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質の低い教育は高齢期の認知症リスクと関連か

 人種と早期教育は高齢者の認知症リスクと関連するようだ。新たな研究で、子どもの頃に教育の質が低い州の学校に通っていた人と、質の低い教育環境で育てられがちな黒人では、高齢期の認知症発症リスクの高いことが示された。米カイザー・パーマネンテ・北カリフォルニア(KPNC)のYenee Soh氏らによるこの研究結果は、「JAMA Neurology」に2月13日掲載された。 この研究では、1997年1月1日から2019年12月31日までの23年間の縦断データが用いられた。このデータは、米国の大規模なヘルスケアシステムであるKPNCの会員のうち、1964〜1972年に実施された任意調査に参加し、1996年1月1日時点で65歳以上であり、同年には認知症と診断されていなかった、米国出身の非ヒスパニック系の黒人と白人2万788人から収集されたものだった。対象者の平均年齢は74.7歳で、56.5%が女性、18.8%が黒人、81.2%が白人であり、41.0%は高等教育を受けていなかった。対象者の電子カルテから認知症の診断の有無を確認し、認知症の発症と対象者が6歳時に受けた州の教育の質との関連を検討した。教育の質は、学校年度の長さ、生徒と教師の比率、出席率で評価し、三分位値で3つの群(「低い」「中程度」「高い」)に分けた。 質の低い教育を提供する州で育った人の割合は、白人では20.8~23.3%だったのに対し、黒人では76.2~86.1%と大幅に高かった。教育の質と認知症の発症リスクとの関連を検討したところ、質の高い教育を受けた人では、質の低い教育を受けた人に比べて後の認知症発症リスクが12〜21%有意に低いことが明らかになった〔ハザード比は、「生徒と教師の比率」で0.88、95%信頼区間0.83〜0.94)、「出席率」で0.80(同0.73〜0.88)、「学校年度の長さ」で0.79(同0.73〜0.86)〕。質の低い教育を受けた人と、質が中程度の教育を受けた人を比較した場合でも、後者で8〜17%の有意なリスク低下が認められた。 Soh氏は、「これらの結果は、教育、人種、および認知症発症リスクの関連を示したに過ぎない」と強調。その上で、質の低い教育を受ける子どもに認められがちな、医療全般へのアクセスの低さや、肥満、喫煙、高血圧リスクの高さなどが、認知症の発症を後押ししている可能性があると考察している。同氏はまた、「この知見から、州レベルの教育への投資が認知症発症リスクにとって重要なことは確実だ。また、人種・民族的マイノリティに属する人々における投資の不平等をもたらすシステム上の要因に対処するべきことも示唆される」と指摘している。 米ハーバード大学T.H.チャン公衆衛生学部のAndrea Roberts氏は、「この研究から、教育の質の低さが認知症発症の原因であることが明らかになったわけではないが、出席率を向上させ、十分な就学期間を設け、教員1人当たりの生徒数を低く抑えるなどの取り組みが、認知症だけでなく、それに関連する他の健康問題の予防になる可能性があることが示唆された」と述べている。 ただしRoberts氏は、「受けた教育の質が低くても、後年の認知症発症リスクを低減させるためにできることはある」と述べ、十分な量の運動、全粒穀物・果物・野菜・ナッツ類の豊富な食事、十分な睡眠、社会的つながりの増加、抑うつ症状の治療などを勧めている。

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日本人の睡眠時間と内臓脂肪面積との関連、男女で大きな差

 睡眠時間と内臓脂肪面積の関係は、男性と女性で大きく異なることを示すデータが報告された。8時間以上の長時間睡眠の男性には内臓脂肪型肥満が有意に多く、一方で長時間睡眠の女性には内臓脂肪型肥満が有意に少ないという。東京大学医学部の齊藤活輝氏、同予防医学センターの山道信毅氏らが行った日本人対象横断研究の結果であり、詳細は「Scientific Reports」に11月24日掲載された。 肥満は体に脂肪が過剰に蓄積した状態であり、さまざまな疾患のリスクを高める。特に、内臓の周囲に脂肪が蓄積した内臓脂肪型肥満は、よりハイリスクな状態であることが知られている。近年、BMI(Body Mass Index;肥満指数)高値で定義される肥満と睡眠時間との間に関連のあることが分かり、そのメカニズムとして、睡眠不足によってストレスホルモンや食欲関連ホルモンの分泌、深部体温に影響が生じることなどの関与が想定されている。ただし、BMI高値より正確な肥満指標である内臓脂肪面積高値で定義される内臓脂肪型肥満と睡眠時間の関係については、特にアジアからのデータの報告はほとんどなかった。齊藤氏らはこの点を明らかにするため、日本人成人を対象とする以下の研究を実施した。 研究対象は、2008~2020年の人間ドック(千葉県)の健診受診者のうち、CT検査による内臓脂肪面積のデータや睡眠時間などに関するアンケート記録がある2,538人(平均年齢56.4±10.8歳、男性75.6%、BMI24.5±3.4)。内臓脂肪面積は男性116.5±47.1cm2、女性70.0±41.2cm2であり、100cm2以上を内臓脂肪型肥満とすると、男性の59.8%、女性の21.1%が該当した。睡眠時間は6.15±1.07時間であり、性別で比較すると男性の方が有意に長かった(6.18±1.06対6.05±1.08時間、P=0.004)。 内臓脂肪型肥満群とそうでない群を性別に比較すると、男性・女性ともに内臓脂肪型肥満群は有意に高齢であり、血圧が高く、また、糖・脂質代謝指標の悪化が認められた。喫煙習慣と飲酒習慣については男性でのみ有意差があり、内臓脂肪型肥満群で現喫煙者・前喫煙者が多く、また、習慣的飲酒者が多かった。睡眠時間については男性・女性ともに、内臓脂肪型肥満の有無による有意差がなかった。 次に、多重ロジスティック回帰分析にて、内臓脂肪型肥満と関連のある因子を検討。男性・女性ともに、年齢、BMI、中性脂肪は有意な正の関連があり、そのほかに男性では尿酸値と正の関連、HDL-Cと負の関連、女性ではHbA1cと正の関連が認められた。睡眠時間に関しては、6~7時間の群を基準として8時間以上の場合、男性は正の関連〔オッズ比1.19(95%信頼区間1.06~1.34)〕、女性は負の関連〔オッズ比0.83(同0.70~0.98)〕が認められた。 年齢、BMI、収縮期血圧、HbA1c、HDL-C、LDL-C、中性脂肪、尿酸値、喫煙・飲酒習慣の傾向スコアを用いた共変量調整後の解析では、睡眠時間6~7時間の群を基準として8時間以上の場合、男性ではオッズ比1.64(同1.10~2.45)、女性ではオッズ比0.34(同0.12~0.97)となり、やはり男性は長時間睡眠者に内臓脂肪型肥満が多く、女性はその反対という結果が得られた。睡眠時間が5~6時間や5時間未満の短時間睡眠の群や、7~8時間の群では、性別によらずオッズ比の有意な上昇や低下は観察されなかった。 この結果に基づき著者らは、「日本人の睡眠時間と内臓脂肪型肥満の関連は、男性と女性で大きく異なることが明らかになった」と結論付け、その背景として、「職業や収入、健康意識に関する性差といった社会的因子や、性ホルモンなどの内因的物質による影響が関係している可能性が考えられる。今後、前向き研究を含め、多角的視野からのさらなるデータ解析が必要である」との考察を加えている。また、欧米からは短時間睡眠の人にも肥満が多いというデータが報告されているが、今回の研究ではそのような関連は見られなかった。この点に関しては、人種/民族の違いのほかに、「それらの先行研究はBMIと睡眠時間の関係を評価しているものが多く、BMI高値で定義される肥満と内臓脂肪型肥満との乖離の影響も考えられる」としている。 重要な健康指標であり、多くの疾患のリスクとなることが明らかである肥満。今後のさらなる研究の発展を期待したい。

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パートナーがいる人はHbA1cが低い

 配偶者がいたり、独身であっても同居しているパートナーがいる人は、一人暮らしの人より、血糖値の平均値を表す検査値であるHbA1cが有意に低いとする論文が発表された。ルクセンブルク大学(ルクセンブルク)のKatherine Ford氏とオタワ大学(カナダ)のAnnie Robitaille氏が、糖尿病と診断されていない人を対象に行った研究の結果であり、「BMJ Open Diabetes Research & Care」に2月6日掲載された。なお、パートナーがいる人において、相手との関係がうまくいっているか否かの違いは、HbA1cに関連がないという。 この研究は、英国の中高年者を対象に行われている、加齢に関する縦断研究(ELSA研究)のデータを用いて行われた。ELSA研究の第2波(2004/05年)に登録された9,432人から、50歳未満または89歳以上の人、糖尿病または糖尿病前症に該当すると自己申告した人、HbA1cや婚姻状況の記録がない人、2008/09年や2012/13年の追跡調査に参加しなかった人を除外して、3,335人を解析対象とした。なお、研究参加時点で結婚または同居していると回答した人に対しては、パートナーとの関係についての複数の質問を行い、相手との関係が良好か否かを評価した。 HbA1cは、パートナーがいる群が5.47±0.53%、いない群は5.52±0.49%であり、後者の方が有意に高かった(P=0.006)。また、パートナーがいない群には女性が多く(51対72%)、高齢であり(63.0±7.5対67.5±9.3歳)、非就労者や喫煙習慣のある人、抑うつ傾向のある人が多くて、運動習慣のある人は少ないといった有意差が認められた。BMIには有意差がなかった。 HbA1cに影響を及ぼし得る因子(年齢、BMI、喫煙・運動習慣、収入、家族や友人の存在など)を調整後、パートナーあり群のHbA1cはなし群に比べて-0.21%(95%信頼区間-0.31~-0.10)であり、有意に低いことが明らかになった。一方、パートナーあり群において、相手と親密な関係にあることは、HbA1cに有意な影響を及ぼしていなかった。また、反対にパートナーと緊張した関係にある場合も、年齢の影響のみを調整した解析ではHbA1cが+0.04%(同0.01~0.07)の有意差があったが、前記の因子を全て調整した場合は有意性が消失した。 本研究で示された、パートナーの有無でHbA1cが0.21%異なることの公衆衛生上のインパクトについて、論文中には、「一般人口においてHbA1cが0.2%低下した場合、超過死亡が25%減少することが、ほかの研究から示されている」と記されている。ただし本研究では、追跡期間中の糖尿病の新規発症リスクと婚姻状況との有意な関連は認められなかったという。 以上の結果を総括して著者らは、「離婚や死別によってパートナーを失った高齢者へのサポートを強化することが、健康上のリスク、より具体的には血糖値の上昇を防ぐための起点となる可能性がある」と述べている。

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2歳までの下気道感染、成人期の呼吸器疾患死リスク約2倍/Lancet

 幼児期に下気道感染症に罹患すると、肺の発達が阻害され、成人後の肺機能の低下や慢性呼吸器疾患の発症リスクが高まるといわれている。そのため、幼児期の下気道感染症の罹患は、呼吸器疾患による成人早期の死亡を引き起こすのではないか、という仮説も存在する。しかし、生涯を通じたデータが存在しないことから、この仮説は検証されていなかった。そこで、英国・インペリアル・カレッジ・ロンドンのJames Peter Allinson氏らは、1946年の出生コホートを前向きに追跡した。その結果、2歳未満での下気道感染があると、26~73歳の間に呼吸器疾患によって死亡するリスクが、約2倍となることが示された。Lancet誌オンライン版2023年3月7日号の報告。 1946年3月にイングランド、ウェールズ、スコットランドで出生した5,362例を前向きに追跡した。26歳まで生存し、適格基準(2歳未満での下気道感染や、20~25歳時の喫煙歴に関するデータが得られているなど)を満たした3,589例について、2歳未満での下気道感染の有無別に、26歳時点をベースラインとして生存分析を実施した。また、研究対象コホート内の死亡とイングランド・ウェールズの死亡を比較し、試験期間中の超過死亡を推定した。 主な結果は以下のとおり。・26歳時点からの追跡期間は最大47.9年であった。・追跡の対象となった3,589例のうち、2019年末時点で生存が確認されたのは2,733例であった(死亡:674例、移住:182例)。・2歳未満での下気道感染のある群(913例)は、下気道感染のない群(2,676例)と比べて呼吸器疾患による死亡リスクが高かった(ハザード比[HR]:1.93、95%信頼区間[CI]:1.10~3.37、p=0.021)。・2歳未満での下気道感染の回数別にみると、下気道感染のない群(2,676例)と比べたHR(95%CI、p値)は、1回感染群(596例)が1.51(0.75~3.02、p=0.25)、2回感染群(162例)が2.53(0.97~6.56、p=0.057)、3回以上感染群(155例)が2.87(1.18~7.02、p=0.020)であった。・2歳未満での初回の下気道感染の年齢別にみると、下気道感染のない群(2,676例)と比べたHR(95%CI、p値)は、1歳未満群(648例)が2.12(1.16~3.88、p=0.015)、1歳以上2歳未満群(256例)が1.52(0.59~3.94、p=0.39)であった。・2歳未満での初回の下気道感染時の治療別にみると、下気道感染のない群(2,676例)と比べたHR(95%CI、p値)は、未治療または外来治療群(856例)が1.79(1.00~3.19、p=0.051)、入院治療群(52例)が4.35(1.31~14.5、p=0.017)であった。・2歳未満での下気道感染は、1972~2019年のイングランド・ウェールズの呼吸器疾患による死亡の20.4%(95%CI:3.8~29.8)に関連していると推定され、これはイングランド・ウェールズにおける17万9,188例(95%CI:3万3,806~26万1,519)の超過死亡に相当した。 著者らは、「2歳までに下気道感染のある人は、呼吸器疾患による成人期の早期死亡のリスクが約2倍であり、2歳未満での下気道感染は成人期の呼吸器疾患による死亡の5分の1に関連していることが示唆された。幼児期の下気道感染と慢性閉塞性肺疾患などの成人呼吸器疾患の発症や予後との間には、特異な関連があると考えられる。成人呼吸器疾患の発症や子供の健康格差の発生を避けるためには、生涯にわたる予防戦略が必要である」とまとめた。

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中年期から心臓の健康に気を付けると脳の健康も維持される―AHAニュース

 心臓の健康状態が良好であることは脳の健康にとっても重要であり、脳血管疾患や認知症のリスクの抑制につながることが明らかになっている。では、そのような違いを生み出すための行動を、人生の中盤以降に始めたのでは遅すぎるのだろうか? 新たに報告された研究によると、その疑問の答えは「NO」のようだ。 米国脳卒中協会(ASA)主催の国際脳卒中学会(ISC2023、2月8~10日、ダラス)で報告されたこの研究により、心臓の健康状態を改善するための中年期以降の行動が、約20年後の脳血管疾患や認知症のリスクの低さと関連のあることが分かった。発表者である米ミネソタ大学のSanaz Sedaghat氏は、「わずかな改善であっても将来的に効果が現れる可能性がある」と述べている。なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものとみなされる。 心血管疾患のリスク因子(肥満や過体重、運動不足、高血圧など)が、脳血管疾患や認知症のリスク因子でもあることが、多くの研究から示されている。しかし、中年期以降にそれらのリスク因子の改善や悪化が見られた場合に、その後の加齢に伴う脳血管疾患や認知症のリスクがどのように変化するのかという点は、ほとんど明らかになっていない。 今回報告された研究は、一般住民のアテローム性動脈硬化リスク因子に関する大規模疫学研究「ARICスタディ」のデータを解析したもの。ARICスタディの参加者1,638人の中年期の2時点(平均年齢53歳と59歳)のデータ、および高齢期の1時点(同76歳)のデータが解析に用いられた。研究参加者はこの3時点に、米国心臓協会(AHA)が提唱していた、心臓と脳の健康を守るための7種類の行動「Life's Simple 7」の順守状況が評価された。なお、Life's Simple 7には、食事、身体活動、体重、喫煙、コレステロール、血圧、血糖に関連する因子が行動目標として掲げられていたが、AHAは2022年、新たに「睡眠」を留意すべき事柄として追加し、現在は「Life's Essential 8」として提唱している。 研究参加者は、Life's Simple 7の順守状況を項目ごとに0~2点の間で判定された。また、高齢期の追跡調査では、画像検査による脳の白質高信号域と微小出血・梗塞、および細胞死を含む脳血管疾患のリスクマーカーが評価された。これらの検査により、脳血管疾患や認知症のリスクの程度を把握できる。その結果、中年期と高齢期にLife's Simple 7の健康スコアがともに高かった人や、中年期以降に健康スコアが上昇した人は、脳血管疾患や認知症のリスクが低いことが分かった。健康スコアが1点上昇するごとに、リスクは約7%低下していた。「私にとって興味深いことは、健康スコアがわずか1点異なるだけでリスクに大きな違いが生じることだ」とSedaghat氏は語っている。 この研究では、Life's Simple 7を構成している個々のスコアの変化が、脳の健康にどのような影響を与えるかという視点での解析はされていない。一方、健康スコアの変化と、脳血管疾患のタイプ別のリスクとの関連が検討された。Sedaghat氏によると、「例えば、中年期から高齢期にかけて、健康スコアが理想的なレベルに維持されていた人は、スコアが低下した人に比べて、脳微小出血のリスクは33%、脳梗塞のリスクは37%低いことが示された」という。 本研究には関与していないウエスタン大学(カナダ)のVladimir Hachinski氏は、「この研究結果は、心血管の健康状態を改善する行動を取ることで、脳のダメージも防ぐことができることを示している。この研究の次のステップは、脳の健康に最も寄与していたのが、どの心血管リスク因子の管理なのかを明らかにすることだ」としている。また同氏は、「心血管疾患専門医と脳血管疾患専門医の互いの協力が必要であることを示すエビデンスが増えている。心臓病と脳血管疾患、認知症が、全て同じリスク因子によって発症する一連の疾患であるのなら、それらを包括的に予防することが理にかなっている」と付け加えている。[2023年2月7日/American Heart Association] Copyright is owned or held by the American Heart Association, Inc., and all rights are reserved. If you have questions or comments about this story, please email editor@heart.org.利用規定はこちら

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スタチン治療患者の将来リスク予測、CRP vs.LDL-C/Lancet

 スタチン療法を受ける患者において、高感度C反応性蛋白(CRP)で評価した炎症のほうがLDLコレステロール(LDL-C)値で評価したコレステロールよりも、将来の心血管イベントおよび死亡リスクの予測因子として強力であることが、米国・ブリガム&ウィメンズ病院のPaul M. Ridker氏らが行った、3つの無作為化試験の統合解析の結果、示された。著者は、「示されたデータは、スタチン療法以外の補助療法の選択を暗示するものであり、アテローム性疾患のリスク軽減のために、積極的な脂質低下療法と炎症抑制治療の併用が必要である可能性を示唆するものである」とまとめている。Lancet誌オンライン版2023年3月6日号掲載の報告。3つの国際無作為化試験データを統合解析 研究グループは、炎症と高脂質血症はアテローム性動脈硬化の原因となるが、スタチン療法を受けていると将来の心血管イベントリスクに対する両因子の相対的な寄与が変化する可能性があり、補助的な心血管治療の選択について影響を与えるとして今回の検討を行った。スタチン治療を受ける患者の主要有害心血管イベント、心血管死、全死因死亡のリスクの決定因子として、高感度CRPとLDL-Cの相対的な重要性を評価した。 アテローム性疾患を有する/高リスクでスタチン療法を受ける患者が参加する、3つの国際的な無作為化試験「PROMINENT試験」「REDUCE-IT試験」「STRENGTH試験」のデータを統合解析した。 ベースラインの高感度CRP(残留炎症リスクのバイオマーカー)の上昇と同LDL-C(残留コレステロールリスクのバイオマーカー)の上昇の四分位値を、将来の主要有害心血管イベント、心血管死、全死因死亡の予測因子として評価。年齢、性別、BMI、喫煙状況、血圧、心血管疾患の既往、無作為化された割り付け治療群で補正した分析で、高感度CRPとLDL-Cの四分位数にわたって、心血管イベントと死亡のハザード比(HR)を算出した。炎症は将来リスクを有意に予測、コレステロールの予測は中立もしくは弱い 統合解析には患者3万1,245例が包含された(PROMINENT試験9,988例、REDUCE-IT試験8,179例、STRENGTH試験1万3,078例)。 ベースラインの高感度CRPとLDL-Cについて観察された範囲、および各バイオマーカーとその後の心血管イベント発生率との関係は、3つの試験でほぼ同一であった。 残留炎症リスクは、主要有害心血管イベントの発生(高感度CRPの四分位最高位vs.最小位の補正後HR:1.31、95%信頼区間[CI]:1.20~1.43、p<0.0001)、心血管死(2.68、2.22~3.23、p<0.0001)、全死因死亡(2.42、2.12~2.77、p<0.0001)のいずれとも有意に関連していた。 対照的に、残留コレステロールリスクの関連は、主要有害心血管イベントについては中立的なものであったが(LDL-Cの四分位最高位vs.最小位の補正後HR:1.07、95%CI:0.98~1.17、p=0.11)、心血管死(1.27、1.07~1.50、p=0.0086)と全死因死亡(1.16、1.03~1.32、p=0.025)については弱かった。

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老けやすいのはどんな人?老化の要因をランク付け

 生物学的な老化の速度は、遺伝、環境、生活習慣などによって変化するといわれている。近年、DNAのメチル化に基づく生物学的老化の評価指標(GrimAge、PhenoAgeなど)が開発されているが、これらと老化の危険因子との関連の強さなどは明らかになっていない。そこで、上海交通大学のLijie Kong氏らは、メンデルランダム化解析を行い、修正可能な代謝関連因子(ウエスト周囲径、体脂肪率、CRP値など)、生活習慣(喫煙、アルコール摂取、昼寝など)、社会経済的因子(教育、収入)と生物学的老化の評価指標との関連を調べた。本調査結果は、The Journals of Gerontology:Series A誌オンライン版2023年3月4日号に掲載された。 本研究グループは、修正可能な因子と老化の速度との関連を調べるため、メンデルランダム化解析を行った。修正可能な19個の代謝関連因子(BMI、ウエスト周囲径、体脂肪率、小児期の肥満、2型糖尿病、LDLコレステロール値、HDLコレステロール値、中性脂肪値、収縮期血圧、拡張期血圧、CRP値)、生活習慣(喫煙、アルコール摂取、コーヒー摂取、昼寝、睡眠時間、中・高強度の身体活動)、社会経済的因子(教育、収入)に関連する遺伝子変異について、欧州の最大100万人を対象としたゲノムワイド関連研究(GWAS)から抽出した。これらの遺伝子変異とGrimAgeおよびPhenoAgeとの関連は、欧州の28コホート、3万4,710人を対象に解析した。関連の大きさを調べるため、回帰係数(β)±標準誤差(SE)を求めた。なお、GrimAgeとPhenoAgeはいずれも生物学的老化の評価指標であるが、GrimAgeのほうが、死亡率との関連が強いことが知られている。 GrimAge、PhenoAgeの変化に有意な関連のあった因子を以下に示す。【GrimAgeに基づく老化の加速・減速関連因子】〈老化を加速(β±SE[年])〉1位:喫煙、1.299±0.1072位:アルコール摂取増加、0.899±0.3613位:ウエスト周囲径増加、0.815±0.1844位:昼寝、0.805±0.3555位:体脂肪率増加、0.748±0.1206位:BMI上昇、0.592±0.0797位:CRP値上昇、0.345±0.0738位:中性脂肪値上昇、0.249±0.0919位:小児期の肥満、0.200±0.07510位:2型糖尿病、0.095±0.041<老化を減速(β±SE[年])>1位:教育年数が長い、-1.143±0.1212位:世帯収入が高い、-0.774±0.263【PhenoAgeに基づく老化の加速・減速関連因子】〈老化を加速(β±SE[年])〉1位:体脂肪率増加、0.850±0.2692位:ウエスト周囲径増加、0.711±0.1523位:BMI上昇、0.586±0.1024位:喫煙、0.519±0.1425位:CRP値上昇、0.349±0.0956位:小児期の肥満、0.229±0.0957位:2型糖尿病、0.125±0.051<老化を減速(β±SE[年])>1位:教育年数が長い、-0.718±0.151 著者らは、「本研究により、老化の危険因子と老化の速度に関する定量的なエビデンスが得られ、肥満に関する指標、喫煙、低学歴が老化へ大きな影響を及ぼすことが示された。この結果は、生物学的老化の速度を遅らせ、健康長寿を促進するために役立つだろう」とまとめた。

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日本人の認知症リスクに対する喫煙、肥満、高血圧、糖尿病の影響

 心血管リスク因子が認知症発症に及ぼす年齢や性別の影響は、十分に評価されていない。大阪大学の田中 麻理氏らは、喫煙、肥満、高血圧、糖尿病が認知症リスクに及ぼす影響を調査した。その結果、認知症を予防するためには、男性では喫煙、高血圧、女性では喫煙、高血圧、糖尿病の心血管リスク因子のマネジメントが必要となる可能性が示唆された。Environmental Health and Preventive Medicine誌2023年号の報告。 対象は、ベースライン時(2008~13年)に認知症を発症していない40~74歳の日本人2万5,029人(男性:1万134人、女性:1万4,895人)。ベースライン時の喫煙喫煙歴または現在の喫煙状況)、肥満(過体重:BMI 25kg/m2以上、肥満:BMI 30kg/m2以上)、高血圧(SBP140mmHg以上、DBP90mmHg以上または降圧薬使用)、糖尿病(空腹時血糖126mg/dL以上、非空腹時血糖200mg/dL以上、HbA1c[NGSP値]6.5%以上または血糖降下薬使用)の状況を評価した。認知機能障害は、介護保険総合データベースに基づき要介護1以上および認知症高齢者の日常生活自立度IIa以上と定義した。心血管リスク因子に応じた認知症予防のハザード比(HR)および95%信頼区間(CI)は、Cox比例回帰モデルを用いて推定し、集団寄与危険割合(PAF)を算出した。 主な結果は以下のとおり。・フォローアップ期間中央値9.1年の間に認知症を発症した人は、1,322例(男性:606例、女性:716例)であった。・現在の喫煙および高血圧は、男女ともに認知機能障害の高リスクと関連していたが、過体重または肥満は男女ともに認知機能障害のリスクと関連が認められなかった。・糖尿病は、女性のみで認知機能障害の高リスクと関連していた(p for sex interaction=0.04)。・有意なPAFは、男性では喫煙(13%)、高血圧(14%)、女性では喫煙(3%)、高血圧(12%)、糖尿病(5%)であった。・有意なリスク因子の合計PAFは、男性で28%、女性で20%であった。・年齢層別化による解析では、男性では中年期(40~64歳)の高血圧、女性では老年期(65~74歳)の糖尿病は、認知機能障害のリスク増加と関連していた。

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冠動脈疾患の一次予防に関する診療ガイドライン、11年ぶりに改訂/日本循環器学会

 『2023年改訂版 冠動脈疾患の一次予防に関する診療ガイドライン』が第87回日本循環器学会年次集会の開催に合わせ発刊され、委員会セッション(ガイドライン部会)において、藤吉 朗氏(和歌山県立医科大学医学部衛生学講座 教授)が各章の改訂点や課題について発表した。 本ガイドライン(以下、本GL)は日本高血圧学会、日本糖尿病学会、日本動脈硬化学会をはじめとする全11学会の協力のもと、これまでの『虚血性心疾患の一次予防GL(2012年改訂版)』を引き継ぐ形で作成された。今回の改訂では、一次予防の特徴を踏まえ「冠動脈疾患とその危険因子(高血圧、脂質、糖尿病など)の診療に関わるすべての医療者をはじめ、産業分野や地域保健の担当者も使用することを想定して作成された。また、2019年以降に策定された各参加学会のガイドライン内容も本GLと整合性のある形で盛り込み、「一般的知識の記述は最小限に、具体的な推奨事項をコンパクトに提供することを目指した」と藤吉氏は解説した。  本GLは全5章で構成され、とくに第2章の高血圧や脂質異常などに関する内容、第3章の高齢者、女性、CKD(慢性腎臓病)などを中心に改訂している。 全5章のなかで変更点をピックアップしたものを以下に示す。 第2章:危険因子の評価と治療<高血圧>・『高血圧治療ガイドライン2019』(日本高血圧学会)に準拠。・血圧の診断については、SBP/DBP(拡張期/収縮期血圧)130~139/80~89mmHg群から循環器疾患リスクが上昇してくるため、その名称を従来の「正常高値血圧」から「高値血圧」とした。また、診察室血圧と家庭血圧の間に差がある場合、家庭血圧による診断を優先する。・降圧目標について、75歳以上の高齢者は原則140/90mmHg未満とするが、高齢者でも厳格降圧(130/80mmHg未満)の適応となる併存疾患を有しており、かつ厳格降圧の忍容性ありと判断されれば過降圧に注意しながら130/80mmHg未満を目指すことが記されている。・降圧薬の脳心血管病抑制効果の大部分は、薬剤の特異性よりも降圧の度合いによって規定されている。その点を前提に、降圧薬治療の進め方に関する図を掲載した(p.22 図4)。<脂質異常>・脂質異常は『動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版』(日本動脈硬化学会)に準拠し、危険因子の包括的評価(p.26 図5)にて、治療方針を決定する(p.23 表8)。・治療すべき脂質の優先順位を明確化した(1:LDL-C、2:non-HDL-C、3:TG/HDL-C)。<糖尿病・肥満>・糖尿病の診断早期から適切な血糖管理・治療が重要で、その理由は、糖尿病診断前のHbA1cが上昇していない耐糖能異常の段階から冠動脈疾患(CAD)リスクが上昇するため。・2型糖尿病の血糖降下薬の特徴が表で明記されている(p.31 表13)。・糖尿病患者においてCADの一次予防を目的としてアスピリンなどの抗血小板薬をルーチンで使用することを推奨しない、とした。これは近年のエビデンスを踏まえた判断であり、以前のガイドラインとは若干異なっている。<運動・身体活動>・運動強度・量を説明するため、身体活動の単位である「METs(メッツ)」や、主観的運動強度の指標である「Borg指数」に関する図表(p.42 表16、図6)を掲載し、日常診療での具体的指標を示した。<喫煙・環境要因、CAD発症時対処に関する患者教育・市民啓発、高尿酸血症とCAD>・禁煙に関する新たなエビデンスを記載し、新型タバコについても触れている。・寒冷や暑熱などの急激な温度変化がCAD誘発リスクを高めること、大気汚染からの防御などに触れている。第3章:特定の注意を要する対策・病態・本章はポリファーマシー、フレイル、認知症、エンドオブライフに注目して作成されている。<高齢者>・75歳までは活発な高齢者が増加傾向である。また年齢で一括りにすると個人差が大きいため、個別評価の方法について本GLに記載した。<女性>・CADリスクの危険因子は男性と同じだが、女性の喫煙者は男性喫煙者に比してその相対リスクが高くなる傾向がある。また、脂質異常症と更年期障害を同時に有する女性に対しては、禁忌・慎重投与に該当しないことを確認したうえでホルモン補充療法を考慮する、とした。<慢性腎臓病(CKD)>・高中性脂肪(高TG)血症を有するCKDに対する注意喚起として、フィブラート系薬剤は、高度腎機能障害を伴う場合には、ペマフィブラート(肝臓代謝)は慎重投与、それ以外のフィブラート系は禁忌であることが記載された。 このほか、本GLで推奨した危険因子の包括的管理に関連し、第2章では包括的管理や予測モデルについて、また第4章にはリスク予測からみた潜在性動脈硬化指標に関する記載を加えた。第5章「市民・患者への情報提供」では市民への急性心筋梗塞発症時の対応や、心肺蘇生法・AEDなどについて触れている。 最後に同氏は「将来的には患者プロファイルを入力することで、必要な情報がすぐに算出・表示できるようなアプリを多忙な臨床医のために作成していけたら」と今後の展望を述べた。 本GLの全文は日本循環器学会のホームページでPDFとして公開している。詳細はそちらを参照いただきたい。

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動脈硬化リスクが上昇しやすい睡眠の取り方

 睡眠不足や不規則な睡眠というのは心血管疾患や2型糖尿病などの発症に関連しているが、アテローム性動脈硬化との関連性についてはあまり知られていない。そこで、米国・ヴァンダービルト大学のKelsie M. Full氏らは睡眠時間や就寝タイミングとアテローム性動脈硬化との関連性を調査し、45歳以上の場合に睡眠不足や不規則な睡眠であるとアテローム性動脈硬化の発症リスクを高めることを示唆した。Journal of the American Heart Association誌2023年2月21日号掲載の報告。 本研究はコミュニティベースの多民族研究(MESA:Multi-Ethnic Study of Atherosclerosis)で、睡眠時間や睡眠の規則性について、アクティグラフィ※(活動量測定検査)を7日間手首に装着した記録を評価し、無症候性のアテローム性動脈硬化との関連性を横断的に調査した。※腕時計型の加速度センサーで、腕や足首に装着することで活動/休止リズムサイクルを記録するもの。睡眠/覚醒アルゴリズムを記録できる。 本研究では、2010~13年に記録された2,032例(平均年齢±標準偏差[SD]:68.6±9.2歳[範囲:45~84歳]、女性:53.6%)のデータを用いた。評価項目に用いたマーカーは、冠動脈カルシウム、頸動脈プラークの有無、頸動脈内膜-中膜の厚さ、および足首-上腕指数であった。睡眠の規則性は睡眠時間と就寝タイミングで、個々の7日分のSDを定量化した。解析には相対リスク回帰モデルを使用し、有病率と95%信頼区間[CI]を計算した。なお、解析モデルは人口統計、心血管疾患の危険因子、閉塞性睡眠時無呼吸症候群、睡眠時間、中途覚醒など、睡眠特性に合わせ客観的に評価・調整した。 主な結果は以下のとおり。・全体として、7日間を通してさまざまな睡眠を取った(たとえば、ある夜は睡眠時間が短く、ある夜は睡眠時間が長かった)参加者は、毎晩ほぼ同じ睡眠時間だった参加者よりも、アテローム性動脈硬化を発症する可能性が高かった。・参加者の約38%では睡眠時間が90分以上変化し、18%では120分以上も変化していた。・睡眠が不規則な人の特徴は、白人以外の人種では「現喫煙者の可能性が高い」「平均年収が低い」「勤務がシフト制もしくは無職の可能性が高い」「BMIが高い」傾向であった。・調整後、より規則的な睡眠時間(SD≦60分)の参加者と比較したところ、睡眠時間の不規則性が大きい(SD>120分)参加者は、冠動脈カルシウム負荷が高く(SD>300、有病率:1.33、95%[CI]:1.03~1.71) 、足首上腕指数が異常値であった(SD<0.9、有病率:1.75、95%[CI]:1.03~2.95)。・より規則的な就寝タイミングの参加者(SD≦30分)と比較したところ、就寝時間が不規則な参加者(SD>90分)は、冠動脈のカルシウム負荷が高い可能性が強かった (有病率:1.39、95%[CI]:1.07~1.82)。・関連性は、心血管疾患の危険因子、平均睡眠時間、閉塞性睡眠時無呼吸、中途覚醒を調整後も持続した。・睡眠の不規則性、とくに睡眠時間の長さのばらつきは、アテローム性動脈硬化のいくつかの無症候性マーカーと関連していた。

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メタボ該当者はうつ病リスクが高い―国内のコホート内症例対照研究

 メタボリックシンドローム(MetS)に該当する人は、うつ病のリスクが高い可能性のあることが報告された。名古屋大学医学部附属病院先端医療開発部の今泉貴広氏、同大学大学院医学系研究科病態内科学腎臓内科の丸山彰一氏らによる研究の結果であり、詳細は「Scientific Reports」に11月3日掲載された。 うつ病は労働者の精神疾患として最も一般的に見られる疾患であり、公衆衛生上の大きな問題となっている。うつ病が糖尿病や心血管疾患のリスクと関連のあることは既に知られており、さらにそれらの発症前段階に当たるMetSも、うつ病と関連のあることが報告されている。ただし、MetSとうつ病との関連を縦断的に示した研究はなく、MetS該当者が将来的にうつ病を発症しやすいのかどうかは明らかになっていない。仮にそのような関連があるとすれば、MetSによる心血管疾患の発症抑止という目的で行われている特定健診・保健指導を、うつ病予防の介入の機会とするという公衆衛生対策も可能と考えられる。このような背景のもと今泉氏らは、健診データと医療費請求データを用いて、MetS該当者がうつ病を発症しやすいのかを検討した。 2014~2018年度に健診を受診した18~75歳の成人13万4,677人から、腎不全患者や既に抗精神病薬が処方されている人、解析に必要なデータが欠落している人などを除外し、7万6,277人を抽出。2019年3月末まで観察し、抗うつ薬(SSRI、SNRI、NaSSAという3種類の薬)の処方状況を調査した。 7万6,277人のうち、2,051人には観察開始時点で抗うつ薬が処方されており(既処方群)、残りの7万4,226人のうち941人は、観察期間中に抗うつ薬の処方が行われていた(新規処方群)。抗うつ薬が一度も処方されていない群(非処方群)を加えて3群を比較すると、年齢や性別(男性の割合)には有意差がないものの、MetS該当者率は既処方群が16.1%、新規処方群は16.0%であり、非処方群の11.7%より高かった。また、既処方群は他の2群に比べて糖尿病や脂質異常症の割合が高かった。 次に、抗うつ薬の新規処方に関連する因子を検討するため、既処方群を除外した上で、性別と年齢(±3歳以内)が一致する新規処方群と非処方群を1対10の割合で割り当て、計1万915人から成るデータセットを作成し、コホート内症例対照研究を実施した。年齢、性別、喫煙・飲酒・運動・睡眠習慣、睡眠薬・抗不安薬・鎮痛薬(NSAID)の処方、心血管疾患やがんによる入院を調整した多変量解析の結果、以下に記すように、MetSであることやMetSの構成因子などの多くが、抗うつ薬の新規処方と有意に関連していることが明らかになった。 MetS該当者に対する抗うつ薬新規処方のオッズ比(OR)は1.53(95%信頼区間1.24~1.88)、BMIは1高いごとにOR1.04(同1.02~1.06)、腹囲長は10cmごとにOR1.17(1.08~1.27)、20歳からの体重増加が10kg以上でOR1.46(1.25~1.70)、高血圧OR1.17(1.00~1.37)、耐糖能障害OR1.29(1.05~1.58)、脂質異常症OR1.27(1.08~1.51)。なお、このほかに生活習慣関連で、摂食速度が遅いこと(普通に比べてOR1.45)や睡眠不足(OR1.42)が抗うつ薬の新規処方と正の関連があり、摂食速度が速いこと(OR0.64)や飲酒習慣(めったに飲まないに比べて時々はOR0.79、毎日はOR0.65)は負の関連が認められた。 著者らは本研究には、観察研究であり因果関係は不明なこと、SSRIなど3タイプ以外の抗うつ薬による治療を受けている人をうつ病に含めていないこと(その他の抗うつ薬はうつ病治療以外にも使われることが多いため)、非薬物治療を受けている患者やうつ病による休職中で健診を受けていない人を把握できていないことなどの限界点があるとしている。その上で、「MetSやMetS関連の代謝性疾患は労働者における抗うつ薬の新規処方と関連している。MetS該当者を特定する目的で行われている健診に、うつ病のスクリーニングという要素も追加できるのではないか」と結論付けている。

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肺がん減少の一方で乳がん・前立腺がんは増加/全米がん統計

 米国がん協会は、毎年米国における新たながんの罹患数と死亡数を推定して発表している。2023年の最新データがCA Cancer Journal for Clinicians誌2023年1/2月号に掲載された。発表されたデータによると、2023年に米国で新たにがんと診断される人は195万8,310人、がんによる死亡者は60万9,820人と予測されている。死亡者数が最も多いがん種は、男性は肺がん、前立腺がん、大腸がんの順で、女性は肺がん、乳がん、大腸がんの順であった。 がん罹患率は、がんリスクに関連する行動パターンと、がんスクリーニング検査の使用などの医療行為の変化の両方を反映する。たとえば、1990年代初頭の前立腺がんの罹患率(人口10万人当たり)の急増は、それ以前に検査を受けていなかった男性の間で前立腺特異抗原(PSA)検査が急速に広まった結果、無症候性前立腺がんの検出が急増したことを反映している。その後、高齢男性に対するPSA検査が推奨されなくなったことから罹患数は20年間減少を続けていたが、2014~19年には再度増加に転じ、2023年には9万9,000人の新規罹患者が予測されている。また、ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチンの接種推進によって20代前半の女性の子宮頸がん発症率は2012年から2019年にかけて65%低下した。 全体としては、女性に比べて男性のほうが罹患率の傾向は良好だった。2015から2019年にかけての女性の肺がん罹患率の減少は男性の2分の1のペース(年1.1%対2.6%)であり、乳がんや子宮体がんの罹患率は増加を続けている。肝臓がんやメラノーマの罹患率は50歳以上の男性では安定、若年男性では減少した。結果として、性差は徐々に縮小し、がん全体の男女の罹患率比は1992年の1.59(95%信頼区間[CI]:1.57~1.61)から2019年には1.14(95%CI:1.14~1.15)まで低下した。ただし、この比率は年齢によって大きく異なり、20~49歳では女性が男性よりも約80%高い一方で、75歳以上では男性が約50%高かった。 2020年からはCOVID-19感染流行があったにもかかわらず、また他の主要な死因とは対照的に、がん死亡率は2000年代には年1.5%、2015~20年には年2%と減少を続け、1991~2020年までに33%減少し、推定380万人の死亡が回避された。この進歩は喫煙の減少、乳がん・大腸がん・前立腺がん検査の普及、そして治療の進歩を反映したもので、とくに白血病、メラノーマ、腎臓がんの死亡率が急速に減少(2016~20年には年約2%)したことや、肺がんの死亡率減少が加速したことに表れている。すべてのがんを合わせた5年相対生存率は、1970年代半ばに診断された49%から2012~18年に診断された68%に増加した。しかし、死亡率における人種格差が最も大きい乳がん、前立腺がん、子宮体がんの罹患率上昇により、今後の減少の進展は弱まる可能性があるという。

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87歳で脳卒中になるも周囲を説得し独居を続けた女性が見事に回復―AHAニュース

 8月のある日曜日の朝、米国カリフォルニア州に住む87歳の女性、Barbara Bartelsさんは、自宅近くのカフェで友人とコーヒーを飲んでいた。彼女はミクストメディアアーティスト(複数の素材を組み合わせた作品を創造する芸術家)だが、自分自身のことを“隠者”と呼び、アーティスト仲間以外との交流はほとんどなかった。 そんなBartelsさんは元ファッションデザイナーでもあり、自分の身体的・精神的健康をよく気遣っていた。毎日ヨガを続けていたし、最近は気功も始めた。かつて、多くのアーティストがそうであったように、彼女も以前は喫煙者だったが50代前半で禁煙した。唯一の気がかりは体質的なものによる高血圧で、降圧薬を服用していた。 カフェでの友人との会話の最中、自分が口にしている言葉が意味をなしていないことに気付いた。脈絡のない言葉が口をついて出てきて、支離滅裂だった。心配になった友人は、Bartelsさんの携帯電話の「お気に入り」リストの最初の番号に電話をした。電話に出たのはBartelsさんの姪だった。 状況を聞いたBartelsさんの姪は、「すぐに119番に通報して」と頼んだ。友人は「本当に必要? 家に帰って休めば治るのでは?」と確認したが、言葉をスムーズに話せないという症状が脳卒中によって起きることを知っていた姪は、「すぐに救急要請を」と再度頼んだ。 Bartelsさんは、確かに脳卒中を起こしていた。友人の的確な行動のおかげで、血栓溶解薬を使える時間内に病院に搬送され、治療された。病院に駆けつけた娘や親戚に対して医師は、「専門施設での集中的なリハビリテーションに、数カ月とは言わないまでも、数週間を要するのではないか」と語った。ところが麻酔から目を覚ましたBartelsさんは、歩くことも話すこともでき、麻痺も認知障害も起きていなかった。 3日後に退院し帰宅。医師は筋肉を強化するために外来リハビリテーションを勧めたが、彼女は「自宅で運動する」というアイデアに固執した。家族にはそのアイデアが正しいものとは思えなかった。医師が語った「数週間の専門的なリハビリが必要」との言葉と大きく異なるし、脳卒中後の高齢者の状況は悲惨なものだと信じ込んでいたからだ。 「お母さんは脳卒中になったのよ。誰かがいつも見守っていないと」と娘は語り、介護施設への入所を勧めた。これに対して、30歳で離婚し、子どもが親元を離れてからは自分一人で全てに対処してきたBartelsさんはこう答えた。「ちょっと待って。私がこれからどれだけしっかりやっていけるか見ていてほしい。私にはできるはず」。 この家族の会話を、Bartelsさんのアーティスト仲間で長年の友人であるAndrea Borsukさんが、たまたま横で聞いていた。Borsukさんは、自分と同世代の高齢者が自立した生活を続けたいと主張することを、素晴らしいことだと感じた。その考え方は、かつてBorsukさんの90歳になる母親を介護施設に入所させるべきか否かをBartelsさんに相談した時、Bartelsさんが語った考え方だった。結局、BartelsさんとBorsukさんの主張を家族は受け入れた。しばらくの間、Bartelsさんの仲間の誰かが毎日彼女の自宅を訪問し、しっかり生活できているか、異常がないかを確認することにした。そのためBorsukさんは、アーティストグループで共用するオンラインのスケジュール帳を作成した。 それからというもの、日々、Bartelsさんのもとを友人や近所の人たちが交代で訪ね、食事の準備をしたり用事を代行するようになった。Borsukさんは、「心配してくれる多くの人々に囲まれて生活していることが、彼女のモチベーションを高めたに違いない」と語る。 一方、Bartelsさんは、医師が当初語った彼女の回復に関する悲惨な予測を、その後も修正しようとしないことにフラストレーションを感じていた。彼女がどれだけうまくやっているかを見て、医師が早期に見通しを修正していたなら、Bartelsさんの家族も「高齢者が脳卒中になったら回復しない」という思い込みを、早いうちに捨てていただろうと彼女は振り返る。 Bartelsさんの考え方の正しさは、その後の事実が物語っている。脳卒中から6週間後、医師は彼女に運転を許可した。6カ月がたち、彼女は今、よりエネルギッシュに、強くなったと感じている。「ただ、自分自身にプレッシャーもあった。私は自分が言った通りに回復可能であることを、子どもたちに証明しなければならなかったのだから」とBartelsさんは語っている。[2023年1月26日/American Heart Association] Copyright is owned or held by the American Heart Association, Inc., and all rights are reserved. If you have questions or comments about this story, please email editor@heart.org.利用規定はこちら

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通院先の病院までの距離と下肢切断リスクが有意に関連

 末梢動脈疾患(PAD)で治療を受けている患者の自宅から病院までの距離と、下肢切断リスクとの関連を検討した結果が報告された。病院までの距離が長いほど切断リスクが高いという有意な関連が認められたという。東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科国際健康推進医学分野の藤原武男氏らの研究によるもので、詳細は「International Journal of Environmental Research and Public Health」に10月12日掲載された。 PADは心筋梗塞や脳卒中と並ぶ動脈硬化性疾患の一つ。下肢の疼痛や潰瘍などの主要原因であり、進行すると下肢切断を余儀なくされる。高齢化や糖尿病の増加などを背景に、国内でもPADが増加傾向にあるとされている。PADに対しては、動脈硬化リスク因子の管理に加えてフットケアなどの集学的な治療が行われるため、地域の中核病院への通院が必要なことが多い。一方でPADは高齢者に多い疾患であり、遠方の医療機関へのこまめな通院が困難なこともある。PAD以外の外科領域では、自宅から病院までの距離が疾患の転帰に影響を与える可能性を示唆する研究結果が報告されている。しかしPADに関するそのような視点での研究は少なく、特に日本発の報告は見られない。 藤原氏らの研究は、千葉県の南房総地域にある地域中核病院2施設の患者データを後方視的に解析するという手法で行われた。2010~2019年度に904人のPAD患者が記録されており、必要なデータがそろっている630人(平均年齢73.4±10.9歳、男性72.2%)を解析対象とした。なお、同地域は人口の高齢化率が42%と国内平均の28.4%(2020年)より高く、またPADの集学的治療および下肢切断を行っているのはこの2施設に限られている。 自宅から通院先病院までの直線距離の中央値は18.9kmだった。これを基準に対象者全体を二分すると、近距離群の方が高齢(74.5±11.3対72.4±10.4歳、P=0.017)で通院歴が長い(3.24±2.72対2.67±2.68年、P=0.009)という有意差が見られた。 つま先の切断も含む下肢切断は92人(14.6%)に施行されていて、近距離群が12.4%、遠距離群が16.8%であり、後者に多いものの有意差はなかった(P=0.114)。 一方、自宅から病院までの距離を連続変数として解析すると、距離が四分位範囲(22.1km)長いごとに下肢切断リスクが46%上昇するという有意な関連が認められた〔ハザード比(HR)1.46(95%信頼区間1.08~1.98)〕。下肢切断リスクに影響を及ぼし得る因子〔年齢、性別、喫煙歴、虚血重症度(フォンテイン分類)、併存疾患(糖尿病、高血圧、脂質異常症)、血管内治療・透析の施行、アスピリン投与など〕を調整後も、この関連は有意性が保たれていた〔HR1.35(同1.01~1.82)〕。 このほか、前記の近距離群と遠距離群とで生存率をカプランマイヤー法とログランク検定により比較すると、わずかに有意水準未満ながら、近距離群の方が高い生存率で推移していた(P=0.0537)。 著者らは本研究の限界点として、自宅から病院までの距離を直線距離で判断しており、実際のルートや移動手段を考慮していないことなどを挙げた上で、「高齢者人口の多い地域では、自宅から病院までの距離が長いほどPAD患者の下肢切断リスクが高い可能性がある」と結論付けている。さらに、「このような地域に住むPAD患者の転帰改善には、病院までのアクセスを改善する必要があり、また臨床医は、患者が通院に支障を来していないか確認する必要があるのではないか」と付け加えている。

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ペグIFN-λ、高リスクCOVID-19の重症化を半減/NEJM

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のワクチン接種者を含むCOVID-19外来患者において、ペグインターフェロンラムダ(IFN-λ)単回皮下投与は、COVID-19進行による入院または救急外来受診の発生率をプラセボ投与よりも有意に減少させた。ブラジル・ミナスジェライスカトリック大学のGilmar Reis氏らTOGETHER試験グループが報告した。NEJM誌2023年2月9日号掲載の報告。ブラジルとカナダで、入院/救急外来受診の発生を比較 TOGETHER試験は、ブラジルとカナダで実施された第III相無作為化二重盲検プラセボ対照アダプティブプラットフォーム試験である。研究グループは、ブラジルの12施設およびカナダの5施設において、SARS-CoV-2迅速抗原検査が陽性でCOVID-19の症状発現後7日以内の18歳以上の外来患者のうち、50歳以上、糖尿病、降圧療法を要する高血圧、心血管疾患、肺疾患、喫煙、BMI>30などのリスク因子のうち少なくとも1つを有する患者を、ペグIFN-λ(180μg/kgを単回皮下投与)群、プラセボ群(単回皮下投与または経口投与)または他の介入群に無作為に割り付けた。 主要アウトカムは、無作為化後28日以内のCOVID-19による入院(または三次病院への転院)または救急外来受診(救急外来での>6時間の経過観察と定義)の複合とした。主要評価のイベント発生率、ペグIFN-λ群2.7% vs.プラセボ群5.6%、有意に半減 2021年6月24日~2022年2月7日の期間に、計2,617例がペグIFN-λ群、プラセボ群および他の介入群に割り付けられ、ペグIFN-λ群のプロトコール逸脱2例を除外したペグIFN-λ群931例およびプラセボ群1,018例が今回のintention-to-treat集団に含まれた。患者の83%はワクチンを接種していた。 主要アウトカムのイベントは、ペグIFN-λ群で931例中25例(2.7%)に、プラセボ群で1,018例中57例(5.6%)に発生した。相対リスクは0.49(95%ベイズ信用区間[CrI]:0.30~0.76、プラセボに対する優越性の事後確率>99.9%)であり、プラセボ群と比較してペグIFN-λ群で、主要アウトカムのイベントが51%減少した。 副次アウトカムの解析結果も概して一貫していた。COVID-19による入院までの期間はプラセボ群と比較しペグIFN-λ群で短く(ハザード比[HR]:0.57、95%ベイズCrI:0.33~0.95)、COVID-19による入院または死亡までの期間もペグIFN-λ群で短い(0.59、0.35~0.97)など、ほとんどの項目でペグIFN-λの有効性が示された。また、主な変異株の間で、およびワクチン接種の有無で有効性に差はなかった。 ベースラインのウイルス量が多かった患者では、ペグIFN-λ群のほうがプラセボ群より、7日目までのウイルス量減少が大きかった。 有害事象の発現率は、全GradeでペグIFN-λ群15.1%、プラセボ群16.9%であり、両群で同程度であった。

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COPD患者は手術後1年間の死亡リスクが高い

 慢性閉塞性肺疾患(COPD)の患者が手術を受けた場合、術後1年間は死亡リスクが高い状態で推移するとのデータが報告された。トロント大学(カナダ)のAshwin Sankar氏らの研究によるもので、詳細は「Canadian Medical Association Journal(CMAJ)」に1月17日掲載された。死亡リスクだけでなく、医療コストもCOPDでない患者より高額になるという。 COPDは呼吸機能が低下する疾患群で、以前は肺気腫、慢性気管支炎と呼ばれていた病気の総称。米疾病対策センター(CDC)によると、米国のCOPD患者数は約1600万人に上る。COPD患者はCOPD以外の疾患を併発していることが多く、フレイル(ストレス耐性が低下した状態)に該当することも多い。実際、COPD患者は手術後30日以内の合併症や死亡のリスクが高いことが知られている。ただし、より長期間経過した後にも、そのようなハイリスク状態が続いているのかどうかは、これまであまり検討されていなかった。Sankar氏らはこの点に着目して新たな研究を実施。その結果、大手術を受けたCOPD患者は、呼吸器系に問題のない患者と比べて、1年以内の死亡率が61%高く、医療費も13%多くかかっていることが明らかになった。 この結果を基にSankar氏は、「手術のリスクを患者に伝えることは、手術前インフォームドコンセントのプロセスの重要な要素だ。COPD患者が手術を受けるか否かを判断する際に、臨床医は本研究で示されたような情報を伝えるべきだろう」と話している。ただ、COPD患者の多くが何らかの慢性疾患を併発しているため、手術後の死亡リスク上昇の原因がCOPDだと断定することは難しい。とはいえ同氏は、「COPDの有無をハイリスク状態のフラグとして利用することができる。フラグが立っている場合は、ほかの変更可能なリスク因子が最適な状態に管理されているかを入念に確認すべきだろう」と述べている。 Sankar氏らの研究は、カナダのオンタリオ州の医療情報データベースを後方視的に解析する手法で実施された。2005~2019年に待機手術を受けた93万2,616人〔年齢中央値65歳(四分位範囲55~75)、女性59.9%〕のうち、17万482人(18%)がCOPDを有していた。 術後30日間の追跡でCOPD患者の全死亡リスクは非COPD患者より72%高く、1年間の追跡でも61%ハイリスクだった。死亡リスクに影響を及ぼし得る因子〔年齢、性別、併存疾患(高血圧、糖尿病、慢性腎臓病、冠動脈疾患、末梢血管疾患、心房細動、脳卒中、肝疾患ほか)、収入、手術前1年以内の入院歴など〕を調整後も、COPD群は有意にハイリスクだった〔術後30日間はハザード比(HR)1.32(95%信頼区間1.28~1.37)、1年間ではHR1.26(同1.24~1.29)〕。また、COPD患者は術後の医療コストも高額であり、その差は30日以内よりも1年以内で比較した場合により大きかった〔前記の交絡因子調整後の相対差が術後30日間は2.1%(1.8~2.3)、1年間では9.8%(9.3~10.3)〕。 この研究報告に関連して米ノースウェル・ヘルスのMangala Narasimhan氏は、まず臨床医に向けて、「手術の必要性をよく考慮し、かつ、合併症のリスクが高いことを含む十分な情報に基づいて、患者が意思を決定できるように努める必要がある」と語っている。そしてCOPD患者に向けては、「第一に喫煙しないことだ。喫煙は将来のさまざまなリスクを高める。現在喫煙している場合は、できるだけ早く禁煙してほしい。人生の後半になってから禁煙したとしても、間違いなく何らかの利益を得ることができる」とアドバイスを送っている。 また同氏は、「リスクのない手術はない。もちろんハイリスクであっても避けられない手術もあるが、その必要性を自分自身で理解するべきだ。さらに、大手術が必要となった場合には、手術前に健康上の問題を管理し、病状を最適化しておくことが重要」とも付け加えている。

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代謝的に健康でもFIB-4 index高値の男性はCKDリスクが高い

 代謝的に健康で慢性腎臓病(CKD)のリスクは低いと考えられる男性でも、肝臓線維化マーカーである「FIB-4 index」が高い場合はCKDリスクが高いことを示唆するデータが報告された。産業医科大学病院腎センターの久間昭寛氏らが行った縦断的研究の結果であり、詳細は「Scientific Reports」に10月5日掲載された。 メタボリックシンドロームの肝臓における表現型とされる非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)は、肝硬変や肝がんのリスクであるのと同時に、心血管代謝疾患リスクとも関連のあることが知られている。さらに、NAFLDがアルブミン尿のリスク因子であるとする報告もある。ただし、NAFLDがCKDの独立したリスク因子であるか否かは十分検討されていない。これを背景として久間氏らは、NAFLDなどによる肝線維化の簡便な指標であるFIB-4 indexとCKDリスクとの関連を検討した。 2009~2014年の企業健診受診者1万1,296人から、ベースライン時点でCKDに該当する人、習慣的飲酒者(エタノール換算で男性30g/日以上、女性20g/日以上)、追跡期間が5年未満だった人を除外し、男性5,353人(FIB-4 indexは平均0.73、eGFR81.8mL/分/1.73m2)のデータを解析に用いた。女性は解析対象に残らなかった。 FIB-4 indexが1.3以上を高値とすると、243人(4.5%)が該当した。傾向スコアマッチングにより、FIB-4 index1.3未満の群からこの243人と背景の一致する同数の対照群を設定。両群を比較すると、FIB-4 indexの計算に必要なAST、ALT、血小板数を除き、年齢、BMI、eGFR、血清脂質、血圧、HbA1c、喫煙者率、高血圧・糖尿病の該当者率など、全て有意差のないことが確認された。FIB-4 indexは低値群が0.91±0.22、高値群が1.65±0.49だった。 これら両群を5年間追跡したところ、FIB-4 index低値群の33人(14%)、高値群の48人(21%)がCKDを発症。全数解析では有意な群間差は認められなかった〔オッズ比(OR)1.57(95%信頼区間0.97~2.56)〕。年齢(55歳未満/以上)および、肥満・高血圧・糖尿病・脂質異常症・喫煙習慣の有無で層別化したサブグループ解析では、非肥満〔OR1.92(同1.09~3.40)〕、非高血圧〔OR2.15(1.16~3.95)〕、非喫煙者〔OR1.88(1.09~3.23)〕において、FIB-4 index高値群でCKD発症オッズ比の有意な上昇が認められた。年齢や糖尿病・脂質異常症の有無では、FIB-4 indexの高低による有意なリスク差は認められなかった。 次に、サブグループ解析で有意差の認められた代謝関連因子(肥満、高血圧、喫煙習慣)が一つ以上該当する群(227人)と一つも該当しない群(237人)に二分し、FIB-4 index低値群に対する高値群のCKD発症オッズ比を検討。すると、代謝関連因子を有する群は有意なオッズ比上昇が観察されなかった一方で〔OR1.06(0.54~2.09)〕、代謝関連因子を持たない群では、FIB-4 indexが高いことによる有意なオッズ比上昇が認められた〔OR2.45(1.19~5.10)〕。 続いて、代謝関連因子を持たない群の5年間でのeGFR変化率を目的変数とする多重線形回帰分析を施行。その結果、FIB-4 index(β=-2.8950、P=0.011)、中性脂肪(β=-0.0159、P=0.026)が有意な負の関連因子、尿酸(β=1.0838、P=0.031)が正の関連因子として抽出され、年齢やBMI、LDL-C、HbA1c、収縮期血圧などは有意な関連がなかった。 以上を基に著者らは、「代謝的に健康でありCKDリスクが低いと考えられる場合でも、FIB-4 index 1.3以上で定義されるNAFLDに該当する男性はハイリスクの可能性があるため、腎機能の注意深い経過観察が必要とされる」と結論付けている。なお、代謝的に健康な場合でのみ両者の関連が有意であることの理由については、「代謝的に不健康な場合はそのことがCKD発症の強力なリスク因子となるため、FIB-4 indexの予測能がマスクされてしまうのではないか」との考察を加えている。

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日本人のサルコペニア予防には地中海食より日本食?

 日本人中高齢者の食生活と握力との関連を検討したところ、より日本食らしい食事パターンの人ほど、握力低下が少ないことが明らかになった。一方、地中海食らしい食事パターンは、握力低下に対する保護的な効果は見られなかったという。長野県立大学健康発達学部の清水昭雄氏、神奈川県立保健福祉大学保健福祉学部の遠又靖丈氏、三重大学医学部附属病院リハビリテーション部の百崎良氏らの研究によるもので、詳細は「International Journal of Environmental Research and Public Health」に10月3日掲載された。 日本食と地中海食はどちらも健康的な食事パターンとして知られており、それらを順守している人ほど心血管疾患や全死亡リスクが低いことが報告されている。ただ、日本を含む先進諸国では人口の高齢化を背景に、筋力や筋肉量が低下した状態であるサルコペニアを予防することの重要性が増している。そこで清水氏らは、日本食または地中海食の順守と、サルコペニアの主要な関連因子である握力低下との関連を横断的に検討した。 研究には、独立行政法人経済産業研究所などが行っている中高齢者対象調査「くらしと健康の調査(JSTAR)」のデータを用いた。JSTARは、国内10都市の50歳以上の地域住民から無作為に抽出された人を対象とするパネル調査であり、その参加者のうち今回の研究で解析に必要なデータがそろっている6,031人(平均年齢62.8±7.0歳、女性53.6%、BMI23.1±3.1)が対象とされた。 日本食らしさは、「日本食指数改訂版(rJDI12)」という指標で評価。これは、12種類の食品群の摂取量を基に0~12点の範囲でスコア化し、高得点であるほどより日本食らしい食事パターンと判定する。地中海食らしさは、「代替地中海食(aMED)スコア」という指標で評価。これは、9種類の食品群の摂取量を基に0~8点の範囲でスコア化し、高得点であるほどより地中海食らしい食事パターンと判定する(ただし、aMEDスコアの算出に必要なナッツの摂取量が本調査では把握されていなかったため、8種類の食品群の摂取量で評価した)。握力は、アジアサルコペニアワーキンググループのサルコペニア診断基準に基づき、男性は28kg未満、女性は18kg未満を「握力低下」と判定した。 rJDI12スコアの四分位数で4群に分類すると、より日本食らしい食事パターンの群は、高齢で喫煙者が少なく、歩行時間が長く、摂取エネルギー量が多かった(傾向性P<0.001)。性別(女性の割合)やBMI、飲酒習慣とは有意な関連がなかった。一方、aMEDスコアの四分位数で4群に分類すると、より地中海食らしい食事パターンの群は、高齢で摂取エネルギー量が多く(傾向性P<0.001)、喫煙者が少ない(傾向性P=0.001)という点ではrJDI12スコアでの分類と同様だが、女性の割合が少なく、習慣的飲酒者が多かった(傾向性P<0.001)。また歩行時間とは有意な関連が認められなかった。 握力低下の該当者率を、rJDI12スコアの第1四分位群を基準として、年齢と性別のみを調整して比較すると、第2四分位群でもオッズ比が有意に低く、全体としてrJDI12スコアが高い群ほどオッズ比が低下するという有意な関連が認められた(傾向性P<0.001)。一方、aMEDスコアの第1四分位群を基準として比較すると、第3四分位群のオッズ比のみが有意に低く、全体としてaMEDスコアと握力低下該当者率との関連は有意性が認められなかった(傾向性P=0.191)。 次に、握力低下に影響を及ぼし得る交絡因子〔年齢、性別、BMI、手段的日常生活動作(IADL)スコア、歩行時間、飲酒・喫煙習慣、摂取エネルギー量、脳血管疾患・冠動脈性心疾患・糖尿病・がんの既往〕を調整するモデルで検討。その結果、rJDI12では第4四分位群で有意に低いオッズ比となり、年齢・性別のみを調整した解析結果と同様に、rJDI12スコアが高い群ほどオッズ比が低下するという有意な関連が認められた(傾向性P=0.031)。aMEDスコアと握力低下該当者率との関連は、年齢・性別のみを調整したモデル同様、非有意だった(傾向性P=0.242)。 以上より著者らは、「地中海食ではなく、日本食らしい食事パターンが、筋力低下の該当者率の低さと関連していた。日本人の食生活の評価にはaMEDスコアよりもrJDI12スコアの方が優れている可能性がある」と結論付けている。ただし、本研究が横断研究であること、aMEDスコアでの評価にナッツの摂取量を考慮しなかったことなどの限界点を挙げ、「日本食らしい食事パターンが日本人の筋力低下につながるのか否か、さらなる研究が必要とされる」と付け加えている。

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加熱式タバコ、コロナ感染・重症化リスクを上昇/大阪公立大ほか

 燃焼式タバコの使用は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の重症化リスク因子と考えられ、「新型コロナウイルス感染症診療の手引き 第8.1版」でも「喫煙」が「重症化のリスク因子」の項目に記載されている。COVID-19流行下において、各国でタバコ使用行動の変化がみられているが、加熱式タバコの使用は、増加しているともいわれる。しかし、加熱式タバコとCOVID-19の関係については、これまでほとんど検討がなされていなかった。そこで、浅井 一久氏(大阪公立大学大学院医学研究科 呼吸器内科学)らの研究グループは、加熱式タバコの使用とCOVID-19の関係に着目し、調査を実施した。その結果、タバコ非使用者に比べ、加熱式タバコ使用者は新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染率が高く、全タバコ使用者の中でも加熱式タバコと燃焼式タバコの併用者は、感染時の症状悪化リスクが最も高かった。本研究結果は、Scientific Reports誌2023年2月2日号に掲載された。 インターネット調査会社に登録中の日本の一般住民から、日本の人口分布に沿って無作為に選定された16~81歳の参加者3万130人を対象として、2022年2月にオンライン調査を実施した(JASTIS 2022研究)。加熱式タバコを含むタバコの使用状況と、2020年と2021年のSARS-CoV-2感染および感染時の症状悪化(入院、酸素投与)の有無、感染および悪化と関連しうる項目を抽出し、その関係性について多変量ロジスティック回帰分析を用いて解析した。 主な結果は以下のとおり。・対象者のうち、24.3%が現在タバコを使用し、使用者のうち21.2%が加熱式タバコを単独で、30.1%が燃焼式タバコとの併用で使用していた。・タバコ非使用者と比較したSARS-CoV-2感染のオッズ比は、加熱式タバコ単独使用者(調整オッズ比[aOR]:1.65、95%信頼区間[CI]:1.26~2.15、p<0.001)および加熱式タバコと燃焼式タバコの併用者(aOR:4.66、95%CI:3.89~5.58、p<0.001)で有意に高かったが、過去喫煙者と燃焼式タバコ単独使用者では有意差が認められなかった。・SARS-CoV-2感染者で2020年と2021年の2年とも感染した20例を除いた1,097例の解析において、タバコ非使用者と比較した入院のオッズ比は、加熱式タバコと燃焼式タバコの併用者のみで有意に高く(aOR:3.17、95%CI:2.11~4.77、p<0.001)、過去喫煙者、燃焼式タバコ単独使用者、加熱式タバコ単独使用者では有意差が認められなかった。・酸素投与に関して、タバコ非使用者と比較したオッズ比は、過去喫煙者(aOR:1.88、95%CI:1.11~3.19、p=0.019)、燃焼式タバコ単独使用者(aOR:3.17、95%CI:1.77~5.67、p<0.001)、加熱式タバコ単独使用者(aOR:1.90、95%CI:1.01~3.59、p=0.048)、加熱式タバコと燃焼式タバコの併用者(aOR:4.15、95%CI:2.70~6.36、p<0.001)のいずれにおいても有意に高かった。 研究グループは、本研究結果について「燃焼式タバコのCOVID-19感染時の症状悪化に関するリスクが再確認され、新たに加熱式タバコの使用(とくに燃焼式タバコとの併用)がCOVID-19感染時の症状悪化に関連することが示唆された」とまとめ、加熱式タバコが拡大している日本の現状を踏まえ、COVID-19流行下におけるタバコ使用行動の安全性を考えるきっかけとなるだろうと述べている。

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6つの“健康的な生活習慣”で高齢者の記憶力低下が遅延/BMJ

 健康的な生活習慣(喫煙をしない、飲酒をしない、健康的な食事、定期的な運動、活発な認知活動と社会的接触を組み合わせた)は、アポリポ蛋白E(APOE)ε4遺伝子型保有者においても、記憶力低下の進行を遅らせることを、中国・首都医科大学のJianping Jia氏らが地域住民を対象とした10年間の前向きコホート研究「China Cognition and Ageing Study(COAST)」の結果、報告した。健康的な生活習慣が認知機能に及ぼす影響に関する研究は増えているが、記憶力への影響に目を向けた研究は少なく、長期にわたる健康的な生活習慣と記憶力低下との関係を評価するには不十分なものであり、また遺伝的リスクとの相互作用は考慮されていなかった。著者は、「今回の研究は、記憶力の低下から高齢者を守るための重要な情報を提供するだろう」とまとめている。BMJ誌2023年1月25日号掲載の報告。10年間追跡、6つの健康的な生活習慣と記憶力低下の関連を検討 研究グループは、中国・北部、南部および西部の代表的な12省の計96地域(都市部48地域、農村部48地域)において、2009年5月8日より認知機能が正常でAPOE遺伝子型の検査を受けた60歳以上の個人を登録し、2019年12月26日まで追跡した。ベースラインおよび各追跡調査時(2012、2014、2016および2019年)に、記憶力(WHO/UCLA聴覚性言語学習検査[AVLT])、認知機能(ミニメンタルステート検査[MMSE])、生活習慣(健康行動質問票による)を評価した。 主要アウトカムは、健康的な生活習慣6項目の記憶力への影響で、生活習慣について好ましい(健康的な生活習慣の該当項目が4~6項目)、平均的(2~3項目)、好ましくない(0~1項目)に分類し、線形混合モデルを用いて解析した。 健康的な生活習慣とは、健康的な食事(12品目[果物、野菜、魚、肉、乳製品、塩、油、卵、穀類、豆類、ナッツ、茶]中7品目以上を毎日推奨された量を摂取)、定期的な運動(中強度150分/週以上、または強強度75分/週以上)、活発な社会的接触(週2回以上)、活発な認知活動(週2回以上)、喫煙なし(喫煙未経験または少なくとも3年前に禁煙)、飲酒なし(まったく飲まない、または時々飲む)とした。APOEε4遺伝子型有無にかかわらず、健康的な生活習慣で記憶力低下が遅延 5万6,894例がスクリーニングされ、ベースラインでAPOE遺伝子型検査を受けた認知機能が正常な2万9,072例が登録された(平均年齢72.23歳、女性48.54%、APOEε4保有者20.43%)。 10年の追跡期間において、全体集団では生活習慣が好ましくない群と比較して好ましい群で記憶力の低下が遅かった(0.028点/年、95%信頼区間[CI]:0.023~0.032、p<0.001)。 APOEε4を保有している集団では、好ましくない群と比較して、好ましい群(0.027点/年、95%CI:0.023~0.031)および平均的な群(同:0.014、0.010~0.019)で記憶力の低下が遅かった。APOEε4を保有していない集団でも同様の結果がみられ、好ましくない群と比較し、好ましい群(同:0.029、0.019~0.039)ならびに平均的な群(同:0.019、0.011~0.027)で記憶力の低下が遅かった。 APOEε4の保有状況と生活習慣は、記憶力低下に対する有意な相互作用を示さなかった(p=0.52)。

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