エンドポイントと設定された重大または臨床的意義のある出血は、エドキサバン群 349/4,118 例(8.5%)とワルファリン群 423 /4,122例(10.3%)に発生した(ハザード比 0.81、95%信頼区間0.71~0.94、優越性の p=0.004)。 この臨床試験の結果より、リクシアナは静脈血栓塞栓症再発における効果は標準治療であるワルファリンと同等で、重大または臨床的意義のある出血が有意に少ないことが示された。 また、リクシアナを使用することで、効果はモニタリングが不要で、頻回な採血を必要としないため患者の身体的・経済的な負担が軽減される、薬物・食事間の相互作用が少ない、など前述のような課題が解決することが期待される。 今回のリクシアナの適応拡大により、静脈血栓塞栓症における治療が大きく変わる可能性が示唆される。リクシアナの適応拡大における問題点 前述のとおり、リクシアナは2011年より、「下肢整形外科手術施行患者における静脈血栓塞栓症の発症抑制」を目的に、整形外科領域では20万例以上の投与経験がある。 しかし、今回承認された適応症への投与は、特定の基準を満たし、限定された医療機関で、徹底した治療管理を受けた、治験という特殊な集団におけるデータであり、リアルワールドでどのような結果になるかは予測できない。Xa阻害薬は、大出血などの重大な有害事象を発現する恐れがあり、リクシアナも、まずは専門医が使用経験を積み、投与データを収集・蓄積していくことが望まれる。

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D-ダイマーが臨床現場ですぐに測れたら

画像を拡大する静脈血栓塞栓症の鑑別指標であるD-ダイマーを、簡便な操作で短時間に測定できるキットがあることをご存じだろうか? そこで今回は、POCT(point of care testing)機器「コバスh 232」について、製造販売元であるロシュ・ダイアグノスティックス株式会社に聞いた。増加する静脈血栓塞栓症高齢化および生活の欧米化により、本邦でも静脈血栓塞栓症が増加している。静脈血栓塞栓症はまた、心筋梗塞以上に死亡率が高いとされる肺血栓塞栓症1-2)の原因となる。肺塞栓症研究会共同作業部会*の調査結果3)によれば、肺血栓塞栓症の主な危険因子は腹部・骨盤・下肢に対する手術後、高齢、BMI>25.3の肥満、長期臥床、悪性腫瘍などである。これらの要素は、日本の医療が抱えている題点であり、静脈血栓塞栓症は、今後日本においてより大きな問題となっていくと考えられる。*:肺塞栓症の病態の解明、診断能の向上、治療指針の確立、救命率向上の目的で三重大学を中心に肺塞栓症研究会と共に設立された。肺塞栓症に関する多くの研究データを発表している。しかしながら、静脈血栓塞栓症は症状がない場合が多く4)、診断がついた時点で重症化していることも少なくないという。従来のD-ダイマー測定の概念が変わる静脈血栓塞栓症の除外診断には、D-ダイマー検査が必須であり、肺塞栓症研究会ではD-ダイマー測定を推奨している5)。だが、これまでD-ダイマー測定は手軽に実施できるものではなかった。測定設備のある施設でも採血、遠心分離という手順を踏んで検査するため、結果がわかるまで数十分かかってしまう。また、設備がない診療所では外注検査となり、結果は翌日になることが多く、その場での判断はできない。コバスh 232は、D-ダイマーを静脈血全血で測定可能にしたPOCT装置である。小型、軽量、バッテリーでの稼働も可能であるため携帯しやすく、在宅でも使用可能である。そのうえ検査時間も短く、D-ダイマーは約10分で測定可能である。(コバスh 232はD-ダイマー以外にも、心筋トロポニンTやミオグロビン、CK-MB、NT-proBNPの測定も可能)。静脈血栓塞栓は重症化しても症状が出にくい場合もある3)。よって、その場ですぐに結果が得られるメリットは非常に大きいといえる。画像を拡大する電源を入れ、テストストリップをセットし、静脈血全血(150μL)を滴下し、測定ボタンを押す。これだけの操作で8~12分後には結果が表示される。東日本大震災仮設住宅での検診への活用携帯性やその場で測定結果が得られるという特性から、コバスh 232は東日本大震災被災地の仮設住宅の検診でも活用されている。その背景には、狭い住環境、高齢化、外出頻度の減少などから、仮設住宅住民の下肢静脈血栓症が問題となっている状況が挙げられる。そこで毎年、カタールフレンド基金の支援による、岩手県内各地仮設住宅での下肢静脈血栓症予防検診が盛岡市立病院などの主催で行われている。下肢静脈エコーなどとともに、コバスh 232によるD-ダイマー測定が実施される。実際、毎回数名の住民に静脈血栓の疑いが認められるという。拡大するD-ダイマー検査のメリットD-ダイマーの臨床現場での即時検査のメリットはこれだけにとどまらない。とくに婦人科領域での可能性は大きい。妊娠に伴う血液凝固能亢進は、静脈血栓塞栓の発症を増加させ、妊娠中・分娩後の母体死亡のリスクとなる。そのため、低用量ピルの副作用としての静脈血栓症対策として、厚労省は血栓症を念頭に置いた診療をするよう注意喚起している6)。D-ダイマーが臨床現場ですぐに測れたら…。そのメリットは顕在化している肺血栓塞栓症への移行予防にとどまらない。高齢者、長期臥床、生活習慣病患者、がん患者など、高リスク患者が潜在している領域にも、その役割は拡大していくであろう。1)Sakuma M, et al. Research Intern Med. 2003; 42:470-476.2)Watanabe J, et al. Jpn Circ J. 2001; 65:941-946.3)Nakamura M, et al. Clin Cardiol 2001; 24:132-138.4)Cushman M, et al. J Thrombosis. 2010; 8:1730-1735.5)肺塞栓症研究会 災害緊急避難時における肺塞栓症(いわゆるエコノミークラス症候群)に関する提言6)厚生労働省報道発表月経困難症治療剤「ヤーズ配合錠」投与患者での血栓症に関する注意喚起についてロシュ・ダイアグノスティックス コバスh 232の製品ページはこちら(ケアネット 細田 雅之)

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急性静脈血栓塞栓症(VTE)の治療戦略―4万5,000症例メタ解析(解説:中澤 達 氏)-267

急性静脈血栓塞栓症(VTE)の治療戦略について、8つの抗凝固療法の有効性、安全性について検討した結果、低分子量ヘパリン(LMWH)+ビタミンK拮抗薬療法との比較で他の療法に統計的な有意差はなかったが、有効性が最も小さいのは非分画ヘパリン(UFH)+ビタミンK拮抗薬であり、安全性ではリバーロキサバン、アピキサバンの出血リスクが最も低かったことが明らかにされた。 比較検討されたのは、LMWH+ビタミンK拮抗薬、UFH+ビタミンK拮抗薬、フォンダパリヌクス+ビタミンK拮抗薬、LMWH+ダビガトラン、LMWH+エドキサバン、リバーロキサバン、アピキサバン、LMWH単独の8つの抗凝固療法であった 2014年2月28日時点でMEDLINE、EMBASEを用いた系統的論文検索とエビデンスベースの論文レビューを実行。VTEの再発率、重大出血を報告していた無作為化試験を試験適格とした。2人のレビュワーがそれぞれ患者数、追跡期間、アウトカムなどの試験データを抽出しネットワークメタ解析にてプールし分析した。 発表論文1,197件が特定され、45試験、4万4,989例のデータが解析に組み込まれた。主要臨床および安全性アウトカムは、VTE再発と重大出血とした。 LMWH+ビタミンK拮抗薬と比較して、UFH+ビタミンK拮抗薬がVTE再発リスクの増大との関連がみられた(ハザード比[HR]:1.42、95%信用区間[CrI]:1.15~1.79)。治療3ヵ月間のVTE再発率は、LMWH+ビタミンK拮抗薬1.30%(95%CrI:1.02~1.62%)、UFH+ビタミンK拮抗薬群が1.84%(同:1.33~2.51%)であった。 一方、重大出血リスクは、LMWH+ビタミンK拮抗薬よりも、リバーロキサバン(HR:0.55、95%CrI:0.35~0.89)、アピキサバン(同:0.31、0.15~0.62)が低かった。治療3ヵ月間の重大出血発生率は、リバーロキサバン0.49%(95%CrI:0.29~0.85%)、アピキサバン0.28%(同:0.14~0.50%)、LMWH+ビタミンK拮抗薬0.89%(同:0.66~1.16%)であった。 これまで、いずれの治療戦略が最も有効および安全であるかについてのガイダンスは存在していなかった。メタ解析は、フォローアップ期間や登録患者が均一でないなど解釈には限界があるが、この検討は4万5,000症例という最大規模で、アウトカムはガイドラインに則り有症状の静脈血栓症再発と出血合併症であるので、ある程度は真実であると考えられる。有効性が最も小さいのはUFH+ビタミンK拮抗薬であったが、皮肉なことに臨床では重症肺梗塞には一般的に用いられている。 すでに「心房細動治療(薬物)ガイドライン(2013年改訂版)」では、新規抗凝固薬が第一選択となった。とくにCHADS2 1点では推奨がダビガトラン、アピキサバンでワルファリンは考慮可となっている。新規抗凝固薬はワルファリンの約20倍の薬価であるため、今後はcost-effectivenessかつ、採血や食事制限から解放されるという患者満足度の検討も必要であろう。●cost-saving=健康アウトカムが改善されるだけでなく、医療費抑制効果もある医療サービス●cost-effective=お金はかかる(医療費抑制効果はない)が、それと比較して得られる健康メリットが大きい医療サービス●cost-ineffective=お金がかかり、それにより得られる健康メリットが小さい医療サービス

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事例26 細菌培養同定検査の査定【斬らレセプト】

解説事例では左下肢の蜂窩織炎の患者に、D018細菌培養同定検査を実施したところC事由(医学的理由による不適当)で査定となった。レセプトには静脈採血があり、D018「3」細菌培養同定(血液)にて請求されている。血液に対して細菌培養同定を行う必要性のある病名が病名欄に表示されていない。嫌気性培養加算も算定されているが、血液に対して行う場合は、2ヵ所からの血液採取が奨励されており2回算定できる。事例では1回の算定であることと、診療報酬では「血液又は穿刺液」と記載されていることから、同一区分の穿刺液の入力誤りも考えられる。しかし、この区分の穿刺液は「胸水、腹水、髄液及び関節液」と規定されているので、蜂窩織炎の穿刺液に対しては適用されない。D018 「5」その他の部位からの検体の区分が適用される。いずれの理由にしても、レセプト上からは、医学的に不適当であることに変わりがないためC事由で査定となったものであろう。この事例では、蜂窩織炎からの穿刺液に対して検査が行われていた。医師が選択を迷わないように電子カルテの表示を変更した。

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アリスミアのツボ 第3回

Q7症状のない上室・心室期外収縮は、どの程度まで経過観察すべきでしょうか。心機能が正常ならば経過観察しない、という考え方ではどうでしょうか。私は基本的に心機能が正常である限り、期外収縮の経過観察をしていません。これには異論や反論があるかもしれません。心房期外収縮の場合「心房期外収縮の頻発は、放置するとやがて無症状の心房細動に発展してしまうのではないか?」という不安。これはそのとおりだと思います。しかし、問題はその発生確率だと思うのです。一見健康者で、心房期外収縮頻発が見られた例での心房細動の発生確率は、年間約1.5%とされています。これをどう見るか……人によって異なるかもしれません。心房期外収縮例をすべて経過観察しようとするのは、間違いではないのですが効率性に劣る気がします。これを行うための外来診療の時間があれば、もっと有意義な(もっと重篤な疾患をもつ患者のケアに)使えばよいのではないでしょうか。もちろん例外があります。心原性脳梗塞のようだけれども心房細動が見つかっていない患者、心房細動がひとたびもし生じてしまえば脳梗塞のリスクがきわめて高いという患者では、心房期外収縮の頻発を経過観察する価値が高まるでしょう。ただし、これらの患者の経過観察としての適切な方法はまだ誰も知りません。心室期外収縮の場合「心室期外収縮の頻発は、やがて心機能低下を引き起こしてしまうのではないか?」という不安。これもその可能性はあると思います。ただし、どのような発生確率が見込めるのかという確かな数字がない以上、そして基本的に予後はよいという情報がある以上、効率性という意味で経過観察の価値が低いと感じてしまうのです。脳梗塞とは異なり、心機能低下はirreversibleではありません。健康診断をきちんと受けることを指導する、というような経過観察でもよいのではないでしょうか。Q8発作性心房細動に対する抗不整脈薬の用い方について教えてください。安全性重視という考え方で、患者の意向次第で減量や中止も随時可能専門家の現場での用い方「抗不整脈薬の使い方がわからない。ガイドラインや教科書と、循環器内科医の実臨床での使い方がかなり違う気がする」というご意見もありました。抗不整脈薬は諸刃の剣と言われることから、どうしても経験則が幅を利かせているのが実情です。ESCの心房細動ガイドラインで書かれていることESCの心房細動ガイドラインにはこの抗不整脈薬の使い方の原則が書かれているので、それを引用しておきましょう。1)抗不整脈薬治療は症状を軽減する目的で行うものである2)抗不整脈薬で洞調律を維持する効果は“modest”である3)抗不整脈薬治療は心房細動の再発をなくすものでなく、減らすことで臨床的には成功と考えるべきだろう4)1つの抗不整脈薬が効果のない場合、他の抗不整脈薬が効果を示すことがあるかもしれない5)抗不整脈薬による新たな不整脈の出現、心外性副作用はしばしば生じる6)抗不整脈薬の選別は効果よりもまず安全性を指針とすべきである私の使い方私の臨床現場での用い方はこれを基本にしています。たとえば、抗不整脈薬をいつ始めて、いつ中止するのかについての一定の見解はないのですが、患者が心房細動の症状で困っている時に開始し(1参照)、その際あらかじめ発作が完全に消失するものではないことを伝え(2、3参照)、症状が軽くなればいつでも薬物の減量をトライし、症状に困らなくなればいつでも中止をトライする(6参照)、ということを基本にしています。もちろん、減量や中止によって患者が困るようになれば、また再開することはたびたびです(むしろ、そのほうが多いかもしれません)。ただ、これを行うことで患者が薬物の効果を実感してくれることもアドヒアランスを高めると思っています。Q9NOACをどのように開始すべきでしょうか?ワルファリン時代とまったく異なる抗凝固療法のやり方を会得する必要がありますワルファリン時代に染みついた慣習心房細動の脳卒中予防には抗凝固療法が必要です。抗凝固療法の仕方…これについては、あまりにもワルファリンを使用してきた歴史が長く、ワルファリン時代のやり方が身に染みついてしまっていることを私自身が痛感しました。そこで、ワルファリン時代とは異なるNOACによる抗凝固療法の私のやり方をまとめておきます。1)心房細動初診患者では(脳卒中の一次予防ならば)その日のうちに抗凝固療法を始めない。ワルファリン時代は初診患者で脳卒中予防の説明をして、ワルファリン1.5~2mg/dayをその日から開始していました。しかし、NOACでは危なっかしくてできないですね。初診日は、脳卒中に関する啓蒙、年齢、体重の把握、血清Cr、Hbの採血をするだけにしています。クリアチニンクリアランスを把握してから抗凝固療法はするものと考え、次の外来から(つまりクレアチニンクリアランスが手に入ってから)NOACを処方します。次回の外来までに脳卒中になってしまうのでは……と不安に思う方がおられるかもしれませんが、所詮ワルファリン時代も初診時に処方する少量のワルファリン量ではそもそも効いていませんでした。NOACを初診日に処方すると禁忌症例に処方してしまう可能性があり、こちらのほうが危険でしょう。また、貧血のある患者にNOACを処方するのも危険です。今まさに、じわじわとどこからか出血しているのかもしれないからです。2)2週間以内の出血に関する問診とHbのチェックを忘れないワルファリン時代はゆっくりと抗凝固がなされ、しかもPT-INRによる処方量決定のためたびたび外来受診が行われるので、出血のケアは自然になされやすい環境にありました。しかし、長期処方が可能なNOACは大出血直前の気付きの機会を減らしています。そこで、私は、NOAC処方時には必ず2週間以内に受診してもらい、皮下出血、タール便の有無を聞き、必ずHbをチェックすることにしています。2週間でHbが明らかに減少していれば、どこからか出血していることになるからです。逆にHb値に変化がなければ安心できます。3)バイオマーカーはどうする?ワルファリン時代のPT-INRというモニタリングはなくなりました。では何もチェックしていないかというと、私は、ダビガトランではaPTT、リバーロキサバンとアピキサバンではPTをチェックしています。固定用量の薬物では必ず効きすぎの患者が、わずかといえども存在しているからです。ただし、これはモニタリングではありません。処方後2週間以内の外来で、Hbと一緒にバイオマーカーを一度採血するのです。バイオマーカーについては「あまり見かけないほど高い値である」ことがなければ、それで良しとしています。その後の採血ですが、クレアチニンクリアランスを高齢者では年に4回程度、若年者では年に1、2回チェックしますが、それと同時にこれらのバイオマーカーもチェックしています。NOACのバイオマーカーはモニタリングではなく、あくまでもチェックにすぎないのです。

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事例21 静脈採血料の査定(悪性腫瘍特異物質治療管理料と同日)【斬らレセプト】

解説200床未満の病院の事例である。静脈採血料がB事由(医学的に過剰・重複と認められるものをさす)を理由に査定となった。診療報酬点数表を確認してみる。事例では、血液検査と採血料のみを考えるのではなくB001の3の「悪性腫瘍特異物質治療管理料」を合わせて考えることが、ポイントである。同管理料の算定要件には、悪性腫瘍であるとすでに確定診断がされた患者に対して腫瘍マーカー検査を行い、当該検査の結果に基づいて計画的な治療管理を行った場合に算定するとある。また、当該腫瘍マーカーの検査に要する費用は、同管理料の所定点数に含まれるとある。この所定点数に含まれる費用には、「当該腫瘍マーカーに対する検査判断料および検査用血液採取のための静脈採血料が含まれる」と集団指導などで説明されている。したがって、1日につき1回の算定とされている静脈採血料は、同管理料で算定済みと解釈され、同一日に行った他の検査に対する静脈採血料は算定できないことを理由に、査定されたものである。

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13種類のがんを1回の採血で診断―次世代のがん診断システム開発プロジェクト始動

 8月18日(月)、独立行政法人国立がん研究センター(東京都中央区)は、血液から乳がんや大腸がんなど13種類のがんを診断するシステムの開発を始めると発表した。 これは、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が、国立がん研究センター(以下、NCC)、東レ株式会社(以下、東レ)およびアカデミア、企業など他の7機関とともに、健康診断などで簡便にがんや認知症を検査できる世界最先端の診断機器・検査システムの開発を行うプロジェクトの一環である。計画では、患者への負担が小さく、より早期に一度にさまざまながんを診断できる技術の開発を支援することを目的としている。 血液検査によるがんの早期発見では、胃がん、食道がん、肺がん、肝臓がん、胆道がん、膵臓がん、大腸がん、卵巣がん、前立腺がん、膀胱がん、乳がん、肉腫、神経膠腫の13種をターゲットにしている。 具体的には、NCCに蓄積された膨大な臨床情報とバイオバンクの検体、マイクロRNA腫瘍マーカーについての研究成果を基盤とし、東レが開発した高感度DNAチップと、東レとNCCが共同開発した血液中に存在するマイクロRNAバイオマーカーの革新的な探索方法を活用して、体液中のマイクロRNAの発現状態についてのデータベースを構築、網羅的に解析するというもの。 この測定技術により、がんや認知症の早期発見マーカーを見出し、これらのマーカーを検出するバイオツールを世界に先駆け実用化することを目指すとしている。詳細はプレスリリースへ

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当直あれこれ【Dr. 中島の 新・徒然草】(027)

二十七の段 当直あれこれ当院では当直ワーキングという会議があります。当直時間帯に起こったさまざまなトラブルに対して対策を考える会議で、当初は「もぐら叩きの会」と称して3人でやっていたのですが、徐々に人数が増えて今は十数人での会議になりました。トラブルの把握は当直日誌やアンケートをもとにして行うのですが、驚くほどいろいろなことが起こっています。現在進行形のことを述べるのは差し支えがあるので、数年前の記録から少し拾ってみましょう。採血が1回でうまくいかず、2回針を刺したことに患者さんが憤慨して、身体診察を拒否されたかかりつけの患者さんから当直医に電話相談があり、気がつくと対応に1時間もかかっていた夜間に入院となった患者さんと御家族に病状説明を行うつもりが、次々に救急車がやってきたため後回しになり、結果的に4時間も待たせることになってしまった電子カルテの動作不良で、せっかくの記載が消えてしまい、同じことを2回書くはめになった夜間休日だけ受診して、まとまった日数の処方を要求する慢性疾患の患者さんがいるなどなど。最後の例については夜間休日だけに受診する患者さんが複数いるらしく、「昼間に主治医の外来を受診してください」と説明しても、なかなか行動が改まりません。そして、このような人が1人か2人だけならまだしも、数が増えてくると、当直業務にも影響が出てしまいます。事の良し悪しより、程度の問題ですね。当直といえば、私自身も救急外来で軽症患者さんの診察を行っているときに病棟での急変に呼び出され、そちらの処置をしている間に、最初の患者さんの存在をすっかり忘れてしまっていた、という経験があります。今、思い出しても冷や汗ものです。「えらいこっちゃ!」と真っ青になって救急外来に戻った時には3時間ほど経っていたのですが、救急の先生が気を利かせて診察し、すでに帰宅させてくれていました。尻を拭いたり拭かれたり。今となっては遠い昔の話です。

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肥満の閉塞性睡眠時無呼吸患者へのCPAP+減量介入の効果は?/NEJM

 肥満を伴う閉塞性睡眠時無呼吸患者の治療において、持続陽圧呼吸療法(CPAP)と減量介入の併用療法は、それぞれの単独療法に比べC反応性蛋白(CRP)値を改善しないことが、米国・ペンシルバニア大学のJulio A Chirinos氏らの検討で示された。肥満と閉塞性睡眠時無呼吸は併存する傾向があり、炎症やインスリン抵抗性、脂質異常症、高血圧との関連が知られているが、その因果関係は解明されていない。これまでに行われた心血管リスクに関する減量介入の試験に閉塞性睡眠時無呼吸患者は含まれておらず、CPAPの試験で肥満への介入を含むものはないという。NEJM誌2014年6月12日号掲載の報告。併用による増分効果を無作為化試験で評価 研究グループは、肥満を伴う閉塞性睡眠時無呼吸患者の治療におけるCPAP、減量介入、CPAP+減量介入の効果を比較する無作為化試験を実施した。対象は、BMI≧30、中等度~重度の閉塞性睡眠時無呼吸(無呼吸低呼吸指数[AHI]≧15回、AHI:睡眠1時間当たりの無呼吸、低呼吸の合計回数)、CRP>1.0mg/Lの患者とした。 CPAPは、個々の患者に合わせて機器を調整した後、毎晩施行した。減量介入は、週1回のカウンセリングを行い、カロリー摂取目標を体重114kg未満の患者は1,200~1,500kcal/日に、114kg以上の場合は1,500~1,800kcal/日に設定した。治療期間は24週であった。 ベースライン、8週、24週時に、CRP値(主要評価項目)、インスリン感受性(副次評価項目)、脂質値(同)、収縮期血圧(探索的評価項目)などを測定し、CPAPと減量介入の併用による各単独療法に対する増分効果の評価を行った。インスリン感受性の測定は、頻回採血ブドウ糖静注負荷試験で行った。CRP改善の増分効果はないが、厳格な治療遵守で収縮期血圧が改善 181例が登録され、併用群に62例(平均年齢49.0歳、男性53.2%、平均BMI 38.4、平均AHI 47.1回/時、高感度CRP中央値4.3mg/L)、CPAP群に58例(49.8歳、60.3%、39.8、41.2回/時、4.7mg/L)、減量群には61例(48.3歳、59%、38.1、39.7回/時、4.4mg/L)が割り付けられた。1回以上の評価が行われた146例が解析の対象となった。 24週の治療により、併用群と減量群ではCRP値(いずれもp<0.001)、インスリン抵抗性(p<0.001、p=0.01)、血清トリグリセライド(TG)値(p<0.001、p=0.03)が有意に改善したが、CPAP群ではこのような変化は認められなかった。収縮期血圧は3群のすべてで有意に低下した(併用群:p<0.001、CPAP群:p=0.02、減量群:p<0.007)。 併用群では、CPAP群や減量群に比べ、CRP値の有意な増分効果は認められなかったが、減量群ではCPAP群に比し有意に低下した(p=0.01)。また、併用群では、CPAP群に比べインスリン抵抗性(p=0.01)および血清TG値(p=0.046)が有意に改善したが、併用群と減量群には有意な差はなかった。 事前に規定されたアドヒアランスの基準を満たした90例(併用群:24例、CPAP群:39例、減量群:27例)を対象にper-protocol解析を行ったところ、併用群ではCPAP群、減量群に比べ、収縮期血圧(p<0.001、p=0.02)が有意に改善された。同様に、平均動脈圧も併用群が各単独群に比べ有意に改善した。 著者は、「CPAPと減量介入の併用によるCRP改善の増分効果は認めなかったが、併用レジメンの厳格な治療遵守により収縮期血圧で増分効果が得られる可能性がある」とまとめ、「肥満を伴う閉塞性睡眠時無呼吸患者の治療戦略では、減量介入が重要な要素であることが示唆される」と指摘している。

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1分でわかる家庭医療のパール ~翻訳プロジェクトより 第9回

第9回:外来で出会う潜在性の消化管出血へのアプローチをどのように行うか? 外来診療の中で、採血を行った際に鉄欠乏性貧血を偶然発見する、大腸がんのスクリーニング検査で便潜血検査を行うと陽性であった、といったことはしばしば経験することだと思います。しかし、出血源を正しく評価するためにどのようにアプローチしていくかは、検査の侵襲性の問題もあり、頭を悩ませることも時にはあるかと思います。原因の検索のために確立された評価法を確認することで、このよくある問題に対する診療の一助となれば幸いです。 以下、 American Family Physician 2013年3月15日号1)より潜在性消化管出血1.概要潜在性消化管出血とは、明らかな出血は認められないが便潜血検査が陽性である消化管出血、または便潜血検査の結果に限らず鉄欠乏性貧血を認めている消化管出血と定義される。消化管出血の段階的な評価は確立されており、上下部内視鏡で消化管出血が診断つく人は48~71%に上る。繰り返し上下部の内視鏡で精査されて、見逃されていた病変が見つかる人は、出血が再発する患者の中で35%程度いる。もし上下部内視鏡で診断がつかない場合はカプセル内視鏡を行うことで、病変の診断率は61~74%に及ぶ。便潜血検査が陽性でも、詳細な評価を行わずして、低用量アスピリンや抗凝固薬が原因であるとしてはならない。2.病因上部消化管から小腸にかけての出血が鉄欠乏性貧血の原因となることが多い。 上部消化管(頻度:29~56%)食道炎、食道裂孔ヘルニア、胃十二指腸潰瘍、血管拡張、胃がん、胃前庭部毛細血管拡張症 大腸病変(頻度:20~30%)大腸ポリープ、大腸がん、血管拡張症、腸炎 上下部消化管の同時性の出血(1~17%) 出血源不明(29~52%)年齢での出血の原因としての頻度は、 40歳以下小腸腫瘤(最も原因として多い)、Celiac病、クローン病 40歳以上血管拡張、NSAIDsが最もcommon まれな原因感染(鈎虫)、長距離走(⇒内臓の血流が増加し、相対的に腸管の虚血が起こると考えられている)3.病歴と身体診察消化管出血、手術の既往または病因の聴取が重要な診断の手掛かりとなる。体重減少は、悪性腫瘍を示唆し、アスピリンや他のNSAIDs使用者の腹痛は、潰瘍性の粘膜障害を示唆する。抗凝固剤や、抗血小板剤は出血を引き起こす可能性がある。消化管出血の家族歴では遺伝性出血性血管拡張(唇、舌、手掌に血管拡張)、青色ゴム母斑症候群(Blue rubber bleb nevus syndrome:BRBNS 皮膚・腸管・軟部組織の静脈奇形)を示唆するかもしれない。胃のバイパス術は鉄吸収不良を引き起こす。肝疾患の既往や肝の出血斑は門脈圧亢進性胃症・腸症を示唆している。その他の有用な身体所見として、ヘルペス状皮膚炎(celiac病)、結節紅斑(クローン病)、委縮した舌とスプーン上の爪(Plummer-Vinson症候群)、過伸展した関節と眼球と歯の奇形(Ehlers-Danlos症候群)、口唇の斑点(Peutz-Jeghers症候群)などが挙げられる。4.診断的検査診断法の選択・流れは臨床的に疑う疾患の種類と随伴症状によって決められる。上部消化管出血(Vater乳頭近位部までの出血)は上部消化管内視鏡により診断が可能である。小腸近位部の出血はダブルバルーン内視鏡で診断が行える。小腸の中~遠位部の出血はカプセル内視鏡、バルーン内視鏡とCT検査で診断が可能である。下部消化管 (大腸出血)は下部消化管内視鏡で診断を行う。術中に行う内視鏡検査は前述した方法でもなお出血源が特定できず、出血が再発している患者に対しての選択肢として考えられる。5.評価方法・便潜血検査陽性で鉄欠乏性貧血を認めない場合アメリカ消化器病学会では段階的な評価を提唱している。 ・便潜血検査が陽性有無に限らず、鉄欠乏性貧血を認める場合男性と閉経後女性では消化管より出血していると想定できる。閉経前女性であれば月経による出血の可能性も考慮する。しかしながら、この集団においてはがんも含む大腸、上部消化管の病変の報告もある。 すべての患者において腸管外の出血(鼻出血、血尿、産科的出血)の評価は行わなければならない。※本内容は、プライマリ・ケアに関わる筆者の個人的な見解が含まれており、詳細に関しては原著を参照されることを推奨いたします。 1) Bull-Henry K, et al. Am Fam Physician. 2013; 87:430-436.

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熱射病で意識不明となった高校生を脳震盪と誤診したケース

救急医療最終判決判例時報 1534号89-104頁概要校内のマラソン大会中に意識不明のまま転倒しているところを発見された16歳高校生。頭部CTスキャンでは明かな異常所見がなかったため、顔面打撲、脳震盪などの診断で入院による経過観察が行われた。当初から意識障害があり、不穏状態が強く、鎮静薬の投与や四肢の抑制が行われた。入院から約3時間後に体温が40℃となり、意識障害も継続し、解熱薬、マンニトールなどが投与された。ところが病態は一向に改善せず、入院から約16時間後に施行した血液検査で高度の肝障害、腎障害が判明した。ただちに集中治療が行われたが、多臓器不全が進行し、入院から約20時間後に死亡確認となった。詳細な経過患者情報学校恒例のマラソン大会(15km走)に参加した16歳男性経過1987年10月30日13:30マラソンスタート(気温18℃、曇り、湿度85%)。14:45スタートから約11.5km地点で、意識不明のまま転倒しているところを発見され、救急室に運び込まれた。外傷として顔面打撲、口唇、前歯、舌、前胸部などの傷害があり、両手で防御することなくバッタリ倒れたような状況であった。診察した学校医は赤っぽい顔で上気していた生徒を診て脱水症を疑い、酸素投与、リンゲル500mLの点滴を行ったが、意識状態は不安定であった。15:41脳神経外科病院に搬送され入院となる(搬送時体動が激しかったためジアゼパム(商品名:セルシン1A)使用)。頭部・胸部X線写真、頭部CTスキャンでは異常所見なし。当時担当医は手術中であったため、学校医により転倒時に受傷した口唇、口腔内の縫合処置が行われた(鎮静目的で合計セルシン®4A使用)。18:30意識レベル3-3-9度方式で100、体動が激しかったため四肢が抑制された。血圧98(触診)、脈拍118、体温40℃。学校の教諭に対し「見た目ほど重症ではない、命に別状はない」と説明した。19:00スルピリン(同:メチロン)2A筋注。クーリング施行。下痢が始まる。21:00血圧116(触診)、体動が著明であったが、痛覚反応や発語はなし。マンニトール250mL点滴静注。10月31日00:00体温38.3℃のためメチロン®1A筋注、このときまでに大量の水様便あり。03:00体温38.0℃、四肢冷感あり。体動は消失し、外観上は入眠中とみられた。このときまでに1,700mLの排尿あり。引き続きマンニトール250mL点滴静注。その後排尿なくなる。06:00血圧測定不能、四肢の冷感は著明で、痛覚反応なし。血糖を測定したところ測定不能(40以下)であったため、50%ブドウ糖100mL投与。さらにカルニゲン®(製造中止)投与により、血圧104(触診)、脈拍102となった。06:40脈拍触知不能のため、ドパミン(同:セミニート(急性循環不全改善薬))投与。その後血圧74/32mmHg、脈拍142、体温38.3℃。08:00意識レベル3-3-9度方式で100-200、血糖値68のため50%ブドウ糖40mL静注。このときはじめて生化学検査用の採血を行い、大至急で依頼。09:00集中治療室でモニターを装着、中心静脈ライン挿入、CVP 2cmH2O。10:00採血結果:BUN 38.3、Cre 5.5、尿酸18.0、GOT 901、GPT 821、ALP 656、LDH 2,914、血液ガスpH7.079、HCO3 13.9、BE -16.9、pO2 32.0という著しい代謝性アシドーシス、低酸素血症が確認されたため、ただちに気管内挿管、人工呼吸器による間欠的陽圧呼吸実施、メイロン®200mL投与などが行われた10:50心停止となり、蘇生開始、エピネフリン(同:ボスミン)心腔内投与などを試みるが効果なし。11:27急性心不全として死亡確認となる。当事者の主張患者側(原告)の主張1.診察・検査における過失学校医や教諭から詳細な事情聴取を行わず、しかも意識障害がみられた患者に対し血液一般検査、血液ガス検査などを実施せず、単純な脳震盪という診断を維持し続け、熱射病と診断できなかった2.治療行為における過失脱水状態にある患者にマンニトールを投与し、医原性脱水による末梢循環不全、低血圧性ショックを起こして死亡した。そして、看護師は十分な観察を行わず、担当医師も電話で薬剤の投与を指示するだけで十分な診察を行わなかった3.死亡との因果関係病院搬入時には熱射病が不可逆的段階まで達していなかったのに、診察、検査、治療が不適切、不十分であったため、熱射病が改善されず、低血糖症を併発し、脱水症も伴って末梢循環不全のショック状態となって死亡した病院側(被告)の主張1.診察・検査における過失学校医は意識障害の原因が脳内の病変にあると診断して当院に転医させたのであるから、その診断を信頼して脳神経外科医の立場から診察、検査、経過観察を行ったので、診察・検査を怠ったわけではない。また、学校医が合計4Aのセルシン®を使用したので、意識障害の原因を鑑別することがきわめて困難であった2.治療行為における過失マンニトールは頭部外傷患者にもっとも一般的に使用される薬剤であり、本件でCTの異常がなく、嘔吐もなかったというだけでは脳内の異常を確認することはできないため、マンニトールの投与に落ち度はない3.死亡との因果関係搬入後しばらくは熱射病と診断できなかったが、輸液、解熱薬、クーリングなどの措置を施し、結果的には熱射病の治療を行っていた。さらに来院時にはすでに不可逆的段階まで病状が悪化しており、救命するに至らなかった裁判所の判断1. 診察・検査における過失転倒時からの詳細な事情聴取、諸検査の実施およびバイタルサインなどについての綿密な経過観察などにより、熱射病および脱水を疑うべきであったのに、容易に脳震盪によるものと即断した過失がある。2. 治療行為における過失病院側は搬送直後から輸液、解熱薬の投与、クーリングなどを施行し、結果的には熱射病の治療義務を尽くしたと主張するが、熱射病に対する措置や対策としては不十分である。さらに多量の水様便と十分な利尿があったのにマンニトールを漫然と使用したため、脱水状態を進展させ深刻なショック状態を引き起こした。さらに、夜間の全身状態の観察が不十分であり、ショック状態に陥ってからの対処が不適切であった。3. 死亡との因果関係病院側は、患者が搬送されてきた時点で、すでに熱射病が不可逆的状態にまで進行していたと主張するが、当初は血圧低下傾向もなく、乏尿もなく、呼吸状態に異常はなく、熱射病により多臓器障害が深刻な段階に進んでいるとはいえなかったため、適切な対策を講ずれば救命された可能性は高かった。8,602万円の請求に対し、6,102万円の支払命令考察まずこのケースの背景を説明すると、亡くなった患者は将来医師になることを目指していた高校生であり、その父親は現役の医師でした。そのため、患者側からはかなり専門的な内容の主張がくり返され、判決ではそのほとんどが採用されるに至りました。本件で何よりも大事なのは、脱水症や熱射病といった一見身近に感じるような病気でも、判断を誤ると生命に関わる重大な危機に陥ってしまうということだと思います。担当された先生はご専門が脳神経外科ということもあって、頭部CTで頭蓋内病変がなかったということで「少なくとも生命の危険はない」と判断し、それ以上の検索を行わずに「経過観察」し続けたのではないかと思います。しかも、前医(学校医)が投与したセルシン®を過大評価してしまい、CTで頭蓋内病変がないのならば意識が悪いのはセルシン®の影響だろうと判断しました。もちろん、搬入直後の評価であればそのような判断でも誤りではないと思いますが、「脳震盪」程度の影響で、セルシン®を合計4Aも使用しなければならないほどの不穏状態になったり、40℃を越える高熱を発することは考えにくいと思います。この時点で、「CTでは脳内病変がなかったが、この意識障害は普通ではない」という考えにたどりつけば、内科的疾患を疑って尿検査や血液検査を行っていたと思います。しかも、頭部CTで異常がないにもかかわらず、意識障害や不穏を頭蓋内病変によるものと考えて強力な利尿作用のあるマンニトールを使用するのであれば、少なくとも電解質や腎機能をチェックして脱水がないことを確認するべきであっと思います。ただし、今回の施設は脳神経外科単科病院であり、緊急で血液検査を行うには外注に出すしかなかったため、入院時に血液生化学検査をスクリーニングしたり、容態がおかしい時にすぐに検査をすることができなかったという不利な点もありました。とはいうものの、救急指定を受けた病院である以上、当然施行するべき診察・検査を怠ったと認定されてもやむを得ない事例であったと思います。本件から得られる重要な教訓は、「救急外来で意識障害と40℃を超える発熱をみた場合には、熱射病も鑑別診断の一つにおき、頭部CTや血液一般生化学検査を行う」という、基本的事項の再確認だと思います。救急医療

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緑茶が認知機能低下リスクを減少~日本の前向き研究

 高齢者における認知症や軽度認知障害(MCI)の発症に、緑茶・コーヒー・紅茶の摂取が影響を与えるのか――。金沢大学神経内科の山田正仁氏、篠原もえ子氏らの研究グループは、石川県七尾市中島町での「なかじまプロジェクト」において、60歳超の地域住民の集団ベースによる前向き研究を実施した。その結果、緑茶をまったく飲まない群と比べて、緑茶を週に1~6回飲む群では約5年後の認知機能低下リスクが約1/2に、緑茶を毎日1杯以上飲む群では約1/3に減少した。一方、コーヒーや紅茶ではこのような認知機能低下との関連はみられなかった。PLoS One誌2014年5月14日号の掲載報告。 研究グループは、研究開始時に緑茶・コーヒー・紅茶の摂取頻度に関する質問、認知機能検査、採血検査を実施した。研究開始時(2007~2008年)の調査で認知機能が正常だった参加者723人のうち、490人が追跡調査(2011~2013年)を完遂した。性別、年齢、高血圧・糖尿病・脂質異常症の既往、教育年数、ApoE E4有無、喫煙、飲酒、緑茶・コーヒー・紅茶摂取頻度、運動・趣味の有無で調整して解析を行った(多変量ロジスティック解析)。 主な結果は以下のとおり。・追跡期間(平均±標準偏差:4.9±0.9年)における認知症の発症率は5.3%、MCIの発症率は13.1%であった。・緑茶をまったく飲まない群を基準とした場合、認知機能低下(認知症またはMCIの発症)の多変量調整オッズ比は、毎日1杯以上緑茶を飲む群では0.32(95%CI:0.16~0.64)、週に1~6日緑茶を飲む群では0.47(95%CI:0.25~0.86)であった。・認知症の発症については、緑茶をまったく飲まない群を基準とした場合、毎日緑茶を飲む群の多変量調整オッズ比は0.26(95%CI:0.06~1.06)であった。・コーヒーや紅茶の摂取頻度と認知症・MCIの発症の間には関連は認められなかった。

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統合失調症の症状、インターロイキン-2の関与が明らかに

 統合失調症の患者における認知能力の衰退と陰性症状に、インターロイキン2(IL-2)が関与している可能性が、ブラジル・サンパウロ連邦大学のElson Asevedo氏らによる検討の結果、示唆された。これまで、統合失調症においてIL-2が関与している可能性が示唆されていたが、どのような症状と関連しているかを調べる検討は行われていなかった。Physiology & Behavior誌2014年4月号の掲載報告。 研究グループは、統合失調症患者において、末梢IL-2値と症状および認知のパフォーマンスとの関連について調べ、末梢IL-2値について、統合失調症患者と健常対照者との比較も行った。パフォーマンスについては、DSM-IV基準で統合失調症と診断され治療を受けている外来患者と、健常対照者を対象に、陽性・陰性症状評価尺度(PANSS)、統合失調症に関するカルガリーうつ病評価尺度(CDSS)、臨床全般印象尺度(CGI)、全般機能評価尺度(GAF)にて評価して調べた。被験者の採血は、全員午前9~10時に、EDTA管を用いた静脈穿刺にて行われた。IL-2の血漿中濃度は、Cytometric Bead Array(CBA)法によって確定し、コンピュータによる神経心理学的検査で、言語学習能、ことばの流暢さ、作業記憶、変化に対する柔軟性(set shifting)、実行機能、抑制と知能を評価した。 主な結果は以下のとおり。・統合失調症患者29例と、健常対照者26例について検討が行われた。・統合失調症患者は、健常対照者よりIL-2値が低値であった(p<0.001)。・統合失調症患者群におけるIL-2値は、ディジットスパンテスト(rho=0.416、p=0.025)、知能評価(rho=0.464、p=0.011)のスコアとの間に明らかな相関を認めた。・また、IL-2値とPANSS陰性サブスケールの総スコアとの逆相関の関連性を認めた(rho=-0.447、p=0.015)。関連医療ニュース 双極性障害の認知障害にインターロイキン-1が関与 治療抵抗性統合失調症女性、エストラジオールで症状改善 統合失調症では自己免疫疾患リスクが1.53倍

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検査所見の確認が遅れて心筋炎を見落とし手遅れとなったケース

循環器最終判決判例時報 1698号98-107頁概要潰瘍性大腸炎に対しステロイドを投与されていた19歳男性。4日前から出現した頭痛、吐き気、血の混じった痰を主訴に近医受診、急性咽頭気管支炎と診断して抗菌薬、鎮咳薬などを処方した。この時胸部X線写真や血液検査を行ったが、結果は後日説明することにして帰宅を指示した。ところが翌日になっても容態は変わらず外来再診、担当医が前日の胸部X線写真を確認したところ肺水腫、心不全の状態であった。急性心筋炎と診断してただちに入院治療を開始したが、やがて急性腎不全を合併。翌日には大学病院へ転送し、人工透析を行うが、意識不明の状態が続き、初診から3日後に死亡した。詳細な経過患者情報19歳予備校生経過1992年4月10日潰瘍性大腸炎と診断されて近所の被告病院(77床、常勤内科医3名)に入院、サラゾスルファピリジン(商品名:サラゾピリン)が処方された。1993年1月上旬感冒症状に続き、発熱、皮膚の発赤、肝機能障害、リンパ球増多がみられたため、被告病院から大学病院に紹介。2月9日大学病院に入院、サラゾピリン®による中毒疹と診断されるとともに、ステロイドの内服治療が開始された。退院後も大学病院に通院し、ステロイドは7.5mg/日にまで減量されていた。7月10日頭痛を訴えて予備校を休む。次第に食欲が落ち、頭痛、吐き気が増強、血の混じった痰がでるようになった。7月14日10:00近所の被告病院を初診(以前担当した消化器内科医が診察)。咽頭発赤を認めたが、聴診では心音・肺音に異常はないと判断(カルテにはchest clearと記載)し、急性咽頭気管支炎の診断で、抗菌薬セフテラムピボキシル(同:トミロン)、制吐薬ドンペリドン(同:ナウゼリン)、鎮咳薬エプラジノン(同:レスプレン)、胃薬ジサイクロミン(同:コランチル)を処方。さらに胸部X線写真、血液検査、尿検査、喀痰培養(一般細菌・結核菌)を指示し、この日は検査結果を待つことなくそのまま帰宅させた(診察時間は約5分)。帰宅後嘔気・嘔吐は治まらず一段と症状は悪化。7月15日10:30被告病院に入院。11:00診察時顔面蒼白、軽度のチアノーゼあり。血圧70/50mmHg、湿性ラ音、奔馬調律(gallop rhythm)を聴取。ただちに前日に行った検査を取り寄せたところ、胸部X線写真:心臓の拡大(心胸郭比53%)、肺胞性浮腫、バタフライシャドウ、カーリーA・Bラインがみられた血液検査:CPK 162(20-100)、LDH 1,008(100-500)、白血球数15,300、尿アセトン体(4+)心電図検査:心筋梗塞様所見であり急性心不全、急性心筋炎(疑い)、上気道感染による肺炎と診断してただちに酸素投与、塩酸ドパミン(同:イノバン)、利尿薬フロセミド(同:ラシックス)、抗菌薬フロモキセフナトリウム(同:フルマリン)とトブラマイシン(同:トブラシン)の点滴、ニトログリセリン(同:ニトロダームTTS)貼付を行う。家族へは、ステロイドを服用していたため症状が隠されやすくなっていた可能性を説明した(この日主治医は定時に帰宅)。入院後も吐き気が続くとともに乏尿状態となったため、非常勤の当直医は制吐薬、昇圧剤および利尿薬を追加指示したが効果はなく、人工透析を含むより高度の治療が必要と判断した。7月16日主治医の出勤を待って転院の手配を行い、大学病院へ転送。11:00大学病院到着。腎不全、心不全、肺水腫の合併であると家族に説明。14:00人工透析開始。18:00容態急変し、意識不明となる。7月17日01:19死亡確認。当事者の主張患者側(原告)の主張1.病因解明義務初診時に胸部X線写真を撮っておきながら、それを当日確認せず心筋炎、肺水腫を診断できなかったのは明らかな過失である。そして、胸部X線で肺水腫があれば湿性ラ音を聴取することができたはずなのに、異常なしとしたのは聞き漏らしたからである2.転院義務初診時の病態はただちに入院させたうえで集中治療を開始しなければならない重篤なものであり、しかも適切な治療設備がない被告病院であればただちに治療可能な施設へ転院させるべきなのに、病因解明義務を怠ったために転院措置をとることができなかった初診時はいまだ危機的状況とまではいえなかったので、適切な診断を行って転院措置をとっていれば救命することができた病院側(被告)の主張1.病因解明義務初診時には急性咽頭気管支炎以外の異常所見がみられなかったので、その場でX線写真を検討しなかったのはやむを得なかった。また、心筋炎があったからといって必ず異常音が聴取されるとはいえないし、患者個人の身体的原因から異常音が聴取されなかった可能性がある2.転院義務初診時の症状を急性咽頭気管支炎と診断した点に過失がない以上、設備の整った病院に転院させる義務はない。仮に当初から心筋炎と診断して転院させたとしても、その重篤度からみて救命の可能性は低かったさらに大学病院の医師から提案されたPCPS(循環補助システム)による治療を家族らが拒否したことも、死亡に寄与していることは疑いない裁判所の判断当時の状況から推定して、初診時から胸部の異常音を聴取できるはずであり、さらにその時実施した胸部X線写真をすぐに確認することによって、肺水腫や急性心筋炎を診断することは可能であった。この時点ではKillip分類class 3であったのでただちに入院として薬物療法を開始し、1時間程度で病態の改善がない時には機械的補助循環法を行うことができる高度機能病院に転院させる必要があり、そうしていれば高度の蓋然性をもって救命することができた。初診患者に上記のような判断を求めるのは、主治医にとって酷に過ぎるのではないかという感もあるが、いやしくも人の生命および健康を管理する医業に従事する医師に対しては、その業務の性質に照らし、危険防止のため必要とされる最善の注意義務を尽くすことが要求されることはやむを得ない。原告側合計7,998万円の請求に対し、7,655万円の判決考察「朝から混雑している外来に、『頭痛、吐き気、食欲がなく、痰に血が混じる』という若者が来院した。診察したところ喉が赤く腫れていて、肺音は悪くない。まず風邪だろう、ということでいつも良く出す風邪薬を処方。ただカルテをみると、半年前に潰瘍性大腸炎でうちの病院に入院し、その後大学病院に移ってしまった子だ。どんな治療をしているの?と聞くと、ステロイドを7.5mg内服しているという。それならば念のため胸部X線写真や採血、痰培をとっおけば安心だ。ハイ次の患者さんどうぞ・・・」初診時の診察時間は約5分間とのことですので、このようなやりとりがあったと思います。おそらくどこでも普通に行われているような治療であり、ほとんどの患者さんがこのような対処方法で大きな問題へと発展することはないと思います。ところが、本件では重篤な心筋炎という病態が背後に潜んでいて、それを早期に発見するチャンスはあったのに見逃してしまうことになりました。おそらく、プライマリケアを担当する医師すべてがこのような落とし穴にはまってしまうリスクを抱えていると思います。ではどのような対処方法を採ればリスク回避につながるかを考えてみると、次の2点が重要であると思います。1. 風邪と思っても基本的診察を慎重に行うこと今回の担当医は消化器内科が専門でした。もし循環器専門医が患者の心音を聴取していれば、裁判官のいうようにgallop rhythmや肺野の湿性ラ音をきちんと聴取できていたかも知れません。つまり、混雑している外来で、それもわずか5分間という限定された時間内に、循環器専門医ではない医師が、あとで判明した心筋炎・心不全に関する必要な情報を漏れなく入手することはかなり困難であったと思われます。ところが裁判では、「いやしくも人の生命および健康を管理する医業に従事する医師である以上、危険防止のため必要とされる最善の注意義務を尽くさなければいけない」と判定されますので、医学生の時に勉強した聴打診などの基本的診察はけっしておろそかにしてはいけないということだと思います。私自身も反省しなければいけませんが、たとえば外来で看護師に「先生、風邪の患者さんをみてください」などといわれると、最初から風邪という先入観に支配されてしまい、とりあえずは聴診器をあてるけれどもざっと肺野を聞くだけで、つい心音を聞き漏らしてしまうこともあるのではないでしょうか。今回の担当医はカルテに「chest clear」と記載し、「心音・肺音は確かに聞いたけれども異常はなかった」と主張しました。ところが、この時撮影した胸部X線写真にはひどい肺水腫がみられたので、「異常音が聴取されなければおかしいし、それを聞こえなかったなどというのはけしからん」と判断されています。多分、このような危険は外来患者のわずか数%程度の頻度とは思いますが、たとえ厳しい条件のなかでも背後に潜む重篤な病気を見落とさないように、慎重かつ冷静な診察を行うことが、われわれ医師に求められることではないかと思います。2. 異常所見のバックアップ体制もう一つ本件では、せっかく外来で胸部X線写真を撮影しておきながら「急現」扱いとせず、フィルムをその日のうちに読影しなかった点が咎められました。そして、そのフィルムには誰がみてもわかるほどの異常所見(バタフライシャドウ)があっただけに、ほんの少しの配慮によってリスクが回避できたことになります。多くの先生方は、ご自身がオーダーした検査はなるべく早く事後処理されていることと思いますが、本件のように異常所見の確認が遅れて医事紛争へと発展すると、「見落とし」あるいは「注意義務違反」と判断される可能性が高いと思います。一方で、多忙な外来では次々と外来患者をこなさなければならないというような事情もありますので、すべての情報を担当医師一人が把握するにはどうしても限界があると思います。そこで考えられることは、普段からX線技師や看護師、臨床検査技師などのコメデイカルと連携を密にしておき、検査担当者が「おかしい」と感じたら(たとえ結果的に異常所見ではなくても)すぐに医師へ報告するような体制を準備しておくことが重要ではないかと思います。本件でも、撮影を担当したX線技師が19歳男子の真っ白なX線写真をみて緊急性を認識し、担当医師の注意を少しでも喚起していれば、医事紛争とはならないばかりか救命することができた可能性すらあると思います。往々にして組織が大きくなると縦割りの考え方が主流となり、医師とX線技師、医師と看護師の間には目にみえない壁ができてセクショナリズムに陥りやすいと思います。しかし、現代の医療はチームで行わなければならない面が多々ありますので、普段から勉強会を開いたり、症例検討会を行うなどして医療職同士がコミュニケーションを深めておく必要があると思います。循環器

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鼠径ヘルニアの手術中に心肺停止を来して死亡したケース

小児科最終判決判例時報 1656号117-129頁概要両側鼠径ヘルニアと診断された1歳11ヵ月の男児。きちんとした術前検査が行われないまま、GOF全身麻酔下の両側ヘルニア手術が行われた。ところが、手術開始から48分後に呼吸停止・心拍停止状態となり、ただちに手術を中止して救急蘇生が行われたが、結局心肺は再開せずに死亡確認となった。裁判では、術前検査を行わずに手術に踏み切った無謀さと、記録の改竄が争点となった。詳細な経過患者情報1歳11ヵ月の男児経過1985年7月15日両側鼠径部の硬結を主訴に外科開業医を受診し、鼠径ヘルニアと診断された1歳11ヵ月の男児。その後硬結の増大がみられたため、根治手術を勧められた。1986年4月12日09:20母親に付き添われて入院。術前検査(心電図、一般採血など)は患者が泣いて嫌がったため省略した。13:00前投薬として硫酸アトロピンを筋注。13:30マスクによるGOF麻酔(笑気、酸素、フローセン)開始。この時看護師はみぞおちあたりが呼吸するたびに陥没するような状態になるのを認めた。麻酔担当医は心電図モニターで脈拍数を確認し、左前胸部に絆創膏で固定した聴診器で心音を聞き、マスクを保持している手で頸動脈の脈拍をはかることにより麻酔管理を行った。14:00まず右側の鼠径ヘルニア手術を開始、この時の脈拍104。ヘルニア嚢の壁は肥厚が著しく、周囲と強固に癒着していた。メス操作と同時に患者の体動がみられたため、フローセン濃度を2%→2.5%に変更(その後血圧がやや低下気味となったため、フローセン濃度を2%に下げた)。14:14脈拍180まで上昇。14:20脈拍120まで低下。14:41脈拍80まで低下。14:0014:0214:0314:14脈拍10412516018014:2014:3014:4114:48脈拍1209680014:48右側の鼠径ヘルニア手術完了後、左側の手術を開始してまもなく、麻酔医は無呼吸・心停止が生じたことに気付き、手術が中止された。ただちに気管内挿管、酸素増量(4L)心臓マッサージ、アドレナリン(商品名:ボスミン)、炭酸水素ナトリウム(同:メイロン)、塩化カルシウム、ヒドロコルチゾン(同:ソル・コーテフ)などを投与したところ、一時的に心室細動がみられた(当時この病院には除細動器は配備されていなかった)が、結局蘇生することはできず、死亡確認となった。当事者の主張患者側(原告)の主張1.心停止の原因舌根沈下を原因とする気道狭窄による換気不全から酸欠状態が生じ、さらに麻酔薬の過剰投与が加わって呼吸抑制を助長させ、心筋機能の抑制が相まって心停止となった2.問診および術前検査義務全身麻酔を施行するに当たっては、患者の問診、バイタルサイン、心電図検査、電解質などの血液検査を行うべきであるのに、体温と体重を計ったのみで問診や術前検査を一切行わなかった3.救命措置心停止の危険がある麻酔手術を実施する医療施設でありながら除細動器を備えていないのは、明らかな過失である4.記録の改竄麻酔記録、看護記録、手術記録などは、手術の際に作成されたものではなく、それとはまったく別のものに書き換えられたものである病院側(被告)の主張1.心停止の原因何らかの心機能異常があった可能性はあるが、解剖していないため解明不可能である。担当医師は何度も解剖を勧めたが家族に拒否されたため、突発的変化の原因の解明ができなかった2.問診および術前検査義務外来で問診を含めた診察をして、理学的所見や全身状態から全身麻酔による手術について問題のないことを確認していた。念のため術前から心電図検査をしようとしたが、患者が泣いて興奮し協力が得られなかったため実施できなかった。電解質検査は当日では間に合わないので行わなかったが、それまでの診察の間に検査を実施しなければならないと思わせる所見や経過はなかった3.救命措置除細動器が配備されていなかったためにカウンターショックの蘇生術を行えなかったが、当院程度の診療所に除細動器の配備を求めるのは無理である4.記録の改竄麻酔記録、看護記録、手術記録などが改竄された事実はない。看護記録、麻酔記録とでは脈拍や血圧の数値に食い違いが多々あるが、そのような食い違いがそのままになっているということは記録に作為が加えられていないことを示すものであり、責任を逃れる目的で改竄が行われたというのであればそのような食い違いが一致するように改竄されるはずである裁判所の判断1. 心停止の原因心停止の原因は、麻酔薬の過剰投与による低酸素症、ないし換気不全による不整脈による可能性が高い。そして、術中の脈拍が80にまで低下した14:41頃までには、循環系の異常を疑いそのまま放置すれば心停止に至ることもあり得ることを予見するべきであった。2. 問診および術前検査義務本件のような幼児に、手術を行う際に通常行われるべき一般検査、心臓、肺そのほかの検査も行わないで手術を施すというのは、無謀な感を否めない。採血は泣いて嫌がる状態にあって危険だとするが、手術日前にこれらの諸検査を試みた形跡はない。3. 救命措置全身麻酔下の手術を行う診療所に除細動器を配備することのぜひについては、裁判所の判断を提示せず。4. 記録の改竄当時勤務していた元看護師の証言などから判断して、看護記録は担当医師の主導により手術の際に作成されていた看護記録とは別に作成されたものである。麻酔記録もまた、手術の際に作成されたものとは別に作成されたものと疑われる。原告側合計6,038万円の請求に対し、5,907万円の判決考察本件の最大の問題点は、鼠径ヘルニアというどちらかというと軽症の病気を治療する際に、採血やバイタルサイン測定といった基本的な術前診察を怠ったことと、事態の重大さに後から気付いて看護記録や麻酔記録を改竄したという、医療従事者としては恥ずべき行為をしたことにあると思います。経過をご覧になってほとんどの先生方がお気づきになったかと思いますが、いくら術前の診察で元気そうにみえた幼児であっても、全身麻酔下の手術を行う以上きちんとした診察をしなければならないのはいうまでもありません。担当医師は、患者が泣き騒いだため心電図検査を施行することができなかったとか、自院では血液検査ができず結果がすぐにわからないことを理由としてあえて術前の血液検査をしなかったと主張しましたが、そのような言い訳が通用しないのは明白であると思います。しかも、乳幼児のヘルニア手術でマスク麻酔とするのは、経験のある麻酔科医が担当し、かつ術者が一人前で手術が短時間で終了するケースが望ましいとされています。また、年齢が低い場合や両側手術の場合には気管内挿管の適応となります(小児外科.1999;31:13-16.)。したがって、両側のヘルニア手術でしかも麻酔科専門医が担当していない本件でマスク麻酔を用いたのは、杜撰な術前・術中管理といわれても抗弁の余地はないと思います。おそらく、「なあんだ、ヘルニアのケースか」という安易な気持ちで手術に臨んだのではないでしょうか。そのような認識の甘さがあったために「本件のような幼児に、手術を行う際に通常行われるべき一般検査、心臓、肺そのほかの検査も行わないで手術を施すというのは、無謀な感を否めない」とまで判決文に記載されました。しかも、医療過誤として問われることを危惧したためか、事後処理としてカルテを改竄したのは裁判官の心証を著しく悪くし、ほぼ患者側の要求通りの判決額へと至りました。裁判の中では、担当医師が改竄を指示した様子が次のように記載されています。「本件手術日の後日、担当医師らは手術時の経過、処置について確認、整理をする目的で婦長らを院長室に呼び、担当医師がすでに看護記録用紙に記載していた部分を除く空白部分の処置、経過について尋ね、空白部分を埋める形で看護記録のメモを作成した。そして、そのメモをもとに実際に手術時に作成されていた看護記録とは別の看護記録が作成された」という事実認定を行っています。そのなかでも、事件後当該病院を辞職した担当看護師が改竄目的の看護記録の空欄部分を埋めるように婦長から指示された時に、「偽証するんですね」と述べたことを裁判で証言したため、もはや記録の改竄は動かし難い事実として認定されました。同様にカルテの改竄が問題となったケースとして、「喘息様気管支炎と診断した乳児が自宅で急死したケース」がありますが、今回のように公的文書と同じ扱いを受けるカルテを改竄したりすると、それだけでも医療機関の信用を大きく失い、訴訟の場では著しく不利な立場に立たされることを肝に銘じておかなければなりません。なお本件では裁判所の判断の通り、おそらく麻酔中の管理が悪かったために低酸素状態となり、ついには心停止を来した可能性が高いと思われます。ただし、もし病理解剖が行われたとしたら病院側の主張のように先天性心疾患などの別の原因がみつかったかもしれません。病理解剖を行わなかった理由として、「何度も勧めたが家族が拒否した」としていますが、本件のように死因が不詳のケースで家族から解剖の同意が得られないような場合には、「異状死体」として警察官による行政検視、さらには行政解剖を行うという道もあります。われわれ医師の感覚として、警察署に届け出るという行為自体が医療過誤を認めることにつながるのではないかという懸念があるとは思いますが、数々の紛争事案をみる限り、担当医師の立場で医療過誤ではないことを証明するには病理解剖が最大の根拠となります。したがって、「自分の医療行為は間違っていないのに、その結果が悪かった」というケースでは、紛争に巻き込まれることも考えてぜひとも病理解剖をするべきであると思います。小児科

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1分でわかる家庭医療のパール ~翻訳プロジェクトより 第1回

第1回:単純性憩室炎では、抗菌薬投与は回復を早めない 憩室炎の患者の多くは、腹痛を主訴に受診します。腹痛は、救急受診の10%程度を占める症状で、見逃すと重症化するものもあり、詳細な病歴と診察が必要とされます。憩室の頻度は高齢者に多く、40歳以下では10%以下ですが、85歳以上には80%以上存在する1)という報告があります。また、一般に西洋人の方が憩室を有する率が高いといわれていますが、食の西洋化によって、日本人にも増えてきていると考えられています2)。単純性憩室炎の患者の食事として勧められている“Clear Liquid Diet” とは、一日1,000kcal程度で、乳製品や脂肪分、食物繊維を含まない食事であり3)、日本では入院中の術後食をイメージしていただければと思います。 以下、本文 American Family Physician 2013年5月1日号1)より単純性憩室炎1.概要炎症が憩室のみに限局する状態であり、複雑性の憩室炎は膿瘍や蜂窩織炎、瘻孔、通過障害、出血や穿孔を伴うものをいう。2.症状 1)主な症状 左下腹部自発痛、圧痛、腹部膨満感、発熱 (「左下腹部のみに限局した痛み」陽性尤度比10.4) 2)その他の症状 食欲不振や、便秘、吐き気(「嘔吐がない」陰性尤度比0.2)、下痢、排尿障害3.検査 1)採血 : 末梢血液や電解質や腎機能などの生化学、尿検査や、CRP測定を行う。 2)CT : 最も有用な画像検査【Grade C】で、診断の決定と、病状の広がりや重症度を判断し、合併症を否定するのによい。 3)下部消化管内視鏡 : 複雑性の患者や高齢者で、症状が治まって4~6週間後に行うとよい。軽症で単純性の憩室炎の場合は、抗菌薬の投与が、回復を早めることはなく【Grade B】、合併症や再発を予防することはない。4.処置 1)経過観察 : 軽症で経口摂取が可能で、腹膜炎の徴候がなければ、Clear Liquid Dietで2、3日経過を見る。 2)入院(内科的対応) : 腹膜炎の徴候があったり、複雑性憩室炎の疑いがあれば、入院も考慮すべきである。 入院患者の治療として、補液や抗菌薬点滴を行う。 限局的に膿瘍があれば、CTガイド下の経皮的ドレナージを考えるべきである。 3)入院(外科的対応) : 急性憩室炎で入院している15~30%は入院中に外科的対応が必要とされる。 ラパロスコピーは開腹術と比較して、短期間の入院ですみ、合併症は少なく、入院中の死亡率も低い。 再発を繰り返す場合の外科的治療については、状態や既往歴、生活状況などを併せて個別的に考えるべきである。 4)再発予防 : 再発を予防するのは、食物繊維の摂取、運動、禁煙と、BMI 30以上の人は減量である。ナッツやコーン類を摂取しないことで、憩室症や憩室炎の発症率を下げる効果はない【Grade B】。本内容は、プライマリ・ケアに関わる筆者の個人的な見解が含まれており、詳細に関しては原著を参照されることを推奨いたします。 1) Wilkins T, et al. Am Fam Physician. 2013 May 1;87:612-620. 2) 福井次矢ほか編.内科診断学.第2版.医学書院;2008.p.866. 3) The John Hopkins hospital/outpatient center clear liquid diet. The John Hopkins Medical Institutions.

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初回エピソード統合失調症患者はプロラクチン値が高い

 プロラクチンは精神医学分野において大きな注目を集めているホルモンである。ドパミン阻害の抗精神病薬に対して血清プロラクチン値上昇がしばしばみられる一方で、血清プロラクチン値の減少は抗精神病薬の効果を反映するとみなされている。しかし、未治療の初回エピソード統合失調症(FES)患者のベースライン時のプロラクチン値を調べた調査は、これまで限られていた。トルコ・Namik Kemal大学のYakup Albayrak氏らは、初の実証研究として検討を行った。Nordic Journal of Psychiatry誌オンライン版2013年10月7日号の掲載報告。 本検討は、未治療のFES患者におけるベースライン時のプロラクチン値を調べること、また、FES患者と非治療(drug-free)統合失調症(DFS)患者、および健常対照者(HC)とのプロラクチン値の格差を調べることを目的とし、トルコのGolbasi Hasvak and Kirklareli州立病院で行われた。被験者に対しては臨床検査と個別面談を行った。そして全薬物治療を開始する前に、8時~10時の間に静脈血5mLを採血し血清プロラクチン値を測定(ラジオイムノアッセイ[RIA])した。 主な結果は以下のとおり。・被験者はいずれも男性で、FES群30例、DFS群41例、HC群32例であった。平均年齢はDFS群が、より高かった。・簡易精神症状評価尺度(BPRS)の平均スコアは、FES群でより高値であった。また、陰性症状評価尺度の平均スコアは、DFS群でより高値であった。・プロラクチンの平均値は、FES群(34.1±19.9ng/dL)が、DFS群(17.9±6.5ng/dL)およびHC群(9.7±2.3ng/dL)と比べて有意に高かった(F=35.5、p<0.001)。また、平均血清プロラクチン値は、DFS群がHC群よりも有意に高かった(p<0.001)。・上記の結果を踏まえて、著者は「統合失調症患者は初回エピソードの間、プロラクチンが保護因子として作用している可能性がある。統合失調症におけるプロラクチンの役割について、さらなる研究が必要である」と結論している。関連医療ニュース 抗精神病薬による高プロラクチン血症に関するレビュー 薬剤誘発性高プロラクチン血症への対処は? 統合失調症の寛解予測因子は初発時の認知機能

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