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蜂窩織炎・膿瘍への抗菌薬 治癒率に違いはある? クリンダマイシンvs.トリメトプリム・スルファメトキサゾール

 蜂窩織炎および膿瘍において、クリンダマイシンまたはトリメトプリム・スルファメトキサゾール(TMP-SMX)を10日間投与したところ、治癒率や副作用プロファイルは同程度であったことが、米国・カリフォルニア大学のLoren G. Miller氏らにより報告された。NEJM誌2015年3月19日号の掲載報告。 皮膚および軟部組織感染症は、外来診療では一般的であるものの、市中感染型メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)に対する抗生物質レジメンの効果は十分に明らかにされていなかった。 Miller氏らは、蜂窩織炎、5cm以上の膿瘍(小児ではより小さい径も含む)のいずれか、または両方を有する合併症のない単純性皮膚感染症の外来患者を4施設で登録した。すべての膿瘍は切開排膿を行った。 被験者らはクリンダマイシン群またはTMP-SMX群に無作為に1:1で割り付けられ、10日間投与された。被験者と医師にレジメンの割付および微生物学的検査結果は知らされず、二重盲検下で実施された。 主要評価項目は治療終了から7~10日後の臨床的治癒であった。 主な結果は以下のとおり。・合計524例の被験者が登録され、そのうち155例(29.6%)が小児であった。・264例がクリンダマイシン群、260例がTMP-SMX群に登録された。・160例(30.5%)が膿瘍単独、280例(53.4%)が蜂窩織炎単独、82例(15.6%)が膿瘍と蜂窩織炎の両方を罹患していた。・黄色ブドウ球菌は217例(41.4%)の被験者の病変部から分離され、そのうち167例(77.0%)の分離株がMRSAであった。・intention-to-treat 集団における治癒率は、両群で同程度であった(クリンダマイシン群80.3%、TMP-SMX群77.7%、差:-2.6%ポイント、95%信頼区間:-10.2~4.9、p=0.52)。・評価可能であった466例における治癒率も、両群で同程度であった(クリンダマイシン群89.5%、TMP-SMX群88.2%、差:-1.2%ポイント、95%信頼区間:-7.6~5.1、p=0.77)。・サブグループ(小児、成人、膿瘍または蜂窩織炎単独の患者)における治癒率も、両群で同程度であった。・両群でみられた副作用プロファイルに有意な差はみられなかった。

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Dr.山本の感染症ワンポイントレクチャー Q10

Q10 重症肺炎で抗菌薬を何種類も変更しても改善しない場合には、ステロイドパルス等を施行する場合がありますか? ステロイドバルスを施行するかどうかを考える前に「なぜよくならないのか?」を考えたほうがよいと思います。 もし、器質化肺炎(OP)や非特異性間質性肺炎(NSIP)、急性好酸球性肺炎のように、ステロイド反応性のある病態を考えた場合は、もちろんステロイド治療を行うべきです。しかし、改善しない理由がステロイドとは無関係の場合には、ステロイドは意味がないばかりか有害ですらあります。実際、敗血症性ショックにおいては、ステロイドの投与量が増えれば増えるほど死亡率が上昇すると報告されています1)。 また、急性呼吸促迫症候群(ARDS)と診断してステロイドを投与する人がいまだに散見されますが、やはりこれも死亡率を上げる可能性があり、現在では遷延するARDSに対するルーチンのステロイド投与は推奨されていません2)。さらに、ARDS以外にも肺が白くなる病気はたくさんあるため(表1)3)、やはり「なぜ改善しないのか?」を突き詰めるのが大切だと思います。具体的には表2のように整理するとよいと思いますので、詳しくは参考文献4)をご参照ください。 表1:ARDSと紛らわしい10の疾患群3)うっ血性心不全、肺水腫特発性肺線維症(UIP: usual interstitial pneumonia)特発性器質化肺炎(COP)非特異性間質性肺炎(NSIP)多発血管炎性肉芽腫症(ウェゲナー肉芽腫症)びまん性肺胞出血グッドパスチャー症候群急性過敏性肺臓炎急性好酸球性肺炎薬剤性肺疾患表2:治らない肺炎の分類4)(1)治っているようだけど今ひとつ改善に乏しい→自然経過(2)胸水が増える一方/陰影が消えない→肺炎随伴性胸水/膿胸/肺化膿症(3)肺炎の影自体がどんどん増悪する→結核/真菌/耐性菌など一般的ではない起因菌(4)自然経過や肺炎単独だけでは説明できない→非感染性肺病変: 特発性器質化肺炎/特発性間質性肺炎/血管炎/心不全/心筋梗塞/腎不全/肺塞栓症/ARDSなど)(5)呼吸状態はよくなったが発熱だけが続く→肺外の問題: 薬剤熱/Clostridium difficile感染症/偽痛風など)(6)また肺炎になりました→再発性肺炎また、最近、市中肺炎でステロイドを使用すると入院期間が短縮するという、一見魅力的なランダム化比較試験(RCT)が発表されています5)6)。ですが、死亡率改善のようなハードアウトカムの改善は示されておらず、ステロイド投与群はプラセボ群と比べて有意に高血糖の発生が高いと報告されています5)6)。感染症の治療において、適切な治療薬を投与したうえで低用量のステロイドを併用すること自体は、それほど感染症の予後を悪化させないことは以前から言われていますので(明らかな害が示されているのはウイルス性肝炎と脳マラリア)、この結果自体はそれほど驚きません7)。しかし、免疫不全のある患者や重症患者は試験の対象からあらかじめ除外されていること、副作用についても、臨床試験では日常診療よりきちんと管理されているであろうことについて留意しておく必要があります。これらのRCTでは高血糖自体による有害事象はそれほど大きくなかったようですが、これが広く普及して日常診療に入り込んできた場合にはどうなるでしょうか? 高血糖による非ケトン性高浸透圧性昏睡や糖尿病性ケトアシドーシスが増えたり、逆に高血糖に対して使用したインスリンによる低血糖の事故が増えたりしてしまうのではないかと筆者は予想します。死亡率を改善するのならまだしも、入院期間短縮がアウトカムならば、少なくとも日本の医療事情ではもっと改善すべき点があるでしょう。心不全にスピロノラクトンがよいということを示したRALES試験後に、高カリウム血症に伴う入院やそれに伴う不整脈死が増えてしまった8)のと、同じ轍を踏まないようにしないといけないと思います。肺炎が改善しない理由を整理しないまま、とりあえずステロイドというのは、パルスというより“バルス”(アニメ『天空の城ラピュタ』に出てくる滅びの呪文)といったほうが適切だと筆者は思います。本稿執筆中に、成人重症肺炎(ATSの修正基準9)またはPneumonia Severity Index 10)でクラスV)で入院時血清CRPが15mg/dL以上の患者を対象にしたRCTが発表されました11)。初期(0~72時間)治療失敗(ショック発症、ベースラインで不要だった侵襲性人工換気、死亡)と後期(72~120時間)治療失敗(画像悪化、重度呼吸不全の持続、ショック発症、ベースラインで不要だった侵襲性人工換気、死亡)を組み合わせた複合エンドポイントをプライマリーアウトカムとして、ステロイド投与群(メチルプレドニゾロン0.5mg/kgを12時間ごと、5日間)のほうが治療失敗は少なかったという結果でした。ただし、複合エンドポイントで有意差がついた、とされる場合には解釈が必要です。アウトカムの発生が少ない場合は、統計学的な差を検出しにくいので、より大きなサンプルサイズが必要になります。しかし、実行可能性の問題でそこまでたくさんの対象患者をリクルートできないことが予想される場合は、エンドポイントになる状態を組み合わせて、複合エンドポイントで評価することがあります。本試験をよくみると、2群間で最も差がついているのは、後期(72~120時間)の「画像所見の悪化」でした。ステロイドを投与して炎症を抑えれば、一時的に画像はよくなることが多いかもしれませんが、もう少し長いスパンで考えるとどうでしょうか。セカンダリーエンドポイントである入院期間や入院中の死亡割合ではほとんど差がありません。一時的に「画像だけ」がよくなってもなぁ、というのが筆者の正直な感想です。 参考文献 1) Minneci PC, et al. Ann Intern Med. 2004; 141: 47-56. 2) 田中竜馬. ARDSにステロイドは有効か?. In: 田中竜馬編. 集中治療999の謎. メディカル・サイエンス・インターナショナル; 2015. p. 151-152. 3) Guerin C, et al. Intensive Care Med. 2014 Dec 20. [Epub ahead of print] 4) 八板謙一郎、山口征啓. 「よくならない場合」に何を考えるか?. In: 山本舜悟編. jmed28あなたも名医!侮れない肺炎に立ち向かう31の方法. 日本医事新報社; 2013. p. 105-113. 5) Meijvis SC, et al. Lancet. 2011; 377: 2023-2030. 6) Blum CA, et al. Lancet. 2015 Jan 16 [Epub ahead of print] 7) McGee S, et al. Arch Intern Med. 2008; 168: 1034-1046. 8) Juurlink DN, et al. N Engl J Med. 2004; 351: 543-551. 9) Ewig S, et al. Am J Respir Crit Care Med. 1998; 158:1102-1108. 10) Fine MJ, et al. N Engl J Med. 1997; 336: 243-250. 11) Torres A, et al. JAMA. 2015; 313: 677-686.

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脱毛性毛包炎、イソトレチノインは有効な治療選択肢

 脱毛性毛包炎は瘢痕性脱毛症の原因となる。現在、最もよく用いられている治療薬は抗菌薬であるが、再発率が高いのが特徴で耐性菌の発現も促進する。ドイツ・ルートヴィヒ・マクシミリアン大学のJulia. K. Tietze氏らは、レトロスペクティブな検討においてイソトレチノイン経口薬(国内未承認)が有効な治療選択肢となることを示した。著者は、「脱毛性毛包炎に対する第1選択としての抗菌薬の使用をしっかり見直し再評価する必要がある」とまとめている。Journal of the European Academy of Dermatology and Venereology誌オンライン版2015年2月24日号の掲載報告。 研究グループは、脱毛性毛包炎に対するさまざまな治療薬の効果を評価する目的で、脱毛性毛包炎患者28例についてレトロスペクティブに治療成績を分析した。 主な結果は以下のとおり。・用いられた治療薬は、クリンダマイシン、リファンピシン、クラリスロマイシン、ダプソンおよびイソトレチノインであった。・クリンダマイシンとリファンピシンの併用は、治療終了後、短期間で80%の患者が再発しており、持続的な寛解という点で最も治療効果が低かった。・クラリスロマイシンおよびダプソンでは、長期間安定した寛解が得られた(それぞれ33%および43%)。・今回の検討で最も治療効果が高かったのはイソトレチノインで、患者の90%が治療中止後約2年間安定した寛解を得られた。

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薬剤性アナフィラキシー

概説 アナフィラキシーのtrigger(誘因)は蜂毒、食物、薬剤、運動など多彩であり、頻度が最も高いものは食物である。それに対し、アナフィラキシーによる死亡例に限ると、最も多い誘因は薬剤である。薬剤がアナフィラキシーを起こす場合には、投与直後から症状を生じ重症化しやすい(誘因に曝露されてから速やかにアナフィラキシーを発症するほど、重症化しやすいという一般的傾向がある)ということに加えて、過去に既往がなく不意打ちの形で生じるため、アドレナリン自己注射薬を携帯していないことがほとんどであるという特徴がある。 欧米の疫学調査においても、薬剤性アナフィラキシーによる死亡例は漸増傾向にあり、これは、世界的に薬剤が多様化し、薬剤総数が増加の一途をたどっていることが背景に挙げられている。薬剤によりアナフィラキシーを起こさないのは水と塩分くらいのものであり、われわれが処方する薬剤や日常の処置で曝露される物質(薬剤としては認識されない、皮膚消毒液、ラテックス、器具の消毒薬の残留にも配慮する)は無数に存在する。常識的なことであるが、必要性が曖昧な処置は行わない・薬剤は投与しないことが基本姿勢として重要である。 発症機序と分類 IgEが関与するI型反応が典型的であるが、X線造影剤やNSAIDsなどはIgEが通常関与することなくアナフィラキシーを起こす。従来は、前者(IgEが関与するもの)をアナフィラキシー、後者(IgEが関与しないもの)をアナフィラキシー様反応(anaphylactoid reaction)と呼んだが、世界的な趨勢で両者ともアナフィラキシーと呼ばれるようになってきており、日本アレルギー学会の「アナフィラキシーガイドライン1)」でもこの立場をとっている。今でもアナフィラキシーとアナフィラキシー様反応に区別する方法が用いられることはあるが、将来的にはアナフィラキシーの診断名の下でアレルギー性(IgEが関与するもの・IgE以外の免疫機構が関与するものに分けられる)、非アレルギー性に大別される方向に向かうと考えられる。 たとえば、ペニシリンとNSAIDを内服してアナフィラキシーを発症した場合、従来はアナフィラキシー(様)反応とまず診断し、後日の精査で原因がペニシリンであればアナフィラキシー、NSAIDであればアナフィラキシー様反応と診断名を書き換えていたが、「様反応」を用いないことにしておけば、救急診療で付けられたアナフィラキシーの診断名は、後日原因薬が特定されても書き換えられることなく、踏襲されていくことになる。 診療上の注意点アナフィラキシー発症時は、原因の可能性がある薬剤の中止(たとえば、点滴投与中の抗菌薬を中止し、薬剤を含まない輸液に変更する)とアドレナリン筋注を行い、循環と呼吸の状態を把握する。アナフィラキシーから回復後、あるいは既往を有する患者に対しては、再発を回避するよう、適切な指導を行う。「アナフィラキシーガイドライン」では誘因となる医薬品として、抗菌薬、解熱鎮痛薬(NSAIDs等)、抗腫瘍薬、局所麻酔薬、筋弛緩薬、造影剤、輸血等、生物学的製剤、アレルゲン免疫療法を挙げ、これらによるアナフィラキシーの特徴を簡潔に述べるとともに、手術中に生ずるアナフィラキシーの主な誘因(とくに筋弛緩薬、抗菌薬、ラテックス)にも触れているので、それらに関してはガイドラインを参照されたい。実地診療に当たっておられる先生方に留意していただきたいこととしては、以下のものが挙げられる。 内服薬を誘因とするアナフィラキシーについては、複数薬剤が誘因に挙げられ、病歴だけでは特定に至らないことが多い。また、食後に内服した場合、食事内容が誘因である可能性も念頭に置く必要がある。 医療処置に伴ってアナフィラキシーを発症した場合には、ラテックスが原因候補の1つに挙げられることが多い。ラテックスおよび交差反応性のあるシラカンバ、ハンノキ花粉の特異的IgEは、どの医師においても測定が可能であり参考になる(診断が確定するわけではないが)。 アナフィラキシーの発症前に投与された薬剤、摂取した食品と摂取時刻、症状の経過を、詳細に患者に記録しておいていただくことが重要。この情報は誘因の特定に大変に役立つ。 誘因の特定や安全に使用可能な薬剤の選定、あえて誘因となった薬剤を使わざるを得ない(脱感作が必要)といった場面では、ぜひアレルギー専門医に紹介いただきたい。アレルギー専門医にとって薬剤アレルギーへの対応は時間と労力を要するのだが、薬剤性アナフィラキシーは患者のQOLのためにも、生命予後のためにも重要な疾患であることは昔から一貫している。なお、薬剤を用いた即時型皮膚反応検査(プリックテストや皮内テスト)は、IgEが関与する反応において有用性が高いが、アナフィラキシーを起こした患者に不用意に行うとアナフィラキシーを誘発する可能性があるため、外来ですぐに施行できるわけではないことをご承知おきいただきたい。1)日本アレルギー学会監修.Anaphylaxis対策特別委員会編.アナフィラキシーガイドライン.日本アレルギー学会;2014.

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成人の季節性インフルエンザに対するオセルタミビルの効果:ランダム化比較試験のメタ解析(解説:吉田 敦 氏)-319

 ノイラミニダーゼ阻害薬であるオセルタミビルは、現在世界で最も使用されている抗インフルエンザ薬であり、パンデミックに対する備えとしてもその位置付けは大きい。その効果についてはこれまで多くの臨床試験と経験が蓄積されてきたが、今回あらためてランダム化比較試験のメタ解析が行われ、成人例におけるオセルタミビルの効果と副作用が検証された。Lancet誌オンライン版2015年1月30日号の発表。用いられたランダム化比較試験 対象として解析されたのは、成人に75mg 1日2回投与を行ったランダム化プラセボ対照二重盲検試験であり、これまで論文として発表された、あるいはロシュ社がスポンサーになって施行された未発表のものを含む。インフルエンザ様症状を訴えて来院した例についてランダム化して投与を行い、一部ではその後ウイルス分離あるいは抗体検査を行い、その結果によってインフルエンザウイルス感染症の証拠を得た(Intention-to-treat infected population)。すべての症状が消失するまでの時間をアウトカムとし、投与により短縮された時間を解析した。同時に、合併症・副作用の内容と出現頻度、入院数を比較した。9試験の集計結果 合計して4,328例が解析可能であった。上記の検査で、インフルエンザウイルスの感染が判明した集団(Intention-to-treat infected population)に絞った解析では、プラセボ群に比べ、オセルタミビル群は解熱までの期間が21%短かった(時間比0.79、95%CI:0.74~0.85、p<0.0001)。中央値で比較しても、プラセボ群122.7時間に対し、オセルタミビル群97.5時間であった。一方、検査の有無にかかわらず、インフルエンザ様症状を訴えた患者全体(Intention-to-treat population)を対象として解析すると、その効果はやや弱くなったが、それでも17.8時間の違いがみられた。合併症と副作用に及ぼす影響 Intention-to-treat infected populationでの解析では、抗菌薬の使用が必要となる下気道感染合併症を来した例は、やはりオセルタミビル群で少なく(リスク比0.56、95%CI:0.42~0.75、p=0.0001、オセルタミビル群4.9%、プラセボ群8.7%)、入院が必要となる例も少なかった(リスク比0.37、95%CI:0.17~0.81、p=0.013、オセルタミビル群0.6%、プラセボ群1.7%)。安全性については、オセルタミビル群で嘔気(リスク比1.60、95%CI:1.29~1.99、p<0.0001、オセルタミビル群9.9%、プラセボ群6.2%)と、嘔吐(リスク比2.43、95%CI:1.83~3.23、p<0.0001、オセルタミビル群8.0%、プラセボ群3.3%)が増加したが、精神神経疾患としての影響は見られず、重篤な副作用も認められなかった。オセルタミビルの位置付けと今後 今回のメタ解析では、オセルタミビルによる症状消失までの時間が約1日短くなること、下気道感染合併例・入院例が少なくなること、嘔気と嘔吐が増えたことが確認された。この結果はこれまでの観察研究や経験とおおよそ合致しており、わが国では比較的納得しやすい結果であろう。なお、メタ解析の基になった解析の中で、標本数の少ない解析についてはとくに、オセルタミビル群で差が出た解析に偏って報告されているバイアスは否定できない。しかし、これらの解析の重み付けは少なくなっている。 一方で著者らは、本研究の限界として、元々の解析では呼吸器感染症の合併をアウトカムに設定しておらず、特異的な診断法がなく診断されていること、入院例・肺炎例共に数が少ないことを挙げている。また、予防投与で用いられるような、長期投与での安全性・利便性についても、データを示していない。 オセルタミビルを含む抗インフルエンザ薬について、今後もさまざまな角度から検討がなされ、より厳密な情報が得られることに期待したい。登場してから10年余りでここまで広く使用されているが、それ以前と比べて何がよくなったのか、常に考えるべきではないだろうか。

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アナフィラキシーの治療の実際

アナフィラキシーの診断 詳細は別項に譲る。皮膚症状がない、あるいは軽い場合が最大20%ある。 治療(表1)発症初期には、進行の速さや最終的な重症度の予測が困難である。数分で死に至ることもあるので、過小評価は禁物。 ※筆者の私見適応からは、呼吸症状に吸入を先に行う場合があると読めるが、筆者は呼吸症状が軽症でもアナフィラキシーであればアドレナリン筋注が第1選択と考える。また、適応に「心停止」が含まれているが、心停止にはアドレナリン筋注は効果がないとの報告9)から、心停止の場合は静注と考える。表1を拡大する【姿勢】ベッド上安静とし、嘔吐を催さない範囲で頭位を下げ、下肢を挙上して血液還流を促進し、患者の保温に努める。アナフィラキシーショックは、distributive shockなので、下肢の挙上は効果あるはず1)。しかし、下肢拳上を有効とするエビデンスは今のところない。有害ではないので、薬剤投与の前に行ってもよい。【アドレナリン筋肉注射】気管支拡張、粘膜浮腫改善、昇圧作用などの効果があるが、cAMPを増やして肥満細胞から化学物質が出てくるのを抑える作用(脱顆粒抑制作用)が最も大事である。α1、β1、β2作用をもつアドレナリンが速効性かつ理論的第1選択薬である2)。緊急度・重症度に応じて筋注、静注を行う。血流の大きい臀部か大腿外側が薦められる3)。最高血中濃度は、皮下注で34±14分、筋注で8±2分と報告されており、皮下注では遅い4)。16~35%で2回目の投与が必要となる。1mLツベルクリンシリンジを使うと針が短く皮下注になる。1)アドレナリン1回0.3~0.5mg筋注、5~30分間隔 [厚生労働省平成20年(2008)5)]2)アドレナリン1回0.3~0.5mg筋注、5~15分間隔 [UpToDate6)]3)アドレナリン1回0.01mg/kg筋注 [日本アレルギー学会20141)]4)アドレナリン1回0.2~0.5mgを皮下注あるいは筋注 [日本化学療法学会20047)]5)アドレナリン(1mg)を生理食塩水で10倍希釈(0.1mg/mL)、1回0.25mg、5~15分間隔で静注 [日本化学療法学会20047)]6)アドレナリン持続静脈投与5~15µg/分 [AHA心肺蘇生ガイドライン20109)]わが国では、まだガイドラインによってはアドレナリン投与が第1選択薬になっていないものもあり(図1、図2)、今後の改訂が望まれる。 ※必ずしもアドレナリンが第1選択になっていない。 図1を拡大する ※皮膚症状+腹部症状のみでは、アドレナリンが第1選択になっていない。図2を拡大する【酸素】気道開通を評価する。酸素投与を行い、必要な場合は気管挿管を施行し人工呼吸を行う。酸素はリザーバー付マスクで10L/分で開始する。アナフィラキシーショックでは原因物質の使用中止を忘れない。【輸液】hypovolemic shockに対して、生理食塩水か、リンゲル液を開始する。1~2Lの急速輸液が必要である。維持輸液(ソリタ-T3®)は血管に残らないので適さない。【抗ヒスタミン薬、H1ブロッカー】経静脈、筋注で投与するが即効性は望めない。H1受容体に対しヒスタミンと競合的に拮抗する。皮膚の蕁麻疹には効果が大きいが、気管支喘息や消化器症状には効果は少ない。第1世代H1ブロッカーのジフェンヒドラミン(ベナスミン®、レスタミン®)クロルフェニラミンマレイン酸塩(ポララミン®)5mgを静注し、必要に応じて6時間おきに繰り返す。1)マレイン酸クロルフェニラミン(ポララミン®)2.5~5mg静注 [日本化学療法学会20047)]2)ジフェンヒドラミン(ベナスミン®、レスタミン®)25~50mg緩徐静注 [AHA心肺蘇生ガイドライン20109)] 保険適用外3)ジフェンヒドラミン(ベナスミン®、レスタミン®)25~50mg静注 [UpToDate6)]4)経口では第2世代のセチリジン(ジルテック®)10mgが第1世代より鎮静作用が小さく推奨されている [UpToDate6)] 経口の場合、効果発現まで40~60分【H2ブロッカー】心収縮力増強や抗不整脈作用がある。蕁麻疹に対するH1ブロッカーに相乗効果が期待できるがエビデンスはなし。本邦のガイドラインには記載がない。保険適用外に注意。1)シメチジン(タガメット®)300mg経口、静注、筋注 [AHA心肺蘇生ガイドライン9)] シメチジンの急速静注は低血圧を引き起こす [UpToDate6)]2)ラニチジン(ザンタック®)50mgを5%と糖液20mLに溶解して5分以上かけて静注 [UpToDate6)]【βアドレナリン作動薬吸入】気管支攣縮が主症状なら、喘息に用いる吸入薬を使ってもよい。改善が乏しい時は繰り返しての吸入ではなくアドレナリン筋注を優先する。気管支拡張薬は声門浮腫や血圧低下には効果なし。1)サルブタモール吸入0.3mL [日本アレルギー学会20141)、UpToDate6)]【ステロイド】速効性はないとされてきたが、ステロイドのnon-genomic effectには即時作用がある可能性がある。重症例ではアドレナリン投与後に、速やかに投与することが勧められる。ステロイドにはケミカルメディエーター合成・遊離抑制などの作用により症状遷延化と遅発性反応を抑制することができると考えられてきた。残念ながら最近の研究では、遅発性反応抑制効果は認められていない10)。しかしながら、遅発性反応抑制効果が完全に否定されているわけではない。投与量の漸減は不要で1~2日で止めていい。ただし、ステロイド自体が、アナフィラキシーの誘因になることもある(表2)。とくに急速静注はアスピリン喘息の激烈な発作を生じやすい。アスピリン喘息のリスクファクターは、成人発症の気管支喘息、女性(男性:女性=2:3~4)、副鼻腔炎や鼻茸の合併、入院や受診を繰り返す重症喘息、臭覚低下。1)メチルプレドニゾロンコハク酸エステルナトリウム(ソル・メドロール®)1~2mg/kg/日 [UpToDate6)]2)ヒドロコルチゾンコハク酸エステルナトリウム(ソル・コーテフ®)100~200mg、1日4回、点滴静注 [日本化学療法学会20047)]3)ベタメタゾン(リンデロン®)2~4mg、1日1~4回、点滴静注11) 表2を拡大する【グルカゴン】βブロッカーの過量投与や、低血糖緊急時に使われてきた。グルカゴンは交感神経を介さずにcAMPを増やしてアナフィラキシーに対抗する力を持つ。βブロッカーを内服している患者では、アドレナリンの効果が期待できないことがある。まずアドレナリンを使用して、無効の時にグルカゴン1~2mgを併用で静注する12)。β受容体を介さない作用を期待する。グルカゴン単独投与では、低血圧が進行することがあるので注意。アドレナリンと輸液投与を併用する。急速静注で嘔吐するので体位を側臥位にして気道を保つ。保険適用なし。1)グルカゴン1~5mg、5分以上かけて静注 [UpToDate6)]【強力ミノファーゲンC】蕁麻疹単独には保険適用があるがアナフィラキシーには効果なし。観察 いったん症状が改善した後で、1~8時間後に、再燃する遅発性反応患者が4.5~23%存在する。24時間経過するまで観察することが望ましい。治療は急いでも退室は急ぐべきではない13)。 気管挿管 上記の治療の間に、嗄声、舌浮腫、後咽頭腫脹が出現してくる患者では、よく準備して待機的に挿管する。呼吸機能が悪化した場合は、覚醒下あるいは軽い鎮静下で挿管する。気道異物窒息とは違い準備する時間は取れる。 筋弛緩剤の使用は危険である。気管挿管が失敗したときに患者は無呼吸となり、喉頭浮腫と顔面浮腫のためバッグバルブマスク換気さえ不能になる。 気管挿管のタイミングが遅れると、患者は低酸素血症の結果、興奮状態となり酸素マスク投与に非協力的となる。 無声、強度の喉頭浮腫、著明な口唇浮腫、顔面と頸部の腫脹が生じると気管挿管の難易度は高い。喉頭展開し、喉頭を突っつくと出血と浮腫が増強する。輪状甲状靭帯穿刺と輪状甲状靭帯切開を含む、高度な気道確保戦略が必要となる9)。さらに、頸部腫脹で輪状軟骨の解剖学的位置がわからなくなり、喉頭も皮膚から深くなり、充血で出血しやすくなるので輪状甲状靭帯切開も簡単ではない。 絶望的な状況では、筆者は次の気道テクニックのいずれかで切り抜ける。米国麻酔学会の困難気道管理ガイドライン2013でも、ほぼ同様に書かれている(図3)14)。 1)ラリンゲアルマスク2)まず14G針による輪状甲状靭帯穿刺、それから輪状甲状靭帯切開3)ビデオ喉頭鏡による気管挿管 図3を拡大する心肺蘇生アナフィラキシーの心停止に対する合理的な処置についてのデータはない。推奨策は非致死的な症例の経験に基づいたものである。気管挿管、輪状甲状靭帯切開あるいは上記気道テクニックで気道閉塞を改善する。アナフィラキシーによる心停止の一番の原因は窒息だからだ。急速輸液を開始する。一般的には2~4Lのリンゲル液を投与すべきである。大量アドレナリン静注をためらうことなく、すべての心停止に用いる。たとえば1~3mg投与の3分後に3~5mg、その後4~10mg/分。ただしエビデンスはない。バソプレシン投与で蘇生成功例がある。心肺バイパス術で救命成功例が報告されている9)。妊婦対応妊婦へのデキサメタゾン(デカドロン®)投与は胎盤移行性が高いので控える。口蓋裂の報告がある15)。結語アナフィラキシーを早期に認識する。治療はアドレナリンを筋注することが第一歩。急速輸液と酸素投与を開始する。嗄声があれば、呼吸不全になる前に準備して気管挿管を考える。 1) 日本アレルギー学会監修.Anaphylaxis対策特別委員会編.アナフィラキシーガイドライン. 日本アレルギー学会;2014. 2) Pumphrey RS. Clin Exp Allergy. 2000; 30: 1144-1150. 3) Hughes G ,et al. BMJ.1999; 319: 1-2. 4) Sampson HA, et al. J Allergy Clin Immunol. 2006; 117: 391-397. 5) 厚生労働省.重篤副作用疾患別対応マニュアルアナフィラキシー.平成20年3月.厚生労働省(参照2015.2.9) 6) F Estelle R Simons, MD, FRCPC, et al. Anaphylaxis: Rapid recognition and treatment. In:Uptodate. Bruce S Bochner, MD(Ed). UpToDate, Waltham, MA.(Accessed on February 9, 2015) 7) 日本化学療法学会臨床試験委員会皮内反応検討特別部会.抗菌薬投与に関連するアナフィラキシー対策のガイドライン(2004年版).日本化学療法学会(参照2015.2.9) 8) 日本小児アレルギー学会食物アレルギー委員会.第9章治療.In:食物アレルギー診療ガイドライン2012.日本小児アレルギー学会(参照2015.2.9) 9) アメリカ心臓協会.第12章 第2節 アナフィラキシーに関連した心停止.In:心肺蘇生と救急心血管治療のためのガイドライン2010(American Heart Association Guidelines for CPR & ECC). AHA; 2010. S849-S851. 10) Choo KJ, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2012; 4: CD007596. 11) 陶山恭博ほか. レジデントノート. 2011; 13: 1536-1542. 12) Thomas M, et al. Emerg Med J. 2005; 22: 272-273. 13) Rohacek M, et al. Allergy 2014; 69: 791-797. 14) 駒沢伸康ほか.日臨麻会誌.2013; 33: 846-871. 15) Park-Wyllie L, et al. Teratology. 2000; 62: 385-392.

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Dr.山本の感染症ワンポイントレクチャー Q9

Q9 急性腎盂腎炎の標準的治療期間は10~14日とされますが、外来診療において単純性であれば治療開始後数日で解熱することが多く、抗菌薬を2週間も継続する必要はないのではと思われる症例が多々あります。実際1週間で治療終了しても再燃しない方がほとんどですが、いかがお考えでしょうか? 『サンフォード感染症治療ガイド2014』によれば、腎盂腎炎の治療期間は14日間(シプロフロキサシンを使用する場合は7日間、750mgのレボフロキサシンを使用する場合は5日間)と記載されています1)。 14日間なんて長すぎる!と思う人も少なくないでしょう。かくいう筆者もそう思ったことがあります。 腎盂腎炎に限らず、感染症の治療期間に関する推奨は強い根拠に裏付けされているものは案外多くありません。近年、感染症全般に治療期間短縮化の傾向がありますが、現在の14日間というのはどれくらい根拠があるのか、それを探るために歴史を紐解いてみたいと思います。 1999年のIDSA(米国感染症学会)ガイドラインを読むと、昔は静注薬で6週間の治療が薦められていた時代もあったそうです2)。つまり、それほど治りにくく再発しやすい感染症という認識だったのでしょう。1987年のStammらの報告によれば、2週間と6週間の治療期間を比較し、両者は遜色なかったという結果でした3)。ほかにも比較試験ではありませんが、1980~1990年代の研究で10~14日間の治療でも結構大丈夫そうだということがわかりました4)-6)。一方、βラクタム薬を用いた1週間と3週間あるいは4週間治療の比較では、1週間治療のほうが再発は多かったとされます7)-8)。まとめると、1週間は短すぎるものの、2週間ならどうも大丈夫なようだということで、2週間治療に落ち着いたという経緯だったようです。筆者の単なる推測ですが、6週間治療が薦められていた1960~1970年代は腹部エコー・CT検査などの画像検査が今ほど発達していなかったでしょうから、腎膿瘍との区別が難しく、短期間治療での再発が多かったのではないかと思います。2000年以降になると、フルオロキノロンを用いた研究でさらに治療期間短縮が模索されます。シプロフロキサシンなら7日間、レボフロキサシン750mg/日なら5日間でも従来の治療期間と治療効果は遜色ないことが示されました9)-12)。2013年に発表されたメタ分析によると、菌血症症例を含む急性腎盂腎炎で7日間以下の治療は7日間よりも長い治療と比べて治療効果はほぼ差がないという結果でした13)。ただし、尿路に異常のある症例では、短期間治療のほうが再発のリスクが高くなるようです(リスク比1.78、95%信頼区間1.02~3.1)13)。尿路に異常があるようないわゆる複雑性腎盂腎炎でなければ、フルオロキノロンを用いる場合には、7日間治療でも十分そうです。しかし、国内では尿路感染症の代表的な起因菌である大腸菌のフルオロキノロンに対する耐性化が進んでいます。2013年のJANIS(厚生労働省院内感染対策サーベイランス事業)のデータでは、レボフロキサシンに耐性を示す大腸菌の割合は約35%でした14)(入院検体ですので、外来検体も含めればもう少し低くなるかもしれません)。フルオロキノロンは腎盂腎炎の治療に第1選択薬としては使用しづらくなっています。筆者にとってフルオロキノロンはトランプに例えるとジョーカーのような存在です。スペクトラムは広く、肺炎球菌や緑膿菌、マイコプラズマやレジオネラにも活性があり、腸管吸収もよいので内服での外来治療にも向いています。しかし、トランプでジョーカーを使える機会が限られているように、フルオロキノロンは使用すると比較的容易に耐性を獲得されて使えなくなってしまいます。外来での尿路感染症治療が「ここぞ」という場面かどうかは個人の価値観によりますが、貴重なジョーカーが乱用されてしまった結果、すでに「ここぞ」という場面で使えなくなってしまっているのは非常に残念です。βラクタム薬やST合剤による急性腎盂腎炎の7日間治療を標準的治療にするには、まだデータが乏しいように感じますので、現状では14日間治療を標準と考えておいたほうがよいと思います。短期間治療でも再発が増える程度と考えれば、再発した場合に仕切り直す余裕がある場合は、慎重にフォローアップを行うという前提で、短期間で終了することもオプションの1つかもしれません。 参考文献 1) Gilbert DN, et al. 日本語版サンフォード感染症治療ガイド2014: ライフ・サイエンス出版; 2014. 2) Warren JW, et al. Clin Infect Dis. 1999; 29: 745-758. 3) Stamm WE, et al. Ann Intern Med. 1987; 106: 341-345. 4) Johnson JR, et al. J Infect Dis. 1991; 163: 325-330. 5) Ward G, et al. 1991; 20: 258-261. 6) Safrin S, et al. Am J Med. 1988; 85: 793-798. 7) Jernelius H, et al. Acta Med Scand. 1988; 223: 469-477. 8) Ode B, et al. Acta Med Scand. 1980; 207: 305-307. 9) Talan DA, et al. JAMA. 2000; 283: 1583-1590. 10) Klausner HA, et al. Curr Med Res Opin. 2007; 23: 2637-2645. 11) Peterson J, et al.Urology. 2008; 71: 17-22. 12) Sandberg T, et al. Lancet. 2012; 380: 484-490. 13) Eliakim-Raz N, et al. J Antimicrob Chemother. 2013; 68: 2183-2191. 14) JANIS. 公開情報 2013年1月~12月 年報 院内感染対策サーベイランス 検査部門(参照 2015.2.12)

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オセルタミビルは有効か?メタ解析で検討/Lancet

 成人インフルエンザ患者に対しオセルタミビル(商品名:タミフル)は、臨床的な症状緩和までの時間を短縮し、下気道合併症や入院リスクを低下することが明らかにされた。英国のロンドン大学公衆衛生学・熱帯医学大学院のJoanna Dobson氏らが、9試験4,328例を組み込んだメタ解析の結果、報告した。なお安全性に関しては、悪心と嘔吐の発生増大が判明したという。本分析では神経学的または精神医学的な障害や重篤な有害事象の記録はなかったと報告している。Lancet誌オンライン版2015年1月30日号掲載の報告より。メタ解析で、有効性、安全性を評価 インフルエンザの治療でオセルタミビルは広く使用されるようになっているが、有効性については疑問符がついたままである。研究グループは、対プラセボ比較のすべての臨床試験の個人データを組み込んだメタ解析を行い、成人インフルエンザ患者におけるオセルタミビル治療の症状緩和、合併症、安全性について調べた。 インフルエンザ様疾患の成人患者についてオセルタミビル治療を行い1つ以上のアウトカムを報告していた試験を適格とした。また、Medline、PubMed、Embase、the Cochraneなどの電子データベースで、2014年1月1日以前に発表された試験を検索し、intention-to-treat感染集団、intention-to-treat集団、および同安全性集団について分析した。 主要アウトカムは、加速ハザードモデルで分析した、全症状緩和までの時間とした。また、リスク比とMantel-Haenszel法を用いて、合併症、入院、および安全性アウトカムについて評価した。対プラセボ、全症状緩和までの時間21%短縮、合併症、入院も有意に低下 解析には、9試験4,328例のデータが組み込まれた。 intention-to-treat感染集団の分析において、オセルタミビルはプラセボと比較して、全症状緩和までの時間を21%短縮したことが判明した(時間比:0.79、95%信頼区間[CI]:0.74~0.85、p<0.0001)。緩和までの時間中央値は、オセルタミビル群97.5時間、プラセボ群122.7時間であった(差:-25.2時間、95%CI:-36.2~-16.0)。 intention-to-treat集団の分析では、推定治療効果は減弱した(時間比:0.85)が、両群差は高値で有意なままであった(中央値差:-17.8時間)。 intention-to-treat感染集団の分析では、無作為化後48時間超で抗菌薬を必要とした下気道合併症が低下したことを認めた(リスク比[RR]:0.56、95%CI:0.42~0.75、p=0.0001、オセルタミビル4.9% vs. プラセボ8.7%、リスク差:-3.8%、95%CI:-5.0~-2.2)。さらに、あらゆる入院についても低下を認めた(同:0.37、0.17~0.81、p=0.013、0.6% vs. 1.7%、-1.1%、95%CI:-1.4~-0.3)。 安全性に関しては、オセルタミビルは悪心(同:1.60、1.29~1.99、p<0.0001、9.9% vs. 6.2%、3.7%、1.8~6.1)、嘔吐(同:2.43、1.83~3.23、p<0.0001、8.0% vs. 3.3%、4.7%、2.7~7.3)のリスク増大が認められた。

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市中肺炎患者に対するステロイド投与は症状が安定するまでの期間を短くすることができるか?(解説:小金丸 博 氏)-311

 市中肺炎では過剰な炎症性サイトカインによって肺が障害され、肺機能が低下すると考えられている。そのため、理論的には抗炎症効果を有するステロイドを併用することが有効と考えられ、肺炎の治療に有益かどうか1950年代から議論されてきた。しかしながら、最近報告された2つのランダム化比較試験においても相反する結果が得られており、いまだにステロイド併用の有益性について結論が出ていない1)2)。 本研究は、入院が必要な市中肺炎患者に対し、ステロイドを併用投与することの有用性を調べるために行った、多施設共同二重盲検ランダム化プラセボ対照比較試験である。18歳以上の市中肺炎患者785例を、(1)プレドニゾン50mg/日を7日間投与する群(392例)と、(2)プラセボ投与群(393例)に割り付けた。プライマリエンドポイントは、症状が安定化(バイタルサインが少なくとも24時間安定)するまでの日数とした。 その結果、症状が安定化するまでの期間の中央値は、プレドニゾン投与群が3.0日、プラセボ投与群が4.4日であり、プレドニゾン投与群のほうが有意に短かった(ハザード比1.33、95%信頼区間:1.15~1.50、p<0.0001)。プライマリエンドポイント以外の結果では、入院期間はプレドニゾン投与群のほうが約1日短かった。抗菌薬の総投与期間に有意差はなかったが、静脈注射での投与期間はプレドニゾン投与群で0.89日短かった。30日目までの肺炎関連合併症の発症率は両群間で有意差はなかったものの、プレドニゾン投与群で低い傾向がみられた。30日時点での総死亡率に差はなかった。 プレドニゾン投与群では、インスリンを要する高血糖の頻度が有意に高かった(19% vs 11%、オッズ比1.96、95%信頼区間:1.31~2.93、p=0.0010)。ステロイドによるその他の有害事象はまれであり、両群間で差はなかった。 適切な抗菌薬にステロイドを短期間併用することで、全身状態が早く安定化するのは理解できる結果である。ステロイドを併用することによって、入院期間や抗菌薬の静注投与期間を短縮できるのであれば、結果として入院費を抑制でき、患者にとってメリットになるかもしれない。 しかし、この研究を根拠に、入院を要する市中肺炎患者全例にステロイドを併用するかどうかを決めることは難しいと思う。ステロイドは、高血糖以外にも多くの副作用がある薬剤であり、死亡率の改善など誰もが納得できる理由がなければ全例に投与する必然性は乏しい。本研究の「症状が安定化するまでの日数」というプライマリエンドポイントの設定には疑問が残る。 最後に、実臨床ではステロイドの併用が必要と思われる肺炎患者がいるのも事実である。現時点では患者の基礎疾患、重症度、肺障害の程度などから総合的にステロイドの適応を判断することが多いと思われる。とくにICUに入室するような超重症肺炎患者にステロイドを併用すべきかどうかのデータは不足しており、今後のさらなる研究が待たれる。

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Dr.山本の感染症ワンポイントレクチャー Q8

Q8 周術期の予防的抗菌薬について教えてください。 術創と離れた場所から耐性菌が検出されている患者、たとえば膀胱留置カテーテルからMRSAが分離されているが尿路感染ではなく、頸部の手術を予定しているような場合に、予防的抗菌薬はセファゾリン以外の抗MRSA薬を選択すべきでしょうか? 強い推奨ではありませんが、ガイドラインではバンコマイシンの使用を検討すべきとされています1)。 尿培養からMRSAが検出されている場合、MRSAの定着が尿だけに限局していると考えるのはいささか楽観的すぎるかもしれません。他の部位にも定着している可能性を考えておく必要があります。ただし、このような場合にバンコマイシンの予防投与を行って手術部位感染症(SSI)が本当に減るのかは微妙なところです。 最近のメタ分析によると、グリコペプチド系抗菌薬(バンコマイシン、テイコプラニン)による周術期予防投与はβラクタム薬と比べてSSI全体の発生頻度はほとんど変わりませんでした2)。しかし、耐性ブドウ球菌や腸球菌によるSSIのリスクは、それぞれリスク比0.52(95%信頼区間0.29~0.93)、0.36(95%信頼区間0.16~0.80)とグリコペプチド系のほうが低かったという結果でした2)。逆に、術後の呼吸器感染症はグリコペプチド系のほうが多かった(リスク比1.54、95%信頼区間1.19~2.01)という結果です2)。バンコマイシンはMSSAに対する活性はβラクタム系よりも劣ることと、セファゾリンと比べてグラム陰性桿菌に対する活性がないことにより、効果が相殺されてしまったのではないかと考えられます2)。このため、施設によってはバンコマイシンを使用するときもセファゾリンを併用するところがあるようです1)。また、バンコマイシンを使用する場合にも、その手術部位に応じて推奨されている抗菌薬は併用したほうがよいだろう(たとえば腸管の手術であれば、グラム陰性桿菌や嫌気性菌をカバーするような抗菌薬)とされています1)。ただし、バンコマイシンを併用することが併用しないことよりも全体としてよい結果をもたらすかどうかについてのデータは乏しいので、筆者の場合は相談されたときに個別に判断するようにしています。 参考文献 1) Bratzler DW, et al. Am J Health Syst Pharm. 2013; 70: 195-283. 2) Saleh A, et al. Ann Surg. 2015; 261: 72-80.

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重症患者の連日クロルヘキシジン清拭は無効?/JAMA

 連日のクロルヘキシジン(商品名:ヒビテンほか)清拭は、重症患者の医療関連感染(health care-associated infection)を予防しないことが、米国・ヴァンダービルト大学のMichael J Noto氏らの検討で確認された。入院中の院内感染(医療関連感染)は、入院期間の延長や死亡率の上昇、医療費の増大をもたらす。入院患者の皮膚は病原菌の貯蔵庫であり、医療関連感染の機序には皮膚微生物叢の浸潤が関連すると考えられている。クロルヘキシジンは広域スペクトルの局所抗菌薬であり、清拭に使用すると皮膚の細菌量が減少し、感染が抑制される可能性が示唆されている。AMA誌2015年1月27日号掲載の報告。予防効果をクラスター無作為化クロスオーバー試験で評価 研究グループは、連日クロルヘキシジン清拭による、重症患者における医療関連感染の予防効果を検証するために、実臨床に即したクラスター無作為化クロスオーバー試験を行った。対象は、2012年7月~2013年7月までに、テネシー州ナッシュビル市にある3次医療機関の5つの専門機能別ICU(心血管ICU、メディカルICUなど)に入室した9,340例の患者であった。 5つのICUは、毎日1回、使い捨ての2%クロルヘキシジン含浸タオルを用いて清拭する群(2施設)または抗菌薬を含まないタオルで清拭する群(対照、3施設)に無作為に割り付けられた。これを10週行ったのち、2週の休止期間(この間は抗菌薬非含浸使い捨てタオルで清拭)を置き、含浸タオルと非含浸タオルをクロスオーバーしてさらに10週の清拭治療を実施した。 主要評価項目は、中心静脈ライン関連血流感染(CLABSI)、カテーテル関連尿路感染(CAUTI)、人工呼吸器関連肺炎(VAP)、クロストリジウム・ディフィシル(C.ディフィシル)感染の複合エンドポイントとした。副次評価項目には、多剤耐性菌、血液培養、医療関連血流感染の陽性率などが含まれた。医療費の損失や耐性菌の増加を招く可能性も クロルヘキシジン群に4,488例(年齢中央値:56.0歳、男性:57.6%)、対照群には4,852例(57.0歳、57.8%)が割り付けられた。医療関連感染は、クロルヘキシジン清拭期に55例(CLABSI:4例、CAUTI:21例、VAP:17例、C.ディフィシル感染:13例)、抗菌薬非含浸清拭期には60例(4例、32例、8例、16例、)に認められた。 主要評価項目の発生率は、クロルヘキシジン清拭期が1,000人日当たり2.86、抗菌薬非含浸清拭期は同2.90であり、両群間に有意な差は認められなかった(発生率の差:-0.04、95%信頼区間[CI]:-1.10~1.01、p=0.95)。ベースラインの変量で補正後も、主要評価項目に関して両群間に有意差はみられなかった。 また、院内血流感染、血液培養、多剤耐性菌などの副次評価項目の発生率にも、クロルヘキシジン清拭による変化は認めなかった。さらに、事前に規定されたサブグループ解析では、各ICU別の主要評価項目の発生率にも有意な差はなかった。 著者は、「連日クロルヘキシジン清拭は、CLABSI、CAUTI、VAP、C.ディフィシルによる医療関連感染を予防せず、重症患者に対する連日クロルヘキシジン清拭は支持されない」とまとめ、「クロルヘキシジン清拭はいくつかの専門ガイドラインに組み込まれているが、医療費の損失やクロルヘキシジン耐性菌の増加を招いている可能性がある」と指摘している。

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急性脳卒中への予防的抗菌薬は有用か/Lancet

 急性脳卒中の患者に対し、通常の脳卒中治療に加え第3世代セフトリアキソン(商品名:ロセフィンほか)の予防的投与を行っても、機能的アウトカムの改善にはつながらなかったことが報告された。オランダ・アムステルダム大学のWilleke F. Westendorp氏らが、同患者2,550例について行った多施設共同非盲検無作為化比較試験PASS(Preventive Antibiotics in Stroke Study)の結果、示された。著者は「今回の結果は、成人急性脳卒中患者に対する予防的抗菌薬投与を支持しないものであった」とまとめている。Lancet誌オンライン版2015年1月19日号掲載の報告より。セフトリアキソン2gを24時間ごとに4日間投与 研究グループは2010年7月6日~2014年3月23日にかけて、オランダ30ヵ所の医療機関で、急性脳卒中の患者2,550例を対象に試験を行った。 被験者を無作為に2群に分け、一方には、通常の脳卒中治療に加えセフトリアキソン2gを24時間ごと、4日間にわたり静注投与した。もう一方の群には、通常の脳卒中治療のみを行った。被験者の割り付けは、発症後24時間以内に行われた。 主要エンドポイントは、3ヵ月後の修正Rankinスケールによる機能的アウトカムだった。副次的評価項目は、死亡、感染症、抗菌薬使用の各発生率、入院期間などだった。3ヵ月後の修正Rankin・スケールは同等 無作為化直後に12例が除外となり、2,538例についてintention-to-treat分析を行った(セフトリアキソン群1,268例、対照群は1,270例)。なお3ヵ月のフォローアップを完了したのは2,514例(99%、各群1,257例)だった。 結果、3ヵ月後の修正Rankinスケールは両群において同程度で、セフトリアキソンの予防的投与による機能改善は認められなかった(オッズ比:0.95、95%信頼区間:0.82~1.09、p=0.46)。 また、セフトリアキソン予防的投与による有害事象は認められなかったが、クロストリジウム・ディフィシル菌の過剰繁殖感染が、セフトリアキソン群の2例(1%未満)にのみ認められた(対照群は発生例なし)。

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アナフィラキシー 症例クイズ(1)

3回目のセフェム系抗菌薬静注後に熱感を訴えた糖尿病の女性症例161歳・女性経過3日前に家族でスキーに行ったが途中で疲れてしまい、本人は山小屋で家族が滑り終わるのを待ってホテルに戻った。翌日の夜から微熱があり、当日は38.5℃の発熱と頭痛があるため受診。既往歴高血圧、糖尿病服用薬剤イミダプリル(商品名:タナトリル)5mg、グリメピリド(同:アマリール)1mg

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市中肺炎入院患者、ステロイド追加で早期回復/Lancet

 入院を要する市中肺炎患者の治療において、プレドニゾンの7日間投与による補助療法を行うと、臨床的安定の達成までの期間が有意に短縮することが、スイス・バーゼル大学病院のClaudine Angela Blum氏らの検討で示された。市中肺炎では、血中への炎症性サイトカインの過剰放出により肺機能障害が引き起こされるが、ステロイドは全身性の炎症過程を抑制し、さらに肺炎球菌性肺炎に対する効果も確認されている。一方、ステロイド補助療法のベネフィットに関する議論は1950年代から続いているが、最近の臨床試験の結果は相反するものだという。Lancet誌オンライン版2015年1月18日号掲載の報告。ステロイド追加の有用性をプラセボと比較 研究グループは、市中肺炎に対する短期的ステロイド療法の有用性を評価する多施設共同二重盲検無作為化プラセボ対照比較試験を行った(Swiss National Science Foundationなどの助成による)。対象は、年齢18歳以上、入院後24時間以内の市中肺炎患者であった。 被験者は、プレドニゾン50mg/日を7日間経口投与する群またはプラセボ群に無作為に割り付けられた。主要評価項目は臨床的安定までの期間(バイタルサインが24時間以上安定するまでの日数)とし、intention-to-treat(ITT)解析を行った。 臨床的安定は、体温37.8℃以下、心拍数100回/分以下、自発呼吸数24回/分以下、昇圧薬の投与なしで収縮期血圧90mmHg以上(高血圧患者の場合は100mmHg以上)、精神状態が発症前レベルに回復、経口摂取が可能、適正な酸素供給(PaO2≧60mmHgまたはパルスオキシメトリ≧90%)のすべてを満たす場合と定義した。臨床的安定までの期間が1.4日短縮 2009年12月1日~2014年5月21日に、スイスの7つの3次病院に785例(ITT集団)が登録され、ステロイド群に392例(年齢中央値74歳、男性61%)、プラセボ群には393例(73歳、63%)が割り付けられた。 臨床的安定までの期間中央値は、ステロイド群が3.0日と、プラセボ群の4.4日に比べ有意に短かった(ハザード比[HR]:1.33、95%信頼区間[CI]:1.15~1.50、p<0.0001)。 30日以内の肺炎関連合併症(急性呼吸促迫症候群、膿胸、肺炎の持続)の発現率は、ステロイド群が3%であり、プラセボ群の6%よりも低かったが、有意な差は認めなかった(オッズ比[OR]:0.49、95%CI:0.23~1.02、p=0.056)。 退院までの期間(6.0 vs. 7.0日、p=0.012)および抗菌薬静注投与期間(4.0 vs. 5.0日、p=0.011)はステロイド群で有意に短かったが、肺炎の再発や再入院、ICU入室、全死因死亡、抗菌薬治療期間などは両群間に差はなかった。 有害事象は、ステロイド群の24%、プラセボ群の16%に発現し、有意差が認められた(OR:1.77、95%CI:1.24~2.52、p=0.0020)。ステロイド群では、インスリン治療を要する高血糖の院内発症率が19%と、プラセボ群の11%に比し有意に高かった(OR:1.96、95%CI:1.31~2.93、p=0.0010)。他のステロイド投与に特徴的な有害事象はまれであり、プラセボ群との間に差を認めなかった。 著者は、「プレドニゾン7日間投与は、合併症を増加させずに臨床的安定を早期にもたらした」とまとめ、「この知見は患者の立場からも実際的な価値があり、入院費や有効性の決定要因としても重要である」と指摘している。なお、今回の結果をこれまでのエビデンスに加えてメタ解析を行ったところ、入院期間の有意な短縮が確認されたという。また、著者は「高血糖の発現は予期すべきであり、ステロイド禁忌についても考慮する必要がある」としている。

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1分でわかる家庭医療のパール ~翻訳プロジェクトより 第16回

第16回:犬猫咬傷~傷は縫っていいの? 抗菌薬は必要なの?監修:吉本 尚(よしもと ひさし)氏 筑波大学附属病院 総合診療科 犬や猫などの咬傷はよくみかけるものです。医者になって以来、私はずっと指導医に「咬傷は縫うな!」と教えられ忠実に守ってきましたが、縫合してもしなくても感染率は変わらないとする報告があります1)。しかしながら動物咬傷は、感染が起きやすいのが事実。感染の有無についての丁寧な観察が必要ということはいうまでもありません。また、この元論文2)では、狂犬病ワクチンについても言及していますが、日本では1958年以降は人・動物での狂犬病の国内発生はありません3)。破傷風ワクチンの接種をしっかりとすることに力点を置くべきでしょう。 以下、American Family Physician 2014年8月15日号2) よりアメリカにおいて動物咬傷は全救急症例の1%を占め、それにより5,000万ドル(約60億円)の医療コストがかかっている。多くの症例が犬咬傷 (85~90%)であり、その犠牲者の多くは子供である(咬傷部位は子供の場合は顔や首が多い。ちなみに思春期以上になると四肢が多い)。70%のケースでは知っている犬に咬まれ、50%が挑発をしていないのに咬まれる。一方、猫咬傷は大人の女性に多く、興奮させた場合に咬まれるケースがしばしばである。猫咬傷の場合は傷が深くなることに注意すべきである。処置をする場合は大量の水道水・生理食塩水で洗浄し、腱や骨に達していないかを詳細に確認する必要がある。年老いた犬や猫は、歯周病に罹患していることも多く、感染のリスクが上昇する。猫咬傷、縫合した創、手の傷、免疫抑制された患者に関しては、抗菌薬を考慮すべきであり、その際は、アモキシシリン/クラブラン酸(オーグメンチンなど)が第1選択薬である。多くの研究では、投与期間は3~7日である。ただし、抗菌薬の効果に関しては議論を呼んでいるようで、あるメタアナリシス4)では抗菌薬の投与により2次感染が減少 (HR 0.56、NNT 14)とするものもあれば、コクランレビュー5)では手以外の外傷で、有意差を認めなかった。飼い犬でさえも狂犬病ワクチンを接種していない場合もあるので、あらゆる動物咬傷に対して、狂犬病の予防接種を考慮すべきである。(基礎免疫がある場合)破傷風のワクチンを5年以上打っていない人は、破傷風の予防接種を考慮すべきである。※本内容は、プライマリケアに関わる筆者の個人的な見解が含まれており、詳細に関しては原著を参照されることを推奨いたします。 1) Maimaris C and Quinton DN. Arch Emerg Med. 1988; 5: 156-161. 2) Ellis R and Ellis C. Am fam physician. 2014; 90: 239-243. 3) 平成 24 年度 厚生労働科学研究「動物由来感染症に対するリスク管理手法に関する研究」分担研究班. 狂犬病対応ガイドライン2013.厚生労働省.(参照 2015.1.21) 4) Cummings P. Ann Emerg Med. 1994; 23: 535–540. 5) Medeiros I and Saconato H. Cochrane Database Syst Rev. 2001; CD001738. ※本文中に誤解を招く表現が含まれていたため、1月29日15時30分ごろに内容を一部修正いたしました。

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Dr.山本の感染症ワンポイントレクチャー Q7

Q7 抗菌薬を投与する際、内服・点滴のどちらにするか悩むことがたびたびあります。 炎症数値が非常に高い場合などは点滴で投与とすぐに決められますが、 微妙な数値の時などは結構迷います。 明確な基準はありませんが、炎症反応の値だけで判断しない方がよいと思います。参考になる基準としては、静注治療から内服治療に変更する基準が提唱されています1)。 1)経口投与に問題がない(嘔吐や吸収不良、嚥下障害、意識障害、重度の下痢などがない) 2)臨床的に安定している、敗血症の状態ではない(以下のうち2つ以上を満たさない) 体温>38℃または<36℃ 脈拍数>90回/分 呼吸数>20回/分 白血球数>12,000/μLまたは<4,000/μL 3)静注治療を必要とする特別な感染症ではない(表) 4)経口薬が利用可能である 最初からこの4つの条件を満たすのなら、そもそも静注で治療を行う必要性が低いと思いますので、経口薬で治療を開始してよいだろうと思います。 これらの条件のどれかにひっかかり静注療法で開始した場合も、状態が改善して内服治療の適応と判断すれば速やかにカテーテルは抜去するべきです。 末梢静脈カテーテルでも静脈炎やカテーテル関連血流感染症のリスクになります。毎日カテーテルの必要性を吟味し、不要なカテーテルは早期に抜去しましょう。 参考文献 1) McLaughlin CM, Bodasing N, Boyter AC, et al. Pharmacy-implemented guidelines on switching from intravenous to oral antibiotics: an intervention study. QJM. 2005; 98: 745-752. 2) Nottingham University hospitals Antibiotic Guidelines Committee: Guideline for the intravenous to oral switch of antibiotic therapy. 2010

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クローン病患者に対する腸切除後の治療方針:無作為化比較試験(解説:上村 直実 氏)-304

 クローン病は原因不明で根治的治療が確立していない炎症性腸疾患であり、日本では医療費補助の対象である特定疾患に指定されている。 抗菌薬、サリチル酸製剤、ステロイドや従来型免疫抑制剤および腸管を安静に保つ栄養療法がわが国における治療の主体であったが、最近、顆粒球除去療法や生物学的製剤である抗TNFα抗体が、新たな治療法として注目されている。 日本における治療目的は再燃を少なくして不自由のない社会生活を送ることのできる寛解期間を長くすることであるが、欧米では入院費用が高額なためにほとんどが外来治療であり、入院を要するのは外科的手術が必要な場合のみという医療現場の違いが治療方針にも反映されている。 クローン病の通過障害を伴う狭窄や穿孔および瘻孔に対して外科的腸切除術が施行されるが、とくに手術施行率の高い欧米では高率な術後再発が大きな課題となっている。 本研究は、腸切除後の患者を対象として、手術から6ヵ月後に内視鏡検査を施行して治療法を変更する群(積極的治療群)と、内視鏡検査を施行せずに標準治療を継続する群(標準治療群)に無作為に割り付けて、18ヵ月後の内視鏡的再発率および粘膜の正常化率を検討した結果、標準治療群と比較して積極的治療群の再発率が有意に低値で、粘膜の正常化率が有意に高値であった。この結果、「クローン病の腸切除後には、早期の内視鏡検査により判定される再燃状態に応じた免疫療法の導入が、術後再発の予防に有用であり、再手術のリスクを軽減できる」と結論している。 クローン病の悪化に対して外科的手術の選択率が高く、さらに術後の短期再発も高率にみられる欧米の医療において、本研究で示された早期内視鏡検査の重要性は術後の診療方針に大きな影響を与えるものであろう。医療保険システムの異なる日本の症例にも適合する可能性が高く、今後、内視鏡的な評価を用いたRCTがわが国でも施行されることを期待したい。

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在宅で診る肺炎診療の実際

■在宅高齢者の肺炎の多くが誤嚥性肺炎在宅高齢者の発熱の原因として最も多いのは肺炎である1)。在宅医療を受けている患者の多くは嚥下障害を起こしやすい、脳血管性障害、中枢性変性疾患、認知症を患っており、寝たきり状態の患者や経管栄養を行っている患者も含まれていて、肺炎のほとんどは誤嚥性肺炎である。日本呼吸器学会は2005年に「成人市中肺炎診療ガイドライン(改訂版)」を、2008年には「成人院内肺炎診療ガイドライン」を作成したが、在宅高齢者の肺炎診療に適するものではなかった。その後、2011年に「医療介護関連肺炎(NHCAP)診療ガイドライン」が作成された。NHCAPの定義と発症機序は表1 2)および表2 2)に示されるように、在宅療養患者が該当しており、その特徴は市中肺炎と院内肺炎の中間に位置し、その本質は高齢者における誤嚥性肺炎を中心とした予後不良肺炎と、高度医療の結果生じた耐性菌性肺炎の混在したもの、としている。本稿では、NHCAPガイドライン(以下「ガイドライン」と略す)に沿って、実際に在宅医療の現場で行っている肺炎診療を紹介していく。表1 NHCAP の定義1.長期療養型病床群もしくは介護施設に入所している(精神病床も含む)2.90日以内に病院を退院した3.介護を必要とする高齢者、身障者4.通院にて継続的に血管内治療(透析、抗菌薬、化学療法、免疫抑制薬などによる治療)を受けている・介護の基準PS3: 限られた自分の身の回りのことしかできない、日中の50%以上をベッドか椅子で過ごす、以上を目安とする表2 NHCAP の主な発症機序1.誤嚥性肺炎2.インフルエンザ後の2次性細菌性肺炎3.透析などの血管内治療による耐性菌性肺炎(MRSA肺炎など)4.免疫抑制薬や抗がん剤による治療中に発症した日和見感染症としての肺炎を受けている■在宅での肺炎診断在宅患者の診察では、平素より経皮的酸素飽和度(SpO2)を測定しておき、発熱時には変化がないかを必ず確認する。高齢者は、咳や痰などの一般的症状に乏しいが、多くの場合で発熱を伴う。しかし、発熱を伴わない場合もあるので注意する。聴診所見では、必ずしも特異的な所見がなく、脱水を伴っている場合はcoarse crackleは聴取しにくくなる。血液検査では、発症直後でも上昇しやすい白血球数を参考にするが、数が正常でも左方移動がみられれば有意と考える。CRPは、発症直後には上昇しにくいので、発症当日のCRP 値で重症度を評価することはできない。必要に応じてX線ポータブル検査を依頼する。■NHCAPにおける原因菌ガイドラインによると原因菌として表3 2)が考えられている。表3 NHCAP における原因菌●耐性菌のリスクがない場合肺炎球菌MSSAグラム陰性腸内細菌(クレブシエラ属、大腸菌など)インフルエンザ菌口腔内レンサ球菌非定型病原体(とくにクラミドフィラ属)●耐性菌のリスクがある場合(上記の菌種に加え、下記の菌を考慮する)緑膿菌MRSAアシネトバクター属ESBL産生腸内細菌ガイドラインでは、在宅療養している高齢者や寝たきりの患者では、喀出痰の採取は困難であり、また口腔内常在菌や気道内定着菌が混入するため、起因菌同定の意義は低く、診断や治療の相対的な判断材料として用い、抗菌薬の選択にはエンピリック治療を優先すべきである、とされている。実際の現場では、喀出痰が採取できる患者は肺炎が疑われた場合、抗菌薬を開始する前にグラム染色と好気性培養検査を依頼し、初期のエンピリック治療に反応が不十分な場合、その結果を参考に抗菌薬の変更を考慮している。■ガイドラインで示された治療区分とはガイドラインでは、市中肺炎診療ガイドラインで示しているような重症度基準(A-DROP分類)では、予後との関連がはっきりしなかったため、治療区分という考え方が導入された。この治療区分(図1)2)に沿って抗菌薬が推奨されている(図2)2)。画像を拡大する画像を拡大する画像を拡大するここでのポイントは、耐性菌のリスクの有無(90日以内の抗菌薬の投与、経管栄養があり、MRSAが分離された既往歴)が、問われていることである。■在宅患者における肺炎の重症度判断PSI(pneumonia severity index)は、患者を年齢、既往歴、身体所見・検査所見の異常など20因子による総得点により、最も正確に肺炎の重症度判定ができる尺度として有名である。そこで筆者の診療所では在宅診療対象患者のみを対象に、血液検査・画像所見の結果がなくても肺炎の重症度を推定できる方法はないかを検討した。身体所見や患者背景から得られた総得点をPSI for home-care based patients(PSI-HC)と名付け、この得点を基に患者を分類したところ、血液検査や画像所見がなくても予後を反映するものであった3)。当院ではそれを基に「発熱フェイスシート」を作成し、重症度の把握と家族への説明に利用している(図3)。なお、図中の死亡率は1年間における97人の肺炎患者をレトロスペクティブにみた値であり、今後さらなる検討が必要な参考値である。画像を拡大する■在宅における肺炎治療の実際実際の現場では、治療区分で入院が必要とされるB群でも、連日の抗菌薬投与ができるようであれば在宅での治療も可能である。先述したように、喀出痰が採取できない症例が多いため、在宅高齢者の肺炎の起因菌についての大規模なデータはないが、グラム陰性菌、嫌気性菌が主な起因菌であるといわれている。グラム陰性菌に抗菌力が強く、ブドウ球菌や肺炎球菌などのグラム陽性菌や一部の嫌気性菌を広くカバーする、ニューセフェムやレスピラトリーキノロンを第1選択としている。●経口投与の場合:レボフロキサシン(商品名:クラビット[LVFX])、モキシフロキサシン(同:アベロックス[MFLX])LVFXは1日1回500mgを標準投与量・法とする。腎排泄型の抗菌薬であり、糸球体濾過量(GFR)に応じて減量する。MFLXは主に肝代謝排泄型の抗菌薬であり、腎機能にかかわらず、1日1回400mgを標準投与量とする。●静脈投与の場合:セフトリアキソン(同:ロセフィン[CTRX])血中半減期が7~8時間と最も長いので1日1回投与でも十分な効果を発揮し、胆汁排泄型であることからGFRの低下を認める高齢者にも安心して使用できる。CTRXは緑膿菌に対して抗菌力がほとんどなく、ブドウ球菌、嫌気性菌などにも強い抗菌力はないといわれており、ガイドライン上でも誤嚥性肺炎には不適と記載されているが、筆者らは誤嚥性肺炎を含む、肺炎初期治療としてほとんどの患者に使用し、十分な効果を認めている。また、過去90日以内に抗菌薬の使用がある場合にも、同様に効果を認めている。3日間投与して解熱傾向を認めないときには、耐性菌や緑膿菌を考慮した抗菌薬に変更する。嫌気性菌をカバーする目的で、クリンダマイシン内服の併用やブドウ球菌や嫌気性菌に、より効果の強いニューキノロン内服を併用することもある。■入院適用はどのような場合か在宅では、病院と比較すると正確な診断は困難である。しかし、全身状態が保たれ、介護する家族など条件に恵まれれば、在宅で治療可能な場合が多い。筆者らは、先述した在宅患者の肺炎の重症度(PSI-HC)を利用して重症度の把握、家族への説明を行ったうえで、患者や家族の意思を尊重し、入院治療にするか在宅治療にするかを決定している。在宅高齢者が入院という環境変化により、肺炎は治癒したけれども、認知機能の悪化やADL低下などを経験している場合も少なくない。過去にそのような体験がある場合には、在宅でできる最大限の治療を行ってほしいと所望されることが多い。ただ、医療的には、高度の低酸素血症、意識低下や血圧低下を伴う重症肺炎や、エンピリック治療で正しく選択された抗菌薬を使い、3日~1週間近く治療を行っても改善傾向が明らかでない場合に入院を検討している。また、介護面では重症度にかかわらず、介護量が増えて家族や介護者が対応できない場合にも入院を考慮している。■肺炎予防と再発対策誤嚥性肺炎の治療および予防として表42)が挙げられる。表4 NHCAP における誤嚥性肺炎の治療方針1)抗菌薬治療(口腔内常在菌、嫌気菌に有効な薬剤を優先する)2)PPV 接種は可能であれば実施(重症化を防ぐためにインフルエンザワクチンの接種が望ましい)3)口腔ケアを行う4)摂食・嚥下リハビリテーションを行う5)嚥下機能を改善させる薬物療法を考慮(ACE阻害薬、シロスタゾール、など)6)意識レベルを高める努力(鎮静薬、睡眠薬の減量、中止、など)7)嚥下困難を生ずる薬剤の減量、中止8)栄養状態の改善を図る(ただし、PEG〔胃ろう〕自体に肺炎予防のエビデンスはない)9)就寝時の体位は頭位(上半身)の軽度挙上が望ましいガイドラインではNHCAPの主な発症機序として誤嚥性肺炎のほか、インフルエンザと関連する2次性細菌性肺炎の重要性が提案されており、わが国でも高齢者施設におけるインフルエンザワクチン、そして肺炎球菌ワクチンの効果がはっきり示されたこともあり、両ワクチンの接種が勧められる4)。日々の生活の中では、口腔ケアや摂食嚥下リハビリテーションは重要であり、歯科医師・歯科衛生士や言語聴覚士との連携で、より質の高いケアを提供することができる。●文献1)Yokobayashi K,et al. BMJ Open. 2014 Jul 9;4(7):e004998.2)日本呼吸器学会 医療・介護関連肺炎(NHCAP)診療ガイドライン作成委員会. 医療・介護関連肺炎診療ガイドライン. 2011.3)Ishibashi F, et al. Geriatr Gerontol Int. 2014 Mar 12 . [Epub ahead of print].4)Maruyama T,et al. BMJ. 2010 Mar 8;340:c1004.●関連リンク日本呼吸器学会 医療・介護関連肺炎(NHCAP)診療ガイドライン

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抗菌薬と小児喘息は本当に関連するのか/BMJ

 スウェーデン・カロリンスカ研究所のAnne K Ortqvist氏らは、従前、指摘されている「胎児期や出生後間もない抗菌薬曝露は小児喘息と関連している」という知見について、交絡因子による補正後も認められるのかを同国住民ベースのコホート研究で調べた。交絡因子として家族因子を用いた兄弟姉妹間比較や、抗菌薬の治療目的別の違いなどを検討した結果、家族因子は同関連を支持するものではなく、また呼吸器感染症の治療目的使用が尿路感染症や皮膚感染症と比べて関連が強いことなどを明らかにした。著者は、「家族因子や呼吸器感染症によって、同関連は示唆されたり否定されたりすることが判明した」とまとめている。BMJ誌オンライン版2014年11月28日号掲載の報告より。スウェーデン、2006~2010年の出生児49万3,785例について分析 検討は、スウェーデンの人口統計および健康レジスターから、2006~2010年の出生児49万3,785例を特定して行われた。そのうち適格条件を満たした18万894例については兄弟姉妹分析も行った。 喘息の診断歴および喘息薬の処方歴で喘息児を特定。抗菌薬曝露と喘息の関連を、Cox比例ハザード回帰法を用いて全コホートにおいて分析した。また兄弟姉妹群の層別化比例ハザードモデルを用いて、家族内共有因子で補正した分析も行った。さらに、特異的抗菌薬投与群と喘息との関連を評価し、呼吸感染症が交絡因子であるかについても調べた。家族因子、治療目的の感染症因子でリスクが増減 全コホート分析の結果、胎児期の抗菌薬投与と小児喘息リスク増大との関連が認められた(ハザード比:1.28、95%信頼区間[CI]:1.25~1.32)。しかし、同関連は兄弟姉妹分析ではみられなかった(同:0.99、0.92~1.07)。 また、全コホート分析で、小児期の呼吸器感染症治療目的での抗菌薬使用が(HR:4.12、95%CI:3.78~4.50)、尿路感染症および皮膚感染症治療目的での抗菌薬使用よりも(同:1.54、1.24~1.92)、小児喘息リスクが顕著に高かった。 しかし兄弟姉妹分析では、呼吸器感染症使用目的曝露後のリスクは全コホート分析時よりも低く(HR:2.36、95%CI:1.78~3.13)、尿路感染症および皮膚感染症使用目的曝露後ではリスクの増大は認められなかった(同:0.85、0.47~1.55)。

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Dr.山本の感染症ワンポイントレクチャー Q3

Q3整形外科医です。術後感染疑いの患者で高熱が3日間続いたため、創部を洗浄して検体採取したところ、グラム陽性球菌が少量検出されました。感染症専門医にコンサルトしてバンコマイシンを開始しています。このような場合、見切り発車でバンコマイシンというのはスタンダードな方法なのでしょうか? 整形外科医の頭では、セフェム系などを投与して、培養でMRSAが出たらバンコマイシンに切り替えるという方法が浮かんでしまいますが、それは間違いでしょうか?患者さんの重症度によると思います。抗菌薬を選択する際には、「どこの臓器」に「どのような微生物」が感染を起こしているのかを考えます。今回は、術後創部感染症(surgical site infection: SSI)について考えます。SSIは深さによってさらに表層切開創SSI、深部切開創SSI、臓器/体腔SSIに分類されます1)。整形外科手術後であれば、SSIの原因菌で頻度の高いものは、黄色ブドウ球菌やコアグラーゼ陰性ブドウ球菌(表皮ブドウ球菌が代表的)です。SSIに対してバンコマイシンを使用するのは、MRSAだけでなくコアグラーゼ陰性ブドウ球菌も考えてのことです。コアグラーゼ陰性ブドウ球菌はβラクタム剤に耐性をもっていることが多いため、エンピリック治療としてはバンコマイシンが推奨されます。院内で検出される細菌のアンチバイオグラムにもよりますが、SSIという診断が正しそうで、病変部位からグラム陽性球菌が検出されているとなれば、バンコマイシンで治療を開始するのが理にかなっていると思います。そして、検出された細菌がβラクタム剤に感受性を有していることが確認できた後に変更します。これをde-escalation(ディ・エスカレーション)と呼びます。ただし、表層のSSIのみで、患者の状態が軽症で、適切にドレナージもされていて、仮に最初に使用した抗菌薬が外れていたとしても、後からやり直しが効きそうだという条件がそろっていれば、セファゾリンなどのβラクタム剤で開始することは完全な間違いとも言えないと思います。何が「スタンダード」かは、患者さんの状態によっても変わってくると思います。参考文献1)Anderson DJ. Infect Dis Clin North Am. 2011; 25: 135-153.

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