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2型糖尿病の死亡リスクは高くない?/NEJM

 5つのリスク因子が、ガイドラインで定められた目標値の範囲内にある2型糖尿病患者は、死亡、心筋梗塞、脳卒中のリスクが一般人口とほとんど変わらず過剰ではないことが、スウェーデン・イエーテボリ大学のAidin Rawshani氏らの検討で示された。研究の成果は、NEJM誌2018年8月16日号に掲載された。2型糖尿病患者は、死亡や心血管アウトカムのリスクが一般人口に比べ2~4倍高いとされる。この2型糖尿病に関連する過剰なリスクが、現行のエビデンスに基づく治療や複数のリスク因子の修正によって、どの程度軽減し、あるいは消失する可能性があるのかは不明であった。目標値範囲外のリスク因子数とアウトカムの関連を評価 研究グループは、2型糖尿病患者における死亡および心血管イベントの過剰リスクが低減あるいは消失するかを検討するコホート研究を行った(スウェーデン地方自治体協議会[SALAR]などの助成による)。 1998年1月1日~2012年12月31日の期間に、スウェーデンの全国糖尿病登録(Swedish National Diabetes Register)の2型糖尿病患者27万1,174例(糖尿病群)と、年齢、性別、地域(県)をマッチさせた非糖尿病の地域住民135万5,870例(対照群)を解析に含めた。 年齢別(≧80、≧65~<80、≧55~<65、<55歳)および5つのリスク因子(糖化ヘモグロビン値の上昇[≧7.0%]、LDLコレステロール値の上昇[≧97mg/dL]、アルブミン尿[微量・顕性アルブミン尿]、喫煙[試験登録時]、血圧の上昇[≧140/80mmHg])の有無別に解析を行った。 Cox回帰を用いて、目標値の範囲外のリスク因子の数と関連する4つのアウトカム(死亡、急性心筋梗塞、脳卒中、心不全による入院)の過剰リスクを評価した。また、種々のリスク因子と心血管アウトカムとの関連も検討した。若年患者はリスク増分が大きい、死亡の最強予測因子は喫煙 フォローアップ期間中央値は5.7年で、この間に17万5,345例が死亡した。ベースライン時に5つのリスク因子の完全なデータが得られた2型糖尿病患者は9万6,673例(35.6%)であった。両群とも平均年齢は60.58歳で、女性が49.4%だった。 糖尿病群は対照群に比べ、目標値の範囲外のリスク因子の数が0から5つへと増加するに従って、4つのアウトカムのハザード比(HR)が段階的に上昇した。糖尿病に関連する死亡および心血管イベントのリスクの増分は、加齢に伴って段階的に減少し、<55歳の集団が最も大きく、≧80歳の集団が最も小さかった。また、急性心筋梗塞のHRは、目標値範囲外のリスク因子が1つもない≧80歳の患者が、対照群に比べ最も低かった(HR:0.72、95%信頼区間[CI]:0.49~1.07)。 5つのリスク因子がすべて目標値の範囲内の糖尿病患者は、対照群との比較における全死因死亡HRが1.06(95%CI:1.00~1.12)であり、わずかにリスクが高い傾向がみられたが、急性心筋梗塞のHRは0.84(95%CI:0.75~0.93)とむしろリスクは低く、脳卒中のHRは0.95(95%CI:0.84~1.07)と有意差を認めなかった。一方、目標値の範囲外のリスク因子がない糖尿病群の心不全による入院のリスクは、対照群よりも有意に高かった(HR:1.45、95%CI:1.34~1.57)。 死亡の最も強い予測因子は喫煙であり、次いで身体活動、婚姻状況、糖化ヘモグロビン値、スタチンの使用の順であった。同様に、急性心筋梗塞の予測因子は、糖化ヘモグロビン値、収縮期血圧、LDLコレステロール値、身体活動、喫煙の順で、脳卒中は糖化ヘモグロビン値、収縮期血圧、糖尿病罹患期間、身体活動、心房細動の順、心不全による入院は心房細動、BMI、身体活動、推定糸球体濾過量、糖化ヘモグロビン値の順だった。 著者は、「理論上、5つのリスク因子を目標値の範囲内に保持すれば、急性心筋梗塞の過剰リスクは消失するが、心不全による入院のリスクは実質的に過剰なまま残る」とまとめ、「若年患者では、目標値の範囲外のリスク因子の数が多いほど、有害な心血管アウトカムの相対的リスクが増大したことから、より積極的な治療が利益をもたらす可能性が示唆される」と指摘している。

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日米における心血管代謝疾患のBMIカットオフ値

 日本人と米国人を対象とした横断研究から、日米とも高BMIが高血圧症、糖尿病、脂質異常症、高尿酸血症の有病率増加と関連すること、有病率が増加するBMIカットオフ値は日本人のほうが有意に低いことを、虎の門病院の桑原 政成氏らが報告した。米国における過体重/肥満の定義が日本では適用できない可能性が示唆される。Nutrients誌2018年8月3日号に掲載。 本研究は、聖路加国際病院における18~85歳の日本人成人9万47例と、米国国民健康栄養調査(National Health and Nutrition Examination Survey: NHANES)における成人1万4,734例での横断研究。BMIごとの高血圧症、糖尿病、脂質異常症、高尿酸血症の有病率を日米で比較した。 主な結果は以下のとおり。・高血圧症、糖尿病、脂質異常症の有病率は米国のほうが有意に高く、高尿酸血症の有病率は日米で差がなかった。・年齢、性別、喫煙や飲酒習慣、慢性腎臓病、その他の心血管リスク因子の調整後、日米とも、高BMIは高血圧症、糖尿病、脂質異常症、高尿酸血症の独立した危険因子であった・これらの心血管代謝リスク因子の有病率が増加したBMIカットオフ値は、米国が日本より有意に高かった(高血圧症:27 vs.23、糖尿病:29 vs.23、脂質異常症:26 vs.22、高尿酸血症:27 vs.23)。

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広範囲ゲノムシーケンスは進行NSCLCに生存ベネフィットをもたらすか/JAMA

 進行非小細胞肺がん(NSCLC)患者において、広範ゲノムシークエンシングは一部の患者の選択すべき治療情報とダイレクトに関連していたが、良好な生存との独立した関連は認められなかった。米国・オハイオ州立大学のCarolyn J. Presley氏らによる後ろ向きコホート研究の結果で、JAMA誌2018年8月7日号で発表された。進行NSCLC患者には、広範ゲノムシークエンシングが頻繁に用いられている。しかし、コミュニティ設定における同患者の、広範ゲノムシークエンシングと治療選択あるいは生存との関連性については、ほとんど知られていなかった。EGFR変異/ALK再構成の定期検査群と比較 研究グループは、全米を対象とするFlatiron Health Databaseを用いて、2011年1月1日~2016年7月31日に医療記録で確認された進行NSCLCで、191のがん治療のうち1つの治療を受けたことがある患者を特定し、広範ゲノムシークエンシングを受けている群と、EGFR変異とALK再構成またはALK再構成のみの定期検査を受けている(対照)群の臨床的アウトカムを比較した。 対象患者は、StageIIIB/IVまたは切除不能な非扁平上皮NSCLCで、少なくとも1ラインの抗腫瘍治療を受けていた。 広範ゲノムシークエンシングには、第3選択治療までに30以上の遺伝子を調べるあらゆるマルチ遺伝子シークエンシングアッセイを含んだ。 主要評価項目は、第1選択治療開始から12ヵ月間の死亡率および全生存率とした。治療選択との関連はみられるが、生存との関連は認められず 特定された進行NSCLC患者は5,688例(年齢中央値67歳[四分位範囲:41~85]、白人63.6%、喫煙歴あり80%)で、広範囲ゲノムシークエンシング群は875例(15.4%)、対照群は4,813例(84.6%)であった。 広範囲ゲノムシークエンシング群の患者において、4.5%が検査結果に基づいたターゲット治療を、9.8%が定期的なEGFR/ALKターゲット治療を受けていた。85.1%は非ターゲット治療を受けていた。 12ヵ月時点の補正前死亡率は、広範囲ゲノムシークエンシング群49.2%、対照群35.9%であった。操作変数解析の結果、予測死亡率は広範囲ゲノムシークエンシング群41.1%、対照群44.4%であり、広範囲ゲノムシークエンシングと12ヵ月死亡には有意な関連性は認められなかった(群間差:-3.6、95%信頼区間[CI]:-18.4~11.1、p=0.63)。同様の結果が、傾向スコア適合生存解析でも示された(42.0% vs.45.1%、ハザード比[HR]:0.92、95%CI:0.73~1.11、p=0.40)。非適合コホートでも同様であった(HR:0.69、95%CI:0.62~0.77、log-rank検定のp<0.001)。

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新COPDガイドラインの要点と日本人データ

 2018年7月、日本ベーリンガーインゲルハイム株式会社は、COPDラウンドセミナーを都内で開催した。本セミナーでは、「COPDガイドラインの改訂と日本人データの重要性」をテーマに、一ノ瀬 正和氏(東北大学大学院医学系研究科 呼吸器内科学分野 教授)による講演が行われた。COPDは息苦しさから、身体活動性の低下につながる COPDは、慢性閉塞性肺疾患(Chronic Obstructive Pulmonary Disease)の略語で、以前は慢性気管支炎、肺気腫などと呼ばれていた疾患の総称である。喫煙や微粒子への長期曝露により、気管支に炎症が起こり、気道の狭窄・肺胞壁の破壊(気腫化)・痰などの分泌物増加などが起こる。日本人の場合、90%以上が喫煙によって発症するため、早くても40代、平均50~70代の高齢者で顕在化するという。 COPD患者は、呼吸に圧力が必要で、労作による息切れや運動による低酸素血症を生じる。その息苦しさによる身体活動の不活発化が問題であると一ノ瀬氏は強調した。治療が遅れることで、動脈硬化症、虚血性心疾患、骨粗相症などといった併存症の発症・悪化につながる恐れもある。COPDの認知度を上げて、早期治療を目指す わが国のタバコ消費量は、1980年代から減少傾向にあるが、これまでの喫煙者数や人口構造の高齢化から、COPD患者は今後も増加すると推測できる。一ノ瀬氏は、COPDの認知度の低さを指摘し、「無理にCOPDと呼ばず、慢性気管支炎や肺気腫でもいいので、主に喫煙が原因となるこの病気を多くの人に知ってほしい。目標は、平成34年までに国民の認知度80%を達成すること」と願いを語った。COPDによる負のスパイラル(労作時息切れ→身体活動低下→運動耐容能低下→骨格筋の廃用)は、QOLの著しい低下を招くため、気管支拡張薬による早期治療が望まれる。ガイドラインで示された、COPD治療における3つの要点 ガイドラインの改訂で、大きく変更になった点は3つある。1つ目は長時間作用性抗コリン薬(LAMA)が、長時間作用性β2刺激薬(LABA)より推奨されたことだ。LAMAとLABAの気管支拡張効果は同等だが、LAMAのほうが、粘膜分泌抑制効果により痰が改善されることなどから、増悪率が下がるという報告1-2)がある。 2つ目は、LAMAとLABAを併用することで、非常に強力な気管支拡張作用が得られるというエビデンス3)が示されたこと、3つ目は、ステロイド吸入薬(ICS)の推奨患者の変更である。1990年代以降に、重症COPDで増悪を繰り返す症例でICSがCOPD増悪を抑制するという報告4)がされたが、2014年のWISDOM試験で、LAMA/LABA併用患者をICS継続群とICS段階的中止群に分けて1年間検証した結果、ICSの有無にかかわらず、増悪の発生率は変わらない可能性が示唆された5)。よって、ICSは喘息病態を合併している場合に併用可能という記載になった。 一ノ瀬氏は、治療の順序付けについて、「LAMAもLABAも単剤で十分に効果が出る。副作用が出た場合、原因が特定しづらくなるので、最初は単剤で開始し、その後併用に移行することが望ましい」と述べた。COPD治療は身体活動性の改善が鍵 最後に日本人のエビデンスについて紹介された。海外のCOPD患者と比較すると、わが国の患者集団は、男性が圧倒的に多いこと、高齢でBMIが低いこと、現喫煙者は少なく、症状の訴えが少ないことなど、異なる点が多くあることから、日本人データの重要性を示した。 一ノ瀬氏は、同社が行ったTONADO試験、DYNAGITO試験、VESUTO試験などの結果で、LAMA単剤(商品名:スピリーバレスピマット)、LAMA/LABA配合剤(同:スピオルトレスピマット)により、呼吸機能のみならず、身体活動性の改善をもたらす傾向が得られたことを例に挙げた。これに関して、「患者バックグラウンドの差異によるものかもしれないが、日本人のほうが薬剤の有効性が高く、配合剤によるメリットも大きい可能性がある」と語り、「今後も検討を続けるが、吸入薬で呼吸機能が改善されても、身体活動などが変化しなければ併存症や予後に対する好影響は少ない。医師は、患者さんの生活変容に関しても指導していく必要がある」と述べ、講演を締めくくった。■参考文献1)Vogelmeier C, et al. N Engl J Med. 2011;364:1093-1103.2)Decramer ML, et al. Lancet Respir Med. 2013;1:524-533.3)Beeh KM, et al. Pulm Pharmacol Ther. 2015;32:53-59.4)Sin DD, et al. JAMA. 2003;290:2301-2312.5)Magnussen H, et al. N Engl J Med. 2014;371:1285-1294.■参考ベーリンガープラス COPDガイドラインポイント解説

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第5回 10年以上余命が延びる5つの健康習慣【論文で探る服薬指導のエビデンス】

 服薬指導をしていると、生活習慣改善の効果に懐疑的、もしくは諦めている患者さんに出会うことがあるのではないでしょうか。そのような患者さんでも、ある5つの生活習慣を実践すると、それをまったく行わないときよりも10年以上余命が延びる、と言われたら試してみたくならないでしょうか。今回は、健康的な生活が余命に大きな影響を及ぼすことがわかった2つの大規模調査の結果を体系的にまとめた論文を紹介します。Impact of Healthy Lifestyle Factors on Life Expectancies in the US Population.Li Y, et al. Circulation. 2018 Apr 30. [Epub ahead of print]2つの大規模調査とは、女性看護師を対象に慢性疾患のリスクファクターを検証しているNurses’ Health Study(1980~2014年、n=7万8,865)と、栄養的要素が男性医療者の健康に与える影響を検討したHealth Professionals Follow-up Study(1986~2014年、n=4万4,354)です。両研究におけるアンケート調査はなんと現在も進行しています(参考1、2)。いずれも重要かつ知っておくべき研究でしょう。今回紹介する論文は、この2つの研究の合計約12万3,000例の30~75歳を分析しています。両研究は組み入れ対象者の面で相互補完的な関係にあり、それらをまとめて分析した本研究も貴重な結論を導き出しています。解析項目は、健康上低リスク生活習慣者と高リスク生活習慣者でどれだけ死亡率に差が出るかです。組み入れ対象が医療専門職であることと、そのうちの多くは白人であることから、外的妥当性の評価には注意が必要です。本研究では、健康リスクを低減させる要素として、下記の5つを定義しました。1.健康的な食事をしている「健康的な食事」の定義付けとして、AHEI(Alternate Healthy Eating Index)を用いた評価がなされています。これは野菜、果物、ナッツ、全粒穀物、多価不飽和脂肪酸および長鎖オメガ3系脂肪酸の摂取が多く、赤身肉、加工肉、甘味料入り飲料、トランス脂肪酸、精製粉の摂取が少ないとスコアが良くなる指標です。研究では、AHEIスコアが各研究の上位40%に入った参加者は、健康的な食事を取っていると定義されました。2.喫煙しない3.少なくとも1日当たり30分の中等度または活発な運動を行っている4.適度な量のアルコール摂取(女性で5~15g/日、男性で5~30g/日)5.BMIが18.5~24.9kg/m2、すなわち低体重または肥満ではない各項目に当てはまれば1点、当てはまらなければ0点とし、5項目の合計点によって、対象者は5段階にスコア分けされました。また、これらの習慣が米国人口にどれほど共通しているかを評価するために、NHANES(米国国民健康栄養調査)で2013~14年に収集された情報を利用しています。死亡原因については、国家記録と家族報告書を用いて確認され、米国疾病対策予防センター(CDC)のWONDERデータベースを用いて検討を行っています。それらを踏まえ、最終的には調査対象者の行動パターンがどのように寿命、がんや心血管疾患による死亡リスクに影響を与えるか分析されました。アンケート調査である以上、主観的であり、個々の習慣が余命に及ぼす影響を特定することも困難になるわけですが、研究開始時の年齢、性別、民族性、閉経有無、マルチビタミンや定期的なアスピリン摂取またはホルモン補充療法の有無、糖尿病心臓発作またはがんの家族歴などの変数を用いて多変量解析が行われています。重要な関連要因の影響を考慮に入れて適切な措置をとったこと、サンプルサイズの大きさ、フォローアップ期間の長さ、複数時点での生活習慣とBMI評価があることはこの研究の強みといえるでしょう。最低リスク群では最高リスク群よりも、女性14.0年、男性12.2年余命が長い研究期間中に、4万2,167例の参加者が死亡しています。そのうち、がん患者数は1万3,953例、心血管疾患患者数は1万689例でした。5つの習慣のいずれもが、単独で全死因死亡またはがんないし心血管死亡のリスクを低減させる傾向がありました。最も不健康なスコア0の参加者と比較して、最も健康的なスコア5の参加者を多変量調整した結果は、全死因死亡が74%減少(ハザード比:0.26、95%信頼区間:0.22~0.31)、がんによる死亡が65%減少(ハザード比:0.35、95%信頼区間:0.27~0.45)、心血管疾患死亡が82%減少(ハザード比:0.18、95%信頼区間:0.12~0.26)でした。また、スコア5以外の参加者と比較して、スコア5の参加者では、全死因死亡が60.7%(95%信頼区間:53.6~66.7)、がんによる死亡が51.7%(95%信頼区間:37.1~62.9)、心血管疾患による死亡が71.7%(95%信頼区間:58.1~81.0)減少しています。一般的な米国人口がこれら5つの習慣を取り入れた場合の50歳時点での平均余命は、女性で43.1年(95%信頼区間:41.3~44.9)、男性で37.6年(95%信頼区間:35.8~39.4)でした。これは、そのいずれも取り入れない場合と比較して、女性で14.0年(95%信頼区間:11.8~16.2)、男性で12.2年(95%信頼区間:10.1~14.2)余命が延びている計算になり、大きなインパクトです。現実的に健康リスクを低減させる要素の5つすべてを一度に取り入れることが難しいのであれば、それぞれの習慣がリスク低減に寄与しているため、どれか1つの習慣だけを提案するアプローチもよいでしょう。大きな結果がもたらされることがわかっていれば、小さな習慣から徐々に取り入れて維持していくモチベーションも湧くのではないでしょうか。1)Li Y, et al. Circulation. 2018 Apr 30. [Epub ahead of print]参考1)Nurses’ Health Study2)Health Professionals Follow-up Study

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地中海食は乾癬の重症化を遅らせる?

 乾癬は、慢性炎症性疾患である。地中海食(MEDI-LITE)は慢性炎症を軽減し、メタボリックシンドロームおよび心血管イベントのリスクに対し有益である。これに伴い、フランス・パリ・エスト・クレテイユ大学のCeline Phan氏らは、乾癬の発症や重症度にMEDI-LITEが強く影響することを仮説立てた。その検証の結果、重症乾癬患者では地中海食に対する順守度が低いことが明らかになった。著者は、「今回の結果は、地中海食が乾癬の進行を遅らせる可能性があるという仮説を支持するものである。この知見が確認されれば、中等症~重症乾癬の日常管理にMEDI-LITEの順守を組み込むべきである」とまとめている。JAMA Dermatology誌オンライン版2018年7月25日号掲載の報告。 研究グループは、2009年5月にフランスで開始されたウェブでのアンケートによる観察コホート研究NutriNet-Santeプログラム(現在も進行中)を利用した。また、本究は、NutriNet-Santeプログラムの枠組み内で行われ、2017年4~6月の間に収集・分析されたデータを使用した。 検証済みのオンライン自己記入アンケートにより乾癬患者を特定し、「重症乾癬」「非重症乾癬」「乾癬なし(非乾癬)」と、病態を重症度別に分類した。プログラムへの参加から最初の2年間の食事摂取量(アルコールを含む)に関するデータを収集して、MEDI-LITEスコア(まったく順守していない[0]~最大限順守[18])を算出した。潜在的な交絡因子(年齢、性別、身体活動、BMI、喫煙、心疾患罹病歴)についても記録された。 多項ロジスティック回帰分析を用い、非乾癬者と比較した重症乾癬または非重症乾癬患者のリスクを推定した。 主な結果は以下のとおり。・NutriNet-Santeプログラムの参加者15万8,361例中、乾癬に関するアンケートの回答が得られたのは3万5,735例(23%)であった。・回答者の平均年齢±SDは47.5±14.0歳で、2万7,220例(76%)が女性であった。・回答者のうち、3,557例(10%)が乾癬に罹患していると回答した。・そのうち、重症乾癬は878例(24.7%)だった。また、299例(8.4%)はコホートに参加し2年以上経過の後に発症した。・交絡因子補正後に、MEDI-LITEスコアと重症乾癬への罹患の間に有意な逆相関が認められた。 ●MEDI-LITEスコアの第2三分位群(スコア8~9)のオッズ比(OR):0.71(95%信頼区間[CI]:0.55~0.92) ●同スコアの第3三分位群(スコア10~18)のOR:0.78(95%CI:0.59~1.01)

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1日1回服用のMAO-B阻害パーキンソン病治療薬「アジレクト錠1mg/0.5mg」【下平博士のDIノート】第6回

1日1回服用のMAO-B阻害パーキンソン病治療薬「アジレクト錠1mg/0.5mg」今回は、「ラサギリンメシル酸塩錠(商品名:アジレクト錠1mg/0.5mg)」を紹介します。本剤は、セレギリン(商品名:エフピーOD錠)に続く2剤目の選択的モノアミン酸化酵素B(MAO-B)阻害薬です。セレギリンと同様に、レボドパ含有製剤併用の有無にかかわらず使用できますが、アンフェタミン骨格を有さないため、覚せい剤原料の規制を受けないなど薬剤管理上のメリットがあります。<効能・効果>パーキンソン病の適応で、2018年3月23日に承認され、2018年6月11日より販売されています。本剤は、MAO-Bと非可逆的に結合することで、脳内のドパミンの分解を抑制し、シナプス間隙中のドパミン濃度を高めることにより、パーキンソン病の症状を緩和します。<用法・用量>通常、成人にはラサギリンとして1mgを1日1回経口投与します。肝臓に軽度の障害がある患者、低体重の患者、高齢の患者では、副作用が発現する可能性があるため、低用量での投与を考慮します。セレギリン塩酸塩、トラマドール塩酸塩、三環系抗うつ薬、四環系抗うつ薬、SSRI、SNRIなどと併用すると、相加・相乗作用などによって、重篤な副作用発現の恐れがあるため併用禁忌となっています。<承認>2018年3月時点で50以上の国または地域で承認されています。<副作用>国内臨床試験において、696例中346例(49.7%)に臨床検査値の異常を含む副作用が認められています。主な副作用は、ジスキネジア(8.0%)、転倒(3.7%)、鼻咽頭炎(3.2%)でした(承認時)。重大な副作用として起立性低血圧、傾眠、突発的睡眠、幻覚、衝動制御障害、セロトニン症候群、悪性症候群が報告されています。本剤は、レボドパ含有製剤と併用されることもありますが、海外臨床試験における併用時の副作用は544例中299例(55.0%)と頻度が高まるため注意が必要です。<患者さんへの指導例>1.本剤は脳内でドパミンの分解を抑えることで脳内のドパミン濃度を増加させ、パーキンソン病の症状を改善します。2.めまい、立ちくらみ、ふらつきなどの症状が現れたらお知らせください。3.眠気、前兆のない急な眠り込みが現れることがありますので、服用中は自動車の運転や機械の操作、高い所での作業など危険を伴う作業はしないでください。4.レボドパ含有製剤と併用することで、副作用が強まることがあります。意志に反して舌や口が動いたり、体が動いたりする症状(ジスキネジア)が現れた場合にはすぐに連絡してください。5.喫煙や、セイヨウオトギリソウ(セント・ジョーンズ・ワート)を含有する健康食品を摂取すると、本剤の作用が弱まることがあるので控えてください。6.チーズ、ビール、赤ワインなど、チラミンを多く含む飲食物の摂取により、血圧上昇が報告されているため摂取は控えてください。<Shimo's eyes>本剤は、すでに海外ではパーキンソン病治療の中心的な薬剤の1つとして幅広く使用されており、医療上の必要性が高い薬剤として「未承認薬・適応外薬の要望」が日本神経学会より出されていました。「パーキンソン病診療ガイドライン2018」(日本神経学会監修)において、「早期パーキンソン病患者に対する運動症状改善効果は、セレギリンとラサギリンで差はないが、オフ時間の短縮にはラサギリンより高いエビデンスがある」と記載されており、患者さんのQOL改善が期待されます。覚せい剤原料の規制を受けると、厳重な保管管理のほか、廃棄の際は保健所職員(覚せい剤監視員)の立ち会いが必要であったり、1錠でも紛失した際は「覚せい剤原料事故届」の提出が必要であったりするなど、管理や手続きが煩雑でした。本剤は覚せい剤原料に指定されておらず、流通上の規制を受けないため、大変取り扱いが簡便です。薬力学的相互作用については、併用薬との相加・相乗作用によるセロトニン症候群などへの注意が必要です。また、薬物動態学的相互作用については、本剤はCYP1A2で代謝されますので、喫煙によるCYP1A2の誘導などに注意する必要があります。患者さんの併用薬や生活習慣に気を配り、適切な服薬指導ができるようにしましょう。■参考日本神経学会 パーキンソン病診療ガイドライン2018

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腹部大動脈瘤スクリーニングは無益、では健診が有効な疾患は何か?(解説:中澤達氏)-894

 スウェーデン人を対象としたレジストベースのコホート研究で、腹部大動脈瘤(AAA)スクリーニングは、AAA死亡の減少に寄与していないことが明らかにされた。スウェーデン人男性のAAA死亡率(65~74歳男性10万人当たり)は、2000年初期は36例であったが、2015年には10例に減少していた。死亡率の減少は全国的にみられ、AAAスクリーニング実施の有無に関係していなかった。今回の検討で、減少した要因の大半は他の因子によるもので、おそらくは喫煙の減少によることが示唆された。 AAAスクリーニングを受けた男性が回避可能なAAA死亡は、1万人当たり2例であった。また、待機的手術のリスク増大や、過剰診断の恐れとの関連が認められ、死亡や罹患リスクを増大した回避可能な手術がそのうちの19例に行われていたという。ベネフィットは小さく、有益性と有害性のバランスは非常に悪く、スクリーニングの正当性に対する疑念を深める結果であった。 これが真実であるとすると、スクリーニングは行うべきでなく偶然指摘されたAAAを治療することのみが死亡率低下に寄与することになる。10万人当たり10例の死亡という希少で、生活習慣病予防で死亡率も低下傾向の疾患であることが原因であろう。 同様なことが内科系の慢性疾患にも日本の誇る職場健診で生じている可能性がある。つまり、予防が徹底されその疾患の有病率が低下している局面では、早期発見し治療を開始しても生存率に影響がないどころか、投薬の副作用のみが起こるということだ。この点もぜひビッグデータで解明してもらいたい。

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第4回 GERDを発症・増悪させにくいCa拮抗薬は?【論文で探る服薬指導のエビデンス】

 胃酸などの胃の内容物が食道に逆流して生じる胃食道逆流症(Gastroesophageal reflux disease:GERD)の原因の1つに、「下部食道括約筋(Lower esophageal sphincter:LES)」の機能低下があります。LESは胃と食道のつなぎ目にあり、胃酸の逆流を防ぐ筋肉ですが、加齢に伴う機能低下だけでなく、嗜好品や生活習慣および薬剤によっても緩まることがあります。GERDは頻度の高い疾患ですので、これらの悪化要因を把握しておくと服薬指導にとても有用です。MSDマニュアルには、下記の記載があります。「逆流をもたらす要因として、体重増加、脂肪食、カフェイン含有飲料、炭酸飲料、アルコール、喫煙、薬物がある。LES圧を低下させる薬物には、抗コリン薬、抗ヒスタミン薬、三環系抗うつ薬、カルシウム拮抗薬、プロゲステロン、硝酸薬がある」(参考文献1)より引用)実際、アムロジピンの服用開始後にGERDの症状が悪化したと訴え、医師からの指示でアムロジピンを中止したところ症状が改善した患者さんに、私も会ったことがあります。その件の因果関係は不明ですが、今回はCa拮抗薬とGERDの関連について検討した後ろ向きコホート研究を紹介します。Do calcium antagonists contribute to gastro-oesophageal reflux disease and concomitant noncardiac chest pain?Hughes J, et al. Br J Clin Pharmacol. 2007;64:83-89.対象となったのは、虚血性心疾患や硝酸薬の使用歴がなく、Ca拮抗薬を使用していた高血圧患者で、GERDの既往の有無および、Ca拮抗薬服用前と服用後でGERD症状に変化があったかどうかについてアンケート調査を行っています。15軒の薬局(地域薬局14軒、病院薬局1軒)から371例が登録され、平均年齢64歳、女性51.2%、男性48.8%でした。信頼度が高い方法というわけではありませんが、地域の薬局で研究を行うには現実的な方法ではないでしょうか。Ca拮抗薬服用前後におけるGERD症状の変化は下表のとおりです。画像を拡大するCa拮抗薬服用前からすでにGERDの症状がある130例中59例(45.4%)で、Ca拮抗薬服用により症状の悪化がみられています。症状の悪化の頻度がもっとも高かった薬剤がアムロジピン(61.3%、p<0.0001)で、もっとも低かったのがジルチアゼム(12.5%)という結果でした。Ca拮抗薬服用前にGERD症状がなかった241例においては、85例(35.3%)がCa拮抗薬服用によりGERDを発症しており、もっとも頻度が高かったのがベラパミル(39.1%、p=0.001)で、もっとも低かったのがジルチアゼム(30.7%)という結果でした。ニフェジピンの増悪リスクはジルチアゼムの4.22倍発症・増悪リスクがもっとも低かったジルチアゼムを基準とした場合の、GERD症状の増悪頻度のオッズ比は下表のとおりです。ニフェジピンやアムロジピンにおいて有意にGERDが増加しています。二フェジピンやアムロジピンの添付文書を参照すると、嘔気・嘔吐や腹部不快感、腹部膨満などGERDに類する副作用症状の記載はありますが、明示的にGERDの記載があるわけではないため見落としに注意が必要です。交絡因子を調整しきれる研究ではないため解釈に注意が必要ですが、血管平滑筋を緩めるCa拮抗薬がLESまで緩めてしまう可能性があることは、患者さんの症状を聞き取る際に頭の片隅に入れておくとよいでしょう。1)MSDマニュアル 胃食道逆流症(GERD)(2018年7月16日参照)2)Do calcium antagonists contribute to gastro-oesophageal reflux disease and concomitant noncardiac chest pain?Hughes J, et al. Br J Clin Pharmacol. 2007;64:83-89.

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統合失調症患者における自殺のリスク因子に関するメタ解析

 統合失調症患者の自殺に関連する生涯リスクは、自殺で5%、自殺企図では25~50%といわれている。米国・テキサス大学健康科学センター ヒューストン校のRyan Michael Cassidy氏らは、統合失調症患者の自殺率に関連するリスク因子を明らかにするため、メタ解析を実施した。Schizophrenia bulletin誌2018年6月6日号の報告。 PubMed、Web of Science、EMBASEより検索を行い、参考文献リストについても併せて検索を行った。自殺念慮または自殺企図を有する統合失調症患者、自殺していない患者との比較を報告した研究を選択基準とした。また、補足分析としてコホート研究のメタ解析も行った。 主な結果は以下のとおり。・分析対象として、96研究、8万488例が抽出された。・自殺念慮を有する統合失調症患者では、抑うつ症状が重く(p<0.0001)、PANSS総スコアが高く(p<0.0001)、精神科入院回数が多かった(p<0.0001)。・自殺企図との関連に最も一致した変数は、以下であった。 ●飲酒歴(p=0.0001) ●精神医学的疾患の家族歴(p<0.0001) ●身体合併症(p<0.0001) ●うつ病歴(p<0.0001) ●自殺の家族歴(p<0.0001) ●薬物使用歴(p=0.0024) ●喫煙歴(p=0.0034) ●白人(p=0.0022) ●抑うつ症状(p<0.0001)・最初の2項目(飲酒歴、精神医学的疾患の家族歴)は、コホート研究のメタ解析においても有意な差が認められた。・自殺との関連に最も一致した変数は、以下であった。 ●男性(p=0.0005) ●自殺企図歴(p<0.0001) ●若年(p=0.0266) ●高い知能指数(p<0.0001) ●治療アドヒアランスの不良(p<0.0001) ●絶望状態(p<0.0001)・最初の3項目(男性、自殺企図歴、若年)は、コホート研究のメタ解析においても有意な差が認められた。 著者らは「本調査結果は、将来の自殺の予防戦略において役立つであろう。今後の研究では、多変量予測分析法を用いて上記の因子を組み合わせることで、統合失調症における自殺率を客観的に層別化することが可能となるであろう」としている。■関連記事日本人統合失調症患者の自殺、そのリスク因子は:札幌医大統合失調症の自殺にプロラクチンは関連するのか日本成人の自殺予防に有効なスクリーニング介入:青森県立保健大

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切除後NSCLCの再発および生存に対する体細胞変異の影響(JME)/ASCO2018

 次世代シークエンス(NGS)により、手術後の非小細胞肺がん(NSCLC)における体細胞変異を検討した、本邦の多施設前向き肺がん分子疫学研究JME(Japan Molecular Epidemiology for lung cancer)。副次評価項目である、体細胞変異と無再発生存期間(RFS)および全生存期間(OS)との関係について、近畿中央胸部疾患センター 田宮 朗裕氏が、米国臨床腫瘍学会年次総会ASCO2018で発表した。 研究対象はStage I~IIIBのNSCLC。2012年7月~2013年12月までに43施設から集められた876の外科的切除標本で、48のがん関連遺伝子と5つのがん関連遺伝子増幅が評価された。追跡期間中央値は48.4ヵ月。 主な結果は以下のとおり。・患者の年齢中央値は70歳。男性が876例中419例。・病期はStage Iが 618例でもっとも多く、II、III、IV はそれぞれ131例、104例、23例であった。・2つ以上の体細胞変異を有する患者は876例中146例であった。・術後化学療法は876例中309例に実施された。・RFSの予後因子は、変異数(0または1つ対2つ以上、HR:0.609、p<0.0105)、年齢(70歳未満対70歳以上、HR:0.641、p=0.0008)、性別(男性対女性、HR:1.460、p=0.0381)、病理病期([Stage I対II、HR:0.332、p<0.0001]、[I対IIIまたはIV、HR:0.157、p<0.0001]、[II対IIIまたはIV、HR:0.486、p<0.0001])であった。・OSの予後因子は年齢(70歳未満対70歳以上、HR:0.590、p=0.0025)、アジュバント化学療法の施行(なし対あり、HR:2.029、p=0.0001)、EGFR変異(陰性対陽性、HR:2.223、p<0.0006)、病理病期([Stage I対II、HR:0.408、p<0.0001]、[I対IIIまたはIV、HR:0.151、p<0.0001]、[II対IIIまたはIV、HR:0.371、p<0.0001])であった。 RFSの長さに影響するのは、早期Stageと若年齢、変異数。OSの長さに影響するのは、早期Stageと若年齢とともに、EGFR変異陽性、アジュバント化学療法施行であった。とくに病期はRFS、OSの双方に影響が大きく、肺がんの進行度合いは、遺伝子変異以上に予後に影響を及ぼすことが明になった。筆頭著者である田宮 朗裕氏との1問1答【この研究を実施した背景は?】 JME研究は、喫煙者と非喫煙者のdriver mutationを含む体細胞変異との相関をみている試験ですが、今回はその中で遺伝子変異が予後に対して、どう影響するかを調べたものです。【結果についてコメントいただけますか】 体細胞変異が多いほど予後も悪いのではないかという想定していました。RFSについては、想定通り、体細胞変異が多いほど予後不良でしたが、OSについては想定通りの結果にはなりませんでした。その1つの理由としては、EGFR-TKIの有効性が高いことから、EGFR変異陽性患者の予後が良好であったことが影響していると考えられます。また、術後化学療法の有無が大きく予後に影響したことも想定外でした。【今回の研究の成果についてコメントいただけますか】 早期肺がんの発がんに関係する研究は従来後ろ向きのものが多かったのですが、今回は前向きで解析しています。今回の前向き研究で、体細胞変異と予後の関係を多変量で解析できたこと、そして術後確定病理と予後の関係が前向きに証明されたことは意義があると思います。■参考ASCO2018 AbstractJME研究(JCO)※医師限定ASCO2018最新情報ピックアップDoctors’Picksはこちら

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米国成人の肥満率、非都市圏で高率/JAMA

 2013~16年における米国成人の肥満および重症肥満の年齢調整有病率が、米国大都市統計地域(metropolitan statistical area:MSA)で示される都市化のレベルで異なっていること、また、MSAの都市圏に比べ非MSA地域で有意に高いことを、米国疾病予防管理センターのCraig M. Hales氏らが報告した。米国成人における肥満の有病率については、これまで性別、年齢層別、人種/ヒスパニック系別の報告はあったが、都市化のレベル別ではほとんど研究されていなかった。JAMA誌2018年6月19日号掲載の報告。2013~16年の肥満の有病率と、都市化レベル別での過去12年間における傾向を分析 研究グループは、20歳以上の米国成人を対象とした、身長と体重の測定値を含む米国民健康栄養調査(NHANES)の2001~16年のデータを用い、性別、年齢層、人種/ヒスパニック系、教育レベル、喫煙状況および都市化レベル別に肥満の有病率を解析した。 主要評価項目は、全体およびサブグループ別の2013~16年における肥満(BMI≧30)および重症肥満(BMI≧40)の有病率と、都市化レベル別の同有病率の2001~04年から2013~16年の傾向であった。 都市化レベルは、米国健康統計センター(NCHS)のMSA/非MSA分類に基づき、本検討では、1)大規模MSA(人口100万人以上)、2)中/小規模MSA(人口25万人以上100万人未満/人口25万人未満)、3)非MSA(人口2,500~5万未満などMSAに分類されない地域)に分けて評価した。 解析対象は、身長、体重および都市化レベルの完全なデータが得られた1万792例(平均年齢48歳、女性51%)であった。男女とも都市化レベルが低いほうが肥満の有病率は高い 2013~16年における米国成人の肥満の有病率は38.9%(95%信頼区間[CI]:37.0~40.7%)、重症肥満が7.6%(95%CI:6.8~8.6)であった。 都市化レベル別の肥満の年齢調整有病率は、男性の場合、大規模MSAが31.8%、中/小規模MSAが42.4%、非MSAが38.9%であり、大規模MSAと比較し中/小規模MSAで有意に高かったが(補正群間差:9.8ポイント、95%CI:5.1~14.5)、大規模MSAと非MSAに有意差はなかった(補正群間差:4.8ポイント、95%CI:-2.9~12.6)。女性の場合は、大規模MSA、中/小規模MSAおよび非MSAでそれぞれ38.1%、42.5%および47.2%であり、中/小規模MSA(4.3ポイント、95%CI:0.2~8.5)および非MSA(4.7ポイント、95%CI:0.2~9.3)のいずれも、大規模MSAより有意に高かった。 重症肥満の年齢調整有病率は、男女いずれの場合も、大規模MSAより中/小規模MSAならびに非MSAで高いことが認められた。 肥満/重症肥満の年齢調整有病率は、年齢層、人種/ヒスパニック系、教育レベルでも違いがみられ、そのパターンは男性と女性で異なっていた。 なお、都市化レベル別における肥満/重症肥満の年齢調整有病率は、全レベルとも、男女別ならびに全体のいずれの場合も、2001~04年から2013~16年にかけて有意に増加していることが認められた。

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腹部大動脈瘤スクリーニングは有益か/Lancet

 腹部大動脈瘤(AAA)スクリーニングは、AAA死亡の減少に寄与していないことが、スウェーデン・イエーテボリ大学のMinna Johansson氏らによる、スウェーデン人を対象としたレジストベースのコホート研究で明らかにされた。AAA発症およびAAA関連死亡にみられる大幅な減少を、スクリーニングに関する無作為化試験の結果で評価するのは時代遅れではないかとの指摘があったが、今回の検討で、減少した要因の大半は他の因子によるもので、おそらくは喫煙の減少によることが示唆されたという。著者は、「ベネフィットは小さく、有益性と有害性のバランスは非常に悪く、スクリーニングの正当性に対する疑念を深める結果であった」とまとめている。Lancet誌2018年6月16日号掲載の報告。スクリーニング群vs.非スクリーニング群の疾患別死亡率、罹患率、手術を比較 研究グループは、スウェーデンにおけるAAAスクリーニングの疾患別死亡率、罹患率、および手術に関する影響を推定する検討を行った。2006~09年にスクリーニングを受けた同国65歳男性コホートを対象に、AAA罹患、AAA死亡、AAA手術に関するデータを集め、年齢で適合した非AAAスクリーニングのデータと比較した。また、ナショナルデータベースを利用して1987年1月1日~2015年12月31日の40~99歳男性に関するデータも分析し、背景傾向を調べた。 交絡因子の調整は、コホート年、婚姻状態、教育レベル、収入、またベースラインでのAAA診断有無に関するロジスティック回帰モデルから得た傾向スコアを用いた重み付け分析法により行った。差異に関する調整も、スクリーニング後6年のコホートに残る逆確率を用いた重み付け分析法で行った。また、一般化推定方程式を用いて、反復測定および重み付けによる分散を調整した。スクリーニング6年後、死亡減少とスクリーニングに有意な関連みられ スウェーデン人男性のAAA死亡率(65~74歳男性10万人当たり)は、2000年初期は36例であったが、2015年には10例に減少していた。死亡率の減少は全国的にみられ、AAAスクリーニング実施の有無に関係していなかった。 スクリーニングの6年後の分析では、AAA死亡率の減少とスクリーニングに有意な関連はみられなかった(補正後オッズ比[aOR]:0.76、95%信頼区間[CI]:0.38~1.51)。この時点で、AAAスクリーニングを受けた男性が回避可能なAAA死亡は、1万人当たり2例(95%CI:-3~7)であった。 スクリーニングは、AAA診断のオッズ増大と関連していた(aOR:1.52、95%CI:1.16~1.99、p=0.002)。また、待機的手術のリスク増大(同:1.59、1.20~2.10、p=0.001)や、過剰診断の恐れとの関連(スクリーニング受診1万人当たり49例[95%CI:25~73例])が認められ、死亡や罹患リスクを増大した回避可能な手術がそのうちの19例(95%CI:1~37)に行われていた。

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1日1回の牛乳摂取がサルコペニア予防に有効か~鳩山/草津コホート研究

 毎日普通乳を飲む習慣が、高齢者におけるサルコペニアの予防につながる可能性が示唆された。東京都健康長寿医療センター研究所の成田 美紀氏らが、日本の地域在宅高齢者を対象に、牛乳の摂取頻度とサルコペニアの有無との関連を検討したコホート研究により明らかにしたもの。第60回日本老年医学会学術集会(2018年6月14日~16日)において発表された。 本研究の対象は、鳩山コホート研究の2012年追跡調査対象者、および草津町研究の2013年高齢者健診受診者のうち、70歳以上でかつ簡易型自記式食事歴法質問票(BDHQ)による食品摂取調査を行い、有効回答を得た810例(鳩山405例、草津405例)。牛乳の摂取状況は、普通乳あるいは低脂肪乳について、摂取頻度ごとに3群に分けて評価し、サルコペニアの診断にはAWGSの診断基準を用いた。 牛乳の摂取頻度とサルコペニアの有無との関連性は、多重ロジスティックモデルを用いて解析し、性、年齢、対象地域、総エネルギー摂取量(BDHQから推定)に加え、BMI(21.5未満、21.5以上25.0未満、25.0以上)、生活習慣(飲酒、喫煙および運動の習慣)、食品摂取の多様性スコア(牛乳の摂取頻度以外)および既往症(脊椎系疾患、骨粗鬆症の有無)について調整した。 主な結果は以下のとおり。・サルコペニア罹患者の割合は10.4%であった。・牛乳の摂取頻度(毎日1回以上、毎日1回未満、飲まない)の割合は、普通乳でそれぞれ52.9%、28.5%、18.6%、低脂肪乳で18.1%、16.4%、65.5%であった。・多変量解析の結果、普通乳を「飲まない」群に対する「毎日1回未満」と「毎日1回以上」の摂取群のサルコペニア保有リスク(多変量調整オッズ比)は、それぞれ0.47(95%信頼区間[CI]:0.22~1.03、p=0.059)、0.41(95%CI:0.20~0.83、p=0.013)となり、「毎日1回以上」摂取群で有意に低かった。・同じく低脂肪乳については、オッズ比はそれぞれ0.82(95%CI:0.36~1.85、p=0.627)、0.54(95%CI:0.20~1.47、p=0.225)であった。・サルコペニア罹患と有意な関連がみられたほかの要因は、高年齢1.16(95%CI:1.11~1.22、p<0.001)、BMI低値2.78(95%CI:1.56~4.96、p=0.001)、BMI高値0.41(95%CI:0.17~0.97、p=0.041)および脊椎系疾患の既往2.05(95%CI:1.08~3.91、p=0.029)であった。 発表者の成田氏は、「普通乳を飲む頻度が高い人では、総エネルギー摂取量や体重1kg当たりのタンパク質量が多く、PFC比におけるタンパク質・脂質比が上昇し、炭水化物比が減少している傾向がみられた。縦断研究で検証していく必要があるが、普通乳を毎日1回以上摂取することは、サルコペニア罹患に防御的であることが示唆された。高齢期における乳・乳製品の継続的な摂取は、筋肉量や身体機能の低下を抑制する可能性がある」とまとめた。

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禁煙開始4週前からのニコチンパッチ、長期的効果は?/BMJ

 英国では、喫煙を中止した日以降は禁煙を補助する薬物療法が推奨されるが、喫煙中止日前の薬物療法(preloading)の長期的なベネフィットのエビデンスは明確ではないという。英国・オックスフォード大学のPaul Aveyard氏らは、ルーチンの診療における禁煙開始前のニコチン投与について検討した。その結果、明らかな長期的有効性は認めなかったものの、ニコチン前投与により禁煙開始後のバレニクリンの使用が減少し、これによってニコチンの効果がマスクされた可能性があると報告した。研究の成果は、BMJ誌2018年6月13日号に掲載された。禁煙前4週投与の長期的有効性を評価 研究グループ(Preloading Investigators)は、長期的な禁煙の達成における禁煙開始前4週間のニコチンパッチ使用の有効性を評価する非盲検無作為化対照比較試験を行った(英国国立健康研究所[NIHR]医療技術評価プログラムの助成による)。 対象は、ニコチン依存がみられる毎日喫煙者(daily smoker)であった。被験者は、前投与群または対照群にランダムに割り付けられた。前投与群は喫煙を中止する前に21mgニコチンパッチ(1日1回)を4週間使用し、対照群は通常治療と行動支援を受けた。 主要アウトカムは、6ヵ月時の生化学的に確定された禁煙とし、副次アウトカムは、4週および12ヵ月時の禁煙であった。 2012年8月~2015年3月の期間に、イングランドのプライマリケア施設および禁煙クリニックに1,792例が登録され、前投与群に899例、対照群には893例が割り付けられた。バレニクリン使用で補正すると有意な効果 ベースラインの全体の平均年齢は48.9(SD 13.4)歳、男性が52.6%であった。既製タバコの使用者が68.2%、手巻きタバコの使用者が31.0%であり、平均1日喫煙本数は18.9(SD 9.3)本、過去6ヵ月以内に禁煙支援を受けた者は32.5%であった。 6ヵ月時の生化学的に確定された禁煙の達成率は、前投与群が17.5%(157/899例)、対照群は14.4%(129/893例)であった(群間差:3.0%、95%信頼区間[CI]:-0.4~6.4%、オッズ比[OR]:1.25、95%CI:0.97~1.62、p=0.08)。 両群間で、禁煙開始後の治療における禁煙補助薬バレニクリンの使用のバランスがとれておらず、対照群で多く用いられていた(22.1 vs.29.5%)。事前に計画された補正を行うと、ニコチン前投与の効果のORは1.34(95%CI:1.03~1.73、p=0.03、群間差:3.8%、95%CI:0.4~7.2)となり、有意な差が認められた。 4週時におけるバレニクリン使用で未補正の禁煙効果のORは1.21(95%CI:1.00~1.48)、群間差は4.3%(0.0~8.7%、p=0.05)であり、補正後のORは1.32(1.08~1.62、p=0.007)であった。また、12ヵ月時の未補正のORは1.28(0.97~1.69)、群間差は2.7%(-0.4~5.8、p=0.09)であり、補正後のORは1.36(1.02~1.80、p=0.04)であった。 前投与群の5.9%が不耐のためニコチンパッチを中止した。消化器症状(主に悪心)は、前投与群のほうに高い頻度(4.0%)で認められた。重篤な有害事象は前投与群が8例、対照群も8例にみられた(OR:0.99、95%CI:0.36~2.75)。 著者は、「21mgニコチンパッチによるニコチンの禁煙開始前4週投与は、長期の禁煙において期待された効果を発揮し、安全で耐用可能と考えられるが、最も効果の高い禁煙補助薬であるバレニクリンの使用を抑制する可能性がある」とし、「この非意図的な結果を克服できれば、前投与は長期的な禁煙達成の増加に、価値のある効果をもたらす可能性がある」と指摘している。

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カフェインの早期曝露と喫煙やアルコール使用障害との関連

 小児・思春期でのカフェイン摂取は、悪影響を伴うにもかかわらず、中学生の間で広まっている。横断的研究によると、カフェイン摂取と他の物質使用障害との関連が明らかになっている。しかし、カフェイン摂取によって物質使用障害に対する脆弱性が高まる可能性については、プロスペクティブな調査が行われていない。米国・ウエストバージニア大学のAlfgeir L. Kristjansson氏らは、ベースライン時のカフェイン摂取は、アルコール摂取、酩酊、喫煙、電子タバコ使用の増加と正の相関があるとの仮説を検証した。Addiction誌オンライン版2018年4月30日号の報告。 ベースラインをフォローアップから分離した12ヵ月のプロスペクティブコホート研究を行った。ウエストバージニア州の3つの群の中学生(第6学年、第7学年)3,932例を対象に、ベースライン時およびフォローアップ12ヵ月後のデータを収集した。対象者は、複数の出どころ(たとえば、ソーダ、エナジードリンク、コーヒー、紅茶)からのカフェイン摂取、喫煙、電子タバコ使用、アルコール摂取、酩酊について自己報告を行った。 主な結果は以下のとおり。・各物質使用カテゴリの交差遅延モデルは、データに適していた。・ベースライン時の人口統計変数および他の物質使用でコントロールした後、T1におけるカフェイン摂取は、T2における喫煙(β=0.27、p=0.001)、電子タバコ使用(β=0.21、p=0.001)、アルコール摂取(β=0.17、p=0.001)、酩酊(β=0.15、p=0.001)と正の相関が認められた。・逆に、T1における4つの物質のうちの3つと、T2におけるカフェイン摂取との間に、有意な関連は認められなかった。・T1における電子タバコ使用とT2におけるカフェイン摂取との間に、正の相関が認められた(β=0.07、p=0.006)。・これらの知見は、すべての物質を含むオムニバスモデルにより支持された。具体的には、T1におけるカフェイン摂取とT2におけるすべての物質使用アウトカムとの間に有意な関連が認められたが、時間が経過すると有意な関連は認められなかった。 著者らは「中学生世代の青少年におけるカフェイン摂取は、他の物質使用障害を早期に促進する可能性がある」としている。■関連記事青年期の喫煙、電子タバコ使用開始とADHD症状との関連統合失調症のカフェイン依存、喫煙との関連に注意小児および青年期の重度な精神疾患発症率と薬理学的治療

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日本人の急性冠症候群と脳卒中、患者背景の違いは

 急性冠症候群(ACS)と虚血性脳卒中の患者の臨床的特徴の違いについて、順天堂大学の内藤 亮氏らが全国多施設レジストリのデータを分析したところ、患者背景の特性が有意に異なり、男女で違いがあることが認められた。Internal Medicine誌オンライン版2018年6月6日号に掲載。 著者らは、ACS(PACIFIC)および虚血性脳卒中(EVEREST)に関する2つの多施設レジストリのデータを分析し、臨床的特徴を調査した。 主な結果は以下のとおり。・計6,878例(PACIFIC:3,426例、EVEREST:3,452例)を評価した。・患者背景の特性は、2つの集団間で有意に異なっていた。・ACS患者のほうが脳卒中患者より若年傾向で、BMIが高く、糖尿病および脂質異常症の有病率が高く、現喫煙者が多く、虚血性心疾患の既往歴がある人が多かった。・高血圧の有病率は、ACS 患者より脳卒中患者で高かった。・男性ではACS患者と脳卒中患者の特性の違いはサンプル全体と同様であったが、女性における高血圧有病率は、サンプル全体とは異なりACS患者と脳卒中患者で同様であった。

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主観的な睡眠の質は認知症と関連せず

 睡眠と認知症リスクは関連しているが、主観的な睡眠の質との関連ははっきりしない。今回、オランダ・エラスムス医療センターのThom S. Lysen氏らがロッテルダム研究で検討したところ、主観的な睡眠の質の低さと認知症リスクの関連は認められなかったという。Journal of Alzheimer's disease誌オンライン版2018年5月31日号に掲載。 本研究は集団ベースの前向き研究で、2002~06年に4,835人(平均年齢72歳、女性58%)に対して、睡眠の質を評価するために自宅でピッツバーグ睡眠質問票(PSQI)を含むインタビューを行った。2015年まで、参加者自身のスクリーニングや医療記録の継続的モニタリングを通して、認知症の発症について追跡調査を行った。年齢、性別、教育、喫煙、雇用状況、コーヒー摂取、飲酒、日常生活動作、心血管リスク因子、不安、うつ症状、認知力、いびきについて調整し、Cox回帰モデルを用いて睡眠の質と認知症リスクの関連を評価した。 主な結果は以下のとおり。・4万1,385人年(平均8.5年)の間に、420人が認知症を発症し、そのうち320人がアルツハイマー病であった。・より低い主観的な睡眠の質は、認知症全体のリスク(PSQIスコアのSD増加当たりのハザード比[HR]:0.91、95%信頼区間[CI]:0.82~1.02)およびアルツハイマー病のリスク(HR:0.92、95%CI:0.81~1.05)と関連していなかった。・PSQIの個々の要素についても、認知症と関連していなかった。

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バージャー病〔Buerger's disease〕

1 疾患概要■ 概念・定義動脈閉塞症の1つである。バージャー病(Buerger's disease)の呼称は、本疾患を閉塞性血栓血管炎(thromboangiitis obliterans:TAO)として初めて記述したLeo Buerger(ドイツ語読みではビュルガー)氏に由来する。四肢末梢の主として下腿以遠や前腕以遠の動脈に、分節的に炎症性の血栓閉塞を生じ、しばしば肢端に潰瘍や壊死を来す。動脈のみならず、皮下静脈にも移動性かつ再発性の血栓性静脈炎(逍遥性静脈炎/遊走性静脈炎)を生じる。発病や経過には喫煙が深く関与する。■ 疫学20~40代の喫煙者に好発し、男性患者が大半である。動脈病変が生じる頻度は、下肢のほうが上肢よりも高い。元より希少疾患であるが、先進国ではさらに減少し、わが国でも1970年代から減少の一途をたどっている。一方で、中国、インド、トルコなどでは依然として比較的多くの発症がみられる。■ 病因病因は未解明だが、喫煙は発病の強力な誘因であり、病気の進行を助長する。感受性遺伝子や免疫機序の関連を指摘した報告もある。近年では、歯周病菌感染の関与が注目されている。■ 症状初診時の症状は、足趾や手指の冷感、感覚異常、疼痛、虚血性紅潮やチアノーゼ、レイノー現象が多く、すでに潰瘍や壊死を生じている患者も少なくない。間歇性跛行や労作時痛は、初期には足底筋や手部に生じるが、患者にはあまりはっきりと自覚されないことが多く、虚血による症状とも気付かれにくい。あるいは整形外科的な疾患と判断されがちである。虚血のせいで、爪周囲のささくれや靴擦れなどささいな傷が、治りにくく易感染性で、しばしば急速に潰瘍形成や壊死へと進行する。潰瘍や壊死部には、強い疼痛を伴うことが多い。逍遥性静脈炎は、動脈病変に先行することも、後から生じることもある。皮下に索状の有痛性硬結を生じる。■ 予後喫煙が影響する。病勢は禁煙によって寛解することが多く、逆に喫煙を続ければ進行性で、肢の大切断への危険が高まる1)。肢の大切断は、患者の運動機能を低下させ、生活を著しく阻害する。通常は四肢以外の臓器が侵されることはなく、生命予後は良好とされるが、患者を生涯観察したデータは少ない。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)特異的な診断マーカーがないため、臨床診断、すなわち症状および臨床所見と動脈の画像所見に基づき、他疾患を除外して診断を行う。若齢発症、喫煙歴、逍遥性静脈炎の既往は、本疾患の診断を後押しする2)。■ 臨床所見前述のような慢性虚血の症状や、逍遥性静脈炎がみられる。身体診察では、患肢の末梢部での皮膚温低下や、動脈拍動の減弱・消失をみる。下肢の虚血を確認する検査には、足関節血圧や足関節上腕血圧比(ankle brachial index:ABI)の測定がある。ただし、本疾患では足関節以遠に病変を有することが多く、ABIだけでは評価が不十分なこともありうる。したがって、手足の指尖容積脈波、足趾血圧や足趾上腕血圧比(toe brachial index:TBI)、手指血圧も測定する。皮膚灌流圧(skin perfusion pressure:SPP)や経皮酸素分圧(transcutaneous oxygen tension:tcPO2)などの微小循環検査も虚血の重症度評価に役立つ。レイノー現象の再現には、冷水負荷でのサーモグラフィー検査が有用である。■ 動脈の画像所見通常、下腿以遠や前腕以遠の動脈に病変がある。病変部には、動脈硬化性の壁不整(虫食い像、石灰化沈着など)がない。閉塞は途絶状や先細り状が多く、多発的分節的閉塞を呈する。また、しばしば二次血栓による閉塞の延長を伴う。慢性閉塞であるため側副血行路が発達し、コルクの栓抜き状(コイル状)や樹根状、ブリッジ状を呈する3)。ただし、これらは動脈硬化のない慢性動脈閉塞に共通の非特異的な所見であり、膠原病などでも類似の所見がみられる。膠原病では側副血行路の発達が乏しいとされるが、画像だけから両疾患を鑑別するのは難しい。■ 鑑別すべき疾患とくに閉塞性動脈硬化症との鑑別が重要である。病理組織学的には明らかに異なる疾患であるが、動脈の組織診を行うのは容易ではないため、画像検査で罹患部位に動脈硬化の所見がないことが、1つの重要な鑑別点である。患者が動脈硬化の危険因子を喫煙歴以外に有さないことも、鑑別診断の材料になる。しかし、近年は若年者でも脂質代謝、耐糖能、血圧の異常を有することが多い。加えて、動脈硬化は10代から始まるともいわれる。さらに、画像診断が進歩し、微細な初期変化を捉える可能性もあるため、診断にはより慎重な判断が求められる。全身性エリテマトーデスや強皮症などの膠原病との鑑別のためには、発熱や体重減少などの全身症状、他臓器の血管炎症状、免疫学的血液検査の所見などを評価する。外傷性動脈血栓症との鑑別には外傷歴が重要で、慢性外傷の可能性も念頭に、職業歴やスポーツ歴など患者の訴えに上がらないことも含め、多方面から病歴聴取を行う。とくに上肢で近位部に病変がある場合は、胸郭出口症候群による血栓症や塞栓症も疑う。下腿の虚血性疾患として、膝窩動脈捕捉症候群や膝窩動脈外膜嚢腫との鑑別には、膝窩部の触診と、動脈周囲の軟部組織を含めた画像検査を行う。動脈と静脈の両者を侵す疾患である血管ベーチェット病とは、口腔内アフタや陰部潰瘍など、他の皮膚症状や眼病変、動脈瘤の検索などを行い鑑別する。心房細動や心筋梗塞後の左室瘤に起因する血栓塞栓症との鑑別には、心エコー図検査が有用である。動脈瘤からの飛散血栓による塞栓症や、動脈壁の不整形粥腫に起因するコレステリン塞栓症などとも鑑別を要する。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)バージャー病の治療目標は、救肢ならびに疼痛からの解放である。耐え難い疼痛は患者の精神をむしばむことがあり、若年での肢切断は生活と将来に多大なダメージを与える。治療における最重要かつ最難関の課題は、「禁煙」である。タバコは本疾患の誘発および増悪因子であるため、すべての患者で最初に行うのは禁煙を含めた保存的治療である。禁煙を厳守し続ければ、それだけで病状の寛解は期待できる。逆に、喫煙を続ければ、指趾や肢の切断に至る危険が高まる。保存的治療で重症虚血が軽快しない患者では、外科的治療を考慮する。いかなる治療も、有効性は禁煙を継続できるか否かによって左右されうる。■ 保存療法本疾患の炎症を抑える特効薬はない。禁煙を徹底し、受動喫煙も回避する。手足に傷や靴擦れをつくらないよう保護し、清潔を保つ。履物にも注意し、手足の皮膚に異常がないかを患者自身でも観察してもらう。本疾患の発症には歯周病菌の関与も示唆されており、口腔内の衛生も保つ。潰瘍や壊死、安静時痛がなく、ある程度の距離を歩行できる患者では、運動療法も間歇性跛行の歩行距離の延長に効果がある。血流改善を目的とした薬物治療では、プロスタグランジン製剤(アルプロスタジル注、リポPGE1、リマプラスト、ベラプロスト)が有効といわれる。ただし高いエビデンスは示されておらず、無効例も少なくない。経口投与で効果が不十分な場合は、経静脈投与やカテーテル留置による経動脈投与も考慮する。■ 外科的治療保存療法で安静時疼痛や潰瘍・壊死が改善しない場合は、血行再建術を考慮する。ただし、下肢では病変が下腿以下の細径動脈に多発し、良好なrun-offを期待できる開通先がないことが多い。下腿以下へのバイパス手術では、代用血管に自家静脈の使用が勧められるが、自家静脈が静脈炎で荒廃し、利用できない場合もある。近年では血管内治療について、再狭窄率が高く反復治療を要するものの、肢切断の回避率はバイパス術と劣らず、バイパス手術が不可能な患者に対しては選択可能との見解もある4)。血行再建術が不可能な患者では、上肢では胸部の、下肢では腰部の交感神経遮断術を考慮する。虚血が改善しない肢には、激しい疼痛を伴うことが多い。一般の鎮痛薬では疼痛制御が困難なことが多く、オピオイド系鎮痛薬がしばしば必要になる。フェンタニル貼付薬は、保険診療にて使用可能である。これらの治療で改善しない潰瘍や疼痛、広範囲な壊死や荷重部の壊死、制御できない感染を伴う場合などは、肢切断もやむを得ない。上肢では交感神経遮断で症状が落ち着くことが多く、血行再建術や大切断を要することは少ない。4 今後の展望血管内治療のデバイスや技術の進歩は、近年目覚ましい。バイオテクノロジーを駆使した、各種の血管新生療法(遺伝子治療、細胞移植療法など)5)や、抗血栓性に優れた人工血管の開発も著しい進展をみせており、本疾患の肢虚血でも治療の向上が期待される。また、病因の解明が進めば、本疾患の予防や根治的な治療にもつながりうる。5 主たる診療科血管外科、心臓血管外科、循環器内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター バージャー病(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)厚生労働科学研究費補助金・難治性疾患等政策研究事業 難治性血管炎に関する調査研究(医療従事者向けの情報)患者会情報北海道バージャー病友の会(患者とその家族向けの情報)1)Shigematsu H, et al. Int Angiol. 1999;18:58-64.2)Shionoya S. Cardiovasc Surg. 1993;1:207-214.3)塩川優一 編集. 厚生省特定疾患系統的血管病変に関する調査研究班臨床分科会報告書.厚生省公衆衛生局難病対策課;1977.p.1-38.4)Ye K, et al. J Vasc Surg. 2017;66:1133-1142.5)Kondo K, et al. Circ J. 2018;82:1168-1178.公開履歴初回2018年06月12日

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