サイト内検索|page:4

検索結果 合計:748件 表示位置:61 - 80

61.

マイコプラズマ肺炎ってどんな病気?

マイコプラズマ肺炎ってどんな病気?• マイコプラズマ肺炎は、「肺炎マイコプラズマ」という細菌に感染することによって起こります• 14歳以下で多く報告されていますが、大人もかかることがあります• 感染後2~3週間の潜伏期間があり、発熱や倦怠感(だるさ)、頭痛、咳などの症状がみられます(咳は少し遅れて始まることもあります)• 咳は熱が下がった後も長期にわたって(3~4週間)続くのが特徴です• 多くの場合は気管支炎ですみ、軽い症状が続きますが、一部の人は肺炎になったり重症化することもあるので、注意が必要です治療法は?•他の人にうつさないようにするには?抗菌薬により治療します※ただし、大人で肺炎を伴わない気管支炎であれば、抗菌薬治療は行わないことが推奨されています•咳が長引くなどの症状があるときは、医療機関で診察を受けましょう出典:厚生労働省「マイコプラズマ肺炎」•感染した人の咳のしぶき(飛沫)を吸い込んだり、身近で接触したりすることにより感染します•流水と石けんによる手洗いが大切です•タオルの共用はしないようにしましょう•咳の症状がある場合には、マスクを着用するなど咳エチケットを心がけましょうCopyright © 2024 CareNet,Inc. All rights reserved.

62.

生後1~11ヵ月に限定したアジスロマイシン配布で死亡率は改善するか/NEJM

 ニジェールの生後1~59ヵ月の小児へのアジスロマイシンの配布により、全死因死亡率が有意に低下し、配布を生後1~11ヵ月の乳児に限定した介入と比較して有効性が高いことが、米国・カリフォルニア大学サンフランシスコ校のKieran S. O'Brien氏らが実施した「AVENIR試験」で示された。研究の成果は、NEJM誌2024年8月22・29日号に掲載された。ニジェールの村落を3群に分けて比較する適応型クラスター無作為化試験 AVENIR試験は、抗菌薬耐性を防止するためにアジスロマイシンの配布を生後1~11ヵ月に制限する世界保健機関(WHO)の勧告の検証を目的に、ニジェールで実施した適応型クラスター無作為化試験であり、2020年11月~2023年7月に参加地域のスクリーニングを行った(ビル&メリンダ・ゲイツ財団の助成を受けた)。 ニジェールの村落を次の3つの群のいずれかに無作為に割り付けた。(1)生後1~59ヵ月の小児にアジスロマイシンを年2回(全4回)配布する群(小児アジスロマイシン群)、(2)生後1~11ヵ月の乳児にアジスロマイシンを年2回(全4回)配布し、生後12~59ヵ月の小児にはプラセボを配布する群(乳児アジスロマイシン群)、(3)生後1~59ヵ月の小児にプラセボを配布する群。 主要アウトカムは、村落レベルでの死亡(1,000人年当たりの死亡数)とした。生後1~59ヵ月では有意に良好、生後1~11ヵ月では差がない 小児アジスロマイシン群に1,229村落、乳児アジスロマイシン群に751村落、プラセボ群に929村落を割り付け、合計38万2,586例の小児が解析の対象となった。41万9,440人年において5,503例が死亡した。 生後1~59ヵ月の小児の死亡率は、プラセボ群が1,000人年当たり13.9例(95%信頼区間[CI]:13.0~14.8)であったのに対し、小児アジスロマイシン群は11.9例(11.3~12.6)と有意に低かった(アジスロマイシン群で14%[95%CI:7~22]低いことを示す、p<0.001)。 生後1~11ヵ月の乳児の死亡率は、乳児アジスロマイシン群が1,000人年当たり22.3例(95%CI:20.0~24.7)、プラセボ群は23.9例(21.6~26.2)であり、両群間に有意な差を認めなかった(アジスロマイシン群で6%[95%CI:-8~19]低いことを示す)。 また、生後12~59ヵ月の小児の死亡率は、プラセボ群が1,000人年当たり12.0例(95%CI:11.2~13.0)であったのに比べ、小児アジスロマイシン群は10.7例(10.0~11.4)と良好であった(アジスロマイシン群で13%[95%CI:4~21]低いことを示す)。重篤な有害事象は全体で5件 生後12~59ヵ月の小児の死亡率は、乳児アジスロマイシン群が1,000人年当たり12.2例(95%CI:11.3~13.1)であり、プラセボ群の12.0例(11.2~13.0)との間に差はなかった(両群の差:0%[95%CI:-12~9])。生後1~11ヵ月の乳児の死亡率は、乳児アジスロマイシン群の1,000人年当たり22.3例(20.0~24.7)と比較して、小児アジスロマイシン群は18.5例(16.7~20.4)と良好だった(小児アジスロマイシン群で17%[95%CI:4~28]低いことを示す)。 重篤な有害事象は5件報告され、プラセボ群3件、乳児アジスロマイシン群1件、小児アジスロマイシン群1件であった。 著者は、「今後、抗菌薬耐性の監視を行う必要がある。全体として、本試験では季節性マラリアの化学予防を受けている死亡率の低い地域でも、生後1~59ヵ月の小児への年2回のアジスロマイシン配布により、死亡率が低下することが示された」と述べ、「これらの結果は、配布対象を生後1~11ヵ月の乳児に限定することは、生後1~59ヵ月のすべての小児への配布に比べ有効ではないことを示すエビデンスとなる」としている。

63.

新クラスの抗菌薬、「人喰いバクテリア」にも有効か

 新たな抗菌性化合物により、マウスに感染した化膿レンサ球菌(Streptococcus pyogenes)を効果的に除去できることを示した研究成果が報告された。S. pyogenesは「人喰いバクテリア(劇症型溶血性レンサ球菌感染症)」の主な原因菌であり、この細菌による感染症により毎年50万人が死亡している。研究グループは、「この化合物は、薬剤耐性菌との闘いにおいて貴重な存在となり得る、新規クラスの抗菌薬の第1号となる可能性がある」と述べている。米セントルイス・ワシントン大学医学部分子微生物学分野のScott Hultgren氏らによるこの研究結果は、「Science Advances」に8月2日掲載された。 ペプチドミメティックなジヒドロチアゾロ環縮合2-ピリドンという分子構造を持つこの新しい化合物は、「GmPcides」と名付けられている。当初、Hultgren氏らは、共同研究者であるウメオ大学(スウェーデン)化学分野のFredrik Almqvist氏に、尿道カテーテルの表面に細菌のバイオフィルムが付着するのを防ぐ化合物の開発を依頼したが、結果的に、この化合物が複数の種類の細菌に対して感染防止効果を持っていることが判明したという。 論文の上席著者である、セントルイス・ワシントン大学医学部分子微生物学分野のMichael Caparon氏は、「エンテロコッカス属やブドウ球菌、クロストリジオイデス・ディフィシル(Clostridioides difficile)など、われわれがテストした全てのグラム陽性菌がこの化合物に対して感受性を示した」と話す。グラム陽性菌は細胞壁が厚く、感染時にさまざまな毒素を放出する傾向があり、薬剤耐性の黄色ブドウ球菌感染症、中毒性ショック症候群、その他の致命的な感染症の原因となっていると研究グループは説明する。 今回の研究では、S. pyogenesに感染させたマウスを用いて、皮膚軟部組織感染症(SSTI)に対するGmPcidesの効果が検討された。壊死性筋膜炎などで知られる皮膚軟部組織感染症には複数の細菌が関与し、症状の進行が早く、感染の広がりを抑えるために肢の切断を要する場合もあり、罹患者の約20%が死亡する。 その結果、GmPcidesを投与されたマウスでは未治療のマウスに比べて、体重減少が少なく、感染による症状として現れる潰瘍が小さく、感染からの回復も速いことが示された。 ただし、GmPcidesがどのようにしてこのような効果をもたらすのかは明確になっていない。しかし、顕微鏡による観察からは、GmPcidesが細菌の細胞膜に重要な影響を与えていることが示されている。Caparon氏は、「細胞膜の機能の1つは、外部からの物質を排除することだ。GmPcidesによる処理後5〜10分以内に膜が透過性を持ち始め、通常は排除されるべきものが細菌の中に入り込むようになることが分かっている」と説明する。GmPcidesによる細胞膜の損傷は、細菌が宿主に対して損傷を引き起こす機能や、宿主の免疫応答に対抗する能力を低下させることが考えられるという。 さらにGmPcidesによる治療では、薬剤耐性菌の発生が少ない可能性も示された。薬剤耐性菌を作成する実験では、治療に耐えられる細胞はごくわずかであり、そのため耐性を持つ菌が次世代に引き継がれることはほとんどなかった。 以上のように有望な結果が得られたとはいえ、Caparon氏は、GmPcidesが病院や薬局で入手できるようになるまでには、まだ時間がかかると話す。同氏らは、この研究で使用された化合物の特許を取得し、彼らが所有権を持つ企業QureTech Bio社にライセンスを供与した。同氏らはこの企業と協力して製薬開発や臨床試験を進め、GmPcidesを市場に出すことを計画している。

64.

第111回 増えるマイコプラズマ肺炎、今年のマクロライド耐性率は?

増えるマイコプラズマ肺炎マイコプラズマ肺炎は、基幹定点医療機関において週ごとに報告される5類感染症です。新型コロナやインフルエンザと比べると報告義務のある医療機関はかなり少なくなります。さて、感染症発生動向調査週報2024年第31・32週(第31・32合併号)において、2016年と同じくらいの流行に陥っていることが示されました(図1)1)。定点当たりの報告数としては新型コロナほどではないのですが、マイコプラズマ気管支炎や咽頭炎などは報告数に入っておらず、肺炎が対象となっているので、水面下にはそれなりの感染者数がいると認識したほうがよいでしょう。画像を拡大する図1. マイコプラズマ肺炎の定点医療機関当たりの報告数(参考文献1より引用)マクロライド耐性率15年ほど前に、マクロライド耐性マイコプラズマが流行したことを覚えているでしょうか2)。といっても、これを読んでいるのがアラフォー・アラフィフばかりとは限らないので、その事実を知らない読者のほうが多いかもしれません。私の研修医時代はあまりそういう話はなかったのですが、5年10年経つと「マクロライド耐性」がやたら騒がれるようになって、いつの間にか8割以上がマクロライド耐性になっていました。当時、時折開かれる感染症セミナーでも、専門家の方々が「耐性化がハンパない」と連呼していましたが、結局思ったほど流行せず、しかもその後は徐々に耐性率は下がっていきました3)。この背景として、遺伝子型の違いが挙げられます。Mycoplasma pneumoniaeの細胞接着タンパク(P1)の遺伝子型は1型と2型があり、この2つは10~20年ごとに交互に流行するという傾向があります(図2)4)。1990年代は2型が優勢で、マクロライド耐性率は低かったようです。2001~16年あたりまでは1型菌が優位になっていたのですが、マクロライドの曝露を受けたことによって、この1型菌たちが耐性化したのではないかと考えられています。最近、中国で分離されたM. pneumoniaeのp1遺伝子型の頻度が報告されています5)。この報告では、1型菌が明らかに優勢で、全体の約4分の3を占めていたとされています。1型菌は当然ながらマクロライド耐性遺伝子を有していたのですが、驚いたのは2型菌もすべてマクロライド耐性遺伝子を持っていたことです(1型:54株すべてがA2063G変異、2型:3株がA2063G変異陽性・1株がA2064G変異陽性、2c型:13株すべてA2063G変異陽性)。画像を拡大する図2. M. pneumoniae分離株の遺伝子型とマクロライド耐性率の年別推移(参考文献4より引用)日本では2017年以降、2型菌が優勢となっていて、M. pneumoniaeのマクロライド耐性率が低減したとされています。上述した中国の報告を考慮すると、2型菌とて安心できるわけではないのかもしれません。また、地域によって耐性率に差があります。米国疾病予防管理センター(CDC)のウェブサイトによると、マクロライド耐性率はカナダで12%、中国で80%(上記の研究は100%でしたが)、ヨーロッパは5%(イタリアは20%)、日本は50%以上(上述したように時期によって変動があります)、アメリカは10%と記載されています6)。とはいえ、日本呼吸器学会の『成人肺炎診療ガイドライン2024』7)の中には、「マイコプラズマ肺炎は軽症例が多く、マクロライド耐性株が数十パーセント存在するがマクロライド系薬の有効性は示されている」と書かれており、“初手アジスロマイシン”はとくに否定されるものではないと考えられます。各医療機関、コロナ禍で検査技術が進展し、蛍光標識プローブ(Qプローブ)などでマクロライド耐性遺伝子があるかどうか判定できるようになりました。成人の場合、最初からテトラサイクリンやキノロンを用いる戦法だけでなく、アジスロマイシンなどのマクロライド系抗菌薬の治療失敗を早めに判断してスイッチすることも検討されます。ただし小児においては、使用する必要があると判断される場合、トスフロキサシンあるいはテトラサイクリン系薬の投与を考慮しますが、8歳未満には、テトラサイクリン系薬は原則禁忌です。参考文献・参考サイト1)感染症発生動向調査週報2024年第31・32週(第31・32合併号)2)Kawai Y, et al. Nationwide Surveillance of Macrolide-Resistant Mycoplasma pneumoniae Infection in Pediatric Patients. Antimicrob Agents Chemother. 2013 Aug;57(8):4046-4049.3)Kenri T, et al. Periodic Genotype Shifts in Clinically Prevalent Mycoplasma pneumoniae Strains in Japan. Front Cell Infect Microbiol. 2020 Aug 6;10:385.4)見理剛. 肺炎マイコプラズマの遺伝子型別法と薬剤耐性の動向. IASR. 2024 Jan;45:6-8.5)Chen Y, et al. Increased macrolide resistance rate of Mycoplasma pneumoniae correlated with epidemic in Beijing, China in 2023. Front Microbiol. 2024 Aug 6;15:1449511.6)CDC. Mycoplasma pneumoniae Infection Surveillance and Trends7)日本呼吸器学会. 成人肺炎診療ガイドライン2024. メディカルレビュー社.

65.

第207回 マイコプラズマ肺炎が全国で急増、8年ぶりの大流行/感染研

<先週の動き>1.マイコプラズマ肺炎が全国で急増、8年ぶりの大流行/感染研2.「かかりつけ医機能」報告を義務付け、医療情報システム「ナビイ」/厚労省3.美容・歯科で違反広告が急増、適正化へ行政指導強化/厚労省4.ゲノム情報による就職差別を防止へ、ゲノム収集禁止を周知/厚労省5.炎症を肺がんと誤診し不要な肺摘出術、大学病院を提訴/鹿児島大6.システム不具合のため大学病院で抗がん剤を過剰投与/阪大1.マイコプラズマ肺炎が全国で急増、8年ぶりの大流行/感染研今夏、マイコプラズマ肺炎が全国的に急増しており、過去8年間で最も大きな流行が確認されている。この感染症は、発熱や長引く咳といった風邪に似た症状が特徴で、とくに子供に多くみられるが、大人の感染例も報告されている。マイコプラズマ肺炎は、潜伏期間が2~3週間と長く、症状が現れても風邪と誤認されがちであるため「歩く肺炎」とも呼ばれている。国立感染症研究所によると、8月11日までの1週間で全国の医療機関での報告数は1医療機関当たり1.14人に達し、昨年同期比で57倍の増加をみせている。専門家は、この感染急拡大の背景として、新型コロナウイルス感染症対策の緩和とともに、人々の行動が活発化し、他人との接触機会が増加したことが一因であると指摘する。また、徹底したコロナ対策により地域全体の免疫が低下し、マイコプラズマ肺炎が流行しやすくなったとも考えられている。診療現場では、抗菌薬による治療が行われているが、最近では耐性菌の増加が問題となっており、従来の抗菌薬が効かないケースも増えている。さらに、抗菌薬の供給不足が続いており、薬局間での融通が必要な状況も報告されている。帝京大学大学院教授で小児科医の高橋 謙造氏は、抗菌薬の不適切な使用を避け、本当に必要な患者に処方が行き渡るよう、医療関係者に対して注意を呼びかけている。今後、学校や職場などの集団生活の場での感染拡大が懸念されるため、基本的な感染対策であるマスク着用や手洗いの徹底が重要とされる。とくに、熱や咳の症状が続く場合は、早めに医療機関を受診し、適切な処置を受けることが推奨される。参考1)IDWR速報データ 2024年(国立感染症研究所)2)マイコプラズマ肺炎 8年ぶり大流行 感染気付かず広がるリスク(NHK)3)マイコプラズマ肺炎が過去10年で最多ペース、昨年同期の57倍 コロナ明けで感染拡大か(産経新聞)4)マイコプラズマ肺炎が猛威 長引くせき、高齢者もリスク(日経新聞)2.「かかりつけ医機能」報告を義務付け、医療情報システム「ナビイ」/厚労省8月22日に厚生労働省は、医療機能情報提供制度・医療広告等に関する分科会を開催し、「医療機能情報提供制度」をもとに、2024年4月にスタートした全国統一の医療情報ネット「ナビイ」のリニューアルするため、新たな報告項目の追加や既存項目の修正を承認した。今回の修正案を基に障害者向けサービス情報やかかりつけ医機能の情報をさらに充実させる予定。患者が受診先を適切に選択できるように支援する医療情報ネット「ナビイ」の現行のシステムについて、障害者向けサービスの情報提供が不十分であるとして、医療機関の駐車場の台数、電話・メールによる診療予約の可否、家族や介助者の入院中の対応状況など、障害者が医療機関を選ぶ際に重要となる情報が報告を求めるほか、既存の項目について、たとえば「車椅子利用者へのサービス内容」が「車椅子・杖等利用者に対するサービス内容」に、「多機能トイレの設置」が「バリアフリートイレの設置」に見直される。また、障害者団体との意見交換を通じて、医療機関がより使いやすい形で情報を提供できるように報告システムの改修が行われる予定。さらに、「かかりつけ医機能」についても報告が義務付けられ、一般国民や患者が必要な医療機関を適切に選択できるよう支援が強化される。この報告制度の見直しは、2025年4月に施行され、2026年1月から報告が始まる予定で、同年4月からは「ナビイ」での公表が行われる。ただ、医療機能情報提供制度への報告率には、地域ごとに大きなばらつきがあり、全国平均では73.5%に止まっている。秋田県や徳島県などでは報告率が100%に達しているが、沖縄県や京都府では30%未満と著しく低い。このため、厚労省では各都道府県に報告の徹底を促すとともに、医療機関自身の適切な報告を求めている。今後、「ナビイ」は障害者やその家族、そしてすべての国民が必要な医療情報を簡単に取得できるプラットフォームとして進化を遂げる見通し。参考1)医療機能情報提供制度の報告項目の見直しについて(厚労省)2)医療機能情報提供制度について(同)3)「ナビイ」サイト(同)4)全国の医療機関等情報を掲載する「ナビイ」、かかりつけ医機能情報や障害患者サービス情報なども搭載-医療機能情報提供制度等分科会(Gem Med)5)医療機能情報提供、障害者関連の項目追加・修正へ「駐車場の台数」など26年1月報告から(CB news)3.美容・歯科で違反広告が急増、適正化へ行政指導強化/厚労省8月22日に厚生労働省は、医療機能情報提供制度・医療広告等に関する分科会を開催し、2023年度に1,098の医療広告サイトが医療広告規制に違反していることを確認し、これらのサイトに対して運営する医療機関に自主的な見直しを促す通知を行ったことを明らかにした。違反件数は6,328件に達し、1サイト当たり平均で約5.8件の違反が確認された。とくに、歯科と美容分野が違反の中心であり、全体の76.6%を占めるという結果だった。違反の内訳を詳細にみると、歯科関連では「審美」が最も多く、次いで「インプラント」が続き、美容関連では「美容注射」が最も多かった。違反の内容としては、広告が可能とされていない事項の広告が大半を占め、とくに美容分野では、リスクや副作用の記載が不十分な自由診療の広告が目立っていた。厚労省は、こうした長期にわたって改善がみられない違反に対する対応を強化するため、行政処分の標準的な期限を定めた手順書のひな型を関連の分科会に提示し、了承を得た。この手順書によると、違反の覚知から2~3ヵ月以内に行政指導を行い、改善がみられない場合は6ヵ月以内に広告の中止や是正命令を行う。さらに、1年以内に管理者変更や開設許可取り消しなどの行政処分を完了させることが望ましいとされている。このひな型は、医療広告の違反が長期にわたり改善されない事例を抑制し、早期の適正化を図ることを目的としている。また、各自治体がこのひな型を参考にしながら、標準的な対応を進めることが期待される。しかし、自治体からは他県との対応差に対する懸念も出されており、対応には慎重な姿勢も求められている。厚労省は、これらの取り組みを通じて、違反広告の早期是正と適正な医療情報の提供を目指すとともに、医療機関に対して適切な広告活動を行うよう指導を続けていく方針。参考1)医療広告違反、行政処分は覚知から1年以内に 自治体に目安提示へ 厚労省(CB news)2)医療広告違反、1,098サイトで計6,328件 23年度に、厚労省が報告(同)4.ゲノム情報による就職差別を防止へ、ゲノム収集禁止を周知/厚労厚生労働省は、個人のゲノム情報を基にした就職差別を防止するため、「労働分野でのゲノム情報の取り扱いに関するQ&A」を公表した。このQ&Aは、企業や労働者がゲノム情報をどのように扱うべきかを明確にし、不当な差別が生じないようにすることを目的としている。具体的には、職業安定法や労働安全衛生法に基づき、ゲノム情報は「社会的差別の原因となるおそれのある事項」に該当し、その収集は禁じられているとされている。これは、業務遂行に必要であっても例外ではなく、ゲノム情報の収集が禁止されていることを明確にしている。また、労働者が採用後にゲノム情報の提出を求められても、個人情報保護法に基づき応じる必要はなく、そのために不当な評価や処遇を受けることは「不適切」と指摘されている。さらに、労働者がゲノム情報を提出し、それによって解雇や不利益な人事評価を受けた場合、それは職権濫用に該当し、無効とされる。こうした対応は、2023年に施行されたゲノム医療推進法に基づき、ゲノム情報の活用拡大とともに不当な差別が懸念されることから行われたものである。厚労省は、ゲノム情報が労働者に不利益をもたらすことがないよう、既存の法令に基づいて、その収集を禁止していることを強調しており、労働者が不当な扱いを受けた場合には、労働基準監督署などで相談を受け付けている。参考1)「良質かつ適切なゲノム医療を国民が安心して受けられるようにするための施策の総合的かつ計画的な推進に関する法律」(ゲノム医療推進法)2)ゲノム情報による不当な差別等への対応の確保(労働分野における対応)(厚労省)3)ゲノム情報による就職差別防止へ、Q&Aを公表 収集の禁止を周知 厚労省(CB news)4)遺伝情報に基づく雇用差別禁止、厚労省が法令Q&A解説(日経新聞)5)遺伝情報に基づく雇用差別禁止 厚労省が労働法令をQ&Aで解説、労働者は提出の必要なし(産経新聞)5.炎症を肺がんと誤診し不要な肺摘出術、大学病院を提訴/鹿児島大鹿児島市の72歳の女性が、鹿児島大学病院を相手取り、約1,000万円の損害賠償を求めて鹿児島地方裁判所に提訴した。女性は2017年2月に同病院で定期検診を受けた際、肺がんと誤診され、「早期に手術しなければ危険」と外科手術を促され、右肺の上部を全摘出する手術を受けた。しかし、約4ヵ月後、実際には肺がんではなく、単なる炎症であり、手術は不要であったことが病院から告げられた。女性は手術後、息苦しさや体調不良に悩まされており、日常生活に支障を来していると訴えている。また、病院が手術前後に十分な説明を行わず、診断上の注意義務に違反したと主張している。同院は、訴状の内容を詳細に検討し、適正に対応するとしている。女性は「二度と同じような被害を生むことがないようにしたい」と述べ、病院の対応に改善を求めている。参考1)肺がんと診断され右肺上部を全摘…実は「単なる炎症。手術も不要だった」 誤診を訴え鹿児島大学病院を提訴 鹿児島市の女性(南日本新聞)2)「炎症を肺がんと誤診、右肺の大部分摘出」患者女性が鹿児島大を提訴…1,000万円賠償求める(読売新聞)6.システム不具合のため大学病院で抗がん剤を過剰投与/阪大大阪大学医学部附属病院は8月21日、がん治療中の60代男性患者2人に対し、「抗がん剤を過剰投与するミスが発生した」と発表した。原因は、投与量を計算するシステムの不具合によるもので、今年の1~2月にかけて通常の1.2~2倍の抗がん剤が誤って投与されたもの。このうち、男性の1人には通常の約2倍の抗がん剤が3日間連続で投与され、その後、高度な神経障害を発症した。この患者は6月に元々の血液がんの進行により死亡したが、過量投与による神経障害が死亡に影響を与えた可能性が指摘されている。一方、もう1人の患者には1.2倍の量が投与されたが、明らかな影響は確認されていない。この過剰投与の原因は、薬の投与量を計算するシステムにおいてmgからmLへの単位変換時に、小数点以下の四捨五入が正しく行われなかったことに起因する。このシステムは、大阪のメーカー・ユヤマが開発したもので、同社は同様のシステムを使用している他の35の病院についても確認を行ったが、同様の問題は確認されていない。同院では、今回の医療ミスについて、患者や家族に謝罪するとともに、再発防止に努めると表明。また、システムの開発企業も再発防止策として、新たなチェックプログラムの開発や品質管理体制の強化に取り組んでいる。なお、病院側は、このケースが医療事故調査制度の対象には該当しないとして、医療事故には認定されないと説明しているが、今回の事態は病院に対する信頼を揺るがす重大な問題として受け止められている。参考1)薬剤部門システムのプログラム不具合による注射抗がん薬の過量投与の発生について(大阪大学)2)阪大病院 抗がん剤を入院患者2人に過剰投与 システムに不具合(NHK)3)大阪大病院でがん患者2人に抗がん剤を過量投与、プログラムの不具合(朝日新聞)

66.

重篤な薬疹を起こしやすい経口抗菌薬は?/JAMA

 一般的に処方される経口抗菌薬の中には、マクロライド系薬と比較して救急外来受診または入院に至る重篤な皮膚有害反応(cADR)のリスクが高い薬剤があり、とくにスルホンアミド系とセファロスポリン系で最も高いことが、カナダ・トロント大学のErika Y. Lee氏らによるコホート内症例対照研究の結果で示された。重篤なcADRは、皮膚や内臓に生じる生命を脅かす可能性のある薬物過敏症反応である。抗菌薬はこれらの原因として知られているが、抗菌薬のクラス間でリスクを比較した研究はこれまでなかった。結果を踏まえて著者は、「処方者は、臨床的に適切な場合はリスクの低い抗菌薬を優先して使用すべきである」とまとめている。JAMA誌オンライン版2024年8月8日号掲載の報告。経口抗菌薬のクラスと重篤なcADRの関連性について解析 研究グループは、2002年4月1日~2022年3月31日に、カナダ・オンタリオ州の行政保健データベースを用いて、コホート内症例対照研究を実施した。データソースは、65歳以上のオンタリオ州住民に処方された外来処方薬のデータを含むOntario Drug Benefit database、救急外来受診の詳細情報を含むCanadian Institute for Health Information(CIHI)National Ambulatory Care Reporting System、入院患者の診断と治療のデータを含むCIHI Discharge Abstract Database、オンタリオ州健康保険(Ontario Health Insurance Plan)データベースである。ICES(旧名称:Institute for Clinical Evaluative Sciences)でこれらのデータを個人レベルで連携し、分析した。 対象は、少なくとも1回経口抗菌薬を処方された66歳以上の患者で、このうち、処方後60日以内に重篤なcADRのため救急外来を受診または入院した患者を症例群、これらのイベントがなく各症例と年齢と性別をマッチさせた患者(症例1例当たり最大4例)を対照群とした。 主要解析では、条件付きロジスティック回帰分析を用い、マクロライド系抗菌薬を参照群として、抗菌薬のクラスと重篤なcADRとの関連を評価した。スルホンアミド系とセファロスポリン系で重篤なcADRのリスク大 20年の研究期間において、症例群2万1,758例、対照群8万7,025例を特定した(両群とも年齢中央値75歳、女性64.1%)。 多変量調整後、スルホンアミド系抗菌薬が重篤なcADRと最も強く関連しており、マクロライド系抗菌薬に対する補正後オッズ比(aOR)は2.9(95%信頼区間[CI]:2.7~3.1)であった。次いで、セファロスポリン系(2.6、2.5~2.8)、その他の抗菌薬(2.3、2.2~2.5)、ニトロフラントイン系(2.2、2.1~2.4)、ペニシリン系(1.4、1.3~1.5)、フルオロキノロン系(1.3、1.2~1.4)の順であった。 重篤なcADRの粗発現頻度が最も高かったのはセファロスポリン系(処方1,000件当たり4.92、95%CI:4.86~4.99)で、次いでスルホンアミド系(3.22、3.15~3.28)であった。 症例群2万1,758例のうち重篤なcADRで入院した患者は2,852例で、入院期間中央値は6日(四分位範囲[IQR]:3~13)、集中治療室への入室を要した患者は273例(9.6%)で、150例(5.3%)が病院で死亡した。 なお、著者は研究の限界として、ICD-10コードを使用してcADRを特定したが重篤なcADR専用のコードはなく本研究固有の定義を作成したこと、cADRを引き起こす可能性のある非ステロイド性抗炎症薬などの市販薬の使用については調査できなかったことなどを挙げている。

67.

マクロライドとキノロンを組み合わせたmacrolones、耐性菌に有望か

 2方向から同時に細菌を攻撃する抗菌薬が、薬剤耐性菌と闘うための解決策になるかもしれない。互いに異なる標的に作用する2種類の抗菌薬を組み合わせたmacrolonesと呼ばれる合成抗菌薬が、細菌のタンパク質合成の阻害とDNA複製の阻害という2つの異なる方法で細菌の細胞機能を破壊することが示された。米イリノイ大学シカゴ校(UIC)生物分子科学および薬学分野のAlexander Mankin氏らによるこの研究の詳細は、「Nature Chemical Biology」に7月22日掲載された。 Macrolonesは、広く使われている2種類の抗菌薬であるマクロライド系抗菌薬とフルオロキノロン系抗菌薬を組み合わせたものである。エリスロマイシンのようなマクロライド系抗菌薬は、細菌の細胞内にあるリボソームでのタンパク質合成を阻害し、シプロフロキサシンのようなフルオロキノロン系抗菌薬は、細菌がDNAを複製する際に必要とする酵素(DNAジャイレース、トポイソメラーゼIV)を標的にする。 今回の研究では、論文の共著者の1人でありUIC生物科学分野のYury Polikanov氏らの構造生物学を専門とする研究室と、Mankin氏らの薬学を専門とする研究室が、さまざまなmacrolonesの細胞内での作用を調べた。 Polikanov氏らはmacrolonesとリボソームの相互作用を調べた。その結果、macrolonesは従来のマクロライド系抗菌薬よりも強固にリボソームに結合し、マクロライド耐性の細菌株のリボソームも阻害することが示された。また、耐性遺伝子の活性化を引き起こすこともないことが確認された。 一方、Mankin氏らの研究室では、macrolonesがリボソームやDNAジャイレースのどちらを優先的に阻害するのかを、さまざまな投与量で調べた。その結果、いくつかの投与量でいずれかの標的を効果的に阻害することが示されたものの、低用量でリボソームとDNAジャイレースの両方に作用する、特に有望なmacrolonesが特定された。 Polikanov氏は、「基本的に同じ濃度で2つの標的を同時に攻撃することで、細菌による単純な遺伝的防御をほぼ不可能にすることができる」と話す。この点についてMankin氏は、「細菌がどちらか一方の標的に対して変異を起こしても(もう一方に対する変異を同時に起こすことはできないため)結果的に耐性を獲得することができないからだ」と説明している。 Polikanov氏は、「この研究の主な成果は、今後、進むべき方向性を明らかにしたこと、また、化学者に対しては、macrolonesが両方の標的を同時に攻撃するように最適化する必要があることを示した点だ」と述べている。

68.

腎盂腎炎のときによく使う抗菌薬セフトリアキソンを極める!【とことん極める!腎盂腎炎】第6回

腎盂腎炎のときによく使う抗菌薬セフトリアキソンを極める!Teaching point(1)セフトリアキソンは1日1回投与が可能で、スペクトラムの広さ、臓器移行性のよさ、腎機能での調整が不要なことから、腎盂腎炎に限らず多くの感染症に対して使用される(2)セフトリアキソンとセフォタキシムは、スペクトラムがほぼ同じであるが、投与回数の違い、腎機能での調整の有無の違いがある(3)セフトリアキソンは利便性から頻用されているが、効かない菌を理解し状況に合わせて注意深く選択する必要があることや、比較的広域な抗菌薬で耐性化対策のために安易に使用しないことに注意する(4)セフトリアキソンは、1日1回投与の特徴を活かして、外来静注抗菌薬療法(OPAT)に使用される1.セフトリアキソンの歴史セフトリアキソンは、1978年にスイスのF. Hoffmann-La Roche社のR. Reinerらによって既存のセファロスポリン系薬よりさらに強い抗菌活性を有する新しいセファロスポリンの研究開発のなかで合成された薬剤である。特徴としては、強い抗菌活性と広い抗菌スペクトラムならびに優れたβ-ラクタマーゼに対する安定性を有し、かつ既存の薬剤にはない独特な薬動力学的特性をも兼ね備えている。血中濃度半減期が既存のセファロスポリンに比べて非常に長く、組織移行性にも優れるため、1日1回投与で各種感染症を治療し得る薬剤として、広く使用されている。わが国においては、1986年3月1日に製造販売承認後、1986年6月19日に薬価基準収載された。海外では筋注での投与も行うが、わが国においては2024年8月時点では、添付文書上は認められていない。2.特徴セフトリアキソンは、セファゾリン、セファレキシンに代表される第1世代セファロスポリン、セフォチアムに代表される第2世代セファロスポリンのスペクトラムから、グラム陰性桿菌のスペクトラムを広げた第3世代セファロスポリンである。多くのセファロスポリンと同様に、腸球菌(Enterococcus属)は常に耐性であることは、同菌が引き起こし得る尿路感染や腹腔内感染の治療を考える際には重要である。その他、グラム陽性球菌としては、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)に耐性がある。グラム陰性桿菌は、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)、Stenotrophomonas maltphilia、偏性嫌気性菌であるBacteroides fragilisはカバーせず、アシネトバクター・バウマニ(Acinetobacter baumannii)も感受性があることが少ない。ESBL(extended-spectrum β-lactamase:基質特異性拡張型β-ラクタマーゼ)産生菌やAmpC過剰産生菌といった耐性菌に対しては感受性がない。グラム陽性桿菌は、リステリア(Listeria monocytogenes)をカバーしない。血漿タンパク結合率が85~95%と非常に高く、半減期は健康成人で8時間程度と長いため、1日1回投与での治療が可能な抗菌薬となる。タンパク結合していない遊離成分が活性をもつ。そのため、重症患者ではセフトリアキソンの実際のタンパク結合は予想されるより小さいとされているが1)、その臨床的意義は現時点では不明である。排泄に関しては、尿中排泄が緩徐であり、1gを投与12時間までの尿中には40%、48時間までには55%の、未変化体での排泄が認められ、残りは胆汁中に、血清と比較して200~500%の濃度で分泌される。水溶性ではあるが、胸水、滑液、骨を含む、組織や体液へ広く分布し、髄膜に炎症あれば脳脊髄移行性が高まり、高用量投与で髄膜炎治療が可能となるため、幅広い感染症に使用される。3.腎盂腎炎でセフトリアキソンを選択する場面は?腎盂腎炎の初期抗菌薬治療は、解剖学的・機能的に正常な尿路での感染症である「単純性」か、それ以外の「複雑性」かを分類し、さらに居住地域や医療機関でのアンチバイオグラム、抗菌薬使用歴、過去の培養検査での分離菌とその感受性結果を踏まえて抗菌薬選択を行う。いずれにしても腎盂腎炎の起因菌は、主に腸内細菌目細菌(Enterobacterales)となり、大腸菌(Escherichia coli)、Klebsiella属、Proteus mirabilisが主な起因菌となる2)。セフトリアキソンは一般的にこれらをすべてカバーするため、多くのマニュアルにおいて第1選択とされている。しかし、忘れられがちであるが、セフトリアキソンは比較的広域な抗菌薬であり、これらの想定した菌の、その地域でのアンチバイオグラム上のセファゾリンやセフォチアムの耐性率が低ければ、1日1回投与でなければいけない事情がない限り、後述の耐性化のリスクや注意点からも、セファゾリンやセフォチアムといった狭域の抗菌薬を選択すべきである。アンチバイオグラムを作成していない医療機関での診療の場合は、厚生労働省院内感染対策サーベイランス事業(Japan Nosocomial Infections Surveillance:JANIS)の都道府県別公開情報3)や、国立研究開発法人国立国際医療研究センター内のAMR臨床リファレンスセンターが管理する感染対策連携共通プラットフォーム(Japan Surveillance for Infection Prevention and Healthcare Epidemiology:J-SIPHE)の公開情報4)を参考にする。国内全体を見た場合にはセファゾリンに対する大腸菌の耐性率は高く、多くの施設において使用しづらいのは確かである。一方で、セフトリアキソンは、前述の通り耐性菌である、ESBL産生菌、AmpC過剰産生菌、緑膿菌はカバーをしないため、これらを必ずカバーをする必要がある場面では使用を避けなければいけない。4.セフトリアキソンとセフォタキシムとの違いは?同じ第3世代セファロスポリンである、セフトリアキソンとセフォタキシムは、スペクトラムがほぼ同じであり、使い分けが難しい薬剤ではあるが、2剤の共通点・相違点について説明する。セフトリアキソンとセフォタキシムとのスペクトラムについては、尿路感染症の主な原因となる腸内細菌目細菌に対してのスペクトラムの違いはほとんどなく、対象菌を想定しての使い分けはしない。2剤の主な違いは、薬物速度、排泄が大きく異なる点である。セフォタキシムは投与回数が複数回になること、主に腎排泄であり腎機能での用法・用量の調整が必要であり、利便性からはセフトリアキソンのほうが優位性がある。しかし、セフトリアキソンが胆汁排泄を介して便中に排出され、腸内細菌叢を選択するためか5)、セフォタキシムと比較し、腸内細菌の耐性化をより誘導する可能性を示す報告が少なからずある6,7)。そのため、投与回数や腎機能などで制限がない限り、セフトリアキソンよりセフォタキシムの使用を優先するエキスパートも存在する。5.投与量論争? 1gか2gかサンフォード感染症治療ガイドでは、化膿性髄膜炎を除く疾患では通常用量1〜2g静注24時間ごと、化膿性髄膜炎に対しては2g静注12時間ごと、Johns Hopkins ABX guidelineでは、化膿性髄膜炎を除く通常用量1〜2g静注もしくは筋注24時間ごと(1日最大4mg)での投与と記載されている。米国での集中治療室における中枢神経感染症のない患者でのセフトリアキソン1g/日と2g/日を後方視的に比較評価した研究において、セフトリアキソン1g/日投与患者で、2g/日投与患者より高い治療失敗率が観察された8)。腎盂腎炎ではないが、非重症市中肺炎患者を対象としたシステマティックレビュー・メタアナリシスでは、1g/日と2g/日の直接比較ではないが、同等の効果が期待できる可能性が示唆された9)。日本における全国成人肺炎研究グループ(APSG-J)という多施設レジストリからのデータを用いたpropensity score-matching研究において、市中肺炎に対するセフトリアキソン1g/日投与は2g/日と比較し、非劣性であった10)。以上から、現時点で存在するエビデンスからは、重症患者であれば、2g/日投与が優先され、軽症の肺炎やセフトリアキソンの移行性のよい臓器の感染症である腎盂腎炎であれば、1g/日も許容されると思われるが、1g/日投与の場合は、慎重な経過観察が必要と考える。6.セフトリアキソン使用での注意点【アレルギーの考え方】セファロスポリン系では、R1側鎖の類似性が即時型・遅延型アレルギーともに重要である11)。ペニシリン系とセファロスポリン系は構造的に類似しているが、分解経路が異なり、ペニシリン系は不完全な中間体であるpenicilloylが抗原となるため、ペニシリン系アレルギーがセファロスポリンアレルギーにつながるわけではない。セフトリアキソンは、セフォタキシム、セフェピムとR1で同一の側鎖構造(メトキシイミノ基)を有するため、いずれかの薬剤にアレルギーがある場合は、交差アレルギーが起こり得るので、使用を避ける。ただし、異なるR1側鎖を有する複数のセファロスポリン系にアレルギーがある場合は、β-ラクタム環が抗原である可能性があり、β-ラクタム系薬以外の抗菌薬を選択すべきである。【胆泥、偽性胆道結石症】小児で問題になることが多いが、セフトリアキソンは胆泥を引き起こす可能性があり、高用量での長期使用(3週間)により胆石症が報告されている。胆汁排泄はセフトリアキソンの排泄の40%までを占め、胆汁中の薬物濃度は血清の200倍に達することがある12,13)。過飽和状態では、セフトリアキソンはカルシウムと錯体を形成し、胆汁中に沈殿する。この過程は、経腸栄養がなく胆汁の停留がある集中治療室患者では、増強される可能性がある。以上から、重症患者、高用量や長期使用の際には、胆泥、胆石症のリスクになると考えられるため、注意が必要である。【末期腎不全・透析患者とセフトリアキソン脳症】脳症はセフトリアキソンの副作用のなかではまれであるが、報告が散見される。セフトリアキソンによる脳症の病態生理的メカニズムは完全には解明されていないが、血中・髄液中のセフトリアキソン濃度が高い場合に、β-ラクタム系抗菌薬による中枢神経系における脳内γ-アミノ酪酸(GABA)の競合的拮抗作用および興奮性アミノ酸濃度の上昇により、脳症が引き起こされると推定されている。セフトリアキソン関連脳症の多くは腎障害を伴い、患者の半数は血液透析または腹膜透析を受けていることが報告され、これらの患者のほとんどは、1日2g以上のセフトリアキソンを投与されていた14)。セフトリアキソンの半減期は、血液透析患者では正常腎機能患者と比較し、8~16時間と倍増することが判明しており15)、透析性の高いほとんどのセファロスポリンとは異なり、セフトリアキソンは血液透析中に透析されない14)。以上から、末期腎不全患者の血中および髄液中のセフトリアキソン濃度が高い状態が持続する可能性がある。サンフォード感染症治療ガイドやJohns Hopkins ABX guidelineなど、広く使われる抗菌薬ガイドラインでは、末期腎不全におけるセフトリアキソンの減量については言及されておらず、一般的には腎機能低下患者では投与量の調節は必要ないが、末期腎不全患者ではセフトリアキソンの減量を推奨するエキスパートも存在する。また1g/日の投与量でもセフトリアキソン脳症となった報告もあるため16)、長期投与例で、脳症を疑う症例があれば、その可能性に注意を払う必要がある。7.外来静注抗菌薬療法(OPAT)についてOPATはoutpatient parenteral antimicrobial therapyの略称で、外来静注抗菌薬療法と訳され、外来で行う静注抗菌薬治療の総称である。外来で点滴抗菌薬を使用する行為というだけではなく、対象患者の選定、治療開始に向けての患者教育、治療モニタリング、治療後のフォローアップまでを含めた内容となっている。OPATという名称がまだ一般的ではない国内でも、セフトリアキソンは1日1回投与での治療が可能という特性から、外来通院や在宅診療でのセフトリアキソンによる静注抗菌薬治療は行われている。外来・在宅でのセフトリアキソン治療は、本薬剤による治療が最も適切ではあるものの、全身状態がよく自宅で経過観察が可能で、かつアクセスがよく連日治療も可能な場合に行われる。OPATはセフトリアキソンに限らず、インフュージョンポンプという持続注射が可能なデバイスを使用することで、ほかの幅広い薬剤での外来・在宅治療が可能となる。詳細に関しては、馳 亮太氏(成田赤十字病院/亀田総合病院感染症内科)の報告を参考にされたい17)。1)Wong G, et al. Antimicrob Agents Chemother. 2013;57:6165-6170.2)原田壮平. 日本臨床微生物学会雑誌. 2021;31(4):1-10.3)厚生労働省院内感染対策サーベイランス事業:道府県別公開情報.4)感染対策連携共通プラットフォーム:公開情報.5)Muller A, et al. J Antimicrob Chemother. 2004;54:173-177.6)Tan BK, et al. Intensive Care Med. 2018;44:672-673.7)Grohs P, et al. J Antimicrob Chemother. 2014;69:786-789.8)Ackerman A, et al. Antimicrob Agents Chemother. 2020;64:e00066-20.9)Telles JP, et al. Expert Rev Anti Infect Ther. 2019;17:501-510.10)Hasegawa S, et al. BMC Infect Dis. 2019;19:1079.11)Castells M, et al. N Engl J Med. 2019;381:2338-2351.12)Arvidsson A, et al. J Antimicrob Chemother. 1982;10:207-215.13)Shiffman ML, et al. Gastroenterology. 1990;99:1772-1778.14)Patel IH, et al. Antimicrob Agents Chemother. 1984;25:438-442.15)Cohen D, et al. Antimicrob Agents Chemother. 1983;24:529-532.16)Nishioka H, et al. Int J Infect Dis. 2022;116:223-225.17)馳 亮太ほか. 感染症学雑誌. 2014;88:269-274.

69.

1日も早く自宅に帰りたい-入院中に生じる廃用症候群/転倒を防ぐには?【こんなときどうする?高齢者診療】第4回

CareNeTVスクール「Dr.樋口の老年医学オンラインサロン」で2024年7月に扱ったテーマ「転倒予防+α」から、高齢者診療に役立つトピックをお届けします。転倒・廃用症候群の予防は、入院・外来を問わず高齢者診療に欠かせません。その背景と介入方法を症例から考えてみましょう。90歳女性。 既往症は高血圧、膝関節症。認知機能は保たれている。バルサルタンとアセトアミノフェンを服用。独居でADL/IADLはほぼ自立。買い物で重いものを運ぶのは難しいと感じている。3日前からの排尿痛と発熱で救急受診。急性腎盂腎炎の診断。入院して抗菌薬による治療を開始。本人は1日も早く帰宅し、自宅での自立生活を再開したいと希望している。原疾患の治療に加えて、自立生活を再開できる状態を作ることが入院中の治療・ケアのゴールになりますが、入院中に著しい身体機能低下を来す患者は少なくないのが実情ではないでしょうか。入院が高齢者に及ぼす影響まず、その背景を確認しましょう。入院中の高齢者は87~100%の時間をベッド上で過ごすといわれています1)。入院期間のほとんどがベッド上での生活となれば、当然、身体活動量は低下します。その他に、慣れ親しんだ自宅と異なる環境により、睡眠障害や口に合わない食事などで食欲不振、栄養不良に陥ることも珍しくありません。これらが引き金になり、筋肉量や有酸素能力が低下したり、歩行に必要な体のバランス機能や認知機能などが低下したりします。ちなみに、20~30代をピークに筋肉量の減少が始まることが多く、有酸素運動能力は25歳を過ぎると10年ごとに約10%減少していくともいわれています2-5)。加齢に伴う変化としての身体機能低下に、入院による負の変化が加わることで、廃用症候群のリスクが極めて高くなるのです。さらに悪いことに、こうした機能低下によって転倒をきっかけに入院した高齢患者が退院後6カ月以内に転倒する割合は約40%。そのうち15%は転倒により再入院に至るという研究もあります1)。そのほかに施設入所の増加、フレイルの悪化、ひいては死亡率の上昇などが生じます。急性疾患の治療を目的とした入院自体が機能低下の悪循環に入る原因になってしまうのです。入院中に生じる廃用症候群・転倒の悪循環を止めるには?このことから、身体機能低下を予防することは原疾患の治療と並ぶ重要な介入であることがわかると思います。ここからは、入院中の機能低下を最小限に抑えて、可能な限り身体機能を維持または強化し、患者の「家に帰りたい」という願いを叶える方法を探りましょう。まずアセスメントです。ここでは、簡単にできる機能評価・簡易転倒リスクのスクリーニング方法を2つ紹介します。1つめは、以下に挙げる4つの質問を使う方法です。(1)ベッドや椅子から自分で起き上がれますか?(2)自分で着替えや入浴ができますか?(3)自分で食事の準備ができますか?(4)自分で買い物ができますか?1つでも「いいえ」がある場合は、より詳しい問診やリハビリテーションチームに機能評価を依頼するなど、詳細な評価を検討します。また同時に、視力や聴力の程度、過去1年の転倒歴、歩行や転倒に関しての本人の不安なども、転倒リスクを見積もるために有用な質問です。2つめは、TUG(Timed up and Go)テストです。椅子から立ち上がって普通の速度で3m歩いてもらい、方向を変えて戻ってくるまでにかかる時間を計ります。10秒未満で正常、20秒未満でなんとか移動能力が保たれた状態、30秒未満では歩行とバランスに障害があり補助具が必要な状態と判断します。入院患者のアセスメントでは、15秒以上かかる場合は理学療法士に詳しいアセスメントや助言を求めるとよいでしょう。医師が押さえておくべき運動処方の原則さて、患者の状態を把握できたら次はどのような運動介入を行うかです。ここでは、「歩行のみ」のトレーニングはかえって転倒のリスクを高めるということを覚えておきましょう。転倒予防やADLの維持をサポートするには、筋力トレーニング、有酸素運動、バランストレーニング、歩行/移動トレーニングなどの複数の運動療法を組み合わせて、バランスよく総合的に鍛えることが重要です。そのほかにも関節可動域訓練などさまざまな訓練がありますから、患者の状態に合わせてリハビリテーションチームと共に計画を立ててみましょう。 外来での転倒予防のポイントはオンラインサロンでサロンでは外来患者のケースで、転倒リスクになる薬剤や外来でのチェックポイントや介入のコツを解説しています。また、サロンメンバーからの質問「高齢患者に運動を続けてもらうコツ」について、樋口先生はもちろん、職種も働くセッティングも異なるサロンメンバーが経験を持ち寄り、よりよい介入方法をディスカッションしています。参考1)Faizo S, et al. Appl Nurs Res. 2020:51:151189.2)Janssen I, et al.J Appl Physiol (1985). 2000;89:81-88.3)Mitchell WK, et al. Front Physiol. 2012 Jul 11:3:260.4)Hawkins S, et al. Sports Med. 2003;33:877-888.5)Kim CH, et al. PLoS One. 2016;11:e0160275.

70.

40年前に尿道に入れた異物が原因【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第263回

40年前に尿道に入れた異物が原因泌尿器系の異物の場合、比較的急速に症状が出て、救急搬送されるような激烈な報告が多いです。これは、入れたものが取れなくなるというだけでなく、排尿経路を封鎖すると、尿道や膀胱のタンポナーデが起こるためでもあります。今回は、まさかの40年後に尿道異物が診断されるという、きわめて稀有な症例報告を紹介したいと思います。貝塚洋平ほか. 陰嚢膿瘍と尿道陰嚢瘻を契機に診断され40年間放置された尿道内異物の1例. 泌尿器科紀要. 2024 Jun;70(6):185-188.70歳男性が、高熱と左陰嚢の腫大で来院しました。このとき、左精巣上体炎と診断され、抗菌薬が投与されました。しかしながら、陰嚢腫大は改善せず、やむなく外科的処置が必要となりました。陰嚢切開排膿術を行ったところ、症状は治まったものの、切開部からの尿の溢流が止まらないという状態になりました。問診によると、どうやら約40年前、30歳くらいのときに、尿道に「ビー玉」を挿入したことがあることがわかりました。精神科疾患などが明確でない場合、自慰目的で挿入することが多いとされていますが、このガラス玉が膿瘍と瘻孔を形成したことは明らかでした。このビー玉を、経尿道手術で破砕・除去したところ、瘻孔は術後3ヵ月で消失し、排尿障害も改善したそうです。論文によると、日本で報告された異物挿入後の留置期間としては、この報告が最長と記載されています。まさか、当の本人も40年前のビー玉が原因とは思わなかったでしょう。もしかすると、世の中には一生涯症状が出ないまま挿入された異物というのも存在するのかもしれませんね。

71.

OTC医薬品の点鼻薬が呼吸器感染症の罹病期間や重症度の軽減に有効か

 OTC医薬品の点鼻薬が、公衆衛生の大きな脅威である薬剤耐性に対する強力な武器になるかもしれない。1万4,000人弱の成人を対象にしたランダム化比較試験から、広く用いられている点鼻薬が上気道感染症の罹病期間を短縮し、抗菌薬の必要性を減らすのに役立つ可能性のあることが示された。英サウサンプトン大学心理学および行動医学分野のAdam Geraghty氏らによるこの研究の詳細は、「The Lancet Respiratory Medicine」に7月11日掲載された。 抗菌薬の使い過ぎや誤用によって引き起こされる薬剤耐性は、細菌感染症の治療を困難にしている。研究グループは今回の研究について、点鼻薬を使って鼻や喉からウイルスを洗い流したり、運動やストレスマネジメントによって免疫機能を高めたりすることで、呼吸器感染症の頻度や重症度を減らすことができるという最近のエビデンスに興味を持ち、実施したものだと説明している。 このことを確かめるために、Geraghty氏らは英国の332の診療所から集めた18歳以上の患者1万3,799人を対象にランダム化比較試験を実施した。これらの患者は全員が、呼吸器感染症に罹患すると転帰が不良となり得る併存疾患かリスク因子を1つ以上持っていた。対象者は、通常のケア(疾患の管理に関する簡単なアドバイス)を受ける群、ジェルベースの点鼻薬を使用する群(感染症の兆候が現れた際、または感染者に曝露した可能性がある際に、それぞれの鼻腔内に2回ずつスプレーする、1日最大6回まで)、生理食塩水のスプレーを使用する群(ジェルベースの点鼻薬と同じ条件)、簡単な行動介入(運動とストレスマネジメントを促すウェブサイトへのアクセスを提供)を受ける群に、1対1対1対1の割合でランダムに割り付けられた。 データのそろった1万1,612人を対象に解析した結果、呼吸器感染症の平均罹病期間は、通常ケア群では8.2日であったのに対し、点鼻薬群では6.5日(発生率比0.82、95%信頼区間0.76〜0.90、P<0.0001)、生理食塩水群では6.4日(同0.81、0.74〜0.88、P<0.0001)であり、点鼻薬群と生理食塩水群で有意に短縮することが明らかになった。一方、行動介入群での平均罹病期間は7.4日(同0.97、0.89〜1.06、P=0.46)であり、通常ケア群の罹病期間との間に有意な差は認められなかった。また、仕事と通常の活動の損失日数についても、点鼻薬群と生理食塩水群では通常ケア群よりも20〜30%程度少なかった。 こうした結果を受けて、論文の筆頭著者であるサウサンプトン大学プライマリケア研究分野教授のPaul Little氏は、「この研究により、点鼻薬は呼吸器感染症の罹病期間と重症度、および日常的な活動への影響の軽減に効果的であることが明らかになった」と述べている。 またGeraghty氏は、「点鼻薬は、もし広く使われるようになるなら、抗菌薬の使用とそれに伴う薬剤耐性菌の出現を減らし、呼吸器系ウイルスが患者に及ぼす影響を軽減するという、重要な役割を果たす可能性がある」との見方を示している。

72.

重症敗血症患者におけるβ-ラクタム系抗菌薬持続投与の有用性(BLING III)(解説:寺田教彦氏)

 β-ラクタム系抗菌薬は「時間依存性」の抗菌薬であり、薬物動態学/薬力学(PK/PD)理論からは投与時間を延ばして血中濃度が細菌の最小発育阻止濃度(MIC)を超える時間(time above MIC)が長くなると、効果が高まることが期待される。β-ラクタム系抗菌薬の持続投与(投与時間延長)は、薬剤耐性菌の出現率低下や、抗菌薬総投与量を減らすことで経済的な利益をもたらす可能性があるが、抗菌薬の持続投与(あるいは、投与時間延長)の欠点も指摘されている。たとえば、抗菌薬の持続投与では、経静脈的抗菌薬投与のために血管内デバイスやラインを維持する必要があり、血管内デバイス留置に伴うカテーテル関連血流感染症(CRBSI)のリスク増加や、同一ラインから投与する薬剤での配合変化に注意しなければならない可能性がある。また、薬剤の持続投与では患者行動に制限が生じたり、看護師の負担増加や、抗菌薬の安定性に注意したりする必要もある。また、理論上の話ではあるが、カルバペネム系抗菌薬などではPAE(postantibiotic effect)効果も期待される(Hurst M, et al. Drugs. 2000;59:653-680.)ため、持続投与は必須ではないのではないかとの意見もある。 重症敗血症患者に対するβ-ラクタム系抗菌薬の持続投与(あるいは、投与時間延長)は、これまで多くの臨床試験が行われてきたが、決定的なエビデンス確立には至ってはいない。代表的なガイドラインの記述「Surviving sepsis campaign guidelines(SSCG)2021」では、敗血症または敗血症性ショックの成人に対して維持(最初のボーラス投与後)のために、従来のボーラス注入よりもβ-ラクタムの長期注入を用いることを提案する(弱い、中等度の質のエビデンス)としており(Evans L, et al. Intensive Care Med. 2021;47:1181-1247.)、米国感染症学会(IDSA)を含めた国際的コンセンサス勧告では、重症成人患者、とくにグラム陰性桿菌患者における死亡率の低減や臨床治癒率向上のために、β-ラクタム系抗菌薬の長期注入を推奨する(条件付き推奨、非常に弱いエビデンス)(Hong LT, et al. Pharmacotherapy. 2023;43:740-777.)、「日本版敗血症診療ガイドライン2024(J-SSCG2024)」では、敗血症に対するβ-ラクタム系抗菌薬は、持続投与もしくは投与時間の延長を行うことを弱く推奨する(GRADE 2B)としている「The Japanese Clinical Practice Guidelines for Management of Sepsis and Septic Shock 2024」。 直近では、2024年6月号のJAMA誌に本研究も含まれたシステマティックレビューとメタ解析結果が掲載されており、ICUに入室した成人重症感染症患者におけるβ-ラクタム系抗菌薬の長期注入と間欠投与の比較で、長期投与の有効性を示す報告がされていた(ジャーナル四天王「重症敗血症へのβ-ラクタム系薬、持続投与vs.間欠投与~メタ解析/JAMA 」)(Abdul-Aziz MH, et al. JAMA. 2024 Jun 12. [Epub ahead of print])。 本BLING III試験は、7ヵ国の104の集中治療室で実施した非盲検無作為化第III相試験で、敗血症患者7,031例(持続投与群:3,498例、間欠投与群:3,533例)と、敗血症患者におけるβ-ラクタム系抗菌薬の持続投与に関する研究としては患者登録数が最大の試験であり、β-ラクタム系抗菌薬持続投与の有用性の有無に結論が出ることが期待されていた(Abdul-Aziz MH, et al. JAMA. 2024 Jun 12. [Epub ahead of print])。 本研究結果は「重症敗血症へのβ-ラクタム系薬投与、持続と間欠の比較(BLING III)/JAMA」に示されたとおりで、β-ラクタム系抗菌薬の持続投与により死亡率の有意な低下は示すことができなかったが、持続投与群で90日死亡率は2%低く、臨床的治癒率が6%高かった。潜在的に有効性のある患者がいる可能性はあり、筆者の主張するとおり、今回の患者集団におけるβ-ラクタム系抗菌薬の持続投与には重要な効果がない可能性と、臨床的に重要な有益性のある可能性が共に含まれるという解釈に同意したい。 本研究結果からは、重症敗血症患者に対してβ-ラクタム系抗菌薬の持続投与が有益な可能性が残るが有意差は示せず、残念ながらβ-ラクタム系抗菌薬の持続投与の是非を結論付けられなかった。β-ラクタムの種類や患者・微生物因子等によっては持続投与も含めた長期注入のほうが予後良好となる可能性はあり、今後も患者や医療従事者の状況を勘案して、持続投与も含めた長期注入は検討してもよいのかもしれない。 本研究結果では明確に示されなかったものの、β-ラクタム系抗菌薬の長期注入が予後改善につながる可能性は残ると考えられ、引き続きβ-ラクタム系抗菌薬の長期注入による臨床的影響の調査結果を期待したい。また、今回は重症敗血症患者に対する、β-ラクタム系抗菌薬の持続投与の有効性と調査するため、患者背景を重症敗血症、抗菌薬はピペラシリン・タゾバクタムとメロペネムが対象とされたが、原因微生物や抗菌薬の種類によっては長期注入のメリットが明らかになるかもしれない。抗菌薬の適切な投与方法について、引き続き新規の研究結果を待ちたいと考える。

73.

急性肝障害の発現率、194種類の薬剤で比較

 実臨床における重度の薬剤誘発性急性肝障害の発現率に関するデータは少ない。そこで、米国・ペンシルベニア大学のJessie Torgersen氏らの研究チームは、肝毒性が疑われる194種類の薬剤について、重度の急性肝障害の発現率を調査した。その結果、1万人年当たり10件以上の重度の急性肝障害が認められた薬剤は7種類であった。また、重度の急性肝障害の発現率が高い薬剤には、抗菌薬が多かった。本研究結果は、JAMA Internal Medicine誌オンライン版2024年6月24日号で報告された。 研究チームは、米国退役軍人のデータを用いて後ろ向きコホート研究を実施した。本研究には、2000年10月1日~2021年9月30日の期間のデータを用いた。対象は、肝臓疾患や胆道疾患の既往歴がない患者789万9,888例とした。外来で処方される薬剤のうち、過去に薬剤誘発性肝障害が報告されている194種類について、1万人年当たりの重度の急性肝障害の発現率を調査した。主要評価項目は、薬物治療開始後に発現した入院を要する重度の急性肝障害の発現率とした。 主な結果は以下のとおり。・重度の急性肝障害が1万人年当たり10件以上発現した薬剤は7種類であった。薬剤の種類および1万人年当たりの発現率(95%信頼区間[CI])は以下のとおり。 スタブジン(販売中止):86.4件(27.7~269.7) エルロチニブ:19.7件(7.4~53.0) レナリドミド:13.7件(6.4~28.9) クロルプロマジン:12.0件(4.5~32.3) メトロニダゾール:11.8件(7.4~18.7) プロクロルペラジン:11.6件(7.4~18.2) イソニアジド:10.5件(5.8~19.2)・重度の急性肝障害が1万人年当たり5.0~9.9件以上発現した薬剤は10種類であった。薬剤の種類および1万人年当たりの発現率(95%CI)は以下のとおり。 モキシフロキサシン:9.3件(5.6~15.4) アザチオプリン:7.7件(3.7~16.4) レボフロキサシン:7.2件(4.6~11.1) クラリスロマイシン:6.7件(3.3~13.5) ケトコナゾール:6.1件(2.0~19.0) フルコナゾール:6.0件(3.4~10.4) カプトプリル:5.8件(2.7~12.2) アモキシシリン・クラブラン酸:5.4件(3.7~7.9) スルファメトキサゾール:5.1件(3.5~7.3) シプロフロキサシン:5.1件(3.5~7.4)・以上の17種類のうち11種類は、既存のケースレポートに基づく急性肝障害の発現リスク分類において、最上位に含まれていない薬剤であった。・17種類のうち11種類を抗菌薬・抗レトロウイルス薬が占めた。

74.

尿検体の採り方と取り扱い【とことん極める!腎盂腎炎】第4回

尿検査でどこまで迫れる?【前編】Teaching point腎盂腎炎を疑う場合の尿検体は、排尿しながら途中の尿を採取する(排尿は途中で止めない)《今回の症例》70代女性が昨日からの悪寒戦慄を伴う発熱を主訴に救急外来を受診した。いままでも腎盂腎炎を繰り返している既往がある。また糖尿病のコントロールは不良である。腎盂腎炎を疑い尿定性検査を提出したが、白血球反応は陰性、亜硝酸塩も陰性であった。今回は腎盂腎炎ではないのだろうか…?はじめに尿検査はさまざまな要因による影響を受けるため解釈が難しく、尿検査のみで尿路感染症を診断することはできない。しかし尿検査の限界を知り、原理を深く理解すれば重要な情報を与えてくれる。そこで、あえて尿検査でどこまで診断に迫れるかにこだわってみる。今回は、「尿検体の採取方法と検体の取り扱い」「細菌尿と膿尿の定義や原因」について取り上げ、次回、迅速に細菌尿を検知するための検査の詳細を紹介する。1.尿検体の採取方法と検体の取り扱い読者の皆さんは自身がオーダーした尿検体がどのように採取されているか述べることができるだろうか。尿検査を電子カルテの画面でオーダー、その結果を確認するだけになっていないだろうか。尿検査の奥深さは尿検体の採取方法から始まる。基本的には排尿時の最初の数mLは採取せず、排尿しながら途中の尿(=中間尿)を採取する。排尿は途中で止めない。従来は排尿前に陰部を洗浄、清拭することが推奨されていた。しかし成人女性では清拭を省いた中間尿でも、同等のコンタミネーション率という報告(表1)1)などもあり、検体の質を改善しないため、現在は推奨されていない。画像を拡大する女性は陰部を広げて、男性は包皮を後方にずらし外尿道口に触れないようにして中間尿を採取する。中間尿が取れないときは、カテーテル(導尿)で採取する1)。例外として、クラミジア(Chlamydia trachomatis)や淋菌(Neisseria gonorrhoeae)などによる尿道炎を疑った場合は初尿を採取する。また、慢性細菌性前立腺炎を疑った際には、2杯分尿法(前立腺マッサージ前後の尿検体を採取)、もしくは、4杯分尿法([1]初尿10mLを捨てた後の尿、[2]中間尿、[3]前立腺液(中間尿採取後に前立腺マッサージを行い採取)、[4]マッサージ後10mL捨てた後の尿の4検体を採取)も報告されている2)。膀胱留置カテーテルが入っている場合は、蓄尿バッグにたまっている尿ではなく、検体採取用ポートから注射器で採取する。カテーテルのバイオフィルムに定着している菌と、真の感染の菌を区別するため、原則としてカテーテルをいったん抜去もしくは交換して採尿する。とくに2週間以上留置されており、まだカテーテルが必要な患者では交換後の採尿が推奨されている3)。長期(>30日)留置カテーテルのサンプリングポートから採取した尿とカテーテル再挿入後の尿を比べた研究では、前者では平均2菌種が検出され、多剤耐性菌は63%、後者では平均1菌種が検出され、多剤耐性菌は18%であった4)。また、カテーテルの先端培養は環境に生息する菌が検出されるだけなので提出しない。尿培養を行う検体は2時間以内に微生物検査室に搬送する。できない場合は4℃で24時間まで保存可能である。嫌気性菌は通常原因とならないので、嫌気培養を行う必要はない。2.細菌尿と膿尿尿路感染症は症候に細菌尿を組み合わせて臨床診断を行う。そのため尿培養は尿路感染症の診断において極めて重要な検査であるが尿路感染症と診断するための細菌尿の定義は論文によりさまざまである。尿中の細菌が105CFU/mL以上であることが細菌尿の一般的な定義だが、尿路感染症であっても105CFU/mL を下回ることも少なくない。尿路症状を呈する女性の下部尿路感染の診断において105CFU/mL以上では感度は51%のみであり、102CFU/mL以上とすると感度95%、特異度85%となる5)。米国感染症学会の尿路感染症の抗菌薬治療についてのガイドラインでは、女性の場合、膀胱炎で102CFU/mL以上、腎盂腎炎で104CFU/mL以上を採用している6)。コンタミネーションが少ない無症候性の男性の場合、1回の培養であっても103CFU/mL以上で感染を疑い、105CFU/mL以上で細菌尿と定義している7)。さらに無症候の場合に導尿で提出された検体ではコンタミネーションの機会がより少ないため、男性も女性も102CFU/mLと定義される7)。カテーテル関連尿路感染症の診断基準では、1種類以上の細菌が103CFU/mL以上の検出と定義されている3)。尿路感染症では、基本的に膿尿を伴う。膿尿とはWBC 10/μL(mm3)以上が一般的なコンセンサスとされる。尿中白血球数は、好中球減少患者や尿路の完全閉塞のある患者では低くなり、乏尿/血尿がある場合は高くなる。しかし、尿路感染症ではなくとも膿尿や細菌尿を認めることが、尿路感染症の診断を難しくする原因の1つである。細菌尿と膿尿の有無のそれぞれの組み合わせによる原因をまとめると表28, 9)のようになる。また、培養を用いた定義では細菌が発育するまで尿路感染症の診断ができない。そこで、迅速に細菌尿を検知するための検査として、尿定性検査(試験紙)や尿沈渣、グラム染色などが有用であり、次回詳細を述べる。画像を拡大する1)Carroll KC. Manual of Clinical Microbiology. ASM press. 2019:p.302-3302)Schaeffer AJ、Nicolle LE. N Engl J Med. 2016;374:562-571.3)Hooton TM, et al. Clin Infect Dis. 2010;50:625-663.4)Shah PS, et al. Am J Health Syst Pharm. 2005;62:74-77.5)Stamm WE, et al. N Engl J Med. 1982;307:463-468.6)Warren JW, et al. Clin Infect Dis. 1999;29:745-758.7)Nicolle LE, et al. Clin Infect Dis. 2005;40:643-654.8)Simerville JA, et al. Am Fam Physician. 2005;71:1153-1162.9)LaRocco MT, et al. Clin Microbiol Rev. 2016;29:105-147.

75.

診療科別2024年上半期注目論文5選(呼吸器内科編)

Clarithromycin for early anti-inflammatory responses in community-acquired pneumonia in Greece (ACCESS): a randomised, double-blind, placebo-controlled trialGiamarellos-Bourboulis EJ, et al. Lancet Respir Med. 2024 Apr;12:294-304.<ACCESS試験>:全身性炎症反応を認める市中肺炎においてβラクタム系抗菌薬へのマクロライドの追加は早期臨床反応を改善市中肺炎の治療においてβラクタム系抗菌薬へのマクロライド追加の上乗せ効果については、観察研究で証明されてきました。今回、全身性炎症反応症候群、SOFAスコア2点以上、プロカルシトニン0.25ng/mL以上を有する市中肺炎の入院成人患者を対象として、無作為化比較試験としては初めて、マクロライドの有益性が示されました。Perioperative Nivolumab in Resectable Lung CancerCascone T, et al. N Engl J Med. 2024 May 16;390:1756-1769.<CheckMate 77T試験>:非小細胞肺がんへの術前ニボルマブ併用化学療法+術後ニボルマブ単剤で無イベント生存期間を改善切除可能な非小細胞肺がん患者を対象とした無作為化比較試験で、術前ニボルマブ併用化学療法+術後ニボルマブ単剤投与が、無イベント生存期間を有意に改善することが明らかとなりました。新たな安全性シグナルは認められませんでした。Dupilumab for COPD with Blood Eosinophil Evidence of Type 2 InflammationBhatt SP, et al. N Engl J Med. 2024 May 20.<NOTUS研究>:タイプ2炎症を有するCOPDにおいてデュピルマブで増悪が減少タイプ2炎症を有するCOPD患者に対するヒト型抗ヒトIL-4/13受容体モノクローナル抗体デュピルマブの有効性を評価した二重盲検無作為化比較試験です。末梢血好酸球数300/uL以上のCOPD患者において、デュピルマブはプラセボに比べて中等度または重度の増悪の減少と有意に関連していました。Bisoprolol in Patients With Chronic Obstructive Pulmonary Disease at High Risk of Exacerbation: The BICS Randomized Clinical TrialDevereux G, et al. JAMA. 2024 May 19.<BICS研究>:ハイリスクCOPD患者へのビソプロロールで増悪は減少せずCOPD患者において、β1受容体選択性遮断薬ビソプロロールがCOPD増悪を減少させるかどうかを検証した無作為化比較試験です。増悪リスクの高いCOPD患者において、ビソプロロールによる治療はCOPD増悪を減少させませんでした。しかし、呼吸器系を含む有害事象の増加をビソプロロールで認めることはなく、ビソプロロールの安全性が示されました。Morphine for treatment of cough in idiopathic pulmonary fibrosis (PACIFY COUGH): a prospective, multicentre, randomised, double-blind, placebo-controlled, two-way crossover trialWu Z, et al. Lancet Respir Med. 2024 Apr;12:273-280. <PACIFY COUPH試験>:特発性肺線維症患者においてモルヒネで咳嗽が減少特発性肺線維症(Idiopathic pulmonary fibrosis:IPF)患者の咳嗽に対する低用量徐放性モルヒネの効果を検証した無作為化比較試験です。モルヒネはプラセボと比較して、客観的覚醒時咳嗽頻度を39%減少させました。この研究は、IPF患者の咳嗽に対するモルヒネの有用性を報告した初めての研究です。

76.

セフトリアキソンとランソプラゾールの併用リスク、日本人では?

 セフトリアキソン(CTRX)とランソプラゾールの併用は、心室性不整脈、心停止、院内死亡を増加させることが示唆されるという研究結果が、2023年にカナダの研究グループから報告され、話題となった1)。そこで、三星 知氏(下越病院)らの研究グループは、医療データベースを用いた後ろ向きコホート研究により、日本人におけるこれらのリスクを検討した。その結果、日本人においてもCTRXとランソプラゾールの併用は、心室性不整脈や心停止のリスクを上昇させることが示唆された。本研究結果は、Journal of Infection誌オンライン版2024年6月17日号で報告された。 本研究は、JMDCが構築した日本の医療機関データベースを用いて、2014年4月〜2022年8月の期間に登録されたデータを解析した。対象は、CTRXまたはスルバクタム・アンピシリン(SBT/ABPC)とプロトンポンプ阻害薬(PPI)を併用する20歳超100歳未満の患者10万5,301例とした。主要評価項目は、心室性不整脈・心停止の発生率であった。 主な結果は以下のとおり。・CTRXを投与された患者5万5,437例およびSBT/ABPCを投与された4万9,864例を抽出した。対象患者の年齢中央値は81歳(四分位範囲:72~88)であった。・心室性不整脈・心停止は、CTRXを投与された患者187例(0.34%)、SBT/ABPCを投与された患者82例(0.16%)に認められた。・PPIを経口投与された患者集団において、CTRX+ランソプラゾール群はSBT/ABPC+ランソプラゾール群と比較して、心室性不整脈・心停止のリスクが有意に高かった(ハザード比[HR]:2.92、95%信頼区間[CI]:1.99~4.29、p<0.01)。・一方、CTRX+その他のPPI(ラベプラゾール、エソメプラゾール、オメプラゾールのいずれか)群はSBT/ABPC+ランソプラゾール群と比較して、心室性不整脈・心停止のリスクが有意に低かった(HR:0.48、95%CI:0.27~0.88、p=0.02)。・PPIを静脈内投与された患者集団では、CTRX+ランソプラゾール群(HR:4.57、95%CI:1.24~16.8、p=0.02)およびCTRX+オメプラゾール群(HR:4.47、95%CI:1.44~13.9、p=0.01)が、SBT/ABPC+ランソプラゾール群と比較して心室性不整脈・心停止のリスクが高かった。 著者らは、本研究結果は観察研究から得られた知見であり、さらなる研究が必要としつつ「CTRXとランソプラゾールの併用が、経口および静脈内投与のいずれにおいても心室性不整脈や心停止のリスクを上昇させることが示唆された。PPIと抗菌薬の選択が転帰を悪化させる可能性がある」とまとめた。

77.

亜鉛の測定が推奨される症状・タイミングは?

 近年、健康維持に重要な栄養素として注目を浴びる亜鉛。小児の発育や味覚異常に影響することはよく知られているが、ここ数十年で国内外の研究報告からさまざまな生理作用に関与していることが明らかになっている。先般、国内レセプトデータを解析して日本人の亜鉛不足者の特徴を発表1)した横川 博英氏(順天堂大学医学部総合診療科学講座 先任准教授)が「一般集団・患者群の血清亜鉛濃度の実際と低亜鉛血症患者の頻度やその臨床像」と題し、日本人の亜鉛欠乏の現状や検査の必要性について、6月4日に開催されたノーベルファーマのプレスセミナーにおいて解説した。亜鉛不足はなぜ起こる?年齢や性差は? 横川氏らが報告した研究1)からは、▽疾病の治療を受けている日本人の3人に1人は亜鉛欠乏症(60μg/dL)、▽加齢に伴い血清亜鉛濃度は低下、▽誤嚥性肺炎、褥瘡、サルコペニア、慢性腎臓病(CKD)を併存する患者の50%以上が亜鉛欠乏症で、その関連は誤嚥性肺炎、褥瘡、サルコペニア、COVID-19、CKDの順に高い、▽利尿薬、甲状腺ホルモン治療薬、貧血治療薬、全身性抗菌薬による治療患者の50%以上が亜鉛欠乏症で、その関連は利尿薬、全身性抗菌薬、貧血治療薬、甲状腺ホルモン治療薬の順に高い、などが示唆され、この結果に対し「これらの治療薬を使わなければならない患者の状態では亜鉛欠乏を引き起こすことが多い、と解釈するのが妥当」と同氏は補足した。 また、性別や年齢でこの結果を振り返ると、男性の場合は60歳以上から、女性では70歳以上から血清亜鉛濃度の低下が顕著になっている。加えて、厚生労働省の国民健康・栄養調査報告2)おける亜鉛摂取データによると、男性は全年齢において亜鉛摂取量が不足しているのに対し、女性では50代までは摂取量が不足しているも60~70代の摂取量は推奨量と同等であった。 これを踏まえると、栄養素や健康に対する意識の差が血清亜鉛濃度にも表れている可能性がある。実際に日本人の亜鉛不足には摂取食品の変化が影響しており、「日本人が低亜鉛に陥っている原因の1つは、元来の主食である米の消費量が減り、米や雑穀から得られる亜鉛などの摂取量が低下していること。米飯(精白米)の100gあたりの亜鉛含有量は多くはない(0.6mg)ものの、主食の役割を考えるとその影響は大きい。このほかにも亜鉛を多く含む上記3品には牡蠣(13.2mg)、豚レバー(6.9mg)、牛肩ロース(5.6mg)がある3)ので、これらの摂取を意識した食生活が重要」と食事に対する意識を促した。亜鉛不足による症状 そもそも亜鉛とは、生体内の300種以上の酵素、サイトカイン、ホルモンなどに関与している栄養素で、主に筋肉(60%)、骨(20~30%)、皮膚・毛髪(8%)、肝臓(4~6%)、消化管・膵臓(2.8%)、脾臓(1.6%)などに分布している。そのため、小児の身長の伸びや味覚の維持をはじめ、皮膚代謝、生殖機能、骨格の発達、精神・行動、免疫機能にまでその影響は及ぶ。そして、亜鉛不足に関連する症状を以下のように列挙すると、身長の伸びを除き、実は高齢者にみられる症状の多くと合致することから、横川氏は「“加齢によるもの”に留めてしまうのではなく、このような症状がある場合には、一度、亜鉛測定することを推奨する」と注意喚起した。<亜鉛不足に関連する症状>味がわからない、食欲がない、皮膚炎、生殖機能の低下、脱毛、傷が治りにくい、元気がない、貧血、骨粗鬆症、口内炎、風邪をひきやすい、下痢、身長の伸びが悪い亜鉛を測定するタイミング この10年で医療機関での亜鉛の検査数4)は加速度的に増加し、メディカル・データ・ビジョンの急性期病院の医療情報データベースを用いて亜鉛を検査した診療科比率を算出したところ、外来では内科(19%)、小児科(10%)、外科(8%)で、入院では内科(27%)、腎臓内科(7%)、外科(6%)で主に検査が行われており、「褥瘡管理や経管栄養などを行っている患者への栄養アセスメントの観点から検査件数が増加傾向にある」と見解を示した。では、前述のような亜鉛欠乏を想起するような症状がない場合、亜鉛を測定するタイミングはあるのだろうか? 横川氏によれば、「特徴的な症状がなく、一見、不定愁訴のような訴えの場合でも、まず亜鉛欠乏も疑ってみることが、診断のきっかけになることもあり得る」と説明した。 最後に同氏は、「血清亜鉛濃度の低下は、腎疾患や肝疾患はもちろんのこと、加齢による亜鉛の消化管吸収低下が原因で生じることもある。そのため、消化器領域の診療においても上述のような症状がみられる患者に遭遇した際には、低亜鉛を意識した検査を行ってほしい。そして、亜鉛欠乏にも配慮した併存疾患の治療を行ってほしい」と締めくくった。

78.

抗菌薬持続間欠の比較(解説:栗原宏氏)

特長・6つの最新試験を含む大規模なメタアナリシスを使用しているため、最新かつ信頼性の高い結果である・ベイズ解析と頻度主義分析を併用し、治療効果の包括的評価と信頼性を高めている・持続投与は間欠投与に対し、90日間の死亡リスクを14%減少させる効果が確認されている。NNTは26であり、持続投与の高い有効性が示唆される。また、ICU死亡率の低下と臨床的治癒率の向上にも寄与している研究上の制約・敗血症および敗血症性ショックの定義が一定していないため、結果の比較にばらつきがある・試験ごとに治癒の定義が異なり、治癒判断が主観的である可能性がある βラクタム系抗菌薬は、最小発育阻止濃度以上の時間(time above MIC)が長いほど効果がある時間依存性であり、頻回投与、長時間投与が望ましいとされている。そのため、究極的に持続投与ならばMIC以上の最適な状態が維持され、より高い治療効果が得られるのではないかと推論される。 この推論に基づき、これまで多数の間欠投与と持続投与の比較試験が行われてきた。最近発表されたものとしては、重症患者におけるメロペネムの持続投与と間欠投与を比較した多国間ランダム化臨床試験であるMERCY試験、BLING III試験が知られている。持続投与は理論上間欠投与より有効であるが、実際に患者の転帰を改善するかどうかについては、有効であったとする研究と差がなかったとする研究があり、結果が分かれている。 本調査では持続投与と間欠投与の比較に関して、敗血症、敗血症性ショックを患う成人患者を対象に、90日間での全死亡率をメインアウトカム、ICU死亡率、臨床的治癒率、微生物学的治癒率、有害事象、ICU滞在期間を2次アウトカムとして検討を行っている。 参考までに使用された抗菌薬は、メロペネム8件、セフェピム3件、チカルシリン-クラブラン酸2件、アンピシリン-スルバクタム、セフトリアアキソン、イミペネム-シラスタチン各1件であった。 サブグループ分析は7項目で行われているが、いずれも差がなかった。1)メロペネム対ピペラシリン・タゾバクタム(相対リスク比 [RRR], 1.00; 95%信用区間 [CrI], 0.75-1.29)2)培養陽性対培養陰性感染(RRR, 1.13; 95%CrI, 0.91-1.72)3)グラム陰性対グラム陽性感染(RRR, 1.13; 95%CrI, 0.85-1.79)4)腎置換療法対非腎置換療法(RRR, 1.08; 95%CrI, 0.82-1.53)5)肺感染対その他の感染(RRR, 0.90; 95%CrI, 0.64-1.15)6)敗血症対敗血症性ショック(RRR, 0.97; 95%CrI, 0.75-1.23)7)男性対女性(RRR, 0.91; 95%CrI, 0.71-1.12) 敗血症、敗血症性ショックという重篤な状態の患者を対象とし、90日間の全死亡をメインアウトカムとしている本調査は臨床的に現実的な調査である。敗血症治療に抗菌薬は不可欠であるが、信頼性の高い調査で投与方法の選択次第で死亡リスクを減少できることが示された意義は大きい。二次アウトカムとしてICU死亡率の減少と臨床的治癒率向上に関連していることが示されたことも臨床的に有益な情報である。 NNT(1人の死亡を防ぐために必要な治療人数)が26と治療効果は高く、サブグループ分析の結果を踏まえても、敗血症治療にβラクタム系抗菌薬を使用する際は持続投与を選択するのがよいと思われる。

79.

ASCO2024 レポート 泌尿器科腫瘍

レポーター紹介米国臨床腫瘍学会(ASCO)は、1964年の創立以来「がんが予防または治癒されすべてのサバイバーが健康である世界」というビジョンを掲げ活動してきた、がん治療研究のための学会であり、世界各国に5万人近くの会員を有する。年1回の総会は、世界のがん研究者が注目する研究成果が発表される機会であり、2024年は5月31日から6月4日まで米国イリノイ州のシカゴで行われた。COVID-19のまん延があった2020~22年にかけてon-line参加のシステムが整い、現地参加と何ら変わりなく学会参加が可能となったため、今年はon-lineでの参加を選択した。泌尿器科腫瘍の演題は、Oral Abstract Session 18(前立腺9、腎5、膀胱4)、Rapid Oral Abstract Session 18(前立腺8、腎4、膀胱4、陰茎1、副腎1)、Poster Session 112で構成されていた。ASCOはPractice Changingな重要演題をPlenary Sessionとして5演題選出するが、今年は泌尿器カテゴリーからは選出されなかった。Practice Changingな演題ではなかったが、新しい見地を与えてくれる演題が多数あり、ディスカッションは盛り上がっていた。今回はその中から4演題を取り上げ報告する。Oral Abstract Session 腎/膀胱4508 淡明細胞腎がん1次治療のアベルマブ+アキシチニブ、PFSを延長(JAVELIN Renal 101試験)Avelumab + axitinib vs sunitinib in patients (pts) with advanced renal cell carcinoma (aRCC): Final overall survival (OS) analysis from the JAVELIN Renal 101 phase 3 trial.Robert J. Motzer, Memorial Sloan Kettering Cancer Center, New York, NYJ Clin Oncol 42, 2024 (suppl 16; abstr 4508)JAVELIN Renal 101試験は、転移性淡明細胞腎がんにおける1次治療としてアベルマブ+アキシチニブ(AVE+AXI)をスニチニブ(SUN)と比較するランダム化第III相試験であり、無増悪生存期間(PFS)の延長が示され、すでに報告されている。この転移性腎細胞がんにおける1次治療の免疫チェックポイント阻害薬(ICI)とチロシンキナーゼ阻害薬(TKI)の組み合わせは、そのほかにもペムブロリズマブ+レンバチニブ、ニボルマブ+カボザンチニブ、ペムブロリズマブ+アキシチニブがあり、いずれも全生存期間(OS)の延長が報告されているだけに、このAVE+AXIのOS結果も注目されていた。この報告は、フォローアップ期間最小値68ヵ月における最終解析である。プライマリ・エンドポイントは2つ設定され、PD-L1陽性の転移性腎細胞がんにおける中央判定によるPFSとOSである。全体集団における解析はセカンダリ・エンドポイントに設定されていた。PD-L1陽性集団のOS中央値は、SUN 36.2ヵ月、AVE+AXI 43.2ヵ月、ハザード比 (HR):0.86(95%信頼区間[CI]:0.701~1.057、p=0.0755)であり、ネガティブな結果であった。全体集団でのOS中央値は、SUN 38.9ヵ月、AVE+AXI 44.8ヵ月、HR:0.88(95%CI:0.749~1.039、p=0.0669)であり、こちらも有意差なしの結果となった。全体集団のOSのサブグループ解析では、とくに効果不良を示唆する群はないが、IMDCリスク分類のPoorリスクにおいてはSUNとの差は開く傾向(HR:0.63、95%CI:0.43~0.92)があった。有害事象(AE)に関し、Grade3以上の重篤なAEはSUN群61.5%とAVE+AXI群66.8%であったが、AVE+AXIにおける免疫関連有害事象(irAE)は全体で50.7%、重篤なものは14.7%であった。この結果により、ICI+TKI療法のすべての治療成績がそろったことになる。ICI単剤においては、抗Programmed death(PD)-1抗体か抗PD-ligand(L)1かの違いによる影響があるかどうか確かな証拠はないが、抗PD-1抗体のみがOS延長を証明できたことになる。またTKI単剤の比較において、VEGFR(Vascular Endothelial Growth Factor Receptor)を強く阻害しつつ耐性化にも対応できる新世代のTKIであるカボザンチニブとレンバチニブのレジメンがより良い治療成績を示した。試験間における患者背景の差はあるものの、薬効の違いもICI+TKI療法の効果に影響しているのではないかと感じる。とはいえ、目の前の患者にICI+ICI療法かICI+TKI療法か、いずれを選択するのがベストかの問いに答えられる臨床試験は行われておらず、PFSやOSだけでなく奏効割合や病勢増悪割合、合併症、治療環境なども加味し、患者との話し合いの下で決定していく現状は今後も変わらないだろう。Oral Abstract Session 前立腺/陰茎/精巣LBA5000 去勢抵抗性前立腺がんのカバジタキセル+アビラテロン併用療法はPFSを延長(CHAARTED2試験)Cabazitaxel with abiraterone versus abiraterone alone randomized trial for extensive disease following docetaxel: The CHAARTED2 trial of the ECOG-ACRIN Cancer Research Group (EA8153). Christos Kyriakopoulos, University of Wisconsin Carbone Cancer Center, Madison, WIJ Clin Oncol 42, 2024 (suppl 17; abstr LBA5000)CHAARTED試験は、転移性去勢感受性前立腺がん(mCSPC)におけるアンドロゲン除去療法(ADT)に加えUpfrontにドセタキセル(DTX)を6サイクル行うことでOS延長が証明された重要な試験であった。これにより、DTXがアンドロゲン耐性クローンも含め初期に量を減らすことに寄与する、という仮説が立証されたと考えられている。CHAARTED2試験は、初回にDTXが行われた患者に対し、アンドロゲン受容体(AR)阻害薬に加えカバジタキセル(CBZ)をさらに加えることで、AR阻害薬の効果が延長するかを検討するランダム化比較第II相試験であった。3サイクル以上のDTX治療歴があるmCRPC患者を、アビラテロン(ABI)1,000mg+プレドニゾロン(PSL)10mg群とABI+PSLに加えCBZ 25mg/m2 3週ごとを6サイクルまで行う群に1:1でランダム化した。プライマリ・エンドポイントはPFS延長(HR:0.67、α=0.10、β=0.10)と設定された。患者背景は、Gleason score 8~10が83%、High-volumeが76%含まれる集団であり、両群にバランスよく割り付けられていた。PFS中央値は、ABI+PSL群で9.9ヵ月、ABI+PSL+CBZ群で14.9ヵ月、HR:0.73(80%CI:0.59~0.90、p=0.049)と有意差を認めた。セカンダリ・エンドポイントのOSは、HR0.93であり、今回の検討ではアンダーパワーではあるが有意差を認めなかった。AEでは、重篤なものは26.7%と42.2%であり、ABI+PSL+CBZ群で多く報告された。Kyriakopoulos氏は、CBZ追加によるOS延長は認められなかったものの、PFSやPSA(Prostate Specific Antigen)増悪までの期間の延長は認められたことから仮説は証明できたことを報告した。とはいえ、現在のmCSPCの初期治療は3剤併用療法(AR阻害薬+DTX+ADT)であることから、日常診療に与える影響は限られると結んだ。Rapid Oral Abstract Session 前立腺/陰茎/精巣5009 陰茎がん1次治療のペムブロリズマブ併用化学療法(HERCULES試験)A phase II trial of pembrolizumab plus platinum-based chemotherapy as first-line systemic therapy in advanced penile cancer: HERCULES (LACOG 0218) trial.Fernando Cotait Maluf, Hospital Beneficencia Portuguesa de Sao Paulo and Hospital Israelita Albert Einstein; LACOG (Latin American Cooperative Oncology Group), Sao Paulo, BrazilJ Clin Oncol 42, 2024 (suppl 16; abstr 5009)希少がんである進行陰茎がんにおける1次治療の免疫療法追加のエビデンスが報告された。陰茎がんの発生は、アフリカやアジア、中南米などの低所得国に多いことが知られているが、ブラジルで行われた単群第II相試験の結果である。陰茎がんの標準治療として無治療と比較したランダム化試験はないが、プラチナ併用レジメンを基本としている。NCCN(National Comprehensive Cancer Network)ガイドラインによると、preferred regimenとして3剤併用のTIP療法(パクリタキセル+イホスファミド+シスプラチン)、other recommended regimenとしてFP療法(5FU+シスプラチン)が提示されている。TIP療法はFP療法と比べると、奏効割合が40%程度と高いが、AEの割合も高く忍容性は問題となることが多い。Maluf氏らは、初発の転移性陰茎がん患者に対し、シスプラチン70mg/m2あるいはカルボプラチンAUC 5 day1と5FU 1,000mg/m2 day1~4に加えペムブロリズマブ200mgを3週間ごとに6サイクル実施後、ペムブロリズマブのみを維持療法として34サイクル実施するレジメンの治療成績を報告した。プライマリ・エンドポイントは奏効割合であり、統計設定は奏効割合期待値40%、閾値20%、両側α=0.1、β=0.215として33症例が必要であると計画された。患者37例が登録され、年齢中央値56歳、白人40.5%が含まれていた。奏効割合は39.4%(95%CI:22.9~57.9%)でありポジティブな結果であった。PFS中央値は5.4ヵ月(95%CI:2.7~7.2)、OS中央値は9.6ヵ月(95%CI:6.4~13.2)であった。サブグループ解析では、TMB(Tumor Mutational Burden)高値(≧10)と低値(<10)の奏効割合は75%と36.4%、HPV-16陽性と陰性では55.6%と35%であり、PD-L1陽性、陰性による一定の傾向はなかった。AEは全Gradeで91.9%、Grade3以上で51.4%であり、治療関連死はなかった。このHERCULES試験により、ペムブロリズマブ+FP療法は転移性陰茎がんの新たな治療オプションとなった、と報告された。日本においてこのレジメンは保険承認が得られず適用は困難だが、陰茎がんが希少がんであることを考慮すると、診断時より遺伝子パネル検査を行うことでICI使用の機会を逃さないよう注意を払う必要がある。Rapid Oral Abstract Session 腎/膀胱4510 尿膜管がん1次治療のmFOLFINOX療法(ULTMA試験)A multicenter phase II study of modified FOLFIRINOX for first-line treatment for advanced urachal cancer (ULTMA; KCSG GU20-03).Jae-Lyun Lee, Asan Medical Center, University of Ulsan College of Medicine, Seoul, South KoreaJ Clin Oncol 42, 2024 (suppl 16; abstr 4510)希少がんの重要なエビデンスとして、膀胱尿膜管がんの単群第II相試験の結果も注目すべき演題の1つである。尿膜管がんは膀胱がんのうち1%未満の発生割合で、標準治療が確立していないがんであるが、病理組織の特徴は消化器がんに類似することから、5FU系、プラチナ系薬剤での治療が適用されることが多く、その有効性が報告されている。Lee氏らは、modified FOLFIRINOXレジメン(オキサリプラチン85mg/m2 day1、イリノテカン150mg/m2 day1、ロイコボリン400mg/m2 day1、5FU 2,400mg day1をそれぞれ2時間、1.5時間、2時間、46時間かけて静注)に、支持療法としてペグフィルグラスチム6mg皮下注を3日目、予防的抗菌薬として少なくとも最初の2サイクルはレボフロキサシン750mgを4~7日目に内服し、2週間を1サイクルとして最大12サイクルまで継続する治療プロトコールを開発し、その治療成績を報告した。プライマリ・エンドポイントは奏効割合であり、期待値35%、閾値17%、α=0.05、β=0.2に設定された。2021年4月~2023年11月の2年7ヵ月間に韓国の5施設で実施した試験であった。患者背景は、年齢中央値50歳(28~68)、PSは0/1がそれぞれ3/18例であった。奏効割合は61.9%(95%CI:41.1~82.7)であり、病勢増悪例は0例であった。PFS中央値は9.3ヵ月(95%CI:6.7~11.9)、OS中央値は19.7ヵ月(95%CI:14.3~25.1)であった。安全性では、Grade 3以上の重篤なものは、貧血2例、好中球減少1例、血小板減少1例、嘔気1例、下痢1例であったが、Grade2の発生は、血小板減少3例、嘔気8例、嘔吐2例、下痢1例、口内炎3例、倦怠感6例、末梢神経障害5例であった。発熱性好中球減少症や治療関連死は認めなかった。演者らは、mFOLFIRINOX療法は膀胱尿膜管がんの新たな治療選択肢として考慮されるべきであると締めくくった。尿膜管がんでも大腸がんと同様に、triplet therapyがdoublet therapyより数値上高い奏効割合を示すことができた試験であったのは、生物学的特性が類似していることを反映すると思われる。また、毒性の強いレジメンに安全性を高める工夫が最大限盛り込まれたプロトコールになっていることで、今回の良い結果を生んだと思われた。この試験の患者背景で特徴的なのは、患者の年齢が若いことと、PS不良例は含まれていないことも重要なポイントである。

80.

悪寒戦慄の重要性【とことん極める!腎盂腎炎】第3回

悪寒戦慄ってどれくらい重要ですか?Teaching point(1)悪寒戦慄は菌血症を予測する症状である(2)重度の悪寒戦慄をみたら早期に血液培養を採取すべし《今回の症例》基礎疾患に糖尿病と高血圧、脂質異常症がある67歳女性が半日前に発症した発熱と寒気で救急外来を受診した。トリアージナースより、体温以外のバイタルは落ち着いているが、ガタガタ震えていて具合が悪そうなので準緊急というより緊急で診察をしたほうがよいのでは、という連絡を受け診察開始となった。症状としては頭痛、咽頭痛、咳嗽、喀痰、腹痛、下痢、腰痛などの症状はなく、悪寒戦慄と全身の痛み、倦怠感を訴えていた。general appearance:ややぐったり、時折shiveringがみられる意識清明、体温:39.4℃、呼吸数:18回/分、血圧:152/84mmHg、SpO2 99%、心拍数:102回/分頭頸部、胸腹部、四肢の診察で目立った所見はない。簡易血糖測定:242mg/dLqSOFAは陰性ではあるが、第1印象はぐったりしていて、明確な悪寒と戦慄がある。診察上は明確な熱源が指摘できない。次にどうするべき?1.悪寒戦慄は菌血症の予測因子である菌血症は、感染症の予後不良因子であり、先進国の主要な死因の上位7番目に位置する疾患である1)。具体的には、市中感染型菌血症の1ヵ月率は10~19%、院内血流感染症の死亡率は17~28%である2)。したがって菌血症の早期予測は、迅速な治療開始を助け、臨床転帰の改善につながるため重要である。そして悪寒や戦慄、いわゆる“chill”は発熱以外で菌血症の鑑別かつ有効な予測因子として報告がある唯一の症状である。では悪寒はどれくらい菌血症を予測できるのだろうか?まとめて調べた文献によると3)、発熱がある患者:陽性尤度比(LR+)=2.2、陰性尤度比(LR−)=0.56発熱がない患者:LR+=1.6、LR−=0.84といわれている。そして徳田らの報告4)では、shaking chill(厚い毛布にくるまっていても全身が震え、寒気がする悪寒):LR+=4.7moderate(非常に寒く、厚手の毛布が必要な程度の悪寒):LR+=1.7mild(上着が必要な程度の悪寒):LR+=0.61のように悪寒の重症度がより菌血症に関連することを報告されている。したがって、悪寒や戦慄の病歴聴取は重要だが、shaking chillかどうかまで踏み込んでの病歴聴取が望ましいといえる。さらに、悪寒のあと2時間以内が血液培養が陽性になりやすいという報告5)もあるので、悪寒や戦慄をみかけたらすかさず血液培養を採取するのがおすすめだ。なお、腎盂腎炎においても悪寒は菌血症の予測因子といわれている6)が、何事にも例外はあり、インフルエンザで悪寒を経験した読者もいるであろう。悪性リンパ腫や薬剤熱でも悪寒は来すので過信は禁物となる。2.悪寒戦慄は腎盂腎炎診療でも大事な症状である腎臓は血流豊富な臓器であり、急性腎盂腎炎において42%で血液培養が陽性になるといわれている7)。そして側腹部痛か叩打痛があり、膿尿か細菌尿があれば腎盂腎炎は適切な鑑別診断といえるが8)、腎盂腎炎は下部尿路症状(排尿時痛、頻尿、恥骨部の痛み)、上部尿路症状(側腹部痛やCVA叩打痛陽性)を来す頻度は多いとはいえない。実地臨床では悪寒戦慄、ぐったり感(toxic appearance)、嘔気や倦怠感という症状が主訴になる腎盂腎炎は少なくなく、その場合は血液培養が腎盂腎炎の診断に役立つ8)。合併症のない腎盂腎炎における血液培養に関しては議論の分かれることではあるが9,10)、それは腎盂腎炎の検査前確率が高いという臨床状況においての話であり、前述のように尿路症状がなく悪寒戦慄やぐったり感(toxic appearance)がメインでの場合は敗血症疑いであれば1h bundleの達成、すなわち感染症のfocus同定とバイタルの立て直しと血液培養採取と抗菌薬投与を早急に行わなければならない11)。また、菌血症疑いの状況であっても血液培養の取得は必要になる。したがって悪寒戦慄のチェックは重要であるといえる。3.菌血症の疫学を抑える菌血症の頻度が多い疾患はどのようなものだろうか?血液培養で何が陽性になったか、患者の基礎疾患や症状にもよるが全体的な頻度としては尿路感染症22〜31%、消化管9〜11%、肝胆道7〜8%、気道感染(上下含む)9〜20%、不明18〜23%が主な頻度となる12-14)。このデータと各感染症の臨床像から考えるに、明確な随伴症状やfocusがなく悪寒戦慄があり、菌血症を疑う患者で想定すべきは尿路感染、胆道系感染、血管内カテーテル感染といえるだろう。逆に肺炎は発熱の原因としては頻度が高いが血液培養が陽性になりにくい感染症であり、下気道症状がなく症状が発熱と悪寒のみの状況であれば肺炎の可能性はかなり低いと考えられる。4.血液培養採取のポイントを抑える血液培養の予測ルールに関してはShapiroらのルールの有用性が報告されている。やや煩雑だが2点以上で血液培養の適応というルールである。特異度は29〜48%だが、感度は94〜98%と高く外的妥当性の評価もされているのが優れている点になる(表)15,16)。画像を拡大するその他、簡易的なものとしては白血球の分画で時折みられるband(桿状好中球)が10%以上(bandemia)であれば感度42%、特異度91%、オッズ比7.15で菌血症を予測するという報告もある2)。そのためbandemiaがあれば血液培養採取を考慮してもよいと思われる。1)Goto M, Al-Hasan MN. Clin Microbiol Infect. 2013;19:501-509.2)Harada T, et al. Int J Environ Res Public Health. 2022;19:22753)Coburn B, et al. JAMA. 2012;308:502-511.4)Tokuda Y, et al. Am J Med. 2005;118:1417.5)Taniguchi T, et al. Int J Infect Dis 2018;76:23-28.6)Nakamura N, et al. Intern Med. 2018;57:1399-1403.7)Kim Y, et al. Infect Chemother. 2017;49:22-30.8)Johnson JR, Russo TA. N Engl J Med. 2018;378:48-59.9)Long B, Koyfman A. J Emerg Med. 2016;51:529-539.10)Karakonstantis S, Kalemaki D. Infect Dis(Lond). 2018;50:584-5911)Evans L, et al. Crit Care Med. 2021;49:e1063-e1143.12)Larsen IK, et al. APMIS. 2011;119:275-279.13)Pedersen G, et al. Clin Microbiol Infect. 2003;9:793-802。14)Sogaard M, et al. Clin Infect Dis. 2011;52:61-69.15)Shapiro NI, et al. J Emerg Med. 2008;35:255-264.16)Jessen MK, et al. Eur J Emerg Med. 2016;23:44-49.

検索結果 合計:748件 表示位置:61 - 80