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第268回 国家予算規模の東京都、税収入の使い道は?~都議選を振り返る

都議選2025の結果6月22日に投開票が行われた東京都議会議員選挙は、改選前に30議席で第1党だった自民党が追加公認も含め21議席と過去最低の議席数となった。対して東京都知事の小池 百合子氏が創設し、現在は特別顧問を務める都民ファーストの会(以下、都民ファースト)は前回と同じ31議席を堅持し、第1党へと返り咲いた。もっとも東京都では都民ファーストに加え、自民党、公明党の国政与党が都政与党であるため、これらの合計71議席により議会過半数を確保した。いつもならば選挙前に公約比較を出すところだが、都道府県の場合、知事権限が強く、政策の実現可能性は圧倒的に都政与党の政策に傾く。ということで、勝敗が決した今、これら都政与党が医療・介護に関してどのような政策を掲げていたかを独断と偏見で検証してみたい。シニア支援に注力、都民ファーストまず、第1党の都民ファーストだが、今回発表された政策集の中で目に付くのは、「もっとシニアの安心と社会参画を支援」の項にある(1)単身シニアの配食見守りサービス創設や身元保証支援の強化、(2)都立認知症専門病院の設置で支援を拡充、(3)特定最賃*の創設で介護職の時給1,500円に、である。*東京都独自の介護職の特定最低賃金これらは2024年の東京都知事選で小池氏が掲げた公約とも一致し、政策集1)のタイトル「東京大改革3.0」も都知事選・都議選共通である。独断と偏見で言えば、どれも“バラマキ”の1種とも言えるのだが、東京都が特殊なのは、特別会計も含めた予算規模(2025年度)が約18兆円、都税収入だけで約8兆円という潤沢なカネがあることだ。都道府県別の予算規模で2位の大阪府の3倍弱であり、さらに国家予算規模の世界ランキングで見ると、スイスの約15兆円を超える。さて、この前提で(1)~(3)を考えると、まず病院経営の著しい環境悪化が伝えられる現在、(2)が可能かはかなり疑問符が付く。ただ、東京都の場合、傘下に地方独立行政法人・東京都健康長寿医療センターがあるため、新たなハコは設けずに同一地での組織的分離・再編などによる実現は可能である。(1)について、東京都内では関係する民間事業者には事欠かないだろうが、どれほどの予算規模を投入し、公費負担と利用者負担の割合をどのように設定するか、サービスの質をいかに担保するかが実現のポイントになるだろう。国政政党も含め昨今のトレンドの1つが(3)だが、実はこれこそ難易度がやや高い。基本的に最低賃金設定は最低賃金法に基づく国の権限。公約の介護職の時給1,500円は東京都の最低賃金よりも高いとはいえ、都道府県が厳密な意味で法的効力のある条例を設定はできない。もっとも自治体によっては、公契約条例で自治体発注業務に従事する労働者に対して法定最低賃金を超える独自の労務単価(最低報酬)を定めているケースはある。ただ、介護サービスそのものは地方自治体主体ですべて業務委託している構図ではないので、公契約条例を適用するのは不可能である。となると、これを実現するためにどのような制度作りをするのかは興味のあるところだ。アップアップな?自民党史上最低の議席に終わった自民党は、今回「7 Up! TOKYO プロジェクト 7つの上げるで東京から真の豊かさを取り戻す」と題した政策集2)を掲げた。この7つのアップの6番目に「健康寿命を引き上げる」と謳っている。その中身は(1)がん・認知症を早期発見、(2)女性特有の健康課題へ支援、(3)万全の感染症対策、の3本柱である。それぞれについてより平たく中身が書いてあるが、(1)では「がんや認知症の簡易検査キットを配布し、早期発見や受診につなげることで、働く世代も高齢者も、単身者を含めすべての都民の健康づくりをサポートします」(2)では「3兆円を超える経済損失とも試算される女性の健康課題に対応するため、月経や更年期障害など女性特有の悩みを軽減・解消する健康カタログギフトを配布します」(3)では「コロナによる死者、感染者を世界と比較しても極めて低水準に抑えた経験を活かし、10 年に1 度とも言われる感染症にも万全のまち・東京を構築します」と記している。まず、(3)はあいまい過ぎて何をしようとしているかがわからない。で、問題は(1)である。「がんや認知症の簡易検査キットを配布」とは、何ぞや? まず、認知症については信頼性の高い簡易検査キットそのものが存在しない。今年5月、米国食品医薬品局(FDA)が富士レビオのアルツハイマー病診断補助の血液検査を承認したが、これは簡易検査キットではなく、体外診断用医薬品である。そして、がんの簡易検査キットと称する、あんなものやこんなものもあるが信頼性が高くないことは医療者の多くがご存じだろう。簡易検査キットというより「安易検査キット」と言ってよいかもしれない。そんなものを都民に配ってどうする?(2)もいったい何だろうか? 怪しげな商品が次々に掲載されたカタログしか思い浮かばないのだが…。過去実績に縛られがちな公明党最後は公明党である。同党と言えば、1999年の小渕 恵三政権下で15歳以下の子どもがいる世帯主・満65歳以上かつ老齢福祉年金受給者(低所得または非課税高齢者)に1人2万円分ずつ「地域振興券」という商品券を配布した際、これを提唱した政党であり、その後も給付金支給などには極めて熱心な政党である。斜に構えた言い方をすれば、「元祖バラマキ政党」とも言えるが、それゆえに予防接種の補助・無償化にも積極的であるため、医療面では一定の功績があるのは事実だ。今回の都議選では新たな政策を訴えるよりも、とにかく過去の実績強調の活動が多く、目立った医療・介護政策といえば「不妊治療休暇の導入促進」くらいである。いわば一部民間企業が導入している制度の公的化とも言える。これを実現する場合にどのような制度の建付けにし、どの程度の予算規模となるかは不明だが、対象者は限定的と考えられるため、必ずしも実現不可能ではないだろう。ざっとこんな感じだが、いやはや都議会自民党の単なる思いつきでも並べたかのような政策には正直ぶったまげである。今回の都議会自民党の惨敗は、直接的には改選前に30人いた議員の半数以上に当たる16人が、ノルマを超えたパーティー券の収入を「中抜き」して裏金にしていた、都議会版裏金事件に起因すると言われる。しかし、それ以前に最低限の勉強と政策の立案能力にここまで欠けていた実態を見る限り、裏金以前の問題なのかもしれない。 参考 1) 都民ファーストの会:政策集2025 2) 自民党:7UP! TOKYO プロジェクト 3) 公明党:東京公明特設サイト2025

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溶連菌咽頭炎への抗菌薬、10日間から短縮可能?

 本邦では、『気道感染症の抗菌薬適正使用に関する提言(改訂版)』1)において、A群溶血性レンサ球菌(GAS)が検出された急性咽頭・扁桃炎に対して、抗菌薬を投与する場合にはアモキシシリン内服10日間を検討することが推奨されている。ただし、海外では臨床的な治療成功については、短期治療(5~7日)が10日間の治療と同等であるいう報告もあり、短期治療の可能性が検討されている。 2022年にニュージーランドで実施された抗菌薬適正使用の取り組みの一環として、GAS咽頭炎に対する抗菌薬治療期間の短縮が、地域的に促進された。この介入により、抗菌薬の投与期間が10日間から5日間や7日間などへ短縮されるようになったが、治療成績に及ぼす影響は明らかになっていなかった。そこで、Max Bloomfield氏(Awanui Laboratories、Te Whatu Ora/Health New Zealand)らの研究グループは、後ろ向きコホート研究により治療期間の短縮の影響を検討した。その結果、治療期間を短縮しても治療成績に悪影響はみられなかった。本研究結果は、Open Forum Infectious Diseases誌2025年6月6日号に掲載された。 本研究では、ニュージーランド・ウェリントン地域の検査所において、咽頭ぬぐい液培養によりGAS陽性と報告された患者のうち、報告時点で抗菌薬が処方されていなかった患者を対象とした。対象患者を2022年の抗菌薬適正使用の取り組みの実施前と実施後で2群(介入前群851例、介入後群1,746例)に分類し、抗菌薬治療期間、GAS再陽性、再治療、予定外入院、感染に関連する入院、家庭内感染、急性リウマチ熱について解析した。 主な結果は以下のとおり。・抗菌薬10日間治療の割合は介入前群68.7%、介入後群41.0%であった。5日間治療はそれぞれ2.4%、21.2%であった。抗菌薬非投与はそれぞれ24.9%、28.0%であった。・主な抗菌薬の内訳は、penicillin Vが介入前群75.9%、介入後群80.9%であり、アモキシシリンがそれぞれ19.4%、11.1%、セファレキシンがそれぞれ0.9%、3.8%であった。・介入前後の治療成績は、いずれの評価項目も両群間に有意差はみられなかった。介入前後の治療成績は以下のとおり(介入前群vs.介入後群、調整オッズ比[aOR]、95%信頼区間[CI]、p値を示す)。 -GAS再陽性:3.5%vs.2.7%、0.78、0.48~1.25、p=0.30 -再治療(抗菌薬再処方):12.8%vs.12.9%、1.02、0.79~1.31、p=0.88 -予定外入院:0.1%vs.0.5%、3.98、0.50~31.84、p=0.19 -咽頭・頭頸部感染による入院:0.0%vs.0.2% -家庭内感染:6.3%vs.6.5%、0.96、0.69~1.36、p=0.86 -急性リウマチ熱:両群0例・治療期間別にみた再治療割合は、抗菌薬非投与の集団で高い傾向にあった。各治療期間の再治療割合は以下のとおり。 -10日間:11.4%(参照) -7日間:11.7%(aOR:1.01、95%CI:0.59~1.73、p=0.98) -5日間:12.7%(aOR:1.10、95%CI:0.75~1.64、p=0.63) -非投与:15.6%(aOR:1.80、95%CI:1.26~2.55、p<0.01)・治療期間別にみた家庭内感染割合は、5日間治療の集団で低い傾向にあった。各治療期間の家庭内感染割合は以下のとおり。 -10日間:7.0%(参照) -7日間:6.2%(aOR:0.81、95%CI:0.40~1.65、p=0.57) -5日間:4.0%(aOR:0.52、95%CI:0.28~0.97、p=0.04) -非投与:7.1%(aOR:1.04、95%CI:0.64~1.68、p=0.89)・GAS再陽性の割合は、治療期間による差はみられなかった。 本研究結果について、著者らは「本コホートでは、GAS咽頭炎に対する抗菌薬治療期間を短縮しても、治療成績に悪影響はみられなかった。また、他の研究では短期治療によりGASの除菌率が低下することが報告されているが、本研究では短期治療により家庭内感染は増加しなかった。これは新たな発見である」とまとめた。

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高齢者の夜間頻尿、改善のカギは就寝時間か

 夜間頻尿は特に高齢者を悩ませる症状の一つであり、睡眠の妨げとなるなど生活の質(QOL)に悪影響を及ぼすことがある。今回、適切な時刻に規則正しく就寝する生活を送ることで、高齢者の夜間頻尿が改善する可能性があるとする研究結果が報告された。研究は、福井大学医学部付属病院泌尿器科の奥村悦久氏らによるもので、詳細は「International Journal of Urology」に4月26日掲載された。 夜間頻尿は、夜間に排尿のために1回以上起きなければならない症状、と定義されている。主な原因としては、夜間多尿、膀胱容量の減少、睡眠障害が知られている。疫学研究により、夜間頻尿はあらゆる年齢層における主要な睡眠障害の一因であり、加齢とともにその有病率が上昇することが示されている。加齢に伴う睡眠障害の一つの特徴として、就寝時間が早まる傾向がある。その結果、高齢者では総睡眠時間は延長するものの眠りが浅くなり、軽い尿意で覚醒するようになる。しかし、睡眠障害の治療が夜間頻尿の改善につながることを示唆する前向き臨床試験の報告は限られている。このような背景を踏まえ著者らは、就寝時刻を調整することで高齢者の夜間頻尿が改善するという仮説を立てた。 本研究では、睡眠・覚醒活動を測定するウェアラブルデバイスを患者に装着して就寝してもらった。得られた1週間分の就寝時刻、中途覚醒時間のデータから、最急降下法を応用して考案した独自のアルゴリズム(特許出願中)を用いて患者ごとに適切な就寝時刻を決定し、その時刻に就寝する生活を続けることによる夜間頻尿の変化を検証した。解析対象は、2021年4月~2023年12月にかけて、夜間頻尿を主訴として福井大学附属病院とその関連病院を受診した患者33名とした。患者を交互割り付けで4週間毎の介入→非介入群と非介入→介入群の2群に分け、それぞれに対し2週間のウォッシュアウト期間を設けるクロスオーバー試験を実施した。介入期間中は、上記方法で決定した個別の就寝時刻に就寝してもらい、排尿状態は各期間の前後3日に記録した排尿日誌を、睡眠の質はピッツバーグ睡眠質問票(PSQI)を用いてそれぞれ評価した。主要評価項目は夜間排尿回数(Nocturnal urinary frequency;NUF)の変化量とし、副次評価項目は夜間尿量(Nocturnal urine volume;NUV)、就寝から第一覚醒までの時間(Hours of undisturbed sleep;HUS)、NUV(NUV per hour;NUV/h)、PSQIなどの変化量と設定した。変化量はrepeated measures ANOVAで評価した。 解析対象は、新型コロナウイルス感染症流行に伴う移動制限、生活習慣の変化などの理由により9名を除外した24名となった。対象の平均年齢は79.7±5.6歳であり、男性17名、女性7名であった。介入前の対象群の平均就寝時刻は21時30分で、介入後は22時11分となり、24人中22人が就寝時間を遅らせる結果となった。 介入期間中のNUFは、非介入期間と比較して有意に減少した(-0.90回 vs -0.01回、P<0.01)。さらに、Spearmanの順位相関検定の結果、NUFの変化量と就寝時間の変化量の間には有意な相関が認められた(r=-0.58、P=0.003)。 また非介入期間と比較して、介入期間においてHUSは有意に延長し(62.8分 vs. 12.7分、P=0.01)、NUVは有意に減少した(-105.6mL vs. 4.4mL、P=0.04)。特にHUSまでのNUV/hが有意に減少し(-28.4mL/h vs. -0.17mL/h、P=0.04)、さらにPSQIも有意な改善を認めた(-2.4 vs. 1.2、P=0.02)。 本研究の結果について著者らは、「夜間頻尿を有する高齢者は最適な就寝時刻より早く就寝している傾向にある可能性が高い。しかし、適切な時刻に規則正しく就寝する生活を送ることで、睡眠の質にとって非常に重要な要素であるといわれる『就寝から第一覚醒までの時間』が有意に延長され、これに伴い夜間尿量、特に『就寝から第一覚醒までの時間』における単位時間あたりの尿量が有意に減少し、結果として夜間排尿回数が有意に減少する可能性がある。これらの結果は、就寝時刻の調整が夜間頻尿に対する有効な行動療法となる可能性を示唆している。また、実際の就寝時刻と最適な就寝時刻の差が大きい患者ほど介入の有効性が高い可能性がある」と述べている。

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JN.1対応コロナワクチン、発症・入院予防の有効性は?(VERSUS)/長崎大

 2024年度秋冬シーズンの新型コロナワクチン定期接種では、JN.1系統に対応した1価ワクチンが採用された。長崎大学熱帯医学研究所の前田 遥氏らの研究チームは、2024年10月1日~2025年3月31日の期間におけるJN.1系統対応ワクチンの有効性について、国内多施設共同研究(VERSUS study)の第12報となる結果を、2025年6月11日に報告した1)。本結果により、JN.1系統対応ワクチンの接種により、発症予防、入院予防において追加的な予防効果が得られる可能性が示された。 VERSUS studyは、2021年7月1日より新型コロナワクチンの有効性評価を継続的に実施しており、2024年10月1日からはインフルエンザワクチンの有効性評価も開始している。今回の報告のうち、発症予防の有効性評価では、2024年10月1日~2025年3月31日に国内14施設を新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が疑われる症状で受診し、新型コロナウイルス検査を受けた18歳以上の患者を対象とした。また、入院予防の有効性評価では、同期間に国内11施設で、呼吸器感染症が疑われる症状または肺炎像を認めて入院した60歳以上の患者を対象とした。受診時に新型コロナワクチン接種歴およびインフルエンザワクチン接種歴が不明な場合は除外された。新型コロナウイルス検査陽性者を症例群、陰性者を対照群とする検査陰性デザイン(test-negative design)を用いた症例対照研究で、COVID-19の発症および入院に対するJN.1系統対応ワクチンの追加的予防効果を、JN.1系統対応ワクチンを接種していない場合と比較して評価した。JN.1系統対応ワクチンは、mRNAワクチン(ファイザー、モデルナ、第一三共)、組換えタンパクワクチン(武田薬品工業)、レプリコンワクチン(Meiji Seika ファルマ)の5種類が使用された。 主な結果は以下のとおり。【発症予防の有効性】・18歳以上の4,680例(検査陽性者990例、陰性者3,690例)が対象となった。年齢中央値51歳(四分位範囲[IQR]:34~72)、65歳以上が32.7%、男性48.1%、基礎疾患を有する人33.7%。・JN.1系統対応ワクチン接種なしと比較した、JN.1系統対応ワクチン(接種後7日以上経過)の発症予防有効性は54.6%(95%信頼区間[CI]:29.9~70.6)であった。・接種後の日数別有効性は、接種後7~60日では55.5%(95%CI:20.7~75.0)、接種後61日以上では53.5%(95%CI:12.8~75.2)。・年齢別では、18~64歳のJN.1系統対応ワクチン(接種後7日以上経過)の有効性は60.0%(95%CI:11.6~81.9)、65歳以上では52.5%(95%CI:15.9~73.2)。・新型コロナワクチン未接種と比較した場合の有効性は51.5%(95%CI:19.6~70.8)であった。【入院予防の有効性】・60歳以上の883例(検査陽性者171例、陰性者712例)が対象となった。年齢中央値83歳(IQR:76~89)、男性59.0%、基礎疾患を有する人98.3%、高齢者施設入所者29.9%。・JN.1系統対応ワクチン接種なしと比較した、JN.1系統対応ワクチン(接種後7日以上経過)の入院予防有効性は63.2%(95%CI:14.5~84.1)であった。・重症度別のワクチンの有効性は、入院時呼吸不全を伴う患者に限定した場合では68.3%(95%CI:1.1~89.8)、CURB-65スコア中等症以上の患者に限定した場合では53.9%(95%CI:-9.7~80.6)、入院時肺炎がある患者に限定した場合では67.4%(95%CI:7.4~88.5)。・新型コロナワクチン未接種と比較した場合の有効性は72.9%(95%CI:22.8~90.5)であった。 本研究により、既存のワクチン接種歴の有無にかかわらず、JN.1系統対応ワクチンの追加接種が発症および入院予防に対して追加的な有効性をもたらす可能性が示唆された。本報告は2025年5月30日時点での暫定結果であり速報値であるが、公衆衛生学的に意義があると判断され公開された。今後も研究を継続し経時的な評価を行うなかで、公衆衛生学的な意義を鑑みつつ結果について共有される予定。

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第248回 骨太方針の「OTC類似薬見直し」診療現場や患者からは懸念の声も/政府

<先週の動き> 1.骨太方針の「OTC類似薬見直し」診療現場や患者からは懸念の声も/政府 2.コロナワクチンの接種の遅れ、孤独感や誤情報、公衆衛生の新たな課題/東京科学大など 3.「かかりつけ医機能」の再設計へ、次期改定で評価を見直し/中医協 4.オンライン診療1.3万施設まで増加、精神疾患が主領域に/厚労省 5.病床転換助成、利用率わずか1%台 延長か廃止かで紛糾/厚労省 6.ハイフ施術でやけど多発、違法エステ横行に警鐘/厚労省 1.骨太方針の「OTC類似薬見直し」診療現場や患者からは懸念の声も/政府政府は、医療費削減の一環として「OTC類似薬(市販薬と成分・効果が類似する医療用医薬品)」の保険適用見直しを検討しており、6月13日に閣議決定された「骨太の方針2025」にその方針が盛り込まれた。自民・公明・日本維新の会の3党が合意し、社会保障費抑制と現役世代の保険料軽減を目的としている。見直し対象は、花粉症薬や解熱鎮痛薬、保湿剤、湿布などで、最大で7,000品目とされる。仮に保険給付から除外されれば、患者の自己負担は数千円~数万円単位で跳ね上がる。とくに慢性疾患や難病患者、小児、在宅患者への影響が懸念されている。日本医師会の松本 吉郎会長は18日の記者会見で、「医療提供が可能な都市部と異なり、へき地では市販薬へのアクセスも困難。経済性を優先しすぎれば、患者負担が重くなり、国民皆保険制度の根幹が揺らぐ」と指摘。医療機関での診療や処方の自由度が制限されることにも懸念を示した。また、現場の開業医からも、「処方薬が保険適用外となれば、治療選択肢が狭まり、医師としての判断が制限される」「市販薬への誘導が誤用や副作用を招きかねない」との声が上がっている。とくに皮膚疾患やアレルギー疾患、疼痛管理においては、治療の中核となる薬剤が影響を受けるとされる。6月18日には、難病患者の家族らが約8万5千筆の署名とともに厚生労働省に保険適用継続を要望。厚労省は「具体的な除外品目は未定で、医療への配慮を踏まえて議論する」としているが、今後の制度設計次第で現場への影響は甚大となる可能性がある。次期診療報酬改定との整合性も含め、制度の動向を注視しつつ、患者支援の観点から声を上げていくことが求められる。 参考 1) 経済財政運営と改革の基本方針2025(内閣府) 2) 市販薬と効果似た薬の保険外し、患者に懸念 医療費節約で自公維合意(日経新聞) 3) 日医会長、3党合意のOTC類似薬見直しに懸念 骨太方針は高評価、次期診療報酬改定に期待(CB news) 4) 「命に関わる」保湿剤・抗アレルギー薬などの“OTC類似薬”保険適用の継続を求め…難病患者ら「8.5万筆」署名を厚労省に提出(弁護士JPニュース) 5) 「OTC類似薬」保険適用の継続を 難病患者家族が厚労省に要望書(NHK) 2.コロナワクチンの接種の遅れ、孤独感や誤情報、公衆衛生の新たな課題/東京科学大など新型コロナウイルス感染症におけるワクチン接種の効果と課題が、複数の研究から改めて浮き彫りになっている。東京大学の古瀬 祐気教授らの推計によれば、2021年に国内で行われたワクチン接種がなければ、死者数は実際より2万人以上増えていたとされる。ワクチン接種の開始が3ヵ月遅れた場合、約2万人の追加死亡が生じた可能性があり、接種のタイミングが公衆衛生に与える影響の大きさが示された。一方、接種を妨げた要因として「誤情報」と「孤独感」の影響が注目されている。同チームの調査では、誤情報を信じた未接種者が接種していれば、431人の死亡を回避できたとの推計もなされている。さらに、東京科学大学らの研究では、若年層のワクチン忌避行動に「孤独感」が強く影響していたことが判明した。都内の大学生を対象とした調査では、孤独を感じる学生は、感じない学生と比べてワクチンをためらう傾向が約2倍に上った。社会的孤立(接触頻度)とは異なり、孤独感という主観的要因がワクチン行動に与える心理的影響が独立して存在することが示された。東京都健康長寿医療センターの研究でも、「孤独感」はコロナ重症化リスクを2倍以上高めるとの結果が示されており、孤独感が接種率の低下だけでなく、重症化リスクの増大にも寄与している可能性がある。今後の感染症対策では、誤情報対策だけでなく、心の健康や社会的つながりを強化する施策が、接種率の向上および重症化予防の両面において重要になると考えられる。次のパンデミックに備えるためにも、若年層に対する心理的支援や信頼形成のアプローチが不可欠である。 参考 1) 若年層のワクチン忌避、社会的孤立より“孤独感”が影響(東京科学大学) 2) ワクチン接種をためらう若者 孤独感が影響 東京科学大など調査(毎日新聞) 3) 接種遅れればコロナ死者2万人増 21年、東京大推計(共同通信) 4) 「孤独感」はコロナ感染症の重症化リスクを高める、今後の感染症対策では「心の健康維持・促進策」も重要-都健康長寿医療センター研究所(Gem Med) 3.「かかりつけ医機能」の再設計へ、次期改定で評価を見直し/中医協厚生労働省は、6月18日に中央社会保険医療協議会(中医協)総会を開き、2026年度の診療報酬改定に向け、「かかりつけ医機能」の診療報酬評価の見直しについて検討した。今年の医療法改正により医療機関機能(高齢者救急・地域急性期機能、在宅医療等連携機能、急性期拠点機能など)報告制度が始まったことを踏まえ、「機能強化加算」や地域包括診療料などの体制評価が現状に即しているかが問われている。厚労省は6月に開かれた「入院・外来医療等の調査・評価分科会」で、医療機関が報告する「介護サービス連携」「服薬の一元管理」などの機能は診療報酬で評価されているが、「一次診療への対応可能疾患」など一部機能は報酬上の裏付けがない点を指摘。これに対し支払側委員からは、既存加算は制度趣旨に適さず、17領域40疾患への対応や時間外診療など実態に即した再評価を求める声が上がった。また、診療側からは、看護師やリハ職の配置要件など「人員基準ありきの報酬」が現場に過度な負担を強いており、患者アウトカムや診療プロセスを評価軸とすべきとの意見も強調された。とりわけリハビリテーション・栄養・口腔連携体制加算は基準が厳しく、取得率が1割未満に止まっている現状が報告された。今後の改定論議では、「構造(ストラクチャー)」評価から「プロセス」「アウトカム」重視への段階的な移行とともに、新たな地域医療構想や外来機能報告制度との整合性が問われる。かかりつけ医機能の再定義とそれを支える診療報酬のあり方は、地域包括ケア時代における制度の根幹をなす論点となる。 参考 1) 第609回 中央社会保険医療協議会 総会(厚労省) 2) 「かかりつけ医機能」の診療報酬見直しへ 機能強化加算など、法改正や高齢化踏まえ(CB news) 3) 診療側委員「人員配置の要件厳し過ぎ」プロセス・アウトカム重視を主張(同) 4) 2026年度診療報酬改定、「人員配置中心の診療報酬評価」から「プロセス、アウトカムを重視した診療報酬評価」へ段階移行せよ-中医協(Gem Med) 4.オンライン診療1.3万施設まで増加、精神疾患が主領域に/厚労省2025年4月時点でオンライン診療を厚生労働省に届け出た医療機関数が1万3,357施設に達し、前年より2,250件増加したことが厚労省の報告で明らかになった。届け出数は、初診からのオンライン診療が恒久化された2022年以降増加傾向にあり、対面診療全体に占める割合も2022年の0.036%から2023年は0.063%に上昇した。厚労省の分析によれば、オンライン再診では精神疾患の割合が高く、2024年7月の算定データでは「適応障害」が最多で8,003回(9.1%)、次いで高血圧症や気管支喘息、うつ病などが続いた。とくに対面診療が5割未満の施設では、再診での適応障害(22.2%)やうつ病、不眠症など精神科領域の算定が顕著だった。この結果から中央社会保険医療協議会(中医協)の分科会では、「オンラインと対面での診療内容の差異を調査すべき」との指摘もあった。こうした中、日本医師会は6月18日、「公益的なオンライン診療を推進する協議会」を発足。郵便局などを活用した地域支援型の導入モデルを想定し、医療関係4団体や自治体、関係省庁、郵政グループとともに初会合を行った。松本 吉郎会長は「利便性や効率性のみに偏らず、安全性と医療的妥当性を担保した導入が不可欠」と強調し、とくに医療アクセスに困難を抱える地域、在宅医療、災害・感染症時の手段としての有効性に言及した。郵便局のインフラを活用した実証事業も一部地域で始動しており、診療報酬制度の課題、患者負担への配慮、医師会・自治体との連携が今後の焦点となる。 参考 1) オンライン診療に1.3万施設届け出 厚労省調べ、4月時点(日経新聞) 2) オンライン再診、精神疾患の割合が高く 厚労省調べ(CB news) 3) オンライン診療で医産官学の協議会発足 郵便局など活用で連携を強化(同) 5.病床転換助成、利用率わずか1%台 延長か廃止かで紛糾/厚労省厚生労働省は6月19日、医療療養病床から介護施設などへの転換を支援する「病床転換助成事業」の今後の在り方について、社会保障審議会・医療保険部会で実態調査結果を報告した。2008年度に開始され、これまでに7,465床の転換に活用されたが、今後の活用予定医療機関は2025年度末時点で1.4%、2027年度末でも3.0%に止まり、活用実績も病院7.3%、有床診療所3.7%と低迷している。事業延長については委員の間で意見が分かれ、健康保険組合連合会の佐野 雅宏委員らは既存支援策との重複や利用率の低さを理由に廃止を主張。一方、日本医師会の城守 国斗委員は、申請手続きの煩雑さや認可の遅れがネックとなっていると指摘し、当面の延長と支援対象の拡大を提案した。今後、厚労省は部会の意見を整理し、年度内に方針を提示する見通し。地域医療の再編を進める上で、同事業の位置付けと実効性が改めて問われている。 参考 1) 病床転換助成事業について(厚労省) 2) 病床転換の助成事業、活用予定の医療機関1-3% 事業の延長に賛否 医療保険部会(CB news) 6.ハイフ施術でやけど多発、違法エステ横行に警鐘/厚労省痩身やリフトアップ目的で人気を集めるHIFU(高密度焦点式超音波)による美容医療で、違法施術により重篤な被害を受けた事例が再び注目を集めている。2021年に東京都内のエステサロンで医師免許のない施術者からHIFUを受け、重度のやけどを負った女性が損害賠償を求め提訴。2025年6月、エステ側が謝罪し、解決金を支払う形で和解が成立した。厚生労働省は2024年6月、「HIFU施術は医師による医療行為であり、非医師が行うことは医師法違反」と明確化したにもかかわらず、違法施術による健康被害は依然として後を絶たない。美容医療に起因する健康被害の相談件数は2023年度に822件と、5年前の1.7倍に増加。熱傷、重度の形態異常、皮膚壊死などの深刻な合併症が報告されている。こうした背景から、東京・新宿の春山記念病院では、美容医療トラブル専門の救急外来を本格的に開始。美容クリニックと施術情報の事前共有を行うなど、連携体制を整備している。厚労省も、美容医療を提供する医療機関に対し、合併症時の対応マニュアル整備や他院との連携構築、相談窓口の報告を義務化する方向で検討を進めている。医師が美容医療に携わる場合は、医療行為の厳密な定義のもと、適切な説明責任とアフターフォロー体制の構築が不可欠である。また、美容分野に参入する無資格者の排除に加え、トラブル患者の受け皿となる救急医療体制との連携も、今後の制度整備における重要課題となる。 参考 1) 「やせる」美容医療でやけど、エステ店側と和解 被害「氷山の一角」(朝日新聞) 2) 医師以外の「ハイフ施術」でやけど エステサロンと被害女性が和解(毎日新聞) 3) “美容施術 HIFUでやけど” 会社が謝罪し解決金で和解成立(NHK) 4) 美容医療トラブルに特化した救急外来が本格開始 東京 新宿(同)

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第267回 ワクチン懐疑派が集結、どうなる?米国のワクチン政策

やはり、トランプ氏より危険だった嫌な予感が的中してしまった。3回前の本連載で米国・トランプ政権の保健福祉省長官のロバート・F・ケネディ・ジュニア氏(以下、ケネディ氏)について言及したが、「ついにやっちまった」という感じだ。前述の連載公開10日後の6月9日、ケネディ氏は米国・保健福祉省と米国疾病予防管理センター(CDC)に対してワクチン政策の助言・提案を行う外部専門家機関・ACIP(予防接種の実施に関する諮問委員会)の委員全員を解任すると発表したからだ。アメリカでは政権交代が起こると官公庁の幹部まで完全に入れ替わる(日本と違い、非プロパーが突如、官公庁幹部に投入される)のが常だが、1964年に創設されたACIP委員が任期途中(任期4年)で解任された事例は調べる限りない模様である。一斉に解任された委員に代わって、ケネディ氏は新委員8人を任命した。このメンツが何とも香ばしい。ある意味、粒ぞろいの人選まず、ほぼ各方面から懸念を表明されているのが、国立ワクチン情報センター(National Vaccine Information Center:NVIC)ディレクターで看護師のヴィッキー・ペブスワース氏と医師で生化学者のロバート・W・マーロン氏の2人である。ペブスワース氏については、所属が「国立」となっているので公的機関のような印象を受けるが、完全な民間団体で従来からワクチン接種が自閉症児を増やすという、化石のような誤情報を声高に主張している。同センターによると、ペブスワース氏自身がワクチン接種で健康被害を受けた息子の母親であるという。マーロン氏は1980年代後半にmRNAの研究を行っていたとされ、今回の新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)に対するmRNAワクチンの発明者だと自称している。その後は大学で教鞭をとったり、ベンチャー系製薬企業の幹部に就任したりしている。mRNAワクチンの発明者を自称しながら、今回のファイザーやモデルナのワクチンには否定的で、「最新のデータによると、新型コロナワクチン接種者は未接種者に比べて感染、発症、さらには死亡する可能性が高くなることが示されている。そしてこうしたデータによると、このワクチンはあなただけでなく、あなたのお子さんの心臓、脳、生殖組織、肺に損傷を与える可能性があります」などと主張している人物である。どこにそんなデータがあるのか見せてもらいたいが。これ以外でも、mRNAワクチンは若年者で死亡を含む深刻な害悪があると主張するマサチューセッツ工科大学教授のレツェフ・レヴィ氏、コロナ禍中の2020年10月に全米経済研究所が若年者などは行動制限せずに集団免疫獲得を目指すべきと政策提言した「グレートバリントン宣言」の起草者に名を連ねた生物統計学者のマーティン・クルドルフ氏とダートマス大学ガイゼル医学部小児科教授のコーディ・マイスナー氏も含まれている。意味不明な選出もこれだけワクチンを含む新型コロナ対策における亜流・異端のような人物たちが過半数を占め、驚くべき状況である。ACIPはケネディ氏の“趣味”仲間の井戸端会議になり果ててしまったと言ってよいだろう。残るのは元米国立衛生研究所(NIH)の所員で精神科医のジョセフ・R・ヒッベルン氏、元救急医のジェームズ・パガーノ氏、慢性疾患患者向けの治療薬投与システムを開発するベンチャー企業の最高医療責任者(CMO)で産婦人科医のマイケル・A・ロス氏だが、ケネディ氏の志向と合致する前述の5氏と比べれば、この3氏はなぜ選出されたのかも意味不明である。ただ、もともと感染症学や予防医学や公衆衛生学などの専門家に加え、消費者代表を加えてバランスを取っていた以前のACIPとはまったく異なる組織になったことだけは確かである。これから考えれば、昨今国会でキャスティングボードを握り始めた某野党の参議院選比例代表候補者にワクチン懐疑派の候補者が1人含まれているなどという日本の状況は、まだましなのかもしれない(もちろん私自身はそれを許容するつもりはないが)。

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肺炎へのセフトリアキソン、1g/日vs.2g/日~日本の約47万例の解析

 肺炎患者へのセフトリアキソン(CTRX)の投与量は1~2g/日とされているが、最適な用量は明らかになっていない。市中肺炎患者では1g/日と2g/日の有効性は同等とする報告もあるが、ICU入室を要する重症例では2g/日が有効であることを示唆する報告もある。そこで、谷口 順平氏(東京大学大学院医学系研究科)らの研究グループは、DPCデータを用いた解析により、肺炎で入院した患者におけるCTRX 1g/日と2g/日の有効性および安全性を比較した。その結果、30日院内死亡率について、全体集団ではCTRX 1g/日群と2g/日群の間に有意差はみられなかったが、機械的換気を要する重症例では2g/日群のほうが有意に低かった。本研究結果は、Journal of Antimicrobial Chemotherapy誌オンライン版2025年6月10日号に掲載された。 研究グループは2010〜22年のDPCデータを用いて、入院後2日以内にCTRXによる治療を開始した肺炎患者47万1,694例を抽出した(1g/日群17万3,079例、2g/日群29万8,615例)。主要評価項目は30日院内死亡率、副次評価項目は有害事象(胆道合併症、Clostridioides difficile感染[CDI]、アレルギー反応およびこれらの複合)とした。有効性および安全性の解析について、両群間の背景因子を調整するため、傾向スコアオーバーラップ重み付け法を用いて解析した。 主な結果は以下のとおり。・傾向スコアマッチング後の30日院内死亡率は1g/日群4.6%、2g/日群4.5%であり、両群間に有意差はみられなかった(リスク差[RD]:−0.1%、95%信頼区間[CI]:-0.3~0.1)。・副次評価項目の有害事象(胆道合併症、CDI、アレルギー反応の複合)の発現割合は1g/日群1.8%、2g/日群1.9%であり、わずかながら2g/日群が有意に高かった(RD:0.1%、95%CI:0.0~0.2、p=0.007)。CDIの発現割合もわずかながら2g/日群が有意に高かった(1.1%vs.1.2%、RD:0.1%、95%CI:0.0~0.2、p=0.014)。・機械的換気を要する重症例を対象としたサブグループ解析において、30日院内死亡率は1g/日群20.4%、2g/日群17.2%であり、2g/日群が有意に低かった(RD:-3.2%、95%CI:-5.6~-0.9、p=0.006)。・寝たきりの患者を対象としたサブグループ解析において、CDIの発現割合は1g/日群2.2%、2g/日群2.7%であり、2g/日群が有意に高かった(RD:0.4%、95%CI:0.2~0.7、p=0.006)。 本研究結果について、著者らは「通常の肺炎治療では1g/日を超えるCTRXは不要な可能性があるが、機械的換気を要する重症例では2g/日を選択肢として検討すべきである」とまとめた。

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米国で承認された薬の約半数が日本で未承認

 米国と日本における医薬品の承認格差を調査した結果、2005~22年に米国で承認された医薬品のうち44%が日本では未承認であり、近年に承認された医薬品ほど未承認に留まる傾向が強かったことを、慶應義塾大学の笠原 真吾氏らがJAMA Network Open誌2025年6月10日号のリサーチレターで報告した。 近年、米国で承認された医薬品が他国では未承認のままとなる傾向が強まっており、患者の医薬品アクセスに制限が生じる可能性がある。そこで研究グループは、米国で承認された医薬品のうち、日本では承認されていない医薬品の特徴を明らかにすることを目的として横断的解析を実施した。 対象となった医薬品は、2005~22年に米国または日本で初めて承認された新規分子化合物および生物学的製剤であった。2年の猶予期間を設定して、2024年12月31日時点の日本における承認状況を評価した。米国で承認されたものの、日本では未承認であった医薬品の傾向をロジスティック回帰分析で検討した。 主な結果は以下のとおり。・2005~22年に米国または日本で711品目の医薬品が承認された。・711品目のうち633品目は米国で承認されており、そのうち280品目(44.2%)は日本では承認されていなかった。・日本で承認された431品目のうち78品目(18.1%)は米国で承認されていなかった。78品目のうち63品目(80.8%)は欧州医薬品庁(EMA)でも承認されていなかったため、これらの医薬品はローカル薬とみなして回帰分析から除外した。・近年(2014年以降)に米国で承認された医薬品ほど日本では未承認である傾向が強かった。・抗腫瘍薬・免疫調節薬(β係数:−0.93)および血液・造血器系薬(−0.90)は日本でも承認される傾向が強かった一方で、消化器・代謝系薬(−0.43)、神経系薬(−0.51)、全身用感染症薬(−0.52)はやや承認されにくい傾向がみられた。・生物学的製剤、日本の製薬会社またはグローバルな大手製薬会社が開発した医薬品は日本でも承認される傾向が強かった。・FDAによる迅速審査指定の有無は日本での承認に影響しなかった。 研究グループは「本研究の結果は、小規模企業や外国企業への承認経路を最適化することで承認格差を是正し、日本における医薬品アクセスが向上する可能性があることを示唆している」とまとめた。

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クロストリジウム属による壊死性筋膜炎【1分間で学べる感染症】第28回

画像を拡大するTake home messageクロストリジウム属(とくにClostridium perfringens)による壊死性筋膜炎は、数時間で進行する非常に重篤な感染症である。迅速な外科的デブリードマンの介入が重要。壊死性筋膜炎は、感染症疾患の中でもとくに致死率の高い疾患として有名です。迅速な診断と適切な治療介入が必要であることは言うまでもありません。多くの起因菌が壊死性筋膜炎を来しますが、その中でもクロストリジウム属は重要な起因菌の1つです。今回は、このクロストリジウム属による壊死性筋膜炎について解説します。微生物クロストリジウム属は、嫌気性で芽胞を形成するグラム陽性の桿菌です。毒素を産生することにより、急速に壊死性病変を引き起こします。主要な菌種Clostridium perfringensはクロストリジウム属の中で最も頻繁に壊死性筋膜炎の原因となり、壊死性筋膜炎全体の約80%を占めます。Clostridium septicumは外傷の既往がないケースでも発症し、消化管悪性腫瘍との関連が強く指摘されています。Clostridium sordelliiやClostridium tertium(被外傷性壊死性筋膜炎の報告)も起因菌となることが報告されており、とくにC. sordelliiは産後や手術後に発症する劇症型の感染症として知られています。診断の進め方診断の手掛かりとしては、まず画像検査で皮下ガスの存在を確認することが重要です。単純X線やCTでガスの存在を把握できることが多く、感染の深達度を評価するうえでも有用です。また、グラム染色では太く短いグラム陽性桿菌が確認できる場合があり、外科的所見としては悪臭を伴う壊死組織やガスの存在が認められることが特徴です。さらに、術中に採取した病理組織で筋膜における炎症所見の有無を確認し、確定診断に至ります。治療の基本方針抗菌薬としてはペニシリンGに加えて、毒素産生を抑制する目的でクリンダマイシンを併用します。また、重要な点として、抗菌薬治療に加えて早期の外科的デブリードマンが予後を大きく左右します。壊死性筋膜炎を疑った際には速やかに外科や救急外科に連絡を取り、外科的介入を検討しましょう。1)Stevens DL, et al. N Engl J Med. 2017;377:2253-2265.2)Aldape MJ, et al. Clin Infect Dis. 2006;43:1436-1446.3)Sanford Guide: Necrotizing Fasciitis, Clostridia sp.

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COVID-19パンデミック期の軽症~中等症患者に対する治療を振り返ってみると(解説:栗原宏氏)

Strong points1. 大規模かつ包括的なデータ259件の臨床試験、合計約17万例の患者データが解析対象となっており、複数の主要データベースが網羅的に検索されている。2. 堅牢な研究デザイン系統的レビューおよびネットワークメタアナリシス(NMA)という、臨床研究においてエビデンスレベルの高い手法が採用されている。3. 軽症~中等症患者が対象日常診療において遭遇する頻度の高い患者層が対象となっており、臨床的意義が高い。Weak points1. 元研究のバイアスリスク各原著論文のバイアスリスクや結果の不正確さが、メタアナリシス全体の精度に影響している可能性がある。2. 重大イベントの発生数が少ない非重症患者が対象であるため、入院・死亡・人工呼吸器管理といった重篤なアウトカムのイベント数が少なく、効果推定の精度が制限される可能性がある。3. アウトカム評価の不均一性「症状消失までの時間」などのアウトカムは、原著における測定方法や報告形式が不統一であり、統合評価が困難である。その他の留意点1. ワクチン普及の影響は考慮されていない。2. ウイルスのサブタイプは考慮されていない。――――――――――――――――――― 本システマティックレビューでは、Epistemonikos Foundation(L·OVEプラットフォーム)、WHO COVID-19データベース、中国の6つのデータベースを用い、2019年12月1日から2023年6月28日までに公表された研究が対象とされている。当時未知の疾患に対し、様々な治療方法が模索され、そこで使用された40種類の薬剤(代表的なもので抗ウイルス薬、ステロイド、抗菌薬、アスピリン、イベルメクチン、スタチン、ビタミンD、JAK阻害薬など)が評価対象となっている。 調査対象となった「軽症~中等症」は、WHO基準(酸素飽和度≧90%、呼吸数≦30、呼吸困難、ARDS、敗血症、または敗血症性ショックを認めない)に準じて定義されている。 入院抑制効果に関してNNTを算出すると、ニルマトレルビル/リトナビル(NNT=40)、レムデシビル(同:50)、コルチコステロイド(同:67)、モルヌピラビル(同:104)であり、いずれも劇的に有効と評価するには限定的である。 標準治療に比して、症状解消までの時間を短縮したのは、アジスロマイシン(4日)、コルチコステロイド(3.5日)、モルヌピラビル(2.3日)、ファビピラビル(2.1日)であった。アジスロマイシンが有症状期間を短縮しているが、薬理学的な作用機序は不明であること、耐性菌の問題も踏まえると、COVID-19感染を理由に安易に処方することは望ましくないと思われる。 パンデミック当時に一部メディアやインターネット上で有効性が喧伝されたイベルメクチンについては、症状改善期間の短縮、死亡率の低下、人工呼吸器使用率、静脈血栓塞栓症の抑制といったアウトカムにおいて、いずれも有効性が認められなかった。 著者らは、異なる変異株の影響は限定的であるとしている。COVID-19に対する抗ウイルス薬の多くはウイルスの複製過程を標的としており、株による薬効の変化は理論上少ないとされる。ただし、ウイルスの変異により病原性が低下した場合、相対的な薬効の低下あるいは見かけ上の効果増強が生じる可能性は否定できない。 本調査は、非常に多数の研究を対象とした包括的なシステマティックレビューであり、2019年から2023年当時におけるエビデンスの集約である。パンデミックが世界的に深刻化した2020年以降と、2025年現在とでは、COVID-19は感染力・病原性ともに大きく様相を変えている。治療法も、新薬やワクチンの開発・知見の蓄積により今後も変化していくと考えられるため、本レビューで評価された治療法はあくまでその時点での知見に基づくものであることに留意が必要である。

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第247回 骨太の方針2025が閣議決定、賃上げ促進と病床削減が焦点に/内閣

<先週の動き> 1.骨太の方針2025が閣議決定、賃上げ促進と病床削減が焦点に/内閣 2.マダニ媒介SFTSで獣医師が死亡、医療者の感染リスクも顕在化/三重県 3.「がん以外」にも広がる終末期医療、腎不全にも緩和ケアを検討/厚労省 4.医療機関倒産が急増、報酬改善なければ「来年さらに加速」の懸念/帝国データ 5.急性期から地域包括医療病棟へ移行加速、診療報酬改定の影響が顕在化/中医協 6.「デジタル行革2025」決定、電子処方箋導入に新目標/政府 1.骨太の方針2025が閣議決定、賃上げ促進と病床削減が焦点に/内閣政府は6月13日、「経済財政運営と改革の基本方針2025」(骨太の方針2025)を閣議決定し、来年度以降の予算編成や制度改革の方向性を示した。今回の方針では、医療・介護・福祉分野における構造改革と現場の処遇改善が柱となり、「成長と分配の好循環」に向けた具体策が明示された。政府は初めて、2029年度までに実質賃金を年1%引き上げる数値目標を掲げ、医療・介護・保育・福祉分野の処遇改善を「成長戦略の要」と位置付けた。これに伴い、公的価格である診療報酬や介護報酬の引き上げを示唆し、2026年度の報酬改定に大きな影響を与える可能性がある。また、これまで「高齢化による自然増」に限定していた社会保障費の算定に、今後は物価・賃金動向を加味する方針を打ち出した。これにより、物価高や人材確保に悩む医療・介護機関にとっては、経営基盤の安定化につながるとみられる。その一方で、保険料負担とのバランスが課題となる。地域医療体制の再編も加速され、地域実情を踏まえつつ、2027年度施行の新地域医療構想に合わせて、一般・療養・精神病床の削減が明記された。とくに中小病院や療養型施設に対し、再編や役割分担が求められる。負担の公平性を重視し、医療・介護の応能負担の強化も盛り込まれた。金融所得を含めた新たな負担制度の検討が進められており、今後の制度設計に注目が集まっている。また、2026年度以降、市販薬と類似する医師処方薬(OTC類似薬)を保険給付から除外する見直しが進められ、診療所経営にも影響が及ぶ可能性がある。さらに、医療の効率化を図るため、医療DXやデータ活用が推進され、電子カルテの標準化やPHR(パーソナル・ヘルス・レコード)との連携が進展される見込みとなった。地域単位で薬剤選定を標準化する「地域フォーミュラリ」の全国展開も盛り込まれた。今回の方針は、賃上げによる持続可能な成長と、医療・福祉分野の構造改革を同時に進めるものであり、制度改革の実行力が問われる局面となる。 参考 1)経済財政運営と改革の基本方針 2025~「今日より明日はよくなる」と実感できる社会へ~[全文](内閣府) 2)ことしの「骨太の方針」決定 経済リスク対応やコメ政策見直し(NHK) 3)不要な病床の削減を明記、骨太方針決定 社会保障費「経済・物価動向等」反映へ(CB news) 4)骨太の方針、社保に物価・賃上げ反映 家計負担増す可能性(日経新聞) 5)実質賃金年1%上昇、初の数値目標 骨太の方針を閣議決定(毎日新聞) 2.マダニ媒介SFTSで獣医師が死亡、人獣共通感染症への警戒強まる/三重県マダニ媒介感染症である重症熱性血小板減少症候群(SFTS)の感染拡大が続いており、医療従事者にも重大な影響を及ぼしている。6月、三重県内でSFTS感染の猫を治療していた高齢の獣医師が感染・死亡する事例が確認された。ダニ刺咬痕は確認されておらず、唾液や血液を介したペット由来の感染が疑われている。これは、2024年の医師への感染に続く人獣間感染の深刻な事例であり、日本獣医師会は防護対策の徹底を求めている。SFTSは6~14日程度の潜伏期を経て発熱、嘔吐、下痢、意識障害、皮下出血など多彩な症状を呈し、致死率は最大30%に達する。とくに高齢者では重症化リスクが高い。現在、有効な抗ウイルス薬としてファビピラビル(商品名:アビガン)が使用できるが、ワクチンは存在しない。マダニ感染症はSFTSのほかにも日本紅斑熱やツツガ虫病があり、いずれも西日本を中心に発生が集中している。2025年も岡山・鳥取・香川・静岡・愛媛など複数県で感染例が報告されており、死亡例も出ている。春から秋にかけてマダニの活動が活発化し、農作業やアウトドア活動での感染リスクが高まる。また、SFTSは犬・猫などのペットがウイルス保有宿主になり得ることが明らかになっており、医療者・獣医師・飼い主ともに十分な感染予防対策が求められる。ペットの室内飼育、防虫剤使用、皮膚・粘膜の保護に加え、咬傷・体液接触時の手指衛生とPPE(個人防護具)の着用が推奨される。今後、診療現場でもマダニ媒介疾患への警戒を強化し、野外活動歴や動物との接触歴を含めた問診と初期対応の徹底が重要である。 参考 1)重症熱性血小板減少症候群(SFTS)について(厚労省) 2)ネコ治療した獣医師死亡 マダニが媒介する感染症の疑い 三重(NHK) 3)マダニ感染症で死亡の獣医師「胸が苦しい、息苦しい」訴え緊急搬送 発症前に感染ネコ治療(産経新聞) 4)マダニにかまれ「日本紅斑熱」60代男性感染 2025年8人目 屋外でのマダニ対策呼びかけ(静岡放送) 5)マダニにかまれ、感染症悪化で死亡事例も 今が活動期 アウトドアレジャーでの警戒を(産経新聞) 6)ダニ媒介による感染症「日本紅斑熱」「SFTS」の患者が多発 県が注意喚起(山陽放送) 7)西日本中心に“マダニ”に注意 住宅街の茂みでパンパンに膨らんだマダニも…マダニが媒介する致死率10%超えの感染症SFTSとは?50歳以上は特に重症化しやすいか(あいテレビ) 3.「がん以外」にも広がる終末期医療、腎不全にも緩和ケアを検討/厚労省厚生労働省は、緩和ケアの対象を腎不全患者にまで拡大する方針で検討を開始した。これまで緩和ケアは、がん・エイズ・末期心不全の患者を対象としてきたが、透析継続が困難になった腎不全患者においても激しい身体的・精神的苦痛が生じるケースが多く、医療現場から対応拡充を求める声が高まっていた。背景には、慢性透析患者が年々増加し、2023年には全国で約34.4万人に達し、年間3.8万人が死亡している現状がある。透析中止に際しては「人生で最も激しい痛み」と表現されるほどの苦痛を伴うこともありながら、現在の診療報酬制度では緩和ケアの加算対象から除外されており、患者は十分な医療的支援を受けられていない。こうした事態を受け、自民党の有志議員らは5月に提言を厚労省に提出。患者の尊厳を守る終末期医療の実現に向け、在宅医療体制の整備、医療用麻薬の使用拡大、関連学会によるガイドラインの整備、モデル地域の創設などを提案した。これを受け厚労省は、2025年の「骨太の方針」に腎臓病対策として盛り込み、次期診療報酬改定を視野に対応を進める見通しだ。日本透析医学会も2020年以降、緩和ケアの必要性を強調しており、透析の見合わせ段階だけでなく、意思決定前の段階でも継続的なケアの必要性を提唱。今後は腎不全患者への緩和ケア提供を制度的に後押しする議論が本格化する。 参考 1)腎不全患者に緩和ケア拡大 透析困難時の苦痛軽減(東京新聞) 2)腎不全患者に緩和ケア拡大 透析困難時の苦痛軽減 厚労省検討、骨太反映へ(産経新聞) 3)がん以外にも緩和ケアを 透析医療へ拡大訴え 学会や国で議論始まる(共同通信) 4)わが国の慢性透析療法の現況(日本透析医学会) 4.医療機関倒産が急増、報酬改善なければ「来年さらに加速」の懸念/帝国データ2025年に入って、わが国の医療機関が前例のないペースで倒産または廃業している。帝国データバンクの調査によれば、1~5月だけですでに倒産が30件、廃業・解散などが373件に達し、年間では合計1,000件に迫る勢いだ。これは2024年の過去最多記録(723件)を大幅に上回る見通しであり、医療提供体制の根幹が揺らぎ始めている。背景には、医療機器や光熱費などの物価上昇に対して、2024年度の診療報酬改定(+0.88%)が極めて抑制的だったことがある。また、医師の働き方改革により、大規模病院を中心に残業代負担が急増し、経営を圧迫している。さらに、病院の老朽化も深刻で、法定耐用年数(39年)を迎える施設が全国の約8割に及ぶ中、建設費の高騰により建て替えを断念せざるを得ない事例が増えている。中小診療所や歯科医院では、経営者の高齢化や後継者不在が廃業の主因となっている。とくに同族経営が多い歯科では、承継が進まず「法人の限界」が露呈している。M&Aのニーズは高まっているが、財務状態の良い法人に買い手が集中し、赤字法人は買い手がつかず「廃業すらできない」という二極化が進行中だ。このような事業者の「自然消滅」は、厚生労働省が推進する地域医療構想の想定を超える速さで進行しており、病床再編の制度設計と現場の実態が乖離している。現状では、老朽施設への再生支援策も不十分で、制度疲労が顕在化している。今後の政策には、(1)診療報酬や補助金の実態に即した見直し、(2)施設再建支援、(3)M&Aによる出口戦略の明確化、(4)中山間地や離島での公的医療体制の再構築が求められる。医療機関の消滅は、単なる経営問題に止まらず、地域住民の医療アクセス権や医療安全保障そのものに関わる緊急課題である。 参考 1)病院と診療所の倒産件数、5カ月で前年上半期に並ぶ 計18件 東京商工リサーチ(CB news) 2)入金基本料「大幅引き上げを」公私病連が決議 病院経営の厳しさ訴える(同) 3)医療機関で倒産急増の深刻事態!今年は約1,000事業者が“消滅”か(ダイヤモンドオンライン) 5.急性期から地域包括医療病棟へ移行加速、診療報酬改定の影響が顕在化/中医協厚生労働省は、6月13日に中央社会保険医療協議会(中医協)・調査評価分科会の「入院・外来医療等の調査・評価分科会」を開き、地域包括医療病棟および回復期リハビリ病棟に関する実態調査結果の報告をもとに討議を行なった。2024年度診療報酬改定で新設された地域包括医療病棟入院料について、届け出病院の約4割が急性期一般入院料1からの転換で、制度設計通りの導入が進んだとされた。一方、届け出検討病院は全体の5%程度に止まり、とくに「毎日リハビリ提供体制の整備」が障壁との回答が多数を占めた。また、入院患者の診療実態にはばらつきがあり、輸血や手術を多数算定する病院と、誤嚥性肺炎など内科系疾患中心の病院とで医療内容に差がみられた。急性期病棟を手放した病院も多く、地域医療構造の再編に影響が及ぶ可能性もある。一方、回復期リハビリ病棟では、FIM(機能的自立度評価)利得がゼロまたはマイナスの患者が突出して多い施設が散見され、委員からは「異常」「詳細な分析を行うべき」との指摘が相次いだ。新設されたリハ・栄養・口腔連携体制加算の基準(ADL低下3%未満)に満たない施設が多いことも判明した。今後、診療報酬制度の実効性や適正な施設基準運用のあり方が問われる。 参考 1)令和7年度第3回入院・外来医療等の調査・評価分科会(厚労省) 2)地域包括医療病棟、急性期一般1から移行が最多 全体の4割占める(CB news) 3)回復期リハ、FIM利得マイナスの患者が多くの病院に 「詳細な分析を」中医協・分科会(同) 6.「デジタル行革2025」決定、電子処方箋導入に新目標/政府政府は6月13日、「デジタル行財政改革取りまとめ2025」を決定し、医療・介護分野におけるDX(デジタルトランスフォーメーション)を中核に据えた改革方針を示した。背景には、急速な少子高齢化による医療資源の逼迫と、地域医療の持続可能性確保という喫緊の課題がある。今回の取りまとめでは、電子処方箋の導入促進とあわせて、医療データの二次利用(研究、医療資源の最適化など)に向けた制度整備が明記された。電子処方箋は2025年夏に新たな導入目標を設定し、病院・診療所での導入拡大を急ぐ。8月にはダミーコード問題への対応としてシステム改修が完了する予定であり、今後は診療報酬・補助金による導入促進も強化される。また、救急搬送時の医療情報共有を可能とする広島県発の連携PF(プラットフォーム)を全国展開する構想も示された。これにより、搬送の調整が迅速となり、災害時のEMIS連携やマイナンバーカードの活用による「マイナ救急」との統合も視野に入る。さらに、医療データの二次利用の円滑化に向けた法整備を進めるほか、AI活用のための透明性ある学習データの収集・連携環境の整備も進行中である。電子処方箋やリフィル処方の活用拡大も引き続き重要課題とされ、KPIの早期設定と次期診療報酬改定での反映が示唆された。これら一連の取り組みは、医療現場の業務効率化と質の高い医療の提供、さらには地域医療構想との接続にも大きな影響を及ぼす。医師にとっては、現場実装の速度と制度設計の動向に注視することが求められる。 参考 1)デジタル行財政改革 取りまとめ2025(デジタル行財政改革会議) 2)AIの学習データ、収集や連携促進 デジタル改革取りまとめ(日経新聞) 3)社会課題解決に医療データ活用 方針決定 法整備検討へ 政府(NHK) 4)電子処方箋、今夏に新たな目標設定 デジタル行革 取りまとめ、8月にシステム改修終了へ(PNB) 5)デジタル行財政改革会議(首相官邸)

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第266回 尾身氏の「コロナ総括」が話題、その裏にあるTV出演の真意とは

尾身氏、とんだところに出演!?新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)が感染症法の5類に移行してから2年以上が経過した。「はや2年」と考えるか、「まだ2年」と考えるのかは人それぞれだろうが、私はどちらかと言えば後者である。ただ、より具体的に言うと、「まだ2年にもかかわらず、もっと昔のことのように捉えてしまっていた」のが実際だ。そんな最中、久しぶりにここ数日、この話題にかなり引っ張られた。というのもSNSで、かつて内閣官房の新型インフルエンザ等対策推進会議に置かれた新型コロナウイルス感染症対策分科会会長だった尾身 茂氏(現・公益財団法人結核予防会 理事長)が話題になっていたからだ。尾身氏は6月8日に放送された読売テレビの「そこまで言って委員会NP」の「新型コロナ総括」と題する番組に出演。そこでコロナ禍時代を振り返った出演者との議論に一部の人たちがかなり“過剰”反応したことがきっかけである。まず、SNS上ではどう話題になったかざっくり書くと、尾身氏が新型コロナワクチンに関して「感染予防効果がない」「若者は打つ必要がない」と言ったというのだが、これだけでは何ともわからない。実際の出演コメントをチェックそこで該当の放送が視聴できる民放公式テレビ配信サービス「TVer」で同番組を視聴した。件の発言は経済ジャーナリストの須田 慎一郎氏の「コロナワクチンの安全性はどの程度?」という疑問に対し、答えたものだ。より正確に引用すると以下のようになる。「私の私見を申し上げると、まず有効だったかどうかということを結論から言うと、感染防止効果、感染を防ぐ効果は残念ながらあまりないワクチンです。これリアリティです。だから、ワクチンをやったら絶対感染しないという保証はないし、実際に感染した人が多い。これは感染防止効果ですね。じゃあ今度もう1つの有効性の分野は、重症化・死亡をどれだけ防ぐのかってありますよね。(グラフを提示しながら)70代、80代、90代以上を見ると、グラフの縦線1回も打たなかった人。これを見ると明らかで、わかる通り、たくさん打った、5回打った人の死亡率は圧倒的に(低い)。これは埼玉県のデータですが、これは全国的に一緒」ここで示されたのは埼玉県新型感染症専門家会議で公表された資料である(同資料の「新規陽性者の致死率[ワクチン接種の有無・年齢別]」)。まず、率直に言ってこの尾身氏の発言に私はまったく違和感がない。より厳密に言えば、新型コロナに対するmRNAワクチンの感染予防効果は、デルタ株までは一定程度保たれていたがオミクロン株以降、急速に低下した。ただし、現在も“mRNAワクチンによる重症化予防効果が認められている”というのが一般的な見解であり、これ自体もごく当然の発言と言える。もっともSNS上では、変異株ごと有効性の変化や「あまりない」がすっ飛ばされ、「感染予防効果はなかった」という単純化された言説がワクチンに懐疑的な人を中心に鬼の首でも取ったように出回っているのが実態である。個人的には「今さら」感が強い話である。一方、若年者に対するワクチン接種については、どう言及したか?「それはもう私は私見だけじゃなくて、これは分科会の会長として公に何度も言っています。途中からこれは若い人は感染しても重症化しないし、比較的副反応が強いから、これについては、まあ本人たちがやりたいんならどうぞと」これについては出演者から「そのアナウンスは聞かなかったなあ」との発言が飛び出したが、尾身氏は「それはわれわれの記者会見では何度も言ってる。だけどテレビのなんとかショーでは、それをほかのほうをやるからということは結構(あった)。まあ、そのことはこれ以上言ってもしょうがないんで、ま、ファクトとして、それは私としては何度も言っている」と応じた。メディアが報じていない?発信しているメディアを見ていない?実はこちらの発言に関しては、私も出演者と同じく「えっ、言ってたっけ?」との感想である。もっとも自分自身、分科会や新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボードの発信内容をすべて追えていたわけではないので何とも言えない。むしろ報道あるいは情報発信の難しさを改めて思い知らされた一件でもある。私自身各所で書いたことがあるが、SNS上などでよく目にする「メディアは報じない」という事象は、実際には報じられていながら、そう発信した人が情報収集の対象とするメディアの範囲内で発信されていなかっただけということがよくある。ちなみにそれすらもない場合は、多くのメディアが報じるだけの高い価値がないと判断した場合である。もっともこの若年者のワクチン接種についての尾身氏の発言は、丁寧に読めば、若年者に対する新型コロナワクチンの必要性を否定しているわけではなく、“希望者は任意で接種すればよし”というプライオリティ的な問題でもある。ただ、これがSNS上では尾身氏が若年者に新型コロナワクチンは必要ないと認めたと喧伝されてしまっている。アウェーで情報を発信する意義「SNS上では日常茶飯事」と言えばそれまでだが、この件で私が気になったのは、一部の医療従事者が「あんな番組に出るから…」的な意見を発信していることだ。気持ちはわからなくもない。実際、今回の番組は新型コロナワクチンに懐疑的な出演者も一部おり、尾身氏にとって明らかにアウェーな場である。しかし、コロナ禍を通じ一定の社会分断が起きた現実を踏まえ、今後のパンデミック対策の在り方を考えるならば、ある程度はアウェーな場所も含め専門家が一般向けにしつこく発信を続ける必要性があると私は感じている。「言っても通じない」「○○なやつは放置」が、実は後々重大な結果を招くことを私自身は経験している。あえて具体名を出すが、故・近藤 誠氏による「がんもどき理論」である。ベストセラーとなった同氏の著書「患者よ、がんと闘うな」の出版直後、今の日本臨床腫瘍学会の前身である日本臨床腫瘍研究会に近藤氏が招かれ、当時の一線のがん専門医にパネルディスカッションでフルボッコにされるシーンを当時20代の記者だった私は目にした。これ以後、がん専門医から近藤氏の主張に真っ向から対決する意見は、私の記憶では一定期間なかったように思う。当時、私自身は複数のがん専門医に近藤氏が「がんもどき理論」を主張し続けることをどう思うか尋ねたが、皆一様に「かまうだけ無駄」との意見だった。中には「今度その名前を口にしたら出入り禁止にするぞ」とまで凄んだ専門医までいたが、私があえて尋ねたのは、若輩者ながらすでにこの時点で「ヒトは発信量が多い対象の言うことを真に受けがちである」と感じていたからだ。ナチス・ドイツの宣伝大臣だったヨーゼフ・ゲッベルスの言葉を借りれば「嘘も百回言えば真実となる」なのだ。そして2010年代後半に突如複数の近藤氏を批判する本が出版されたことを考えれば、この間の「がんもどき理論」信者のエコーチェンバー現象が医療現場では必ずしも無視できない状況となったことを強くにおわせるし、実際、私自身そうした話を何度も耳にした。もちろんワクチンに懐疑的な人たちの中には話しても無駄な人がいるのは確かである。だが、懐疑的な人たちの周囲には一定の動揺層がいる。医療者が懐疑的な人たちを単純に放置し続ければ、将来起こるかもしれないパンデミック時に大きな障害になることは必定だ。その意味で今回の尾身氏のテレビ出演は、切り取られリスクを考慮しても英断であると個人的には考えている。

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帯状疱疹ワクチンは心臓の健康も守る

 帯状疱疹ワクチンが、高齢者の心臓の健康を守る可能性のあることが報告された。ワクチン接種者は心臓病のリスクが23%低く、これにはワクチンによる炎症抑制、血液凝固抑制が関与していると考えられるとのことだ。慶熙大学校(韓国)のDong Keon Yon氏らが、約130万人の医療データを解析して明らかにした結果であり、詳細は「European Heart Journal」に5月5日掲載された。ワクチンによる心保護効果は最大8年間続くという。 帯状疱疹は、以前に水痘に感染したことがある人に発症する。水痘の原因ウイルス(帯状疱疹のウイルスでもある)は、神経節の細胞の中に数十年間も潜伏し続け、ある時、再び活動し始めて帯状疱疹を引き起こし、痛みを伴う発疹や水疱を出現させる。「ワクチン接種を受けない場合、生涯で約30%の人が帯状疱疹を発症する可能性がある」とYon氏は解説する。そして、「帯状疱疹は発疹に加えて、心臓病のリスク上昇とも関連のあることが示唆されている。そのため、われわれは、ワクチン接種によって心臓病のリスクが低下するのではないかと考えた」と、研究背景を語っている。 この研究は、2012~2021年の韓国内の50歳以上の成人220万7,784人の医療データを用いて行われた。傾向スコアマッチングにより、127万1,922人(平均年齢61.3±3.4歳、男性43.2%)を解析対象とした。このうち半数が、帯状疱疹ウイルスを弱毒化させた生ワクチンの接種者、残り半数が非接種者だった。 中央値6.0年間追跡した解析により、ワクチン接種群は心血管イベントリスクが低いことが示された。例えば、全心血管イベントは23%低リスク(ハザード比〔HR〕0.77〔95%信頼区間0.76~0.78〕)、主要心血管イベント(脳卒中、心筋梗塞、心血管死)は26%低リスク(HR0.74〔同0.71~0.77〕)、心不全も26%低リスク(HR0.74〔0.70~0.77〕)だった。ほかにも、脳血管障害(HR0.76〔0.74~0.78〕)、虚血性心疾患(HR0.78(0.76~0.80〕)、血栓性疾患(HR0.78〔0.74~0.83〕)、および不整脈(HR0.79〔0.77~0.81〕)のリスク低下が認められた。 Yon氏は、「われわれの研究は、帯状疱疹ワクチン接種によって、既知の心臓病リスク因子がない人でも、心臓病のリスクが低下する可能性があることを示唆している。これは、ワクチン接種の健康上のメリットが、帯状疱疹の予防にとどまるものではないことを意味している」と述べている。なお、本研究では、男性、60歳未満、不健康な生活習慣(喫煙、飲酒、運動不足など)の該当者は、ワクチン接種による心保護効果という恩恵を、特に受けやすいことが示唆された。 帯状疱疹ワクチンが心臓病の発症リスクを軽減し得るメカニズムについてYon氏は、「理由はいくつか考えられる。帯状疱疹ウイルスの感染によって、血管の損傷、炎症、そして心臓病につながる血栓形成が引き起こされることがある。ワクチン接種によって帯状疱疹を予防することで、それらの影響を軽減できるのではないか」と解説している。 ただし研究者らは、「今回の研究はアジア人を対象としたものであり、他の集団には当てはまらない可能性があるため、さらなる研究が必要」と述べている。

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生後3ヵ月未満児の発熱【すぐに使える小児診療のヒント】第3回

生後3ヵ月未満児の発熱今回は、生後3ヵ月未満児の発熱についてお話しします。小児において「発熱」は最もよく経験する主訴の1つですが、「生後3ヵ月未満の」という条件が付くとその意味合いは大きく変わります。では、何が、なぜ違うのでしょうか。症例生後2ヵ月、女児受診2時間前に、寝付きが悪いため自宅で体温を測定したところ38.2℃の発熱があり、近医を受診した。診察時の所見では、活気良好で哺乳もできている。この乳児を前にして、皆さんはどう対応しますか? 「元気で哺乳もできているし、熱も出たばかり。いったん経過観察でもよいのでは?」と考える方もいらっしゃるかもしれません。しかし、この場合は経過観察のみでは不十分であり、全例で血液検査・尿検査を行うことが推奨されています。また、必要があれば髄液検査や入院も考慮すべきです。そのため、適切な検査の実施が難しい施設であれば、専門施設への紹介が望ましいです。小児科では自然に行われている対応ですが、非小児科の先生にとっては馴染みが薄いかもしれません。これは、かつて医師国家試験で関連問題の正答率が低く採点対象外となり、その後出題が避けられた結果、臨床知識として広まりにくかったという経緯が背景にあります。なぜ、生後3ヵ月未満児では対応が異なるのか?乳児期早期は免疫機能が未熟であり、とくに新生児では母体からの移行抗体に依存しているため、自身の感染防御機能が十分ではなく、全身性の感染症に進展しやすいという特徴があります。さらに、この時期の感染症は症状が非特異的で、診察時に哺乳力や活気が保たれていても、重症細菌感染症が隠れていることがあります。生後3ヵ月未満の発熱児では1〜3%に髄膜炎や菌血症、9〜17%に尿路感染症が認められると報告されています。なお「発熱」とは、米国小児科学会(AAP)が2021年に発表したガイドラインでは、直腸温で38.0℃以上が基準とされています。腋窩での測定ではやや低くなる傾向があり、腋窩温では37.5℃以上を発熱とみなすことが多いですが、施設や文献によって差があります。また、診察時に平熱であっても、自宅での発熱エピソードがあれば評価の対象になることを念頭に置く必要があります。発熱を認めたらまず血液検査+尿検査日本小児科学会やAAPでは、生後3ヵ月未満の発熱児については全例で評価を行うことを推奨しています。日齢に応じて、血液培養、尿検査、髄液検査を行い、入院加療を考慮する方針です。とくに生後28日未満の新生児では、入院による経過観察が標準対応とされています。一例として、私が所属する東京都立小児総合医療センターにおける現時点でのフローを以下に示します。0〜28日の新生児は髄液検査を含めたwork upを行って全例入院し、各種培養が48時間陰性であることを確認できるまで広域な静注抗菌薬投与、29〜90日の乳児はバイタルサインや検査で低リスクであると評価されれば帰宅可能(36時間以内に再診)、それ以外は入院としています。東京都立小児総合医療センターのフロー※ANC(好中球絶対数)は白血球分画を参考にして算出施設ごとに細かな対応は異なるとは思いますが、以下のポイントは共通しているのではないでしょうか。生後3ヵ月未満では「元気そう」は安心材料にならない発熱を認めたらルーチンで血液検査・尿検査を行う生後28日未満では髄液検査、入院を推奨まずは細菌感染症を前提に対応するどこまでのリスクに備えるか成人や高齢者の診療と同様に、場合によってはそれ以上に小児の診療でも「重い疾患を見逃さないために、どこまで検査や治療を行うべきか」という判断がシビアに求められます。目の前の小児が元気そうに見えても、ごくまれに重篤な疾患が潜んでいることがある一方で、すべての小児に負担の大きい検査を行うことが常に最善とは限りません。こうした場面で重要になるのが、「どの程度のリスクを容認できるか」という価値観です。答えは1つではなく、医学的なリスク評価に加えて、家族ごとの状況や思いを丁寧にくみ取る必要があります。AAPのガイドラインでは、医療者の一方的な判断ではなく、保護者とともに意思決定を行う「shared decision-making(共有意思決定)」の重要性が強調されています。とくに腰椎穿刺の実施や、入院ではなく自宅での経過観察を選択する場合など、複数の選択肢が存在する場面では、保護者の価値観や理解度、家庭の状況に応じた柔軟な対応が求められます。医療者は、最新の医学的知見に基づきつつ、家族との信頼関係の中で最適な方針をともに選び取る姿勢を持つことが求められます。保護者への説明と啓発の重要性現在の日本の医療では、生後3ヵ月未満の発熱児では全例に対して検査が必要となり、入院が推奨されるケースも少なくありません。しかし、保護者の多くは「少し熱が出ただけ」と気軽に受診することも多く、検査や入院という結果に戸惑い、不安を強めることもあります。このようなギャップを埋めるには、まず医療者側が「生後3ヵ月未満の発熱は特別である」という共通認識を持つことが大前提です。また、日頃から保護者に対して情報提供を行っておくことも重要だと考えます。保護者が「発熱したら、入院や精査が必要になるかもしれない」とあらかじめ理解していれば、診察時の説明もよりスムーズに進み、医療者と保護者が同じ方向を向いて対応できるはずです。実際の説明例入院!? うちの子、重い病気なんですか?生後3ヵ月未満の赤ちゃんはまだ免疫が弱く、見た目に異常がなくても重い感染症が隠れていることがあります。とくにこの時期は万が一を見逃さないように“特別扱い”をしていて、血液や尿、ときに髄液の検査を行います。検査の結果によっては入院まではせず通院で様子をみることができる可能性もありますが、入院して経過を見ることが一般的です。生後3ヵ月未満児の発熱は、「見た目が元気=安心」とは限らないという視点をもち、適切な検査の実施あるいは小児専門施設への紹介をご検討いただければ幸いです。そして、どんな場面でも、判断に迷うときこそ保護者との対話が助けとなることが多いと感じています。そうした視点を大切にしていただけたらと思います。次回は、見逃せない「小児の気道異物」について、事故予防の視点も交えてお話します。ひとことメモ:原因病原体は?■ウイルス発熱児において最も一般的な原因がウイルスです。ウイルス感染のある3ヵ月未満児は重症細菌感染症を合併していなくても、とくに新生児では以下のウイルスにより重篤な症状を来すことがあります。単純ヘルペスウイルスエンテロウイルス(エコーウイルス11型など)パレコウイルスRSウイルス など■細菌細菌感染症のうち、最も頻度が高いのは尿路感染症です。このほか、菌血症、細菌性髄膜炎、蜂窩織炎、肺炎、化膿性関節炎、骨髄炎なども重要な感染源ですが、頻度は比較的低くなります。主な病原体は以下のとおりですが、ワクチン定期接種導入により肺炎球菌やインフルエンザ菌による重症感染症は激減しています。大腸菌黄色ブドウ球菌インフルエンザ菌B群連鎖球菌肺炎球菌リステリア など参考資料 1) Up to date:The febrile neonate (28 days of age or younger): Outpatient evaluation 2) Up to date:The febrile infant (29 to 90 days of age): Outpatient evaluation 3) Pantell RH, et al. Pediatrics. 2021;148:e2021052228. 4) Leazer RC. Pediatr Rev. 2023;44:127-138. 5) Perlman P. Pediatr Ann. 2024;53:e314-e319. 6) Aronson PL, et al. Pediatrics. 2019;144:e20183604.

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コロナワクチン、デマ対策より「接種開始時期」が死亡者数に大きく影響か/東大

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックにおいて、世界中でさまざまな誤情報が拡散した。ワクチンの有効性や安全性に関する内容も多く、これらの誤情報がワクチン忌避につながったことが多くの先行研究で報告されている。東京大学国際高等研究所新世代感染症センターの古瀬 祐気氏と東北大学大学院医学系研究科の田淵 貴大氏の研究グループは、ワクチンに関する誤情報が、日本における新型コロナワクチン接種率およびCOVID-19による死亡者数に及ぼした影響について、数理モデルを用いた反実仮想シミュレーションによって解析した。その結果、誤情報対策による接種率の変動よりも、ワクチン導入のタイミングが、死亡者数抑制により大きな影響を与えた可能性が示された。本結果はVaccine誌2025年6月20日号に掲載。 本研究では、COVID-19感染者数、年齢層別ワクチン接種率、ワクチンの有効性、SARS-CoV-2変異株の種類といったデータを用い、COVID-19による死亡者数を予測する数理モデルを開発した。次に、「ワクチン接種記録システム(VRS)」と、2021年9~10月に15歳以上の3万1,000例を対象にオンラインで実施されたアンケート調査「日本における新型コロナウイルス感染症問題および社会全般に関する健康格差評価研究(JACSIS)」1)のデータを再解析した。 コロナワクチンは、2021年2月より医療従事者を対象に、4月より高齢者や基礎疾患のある人を対象に、6月より12歳以上のすべての人を対象に接種開始された。誤情報対策の失敗と成功の想定や、ワクチン導入タイミングの反事実シナリオを設定し、オミクロン株出現前の2021年1月1日~12月7日の期間において、数理モデルでCOVID-19による死亡者数の予測シミュレーションを行った。 主な結果は以下のとおり。・2021年の日本では、COVID-19による死亡者数は累計1万4,994例であった。2021年末時点での日本全体のワクチン接種率は83.4%であった。数理モデルのシミュレーションにより、実際のワクチン接種で死亡者数が3万117例回避されたことが示された。・ワクチンに関する7つの誤情報を信じているかについて、ワクチン受容者の8.5%、ワクチン忌避者の36.6%が少なくとも1つの誤情報を信じていた。・誤情報対策が失敗した場合、ワクチン接種率は83.4%から76.6%に低下し、死亡者数は1,020例増加した可能性がある。・誤情報対策が成功した場合、ワクチン接種率は83.4%から88.0%に上昇し、死亡者数は431例減少した可能性がある。・ワクチン接種開始が3ヵ月遅れていた場合、死亡者数は2万2,216例増加した可能性がある。・接種開始が3ヵ月早まった場合、死亡者数は7,003例減少した可能性がある。 著者らは本結果について、日本では2021年末までにワクチン接種率が比較的高かったため、誤情報管理を改善して接種率をさらに上昇させることによる死亡率への影響は、接種開始時期の変更による影響と比較して限定的であったと述べている。一方で、ワクチン接種開始が3ヵ月早ければ、COVID-19による死亡者数は半減した可能性も示唆された。誤情報対策による死亡者数の変動も決して無視できる数ではなく、パンデミックにおけるこれらの要因分析の重要性を強調している。

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がん患者のワクチン接種率を上げるカギは医療者からの勧め/日本がんサポーティブケア学会

 第10回日本がんサポーティブケア学会学術集会において、国立がん研究センター東病院の橋本 麻子氏は「がん患者を対象としたワクチン接種に関する2年間のアンケート調査」の内容をもとに、がん患者におけるワクチン接種の実態と課題について発表した。低い肺炎球菌、帯状疱疹のワクチン接種率 がん患者は、治療や疾患の進行に伴って免疫機能が低下していることが多く、感染症予防は非常に重要である。そのため、学会などでも季節性インフルエンザ、肺炎球菌、帯状疱疹、新型コロナウイルスワクチンの定期接種が推奨されている。 2023年および2024年に実施されたアンケート調査の結果から、がん患者のワクチン接種状況が明らかになった。がん種は乳がん、肺がん、大腸がん、その他さまざまながん患者が含まれていた。 ワクチン接種率(インフルエンザ、肺炎球菌、帯状疱疹、新型コロナウイルスのいずれかを接種したことがある患者)は2023年、2024年とも約9割にのぼる。しかし、内訳を見ると、インフルエンザワクチンは約50%、新型コロナワクチンは約60%の接種率を示しているものの、肺炎球菌ワクチンは約20%、帯状疱疹ワクチンは5%以下にとどまっている。医療者からの推奨が、がん患者のワクチン接種行動につながる 医療者からワクチン接種推奨があったかについて尋ねたところ、2023年、2024年とも約20%の患者が推奨があったと回答した。推奨者は、がん担当医が6〜7%、かかりつけ医が9〜10%で、かかりつけ医のほうが多かった。 ワクチンを推奨された患者が、その後ワクチン接種に至った割合は全体で80〜100%であった。インフルエンザワクチンを推奨された患者の接種率は76.2%、推奨されていない患者の接種率は10.4%であった。肺炎球菌ワクチン、帯状疱疹ワクチンともに推奨されていない患者に比べ、推奨された患者で高く、医療者からのワクチンの推奨は接種行動につながることが明らかになった。 また、家族など同居者の感染は患者の感染症発症に影響するため、同居者のワクチン接種も重要である。今後は多職種が連携し、がん患者および家族へのワクチン接種を推奨できるよう、医療者の教育の啓発継続も課題である。

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