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非転移性去勢抵抗性前立腺がんに対するエンザルタミドの第III相試験開始

 アステラス製薬は、12月4日、米国 メディベーション社と共同開発中の経口アンドロゲン受容体阻害剤エンザルタミドについて、非転移性去勢抵抗性前立腺がん患者を対象とした第III相臨床試験(PROSPER 試験)の患者登録を開始したことを発表した。 試験概要を下記にまとめる。 P Patient(患者) 非転移性去勢抵抗性前立腺がん患者 約1,500名 I Intervention(介入) 標準治療+エンザルタミド(160mgを1日1回投与) C Comparison(比較対照) 標準治療+プラセボ O Outcome(転帰) 無転移生存期間  なお、エンザルタミドは、ドセタキセル(日本商品名:タキソテール、ワンタキソテール)による治療歴を有する転移性去勢抵抗性前立腺がん、化学療法未治療の転移性去勢抵抗性前立腺がん患者における、それぞれの全生存期間の延長が認められている。 アステラス製薬は、国内では今年5月に「前立腺癌」の効能・効果で製造販売承認申請を行っている。

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StageIV大腸がんにおける原発巣切除は生存期間を延長-大規模コホート研究より

 StageIV大腸がん患者における原発巣切除のベネフィットに関して、現在報告されているエビデンスはきわめて質が低いものである。非ランダム化研究で原発巣切除のベネフィットが報告された場合、若年者で全身状態(PS)良好な患者を選択している可能性もある。カナダのShahid Ahmed氏らは、大規模な人口ベースのコホート研究において、進行大腸がんの原発巣切除による延命効果について、これまで報告されているバイアスを排除したうえで検討した。その結果、年齢、PS、合併症、化学療法などの予後変数に関係なく、原発巣切除がStageIV大腸がん患者の生存期間を延長することが示された。Cancer誌オンライン版2013年11月12日号に掲載。 本研究は、カナダ・サスカチュワン州で1992年~2005年に診断されたStageIV大腸がん患者を対象としたレトロスペクティブなコホート研究である。 適格患者1,378例が同定され、平均年齢は70歳(範囲:22~98歳)、男女比は1.3:1であり、そのうち944例(68.5%)が原発巣切除を受けた。また、1,378例のうち42.3%が化学療法を受け、19.1%が2次化学療法を受けた。生存率はカプランマイヤー法で推定し、ログランク検定で比較した。原発巣切除による生存期間延長効果については、Cox比例多変量回帰分析を用いて、ほかの予後変数を調整し評価した。 主な結果は以下のとおり。・全生存期間中央値は、化学療法単独例で8.4ヵ月(95%CI:7.1~9.7ヵ月)に対し、原発巣切除および化学療法施行例で18.3ヵ月(95%CI:16.6~20ヵ月)であった(p<0.0001)。・Cox比例分析により、化学療法施行(ハザード比[HR]:0.47、95%CI:0.41~0.54)、原発巣切除(HR:0.49、95%CI:0.41~0.58)、2次化学療法施行(HR:0.47、95%CI:0.45~0.64)、転移巣切除(HR:0.54、95%CI:0.45~0.64)が生存期間延長と相関していたことが示された。

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自家幹細胞移植、中悪性度非ホジキンリンパ腫の地固め療法として有効/NEJM

 自家幹細胞移植は、高中リスクおよび高リスクのびまん性中悪性度(aggressive)非ホジキンリンパ腫(NHL)の地固め療法として有効であることが、米国・ロヨラ大学医療センターのPatrick J Stiff氏らが行ったSWOG9704試験で示された。NHL治療は、「リツキシマブ時代」と呼ばれる状況下で、さらなる予後改善に向けさまざまな治療アプローチの探索が進められている。国際予後指標(IPI)により、診断時に持続的寛解の可能性が50%未満の患者の同定が可能となり、自家幹細胞移植の早期治療への導入が図られているが、高リスク例に対する地固め療法としての有効性は、その可能性が指摘されながらも長期にわたり確立されていなかった。NEJM誌2013年10月31日号掲載の報告。導入療法奏効例での有用性を無作為化試験で評価 SWOG9704試験は、米国のSWOG、ECOG、CALGBおよびカナダNCIC-CTGに所属する40施設が参加した無作為化試験。対象は、年齢15~65歳、生検でNHLが確認され、IPIで年齢調整リスクが高中または高と判定されたびまん性aggressive NHL患者であった。 1999年8月15日~2007年12月15日までに397例が登録され、導入療法としてシクロホスファミド+ドキソルビシン+ビンクリスチン+プレドニゾン(prednisone)(CHOP)療法またはリツキシマブ+CHOP(R-CHOP)療法が5コース施行された。このうち奏効が得られた患者が、地固め療法としてさらに3コースの導入療法レジメンを施行する群(対照群)または1コースの導入療法レジメン施行後に自家幹細胞移植を行う群(移植群)に無作為に割り付けられた。 有効性に関する主要エンドポイントは、2年無増悪生存率(PFS)および全生存率(OS)であった。高リスク群では、OSも有意に改善 適格基準を満たした370例のうち、導入療法が奏効した253例が無作為割り付けの対象となった(移植群125例、対照群128例)。370例の患者背景は、年齢中央値51(18.3~65.9)歳、男性59%で、B細胞リンパ腫が89%、T細胞リンパ腫は11%であった。 追跡期間中に病態が進行または死亡した患者は、移植群が46/125例、対照群は68/128例で、推定2年PFSはそれぞれ69%、55%であった。リスクスコアで調整したCox回帰モデルによる多変量解析では、ハザード比(HR)は1.72(95%信頼区間[CI]:1.18~2.51、p=0.005)であり、移植群が有意に良好だった。 死亡例数は移植群が37例、対照群は47例で、2年OSはそれぞれ74%、71%であり、両群に差は認めなかった(HR:1.26、95%CI:0.82~1.94、p=0.30)。 探索的解析では、高中リスク例と高リスク例で治療効果が異なることが示された。すなわち、高中リスク群の2年PFSは、移植群が66%、対照群は63%と同等であった(p=0.32)が、高リスク群ではそれぞれ75%、41%であり、有意差が認められた(p=0.001)。2年OSも、高中リスク群では移植群が70%、対照群は75%と差は認めなかった(p=0.48)のに対し、高リスク群では移植群が82%と、対照群の64%に比べ有意に良好だった(p=0.01)。 予測されたように、移植群では対照群に比べGrade 3/4の有害事象が多くみられた。治療関連死は移植群が6例(5%)(肺障害3例、出血と腎不全1例、感染症1例、多臓器不全1例)、対照群は3例(2%)(心血管障害1例、感染症1例、原因不明1例)に認められた。 著者は、「自家幹細胞移植の早期導入により、導入療法で奏効が得られた高中および高リスク患者のPFSが改善された」とまとめ、「対照群の再発例62例(48%)のうち29例(47%)にサルベージ療法として化学療法や移植が行われており、これがOSに有意差がなかった理由と考えられる」と指摘している。

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進行膵がんのnab-PTX+GEM療法、新たな標準治療のエビデンス/NEJM

 局所進行・転移性膵腺がんの1次治療において、ナノ粒子アルブミン結合パクリタキセル(ナブパクリタキセル、nab-PTX)+ゲムシタビン(GEM)併用療法は、GEM単独療法に比べ高い有効性をもたらすことが、米国・Translational Genomics Research InstituteのDaniel D. Von Hoff氏らの検討で示された。GEMは、1997年以降、切除不能な局所進行・転移性膵がんの1次治療の標準治療とされている。この間に、多くの薬剤が第2相試験で有望な結果を示したが、第3相試験で生存期間の有意な改善効果を達成したのはGEM+エルロチニブと、オキサリプラチン+イリノテカン+フルオロウラシル+ロイコボリン(FOLFIRINOX)だけであった。nab-PTX+GEM併用療法は、第1/2相試験で転移性膵がんに対する実質的な臨床効果が確認されていた。NEJM誌オンライン版2013年10月16日号掲載の報告。nab-PTX+GEM併用療法の効果を評価 研究グループは、切除不能局所進行・転移性膵がんの1次治療におけるnab-PTX+GEM併用療法とGEM単独療法の有用性を比較する無作為化第III相試験を実施した。対象は、年齢18歳以上、全身状態(PS)がKarnofskyスコア≧70で、前化学療法を受けていない局所進行・転移性膵がん患者であった。 初回コースは、nab-PTX+GEM併用群がnab-PTX 125mg/m2(体表面積当たり、30~40分で静脈内投与)+GEM 1,000mg/m2(静脈内投与)を第1、8、15、29、36、43日に投与し、GEM単独群はGEM 1,000mg/m2を週1回、8週中7週に投与した。2コース目以降は両群とも、4週を1コースとして第1、8、15日に投与した。 治療は、病態進行(PD)または許容されない有害事象が発現するまで継続され、per-protocol解析およびクロスオーバーは不可とした。主要評価項目は全生存期間(OS)、副次評価項目は無増悪生存期間(PFS)、全奏効率(ORR)であった。OS中央値はnab-PTX併用群が8.5ヵ月でGEM単独群は6.7ヵ月 2009年5月~2012年4月までに、北米、欧州、オーストラリアの11ヵ国151施設から861例が登録され、nab-PTX併用群に431例(年齢中央値62歳、女性43%)が、GEM単独群には430例(63歳、40%)が割り付けられ、それぞれ421例、402例が実際に治療を受けた。 OS中央値はnab-PTX併用群が8.5ヵ月と、GEM単独群の6.7ヵ月に比べ有意に延長した(死亡のハザード比[HR]:0.72、95%信頼区間[CI]:0.62~0.83、log-rank検定のp<0.001)。1年生存率はnab-PTX併用群が35%、GEM単独群は22%で、2年生存率はそれぞれ9%、4%であった。 両群の生存曲線は治療開始から1.8ヵ月後には分離し始め、生存率25%時の生存期間中央値はnab-PTX併用群が14.8ヵ月と、GEM単独群の11.4ヵ月に比べ3.4ヵ月の延長が認められた。 独立審査委員会判定によるPFS中央値は、nab-PTX併用群が5.5ヵ月、GEM単独群は3.7ヵ月(HR:0.69、95%CI:0.58~0.82、log-rank検定:p<0.001)、ORRはそれぞれ23%、7%(p<0.001)であり、いずれも有意な差が認められた。病勢コントロール率(CR+PR+16週以上持続するSD)はそれぞれ48%、33%(p<0.001)であった。nab-PTXをGEMと併用するとGEM単独に比べ有意に改善 OS、PFSに関する事前に規定されたサブグループ解析では、ほとんどのサブグループにおいてnab-PTX併用群がGEM単独群よりも良好であった。 最も頻度の高いGrade 3以上の有害事象は、好中球減少(nab-PTX併用群:38%、GEM単独群:27%)、疲労(17%、7%)、末梢神経障害(17%、1%)であった。発熱性好中球減少はnab-PTX併用群の3%、GEM単独群の1%にみられた。nab-PTX併用群におけるGrade 3以上の末梢神経障害は、いずれも29日(中央値)後までにはGrade 1以下に改善した。 著者は、「nab-PTXをGEMと併用することで、GEM単独に比べOS、PFS、ORRが有意に改善した。nab-PTX併用により末梢神経障害や骨髄抑制の頻度が上昇したが、いずれも回復した」とまとめ、「併用群では、nab-PTXの追加によりGEMの累積投与量が増加し、治療期間の延長や総投与量の増加が達成されたことが、高い有効性をもたらしたと考えられる」と考察している。

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膵がん完全切除患者へのゲムシタビン、無病生存期間2倍に延長/JAMA

 膵がん完全切除患者へのゲムシタビン(商品名:ジェムザールほか)による補助化学療法は、無病生存期間を2倍延長する可能性があることが示された。5年生存率、10年生存率も、補助化学療法により改善が示された。ドイツ・シャリテ大学病院のHelmut Oettle氏らが行った、膵がん完全切除患者に対するゲムシタビンの有効性と安全性に関する第3相治験「CONKO-001」の結果で、JAMA誌2013年10月9日号で発表された。ゲムシタビンは、進行性膵がんの標準治療であるが、補助療法としての生存への効果はこれまで明らかにされていなかった。88ヵ所の医療機関で354例を無作為化 研究グループは、1998年7月~2004年12月にかけて、ドイツ・オーストリアの88ヵ所の医療機関を通じ、膵がん完全切除患者354例を対象に、オープンラベル無作為化試験を開始した。追跡は、2012年9月まで行われた。 被験者は2群に分けられ、一方には補助ゲムシタビン療法(ゲムシタビン1g/m2を第1日、8日、15日に投与、4週間を1サイクル)を6ヵ月間、もう一方の群には経過観察のみが行われた。 主要アウトカムは、無病生存期間だった。2次アウトカムは、治療の安全性および無作為化からの全生存期間だった。無病生存期間の中央値はゲムシタビン群が13.4ヵ月、経過観察群は6.7ヵ月 2012年9月までに再発が認められたのは308例(87.0%、95%信頼区間[CI]:83.1~90.1)、死亡は316例(89.3%、同:85.6~92.1)だった。追跡期間の中央値は、136ヵ月だった。 主要アウトカムの無病生存期間の中央値は、経過観察群が6.7ヵ月(同:6.0~7.5)だったのに対し、ゲムシタビン群は13.4ヵ月(同:11.6~15.3)と、有意な延長が認められた(ハザード比[HR]:0.55、95%CI:0.44~0.69、p<0.001)。 また全生存期間の中央値についても、経過観察群の20.2ヵ月に対し、ゲムシタビン群は22.8ヵ月と有意に延長した(同:0.76、0.61~0.95、p=0.01)。 5年生存率は、経過観察群が10.4%(95%CI:5.9~15.0)に対しゲムシタビン群は20.7%(同:14.7~26.6)、10年生存率はそれぞれ7.7%(同:3.6~11.8)と12.2%(同:7.3~17.2)だった。 結果を踏まえて著者は「今回の結果は、補助療法としてのゲムシタビン使用を強く支持するものであった」と結論している。

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新規抗VEGFR-2抗体薬、進行・再発胃がんの全生存期間を延長/Lancet

 初回化学療法後に増悪が認められた進行・再発の胃・胃食道接合部腺がん患者に対して、抗VEGFR-2抗体薬ラムシルマブ(Ramucirumab)単剤投与に生存ベネフィットがあることが報告された。米国・ハーバードメディカルスクールのCharles S Fuchs氏らが行ったプラセボ対照の無作為化二重盲検第3相国際共同試験「REGARD」の結果で、全生存期間(OS)の改善および無増悪生存期間(PFS)の延長がいずれも有意に認められたという。Lancet誌オンライン版2013年10月1日号掲載の報告より。初回化学療法後の進行例に単剤投与 胃がんの発症および進行には、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)と、VEGF受容体-2(VEGFR-2)を介したシグナル伝達および血管新生が関与している可能性がある。研究グループは、モノクローナル抗体VGEFR-2拮抗薬であるラムシルマブが、進行性胃がん患者の生存を延長するかを評価することを目的とした。 REGARD試験は、2009年10月6日~2012年1月26日に、29ヵ国119医療施設で行われ、24~87歳の胃がんまたは胃食道接合部腺がんで、初回化学療法(プラチナ製剤もしくはフッ化ピリミジン系薬剤)後に疾患進行が認められた患者を対象とした。 患者は、至適支持ケア+ラムシルマブ8mg/kgまたはプラセボを2週に1回静注で受けるよう、2対1の割合で無作為に割り付けられた。なお治療割り付けについて、試験スポンサー、参加者および研究者はマスキングされた。 主要エンドポイントは、全生存期間(OS)であった。また副次エンドポイントには無増悪生存期間(PFS)などが含まれた。ラムシルマブ群の全生存期間5.2ヵ月で、プラセボ群に対し有意に延長 355例の患者が無作為化を受けた(ラムシルマブ群238例、プラセボ群117例)。 OS中央値は、ラムシルマブ群5.2ヵ月(IQR:2.3~9.9)、プラセボ群3.8ヵ月(同:1.7~7.1)で、ラムシルマブ群の有意な延長が認められた(ハザード比[HR]:0.776、95%信頼区間[CI]:0.603~0.998、p=0.047)。ラムシルマブによる生存ベネフィットは、その他の予後因子(原発部位の違い、腹膜転移有無など)による多変量補正後も変化しなかった(多変量HR:0.774、95%CI:0.605~0.991、p=0.042)。 PFSも、ラムシルマブ群2.1ヵ月、プラセボ群1.3ヵ月と、ラムシルマブ群で有意な延長が認められた(HR:0.483、95%CI:0.376~0.620、p<0.0001)。 有害事象については、ラムシルマブ群で高血圧症の割合が高かったが(16%対8%)、その他の有害事象については、ほとんど同程度であった(94%対88%)。 死亡例のうち試験薬に関連があるとみなされたのはラムシルマブ群5例(2%)、プラセボ群2例(2%)であった。 以上の結果を踏まえて著者は、「ラムシルマブは、初回化学療法後に進行した胃がん・胃食道接合部腺がん患者において単剤投与でも生存ベネフィットがある、初の分子標的薬である。今回の結果は、進行した胃がんにおいて、VEGFR-2は重要な治療ターゲットであることが確認された」と結論している。

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『科学的根拠に基づく肝癌診療ガイドライン2013年版』が4年ぶりに改訂

 『科学的根拠に基づく肝癌診療ガイドライン 2013年版(第3版)』(編集:日本肝臓学会)が、10月15日より発売される。 2009年以来となる第3版の改訂では、肝癌治療を行ううえで重要な、再発に関する章が新設された。また、化学療法と放射線治療はそれぞれ独立した章として改められ、分子標的薬のソラフェニブに関する推奨などが加わった。文献については、2011年12月までを検索範囲とし新たなエビデンスを追加。57のCQ(クリニカルクエスチョン)において、21件の改訂が行われ、19件が新設された。 具体的には、全体を大きく8つの章に分け、予防、診断およびサ-ベイランス、手術、穿刺局所療法、肝動脈化学塞栓療法(TACE)、化学療法、放射線治療、治療後のサ-ベイラインス/再発予防/再発治療についてCQ形式で解説している。肝癌診療を行う治療医必携のガイドライン。 ガイドラインは、全国の書店、アマゾンなどで発売。定価は3,780円(本体3,600円+税5%)。詳しくは、金原出版まで

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造血器腫瘍領域で待望の『造血器腫瘍診療ガイドライン2013年版』が発売

 『造血器腫瘍診療ガイドライン 2013年版(第1版)』(編集:日本血液学会)が、10月11日より発売された。 白血病、リンパ腫、骨髄腫などの造血器腫瘍では、従来の化学療法に加え、分子標的療法、造血幹細胞移植など治療選択肢が広がってきている。このことに伴い、現時点でのエビデンスの整理と適切な診療を行うためのガイドラインの必要性が増してきたことから、今回初めて作成された。 本書は、全体を白血病、リンパ腫、骨髄腫の大きく3つに分けたうえで、それぞれの疾患の各病型について、総論、アルゴリズム、CQという構成で解説している。巻末には、効果判定規準一覧、薬剤名一覧、治療一覧なども付録。 ガイドラインは、全国の書店、アマゾンなどで発売。定価は5,250円(本体5,000円+税5%)。詳しくは、金原出版まで

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がん患者における婚姻状況と生存率の関連

 婚姻状況(配偶者の有無)によって、がん診断時のステージや根治的治療の実施、がんによる死亡率に違いはあるのだろうか。 ハーバード大学のAyal A. Aizer氏らが、米国のがん登録システムであるSurveillance, Epidemiology and End Results(SEER)programを用いて、死亡数の多いがんについて調査したところ、配偶者のいないがん患者では、診断時における転移、治療の不足、がんによる死亡のリスクが有意に高いことが示された。Journal of Clinical Oncology誌オンライン版2013年9月23日号に掲載。 著者らは、SEERデータベースを用い、2004年~2008年に肺がん、大腸がん、乳がん、膵臓がん、前立腺がん、肝臓がん/肝内胆管がん、非ホジキンリンパ腫、頭頸部がん、卵巣がん、食道がんと診断された126万898例の患者を同定した。そのなかから、臨床情報およびフォローアップ情報のある73万4,889例について、多変量ロジスティック回帰分析およびCox回帰分析を用いて検討した。 主な結果は以下のとおり。・配偶者がいる患者は、いない患者(別居、離婚、死別を含む)より、転移を伴って診断されることが少なく(補正オッズ比[OR]:0.83、95%信頼区間[CI]:0.82~0.84、p<0.001)、根治的治療を受けることが多く(補正OR:1.53、95%CI:1.51~1.56、p<0.001)、人口統計学的特性・ステージ・治療に関する因子で調整後のがん関連死亡が少ない(調整ハザード比:0.80、95%CI:0.79~0.81、p<0.001)ことが示された。・これらの関係は各がんにおいて分析した場合も有意であった(各がんのすべてのエンドポイントでp<0.05)。・配偶者がいることに関連付けられるメリットは、女性より男性のほうがすべてのアウトカムで大きかった(すべての場合でp<0.001)・前立腺がん、乳がん、大腸がん、食道がん、頭頸部がんでは、配偶者がいることに関連付けられる延命効果が、化学療法で報告されている延命効果よりも大きかった。

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早期胃がん術後の抗がん剤副作用で死亡したケース

癌・腫瘍最終判決判例タイムズ 1008号192-204頁概要53歳女性、胃内視鏡検査で胃体部大弯に4~5cmの表層拡大型早期胃がん(IIc + III型)がみつかり、生検では印環細胞がんであった。胃2/3切除およびリンパ節切除が行われ、術後に補助化学療法(テガフール・ウラシル(商品名:UFT)、マイトマイシン(同:MMC)、フルオロウラシル(同:5-FU))が追加された。ところが、5-FU®静注直後から高度の骨髄抑制を生じ、術後3ヵ月(化学療法後2ヵ月)で死亡した。詳細な経過患者情報とくに既往症のない53歳女性経過1992年3月6日背中の痛みを主訴に個人病院を受診。3月18日胃透視検査で胃体部大弯に陥凹性病変がみつかる。4月1日胃内視鏡検査にて、4~5cmに及ぶIIc + III型陥凹性病変が確認され、生検でGroup V印環細胞がんであることがわかり、本人にがんであることを告知の上、手術が予定された。4月17日胃2/3切除およびリンパ節切除術施行。術中所見では漿膜面にがん組織(のちに潰瘍瘢痕を誤認したものと判断された)が露出していて、第2群リンパ節にまで転移が及んでいたため、担当医師らはステージIIIと判断した。4月24日病理検査結果では、リンパ節転移なしと判定。4月30日病理検査結果では、早期胃がんIIc + III、進達度m、印環細胞が増生し、Ul III-IVの潰瘍があり、その周辺にがん細胞があるものの粘膜内にとどまっていた。5月8日病理検査結果では前回と同一で進行がんではないとの報告。ただしその範囲は広く、進達度のみを考慮した胃がん取り扱い規約では早期がんとなるものの、すでに転移が起こっていることもあり得ることが示唆された。5月16日術後経過に問題はなく退院。5月20日白血球数3,800、担当医師らは術後の補助化学療法をすることにし、抗がん剤UFT®の内服を開始(7月2日までの6週間投与)。6月4日白血球数3,900、抗がん剤MMC® 4mg投与(6月25日まで1週間おきに4回投与)。6月18日白血球数3,400。6月29日抗がん剤5-FU® 1,250mg点滴静注。6月30日抗がん剤5-FU® 1,250mg点滴静注。7月1日白血球数2,900。7月3日白血球数2,400、身体中の激痛が生じ再入院。7月4日白血球数2,200、下痢がひどくなり、全身状態悪化。7月6日白血球数1,000、血小板数68,000。7月7日白血球数700、血小板数39,000、大学病院に転院。7月8日一時呼吸停止。血小板低下が著しく、輸血を頻回に施行。7月18日死亡。当事者の主張患者側(原告)の主張1.リンパ節転移のないmがん(粘膜内がん)に補助化学療法を行った過失診療当時(1992年)の知見をもってしても、表層拡大型IIc + III早期胃がん、ステージI、リンパ節、腹膜、肝臓などのへの転移がなく外科的治癒切除を行った症例に、抗がん剤を投与したのは担当医師の明らかな過失である。しかも、白血球数が低下したり、下痢がみられた状態で抗がん剤5-FU®を投与するのは禁忌であった2.説明義務違反印環細胞がん、表層拡大型胃がんについての例外的危険を強調し、抗がん剤を受け入れざるを得ない方向に誘導した。そして、あえて危険を伴っても補助化学療法を受けるか否かを選択できるような説明義務があったにもかかわらず、これを怠った3.医療知識を獲得して適切な診断・治療を患者に施すべき研鑽義務を怠った病院側(被告)の主張1.リンパ節転移のないmがんに補助化学療法を行った過失術中所見ではがん組織が漿膜面まで明らかにでており、第2群のリンパ節に転移を認めるのでステージIIIであった。病理組織では摘出リンパ節に転移の所見がなく、肝臓などに肉眼的転移所見がみられなかったが、それで転移がなかったとはいえない。本件のような表層拡大型早期胃がんはほかの胃がんに比べて予後が悪く、しかも原発病巣が印環細胞がんという生物学的悪性度のもっとも強いがんであるので、再発防止目的の術後補助化学療法は許されることである。白血球数は抗がん剤の副作用以外によっても減少するので、白血球数のみを根拠に抗がん剤投与の適否を評価するべきではない2.説明義務違反手術で摘出したリンパ節に転移がなく、進達度が粘膜内ではあるが、この結果は絶対的なものではない。しかも原発病巣が生物学的悪性度のもっとも強い印環細胞がんであり、慎重に対処する必要があるので、副作用があるが抗がん剤を投与するかどうか決定するように説明し、患者の同意を得たので説明義務違反はない3.医療知識を獲得して適切な診断・治療を患者に施すべき研鑽義務1980年以降に早期胃がんに対して補助化学療法を行わないとの考えが確立したが、担当医師ががん専門病院に勤務していたのは1970~1980年であり、この当時は抗がん剤の効果をみるために早期胃がんに対しても術後補助化学療法治療試験が盛んに行われていた。したがって、早期胃がんに対して補助化学療法を行わないとの考えを開業医レベルの担当医師に要求するのは無理である裁判所の判断1. リンパ節転移のないmがんに補助化学療法を行った過失担当医師らは肉眼所見でがん組織が漿膜面まで露出していたとするが、これは潰瘍性瘢痕をがんと誤認したものである。また、第2群のリンパ節に転移を認めるステージIIIであったと主張するが、数回にわたって行われた病理検査でがんが認められなかったことを優先するべきであるので、本件は進行がんではない。したがって、そもそも早期がんには不必要かつ有害な抗がん剤を投与したうえに、下痢や白血球減少状態などの副作用がみられている状況下では禁忌とされている5-FU®を、常識では考えられないほど大量投与(通常300~500mgのところを1,250mg)をしたのは、医師として当然の義務を尽くしていないばかりか、抗がん剤の副作用に対する考慮の姿勢がみじんも存在しない。2. 説明義務違反説明義務違反に触れるまでもなく、担当医師に治療行為上の重大な過失があったことは明らかである。3. 医療知識を獲得して適切な診断・治療を患者に施すべき研鑽義務を怠った。担当医師はがん専門病院に勤務していた頃の知見に依拠して弁解に終始しているが、がん治療の方法は日進月歩であり、ある知見もその後の研究や医学的実践において妥当でないものとして否定されることもあるので、胃がんの治療にあたる以上最新の知見の修得に努めるべきである。原告側合計6,733万円の請求を全額認定考察この判例から得られる教訓は、医師として患者さんの治療を担当する以上、常に最新の医学知識を吸収して最良の医療を提供しなければならないということだと思います。いいかえると、最近ようやく臨床の現場に浸透しつつあるEBM(evidence based medicine)の考え方が、医療過誤かどうかを判定する際の基準となる可能性が高いということです。裁判所は、以下の知見はいずれも一般的な医学文献等に掲載されている事項であると判断しました。(1)mがんの再発率はきわめて低いこと(2)抗がん剤は胃がんに対して腫瘍縮小効果はあっても治療効果は認められないこと(3)印環細胞がん・表層拡大型胃がん、潰瘍型胃がんであることは再発のリスクとは関係ないこと(4)抗がん剤には白血球減少をはじめとした重篤な副作用があること(5)抗がん剤は下痢の症状が出現している患者に対して投与するべきでないことこれらの一つ一つは、よく勉強されている先生方にとっては常識的なことではないかと思いますが、医学論文や学会、症例検討会などから疎遠になってしまうと、なかなか得がたい情報でもあると思います。今回の担当医師らは、術中所見からステージIIIの進行がんと判断しましたが、病理組織検査では「転移はないmがんである」と再三にわたって報告が来ました。にもかかわらず、「今までの経験」とか「直感」をもとに、「見た目は転移していそうだから、がんを治療する以上は徹底的に叩こう」と考えて早期がんに対し補助化学療法を行ったのも部分的には理解できます。しかし、われわれの先輩医師たちがたくさんの症例をもとに築き上げたevidenceを無視してまで、独自の治療を展開するのは大きな問題でしょう。ことに、最近では医師に対する世間の評価がますます厳しくなっています。そもそも、総務庁の発行している産業分類ではわれわれ医師は「サービス業」に分類され、医療行為は患者と医療従事者のあいだで取り交わす「サービスの取引」と定義されています。とすると、本件では「自分ががんの研修を行った10~20年前までは早期胃がんに対しても補助化学療法を行っていたので、早期胃がんに補助化学療法を行わないとする最新の知見を要求されても困る」と主張したのは、「患者に対し10~20年前のまちがったサービスしか提供できない」ことと同義であり、このような考え方は利用者(患者)側からみて、とうてい受容できないものと思われます。また、「がんを治療する以上は徹底的に叩こう」ということで5-FU®を通常の2倍以上(通常300~500mgのところを1,250mg)も使用しました。これほど大量の抗がん剤を一気に投与すれば、骨髄抑制などの副作用が出現してもまったく不思議ではなく、とても「知らなかった」ではすまされません。判決文でも、「常識では考えられないほど抗がん剤を大量投与をしたのは、抗がん剤の副作用に対する考慮の姿勢がみじんも存在しない」と厳しく批判されました。「医師には生涯教育が必要だ」、という声は至るところで耳にしますが、今回の事例はまさにそのことを示していると思います。日々遭遇する臨床上の問題についても、一つの考え方にこだわって「これしかない」ときめつけずに、ほかの先生に意見を求めたり、文献検索をしなければならないと痛感させられるような事例でした。癌・腫瘍

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ALK陽性肺がん第3相試験、日本人の結果は

 クリゾチニブ(商品名:ザーコリ)のPhase III試験PROFILE 1007 では、進行ALK陽性非小細胞肺がん(NSCLC)2次治療において、クリゾチニブは標準的化学療法であるペメトレキセド(同:アリムタ)またはドセタキセル(同:タキソテール)に比べ、有意に無増悪生存期間(PFS)および奏効率(ORR)を改善した。この試験の日本人のサブ解析が、第11回日本臨床腫瘍学会にて近畿大学腫瘍内科の中川和彦氏から発表された。 PROFILE1007試験は日本を含む21ヵ国105施設で登録されたALK陽性NSCLC患者347例を対象に行われている。日本人は69例 と、そのうち約20%を占めている。日本人における割り付けはクリゾチニブ群40例、化学療法群29例(ペメトレキセド16例、ドセタキセル13例)であった。 日本人のPFS中央値はクリゾチニブ群で7.7ヵ月(over all 7.7ヵ月)に対し、化学療法群4.2ヵ月(over all 3.0 ヵ月)、HR=0.47(over all 0.49)、p=0.0062(over all p<0.001)で有意に改善していた。 また、ORRはクリゾチニブ群73.0%(over all 65.3%)に対し、化学療法群28.0%(over all 19.5%)、HR=2.7(over all 3.4)、p=0.0001(over all p<0.0001)と、こちらも有意に改善していた。このようにクリゾチニブは、日本人のALK陽性非小細胞肺がんにおいてもPFS、ORRともに著明に改善する事が明らかになった。 一方、日本人の有害事象発現は、クリゾチニブ群はover allと比較して全般的に高かった。主な有害事象項目はover allと同様、眼症状、悪心・嘔吐、下痢などで、その多くはGrade1~2であった。しかし、間質性肺障害で2例の治療関連死があり、その2例はいずれも日本人患者であった。 有害事象の頻度は日本人で高いものの、効果面も安全性もover allと同様の傾向であり、このサブ解析の結果は日本人における進行ALK陽性非小細胞肺がんでの効果と安全性を支持する一つのデータだといえよう。*クリゾチニブ:500mg/日、ペメトレキセド:500mg/m2 3週毎、ドセタキセル:75mg/m2 3週毎)

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HER2陽性乳がんのトラスツズマブ至適投与期間は?/Lancet

 HER2陽性乳がんの術後補助療法において、HER2阻害薬トラスツズマブ(商品名:ハーセプチン)の投与期間を標準的な1年投与から2年投与に延長しても有効性は改善されないことが、欧州腫瘍学研究所(イタリア、ミラノ市)のAron Goldhirsch氏らが行ったHERA試験で示された。乳がんの約15~20%にHER2遺伝子の過剰発現や増幅がみられる。トラスツズマブは、これらHER2陽性早期乳がんに対する有効性が確立され、術後補助療法として広く用いられている。現在の標準的な投与期間は1年とされるが、至適な投与期間は確立されていない。Lancet誌オンライン版2013年7月18日号掲載の報告。投与期間延長の有効性を無作為化試験で評価 HERA試験は、HER2陽性乳がんに対するトラスツズマブの至適投与期間の決定を目的とする無作為化第III相試験。対象は、標準的な術前または術後補助化学療法、あるいはその両方を受けたHER2陽性の浸潤性早期乳がんであった。 患者は、標準的な1年投与を行う群、1年延長して2年間投与する群、または非投与の観察群のいずれかに無作為に割り付けられた。初回投与量は8mg/kgとし、その後は6mg/kgを3週ごとに静脈内投与した。 主要評価項目は無病生存期間(DFS)とし、フォローアップ期間中央値8年における1年投与群と2年投与群のランドマーク解析および1年投与群と観察群のintention-to-treat解析を行った。DFSに差なく、有害事象は長期投与で多い 2001年12月7日~2005年6月20日までに5,102例が登録され、1年投与群に1,703例、2年投与群に1,701例、観察群には1,698例が割り付けられた。 ランドマーク解析の対象となったのは3,105例(1年投与群1,552例、2年投与群1,553例)であった。このうち1,588例(51.1%)がホルモン受容体陽性で、1,471例(92.6%)が術後ホルモン療法を受けた。2,772例(89.3%)は術後補助化学療法のみを受け、術前補助化学療法は受けていなかった。 DFSイベントは1年投与群の367例、2年投与群の367例に認められ、両群間に差はなかった(ハザード比[HR]:0.99、95%信頼区間[CI]:0.85~1.14、p=0.86)。 Grade 3~4の有害事象は1年投与群が16.3%、2年投与群は20.4%、左室駆出率低下はそれぞれ4.1%、7.2%であり、いずれも2年投与群で頻度が高かった。 初回解析結果の報告後に観察群の52%(884例)がトラスツズマブ投与群へクロスオーバーされたにもかかわらず、観察群に対する1年投与群のHRは、DFSが0.76(95%CI:0.67~0.86、p<0.0001)、全生存(OS)も0.76(0.65~0.88、p=0.0005)であり、1年投与群が有意に良好であった。 著者は、「1年よりも短い投与期間と1年投与との同等性はまだ確かめられていないことから、現時点でのトラスツズマブの投与期間は、従来の1年が事実上の標準である」と指摘している。

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APLに対し、ATRA+三酸化ヒ素がATRA+化学療法より優れる可能性/NEJM

 急性前骨髄球性白血病(APL)に対し、全トランス型レチノイン酸(ATRA)+三酸化ヒ素の併用治療は、標準治療とされているATRA+化学療法と比較して少なくとも非劣性であり、優れている可能性が示された。イタリア・トール・ヴェルガータ大学のF. Lo-Coco氏ら研究グループが、第3相多施設共同の無作為化試験を行い報告した。APLに対する標準治療のATRA+化学療法の治癒率は80%を超える。一方で、三酸化ヒ素のAPLに対する有効性も高く、また、ATRAの併用療法について検討した予備試験(ATRA有無別で検討)では、高い有効性と血液毒性の軽減が示されていた。NEJM誌2013年7月11日号掲載の報告より。ATRA+化学療法(標準療法)とATRA+三酸化ヒ素の有効性と血液毒性を比較 研究グループは本検討において、新規に診断された低~中リスク(白血球数10×109/L以下)のAPL患者について、ATRA+化学療法(標準療法)とATRA+三酸化ヒ素の併用療法の、有効性と血液毒性を比較検討することを目的とした。 検討では患者を、ATRA+三酸化ヒ素による寛解導入および地固め療法を行う群と、標準的なATRA+イダルビシン(商品名:イダマイシン)による寛解導入療法の後、ATRA+化学療法による地固め療法(3サイクル)、および低用量化学療法とATRAによる維持療法を行う群のいずれかに、無作為に割り付けた。 本試験は、2年時点の無イベント生存率を主要エンドポイントとした、非劣性試験(群間差が5%を超えない)としてデザインされた。APLは化学療法なしで治療可能なことが示唆される 被験者の事前規定登録は2007年10月~2010年9月に行われた。解析(intention to treat解析)は2012年11月に行われ、156例が組み込まれた。追跡期間の中央値は34.4ヵ月だった。 完全寛解を得られたのは、ATRA+三酸化ヒ素群77例全例(100%)と、ATRA+化学療法群79例中75例(95%)だった(p=0.12)。 2年無イベント生存率は、ATRA+三酸化ヒ素群97%、ATRA+化学療法群は86%だった。群間差は11ポイント(95%信頼区間[CI]:2~22ポイント)で、ATRA+三酸化ヒ素の非劣性が確認された(p<0.001)。さらに、無イベント生存率に関するlog-rank検定により同群の優越性も確認された(p=0.02)。 また、2年全生存率も、ATRA+三酸化ヒ素のほうが優れていた(99%対91%、p=0.02)。 そのほかに、ATRA+三酸化ヒ素はATRA+化学療法と比較して、血液毒性と感染症が少なかったが、肝毒性は多かった。 これらの結果を踏まえて著者は本論の最後で、「本試験は、APLが化学療法なしで治療可能なことを示している」と述べ、確実な結論を得るにはさらなる長期の試験が必要だが、本試験の結果は既報の予備試験のエビデンスを支持するものであり、APLの根治にATRAと三酸化ヒ素が相乗的に作用することを示しているとまとめている。

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慢性リンパ性白血病に対して国内初の分子標的薬

 白血病の1つである慢性リンパ性白血病(CLL)は、わが国の患者数が約2,000人と推計されている希少疾病である。治療はフルダラビンやシクロホスファミドを用いた化学療法が第一選択であるが、これらに効果がない場合や再発した場合の新たな治療選択肢として、分子標的薬であるアーゼラ(一般名:オファツムマブ)が今年5月24日に発売された(適応は「再発または難治性のCD20陽性のCLL」)。  7月9日に東京都内で開催された記者発表会では、CLL治療の現状と課題についてがん研有明病院血液腫瘍科 部長 畠 清彦氏が、また、アーゼラの試験成績について東海大学医学部内科学系血液・腫瘍内科 准教授・診療科長 小川 吉明氏が講演した(主催:グラクソ・スミスクライン株式会社)。■白血病は分子標的治療薬で治療成績が飛躍的に向上しつつある 畠氏はまず、白血病は死に至るイメージが強いが、近年、移植療法の進歩や分子標的治療薬の登場により、治療成績が飛躍的に向上しつつあることを紹介した。白血病は、骨髄性とリンパ性、慢性と急性により4つのタイプに分けられる。患者数の割合は、急性骨髄性白血病(AML)が約6割と最も多く、慢性骨髄性白血病(CML)と急性リンパ性白血病(ALL)が約2割ずつ、CLLは約3%と少ない。また、日本人におけるCLL罹患率は10万人に約0.5人と、欧米の約4.4人に比べてきわめて少ないことから、わが国では他のタイプの白血病に比べて、新たな治療法の研究・開発が遅れていた。実際、AML、CML、ALLではすでに分子標的治療薬が使用されているが、CLLではアーゼラが日本で初の分子標的治療薬となる。■CLLの治療と課題 CLLの初期は自覚症状がなく、健康診断でみつかる場合が多い。症状の進行に伴ってリンパ節腫脹、易疲労感、盗汗、発熱、体重減少、易感染性、貧血、血小板減少などが認められる。症状のない低リスク(Rai病期分類0やBinet病期分類A)の場合は経過観察を行い、貧血/血小板減少の進行・増悪、脾腫、リンパ節腫脹、リンパ球増加、自己免疫性貧血・血小板減少症、全身症状が発現した場合に治療を開始する。 日本における薬物治療の第一選択は、フルダラビン単剤療法、フルダラビンを中心とした多剤併用療法、シクロホスファミドと他の薬剤の併用療法であるが、今回、再発または難治性のCD20陽性のCLLに対してアーゼラが承認された。 日本におけるCLL治療の課題として、畠氏は、CLLは薬物療法では治癒が難しく再発することの多い難治性の血液腫瘍であること、CLLに適応を有する薬剤が少なく治療選択肢が限られていること、再発または難治性のCLLに対する標準的な治療法が確立していないことを挙げ、「標準治療の確立のため、ガイドラインの作成が急がれる」と結んだ。■再発・難治性のCLLの新たな治療選択肢として期待 続いて、アーゼラの作用機序と臨床成績について小川氏が紹介した。 アーゼラは、CLLの腫瘍性B細胞の表面に発現しているCD20抗原を標的とした、完全ヒト型のモノクローナル抗体である。CD20は大ループと小ループの2つのループから成るが、アーゼラは両ループに結合することにより補体依存性細胞傷害作用を示す(in vitro)。 日韓共同で実施された第I/II相試験では、過去に1レジメン以上のCLL治療を受けた経験のある、再発または難治性のCLL患者10例(日本人9例、韓国人1例)に対して、アーゼラを単剤で投与(点滴静注、全12回)したところ、10例中7例に奏効を認めた(部分寛解7例、安定3例)。また、10例中8例は病勢進行が認められなかった。主な副作用は、血球減少症、インフュージョンリアクションであった。インフュージョンリアクションについては、多くは1回目と2回目の投与時に認められたが、5~7回目にも発現していることに注意が必要、と小川氏は指摘した。 最後に小川氏は、「再発・難治性のCLL患者さんに対して、アーゼラ単独療法で高い効果が期待できる。有効な治療選択肢がなく、無治療や現状維持を目指していたCLL患者さんに対しても積極的に治療が検討できる新たな治療選択肢となる」と期待を示した。

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特発性間質性肺炎の経過中に肺がんを見落としたケース

呼吸器最終判決判例タイムズ 1739号124-129頁概要息切れ、呼吸困難を主訴に総合病院を受診し、特発性間質性肺炎、連発型心室性期外収縮などと診断された75歳男性。当初、右肺野に1.5cmの結節陰影がみられたが、炎症瘢痕と診断して外来観察を行っていた。ところが初診から6ヵ月後、特発性間質性肺炎の急性増悪を契機に施行した胸部CTで右肺野の結節陰影が4cmの腫瘤陰影に増大、骨転移を伴う肺小細胞がんでステージIVと診断された。特発性間質性肺炎の急性増悪に対してはステロイドパルス療法などを行ったが、消化管出血などを合併して全身状態は悪化、治療の効果はなく初診から7ヵ月後に死亡した。詳細な経過患者情報75歳男性、1日30本、50年の喫煙歴あり経過1994年3月29日息切れ、呼吸困難、疲れやすいという主訴で某総合病院循環器科を受診。医学部卒業後1年の研修医が担当となる。胸部X線写真:両肺野の微細な網状陰影呼吸機能検査:拘束性換気障害心電図検査:二段脈と不完全右脚ブロック血液検査:肝・胆道系の酵素上昇、腫瘍マーカー陰性4月5日胸部CTスキャン:肺野末梢および肺底部に強い線維性変化、蜂窩状陰影。続発性の肺気腫と嚢胞、右肺の胸膜肥厚。なお、右肺下葉背側(segment 6)に1.0×1.5cmの結節陰影が認められたが、炎症後の瘢痕と読影。慢性型の特発性間質性肺炎と診断した腹部CTスキャン:異常なし4月6日ホルター心電図:連発型の非持続性心室性期外収縮があり、抗不整脈薬を投与開始。以後胸部については追加検査されることはなく、外来通院が続いた11月頃背部痛、腰痛、全身倦怠感を自覚。12月8日息苦しさと著しい全身倦怠感が出現したため入院。胸部X線写真、胸部CTスキャンにより、右肺下葉背側に4.0×3.0cmの腫瘤陰影が確認された(半年前の胸部CTスキャンで炎症瘢痕と診断した部分)。諸検査の結果、特発性間質性肺炎に合併した肺小細胞がん、骨転移を伴うステージIVと診断した。12月20日特発性間質性肺炎が急性増悪し、ステロイドパルス療法施行。ところが消化管出血を合併し、全身状態が急速に悪化。1995年1月13日特発性間質性肺炎の悪化により死亡。当事者の主張患者側(原告)の主張1.特発性間質性肺炎に罹患したヘビースモーカーの患者に、胸部CTスキャンで結節性陰影がみつかったのであれば、肺がんを念頭においた精密検査を追加するべきであった2.肺がんのような重大な疾患を経験の浅い医師が受け持つのであれば、経験豊かな医師が指導するなど十分なバックアップ体制をとる注意義務があった病院側(被告)の主張1.精密検査ができなかったのは、原告が健康保険に加入していなかったので高い診療費を支払うことができなかったためである2.死因は特発性間質性肺炎の急性増悪であり、肺がんは関係ない。たとえ初診時に肺がんの診断ができていたとしても、延命の可能性は低かった裁判所の判断1.診察当初の胸部CTスキャンで結節性陰影がみつかり、喫煙歴が1日30本、約50年というヘビースモーカーであり、慢性型の特発性間質性肺炎と診断し、肺がんがその後半年間発見されなかったという診断ミスがあった2.直接死因は特発性間質性肺炎の急性増悪であり、肺小細胞がんが直接寄与したとはいえない。しかし、早期に肺小細胞がんの確定診断がつき、化学療法を迅速に行っていれば、たとえ特発性間質性肺炎が急性増悪を来してもステロイドの治療効果や胃潰瘍出血などの副作用も異なった経過をたどり、肺小細胞がんの治療も特発性間質性肺炎の治療も良好に推移したと考えられ、少なくとも約半年長く生存できたはずである。したがって、原告の精神的苦痛に対する慰謝料を支払うべきである原告側2,200万円の請求に対し、550万円の支払命令考察今回の事件は、ある地方の基幹病院で発生しました。ご遺族にとってみれば、信頼できるはずの大病院に半年間も通院していながら、いきなり「がんの末期で治療のしようがない」と宣告されたのですから、裁判を起こそうという気持ちも十分に理解できると思います。それに対し病院側は、たとえ最初からがんと診断しても死亡とは関係はなかった、それよりも、きちんと国民健康保険に加入せず治療費が高いなどと文句をいうので、胸部CTスキャンなどの高額な検査はためらわれた、と反論しましたが、裁判官には受け入れられず「病院側の注意義務違反」として判決は確定しました。あとから振り返ってみると、多くの先生方は「このような肺がんハイリスクの患者であれば、診断を誤ることはない」という印象を持たれたと思いますが、やはり原点に返って、どうすれば最初から適切な診断ができたのか、そして、その後の定期外来通院中になぜ肺がん発見には至らなかったのか、などについて考えてみたいと思います。1. 研修医もしくは若手医師の指導今回当事者となったドクターは、医学部を卒業後1年、そして、当該病院に勤務してから3ヵ月しか経過していない研修医でした。このような若いドクターが医師免許を取得して直ぐに医事紛争に巻き込まれ、裁判所に出廷させられるなどということは、できる限り避けなければなりませんが、今回の背景には、指導医の監督不十分、そして、当事者のドクターにも相当な思い込みがあったのではないかと推測されます。おそらく、当初の胸部CTスキャンで問題となった「右肺下葉背側(segment 6)に1.0×1.5cmの結節陰影」というのは、放射線科医が作成したレポートをこの研修医がそのまま信用し、結節=炎症瘢痕=がんではない、と半ば決めつけていたのだと思います。しかし、通常であれば「要経過観察」といった放射線科医のコメントがつくはずですから、最初につけた診断だけで安心せず、次項に述べるようなきちんとした外来観察計画を立てるべきであったと思います。そして、指導医も、卒後1年しか経過していないドクターを一人前扱いとせずに、新患のケースでその後も経過観察が必要な患者には、治療計画にも必ず関与するようにするべきだと思います。従来までの考え方では、このような苦い経験を踏まえて一人前の医師に育っていくので、最初から責任を負わせるようにしよう、とされていることが多いと思いますし、実際に多忙をきわめる外来診療で、そこまで指導医が配慮するというのも困難かもしれません。しかし、今回のような医師同士のコミュニケーション不足が原因で紛争に発展する事例があるのも厳然たる事実ですから、個人の力だけでは防ぎようのない事故については、組織のあり方を変更して取り組むべきだと思います。2. 定期的な外来観察計画上気道炎の患者さんなど短期間の治療で終了するようなケースを除いて、慢性・進行性疾患、場合によっては生命を脅かすような病態に発展することのある疾患については、初期の段階から外来観察計画を取り決めておく必要があると思います。たとえば、今回のような特発性間質性肺炎であれば(肺がんの合併が約20%と高率なので)胸部X線写真は6ヵ月おきに必ずとる、血液ガス検査は毎月、血算・生化学検査は2ヵ月おきに調べよう、などといった具合です。一度でも入院治療が行われていれば、退院後の外来通院にも配慮することができるのですが、ことに今回の症例のようにすべて外来で診ざるを得なかったり、複数の医師が関わるケースでは、なおさら「どのような治療方針でこの患者を診ていくのか」という意思決定を明確にしておかなければなりません。そして、カルテの見やすいところに外来観察計画をはさんでおくことによって、きちんと患者さんをフォローできるばかりか、たとえ医事紛争に巻き込まれても、「適切な外来管理を行っていた」と判断できる重要な証拠となります。今回の症例は、やりようによっては最初から肺がん合併を念頭においた外来観察をできたばかりか、けっして軽い病気とはいえない特発性間質性肺炎の経過観察を慎重に行うことで、結果が悪くても医事紛争にまでは至らなかった可能性も考えられます。裁判官の判断は、「がんが発見されていれば別の経過(=特発性間質性肺炎の急性増悪も軽くすんだ?)をたどったかもしれない」ことを理由に、たいした根拠もなく「半年間は延命できた」などという判決文を書きました。しかし、一般に特発性間質性肺炎の予後は悪いこと、たとえステロイドを使ったとしても劇的な効果は期待しにくいことなどの医学的事情を考えれば、「半年間は延命できた」とするのはかなり乱暴な考え方です。結局、約半年も通院していながら末期になるまでがんをみつけることができなかったという重大な結果に着目し、精神的慰謝料を支払え、という判断に至ったのだと思います。呼吸器

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クリゾチニブ、ALK融合遺伝子陽性進行NSCLCの2次治療として有効/NEJM

 既治療の未分化リンパ腫キナーゼ(ALK)遺伝子陽性進行非小細胞肺がん(NSCLC)に対し、ALKのチロシンキナーゼ阻害薬(TKI)であるクリゾチニブ(商品名:ザーコリ)は、標準的な化学療法よりも優れた有用性を持つことが、米国・マサチューセッツ総合病院のAlice T Shaw氏らの検討で示された。日本も参加した本試験の報告は、米国臨床腫瘍学会(ASCO、シカゴ市)期間中の2013年6月1日にNEJM誌オンライン版に掲載された。ALKは、NSCLC、未分化大細胞リンパ腫、小児神経芽細胞腫などのがん種で確認されているチロシンキナーゼであり、NSCLCの約5%にみられるALKの染色体再配列は肺がんの分子サブタイプに規定されている。クリゾチニブは、ALK、ROS1、METを標的とする低分子の経口TKIで、すでに2つの単群試験で優れた臨床効果が確認されている。標準的な単剤化学療法と非盲検無作為化試験で比較 研究グループは、進行NSCLCの治療におけるクリゾチニブと標準的化学療法の有用性を比較する非盲検無作為化第III相試験を行った。 対象は、プラチナ製剤ベースの化学療法による1レジメンの前治療歴があるALK融合遺伝子陽性の局所進行・転移性NSCLC患者であった。これらの患者が、クリゾチニブ(250mg)を1日2回経口投与する群または標準的な化学療法[3週を1コースとしてペメトレキセド(PEM、500mg/m2)もしくはドセタキセル(DOC、75mg/m2)を静注投与]を施行する群に無作為に割り付けられた。 化学療法群のうち病勢進行(PD)となった患者は、クリゾチニブへのクロスオーバーが許容された。主要評価項目はPFS(無増悪生存期間)であった。PFS中央値が2倍以上に延長、肺がん症状、QOLも有意に改善 2010年2月~2012年2月までに347例が登録され、クリゾチニブ群に173例(年齢中央値51歳、男性43%、PS0 42%、腺がん95%、転移性95%)、化学療法群には174例(49歳、45%、37%、94%、91%)が割り付けられた。化学療法群のうち99例(57%)にPEMが、72例(41%)にはDOCが投与された。 PFS中央値はクリゾチニブ群が7.7ヵ月と、化学療法群の3.0ヵ月に比べ有意に延長した(ハザード比[HR]:0.49、95%信頼区間[CI]:0.37~0.64、p<0.001)。クリゾチニブ群のPEM群に対するPFS中央値のHRは0.59(95%CI:0.43~0.80、p<0.001)、DOC群に対するHRは0.30(95%CI:0.21~0.43、p<0.001)だった。 奏効率はクリゾチニブ群が65%であり、化学療法群の20%(PEM群29%、DOC群7%)よりも有意に良好であった(p<0.001)。全生存期間(OS)の中間解析では、両群間に有意な差は認めなかった(HR:1.02、95%CI:0.68~1.54、p=0.54)。 有害事象は、クリゾチニブ群で視覚障害(60%)、下痢(60%)、悪心(55%)、嘔吐(47%)、便秘(42%)、肝アミノトランスフェラーゼ値上昇(38%)の頻度が高く、化学療法群では悪心(37%)、疲労感(33%)、便秘(23%)、脱毛(20%)、呼吸困難(19%)が高頻度にみられた。 患者の自己申告による肺がん症状(咳嗽、呼吸困難、胸痛)の増悪までの期間中央値は、クリゾチニブ群が5.6ヵ月であり、化学療法群の1.4ヵ月に比べ有意に延長した(HR:0.54、95%CI:0.40~0.71、p<0.001)。ベースラインからのQOLの改善効果もクリゾチニブ群が化学療法群よりも良好だった(p<0.001)。 著者は、「クリゾチニブは、既治療のALK融合遺伝子陽性の進行NSCLCの治療において、標準的化学療法よりも優れた有用性を持つことが示された」と結論し、「クリゾチニブによる明確なOSの改善効果が得られなかったのは、クロスオーバーが交絡因子となっているためと考えられる」と指摘している。

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治療とともに患者サポートを!胆道がん診療の中心機関3施設が初の共同編集

 昨年、印刷会社の元従業員が高頻度で胆管がんを発症していた事実が明らかになって以来、新聞などで「胆管がん」の文字を目にする機会が増えている。この胆管がんと、胆嚢がん、十二指腸乳頭部がんを合わせた胆道がんは、わが国の年間死亡者数が1.8万人と、がんの中でも6番目に多い。ところが他のがんに比べて、患者支援活動や情報提供が非常に少ないというのが現状である。 このようななか、患者さんやその家族に向けた初めての書籍として「胆道がんの治療とケアガイド」が6月4日に金原出版株式会社より発刊される。この書籍は、わが国の胆道がん診療の中心機関である、がん研究会有明病院、国立がん研究センター中央病院・東病院の3施設が初めて共同編集したもので、患者さんやその家族だけでなく、診療に携わるすべての人々に役立つ内容となっている。 この発刊に際して、5月29日、「胆道がんの最新治療とケアガイドの必要性に関するセミナー」が開催された。以下に、編集代表の1人である国立がん研究センター中央病院 肝胆膵内科 科長 奥坂拓志氏による講演内容を紹介する。 胆道がんの原因は十分に解明されていないが、人口当たりの罹患者数、死亡者数は、日本人が世界第1位である。胆道がんに対する現在の治療は、まず切除可能であれば切除手術を行う。ただし、手術に耐えうる体力があり、がんをすべて切除できることが条件となる。もし切除不可能であれば、化学療法もしくは放射線療法を行うが、放射線療法は延命効果が証明されていない。化学療法は、2006年にゲムシタビン(商品名:ジェムザール)が、2008年にS-1(同:ティーエスワン)が承認され、2011年にはGC療法(ゲムシタビン+シスプラチン)が登場し、抗がん剤で延命が可能な時代となってきた。 奥坂氏は、胆道がん診療の課題の1つとして、5年生存率が約20%と依然として予後不良であることを挙げた。その理由として、早期発見が難しいこと、また胆道がんに適応のある抗がん剤はたった4剤で有効な治療法が少ないことが挙げられる。もう1つの課題として、奥坂氏は、インターネットでの検索結果や書籍の数を提示し、患者支援活動や情報提供が脆弱であることを訴えた。 これらの課題に対する取り組みとしては、より有効な抗がん剤治療の開発がある。現在、GS療法(ゲムシタビン+S-1)が開発されており、また、胆道がんに対する抗がん剤として、現在、分子標的治療薬をはじめとした多くの薬剤が開発されている。一方で、奥坂氏らは、治療だけではなく患者さんたちをサポートしていくことが大事ではないかと考え、さまざまな取り組みを行っている。その1つとして、国立がん研究センター中央病院において、患者向けの膵がん・胆道がん教室を実施し、年に1回、全国大会を開催していることを紹介した。また、今回、奥坂氏らが編集した「胆道がんの治療とケアガイド」には、疾患の解説や治療方法をはじめ、症状のマネジメント、副作用対策、食事の工夫、家庭でできるセルフケア、家族のための注意点など、具体的な手順や例を幅広く紹介しているとのことである。

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基準通り抗がん剤を投与したにもかかわらず副作用で急死した肺がんのケース

癌・腫瘍最終判決判例時報 1734号71-82頁概要息切れを主訴としてがん専門病院を受診し、肺がんと診断された66歳男性。精査の結果、右上葉原発の腺がんで、右胸水貯留、肺内多発転移があり、胸腔ドレナージ、胸膜癒着術を行ったのち、シスプラチンと塩酸イリノテカンの併用化学療法が予定された。もともと軽度腎機能障害がみられていたが、初回シスプラチン、塩酸イリノテカン2剤投与後徐々に腎機能障害が悪化した。予定通り初回投与から1週間後に塩酸イリノテカンの単独投与が行われたが、その直後から腎機能の悪化が加速し、重度の骨髄抑制作用、敗血症へといたり、化学療法開始後2週間で死亡した。詳細な経過患者情報12年前から肥大型心筋症、痛風と診断され通院治療を行っていた66歳男性経過1994年3月中旬息切れが出現。3月28日胸部X線写真で胸水を確認。細胞診でclass V。4月11日精査治療目的で県立ガンセンターへ紹介。外来で諸検査を施行し、右上葉原発の肺がんで、右下肺野に肺内多発転移があり、がん性胸膜炎を合併していると診断。5月11日入院し胸腔ドレナージ施行、胸水1,500mL排出。胸膜癒着の目的で、溶連菌抽出物(商品名:ピシバニール)およびシスプラチン(同:アイエーコール)50mgを胸腔内に注入。5月17日胸腔ドレナージ抜去。胸部CTで胸膜の癒着を確認したうえで、化学療法を施行することについて説明。シスプラチンと塩酸イリノテカンの併用療法を予定した(シスプラチン80mg/m2、塩酸イリノテカン60mg/m2を第1日、その後塩酸イリノテカン60mg/m2を第8日、第15日単独投与を1クールとして、2クール以上くり返す「パイロット併用臨床試験」に準じたレジメン)。医師:抗がん剤は2種類で行い、その内の一つは新薬として承認されたばかりでようやく使えるようになったものです。副作用として、吐き気、嘔吐、食欲低下、便秘、下痢などが生じる可能性があります。そのため制吐薬を投与して嘔吐を予防し、腎機能障害を予防するため点滴量を多くして尿量を多くする必要があります。白血球減少などの骨髄障害を生じる可能性があり、その場合には白血球増殖因子を投与します患者:新薬を使うといわれたが、具体的な薬品名、吐き気以外の副作用の内容、副作用により死亡する可能性などは一切聞いていない5月23日BUN 26.9、Cre 1.31、Ccr 40.63mL/min。5月25日シスプラチン80mg/m2、塩酸イリノテカン60mg/m2投与。5月27日BUN 42.2、Cre 1.98、WBC 9,100、シスプラチンによる腎機能障害と判断し、輸液と利尿薬を継続。6月1日BUN 74.1、Cre 2.68、WBC 7,900。主治医は不在であったが予定通り塩酸イリノテカン60mg/m2投与。医師:パイロット併用臨床試験に準じたレジメンでは、スキップ基準(塩酸イリノテカンを投与しない基準)として、「WBC 3,000未満、血小板10万未満、下痢」とあり、腎機能障害は含まれていなかったので、予定通り塩酸イリノテカンを投与した。/li>患者:上腹部不快感、嘔吐、吃逆、朝食も昼食もとれず、笑顔はみせるも活気のない状態なのに抗がん剤をうたれた。しかもこの日、主治医は学会に出席するため出張中であり、部下の医師に申し送りもなかった。6月3日BUN 67.5、Cre 2.55、WBC 7,500、吐き気、泥状便、食欲不振、血尿、胃痛が持続。6月6日BUN 96.3、Cre 4.04、WBC 6,000、意識レベルの低下および血圧低下がみられ、昇圧剤、白血球増殖因子、抗菌薬などを投与したが、敗血症となり病態は進行性に悪化。6月8日懸命の蘇生措置にもかかわらず死亡。当事者の主張患者側(原告)の主張1.シスプラチンと塩酸イリノテカンの併用投与当時は副作用について十分な知識がなく、しかも抗がん剤使用前から腎機能障害がみられていたので、腎毒性をもつシスプラチンとの併用療法はするべきではなかった2.塩酸イリノテカンの再投与塩酸イリノテカン再投与前は、食欲がなく吐き気が続き、しかも腎機能が著しく低下していたので、漫然と再投与を行ったのは過失である。しかも、学会に出席していて患者の顔もみずに再投与したのは、危険な薬剤の無診察投与である2.インフォームドコンセント塩酸イリノテカン投与に際し、単に「新しい薬がでたから」と述べただけで、具体的な薬の名前、併用する薬剤、副作用、死亡する可能性などについては一切説明なく不十分であった。仮にカルテに記載されたような説明がなされたとしても、カルテには承諾を得た旨の記載はない病院側(被告)の主張1.シスプラチンと塩酸イリノテカンの併用投与シスプラチン、塩酸イリノテカンはともに厚生大臣(当時)から認可された薬剤であり、両者の併用療法は各臨床試験を経て有用性が確認されたものである。抗がん剤開始時点において、腎機能は1/3程度に低下していたが、これは予備能力の低下に過ぎず、併用投与の禁忌患者とされる「重篤な腎障害」とはいえない2.塩酸イリノテカンの再投与塩酸イリノテカン研究会の臨床試験実施計画書によれば、2回目投与予定日に「投与しない基準」として白血球数の低下、血小板数の低下、下痢などが記載されているが、本件はいずれにも該当しないので、腎機能との関係で再投与を中止すべき根拠はない。なお当日は学会に出席していたが、同僚の呼吸器内科医師に十分な引き継ぎをしている2.インフォームドコンセント医師は患者や家族に対して、詳しい説明を行っても、特段の事情がない限りその要旨だけをカルテに記載し、また、患者から承諾を得てもその旨を記載しないのが普通である裁判所の判断1. 腎機能悪化の予見可能性抗がん剤投与前から腎機能障害が、シスプラチンの腎毒性によって悪化し、その状態で塩酸イリノテカンの腎毒性によりさらに腎機能が悪化し、骨髄抑制作用が強く出現して死亡した。もし塩酸イリノテカンを再投与していなければ、3ヵ月程度の余命が期待できた。2. 塩酸イリノテカンの再投与塩酸イリノテカン再投与時、腎機能は併用療法によって確実に悪化していたため、慎重に投与するかあるいは腎機能が回復するまで投与を控えるべきであったのに、引き継ぎの医師に対して細かな指示を出すことなく、主治医は学会に出席した。これに対し被告はスキップ基準に該当しないことを理由に再投与は過失ではないと主張するが、そもそもスキップ基準は腎機能が正常な患者に対して行われる併用療法に適用されるため、投与直前の患者の各種検査結果、全身状態、さらには患者の希望などにより、柔軟にあるいは厳格に解釈する必要があり、スキップ基準を絶対視するのは誤りである。3. インフォームドコンセント被告は抗がん剤の副作用について説明したというが、診療録には副作用について説明した旨の記載はないこと、副作用の説明は聞いていないという遺族の供述は一致していることから、診療録には説明した内容のすべてを記載する訳ではないことを考慮しても、被告の供述は信用できない。原告側合計2,845万円の請求に対し、536万円の判決考察本件のような医事紛争をみるにつけ、医師と患者側の認識には往々にしてきわめて大きなギャップがあるという問題点を、あらためて考えざるを得ません。まず医師の立場から。今回の担当医師は、とてもまじめな印象を受ける呼吸器内科専門医です。本件のような手術適応のない肺がん、それも余命数ヵ月の患者に対し、少しでも生存期間を延ばすことを目的として、平成6年当時認可が下りてまもない塩酸イリノテカンとシスプラチンの併用療法を考えました。この塩酸イリノテカンは、非小細胞肺がんに効果があり、本件のような腺がん非切除例に対する単独投与(第II相臨床試験;初回治療例)の奏効率は29.8%、パイロット併用試験における奏効率は52.9%と報告されています。そこで医師としての良心から、腫瘍縮小効果をねらって標準的なプロトコールに準拠した化学療法を開始しました。そして、化学療法施行前から、BUN 26.9、Cre 1.31、クレアチニンクリアランスが40.63mL/minと低下していたため、シスプラチンの腎毒性を考えた慎重な対応を行っています。1回目シスプラチンおよび塩酸イリノテカン静注後、徐々に腎機能が悪化したため、投与後しばらくは多めの輸液と利尿薬を継続しました。その後腎機能はBUN 74.1、Cre 2.68となりましたが、初回投与から1週間後の2回目投与ではシスプラチンは予定に入らず塩酸イリノテカンの単独投与でしたので、その当時シスプラチン程には腎毒性が問題視されていなかった塩酸イリノテカンを投与することに踏み切りました。もちろん、それまでに行われていたパイロット併用試験におけるスキップ基準には、白血球減少や血小板減少がみられた時は化学療法を中止しても、腎障害があることによって化学療法を中止するような取り決めはありませんでした。したがって、BUN 74.1、Cre 2.68という腎機能障害をどの程度深刻に受け止めるかは意見が分かれると思いますが、臨床医学的にみた場合には明らかな不注意、怠慢などの問題を指摘することはできないと思います。一方患者側の立場では、「余命幾ばくもない肺がんと診断されてしまった。担当医師からは新しい抗がん剤を注射するとはいわれたが、まさか2週間で死亡するなんて夢にも思わなかったし、副作用の話なんてこれっぽっちも聞いていない」ということでしょう。なぜこれほどまでに医師と患者側の考え方にギャップができてしまったのでしょうか。さらに、死亡後の対応に不信感を抱いた遺族は裁判にまで踏み切ったのですから、とても残念でなりません。ただ今回の背景には、紛争原因の一つとして、医師から患者側への「一方通行のインフォームドコンセント」が潜在していたように思います。担当医師はことあるごとに患者側に説明を行って、予後の大変厳しい肺がんではあるけれども、できる限りのことはしましょう、という良心に基づいた医療を行ったのは間違いないと思います。そのうえで、きちんと患者に説明したことの「要旨」をカルテに記載しましたので、「どうして間違いを起こしていないのに訴えられるのか」とお考えのことと思います。ところが、説明したはずの肝心な部分が患者側には適切に伝わらなかった、ということが大きな問題であると思います(なお通常の薬剤を基準通り使用したにもかかわらず死亡もしくは後遺障害が残存した時は、医薬品副作用被害救済制度を利用できますが、今回のような抗がん剤には適用されない取り決めになっています)。もう一つ重要なのは、判決文に「患者の希望を取り入れたか」ということが記載されている点です。本件では抗がん剤の選択にあたって、「新しい薬がでたから」ということで化学療法が始まりました。おそらく、主治医はシスプラチンと塩酸イリノテカンの併用療法がこの時点で考え得る最良の選択と信じたために、あえて別の方法を提示したり、個々の医療行為について患者側の希望を聞くといった姿勢をみせなかったと思います。このような考え方は、パターナリズム(父権主義:お任せ医療)にも通じると思いますが、近年の医事紛争の場ではなかなか受け入れがたい考え方になりつつあります。がんの告知、あるいは治療についてのインフォームドコンセントでは、限られた時間内に多くのことを説明しなければならないため、どうしても患者にとって難解な用語、統計的な数字などを用いがちだと思います。そして、患者の方からは、多忙そうな医師に質問すると迷惑になるのではないか、威圧的な雰囲気では言葉を差し挟むことすらできない、などといった理由で、ミスコミュニケーションに発展するという声をよく聞きます。中には、「あの先生はとても真剣な眼をして一生懸命話してくれた。そこまでしてくれたのだからあの先生にすべてを託そう」ですとか、「いろいろ難しい話があったけれども、最後に「私に任せてください」と自信を持っていってくれたので安心した」というやりとりもありますが、これほど医療事故が問題視されている状況では、一歩間違えると不毛な医事紛争へと発展します。こうした行き違いは、われわれすべての医師にとって遭遇する可能性のあるリスクといえます。結局は「言った言わないの争い」になってしまいますが、やはり患者側が理解できる説明を行うとともに、実際に患者側が理解しているのか確かめるのが重要ではないでしょうか。そして、カルテを記載する時には、いつも最悪のことを想定した症状説明を行っていること(本件では抗がん剤の副作用によって死亡する可能性もあること)がわかるようにしておかないと、本件のような医事紛争を回避するのはとても難しくなると思います。癌・腫瘍

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造血器腫瘍患者への予防的血小板輸血戦略は出血の減少に結びつく/NEJM

 造血器腫瘍患者に対して、出血予防を目的とした血小板輸血戦略は、予防的血小板輸血を行わない場合と比較して出血の減少に結びつき、有用であることが、英国・オックスフォード大学のSimon J. Stanworth氏らによる無作為化試験の結果、明らかにされた。これまで、造血器腫瘍患者における予防的血小板輸血のベネフィットは明らかになっていなかった。一方で、最近の予防的血小板輸血に関する試験では、以前のように輸血量ではなく、臨床アウトカムとしての出血に重点を置くようになっており、研究グループは、造血器腫瘍患者のための時代に即した治療戦略を検討するため、予防的輸血を行わないとする指針が、行うとする指針に対して出血の頻度に関して非劣性であるのか試験を行った。NEJM誌2013年5月9日号掲載の報告より。幹細胞移植後の血小板減少例を無作為化 研究グループは、イギリスとオーストラリアの14施設で無作為化非盲検非劣性試験を行った。朝の血小板数が10×109/L未満である患者を、予防的血小板輸血を受ける群と受けない群に無作為に割り付けた。適格患者は16歳以上で、化学療法または幹細胞移植を受けた患者で、血小板減少症をすでに発症したか、発症が予測される症例とした。 主要エンドポイントは、無作為化の30日後までに起きた、世界保健機関(WHO)グレード2、3、4の出血とした。出血日数、出血までの日数ともに予防的輸血を支持する結果 2006年~2011年にかけて、合計600例(非予防的血小板輸血群301例、予防的血小板輸血群299例)が無作為化の対象となった。 試験の結果、WHOグレード2、3、4の出血は、非輸血群300例中151例(50%)で発生し、輸血群では298例中128例(43%)であった(補正後の比率の差:8.4ポイント、90%信頼区間:1.7~15.2、非劣性のp=0.06)。 非輸血群の患者は輸血群の患者と比べて、出血した日数が多く、初回出血事例までの期間も短かった。また、非輸血群では血小板の使用が顕著に減少していた。 事前に特定したサブグループ解析の結果、自家幹細胞移植を受けた両試験群の患者の出血発生率は同程度であった。 これらの結果を踏まえて著者は、「血小板の予防的輸血を継続的に行う必要性を支持する所見が示された」と述べ、「予防的血小板輸血を行わない場合と比較して、予防的血小板輸血は出血の減少にとって有用であることが示された」と結論している。一方で最後に、予防的血小板輸血群の出血例は非輸血群よりも7%低かったが、それでも有意な数の患者において出血がみられたことにも言及している。

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キャッスルマン病〔Castleman's disease〕

1 疾患概要■ 概念・定義キャッスルマン病は多様な病態を呈する多クローン性リンパ増殖疾患であり、臨床的に限局型と多中心(全身)型に大きく分類される。限局型では無症状で経過することが一般的であるが、多中心(全身)型では多くが血清IL-6の上昇に伴う全身倦怠感、発熱、貧血、高CRP血症、低アルブミン血症、高γグロブリン血症などの多彩な症状を伴う。欧米では、human immunodeficiency virus(HIV)感染を基礎としたhuman herpes virus(HHV)-8の感染が原因となっている症例が多いが、わが国ではHIV感染と関連のないHHV-8陰性の症例がほとんどである。■ 疫学1)患者数希少な疾患であり、国内に約1,500人と推測する資料もあるが、正確な数は不明である。2)病型臨床的には限局型(localized type/unicentric Castleman's disease: UCD)と多中心(全身)型(multicentric Castleman's disease: MCD)に分類される。病理学的には、形態からhyaline-vascular type(HV type)とplasma cell type(PC type)に分類されるが、両者の中間型(mixed type)も見受けられる。一般的に限局型はHV typeの病理像を示し、多中心型はPC typeの病理像を示すことが多い。割合としてはHV typeが全体の約90%を占め、残りの約10%がPC typeまたは中間型とされている。上述の通り、限局型は無症状で経過することが多く発症年齢が若年の傾向があるが、多中心(全身)型はIL-6産生の亢進に伴う多彩な症状を呈することが多く、50~60代の中・高年に好発がみられる。■ 病因欧米ではHIV感染による免疫不全を背景としたHHV-8感染が基礎となるケースが多く、IL-6のviral homologyであるvIL-6がHHV-8によって産生されることが病因と考えられている。また、HIV感染のない症例でもHHV-8が陽性の症例が多い。一方、わが国ではHIV感染を伴う例は珍しく、HHV-8自体もほとんどの症例で検出されない。まったく別の病因が関係しているものと考えられるが、いまだ不明な点が多く、特定はされていない。■ 症状1)限局型典型的には縦隔リンパ節の腫脹がみられるが、他のリンパ節やリンパ節以外の部位に病変を形成することもしばしばある。周囲臓器の圧迫に伴う症状が出ることはあるが基本的には無症候性であり、画像検査で偶然発見されるケースもある。まれに多中心型のような症状を呈するもの例もみられる。2)多中心(全身)型多中心型では全身リンパ節腫脹がみられ、IL-6の過剰産生に伴うリンパ球・形質細胞の増加、慢性炎症、血管新生などにより、以下の表に示すような多彩な症状がみられる。リンパ節以外に肺、腎、神経、皮膚などにも病変を形成することがある。画像を拡大する■ 予後限局型は無症候で経過し、完全切除により予後は非常に良好である。一方、多中心(全身)型は、日本人の多くは緩徐な経過を辿るケースが多いが、時に進行性のものもある。ステロイド治療によりコントロール良好な例もあるが、多くは抗IL-6受容体抗体の適応になることが多い。また、治療抵抗性となり多臓器不全に陥って死亡するケースも存在する。HIV陽性例では陰性例よりも急速に進行することが多い。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)■ 臨床診断1)限局型一般的に症状はないが、血液検査所見は正常範囲のものと炎症反応や貧血を伴うものがある。後者では病変部の摘出で正常化するものが多い。病変部の切除生検による病理組織診断が行われる。2)多中心(全身)型診断基準は確立されていない。症状も多彩で非特異的であるため、臨床経過や血液検査所見、画像所見を総合的に判断する必要がある。鑑別疾患としては、悪性リンパ腫、POEMS症候群、膠原病、感染症、IgG4関連疾患などが挙げられる。画像を拡大する画像を拡大する■ 病理診断最終的な確定診断は病理組織診断で行われる。上述のように、形態からHV typeとPC typeに分けられる。HV typeは以下に挙げる特徴的な所見を有することが多いが、PC typeの病理組織像は非特異的な所見が主体で、膠原病や薬剤に対する反応性リンパ節腫脹、IgG4関連疾患などと鑑別が困難なことが多い。そのため、キャッスルマン病は、初診から確定診断に至るのに長期間を要する場合もまれではない。臨床所見、血液検査結果、画像所見などとで総合的に判断する必要がある。画像を拡大する画像を拡大する3 治療 (治験中・研究中のものも含む)キャッスルマン病の治療については、症例数の少なさもあり無作為化試験が組まれたことはなく、標準的な治療法は確立されていないのが現状である。限局型は、完全切除によりほぼ全例で治癒が見込まれる。全身型についてはステロイドの投与が基本であるが、ステロイド抵抗例では、抗IL-6受容体抗体(トリシズマブ)の適応となる。■ 限局型一般的に無症候性で予後良好であるが、悪性リンパ腫などの腫瘍との鑑別が必要となるため、病理組織による確定診断の意味も含め、病変部を切除することが多い。症状がある場合でも完全切除により症状の消失が期待できる。第1選択は完全切除であり、切除が難しい場合には局所放射線治療が選択されることもある。■ 全身型症状がある場合は、一般的にはステロイドの全身投与が行われる。無症状の場合は経過観察も選択肢となる。海外ではリツキシマブ(商品名:リツキサン)が使用されることがあるが、日本ではキャッスルマン病に対する使用については、まだ保険適応となっていないのが現状である。免疫抑制薬や化学療法が選択されることがあるが、見解の一致を得ない。抗IL-6受容体抗体であるトシリズマブ(同:アクテムラ)が2005年に承認されてからは、ステロイド抵抗例で使用され、効果を挙げている。HIV陽性例についてはリツキシマブや抗がん剤などが使用されるが、わが国でのHIV陽性例はまれであり、知見は少ない。4 今後の展望全身型キャッスルマン病の治療には、ステロイドを用いるのが一般的であるが、ステロイド抵抗性の症例や耐糖能に問題のある症例では管理が難しくなる。近年では、抗IL-6受容体抗体であるトシリズマブの有効性が示されてきており、今後はこのような分子標的薬がkey drugに加わっていくと考えられる。5 主たる診療科血液内科、免疫内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)患者会情報社会福祉法人 復生あせび会(希少疾病患者の会)1)Van Rhee F, et al. Clinical advances in hematology & Oncology. 2010; 8: 486-498.2)本田元人. HIV感染症とAIDSの治療. 2012; 3: 12-18.3)西本憲弘. 実験医学. 2010; 28: 2026-2031.

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