サイト内検索|page:23

検索結果 合計:1587件 表示位置:441 - 460

441.

FGM導入で患者も主治医もWin-Win【令和時代の糖尿病診療】第3回

第3回 FGM導入で患者も主治医もWin-Win令和時代の糖尿病診療として、今回は薬剤ではなく、器機の面から考えてみる。糖尿病は生活習慣病の代表選手でもあり、治療の根源は食事や運動など生活習慣の改善にあるが、そもそも「生活習慣病とは何ぞや?」というと、「食習慣、運動習慣、休養、喫煙、飲酒などの生活習慣が、その発症・進行に関与する疾患群」と定義される。裏を返せば、生活習慣を改善すれば良くなる見込みのある疾患であり、今回取り上げるFGM(Flash Glucose Monitoring)は、血糖値を連続的に「見える化」することにより、生活習慣の改善をサポートできる画期的な器機だ。従来の血糖自己測定(Self-Monitoring of Blood Glucose、以下SMBGと略す)は、穿刺針で指先から採血しその時点の血糖値を測定するものだが、FGMとは、上腕後部に着けたセンサーに服の上からリーダー(読取機)をかざすだけで、瞬時に血糖値を確認できるものである。正確には、FGMは血糖値ではなく間質液のグルコース濃度を測っているのだが、補正のために自己穿刺して血糖測定をする必要もないので、極めてシンプルに血糖管理ができる。センサーは最長14日間、自動的に毎分測定し記録し続ける(なお、最長8時間おきのスキャンが必要)ので、リーダーをかざした瞬間だけでなく、経時的な血糖推移も簡単に知ることができる。すなわち点が線になるのだ。図1:血糖グラフは「点」から「線」へ画像を拡大するこのメカニズムをご存じの方は、「CGM(Continuous Glucose Monitoring)との違いは?」という疑問にぶつかるかと思う。一言で表すならば、FGMはCGMの一種であり、間欠式スキャンCGM(intermittently scanned CGM:is-CGM)とも呼ばれる。リーダーをセンサーにかざした“瞬間”の皮下グルコース値を読み取る点から、“Flash”と名付けられた。患者が意図してセンサーにリーダーをかざすことで、現在から後ろ向きにグルコース値を認識する(一般的に、5~10分遅れて血液中のグルコース濃度が反映するとされる)。なお、CGMの中でもリアルタイムCGMはbluetoothで接続されるため、リーダーをかざす必要はない。FGM器機は、2017年に発売後まもなく保険適用され、さらに進化して2020年2月にはスマートフォンでも血糖値スキャンができるようになった。ここまで読んでいただき、少しでも興味を持っていただけたであろうか。「この手の器機は所詮専門医が使用するマニアックなもの」と決めつけてはいないだろうか? しかし、答えは「No」で、保険上では「糖尿病の治療に関し、専門の知識および5年以上の経験を有する常勤の医師または当該専門の医師の指導の下で糖尿病の治療を実施する医師が、間欠スキャン式持続血糖測定器を使用して血糖管理を行った場合に算定する」とある。対象は「強化インスリン療法を行っているもの、または強化インスリン療法を行った後に混合型インスリン製剤を1日2回以上使用しているもの」とされ、1型糖尿病でも2型糖尿病でも適応可能となっている。これにより、SMBGを行っているならばFGMを使用できない施設はほとんどないと言っていいのではないだろうか?FGMを装着後、劇的に血糖コントロールが改善した2例前置きはこのくらいにして、臨床現場での実例を見てみよう。まずは、小児発症の1型糖尿病で罹病歴27年の女性である。SMBGをきちんと行っているものの、HbA1cは7%台後半で変わらない状況であった。3年ほど前にFGMを装着したところ、インスリンを増量することもなくみるみるHbA1cが6%台後半まで下がり、なおかつ低血糖の頻度も減り非常に安定した。「子供のときは毎回針で指を刺して血を出すのが本当に痛くて嫌だったが、これ(FGM)になってからはいつでもどこでも測れるし、何よりも痛くない。時代は変わったなあ!」と、しみじみとご本人から語られたときは目頭が熱くなった。このときの言葉は今でも忘れられない。次に、2型糖尿病で強化インスリン療法を行っている60代女性のHbA1cを示す。図2:2型糖尿病:罹病歴21年(合併症:神経障害馬場分類1度[軽度]・網膜症[右A0:左A1」・腎症第1期)画像を拡大するどこからFGMが開始になったかは疑う余地もなかろう。これだけ劇的に下がったのは、薬剤を変えたわけでもインスリン量を増やしたわけでもなく、FGMを装着しただけである。患者は以前からSMBGを行っていたがさぼりがちで、測定結果も診察時には「忘れた」と言って持って来ないことが多々あった。そんな方が、スマホ対応のFGMを着けてからは多い時で1日に40回以上も測定したのである。最初は「先生に血糖値がすべてばれてしまう」と少し困惑気味だったが、聞くとゲーム感覚で楽しんでいるようで、どのようなものを食べると血糖値が高くなるとか、よく運動をすると血糖値がうそのように下がるなどとうれしそうに話してくれた。血糖変動が手に取るようにわかることで、行動変容が生まれたケースである。今後は薬剤の減量を検討しており、これがまた患者のいい動機付けになると考えられる。我々の施設では、強化インスリン療法施行中の2型糖尿病患者について、FGM導入は血糖コントロールのみならず、身体活動や治療満足度の改善にもベネフィットをもたらしたことも報告している1)。FGMデータを読むうえで重要な「AGP」と「TIR」それでは、実際のFGMデータ(AGPレポート)を見てみよう。図3:AGPレポート画像を拡大するここで2つのキーワード、AGP(Ambulatory Glucose Profile)とTIR(Time in Range)を以下に解説するので、ぜひ覚えていただきたい。これらは、HbA1cを補完する臨床目標およびアウトカム評価指標として、2019年6月にInternational Consensusで推奨されたものである2)。CGM/FGMの測定は1回の測定期間を2週間として、その間に得られたデータの70%以上を使用して解析すること解析にはAGPの手法を用いること血糖コントロール指標として、70~180mg/dLを治療域(Target Range)とし、この範囲内の測定回数または時間をTIR、治療域より低値域をTBR(Time Below Range)、高値域をTAR(Time Above Range)と定義する糖尿病リソースガイド3)より一部引用AGPについて、日々の血糖値を連続的に見ることができるのは言うまでもないが、FGM測定データの解析に用いられているAGPレポートとは「測定期間のグルコース値の要約」で、記録した数日間にわたる血糖変動の傾向が、一つのグラフとして示される。図4:AGPレポートの読み方《AGPレポートから読み取れる内容》1)24時間の平均血糖値2)24時間の血糖変動幅(i)中央値曲線(実線):中央値曲線の上下動が大きい箇所は、1日の中で血糖変動が大きい時間帯であることを示している。(ii)25%タイル曲線~75%タイル曲線(青色帯):各時間帯で、たとえば10日間のうち5日間はこの範囲内に血糖値が入る(50%の確率)。(iii)10%タイル曲線~90%タイル曲線(水色帯):各時間帯で、たとえば10日間のうち8日間はこの範囲内に血糖値が入る(80%の確率)。3)食後血糖の平均上昇幅このようにAGPで解析すると、1日のうちで低血糖/高血糖となる可能性の高い時間帯や血糖値の変動が大きい時間帯などが視覚的に確認でき、これを活用することで、血糖変動の幅や目標範囲との差、低血糖/高血糖の可能性の有無などについて把握しやすくなる。次にTIRとは、1日のうち血糖値が目標範囲内で過ごせた時間を表したもので、異なる糖尿病患者群のそれぞれで標準的なCGMの目標値が決められている。図5:異なる糖尿病患者群におけるCGMの目標値画像を拡大するこれらの指標に基づき、2型糖尿病患者を対象にした研究では、重症度に基づく糖尿病網膜症(DR)の有病率はTIR四分位の上昇とともに減少し、DRの重症度はTIR四分位数と逆相関を示した4)、TIRは大血管合併症の代替指標である頸動脈内膜中膜肥厚度と関連した5)など多くの論文が出され、有用性が実証されている。FGMによるAGPレポートを見るメリットとして、糖尿病のさまざまな合併症を防ぐため、24時間の血糖値がどのように変動しているか、つまり「血糖トレンド」に注目することが重要とされ、それをしっかり理解できると、下記のような点に関し、患者の状態が確認しやすくなる。(1)食後高血糖(血糖値スパイク)の有無(2)夜間低血糖や暁現象の有無(3)HbA1cの値だけではわからない、「血糖コントロールの質」などさらに今後の方向性として、コロナ禍などで対面診療ができない場合でのオンライン診療なども視野に入るかと思われる。FGM導入で患者も主治医もWin-Winいろいろと利便性ばかり述べてきたが、もちろん限界もある。装着を避けるべき患者像は、血糖値に振り回され、血糖ありきで生活習慣の改善がおろそかになってしまうような患者(たとえば血糖値が高いときインスリンを多く打ち過ぎて低血糖を繰り返す、あるいは補食し過ぎて高血糖になり悪化するケースなど)や、逆にせっかく装着しても、興味がなく規定の時間内に測定しない人や血糖値を他人に見られるのを非常に嫌がる患者などには、決して無理強いするものではない(医療機関でしか測定データを確認できない器機もあるにはあるが…)。また、皮膚に直接貼付するため、かぶれやすい患者などでは着けられない場合もある。いずれにせよ、患者の適性を考慮して使用することで行動変容につながり、薬剤以上の素晴らしい効果が期待できることをぜひ体験していただきたい。これを機に、糖尿病診療にFGMを活用すべく、まずは自身から行動変容を試みてはいかがだろうか。1)Ida S, et al. J Diabetes Res. 2020 Apr 9;2020:9463648.2)Battelino T, et al. Diabetes Care. 2019;42:1593-1603.3)糖尿病リソースガイド 糖尿病治療におけるTime in Range(TIR)の重要性と血糖トレンドの活用4)Lu J, et al. Diabetes Care. 2018;41:2370-2376.5)Jingyi Lu, et.al. Diabetes Technol Ther. 2020 Feb;22:72-78.

442.

乳がん放射線治療中、デオドラントの使用を継続してよいか~メタ解析/日本癌治療学会

 デオドラント製品を日常的に使用している日本人女性は多いが、放射線治療期間中に使用を継続した場合に放射線皮膚炎への影響はあるのだろうか? 齋藤 アンネ優子氏(順天堂大学)らは、放射線治療期間中のデオドラント使用に関連する放射線皮膚炎について調査した無作為化試験のメタ解析を実施し、第59回日本癌治療学会学術集会(10月21~23日)で報告した。なお、本解析は「がん治療におけるアピアランスケアガイドライン 2021年版」のために実施された。 2020年3月までに、PubMed、医中誌、Cochrane Library、CINAHLより、デオドラント使用が放射線皮膚炎に与える影響を検討した無作為化比較試験を中心に検索がされた。評価項目は腋窩の放射線皮膚炎の重症度(Grade2以上/ Grade3以上、NCI-CTC v5.0による評価)で、金属含有デオドラントと金属非含有デオドラントを別々に評価した。メタアナリシスの効果指標はリスク比(RR)とした。 主な結果は以下のとおり。・乳がん患者を対象とした前向き比較第III相試験が5編、アンケート調査1編の計6編の論文が特定され、定性的・定量的システマティックレビューが実施された。・金属含有デオドラント使用群とデオドラント禁止群の比較では、Grade2以上の皮膚炎(RR:1.01、95%信頼区間[CI]:0.85~1.20)、Grade3以上の皮膚炎(RR:0.79、95%CI:0.22~2.84)のいずれも有意な差はみられなかった。・金属非含有デオドラント使用群とデオドラント禁止群の比較では、Grade2以上の皮膚炎(RR:0.9、95%CI:0.5~1.6)、Grade3以上の皮膚炎(RR:0.76、95%CI:0.33~1.78)のいずれも有意な差はみられなかった。・QOLの評価は2編の論文で行われた。デオドラント使用群で汗の量は有意に少なかったが、QOLについては使用群と対照群の間で有意な差はなかった。しかし、1編のアンケート調査では、習慣的にデオドラントを使用しているとした乳がん患者のうち64%は、デオドラントを使用できないことで体臭が気になったと回答していた。 皮膚炎の評価にかかわる主な交絡因子としては、喫煙、化学療法、照射範囲・線量、体型などが考えられ、デオドラントの使用方法が規定されておらず、盲検化が行われていないため、エビデンスの強さとしては「非常に弱い」とされた。また金属非含有デオドラント使用群との比較については研究数が3~4編となった一方、金属含有デオドラント使用群との比較については研究数が2編のみとなり、さらにこの2編が類似のバイアスの影響を受けていると考えられるもので、エビデンスとしてはより脆弱と考えられた。 以上より、害と益のバランスとしては、下記のように評価された:・金属非含有のデオドラントによる放射線皮膚炎の増悪は、エビデンスは弱いが、認められなかった・習慣的にデオドラントを使用している患者には益が害を上回る ガイドラインにおける推奨文としては、「放射線治療中のデオドラント使用の継続を弱く推奨する」とされた。ただし、金属含有のデオドラントについては皮膚炎への評価をした研究のエビデンスの確実性が非常に低く、注意をしながら使用を継続することが推奨される。 実臨床で質問を受けたときに医療者が提供できる情報として、齋藤氏は、習慣的に使用している場合であれば金属非含有のものを使用するのがいいのではないかという点に加え、商品としてはアルミニウムフリーと明記されて販売されていることを挙げた。また、ミョウバン入りの商品について、ミョウバン=アルミニウムということを認識していない患者さんも多いため、補足して伝えることができればよいのではないかと話した。

443.

ESMO2021レポート 肺がん

レポーター紹介2021年のESMOは、6月のASCO、8月のWCLCに続く9月開催ということもあり、肺がん領域では大きなインパクトのある発表はないと思われましたが、重要な試験のアップデート、EGFR-TKIや免疫チェックポイント阻害薬の耐性後の治療開発、希少ドライバー変異に対する新薬や、がん免疫療法の第III相試験など、新たな知見の報告が多くありました。今回はその中から、とくに実臨床や近い将来に影響すると思われる演題について概括します。WJOG9717L試験EGFR遺伝子変異陽性、未治療進行再発、非扁平上皮非小細胞肺がんを対象として、オシメルチニブを標準治療に、オシメルチニブ+ベバシズマブの優越性を評価した無作為化第II相試験である。活性型EGFR遺伝子変異タイプの割合や約2割の術後再発症例を含むなど、患者背景は同じ対象の過去の試験と同様であった。122例が登録され1:1に割り付けられた。主要評価項目は中央判定による無増悪生存期間(PFS)、副次評価項目は主治医判定のPFS、全生存期間、奏効割合が設定されている。第1世代のEGFR-TKIであるエルロチニブにベバシズマブ(BEV)を併用することでPFS延長効果が第III相試験で示されており、オシメルチニブにBEVを併用することでPFSのさらなる延長効果に大きな期待が集まっていた試験である。BEV併用効果を示すことができなかった本試験の結果は、BEV併用群のPFS中央値22.1ヵ月、オシメルチニブ単剤群20.2ヵ月であった。生存曲線を見ると、治療開始早期から離れていたが24ヵ月あたりでほぼ重なってしまい、ハザード比0.862(95%信頼区間0.531~1.397)という結果だった。医師判定による結果も同様で、BEV併用群24.3ヵ月、オシメルチニブ単剤群17.1ヵ月であり、ハザード比0.801(95%信頼区間0.504~1.272)で差がなかった。サブ解析では、喫煙歴のある集団、del19の集団で併用群のPFSが良い傾向が認められた。奏効率は、BEV併用群82%、オシメルチニブ単剤群86%で同等であるが、Waterfall plotでは併用群は全例で縮小が認められた。しかし、血管新生阻害薬併用時に見られる腫瘍縮小の深さは見られなかった。有害事象で1つ興味深い結果があった。併用群でオシメルチニブに関連する肺臓炎発症頻度が少ないことである。オシメルチニブ単剤群18.3%、併用群3.3%であり、肺臓炎発症リスクを低減させる可能性が示唆される。この傾向は血管新生阻害薬併用の他試験でも見られている。本試験以外に、オシメルチニブにBEVを併用した試験は、T790M遺伝子変異陽性既治療症例を対象に実施された比較試験が2つあり(BOOSTER、WJOG8715L)、いずれも併用によるPFS延長効果を示すことができていない。血管新生阻害薬併用は単純ではなく、EGFR変異タイプ、胸水貯留や間質性肺炎の懸念など、使いどころを考える必要がある。DESTINY-Lung01試験HER2を標的としたADC(Antibody Drug Conjugate活性を:抗体薬物複合体)トラスツズマブ デルクステカン(商品名:エンハーツ)の第II相試験である。本試験には、標的とするHER2の免疫染色による、HER2過剰発現、またはHER2遺伝子変異を対象とした2つのコホートがある。2020年のASCOでHER2遺伝子変異陽性非小細胞肺がん42例の中間解析結果が発表されたが、今回は91例の結果が発表された。主要評価項目は独立評価による奏効割合である。観察期間中央値は13.1ヵ月、年齢中央値60歳、36.3%に脳転移を有し、変異部位はキナーゼドメインが93.4%であった。ほぼ全例が標準治療を受けた既治療例で、HER2-TKI既治療例も一部いた。解析時、15例(16.5%)が治療継続していた。CR 1.1%を含む、54.9%の奏効割合、病勢制御率は92.3%。HER2変異部位、蛋白発現や遺伝子増幅レベル、TKI既治療の有無に関係なく奏効していた。PFS中央値は8.2ヵ月、生存期間中央値は17.8ヵ月で、標準治療後の成績として有望な結果である。有害事象において特筆すべきは間質性肺疾患(ILD)である。24例(26.4%)に薬剤関連のILDが発現し、多く(75%)はGrade1/2であるが、死亡2例(2.2%)を認めた。細胞傷害性抗がん剤がリンカーで結合している薬剤のため、30%を超える消化器毒性と骨髄抑制の発現があり、50%を超える嘔気と倦怠感が最も多い減量理由であった。RET阻害薬が最近承認され、KRAS阻害薬は承認申請中であり、希少ドライバー変異に対する分子標的治療薬が臨床に届き始めた。HER2を標的にする阻害薬はなく、この試験結果から間違いなく期待される薬剤であるが、リスクベネフィットを考慮する必要がある。本研究は発表と同時にNEJM誌に掲載されている。ZENITH20試験(コホート4)HER2エクソン20挿入変異陽性、未治療の非小細胞肺がんを対象にした、経口の汎HERチロシンキナーゼ阻害薬poziotinibの第II相試験である。EGFRとHER2のエクソン20の挿入変異は、非小細胞肺がんにおいてそれぞれ約2~4%に認められ、変異全体の約10%を占めている。またエクソン20挿入変異は既存のTKIに対して耐性を示すことが知られている。HER2エクソン20挿入変異陽性非小細胞肺がんに対し有効な治療はない。本試験には7つのコホートがあり、主に既治療・未治療、EGFR・HER2のそれぞれに対する有効性を検討している。今回のコホートでは、最初の48例にpoziotinib 16mgを1日1回経口投与、以後登録される被験者には8mgが1日2回投与された。年齢中央値は60歳で肺がん試験では比較的若い。未治療48例中21例が奏効し、奏効率43.8%(95%信頼区間:29.5~58.8)であり、主要評価項目を達成した。PFS中央値は5.6ヵ月、そのうち26%の症例はPFSが12ヵ月を超えて持続していた。有害事象は、下痢(83%)、口内炎(81%)、皮疹(69%)、爪囲炎(46%)が認められ、投与中断割合88%、減量割合77%で治療中止割合は13%、と既存の第2世代EGFR-TKIと同程度であり、毒性がやや強いと思われる。治療薬がないドライバー変異に対する新規治療として有効性を示しているが、初回治療成績として臨床的に意義のある有効性とは言い難い。IMpower010試験完全切除された術後IBからIIIA期(UICC第7版)の非小細胞肺がんで、術後化学療法を最大で4サイクル受けた患者を対象に、アテゾリズマブを16サイクル投与する試験治療を経過観察と比較した第III相試験である。PD-L1(SP263)発現陽性54.6%、EGFRまたはALK遺伝子陽性例14.9%が含まれていた。無病生存期間(DFS)を主要評価項目とした中間解析の結果がすでにASCO2021で発表されており、アテゾリズマブは経過観察に比べて、再発または死亡リスクを34%低下させた(ハザード比:0.66、95%信頼区間0.50~0.88)。ASCO、WCLCでの発表に続く今回は、再発の詳細と再発後の治療についての発表で、少しずつ試験の全貌が明らかになってきている。再発率は、PD-L1 TC 1%以上でII~IIIA期の集団で、アテゾリズマブ群29.4%、経過観察群44.7%であった。PD-L1発現を問わずII~IIIA期の全集団では33.3%と43.0%、ITT集団(IB~IIIA期)では30.8%と40.8%であった。再発形式は局所または遠隔のみ、その両方と中枢神経再発別で比較しているが、2群間で大きな差はない。再発形式は、PD-L1 TC 1%以上のII~IIIA期の集団で、局所領域のみの再発はアテゾリズマブ群47.9%、経過観察群41.2%、遠隔再発のみは38.4%と39.2%、局所と遠隔再発は12.3%と16.7%、中枢神経再発のみは11.0%と11.8%だった。PD-L1発現を問わずII~IIIA期の全集団やITT集団でも、再発形式、その割合はほとんど一緒であり、2群間に大きな差はなかった。無作為化から再発までの期間は、PD-L1 TC 1%以上のII~IIIA期集団でアテゾリズマブ群のほうが経過観察群より長く、中央値がそれぞれ、アテゾリズマブ群17.6ヵ月(0.7~42.3ヵ月)、経過観察群10.9ヵ月(1.3~37.3ヵ月)であった。また、同集団の再発形式別に見た再発までの期間は、いずれもアテゾリズマブ群のほうが長かった。しかし、無作為化されたII~IIIA期の集団やITT集団では、2群間の再発までの期間中央値は差が小さかった。再発後の治療においても外科治療、放射線治療、化学療法いずれも2群ともほとんど同じ割合であり、免疫療法を受けた割合は経過観察群(35.3%)で、アテゾリズマブ群(11.0%)より多かった。アテゾリズマブ群の再発に関しては経過観察群と比べて特徴のある因子はなく、局所から脳転移などの遠隔転移まで、満遍なく制御していることでDFS延長効果を示した結果であった。また、PD-L1発現50%以上の強発現集団では、DFSのハザード比は0.43と報告されている。現在、アテゾリズマブは術後化学療法に対して承認申請を行っている。本試験の観察期間中央値が32ヵ月であり、生存曲線もテイルプラトーが見られておらず、本当の意味での術後治療の有効性を見極めるためにはもうしばらく時間が要りそうである。IMpower010試験のデータは、Lancet誌に掲載されている。PACIFIC-R Real-World Study切除不能III期非小細胞肺がんを対象として、根治的同時化学放射線療法(CRT)後にデュルバルマブ維持療法を1年間投与する治療を、プラセボと比較して検証したPACIFIC試験のリアルワールドデータである。今年のASCO2021でデュルバルマブ投与による5年生存割合40%と長期生存改善効果が報告され、切除不能III期の予後を大きく改善しているが、試験データがこの1つしかない。良好な治療成績を示したPACIFIC試験だが、プラセボ群の治療成績も良い。そのため、試験に登録された対象全体が全身状態を含め条件の良い症例であると考えられ、患者背景もさまざまな実臨床で治験と同様の成績が証明できるのか疑問があった。この試験は、PACIFICレジメンの実臨床における有効性を後ろ向きに評価した観察研究である。11ヵ国、29施設から登録された1,399例が解析対象となった。患者背景は年齢中央値66歳、StageIIIA 43.2%、扁平上皮がん35.5%、CRT同時併用は76.6%、PD-L1≧1%は72.5%であった。放射線治療終了からデュルバルマブ投与までの期間中央値は56日、デュルバルマブ投与回数中央値22回、PFS中央値は21.7ヵ月で治験成績(16.9ヵ月)より良好であった。デュルバルマブ投与完遂率47.1%、有害事象による中止率16.7%、PDによる中止率26.9%も治験と同様であった。切除不能III期非小細胞肺がんに対するCRT後のデュルバルマブ維持療法の有用性は、リアルワールドでも裏付けられた結果といえる。CASPIAN試験進展型小細胞肺がんを対象に、プラチナ+エトポシドを標準治療とし、デュルバルマブの併用、デュルバルマブ+tremelimumabの併用をそれぞれ評価した第III相試験である。主要評価項目である全生存期間の延長効果がデュルバルマブの上乗せによって示され、肺がん診療ガイドラインで推奨されている。最近、Lancet Oncology誌に掲載された2年フォローアップ解析の生存データの報告も新しい。今回の発表では、追跡期間中央値39.4ヵ月の3年生存割合のアップデート結果が示された。進展型小細胞肺がんで3年生存まで解析するのは珍しい。報告された生存に関する解析では、両群のハザード比が0.71、95%信頼区間0.60~0.86、3年生存割合が試験治療群17.6%、標準治療群5.8%という結果で、生存曲線の開きを維持しつつ、3年生存率の差が3倍になりテイルプラトーも見られた。小細胞肺がんにおいても免疫チェックポイント阻害薬の上乗せによる長期生存効果が確認できたが、非小細胞肺がんと違い、有望なバイオマーカーがなく、開発に期待したい。CheckMate-743試験切除不能進行、未治療悪性胸膜中皮腫の1次治療に対して、ニボルマブとイピリムマブ併用療法の試験治療を、標準化学療法であるペメトレキセドとシスプラチンまたはカルボプラチンと比較した第III相試験である。観察期間中央値29.7ヵ月で実施された事前指定の中間解析においてハザード比0.74(96.6%信頼区間:0.60~0.91、p=0.0020)と、ニボルマブとイピリムマブ併用療法による生存延長効果が示されているが、今回、観察期間中央値43.1ヵ月の3年長期生存結果と探索的バイオマーカーの解析結果が発表された。生存期間中央値は、ニボルマブとイピリムマブ併用群18.1ヵ月、標準治療群14.1ヵ月でハザード比0.73(95%信頼区間0.61~0.87)であった。3年生存割合は、23%と15%で、少しずつ年次生存率の差は小さくなっている。生存曲線はしっかり離れているがテイルプラトーは見え始めたような印象である。腫瘍組織のRNAシークエンスを用いてCD8A、STAT-1、LAG-3、PD-L1の4遺伝子の発現スコア、TMB、LIPI(Lung immune prognostic index、好中球/リンパ球比とLDHから算出される)と生存の関連が解析された。ニボルマブとイピリムマブ治療を受けた集団において、4遺伝子の発現スコアが高い集団で生存が良かった(21.8ヵ月vs.16.8ヵ月)。一方、化学療法群ではスコアによって生存に差がなかった。TMBやLIPIスコアに関係なく、ニボルマブとイピリムマブ群の生存が良い傾向が示された。WJOG9616L試験PD-1(L1)抗体が有効であった進行再発非小細胞肺がんに対して、ニボルマブ投与の有効性を検討した第II相試験である。主要評価項目は奏効割合、副次評価項目は無増悪生存期間、全生存期間などとなっている。標準治療を受けた既治療進行肺がんでは、前治療で奏効が得られた抗がん剤の再投与による治療は、比較的広く受け入れられている。免疫チェックポイント阻害薬(ICI)の再投与の有効性は、症例報告で散見されている程度である。対象は、CR、PRもしくは6ヵ月以上のSDの臨床的有効性が得られ、その後に増悪し、最終投与から60日以上経過している61症例で、59例で有効性が解析された。奏効割合は8.5%、無増悪生存期間中央値2.6ヵ月、全生存期間中央値は11.0ヵ月だった。診断時のPD-L1発現や前治療ICIの効果(41例がCRまたはPR)と有効性は関連性がなかった。ICI無効後のリチャレンジの有効性はない結果となったが、irAEなどで中止後の再投与とは違うと思われる。おわりに今回取り上げた演題以外にも知っていただきたい発表がたくさんありますが、臨床に反映できる内容が良いと考えて演題を選び概括させていただきました。まずはこのレポートが、多くの先生方に読んでいただき、今の臨床に役立つ内容になっていれば幸いです。

444.

EGFR変異陽性肺がん1次治療、オシメルチニブ+ベバシズマブ併用の結果は?(WJOG9717L)/ESMO2021

 未治療の進行EGFR変異陽性非扁平上皮非小細胞肺がん(Ns-NSCLC)に対して、オシメルチニブとベバシズマブの併用療法はオシメルチニブ単剤と比べて、無増悪生存(PFS)を有意に改善できなかった。静岡県立静岡がんセンターの釼持広知氏が、日本で行われた「WJOG9717L試験」の結果を、欧州臨床腫瘍学会(ESMO Congress 2021)プレジデンシャル・シンポジウムで発表した。 WJOG9717L試験は、2018年1月~9月に21医療機関で行われた第II相無作為化試験。・対象:未治療の進行EGFR変異陽性Ns-NSCLCで、Stage IIIB、IIIC、IVまたは外科的切除後再発なし、ECOG PS 0-1、有症状の脳転移がない20歳以上の患者・試験群:オシメルチニブ(80mg/日)+ベバシズマブ(15mg/kg、3週ごと)・対照群:オシメルチニブ単剤(80mg/日)・評価項目[主要評価項目]PFS(BICR評価による)[副次評価項目]PFS(治験医評価による)、全奏効率(ORR)、全生存(OS)、有害事象(AE) 主な結果は以下のとおり。・122例が登録され、1対1の割合で併用群(61例)、単剤群(61例)に割り付けられた。・追跡期間中央値30.4ヵ月時点で、PFS(BICR評価)は併用群22.1ヵ月、単剤群20.2ヵ月で有意差は認められなかった(ハザード比[HR]:0.86[60%信頼区間[CI]:0.700~1.060、95%CI:0.531~1.397]、片側p=0.213)。・ITT集団のサブグループ解析で、併用療法が喫煙歴ありの患者(あり群HR:0.481 vs.なし群同1.444)、del19の患者(del19患者のHR:0.622 vs. Leu858Arg患者の同1.246)で、有益である傾向が示された。PFS中央値は、喫煙歴あり併用群32.4ヵ月、単剤群13.6ヵ月、del19患者で併用群NE、単剤群20.3ヵ月であった。・ORRは、併用群82%(95%CI:72~92)、単剤群86%(77~96)であった。・OSは、両群ともにNEで、HR:0.970(95%CI:0.505~1.866)であった。・各群の投与期間中央値は併用群94.0週、単剤群57.6週であり、ベバシズマブは同33.4週であった。治療に関連する死亡の報告は両群ともになかった。・全Gradeの肺炎の発現頻度が、併用群3.3%に対し単剤群18.3%であった。 釼持氏は、「未治療のEGFR変異陽性Ns-NSCLC患者において、オシメルチニブ+ベバシズマブ併用療法の有効性を示すことができなかったが、喫煙歴のある患者やdel19患者の初回治療として有益である可能性と、併用療法はオシメルチニブ関連肺炎のリスクを低減する可能性が示唆された」とまとめた。

445.

重症化リスクのある外来COVID-19に対し吸入ステロイドであるブデソニドが症状回復期間を3日短縮(解説:田中希宇人氏、山口佳寿博氏)

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)ではエビデンスの乏しかった2020年初頭からサイトカインストームによる影響がいわれていたことや、COVID-19の重症例のCT所見では気管支拡張を伴うびまん性すりガラス陰影、いわゆるDAD(diffuse alveolar damage)パターンを呈していたことから実臨床ではステロイドによる加療を行っていた。2020年7月に英国から報告された大規模多施設ランダム化オープンラベル試験である『RECOVERY試験』のpreliminary reportが報告されてからCOVID-19の治療として適切にステロイド治療が使用されることとなった。『RECOVERY試験』では、デキサメタゾン6mgを10日間投与した群が標準治療群と比較して試験登録後28日での死亡率を有意に減少(21.6% vs.24.6%)させた(Horby P, et al. N Engl J Med. 2021;384:693-704. )。とくに人工呼吸管理を要した症例でデキサメタゾン投与群の死亡率が29.0%と、対照群の死亡率40.7%と比較して高い効果を認めた。ただし試験登録時に酸素を必要としなかった群では予後改善効果が認められず、実際の現場では酸素投与が必要な「中等症II」以上のCOVID-19に対して、デキサメタゾン6mgあるいは同力価のステロイド加療を行っている。 また日本感染症学会に「COVID-19肺炎初期~中期にシクレソニド吸入を使用し改善した3例」のケースシリーズが報告されたことから、吸入ステロイドであるシクレソニド(商品名:オルベスコ®)がCOVID-19の肺障害に有効である可能性が期待され、COVID-19に対する吸入ステロイドが話題となった。シクレソニドはin vitroで抗ウイルス薬であるロピナビルと同等以上のウイルス増殖防止効果を示していたことからその効果は期待されていたが、前述のケースシリーズを受けて厚生労働科学研究として本邦で行われたCOVID-19に対するシクレソニド吸入の有効性および安全性を検討した多施設共同第II相試験である『RACCO試験』でその効果は否定的という結果だった(国立国際医療研究センター 吸入ステロイド薬シクレソニドのCOVID-19を対象とした特定臨床研究結果速報について. 2020年12月23日)。本試験は90例の肺炎のない軽症COVID-19症例に対して、シクレソニド吸入群41例と対症療法群48例に割り付け肺炎の増悪率を評価した研究であるが、シクレソニド吸入群の肺炎増悪率が39%であり、対症療法群の19%と比較しリスク差0.20、リスク比2.08と有意差をもってシクレソニド吸入群の肺炎増悪率が高かったと結論付けられた。以降、無症状や軽症のCOVID-19に対するシクレソニド吸入は『新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療の手引き 第5.3版』においても推奨されていない。 その他の吸入ステロイド薬としては、本論評でも取り上げるブデソニド吸入薬(商品名:パルミコート®)のCOVID-19に対する有効性が示唆されている。英国のオックスフォードシャーで行われた多施設共同オープンラベル第II相試験『STOIC試験』では、酸素が不要で入院を必要としない軽症COVID-19症例を対象にブデソニド吸入の効果が検証された(Ramakrishnan S, et al. Lancet Respir Med. 2021;9:763-772. )。本研究ではper-protocol集団およびITT集団におけるCOVID-19による救急受診や入院、自己申告での症状の回復までの日数、解熱薬が必要な日数などが評価された。結果、ブデソニド吸入群が通常治療群と比較して有意差をもってCOVID-19関連受診を低下(per-protocol集団:1% vs.14%、ITT集団:3% vs.15%)、症状の回復までの日数の短縮(7日vs.8日)、解熱剤が必要な日数の割合の減少(27% vs.50%)を認める結果であった。 本論評で取り上げた英国のオックスフォード大学Yu氏らの論文『PRINCIPLE試験』では、65歳以上あるいは併存症のある50歳以上のCOVID-19疑いの非入院症例4,700例を対象に行われた。結果は吸入ステロイドであるブデソニド吸入の14日間の投与で回復までの期間を通常治療群と比較して2.94日短縮した、とのことであった。本研究は英国のプライマリケア施設で実施され、ブデソニド吸入群への割り付けは2020年11月27日~2021日3月31日に行われた。 4,700例の被検者は通常治療群1,988例、通常治療+ブデソニド吸入群1,073例、通常治療+その他の治療群1,639例にランダムに割り付けられた。ブデソニド吸入は800μgを1日2回吸入し、最大14日間投与するという治療で、喘息でいう高用量の吸入ステロイド用量で行われた。症状回復までの期間推定値は被検者の自己申告が採用されたが、通常治療群14.7日に対してブデソニド吸入群11.8日と2.94日の短縮効果(ハザード比1.21)を認めている。同時に評価された入院や死亡については通常治療群8.8%、ブデソニド吸入群6.8%と2ポイントの低下を認めたが、優越性閾値を満たさない結果であった。 今までの吸入ステロイドの研究では主に明らかな肺炎のない症例や外来で管理できる症例に限った報告がほとんどであり、前述の『STOIC試験』においても酸素化の保たれている症例が対照となっている。本研究ではCOVID-19の重症化リスクである高齢者や併存症を有する症例が対照となっており、高リスク群に対する効果が示されたことは大変期待できる結果であった考えることができる。ただしCOPDに対する吸入ステロイドは新型コロナウイルスが気道上皮に感染する際に必要となるACE2受容体の発現を減少させ、COVID-19の感染予防に効果を示す(Finney L, et al. J Allergy Clin Immunol. 2021;147:510-519. )ことがいわれており、本研究でもブデソニド吸入群に現喫煙者や過去喫煙者が46%含まれていることや、喘息や慢性閉塞性肺疾患(COPD)症例が9%含まれていることは差し引いて考える必要がある。そして吸入薬であり「タービュヘイラー」というデバイスを用いてブデソニドを投与する必要がある特性上、呼吸促拍している症例や人工呼吸管理がなされている症例に対してはこの治療が困難であることは言うまでもない。 また心配事として、重症度の高いCOPD症例に対する吸入ステロイドは肺炎のリスクが高まるという報告がある(Vogelmeier C, et al. N Engl J Med. 2011;364:1093-1103.、Crim C, et al. Ann Am Thorac Soc. 2015;12:27-34. )ことである。この論評で取り上げたYu氏らの論文では重篤な有害事象としてブデソニド吸入群で肋骨骨折とアルコールによる膵炎によるものの2例が有害事象として報告されており治療薬とはまったく関係ないものとされ、肺炎リスクの上昇は取り上げられていない。ただもともと吸入ステロイド薬であるブデソニドは、気管支喘息や閉塞性換気障害の程度の強いCOPDや増悪を繰り返すCOPDに使用されうる薬剤であり、ステロイドの煩雑な使用は吸入剤とはいえ呼吸器内科医としては一抹の不安は拭うことができない。 心配事の2つ目として吸入薬の適切な使用やアドヒアランスの面が挙げられる。この『PRINCIPLE試験』で用いられているブデソニド吸入は800μgを1日2回吸入、最大14日間であるが、症状の乏しいCOVID-19症例に、しかも普段吸入薬を使用していない症例に対しての治療であるので実臨床で治療薬が適切に使用できるかは考えるところがある。COVID-19症例や発熱症例に対して対面で時間をかけて吸入指導を行うことは非現実的なので、紙面やデジタルデバイスでの吸入指導を理解できる症例に治療選択肢は限られることになるであろう。 最後に本研究が評価されて吸入ステロイドであるブデソニドがコロナの治療薬として承認されたとしても、その適正使用に関しては慎重に行うべきであると考える。日本感染症学会に前述のシクレソニド吸入のケースシリーズが報告された際も、一部メディアで大々的に紹介され、一時的に本邦でもCOVID-19の症例や発熱症例に幅広く処方された期間がある。その期間に薬局からシクレソニドがなくなり、以前から喘息の治療で使用していた患者に処方ができないケースが散見されたことは、多くの呼吸器内科医が実臨床で困惑されたはずである。COVID-19の治療選択肢として検討されることは重要であるが、本来吸入ステロイドを処方すべき気管支喘息や増悪を繰り返すCOPD症例に薬剤が行き渡らないことは絶対に避けなければいけない。

446.

心血管1次予防のポリピルにアスピリンは必要か?/Lancet

 心血管疾患の1次予防において固定用量併用療法戦略は、心血管疾患、心筋梗塞、脳卒中、血行再建術および心血管死を大幅に低減する。カナダ・マックマスター大学のPhilip Joseph氏らPolypill Trialists' Collaborationが、個人被験者データのメタ解析を行い報告した。示されたベネフィットは、心血管代謝のリスク因子に関係なく一貫性が認められたという。無作為化試験において、固定用量併用療法(またはポリピル)は1次予防における心血管疾患の複合アウトカムを低減することが示されている。しかしながら、アスピリンを含むべきか否か、特異的アウトカムへの効果、および主要サブグループでの効果などは明らかになっていなかった。Lancet誌オンライン版2021年8月29日号掲載の報告。メタ解析で固定用量併用療法vs.対照を評価 研究グループは、心血管疾患の1次予防集団について固定用量併用療法戦略vs.対照戦略を検討した大規模無作為化試験(被験者1,000例以上で追跡期間2年以上)に参加した個人被験者データを用いてメタ解析を行った。2種類以上の降圧薬+スタチン(±アスピリン)の固定用量併用療法戦略と対照戦略(プラセボまたは通常ケア)を比較した試験を適格とし包含した。 主要アウトカムは、心血管死、心筋梗塞、脳卒中または動脈血行再建術のいずれかの初発までの期間とした。追加で、個別の心血管アウトカム、全死因死亡をアウトカムに包含した。 アウトカムは、固定用量併用療法戦略群のアスピリン併用有無別で層別化したグループでも評価。効果サイズは、リスク因子に基づく規定サブグループで算出し、Kaplan-Meier生存曲線およびCox比例ハザード回帰モデルを用いて戦略を比較した。アスピリン有無問わず、個別・複合アウトカムが有意に低減 解析には3つの大規模無作為化試験(IPS-3、HOPE-3、PolyIran)が包含され、総計被験者数は1万8,162例であった。平均年齢は63.0歳(SD 7.1)、9,038例(49.8%)が女性であり、集団の推定10年心血管疾患リスクは17.7%(SD 8.7)であった。 追跡期間中央値5年において、主要アウトカムの発生は、固定用量併用療法戦略群276例(3.0%)、対照群445例(4.9%)だった(ハザード比[HR]:0.62、95%信頼区間[CI]:0.53~0.73、p<0.0001)。主要アウトカムの個別アウトカムについても低減が認められ、HR(95%CI)は心筋梗塞0.52(0.38~0.70)、血行再建術0.54(0.36~0.80)、脳卒中0.59(0.45~0.78)、心血管死0.65(0.52~0.81)であった。 主要アウトカムおよびその個別アウトカムの有意な低減は、アスピリンの有無を問わず固定用量併用療法戦略群の解析で観察されたが、アスピリンを含む戦略群でより低減効果は大きかった。 治療効果は、脂質値や血圧値が異なっていても、また糖尿病、喫煙、肥満の有無を問わず同等であった。 まれではあったが消化官出血の発現頻度が、アスピリンを有する固定用量併用療法戦略群で対照群よりもわずかに高かった(19例[0.4%]vs.11例[0.2%]、p=0.15)。出血性脳卒中(10例[0.2%]vs.15例[0.3%])、致死的出血(2例[<0.1%]vs.4例[0.1%])、消化性潰瘍疾患(32例[0.7%]vs.34例[0.8%])の頻度は固定用量併用療法戦略群で低く、サブグループにおいて両群間に有意差はなかった。めまいの発現頻度が固定用量併用療法戦略群で、有意に高かった(1,060例[11.7%]vs.834例[9.2%]、p<0.0001)。

447.

うつ状態の変化が喫煙量に及ぼす影響

 韓国の喫煙率は、この10年間さまざまな喫煙コントロール政策が行われてきたにもかかわらず、わずか3%しか減少していない。そのため、喫煙者の心理学的特徴を考慮した政策を考える必要がある。一方、禁煙が失敗する要因として、うつ病との関連が示唆されている。韓国・延世大学校のSoo Hyun Kang氏らは、喫煙者のうつ状態の変化が1日の喫煙量(DCA)に及ぼす影響について、調査を行った。BMC Public Health誌2021年7月3日号の報告。 Korea Welfare Panel Study(KoWePS)のウェーブ3(2008年)~13(2018年)より抽出したサンプルを用いて検討を行った。調査時に1日で喫煙した紙巻きタバコの本数をDCAと定義した。うつ状態の評価には、うつ病自己評価尺度(CESD-11)を用いた。うつ症状の変化がDCAに及ぼす影響を評価するため、一般化推定方程式を用いた。うつ状態の変化により「NO→NO」群、「NO→YES」群、「YES→NO」群、「YES→YES」群に分類し評価した。 主な結果は以下のとおり。・2008年のベースライン時のサンプル数は、1,821人(男性:1,645人、女性:176人)であった。・男性において「YES→NO」群は、「NO→NO」群と比較し、DCAの有意な低下が認められた唯一の群であった(β:-0.631、p=0.0248)。・19歳以前に喫煙を開始した男性において「YES→NO」群は、「NO→NO」群と比較し、DCAの有意な低下が認められた(β:-0.881、p=0.0089)。 著者らは「うつ状態から非うつ状態への変化および非うつ状態からうつ状態への変化は、男性のDCA減少および増加とそれぞれ関連していた。19歳以前に喫煙を開始した喫煙者の場合、うつ状態から非うつ状態へ変化した群では、一般喫煙者と比較し、DCAが非常に低かった。禁煙プログラムに参加した人の治療において、カウンセラーはうつ症状を確認し、うつ病治療を併せて行うことを推奨する必要がある」としている。

448.

COVID-19重症化リスク因子ごとの致死率、年代別では?/厚労省アドバイザリーボード

 COVID-19の重症化リスク因子ごとの致死率についてHER-SYSデータを集計し年代別に解析したところ、どの年代でも慢性腎臓病が独立したリスク因子として示された。8月25日に開催された「第49回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード」(厚生労働省に対し、新型コロナウイルス感染症対策推進に必要となる医療・公衆衛生分野の専門的・技術的な助言を行うもの)の資料として報告された。 本結果は、COVID-19重症化リスク因子(慢性閉塞性肺疾患、糖尿病、脂質異常症、高血圧症、慢性腎臓病、悪性腫瘍、肥満、喫煙、免疫抑制)を保有するCOVID-19患者の致死率について、2021年4月1日~6月30日(発生届ベース)のHER-SYSデータを集計し、年齢階級別(65歳以上、50~64歳、40~49歳)に解析したもの。<65歳以上>・各リスク因子の非保有者/保有者における致死率は、慢性閉塞性肺疾患で5.63%/13.4%、糖尿病で5.47%/8.15%、脂質異常症で5.78%/5.99%、高血圧症で5.42%/7.03%、慢性腎臓病で5.30%/18.0%、悪性腫瘍で5.40%/11.8%、肥満で5.69%/7.69%、喫煙で5.53%/6.93%、免疫抑制で6.64%/14.4%であった。 ・年齢・性別・各リスク因子を加えた多変量解析(ロジスティック回帰分析)で独立したリスク因子として示されたのは、加齢(1歳ごとのオッズ比OR:1.099、95%信頼区間[CI]:1.088~1.109)、男性(女性と比較したOR:1.767、95%CI:1.487~2.100)、糖尿病(OR:1.33、95%CI:1.070~1.653)、慢性腎臓病(OR:2.239、95%CI:1.669~3.004)、悪性腫瘍(OR:1.569、95%CI:1.183~2.079)、喫煙(OR:1.401、95%CI:1.059~1.853)、免疫抑制(OR:2.125、95%CI:1.511~2.990)だった。<50~64歳>・各リスク因子の非保有者/保有者における致死率は、慢性閉塞性肺疾患で0.33%/3.56%、糖尿病で0.29%/1.16%、脂質異常症で0.35%/0.53%、高血圧症で0.33%/0.66%、慢性腎臓病で0.31%/6.59%、悪性腫瘍で0.33%/2.28%、肥満で0.32%/1.35%、喫煙で0.36%/0.55%、免疫抑制で0.44%/2.07%だった。・多変量解析で独立したリスク因子として示されたのは、加齢(1歳ごとのOR:1.133、95%CI:1.062~1.210)、男性(女性と比較したOR:3.445、95%CI:1.756~6.761)、糖尿病(OR:3.545、95%CI:1.718~7.312)、慢性腎臓病(OR:12.167、95%CI:4.932~30.02)、悪性腫瘍(OR:4.550、95%CI:1.562~13.26)、肥満(OR:3.596、95%CI:1.376~9.399)だった。<40~49歳>・各リスク因子の非保有者/保有者における致死率は、慢性閉塞性肺疾患で0.08%/0%、糖尿病で0.07% /0.65%、脂質異常症で0.08%/0.28%、高血圧症で0.06%/0.57%、慢性腎臓病で0.07%/1.42%、悪性腫瘍で0.08%/0.47%、肥満で0.06%/0.84%、喫煙で0.08%/0.10%、免疫抑制で0.14%/0%だった。・多変量解析では、慢性腎臓病(OR:44.739、95%CI:7.817~256.06)が独立したリスク因子だった。

449.

第73回 中外製薬ロナプリーブ記者説明会で気になった「確保量」「デリバリー」「高齢者優先」

抗体カクテルに過大な期待かける菅首相こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。週末は、渋谷のPARCO劇場に、宮藤 官九郎作・演出の「愛が世界を救います(ただし屁が出ます)」を観に行きました。劇場内はマスク着用で私語禁止というなかなかに厳しい環境でしたが、相変わらずの、くだらなくて笑い満載の芝居(クドカンによればロックオペラだそうです)を楽しんできました。もっとも、底に流れるテーマは、分断と多様性で、過激な笑いとともに提示されるクドカンのメッセージには考えさせられるものがありました。劇場の斜向かいは、「予約なしワクチン接種」で話題となった渋谷区立勤労福祉会館で接種初日だったのですが、観劇後は既に大混乱は収まっていました。それにしても、ワクチン接種を高齢者優先にしたことは最善だったのでしょうか。検証し直す必要もありそうです。さて、今回は菅 義偉首相が治療法の切り札として過大とも言える期待をかける抗体カクテル療法、中外製薬のロナプリーブについて考えてみたいと思います。ロナプリーブ投与可能場所がどんどん拡大菅首相は8月17日、緊急事態宣言とまん延防止等重点措置の対象県拡大を説明する記者会見で、抗体カクテル療法について「重症化リスクを7割も減らすことができる画期的な薬です。政府としては、十分な量を確保しており、今後、病院のみならず、療養するホテルなどでも投薬できるよう、自治体と協力を進めていく方針」と述べ、投与可能場所の拡大を大きくアピールしました。翌18日には、宿泊療養施設・入院待機施設での投与を認める事務連絡が発出されています。その1週間後、8月25日の記者会見でも菅首相は、「新たな中和抗体薬は、重症化を防止する高い効果があります。既に1,400の医療機関で1万人に投与しています。これまで入院患者のみを対象にしていましたが、多くの人に使いやすくなるよう、外来で使うことも可能とし、幅広く重症化を防いでいきます」と述べ、同日、今度は一定の条件を満たした医療機関において、外来診療による日帰りでの投与も認める事務連絡を発出しました。7月の承認段階では入院患者限定でしたが、投与可能な施設がどんどん広がっていったわけです。軽症や中等症の自宅療養の患者が激増する中、発症前〜中等症Iに有効とされるこの薬に過大な期待をかけざるを得ない、菅首相と政府の苦しい事情が透けて見えます。外来にまで拡大された日の翌日、8月26日に中外製薬がロナプリーブに関するメディア等向け説明会を電話会議形式で開きました。発症7日以内の軽症、中等症1で重症化リスク因子を持つ人対象抗体カクテル療法は、2種類の抗体を混ぜ合わせて投与することで、新型コロナウイルスの働きを抑える薬剤です。アメリカのトランプ前大統領の治療にも使われ(「第27回 トランプ大統領に抗体カクテル投与 その意味と懸念」参照)、去年11月に米食品医薬品局(FDA)が緊急使用を許可しました。ちなみにこの緊急使用許可は改定され、この8月から抗体カクテルは濃厚接触者等、コロナウイルスに曝露した一部の未発症の人にも使用できるようになっています。日本では、開発した米国のバイオテクノロジー企業、リジェネロン・ファーマシューティカルズ社と契約したロシュ社とライセンス契約を結んだ中外製薬が承認申請を行い、厚生労働省が7月19日に特例承認をしています。添付文書の効能・効果には、「臨床試験における主な投与経験を踏まえ、SARS-CoV-2による感染症の重症化リスク因子を有し、酸素投与を要しない患者を対象に投与を行うこと」とされています。また、「用法・用量に関連する注意」には「臨床試験において、症状発現から8日目以降に投与を開始した患者における有効性を裏付けるデータは得られていない」と書かれています。つまり、発症から7日以内の軽症・中等症Iの患者で重症化リスク因子を持つ人が対象ということになります。なお、承認時の評価資料などによれば、これまでに報告されている有効性は、入院および重症化・死亡の抑制(70%以上)、 症状改善までの期間短縮(約4日)、ウイルス量の減少(高ウイルス群で抑制効果)などとなっています。濃厚接触者への適応拡大や皮下注射も検討中と中外製薬26日の中外製薬のメディア等向け説明会では、奥田 修代表取締役社長が出席し、「デルタ株がまん延し、治療薬の需要が世界的に高まっているが、日本政府からの要請に応じて、必要な供給量を確保したい」と述べ、政府が容認した外来診療での投与に対応するためにも必要な量を確保する考えを示しました。また、今後は米国で認められている濃厚接触者に対する予防的投与について適応拡大として申請する方向で国と協議していることや、点滴に限定して認められている投与方法について皮下注射でも使えるよう申請を検討する考えも示しました。さらに、同社は米アテア社が創製し、ロシュ社と共同開発した経口タイプのRNAポリメラーゼ阻害薬「AT-527」も軽症から中等症の患者を対象に国内で最終段階の治験を進めており、2022年に申請予定であることも明らかにしました。ロナプリーブの日本の確保量は本当に十分なのか?説明会に同席し、新型コロナ感染症の現状とロナプリーブについて説明した東邦大学医学部の舘田 一博教授は「ロナプリーブが承認され、その有効性が確認されてきている。臨床の先生方から、本当に多くの期待が寄せられてきている。外来投与ができるようになり、自宅などで経過を観察しなければならないような、まさに使ってほしい人たちに投与できるのは大きい」と述べ、説明会は全体として新型コロナウイルス感染症の今後の治療に期待を抱かせる内容でした。しかし、気になった点もいくつかありました。一つはロナプリーブの確保量です。2021年5月に中外製薬がロナプリーブの2021年分確保について日本政府と合意した際、「年内20万人分、当面7万人分」という報道がありました。その後、7月の承認の際や、菅首相の記者会見の際などに確保量についての質問が度々行われてきたのですが、明確な数字は公表されていません。この日も奥田社長は「具体的な数字は政府との契約上明かすことはできない。政府と連携しながら、必要な供給量をロシュ社から確保するため努力している」と述べるにとどまりました。なお、8月17日の記者会見で菅首相は確保量について質問を受けた際、具体的な数字は示さず、「政府としては十分な量を確保しています。これは私が指示して確保しています」と述べています。「私が」とわざわざ強調している点が気になります。投与場所を拡大し、軽症、中等症Iに広く使えるようにしたのに、途中で“弾切れ”になったのでは、首相のメンツは丸つぶれです。誰も“十分な量”の具体的な数字を明かさない、明かせないのは、国(首相)が過度な要求をし、中外製薬が供給元のロシュとタフな交渉をしているからかもしれません。年内20万人分という数字は今の感染状況を考えると、いかにも足りない気がします。抗体カクテル療法の普及・定着がある程度進んだ段階で、ワクチンのように「足りません」という事態にならなければいいのですが…。対象患者はロナプリーブまで辿りつけるか?もう一つ気になったのは、本当に必要とする患者に、タイムリーに抗体カクテル療法が提供されるのか、というデリバリーの問題です。適応は発症7日以内の軽症、中等症Iの患者ですが、現在、この状態の患者の多くが自宅療養を余儀なくされ、コロナを治療する医療機関にアクセスできない状況です。重症化リスクのある人に、悪化する前、あるいは発症7日を過ぎる前に、ロナプリーブを点滴静注できる医療機関や施設の早急の整備が求められます。しかし、現実には、自宅待機が長引き、入院した段階では発症1週間が過ぎてしまっている人が少なくありません。ロナプリーブにはアナフィラキシーの報告もあり、厚生労働省は投与施設に24時間健康観察を十分にできる体制を確保するよう求めています。病院のベッドが中等症、重症で埋まっている現状では、宿泊療養施設・入院待機施設などで対応するしかありませんが、この人材不足のなか、24時間体制の構築は難しいところです。今回の説明会で舘田教授は「ロナプリーブ・ステーションのような施設も必要だ」と話していましたが、ロナプリーブを本当に効果的に使うには、“野戦病院”的施設の検討に加え、軽症者治療に特化した治療ステーションの整備も必要でしょう。ワクチン同様、結局は高齢者優先になってしまうのでは?最後に、もう1点気になったのは、投与対象に「発症7日以内の軽症、中等症Iで重症化リスク因子を持つ人」と、「重症化リスク因子」が入っている点です。単純に考えれば、重症化リスク因子のあるなしにかかわらず、軽症、中等症Iに打ってしまえばいいわけですが(濃厚接触者への適応拡大も検討中ですし)、そうはできないのは、確保量や投与場所、そして費用の問題があるからでしょう。重症化リスク因子は、65歳以上、悪性腫瘍、COPD、慢性腎臓病、2型糖尿病、高血圧、脂質異常症、肥満(BMI 30以上)、喫煙などとなっています。そうすると、結局、ワクチン接種と同様、高齢者が優先されるケースが多くなり、若者はまた後回しにされる状況が起きてくるかもしれません。デルタ株の蔓延に伴い、基礎疾患がなくても重症化する人も増えています。そうした状況の中、「ロナプリーブを打っていれば…」という人が、若年者を中心に増えていくことが懸念されます。それもこれも、「確保量」と「デリバリー」次第です。そもそも「十分な確保量」があるなら、重症化リスク因子は大目に見て、軽症者にもどんどん投与して欲しいものです。ところで、現在は国費で賄われているロナプリーブ投与ですが、仮に新型コロナが5類感染症となり、治療が保険診療になれば、自己負担は3割負担で約6万円(米国での医療費約20万円)と高額になるかもしれません。そうなった時にこの治療法が現場でどう使われるかも気になるところですが、それについてはまた機会を改めて書きたいと思います。

450.

認知刺激の強い仕事は高齢期の認知症リスクを低下させる可能性/BMJ

 認知刺激が強い労働に従事している人々は、認知刺激が弱く受動的な労働に就いている人々と比較して、高齢期の認知症のリスクが低く、中枢神経系の軸索形成やシナプス形成を阻害する血漿タンパク質のレベルが低下していることが、英国・ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンのMika Kivimaki氏らの調査で示された。研究の成果は、BMJ誌2021年8月18日号で報告された。3つの解析を行うマルチコホート研究 研究グループは、認知刺激が強い労働と、後年の認知症リスクの関連を評価し、この関連に関与するタンパク質生合成経路の特定を目的にマルチコホート研究を行った(NordForskなどの助成を受けた)。 本試験では、英国、欧州、米国のデータを用いて次の3つの解析が行われた。(1)解析1:認知刺激と認知症の関連、対象はIPD-Work consortium(individual participant data meta-analysis in working populations)による7つの人口ベースの前向きコホート研究の参加者10万7,896人、(2)解析2:認知刺激とタンパク質の関連、対象はWhitehall II試験の参加者の無作為抽出標本2,261人、(3)解析3:タンパク質と認知症の関連、対象はWhitehall II試験の参加者の無作為抽出標本とARIC(Atherosclerosis Risk in Communities)試験の参加者で合計1万3,656人。 認知刺激は、ベースライン時に能動的職務と受動的職務に関する標準的な質問票を用いて評価され、ベースラインおよびそれ以降は経時的に、仕事への曝露マトリックス指標を使用して評価された。また、Whitehall II試験の無作為抽出標本2,261人の血漿試料を用いて、4,953種のタンパク質の解析が行われた。 認知症発症者の平均追跡期間は、コホートによって13.7~30.1年の幅が認められた(全体の平均追跡期間は16.7[SD 4.9]年)。認知症発症者は、電子健康記録と臨床検査の反復で特定された。認知症の生物学的機序解明の手掛かりの可能性 認知刺激-認知症解析(解析1)に含まれた10万7,896人のベースラインの平均年齢は44.6(SD 9.5)歳で、6万2,816人(58.2%)が女性、4万5,080人(41.8%)は男性であった。2万9,243人(27.1%)が認知刺激が弱い仕事、5万724人(47.0%)が認知刺激が中等度の仕事、2万7,929人(25.9%)は認知刺激が強い仕事に従事していた。180万1,863人年の期間に、1,143人が認知症を発症した。 認知症のリスクは、強認知刺激職務従事者のほうが弱認知刺激職務従事者に比べて低く(1万人年当たりの認知症の粗発生率:強認知刺激職務群4.8件vs.弱認知刺激職務群7.3件、年齢と性別で補正したハザード比[HR]:0.77、95%信頼区間[CI]:0.65~0.92)、コホート間の異質性に有意な差は認められなかった(I2=0%、p=0.99)。 この関連は、教育や成人の認知症リスク因子(ベースラインの喫煙、大量アルコール摂取、運動不足、過緊張な仕事、肥満、高血圧、糖尿病罹患率)、認知症診断前の心代謝性疾患(糖尿病、冠動脈性心疾患、脳卒中)の補正を追加しても、頑健性が保持されていた(全補正後HR:0.82、95%CI:0.68~0.98)。 また、弱認知刺激職務群の認知症リスクは、追跡開始から10年(HR:0.60、95%CI:0.37~0.95)および10年以降(0.79、0.66~0.95)にも観察され、認知刺激の職務曝露マトリックス指標による評価でも再現された(認知刺激の1標準偏差[SD]上昇当たりのHR:0.77、95%CI:0.69~0.86)。 多重比較による解析(解析2)では、強認知刺激職務群は弱認知刺激職務群に比べ、中枢神経系の軸索形成やシナプス形成を阻害するタンパク質のレベルが低かった(slit homologue 2[SLIT2、全補正後β〔タンパク質レベルの1SD上昇当たり〕:-0.34、p<0.001]、炭水化物スルホトランスフェラーゼ12[CHSTC、全補正後β:-0.33、p<0.001]、ペプチジルグリシンαアミド化モノオキシゲナーゼ[AMD、全補正後β:-0.32、p<0.001])。 これらのタンパク質は認知症リスクの増加と関連しており、1SD当たりの全補正後HRは、SLIT2が1.16(95%CI:1.05~1.28)、CHSTCが1.13(1.00~1.27)、AMDは1.04(0.97~1.13)だった(解析3)。 著者は、「認知刺激が、軸索形成やシナプス形成を阻害し認知症のリスクを高める可能性のある血漿タンパク質レベルの低下と関連しているとの知見は、認知症の根本的な生物学的機序の解明の手掛かりとなる可能性がある」としている。

451.

第71回 コロナ感染対策はデルタ株でも一緒、では一般市民への具体的な伝え方とは?

「過去最高の××××人…」「〇曜日としては過去最高の…」のいずれかのフレーズを最近のニュースで聞くことが多くなっている。言わずもがな、新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)の発生動向に関するニュースについてだ。多くの医療関係者が現在流行の主流をなすデルタ株の登場で、「局面が変わった」と口にする。確かに基礎研究ではデルタ株の持つ免疫回避は液性免疫だけでなく細胞性免疫にもおよび、さらにウイルスの細胞への接着や膜融合力も強化されているとも報告されている。中国の研究グループが公表した査読前論文では、デルタ株感染者が体内で保持するウイルス量は、従来株感染者たちと比べ1,260倍も多いと報告されている。他人事のような言い方に聞こえてしまうかもしれないが、まさに「恐ろしいまでの最強(最凶)なウイルス」である。そして最近、一般向けメディアでこの件について書いて欲しいと言われて資料を読み返した。すでに内外で報じられているが、米国疾病予防管理センター(CDC)は、内部向け資料で「デルタ株の基本再生産数は5~9.5人で、従来株の1.5~3.5人より大幅に感染力が増し、水ぼうそうの8.5人と同等」と試算していたことを明らかにしている。まあ、端的に言うならば、この数字だけみればデルタ株の感染力は従来株の3倍程度となる。報道的には、空気感染もする水ぼうそうと同等の感染力という触れ込みは極めてキャッチ―なのだが、こういう時こそ一呼吸置くべきと個人的には思っている。そんなこんなでほかに類似データがないかをもう一度眺め渡してみた。そうした中で改めて目にしたのが厚生労働省新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボードで、「8割おじさん」のあだ名でも知られる京都大学大学院医学研究科の環境衛生学分野教授の西浦 博氏が示していた試算だ。すでに流行株の約80%がデルタ株と見積もられている8月11日現在の東京都での新型コロナ感染の伝播力(感染力)を従来株の流行時と比較している。それによると現在の伝播力は従来株流行時の1.87倍。言い換えれば、デルタ株は従来のウイルスの1.87倍、ざっくり言えば約2倍の感染力となる。こうした2つのデータを同一記事内で引用する場合、当然のことながら3倍と2倍の差は何なんだと、読者の突っ込みが入る可能性がある。この違いは単純にCDCが基本再生産数、すなわち何も対策をせずに免疫を持たない集団で起こる二次感染の規模を示すのに対し、西浦氏の試算はある時点での感染力を示す実効再生産数を使っているからである。いわば西浦氏の数字は、市中でマスクをしている人が行き交い、店舗入口に消毒薬が設置され、多くの人が三密を避け、国民の4割以上がワクチンの1回接種を終えた今現在のデータを用いたものなので、CDCの試算よりも感染力が低く出るのは、このサイトの読者ならとくに不思議とは思わないはずだ。そこまで念頭に置いた瞬間ハッとした。そう、私たちの努力次第ではデルタ株の高い感染力も一定程度は相殺することが可能なのだと。そしてこの相殺の仕方は、すでに政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会が6月時点で「変異株が出現した今、求められる行動様式に関する提言」を発表している。改めて以下に列挙する。(1)マスクを鼻にフィットさせたしっかりとした着用を徹底すること。その際には、適切な方法で着用できることを第一とした上で、感染リスクの比較的高い場面では、できればフィルター性能の高い不織布マスクを着用すること。三密のいずれも避けること。特に人と人との距離には気を付けること。(2)マスクをしっかりと着用していても、室内でおしゃべりする時間は可能な限り短くして、大声は避けること。(3)今まで以上に換気には留意すること。(4)出来る限り、テレワークを行うこと。職場においても、(1)~(3)を徹底すること。(5)体調不良時には出勤・登校をせず、必要な場合には近医を受診すること。(6)ワクチン接種後にも、国民の多くがワクチン接種を終えるまでは、マスクを着用すること。(7)ワクチン接種後にも、国民の多くがワクチン接種を終えるまでは、大人数の飲み会は控えること。(8)ワクチン接種後にも、国民の多くがワクチン接種を終えるまでは、帰省先での同窓会や大人数での会食は控えること。とくに目新しいものはない。そもそも感染力が増そうとも、感染経路は変化していないのだから当然である。むしろこれまでのことをより徹底すべしということなのだ。ところが「これまでとやることは変わらない」は多くの人が聞き飽きているフレーズなので、それを聞いただけでうんざりする人も少なくない。「今までと同じことなら、もう知っているからそれ以上わざわざ話を聞く必要はない」ということになる。ところが「もう知っている」という場合、大概自分に都合の良い覚え方をするものなので、これまで繰り返されてきた感染対策を完全に網羅して記憶しているケースは案外少なかったりするものだ。その意味では、デルタ株対策の呼びかけに関しては、やることは従来と同じでも伝え方に変化をつけなければならない時期に来ているようにも思える。デルタ株は従来株では感染が起きなかったシーンでも感染が起きていることは、もはや周知のこと。たとえば職場でちょっとマスク着用に疲れて顎マスクにした時に、隣の同僚と二言三言会話をする、喫煙所・休憩所にいてほっとしてマスクを外している時に他人と会話をするなどが、そうしたシーンに当たる。また、提言にもあるようなマスク着用時の鼻部分のワイヤー密着の甘さも死角だ。今は飲食店をなるべく利用しないほうが良いものの、利用時のオーダーでは大声で人を呼ばず軽く手を挙げるなどの対策も考えられるだろう。要は一般人の生活に根差して、うっかりしそうなシーン、今までやり続けてきたけど面倒になり手を抜き始めたシーンなどを、さりげなくだが具体的に提示して対策の徹底を求める。中身は同じでもこれまでの「三密回避」「マスク着用」「手洗い励行」のような紋切り型の教条的なものからやや目新しさを加えた情報提供で、感染収束の方向に若干でも活路が見いだせないかと考え始めている。

452.

初の軽症~中等症COVID-19の抗体カクテル療法「ロナプリーブ点滴静注セット300/1332」【下平博士のDIノート】第79回

初の軽症~中等症COVID-19の抗体カクテル療法「ロナプリーブ注射液セット300/1332」今回は、抗SARS-CoV-2モノクローナル抗体「カシリビマブ(遺伝子組み換え)/イムデビマブ(遺伝子組み換え)(商品名:ロナプリーブ注射液セット300/1332、製造販売元:中外製薬)」を紹介します。本剤は、2種類の中和抗体を組み合わせて投与する抗体カクテル療法であり、SARS-CoV-2の宿主細胞への侵入を阻害し、ウイルスの増殖を抑制すると考えられています。※本剤の販売名は、販売当初は「ロナプリーブ点滴静注セット300/1332」でしたが、2021年11月添付文書改訂による用法の変更に伴い、「ロナプリーブ注射液セット300/1332」と変更されました。<効能・効果>本剤は、SARS-CoV-2による感染症の適応で、2021年7月19日に特例承認され、7月22日に発売されました。また、SARS-CoV-2による感染症の発症抑制の適応が2021年11月5日に追加されました。なお、本剤の適用は、臨床試験における経験を踏まえ、SARS-CoV-2による感染症の重症化リスク因子を有し、酸素投与を要しない患者が対象となります。<用法・用量>通常、成人および12歳以上かつ体重40kg以上の小児には、カシリビマブ(遺伝子組み換え)およびイムデビマブ(遺伝子組み換え)としてそれぞれ600mgを併用により単回点滴静注します。また、2021年11月の適応追加と同時に、単回皮下注射の用法が追加されました。臨床試験において、症状発現から8日目以降に投与を開始した患者における有効性を裏付けるデータは得られていないため、SARS-CoV-2による感染症の症状が発現してから速やかに投与する必要があります。<安全性>重大な副作用として、アナフィラキシーを含む重篤な過敏症(頻度不明)、infusion reaction(0.2%)が現れることがあります。上記が認められた場合には、投与速度の減速、投与中断または投与中止し、アドレナリン、副腎皮質ステロイド薬、抗ヒスタミン薬を投与するなど適切な処置を行うとともに、症状が回復するまで患者の状態を十分に観察します。<患者さんへの指導例>1.本剤は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対する治療薬です。1回の点滴で2種類の中和抗体を投与し、ウイルスの増殖を抑えます。2.過去に薬剤などで重篤なアレルギー症状を起こしたことのある方は必ず事前に申し出てください。3.投与中または投与後に、発熱、悪寒、吐き気、不整脈、胸痛、脱力感、頭痛のほか、過敏症やアレルギーのような症状が現れた場合は、すぐに近くにいる医療者または医療機関に連絡してください。<Shimo's eyes>わが国ではこれまで、COVID-19治療薬としてレムデシビル(商品名:ベクルリー)、デキサメタゾン(同:デカドロン)、バリシチニブ(同:オルミエント)の3剤が承認されています。いずれも別の疾患で承認されていた薬剤が転用されたものであり、対象は重症患者に限られています。本剤は、国内で初めて軽症から中等症患者を対象とするCOVID-19治療薬です。2021年11月に「SARS-CoV-2による感染症の発症抑制」の適応が追加され、初の予防的治療薬となりました。患者との濃厚接触者や無症状陽性者に対して、静脈内投与および皮下投与で予防的に投与されます。ただし、COVID-19の予防の基本はワクチン接種であり、本剤はワクチンに置き換わるものではありません。COVID-19の原因となるSARS-CoV-2は、その表面に存在するスパイクタンパク質(Sタンパク質)が宿主細胞表面の酵素に結合することで宿主細胞に侵入し、感染に至ります。本剤は、このSタンパク質と宿主細胞表面の酵素との結合を阻害し、宿主細胞への侵入を阻害することでウイルスの増殖を抑制します。変異を繰り返すウイルスに対しては、抗体が1種類だけでは期待する効果が得られにくいことから、2種の抗体が組み合わされました(抗体カクテル療法)。本剤は、アルファ株(B.1.1.7系統)、ベータ株(B.1.351系統)、ガンマ株(P.1系統)、デルタ株(B.1.617.2系統)などのSタンパク質の主要変異にも中和活性を保持していることが示唆されています。投与対象者は「重症化リスク因子を有し、酸素投与を要しない患者(軽症~中等症I)」とされています。厚生労働省の事務連絡により、当初は入院治療を要する患者に限られましたが、2021年8月より、対象が宿泊療養中の患者にも拡大されました。なお、臨床試験において、高流量酸素や人工呼吸器管理を要する患者では症状が悪化したという報告があり、重症患者は対象ではありません。《COVID-19の重症化リスク因子》65歳以上の高齢者悪性腫瘍慢性閉塞性肺疾患(COPD)慢性腎臓病2型糖尿病高血圧脂質異常症肥満(BMI30以上)喫煙固形臓器移植後の免疫不全妊娠後期引用:新型コロナウイルス感染症 診療の手引き第5.1版より海外の第III相試験では、重症化リスク因子を有し、酸素飽和度93%(室内気)以上の患者が対象とされました。主要評価項目である入院または死亡に至った割合は、本剤群(736例)では1.0%、プラセボ群(748例)では3.2%であり、リスクが70.4%減少しました。症状消失までの期間短縮も示されています。なお、別の臨床試験では感染予防効果を示す報告もありますが、今回の適用は感染した患者への投与に限られています。薬剤調整時は、希釈前に約20分間室温に放置します。11.1mLバイアルには、2回投与分(1回5mL)の溶液が含まれ、1回分の溶液を抜き取った後のバイアルは、25℃以下の室温で最大16時間、または2~8℃で最大48時間保存可能で、最大保存期間を超えた場合は廃棄することとされています。新しいCOVID-19治療薬の登場により感染患者の重症化を防ぐことができ、ひいては医療機関の負担が軽減されることが期待されます。※2021年8月と11月、厚生労働省の情報などを基に、一部内容の修正を行いました。参考1)PMDA 添付文書 ロナプリーブ注射液セット300/ロナプリーブ注射液セット1332

453.

禁煙治療、cytisineはバレニクリンに対して非劣性示せず/JAMA

 禁煙を希望する毎日喫煙者の禁煙治療において、cytisineの25日間投与のバレニクリン84日間投与に対する非劣性は示されなかったとの試験結果が、オーストラリア・ニューサウスウェールズ大学のRyan J. Courtney氏らによって報告された。cytisineは、プラセボやニコチン代替療法よりも有効であることが示されているが、これまで禁煙治療で最も有効とされるバレニクリンとの比較検討は行われていなかった。JAMA誌2021年7月6日号掲載の報告。オーストラリアの非盲検無作為化非劣性試験 本研究は、禁煙治療におけるcytisineのバレニクリンに対する非劣性の検証を目的とする非盲検無作為化臨床試験であり、2017年11月~2019年5月の期間にオーストラリアの2つの州(ニューサウスウェールズ州、ビクトリア州)で参加者の募集が行われた(オーストラリア国立保健医療研究評議会[NHMRC]などの助成による)。 対象は、年齢18歳以上で、禁煙を試みる意思のある毎日喫煙者であった。妊婦や授乳中の女性、7ヵ月以内に妊娠の予定のある女性は除外された。参加者は、cytisineまたはバレニクリンの投与を受ける群に、無作為に割り付けられた。試験薬は参加者に郵送され、データの収集は主にコンピュータ支援の電話インタビューで行われたが、主要アウトカムの評価は対面診療で実施された。 薬剤の投与は製薬企業が推奨する用量に準拠した。cytisine群は、1~3日目に1.5mgのカプセルを2時間ごとに最大1日6回服用し、25日間で1日1~2カプセルまで徐々に減量した。禁煙は5日目に開始した。バレニクリン群は、1~3日目に0.5mgの錠剤を1錠服用し、4~7日目は2錠服用、8日目に禁煙を開始して1mg錠の1日2回服用を84日目(12週)まで継続した。全参加者に、標準的な電話による行動支援を受ける方法が紹介された。 主要アウトカムは6ヵ月間の継続的な禁煙とし、追跡期間7ヵ月の時点で6ヵ月間の継続的禁煙(6ヵ月間の喫煙タバコ本数が5本を超えない)を自己申告した参加者に対し、呼気一酸化炭素濃度測定検査(≦9ppmで禁煙と判定)を行った。非劣性マージンは5%とし、片側検定の有意水準の閾値は0.025とした。6ヵ月禁煙率:11.7% vs.13.3% 1,452例の参加者が登録され、cytisine群に725例、バレニクリン群に727例が割り付けられた。全体の平均年齢(SD)は42.9(12.7)歳で、女性が742例(51.1%)であった。このうち試験を完了したのは1,108例(76.3%)だった。 呼気一酸化炭素濃度測定検査で、6ヵ月間の継続的な禁煙が実証された参加者の割合は、cytisine群が11.7%(85/725例)、バレニクリン群は13.3%(97/727例)であり、cytisine群のバレニクリン群に対する非劣性は確証されなかった(リスク差:-1.62%、片側97.5%信頼区間[CI]:-5.02~∞、非劣性のp=0.03)。 自己申告による6ヵ月間および3ヵ月間の継続的な禁煙の達成について優越性の評価を行ったが、いずれも有意な差はみられなかった。 少なくとも1回の服薬を行った参加者(cytisine群675例、バレニクリン群663例)における自己申告による有害事象は、cytisine群が482例で997件と、バレニクリン群の510例で1,206件と比較して頻度が低かった(発生率比[IRR]:0.88、95%CI:0.81~0.95、p=0.002)。重篤な有害事象は、cytisine群が17例(2.5%)、バレニクリン群は32例(5.0%)で認められた(IRR:0.97、95%CI:0.55~1.73、p=0.92)。 著者は、「非劣性が達成されなかった理由として、cytisineの標準的な用量と投与期間が至適ではない可能性がある」としている。

454.

総合内科専門医試験オールスターレクチャー 消化器(肝胆膵)

第1回 ウイルス性肝炎第2回 アルコール性肝疾患とNAFLD第3回 自己免疫性肝炎の原発性胆汁性胆管炎第4回 肝硬変第5回 急性胆嚢炎・胆管炎第6回 急性膵炎第7回 慢性膵炎 IPMN 総合内科専門医試験対策レクチャーの決定版登場!総合内科専門医試験の受験者が一番苦労するのは、自分の専門外の最新トピックス。そこでこのシリーズでは、CareNeTV等で評価の高い内科各領域のトップクラスの専門医11名を招聘。各科専門医の視点で“出そうなトピック”を抽出し、1講義約20分で丁寧に解説します。キャッチアップが大変な近年のガイドラインの改訂や新規薬剤をしっかりカバー。Up to date問題対策も万全です。消化器の肝胆膵については、東京医科歯科大学の山田徹先生がレクチャー。最新のガイドラインに合わせて、変更された標準治療など要点を押さえます。肝胆膵のいずれ疾患も、アルコール性か否かによって異なる治療法を整理します。※「アップデート2022追加収録」はCareNeTVにてご視聴ください。第1回 ウイルス性肝炎ウイルス性肝炎では、まず最も多いB型とC型を解説。B型肝炎は各種抗原抗体と一般的な感染パターンを相関図で整理。C型肝炎は、新しい直接型抗ウイルス薬(DAA)の開発が進み、慢性肝炎・代償期肝硬変だけでなく、非代償期肝硬変を含むすべてが治療対象となっています。最新のガイドラインに記載されている重症度別の第1選択薬を押さえます。日常臨床ではあまり見られない、A型・D型・E型肝炎についてもポイントを確認。第2回 アルコール性肝疾患とNAFLDウイルス性や自己免疫性が除外された肝疾患は、アルコール性と非アルコール性に分けられます。非アルコール性脂肪性肝疾患NAFLDの日本での有病率はおよそ30%で、現在増加傾向。肥満でない人にも多いのがポイント。NAFLD のうち、NASHは肝硬変への進展や肝がんの発生母地になるため、臨床的に重要な疾患概念です。バイオマーカーは未確定で、鑑別には原則肝生検が必要です。肝生検を行う目安を確認します。第3回 自己免疫性肝炎の原発性胆汁性胆管炎自己免疫性肝炎AIHは中年以降の女性に好発する肝疾患で、約30%に慢性甲状腺炎やシェーグレン症候群といった他の自己免疫性疾患を合併。AIHの10~20%に原発性胆汁性胆管炎PBCを合併したオーバーラップ症候群がみられます。PBCも中年以降の女性に好発し、他の自己免疫性疾患と合併する場合があります。ともに無症状から非特異的な症状が多く、診断のポイントとなる血液検査と病理検査が問題を解くカギです。第4回 肝硬変肝硬変の主な原因は、これまではC型肝炎でしたが、直接型抗ウイルス薬(DAA)の進歩により減少が予想されており、対してNASHの割合が増加傾向です。特徴的な身体所見を確認します。診断と予後予測には肝線維化を評価。肝硬変は低栄養や低血糖に陥りやすく、死亡率増加や各種合併症につながります。合併症となる食道静脈瘤、肝性脳症、腹水、特発性細菌性腹膜炎、肝腎症候群、肝細胞がんの各治療法も試験で問われるポイント。第5回 急性胆嚢炎・胆管炎急性胆嚢炎と急性胆管炎を比較しながら解説します。まず原因に胆石性の有無を確認することが重要。無石胆嚢炎は、症状は胆石性胆嚢炎と同じですが、外傷、心臓手術後、敗血症など高ストレス下で発症し、重症化しやすく死亡率が高いため、早期発見・早期治療が必須。急性胆嚢炎の画像診断は、腹部エコーが第1選択。診断基準となる数値を押さえます。急性胆嚢炎・胆管炎の治療は、抗菌薬・ドレナージ・手術の使い分けがポイント。第6回 急性膵炎急性膵炎の2大原因はアルコールと胆石。強い腹痛を伴う疾患で、約7割が心窩部痛です。重症度診断のスコアとともに、重症垂炎を除外するためのHAPSというスコアも有用です。発症早期の多量輸液が死亡率を下げるため重要。治療については、抗菌薬や蛋白分解酵素阻害薬の有効性について、最新の見解を整理します。膵周囲の液体貯留の定義である「改訂Atlanta分類」を踏まえて、感染性膵壊死の治療法を押さえます。第7回 慢性膵炎 IPMN慢性膵炎の原因はアルコールが68%を占めています。飲酒と喫煙がリスク因子で、原因が不明瞭な場合は遺伝子検査の対象になります。試験で出題されやすい画像診断では、膵石・石灰化、主膵管不整拡張といった所見が重要。無症状で偶発的に見つかることが多い膵管内乳頭粘液性腫瘍IPMN。画像診断はMRCPが第1選択。浸潤がんや悪性所見を見落とさないように、MCNやSCNとの鑑別ポイントを確認します。

455.

日本のトラック運転手の不眠症に関連する因子

 トラック運転手の不眠症は、交通事故リスクの増加につながる重大な問題である。秋田大学の宮地 貴士氏らは、日本のトラック運転手における不眠症の有病率を調査し、不眠症に関連する因子を特定するため、検討を行った。Nature and Science of Sleep誌2021年5月18日号の報告。 対象は、65歳未満の男性トラック運転手2,927人。自己記入式質問票を用いて、不眠症状、状態-特性不安尺度(State-Trait Anxiety Inventory:STAI)、飲酒・喫煙習慣、BMI、カフェイン摂取量、毎日の運転時間、連続して自宅から離れた日数、走行距離に関する情報を収集した。不眠症状には、入眠障害、中途覚醒、早朝覚醒を含め、これらいずれかの症状が毎日観察された場合を不眠症と定義した。 主な結果は以下のとおり。・不眠症有病率は、13.3%(356例)であった。不眠症のタイプ別の割合は、中途覚醒が最も多く78%、次いで早朝覚醒26.4%、入眠障害13.5%であった。・共変量で調整した後、不眠症と有意かつ直線的な関連が認められた因子は、飲酒習慣、毎日の運転時間、STAIスコアであった。 【飲酒習慣】非飲酒者と比較した調整オッズ比(aOR):1.74、95%信頼区間(CI):1.23~2.47、trend p<0.001 【毎日の運転時間】1日8時間未満と比較した12時間以上のaOR:1.87、95%CI:1.00~3.49、trend p<0.001 【STAIスコア】最低四分位と比較した最高四分位のaOR:5.30、95%CI:3.66~7.67、trend p<0.001 著者らは「日本のトラック運転手では、不眠症が蔓延している。そのリスク因子として、飲酒習慣、毎日の運転時間、不安症状が関連していることが示唆された」としている。

456.

世界の喫煙率減少も、人口増で喫煙者数は増加:GBD 2019/Lancet

 世界的な15歳以上の喫煙率は、1990年以降、男女とも大幅に減少したが、国によって減少の程度やタバコ対策への取り組みにかなりの違いがあり、喫煙者の総数は人口の増加に伴って1990年以降大きく上昇したことが、米国・ワシントン大学のEmmanuela Gakidou氏らGBD 2019 Tobacco Collaboratorsの調査で明らかとなった。研究の詳細は、Lancet誌2021年6月19日号で報告された。1990~2019年の204の国・地域における喫煙率と疾病負担を評価 研究グループは、世界の疾病負担研究(Global Burden of Diseases, Injuries, and Risk Factors Study[GBD])の一環として、1990~2019年の期間に204の国と地域で、年齢別、性別の喫煙率と喫煙に起因する疾病負担について検討を行った(Bloomberg PhilanthropiesとBill & Melinda Gates財団の助成を受けた)。 本研究では、3,625件の全国的な調査から得られた喫煙関連指標がモデル化された。また、因果関係のある36の健康アウトカムについて系統的レビューとベイズ流メタ解析が行われ、現喫煙者と元喫煙者の非線形用量反応リスク曲線の推定が実施された。 さらに、この研究では、直接的な推定法を用いて寄与負担を評価することで、喫煙の健康への影響について、以前のGBDよりも包括的な推定値が得られた。2019年の男性の死因の約2割が喫煙 2019年の世界の喫煙者数は11億4,000万人(95%不確実性区間[UI]:11億3,000万~11億6,000万)で、15歳以上の年齢標準化喫煙率は男性が32.7%(32.3~33.0)、女性は6.62%(6.43~6.83)であった。また、同年の紙巻きタバコ換算のタバコ類の消費量は7兆4,100億本だった。 15歳以上の喫煙率は、1990年以降、男性で27.5%(95%UI:26.5~28.5)、女性で37.7%(35.4~39.9)減少したが、喫煙者数は人口の増加によって1990年の9億9,000万人から顕著に増加した。 2019年の世界における喫煙による死亡数は769万人(95%UI:716万~820万)で、障害調整生命年(DALY)は2億年であり、男性の死亡の最も重大なリスク因子(20.2%、19.3~21.1)であった。769万人の喫煙に起因する死亡者のうち、668万人(86.9%)が現喫煙者だった。 なお、2019年の日本における15歳以上の喫煙率は、男性が33.4%(95%UI:31.4~35.5)、女性は10.2%(8.71~11.9)と、いずれも世界平均を上回っていた。また、1990~2019年の喫煙率の減少幅は、男性では41.7%(38.0~45.3)と世界平均よりも大きかったが、女性では23.6%(9.65~35.2)と世界平均に比べ小さかった。 著者は、「介入がなければ、喫煙に起因する死亡数769万人とDALY 2億年は、今後、数十年にわたって増加するだろう。すべての地域、すべての発展段階の国で、喫煙率の低減において実質的な進展が認められたものの、タバコ規制の推進には大きな隔たりがみられた」とまとめ、「喫煙率の減少を加速させ、国民の健康に多大な恩恵をもたらすために、各国は、エビデンスに基づく強力な施策を承認する明確で緊急性の高い機会を手にしている」と指摘している。

457.

スクリーニング普及前後の2型糖尿病における心血管リスクの予測:リスクモデル作成(derivation study)と検証(validation study)による評価(解説:栗山哲氏)-1404

本論文は何が新しいか? 2型糖尿病の心血管リスクを、予知因子を用いてリスクモデルを作成(derivation study)し、さらにその検証(validation study)を行うことで評価した。ニュージーランド(NZ)からの本研究は、国のデータベースにリンクして大規模であること、データの適切性、対象者の95%がプライマリケアに参加していること、新・旧コホートの2者の検証を比較して後者での過大評価を明らかにしたこと、などの点で世界に先駆けた研究である。本研究のような最新の2型糖尿病スクリーニング普及は、低リスク患者のリスク評価にとっても重要である。リスクモデル作成研究(derivation study)と検証研究(validation study) 実地医家にはあまり聞き慣れない研究手法かもしれない。糖尿病や虚血性心疾患などにおいてリスク予測のためCox回帰モデルからリスク計算をし、それを検証する2段階の統計手法。症状や徴候、あるいは診断的検査を組み合わせてこれらを点数化し、イベント発症の可能性に応じ患者を層別化して予測する。作業プロセスは、モデル作成(derivation)と、モデル検証(validation)の2つから成る。モデル作成のコホートを検証に用いた場合、内的妥当性が高いことは自明である。したがって、作成されたモデルは他のコホート患者群に当てはめて外的妥当性が正しいか否かを客観的に検証する必要がある。心血管疾患リスクの推定は、複数の因子(例:治療法の変遷、危険因子にはリスクが高いもの[肥満]と低いもの[喫煙]があることなど)によって過大評価あるいは過小評価される可能性がある。結果の概要1)リスクモデルの作成(derivation study):2004~16年に行ったPREDICT試験を母体にしたPREDICT-1°糖尿病サブコホート試験(PREDICT-1°)において用いられたリスクの予測モデル因子は、年齢・性・人種・血圧・HbA1c・脂質・心血管疾患家族歴・心房細動の有無・ACR・eGFR・BMI・降圧薬や血糖降下薬使用、などである。これら糖尿病および腎機能関連の18の予測変数を有するCox回帰モデルから、5年心血管疾患リスクを推定した。2)リスクモデルの検証(validation study):2004~16年にかけて施行されたPREDICT-1°におけるリスク方程式を、2000~06年に行われたNZ糖尿病コホート研究(NZDCS)におけるリスク方程式にて外的妥当性を検証した。PREDICT-1°は追跡期間中央値5.2年(IQR:3.3~7.4)で、登録した46,625例の中で4,114件の新規心血管疾患イベントが発生した。心血管疾患リスクの中央値は、女性で4.0%(IQR:2.3~6.8)、男性で7.1%(4.5~11.2)であった。これに対して外的検証で用いたNZDCSにおいては心血管疾患リスクが女性では3倍以上(リスク中央値14.2%、IQR:9.7~20.0)、男性では2倍以上(17.1%、4.5~20.0)と過大評価されていることが示された。このことから、最近行われたPREDICT-1°は、過去に行われたNZDCSよりも優れたリスク識別性を有することが検証された。また、この新しいPREDICT-1°のリスク方程式によってリスク評価を行わない場合、糖尿病の低リスク患者を(新たに開発された)血糖降下薬などで過剰診療する可能性なども示唆された。糖尿病の心血管リスクスクリーニングの世界事情 先進国においては、強化糖尿病のスクリーニングを受ける成人が増加している。このため、これらの先進国では糖尿病患者の疾病リスク予測は、より早期と考えられる患者群(低年齢・軽度の高血圧や脂質異常症)に移行しており、より多くの患者が症候性になるより早期に糖尿病と診断されるようになってきた。ちなみにNZでは、スクリーニング検査の推奨項目として空腹時血糖値を非空腹時HbA1cに置き換えることにより、対象者の糖尿病スクリーニング受診率を向上させる新たな国家戦略を立ち上げ、2001年に15%、2012年に50%、2016年には対象者の90%で糖尿病スクリーニング受診という目標を達成してきた。一方、アフリカ、東南アジア、西太平洋ではスクリーニングによる診断よりは臨床診断が主体となるため、心血管疾患リスクスコアを過大評価している可能性がある。本論文から学ぶこと 最新のPREDICT-1°においては、HbA1cによるスクリーニングが普及し、心血管疾患のリスクが低い無症状の糖尿病患者が多数確認された。これにより2型糖尿病において早期発見・早期治療が可能になる。また、心血管疾患リスク評価式は、時代の変遷に応じて現代の集団に更新する必要がある。私見であるが、糖尿病への早期介入推奨の潮流は、たとえばKDIGO 2020年の糖尿病腎症治療ガイドラインなどにすでに反映されている。このガイドラインでは、腎保護戦略のACE阻害薬、ARB、SGLT2阻害薬などの薬剤介入と平行して、自己血糖モニタリングや自己管理教育プログラムの重要性にも多くの紙面を割き言及している(Navaneethan SD, et al. Ann Intern Med. 2021;174:385-394. )。 翻って、本邦での糖尿病スクリーニングによる心血管リスク予測の課題として、国家レベルでの医療データベースの充実化、健診環境のさらなる改善、そして本研究におけるPREDICT-1°に準じた新たな解析法の導入などが考えられよう。

458.

統合失調症の認知機能とキノリン酸との関連

 トリプトファンとその代謝産物(TRYCATs)は、統合失調症やうつ病の病態生理に影響する末梢免疫系の活性化や中枢神経伝達物質の異常と関連することが示唆されている。しかし、これらの疾患におけるさまざまな精神病理的な関連は、まだ解明されていない。スイス・チューリヒ大学のFlurin Cathomas氏らは、統合失調症およびうつ病患者におけるTRYCATsの潜在的な違いを調査し、認知機能への影響について検討を行った。Scientific Reports誌2021年5月11日号の報告。 統合失調症患者45例、うつ病患者43例、健康対照者19例を対象に、血漿中のトリプトファン、キヌレニン、キヌレン酸、3-ヒドロキシキヌレニン、キノリン酸の違い、血漿タンパク質と認知機能との関連を調査した。 主な結果は以下のとおり。・年齢、性別、BMI、喫煙、投薬の共変量で調整した後、うつ病患者は、健康対照者と比較し、キヌレニンと3-ヒドロキシキヌレニンのレベルが低かった。・統合失調症患者では、キノリン酸と複合的な認知機能スコアとの負の相関が認められ。より重篤な認知機能障害は、キノリン酸の血漿レベルの上昇との関連が認められた。この関連は、うつ病患者では認められなかった。 著者らは「統合失調症やうつ病では、キヌレニン経路の調節不全が関連していると考えられる。キノリン酸は、統合失調症患者の認知機能の病態生理ととくに関連している可能性が示唆された。これら神経精神疾患の病因とTRYCATsとの因果関係を判断するためには、さらなる研究が必要とされる」としている。

459.

わが国のEGFR陽性NSCLCに対するゲフィチニブのアジュバント治療の結果(IMPACT)/ASCO2021

 EGFR変異陽性非小細胞肺がん(NSCLC)の完全切除後の術後療法としてのゲフィチニブの有用性を検討した国内臨床試験の結果が、米国臨床腫瘍学会年次総会(2021 ASCO Annual Meeting)において、吹田徳洲会病院の多田弘人氏から報告された。 このIMPACT試験は日本のWJOGにより実施されたオープンラベルの無作為化比較第III相試験である。・対象:EGFR変異(del19またはL858R)を有する Stage II~IIIの完全切除後のNSCLC患者(T790M変異陽性症例は除外。年齢は75歳未満)・試験群:ゲフィチニブ(250mg/日)を2年間投与(Gef群)・対照群:シスプラチン(80mg/m2をday1)+ビノレルビン(25mg/m2をday1,8)を3週ごとに4サイクル投与(CV群)・評価項目:[主要評価項目]独立中央判定による無病生存期間(DFS)[副次評価項目]全生存期間(OS)、安全性、再発様式など有効性は6ヵ月ごとに、脳転移や骨転移の有無は12ヵ月ごとに評価 主な結果は以下のとおり。・2011年9月~2015年12月に234例が無作為化割り付けされ、232例がITT集団として解析された。・両群間に患者背景の差は見られなかった。女性が約60%、年齢中央値は64歳、非喫煙者も約60%、Stage IIAが約30%、IIIAが約60%であった。・Gef群(2年間)の治療完遂率は61.2%、CV群は77.6%であった。CV群に治療関連死が3例報告された。・観察期間中央値70.1ヵ月時点での、DFS中央値はGef群35.9ヵ月(95%信頼区間[CI]:30.0~47.7)、CV群25.0ヵ月(95%CI:17.7~41.8)、ハザード比[HR]:0.92、p=0.63であった。2年時DFS率はGef群63.7%、CV群52.3%、5年時DFS率はGef群31.8%、CV群34.1%であった。DFSに関するサブグループ解析でも、両群間に有意な差を持つ因子はなかった。・OS中央値は両群とも未到達で、5年OS率はGef群78.0%、CV群74.6%で、HRは1.03、p=0.89であった。OSに関するサブグループ解析では、70歳以上と70歳未満での比較において、有意に70歳以上の症例でGef群が有効であった。(70歳以上のHRは0.314、70歳未満は1.438、p=0.018)・有害事象については、両群ともに新たな事象は認められず、Grade3以上の好中球減少や発熱性好中球減少がCV群で多く、Grade3以上の肝機能障害や皮膚障害はGef群で多く報告された。また、薬剤に起因する間質性肺炎の報告は両群ともに無かった。・再発部位は、局所再発については両群で差はなかったが、脳転移は、Gef群で26件、CV群で14件であった。(p=0.07)・再発後の治療では両群ともTKIの投与が大半を占めたが(Gef群67%、CV群93%)、オシメルチニブの投与は少なかった(Gef群14%、CV群2%)。 最後に多田氏は「今回の試験では予後の優越性は検証できなかったが、アジュバント治療としてのゲフィチニブは、シスプラチン+ビノレルビン投与が不適などの特定な患者層には有用であるかもしれない。」と結んだ。

460.

がん通院中患者の新型コロナ抗体量は低値、投与薬剤によって差も/国がん

 国立がん研究センターとシスメックスは、がん患者における新型コロナウイルスの罹患状況とリスクを評価するため、2020年8月から10月にかけて500人のがん患者と1,190人の健常人について新型コロナウイルスの抗体保有率と抗体量を調査した。 その結果、新型コロナウイルスの罹患歴のない対象では、がん患者、健常人共に抗体保有率は低く、両群で差がないことがわかった。一方、抗体の量は、健常人と比較し、がん患者で低いことが明らかになった。これは年齢、性別、合併症の有無、喫煙歴といった因子で調整しても有意な差を認めた。 さらに、がん治療が抗体量に与える影響を検証したところ、細胞障害性抗がん剤を受けている患者では抗体量が低く、免疫チェックポイント阻害薬を受けている患者では高いことが明らかになった。同研究結果から、がんの合併、ならびにがん薬物療法が抗体量に影響を与える可能性が示唆された。 本調査結果は、JAMA Oncology誌2021年5月28日号(オンライン版)に掲載された。

検索結果 合計:1587件 表示位置:441 - 460