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カテーテル関連感染疑い、初期対応は?【腕試し!内科専門医バーチャル模試】

カテーテル関連感染疑い、初期対応は?45歳の女性。子宮頸がんの抗がん剤治療のため中心静脈カテーテル留置中。39.0℃の発熱を示し、採血結果で炎症反応の上昇が確認された。そのほかのバイタルサインは安定している。

2.

事例30 特異的IgE定量・半定量の査定【斬らレセプト シーズン4】

解説事例では、アレルギー性接触性皮膚炎に対する「D015 13 特異的IgE定量・半定量検査」がA事由(医学的に適応と認められないもの)にて査定となりました。この検査は、1回の採血において特異抗原の種類ごとに13種類まで所定点数を算定できます。さらに多くの種類の特異抗原が保険診療対象に認められており、病名との不適切な組み合わせがA事由による査定対象となることを経験しています。事例の査定原因を調べる途中で、支払基金の公開情報を思い出しました。支払基金・国保統一事例454にて、「同検査は、(1)アレルギー性接触皮膚炎(疑い含む)、アレルギー疑いには認められない」と通知されています。通知の理由には「(1)病は、アレルゲンの皮膚接触により発生する(IV[遅延]型アレルギー)であり、IgEの関与はなく、診断的には皮内反応検査(パッチテスト)が実施される。単にIgEの関与を確認することなく特異的IgE検査をすることは不適切」とありました。検査会社の臨床意義などには、「IgEが大きく関与するI型アレルギーに分類される疾患の治療に用いる」とあります。事例では、非特異的IgEの検査もなく、特異的IgE定量・半定量検査が診療報酬上限の13種類も実施されています。また、医学的に適応とならないと通知されている病名に対して算定されていることも査定の原因であると推測ができます。レセプトチェックシステムでは、同検査に対する病名の記載がないことが指摘されていました。レセプト担当者に指摘への対応を聞いたところ、「病名末尾の(体幹・四肢)を見て、広範囲のアレルギー反応だから追加病名は必要がない」と判断されたとのことでした。事例の場合は、当該病名が適用外と明確に公表されていることから、検査に対する適切な病名が必要であることを医事担当に研修を行い査定対策としています。

3.

「永遠の化学物質」が2型糖尿病リスクと関連?

 ほとんど分解されないために環境中に長期間存在し続けることから、「永遠の化学物質」と呼ばれているPFAS(ペルフルオロアルキル化合物やポリフルオロアルキル化合物)の血中濃度と、2型糖尿病発症リスクとの有意な関連性を示唆する研究結果が、「eBioMedicine」に7月21日掲載された。米マウントサイナイ・アイカーン医科大学のVishal Midya氏らの研究によるもので、同氏は、「われわれの研究は多様な背景を持つ米国の一般人口において、PFASがいかに代謝を阻害し糖尿病リスクを高めているのかを探索するという、新たな研究の一つである」と述べている。 PFASは1940年代から一般消費財に用いられるようになり、現在では焦げ付き防止処理の施された調理器具、食品包装材、家具、防水機能を持つ衣類など、さまざまな製品に利用されている。Midya氏は、「PFASは熱、油、水、汚れに強い合成化学物質で、極めて多くの日用品に含まれている。そしてPFASは容易に分解されない。そのため、環境中だけでなく、人体にも蓄積されていく」と解説している。 この研究は、マウントサイナイ病院でプライマリケアを受けている6万5,000人以上の患者データを用いたコホート内症例対照研究として実施された。糖尿病既往者を除外した上で、後に2型糖尿病を発症した患者群と、年齢、性別、人種/民族が一致する糖尿病未発症の対照群、各群180人を抽出。ベースライン(糖尿病群における糖尿病診断の中央値6年〔四分位範囲1~10〕前。対照群ではそれと同時点)で採取されていた血液サンプルのPFAS濃度と、糖尿病リスクとの関連を検討した。 PFAS濃度の三分位に基づき全体を3群に分け、年齢、性別、人種/民族、ベースラインのBMI、喫煙習慣、PFAS濃度測定検体の採血時期などを調整して解析すると、PFAS濃度が高い一つ上の三分位群に上がるごとの糖尿病診断オッズ比が1.31(95%信頼区間1.01~1.70)であり、両者の間に有意な関連が認められた。また、PFASはアミノ酸や炭水化物、および一部の薬物の代謝に影響を及ぼすことを示唆するデータも得られた。例えば、体内の脂質、血糖、薬物、エネルギーの代謝の調整に重要なシグナル伝達分子(sulfolithocholyglycine)のレベルが、PFASへの曝露によって変化している可能性が見いだされた。 ただし研究者らは、「研究の性質上、この結果のみではPFASと2型糖尿病の間に直接的な因果関係があるとは言えない」としている。因果関係の有無を確かめ、PFASがどのように代謝を変化させ糖尿病リスクに影響を及ぼすのかを詳細に理解するためには、さらなる研究が必要だという。

4.

死亡診断のために知っておきたい、死後画像読影ガイドライン改訂

 CT撮影を患者の生前だけではなく死亡時に活用することで、今を生きる人々の疾患リスク回避、ひいては医師の医療訴訟回避にもつながることをご存じだろうか―。2015年に世界で唯一の『死後画像読影ガイドライン』が発刊され、2025年3月に2025年版が発刊された。改訂第3版となる本書では、個人識別や撮影技術に関するClinical Questionや新たな画像の追加を行い、「見るガイドライン」としての利便性が高まった。今回、初版から本ガイドライン作成を担い、世界をリードする兵頭 秀樹氏(福井大学学術研究院医学系部門 国際社会医学講座 法医学分野 教授)に、本書を活用するタイミングやCT撮影の意義などについて話を聞いた。死亡診断にCTを活用する 本書は全55のClinical Question(CQ)とコラムで構成され、前版同様に死後変化や死因究明、画像から得られる状態評価に関する知見を集積、客観的評価ができるよう既発表論文の知見を基に記述が行われている。また、「はじめに」では死後画像と生体画像の違いを解説。死後画像では生体画像でみられる所見に加え、血液就下、死後硬直、腐敗などの死体特有の所見があること、心肺蘇生術による変化、死後変化などを考慮する点などに触れている。また、本ガイドラインに係る対象者は、院外(在宅)での死亡例、救急搬送後の死亡例、入院時の死亡例であることが一般的なガイドラインと異なっている。以下、実臨床における死亡診断に有用なCQを抜粋する。―――CQ2 死後CT・MRIで血液就下・血液凝固として認められる所見は何か?(p.7)CQ10 死後CT・MRIは死因推定に有用か?(p.34)CQ11 死後CTは院外心肺停止例の死因判定に有用か?(p.38)CQ14 死後画像を検案時に用いることは有用か(p.49)CQ33 死後CTで死因となる血性心タンポナーデの読影は可能か?(p.119)CQ35 死後画像で肺炎の判定に有用な所見は何か?(p.127)―――死者の身体記録を行う意義と最も注意すべきポイント 日本における死後画像読影や本書作成については、2012年の「医療機関外死亡における死後画像診断の実施に関する研究」に端を発する。死後画像読影が2014年に「死因究明等推進計画」の重要施策の一環となり、2020年に「死因究明等推進基本法」が施行されたことで、本格的に稼働しはじめた。現在、院外死亡例の死後画像読影は法医学領域に限定すると全国約50ヵ所での実施となるが、CT画像装置があれば解剖医や放射線診断医の在籍しない病院やクリニックでも行われるようになってきている。その一方で、本書の対象に含まれる“入院中に急変などで亡くなった方”については、「“CT撮影から解剖へ”という理解が進んでいない」と兵頭氏は指摘する。「解剖を必要としないような例であっても、亡くなった段階の身体の様子を記録に残すことは医療訴訟の観点からも重要」と強調。「ただし、全例を撮ることが実際には可能だが、CTを撮れば必ず死因がわかるわけではない」ことについても、過去に広まった誤解を踏まえて強調した。 撮影する意義について、「死後画像読影は、その患者にどのような治療過程があったのかを把握するために実施する。生前は部位を特定する限定的な撮影を行うが、死後は全体を撮影するため見ていなかった点が見えてくる。併せて死後の採血や採尿を実施することで、より死因の確証に近づいていく」と説明した。そのうえで、死後画像読影の判断を誤らせる医療行動にも注意が必要で、「救急搬送された患者にはルート確保などの理由で生理食塩水(輸液)を投与することがあるが、その生理食塩水の投与量がカルテに入力されていないことがよくある。輸液量は肺に影響を及ぼすことから、海外では医療審査官が来るまでは、点滴ルートを抜去してはいけないが、国内ではすぐにエンゼルケアを実施してしまう例が散見される。そうすると、適切な医療提供の是非が不明瞭になってしまう。家族へ患者を対面させることは問題ないが、エンゼルケア後の死後画像を実施すると真の死因解明に繋がらず、医療訴訟で敗訴する可能性もある」と強調した(CQ19:心肺蘇生術による輸液は死後画像に影響するのか?」)。 そして、多くの遺族は亡くなった患者のそばにいたい、葬儀のことも考えなくてはいけないといった状況にあるため、懲罰的なイメージを連想させる解剖を受け入れてもらうのはなかなか難しい。だからこそ「遺族には死後画像読影と解剖を分けて考えてもらい、一緒に死因を確認する方法として提案することが重要である。入院患者の死亡原因を明らかにするためと話せば、撮影に協力してもらいやすい」とコメントした。実際に解剖に承諾してくださる方が減少する一方で、画像読影のニーズは増加しているという。他方、在宅など院外で亡くなった方においては、「感染症リスクなどを排除する観点からも、CT撮影せずに解剖を行うのは危険を伴う」とも指摘している。医師も“自分の身は自分で守る”こと 医療者側のCT撮影・読影のメリットについて、「万が一、遺族が医療訴訟を起こした場合、医療施設がわれわれ医師を守ってくれるわけではない。死後画像読影は死者や遺族のためでもあるが、医師自らを守るためにも非常に重要な役割を果たす。遺族に同意を得てCT画像として身体記録を残しておくことは、医療事故に巻き込まれる前段階の予防策にもつながる」と強調した。このほかのメリットとして、「医師自身が予期できなかった点を発見し、迅速に家族へ報告することもできる。きちんとした医療行為を行ったと胸を張って提示できるツールにもなる」と話した。 なお、撮影技術に関しては、放射線技師会において死後画像撮影に関するトレーニングが実施されており、過去のように、生きている人しか撮らないという医療者は減っているという。死後画像撮影の課題、院外では診療報酬が適用されず 同氏は本ガイドライン作成のもう1つの目的として「都道府県ごとの司法解剖の均てん化を目指すこと」を掲げているが、在宅患者の死後画像撮影を増やしていくこと、警察とかかりつけ医などが協力し合うことには「高いハードルがある」と話す。近年では、自宅での突然死(院外での死亡)の場合には、各都道府県の予算をもって警察経由で検視とともに画像撮影の実施が進み、亡くなった場所、生活環境・様式(喫煙、飲酒の有無など)を把握、病気か否かの死因究明ができる。ところが、「かかりつけの在宅患者が亡くなった際に実施しようとすると、死者には診療報酬が適用されないのでボランティアになってしまう。CT撮影料以外にも、ご遺体の移動、読影者、葬儀会場へのご遺体の持ち込み方法など、画像撮影におけるさまざまな問題点が生じる」と現状の課題を語った。死後画像が生きる人々の危険予測に 本書の作成経緯や利用者像について、同氏は「2015年、2020年と経て、項目の整理ができた。エビデンスが十分ではないため、新たな論文公開を基に5年ごとの更新を目指している。法医学医はもちろんのこと、放射線技師や病理医など読影サポートを担う医療者に対して、どこまで何を知っておくべきかをまとめるためにガイドラインを作成した」とし、「ガイドラインの認知度が上がるにつれて利用者層が増え、今回は救急科医にも作成メンバーとして参加してもらった」と振り返る。 最後に同氏は「本書は他のガイドラインとは趣が少々異なり、読影の現状を示すマイルストーンのような存在、道しるべとなる書籍だと認識いただきたい。エビデンスに基づいた記述だけでは国内の現状にそぐわないものもあるため、それらはコラムとして掲載している。今年、献体写真がSNSで大炎上したことで、死後画像読影に関する誤った情報も出回ってしまったが、海外をリードする立場からも、死後画像読影によって明らかになっていない点を科学的に検証し、今を生きる人々の危険回避に役立つ施策を広めていきたい」と締めくくった。

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薬物療法【脂肪肝のミカタ】第9回

薬物療法Q. 併存疾患に対する薬物療法は?併存疾患に対する薬物療法として、糖尿病治療薬(GLP-1受容体作動薬、GIP/GLP-1受容体作動薬、SGLT2阻害薬)、肥満症治療薬(GLP-1受容体作動薬、GIP/GLP-1受容体作動薬)、脂質異常症治療薬(スタチン、ぺマフィブラート)が肝臓の採血所見、画像所見、組織所見の改善に繋がるという報告は複数発表されている。チアゾリジン誘導体やビタミンEの肝臓の組織改善作用に関しては、近年は賛否両論がある1-3)。いずれの薬剤もMASLDに対する治療薬ではないことを把握した上で処方する必要がある。将来的な治療方針として、MASLD最大のイベントである心血管イベントの抑制まで視野に入れた治療が期待される。心血管イベント抑制作用における高いエビデンスを有する糖尿病治療薬(GLP-1受容体作動薬、SGLT2阻害薬)の併用を視野に入れた薬剤開発が期待される(図1)4,5)。(図1)心血管系イベントにおける糖尿病治療薬の長期インパクト(2型糖尿病を対象とした海外データ)画像を拡大するQ. 今後期待される薬物療法は?最近の臨床試験の対象は、肝硬変(Stage 4)を除外した線維化進行例(Stage 2~3)である1,2)。主要評価項目も以前は肝臓の線維化改善を重視していたが、最近は活動性改善も同時に重視する傾向にある。2024年3月、経口の甲状腺ホルモン受容体β作動薬(resmetirom)がStage 2~3の線維化が進行したMASHを対象に初の治療薬として米国食品医薬品局で承認されたが2)、本邦では臨床試験が行われておらず、現時点では使用することができない。2024年11月、米国肝臓学会で、Stage 2~3の線維化が進行したMASHを対象としたGLP-1受容体作動薬セマグルチドの72週の第III相プラセボ対照試験(ESSENCE Study)の成績が報告された。肝炎活動性と線維化を共に改善し、主要評価項目を達成したことが報告された(図2)6)。本臨床試験は本邦でも行われており、今後の上市が期待されている。(図2)MASH(Stage 2~3)を対象としたGLP-1受容体作動薬の治療効果[ESSENCE Study]画像を拡大する最後に、MASLDの新薬開発における将来の展望として、まずはメタボリックシンドローム由来の心血管イベントを抑制することが課題である。よって、食事/運動療法や糖代謝改善薬は肝臓の線維化進行度に関わらず重要である。さらに、肝臓の炎症や線維化が進行してくると肝疾患イベントが抑制されることも課題となる。肝臓の脂肪化、炎症、線維化を改善する薬剤を開発し、併用していく時代になると考えている(図3)。(図3)MASLD新薬開発における将来の展望画像を拡大する 1) Rinella ME, et al. Hepatology. 2023;77:1797-1835. 2) European Association for the Study of the Liver (EASL) ・ European Association for the Study of Diabetes (EASD) ・ European Association for the Study of Obesity (EASO). J Hepatol. 2024;81:492-542. 3) 日本消化器病学会・日本肝臓学会編. NAFLD/NASH診療ガイドライン2020. 南江堂. 4) Marso S, et al. N Engl J Med. 2016;375;311-322. 5) Zinman B, et al. N Engl J Med. 2015;373:2117-2128. 6) Sanyal AJ, et al. N Engl J Med. 2025;392:2089-2099.

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副作用編:発熱(抗がん剤治療中の発熱対応)【かかりつけ医のためのがん患者フォローアップ】第3回

今回は化学療法中の「発熱」についてです。抗がん剤治療において発熱は切っても切り離せない合併症の1つです。原因や重症度の判断が難しいため、抗がん剤治療中の患者さんが高熱を主訴に紹介元であるかかりつけ医に来院した場合は、多くが治療施設への相談になると思います。今回は、かかりつけ医を受診した際に有用な発熱の鑑別ポイントや、患者さんへの対応にフォーカスしてお話しします。【症例1】72歳、女性主訴発熱病歴局所進行大腸がん(StageIII)に対する術後補助化学療法を実施中。昨日から38.5度の発熱があったため、手持ちの抗菌薬(LVFX)の内服を開始した。解熱傾向であるが、念のためかかりつけ医(クリニック)を受診。診察所見発熱なし、呼吸器症状、腹部症状なし。食事摂取割合は8割程度。内服抗がん剤カペシタビン 3,000mg/日(Day11)【症例2】56歳、男性主訴発熱、空咳病歴進行胃がんに対して緩和的化学療法を実施中。3日前から38.2度の発熱と空咳が発現。手持ちの抗菌薬(LVFX)内服を開始したが、改善しないためかかりつけ医(クリニック)を受診。診察所見体温38.0度、SpO2:93%、乾性咳嗽あり、労作時呼吸苦軽度あり。腹部圧痛なし。食事摂取は問題なし。抗がん剤10日前に免疫チェックポイント阻害薬を含む治療を実施。ステップ1 鑑別と重症度評価は?抗がん剤治療中の発熱の原因は多岐にわたります。抗がん剤治療中であれば、まず頭に浮かぶのは「発熱性好中球減少症(FN:febrile neutropenia)かも?」だと思いますが、他の要因も含めて押さえておきたいポイントを挙げます。(1)発熱の原因が本当に抗がん剤かどうか確認服用中または直近に投与された抗がん剤の種類と投与日を確認。他の原因(主に感染:インフルエンザや新型コロナウイルス感染症、尿路感染症など)との鑑別。発熱以外の症状やバイタルの変動を確認。画像を拡大するFNは、末梢血の好中球数が500/µL未満、もしくは48時間以内に500/µL未満になると予想される状態で、腋窩温37.5度(口腔内温38度)の発熱を生じた場合と定義されています。FNは基本的には入院での対応が必要ですが、外来治療を考慮する場合には、下記のようなリスク評価が重要です。1)MASCC( Multinational Association for Supportive Care in Cancer)スコアMASCCスコアは、FN患者の重症化リスクを予測するための国際的に認知されたスコアリングシステムであり、低リスク群(21点以上)は外来加療が可能と判断されることがあります。画像を拡大する※該当する項目でスコアを加算し、スコアが高いほど低リスク。21点以上で低リスクとなる。2)CISNE(Clinical Index of Stable Febrile Neutropenia)スコア臨床的に安定している固形腫瘍患者では、CISNEスコアによる評価も推奨されています。画像を拡大する※低リスク群(0点)、中間リスク群(1~2点)、高リスク群(3点以上)。高リスクでは入院治療を考慮する。低リスク群:合併症1.1%、死亡率0%、中間リスク群:合併症6.2%、死亡率0%、高リスク群:合併症36%、死亡率3.1%。ステップ2 対応は?では、冒頭の患者さんの対応を考えてみましょう。【症例1】の場合、すでに抗菌薬を内服開始しており、解熱傾向でした。Vitalも安定しており、胸部X線写真でも異常陰影を認めませんでした。念のためインフルエンザおよび新型コロナウイルス感染症抗原検査を実施しましたが陰性でした。このケースでは抗菌薬の内服継続と解熱薬(アセトアミノフェン)処方、および抗がん剤の内服中止と治療機関への連絡(抗がん剤の再開時期や副作用報告)、経口補水液の摂取を説明して帰宅としました。【症例2】の場合、免疫チェックポイント阻害薬が投与されていて、SpO2:93%と低下しています。インフルエンザおよび新型コロナウイルス感染症抗原検査は陰性。胸部X線検査を実施したところ、両肺野に間質影を認めました。ただちに治療機関への連絡を行い、irAE肺炎の診断で即日入院加療となりました。画像を拡大する抗がん剤治療中の発熱対応フロー抗がん剤治療中の発熱は原因が多岐にわたるため、抗がん剤治療中に発熱で受診した場合は治療機関への受診を促してください。上記のケースはいずれも「低リスク」へ分類されますが、即入院が必要なケースが混在しています。詳細な検査や診察を行った上でのリスク評価が重要です。内服抗がん剤を中止してよいか?診察時に患者さんより「発熱しても抗がん剤を継続したほうがよいか?」と相談を受けた場合、基本的に内服を中止しても問題ありません。当院でも、「38度以上の発熱が発現した場合は、その日はお休みして大丈夫です」と説明しています。抗がん剤の再開については受診翌日に治療機関へ問い合わせるよう、患者さんへ説明いただけますと助かります。<irAEと感染>免疫チェックポイント阻害薬の普及した現代では、irAEはもはや日常的な有害事象となってしまいました。重篤なirAEに対して高用量のステロイド治療を導入することは年間で複数回経験します。その中で、最も注意が必要なのは、ステロイド治療中の感染症は発熱が「マスク」されるということです。採血検査ではCRPもあまり上昇しません。日々の身体診察がいかに重要であるかを痛感します。先日もirAE腎炎を発症した胆道がんの患者さんに対して、入院で高用量のステロイドを導入しました。順調に腎機能も改善し、ステロイド漸減に伴い外来へ切り替えてフォローしていましたが、ある日軽い腹痛で来院されました。発熱もなく、採血検査では炎症反応もさほど上昇していません。しかし、「何かおかしいな…」と思い、しつこく身体診察をすると右季肋部痛をわずかに認めました。胆管ステントを留置していたこともあり、念のためCT検査を実施してみると、以前存在した胆管内ガス(pneumobilia)の消失を認め、胆管ステント閉塞が疑われました。黄疸は来していないものの、ステント交換を依頼してドレナージをしてもらうと胆汁とともに膿汁が排液されました。初歩的なことですが、ステロイドカバー中は発熱もマスクされ、採血検査もアテにならないことが多いです。やっぱり基本は身体診察ですね。1)日本臨床腫瘍学会編. 発熱性好中球減少症(FN)診療ガイドライン(改訂第3版). 南江堂;2024.2)Klastersky J, et al. J Clin Oncol. 2000;18:3038-3051. 3)Carmona-Bayonas A, et al. J Clin Oncol. 2015;33:465-471.

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リンパ浮腫について相談されたら【非専門医のための緩和ケアTips】第103回

リンパ浮腫について相談されたら乳がん患者さんの緩和ケアをしていると、よく相談を受けるのが「リンパ浮腫」についてです。手術による合併症として予見されるもので、最近は手術前から説明を受ける患者さんも多いようです。皆さんはリンパ浮腫について、どのくらいご存じでしょうか?今回の質問外来通院している乳がん術後の患者さんですが、リンパ浮腫で困っているようです。ほかの浮腫と違って、どのように対応すべきかよくわからないのですが、どのようなアドバイスができるでしょうか?ご質問ありがとうございます。心不全や肝不全の浮腫と違い、リンパ浮腫への対応は、あまり学んでこなかった方が多いのではないでしょうか? 私も緩和ケアを専門とするまでの内科医のトレーニング中は、あまり考えたことがありませんでした。リンパ浮腫とは、蛋白を多く含む体液であるリンパ液が慢性的に貯留する状態を指します。がん患者では手術などにより局所的に生じ、機能・運動障害を呈することがあります。リンパ節郭清や放射線治療によりリンパ管が閉塞することで治療早期に生じることが一般的ですが、リンパ節転移など病態の進行で徐々に生じる場合もあります。乳がんにおける症例が有名ですが、子宮がんや前立腺がんといった骨盤底に影響を及ぼすがん種でも生じます。リンパ浮腫の治療は、用手的リンパドレナージと弾性包帯による圧迫が中心です。私は用手的リンパドレナージの手技は自分では実施できないので、研修を受けた看護師やリハビリスタッフに介入を依頼しています。弾性包帯もサイズが重要であり、その測定を含めてリハビリの一環として介入を依頼しています。このあたりは施設の体制によって対応範囲が異なる部分かと思います。もう1つ大切なのは、生活指導です。リンパ浮腫を悪化させないことや、リンパ浮腫のために生じやすい感染などの合併症を防ぐために指導を行います。生活指導の具体例を以下に紹介します。下肢のリンパ浮腫では正座、上肢の場合は腕枕を避ける。患肢を長時間下げた状態を避ける。適宜、屈伸運動をする。虫よけなどを用いて、虫刺されを予防する。爪切り、脱毛は慎重に行い、傷をつくらない。採血は健側で行う。蜂窩織炎について情報を提供し、初期症状で受診するよう促す。いかがでしょうか? こうした知識を持ち、注意して過ごしてもらうことでリンパ浮腫の悪化を防ぎ、蜂窩織炎などの合併症リスクを低下させることができます。リンパ浮腫は「クスリを出せば解決」といった対応が難しい症状ですので、複合的なケアの観点から介入を考えることが大切です。ぜひ実践してみてください。今回のTips今回のTipsリンパ浮腫の介入を理解し、指導できるようになりましょう。

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続・ガイドラインはどう考慮される?【医療訴訟の争点】第13回

症例本稿では、前回に続き、臨床現場で用いられている診療ガイドラインの遵守・逸脱が争点となった例を取り上げることとし、内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)の医学的適応の有無が問われ、術中・術後管理も含めて医師の注意義務違反が争点となった東京地裁令和3年8月27日判決を紹介する。<登場人物>患者84歳・男性原告患者の子(2名)被告一般病院(病床数100床以上、消化器系に強みを有する)事案の概要は以下の通りである。平成30年(2018年)3月28日被告病院消化器内科を受診。小球性貧血の精査および消化管出血疑い。4月4日造影CT(腹部・骨盤)4月13日上部内視鏡・下部内視鏡検査4月25日被告病院の消化器内科を受診。胃がん疑い(病理検査:Group4)、ピロリ菌感染胃炎、膀胱結石との診断6月11日被告病院を受診。医師より、病変が9~10cm台の隆起した腫瘍であることからESDが適応外であることの説明がなされたが、本件患者がESDの実施を強く希望したため、確実に腫瘍が取れる保証はなく、取れたとしても追加切除が必要になる可能性があること、術中に穿孔が生じた場合や出血コントロールがつかない場合にはESDを中止する可能性があり、緊急開腹手術になる可能性もあることを説明した上、ESDを実施することとなった。6月16日医師が、本件患者および家族に対し、本件患者の胃に悪性と思われる腫瘍があること、通常であれば開腹手術の適応であるが、本件患者が強く希望したため例外的に内視鏡治療であるESDを行うこととしたこと、ESDで腫瘍を切除できるかは不明であり、確実に取れる保証はないこと、術中に大量出血や穿孔が生じ、緊急開腹手術になる可能性があること、ESDによる治療が難しい場合には、後日開腹手術を実施することを説明した。7月18日ESD実施。午後3時頃から、大きなしこり部分の切除を開始した。午後4時20分頃、本件患者の血圧が86/53mmHgと低下。医師は、出血のためと判断し、代用血漿剤のボルベン輸液を急速投与。まもなくして血圧が103/40mmHgと回復したことから、ESDを継続。午後5時頃から、腫瘍により視野が妨げられることが多くなり、止血に難渋するようになったことから、医師は、本件病変を一括切除することを諦め、剥離していた腫瘍を分割切除することとした。午後6時頃から血圧が急速に低下し、胃の穿孔が確認された。午後7時15分、本件患者の血圧が68/20mmHgと急激に低下。医師は、鼠径部の脈拍が触知できることを確認した上で、補液をしながら本件ESDを継続し、スネアによる本件病変の分割切除を開始した。午後7時30分頃から午後8時頃、低血圧状態に対して、輸液500mLを3本投与したほか、昇圧剤を投与し、クリップによる止血を実施。午後8時頃の採血の結果、Hb値が4.5g/dLと急速に貧血が進行していたため、輸血が必要と判断。午後8時38分、輸血が到着するまでの間に更に出血しないように一旦ESDを中止することとし、脱気をしながら全身状態を落ち着かせることとした。午後9時30分に輸血が被告病院に到着し、午後9時34分から輸血を開始。輸血により血圧が徐々に回復していることを確認した上で、午後10時08分と午後10時09分にはクリップによる止血を実施。午後10時25分、止血を確認し、午後10時31分の採血の結果、Hb値が8.4g/dL、pH 7.182と改善したことを確認し、午後10時54分、本件患者を内視鏡室から病棟へと移送。7月19日午前1時06分、帰室後の輸血によっても本件患者のバイタルサインが安定しないため、出血の可能性が高いと考えて胃カメラを実施。複数箇所から細やかな出血があることを確認し、内視鏡で止血。午前1時29分、心停止。午前2時心臓マッサージを継続したものの心停止の波形は変わらず。午前2時44分、死亡確認。実際の裁判結果本件の裁判では、ESDの適応が問題となった。裁判所は、以下の点を指摘して、「本件患者が開腹手術よりも内視鏡治療の実施を希望していたことを踏まえても、本件ESDは適応を欠くものであったと言わざるを得ない」として、適応を欠く本件ESDを実施したことにつき、注意義務違反が認められると判断した。ESDに係る各ガイドラインにおいて、病変が一括切除できる大きさと部位にあることがESDの適応の基本的な考え方とされており、潰瘍所見の有無に応じて2~3cmが一つの指標として掲げられているところ、本件病変はこれを大幅に上回る約9~10cm大の腫瘍であったこと術前の造影CTにおいて、異常に太い腫瘍内血管が認められていたことに照らすと、本件ESDにおいては、処置に長時間を要し、多量の出血が見込まれることが事前に予想されたこと本件患者が84歳と高齢であったことに照らすと、そのような長時間の施術や出血に耐えうる状況であったとは認め難く、術後の穿孔や出血のリスクもあったことなお、裁判所は、損害の評価に関する部分で、「早期に緊急開腹手術への移行や輸血を実施してしかるべきところ、…午後8時過ぎまでESDを漫然と継続し、結果として更なる出血を招くに至った」経過に照らすと、「本件ESDにおける出血のリスクに対する評価が不十分であったといわざるを得ず、その注意義務違反の程度は重い」として、慰謝料額につき若干の増額認定をしている。注意ポイント解説本件は、患者の希望を踏まえてESDを行ったものであるが、ESDの実施につきガイドラインにおける適応基準から逸脱しており、ESDによる出血性ショックでの死亡につき医師の注意義務違反と認定された事案である。本件では、被告病院に設置された事故調査委員会が、医療法第6条の11に基づく医療事故調査を実施して報告書を作成している。そして、同報告書では、以下の点を指摘した上で「本症例は、胃がんの切除・治癒の可能性の観点から考えるとESDの拡大適応はあったかもしれない。しかし、本件病変の大きさや血管の豊富さ等に加え、患者の耐術面、易出血性および術後の経過(潰瘍治癒瘢痕、蠕動障害)を考えると総合的にESDの適応はなかった」との見解が示されており、本判決は、かかる見解を採用した判断と言える。1.本件病変が約9~10cmと非常に大きな腫瘍であること2.術前の造影CTにおいて異常に太い腫瘍内血管が認められたため、内視鏡治療で摘除することは極めて困難であると考えられたこと3.仮に10cm径の腫瘍と考えると、本件ESDの剥離面積は2cm径の腫瘍の25倍となること4.処置に長時間かかり、剥離に伴う出血量も多くなることが予想されること5.静脈麻酔下の長時間の治療に患者が身体的に耐えられるかは厳しい状況であったと考えられる6.たとえESDで腫瘍を切除することができたとしても、(ⅰ)切除後に広範囲の潰瘍が生じること、(ⅱ)術後に遅発性の穿孔や出血が生じる危険性が高く、潰瘍が瘢痕化し、狭窄する可能性もあること、(ⅲ)蠕動運動の回復にもかなり時間がかかること等から考えると必ずしも開腹手術と比べて低侵襲とは限らないこと患者の同意は、「侵襲的な医療行為の許可」と「治療方法の選択の自己決定権の尊重」にある。このため、治療法の選択については、説明内容を理解した上での患者の同意があれば、他の治療法を選択しなかったことについての責任を負うことにはならない。しかし、患者が選択した診療を行った場合でも、その後の診療行為にミスがあった場合(たとえば、患者が手術を受けると選択した場合に、その手術で手技ミスがあった場合など)、そのミスに起因する損害を賠償する責任が生じる。本件では、ESDを実施したことが患者の希望であるとしても、調査委員会の報告書が指摘しているようなリスクについてまで説明がなされていなかった模様であり、ESDを希望した患者の同意が、上記リスクを踏まえたものと言えないため、ESDを希望したのが患者の選択であっても免責がされなかったと考えられる。加えて、本件ESDの経過の中で、緊急開腹手術への移行や輸血の実施が速やかになされていないことが、被告病院の責任を認める実質的な理由となっていると思われる。医療者の視点本症例では、9~10cm大の胃腫瘍に対してESDが実施されましたが、裁判所は適応基準からの大幅な逸脱を理由に注意義務違反を認定しました。ESDの適応基準では潰瘍所見の有無に応じて2~3cmが1つの指標とされており、本症例の病変はこれを大幅に上回っています。また、術前CTで異常に太い腫瘍内血管が確認されていた点も、出血リスクの高さを示唆する重要な所見でした。この症例が示す重要な教訓は、患者の強い希望があっても、ガイドラインから大きく逸脱した治療は慎重に判断すべきということです。適応外治療を検討する際は、予想されるリスクを十分に評価し、患者・家族に対して具体的で詳細な説明を行う必要があります。とくに高齢患者では耐術能力の限界を考慮した判断が求められます。また、適応外治療を実施する場合は、より厳格な術中管理と迅速な方針変更の準備が不可欠です。本症例のように出血性ショックが発生した際の対応の遅れは、患者の予後に直結する重大な問題となり得ます。医師は患者の希望に応えたいという気持ちと医学的適応の冷静な判断のバランスを常に意識し、説明責任を果たした上で最善の医療を提供することが求められます。Take home message診療ガイドラインを大きく逸脱した治療行為については、患者の同意があっても注意義務違反とされる可能性がある。患者が選択した診療を行った場合でも、その後の診療行為にミスがあった場合、そのミスに起因する損害を賠償する責任が生じる。キーワードESD、適応外治療、ガイドライン、出血性ショック、高齢患者

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脂肪性肝疾患の診療のポイントと今後の展望/日本糖尿病学会

 日本糖尿病学会の第68回年次学術集会(会長:金藤 秀明氏[川崎医科大学 糖尿病・代謝・内分泌内科学 教授])が、5月29~31日の日程で、ホテルグランヴィア岡山をメイン会場に開催された。 今回の学術集会は「臨床と研究の架け橋 ~translational research~」をテーマに、41のシンポジウム、173の口演、ポスターセッション、特別企画シンポジウム「糖尿病とともに生活する人々の声をきく」などが開催された。 近年登場する糖尿病治療薬は、血糖降下、体重減少作用だけでなく、心臓、腎臓、そして、肝臓にも改善を促す効果が報告されているものがある。 そこで本稿では「シンポジウム2 糖尿病治療薬の潜在的なポテンシャル:MASLD」より「脂肪性肝疾患診療は薬物療法の時代に-糖尿病治療薬への期待-」(演者:芥田 憲夫氏[虎の門病院 肝臓内科])をお届けする。脂肪性肝疾患の新概念と診療でのポイント 芥田氏は、初めに脂肪性肝疾患の概念に触れ、肝疾患の診療はウイルス性肝疾患から脂肪性肝疾患(SLD)へとシフトしていること、また、SLDについても、近年、スティグマへの対応などで世界的に新しい分類、名称変更が行われていることを述べた。 従来、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)と呼ばれてきた疾患が、代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(metabolic dysfunction-associated steatotic liver disease:MASLD)へ変わり、アルコールの量により代謝機能障害アルコール関連肝疾患(MASLD and increased alcohol intake:MetALD)、アルコール関連肝疾患(alcohol-associated[alcohol-related] liver disease:ALD)に変更された。 MASLDの診断は、3つのステップからなり、初めに脂肪化の診断について画像検査や肝生検で行われる。次に心代謝機能の危険因子(cardiometabolic risk factor:CMRF)の有無(1つ以上)、そして、他の肝疾患を除外することで診断される。CMRFでは、BMIもしくは腹囲、血糖、血圧、中性脂肪、HDLコレステロールの基準を1つ以上満たせば確定診断される。とくに腹囲基準の問題については議論があったが、腹囲はMASLD診断に大きく影響しないということで現在は原典に忠実に「男性>94cm、女性>80cm」とされている。 肝臓の診療で注意したいのは、肝臓だけに注目してはいけないことである。エタノール摂取量別に悪性腫瘍の発症率をみるとMASLDで0.05%、MetALDで0.11%、ALDで0.21%という結果だった。アルコール摂取量が増えれば発がん率も上がるという結果だが、数字としては大きくないという。現在は4人に1人が脂肪肝と言われる時代であり、いずれSLDが肝硬変の1番の原因となる日が来ると予想されている。 また、MASLDで実際に起きているイベントとしては、心血管系イベントが多いという。自院の統計では、MASLDの患者で心血管系イベントが年1%発生し、他臓器悪性疾患は0.8%、肝がんを含む肝疾患イベントが0.3%発生していた。以上から「肝臓以外も診る必要があることを覚えておいてほしい」と注意を促した。 その一方で、わが国では心血管系イベントで亡くなる人が少ないといわれており、その理由として健康診断、保険制度の充実により早期発見、早期介入が行われることで死亡リスクが低減されていると指摘されている。「肝臓に線維化が起こっていない段階では、心血管系リスクに注意をする必要があり、線維化が進行すれば肝疾患、肝硬変に注意する必要がある」と語った。 消化器専門医に紹介するポイントとして、FIB-4 indexが1.3以上であったら専門医へ紹介としているが、この指標により高齢者の紹介患者数が増加することが問題となっている。そこで欧州を参考にFIB-4 indexの指標を3つに分けてフォローとしようという動きがある。 たとえばFIB-4 indexが1.3を切ったら非専門医によるフォロー、2.67を超えたら専門医のフォロー、その中間は専門・非専門ともにフォローできるというものである。エコー、MRI、採血などでフォローするが、現実的にはわが国でこのような検査ができるのは専門医となる。 現在、ガイドライン作成委員会でフローチャートを作成しているところであり、大きなポイントは、いかにかかりつけ医から専門医にスムーズに紹介するかである。1次リスク評価は採血であり、各段階のリスク評価で専門性は上がっていき、最後に専門医への紹介となるが、検査をどこに設定するかを議論しているという。MASLDの薬物治療の可能性について 治療における進捗としては、MASLDの薬物治療薬について米国で初めて甲状腺ホルモン受容体β作動薬resmetirom(商品名:Rezdiffra)が承認された。近い将来、わが国での承認・使用も期待されている。 現在、わが国でできる治療としては、食事療法と運動療法が主流であり、食事療法についてBMI25以上の患者では体重5~7%の減少で、BMI25未満では体重3~5%の減少で脂肪化が改善できる。食事療法では地中海食(全粒穀物、魚、ナッツ、豆、果物、野菜が豊富)が勧められ、炭水化物と飽和脂肪酸控えめ、食物繊維と不飽和脂肪酸多めという内容である。米国も欧州も地中海食を推奨している。 自院の食事療法のプログラムについて、このプログラムは多職種連携で行われ、半年で肝機能の改善、体重も3~5%の減少がみられたことを報告した。すでに1,000人以上にこのプログラムを実施しているという。また、HbA1c、中性脂肪のいずれもが改善し、心血管系のイベント抑制効果が期待できるものであった。そして、運動療法については、中等度の運動で1日20分程度の運動が必要とされている。 基礎疾患の治療について、たとえば2型糖尿病を基礎疾患にもつ患者では、肝不全リスクが3.3倍あり、肝がんでは7.7倍のリスクがある。こうした基礎疾患を治療することで、これらのリスクは下げることができる。 そして、今注目されている糖尿病の治療薬ではGLP-1受容体作動薬とSGLT2阻害薬がある。 GLP-1受容体作動薬セマグルチドは、肝炎の活動性と肝臓の線維化の改善に効果があり、主要評価項目を改善していた。このためにMASLDの治療について、わが国で使われる可能性が高いと考えられている。 持続性GIP/GLP-1受容体作動薬チルゼパチドは、第II相試験でMASLDの治療について主要評価項目の肝炎活動性の改善があったと報告され、今後、次の試験に進んでいくと思われる。 SGLT2阻害薬について、自院では5年の長期使用の後に肝生検を実施。その結果、「肝臓の脂肪化ならびに線維化が改善されていた」と述べた。最大の効果は、5年の経過で3 point MACE(心血管死、非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中の複合)がなかったことである。また、これからの検査は肝生検からエコーやMRIなどの画像検査に移行しつつあり、画像検査は肝組織をおおむね反映していたと報告した。 おわりに芥田氏は、「MASLDの診療では、肝疾患イベント抑制のみならず、心血管系のイベント抑制まで視野に入れた治療の時代を迎えようとしている」と述べ、講演を終えた。

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希釈式自己血輸血、心臓手術時の同種血輸血を減じるか/NEJM

 心臓手術を受ける患者は赤血球輸血を要することが多く、これには多額の費用や、供給量が不足した場合の手術の延期、輸血関連合併症のリスクが伴うため、輸血の必要性を減じるアプローチの確立が求められている。イタリア・IRCCS San Raffaele Scientific InstituteのFabrizio Monaco氏らANH Study Groupは「ANH試験」において、通常ケアと比較して希釈式自己血輸血(acute normovolemic hemodilution:ANH)は、人工心肺装置を使用した心臓手術時に同種赤血球輸血を受ける患者の数を減らさず、出血性合併症も抑制しないことを示した。研究の詳細は、NEJM誌オンライン版2025年6月12日号に掲載された。11ヵ国の無作為化第III相試験 ANH試験は、ANHの使用が同種赤血球輸血の必要性を減少させるとの仮説の検証を目的とする実践的な単盲検無作為化第III相試験であり、2019年4月~2024年12月に北米、南米、欧州、アジアの11ヵ国32施設で参加者を登録した(イタリア保健省の助成を受けた)。 人工心肺装置を使用した待機的心臓手術が予定されている成人患者を対象とした。麻酔導入とヘマトクリット値の測定を行った後、被験者をANH(650mL以上の全血を採取、必要に応じて晶質液を投与)を受ける群、または通常ケア(各施設の標準的処置、ANHは行わない)を受ける群に無作為に割り付けた。 主要アウトカムは、無作為化から退院までに行われた1単位以上の同種赤血球の輸血とした。合併症の発生は同程度 2,010例を登録し、ANH群に1,010例(年齢中央値59歳[四分位範囲[IQR]:52~66]、女性21.7%)、通常ケア群に1,000例(61歳[53~68]、18.6%)を割り付けた。67例で試験治療のクロスオーバーが発生した(ANH群から通常ケア群へ35例、通常ケア群からANH群へ32例)。ANH群の採血量中央値は650mL(IQR:650~700)で、データを入手できた1,006例のうち45例(4.5%)で採血量が650mL未満であった。ANHの処置に伴う有害事象は発現せず、2例(血液バッグの破損1例、バッグ内での血液凝固1例)を除き採取された全血が再輸血された。 データを入手できた集団における入院中に1単位以上の同種赤血球の輸血を受けた患者の割合は、ANH群が27.3%(274/1,005例)、通常ケア群は29.2%(291/997例)であり、両群間に有意な差を認めなかった(相対リスク:0.93[95%信頼区間[CI]:0.81~1.07]、p=0.34)。 副次アウトカムである術後30日以内または手術入院中の全死因死亡の割合は、ANH群で1.4%(14/1,008例)、通常ケア群で1.6%(16/997例)であった(相対リスク:0.87[95%CI:0.42~1.76])。術後の出血に対する外科的処置はそれぞれ3.8%(38/1,004例)および2.6%(26/995例)で行われ(1.45[0.89~2.37])、術後12時間の時点での胸腔ドレナージによる総出血量中央値は290mLおよび300mL(群間差:-11.66mL[95%CI:-35.54~12.22])と、出血性合併症に対するANHの効果は確認できなかった。 また、急性腎障害はANH群で8.5%(85/1,005例)、通常ケア群で8.9%(89/996例)に発生し(相対リスク:0.95[95%CI:0.71~1.26])、虚血性合併症(心筋梗塞、脳卒中/一過性脳虚血発作[またはこれら両方]、血栓塞栓イベント)の発生率も両群で同程度であった。安全性アウトカムにも差はない 安全性アウトカムについても両群間に差を認めず、主な評価項目の結果は以下のとおりであった。48時間を超える昇圧薬または強心薬の投与(ANH群15.1%vs.通常ケア群 14.6%、p=0.73)、心原性ショック(3.7%vs.3.2%、p=0.57)、機械的循環補助(2.7%vs.2.3%、p=0.59)、ICU入室中の最低ヘマトクリット値中央値(32%vs.32%、p=0.60)、腎代替療法を要する急性腎障害(1.5%vs.1.4%、p=0.87)、ICU入室時間中央値(38時間vs.40時間、p=0.82)、無作為化から30日以内の再入院(6.1%vs.5.9%、p=0.90)。 著者は、「ANHは有害事象のリスクを増加させなかったものの、同種赤血球輸血を受ける患者の数を減らす効果はなく、自己血輸血の方法としては推奨できない」「他の心臓手術の研究に比べ女性の割合が低かったのは、ベースラインのヘモグロビン値が低いことに関連した安全上の懸念が原因の可能性がある」としている。

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コンサルテーション―その2【脂肪肝のミカタ】第5回

コンサルテーション―その2Q. 消化器科における肝疾患ハイリスク症例の絞り込みはどうすべきか?脂肪性肝疾患(SLD)の診断は画像診断または組織診断によって脂肪化を診断することとされる1,2-4)。非侵襲的検査の時代の潮流から、消化器専門家においても画像診断に基づく診療が主体になっていくことが予測される。肝細胞脂肪化の所見は、腹部超音波(BモードやControlled attenuation parameter[CAP])、MRI Proton density fat fraction(PDFF)で診断と定量が可能である。肝臓の線維化進行度も、画像診断のエラストグラフィ(Vibration-controlled Transient Elastography[VCTE]、Shear Wave Elastography[SWE]、MR Elastography[MRE])や採血によるEnhanced Liver Fibrosis(ELF) test*で定量が可能である(図1、2)1,5)。*線維化の3つのマーカー(ヒアルロン酸、プロコラーゲンIII[P-III]ペプチド、TIMP-1)を血液検査で測定し、スコアを算出することで、肝線維化の程度を非侵襲的に評価する検査図1. MASLDの肝線維化診断における画像診断の有用性画像を拡大する図2. MASLD診療は非侵襲的診断の時代になる画像を拡大する一方、最近では肝がんの高危険群としてat-risk MASH(組織学的診断でNAFLD activity score≧4点かつ肝線維化≧2点のMASH)という概念が提唱されているが、こちらの診断は画像と採血の組み合わせだけで十分とはいえない。そもそもMASHの診断には風船様変性と小葉内炎症を確認するためにも組織学的診断が必要である1)。米国肝臓学会では、at-risk MASHの診断における肝生検の必要性も示している5)。肝臓の線維化と活動性の両方を加味した真の肝疾患ハイリスク症例の非侵襲的な拾い上げの面からは、課題が残されている(図2)。1) European Association for the Study of the Liver (EASL) ・ European Association for the Study of Diabetes (EASD) ・ European Association for the Study of Obesity (EASO). J Hepatol. 2024;81:492-1542.2)Rinela ME, et al. J Hepatol. 2023;79:1542-1556.3)Rinella ME, et al. Hepatology. 2023;78:1966-1986.4)Rinella ME, et al. Ann Hepatol. 2023;29:101133.5)Rinella ME, et al. Hepatology. 2023;77:1797-1835.

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血中循環腫瘍DNA検査は大腸がんスクリーニングに有用か/JAMA

 平均的リスクの大腸がんスクリーニング集団において、血液ベースの検査(血中循環腫瘍DNA[ctDNA]検査)は大腸がん検出の精度は許容範囲であることが実証されたが、前がん病変の検出にはなお課題が残ることが、米国・NYU Grossman School of MedicineのAasma Shaukat氏らPREEMPT CRC Investigatorsによる検討で示された。大腸がん検診は広く推奨されているが十分に活用されていない。研究グループは、血液ベースの検査は内視鏡検査や糞便ベースの検査に比べて受診率を高める可能性はあるものの、検診対象の集団において臨床的に実証される必要があるとして本検討を行った。結果を踏まえて著者は、「引き続き感度の改善に取り組む必要がある」とまとめている。JAMA誌オンライン版2025年6月2日号掲載の報告。大腸内視鏡検査を参照対照法として、大腸がんに対する感度などを評価 研究グループは、大腸がんの平均的リスク集団において、開発中のctDNA検査の臨床パフォーマンスを、参照対照法として組織病理学的な大腸内視鏡検査を用いて評価する前向き多施設共同横断観察研究を行った。 対象は、大腸がんリスクが平均的で、標準的な大腸がんスクリーニングを受ける意思がある無症状の45~85歳。参加者には、採血後に大腸内視鏡検査を受けることが求められた。 試験は、米国49州とアラブ首長国連邦の計201施設で行われ、参加者は2020年5月~2022年4月に登録された。血液検体は試験地での採血およびモバイル採血にて収集された。 参加者、スタッフ、病理医は血液検査結果が盲検化され、臨床検査も大腸内視鏡検査の所見を盲検化して実施された。 事前に規定された主要エンドポイントは4つで、ctDNA検査の大腸がんに対する感度、進行大腸腫瘍(大腸がんまたは進行前がん病変)に対する特異度、進行大腸腫瘍の陰性的中率、進行大腸腫瘍の陽性的中率であった。副次エンドポイントは、進行前がん病変に対する感度であった。大腸がんの感度79.2%、進行大腸腫瘍の特異度91.5%だが、進行前がん病変の感度は12.5% 臨床検証コホートには結果が評価された2万7,010例が包含された。年齢中央値は57.0歳、55.8%が女性であった。73.0%が白人で、アジア系は8.8%。 ctDNA検査の大腸がんに対する感度は79.2%(57/72例、95%信頼区間[CI]:68.4~86.9)、進行大腸腫瘍に対する特異度は91.5%(2万2,306/2万4,371例、95%CI:91.2~91.9)であった。進行大腸腫瘍の陰性的中率は90.8%(2万2,306/2万4,567例、95%CI:90.7~90.9)、進行大腸腫瘍の陽性的中率は15.5%(378/2,443例、95%CI:14.2~16.8)で、すべての主要エンドポイントが、事前に規定した受容基準を満たした。 進行前がん病変に対する感度は12.5%(321/2,567例、95%CI:11.3~13.8)で、事前に規定した受容基準を満たさなかった。

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第266回 一般消費者向けDTC検査サービスに新ガイドライン、医師資格を持たない事業者が検査結果に基づき個人の疾患の罹患可能性を通知するのは医師法違反

厚生労働省と経済産業省が「健康寿命延伸産業分野における新事業活動のガイドライン」を改正こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。この週末は、八ヶ岳山麓にリタイア後住んでいる大学時代のクラブの先輩宅で開かれた麻雀大会に参加するため、長野県原村まで車を飛ばして行って来ました。大学卒業後、40年以上たって老年となった人間たちが11人集まり、麻雀卓2卓で2日間、メンバーを適当に変えながら各人半荘5~6回戦ってトータル点数を競うというものです。集まったメンツは学年にして4学年の幅があり、皆、それなりの年齢ということで健康状態もさまざまでした。がんについて言えば、参加した11人中4人が罹患していました。2人がこの3年ほどの間に食道がんの手術を受けて、1人は大腸がんの放射線治療と化学療法を昨年経験済みでした。さらにもう1人は、胃がんを5年前に内視鏡手術で取っていました。この人数、多いのか少ないのかはよくわかりませんが、最近、高校時代の同級生など同世代と飲むと大体3人中1人はがんの経験者ですから、ほぼ平均的と言えるでしょう。ただ、私のクラブ、食道がんがやや多過ぎますね。ちなみに、この4学年の幅の中のクラブの在籍者総数は大体40人ほどで、自殺者1人、ALSによる死亡1人、山での遭難死(落石が頭部直撃)1人です。コホート研究ではないですが、ある大学クラブの卒業生の“その後”としては、それなりに平均的な結果と言えるのではないでしょうか。ま、いずれにせよ、これから、今回のメンバーの中からもがん患者は出てくるでしょう。がんはエイジングの結果ですから仕方ありません。なお、麻雀大会の私の成績は2位でした。優勝は逃しましたが、親で「リーチ、ツモ、ドラ8」の倍満を上がったのはいい思い出になりました。ということで今回は、公表から少々時間が経ってしまいましたが、3月末に厚生労働省と経済産業省が改正した「健康寿命延伸産業分野における新事業活動のガイドライン」について書いてみたいと思います。今回の改正では、非臨床の一般消費者向け(Direct to Consumer:DTC)検査サービスについての記載が大幅に追加、医師法に違反しないようにとの注意喚起が行われました。いい加減なエビデンスしかないのに「がんが見つかる」などと喧伝し、多くの問題点が指摘されてきたDTC検査サービスはこれで駆逐されるのでしょうか?厚労省のヘルスケアスタートアップPT報告書を機にガイドライン改正へ非臨床のDTC検査サービスとは民間事業者が検体(血液、尿、唾液など)をもとに病気のリスクなどを判定する検査サービスを指します。本連載でも「第88回 がんが大変だ! 検診控え依然続き、話題の線虫検査にも疑念報道(前編)」「第89回 がんが大変だ! 検診控え依然続き、話題の線虫検査にも疑念報道(後編)」などでその問題点を繰り返し指摘してきました。昨年7月の「第223回 厚労省ヘルスケアスタートアップPT報告書を読む(後編) あの一般向けがんリスク判定会社もターゲットか?消費者向けの各種検査サービス、医師法に照らし合わせて総点検へ」では、厚生労働省の「ヘルスケアスタートアップ等の振興・支援策検討に関するプロジェクトチーム」が公表した最終報告書の内容を紹介、「医師法違反という観点から法令違反の恐れがある事例がまとめられ、検査の結果(リスク判定)を消費者にフィードバックする際の表現についてもガイドラインが設けられる可能性があります」と書きました。それが実行に移されたのが、今回の「健康寿命延伸産業分野における新事業活動のガイドライン」の改正というわけです。「医師でなければ、医業をなしてはならない」と定めた医師法第17条との関係について法解釈同ガイドラインにはさまざまな関連法令と照らし合わせて、DTC検査サービスはどこまで行っていいのかについての法解釈が記されています。最重要と考えられる「医師でなければ、医業をなしてはならない」と定めた医師法第17条との関係については次のように記されています。「医師法第 17 条により、民間事業者は、医業に該当しない範囲で検体採取や検査(測定)後のサービス提供を実施する必要があり、採血等の医行為に該当する行為や、検査(測定)結果に基づく疾患の罹患可能性の提示や診断等の医学的判断を行うことはできない。このため、採血等の検体採取については、民間事業者ではなく、利用者自らによって行われる必要がある。また、民間事業者は、検査(測定)結果に基づく疾患の罹患可能性の提示や診断等の医学的判断を行うことはできないため、検査(測定)後のサービス提供については、検査(測定)結果の事実や検査(測定)項目の一般的な基準値、検査(測定)項目に係る一般的な情報を通知することに留めなければならず、利用者から見て事実や一般的な基準値・情報が示されているということが客観的に認識可能な程度に医学的・科学的根拠が示された通知内容としなければならない」つまり、「医師資格を持たない事業者が検査結果に基づいて個人の疾患の罹患可能性を通知することは医師法違反」と明確に位置付けたわけです。さらに、医師などではない民間事業者が行う検査後のサービス提供は、「検査結果の事実や検査項目の一般的な基準値、検査項目に係る一般的な情報を通知することに留め、客観的に認識可能な程度に医学的・科学的根拠が示された通知内容としなければならない」点についても明文化しました。「一般的な情報の通知に留めよ」というルールは非常に重いと考えられます。ガイドラインではさらに突っ込んで、「検査結果の事実と検査項目の基準値やリスク分類との相対的な位置付けのように、一見すると客観的な事実を提示しているかのような内容であったとしても、当該基準値や当該リスク分類の設定について、なんらの医学的・科学的根拠が通知内容に示されていない場合や、一般的な基準値と言えない値に基づいている場合には、客観的な事実を提示しているとは評価できない」「検査項目が基準値内にあることをもって、利用者が健康な状態であることを断定するといった利用者個人の健康状態の医学的評価は行ってはならない」「検査項目が基準値外にあることをもって、利用者個人の疾患の罹患可能性を提示してはならない」とも記述しています。それだけDTC検査サービス事業者の検査結果の通知に関する不適切事例が多かったということなのでしょう。医師法17条に違反する4例示す、「一般的な情報提供である」等の注意書きをしていたとしても個人の疾患の罹患可能性を通知することは違法なお、同ガイドラインには医師法17条に違反する例として、次の4つを例示しています。1.検体を採取する際に、無資格者である民間事業者が利用者から検体を採取する場合。2.無資格者である民間事業者が、利用者に対して、個別の検査(測定)結果を用いて、利用者の健康状態を評価する等の医学的判断を行った上で、食事や運動等の生活上の注意、健康増進に資する地域の関連施設やサービスの紹介、利用者からの医薬品に関する照会に応じたOTC医薬品の紹介、健康食品やサプリメントの紹介、より詳しい健診を受けるように勧めることを行う場合。3.無資格者である民間事業者が、利用者に対して、利用者の個別の検査(測定)結果を用いて、当該利用者個人の疾患の罹患可能性を通知する場合。なお、形式的に「これは一般的な情報提供である」等の注意書きをしていたとしても、利用者の個別の検査(測定)結果を用いて、当該利用者個人の疾患の罹患可能性を通知することは違法となる。4.無資格者である民間事業者が、利用者に対して、利用者の個別の検査(測定)結果が、疾患の罹患や健康状態の医学的評価に係るリスク分類のいずれに属するかを通知する場合で、当該リスク分類の根拠となる基準値について、実質的になんらの医学的・科学的根拠が示されていない場合や、民間事業者等が恣意的に設定している場合。冷静さを装うDTC検査サービス事業者同ガイドラインの改正は今後、DTC検査サービス事業者にどんな影響を及ぼすでしょうか。4月18日付けの日経バイオテクは「厚労省と経産省、DTC検査ガイドラインでは 『医学的診断と誤解させない情報提示を』」と題する記事を発信、「同ガイドラインは大幅に改正されたものの、DTC検査ビジネスへの影響は大きくはなさそうだ」と書いています。同記事は、同ガイドライン に対するDTC検査サービスを提供する複数の事業者のコメントを紹介しています。「明確に論拠が示され、誤認を防ぐ対策が加えられたと理解している」(ジーンサイエンス、東京都千代田区)、「ジーネックスでは一般的な情報提供としての疾患の罹患リスクに言及することはあるが、事業者側の目線だけではなく、社会的・法的・論理的な観点を重視して、利用者の健康維持に関して望まれているサービスを提供していきたい」(ジーネックス、東京都港区)、「今回の改正でサービスの内容に大きな変更は予定していない」(Craif、東京都文京区)と一見冷静な対応に見えます。また、一般社団法人の遺伝情報取扱協会も、同協会のウェブサイトで同ガイドラインの改正に対する見解を公表、同協会が策定する「個人遺伝情報を取扱う企業が遵守すべき自主基準」と合致する内容であるとコメントしています。どの事業者も、「われわれはきちんとやってきているので、動揺していない」と冷静さを装っているようです。「事実上の『野放し』状態から一歩進んだ」ものの「課題はまだ残されている」「23種類のがんを判定できる」などと宣伝して全国展開しているHIROTSUバイオサイエンス(東京都千代田区)の線虫がん検査キット「N-NOSE」に対し、厳しい批判報道を行ってきたNewsPicksは、4月18日付で「厚労省ガイドライン改定で検査ビジネス『野放し』終えんか」と題する記事を発信しています。同記事は、ガイドライン改正に対する識者の評価やDTC検査サービス事業者へのアンケートを紹介、「結果報告書の通知に関するルールが明確化されたことで、検査ビジネスは、事実上の『野放し』状態から一歩進んだ。利用者の保護やサービスの健全な発展に向けた土台が整い始めたと言える。 だが、ガイドラインの解釈が事業者により分かれる可能性があるうえ、検査自体の有効性という『本丸』には踏み込んでいないという点でも、課題はまだ残されている」と記事を結んでいます。医師法違反の実際の事例が出てくれば、「野放し」状態は一掃に向かうのではおそらく、法律での規定ではなく、強制力が弱いガイドライン(指針)である点が、まだ事業者にある種の余裕を生んでいるのかもしれません。今後、ガイドラインに基づいて、医師法違反の実際の事例が摘発されれば、「野放し」状態は一掃に向かうのではないでしょうか。そう言えば、一時、テレビや東京の地下鉄の車内掲示などでよく目にした線虫がん検査のCMや広告を最近目にしません。やはり少なからぬ影響が出ているのかもしれません。ちなみに、冒頭に書いた麻雀大会に参加したクラブの仲間たちの中に、DTC検査サービスを利用した人間は誰もいませんでした。おそらく、今彼らにがん関連のDTC検査サービスを受けさせ、仮に“陽性”が出て精密検査を受けさせれば、何人かでがんが見つかることでしょう。また、“陰性”だった人間にも精密検査を受けさせれば、やはり何人かでがんが見つかるでしょう。なにせ、みんなもう老人なのですから。

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第12回 アルツハイマー病の診療が変わるーFDAが血液検査を承認

米国食品医薬品局(FDA)が、アルツハイマー病の診断を補助する初の血液検査「Lumipulse G pTau217/β-Amyloid1-42 Plasma Ratio」を承認しました1)。この承認は、アルツハイマー病の診療に大きな変革をもたらし、認知症診療の新たな時代を開くと期待されます。検査名が長過ぎてあまりピンとこないかもしれませんが、とにかくすごい検査なのです。血液検査による早期発見の可能性これまでアルツハイマー病の診断には、アミロイドPETや脳脊髄液(CSF)検査といった高価で侵襲的な方法が用いられてきました。 アミロイドPETは、脳内のアミロイド斑を可視化できますが、コストが高く、患者さんへの放射線被ばくも伴います。 また、アミロイドがどこにあるかを知ったところで、それが患者さんの症状に反映されないといった限界もありました。脳脊髄液検査も、腰椎穿刺という侵襲的な方法で検体を採取する必要がありました。今回承認された新しい血液検査は、血液(血漿)中のpTau217とβアミロイド1-42という2つの数値を測定し、その比率を算出します1)。pTau217はアルツハイマー病患者の血液中で増加傾向を示し、認知機能障害の悪化に比例して増加するという特徴も報告されています。一方で、βアミロイド1-42はアミロイド斑に沈着するため、血液中からは減少します。それぞれ単独では診断精度に限界がありましたが、この比率を用いることで、検査精度が向上し、的確な診断をもたらすことができるようになりました。これにより、PETの必要性を減らし、脳脊髄液検査の置き換えになることが期待されています。 簡単な採血のみで行えるため、患者さんにとって負担が少なく、検査を受けやすくなります。200ドル程度と、費用負担も小さくなります。 FDA長官は、「2050年までにアルツハイマー病患者の数が倍増すると予測される中、このような新しい検査が患者の助けとなることを期待している」と述べています。診断プロセスの変化と期待される効果近い将来、アルツハイマー病の血液検査は、血圧やコレステロールのチェックのように、とてもありふれた日常的なものになる可能性が高いと思います。認知機能検査で異常が見られた場合、次のステップとして血液検査が行われるという流れはごく一般的なものになるでしょう。この検査の普及により、以下のような変化が予想されます。誤診の減少LATE(辺縁系優位型加齢性TDP-43脳症)のように、アルツハイマー病と症状が似ていても原因が異なる疾患(LATEの場合はTDP-43が関与)との鑑別がつきやすくなります。これまで診断方法が限られていたため、誤った情報共有が行われるケースがありましたが、より正確な診断が可能になることで、患者は適切なケアを受けられるようになります。適切な予防策と予後予測早期かつ正確な診断は、適切な予防策の実施や、より正確な予後の情報提供につながります。治療薬開発の加速より簡便で正確な診断方法が確立することで、治療薬の開発も促進されると期待できます。「認知症」診断前の「アルツハイマー病」診断診断ツールの普及により、症状に基づく診断である「認知症」よりも前に、脳内の変化に基づく診断である「アルツハイマー病」という診断が先につくケースが増えるでしょう。「あなたは『アルツハイマー病』ですが、『認知症』ではありません」という説明が一般的になるかもしれません。注意点と今後の課題一方で、この血液検査は無症状の人に行うスクリーニングや単独の検査として開発されたものではなく、他の評価や検査と合わせて診断を行う必要があります。この点はFDAも強調しています。 臨床試験では、この検査で陽性だった人の91.7%がPETまたは脳脊髄液検査でもアミロイドの存在が確認され、陰性だった人の97.3%がそれらの検査でも陰性でした1)。 しかし、偽陽性や偽陰性の可能性も指摘されており、偽陽性の場合は不必要な治療や精神的な苦痛を、偽陰性の場合は適切な診断の遅れを招く可能性があります。 当面は、不必要な人にまで過剰に検査を行い、不適切な投薬が増えるといったマイナス面が生じてしまうことへの懸念もあります。いずれにせよ、FDAによるアルツハイマー病の血液検査の承認は、診断のあり方を根本から変える可能性を秘めています。より負担が少なく、アクセスしやすい検査方法の登場は、早期発見・早期介入を促進し、誤診を減らし、最終的には患者さんとその家族の生活の質向上に貢献することが期待されています。多くの医師が、この新しい知識を習得し、患者側も理解を深めることで、認知症診療は新たな時代を迎えることになるでしょう。 1) FDA Clears First Blood Test Used in Diagnosing Alzheimer’s Disease. FDA. 2025 May 16.

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入院させてほしい【救急外来・当直で魅せる問題解決コンピテンシー】第6回

入院させてほしいPointプライマリ・ケアの適切な介入により入院を防ぐことができる状態をACSCsという。ACSCsによる入院の割合は、プライマリ・ケアの効果を測る指標の1つとされている。病診連携、多職種連携でACSCsによる入院を減らそう!受け手側は、紹介側の事情も理解して、診療にあたろう!症例80歳女性。体がだるい、入院させてほしい…とA病院ERを受診。肝硬変、肝細胞がん、2型糖尿病、パーキンソン病などでA病院消化器内科、内分泌内科、神経内科を受診していたが、3科への通院が困難となってきたため、2週間前にB診療所に紹介となっていた。採血検査でカリウム7.1mEq/Lと高値を認めたこともあり、幸いバイタルサインや心電図に異常はなかったが、指導医・本人・家族と相談のうえ、入院となった。内服薬を確認すると、消化器内科からの処方が診療所からも継続されていたが、内容としてはスピロノラクトンとカリウム製剤が処方されており、そこにここ数日毎日のバナナ摂取が重なったことによるもののようだった。おさえておきたい基本のアプローチプライマリ・ケアの適切な介入により入院を防ぐことができる状態をAmbulatory Care Sensitive Conditions(ACSCs)という。ACSCsは以下のように大きく3つに分類される。1:悪化や再燃を防ぐことのできる慢性疾患(chronic ACSCs)2:早期介入により重症化を防ぐことのできる急性期疾患(acute ACSCs)3:予防接種等の処置により発症自体を防ぐことのできる疾患(vaccine preventable ACSCs)2010年度におけるイギリスからの報告によると、chronic ACSCsにおいて最も入院が多かった疾患はCOPD、acute ACSCsで多かった疾患は尿路感染症、vaccine preventable ACSCsで多かった疾患は肺炎であった1)。実際に、高齢者がプライマリ・ケア医に継続的に診てもらっていると不必要な入院が減るのではないかとBarkerらは、イギリスの高齢者23万472例の一次・二次診療データに基づき、プライマリ・ケアの継続性とACSCsでの入院数との関連を評価した。ケアが継続的であると、高齢者において糖尿病、喘息、狭心症、てんかんを含むACSCsによる入院数が少なかったという研究結果が2017年に発表された。継続的なケアが、患者-医師間の信頼関係を促進し、健康問題と適切なケアのよりよい理解につながる可能性がある。かかりつけ医がいないと救急車利用も増えてしまう。ホラ、あの○○先生がかかりつけ医だと、多すぎず少なすぎず、タイミングも重症度も的確な紹介がされてきているでしょ?(あなたの地域の素晴らしいかかりつけ医の先生の顔を思い出してみましょう)。またFreudらは、ドイツの地域拠点病院における入院患者のなかで、ACSCsと判断された104事例をとりあげ、紹介元の家庭医にこの入院は防ぎえたかというテーマでインタビューを行うという質的研究を行った。この研究を通じてプライマリ・ケアの実践現場や政策への提案として、意見を提示している(表)。地域のリソースと救急サービスのリンクの重要性、入院となった責任はプライマリ・ケアだけでなく、病院なども含めたすべてのセクターにあるという合意形成の重要性、医療者への異文化コミュニケーションスキル教育の重要性など、ERの第一線で働く方への提言も盛り込まれており、ぜひ一読いただきたい。ACSCsは高齢者や小児に多く、これらの提言はドイツだけでなく、世界でも高齢者の割合がトップの日本にも意味のある提言であり、これらを意識した医師の活躍が、限られた医療資源を有効に活用するためにも重要であると思われる。表 プライマリ・ケア実践現場と政策への提言<プライマリ・ケア実践チームへの提言>患者の社会的背景、服薬アドヒアランス、セルフマネジメント能力などを評価し、ACSCsによる入院のリスクの高い患者を同定すること処方を定期的に見直すこと(何をなぜ使用しているのか?)。アドヒアランス向上のために、読みやすい内服スケジュールとし、治療プランを患者・介護者と共有すること入院のリスクの高い患者は定期的に症状や治療アドヒアランスの電話などを行ってモニタリングすること患者および介護者にセルフマネジメントについて教育すること(症状悪化時の対応ができるように、助けとなるプライマリ・ケア資源をタイミングよく利用できるようになるなど)患者に必要なソーシャルサポートシステム(家族・友人・ご近所など)や地域リソースを探索することヘルステクノロジーシステムの導入(モニタリングのためのリコールシステム、地域のリソースや救急サービスのリンク、プライマリ・ケアと病院や時間外ケアとのカルテ情報の共有など)各部署とのコミュニケーションを強化する(かかりつけ医と時間外対応してくれる外部医師間、入退院支援、診断が不確定な場合に相談しやすい環境づくりなど)<政策・マネジメントへの提言>入院となった責任はプライマリ・ケア、セカンダリ・ケア、病院、地域、患者といったすべてのセクターにあるという合意を形成すべきであるACSCsによる入院はケアの質の低さを反映するものでなく、地理的条件や複雑な要因が関係していることを検討しなければならないACSCsに関するデータ集積でエキスパートオピニオンではなく、エビデンスデータに基づいた改善がなされるであろう医療者教育において異文化コミュニケーションスキル教育が重視されるだろう落ちてはいけない・落ちたくないPitfalls紹介側(かかりつけ医)を、責めない!前に挙げた症例のような患者を診た際には、「なぜスピロノラクトンとカリウム製剤が処方されているんだ!」とついつい、かかりつけ医を責めたくなってしまうだろう! 忙しいなかで、そう思いたくなるのも無理はない。でも、「なんで○○した?」、「なんで△△なんだ?」、「なんで□□になるんだよ」などと「なんで(why)」で質問攻めにすると、ホラあなたの後輩は泣きだしたでしょ? 立場が違う人が安易に相手を責めてはいけない。後医は名医なんだから。前医を責めるのは医師である前に人間として未熟なことを露呈するだけなのである。まずは紹介側の事情をくみ取るように努力しよう。この症例でも、病院から紹介になったばかりで、関係性もあまりできていないなかでの高カリウム血症であった。元々継続的に診療していたら、血清カリウム値の推移や、腎機能、食事の状況など把握して、カリウム製剤や利尿薬を調節できたかもしれない。また紹介医を責めると後々コミュニケーションが取りにくくなってしまい、地域のケアの向上からは遠ざかってしまう。自分が紹介側になった気持ちになって、診療しよう。Pointかかりつけ医の事情を理解し、診療しよう!起きうるリスクを想定しよう!さらにかかりつけ医の視点で考えていきたい。この方の場合はまだフォロー歴が短いこともあって困難だったが、前医からの採血データの推移の情報や、食事摂取量や内容の変化でカリウム値の推移も予測可能だったかもしれない。糖尿病におけるsick dayの説明は患者にされていると思うが、リスクを想定し、かつ対処できるよう行動しよう。いつもより体調不良があるけど、なかなかすぐには受診してもらえないときには、電話を入れたり、家族への説明をしたり、デイケア利用中の患者なら、デイケア職員への声掛けも有効だろう! そうすることで不要な入院も避けられるし、患者家族からの信頼感アップも間違いなし!!「ERでは関係ない」と思わないで、患者の生活背景を聞き出し、患者のサポートシステム(デイケア・デイサービスなど)への連絡もできるようになると、かっこいい。かかりつけ医のみならず、施設職員への情報提供書も書ける視野の広い医師になろう。Point「かかりつけ医の先生とデイケアにも、今回の受診経過と注意点のお手紙を書いておきますね!」かかりつけ医だけに頑張らせない!入院のリスクの高い患者は、身体的問題だけでなく、心理的・社会的問題も併存している場合も少なくない。そんな場合は、かかりつけ医のみでできることは限られている。患者に必要なソーシャルサポートシステムや地域リソースを患者や家族に教えてあげて、かかりつけ医に情報提供し、多職種を巻き込んでもらうようにしよう! これまでのかかりつけ医と家族の二人三脚の頑張りにねぎらいの言葉をかけつつ(頑張っているかかりつけ医と家族を褒め倒そう!)、多くの地域のリソースを勧めることで、家族の負担も減り、ケアの質もあがるのだ。「そんな助けがあるって知らなかった」という家族がなんと多いことか。医師中心のヒエラルキー的コミュニケーションでなく、患者を中心とした風通しのよい多職種チームが形成できるように、お互いを尊重したコミュニケーション能力が必要だ! 図のようにご家族はじめこれだけの多職種の協力で患者の在宅生活が成り立っているのだ。図 永平寺町における在宅生活を支えるサービス画像を拡大するPoint多職種チームでよりよいケアを提供しよう!ワンポイントレッスン医療者における異文化コミュニケーションについてERはまさに迅速で的確な診断・治療という医療が求められる。患者を中心とした多職種(みなさんはどれだけの職種が浮かぶだろうか?)のなかで、医師が当然医療におけるエキスパートだ。しかし、病気の悪化、怪我・事故は患者の生活の現場で起きている。生活に目を向けることで、診断につながることは多い。ERも忙しいだろうが、「患者さんの生活を普段支えている人たち、これから支えてくれるようになる人たちは誰だろう?」なんて想像してほしい。ERから帰宅した後の生活をどう支えていけばよいかまで考えられれば、あなたは超一流!職能や権限の異なる職種間では誤解や利害対立も生じやすいので、患者を支える多職種が風通しのよい関係を築くことが大事だ。医療者における異文化コミュニケーション、つまり多職種連携、チーム医療は、無駄なER受診を減らすためにも他人ごとではないのだ。病気や怪我さえ治せば、ハイ終わり…なんて考えだけではまだまだだ。もし多職種カンファレンスに参加する機会があれば、積極的に参加して自ら視野を広げよう。ACSCsへの適切な介入とは? ─少しでも防げる入院を減らすために─入院を防ぐためには、単一のアプローチではなかなか成果が出にくく、複数の組み合わせたアプローチが有効といわれている2)。具体的には、患者ニーズ評価、投薬調整、患者教育、タイムリーな外来予約の手配などだ。たとえば投薬調整に関しては、Mayo Clinic Care Transitions programにおいても、皆さんご存じの“STOP/STARTS criteria”を活用している。なかでもオピオイドと抗コリン薬が再入院のリスクとして高く、重点的に介入されている3)。複数の介入となると、なかなか忙しくて一期一会であるERで自分1人で頑張ろうと思っても、入院回避という結果を出すまでは難しいかもしれない。そこで先にもあげたように多職種連携・Team Based Approachが必要だ4)。それらの連携にはMSW(medical social worker)さんに一役買ってもらおう。たとえば、ERから患者が帰宅するとき、患者と地域の資源(図)をつないでもらおう! MSWと連絡とったことのないあなた、この機会に連絡先を確認しておこうね!ACSCsでの心不全の場合は、専門医やかかりつけ医といった医師間の連携はじめ、緩和ケアチームや急性期ケアチーム、栄養士、薬剤師、心臓リハビリ、そして生活の現場を支える職種(地域サポートチーム、社会サービス)との協働も必要になってくる。またACSCsにはCOPDなども多く、具体的な介入も提言されている。有症状の慢性肺疾患には、散歩などの毎日の有酸素トレーニング30分、椅子からの立ち上がりや階段昇降、水筒を使っての上肢の運動などのレジスタンストレーニングなどが有効とされている。家でのトレーニングが、病院などでの介入よりも有効との報告もある。「家の力」ってすごいよね。理学療法士なども介入してくれるとより安心! 禁煙できていない人には、禁煙アドバイスをすることも忘れずに。ERで対応してくれたあなたの一言は、患者に強く響くかもしれない。もちろん禁煙外来につなぐのも一手だ! ニコチン補充療法は1.82倍、バレニクリンは2.88倍、プラセボ群より有効だ5)。勉強するための推奨文献Barker I, et al. BMJ. 2017:84:356-364.Freud T, et al. Ann Fam Med. 2013;11:363-370.藤沼康樹. 高齢者のAmbulatory care-sensitive conditionsと家庭医. 2013岡田唯男 編. 予防医療のすべて 中山書店. 2018.参考 1) Bardsley M, et al. BMJ Open. 2013;3:e002007. 2) Kripalani S, et al. Ann Rev Med. 2014;65:471-485. 3) Takahashi PY, et al. Mayo Clin Proc. 2020;95:2253-2262. 4) Tingley J, et al. Heart Failure Clin. 2015;11:371-378. 5) Kwoh EJ, Mayo Clin Proc. 2018;93:1131-1138. 執筆

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小児・保護者との関わり方【すぐに使える小児診療のヒント】第2回

小児・保護者との関わり方前回は、小児の採血やルート確保についてお話しました。採血やルート確保の手順を身につけることはとても大切です。しかし、それ以上に重要なのは、小児や保護者の心理に寄り添いながら対応することです。実際、技術的な部分よりも、泣いて暴れる小児や不安そうな保護者への対応に苦手意識を持っている先生も多いのではないでしょうか。今回は、そうした場面での具体的な関わり方についてお話しします。症例3歳、男児6日間持続する発熱を主訴に受診。活気は保たれているが、眼球結膜充血や口唇発赤を認める。川崎病を疑い、採血をする方針とした。子「いたいのいやだーーー!!」母「この子、注射が本当に苦手で…。暴れないか心配です。」小児への声掛けの工夫処置前には小児の気持ちに共感して、年齢に応じた声掛けをします。そして、終わったあとには自信を持てるように褒めてあげましょう。大事なことは、(1)嘘をつかないこと、(2)一人前の人間として接することです。つい「痛くないよ~」と声掛けをしてしまいがちですが、誰しも注射は痛いものです。小児だって人間ですから、騙されたと思うと今後は協力してくれません。伝え方としては、「どうして〇〇になって(例:熱が出て)いるか調べてみようね。そして検査して早く治ろうね。みんな〇〇君に早くよくなってほしいと思っているよ」といったように声掛けしてみましょう。およそ2歳以上の小児であれば、多くの場合は理解してくれると思います。たまに耳にしますが、「言うこと聞かないと注射するよ!」という脅しはもってのほかです。脅すのではなく、「嫌だ」という気持ちに共感し、その上で頑張る気持ちを尊重しましょう。「嫌だから頑張れない自分」ではなく、「嫌だけど頑張ろうと思えた自分」を褒めてあげるのです。そうすれば実際に処置が終わると、「やられた」のではなく「できた」という自信に繋がります。この経験がその後の医療への向き合い方や自己肯定感に影響を与えることがあるからこそ、一つひとつの機会を大切にしたいものです。言葉で伝えるだけではなく、ごっこ遊びやおもちゃを活用して、病気や治療に関する理解を促す方法もあります。たとえば、おもちゃの注射器を持たせたり、人形に注射をするまねをしてもらったりしながらごっこ遊びをすることもあります。これを「プレパレーション」といい、2~7歳の小児にはとくに有用であるとされていますが、年齢にかかわらず理解できるように説明する必要があります。また、保護者に協力してもらって、おもちゃやDVDなどで小児の注意をそらして心理的負担を軽減させることを「ディストラクション」といいます。小児が感じている不安や恐怖を軽減し、前向きに治療を受けられるようにするための大切なプロセスであるといえます。保護者との関わり方保護者とは、まずは「なぜ処置が必要なのか/必要ないのか」を共有しましょう。安易に処置を行うことは不要な苦痛を生みかねません。「まぁ、採血ぐらいしとこうかな」と思っても、難しくて何度も穿刺することになってしまった、ということは容易に想像がつきますね。また、理由を説明しなかったり、保護者に言われるがままに処置をしたりすると、「前の先生はやってくれたのに、どうして今回はしてくれないんですか!」といった今後のトラブルにも繋がりかねません。そもそも、検査や処置の要否について、判断を保護者に委ねることは医師としての矜持に欠けるのではないでしょうか。「何を重要だと思っているか」を互いに理解し合おうとする姿勢が大切であるように思います。小児をお預かりするor保護者が付き添う多くの小児科外来では、「では、検査をするのでお子さんをお預かりします。お母さん(お父さん)はお外でお待ちください」と、処置の際は保護者は付き添わずにお預かりするスタイルが主流です。保護者が見ている前で泣き叫ぶ小児のルートをとる、という医療者側のプレッシャーは大きいでしょう。小児が処置を受けている様子を見るのがつらいという保護者の意見もあるかもしれません。しかし、日本ユニセフの「小児の権利条約」の第9条に「児童が父母の意に反してその父母から分離されない」と掲げられていることを受けて、保護者同伴で処置をする場面が少しずつ増えてきているように感じます。私は普段、よほど切迫している状況でなければ「どちらを選んでもいいですよ」と保護者に選択権を渡すようにしています。保護者が一緒に付いてくれているほうが、小児が安心して頑張れるというパターンをよく経験します。わが子が必死に助けを求めていたのに助けてあげられなかった、という意識になってしまう保護者に対しては、「お母さん(お父さん)が付いていてくれたおかげで心強かったと思います。助かりました、ありがとうございます」とぜひ伝えてください。小児の採血や点滴は難しいと感じるかもしれませんが、適切な準備と関わり方を知ることで、確実に成功率を上げることができます。処置の必要性は、小児の状態を的確に評価した上で判断し、不要な侵襲を伴う手技を避けることが大切です。また、小児には正直かつ前向きな声掛けを行い、保護者には処置の目的を丁寧に説明することで、不安を和らげ、協力を得ることができます。採血を「嫌な記憶」ではなく、「頑張れた経験」として残せるよう、ぜひ実践してみてください。本コラムでは、疾患の診断や治療だけでなく、診療の際の小児や保護者への関わり方についても毎回考えていきます。次回は、よく遭遇する生後3ヵ月未満児の発熱について、一緒に学んでいきましょう。 参考資料 1) Tomas-Jimenez M, et al. Int J Environ Res Public Health. 2021;18:7403. 2) Constantin KL, et al. J Pediatr Psychol. 2023;48:108-119. 3) ユニセフ:子どもの権利に関する条約 4) 国際成育医療センター:お子さんが注射を受けることになったとき

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人工甘味料スクラロースの摂取は空腹感を高める

 スプレンダのようなカロリーなしの人工甘味料の使用により食事のカロリーが増えることはないが、体重増加につながる可能性はあるようだ。新たな研究で、砂糖の代替品は食欲と空腹感を刺激し、食べ過ぎにつながる可能性のあることが明らかになった。米南カリフォルニア大学(USC)糖尿病・肥満研究センター所長のKathleen Page氏らによるこの研究結果は、「Nature Metabolism」に3月26日掲載された。 Page氏は、「スプレンダの主成分であるスクラロースは、摂取してもその甘さから予想されるカロリーを伴わないため脳を混乱させるようだ。体が、摂取した甘さに見合うカロリーを期待しているのにそれを得られない場合、時間の経過とともに、脳がそれらの物質を求める仕組みに変化が生じる可能性がある」とUSCのニュースリリースの中で述べている。 研究グループによると、米国人の約40%が砂糖の摂取量を減らす手段として、定期的に砂糖の代替品を摂取しているという。「しかし、このような砂糖の代替品は、本当に体重の調整に役立つのだろうか。それらの摂取は、体と脳にどのような影響を与えるのだろうか。また、その影響は人によって異なるのだろうか」とPage氏は疑問を呈する。 今回の研究では、18〜35歳の試験参加者75人(女性43人)を対象にクロスオーバー試験を実施し、スクラロースの摂取が、食欲のコントロールに関与する脳視床下部の活動、ホルモンレベル、空腹感に及ぼす影響を調査した。試験参加者は、ショ糖(砂糖の主成分)で甘くした飲み物、スクラロースでショ糖と同程度に甘くした飲み物、および水をランダムな順序で2日から2カ月の間隔を空けて摂取した。飲み物の摂取前と摂取後には、採血、MRIスキャン、空腹感の評価が行われた。 その結果、ショ糖摂取後に比べてスクラロース摂取後には、視床下部の血流が有意に増加し、空腹感も有意に高まることが示された。また、水の摂取後との比較でも、視床下部の血流は有意に増加したが、空腹感のスコアに有意な差は認められなかった。一方、ショ糖の摂取後にはインスリンやグルカゴン様ペプチド1(GLP-1)など、血糖値を調節するホルモンレベルの上昇が認められたが、この上昇は視床下部の血流低下と関連していた。さらに、スクラロースの摂取後には、視床下部と動機付けや身体感覚処理に関わる脳領域との機能的な結び付きが強まることも確認された。Page氏は、「この結果は、スクラロースが渇望や摂食行動に影響を与える可能性があることを示唆している」と述べている。 Page氏は、「体はインスリンなどのホルモンを使ってカロリーを摂取したことを脳に伝え、空腹感を軽減させる。しかし、スクラロースにそのような効果は認められなかった。肥満の試験参加者では、このようなスクラロース摂取後とショ糖摂取後のホルモン反応の違いはより顕著だった」と述べている。 研究グループは、「今後の研究では、脳とホルモンの活動のこうした変化が人の体重に長期的な影響を及ぼすかどうかを調べるべきだ」と述べている。

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入院時の呼吸管理、裁判で争点になりやすいのは?【医療訴訟の争点】第11回

症例入院中の患者は時に容体が急変することがある。今回は、入院中の呼吸管理を適切に行うべき注意義務違反の有無が争われた神戸地裁令和5年8月4日判決を紹介する。<登場人物>患者44歳・男性(肥満体型)10代に統合失調症を発症し、以後、悪性症候群での入退院を繰り返していた。原告患者の母被告総合病院(大学病院)事案の概要は以下の通りである。平成29年(2017年)2月15日定期受診で被告病院を受診。視線が定まらず、会話は疎通不良、動作が緩慢で四肢の固縮があり、自力歩行が不可能。体温は37.7℃で、採血の結果、クレアチンキナーゼ(CK)値は1,880IU/L。悪性症候群として、被告病院に入院。抗精神病薬を継続し、輸液で治療が開始された。2月16日体温は36℃台に下がり、採血の結果、CK値は1,557IU/Lまで低下した。自力歩行、意思疎通が可能となった。2月17日精神症状は改善し、CK値は1,102IU/Lまで下がり、輸液終了。3月6日院内での単独行動が可能とされ、院外もスタッフまたは家族付き添いのもとで外出可能とされた。5月16日入院から3ヵ月経過。体のこわばり、動きにくさの訴えあり。呂律が回らず、話が聞き取りにくい状態であったが、表情は穏やかで、会話は可能。5月21日硬い表情でスタッフステーションに来所して発言するものの、呂律が回らず発言が支離滅裂で理解不能となり、精神症状が不安定な状態。5月22日発言はまったく要領を得ず、突然敬礼をする、女性の浴室に入ろうとする、ほかの患者の病室に入って扉やベッドを蹴る、布団をかぶったまま病棟内を歩くなどの不穏行動。隔離処置のため、保護室に入室。5月29日朝から表情は固く、身体の緊張は強く、呼吸は促迫気味であり、多量の発汗がみられた。血液検査の結果、CK値は1万9,565IU/Lであった。亜昏迷の持続、四肢の固縮、発汗を認めたため、医師は患者の隔離を終了して個室病室に移動させたうえ、行動の予測が困難で、点滴の自己抜去のリスクが高いことを考慮し、体幹部および両上肢を拘束、生体モニター装着の上、輸液による治療を開始した。5月30日体温は37.8℃、採血の結果、CK値は1万1,763IU/Lであった。午後8時15分頃、頬の筋緊張や舌根沈下がみられた。5月31日朝看護師の声かけに対し、眼球が上転しかかったまま反応せず、ベッドをギャッチアップして飲水を促すと、「あ、あぁ…」と声を出した。吸い飲みを使用しても、嚥下できずに吐き出してしまう状態であった。誤嚥の可能性が高いことから、朝食は不食となった。午前10時体温が38.4℃まで上昇。経鼻胃管チューブが留置され、弾性ストッキングを装着。午後2時5分清拭を行うため、看護師が訪室。看護師は清拭を開始する前に、患者の全身状態を目視で観察し、清拭を行う旨を告げた。看護師が患者の身体に触れると、患者は両下肢を挙上したため、看護師は、身体の力を抜くように声をかけ、両下肢を押して降ろさせた。その後の清拭中は、患者の身体の緊張は取れていた。下半身の清拭の途中、原告(患者の母)が、患者の顔色が悪いのではないか、息をしていないのではないか、などと看護師らに声をかけた。看護師は、原告(患者の母)の発言に対して応答はせずに、前日の申し送りに舌根沈下があったという記載があったことを想起し、呼吸を楽にする下顎挙上の姿勢をとらせるべく、枕を背中側に挿し入れるとともに、ベッドを操作して腰部および膝部に当たるところをそれぞれギャッチアップした。胸郭の挙上を確認したため、清拭の作業を再開した。その後、看護師が患者の着衣を整えるなどの作業をした後、患者の顔を見ると、顔色が土気色に変わっていたため、ベッド脇のテレメーターのボタンを押して作動させたところ、心拍数40台/分(午後2時15分~17分)であった。抑制帯を外し、橈骨動脈を確認したところ、脈拍が確認されたが、呼吸は確認できなかった。午後4時20分患者に救命処置を行うも改善せず、死亡。実際の裁判結果裁判では投薬する薬剤の選択の判断の合理性なども争われたが、本稿では入院中の呼吸管理に関する部分を取り上げることとする。患者の入院中の呼吸管理につき、裁判所は以下のとおり判示し、注意義務違反があると判断した。裁判所は、被告病院スタッフの義務につき、以下のことを指摘し、「被告病院スタッフには、舌根沈下が確認された5月30日午後8時15分以降、そうでなくとも遅くとも5月31日に入った時点で、訪室時に呼吸数やSpO2値を観察する、あるいは、生体モニターの数値を頻繁に確認するなどして、呼吸状態を含む本件患者の全身状態をより厳格に監視し、異常が確認された場合には、直ちに処置を行うべき義務があった」とした。5月29日時点で、被告病院の医師は、患者の亜昏迷、発汗を認めており、血液検査の結果、CK値が高値の1万9,565IU/Lであったことを確認し、統合失調症のカタトニア(緊張病)で「悪性症候群のリスクが高い状態であった」と診断していたこと患者に輸液が開始され、両上肢及び体幹部を拘束した上、生体モニターが装着されるなどの厳重な処置が開始されていた状態であったため、全身状態が悪化して、重篤な症状に至る危険性が高まっていたといえること患者は、輸液が開始された後も全身状態が快方へ向かっておらず、5月31日には経口摂取不能となり、経鼻胃管チューブが挿入されたこと5月30日の夜には、気道狭窄の原因となり得る舌根沈下が確認されていたこと本件患者が肥満体型であるため、舌根沈下が生じた場合、呼吸不全に陥る可能性があることその上で裁判所は、被告病院の看護師が当日の看護に当たって、呼吸状態については息苦しそうではないかに注意を払う程度のものに止まっていたことを指摘し、「客観的には、患者の全身状態を厳格に観察、管理するという意識を欠くものであった」とした上で、「看護師らは、清拭開始時及び清拭の途中で原告から患者の呼吸状態について指摘された際に、本件患者の呼吸数、SpO2を測定して呼吸状態を確認すべきであったにもかかわらず、ギャッチアップ後に胸郭挙上を確認したのみで異常がないものと速断し、本件患者の全身状態の異常に気付くことなく作業を継続したものであり、被告主張の、医療制度上の制約、被告における診療体制等の事情を考慮しても、この点で、被告病院スタッフには、過失があった」として注意義務違反を認めた。なお、被告病院は、患者の体型からして、睡眠時無呼吸症候群に類するものとして、一時的に呼吸が停止することも考えられ、下顎挙上の姿勢をとった後に胸郭挙上を確認しているとして、一般的な医療水準に照らして十分な対応をしている旨を主張した。しかし、裁判所は「患者の全身状態が相当悪化していた点を前提とする限り、不規則な呼吸が主に体型によるもので、身体状況の異常を示す徴表には当たらないと安易に扱うべきではないといえるのであり、本件患者の体型を考慮しても、被告病院スタッフのこの点に関する注意義務を免れさせ得るものではない」として被告病院の主張を排斥した。注意ポイント解説本件は、患者の呼吸管理の過失(注意義務違反)の有無が争われた事案である。裁判所は、上記のとおり、訪室時に呼吸数やSpO2を観察する、あるいは、生体モニターの数値を頻繁に確認するなどして、呼吸状態を含む本件患者の全身状態をより厳格に監視する義務を認めた。これは、生体モニターが装着されるなどしているような全身状態が悪化する恐れがある状況において、さらに舌根沈下という呼吸停止を来たしうる状態が確認されていること、要するに一般的に見て危険な状態であるからこその処置がされている状況下において、さらに生死に直結し得る状態が確認されたということで、呼吸状態を含む全身状態を監視する義務を認めたものと考えられる。本判決の事案は、統合失調症のカタトニアで悪性症候群のリスクが高い状態であったという特殊性があるものの、ICUに入っている場合や生体モニター装着で管理がなされている場合のような一般に症状悪化の危険性が高い状況下において、呼吸停止・心不全・その他臓器不全などの死に直結し得るような個別の危険症状が別途確認された場合には、同様に当てはまるものと考えられる。また、上記のとおり、本判決は、「本件患者の全身状態が相当悪化していた点を前提とする限り、不規則な呼吸が、主に体型によるもので、身体状況の異常を示す徴表には当たらないと安易に扱うべきではない」としている。このことからすると、患者の体型などの個性ないし素因が原因で危険が生じうるとしても、危険性がある以上は、状態確認を行う義務が軽減されないことが示されている点も留意する必要がある。医療者の視点昨今の医療訴訟を鑑みると、日々の診療において常に訴訟リスクを意識せざるを得ない状況にあります。とくに入院患者の管理では、生体モニターを装着するような重症例において、呼吸状態や全身状態の厳密な観察と適切な対応が求められます。本症例のように、患者の体型や基礎疾患に起因する特性があったとしても、それを根拠に観察義務が軽減されるわけではありません。私たち医療者は、悪化の徴候を早期に捉え、適時適切に対応できるよう、常に注意深く患者を観察する責任があります。そのためには、バイタルサインの確認や生体モニターの数値を頻回にチェックし、異常を見逃さない姿勢が不可欠です。Take home message生体モニター装着で管理がなされるような、状態悪化の危険性が高い状況下において、呼吸停止・心不全・その他臓器不全などの死に直結し得るような個別の危険症状が別途確認された場合には、状態の変化に適時適切に対応できるよう、患者の状態変化について注意深く観察する必要がある。キーワード呼吸管理、状態観察義務、悪性症候群、カタトニア

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熱中症の重症度が尿でわかる?

 昨年、5~9月に熱中症で搬送される人の数は過去最多を記録した。熱中症の重症度は、搬送先施設で血液検査により評価される。しかし、尿中の肝臓型脂肪酸結合蛋白(L-FABP)も熱中症の重症度と相関するという研究結果が報告された。L-FABPは熱中症の生理学的重症度や予後を予測するツールになり得るという。日本医科大学救急医学教室の横堀將司氏、関西医科大学総合医療センター救急医学科の島崎淳也氏らの研究によるもので、詳細は「Scientific Reports」に2月12日掲載された。 熱中症は、高温多湿環境下で体内の水分・塩分量のバランスが崩れ、体温調節機能や循環機能が破綻して発症する。熱中症に対する適切な介入と転帰の改善には重症度の迅速な評価が不可欠だが、救急外来(ER)であっても、血液検査では結果の確認に長い時間がかかる。このような背景から、熱中症の重症度の判断には、よりアクセスしやすい簡易迅速検査の開発が待たれていた。 L-FABPは、脱水による腎虚血性機能障害を反映する有望なバイオマーカーだ。近年、医療用検査キットにより、短時間でのL-FABP測定が可能になった。重度の熱中症では内臓の血流低下による虚血が伴うことから、研究グループは、その重症度を予測する指標としてこのL-FABPが適用できると考え、L-FABPの検査キットを用いた多施設の前向きコホート研究を行った。 研究には全国の三次救急医療センター10施設が参加し、2019~2021年の夏季に日本救急医学会の熱中症基準に従って「重症」と診断された、18歳以上の患者78名が組み入れられた。敗血症または感染症の疑われる患者は除外した。ERに搬送された78名の熱中症患者は、意識を取り戻す前に採血・採尿が行われた。血清サンプルは臨床検査値の測定に用いられ、多臓器不全評価(SOFA)スコア(0~24でスコアが高いほど重症度が高い)が決定された。尿サンプルは、検査キットを使用し半定性的なL-FABPの測定に用いられた。患者の転帰については、mRSスコア(0~6でスコアが高いほど予後が悪い)が用いられ、退院時、発症1カ月、発症3カ月で計測が実施された。 組み入れ時の患者の年齢は中央値で76歳、SOFAスコアは5.0(四分位範囲 IQR3.0~9.0)だった。患者はL-FABPの濃度に応じて、陰性群(N群;L-FABP<12.5ng/mL)、陽性群(P群;L-FABP≧12.5ng/mL)の2群に分けられた。 初期SOFAスコアはN群で4.0(2.0~7.0)、P群で6.0(4.0~9.3)であり、尿中L-FABP濃度が高かった群では初期SOFAスコアも高くなっていた(U検定、P=0.013)。退院時の転帰については、良好な転帰を示すmRS(0~2)の割合が、N群で62.1%、P群で38.8%であり、N群で有意に良好な転帰を示した(P=0.046)。発症後3カ月後には両群には有意な差は認められなかった(P=0.227)。なお、ROC解析により長期的な転帰を予測するためのカットオフ値は28.6ng/mL(AUC=0.732)と決定された。また、尿中L-FABP濃度と、脈拍数(r=0.300)および乳酸値(r=0.259)の間には弱い正の相関が認められた(各P<0.01)。 研究グループは、本研究について、「L-FABPの検査キットは、熱中症の重症度を予測するとともに、患者の転帰を反映するツールであることが示唆された。この検査キットは保険収載されており、侵襲性が低いことから、その有用性は高いのではないか」と述べた。また、想定される運用方法については、「搬送前に検査結果を特定することで、患者を三次救急医療センターに搬送するか否かの決定をタイムリーに行うことができるようになるだろう」と言及した。 本研究の限界点については、重症の症例に限定したこと、サンプルサイズ、高齢者が多かったことから一般化できない点などを挙げている。

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症状のない亜鉛欠乏症に注意、亜鉛欠乏症の診療指針改訂

 「亜鉛欠乏症の診療指針2024」が2025年1月に発行された。今回の改訂は7年ぶりで、きわめて重要な8つの改訂点が診療指針の冒頭に明記され、要旨を読めば最低限の理解がカバーできる構成になっている。だが、本指針内容を日常診療へ落とし込む際に注意したいポイントがある。そこで今回、本指針の作成委員長を務めた脇野 修氏(徳島大学大学院医歯薬学研究部 腎臓内科分野 教授)に、亜鉛欠乏症の現状や診断・治療を行う際の注意点などについて話を聞いた。<2018年度版からの改訂点>・診断基準と検査について、アルカリフォスファターゼ低値を削除・採血タイミングについて言及・薬物治療について、亜鉛製剤の記述が追加・小児科、内科疾患に関する臨床的意義について、近年のエビデンスに基づき大幅改訂・摂取推奨量は、日本人の食事摂取基準2025年版を引用・国内での発生頻度について追記・リスクファクターとなる疾患について、メタアナリシスで証明されたもののみ記載・亜鉛過剰症について、耐用上限量を記載し、血清膵酵素の上昇に関する記載を削除症状がない潜在性亜鉛欠乏への診断・治療 国内の亜鉛欠乏潜在患者は全人口の10~30%と予想され、亜鉛不足が心筋梗塞の発症、COVID-19の発症/死亡、子癇症、骨粗鬆症、味覚異常のリスクファクターであることが疫学研究から明らかになっている。そのため、近年では症状を有する患者への治療のみならず、症状が顕在化していない患者の診断も喫緊の課題となっている。 亜鉛の血清/血漿基準値は80~130μg/dLで、亜鉛欠乏症と診断するには、亜鉛欠乏(60μg/dL未満)、潜在性亜鉛欠乏(60~80μg/dL未満)の評価と共に、臨床症状・所見の有無、原因となる他疾患が否定されることが必要である。同氏は「亜鉛欠乏症状(皮膚炎、口内炎、脱毛症、褥瘡、食欲低下、発育障害、性腺機能不全、易感染性、味覚異常、貧血、不妊症)がない場合には亜鉛投与の適応にはならない点は注意が必要。一方、症状がある場合には積極的に投与してほしい」と強調した。しかし、実際には症状がみられない亜鉛欠乏症への亜鉛投与の価値が証明されつつあるため、「慢性肝疾患、糖尿病、炎症性腸疾患、腎不全のようにしばしば血清亜鉛低値を認める患者(潜在性亜鉛欠乏も含む)では、亜鉛投与により基礎疾患の所見・症状が改善することがあるため、“亜鉛欠乏症状が認められていなくても、亜鉛補充を考慮してもよい”と治療指針の項に示した」とし、「食欲が低下している、貧血、感染の疑いが見られた場合、原疾患の治療に難渋している場合にも低亜鉛の可能性があることから、亜鉛測定を検討してほしい」と説明した。 現在、亜鉛製剤には2024年3月に発売されたヒスチジン亜鉛(商品名:ジンタス錠)、酢酸亜鉛、ポラプレジンク(商品名:プロマックD錠ほか)があるが、低亜鉛血症で保険適用になっているものは、ヒスチジン亜鉛と酢酸亜鉛のみである。「ヒスチジン亜鉛は良好なコンプライアンスが期待でき、酢酸亜鉛よりも消化器症状が少ない特徴を持っている」と説明した。採血は1~2ヵ月を目処に、銅も考慮を 今回の改訂では、採血タイミングも盛り込まれた。これについて「現状、実臨床で血中濃度の評価が正しくされていないため、1~2ヵ月ごとに亜鉛を、数ヵ月に1回は銅を測定して薬剤継続可否の判断を行ってほしい。また、貧血症状を有している患者ではすでに鉄や銅を測定しているが、それでも改善しない場合には亜鉛測定に踏み込んでもらいたい」と述べた。亜鉛投与による有害事象の観点からも、「銅欠乏や鉄欠乏性貧血をきたすことがあるので、ルーチンで測定する必要はないが、数ヵ月に1回は血清亜鉛とともに、血算、血清鉄、総鉄結合能(TIBC)、フェリチン、血清銅を測定してほしい。亜鉛投与が適応となる患者であっても、投与数ヵ月のなかで症状の変化がみられない場合には、臨床症状が亜鉛欠乏によるものではないと判断し、亜鉛投与を中止する」といった判断が必要なことも強調した。極端な健康志向の食事療法は亜鉛不足のリスク 健康を意識した食事として、心血管疾患や糖尿病、認知症などに予防効果があるとされる地中海食やDASH食を想像するだろう。ところが、これらの食事療法で推奨される玄米や全粒粉、大豆などの植物由来製品には、亜鉛とキレートを形成するフィチン酸が多く含まれるため、亜鉛の吸収を阻害してしまうという。一方、亜鉛含有量が高い食材として牛赤身肉が推奨されるが、赤身肉の摂取はがん発症リスク、腎臓病などに悪影響を及ぼすことも報告されている。これらを踏まえて、同氏は「バランスのよい食事を心がけることが重要。実際にベジタリアンやヴィーガンでの亜鉛欠乏症が報告されている。そして、亜鉛は生体のなかでも筋肉に60%ほど分布していることを考慮すると、海産物(牡蠣、ホタテ、魚、海藻類)の摂取を意識するのが望ましい。その点で和食や地中海食はよいかもしれない」とコメントした。 最後に同氏は、「亜鉛は300種以上もの酵素や機能タンパクの活性中心に存在し、その意義が詳細に明らかにされている必須微量元素である。1961年に亜鉛欠乏症が報告されて以来、研究にも長い歴史を有しているが、その一方で“未完の大器”のような可能性を秘めている。7年ぶりの改訂では疫学研究や観察研究ではなく、さまざまな介入研究の結果を反映させることができたが、今後の課題として、糖尿病や腎不全、肝障害の発症抑制、慢性疾患に対する抗炎症作用としての亜鉛の効果(抗酸化酵素、増殖等)などに関する研究結果を発信していきたい」と締めくくった。 亜鉛などの微量元素は人間に内在する病的な因子として、決して忘れてはいけない存在である。なお、微量元素の恒常性の観点から、加齢や炎症疾患において近年注目されているセレンについても、「セレン欠乏症の診療指針2024」が同時に発刊されているので、合わせて一読されたい。

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