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非常につらい倦怠感【漢方カンファレンス】第7回

非常につらい倦怠感以下の症例で考えられる処方をお答えください。(経過の項の「???」にあてはまる漢方薬を考えてみましょう)【今回の症例】70代男性主訴食欲不振既往51歳:胆嚢摘出、70歳:大腸がん手術病歴X年6月、転落による頭部外傷、四肢骨折などの多発外傷で入院加療中で。入院1ヵ月後、腹痛が出現し癒着性腸閉塞と診断された。保存的加療(イレウス管挿入・大建中湯[だいけんちゅうとう]エキスなど)を行ったが再発を繰り返した。入院2ヵ月後に癒着剥離術を施行。術後経過は良好であったが、食欲不振が続き、長期入院のためADLが低下した。入院2ヵ月半後、漢方治療目的に当科に紹介となった。現症身長160cm、体重37.8kg(BMI 14.8kg/m2、入院時と比べて-6kg)。体温35.4℃、血圧105/82mmHg、脈拍66回/分 整、呼吸数16回/分。身体所見では、下肢浮腫が軽度ある以外に特記すべき異常はないが、診察時は車椅子でぐったりした様子でベッドへ移動ができなかった。経過初診時「???」湯(煎じ薬)毎食間を処方。(解答は本ページ下部をチェック!)3日後きつさは軽くなり、ご飯が食べられるようになった。7日後食事は摂れている。活気が出て、よく話すようになった。2週間後リハビリが進みADLが拡大傾向である。漢方治療を終了した。問診・診察漢方医は以下に示す漢方診療のポイントに基づいて、今回の症例を以下のように考えます。【漢方診療のポイント】(1)病態は寒が主体(陰証)か、熱が主体(陽証)か?(冷えがあるか、温まると症状は改善するか、倦怠感は強いか、など)(2)虚実はどうか(症状の程度、脈・腹の力)(3)気血水の異常を考える(4)主症状や病名などのキーワードを手掛かりに絞り込む【問診】<冷えの確認>寒がりですか? 暑がりですか?体の冷えを自覚しますか?寒がりです。体全体が冷えます。<温冷刺激に対する反応を確認>入浴では長くお湯に浸かるのが好きですか?冷房は好きですか?お風呂は熱いのが好きで長風呂です。冷房は嫌いです。飲み物は温かい飲み物と冷たい飲み物のどちらを好みますか?のどは渇きませんか?1日どれくらい飲み物を摂っていますか?温かい湯茶を飲んでいます。のどはそんなに渇かず、1日1L未満です。<ほかの随伴症状を確認>倦怠感はありますか?体全体がだるい感じです。すぐに疲れてしまい、今でも横になりたいです。食べたいという気持ちもリハビリする気力もありません。他に困っている症状はありますか?胸やけ、胃もたれがあります。尿は1日に何回でますか?便秘・下痢はありませんか?便の臭いは強いですか?尿は5~6回くらいです。便は3日に1回で、下痢をします。便の臭いは強くありません。【診察】問診をしても返答が乏しく反応も鈍かった。車椅子で坐位を保つこともつらそうな様子。顔色はやや紅潮。四肢を触診すると冷感が強く、脈診では沈で反発力が非常に弱い脈(脈:沈、極めて弱)であった。また、舌は乾燥した舌苔がわずかで、腹診では腹力は軟弱であった。カンファレンス問診では、寒がり、冷えの自覚がある、温かい飲み物を好む、倦怠感があります。触診でも四肢に強い冷えがあり、「寒」が目立つことから明らかに「陰証」です。さらに脈が沈んで弱く、腹力も軟弱なので、闘病反応が乏しい「虚証」と考えます。今回はあまり「陰陽」・「虚実」の判断は迷わなさそうだね。長期の入院で、体力低下により冷えが生じて、闘病反応が乏しい感じだね。「陰証・虚証」と考えてよさそうだ。少陰病は、冷えが全身に及び、体力が衰えて元気がないのが特徴ですね(第2回参照)。今回の症例は少陰病でしょうか。少陰病は体力が枯渇してきて負け戦の様相を呈する病態だね。少陰病からさらに進行して、極端に体力量が少なくなった状態を「厥陰病(本ページ下部の「今回のポイント」の項参照)」というよ。今回の症例では、車椅子に座っているのもつらい様子、さらに四肢に強い冷えがあり、脈が沈で非常に弱かったことから厥陰病と診断しました。今回の症例は、車椅子に座っているのもきついような、非常につらい倦怠感が特徴だけど、漢方で非常につらがっている症状を何とよぶか覚えているかい?うーん…。ここは重要なポイントですよ! 漢方ではひどくつらがる状態を「煩躁(はんそう)」とよびました。インフルエンザの症例で、強い悪寒があって汗がなく、関節痛がある麻黄湯(まおうとう)を用いるような場合でも、身の置き場もないほどつらがる「煩躁」があれば、大青竜湯(だいせいりゅうとう)(エキス剤では麻黄湯+越婢加朮湯[えっぴかじゅつとう]で代用)が適応になるのでした(第4回参照)。すっかり忘れていました。冬の季節はインフルエンザを診る機会が増えてくるので必ず復習しておきます。太陽病で煩躁があるときは大青竜湯が適応だったね。今回は陰証で煩躁を呈する場合に用いる漢方薬が適応になるよ。慢性疾患で煩躁している場合は、強い冷えを伴うことが多いんだ。それじゃあ本症例をまとめよう。【漢方診療のポイント】(1)病態は寒が主体(陰証)か、熱が主体(陽証)か?寒がり、四肢の冷え、非常につらい倦怠感、下痢の性状(便臭が軽度)、温かい飲み物を好む、脈:沈→陰証(2)虚実はどうか脈:極めて弱、腹力:やや軟弱→虚証(3)気血水の異常を考える倦怠感→気虚下痢→水毒(4)主症状や病名などのキーワードを手掛かりに絞り込む強い冷え、非常につらい倦怠感(煩躁)、脈が沈弱解答・解説【解答】本症例は、厥陰病で煩躁している場合に用いる茯苓四逆湯(ぶくりょうしぎゃくとう)(エキス剤では真武湯[しんぶとう]+人参湯[にんじんとう]で代用)を用いて治療しました。【解説】茯苓四逆湯は附子(ぶし)・乾姜(かんきょう)・甘草(かんぞう)で構成される四逆湯に茯苓(ぶくりょう)と人参(にんじん)が入ったものです。茯苓・人参・甘草に白朮(びゃくじゅつ)が加わると四君子湯(しくんしとう)になり、生体の根元的エネルギーである気を補う基本の漢方薬です。よって茯苓四逆湯は、四逆湯の体を温めて回復させる作用に加えて、弱った元気を補う作用をもった漢方薬になります。茯苓四逆湯は、陰証で煩躁を認める場合に用いる漢方薬です。エキス製剤では真武湯と人参湯を併用して代用することができます。気を補う作用のある漢方薬を補気剤とよびます。全身倦怠感や食欲不振に対する漢方薬と言えば、六君子湯や補中益気湯がよく知られており、補気剤の仲間です。ただし、六君子湯や補中益気湯の適応は冷えは目立ちません。気虚に冷えを伴う場合は陰証の漢方薬が適応になります。食欲不振があって心窩部に冷感を認める場合には人参湯が適応になります。冷えの程度が強く、非常につらい倦怠感がある場合は茯苓四逆湯を用います。冷えの有無や程度に応じて上手く使い分けができるようになるとよいですね(表)。今回のポイント「厥陰病」の解説厥陰病は寒が主体の病態である陰証の最後のステージです。強い冷えがあり、体力が極端に少なくなり強い脱力感、倦怠感を伴います。そのため「極度の虚寒」ともいわれます。胃腸(裏)の働きも低下していて、食欲不振があります。また下痢がみられる場合は、水様性で、臭いがなく、食べ物が消化されずに形が残ったまま出てくることもあります(完穀下痢[かんこくげり]とよぶ)。生体も土壇場なので、最後のひと踏ん張りということで、強い冷えがあるにもかかわらず、逆に熱っぽかったり、顔が赤かったりすることがあります。ロウソクが消える間際にパッと輝く「灯滅せんとして光を増す」ようなイメージです。これを漢方では「陰極まって陽」、つまり、寒が非常に強くなって、逆に熱症状を呈している状態と考えます。脈は沈んで、反発力が非常に弱い軟弱無力な脈が特徴で、「しまりがなく、細い茹でうどんが水にふやけたような緊張感のない脈」といわれます。厥陰病は急性感染症の場合、ショック状態に陥るような危篤状態です。慢性疾患では、冷えと倦怠感がどちらも強度で極度に疲弊した状態を厥陰病と考えます。厥陰病の治療は、体力を補いながら強力に温める治療を行います。代表的な温める生薬である附子(トリカブトの根を加熱処理して弱毒化したもの)と乾姜(しょうがを蒸して乾燥させたもの)、さらに甘草の3つの生薬から構成される四逆湯(しぎゃくとう)を基本とした漢方薬を用いて治療します。

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国内での小児の新型コロナ感染後の死亡、経過や主な死因は?

 2024年8月9日時点での新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の国内での流行状況によると、とくに10歳未満の小児患者が多い傾向にある1)。日本でCOVID-19発症後に死亡した0~19歳の小児・青年患者の特徴を明らかにするために、国立感染症研究所のShingo Mitsushima氏らの多施設共同研究チームは、医療記録および死亡診断書から詳細な情報を収集し、聞き取り調査を行った。その結果、53例の情報が得られ、ワクチン接種対象者の88%が未接種であったことや、発症から死亡までの期間は77%が7日未満であったことなどが判明した。CDCのEmerging Infectious Diseases誌2024年8月号に掲載。 日本では、2022年にオミクロン株が初めて検出された後、小児COVID-19患者数が急増した。2021年12月までに0~19歳のSARS-CoV-2陽性患者数は24万例(0~9歳:8万4千例、10~19歳:15万6千例)だったが、2022年1~9月(オミクロン株流行期)には480万例(0~9歳:240万例、10~19歳:240万例)に増加し、死亡者数も増加した。 本研究では、厚生労働省、地方自治体、保健所、HER-SYS、学会、メディアから小児・青年死亡症例の情報を収集した。症例は、発症または死亡日が2022年1月1日~9月30日である0~19歳におけるSARS-CoV-2感染後に発生した死亡症例と定義した。死因について、中枢神経系異常、心臓異常、呼吸器異常、その他、不明に分類した。患者の発症から死亡までの日数の中央値と四分位範囲(IQR)を算出し、選択された変数の適合度を検定するために、x2検定またはFisherの正確確率検定を用いた。発症から初回診察、心肺停止、または死亡までの間隔を異なる死因間で比較するためにlog-rank検定を用いた。 主な結果は以下のとおり。・COVID-19発症後に死亡した0~19歳の小児・青年患者62例が確認され、うち53例について詳細な調査を実施できた。46例(87%)は内的死因、7例(13%)は外的死因(新型コロナ感染後の溺水や窒息などの予期せぬ事故)であった。・内的死因患者46例のうち、1歳未満が7例、1~4歳が15例、5~11歳が18例、12~19歳が6例であった。19例に基礎疾患が認められた。・ コロナワクチン接種対象者(5歳以上)は24例で、そのうち21例(88%)がワクチンを接種していなかった。2回のワクチン接種済みの3例(12歳以上)のCOVID-19発症日は、最後のワクチン接種日から3ヵ月以上経過していた。・入院前は呼吸器症状よりも非呼吸器症状のほうが多く、疑われた死因は、多い順に、中枢神経系異常(急性脳症など)が16例(35%)、心臓異常(急性心筋炎など)が9例(20%)、呼吸器異常(急性肺炎など)が4例(9%)だった。小児の多系統炎症性症候群(MIS-C)は認められなかった。・基礎疾患のない患者(27例)では、最も多く疑われた死因は中枢神経系異常(11例)、次いで心臓異常(5例)だった。呼吸器異常は認められなかった。・入院前に救急外来で確認された死亡者数は19例、入院後の死亡者数は27例であった。患者の46%は院外心停止で死亡した。・中枢神経系異常を認めた16例では、発症から心肺停止までの中央値は2日(IQR:1.0~12.0)、発症から死亡までの中央値は3.5日(2.0~14.5)だった。5~11歳が最も多く(9例/56%)、1歳未満はいなかった。急性脳症の12例のうち、出血性ショック脳症症候群(HSES)が疑われたのは5例、急性劇症脳浮腫を伴う脳症が1例、分類不能脳症が 6例であった。・心臓異常を認めた9例では、発症から心肺停止までの中央値は4日(IQR:2.0~4.0)、発症から死亡までの中央値は4日(2.0~5.0)だった。 8例に臨床的急性心筋炎が検出された。 本研究の結果、小児・青年のCOVID-19発症後の死因として、中枢神経系異常、次いで心臓異常が多かったことが示された。徴候・症状への対処に加えて、臨床医は基礎疾患にかかわらず、COVID-19発症から少なくとも最初の7日間は小児・青年患者を注意深く観察すべきだ、と著者らはまとめている。

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臓器不全の重篤患者、ICU治療にSGLT2阻害薬追加は有益か?/JAMA

 急性臓器不全を呈した重篤患者に対し、標準的なICU治療にSGLT-2阻害薬ダパグリフロジンを追加しても臨床アウトカムは改善しなかった。一方で、信頼区間(CI)値の範囲が広く、ダパグリフロジンに関連する有益性または有害性を排除できなかったという。ブラジル・Hospital Israelita Albert EinsteinのCaio A. M. Tavares氏らDEFENDER Investigatorsが多施設共同無作為化非盲検試験「DEFENDER試験」の結果を報告した。SGLT-2阻害薬は、糖尿病、心不全、慢性腎臓病(CKD)を有する患者のアウトカムを改善するが、臓器不全を呈した重篤患者のアウトカムへの効果は不明であった。JAMA誌2024年8月6日号掲載の報告。ダパグリフロジン10mg+標準ICU治療vs.標準ICU治療のみ DEFENDER試験は、ブラジルの22ヵ所のICUで行われた。2022年11月22日~2023年8月30日に、少なくとも1つ以上の臓器不全(呼吸器、心血管、腎臓)を呈した予定外のICU入室患者を登録し、2023年9月27日まで追跡調査した。 被験者は、ダパグリフロジン10mg+標準ICU治療を受ける群(ダパグリフロジン群)または標準ICU治療のみを受ける群(対照群)に無作為化され、最長14日間またはICU退室のいずれかの初発まで治療を受けた。 主要アウトカムは院内死亡率、腎代替療法の開始、および28日間のICU入室の階層的複合で、解析にはWin Ratio法(win比で評価)を用いた。 副次アウトカムは、主要アウトカムの各項目、臓器サポートを要さない日数、ICU入室期間、入院期間などで、ベイズ回帰モデルを用いて評価した。主要複合アウトカム、ダパグリフロジン群で有意に減少せず 507例が無作為化された(ダパグリフロジン群248例、対照群259例)。平均年齢は63.9歳(SD 15)、女性は46.9%。39.6%は感染症の疑いによるICU入室であった。ICU入室から無作為化までの期間中央値は1日(四分位範囲:0~1)。 最長14日間のダパグリフロジン10mgの使用は、主要複合アウトカムの発生を有意に減少しなかった。無作為化後28日間のダパグリフロジン群のwin比は1.01(95%CI:0.90~1.13、p=0.89)であった。 すべての副次アウトカムにおいて、ダパグリフロジンの有益性の確率が最も高かったのは、腎代替療法の使用に関するものであった。腎代替療法導入の報告は、ダパグリフロジン群27例(10.9%)、対照群39例(15.1%)であった(ダパグリフロジンの有益性の確率0.90)。

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マイコプラズマ肺炎が8年ぶりの高水準、上位は大阪・埼玉・佐賀/感染研

 国立感染症研究所が8月13日付で報告した2024年第31週(7月29日~8月4日)のIDWR速報データによると、マイコプラズマ肺炎の定点当たり報告数が過去5年間の同時期の平均よりかなり多い。第27週(7月1~7日)以降5週連続で増加、2016年以来8年ぶりの高い水準となっている。 全国の定点当たり報告数は0.95人で、都道府県別にみると上位10都府県は以下のとおり。 大阪府 3.89人 埼玉県 2.67人 佐賀県 2.50人 愛知県 2.20人 沖縄県 2.00人 香川県 2.00人 兵庫県 1.86人 福井県 1.83人 東京都 1.48人 京都府 1.43人

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脾腫の鑑別診断(1)[総論編]【1分間で学べる感染症】第9回

画像を拡大するTake home message脾腫の鑑別診断は「CHINA」で覚えよう。今回は、脾腫の鑑別診断について学んでいきましょう。脾腫を診るとき、皆さんは何を考えますか?鑑別診断は多岐にわたりますが、大まかな分類を覚えるのに「CHINA」という語呂合わせが有用です。この「CHINA」の語呂合わせを頭に入れながら、脾腫の病態生理学的な機序を理解すると、さらに覚えやすくなります。まず、うっ滞性の脾腫としては、脾静脈または門脈の閉塞や肝静脈の流出障害などにより門脈内の血流に対する抵抗が増大することによって生じる門脈圧亢進症が代表例です。また、がんの転移、骨髄性腫瘍などのように、脾臓環境に腫瘍細胞が侵入することによっても脾腫が引き起こされます。悪性リンパ腫のように、固有の免疫細胞自体が腫瘍を形成する場合もあります(感染性の鑑別診断に関しては次回説明します)。さらには、関節リウマチ、サルコイドーシスなどでは、免疫活動の増加とそれに続く過形成により脾腫を来します。感染性心内膜炎もこの免疫学的機序が知られています。これらのうち、とくに巨大な脾腫を来すものが「3M」と呼ばれ、Malaria:マラリアMyelofibrosis:骨髄線維症CML:慢性骨髄性白血病を指します。脾腫を来した患者を診る場合には、これらの大きなカテゴリーで鑑別を考えることにより、ほかの所見と組み合わせて診断に寄与することがあります。皆さんも「CHINA」という語呂合わせを覚えて、脾腫の病態生理学的な機序の理解に役立ててください。1)Aldulaimi S, et al. Am Fam Physician. 2021;104:271-276.

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潰瘍性大腸炎の寛解導入および維持療法におけるリサンキズマブの有用性 (解説:上村直実氏)

 潰瘍性大腸炎(UC)の治療は、生物学的生物学的製剤や低分子化合物の出現により大きく変化している。わが国では、既存治療である5-ASA製剤、ステロイド、アザチオプリン、6-MP等に対して効果不十分または不耐容となったUC患者には、インフリキシマブやアダリムマブなどの抗TNF阻害薬、インターロイキン(IL)阻害薬のウステキヌマブやミリキズマブ、インテグリン拮抗薬であるベドリズマブ、ヤヌスキナーゼ(JAK)阻害薬のトファシチニブやフィルゴチニブなどの使用が推奨されている(『潰瘍性大腸炎・クローン病 診断基準・治療指針 令和5年度改訂版(令和6年3月31日)』厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患等政策研究事業「難治性炎症性腸管障害に関する調査研究」(久松班)令和5年度 総括・分担研究報告書)。しかしながら、中等度以上の活動性を有するUC症例の中には新たな薬剤でも十分な効果が得られない患者や副作用により治療が中断される患者が少なくなく、新たな作用機序を有する治療薬が次々と開発されている。 今回、日本人を含む中等度から重度のUC患者を対象としたUCの寛解導入および寛解維持に対する新たなIL阻害薬であるリサンキズマブの有効性と安全性を検証した国際共同試験の結果が2024年7月22日号のJAMA誌に掲載された。なお、わが国の保険診療現場ではIL阻害薬としてIL-12とIL-23に共通するp40サブユニットを標的とするウステキヌマブ(商品名:ステラーラ)とIL-23に特有のp19サブユニットを標的とするミリキズマブ(同:オンボー)が使用されている。 リサンキズマブ(同:スキリージ)はIL-23p19サブユニットを選択的に標的としてIL-23受容体を介したシグナル伝達を阻害するモノクローナル抗体であり、わが国でクローン病、尋常性乾癬、乾癬性関節炎の治療薬として、すでに薬事承認および保険適用を有している。今回は、中等度以上のUCに対する寛解導入および寛解維持目的とした治療薬として2024年6月に薬事承認を取得している。なお、リサンキズマブはウステキヌマブと同じIL-12ファミリーに属する炎症性サイトカインを標的とするが、IL-23のp19サブユニットに対してのみ特異的に結合して大腸粘膜の炎症を抑えることから感染症や悪性腫瘍の発生リスクを軽減する可能性が期待されている。 今回も昨年承認されたミリキズマブと同様、国際共同治験の成績がトップジャーナルに掲載される前に薬事承認されていることは驚きであるが、今後は国際共同治験の結果がジャーナルに掲載される前に保険適用の承認を取得する薬剤が増加するものと思われる。 一方、難治性のUCに対する薬物療法に関する臨床現場からの要望としては、既存の薬物治療に抵抗性を示す患者を対象として、プラセボを対照とした臨床試験の結果から次々に市販されている生物学的製剤それぞれの役割と具体的な使用方法に関するガイドラインの改訂が必要と思われる。

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第227回 いわば毒をもって毒を制す斬新なHIV治療手段がサルで有効

いわば毒をもって毒を制す斬新なHIV治療手段がサルで有効いわば毒をもって毒を制す新たなHIV治療手段がサルを使った検討1,2)で有望な成績を収め、ヒトに投与する試験の計画が進められています。HIV感染をHIV投与によって封じるというその斬新な手段はさかのぼること15年以上も前にカリフォルニア大学サンフランシスコ校の生物物理学者Leor Weinberger氏が思い付きました3)。Weinberger氏はインフルエンザウイルスがときに不完全なウイルスを生み出し、それが正常ウイルス(野生型ウイルス)の邪魔をするということを大学院のときに知ってその手段を思いつきました。欠損変異のせいで半端なそのようなウイルスは自力では複製できませんが他力本願で増えることができます。半端ウイルスは感染細胞内の野生型ウイルスに押し入り、複製や身繕いに不可欠なタンパク質を奪って野生型ウイルスを減らします。ゆえに都合よく増えるように仕立てた半端ウイルスは一回きりの投与で長く治療効果を発揮すると予想され、Weinberger氏らは2007年に研究に取り掛かり、それから約10年を経た2018年に求める特徴を備えた治療用の半端HIV(以下、治療用HIV)を手にしました。Weinberger氏らは複製を助ける配列を残しつつHIV遺伝子一揃いを切り詰めることで治療用HIVのゲノムを作製しました。治療用HIVは構造がより単純なため、野生型HIVの先を越してより早く複製することができます。治療用HIVの効果は幼いサルを使った検討で検証されました。6匹にはまず治療用HIVが投与され、その24時間後にサルのHIV同等ウイルス(SHIV)が投与されました。4匹にはSHIVのみ投与されました。30ヵ月後の様子を調べたところ、治療用HIVが投与されたサル6匹中5匹は健康で、SHIV濃度はピーク時のおよそ1万分の1で済んでいました3)。一方、治療用HIVが投与されなかった4匹のうち3匹は病んで16週時点で安楽死させられました。治療用HIVは増えずに居続けることもでき、いざとなれば復活して潜伏感染HIVの再現を封じうることも患者細胞などを使った検討で確認されています。また野生型HIVと同様に治療用HIVはヒトからヒトに伝播することができます。その特徴は望まないのに治療用HIVをもらってしまうという倫理的懸念を孕みます。しかし経口ポリオワクチンの弱毒化ウイルスが他のヒトに移って免疫を助けるのと同じように、治療用HIVの伝播はHIV感染の世界的な蔓延を減らす助けになるかもしれません。今後の予定としてWeinberger氏らは治療用HIVをサルでさらに検討するつもりです。また、カリフォルニア州からの助成により実施される臨床試験に関する米国FDAとの話し合いも進んでいます3)。HIV感染に加えてその他の末期の病気も患う患者が被験者として想定されています。それら被験者にまず治療用HIVを投与し、次に抗レトロウイルス薬を中止してウイルス量がどう推移するかが検討される見込みです。被験者が亡くなったらその組織を解析し、治療法HIVと関連する炎症やその他の問題が生じていないかどうかが調べられる予定です。試験が来年早々に始まることをWeinberger氏は期待しています。参考1)Pitchai FNN, et al. Science. 2024;385:eadn5866. 2)Study: Single experimental shot reduces HIV levels 1,000-fold / Oregon Health & Science University 3)Bold new strategy to suppress HIV passes first test / Science

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乳がん関連リンパ浮腫、日常生活の中のリスク因子

 乳がん治療後のリンパ浮腫を防ぐために、患者には日常生活における感染や外傷などのリスクを避けることが推奨されている。一方で日常生活の中のリスク因子が乳がん関連リンパ浮腫に及ぼす影響を検討したデータは不足している。米国・ミズーリ大学カンザスシティ校のMei Rosemary Fu氏らは、日常生活におけるリスクの発生状況および乳がん関連リンパ浮腫への影響を調べることを目的とした横断研究を実施し、結果をAnnals of Surgical Oncology誌オンライン版2024年8月1日号に報告した。 本研究は、米国都市部のがんセンターで登録の3ヵ月以上前に急性期治療(手術、放射線治療、化学療法)を完了しており、転移、再発、またはリンパ系疾患の既往のない21歳以上の女性を対象に実施された。リンパ浮腫リスク軽減行動チェックリスト(The Lymphedema Risk-Reduction Behavior Checklist)を用いて、日常生活における11のリスク因子(感染症、切り傷/引っかき傷、日焼け、油はねまたは蒸気による火傷、虫刺され、ペットによる引っかき傷、爪のキューティクルのカット、重い荷物の運搬/持ち上げ、ショルダーバッグの持ち運び、食料品の持ち運び、ウェイトリフティング)の発生状況を評価。乳がん関連リンパ浮腫への影響を明らかにするために、記述分析、回帰分析、および因子分析を実施した。 主な結果は以下のとおり。・567例のデータが収集・解析され、23.46%が乳がん関連リンパ浮腫と診断された。全体の52.73%は5つ超のリスク因子を経験していた。・感染症(オッズ比[OR]:2.58、95%信頼区間[CI]:1.95~3.42)、切り傷/引っかき傷(2.65、1.97~3.56)、日焼け(1.89、1.39~3.56)、油はねまたは蒸気による火傷(2.08、1.53~3.83)、虫刺され(1.59、1.18~2.13)は乳がん関連リンパ浮腫と有意に関連していた。・日常生活におけるリスク因子は、皮膚外傷と物の持ち運びに関連する要因に集約され、皮膚外傷リスクは乳がん関連リンパ浮腫と有意に関連していた(B=0.539、z=3.926、OR:1.714、95%CI:1.312~2.250、p<0.001)。・皮膚外傷リスクが3つ、4つ、または5つある場合、乳がん関連リンパ浮腫の発症オッズはそれぞれ4.31倍、5.14倍、6.94倍に大幅に増加した。・物の持ち運び関連のリスクは、乳がん関連リンパ浮腫の発症に有意な影響も増分的な影響も与えていなかった。 著者らは、52.73%の人が5つを超えるリスク因子を経験していることを考慮すると、これらのリスクを完全に回避するのは難しいとし、“乳がん関連リンパ浮腫の日常生活リスクを最小限に抑えるための戦略”として、「日焼けを防ぐために日焼け止め(SPF30以上)を塗るか、長袖の服を着ましょう」「発疹、水疱、赤み、腕の熱感の増加、痛みなどに気づいた場合は、すぐに医師に相談しましょう」など16項目を提示している。

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第205回 ポストコロナ時代、地域医療の存続に向けた病院の新たなアプローチとは?

毎週月曜日に先週にあった行政や学会、地域の医療に関する動きを伝える「まとめる月曜日」。今回は特別編として「すこし未来の地域医療の姿」について井上 雅博氏にご寄稿いただきました。新型コロナが医療・介護にもたらした影響とは今春、6年に1度のタイミングで医療報酬、介護報酬、障害福祉サービスの報酬が同時に改定されました。今回の改定では、医療と介護の連携の必要性を強く求めると同時に、マイナンバーカードの普及により医療情報の利活用を促進し、高血圧、脂質異常症、糖尿病を中心に診療を行っていた医療機関では「療養計画書」の作成などの対応に追われました。改定後、全国の病院関係者からは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡大時に救急患者の受け入れや転院、退院支援で苦労したのが、第11波の現在では、患者不足で病床が埋まらず、病床稼働率の低下が囁かれるようになったという声が聞かれます。もちろん、COVID-19のワクチン接種による軽症化や治療薬の開発による早期治療開始による早期退院が可能となったことが大きいとは思います。しかし、それ以外の原因として、感染拡大によって定期的な健康診断やがん検診によって発見された手術適応患者の紹介の減少が目立っていることが挙げられます。さらに、後期高齢者の場合、入院しても手術適応とならない方が増えている可能性があります。私が以前勤務していた広島県福山市の脳神経センター大田記念病院では、最新の統計によれば中央値では過去5年間大きな変動はないものの、高齢者層の増加(とくに90歳以上)が報告されています。じわじわと来る診療報酬改定の影響現在、病院が直面している経営課題は、昨年秋以降、コロナ対策の医療機関への病床確保基金などの制度が廃止され、以前の診療報酬体制に戻ったにも関わらず、患者の受診行動が変化してしまい、COVID-19拡大が落ち着いても元通りにならなかったという点です。このため、病床稼働率低下に加え、今春の改定で厳しくなった重症度、医療・看護必要度の対応で、10月からの病床再編や加算の対応に頭を悩ませている病院が多いと思います。さらに、原油高やエネルギー価格高騰に加え、デフレからインフレへの転換による経営環境の変化、人件費の増加といった影響も大きく、経営環境が激変しています。診療報酬改定では医療・介護職員の処遇改善のために賃上げの財源としてベースアップ評価料の算定が可能になりましたが、目新しい加算項目は少なく、サイバーセキュリティの強化など追加支出が求められているため、医療機関にとっては厳しい状況です。また、医療機関で問題となっているのは人手不足です。介護系サービス事業者は、高齢者の増加に備え設備投資を行い、施設を増やしてきましたが、現場に投入する医療・介護人材が必要となるため、医療機関よりも賃上げを先行して実施しており、同じ職種でも介護サービス事業者の賃金が高い状態になっています。さらに都市部では、コロナ禍にサービスを縮小していたホテル、飲食業などのサービス業界での人材不足が深刻化し、異業種との人材獲得競争も厳しくなっています。医療機関に求められる新たな「医療の形」病床稼働率の低下という現状を乗り切るための唯一の解決方法は、患者のニーズに応えることです。しかし、急性期の医療機関は専門医が多く、スペシャリストとして専門診療は得意である一方、後期高齢者のように2つ以上の慢性疾患が併存し、診療の中心となる疾患の設定が難しい「Multimorbidity(多疾患併存)」の場合、診療科ごとに縦割り構造のため、患者をチームで診ていると言いながら、病院内で診療科間の連携が取れていない、かかりつけ医や介護サービス事業者との連携協力が不十分なため、退院後にも内服薬の治療中断や退院前の指導不足による病状の悪化など、同じ患者が何回も入退院を繰り返す例が少なくありません。今後は、高度な急性期の医療機関は変わる必要がありそうです。とくに、在宅医やかかりつけ医との退院前のカンファレンスの開催や紹介状の内容の充実、情報共有の進化が必要ですが、多忙な急性期病院の医師がこれらを行うのは難しいと感じています。現状の解決手段としては、医師事務補助作業者の活用による書類作成の充実、退院サマリーや紹介状の作成業務のクオリティの向上が考えられます。また、今後は電子カルテにAIを導入し、カルテ内容の要約自動化を進めることや連携医療機関とカルテの開示を進めることが求められます。さらに、回復期リハビリテーション病棟や地域包括ケア病棟のある医療機関から退院する場合に、退院後のケアを担当する医療、福祉職へのわかりやすい指導(たとえば体重が〇kg以上増えたら早期に専門医に受診、食事や体重が減ったらインスリンは〇単位減量など)が求められると考えます。政府が模索する「新たな地域医療構想」の時代へ厚生労働省は、社会保障制度改革国民会議報告書に基づき、団塊の世代が全員75歳以上となる2025年に向けて、地域医療構想を策定するよう各都道府県に働きかけてきました。厚労省は地域医療構想を「中長期的な人口構造や地域の医療ニーズの質・量の変化を見据え、医療機関の機能分化・連携を進め、良質かつ適切な医療を効率的に提供できる体制の確保を目的とするもの」と定義しています。現状、2025年を目指していた「地域医療構想」はほぼ完成形に近付いているように思います。高度急性期、急性期、回復期、慢性期の病床区分は、各医療機関の立ち位置を明確にし、担うべき役割と連携協力機関をはっきりさせることで、独立した医療機関が有機的に医療・介護連携を行い、全国の2次医療圏内で完結できるよう基盤整備を進めてきました。厚労省は、今後の日本が迎える「高齢者が増えない中、むしろ労働人口が減少していく」2040年を見据え、今年3月から「新たな地域医療構想等に関する検討会」を立ち上げました。地域によっては高齢化の進行によって外来患者のピークを過ぎた2次医療圏も増えています。これは国際医療福祉大学の高橋 泰教授らが作成した2次医療圏データベースシステムからも明らかになっています。これまで、医師や看護師といった人材リソースを増やすことで充実させてきた医療のあり方が変わる中、その地域でいかに残っていくのかを考える必要があります。そのために、最近読んでいる本を紹介します。今後の病院、クリニック運営を考える際の一助になりましたら幸いです。『病院が地域をデザインする』発行日2024年6月14日発行クロスメディア・パブリッシング発売インプレス定価1,738円(1,580円+税10%)https://book.cm-marketing.jp/books/9784295409861/著者紹介梶原 崇弘氏(医学博士/医療法人弘仁会 理事長/医療法人弘仁会 板倉病院 院長/日本大学医学部消化器外科 臨床准教授/日本在宅療養支援病院連絡協議会 副会長)千葉県の船橋市にある民間病院である板倉病院(一般病床 91床)の取り組みとして、救急医療、予防医療、在宅医療の提供、施設や在宅との連携を通して「地域包括ケア」の展開や患者に求められる医療機関の在り方など先進的な取り組みが、とても参考になります。ぜひ一度、手に取ってみられることをお勧めします。参考1)新たな地域医療構想等に関する検討会(厚労省)2)社会保障制度改革国民会議報告書(同)3)外来医療計画関連資料(同)4)診療報酬改定2024 「トリプル改定」を6つのポイントでわかりやすく解説!(Edenred)5)2次医療圏データベースシステム(Wellness)5)医療の価格どう変化? 生活習慣病、医師と患者の「計画」で改善促す(朝日新聞)

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第76回 二項分布とは?【統計のそこが知りたい!】

第76回 二項分布とは?二項分布は、結果が起こるか起こらないか(成功か失敗か)のいずれかであるn回の試行を行ったときの、起こった数(成功数)で表される確率分布です。■二項分布(binomial distribution)とはたとえばコイントスのように、ある行動や試行に対して結果が2つしかないときに生じる分布を「二項分布」と呼びます。「ある行動や試行に対して結果が2つしかない」ということが、二項分布では重要になります。オモテの出る確率が50%のコインを3回投げたとき、オモテが2回以上出る確率を例に二項分布を考えてみましょう。コインを3回投げたとき起こり得る組み合わせは、表1に示す8つです。表1 コイントスの組み合わせの例表1を集計して、オモテの出る個数をX、その個数の出現率を全体の8で割った確率をP(X)として確率分布表を作成します。「起こる・起こらない」の二項を取り扱って作られた確率分布が「二項分布」です。表2はオモテの出る確率が50%のコインを3回投げたときの二項分布です。表2 二項分布の表表2の二項分布をグラフで示します(図)。図 表2の二項分布グラフ■二項分布における確率の求め方ある事象の起こる確率をPとします。この事象をn回試行し、X回起こる確率をP(X)で表すと、P(X)は次の公式によって求められます。コイントスの例題のP(X)は下記のようになります。この式にX=0,1,2,3を代入し、二項分布の表3を作成すると次のようになります。表3 二項分布の表オモテ・ウラの組合わせ数と組合わせ別のオモテの個数を調べて、二項分布を作成しましたが、P(X)を求める式からも求められます。この式の確率はExcelの関数で簡単に求められるので、こちらでの求め方をお勧めします。コイントスの例題である、オモテの出る確率が50%のコインを3回投げたとき、オモテが2回以上出る確率をExcel関数で求めてみました。表3よりオモテが2回以上出る確率は0.375、オモテが3回出る確率は0.125より2回以上の確率は0.375+0.125=0.5(50%)となります。では、サイコロの出る目の事例でExcel関数を使って確率を求めてみましょう。1の目が出る確率が1/6のサイコロを20回振ったとき、1の目が4回以上出る確率はどうなるでしょうか?1の目が4回以上出る確率は、0.4335(約43%)ということになります。■感染症罹患の事例で試してみる医療分野での事例でも試してみましょう。全住民の5%がある感染症に罹患しており、その中から無作為に500例を抽出したとします。このとき、抽出された集団の中に罹患者が30例以上いる確率は何%になるでしょうか?こちらもExcel関数で簡単に求めることができます。以上の結果から罹患者が30例以上いる確率は0.1765(約18%)となります。このように、医学論文の分野においても二項分布は、さまざまな場面で利用されています。次回は「ポワソン分布」を解説いたします。■さらに学習を進めたい人にお薦めのコンテンツ統計のそこが知りたい!第56回 正規分布とは?第57回 正規分布の面積(確率)の求め方は?第58回 標準正規分布とは?第76回 二項分布とは?二項分布は、結果が起こるか起こらないか(成功か失敗か)のいずれかであるn回の試行を行ったときの、起こった数(成功数)で表される確率分布です。■二項分布(binomial distribution)とはたとえばコイントスのように、ある行動や試行に対して結果が2つしかないときに生じる分布を「二項分布」と呼びます。「ある行動や試行に対して結果が2つしかない」ということが、二項分布では重要になります。オモテの出る確率が50%のコインを3回投げたとき、オモテが2回以上出る確率を例に二項分布を考えてみましょう。コインを3回投げたとき起こり得る組み合わせは、表1に示す8つです。表1 コイントスの組み合わせの例表1を集計して、オモテの出る個数をX、その個数の出現率を全体の8で割った確率をP(X)として確率分布表を作成します。表2はオモテの出る確率が50%のコインを3回投げたときの二項分布です。表2 二項分布の表表2の二項分布をグラフで示します(図)。表2 二項分布の表■二項分布における確率の求め方ある事象の起こる確率をPとします。この事象をn回試行し、X回起こる確率をP(X)で表すと、P(X)は次の公式によって求められます。コイントスの例題のP(X)は下記のようになります。この式にX=0,1,2,3を代入し、二項分布の表3を作成すると次のようになります。表3 二項分布の表オモテ・ウラの組合わせ数と組合わせ別のオモテの個数を調べて、二項分布を作成しましたが、P(X)を求める式からも求められます。この式の確率はExcelの関数で簡単に求められるので、こちらでの求め方をお勧めします。コイントスの例題である、オモテの出る確率が50%のコインを3回投げたとき、オモテが2回以上出る確率をExcel関数で求めてみました。表3よりオモテが2回以上出る確率は0.375、オモテが3回出る確率は0.125より2回以上の確率は0.375+0.125=0.5(50%)となります。では、サイコロの出る目の事例でExcel関数を使って確率を求めてみましょう。1の目が出る確率が1/6のサイコロを20回振ったとき、1の目が4回以上出る確率はどうなるでしょうか?1の目が4回以上出る確率は、0.4335(約43%)ということになります。■感染症罹患の事例で試してみる医療分野での事例でも試してみましょう。全住民の5%がある感染症に罹患しており、その中から無作為に500例を抽出したとします。このとき、抽出された集団の中に罹患者が30例以上いる確率は何%になるでしょうか?こちらもExcel関数で簡単に求めることができます。以上の結果から罹患者が30例以上いる確率は0.1765(約18%)となります。このように、医学論文の分野においても二項分布は、さまざまな場面で利用されています。次回は「ポワソン分布」を解説いたします。■さらに学習を進めたい人にお薦めのコンテンツ統計のそこが知りたい!第56回 正規分布とは?第57回 正規分布の面積(確率)の求め方は?第58回 標準正規分布とは?

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JN.1系統対応コロナワクチン、一変承認を取得/ファイザー・ビオンテック

 ファイザーおよびビオンテックは2024年8月8日付のプレスリリースにて、生後6ヵ月以上を対象とした新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のオミクロン株JN.1系統対応の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)ワクチンについて、日本での製造販売承認事項一部変更承認を取得したことを発表した。 両社は2024年6月10日、オミクロン株JN.1系統のスパイクタンパク質をコードするメッセンジャーRNA(mRNA)を含む1価ワクチンについて厚生労働省に承認事項一部変更を申請しており、今回、以下の製剤が承認された。・コミナティ筋注シリンジ 12歳以上用(プレフィルドシリンジ製剤で希釈不要)・コミナティRTU筋注5~11歳用 1人用(バイアル製剤で希釈不要)・コミナティ筋注6ヵ月~4歳用 3人用(バイアル製剤で要希釈) 上記申請は、品質に係るデータに加え、本ワクチンが両社のオミクロン株XBB.1.5系統対応COVID-19ワクチンに比べ、JN.1およびKP.2、KP.3を含むその亜系統に対しても優れた免疫反応を示した非臨床データに基づいている。 2024年5月29日に開催された「第2回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会研究開発及び生産・流通部会季節性インフルエンザワクチン及び新型コロナワクチンの製造株について検討する小委員会」では、2024/2025シーズン向けの新型コロナウイルス感染症ワクチンの抗原組成について、JN.1系統が選択されている1)。 また、諸外国の動向として、英国医薬品・医療製品規制庁(MHRA)は7月24日に、ファイザー・ビオンテックのJN.1対応ワクチンを承認している2)。一方米国では、2024年秋から使用する新型コロナワクチンについて、6月13日の米国食品医薬品局(FDA)の発表によると、可能であればJN.1系統のKP.2株を使用することをワクチン製造業者へ提案しているという3)。

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極端に暑い日や寒い日には診療予約のキャンセルが増加

 極端に高温や低温の日には、予約されている診療時間に来なかったり(ノーショー)、診療をキャンセルしたりする患者が増えることが明らかになった。こうした傾向は、65歳以上の高齢者と慢性疾患を有する人で顕著だったという。米ドレクセル大学医学部のNathalie May氏らによるこの研究の詳細は、「American Journal of Preventive Medicine」に6月20日掲載された。 この研究では、米フィラデルフィア市の13カ所の大学病院の外来患者(18歳以上)9万1,580人の間に、2009年1月から2019年12月31日の間に発生した診療予約104万8,575件の追跡が行われた。May氏らは、受診の有無に関するデータを米国海洋大気庁(NOAA)の国立環境情報センター(National Centers for Environmental Information;NCEI)が提供する気象データに基づいて寒い季節と暑い季節に分類し、極端な気温とプライマリケアの利用との関連を検討した。 その結果、最高気温が華氏89度(摂氏31.7度)以上になると、華氏1度(摂氏0.56度)上昇するごとに、無駄になる(ノーショーまたはキャンセル)診療予約が0.64%増加することが示された。また、最高気温が華氏39度(摂氏3.9度)以下の場合でも、華氏1度低下するごとに、無駄になる診療予約が0.72%増加していた。さらに、極端な気温に伴い診療を取りやめる傾向は、特に、65歳以上の患者と慢性疾患を有する患者で強いことも判明した。 May氏は、「気候変動による異常気象は、慢性疾患を有する全ての患者の健康とウェルビーイングを脅かす」と指摘する。同氏はさらに、「とりわけ、極端な暑さや寒さに対抗するための資源を持っていない可能性のある最も脆弱な患者に対しては、警戒を怠らないようにするべきだ。われわれは、プライマリケアの利用における気候変動の影響を研究することで、特に、都市における気候変動の悪影響の観点から健康と公平性を支援する政策を推進したいと考えている」と話している。 一方、論文の筆頭著者であるドレクセル大学医学部のJanet Fitzpatrick氏は、「ノーショーは、患者が自身の健康を損なうだけでなく、他の患者にも悪影響を及ぼす。診療を切望している患者は他にもいる中でのノーショーは、貴重な予約枠を無駄にし、待ち時間の長さによる患者満足度を低下させる。また、急患や救急外来の利用が増え、慢性疾患の管理も不十分になることから、将来、より多くの医療が必要となり、結果的に国の医療システムにかかるコストも増加する」と話す。 医療システムは、遠隔医療の活用によってこのような影響を軽減することができるとFitzpatrick氏は話す。同氏は、「新型コロナウイルス感染症のパンデミックの際、遠隔医療は医療提供の重要な一形態として機能した。気候変動が悪化する中、この研究は、患者が必要なケアを確実に受けられるようにするための選択肢として、遠隔医療の恒久的な適用を提唱することを支持するものだ」と述べている。

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COPD・喘息の早期診断の意義(解説:田中希宇人氏/山口佳寿博氏)

 COPD(chronic obstructive pulmonary disease:慢性閉塞性肺疾患)は2021年の統計で1万6,384例の死亡者数と報告されており、「健康日本21(第三次)」でもCOPDの死亡率減少が目標として掲げられている。気管支喘息も、年々死亡者数は減少しているとはいえ、同じく2021年の統計で1,038例の死亡者数とされており、ガイドラインでも「喘息死を回避する」ことが目標とされている。いずれも疾患による死亡を減少させるために、病院に通院していない、適切に診断されていないような症例をあぶり出していくことが重要と考えられている。しかしながら、疾患啓発や適正な診断は容易ではない。現在、COPD前段階ということで、「Pre COPD」や「PRISm」といった概念が提唱されている。閉塞性換気障害は認めないが画像上での肺気腫や呼吸器症状を認めるような「Pre COPD」や、同じく1秒率が閉塞性換気障害の定義を満たさないが、%1秒量が80%未満となるような「PRISm」であるが、それらの早期発見や診断、そして治療介入などが死亡率の減少に寄与しているかどうかについては明らかになっていない。 今回NEJM誌から取り上げるカナダ・オタワ大学からの「UCAP Investigators」が行った報告では、症例発見法を用いたCOPD・気管支喘息の診断と治療により、呼吸器疾患に対する医療の利用が低減することが示された。約3万8,000例の中から、595例の未診断のCOPD・喘息が発見され、介入群と通常治療群に分けられ、呼吸器疾患による医療利用の発生率が評価されている。ガイドラインによる治療を順守するような呼吸器専門医の介入により、被検者の医療利用は有意に低下することが報告された。早期診断・治療を受けることにより、SGRQスコアとCATスコアや1秒量が改善することが示され、症例の健康維持に寄与することが期待されている。また、早期診断することにより、自らの病状の理解や自己管理の重要性を認識することも重要と考えられる。 一見、病気はすべて早期発見・早期治療が良いように思われるが、いくつかの問題点も考えられる。1つは軽症や無症状の症例が診断されることにより、生命予後に寄与しない治療が施される可能性がある。診断された患者は不安や精神的・心理的なストレスを抱えることも懸念される。2つ目に、限りある医療資源を消費してしまうことが推測される。呼吸器専門医や呼吸器疾患に携わる医療者は本邦でも潤沢にいるわけではなく、呼吸器専門医が不在の医療機関も少なくない。より重症や難治例のために専門医の意義があるわけで、軽症例や無症状の症例に対してどこまで介入できるか、忙しい日本の臨床の現場では現実的ではない部分が大きい。3つ目には薬物療法の早期開始により、副作用リスクがメリットを上回る可能性も不安視される。とくに吸入ステロイドによる局所の感染症や糖尿病や骨粗鬆症のリスクは、長期使用となると見逃すことはできないのだろう。 いずれにしても症例発見法は簡便であり多くの医療機関で導入可能と筆者は訴えているが、COPD・喘息の早期診断・早期介入が医療利用の低減のみならず、長期予後や死亡率の減少などにつながるかどうか、より長期的な検討が必要なのだろう。

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東海大学医学部 外科学系腎泌尿器科学領域【大学医局紹介~がん診療編】

小路 直 氏(教授/診療科長)梅本 達哉 氏(助教)青木 芽衣子 氏(臨床助手)講座の基本情報医局独自の取り組み・特徴当科は、泌尿器悪性腫瘍(前立腺がん、腎臓がん、尿路上皮がんなど)に対するロボット支援手術、および腹腔鏡手術を多数実施しています。また、良性疾患である前立腺肥大症、および尿路結石症に対して、幅広い内視鏡手術を多数実施しており、個々の状況に応じた術式で対応しています。特徴ある医療技術として、本学が先進医療として開始し、2022年から保険収載された“前立腺針生検法:MRI撮影および超音波検査融合画像によるもの”、また2023年に先進医療として承認された“集束超音波治療器を用いた前立腺がん局所焼灼・凝固療法”があり、国内外の診療、および研究を牽引しています。地域のがん診療における医局の役割主に神奈川県西部の医療圏の患者さんの多くを診療させていただいています。当院は、三次救急も担っているため、外傷や重症尿路感染症の診察も行うことがあります。また、当科で行っている高度な医療を求める国内外の広い地域の患者さんも多く受診しています。今後医局をどのように発展させていきたいか標準医療を高い精度で実施しつつ、個々の患者さんに対応できる医療技術の選択肢を提供できる診療科を目指します。医工連携は重要なテーマとして考えており、すでに交流のある電気通信大学や東京農工大学との連携により、東海大学独自の診療を確立していきたいと思います。力を入れている治療/研究テーマ治療に関してはロボット支援手術全般、研究テーマとしては「転移性腎がんに対する薬物療法後の待機的腎摘除(Deferred cytoreductive nephrectomy:Deferred CN)の有効性」、「下大静脈腫瘍塞栓を有する腎がんに対する薬物療法後の待機的手術」に現在は力を入れています。腎がんに対する薬物治療の効果は免疫チェックポイント阻害薬(ICI)を主軸とした併用療法の出現により劇的に向上しました。ICIの時代におけるDeferred CNの適応や有効性に関してはまだ明らかになっておらず、当院ではICI併用レジメンを半年以上投与し、外科的CRが達成される症例をDeferred CNの主な適応として治療を行っています。下大静脈腫瘍塞栓を有する症例に対してもICI-分子標的薬併用レジメンを使用し、可能な限り腫瘍塞栓を縮小させた状態でロボット支援手術を併用することにより手術侵襲の軽減が得られると考えています。医局でのがん診療/研究のやりがい、医学生/初期研修医へのメッセージ臓器ごと、がんの種別でチームが分かれていないため、すべてのがんに対して診断や治療を行うことができます。その背景には医局の人数が少ないことも関係していますが(笑)、若手の先生にとっては大きな魅力だと思います。また、当科は臨床に強く、症例数も豊富なため入局後早期から多くの経験を積めると思います。医局の雰囲気が良いことも特徴で、若手の先生方の成長をしっかりとサポートできる環境は整っていますので、興味を持っていただけると嬉しいです。同医局を選んだ理由医学科5年の臨床実習で初めて泌尿器領域に触れ、多彩な疾患と幅広い手技に興味を持ちました。特にロボット支援手術や内視鏡手術における豊富な経験と、絶えず最先端・最良を追求する学究的かつ誠意ある柔軟な姿勢に魅力を感じ、入局を決めました。学生として、研修医として、専攻医として、いかなる時にも熱意をもってご指導いただき、医局の先生方ひとりひとりが私の医師人生のロールモデルとなっています。現在学んでいること入局1年目として、まずは病棟管理の基本を学んでいます。感染症の急性期治療から末期がんの緩和治療まで、患者さんにとっての最善を考え、チームで相談しながら実践しています。また処置や内視鏡手術、ロボット手術の助手など、上級医の先生の手技を学びながら、技術の修得に日々励んでいます。今後のキャリアプラン泌尿器科医として一人前になることが第一で、その後は大学院進学や留学で見聞を広めたいと考えています。悪性腫瘍、とくに尿路上皮がんを専門領域として研究や論文執筆にも挑戦したいと思っていましたが、入局すると女性医師として女性患者さんからの需要を肌で感じ、最近では女性泌尿器疾患にも取り組む意欲が湧いています。いずれにしても、大学病院で最先端の治療と研究、そして患者さんのための医療に邁進するつもりです。東海大学医学部 外科学系腎泌尿器科学領域住所〒259-1143 神奈川県伊勢原市下糟屋143問い合わせ先sunashoj@tokai.ac.jp医局ホームページ東海大学医学部外科学系腎泌尿器科学領域専門医取得実績のある学会日本泌尿器科学会日本癌治療学会日本内視鏡外科学会日本泌尿器内視鏡・ロボティクス学会日本排尿機能学会日本メディカルAI学会研修プログラムの特徴(1)ロボット支援手術、腹腔鏡手術など、豊富な症例数を経験することが出来ます(2)先進医療などの新しい医療技術を経験することが出来ます(3)関連病院を活用し、地域医療を勉強する期間をつくっています

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消毒の難しい器具の消毒、消毒用ワイプvs.UV+過酸化水素

 理学療法で用いられる器具の消毒は、消毒液を含浸したワイプを用いた消毒では不十分である可能性が示された。米国・デューク大学のBobby G. Warren氏らは、理学療法で使用される消毒の難しい器具について、消毒方法の効果を評価した。その結果、消毒液を含浸したワイプによる消毒では病原体が残存する可能性が高かったが、深紫外線(UV-C)と過酸化水素を用いた消毒方法は病原体の残存が抑制された。本研究結果は、Infection Control & Hospital Epidemiology誌オンライン版2024年7月26日号で報告された。 研究グループは、成人および小児の理学療法で使用される器具を対象として、2段階の前向き比較試験を実施した。第1段階では、使用後の器具を消毒液を含浸したワイプで消毒して(消毒用ワイプ消毒)、汚染状況を評価した。第2段階では、使用後の器具を左右対称に分割し、一方は消毒を実施せず(無消毒)、もう一方はUV-Cと6%過酸化水素水を用いたキャビネットで消毒して(キャビネット消毒)、汚染状況を評価した。 主な結果は以下のとおり。・消毒用ワイプ消毒後に臨床的に重要な病原体(CIP)を保持する割合は43%(52/122サンプル)であった。とくに、歩行補助具(72%)、治療用ボール(66%)の汚染率が高かった。・キャビネット消毒後にCIPを保持する割合は2%(3/196サンプル)であった(無消毒は19%[37/196サンプル])。・キャビネット消毒後のCIPのコロニー形成単位(CFU)中央値は0(四分位範囲:0~55)であり、無消毒の977(同:409~2,547)、消毒用ワイプ消毒後の527(同:117~1,218)と比較して有意に低かった(いずれもp<0.00001)。 本研究結果について、著者らは「理学療法で用いられる器具は、消毒用ワイプによる標準的な消毒後も、病原体による汚染がみられた。これは、形状や素材、消毒液の塗布が難しいことに起因すると考えられ、これらの器具では、UV-Cと6%過酸化水素水を用いたキャビネットでの消毒が効果的であることが支持された」とまとめた。

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HPVワクチンのキャッチアップ接種推進に向けて/日医

 日本医師会(会長:松本 吉郎氏[松本皮膚科形成外科医院 理事長・院長])は、定例会見を開催した。会見では、「2025(令和7)年度の予算要求要望」について、「医療DXの適切な推進、地域医療への予算確保、新興感染症などへの予算確保」ならびに事項要求として「物価高騰・賃金上昇への対応」を厚生労働省に要望したことが報告された。また、医師会が日本医学会との協力で発行している英文ジャーナル「JMA Journal」が「1.5」(クラリベイト社発表)のインパクトファクターを取得したことも報告された。そのほか、2024年9月末に期限が迫っている「HPVワクチンキャッチアップ接種推進に向けて」について医師会の取り組みが説明された。キャッチアップ接種について看護学生の9割は「知っている」と回答 HPVワクチンは、定期接種が小学校6年生~高校1年生相当の女子を対象に行われている。現在、接種勧奨が行われているが、平成9年度生まれ~平成19年度生まれ(誕生日が1997年4月2日~2008年4月1日)の女子の中に、 通常の定期接種の対象年齢のときに接種機会を逃した人もおり、HPVワクチンの接種の機会(キャッチアップ接種)が設けられている。 このキャッチアップ接種は、2025(令和7)年3月31日までとなっているが、3回の接種を完了するためには半年程度の期間が必要で、2024(令和6)年9月末までに初回接種をする必要があり、その期限が目前となっている。 こうした事態を受けて、釜萢 敏副会長(小泉小児科医院 院長)が、「HPVワクチンのキャッチアップ接種について」をテーマに、これまでの医師会の取り組みや接種対象の看護学生へのアンケート結果などを説明した。 医師会では、HPVワクチンの接種について、さまざまな啓発動画を制作・公開するとともに啓発資料を作成し、医師会員の医療機関などで活用してもらっている。そこで、最近公開された資料として福岡県立大学看護学部のワクチン対象年齢の学生25人に行ったアンケート調査結果について内容を説明した。 アンケート調査の概要は以下のとおり。・「HPVワクチンの接種の有無」を聞いたところ、「接種した」が48%、「予定している」が28%、「ない」が24%だった。・「キャッチアップ接種について知っているか」を聞いたところ、「よく知っている」が40%、「多少は知っている」が52%、「知らない」が8%だった。・「20代のがんの過半数が子宮頸がんであることを知っているか」を聞いたところ、「よく知っている」が56%、「多少は知っている」が40%、「知らない」が4%だった。  また、自由回答でワクチン接種のきっかけを聞いたところ、「無料接種だから」「母親の勧め」「がん予防のため」「医師の勧め」などの回答だった。一方、接種していない・悩んでいる対象者の未接種理由では、「親が不要と言っている」「副反応が怖い」「注射が苦手」などの回答だった。 「医師会では、ひとりでも多く子宮頸がんなどで亡くなる人をなくしたいという目的でこうした活動を行っているが、接種については本人が決めることであり、接種を考える際の判断材料にしてもらいたい。そして、期限までに多くの対象者に接種してもらいたい」と釜萢氏は思いを語った。 医師会では、今後も9月末の期限までにさまざまなメディアで啓発活動を行うとしている。

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OTC医薬品の点鼻薬が呼吸器感染症の罹病期間や重症度の軽減に有効か

 OTC医薬品の点鼻薬が、公衆衛生の大きな脅威である薬剤耐性に対する強力な武器になるかもしれない。1万4,000人弱の成人を対象にしたランダム化比較試験から、広く用いられている点鼻薬が上気道感染症の罹病期間を短縮し、抗菌薬の必要性を減らすのに役立つ可能性のあることが示された。英サウサンプトン大学心理学および行動医学分野のAdam Geraghty氏らによるこの研究の詳細は、「The Lancet Respiratory Medicine」に7月11日掲載された。 抗菌薬の使い過ぎや誤用によって引き起こされる薬剤耐性は、細菌感染症の治療を困難にしている。研究グループは今回の研究について、点鼻薬を使って鼻や喉からウイルスを洗い流したり、運動やストレスマネジメントによって免疫機能を高めたりすることで、呼吸器感染症の頻度や重症度を減らすことができるという最近のエビデンスに興味を持ち、実施したものだと説明している。 このことを確かめるために、Geraghty氏らは英国の332の診療所から集めた18歳以上の患者1万3,799人を対象にランダム化比較試験を実施した。これらの患者は全員が、呼吸器感染症に罹患すると転帰が不良となり得る併存疾患かリスク因子を1つ以上持っていた。対象者は、通常のケア(疾患の管理に関する簡単なアドバイス)を受ける群、ジェルベースの点鼻薬を使用する群(感染症の兆候が現れた際、または感染者に曝露した可能性がある際に、それぞれの鼻腔内に2回ずつスプレーする、1日最大6回まで)、生理食塩水のスプレーを使用する群(ジェルベースの点鼻薬と同じ条件)、簡単な行動介入(運動とストレスマネジメントを促すウェブサイトへのアクセスを提供)を受ける群に、1対1対1対1の割合でランダムに割り付けられた。 データのそろった1万1,612人を対象に解析した結果、呼吸器感染症の平均罹病期間は、通常ケア群では8.2日であったのに対し、点鼻薬群では6.5日(発生率比0.82、95%信頼区間0.76〜0.90、P<0.0001)、生理食塩水群では6.4日(同0.81、0.74〜0.88、P<0.0001)であり、点鼻薬群と生理食塩水群で有意に短縮することが明らかになった。一方、行動介入群での平均罹病期間は7.4日(同0.97、0.89〜1.06、P=0.46)であり、通常ケア群の罹病期間との間に有意な差は認められなかった。また、仕事と通常の活動の損失日数についても、点鼻薬群と生理食塩水群では通常ケア群よりも20〜30%程度少なかった。 こうした結果を受けて、論文の筆頭著者であるサウサンプトン大学プライマリケア研究分野教授のPaul Little氏は、「この研究により、点鼻薬は呼吸器感染症の罹病期間と重症度、および日常的な活動への影響の軽減に効果的であることが明らかになった」と述べている。 またGeraghty氏は、「点鼻薬は、もし広く使われるようになるなら、抗菌薬の使用とそれに伴う薬剤耐性菌の出現を減らし、呼吸器系ウイルスが患者に及ぼす影響を軽減するという、重要な役割を果たす可能性がある」との見方を示している。

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世界では、HIV予防は新しい時代へ(解説:岡慎一氏)

 Pre-Exposure Prophylaxis(PrEP)と呼ばれる、HIV感染リスクがある人に対する予防法の研究が、欧米を中心に盛んに行われていたのは、2010年前後である。その結果をもとに2012年には、米国でPrEPが、HIV感染予防法として承認された。当時の方法は、TDFとFTCという2剤の合剤(ツルバダ錠)を1日1回経口服用するというものであった。その後、ほぼ世界中でツルバダ錠によるPrEPは承認された。これに対し、日本では、2024年9月頃にやっとツルバダ錠によるPrEPが承認される予定である。まさに、12年という十二支の周回遅れである。先進国でPrEPが認可されていなかったのは、もちろん日本だけである。 世界では、その後もツルバダ錠に留まらず、いろいろな薬剤、投与法のPrEPが試されてきた。特記すべきは、2021年に報告された、カボテグラビルという半減期の長い注射剤によるPrEPで、8週間に1回の注射による予防が、毎日服用する今までのツルバダ錠による予防より有意に優れていたという論文である。この研究は、中間解析で有意差が明らかになったため中止されている。われわれの研究では、ツルバダによるPrEPでも、ちゃんと毎日服用できていれば、予防効果は100%であった。しかし、服薬アドヒアランスがどうしても低下するために、失敗例が出てしまうのである。とくに女性では、HIV感染リスクに対する意識の違いか、服薬アドヒアランスが低く、男性同性愛者に対するPrEPほどの効果は得られていなかった。この問題に対し、注射剤であれば、服薬アドヒアランスという障壁はなくなることになるのである。 さて、今回の研究では、さらに半減期の長いレナカパビルという注射剤を半年に1回注射した場合のPrEPの有効性を、しかも女性に対して、かつ、ツルバダ錠の改良薬であるデシコビ錠も対照薬に入れて、その有効性を比較した欲張りな研究であった。結果は、レナカパビルの圧勝であった。2,134例のレナカパビル群で、注射の痛みで4例の中止が出たものの、継続した人からは1例も感染例が出なかったのである。 新しい科学技術の粋を尽くして改良された注射剤によるHIV予防の一番の問題点は、薬剤費であろう。ツルバダ錠であれば、日本でもジェネリック薬を個人輸入すれば1ヵ月5,000円程度で入手可能で、タバコ代などと比べても手の届く範囲の金額である。ちなみに、カボテグラビルやレナカパビルは、治療用の注射剤として日本でも保険収載されているが、カボテグラビルの2ヵ月分の薬価は約25万円であり、レナカパビルの6ヵ月分の薬価は、約320万円である。まずは、米国での普及を見守りたい。

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たまには地雷を踏もう【Dr. 中島の 新・徒然草】(541)

五百四十一の段 たまには地雷を踏もうついに8月に突入して暑さ全開!今日、車に乗ろうとしたら外気温が41度と表示されました。これ、お盆の頃には一段落つくのでしょうか?さて、今回は外部講師による先日の研修医向け症例検討会の様子を述べたいと思います。当初は研修医が準備した症例についてディスカッションする予定だったのだとか。しかし、病歴聴取も身体所見も不十分だ、ということで結局は講師が準備した症例を使ってのカンファレンスになりました。私にとっても良い勉強になるので、この検討会にはもう10年以上も参加し続けています。さて、肝心の検討会。準備された症例は、中年女性の発熱です。講師は可能性のある病態を順に研修医に挙げさせます。発熱ですから、当然のことながら、鑑別診断は感染症に集中します。講師「感染症としてありそうな疾患は、ほかに何を挙げることができるかな?」研修医「悪性リンパ腫でしょうか?」中島「うっ、マズイ」その瞬間、講師の表情が険しくなります。講師「今は感染症ということで鑑別疾患を挙げているのだから、ほかのカテゴリーに入ってはダメだよ」講師はイラッとしたに違いありませんが、この時は事なきを得ました。でも、この研修医、一体何を聴いていたんでしょうか。レビュー・オブ・システムズを含む病歴聴取が済んだ後、講師が研修医たちに尋ねます。講師「じゃあ一通り病歴を確認した後に、次は何が必要かな」研修医「CTでしょうか?」中島「ま、まずい!」そう思う間もなく、講師がアナフィラキシーを起こしてしまいました。講師「違ーう! CTなんか撮るな。血液検査も論外!」研修医「え……と?」何という鈍い研修医。自分が地雷を踏んだ自覚もないのか。講師「身体所見じゃないか。身体所見だろ、次に必要なのは!」研修医「そうでしたっけ」病歴聴取、身体所見の後に検査というのがお作法です。総合診療科のカンファレンスで毎週のように研修医を厳しく指導してきたあの日々は、一体なんだったのか?こっちまでアナフィラキシーを起こしそうになりました。ただ、講師のほうは一気に活性化されたようです。その後の身体所見の取り方、鑑別診断の挙げ方など、レクチャーそのものは冴えわたりました。何よりも、診断学の奥の深さを思い知らされ、私までヤル気が湧いてきます。西洋社会ではdevil's advocate(悪魔の代弁者)といって、わざと違う意見を吹っかけて議論を活性化させるという手法があるそうですが、あの研修医は期せずして悪魔の役割を果たしたのかも。レクチャーの後で講師と話したときに「ああいう奴も必要ですよね」ということで意見が一致しました。正しい答えを言おうとするあまりに出席者が沈黙してしまうカンファレンスよりも、見当外れであっても講師を活性化させる研修医がいたほうがいいような気がします。もし今後のカンファレンスがあまり活発でなかったら、私自身がdevil's advocateになることが必要かもしれません。でも「こいつアホか?」と思われたりしたら辛いですね。ま、今さら世間体を気にする年齢でもないか。最後に1句地雷踏む 若者現る 夏盛り

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第108回 オリンピックもSNSで誹謗中傷だらけ

コロナ禍で加速した誹謗中傷私は大手メディア等でこっそりと情報発信を続けていますが、コロナ禍で行政や教授のなかなかプレッシャーのある立場で、熱心に発信し続けていた医師たちがいます。しかし、彼らに対する誹謗中傷は見るに堪えないものでした。そんなダメージが蓄積されたせいで、彼らの発信頻度も最近減ったのではないか…と感じております。SNSは、X(旧Twitter)のユーザーが圧倒的に多いですが、日本ではInstagram、TikTok、Facebookなどのユーザーも多いです。いずれのSNSにも共通していることとして、「心無い言葉をかける人が増えた」と感じます。Threadsのように最近登場したSNSはまだ少し穏やかな雰囲気が漂っていますが、だんだんとオラオラ系のつぶやきが増えてくるのがSNSの性(さが)。コロナ禍は、マスクやワクチンなど意見を二分するようなテーマが多かったので、敵意帰属バイアスが起こりやすかった。要は、相手に敵意がなくとも、そこに敵意が存在しているかのように誤認してしまうバイアスで、「ワクチン接種=犯罪」という極端な方向に意見を置いてしまうことです。そのため、メッセンジャーRNAワクチンだろうと不活化ワクチンだろうと、世のあまねくワクチンは罪であるという、ネジが吹っ飛んだ考え方に傾倒してしまい、医療従事者へ厳しい罵詈雑言を投げかけるワケです。敵意帰属バイアスの怖いところは、「自分イズ正義」と思い込んでいることです。犯罪者には人権はなく、厳しい言葉をぶつけてもいいと思っている人は、放送禁止用語を連発してディスってきます。これがSNSでよく見かける誹謗中傷です。また、SNSの特徴は、その人に直接メッセージを送るわけではなくて、ただ空中につぶやいているだけのことも多い。誹謗中傷の相手がそれを読んでいるとは思っていないし、本人は悪口とも思っていないはずです。ちょっと「毒を吐いている」程度の認識だから、余計にタチが悪い。周りはみんな見ていますよ。オリンピックでも誹謗中傷今回のオリンピックでは、誤審だけでなく、選手の態度、性別に関する話題もSNSで取り上げられました。その仔細について、私はとやかく言う立場ではないですが、今回のオリンピックの選手に向けた誹謗中傷は、なかなかのものだなあと感じます。自国を愛して、その選手たちを応援するのは自然な感情だと思います。ただ、このナショナリズムが過度になってしまうと、相手選手や審判へのフルボッコは加速していきます。1回針をチクリと刺しただけでは人は死にませんが、SNSで何万人もの人に刺され続けると、人は簡単に死にます。過去に誹謗中傷を受けて自死した人がいることをわれわれは知っているのですから、SNSを使う人は感情垂れ流しではなく、オトナにならないといけません。いつまでもイジメがなくならない理由は、たぶんこういう「安易な悪口」をやっちゃう人が多いからだと思います。自分が発信している内容を、家族や友人が見ても「いいね」してくれるだろうか。安易につぶやく前に、冷静になってみましょう。もちろんこれは、自戒も込めて。

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