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日本人に対するニボルマブのNSCLC周術期治療(CheckMate 77T)/日本肺癌学会

 ニボルマブは、切除可能非小細胞肺がん(NSCLC)患者に対する術前補助療法として本邦で使用されているが、米国ではこれに加えて、2024年10月に術前・術後補助療法としての適応も取得している。その根拠となった第III相「CheckMate 77T試験」の日本人集団の結果について、産業医科大学の田中 文啓氏が第65回日本肺癌学会学術集会で発表した。CheckMate 77T試験 試験デザインと結果の概要試験デザイン:国際共同無作為化二重盲検第III相試験対象:切除可能なStageIIA(>4cm)~IIIB(N2)のNSCLC患者(AJCC第8版に基づく)試験群:ニボルマブ(360mg、3週ごと)+プラチナダブレット化学療法(3週ごと)を4サイクル→手術→ニボルマブ(480mg、4週ごと)を最長1年(ニボルマブ群:229例)対照群:プラセボ+プラチナダブレット化学療法(3週ごと)を4サイクル→手術→プラセボを最長1年(プラセボ群:232例)評価項目:[主要評価項目]盲検下独立中央判定に基づく無イベント生存期間(EFS)[副次評価項目]盲検下独立病理判定に基づく病理学的完全奏効(pCR)・病理学的奏効(MPR)、安全性など 追跡期間中央値25.4ヵ月時点における全体集団のEFS中央値は、ニボルマブ群では未到達、プラセボ群では18.4ヵ月であった(ハザード比[HR]:0.58、97.36%信頼区間[CI]:0.42~0.81)。pCR率はニボルマブ群25.3%、プラセボ群4.7%(オッズ比[OR]:6.64、95%CI:3.40~12.97)、MPR率はそれぞれ35.4%と12.1%であった(OR:4.01、95%CI:2.48~6.49)。 日本人集団における主な結果は以下のとおり。・全体集団461例中、日本人は68例(ニボルマブ群40例、プラセボ群28例)含まれており、全体集団と比較して、PS0の患者やプラチナ製剤としてシスプラチンを使用する患者の割合が高かった。また、日本人集団のニボルマブ群はプラセボ群と比較して、扁平上皮がん、喫煙歴あり、PD-L1発現1%未満の患者の割合が高かった。・4サイクルの術前補助療法を完遂した割合は、ニボルマブ群で65%、プラセボ群で82%、手術を実施した割合はそれぞれ90%と93%、術後補助療法を実施した割合は60%と71%、術後補助療法を完遂した割合は45%と36%であった。ニボルマブ群では、全体集団と比較して、術前補助療法完遂の割合は低いものの(日本人集団vs.全体集団:65% vs.85%)、手術実施の割合は高かった(同:90% vs.78%)。・追跡期間中央値24.9ヵ月時点におけるEFS中央値は、ニボルマブ群では未到達、プラセボ群では12.1ヵ月であった(HR:0.46、95%CI:0.22~0.95)。12ヵ月EFS率はニボルマブ群82%、プラセボ群50%、18ヵ月EFS率はそれぞれ77%と43%であった。・pCR率はニボルマブ群42.5%、プラセボ群0%(OR:NA)、MPR率はそれぞれ52.5%と7.1%であった(OR:14.37、95%CI:3.00~68.82)。・全期間におけるGrade3以上の治療関連有害事象(TRAE)はニボルマブ群55.0%(22/40例)、プラセボ群39.3%(11/28例)に認められ、全体集団よりも高い割合で発現していた(全体集団はそれぞれ32.5%、25.2%)。これを期間別にみると、術前期間ではニボルマブ群47.5%(19/40例)、プラセボ群39.3%(11/28例)、術後期間ではそれぞれ12.5%(3/24例)と0%(0/20例)と、術前期間における発現割合が高かった。・日本人集団でとくに発現割合が高かった免疫介在性有害事象は、皮膚障害や間質性肺疾患などであった。 講演後、全体集団と比較した場合の手術実施割合、pCR率、MPR率の高さの理由について質問があった。田中氏は、「(明確な理由は不明であるものの)無作為化により対照群に割り付けられる患者の不利益を踏まえ、切除可能性やPSなどを考慮して、厳格に患者選定を行った結果ではないか」と考察した。また、術前のみニボルマブを使用するCheckMate 816試験の結果も踏まえ、pCRが得られた場合の後治療の要否やnon-pCRであった場合の後治療など、今後のクリニカルクエスチョンについても議論があった。 田中氏は、今回の有効性と安全性プロファイルの結果はCheckMate 77T試験の全体集団の結果と一致しているとし、「切除可能NSCLC日本人患者に対するニボルマブの術前・術後補助療法としての使用可能性を支持するものである」とまとめた。

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CAVI高値のCAD患者は発がんリスクが高い

 冠動脈疾患(CAD)の治療を受けた患者の中で、心臓足首血管指数(CAVI)が高く動脈硬化がより進行していると考えられる患者は、その後の発がんリスクが高いことを示すデータが報告された。福島県立医科大学循環器内科の清水竹史氏らによる研究の結果であり、詳細が「Circulation Reports」9月号に掲載された。 近年、がん患者は心血管疾患(CVD)リスクが高く、CVD患者はがんリスクが高いという相関の存在が明らかになり、両者に関与するメカニズムとして慢性炎症などを想定した研究も進められている。しかし、動脈硬化のマーカーと発がんリスクとの関連についてはまだ知見が少ない。清水氏らは、同大学附属病院の患者データを用いた前向き研究により、この点を検討した。 2010年1月~2022年3月に同院にてCADに対する経皮的冠動脈形成術を受け、CAVIが測定されていた入院患者から、未治療または病勢が制御されていないがん患者、維持透析患者などを除外した連続1,057人を解析対象とした。2023年2月まで追跡(平均2,223日)で、新たに141人ががんを診断されていた。ROC解析により、発がんの予測に最適なCAVIのカットオフ値は8.82と計算され(AUC0.633)、これを基準に2群に分けると、CAVI高値群(53.9%)は低値群(46.1%)に比べて高齢で、糖尿病、慢性腎臓病、貧血の有病率が高く、脳卒中既往者が多いという有意差が認められた。喫煙率やがん既往率には有意差がなかった。 カプランマイヤー法により、CAVI高値群は有意に発がんリスクが高いことが明らかになった(P=0.001)。多変量Cox比例ハザードモデルにて交絡因子(年齢、性別、BMI、喫煙歴、併存疾患、がんの既往など)の影響を調整後、CAVI高値は新規発がんの独立したリスク因子として特定された(ハザード比〔HR〕1.62〔95%信頼区間1.11~2.36〕)。CAVIを連続変数とする解析でも、CAVIが高いほど発がんリスクが高くなるという関連が示された(CAVIが1高いごとにHR1.16〔1.03~1.30〕)。 サブグループ解析の結果、年齢や性別、BMI、喫煙歴、併存疾患・既往症の有無では有意な交互作用は認められず、上記の関連は一貫していた。唯一、貧血の有無の交互作用が有意であり、貧血あり群ではCAVI高値による発がんリスクの上昇が見られなかった。 このほか、感度分析としてCAVIのカットオフ値を8または9とした解析も行ったが、結果は同様だった。なお、新たに診断されたがんの部位については、胃、前立腺、肺、大腸が多くを占め、日本の一般人口と同様であり、かつCAVIの高低で比較しても部位の分布に有意差はなかった。 著者らは、本研究が単一施設のデータに基づく解析結果であることなどを限界点として挙げた上で、「CAVIが高いことはその後の発がんリスクの高さと関連していた。CAD患者の中からCAVIによって、スクリーニングを強化すべき発がんハイリスク者を抽出可能なのではないか」と述べている。

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ChatGPTの活用法いろいろ【Dr. 中島の 新・徒然草】(555)

五百五十五の段 ChatGPTの活用法いろいろ日本の衆院選に続いて米国大統領選も終わり、4年ぶりに共和党のドナルド・トランプ前大統領が返り咲きました。次に何を言い出すやら予測不能なトランプ大統領のこと。果たして今後の4年間、日本はどんな影響を受けることになるのでしょうか?さて、先日オンライン講演会の演者をしました。「ChatGPTを使った英会話上達法」という演題です。主催者によれば、普段の聴衆とは少し違ったメンツが集まったとのこと。皆さん、それぞれに英語では苦労しているのでしょう。私はChatGPTのパソコン版とスマホ版を使っての上達法を紹介しました。とくにスマホを使った実演は、見ていた人たちには随分なインパクトを与えたようです。早速その場でアプリをダウンロードした人もおられました。さて、講演会の後は恒例のフリートークです。それぞれの人が自分のChatGPT活用法を紹介しており、いろいろと参考になりました。1つ目。某医療機関のリハビリ担当者。患者さん向けにポスターやパンフレットを作成しているのですが、そのタイトルをChatGPTに考えてもらうというもの。3つほど考えてもらって、その中から選ぶそうです。私もこの「新・徒然草」のタイトルをChatGPTに考えてもらうことがあります。ただ、私の場合は20個ほど考えてもらい、その候補をさらに組み合わせて作っています。2つ目は推薦状です。誰かの昇進や異動に伴う推薦状は、何をどう書いていいやらさっぱりわかりません。そこでChatGPTに下書きさせるという先生がおられました。氏名や簡単な経歴、被推薦者の長所などの情報を入れて「貴院の○○というポジションに相応しい人物だ」という形での推薦状作成です。すると「おいおい、ちょっと誉めすぎと違うか」としか思えないようなものが出来てきたのだとか。で、念のため推薦される本人に見せてみると頷きながら読み、「ありがとうございます。まあ、こんなものでしょうね」みたいな反応だったそうです。決して「先生、これは誉めすぎですよ!」という反応ではなかったとか。さすがにそのまま提出するのも憚られたので、現実的な方向に軌道修正したそうです。3つ目は患者さんの質問に対する回答。外来で診ている患者さんからは、思わぬ質問が来ることがあります。たとえば、検査結果をプリントしてお渡しした時に「○○が異常値なのですが、どうしてでしょうか?」など。「基準値の上限をちょっと超えているくらい気にしなくていいのに」と言っても、納得しない人が大勢おられます。そこでChatGPTに「病気がないのに○○の検査結果が基準値をわずかに上回っている場合、どのような原因が考えられますか?」と尋ねると、即座に10個ほどの原因らしきものを挙げてくれます。たとえば喫煙加齢炎症性疾患や慢性疾患良性疾患妊娠やその他の一時的状態食生活や一時的な要因薬剤の影響遺伝的要因女性のホルモンバランスの異常一過性の自己免疫反応などですね。「病気がないのに」とわざわざ断っているのに、炎症性疾患、慢性疾患、良性疾患などを挙げるのがChatGPTらしいところですが、そこは大目に見ておきましょう。また、「遺伝的要因」などと言うと、余計に患者さんを心配させてしまいます。ここは「体質」と言ったほうが無難でしょうね。4つ目は英文校正です。何か英語の論文や文書を作成した時の校正は、皆さんそれぞれに工夫しておられることと思います。ネイティブによる英文校正サービスを使っている先生も何人かおられましたが、人力ではいくら速くても数時間から数日のタイムラグができてしまいます。その点、ChatGPTは瞬時に校正してくれるので、役立つことこの上ないのが正直なところ。とくに、どういう理由でこの部分を直したのかも教えてくれるところが親切です。しかも、同じ部分を修正したとしても、そのたびに何度でも校正可能。これは大変ありがたい機能で、いわば親切で忍耐強いバイリンガルが、24時間そばにいてくれるみたいなものです。ただ、ChatGPTも使いようです。フリートークでのディスカッションでは、英会話におけるスピーキングは確かにChatGPTで鍛えてもらうことはできるけれども、リスニングはどうなのか、ということがありました。これについては誰からもいいアイデアが出ませんでした。私自身も現在は模索中です。ただChatGPT自身の進化、そしてユーザー側の使い方の工夫も相まって、近いうちに効果的なリスニングの向上法が見いだされるのではないかと期待しております。最後に1句立冬や もはや友達 AIは

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日本人の認知機能にはEPA/DHAに加えARAも重要―脳トレとの組合せでの縦断的検討

 パズルやクイズなどの“脳トレ”を行う頻度の高さと、アラキドン酸(ARA)やドコサヘキサエン酸(DHA)という長鎖多価不飽和脂肪酸(LCPUFA)の摂取量の多さが、加齢に伴う認知機能低下抑制という点で、相加的に働く可能性を示唆するデータが報告された。また3種類のLCPUFAの中で最も強い関連が見られたのは、DHAやエイコサペンタエン酸(EPA)ではなくARAだという。サントリーウエルネス(株)生命科学研究所の得田久敬氏、国立長寿医療研究センター研究所の大塚礼氏らの研究結果であり、詳細は「Frontiers in Aging Neuroscience」に8月7日掲載された。 認知機能の維持には、食習慣や運動習慣、脳を使うトレーニング“脳トレ”などを組み合わせた、多面的なアプローチが効果的であると考えられている。ただ、それらを並行して行った場合の認知機能に対する影響を、縦断的に追跡した研究報告は少ない。得田氏らは、栄養関連で比較的エビデンスの多いLCPUFAと脳トレの組み合わせが、加齢に伴う認知機能低下を抑制するのではないかとの仮説の下、以下の検討を行った。 この研究は、国立長寿医療研究センターが行っている「老化に関する長期縦断疫学研究(NILS-LSA)」のデータを用いて行われた。2006~2008年に登録された認知症のない60歳以上の地域住民から、EPA製剤が処方されておらずデータ欠落のない906人を解析対象とした。対象者の主な特徴は、平均年齢70.2±6.7歳、男性50.8%で、認知機能を表すMMSEは30点満点中28.1±1.6点であり、3日間の食事記録(サプリメント摂取も含む)から推計したLCPUFAの1日当たり摂取量の中央値は、ARAが152mg、EPAが280mg、DHAが514mgだった。また、クロスワードパズルや数字パズルなどの脳トレを、週1回以上行っている割合は、35.8%だった。 2年間の追跡で、MMSEが2点以上低下した場合を「認知機能の低下」と定義すると、180人(19.9%)がこれに該当。認知機能が低下した群はそうでない群に比べて、高齢で教育歴が短く、ベースライン時点のMMSEが高いことのほかに、ARA摂取量が少ない(140対154mg/日、P=0.005)という有意差が認められた。EPAとDHAの摂取量は認知機能低下と有意な関連を認めなかった。また、性別の分布、喫煙、アルコール摂取量、身体活動量、BMI、基礎疾患有病率、および脳トレの頻度も有意差がなかった。 脳トレの頻度および3種類のLCPUFAの摂取量について、それぞれの三分位で3群に分け、交絡因子(年齢、性別、BMI、喫煙、アルコール摂取量、身体活動量、教育歴、収入、基礎疾患、抑うつ傾向、MMSEなど)を調整して、認知機能の低下との関連を検討すると、脳トレの頻度の高さ(傾向性P=0.025)と、ARA摂取量の多さ(傾向性P=0.006)が有意に関連していた。EPAやDHAの摂取量との関連は非有意だった。有意な関連の認められた脳トレ頻度の高低(週1回以上/未満)、および、ARA摂取量の多寡(中央値以上/未満)とで全体を4群に分けて、双方が少ない群を基準として認知機能の低下のオッズ比(OR)を算出した結果、他の3群は全てオッズ比が有意に低く、双方が多い群で最も低いオッズ比(OR0.415)が観察された(傾向性P=0.001)。 ところで、本研究ではEPAやDHAと認知機能低下との関連が非有意だったが、海外からはEPAやDHAも認知機能に対して保護的に働くことを示唆するデータが複数報告されている。この違いの理由として、日本人は魚の摂取量が多いため、EPAやDHAの平均摂取量が海外の報告より約3倍以上高いことの影響が考えられる。そこで、本研究の対象者のうち、EPA、DHAの摂取量が下位3分の1の人に絞り込んで、上記と同様のサブグループ解析を施行した。その結果、DHAについては摂取量が多いほど認知機能低下のオッズ比が低いという有意な関連が認められ(傾向性P=0.023)、かつ、脳トレ頻度と組み合わせた4群での比較でも、双方が多いことによる相加的な影響が認められた(傾向性P=0.025)。一方、EPAに関してはこの対象の解析でも、有意性が見られなかった。 著者らは、「脳トレ頻度の高さとARA摂取量が多いことの組み合わせは、高齢日本人の認知機能低下リスクを相加的に抑制する可能性がある。また、魚介類の摂取量が少ない高齢者では、DHAも同様に作用すると考えられる」と結論付けている。

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禁煙開始が「遅すぎる」ことはない

 喫煙習慣のある高齢者の中には、「今さら禁煙しても意味がない」と考えている人がいるかもしれない。しかし、実際はそんなことはなく、高齢期に入ってから禁煙したとしても、タバコを吸い続けた場合よりも長い寿命を期待できることが明らかになった。例えば75歳で禁煙した場合、喫煙を続けた人よりも1年以上長く生きられる確率が14.2%に上るという。米ミシガン大学のThuy Le氏らが、禁煙によるメリットを禁煙開始時の年齢別に解析した結果であり、詳細は「American Journal of Preventive Medicine」に6月25日掲載された。 この研究には、米国で行われている国民健康調査やがん予防研究、国勢調査、死亡統計などのデータが用いられた。35~75歳の間のさまざまな時点の喫煙状況で対象者を3種類(喫煙歴なし、喫煙継続、禁煙)に分類し、平均余命を割り出して比較した。その結果、若いうちに禁煙したほうがメリットは大きいものの、高齢になってから禁煙した場合にも、喫煙を続けた人より寿命が延びることが示された。詳細は以下のとおり。 まず、35歳の一般人口の平均余命は45.4年、喫煙歴のない人は47.8年、喫煙者は38.7年、35歳で禁煙した人は46.7年。35歳時点で禁煙することにより、喫煙を続けた場合に比べて平均余命が8.0年延長し、1年長く生きられる確率が52.8%、4年長く生きられる確率が45.4%、6年長く生きられる確率が40.6%、8年長く生きられる確率が36.0%であることが示された。 一方、65歳の一般人口の平均余命は19.5年、喫煙歴のない人は20.9年、喫煙者は15.1年、65歳で禁煙した人は16.8年。65歳時点で禁煙することにより、喫煙を続けた場合に比べて平均余命が1.7年延長し、1年長く生きられる確率が23.4%、4年長く生きられる確率が16.3%、6年長く生きられる確率が12.4%、8年長く生きられる確率が9.3%だった。 また、75歳の一般人口の平均余命は12.3年、喫煙歴のない人は13.4年、喫煙者は9.0年、75歳で禁煙した人は9.7年。75歳時点で禁煙することにより、喫煙を続けた場合に比べて平均余命が0.7年延長し、1年長く生きられる確率が14.2%、4年長く生きられる確率が7.9%、6年長く生きられる確率が5.1%、8年長く生きられる確率が3.1%だった。 論文の筆頭著者であるLe氏は、「過去10年間で、若者の喫煙率は著しく低下した。しかし、高齢者の喫煙率は変化が少ない」と述べるとともに、「われわれが知る限り、禁煙が高齢者にもメリットをもたらすことを立証した研究は過去にない。われわれは、喫煙をやめることがどの年齢でも有益であることを示し、喫煙習慣のある高齢者に禁煙の動機付けとしてほしかった」と研究背景を語っている。 論文の上席著者である同大学のKenneth Warner氏も、「高齢になってから禁煙することで得られるメリットは、絶対値としては低いように思えるかもしれないが、残されている寿命に大きな影響を与える」と述べている。

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幸福感が脳卒中や心筋梗塞からあなたを守る

 幸福感が高い人ほど、脳卒中や心筋梗塞のリスクが低いことを示唆するデータが報告された。中国科学技術大学脳卒中センターのWen Sun氏らの研究によるもので、詳細は「Journal of the American Heart Association」に9月18日掲載された。 論文の上席著者であるSun氏は、「われわれの研究結果は、人々の精神的な健康を高めることが心臓や脳の病気の予防に不可欠な要素であることを意味しており、健康管理への総合的なアプローチの重要性を支持するものと言える」と述べている。さらに同氏は、「医療専門家は、患者の幸福を高める効果的な方法として、習慣的な身体活動、社会活動、ストレス管理テクニックを推奨するなど、生活満足度と幸福感を向上させる戦略を、日常のケアの一部として含めることを検討する必要があるのではないか」とも付け加えている。 この研究は、英国の一般住民を対象に行われている大規模疫学研究「UKバイオバンク」の参加者、12万1,317人(平均年齢56.56±8.15歳、男性45.03%)のデータを用いて行われた。参加者の幸福感は、UKバイオバンク研究登録時に行われていた調査票の回答を基に把握した。具体的には、家族、友人関係、健康、仕事、暮らし向きに関する幸福感や満足感などを、6段階のリッカートスコアで判定して定量的に評価した。 中央値11.77年の追跡期間中に、脳卒中5,990件、慢性虚血性心疾患9,177件、心筋梗塞6,462件、心不全3,323件が発生。結果に影響を及ぼし得る因子(年齢、性別、BMI、喫煙・飲酒習慣、民族、腎機能、基礎疾患、血圧・脂質・血糖管理のための薬剤処方など)を調整後、幸福感のスコアが1標準偏差高いごとに、脳卒中(ハザード比〔HR〕0.89〔95%信頼区間0.87~0.91〕)、慢性虚血性心疾患(HR0.90〔同0.88~0.92〕)、心筋梗塞(HR0.83〔0.81~0.85〕)、心不全(HR0.90〔0.87~0.93〕)のリスクが有意に低下することが示された。 また、幸福感のスコアに基づき4群に分け、スコアが最も低い群を基準として比較すると、最もスコアの高い群は、脳卒中は45%、慢性虚血性心疾患は44%、心筋梗塞は56%、心不全は51%、それぞれ低リスクであることが分かった。さらなる分析の結果、幸福感の高い人は、より健康的なライフスタイルを維持していて、慢性炎症のレベルが低いことが明らかになった。Sun氏は、「これらの結果は、感情や心理的な健康が身体的な健康に及ぼす影響力の強さを強調しており、これまで十分に理解されていなかった複雑な生物学的メカニズムに光を当てるものだ」と総括している。 本研究には関与していない米国心臓協会(AHA)のGlenn Levine氏は、「報告された研究結果は、精神的健康と心血管のリスクとの関連性を具体的に示している。精神的健康に関してはこれまで当然のことながら、うつ病やストレスなどのネガティブな事象が研究テーマとなっていた。しかしこの研究は、人々の幸福感というポジティブな面の重要性を明示した」と述べている。

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歯科受診で介護コストが抑制される可能性

 歯科を受診することが、その後の要介護リスク低下や累積介護費の抑制につながる可能性を示唆するデータが報告された。特に予防目的での歯科受診による抑制効果が顕著だという。東北大学大学院歯学研究科国際歯科保健学分野の竹内研時氏、木内桜氏らの研究グループによる論文が、「The Journals of Gerontology. Series A, Biological Sciences and Medical Sciences」に8月5日掲載された。 超高齢社会の進展を背景に増大する介護費への対策が、喫緊の社会的課題となっている。介護費増大の要因として脳卒中や心血管疾患、認知機能低下などが挙げられるが、それらのリスク因子として、歯周病や咀嚼機能の低下といった歯科で治療可能な状態の関与を示唆する研究報告が増えている。このことから、適切な歯科治療によって要介護リスクが低下し、介護コストが抑制される可能性が考えられるが、そのような視点での検証作業はまだ行われていない。これを背景として竹内氏らは、全国の自治体が参加して行われている「日本老年学的評価研究(JAGES)」のデータを用いた研究を行った。 JAGESは、2010年に自立して生活している高齢者を対象とする長期コホート研究としてスタート。今回の研究では、調査実施前6カ月間の歯科受診状況、および2018年まで(最大91カ月)の介護保険利用状況を確認し得た、8,429人のデータを解析に用いた。ベースライン時の平均年齢は73.7±6.0歳で、男性が46.1%であり、過去6カ月以内の歯科受診状況は、予防目的での受診ありが35.9%、治療目的での受診ありが52.4%、予防か治療いずれかの目的での受診ありが56.3%だった。 約8年の追跡期間中に1,487人(17.6%)が介護保険の利用を開始し、1,093人(13.0%)が死亡していた。介護保険の利用期間の全体平均は4.5±13.2カ月であり、累積介護費の全体平均は4,877.0米ドルだった。 追跡期間中に介護保険を利用した群と利用しなかった群のベースラインの特徴を比較すると、前者は高齢で女性や配偶者なしの人が多く、BMIが低い、歩行時間が短い、教育歴が短い、低収入などの傾向があり、また、医科の健診を受けていない人が多く、過去6カ月以内に歯科を受診していない人が多い傾向が見られた。 介護保険の平均利用期間は、過去6カ月以内に治療目的で受診していた群はそうでない群より短く、過去6カ月以内に予防か治療いずれかの目的で受診していた群もそうでない群より短かった。過去6カ月以内に予防目的で受診していた群もそうでない群よりも短かった。介護費用に関しては、これら3通りの比較でいずれも、歯科受診をしていた群の方が有意に少なかった。 交絡因子(年齢、性別、BMI、飲酒・喫煙習慣、歩行時間、婚姻状況、収入、教育歴、歯数、地域、基礎疾患〔糖尿病、高血圧、脳卒中、心臓病、がん、うつ状態〕)を調整後、ベースラインから過去6カ月以内に予防か治療いずれかの目的で受診していた群は、そうでない群よりも追跡期間中の介護保険利用が有意に少なかった(オッズ比〔OR〕0.86〔95%信頼区間0.76~0.98〕)。予防目的のみ、または治療目的のみの受診の有無での比較では、介護保険利用率に有意差が見られなかった。 次に、介護保険を利用した人において、ベースラインから過去6カ月以内の歯科受診の有無により累積介護費が異なるのかを、相対コスト比(RCR)を算出して検討。その結果、予防目的で受診していた群はRCR0.82(95%信頼区間0.71~0.95)と、要介護状態になったとしても介護費が有意に少ないことが分かった。治療目的のみ、または予防か治療いずれかの目的での受診の有無での比較では、RCRに有意差は認められなかった。 続いて、歯科受診の有無別に予測される累積介護費を算出。すると、予防目的での受診により累積介護費が-1,089.9米ドル(95%信頼区間-1,888.5~-291.2)と、有意に少なくなることが予測された。また、予防か治療いずれかの目的での受診では、-980.6米ドル(同-1,835.7~-125.5)の有意な減少が見込まれた。治療目的での受診では有意差は認められないものの、-806.7米ドル(同-1,647.4~34.0)の減少が見込まれた。 以上一連の結果を基に著者らは、「歯科受診、特に予防目的での受診は、累積介護費の低下と関連していた。歯科受診を通して口腔の健康を維持することで、介護費を抑制できる可能性がある」と結論付けている。

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ビタミンB1が便秘リスクを軽減、とくに有効な人は?

 これまでの多くの研究から、食事からの微量栄養素の摂取と便秘発生との相関関係が示されている。中国・蘇州大学付属病院Wenyi Du氏らは、国民健康栄養調査(NHANES)の成人参加者におけるデータを用い、食事におけるビタミンB1摂取と慢性便秘との関連を調べた。BMC Gastroenterology誌2024年5月17日号の報告。 2005~10年に実施されたNHANESのデータを使用した。ビタミンB1摂取に関するデータは24時間の総栄養摂取量インタビューを通じて収集された。参加者はデータ収集前の30日間に記録された糞便の特徴と排便頻度に関する情報を提供し、便秘は排便頻度(週3回未満)または便の硬さ(ブリストル便スケールタイプ1または2)によって判定された。ビタミンB1摂取量に基づいて低量群(0.064~1.20mg)、中量群(1.21~1.75mg)、多量群(1.76~12.61mg)の3群に分け、年齢、性別、人種、BMI、婚姻状況、アルコール摂取、喫煙状況、世帯収入と貧困率の比率(PIR)、既存の併存疾患、食事摂取因子で調整した。 主な結果は以下のとおり。・対象となった成人1万371例のうち1,123例(10.8%)が慢性便秘症だった。多重ロジスティック回帰分析により、ビタミンB1の食事摂取量の増加が便秘のリスク低下と有意に関連していることが示された(オッズ比[OR]:0.87、95%信頼区間[CI]:0.77~0.99)。・ビタミンB1摂取量が多いほど、便秘の発生率が有意に低下した。便秘の有病率は多量群では7.69%、中量群では10.7%、低量群では14.09%だった。・サブグループ分析により、ビタミンB1摂取量と便秘有病率に有意な逆相関が見られるグループが特定された。男性は20%、高血圧のない人は16%、糖尿病のない人は14%、それぞれ便秘リスクが減少することが判明した。 研究者らは「この研究で、食事中のビタミンB1の摂取と慢性便秘の発生との間に逆相関があることが明らかになった。この関連は、食事によるビタミンB1の摂取量を増やすと便が柔らかくなり、腸の運動が活発になり、便秘症状が緩和される可能性があることを示唆している。医療専門家は、医学的介入に先立つ初期治療アプローチとして、バランスの取れた食事の促進を優先するようアドバイスすべきだ」としている。

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発酵乳製品、加齢による歩行速度の低下を抑制

 発酵乳製品が加齢に伴う歩行速度の低下を抑制することを示唆するデータが報告された。摂取頻度の多寡によって、男性では歩行速度に7.3年分に相当する差が生じ、さらに日常の歩数の多寡も考慮した場合、最大で22.0年分の差が生じる可能性があるという。東京都健康長寿医療センター研究所運動科学研究室の青栁幸利氏らの研究によるもので、詳細は「Beneficial Microbes」に7月5日掲載された。 加齢に伴い身体機能およびストレス耐性が低下した、要介護予備群とも言える「フレイル」への公衆衛生対策が急務となっている。フレイルの予防には適度な運動とバランスの良い食事が大切と考えられていて、特に食事に関してはタンパク質摂取の重要性とともに近年、ヨーグルトなどの発酵乳製品の有用性が示されてきている。ただし、その効果を実際にヒトで検討した研究報告はまだ少ない。 以上を背景として青栁氏らは、群馬県中之条町で行われている地域在住高齢者対象疫学研究「中之条研究」のデータを用い、横断的および縦断的解析を実施した。解析対象は、自立した生活を送っていて、慢性・進行性疾患(がん、認知症、関節炎、パーキンソン病など)のない65歳以上の高齢者。栄養士が食事調査を行い、発酵乳製品(チーズを除く)の摂取頻度が週3日未満/以上で二分。また、加速度センサーで把握された歩数が1日7,000歩未満/以上で二分した上で、歩行速度を比較検討した。 横断的解析の対象は581人(年齢範囲65~92歳、男性38.6%)で、発酵乳製品の摂取頻度が週3日以上の割合は、男性では56.3%、女性は71.1%。男性・女性ともに両群間で年齢、BMI、および1日の歩数に有意差はなかった。男性の日常の歩行速度は、発酵乳製品の摂取頻度が週3日以上の群が1.37±0.21m/秒、摂取頻度が3日未満の群は1.31±0.20m/秒であり、最大歩行速度は同順に2.15±0.45m/秒、2.02±0.42m/秒だった。交絡因子(年齢、BMI、喫煙習慣、飲酒習慣、およびエネルギー摂取量またはタンパク質摂取量)を調整後、両群の歩行速度に有意差が観察された。女性の歩行速度については、有意差が認められなかった。 一方、1日の歩数が7,000歩以上の割合は、男性では48.2%、女性は45.1%であり、7,000歩以上の群は年齢が若くBMIが低かった。交絡因子(年齢、BMI、喫煙習慣、飲酒習慣)を調整後、性別にかかわらず日常の歩行速度および最大歩行速度ともに、歩数7,000歩以上の群の方が有意に速いことが分かった。 発酵乳製品の摂取頻度と歩行速度を組み合わせて全体を4群に分けて比較すると、男性では発酵乳製品の摂取頻度が高くて歩数が多い群の日常の歩行速度が最も速く、他の3群との間に有意差が認められ、女性もほぼ同様の結果(歩数7,000歩以上で発酵乳製品の摂取頻度3日/週未満の群との差は非有意)だった。 なお、男性では、1歳高齢になるごとに日常の歩行速度が0.0082m/秒低下すると計算された。発酵乳製品摂取頻度の多寡による2群間の歩行速度の差は0.06m/秒であったことから、歩行速度上は7.3年分の年齢差が存在していると考えられた。さらに歩数の多寡を考慮した場合、発酵乳製品の摂取頻度が高くて歩数が多い群と発酵乳製品の摂取頻度が低くて歩数が少ない群との群間差は0.18m/秒であり、22.0年分の年齢差が生じていると計算された。 縦断的解析は、2014年と5年後の2019年の調査に参加した240人(年齢範囲65~91歳、男性42.9%)を対象として実施された。2014年時点で発酵乳製品の摂取頻度が週3日以上だったのは68.8%だった。2019年の日常の歩行速度は、摂取頻度が週3日未満の群では5年前と比べて0.11±0.14m/秒低下していたのに対して、摂取頻度が3日以上の群の低下幅は0.064±0.169m/秒にとどまっており、交絡因子(年齢、性別、BMI、喫煙習慣、飲酒習慣、2014年時点の日常の歩行速度)を調整後に有意な群間差が認められた。 これら一連の結果を基に著者らは、「発酵乳製品の習慣的な摂取が高齢者の歩行速度の低下抑制に寄与する可能性があり、また歩数が多いことと相加効果も期待できるのではないか」と述べている。なお、発酵乳製品の効果発現のメカニズムとしては、既報研究からの考察として、発酵乳製品中に含まれる微生物による腸管内の短鎖脂肪酸の増加を介して筋肉にエネルギーが供給されたり、慢性炎症が抑制されたりすることの関与が考えられるとしている。

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携帯電話の頻用で、CVDリスクが高まる

 携帯電話を頻用することで睡眠障害と心理的ストレスが高まり、心血管疾患(CVD)リスク増加につながる可能性があることが、新たな研究で示された。中国・広州の国立腎臓病臨床研究センターのYanjun Zhang氏らによる本研究は、The Canadian Journal of Cardiology誌オンライン版2024年7月22日号に掲載された。 研究者らは50万例以上が参加する大規模コホートである英国バイオバンクのデータを用い、CVDの既往歴のない44万4,027例を対象とした。携帯電話の定期的な使用は、少なくとも週1回の通話・受信と定義した。携帯電話の使用時間は、過去3ヵ月間の週平均(5分未満、5〜29分、30〜59分、1〜3時間、4〜6時間、6時間以上)を自己申告によって得た。主要評価項目は新規CVD(冠動脈性心疾患[CHD]、心房細動[AF]、心不全[HF]の複合)発症、副次評価項目は新規脳卒中、個別のCHD、AF、HF発症、および頸動脈内膜中膜厚(cIMT)発症 だった。 睡眠パターン、心理的ストレス、神経症の役割を調査するために媒介分析を行った。睡眠スコアは睡眠時間、不眠症、いびきなどの情報から過去の研究に基づいて推定、心理的ストレスの評価にはPHQ-4を使用した。ベースライン時の性別、年齢、居住地域、世帯収入、アルコール摂取、喫煙、身体活動、服薬などの共変量の情報を、アンケートまたはインタビューで収集した。 主な結果は以下のとおり。・平均年齢は56.1歳で、男性19万5,623人(44.1%)であった。携帯電話常用群は若年層、現喫煙者、都市在住者の割合が高く、高血圧と糖尿病の既往歴がある人の割合が低かった。・追跡期間中央値12.3年で5万6,181例(12.7%)がCVDを発症した。携帯電話常用群は非常用群と比較して、新規CVDリスクが有意に高く(ハザード比:1.04、95%信頼区間[CI]:1.02~1.06)、cIMTの増加も認められた(オッズ比:1.11、95%CI:1.04~1.18)。・常用群における週当たりの使用時間は、とくに現喫煙者(交互作用のp=0.001)および糖尿病患者(p=0.037)において、新規CVDリスクと正の相関関係を示した。・週当たりの使用時間と新規CVD発症との関係のうち、5.11%は睡眠パターン、11.5%は心理的ストレス、2.25%は神経症が媒介していた。 研究者らは、「携帯電話の週当たりの使用時間は、新規CVDリスクと正の相関関係にあった。これは睡眠不足、心理的ストレス、神経症によって一部を説明できる」としている。

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社員の生活習慣とメンタルヘルス関連の欠勤率や離職率に有意な関連

 運動習慣のある社員や良好な睡眠を取れている社員の割合が高い企業ほど、メンタルヘルス関連での欠勤者や離職者が少ないという有意な関連のあることが明らかになった。順天堂大学医学部総合診療科学講座の矢野裕一朗氏らの研究結果であり、詳細は「Epidemiology and Health」に8月2日掲載された。 メンタルヘルスは世界各国で主要な健康課題となっており、日本人のメンタルヘルス不調の生涯有病率は20%を超えるというデータも報告されている。メンタルヘルス不調者の増加はその治療のための医療費を増大させるだけでなく、欠勤やプレゼンティズム(無理して出勤するものの生産性が上がらない状態)を介して間接的な経済負担増大につながる。このような社会課題を背景に経済産業省では、企業の健康経営を推進するため、健康経営優良法人の認定や健康経営銘柄の選定などを行っており、それらの基礎資料とするため「健康経営度調査」を行っている。 健康経営度調査では、喫煙者率、習慣的飲酒者率のほかに、普通体重(BMI18.5~25)の社員や運動習慣(1回30分、週2回以上)のある社員の割合、よく眠れている社員の割合、および、メンタルヘルス関連の欠勤率や離職率などが調査されている。矢野氏らは、2020年度の同調査のデータを用いた横断的検討を行った。この年の回答者数は1,748社で、社員数は合計419万9,021人、女性が26.8%、勤続年数は平均14.4±4.6年であり、メンタルヘルス関連の欠勤率は1.1±1.0%、離職率は5.0±5.0%だった。 交絡因子未調整の粗モデルの解析では、メンタルヘルス関連の欠勤率に関しては普通体重者の割合を除いて、前記の因子の全てが有意に関連していた。交絡因子(業種、上場企業か否か、勤続年数、および全ての生活習慣関連指標)を調整すると、習慣的飲酒者率との関連は有意性が消失したが、その他の因子は以下のように引き続き有意だった。まず、運動習慣のある社員が1パーセントポイント(PP)多いと、メンタルヘルス関連の欠勤率が0.005%低く(P=0.021)、よく眠れている社員が1PP多いことも同様に欠勤率が0.005%低いという関連があった(P=0.016)。また、喫煙者率が1PP高いことも、メンタルヘルス関連の欠勤率が0.013%低いことと関連していた(P<0.001)。 次に、離職率について見ると、粗モデルでの段階で、普通体重者の割合と運動習慣のある社員の割合は関連が非有意だった。前記同様の交絡因子を調整後、喫煙者率と習慣的飲酒者率については有意性が消失し、よく眠れている社員の割合のみが有意な因子として残り、その割合が1PP多いと離職率が0.020%低かった(P=0.034)。 著者らは、本研究が横断研究であるため因果関係の解釈は制限されるとした上で、「運動の奨励や睡眠習慣の指導は、社員のメンタルヘルス関連の欠勤や離職を防ぐ介入として有用といえるのではないか」と述べている。なお、喫煙者率が高いほどメンタルヘルス関連の欠勤が少ないという結果について、「今回のような一時点での横断解析では、先行研究においても、喫煙がストレスを軽減するというデータがある。しかし、経時的に評価した縦断研究では喫煙がメンタルヘルスに悪影響を及ぼすことや、禁煙介入によりメンタルヘルスが改善されることがシステマティックレビューからも報告されている。本研究は観察的および横断的なデザインであり、因果関係を立証することはできず、この点は限界点として認識すべき」と考察を述べている。

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呼吸機能低下が認知機能低下に関連―SONIC研究

 スパイロメトリーという機器による簡便な呼吸機能検査の結果が、高齢者の認知機能と関連のあることが報告された。大阪大学大学院医学系研究科保健学専攻の橘由香氏、神出計氏らの研究結果であり、詳細は「Geriatrics & Gerontology International」に8月20日掲載された。著者らは、高齢者対象の保健指導に呼吸機能を鍛えるプログラムの追加を検討する必要性があるとしている。 認知機能低下の主要な原因は加齢だが、喫煙や大量飲酒、糖尿病や高血圧といった生活習慣病など、介入可能なリスク因子も存在する。また、潜在的なリスク因子の一つとして近年、呼吸機能の低下が該当する可能性が指摘されている。ただし、呼吸機能の簡便な検査法であるスパイロメトリーで評価できる範囲の指標が、高齢者の認知機能と関連しているのかという点は明らかになっていない。これを背景として橘氏らは、兵庫県の地域住民対象に行われている高齢者長期縦断研究(SONIC研究)のデータを用いた検討を行った。 解析対象は、73±1歳の419人(73歳群)と83±1歳の348人(83歳群)という二つの年齢層の集団。各群ともに約半数が女性であり(73歳群は50.1%、83歳群は51.4%)、認知症と診断されている人は除外されている。認知機能は、教育歴の影響が調整される尺度であるモントリオール認知機能尺度の日本語版(MoCA-J)を用いて評価。MoCA-Jは30点満点で、スコアが高いほど認知機能が良好であると判定する。 解析ではまず、スパイロメトリーによる最大呼気流量(PEF)の実測値と、年齢・性別・身長などが一致する人の平均に対する比(%PEF)から、気流制限の重症度を4段階に分類。ステージ1は%PEFが80%以上、ステージ2は50~80%未満、ステージ3は30~50%未満、ステージ4は30%未満としてMoCA-Jスコアを比較した。すると83歳群では、気流制限の程度が強いほどMoCA-Jスコアが低いという有意な関連が認められた(傾向性P=0.002)。73歳群でもその傾向があったが有意ではなかった。 次に、MoCA-Jが25点以下で定義した「軽度認知障害(MCI)」を従属変数とし、性別、喫煙歴、飲酒習慣、握力低値(男性26kg未満、女性18kg未満)、高血圧、糖尿病、脂質異常症、冠動脈心疾患、脳卒中、および気流制限(FEV1/FVCが70%未満)を独立変数としてロジスティック回帰分析を施行。なお、握力低値を独立変数に含めた理由は、呼吸には筋力が必要であり、握力が呼吸機能と独立して関連していることが報告されているためである。 解析の結果、83歳群では気流制限が、唯一の独立した正の関連因子として抽出された(オッズ比〔OR〕3.44〔95%信頼区間1.141~10.340〕)。反対に飲酒習慣は、MCIに対する唯一の保護的因子だった(OR0.37〔同0.189~0.734〕)。73歳群では性別(女性)が唯一の独立した正の関連因子であり(OR2.45〔同1.290~4.643〕)、保護的因子は特定されなかった。 続いて、年齢層と性別とで4群に分けた上で、それぞれの群におけるMCIに独立した関連因子を検討。その際、独立変数として気流制限以外は前記と同様に設定し、呼吸機能に関しては気流制限の有無に変えて、%VC、FEV1/FVC、%PEFという三つの指標を個別に加えて解析した。その結果、4群全てにおいて、%PEFが高いことがMCIのオッズ比低下と関連していた(男性は73歳群と83歳群の両群ともにOR0.98、女性は両群ともに0.99)。%PEF以外では、83歳群の女性において、%VC(年齢・性別・身長などが一致する人の平均に対する肺活量の比)のみ、有意な関連因子だった(OR0.98)。 著者らは、「われわれの研究結果は、%PEFの低下が地域在住高齢者の認知機能低下に関連していることを示唆している。また、喫煙歴はこの関連に影響を及ぼしていなかった。よって喫煙習慣の有無にかかわらず、高齢者の認知機能維持を目的とした保健指導プログラムに、呼吸機能訓練などを組み込むべきではないか」と総括。さらに、本研究ではスパイロメトリーを用いたが、「%PEFのみであれば患者自身が日常生活下で使用可能なピークフローメーターでも測定できる」とし、「%PEFの自己測定を、高齢者の呼吸機能の自己管理に加え、認知機能低下抑止のための行動変容にもつなげられるのではないか」とも付け加えている。

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高血圧、脂質異常症、糖尿病で服薬遵守率が高い疾患は?

 高血圧、脂質異常症および糖尿病患者の服薬遵守率を、同一対象内で比較した結果が報告された。慶應義塾大学医学部衛生学公衆衛生学教室の松元美奈子氏、武林亨氏らの研究によるもので、詳細は「Pharmacoepidemiology and Drug Safety」に8月15日掲載された。服薬非遵守の関連因子が、疾患ごとに異なることも明らかにされている。 過去にも服薬遵守率に関する研究報告は少なくない。しかし、異なる診療環境で治療を受けている多数の患者集団を対象として、複数の疾患治療薬の服薬遵守率を比較検討した研究は限られている。これを背景として松元氏らは、山形県鶴岡市で進行中の鶴岡メタボロームコホート研究(TMCS)のデータを医療請求データにリンクさせて、心血管疾患の主要リスク因子である、高血圧、脂質異常症、糖尿病の患者の服薬遵守状況に関する検討を行った。 TMCSは2012~2014年度に、35~74歳の鶴岡市内の住民コホートおよび被雇用者コホート、計1万1,002人が参加登録し、非感染性疾患のリスクに関する追跡調査が続けられている。なお、同市に居住している当該年齢人口の89%がTMCSの住民コホートに参加している。 今回の研究では、TMCS住民コホートのうち、2016~2019年度の追跡調査に参加し、データ欠落のない7,538人から、前記3疾患いずれかの治療薬が処方され継続的に受診していた3,693人を解析対象とした。そのうち男性が47.5%で、65歳以上の高齢者が80.9%であり、BMI25以上の肥満が36.5%、高血圧が73.2%、脂質異常症が57.2%、糖尿病が17.9%だった。また、自記式質問票に含まれていた既往症を問う質問に対して、処方薬に一致した病名が正しく回答されていた場合を「服薬理解度良好」と判定したところ、87.4%がこれに該当した。 服薬遵守率は、追跡開始から1年以内の処方日数カバー比率(PDC)で評価した。PDCは、ある期間において患者が処方薬を受け取った日数の比率であり、1(100%)であれば患者は飲み忘れることなく服用を続けていると推測される。心血管疾患リスク因子の管理において、PDC0.8以上をアドヒアランス良好の目安とすることが多いため、本研究でも0.8以上/未満で遵守/非遵守と二分した。なお、服薬の中断が連続180日以上の場合は「休薬」と判断した。ただしその該当者は51人とわずかだった。 解析の結果、併存疾患がない患者では、高血圧のみの場合の服薬遵守率が90.2%で最も高く、次いで糖尿病のみが81.2%、脂質異常症のみが80.8%であり、高血圧のみの患者と脂質異常症のみの患者の服薬遵守率に有意差が認められた。併存疾患のある患者における服薬遵守率は86.7~89.0%の範囲で有意差は見られず、一部の組み合わせの遵守率は脂質異常症のみの患者よりも有意に高かった。 次に、多変量解析により、性別、高齢(65歳以上)、自記式質問票で把握した生活習慣や服薬理解度などを説明変数とした上で、3疾患それぞれの服薬非遵守に独立して関連する因子を検討したところ、以下の結果が得られた。 まず、高血圧については、朝食欠食が非遵守の正の関連因子であり(調整オッズ比〔aOR〕1.90〔95%信頼区間1.13~3.21〕)、服薬理解度良好は負の関連因子であった(aOR0.48〔同0.26~0.89〕)。脂質異常症については、男性(aOR0.71〔0.52~0.97〕)、併存疾患あり(aOR0.64〔0.49~0.82〕)、心疾患の既往(aOR0.51〔0.33~0.79〕)という三つが、全て負の関連因子として抽出された。糖尿病については、睡眠の質が良くないこと(aOR2.06〔1.02~4.16〕)と朝食欠食(aOR2.89〔1.19~7.00〕)の二つが、いずれも正の関連因子だった。喫煙・飲酒・運動習慣、教育歴、行動変容ステージ、摂食速度、夕食の時間帯などは、いずれの治療薬の非遵守とも独立した関連はなかった。 著者らは、本研究では被雇用者コホートの医療費請求データを利用できなかったため、解析対象が高齢者の多い住民コホートのみであったことなどを研究の限界点として挙げた上で、「高血圧、脂質異常症、糖尿病に対する治療薬は、全体として高い服薬遵守率が示されたが、治療状況による違いも認められた。また、非遵守に関連する因子は、疾患によって異なった。これらの知見は、服薬アドヒアランスを高めるサポートに生かせるのではないか」と結論付けている。 なお、朝食欠食が高血圧と糖尿病における服薬非遵守の関連因子であったことについて、「欠食習慣のある患者では『朝食後に服用』と指示すると遵守率が低下する懸念がある。低血糖を来し得る薬剤を除き、『食事を食べない朝も服用してよい』と伝えることが推奨される」といった考察が述べられている。

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世界で年間約700万人が脳卒中により死亡、その数は増加傾向に

 気候変動と食生活の悪化によって、世界の脳卒中の発症率と死亡率が劇的に上昇していることが、オークランド工科大学(ニュージーランド)のValery Feigin氏らのグループによる研究で示された。2021年には世界で約1200万人が脳卒中を発症し、1990年から約70%増加していたことが明らかになったという。詳細は、「The Lancet Neurology」10月号に掲載された。 本研究によると、2021年には、脳卒中の既往歴がある人の数は9380万人、脳卒中の新規発症者数は1190万人、脳卒中による死者数は730万人であり、世界の死因としては、心筋梗塞、新型コロナウイルス感染症に次いで第3位であったという。 専門家は、脳卒中のほとんどは予防可能だとの見方を示す。論文の共著者の1人である米ワシントン大学の保健指標評価研究所(IHME)のCatherine Johnson氏は、「脳卒中の84%は23の修正可能なリスク因子に関連しており、次世代の脳卒中リスクの状況を変える大きなチャンスはある」と述べている。脳卒中のリスク因子は、大気汚染(気候変動によって悪化)、過体重、高血圧、喫煙、運動不足などであり、研究グループは、これらのリスク因子は全て、低減またはコントロール可能であると指摘している。 脳卒中に関連する死亡者数は何百万人にも上る一方で、脳卒中を起こした後に重度の障害が残る患者も少なくない。今回の研究からは、脳卒中によって失われた健康寿命の年数(障害調整生存年;DALY)は、1990年から2021年にかけて32.2%増加していたことも明らかになった。 では、なぜ脳卒中がここまで増加したのだろうか。研究グループの分析によると、多くの脳卒中のリスク因子に人々がさらされる頻度が上昇し続けていることが原因である可能性があるという。本研究では、1990年から2021年までの間に、高BMI、気温の上昇、加糖飲料の摂取、運動不足、収縮期血圧高値、ω-6多価不飽和脂肪酸が少ない食事に関連してDALYが大幅に増加したことが示された(増加の幅は同順で、88.2%、72.4%、23.4%、11.3%。6.7%、5.3%)。 Johnson氏らは、気温の上昇は、もう1つの脳卒中のリスク因子である大気汚染の悪化を意味していると説明する。同氏らは、「暑くてスモッグの多い日が脳卒中リスクに与える影響を最も強く受けるのは貧しい国である可能性が高く、その影響は気候変動によってさらに悪化し得る」と指摘する。実際、出血性脳卒中のリスクに関しては、現在、汚染された空気を吸い込むことは、喫煙と同程度のリスクをもたらすと考えられているという。脳卒中全体に占める出血性脳卒中の割合は約15%で、虚血性脳卒中(脳梗塞)と比べると大幅に低いにもかかわらず、世界のあらゆる脳卒中に関連した死亡や障害の5割が出血性脳卒中に起因するという。 「脳卒中に関連した健康被害は、アジアやサハラ以南のアフリカ(サブサハラ・アフリカ)で特に大きい。こうした状況は、管理されていないリスク因子、特にコントロール不良の高血圧や、若年成人における肥満や2型糖尿病の増加といった負担の増大と、これらの地域における脳卒中の予防およびケアサービスの不足によって生まれている」とJohnson氏は指摘する。 しかし、こうした状況を変えることは可能であるとJohnson氏は主張する。例えば、大気汚染は気温上昇に密接に関連するため、「緊急の気候変動対策と大気汚染を減らす取り組みの重要性は極めて高い」と言う。さらに同氏は、「高血糖や加糖飲料の多い食事などのリスク因子にさらされる機会が増えているため、肥満やメタボリックシンドロームに照準を合わせた介入が急務である」と述べている。

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医師の飲酒状況、ALT30超は何割?年齢が上がるほど量も頻度も増える?/医師1,000人アンケート

 厚生労働省は2024年2月に「健康に配慮した飲酒に関するガイドライン」1)を発表し、国民に向けて、飲酒に伴うリスクに関する知識の普及を推進している。こうした状況を踏まえ、日頃から患者さんへ適切な飲酒について指導を行うことも多い医師が、自身は飲酒とどのように向き合っているかについて、CareNet.com会員医師1,025人を対象に『医師の飲酒状況に関するアンケート』で聞いた。年代別の傾向をみるため、20~60代以上の各年代を約200人ずつ調査した。本ガイドラインの認知度や、自身の飲酒量や頻度、飲酒に関する医師ならではのエピソードが寄せられた。「健康に配慮した飲酒に関するガイドライン」の認知度 Q1では、「健康に配慮した飲酒に関するガイドライン」の認知度について4段階で聞いた。全体では、認知度が高い順に「内容を詳細に知っている」が7%、「概要は知っている」が27%、「発表されたことは知っているが内容は知らない」が23%、「発表されたことを知らない」が43%であり、約60%が本ガイドラインについて認知していた。各年代別でもおおむね同様の傾向だった。診療科別でみると、認知度が高かったのは、外科、糖尿病・代謝・内分泌内科、消化器科、精神科、循環器内科/心臓血管外科、内科、腎臓内科の順だった。ALT値が30U/L超の医師は16% Q2では、医師自身の直近の健康診断で、肝機能を示すALT値について、基準値の30U/L以下か、30U/L超かを聞いた。日本肝臓学会の「奈良宣言」により、ALT値が30U/Lを超えていたら、かかりつけ医を受診する指標とされている2)。「ALT値30U/L超」は167人で、全体の16%を占めていた。年代別の結果として、30U/L超の人の割合が多い順に、50代で22%、60代以上で21%、40代で17%、30代で14%、20代で7%となり、年齢が上がるにつれて30U/L超の人の割合が多くなる傾向にあった。年齢が上がるにつれて、1回の飲酒量が増加 Q3では、1回の飲酒量について、単位数(1単位:純アルコール20g相当)を聞いた。お酒の1単位の目安は、ビール(5度)500mL、日本酒(15度)180mL、焼酎(25度)110mL、ウイスキー(43度)60mL、ワイン(14度)180mL、缶チューハイ(5度)500mL3)。 年代別では、「飲まない」と答えたのが、多い順に50代で32%、40代で30%、30代で26%、60代で22%、20代で15%だった。各年代で最も多く占めたのは、20代、30代、60代では「1単位未満」で、それぞれ36%、36%、32%であった。40代と50代では「1~2単位」が多くを占め、それぞれ32%と26%だった。 ALT値が30U/L超の人の場合では、「飲まない」と答えたのが、多い順に30代で33%、50代で23%、40代で22%、60代で9%、20代で0%だった。また、1回に「5単位以上」飲む人の割合は、30 U/L以下と30 U/L超を合わせた全体では5%だったが、30U/L超の人のみの場合では2倍以上の12%となり、顕著な差がみられた。30U/L超の人では、年齢が上がるにつれて、1回の飲酒量が増加する傾向がみられた。年齢が上がるにつれて、飲酒頻度が増加 Q4では、現在の飲酒頻度を7段階(毎日、週に5・6回、週に3・4回、週に1・2回、月に1~3回、年に数回、飲まない)で聞いた。全体で最も割合が多かったのは「飲まない」で22%であり、次いで「月に1~3回」で16%であった。ALT値が30U/L超の人の場合では、最も割合が多かったのは「週に3・4回」で19%、次いで「飲まない」と「毎日」が同率で16%だった。 全体の年代別では、20代で最も割合が多かったのは「月に1~3回」で37%、次いで「週に1・2回」が20%、30代では「飲まない」が21%、「年に数回」が19%、40代では「飲まない」が25%、「週に5・6回」と「週に3・4回」が同率で15%、50代では「飲まない」が29%、「週に1・2回」が15%、60代以上では「毎日」が24%、「飲まない」が21%であった。とくに60代以上の頻度の高さが顕著だった。 ALT値30U/L超の人の年代別では、20代で最も割合が多かったのは「週に1・2回」と「月に1~3回」で同率の36%、30代では「週に3・4回」と「飲まない」が同率の23%、40代では「週に3・4回」が25%、50代では「毎日」と「飲まない」が同率で23%、60代では「毎日」が28%、次いで「週に1・2回」が21%であった。20代と60代以上では「飲まなない」の割合の低さがみられ、30代と50代では「飲まない」が23%となり節制する人の割合が比較的多く、50代と60代以上で「毎日」の人の割合が20~30%となり、飲酒頻度が上がっている状況がみられた。 ALT値30U/L超の人においてQ3とQ4の結果を総合的にみると、20代は飲まない人の割合が低いものの、飲酒量と飲酒頻度は比較的高くない。また、30代は量と頻度を共に節制している人の割合が高い。60代以上と50代で、量と頻度が共に高い傾向がみられた。30~40代は飲酒の制限に積極的 Q5では、現状の飲酒を制限しようと思うかを聞いた。全体では、「制限したい」は21%に対し、「制限しない」は49%で2倍以上の差が付いた。ALT値30U/L超の人では、「制限したい」は28%に対し、「制限しない」は53%であった。ALT値30U/L超の人で「制限したい」が高かったのは、40代で42%、次いで20代で36%だった。また、30代はすでに飲酒していない人が37%で、年代別で最も多かった。 Q6では、Q5で「飲酒を制限したい」と答えた217人のうち、どのような方法で飲酒を制限するかを4つの選択肢から当てはまるものすべてを選んでもらった。人気が高い順に、「飲酒の量を減らす」が56%、「飲酒の頻度を減らす」が55%、「ノンアルコール飲料に代える」が36%、「低アルコール飲料に代える」が27%となり、量と頻度を減らすことを重視する人が多かった。自身が経験した飲酒のトラブルなど Q7では、自由回答として、飲酒に関するご意見や、自身が経験した飲酒のトラブルなどを聞いた。多くみられるトラブルとして、「記憶をなくした」が最多で15件寄せられ、「二日酔いで翌日に支障が出た」「屋外で寝た」「転倒してけがした」「嘔吐した」「暴れた」「救急搬送された」「アルコール依存症の治療をした」などが年齢にかかわらず複数みられた。自身の飲酒習慣について、「なかなかやめられない」「飲み過ぎてしまう」といった意見も複数あった。そのほか、医師ならではの飲酒に関するエピソードや社会的な側面からの意見も寄せられた。【医師ならではのエピソード】・研修医の時に指導医と潰れた(30代、その他)・医師でアルコール依存になる人が多いため、飲まなくなりました(30代、皮膚科)・アルコール依存症の患者さんをみているととても飲む気にはなれない(30代、麻酔科)・正月の救急外来は地獄(30代、糖尿病・代謝・内分泌内科)・科の飲み会の際に病院で緊急事態が発生すると、下戸の人間がいると非常に重宝されます(40代、循環器内科)・飲酒をすると呼び出しに対応できない(60代、内科)・雨の中、帰宅途中、転倒し意識がなくなり、自分の病院に搬送され大騒ぎでした(60代、脳神経外科)・勤務医時代は飲まないと仲間が働いてくれなかったが、開業して、健康に悪いものはもちろんやめた(70代以上、内科)【社会的な側面や他人への影響】・喫煙があれだけ批判されるなら飲酒も同じぐらい批判されるべきと考える(20代、臨床研修医)・日本では以前は飲酒を強要されることがあったが、米国留学中は飲酒を強要されることはなく、とても快適な時間だった(40代、病理診断科)・日本人は酔っぱらうことが多く、見苦しいし、隙もできる。グローバルスタンダードではありえない(50代、泌尿器科)・テレビCMでアルコール飲料が放映されていることに違和感がある(60代、神経内科)アンケート結果の詳細は以下のページで公開中。医師の飲酒状況/医師1,000人アンケート

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禁煙すると心房細動のリスクは短期間で低下する

 喫煙は心房細動のリスク因子だが、禁煙に成功するとそのリスクは速やかに低下することが明らかになった。米カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)のGregory Marcus氏らの研究によるもので、詳細は「JACC: Clinical Electrophysiology」に9月11日掲載された。研究者らは、「元喫煙者だからといって心房細動になると運命付けられてはいない」と述べている。 心房細動は不整脈の一種で、心臓の上部にある心房と呼ばれる部分が不規則に拍動する病気。このような拍動が現れた時の自覚症状として、動悸やめまいなどを生じることがある。しかしより重要なことは、心臓の中に血液の塊(血栓)が形成されやすくなり、その血栓が脳の動脈に運ばれるという機序での脳梗塞が起こりやすくなる点にある。このようにして起こる脳梗塞は、梗塞の範囲が広く重症になりやすい。 喫煙と心房細動の関連について、本論文の上席著者であるMarcus氏は、「喫煙が心房細動のリスクを高めるという強力なエビデンスがある。しかしその一方で、喫煙者が禁煙した場合の心房細動に関するメリットは明らかでなかった」とし、「われわれは禁煙によって心房細動の発症リスクが下がるのか、それともリスクは変わらないのかを知りたかった」と、研究背景を述べている。 この研究には、英国の大規模疫学研究「UKバイオバンク」に参加している現喫煙者や元喫煙者、14万6,772人(平均年齢57.3±7.9歳、女性48.3%)のデータが用いられた。このうち10万5,429人(71.8%)は元喫煙者、3,966人(2.7%)は研究期間中に禁煙した人で、3万7,377人(25.5%)は喫煙を続けていた。 平均12.7±2.0年の追跡で、1万1,214人(7.6%)が心房細動を発症した。年齢、性別、人種、BMI、教育歴、心血管合併症の既往、飲酒習慣、累積喫煙量(パックイヤー)を調整した上で心房細動の発症リスクを比較。すると、現喫煙者を基準として元喫煙者ではリスクが13%低く(ハザード比〔HR〕0.87〔95%信頼区間0.83~0.91〕)、研究期間中に禁煙した人では18%低かった(HR0.82〔同0.70~0.95〕)。 この結果についてMarcus氏は、「喫煙者に対し、今から禁煙したとしても遅すぎることはなく、また過去の喫煙歴があるからといって心房細動を発症する運命にあるわけではないことを示す、説得力のある新たなエビデンスを得られた。現在喫煙している人や長年喫煙してきた人でも、禁煙によって心房細動のリスクを下げられる」と話している。同氏はまた米国心臓病学会発のリリースの中で、「われわれの研究結果はおそらく、禁煙後には速やかに心房細動のリスクが低下することを示しているのではないか」とも述べている。

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DPP-4iとBG薬で糖尿病性合併症発生率に差はない――4年間の後方視的解析

 血糖管理のための第一選択薬としてDPP-4阻害薬(DPP-4i)を処方した場合とビグアナイド(BG)薬を処方した場合とで、合併症発生率に差はないとする研究結果が報告された。静岡社会健康医学大学院大学(現在の所属は名古屋市立大学大学院医学研究科)の中谷英仁氏、アライドメディカル株式会社の大野浩充氏らが行った研究の結果であり、詳細は「PLOS ONE」に8月9日掲載された。 欧米では糖尿病の第一選択薬としてBG薬(メトホルミン)が広く使われているのに対して、国内ではまずDPP-4iが処方されることが多い。しかし、その両者で合併症の発生率に差があるかは明らかでなく、費用対効果の比較もほとんど行われていない。これを背景として中谷氏らは、静岡県の国民健康保険および後期高齢者医療制度のデータを用いた後方視的解析を行った。 2012年4月~2021年9月に2型糖尿病と診断され、BG薬またはDPP-4iによる治療が開始された患者を抽出した上で、心血管イベント・がん・透析の既往、糖尿病関連の入院歴、インスリン治療歴、遺伝性疾患などに該当する患者を除外。性別、年齢、BMI、HbA1c、併存疾患、腎機能、肝機能、降圧薬・脂質低下薬の処方、喫煙・飲酒・運動習慣など、多くの背景因子をマッチさせた1対5のデータセットを作成した。 主要評価項目は脳・心血管イベントと死亡で構成される複合エンドポイントとして、イベント発生まで追跡した。副次的に、糖尿病に特異的な合併症の発症、および1日当たりの糖尿病治療薬剤コストを比較した。追跡開始半年以内に評価対象イベントが発生した場合はイベントとして取り扱わなかった。 マッチング後のBG薬群(514人)とDPP-4i群(2,570人)の特徴を比較すると、平均年齢(68.39対68.67歳)、男性の割合(46.5対46.9%)、BMI(24.72対24.67)、HbA1c(7.24対7.22%)、収縮期血圧(133.01対133.68mmHg)、LDL-C(127.08対128.26mg/dL)、eGFR(72.40対72.32mL/分/1.73m2)などはよく一致しており、その他の臨床検査値や併存疾患有病率も有意差がなかった。また、BG薬、DPP-4i以外に追加された血糖降下薬の処方率、通院頻度も同等だった。 中央値4.0年、最大8.5年の追跡で、主要複合エンドポイントはBG薬群の9.5%、DPP-4i群の10.4%に発生し、発生率に有意差はなかった(ハザード比1.06〔95%信頼区間0.79~1.44〕、P=0.544)。また、心血管イベント、脳血管イベント、死亡の発生率を個別に比較しても、いずれも有意差はなかった。副次評価項目である糖尿病に特異的な合併症の発生率も有意差はなく(P=0.290)、糖尿病性の網膜症、腎症、神経障害を個別に比較しても、いずれも有意差はなかった。さらに、年齢、性別、BMI、HbA1c、高血圧・脂質異常症・肝疾患の有無で層別化した解析でも、イベント発生率が有意に異なるサブグループは特定されなかった。 1日当たり糖尿病治療薬剤コストに関しては、BG薬は60.5±70.9円、DPP-4iは123.6±64.3円であり、平均差63.1円(95%信頼区間56.9~69.3)で前者の方が安価だった(P<0.001)。 著者らは、本研究が静岡県内のデータを用いているために、地域特性の異なる他県に外挿できない可能性があることなどを限界点として挙げた上で、「2型糖尿病患者に対して新たに薬物療法を開始する場合、BG薬による脳・心血管イベントや死亡および糖尿病に特異的な合併症の長期的な抑制効果はDPP-4iと同程度であり、糖尿病治療薬剤コストは有意に低いと考えられる」と総括している。

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レジリエンスの高さは長寿と関連

 困難に対処する能力の高い人ほど長生きする可能性のあることが、新たな研究で明らかになった。50歳以上の1万人以上を対象にしたこの研究では、レジリエンス(精神的回復力)のレベルが最も高い人は最も低い人に比べて、今後10年以内に死亡するリスクが53%低いことが示されたという。中山大学公共衛生学院(中国)疫学分野のYiqiang Zhan氏らによるこの研究は、「BMJ Mental Health」に9月3日掲載された。 レジリエンスは、性別やホルモン、身体のストレス反応を制御する遺伝子など、さまざまな要因の影響を受ける動的で活発なプロセスであることが示唆されている。また、レジリエンスはライフサイクルのさまざまな時期にわたって進化し、変化すると考えられている。Zhan氏らは、「保護要因の観点からレジリエンスが議論されることが多いように、レジリエンスが備わっている人では、大きな混乱を引き起こす出来事に直面しても、相対的な安定を維持することができる」と説明する。 高齢者では、適切なコーピングスキル(ストレスに対処する能力)が、長期的な健康問題やそれに伴う障害の影響を軽減する助けになることがある。また、病気や外傷から身体的に回復する能力は、老化の遅延や死亡リスクの低下に関連していることが知られている。しかし、レジリエンスにも同様の効果があるのかどうかは明らかになっていない。 そこでZhan氏らは、50歳以上の人を対象とした米国の「健康と退職に関する研究(Health and Retirement Study;HRS)」のデータを用いて、レジリエンスとあらゆる原因による死亡(全死亡)との関連を検討した。HRSは1992年に開始された研究だが、本研究では、調査内容にレジリエンスが含められた2006年以降の2回分(2006〜2008年)の調査データが用いられた。調査参加者は、忍耐力、冷静さ、目的意識、自立心などの資質を測定する尺度により評価されたレジリエンスのスコアに応じて、最も低いQ1群から最も高いQ4群の4群に分類された。解析は、調査データが全てそろった1万569人(平均年齢66.95歳、女性59.84%)を対象に行われた。対象者の死亡については、2021年5月まで追跡された。 追跡期間中に確認された全死亡件数は3,489件だった。解析の結果、レジリエンスと全死亡はほぼ線形関係にあることが明らかになった。10年間の生存率は、Q1群で61.0%、Q2群で71.9%、Q3群で77.7%、Q4群で83.9%であった。到達年齢、性別、人種、BMIを調整した解析からは、Q4群ではQ1群に比べて全死亡リスクが53%有意に低いことが示された(ハザード比0.473、95%信頼区間0.428〜0.524、P<0.0001)。交絡因子に糖尿病や心臓病、がん、高血圧などの基礎疾患を含めて解析すると、この関連は弱まって46%の低下に、さらに喫煙状況や運動習慣、婚姻状況も含めた場合には38%の低下となった。 研究グループは、「この研究は、交絡因子を考慮した後でも、高齢者や退職者のレジリエンスと全死亡リスクとの間に統計学的に有意な関連を認めた点でユニークだ」と述べている。また、「得られた結果は、死亡リスクを軽減するためのレジリエンスの促進を目的とした介入の潜在的な有効性を明示するものだ」との見方を示している。

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冠動脈疾患診断後、禁煙で発作リスク半減も減煙では無効

 心臓病と診断された後に禁煙すると、心臓発作や心臓関連の死亡リスクが5年間で44%低下する可能性を示すデータが報告された。ただし、喫煙本数を減らしただけでは、この効果は期待できないという。ビシャ・クロード・ベルナール病院(フランス)のJules Mesnier氏らの研究の結果であり、欧州心臓病学会年次総会(ESC Congress 2024、8月30日~9月2日、英ロンドン)で発表された。 この研究では、安定冠動脈疾患患者の国際レジストリ(CLARIFY)のデータを用いて、冠動脈疾患患者の喫煙状況が、その後の心血管イベントリスクに与える影響が評価された。冠動脈疾患の診断から平均6.5年経過した患者3万2,378人を5年間追跡し、心血管死または心筋梗塞の発症で定義される主要心血管イベント(MACE)の発生率を検討した。登録時点で1万3,366人(41.3%)は喫煙歴がなく、1万4,973人(46.2%)は元喫煙者、4,039人(12.5%)は現喫煙者だった。冠動脈疾患診断時に喫煙していた元喫煙者のうち、72.8%は翌年までに禁煙していたが、27.2%は喫煙を継続していた。 冠動脈疾患の診断後に禁煙していた患者は、禁煙した時期にかかわらずイベントリスクが有意に低下していた。具体的には、喫煙を継続していた患者よりもMACE発生率が44%低かった(調整ハザード比〔aHR〕0.56〔95%信頼区間0.42~0.76〕)。一方、タバコの本数を減らしながらも喫煙を続けていた患者は、タバコの本数を変えずに喫煙を続けていた患者と、MACEリスクに有意差がなかった(aHR0.96〔同0.74~1.26〕)。また、喫煙期間が1年長くなるごとにMACEリスクが8%上昇するという関連が認められた(aHR1.08〔同1.04~1.12〕)。なお、禁煙した患者は前述のようにMACEリスクが急速かつ大幅に低下していたが、喫煙歴のない患者と同程度のリスクレベルには到達していなかった。 Mesnier氏は、「私は自分の患者に対してよく、『禁煙するのが遅すぎるということはないが、早ければ早いほど心血管疾患のリスクは低くなる。しかし、減煙では十分ではない』と話している」という。また、ESC発のリリースの中で、「心臓病の診断後1年以内に禁煙を成功させる重要性を強く伝え、患者をサポートする必要がある」と述べている。 一方、タバコを長年、吸い続けている人の中には、「今からでは禁煙しても遅すぎる」と考えている人が少なくないようだが、今回の研究ではそのような考え方が正しくないことも示された。この点についてMesnier氏は、「心臓病と診断された後での禁煙であっても、心筋梗塞や死亡という重大なリスクをほぼ半分に減らすことができる。この情報は、禁煙に踏み出せずにいる患者に向けた強力なメッセージとなるだろう」と語り、本研究の意義を強調している。 なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。

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セマグルチドがタバコ使用障害リスクを下げる可能性

 GLP-1受容体作動薬(GLP-1RA)のセマグルチドが処方されている患者は、タバコ使用障害(tobacco use disorder;TUD)関連の受療行動が、他の糖尿病用薬が処方されている患者よりも少ないという研究結果が、「Annals of Internal Medicine」に7月30日掲載された。米ケース・ウェスタン・リザーブ大学医学部のWilliam Wang氏らが報告した。 2型糖尿病または肥満の治療のためにセマグルチドが処方されている患者で喫煙欲求が低下したとの報告があり、同薬のTUDに対する潜在的なメリットへの関心が高まっている。これを背景としてWang氏らは、米国における2017年12月~2023年3月の医療データベースを用いたエミュレーションターゲット研究を実施した。エミュレーションターゲット研究は、リアルワールドデータを用いて実際の臨床試験をエミュレート(模倣)する研究手法で、観察研究でありながら介入効果を予測し得る。 本研究では、血糖管理目的でセマグルチドと他の7種類の血糖降下薬(インスリン、メトホルミン、DPP-4阻害薬、SGLT2阻害薬、スルホニル尿素薬、チアゾリジン薬、およびセマグルチド以外のGLP-1RA)が新規に処方された患者群での7件の比較対象試験を模倣した。12カ月間の追跡中にTUD関連の受療行動(TUD診断のための受診、禁煙補助薬の処方、禁煙カウンセリングの実施)を、Cox比例ハザードモデルとカプランマイヤー法により解析した。データセットに含まれる患者数は22万2,942人で、このうちセマグルチドが新規処方されていたのは5,967人だった。 解析の結果、セマグルチドは他の糖尿病用薬と比較してTUD診断のための受診が有意に少なく、特にインスリンとの比較において最も差が大きかった(ハザード比〔HR〕0.68〔95%信頼区間0.63~0.74〕)。一方、セマグルチド以外のGLP-1RAとの比較では最も差が小さかったが、統計学的に有意だった(HR0.88〔同0.81~0.96〕)。また、セマグルチドは禁煙補助薬の処方および禁煙カウンセリングの実施件数の低下とも関連していた。肥満の診断の有無で層別化した場合、いずれにおいても同様の関連が示された。なお、7件の比較対象試験の多くで、処方開始から30日以内にこれらの発生率の乖離が認められた。 著者らは本研究の限界点として、出版バイアスや残余交絡の存在、およびBMIや喫煙行動、薬剤使用コンプライアンスに関する情報が欠如していることを挙げている。その上で、「新たにセマグルチドが処方された患者は、セマグルチド以外のGLP-1RAを含む他の糖尿病用薬が新規処方された患者と比較して、TUD関連の受療行動が少ないことが示された。 これは、セマグルチドが禁煙に有益であるとする仮説と一致した結果と言えるかもしれないが、研究手法の限界により確固たる結論には至らず、臨床医が禁煙を目的としてセマグルチドを適応外使用することを正当化するものではない」と総括。また同薬によるTUD治療の可能性を評価するための臨床試験の必要性を指摘している。

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