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〔CLEAR! ジャーナル四天王(24)〕 安定狭心症に対する最適治療法の決定に冠血流予備量比(FFR)は有用な検査法である

経皮的冠動脈インターベンション治療(PCI)が、急性冠症候群の予後改善に有効な治療法であることについては異論のないところである。しかしながら、安定狭心症に対するPCIの適用に関しては未解決な問題が多い。歴史的には選択的冠動脈造影手技が確立されたことにより、冠動脈疾患の診断・治療が長足の進歩を遂げたことは周知の事実である。しかし、冠動脈造影では、X線シネ血管撮影装置と造影剤を使用してイメージインテンシファイアー上に冠動脈イメージを映し出し、狭窄の程度を判読している。それゆえ、狭窄の程度を正確に評価するうえで、冠動脈造影だけでは必ずしも十分でない症例も存在する。 FFR測定は、冠動脈狭窄病変が心筋虚血を引き起こすか否かを機能的に評価することを可能にした有用な検査である。心筋虚血を生じない程度の狭窄病変に対して、むやみやたらにPCIを実施することの有害性を十分に認識することは、治療方針を正しく決定するために必要である。本研究では、安定狭心症で冠動脈造影所見からPCI治療が適用であると判断された患者について、FFR値が少なくとも1つの狭窄病変において0.80以下であれば無作為に対象症例を2群[薬物治療群(最適薬物療法のみ)、PCI群(PCI+最適薬物療法)]に振り分けた。すべての狭窄を有する冠動脈病変のFFR値が0.80を超えている症例については、PCIを実施せず最適薬物療法のみを行い、試験に登録のうえ、その50%が無作為に抽出された2群と同様にフォローアップされた。 倫理的理由により追跡期間が短いのが気になるが、この期間での一次複合エンドポイント発生率(死亡率、非致死性心筋梗塞発症、2年以内に起こる予期せぬ緊急血行再建のための入院)は薬物治療群で12.7%、PCI群で4.3%であり、PCI群で有意に低かった。とりわけ、緊急血行再建術実施率がPCI群で有意に低率であった(薬物治療群 11.1% vs PCI群 1.6%)。FFR値が0.80を超えていた群での複合イベント発生率は3.0%と最も低値であったが、PCI群との間には有意差はなかった。 短期のフォローアップのみの成績であるために、長期的PCI治療の成績を保証するデータでないことを考慮することも重要である。また、FFR値が0.80超の狭窄病変に対して、最適薬物療法のみで治療した群で複合イベント発生率が低かった事実は大きな意味を持つ。つまり、心筋虚血を引き起こさない程度の狭窄病変に対して、むやみやたらにPCIを実施すべきではないことを肝に銘じるべきである。本研究は、少なくとも1ヵ所以上の主冠動脈狭窄病変でFFR値が0.80以下である場合について、PCI施行後とりわけ8日以降から追跡終了までの期間で一次複合エンドポイント(とくに緊急血行再建)に関して、PCI+最適薬物療法の併用が最適薬物療法単独よりも優れているとの結果であった。安定狭心症では無用なPCIを行わないよう心がけることを頭に叩き込んでおいてほしい。メモ1.PCIには第2世代の薬物溶出ステントが使用された。2.最適薬物療法は、アスピリン、β遮断薬(メトプロロールほか)、Ca拮抗薬/長時間作用型亜硝酸製剤、RA系阻害薬(リシノプリルほかACE阻害薬、副作用があればARB)、スタチン(アトルバスタチン)、エゼチミブの多剤併用投与を意味していると理解できる。3.クロピドグレルはステントを植え込み群でのみ使用された。4.本研究では最適薬物療法の中に看護ケア、生活習慣の改善は含まれていなかった。5.すべての群で喫煙者は至適禁煙指導を受け、糖尿病を有する患者は専門的至適治療が行われた。

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エキスパートに聞く!「高血圧」Q&A

CareNet.comでは9月の高血圧特集企画を行う中で、会員の先生より「高血圧」に関する質問を募集しました。その中から、特に多くいただいた質問に対し、下澤達雄先生にご回答いただきます。家庭血圧を用いる際の留意点について教えてください。昨年8月に発表された英国の高血圧ガイドラインでは、24時間血圧あるいは家庭血圧を高血圧の確定診断ならびに降圧治療の効果判定に用いることが強く推奨されました。わが国でも家庭血圧測定の指針が高血圧学会より出されており、実臨床でも多くの先生がお使いになっていることが、今回たくさんのご質問をいただいたことからも推察されます。そこで、家庭血圧を用いる際の留意点をいくつか挙げたいと思います。1.信頼性機械そのものの信頼性は診察室で同時に用手法と比較することで確認することができますが、血圧手帳を用いた自己申告による血圧値は必ずしも信頼できません。高知県で行われた調査では実測値と自己申告値には開きがあり、患者は低めに申告することが報告されています。よって、家庭血圧が低い場合でも臓器障害がある場合にはとくに診察室血圧を参考にした降圧治療が必要となります。あるいはメモリー機能をもった家庭血圧計を用い、実測値を医療側が把握できるようにする工夫が必要です。2.家庭血圧の測定方法血圧は複数回測れば必ず異なった値を示します。一般的には数回測ると徐々に低い値となります。高血圧学会の家庭血圧の指針では1日1回でよいと書かれていますが、これはまず患者に家庭血圧を測定させるために簡便な最低限の方法が記載されていると理解しています。すでに家庭血圧を日常的に測定できる患者においては複数回測定し、一番高い値と一番低い値、あるいは平均値を記載してもらうのがいいかと思います。測定時間は服薬直前が望ましいですが、日常生活にあわせてほぼ同じタイミングで測定できる時間を指導しています。3.夜間血圧を反映するか?何がわかるのか?残念ながら夜間血圧は夜間に測定する必要があり、家庭血圧では知ることができません。正しく測定でき、正直に申告された家庭血圧で白衣性高血圧、仮面高血圧がわかることはもちろんですが、曜日による血圧変動(週末ストレスがない場合に血圧が下がる)や睡眠状態との関連を知ることもできます。4.診察室血圧との乖離前述のように白衣性高血圧、仮面高血圧と診断されますが、臓器障害がある場合は高いほうの血圧を目安に治療を行うべきです。血圧変動について教えてください。外来診察毎の血圧変動が大きいと脳血管イベントが多くなることが報告されました。以来、糖尿病の際の血糖の変動が臓器障害と関連づけられています。動物実験でも交感神経を切除して血圧変動を大きくすると、レニン・アンジオテンシン系が亢進して臓器障害が進行することが報告されています。ヒトにおいては長期にわたる一拍ごとの血圧変動をみることは困難であり確立したエビデンスはありませんが、血圧変動は少なくする方が望ましいでしょう。血圧変動が大きい原因として自律神経障害、褐色細胞腫のような器質的な異常のほかに服薬アドヒアランス不良、精神的ストレス、不眠(睡眠時無呼吸)といった要因もあり、医師のみならず看護師、薬剤師などからの患者の病歴、生活歴聴取が必要となります。服薬は管理されているにもかかわらず認知症患者ではとくに血圧変動が大きいことが問題になりますが、多くの場合は多発性脳梗塞を合併している例です。転倒のリスクがなければ認知症の進行、脳梗塞の再発予防を考えて血圧は低い値にコントロールしたいところです。実際には服薬数を増やせないなどの制限があり、合剤を積極的に使ってのコントロールとなります。食塩感受性について教えてください。塩分摂取により血圧が上昇する食塩感受性患者は、上昇しない非感受性患者にくらべ血圧値が同等でも心血管イベントが多いことから、食塩感受性の診断についての質問を多くいただきました。しかし、食塩感受性を診断するには現在のところ入院にて食塩負荷、減塩食を食べさせ、その間の血圧を測定することのほかには確実な方法はないのが現状です。実臨床においては早朝第二尿のナトリウムとクレアチニンを測定することで食塩摂取量を知ることができる(「日本高血圧学会減塩ワーキンググループ報告」日本高血圧学会より入手可能)ので塩分摂取量が多い患者について経時的に観察したり減塩指導の動機付けとして用いることもできます。あるいはサイアザイド系利尿薬に対する血圧反応性も食塩感受性を知る一つの方法です。効果的な減塩指導について教えてください。日本の食文化はみそ、塩、しょうゆの上に成り立っているので、減塩指導はともすれば日本の食文化を否定することにもなりかねません。しかし、現在の一般的食生活を見てみると加工食品がふんだんに使われており、この点を改善指導することで減塩は可能となります。たとえばソーセージ100gに塩は約2g、プロセスチーズでは約3g含まれており、こういった加工食品を減らすことを指導できるでしょう。また、加齢に伴い味覚は低下するため減塩が難しくなります。そこはワサビ、生姜、茗荷、唐辛子、胡椒といったスパイスをうまく使うように指導します。そして、食卓に出された食材に塩、しょうゆを追加でかけないよう、食卓には塩、しょうゆを置かないなどの細かな指導が必要となります。男性患者の場合、食事を実際に作る配偶者への指導も重要で、医師だけでなく看護師、栄養士、薬剤師、検査技師、保健婦など患者に関わるすべての医療従事者の協力体制が有効です。塩分過剰摂取は血圧上昇のみならず血圧が上昇しない場合でも酸化ストレスを増加させ耐糖能異常につながることが動物実験では示されており、摂取量を6g/日程度まで下げることは高血圧の有無にかかわらず有用であると思われます。降圧薬の減量、中止方法について教えてください。血圧のコントロールが良好で、臓器障害がないような場合、また尿中ナトリウムも低めの場合は降圧薬を中止できることもあります。その場合、4~5月位に中止し、夏の暑い間を経過観察し、10~11月から冬の寒い間に血圧が再上昇しないことを確認します。その後も家庭血圧で血圧を経過観察し、年に一回の臓器障害の進展のチェックを行います。多剤併用しており血圧が良好なコントロールの場合、薬剤の減量が可能です。長期にβ遮断薬を使っている場合は心筋虚血のリスクがあるのでβ遮断薬は漸減します。便秘、浮腫、歯肉腫脹、起立性低血圧がある場合はカルシウム拮抗薬の副作用の可能性もあるためカルシウム拮抗薬から減量します。昨今の酷暑ではとくに高齢者や腎機能低下例においては、レニン・アンジオテンシン系抑制剤や利尿薬の減量が必要となる例があります。早朝高血圧の対処方法について教えてください。家庭血圧を測定あるいは24時間血圧にて早朝高血圧が明らかになった場合、最近の研究では夜間高血圧ほどのリスクはないとの報告もありますが、降圧薬の服用時間を調整することでコントロール可能となることがあります。レニン・アンジオテンシン系阻害薬は夕方服用に適した薬剤といえます。ただし、夜間の過度の降圧に注意して少量より開始するのが好ましいでしょう。α遮断薬も有効とする報告もありますが、α遮断薬自体の臓器保護効果が疑問視されており、α遮断薬を追加投与するよりは現在服用しているレニン・アンジオテンシン系阻害薬の服用時間をずらすことが適切と考えます。難治性高血圧の対処方法について教えてください。異なる三系統の降圧薬を十分量を内服しても血圧のコントロールがつかない場合、難治性高血圧と呼ばれます。このような例では服薬アドヒアランス、二次性高血圧の再評価、睡眠時無呼吸の評価をまず行います。服薬アドヒアランスが不良の場合は合剤を用いること、服薬の必要性を再教育すること、服薬想起の道具(ピルボックスなど)が有効といわれており、医師だけでなく薬剤師、看護師、保健婦の協力が必要となります。すでに薬剤を服用している場合、ホルモン検査は薬剤の影響を受けるので評価が難しくなります。実臨床では副腎のCTを先行させてもいいと思います。あるいは十分量の抗アルドステロン薬(スピロノラクトンで75~100mg)を投与し治療的診断を行うことも有用です。腎血管性高血圧についてはMR angiographyが有用でしょう。以上のような精査で問題がない場合、中枢性の降圧薬(レセルピン)を少量朝1回追加することが有用である例を経験しています。あるいはジヒドロピリジン系カルシウム拮抗薬をかんきつ類と一緒に服用させる、あるいはヘルベッサーと併用しジヒドロピリジン系カルシウム拮抗薬の血中濃度を高めることも有用でしょう。白衣性高血圧の対処方法について教えてください。イギリスのガイドラインでは診察室血圧と24時間血圧、あるいは家庭血圧を用いて高血圧の診断を行い、臓器障害がない場合は白衣性高血圧は薬物介入をせずに年に1回の経過観察をするとしています。24時間血圧を用いて病院来院時のみ高血圧でその他の日常生活の中では全くの正常血圧であり、アルブミン尿も含め臓器障害が認められず、糖尿病などのリスク因子がない場合は薬物介入は必要ないと考えます。しかし、経過観察は必要で、患者には日常生活の中で突然の来客などストレスがかかると血圧が上がっている可能性を話し、徐々に臓器障害が出てくる可能性を説明する必要があるでしょう。白衣性高血圧で患者が薬物介入を希望する場合、抗不安薬も有効です。また、臓器障害がある場合はJSH2009に則って合併する臓器障害に応じて薬物を選択します。その際、心拍数が上昇するといった副作用のない薬物をまず選択します。拡張期血圧の対処方法について教えてください。収縮期血圧が大動脈のコンプライアンスと心拍出量で規定されるのに対し、拡張期血圧は全身の末梢血管抵抗と心拍出量で規定されます。よって高齢者で大血管の硬化が明らかになると収縮期血圧が上昇し脈圧が増大します。心臓の仕事量は収縮期血圧と心拍数の積に比例するため、収縮期血圧が高くなると心筋酸素消費量が増え、心虚血と心不全のリスクが増えます。一方冠動脈は拡張期に灌流されるので、拡張期血圧を下げすぎると、冠血流が低下する危険があります。実際、大規模臨床試験をみても拡張期血圧と心血管イベントにはJカーブに近い現象が認められます。拡張期のみ高い例は若年者に多く認められますが、治療の第一歩は減塩にあります。また個人的経験ですが、10年ほど前にARBが発売された当初、カルシウム拮抗薬やACE阻害薬にくらべ拡張期血圧がよく下がる印象がありましたが、統計的処理はされていません。また当時は利尿薬の使用頻度が低かったというバイアスもあります。現状では拡張期血圧のみを下げるための有効な治療法は生活習慣の改善のほかには確立されていないといえます。合剤の有用性について教えてください。いかなる服薬介入治療もその効果は服薬アドヒアランスに依存することは明白です。それゆえ、われわれは服薬アドヒアランスをよくする努力は惜しむべきではありません。アドヒアランスに関わる因子は複数ありますが、処方する立場として最も簡便にできることは服薬数を減らすことであり、その点において合剤はきわめて有効といえます。現在降圧薬に限らずぜんそく薬、糖尿病薬、高脂血症薬の合剤が日本でも使用可能ですが、海外の現状をみるとまだまだ立ち遅れています。私は実臨床の中で合剤の併用も行いARBの最大容量を合剤として処方し、3種の薬剤を2錠ですませ、患者の経済的負担も軽減するよう努力しています。

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扁桃摘出術後のステロイド全身投与、出血リスクに影響はないが・・・

 扁桃摘出術後の悪心・嘔吐の予防を目的に行われるステロイド全身投与は、出血イベントを増加させないが、出血が起きた場合の重症度が上がり、出血に対する再手術の施行率が高くなることが、カナダLaval大学(ケベックシティ)のJennifer Plante氏らの検討で示された。扁桃摘出術は耳鼻咽喉科領域で世界的に最もよく行われている手術だが、根本的な術後の有害事象として悪心・嘔吐が高頻度にみられる。対策としてステロイドの全身投与が行われ、最近のガイドラインでは5-HT3受容体拮抗薬の併用が推奨されている。ステロイドの全身投与により扁桃摘出術後の出血の発生率が増加するとの指摘があるという。BMJ誌2012年9月8日号(オンライン版2012年8月28日号)掲載の報告。術後出血、再介入のリスクをメタ解析で評価研究グループは、扁桃摘出術施行患者に対するステロイド全身投与の術後出血および再介入のリスクを評価するために、無作為化対照比較試験の系統的レビューを行い、メタ解析を実施した。データベースを検索し、得られたレビュー論文や臨床試験論文の参考文献も精査した。対象は、扁桃摘出術時のステロイド全身投与と対照を比較した無作為化対照比較試験とした。主要評価項目は術後出血、副次的評価項目は出血による入院、出血による再介入、輸血、死亡とした。リスクとベネフィットのバランスを重視すべき29試験(2,674例)が解析の対象となった。7試験はバイアスのリスクが低いと判定されたが、術後出血の系統的な同定を意図してデザインされた試験はなかった。ステロイド全身投与によって扁桃摘出術後出血の発生率が増加することはなかった[29試験、2,674例、オッズ比:0.96、95%信頼区間(CI):0.66~1.40、I2=0%]。ステロイド全身投与で出血がみられた患者では、手術による再介入の頻度が有意に高かった(12試験、1,178例、オッズ比:2.27、95%CI:1.03~4.99、I2=0%)。死亡例の報告はなかった。ステロイド全身投与で出血による入院は増加しなかった(17試験、1,722例、オッズ比:1.16、95%CI:0.68~2.00、I2=19%)。輸血および死亡について検討した試験はなかった。異質性の可能性を把握し、結果の頑健性を評価するために感度分析を行ったところ、得られた知見の整合性が確認された。著者は、「ステロイド全身投与により扁桃摘出術後の出血イベントは増加しないが、出血が起きた場合の重症度が上がり、そのため出血に対する再手術の施行率が上昇する可能性がある」と結論し、「ステロイド全身投与の使用条件を明確化するにはさらなる検討を要する。現時点では、ステロイド全身投与は慎重に行うべきで、扁桃摘出術による術後の悪心・嘔吐の予防ではリスクとベネフィットのバランスを重視し、とくに子どもへのルーチン投与は行うべきではない」と指摘する。

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高血圧白書2012 CONTENTS

1.調査目的と方法本調査の目的は、高血圧症診療に対する臨床医の意識を調べ、その実態を把握するとともに、主に使用されている降圧薬を評価することである。高血圧症患者を1ヵ月に10人以上診察している全国の医師500人を対象に、CareNet.comにて、アンケート調査への協力を依頼し、2012年6月15日~18日に回答を募った。2.結果1)回答医師の背景回答医師500人の主診療科(第一標榜科)は、一般内科が51.4%で最も多く、次いで循環器科で14.6%、消化器科で8.0%である。それら医師の所属施設は、病院(20床以上)が63.3%、診療所(19床以下)が36.7%となっている(表1)。表1画像を拡大する医師の年齢層は40-49歳が最も多く37.2%、次いで50-59歳以下が36.2%、39歳以下が21.9%と続く。40代から50代の医師が全体の7割以上を占めている。また62.6%もの医師が高血圧症患者を月100例以上診ている(表2)。表2画像を拡大する2)薬物治療開始血圧/降圧目標の推移年齢別薬物治療開始血圧/降圧目標の推移薬物治療開始血圧と降圧目標を年齢別でみると、一部例外はあるもののともに年々低下傾向がみられ、収縮期血圧については、65歳未満では薬物治療開始が平均146.9mmHg、降圧目標が130.5mmHg。65-74歳が同149.1mmHg、同133.5mmHg。75歳以上が同152.2mmHg、同136.8mmHgとなっている。2010年6月の調査で一時的に高くなっている理由として、Action to Control Cardiovascular Risk in Diabetes (ACCORD)試験、Valsartan in Elderly Isolated Systolic Hypertension(VALISH)試験において、積極的降圧群の結果が通常降圧群とエンドポイントの発生率で差が認められなかった無作為化比較試験の結果が、調査直前に発表されたことが影響していると考えられる。このように、高血圧症患者の年齢層が高くなるにしたがって、薬物療法開始血圧、降圧目標も高くなる傾向がみられている。(図1)図1画像を拡大する糖尿病有無別治療開始血圧/降圧目標の推移薬物治療開始血圧と降圧目標を糖尿病合併の有無別でもみると、同様に年々低下傾向がみられ、収縮期血圧については、合併症なしの場合は薬物治療開始が平均148.2mmHg、降圧目標が132.9mmHg。糖尿病を合併している場合には同132.9mmHg、同128.6mmHg。このように、糖尿病を合併している患者では降圧目標値をより低く設定し、早い段階から薬物治療を開始する傾向がみられる。(図2)図2画像を拡大する3)降圧薬の選択合併症がない高血圧症への第一選択薬合併症がない高血圧症に対する第一選択薬として最も多いのが「Ca拮抗薬」で47.3%、次いで多いのが「ARB」で43.3%と続く。以前と比べると低下しつつあるものの、今なお第一選択薬はCa拮抗薬が最も多いという結果となった(図3)。図3画像を拡大する糖尿病を合併した高血圧症への第一選択薬糖尿病を合併した高血圧症に対する第一選択薬として最も多いのが「ARB」で60.8%、次いで多いのが「Ca拮抗薬」で28.4%と続く。2009年に改訂された「高血圧治療ガイドライン」において、糖尿病合併例における第一選択薬はACE阻害薬、ARBが推奨されているが、Ca拮抗薬を第一選択薬として処方されている患者さんが3割弱いる。(図4)。図4画像を拡大するCa拮抗薬で降圧不十分な場合の選択肢Ca拮抗薬で降圧不十分な場合の選択肢として最も多いのが「ARBの追加投与」で50.1%、次いで多いのが「合剤(ARB+CCB)への切り替え」で16.8%と続く。2010年に発売されたARBとCa拮抗薬配合剤の割合が増加傾向にある(図5)。図5画像を拡大するARBで降圧不十分な場合の選択肢ARBで降圧不十分な場合の選択肢として最も多いのが「Ca拮抗薬の追加投与」で43.4%、次いで多いのが「合剤(ARB+CCB)への切り替え」で16.2%と続く。また、2006年12月にARBと利尿薬の配合剤が発売されて以来、配合剤への切り換えも含めたARBに利尿薬を追加する処方が増加し、ARBとCa拮抗薬の配合剤が発売された2010年4月以降、配合剤への切り換えも含めたARBにCa拮抗薬を追加する処方が増加してきているのがわかる(図6)。図6画像を拡大するCa拮抗薬+ARBで降圧不十分な場合の選択肢Ca拮抗薬+ARBで降圧不十分な場合の選択肢として最も多いのが「降圧利尿薬の追加投与」で32.6%、「ARBを合剤(ARB+利尿薬)に切り換え」が8.9%であるから、利尿薬成分を追加する処方が41.5%と3剤併用が普及してきている。(図7)。図7画像を拡大する降圧薬選択における重要視項目の推移降圧薬を選択するために重要視している項目を尋ねた(複数選択可)。図8には2005年時点で30%以上の医師より支持されていた項目の推移を示している。2005年に最も多かった「降圧効果に優れる」が7年間でさらに重要視される傾向にあり、90.2%の医師が重要視していた。次いで多いのが「24時間降圧効果が持続する」61.8%、「腎保護作用が期待できる」58.0%と続く。「腎保護作用が期待できる」については慢性腎臓病(CKD)の概念がわが国でも提唱された2007年以降に重要度が増している。一方、「大規模試験で評価できるエビデンスがある」は、2009年をピークに減少傾向にある。これは降圧薬を用いた大規模試験においてポジティブな結果が少なくなっていることと関係していると考えられる。これら8年にわたる重要視項目の変化は、この期間に発表されたエビデンスの多くが、「降圧薬の種類より、治療期間中の降圧度が重要である」ということを反映しているものではないかと推察している。図8画像を拡大するインデックスページへ戻る

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3剤の降圧薬を処方しても降圧できないときの4剤目、5剤目

 利尿薬を含めた3剤併用によっても降圧目標に至らないケースは、わが国の実地医科における報告でも13%、ハイリスク例を数多く含み、プロトコルが順守される大規模臨床試験においてはその割合は30〜50%にまで上る。わが国で最も多く処方されている3剤併用療法は、ARB、Ca拮抗薬、利尿薬であるが、これら3剤を併用しても目標血圧に到達しない場合の次の処方を選択するエビデンスはほとんど見当たらない。 フランスで行われたオープン無作為化比較試験の結果によると、これら3剤に、4剤目としてアルドステロン拮抗薬、5剤目としてループ利尿薬を追加していく治療計画は、4剤目としてACE阻害薬、5剤目としてβ遮断薬を追加していく治療計画より有意に収縮期血圧を低下させた。この結果はJorunal of Hypertension誌8月号に発表された。 ARB、Ca拮抗薬、利尿薬の3剤併用によってもABPMで評価した昼間血圧が135/85mmHg未満に到達しない治療抵抗性高血圧患者167名が、下記の2つのグループに無作為化割り付けられた。2種の治療は、12週後のABPMで測定した昼間収縮期血圧が主要評価項目として検証された。順次的ネフロン遮断群 (n=85) 4剤目:アルドステロン拮抗薬(スピロノラクトン)25mg/日を追加 4週目未達の場合、5剤目:ループ利尿薬(フロセミド)20mg/日を追加 8週目未達の場合、フロセミドを40mg/日に増量 10週目未達の場合、6剤目:カリウム保持性利尿薬(アミロライド)5mg/日を追加順次的レニン・アンジオテンシン(RA)系遮断群 (n=82) 4剤目:ACE阻害薬(ラミプリル)5mg/日を追加 4週目未達の場合、ラミプリルを10mg/日に増量 8週目未達の場合、5剤目:β遮断薬ビソプロロールを5mg/日を追加 10週目未達の場合、ビソプロロール10mg/日に増量主な結果は下記のとおり。(1) 順次ネフロン遮断群で、順次RA系遮断群より昼間収縮期血圧を10mmHg低く降圧した  (P

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世界で初めて家庭血圧計の測定値に基づいた降圧目標値を東北大学が検証 ーHOMED-BP研究の最終結果ー

 東北大学を中心に全国より457名の医師が参加して家庭血圧の適正な降圧目標値を検証した大規模無作為化比較試験HOMD-BP研究の最終結果が浅山 敬 氏によってまとめられ、Hypertension Research誌に発表された。この結果は8月16日に同誌のwebサイトにて「ADVANCE ONLINE PUBLICATION」として出版前に公開された。本研究では家庭血圧に基づき、125-134/80-84mmHgを降圧目標に薬物治療を強化していく通常コントロール群と、125/80mmHg未満を降圧目標とする厳格コントロール群のいずれかに無作為に分けられ、心血管イベントの発生を一次評価項目として実施されたが、厳格コントロール群で降圧目標に達した割合が有意に低く、両群間に一次評価項目で有意な差が認められなかった。 家庭血圧測定はある特定の1日だけでなく、長期間にわたり測定することが比較的簡単に行えるため、正確性、再現性、薬効評価などに期待が持てる。わが国では2005年においても臨床医の90%は患者に家庭血圧測定を勧め、高血圧患者の70%以上は家庭血圧計を所有している。しかし、現在のガイドラインの根拠となっている大規模臨床試験の結果は、すべて診察室血圧に基づいたものであり、家庭血圧の最適な降圧目標値の検証が求められていた。 そこで本研究は世界で初めて、家庭血圧計の測定値に基づき、降圧目標を定め、薬物治療を強化していく方法を採用し、最適な家庭血圧の降圧目標値と最適な初期薬物治療を検証するために、わが国で2001年より開始された。 本研究には457名の医師が参加し、3,518例の高血圧症例(家庭血圧の測定値が135-179/85-119mmHg)がエントリーされた。患者はまず、家庭血圧値125-134/80-84mmHgを降圧目標に薬物治療を強化していく通常コントロール群と、125/80mmHg未満を降圧目標とする厳格コントロール群のいずれか2群に無作為に割り付けられ、その後、初回治療としてACE阻害薬、ARB、Ca拮抗薬のいずれか3群に割り付けられ、2×3のマトリクスデザインによって研究が行われた。 主要評価項目としたエンドポイントは、心血管系疾患死、心筋梗塞、脳卒中のいずれかの発生とした。主な結果は下記のとおり。(1) フォローアップの中央値は5.3年。(2) 厳格コントロール群は通常コントロール群に比べ、多くの降圧薬を処方していた。   厳格群=1.82剤 vs 通常群=1.74剤(P=0.045)(3) 厳格コントロール群は通常コントロール群に比べ、家庭血圧の降圧度が大きかった。  〔収縮期血圧〕厳格群=22.7mmHg vs 通常群=21.3mmHg(P=0.018)  〔拡張期血圧〕厳格群=13.9mmHg vs 通常群=13.1mmHg(P=0.020)(4) しかし、降圧目標達成率は厳格コントロール群で有意に低かった。   厳格群=37.4% vs 通常群=63.5%(P

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ARBを含まない3剤併用療法で1ヵ月以内に30mmHgの降圧を達成:レニン阻害薬+Ca拮抗薬+利尿薬

 今や、ARB+Ca拮抗薬+利尿薬の3剤併用療法が降圧治療におけるゴールデンスタンダードとして繁用されている。この3剤以外の併用療法で、強力な降圧効果が期待できる組み合わせは存在するのか?2009年、わが国においてもレニン阻害薬アリスキレン(販売名=ラジレス)が登場し、10余年ぶりの新しい作用機序の降圧薬が治療のラインナップとして加わったが、Lacourcière氏らはアリスキレンを含めた3剤併用療法が2剤併用療法に比べ、有意に強力な降圧効果を発揮することをJournal of Hypertension誌に発表した。なお、この論文は出版前の7月22日に公開された。3剤併用療法では降圧治療開始から2週以内に、2剤併用療法より優れた治療経過を示した。 Lacourcière氏らは中等度から重度の高血圧患者1,191名を対象に1〜4週の単盲検下でのプラセボ投与後、下記の降圧薬併用治療群に無作為に割り付け、4週経過後に強制的に投与量を倍増する治療を合計8週間行った。1) アリスキレン(150mg/日→300mg/日)+アムロジピン(5mg/日→10mg/日)2) アリスキレン(150mg/日→300mg/日)+ヒドロクロロチアジド(12.5mg/日→25mg/日)3) アムロジピン(5mg/日→10mg/日)+ヒドロクロロチアジド(12.5mg/日→25mg/日)4) アリスキレン(150mg/日→300mg/日)+アムロジピン(5mg/日→10mg/日)+ヒドロクロロチアジド(12.5mg/日→25mg/日)主な結果は下記のとおり。1. 3剤併用療法によって、ベースラインより4週目には-30.7/-15.9mmHg、8週目には  -37.9/-20.6mHgの降圧が得られ、この降圧度はどの2剤併用療法より有意に優れていた。2. 3剤併用療法によって、2週目にはすでに-27.8mmHgの降圧度を観測した。3. 24時間自由行動下血圧(ABPM)によって測定した24時間血圧、昼間血圧、夜間血圧においても  2剤併用療法より有意に優れた降圧度を示した。4. 降圧目標(140/90mmHg未満)達成率は  〔中等度および重症度例〕 62.3%  〔重症度のみ〕 57.5%

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日本人においてカンデサルタン、アムロジピンの併用療法は、どの程度の降圧効果が期待できるか?

大阪大学大学院 医学系研究科 老年・腎臓内科学の楽木氏らは、ARBカンデサルタン、Ca拮抗薬アムロジピンの単剤療法と、それらの併用療法による降圧効果を種々の用量毎に測定した。この結果はClinical Therapeutics誌4月号に掲載された。楽木氏らは軽症から中等症の本態性高血圧患者を対象に、多施設無作為化二重盲検比較試験が実施した。4週間のプラセボ投与による観察期間終了後、444例の被験者は(1)カンデサルタン8mg+アムロジピン5mg群(n=101)、(2)カンデサルタン8mg+アムロジピン2.5mg群(n=36)、(3)カンデサルタン4mg+アムロジピン5mg群(n=36)、(4)カンデサルタン4mg+アムロジピン2.5mg群(n=35)、(5)カンデサルタン8mg群(n=100)、(6)アムロジピン5mg群(n=100)、(7)プラセボ群(n=36)のいずれかに無作為に割り付けられ、12週間投与された。主要評価項目はトラフ時の拡張期血圧の変化、副次評価項目はトラフ時の収縮期血圧値の変化。主な結果は下記のとおり。1) ベースラインの平均血圧値は153.4/95.7 mm Hg2) カンデサルタン8mg+アムロジピン5mg群:27.4mmHg/16.3mHg   カンデサルタン8mg群:13.9mmHg/7.8mHg   アムロジピン5mg群:19.9mmHg/11.2mmHg   併用療法群はそれぞれの単剤療法群より有意な降圧を認めた。

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肺塞栓症に対するリバーロキサバン、標準療法に非劣性

肺塞栓症の初期治療および長期治療に対する、経口第Xa因子阻害薬リバーロキサバン(商品名:イグザレルト)の固定用量レジメンは、標準的な抗凝固療法との比較で非劣性であり、ベネフィット対リスク特性が改善されていることが報告された。EINSTEIN–Pulmonary Embolism(PE)Study研究グループの検討報告で、NEJM誌2012年4月5日号(オンライン版2012年3月26日号)で発表された。リバーロキサバンの固定用量レジメンは、検査室監視が不要で、効果は深部静脈血栓症治療の標準的な抗凝固療法と同程度であることが示されていた。そこで、肺塞栓症の治療をシンプルにする可能性があることから検討が行われた。4,832例をリバーロキサバン対標準療法に無作為化研究グループによる無作為化薬剤名表示イベント主導型非劣性試験は、深部静脈血栓症の有無にかかわらず、急性症候性肺塞栓症を呈した4,832例を、リバーロキサバン投与群(1日2回15mgを3週間、その後は1日1回20mg)と、標準療法群(エノキサパリン投与後、用量調整ビタミンK拮抗薬を投与)に無作為に割り付け、3、6、12ヵ月時点で比較した。主要有効性アウトカムは、症候性静脈血栓塞栓症の再発とし、主要安全性アウトカムは、重大出血または重大ではないが臨床的に意義のある出血とした。イベント発生率、有害事象とも標準療法を上回る結果結果、リバーロキサバン群は、主要な有効性アウトカムにおいて標準療法群に対し非劣性(非劣性マージン2.0、P=0.003)で、イベント発生率はリバーロキサバン群の50件(2.1%)に対し、標準療法群は44件(1.8%)だった(ハザード比:1.12、95%信頼区間:0.75~1.68)。主要安全性アウトカムは、リバーロキサバン群10.3%に対し標準療法群11.4%の患者に認められた(同:0.90、0.76~1.07、P=0.23)。重大出血は、リバーロキサバン群26例(1.1%)、標準療法群52例(2.2%)で観察された(同:0.49、0.31~0.79、P=0.003)。他の有害事象の発生率は両群で同程度だった。(朝田哲明:医療ライター)

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中等度~重度アルツハイマー病に対するドネペジルvs.メマンチンvs.両者併用vs.治療中止

 軽度~中等度アルツハイマー病に対するコリンエステラーゼ阻害薬のベネフィットは臨床試験により示されているが、中等度~重度に進行後もベネフィットが持続するかは明らかとなっていない。英国・ロンドン大学のRobert Howard氏らは、3ヵ月以上ドネペジル(商品名:アリセプトほか)を服用していた中等度~重度の居宅アルツハイマー病患者を対象に、同薬を中止した場合、継続した場合、NMDA受容体拮抗薬メマンチン(商品名:メマリー)に切り替えた場合、両薬を併用した場合とを比較する多施設共同二重盲検2×2プラセボ対照試験を行った。NEJM誌2012年3月8日号より。295例を4群に割り付け52週間治療、認知機能、ADLの改善度を評価 試験は2008年2月~2010年3月に、地域で暮らす中等度~高度[標準化ミニメンタルステート検査(SMMSE)スコア:5~13、スコアは0~30で高いほど認知機能が良好]アルツハイマー病患者295例(平均年齢約77歳)を対象に行われた。被験者は、ドネペジル投与継続群(10mg/日)、ドネペジル投与中止群(4週間5mg投与後5週目からプラセボ)、ドネペジル投与中止後メマンチン投与開始群(5mg/日から開始し4週目から20mg/日)、ドネペジル投与継続+メマンチン投与開始に割り付けられ、52週間治療を受け評価された。 共同主要アウトカムは、SMMSEスコア、ブリストル日常生活動作尺度(BADLS)スコア(スコア0~60、高いほど機能障害が大きい)とし、臨床的に意味のあるスコア差を、SMMSEは1.4ポイント以上、BADLSは3.5ポイント以上とした。ドネペジル継続にベネフィット 中止群患者と比較して、ドネペジル継続投与群はSMMSEスコアが平均1.9ポイント高く(95%信頼区間:1.3~2.5)、BADLSスコアは3.0ポイント低く(同1.8~4.3)、認知機能、機能障害とも有意な改善(いずれもP<0.001)、臨床的に意味のあるスコア変化が示された。メマンチン投与を受けていた患者は、メマンチン投与を受けていなかった患者との比較で、SMMSEスコアは平均1.2ポイント高く(同0.6~1.8、P<0.001)、BADLSスコアは1.5ポイント低かった(同:0.3~2.8、P=0.02)が、両スコアとも臨床的に意味のある最小変化値を下回っていた。 ドネペジルとメマンチンの有効性は、併用することで有意差が示されることはなく、そのベネフィットはドネペジル単独使用を有意には上回らなかった。これらの結果からHoward氏は、「中等度~高度アルツハイマー病患者では、ドネペジルの継続投与が、12ヵ月間にわたって、認知機能、機能障害の改善についてのスコア差が臨床的に意味のある最小数値を上回り、有意なベネフィットがあることが示された」と結論している。

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成人ダウン症の認知症に、抗アルツハイマー病薬は有効か?

 成人ダウン症患者の認知機能障害や認知症に対し、アルツハイマー病治療薬のメマンチン(商品名:メマリー)は効果を示さないことが、英キングス・カレッジ・ロンドンのMarisa Hanney氏らが行ったMEADOWS試験で示された。ダウン症患者のアルツハイマー病発症率はきわめて高く、40歳以上になると多くにアルツハイマー病に特徴的な病理学的な変化がみられるという。N-メチル-D-アスパラギン酸型(NMDA)グルタミン酸受容体拮抗薬であるメマンチンは、ダウン症の遺伝子導入マウスモデルで有効性が示されているが、ダウン症患者に対するアルツハイマー病治療薬の投与を支持するエビデンスは十分ではない。Lancet誌2012年2月11日号(オンライン版2012年1月10日号)掲載の報告。成人ダウン症に対するメマンチンの有用性を評価 MEADOWS試験は、成人ダウン症患者の認知機能障害に対するメマンチンの有用性を評価するプロスペクティブな多施設共同二重盲検無作為化試験。 対象は、英国とノルウェーの4つの学習障害センターから登録された40歳以上のダウン症または年齢を問わず認知症と診断されたダウン症の患者であった。これらの患者が、メマンチンあるいはプラセボを投与する群に無作為に割り付けられ、52週の治療が行われた。 主要評価項目は、DAMESスコア(注意、記憶、実行機能からなるダウン症の認知機能評価尺度)および適応行動評価尺度I、II(ABS-I、-II)に基づく認知機能と適応行動機能の変化とし、ベースライン、12、26、52週に評価を行った。両群とも認知機能、適応行動機能が低下、有意差はなし 試験は2005年6月20日に開始され、2008年12月30日にフォローアップを終えた。173例が登録され、メマンチン群に88例(平均年齢51.7歳、男性57%、認知症35%)、プラセボ群には85例(同:51.0歳、56%、35%)が割り付けられた。メマンチン群のうちDAMESスコアは72例(82%)、ABSは75例(85%)で得られ、プラセボ群はそれぞれ74例(87%)、73例(86%)から得られた。 52週の治療後、両群ともに認知機能、適応行動機能の低下が認められたが、群間に有意な差はなかった。ベースラインスコアで調整後も、両群間のDAMESスコアの差は-4.1(p=0.36)、ABS-Iの差は-8.5(p=0.15)、ABS-IIの差は2.0(p=0.67)と有意差は認めず、むしろプラセボ群で良好な傾向がみられた。メマンチン群の10例(11%)、プラセボ群の6例(7%)で重篤な有害事象が認められた(p=0.33)。重篤な有害事象により、メマンチン群の5例、プラセボ群の4例が死亡した(p=0.77)。 著者は、「40歳以上のダウン症患者では、メマンチンによる認知機能障害や認知症の改善効果を示すエビデンスは得られなかった」と結論し、「アルツハイマー病に有効な薬剤が、成人ダウン症の認知機能障害に効果を示すとは限らないことが示唆された」と指摘している。

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直接的レニン阻害薬と他のRAS阻害薬の併用で高カリウム血症増加

直接的レニン阻害薬アリスキレン(商品名:ラジレス)は、ACE阻害薬やARBと併用すると、高カリウム血症のリスクを増大させることが、カナダ・トロント大学のZiv Harel氏らの検討で示された。アリスキレンなどのレニン-アンジオテンシン系(RAS)阻害薬は、うっ血性心不全や高血圧、蛋白尿などのさまざまな病態の管理に用いられているが、他のRAS阻害薬との併用における重篤な合併症として高カリウム血症や急性腎障害が知られている。アリスキレンと他のRAS阻害薬の併用に関する試験の多くは代用アウトカム(surrogate outcome)を用いているため、真の有害事象の検出能は低いという。BMJ誌2012年2月4日号(オンライン版2012年1月9日号)掲載の報告。アリスキレンの安全性をメタ解析で評価研究グループは、他のRAS阻害薬との併用におけるアリスキレンの安全性を検証するために、無作為化対照比較試験の系統的なレビューとメタ解析を行った。Medline、Embase、Cochrane Libraryおよび2つの臨床試験のレジストリーを用いて、2011年5月7日までに出版された文献を検索した。アリスキレンとアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬あるいはアンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)の併用療法と、これらの薬剤の単剤療法を比較した無作為化対照比較試験(治療期間4週以上)のうち、有害事象として高カリウム血症と急性腎障害に関する数値データを提示した試験を抽出した。変量効果モデルを用いて総合リスク比と95%信頼区間(CI)を算出した。併用時は血清カリウム濃度のモニタリングを10試験、4,814例が解析の対象となった。アリスキレンとACE阻害薬またはARBの併用療法では、ACE阻害薬単剤やARB単剤(相対リスク:1.58、95%CI:1.24~2.02)あるいはアリスキレン単剤(同:1.67、1.01~2.79)に比べ、高カリウム血症が有意に増加した。急性腎障害のリスクについては、併用療法と単剤療法で有意な差は認めなかった(相対リスク:1.14、95%CI:0.68~1.89)。著者は、「アリスキレンは、ACE阻害薬やARBと併用すると、高カリウム血症のリスクを増大させる」と結論し、「これらの薬剤を併用する場合は、血清カリウム濃度の注意深いモニタリングを要する」と注意を喚起している。(菅野守:医学ライター)

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経口抗凝固療法の自己モニタリング、血栓塞栓イベントを低減

患者自身が検査や用量の調整を行う自己モニタリングによる経口抗凝固療法は、本療法が適応となる全年齢層の患者において安全な治療選択肢であることが、英国・オックスフォード大学のCarl Heneghan氏らの検討で示された。ビタミンK拮抗薬による経口抗凝固療法を受ける患者は増加し続けているが、治療域が狭いため目標とする国際標準化比(INR)を維持するには頻回の検査や適切な用量の調整などを要するという問題がある。自己モニタリングは、その有効性を示す優れたエビデンスがあるものの、臨床導入には相反する見解がみられるという。Lancet誌2012年1月28日号(オンライン版2011年12月1日号)掲載の報告。自己モニタリングの意義を検証するメタ解析研究グループは、経口抗凝固薬の患者自身による自己モニタリング(自己検査[検査は患者が行い用量は医師が決める]または自己管理[検査、用量調整とも患者が行う])の意義を検証するために、自己モニタリングと医師によるモニタリングの有効性を比較した無作為化試験のメタ解析を行った。Ovid versions of Embase(1980~2009年)とMedline(1966~2009年)を検索し、Cochrane Central Register of Controlled Trialsなどで検索結果を調整した。UK National Research Register and Trials Centralなどで未出版の試験も検索した。抽出された全試験の著者と連絡を取り、死亡までの期間、初回大出血、初回血栓塞栓イベントに関する個々の患者データの提供を求めた。機械弁置換や心房細動の患者についても解析した。年齢別、対照群のケアのタイプ(抗凝固療法専門施設とプライマリ・ケア施設)、自己検査と自己管理、性別について、事前に規定されたサブグループ解析を行った。変量効果モデルで統合ハザード比(HR)を算出した。 血栓塞栓イベントが半減、特に55歳未満と機械弁置換患者で高い効果1992~2006年に患者登録がなされ、2000~2010年に発表された11試験(6,417例、1万2,800人・年)が解析の対象となった。全体の平均年齢は65.0歳(17~94歳)、女性が22%、心房細動患者は53%、機械弁置換患者は35.0%であった。血栓塞栓イベントは、医師によるモニタリング群に比べ自己モニタリング群で有意に減少した(HR:0.51、95%信頼区間[CI]:0.31~0.85)が、大出血(同:0.88、0.74~1.06)と死亡率(同:0.82、0.62~1.09)は両群間に差はみられなかった。特に、55歳未満の患者(HR:0.33、95%CI:0.17~0.66)と機械弁置換患者(同:0.52、0.35~0.77)で血栓塞栓イベントの抑制効果が高かった。85歳以上の患者(99例)では、自己モニタリングによる合併症の増加はみられず、死亡率は有意に低下した(同:0.44、0.20~0.98)。著者は、「経口抗凝固療法の自己検査および自己管理は、本療法が適応となる全年齢層の患者において安全な治療選択肢である」と結論し、「自己管理の選択肢は、適切な医療支援による保護の元で患者に提供すべき」と指摘している。(菅野守:医学ライター)

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選択的ニューロキニン1受容体拮抗型制吐剤 ホスアプレピタントメグルミン(商品名:プロイメンド)

がん化学療法に伴う悪心・嘔吐に対する制吐剤として、選択的ニューロキニン1(NK1)受容体拮抗薬であるホスアプレピタントメグルミン(商品名:プロイメンド点滴静注用150mg、以下プロイメンド)が、2011年12月9日に発売された。本剤は、2009年12月に発売された経口制吐剤アプレピタント(商品名:イメンドカプセル)のプロドラッグ体の注射剤である。がん化学療法における制吐療法の現状と課題抗がん剤の有害事象の1つである悪心・嘔吐は、患者さんのQOLを著しく低下させ、治療継続を妨げる大きな要因となる。その発現時期により、抗がん剤投与後24時間までに発症する「急性」の悪心・嘔吐と、24時間以降に発症する「遅発性」の悪心・嘔吐に分けられ、急性には主にセロトニンが、遅発性には主に中枢でのサブスタンスPが関与するとされている。急性の悪心・嘔吐については、1990年代に発売された5HT3受容体拮抗薬により大きく改善されたが、遅発性の悪心・嘔吐には抑制効果が不十分であった。その後、サブスタンスPとNK1受容体の結合を阻害するアプレピタントが、急性および遅発性の悪心・嘔吐に対して高い有効性が認められ、2009年12月に発売された。さらに、2010年4月、半減期が長く遅発性の悪心・嘔吐にも効果を示す5HT3受容体拮抗薬のパロノセトロンが発売され、同年5月には日本癌治療学会から制吐薬適正使用ガイドラインが発行されたことにより、制吐療法への関心が高まった。しかし、患者さんが症状を訴えられずにいたり、近年普及してきている外来化学療法では、患者さんが自宅に戻るため悪心・嘔吐症状が把握しにくいなど、症状を見逃す可能性も少なくない。今後、患者さんの症状を拾い上げるためのさらなる工夫が必要と思われる。一方、アプレピタントは経口剤であることから、咽頭・喉頭・食道がんなどの患者さんでは服用が難しく、また、患者さんの認識不足や飲み忘れにより、処方しても服用されないことが懸念されることや、抗がん剤には点滴静注で投与される薬剤も多いことなどから、医療現場では注射剤の発売が期待されていた。注射剤により確実に投与可能今回、発売されたプロイメンドは、アプレピタントのプロドラッグ体であり、静脈内投与後、速やかにアプレピタントに代謝される注射剤である。そのため、経口剤の服用が困難な患者さんにも投与可能であり、飲み忘れを懸念することなく確実に投与できる。本剤1回点滴静注投与によって、急性・遅発性ともに、アプレピタント3日間投与と同等の効果が得られることが海外第Ⅲ相二重盲検比較試験において示されている。国内では、グラニセトロン(iv)+デキサメタゾンリン酸エステル(iv)の2剤併用群(標準治療群)と、この2剤にプロイメンドを追加した3剤併用群(プロイメンド群)を比較した第Ⅲ相二重盲検比較試験において、全期間における有効率がプロイメンド群64.2%と、標準治療群47.3%に比べて有意に(p<0.05)高い有効率が得られた。なお、本試験では26.4%に副作用(臨床検査値異常を含む)が認められている。主な副作用は、便秘(9.2%)、ALT(GPT)上昇(6.9%)、しゃっくり(5.7%)、注入部位疼痛・滴下投与部位痛(5.2%)などであった(承認時)。また、重大な副作用として、皮膚粘膜眼症候群(Stevens-Johnson症候群)、穿孔性十二指腸潰瘍、アナフィラキシー反応が報告されている(アプレピタントでの報告を含む)。ガイドラインにおける推奨2010年5月発行の制吐薬適正使用ガイドラインでは、高度催吐リスクの抗がん剤・レジメン、中等度催吐リスクの抗がん剤・レジメンのうちカルボプラチン、イホスファミド、イリノテカン、メトトレキサートなどを使用する際には、アプレピタント+5HT3受容体拮抗薬+デキサメタゾンの3剤併用が推奨されている。すでに米国など世界30ヵ国以上でプロイメンドが発売されており、ASCOガイドライン(2011年改訂版)やNCCNガイドライン(2011年3月改訂版)には、プロイメンド+5HT3受容体拮抗薬+デキサメタゾンの3剤併用が追記されている。わが国の制吐薬適正使用ガイドラインにおいても、次回改訂時に追記されることが予想される。がん化学療法におけるQOL改善と治療継続に期待プロイメンドの登場により、アプレピタントが服用困難ながん患者さんへの投与が可能となった。また、患者さんの服薬コンプライアンスによらず、確実に投与できることも大きなメリットと言えよう。医療者側においても、点滴ラインから一連の投与を行うレジメンに組み込みやすいと思われる。がん化学療法においては、薬剤・レジメンの催吐リスク、性別、年齢、前治療などを考慮した適切な制吐剤により悪心・嘔吐を予防することが、がん治療の継続につながる。プロイメンドが、より多くのがん患者さんにおけるQOLの改善、がん化学療法の継続に貢献することが期待される。

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がん化学療法における制吐療法に新たな選択肢

がん化学療法に伴う悪心・嘔吐に対する制吐剤として、選択的ニューロキニン1(NK1)受容体拮抗薬であるホスアプレピタントメグルミン(商品名:プロイメンド点滴静注用150mg、以下プロイメンド)が、本日(12月9日)発売された。本剤は、2009年12月に発売された経口制吐剤アプレピタント(商品名:イメンドカプセル)のプロドラッグ体の注射剤である。がん化学療法における制吐療法の現状と課題抗がん剤の有害事象の1つである悪心・嘔吐は、患者さんのQOLを著しく低下させ、治療継続を妨げる大きな要因となる。その発現時期により、抗がん剤投与後24時間までに発症する「急性」の悪心・嘔吐と、24時間以降に発症する「遅発性」の悪心・嘔吐に分けられ、急性には主にセロトニンが、遅発性には主に中枢でのサブスタンスPが関与するとされている。急性の悪心・嘔吐については、1990年代に発売された5HT3受容体拮抗薬により大きく改善されたが、遅発性の悪心・嘔吐には抑制効果が不十分であった。その後、サブスタンスPとNK1受容体の結合を阻害するアプレピタントが、急性および遅発性の悪心・嘔吐に対して高い有効性が認められ、2009年12月に発売された。さらに、2010年4月、半減期が長く遅発性の悪心・嘔吐にも効果を示す5HT3受容体拮抗薬のパロノセトロンが発売され、同年5月には日本癌治療学会から制吐薬適正使用ガイドラインが発行されたことにより、制吐療法への関心が高まった。しかし、患者さんが症状を訴えられずにいたり、近年普及してきている外来化学療法では、患者さんが自宅に戻るため悪心・嘔吐症状が把握しにくいなど、症状を見逃す可能性も少なくない。今後、患者さんの症状を拾い上げるためのさらなる工夫が必要と思われる。一方、アプレピタントは経口剤であることから、咽頭・喉頭・食道がんなどの患者さんでは服用が難しく、また、患者さんの認識不足や飲み忘れにより、処方しても服用されないことが懸念されることや、抗がん剤には点滴静注で投与される薬剤も多いことなどから、医療現場では注射剤の発売が期待されていた。続きはこちら

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心房細動患者に対するapixaban vs. ワルファリン

心房細動患者の脳卒中または全身性塞栓症のイベント抑制効果について検討された「ARISTOTLE」試験の結果、新規経口直接Xa阻害薬apixabanはワルファリンと比較して、同イベント発生を約2割低下し、予防に優れることが明らかにされた。大出血発生については約3割低く、全死因死亡率は約1割低かった。ワルファリンに代表されるビタミン拮抗薬は、心房細動患者の脳卒中の予防に高い効果を示すが、一方でいくつかの限界もあることが知られる。apixabanについては、これまでにアスピリンとの比較で、同等の集団において脳卒中リスクを抑制したことが示されていた。米国・デューク大学医療センターのChristopher B. Granger氏を筆頭著者とする、NEJM誌2011年9月15日号(オンライン版2011年8月28日号)掲載報告より。18,201例を対象とした国際多施設共同無作為化二重盲検試験ARISTOTLE(Apixaban for Reduction in Stroke and Other Thromboembolic Events in Atrial Fibrillation)試験は、39ヵ国1,034施設から登録された1つ以上の脳卒中リスクを有する心房細動患者18,201例を対象に行われた、国際多施設共同無作為化二重盲検試験であった。被験者は無作為に、apixaban投与群(5mgを1日2回)かワルファリン投与群(目標INR:2.0~3.0)に割り付けられ、中央値1.8年の間追跡された。主要アウトカムは、脳梗塞、脳出血、全身性塞栓症のいずれかの発生とされた。試験は非劣性を検討するようデザインされ、副次評価において主要アウトカムに関する優位性、大出血や全死因死亡に関する優位性が検討された。主要アウトカム発生について、apixaban群の非劣性、優位性が認められる結果、主要アウトカムの発生は、apixaban群1.27%/年、ワルファリン群1.60%/年、ハザード比0.79(95%信頼区間:0.66~0.95)で、apixaban群の非劣性(p<0.001)、優位性(p=0.01)が認められた。大出血の発生は、apixaban群2.13%/年、ワルファリン群3.09%/年、ハザード比0.69(同:0.60~0.80)で、apixaban群の優位性が認められた(p<0.001)。全死因死亡についても、apixaban群3.52%/年、ワルファリン群3.94%/年、ハザード比0.89(同:0.80~0.99)で、apixaban群の優位性が認められた(p=0.047)。また、脳出血の発生は、apixaban投与群0.24%/年に対し、ワルファリン群0.47%/年(ハザード比:0.51、95%CI:0.35~0.75、p<0.001)、脳梗塞または病型不明の脳卒中発生については、apixaban群0.97%/年、ワルファリン群1.05%/年(ハザード比:0.92、95%CI:0.74~1.13、p=0.42)であった。(朝田哲明:医療ライター)

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低リスク肺塞栓症の低分子量ヘパリンによる外来治療は入院治療に劣らない

低リスクの急性肺塞栓症に対する低分子量ヘパリンを用いた外来治療は、入院治療に劣らない有効性と安全性を有することが、スイス・ベルン大学病院のDrahomir Aujesky氏らの検討で示された。欧米では、症候性の深部静脈血栓症の治療では低分子量ヘパリンによる外来治療が通常治療とされる。肺塞栓症の診療ガイドラインでは、血行動態が安定した患者には外来治療が推奨されているが、現行の症候性肺塞栓症の治療の多くは入院患者を想定したものだという。Lancet誌2011年7月2日号(オンライン版2011年6月23日号)掲載の報告。外来治療の非劣性を評価する非盲検無作為化試験本研究は、4ヵ国(スイス、フランス、ベルギー、アメリカ)の19の救急診療施設の参加のもと、肺塞栓症の入院治療に対する外来治療の非劣性を評価する目的で実施された非盲検無作為化試験である。症状のみられる急性肺塞栓症で、死亡リスクが低い患者(肺塞栓症重症度インデックスでリスクがclass IあるはII)が、外来治療(看護師の指導でエノキサパリン1mg/kg×2回/日を自身で皮下投与し、24時間以内に退院)を行う群あるいは外来治療と同じレジメンを入院で施行する群に無作為に割り付けられた。外来治療群のうち自己注射が不可能な患者には、介護者あるいは訪問看護師が投与した。両群とも、経口抗凝固薬とビタミンK拮抗薬を早期に導入し、90日間以上継続することが推奨された。主要評価項目は、90日以内の症候性静脈血栓塞栓症の再発、14日あるいは90日以内の大出血などの安全性のアウトカムおよび90日死亡率とした。非劣性の定義は両群のイベント発生率の差が4%未満の場合とした。患者にも好評、在院期間の短縮に2007年2月~2010年6月までに344例が登録され、外来治療群に172例が、入院治療群にも172例が割り付けられた。評価可能例は、それぞれ171例、168例であった。外来治療群の171例のうち90日以内の静脈血栓塞栓症再発例は1例(0.6%)のみ、入院治療群では再発例はなく、非劣性の判定基準を満たした[95%上限信頼限界(UCL):2.7%、p=0.011]。90日死亡例は両群とも1例(それぞれ0.6%、95%UCL:2.1%、p=0.005)のみで、14日以内の大出血は外来治療群が2例(1.2%)、入院治療群では認めなかった(95%UCL:3.6%、p=0.031)。90日までに外来治療群の3例(1.8%)が大出血をきたしたが、入院治療群では認めなかった(95%UCL:4.5%、p=0.086)。平均在院期間は、外来治療群が0.5日(SD 1.0)、入院治療群は3.9日(SD 3.1)であった。著者は、「低リスク例の場合、肺塞栓症の入院治療を外来治療で用いても安全かつ有効と考えられる」と結論し、「患者にも好評で、在院期間の短縮につながるだろう」としている。(菅野守:医学ライター)

558.

脳卒中の2次予防におけるterutroban、アスピリンとの非劣性確認できず

虚血性脳卒中や一過性脳虚血発作(TIA)の既往歴のある患者に対する抗血小板薬治療として、terutrobanはアスピリンと同等の有効性を示しながらも、非劣性基準は満たさないことが、フランス・パリ-ディドロ大学のMarie-Germaine Bousser氏らが行ったPERFORM試験で示され、Lancet誌2011年6月11日号(オンライン版2011年5月25日号)で報告された。同氏は、「現在でもアスピリンがgold standard」としている。脳卒中は世界的に身体障害、認知症、死亡の主要原因であり、虚血性脳卒中やTIAの既往歴のある患者は脳卒中の再発や他の心血管イベントのリスクが高い。terutrobanは、血小板や血管壁に存在するトロンボキサン-プロスタグランジン受容体の選択的な拮抗薬で経口投与が可能であり、動物やヒトでアスピリンと同等の抗血小板活性が確認されているという。世界46ヵ国802施設が参加、勧告により早期中止PERFORM(Prevention of cerebrovascular and cardiovascular Events of ischaemic origin with teRutroban in patients with a history oF ischaemic strOke or tRansient ischaeMic attack)試験は、非心原性脳虚血イベントの既往歴のある患者を対象に、terutrobanとアスピリンの脳および心血管の虚血性イベントの予防効果を比較する無作為化並行群間比較試験。2006年2月22日~2008年4月7日までに、46ヵ国802施設から過去3ヵ月以内に虚血性脳卒中を発症した患者、あるいは8日以内にTIAをきたした患者が登録され、terutroban(30mg/日)あるいはアスピリン(100mg/日)を投与する群に無作為に割り付けられた。患者と主治医には治療割り付け情報は知らされなかった。有効性に関する主要評価項目は、致死的/非致死的な虚血性脳卒中、致死的/非致死的な心筋梗塞、他の血管死(出血死を除く)の複合エンドポイントとした。非劣性の解析を行ったのち、優越性について解析することとし、intention-to-treat解析を実施した。なお、本試験はデータ監視委員会の勧告に基づき早期中止となっている。主要評価項目は同等だが、非劣性基準満たさず、安全性の改善も得られず1万9,120例が登録され、terutroban群に9,562例が、アスピリン群には9,558例が割り付けられた。それぞれ9,556例(男性63%、平均年齢67.2歳)、9,544例(同:62%、67.3歳)が解析可能であった。平均フォローアップ期間は28.3ヵ月(SD 7.7)であった。主要評価項目の発現率は、terutroban群が11%(1,091/9,556例)、アスピリン群も11%(1,062/9,544例)で、非劣性の判定基準(ハザード比>1.05)は満たされなかった(ハザード比:1.02、95%信頼区間:0.94~1.12)。2次評価項目(14項目)、3次評価項目(6項目)にも有意な差は認めなかった。小出血の頻度がterutroban群で有意に上昇した[12%(1,147/9,556例) vs. 11%(1,045/9,544例)、ハザード比:1.11、95%信頼区間:1.02~1.21]が、その他の安全性に関する評価項目に有意な差はみられなかった。著者は、「事前に規定された判定基準により、terutrobanのアスピリンに対する非劣性は確証されなかった。主要評価項目の発現率は両群で同等であったが、terutrobanは安全性についても改善効果をもたらさなかった」と結論し、「世界的にみて、有効性、耐用性、医療コストの観点から、現在もアスピリンは脳卒中の2次予防における抗血小板薬治療のgold standardである」と指摘している。(菅野守:医学ライター)

559.

かかりつけ医下の患者における、LTRAの喘息治療第一選択薬、追加薬としての有効性

ロイコトリエン受容体拮抗薬(LTRA)の有効性について、臨床実態の反映を企図したプラグマティックな無作為化試験の結果が報告された。英国・アバディーン大学プライマリ・ケアセンターのDavid Price氏らが、「これまでほとんどの喘息治療の試験は、“理想的な条件下にある特定の患者”を対象に行われてきた」として、英国医療技術評価プログラム(U.K. Health Technology Assessment Programme)からの委託を受け行ったもの。第一選択薬試験と追加薬試験の2つを並行で多施設共同にて行い、2年間の結果がNEJM誌2011年5月5日号に掲載された。12~80歳の喘息関連QOLが低くコントロール不十分な患者を対象に第1の試験は、LTRAの長期管理の第一選択薬としての有効性を吸入グルココルチコイド薬と比較した試験(第一選択薬試験)、第2の試験は吸入グルココルチコイド療法を受けている喘息患者への追加薬としての有効性を長時間作用性β2刺激薬(LABA)と比較した試験(追加薬試験)だった。被験者は、12~80歳の、喘息関連QOLが低く[簡易喘息QOL質問票(MiniAQLQ)スコアが6以下)、喘息コントロールが不十分[喘息管理質問票(ACQ)スコアが1以上)の、かかりつけ医のもとで治療を受けている患者が選ばれた。研究グループは患者を、かかりつけ医の管理下に置いたまま、2年間の非盲検試験に無作為に割り付けた。内訳は、第一選択薬試験にLTRA群148例、グルココルチコイド療法群158例、追加薬試験にLTRA群170例、LABA群182例だった。2ヵ月時点同等、2年時点ほぼ同等、とはいえ試験特性からのバイアスに留意を平均MiniAQLQスコアは、両試験とも2年間において0.8~1.0ポイント上昇した。2ヵ月時点の、各治療群間のMiniAQLQスコアの差は、同等性の定義(補正後平均群間差の95%信頼区間:-0.3~0.3)を満たした。第一選択薬試験での治療間の補正後平均群間差は-0.02(95%信頼区間:-0.24~0.20)、追加薬試験では-0.10(同:-0.29~0.10)だった。2年時点における平均MiniAQLQスコアについては、ほぼ同等に達していた。第一選択薬試験は-0.11(95%信頼区間:-0.35~0.13)、追加薬試験は-0.11(同:-0.32~0.11)だった。増悪率とACQスコアは、両群間で有意差が認められなかった。研究グループは、「2ヵ月時点の試験結果は、LTRAは多様なプライマリ・ケア患者のための長期管理の第一選択薬として、吸入グルココルチコイドと同等であること、また追加薬としてLABAと同等であることを示した。2年時点の同等性は証明されなかった」とまとめたうえで、「プラグマティック試験の結果は、治療群間のクロスオーバーとプラセボ群の欠如という点で制限があることを踏まえたうえで解釈すべき」と結論。「QOLの観点からの臨床的有効性について治療群間の差はわずかであることが示されたが、それがプラグマティック試験ならではの同等性へのバイアスであることを認識することが重要である。臨床での治療選択の意思決定は、プラグマティック試験と同時に従来の無作為化試験の結果をみることによってベストな選択肢を導き出せる」と述べている。(朝田哲明:医療ライター)

560.

ARBカンデサルタン、急性脳卒中への有用性:SCAST試験

血圧の上昇を伴う脳卒中患者における、アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)カンデサルタン(商品名:ブロプレス)の有用性について、ノルウェー・オスロ大学のElse Charlotte Sandset氏らが実施したSCAST試験の結果が報告された。血圧の上昇は、急性脳卒中の一般的な原因であり、不良な予後のリスクを増大させる要因である。ARBは梗塞サイズや神経学的機能に良好な効果を及ぼすことが基礎研究で示され、高血圧を伴う急性脳卒中患者を対象としたACCESS試験では、カンデサルタンの発症後1週間投与により予後の改善が得られることが示唆されていた。Lancet誌2011年2月26日号(オンライン版2011年2月11日号)掲載の報告。1週間漸増投与の有用性を評価SCAST試験の研究グループは、血圧上昇を伴う急性脳卒中患者に対するカンデサルタンを用いた慎重な降圧治療の有用性を評価する二重盲検プラセボ対照無作為化試験を実施した。北ヨーロッパ9ヵ国146施設から、18歳以上、症状発現後30時間以内、収縮期血圧≧140mmHgの急性脳卒中(虚血性あるいは出血性)患者が登録された。これらの患者が、カンデサルタン群あるいはプラセボ群に無作為に割り付けられ、7日間の治療を受けた。第1日に4mgを、第2日に8mgを投与し、第3~7日には16mgが投与された。患者と担当医には治療割り付け情報は知らされなかった。主要評価項目は、血管に関する複合エンドポイント(6ヵ月以内の血管死、心筋梗塞、脳卒中)および機能アウトカム(6ヵ月の時点において修正Rankinスケールで評価)とし、intention-to-treat解析を行った。主要評価項目に大きな差は認められず2,029例が登録され、カンデサルタン群に1,017例、プラセボ群には1,012例が割り付けられた。そのうち6ヵ月後に評価が可能であったのは2,004例(99%、カンデサルタン群:1,000例、プラセボ群:1,004例)であった。7日間の治療期間中の平均血圧は、カンデサルタン群[147/82mmHg(SD 23/14)]がプラセボ群[152/84mmHg(SD 22/14)]よりも有意に低下した(p<0.0001)。6ヵ月後のフォローアップの時点における複合エンドポイントの発生率は、カンデサルタン群が12%(120/1,000例)、プラセボ群は11%(111/1,004例)であり、両群間に差を認めなかった(調整ハザード比:1.09、95%信頼区間:0.84~1.41、p=0.52)。機能アウトカムの解析では、不良な予後のリスクはカンデサルタン群のほうが高い可能性が示唆された(調整オッズ比:1.17、95%信頼区間:1.00~1.38、p=0.048)。事前に規定された有用性に関する副次的評価項目(全死亡、血管死、虚血性脳卒中、出血性脳卒中、心筋梗塞、脳卒中の進行、症候性低血圧、腎不全など)や、治療7日目のScandinavian Stroke Scaleスコアおよび6ヵ月後のBarthel indexで評価した予後はいずれも両群で同等であり、事前に規定されたサブグループのうちカンデサルタンの有用性に関するエビデンスが得られた特定の群は一つもなかった。6ヵ月のフォローアップ期間中に、症候性低血圧がカンデサルタン群の9例(1%)、プラセボ群の5例(<1%)に認められ、腎不全がそれぞれ18例(2%)、13例(1%)にみられた。この結果から、血圧の上昇を伴う急性脳卒中患者においては、ARBであるカンデサルタンを用いて慎重に行った降圧治療は有用であることを示すことはできなかった。

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