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第12回 オッズ比は、なぜ臨床研究で使われるのか?前回はリスク比とオッズ比の違いについてご説明しました。リスク比は臨床ですぐに役立ちそうですが、オッズ比はリスク比と比べるとあまり臨床では使い道がないように思われたかもしれません。しかし、実際の臨床研究の論文では、オッズ比はよく使われています。このように理解しにくいオッズ比が、なぜ臨床研究で使われているのか。今回は、オッズ比から何がわかるのかについて解説します。■コホート研究・ケースコントロール研究とは臨床研究でオッズ比は、どのように使われるのでしょうか?代表的な臨床研究として、「コホート研究」と「ケースコントロール(症例対照)研究」がありますが、後者の研究で集めたデータを解析する場合、以下で説明するようにリスク比は使うことができません。そこでオッズ比が使われます。はじめに「コホート研究」と「ケースコントロール研究」とは何かを解説します。臨床研究は「前向き」か「後ろ向き」かで分けることができ、コホート研究は「前向きの研究」、ケースコントロール研究は「後ろ向きの研究」とされています。たとえば、高血圧症患者さんの喫煙の有無と脳卒中発症の有無の関連性を調べたいとします。●コホート研究高血圧症で脳卒中がない人をランダムに1,000人抽出し、今までに喫煙していたかどうかを調査し、その後の5年間において、喫煙の有無別に脳卒中を発症したかを追跡調査します。調査開始時点では脳卒中は発症しておらず、それから5年後(未来)に脳卒中の発症を調べます。このような研究をコホート研究といいます。この研究は5年後の未来へ向かって調べる研究であるので「前向き」の研究といいます。●ケースコントロール研究高血圧症で脳卒中を発症した患者さん1,000人とランダムに選んだ脳卒中を発症していない高血圧症患者さん1,000人について、過去の喫煙の有無を調査します。すでに脳卒中を発症している高血圧症患者さんと発症していない高血圧症患者さんがいて、その時点から過去にさかのぼって喫煙をしていたかどうかを調べます。このような研究をケースコントロール研究といいます。この研究は過去へ向かって調べる研究であるため「後ろ向き」の研究といいます。この2つの研究の違いを、原因と結果という因果関係からみてみましょう。上記の例では、喫煙の有無が原因で脳卒中発症が結果です。コホート研究は、未来の結果(脳卒中発症有無)を調べる研究であり、ケースコントロール研究は過去の原因(喫煙の有無)を調べる研究となります。それでは、ケースコントロール研究で集めたデータを解析する場合、リスク比を使うことはできないが、オッズ比であれば使うことができるということについて解説します。■ケースコントロール研究ではオッズ比が使われる!表のデータを、ケースコントロール研究(後ろ向き研究)で集めたデータということにします。表 脳卒中と喫煙の関係におけるケースコントロール研究の事例この表から、喫煙者が脳卒中を発症するリスクは77%です。この数値から一般的に「高血圧症患者さんで喫煙する人は脳卒中を発症するリスクが約8割もいる」と言ってもよいでしょうか。この事例は、ケースコントロール研究で集めたデータという設定です。ケースコントロール研究で、喫煙が脳卒中発症の要因になっているかどうかを検討するには、まず「ケース」として、脳卒中が発症したと診断された人のデータを収集し、その一人ひとりのカルテや、本人・ご家族に聞き取り調査などを行い、喫煙していたかどうかを調べます。また、「コントロール」として、脳卒中を発症していない人を必要な人数集めて、その人たちが喫煙をしていたかどうかを調べます。つまり、入手可能なデータは、「高血圧症患者さんで脳卒中を発症した人の何%が喫煙していたか」と「高血圧症患者さんで脳卒中を発症していない人の何%が喫煙していたか」のデータとなります。ですから、ケースコントロール研究からは、「リスク比を算出するときの割り算の分子となる『喫煙者の何%が脳卒中を発症したのか』」と「リスク比を算出するときの割り算の分母となる『非喫煙者の何%が脳卒中を発症したのか』」のどちらのデータも入手することはできません。表の事例は脳卒中発症と診断された1,000人とランダムに選んだ脳卒中を発症していない高血圧症患者さん1,000人について、過去の喫煙の有無を調査したものです。したがって、全対象者における脳卒中発症のリスクは1,000÷2,000の50%で、調査対象者のサンプリング(抽出)に依存します。サンプリングに依存しているリスクを用いてリスク比を計算するのは、大きな間違いとなります。こうした理由から、ケースコントロール研究の場合は、オッズ比を用いて、影響要因であるかどうかが判断できるのです。事例のデータの場合、オッズ比が1.0よりも大きいので、高血圧症患者さんにおける脳卒中発症は喫煙の有無が影響要因であるということがわかります。しかし、「オッズ比から、喫煙者が脳卒中を発症するリスクは非喫煙者に比べ4.0倍である」と解釈してはいけないというのは繰り返し述べているところです。余談ですが、ある疾病の発症頻度が非常にまれな場合は、リスク比はオッズ比で近似できるとされています。■さらに学習を進めたい人にお薦めのコンテンツ「わかる統計教室」第2回 リスク比(相対危険度)とオッズ比セクション2 よくあるオッズ比の間違った解釈第4回 ギモンを解決!一問一答質問5 リスク比(相対危険度)とオッズ比の違いは?(その1)質問5 リスク比(相対危険度)とオッズ比の違いは?(その2)