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第100回 国民の1/4がダウンロードしたCOCOA、ついに勇退の時が来た!?

政府は新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)のオミクロン株蔓延に伴って現在も18都道府県に発出されている新型インフルエンザ等特別措置法に基づくまん延防止等重点措置(まん防)を21日付で解除する方針を決定した。これにより1月上旬から各地に発出されていたまん防は全面解除となる。もっとも首相官邸で会見した岸田 文雄首相は当面は「平時への移行期間」と定義し、今後の感染拡大に備えた医療体制の維持や検査キット、ワクチン、治療薬の確保も進めるとした。一方で、濃厚接触者の追跡に関しては医療機関、高齢者施設、家族内に限定するという大きな方針転換を発表した。濃厚接触者追跡については私自身もこの政府方針には基本的に賛成だが、それだったら「もう止めたら?」と思うものがある。新型コロナウイルス接触確認アプリ、通称COCOAのことだ。ご存じのように当初、濃厚接触者の炙り出しに使われたCOCOAだが、私自身インストールしていても今やほとんど気にしていない。厚生労働省のホームページによると、2022年3月11日時点でダウンロード件数は3,418万件、実際の陽性登録者は62万245件。ダウンロード数では国民の約4人に1人、陽性者では約10人に1人が利用していることになる。この登録の数字だけを見れば、「ないよりまし」とも言えるが、オミクロン株のような感染力が強い反面、重症化率が低い変異株の流行の際は、中途半端に警報が増加し、それが医療現場や行政などの業務を圧迫するという「害」のほうがクリアになってしまう。このCOCOAの仕組みは、陽性通知がくると「検査等の相談先を探す」というボタンが表示され、それを押すと都道府県の受診・相談センターの連絡先が表示される。COCOAの陽性通知者のみの専用窓口があるのではなく、COCOAで通知はするが、「あとは自治体でよきにはからえ」という、ある種の外部丸投げなのだ。この結果、今回のオミクロン株での陽性者激増ターンでは、都道府県のコールセンターも保健所も発熱外来もすでにパンク状態にある中で、COCOAで通知を受けた濃厚接触疑いの人の電話も殺到する。当然ながら電話はなかなかつながらず、通知を受けた人も苛立ち、最終的にその一部がようやく電話がつながった先で「何なんだ!」と怒りを爆発させる。たとえが悪いと言われるかもしれないが、電話がたまたまつながった先は「突然ロシアの侵略を受けたウクライナ」のごとく訳がわからない状態になってしまう。実はこの問題に拍車をかけたものがある。IT時代の「負」ともいえるのだが、個人で「COCOAログチェッカー」なるサイトを立ち上げてしまった人がいる。COCOAはスマートフォンのBluetoothを利用し、陽性登録者に1m以内で15分以上の接触があったユーザーに通知が届くことになっているのだが、実はBluetoothは周囲10~30mの接触を検知するため、その点をこのサイトは利用している。しかもCOCOAアプリ内には2週間分の接触検知ログが蓄積されているので、このチェッカーを使うと、自分から広範囲にいたかなり前の登録陽性者までも検知できてしまうのだ。私自身も何度も使ってみたが、1月下旬の段階でCOCOAではとくに通知が来ないにもかかわらず、Bluetooth範囲内では過去2週間に1件の「接触」があったと判定された。何度か調べてみた中では最高は7件。もっともパンデミック当初に登録し、今では何ともない過去の陽性者も検出できてしまうのだから、それほど意味のあるものではない。個人的には「まあ、そんなものね」と思ってとくに何かをするわけではないし、医療従事者ならばこれを使ってもほぼ似たような反応になるだろう。ところが世の中全体で考えればそうはおさまらない。内科クリニックを経営する知り合いの医師のところには、実際に「COCOAログチェッカーで『陽性』と出たんですが…」と連絡があったという。COCOAならまだしも非正規の仕組みで問い合わせをされても困るだろう。実際、その医師は「保健所に問い合わせてください」と回答したそうだ。保健所に迷惑がかかるのでけしからん対応と思う人もいるかもしれないが、個人的にはやむを得ないと考えている。今回の濃厚接触者の追跡範囲縮小については、さまざまな意見があるとは思うが、いずれにせよこの政策が実行される以上、COCOAというもはや無用の長物を放置したままにするのはいかがなものかと思ってしまうのだが…。

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オミクロン株へのワクチン有効性、3回接種で対従来株と同等/BMJ

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対するmRNAワクチンは、アルファ変異株、デルタ変異株、オミクロン変異株によるCOVID-19関連入院の予防に高い有効性を示したが、オミクロン変異株に対しては、デルタ変異株やアルファ変異株に対する2回接種で得られる効果と同じ効果を得るためには、3回接種が必要であることが、米国・ミシガン大学のAdam S. Lauring氏らによる症例対照試験で示された。また、COVID-19による入院患者では、オミクロン変異株のほうがデルタ変異株より重症度が低かったものの、依然として罹患率および死亡率は高いこと、3種すべての変異株についてワクチン接種済みの患者は未接種患者と比較し重症度が有意に低いことも明らかになったという。BMJ誌2022年3月9日号掲載の報告。COVID-19入院患者と非COVID-19入院患者を対象に症例対照試験 研究グループは米国の21病院において、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)陽性が確認された18歳以上のCOVID-19入院患者(症例)と、同時期の非COVID-19入院患者(対照)を登録し、前向き観察研究を実施した。解析対象は、2021年3月11日~2022年1月14日の間に登録されたCOVID-19患者5,728例、対照患者5,962例の計1万1,690例であった。 患者は、ウイルス全ゲノム解析、または入院時の流行株(2021年3月11日~7月3日:アルファ変異株、2021年7月4日~12月25日:デルタ変異株、2021年12月26日~2022年1月14日:オミクロン変異株)に基づき、SARS-CoV-2変異株群に層別化された。 主要評価項目は、COVID-19による入院の予防に関するmRNAワクチンの、変異株(アルファ変異株、デルタ変異株、オミクロン変異株)ごとの有効性で、診断陰性デザイン(test-negative design)を用いて算出した。また、COVID-19入院患者を対象に、世界保健機関(WHO)の臨床進行スケール(WHO-CPS)による疾患重症度について、比例オッズ回帰モデルを用いて変異株間で比較した。ワクチンの入院予防効果、オミクロン変異株では2回接種65%、3回接種86% COVID-19入院予防に関するmRNAワクチンの有効性は、アルファ変異株に対して2回接種では85%(95%信頼区間[CI]:82~88%)であった。デルタ変異株に対して2回接種では85%(83~87)、同3回接種では94%(92~95)であり、オミクロン変異株に対しては2回接種で65%(51~75)、同3回接種では86%(77~91)であった。 院内死亡率は、アルファ変異株7.6%(81/1,060例)、デルタ変異株12.2%(461/3,788例)、オミクロン変異株7.1%(40/565例)であった。 ワクチン未接種のCOVID-19入院患者において、WHO-CPSに基づく重症度は、デルタ変異株群がアルファ変異株群より高く(補正後オッズ比[aOR]:1.28、95%CI:1.11~1.46)、オミクロン変異株群はデルタ変異株群より低かった(0.61、0.49~0.77)。 ワクチン未接種患者と比較してワクチン接種患者は、アルファ変異株(aOR:0.33、95%CI:0.23~0.49)、デルタ変異株(0.44、0.37~0.51)、オミクロン変異株(0.61、0.44~0.85)のいずれの変異株においても重症度が低かった。

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ゼロ・リスクか?ウィズ・リスクか?それが問題だ(解説:甲斐久史氏)

 早いもので20年ほど前、外勤先の内科クリニックでの昼下がり。「今朝から、とくにどこというわけではないが、何となく全身がきつい」と20歳代後半の女性が来院した。熱も貧血もないのに脈拍が120前後。血圧はもともと低いそうだが収縮期血圧は80mmHg弱。心音・呼吸音に明らかな異常はないが、皮膚が何となくジトーッと冷たい気がする。聞いてみると先週、2〜3日間、風邪にかかったとのこと。心電図をとってみた。洞性頻脈。PQ延長(0.30秒くらいだったか?)。ドヨヨーンとした嫌な波形のwide QRS。どのように患者さんに説明し納得してもらったかは覚えていないが、ドクターヘリでK大学病院に搬送した。救急車では小一時間かかるためでもあったが、当時導入されたばかりのドクターヘリを使ってみたいというミーハー心に負けた一面も否定できない。夕方、帰学するとその足でCCUを覗いてみた。「大げさですよ。スカでしたよ!」レジデントたちからの叱責(?)覚悟しつつ…。が、何と!その患者はPCPSにつながれていたのである。約10分のフライト中は順調であったが、CCU搬入直後に完全房室ブロック。あっという間に心室補充収縮も消失。直ちにその場でPCPSを挿入できたため事なきを得たとのこと。CCUスタッフの的確な治療もあり、彼女は、2~3日後にはPCPSを離脱し、その後も順調に回復。完璧な正常心電図に復し、心機能障害を残すこともなく退院した。循環器内科医には身に覚えのある“心筋炎、あるある話”と言えよう。 本稿の執筆時(2022年3月中旬)、オミクロン変異株による新型コロナウイルス感染拡大第6波の感染者数のピークは越えたとはいえ、期待されていた急激な感染者数減少はなかなか見通せず、死亡者数や重症者数も高水準で推移している。そのような中で、依然としてワクチンが、発症・重症化予防、感染予防(オミクロン変異株には期待できないようであるが)の現実的な切り札的存在であることに変わりはない。しかしながら、種々の要因のため3回目のワクチン接種は伸び悩んでいる。その中で、ワクチンの副反応、とりわけ最近、コミナティ(BNT162b2、ファイザー社)・スパイクバックス(mRNA-1273、モデルナ社)の添付文書にも記載された心筋炎・心膜炎への危惧の影響も大きいようである。 米国疾病予防管理センターのOsterらによれば、米国のワクチン有害事象報告システム(Vaccine Adverse Event Reporting System:VAERS)に基づく解析の結果、2020年12月〜2021年8月にmRNAワクチンを接種された12歳以上の約2億例(約3億5,000万回接種)のうち、心筋炎が1,626例(BNT162b2 947例、mRNA-1273 382例)でみられたという。心筋炎患者の年齢中央値は21歳、男性に多く(82%)、2回目接種後が多く、症状発症までの期間は2日(中央値)であった。ワクチン接種後7日以内の心筋炎の報告は、12〜15歳男性でBNT162b2 70.7例/100万回、16〜17歳男性でBNT162b2 105.9例/100万回、18〜24歳男性でBNT162b2 52.7例/100万回、mRNA-1273 56.3例/100万回であった。これらは、一般の心筋炎の発症頻度とされる80〜100例/100万人に匹敵する。なお、30歳未満の症例のうち詳細な臨床情報が得られたものは826例でそのうち98%が入院した。その87%が退院までに症状が消失した。治療は主に非ステロイド系抗炎症薬投与(87%)であった。最近の厚生労働省資料によれば、わが国の心筋炎・心膜炎の発症頻度は、10代男性でBNT162b2 3.7例/100万回、mRNA-1273 28.8例/100万回、20代男性でBNT162b2 9.6例/100万回、mRNA-1273 25.7例/100万回である。VAERSの報告と比較すると低めではあるが、やはり10〜20代男性では心筋症発症リスクが認められる。ただ、VAERSや厚生労働省のデータは受動的な報告システムであるため、心筋炎の報告が不完全であり情報の質も一貫していない恐れがあり、報告数が過小評価なのか過剰評価なのかさえ判断が難しい。 まったく健康な若者にワクチン接種することで、一定の割合で心筋症のリスクを負わせることに、社会や当の若者たちが不安を覚えることはよくわかる。しかし、そのリスクは一般住民が日常的に曝されている普通のウイルスなどにより引き起こされる心筋炎・心膜炎のリスクを超えるものではない。少なくとも急激に重症心不全に陥るような劇症心筋炎はまずみられないようである。一方、新型コロナウイルス感染症に実際に感染した場合、心筋症・心筋炎発症リスクは、わが国(15〜39歳男性)では834例/100万回、海外(12〜17歳男性)では450例/100万回にのぼる。われわれ医師としては、ワクチン接種のメリットがデメリットよりはるかに大きいことを、正しく冷静に社会に訴えていくのが妥当であろう。リスクを強いるのであれば、ワクチン接種者に胸痛、動悸、強い倦怠感や息切れなど心筋炎・心膜炎症状を自覚したら迷わず受診することを周知するとともに、ワクチン接種後には積極的に心筋炎・心膜炎を考慮した診察・検査を行い早期発見、早期治療を提供することがわれわれの責務と心得るべきであろう。ただ、心筋炎は、心不全進展とは全く別途に、心室頻拍、心室粗動、伝導障害により突然死を来す。この発症頻度の推定困難なリスクまで考えると悩みは深まる。 2年以上続く新型コロナウイルス感染症パンデミックを前にして、日本は、依然、ゼロ・コロナか? ウィズ・コロナか? という命題の前に右往左往している。その根源には、そもそもゼロ・リスクの人生などあり得ないのに、ウィズ・リスクの現実には目を背け、「日々安心が何より」を是とする筆者のような正常性バイアスがあるのではないか? かと思うと一点、自分に都合の良い情報ばかりに頼る確証バイアスに陥るし・・・。日常からリスクを正面に見据えたリスク・リテラシーの醸成は、わが国にとって喫緊の課題かもしれない。

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オミクロン株へのブースター接種、入院・死亡への有効性は?/NEJM

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のmRNAワクチンのブースター接種は、症候性デルタ変異株感染には高い有効性を示したが、症候性オミクロン変異株感染への有効性は低いことが、カタール・Weill Cornell Medicine-QatarのLaith J. Abu-Raddad氏らが同国で行ったコホート試験で示された。ただしいずれの変異株においても、mRNAワクチンのブースター接種が、COVID-19関連の入院および死亡に対する高い保護効果をもたらすことが示されたという。NEJM誌オンライン版2022年3月9日号掲載の報告。オミクロン変異株大流行中にブースター接種者 vs.非ブースター接種者 研究グループは、2021年12月19日~2022年1月26日のオミクロン株が大流行していた期間中に、症候性SARS-CoV-2感染およびCOVID-19に関連した入院および死亡に対するワクチンブースター接種群と2回のプライマリ接種群を比較する、2つのマッチド後ろ向きコホート試験を実施した。 ブースター接種と感染の関連性を、Cox比例ハザード回帰モデルを用いて算出・評価した。 対象集団には、「BNT162b2」(Pfizer-BioNTech製)または「mRNA-1273」(Moderna製)を2回以上接種した223万9,193例(BNT162b2群129万9,010例、mRNA-1273群89万619例)が含まれた。BNT162b2群において、適格コホート群(ブースター群22万922例、非ブースター群114万168例)とマッチドコホート群(マッチドブースター群18万9,483例、マッチド非ブースター群18万9,483例)を比較、mRNA-1273群において適格コホート群(ブースター群6万7,176例、非ブースター群78万1,968例)とマッチドコホート群(マッチドブースター群6万6,191例、マッチド非ブースター群6万6,191例)を比較した。BNT162b2ブースター、オミクロン変異株の入院・死亡への有効性76.5% BNT162b2群において、追跡期間35日後の症候性オミクロン変異株感染の累積発生率は、ブースター群2.4%(95%信頼区間[CI]:2.3~2.5)、非ブースター群4.5%(4.3~4.6)だった。症候性オミクロン変異株感染に関する同ブースター接種の有効性は、プライマリ接種群との比較で49.4%(95%CI:47.1~51.6)だったが、COVID-19関連の入院・死亡に関する有効性は同76.5%(55.9~87.5)だった。 なお、デルタ変異株(またはB.1.617.2)の症候性感染に関するBNT162b2ブースター接種の有効性は、プライマリ接種群との比較で86.1%(95%CI:67.3~94.1)だった。 一方、mRNA-1273群においては、追跡期間35日後の症候性オミクロン変異株感染の累積発生率は、ブースター群1.0%(95%CI:0.9~1.2)、非ブースター群1.9%(1.8~2.1)だった。症候性オミクロン変異株感染に関する同ブースター接種の有効性は、プライマリ接種群との比較で47.3%(95%CI:40.7~53.3)だった。また、mRNA-1273群においては、COVID-19の重症例はほとんど認められなかった。

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4回目接種は必要か?その時期は?~免疫学の視点から[宮坂昌之氏インタビュー 前編]

感染者数・死者数ともに過去最多となったオミクロン株(BA.1)による第6波のピークは越えたとみられ、ワクチン3回目接種が進みつつある中、4回目接種についても政府が検討をはじめている。免疫学の視点からみた4回目接種の必要性や既感染者へのワクチン接種について、宮坂 昌之氏(大阪大学免疫学フロンティア研究センター招へい教授)に話を伺った。4回目接種は必要か?その時期は?~免疫学の視点から[宮坂昌之氏インタビュー 前編]―4回目接種の必要性やその時期について、現時点ではどのようにお考えですか?まず1つ言えることは、4回目がいつ必要になるかということは現時点でははっきりしていないものの、必要になったときに遅れずに対応できるように、国としては準備をしておかないといけないと思います。そのうえで、ワクチンの有効性は大きく年齢依存的・かつ個人差があり、とくに高齢者では2回接種しても抗体がしっかり作れない人というのが存在します。例えば下記は和歌山県での2回接種6ヵ月後のS抗体値を年齢別にみたものですが(高齢者施設での職員を含む100人の調査)、75歳を超えると2回接種後でも十分に抗体を作れない人の頻度が高くなっていることがわかります。抗体価は時間に応じてさらに減少していくので、3回目の追加接種が必要になってきます。画像を拡大する2回接種しても抗体価が上がらなかった人たちについても、多くは3回目の接種で大きく抗体価を上げることができます。しかし同時になかには2回接種しても3回接種しても反応しない人というのが一定数存在し、高齢者ほど多くなります。S抗体値はウイルスの初期防御に重要な役割を果たすので、これが低くても細胞性免疫やナチュラルキラー細胞などが働き、2回接種していれば重症化予防効果は期待できますが、ブレークスルー感染の大きな原因の1つとなっていると考えられます。またオミクロン株は免疫回避性があり中和抗体ができにくく、下記は査読前のデータですが、2回接種だけでは不十分なことがわかります。3回目の接種によって、BA.1だけでなく今後日本でも置き換わりが進む可能性のあるBA.2に対しても、中和抗体価を上げることができています。一方で、今後は3回目接種によって上がった抗体価も下がっていくと考えられ、いずれかのタイミングで4回目接種が必要となると考えますが、それがいつかに関しては、次に現れる変異株がどのような特徴を持つかによるでしょう。画像を拡大する免疫学の立場から言えることは、1回より2回、2回よりも3回免疫をつけたほうが免疫は長続きします。1回接種では2~3ヵ月、2回接種では4~6ヵ月で抗体価が下がり、3回接種では6~8ヵ月続いているという報告がありますが、それが1年続くかは分かりません。上記左図の追加接種2週間後のオミクロン株に対する中和抗体価のばらつきをみてもわかるように(100~1万ほどの幅)、個人差が大きいことにも注意が必要です。適切な接種時期を考えるうえで重要なもう一つの視点としては、接種間隔が短すぎてもよくない可能性です。下記は1回目と2回目の接種間隔を4週か16週かで比較したデータですが、16週としたほうがオミクロン株を含む種々の変異株に反応する良質な中和抗体が得られています。これは1回目接種後にリンパ球が十分に成熟する機会が与えられると、2回目に抗原が入ってきたときに十分に抗体を作る能力ができるのだと考えられます。画像を拡大する3回目の接種に関しても、2回目接種後2~3ヵ月などあまり早くに接種すると、抗体価は一時的に上がるものの、早く下がってしまうというデータがでてきています。イスラエルはこの状態に該当してしまっているのではないでしょうか。おそらく4回目接種についても同じことがいえる可能性が高く、感染性がより高いなどひどく恐い変異株が入ってきていない限り、半年ないし8ヵ月など、データをみながら十分な間隔を空けて慌てずに4回目接種を行っていけばよいと思います。ワクチン接種は接種者本人が得られる直接効果だけでなく、感染伝播に対しても大きな防御効果を発揮します。ワクチンを接種した人が感染しても、のどの中に抗体が存在するわけなので、そこにウイルスが増えたとしても、抗体にくるまれた形でくしゃみや咳によってウイルスが排出されます。中和抗体にくるまれたウイルスは、感染能力が下がります。PCRでは同じウイルス量が検出されますが、感染性のあるウイルス量はぐんと下がるのです。したがってやはり集団としての感染リスクを下げるには、3回目までの接種ももちろん重要ですし、時期を見極めながら4回目接種も行っていくことが必要となってくると考えています。―既感染者へのワクチン接種や、再感染リスクについてはどのように考えればよいでしょう?ウイルス感染によってできた免疫とワクチン接種によってできた免疫を比較すると、ワクチン接種では約9割の人に免疫を作ることができるのに対し、感染者の場合はウイルスによる感染の度合いや個人の免疫能力に左右されるので、次の感染時に確実に中和できる免疫ができているかというと、やはりワクチン接種のほうが確度が高いと言えます。先ほどの査読前データの右図をみると、BA.1感染者の血清には、中国での元の株(図中WA)・BA.2いずれも中和する抗体が確認されており、BA.1感染者はこの中和抗体がある間、BA.2にすぐには感染しにくいと考えられます。一方、英国からのデータをみると、デルタ以前の株への感染者の抗体はオミクロン株を認識しにくく、再感染する可能性が高いことが示唆されています。下図の通り、オミクロン株が流行するまでは再感染する人はそれほど多くなかったのに対し、オミクロン株流行下では急激に増加しています。今後出てくる変異株の特徴にもよりますが、既感染者もいずれかのタイミングでワクチン接種を受けておくほうが有利だと思います。画像を拡大する(インタビュー:2022年3月11日、聞き手・構成:ケアネット 遊佐 なつみ)

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今後登場する新たなワクチンの可能性は~免疫学の視点から[宮坂昌之氏インタビュー 後編]

感染者数・死者数ともに過去最多となったオミクロン株(BA.1)による第6波のピークは越えたとみられ、ワクチン3回目接種が進みつつある中、4回目接種についても政府が検討をはじめている。宮坂 昌之氏(大阪大学免疫学フロンティア研究センター招へい教授)へのインタビュー後編では、今後登場する新たなワクチンの4回目接種における可能性や小児へのワクチン接種について話を伺った。今後登場する新たなワクチンの可能性は~免疫学の視点から[宮坂昌之氏インタビュー 後編]―交互接種の有効性について、免疫学の観点からはどのように考えますか? 今後登場するかもしれない新たなワクチンについても同じことが期待できるのでしょうか?当初英国で多く使われたアストラゼネカ社のウイルスベクターワクチンの接種後に、mRNAワクチンを接種した場合、同じウイルスベクターワクチンを接種した場合より高い有効性が報告されました。また、mRNAワクチンどうしの交互接種の場合でも、他社のワクチンを接種したほうがおおむね良い結果がでているようです。B型肝炎ワクチンなどですでによくわかっていることですが、100人にワクチンを打つと5人ぐらいノンレスポンダーが発生します。この人たちは肝炎ウイルスワクチンに一切反応できないかというとそうではなくて、A社のワクチンでは反応しなかったが、B社のワクチンでは反応できたという例が報告されています。ファイザー社とモデルナ社のmRNAワクチンで言えば、同じスパイクタンパク質であっても作り方が違うことで、Bに反応できなくてもB‘には反応できるということが免疫の世界では起こり得ます。抗原を変えるということは全然悪いことではなくて、マイナスはむしろ考えにくく、変えてよくなることの方が通常は多いと考えられます。また、1~2回目の接種で基礎免疫ができていれば、新型コロナウイルス反応性のT細胞とB細胞の数が増えていて、スパイクタンパク質(抗原)が入ってきたときの親和性が高まり準備態勢が整った状態(少量の抗原でも認識できる状態)といえます。たとえ1~2回目のワクチンとしてみたときにmRNAワクチンに効果が劣るものだったとしても、4回目のワクチンとしては十分に使えるものがでてくる可能性はあるでしょう。―小児へのワクチン接種が開始されましたが、効果の持続期間が短いという報告もあります。小児へのワクチン接種についてはどのようにお考えですか?基本的には若ければ若いほど自然免疫の力も獲得免疫の力も高く、感染時の新型コロナ反応性T細胞の働きも成人よりも小児で高くなっています。ところがB細胞をみてみると、抗体は作られるものの抗体価が早く低下してしまうという傾向が報告されています。小児がワクチンを打つべきかどうかとなったときに、私はよく下記のスライドを使って説明しています。両親がまずきちんとワクチンを打っていれば、アルファ株感染の場合で約70%、デルタ株感染の場合でも約60%子どもへの家庭内感染リスクを下げることができます。画像を拡大するまた、オミクロン株流行下で小児がどれくらい感染し、入院者がでているかをみてみると、ヨーロッパでは感染者・入院者ともに急激に増加しています。一方成人では感染者の増加に比して入院者はそれほど増加していません。この原因はオミクロン株が重症化しにくいことに加えて、成人のワクチン接種率が例えばイギリスでは70%以上など非常に高かったことが寄与したと考えられます。日本でもオミクロン株流行下で小児感染者が増えたことは間違いないと思いますが、入院者がどれくらい増えたかというデータはまだ出てきていません。そのデータもみながら判断していく必要があるとは思いますが、現段階では、慌てて5~11歳にもワクチンを打つべきかという議論はあるべきだと思います。私は今の段階では、12歳以上は2回の接種を、成人は追加接種も含めてしっかり受けたうえで、5~11歳については家庭の状況次第ではないかと思っています。ワクチンはゼロリスクではないので、例えば家に高齢者がいる場合や、両親の職業上小児が学校で感染してくることによる影響が大きい場合など、ケースバイケースで親御さんが判断して、打つ人がいてもいいし打たない人がいてもいいという位置づけであるべきではないかと考えています。画像を拡大する(インタビュー:2022年3月11日、聞き手・構成:ケアネット 遊佐 なつみ)

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コロナ禍で医療従事者のビタミンD欠乏が顕著/国立成育医療研究センター

 日々の生活でビタミンDが不足すると免疫力を低下させる可能性があり、長期間の屋内生活での運動不足(骨刺激不足)では骨粗鬆症への影響も懸念される。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が蔓延する環境下で、医療従事者の長期間の屋内生活での影響はどのようなものがあるだろうか。 国立成育医療研究センター(理事長:五十嵐 隆氏)の「ナショナルセンター職員における新型コロナウイルス感染症の実態と要因に関する多施設共同観察研究」グループは、感染者の易感染性や重症化要因を評価する目的で、COVID-19患者受け入れ病院である同センターのハイリスク医療従事者361人(男性87人、女性274人)を対象に、2021年3月1日~5日に調査を行い、その結果を発表した。 調査の結果、対象者にはビタミンDの欠乏が顕著にみられた。そのため医療従事者だけでなく、長期間の屋内生活をしている方には、適度な日光浴もしくはビタミンDの補充(食事、サプリメント、薬剤)が重要である可能性が示唆された。屋内生活が長いときに意識したいビタミンDの摂取【背景・目的】 COVID-19の最大の特徴は、ウイルス側の感染性および病原性の変化に加え、感染者(ホスト側)の年齢や基礎疾患などによる病状の多様性にある。この点に着目し、ホスト側の易感染性もしくは重症化要因を評価するために、感染防御能力低下、動脈硬化、耐糖能異常、肝・腎機能障害、栄養低下、骨髄機能低下のスクリーニング調査を行った。【結果概要】 ・本調査で顕著に異常を認めたのはビタミンDであり、性別、年齢を問わず多くの研究参加者で不足していた。・COVID-19の防御対策や、医療従事による長期間の室内生活が紫外線吸収の低下を招いたことが原因の1つとして考えられる。・ビタミンDには多様な生理作用があり、細胞の分化・増殖や免疫機構、骨代謝と深くかかわっている。・ビタミンD不足においては、感染防御能力の低下に加え、骨代謝の低下と運動不足(骨刺激不足)による骨粗鬆症や、それに起因する骨折への注意が必要。【今後の展望・発表者のコメント】 ビタミンDを補充する方法はまちまちだが、日光(紫外線)曝露、経口摂取とそれに加え薬剤(活性型ビタミンD3製剤)の補充により免疫能力の改善、骨粗鬆症の予防が期待される。この調査は医療従事者を対象とした調査結果だが、コロナ禍で長期間の屋内生活をしている方は、適度の日光浴やビタミンDの補充を行い、ビタミンD不足を起因とする感染防御能力の低下、骨代謝の低下と運動不足による骨粗鬆症や、骨折への注意が必要と警鐘を鳴らしている。

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コロナ禍での女性の雇用喪失、世界共通で多い要因は?/Lancet

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的流行が、健康、社会、経済の指標の男女差に及ぼした最も大きな影響は、新たな不平等を生み出すというよりも、以前から広く存在していた不平等を強化したことであり、とくに女性は男性に比べ、雇用の喪失や家事の増加、無報酬の介護義務による仕事の断念の割合が高い点が懸念材料であることが、米国・ワシントン大学のLuisa S. Flor氏らの調査で明らかとなった。研究の詳細は、Lancet誌オンライン版2022年3月2日号で報告された。5つのカテゴリーに関する指標を193ヵ国で包括的に再検討 研究グループは、健康関連、社会的、経済的な幅広い指標に関して、COVID-19が男女差に及ぼした間接的な影響の評価を目的に、包括的な調査を行った(ビル&メリンダ・ゲイツ財団の助成を受けた)。 解析には、2020年3月~2021年9月の193ヵ国のデータが用いられた。次の5つのカテゴリーに関する指標の、公表されているデータセットを再検討し、COVID-19の世界的流行の影響が評価された。 (1)ワクチンへのためらい(接種サービスが利用可能なのに拒否)と接種(完全接種者)、(2)保健サービス(医療全般・性と生殖に関する健康・予防医療・薬剤の入手・健康製品[眼鏡、補聴器、杖など]の入手の混乱)、(3)経済上および仕事関連の心配事(雇用喪失、収入喪失、家事の増加、他人の世話の増加、介護が原因の離職)、(4)教育(学校の中途退学、適切な遠隔学習)、(5)家庭と地域社会での安全性(性差に基づく暴力増加の認識、家庭での不安感)。 混合効果回帰とガウス過程回帰、ブートストラップ法を用いて、すべてのデータソースが統合された。基礎データとモデル化過程の不確実性を考慮したうえで、混合効果ロジスティック回帰モデルを使用して、世界および地域別の男女差(gender gap)の検討が行われた。ワクチンへのためらいや接種には差がない COVID-19の世界的流行の開始以降、雇用喪失の割合は高く、男性よりも女性で顕著に高率であるが、男女とも着実に減少する傾向がみられた。2021年9月の時点で、女性の26.0%(95%不確実性区間[UI]:23.8~28.8)、男性の20.4%(18.2~22.9)が、COVID-19の世界的流行期間中の雇用喪失を報告した。 回答者の半数以上が、COVID-19の世界的流行の期間中に、家事や他人の世話が増えたと報告しており、北アフリカと中東を除き、女性が男性よりも有意に高率であった。最も男女差が大きかったのは、他人の世話の増加が高所得国で女性が男性の1.10倍に、家事の増加は中央ヨーロッパ、東ヨーロッパ、中央アジアで女性が男性の1.22倍となっていた。 同期間中に、どの地域でも女性は男性に比べ、介護が原因で仕事を辞めたとの報告が多く、この性差は時間の経過に伴って拡大した。2020年3月の時点で、介護が原因の離職の世界的な割合は、女性が男性の1.8倍であり、2021年9月には2.4倍に拡大していた。 同期間中の学校の中途退学の割合は、全体では6.0%(95%UI:5.98~6.02)であった。学校閉鎖以外の理由による中途退学の報告は、女性/女児が男性/男児の1.21倍(95%UI 1.20~1.21)だった。最も性差が大きかったのは、中央ヨーロッパ、東ヨーロッパ、中央アジア(女性が男性の4.10倍)と南アジア(同1.48倍)であった。 性差に基づく暴力の報告の割合は、女性が53.7%(95%UI:53.6~53.8)、男性は43.7%(43.7~43.8)であり、女性が男性の1.23倍(1.22~1.23)であった。最も頻度が高かったのは、中南米諸国とカリブ海諸国(61.2%、95%UI:60.9~61.5)、高所得国(59.9%、59.6~60.3)、サハラ以南のアフリカ諸国(56.7%、56.4~56.9)だった。 2021年9月の時点で、ワクチンへのためらいや接種には有意な男女差は認められなかった。 著者は、「社会はいま、重大な局面を迎えており、男女平等(gender equality)に向けた重要な進展がCOVID-19の世界的流行によって停滞したり、逆行したりしないように、女性/女児の能力開花(empowerment)への投資が必要とされている」としている。

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短期曝露の大気汚染、乾癬フレアのトリガーに?

 大気汚染への短期曝露が乾癬フレアのトリガー要因である可能性が示唆された。イタリア・ベローナ大学のFrancesco Bellinato氏らが症例クロスオーバーと断面調査法による観察試験の結果を報告した。 再燃と寛解を繰り返す慢性炎症性疾患の乾癬は、感染症やストレスフルなライフイベント、薬剤など特定の環境要因によって再燃が引き起こされる可能性が示唆されているが、大気汚染がトリガー要因なのかについては不明なままである。JAMA Dermatology誌オンライン版2022年2月16日号掲載の報告。 研究グループは、大気汚染への短期曝露が乾癬フレアに関連するかどうかを調べるため、症例クロスオーバーと断面調査法の両者を取り入れた観察試験を行った。2013年9月~2020年1月に縦断的に集めたデータを後ろ向きに解析。対象は、ベローナ大学病院の外来皮膚科クリニックを受診した慢性尋常性乾癬患者であった。 症例クロスオーバー解析には、「3~4ヵ月の期間中における2つの連続した評価時点の間にPASIが5以上上昇した場合」と定義された乾癬フレアを、1回以上有した患者を含んだ。断面的解析には、6ヵ月以上あらゆる全身性治療を受け、2回連続して行ったPASIの評価結果がグレード2以上であった患者を包含した。 主要評価として、乾癬フレア群と対照受診群の、それぞれ先行する60日間における大気汚染物質(一酸化炭素、二酸化窒素、その他の窒素酸化物、ベンゼン、粗大粒子状物質[PM10、直径2.5~10μm]、微小粒子状物質[PM2.5、直径<2.5μm])の平均および累積(曲線下面積[AUC])濃度を比較した。 主な結果は以下のとおり。・解析には、計957例の患者(フォローアップ受診4,398回)が包含された。平均年齢は61歳(SD 15)、男性602例(62.9%)であった。・イタリア環境保護研究所(ISPRA)の公式オープンソースの速報から取得した1万5,000超の大気汚染物質の濃度測定値を用いて解析を行った。・全体コホートのうち乾癬フレアを有する患者369例(38.6%)が、症例クロスオーバー解析に包含された。・すべての汚染物質の濃度は、乾癬フレア前60日間(フレア時のPASI中央値:12[IQR:9~18])のほうが、対照となる受診前60日間(PASI中央値:1[1~3])よりも有意に高かった(p<0.001)。・断面解析では、評価前60日間のPM10曝露平均20μ/m3超(補正後オッズ比[aOR]:1.55、95%信頼区間[CI]:1.21~1.99)およびPM2.5曝露平均15μ/m3超(1.25、1.0~1.57)が、PASI 5以上の悪化のリスクと関連していた。・さまざまな曝露の遅れや治療タイプを補正して評価のトリメスターを層別化した感度解析でも、同様の結果が得られた。

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高齢者と基礎疾患のある成人に早期の3回目接種を

 2022年3月11日、モデルナ・ジャパン株式会社(以下モデルナ社)はメディアセミナー「この春の感染拡大を見据えた3回目追加接種の必要性~Long COVID リスク等も視野にいれて~」を開催した。 本セミナーでは、はじめにモデルナ社 代表取締役社長の鈴木 蘭美氏より、コロナワクチンの開発と最新パイプラインについての説明が行われた。 コロナワクチンに関しては本年秋頃の追加接種の可能性を見込み、モデルナ社ではオミクロン株用を含む追加接種用の2価ワクチンを開発中だという。またmRNA医薬品創出技術を生かしたパイプラインについては、サイトメガロウイルス感染症ワクチン、MSD社と共同開発のがんに対するワクチン、アストラゼネカ社と共同開発の心臓発作時の損傷を防ぐ新薬など、グローバルで計44の新薬開発プロジェクトが進行している。パイプラインの中には新型コロナウイルス・インフルエンザ・RSウイルスに対する3種混合ワクチンも含まれており、2023年秋までの提供開始を目指しているという。 3回目接種と今後のワクチン開発について、鈴木氏は「できるだけ多くの方に3回目のワクチン接種を受けてもらい、免疫を備えてもらいたい。ワクチンのリーディングカンパニーとして、(今後の感染状況が)最悪の場合を想定して最善を備えたいと思っている」と強く語った。 続いて、国際医療福祉大学の和田 耕治氏より、第7波を見据えたワクチン戦略についての講演が行われた。 和田氏は、ワクチン接種状況のデータや自主調査の結果から3回目接種の遅れを指摘、国内外における3回目接種による重症化予防効果のデータを示し、とくに高齢者と基礎疾患のある成人に対する早期接種の重要性を述べた。また、英国のCOVID-19ワクチンサーベイランスレポート1)のデータを用いて、モデルナワクチンとファイザーワクチンの混合接種を含んだ3回目接種による発症予防効果についての解説を行った。 モデルナ社では、3月11日から5月10日まで、60名のサッカー選手が所属クラブの公式Twitterアカウントで、「#GoGoGo 3回目接種」のハッシュタグを付けて3回目接種を支援するツイートを行うキャンペーンを実施している。

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単回投与で効果が期待できる世界標準の梅毒治療薬「ステルイズ水性懸濁筋注60万/240万単位シリンジ」【下平博士のDIノート】第94回

単回投与で効果が期待できる世界標準の梅毒治療薬「ステルイズ水性懸濁筋注60万/240万単位シリンジ」今回は、持続性ペニシリン製剤「ベンジルペニシリンベンザチン水和物(商品名:ステルイズ水性懸濁筋注60万/240万単位シリンジ、製造販売元:ファイザー)」を紹介します。本剤は早期梅毒に対して単回投与で効果を発揮するため、既存治療の課題であったアドヒアランス不良による治療失敗を防ぐことができると期待されています。<効能・効果>本剤は、梅毒トレポネーマによる梅毒(神経梅毒を除く)の適応で、2021年9月27日に承認され、2022年1月26日に発売されました。<用法・用量>成人および2歳以上の小児早期梅毒:通常、ベンジルペニシリンとして240万単位を単回、筋肉内に注射します。なお、2歳以上13歳未満の小児の場合は年齢、体重により適宜減量可能です。後期梅毒:通常、ベンジルペニシリンとして1回240万単位を週に1回、計3回、筋肉内に注射します。なお、2歳以上13歳未満の小児の場合は年齢、体重により適宜減量可能です。2歳未満の小児早期先天梅毒、早期梅毒:通常、ベンジルペニシリンとして体重1kgあたり5万単位を単回、筋肉内に注射します。<安全性>臨床試験で報告された主な副作用は、主な副作用は、皮疹(斑状丘疹状皮疹、剥脱性皮膚炎)、蕁麻疹、喉頭浮腫、発熱(いずれも頻度不明)などでした。重大な副作用として、ショック、アナフィラキシー、偽膜性大腸炎、中毒性表皮壊死融解症(TEN)、皮膚粘膜眼症候群(Stevens-Johnson症候群)、間質性腎炎、急性腎障害、溶血性貧血(いずれも頻度不明)が報告されています。<患者さんへの指導例>1.梅毒の原因菌である梅毒スピロヘータの細胞壁の合成を阻害して感染症を治療する薬です。2.接種後に一時的な発熱、頭痛、倦怠感などが生じることがあります。症状がひどい場合はご相談ください。3.接種後は健康状態に留意し、接種部位の異常や体調の変化、高熱、痙攣など普段と違う症状がある場合には、速やかに医師の診察を受けてください。<Shimo's eyes>わが国では2010年以降、梅毒の感染者数は男女ともに増加しています。国立感染症研究所感染症疫学センターが公表したデータによると、2021年第1~47週までに届出があった症例数は、2020年の同時期の約1.4倍であり、1999年に感染症法が施行されてからもっとも多いことが示されました。男性は20~40代の幅広い年齢で届出がありますが、女性では20代前半が突出して多く、これは先天梅毒の増加にもつながる問題です。本剤は、海外では梅毒治療の標準薬として広く用いられており、これまで耐性菌の報告はありません。一方、わが国での現行の治療は、アモキシシリンを1日3回、2~4週間(第2期以降はさらに継続)服用する方法が一般的で、アドヒアランス不良による治療失敗が少なくないという課題があります。そのような背景から、日本感染症教育研究会などの関連団体から本剤の開発が要望され、「医療上の必要性の高い未承認薬・適応外薬検討会議」での検討結果を受けて開発されました。本剤の溶解性は低く、筋注部位から緩徐に放出された後、ペニシリンGに加水分解されて吸収されるため、血中濃度が長時間持続します。本剤は粘性が高いため、240万単位には18ゲージ、60万単位には21ゲージの注射針を用い、針が詰まらないよう、ゆっくりと一定速度で注射する必要があります。感染から1年未満(早期梅毒)の場合は単回投与ですが、感染から1年以上たった後期梅毒の場合は、週に1回を計3回投与する必要があります。本剤投与後、梅毒治療に特異的な「ヤーリッシュ・ヘルクスハイマー反応」による一時的な発熱、頭痛、倦怠感などが生じる可能性があります。多くの場合は一過性ですが、治療したにもかかわらず調子が悪くなったと勘違いする患者さんもいるので、あらかじめ説明しておきましょう。参考1)PMDA 添付文書 ステルイズ水性懸濁筋注60万単位シリンジ/ステルイズ水性懸濁筋注240万単位シリンジ

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腹痛患者、波があれば“管”を疑おう!【Dr.山中の攻める!問診3step】第12回

第12回 腹痛患者、波があれば“管”を疑おう!―Key Point―肋間神経の前皮枝が腹直筋を貫く部位で絞扼されることがある前皮神経絞扼症候群は慢性腹痛のかなり多い原因と考えられているリドカインの局所注射で劇的に痛みが改善する症例:72歳 女性主訴)増悪する左下腹部痛現病歴)5ヵ月前に頻尿となり、近くの診療所で膀胱炎と診断、抗菌薬を処方された。膀胱炎の症状は良くなったが、しばらくして尿道の先端にツーンとする痛みが出現した。左下腹部の異常知覚もある。その後、徐々に左下腹部に耐え難い痛みが出現した。総合病院の泌尿器科と婦人科の診察では異常なしと言われた。食欲あり。体重変化なし。排便は規則的。帯下はない。既往歴)虫垂炎(20歳)、左卵管筋腫摘出術(33歳)薬剤歴)漢方[猪苓湯]、アセトアミノフェン生活歴)飲酒:なし 喫煙:なし身体所見)体温35.9℃、血圧197/116mmHg、心拍数96回/分、呼吸回数18回/分、意識清明腹部:恥骨左上方(腹直筋外縁)にピンポイントで圧痛あり。カーネット徴候陽性。tapping painなし。圧痛点周囲の皮膚3×3cmの領域に異常知覚あり。この部位をつまむと対側と異なり強く痛みを感じる直腸診:活動性出血なし、黒色便なし、骨盤内腹膜に圧痛なし経過)症状と身体所見から前皮神経絞扼症候群:ACNES(anterior cutaneous nerve entrapment syndrome)を疑った1)疼痛部位に1%リドカイン10mLを皮下注射した注射の5分後から左下腹部痛は3/10に減少した。腹痛が悪化しため、2ヵ月後に追加の注射を行い、その後は軽快している◆上記の患者背景を『痛みのOPQRST』に当てはめてみると…Onset(発症様式)突然痛くなるPalliative/Provocative factor(寛解/増悪因子)前かがみ、足を組む、下肢を伸ばす時、左側臥位で痛みがひどくなる。歩きまわると痛みがまぎれる。楽になる姿勢はないQuality(症状の性質)焼けるような痛み。痛みがゼロになることはない。疼痛のある所に何かが張りついているような異常感覚ありRegion(部位)いつも左下腹部が痛む。尿道のほうに放散するような感じがするSeverity(強さ)死にたくなるくらいズキンという激しい痛みTime course(時間的経過)5ヵ月前から痛みはあるが、最近3ヵ月間はとくにひどい。痛みは毎日数回襲ってくる。持続時間は1~10分くらい。余波のような軽い痛みは一日中ある◆今回おさえておくべき臨床背景はコチラ!急性腹症は年齢により疾患頻度が異なる。50歳以下なら虫垂炎、50歳以上ならば腸閉塞、胆嚢炎/胆管炎、虫垂炎を第一に考える 虫垂炎と鑑別が必要な疾患は、カンピロバクター感染症と憩室炎である前皮神経絞扼症候群は慢性腹痛の原因として多い【STEP1】患者の症状に関する理解不足を解消させよう【STEP2】間欠痛か持続痛か腹痛に波があるかどうかを確認する。波がある腹痛は管(くだ)の痛みである。消化管や尿管由来の痛みであり、内臓痛とも呼ばれる内臓痛では、どこの部位に問題があるのかはっきり自覚できない尿管結石の痛みは非常に激しい。痛みが楽になった時も7/10程度の痛みは持続する。患者はベッドで七転八倒する。尿管に詰まった石が落ちると、痛みは嘘のようになくなる持続的に痛む場合には膜(まく)の痛みである。体性痛と呼ばれる。腹膜炎の痛みである痛みは限局し、振動によって痛みが響くことが特徴である。患者は腹部に振動を与えないようにそろりと歩き、寝返りをうたないようにじっとベッドに横たわっている胆嚢炎では胆嚢周囲に限局性の腹膜炎が起こるため、ピークに達した痛みは持続する(表1)内臓痛と体性痛(図)疝痛パターン2)画像を拡大する【STEP3-1】痛みの原因となっている層を明らかにする●皮膚ピリピリする、皮疹は数日後に出現することもある●筋骨格/皮神経体動時に痛みがひどくなる、カーネット徴候*が陽性である*カーネット徴候(Carnett’s sign)では、両手を胸の前で組み、臍を見るように頭部を前屈させ腹筋を緊張させる。この状態で疼痛部位を押し、痛みの軽減がなければ陽性●腹膜筋性防御あり。tapping painあり●内臓交感神経の緊張から嘔気、嘔吐、冷汗、徐脈を引き起こす【STEP3-2】虫垂炎の可能性を考える手術が必要な急性腹症の場合、50歳以下では虫垂炎が20%と最も頻度が高い。50歳以上では胆嚢炎/胆管炎、腸閉塞、虫垂炎が多い3)急性虫垂炎の典型的な症状経過は、(1)心窩部または臍周囲の痛み[間欠痛](2)嘔気/嘔吐または食欲低下(3)右下腹部へ痛みが移動[持続痛](4)振動で右下腹部が響く(5)発熱、が一般的である「アッペもどき」と呼ばれるカンピロバクター感染症では、腸間膜リンパ節炎を起こすので右下腹部痛となることがある。頻度の高い食中毒であるカンピロバクター感染症では、初期から発熱、頭痛、関節痛、筋肉痛を起こす点が虫垂炎の典型的な症状とは異なる。急性憩室炎は右下腹部に痛みがあることが多く虫垂炎と紛らわしいが、虫垂炎が3日くらいで状態がかなり悪くなるのに対し、憩室炎では1週間以上状態は安定し食欲もあることが多い(表2)4)画像を拡大する<参考文献・資料>1)Waldman SD, et al. Atlas of Uncommon Pain Syndromes 3rd edition. Saunders. 2013.2)Silen W, et al. Cope's Early Diagnosis of the Acute Abdomen 22nd edition. OXFORD UNIVERSITY PRESS, INC. 2010.3)de Dombal FT, et al. J Clin Gastroenterol. 1994;19:331-335.4)窪田忠夫. ブラッシュアップ急性腹症. 中外医学社. 2014. p19.

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第103回 実は存在するらしいデルタ株とオミクロン株の融合株

今年1月、キプロス大学のウイルス学者Leondios Kostrikis氏が率いるチームはデルタ株とオミクロン株の両方の変異を有する新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)ゲノムを見つけたと報告し1)、Deltacron(デルタクロン)と名付けたそれら配列をゲノム情報データベースGISAIDに登録しました。即座に反応した世界の専門家からの風当たりはきついものでした。Kostrikis氏らがGISAIDに登録した52の配列は新たな変異株を意味するものではないし、ましてや異なるウイルスがそれぞれ手持ちの遺伝情報を融合させて生じたものでもなく、実験での不手際による混入が招いたものであろうと多くの専門家はツイッターなどのソーシャルネットワークやら記者会見などで言い散らしたのです。たとえば世界保健機関(WHO)のCOVID-19チームのメンバーKrutika Kuppalli氏などはツイッターにオミクロン株とデルタ株が混じった超変異株などない(“#Omicron and #Delta did NOT form a super variant.”)と当時断言しました2)。研究の過程でオミクロン株がうっかり混じってしまったデルタ株検体の配列を読んでしまったことが原因だろうと同氏は推察しています。キプロスのKostrikis氏が配列をデルタクロンと呼んでしまったせいでデルタ株とオミクロン株が融合したウイルス配列が見つかったと幾つかのニュースは報じました。しかし配列はデルタ株であってデルタ株とオミクロン株の融合配列とは言っていないと同氏は釈明しています。とはいえ針のむしろのKostrikis氏はすっかり気が引けてしまったらしく、せっかくGISAIDに登録した“デルタクロン”の配列を72時間後には更なる調査が必要と言って引っ込めてしまいました。そんなこんなでもはやデルタクロンは幻として忘れ去られると思いきやさにあらず、デルタ株とオミクロン株の融合と思しきゲノムの報告は先月2月に入って相次ぎ、その月末27日までに融合産物らしいどれも非常に似通った配列がGISAIDに15も登録されています。そしてとうとう先週8日のmedRxiv掲載報告3)でフランスの研究者がその尻尾を捕まえたことを明らかにしました。デルタ株とオミクロン株のそれぞれに特有の変異を併せ持つSARS-CoV-2株・デルタミクロン(Deltamicron)を感染者の1人から培養で単離していわば生け捕りにし、そのゲノム配列を読み取ることに成功したのです。SARS-CoV-2感染は世界に広まってすでに数年が経ち、複数の変異種が時にあいまみえつつ入れ代わり立ち代わり跋扈しています。ウイルス2種がそれぞれ手持ちのゲノムを融合させるにはそれらがあいまみえている期間に同じ細胞に一緒に感染することを必要とします。デルタ株とオミクロン株の感染流行は数週間ほど重なっており、一つの細胞にそれらが共存して果てはそれぞれのゲノムを共有する機会は確かにありました。実際、デルタ株とオミクロン株の同時感染の報告は幾つか存在しますし、WHOのKuppalli氏のツイッター投稿とは裏腹にコロナウイルスがそれぞれ手持ちのゲノム情報を共有するのはよくあることです3)。フランスの研究報告の4日後の先週土曜日(12日)には米国の遺伝研究企業Helix社もデルタ株とオミクロン株の同時感染とゲノム情報の共有を裏付ける解析結果を発表しています4,5)。同社は米国でデルタ株流行とオミクロン株流行がかぶっていた去年11月から今年2月の感染例検体およそ3万件を解析し、同時感染20件を同定しました。そのうちの1つではウイルスゲノムの共有の痕跡が認められ、さらには、デルタ株とオミクロン株のゲノムが融合したウイルスが感染者2人から見つかりました。それらのSARS-CoV-2ゲノムは両端の一方(5‘末端)がデルタ株、もう一方(3’末端)がオミクロン株からのものでした。Helix社の研究で示唆されているようにデルタ株とオミクロン株の融合はどうやら稀であり、それら融合株がオミクロン株に比べて人から人により伝染しやすいという謂れは今の所ありません。ただしフランスの研究チームのスパイクタンパク質解析によると気味が悪いことにデルタミクロンは細胞膜への結合にうってつけ(optimization of virus binding to the host cell membrane)になっているようです3)。フランスの研究チーム曰く世界で初めてデルタミクロン株が今や単離されたことで細胞への結合のほどが実際にはどうなのかの検討が早速始まるでしょう。加えて、細胞各種でのその増えやすさ、先立つ感染やワクチン接種で備わった中和抗体の効き具合、遺伝的変化の様子なども今後調べることができます3)。ちなみにデルタ株とオミクロン株の融合などないと断言した件のKuppalli氏のツイッターには「今はどう考える?(So, what do you have to say about this now?)」といった問いかけがあり、また最近のニュースでも言及されました。それに対して同氏は先週11日に以下のように回答しています。“This is a perfect example of media taking a tweet out of context. I wrote that tweet in December in relation to a preprint that reported “Deltacron” that tweet was relevant to that story at the time. Using a tweet from three months ago when things have evolved is inappropriate(ニュースが状況を無視してツイートを取り上げる良い例だ。私のツイートはデルタクロンを報告したプレプリントに関する去年12月のものだ[筆者注:ツイートされたのは今年1月10日。それにツイートで引用されているのはプレプリントではなくCNBCのニュース]。3ヵ月前[筆者注:2ヵ月前が妥当でしょう]のツイートを状況が変化した今になって取り上げるのは不適切だ)。この言い分はちょっと的外れと思うのはわたしだけでしょうか。参考1)Deltacron: the story of the variant that wasn’t. Nature.2)Krutika Kuppalli氏ツイッター投稿3)Culture and identification of a “Deltamicron” SARS-CoV-2 in a three cases cluster in southern France. medRxiv. March 08, 20224)Evidence for SARS-CoV-2 Delta and Omicron co-infections and recombination. medRxiv. March 12, 20225)"Deltacron" with genes of Delta and Omicron found Reuters.

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オミクロン株BA.2、コロナ治療薬の有効性は?/NEJM

 現在、オミクロン株亜種BA.2は、デンマーク、インド、フィリピンなどの地域において、オミクロン株BA.1系統から置き換わり、主流になっている。近いうちに日本国内でもBA.1からBA.2に置き換わることが予想されている。国立感染症研究所の高下 恵美氏らの研究グループは、オミクロン株BA.2に対し、7種類の抗体薬と3種類の抗ウイルス薬について、in vitroでの有効性を検証した。本研究の結果は、NEJM誌オンライン版2022年3月9日号のCORRESPONDENCEに掲載。 研究対象となった薬剤は、FDA(米国食品医薬品局)で承認済み、日本で承認済みのものが含まれる。日本で承認済みの抗体薬は、イムデビマブとカシリビマブの併用(商品名:ロナプリーブ)、ソトロビマブ(商品名:ゼビュディ)、抗ウイルス薬は、レムデシビル(商品名:ベクルリー)、モルヌピラビル(商品名:ラゲブリオ)、ニルマトレルビル(商品名:パキロビッドパック[リトナビルと併用])となる。 今回の試験では、7種類の抗体薬(etesevimab、bamlanivimab、イムデビマブ、カシリビマブ、tixagevimab、cilgavimab、ソトロビマブ)の単剤および併用について、オミクロン株BA.2の培養細胞における感染を阻害(中和活性)するかどうかを、FRNT50(ライブウイルス焦点減少中和アッセイで50%のウイルスを中和する血清希釈)を用いて評価した。また、3種類の抗ウイルス薬(レムデシビル、モルヌピラビル、ニルマトレルビル)について、IC50(50%阻害濃度)を用いて評価した。 主な結果は以下のとおり。・etesevimab、bamlanivimabの単剤使用では、最も高いFRNT50値(>5万ng/mL)でも、オミクロン株BA.2に対する中和活性は見られなかった。併用では、最も高いFRNT50値(>1万ng/mL)でも、中和活性は見られなかった。この結果は、オミクロン株BA.1とその亜種のBA.1.1に対しても同様だった。・イムデビマブの単剤使用では、BA.1とBA.1.1に対する中和活性は見られなかったが、BA.2に対して中和活性があることが確認された。・カシリビマブの単剤使用では、BA.2に対して中和活性があることが確認された。・イムデビマブとカシリビマブの併用では、BA.1とBA.1.1に対する中和活性は見られなかったが、BA.2に対して中和活性があることが確認された。ただし、初期のSARS-CoV-2や、アルファ株、ベータ株、ガンマ株、デルタ株より、FRNT50値が43.0~143.6倍高かった。・tixagevimab、cilgavimabの単剤使用では、BA.2に対して中和活性があることが確認された。・tixagevimabとcilgavimabの併用では、BA.2に対して中和活性があることが確認された。ただし、初期のSARS-CoV-2や、アルファ株、ベータ株、ガンマ株、デルタ株より、FRNT50値が1.4~8.1倍高かった。・ソトロビマブの前駆体では、BA.1とBA.1.1に対する中和活性は低く、BA.2に対する中和活性はそれ以下で、FRNT50値が12.2〜49.7倍高かった。・レムデシビル、モルヌピラビル、ニルマトレルビルの各抗ウイルス薬では、BA.2に対し、初期のSARS-CoV-2やこれまでの変異株と同等の効果を示した。 研究チームは、本試験の結果から、抗体薬のうちイムデビマブとカシリビマブの併用、tixagevimabとcilgavimabの併用、ソトロビマブは、中和活性は認められるものの、初期の変異株よりも、オミクロン株BA.2に対する効果が劣っていると述べている。また、本試験で使用した抗ウイルス薬がBA.2に対して実際に有効かどうかは、臨床研究が必要であるとしている。

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第93回 新型コロナウイルスワクチン4回目接種も検討開始/厚労省

<先週の動き>1.新型コロナウイルスワクチン4回目接種も検討開始/厚労省2.新規感染者数と病床使用率、まん防の解除条件見直しへ/内閣府3.手術後の3年生存率、がん拠点病院vs.それ以外の病院/大阪府4.がん拠点病院、敷地内における自由診療の免疫療法に批判5.全世代型社会保障構築会議で少子化対策の検討開始/内閣府1.新型コロナウイルスワクチン4回目接種も検討開始/厚労省後藤 茂之厚生労働相は11日の記者会見において、新型コロナウイルスワクチン接種の4回目の実施を検討していると明らかにした。海外ではすでにイスラエルやチリが4回目接種を開始しており、全国知事会からも、4回目について政府の考え方を早期に示し、ワクチンの確保を求める提言を出している。後藤厚労大臣は、「今の段階ではともかく、3回目のワクチン接種を希望する方が、1日でも早く接種が受けられるように全力で取り組んでいきたい」と強調した。(参考)新規感染者は減少傾向続く 政府は3回目接種を急ぎ、4回目も検討(東京新聞)ワクチン4回目接種 “科学的知見や諸外国の対応を注視”厚労相(NHK)抗体量は半年で減少、秋頃に4回目の接種必要…モデルナ日本法人社長(読売新聞)2.新規感染者数と病床使用率、まん防の解除条件見直しへ/内閣府内閣は11日に新型コロナウイルス感染症対策分科会を開催し、21日が期限の「まん延防止等重点措置」の解除の条件について、新たな行動制限緩和の検討を行った。これまでは、新規の感染者数が前週と比べて減少傾向にあることと、病床使用率が50%を下回ることの2つの基準を重視してきたが、これらを転換し、新規感染者数か病床使用率のいずれかが低下すれば解除可能とする方針を確認した。また、大規模イベントの人数制限についても緩和する方向で、今週正式に決定する見込み。(参考)“まん延防止”解除 条件緩和の新たな考え方を提示 政府分科会(NHK)まん延防止、病床5割超でも解除可=イベント制限緩和へ―政府(時事通信)3.手術後の3年生存率、がん拠点病院vs.それ以外の病院/大阪府大阪国際がんセンターのグループによる分析によって、大阪府や国が指定するがん拠点病院で手術を受けた患者とそれ以外の病院で手術を受けた患者の生存率に差があることが判明した。がん拠点病院とそれ以外の病院での治療成績について、2012年までの3年間に大阪府内でがん患者として手術を受けた15歳以上の患者8万6,000人余りの3年生存率を比較したところ、すべてのがんにおいて、国の拠点病院では86.6%、大阪府の拠点病院では84.2%、拠点病院以外の病院では78.8%と差があった。国は全国の医療圏ごとにがん診療の均てん化を進めてきたが、これらの結果から、従来のやり方での格差解消は難しいと考えられ、アクセスの良い都市部ではさらに拠点化・重点化によって地域格差の解消が求められる。(参考)がん手術後の生存率 大阪府内の拠点病院と拠点以外の病院で差(NHK)がん手術後の生存率で明暗 拠点病院を選ぶならセンターより大学が無難【Dr.中川 がんサバイバーの知恵】(日刊ゲンダイ)4.がん拠点病院、敷地内における自由診療の免疫療法に批判厚労省は3月にがん診療連携拠点病院等の指定に関する検討会を開催した。拠点病院の指定をめぐって今回、金沢大学附属病院と同一敷地内の「医療法人社団金沢先進医学センター」が免疫療法を行っており、さらには金沢大病院に勤務する医師が兼業しているのが問題視された。保険適応外の免疫療法を提供する場合は、原則として臨床研究、先進医療の枠組みで行うことが求められているが、今回発覚した問題は営利目的で自由診療の免疫療法を実施していたとみられる。過去の事例として、埼玉県の民間病院は、ほかの要件はすべて満たしているにもかかわらず、効果が不確かかつ患者に莫大な負担が生じる「免疫細胞療法」を早期がん患者に提供していた問題があり、拠点病院の指定が見送られていた。(参考)金沢大病院の敷地内施設で行われる免疫療法に強い懸念―がん拠点病院指定検討会(Gem Med)同一医療圏で複数のがん拠点病院を指定する場合、明確な「相乗効果」が必要―がん拠点病院指定検討会(同)5.全世代型社会保障構築会議で少子化対策の検討開始/内閣府9日に第2回全世代型社会保障構築会議が開催され、今後さらに進む高齢化や人口減を踏まえて、医療・介護分野では、人材の確保と育成が課題であり、デジタル技術の活用、高齢人材の活用が話題となった。出席した委員からは、わが国には今後20年間の社会の担い手を確保する「少子化対応戦略」と、20年後以降の少子化に歯止めをかけるための「少子化克服戦略」の同時実施が求められていると指摘があり、地域医療構想の再構築による医療介護提供体制の見直しを進める。具体的には、医療に求められる機能が「治す医療」から「治し支える医療」へと変化していることを踏まえ、在宅医療の機能強化、病院の機能分化を求める意見が出された。(参考)全世代型社会保障構築へ議論開始、人への投資 社会保障制度改革は骨太方針と改革工程表で(CB news)全世代型社会保障、「人への投資」優先 子育て支援拡充など議論(日経新聞)

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オミクロン株に対するブースター接種、高齢者での効果は?

 高齢はSARS-CoV-2感染において罹患率および死亡率の主要な危険因子である。そのため、高齢者にはCOVID-19ワクチンを優先して接種する戦略をとる国が多い。ワクチンのブースター接種によってオミクロン株の中和活性を引き出すことが示されているが、高齢者においてはどうか。高齢者へのブースター接種の即時および長期の効果を見た試験結果がThe Lancet Infectious Diseases誌オンライン版2022年2月28日号のCORRESPONDENCEに掲載された。 ドイツ・ベルリンの開業医で募集された、年齢中央値82(範囲:76~96)歳の37例を対象に、SARS-CoV-2中和活性を縦断的に測定した。2021年1月15日に最初のワクチン接種が行われ、BNT162b2(ファイザー製)の2回目接種から10ヵ月後、ブースター接種から4.5ヵ月後までフォローアップされた。 2回目接種後から1ヵ月後(中央値26日、IQR:25~27)および5ヵ月後(中央値153日、151~154)のフォローアップ時に血清サンプルを採取し、50%阻害希釈(ID50)の幾何平均抗体価を求めた。 2回接種により、ほとんどの個体で検出可能なSARS-CoV-2の元となるWu01株およびデルタ中和活性が誘導された(Wu01株35/37例[95%]、デルタ株31/37例[84%])が、オミクロン株に対する活性は検出されないか、最小限だった。続く4ヵ月間でWu01株の中和抗体価は6分の1、デルタ株は7分の1になった。 全員が7ヵ月後(中央値209日[189~228])、ファイザー製ワクチンのブースター接種を受けた。・ブースター接種1ヵ月後(中央値23[21~29]日)の血清サンプルでは、Wu01株とデルタ株の中和抗体価は50倍以上増加し、オミクロン株も33/37例(89%)が強力な中和抗体を誘発した。・ブースター接種後3.5ヵ月(中央値106[86~125]日)で、中和抗体価はWu01株で2.7分の1、デルタ株で2.3分の1、オミクロン株で3分の1に低下した。一方で、Wu01株(36/37例[97%])、デルタ株(34例[92%])、オミクロン株(30例[81%])と、ほとんどが検出可能な中和抗体を維持していた。・ブースター接種後における中和抗体の推定半減期はWu01株で52日(95%CI:46~59)、デルタ株で64日(52~83)、オミクロン株で41日(34~52)だった。 著者らは「オミクロン株に特異的なワクチンがない場合、ブースター接種はワクチンの効果を回復するために重要であり、ブースター接種は高齢者の大部分において、オミクロン株に対する中和活性を効果的に引き出すことができた。本結果は、高齢者集団における今後のブースター接種の戦略の指針となるだろう」としている。

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免疫不全者へのコロナワクチン、3回で抗体陽転率上昇か~メタ解析/BMJ

 免疫不全患者(血液がん、固形がん、免疫性炎症性疾患、臓器移植、HIV)は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)ワクチンの接種による抗体陽転率が免疫正常者と比較して低いが、1回目に比べると2回目接種後に改善され、3回目の接種は有効である可能性があることが、シンガポール国立大学のAinsley Ryan Yan Bin Lee氏らの検討で示された。研究の成果は、BMJ誌2022年3月2日号で報告された。82件の前向き観察研究のメタ解析 研究グループは、免疫不全患者と免疫正常者においてCOVID-19ワクチンの有効性を比較する目的で、文献を系統的にレビューし、メタ解析を行った(特定の研究助成は受けていない)。 医学データベース(PubMed、Embase、Central Register of Controlled Trials、COVID-19 Open Research Dataset Challenge[CORD-19]、WHO COVID-19 databases)を用いて、2020年12月1日~2021年11月5日の期間に発表された試験が検索された。また、ClinicalTrials.govとWHO International Clinical Trials Registry Platformを検索して、2021年11月の時点で、これらのサイトに登録されているが未発表または進行中の試験が特定された。 対象は、免疫不全患者と免疫正常者でCOVID-19ワクチンの有効性を比較した前向き観察研究であった。 82件の研究がメタ解析に含まれた。このうち77件(94%)はmRNAワクチン(BNT162b2[Pfizer-BioNTech製]、mRNA-1273[Moderna製])、16件(20%)はウイルスベクターワクチン(AZD1222[Oxford-AstraZeneca製])、4件(5%)は不活化全粒子ワクチン(CoronaVac[Sinovac Biotech製])を使用していた。バイアスのリスクは、63件の研究が「低」、19件の研究は「中」であった。臓器移植患者は2回目接種後も陽転率が著しく低い ワクチン1回目接種後の抗体陽転のリスク比が最も低かったのは臓器移植患者(リスク比[RR]:0.06[95%信頼区間[CI]:0.04~0.09]、I2=0%、絶対リスク:0.06[95%CI:0.04~0.08]、I2=0%、エビデンスの確実性:中)であり、これは免疫正常者(対照)と比較して抗体陽転率が約16分の1であることを意味する。 次にリスク比が低かったのは血液がん患者(RR:0.40[95%CI:0.32~0.50]I2=80%、絶対リスク:0.29[95%CI:0.20~0.40]、I2=89%、エビデンスの確実性:中)であり、次いで免疫性炎症性疾患患者(0.53[0.39~0.71]、I2=89%、0.29[0.11~0.58]、I2=97%、中)、固形がん患者(0.55[0.46~0.65]、I2=78%、0.44[0.36~0.53]、I2=84%、中)の順であった。また、HIV患者の抗体陽転率を報告した研究が1件あり、免疫正常者と比較して差は認められなかった(1.06[0.74~1.54]、低)。 一方、2回目接種後の抗体陽転率は、依然として臓器移植患者(リスク比:0.39[95%CI:0.32~0.46]、I2=92%、絶対リスク:0.35[95%CI:0.26~0.46]、I2=92%、エビデンスの確実性:中)で最も低く、免疫正常者の約3分の1にすぎなかったが、1回目接種後に比べると高かった。 次いで、1回目接種後と同様に、抗体陽転率は血液がん患者(リスク比:0.63[95%CI:0.57~0.69]、I2=88%、絶対リスク:0.62[95%CI:0.54~0.70]、I2=90%、エビデンスの確実性:低)、免疫性炎症性疾患患者(0.75[0.69~0.82]、I2=92%、0.77[0.66~0.85]、I2=93%、低)、固形がん患者(0.90[0.88~0.93]、I2=51%、0.89[0.86~0.91]、I2=49%、低)の順に高くなり、いずれも1回目接種後よりも改善されていた。HIV患者の抗体陽転率は免疫正常者と同程度だった(1.00[0.98~1.01]、I2=0%、0.97[0.83~1.00]、I2=89%、低)。 11件の研究の系統的レビューでは、mRNAワクチンの3回目の接種によって、固形がん、血液がん、免疫性炎症性疾患の患者のうち2回のワクチン接種に応答しなかった患者において抗体陽転率が改善されたが、臓器移植患者では大きなばらつきがみられ、HIV患者やmRNAワクチン以外のワクチンを接種した患者の研究は十分ではなかった。また、免疫不全患者は免疫正常者に比べ抗体価が低かった。 著者は、「免疫不全患者は免疫正常者に比べ、全般に低い抗体価で抗体陽転が起きており、抗体保有の適切性に関して懸念が高まる。このような患者の抗体保有を向上させるには、従来のmRNAワクチン2回接種レジメンに、3回目の接種を加えるなど、新たな方策が必要となるだろう」としている。

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第99回 厚労省のワクチン情報と併せて読みたい、お奨め情報源は?

新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)の5~11歳の小児に対するワクチン接種が各地でスタートした。ご存じのようにこの年代の小児を対象とした新型コロナワクチン接種に関しては、現時点ではオミクロン株への効果に関するデータが不十分なことなどを理由に、予防接種法に基づく接種の「努力義務」は課せられていない。一方、今回の5~11歳の小児に対する接種開始とともに、SNS上ではワクチンに否定的な人たちの活動が活発化している。そんな最中、Twitterではある動画が話題になっている。一見すると店員と見間違うような服装をした女性が、とあるフードコートで新型コロナワクチンの危険性を訴えるビラを配布していた様子を撮影した動画だ。この件はすでに一部インターネットメディアでも報じられている。街角でビラを配られるのとは違い、店員を装えば店にいるお客さんも警戒心が薄れ、何の気なしに受け取るだろう。当事者たちが否定したとしても「錯覚商法」のような悪質さが漂う。また、一部の医療機関には、やはり小児への接種を行わないよう求めるビラが郵送されているとも聞く。かく言う私は小児接種に関してある週刊誌のコメント取材を受け、小児でも接種を推奨する向きのコメントをしたが、その記事がネット上で公開されると、Twitter上でわざわざ記事を引用しながら、こちらのアカウントに嫌味を飛ばしてくるツイートを数件ほど経験している。ちなみに私のコメントの趣旨は、(1)基礎疾患を有する/同居家族に基礎疾患を有する人がいる小児の接種は待ったなし、(2)この年代は他人との触れ合いが教育の大きな目的の一つであり、この点はリモートでは代用不可能、(3)幼稚園・保育園、小学校でクラスターによる休園・休校が相次いでいるが、成人でオミクロン株の感染・発症予防効果も一定程度認められているワクチンの接種は休園・休校のリスク低減のためには無駄ではない、などである。冒頭に紹介したように一部の行き過ぎた抗議活動がある現状とTwitter上で私をわざわざ探し出してメンションを飛ばしてくるような人の存在を考えれば、編集部のほうに直接抗議があってもおかしくはないだろう(こういう場合、編集者はこちらを気遣って実際に抗議があっても一切知らせないことが多い)。一方で対象の子供を持つ知人たちからは接種を考えるうえで私のコメントが参考になったという声をもらった。その中には子供に接種させるという人もいれば、それでもまだ見合わせたいという人もいる。大人で接種直後の発熱経験者が多く、それこそ副反応報告大会よろしく自身の体温計画像を付けた投稿がSNS上に散見されるような状況に加え、未成年では感染時も無症状・軽症で治癒する確率が成人と比べて高いことなど、子供への接種についてはいろいろ考えるところもあるだろう。そんな中に「厚生労働省のホームページの記述が分かりにくくて」という意見を耳にした。たまたま小児向けに厚生労働省がどのような情報を発信しているかは未確認だったため、覗いてみたが…一瞬にして「これはダメだ」と思ってしまった。まず、厚生労働省の新型コロナワクチンのページに行くと、3回目の追加接種、一般的な有効性・安全性、小児接種の項目に飛ぶ部分がほぼ似たようなデザインで並列となっている。民間ならばこうした時に、それぞれのシーンをイメージさせるような柔らかいイラストのアイコンなどを設置するだろう。この点の違いだけで先のページに進む人の数が変わってくることもしばしばだ。そしてこの厚労省設置の小児接種のタブをクリックして先に進むと、冒頭ページは接種の基本情報や手順を解説している。この点は中央官庁としては当然のことだろう。しかし、問題はここからだ。子供の接種に迷う親が一番気にするのは当然ながらワクチンの有効性と安全性、とりわけ後者である。ところがこれらの情報に飛ぶ部分が無機質に並べられているだけで、分かりにくく、さらに飛んだ先でも情報を無機質に羅列している。たとえば、副反応については発生頻度ごとに表にまとめている。これはこれで良いのだが、ある程度噛み砕いた解釈を文字で付記する必要がある。これまで大人の接種で多くの人が苦しんだ副反応は発熱である。この点で言うと小児の臨床試験で確認された発熱頻度は10%未満で大人と比べればかなり少ない。これは成人向けと比べて接種量が3分に1になっていることが影響していると思われる。にもかかわらず、そうした解説がまるでない。行政的には中立的に表記をしなければならないのかもしれないが、発熱頻度が成人と比べてかなり低いのは事実であり、その点は付記しても問題はないはずだ。そしてこの事実を知るだけでも安心する親は少なくないだろう。また、そもそも使用している用語が硬すぎる。たとえばQ&Aの「小児(5~11歳)の接種では、どのような効果がありますか。」では、「中和抗体価」「抗体応答率」「非劣性」など一般人には馴染みのない用語がポンポン飛び出す。後二者については直後のカッコ内で補足しているが、むしろ一般向けではこのカッコ内の解説文章を主文にし、中和抗体価などのなじみのない用語をカッコの中に入れるか、あるいは使わないという選択肢のほうが無難だ。官僚や医療従事者が思っている以上に一般人は見慣れない文字の並びには拒否反応を示すからだ。こうしたすべての点で優れているのが、最近有名になっている若手医師有志が作成した新型コロナワクチン情報サイト「こびナビ」である。今このサイトに飛べば分かるが、すでに冒頭から小児接種の解説ページに飛べるようにアイコンが設置されている。その中では前述の発熱の副反応頻度についても、わざわざ「大人の半分以下」と解釈がつけられている。実際、このサイトの取り組みは、厚生労働省が医療機関へのかかり方の改善につながる優れた取り組みを奨励し広く普及することを目的に開催している第3回「上手な医療のかかり方アワード」の最優秀賞をこの度受賞している。私自身このサイトは当初から非常に興味深く閲覧してきたし、「こびナビ」のメンバーとなっている医師たちがSNS上で行っている積極的な情報発信にも注目してきた。ただ、その反面こびナビに参加している医師たちは、今回の新型コロナワクチンを快く思わない多数の個人からの支離滅裂な言説やいわれのない誹謗中傷を投げつけられ、それに個人レベルで必死に対応している様子も私は目にしている。だからこそ厚生労働省が彼らのこうした取り組みを表彰したことは非常に望ましいことだと思う。一方で彼らこびナビの医師たちは、誤解に基づくとはいえ本来厚労省に投げつけられるはずの石を代わりに投げつけられ苦闘している。懸賞も結構だが、こびナビのような発信手法をもう少し自身の情報発信にも生かしてはどうだろうかと思わずにいられない。

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COVID-19入院患者における細菌の同時感染率は?

 新型コロナウイルス感染症患者における細菌の同時感染や2次感染はまれであるということが、最近発表されたメタアナリシスや前向き研究で明らかにされている。しかし、これらの研究では、調査対象の患者の約70%に抗菌薬が処方されているという。国立病院機構栃木医療センターの駒ヶ嶺 順平氏らの研究グループは、新型コロナウイルス感染症患者における細菌の同時感染率を明らかにするため、入院中の抗菌薬使用と同時感染の状況について後ろ向き横断研究により検討した。本研究の結果は、JAMA Network Open誌2022年2月18日号に掲載。新型コロナウイルス感染症において細菌による同時感染はまれ 国立病院機構栃木医療センターでは、新型コロナ流行開始以来、COVID-19患者に対し、症状からほかの感染症が疑われる場合を除き、抗菌薬の処方を行っていない。2020年11月1日~21年10月9日までに、同センターに入院した新型コロナウイルス感染が確認された症候性患者1,056例(年齢中央値:50歳[IQR:36~61]、男性669例[63.4%]、女性387例[36.7%])を解析対象とした。533例(50.5%)が軽症、313例(29.6%)が中等症I、203例(19.2%)が中等症II、7例(0.7%)が重症であった。入院中、9例(0.9%)が死亡、1,046例(99.1%)が回復、1例が回復前に他院に転院した。 調査結果によると、104例(9.9%)の新型コロナウイルス感染症患者で入院前に抗菌薬が処方されていたが、入院中に抗菌薬が投与された患者は18名(1.7%)だった。このうち15例は治療、3例は予防として使用した。入院中に微生物学的に確認された新型コロナウイルス以外の感染症は6例(0.6%)で7件であった。軽症のCOVID-19を除いても5例(0.9%)であった。 本研究により、新型コロナウイルス感染症患者において、入院中の抗菌薬使用頻度が低いにもかかわらず、細菌による同時感染はまれで、そのほとんどが非重症例だった。また、非重症患者のほとんどが抗菌薬なしで回復したことから、著者らは、非重症患者の治療に抗菌薬を使用する必要はほぼなく、新型コロナウイルス感染症の治療には、薬剤耐性を考慮し、抗菌薬の使用を慎重に行う必要があるとしている。

1980.

ワクチン導入前のコロナ感染者致死率、医療レベル以外の要因が存在?/Lancet

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のワクチン導入および変異株流行前の感染者致死率(IFR)は、190の国・地域によって30倍以上のばらつきがあることが、COVID-19 Forecasting TeamのReed J. D. Sorensen氏らが実施したCOVID-19総死亡と血清有病率調査の系統的解析の結果、示された。とくに医療システムが良好な国で年齢標準化IFRが高かったことは、医療能力以外の要因が重要であり、その要因として介護施設におけるアウトブレイクやCOVID-19を重症化させる併存疾患などが考えられた。また、ワクチン導入前にIFR推定値の中央値が8ヵ月間で33%減少しており、COVID-19に対する治療が時間の経過とともに改善されていることを示唆するものである。著者は、「ワクチン導入前のIFRを推定することは、COVID-19による死亡パターンの進行を説明する重要な基礎を提供するものである」と述べている。Lancet誌オンライン版2022年2月24日号掲載の報告。COVID-19総死亡と血清有病率の調査をマッチングしIFR解析を実施 研究グループは、ある集団におけるCOVID-19総死亡率と血清有病率調査のマッチングにより、年齢別および全年齢のIFRを推定した。COVID-19総死亡とは、COVID-19に直接起因する推定総死亡数を指す。血清有病率調査5,131件のうち、除外基準に該当した調査を除外し、全年齢調査2,073件および年齢別調査718件(年齢別観察研究3,012件)についてIFR解析を実施した。 血清有病率が年齢別に報告されている場合、階層ベイズモデルを用いてCOVID-19による総死亡を対応する年齢群に分割し、特定の場所に関する死亡報告の非線形年齢パターンを特徴づけた。推定IFRの年齢パターンに関するワクチンの影響を取り除くため、ワクチン導入後の血清有病率と死亡の年齢別観測値は除外した。 非線形メタ回帰モデルを用いて年齢別IFRを推定し、得られた年齢パターンを使用して、全年齢IFR観測値を全世界の年齢分布に標準化した。すべてのIFR観測値はベースラインおよび抗体検査感度で補正した後、年齢標準化IFRを時点、地理、および共変量の上位100セットの関数としてモデル化した。共変量には、7項目の臨床的予測因子(年齢標準化肥満有病率など)と、医療システムの性能の2つの尺度が組み込まれた。190の国・地域と11の国・地域の地方について、最終的なIFR推定値(全年齢および年齢標準化)を算出した。IFRは190の国・地域で30倍以上の差があるも、ワクチン導入前8ヵ月間で33%減少 ワクチン導入および変異株流行前の2020年4月15日から2021年1月1日におけるIFR推定値は、年齢、地域および時点によって不均一性が大きいことが認められた。 年齢別IFR推定値(95%不確定区間[UI])は、7歳が0.0023%(0.0015~0.0039)と最も低く、30歳0.0573%(0.0418~0.0870)、60歳1.0035%(0.7002~1.5727)、90歳20.3292%(14.6888~28.9754)と指数関数的に増加し、J字型を呈した。2020年7月15日時点のIFRが高かった国は、ポルトガル(2.085%)、モナコ(1.778%)、日本(1.750%)、スペイン(1.710%)、ギリシャ(1.637%)であった。 全年齢IFRは、190の国・地域の間で30倍以上のばらつきが認められた。2020年7月15日時点の年齢標準化IFRが高かった国は、ペルー(0.911%)、ポルトガル(0.850%)、オマーン(0.762%)、スペイン(0.751%)、メキシコ(0.717%)であった。 IFRが高い地方には、英国、米国の南部および東部の州のホットスポットも含まれていた。サハラ以南のアフリカとアジア諸国は一般的に、全年齢および年齢標準化IFRが低かった。人口年齢構成は、2020年7月15日時点におけるサンプル国39ヵ国のIFR推定値のロジットスケールの変動の74%を占めた。事後解析により、介護施設集団における高い感染率が、一部の地域における高いIFRを説明する可能性が示された。 すべての国・地域において、2020年4月15日時点から2021年1月1日時点の間で、IFR中央値は0.466%(四分位範囲:0.223~0.840)から0.314%(0.143~0.551)に低下した。

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