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これからのアルツハイマー病治療薬はこう変わる

 米国・カリフォルニア大学のMichael S. Rafii氏は、アルツハイマー病(AD)治療のアップデートを目的に文献レビューを行った。その結果、米国食品医薬品局(FDA)によるAD治療の新薬承認は2003年のNMDA受容体拮抗薬以降は行われておらず、近年の疾患修飾を狙った開発薬はいずれも有効性を示すことができなかったこと、その失敗を踏まえて現在はAD発症メカニズムに着目した新薬開発が積極的に進められていることを報告した。Reviews on Recent Clinical Trials誌オンライン版2013年7月17日号の掲載報告。 ADは世界的な認知症の主因であり、臨床的特徴として進行性の認知障害および神経精神病学的障害が認められる。Rafii氏は、AD治療に関する文献レビューを行い、AD治療薬の開発および最近の動向について次のように報告した。・ADの病理学的特徴は、細胞外のアミロイドプラークの蓄積、ニューロン内神経原線維変化であり、広範な神経変性を伴う。前脳基底部におけるコリン作動性ニューロンの喪失などが認められ、コリン作動性の神経伝達の低下や記憶障害に結びつくことが明らかとなっている(Bartus et al, 1982; Whitehouse et al, 1982)。・そこで現在、AD型認知症の症状に対しては、コリン作動性ニューロンの喪失をターゲットにしたアセチルコリンエステラーゼ阻害薬(AChEI)による治療が行われている(Birks J, 2006)。しかしAChEI治療は、一時的に症状を緩和するだけで、疾患の進行を遅らせたり改善したりはしない。承認されているAChEIとしては、ドネペジル(商品名:アリセプトほか)、リバスチグミン(同:イクセロン、 リバスタッチ)、ガランタミン(同:レミニール)がある。・また、過剰なグルタミン酸作動性神経伝達(ニューロンの興奮毒性として示される)も、ADの病理に関与しているのではないかと仮定された。・そこで開発されたのが、低親和性の非競合的電位依存性NMDA受容体拮抗薬メマンチン(同:メマリー)である(Chen HV, 1992)。メマンチンは中等度~重度のAD治療薬として承認された。・しかし、米国FDAは、2003年にこのメマンチンをAD治療薬として承認して以降、新薬の承認をしていない。唯一の承認は、2011年のドネペジルの高用量の経口剤(23mg錠)と、2012年のリバスチグミンの経皮パッチ剤(13.3mg)であった。・近年、疾患修正を狙った多くの新薬候補が、大規模無作為化対照試験に臨んだが、AD治療における有効性を示すことはできなかった。・ADの原因究明については、いまだ熱心に研究されているが、その領域はAD早期診断および早期治療に向かっている。そこはまた、これまで数多くの臨床試験失敗の主な原因とも考えられている領域である。・現在、積極的な開発が進められている新たなAD治療薬およびそのメインとする機序として、次の4つがある。すなわち、(1)Aβ産生の減少(とくにセクレターゼ抑制)を狙ったもの、(2)Aβプラークの沈着を抑制または断絶しその負荷を減じることを狙ったもの、(3)積極的あるいは受動的な免疫療法でAβのクリアランス促進を狙ったもの、そして(4)タウ蛋白のリン酸化または線維化を阻止することを狙ったものである。・本レビューにおいて、上記の“カテゴリー”に属するそれぞれの臨床試験および前臨床試験から、最新の知見が検討されていること、またこれらの“カテゴリー”は「その他の治療薬」として括られていることが伺えた。このカテゴリーには、単一の作用機序としてはまとめられないが、アルツハイマー病の基礎病理に合理的な介入であることを示す治療が含まれていた。関連医療ニュース 抗認知症薬4剤のメタ解析結果:AChE阻害薬は、重症認知症に対し有用か? アルツハイマー病の早期ステージに対し、抗Aβ治療は支持されるか? たった2つの質問で認知症ルールアウトが可能

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コーヒー摂取との関連「認めず」―4大上部消化管疾患

 コーヒー摂取と4大上部消化管疾患(胃潰瘍、十二指腸潰瘍、逆流性食道炎、非びらん性胃食道逆流症)との間に有意な関連は認められないことが、亀田メディカルセンター幕張 消化器内科の島本 武嗣氏らによる横断的研究で明らかになった。PLoS One誌オンライン版2013年6月12日号の報告。 コーヒーに含有されるカフェインは、胃酸の分泌を促す性質がある。そのため、十分な疫学的根拠がないにもかかわらず、さまざまな上部消化管疾患と関連があると考えられてきた。本研究では、4大上部消化管疾患である胃潰瘍、十二指腸潰瘍、逆流性食道炎、非びらん性胃食道逆流症とコーヒー消費量の関連について、大規模な多変量解析に基づいて評価した。 対象は、人間ドックを受診した健常人9,517人のうち、胃の手術を受けた人、プロトンポンプ阻害薬やヒスタミンH2受容体拮抗薬を服用している人、ヘリコバクター・ピロリ(HP)除菌したことがある人を除いた8,013人(20~84歳;男性4,670人、女性3,343人;日頃コーヒーを飲んでいる群5,451人、コーヒーを飲まない群2,562人)。そのうち、2,164人が胃潰瘍、十二指腸潰瘍、逆流性食道炎、非びらん性胃食道逆流症と診断された。コーヒー摂取と4大疾患との関連は、ペプシノーゲンI/II比、喫煙、飲酒、年齢、性別、BMI、HP感染状況をもとに多変量解析を行い、評価した。さらに、コーヒー摂取と胃潰瘍および十二指腸潰瘍との関連を再定義するために、ランダム効果モデルを用いてメタ解析を行った。 主な結果は以下のとおり。・単変量解析の結果、日頃コーヒーを飲んでいる群と飲んでいない群で有意差を認めた因子は、年齢、BMI、ペプシノーゲンI/II比、喫煙、飲酒であった。・多重ロジスティック回帰分析の結果、各疾患と有意な正の相関を認めた因子は以下のとおり。胃潰瘍:HP感染、現在の喫煙、BMI高値、ペプシノーゲンI/II比高値十二指腸潰瘍:HP感染、現在の喫煙、ペプシノーゲンI/II比高値逆流性食道炎:HP非感染、男性、現在(または過去)の喫煙、BMI高値、ペプシノーゲンI/II比高値、加齢、飲酒非びらん性胃食道逆流症:若年齢、女性、現在(または過去)の喫煙、BMI高値・メタ解析の結果、胃潰瘍と十二指腸潰瘍のいずれにおいても、コーヒー摂取とのいかなる関連を認めなかった。・以上の結果より、コーヒーの摂取と4大上部消化管疾患の間には有意な関連は認められないことが明らかになった。

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新規sGC刺激薬リオシグアト、肺高血圧症に有効/NEJM

 リオシグアト(本邦では承認申請中)は、肺動脈性肺高血圧症(PAH)患者の運動能を改善し、肺血管抵抗やN末端プロ脳性ナトリウム利尿ペプチド(NT-proBNP)などの改善をもたらすことが、ドイツ・ギーセン大学のHossein-Ardeschir Ghofrani氏らが行ったPATENT-1試験で示された。リオシグアトは可溶性グアニル酸シクラーゼ(sGC)刺激薬と呼ばれる新たなクラスの薬剤で、内因性の一酸化窒素(NO)に対するsGCの反応性を高める作用、およびNOの刺激がない状態での直接的なsGC刺激作用という2つの作用機序を持ち、第1相、第2相試験でPAH患者の血行動態や運動能の改善効果が確認されていた。NEJM誌2013年7月25日号掲載の報告。症候性PAHに対する効果をプラセボ対照試験で評価 PATENT-1試験は、症候性PAH患者に対するリオシグアトの有用性を評価する第3相二重盲検無作為化プラセボ対照試験。対象は、肺血管抵抗>肺血管抵抗>300dyne・sec・cm-5、肺動脈圧>25mmHg、6分歩行距離150~450mの症候性PAH(特発性PAH、家族性PAH、結合組織病・先天性心疾患・肝硬変症状のある門脈圧亢進症に伴うPAH、食欲抑制薬やアンフェタミンの使用によるPAH)患者であった。 参加者は、プラセボ群、リオシグアトを最大2.5mg(1日3回、経口投与)まで投与する群、最大1.5mg(同)まで投与する群の3群に無作為に割り付けられた。1.5mg群には探索的検討を目的とする患者が含まれ、有効性の解析からは除外された。PAHに対する治療のみを受けている患者や、エンドセリン受容体拮抗薬、プロスタノイド(非静脈内投与)の投与を受けている患者の参加は可とした。 主要評価項目は、ベースラインから12週までの6分間歩行距離の変化とした。副次的評価項目は、肺血管抵抗、NT-proBNP、WHO肺高血圧症機能分類などであった。6分間歩行距離が30m延長 2008年12月~2012年2月までに443例が登録され、プラセボ群に126例、リオシグアトの最大用量2.5mg群に254例、最大用量1.5mg群には63例が割り付けられた。全体の平均年齢は51歳、女性が79%、特発性PAHが61%と最も多く、WHO機能分類クラスII/IIIが95%を占めた。38例が12週の治療を完遂できなかった。 12週後の6分間歩行距離は2.5mg群が平均30m延長し、プラセボ群は平均6m短縮した(最小二乗平均差:36m、95%信頼区間[CI]:20~52、p<0.001)。リオシグアトにより、PAH以外の治療は受けていない患者や、エンドセリン受容体拮抗薬、プロスタノイドの投与を受けている患者においても、6分間歩行距離が改善された。 肺血管抵抗(p<0.001)、NT-proBNP(p<0.001)、WHO機能分類クラス(p=0.003)、臨床的増悪までの期間(p=0.005)、Borg呼吸困難スコア(p=0.002)も、2.5mg群で有意に改善したが、QOLには有意な差を認めなかった(p=0.07)。 最も頻度の高い重篤な有害事象として、失神がプラセボ群の4%、2.5mg群の1%に認められた。 著者は、「リオシグアトにより、6分間歩行距離や肺血管抵抗のほか、有効性に関する副次評価項目のほとんどが改善された。一方、HIV感染症、住血吸虫症、慢性溶血性貧血に伴うPAHや、ホスホジエステラーゼ5型(PDE5)阻害薬、静脈内プロスタノイドの投与を受けている患者は除外されているため、これらの患者に対する効果は不明である」としている。

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統合失調症の陰性症状と関連する「努力コスト」の障害とは?

 統合失調症の陰性症状である動機づけ障害は、努力コスト(effort cost)の算出機能の障害と関連している可能性を、米国・メリーランド大学のJames M. Gold氏らが報告した。結果を踏まえて著者は「努力コストは、徐々に意欲を蝕む可能性があるようだ」と結論している。Biological Psychiatry誌2013年7月15日号の掲載報告。 意思決定の研究において、「努力コスト」が影響する反応では、選択的な反応が認められることが示されている。努力コストは、前帯状皮質やドパミンニューロンの皮質下ターゲットなどの分散処理神経回路を介して算出されていると考えられているという。研究グループは、統合失調症ではこれらシステムが障害されているというエビデンスに基づき、努力コストの算出機能が、統合失調症患者では障害されていること、およびその障害が陰性症状と関連しているかについて調べる、努力コストの意思決定評価を行った。統合失調症患者と人口統計学的に適合した対照被験者について、コンピュータタスクの試験を行った。連続30試験を提示し、20ボタンを押せば1ドルを、100ボタン以上を押せば3ドルから7ドルを得られる選択肢が与えられた。また、報酬レシートの確実性という試験で、確実(100%)または非確実(50%)な報酬が努力コストという発想に基づく意思決定に影響を与えたかどうかについても評価を行った。 主な結果は、以下のとおり。・患者群44例、対照群36例を対象とした。・患者群は対照群と比較し、報酬が100%確実であるという環境下において、高い努力コストの選択肢を選ぶことが少なかった。とくに支払対価が高い選択肢(6ドル、7ドルなど)で少なかった。・報酬が50%確実であるという環境下においても、同様の結果が得られた。・さらに、これらの努力コスト算出の障害は、陰性症状が高い患者において、最も大きかった。・ハロペリドールの投与量との関連はみられなかった。関連医療ニュース 統合失調症の陰性症状有病率、脳波や睡眠状態が関連か 陰性症状改善に!5-HT3拮抗薬トロピセトロンの効果は? 統合失調症では前頭葉の血流低下による認知障害が起きている:東京大学

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統合失調症患者へのセロトニン作動薬のアドオン、臨床効果と認知機能を増大

 抗精神病薬治療中の統合失調症患者に対し、選択的セロトニン5-HT6受容体拮抗薬の追加併用療法は、抗精神病効果および一部の認知機能(注意力)を増大することが、ロシア医科学アカデミー国立精神保健センターのMorozova MA氏らによるパイロット試験の結果、報告された。CNS Spectrums誌オンライン版2013年6月17日号の掲載報告。 統合失調症患者へのアドオン治療として、セロトニン作動薬は有望視されている。研究グループは、抗精神病薬治療により症状が安定している統合失調症患者において、選択的セロトニン5-HT6受容体拮抗薬のAVN-211(CD-008-0173)が、臨床的および認知機能的効果を増大するかを明らかにすることを目的に、無作為化二重盲検プラセボ対照試験のパイロット試験を4週(4r-week)にわたって行った。治療効果は、臨床的評価スケールと注意力テストにて測定した。 主な結果は以下のとおり。・被験者は47例(試験薬追加併用群21例、プラセボ併用群26例)であり、そのうち併用群17例、プラセボ群25例が試験を完了した。・陽性・陰性症状スケール(PANSS)について、ベースラインでは両群に差はみられなかったが、試験終了時点では陽性サブスケールスコアについて有意差が認められ(p=0.058)、試験薬併用群の症状がより改善していた。・PANSS陽性サブスコア(p=0.0068)、臨床上の医師の印象による重症度(CGI-S)スコア(p=0.048)は、治療群のみにおいて有意な変化がみられた。・プラセボ群だけでみられた有意な変化は、カルガリー抑うつ評価スケール(CDRS)総スコアであった。・注意力テストの結果は試験終了時においても両群間の差を認めなかった。ただし、ウェクスラー成人知能検査(WAIS)のサブテストVIIIの結果は例外であり、試験薬群において有意に変化が大きかった(p=0.02)。・試験薬併用群内のみにおいて、選択的および持続的注意力の有意な変化が認められた。標準注意検査法(CAT)において、総正解率(p=0.0038)、反応時間(p=0.058)で有意な変化がみられた。関連医療ニュース 精神科薬物治療で注目される5-HT1A受容体 統合失調症患者に対するフルボキサミン併用療法は有用か?:藤田保健衛生大学 抗精神病薬へのNSAIDs追加投与、ベネフィットはあるのか?

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Vol. 1 No. 2 糖尿病と心血管イベントの関係

横井 宏佳 氏小倉記念病院循環器内科はじめに糖尿病患者の心血管イベント(CV)予防とは、最終的には心筋梗塞、脳梗塞、下肢閉塞性動脈硬化症といったアテローム性動脈硬化症(ATS)の発症をいかに予防するか、ということになる。そのためには、糖尿病患者の動脈硬化の発生機序を理解して治療戦略を立てることが必要となる。糖尿病において見られるアテローム血栓性動脈硬化症の促進には慢性的高血糖、食後高血糖、脂質異常症、インスリン抵抗性を含むいくつかの代謝異常が関連しており、通常状態や血管再生の状態でのCVを起こすような脆弱性を与える。また、代謝異常に加えて、糖尿病は内皮細胞・平滑筋細胞・血小板といった複数の細胞の配列を変える。糖尿病が関連するATSのいくつかの特徴の記述があるにもかかわらず、ATS形成過程の始まりと進行の確定的なメカニズムはわからないままであるが、実臨床における治療戦略としてはATSに関わる複数の因子に対して薬物治療を行うことが必要になる。インスリン抵抗性脂質代謝異常、高血圧、肥満、インスリン抵抗性はすべて、メタボリックシンドロームのカギとなる特徴であり、引き続いて2型糖尿病に進行する危険性の高い患者の最初の測定可能な代謝異常でもある。インスリン抵抗性は、インスリンの作用に対する体の組織の感度が低下することであり、これは筋肉や脂肪でのグルコース処理や肝臓でのグルコース産出でのインスリン抑制に影響する。結果的に、より高濃度のインスリンが、末梢でのグルコース処理を刺激したり、2型糖尿病患者では糖尿病でない患者よりも肝臓でのグルコース産出を抑制したりするのに必要である。生物学的なレベルでは、インスリン抵抗性は凝固、炎症促進状態、内皮細胞機能障害、その他の病態の促進に関連している。インスリン抵抗性の患者では、内皮細胞依存性血管拡張は減少しており、機能障害の重症度はインスリン抵抗性の程度と相互に関係している。インスリン抵抗性状態での内皮細胞依存性血管拡張異常は、一酸化窒素(NO)の産生を減少させる細胞内シグナルの変化によって説明できる。つまり、インスリン抵抗性は、遊離脂肪酸値の上昇と関連しており、それがNO合成酵素の活性を減少させ、インスリン抵抗性状態においてNOの産生を減らす。臨床的には、インスリン抵抗性はCVリスクを増加させることに関連している。当院の2006年の急性心筋梗塞患者連続137例の検討では、本邦のメタボリックシンドロームの診断基準を満たす患者は49%を占めており、久山町研究の男性29%、女性21%よりも高率であった。この傾向は1990年前半に行われた米国の全国国民栄養調査の成績と同様であった。また、当院で施行した糖尿病と診断されていない患者への糖負荷試験と冠動脈CTの臨床研究でも、インスリン抵抗性と冠動脈CT上の不安定プラークの存在(代償性拡大、低CT値、限局性石灰化)との間に有意な相関を認めた。インスリン抵抗性を改善する薬物にはビグアナイド薬(BIG)とチアゾリジン薬(TZD)が存在するが、ATSの進展抑制の観点からはTZDがより効果的である。TZD(PPARγアゴニスト)は、血中インスリン濃度を高めることなく血糖を低下させる効果を有し、インスリン抵抗性改善作用はBIGよりも強力である。また、糖代謝のみならず、BIGにはないTG低下、HDL増加といった脂質改善作用、内皮機能改善による血圧降下作用、アディポネクチンを直接増加させる作用を有し、抗動脈硬化作用が期待される。さらに、造影剤使用時の乳酸アシドーシスのリスクはなく、PCIを施行する患者には安心して使用できる利点がある。このほかに、血管壁やマクロファージに直接作用して抗炎症、抗増殖、プラスミノーゲンアクチベーターインヒビター1( PAI-1)減少作用を有することが知られている。この血管壁に対する直接作用はATS進展抑制作用が期待され、CVイベント抑制に繋がる可能性が示唆される。実際、臨床のエビデンスとしては、PROactive試験のサブ解析における心筋梗塞既往患者2,445例を抽出した検討で、ピオグリタゾン内服患者が非内服患者に比較して、心筋梗塞、急性冠症候群(ACS)などの不安定プラーク破裂により生じる心血管イベントは有意に低率であることが示されている。またPERISCOPE試験では、糖尿病を有する狭心症患者におけるIVUSを用いた検討において、SU剤に比較してピオグリタゾンは18か月間の冠動脈プラークの進行を抑制し、退縮の方向に転換させたことが明らかとなり、CV抑制の病態機序が明らかとなった。また、ロシグリタゾンではLDL上昇作用によりCVイベントを増加させるが、ピオグリタゾンのメタ解析ではCVイベントを有意に抑制することが報告されている。ピオグリタゾンは、腎臓におけるNa吸収促進による循環血液量の増大による浮腫、体重増加、心不全の悪化、骨折、膀胱癌などの副作用が指摘されているが、CVイベント発症時の致死率を考えるとrisk/benefitのバランスからは、高リスク糖尿病患者には血糖管理とは別に少なくとも15mgは投与することが望ましいと思われる。内皮細胞機能障害糖尿病血管疾患は内皮細胞機能障害によって特徴づけられ、それは、高血糖、遊離脂肪酸産生の増加、内皮細胞由来のNOの生物学的利用率の減少、終末糖化産物(AGE)の形成、リポ蛋白質の変化、そして前述のインスリン抵抗性と関係する生物学的異常である。内皮細胞由来のNOの生物学的利用率の減少は、後に内皮細胞依存性の血管拡張障害を伴うが、検出可能なATS形成が進行するよりもずっと前に糖尿病患者において観察される。NOは潜在的な血管拡張因子であり、内皮細胞が介在して制御する血管弛緩のメカニズムのカギとなる物質である。加えて、NOは血小板の活性を抑え、白血球が内皮細胞と接着したり血管壁に移動したりするのを減少することによって炎症を制限し、血管平滑筋細胞の増殖と移動を減らす。結果として、正常な場合、血管壁におけるNO代謝は、ATS形成阻害という保護効果を持つ。AGEの形成は、グルコースについているアミノ基の酸化の結果である。増大するAGE生成物によって誘発される追加の過程は、内皮下細胞の増殖、マトリックス発現、サイトカイン放出、マクロファージ活性化、接着分子の発現を含んでいる。慢性的高血糖、食後高血糖による酸化ストレスが、糖尿病合併症の病因として重要な役割を果たしているのだろうと推測されている。高血糖は、グルコース代謝を通して直接的にも、AGEの形成とAGE受容体の結合という間接的な形でも、ミトコンドリア中の活性酸素種の産生を誘発する。臨床的には内皮細胞機能障害がATSの進行を助長するのみならず、冠動脈プラーク破裂の外的要因である冠スパスムも助長することになる。急性心筋梗塞患者の20%は冠動脈に有意狭窄はなく、薬物負荷試験で冠スパスムが誘発される。高血圧患者に対して施行されたVALUE試験では、スパスムを予防できるカルシウム拮抗薬(CCB)が有意にアンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)よりも心筋梗塞の発症を予防すること、またBPLTTCのメタ解析では、NO産生を促すACE阻害薬がARBよりも冠動脈疾患の発生が少ないことなどが明らかにされ、これらの結果は、心筋梗塞の発生に内皮細胞機能障害によるスパスムが関与していることを示唆している。従って糖尿病患者においては内皮細胞機能障害を念頭に、特にスパスムの多いわが国においては、降圧薬としてはHOPE試験でエビデンスのあるRA系阻害薬に追加してCCBの投与を考慮すべきではないかと思われる。また、グルコーススパイクが内皮細胞のアポトーシスを促進させることが知られている。自験例の検討でも、食後高血糖がPCI施行後のCVイベント発症を増加させることが判明しており、STOP-NIDDM試験、MeRIA-7試験のエビデンスと合わせて、内皮機能障害改善のためにα-グルコシダーゼ阻害薬(α-GI)の投与も考慮すべきであると思われる。血栓形成促進性状態糖尿病患者が凝固性亢進状態にあるという知見は、血栓形成イベントのリスク増加と凝固系検査値の異常が基となっている。ACS患者の血管内視鏡による検討では、プラーク潰瘍および冠内血栓は、糖尿病患者においてそうでない患者よりも頻繁に見られることが明らかにされている。同様に、血栓の発生率は、糖尿病患者から取った粥腫切除標本の方が、そうでない患者から取ったそれよりも高いこともわかった。糖尿病患者では、ずり応力(シェアストレス)に対して、血小板の作用と凝集が亢進し、血小板を刺激する。加えて、血小板表面上の糖タンパク質GP-Ib受容体やGPⅡb/Ⅲaの発現が増加するといわれている。その上、抗凝集作用を持つNOやプロスタサイクリンの内皮細胞からの産生が減少するのに加え、フィブリノゲン、組織因子、von Willebrand因子、血小板因子4、因子Ⅶなどの凝血原の値が増加し、プロテインC、抗トロンビンⅢなどの内因性抗凝血物質の濃度が低下することが報告されている。さらにPAI-1が内在性組織のプラスミノーゲンアクチベーター仲介性線溶を障害する。つまり、糖尿病は、内因性血小板作用亢進、血小板作用の内在性阻害機構の抑制、内在性線溶の障害による血液凝固の亢進によって特徴づけられる。臨床的には、CVイベント予防のために高リスク糖尿病患者へのアスピリン単剤投与がADAのガイドラインでも推奨されている。クロピドグレルの併用は、出血のリスクとのバランスの中で症例個々に検討していく必要があると思われる。GPⅡb/Ⅲa受容体拮抗薬は、糖尿病患者のPCIの予後を改善することが報告されているが、本邦では未承認である。炎症状態炎症は、急性CVイベントだけでなくATS形成の開始と進行にも関係がある。糖尿病を含むいくつかのCVリスクファクターは炎症状態の引き金となるだろう。白血球は一般的には炎症の主要なメディエーターと考えられているが、近年では、炎症における血小板がカギとなる役割を果たすことが報告されている。この病態と関連する代謝障害が血管炎症の引き金となるということはもっともなことだが、その逆もまた正しいのかもしれない。従って、C反応性タンパク質(CRP)が進行する2型糖尿病のリスクを非依存的に予測するものとして示されてきた。糖尿病や明らかな糖尿病が見られない状態でのインスリン抵抗性状態において上昇する炎症パラメーターには、高感度C反応性タンパク質(hsCRP)、インターロイキン6(IL-6)、腫瘍壊死因子α(TNF-α)、循環性(可溶性)CD40リガンド(sCD40L)がある。さらに内皮細胞(E)-セレクチン、血管細胞接着分子1(VCAM-1)、細胞内接着分子1(ICAM-1)などの接着分子の発現が増加することもわかっている。血管炎症作用亢進状態での形態学的な基質は、ACS患者の粥腫切除標本の分析から得たものである。糖尿病患者の組織は、非糖尿病患者の組織と比較して、脂質優位の粥腫がより大部分を占めており、より明らかなマクロファージ浸潤が見られる。特に糖尿病患者においては、冠血管のATS形成過程を促進することでAGE受容体(RAGE)が炎症過程や内皮細胞作用に重要な役割を果たすかもしれない。近年では、ATS形成が見られる患者における炎症促進のカギとなるサイトカインであるCRPが、内皮細胞でのRAGE発現をアップレギュレートすることが報告されている。これらの知見は、炎症、内皮細胞機能障害、ATS形成における糖尿病の機構的な関連を強化している。臨床的にCVイベントの発生に炎症が関与しており、その介入治療としてスタチンが効果的であることがJUPITER試験より明らかとなった。CARDS試験ではストロングスタチンが糖尿病患者のCVイベント抑制に効果的であることが報告されたが、この効果はLDL低下作用とCRP低下作用の強力な群でより顕著であった。2010年、ADAでは糖尿病患者のLDL管理目標値は1次予防で100mg/dL、2次予防で70mg/dLとより厳格な脂質管理を求めているが、脂質改善のみならず、抗炎症効果を期待したものでもあると思われる。プラーク不安定性と血管修復障害ATS形成の促進に加えて、糖尿病ではプラーク不安定性も起きる。糖尿病患者での粥状動脈硬化症病変は、非糖尿病患者に比して、血管平滑筋細胞が少ないことが示されている。コラーゲン源として血管平滑筋細胞は粥腫を強化し、それを壊れにくくする。加えて、糖尿病の内皮細胞は、血管平滑筋細胞によるコラーゲンの新たな合成を減少させる過剰量のサイトカインを産生する。そして最後に、糖尿病はコラーゲンの分解につながるマトリックスのメタロプロテイナーゼの産生を高め、プラークの線維性キャップの機械的安定性を減少させる。つまり、糖尿病はATS病変の形成、プラーク不安定性、臨床的イベントによって血管平滑筋細胞の機能を変える。糖尿病患者では非糖尿病患者より、壊れやすい脂質優位のプラークの量が多いことが報告されてきた。その上、糖尿病患者では、血管修復に重要な制御因子であると考えられているヒト内皮前駆細胞の増殖、接着、血管構造への取り込みが障害されていることが近年の知見で示唆されている。前述の機能障害に加えて、年齢と性をマッチさせ調整した対照群と比較して、培養液中の糖尿病患者から取った内皮前駆細胞の数が減っていることがわかり、その減少は逆にHbA1c値と関係していた。別の調査では、末梢動脈疾患を持つ糖尿病患者では、内皮前駆細胞値が特に低いことが報告されており、この株化細胞の枯渇が、末梢血管の糖尿病合併症の病変形成に関わっているのではないかと推測されている。ピオグリタゾンは糖尿病患者の内皮前駆細胞を増加させることが知られている。まとめ以上のごとく、糖尿病患者のCVイベント予防のためにはHbA1cの管理に加えて、ATS発症に影響を及ぼす多様な因子に対して集学的アプローチが重要となる。Steno-2試験では糖尿病患者に対して血糖のみならず、脂質、高血圧管理を同時に厳格に行うことでCVイベントを抑制した。血糖管理に加えて、スタチン、アスピリン、RA系阻害薬、CCB、TZD、α-GIによる血管管理がCVイベント抑制に効果的であると思われる。また、今後EPA製剤による脂肪酸バランスの是正、DPP-4やGLP-1などのインクレチン製剤による心血管保護も、糖尿病患者のCVイベント抑制に寄与することが期待される。今後は、糖尿病患者ごとにCVイベントリスクを評価し、薬物介入のベネフィットとリスクとコストのバランスを考慮して最適な薬物治療を検討していくことが重要になると思われる。このような観点から、今後登場する各種合剤は、この治療戦略を実行する上で患者服薬コンプライアンスを高め、助けになると思われる。

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1型糖尿病に対するIL-1阻害薬単独投与、膵β細胞機能を改善せず/Lancet

 発症して間もない1型糖尿病の治療において、ヒト型抗ヒトIL-1モノクローナル抗体カナキヌマブ(商品名:イラレス、承認適応はクリオピリン関連周期性症候群)、およびヒトIL-1受容体拮抗薬アナキンラ(未承認)をそれぞれ単独投与しても、膵β細胞機能の改善効果は得られないことが、米国・ミネソタ大学のAntoinette Moran氏らによる検討で示された。1型糖尿病などの自己免疫性疾患の病因には自然免疫が関与しているが、これまでに自然免疫の主要なメディエーターであるIL-1を阻害するアプローチの有用性を評価する臨床試験は行われていないという。Lancet誌2013年6月1日号(オンライン版2013年4月5日号)掲載の報告。2種類のIL-1阻害薬の単独投与の効果を2つのプラセボ対照無作為化試験で評価 研究グループは、発症して間もない1型糖尿病患者に対するカナキヌマブおよびアナキンラによる膵β細胞機能の改善効果を評価する2つのプラセボ対照無作為化第IIa相試験[Type 1 Diabetes TrialNet Canakinumab Study(カナキヌマブ試験)、Anti-Interleukin-1 in Diabetes Action(AIDA、アナキンラ試験)]を実施した。 対象は、混合食負荷試験(MMTT)でC-ペプチド値0.2nmol/L以上の1型糖尿病であり、カナキヌマブ試験は年齢6~45歳、試験登録前100日以内に診断を受けた患者、アナキンラ試験は年齢18~35歳、12週以内に診断を受けた患者であった。 カナキヌマブ試験には北米の12施設が、アナキンラ試験には欧州の14施設が参加し、それぞれカナキヌマブ2mg/kg(最大300mg)またはプラセボを月1回、12ヵ月投与する群、およびアナキンラ100mg/日またはプラセボを9ヵ月投与する群に無作為に割り付けられた。 主要評価項目は、治療終了時のMMTTによるC-ペプチド値の2時間曲線下面積(AUC)(ベースライン値で調整)とした。いずれも単剤では無効、併用療法として有効な可能性も カナキヌマブ試験には、2010年11月12日~2011年4月11日までに69例が登録され、カナキヌマブ群に47例(年齢中央値11歳、男性51%)が、プラセボ群には22例(10.5歳、64%)が割り付けられ、それぞれ45例、21例が解析の対象となった。 アナキンラ試験にも、2009年1月26日~2011年5月25日までに69例が登録され、アナキンラ群に35例(年齢中央値27歳、男性74%)が、プラセボ群には34例(25歳、65%)が割り付けられ、それぞれ25例、26例が解析の対象とされた。 治療終了時の試験薬群とプラセボ群のC-ペプチド値AUCの差は、カナキヌマブ試験が0.01nmol/L(95%信頼区間[CI]:-0.11~0.14、p=0.86)、アナキンラ試験は0.02nmol/L(95%CI:-0.09~0.15、p=0.71)であり、いずれも試験薬による有意な改善効果は認めなかった。 有害事象については、カナキヌマブ試験では発生数および重症度のいずれも両群間に差はなく、アナキンラ試験は試験薬群がプラセボ群よりも重症度が有意に高かった(p=0.018)が、これは主にGrade 2の頻度の差(29 vs 12%)や、注射部位反応などの皮膚科的イベントの頻度の差(54 vs 26%)によるものだった。 著者は、「カナキヌマブおよびアナキンラは1型糖尿病患者の治療において安全に投与可能であるが、免疫調節薬の単独療法としてはいずれも膵β細胞機能の改善には無効であった」と結論づけ、「IL-1阻害薬は、臓器特異的な自己免疫性疾患の治療において、獲得免疫を標的とする薬剤との併用で有効性を発揮したり、早期の病態(前糖尿病)における糖尿病の予防治療として効果を示す可能性がある」と指摘している。

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病院側の指示に従わず狭心症発作で死亡した症例をめぐって、医師の責任が問われたケース

循環器最終判決平成16年10月25日 千葉地方裁判所 判決概要動悸と失神発作で発症した64歳女性。冠動脈造影検査で異型狭心症と診断され、入院中はニトログリセリン(商品名:ミリスロール)の持続点滴でコントロールし、退院後はアムロジピン(同:ノルバスク)、ニコランジル(同:シグマート)、ジルチアゼム(同:ヘルベッサー)、ニトログリセリン(同:ミリステープ、ミオコールスプレー)などを処方されていた。発症から5ヵ月後、再び動悸と気絶感が出現して、安静加療目的で入院となった。担当医師はミリスロール®の点滴を勧めたが、前回投与時に頭痛がみられたこと、点滴に伴う行動の制限や入院長期化につながることを嫌がる患者は、「またあの点滴ですか」と拒否的な態度を示した。仕方なくミリスロール®の点滴を見合わせていたが、患者が看護師の制止を聞かずトイレ歩行をしたところ、再び強い狭心症発作が出現し、さまざまな救命措置にもかかわらず約2時間後に死亡確認となった。詳細な経過患者情報64歳女性経過平成11(1999)年2月10日起床時に動悸が出現し、排尿後に意識を消失したため、当該総合病院を受診。胸部X線、心電図上は異常なし。3月17日~3月24日失神発作の精査目的で入院、異型狭心症と診断。3月24日~3月27日別病院に紹介入院となって冠動脈造影検査を受け、冠攣縮性狭心症と診断された。6月2日早朝、動悸とともに失神発作を起こし、当該病院に入院。ミリスロール®の持続点滴と、内服薬ノルバスク®1錠、シグマート®3錠にて症状は改善。6月9日失神や胸痛などの胸部症状は消失したため、ミリスロール®の点滴からミリステープ®2枚に変更。入院当初は頭痛を訴えていたが、ミリステープ®に変更してから頭痛は消失。6月22日状態は安定し退院。退院処方:ノルバスク®1錠、ミリステープ®2枚、チクロピジン(同:パナルジン)1錠、シグマート®3錠、ロキサチジン(同:アルタット)1カプセル。7月2日起床時に動悸が出現、ミオコールスプレー®により症状は改善。7月5日起床時に動悸が出現、ミオコールスプレー®により症状は改善。7月7日起床時立ち上がった途端に動悸、気絶感が出現したとの申告を受け、ノルバスク®を中止しヘルベッサー®を処方。7月12日05:30起床してトイレに行った際に動悸、気絶感が出現。トイレに腰掛けてミオコールスプレー®を使用した直後に数分間の意識消失がみられた。06:50救急車で搬送入院。安静度「ベッド上安静」、排泄「尿・便器」使用、酸素吸入(1分間当たり1L)、ミリステープ®2枚(朝、夕)、心電図モニター使用、胸痛時ミオコールスプレー®を2回まで使用と指示。09:30入室直後に尿意を訴えた。担当看護師は医師の指示通り尿器の使用を勧めたが、患者は尿器では出ないのでトイレに行くことに固執したため、看護師長を呼び、ベッドを個室トイレの側まで動かし、トイレで排尿させた。排尿後に呼吸苦がみられたので、酸素吸入を開始し、ミリステープ®を貼用したところ2~3分で落ちついてきた。担当看護師は定時のシグマート®、ヘルベッサー®を内服させ、今後は尿器を使用することを促した。担当医師も訪室して安静にすべきことを説明し、ミリスロール®の点滴を勧めたが、患者は「またあの点滴ですか」と拒否的な態度を示したため、やむを得ずミリスロール®の点滴をしないことにした。その後、胸部症状は消失。15:00見舞いにきた家族が「点滴していなかったんだね」といったところ、患者は「軽かったのかな」と答えたとのこと(病院側はその事実を確認していない)。18:30尿意がありトイレでの排尿を希望。担当看護師は尿器の使用を勧めたが、トイレへ行きたいと強く希望したため、看護師は医師に確認するといって病室を離れた(このとき担当医師とは連絡取れず)。18:43トイレで倒れている患者を看護師が発見。ただちにミオコールスプレー®を1回噴霧したが、「胸苦しい、苦しい」と状態は改善せず。18:50ミオコールスプレー®を再度噴霧したが状態は変わらず、四肢冷感、冷汗が認められ、駆けつけた医師の指示でニトログリセリン(同:ニトロペン)1錠を舌下するが、心拍数は60台に低下、血圧測定不能、意識低下、自発呼吸も消失した。19:00乳酸リンゲル液(同:ラクテック)にて血管確保、心拍数30~40台。19:10イソプレナリン(同:プロタノール)1A、アドレナリン(同:ボスミン)1Aを静注するとともに、心臓マッサージを開始し、心拍数はいったん60台へと回復。19:33気管内挿管に続き、心肺蘇生を続行するが効果なし。20:22死亡確認。死因は致死性の狭心症発作と診断した。死亡後、担当医師は「点滴(ミリスロール®)をすべきでした。しなかったのは当方のミスです」と述べたと患者側は主張するが、その真偽は不明。当事者の主張1. 担当医師が硝酸薬の点滴をしなかった点に過失があるか患者側(原告)の主張平成11年から発作が頻発し、入院に至るまでの経緯や入院時の症状から判断して、ミリスロール®など硝酸薬の点滴をすべきであった。これに対し担当医師は、患者に対してミリスロール®の点滴の必要性を伝えたが拒絶されたと主張するが、診療録などにはそのような記載はない。過去の入院では数日間にわたってミリスロール®の点滴治療を受け、その結果一応の回復を得て退院したため、担当医師からミリスロール®の必要性、投与しない場合の危険性などを十分聞いていれば、ミリスロール®点滴に同意したはずである。病院側(被告)の主張動悸、失神は狭心症発作の再発であり、入院安静が必要であること、2回目入院時に行ったミリスロール®の点滴が再度必要であることを説明したが、患者は「またあの点滴ですか」といい、行動が不自由になること、頭痛がすることなどを理由に点滴を拒絶したため、安静指示と内服薬などの投与によって様子をみることにした。つまり、ミリスロール®の点滴が必要であるにもかかわらず、患者の拒絶により点滴をすることができなかったのであり、診療録上も「希望によりミリスロール®点滴をしなかった」ことが明記されている。医師は、患者に対する治療につき最適と判断する内容を患者に示す義務はあるが、この義務は患者の自己決定権に優越するものではないし、患者の意向を無視して専断的な治療をすることは許されない。2. 硝酸薬点滴を行った場合の発作の回避可能性患者側(原告)の主張入院時にミリスロール®の点滴をしていれば発作を防げた可能性は大きく、死亡との間には濃厚な因果関係がある。さらに死亡後担当医師は、「点滴をすべきでした。しなかったのは当方のミスです」と述べ、ミリスロール®の点滴をしなかったことが死亡原因であることを認めていた。病院側(被告)の主張7月12日9:30、ミリステープ®を貼用し、シグマート®、ヘルベッサー®を内服し、午後には症状が消失して容態が安定していたため、ミリスロール®の点滴をしなかったことだけが発作の原因とはいえない。3. 患者が安静指示に違反したのか患者側(原告)の主張看護師や患者に対する担当医師の安静指示があいまいかつ不徹底であり、結果としてトイレでの排尿を許す状況とした。担当医師が「ベッド上安静」を指示したと主張するが、入院経過用紙によれば「ベッド上安静」が明確に指示されていない。当日午後2:00の段階では、「トイレは夕方までの様子で決めるとのこと」と看護師が記載しているが、夕方までに決められて伝えられた形跡はない。18:30にも「Drに安静度カクニンのためTELつながらず」との記載があり、看護師は夕方になってもトイレについて明確な指示を受けていない。病院側(被告)の主張入院時指示には、安静度は「ベッド上安静」、排泄は「尿・便器」と明記している。これはベッド上で仰臥(あおむけ)または側臥(横向き)でいなければならず、排泄もベッド上で尿・便器をあててしなければならないという意味であり、トイレでの排尿を許したことはない。「トイレは夕方までの様子で決めるとのこと」という記載の意味は、トイレについての指示がいまだ無かったのではなく、明日の夕方までの様子をみて、それ以降トイレに立って良いかどうかを決めるという意味である。当日9:30尿意を訴えたため、医師から指示を受けていた看護師は尿器の使用を勧めたが、看護師の説得にもかかわらず尿器では出ないと言い張り、トイレに行くと譲らなかったので、やむを得ず看護師長を呼び、二人がかりでベッドを個室内のトイレ脇まで運び、トイレで排尿させたという経緯がある。そして、今回倒れる直前、看護師は患者から「トイレに行きたい」といわれたが、尿器で排泄するように説得した。それでも患者はあくまでトイレに行きたいと言い張ったため、担当医師に確認してくるから待つようにと伝えナースステーションへ行ったものの、担当医師に電話がつながらず、すぐに病室に戻ると同室内のトイレで倒れていたのである。4. 発作に対する医師の処置は不適切であったか患者側(原告)の主張狭心症の発作時には、速効性硝酸薬の舌下を行うべきものとされてはいるが、硝酸薬を用いると血圧が低下するので、昇圧剤を投与して血圧を確保してから速効性硝酸薬などにより症状の改善を図るべきであった。被告医師は、ミオコールスプレー®を2回使用して、その副作用で血圧低下に伴う血流量の減少を招いたにもかかわらず、さらに昇圧剤を投与したり、血圧を確保することなくニトロペン®を舌下させた点に過失がある。その結果、狭心症の悪化・心停止を招来し、患者を死に至らしめた。病院側(被告)の主張異型狭心症においては、冠攣縮発作が長引くと心室細動や高度房室ブロックなどの致死性不整脈が出現しやすくなるので、発作時は速やかにニトログリセリンを服用させるべきである。ニトログリセリンの副作用として血圧の低下を招くことがあるが、狭心症発作が寛解すれば血圧が回復することになるから、まず第一にニトログリセリンを投与(合計0.9mg)したことに問題はなく、発作を寛解させるべくニトロペン®1錠を舌下させた判断にも誤りはない。本件においては、致死的な狭心症発作が起きていたのであり、脈拍低下、血圧測定不能、自発呼吸なしなどの重篤な状態に陥ったのは狭心症発作によるものであって、ニトロペン®1錠を舌下したことが心停止の原因となったのではない。裁判所の判断1. 担当医師が硝酸薬の点滴をしなかった点に過失があるか鑑定A患者は狭心症発作が頻発および増悪したために入院したものであり、不安定狭心症の治療を目的としている。狭心症予防薬としてカルシウム拮抗薬の内服と硝酸薬貼付がすでに施行されており、この状態で不安定化した狭心症の治療としては、硝酸薬あるいはこれと同様の効果が期待される薬剤の持続静注が必要と考える。また、過去の入院で硝酸薬の点滴静注が有効であったことから、硝酸薬は、本件患者に対し比較的安心して使用できる薬剤と思われる。さらに、心電図モニターならびに患者の状態を常時監視できる医療状況が望ましく、狭心症発作が安定するまでの期間は、冠動脈疾患管理病棟(CCU)あるいは集中治療室(ICU)での管理が適当と考えられ、本件患者の入院初期の治療としてミリスロール®などの硝酸薬点滴を行わなかったのは不適切であった。不安定狭心症患者は急性心筋梗塞に移行する可能性が高いため、この病態を患者に十分説明し、硝酸薬点滴を使用すべきであったと考える。以前も同薬剤の使用により、本件患者の狭心症発作をコントロールしており、軽度の副作用は認められたものの、比較的安全に使用した経緯がある。患者が硝酸薬点滴を好まないケースもあるが、病状の説明、とりわけ急性心筋梗塞に進展した場合のデメリットを説明した後に施行すべきものであると考えられ、仮に本件患者がミリスロール®などの点滴に拒否的であった場合でも、その必要性を十分説明して、本件患者の初期治療として、ミリスロール®などの硝酸薬あるいは同等の効果が期待できる薬剤の点滴を行うべきであった。鑑定B狭心症の場合、硝酸薬は重要な治療薬である。また、冠動脈攣縮性狭心症においては、カルシウム拮抗薬も重要な治療薬である。本症例ではミリステープ®とカルシウム拮抗薬が投与されており、ミリスロール®などの硝酸薬点滴を行わなかったことだけをもって不適切な治療と判断することは難しい。仮に本件患者がミリスロール®などの点滴に拒否的であった場合についても、ミリスロール®などの点滴を行わなければならない状態であったかどうかについては判断が難しい。また、基本的に患者の了承のもとに治療を行うわけであるから、了承を得られない限りはその治療を行うことはできないのであって、拒否する場合において点滴を強制的に行うことが妥当であるかどうかは疑問である。鑑定C本症例は、失神発作をくり返していることからハイリスク群に該当する。発作の回数が頻回である活動期の場合は、硝酸薬、カルシウム拮抗薬、ニコランジルなどの持続点滴を行うことが望ましいとされており、実際に前回の入院の際には発作が安定化するまで硝酸薬の持続点滴が行われている。本件では、十分な量の抗狭心症薬が投与されており、慢性期の発作予防の治療としては適切であったといえるが、ハイリスク群に対する活動期の治療としては、硝酸薬点滴を行わなかった点は不適切であったといえる。発作の活動期における治療の基本は、冠拡張薬の持続点滴であり、純粋医学的には本件の場合、必要性を十分に説明して行うべきであり、仮に本件患者がミリスロール®などの点滴に拒否的であった場合であっても、その必要性を十分説明して、ミリスロール®などの硝酸薬点滴を行うべき状態であったといえる。ただし、必要性を十分に説明したにもかかわらず、患者側が点滴を拒否したのであれば、医師側には非は認められないこととなるが、どの程度の必要性をもって説明したかが問題となろう。裁判所の見解不安定狭心症は急性心筋梗塞や突然死に移行しやすく、早期に確実な治療が必要である。本件では前回の入院時にミリスロール®の点滴を行って症状が軽快しているという治療実績があり、入院時の病状は前回よりけっして軽くないから、硝酸薬点滴を必要とする状態であったといえる。もっとも担当医師の立場では、治療方法に関する患者の自己決定権を最大限尊重すべきであるから、医師が治療行為に関する説明義務を尽くしたにもかかわらず、患者が当該治療を受けることを拒絶した場合には、当該治療行為をとらなかったことにつき、医師に過失があると認めることはできない。そうすると、本件入院時にミリスロール®など硝酸薬点滴をしなかったことについて、被告医師に過失がないといえるのは、硝酸薬点滴の必要性などについて十分な説明義務を果たしたにもかかわらず、患者が拒否した場合に限られる。担当医師が入院時にミリスロール®点滴を行わなかったのは、必要性を十分に説明したにもかかわらず、「またあの点滴ですか」と点滴を嫌がる態度を示し、ミリスロール®の副作用により頭痛がすること、点滴をすることによって行動の自由が制限されること、点滴をすることによって入院が長くなることの3点を嫌がって、点滴を拒絶したと供述する。そして、入院診療録の「退院時総括」には「本人の希望もあり、ミリスロール®DIV(点滴)せずに安静で様子をみていた」との記載があるので、担当医師はミリスロール®の点滴静注を提案したものの、患者はミリスロール®の点滴を希望しなかったことがわかる。ところが、医師や看護師が患者の状態などをその都度記録する「入院経過用紙」には、入院時におけるミリスロール®の点滴に関するやりとりの記載はなく、担当医師から行われたミリスロール®点滴の説明やそれに対する患者の態度について具体的な内容はわからない。それよりも、午後3:00頃見舞にきた家族が、「点滴していなかったんだね」といったことに対し、「軽かったのかな」と答えたという家族の証言から、患者は自分の病状についてやや楽観的な見方をしていたことがわかり、担当医師からミリスロール®点滴の必要性について十分な説明をされたものとは思われない。担当医師は患者の印象について、「医療に対する協力、その他治療に難渋した」、「潔癖な方です。頑固な方です」と述べているように、十分な意思の疎通が図れていなかった。そのため、入院時にミリスロール®の点滴に患者が拒否的な態度を示した場合に、担当医師があえて患者を説得して、ミリスロール®の点滴を勧めようとしなかったことは十分考えられる状況であった。そして、当時の患者が不安定狭心症のハイリスク群に該当し、硝酸薬点滴をしないと危険な状況にあることを医師から説明されていれば、点滴を拒絶する理由になるとは通常考え難いので、十分に説明したという担当医師の供述は信用できない。つまり、自己の病状についてきわめて関心を抱いていた患者であるので、医師から十分な説明を受けていれば、医師の提案する治療を受け入れていたであろうと推測される。したがって、担当医師は当時の病状ならびにミリスロール®点滴の必要性について十分に説明したとは認められず、説明義務が果たされていたとはいえない。2. 硝酸薬点滴を行った場合の発作の回避可能性鑑定A不安定狭心症の治療としてミリスロール®の効果は約80%と報告されている。不安定狭心症の病態によりその効果に差はあるが、硝酸薬などの薬剤が不安定狭心症を完全に安定化させるわけではない。また、急激な冠動脈血栓形成に対しては硝酸薬の効果は低いと考える。そうするとミリスロール®点滴を実施することで発作を回避できたとは限らないが、回避できる可能性は約70%と考える。鑑定B冠動脈攣縮性狭心症の場合、ミリスロール®などの硝酸薬の点滴が冠動脈の攣縮を軽減させる可能性がある。本件発作が冠動脈攣縮性狭心症発作であった可能性は十分考えられることではあるが、最終的な本件発作の原因がほかにあるとすれば、ミリスロール®点滴を行っても回避は難しい。したがって、回避可能性について判断することはできない。鑑定C一般論からすると、持続点滴の方が経口や経皮的投与よりも有効であることは論をまたないが、持続点滴そのものの有効性自体は100%ではないため、持続点滴をしていればどの程度発作が抑えられたかについては、判断しようがない。また、本件では十分な量の冠拡張薬が投与されていたにもかかわらず、結果的に重篤な狭心症発作が起こっており、発作の活動性がかなり高く発作自体が薬剤抵抗性であったと捉えることもでき、持続点滴をしていたとしても発作が起こった可能性も否定できない。以上のように、持続点滴によって発作が抑えられた可能性と持続点滴によっても発作が抑えられなかった可能性のどちらの可能性が高いかについては、仮定の多い話で答えようがない。裁判所の見解冠動脈攣縮性狭心症の発作に対してはミリスロール®の点滴が有効である点において、各鑑定は一致していることに加え、回避可能性をむしろ肯定していると評価できること、そもそも不作為の過失における回避可能性の判断にあたっては、100%回避が可能であったことの立証を要求するものではないのであって、前回入院時にミリスロール®の点滴治療が奏効していることも併せ考慮すると、今回もミリスロール®の点滴を行っていれば発作を回避できたと考えられる。3. 患者に対する安静指示について担当医師の指示した安静度は「ベッド上安静」、排泄は「尿・便器」使用であることは明らかであり、この点において被告医師に過失は認められない。4. 発作に対する処置について鑑定Aニトログリセリン舌下投与を低血圧時に行うと、さらに血圧が低下することが予想される。しかし、狭心症発作寛解のためのニトログリセリン舌下投与に際し、禁忌となるのは重篤な低血圧と心原性ショックであり、本件発作時はこれに該当しない。さらに本件発作時は、静脈ラインが確保されていないと思われ、点滴のための留置針を穿刺する必要がある。この処置により心筋虚血の時間が延長することになるため、即座にニトログリセリンを舌下させることは適切と考える。鑑定Bニトロペン®そのものの投与は血圧が低いことだけをもって禁忌とすることはできない。本件発作時の状況下でニトロペン®舌下に先立ち、昇圧剤の点滴投与を行うかどうかの判断は難しい。しかし、まず輸液ルートを確保し、酸素吸入の開始が望ましい処置といえ、必ずしも適切とはいえない部分がある。鑑定C冠攣縮性狭心症の発作時の処置としては、血圧の程度いかんにかかわらず、まずは攣縮により閉塞した冠動脈を拡張させることが重要であるため、ニトロペン®をまず投与したこと自体は問題がない。しかしながら、昇圧剤の投与時期、呼吸循環状態の維持、ボスミン®投与の方法に問題があり、急変後の処置全般について注意義務違反が認められる。裁判所の見解ニトログリセリンの舌下については、各鑑定の結果からみて問題はない。なお、鑑定の結果によれば、発作の誘因は発作の直前のトイレ歩行ないし排尿である。担当医師からベッド上安静、尿便器使用の指示がなされ、担当看護師からも尿器の使用を勧められたにもかかわらずトイレでの排尿を希望し、さらに看護師から医師に確認するので待っているように指示されたにもかかわらず、その指示に反して無断でベッドから降りて、トイレでの排尿を敢行したものであり、さらに拒否的な態度が被告医師の治療方法の選択を誤らせた面がないとはいえないことを考慮すると、患者自身の責任割合は5割と考えられる。原告(患者)側合計5,532万円の請求に対し、2,204万円の判決考察拒否的な態度の患者についていくら説明しても医師のアドバイスに従わない患者さん、病院内の規則を無視して身勝手に振る舞う患者さん、さらに、まるで自分が主治医になったかのごとく「あの薬はだめだ、この薬がよい」などと要求する患者さんなどは、普段の臨床でも少なからず遭遇することがあります。本件もまさにそのような症例だと思います。冠動脈造影などから異型狭心症と診断され、投薬治療を行っていましたが、再び動悸や失神発作に襲われて入院治療が開始されました。前回入院時には、内服薬や貼布剤、噴霧剤などに加えてミリスロール®の持続点滴により症状改善がみられていたので、今回もミリスロール®の点滴を開始しようと提案しました。ところが患者からは、「またあの点滴ですか」「あの薬を使うと頭痛がする」「点滴につながれると行動が制限される」「点滴が始まると入院が長くなる」というクレームがきて、点滴は嫌だと言い出しました。このような場合、どのような治療方針とするのが適切でしょうか。多くの医師は、「そこまでいうのなら、点滴はしないで様子を見ましょう」と判断すると思います。たとえミリスロール®の点滴を行わなくても、それ以外のカルシウム拮抗薬や硝酸薬によってもある程度の効果は期待できると思われるからです。それでもなおミリスロール®の点滴を強行して、ひどい頭痛に悩まされたような場合には、首尾よく狭心症の発作が沈静化しても別な意味でのクレームに発展しかねません。そして、ミリスロール®の点滴なしでいったんは症状が改善したのですから、病院側の主張通り適切な治療方針であったと思います。そして、再度の発作を予防するために、患者にはベッド上の安静(トイレもベッド上)を命じましたが、「どうしてもトイレに行きたい」と患者は譲らず、勝手に離床して、致命的な発作へとつながってしまいました。このような症例を「医療ミス」と判断し、病院側へ2,200万円にも上る賠償金の支払いを命じる裁判官の考え方には、臨床医として到底納得することができません。もし、大事なミリスロール®の点滴を医師の方が失念していたとか、看護師へ安静の指示を出すのを忘れて患者が歩行してしまったということであれば、医師の過失は免れないと思います。ところが、患者の異型狭心症をコントロールしようとさまざまな治療方針を考えて、適切な指示を出したにもかかわらず、患者は拒否しました。「もっと詳しく説明していればミリスロール®の点滴を拒否するはずはなかったであろう」というような判断は、結果を知ったあとのあまりにも一方的な考え方ではないでしょうか。患者の言い分、医師の言い分極論するならば、このような拒否的態度を示す患者の同意を求めるためには、「あなたはミリスロール®の点滴を嫌がりますが、もしミリスロール®の点滴をしないと命に関わるかもしれませんよ、それでもいいのですか」とまで説明しなければなりません。そして、理屈からいうと「命に関わることになってもいいから、ミリスロール®の点滴はしないでくれ」と患者が考えない限り、医師の責任は免れないことになります。しかし、このような説明はとても非現実的であり、患者を脅しながら治療に誘導することになりかねません。本件でもミリスロール®の点滴を強行していれば、確かに狭心症の発作が出現せず無事退院できたかもしれませんが、患者側に残る感情は、「医師に脅かされてひどい頭痛のする点滴を打たれたうえに、病室で身動きができない状態を長く強要された」という思いでしょう。そして、鑑定書でも示されたように、本件はたとえミリスロール®を点滴しても本当に助かったかどうかは不明としかいえず、死亡という最悪の結果の原因は「異型狭心症」という病気にあることは間違いありません。ところが裁判官の立場は、明らかに患者性善説、医師性悪説に傾いていると思われます。なぜなら、「退院時総括」の記述「本人の希望もあり、ミリスロール®DIV(点滴)せずに安静で様子をみていた」というきわめて重大な記述を無視していることその理由として、「入院経過用紙」には入院時におけるミリスロール®の点滴に関するやりとりの記載がないことを挙げている裁判になってから提出された家族からの申告:当日午後3:00頃見舞にきた家族が、「点滴していなかったんだね」といったことに対し、「軽かったのかな」と患者が答えたという陳述書を全面的に採用し、患者側には病態の重大性、ミリスロール®の必要性が伝わっていなかったと断定つまり、診療録にはっきりと記載された「患者の希望でミリスロール®を点滴しなかった」という事実をことさら軽視し、紛争になってから提出された患者側のいい分(本当にこのような会話があったのかは確かめられない)を全面的に信頼して、医師の説明がまずかったから患者が点滴を拒否したと言わんばかりに、医師の説明義務違反と結論づけました。さらにもう一つの問題は、本件で百歩譲って医師の説明義務違反を認めるとしても、十分な説明によって死亡が避けられたかどうかは「判断できない」という鑑定書がありながら、それをも裁判官は無視しているという点です。従来までは、説明が足りず不幸な結果になった症例には、300万円程度の賠償金を認めることが多いのですが、本件では(患者側の責任は5割としながらも)説明義務違反=死亡に直結、と判断し、総額2,200万円にも及ぶ高額な判決金額となりました。本症例からの教訓これまで述べてきたように、今回の裁判例はとうてい医療ミスとはいえない症例であるにもかかわらず、患者側の立場に偏り過ぎた裁判官が無理なこじつけを行って、死亡した責任を病院に押し付けたようなものだと思います。ぜひとも上級審では常識的な司法の判断を期待したいところですが、その一方で、医師側にも教訓となることがいくつか含まれていると思います。まず第一に、医師や看護師のアドバイスを聞き入れない患者の場合には、さまざまな意味でトラブルに発展する可能性があるので、できるだけ詳しく患者の言動を診療録に記載することが重要です(本件のような最低限の記載では裁判官が取り上げないこともあります)。具体的には、患者の理解力にもよりますが、医師側が提案した治療計画を拒否する患者には、代替可能な選択肢とそのデメリットを提示したうえで、はっきりと診療録に記載することです。本件でも、患者がミリスロール®の点滴を拒否したところで、(退院時総括ではなく)その日の診療録にそのことを記載しておけば、(今回のような不可解な裁判官にあたったとしても)医療ミスと判断する余地がなくなります。第二に、その真偽はともかく、死亡後に担当医師から、「(ミリスロール®)点滴をすべきでした。しなかったのは当方のミスです」という発言があったと患者側が主張した点です。前述したように、診療録に残されていない会話内容として、裁判官は患者側の言い分をそのまま採用することはあっても、記録に残っていない医師側の言い分はよほどのことがない限り取り上げないため、とくに本件のように急死に至った症例では、「○○○をしておけばよかった」という趣旨の発言はするべきではないと思います。おそらく非常にまじめな担当医師で、自らが関わった患者の死亡に際し、前向きな考え方から「こうしておけばよかったのに」という思いが自然に出てしまったのでしょう。ところが、これを聞いた患者側は、「そうとわかっているのなら、なぜミリスロール®を点滴しなかったのか」となり、いくら「実は患者さんに聞いてもらえなかったのです」と弁解しても、「そんなはずはない」となってしまいます。そして、第三に、担当医師の供述に対する裁判官への心証は、かなり重要な意味を持ちます。判決文には、「担当医師は当公判廷において、患者が『またあの点滴ですか』といったことは強烈に覚えている旨供述するものの、患者に対しミリスロール®点滴の必要性についてどのように説明を行ったかについては、必ずしも判然としない供述をしている」と記載されました。つまり、患者に行った説明内容についてあやふやな印象を与える証言をしてしまったために、そもそもきちんとした説明をしなかったのだろう、と裁判官が思い込んでしまったということです。医事紛争へ発展するような症例は、医療事故発生から数年が経過していますので、事故当時患者に口頭で説明した内容まで細かく覚えていることは少ないと思います。そして、がんの告知や手術術式の説明のように、ある一定の緊張感のもとに行われ承諾書という書面に残るようなインフォームドコンセントに対し、本件のように(おそらく)ベッドサイドで簡単にすませる治療説明の場合には、曖昧な記憶になることもあるでしょう。しかし、ある程度の経験を積めば自ずと説明内容も均一化してくるものと思いますので、紛争へと発展した場合には十分な注意を払いながら、明確な意思に基づく主張を心がけるべきではないかと思います。循環器

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外傷後の神経痛に対する新規ケモカイン受容体2拮抗薬AZD2423

 新しいケモカイン受容体(CCR2)拮抗薬 AZD2423の、外傷後神経痛に対する有効性および安全性をプラセボと比較検討した多施設共同無作為化二重盲検試験の結果が、スウェーデン・アストラゼネカ社のJarkko Kalliomaki氏らにより発表された。 AZD2423は、安全性および忍容性に問題は無く、神経障害性疼痛評価質問票(NPSI)による評価で特定の疼痛に対する効果が示唆されたことなどが報告された。PAIN誌2013年5月号(オンライン版2013年2月13日号)の掲載報告。 対象は外傷後の神経痛患者133例で、AZD2423 20mg群、150mg群またはプラセボ群に無作為化された。いずれも治験薬を28日間経口投与した。 主要評価項目は、試験終了時におけるベースライン時からの平均疼痛スコア(それぞれ投与の最終5日間ならびに投与開始前5日間の平均値)の変化量であった。疼痛スコアは、0~10までの数値的評価スケールを用いた。 副次的有効性評価項目は、NPSI、疼痛スコア最悪値、患者による全般的印象(PGI)の変化)、睡眠や日常活動に及ぼす影響とした。 主な結果は以下のとおり。・平均疼痛スコアの変化について、投与群間の有意差は認められなかった(AZD2423 20mg群:-1.54、AZD2423 150mg群:-1.53、プラセボ群:-1.44)。・しかしプラセボ群と比較してAZD2423 150mg投与群は、NPSI総スコア、ならびに発作痛および感覚異常に関するNPSIサブスコアが大きく減少する傾向がみられた。・その他の副次的有効性評価項目について投与群間で差はみられなかった。・AZD2423両群の有害事象の頻度と種類はプラセボ群と類似していた。・ケモカインリガンド2血漿中濃度の増加および単球の減少(AZD2423 150mg投与群で-30%)がみられ、AZD2423投与量とCCR2との相互作用が示唆された。~進化するnon cancer pain治療を考える~ 「慢性疼痛診療プラクティス」連載中!・「天気痛」とは?低気圧が来ると痛くなる…それ、患者さんの思い込みではないかも!?・腰椎圧迫骨折3ヵ月経過後も持続痛が拡大…オピオイド使用は本当に適切だったのか?  治療経過を解説・「痛みの質と具体性で治療が変わる?!」痛みと大脳メカニズムをさぐる

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新知見!慢性期統合失調症患者では意志作用感が減退:慶応義塾大学

 意志作用感(sense of agency:SoA)とは、ある動作や思考などを他人ではなく自分の意志によって実行しているという感覚であり、統合失調症患者では、この意志作用感が障害されている。慶應義塾大学医学部精神・神経科学教室神経心理学研究室の前田貴記氏らは、SoAを評価する統合フレームワークを用いて、陰性症状が残存している慢性統合失調症患者においてSoAが減退していることを初めて明らかにした。Psychiatry Research誌オンライン版2013年5月14日号の掲載報告。 統合失調症における自我障害(self disturbance)は同疾患の根源的な脆弱性のマーカーになると考えられるようになり、認知神経心理学的見地からの異常な意志作用感に関する研究が始まっている。統合失調症のSoA異常の特性を明らかにするためには、さまざまな臨床サブタイプおよびステージにおいて調査を行う必要がある。しかし、これまで陰性症状が残存している慢性統合失調症における調査は行われていなかった。 そこで本研究では、同タイプの統合失調症においてオリジナル作用特性タスクを用いてその特性を調べ、至適な手がかりを得るための統合フレームワークでSoAの予測コンポーネントと後付け(postdictive)コンポーネントとの間の動的相互作用を評価した。評価は、陰性症状が残存している統合失調症患者20例と、対照群として妄想型の統合失調症患者30例および健常ボランティア35例を対象に行われた。 主な結果は以下のとおり。・陰性症状が残存している統合失調症患者では、健常対照者や妄想型統合失調症患者と比較しSoAの顕著な減退が認められた。・陰性症状が残存している統合失調症患者で認められたSoAは、妄想型統合失調症患者でみられた過度のSoAと正反対の作用特性を示した。・SoAの減退は、統合失調症の実験的研究において初めて検出された。・統合フレームワークの適用により、これらの結果は、不十分な予測にもかかわらず、妄想型統合失調症では後付けコンポーネントが過度であったのとは対照的に、後付けプロセスの代償的寄与が増大しなかったことを示すものであった。関連医療ニュース 陰性症状改善に!5-HT3拮抗薬トロピセトロンの効果は? 統合失調症の陰性症状有病率、脳波や睡眠状態が関連か 精神疾患患者は、何を知りたがっているのか

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中高年の病因不明の慢性湿疹、Ca拮抗薬とサイアザイド系利尿薬との関連

 50歳以上の中高年に認められる病因不明の慢性湿疹について、Ca拮抗薬およびサイアザイド系利尿薬との関連を指摘する知見が、米国・ユタ大学のErika M. Summers氏らによる後ろ向き症例対照研究の結果、報告された。 皮膚科医が、中高年者の慢性湿疹(chronic eczematous eruptions in the aging:CEEA)に遭遇する頻度が高いことから、研究グループは、薬剤性湿疹の可能性について検討した。薬剤性湿疹が疑われる場合、原因となる医薬品を特定することは臨床的に複雑なチャレンジとなっている。JAMA Dermatology誌オンライン版2013年5月1日号の掲載報告。 本研究は米国において特定の医薬品、とくに今回はCa拮抗薬がCEEAと関連しているか検討することを目的とした。 ユタ大学医学部皮膚科部門の外来患者を対象とし、2005年1月1日~2011年12月31日の間に、2ヵ月以上の説明がつかない対称性の湿疹がみられた50歳以上の94例を対象症例とした。薬剤性湿疹が臨床的に疑われる場合、海綿状皮膚炎あるいは接合部皮膚炎などの組織病理学的な変化がみられる場合も適格とし、対照群として年齢、性別、人種でマッチさせた皮膚の状態が良好な132例を設定し分析を行った。また、従来法の皮膚生検で炎症が認められた症例についてサブグループ解析を行い、湿疹型薬疹(湿疹、接合部皮膚炎など)との関連についても調べた。  主要評価項目は、特定の医薬品と、説明がつかない病因不明のCEEAとの関連とした。 主な結果は以下のとおり。・症例群と対照群では、Ca拮抗薬とサイアザイド系利尿薬の使用について、有意な差異が明らかであった。・Ca拮抗薬の適合オッズ比は4.21(95%CI:1.77~9.97、p=0.001)、サイアザイド系利尿薬の適合オッズ比は2.07(同:1.08~3.96、p=0.03)であった。・サブグループ解析では、統計的に有意な関連性が一つも示されなかった。

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アルツハイマー型認知症治療薬ガランタミン、緑内障治療に有望!?

 アセチルコリンエステラーゼ阻害薬ガランタミン(商品名:レミニール、本邦ではアルツハイマー型認知症治療薬として承認)が緑内障治療に有望であることが、カナダ・モントリオール大学のMohammadali Almasieh氏らにより報告された。緑内障における網膜微小血管系および網膜神経節細胞(RGC)消失の状況を検討した結果、早期からこれら両方の消失が同時に生じており、ガランタミンの投与により、血管密度の維持および網膜血流の改善が認められることを報告した。結果を踏まえて著者は、「緑内障治療において、網膜微小血管を保護し、血液供給を改善するための早期介入は有益だと思われる」と結論している。Investigative Opthalmology&Visual Science誌2013年5月号の掲載報告。 緑内障における血管系の消失と網膜神経節細胞(RGC)消失との明確な関連は立証されていない。網膜内層血管が消失し、続いて眼内圧(IOP)上昇が惹起されるのか否か、もしそうであれば、付随して生じるRGC死の前に起こるのか、それとも後かという疑問があり、Almasieh氏らはその回答を得るべく検討を行った。また、実験的緑内障モデルを用いて、RGCの生存を促すアセチルコリンエステラーゼ阻害薬ガランタミンの、網膜微小血管系の保護ならびに血流増加作用の有無について検討を行った。 Brown Norwayラットの上強膜静脈内に高張生理食塩水を注入し、高眼圧モデルを作製した。緑内障眼と対照眼において、網膜微小血管系とRGCを同時に観察できるよう網膜を処理した。網膜血流は、N-isopropyl-p-[14C]-iodoamphetamineを用いた定量オートラジオグラフィーにより測定した。さらに、in vitro網膜微小血管系プレパレーションを用いて血管反応性を評価した。主な結果は以下のとおり。・高眼圧誘発後、網膜毛細血管の大量の消失が観察された。・微小血管系およびRGCの消失はいずれも早期の段階で起こり、最初のダメージから少なくとも5週間は同様の進展経過をたどった。・ガランタミン全身投与により、緑内障性網膜における微小血管密度の維持および網膜血流の改善が認められた。・ガランタミンは、ムスカリン性アセチルコリン受容体の活性化を介して網膜微小血管に作用していることがin vitroおよびin vivoで示された。・実験的緑内障モデルにおいて、微小血管系とRGCの消失は同時に起こっており、これら細胞分画の強い共依存が示唆された。 ・緑内障治療において、ガランタミンにより網膜微小血管を保護し、血液供給を改善するための早期介入は有益だと思われる関連医療ニュース ・重度の認知障害を有する高齢者、視力検査は行うべき? ・NMDA拮抗薬メマンチンによる再発低血糖症の拮抗ホルモン減弱のメカニズム ・アセチルコリンエステラーゼ阻害薬の長期曝露、ミツバチの生態行動に影響

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統合失調症患者に対するフルボキサミン併用療法は有用か?:藤田保健衛生大学

 これまで、統合失調症患者に対するフルボキサミン(本疾患には未承認)併用療法に関する発表がいくつか行われている。藤田保健衛生大学の岸 太郎氏らは、抗精神病薬で治療中の統合失調症患者に対するフルボキサミン併用療法のメタ解析結果の更新を行った。European archives of psychiatry and clinical neuroscience誌オンライン版2013年4月21日号の報告。 著者は、これまでSepehry氏らやSingh氏らによって行われた統合失調症患者に対するフルボキサミン併用療法のメタ解析結果を更新した。2013年1月までのPubMed、コクランライブラリデータベース、PsycINFOを検索し、フルボキサミン併用療法群とプラセボ群を比較したランダム化試験より抽出した患者データを用い、系統的レビューとメタ解析を行った。リスク比(RR)、95%CI、標準化平均差(SMD)を算出した。 主な結果は以下のとおり。・7件の研究(クロザピン研究2件、オランザピン研究1件、第二世代抗精神病薬単剤研究1件、第一世代抗精神病薬単剤研究3件)が同定され、対象患者272例が抽出された。・フルボキサミン併用療法は、全体的(SMD=-0.46、95%CI=-0.75~-0.16、p=0.003、I2=0%、5試験、180例)および陰性症状(SMD=-0.44、95%CI=-0.74~-0.14、p=0.004、I2=0%、5試験、180例)に対し有意な効果が認められた。・しかしながら、陽性症状、抑うつ症状、何らかの原因や有害事象による中止への有意な効果は認められなかった。・主に第二世代抗精神病薬による治療を受けていた患者において、フルボキサミン併用療法は、全体的な改善は認められたが(p=0.02)、陰性症状の改善は認められなかった(p=0.31)。・一方、主に第一世代抗精神病薬による治療を受けていた患者では、プラセボ群と比較して、全体的および陰性症状の改善が認められた(各々p=0.04、p=0.004)。関連医療ニュース ・陰性症状改善に!5-HT3拮抗薬トロピセトロンの効果は? ・統合失調症治療にベンゾ併用は有用なのか? ・統合失調症患者の認知機能改善にフルボキサミンは有効か?

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〔CLEAR! ジャーナル四天王(91)〕 IL-1の阻害は1型糖尿病患者のβ細胞機能の低下を遅らせることができるか?

この研究は、発症して間もない1型糖尿病における免疫学的機序によるβ細胞の破壊を、IL-1を阻害する2つの薬剤で防止できるかどうかを、プラセボを用いたRCT研究で検討したものである。 1つはヒト抗IL-1モノクローナル抗体のカナキヌマブ(canakinumab)の1ヵ月毎、12ヵ月の皮下注射であり、もう1つはIL-1拮抗薬であるアナキンラ(anakinra)の9ヵ月間、毎日の注射である。 いずれも、食事負荷によるインスリン反応で評価したβ細胞機能の減少を抑制することはできなかった。アナキンラの方はプラセボと比べて注射部位の皮膚反応の増加が認められている。 1型糖尿病患者は、病気の発症後もβ細胞機能、すなわちインスリン分泌が減少し、頻回のインスリン注射やインスリンポンプ治療を行っても、最終的には枯渇状態になることが多い。インスリンが枯渇すると、高血糖と低血糖を繰り返し、血糖変動が大きくなり、血糖コントロールが困難になることが多く、合併症もより起こりやすくなる。このβ細胞の破壊と機能の減少にIL-1が関与していることが考えられている。IL-1は高血糖の時に放出され、直接にインスリンの合成、放出を阻害し、β細胞のアポトーシスを誘導する。 この1型糖尿病患のβ細胞機能の減少を、抗IL-1抗体でも、IL-1拮抗薬でも防ぐことができなかったことは、β細胞の破壊の機序がIL-1などのinnate immunityだけではなく、もっと複雑であることを示していると考えられる。この研究はネガティブな結果であるが、次に進むべき2つのステップを示してくれる重要な論文である。 1つはもっと早い段階、1型糖尿病が臨床的に発症する以前、自己抗体のみが陽性の段階でIL-1阻害の治療を試みる必要があることである。もう1つは抗CD-3抗体やT細胞選択的共刺激調整薬のabetaceptが1型糖尿病患者のインスリン分泌低下を遅延させたという報告や、動物実験では抗CD-3抗体とIL-1阻害の併用により糖尿病の寛解が得られたという報告より、抗CD-3抗体と抗IL-1抗体の併用を試みる価値があることである。 2型糖尿病患者はアナキンラを投与すると血糖が改善し、インスリン分泌が増加し、β細胞機能が改善することが報告されている。したがって、1型糖尿病におけるβ細胞機能の低下には、2型糖尿病とは異なり、もっと複雑で重篤な機序が関与してことがわかる。また、最近は1型糖尿病も、劇症1型糖尿病、緩徐進行1型糖尿病とヘテロであることがわかっている。したがって、それらの1型糖尿病の発症機序も異なっている可能性があり、将来はそれぞれ異なった免疫療法が必要となるのかもしれない。

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1型糖尿病への抗インターロイキン1薬単独投与、β細胞機能の改善効果示せず/Lancet

 発症後間もない1型糖尿病患者に対する、抗インターロイキン1薬の単独投与について、β細胞機能の改善効果は示されなかったことが報告された。米国・ミネソタ大学のAntoinette Moran氏らが、約140例について行った、2つの無作為化試験の結果、明らかにしたもので、Lancet誌オンライン版4月5日号で発表した。1型糖尿病は先天免疫が発症に寄与している自己免疫疾患であるが、これまで先天免疫のキーメディエーターであるインターロイキン1を遮断するということに関して、無作為化対照試験は行われていなかったという。カナキヌマブ、アナキンラを投与し、9ヵ月、12ヵ月後のアウトカムをプラセボと比較 研究グループは、発症して間もない1型糖尿病患者138例を対象に、ヒトモノクロナール抗インターロイキン1抗体のカナキヌマブ(商品名:イラリス、CAPS治療薬として承認)と、ヒトインターロイキン1受容体拮抗薬のアナキンラ(国内未承認)について、それぞれプラセボ対照試験を行い、β細胞機能の改善効果について分析した。被験者の混合食負荷試験でのCペプチド値は、0.2nM以上だった。 カナキヌマブ試験は米国とカナダの12施設で行われ(2010年11月12日~2011年4月11日)、被験者の年齢は6~45歳であった。アナキンラ試験はヨーロッパの14施設で行われ(2009年1月26日~2011年5月25日)、被験者は18~35歳だった。 カナキヌマブ試験では被験者69例が、カナキヌマブ2mg/kg(最大300mg)を月1回12ヵ月間皮下注射(47例)またはプラセボを投与する群(22例)に無作為化された。アナキンラ試験(69例)では、アナキンラ100mg/日(35例)またはプラセボ(34例)を9ヵ月間投与する群に無作為化された。 主要エンドポイントは、混合食負荷試験のCペプチドの曲線下面積2時間値(ベースライン値で補正後)だった。カナキヌマブ、アナキンラいずれもプラセボと有意差なし カナキヌマブ試験を完了したのはカナキヌマブ群45例とプラセボ群21例であり、アナキンラ試験ではアナキンラ群25例、プラセボ群26例だった。 12ヵ月後の混合食負荷試験のCペプチドの曲線下面積2時間値について、カナキヌマブ群とプラセボ群の差は0.01nmol/L(95%信頼区間:-0.11~0.14、p=0.86)であり有意差はみられなかった。9ヵ月後の同値のアナキンラ群とプラセボ群の差も、0.02nmol/L(同:-0.09~0.15、p=0.71)と有意差はみられなかった。 有害事象の発生件数や重症度については、カナキヌマブ試験では両群で同等だったが、アナキンラ試験ではアナキンラ群がプラセボより有意に重度の発生が高率だった(p=0.018)。大半は注射部位反応によるものであった。 著者は、「発症後間もない1型糖尿病患者に対し、カナキヌマブ、アナキンラともに安全ではあったが、単剤投与の有効性は認められなかった。インターロイキン1の遮断は、臓器特異的な自己免疫不全で適応免疫をターゲットとした併用療法においては効果的であるのかもしれない」と述べている。

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心不全への標準治療に加えたアリスキレン投与、長期アウトカム改善せず/JAMA

 心不全入院患者に対し、利尿薬やβ遮断薬などの標準的治療に加え、直接的レニン阻害薬の降圧薬アリスキレン(商品名:ラジレス)の投与を行っても、6ヵ月、12ヵ月後のアウトカム改善は認められなかったことが、米国・ノースウェスタン大学のMihai Gheorghiade氏らによるプラセボ対照無作為化二重盲検試験の結果、報告された。研究グループは、先行研究における、心不全患者に対するアリスキレン投与は脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)を有意に低下し良好な血行動態をもたらすといった報告を踏まえて、アリスキレンの長期アウトカム改善の可能性に関する本検討を行った。JAMA誌2013年3月20日号掲載の報告より。世界316ヵ所で、心不全入院患者1,639例を無作為化 研究グループは2009年5月~2011年12月にかけて、南・北米、ヨーロッパ、アジアの316ヵ所の医療機関を通じ、心不全で入院した患者1,639例を対象に無作為化試験を行った。アリスキレンを、標準的な治療に加え投与した場合のアウトカムについて比較した。 被験者は18歳以上で、左室駆出率(LVEF)40%以下、BNP値400pg/mL以上、またはN末端プロBNP(NT-proBNP)値1,600pg/mL以上であった。また、水分過負荷の徴候や症状も認められた。 主要アウトカムは、6ヵ月後および12ヵ月後の心血管死または心不全による再入院とした。心血管死または心不全のイベント発生率、両群で同程度 被験者のうち最終的に分析対象に組み込まれたのは1,615例だった。平均年齢は65歳、平均LVEFは28%、平均推定糸球体濾過量(eGFR)は67mL/分/1.73m2だった。また被験者のうち41%が糖尿病を有していた。無作為化時点で利尿薬を服用していたのは95.9%、β遮断薬は82.5%、ACE阻害薬またはARBは84.2%、アルドステロン受容体拮抗薬は57.0%だった。 6ヵ月後の主要エンドポイント発生率は、アリスキレン群24.9%(心血管死:77例、心不全による再入院:153例)に対し、プラセボ群は26.5%(同:85例、同:166例)であり、両群で有意差はなかった(ハザード比:0.92、95%信頼区間:0.76~1.12、p=0.41)。 12ヵ月後の同イベント発生率についても、アリスキレン群35.0%に対しプラセボ群37.3%と、両群で有意差はなかった(同:0.93、0.79~1.09、p=0.36)。 なお、高カリウム血症、低血圧症、腎機能障害や腎不全の発症率は、いずれもアリスキレン群で高率だった。

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陰性症状改善に!5-HT3拮抗薬トロピセトロンの効果は?

 慢性期統合失調症患者における陰性症状をどのように改善させるかは、今なお問題である。陰性症状にはセロトニン5-HT3受容体が関与することは知られている。Maryam Noroozian氏らは、慢性期統合失調症患者に対する5-HT3拮抗薬トロピセトロン(本疾患には未承認)の追加投与による陰性症状への有効性と忍容性を評価した。Psychopharmacology誌オンライン版2013年3月21日号の報告。 対象はリスペリドン投与により症状が安定している慢性期統合失調症患者40例。トロピセトロンまたはプラセボを無作為に追加投与し、8週間経過を観察した。精神症状はPANSSを用い、2週おきに評価した。錐体外路症状と抑うつ症状は副作用と同様に評価した。主要評価項目として、PANSS陰性症状スコア(8週目)のベースラインからの変化量を両群間で比較した。 主な結果は以下のとおり。・トロピセトロン群はプラセボ群と比較してPANSS総スコア(F[1.860,70.699]=37.366、p

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ベンゾジアゼピン系薬物による認知障害、α1GABAA受容体活性が関与の可能性

 ベンゾジアゼピン系薬物の認知障害は、同薬の作用によるα1GABAA受容体の活性が関与している可能性が示唆された。米国・ハーバードメディカルスクールのLeah Makaron氏らが、アカゲザルによる作業実験研究を行い明らかにした。Pharmacology Biochemistry and Behavior誌2013年3月号の掲載報告。 ベンゾジアゼピン系薬物(BZ)が実行機能の認知領域でパフォーマンスを変える作用について、α1とα5のサブユニットを含むGABA受容体(α1GABAとα5GABA受容体)の役割について評価した。まず、5匹のメスの成体アカゲザル(9~17歳)に、迂回作業を伴う対象想起(object retrieval with detours:ORD)作業の訓練を行った。ORD作業は、サルが透明の箱から食べ物を取り出すために、1回扉を開閉しなければならないというものだった(扉の開閉で箱が回転して食べ物が置かれる)。検討された薬物は、非選択的BZのトリアゾラム、α1GABA選択的アゴニストのゾルピデムとザレプロンであった。 主な結果は以下のとおり。 ・いずれの薬物投与においても、ORD作業の実行に障害が起きた。食べ物を手に入れようとする作業開始に遅延は生じなかったが、食べ物が獲得できなかった割合が増大した。・トリアゾラムとゾルピデムのORDへの影響は、α1GABA選択的拮抗薬βCCTによって阻害された。・トリアゾラムのORDへの影響は、α5GABA選択的拮抗薬XLi-093によっても阻害された。しかしゾルピデムのORDへの影響は同薬では阻害されなかった。・これらの知見は、α1GABAとα5GABA受容体メカニズムの役割を示唆する。すなわち、α1GABA受容体メカニズムが、BZ系薬物が引き起こす実行機能障害に関与している十分な可能性がある。関連医療ニュース ・統合失調症に対するベンゾジアゼピン、最新レビュー知見 ・ベンゾジアゼピン系薬剤の使用で抗精神病薬多剤併用率が上昇?! ・抗精神病薬と抗コリン薬の併用、心機能に及ぼす影響

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募集した質問にエキスパートが答える!心房細動診療 Q&A (Part.2)

今回も、4つの質問に回答します。「抗凝固薬服薬者が出血した時の対処法」「抗血小板薬と抗凝固薬の併用」「レートコントロールの具体的方法」「アブレーションの適応患者と予後」ワルファリンまたは新規抗凝固薬を服薬中に出血した場合、どのように対処すべきでしょうか?中和方法等を含めて教えてください。緊急の止血を要する場合の処置法は図5のとおりです。まずは、投与中止し、バイタルサインを見ながら止血と補液を行います。脳出血やくも膜下出血の場合には十分な降圧を行います。最近、Xa阻害剤の中和剤(PRT4445)が開発され、健常人を対象に臨床研究が始まることが報告されました。今後の結果が待たれます。ダビガトランは透析可能とされておりますが、臨床データは十分ではなく、また出血の起きているときに太い透析用のカテーテルを留置するのはあまり現実的ではないでしょう。図5.中等度~重度の出血(緊急の止血を要する場合)画像を拡大する虚血性心疾患既往例など抗血小板薬と抗凝固療法を併用する場合、どのような点に注意すべきでしょうか?抗血小板薬2剤+抗凝固薬1剤という処方パターンなどは許されますでしょうか?大変悩ましい質問です。抗血小板薬と抗凝固療法の併用は、出血事故を増加させます。このため併用者が受診した時には、出血がなかったかどうかを毎回問診します。ヨーロッパ心臓病学会(ESC)の2010年ガイドラインには、虚血性心疾患で抗血小板薬と抗凝固療法を併用する場合の治療方針が掲載されております(表2)。その指針には、(1)HAS-BLED出血スコアを考慮し、次に(2)待機的に加療する狭心症か、あるいは緊急で治療を要する急性冠症候群か、そして(3)ステント性状がベアメタルか薬剤溶出性か、の3つのステップを踏んで薬剤の種類と投与期間を決定すると示されています。確かに合理的と思いますが、これには十分なエビデンスがないことより、今後の検証を待つべきでしょう。しかしながら、個人差があると思いますが、原則としてステント留置後1年が経過したらワルファリン単剤で様子を見たいと思います。ただし、新規抗凝固薬についての言及はありません。表2.心房細動+ステント症例の抗血栓療法画像を拡大するレートコントロールを具体的にどのように行えばよろしいでしょうか?(薬剤の選択、β遮断薬の使い方、目指すべき脈拍数等)レートコントロールは洞調律の維持を切望しない、すなわち心房細動症状があまり強くない人に行うことが主です。しかしながら、リズムコントロール薬と併用することもありますし、反対にリズムコントロール薬よりもレートコントロール薬の方が有効である症例も経験します。まず、心機能別の薬剤使い分けを表示します(表3)。高齢者は薬物の代謝能力が落ちていることがありますので、投与前には肝・腎機能を調べるとともに、併用薬がないかどうかも確認します。まず表3に記載された薬剤は少量から使用すべきでしょう。たとえばジギタリスは常用量の半量から使用し、β遮断薬は(分割や粉砕などの手間がかかりますが)常用量の1/4 ~1/2量から開始します(最近は低用量製剤も使用可能です)。ベラパミルは朝と日中の2回のみ使用します。投与後は過度な徐脈になっていないかどうかを、自覚症状とホルター心電図で検討します。私は、夜間の最低脈拍数は40台まで、また、3秒までのポーズは良しとしております。動いたときに息切れがひどくなったと言われれば中止することもあります。喘息のある場合はジギタリスかCa拮抗薬がお勧めですが、ベータ1選択性の強いビソプロロールは投与可能とされます。目標心拍数についてはRACE II試験が参考になります(NEJM 2010)。この試験では、レートコントロールは厳密に行うべきか(安静時心拍数が80/分未満で、かつ日常活動時に110/分未満)、あるいは緩徐でよいか(安静時心拍数が110/分未満であれば良しとする)の2群に分けて3年間の予後を比べました。その結果、2群間に死亡や入院、およびペースメーカ植込みなどの複合エンドポイントに有意差はなかったことより、レートコントロールは緩めで良いと結論付けられました。その後のサブ解析(JACC 2011)、左房径や左室径のりモデリング(拡大)は、レートコントロールの程度で差はないことが報告されました。白衣高血圧と同様の現象で、診察時や心電図をとるときに緊張すると、心拍数はすぐに増加します。しかしながら、いつも頻脈が続く場合や、頻脈による症状が強い時には、何か疾患が隠れていることもありますので注意が必要です。たとえば、COPD、貧血、甲状腺機能亢進症、および、頻度は低いのですがWPW症候群に合併した心房細動(頻脈時にQRS幅が広い)のこともありますのでレートコントロールがうまくいかない場合には専門医を受診させるとよいでしょう。薬剤によるレートコントロールがうまくいかない場合には、房室結節をカテーテルアブレーションによって離断し、同時にペースメーカを植込むこともあります。表3.心機能別にみた薬剤の使い分け画像を拡大するアブレーションはどのような患者に適応されますか?また、長期予後はどうでしょうか?教えてください。機器の改良と経験の積み重ねによってアブレーションの成功率は高くなってきました。この結果、適応範囲は拡大し、治療のエビデンスレベルは向上しております。日本循環器学会のガイドラインでは年間50例以上の心房細動アブレーションを行っている施設に限ってはClass Iになりました。すなわち内服治療の段階を経ることなく、アブレーションを第一選択治療法として良いとしました。しかながら、心房細動そのものは緊急治療を要する致死性不整脈ではありません。このため、アブレーションの良い適応は心房細動が出ると動悸症状が強くてQOLが低下する患者さんでしょう。心房細動がでると心不全に進展する場合も適応です。最近は、マラソンブームをうけて一般ランナーやジムでトレーニングを続けるアスリートなどが心房細動を自覚して紹介来院される人が増えてきたように思います。心房細動がでるとパフォーマンスが落ちて気分が落ちるためにアブレーションを希望されるようです。現時点では、心房細動アブレーションに生命予後の改善や脳梗塞の予防効果があるかどうかのエビデンスがそろったわけではありません。図6のようにアブレーションを一回のみ施行した場合は5年間の追跡で約半数が再発します(左)。再発に気付いて追加アブレーションを行うことにより洞調律維持効果が上がります(右)。発生から1年以上持続した持続性心房細動や左房径が5cmを超えている場合は再発率が高いため、最初から複数回のアブレーションを行うことも説明します。また、合併症は0ではありません。危険性を十分説明し、患者さんが納得したところで施行すべきです。アブレーションが成功したと思ってもその後に無症候性の心房細動が発生していることも報告されておりますので、CHADS2スコアにしたがって抗凝固療法を継続することも必要でしょう。また、最近は図7のようにCHADS2スコアが心房細動アブレーションの効果を予測するとする報告がなされました。CHADS2スコアが1を超えると再発率が高く、追加アブレーションが必要とされるようです。図6.洞調律維持効果(中期)画像を拡大する図7.CHADS2スコアと洞調律維持効果(長期)画像を拡大する

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ダビガトラン、VTEの延長治療に有効、出血リスクも/NEJM

 直接トロンビン阻害薬ダビガトラン(商品名:プラザキサ)による抗凝固療法は、静脈血栓塞栓症(VTE)の延長治療として有効であり、大出血や臨床的に重要な出血のリスクはワルファリンよりは低いもののプラセボに比べると高いことが、カナダ・マクマスター大学のSam Schulman氏らの検討で示された。VTE治療はビタミンK拮抗薬が標準とされ、複数の血栓エピソードなど再発のリスク因子を有する場合は長期投与が推奨されるが、大出血のリスクとともに頻回のモニタリングや用量調整を要することが問題となる。ダビガトランは固定用量での投与が可能なうえ、頻回のモニタリングや用量調節が不要で、VTEの治療効果についてワルファリンに対する非劣性が確認されており、初期治療終了後の延長治療に適する可能性がある。NEJM誌2013年2月21日号掲載の報告実薬対照非劣性試験とプラセボ対照優位性試験の統合的解析 RE-MEDY試験は、初期治療終了後のVTE延長治療におけるダビガトラン(150mg、1日2回)のワルファリンに対する非劣性を検証する実薬対照試験であり、RE-SONATE試験はダビガトラン(150mg、1日2回)のプラセボに対する優位性を評価するプラセボ対照試験。 両試験ともに、対象は年齢18歳以上、症候性の近位型深部静脈血栓症(DVT)または肺塞栓症(PE)と診断され、標準的抗凝固薬による初期治療を終了した症例とした。 RE-MEDY試験では、有効性のハザード比(HR)の95%信頼区間(CI)上限値が2.85を超えない場合、および18ヵ月後のVTE再発のリスク差が2.8ポイント以内の場合に非劣性と判定した。ACSのリスクにも留意すべき RE-MEDY試験には、2006年7月~2010年7月までに33ヵ国265施設から2,856例が登録され、ダビガトラン群に1,430例(平均年齢55.4歳、女性39.1%)、ワルファリン群には1,426例(同:53.9歳、38.9%)が割り付けられた。また、RE-SONATE試験には、2007年11月~2010年9月までに21ヵ国147施設から1,343例が登録され、ダビガトラン群に681例(平均年齢56.1歳、女性44.1%)、プラセボ群には662例(同:55.5歳、45.0%)が割り付けられた。 RE-MEDY試験では、VTE再発率はダビガトラン群が1.8%(26例)と、ワルファリン群の1.3%(18例)に対し非劣性であった(HR:1.44、95%CI:0.78~2.64、非劣性検定:p=0.01、リスク差:0.38ポイント、95%CI:-0.50~1.25、非劣性検定:p<0.001)。 大出血の頻度はダビガトラン群が0.9%(13例)と、ワルファリン群の1.8%(25例)に比べほぼ半減したものの有意な差はなかった(HR:0.52、95%CI:0.27~1.02、p=0.06)。一方、大出血または臨床的に重要な出血の頻度はダビガトラン群で有意に減少した(HR:0.54、95%CI:0.41~0.71、p<0.001)。急性冠症候群(ACS)がダビガトラン群の0.9%(13例)にみられ、ワルファリン群の0.2%(3例)に比べ有意に高頻度であった(p=0.02)。 RE-SONATE試験のVTE再発率はダビガトラン群が0.4%(3例)と、プラセボ群の5.6%(37例)に比べ有意に良好であった(HR:0.08、95%CI:0.02~0.25、p<0.001)。大出血の発生率はそれぞれ0.3%(2例)、0%であったが、大出血または臨床的に重大な出血の発生率は5.3%(36例)、1.8%(12例)とダビガトラン群で有意に高値を示した(HR:2.92、95%CI:1.52~5.60、p=0.001)。ACSは両群に1例ずつ認められた。 著者は、2つの試験の結果を踏まえ、「ダビガトランによる抗凝固療法はVTEの延長治療として有効である。大出血や臨床的に重要な出血のリスクはワルファリンよりは低いもののプラセボに比べると高かった」とまとめている。

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