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従来から本連載で私がワクチンマニアであることは何度も触れている(第107回、第204回など参照)。にもかかわらず、昨年は季節性インフルエンザワクチン接種を逃してしまっていた。ということで、今年はかかりつけ医療機関でしっかり接種してきたが、そろそろ効力も落ちてきただろうということで日本脳炎と腸チフスのワクチンも追加接種。さらにこうした機会に私はいつも新型コロナウイルス(以下、新型コロナ)の抗体検査用の採血も行っている。ご存じのように新型コロナの抗体検査は、感染の有無がわかるヌクレオカプシドタンパク質抗体(N抗体)とワクチン接種により獲得したスパイクタンパク質抗体(S抗体)の2種類を調べるもの。私は新型コロナに限らず、ワクチン接種の際にこの2種類の抗体検査を行っている。検査時期はかなりランダムだが、これまでN抗体は6回、S抗体は5回の検査を行っている(共にロシュ・ダイアグノスティックス社のECLIA法)。回数が違うのは、N抗体は新型コロナのmRNAワクチンが登場し、2021年6月に1回目接種する直前に試しに受けてみたのである。この1回目の検査結果は、私がキャンセル待ちで急遽獲得した1回目のワクチン接種後のアナフィラキシー・チェックの待機時間中にA医師から第1報としてメールで受け取った。本当の私のコロナ感染変遷今だから話すが、このとき、A医師から検査結果用紙の写真とともに「陽性です」とのメッセージが送られてきた。1回目のワクチン接種に辿り着けたと、安堵感に満ち溢れていた中で、過去の感染歴とは言え「陽性」という事実にかなり戸惑った。しかもコロナ禍からまだ約1年半という時期。後にオミクロン系統で爆発的に感染者が増加したような時期ではなく、感染者はまだそう多くない時期なのである。実際、それまでにA医師のクリニックでN抗体検査を受けた人の中で陽性者は初だったという。この時、写真に記載されていた数値「COI(Cut off index)」は陰性が1未満に対し、私の検査結果は194.00。完全な陽性なのだが、私は間抜けにも「偽陽性ってことはないですよね? うー、いつ感染したのだろう? 覚えがないです」と返信し、A医師からは「この抗体価は偽陽性ではないですね」と断言された。この直前に感染を疑う症状はまったくなかった。当時は感染者での味覚・嗅覚障害の割合が高いことが報告されており、感染時にいち早く気付けるよう一日一食は納豆を食べていたのに。納豆は私の好物なのだが、毎日食べるほどではなかった。もっともこの時の習慣が定着し、現在は毎日食べるようになった。ちなみに、この時の感染源は後におおよそ特定できた。この検査から過去7ヵ月間に家族以外でノーマスクでの会話を伴う接触をした人は3人しかおらず、全員に私の感染の事実を伝え、3人とも検査を受けた結果、そのうちの1人が陽性だったからだ。その結果、私の感染時期として濃厚なのは2020年12月。α株が感染主流株だった時期である。その後も検査は続けていたが、N抗体は一貫して右肩下がりとなっていった。一方、S抗体はというと、1回目の検査が新型コロナワクチン2回接種の初回免疫終了から約4ヵ月後で、数値は4,583.0U/mL。A医師から「僕の10倍くらいある」と感心された。自然感染とワクチン接種のハイブリッド免疫であるがゆえだったのだろう。その後の推移は、3回目接種(モデルナ製)直前(初回免疫終了から約7ヵ月後)の2022年2月が2,785.0 U/mL、4回目接種(モデルナ製)直前(3回目接種終了から約11ヵ月後)の2022年12月が4,521.0 U/mL 、5回目接種(第一三共製)直前(4回目接種終了から15ヵ月後)の2024年3月が6,252.0 U/mLだった。ちなみにこの間、N抗体のCOIは194.00から51.60 → 27.60 → 13.10 → 7.73と順調に低下していった。直近のS抗体価にがっかり、N抗体価にビックリ!さて今回の抗体検査の結果は2日後に判明した。5回目接種から約8ヵ月後のS抗体は9,999.9 U/mLと上限値オーバー。子供っぽい言い方をすれば「とにかくたくさん」と言うことだ。この結果の感想を言うならば、「ホッとする反面、正確な数値がわからず、ワクチンマニアとしてはちょっとがっかり」というところ。そろそろ6回目の完全自費の新型コロナワクチン接種をしようと思っていた矢先だけに、接種後どれだけ抗体価が上昇したかが正確にわからないのでは、ややつまらない。どこかより厳格な検査結果を示してくれるところはないだろうかと思案している(臨床研究を実施している先生方がいればいつでも協力します 笑)。だが、問題はN抗体のほうだ。今回のCOIは25.50。3回前の検査結果に近い数値まで再上昇していたのである。すなわちこの約8ヵ月間に再感染していたことになる。「え?」「は?」という感じだ。今回も約8ヵ月間に咽頭痛などの自覚症状は記憶がない。数値を見ると、1回目の無症候感染時ほどCOIは高くないので、好意的に解釈すればワクチン接種の恩恵があったとも言えそうだ。しかし、無症候であっても再感染は嬉しくない。ちなみに2023年7月のnature誌に米・カリフォルニア大学サンフランシスコ校のグループが、アメリカ骨髄バンク登録ドナーのうちヒト白血球抗原(HLA)遺伝子のデータが利用できる約3万人について、無症候感染者と有症状感染者のHLAを比較した研究1)を行い、HLAのバリアントの1つであるHLA-B*15:01を有する人は無症候者に多いと報告されている。もちろん自分がこれに該当するのかはわからない。そして余談を言えば、前回触れた消費者向け遺伝子検査の結果では、私の新型コロナ感染時の重症化リスクは「大」の判定である。まあ、いずれにせよ今もこの感染症は油断がならないことを、なかば身をもって証明したのかもしれない。参考1)Augusto DG, nature. 2023;620:128-136.