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COVID-19に対する中和抗体LY-CoV555の有効性は?/NEJM

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の外来患者へのSARS-CoV-2の中和抗体LY-CoV555投与について、2,800mg用量ではウイルス量を減少することが認められたが、他の用量では有効性が確認されなかった。米国・シダーズ・サイナイ医療センターのPeter Chen氏らが、進行中の第II相試験「Blocking Viral Attachment and Cell Entry with SARS-CoV-2 Neutralizing Antibodies trial:BLAZE-1試験」で事前に計画された中間解析(2020年9月5日現在)の結果を報告した。COVID-19は、多くの患者では軽症であるが、重症化し生命を脅かす可能性もある。ウイルス中和モノクローナル抗体は、ウイルス量を減らし、症状を改善し、入院を防ぐと予測されている。NEJM誌オンライン版2020年10月28日号掲載の報告。11日後のウイルス変化量で、3用量の有効性をプラセボと比較 研究グループは2020年6月17日~8月21日の期間に、軽症~中等症のCOVID-19外来患者467例を、中和抗体LY-CoV555群(700mg、2,800mg、7,000mg)またはプラセボ群に無作為に割り付け、それぞれ単回静脈内投与した。 主要評価項目は、ベースライン(SARS-CoV-2検査陽性判明時)から11日(±4)時点でのウイルス量の変化。ウイルス学的特性と症状に関するデータは29日目まで収集した。主要な副次評価項目は、安全性、患者報告による症状および転帰(COVID-19による入院、救急外来受診または死亡)であった。2,800mg投与群のみプラセボ群と比較してウイルス低下量が大 中間解析時点で、全例ではウイルス量(log10)のベースラインからの平均減少は-3.81で、ウイルスRNAの99.97%以上が除去された。 LY-CoV555の2,800mg投与群では、ベースラインからのウイルス変化量のプラセボとの差は-0.53(95%信頼区間[CI]:-0.98~-0.08、p=0.02)で、ウイルス量は3.4倍低下した。一方、700mg群(-0.20、95%CI:-0.66~0.25、p=0.38)、7,000mg群(0.09、95%CI:-0.37~0.55、p=0.70)では、ベースラインからのウイルス変化量についてプラセボとの差は認められなかった。 LY-CoV555群はプラセボ群と比較して、2~6日目の症状の重症度がわずかに低下した。COVID-19による入院または救急外来受診の患者の割合は、LY-CoV555群1.6%、プラセボ群6.3%であった。

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消化性潰瘍の予防法が明確に-『消化性潰瘍診療ガイドライン2020』

 消化性潰瘍全般の国内有病率は減少傾向を示す。しかし、NSAIDs服用患者や抗凝固薬、抗血小板薬服用患者の潰瘍罹患率は増加の一途をたどるため、非専門医による予防対策も求められる。これらの背景を踏まえ、今年6月に発刊された『消化性潰瘍診療ガイドライン2020』(改訂第3版)では、「疫学」と「残胃潰瘍」の章などが追加。また、NSAIDs潰瘍と低用量アスピリン(LDA:low-dose aspirin)潰瘍の予防に対するフローチャートが新たに作成されたり、NSAIDsの心血管イベントに関する項目が盛り込まれたりしたことから、ガイドライン作成委員長を務めた佐藤 貴一氏(国際医療福祉大学病院消化器内科 教授)に、おさえておきたい改訂ポイントについてインタビューを行った(zoomによるリモート取材)。消化性潰瘍診療ガイドライン2020で加わった内容 消化性潰瘍診療ガイドライン2020では、主に治療や予防に関する疑問をCQ(clinical question)28項目、すでに結論が明らかなものをBQ(background question)61項目、今後の研究課題についてFRQ(future research question)1項目に記載し、第2版より見やすい構成になっている。CQとFRQにはそれぞれ「出血性潰瘍の予防」「虚血性十二指腸潰瘍の治療法」に関する内容が加わった。佐藤氏は、「NSAIDs潰瘍やLDA潰瘍の治療、とくに予防においてはフローチャートに基づき、プロトンポンプ阻害薬(PPI)による適切な対応をしていただきたい」と話した。 続いて、高齢者診療で慢性胃炎、他剤の副作用回避のために処方されることが多いPPIやヒスタミン2受容体拮抗薬(H2RA)の長期処方時に注意すべきポイントについては、「PPI服用による、肺炎、認知症、骨折などの有害事象が観察研究では危惧されているが、昨年報告された3年間にわたるPPIとプラセボ投与の大規模無作為化試験1)で有意差が見られたのは腸管感染症のみだった。とはいえ、必要以上に長期にわたってPPIを投与するのは避けるべき」と漫然処方に対し注意喚起した。一方で、H2RAは、せん妄など中枢神経系の副作用が高齢者でみられることが報告され注意が必要なため、「PPIやH2RAの有害事象を今後のガイドラインに盛り込むかどうか検討していきたい」とも話した。消化性潰瘍診療ガイドライン2020で強く推奨された服用例 H.pylori陰性、NSAIDsの服用がない患者で生じる特発性潰瘍は増加傾向を示し、2000~03年の潰瘍全体の中の頻度は約1~4%であったのが、2012~13年には12%となっている。同じくLDA服用者において、Nakayama氏ら2)が2000~03年と2004~07年の出血性潰瘍症例を比較した結果、 LDA服用者の比率が9.9%から18.8% へと有意に増加(p=0.0366)していたことが明らかになった。この背景について、同氏は「LDA服用例に消化性潰瘍や出血性潰瘍の予防がなされていなければ、それらの患者はさらに増加する恐れがある。LDA服用例の出血性胃潰瘍症例は2000年代前半より後半で有意に増加したと報告されている」とし、「すでに循環器内科医の多くの方はPPIを用いた潰瘍予防を行っている。今後は消化性潰瘍既往のある患者はもちろん、既往のない場合は保険適用外のため個別の症状詳記が必要になるが、高齢者にはPPI併用による潰瘍予防策を講じていただきたい」と話した。消化性潰瘍診療ガイドラインでは、抗血小板2剤併用療法(DAPT)時にPPI併用による出血予防を行うよう強く推奨している。消化性潰瘍診療ガイドライン2020でおさえておきたい項目 今回の消化性潰瘍診療ガイドライン2020の改訂でおさえておきたいもう1つのポイントとして、「BQ5-13:NSAIDsは心血管イベントを増加させるか?」「CQ5-14:低用量アスピリン(LDA)服用者におけるCOX-2選択的阻害薬は通常のNSAIDsより潰瘍リスクを下げるか?」の項目がある。NSAIDsの心血管イベントの有害事象については、これまでナプロキセン(商品名:ナイキサン)服用者のリスクが低いとされてきた。しかし、今回の文献検討では必ずしもそうではなかったと同氏は話した。「潰瘍出血のNSAIDsとLDA服用例で、セレコキシブ(商品名:セレコックス)+PPI群とナプロキセン+PPI併用群の上部消化管出血再発を比較したRCT3)では、セレコキシブ群で再発率が有意に低く心血管イベントの発生には差を認めなかったため、LDA服用の心血管疾患例でNSAIDs併用投与時にはセレコキシブ+PPIが有用」と説明。また、セレコキシブの添付文書には心血管疾患者への投与は禁忌とあるが、これは冠動脈バイパス術の周術期患者のみに該当し、そのほかの心血管患者は慎重投与であることから、個々の患者の状態に応じた柔軟な治療選択を提唱した。消化性潰瘍診療ガイドライン2020の治療フローチャート このほか、消化性潰瘍の治療フローチャートには治療に残胃潰瘍、特発性潰瘍の診断が消化性潰瘍診療ガイドライン2020に追加された。残胃潰瘍とは、外科的胃切除術後の残胃に生じる潰瘍を示す病態だが、現時点では有病率のデータはない。同氏は「近年では残胃で潰瘍を経験するなど実臨床で遭遇する機会が増えているため、新たに章立てしフローチャートに追加した。胃亜全摘術後の胃と小腸の吻合部分の潰瘍は吻合部潰瘍として知られており、これまで吻合部潰瘍が取り上げられていた。しかし、吻合部だけでなく、残胃内に潰瘍が生じることが多いため、今回取り上げた。その中にはNSAIDs潰瘍もあるが、ピロリ陽性、陰性の潰瘍もある」とコメントした。 最後に佐藤氏は「日常診療において、ピロリ菌除菌時に処方される薬剤、とくにクラリスロマイシンは併用注意薬や併用禁忌薬が多い。そのため、患者の紹介を受けた際には常用薬に該当薬剤が含まれていないか注意しながら治療選択を進めている」と、消化器潰瘍の診察時ならではの見逃してはいけないポイントを話した。

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COVID-19回復者血漿療法は有益か/BMJ

 インドで行われた第II相多施設共同非盲検無作為化試験の結果、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)回復期患者の血漿を用いた治療は、COVID-19の重症化や全死因死亡の抑制と関連しないことが、インド・Indian Council of Medical ResearchのAnup Agarwal氏らにより報告された。2020年10月現在、COVID-19回復期血漿療法に関しては、複数の小規模ケースシリーズと1つの大規模観察試験(3万5,000例超)および3つの無作為化試験が発表されている。観察試験では臨床的有益性が示唆されたが、試験は早期に中止され、また死亡への有益性を確認することはできていなかった。BMJ誌2020年10月22日号掲載の報告。回復期患者血漿200mLを24時間間隔で2回投与 研究グループは、インドの成人で中等度COVID-19患者への回復期血漿治療の有効性について検討した。2020年4月22日~7月14日に、インド国内39ヵ所の公的および民間病院で、COVID-19が確認された18歳以上の患者464例を対象に試験を行った。被験者は、室内気でPaO2(動脈血酸素分圧)/FiO2(吸入酸素濃度)が200~300mmHg、または呼吸数24/分超かつ酸素飽和度93%以下だった。 235例(介入群)に標準的治療+回復期患者血漿投与を、229例(対照群)に標準的治療のみを行った。介入群には、回復期血漿200mLを24時間間隔で2回投与。中和抗体の出現と値の測定は事前に規定されていなかったが、試験終了時に保存検体の解析が行われた。 主要アウトカムは、試験登録後28日時点における重症(PaO2/FiO2<100mmHg未満)への進行または全死因死亡の複合だった。重症化・全死因死亡発生率は両群ともに18~19%と同等 試験登録後28日時点における主要複合アウトカムの発生は、介入群44例(19%)、対照群41例(18%)と両群で有意差はなかった(リスク差:0.008、95%信頼区間[CI]:-0.062~0.078)。リスク比は1.04(95%CI:0.71~1.54)だった。 結果を踏まえて著者は、「本試験は一般化可能性が高く、回復期血漿投与は検査体制が限られている現実の状況下で行われた」と述べるとともに、「回復期血漿投与を受ける側および提供する側双方の中和抗体価の先験的測定が、今後、COVID-19治療における回復期血漿の役割を明らかにする可能性はある」と提案している。

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HPVワクチン【今、知っておきたいワクチンの話】各論 第5回

ワクチンで予防できる疾患ヒトパピローマウイルス(human papilloma virus:HPV)ワクチンは、HPV感染と感染によって発症する疾患を予防する。その代表が子宮頸がんである。HPV感染は、女性では、子宮頸がんのほか、肛門がん、膣がん、外陰部がん、口腔咽頭がん、肛門性器疣贅(尖圭コンジローマ)、男性では、肛門がん、陰茎がん、口腔咽頭がん、肛門性器疣贅の原因となる。HPVはヒトのみに感染する2本鎖DNAウイルスで、性交渉によって感染する。HPV感染はほとんどが一時的で典型的には12ヵ月以内に消失するが、12ヵ月を超えて感染が持続した場合に、数年の経過でがんを発症することがある1)。HPVには200種類以上のジェノタイプがあり、ジェノタイプによって、がんの発症リスクと発症する疾患が異なる(表1)。子宮頸がんの発症リスクが高い高リスクなジェノタイプは16型と18型がよく知られている。子宮頸がんの組織型のうち、扁平上皮がん、腺がん、腺扁平上皮がんは、約70%が、高リスク群である16型と18型が原因となる。そのほかのジェノタイプ、31, 33, 45, 52, 58型を加えると、約90%を占める2,3)。表1 HPVジェノタイプと関連疾患画像を拡大する子宮頸がんは、持続的なHPV感染によって、前がん病変である子宮頸部上皮内腫瘍(cervical intraepithelial neoplasia:CIN)やadenocarcinoma-in-situを経て発症する。CINは、組織学的にCIN1、CIN2、CIN3の3つに分類され、がんの発症リスクと関連している。CIN1やCIN2は通常がんへ進行することはまれで、正常組織へ戻るほうが多いと報告されている。CIN1からCIN3への進行は1年で1%程度だが、CIN2からCIN3への進行は2年以内に16%、5年以内に25%と上昇する。さらに、子宮頸がんやadenocarcinoma-in-situへの進行は、CIN2とCIN3は、CIN1と比較すると4.2倍のリスクがある。異形成が重度になるほどがん発症のリスクは高まる8)。ワクチンの概要(効果・副反応・生または不活化・定期または任意・接種方法)1)ワクチンの効果HPVワクチンには2価ワクチン(Cervarix)、4価ワクチン(Gardasil)、9価ワクチン(Gardasil 9、2020年に日本承認されたものは商品名をシルガード9という)の3種類が存在する。それぞれカバーするHPVの型が異なり、2価ワクチンは16, 18型、4価ワクチンは6, 11, 16, 18型、9価ワクチンは6, 11, 16, 18, 31, 33, 45, 52, 58型をカバーする(表2)。16, 18型は子宮頸がんの原因の約70%を占め、31, 33, 45, 52, 58型で約20%を占めるため、9価ワクチンでは子宮頸がんの原因の約90%をカバーできる。表2 HPVワクチンとカバーするHPVジェノタイプ画像を拡大するHPVワクチン接種により、HPV感染、子宮頸がんの前がん病変であるCIN2〜3、adenocarcinoma-in-situ、尖圭コンジローマ、肛門感染が減少することが示されてきた9)。前がん病変を確認した後に子宮頸がんが発症するまで放置するのは非倫理的であり、こうした病変は切除される。よって、がんに進行する前段階であり外科的治療の対象となる高悪性度の前がん病変の発生がエンドポイントに設定された。これまで、子宮頸がんの減少を直接示した報告はなかったが、本稿執筆中(2020年10月)に子宮頸がんが減少することを示した研究が発表された10)。若年女性に対する4価ワクチンの効果を検討した“FUTUREII”というランダム化比較試験では、15〜26歳の女性に4価ワクチン接種を行ったところ、48ヵ月の追跡期間で、プラセボと比較して、HPV16型または18型に関連したCIN2〜3、adenocarcinoma-in-situを含む前がん病変発症が98%減少した。CIN2単独では100%、CIN3では97%、adenocarcinoma-in-situでは100%の有効率が示された11)。また、10〜30歳の女性を対象とした、4価ワクチンの効果を検討したスウェーデンのコホート研究では、ワクチン接種者と非接種者を比較した場合、年齢補正後の子宮頸がんの発生率比は、0.51(95% CI,0.32-0.82)、暦年・居住地や親の特徴を追加補正した後の子宮頸がん発症率比は、0.37(95% CI,0.21-0.57)であり、初めて子宮頸がんが減少することが示された。4価ワクチンを17歳未満で接種した方が、17〜30歳で接種した場合よりも、子宮頸がんの発症が減少した10)。27〜45歳女性に対する4価ワクチンの研究では、予防効果は、CIN≧2の高度異形成は83.3%、尖圭コンジローマは100%と高く、接種後少なくとも10年間の予防効果が示された12)。9価ワクチンについては、16〜24歳の女性において、9価ワクチンと4価ワクチンの効果を48ヵ月追跡し比較した研究で、ワクチン接種前のHPV感染の有無に関わらず、高悪性度の子宮頸部や外陰部および膣の疾患(CIN、adenocarcinoma-in-situ、子宮頸がん、外陰上皮内腫瘍、膣がんを含む)の累積罹患率は100万人あたり14人と同等であった。また、9価ワクチンでカバーできる高悪性度の31, 33, 45, 52, 59型関連疾患(CIN, adenocarcinoma-in-situ, 子宮頸がん, 外陰上皮内腫瘍, 膣がんを含む)の罹患率については、9価ワクチンは100万人年あたり0.1人で、4価ワクチンは100万人年あたり1.6人であり、9価ワクチンの有効率は96.7%と高いことが示された13)。2)ワクチンの副反応主に報告されているワクチン接種後の有害事象は、注射部位の疼痛、腫脹、紅斑、掻痒感、全身症状は、頭痛、発熱、悪心、めまい、倦怠感などである14)。9価ワクチン接種者15,776例では、頭痛2,090例(13.2%)、発熱955例(6.1%)、失神36例(0.2%)が報告され、重篤な副反応は少なく0.1%未満であった15)。また、2009〜2015年にワクチン有害事象報告システムに報告された4価ワクチンの副反応は、合計60,461,220回接種のうち19,720例(0.03%)報告され、失神が100万接種あたり47例、体位性頻脈症候群(postural orthostatic tachycardia syndrome:POTS)やギラン・バレー症候群が100万接種あたり約1例、複雑性局所疼痛症候群(complex regional pain syndrome:CRPS)が100万接種あたり0.28例報告された16)。日本では、副反応としてCRPS、POTSに類似する病態、記憶障害や見当識障害などの高次脳機能障害や認知機能障害の報告が相次ぎ、それらは2014年に入り、HPVワクチン関連神経免疫異常症候群(HPV vaccine associated neuropathic syndrome:HANS)と呼ばれるようになった。HPVワクチンと、副反応と報告された症状との因果関係を調べる目的で行われた名古屋スタディでは、中学3年生〜大学3年生の女性約7万人を対象にアンケートを実施し、月経不順、疼痛、倦怠感、記憶障害、歩行困難、四肢の脱力を含む24の症状に関してワクチン接種者と非接種者とで比較したところ、症状発現に差はなく、ワクチンとそれらの症状との因果関係は示されなかった17)。接種スケジュールわが国では、HPVワクチンは2013年4月に定期接種化されたが、その後、副反応の報告が相次ぎ、同年6月に接種の積極的な勧奨が一時差し控えとなった。しかし、現在でも、A類の定期接種ワクチンに含まれている。画像を拡大する日本では、小学6年生〜高校1年生相当の女性に2価または4価ワクチンの3回接種が推奨されている。接種のタイミングは、2価ワクチンでは、初回接種、初回接種後1ヵ月、6ヵ月、4価ワクチンでは、初回接種、初回接種後2ヵ月、6ヵ月となっている。最近では、2020年7月21日に9価ワクチンであるシルガード9が、日本で製造販売承認された。9価ワクチンは、いまだ日本では定期接種化されていない(2020年10月現在)。画像を拡大する世界保健機関(World Health Organization:WHO)や米国予防接種諮問委員会(Advisory Committee on Immunization Practices:ACIP)は図3のように9〜14歳の男女全員に最低6ヵ月あけて2回のワクチン接種(0、6〜12ヵ月)を推奨している(男性は4価と9価ワクチンのみ承認)。12〜15ヵ月以上はあけないこと、5ヵ月以内に2回目を接種した場合は、初回から少なくとも6ヵ月あけて3回目の接種を行うことを推奨している18)。HIV、悪性腫瘍、造血幹細胞移植後、固形臓器移植後、自己免疫性疾患、免疫抑制薬使用中などの免疫不全者や、15歳以上の場合には、3回接種(0、1〜2、6ヵ月)が推奨されている。当初は、すべての対象者に3回接種が推奨されていたが、9〜14歳の場合、2回接種(0、6ヵ月)と3回接種(0、1〜2、6ヵ月)では免疫原性に差がないことが示されたため、2014年にWHOは2回接種に推奨を変更した19-22)。最近では、子宮頸部の高悪性度病変の発症をエンドポイントとしたコホート研究が報告され、16歳以下で4価ワクチンを接種開始した女性において、1〜2回接種は、3回接種と同等にCIN3以上の高悪性度病変に対する有効性が示されている23)。また、2価または4価ワクチンで接種を開始した場合に、9価ワクチンでシリーズを終了することは可能となっている。ただし、2価または4価ワクチンを3回接種終了後に9価ワクチンを追加接種することは推奨されていない24)。27〜45歳については、HPVワクチン接種の推奨はない。ただし、感染していない型のHPVに対する新規感染を予防するメリットはあり、実際CIN、尖圭コンジローマを有意に減少されることは示されている25)。接種のメリットがある場合は、医師と話し合いの上、接種を行うことが考慮できるとなっている。図3 米国予防接種諮問委員会(ACIP)やWHOにおけるHPVワクチン接種スケジュール画像を拡大する日常診療で役立つ接種ポイント接種は、筋注で行う。まれに、失神の報告があることから、失神による転倒や怪我を予防するため、ワクチン接種は座位または臥位で実施し、接種後は座位で15分間経過観察するよう推奨されている。注意点は、妊婦に対する安全性は確立していないこと、接種の禁忌は、HPVワクチンでのアナフィラキシーの既往、出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae)のアレルギーがある。今後の課題・展望WHOは2030年までにすべての国で、子宮頸がんの罹患率を100,000人年あたり4人未満、子宮頸がんの死亡率を30%減少させることを目標として掲げている。そのため、諸外国ではHPVワクチンプログラムが立ち上げられ、HPVワクチンの接種が積極的に行われている。オーストラリアでは、2019年10月の報告で、子宮頸がんの発症率は、2014年で100,000人年あたり7.4人だが、2020 年までに 100,000人年あたり6人未満、2028 年までに 100,000人年あたり4人未満に減少し、2066年には 100,000 人年あたり1人未満という非常にまれながんになることが予想されている26)。一方、日本は、2017年の子宮頸がんの罹患率は、100,000人年あたり16.9人で、ワクチン接種率は1%未満といった現状である27)。最近、オーストラリアの研究グループは、日本が2013年6月から現在に至るまで、HPVワクチン接種を差し控えたことによる、子宮頸がん罹患数や死亡数への影響について報告した。1994〜2007年に生まれた女性(2002年生まれ以降の女性の20歳までのワクチン接種率は1%未満)に関して、生涯における子宮頸がん罹患数が80,200〜82,100人、死亡数が16,500〜16,800人のところ、もし、2013年のワクチン接種の差し控えがなく接種率が70%で維持されていた場合、罹患数は52,900〜57,500人、死亡数は10,800〜11,800人となり、それぞれ24,600〜27,300人、5,000〜5,700人減少すると推定された。また、今後2020年以降の接種率が70%に回復し、キャッチアップも行った場合には、罹患数は64,000〜67,300人、死亡数は13,100〜13,800人となり、14,800〜16,200人の発症と3,000〜3,400人の死亡を防ぐことが可能であると推測した28)。9価ワクチンのシルガード9が承認され、ようやくHPVワクチンに対して、再度社会が動き始めたようだ。しかし、実際のところ、定期接種であることの周知や、積極的なワクチン接種までは進んでいない。早急に接種の積極的な勧奨を再開し、将来的には、子宮頸がんで苦しむ人がいなくなることを期待している。参考となるサイトこどもとおとなのワクチンサイト1)Joel M Palefsk. 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今冬の流感予防接種の予定なしは6割/アイスタット

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行の中で、今冬のインフルエンザの流行を前に一般市民のインフルエンザの予防意識を探る目的で、株式会社アイスタット(代表取締役社長 志賀保夫)は、10月20日に「インフルエンザ予防接種に関するアンケート調査」を行った。 アンケートは、業界最大規模のモニター数を誇るセルフ型アンケートツール“Freeasy”に登録している会員で20歳以上の会員300人を対象に調査を実施したもの。調査概要 形式:WEBアンケート方式 期日:2020年10月20日 対象:セルフ型アンケートツール“freeasy”の登録者300人(20歳以上)インフルエンザの予防接種を阻む壁 「今までにインフルエンザに感染したことがあるか」の問いに「ある」が48.0%、「ない」」が52.0%という結果で、約半数の回答者にインフルエンザ感染の経験がなかった。 「(10月20日時点)予防接種を受ける予定はあるか」の問いに「受ける予定はまったくない」が38.7%と最も多い結果だった。また、「受けた/受ける予定」「今は受ける予定はない/予定はまったくない」ごとに足した割合でみると、「受けた/受ける予定」は37.3%、「受ける予定はない」は62.7%で、「受ける予定はない」が過半数を上回る結果だった。参考までに2019年の調査と比較すると「受ける予定はない」が9ポイント増加していた。 「予防接種を受けた/受ける予定」と回答した112名の「接種の理由」を聞いたところ、最も多かった理由は「今シーズンは新型コロナウイルスがあり、危機感を感じたから」が58.9%で、次に「インフルエンザに感染しても軽い症状ですむ、回復が早いから」が44.6%、「今シーズンは流行しそうなので」が20.5%と続いた。一方、「予防接種を受ける予定はない」と回答した188名に「接種しない理由」を聞いたところ、最も多かった理由は「値段が高い」が26.1%、「受けに行くのが面倒」が22.3%、「コロナ感染予防対策で予防できる」が21.8%と続いた。手洗い、マスク、うがいで健康を維持 回答者の健康状態について「日頃、風邪をひきやすい、体調を崩しやすい体質」かの問いでは、「はい」が26.7%、「いいえ」が73.3%の結果だった。回答者の約3割が風邪をひきやすい体質との回答だった。 これを踏まえ「最近1年間の感染症による症状」について聞いたところ、「風邪で37.5℃以上の発熱」が9.7%、「インフルエンザ」が5.7%、「出勤停止を伴う伝染病、ウイルス感染症」が2.3%、「COVID-19」が1.0%、「肺炎」が0.3%の回答であり、「いずれにもあてはまらない」が81.7%と8割を超える回答者がCOVID-19流行の中でも健康を維持していた。 「最近1年間で、日頃行っていること」の問いでは、「手洗い」が79.0%、「マスク着用」が77.0%、「うがい」が63.7%と続き、上位はCOVID-19予防対策の内容が占めた。 最後に回答者へ「平熱はいくつか」という問いでは、「 36.3℃~36.5℃」が42.3%で最も多く、「36.0℃~36.2℃」が31.7%、35.9℃以下が15.0%と続いた。 同社では今後も毎月定期的に定点調査を行い、その結果を報告するとしている。参考2020年11月 インフルエンザ予防接種に関するアンケート調査

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がん診療病院でのCOVID-19クラスター、その教訓は/日本癌治療学会

 市中感染が広がる状況下では、感染者が院内に入り込む可能性や病院内感染発生のリスクが常にある。リスクをいかに減らし、万が一予期せぬ感染者が発覚した場合にどのような対応が必要か、がん診療をどのように維持していけばよいのか。第58回日本癌治療学会学術集会(10月22~24日)で、「COVID-19蔓延期の癌治療―体験と教訓―」と題した会長企画シンポジウムが開かれ、がん診療を担う病院での今春からの経験、実施している対策が相互に共有された。本稿では、加藤 秀則氏(北海道がんセンター)、佐藤 悠城氏(神戸市立医療センター中央市民病院)による発表内容を中心に紹介する。北海道がんセンターでクラスターが発生した原因 北海道がんセンターでは、4月13日に消化器内科病棟で看護師1名と患者1名が発熱、翌日には同病棟勤務の看護師2名も発熱した。当時院内ではPCR検査が実施できなかったため、保健所を通じPCR検査を実施したところ、16日に4名で新型コロナウイルス陽性を確認。これを契機に、同病棟および隣接する泌尿器科(同フロア)の患者、勤務する看護師、医師らの間で集団感染が発生した。厚生労働省クラスター班による調査・指導等を経て、5月16日に看護師1名の感染が確認されたのを最後に、6月13日の終息宣言に至った。 北海道がんセンターの加藤氏は、クラスターが発生してしまった原因として下記を挙げている:・病院の収益を確保するため、病床稼働率を上げなければならず病棟は密な状態であった・がん患者はさまざまな病態で熱発していることも多く、最初からコロナ肺炎を疑わない症例も多い・がん患者はPSの悪いことも多く、看護師が密着せざるを得ない看護も多い・築40年程度経過した病院で全体にスペースも狭く、空調も悪く、陰圧室もない・PCR検査は市の保健所でしか実施できず、疑い症例を自由に、迅速に行える状況ではなかった 北海道がんセンターのクラスターの端緒となったと考えられる患者は感染発覚前に、消化器内科から泌尿器科の病室に移っており、その隣室患者および看護した看護師へと伝播していった。加藤氏は、「進行がんで看護必要度の高い患者さんが多く、主に看護師を通して伝播したと考えられる」と話した。感染者の中には清掃やリネン、放射線技師といった病棟横断的に業務を行う者も含まれており、院内感染防止の観点から注意が必要な部分と振り返った。 また、消化器内科病棟勤務で感染した看護師19名のうち、1回目のPCR検査で陽性となったのは13名。2回目が5名で、症状だけが続き4回目ではじめて陽性となった者も1名いたという。加藤氏は、PCR検査の感度、タイミングの問題も考えていかなければいけないと話した。北海道がんセンターでの感染対策の改善点 北海道がんセンターでは、外来・病棟それぞれにおいて、下記を中心とした感染対策の改善を行っている。[外来での改善点]・待合室の3密対策・入口を1ヵ所にしてサーモグラフィチェック・発熱者の隔離部屋を用意・採血室、外来化学療法室の増設・過密回避、外来診察室の医師と患者の間にスクリーンの設置・各受付にスクリーンの設置・CTなどの検査機器、X線照射装置、胃カメラ、ベッドなどは毎回消毒・電カル、キーボード、マウスのアルコールペーパーでの消毒など職員の衛生意識改善[病棟での改善点]・定期入院はすべて事前にPCRと肺CT検査を行い陰性者のみ入院・PCRは自院の装置、検査会社との契約により件数拡充・臨時入院は個室隔離し、PCR結果が出るまではPPE対応・病室は過密対策で稼働を50%にコントロール・看護師休憩室の増設・面会の全面禁止 また、復帰した医療者のメンタルケアの重要性を感じたと加藤氏。感染症から回復して復帰しても、精神的に回復するまでには時間を要したという。「プライバシー保護にも配慮が必要であるし、回復には時間がかかる。専門の心理療法士に依頼し、病院全体を挙げてのケアの必要性を感じた」と話した。神戸市立医療センター中央市民病院の院内感染の原因 神戸市立医療センター中央市民病院は、地域がん診療拠点病院であるとともに第一種感染症指定医療機関で、神戸市でCOVID-19が初発した3月上旬より、約200例のCOVID-19患者を受け入れている。うち、7例が院内感染によるもの。佐藤氏は、院内感染発生の原因として、1)COVID-19患者の在院日数の長さ、2)ゾーニングの問題、3)強い感染力を挙げて考察した。 1)については、酸素投与を要した患者における在院日数の中央値は31日、ICU在室日数の中央値は9日と長く、病床がひっ迫していた状況があった。2)10床の感染症病床(陰圧個室)を有し、専門看護師が感染者の看護に従事していたが、ナースステーションと休憩室は一般病床を担当する看護師と共通で、ここで医療従事者間での感染が起こったと推測される。3)同院での院内感染の伝播において重要な役割を果たしたと考えられる患者は、透析患者で当初感染が疑われておらず、せん妄があったことなどからナースステーションでの大声での発話などがあり、PCRでは高ウイルス量が検出されるなどの因子が重なって、複数の医療従事者の感染につながったことが推測される。多いCOVID-19疑似症、対策はあるのか 神戸市立医療センター中央市民病院では、ビニールシートによる職員の保護等ゾーニングの徹底や、全例PCRを実施する入院前検査のほか、COVID-19合同診療チームを立ち上げて対策にあたっている。重症例はICUで一括管理できるものの、軽症~中等症例はICUを出た後各科の持ち回りになるため、1人の医師が感染者と非感染者の診療を行うことに対するリスクを減らすため、このチームが立ち上げられた。全科から選抜、各科業務を完全に外れ、2週間勤務後1週間の自宅待機を経て復帰する。 2月はじめから院内感染により病院が機能停止した4月中旬までの約2ヵ月半で、救急外来と感染症外来を受診したCOVID-19疑似症患者は286例に及ぶ。そこで同院では、感染拡大期には感染疑い病棟を設置。PCR検査が陰性であっても、類似症状や胸部異常影がある患者についてはいったん同病棟に収容し、担当医も分ける形をとるようにした。感染対策解除基準のフローを作り、どうしても臨床的な疑いが解除できない患者においては何度でもPCR検査を行い、それまで感染症対応を解除しないという方法をとっている。「今後のがん診療では、COVID-19疑似症の対応は必須になるのではないかと考えている」と佐藤氏。胸部CTにおいて、一見器質化肺炎が疑われた患者でCOVID-19陽性であった例や、末梢側のすりガラス影がみられる患者で薬剤性肺障害であった例など、いくつか自験例を示して解説した。 自院の症例約100例でCOVID-19と薬剤性肺障害の背景因子を後ろ向きに比較した結果では、COVID-19症例では陰影のある肺葉数が多いという傾向はみられたものの、大きな臨床所見の差はみられなかった。呼吸器内科医としては、今後これらの鑑別をしっかり行っていかなければならないと話し、またCOVID-19後遺症として罹患後に間質陰影を呈した肺がん症例での治療再開の判断の難しさにも触れ、後遺症に関してもエビデンスの蓄積が待たれるとした。

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第32回 体調の変化からCOVID-19を割り出す試験が良好な滑り出し

今年初めの調査によると米国成人の今や5人に1人(21%)がFitBit(フィットビット)等の活動量計や多機能腕時計(スマートウォッチ)を身に付けています1)。そのような体調記録ウェアラブル装置(wearable fitness devices)のデータを新型コロナウイルス感染(COVID-19)同定に役立てることを目的の1つとして今春3月に始まった米国での試験(DETECT)の最初の解析で有望な結果が得られました2,3)。試験は基本的に来る者拒まずで、それらの体調記録に加えて自覚症状と検査結果を収集するスマートフォンアプリMyDataHelpsをダウンロードした米国在住成人なら誰でも参加できます。6月7日までに試験に参加した今回の解析対象成人30,529人のうち3,811人(12.5%)にCOVID-19が疑われる症状が認められ、それら有症者のうち54人は検査で感染が確認されたと報告し、279人は感染していなかったと報告しました。データ解析の結果、睡眠や運動量はどうやらCOVID-19の影響を受けると示唆され、それらに加えて心拍数情報も加味した有症者のCOVID-19判定は8割が正解(80% prediction accuracy)でした。DETECT試験は進行中で、やがては10万人以上が参加する予定です。有症者のCOVID-19判定の精度改善に加え、無症状の人の感染同定も可能にすることをScripps Researchの研究チームは目指しています。COVID-19流行を食い止めるには感染者を早期に発見して必要な対策を早めに講じる必要がありますが、世に出回っている検査は発症前や無症状の感染者をしばしば見落とします。そのような現状を打破すべく、感染をむしろより拡げる恐れがある発症前や無症状の感染者をいち早く同定する予想法の開発を最終的な目標としていると今回の報告の筆頭著者Giorgio Quer博士は言っています。Quer博士はDETECT試験を立ち上げた米国研究所Scripps Researchの人工知能(AI)分野のリーダーです。DETECT試験への参加者は米国のどの州からも集まっており、感染集中地域を早期に突き止める広域の流行食い止め対策にも貢献すると研究者は考えています。試験は広がりを見せており、患者と直に接していて感染の恐れが大きい医療従事者や交通機関従業員のデータを集める取り組みも始まっています4)。参考1)About one-in-five Americans use a smart watch or fitness tracker/Pew Research Center2)Quer G, et al. Nat Med. 2020 Oct 29. [Epub ahead of print]3)Early results from DETECT study suggest fitness trackers and smartwatches can predict COVID-19 infection/Scripps Research4)Scientists partner with San Diego transit and health workers to study wearable devices for detecting COVID-19/Scripps Research

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第29回 厚労白書、今後20年間の見通しにつきまとう新型コロナの影響

<先週の動き>1.厚労白書、今後20年間の見通しにつきまとう新型コロナの影響2.オンライン診療、初診は「かかりつけ医」限定に3.医療計画の中間見直し、病院の入院機能だけでなく外来機能も再編へ4.特定行為看護師、外国人患者のサポート体制も広告可能に5.今年5月以降、介護事業所の経営状況は依然として悪いまま1.厚労白書、今後20年間の見通しにつきまとう新型コロナの影響10月23日の閣議において、田村厚労大臣は、令和2年度の厚生労働白書を報告した。第1部のテーマは「令和時代の社会保障と働き方を考える」と題され、平成の30年間を振り返りつつ、高齢化がピークを迎える2040年頃を見据えて、「人生100年時代」「担い手不足・人口減少」「新たなつながり・支え合い」「生活を支える社会保障制度の維持・発展」という4つの方向性に沿った対応の必要性を提示した内容となっている。2019年現在の人口1億2,617万人は、今後2040年には1億1,092万人へと減少し、働き手や支え手が不足する中、85才以上の高齢者が592万人から1,024万人に急増する見通しのため、社会保障費の増大は避けられない。今後の対応について、医療介護分野ではイノベーションの推進や、国民が安心できる持続可能な医療・介護の実現などが求められる。(参考)令和2年版 厚生労働白書-令和時代の社会保障と働き方を考える-〔概要〕(厚労省)令和2年版厚生労働白書-令和時代の社会保障と働き方を考える-〔本文〕(同)2.オンライン診療、初診は「かかりつけ医」限定に政府が進めているオンライン診療の恒久化について、10月30日の閣議後記者会見で、かかりつけ医については、初診のオンライン診療を認める方針が明らかになった。これまで、菅内閣発足直後から田村厚労相、河野太郎規制改革担当相、平井卓也デジタル改革担当相で協議を重ね、オンライン診療の初診解禁について合意がなされていた一方で、日本医師会はこれまで診療履歴のない新規の患者の診察についてはオンライン診療を認めないよう求めていた。今後、かかりつけ医の具体的な要件や対象疾患などを有識者会議で議論し、年内には一定の方向性を示すとしている。(参考)オンライン初診「かかりつけ医」限定 田村厚労相、恒久化へ向け方針(毎日新聞)田村厚生労働大臣記者会見概要 令和2年10月30日(厚労省)3.医療計画の中間見直し、病院の入院機能だけでなく外来機能も再編へ厚労省は、10月30日に「第22回医療計画の見直し等に関する検討会」をオンライン開催し、外来機能の明確化・連携、かかりつけ医機能の強化等について討議を行った。地域医療計画は従来5年ごとに策定だったが、2014年の地域医療介護総合確保法(地域における医療及び介護の総合的な確保を推進するための関係法律の整備等に関する法律)により6年おきに策定となり、2018年の診療報酬・介護報酬のダブル改定に合わせて、第7次医療計画がスタートした。2020年は中間見直しの年であり、現在のコロナウイルス感染拡大により局所的な病床不足の発生や感染症対応も含めた医療機関の役割分担・連携体制の構築が必要になるなど、地域医療計画の見直しを求める声が上がっている。各地で人口減少や高齢化等により「担い手の減少」と「需要の変化」が進み、外来医療の高度化等も進んでいく中で、入院医療だけでなく、外来医療についても再編の議論が必要となっている。今後、「医療資源を重点的に活用する外来」の定義をした上で、「外来機能報告」(仮称)の対象となる医療機関の範囲についてさらに議論を進め、年内には医療部会に取りまとめた検討結果を報告する見込み。地域によってはコロナウイルス感染により医療機関への受診抑制もあり、医療機関の再編が来年度以降大きく動き出す可能性がある。(参考)第22回 医療計画の見直し等に関する検討会(オンライン会議)(厚労省)4.特定行為看護師、外国人患者のサポート体制も広告可能に厚労省は「第16回 医療情報の提供内容等のあり方に関する検討会」を10月29日に開催し、医療機関が広告可能な事項として、特定行為研修を修了した看護師に医師の業務を移管していることも広告可能とする方針が了承された。また、2021年のオリンピック開催に合わせて、外国人患者についても対応できる外国語の種類や翻訳器など、サポート体制も医療機能情報提供制度を通して告示可能となる。(参考)第16回医療情報の提供内容等のあり方に関する検討会資料(厚労省)5.今年5月以降、介護事業所の経営状況は依然として悪いまま10月30日に厚労省が公開した「経営実態調査」で、コロナウイルス感染拡大により、介護事業者の経営状態が依然として悪いことが明らかとなった。新型コロナウイルス感染症の流行前と比較して「悪くなった」と回答した事業所の割合は5月で47.5%、感染が落ち着いた10月で32.7%となり改善したものの、通所リハビリテーションなど通所系のサービス事業者がとくに影響を受けていた。元々、介護事業者にとって人材確保が課題であり、人件費が増加(平成30年度から+0.4%)したが、コロナの影響で保健衛生費(マスク、手袋などの購入費)が増えるなど、経費が増加しており、さらにサービス利用者の減少なども影響していると見られる。(参考)介護事業所 経営悪化5割に 通所系で顕著 厚労省調査(日本農業新聞)第190回 社会保障審議会介護給付費分科会資料(厚労省)第31回社会保障審議会介護給付費分科会介護事業経営調査委員会(同)

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FLT3-ITD変異陽性AML、同種移植後のソラフェニブ維持療法が有用/Lancet Oncol

 FLT3-ITD変異陽性急性骨髄性白血病(AML)患者における、同種造血幹細胞移植後のソラフェニブ維持療法について中国で行われた第III相試験の結果が示された。これまでに、移植後ソラフェニブ維持療法が再発を減少することは、後ろ向き研究で示されている。今回、中国・南方医科大学のLi Xuan氏らは、中国国内7施設にて無作為化非盲検試験を行い、移植後のソラフェニブ維持療法は再発を減少させ、忍容性は良好であることを明らかにした。結果を踏まえて著者は、「この戦略は、FLT3-ITD変異陽性AML患者の適切な治療選択肢となりうるだろう」とまとめている。Lancet Oncology誌2020年9月号掲載の報告。 試験は2015年6月20日~2018年7月21日に、中国国内7病院で行われた。対象は、同種造血幹細胞移植を受け移植前後に複合完全寛解が得られ、移植後60日以内に造血機能が回復した、ECOG PSが0~2、18~60歳のFLT3-ITD変異陽性AML患者202例。 患者を無作為に2群に割り付け、ソラフェニブ維持療法(400mgを1日2回経口投与)群(100例)と非維持療法(対照)群(102例)を移植後30~60日目に行った。 主要評価項目は、intention-to-treat集団における1年累積再発率であった。 主な結果は以下のとおり。・移植後の追跡期間中央値は、21.3ヵ月であった。・1年累積再発率は、ソラフェニブ維持療法群7.0%、対照群24.5%であった(HR:0.25、95%CI:0.11~0.57、p=0.0010)。・移植後210日以内の主なGrade3/4の有害事象は、感染症(ソラフェニブ維持療法群25% vs.対照群24%)、急性移植片対宿主病(GVHD)(23% vs.21%)、慢性GVHD(18% vs.17%)および血液毒性(15% vs.7%)であった。・治療に関連した死亡は報告されなかった。

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未治療Ph陽性ALLへのダサチニブ+ブリナツモマブ、第II相試験結果/NEJM

 フィラデルフィア染色体(Ph)陽性急性リンパ性白血病(ALL)成人患者の1次治療において、分子標的・免疫療法戦略に基づくダサチニブ+ブリナツモマブによる、化学療法薬を用いない寛解導入・地固め療法は、分子遺伝学的奏効の達成割合および生存率が良好で、Grade3以上の毒性は少ないことが、イタリア・Sapienza University of RomeのRobin Foa氏らGIMEMA共同研究グループが実施した「GIMEMA LAL2116 D-ALBA試験」で示された。研究の成果は、NEJM誌2020年10月22日号に掲載された。Ph陽性ALL患者の予後は、ABL特異的チロシンキナーゼ阻害薬(TKI)の登場によって著明に改善し、全身化学療法併用の有無を問わず、ほとんどの患者で血液学的完全奏効が得られている。ダサチニブは複数のチロシンキナーゼを標的とするTKIであり、ブリナツモマブはB細胞のCD19とT細胞のCD3に二重特異性を有する遺伝子組み換えモノクローナル抗体である。ダサチニブ+ブリナツモマブの分子遺伝学的奏効を評価 研究グループは、新たにPh陽性ALLと診断された成人(年齢の上限はない)を対象に、ダサチニブ+ブリナツモマブの第II相単群試験を行った(Associazione Italiana per la Ricerca sul Cancroなどの助成による)。 被験者は、寛解導入療法としてダサチニブ(140mg、1日1回)の85日間の投与を受けた後、地固め療法としてブリナツモマブ(28μg/日)の投与を2サイクル受けた(最大5サイクルまで許容された)。ブリナツモマブの各サイクルの投与前にデキサメタゾン(20mg)が投与された。ダサチニブは、ブリナツモマブ投与中および投与後も継続投与された(T315I変異陽性例を除く)。 主要評価項目は、治療後の骨髄における持続的な分子遺伝学的奏効(分子遺伝学的完全奏効、微小残存病変の定量化が不能な奏効)とした。ダサチニブ+ブリナツモマブの分子遺伝学的奏効率は60% 2017年5月~2019年1月の期間に、63例(年齢中央値54歳[範囲24~82]、女性34例[54%])が登録された。このうち98%(62/63例)で完全寛解が得られた。 ダサチニブによる寛解導入療法の終了時(85日)に、患者の29%(17/59例)で分子遺伝学的奏効が達成された。この割合は、ブリナツモマブの2サイクル投与後に60%(33/55例)まで上昇し、投与サイクル数が増えるに従ってさらに上昇した(3サイクル:70%[28/40例]、4サイクル:81%[29/36例]、5サイクル:72%[21/29例])。 追跡期間中央値18ヵ月の時点で、全生存率は95%、無病生存率は88%であった。無病生存率は、IKZF1欠失に加え他の遺伝子異常(CDKN2AまたはCDKN2Bと、PAX5、あるいはこれら両方の異常[IKZF1plus])を有する患者で低かった。ダサチニブによる寛解導入療法中に微小残存病変が増加した6例でABL1の変異が検出され、これらの変異はすべてブリナツモマブにより消失した。再発は6件発生した。 全体で、28例に60件の有害事象が発現した。Grade3以上の有害事象は21件であり、サイトメガロウイルス再活性化/感染症(6例)、好中球減少(4例)、持続性発熱(2例)、胸水(1例)、肺高血圧症(1例)、神経学的障害(1例)が含まれた。24例が同種造血幹細胞移植を受け、1例(4%)が移植関連で死亡した。 著者は、「患者アウトカムは年齢を問わずきわめて良好で、移植関連死が少なかった。予想に反して、サイトメガロウイルス再活性化の頻度が高かったが、この現象はダサチニブ投与例の以前の研究で報告されている」としている。

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受診控え抑制へ、佐々木希が医療機関の「安心マーク」啓発/日本医師会

 導入に向けた検討が進む初診からのオンライン診療の恒久化について、日本医師会では10月28日の定例記者会見で、導入にあたり明確化すべき点、環境整備が必要な点について考え方を示した。同じく議論されている後期高齢者の患者負担引き上げについては、引き上げには反対の立場を示している。また、受診控え対策として医療機関で掲出する「みんなで安心マーク」の国民への周知を目的としたPR動画の発表が行われた。受診歴なく、かかりつけ医からの情報提供もない新患は「不可」の立場 中川 俊男会長は日本医師会の基本的なスタンスとして、オンライン診療は解決困難な要因によって医療機関へのアクセスが制限されている場合に、補完的な役割を果たすものという考え方を示した1)。そのうえで、下記の考え方により実施されるのが望ましいとした:1)定期的な医学管理を行っている患者に対して、かかりつけ医の判断により、オンライン診療を適切に組み合わせる。2)受診歴のある広い意味でのかかりつけの患者に対しては、対面診療と同等以上の安全性・信頼性が確認される場合に、医師の判断により、一時的にオンライン診療で補完する。3)受診歴がなく、かつかかりつけ医からの情報提供もない「新患」は不可。ただし明確な判断基準の策定・合意の下で可とするケースもあり得る(例:禁煙外来や緊急避妊等)。4)自由診療は、「オンライン診療指針」あるいは別の規定により厳格な運用が必要。5)上記にオンライン服薬指導を組み合わせるかどうかは別途個別に判断する。医師のプライバシー保護や民間の高額サービスの存在など、環境整備を求める さらに、オンライン診療を実施するにあたり医師側に生じうる不安として、1)医療訴訟の不安、2)医師のプライバシー流失の不安、3)オンライン診療システム利活用への不安を挙げ、取り除くための環境整備の必要性を訴えた。2)については、オンライン診療の動画をSNSに無断でアップされること等が起こり得、実際にすでに女性医師が被害にあっているという指摘があると説明。3)については、高額なサービスや過剰なサービスの契約に追い込まれるケースがあり、業界の協力が不可欠との考えを示した。 また、現在は民間業者を主体にサービスが提供されている「オンライン健康相談」についても、国としての定義の明確化が必要として、ガイドラインの策定を求める姿勢。医師が診察とは別に「オンライン健康相談」を実施することについても整理が必要として、混合診療にあたらないことの確認、ルールの明確化が必要との認識が示された。後期高齢者の患者負担割合はすでに十分高いとの認識 政府が引き上げを検討する後期高齢者の医療費患者負担割合については、年齢とともに1人当たり医療費が上昇し、75歳以上では患者負担額が6.4~9.0万円とすでに十分高いと指摘(30代は2.6~2.9、40代は3.3~4.0、50代は5.0~6.2、60代は7.6~8.9万円)。応能負担(収入や所得に応じた負担)は現役世代に比べてさらに大きくなる2)。 患者負担割合の引き上げにより、受診控えや必要な医療の断念につながる懸念から、応能負担は「可能な限り広範囲」ではなく「限定的に」しか認められないという認識を示した。 また、同会では感染防止対策を徹底している医療機関に対して、「新型コロナウイルス感染症等感染防止対策実施医療機関 みんなで安心マーク」を発行しているが、佐々木 希さんが出演したその国民啓発用ビデオが公開された3)。同マークの発行は日本医師会会員に限らず、日医ホームページから、感染防止対策セルフチェックリストのすべての項目を実践していることを回答した場合に発行され、各医療機関での掲示用に活用できる。

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糖尿病患者データ管理システム「リブレView」提供開始

 2020年10月29日、アボットジャパン合同会社は、クラウドベースの糖尿病患者データ管理システム「リブレView」を糖尿病患者と医療従事者向けに提供開始したことを発表した。本システムにより、FreeStyleリブレで記録された全グルコースデータを、紙や電子記録でやり取りせずに、安全なクラウドシステムを介して医療従事者と共有可能になる。また、新型コロナウイルス感染症流行下で病院への定期訪問に慎重な患者にも、最新データに基づく患者指導や診療が可能になるという。 本システムを利用するメリットとして、患者側は、FreeStyleリブレのリーダーに記録された全グルコースデータをノートパソコンなどからクラウドベースのリブレViewシステムにアップロードすることにより、印刷して持参する必要がなくなる。医療従事者側は、グルコースデータを経時的に参照することで、患者の健康状態に基づいたより適切な糖尿病管理を支援できる。また、リブレViewで複数患者のグルコースデータの一元管理が可能となり、さらなるモニタリングと支援が必要となり得る患者を優先して治療することが可能となる。 現在、新型コロナウイルスへの感染機会を減らすためにオンライン診療の導入が進んでいる。東京慈恵会医科大学の西村 理明氏は、「今後はデジタルデータを積極的に活用し、医療従事者が患者さんの糖尿病の管理状況についての詳細なデータにアクセスしつつ、オンライン上で糖尿病患者さんへの医学的な指導を行うなど、診療のオプションを増やさざるを得なくなると考えている。リブレViewでは、過去のグルコースデータの測定値について比較・参照することができるため、医療従事者は詳細な情報を把握して、患者さんをより適切にフォローすることが可能になる」と述べている。

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COVID-19の入院/死亡の新予測アルゴリズムが有望/BMJ

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による入院と死亡を予測するリスクアルゴリズム「QCOVID」は、良好に機能し識別能は非常に高いことが認められた。英国・Radcliffe Observatory QuarterのAsh K. Clift氏らは、成人COVID-19患者を含む患者データを用いたコホート研究により「QCOVID」を開発し、検証結果を報告した。これまでに論文発表されたCOVID-19のリスク予測モデルは、バイアスリスクが高く、実臨床に適用する際には信頼できない可能性があることが懸念されていた。今回のリスクアルゴリズムについて著者は、「提示された絶対リスクは、SARS-CoV-2感染率やソーシャルディスタンスの取り方などに応じて時間とともに変化する可能性があるので、解釈には注意すべきである」と述べたうえで、「本モデルは、異なる期間で再較正することができ、流行拡大に合わせて動的にアップデートされる可能性がある」としている。BMJ誌2020年10月20日号掲載の報告。英国の608万人のデータからリスクアルゴリズムを開発、217万人で検証 研究グループは、英国のプライマリケア1,205施設のデータベースで、COVID-19検査結果、Hospital Episode Statisticsおよび死亡登録データとも連携しているQResearchを用い、19~100歳の成人608万人を開発コホート、217万人を検証コホートに組み込み解析した。 開発コホートおよび第1期検証コホートは2020年1月24日~4月30日、第2期検証コホートは2020年5月1日~6月30日をそれぞれ試験期間とした。 主要評価項目は、COVID-19(確定または疑い)による死亡までの期間で、2020年1月24日~4月30日にSARS-CoV-2感染が確認された人における死亡診断または死亡発生と定義した。また、副次評価項目は、SARS-CoV-2感染確定による入院までの期間とした。 開発コホートにモデルを適合し、各種予測変数を用いてリスク方程式を導き出し、各検証コホートで識別および較正の性能を評価した。「QCOVID」の識別能および較正能は良好 追跡期間中、COVID-19による死亡は、開発コホートで4,384例、第1期検証コホートで1,722例、第2期検証コホートで621例発生した。最終的なリスクアルゴリズムには、年齢、人種、貧困、BMIおよびさまざまな併存疾患を組み込んだ。 このアルゴリズムは、第1期検証コホートにおいて較正精度は良好であることが示され、男性COVID-19患者の死亡に関して、死亡までの期間の変動の73.1%(95%信頼区間[CI]:71.9~74.3)を説明した。D統計量は3.37(95%CI:3.27~3.47)、Harrell’s Cは0.928(95%CI:0.919~0.938)であった。女性について、また両転帰および両期間においても、同様の結果が得られた。 予測死亡リスクが最上位5%の患者では、97日以内の死亡を特定する感度は75.7%であった。また、予測死亡リスクの上位20%の患者が、COVID-19による全死亡の94%を占めた。

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普段から気を付けたい身体診察のうっかり/日本感染症学会

 第94回日本感染症学会総会・学術講演会(会長:館田 一博氏[東邦大学医学部 教授])が、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行下、8月19日~21日の期日でインターネット配信との併用で東京にて開催された。 本稿では、特別企画「感染症を究める」より徳田 安春氏(群星沖縄臨床研修センター長)の「診察」の概要をお届けする。時にリスクとなる抗菌薬 「感染症です」と外来に訪れる患者はいない。その多くは「熱っぽい、だるい、寒気がする」などの訴えから医師が知識と経験を通じて総合的に診断をする。徳田氏の講演では、こうした診断の際に忘れがちなポイントや見落としやすい身体部位などについて症例を交え、レクチャーを行った。以下にレクチャーされた症例を抜粋して紹介する。 はじめに2つの表情の画像を並べ顔貌から読み取れる身体の不調を示し、“General appearance”から患者の全身状態を診る重要性を指摘した。 症例(1)では97歳・男性について、高齢者の無熱性肺炎について述べた。患者は平熱が35.4度で、診察時36.9度。主訴は「3日前からせきと痰」で、最終的に肺炎と診断された。高齢者の風邪診断では、患者の平熱のベースラインが異なるので、バイタル表では本人のベースライン体温にプラス1度の赤線を引くことで背後のリスクに気付くことができると説明した。 症例(2)では50歳・女性について、尿路感染症治療後に、バレーボールで左足首を痛め受診した。トンプソン検査は陽性で「アキレス腱断裂」と診断されたが、原因はバレーボールだけではなく、実は感染症治療で処方されたシプロフロキサシンに関連したアキレス腱断裂だったという症例を紹介した。フルオロキノロン系抗菌薬はよく使用される抗菌薬だが、もともと日本人では大動脈解離の発症頻度も多く、高用量、長期間の使用では注意が必要だと促した。 症例(3)では45歳・男性について、草野球で外傷性開放骨折を負い、術後7日後に急激な血圧低下により紹介された症例。患者の身体所見は「腫脹、発赤、発熱、圧痛」があり、びまん性に全身性の発赤があった。当初、手術部位感染(SSI)疑いで診療されたが、全身の発赤などからトキシクショック症候群(TSS)の合併もあると診断された。こうしたショックを伴う感染症について、「『急激に起こるショック』の感染症」(皮疹ないことあり)を示し、外来で想起できるように注意を促した。・「急激に起こるショック」の感染症」 “SMARTTT”S:SepsisM:MeningococcemiaA:Acute endocarditisR:RickettsiaT:Toxic shock syndromeT:Toxic epidermal necrolysis T:Travel-related infection普段診ない部位の身体所見は診断のカギになる 症例(4)では30歳代女性について、発熱、意識障害、肺炎、X線所見を提示し、髄膜刺激徴候、後部硬直があるという症例を説明した。身体診察でのケルニッヒ徴候検査の重要性を示し、普段の診療から診察し、経験を重ねておく大切さを伝えた。なお、この患者は、以前に交通外傷で脾摘後であり、髄液検査により肺炎球菌による髄膜炎の診断となった。 症例(5)では40歳代男性について、主訴として、咽頭痛、発熱、嚥下痛、よだれのほか喘息様の呼吸音があり、上気道の狭窄病変を示唆する所見があった例を提示した。患者の状態から挿管となったが、その際の注意点として上気道閉塞を塞がないために仰臥位にせず、座位で診察と挿管を施行するケースもあること、体位によっては、手技が患者にとって大きなリスクになることを説明した。患者はその後の診断で後咽頭腫瘍に伴う壊死性縦隔炎と診断され、手術対応となった。また、「咽頭痛で見逃してはいけない疾患」として次の5つの疾患を掲げ、生命予後に係わる疾患もあるので覚えておいてほしいと注意を促した。1 急性咽頭蓋炎2 後咽頭腫瘍3 扁桃周囲腫瘍4 レミエール症候群(内頸静脈の血栓性静脈炎)5 Ludwig angina(口腔底蜂窩織炎)6 無顆粒球症 症例(6)では20歳代男性について、主訴に2週間にわたる発熱、咳嗽、労作時の息苦しさなどがあった。口腔内のカンジタ所見から性生活歴を聴取し、男性同性愛者であることが判明した。諸検査によって、AIDSによるニューモスチス肺炎と口腔カンジタ症と診断し、ただちにST合剤とステロイド療法で呼吸状態は改善したという。患者の社会的背景の聴取の重要性も診断の一助となると指摘した。 症例(7)では60歳・男性について、3週間前から寝汗、AR雑音があり、爪下線状出血に加えオスラー結節とJaneway紅斑が足の裏にあり、眼底ではRoth斑が観察された。心エコーで疣贅を確認し、血液培養で腸球菌が検出されて感染性心内膜炎の診断がなされた。診断での目印の1つは「寝汗」であり、また、普段なかなか診ることのない足の裏の所見を診ることも大切だと説明した。

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中等度COVID-19へのトシリズマブ、挿管・死亡リスク低減せず/NEJM

 これまで明らかになっていなかった、人工呼吸器を要しない中等症の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者に対するIL-6受容体遮断薬トシリズマブの有効性について、挿管または死亡のリスクを低減しないことが、米国・マサチューセッツ総合病院のJohn H. Stone氏らが行った、COVID-19入院患者243例を対象とした無作為化二重盲検プラセボ対照比較試験で示された。ただし、有効性比較の信頼区間(CI)値が幅広く、一部の有益性と有害性は排除できないとしている。NEJM誌オンライン版2020年10月21日号掲載の報告。トシリズマブを単回投与し、挿管または死亡アウトカムを比較 研究グループは、COVID-19による過剰炎症反応期(38度超の発熱、肺浸潤、酸素飽和度92%超の維持のための酸素補充療法を必要とする、これらのうち2つ以上を認める)243例を対象に試験を行った。 被験者を2対1の割合で2群に分け、標準治療に加えて、一方にはトシリズマブ(8mg/kg体重)を、もう一方にはプラセボをそれぞれ単回投与した。 主要アウトカムは挿管または死亡で、time-to-event解析で評価した。有効性に関する副次アウトカムは、臨床的増悪および、ベースラインで酸素補充療法を行っていた患者における同療法の中止で、いずれもtime-to-even解析で評価した。臨床的増悪リスクに有意差なし 被験者243例のうち、男性は141例(58%)、女性は102例(42%)、年齢中央値は59.8歳(範囲:21.7~85.4)だった。ヒスパニック系または中南米系の患者が45%を占めた。 挿管または死亡に関する、トシリズマブ群のプラセボ群に対するハザード比(HR)は0.83(95%CI:0.38~1.81、p=0.64)、臨床的増悪のHRは1.11(0.59~2.10、p=0.73)で、いずれも有意差はなかった。14日時点で増悪が認められたのは、トシリズマブ群18.0%、プラセボ群14.9%だった。 酸素補充療法中止までの期間中央値は、それぞれ5.0日と4.9日で同等だった(p=0.69)。また、14日時点で酸素補充療法を受け続けていたのは、トシリズマブ群24.6%、プラセボ群21.2%だった。 なお、Grade3以上の重篤な感染症発生率については、プラセボ群17.1%に対し、トシリズマブ群は8.1%と有意に低率だった(p=0.03)。

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ロピナビル/リトナビル合剤が新型コロナに対して無効であった理由は?(解説:山口佳寿博氏)-1308

 新型コロナ感染症が中国・武漢において発生してから10ヵ月が経過した。この10ヵ月の間、感染症の分子生物学的/生理学的病態解明が進み、治療法に関しても抗ウイルス薬、ウイルス誘発免疫過剰状態(血栓過形成を含む)に対する多数の薬物に関する治験、ウイルスに対する不活化ワクチン、遺伝子工学的ワクチンの製造が驚くべきスピードで進行している。それらの結果として、新型コロナ感染症に対する有効な治療方針が整理されつつあり、同一施設における入院死亡率はパンデミック初期に比べ明らかに低下している(Horwitz L, et al. medRxiv. doi.org/10.1101/2020.08.11.20172775.)。初期治療に重要な抗ウイルス薬に関しては、種々の薬物が“篩(ふるい)”にかけられ、RNA-dependent RNA polymerase(RdRp)阻害薬であるレムデシビル(商品名:ベクルリー、Beigel JH, et al. N Engl J Med. 2020 Oct 8. [Epub ahead of print] , Wang Y, et al. Lancet. 2020;395:1569-1578.)ならびにファビピラビル(商品名:アビガン、Ivashchenko AA, et al. Clin Infect Dis. 2020 Aug 9. [Epub ahead of print], Cai Q, et al. Engineering (Beijing). 2020 Mar 18. [Epub ahead of print], 富士フイルム富山化学 9月23日付 News Release)が一定の効果を有することが確認された。一方、RdRpより上位で作用するウイルス―宿主細胞膜融合阻害薬であるクロロキン/ヒドロキシクロロキンならびに3-chymotrypsin protease阻害薬(Protease inhibitor)であるロピナビル/リトナビル(商品名:カレトラ、以下L/R合剤)の効果は確認されなかった。本論評においてはL/R合剤に焦点を合わせ、この薬物が臨床的効果を発揮できなかった理由について考察する。 抗ウイルス薬に関するメタ解析では、L/R合剤が新型コロナ患者の入院日数を短縮する可能性が示唆された(Siemieniuk RA, et al. BMJ. 2020;370:m2980.)。しかしながら、中国ならびに英国で施行された信憑性の高いRCTではL/R合剤の臨床的に意義のある有効性は確認されなかった(中国・LOTUS Study[Cao B, et al. N Engl J Med. 2020;382: 1787-1799.]対照群:100例、L/R群:99例、英国・RECOVERY Trial[RECOVERY Collaborative Group. Lancet. 2020 Oct 5. [Epub ahead of print]]対照群:3,424例、L/R群:1,616例)。 L/R合剤は、HIV-1(コロナと同様に1本鎖RNAウイルス)に対するキードラッグの1つとして、本邦では2000年12月に厚労省の薬事承認を受けたProtease inhibitorである。リトナビルは肝臓の薬物代謝酵素であるCYP3A4の活性を競合的に阻害しロピナビルの血中濃度を維持する。しかしながら、ロピナビルの95%以上は血漿タンパクと結合・不活化されるため、ロピナビルの生体内薬物活性はリトナビル共存下においても高く維持することは難しい。コロナウイルスが感染源である2002年のSARS、2012年のMERSが発生した時には、in vitroの検討でL/R合剤がSARS、MERSウイルスに対して感受性を有する可能性が示唆された。この時の検討結果(in vitro)では、ウイルス感染を50%抑制するL/R合剤の有効血中濃度(EC50)はSARSで17.1 μmol/L、MERSで6.6 μmol/Lであると報告された(日本小児科学会)。HIV-1を抑制するL/R合剤の血中濃度が7.2~12.1 μmol/Lであることを考慮すると(Lopez-Cortes LF, et al. Antimicrob Agents Chemother. 2013;57:3746-3751.)、通常量のL/R合剤投与でMERSは抑制される可能性があるもののSARSの抑制は難しい。新型コロナに対するL/R合剤のin vitro EC50は26.1 μmol/Lであり(Choy KT, et al. Antiviral Res. 2020;178:104786.)、HIV-1を抑制する通常量のL/R合剤投与では到底到達できない濃度であることが理解できる。L/R合剤の投与量を増加すれば臨床的有効性が認められる可能性があるが、その場合には、生命を脅かす重篤な有害事象の発生が予想され臨床の現場で施行すべきものではない。以上のように、生体にとって安全な投与量が低く制限されていることがL/R合剤によって新型コロナ感染症を制御できなかった理由であり、L/R合剤が新型コロナウイルスに対して薬理学的にまったく無効であることを意味するものではない。  結論として、現状のL/R合剤を用いたこれ以上の臨床治験は無意味である。今後HIV-1をターゲットとしたProtease inhibitorを用いて新型コロナに対する臨床治験を実施するならば、近年新たに開発されたダルナビル製剤(商品名:プリジスタ、シムツーザ)などの新型コロナに対するEC50の測定を含めたin vitroの検討とその基礎的/薬理学的結果を踏まえた臨床治験を計画すべきである。

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第23回 軽症の肺炎は入院適応ではないのか?【救急診療の基礎知識】

●今回のPoint1)スコアだけで判断するのではなく、患者背景を意識したマネジメントを!2)再発予防も忘れずに!【症例】81歳女性、肺炎●受診時のバイタルサイン意識清明血圧139/75mmHg脈拍72回/分(不整)呼吸21回/分SpO296%(RA)体温36.9℃既往歴高血圧、心筋梗塞、心房細動内服薬タケルダ(一般名:アスピリン・ランソプラゾール配合剤錠)、リピトール(同:アトルバスタチン)、ラシックス(同:フロセミド)、エリキュース(同:アピキサバン)肺炎の重症度の判断みなさん、肺炎の重症度はどのように判断しているでしょうか?酸素化が悪くリザーバーマスクでの酸素投与を要する場合には、重症と判断することは可能ですが、指標は酸素投与量のみでは判断できませんよね。市中肺炎の重症度の指標としてCURB-65スコア(表1)、A-DROPスコア(表2)が有名です1)。A-DROPスコアは、わが国の高い平均寿命を考慮して年齢が修正されていますが、項目はほぼCURB-65スコアと同様です。A-DROPスコアでは、CURB-65スコアで呼吸数だった項目がSpO2になっていますが、必ず呼吸数は意識するようにしてください。意識障害の程度が項目に含まれているのも重要です。Sepsis-3で導入されたqSOFAでも呼吸数と意識状態は大事なバイタルサインでしたね2)。A-DROPスコアの5項目のうち、実臨床で軽視されがちなのが意識状態、そして脱水の有無でしょう。他の項目は簡単に評価できるのに対して、意識障害は発熱や認知症のせい、水分は摂れそうだから脱水はないだろうなどと考えてしまいがちですが、どちらも客観的な評価が必要です。普段の意識状態との比較、身体所見で脱水を示唆する所見を認めないかはきちんと確認しましょう。また、体温と重症度は比例せず、むしろ低い方が重症であることを覚えておきましょう。高熱だから重症、発熱を認めないから軽症というわけではありません。表1 CURB-65スコア画像を拡大する表2 A-DROPスコア画像を拡大する誤嚥性肺炎の重症度高齢者で多い肺炎の原因に誤嚥性肺炎が挙げられます。誤嚥性肺炎の重症度も市中肺炎と同様にCURB-65スコアやA-DROPスコアで評価してよいかというと注意が必要です。誤嚥性肺炎は嚥下機能障害などを認める患者に起こるが故に、患者背景に予後は大きく依存します。そのため、重症度評価は患者背景が含まれるPSI(Pneumonia Severity Index)スコア(表3)が有効とされます3、4)。PSIはA-DROPスコアと比較すると評価項目が多く、点数をつけるのは面倒と思うかもしれませんが、患者背景を意識しなければ適切な評価はできません。簡単に計算できるアプリケーション(MDCalc etc.)もあるので利用するとよいでしょう。表3 PSIスコア画像を拡大する軽症ならば帰宅?酸素投与が必要な症例は原則として入院となりますが、酸素需要がなく軽症であれば帰宅可能でしょうか。例えば本症例の81歳の女性が肺炎球菌性肺炎でA-DROPスコアが年齢のみの1点であれば帰宅は可能なのでしょうか。結論から言えば、スコアだけで判断することはできません。歩行可能で経口摂取が問題ない患者さんと、A-DROPスコアこそ1点であるものの食事が十分摂れず自身では動くことができない患者さんでは、対応が一緒のはずがないからです。また、既存の疾患によって複数の薬剤を内服している患者さんでは、食事摂取量によって、また抗菌薬投与によって薬剤の効果に変動がみられるかもしれません。高齢者総合的機能評価(comprehensive geriatric assessment:CGA)など患者さんの日常生活動作の評価だけでなく精神心理機能や社会経済因子、さらには服薬状況や事前指示取得など複数の項目を評価することが重要なのです。救急外来で診療をしていると多くの患者さんを対応し、軽症患者をなんとか帰宅させようとしてしまうものです。また、ベッド状況も厳しく入院の閾値は上がっているかもしれません。しかし、無理矢理帰して重症化して再受診となっては、入院期間はさらに延びてしまうでしょう。「急がば回れ」の精神で、初診時に先を見据えた適切な対応を行うことを心掛けましょう。1)日本呼吸器学会. 成人肺炎診療ガイドライン2017.2017.2)Singer M, et al. JAMA. 2016;315:801-810.3)Lanspa MJ,et al. J Hosp Med. 2015.10;2:90-96.4)Fine MJ, et al. N Engl J Med. 1997;336:243-250.

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第30回 東京女子医大麻酔科医6人書類送検、特定機能病院の再承認にも影響か

「厳重処分」意見付きで書類送検こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。この週末は、米国MLB(メジャーリーグ)のワールドシリーズをテレビ観戦して過ごしました。今年のMLBのポストシーズンは、新型コロナ感染症対策のため、対戦するチームがそれぞれの本拠地球場を行き来する従来の方式ではなく、各チームとは関係ない都市に集まり、試合以外は選手全員がホテルに缶詰めとなって全試合を戦うバブル方式(まとまった泡の中で開催する、という意味)で行われています。ロサンゼルス・ドジャースとタンパベイ・レイズが対戦しているワールドシリーズの舞台は、テキサス・レンジャースの本拠地、テキサス州アーリントンに今年オープンしたばかりのグローブライフ・フィールドです。レイズには今シーズン、横浜DeNAベイスターズから移籍した筒香 嘉智選手がいるのですが、シーズン成績は打率1割9分7厘、本塁打8、打点24と低調に終わりました。ワールドシリーズも第5戦までの出場機会は代打でわずか3回。二ゴロ、三振、左飛に倒れ、来季についてはマイナー落ちの噂も出ています。日本であれだけ活躍した筒香選手の現実を見て、今後MLBを目指す日本の野手は減るかもしれません。さて、先週、またまた東京女子医大(東京都新宿区)が世間を騒がせました。東京女子医大病院で2014年2月、鎮静剤プロポフォールの投与を受けた男児(当時2歳)が死亡した事故について、警視庁が10月21日、当時の集中治療室(ICU)の実質的な責任者だった同大元准教授(60)ら男性麻酔科医6人を業務上過失致死容疑で東京地検に書類送検したのです。起訴を求める「厳重処分」の意見も全員に付けられています。なお、手術を担当した耳鼻咽喉科の医師らは「術後の処置への関与が薄い」として立件は見送られました。事件当初、「禁忌」の解釈が問題に新聞報道等によると、書類送検容疑は、6人が2014年2月18~21日、頸部嚢胞性リンパ管腫の手術後にICUで人工呼吸器を付けて経過観察中だった男児に、漫然と約70時間にわたってプロポフォールを投与。心電図や尿量に異常があったにもかかわらず、投与を中止してほかの薬剤に変更するなどの安全管理を怠り、副作用に伴う急性循環不全で21日夜に死亡させたというものです。病院が設けた事故調査委員会の報告書(2015年5月公表)によると、男児が死亡する前日の20日午前中、医師1人が心電図の異常に気付き、昼ごろにほかのICU担当医らに報告しています。しかし、詳しい検査は行われず、投与は21日午前まで計約70時間にわたって続けられました。投与量は成人の許容量の2.7倍に達していました。事故当時、プロポフォールはICUで人工呼吸器をつけた子供への投与は添付文書上「禁忌」でした。「禁忌」にも関わらず投与したことがクローズアップされましたが、実際の臨床現場では、「禁忌」であっても医師の裁量で薬剤が使用されるケースは少なくありません。厚生労働省も添付文書の「禁忌」については、薬剤投与の使用を法令上禁ずるものではない、としています。安全管理を怠ったことによる業務上過失致死容疑事故直後の2014年7月、厚労省は小児の集中治療における人工呼吸中の鎮静目的でのプロポフォール使用に関して見解を示しています。それによれば「禁忌であるため、投与すべきではない」としつつも、医師が治療に必要な医療行為として使用する場合には「特段の合理的な理由が必要」としています。つまり、「禁忌はあくまでも原則」というのが公式見解でした。そうした経緯から、今回の書類送検にあたり、警視庁はプロポフォールの投与自体は過失としておらず、安全管理を怠ったことに焦点をあてています。投与開始から48時間を超えると副作用のリスクが高まることが文献などで指摘される中、男児への投与量が成人許容量の約2.7倍にも達していたことから、医師らが重い副作用が出る可能性を認識できたにもかかわらず、投与を中止してほかの薬剤に変更するといった安全管理を怠ったことが業務上過失致死容疑にあたる、としているのです。2014年の事故調査委員会の報告書も、ICUの医師らが人工呼吸器を装着した小児に対してプロポフォールを投与する知識が十分でなかった、と指摘しています。ICUの小児にも緊急事態などでは使用なお、プロポフォールについては、手術時の全身麻酔や術後管理時の鎮静効果が高いことなどメリットも多く、現在も成人だけでなく、小児においても短時間の手術では使われています。「禁忌」とされているICUの小児に対しても、緊急事態などでは使用されているようです。10月22日付の日本経済新聞によれば「事故から約4年後の18年の日本臨床麻酔学会で開かれた総合討論では、参加して回答した医師ら60人のうち6割は使用を認めた」とのことです。この記事では、プロポフォールの小児に対する有効性に言及、単純に添付文書上で「禁忌」とし続けるのではなく、これまでの投与実績を調査して適用や用法を改善し、小児により使えるようにすべきだと訴えています。患者減や特定機能病院の再承認など経営にも影響か東京女子医大病院は10月21日、田邉 一成・病院長名で「ここに改めて亡くなられた患者様のご冥福をお祈りし、患者様のご遺族の方々に心よりお詫び申し上げます。当院は、本件を重く受け止め、薬剤処方の厳格な審査システムの採用等の再発 防止策を講じてきているところであり、今後も病院全体として患者様の安心安全の確保に努めてまいります」とのコメントを出しています。本連載、7月15日付の「第15回 凋落の東京女子医大、吸収合併も現実味?」でも書いたように、東京女子医大病院は、この事件をきっかけとして2015年に特定機能病院の承認を取り消されています(現在も取り消し中)。取り消しにあたっては、2009~2013年に同病院で死亡した男児以外の人工呼吸中の小児患者63人にもプロポフォールを投与、12人が死亡していたことも判断材料となっています。同病院の特定機能病院の承認取り消しはこの時が2回目でした。1回目は2002年で、この時は2001年に起こった日本心臓血圧研究所(心研、現在の心臓病センター)の医療事故がきっかけでした(2007年に再承認)。2014年の事故から6年以上経ってからの書類送検、しかも起訴を求める最も厳しい意見である「厳重処分」付きです。処分意見には法的拘束力はありませんが、起訴の可能性は十分に高いと考えられます。報道等の影響による患者減に加え、書類送検や起訴等が特定機能病院の再承認にも影響を及ぼす可能性もあります。東京女子医大の経営的な苦境はまだしばらく続きそうです。一方で、民事訴訟も現在進行中です。男児の遺族は2016年12月、耳鼻咽喉科医2人に損害賠償を求めて提訴。その後、麻酔科医らも提訴しています。これらの民事訴訟は2021年にいずれも結審予定とのことです。1つのうっかり、1つの事故が、人の命を奪ってしまうだけでなく、大学病院という巨大組織の命運も決めるかもしれません。東京女子医大の凋落に歯止めがかかる日は果たして来るのでしょうか。

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COVID-19拡大下、2型糖尿病血糖コントロールの実態/日本糖尿病学会

 10月5日(月)~16日(金)、Web開催された第63回日本糖尿病学会年次学術集会の緊急特別シンポジウム 「COVID-19~我が国の現状と糖尿病診療との関わり~」において、山﨑 真裕氏(京都府立医科大学大学院医学研究科内分泌・代謝内科学)が「COVID-19感染拡大下における糖尿病診療」と題して、外来における糖尿病患者の行動の変化、入院における糖尿病を持つCOVID-19患者の治療について講演した。COVID-19による2型糖尿病患者のストレス、生活習慣への影響を明らかに 糖尿病患者のストレスや血糖コントロールの悪化は、これまでの台風や地震などの災害時にも報告されてきた。同様にCOVID-19蔓延も糖尿病患者のストレスの要因であり、血糖コントロールや行動への影響が報告されている。 今回、山﨑氏らは2型糖尿病患者の生活習慣の変化を調査するため、自施設にてアンケート調査を実施。対象者は2020年4月16日~5月1日に来院予定であった564例で、電話診療を行った患者や来院しなかった患者などを除外し、最終的に203例(平均年齢67.4歳[男性:126例、女性:77例]、平均糖尿病歴は14.4年、経口薬の使用は170例、インスリンの使用は135例、運動習慣ありは133例)へ聞き取りを行った。調査項目は、ストレス、睡眠時間、運動量、食事量、間食、野菜摂取量、惣菜摂取量などで、 その変化をVASスコアで自己評価してもらった。 主な結果は以下のとおり。・ストレスが増加した方は41.2%、運動量が減った方は53.7%だった。・ストレスの増加と運動量の減少、食事摂取量・惣菜摂取量の増加が関連した。・運動量の減少と間食、惣菜摂取量の増加が関連した。・体重変化をストレスや睡眠時間などで分析したところ、運動量の減少と関連がみられた。・HbA1cの変化については睡眠時間の減少と間食の増加が関連し悪化していた。 これらの結果について同氏は「コロナ禍の下で外出回数の減少、外出への不安があり、自宅にいる時間が長くなった結果」とし、またサブ解析では「65歳未満と運動習慣のない患者において、運動量の減少での体重増加、間食や惣菜の増加で体重やHbA1cが増加した」と結論付けたが、「病院に来られなかった患者はもっと不安を感じていたのではないか。“全体として悪くなっている”という評価ではなく、悪くなっている人と良くなっている人がいることを踏まえ、個々の対応が必要。そして、コロナ禍後にどのようにつなげていくかが課題である」とコメントした。コロナ禍の入院患者の血糖コントロール、real-time CGMが有用 COVID-19の糖尿病合併例では、その他感染症と同様、厳密な血糖コントロール、低血糖リスクの回避が求められる。そのため血糖測定の頻度は通常より多くなり、それが医療者側の不安につながる。そこで同氏は改善策として遠隔で血糖値が確認できるよう自施設でreal-time CGMを導入した。その結果、持続インスリン静脈内投与をこまめに調節することで重症患者の血糖値を安定化させ、低血糖を起こさないようにコントロールすることができた。海外文献*でも「血糖値を140~180mg/dlに保ちやすい、低血糖を予防できる、限られたpersonal protective equipment(PPE)の節約、Health care workerの接触の機会を減らす」可能性が示されており、糖尿病専門医としての責務を果たすため、今後もコロナ禍が続き入院患者増を予測される中で対応の検討が必要と話した。

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中等~重症アトピー性皮膚炎、バリシチニブ+TCSの有効性・安全性を確認

 経口JAK1/2阻害薬バリシチニブについては、外用コルチコステロイド薬(TCS)で効果不十分な中等症~重症アトピー性皮膚炎(AD)への単独療法の有効性および安全性が、これまでに2件の第III相試験の結果で報告されている。今回、ドイツ・ハンブルク・エッペンドルフ大学医療センターのKristian Reich氏らは、バリシチニブとTCSの併用療法について検討し、中等症~重症ADに対してバリシチニブ1日1回4mg+TCSが症状を有意に改善することを明らかにした。安全性プロファイルは、バリシチニブのこれまでの試験で既報されているものと変わらなかった。JAMA Dermatology誌オンライン版2020年9月30日号掲載の報告。 研究グループは、TCS治療では効果不十分であった中等症~重症AD成人患者について、TCSを基礎療法としながらバリシチニブ4mgまたは2mg用量の有効性と安全性を評価する、二重盲検プラセボ対照第III相無作為化試験「BREEZE-AD7試験」を実施した。 試験は2018年11月16日~2019年8月22日まで、アジア、オーストラリア、欧州、南米の10ヵ国、68の医療センターで行われた。被験者は、18歳以上のTCSで効果不十分の中等症~重症AD患者であった。 被験者は無作為に3群(1対1対1)に割り付けられ、バリシチニブ1日1回2mg(109例)、同4mg(111例)、プラセボ(109例)のいずれかを16週間投与された。基礎療法として、低度~中等度効能のTCSの使用が認められた。 主要評価項目は、Validated Investigator Global Assessment for AD(vIGA-AD)スコアが16週時点の評価でベースラインから2ポイント以上改善し、0(改善)または1(ほとんど改善)を達成した患者の割合であった。 主な結果は以下のとおり。・被験者329例は、平均[SD]年齢33.8[12.4]歳、男性216例(66%)であった。・16週時点でvIGA-ADスコア0または1を達成した患者は、プラセボ群16例(15%)に対し、バリシチニブ4mg群34例(31%)、同2mg群26例(24%)であった。・対プラセボのオッズ比(OR)は、バリシチニブ4mg群2.8(95%信頼区間[CT]:1.4~5.6、p=0.004)、同2mg群1.9(0.9~3.9、p=0.08)であった。・治療関連有害事象の報告は、バリシチニブ4mg群で64/111例(58%)、同2mg群で61/109例(56%)、プラセボ群で41/108例(38%)であった。・重篤な有害事象の報告は、バリシチニブ4mg群4例(4%)、同2mg群2例(2%)、プラセボ群4例(4%)であった。・最も頻度の高い有害事象は、鼻咽頭炎、上気道感染症、毛包炎であった。・なお試験完了後、被験者は4週間のフォローアップもしくは拡大延長(長期)試験に登録された。

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