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特売卵のコレステロール量は?/日本動脈硬化学会

 卵1個のカロリーについては取り沙汰されることが多く、ご存じの方も多いだろう。先日、JAMAでも卵の摂取量と心血管疾患の発症や死亡率との相関を示す論文が発表され、話題を集めている。では、われわれが日頃食べている卵には、一体どのくらいのコレステロールが含まれるのだろうか? 2019年3月27日、日本動脈硬化学会が主催するプレスセミナーが開催され、「LDLコレステロールと動脈硬化」をテーマに上田 之彦氏(枚方公済病院診療部長、日本動脈硬化学会広報・啓発委員)が登壇した。卵のコレステロールについての論文に関する学会の見解とは? 卵をいくつ食べても良いとしていたこれまでの報告に、待ったをかける結果が報告された。上田氏によると、卵によるコレステロール摂取量・摂取頻度を研究した論文は豊富だが、その理由として「卵は患者へのコレステロール摂取の聞き取りに使いやすい」とし、「おおよそ、中くらいの卵1個には、200~250mgのコレステロールが含まれている」とコメントした。また、本セミナーに出席していた丸山 千寿子氏(日本女子大学家政学部食物学科教授)によると、「今回発表されたJAMAの論文*で記述されている卵は1個50gで、日本でいうSサイズ。しかし、流通量が多く、セール品として販売されているのは60gのLサイズ。卵のコレステロール摂取量に関する研究データでは、実際よりも過小評価されている可能性がある」とし、「患者には、食べている卵の数だけではなく、大きさの確認も必要かもしれない」と付け加えた。コレステロールの上限値がなくなった訳ではない 2015年2月、米国農務省(USDA)と保健福祉省は、『食事でのコレステロール摂取制限は必要ない』と発表。これは、アメリカ心臓病学会/アメリカ心臓協会(ACC/AHA)が、“コレステロール摂取量を減らして血中コレステロール値が低下するかどうか判定する証拠が数字として出せない”として、「コレステロールの摂取制限を設けない」と見解を出したためだという。時を同じくして、日本人の食事摂取基準(2015年版)では、健常者における食事中コレステロールからの摂取量と血中コレステロール値の相関を示すエビデンスが十分ではないことから、コレステロール制限値を設けなかった。「これらのことから、日本人はコレステロールをいくら摂取しても良いという錯覚に陥ってしまった」と、上田氏は当時の状況を振り返った。この混乱を受け、2015年5月1日、日本動脈硬化学会はコレステロール摂取量に関する声明を発表し、高LDLコレステロール血症患者に当てはまる訳ではないことを注意換気した。 来年は『食事摂取基準(2020年版)』の発表が予定されている。ここでも、“循環器疾患予防の観点から目標量(上限)を設けるのは難しい”とし、記載を避けている。しかし、脂質異常症を有する者やハイリスク者については、「動脈硬化性疾患予防ガイドライン2017年版」を参考に、コレステロールの摂取を200mg/日未満と記載される予定である。 最後に同氏は「動脈硬化症には、コレステロール摂取量もさることながら、喫煙が一番いけない。今後、禁煙についての話題を提供していく」と締めくくった。

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アルコール依存症患者の再入院とBMIや渇望との関連

 常習性の飲酒、渇望、過食は、共通の病理学的メカニズムを有している。ドイツのフリードリヒ・アレクサンダー大学エアランゲン=ニュルンベルクのChristian Weinland氏らは、BMIや渇望がアルコール依存症入院患者のアウトカムを予測するかどうかを調査した。Progress in Neuro-psychopharmacology & Biological Psychiatry誌2019年3月2日号の報告。 早期に禁酒したアルコール依存症入院男性患者101例および女性患者72例を対象に、プロスペクティブ研究を実施した。渇望は、Obsessive-Compulsive Drinking Scale(OCDS)スコアを用いて定量化した。24ヵ月以上のアルコール関連再入院を記録した。 主な結果は以下のとおり。・男性では、より高いBMIは、アルコール関連再入院と関連しており(中央値:26.1kg/m2 vs. 23.1kg/m2、p=0.007)、より高頻度(ρ=0.286、p=0.004)で、より早期(ρ=-0.256、p=0.010)の再入院との相関が認められた。・これらの関連性は、活発な喫煙者のサブグループ(79例)においてより強く認められた([アルコール関連再入院]中央値:25.9kg/m2 vs. 22.3kg/m2、p=0.005、[高頻度]ρ=0.350、p=0.002、[早期]ρ=-0.340、p=0.002)。・女性では、BMIは有意な予測因子ではなかった。・1回以上の再入院があった男性では、そうでない男性と比較し、OCDSスコアが高く(OCDS-total、OCDS-obsessive、OCDS-compulsive、p<0.040)、OCDSスコアは、再入院の高頻度(男性:OCDS-total、OCDS-obsessive、OCDS-compulsive、ρ>0.244、p<0.014、女性:OCDS-compulsive、ρ=0.341、p=0.003)と初回再入院までの期間短縮(男性:OCDS-total、OCDS-compulsive、ρ<-0.195、p<0.050、女性:OCDS-compulsive、ρ=-0.335、p=0.004)との相関が認められた。・OCDSスコアにより、男性におけるBMIとアウトカムとの関連は9~19%説明可能であった。 著者らは「BMIおよび渇望は、アルコール依存症入院患者における再入院の予測因子である。このことは、将来の再入院を予防するために使用できる可能性がある」としている。■関連記事アルコール関連での緊急入院後の自殺リスクに関するコホート研究飲酒運転の再発と交通事故、アルコール関連問題、衝動性のバイオマーカーとの関連アルコール依存症に対するナルメフェンの有効性・安全性~非盲検試験

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第12回 オッズ比は、なぜ臨床研究で使われるのか?【統計のそこが知りたい!】

第12回 オッズ比は、なぜ臨床研究で使われるのか?前回はリスク比とオッズ比の違いについてご説明しました。リスク比は臨床ですぐに役立ちそうですが、オッズ比はリスク比と比べるとあまり臨床では使い道がないように思われたかもしれません。しかし、実際の臨床研究の論文では、オッズ比はよく使われています。このように理解しにくいオッズ比が、なぜ臨床研究で使われているのか。今回は、オッズ比から何がわかるのかについて解説します。■コホート研究・ケースコントロール研究とは臨床研究でオッズ比は、どのように使われるのでしょうか?代表的な臨床研究として、「コホート研究」と「ケースコントロール(症例対照)研究」がありますが、後者の研究で集めたデータを解析する場合、以下で説明するようにリスク比は使うことができません。そこでオッズ比が使われます。はじめに「コホート研究」と「ケースコントロール研究」とは何かを解説します。臨床研究は「前向き」か「後ろ向き」かで分けることができ、コホート研究は「前向きの研究」、ケースコントロール研究は「後ろ向きの研究」とされています。たとえば、高血圧症患者さんの喫煙の有無と脳卒中発症の有無の関連性を調べたいとします。●コホート研究高血圧症で脳卒中がない人をランダムに1,000人抽出し、今までに喫煙していたかどうかを調査し、その後の5年間において、喫煙の有無別に脳卒中を発症したかを追跡調査します。調査開始時点では脳卒中は発症しておらず、それから5年後(未来)に脳卒中の発症を調べます。このような研究をコホート研究といいます。この研究は5年後の未来へ向かって調べる研究であるので「前向き」の研究といいます。●ケースコントロール研究高血圧症で脳卒中を発症した患者さん1,000人とランダムに選んだ脳卒中を発症していない高血圧症患者さん1,000人について、過去の喫煙の有無を調査します。すでに脳卒中を発症している高血圧症患者さんと発症していない高血圧症患者さんがいて、その時点から過去にさかのぼって喫煙をしていたかどうかを調べます。このような研究をケースコントロール研究といいます。この研究は過去へ向かって調べる研究であるため「後ろ向き」の研究といいます。この2つの研究の違いを、原因と結果という因果関係からみてみましょう。上記の例では、喫煙の有無が原因で脳卒中発症が結果です。コホート研究は、未来の結果(脳卒中発症有無)を調べる研究であり、ケースコントロール研究は過去の原因(喫煙の有無)を調べる研究となります。それでは、ケースコントロール研究で集めたデータを解析する場合、リスク比を使うことはできないが、オッズ比であれば使うことができるということについて解説します。■ケースコントロール研究ではオッズ比が使われる!表のデータを、ケースコントロール研究(後ろ向き研究)で集めたデータということにします。表 脳卒中と喫煙の関係におけるケースコントロール研究の事例この表から、喫煙者が脳卒中を発症するリスクは77%です。この数値から一般的に「高血圧症患者さんで喫煙する人は脳卒中を発症するリスクが約8割もいる」と言ってもよいでしょうか。この事例は、ケースコントロール研究で集めたデータという設定です。ケースコントロール研究で、喫煙が脳卒中発症の要因になっているかどうかを検討するには、まず「ケース」として、脳卒中が発症したと診断された人のデータを収集し、その一人ひとりのカルテや、本人・ご家族に聞き取り調査などを行い、喫煙していたかどうかを調べます。また、「コントロール」として、脳卒中を発症していない人を必要な人数集めて、その人たちが喫煙をしていたかどうかを調べます。つまり、入手可能なデータは、「高血圧症患者さんで脳卒中を発症した人の何%が喫煙していたか」と「高血圧症患者さんで脳卒中を発症していない人の何%が喫煙していたか」のデータとなります。ですから、ケースコントロール研究からは、「リスク比を算出するときの割り算の分子となる『喫煙者の何%が脳卒中を発症したのか』」と「リスク比を算出するときの割り算の分母となる『非喫煙者の何%が脳卒中を発症したのか』」のどちらのデータも入手することはできません。表の事例は脳卒中発症と診断された1,000人とランダムに選んだ脳卒中を発症していない高血圧症患者さん1,000人について、過去の喫煙の有無を調査したものです。したがって、全対象者における脳卒中発症のリスクは1,000÷2,000の50%で、調査対象者のサンプリング(抽出)に依存します。サンプリングに依存しているリスクを用いてリスク比を計算するのは、大きな間違いとなります。こうした理由から、ケースコントロール研究の場合は、オッズ比を用いて、影響要因であるかどうかが判断できるのです。事例のデータの場合、オッズ比が1.0よりも大きいので、高血圧症患者さんにおける脳卒中発症は喫煙の有無が影響要因であるということがわかります。しかし、「オッズ比から、喫煙者が脳卒中を発症するリスクは非喫煙者に比べ4.0倍である」と解釈してはいけないというのは繰り返し述べているところです。余談ですが、ある疾病の発症頻度が非常にまれな場合は、リスク比はオッズ比で近似できるとされています。■さらに学習を進めたい人にお薦めのコンテンツ「わかる統計教室」第2回 リスク比(相対危険度)とオッズ比セクション2 よくあるオッズ比の間違った解釈第4回 ギモンを解決!一問一答質問5 リスク比(相対危険度)とオッズ比の違いは?(その1)質問5 リスク比(相対危険度)とオッズ比の違いは?(その2)

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プライマリケアにおける高齢者の尿路感染症には速やかな抗菌薬処方が有効(解説:小金丸博氏)-1023

 尿路感染症は高齢者における最も代表的な細菌感染症である。重症度は自然軽快する軽症のものから、死亡率が20~40%に至る重症敗血症まで幅広い。高齢者では典型的な臨床経過や局所症状を認めないことも多く、診断は困難である。そのうえ、65歳以上の女性の20%以上に無症候性細菌尿を認めることが尿路感染症の診断をさらに困難にする。 現在、薬剤耐性菌を減らすための対策として世界中で抗菌薬の適正使用を推進する動きがある。最近の英国からの報告によると、2004年~2014年の間にプライマリケアにおける高齢者の尿路感染症に対する広域抗菌薬の処方は減少していたが、その一方でグラム陰性菌による血流感染症が増加しており、その関連性が議論されている。 本研究は、高齢者の下部尿路感染症患者に対する抗菌薬治療介入の方法と治療成績の関係を検討した後ろ向きコホート研究である。英国のプライマリケアを受診した65歳以上の患者のうち、下部尿路感染症と確定診断、あるいは疑われた全患者を対象とした。無症候性細菌尿、複雑性尿路感染症、入院例などは除外された。抗菌薬の処方タイミングによって、即時処方群(初回診断日に処方)、待機処方群(初回診断日から7日以内に処方)、処方なし群の3群に分類し、診断から60日以内の血流感染症、全死亡率などを比較した。その結果、60日以内の血流感染症の発生率は即時処方群が0.2%だったのに対し、待機処方群は2.2%、処方なし群は2.9%と有意に高率だった(p=0.001)。共変量で補正すると、即時処方群と比較した待機処方群の血流感染症のオッズ比は7.12(95%信頼区間:6.22~8.14)、処方なし群のオッズ比は8.08(同:7.12~9.16)だった。60日以内の全死亡率は、即時処方群が1.6%、待機処方群が2.8%、処方なし群が5.4%だった。多変量Cox回帰モデルで解析した結果、高齢、男性、Charlson併存疾患指数、喫煙などが60日以内の死亡と関連があった。特に、85歳以上の男性において死亡リスクが高かった。 本研究において、高齢者の下部尿路感染症に対して抗菌薬を即時処方することで、その後の血流感染症発生率や死亡率を減らすことが示された。後ろ向き研究であるものの、英国のデータベースを用いた非常に患者数の大きい研究であり、結果の信頼度は高い。研究のlimitationとして、菌名や耐性菌の割合など原因微生物の情報がないこと、患者の服薬遵守率が不明なこと、続発した血流感染症の侵入門戸が尿路かどうか不明なことなどが挙げられる。耐性菌を蔓延させないために抗菌薬の使用量を減らす努力は重要であるが、高齢者の尿路感染症に対して抗菌薬を投与することは妥当と考える。ただし、無症候性細菌尿に対して抗菌薬を投与することは厳に慎まなければならない。 本研究の結果をみると即時処方群が86.6%を占めていたが、本邦では高齢者の尿路感染症に対してもっと高率に抗菌薬を処方していると思われる。処方された抗菌薬をみてみると、トリメトプリム、ニトロフラントインがセファロスポリンやペニシリン系より多かった。キノロン系抗菌薬の割合が4.4%と少なかったことは、日本のプライマリケアの現場でも大いに見習うべき点であろう。

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喫煙する高血圧患者に厳格血圧管理は有用か~SPRINTの2次分析

 Systolic Blood Pressure Intervention Trial(SPRINT)では、収縮期血圧を120mmHg未満に厳格管理することにより、心血管系疾患の罹患率と死亡率が低下することが示された。しかし、厳格血圧管理による全体的なベネフィットがリスクの不均一性をマスクしていないだろうか。今回、マウントサイナイ医科大学のJoseph Scarpa氏らが実施したSPRINTデータの2次分析により、ベースライン時点に現喫煙者で収縮期血圧144mmHg超であった参加者では、標準治療群より厳格治療群で心血管イベント発生率が高かったことが報告された。JAMA Network Open誌2019年3月8日号に掲載。 本研究は、SPRINTの9,361例のデータにおける、探索的で仮説生成型のアドホック2次分析である。試験データの半分を使用し、潜在するHeterogeneous Treatment Effects(HTE)をランダムフォレストベースの分析を用いて調べ、残りのデータにおいて、Cox比例ハザードモデルにより潜在するHTEを検討した。オリジナルの試験は、2010年11月~2013年3月に米国の102施設で実施され、この分析は2016年11月~2017年8月に実施された。参加者は、目標収縮期血圧について120mmHg未満(厳格治療)もしくは140mmHg未満(標準治療)に割り付けられた。主要な複合心血管アウトカムは、心筋梗塞、その他の急性冠症候群、脳卒中、心不全、心血管系死因による死亡とした。 主な結果は以下のとおり。・SPRINTの9,361例のうち、ベースライン時に現喫煙者で収縮期血圧144mmHg超であった参加者は466例(5.0%)で、うち230例(49.4%)がトレーニングデータセット、236例(50.6%)がテストデータセットに無作為化された。男性は286例(61.4%)、平均年齢(SD)は60.7(7.2)歳であった。・ベースライン時に現喫煙者で収縮期血圧144mmHg超であった参加者において、3.3年間で1イベント引き起こされるための有害必要数(number needed to harm:NNH)は43.7であったことが、テストデータにおける主要アウトカムに関するCox比例ハザードモデルから明らかになった(標準治療群における主要アウトカムイベントの頻度が4.8%[6/126]に対し、厳格治療群では10.9%[12/110]、ハザード比:10.6、95%CI:1.3~86.1、p=0.03)。・このサブグループは、厳格血圧管理下で急性腎障害を経験する可能性も高かった(標準治療群における急性腎障害イベントの頻度が3.2%[4/126]に対し、厳格治療群で10.0%[11/110]、ハザード比:9.4、95%CI:1.2~77.3、p=0.04)。

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日本は職業階層が高いと冠動脈疾患リスク高い?

 欧米では、職業階層が高い(専門職や管理職)ほど、冠動脈疾患(CHD)や脳卒中を含む心血管疾患リスクが低いと報告されているが、日本では明らかになっていない。今回、東京大学/Harvard T.H. Chan School of Public Healthの財津 將嘉氏らが実施した病院ベースの症例対照研究の結果、日本では職業階層が高いほどCHDリスクが高く、脳卒中リスクは低いことが報告された。著者らは、「心血管疾患における職業による“勾配”(地位の高い仕事に就業している人ほど低リスク)は普遍的ではなく、現代の日本社会では、管理職や専門職のCHDリスクは高い可能性がある」と指摘している。Journal of the American Heart Association誌2019年3月19日号に掲載。 本研究は、日本の全国的な多施設の入院患者データ(1984~2016年)を使用し、約110万例の被験者を対象とした症例対照研究。国内の標準的分類に基づいて、それぞれの産業分野(ブルーカラー産業、サービス産業、ホワイトカラー産業)の中で、最も長く就業している職業階層(ブルーカラー、サービス、専門職、管理職)により患者をコード化した。オッズ比と95%信頼区間(95%CI)は、ブルーカラー産業のブルーカラーの労働者を基準とし、性別・年齢・入院日・入院病院を調整して、多重代入法を用いた条件付きロジスティック回帰によって推定した。さらに喫煙と飲酒について調整した。 主な結果は以下のとおり。・職業階層が高い(専門職および管理職)ほど、CHDの過剰リスクと関連していた。喫煙・飲酒の調整後も、すべての産業で過剰オッズはCHDと有意に関連し、サービス産業の管理職で最も顕著だった(オッズ比:1.19、95%CI:1.08~1.31)。・一方、高い職業階層におけるCHDの過剰リスクは、低い脳卒中リスク(例:ブルーカラー産業における専門職のオッズ比:0.77、95%CI:0.70~0.85)で代償されていた。

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認知症の7つの危険因子、発生リスクへの影響は

 認知症発生の主要な危険因子として、糖尿病、高血圧、肥満、身体不活動、重度の精神的苦痛、喫煙、低学歴がある。東北大学の小瀧 由美香氏らは、大崎コホート2006研究において、これら認知症の7つの危険因子の総数で人口寄与割合(PAF)を推定した。その結果、危険因子総数を減らすことが認知症発生リスクの減少に有意に寄与することが示唆された。Journal of Neurology誌オンライン版2019年3月2日号に掲載。危険因子の総数と認知症発生との間に用量反応関係 本研究は65歳以上の8,563人の地域在住者が対象のコホート研究である。ベースライン調査(2006年)では、認知症の7つの主要な危険因子(糖尿病、高血圧、肥満、身体不活動、重度の精神的苦痛、喫煙、低学歴)に関するデータを収集した。危険因子の総数を曝露変数とし、危険因子の総数(0、1、2、3以上)により参加者を4群に分類した。認知症発生に関するデータは、介護保険データベースを参照した。ハザード比(HR)および95%信頼区間(95%CI)は、Cox比例ハザードモデルを使用して推定した。さらに、HRとコホートデータにおけるリスク保有割合からPAFを計算した。 認知症の危険因子と発生データを分析した主な結果は以下のとおり。・577人(6.7%)で認知症が発生した。・危険因子の総数と認知症発生との間に用量反応関係が観察された。・年齢・性別で調整したHR(95%CI)は、危険因子がなかった群と比べ、危険因子が1つの群で1.25(0.92~1.70)、2つの群で1.59(1.18~2.15)、3つ以上の群で2.21(1.62~3.01)であった(傾向性のp<0.001)。・参加者の危険因子の総数が全員0個になった場合、PAFは32.2%となる。・参加者の危険因子の総数の分類が全体的に1段階改善した場合、PAFは23.0%となる。

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肥満と認知症リスク

 65歳未満での過体重や肥満は、認知症発症率の増加に影響することが示唆されているが、65歳以上での過体重や肥満では、逆説的であるといわれている。認知症診断前の体重減少、喫煙や体重減少を引き起こす疾患の影響が、相反する結果をもたらしている可能性がある。英国・エクセター大学のKirsty Bowman氏らは、65~74歳の英国プライマリケア集団における認知症診断前の体重減少、短期または長期のBMIとの関連について検討を行った。Age and Ageing誌オンライン版2019年2月6日号の報告。 認知症と診断されていない、ベースライン時にがん、心不全、合併症のない非喫煙者25万7,523例(A群)およびこれらの交絡因子を有する16万1,927例(B群)を対象に14.9年までフォローアップを行った。死亡率は、競合ハザードモデルを用いて算出した。 主な結果は以下のとおり。・A群では、9,774例が認知症と診断された。繰り返し体重測定を行っていた患者の54%において、診断前までの10年間で2.5kg以上の体重減少が認められた。・10年未満の肥満(30.0kg/m2以上)または過体重(25.0~29.9/m2)は、22.5~24.9/m2と比較し、認知症発症率の減少が認められた。・しかし、10~14.9年までの肥満は、認知症発症率増加と関連が認められた(ハザード比[HR]:1.17、95%信頼区間[CI]:1.03~1.32)。・長期の分析では、過体重の保護的関連は消失した(HR:1.01、95%CI:0.90~1.13)。・B群では、6,070例が認知症と診断されており、肥満は、短期または長期の認知症リスク低下との関連が認められた。 著者らは「喫煙、がん、心不全、多発性疾患のない65~74歳における肥満は、長期の認知症発症率の増加との関連が認められた。短期間では、逆説的な関連が認められたことが、相反する結果をもたらした可能性であると考えられる。高齢者の認知症リスクに対する肥満や過体重の保護効果に関する報告は、とくに認知症診断前の体重減少を反映している可能性がある」としている。■関連記事レビー小体型認知症とアルツハイマー病における生存率の違い~メタ解析脂肪摂取と認知症リスクに関するメタ解析中年期以降の握力低下と認知症リスク~久山町研究

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第11回 リスク比とオッズ比の違いは?【統計のそこが知りたい!】

第11回 リスク比とオッズ比の違いは?厚生労働省の疫学調査結果や、学会から発表されるガイドライン、そして医学論文でもよく目にする「リスク比(risk ratio)もしくは相対危険度(relative risk:RR)」。そして、リスク比とよく似た指標で「オッズ比(odds ratio:OR)」があります。名前が違うので、もちろんこれら2つの意味も異なりますが、この2つの指標の違いについて理解しているつもりでも混乱してしまうことがよくあります。今回は、この「リスク比とオッズ比の違い」について解説します。■リスク比(相対危険度)とはリスク比というのは、「ある状況下に置かれた人と、置かれなかった人とで、ある疾患にかかる危険度(リスク)の比を表すもの」といえます。ですから、ここでのリスクは、ある疾患にかかる割合(確率)のことです。たとえば、表1で喫煙する人は喫煙しない人と比べて、どれくらい高い割合で心血管疾患(脳卒中、心筋梗塞など)が原因で死亡するかを調べたとしましょう。表1 調査開始後10年間に心血管疾患で亡くなった人の割合(喫煙vs.非喫煙)この結果から、喫煙する人と喫煙しない人で、心血管疾患が原因で死亡した人の割合を計算してみましょう。理解しやすいように表2に分割表を作成しました。表2 表1の調査の分割表表2によれば、喫煙する人と喫煙しない人で心血管疾患が原因で死亡した人の割合は、喫煙者で7%、非喫煙者で3%となりました。喫煙者が非喫煙者に比べてどれくらい高い割合で、心血管疾患が原因で死亡するのかを知るには、喫煙者での割合を、非喫煙者の割合で割ればよいのです。「7(%)÷3(%)」で2.3になります。この値が「リスク比(risk ratio)」です。このようにリスク比は、とても簡単に求められますが、大切なことはリスク比の求め方ではなく、その解釈の仕方です。この事例では、リスク比は2.3ということから、「心血管疾患が原因で死亡する喫煙者のリスク(割合)は非喫煙者に比べ2.3倍である」と解釈できることになります。これが相対危険度で、医学論文では「RR=2.3」と表記されることもあります。このようにリスク比(相対危険度)の解釈は簡単です。その値が高いほど、ある状況下にある人は、その状況下にない人に比べて、ある疾患にかかるあるいはある疾患で死亡する危険度がより高くなると解釈できるのです。■オッズ比とはオッズは、競馬など賭け事でよく使われますので、こちらもなじみのある言葉です。オッズの意味は、「ある状況が他の状況に比べて起こりやすい割合(確率)」ということです。先ほどの事例を用いてオッズ比について解説します。喫煙者の心血管疾患での死亡者数を非喫煙者の死亡者数で割った値を「オッズ(odds)」といいます。同様に、喫煙者で死亡しなかった人数を非喫煙者の死亡しなかった人数で割った値もオッズといいます。表3をご覧ください。表3 事例のオッズ比算出のための分割表表にあるように心血管疾患が原因での死亡者数(死亡あり)に着目すると、喫煙者の死亡者数(700人)は非喫煙者の死亡者数(300人)に比べ2.3倍、すなわち、死亡者数オッズは2.3です。死亡しなかった人数(死亡なし)に着目すると、喫煙者は9,300人、非喫煙者の9,700人に比べると0.96倍、すなわち、非死亡者数オッズは0.96となります。ここからが大切なところですが、死亡者数(死亡あり)オッズと非死亡者数(死亡なし)オッズの比を「オッズ比(odds ratio)」といいます。オッズ比は2.3÷0.96で算出しますので、2.4となります。オッズ比の値は2.4となったので喫煙の有無は、心血管疾患による死亡の影響要因といえそうです。ここで重要なのは、「喫煙者が心血管疾患で死亡するリスクは、非喫煙者に比べ2.4倍だと言ってはいけない!」ということです。絶対に間違ってはいけません。つまり、喫煙は健康によくないことはわかりますが、喫煙者は非喫煙者と比べて何倍くらい心血管疾患で死亡する可能性が高いのか、ということはわかりません。なぜならば、「心血管疾患で死亡した人での喫煙に関するオッズ」と「死亡しなかった人での喫煙に関するオッズ」からは、「喫煙するとどのくらい心血管疾患で死亡する危険性が高まるのか」は導き出すことができず、それはリスク比(相対危険度)でしか解釈できないからです。このように解説していくと、オッズ比はリスク比と比べると臨床ではあまり使い道がないように思われるかもしれません。しかし、実際の臨床研究の論文では、オッズ比はよく使われています。このように理解しにくいオッズ比が、なぜ臨床研究で使われているのか疑問を持たれる方もいると思います。それはそれなりに、オッズ比の活用法があるからということです。次回は、この「オッズ比の活用法について」を解説します。■さらに学習を進めたい人にお薦めのコンテンツ「わかる統計教室」第2回 リスク比(相対危険度)とオッズ比セクション2 よくあるオッズ比の間違った解釈第4回 ギモンを解決!一問一答質問5 リスク比(相対危険度)とオッズ比の違いは?(その1)質問5 リスク比(相対危険度)とオッズ比の違いは?(その2)

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糖尿病患者への禁煙指導/糖尿病学の進歩

 喫煙は、血糖コントロール悪化や糖尿病発症リスク増加、動脈硬化進展、がんリスク増加などの悪影響を及ぼす。禁煙によりこれらのリスクは低下し、死亡リスクも減少することから禁煙指導は重要である。3月1~2日に開催された第53回糖尿病学の進歩において、聖路加国際病院内分泌代謝科の能登 洋氏が「喫煙と糖尿病合併症」と題して講演し、喫煙と糖尿病発症・糖尿病合併症・がんとの関連、禁煙指導について紹介した。タバコ1日2箱で糖尿病発症リスクが1.5倍 糖尿病患者の喫煙率は、日本の成人における喫煙率とほぼ同様で、男性が31.9%、女性が8.0%と報告されている。男女ともに30代がピークだという。喫煙は、血糖コントロール悪化、糖尿病発症リスク増加、HDL-コレステロール低下、動脈硬化進展、呼吸機能悪化、がんリスク増加、死亡リスク増加といった悪影響を及ぼす。喫煙による糖尿病発症リスクは用量依存的に増加し、国内の研究では、1日当たり1箱吸う人は1.3倍、2箱吸う人は1.5倍、発症リスクが増加すると報告されている。また、受動喫煙でも同様の影響があり、受動喫煙による糖尿病発症リスクは、国内の研究ではオッズ比が1.8と報告されている。 喫煙による糖尿病発症機序としては、コルチゾールなどのインスリン抵抗性を増やすホルモンの増加や、不健康な生活習慣(過食や運動不足)で内臓脂肪の蓄積を引き起こしインスリン抵抗性が惹起されることが想定されている。さらに、喫煙者は飲酒する傾向があるため、それも発症に関わると考えられる。また喫煙は、脂肪組織から分泌されるサイトカインやリポプロテインリパーゼに影響を与え、糖代謝や脂質代謝にも直接悪影響を与える。さらに、ニコチンそのものがインスリン抵抗性を惹起することが想定されている。禁煙後の糖尿病発症リスクの変化、体重増加の影響は? では、禁煙した場合、糖尿病発症リスクはどう変化するのだろうか。禁煙後半年から数年は、ニコチンによる食欲抑制効果の解除、味覚・嗅覚の改善、胃粘膜微小循環系血行障害の改善により体重が増加することが多く、また数年後には喫煙時の体重に減少することが多い。体重増加は糖尿病のリスクファクターであるため、禁煙直後の体重増加による糖尿病リスクへの影響が考えられる。実際に禁煙後の糖尿病発症リスクを検討した国内外の疫学研究では、禁煙後5年間は、糖尿病発症リスクが1.5倍程度まで上昇するが、10年以上経過するとほぼ同レベルまで戻ることが報告されている。さらに、禁煙後の体重変動と糖尿病発症リスクを検討した研究では、禁煙後に体重が増加しなかった人は糖尿病発症リスクが減少し続け、体重が10kg以上増えた人は5年後に1.8倍となるも、その後リスクが減少して15~30年で非喫煙者と同レベルにまで下がること、また禁煙後の体重増加にかかわらず死亡率が大幅に減少することが示されている。能登氏は「禁煙して数年間は糖尿病が増加するリスクはあるが体重を管理すればそのリスクも減少し、いずれにしても死亡リスクが減少することから、タバコをやめるのに越したことはない。禁煙するように指導することは重要であり、禁煙直後は食事療法や運動療法で体重が増えないように療養指導するべき」と述べた。 喫煙と糖尿病合併症との関連をみると、とくに糖尿病大血管症リスクとの関連が大きい。また、糖尿病によってがんリスクが増加することが報告されているが、喫煙によって喫煙関連がん(膀胱、食道、喉頭、肺、口腔、膵臓がん)の死亡リスクが4倍、なかでも肺がんでは約12倍に増加するため、糖尿病患者による喫煙でがんリスクは一層高まる。また、糖尿病合併症である歯周病、骨折についても喫煙と関連が示されている。禁煙は「一気に」「徐々に」どちらが有効か 禁煙のタイミングについては、喫煙歴が長期間であったとしても、いつやめても遅くはない。禁煙半年後には、循環・呼吸機能の改善、心疾患リスクが減少し、5年後には膀胱がん、食道がん、糖尿病の発症リスクが減少することが示されている。 では、どのような禁煙方法が有効なのだろうか。コクランレビューでは、断煙法(バッサリやめる)と漸減法(徐々にやめる)の成功率に有意差はなかった。短期間(6ヵ月)に限れば断煙法の禁煙継続率が高いという報告があるが、個人差があるため、まず患者さんの希望に合わせた方法を勧め、うまくいかなければ別法を勧めるというのがよいという。代替法としてはニコチンガムやパッチなどがあるが、近年発売された電子タバコ*を用いる方法も出てきている。最近、禁煙支援で電子タバコを使用した場合、ニコチン代替法より禁煙成功率が1.8倍高かったという研究結果が報告された。能登氏は、「煙が出るタバコの代わりに電子タバコを吸い続けるというのは勧めないが、禁煙するときに電子タバコを用いた代替法もいいかもしれない」と評価した。 能登氏は最後に、「糖尿病とがんに関する日本糖尿病学会と日本癌学会による医師・医療者への提言」から、日本人では糖尿病は大腸がん、肝臓がん、膵臓がんのリスク増加と関連があること、糖尿病やがんリスク減少のために禁煙を推奨すべきであること、糖尿病患者には喫煙の有無にかかわらず、がん検診を受けるように勧めることが重要であることを説明した。がん検診については、聖路加国際病院では患者さんの目につく血圧自動測定器の前に「糖尿病の方へ:がん検診のお勧め」というポスターを貼っていることを紹介し、講演を終えた。*「電子タバコ」は「加熱式タバコ」(iQOS、glo、Ploom TECHなど)とは異なる

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ナッツ摂取、糖尿病患者でCVD・全死亡減:大規模前向きコホート

 心血管疾患(CVD)合併や早期死亡の予防に、ナッツ類(とくに木の実)の摂取を増やすことは、糖尿病診断後いつからでも遅くはないのかもしれない―。これまで、CVDをはじめとした慢性疾患発症に対するナッツ摂取の効果が報告されてきたが、2型糖尿病とすでに診断された患者に対するナッツ摂取の長期的ベネフィットについては、エビデンスが十分ではなかった。米国・ハーバードT.H.Chan公衆衛生大学院のGang Liu氏らが、看護師健康調査(1980~2014年)と医療従事者追跡調査(1986~2014年)の参加者のうち、ベースライン時あるいは追跡期間中に2型糖尿病と診断された1万6,217例について行った試験で明らかにしたもので、Circulation Research誌オンライン版2019年2月19日号で発表した。 本研究は、ナッツ摂取量と冠動脈疾患(CHD)や脳卒中を含むCVDリスク、全死因死亡率と疾患特異的死亡率の関連を調べることを目的として行われた。ナッツ摂取は総量のほか、木の実やピーナッツといった、特定種類の摂取量についても検討された。なお、ナッツ摂取量は食物摂取頻度調査票(FFQ)を用いて評価され、2~4年ごとに更新された。 主な結果は以下のとおり。・延べ追跡期間は22万3,682~25万4,923人年。その間に3,336例がCVDを発症し、5,682例が死亡した。・総ナッツ摂取量の増加は、CVD発生率および死亡率低下と関連した。・週5サービング(1サービング=28g)以上のナッツ摂取量が多い参加者は、月に1サービング未満の少ない参加者と比較して、総CVD発生率(多変量調整後のハザード比[HR]:0.83、95%信頼区間[95%CI]:0.71~0.98、傾向のp=0.01)、CHD発生率(HR:0.80、95%CI:0.67~0.96、傾向のp=0.005)、CVD死亡率(HR:0.66、95%CI:0.52~0.84、傾向のp<0.001)、全死因死亡率(HR:0.69、95%CI:0.61~0.77、傾向のp<0.001)が低かった。・総ナッツ摂取量は、脳卒中発症やがんによる死亡率と有意な関連はみられなかった。・木の実(クルミ、アーモンド、カシューナッツ、ピスタチオ、マカダミア、ヘーゼルナッツなど)の摂取量が多いほど、総CVDおよびCHD発生率、CVDとがんによる死亡率、全死因死亡率が低下していた。一方、ピーナッツ摂取量の増加は、全死因死亡率の低下のみと関連していた(すべて、傾向のp<0.001)。・糖尿病と診断後に総ナッツ摂取量を変えなかった参加者と比較して、診断後に摂取量を増やした参加者は、CVDリスクが11%、CHDリスクが15%低かった。また、CVD死亡率は25%、全死因死亡率は27%低かった。・これらの関連は、性別/コホート、糖尿病診断時のBMI、喫煙状態、糖尿病罹患期間、糖尿病診断前のナッツ摂取量、または食事の質によって層別化されたサブグループ分析においても持続した。■関連記事ナッツを毎日食べる人ほど健康長寿/NEJM本当にナッツが血糖改善するか?

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人生を支配するホルモンとは

 『できる男』と言われて何を思い浮かべるだろうか?年収、地位や名誉、そして女性にモテること…。これらをすべてクリアするには何がカギなのだろうか。2019年2月18日、日本抗加齢医学会が主催するメディアセミナーに、井手 久満氏(獨協医科大学埼玉医療センター泌尿器科准教授)が登壇し、「男性のための理想的なライフスタイル」について講演した。テストステロン値の高い男はなぜ成功するのか 井手氏によると、『できる男』の象徴は、冒頭でも述べた事柄のほか、「スポーツ万能」、「性機能が強い」、「健康寿命が長い」などであり、これらに共通するのがテストステロン値の高さだという。証券会社に勤務するイギリス人男性の年収を比較した研究によると、テストステロンが高い男性の年収は、低い男性と比較して3~5倍も多いことが明らかになった。また、テストステロン量は骨格でも判定が可能で、人指し指より薬指の長い男性で高値ということが、さまざまな人種のデータによって確証を得ている。 テストステロンは、造血作用や男性ホルモンを合成しているとされる海馬での認知機能制御など、多くの作用が報告されている。しかし、個人差や日内変動がとても大きく、ストレスや飲酒などにも左右される物質である。たとえば、恋愛過程でも、デートから真剣交際、婚約から結婚に至る過程で徐々に分泌が減少し、子供が生まれ、添い寝をするなどでも低下することが立証されている。メタボリックシンドロームとテストステロンの低下 近年、男性の更年期が取り沙汰されるようになり、うつとの関連が理解されるようになった。さらには、糖尿病をはじめとするメタボリックシンドロームや心筋梗塞にも影響を及ぼすことが徐々に明らかになってきている。 そこで、同氏は健康な中年男性のメタボリック因子と心血管疾患・心不全との関連について解説。メタボリック因子が多く、テストステロンが低下している症例にテストステロン補充療法を行った症例の体重、HbA1c、収縮期血圧などのデータを示した。「テストステロンの補充によって、それぞれが体重や腹囲の減少、血圧やHbA1cが有意に改善した。さらに骨密度や排尿状態の改善にも効果がある」とする一方で、「補充による有害事象として、多血症、睡眠時無呼吸症候群、肝障害、不妊症などが挙げられるので注意が必要」と、コメントした。アプリを活用した対策 テストステロンの管理にはメタボリックシンドローム予防が重要であることから、医療機関を介した食管理システム(ヘルスログ)の開発が進められている。患者には、活動量をチェックするためのUP2(ブレスレット型装置)を身に付けてもらい、日々の食事記録をスマートフォンで記録。写真から摂取カロリーが計算される。将来的にはLINEを活用することで、共有した情報を基に管理栄養士から食事アドバイスも受けられるようになるという。 このような背景を踏まえ、まずは、「自身によってテストステロンを低下させるリスク因子(喫煙や肥満)を理解し、リスク因子を排除することが大切である」と、同氏は締めくくった。(ケアネット 土井 舞子)■参考日本抗加齢医学会■関連記事うつ病や身体活動と精液の質との関連テストステロンの補充は動脈硬化を進展させるか/JAMA

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EGFR変異陽性例のSCLC転化とは何なのか? どう対応するか?【忙しい医師のための肺がんササッと解説】第5回

第5回 EGFR変異陽性例のSCLC転化とは何なのか? どう対応するか?1)Marcoux N, et al. EGFR-Mutant Adenocarcinomas That Transform to Small-Cell Lung Cancer and Other Neuroendocrine Carcinomas: Clinical Outcomes. J Clin Oncol. 2019;37:278-285.2)Ferrer L, Levra MG, et al. A Brief Report of Transformation From NSCLC to SCLC: Molecular and Therapeutic Characteristics. J Thorac Oncol 2019;14:130-134.EGFR変異陽性例の耐性に際して、少数ながら小細胞肺がん(SCLC)への転化が報告されているが、どの程度生じるのか、その対応策についてはまとまった報告がなされてこなかった。また、検体を用いた分子生物学的な解析も十分ではない。Journal of Thoracic Oncology(JTO)誌、Journal of Clinical Oncology(JCO)誌に、SCLC転化に関するまとまった報告がなされているので、併せて紹介する。1)について米国から、8つの病院におけるレトロ解析。2006~18年まで、67例を集積。うち、SCLCやLCNECなどの混合型は9例(13%)。患者背景は、年齢中央値56歳、女性57%、非喫煙者73%。NSCLCの診断からSCLC転化までの中央値は17.8ヵ月。前治療として、オシメルチニブを含んだ第3世代EGFR-TKIが約3割に使用されている。全生存期間中央値は31.5ヵ月。うち、SCLC転化後の生存期間中央値は10.9ヵ月であった。SCLC転化時の検体においても、NSCLC診断時にみられたEGFR変異が全例で確認されている。T790M陽性例は経過中に29%で認められたが、SCLC転化時には約80%で消失していた。SCLC転化時の検体において最も多く認められた変異はTP53(79%)であり、RB1(58%)、PIK3CA(27%)と続く。なお、次世代シークエンサーにて解析できた検体に限ると、TP53は91%で認められている。化学療法の効果については、プラチナ+エトポシドが53例と最も多く用いられており、ORRは54%、PFSは3.4ヵ月であった。タキサンが21例で用いられており(うち単剤が14例)、ORRは50%と高い。一方で、ドセタキセルはわずか6例ではあるものの全例で奏効しなかった。免疫チェックポイント阻害剤は17例で使用されているが、ORRは0%であった。2)についてイタリアとフランスの31施設によるレトロ解析。2005~17年まで、61例を集積。こちらは、SCLCやLCNECなどの混合型は省かれているが、EGFR変異陰性例を13例含む。(以降、EGFR変異陽性例のみの解析結果を示す)患者背景は、年齢中央値61歳、女性69%、非喫煙者62%。NSCLCの診断からSCLC転化までの中央値は、1)と同じで26ヵ月。全生存期間中央値は28ヵ月。うち、SCLC転化後の生存期間中央値は9ヵ月であった。この論文では遺伝子変異に関する解析は充実していないものの、やはりEGFR変異は84%で検出されている。化学療法の効果については、やはりプラチナ+エトポシドが最も多く用いられており、ORRは45%と良好であった。免疫チェックポイント阻害剤に関する検討はなされていない。解説2011年のSequistらによる報告(Sequist LV, et al. Sci Transl Med. 2011;3:75ra26.)では14%で認められるとされたSCLCへの転化、実臨床における頻度はもう少し低い気はするが確かに遭遇する機会があるし、自信をもって対処しにくかった。今回紹介した2報では、欧米におけるこれらの治療状況や予後に関して紹介されている。予想どおりであったのは主にレジメン選択・治療効果に関する内容で、SCLCに準じた治療が行われるべき、という結果であった。面白いのは、1)で紹介されているタキサンで、腺がんから発生しているSCLCであることを考えると、両者に対して有効とされるタキサンの選択は理にかなっていると思われる。逆に、少数例ながらドセタキセル単剤・免疫チェックポイント阻害剤単剤がまったく無効であった点も示唆に富む。意外だったのは、SCLC転化後の大多数でEGFR変異が検出された点ではないだろうか。患者背景も若年・女性・非喫煙者が多く、一般的なSCLCの患者背景とは合致しない。それではEGFR遺伝子変異陽性肺がんのどのような集団がSCLC転化をするのか、という疑問が生じることになるが、1)、2)いずれの報告でも紹介されている2017年JCO誌の報告(Lee JK, et al. J Clin Oncol. 2017;35:3065-3074.)が興味深い。EGFR変異陽性・SCLC転化例の全エクソン解析では、SCLC転化前後で両者に同じ変異(truncal mutation)を共有していることが示されている。つまり、腺がん検体の一部にSCLCクローンが含まれているわけではなく、腺がんから発生したSCLCと考えるのが妥当ではないか、という結果である。また、同じ論文で行われたSCLC転化例と非転化例との比較(腺がん時点での検体を使用)では、前者においてRb・p53のinactivationが有意に多かった(82% vs.3%、オッズ比131 !!)という。TCGAデータベースではRB1変異・TP53変異をともに持つ腺がんが約5%存在しており、これは彼らのコホートにおけるSCLC転化の頻度とほぼ合致していた。つまり、SCLC転化の種が診断時より存在している可能性を示唆している。彼らは、初回診断時に、スクリーニングとしてこれらのRb・p53免疫染色を提案しているが、さすがに現実的ではない。ただし、1)の文献でも述べられているように、耐性時における遺伝子変異解析全盛の時代に、生検診断の重要性に関する一石を投じた論文といえる。

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日本人の進行NSCLC患者に対するニボルマブ治療における転移臓器が治療奏効に与える影響

 これまで、進行非小細胞肺がん(NSCLC)患者におけるニボルマブの効果予測因子として、臨床的に有意な転移部位についての詳細はわかっていなかった。今回、大阪国際がんセンターの田宮 基裕氏らにより、わが国の3施設において、2015年12月17日~2016年7月31日(フォロー期間は2017年3月31日まで)にニボルマブで治療された全症例が後ろ向きに抽出され、効果予測因子の検討が行われた。 その結果、ニボルマブによる治療を受けた進行NSCLC患者では、肝および肺への転移と全身状態(PS)不良の状態が、無増悪生存期間(PFS)中央値の短縮と関連していることが示唆された。PLoS ONE誌2018年2月22日号に掲載。 本試験では、大阪国際がんセンター、大阪はびきの医療センター、近畿中央胸部疾患センターから合計201例の患者が登録された。ニボルマブ投与時の年齢の中央値は68歳(27~87歳)で、135例が男性だった。全症例のうち、157例で喫煙歴があり、153例でPSが0か1、42例が扁平上皮がんで、37例がEGFR変異を有していた。この試験の追跡期間中央値は12.2ヵ月だった。 主な結果は以下のとおり。・全患者におけるPFS中央値は2.86ヵ月(95%信頼区間[CI]:2.01〜3.62)だった。性別、喫煙状況、扁平上皮/非扁平上皮、胸部リンパ節・脳・骨転移の状況、および悪性胸水の状況による差はなかった。・ECOG PS 0〜1でのPFS中央値は3.25ヵ月(95%CI:2.47~4.64)、PS2以上では1.48ヵ月(同:1.12~3.12)だった(p<0.001)。・肝転移なし群でのPFS中央値は3.25ヵ月(95%CI:2.66~4.50)、肝転移群では1.15ヵ月(同:1.05~1.51)だった(p<0.001)。・肺転移なし群でのPFS中央値は3.52ヵ月(95%CI:2.47~5.92)、肺転移あり群では2.27ヵ月(同:1.61~3.32)だった(p<0.01)。・多変量解析の結果、PS2以上におけるハザード比[HR]は1.54(95%CI:1.05~2.25;p<0.05)、肝転移のHRは1.90(95%CI:1.21~2.98;p<0.01)、肺転移のHRは1.41(95%CI:1.00~1.99;p<0.05)であり、それぞれの因子は、統計学的に有意に短いPFSと、独立した相関が認められた。 以上の結果より、肝転移・肺転移・PS不良は、進行NSCLCがんに対するニボルマブ治療において、独立した効果予測因子である可能性が示唆された。

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喫煙で子宮頸がんリスクが2倍~日本人女性

 喫煙による子宮頸がんのリスク上昇を示唆するエビデンスは多いが、日本人女性における関連の強さを調べた研究はない。今回、東北大学の菅原 由美氏らは「科学的根拠に基づく発がん性・がん予防効果の評価とがん予防ガイドライン提言に関する研究」において、日本人女性における喫煙と子宮頸がんリスクとの関連を系統的レビューにより評価した。その結果から、喫煙が日本人女性における子宮頸がんリスクを高めるエビデンスは確実であると結論している。Japanese Journal of Clinical Oncology誌2019年1月号に掲載。 本研究では、PubMedによるMEDLINE検索もしくは医中誌Webの検索、およびマニュアル検索によりデータを取得した。関連性については、国際がん研究機関(IARC)によって以前に評価された生物学的妥当性と共に、エビデンスの信頼性および関連の強さに基づいて評価した。さらに、メタ分析により喫煙による影響を推定した。 主な結果は以下のとおり。・2つのコホート研究と3つのケースコントロール研究を特定した。・5つの研究すべてが、喫煙と子宮頸がんリスクとの間に強い正の関連を示した。・要約推定によると、非喫煙者に対する喫煙経験者の相対リスクは2.03(95%信頼区間:1.49~2.57)であった。・4つの研究では、喫煙と子宮頸がんリスクとの用量反応関係も示された。

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メトトレキサート、乾癬性関節炎のない乾癬にも有用

 乾癬患者では、乾癬性関節炎の有無においてもメトトレキサートの反応性を考慮することが必要である。中国・復旦大学のKexiang Yan氏らは、メトトレキサートの乾癬治療に対する有効性と忍容性について、乾癬性関節炎を有していない乾癬患者では有害事象が少なく有効であることを明らかにした。著者は「メトトレキサートは、関節炎のない乾癬に対する1次治療として推奨される」とまとめている。JAMA Dermatology誌オンライン版2019年1月30日号掲載の報告。 研究グループは、乾癬患者の乾癬性関節炎の有無におけるメトトレキサートの有効性と安全性を評価する目的で、2015年4月1日~2017年12月31日の期間に前向き単群試験を行った。対象者は中国の大学病院に外来通院中の乾癬患者235例で、乾癬性関節炎なし群107例、あり群128例を登録。その際、糖尿病の既往を除き、両群間での患者背景の差異はなく、それぞれに低用量メトトレキサート(7.5~15mg/週)を12週間経口投与した。主要評価項目は、乾癬の重症度、有害事象、血球数、肝機能および腎機能の変化とした。 主な結果は以下のとおり。・235例(男性166例[66.0%]、平均年齢±SD:49.6±15.1歳)が治療を受けた。・8週時点で、乾癬重症度(Psoriasis Area Severity Index:PASI)スコアがベースラインから90%以上改善した患者(PASI 90達成率)は、関節炎あり群となし群ではそれぞれ4例(3.1%)vs.12例(11.2%)であった(p=0.02)。・12週時点ではそれぞれ19例(14.8%)vs.27例(25.2%)(p=0.049)であり、8週、12週時いずれも、関節炎あり群でPASI 90達成率は有意に低かった。・有害事象は、関節炎あり群と関節炎なし群でそれぞれ、めまい:12例(9.4%)vs.1例(0.9%)(p=0.007)、胃腸症状:32例(25.0%)vs.13例(12.1%)(p=0.01)、肝毒性:34例(26.6%)vs.16例(15.0%)(p=0.04)と、いずれも関節炎あり群で有意に多かった。・メトトレキサートによるアラニンアミノトランスフェラーゼの上昇は、BMI(平均BMI±SD)と喫煙に有意に関連し、関節炎あり群ではそれぞれ26±4(p=0.04)、17/34例(50.0%、p=0.02)、関節炎なし群では26±4(p=0.005)、9/16例(56.3%、p=0.04)だった。

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第13回 アナタはどうしてる? 術前心電図(後編)【Dr.ヒロのドキドキ心電図マスター】

第13回:アナタはどうしてる? 術前心電図(後編)前回は非心臓手術として、整形外科の膝手術予定の患者さんを例示し、術前スクリーニング心電図のよし悪しを述べました。今回も同じ症例を用いて、Dr.ヒロなりの術前心電図に対する見解を示します。症例提示67歳、男性。変形性膝関節症に対して待機的手術が予定されている。整形外科から心電図異常に対するコンサルテーションがあった。既往歴:糖尿病、高血圧(ともに内服治療中)、喫煙:30本×約30年(10年前に禁煙)。コンサル時所見:血圧120/73mmHg、脈拍81/分・整。HbA1c:6.7%、ADLは自立。膝痛による多少の行動制限はあるが、階段昇降は可能で自転車にて通勤。仕事(事務職)も普通にこなせている。息切れや胸痛の自覚もなし。以下に術前の心電図を示す(図1)。(図1)術前心電図画像を拡大する【問題】依頼医に対し、心電図所見、耐術性・リスクをどのように返答するか。解答はこちら心電図所見:経過観察(術前心精査不要)。耐術性あり(年齢相応)、心合併症リスクも低い。解説はこちらまず、心電図所見。果たしてどのように所見に“重みづけ”をしたら良いのでしょう。どの所見ならヤバくて、どれなら安心なのか。外科医が(循環器)内科医に尋ねたいのは、主に耐術性とリスク(心臓や血管における合併症)の2点ではないでしょうか。耐術性は、合併疾患の状況はもちろん、“動ける度”(運動耐容能)で判定するのがポイント。決して心エコーの“EF”ではありませんよ(フレイル・寝たきりで手術がためらわれる方でも、左心機能が正常な方が多い)。今回のケースのように、高齢ではなく、心疾患の既往や思わせぶりな症状・徴候もなく 、そして何より心臓も血管もいじらない手術で「心血管系合併症が起きるのでは…」とリスクを考えるのは“杞憂”でしょう。誰も彼も術前“ルーチン”心電図を行うのは、ほとんど無意味で臨床判断に影響を与えないことは前回述べました。「どんな患者に術前心電図は必要なのでしょう?」「どんな所見なら問題視すべきでしょう?」このような問いかけに、アナタならどうしますか? Dr.ヒロならこうします。“心電図検査の妥当性はこれでチェック”ボクが術前コンサルトで心電図の相談を受けた時、参考にしているフローチャート(図2)を示します。(図2)術前心電図の要否をみるフローチャート画像を拡大するこれはもともと、術前心電図の要否を判断するものです。海外ではそもそも「検査すべきか・そうでないか」が重視されているんですね。ただ、日本では、“スクリーニング”的に術前心電図がなされるので、ボクはこれを利用して、コンサルトされた心電図に“意義がある”ものか“そうでない”ものかをまず考えます。ここでも、心電図を“解釈する”ための周辺情報として、心電図“以外”の情報とつけ合わせることが大切です。術前外来で言えば、患者さんの問診と診察ですね。一人の患者さんにかけられる時間は限られているので、術前外来で、ボクは以下の4つをチェックしています。“妥当性”からの判断◆心疾患の既往◆症状(symptom)・徴候(sign)◆手術自体のリスク(規模・侵襲性)◆Revised Cardiac Risk Index(RCRI)まず既往歴。これは心疾患を中心に聞きとります。続く2つ目は症状と症候です。症状は、ボクが考える心疾患の“5大症状”、1)動悸、2)息切れ、3)胸痛、4)めまい・ふらつき、5)失神を確認します。もちろん異論もあるでしょうし、100%の特異性はありません。1)や2)は年齢や運動不足、そのほかの理由で「ある」という人が多いですが、それが心臓病っぽいかそうでないかの判断には経験や総合力も必要です。あとは、聴診と下腿浮腫の症候を確認するだけにしています。聴診は心雑音と肺ラ音ね。この段階で心臓病の既往、症状や徴候のいずれかが「あり」なら、術前心電図をするのは妥当で、所見にも一定の“意義”が見込めます。でも、もし全て「なし」なら非特異的な所見である確率がグッと高くなるでしょう。次に手術リスクを考慮します。これは手術予定の部位(臓器)や所要時間、麻酔法、出血量などで決まるでしょう。リスト化してくれている文献*1もあります。これによると、心合併症の発生が1%未満と見込まれる低リスク手術(いわゆる“日帰り手術”や白内障、皮膚表層や内視鏡による手術など)の場合、心電図は「不要」なんです。一方、心合併症が5%以上の高リスク手術(大動脈、主要・末梢血管などの血管手術)なら、心電図は「必要」とされます。もともと、ベースに心臓病を合併しているケースも多いですし、その病態把握に加えて、術後に何か起きた時、術前検査が比較対象としても使えますからね。残るは、心合併症が1~5%の中リスク手術。全身麻酔で行われる非心臓手術の多くがここに該当します。今回の膝手術もまぁここかな。ここで、「RCRI:Revised Cardiac Risk Index」という指標*2を登場させましょう。非心臓手術における心合併症リスク評価の“草分け”として海外で汎用されているもの(図3)で、中リスク手術における術前心電図の妥当性が「あり」か「なし」を判定する重要なスコアなんです!(図3)Revised Cardiac Risk Index(RCRI)画像を拡大するRevised Cardiac Risk Index(RCRI)1)高リスク手術(腹腔内、胸腔内、血管手術[鼠径部上])*2)虚血性心疾患(陳旧性心筋梗塞、狭心痛、硝酸薬治療、異常Q波など)3)うっ血性心不全(肺水腫、両側ラ音・III音、発作性夜間呼吸困難など)4)脳血管疾患(TIAまたは脳卒中の既往)5)糖尿病(インスリン使用)6)腎機能障害(血清クレアチニン値>2mg/dL)*:RCRIでは血管手術以外に、胸腔・腹腔内の手術も含まれる点に注意1)のみ手術側、残り5つが患者側因子の計6項目からなり、ボクもこのページをブックマークしています(笑)。たとえば、全て「No」を選択すると、主要心血管イベントの発生率が「3.9%」と算出されます(注:2019年1月から数値改訂:旧版では「0.4%」と表示)。中リスク手術ならRCRIが1項目でも該当するかどうかがが大事ですが、今回の男性は全て「No」。つまり、チャートで「No ECG(術前心電図をする“意義はない”)」に該当しますから、たとえいくつか心電図所見があっても基本は重要視せず、これ以上の検査を追加する必要もないと判断してOKではないでしょうか。“active cardiac conditionの心電図か?”術前心電図としての妥当性の観点から、今回の症例は精査が不要そうです。では、仮にチャートで「ECG」(“意義あり”)となった時、2つ目のクエスチョン「問題視すべき所見は?」はどうでしょうか。患者さんは“非心臓”手術を受けるのが真の目的ですから、その前にボクらが“手出し”(精査や加療)するのは、よほどの緊急事態ととらえるのがクレバーです。そこでボクが重要視しているのは、“active cardiac condition”です。実はこれ、アメリカ(ACC/AHA)の旧版ガイドライン(2007)*3で明記されたものの、最新版(2014)*4では削除された概念なんです(わが国のガイドライン*5には残ってます)。active cardiac condition=緊急処置を要するような心病態、のような意味でしょうか。これを利用します。“緊急性”からの判断~active cardiac condition~(A)急性冠症候群(ACS)(B)非代償性心不全(いわゆる“デコった”状況)(C)“重大な”不整脈(房室ブロック、心室不整脈、コントロールされてない上室不整脈ほか)(D)弁膜症(重症AS[大動脈弁狭窄症]ほか)もちろん、ここでも心電図以外の検査所見も見て下さい。心電図の観点では、(A)や(C)の病態が疑われたら“激ヤバ”で、早急な対処、場合によっては手術を延期・中止する必要があります。既述のチャートで“全て「No」だった心電図”でも無視できず、むしろ、至急「循環器コール」です(まれですが術前にそう判明する患者さんがいます)。ただ、「左室肥大(疑い)」や「不完全右脚ブロック」などの波形異常の多くはactive cardiac conditionに該当せず、術前にあれこれ検索すべき所見ではありません。つまり、患者さんに対し、「手術を受けるのに、この心電図なら大丈夫」と“太鼓判”を押し、追加検査を「やらない」ほうがデキる医師だと示せるチャンスです!もちろん、コンサルティ(外科医)の意向もくんだ上で最終判断してくださいね。れっきとしたエビデンスがない分野ですが、このように自分なりの一定の見解を持っておくことは悪くないでしょう(気に入ってくれたら、今回の“Dr.ヒロ流ジャッジ”をどうぞ!)。今回のように必要ないとわかっていても、万が一で責任追及されては困ると“慣習”に従う形で、技師さんへ詫びながら心エコーを依頼する、そんな世の中が早く変わればいいなぁ。いつにも増して“熱く”なり過ぎましたかね(笑)。Take-home Message1)心電図所見に対して精査を追加すべきかどうかは、術前検査としての「妥当性」を考慮する2)Active Cardiac Conditionでなければ、非心臓手術より優先すべき検査・処置は不要なことが多い*1:Kristensen SD, et al.Eur Heart J.2014;35:2383-431.*2:Lee TH, Circulation.1999;100:1043-9.*3:Fleisher LA, et al.Circulation.2007;116:e418-99.*4:Fleisher LA, et al.Circulation.2014;130:e278-333.*5:日本循環器学会ほか:非心臓手術における合併心疾患の評価と管理に関するガイドライン2014年改訂版【古都のこと~天橋立~】「日本三景ってどこ?」松島、宮島、そして京都にある「天橋立」です。前回の京丹後の旅の帰りに寄りました。「オイオイ、っていうか写真、逆では?」とお思いでしょ? 実は、2016年のイグノーベル賞で有名になった“股のぞき効果”(股のぞきで眺めると、風景の距離感が不明瞭になり、ものが実際より小さく見える効果)を体験しながら撮影したんです。絶景に背を向け、股下から天橋立をのぞき込むと、そこは“天上世界”。海と空とが逆転し、天に舞い上がる龍のように見えるそうです(飛龍観)。ボクの想像力が豊かで、しかも、もっと雲が少なかったら…見えなくもないかな? ボクは天橋立ビューランドからでしたが、傘松公園バージョンもあるそうで。また今度行ってみようかなぁ。

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無症候性の頸動脈高度狭窄例に対するCASで、CEAと転帰の差を認めず:CREST/ACTⅠメタ解析

 米国では、頸動脈インターベンションの最大の適応は無症候性の高度狭窄だという。しかし、米国脳卒中学会など関連14学会による2011年版ガイドラインでは、外科高リスク例を除き、無症候性頸動脈高度狭窄例に対しては、頸動脈ステント留置術(CAS)よりも頸動脈内膜剥離術(CEA)が推奨されている。 しかし同ガイドライン策定後、CREST試験とACTI試験という2つの大規模ランダム化試験において、末梢塞栓保護下CASは、死亡・脳卒中・心筋梗塞抑制に関し、CEAに対する非劣性が示された。 2019年2月6~8日に、米国・ハワイにて開催された国際脳卒中会議(ISC)では、これら2試験の個別患者データをメタ解析した結果が報告され、CAS施行後の転帰はさまざまな評価項目においてCEAと有意差がないと確認された。7日のLate Breaking Clinical Trialsセッションにて、Jon Matsumura氏(ウィスコンシン大学、米国)が報告した。評価項目を事前設定のうえ、個別患者データを用いてメタ解析 本メタ解析は両試験の研究者が合意のもと、あらかじめ評価項目を定めたうえで(後述)、個々の患者データを用いて行われた。ACTⅠ試験では80歳以上が除外されていたため、CREST試験参加2,502例中試験開始時に80歳未満だった1,091例と、ACTⅠ試験に参加した1,453例が、今回のメタ解析の対象となった。 試験開始時における、CAS群(1,637例)とCEA群(907例)の患者背景は、CAS群で喫煙者が有意に多い(25.6% vs.21.8%、p=0.033)以外、有意差はなかった。平均年齢は68歳で、65歳以上が約70%を占めている。1次評価項目でCASとCEAに有意差は認められず これらをメタ解析した結果、本解析の1次評価項目とされた「周術期の死亡・脳卒中・心筋梗塞、ランダム化後4年間の同側性脳卒中」(CREST試験と同様)の発生率は、CAS群:5.3%、CEA群:5.1%となり、有意差を認めなかった(p=0.91)。ただしその内訳は、脳卒中(CAS群:2.7% vs.CEA群:1.5%)と死亡(同、0.1% vs.0.2%)、4年間同側性脳卒中(同、2.3% vs.2.2%)には群間差を認めなかったものの(いずれもNS)、心筋梗塞に限ればCAS群が0.6%と、CEA群の1.7%に比べ有意に低値となっていた(p=0.01)。 次に、2次評価項目とされたランダム化後4年間の「脳卒中非発生生存率」だが、同様に、CAS群:93.2%、CEA群:95.1%で有意差はなかった(p=0.10)。「全生存率」で比較しても同様だった(CAS群:91% vs.CEA群:90.2%、p=0.923)。 本メタ解析は、デバイス製造・販売会社からのサポートは受けていない。(医学レポーター/J-CLEAR会員 宇津 貴史(Takashi Utsu))「ISC 2019 速報」ページへのリンクはこちら【J-CLEAR(臨床研究適正評価教育機構)とは】J-CLEAR(臨床研究適正評価教育機構)は、臨床研究を適正に評価するために、必要な啓発・教育活動を行い、わが国の臨床研究の健全な発展に寄与することを目指しています。

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アスピリンまたはクロピドグレルへのシロスタゾール併用、日本人脳梗塞の出血リスクを増やさず再発抑制:CSPS.com試験

 虚血性脳血管障害に対する長期の抗血小板薬2剤併用は、脳卒中を抑制せず大出血リスクを増やすとされている。これは大規模試験MATCH、CHARISMAサブスタディ、SPS3で得られた知見に基づく。 しかし、これらのランダム化試験で検討されたのは、いずれもアスピリンとクロピドグレルの併用だった。ではCSPS 2試験においてアスピリンよりも出血リスクが有意に低かった、シロスタゾールを用いた併用ではどうだろう――。この問いに答えるべく、わが国で行われたのが、ランダム化非盲検試験CSPS.comである。その結果、アスピリン、クロピドグレル単剤に比べ、それらへのシロスタゾール併用は、重篤な出血リスクを増やすことなく、脳梗塞を有意に抑制することが明らかになった。2019年2月6~8日に、米国・ハワイで開催された国際脳卒中会議(ISC)初日のOpening Main Eventにおいて、豊田 一則氏(国立循環器病研究センター病院・副院長)が報告した。アスピリンまたはクロピドグレル単剤服用の脳梗塞再発高リスク例が対象 CSPS.com試験の対象は、非心原性脳梗塞発症から8~180日以内で、アスピリンまたはクロピドグレル単剤を服用していた、脳梗塞再発高リスク例である。「再発高リスク」は、「頭蓋内主幹動脈、あるいは頭蓋外動脈に50%以上の狭窄」または「2つ以上の虚血性イベント危険因子」を有する場合とされた。なお、心不全や狭心症、血小板減少症を認める例などは除外されている。 これらは、アスピリン単剤(81または100mg/日)あるいはクロピドグレル単剤(50または75mg/日)を服用する単剤群と、それらにシロスタゾールを加えた併用群にランダム化され、盲検化されず追跡された。当初は4,000例を登録する予定だったが、アスピリンまたはクロピドグレルへのシロスタゾール併用群の有用性が明らかになったため早期中止となり、「単剤」群:947例と「併用」群:932例の比較となった。 平均年齢は70歳。全例日本人で、女性が約30%を占めた。高血圧合併例が85%近くを占めたが、血圧は「135mmHg強/80mmHg弱」にコントロールされていた。また、5%強に虚血性心疾患の既往を認め、30%弱が喫煙者だった。 再発高リスクの内訳は、頭蓋内主幹動脈狭窄が30%弱、頭蓋外動脈狭窄が15%弱となっていた。シロスタゾール併用群では脳梗塞再発率が有意に低下 19ヵ月(中央値)の追跡期間中、1次評価項目である「脳梗塞再発率」は、アスピリンまたはクロピドグレルへのシロスタゾール併用群で2.2%/年であり、単剤群の4.5%/年よりも有意に低値となった(ハザード比[HR]:0.49、95%信頼区間[CI]:0.31~0.76、ITT解析)。脳梗塞に、症状が24時間継続しなかった一過性脳虚血発作(TIA)を加えても同様で、併用群におけるHRは0.50の有意な低値だった(95%CI:0.33~0.76)。 一方、「脳出血の発生率」は併用群で0.4%、単剤群は0.5%で、リスクに有意差はなかった(HR:0.77、95%CI:0.24~2.42)。 また解析した16のサブグループのいずれにおいても、アスピリンまたはクロピドグレルへのシロスタゾール併用に伴う「脳梗塞再発減少」は一貫していた。 一方、安全性評価項目の1つであるGUSTO基準の「重大・生命を脅かす出血発生率」は、併用群が0.6%/年、単剤群で0.9%/年となり、有意差は認められなかった(HR:0.66、95%CI:0.27~1.60)。頭蓋内出血も同様で、有意差はなかった(併用群:0.6%/年vs.単剤群:0.9%/年、HR:0.66、95%CI:0.27~1.60)。  「有害事象発現率」は、アスピリンまたはクロピドグレルへのシロスタゾール併用群で有意に高かった(27.4% vs.23.1%、p=0.038)。とくに心臓関係の有害事象で、増加が著明だった(8.4% vs.1.8%。p<0.001)。 一方「重篤な有害事象」に限れば、発現率は併用群のほうが低かった(9.3% vs.15.0%、p<0.001)。大きな差を認めたのは、神経系(4.7% vs.8.3%、p=0.002)と消化器系0.2% vs.1.2%、p=0.022)である。 なお併用群ではおよそ5分の1が、試験開始半年以内に試験薬服用を中止していた。主な理由は頭痛と頻脈だった。 本試験は、循環器病研究振興財団と大塚製薬株式会社の資金提供を受けて行われた。(医学レポーター/J-CLEAR会員 宇津 貴史(Takashi Utsu))「ISC 2019 速報」ページへのリンクはこちら【J-CLEAR(臨床研究適正評価教育機構)とは】J-CLEAR(臨床研究適正評価教育機構)は、臨床研究を適正に評価するために、必要な啓発・教育活動を行い、わが国の臨床研究の健全な発展に寄与することを目指しています。

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電子タバコは禁煙に役に立つか?(解説:桑島巖氏)-1003

 最近は、タバコの代わりに電子タバコを使っているという人が多くなっている。禁煙の手法として、ニコチンの量を徐々に減らす「ニコチン代替療法」と電子タバコで禁煙を目指すという2つの方法がある。 本研究はどちらの方法が1年後の禁煙率が高いかをランダム化試験で比較した論文である。 このコメントの読者である多くの医療関係者は非喫煙者が多いと思われるので、少し電子タバコについての予備知識が必要であろう。 普通のタバコは、煙を吸うのに対して、電子タバコは水蒸気を吸い込むという点が大きな違いである。したがって普通のタバコは、タバコの葉を燃やすことで生じる臭いや有害物質を発生する。 一方電子タバコはタバコの葉を使用せずに、e-リキッドといわれる液体を電力で熱することで生じる水蒸気を吸い込み、その臭いを自分の好みに合わせて楽しむことができるのが売りである。 電子タバコといってもすべてが完全にニコチン・フリーではなく、少量のニコチンを含有しているものもあり、本研究で用いられた電子タバコには18mg/mLのニコチンが含まれている。 一方ニコチン代替療法には、パッチ、ガム、スプレーなどのほか、わが国ではバレニクリン製剤(商品名:チャンピックス)という錠剤も使用されている。 さて、本研究は886名の喫煙者をニコチン代替療法群と電子タバコ群にランダマイズして、試験開始時、開始4週、52週の時点での喫煙状況とタバコの有害物質の1つである一酸化炭素の排泄量を測定した。 1次エンドポイントである1年時の禁煙率は、電子タバコ群が18%で、ニコチン代替療法群の9.9%に比して有意に高かった。この結果から禁煙には電子タバコが有用であるというのが本論文の結論であるが、しかし1年時の禁煙者といっても、電子タバコを続けていた人が80%もいたということは、はたして禁煙に成功したと言えるであろうか。電子タバコもニコチンは含まれており、完全に無害とは言えないのである。喫煙者はニコチンの血中濃度が一定に達して、主観的に満足感が得られるまで喫煙する傾向があるとされる。 一方ニコチン代替療法群で、1年後にニコチン代替療法を継続していたのは9%にすぎない。ということはある意味では禁煙できた人が多いという解釈もできるのである。 さらに喉や口腔の炎症などの副作用は電子タバコ群のほうが高率に認められたというから、電子タバコ自体が咽頭に対して刺激性を有しているのであろう。 またとくに注目すべきは、本研究の両群とも被検者の約75%が過去にニコチン代替療法を経験した症例である。つまり何度も禁煙療法を繰り返すリピーターであることから、本当に禁煙が達成できたかどうかはもう少し長いスパンで観察しなければならないのであろう。 いずれにしろ電子タバコの安全性は確立されていない。 最後に日本呼吸器学会から、下記のような声明を紹介する。1. 非燃焼・加熱式タバコや電子タバコの使用は健康に悪影響をもたらす可能性がある。2. 非燃焼・加熱式タバコや電子タバコの使用者が呼出したエアロゾルは周囲に拡散するため、受動喫煙による健康被害が生じる可能性がある。従来の燃焼式タバコと同様に、すべての飲食店やバーを含む公共の場所、公共交通機関での使用は認められない。

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