サイト内検索|page:19

検索結果 合計:5539件 表示位置:361 - 380

361.

第117回 結核再増加、「3年間限定の低蔓延国」となるか?

結核の集団感染最近、「結核の集団感染」のニュースが多くなっています。保健所が察知したクラスターが増加したことが多かったためですが、日本で高齢者や施設入所者の割合が増えていることも影響しているかもしれません。このまま忘れられていくのかと思っていましたが、結核についてざわざわしてきました。国立感染症研究所の集計によると、9月22日までの患者数は1万1,015人とされています1)。驚くべきことに、この数字は昨年の累計新規報告数をすでに超えており、このまま推移すると、数年ぶりの罹患率に逆戻りする可能性も出てきました(図)。図. 結核新規登録者数と罹患率(筆者作成)コロナ禍に結核が減少した理由は、軽症で受診する人が減ったことによる「過少診断」が一因かもしれません。実際に『結核の統計2024』2)では、診断が遅れた(受診から結核診断までの期間が1ヵ月以上)人の割合は、22.5%と高い数値です。コロナ禍で受診控えが続いたので、2020年以降結核登録者が減った印象はあります。そのため、いつかはリバウンドに転じるのではないかと懸念していました。マイコプラズマやRSウイルスのように、アフターコロナですぐにリバウンドしてくる感染症もあれば、結核のように少し遅れてリバウンドする感染症もあるということでしょう。外国出生者の結核への対策が急務2024年に報告された2023年のデータでは、20~30代の若い結核患者さんのほとんどが外国出生者です。外国出生者の割合は、20~29歳で84.8%と大部分を占めています。外国出生者の結核登録者数は1,619人と前年から405人増加しています。入国して5年以内の外国出生者にしぼると、前年比+73.1%と急増しています。かつての「咳が長引く大学生が受診」といったケースは減少し、代わりに「日本語学校の学生クラスター」や「技能実習生が職場健診で異常を指摘」といったパターンが増加しています。日本における外国出生者の結核のうち、多くを占めるフィリピン、ベトナム、中国、インドネシア、ネパール、ミャンマーの6ヵ国を対象として、現在入国前結核スクリーニングを開始する見込みです。いずれにせよ、2024年の結核罹患率は今年より上昇することは確実で、「低蔓延国」の地位を失い、再び「中蔓延国」に逆戻りする可能性も出てきました。参考文献・参考サイト1)国立感染症研究所. IDWR速報データ 2024年第38週(2024年10月1日)2)公益財団法人 結核予防会編. 結核の統計2024.

362.

日本初、経鼻弱毒生インフルエンザワクチン「フルミスト点鼻液」発売/第一三共

 第一三共は、経鼻弱毒生インフルエンザワクチンのフルミスト点鼻液を発売したと2024年10月4日付のリリースで発表した。本剤は2023年3月に製造販売承認を取得し、2024年8月に3価(A型2種、B型1種)ワクチンとして製造販売承認事項一部変更承認を取得した。日本で初の経鼻投与による季節性インフルエンザワクチンとして、今シーズンより供給開始の予定。 本剤により、自然感染後に誘導される免疫と類似した局所抗体応答および全身における液性免疫、細胞性免疫の誘導が期待されている。また、鼻腔内に噴霧するタイプのワクチンのため、針穿刺の必要がなく、注射部位反応もないことから、被接種者の心理的・身体的負担の軽減も期待される。 本剤に関して、医療機関へ向けて、9月2日に日本小児科学会が「経鼻弱毒生インフルエンザワクチンの使用に関する考え方」1)を発表している。2〜19歳未満に対しては、不活化インフルエンザHAワクチンと経鼻弱毒生インフルエンザワクチンを同等に推奨しているが、喘息患者には不活化インフルエンザHAワクチンの使用を推奨している。また、授乳婦、周囲に免疫不全患者がいる場合にも不活化インフルエンザHAワクチンが推奨されている。 生後6ヵ月〜2歳未満、19歳以上、免疫不全患者、無脾症患者、妊婦、ミトコンドリア脳筋症患者、ゼラチンアレルギーを有する患者、中枢神経系の解剖学的バリアー破綻がある患者に対しては、本剤の使用は認められていないため、不活化インフルエンザHAワクチンのみ推奨されている。<概要>商品名:フルミスト点鼻液一般名:経鼻弱毒生インフルエンザワクチン製造株:・A型株 A/ノルウェー/31694/2022(H1N1) A/タイ/8/2022(H3N2)・B型株 B/オーストリア/1359417/2021(ビクトリア系統)効能または効果:インフルエンザの予防用法および用量:2歳以上19歳未満の者に、0.2mLを1回(各鼻腔内に0.1mLを1噴霧)、鼻腔内に噴霧する。製造販売承認日:2023年3月27日製造販売元:第一三共株式会社

363.

第212回 新型コロナウイルスワクチンの定期接種開始、新たにレプリコンワクチン導入/厚労省

<先週の動き>1.新型コロナウイルスワクチンの定期接種開始、新たにレプリコンワクチン導入/厚労省2.先発薬の自己負担増加、薬局でジェネリック薬不足が懸念/厚労省3.医師の偏在が深刻化、是正策を巡る議論が白熱/厚労省4.石破首相、厚労相に福岡氏を起用、社会保障制度の見直しに着手/内閣府5.法医学教室の解剖医不足が深刻化、定年退職で人材不足に拍車/日本法医学会6.千葉県の救急病院、不正請求発覚で保険医療機関指定取り消し/関東厚生局1.新型コロナウイルスワクチンの定期接種開始、新たにレプリコンワクチン導入/厚労省10月1日、65歳以上の高齢者や基礎疾患のある60~64歳の人を対象として新型コロナウイルスワクチンの定期接種が開始された。今回の接種では、新たに接種できるワクチンとして「レプリコンワクチン」が追加されており、このワクチンはmRNAが細胞内で自己複製する特徴を持つ。従来のmRNAワクチンと比較して少ない接種量で高い抗体価を得られる可能性があるが、発症や重症化に対する効果については、まだ不明と指摘もされている。臨床試験では、発症予防効果が約57%、重症化予防効果は95%と確認されている。レプリコンワクチンは、世界で初めて日本で実用化されたもので、国内外での承認が進められている。一方で、従来のワクチン同様、副反応として接種部位の痛みや発熱などが報告されており、安全性は過去のmRNAワクチンと大きな違いはないとされている。接種費用は、国が1回当たり約8,300円を補助するが、無料から7,200円の自己負担まで、自治体によって自己負担額が異なり、負担額に幅がある。また、健康被害が発生した場合の救済制度も一部変更され、軽度の症状での支給はなくなり、入院が必要な場合に限って補助が行われることになった。使用されるワクチンは5種類で、今回の定期接種では主にオミクロン株「JN.1」に対応したものが提供されるが、流行している「KP.3」に対しても一定の効果が期待される。参考1)新型コロナ、初の定期接種開始 高齢者ら対象、自己負担あり(共同通信)2)無料~7,200円 新型コロナ予防接種の自己負担 自治体ごとに開き(朝日新聞)3)新型コロナワクチン定期接種 5種類のうちレプリコンワクチンとは 効果や副反応 専門家の見方は(NHK)4)レプリコンワクチン、コロナ接種で世界初実用化 有効性や安全性は?(毎日新聞)2.先発薬の自己負担増加、薬局でジェネリック薬不足が懸念/厚労省2024年10月から、医療制度が改定され、ジェネリック医薬品の使用を促進するため、先発医薬品を希望する場合に患者の自己負担額が増加する制度が導入された。具体的には、先発薬とジェネリック薬の価格差の4分の1が患者の自己負担となり、患者が先発薬を選んだ場合、これまでより高額の費用を負担する必要が生じる。この制度の目的は、医療費抑制を図ることにあり、国はジェネリック薬の普及率をさらに高めることを目指している。たとえば、先発薬が1錠100円、ジェネリック薬が60円の場合、その差額40円の4分の1に当たる10円に消費税が加算され、患者の負担が増えることになる。この新制度は、あくまで医療上の必要性がなく、患者が先発薬を希望する場合に適用され、医師が先発薬を処方する必要があると判断した場合や、ジェネリック薬の在庫がない場合は例外となる。全国的にジェネリック薬の不足が続いており、薬局はこの制度導入によって需要が集中し、さらに供給不足が深刻化することを懸念している。とくに冬季の感染症流行時には、ジェネリック薬に対する需要がさらに高まると予想され、薬局では在庫管理が難しくなる可能性があると指摘されている。患者の間では、ジェネリック薬を選ぶ人が増えると見込まれる一方で、とくに子供に対しては先発薬を希望する家庭も一定数存在し、自己負担が増えても先発薬を選ぶ傾向がある。また、世帯収入が高い世帯ほど先発薬を選択する割合が増えるという調査結果も報告されている。さらに、厚生労働省は「在宅自己注射の薬剤も対象」になることを示しているが、外来や往診・訪問診療での「注射薬」は対象外となることを疑義解釈で通知を発出している。今回の改定は、医療費削減に向けた大きな一歩となるが、患者や医療現場に与える影響も少なくなく、今後の運用が注目される。参考1)後発医薬品のある先発医薬品(長期収載品)の選定療養について(厚労省)2)「長期収載品の選定療養」導入 Q&A(同)3)長期収載品の処方等又は調剤の取扱いに関する疑義解釈資料の送付について[その3](同)4)先発医薬品処方の自己負担額10月から引き上げ(NHK)5)先発薬の一部“値上げ” 自己負担 来月から新制度 厚労省、医療費削減へジェネリック促進(東京新聞)6)長期収載品の選定療養、在宅自己注射の薬剤は対象になるが、「外来や往診・訪問診療での注射薬」は対象外-厚労省(Gem Med)3.医師の偏在が深刻化、是正策を巡る議論が白熱/厚労省9月30日に厚生労働省は、「新たな地域医療構想等に関する検討会」を開催し、医師偏在是正に向けた総合的な対策パッケージの取組の方向性を示した。議題となった「医師の偏在」は過去10年で、人口規模が小さい二次医療圏においては診療所数が減少傾向にある一方、50万人以上の二次医療圏では、2012~2022年にかけて診療所数が増加傾向するなど深刻化しており、とくに地方や特定の診療科での医師不足が問題となっている。厚労省は医師偏在の是正に向けた対策として、都市部での新規開業を許可制にし、開業数の上限を設ける案を提示した。しかし、職業選択の自由や営業の自由との兼ね合いから慎重な意見も多く、議論は続いている。厚労省の対策パッケージでは、医師の不足する地域での勤務経験を医療機関の管理者要件とすることや、経済的インセンティブを通じて医師を誘導する方策が検討されている。また、医師が多数存在する地域での新規開業希望者に対しては、地域で不足している医療機能をカバーすることを求める仕組みの強化が提案された。しかし、日本医師会などからは、規制が過度に強化されると医師の志望者が減少する可能性があるとの反対意見が出るなど結論は出なかった。このほか、経済的なインセンティブによる誘導策として、医師不足地域への医師派遣の強化や、診療報酬の見直しなども提案され、「重点医師偏在対策支援区域」として特定の地域に医師を集中的に配置することや、派遣医師の待遇改善を進めることが提案されている。厚労省では、医師不足解消のため、国や地方自治体が協力して支援体制を整備し、大学病院などと連携して医師派遣を行う仕組みを強化する考えを示している。これに対し、日本病院会の相澤 孝夫会長は記者会見で、「医師の偏在を是正するための対策を国に提案する方針」を示し、今後も議論が継続される見通し。参考1)第9回新たな地域医療構想等に関する検討会(厚労省)2)診療所多い地域に「開業の上限」厚労省提案 新規開業を都道府県の「許可制」に(CB news)3)診療所の開業許可制に慎重論、厚労省の有識者検討会で(日経新聞)4.石破首相、厚労相に福岡氏を起用、社会保障制度の見直しに着手/内閣府石破 茂首相は、10月4日の就任後初めての所信表明演説で、社会保障制度の見直しに着手することを明言し、医療、介護、子育てを含む幅広い分野での改革を進めることを明らかにした。これによると、「現行の制度が時代に合っているかを再検討し、多様な人生選択を支える柔軟な制度設計を目指す」と語った。とくに、少子高齢化が進行する中で、現役世代の負担軽減が課題であり、子育て支援や年金制度改革が焦点となる。石破首相は子育て支援について「手当より無償化」を重視し、医療費や年金制度の見直しも検討される見通しだ。新たに就任した福岡 資麿厚生労働大臣は、社会保障制度改革に積極的に取り組むと期待され、財務大臣には厚労相を経験した加藤 勝信氏が起用された。両者ともに社会保障分野での豊富な経験を持ち、とくに年金制度や医療費負担の改革が大きなテーマとなる。日本医師会の松本 吉郎会長は、福岡厚労相と加藤財務相の就任を歓迎し、地域医療の守りを強調した。また、デジタル担当大臣に就任した平 将明氏は、健康保険証の廃止とマイナンバーカードへの一本化方針を堅持する姿勢を示し、医療DXの推進に力を入れる意向を表明した。保険証とマイナンバーカードの統合により、医療費やカルテのデジタル管理が進むことが期待される。参考1)第二百十四回国会における石破内閣総理大臣所信表明演説(内閣府)2)石破首相、社会保障全般の見直しを表明 時代に合った制度への転換も(CB news)3)現役世代の負担減、課題に 子育て支援、年金改正も焦点-石破新内閣の課題・社会保障(時事通信)4)平将明デジタル大臣、「保険証廃止」を堅持する理由説明-「医療DXの恩恵は桁違い」(CNET Japan)5.法医学教室の解剖医不足が深刻化、定年退職で人材不足に拍車/日本法医学会法医学教室の解剖医の不足がさらに深刻化することが、読売新聞の報道で明らかになった。報道によると2030年までに全国で24人の教授が定年退職する予定であり、とくに地方では解剖医が1人しかいない地域が14県、さらに1県では解剖医が不在となっている。今後、死亡者数の増加が見込まれる中、解剖医の供給が追いつかなくなる事態が懸念されている。解剖医の不足は、死因究明の遅れや犯罪の見逃しにつながる可能性があり、警察が取り扱う約20万体の遺体のうち、解剖されるのは1割程度に止まっている。日本法医学会は、各都道府県に専任の解剖医を配置する「死因究明医療センター」の設置を提言しているが、進展はみられない。法医学者の確保が急務とされる中、若い医師が敬遠しがちな分野であり、大学における解剖医の後任確保が難しい状況が続いている。さらに、解剖医が少ない地域では教授の退職や転任が発生すると、他県に依頼しなければならず、捜査に遅れが出る事象も起こっている。政府も法医学教室の人員確保を強調しており、死因究明の重要性を社会全体で共有する必要性があると指摘されている。同学会では、解剖医のキャリアパスを紹介するセミナーを開催し、将来の人材育成にも取り組んでいるが、現状の人員不足は依然として大きな課題となっている。参考1)死因究明の解剖医が足りない…法医学教室の教授の大量定年退職、2030年までに全国で24人(読売新聞)2)法医学会が初の学生向けセミナー開催~社会的ニーズ紹介、将来の人材確保へ~(時事通信)6.千葉県の救急病院、不正請求発覚で保険医療機関指定取り消し/関東厚生局関東信越厚生局は、9月30日に、千葉県野田市の小張総合病院が、看護職員の勤務実績を実際よりも多く申告するなどの不正により、診療報酬約5億7,000万円を不正請求していたとして、この病院の保険医療機関の指定を2025年4月1日付で取り消すと発表した。不正は2014~2017年にかけて行われ、元職員の内部告発により発覚した。これに対し、病院を運営する医療法人「圭春会」は、事業を医療法人「徳洲会」に譲渡する予定であり、診療は引き続き行われると発表した。小張総合病院は二次救急指定病院であり、野田市において重要な役割を果たしている。昨年度は約4,700件の救急搬送を受け入れており、病床数は350床、消化器内科や小児科を含む28の診療科を持つ。熊谷 俊人知事は、この不正行為が市の中核的な医療機関で発生したことを「誠に残念」としつつも、運営の引き継ぎを支援し、地域医療体制の維持に取り組む考えを示した。関東信越厚生局は、不正に受け取った診療報酬の返還を求めている。参考1)保険医療機関の行政処分について (関東厚生局)2)診療報酬5億7,000万円を不正請求 千葉・野田市の病院、保険医療機関の指定取り消し(産経新聞)3)救急病院が診療報酬不正疑い保険医療機関指定取消決定 野田(NHK)

364.

tuberculosis(結核)【病名のルーツはどこから?英語で学ぶ医学用語】第13回

言葉の由来「結核」は英語で“tuberculosis”(トゥバキュロウスィス)といいます。この病名は、「小さな塊」や「結節」を意味するラテン語の“tuberculum”に、状態を表す接尾辞の“-osis”が合わさってできたものです。結核の感染部位に小さな結節や塊が形成されることから、この名前が付けられました。「結核」という病名が医学的に使用され始めたのは19世紀のことです。結核の病態は古代から知られており、ヒポクラテスなど古代の医師たちもこの病気について記述を残していますが、当時は原因がわからず「消耗病」といった名称で呼ばれていました。医学や解剖学の進展で、死亡者の肺に小さな瘤がみられることがわかり、19世紀半ばに“tuberculosis”という病名が付けられました。結核の原因となる細菌である“mycobacterium tuberculosis”は、1882年にドイツの細菌学者ロベルト・コッホによって発見され、この発見が結核の診断と治療に革命をもたらしました。なお、結核菌は太古の昔から存在しており、イスラエル沖から発掘された紀元前7,000年ごろの人骨から結核菌の遺伝子が検出されています。日本では、結核は弥生時代からあったといわれていますが、本格的に流行したのは江戸時代から明治時代で、スペイン風邪流行下の1920年ごろに死亡者数はピークを迎えました。一時期は国民の死亡原因の首位になり、「国民病」と恐れられていましたが、結核予防法の制定や隔離治療、BCGの予防接種の推進などにより死亡者数は減少に転じました。併せて覚えよう! 周辺単語粟粒結核miliary tuberculosis多剤耐性結核multidrug-resistant tuberculosis空気予防策airborne precaution潜在性結核感染症latent tuberculosis infection非結核性抗酸菌症nontuberculous mycobacterial infectionこの病気、英語で説明できますか?Tuberculosis is a contagious disease caused by Mycobacterium tuberculosis, primarily affecting the lungs. It spreads through the air and can be latent or active. Symptoms include a persistent cough, fever, and weight loss. Tuberculosis is treatable with antibiotics but remains a global health challenge.講師紹介

365.

スマートマスクで呼気から健康状態をチェック

 実験段階にある「スマートマスク」によって、吐いた息からその人の健康状態をチェックできる可能性のあることが、新たな研究で明らかにされた。バイオセンサーが取り付けられたこのシンプルな紙製のマスクは、呼吸器疾患や腎臓病などさまざまな健康問題のモニタリングに使える可能性を秘めているという。米カリフォルニア工科大学(CalTech)医用工学教授のWei Gao氏らによるこの研究の詳細は、「Science」8月30日号に掲載された。 このマスクは、受動冷却システムにより人の呼気をマスク上で冷却して液体化し、リアルタイムでその分析を行う。この論文の筆頭著者でCalTechのWenzheng Heng氏によると、呼気の凝縮液には、溶解性のガスだけでなく、エアロゾルや飛沫の形で存在する揮発性ではない物質が含まれており、これらを疾患のマーカーとして検査することができるのだという。分析結果のデータは、ワイヤレスでスマートフォンやタブレット、コンピューターに転送される。Gao氏によると、このマスクは比較的低コストで製造でき、材料費はわずか1ドル程度だという。 このマスクの性能を確かめるために、Gao氏らは一連の実験を行った。そのうちの1つの実験では、このマスクを用いて喘息や慢性閉塞性肺疾患(COPD)がある人の呼気を検査した。その結果、このマスクにより、両疾患における炎症マーカーである亜硝酸塩を正確に検出できることが確認された。また、別の実験では、血中アルコール濃度を検知するためにこのマスクを使用し、飲酒運転の現場での検査やアルコール摂取のモニタリングにも利用できることが示された。さらに3つ目の実験では、マスクによって腎臓病の指標となる呼気中のアンモニアガスの濃度を検知できるかが検証された。腎機能が低下すると、尿素などのタンパク質代謝の副産物が血液や唾液に蓄積し、呼気中のアンモニアガス濃度が高くなる。実験の結果、スマートマスクにより検知されたアンモニアガスの濃度から、血中の尿素濃度をかなり正確に知ることができることが確認された。 Gao氏は、「これらの初期の研究は、概念実証(PoC)段階のものだ。われわれはこの技術を拡大し、さまざまな健康状態に関連するマーカーを組み込みたいと考えている。これは、幅広い用途に使える全般的な健康状態のモニタリングのプラットフォームとして機能するマスクを作るための基礎となる」と説明している。 一方Heng氏は、CalTechのニュースリリースの中で、「このマスクは、呼吸器疾患や代謝性疾患の管理および精密医療における新たなパラダイムを象徴するものだ。なぜなら、毎日マスクをすることで呼気検体を簡単に得ることができ、さらに呼気中の化学分子をリアルタイムで分析できるからだ」と述べている。 なお、このマスクを着用した研究参加者は、呼吸器障害に苦しんでいる人も含めて、マスクが快適だと感じていたと研究グループは付け加えている。Gao氏は、「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)以来、人々がマスクを使用する頻度は増えた。こうしたマスク使用の広がりを利用して、自宅やオフィスでリアルタイムで健康状態のフィードバックを得るための、個別化された遠隔モニタリングを実現できるはずだ。例えば、その情報を使って、治療の効果を評価することもできるかもしれない」と話している。

366.

SGLT2阻害薬は認知症の発症をも予防できるのか?(解説:住谷哲氏)

 SGLT2阻害薬の慢性腎臓病や心不全合併2型糖尿病患者における臓器保護作用は確立している。また、最近ではSGLT2阻害薬が肝臓がんの発症を抑制するとの報告もなされている1)。がんと並んで高齢者糖尿病患者で問題になるのが認知症である。本論文では韓国の住民コホートデータベースを用いて、DPP-4阻害薬と比較してSGLT2阻害薬の投与が2型糖尿病患者の認知症発症を抑制するかどうかが検討された。 本研究は無作為化試験ではなく観察研究なので、残余交絡residual confoundingをいかに最小化するかが重要となる。筆者らはそのために、種々の統計学的手法(active comparator new user design、extensive propensity score matching、target trial emulationなど)を駆使して、現時点で可能な限りの補正を実施している。さらに陽性コントロールとして性器感染症、陰性コントロールとして白内障と変形性膝関節症とを用いて、結果の内的妥当性internal validityを担保している。 以上のように可能な限りの統計学的処理を実施した結果であるが、やはり残余交絡をゼロにできたわけではない。たとえば、コホートに組み入れられた時点での糖尿病罹病期間は不明である。糖尿病網膜症の有無を罹病期間のproxyとして代用しているようであるが、それで十分に調整されたとはいえない。次に、観察期間中の血糖管理状態についても不明である。3つ目に、それぞれの患者のフレイルについての情報が不明である。読者の先生方も日常臨床で経験されることが多いと思うが、筆者はフレイルが懸念される患者にはSGLT2阻害薬ではなくDPP-4阻害薬を投与することが多い。これは筆者に限ったことではなく、大規模な横断研究からも同様の処方傾向が報告されている2)。これが適応による交絡confounding by indicationである。つまり、それぞれの薬剤が選択投与された患者は最初から異なったpopulationであり、当然ながら予後も異なることになる。この交絡を回避する方法は無作為化しかない。 したがって非常に有望な結果ではあるが、認知症の発症予防目的でDPP-4阻害薬ではなくSGLT2阻害薬を積極的に投与するエビデンスとはならないだろう。やはり認知症の発症を主要評価項目としたRCTの実施が待たれる。現時点ではSGLT2阻害薬の投与が積極的に推奨される患者にSGLT2阻害薬を投与して、それによって認知症発症の抑制をも期待するのが妥当だろう。

367.

第231回 某学会がレプリコンワクチンの安全性に懸念表明!?気になる内容は…

新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)のワクチンの特例臨時接種が今年3月末に終了したが、65歳以上の高齢者と60~64歳までの基礎疾患を有する人たちに対する定期接種が10月1日からスタートした。今回の定期接種はファイザー、モデルナ、第一三共のmRNAワクチン、ノババックス/武田薬品の組換えタンパクワクチン、Meiji Seikaファルマの次世代mRNAワクチンの5種類のワクチンが使用される。レプリコンワクチンの作用機序このうち巷で話題をさらっているのが、Meiji Seikaファルマの次世代mRNAワクチン「コスタイベ」である。これは通称レプリコンワクチンと称される。ウイルスのスパイクタンパク質とRNAを鋳型にRNAを複製する酵素であるレプリカーゼのmRNAを脂質ナノ粒子で包んだ自己増幅型mRNAワクチンである。これを筋肉注射すると、体内でレプリカーゼの働きによりウイルスのスパイクタンパク質のmRNAが多数複製され、それに応じて中和抗体も多数産生される。さらに、これまでよりも少量のmRNAを投与することで効率的に中和抗体が産生でき、かつ抗体価の持続期間も長いという仕組みである。端的に言えば、投与したmRNAが一時的に自己増幅(増殖ではない)するという新技術だ。さて、“これが巷で話題になっている”というのは、すでに多くの医療者がご存じのようにネガティブな意味でだ。主には「レプリコンワクチンは、接種した人の体内で増殖したmRNAが人やほかの動物に感染する危険性がある」という主張である。SNS隆盛の現在はとくにネガティブ情報は拡散されやすいが、こうした科学的に見て不可思議な説に医療系の国家資格を持つ人々も加担しているため、なんとも厄介である。学会がレプリコンワクチンを忌避!?そうした最中、日本看護倫理学会が「【緊急声明】 新型コロナウイルス感染症予防接種に導入されるレプリコンワクチンへの懸念 自分と周りの人々のために」を8月8日に公開した。ちなみに私自身は今回初めて同学会の存在を知ったが、「看護倫理の知を体系的に構築する」ことを目的に2008年に設立された学会とのこと。さて、その主張は主に5点である。1点目はコスタイベの主な治験実施国であるベトナムや、もともとMeijiがこのワクチンを導入したArcturus Therapeutics社が本社を置くアメリカでは承認されていないことに対する疑問であり、それゆえに安全性に懸念があるのではないかとの指摘だ。しかし、これ自体ははっきり言って揚げ足取りに近い。国情や規制当局の在り方によっても変わってくることだからである。ちなみに国外で米・Arcturus Therapeutics社は豪・CSL Seqirus社と開発提携しており、CSL社のホームページでは欧州連合で承認申請中と記載されている。また、Meiji側が9月末に行った記者会見では、ベトナムで承認準備、アメリカで承認申請に向けて準備が進むほか、数ヵ国で開発中である。そもそも新型コロナワクチンの場合、先行したファイザー、モデルナ両社の製品による接種が急速に進行したため、後発企業は被験者確保に苦労したことはよく知られている。こうした事情も併せて考えれば、日本が先行承認されたことは驚くに値しない。実はこの手の指摘は、今回の定期接種に用いられているノババックス/武田薬品の組換えタンパクワクチンの日本での緊急承認時も「ノババックスの本国であるアメリカでは承認されていない」とネガティブな方向性でSNS上では指摘されていた。しかし、当時すでにEUでは承認されており、後にアメリカでも承認されている。さて緊急声明の2点目は、このワクチンに関して最も多いネガティブ指摘である接種者から非接種者に感染(シェディング)するのではないかとの懸念があります」と言うもの。そもそもこの「シェディング」という用語自体は、以前からワクチンに懐疑的な人たちがSNS上で使っていたが、今回よく調べてみたところ、英語の「shed(発する、放つ)」の現在分詞らしい。声明では「望まない人にワクチンの成分が取り込まれてしまうという倫理的問題をはらんでいます」としているが、いやはやである。そもそも声明では「感染」という言葉を誤用している。感染とは微生物が生体内に侵入し、生体内で定着・増殖し、寄生した状態を指す。このワクチンも先行したファイザー、モデルナのワクチンも成分として封入されているmRNAは、新型コロナウイルスの表面にあるスパイクタンパクのみを生成する。これのみで医学的な定義の感染は起こりえない。しかも、元来、不安定で細胞内で分解されてしまうmRNAが、そのまま血中を流れて肺で呼気に混入してヒトから排出されるなど、もはやファンタジーの域である。それだったら、長年、麻疹や風疹で使われているウイルス本体を弱毒化した生ワクチンのほうがよっぽど危険であるし、生ワクチンではここで言うシェディングに相当するような現象が起きたことはあるが、大局的に問題になったことはない。極めて雑な例えをするが、この主張は私個人からすると「刺身を食べてしばらくしたら、その人の口から生きた小魚が継続的に飛び出すようになった」と言われるくらいナンセンスである。3点目は「人間の遺伝情報や遺伝機構に及ぼす影響、とくに後世への影響についての懸念が強く存在します」というもの。要は投与したmRNAがDNAそのものに影響を及ぼすのではないかとの主張である。この点はヒトでの逆転写酵素の有無に関連するものだが、厳密に言えばその可能性はゼロではない。しかし、率直に言って「あなたが明日死ぬ可能性はゼロではない」というレベルのものである。ちなみにここの項目ではスウェーデンで行われた培養細胞にファイザーのmRNAワクチンを曝露させたin vitroの実験でDNAへの逆転写が起こったとの論文を引用している。しかし、免疫応答も含め通常の生体内とは異なる条件で行われた実験であり、使用された細胞は高分化型ヒト肝癌由来細胞株 Huh-7。そもそもがん細胞由来の細胞株なら正常なDNA複製が行われるとは言えないはずで極めて特殊な条件で行われている。4点目は、そもそもファイザー、モデルナのmRNAワクチンですらリスクの説明が必ずしも十分ではないという指摘だが、これについてはさまざまな受け止めがあろうと思う。少なくとも私個人は、厚生労働省を筆頭に自治体も神経質なまでに情報発信をしていたとの認識である。5点目はレプリコンワクチンが定期接種に用いられることで、患者を守るとの至上命題で医療者を中心にワクチン接種に関する主体的な自己決定権が脅かされるとの懸念。正直、これもどちらかというと感情論であり、レプリコンワクチンに対する懸念とはやや別物ではないかと考える。いずれにせよ今回の声明は、ピッチャーがマウンドからいきなり外野スタンドに投球し始めたかのような違和感を覚えるもので、私個人は読み切るのに相当疲れた次第である。

368.

国内初HIV曝露前予防(PrEP)適応取得、その意義と残された課題/ギリアド

 国連合同エイズ計画(UNAIDS)は、2030年までにHIV流行を終結するという目標を発表しているが、日本のHIV流行対策は世界に比べ後れを取っている状況だ。 ギリアド・サイエンシズ(以下、ギリアド)は2024年8月28日付のプレスリリースで、HIV-1感染症の曝露前予防(以下、PrEP;Pre-Exposure Prophylaxis)としてツルバダ配合錠(一般名:エムトリシタビン・テノホビル ジソプロキシルフマル酸塩)(以下、ツルバダ)が一部変更承認を取得したと発表した。これによりツルバダは、日本で唯一のHIV-1感染症に対する治療と予防の両方の承認を取得した薬剤となった。 9月25日に行われたギリアド開催のメディアセミナーでは、「PrEP承認がもたらすHIV/AIDSの新展開」をテーマとした議論が交わされた。HIV感染予防の新たなステップ:PrEPとは PrEPとは、HIV未感染の高リスク者が感染リスク軽減のために抗HIV薬を予防的に内服することで、99%以上の感染予防が可能(アドヒアランスが良好な場合)1)といわれている。 ギリアドは、これまでもHIV/AIDS啓発活動コンソーシアム「HIV/AIDS GAP6」※としてHIV流行終結に向けた活動を続けており、今回、HIV治療薬としては既承認であったツルバダのPrEPに対する一部変更承認を取得した。海外におけるツルバダのPrEPとしての適応は、2012年の米国に始まり、欧州、中国を含むアジア諸国でも既に承認されている。※HIV/AIDS GAP6:2021年12月に設立された、ギリアドおよび6つのHIVサポート団体(ぷれいす東京、JaNP+、はばたき福祉事業団、akta、community center ZEL、魅惑的倶楽部)によるコンソーシアム。HIV流行の終結をゴールに活動を続けている。PrEP適応追加承認取得は、正しい知識の普及として大きな意義を持つ メディアセミナーでは、岡 慎一氏(国立国際医療研究センター エイズ治療・研究開発センター 名誉センター長)から、PrEPとしての適応追加承認取得の意義が語られた。 ツルバダをPrEPとして服用する方法には、1日1回1錠を内服する「デイリーPrEP」と、リスク行為の前後で内服する「オンデマンドPrEP」があり、今回承認となったのはデイリーPrEPのみである。PrEP適応には処方開始前の評価(HIV検査、性感染症検査など)および定期的なフォローアップ検査2)が必要で、PrEP処方と検査をパッケージとして行うことが重要だと、同氏は解説した。 またPrEPにより、新規HIV感染者が80%減少したという欧州の報告3)が紹介された。 岡氏は、「HIV感染者が抗HIV薬の服用によりU=U※を維持し、HIV感染ハイリスク者がPrEPを徹底すれば、10年程度で新規HIV感染者はゼロにできる」とHIV流行終結に向けて期待を寄せ、「今後PrEPの認知を広げ、正確な情報を普及させるためにも、今回の薬事承認は大きな意義がある」と述べた。※U=U:「Undetectable=Untransmittable」の略。血液中のHIV量が検出感度未満で抑えられていれば、性行為による他者への感染を起こさないこと。PrEPの適応追加承認は大きな一歩、ただし課題も残る セミナーのパネルディスカッションでは、「HIV/AIDS GAP6」の各メンバー6人と岡氏による、PrEPの重要性と課題についての議論が交わされた。 HIV/AIDS GAP6は、HIV流行終結達成へ向け、差別・偏見の解消、予防、検査、治療における課題を解決すべく活動を続けており、そのうちの1つとして「HIV流行の終結に向けた要望書」を提出するなど、国内におけるPrEP承認へ尽力してきた。今回、PrEPの適応追加承認が得られた現時点での各メンバーによるPrEPの意義と期待が語られた。 JaNP+代表理事の高久 陽介氏は、「HIVに限らず感染症においては、感染予防行動が重要であり、PrEPという新たな予防策が増えたことはとても大きな意義がある。また、HIVに関しては正しい知識の普及がまだ進んでいないため、偏見や差別をなくためのきっかけの1つとしても期待したい」と語った。 また、魅惑的倶楽部理事長の鈴木 恵子氏は、「セックスコミュニケーションの過程で感染予防が難しい場合もあり、とくに女性において自分の意思を主張することができない状況は多い。自主的に行えるHIV感染予防の選択肢として、PrEPが果たす役割は大きいだろう」と付け加えた。 しかし、今回承認となったツルバダのPrEP適応については、保険適用外となることが決定している。 このPrEPに残された課題について、ぷれいす東京代表の生島 嗣氏は「現状の金額※では、1日1錠の服用を継続的に行っていくことが難しい。そのため、海外輸入などの不適切な使用が横行する危険性がある。PrEPを持続可能性のある選択肢とするための方法を話し合っていきたい」と語った。 最後に岡氏は、「今回の適応追加承認で、公にPrEPの情報発信ができるようになり、PrEPを日本に定着させるための土壌ができた。今後、PrEPを必要とする人々へ届けるためのスキームを作っていくために、引き続き議論の必要がある」と締めくくった。※ツルバダの薬価:2,442.4円/錠、1日1錠処方の場合、30日で73,260円。

369.

ワクチン接種はかかりつけ医に相談を/日医

 日本医師会(会長:松本 吉郎氏[松本皮膚科形成外科医院 理事長・院長])は10月2日、定例会見を開催した。会見では、松本会長が先日発足した石破 茂内閣誕生に言及し、医師会は地域を支える重要な医療インフラとして政権と一体となって政策を推進すること、防災省の提案もあるように医師会も災害対策を重要な事項と考えていること、医療・介護業界が物価高騰を上回る賃上げが実現できることなどを要望し、今後も諸政策で連携していくことを語った。また、先般発生した能登半島豪雨への支援金について10月末まで医師会員、一般からの寄付を募っていることを説明した。新型コロナウイルス感染症の重症化防止に高齢者はワクチン接種の検討を 次に感染症担当の笹本 洋一常任理事(ささもと眼科クリニック 理事長・院長)が 「季節性インフルエンザと新型コロナウイルス等の予防接種について」をテーマに、今秋の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)、季節性インフルエンザへのワクチン接種などについて医師会の取り組みや考えを説明した。 COVID-19と季節性インフルエンザは流行傾向にあるが、COVID-19ワクチンの接種が10月1日より開始された。大きな変更点は、公費による無料接種ではなくなったことで、自治体による定期接種となる。対象者は「65歳以上の方」、「60~64歳で心臓、腎臓などに基礎疾患がある方、免疫機能に障害がある方」などが定期接種の対象となり、一部自己負担の有料接種となる。対象者は重症化予防のためにも接種を検討していただき、接種できるワクチンの種類、自己負担額については各自治体により異なるために確認してもらいたいと説明した。また、COVID-19ワクチンは、医師が必要と認めた場合、季節性インフルエンザや肺炎球菌ワクチンとの同時接種もできるので、かかりつけ医に相談してもらいたいと述べた。 そのほか、HPVワクチンの公費負担によるキャッチアップ接種にも触れ、9月末日までの初回接種を医師会としては広く啓発してきたが、これを逃した方も10月中の接種で最短で4~5ヵ月で公費負担の期日内に終えることができるので、かかりつけ医などに相談して欲しいと説明するとともに、通常の定期接種についても近医に問い合わせをお願いしたいと述べた。

370.

第116回 アメリカで百日咳が急増、警告

前年比5倍で急増ペースの百日咳アメリカでは、百日咳の報告数が、前年比5倍に増加していると報道されています。え?百日咳?マイコプラズマじゃなくて?米国疾病予防管理センター(CDC)1)によると、2024年では累計1万5,661件の百日咳症例が確認されたと報告しています。昨年の同時期の3,635件と比べると「急増」と言ってもいいでしょう2)。2014年以来、10年ぶりの水準とされています。ウィスコンシン州では前年比約24倍、マサチューセッツ州に至っては前年比約51倍となっています。この理由として「ワクチン接種の忌避」があるようです。ワクチン反対の感情の高まりが感染拡大に影響していると指摘されているのです。なんか最近ワクチンネタが多いこの連載ですが、なんでもかんでもワクチンと結びつけようとまでは思っていません。ただ、そういう忌避が次の感染症を引き起こすトリガーになっているという指摘はほうぼうから上がっています。しかしまあ、さすがに百日咳ワクチンは打っておいたほうがよいでしょう。日本の4種混合ワクチン接種率はきわめて高い(2歳児の接種完了率は97%以上)ですが、実は、世界的にはジフテリア、破傷風、百日咳の混合ワクチンを受けているのは84%と低い状況です。この数値だけをみると、日本で百日咳が問題になることはそれほどないかもしれません。ただ、日本では、百日咳ワクチンの接種開始の月齢が早期化しており、実は3歳以上で百日咳ワクチンを接種される機会が多くないのです。そのため、5歳頃には抗PT抗体の保有率が20%台にまで低下するとされています。鑑別診断に入れよう若い頃は、ちらほら百日咳っぽい患者さんを診たことがあるのですが、コロナ禍以降は、そもそも咳嗽の「受診遅れ」がひどく、鑑別診断にすら挙がりにくくなりました(もしそうでも抗菌薬での介入が難しいフェーズに入っているため)。「咳で悩んでいるんです」「ほうほう、どのくらいですか?」「1年前からです」なんて会話もざらです。2018年から5類感染症(全数把握対象疾患)に定められたので、一時的に診断ムーブメントが勃興しましたが、最近は咳のセミナーなどでも百日咳という鑑別診断をとんと耳にしません。昔は、抗体価の結果が返ってくる頃に治療を始めても遅かったので、経験的治療を導入することもありました。現在の診断においては、イムノクロマト法や核酸増幅法が使用可能です。咳が強めだとマイコプラズマかもしれないということで、マクロライドが入ることも多いと思います。実際、これは百日咳にも有効なので、どちらもカバーできる優れものです。それでもなお、頭のどこかで「百日咳かもしれない」と思いながら、咳嗽診療に当たるべきでしょう。ちなみに、2024年4月1日から、これまで使われてきた4種混合ワクチンにヒブワクチンを加えた5種混合ワクチンが定期接種の対象となっています。親の立場としては非常にラクになります。参考文献・参考サイト1)CDC. Pertussis Surveillance and Trends2)Weekly cases of notifiable diseases, United States, U.S. Territories, and Non-U.S. Residents week ending September 21, 2024 (Week 38)

371.

わが国初の経鼻弱毒生インフルワクチン「フルミスト点鼻液」【最新!DI情報】第24回

わが国初の経鼻弱毒生インフルワクチン「フルミスト点鼻液」今回は、経鼻弱毒生インフルエンザワクチン(商品名:フルミスト点鼻液、製造販売元:第一三共)を紹介します。本剤は、国内初の経鼻インフルエンザワクチンであり、針穿刺の必要がなく注射部位反応もないことから、患者負担の軽減が期待されています。<効能・効果>本剤は、インフルエンザの予防の適応で、2023年3月27日に製造販売承認を取得し、2024年8月13日に製造販売承認事項一部変更承認を取得しました。<用法・用量>2歳以上19歳未満の人に、0.2mLを1回(各鼻腔内に0.1mLを1噴霧)、鼻腔内に噴霧すします。医師が必要と認めた場合には、他のワクチンと同時に接種することができます。<安全性>重大な副反応として、ショックおよびアナフィラキシー(いずれも頻度不明)があります。その他の副反応として、鼻閉・鼻漏(59.2%)、咳嗽、口腔、頭痛(いずれも10%以上)、鼻咽頭炎、食欲減退、下痢、腹痛、発熱、活動性低下・疲労・無力症、筋肉痛、インフルエンザ(いずれも1~10%未満)、発疹、鼻出血、胃腸炎、中耳炎(いずれも1%未満)などがあります。本剤は安定剤として精製ゼラチンを含有していますので、ゼラチンに対してショックやアナフィラキシー(蕁麻疹、呼吸困難、血管性浮腫ほか)などの過敏症の既往のある人には注意が必要です。また、製造工程由来不純物として、卵由来の尿膜腔液成分(卵白アルブミン、タンパク質および鶏由来DNA)が混入する可能性があるため、鶏卵、鶏肉、その他鶏由来のものに対してアレルギーを呈する恐れのある人に対しても注意が必要です。本剤は弱毒化したウイルスを使った「生ワクチン」なので、妊婦や免疫抑制状態の人には使用できません。<患者さんへの指導例>1.この薬は、鼻へ噴霧するタイプのインフルエンザワクチンです。鼻へ噴霧するため、針を刺す必要がありません。2.接種の対象は、2~18歳の人です。3.この薬は、噴霧後に積極的に吸入(鼻ですする)する必要はありません。4.まれにショック、アナフィラキシーが現れることがあるので、いつもと違う体調変化や異常を認めた場合は、速やかに医師に連絡してください。<ここがポイント!>インフルエンザは、インフルエンザウイルスを病原体とする急性呼吸器感染症であり、日本ではインフルエンザに関連した超過死亡数が年間1万例を超えると推定されています。インフルエンザワクチンの接種は、インフルエンザの発症予防やインフルエンザに関連した重度合併症を防ぐ主要な手段です。フルミスト点鼻液は、日本で初めて承認された経鼻投与型の3価の弱毒生インフルエンザワクチンであり、A型株(A/H1N1およびA/H3N2)とB型株(B/Victoria系統)のリアソータントウイルス株を含有しています。本剤の特徴は、「低温馴化」、「温度感受性」および「弱毒化」であり、噴霧された弱毒生ウイルスが鼻咽頭部で増殖し、自然感染(野生株の感染)後に誘導される免疫と類似した、局所および全身における液性免疫、細胞性の防御免疫を獲得できます。また、本剤は、針穿刺の必要がなく、注射部位反応もないことから、被接種者の心理的・身体的負担の軽減も期待されています。日本では、2024~25シーズンから使用が認められました。日本人健康小児(2歳以上19歳未満)を対象とした国内第III相試験(J301試験)において、抗原性を問わないすべての分離株によるインフルエンザ発症割合は、本剤群で25.5%(152/595例)、プラセボ群で35.9%(104/290例)であり、本剤群のプラセボ群に対する相対リスク減少率は28.8%(95%信頼区間:12.5~42.0)でした。95%信頼区間の下限は事前に設定した有効性基準(0%)を上回っており、プラセボに対する本剤の優越性が検証されました。日本小児科学会より「経鼻弱毒生インフルエンザワクチンの使用に関する考え方」が出され、使い分けが示されました。2〜19歳未満に対しては、不活化インフルエンザHAワクチンと経鼻弱毒生インフルエンザワクチンを同等に推奨していますが、喘息患者、授乳婦、周囲に免疫不全患者がいる場合は不活化インフルエンザHAワクチンを推奨しています。また、生後6ヵ月〜2歳未満、19歳以上、免疫不全患者、無脾症患者、妊婦、ミトコンドリア脳筋症患者、ゼラチンアレルギーを有する患者、中枢神経系の解剖学的バリアー破綻がある患者に対しては、不活化インフルエンザHAワクチンのみが推奨されています。参考日本小児科学会:経鼻弱毒生インフルエンザワクチンの使用に関する考え方

372.

ダプトマイシン、5つの重要事項【1分間で学べる感染症】第12回

画像を拡大するTake home messageダプトマイシンは肺炎と中枢神経感染症には使用しにくい。ダプトマイシンを使用する際にはミオパチー/横紋筋融解に注意しよう。今回は、抗MRSA薬の1つであるダプトマイシンについて学んでいきましょう。バンコマイシンに続き、多くの施設でダプトマイシンを使用する場面が増加しています。それでは、ダプトマイシンを使用する際にはどのようなことに注意すればよいのでしょうか。まずは、使用が推奨されないケースを覚えることが重要です。肺炎…ダプトマイシンが肺胞の2型サーファクタントにより不活化されるため、肺の炎症に対して効果を発揮しないことが知られています。中枢神経感染症…データは不十分ですが、脳脊髄液への通過性が不良とされています。次に、ダプトマイシンを使用する際に注意すべき副作用を知りましょう。ミオパチー/横紋筋融解…腎障害・スタチン併用・肥満などがリスクとされます。ダプトマイシンを使用する際にはスタチンを一旦中断し、CK(クレアチンキナーゼ)値を週に1回はチェックするようにしましょう。好酸球性肺炎…男性・高齢・腎障害などがリスクとされますが、ダプトマイシン使用中に咳嗽や呼吸困難を来した場合は本症を疑い、速やかに中止を検討します。胸部CTで両側のすりガラス影を来すことが特徴です。中等症から重症の場合にはステロイドによる治療も検討されます。末梢血の好酸球は増加しないこともあり、一般的には気管支肺胞洗浄液による精査が推奨されます。実施が難しい場合にはダプトマイシンの中止後に改善するかどうかをみて、臨床的に本症を疑うこともあります。最後に、ダプトマイシンはバイオフィルムへの透過性がよいとされます。したがって、中心静脈カテーテル感染症やその他の人工物関連感染などにも注意が必要です。ダプトマイシンを使用する際には、適応と主な副作用に関する上記のポイントを理解しておきましょう。1)Dare RK, et al. Clin Infect Dis. 2018;67:1356-1363.2)Haste NM, et al. Antimicrob Agents Chemother. 2011;55:3305-3312.3)Hirai J, et al. J Infect Chemother. 2017;23:245-249.4)Uppa P, et al. Antimicrob Resist Infect Control. 2016;5:55.5)Raad I, et al. Antimicrob Agents Chemother. 2007;51:1656-1660.

373.

敗血症生存者の再入院リスクは高い

 敗血症との闘いを幸運にも生き延びたとしても、安心はできないようだ。7,000人以上の敗血症患者を対象にした研究で、退院後30日以内の敗血症の再発やその他の原因による再入院率は驚くほど高いことが明らかになった。米オーガスタ大学看護学部のPriscilla Hartley氏らによるこの研究の詳細は、「American Journal of Critical Care」に9月1日掲載された。論文の筆頭著者であるHartley氏は、「再入院は、自宅退院または在宅医療に移行できるほど健康だと判断された患者の間でも頻発している」と指摘している。 米国立衛生研究所(NIH)によると、敗血症とは、肺炎などの命を脅かす感染症により臓器障害や組織障害が生じている状態を指す。敗血症は急速に進行することがあり、ショック状態に陥ったり臓器障害が重篤化したりすると致死的になる。実際に、敗血症患者の5人に1人は死亡するとされている。 この研究では、2008年から2019年の間に米ボストンのベス・イスラエル・ディーコネス医療センターで敗血症の診断を受けて入院した成人患者7,107人(平均年齢66.5歳、女性46.2%)のデータを用いて、敗血症の診断後30日以内の再入院率が調査された。患者の主な退院先は、高度看護施設(29.5%)や自宅(19.5%)、長期急性期ケア施設(13.4%)などで、在宅医療を受けている患者も多かった(24.4%)。 患者の23.6%(1,674人)が、診断後30日以内に再入院していた。これらの患者の平均再入院回数は1.6回だったが、30%近くの患者が1〜3回再入院しており、最も多いケースでは17回に上った。再入院の主な原因は感染症(敗血症の再発68.3%、嚥下性肺炎26.1%、尿路感染症14.9%、院内感染症9.4%)で、その他、急性腎不全(28.7%)、心不全(6.9%)などがあった。 再入院と関連する因子について検討したところ、退院後の環境と年齢との間に有意な関連が認められたが、性別、民族、加入保険のタイプとの間に関連は見られなかった。再入院率の高かった退院後の環境は、高度看護施設(29.6%)、在宅医療(26.9%)、自宅(15.0%)だった。 Hartley氏らは、多くの場合、患者は病院から「不適切な環境」に退院し、再感染のリスクが高まったとの見方を示している。またHartley氏は、「敗血症からの生存率を継続的に向上させたいのであれば、入院中と退院後の環境の間のギャップを埋める方法を見つけなければならない」と米国クリティカルケア看護師協会(AACN)のニュースリリースで述べている。 研究グループは、同ニュースリリースでさらに、「再入院リスクが最も高い患者を特定することで、適切な環境への退院が促される。それにより患者の回復が維持され、必要な介入や経過観察も行われるようになる」と述べている。

374.

薬剤耐性に起因する死者数、2050年までに3900万人以上に/Lancet

 微生物に対して抗菌薬が効かなくなる薬剤耐性(antimicrobial resistance;AMR)が健康上にもたらす脅威が増大している。こうした中、AMRに対する措置を早急に講じない限り、今後25年の間にAMRに起因する世界の死者数が3900万人に上るとの予測が示された。AMRに関するグローバル研究(GRAM)プロジェクトによるこの研究結果は、「The Lancet」に9月16日掲載された。 AMRは、すでに世界規模の健康問題として広く認識されており、その影響は今後数十年でさらに大きくなると予想されている。しかし、これまでAMRの歴史的傾向を評価し、AMRが今後、世界に与える影響を詳細に予測する研究は実施されていなかった。 AMRの真の規模を初めて明らかにしたのは、2022年に発表された最初のGRAM研究である。この研究では、2019年の世界におけるAMR関連の死者数は、HIV/AIDSやマラリアによる死者数を上回り、120万人の直接的な死因になるとともに、495万人の死因にも関与していることが示唆された。 今回、報告された新たなGRAM研究では、204の国と地域のあらゆる年齢の人を対象に、22種類の病原体、84種類の病原体と薬剤の組み合わせ、および髄膜炎、血流感染症などの11種類の感染症に関連する死者数が推定された。推定は、1990年から2021年までの病院の退院データ、死因データ、抗菌薬使用調査など、さまざまな情報源からの5億2000万件の個人記録に基づいて算出された。また、得られた推定値に基づき、AMRが2022年から2050年の間に健康に与える影響についても推定された。 その結果、1990年から2021年の間に、AMRを直接原因として毎年100万人以上が死亡していたものと推定された。この間のAMRによる死亡の傾向には年齢層により大きな違いが見られ、5歳以下の子どもでは、AMRを直接原因とする死者数は59.8%、AMR関連の死者数は62.9%減少していたが、70歳以上の高齢者では同順で89.7%と81.4%増加していたと推定された。 現在の傾向に基づくと、今後数十年間でAMRによる死者数は増加の一途をたどり、2050年までにAMRを直接原因とする死者数は年間191万人に達すると予測された。これは、2021年(114万人)から67.5%の増加に相当する。同様に、2050年までにAMR関連の死者数も2021年(471万人)から74.5%増の822万人に達すると予測された。2025年から2050年までの間の累計死者数は、AMRを直接原因とする死者数が3900万人以上、AMR関連の死者数で1億6900万人以上に上ると推定された。さらに、子どものAMRによる死者数は今後も減少し続ける一方で、70歳以上での死亡者数は2050年までに146%増加する可能性があると予測された。 論文の筆頭著者である、米ワシントン大学保健指標評価研究所のMohsen Naghavi氏は、「これらの結果は、AMRが何十年にもわたって世界的な健康上の重大な脅威であり、また、この脅威が今も拡大していることを浮き彫りにしている」と話す。 一方、論文の共著者の一人であるノルウェー公衆衛生研究所のStein Emil Vollset氏は、「この問題が致命的な現実となるのを防ぐためには、ワクチン接種や新薬の開発、医療の向上、既存の抗菌薬へのアクセスの改善、そしてそれらの最も効果的な使用方法に関する指導などを含む、重篤な感染症リスクを減じるための新しい戦略が緊急に必要だ」と述べている。

375.

コロナワクチン接種後心筋炎とコロナ感染後心筋炎の18ヵ月後予後〜関心はさらに長期的予後に(解説:甲斐久史氏)

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、COVID-19 mRNAワクチン接種と抗SARS-CoV-2ウイルス薬の普及、さらには急性期における重症化予防と重症例治療法の確立により、パンデミックの収束を迎え、いまやCOVID-19と共生する時代“Withコロナ時代”となった。今後は、感染者の10〜20%に長期間認められる罹患後症状(PCC:post-COVID-19 condition)をはじめ、未知の後遺症など長期的・超長期的影響が大きな課題となる。その1つが、COVID-19罹患後心筋炎やCOVID-19ワクチン接種後心筋炎である。 COVID-19罹患後心筋炎は、COVID-19感染者10万人当たり約150例(0.15%)に発症する。ワクチン接種後心筋炎は、mRNAワクチン接種(初回、2回目)10万回当たり1例(0.01%)に発症するが、10〜20代男性の2回目接種では発症率0.16%である。COVID-19罹患後心筋炎およびワクチン接種後心筋炎は、ほとんどが軽症であり、対症療法により軽快する。パンデミック初期には、通常の心筋炎と比較して劇症化率が高いものの、劇症化しても適切な治療により回復すると報告された。しかしながら、長期的な心筋炎再発・慢性化、心血管疾患発症や死亡のリスクについては検討が必要である。 Laura Semenzato氏らは、フランスのNational Health Dataシステムに登録された心筋炎4,635例を、ワクチン接種後心筋炎(ワクチン接種後7日以内発症)558例、COVID-19罹患後心筋炎(COVID-19発症30日以内発症)298例とその他の通常型心筋炎3,779例に分類し、退院後18ヵ月間の心筋心膜炎による再入院、その他の心血管イベント、総死亡およびそれらの複合アウトカムと医療管理状況を検討した。標準化複合アウトカム発生率は、通常型心筋炎の13.2%と比較して、ワクチン接種後心筋炎では5.3%と有意に低く、COVID-19罹患後心筋炎では12.1%と同等であった。総死亡は、ワクチン接種後心筋炎で0.3%とCOVID-19罹患後心筋炎の1.3%、通常型心筋炎の1.3%と比較して低値であったが、心筋心膜炎による再入院とその他の心血管イベントは3群間で差は無かった。また、心筋心膜炎以外による全入院は、ワクチン接種後心筋炎12.2%で、COVID-19罹患後心筋炎21.1%、通常型心筋炎19.6%より有意に低くかった。また、退院から18ヵ月後までの画像診断検査、トロポニン検査、負荷テストなどの検査や薬剤処方の頻度は、ワクチン接種後心筋炎およびCOVID-19罹患後心筋炎と通常型心筋炎で差はなかった。 本研究は、フランス全国に及ぶ大規模で悉皆性の高いデータベースに基づき、かつ18ヵ月というこれまでで最も長期間にわたる検討である。COVID-19罹患後心筋炎では、心臓MRIを用いた検討により、退院3ヵ月後の42%に心機能低下、26%に心筋炎症所見が認められたという報告や、急性期には入院を必要としない軽症例でも1年後になんらかの自覚症状が残存しているものでは、びまん性心筋浮腫所見が多くみられるという報告があり、慢性期における心不全など心血管イベント増加が危惧された。しかしながら、本研究により、少なくとも、発症18ヵ月の時点では、COVID-19罹患後心筋炎の心筋炎再発、心血管合併症発症と死亡のリスクは通常型心筋炎と同等であり、ワクチン接種後心筋炎ではさらにリスクが低いことが明らかとなった。医療処置や薬物処方については、心筋炎発症後18ヵ月間としては、わが国でも通常診療と思われる範囲内であり、各群ともに経時的に減少傾向である点に注目したい。 COVID-19パンデミックという特殊な状況下で、無症状やきわめて軽症なCOVID-19に対しても、心臓MRIや血中トロポニン検査を用いた高感度な心筋炎スクリーニングが行われた。その結果、感染急性期のみならず数ヵ月間にわたり潜在性心筋炎症、心機能障害が持続することが明らかとなっている。これらが今後、慢性心筋炎や心不全などの発症リスクとなるかについて、さらに数年、数十年といった時間軸での長期的・超長期的観察が必要となる。COVID-19罹患後心筋炎やワクチン接種後心筋炎で得られる知見の蓄積を通じて、今後、通常型心筋炎の慢性化やHFrEFや拡張型心筋症の概念、診断や治療にも大きな変化がもたらされるかもしれない。

376.

第211回 医師研修マッチング中間結果、都市部病院が上位独占/医師臨床研修マッチング協議会

<先週の動き>1.医師研修マッチング中間結果、都市部病院が上位独占/医師臨床研修マッチング協議会2.高齢社会対策大綱を改定、高齢者医療費の3割負担拡大を検討/政府3.臓器移植、509人が医療機関の態勢不足で手術を受けられず/厚労省4.特定機能病院の9割に改善指摘、安全管理体制強化を求める/厚労省5.病院経営の厳しさ浮き彫り、病院団体は特例的な財政支援を要請へ/四病協6.訪問看護の過剰請求にメス、厚労省が実態調査を開始/厚労省1.医師研修マッチング中間結果、都市部病院が上位独占/医師臨床研修マッチング協議会医師臨床研修マッチング協議会は、2024年度の医師臨床研修マッチングの中間結果を発表した。大学病院では、順天堂大学が最も多くの1位希望者(76人)を集め1位となり、続いて東京大学(60人)、東京医科歯科大学(56人)がそれぞれ2位、3位となった。順天堂大学は充足率も181.0%でトップ、帝京大学(117.9%)、東京慈恵会医科大学(103.1%)がこれに続き、いずれも定員を大幅に超える希望者を集めている。今年度、大学病院の1位希望者数は1,699人となり、昨年度の1,757人から58人減少し、減少傾向が続いている。大学病院の定員も減少しており、2021年度の3,715人から2024年度は3,467人となった。特筆すべきは、兵庫医科大学が32位から5位へと大きく順位を上げたことや、帝京大学が32位から10位へ急上昇したことだ。一方で、九州大学や浜松医科大学など、順位を大幅に下げた大学もみられた。市中病院では虎の門病院が1位希望者数で首位を獲得し、充足率は390.5%に達した。2位は川崎市立川崎病院、3位は市立豊中病院で、都市部に位置する病院が上位を占めた。とくに東京都立広尾病院は募集定員6人に対して45人が希望し、充足率750.0%で圧倒的な人気を誇った。この結果は、都市部の市中病院の人気が根強いことを示しており、医師志望者の関心がますます都市に集中していることがうかがえる。参考1)2024年度 医師臨床研修マッチング 中間公表(医師臨床研修マッチング協議会)2)【医師臨床研修マッチング2024】中間結果ランキング マッチング中間、大学病院は順天堂が1番人気に(日経メディカル)2.高齢社会対策大綱を改定、高齢者医療費の3割負担拡大を検討/政府政府は2024年9月13日、新たな「高齢社会対策大綱」を閣議決定し、75歳以上の高齢者の医療費負担拡大を検討する方針を示した。現行の制度では、75歳以上の高齢者の窓口負担は原則1割、一定の所得がある場合は2割、そして「現役並みの所得」がある場合は3割とされている。今回の大綱改定では、この「現役並み所得者」の3割負担対象を拡大し、社会保障制度の持続を図る狙いがある。高齢者の医療費は急増しており、政府はその抑制に向けて制度改革を進めている。すでに2023年末に決定された「社会保障改革工程表」にも、2028年度までにこの対象範囲の見直しを含めた議論を行う方針が明記されている。また、大綱では、年齢にかかわらず、能力に応じて社会を支える「全世代型社会保障」を目指す考えが示されている。高齢者が支えられるだけでなく、状況に応じて支える側にも回る社会を築くことを目指す。高齢者の就業促進も大綱に盛り込まれ、2029年までに65歳以上の就業率を大幅に引き上げる目標が掲げられている。現行の65~69歳の就業率は52%だが、2029年には57%まで高める方針。また、60~64歳の就業率も現在の74%から79%に引き上げることが目標とされている。これにより、少子化による労働力不足や経済規模の縮小への対応を図り、同時に高齢者の社会保障費負担を抑制しようとしている。一方で、認知症や孤立した高齢者に対する支援体制の強化も大綱では重視している。身寄りのない高齢者や単身世帯が増える中、身元保証制度や地域での見守り体制の充実が求められているため、民間事業者が提供する終身サポート事業の適正運営を促し、孤立を防ぐための取り組みが進められる見込み。医療費負担の拡大により、現役世代の負担軽減を図ることが期待される一方、高齢者にはさらなる負担が求められる。政府は、高齢者が安心して暮らせる社会の実現に向けて、医療や年金制度の見直しを進める方針を強調している。参考1)高齢社会対策大綱[令和6年9月13日閣議決定](内閣府)2)身寄りない人の支援 医療費3割負担の拡大検討も盛る 高齢大綱改定(朝日新聞)3)75歳医療費、負担増検討 高齢化対策指針に明記(東京新聞)4)医療費3割負担拡大「検討」 高齢社会大綱6年ぶり改定(日経新聞)3.臓器移植、509人が医療機関の態勢不足で手術を受けられず/厚労省2023年に行われた脳死者からの臓器移植で、509人の患者が医療機関の態勢が整わないことを理由に移植手術を受けられなかったことが、厚生労働省の初めての調査で明らかになった。移植を担当する医療機関の人員不足や集中治療室(ICU)の満床などが主な理由。この調査では、脳死者から提供された臓器のうち、複数の医療機関が移植を辞退したために成立しなかったケースが192件あり、心臓6件、肺25件、肝臓9件、膵臓45件、腎臓8件、小腸99件の移植ができなかった。辞退の理由として多かったのは「ドナーの医学的な理由」(2,195人)、「体格・年齢差」(573人)、院内態勢の不備(509人)が挙げられた。臓器移植を希望する患者が、医療機関を複数登録できるようにするなど、移植辞退を減らすための新たな仕組みも検討されている。移植希望者が手術を受けられなかった問題を受け、厚労省は今後、医療機関の受け入れ体制を強化する方針。日本臓器移植ネットワークによると、国内の移植待機期間は心臓で平均3年半、腎臓では14年9ヵ月と長期化している。臓器提供数を増やす取り組みが進められる一方で、医療機関の対応力不足が移植の実施を阻んでいる現状が浮き彫りとなった。参考1)臓器移植断念2023年に25施設、人員・病床不足が理由…厚労省が初の調査結果発表(読売新聞)2)臓器移植 去年509人が手術を希望するも不成立 医療機関の態勢整わず 厚労省が初調査(テレビ朝日)3)臓器移植、延べ3,706人の手術見送り 受け入れ態勢整わず 厚労省(毎日新聞)4)脳死からの提供臓器、2割が移植辞退 医学的理由や院内体制など理由(朝日新聞)4.特定機能病院の9割に改善指摘、安全管理体制強化を求める/厚労省厚生労働省は、2023年度に全88の特定機能病院に対して行った立入検査の結果、77病院に「医薬品や医療機器の安全管理体制」や「事故報告書の作成・提出」などに関して若干の改善が必要であることがわかった。9月20日に公表された報告によれば、指摘を受けた病院では、今後の改善状況については、次年度の立入検査で確認される予定。特定機能病院は国内最高水準の医療を提供する施設であるが、過去に発生した医療事故を受け、医療安全管理体制の強化が進められてきた。2023年度の立入検査では、88病院中77病院(87.5%)において改善指摘が行われ、とくに「医薬品、医療機器の安全管理体制の確保」に関する指摘が多くみられた。指摘は主に口頭で行われ、書面で「検討を要する事項」として通知された病院は6件に止まった。特定機能病院は重要な役割を担う施設であるため、多くの病院で医療安全管理の徹底や院内感染対策の強化が求められている。そのため医療法に基づく検査では、施設の安全基準や適切な人員配置が確認され、問題がある場合は翌年度の立入検査で改善状況がチェックされる仕組みとなっている。2023年度の検査では。新型コロナウイルス感染症の影響で一時的に縮小されていたが、24年度は通常通り全施設に対して実施された。今回の検査結果を受けて、医療機関はさらなる安全管理体制の強化に向けた取り組みが求められており、特定機能病院の質の向上が期待されている。参考1)特定機能病院に対する立入検査結果について(令和5年度)(厚労省)2)すべての特定機能病院で立入検査実施、「医薬品、医療機器の安全管理体制」や「事故等報告書の作成・提出」に若干の問題あり-厚労省(Gem Med)3)特定機能病院の9割弱に指摘事項、立ち入り検査で「不適切な事項」は該当なし 23年度(CB news)5.病院経営の厳しさ浮き彫り、病院団体は特例的な財政支援を要請へ/四病協四病院団体協議会は2024年9月25日に開催された総合部会で、深刻な経営不振に陥っている病院への特例的な財政支援を国に求める方針を発表した。日本病院会の相澤 孝夫会長は、病院経営定期調査の中間報告を基に、病院の収益減少とコスト増加による減収減益が顕著であり、とくに建築費の高騰により改修や設備投資が困難な状況にあることを指摘した。調査によれば、2024年6月時点で病院の医業収益は前年同月比で減少しており、医業費用は増加、結果として多くの病院が赤字となっている。経常赤字病院の割合は、2023年度の約22.7%から2024年度には51.0%と大幅に増加した。また、診療報酬改定やコロナ関連の補助金減少が収益減少に拍車をかけ、給与費や物価の上昇によりさらなるコスト増が経営を圧迫している。この状況を受け、記者会見で相澤会長は「このままでは来年にはさらに厳しい状況が予測され、地域医療が立ち行かなくなる恐れがある」として、2024年度中の診療報酬改定も含めた支援策を求めた。11月には調査結果の最終報告を国に提出し、財政支援の要望を行う方針。また、9月27日に総務省が発表した2023年度の地方公営企業等決算では、全国681の病院事業は2,055億円の赤字を計上し、4年ぶりに赤字に転落したことが明らかになっており、新型コロナウイルス感染症関連の補助金が減少し、人件費や薬剤費の高騰が大きな影響を与えていることがうかがえた。これにより累積欠損金が1兆6,974億円に達するなど、地域医療の維持のためには、政府に早急な対応が必要となってきている。参考1)四病協、中間年改定含む財政支援要請へ 日病相澤氏「病院は深刻な経営不振」(CB news)2)病院経営は減収・減益の危機的な状況、期中の診療報酬対応も含めた病院経営支援を国に強く要請へ-四病協(Gem Med)3)2024年度 病院経営定期調査-中間報告-(3病院団体)4)公立病院事業4年ぶり赤字 2023年度、コロナ補助金減少や人件費高騰影響(産経新聞)5)令和5年度地方公営企業等決算の概要(総務省)6.訪問看護の過剰請求にメス、厚労省が実態調査を開始/厚労省精神科訪問看護において一部の事業者が患者の状態に関係なく訪問回数を増やし、診療報酬を不適切に請求している問題を受け、厚生労働省は実態調査を行い、仕組みを見直す方針を固めた。訪問看護サービス最大手の「ファーストナース」などが不正な運用をしていると指摘されており、同社の訪問看護ステーションでは患者の必要度にかかわらず週3回の訪問を指示し、利益確保を優先していたことが明らかになった。厚労省は、2024年度に科学研究費を活用し、訪問看護の実態を把握する特別調査を実施する予定。訪問看護の役割や訪問回数の適正化、連携体制などを詳細に調査し、2026年度の診療報酬改定に反映させる考えだ。過剰な訪問を是正し、適切な支援を行うための新しい基準が検討される一方で、真面目に運営している事業者が評価される仕組みも求められている。ファーストナースの内部資料や元社員の証言によると、経営陣は売上増加を最優先とし、訪問回数や時間を操作して診療報酬を最大限に引き出すよう指示していた。また、社員には「ロレックスキャンペーン」など高額報酬を餌に、売上増を奨励していたという。今後、厚労省は、調査結果を基に訪問看護ステーションの基準を見直し、報酬体系の適正化を図る予定。過剰請求の是正と同時に、利用者の状態に応じた適切な支援が評価される仕組みが期待される。参考1)精神科の訪問看護、見直しへ 過剰請求受け、厚労省が実態調査(東京新聞)2)精神科訪問看護 見直し方針に期待と要望「良質な事業者評価を」(山陰中央新報)3)「ロレックスぐらいは買える!!」精神科の訪問看護最大手が社内LINEでハッパをかけた「売り上げ最大化」(共同通信)

377.

インフルワクチンがCVD患者の予後を改善~メタ解析

 心血管疾患患者では、インフルエンザワクチンの接種は全死亡、心血管死および脳卒中の低下と関連していることが、米国・Lehigh Valley Heart and Vascular Institute のRahul Gupta氏らによるシステマティックレビューおよびメタ解析で明らかになった。Cardiology in Review誌2024年9・10月号掲載の報告。 これまでの研究により、インフルエンザの予防接種を受けた高齢者では急性心筋梗塞のリスクが下がる可能性1)や、急性冠症候群治療中のインフルエンザワクチン接種によって心血管転帰が改善する可能性2)が報告されるなど、インフルエンザワクチン接種による心保護効果が示唆されている。そこで研究グループは、心血管疾患患者におけるインフルエンザワクチン接種による心血管系疾患の予防効果に関するエビデンスを深めるために、システマティックレビューおよびメタ解析を実施した。 研究グループは、インフルエンザワクチン接種の心血管転帰を評価した試験を同定するため、系統的な文献検索を行った。DerSimonian and Laird固定効果モデルおよびランダム効果モデルを用いて、すべての臨床的エンドポイントについてオッズ比(OR)および95%信頼区間(CI)を算出した。 主な結果は以下のとおり。●合計74万5,001例の患者を対象とした15件の研究が解析に含まれた。●インフルエンザワクチンを接種した群では、プラセボを接種した群と比較して、全死亡、心血管死および脳卒中のORが有意に低かった。 ・全死亡のOR:0.74、95%CI:0.64~0.86 ・心血管死のOR:0.73、95%CI:0.59~0.92 ・脳卒中のOR:0.71、95%CI:0.57~0.89●心筋梗塞と心不全による入院では有意な差は認められなかった。 ・心筋梗塞のOR:0.91、95%CI:0.69~1.21 ・心不全による入院のOR:1.06、95%CI:0.85~1.31

378.

重症インフルエンザに対する抗ウイルス薬の有効性(解説:小金丸博氏)

 入院を要する重症インフルエンザに対する抗ウイルス薬の有効性を評価したシステマティックレビューとネットワークメタ解析の結果が、Lancet誌2024年8月24日号に報告された。評価対象としたアウトカムは、症状改善までの期間、入院期間、ICU入院、侵襲的機械換気への移行、機械換気の期間、死亡、退院先、抗ウイルス薬耐性の発現、有害事象、治療関連有害事象、重篤な有害事象に設定された。季節性インフルエンザによる入院期間は、オセルタミビル(平均群間差:-1.63日、95%信頼区間:-2.81~-0.45)およびペラミビル(-1.73日、-3.33~-0.13)投与において有意な短縮を認めたものの、エビデンスの確実性は「低(low)」であった。ランダム化比較試験のデータが乏しく、死亡率など重要な患者の転帰に及ぼす効果について確実性の高いエビデンスは得られなかった。 インフルエンザは入院を要するウイルス性呼吸器感染症の重要な原因である。季節性インフルエンザの入院患者は、重症肺炎、呼吸不全、多臓器不全、二次的な細菌感染症などの合併症を発症し、死亡につながる可能性がある。インフルエンザで入院した成人の致死率は4~8%程度であるが、新型インフルエンザによるパンデミックの際や免疫不全の患者では致死率が高くなる場合がある(10~15%以上)。したがって、重症インフルエンザに対する効果的な治療法を特定することは、公衆衛生上重要な課題である。 ノイラミニダーゼ阻害薬などの抗ウイルス薬は、重症インフルエンザ患者に対して投与することが推奨されている。過去に報告されたシステマティックレビューとメタ解析では、ノイラミニダーゼ阻害薬による早期治療は、治療が遅れたり治療しなかった場合と比較して、死亡率の低下や入院期間の短縮につながる可能性があることが示唆されていた。ただし、重症インフルエンザに対して利用可能なすべての抗ウイルス薬治療を評価したネットワークメタ解析はなく、最適な抗ウイルス薬は不明であった。 本研究では8件のランダム化比較試験がシステマティックレビューに含まれ、そのうち6件がネットワークメタ解析の対象となった。重症インフルエンザで入院した患者において、オセルタミビルとペラミビルは標準治療またはプラセボと比較して入院期間を短縮する可能性が示されたが、含まれているランダム化比較試験の数が少なくデータが不足していたため、証拠の確実性は低いものであった。同様の理由で、すべての抗ウイルス薬が死亡率やその他の重要な患者の転帰に及ぼす影響を正確に評価することは困難であった。そのため、重症インフルエンザ患者に対する抗ウイルス薬の有効性を精密に評価するためには、十分な検出力を持つ臨床試験を行う必要があると述べられている。 本研究のLimitationとして、二次性細菌感染症やインフルエンザのタイプ(A型、B型)が結果に与える影響を評価することができなかったことや、小児および高齢者に対する抗ウイルス薬の有効性を検討できなかったことが挙げられる。また、本研究では重症インフルエンザ患者を対象としており、われわれが日常で診療することが多い外来レベルのインフルエンザ患者に対する抗ウイルス薬の有効性については言及できない。

379.

第230回 迫る自民党総裁選、立候補者の言い分は?(後編)

自民党総裁選は本日、ついに投開票が行われ、新総裁が決定する。与党の自民党と公明党が衆参両院の過半数を占めている現状では、当然ながら自民党総裁=日本国総理大臣となる。巷の報道では、議員票や党員・党友票、都道府県連票の票読みが行われているが、今回は上位2人による決選投票が確実視されているだけに、その段階で一気に票読みの困難度が増す。とりわけ自民党の総裁選は過去から権謀術数が渦巻く世界だ。現在の推薦人制による立候補となった1972年以降、決選投票となったのは3回。初めての決選投票は、1972年の田中 角栄氏vs. 福田 赳夫氏。第1回投票では第1位の田中氏と第2位の福田氏はわずか6票差だったが、決選投票では票差が92票まで開き、田中氏が総裁に選出された。残る2回のうち1回は2012年。この時は党員・党友票の過半数を獲得した石破 茂氏が1回目で安倍 晋三氏に58票もの差をつけて1位となったが、決選投票では逆に安倍氏が石破氏を19票上回り、逆転で総裁となった。ちなみに1972年以前の自民党でも決選投票が2回あり、1956年の初の決選投票では同じく1回目の1位、2位の逆転が起きた。この時勝利したのは石橋 湛山氏、逆転負けを帰したのは“昭和の妖怪”の異名を持つ安倍氏の祖父・岸 信介氏である。最も直近の決選投票は前回2021年の総裁選で1位の岸田 文雄氏と2位の河野 太郎氏の1回目の票差はわずか1票。これが決選投票では87票差となり、岸田氏が勝利した。このように概観するだけでも自民党総裁選は魔物である。さて誰が当選するのか? 前回紹介しきれなかった自民党総裁選候補者(五十音順)である小林 鷹之氏、高市 早苗氏、林 芳正氏、茂木 敏充氏の社会保障、医療・介護政策を独断と偏見の評価も交えながら紹介する。小林氏(千葉2区)今回、真っ先に出馬表明した小林氏だが、閣僚経験があるとはいえ、最も世間的には知名度が低かったのではないだろうか? 小林氏は東大法学部卒業後、旧大蔵省に入省。2010年に退官し、自民党の候補者公募に応募して2012年の衆議院で初当選して現在に至っている。大蔵省・財務省在籍中にはハーバード大学ケネディ行政大学院に留学し、公共政策学修士号を取得している。小林氏の特設ページでは、「世界をリードする国へ」をキャッチフレーズに掲げている。政策については直ちに取り組む3本柱とこれも含めたより詳細な7項目ごとの政策を披露している。前者では“02.暮らしを明るく:中間層「ど真ん中」の所得向上を実現”として以下の2点を挙げている。地方や若者も多く従事する介護・看護・保育従事者の賃上げ(「物価を超える処遇改善ルール」導入)。若年層の保険料負担軽減を図る「第3の道」の具体化。「社会保障未来会議(仮称)」立ち上げ。介護関係者などの賃上げは、ほかの候補者も挙げているが「物価を超える処遇改善ルール」とより具体的なのは小林氏だけである。もっとも現在の物価高騰を考えれば、介護報酬改定などでは相当な引き上げが必要になる。後者については小林氏の特設ページの7項目のうちの「V. 教育・こども・社会保障」では以下のように記述している(下線は筆者によるもの)。「社会保障未来会議(仮称)では、(1)データに基づく人的物的資源の適正配分、(2)ロボット、AI、アプリ等による健康管理、(3)健診・予防・リハビリ・フレイル対策・軽度認知症対策などの「健康づくり」とその行動や成果へのインセンティブ付与、(4)DX による効果的・効率的なサービスの提供を通じた費用の抑制に資する取組、などを通した医療・介護需要の低減を進めます。あらゆるアイデアをすべて俎上に載せ、国民の皆様とともに広く社会保障制度を考え、方向性を共有して、新たな時代の社会保障制度を作り上げます」DX(Digital Transformation)、EBPM(Evidence based policy making、エビデンスに基づく政策立案)、PHR(Personal Health Record)などを通じて、まずは需要そのものを適正化したいということらしい。もっとも日本記者クラブの候補者討論会では、「若い世代の社会保険料の軽減を主張していますが、財源はどこにあるんですか。結局、一定以上の所得・資産のある高齢者に負担を求める、かなり抵抗が強い方向になると思いますが、そういった覚悟はありますか」と問われたのに対し、前述の社会保障未来会議の説明を平たく語っただけでスルーしてしまっている。高齢者の負担増に関しては今の時点で単にかわしたか、あるいは念頭にあるからこそ敢えてかわしたかのどちらかではないだろうか? (ちなみに私は高齢者の負担増に反対ではない)この項では、ほかに以下のような政策を列挙している。家族等にとって大きな不安の源となる現役世代の怪我や疾病に対しサポート体制を築き、医療サービスの面からも現役世代を支えます。また、DXやイノベーションを通じ、健康医療分野でも世界をリードします。医師の地域偏在と診療科偏在を是正し医療へのアクセスを確保していきます。また、公的サービスの安定供給を前提に、医療法人等の経営改革も進めます。医療・介護・障害福祉等の人材確保を進めます。地域特性に応じた地域包括ケア体制を確立し、住み慣れた場所で生き生きと暮らせる社会の実現を目指します。あらゆるがん対策や研究支援を分野横断で進めると共に、腎疾患、アレルギー疾患等の重症化予防、移植手術の利用推進等に努めます。このなかで個人的に注目したのは2番目である。「医師・診療科の偏在是正」「医療法人等の改革」は若さゆえに繰り出せるパワーワードだろうか? これに手を突っ込めば、医療界、とりわけ日本医師会からの最強度の抵抗を受けることを小林氏は承知して言っているのか定かではない。むしろ、具体的にこれらをどのように実現したいかの詳細があれば、ぜひ聞いてみたいものである。また、これらとは別に「II.経済」では“創薬産業の競争力強化”を掲げ、そこでは「官民の連携を強化し、創薬のエコシステムと政府の司令塔機能を強化します。医療・介護分野のヘルスケアスタートアップを大胆に支援します。『ゲノミクスジャパン』を早期に構築し、ゲノム医療で世界と伍する創薬産業にします」と記述している。これについては7月30日に岸田首相の肝入りで開催された「創薬エコシステムサミット」に酷似した政策である。同サミットは医薬品産業を成長産業と位置付け、必要な予算を確保し、国内外から優れた人材や資金を集結させることで、日本を世界の人々に貢献できる『創薬の地』としていくというものだ。政策の大枠について異論はないが、現行では国際レベルと大きく差が開いた日本の創薬力を引き上げるのは容易ではない。また、コロナ禍中に開催された2020年4月3日の衆議院厚生労働委員会での小林氏の質疑を読むと、新型コロナウイルス感染症のワクチン、治療薬の国産を強く促しているが、失礼ながら製薬業界の現在地に対する理解はやや甘いようである。高市氏(奈良2区)意外と知られていないようだが、高市氏はもともと野党出身の政治家である。神戸大学経営学部経営学科卒業後、松下政経塾に入塾し、その資金提供を受けて米・民主党下院議員のもとで研修を積み、帰国後は日本経済短期大学(後の亜細亜大学短期大学部)助手に就任するとともに、テレビ朝日、フジテレビの番組でキャスターを務めた。テレビ朝日の番組では立憲民主党の前参院議員の蓮舫氏、フジテレビでは日本維新の会の参院議員の石井 苗子氏も同じ番組のキャスターだったのは、今となればなんと因果な巡り合わせかと思う。1992年の参院選・奈良県選挙区で自民党に公認申請をするも公認は得られず、無所属で出馬して落選。翌1993年には中選挙区時代の衆院選奈良全県区から再び無所属で出馬して初当選した。高市氏の当選時は折しも自民党が下野し、細川 護熙政権が発足した時期である。その後高市氏は、自民党を離党した柿澤弘治氏らが結党した自由党に参加。さらに非自民の自由改革連合(代表:海部 俊樹元首相)、新進党を経て、96年に新進党を離党して自民党に入党している。これまで衆院選は9選しているが、自民党入党以降は小選挙区で2度落選している(うち1度は比例復活)。さて安倍 晋三氏の秘蔵っ子とも言われるほど、自民党内でも保守色の強い政治家として知られる高市氏だが、特設サイトでは「日本列島を、強く豊かに。」とのスローガンを掲げている。このスローガンの下、総合的な国力を強化するための6項目のポリシーを掲げており、全体として経済、安全保障に関する高市氏の思考が背骨となっている印象だ。このため社会保障、医療・介護に関する政策もいくつかの項目に散らばっている。政策集を読むと、明らかにもっとも注力しているのは、ポリシー01の「大胆な『危機管理投資』と『成長投資』で、『安全・安心』の確保と『強い経済』を実現。」である。端的に言うと、積極的な財政出動で経済浮揚を図るという考え。そもそもご本人は昨今の日本銀行による利上げを「アホやと思う」とまでこき落としているほど積極財政論者である。そしてポリシー01では、さらに6つの詳細プランを提唱。プラン05の「健康医療安全保障の構築」では、以下のような政策が箇条書きで示されている。国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)が実施している「革新的がん医療実用化研究事業」「スマートバイオ創薬等研究支援事業」「医療機器開発推進研究事業」を促進します。AMEDが支援してきたiPS細胞由来の心筋細胞移植の臨床試験が大きく前進しました。「再生・細胞医療、遺伝子治療分野」における研究開発を推進し、その成果を早期に患者の皆様にお届けできるよう、取り組んでまいります。今後のパンデミックに備えるべき「重点感染症」の見直しと医薬品等の対応手段確保のための研究開発支援、有事において大規模臨床試験を実施できる体制の構築、緊急承認については新たな感染症発生時の薬事承認プロセスの迅速化に資する準備を進めます。CBRNEテロ(化学・生物・核・放射線兵器や爆発物を用いたテロ)の対策を検討する専門家組織を創設します。テロに悪用された微生物・化学物質などの特定と拮抗薬やターニケット(止血用の緊縛バンド)の使用が迅速に行われる体制の構築方法を検討します。「国民皆歯科健診」の完全実施に加え、PHRの活用と、「予防医療」や「未病」の取組へのインセンティブを組み込んだ制度設計を検討します。また、プラン06「成長投資の強化」では“工業製品、環境、エネルギー、食料、健康・医療など適用分野が広く、経済安全保障の強化にもつながる『バイオ分野の事業化・普及』に向けた取組を促進します”と謳っている。概観すると、成長が見込めそうな分野への財政出動を通じた徹底投資とそれに伴う製品の国産強化という方針だ。実はこの政策を列挙する前に「ワクチンや医薬品の開発・生産は、海外情勢に左右されてはならず、安全保障に関わる課題です。原材料・生産ノウハウ・人材を国内で完結できる体制を構築します」との基本的考えを示している。この辺は高市氏の保守色の強さを如実に表している。現在、世界水準からはかなり立ち遅れつつある創薬・バイオを安全保障の観点から捉えて強化する方針そのものに異論はない。むしろ日本に欠けているのは、安全保障の観点である。ただ、創薬・バイオは消費・貢献対象の多くが民生分野であり、安全保障視点が過度だと、逆に産業発展を阻害する面もある。また、コロナ禍での国政選挙の際の各政党の政策でも批判してきたことだが、創薬・バイオ技術のグローバル化が進展する今、国産にこだわり過ぎれば、国内での技術開発や社会還元はスピーディーさを欠く結果となる。ポリシー02「『全世代の安心感』を、日本の活力に。」で掲げているのは以下。私は、生涯にわたってホルモンバランス変化の影響を受けやすい女性の健康をサポートする施策の検討に平成25年に着手し、ようやく令和6年度新規事業として「『女性の健康』ナショナルセンター機能の構築」が開始されました。女性特有の疾患や不調について、予防・病態解明・治療・社会啓発の取組を推進します。人手不足の中でも就労時間調整の一因となっている「年収の壁」と「在職老齢年金制度」を大胆に見直し、「働く意欲を阻害しない制度」へと改革します。高齢者だけではなく、現役世代も将来に年金を受け取ることを踏まえ、年金に対する課税の見直しを検討します。物価が上昇する中で年金の手取りが減らないよう、公的年金等控除額の拡大を提案します。国民年金受給額と生活保護受給額の逆転現象を解消するため、低年金と生活保護の問題を一体的に捉えた新たな制度の在り方を検討します。ここに見える年金政策では、既存の制度内で負担と給付のバランスを取るというよりは、給付の拡充とそれによる消費拡大のほうに重点を置いているようだ。その意味で、高市氏は社会保障制度改革も経済政策の一環として捉える思考がほかの候補と比べても極度に強い「経済バカ一代」のような印象である。林氏(山口3区)旧大蔵相・旧厚生相を務めた林 義郎氏の長男。祖父・高祖父も衆院議員歴がある政治一家育ち。東大法学部卒業後、三井物産、サンデン交通(林家のファミリー企業)、山口合同ガスを経てハーバード大学ケネディ・スクールに入学、米・下院議員のスタッフや米・上院議員のアシスタントを経験した。父・義郎氏の大蔵相就任に伴い大学院を休学して帰国し、大臣秘書官を務めた(後に復学、修了した)。1995年の参院選で自民党公認として山口県選挙区で初当選し、同選挙区で連続5回当選。2021年の衆院選で鞍替えして当選。衆院議員としてはまだ1期目である。特設サイトでは「人にやさしい政治。」のキャッチフレーズの下で3つの安心を掲げる。このうちの1つ「底上げによる格差是正と、生活環境の改善・地域活性化を通じた、少子化対策」として「医療・介護DXの推進や医療・介護・福祉人材の処遇改善、医薬品の安定供給、医師の偏在是正、大学病院の派遣機能強化、歯科保健医療提供体制の構築、看護師確保対策などを推進します」と謳っている。概ねほかの候補と共通する政策だが、石破氏と同じく数少ない医薬品安定供給を掲げているほか、林氏の政策にのみ見られるのが「大学病院の派遣機能強化」である。もっとも後者に関して、そのためにどのようにするのかはわからない。また、日本記者クラブでの討論会では、林氏が出馬表明時にマイナ保険証に関して「皆さん納得の上でスムーズに移行してもらうための必要な検討をしたい」と述べたことの意味を問われた。以下は林氏の回答の要約である。林氏廃止という言葉でお伝えをしていたが、実際は新しい切り替えがなくなるということ。紙の保険証は12月3日以降、次の期限までは使え、その期限後は希望すれば資格確認書が発行される。聞くところによると、(資格確認証は)今の保険証とほぼ同じようなものであるとのことなので、私は廃止と言わずに新規発行がなくなることを丁寧に説明するだけで、かなりの不安は解消するのではないかと思っている。いや果たしてそうだろうか? デジタル慣れしていない高齢者などはそうかもしれないだろうが、若年者でマイナ保険証を躊躇する層は、これまでに明らかになったずさんな個人情報管理を問題視しているのが多数のように感じるのだが。この辺はやや危機感に欠けている印象は拭えない。茂木氏(栃木5区)東大経済学部卒業後、丸紅、読売新聞、マッキンゼー社を経て政界入りした茂木氏。政界入り前にはハーバード大学ケネディ行政大学院に留学し、行政学修士号も取得している。以前の立憲民主党代表選の時も触れたが、政界入りは政治改革を掲げた元熊本県知事の細川 護熙氏が立ち上げた日本新党を通じてであり、この時の当選同期が今回の立憲民主党代表に選出された元首相の野田 佳彦氏、野田氏と同代表選で決選投票を戦った枝野 幸男氏である(ほかに日本新党の当選同期は東京都知事の小池 百合子氏、名古屋市長の河村 たかし氏など)。日本新党が解党して新進党に合流した時に無所属となり、その後、自民党に入党して現在に至る。世間的には必ずしも知名度は高くないが、閣僚経験数は実は石破氏や高市氏よりも多い(もっともその多くは内閣府特命担当大臣ではあるが)。今回は「経済再生を、実行へ」をキャッチフレーズに掲げ、その下で6つの実行プランを掲げている。特設サイトを見ると、実行プラン3として「『人生100年時代』の社会保障改革 年齢ではなく経済力に応じた公平な負担へ」を謳っている。茂木氏の各実行プランは「何をする?」「具体的にどうする」の順で目指す政策の概念と具体的な施策を開示している点が特徴だ。実行プラン3の「何をする?」では、デジタル化で個々人の立場に応じた負担と給付へ。“余力のある人には払ってもらい、困難な人への負担軽減と支援拡大”。あらゆる世代が活躍し、生きがいを実感できる社会へ」とし、「具体的にどうする」では以下の3項目を列挙している。社会保障分野にデジタルを完全導入。“標準世帯”から“個々人のデータ”に基づく、負担と給付へ(標準報酬月額の上限も見直し)。在職老齢年金制度の見直しによる中高年層の労働意欲向上。給付手段の簡素化(スマホ搭載のマイナンバーカードにキャッシュレス決済機能を付与し、ここへの給付を可能に)。要はデジタル化で国民個々人の所得状況をガラス張りにし、そのデータを基に応分の負担を求めるということ。カッコ内でさらりと標準報酬月額上限の見直しに触れているが、前段で「余力のある人には払ってもらい」と書いている以上、上限見直しとは上限の引き下げ、すなわち高額所得者や高齢者を中心に保険料負担の引き上げを想定していると思われる。同時に年金の見直しの「中高年層の労働意欲向上」も聞こえを良くしただけで、素直に解釈すれば、給付開始年齢の引き上げや給付水準の引き下げで“労働意欲を持たざるを得ない”状況にするということではないだろうか?いずれにせよある程度“物は言い様”は確かだが、総理総裁を目指そうとするならば、それなりに意図していること臆せず表現する度胸も必要だと思うのだが…。さてさて9候補も紹介するとなると、なかなか骨が折れる。現時点での各社報道によると、上位3人は石破氏、小泉氏、高市氏だという。いずれにせよこの記事公開後、半日も経たずに日本の首相が決まることになる。

380.

第115回 レプリコンワクチンの誹謗中傷、許されるのか?

炎上する「レプリコンワクチン」10月から始まる新型コロナワクチン接種。その中でも注目を集めているのが、Meiji Seika ファルマが開発した次世代mRNAワクチン、通称「レプリコンワクチン」です。しかし、このワクチンを巡り、SNSではさまざまな議論が巻き起こっています。立場を明確にしておきますが、エビデンスもしっかりそろえたうえで承認となっているので、個人的には懸念していません。気になる点があるとすれば、このワクチンは1瓶で16人分の設定になっているため、個人接種よりも集団接種に向いている仕様だということです。さて、「レプリコン」というなじみのない名前が原因なのか、SNSではフルボッコで叩かれているように思います。思い出してみてください、メッセンジャーRNA(mRNA)ワクチンが登場したときも、RNAという言葉に対して「遺伝子が改変されるのでは?」といった誤解や不安が広がったことがありました。この手の不安や誤解に敏感な人たちが、コロナ禍を通して浮かび上がってきました。私がかつて尊敬していた医師でさえも、いつの間にか反ワクチン派に転じ、「ワクチン後遺症にイベルメクチンを」という主張を繰り返すようになりました。また、大学時代の恩師も、今年に入ってから「ワクチンはむしろ薬害だ」という発言をするようになり、驚きを隠せません。とくに懸念すべきは、こうした陰謀論を広めるのがただのSNSインフルエンサーではなく、政治家もその一部にいるということです。彼らはワクチンの仕組みを十分に理解していなくても、人々に納得感を与える発信力を持っています。販売元への誹謗中傷レプリコンとは「自己増幅能」と言う意味です。細胞内でRNAが増殖するため、少量投与によって新型コロナの免疫が引き出されるという仕組みです。タンパクを作り出すのであって、ウイルスそのものが増殖するわけではありません。そもそも、これを言い出すと、じゃあ生ワクチンはどうなるんだということになりますので…。いずれにしても生ワクチンとはまったく異なるもので、従来のmRNAワクチンよりも少ない成分量で高い中和抗体価を維持できる次世代型のmRNAワクチンと言えます。注射部位のmRNAは投与してから8日以降で急速に低下することから、安全性にはほとんど問題ないとされています。レプリコンワクチンによってウイルスが体外に放出されることに反対するコメントを出している団体もありますが、医学的にはワクチンを接種したことで他者に何か影響が起こるということは、起こりません。Meiji Seika ファルマも明確にこの現象を否定しています。「もう薬害」「周囲へ感染を広げる兵器」「原爆と同じ人を殺すもの」といった販売元に対する度が過ぎた誹謗中傷は、個人的には訴訟されるリスクを天秤にかけたほうがよいのでは…とも感じます。

検索結果 合計:5539件 表示位置:361 - 380