サイト内検索|page:2

検索結果 合計:348件 表示位置:21 - 40

21.

なぜ子どもはコロナが重症化しにくいのか

 子どもというものは、しょっちゅう風邪をひいたり鼻水が出ていたりするものだが、そのことが新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による重症化から子どもを守っている可能性のあることが、米イェール大学医学部准教授のEllen Foxman氏らの研究で示された。この研究結果は、「Journal of Experimental Medicine」に7月1日掲載された。 COVID-19パンデミックを通して、子どもは大人よりもCOVID-19が重症化しにくい傾向があると指摘されていたが、その理由は明確になっていない。Foxman氏は、「先行研究では、子どもの鼻腔内の自然免疫の亢進は、小児期にのみ見られる生物学的なメカニズムによって生じることが示唆されていた。しかし、われわれは、子どもにおける呼吸器系ウイルスや細菌感染による負荷の高さも鼻腔内の自然免疫の亢進に寄与している可能性があると考えた」と言う。自然免疫系は、生まれつき体に備わっている、細菌やウイルスに対する防御システムだ。体は抗体を作り出すことで、より標的を絞った免疫反応を起こす一方で、自然免疫系は抗ウイルス性タンパク質と炎症性タンパク質を速やかに産生して、感染から体を守る働きを担っている。 Foxman氏らは今回、子どもでの頻繁な呼吸器感染症への罹患が鼻の自然免疫を高めるかどうかを調べるため、467点の鼻腔ぬぐい液検体の再分析を行った。これらの鼻腔ぬぐい液は、COVID-19パンデミック中の2021年から2022年にかけて、手術前のスクリーニング検査を受けた子どもや救急部門で診療を受けた子どもから採取されたものだった。研究グループは、上気道感染症の原因となる16種類の呼吸器系ウイルスと3種類の細菌について調べるとともに、自然免疫系によって産生されるタンパク質の量を測定した。 サンプルから最も多く検出されたウイルスは、2021年6〜7月ではライノウイルス(176検体中43点、24.4%)であり、2022年1月では新型コロナウイルス(291検体中65点、22.3%)であった。しかし、同時期にその他のウイルス感染が確認された検体も一定数あり、全体でのウイルス陽性率は、2021年6〜7月で38.6%、2022年1月で36.4%であった。また、RT-PCR検査でウイルスまたは病原性のある細菌、あるいはその両方について陽性と判定された検体に5歳未満の子どもの検体が占める割合は高く、2021年6〜7月で66.2%(51/77点)、2022年1月では53.3%(155/291点)であった。さらに、呼吸器系ウイルスや細菌の量が多い子どもでは、鼻腔内の自然免疫活性レベルも高いことが示された。 Foxman氏らがさらに、乳児健診時とその7〜14日後に健康な1歳児から採取された鼻腔ぬぐい液を調べた。その結果、いずれかの時点で何らかの呼吸器系ウイルスの感染が陽性と判定されていた子どもが半数以上を占めており、そのほとんどのケースで、自然免疫活性は、感染時には高まり非感染時には低下することが明らかになった。Foxman氏は、「このことから、低年齢の子どもでは、鼻の中でのウイルスに対する防御機構は常に厳戒態勢にあるのではなく、呼吸器系ウイルスの侵入に反応して活性化すること、そのウイルスが症状を引き起こしていない場合でも活性化することが明らかになった」と話す。 これらの結果は、子どもはライノウイルスのような比較的無害な呼吸器系ウイルスに感染することが多いため、自然免疫系が頻繁に、強く活性化されることを示している。 Foxman氏は、子どもが季節性ウイルスに頻繁に感染するのは、感染により得られる抗体が築かれていないのが理由ではないかとの考えを示している。新型コロナウイルスは新型のウイルスであったため、パンデミック発生時に感染を防御する抗体を持つ人は1人もいなかった。Foxman氏らは、「このような状況で、他の感染症によって子どものウイルスに対する防御機構が活性化され、これが新型コロナウイルスへの感染を初期段階で阻止することに寄与した可能性がある。さらに、そのことが、成人と比べて子どもでは重症度が低いという転帰につながったと考えられる」とニュースリリースの中で述べている。 Foxman氏は、季節性ウイルスや鼻腔内の細菌がCOVID-19の重症度にどのような影響を与えるのかについて、今後さらなる研究で検討する必要があると話している。

22.

ポスト・パンデミック期:コロナ抗ウイルス薬は無効?(解説:山口佳寿博氏/田中希宇人氏)

ポスト・パンデミック期におけるコロナ抗ウイルス薬の実態 2023年夏以降、コロナ感染症はポスト・パンデミックの時代に突入した。この時期に注目されているのが間断なく継続しているウイルスの遺伝子変異に対して、オミクロン株以前のパンデッミク期に開発された抗ウイルス薬が、その効果を維持しているかどうかという点である。 今回論評するHammond氏らの論文は、2021年8月から2022年7月にかけて、播種しているコロナウイルスがデルタ株からオミクロン株に切り替わりつつある過渡期に集積された症例を対象としたものである。Hammond氏らはこれらの対象をもとに3-キモトリプシン様プロテアーゼ阻害薬ニルマトレルビル・リトナビル(商品名:パキロビッドパック、本邦承認:2022年2月10日、5日分の薬価[成人]:9万9,000円)に関するEPIC-SR試験(Evaluation of Protease Inhibition for COVID-19 in Standard-Risk Patients trial)の結果を報告した。 ニルマトレルビルの効果に関する最初の大規模臨床試験であるEPIC-HR試験(Evaluation of Protease Inhibition for COVID-19 in High-Risk Patients trial)は、ワクチン未接種でコロナ感染による重症化リスクを少なくとも1つ以上有する非入院成人コロナ感染者を対象として施行された(Hammond J, et al. N Engl J Med. 2022;386:1397-1408.)。EPIC-HR試験はEPIC-SR試験とは異なり、2021年7月から12月にかけてデルタ株優勢期に集積されたデータを基にした解析であることに注意する必要がある。EPIC-HR試験の結果、重症化リスクを有するワクチン未接種患者において、ランダム化から1ヵ月以内のニルマトレルビル投与による入院/死亡予防効果は非常に高く、87.8%であることが示された。しかしながら、EPIC-HR試験ではワクチン未接種のコロナ感染者を対象としていたため実際の臨床現場、すなわち、Real-Worldでの状況を十分に反映していない可能性があった。そこで、EPIC-SR試験では重症化リスクを有さないワクチン未接種者(1年以上前のワクチン接種者を含む)に加え、重症化リスクを少なくとも1つ以上有するワクチン接種者を対象としてニルマトレルビルの臨床効果が検討された。その結果、ニルマトレルビル投与によって症状緩和までの時間、コロナ関連入院/死亡率はプラセボ群に比べ有意差はなく、ニルマトレルビルはオミクロン株が主流を占める現在の臨床現場では、ワクチンの予防効果を相加的に上昇させるものではないことが判明した。 同様の結果はRNA-dependent RNA polymerase(RdRp)阻害薬として開発されたモルヌピラビル(商品名:ラゲブリオカプセル、本邦承認:2021年12月24、5日分の薬価[成人]:9万4,000円)においても報告されている。ワクチン未接種者におけるモルヌピラビルの投与28日以内のコロナに起因する入院/死亡予防効果は31%であった(MoVe-OUT Trial, Jayk Bernal A, et al. N Engl J Med. 2022;386:509.)。この値はニルマトレルビルとの直接比較で得られたものではないが、値としてはニルマトレルビルの予防効果に比べ低いものと考えてよい。さらに、ワクチン接種者におけるモルヌピラビルの入院/死亡予防効果は、ほぼゼロであり(PANORAMIC Study, Butler CC, et al. Lancet. 2023;401:281-293.)、モルヌピラビルを実際の臨床現場で投与する医学的必然性がないことが判明した。以上のような結果を踏まえ、2023年2月25日、欧州医薬品庁(EMA)は実際の臨床現場でのモルヌピラビルの使用中止を勧告した(https://www.sankei.com/article/20230225-VRWSG7G2DJMWDI2TA3WTWIK7KI/)。EMAの勧告を受け、欧州、米国、豪州などの先進諸国ではモルヌピラビルは実際臨床の現場で投与されなくなっている。本邦でもEMAの勧告に従うべきであろう。 RdRpとして重要な薬物としてコロナ・パンデミック初期の2020年に開発されたレムデシビル(商品名:ベクルリー点滴静注用100mg、本邦承認:2020年5月7日、5日分の薬価[成人]:27万9,000円)が存在する。本邦においては、レムデシビルは重症化因子を有する軽症から重症までのコロナ感染症に対して投与でき、コロナ・パンデミックの制御に対して多大の貢献をしてきた。しかしながら、レムデシビルがオミクロン派生株によるポスト・パンデミック期においても有効であるか否かに関しては十分なる検証がなされていない。 本邦の塩野義製薬が開発したエンシトレルビル(商品名:ゾコーバ)はニルマトレルビルと同様にMain protease阻害薬である。本剤に関し、厚労省は2022年6月22日に臨床効果が不十分との理由で一度承認を見送ったが、最終的には2022年11月22日に緊急承認した(5日分の薬価[成人]:5万2,000円)。緊急承認であるので、その後1年以内に有効性に関する総括的データの提出が義務付けられており、承認後も臨床治験が続行されている(SCORPIO-SR試験、SCORPIO-HR試験)。臨床治験の対象は初期のオミクロン株(BA.1、BA.2)優勢期に集積された。それ故、BA.2以降の多数の派生株に対しても真に阻害作用を有するかは確実ではない。本論評で取り上げたニルマトレルビルのオミクロン株に対する増殖抑制作用が適切なワクチン接種者においては否定されつつある現在、それと同様の作用を有するエンシトレルビルを臨床現場で使用することは費用対効果の面からは問題がある。以上まとめると、オミクロン株のBA.2を源流とする多数の派生株(2024年5月現在、KP.3、JN.1、XDQ.1など)が重要な位置を占めるポスト・パンデミック期において、パンデミック期に開発された高価な抗ウイルス薬を安易に投与することは、医学的ならびに費用対効果の面から慎むべきだと論評者は考えている。とくに、2023年秋にXBB1.5対応1価ワクチンを接種した人がBreak-through感染を起こした場合には、抗ウイルス薬を追加投与したとしても重症化予防の上乗せ効果は期待できない。一方、この1年以内に適切なワクチンを接種していない人がコロナに感染した場合には、内服抗ウイルス薬としてニルマトレルビルを投与することは、臨床的に間違った判断ではないと考えている。ポスト・パンデミック期において抗ウイルス薬の効果を規定する遺伝子変異 抗ウイルス薬はワクチン、モノクローナル抗体薬とは異なりS蛋白を標的とするものではなく、ウイルスのOpen reading frame (ORF)-1aに遺伝子座を有するMain proteaseあるいはORF-1bに遺伝子座を有するRdRpを標的としたウイルス増殖抑制薬である。オミクロン株にあってはORF-1aならびにORF-1bにMain proteaseとRdRpの作用を修飾する遺伝子変異の存在が報告されており(Main protease:P3395H変異、RdRp:P314L変異など)、それらが抗ウイルス薬の効果にどのような影響を及ぼすかは重要な問題である。これらの問題については、オミクロン株の初期株であるBA.1(BA.1.1を含む)、BA.2(BA.2.12.1、BA.2.75を含む)、BA.4、BA.5を対象として試験管内で検討され、ニルマトレルビル、モルヌピラビル、レムデシビルの抗ウイルス作用は共に維持されていることが証明されている(Takashita E, et al. N Engl J Med. 2022 ;387:468-470.、Takashita E, et al. New Engl J Med 2022;387:1236-1238.)。しかしながら、これらの検討はあくまでも試験管内のものであり、実地臨床面でのオミクロン初期株に対する抗ウイルス効果が証明されているわけではない。さらに、現在世界を席巻しているBA.2からの種々の派生株に対する抗ウイルス薬の試験管内ならびに臨床的抑制効果は検証されておらず、今後、喫緊の課題として取り組む必要がある。エンシトレルビルに関しては、先行3剤に比べ臨床効果に関する検証レベルが低いことも追記しておきたい。

23.

インフルエンザには麻黄湯?【漢方カンファレンス】第4回

インフルエンザには麻黄湯?以下の症例で考えられる処方をお答えください。(経過の項の「???」にあてはまる漢方薬を考えてみましょう)【今回の症例】30代女性主訴発熱、咽頭痛既往特記事項なし病歴職場でインフルエンザが流行中。昨晩、ゾクゾクとした悪寒と咽頭痛があり、体温38.6℃。朝起きても悪寒と発熱が持続。インフルエンザが心配で受診。副作用が怖いので抗ウイルス薬はなるべく飲みたくない。外来待合室では、全身の関節痛があり椅子にじっと座れないほどきつくて体を動かしている。現症身長172cm、体重70.4kg。体温38.7℃、血圧112/80mmHg、脈拍86回/分 整。顔面紅潮あり、咽頭発赤あり、扁桃肥大なし、白苔なし、頸部リンパ節腫脹なし、呼吸音異常なし。インフルエンザ抗原検査(+)。経過受診時「???」エキス1包+「???」エキス1包を外来で内服。(解答は本ページ下部をチェック!)15分後悪寒が軽減して、少し関節痛が楽になったため改めて「???」エキス3包+「???」エキス3包分3で処方。(2~3時間おきに内服し、帰宅して安静にするように指導)当日帰宅後、2回目を内服して布団に入った。1時間後に発汗し始めた。発汗後、衣服を着替えて就寝。翌日翌朝には解熱して、咽頭痛もなくなり気分もすっきりした。問診・診察漢方医は以下に示す漢方診療のポイントに基づいて、今回の症例を以下のように考えます。【漢方診療のポイント】(1)病態は寒が主体(陰証)か、熱が主体(陽証)か?(冷えがあるか、温まると症状は改善するか、倦怠感は強いか、など)(2)虚実はどうか(症状の程度、脈・腹の力)(3)気血水の異常を考える(4)主症状や病名などのキーワードを手掛かりに絞り込む【問診】<冷えの確認>悪寒はありますか?ゾクゾクして鳥肌が立っています。体熱感はありますか?熱っぽい感じがあります。<温冷刺激に対する反応を確認>のどは渇きませんか?いま、温かい物と冷たい物ではどちらが欲しいですか?のどが渇きます、冷たい水が飲みたいです。<ほかの随伴症状を確認>のどの痛みは強いですか?体の節々が痛みますか?そのほかに、鼻汁、咳、痰はありませんか?汗をかいていますか?とてものどが痛いです。手足の関節や腰が痛くてじっと座るのがつらいです。咳が少しあるくらいで、汗はかいていません。横になりたいほどの倦怠感はありませんか?横になりたい感じはありません。ただ、体の節々が痛くて、こうして座っているのもつらいです。【診察】顔色は紅潮で、手足を触診すると熱感を感じた。また、脈診では浮で、反発力が強い脈(脈:浮、強)であった。また、後頸部から背部を触診すると、鳥肌がたっており、汗をまったくかいていなかった。カンファレンス今回は、インフルエンザの症例ですね。インフルエンザといえば麻黄湯(まおうとう)が有名で、有効性を示すRCTもいくつか知ってます1-3)。本症例も麻黄湯といいたいところですが、病名からすぐに飛びついてはいけないのでしたね。素晴らしい! それでは、早速、漢方診療のポイント(1)である病態の「陰陽」(寒と熱どちらが主体か)を考えます。風邪などの急性熱性疾患の場合、ゾクゾクとした悪寒だけでは「陰陽」どちらの病態か区別するのは困難で、悪寒以外の自覚症状、顔色、咽頭痛や倦怠感の程度などから陰陽を判断します(表1)。顔面紅潮があって、咽頭痛も強く、体熱感を自覚して冷たい水を好むということから「陽証」だと思います。そうですね。今回は「陽証」でよいですね。その次は、闘病反応の程度を示す「虚実」の判定を行う必要があります。急性疾患で「陰陽」・「虚実」を判断するには脈の診察がとくに重要だよ! 本症例では、悪寒があって脈が浮・強となっていることに着目すると、太陽病・実証と考えられるよ(太陽病の解説は本ページ下部の「今回のポイント」の項を参照)。太陽病の際に闘病反応の程度である「虚実」に関して、脈の所見以外に着目すべきポイントがあります。漢方医の診察からどの点かわかりますか?闘病反応ということは、咽頭痛や咽頭発赤の程度ですか?咽頭痛や咽頭発赤の程度からも闘病反応の程度を推測できるね。もう1つ大事な所見として、発汗の有無がポイントだよ。汗がない場合は闘病反応が強い(実)、汗をかいている場合は闘病反応が弱い(虚)と判定するんだ。太陽病では、悪寒があることが前提なので、悪寒があるにもかかわらず皮膚のしまりがなく、じわっと汗が出ている状態は闘病反応が弱い(虚)と考えるんだ。問診だけでなく患者の首筋に手を当てて、発汗の有無を確認することも大切だね。なるほど、本症例は、脈の反発力が強くて、悪寒がして汗がないことから「実証」ですね。それではやはり、汗がなくて、関節痛もあるので麻黄湯が適応になりそうです。たしかに麻黄湯は悪寒がして体の節々が痛い、「太陽病・実証」に適応になり、インフルエンザによくみられる闘病反応に類似していることから、インフルエンザに頻用されるようになりました。しかし、本症例ではさらに着目すべき特徴として、口渇があって冷たい物を飲みたいという所見があげられます。これは身体にこもった熱を冷ます作用のある石膏(せっこう)を含む漢方薬の適応を示唆する所見です。さらに「じっとしていられないほどつらい」というのも大切なキーワードです。本症例をまとめると以下のようになります。【漢方診療のポイント】(1)病態は寒が主体(陰証)か、熱が主体(陽証)か?悪寒、脈:浮、冷たい飲み物が欲しい、顔面紅潮→熱が主体(太陽病)(2)虚実はどうか発汗なし、脈:強→実証(3)気血水の異常を考える気血水の異常ははっきりしない(4)主症状や病名などのキーワードを手掛かりに絞り込む悪寒あり、発汗なし、口渇あり、じっとしていられないほどつらい解答・解説【解答】本症例は、太陽病・実証で、発汗作用に加えて身体にこもった熱を冷ます作用がある石膏が含まれる大青竜湯(だいせいりゅうとう)が適応になります。大青竜湯はエキス製剤にないので、麻黄湯と越婢加朮湯(えっぴかじゅつとう)を合わせることで代用します。【解説】一般的に風邪のひき始めの悪寒がある時期を太陽病といいますが、悪寒と同時かその後に熱の病態を示唆する所見があることが前提です。大青竜湯は、「太陽病・実」(脈が浮・強、発汗なし)の場合に用いる漢方薬で、麻黄湯の特徴である関節痛に加え、身体に熱がこもっている状態を示唆する「口渇があり、冷たい水が飲みたい」場合に適応になります。また、漢方では身の置きどころがないほどひどくつらがる状態を「煩躁(はんそう)」といい、「煩躁」も大青竜湯を用いる指標の1つです。悪寒と関節痛がある場合でも、「口渇」、「煩躁」のどちらかがあれば、麻黄湯でなく、大青竜湯が適応になります。葛根湯(かっこんとう)も「太陽病・実証」に用いる漢方薬ですが、麻黄湯や大青竜湯のように全身に及ぶ症状はなく、項(うなじ)のこわばりが目立つ場合に適応になります(表2)。なお、麻黄湯や大青竜湯の処方日数は長くても3日間までとします。内服方法も、処方せん上は毎食前に1日3回としますが、実際には、発汗があるまで2~3時間おきに内服した方がより効果的で、即効性が期待できます。ただし、高齢者では麻黄の副作用(交感神経刺激作用による動悸・不眠などや胃腸障害)が出現しやすく注意が必要で、基礎疾患によっては間隔を詰めた内服を避ける場合もあります。さらに、漢方薬を内服するだけでなく、発汗を促すために、温かくして安静にする、冷たい飲食物を避けるなど養生の指導も必要になります。今回のポイント「太陽病」の解説太陽病は風邪のひき始めのように、悪寒に加え、脈が表在性に触知できる浮である時期を太陽病(陽の始まりという意味)といいます。風邪の発症から間もない時期で典型的には発症から1~2日間の急性期です。脈浮は体表面(表)で闘病反応が起こっている時期であると考えます。表に病気の主座があることから葛根湯や麻黄湯などの漢方薬で発汗させて治療します。次に太陽病と診断した後は、虚実の判定を行います。虚実は脈を押し込んで全体から受ける反発力をみます。少しの力でペシャンとつぶれて触れなくなるような脈は「弱」で虚証、反発力が充実していれば「強」で実証と診断します。太陽病では舌や腹部の所見は参考にしないことに注意してください。参考文献1)Kubo T, Nishimura H. Phytomedicine. 2007;14:96-101.2)Saita M, et al. Health(NY). 2011;3:300-303.3)Nabeshima S, et al. J Infect Chemother. 2012;18:534-543.

24.

ニルマトレルビル/リトナビル、long COVIDに対する効果が認められず

 抗ウイルス薬のパクスロビド(日本での商品名パキロビッド、一般名ニルマトレルビル/リトナビル)を長期間投与しても、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)急性期以降の罹患後症状(post-acute sequelae of SARS-CoV-2;PASC、以下、long COVID)は改善しないことが、新たな研究で明らかになった。米スタンフォード大学医学大学院感染症・地理医学分野教授のUpinder Singh氏らが、パクスロビドを製造するファイザー社の資金提供を受けて実施したこの研究の詳細は、「JAMA Internal Medicine」に6月7日掲載された。 Long COVIDは、COVID-19から回復後も他の疾患による症状としては説明のつかないさまざまな症状が3カ月以上続く状態を指し、罹患者の10〜20%が発症すると推定されている。Singh氏は、「いくつかの研究では、ウイルス粒子や分子の破片がlong COVIDの原因である可能性が示唆されている」と説明。その上で、「もしそうなら、long COVIDの症状は、ニルマトレルビル/リトナビルによる治療により緩和されるのではないかとわれわれは考えた」と話す。 Singh氏らは、中等度から重度のlong COVID患者155人(年齢中央値43歳、女性59%)を対象に二重盲検ランダム化比較試験を実施し、15日間のニルマトレルビル/リトナビルによる治療が、long COVIDの重症度軽減に有効であるのかを検討した。対象者は2対1の割合で、15日間にわたり1日に2回、ニルマトレルビル(300mg)/リトナビル(100mg)を投与される群(102人)と、プラセボ/リトナビル(100mg)を投与される群(53人)にランダムに割り付けられ、ランダム化から15週目まで追跡された。対象患者がCOVID-19に罹患してからランダム化されるまでの期間は平均で17.5カ月だった。主要評価項目は、ランダム化から10週目にリッカート尺度で評価した、long COVIDの6つの症状(倦怠感、ブレインフォグ、息切れ、体の痛み、消化器症状、心血管系の症状)の総合的な重症度とした。 その結果、ランダム化から10週目の時点で、ニルマトレルビル/リトナビル群とプラセボ群の間にlong COVIDの症状の総合的な重症度に有意な差は認められないことが明らかになった。一方で、有害事象の発生率は両群で同等であり、そのほとんどは軽度のものであったことから、ニルマトレルビル/リトナビルを長期間投与しても安全であることが示された。 こうした結果についてSingh氏は、「残念な結果ではあるが、ニルマトレルビル/リトナビルがlong COVIDの治療に役立つ可能性を完全に否定するものではない」とし、「例えば、long COVIDを発症して間もない患者に対する同薬の有効性を検証してみるのも一つかもしれない」と話している。同氏はさらに、「症状が現れてから16〜17カ月が経過した患者ではなく、7〜8カ月程度の患者を対象にニルマトレルビル/リトナビルの効果を検討すべきだったのだろうか。それとも、治療期間をもっと長くするべきだったのか。そもそも、対象患者は適切だったのだろうか。抗ウイルス薬による治療に反応するのは一部の症状だけの可能性もある」とさまざま疑問を挙げている。 研究グループは、今回の試験結果を引き続き分析し、特定の患者で他の患者よりも効果が高かったのかどうかを確認する予定である。

25.

第218回 ニルマトレルビル・リトナビルでコロナ後遺症緩和せず

ニルマトレルビル・リトナビルでコロナ後遺症緩和せず新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)を討つ経口薬ニルマトレルビル・リトナビルのSARS-CoV-2感染症(COVID-19)罹患後症状(long COVID)緩和効果が残念ながら認められませんでした1,2)。スタンフォード大学で実施された無作為化試験「STOP-PASC」の結果です。世界で数百万人が患うとされるlong COVIDの症状は多岐にわたり、数ヵ月から長ければ数年続きます。裏付けのある治療を見つけることが急務ですが、その根本原因に取り組む手段を検討している試験は不足しています。SARS-CoV-2が居続けることがlong COVIDの原因の1つとされています。実際、上気道や糞中にSARS-CoV-2のRNAが何ヵ月も排出され続けることが確認されています。生きて複製するSARS-CoV-2の溜まり場はlong COVID患者から見つかっていないものの、血液、口腔(歯周ポケット)、胃腸、中枢神経系などの種々の組織に長居するSARS-CoV-2のRNAやタンパク質が検出されています。そのような残滓ウイルスが長引く炎症や免疫機能不全の引き金となって多岐にわたる症状を招いているのかもしれません。そうであるならSARS-CoV-2を直撃する抗ウイルス薬を検討することで、もしかしたらlong COVIDの根本原因を断つ治療の道が開けるかもしれません。ニルマトレルビル、モルヌピラビル、レムデシビルなどの抗ウイルス薬を感染後すぐの期間に投与することでlong COVIDの症状の一揃いが生じ難くなることを示した試験がある一方で、そうともいえないという結果もあります。重症化の恐れが大きいCOVID-19患者への使用が承認されているニルマトレルビル・リトナビルの有効成分のニルマトレルビルはSARS-CoV-2のメインプロテアーゼを阻害してSARS-CoV-2が複製できないようにします。一緒に服用するリトナビルはCYP3A4阻害によってニルマトレルビルの分解を遅らせる働きがあります。ニルマトレルビル・リトナビルの投与でlong COVIDの症状が改善した患者の経緯をスタンフォード大学医学部のLinda Geng氏らやその他のチームが先立って報告しています。今回結果が明らかになったSTOP-PASC試験はGeng氏らの指揮の下で、2022年11月からその翌年2023年9月にかけて実施されました。試験には中等度~重度のlong COVID症状が3ヵ月以上続く患者155例が参加し、102例はニルマトレルビル・リトナビルを15日間服用する群、53例はリトナビルとプラセボを服用する群(リトナビル・プラセボ服用群)に割り振られました。投与10週時点での比較の結果、ニルマトレルビル・リトナビル服用群の6つの主要症状(疲労、脳のもやもや、呼吸困難、痛み、胃腸症状、心血管症状)の重症度の総計は、上述したとおりリトナビル・プラセボ服用群と有意差がありませんでした。他の比較でもニルマトレルビル・リトナビル服用群とリトナビル・プラセボ服用群は似たりよったりでした。効果は示せなかったもののせめてもの救いはあり、承認されている5日間投与よりも長い15日間のニルマトレルビル・リトナビル投与はおおむね安全でした。その結果によるとニルマトレルビル・リトナビルはより長期間安全に投与できるようです。参考1)Geng LN, et al. JAMA Intern Med. 2024 Jun 7. [Epub ahead of print]2)Stanford Medicine trial:15-day Paxlovid regimen safe but adds no clear long-COVID benefit / Stanford University

26.

第214回 マダニ媒介感染症治療薬が承認!それは新型コロナで苦戦した“あの薬”

久しぶりにあの薬の名前を聞いた。抗インフルエンザウイルス薬のファビピラビル(商品名:アビガン)のことである。本連載ではコロナ禍中にこの薬を核にした記事は2回執筆(第7回、第44回)し、そのほかの記事でも何度か触れたことがある。当時は新型コロナウイルス感染症に対してこの薬が有効ではないかと騒がれ、しかも一部報道やSNS上で過剰な期待が喧伝されていたため、それに苦言を呈する内容になったが、医療従事者内ではご承知の通り、結局、有効性が示されずに消え去る形となった。そのファビピラビルが5月24日に開催された厚生労働省の薬事審議会・医薬品第二部会で「重症熱性血小板減少症候群(SFTS)ウイルス感染症」を適応とする効能追加の承認が了承されたのだ。マダニに咬まれて感染、SFTSウイルス感染症とは一部にはSFTSウイルス感染症自体が聞き慣れない人もいるかもしれない。今回承認が了承された適応症のSFTSウイルス感染症はSFTSウイルスを保有するマダニ類に咬まれることで起こるダニ媒介感染症の1種である。6~14日の潜伏期間を経て38℃以上の発熱、吐き気・嘔吐、腹痛、下痢、下血などの出血症状、ときに神経症状、リンパ節腫脹なども伴う。臨床検査値では病名の通り、血小板減少(10万/mm2未満)をはじめ、白血球減少、AST、ALT、LDHの上昇などが認められる。致死率は10~30%程度というかなり恐ろしい感染症1)だ。もともとは2009年に中国の湖北省(ちなみに新型コロナウイルス感染症が初めて確認された武漢市は同省の省都)、河南省で謎の感染症らしき患者が多数発生し、中国疾病予防管理センター(中国CDC)が2011年にSFTSウイルスを同定した。日本では2013年に山口県で初めて確認され(患者は死亡)、この直後のレトロスペクティブな調査から2005年以降それまでに別の10例の存在が確認された(うち5例が死亡)2)。現在SFTSウイルス感染症は感染症法で4類感染症に分類され、初めて患者が確認された2013年は年間40例だったが、それ以降の報告数は年々増加傾向をたどり、最新の2023年は132例と過去最多だった。2013年以降の2023年までの累計報告数は942例で、うち死亡は101例。累計の致死率は10.7%。ただし、この致死率は見かけ上の数字である。というのもこの死亡例の数字は感染症法に基づく届け出時点までに死亡が確認されている例のみだからだ。国立感染症研究所などが中心となって2014年9月~2017年10月までのSFTS患者を報告した事例のうち、予後の追跡調査が可能だった事例では致死率27%との結果が明らかになっている。これまでの患者報告は、東は東京都から南は沖縄県まで30都県に及んでいるが、推定感染地域はこのうち28県で西日本に偏在しているのが特徴だ。西日本(近畿・中国・四国・九州)内でこれまで患者報告がないのは奈良県のみである。ただし、東日本での患者報告数は少ないものの、マダニ類が吸血する野生の哺乳類ではSFTS抗体陽性の個体も見つかっており、単に診断漏れになっている可能性がある。そもそも近年、国内でSFTS患者が増えている背景には、昨今のクマ出没の急増と同じく、マダニ類が吸血するシカやイノシシなどの野生の哺乳類が人家周辺まで生息域を広げたことが影響しているとの指摘は少なくない。こうした動物に接する機会が多い獣医療従事者では、動物のケアなどから感染した疑いがある報告例は11例あり、また愛玩動物である犬、猫がSFTSに感染し、そこから人への感染事例もある。ちなみに犬、猫から感染が確認された世界初の症例は、2017年に西日本で野良猫に咬まれ、SFTS発症後に死亡した日本での症例である。また、極めてまれだがSFTS患者の体液を通じて人から人へ感染する事例もあり、日本国内ではこの4月に初めてこうした症例が報告されたばかりだ。さてSFTSに関しては「重症熱性血小板減少症候群(SFTS)診療の手引き 改定新版2019」が厚生労働省より発刊されている。現時点でSFTS感染症のワクチンはなく、これまでの治療も基本は発熱・頭痛・筋肉痛にはアセトアミノフェン(病態そのものに出血傾向があるためアスピリンやNSAIDsは使わない)、悪心・嘔吐には制吐薬、下痢にはロペラミド、消化管出血には輸血療法などの対症療法しかなかった。過去に中国ではウイルス性肝炎治療に使用する抗ウイルス薬であるリバビリンが使用されたことがあったが、1日500mgの低用量では致死率を下げないと考えられた3)ことから、前述の手引きでも推奨されていない。そうした中でSFTSウイルス感染マウスでより高い効果が示されていたのがファビピラビルである。ファビピラビル、承認までの紆余曲折これに対する企業治験が行われて今回晴れて承認となったわけだが、これが実は一筋縄ではいかなかったのが現実だ。そもそも前述したこの感染症の特徴を考慮すればわかるように、患者は突発的に発生するものであり、かつ致死率は高い。結局、製造販売元である富士フイルム富山化学が行った第III相試験は、多施設共同ながらも非盲検の既存比較対照試験、いわゆる従来の対症療法での自然経過の致死率との比較にならざるを得なかった。実質的には単群試験である。たとえ患者数が確保されたとしても、致死率の高さを考えれば対症療法の比較対照群を設定できたかどうかは微妙だ。そして今回の承認了承に先立つ5月9日の医薬品第二部会での審議では、「有効性が示されていると明確には言えない」として一旦は継続審議になった。これは第III相試験の結果から得られた致死率が15.8%で、事前に臨床試験の閾値とされた致死率12.5%を超えてしまったためである。ただ、現実の致死率よりもこれが低い可能性があるとして、再度検討した結果、既存論文などの情報も含めたメタアナリシスで得られたSFTSウイルス感染症の致死率が21~25%程度だったこと、それに加えて富士フイルム富山化学側が市販後臨床試験でウイルスゲノム量の評価で有効性を確認することを提案したため、承認了承となった。ちなみにこれに先立ってSFTSウイルス感染症に対してファビピラビルを投与した愛媛大学を中心に行われた医師主導治験での致死率は17.3%。こちらも前述のメタアナリシスよりは低率である。そしてファビピラビルと言えば、抗インフルエンザ薬として承認を受けた際に催奇形性を有する薬剤であることが問題になり、「厚生労働大臣の要請がない限りは、製造販売を行わないこと」といった前代未聞の条件が付いたことはよく知られている。承認されたが市中在庫はない異例の薬剤だった。しかし、今回のSFTSウイルス感染症については、▽原則入院管理下のみで投与▽原則患者発生後に納入▽研修を受けた登録医師のみで処方可能、という条件のもとにこの「大臣要請のみ」で製造という条件は緩和された。あるけどない謎の抗インフルエンザ薬。期待のみで終わった新型コロナ治療薬という苦難を経て、ファビピラビルが復活の兆しを見せるのか。個人的にはひそかに注目している。参考1)厚生労働省:重症熱性血小板減少症候群(SFTS)について2)Takahashi T, et al. J Infect Dis. 2014;209:816-827.3)Liu W, et al. Clin Infect Dis. 2013;57:1292-1299.

27.

外用抗菌薬の鼻腔内塗布でウイルス感染を防御?

 抗菌薬のネオマイシンを鼻の中に塗布することで、呼吸器系に侵入したウイルスを撃退できる可能性があるようだ。新たな研究で、鼻腔内にネオマイシンを塗布された実験動物が、新型コロナウイルスとインフルエンザウイルスの強毒株の両方に対して強力な免疫反応を示すことが確認された。さらに、このアプローチはヒトでも有効である可能性も示されたという。米イェール大学医学部免疫生物学部門教授の岩崎明子氏らによるこの研究結果は、「Proceedings of the National Academy of Sciences(PNAS)」に4月22日掲載された。 岩崎氏らによると、新型コロナウイルスは2024年2月時点で、世界で約7億7450万人に感染し、690万人を死亡させたという。一方、インフルエンザウイルスは、年間500万人の重症患者と50万人の死者を出している。 これらのウイルスに感染した際には、一般的には経口または静脈注射による治療を行って、ウイルスの脅威と闘う。これらは、感染の進行を止めることに重点を置いたアプローチだ。しかし研究グループは、鼻に焦点を当てた治療アプローチの方が、ウイルスが肺に広がって肺炎のような命を脅かす病気を引き起こす前にウイルスを食い止められる可能性がはるかに高いのではないかと考えている。 今回の研究では、まず、マウスを使った実験でこの考えを検証した。マウスの鼻腔内にネオマイシンを投与したところ、鼻粘膜上皮細胞でIFN誘導遺伝子(ISG)の発現が促されることが確認された。ISGの発現は、ネオマイシン投与後1日目から確認されるほど迅速だった。そこで、マウスを新型コロナウイルスやインフルエンザウイルスに曝露させたところ、感染に対して有意な保護効果を示すことが確認された。さらに、ゴールデンハムスターを用いた実験では、ネオマイシンの鼻腔内投与が接触による新型コロナウイルスの伝播を強力に抑制することも示された。 次に、健康なヒトを対象に、鼻腔内にネオマイシンを主成分とするNeosporin(ネオスポリン)軟膏を塗布する治療を行ったところ、この治療法に対する忍容性は高く、参加者の一部で鼻粘膜上皮細胞でのISG発現が効果的に誘導されていることが確認された。 岩崎氏は、「これはわくわくするような発見だ。市販の安価な外用抗菌薬が、人体を刺激して抗ウイルス反応を活性化させることができるのだ」と話している。なお、米国立衛生研究所(NIH)によれば、Neosporinは、抗菌薬のネオマイシン、バシトラシン、およびポリミキシンBを含有する。 岩崎氏は、「今回の研究結果は、この安価で広く知られている抗菌薬を最適化することで、ヒトにおけるウイルス性疾患の発生やその蔓延を予防できる可能性があることを示唆している。このアプローチは、宿主に直接作用するため、どんなウイルスであろうと効果が期待できるはずだ」と話している。

28.

抗菌薬は咳の持続期間や重症度の軽減に効果なし

 咳の治療薬として医師により抗菌薬が処方されることがある。しかし、たとえ細菌感染が原因で生じた咳であっても、抗菌薬により咳の重症度や持続期間は軽減しない可能性が新たな研究で明らかにされた。米ジョージタウン大学医学部家庭医学分野教授のDaniel Merenstein氏らによるこの研究の詳細は、「Journal of General Internal Medicine」に4月15日掲載された。 Merenstein氏は、「咳の原因である下気道感染症は悪化して危険な状態になることがあり、罹患者の3%から5%は肺炎に苦しめられる」と説明する。同氏は、「しかし、全ての患者が初診時にレントゲン検査を受けられるわけではない。それが、臨床医がいまだに患者に細菌感染の証拠がないにもかかわらず抗菌薬を処方し続けている理由なのかもしれない」とジョージタウン大学のニュースリリースの中で述べている。 今回の研究では、咳または下気道感染症に一致する症状を理由に米国のプライマリケア施設または急病診療所を受診した患者718人のデータを用いて、抗菌薬の使用が下気道感染症の罹患期間や重症度に及ぼす影響を検討した。データには、対象患者の人口統計学的属性や併存疾患、症状、48種類の呼吸器病原体(ウイルス、細菌)に関するPCR検査の結果が含まれていた。 ベースライン時に対象患者の29%が抗菌薬を、7%が抗ウイルス薬を処方されていた。最も頻繁に処方されていた抗菌薬は、アモキシシリン/クラブラン酸、アジスロマイシン、ドキシサイクリン、アモキシシリンであった。このような抗菌薬を処方された患者とされなかった患者を比較した結果、抗菌薬に咳の持続期間や重症度を軽減する効果は認められないことが示された。 研究グループはさらに、検査で細菌感染が確認された患者を対象に、抗菌薬を使用した場合と使用しなかった場合での転帰を比較した。その結果、下気道感染症が治癒するまでの期間は両群とも約17日間であったことが判明した。 研究グループは、「抗菌薬の過剰使用は、危険な細菌が抗菌薬に対する耐性を獲得するリスクを高める」との懸念を示す。論文の上席著者である米ジョージア大学公衆衛生学部教授のMark Ebell氏は、「医師は、下気道感染症の中に細菌性下気道感染症が占める割合を知ってはいるが、おそらくは過大評価しているのだろう。また、ウイルス感染と細菌感染を区別する自身の能力についても過大評価していると思われる」と話す。 一方、Merenstein氏は、「この研究は、咳に関するさらなる研究の必要性を強調するものだ。咳が深刻な問題の指標になり得ることは分かっている。咳は、外来受診の理由として最も多く、年間の受診件数は、外来では約300万件、救急外来では約400万件以上に上る」と話す。その上で同氏は、「重篤な咳の症状とその適切な治療法は、おそらくはランダム化比較試験によりもっと詳しく研究される必要がある。なぜなら、今回の研究は観察研究であり、また、2012年頃からこの問題を研究したランダム化比較試験は実施されていないからだ」と述べている。

29.

2024年の医師のコロナワクチン、接種する/しないの二極化進む/医師1,000人アンケート

 新型コロナワクチンの全額公費による接種は2024年3月31日で終了した。令和6年度(2024年度)は、秋冬期に自治体による定期接種が開始される。定期接種の対象となるのは65歳以上、および60~64歳で心臓、腎臓または呼吸器の機能に障害があり、身の回りの生活が極度に制限される人、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)による免疫の機能に障害があり、日常生活がほとんど不可能な人で、対象者の自己負担額は最大で7,000円となっている。なお、定期接種の対象者以外の希望者は、任意接種として全額自費で接種することとなり、2024年3月15日時点の厚生労働省の資料によると、接種費用はワクチン代1万1,600円程度と手技料3,740円で合計1万5,300円程度の見込みとなっている1)。この状況を踏まえ、医師のこれまでのコロナワクチン接種状況と、今後の接種意向を把握するため、主に内科系の会員医師1,011人を対象に『2024年度 医師のコロナワクチン接種に関するアンケート』を4月1日に実施した。 Q1では、コロナの診療に現在携わっているかについて聞いた。「診療している」が79%、「診療していない」が21%だった。年代別で「診療している」と答えた割合は、40代(86%)、60代(83%)、30代(81%)の順に多かった。診療科別では、血液内科(94%)、呼吸器内科(94%)、救急科(92%)、総合診療科(90%)、腎臓内科(88%)、神経内科(88%)、内科(85%)、小児科(83%)、消化器内科(81%)、糖尿病・代謝・内分泌内科(80%)、臨床研修医(80%)の順に多かった。年齢が低い医師ほど、コロナに感染した割合が高い Q2では、これまでの新型コロナの感染歴を聞いた。感染したことがある医師は全体の45%、感染したことがない/感染したかわからない医師は55%であった。感染したことがある医師は年齢が低いほど、感染した割合が高く、20代は60%、30代は55%、40代は51%、50代は44%、60代は35%、70代以上は24%だった。臨床数別では、病床数が多いほうが感染した医師の割合が高く、20床以上で感染したのは49%、0~19床では34%だった。また、コロナ診療状況別では、コロナを診療している医師では47%、診療していない医師では37%に感染歴があった。昨年は20~40代の接種率が50%弱 Q3では、2023年秋冬接種でのXBB.1.5対応ワクチンの接種状況を聞いた。全体では「接種した」が58%、「接種していない」が42%だった。年代別で「接種した」と答えた割合は、多い順に70代以上(77%)、60代(72%)、50代(61%)、20代(50%)となり、30代(45%)と40代(48%)は50%未満であった。コロナ診療状況別の接種率は、診療している医師は62%、診療していない医師は46%であった。前年の傾向を引き継ぎ、接種する人と接種しない人の二極化進む Q4では、2024年度にコロナワクチンを接種する予定かどうかを聞いた。全体では「接種する予定」が33%、「接種する予定はない」が41%、「わからない」が26%となった。年代別では、「接種する予定」と答えた割合が過半数となったのは70代以上(56%)のみで、ほかは多い順に60代(44%)、50代(31%)、40代(28%)、20代(28%)、30代(23%)であった。30代では「接種する予定はない」が54%となり過半数を占めた。2023年コロナワクチン接種状況別で、2023年に接種した人では「2024年度に接種する予定」が53%、「2024年度に接種する予定はない」が16%となった。対して、2023年に接種していない人では、「接種する予定」が6%、「接種する予定はない」が74%となり、今回のアンケートで最も顕著な差が認められ、医師のなかでもコロナワクチンを接種する人と接種しない人の二極化が進んでいることがわかった。 Q5では、自身が受ける2024年度のコロナワクチンの費用は、病院負担か自己負担のどちらになるか、これまでのインフルワクチンなどの対応を踏まえ推測を交えて聞いた。「おそらく全額病院負担」が22%、「おそらく一部自己負担」が22%、「おそらく全額自己負担」が23%、「わからない」が33%となり、全体的に均等な割合となった。2024年度にワクチンを接種する予定の人のうち「全額病院負担」35%、「一部自己負担」29%、「全額自己負担」16%だったのに対し、接種する予定はない人は「全額病院負担」12%、「一部自己負担」20%、「全額自己負担」30%であった。ワクチンの必要性や高額な治療薬について、患者にどう説明するか Q6の自由回答のコメントでは、新型コロナに関して現在困っていることや知りたい情報を聞いた。主な回答は以下のとおり。ワクチンについて・ワクチンで感染予防が成り立たないのは明白。ただし重症予防は十分成り立っていたと思うので、高齢者と持病多い人は無料で受けられるようにしてほしい(40代、循環器内科)・接種の必要性をよく質問されるが、正直な所、自分も勧めてよいのか迷っている(40代、小児科)・今後新たに使用可能となるワクチンの種類とその効果など(60代、内科)・公費負担が終了すると被接種者は減少すると思われるが、今後の流行予測は?(70代以上、内科)・医療従事者のワクチン接種費用について(50代、内科)治療薬について・抗ウイルス薬の値段が高い事の説明をどうするか(60代、内科)・コロナ治療薬の処方が減り、対症療法が増えると思う(70代以上、内科)・抗ウイルス薬の適応と思われる患者さんが、高額のため投薬拒否された時のことを考えると頭が痛い(50代、消化器内科)流行状況、院内対策などについて・現在の感染状況の情報発信が少なくなり、新型コロナ感染症に対する世間の認識が乏しくなり、感染増加を招いていること(40代、呼吸器内科)・感染対策の立場として、職場での接種をどうするか悩んでいる(40代、感染症内科)・発熱外来の体制に悩んでいる(30代、呼吸器内科)・後遺症に関する診断(40代、呼吸器内科)アンケート結果の詳細は以下のページで公開中。2024年度 医師のコロナワクチン接種に関するアンケート

30.

新型インフルエンザ、新型コロナ両パンデミックは世界人口動態にいかなる影響を及ぼしたか?(解説:山口佳寿博氏/田中希宇人氏)

 米国・保健指標評価研究所(IHME)のSchumacher氏を中心とするGlobal Burden of Diseases, Injuries, and Risk Factors Study (GBD) 2021(GBD-21と略記)の研究グループは、1950年から2021年までの72年間に及ぶ世界各国/地域における年齢/性差を考慮した人口動態指標に関する膨大な解析結果を発表した。GBD-21では、72年間における移住、HIV流行、紛争、飢餓、自然災害、感染症などの人口動態に対する影響を解析している。世界の総人口は1950年に25億であったものが2000年には61億、2021年には79億と著明に増加していた。世界の人口増加は2008年から2009年に最大に達し、それ以降はプラトー、2017年以降は減少傾向に転じている。本論評では、GBD-21に示された解析結果を基に、人類の人口動態に多大な影響を及ぼしたと予想される2009~10年の新型インフルエンザ(2009-H1N1)と2019年末から始まった新型コロナ(severe acute respiratory syndrome coronavirus-2:SARS-CoV-2)両パンデミックの影響に焦点を絞り考察する。新型インフルエンザ・パンデミックの世界人口動態に及ぼした影響 20世紀から21世紀にかけて発生したA型インフルエンザ・パンデミックには、1918年のスペイン風邪(H1N1、致死率:2%以上)、1957年のアジア風邪(H2N2、致死率:0.8%)、1968年の香港風邪(H3N2、致死率:0.5%)、2009年の新型インフルエンザ(2009-H1N1、致死率:1.4%)が存在する。2009-H1N1は、2009年4月にメキシコと米国の国境地帯で発生したが1年半後の2010年8月には終焉した。2009-H1N1は、北米鳥H1、北米豚H1N1、ユーラシア豚H1N1、ヒトH3N2由来のRNA分節が遺伝子交雑(再融合)を起こした特異的な4種混合ウイルスである。2009-H1N1は8個のRNA分節を有するが、そのうち5個は豚由来、2個は鳥由来、1個がヒト由来であった。 GBD-21で提示された世界の人口動態データは1950年以降のものであるので、スペイン風邪を除いたアジア風邪、香港風邪、2009-H1N1によるパンデミックの世界人口動態に対する影響を解析することができる。GBD-21の解析結果を見る限り、世界の総人口、平均寿命、小児死亡率、成人死亡率などにおいて各インフルエンザ・パンデミックに一致した特異的変動を認めなかった。 2009-H1N1によるパンデミック時のPCRを中心とする検査確定致死率は1.4%であり、1950年以降に発生したインフルエンザ・パンデミックの中では最も高い。にもかかわらず、2009-H1N1が世界の人口動態に有意な影響を及ぼさなかったのは、それまでの季節性インフルエンザに対して開発された抗ウイルス薬オセルタミビル(商品名:タミフル、内服)とザナミビル(同:リレンザ、吸入)が2009-H1N1に対しても有効であったことが1つの要因と考えられる。宿主細胞内で増殖したインフルエンザが生体全体に播種するためにはウイルス表面に発現するNeuraminidase(NA)が必要であり、抗ウイルス薬はNAの作用を阻害しウイルス播種を阻止するものであった。2009-H1N1のNAはユーラシア豚由来であったが、ヒト型季節性インフルエンザに対して開発された抗ウイルス薬は2009-H1N1の播種を抑制するものであった。有効な抗ウイルス薬が存在したことが2009-H1N1の爆発的播種を阻止し、パンデミックの持続を1年半という短期間に限定できたことが2009-H1N1によるパンデミックによって世界の人口動態が著明な影響を受けなかった要因の1つであろう。本邦では2009-H1N1パンデミック時に抗ウイルス薬が臨床現場で積極的に使用され、その結果として、本邦の2009-H1N1関連致死率が先進国の中で最低に維持されたことは特記すべき事実である。 2009-H1N1パンデミックは1年半という短い期間で終焉したので、パンデミック期間中に予防ワクチンの問題が積極的に議論されることはなかった。しかしながら、2010年以降、2009-H1N1は従来のA型季節性インフルエンザであったソ連株H1N1を凌駕し季節性A型インフルエンザの主要株となった。それに伴い、2015年以降、A型の2009-H1N1株とH3N2株、B型の山形系統株とビクトリア系統株を標的とした4価ワクチンが予防ワクチンとして導入された。 上記以外に20世紀後半から21世紀にかけて高病原性鳥インフルエンザH5N1(1997年発生、致死率:60%)、高病原性鳥インフルエンザH7N9(2013年発生、致死率:30%)などが注目された時期もあったが、これらのウイルスのヒトへの感染性は低く人間界でパンデミックを惹起するものではなかった。新型コロナ・パンデミックの世界人口動態に及ぼした影響 SARS-CoV-2は、2019年末に中国・武漢から発生した野生コウモリを自然宿主とする新たなコロナウイルスである。WHOは2020年1月に世界レベルで懸念される公衆衛生上の“緊急事態宣言”を新型コロナに対して発出した。WHOの緊急事態宣言は2023年5月に解除された。すなわち、新型コロナの緊急事態宣言は新型インフルエンザのパンデミックに比べて長く、3年半持続したことになる。WHOは新型コロナ感染症に対して“パンデミック”という表現を正式には用いていないが、本論評では新型インフルエンザとの比較のため“緊急事態宣言”を“パンデミック”と置き換えて記載する。 ヒトに感染し局所的に健康被害をもたらしたコロナウイルスには、SARS-CoV-2以外に2002年のキクガシラコウモリを自然宿主とするSARS-CoV(致死率:9.6%)と2012年発生のヒトコブラクダを自然宿主とするMERS-CoV(Middle East respiratory syndrome coronavirus、致死率:34%)が存在する。しかしながら、これらのコロナウイルスのヒトへの感染性は低く、人間界でパンデミックを起こすものではなかった。 GBD-21の解析データによると、2020年と2021年の2年間における世界の推定総死亡者数は1億3,100万人、うち新型コロナに起因するものが1,590万人であった。WHOから報告されたPCRを中心とした検査確定新型コロナによる世界総死亡者数は、2024年3月の段階で704万人であり、2021年末ではこの値より有意に少ない死亡者数と考えられ、GBD-21で提出された推定値と大きく乖離していることに注意する必要がある。GBD-21の死亡者数データにはウイルス感染の確定診断がなされていない症例が含まれ、死亡者数の過大評価、逆にWHOの報告は厳密であるが故に死亡者数が過小評価されている可能性がある。両者の中間値が新型コロナによる死亡者数の真値に近いのかもしれない。 以上のようにGBD-21の報告には問題点が存在するが、本報告が提出した最も重要な知見は、2020年から2021年の2年間における5歳から25歳未満の群(小児、青少年、若年成人)の死亡率が他年度の値と同等であったのに対し、25歳以上の成人死亡率が明確に増加していたことを示した点である。以上の解析結果は、新型インフルエンザ・パンデミックとは異なり、新型コロナ・パンデミックは世界の人口動態、とくに、成人の人口動態に重要なインパクトを与えたことを意味する。 新型コロナの遺伝子変異は活発で、2020年度内は武漢原株と武漢原株のS蛋白614位のアミノ酸がアスパラギン酸(D)からグリシン(G)に変異したD614G株が中心であった。2021年にはアルファ株(英国株)、ベータ株(南アフリカ株)、ガンマ株(ブラジル株)、デルタ株(インド株)と変異/進化を繰り返し、2022年以降はオミクロン株が中心ウイルスとなった。以上の変異株はウイルスが生体細胞に侵入する際に重要なウイルスS蛋白の量的/質的に異なる遺伝子変異によって特徴付けられる。2024年現在、オミクロン株から多数の派生株が発生している(BA.1、BA.2、BA.4/5、BQ.1、BA.275、XBB.1.5など)。すなわち、GBD-21に示されたデータは武漢原株からデルタ株までの影響を示すものであり2022年以降のオミクロン株による影響は含まれていない。先進国の疫学データは、デルタ株最盛期まではウイルスの変異が進むほど新型コロナの病原性が上昇していたことを示唆している。すなわち、GBD-21に示された2020年を含む2年間における世界全体での成人死亡率の有意な上昇は、武漢原株からデルタ株に至るウイルスによってもたらされた結果である。 本邦独自のデータを基に考察すると(厚生労働省:新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード、2022年3月2日)、デルタ株時代の致死率が4.25%であったの対し、オミクロン株初期の致死率は0.13%と有意に低値であった。しかしながら、オミクロン株初期における年齢別死亡率は、30歳未満の群で低いのに対し30歳以上の群では有意に高く、GBD-21で示されたデルタ株最盛期までの傾向と一致した。オミクロン株最盛期における世界の年齢別死亡率がどのような動態を呈するかは興味深いものであり、2022年以降の世界人口動態に関する解析が待たれる。 新型コロナの変異に伴う感染性と病原性の増強は、ウイルス自体の性状変化に起因するものであることは間違いない。しかしながら、それらを修飾した因子として、抗ウイルス薬、予防ワクチンの開発遅延の問題を考慮する必要がある。人類の歴史にあって、コロナが世界的規模の健康被害をもたらしたのは2019年以降のパンデミックが初めてであった。そのため、パンデミック発症時点では新型コロナに特化した抗ウイルス薬、予防ワクチンの開発はほぼ“ゼロ”の状態であった。しかしながら、その後、多数の抗ウイルス薬、予防ワクチンが非常に短期間の間に開発が進められた。抗ウイルス薬の1剤目として、2020年5月、米国FDAはエボラ出血熱に対して開発されたRNA polymerase阻害薬レムデシビル(商品名:ベクルリー点滴静注)の新型コロナに対する緊急使用を承認した。2剤目として、2021年11月、英国医薬品・医療製品規制庁(MHRA)はRNA依存RNA polymerase阻害薬モルヌピラビル(同:ラゲブリオカプセル、内服)を承認した。3剤目として、2021年12月、米国FDAは3CL protease(Main protease)阻害薬であるニルマトレルビル・リトナビル(同:パキロビッドパック、内服)の緊急使用を承認した。上記3剤は、少なくとも初期のオミクロン株(BA.1、BA.2)に対しても有効であった。上記3剤に加え、本邦ではニルマトレルビル・リトナビルと同様に3CL protease阻害薬であるエンシトレルビル(同:ゾコーバ、内服)が、2022年11月、緊急使用が承認された。いずれにしろ、GBD-21のデータ集積時に使用できた主たる抗ウイルス薬はレムデシビルのみであった。 新型コロナに対する予防ワクチンも2020年初頭から大車輪で開発が進められ、遺伝子ワクチン、蛋白ワクチン、不活化ワクチンなど170種類以上のワクチンがふるいに掛けられた。それらの中で現在のオミクロン株時代にも生き残ったワクチンは2種類のmRNAワクチンであった(ファイザー社のBNT162b2系統[商品名:コミナティ系統]とモデルナ社のmRNA-1273系統[同:スパイクバックス系統])。話を簡単にするため本邦における成人に対するmRNAワクチンについてのみ考えていくと、武漢原株対応1価ワクチンに対する厚労省の認可は2021年春、オミクロン株BA.4/5対応2価ワクチン(武漢原株+BA.4/5)に対する認可は2022年秋、オミクロン株XBB.1.5対応1価ワクチンの認可は2023年夏であった。GBD-21に示されたデータは武漢原株対応1価ワクチンが使用された時期のものであり、デルタ株に対する予防効果は十分なものではなかった。すなわち、GBD-21のデータ集積がなされた2021年まででは、その時期の優勢株(アルファ株、ベータ株、ガンマ株、デルタ株)の強い病原性に加え、抗ウイルス薬、予防ワクチンが共に不十分であったこともデータの修飾因子として作用していた可能性を否定できない。

31.

第93回 「高すぎる自己負担額の話」をする?新型コロナのレムデシビル投与前

当院では、中等症以上の新型コロナを現在も引き受けています。「5類感染症」に移行してからというもの、基本的には自施設で診ていただける感染症と思っていましたが、「新型コロナ陽性になりました、当院では対応は難しいので貴院にてよろしく診療お願い申し上げます」という紹介がチラホラとあります。地域で機能集約していくことはよいことだと思いますが…。しかし、いつになったら「特別な感染症」ではなくなるのか、はなはだ疑問ではあります。ところで、中等症以上の新型コロナで入院になるということは、高確率で肺炎を発症しているわけです。新型コロナ陽性者の肺炎というのは、ウイルス性肺炎だけでなく誤嚥性肺炎や二次性器質化肺炎などいろいろな可能性を考慮する必要があるわけですが、抗菌薬を使用する・しないにかかわらず、抗ウイルス薬が必要になることが多いです。錠剤の内服ができないくらい症状がつらかったり、ADLや嚥下機能が低かったりする患者さんが多いので、基本的には入院例に対しては抗ウイルス薬の点滴であるレムデシビル(商品名:ベクルリー)が適用されることになります。レムデシビル、2024年4月1日から高額になりました。厳密には、これまで自己負担割合に応じて最大9,000円の自己負担で済んでいたものが、そのままガチで負担割合をかけ算した自己負担が生じることになってしまいました。具体的には表のようになります。他の経口抗ウイルス薬と比べると、レムデシビルの点滴が一歩抜きん出ていることがおわかりかと思います。画像を拡大する表. 新型コロナ治療薬の自己負担額(2024年4月1日以降)たとえば、レムデシビルを5日間投与すると、3割負担で約9万円になります。これだと、高額療養費制度の上限に達してしまう患者さんも結構多いのではないでしょうか。自己負担額がこのくらいになる治療を、事前に説明すべきかどうかは診療科や病院によって異なるでしょう。当院では、トラブルにならないように、「4月1日から抗ウイルス薬の自己負担額が高額となっております」という説明をするよう配慮しています。

32.

第190回 2025年、かかりつけ医機能報告制度スタートに向けて検討/厚労省

<先週の動き>1.2025年、かかりつけ医機能報告制度スタートに向けて検討/厚労省2.新型コロナ治療薬ラゲブリオ、7月から8.2%薬価引き下げ/厚労省3.マイナ保険証利用促進に向けた集中取り組み月間開始/厚労省4.少子高齢化が進行、65歳以上の人口が初めて2,000万人を超える/総務省5.子供の入院時、4割の医療機関が家族付き添いを要請/こども家庭庁6.画像診断の報告書確認が遅れ、患者が死亡/名古屋大学1.2025年、かかりつけ医機能報告制度スタートに向けて検討/厚労省厚生労働省は、4月12日に「かかりつけ医機能が発揮される制度の施行に関する分科会」を開催、2025年4月に施行予定の「かかりつけ医機能報告制度」に向けて、医療機関からの報告要件を議論した。この制度は、医療機関がどのようなかかりつけ医機能を有しているかを患者に対して明らかにし、患者の医療機関選択をサポートする目的で実施される。さらに地域医療の提供体制を強化するため、地域全体で機能を補完する形の協力体制を確立することも求められている。分科会では、医療機関に要求される報告内容として、通常の診療時間外の対応、入退院時の支援、在宅医療の提供、介護との連携などが提案されている。また、地域における医療ニーズに応じたかかりつけ医機能の確保と、それに必要な医師の教育や研修の充実が議論された。報告の具体案は、2024年5月の会合で示される予定であり、病院や診療所がどのように機能しているかの透明性を高めることが期待されている。報告制度は、地域ごとの医療の質の向上に寄与し、患者が自分の症状に最適な医療機関を選べるようにすることを目指している。参考1)第4回 かかりつけ医機能が発揮される制度の施行に関する分科会 資料(厚労省)2)「かかりつけ医機能」報告、厚労省が論点示す 報告内容など、5月中に具体案(CB news)3)かかりつけ医機能報告制度、「患者の医療機関選択」支援を重視?「地域での医療提供体制改革」論議を重視?-かかりつけ医機能分科会(Gem Med)2.新型コロナ治療薬ラゲブリオ、7月から8.2%薬価引き下げ/厚労省厚生労働省は、新型コロナウイルス感染症治療薬ラゲブリオ(一般名:モルヌピラビル)の薬価を7月1日から8.2%引き下げると発表した。この薬価改定は、中央社会保険医療協議会(中医協)において承認された費用対効果評価結果に基づいて行われるもの。モルヌピラビルは現在、1回の治療費が9万4,312円で、7月からの新薬価は8万6,596円となる。この薬はとくに重症化リスクが高い成人患者向けに使用され、治療の有効性とコストのバランスが評価された。分析では、ラゲブリオを使用した患者群と抗ウイルス薬を使用しない患者群との間で入院や死亡リスクに有意な差はみられなかった一方で、治療費の増加が確認されたため薬価の調整が必要と判断された。同様の評価が他の薬にも適用され、一例として慢性腎臓病治療薬ケレンディア(同:フィネレノン)は2.7%の薬価引き下げとなった。これらの薬価調整は、医療機関の在庫への影響を考慮し、新薬価の適用開始日が設定されている。中医協は、この決定を通じて、医療の費用効率の向上と患者への負担軽減を図ることを目指している。参考1)医薬品・医療機器等の費用対効果評価案について(厚労省)2)コロナ飲み薬 7月から薬価引き下げ 厚労省、費用対効果を分析(朝日新聞)3)中医協総会 ケレンディアは2.7%、ラゲブリオは8.2%薬価引下げ了承 費用対効果評価で 7月1日適用(ミクスオンライン)4)ラゲブリオ薬価8.2%引き下げ、7月から ケレンディアはマイナス2.7%(CB news)3.マイナ保険証利用促進に向けた集中取り組み月間開始/厚労省厚生労働省は、4月10日に社会保障審議会医療保険部会を開催した。現行、紙の健康保険証は、2024年12月2日に廃止される一方、利用が伸び悩んでいるマイナ保険証の利用促進強化を進めることを決定した。厚生労働省によれば、2023年3月のマイナ保険証利用率は5.47%と低迷しており、これを改善するために2024年5月~7月までを「マイナ保険証利用促進集中取組月間」と定め、積極的な推進活動を行う。経済団体、医療団体、保険者などが連携する健康寿命延伸と医療費適正化の支援活動を行う「日本健康会議」は、4月25日に東京都で医療DX推進フォーラム「使ってイイナ!マイナ保険証」を開催する。このイベントはオンラインでも中継され、武見 敬三厚生労働省大臣を含む3閣僚が参加し、利用促進宣言を行う予定。具体的な施策として、医療機関や薬局でマイナ保険証の利用者数を増やした場合、最大20万円の一時金が支給されることになった。支給の条件には、患者への声掛けやチラシの配布などが条件となっているさらに、厚労省は広範なメディアを利用した広報活動を展開し、医療機関のデジタル化推進体制整備に対しても支援を行う。また、新たに設けられた一時金は、医療機関が2023年10月以降に利用率向上を達成した場合に支給される。一方、この政策には批判もあり、公的資金を使用してのキャンペーンに対する疑問の声が上がっている。とくに金銭的インセンティブを用いた利用促進策が適切かどうかが議論の的となっている。しかし、厚労省はマイナ保険証が医療の質を向上させる重要なツールであるとし、その普及に向けた努力を続けるとしている。参考1)医療DX推進フォーラム「使ってイイナ!マイナ保険証」開催のお知らせ(日本健康会議)2)マイナ利用増、支援金 厚労省、医療機関に最大20万円(毎日新聞)3)「マイナンバーカードによる受診」実績等もとに、最大で病院20万円、クリニック10万円の一時金を今夏支給-社保審・医療保険部会(Gem Med)4)マイナ促進、6-11月の支援金を「一時金」に見直し 医療DX推進加算の新設に伴い(CB news)5)マイナ保険証利用促進宣言へ、日本健康会議 25日の医療DXフォーラムで、3閣僚出席(同)4.少子高齢化が進行、65歳以上の人口が初めて2,000万人を超える/総務省総務省は、4月12日に2023年のわが国の人口が前年比59万5,000人減少し、総人口は1億2,435万2,000人になったと発表した。わが国の人口減少は、13年連続で減少率は1950年以降で2番目に大きい。とくに、65歳以上の高齢者人口は2,007万8,000人増加し、全人口の約16.1%を占める。これは、少子高齢化の進行を示し、生産年齢人口(15~64歳)は1995年をピークに減少が続き、全体の約59.5%となった。厚生労働省の国立社会保障・人口問題研究所の推計によれば、2033年には世帯の平均人数が初めて2人を割り、1.99人になると予測されている。2050年までに、わが国の5,261万の全世帯のうち44.3%が1人暮らしの独居世帯となり、高齢者が半数近くを占める見込み。さらに未婚率の高い高齢者の割合も急増し、未婚の男性高齢者は約60%、女性は約30%に上るとされている。この人口動態の変化は、社会保障制度、とくに年金制度に大きな影響を与えており、労働力人口の減少と高齢者人口の増加により、年金財政の悪化が進行し、将来的な制度改革が急務となっている。さらに、外国人労働者の増加が新たな労働力として注目されている一方で、わが国の社会保障制度の持続可能性の確保が重要な課題となっている。参考1)人口推計(2023年)ー全国:年齢(各歳)、男女別人口・都道府県:年齢(5歳階級)、男女別人口ー(総務省)2)『日本の世帯数の将来推計(全国推計)』[2024年推計](国立社会保障・人口問題研究所)3)日本人人口、減少幅最大の83万人 外国人が労働力補う(日経新聞)4)平均世帯人数、初の2人割れへ=22年に、厚労省研究所推計-未婚化で単独高齢者増加(時事通信)5)23年総人口、13年連続減 59万人少ない1億2,435万人(日経新聞)6)2023年の日本の総人口 前年より60万人近く減少と推計 総務省(NHK)5.子供の入院時、4割の医療機関が家族付き添いを要請/こども家庭庁こども家庭庁によると、子供が入院する際、44%の医療機関が家族の付き添いを要請していることが明らかになった。付き添い入院は、原則任意であり、看護師が主にケアを担当することが一般的だが、小児の入院の際は家族が協力を求められるケースが多いとされていた。同庁が実施した調査結果によれば、付き添いが難しいと感じた家族が入院を見送ったり、他院への転院を考えたりする例が36%に上った。多くの医療機関は、とくに小さな子供の場合に付き添いを求める際に、家族の付き添いは子供の不安を和らげる効果もあるためと回答している。しかし、付き添い中の家族が直面する困難も多く、適切な寝具の提供がないためソファで寝るケースや、食事の調達が問題となることもある。実際、寝具の貸与が行われていない病院は15%に上り、食事は主にコンビニでの購入となっている。今回の調査結果を受け、同庁は医療機関に対して、保育士の配置など家族を支援する体制整備を促している。今後、付き添い入院の環境改善に向けた対策が、さらに進むことが期待される。参考1)令和5年度子ども子育て支援推進調査研究事業「入院中のこどもへの家族等の付添いに関する病院実態調査」の報告書及び事例集について(こども庁)2)子供入院時の家族付き添いは「病院が要請」44%、ソファで寝るケースも こども庁調査(産経新聞)3)子どもへの「付き添い入院」医療機関の4割要請…こども家庭庁調査、保育士らの手厚い配置促す(読売新聞)4)こどもの入院で家族の付き添い4割、転院調整も 全国医療機関調査(朝日新聞)6.画像診断の報告書確認が遅れ、患者が死亡/名古屋大学名古屋大学医学部附属病院は、画像診断の報告書の見落としによって肺がん診断が遅れ、患者が死亡する事例が発生したことを4月11日に公表した。報告書によると2016年3月、80代男性患者が腹痛を訴え胸腹部のCT検査を受けた。放射線科医は、肺に異常陰影を認めたため、肺がんの除外目的で追加検査を推奨した。しかし、泌尿器科の主治医はこの報告書を十分に熟読せず、放置したため、患者はその後、無治療で過ごし、2019年7月に肺がんと診断された。肺がんの発見が遅れたために患者の病状は進行し、手術不可能な状態となり、患者は2022年3月に肺がんおよび転移による腫瘍死によって死亡した。名古屋大学の安全推進委員会によって設置された「事例調査委員会」によってこの事例が調査され、2024年3月に調査報告書が取りまとめられた。報告書によると、肺がんの診断が適切に行われていれば、肺がんは初期段階で発見され、根治可能であった可能性が高いとされている。事例調査委員会の報告を踏まえ、病院は遺族に対して説明と謝罪を行い、賠償を行った。さらに、放射線科の報告書に対する対応の見落としを防ぐための再発防止策を強化することを発表した。この事例から、画像診断レポートの確実な読解と対応の重要性が再確認され、放射線科医からの報告に対する適切な臨床的フォローアップの必要性が浮き彫りとなった。また、患者とのコミュニケーションの改善と、医療チーム内の情報共有の徹底が求められている。参考1)画像診断レポートに記載された所見に対応せず、肺癌が進行し死亡した事例について(名大)2)肺がん疑い見落とし治療2年以上遅れるミス、病状悪化し80代男性死亡…名古屋大病院が遺族に謝罪(読売新聞)3)名大病院で医療ミス、医師がCT結果見落とす 肺がん進み男性死亡(朝日新聞)

33.

非高リスクコロナ患者、ニルマトレルビル・リトナビルvs.プラセボ/NEJM

 重症化リスクが高くない症候性の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)成人外来患者において、COVID-19のすべての徴候または症状の持続的な緩和までの期間は、ニルマトレルビル/リトナビルとプラセボで有意差は認められなかった。米国・ファイザーのJennifer Hammond氏らが、無作為化二重盲検プラセボ対照第II/III相試験「Evaluation of Protease Inhibition for COVID-19 in Standard-Risk Patients trial:EPIC-SR試験」の結果を報告した。ニルマトレルビル/リトナビルは、重症化リスクがある軽症~中等症COVID-19成人患者に対する抗ウイルス治療薬であるが、重症化リスクが標準(重症化リスク因子のないワクチン未接種者)または重症化リスク因子を1つ以上有するワクチン接種済みの外来患者における有効性は確立されていなかった。NEJM誌2024年4月4日号掲載の報告。ワクチン接種済み重症化リスクあり、未接種で重症化リスクなしの外来患者に発症後5日以内に治療開始 研究グループは、RT-PCR検査でSARS-CoV-2感染が確認され、COVID-19の症状発現後5日以内の成人患者を、ニルマトレルビル/リトナビル群、またはプラセボ群に1対1の割合で無作為に割り付け、12時間ごとに5日間投与した。 適格患者は、COVID-19の重症化リスク因子を少なくとも1つ有するCOVID-19ワクチン接種完了者、または、COVID-19重症化に関連する基礎疾患がなくワクチン接種を1回も受けていないか、過去12ヵ月以内に接種していない患者とし、参加者には電子日記を用いて1日目から28日目まで毎日、試験薬の服用時刻と事前に規定したCOVID-19の徴候または症状の有無および重症度を記録してもらった。 主要エンドポイントは、評価対象とするすべてのCOVID-19の徴候または症状の持続的な緩和が得られるまでの期間(28日目まで)、重要な副次エンドポイントは28日目までのCOVID-19関連入院または全死因死亡であった。主要エンドポイントを達成せず 2021年8月25日~2022年7月25日に、計1,296例がニルマトレルビル/リトナビル群(658例)またはプラセボ群(638例)に無作為化された(最大の解析対象集団:FAS)。このうち少なくとも1回、試験薬の投与を受けベースライン後に受診した1,288例(それぞれ654例、634例)が、有効性の解析対象集団となった。 有効性解析対象集団において、すべてのCOVID-19の徴候または症状の持続的な緩和が得られるまでの期間の中央値は、ニルマトレルビル/リトナビル群で12日、プラセボ群で13日であり、統計学的な有意差は認められなかった(log-rank検定のp=0.60)。 COVID-19関連入院または全死因死亡の発現割合は、ニルマトレルビル/リトナビル群で0.8%(5/654例)、プラセボ群で1.6%(10/634例)であった(群間差:-0.8%、95%信頼区間:-2.0~0.4)。 有害事象の発現率は、ニルマトレルビル/リトナビル群25.8%(169/654例)、プラセボ群24.1%(153/634例)で、両群間で同程度であった。また、治療関連有害事象の発現率はそれぞれ12.7%(83/654例)、4.9%(31/634例)で、この差は主にニルマトレルビル/リトナビル群においてプラセボ群より味覚障害(5.8% vs.0.2%)および下痢(2.1% vs.1.3%)の発現率が高かったためであった。

34.

小林製薬サプリ摂取者、経過観察で注意すべき検査項目・フォローの目安

 小林製薬が販売する機能性表示食品のサプリメント『紅麹コレステヘルプ(以下、サプリ)』による腎機能障害の発生が明らかとなってから約2週間が経過した。先生の下にも本サプリに関する相談が寄せられているだろうか。日本腎臓学会が独自で行った本サプリと腎障害の関連について調査したアンケートの中間報告1)から、少しずつサプリ摂取患者の臨床像が明らかになってきている。 そこで今回、日本腎臓学会副理事長である猪阪 善隆氏(大阪大学大学院医学系研究科腎臓内科学 教授)に、摂取患者を診療する際に注意すべき点、患者から相談を受けた場合の対応について緊急取材した。猪阪氏は全国の医師に対し、「医師が診療する際に注意すべき点として、電解質異常や腎機能障害が改善されない症例は専門医へ紹介してほしい。また、患者に対して、“過度な心配は不要”であることを伝えてほしい」と呼び掛ける。その理由は―。Fanconi(ファンコニー)症候群 日本腎臓学会のアンケート中間報告によると、今回報告された症例の多くにFanconi症候群を疑う所見が目立っていたと示唆されている。このFanconi症候群とは、腎臓専門医でも診療経験を有する医師は少ない、比較的まれな疾患だという。本疾患の概要を以下に示す。◆疾患概念・定義:近位尿細管の全般性溶質輸送機能障害により、本来近位尿細管で再吸収される物質が尿中への過度の喪失を来す疾患群で、ブドウ糖(グルコース)、重炭酸塩、リン、尿酸、カリウム、一部のアミノ酸などの溶質再吸収が障害され、その結果として代謝性アシドーシス、電解質異常、脱水、くる病などを呈する2)。◆原因:原因は多岐にわたり、発症年齢も乳児期から成人と多様。先天性のものではDent病、ミトコンドリア脳筋症をはじめ、原因不明の症例が国内では多く、後天性(二次性)のものとしては悪性腫瘍やネフローゼ症候群のほか、一部の抗腫瘍薬(シスプラチンなど)、バルプロ酸、抗ウイルス薬などの薬剤の使用が起因している2)。近年ではNSAIDsによる報告もみられる。◆主な症状:代謝性アシドーシスの特徴ともいえる疲労や頭痛のほか、筋力低下や骨の痛みなど。 猪阪氏は本病態とアンケートの中間報告を総合し、「今回寄せられた症例の場合、1/4の患者にステロイドが使用されていた。今回は専門医による対応であったことから、間質性腎炎の診断・治療に準じて腎生検を行い、炎症レベルを考慮しての治療であった。一般内科の医師の場合には、まず被疑薬の中止を行い、注意深く経過観察を続けてもらいたい」と治療方法について説明した。中間報告後に明らかになった電解質異常 上述したFanconi症候群のような所見を疑うには、日常診療で行っている尿検査や生化学検査、血液学検査をオーダーするなかで、電解質の項目に注意を払う必要があると同氏は強調した。「集まった症例をみると電解質異常が多くみられた。カリウム(K)値は本疾患においても低K血症による不整脈発症の観点から重要ではあるが、今回とくに注意が必要なのは、一般的な血液検査に含まれないリン(P)や重炭酸イオン(HCO3-)の変化」と同氏は話した。その理由として「ナトリウム(Na)値やK値は日頃から注意すべき項目として目が行きがちだが、血清P値や血液ガス分析によるHCO3-濃度の測定は、非専門科では日常的に行う検査ではないので、ぜひ意識してオーダーし、経過を診ていただきたい」と述べ、「サプリの摂取を中止しても代謝性アシドーシスの状態が続いている場合もあるため、その場合には専門医の診断が必要」と説明した。また、「電解質異常がどこまで完全に回復してくるのかは今後の検証が待たれる」ともコメントした。電解質異常が残るような症例は専門医へ 専門医へ紹介するタイミングについて、同氏は「本サプリの問題が報道される前の時点では、腹痛などの症状を訴える→症状に応じた検査を実施→問診でサプリ摂取が判明→腎機能検査という診断の流れもあったようだ。しかし、今はサプリの影響が強く疑われ、すでに不安を抱えた患者さんは一通り受診を終えられているかと思う」と前置きをしたうえで、「被疑薬を中止した場合、約2週間で改善する傾向にある。中止したことで腎機能の改善がみられる場合は、そのままかかりつけ医での経過観察で問題ないため、正常値まで改善するのをフォローしてほしい。しかし、腎機能が十分改善しない場合や、上述のとおり電解質異常が残る場合には、早めに専門医へ紹介してほしい。また、症状が重症と考えられる患者についても同様」と紹介すべき患者の見極め方を説明した。 このほか、アンケート結果では尿の異常として血尿が報告されているが、これについては「サプリ摂取による腎障害が原因で生じたものではなく、潜在的にあった原疾患による可能性も考えられる」と説明した。また、本サプリを服用して来院した患者であっても、それ以外のサプリや薬剤を服用している可能性の高い患者も多いため、「原因をサプリに絞り込まずに鑑別していくことが必要」とも補足した。 なお、アンケート結果は5月に取りまとめて報告する予定であり、今年6月28~30日に横浜で開催される第67回日本腎臓学会学術総会でも緊急シンポジウムの開催が検討されている。

35.

第182回 診療報酬改定を答申、賃上げの実現を主眼とするも医療費抑制も視野に/中医協

<先週の動き>1.診療報酬改定を答申、賃上げの実現を主眼とするも医療費抑制も視野に/中医協2.「地域包括医療病棟」を新設、病床再編で高齢者救急患者の受け皿を開設/厚労省3.医療DXを診療報酬改定でさらに推進、マイナ保険証の普及促進で患者負担増/厚労省4. 医療機関の倒産件数は高水準のまま横ばい、負債総額は過去最大を記録/帝国データバンク5.リピーター医師、透析治療せずに患者が死亡、遺族が病院に訴え/大阪6.昇圧薬の補充遅延で患者が死亡、神戸徳洲会病院の安全体制問題が再び問題に/兵庫1.診療報酬改定を答申、賃上げの実現を主眼とするも医療費抑制も視野に/中医協厚生労働省は、2月14日に中央社会保険医療協議会(中医協)の総会を開き、2024年度の診療報酬改定について答申を行った。今回の診療報酬改定は、医療従事者の賃上げを進めつつ、医療費抑制という2つの目標を達成しようとする「メリハリ」のある内容を特徴としている。とくに生活習慣病に関する管理料の適正化が注目されている。これにより医療費の国費負担の一部抑制が図られたが、全体抑制額は200億円に止まり、医療費全体の増大傾向に対する根本的な解決には至っていないとする声もある。今回の改定により、医療従事者への賃上げが実施され、とくに40歳未満の勤務医や看護職員、薬剤師らの待遇改善が図られている。これには、外来・在宅ベースアップ評価料の新設や初診料、再診料の増額などが含まれている。しかし、生活習慣病に関する報酬の適正化には、糖尿病や高血圧、脂質異常症を特定疾患療養管理料の対象から除外するなどの措置が含まれ、これによりプライマリケアを提供する開業医の収入に影響が出る可能性がある。また、介護報酬の改定では、訪問介護の基本報酬が削減される一方で、介護職員の賃上げを目的とした加算の設定が行われた。しかし、小規模事業者からは報酬減による経営の危機やサービス提供能力の低下が懸念されている。精神科訪問看護に関しても、報酬の取得条件が厳格化され、不正や過剰請求への対策が強化された。参考1)中央社会保険医療協議会(第584回) 総会(厚労省)2)「めりはり」ある診療報酬改定、武見厚労相が総括 生活習慣病の管理料など適正化(CB news)3)開業医の改革道半ば 診療報酬改定 医療費の国費負担12兆円 200億円抑制、生活習慣病が軸(日経新聞)4)訪問介護 異例の報酬削減 小規模事業者、撤退の危機(東京新聞)2.「地域包括医療病棟」を新設、病床再編で高齢者救急患者の受け皿を開設/厚労省2024年度の診療報酬改定のうち、入院診療では、高齢者救急患者への対応強化を目的とした「地域包括医療病棟入院料」の新設が注目されている。厚生労働省は、以前から急性期一般入院料1(旧7対1病床)の病床削減が進まないことを問題視しており、急性期病床の削減のため急性期一般入院料1の平均在院日数を16日以内にすることで、病床の再編を病院に促している。厚労省は、後期高齢者が増加するのに合わせて、病気の治療に加えて、早期のリハビリや栄養管理で身体機能の低下を抑え、退院支援を行う目的で1日当たり3,050点の「地域包括医療病棟」を新たに設けた。看護配置は「10対1」で、リハビリテーションや栄養管理、口腔管理を含む包括的なサービス提供が施設基準の条件。地域包括医療病棟の要件としては、平均在院日数は21日以内、在宅復帰率が8割以上としているほか、特定機能病院や急性期充実体制加算を届け出ている高度急性期病院は算定できないなど制限も設けられている。地域包括医療病棟の新設で、急性期医療の機能分化を促進し、中小病院などに少なくない影響が及ぶ可能性があり、地域医療への影響が大きくなると予想されている。今回の改定により、地域包括医療病棟が高齢者救急の受け皿として機能強化されることが期待されているが、急性期医療の再編や地域医療提供体制の整備と連携が今後の課題となる。参考1)令和6年度診療報酬改定について(厚労省)2)厚労省 早期のリハビリで退院を支援する病棟新設を後押しへ(NHK)3)24年度改定 急性期の機能分化へ「地域包括医療病棟入院料」新設 中小病院など地域医療への影響大きく(ミクスオンライン)4)地域包括医療病棟入院料を新設 10対1看護配置、急性期一般入院料からの転換が進むか(日経メディカル)5)地域包括医療病棟入院料は3,050点 リハ・栄養・口腔連携加算80点、24年度改定(CB news)3.医療DXを診療報酬改定でさらに推進、マイナ保険証の普及促進で患者負担増/厚労省2024年度の診療報酬改定では、医療従事者の賃上げを支援し、医療のデジタル化(医療DX)を推進するための複数の措置が導入された。とくに、マイナンバーカードを活用した「マイナ保険証」の利用促進が後押しされ、救急搬送時の情報確認などに活用される方針だ。しかし、このデジタル化推進は患者の負担増につながり、障害者団体からは現行の健康保険証廃止に対する懸念の声が上がっている。新たに設けられる「医療DX推進体制整備加算」により、マイナ保険証や電子処方箋の利用を促進する医療機関に対して、初診時に80円、歯科で60円、調剤で40円が加算され、患者の自己負担が増加する。また、政府は、救急搬送時にマイナ保険証を用いることで、患者かかりつけ医や服薬歴などの情報を迅速に確認し、効率的な救命活動をする計画を立てている。一方で、障害者団体は、マイナ保険証の1本化により、支援が必要な障害者が置き去りにされる恐れがあると指摘し、現行の保険証も残すべきだと訴えている。政府は、現行の健康保険証を2024年12月に原則廃止し、マイナ保険証への完全移行を計画しており、利用率の向上に努めているが、現在の利用率は4.29%と低調。今回の改定で、医療DXの推進やマイナ保険証の普及に向けた取り組みが強化されるが、患者負担の増加や障害者の利便性の問題など、新たな課題も提起されている。参考1)マイナ保険証の利用促進なども後押し 診療報酬改定 患者は負担増に(朝日新聞)2)マイナ保険証、救急搬送時に活用へ 服薬歴など確認(日経新聞)3)マイナ保険証への一本化で障害者が置き去りに…「誰のためのデジタル化か」当事者団体が国会議員に訴え(東京新聞)4.医療機関の倒産件数は高水準のまま横ばい、負債総額は過去最大を記録/帝国データバンク2023年、医療機関の倒産件数は41件で、前年と同数だったが、負債総額は253億7,200万円と過去10年で最大となったことが、帝国データバンクの調査で明らかとなった。この負債総額の増加は、大きな負債を抱えていた「八千代病院」(八千代市)などを運営する医療法人社団心和会(負債132億円)と「東京プラス歯科矯正歯科」などを運営していた医療法人社団友伸會(負債37億円)の影響が大きい。倒産した医療機関のうち、「病院」が3件、「診療所」が23件、「歯科医院」が15件で、大部分が5億円未満の負債。帝国データバンクは、2024年も医療機関の倒産が高水準で推移すると予想しており、とくに診療所では経営者の高齢化や健康問題が影響し、過剰債務などを理由に法的整理を選択するケースが増える可能性を指摘している。参考1)病院などの「医療機関」、倒産が2年連続で40件超え 今後は診療所の動向に注目(ITmedia)2)帝国データバンク 2024年 1月報(帝国データバンク)5.リピーター医師、透析治療せずに患者が死亡、遺族が病院に訴え/大阪透析治療を受けていた90歳男性が、新型コロナウイルス感染で転院したにもかかわらず、必要な治療を受けられずに死亡した事件で、遺族が病院運営法人に約5,000万円の損害賠償を求めて大阪地裁に提訴した。男性は、大阪府内のクリニックで週3回の透析治療を受けていたが、新型コロナウイルス陽性と診断された後、同系列の医誠会病院に転院した。転院後は抗ウイルス薬のみ投与され、透析治療は一切行われなかったとされている。数日後に男性は、窒息による低酸素脳症で死亡した。遺族は病院が透析治療可能であるとクリニックに返答し、クリニックが診療情報を引き継いだにもかかわらず治療が行われなかったと主張している。問題は、過去に赤穂市民病院で医療過誤を含む複数の医療事故に関与し、依願退職した後に医誠会病院へ転職した40代の男性医師が関与した可能性があり、この医師は患者の透析治療が必要であるにもかかわらず、適切な対応を怠ったとされている。遺族は、医師の初動対応の不備と病院の管理体制の欠如が死に直結したと主張し、医療法人「医誠会」に対し約5,000万円の損害賠償を求めている。この訴訟は、医療機関の責任と医師個人の過去の問題が患者の命にどのような影響を及ぼしたかという点で、病院側の安全体制の責任を問いかけている。遺族は、真実を求めるとともに、同様の悲劇が再発しないよう医療機関の体制改善を訴えている。参考1)腎不全で透析治療の男性 新型コロナ陽性で転院するも透析治療されず死亡 遺族が約5,000万円の賠償を求め病院側を提訴 大阪地裁(MBS)2)元市民病院脳外科医 転職先でも医療トラブル 透析治療せず患者死亡か(赤穂民報)6.昇圧薬の補充遅延で患者が死亡、神戸徳洲会病院の安全体制問題が再び問題に/兵庫神戸徳洲会病院(神戸市垂水区)で今年1月、心肺停止状態から回復した90代の男性患者が、昇圧薬が切れた直後に死亡していたことが判明した。報道によると、患者に投与していた昇圧薬が切れた直後、薬剤の補充が準備されておらず、必要な治療が提供されなかったため、薬が切れた直後に患者は亡くなった。病院側は「死期を早めた可能性がある」として家族に謝罪し、神戸市は医療安全体制に不備がなかったか調査を行っている。同院は、去年カテーテル治療後の患者死亡事案や適切な治療が行われず糖尿病患者が亡くなった事案が発覚しており、医療安全体制の問題で神戸市から行政指導を受けていた。今回の事案を受け、神戸市は改善命令を出す方針であり、病院は救急患者の受け入れを一時中止し、院内で原因調査と適切な対応を進めている。参考1)神戸徳洲会病院 投与の薬剤追加されず その後 患者死亡(NHK)2)薬剤の補充分なく、薬切れた直後に90歳代患者が死亡…神戸徳洲会病院「死期早めた可能性」(読売新聞)3)神戸徳洲会病院、薬剤の追加を怠り患者が死亡 警告音が鳴り、家族が訴えるも対応されず(神戸新聞)

36.

COVID-19外来患者において高用量フルボキサミンはプラセボと比較して症状改善までの期間を短縮せず(解説:寺田教彦氏)

 フルボキサミンは、COVID-19流行初期の臨床研究で有効性が示唆された比較的安価な薬剤で、COVID-19治療薬としても期待されていた。しかし、その後有効性を否定する報告も発表され、昨年のJAMA誌に掲載された研究では、軽症から中等症のCOVID-19患者に対するフルボキサミンの投与はプラセボと比較して症状改善までの期間を短縮しなかったことが報告されている1,2)。 同論文では、症状改善までの期間短縮を示すことができなかった理由として、ブラジルで実施されたTOGETHERランダム化プラットフォーム臨床試験3)等よりもフルボキサミンの投与量が少ないことを可能性の1つとして指摘しており、今回の研究では、COVID-19外来患者に対して高用量フルボキサミンの投与により症状改善までの期間を短縮するかの評価が行われた。 本研究では、30歳以上でCOVID-19発症から7日以内の外来患者を、高用量のフルボキサミン群とプラセボ群に無作為に割り付けて比較した。結果は、主要アウトカムである症状改善までの期間短縮は認めず(調整ハザード比:0.99、95%信頼区間:0.89~1.09、有効性のp=0.40)、副次アウトカムの28日以内死亡例は両群ともに0例で、入院や救急外来/救急診療部受診ではフルボキサミン群14例(2.4%)に対してプラセボ群21例(3.6%)とフルボキサミン群での医療介入イベントは3分の1程度少なかったが、事前に定めた基準を満たすほどの差はなかった4)。 また、忍容性の観点では、「調子が悪いため、薬を飲むつもりはない」と報告した患者は、フルボキサミン群6.4%に対してプラセボ群は2.1%と、以前から想定されていた高用量フルボキサミンにおける忍容性の低さが示されたと考える。以上より、昨年の論文に続き、本研究でもCOVID-19に対するフルボキサミン投与の有効性は示されなかった。 今回の主要アウトカムであるCOVID-19の症状改善までの期間短縮では、有意差を示した過去の報告は乏しく、COVID-19に対して死亡率低下や重症化予防効果を示したニルマトレルビルやモルヌピラビルでさえほとんどない。 統計学的に有意な症状改善効果を示した薬剤にはエンシトレルビルがあり、プラセボに比較して症状消失までの時間を約24時間短縮させている5)。本邦で重症化リスクは低いが症状の強い患者から対症療法以外の薬剤も処方希望がある場合は、フルボキサミンを処方するよりもエンシトレルビルを処方するほうが理にかなっているだろう。 ただし、昨今のCOVID-19診療では、流行株の変化やワクチン接種の効果により、死亡率や重症化率は低下傾向で、外来患者の症状もデルタ株流行時よりも軽減しているように感じている。流行株が変遷した現在において、症状改善までの期間短縮のメリットが薬価や副作用・ウイルス耐性化のリスクといったデメリットに勝る薬剤を発見・開発することは、今後もなかなか難しいかもしれない。 さて、現在の医療現場でCOVID-19に関する問題として残っていることには、施設入所や入院中の患者で発生するCOVID-19クラスターがある。執筆時点で、COVID-19に対する発症予防効果が期待されている薬剤は、ワクチンや抗体療法を除くと証明されておらず、現在の流行株によるクラスター対策で即時に有用な薬剤はない。COVID-19は、重症化リスクの乏しい患者においては、インフルエンザウイルスなどと近い重症度になりつつある6)が、現在でも感染力は強く、施設内・院内感染におけるクラスターはいまだに施設や医療機関に負荷をかける原因となっている。 しかし、COVID-19に対して重症化予防が証明された抗ウイルス薬でも、発症予防効果が証明された薬剤はなく、症状改善までの期間短縮の薬剤よりも発症予防効果のある薬剤のほうが医療現場でのニーズは高いかもしれない。■参考1)McCarthy MW, et al. JAMA. 2023;329:269-305.2)CareNet.comジャーナル四天王「フルボキサミン、軽~中等症コロナの症状回復期間を短縮せず/JAMA」(2023年1月30日)3)Reis G, et al. Lancet Glob Health. 2022;10:e42-e51.4)CareNet.comジャーナル四天王「コロナ外来患者への高用量フルボキサミン、症状期間を短縮せず/JAMA」(2024年1月12日)5)日本感染症学会 COVID-19治療薬タスクフォース「COVID-19に対する薬物治療の考え方 第15.1版」(2023年2月14日)6)Xie Y, et al. JAMA. 2023;329:1697-1699.

37.

組み換え帯状疱疹ワクチン、接種回数別の4年後の効果

 組み換え帯状疱疹ワクチン(商品名:シングリックス)の2回接種は、臨床試験において有効率97%と非常に高い有効性を示しているが1)、実臨床における長期有効性は明らかになっていない。そこで、米国・Kaiser Permanente Northern CaliforniaのOusseny Zerbo氏らは、組み換え帯状疱疹ワクチンの実臨床における効果を調べた。その結果、1回接種の場合は有効性が1年後に低下したが、2回接種の場合は4年間の追跡期間において有効性が低下しなかった。本研究結果は、Annals of Internal Medicine誌オンライン版2024年1月9日号で報告された。 本研究は、Vaccine Safety Datalinkに登録された、50歳以上の組み換え帯状疱疹ワクチン接種者および帯状疱疹ワクチン未接種者を対象とした。有効性について、抗ウイルス薬の処方を伴う帯状疱疹の診断を基にした、帯状疱疹予防効果をワクチン未接種者との比較によって評価した。また、ワクチン接種後の期間別およびステロイド使用の有無別にワクチンの有効性を評価した。 主な結果は以下のとおり。・解析対象は約200万人、追跡期間は761万4,196患者年であった。・接種後の期間別にみたワクチンの有効率は以下のとおりであった(1回接種の有効率vs.2回接種の有効率)。【30日後~1年未満】70% vs.79%【1年後~2年未満】45% vs.75%【2年後~3年未満】48% vs.73%【3年後以降】52% vs.73%・ステロイド使用の有無別にみたワクチンの有効率は、ステロイド非使用者が77%、帯状疱疹リスクの高いステロイド使用者で65%であった。 著者らは、本研究結果について「臨床試験での報告よりは有効性が低かったものの、実臨床においても組み換え帯状疱疹ワクチンは非常に有効であった。2回接種の有効性は4年間の追跡期間中にほとんど低下しなかったが、1回接種の有効性は1年後に大幅に低下した。このことから、2回接種の重要性が示された」とまとめた。

38.

高齢者RSV感染における予防ワクチンの意義(解説:山口佳寿博氏/田中希宇人氏)

 原著論文 Respiratory Syncytial Virus Prefusion F Protein Vaccine in Older Adults./NEJM―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 2023年夏以降、急性呼吸器感染症として新型コロナに加え、季節性インフルエンザ、呼吸器合胞体ウイルス(RSV:respiratory syncytial virus)の3種類のウイルス感染に注意すべき新時代に突入した。興味深い事実として、新型コロナが世界に播種した2020年度にはインフルエンザ、RSVの感染は低く抑えられていたが、2021年度以降、両ウイルス感染は2019年以前のレベルに戻りつつある。この場合、インフルエンザは11月~1月、RSVは7月~8月に感染ピークを呈した。 本邦にあっては、RSVは主として幼児/小児の感染症として位置付けられており、ウイルス感染症の有意な危険因子である高齢者に対する配慮が不十分であった。本論評では、高齢者RSV感染に適用される新たな遺伝子組み換えProtein-based vaccine(RSVPreF3 OA、商品名:アレックスビー筋注用、グラクソ・スミスクライン)とGene-based vaccine(mRNA-1345、Moderna)に関する治験結果を基に、高齢者RSV感染症の全体像について考察する。RSVの分子生物学 RSVは1956年に同定されたParamyxovirus科のPneumovirus属に分類されるウイルスである。エンベロープを有する直径150~300nmのフィラメント状の球形を示す一本鎖(-)RNAウイルスで、10種の遺伝子をコードする15,000個の塩基からなる。RSVにあって宿主細胞との接着、侵入を司るのがウイルス表面に発現する1,345個のアミノ酸配列を有するF蛋白(膜融合前F蛋白)である(コロナウイルスのS蛋白に相当)。RSVは表面抗原であるG蛋白の違いによってA型とB型の2種類の亜型に分類されるが、両者の膜融合前F蛋白には明確な差を認めない。RSVの自然宿主はヒトを中心とする哺乳動物である。高齢者RSV感染の疫学 すべての新生児において母親と同程度のRSV抗体(母体からの移行抗体)が認められるが、その値は徐々に低下し、生後7ヵ月目以降のRSV抗体は生後に起こった新規自然感染に由来する(生後2年までに、ほぼ100%が新規感染)。それ以降、生涯を通して再感染を繰り返す。RSV感染の最大の脅威は生後3ヵ月以内の乳児、未熟児、先天性心疾患を有する小児であることは間違いないが、近年、成人、とくに、高齢者におけるRSV感染の重要性が指摘されている。 欧米の検討では、看護施設に入所中の高齢者のうち年間で5~10%がRSVに罹患、うち10~20%が肺炎を合併、2~5%が死亡すると報告されている。さらに、65歳以上の高齢者にあってA型インフルエンザによる死亡が毎年3.7万人であるのに対し、RSVによる死亡は毎年1万人(インフルエンザの約30%)に達すると報告されている。18歳以上の成人を対象とした検討では、基礎疾患として喘息、COPD、糖尿病、冠動脈疾患、うっ血性心不全を有する人のRSV感染による入院比率は、基礎疾患を有さない人に比べ有意に高いことが示されている。高齢に加え、上記の基礎疾患は新型コロナ、季節性インフルエンザ感染の増悪因子としても作用するので、ウイルス性呼吸器感染症の普遍的危険因子として念頭に置く必要がある。インフルエンザ感染との比較において、RSV感染のほうが入院した症例の肺炎合併頻度、基礎疾患として存在する喘息、COPDの増悪頻度が高いことが示されている。 本邦においては、RSV感染が小児科定点からの報告のみであり、本邦独自の成人データは集積されていない。2024年以降、3種のウイルスによる急性呼吸器感染症の本邦における重要性を確立するためには、RSV感染症に関する情報収集は成人を含めた広範囲な対象に広げる必要があり、早期の法的整備を望むものである。先進国のデータからの外挿値ではあるが、本邦の60歳以上の高齢者におけるRSV感染による入院者数は毎年6.3万人、死亡者数は4.5千人と推定されている(Savic M, et al. Influenza Other Respir Viruses. 2023;17:e13031.)。RSVワクチン開発の軌跡 RSVに対するワクチン製造は1960年代に開始され、当初は不活化されたRSVを生体に導入する不活化ワクチンが中心であった。しかしながら、不活化ワクチンを用いた臨床治験の結果は悲惨なものであった。失敗の原因は、不活化ワクチンの導入によってウイルス殺傷能力の低い不適切IgG抗体が産生され抗体依存性感染増強(ADE:Antibody dependent enhancement of infection)が発生したためである。それ以降の検討で、RSVが宿主細胞に侵入する際に本質的な働きをする膜融合前F蛋白の重要性が明らかにされ、それを標的として20世紀後半から現在に通じるモノクローナル抗体薬(mAb)、ワクチンの製造が開始された。まず初めに、膜融合前F蛋白に対する遺伝子組み換えmAbであるパリビズマブ(商品名:シナジス、アストラゼネカ)が実用化され、種々のハイリスクを有する新生児、乳児、幼児のRSV感染に伴う下気道感染の重症化阻止治療薬として使用されている(本邦承認:2002年1月)。現在、パリビズマブの半減期を延長させたニルセビマブの開発が進行中である。 新型コロナ発生に伴い、高度の蛋白・遺伝子工学手法を駆使した数多くのワクチンが作成されたことは記憶に新しい。新型コロナに対するワクチンは2種類に大別され、1つ目はGene-based vaccineであり、標的S蛋白をコードするmRNAをヒトに直接導入するもの(ファイザーのコミナティ、モデルナのスパイクバックスなど)、2つ目はProtein-based vaccineあるいはSubunit vaccineと定義されるもので、S蛋白に関する遺伝子情報をヒト以外の細胞に導入しS蛋白を生成、それをヒトに接種するものであった(ノババックス[武田]のヌバキソビッドなど)。2017年以降、以上と質的に同様のワクチンが、RSVの膜融合前F蛋白を標的として作成され始めた。高齢者に対する治験結果が報告されているProtein-based vaccineとしては、アレックスビー筋注用(GSK)とアブリスボ筋注用(ファイザー)がある。アレックスビー筋注用は2023年9月に、60歳以上の高齢者に対するRSV予防ワクチンとして本邦で製造承認された(米国での承認は2023年5月)。2023年12月、GSKはアレックスビー筋注用の適用を50歳以上の成人に拡大する申請を厚労省に提出した。 米国においては、アブリスボ筋注用も60歳以上の高齢者に使用可能である(2023年8月承認)。しかしながら、アブリスボ筋注用の特記事項は、本ワクチンを妊娠24~36週の妊婦に1回接種し、母体で作られた抗体を胎児に移行させるという斬新な方法が提示されたことである(米国での承認:2023年8月)。この方法によって新生児のRSV感染に由来する重症下気道感染を予防できるようになった(生後3ヵ月以内のRSV感染による重症化予防率:81.8%、生後6ヵ月以内の重症化予防率:69.4%)。本邦にあっては、アブリスボ筋注用は母体/新生児用として認可されているが(2023年11月)、高齢者用としては認可されていないことに注意する必要がある。 RSV膜融合前F蛋白を標的とした高齢者用のGene-based vaccineとしてmRNA-1345(Moderna)の開発が進められている。2023年現在、本ワクチンは、米国、スイス、オーストラリアなどにおいて製造承認の申請が始まっているが、本邦においても2024年度内に製造申請がなされるものと予測される。高齢者におけるRSVワクチンの予防効果 Papiらは60歳以上の高齢者2万4,966例を対象としたアレックスビー筋注用に関する国際共同プラセボ対照第III相試験の結果を報告した(Papi A, et al. N Engl J Med. 2023;388:595-608.)。中央値が6.7ヵ月の追跡期間においてRSVの下気道感染全体に対する有効率(予防効果)は82.6%であった。RSV感染の重症化因子(COPD、喘息、慢性心不全、糖尿病、慢性心血管疾患、慢性腎臓病、慢性肝疾患)を有する対象での下気道感染症に対する有効率は94.6%であった。これらの結果は、アレックスビー筋注用が高齢者のRSV感染全体に対して臨床的に意義ある予防効果を発揮することを示す。RSV-A型に対する下気道感染に対する有効率は84.6%、RSV-B型に対する有効率は80.9%と両亜型間でほぼ同等の有効率を示した。 Wilsonらは60歳以上の高齢者3万5,541例を対象としたmRNA-1345に関する国際共同無作為化二重盲検第III相試験の結果を発表した(Wilson E, et al. N Engl J Med. 2023;389:2233-2244.)。追跡期間の中央値は3.7ヵ月でRSV関連下気道感染に対する予防有効率は83.7%であった。基礎疾患の有無、RSV亜型による予防有効率に明確な差を認めなかった。以上より、Gene-based vaccineであるmRNA-1345のRSV感染抑制効果はProtein-based vaccineアレックスビー筋注用と同等であり、2024年度内に本邦を含め世界各国で承認されるものと期待される。 高齢者に対するRSVワクチンにあって今後の課題の1つがワクチンの年間接種回数である。しかしながら、RSVにあっては年1回の流行ピークが同定されているので、その時期に合わせた年1回のワクチン接種で十分だと論者らは考えている。RSVに関するもうひとつの課題は抗ウイルス薬の確立で早期の開発が望まれる。

39.

抗ウイルス薬が1型糖尿病患児のインスリン分泌能低下を抑制する可能性

 1型糖尿病を発症してからあまり時間が経過しておらず、インスリン分泌がまだ残存している小児に対して抗ウイルス薬を投与すると、インスリンを産生する膵臓のβ細胞の保護につながる可能性のあることが報告された。オスロ大学病院(ノルウェー)のIda Maria Mynarek氏らの研究によるもので、第59回欧州糖尿病学会(EASD2023、10月2~6日、ドイツ・ハンブルク)で発表されるとともに、「Nature Medicine」に10月4日掲載された。 1型糖尿病は、インスリンを産生する膵臓のβ細胞が破壊されてインスリンを分泌できなくなり、インスリン療法の絶対的適応となる病気。ウイルス感染を契機に異常な自己免疫反応が生じて、β細胞が破壊されることが発症の一因と考えられている。例えば、エンテロウイルスというウイルスの感染と1型糖尿病発症の関連などが報告されている。Mynarek氏らは、エンテロウイルス感染症の治療薬として開発されている抗ウイルス薬(pleconaril)と、ウイルス性肝炎の治療などに実用化されているリバビリンとの併用により、診断後間もない1型糖尿病患児のβ細胞機能を保護できるか否かを検討した。 研究参加者は、1型糖尿病と診断されてから3週間以内の患児96人。主な特徴は、年齢は範囲6~15歳で平均11.1±2.4歳、女子が41.7%、診断時のHbA1cが11.8±4.3%で、エンテロウイルスの感染が確認された患児はいなかった。無作為に抗ウイルス薬群47人とプラセボ群49人に分け、診断から17.8±3.2日後から6カ月間にわたって投与を継続した。ベースライン時点において、年齢や性別の分布、BMI、診断時HbA1c、1型糖尿病リスクに関連のある自己抗体の保有率、診断から投与開始までの期間などに有意差はなかった。 主要評価項目として設定していた12カ月経過時点における食事負荷2時間以内のC-ペプチド(インスリン分泌能の指標)上昇曲線下面積(AUC)は、プラセボ群よりも抗ウイルス薬群の方が37%有意に高かった(ベースラインレベルで調整後の群間差がP=0.04)。プラセボ群でのベースラインからのC-ペプチドAUC低下幅は24%だったが、抗ウイルス薬群では11%であり、また後者の群の86%は比較的容易なインスリン療法のレジメンで血糖コントロールが可能な状態に維持されていた。ただし、HbA1cやグリコアルブミン、インスリン投与量には有意差がなかった。なお、重症低血糖を含む有害事象の発生状況は有意差がなかった。 研究グループによると、「1型糖尿病発症のベースにあるメカニズムは悪性度の高くないウイルス感染の持続であって、新たなワクチンを開発することで1型糖尿病を予防できるという考え方はこれまでにもあった」といい、「われわれの研究の結果はそのような概念を裏付けるものだ」としている。また、「1型糖尿病の病態進行を引き起こすβ細胞破壊を、抗ウイルス治療によって遅らせることができるかどうかを詳細に評価するため、より早期の段階で介入するといった、さらなる研究を行うべきだ」と付け加えている。

40.

小児インフルエンザ治療でのタミフル使用の実態とは

 米国では、インフルエンザに罹患した小児にはタミフルなどの抗ウイルス薬を処方することが推奨されているにもかかわらず、その処方率は低く、特に2歳未満の小児では5人に3人が同薬を処方されていないことが新たな研究で明らかになった。米ヴァンダービルト大学モンロー・カレル・ジュニア小児病院の小児科医であるJames Antoon氏らによるこの研究の詳細は、「Pediatrics」に11月13日掲載された。 この研究は、IBM MarketScan Commercial Claims and Encounters Databaseを用いて、米国の50州での民間保険に関連する取引データの中から2010年7月1日から2019年6月30日の間の外来または救急外来での18歳未満の小児に対する処方箋の請求データを収集し、小児インフルエンザ患者に対する抗ウイルス薬処方の動向を調査したもの。抗ウイルス薬の処方は、オセルタミビル(商品名タミフル)、バロキサビル(商品名ゾフルーザ)、またはザナミビル(商品名リレンザ)が処方された場合と定義された。主要評価項目は、小児インフルエンザ患者での抗ウイルス薬の処方箋受取率(抗ウイルス薬の薬局請求数を対象小児の総数で割ったもの)、副次評価項目は、インフルエンザの診断を受けた患者のうち抗ウイルス薬による治療を受けた患者の割合と、物価の上昇を考慮した抗ウイルス薬のコストとした。 その結果、研究対象期間中における治療用・予防用を合わせた抗ウイルス薬の処方件数は141万6,764件であり、そのほとんど(99.8%)がオセルタミビルであることが明らかになった。研究対象期間全体で、1インフルエンザシーズン当たりの抗ウイルス薬の平均処方件数は小児1,000人当たり20.6件であり、インフルエンザシーズンにより4.35件から48.6件の変動が見られた。 抗ウイルス薬により治療された患者の割合は、年齢層では12歳以上、インフルエンザシーズンでは2017/2018年シーズン、地理別では東南中央地域で特に高かった。これに対して、インフルエンザ合併症のリスクが高い2歳未満のインフルエンザ患者のうち、ガイドラインに則った抗ウイルス薬による治療を受けた患者の割合は40%未満(1,000人当たり367件の処方)と低かった。 物価の上昇を考慮した抗ウイルス薬の総コストは2億845万8,979ドル(1ドル150円換算で312億6884万6,850円)であり、1処方当たりのコスト(中央値)は111ドル(同1万6,650円)から151ドル(同2万2,650円)の間であった。 Antoon氏は、「ガイドラインでは、インフルエンザの小児患者に対しては、年齢を問わず抗ウイルス薬による治療が推奨されているにもかかわらず、われわれの研究から、2歳未満の小児で同治療が施されたのは40%に満たないことが明らかになった。また、全ての年齢層で抗ウイルス薬の使用率が低かったことも気に掛けるべき重要な結果だ」と話す。 また、インフルエンザ患者に対する抗ウイルス薬の使用状況は、地域により大きく異なることも示された。この点についてAntoon氏は、「この結果は、特に最も弱い立場にある小児でのインフルエンザの予防と治療に改善の余地があることを浮き彫りにするものだ」との見方を示す。研究グループは、このような地域差が生じる原因として、小児に対する抗ウイルス薬の使用を推奨する国のガイドラインが周知されていない可能性や、副作用への懸念、あるいは薬効に対する信頼不足が存在する可能性があると推測している。 研究グループは、「今回の研究結果は、小児患者でのインフルエンザの管理の質を向上させる必要性を強調するものだ」と結論付けている。Antoon氏は、「外来で小児のインフルエンザ患者を治療することで、症状の持続期間、家庭内感染、抗菌薬の使用、中耳炎などのインフルエンザ関連の合併症が減少することが報告されている」と補足している。

検索結果 合計:348件 表示位置:21 - 40