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肺がんの組織型の説明に

肺がんは、小細胞がんと非小細胞がんの2つに大きく分けられます肺がんの分類(組織型)組織分類多く発生する場所はいや腺癌非小細胞肺がん肺野部扁平上皮癌大細胞癌小細胞肺がん小細胞癌はいもん特徴女性の肺がんで多い、症状が出にくい肺門部喫煙との関連が大きい肺野部増殖が速い肺門部喫煙との関連が大きい、転移しやすい独立行政法人国立がん研究センター がん情報サービスCopyright © 2014 CareNet,Inc. All rights reserved.非小細胞肺がん小細胞がんではない肺がんの総称で、肺がんの約80~85%を占めています。腺がん、扁平上皮がん、大細胞がんなど、多くの異なる組織型があり、発生しやすい部位、進行形式と速度、症状などはそれぞれ異なります。いずれの場合も化学療法や放射線治療で効果が得られにくく、手術を中心とした治療が行われます。小細胞肺がん肺がんの約15~20%を占め、増殖が速く、脳・リンパ節・肝臓・副腎・骨などに転移しやすく悪性度の高いがんです。しかし、非小細胞肺がんよりも抗がん剤や放射線治療の効果が得られやすいと言われています。Copyright SCICUS K.K. All rights Reserved. @2003独立行政法人国立がん研究センターがん情報サービスCopyright © 2014 CareNet,Inc. All rights reserved.

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転移性前立腺がんに対する新規ホルモン療法の威力は?(解説:勝俣 範之 氏)-274

転移性前立腺がんに対する第一選択は、去勢療法(男性ホルモンであるアンドロゲンをブロックする方法:除睾術やホルモン療法などが行われる)である。転移性がんでは、当初は去勢療法が奏効するが、ほとんどが治療抵抗性となる。治療抵抗性となった場合には、これまでは化学療法しか選択肢がなかった。 エンザルタミドは、アンドロゲン受容体を阻害する作用を持つ新規ホルモン療法の1つと考えてよい。化学療法のような強い副作用がないため、患者さんにとっては福音であるといえる。 NEJMに報告されたこの臨床試験は、去勢抵抗性になり、化学療法を受けていない1,717例の患者さんを対象として行われた。エンドポイントは、無増悪生存期間と全生存期間の2つを設定し、αは無増悪生存期間で有意水準を0.001、全生存期間で0.049と分割し、合わせてα=0.05とすることによって、検定の多重性を調整している。あらかじめ計画された中間解析は、516例の死亡イベントが起きた際に行われ、有意水準を0.0147と定められた。 今回の結果は、中間解析でエンザルタミド群がプラセボ群に対して、生存期間中央値が32.4ヵ月vs.30.2ヵ月(HR 0.71、95% CI:0.60~0.84、p<0.001)であり、あらかじめ設定したαを下回ったため、試験は有効中止となり、中間解析で試験結果が公表されることとなり、マスキングは解除され、プラセボ群の患者さんにはエンザルタミドの処方が勧められることとなった。副作用は、疲労と高血圧、背部痛、便秘、ほてりなどがややエンザルタミド群に多いものの、重篤な副作用は見られなかった。 同様の結果は、化学療法後の前立腺がん患者さんを対象としたプラセボ対照ランダム化比較試験でも、エンザルタミド群の全生存期間での有用性が証明されている1)ため、エンザルタミドの効果は再現性があると認められる。 エンザルタミドは、新規ホルモン療法として、標準治療の位置付けを獲得したといえるが、残された問題としては、わが国で同時期に承認されたアビラテロンとの位置付けである。エンザルタミドが、アンドロゲン受容体に結合し、アンドロゲンの作用を抑制することにより効果を発揮するのに対して、アビラテロンは、アンドロゲンの合成に関わるCYP17阻害薬を阻害して、抗アンドロゲン効果を発する。アビラテロンもエンザルタミドと同様に、去勢抵抗性前立腺がんに対して、プラセボ群と比較して、全生存期間を延長させている2)3)。アビラテロンの弱点としては、アンドロゲンのみならず副腎皮質ホルモンの合成も抑制してしまうため、投与する際には、副腎皮質ホルモン(プレドニン)を併用しなければならないことである。 今年になり、わが国で前立腺がんに対して、抗アンドロゲン薬として2剤、アビラテロン、エンザルタミドが相次いで承認された。今後の課題としては、アビラテロンとエンザルタミドの使用順序をどうしていくか? 併用はどうなのか? 去勢感受性前立腺がんに対してはどうなのか? などの疑問を解決すべく、臨床試験が現在進行中である。■「前立腺がんホルモン療法」関連記事ホルモン療法未治療の前立腺がん、ADTにアビラテロンの併用は?/NEJM

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切除不能大腸がんの1次治療、FOLFOXIRI+BVが有効/NEJM

 切除不能大腸がんの1次治療において、フルオロウラシル(5-FU)/ロイコボリン(LV)+オキサリプラチン+イリノテカン(FOLFOXIRI)とベバシズマブ(BV)の併用療法は、標準治療である5-FU/LV+イリノテカン(FOLFIRI)とBVの併用療法よりも良好な予後をもたらすことが、イタリア・ピサ大学のFotios Loupakis氏らが行ったTRIBE試験で示された。切除不能大腸がんの1次治療では、従来、FOLFIRIまたは5-FU/LV+オキサリプラチン(FOLFOX)と血管内皮細胞増殖因子(VEGF)のモノクローナル抗体であるBVの併用療法が標準治療とされる。しかしBVの臨床導入以前にFOLFOXIRIのほうがFOLFIRIやFOLFOXよりも有効性が優れることが示されており、またFOLFOXIRI+BVの第II相試験において、有望な抗腫瘍効果と良好な安全性が確認されていた。NEJM誌2014年10月23日号掲載の報告より。FOLFOXIRI+BVの予後改善効果を無作為化試験で評価 TRIBE試験は、切除不能大腸がんの1次治療におけるFOLFOXIRI+BV療法とFOLFIRI+BV療法の有用性を評価する非盲検無作為化第III相試験。対象は、年齢18~75歳、全身状態(ECOG PS)が0~2(70歳以上は0)で、組織学的に腺がんが確証され、治癒切除が不能と判定された患者であった。 被験者は、FOLFOXIRI+BV群またはFOLFIRI+BV群(対照群)に無作為に割り付けられ、1サイクル2週の治療が最大12サイクル施行されたのち、維持療法として5-FU+BV療法が病態進行となるまで継続された。 主要評価項目は無増悪生存期間(PFS、割り付け時から病態進行または死亡までの期間)であり、評価は中央判定で行われた。FOLFOXIRI+BVのPFSが有意に2.4ヵ月延長、OSに有意差なし 2008年7月~2011年5月までにイタリアの34施設から508例が登録され、FOLFOXIRI+BV群に252例(年齢中央値60.5歳、男性59.5%、PS 0は90.1%)が、FOLFIRI+BV群には256例(60.0歳、60.9%、89.5%)が割り付けられた。原発巣が右結腸の患者がそれぞれ34.9%、23.8%(p=0.02)と有意な差がみられたが、これ以外の背景因子に差はなかった。 PFS中央値は、FOLFOXIRI+BV群が12.1ヵ月と、FOLFIRI+BV群の9.7ヵ月に比べ有意に良好であった(ハザード比[HR]:0.75、95%信頼区間[CI]:0.62~0.90、p=0.003)。術後補助療法歴のある患者を除く全サブグループにおいて、PFSに関するFOLFOXIRI+BV群のベネフィットが認められた。 客観的奏効率(ORR)は、FOLFOXIRI+BV群が65.1%(完全奏効:4.8%、部分奏効:60.3%)、FOLFIRI+BV群は53.1%(3.1%、50.0%)であり、有意差が認められた(HR:1.64、95%CI:1.15~2.35、p=0.006)。また、全生存期間(OS)中央値はFOLFOXIRI+BV群が31.0ヵ月と、FOLFIRI+BV群の25.8ヵ月よりも延長する傾向がみられたが、有意な差はなかった(HR:0.79、95%CI:0.63~1.00、p=0.054)。 FOLFOXIRI+BV群はFOLFIRI+BV群に比べ、Grade 3~4の末梢神経障害(5.2 vs. 0%、p<0.001)、口内炎(8.8 vs. 4.3%、p=0.048)、下痢(18.8 vs. 10.6%、p=0.01)、好中球減少症(50.0 vs. 20.5%、p<0.001)の頻度が有意に高かった。BV関連の有害事象の頻度は両群で同等であった。重篤な有害事象(20.4 vs. 19.7%、p=0.91)および有害事象による死亡(2.4 vs. 1.6%)にも両群間に差はなかった。 著者は、「FOLFOXIRI+BV療法による6ヵ月の導入療法と5-FU+BVによる維持療法は標準治療よりも高い効果を示した。医療費は有害事象の発症に応じて増加した」とまとめ、「1次治療で3剤併用化学療法を行った場合の2次治療以降のレジメンや、RAS野生型例への適応などの課題が残る」としている。

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大腸がんの予後、血中循環腫瘍細胞と関連

 大腸がん患者において、血中循環腫瘍細胞(CTC)数で全生存期間(OS)を予測できるかどうか、関心が持たれている。イタリアのラ・サピエンツァ大学のAdriana Romiti氏らは、限局型および切除不能な大腸がん患者において、予後予測におけるCTC数の役割を検討した。その結果、大腸がん患者におけるCTCの存在は予後不良に関連することが認められた。Journal of gastrointestinal and liver diseases誌2014年9月号の掲載報告。 著者らは、組織学的に大腸がんと診断された患者を登録した。CTC数は、ベースライン時と化学療法開始1ヵ月後に、定量的免疫蛍光法を用いて測定し、末梢血7.5mLあたり2単位以上を陽性とした。 主な結果は以下のとおり。・合計75例の大腸がん患者が登録され、stage I~IIIが54例、stage IVが21例であった。・21例(28%)がベースライン時のCTCが陽性であり、陰性であった患者に比べ有意に予後不良と関連していた(OS:36.2ヵ月vs 61.6ヵ月、p=0.002)。・患者の22.4%は化学療法後もCTCが陽性のままであり、OSの独立した予後因子であった(p=0.03、ハザード比:3.55、95%CI:1.1~11.5)。

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どうなる?今後の日本の小細胞肺がんの治療(解説:倉原 優 氏)-259

本論文は進展型小細胞肺がんのことをES-SCLCと記載してあるが、日本の慣習的な使用に合わせて、以下ED-SCLCと記載させていただく。 化学療法に奏効したED-SCLCに対する予防的全脳照射(PCI)については、2007年にEORTCの研究によって、1年以内の脳転移発症のリスクを減少させ、1年生存率を有意に改善させることが証明された1)。 ただ、日本において、プラチナ併用初回化学療法後に奏効した脳転移のないED-SCLCに対するPCIの効果が検証されている2)。1年後の転移性脳腫瘍の出現頻度は、有意に減少したものの、全生存期間に対して効果はみられず早期無効中止となったことは記憶に新しい。 そのため、脳転移がないED-SCLCへのPCIは現時点では日本において推奨されていない。日本の小細胞肺がんの治療は、化学療法のレジメンだけでなくPCIについても海外と差があるのかと思うと、臨床医としてはいささか動揺を隠せない。 さて、今回の論文は、PCIだけでなく胸部放射線療法を追加するというものである。化学療法が奏効した後、肺に残存する腫瘍に対して放射線治療が追加的な効果をもたらすのではないかと考えられたためだ。 筆頭著者は文献1)同様Slotman氏である。この報告によれば、PCIだけでなく胸部放射線療法の照射も効果的であるという、日本の肺がん治療と再び離れた方向に議論が一歩展開された。 将来的に、日本でこの治療法が有効かどうか追試を行うかもしれないが、小細胞がんは腺がんのように人種差が大きいがん種ではなく、分子標的薬の発展もないことから、願わくは各国で治療内容に大きな差が出ないほうがよいのではと感じている。

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化療奏効の進展型SCLCへの胸部RTは有用/Lancet

 化学療法奏効の進展型小細胞肺がん(ES-SCLC)患者に対し、胸部放射線療法を行うと、1年生存率は変わらないものの、2年生存率は有意に増大することが判明した。また6ヵ月の無増悪生存を達成した割合も、胸部放射線療法を行った群で高率だった。オランダ・VU大学医療センターのBen J. Slotman氏らが、498例の患者について行った第III相無作為化比較試験の結果、明らかにした。結果を踏まえて著者は、「化学療法が奏効したすべてのES-SCLC患者について、予防的全脳照射に加えて胸部放射線療法を考慮すべきである」とまとめている。Lancet誌オンライン版2014年9月14日号掲載の報告より。オランダなど4ヵ国、42ヵ所の医療機関を通じ498例を無作為化 試験は2009年2月18日~2012年12月21日にかけて、オランダ16ヵ所、英国22ヵ所、ノルウェー3ヵ所、ベルギー1ヵ所の4ヵ国42ヵ所の医療機関を通じ、WHO全身状態スコアで0~2のES-SCLC患者498例を対象に行われた。 被験者を無作為に2群に分け、一方には胸部放射線療法(分割照射30Gy/10回)を実施し、もう一方には実施しなかった(対照群)。なお被験者全員に対して、予防的全脳照射を行った。 主要エンドポイントは、1年生存率だった。副次エンドポイントは、無増悪生存などだった。追跡期間の中央値は、24ヵ月だった。2年生存率、胸部放射線療法群は13%に対し対照群は3% intention-to-treat解析に含まれたのは、インフォームド・コンセントの段階で除外した3例を除外した、胸部放射線療法群247例、対照群248例であった。 その結果、1年生存率は、胸部放射線療法群が33%(95%信頼区間[CI]:27~39%)、対照群が28%(同:22~34%)と、両群で有意差はなかった(ハザード比[HR]:0.84、同:0.69~1.01、p=0.066)。 しかし、2年生存率は、それぞれ13%(同:9~19%)と3%(同:2~8%)と、胸部放射線療法群で有意に高率だった(p=0.004)。また進行リスクも、対照群より胸部放射線療法群で有意に低下した(HR:0.73、95%CI:0.61~0.87、p=0.001)。6ヵ月の無増悪生存の達成割合も、胸部放射線療法群が24%(同:19~30%)に対し、対照群は7%(同:4~11%)だった(p=0.001)。 安全性では、重度の毒性は認められず、グレード3以上の有害事象で共通してみられたのは、疲労感(11vs. 9例)、呼吸困難(3 vs. 4例)だった。

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ASCOの妊孕性温存ガイドライン改訂

 妊孕性温存は、がんサバイバーのQOLにとって重要であり、がん治療に影響を及ぼす。この重要性を鑑み、2006年にASCOは委員会を招集しガイドラインを発行。その後の妊孕性温存の進歩に伴い、2013年に改訂が加えられた。2014年8月、横浜市で開催された日本癌治療学会学術集会にて、米国・ニューヨーク医科大学のKutluk H Oktay氏は「ASCO Guidelines for Fertility Preservation:2013 Updates」と題し、ASCOガイドラインの概要を紹介した。 妊孕性保護については、ほとんどの患者は紹介すらされておらず、実際に妊孕性保護の対策を受けている患者はほんの一握りしかいないという。この問題の原因の主たるものは、患者と臨床医のコミュニケーション不足にある。ASCO妊孕性保護委員会は、がん専門医が関与して、治療が不妊や早期閉経の問題を起こすことを早期に患者に知らせ、がんのタイプや年齢、治療法による個々人のリスクを議論しなければならないと強調している。 Oktay氏は例として、抗がん剤の卵胞毒性について触れた。卵胞は原始卵胞期から胞状卵胞期へと成長し排卵されるが、抗がん剤がどの段階に障害を与えるかは、その種類によって異なる。代謝拮抗剤は胞状卵胞期にのみ影響を与える。このグループの薬剤ではダメージで月経が停止しても、卵巣内で次の卵胞は成長しているため、新しい排卵が起こり月経も再開する。一方、アルキル化剤やトポイソメラーゼ阻害薬などは、原始卵胞期にも障害を与える。つまり、予備の卵にまでダメージを与えてしまい、卵胞形成に対する障害は非常に大きい。どちらのグループも無月経をもたらすが、ダメージは異なるのである。そのため、抗がん剤は卵巣毒性の程度で4段階に分類されている。 また、化学療法施行患者の卵巣における卵の予備量を非施行者と比較した試験では、化学療法施行により卵の予備数が約10歳分減少することが明らかになっている。乳がん患者で出産を望む場合などでは、たとえ治療開始時には若年でも妊孕性保護を考慮しなければならないこともある。 ASCO妊孕性保護委員会は、不妊の危険性がある場合、生殖年齢のすべての患者には妊孕性保護の紹介をすべきであり、たとえ明確な意見を持っていなくても、できるだけ早期に触れるべきである、としている。 成人男性に対する精子凍結保存、成人女性に対する胚凍結保存および卵母細胞凍結保存や保存的婦人科手術、小児に対する精液、卵母細胞低温保存などを確立された妊孕性保存方法として推奨している。さらに、BRCA変異陽性がん患者についても触れている。BRCA変異陽性患者は原始卵胞が少なく、卵胞刺激による採取卵も少ないこと、また閉経が早く40歳未満の早期閉経が数倍みられることが明らかとなっている。そのため、変異陰性者以上に化学療法後の妊孕性低下が大きいと考えられる。

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「腰痛」に潜む多発性骨髄腫

 多発性骨髄腫(MM)は血液悪性腫瘍(形質細胞性腫瘍)の1つであり、悪性リンパ腫や白血病に次いで患者数の多い疾患である。MMは高齢者に多くみられる疾患で代表的な症状の1つに「腰痛」がある。しかし、腰痛を患っている高齢者は多いため、見逃されていることもあるという。 2014年8月27日(水)、JPタワーホール&カンファレンス(東京都千代田区)にてセルジーン株式会社主催「第4回ヘマトロジー勉強会」が開催され、「腰痛から始まる血液悪性腫瘍~多発性骨髄腫を知っていますか?~」と題し、国立国際医療研究センター 血液内科診療科長の萩原 將太郎氏が講演を行った。 MMは、B細胞の最終分化形態である形質細胞ががん化することによって発症する。がん化した形質細胞は、造血を抑制することで貧血を引き起こし、骨芽細胞に対して造骨を抑制し破骨細胞に対して溶骨を促進することで、骨病変(病的骨折・高度の骨粗鬆症など)を引き起こす。また、がん化した形質細胞が産生するM蛋白が心臓、腎、神経などにアミロイド蛋白として沈着することで、アミロイドーシスを引き起こす。このように、MMは多彩な臓器障害を来す複雑な疾患である。 MMのうち治療対象となる症候性MMは、形質細胞とM蛋白の存在だけではなく、臓器障害(腎機能障害、貧血、骨病変など)を呈する状態を指す。治療方針としては、それぞれの患者さんの年齢や合併症などを考慮の上、化学療法あるいは分子標的薬を含む寛解導入療法に引き続く造血幹細胞移植、もしくは移植は行わず、化学療法/分子標的薬のみを選択する。近年、治療法の進歩により、MMの予後は改善傾向にある。治療の方向性は、非特異的な化学療法剤から特異的な分子標的薬へと変化し、現在もさまざまな薬剤の開発が進んでいる。MMの骨病変により圧迫骨折している場合には、椎体形成術が奏効する場合も多く、疼痛の軽減などQOLの改善に有用な方法である。 2025年には、高齢者が最も多くなるといわれており、MMの患者数は今後も増えることが予想されている。日常診療の中で、慢性的で原因のわからない「腰痛」を訴える高齢患者さんを診た場合には、MMの可能性も考慮し、血液検査を行うことが勧められる。

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PIK3CA変異乳がんは抗HER2療法の効果低い

 乳がんではホスファチジルイノシトール3-キナーゼ(PI3K) / AKT経路の異常はよくみられ、PIK3CAの変異が最も多い。ドイツ乳がんグループのSibylle Loibl氏らは、術前補助化学療法に加えてdualもしくはsingle 抗HER2療法を行ったHER2陽性乳がんにおいて、PIK3CA遺伝子型と病理学的完全寛解(pCR)率との関連を調査した。その結果、PIK3CA変異のあるHER2陽性乳がんでは、アントラサイクリン・タキサンの化学療法と抗HER2療法(dual抗HER2療法であっても)による術前補助化学療法後に、pCRを達成する可能性は低いことが示唆された。Journal of Clinical Oncology誌オンライン版2014年9月8日号に掲載。 著者らは、術前補助化学療法の研究(GeparQuattro、GeparQuinto、GeparSixto)の参加者から得られた504の腫瘍サンプルのPIK3CA変異を評価した。すべてのHER2陽性患者はトラスツズマブかラパチニブもしくはその併用のいずれかと、アントラサイクリン・タキサンの化学療法の治療を受けた。PIK3CA変異は、20%以上の腫瘍細胞含有量のコア生検によるホルマリン固定パラフィン包埋組織で、エクソン9とエクソン20のサンガー法による配列決定を用いて評価した。 主な結果は以下のとおり。・患者の21.4%にPIK3CA変異がみられた。・PIK3CA変異型では有意にpCR率が低かった(変異型19.4% vs 野生型32.8%、オッズ比[OR]:0.49、95%CI:0.29~0.83、p=0.008)。・ホルモン感受性(HR)陽性の291例において、pCR率はPIK3CA変異型で11.3%、野生型で27.5%であった(OR:0.34、95%CI:0.15~0.78、p=0.011)。・HR陰性の213例では、pCR率はPIK3CA変異型で30.4%、野生型で40.1%であった(OR:0.65、95%CI:0.32~1.32、p=0.233、相互作用検定p=0.292)。・多変量解析では、HR状況とPIK3CA状況は独立した予測因子であった。・PIK3CA変異のある患者において、ラパチニブ、トラスツズマブ、その併用によるpCR率はそれぞれ16.0%、24.3%、17.4%であった(p=0.654)。野生型の患者では、それぞれ、18.2%、33.0%、37.1%であった(p=0.017)。・無病生存期間および全生存期間は、PIK3CA変異型と野生型との間に統計学的有意差は認められなかった。

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新薬2剤が発売、去勢抵抗性前立腺がん治療の今後

 去勢抵抗性前立腺がん(CRPC)に対する新たな選択肢として、5月発売のエンザルタミド(商品名:イクスタンジ)に続き、今月、アビラテロン(同:ザイティガ)とカバジタキセル(同:ジェブタナ)が発売された。これら2剤の発売を機に、先日、それぞれのメディアセミナー(ザイティガ:ヤンセンファーマ株式会社・アストラゼネカ株式会社、ジェブタナ:サノフィ株式会社)が開催された。両セミナーで、近畿大学医学部泌尿器科教授 植村 天受氏が講演し、CRPCにおける治療の変化について解説した。CRPC治療におけるアビラテロンとカバジタキセルの位置付け 前立腺がんは男性ホルモン(アンドロゲン)により増殖するため、外科的去勢や薬物により男性ホルモンを抑制するホルモン療法が施行される。従来のホルモン療法によりアンドロゲン分泌が抑制されているにもかかわらず、病勢が進行する状態をCRPCと呼ぶ。 早期のCRPCでは、副腎由来のアンドロゲンや前立腺がん細胞自身で産生されるアンドロゲンにより腫瘍が増悪するため、さらにアンドロゲンを低下させることが重要となる。アビラテロンは、早期のCRPCに対して、精巣・副腎・前立腺がん組織のすべてでアンドロゲン合成を抑制することにより、予後の改善が期待される。 その一方で、CRPCにおける細胞増殖には、アンドロゲン依存性だけでなく、アンドロゲン非依存性の経路が存在するため、いずれホルモン療法によるアンドロゲン除去に抵抗性が生じてくる。そのような場合、化学療法であるドセタキセルが標準治療であるが、ドセタキセル後の治療選択肢として、カバジタキセルが承認された。患者さんによってアンドロゲン標的薬に抵抗性を示す場合もあるため、化学療法は重要な役割を持つ。各薬剤の副作用 アビラテロンについては、現在のところ、特異的な副作用はみられていない。 一方、カバジタキセルは、好中球減少や発熱性好中球減少が日本人で多く、骨髄抑制の対策が重要となる。植村氏は、自身の投与経験から、「G-CSF製剤を適切な時期に投与し、患者さんに生ものなどを食べないように指導するなど、マネジメントをしっかりすればこわい薬剤ではない」との見解を示した。今後のCRPC治療の流れ 現在、アビラテロンだけが化学療法未治療のCRPCにも使用できるが、エンザルタミドも同様に使えるようになる見通しである。植村氏は、それを前提としたうえで、今後のCRPC治療について、「まず、アビラテロンもしくはエンザルタミドを投与し、進行後にもう1つの薬剤を投与、さらに進行した場合にドセタキセル、次にカバジタキセルを投与という流れになるだろう」と述べた。なお、アビラテロンとエンザルタミドの使い分けについては、「現状ではどちらも同じ。副作用による使い分けもない」との見方を示した。 ドセタキセルからカバジタキセルにスイッチするタイミングについては、植村氏は「議論されている問題で、日本で治療経験を重ねることにより解明していく課題」と述べ、「もし、ドセタキセルによるしびれでADLが低下するような場合は、早めに切り替えてもいいのではないか」との考えを示した。

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75歳以上でのマンモグラフィ検診は有効か

 75歳以上の年齢層におけるマンモグラフィ検診の有効性は示されていないことから、米国ワシントン大学のJudith A Malmgren氏らは、マンモグラフィで検出された75歳以上の乳がん患者の特性と転帰を前向きコホート研究で調査した。その結果、マンモグラフィで検出された75歳以上の乳がん患者では、患者や医師により発見された患者より、早いステージで診断され、受ける治療が少なく、疾患特異的生存率が優れていた。この結果から、若年女性でのマンモグラフィ検出によるベネフィットが、高齢女性においても同様に見られることが示唆された。Radiology誌オンライン版2014年8月5日号に掲載。 著者らは、1990年~2011年の間に、75歳以上であったステージ0~IVの原発性乳がん患者を登録データベース(n=1,162)から同定し追跡した。ステージ、治療、転帰、発見方法(患者、医師、マンモグラフィのどれか)を含む詳細情報は診断時のカルテから記した。浸潤性がん疾患特異的生存率の比較はカプランマイヤーを用いた。 主な結果は以下のとおり。・75歳以上の乳がん患者におけるマンモグラフィでの検出は、研究期間中に49%から70%に増加した(p<0.001)。・患者および医師による発見例がステージIIおよびIII(59%)が多かったのに対し、マンモグラフィ検出例はステージI(62%)が多かった。・1990年から2011年までに、ステージIIおよびIIIの乳がん発生率はともに8%減少し、ステージ0の乳がんは15%増加(p<0.001)した。・マンモグラフィで検出された浸潤性乳がん患者は、患者および医師により発見された患者に比べ、腫瘤摘出術および放射線で治療されることが多く、乳房切除術と化学療法施行は少なかった(p<0.001)。・マンモグラフィで検出された患者では、浸潤性乳がんの5年疾患特異的生存率が有意に良好であった[患者/医師による発見87%に対して97%(p<0.001)]。

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急がれるAll RAS検査承認

 2014年7月29日(火)、東京都千代田区において大腸がんにおけるバイオマーカー「RAS遺伝子」をテーマにしたプレスセミナー(主催:メルクセローノ株式会社)が開催された。その中で、愛知県がんセンター中央病院 薬物療法部長/外来化学療法センター長である室 圭氏が、「大腸がんのさらなる『個別化治療』に向けて バイオマーカーとしての『RAS遺伝子』の可能性」と題して講演を行った。 いまや「個別化治療」は、がんの領域においても広く用いられる言葉の1つである。がんにおける個別化治療とは、バイオマーカーである遺伝子の検査結果に基づき、その患者さんに効果が期待できる薬剤選択を行い、治療を進めることである。個別化治療が広く浸透することによって、患者さんにより高い治療効果が得られる薬剤を投与することができるだけでなく、治療効果が期待できない薬剤を投与しないことで無駄な出費が抑えられ、国民医療費の削減にもつながる。 現在、切除不能大腸がんに投与することのできる分子標的薬のうち、セツキシマブやパニツムマブなどの抗EGFR抗体薬は、KRAS(exon2)野生型の患者さんに効果を示すことがわかっている。そのため、治療薬を投与する前にKRASの遺伝子型を調べ、KRAS変異型の患者さんには他の治療法を選択することが一般的である。しかしながら近年、KRAS(exon2)野生型であっても、治療薬が奏効しない患者さんが存在し、それはKRASのexon3、exon4やNRASの変異型を持つ患者であることがわかってきた。そのため、KRAS、NRASを含むRAS(All RAS)遺伝子検査の必要性が高まっている。 これを受け欧米では、2013年よりセツキシマブやパニツムマブの適応を、KRAS野生型からRAS野生型へ変更したが、本邦でAll RAS検査が承認されるのは、おそらく2014年末から2015年になるだろうと室氏は語る。現時点で保険償還が認められている検査は、KRAS(exon2)遺伝子検査のみであるが、All RAS検査承認へ向け、日本臨床腫瘍学会のホームページでは、「大腸がん患者におけるRAS遺伝子(KRAS/NRAS遺伝子)変異の測定に関するガイダンス」を公開しており、閲覧およびダウンロードができるため、参考にされたい。日本臨床腫瘍学会ホームページ2014年04月10日「大腸がん患者におけるRAS遺伝子(KRAS/NRAS遺伝子)変異の測定に関するガイダンス」が完成しました。 大腸がんでは、近年さまざまな分子標的治療薬の登場により、生存期間中央値は30ヵ月まで延長している。今後、さらなる個別化治療を進めるためにも、一刻も早いAll RAS検査の承認が望まれる。

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糖尿病は大腸がん治癒切除後の予後因子

 国立台湾大学医学院附設病院のKuo-Hsing Chen氏らは、治癒切除を受けた早期結腸がん患者において、糖尿病の有無と予後の関連性を調査した。その結果、早期結腸がん治癒切除後の患者では、糖尿病が全死亡率増加の予測因子であることが示唆された。Oncologist誌オンライン版2014年7月24日号に掲載。 著者らは、2004年1月1日~2008年12月31日にステージI/IIの結腸がんと新規に診断され、治癒切除を受けた結腸がん患者のコホートを、台湾における3つの患者データベースから選択した。また、2型糖尿病、糖尿病治療薬の使用、他の合併症、生存転帰に関する情報を収集し、糖尿病合併患者とそれ以外の患者における結腸がん特異的生存率(CSS)および全生存率(OS)を比較した。 主な結果は以下のとおり。・結腸がん6,937例が選択され、そのうち1,371例(19.8%)が糖尿病に罹患していた。・糖尿病を合併する結腸がん患者は、合併していない結腸がん患者に比べ、高齢で、補助化学療法を受けていることが少なかった。一方、腫瘍ステージおよびグレードは同等であった。・糖尿病を合併していない結腸がん患者に比べ、合併している結腸がん患者は、OS(5年OS:71.0%対81.7%)、CSS(5年CSS:86.7%対89.2%)ともに有意に低かった。・多変量解析で年齢、性別、ステージ、補助化学療法、合併症を調整後も、全死亡率においては、糖尿病は独立した予後因子であったが(調整ハザード比:1.32、95%信頼区間:1.18~1.49)、がん特異的死亡率においてはそうではなかった。・糖尿病の薬物療法を受けた結腸がん患者において、インスリンを使用していた患者は使用していない患者よりもCSSとOSが有意に低かった。

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トリプルネガティブ乳がんでのCOX-2発現

 エストロゲン受容体(ER)とプロゲステロン受容体(PR)、HER2がすべて陰性のトリプルネガティブ乳がん(TNBC)とシクロオキシゲナーゼ(COX)-2過剰発現は、ともに原発性乳がんにおける予後不良マーカーとして知られている。 米国MDアンダーソンがんセンターのKailash Mosalpuria氏らは、TNBC患者の原発腫瘍でCOX-2蛋白が過剰発現しているとの仮説を立て検証した結果、非転移性TNBCと原発腫瘍のCOX-2蛋白過剰発現との関連を認めた。今回の知見は、切除可能なTNBC患者におけるCOX-2標的治療について、さらなる研究を支持するものである。Molecular and clinical oncology誌2014年9月号(オンライン版2014年6月23日号)に掲載。 著者らは、2005年2月~2007年10月に治療されたステージI~III乳がん患者125例の原発腫瘍サンプルにおけるCOX-2発現レベルを、前向きに検討した。臨床病理学的要因に関する情報は前向きのデータベースから取得した。ベースラインの腫瘍特性と患者属性におけるTNBCと非TNBCとの比較は、カイ2乗およびFisherの正確確率検定を用いて行った。 主な結果は以下のとおり。・患者のうち、ER陽性が60.8%、PR陽性が51.2%、HER2/neu増幅が14.4%、TNBC が28.0%であった。・COX-2過剰発現が33.0%に認められた。・TNBCは、COX-2過剰発現(p=0.009)、PR発現(p=0.048)、高グレード(p=0.001)と関連していた。・年齢、閉経状態、BMI、リンパ節転移状況、術前化学療法の調整後、TNBCはCOX-2過剰発現の独立予測因子であった(p=0.01)。

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新薬創出国“日本”を取り戻す

 イリノテカンやブレオマイシンなど、日本は世界中で広く投与されている抗がん剤を多く創出してきた。現在、アメリカ、スイスに次ぐ第3位の新薬創出国であり、日本は新薬を創出できる数少ない国として広く認知されている。しかしながら、近年、臨床で多く用いられている分子標的治療薬をみると、日本で創出された薬剤はたった2つしかない。そのため、分子標的治療薬の輸入は輸出を上回り、貿易赤字は拡大傾向にある。新薬創出国“日本”は、一体どこに行ってしまったのだろうか。 2014年7月17日~19日、福岡市で開催された日本臨床腫瘍学会において、がん研究会 がん化学療法センター 藤田 直也氏が「アカデミア創薬の橋渡し研究における課題」をテーマに、本邦における新薬創出の問題点と打開策について講演した。 創薬プロセスには、基礎研究から新薬承認までに数十年の長い月日と膨大な研究開発費(1,000億円規模)を要する。さらに、近年、新薬と承認される薬剤が減ってきており、開発成功率が下がってきている。そのため、相対的に1品目当たりの研究開発費が高騰している。しかし、本邦の基礎研究や臨床研究のレベルが下がっているわけではない。基礎研究において、薬の種(シーズ)を発見しても、それを標的にした研究・開発は海外で行われてしまっているのが現状である。 本邦における新薬創出の問題点は、シーズを臨床研究に結び付けるまでのトランスレーショナルリサーチ(TR)にある。TRとは、シーズからターゲットを見つけ、化合物のスクリーニング、動物モデルでの確認、結晶構造解析、特許取得までの一連の研究開発過程を指す。  藤田氏は、TR研究の大学・研究機関(アカデミア)側の問題点として以下を挙げている。1)スクリーニングや構造解析、個体レベルでの解析など、複数の部門が共同で研究を行う必要があるが、現時点では共同研究体の構築が不十分である。2)抗体医薬の毒性試験はサルでのみ行わなければならず、費用が5,000万円ほどかかりコストが高い。3)出口を見越した特許取得戦略が不足している。 また、企業側の問題として以下を挙げている。1)研究開発費絶対額が不足している。2)リスクを取ることに躊躇している。3)アカデミアの成果を評価する人材が不足している。4)ブロックバスターモデルからアンメット・メディカル・ニーズに対応した医薬品開発への転換ができていない。5)研究開発のクローズ手法からオープン化への転換が遅れている。6)低分子化合物に偏りがちでバイオ医薬品開発への転換が遅れている。 ここでは、アカデミアの成果を評価する人材の不足に注目したい。TR研究における日本とアメリカの大きな違いは、創薬ベンチャー企業の存在にある。アメリカでは、創薬ベンチャーがアカデミアと企業の間に入ることで、円滑に開発を進めることができ多くの薬剤を創出している。本邦では、創薬ベンチャー企業が少なく、その起業リスクなどから拡大傾向にないのが現状である。その一方で、経済産業省が推し進めるTLO[Technology Licensing Organization(技術移転機関)]という制度が整いつつある。TLOとは、アカデミアの研究成果を特許化し、それを企業へ技術移転する法人であり、いわばアカデミアと企業をつなぐ「仲介」役として注目されている。 今後、アカデミア側としてはTLOをうまく活用すること、企業側としてはアカデミアとの初期段階からのマッチング、国内アカデミアへの投資・協同を行うことで、TR研究を円滑に進めることができるのではないだろうか。 新薬創出国“日本”の復活が期待される。

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日本における大腸がんの新薬開発状況

 切除不能大腸がんに対する化学療法においては、既に発売されている薬剤のHead to Headの比較試験が実施されている一方で、新たな治療薬の開発治験も進んでいる。7月17~19日に開催された第12回日本臨床腫瘍学会学術集会では、「切除不能大腸がん治療戦略の展望」をテーマとしたインターナショナルセッションが企画され、そのなかで、日本における切除不能大腸がんに対する新規薬剤の開発状況について、吉野 孝之氏(国立がん研究センター東病院消化管内科)が講演した。その内容を紹介する。TAS-102 日本で開発されたTAS-102(一般名:トリフルリジン・チピラシル塩酸塩)が今年3月に承認され、現在は日本でのみ販売されている。 本剤の国際共同第III相試験(RECOURSE試験)は、標準治療に不応・不耐の治癒切除不能進行・再発大腸がん800例を対象に、プラセボを対照として実施された。その結果、生存期間中央値はプラセボ群5.3ヵ月に対しTAS-102群で7.1ヵ月と延長し、全生存のハザード比は0.68(p<0.0001)であった。副作用は、骨髄抑制が比較的強いが、吉野氏によると発熱性好中球減少に注意すれば使いやすい薬剤という。TAS-102と他の薬剤との併用 実験モデルでは、TAS-102とイリノテカンとの併用で最も強い抗腫瘍効果が認められたが、イリノテカンの薬物強度が低く、さらなる検討が必要である。現在米国で投与スケジュールを変更した臨床試験が進行中である。 ベバシズマブとの併用レジメンの有用性を検討する多施設第Ib/II相試験(C-TASK FORSE)が、医師主導治験として吉野氏を中心に今年2月から実施されており、来年のASCOで最初の報告を予定している。nintedanib nintedanibは、VEGFR1-3、FGFR1-3、PDGFRα/β、RETをターゲットとする低分子チロシンキナーゼ阻害薬であり、現在、非小細胞肺がん、腎がん、肝がん、卵巣がんなどに対しても臨床試験が行われている。大腸がんにおいては、標準治療不応症例に対するプラセボとの比較試験(LUME Colon 1 Trial)が近々開始予定とのことである。BRAF阻害薬 大腸がんにおけるBRAF遺伝子変異陽性の割合は少ないものの非常に予後が悪い。BRAF遺伝子変異陽性大腸がんに対する治療としては、FOLFOXIRI単独またはFOLFOXIRIとベバシズマブの併用が有効であるが、副作用が強く全身状態(PS)が悪い場合は投与できない。 開発中のBRAF阻害薬のうち、悪性黒色腫に有効なvemurafenib(申請中)は、単独ではBRAF遺伝子変異陽性大腸がんに対する効果は小さく、現在、セツキシマブとイリノテカンとの併用で検討されている。また、encorafenib、dabrafenibにおいても、抗EGFR抗体(セツキシマブ、パニツムマブ)との併用や、さらにPI3Kα阻害薬、MEK阻害薬も併用するレジメンでの第II相試験が進行している。 最後に吉野氏は、自らが代表を務める多施設共同研究(GI screen 2013-01)における進捗状況を紹介した。本研究は、今後の新薬開発に役立てるため、日本人の切除不能大腸がん症例におけるKRAS、BRAF、NRAS、PIK3CAの遺伝子変異割合を検討することを目的に今年2月に開始。来年3月までに1,000例の登録を目標としているが、7月14日時点で313例に達していると報告した。

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肺がんに分子標的薬の同時併用? 臨床腫瘍学会2014

 非小細胞肺がんの化学療法未治療例に対し、EGFR-TKIと抗VEGF抗体の併用がPFSを延長する可能性が、第二相試験の結果から示された。2014年7月17日~19日まで福岡市で開催された第12回日本臨床腫瘍学会において、国立がん研究センター東病院 後藤功一氏が、再発非小細胞肺がんの一次治療におけるエルロチニブとベバシズマブの併用療法の試験結果を発表した。 EGFR変異陽性の非小細胞肺がん(NSCLC)におけるEGFR-TKIの有効性は既に証明されているものの、EGFR-TKIを単独で用いるか併用するか、併用するならどの薬剤を用いるか、などは未だ明らかになっていない。前臨床試験では、EFGRとVGEFRの同時阻害による抗腫瘍活性の相乗効果が示唆されている。臨床試験では、第三相試験であるBeTa Lung studyで、EGFR変異陽性NSCLCの二次治療において、エルロチニブとベバシズマブの併用が、エルロチニブ単独に比べ、OSを延長する可能性を示唆している。そこで今回は、一次治療における同薬剤の併用療法を評価する、オープンラベル第二相無作為比較試験を行った。 対象患者は、化学療法未実施のステージIIIB~IVのEGFR変異陽性非小細胞肺がん(非扁平上皮がん)。2011年2月から2012年3月まで、30施設で154例の患者が登録され、エルロチニブ+ベバシズマブ群77例、エルロチニブ群77例に無作為に割り付けられた。エルロチニブの用量は150mg/日、ベバシズマブの用量は15mg/kg。3週毎にPDとなるまで投与された。 主要エンドポイントはPFS。副次的エンドポイントはOS、奏効率、安全性、QOLである。統計的な優越性の検出をHR0.7に設定し、サンプルサイズは150とした。主要エンドポイントであるPFS中央値は、・エルロチニブ+ベバシズマブ群16.0ヵ月、エルロチニブ群の9.7ヵ月と、併用群で有意なPFSの延長を認めた(HR=0.54 95%CI:0.36~0.79、P=0.0015)。副次的エンドポイントについて奏効率は、・エルロチニブ+ベバシズマブ群69%、エルロチニブ群63%と同等であったが、病勢コントロール率は、エルロチニブ+ベバシズマブ群99%、エルロチニブ群88%と併用群で有意に高かった。・奏効期間の中央値は、エルロチニブ+ベバシズマブ群13.3ヵ月、エルロチニブ群9.3ヵ月と有意に併用群で長かった。安全性については、・有害事象による治療中断は両群で同程度であった。・両群に共有する主な有害事象は、皮疹、高血圧、タンパク尿、肝機能障害であり、高血圧とタンパク尿については、併用群で有意に多かった。・グレード3の間質性肺炎は、エルロチニブ群に3例認められた。・ベバシズマブの主な投与中止理由はタンパク尿と出血イベント。中断時期の中央値はそれぞれ、329日と128日で、出血イベントについては比較的早期に発現していた。 ちなみに、OSは中央値に達していない。 エルロチニブ+ベバシズマブ群はエルロチニブ群に比較して有意にPFSを延長し、新たな有害事象を認めることはなく、毒性に関しても従来の試験と同等であった。

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高齢者のがん診療、その実態は…

 がん患者は多くが高齢であるが、がん治療のエビデンスは、ほとんどが非高齢者を対象としたデータであり、高齢者のがん診療については大いに検討の余地がある。 2014年7月17日〜19日、福岡市で開催された日本臨床腫瘍学会において、国立がん研究センターがん対策情報センター東尚弘氏が「がん診療パターンの高齢患者・若年患者の間での相違の現状」と題し、本邦において高齢者の受けているがん診療の実態をデータとともに紹介した。 東氏は、厚生労働省の人口動態統計をもとに、一般高齢者の健康状態3段階(上位25%層、平均層、下位25%層)に分けて、年齢別に余命を分析した。 その結果、同じ年齢でも健康状態により大きな違いがあり、70歳時では上位25%の方は下位25%の方に比べ、2倍程度の余命が長いことが分かった。治療を選択する際は、単に年齢だけではなく、目の前の患者さんがどのくらい生きるのかを考慮することが非常に重要だといえる。 また、2011年の全国のがん診療連携拠点病院の院内がん登録とDPCのリンクデータから、168施設での5大がんの標準診療の実施率を年齢別に分析している。 その結果、手術および化学療法については、年齢が上がるにつれて標準療法の実施率が下がる傾向にあることを、非小細胞肺がん、大腸がんのデータを基に紹介した。また、高催吐性化学療法時の予防的制吐剤投与、外来オピオイド鎮痛薬開始時の下剤処方など支持療法の標準診療実施率も年齢と共に下がっていた。 さらに、全国395施設の5大がんの院内がん登録のデータを用い、施設別に75歳以上の患者さんの割合を分析している。 中央値は33%であった。施設間のばらつきは大きく、最も割合の低い施設では13%であるのに対し、最も高い施設では60%と、4倍以上の差があった。施設区分でみると、がん専門施設および大学病院での割合は相対的に低く、それ以外の施設、即ちがん非専門施設において割合が高かった。

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今年3剤が承認、去勢抵抗性前立腺がんの今後の治療選択は?

 近年、患者数が急増している前立腺がんにおいて、標準的な治療であるホルモン療法が無効となる患者も増えている。このような去勢抵抗性前立腺がんにはドセタキセルが標準治療となっているが、ドセタキセル無効症例に対する治療薬の開発が進み、今年これまでに3剤が承認された。そのうち、唯一の化学療法剤であるカバジタキセル(商品名:ジェブタナ)は、どのような患者さんに投与すべきなのか―。7月10日(木)に開催されたメディアセミナー(主催:サノフィ株式会社)にて、横浜市立大学大学院医学研究科泌尿器病態学 准教授 上村 博司氏が、治療の選択や切り替えのタイミングについて解説した。 新たな前立腺がん治療薬として、今年5月にアンドロゲン受容体を阻害するエンザルタミド(商品名:イクスタンジ)が発売され、今月4日には、アンドロゲン合成を阻害するアビラテロン(商品名:ザイティガ)とカバジタキセルが承認され、発売が待たれている。3剤のうち、カバジタキセルは唯一、化学療法剤であり注射剤である。 本講演で上村氏は、前立腺がんは不均一な疾患であることから、「画一的な治療方法ではなく、さまざまな治療法を活かすことが重要である」と述べた。そのうえで、去勢抵抗性前立腺がんの標準治療であるドセタキセル無効後の治療選択として、実臨床ではまず経口薬であるアンドロゲン受容体標的薬2剤のどちらかを選択することが多いと思われるが、化学療法を優先すべき患者を見極めることの重要性を強調した。 上村氏は、化学療法剤を優先すべき患者として、1)転移部位が多く初期ホルモン療法の効果が短期間、2)転移部位の症状が強くPSA上昇が速い、3)肝臓・肺などに転移がある、といった経口ホルモン療法が効きにくい症例、4)介助なく自分自身の行動が管理できる、5)貧血が軽度である、といった全身状態のよい症例を挙げた。 また、先にアンドロゲン受容体標的薬による治療を行っている場合は、病勢の進行を見逃さず、適切なタイミングで治療を切り替えることが重要と上村氏は述べた。アンドロゲン受容体標的薬治療においては、最初から抵抗性の症例(プライマリーレジスタンス)、1年以内に無効となる部分的抵抗性症例、1年半以上効果が継続する感受性症例が存在することから、頻回のモニタリングが海外のガイドラインでも推奨されている。さらに、European Expert Consensus Panelにおいて、アンドロゲン受容体標的薬へのプライマリーレジスタンスを確認する方法として「治療開始から3ヵ月以内に画像上の進行」のコンセンサスが得られていることから、上村氏はCTや骨シンチグラフィーといった画像診断の必要性を強調した。

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抗菌薬静脈内投与後のアナフィラキシーショックによる死亡

消化器最終判決平成16年9月7日 最高裁判所 判決概要S状結腸がんの開腹術後に縫合不全を来たした57歳男性。抗菌薬投与を中心とした保存的治療を行っていた。術後17日、ドレーン内溶液の培養結果から、抗菌薬を一部変更してミノサイクリン(商品名:ミノマイシン)を静脈内投与したが、その直後にアナフィラキシーショックを発症して心肺停止状態となる。著しい喉頭浮腫のため気道確保は難航し、何とか気管内挿管に成功して救急蘇生を行ったが、発症から3時間半後に死亡した。詳細な経過患者情報平成2年7月19日 注腸造影検査などによりS状結腸がんと診断された57歳男性。初診時の問診票には、「異常体質過敏症、ショックなどの有無」欄の「抗菌薬剤(ペニシリン、ストマイなど)」の箇所に丸印を付けて提出した経過平成2(1990)年8月2日開腹手術目的で総合病院に入院。看護師に対し、風邪薬で蕁麻疹が出た経験があり、青魚、生魚で蕁麻疹が出ると申告。担当医師の問診でも、薬物アレルギーがあり、風邪薬で蕁麻疹が出たことがあると申告したが、担当医師は抗菌薬ではない市販の消炎鎮痛薬であろうと解釈し、具体的な薬品名など、薬物アレルギーの具体的内容、その詳細は把握しなかった。8月8日右半結腸切除術施行。手術後の感染予防目的として、セフォチアム(同:パンスポリン)およびセフチゾキシム(同:エポセリン)を投与(いずれも皮内反応は陰性)。8月16日(術後8日)腹部のドレーンから便汁様の排液が認められ、縫合不全と診断。保存的治療を行う。8月21日(術後13日)ドレーンからの分泌物を細菌培養検査に提出。8月23日(術後15日)38℃前後の発熱。8月25日(術後17日)解熱傾向がみられないため、抗菌薬をピペラシリン(同:ペントシリン)とセフメノキシム(同:ベストコール)に変更(いずれも皮内反応は陰性)。10:00ペントシリン® 2g、ベストコール® 1gを点滴静注。とくに異常は認められなかった。13:00細菌培養検査の結果が判明し、4種類の菌が確認された。ベストコール®は2種の菌に、ペントシリン®は3種の菌に感受性が認められたが、4種の菌すべてに感受性があるのはミノマイシン®であったため、ベストコール®をミノマイシン®に変更し、同日夜の投与分からペントシリン®とミノマイシン®の2剤併用で様子をみることにした。22:00看護師によりペントシリン® 2g、ミノマイシン® 100mgの点滴静注が開始された(主治医から看護師に対し、投与方法、投与後の経過観察などについて特別な指示なし)。ところが、点滴静注を開始して数分後に苦しくなってうめき声を上げ、付き添い中の妻がナースコール。22:10看護師が訪室。抗菌薬の点滴開始直後から気分が悪く体がピリピリした感じがするという言葉を聞き、各薬剤の投与を中止してドクターコール。22:15「オエッ」というような声を何回か発した後、心肺停止状態となる。数分後に医師が到着し、ただちにアンビューバッグによる人工呼吸、心臓マッサージを開始。22:30気管内挿管を試みたが、喉頭浮腫が強く挿管不能のため、喉頭穿刺を行う。22:40気管内挿管に成功するが心肺停止状態。アドレナリン(同:ボスミン)投与をはじめとした救急蘇生を続けるが、心肺は再開せず。8月26日(術後18日)01:28死亡確認。死因はいずれかの薬剤によるアナフィラキシーショックと考えられた。当事者の主張患者側(原告)の主張今回使用した抗菌薬には、アナフィラキシーショックなど重篤な副作用を生じる可能性があるのだから、もともと薬剤アレルギーの既往がある本件に抗菌薬を静脈内投与する場合、異常事態に備えて速やかに対応できるよう十分な監視体制を講じる注意義務があった。ところが、医師は看護師に特別な監視指示を与えることなく、漫然と抗菌薬投与を命じたため、アナフィラキシーショックの発見が遅れた。しかも、重篤な副作用に備えて救命措置を準備しておく注意義務があったにもかかわらず、気道確保や強心剤投与が遅れたため救命できなかった。病院側(被告)の主張本件で使用した抗菌薬は、従前から投与していた薬剤を一部変更しただけに過ぎず、薬物アレルギーの既往症があることは承知していたが、それまでに使用した抗菌薬では副作用はなかった。そのため、新たに投与した(皮内反応は不要とされている)ミノマイシン®投与後にアナフィラキシーショックを生じることは予見不可能であるし、そのような重篤な副作用を想定して医師または看護師が付き添ってまで経過観察をする義務はない。そして、容態急変後は速やかに当直医師が対応しており、救急蘇生に過誤があったということはできない。裁判所の判断高等裁判所の判断医師、看護師に過失なし(1億2,000万円の請求を棄却)。最高裁判所の判断(平成16年9月7日)原審(高等裁判所)の判断は以下の理由で是認できない。薬剤が静注により投与された場合に起きるアナフィラキシーショックは、ほとんどの場合、静脈内投与後5分以内に発症するものとされており、その病変の進行が急速であることから、アナフィラキシーショック症状を引き起こす可能性のある薬剤を投与する場合には、投与後の経過観察を十分に行い、その初期症状をいち早く察知することが肝要であり、発症した場合には、薬剤の投与をただちに中止するとともに、できるだけ早期に救急治療を行うことが重要である。とくに、アレルギー性疾患を有する患者の場合には、薬剤の投与によるアナフィラキシーショックの発症率が高いことから、格別の注意を払うことが必要とされている。本件では入院時の問診で薬物アレルギーの申告を受けていたのだから、アナフィラキシーショックを引き起こす可能性のある抗菌薬を投与するに際しては、重篤な副作用の発症する可能性を予見し、その発症に備えてあらかじめ看護師に対し、投与後の経過観察を指示・連絡をする注意義務があった。担当看護師は抗菌薬を開始後すぐに病室から退出してしまい、その結果、心臓マッサージが開始されたのが発症から10分以上経過したあとで、気管内挿管が試みられたのが発症から20分以上、ボスミン®投与は発症後40分が経過したあとであり、救急措置が大幅に遅れた。これでは投与後5分以内に発症するというアナフィラキシーショックへの対応は明らかに不適切である。以上のように、担当医師や看護師が注意義務を怠った過失があるから、判決の結論に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があるため、死亡との因果関係をさらに審理をつくさせるため、本件を高等裁判所に差し戻すこととする。考察またまた医師にとっては驚くべき裁判官の考え方が示されました。しかも、最高裁判所の担当判事4名が全員一致した判断というのですから、医師と法律専門家との考え方には、どうしようもなく深い溝があると思います。本症例は、S状結腸がんの開腹手術後8日目に縫合不全を来たし(これはやむを得ない合併症と考えられます)、術後17日でそれまで投与していた抗菌薬を変更、その後に報告された細菌培養の結果から、より効果の期待できるミノマイシン®を点滴投与したところ、その直後にアナフィラキシーショックを発症しました。ショック発現までの時間経過を振り返ると、22:00ミノマイシン®開始。数分後に苦しくなりうめき声を上げたので家族がナースコール。22:10看護師が訪室、各薬剤の投与を中止してドクターコール。22:15心肺停止状態。数分後に医師が到着し、救急蘇生開始。22:30喉頭浮腫が強く挿管不能のため、喉頭穿刺を行う。22:40気管内挿管に成功するが心肺停止状態。となっています。今回の病院は約350床程度の規模で、上記の対応をみる限り、病院内の急変に対する体制としてはけっして不十分ではないと思います。最高裁判所の判事は、アナフィラキシーショックは5分以内の発見が大事である、という文献をもとに、もし看護師がミノマイシン®開始後ずっと付き添っていれば、もっと早く救急措置ができたであろう、という根拠で医師の過失と断じました。ところが当時の状況は、大腸がんの開腹手術後17日が経過し、すでに集中治療室から一般病室へ転室していると思われ、何とか縫合不全を保存的治療で治そうとしている状況でした。しかも、薬剤アレルギーの既往症が申告されていたとはいえ、それまでに使用したパンスポリン®、セフチゾキシム®、ベストコール®、ペントシリン®では何ら副作用の問題はなかったのですから、抗菌薬の一部変さらに際して看護師に特別な指示を出すべき積極的な理由はなかったと思います。ましてや、ミノマイシン®は皮内反応が不要とされている抗菌薬なので、裁判官のいうようにアナフィラキシーショックを予見して、22:00からのミノマイシン®開始に際して看護師をつきっきりで貼り付けておくことなど、けっして現実的ではないように思います。もし、看護師がベッドサイドでずっと付き添っていたとして、救命措置をどれくらい早く開始することができたでしょうか。側に付き添っていた家族が異変に気づいたのは、ミノマイシン®静脈注射開始後数分でしたから、おそらく22:05頃にドクターコールを行い、22:10くらいには院内の当直医が病室へ到着することができたと思われます(おそらく5~10分程度の短縮でしょう)。その時点から救急蘇生が開始されることになりますが、果たして22:15の心肺停止を5分間の措置で防ぎ得たでしょうか。しかもアナフィラキシーショックに関連した喉頭浮腫が急激に進行し、気道を確保することすらできず、やむなく喉頭穿刺まで行っていますので、けっして茫然自失として事態をやり過ごしたとか、注意義務を果たさなかったというような診療行為ではないと思います。つまり、本件のような激烈なアナフィラキシーショックの場合、医師が神業のような処置を行っても救命できないケースが存在するのは厳然とした事実です。にもかかわらず、医師や看護師がつきっきりでみていなかったのが悪い、救急措置をもう少し早くすれば助かったかもしれないなどという考え方は、病気のリスクを紙面でしか知り得ない裁判官の偏った考え方といえるのではないでしょうか。このように、医師にとっては防ぎようのないと思われる病態をも、医療ミスとして結果責任を問う声が非常に大きくなっていると思います。極論すると、個々の医療行為に対してすべてのリスクを説明し、それでもなお治療を受けると患者が同意しない限り、医師は結果責任を免れることはできません。すなわち本件でも、患者およびその家族へ、術後の縫合不全や感染症にはミノマイシン®が必要であることを十分に説明し、アレルギーがある患者ではミノマイシン®によってショックを起こして死亡することもありうるけれども、それでも注射してよいか、という同意を求めなければならない、ということですが、そのような説明をすることはきわめて不自然でしょう。本件は「医師や看護師の過失はない」と考えた高等裁判所へ差し戻されていますが、ぜひとも良識のある判断を期待したいと思います。一方、抗菌薬の取り扱いに関して、2004年10月に日本化学療法学会から「抗菌薬投与に関連するアナフィラキシー対策のガイドライン」が発表されました。それによると、これまで慣習化していた抗菌薬投与前の皮内反応は、アナフィラキシー発現の予知として有用性に乏しいと結論付けています。具体的には、アレルギー歴のない不特定多数の症例には皮内反応の有用性はないとする一方で、病歴からアレルギーが疑われる患者に抗菌薬を投与せざるを得ない場合には、あらかじめ皮内反応を行った方がよいということになります。そして、抗菌薬静脈内投与に際して重要な基本的事項として、以下の3点が強調されました。事前に既往症について十分な問診を行い、抗菌薬などによるアレルギー歴は必ず確認すること投与に際しては必ずショックなどに対する救急処置のとれる準備をしておくこと投与開始から投与終了後まで、患者を安静の状態に保たせ、十分な観察を行うこと。とくに、投与開始直後は注意深く観察することこのうち、本件のようなケースには第三項が重要となります。これまでは、抗菌薬静脈内注射後にはまれに重篤な副作用が現れることがあるので経過観察は大事ですよ、という一般的な認識はあっても、具体的にどのようにするのか、といった対策まで講じている施設は少ないのではないでしょうか。しかも、抗菌薬投与の患者全員に対し、「投与開始から投与終了後まで十分な観察を行う」ことは、実際の医療現場では事実上不可能ではないかと思われます。ところが、このようなガイドラインが発表されると、不幸にも抗菌薬によるアナフィラキシーショックを発症して死亡し紛争へ至った場合、この基本三原則に基づいて医師の過失を判断する可能性がきわめて高くなります。当時は急患で忙しかった、看護要員が足りずいかんともし難い、などというような個別の事情は、一切通用しなくなると思います。またガイドラインの記述は、「抗菌薬投与開始直後は注意深く観察すること」という漠然とした内容であり、ではどのようにしたらよいのか、バイタルサインをモニターするべきなのか、開始直後とは何分までなのか、といった対策までは提示されていません。ところが、このガイドラインのもとになった「日本化学療法学会臨床試験委員会・皮内反応検討特別部会の報告書(日本化学療法学会雑誌 Vol.51:497-506, 2003)」によると、「きわめて低頻度であるがアナフィラキシーショックが発現するので、事前に抗菌薬によるショックを含むアレルギー歴の問診を必ず行い、静脈内投与開始後20~30分における患者の観察とショック発現に対する対処の備えをしておくことが必要である」とされました。すなわち、ここではっきりと「20~30分」という具体的な基準が示されてしまいましたので、今後はこれがスタンダードとされる可能性が高いと思います。したがって、抗菌薬の初回静脈内投与では、全例において、点滴開始後少なくとも20分程度は誰かが付き添う、モニターをつけておく、などといった注意を払う必要があることになります。これを杓子定規に医療現場に当てはめると、かなりな混乱を招くことは十分に予測されますが、世の中の流れがこのようになっている以上、けっして見過ごすわけにはいかないと思います。今回の症例を参考にして、ぜひとも先生方の施設における方針を再確認して頂ければと思います。日本化学療法学会「抗菌薬投与に関連するアナフィラキシー対策のガイドライン(2004年版)」日本化学療法学会「抗菌薬投与に関連するアナフィラキシー対策について(2004年版概要)」日本化学療法学会臨床試験委員会・皮内反応検討特別部会報告書(日本化学療法学会雑誌 Vol.51:497-506, 2003)」消化器

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