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サン・アントニオ2015 レポート-2

レポーター紹介ポスターセッションに移る。ポスターでも重要な臨床試験の結果が報告されていた。FACE試験:リンパ節転移陽性ホルモン受容体陽性閉経後乳がんにおける、術後補助療法としてのレトロゾールとアナストロゾールとの第III相比較試験である。2005年12月から2008年3月までにレトロゾール2,061例、アナストロゾール2,075例が無作為に割り付けされた。レトロゾール群36.1%、アナストロゾール群38.1%が有害事象(15.1%対14.3%)や再発(9.5%対10.4%)のために継続中止となった。結果として5年無再発生存率、全生存率ともにまったく差がなかった。関節痛やホットフラッシュ、疲労感といった有害事象もまったく同等であった。試験開始当初はATAC試験とBIG1-98試験の間接的比較などから、リンパ節転移陽性例でのレトロゾールの優越性が期待されていたが、見事なまでに同等の結果となった。Neo-Shorter試験:リンパ節転移陽性乳がんに対して、FEC3サイクル→DOC3サイクルがAC4サイクル→DOC4サイクルと比較して治療効果が劣らないかを、術前化学療法で検証する第III相試験で、韓国からの報告である。フランスではPACS01試験の結果からFEC×3→DOC×3が標準化学療法の1つとなっている。しかし、多くの標準療法は4サイクル→4サイクルであり、レジメンを短縮しても良いのかという疑問があった。AC4-D4が80例、FEC3-D3が93例である。pCRはそれぞれ17.5%、12.9%であり、ほぼ同等の効果となっている。この程度の数値上の差では、生存率に差が出ることはまずないだろうと思われる。ACとFEC100は治療効果が変わらないことはすでに証明されている(参照)のでどちらでも良い。また、意見の相違はあるかもしれないが、DOCをweekly PTXに変えても何の問題もないと思われる。今後、3サイクル→3サイクルを標準治療の1つとして考えることも十分許容されるだろう。少なくとも患者にとって副作用がつらい状態のとき、3サイクル終了した時点で4サイクル頑張らないと治療効果が低下するかもしれないと言う必要はないだろう。GBG69は、weekly paclitaxel(80)とweekly nab-paclitaxel(150 or 125)に引き続くEC(90/600)の効果を比較するドイツの無作為化術前化学療法試験である。当初nab-paclitaxel(nP)を150で開始したが、減量と中止が多かったため途中から125に変更している。結局nP 150を229例に、nP 125を377例に施行した。投与中止した割合はnP 150で26.8%、nP 125で16.6%、P80で13.3%であった。最も大きな懸念事項である末梢性感覚神経障害はGrade3以上がそれぞれ14.5%、8.1%、2.7%に認められた。治療効果(pCR率)はnP 125で最も高かった。この結果からweekly nab-paclitaxel は150ではなく125が考慮されるべきである。しかし、125でもまだ毒性が強いように思う。彼らはさらにGeparX試験でレジメンの改善が可能か調べるようである。nab-paclitaxelの意義はアルコールを使わないこと、薬剤調製時間、投与時間が大きく短縮できること、アレルギーの心配が非常に少ないというところにもあるので、weekly paclitaxelと同等の効果が得られる程度でもっと減量することも考慮して良いのではないかと考える。

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サン・アントニオ2015 レポート-1

レポーター紹介はじめに2015年SABCSは12月4日から8日までの会期で開催された。外は比較的暖かく、過ごしやすい気候であった。基礎的な内容も口演で多く取り上げられ、難しい内容のものも多くあったが、私たちの臨床を変える、あるいは臨床的に意義のある発表も多く、個人的には久しぶりに充実感があった。最初の話題は何と言っても、京都大学の戸井 雅和先生が口演で発表された、日本と韓国共同で行われた第III相試験CREATE-X(JBCRG-04)の結果であろう。HER2陰性乳がんに対して術前化学療法(アントラサイクリン、タキサン、あるいはその組み合わせ)後に手術を行ってnon-pCRであった場合に、術後標準治療を行う群とカペシタビン8サイクル(2,500mg/m2/day、day1~14、repeat every 3 weeks)を上乗せする群に割り付けて、予後をみたものである。適格基準はStageI~IIIBと広く、年齢も20~74歳と幅がある。計910例を各群455例ずつに割り振り5年間経過観察した。ホルモン受容体陽性が約60%で、リンパ節転移が残存していたのは約60%であった。術前化学療法としてはA-Tを逐次投与したものが約80%を占め、5-FUは約60%の症例で使われていた。カペシタビンを8サイクル規定投与量で継続できたのは37.9%、減量し継続できたのは37.1%、中止は25%であった。カペシタビン群の有害事象として、下痢は3.0%と低く、手足症候群は全グレードで72.3%、Grade3は10.9%に認められた。5年無再発生存率はカペシタビン群74.1%、コントロール群67.7%(p=0.00524)、5年全生存率も89.2%対83.9%(p<0.01)と有意にカペシタビン群で良好であった。サブグループ解析では、どのグループでもカペシタビン群で良好な傾向であった。ホルモン受容体の有無によらなかったが、陰性でより効果が高い傾向にはあった。正式に論文化されるのを待ちたいが、術前化学療法後に腫瘍が残存しステージが高く、予後不良な乳がんに対して有効な治療であることは間違いなさそうであり、どのように実臨床に取り込んでいくか議論が必要だろう。また、毒性の程度が日本人と異なる欧米で、どの程度受け入れられるかも注目されるところである。ルミナルA乳がんは一般に予後良好で、早期であれば全身治療は内分泌療法単独で良いと一般的に考えられている。DBCG77B無作為化比較試験から、ハイリスクのルミナルA乳がんを選択し予後を比較した結果が報告された。DBCG77B試験は腫瘍径5cm以上またはリンパ節転移陽性の閉経前乳がんに対し、classic CMF(C:130mg/m2)、oral cyclophosphamide(130mg/m2、2週投与2週休薬、12サイクル)、levamisole、化学療法なしの4群に分けて予後をみたものであるが、前2群はlevamisole群や化学療法なし群と比較して25年全生存率を改善している (Ejlertsen B, et al. Cancer;116:2081-2089.)。classic CMFに関しては、2014年SABCSレポート(NSABP B-36:リンパ節転移陰性乳がんにおいて6サイクルのFECと4サイクルのACを比較する無作為化第III相試験)を参照してほしい。ルミナルAの定義は免疫染色でER陽性、PR 20%以上、Ki67 13%以上、CK5/6陰性、EGFR陰性とした。 今回の研究では、1,146例のうち633例で免疫染色結果が利用でき、165例がルミナルAに分類された。633例の特徴は1,146例全体と比べN+例の比率がやや高く、化学療法施行例がわずかに多かった。浸潤がんの10年無再発生存率は、非ルミナルAでは化学療法の効果が明らかであったのに対し、ルミナルA群ではまったく差がなかった(化学療法あり134例、なし31例)。25年全生存率も同様であった。非ルミナルAのうちHER2タイプでは浸潤がんの10年無再発生存率に全く差がなく、HER2陽性乳がんにおけるCMFの効果の弱さを裏付けるものであった。DBCG77Bはかなり古い試験であり、内分泌療法が行われていないなどいくつかの問題点はある。しかし、ルミナルAはリンパ節転移陽性であっても、化学療法のベネフィットがないということはリーズナブルな結果と考えられる。現在NCCNガイドラインによれば、オンコタイプDxもリンパ節転移陽性(1~3個)に対して適応しうることが記載されており、低リスクに対しては化学療法のベネフィットが得られないだろうと考えられるようになっている。また、乳がんサブタイプとオンコタイプDxの再発リスクの間には強い相関もあり、私自身はこの結果にとくに驚くものではない(Fan C, et al. N Engl J Med. 2006;355:560-569.)。むしろDBCG77B試験をあらためて読み、classic CMFとoral cyclophosphamideの間に差がないことのほうが驚きであった。本邦では、再発乳がんにおいてoral cyclophosphamideと5-FU系薬剤との併用の有効性が検討され、5-FU系薬剤の効果がむしろ強調されてきたが、実はoral cyclophosphamideのほうがより重要なのかもしれない。デジタルマンモグラフィが2Dであるのに対して、トモシンセシスは3Dマンモグラフィである。2D に3Dを加えることにより、2D単独と比較して浸潤がんの発見が40%増加し、疑陽性率が15%低下することが報告されており(Skaane P, et al. Radiology. 2013;267:47-56.)、他の研究も同様の結果となっている(Ciatto S, et al: Lancet Oncol. 2013;14:583-589、Friedewald SM, et al. JAMA.2014;311:2499-2507)。しかし、3Dを加えることで、被曝量の増加(約2倍)、圧迫時間の延長(ただし圧迫圧は減少)、装置のコスト、装置の耐久性、トレーニング、読影時間の延長が問題となる。そこで3Dから擬似的に合成した2D画像(合成2D)により(3Dは選択して読影)、読影時間の問題を解決するか試みた研究が英国から報告された。2,589乳房のうち280乳房のみが3D読影を必要とした。3D読影を行わないことにより、10乳房のM3と1乳房のM4を見逃したのみであり、そのうち乳がんであったのは2乳房のみであった。研究の限界としては、経験豊富な放射線科医1名の読影であり、スクリーニングの場面ではないことがある。しかし、見落としを最小限にしながら読影時間を短縮するのに、合成2Dは有用な方法と考えられる。臨床の現場では、通常のマンモグラフィ検診で要精査とされた中に疑陽性(とくにFAD)が多いことに驚く。患者はそのことにより、夜も眠れず不安を抱えて病院を受診する。超音波検診も含めて、疑陽性を極力減らすための努力が必要である。ビスホスホネート製剤は閉経後乳がんに対する遠隔再発、骨転移を減らし、乳がんによる死亡率を低下させることが、Early Breast Cancer Trialists’ Collaborative Group(EBCTCG)のメタ分析から示されている(参照)。今回は、デノスマブの生存率向上効果がABCSG-18試験(オーストリアとスウェーデン)によって示された。ホルモン受容体陽性閉経後乳がんにおいて術後補助療法として、非ステロイド性アロマターゼ阻害薬と共に6ヵ月ごとにデノスマブを60mg投与する群とプラセボ群に分け、3,425例が無作為に割り付けられた。デノスマブの投与期間は規定されていない。おそらく5年程度は使用されているのだろう。結果として、無再発生存期間はデノスマブ群でわずかに高かった(p=0.0510)。サブグループ解析では、腫瘍径2cm以上ではより明らかであった(p=0.0419)。これは、より再発率の高いグループで効果が明瞭になるということだろう。顎骨壊死は1例もなかったが、これは特筆すべきである。本試験のプロトコルには、治療開始前や治療中の予防的な口腔ケアについては何ら記載されていない。顎骨壊死がなかった理由として、投与量が少ないためか、6ヵ月ごとの投与ではほとんど問題にならないのか、あるいはオーストリアやスウェーデンでは口腔ケアが当たり前になっているのか不明である。また、治療期間中カルシウムとビタミンDの服用を強く推奨するという記載にとどまっていて規定にはなっていないようだが、重篤な低カルシウム血症も起きていないようである。ただし、このあたりも、臨床で使用する際には一応注意はしておいたほうが良いだろう。閉経後乳がんにおいては、進行度の高いほど骨標的療法の生存率への効果が高いと考えられ、実臨床でも考慮すべき時期になったといえる。

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乳がん術後化学療法中のLHRHa、卵巣機能を長期保護/JAMA

 年齢中央値39歳の早期乳がん患者の術後化学療法中に、黄体形成ホルモン放出ホルモンアナログ(LHRHa)製剤のtriptorelin併用は、化学療法単独と比べて妊娠率について統計的に有意な差はなかったが長期的な卵巣機能の回復率が高いことが、イタリア・IRCCS AOU San Martino-ISTのMatteo Lambertini氏らによる無作為化試験の結果、示された。無増悪生存(DFS)については、試験の検出力に限界があったとしたうえで、統計的有意差は認められなかったと報告している。化学療法中のLHRHa併用は卵巣機能保護戦略として信頼性が高いが、長期的な卵巣機能への影響、および妊娠に関するデータは不足していた。また、併用療法に関する安全性への懸念もあり論争の的となっていた。JAMA誌2015年12月22・29日号掲載の報告。StageI~III、年齢中央値39歳281例を対象に化学療法単独群と比較 検討は、並行群間比較無作為化非盲検の第III相優越性試験として、イタリアの16病院で行われた。2003年10月~2008年1月の間に、StageI~III、ホルモン受容体陽性または陰性の乳がんで閉経前の女性患者281例(年齢中央値39歳、範囲:24~45歳)を登録。術後/術前補助化学療法の単独を受ける群(対照群、133例)と化学療法+triptorelinを受ける群(LHRHa群、148例)に無作為に割り付け追跡評価した。 事前に計画された主要エンドポイントは、化学療法による早期閉経の発生率であった。事後エンドポイントとして、長期の卵巣機能(毎年の評価で1サイクル以上の月経があった場合に再開と定義)、妊娠、DFSを評価した。 最終フォローアップは2014年6月3日。追跡期間中央値は7.3年(範囲:6.3~8.2年)であった。月経再開5年累積発生率は併用群が1.28倍、妊娠数も有意差はないが2.56倍 結果、月経再開の5年間の推定累積発生率は、LHRHa群72.6%(95%信頼区間[CI]:65.7~80.3%)、対照群64.0%(同:56.2~72.8%)であった(ハザード比[HR]:1.28、95%CI:0.98~1.68、p=0.07、年齢補正後HR:1.48、95%CI:1.12~1.95、p=0.006)。 妊娠発生は、LHRHa群で8例(推定累積発生率:2.1%、95%CI:0.7~6.3%)、対照群は3例(同:1.6%、95%CI:0.4~6.2%)であった(HR:2.56、95%CI:0.68~9.60、p=0.14、年齢補正後HR:2.40、95%CI:0.62~9.22、p=0.20)。 5年DFSは、LHRHa群80.5%(95%CI:73.1~86.1%)、対照群83.7%(95%CI:76.1~89.1%)であった(LHRHa vs.対照のHR:1.17、95%CI:0.72~1.92、p=0.52)。

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中皮腫の初回治療、ベバシズマブ上乗せでOS延長/Lancet

 悪性胸膜中皮腫の初回治療について、標準療法であるシスプラチン+ペメトレキセドの併用療法へのベバシズマブの上乗せは、全生存期間(OS)を有意に改善することが、フランス・カーン大学のGerard Zalcman氏らによる第III相の非盲検無作為化試験の結果、示された。毒性効果として循環器系の有害事象が増えるものの、著者は、「予想の範囲内のものであり、ベバシズマブの上乗せは適切な治療と見なすべきである」とまとめている。Lancet誌オンライン版2015年12月21日号掲載の報告。標準初回治療への上乗せ効果を無作為化試験で検討 悪性胸膜中皮腫は進行が早く予後は不良で、職業性のアスベスト曝露との関連が知られている。初回治療は、シスプラチン+ペメトレキセドの併用療法とされているが、その適用はシスプラチン単独との比較でOS中央値12.1(ビタミンB12、B9服用群では13.3) vs.9.3ヵ月、無増悪生存(PFS)中央値5.7 vs.3.9ヵ月のデータに基づく。また、進行性悪性中皮腫へのペメトレキセド+カルボプラチン併用療法の第II相の試験で示された結果は、OS中央値12.7ヵ月、PFS中央値6.5ヵ月であった。 こうした中、先行研究で、中皮腫細胞の病態生理において血管内皮増殖因子(VEGF)シグナルが重大な役割を果たすことが示唆されたことから、研究グループは、VEGFをターゲットとする抗血管新生治療薬が効果を示すのではないかと本検討を行った。 試験は、フランスの73病院から被験者を集めて行われた。18~75歳、切除不能の悪性胸膜中皮腫で化学療法未治療、全身状態はEastern Cooperative Oncology Group(ECOG)スコアで0~2、重大な心血管疾患の併存はなく、CTで評価が可能な病変(胸水)または測定可能な病変(胸膜肥厚)が少なくともいずれか1つあり、余命は12週超の患者を対象とした。除外基準は、中枢神経系への転移あり、抗血小板薬(アスピリン325mg/日以上、クロピドグレル、チクロピジン、ジピリダモール)を使用、ビタミンK拮抗薬を有効量使用、低分子量ヘパリンを有効量使用、非ステロイド性抗炎症薬の投与を受けている、であった。 被験者を、ペメトレキセド(500mg/m2)+シスプラチン(75mg/m2)+ベバシズマブ(15mg/kg)の静注投与(PCB)群、またはベバシズマブの代わりにプラセボを投与する(PC)群に1対1の割合で無作為に割り付け、3週間に1回を最大6サイクル、病勢進行または毒性効果が認められるまで行った。なお、無作為化には最小化法を用い、患者を組織学的(上皮型 vs.肉腫型、または混在型)、全身状態(ECOGスコア0~1 vs.2)、試験病院、喫煙状態(非喫煙 vs.喫煙)で層別化した。 主要アウトカムはOS。intention-to-treat解析にて評価した。OSが有意に延長、18.8ヵ月 vs.16.1ヵ月 2008年2月13日~14年1月5日に、計448例の患者を無作為化した(PCB群223例[50%]、PC群225例[50%])。被験者は、男性75%、年齢中央値65.7歳、上皮型81%、ECOGスコア0~1が97%、喫煙者57%などであった。 6サイクルを完遂したのは、PCB群74.9%、PC群76.0%。フォローアップ中央値は39.4ヵ月で両群に差はなかった。 主要アウトカムのOS中央値は、PC群(16.1ヵ月、95%信頼区間[CI]:14.0~17.9)と比べてPCB群(18.8ヵ月、15.9~22.6)で有意に延長した(ハザード比[HR]:0.77、95%CI:0.62~0.95、p=0.0167)。 なお、PFSもPCB群で有意な改善が認められた(9.2ヵ月 vs.7.3ヵ月、HR:0.61、95%CI:0.50~0.71、p<0.0001)。 Grade3/4の有害事象の報告は、全体ではPCB群158/222例(71%)、PC群139/224例(62%)であった。PC群と比べてPCB群では、Grade3以上の高血圧症(51/222例[23%] vs.0例)、血栓イベント(13/222例[6%] vs. 2/224例[1%])の頻度が高かった。

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皮膚T細胞リンパ腫〔CTCL : cutaneous T cell lymphoma〕

1 疾患概要■ 概念・定義皮膚T細胞リンパ腫は、菌状息肉症、セザリー症侯群、原発性皮膚未分化大細胞リンパ腫など、皮膚を主座とするすべてのT細胞リンパ腫を指す。リンパ節に原発する全身性リンパ腫との鑑別が重要であるが、診断時に皮膚外病変を認めた場合でも、病歴や臨床像から皮膚T細胞リンパ腫と判断することもある。■ 疫学1)皮膚T細胞リンパ腫の発症数日本皮膚悪性腫瘍学会 皮膚がん予後統計委員会によると、2007~2011年における皮膚T細胞リンパ腫の新規発症は年間約260例であった。2)皮膚T細胞リンパ腫の病型皮膚T細胞リンパ腫の病型分類では、菌状息肉症が約50%、原発性皮膚未分化大細胞リンパ腫とリンパ腫様丘疹症からなる原発性皮膚CD30陽性リンパ増殖症は約10%、皮膚病変が主である成人T細胞白血病・リンパ腫が約7.5%であった。■ 病因皮膚に親和性の高いTリンパ球が悪性化し、主に皮膚で増殖している状態である。成人T細胞白血病・リンパ腫は、ヒトT細胞白血病ウイルス1型(HTLV-1)が発症に関与していると考えられている。菌状息肉症は、成人T細胞白血病・リンパ腫と類似した臨床・組織像を取ることが多いため、以前よりウイルス病因説があるが、今のところ原因といえるウイルスは同定されていない。それ以外の皮膚T細胞リンパ腫についても、明らかな病因は不明であるが、免疫抑制状態が病勢の増悪に寄与していると考えられている。■ 症状1)皮膚症状紅斑、局面、腫瘤、紅皮症(全身が紅斑で覆われた状態)、皮下結節、潰瘍、紫斑などを呈する。2)リンパ節腫脹表在リンパ節が腫脹する。腫瘍細胞の増殖によるものと、反応性のものがある。3)末梢血中異型細胞成人T細胞白血病・リンパ腫やセザリー症候群では、末梢血液中に腫瘍細胞が検出されることがある。4)生化学的異常LDH、可溶性IL-2受容体など、悪性リンパ腫のマーカーが高値を示す。菌状息肉症・セザリー症候群では、血清中のTARC(thymus and activation-regulated chemokine)が病勢を反映することが知られている。5)発熱・体重減少・盗汗(B症状)B症状を示すことは、皮膚T細胞リンパ腫では一般的にまれであるが、進行例で陽性になることがある。■ 分類菌状息肉症、セザリー症候群、原発性皮膚CD30陽性リンパ増殖症(原発性皮膚未分化大細胞リンパ腫とリンパ腫様丘疹症)、成人T細胞白血病・リンパ腫、皮下脂肪織炎様T細胞リンパ腫、末梢性T細胞リンパ腫(非特定)、原発性皮膚γδT細胞リンパ腫、原発性皮膚CD4陽性小・中細胞型T細胞リンパ腫、原発性皮膚CD8陽性進行性表皮向性細胞傷害性T細胞リンパ腫などがある。■ 予後予後は病型分類と病期によって異なる。菌状息肉症全体の5年生存率は約90%であるが、早期例(病期 IA)の疾患特異的5年生存率は98%である。一方、リンパ節病変もしくは内臓病変を有する病期IVでは、5年生存率が約20%である。セザリー症候群の5年生存率は約25%であり、成人T細胞白血病・リンパ腫、原発性皮膚γδT細胞リンパ腫では、5年生存率が算出不能なほど予後不良である。原発性皮膚CD30陽性リンパ増殖症は、5年生存率が90%以上であるという報告が多く、生命予後良好な病型である。皮下脂肪織炎様T細胞リンパ腫、原発性皮膚CD4陽性小・中細胞型T細胞リンパ腫なども予後良好であるが、これらは疾患概念の変遷があり、過去の論文を読む際は注意を要する。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)身体診察、皮膚生検・リンパ節生検(HE染色、免疫染色、サザンブロットまたはPCRによるモノクロナリティの検索)、血液検査(血算、目視による血液像、LDH、可溶性IL-2受容体、フローサイトメトリー)、骨髄穿刺、画像検査(胸部X線、腹部エコー、胸腹骨盤部CT、FDG-PET)などから総合的に判断する。紅斑、局面が主体の皮膚T細胞リンパ腫の鑑別診断としては、アトピー性皮膚炎、尋常性乾癬、扁平苔癬などの皮膚疾患や薬疹などが挙げられる。腫瘤や皮下結節が主体のものは、有棘細胞がんや悪性腫瘍の皮膚転移などが鑑別となる。潰瘍や紫斑を主症状とする皮膚T細胞リンパ腫では、血管炎が鑑別疾患となる。いずれも病理組織が診断の決め手となる。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)治療は病型分類と病期によって異なる。一般的に予後良好な皮膚T細胞リンパ腫では、ステロイド外用、紫外線、外科的切除、放射線療法などの局所療法が主体となる。予後不良な病型では全身化学療法、骨髄移植などの治療が選択される。■ 菌状息肉症・セザリー症候群(図1)菌状息肉症とセザリー症候群が同一の疾患であるか、いまだに議論があるが、病期分類は同じものが使用されており、治療法も基本的には共通である。紅斑、局面が主体の早期の症例では、ステロイド外用、紫外線を中心に治療するが、治療抵抗例ではレチノイドやインターフェロンを併用する。局所的に放射線療法を用いることもある。腫瘤が多発している症例では、当初からこれらの治療を組み合わせた集学的治療を行う。紅皮症では体外光化学療法が推奨されるが、わが国で行っている施設はほとんどない。リンパ節や内臓病変を伴う場合は、化学療法がメインとなる。若年者の場合は同種造血幹細胞移植も考慮する。画像を拡大する■ 原発性皮膚未分化大細胞リンパ腫(図2)皮膚病変が限局している場合は、外科的切除や放射線療法を検討する。これらの治療が有効でない場合、単剤化学療法を考える。皮膚病変が広範囲に多発している場合、出現消退を繰り返しているか否かが重要となる。皮疹の出現消退があれば、リンパ腫様丘疹症と考えられるため、経過観察や紫外線照射を行う。症状が増悪する場合、単剤化学療法を考える。広範囲に多発している皮膚病変に消退傾向がなければ、最初から単剤化学療法を考える。単剤化学療法の実施が難しい場合、あるいは効果が不十分な病変に対し、放射線療法を考慮してよい。皮膚外病変がある場合は、多剤併用化学療法を行う。実施が困難な場合、あるいは効果が不十分な病変に対し、放射線療法を考慮する。画像を拡大する■ 成人T細胞白血病・リンパ腫(図3)ここでは、予後不良因子のない慢性型もしくはくすぶり型で、皮膚病変があるものに対する治療法を述べる。一般的に、紫外線もしくは放射線療法を用いる。これらが無効の場合、レチノイド、インターフェロン、単剤化学療法の併用を考慮する。定期的に採血を行い、急性転化を見逃さないように注意する。画像を拡大する■ それ以外の病型病変が皮膚に限局している場合、ステロイド外用、紫外線、外科的切除、放射線療法などの局所療法が主体となる。皮膚外病変がある場合は、全身化学療法、造血幹細胞移植などの治療が選択される。予後不良な病型では、皮膚外病変がなくても化学療法を検討してもよいが、マイナーな病型の場合は経過の予測が難しく、症例ごとに治療法を検討する姿勢が望ましい。4 今後の展望菌状息肉症に対する治療については、レチノイドの一種であるベキサロテン(商品名:タルグレチン)が臨床試験を終了し、現在承認申請中である。また、CCR4陽性の成人T細胞白血病・リンパ腫、再発または難治性の末梢性T細胞リンパ腫および皮膚T細胞リンパ腫に保険適用となっている抗CCR4抗体について、CCR4の発現の有無を問わない治験が、菌状息肉症に対して行われている。成人T細胞白血病・リンパ腫については、予後不良因子を持たない慢性型およびくすぶり型を対象に、インターフェロン-αとジドブジン(AZT 同:レトロビル)の併用療法の臨床試験が行われている。5 主たる診療科皮膚科を中心に血液内科、放射線科と相談して治療を進めていく。※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報National Cancer Institute, Mycosis Fungoides and the Sezary Syndrome Treatment(PDQ®).(米国がん研究所の同疾患の診療情報)National Comprehensive Cancer Network (NCCN), NCCN Practice Guidelines in Oncology: Mycosis Fungoides/Sezary syndrome of the cutaneous T-cell lymphomas.(NCCN提供の同疾患のガイドライン: 視聴には会員登録必要)1)Swerdlow SH, et al,editors. WHO Classification of Tumours of Haematopoietic and Lymphoid Tissues ,4th ed.Lyon:IARC Press;2008.2)Sugaya M, et al. J Dermatol.2013;40:2-14.3)日本皮膚科学会/日本皮膚悪性腫瘍学会編. 科学的根拠に基づく皮膚悪性腫瘍診療ガイドライン 第2版.金原出版;2015.公開履歴初回2013年08月01日更新2016年01月05日

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抗がん薬副作用マネジメントの進展

 2015年12月10日都内にて、「抗がん薬副作用マネジメントの進展」と題するセミナーが開かれた(主催:アストラゼネカ株式会社)。演者である久保田 馨氏(日本医科大学附属病院 がん診療センター部長)は、抗がん薬の副作用対策を中心に講演。患者さんの負担を考えながら予防・対処する大切さを語った。 以下、セミナーの内容を記載する。【はじめに】 本セミナーでは「細胞障害性抗がん薬」の副作用のうち、好中球減少症とシスプラチン投与時の対処、さらに「分子標的薬」「免疫チェックポイント阻害薬」の副作用対策について述べる。【安易な予防的G-CSF投与は避けるべき】 「細胞障害性抗がん薬」で、注意すべき副作用に「発熱性好中球減少症」がある。この対処としては、以下の3点が推奨される。・リスクファクターの検討・単剤での有効性が確認されている薬剤の選択・発熱性好中球減少20%以上のレジメンでのG-CSF予防投与 ただし、最後の予防的G-CSF投与には注意が必要だ。過去、臨床では好中球減少が認められれば、発熱がない場合であってもG-CSF投与が行われてきた。 たとえば、発熱性好中球減少時の抗菌薬投与には、明らかな生存率改善のエビデンスがある。しかし、G-CSF投与を抗菌薬と同様に考えてはいけない。低リスク例へのG-CSF予防投与はエビデンスがなく、現状のガイドラインを鑑みても適切ではない。薬剤追加は、場合によってはがん患者のQOLを低くすることもある。それを上回るメリットがない限り、医療者は慎重になるべきである。【つらい悪心/嘔吐には適切な制吐薬を】 抗がん剤による悪心・嘔吐は患者にとって、最もつらい症状と言われており、QOL悪化につながる。実際、「がん化学療法で患者が最も嫌う副作用2005」の調査結果1)によると、コントロール不良の悪心/嘔吐(CINV)は死亡と同程度の位置付けであった。とくに、シスプラチンは催吐性リスクが高く、悪心・嘔吐の予防のために、適切な制吐薬を使用すべきである。2013 ASCO総会において発表されたTRIPLE試験では、パロノセトロンが遅発期において有意に悪心・嘔吐を抑制したことが示されている。高度催吐性化学療法時には、パロノセトロン+デキサメタゾン+アプレピタントの併用で悪心・嘔吐を予防することを推奨したい。【短時間輸液療法への期待】 患者さんは1回当たりの治療時間が長引くことを嫌がる。シスプラチン投与では輸液や利尿薬を使用し腎障害の軽減を図るわけだが、投与前後の輸液投与に4時間以上、薬剤の点滴に2時間以上かかるため、トータルで10時間以上かかってしまう。単純に尿量を確保する目的での大量補液は、外来治療が進む昨今の状況には合わず、そこまでして投与しても、Grade2以上の血清クレアチニン上昇は2割程度報告されていた2)。 そこで、マグネシウム補充がシスプラチン起因性腎障害抑制につながるとの報告3)を基に、久保田氏の所属施設を中心にマグネシウム補充を取り入れた形で短時間輸液療法を行うこととした。トータル3時間半の投与法で検討した結果、97.8%の患者でGrad2以上の腎障害の出現はなかった4)。 このように、現時点でもがん患者のQOL向上を目指す治療方法は研究され、実施されつつある。【分子標的薬、免疫CP阻害薬の副作用対策】 「分子標的薬」「免疫チェックポイント阻害薬」の副作用は、「細胞障害性抗がん薬」の副作用とは位置付けが異なる。 分子標的薬の副作用は、その標的を持つ正常細胞に限定して現れる。たとえば、抗EGFR抗体薬やEGFRチロシンキナーゼ阻害薬による皮膚症状などが代表的だ。この対策として、久保田氏の所属施設では、医療者用のスキンケア指導パンフレットを作成し活用している。保湿剤の一覧や塗布法、爪の切り方、入院・外来時スキンケア指導フローなどを共有することで、適切な対処につながる。 また、重大な副作用として「間質性肺炎」も注意が必要だ。投与4週以内の発症が多いので、患者さんには「発熱」「空咳」「息切れ」が出たら必ず来院するよう伝えることが大切だ。 最近登場した免疫チェックポイント阻害薬の副作用は、体内の多岐にわたる場所で起こる可能性がある。下垂体機能低下などホルモン異常による倦怠感なども、見逃さないよう注意が必要である。これまでの薬と異なり、投与10ヵ月後など有害事象がかなり遅れて発現するケースも報告されている。多くが外来で投与されることから、患者や家族へ事前説明をしっかりと行うことを意識していただきたい。【まとめ】 抗がん薬治療では副作用マネジメントが重要となる。薬剤の作用機序や薬物動態を正しく理解することは、副作用の適切な対処につながる。医療者側は、ぜひ正しい知識を持って、患者さんのために積極的な副作用対策を行っていただきたい。

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成人T細胞白血病・リンパ腫〔ATLL : adult T-cell leukemia-lymphoma〕

1 疾患概要■ 概念・定義成人T細胞白血病・リンパ腫(ATLL)は、レトロウイルスであるヒトT細胞白血病ウイルス(HTLV-1)に感染したT細胞が、腫瘍化して起こる悪性腫瘍である。■ 疫学HTLV-1の推定感染者数は最近の統計では108万人で、以前より減少傾向にあるとされる。しかしながら、1,000人/年ほどのATLLの発症数があるとされている。九州、沖縄のほか、紀伊半島、三陸海岸、北海道などの沿海地域に感染者数の多い地域がある。また、人口の移動に伴い東京・大阪などの大都市圏での感染者も増えている。HTLV-1の感染経路としては母児感染(主に母乳を介する)、輸血(現在はスクリーニングにより新たな感染はない)、性的接触などがある。HTLV-1感染者が生涯にわたって、ATLLを発症するリスクは5%程度と考えられており、通常、40年近い潜伏期間を経て発症するので、発症年齢中央値は70歳前後と高齢である。■ 病因HTLV-1のpX領域にコードされるTax遺伝子やpX領域のマイナス鎖にコードされるHBZなどが、HTLV-1感染T細胞の不死化や細胞増殖に関与していると考えられている。キャリアの状態では、これらの遺伝子の働きによる細胞増殖と宿主の免疫とのバランスがとれているが、新たな遺伝子異常が加わることや宿主免疫に異常を来すことが、腫瘍化に関与していると考えられている。■ 症状(表)画像を拡大する1)血液中異常細胞(フラワー細胞)出現ATLLの典型的な血液腫瘍細胞の形態は、強い分葉のある核をもつフラワー細胞である。多くの場合、CD4+、 CD25+で、CD7発現が消失していることが多い。2)リンパ節腫大・肝脾腫3)皮膚病変紅斑や腫瘤などがみられる。4)高カルシウム血症ATLL細胞が、血清カルシウム値を上昇させる副甲状腺ホルモン関連蛋白(PTHrP)を産生するために起こる。高カルシウム血症のため全身倦怠感、多尿、腎障害、意識障害を来す。5)日和見感染症ATLL患者では、正常T細胞の減少がみられ、その結果として細胞性免疫低下に関連した日和見感染症(帯状疱疹、サイトメガロウイルス感染症、ニューモシスチス感染症、各種真菌症、糞線虫症などの寄生虫感染症など)を起こしやすい。■ 予後急性型・リンパ腫型の予後は、きわめて不良とされている。最近行われた多施設後方視研究では、生存期間中央値7.7ヵ月であった。Ann Arbor分類で病期3以上、身体活動度2以上、年齢・血清アルブミン、可溶性IL-2受容体などの連続変数からなるATL予後指数が報告されており、高・中間・低リスク群での生存期間中央値はそれぞれ3.6、7.3、16.2ヵ月、2年生存割合は4、17、39%であった。しかし、同種造血幹細胞移植施行例では、一定の割合で長期無増悪生存が得られ、治癒が期待できる。慢性型・くすぶり型の患者の予後は、従来良好とされていたが、長崎大学からの報告では生存期間中央値4.1年で5、10、15年生存割合はそれぞれ、47.2、25.4、14.1%と必ずしも予後良好とはいえない結果であった。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)さまざまな症状で医療機関を受診した際に、一般血液検査で白血球増加症、とくに末梢血塗抹標本でフラワー細胞の出現がみられたり(図)、異常T細胞の増加がみられた場合にATLLが疑われる。このほか、リンパ節腫大の鑑別診断も挙げられる。画像を拡大する日本人でリンパ節や節外病変の生検でT細胞リンパ腫と診断された際には、ATLLの可能性を鑑別する必要がある。特徴的な検査値異常として、可溶性IL-2受容体(sIL-2R)高値、血清カルシウム高値などがある。1)HTLV-1抗体まず、粒子凝集(PA)法や化学発光法などによる、スクリーニング検査を行う。ただし、これらの検査は、高感度であるものの偽陽性の可能性があるため、確認検査としてウエスタンブロット(WB)法を行う。2)HTLV-1プロウイルスDNA定量(保険未収載)WB法で判定保留の際に、HTLV-1感染の有無を確認するために用いられる。3)リンパ節生検・皮膚生検他疾患との鑑別のため、腫大リンパ節や皮膚などの節外病変の生検を行い、病理組織検査、フローサイトメトリー、染色体検査、HTLV-1プロウイルスDNAサザンブロットなどを行う。4)骨髄検査骨髄浸潤を確認するために行われる。白血病化している場合でも、骨髄中の腫瘍細胞は目立たないことが多い。5)HTLV-1プロウイルスDNAサザンブロット(保険未収載)HTLV-1感染患者に発症したT細胞腫瘍をATLLとみなすこともあるが、ATLLと正確に診断するためには、腫瘍細胞でHTLV-1が単クローン性に増殖していることをサザンブロットにより確認する。6)フローサイトメトリーATLL細胞は形態的には、正常リンパ球との区別が困難な場合があるため、フローサイトメトリーで異常な免疫形質のT細胞集団の有無を確認する。ATLL細胞の典型的な免疫形質は、CD3+、CD4+、CD7-、CD8-、CD25+、CCR4+である。7)画像検査・内視鏡検査病変の広がりを確認するため、CT、PET-CT、上部消化管内視鏡検査などを行う。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)■ 急性型・リンパ腫型アントラサイクリン系抗腫瘍薬を用いた多剤併用化学療法を行う。初回多剤併用化学療法としては、mLSG15(VCAP-AMP-VECP)療法、CHOP療法、EPOCH療法などが用いられている。また、中枢神経再発予防として抗腫瘍薬の髄注を行う。65~70歳未満の患者では、多剤併用化学療法に引き続いて、同種造血幹細胞移植を行うことが勧められる。このため治療開始とともにドナー検索も進めていく。血縁者にHLA一致同胞ドナーがいる場合には血縁者間同種移植、ドナーがいない場合には非血縁者間骨髄移植や臍帯血移植の可能性を検討する。移植前処置として、50~55歳未満で臓器障害のない患者では骨髄破壊的前処置、50~55歳以上の患者や臓器障害のある患者などでは、強度減弱前処置が用いられることが多い。年齢・臓器障害などのために多剤併用化学療法が行えない場合には、経口抗腫瘍薬を投与する。エトポシド(商品名:ベプシド、ラステット)、ソブゾキサン(同:ペラゾリン)などが用いられることが多い。CCR4陽性の再発・治療抵抗性例に対して、抗CCR4抗体モガムリズマブ(同:ポテリジオ)が治療選択肢となる。なお、CCR4陽性ATLL初発例に対して、モガムリズマブ併用mLSG15療法の臨床試験の結果が報告されており、mLSG15療法単独と比較して完全奏効割合が高くなることが示されている。■ くすぶり型、予後不良因子を伴わない慢性型無治療で経過観察を行い、進行がみられた時点で治療を開始するのが一般的である。しかし、これらの病型の患者の予後が必ずしも良好でないことから、インターフェロンα/ジドブジン(同:レトロビル)併用療法による介入治療の意義をみるため、ランダム化第3相試験が行われている(2015年12月)。皮膚病変を有する患者では、外科的切除、放射線療法、PUVA療法などの局所療法が行われる。■ 予後不良因子のある慢性型慢性型でもLDH>正常値上限、BUN>正常値上限、アルブミン<正常値下限、に該当する場合には予後不良とされるため、急性型・リンパ腫型と同様の治療が行われることが多い。4 今後の展望妊婦健診の導入や献血時のスクリーニングによって、今後、新たなHTLV-1感染は減少することが期待される。しかし、100万人近くいるHTLV-1感染者からのATLLの発症は今後も続くと思われる。同種造血幹細胞移植によって、ATLL患者の一部で治癒が期待できるようになったことは画期的であり、ATLLに対する同種免疫効果が有効であることを強く示唆する。同種移植については、今後も有利な移植片源や前処置を探る研究が引き続き必要だろう。一方、多くのATLL患者は高齢であったり、初回化学療法に対して抵抗性であったりして、同種造血幹細胞の恩恵を得られていない現状もある。抗CCR4抗体モガムリズマブの位置づけの検討や、さらなる新規治療薬の開発が重要な課題であろう。5 主たる診療科血液内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療に関する情報HTLV-1情報サービス(厚生労働省科学研究費補助金 がん臨床研究事業 「HTLV-1キャリア・ATL患者に対する相談機能の強化と正しい知識の普及の促進」)(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報グループ・NEXUS(悪性リンパ腫の患者、患者家族の全国団体の情報)1)Shimoyama M, et al. Br J Haematol.1991;79:428-437.2)Tsukasaki K, et al. J Clin Oncol.2009;27:453-459.3)Katsuya H, et al. J Clin Oncol.2012;30:1635-1640.4)Tsukasaki K, et al. J Clin Oncol.2007;25:5458-5464.5)Ishitsuka K, et al. Lancet Oncol.2014;15:e517-526.公開履歴初回2013年07月18日更新2015年12月22日

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第1回 東京医科歯科大学「がんを考える」市民公開講座【ご案内】

 東京医科歯科大学医学部附属病院 腫瘍センター、同院腫瘍化学療法外科、同大学院がんプロフェッショナル養成基盤推進プランは、2016年1月24日(日)に、「がんを考える」市民公開講座を開催する。本講座は、地域がん診療連携拠点病院となった同院の活動の一環として行う、がんに関するさまざまなテーマの公開講座の初の試み。第1回は、がん種を問わず、がんと診断された患者・家族の生活に、明日から役立つ情報の提供を目指した内容になっている。見て、触って、理解が深まるブース展示も多数予定している。 開催概要は以下のとおり。【日時】 2016年1月24日(日) 《セミナー》13:00~16:40 《ブース展示》12:00~17:00【場所】 東京医科歯科大学 M&Dタワー 2階 鈴木章夫記念講堂 〒113-8519 東京都文京区湯島1-5-45【参加費】 無料(※参加申し込みは不要です。)【テーマ】 患者・家族のための「がんとの付き合い方」【予定内容】 《セミナー》 13:00~16:40 鈴木章夫記念講堂 13:00~13:10  開会挨拶  三宅 智氏(東京医科歯科大学医学部附属病院 腫瘍センター センター長) 13:10~13:50  講演1  がんと診断されたら ~受け止め方、周りの人との関わり方~  松島 英介氏 (東京医科歯科大学医学部附属病院 心身医療科 科長[教授]) 13:50~14:30  講演2  がんとともに働く ~知っておきたい仕事とお金に関する制度~  近藤 明美氏(近藤社会保険労務士事務所 特定社会保険労務士) 14:30~14:40  休憩 14:40~15:00  医科歯科大のがん治療update①  頭頸部がんってなに? 頭頸部がんにならないための生活習慣  朝蔭 孝宏氏(東京医科歯科大学医学部附属病院 頭頸部外科 科長[教授]) 15:00~15:20  医科歯科大のがん治療update②  医科歯科大の放射線治療:小線源治療をご存知ですか?  吉村 亮一氏(東京医科歯科大学医学部附属病院 放射線治療科 科長[教授]) 15:20~15:40  医科歯科大のがん治療update③  「認定看護師」ってなに? ~私たちにご相談ください~  東京医科歯科大学医学部付属病院 認定看護師 15:40~15:50  休憩 15:50~16:30  講演3  自分らしい「逝き方」を考える  三宅 智氏(東京医科歯科大学医学部附属病院 腫瘍センター センター長) 16:30~16:40 閉会挨拶  植竹 宏之氏(東京医科歯科大学医学部附属病院 腫瘍化学療法外科 科長[教授]) 《ブース展示》 12:00~17:00 講堂前ホワイエ ■がんと栄養・食事(東京医科歯科大学医学部附属病院 臨床栄養部) ■がんと口腔のケア(お口の楽しみ支え隊[東京医科歯科大学歯学部口腔保健学科]) ■メイク・ウィッグを楽しもう!(アプラン東京義髪整形 with 山崎 多賀子氏) ■在宅治療の味方 CV ポート(株式会社メディコン) ■がんと家計(がんと暮らしを考える会) ■がん患者・家族へのピアサポート紹介(特定非営利活動法人がん患者団体支援機構) ■がん相談支援センター活用のすすめ(東京医科歯科大学医学部附属病院 がん相談支援センター) ■NPO法人キャンサーネットジャパン ■あご・顔・口の中のがん患者の会 えがおの会 ■若年性がん患者団体 STAND UP !!【共催】 東京医科歯科大学医学部附属病院 腫瘍センター 東京医科歯科大学医学部附属病院 腫瘍化学療法外科 東京医科歯科大学大学院 がんプロフェッショナル養成基盤推進プラン【協力】 NPO法人 キャンサーネットジャパン【後援】 東京医科歯科大学医師会/東京都医師会/文京区/東京都(予定)第1回 東京医科歯科大学「がんを考える」市民公開講座 詳細はこちら。(PDF)画像を拡大する

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扁平上皮NSCLCの1次治療に新たなプラチナ・ダブレット

 扁平上皮がんは肺がんの20~30%にみられる。しかし、進化著しい非扁平上皮がんの治療に比べて、扁平上皮がん治療の進歩は遅れている。こうした中、2015年11月26日から開催された第56回日本肺癌学会プレナリーセッションにおいて、名古屋医療センターの坂 英雄氏が、扁平上皮NSCLC1次治療の新たな選択肢としてネダプラチン併用レジメンの有用性を検討したWJOG5208L試験の結果を報告した。 ネダプラチンは、従来のプラチナ製剤で問題になっていた消化器症状、腎毒性を軽減させた第2世代プラチナ製剤であり、ドセタキセルとの併用による良好な結果が、第II相試験で報告されている。 今回発表されたWJOG5208L試験は、ネダプラチンとドセタキセルの併用群(以下、ND群)とシスプラチンとドセタキセルの併用群(以下、CD群)を比較した第III相試験。西日本がん研究機構(WJOG)所属の全国53施設で実施された。 試験対象は、StageIIIBおよびIVの扁平上皮非小細胞肺がん(NSCLC)で、化学療法naiveの355例。被験者は無作為にND群とCD群に1対1で割り付けられた。ND群にはネダプラチン100mg/m2 とドセタキセル60mg/m2 を3週ごと4~6サイクル、CD群にはシスプラチン80mg/m2 とドセタキセル60mg/m2 を3週ごと4~6サイクル投与した。主要評価項目は、全生存期間(OS)、副次的評価項目は無増悪生存期間(PFS)、奏効率、有害事象であった。 結果、主要評価項目のOSはND群13.6ヵ月に対し、CD群では11.6ヵ月とND群が有意に優れていた。1年生存率はND群、CD群でそれぞれ55.9%と43.5%であった(HR 0.81、p=0.037)。副次的評価項目であるPFSは、ND群4.9ヵ月に対し、CD群では4.5ヵ月(HR 0.87、p=0.05)であった。奏効率については、ND群55.8%に対し、CD群では53.0%であった(p=0.663)。安全性については、Grade3以上の有害事象発現率は、ND群の91.5%に対し、CD群では89.7%であった。ND群では血液毒性が、CD群では消化器毒性が多くみられた。 坂氏は最後に、ネダプラチンとドセタキセルの併用は、進行・再発扁平上皮NSCLC1次治療の新たな標準治療と考えられる、と述べた。

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マントル細胞リンパ腫の初期治療、レナリドミド+リツキシマブが有効/NEJM

 マントル細胞リンパ腫の初期治療について、レナリドミドとリツキシマブの生物学的製剤併用療法が有効であることが示された。2年無増悪生存率は85%、推定全生存率は97%だった。米国・コーネル大学医学部のJia Ruan氏らが、患者38例を対象に行った、第II相多施設共同単群導入・維持試験の結果明らかにした。マントル細胞リンパ腫の多くは治癒が困難で、初期治療は標準化されておらず、通常、殺細胞性化学療法などが行われている。一方、免疫調節薬レナリドミドと、抗CD20抗体リツキシマブは、再発マントル細胞リンパ腫患者における活性が認められており、研究グループはその併用療法の第1選択薬としての可能性について評価を行った。NEJM誌2015年11月5日号掲載の報告より。レナリドミドを導入期間・維持期間に分けて投与 研究グループは、2011年7月~14年4月にかけて、4ヵ所の医療機関を通じ、マントル細胞リンパ腫の患者38例について試験を開始した。被験者は年齢中央値65歳だった。 治療の導入期間には、1サイクル28日で12サイクル実施するレジメンを設定。初回サイクルは1~21日にレナリドミド20mg/日を投与し、同用量で有害事象がみられない場合は、2サイクル以降は25mg/日に増量した。その後の維持期間には、レナリドミド投与は15mg/日に減量した。 リツキシマブについては、当初4週間は週1回、翌週からは病勢進行が認められない限りは2サイクルに1回投与した。 主要評価項目は、全奏効率とした。副次評価項目は、安全性、生存率、QOL関連アウトカムなどだった。全奏効率は92%、完全奏効率は64% 被験者のベースラインでのマントル細胞リンパ腫国際予後指標スコアは、低リスクが34%、中程度リスクが34%、高リスクが32%だった。 2015年2月までの追跡期間中央値30ヵ月時点で評価可能だった被験者において、全奏効率は92%(95%信頼区間:78~98)、完全奏効率は64%(同:46~79)だった。 2年無増悪生存率推定値は85%(同:67~94)、2年生存率推定値は97%(同:79~99)だった。 頻度が高かったGrade3/4の有害事象は、好中球減少(50%)、発疹(29%)、血小板減少(13%)、炎症症候群(腫瘍フレア)(11%)、貧血(11%)、血清異常(8%)、疲労(8%)だった。 治療反応性は、QOLの向上と関連していた。

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遺伝子変異陽性NSCLCに分子標的薬+抗がん剤治療

 日本イーライリリー株式会社は2015年11月13日、都内でプレスセミナー「非小細胞肺がん治療の現状と今後の展望」を開催した。演者である和歌山県立医科大学 呼吸器内科・腫瘍内科 教授の山本信之氏は、その中で、EGFR変異陽性非小細胞肺がん(以下、NSCLC)における分子標的治療薬と抗がん剤の併用の可能性について、以下のように解説した。 肺がんの5年生存率はStageIで80.5%。しかし、StageIVでは4.6%となり、多くは遠隔転移により生存が増悪する。StageIV非小細胞肺がんの生存期間は、化学療法の進化により30年で1.5倍に延長した。そして、分子標的治療薬の登場により、その後の10年間でさらに3倍に延長。最近の第2世代EGFR-TKIの試験結果では、日本人の代表的なEGFR変異であるex19del患者の全生存期間中央値は46ヵ月を超える。このようにドライバー遺伝子の変異に適合する分子標的治療薬を使うことで、治療成績は著しく向上している。肺癌診療ガイドラインでも非扁平上皮NSCLCの初回治療にあたっては、EGFR、ALKの遺伝子変異が陽性であれば、EGFR-TKI、ALK阻害薬などの分子標的治療薬を優先して投与することとなっている。 だが、治療成績は向上したものの、現在でも進行がんではほとんど治癒に至らず、分子標的治療薬だけでは、完全に進行を抑えることはできないことがわかる。そのようななか、EGFR遺伝子変異例であっても、分子標的治療薬に加え抗がん剤を十分投与することにより、生存期間が延長する可能性が示唆されている。本年(2015年)の世界肺癌学会(WCLC)において、抗がん剤の中でも非扁平上皮NSCLCへの有効性が確立しているペメトレキセドを用いた、無作為化比較第II相試験が発表された。EGFR変異陽性NSCLC患者において、ゲフィチニブ・ペメトレキセド併用群とゲフィチニブ単独群を比較したものである。結果、併用群が単独群に比べ、無増悪生存期間中央値を有意に延長させた(HR=0.68、p=0.029)。第II相試験の結果であり、今後も検討が必要だが、抗がん剤の併用の有効性を示唆したものといえる。本邦でも、未治療のEGFR変異陽性NSCLCにおいて、ペメトレキセド・カルボプラチン・ゲフィチニブ併用群とペメトレキセド・カルボプラチン併用群を比較する第III相比較試験(NEJ009)が開始される。 非扁平上皮NSCLCでは、第2第・3世代EGFR-TKIの活用とともに、遺伝子変異陽性例における抗がん剤と分子標的治療薬の組み合わせが検討されていくであろう。

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pembrolizumab、進行期胃がんで良好な成績

 2015年10月、京都で日本癌治療学会が開催された。同会議のシンポジウム「新たな時代のがん免疫療法を展望する」において、愛知県がんセンター中央病院薬物療法部の室 圭氏が切除不能進行・再発胃がんにおけるpembrolizumabのPhase Ib試験KEYNOTE012の現在までの結果を発表した。 進行期胃がんの生存期間中央値は、近年のdoublet、tripletの化学療法で10ヵ月前後、HER-2陽性胃がんにおけるトラスツズマブ治療で15~16ヵ月と、依然として予後不良である。そのような中、多くの分子標的治療薬の臨床試験が行われたが、現在OSのベネフィットが証明されているのはベバシズマブとラムシルマブのみである。一方、胃がんは体細胞突然変異が多く、免疫療法が奏効する可能性も示唆される。また、Nature2014年の報告では、EBウイルス関連、MSI関連の胃がんではPD-L1、PD-L2の発現が高いことが報告されており、抗PD-1、抗PD-L1抗体の可能性が期待される。 KEYNOTE012はpembrolizumabのphase Ib試験であり、トリプルネガティブ乳がんなど4つのがん種の成績が検討されている。胃がんもその1つとして実施されており、対象はPD-L1陽性の切除不能進行期患者。162例がスクリーニングされ、65例がPD-L1陽性(陽性率40%)であった。そのうち39例が試験に登録されている。患者の年齢中央値は69歳、胃切除例が約半数を占め、3分の2の患者が3次治療以降と重度治療例が多かった。アジア人と非アジア人の比率はほぼ同等である。 当試験におけるpembrolizumabの有害事象は疲労感、食欲不振、甲状腺機能低下、皮疹、関節痛など既報と同様であった。治療関連死亡、毒性による治療中止もなかった。包括的奏効率は担当医判定で33%、中央判定では22%であった。一方でPDが半数近くを占めている。奏効した患者については持続的な効果が得られ、奏効期間中央値は40週であった。PFS中央値は1.9ヵ月、OS中央値は2015年カットオフ時点で11.4ヵ月であった。生存についてアジアと非アジアで差がなかった。 pembrolizumabは進行期胃がんにおいて、単剤のサルベージラインや2次治療でのパクリタキセルとの比較などさまざまな開発が行われている。さらに、pembrolizumabは治癒切除不能な進行・再発胃がんの効能は、厚生労働省が審査機関を短縮と支援する先駆け審査指定制度の対象品目として指定された。

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ニボルマブ、非扁平上皮NSCLCにも適応拡大:FDA

 米国食品医薬品局(FDA)は2015年10月9日、プラチナベース化学療法にもかかわらず進行した進行(転移性)NSCLCの治療薬として、ニボルマブ(商品名:オプジーボ)の適応拡大を承認した。ニボルマブはすでに、進行扁平上皮NSCLCに対して承認されていたが、今回、非扁平上皮NSCLSにも適応されたもの。 今回の承認は、582例の治療歴を有する進行・再発性非扁平上皮NSCLCに対してニボルマブとドセタキセルを比較したオープンラベルの無作為化試験(CheckMate-057)の成績によるもの。主要評価項目である全生存期間はニボルマブ群で12.2ヵ月と、ドセタキセル群の9.4ヵ月に比べ有意に延長した。また、CRおよびPRとなった患者をみると、ニボルマブ群では効果が平均17ヵ月持続したのに対し、ドセタキセル群では平均は6ヵ月であった。FDAのプレスリリースはこちら。

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CheckMate-057試験:肺がん化学療法の歴史を変えるニボルマブ(解説:倉原 優 氏)-434

 悪性黒色腫を診療している方であればご存じであろう、ニボルマブ(商品名:オプジーボ)。日本では2014年7月に発売されており、アメリカでは2015年3月に肺扁平上皮がんに対して保険適用が追加承認された。日本でも現在切除不能な進行・再発非小細胞肺がんに対する効能の追加承認を申請中である。 ニボルマブは、T細胞に発現している免疫チェックポイント分子PD-1を阻害し、そのリガンドであるPD-L1との結合を防ぐことで抗腫瘍効果を発揮する。免疫チェックポイントに関わる治療薬として、PD-1阻害薬であるニボルマブ、ペムブロリズマブ(商品名:キートルーダ)、PD-L1阻害薬であるアテゾリズマブの3つが有望視されている。このあたりが非常にややこしい。 PD-L1はがん細胞上にある蛋白で、PD-1はヒトのT細胞上にある蛋白だ。PD-L1とPD-1が結合することで、T細胞ががん細胞を攻撃しないように命令することができる。そのため、それぞれの蛋白の機能をダメにしてしまえばT細胞がしっかりがん細胞を攻撃してくれるだろう、というのがPD-1阻害薬、PD-L1阻害薬の作用機序の根幹である。 さて、肺がんを診療するすべての医師は、ニボルマブが関連する重要な臨床試験をいくつか知っておかねばならない。その1つが本試験、CheckMate-057試験である。 その前に、CheckMate-017試験について押さえておきたい1)。この試験では、治療歴のある肺扁平上皮がんの患者に対して、ニボルマブ3 mg/kgを2週間ごとに投与する群と、ドセタキセル75mg/m2を3週間ごとに投与する群にランダムに割り付けたものである。この試験では、ドセタキセルと比較してニボルマブ群で全生存期間の延長がみられた。この試験によって、治療法が限られていた肺扁平上皮がんに対して光明が見い出された。 今回のCheckMate-057試験は、プラチナ製剤を用いた2剤併用レジメンによる1次治療中ないしは治療終了後に再発・病勢進行した病期IIIB/IVの非扁平上皮非小細胞肺がんの患者を対象としたランダム化比較試験である。上述と同じ用量でニボルマブとドセタキセルが比較された。その結果、非扁平上皮がんの集団でもCheckMate-017試験と同様、全生存期間の延長を認めた。驚くべきは、事前に規定された腫瘍細胞膜上のPD-L1発現レベル(≧1%、≧5%、≧10%)のレベルの高低にかかわらず、全エンドポイントがドセタキセル群よりもニボルマブ群のほうが優れていたという点である(ただし、まったくPD-L1が発現していない症例では全生存期間に有意な差は観察されなかった)。 まとめると、ニボルマブは肺がんに対する化学療法のセカンドラインとして、一気に脚光を浴びることになったということだ。この薬剤のメリットはほかにもある。ドセタキセルよりもGrade 3/4の副作用が少ない点である。とくに殺細胞性抗がん剤にみられる血球減少や脱毛の懸念が軽減される。ただし、ニボルマブによって発疹、疲労、筋骨格痛といった副作用がみられることがあるので注意したい。 アメリカではすでに上述したペムブロリズマブの適応申請が行われている。この薬剤も、PD-L1陽性の非小細胞肺がんに有効とされているためだ2)。すでに肺がんの世界では、免疫チェックポイントに関わる抗がん剤をどう使い分けるかという議論のステージに入っている。分子標的薬がどんどん登場して私も混乱しているが、乗り遅れないように知識をアップデートしていきたい。

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乳がん診断時の腫瘍ステージ、生存に有意に影響/BMJ

 オランダ・エラスムス大学医療センターのSepideh Saadatmand氏らは、現時点での、乳がん検出時の腫瘍病期の生存への影響を調べた。17万強を対象とする前向き住民ベース研究の結果、現状で効果があるとされる全身療法で有意に生存に影響することを報告し、「早期での診断が不可欠である」と指摘した。BMJ誌オンライン版2015年10月6日号掲載の報告。オランダ乳がん女性17万3,797例について評価 検討は、乳がん診断時の病期、腫瘍の生物学、治療の生存への影響を、現状で良好とされる術前/術後補助全身療法下で評価することを目的とした。被験者は、オランダ全国がんレジストリから、1999~2012年に原発性乳がんと診断された女性17万3,797例であった。乳がん診断のバイアスを考慮し、2コホート(1999~2005年8万228例、2006~12年9万3,569例)に区分し、両群の相対生存率を比較した。全死亡への従来予後因子の影響をCox回帰分析法にて各コホートについて分析した。相対生存率は改善も、腫瘍径やリンパ節転移進行度に伴い死亡率上昇は変わらず 2006~12年コホートは1999~2005年コホートと比較して、腫瘍径が有意に小さく(T1以下65%[6万570例] vs.60%[4万8,031例]、p<0.001)、リンパ節転移のない患者が有意に多かった(N0 68%[6万3,544例] vs.65%[5万2,238例]、p<0.001)。一方で化学療法、ホルモン療法、分子標的療法を受けた人が有意に多かった(術前/術後補助全身療法60%[5万6,402例] vs.53%[4万2,185例]、p<0.001)。追跡期間中央値は、1999~2005年コホート9.8年、2006~12年コホート3.9年であった。 5年相対生存率は、2006~12年コホートが96%(1999~2005年コホート91%)で、すべての原発巣および、リンパ節の病期において、2006~12年コホートは1999~2005年コホートと比べて改善していた。腫瘍径1cm以下は100%であった。 年齢、腫瘍型で調整した多変量解析の結果、全死亡率は、手術(とくに乳房温存手術)、放射線療法、全身療法により低下することが示された。 一方で死亡率は、両群ともに腫瘍径の増加とともに上昇がみられた(2006~12年コホートT1c vs.T1aのハザード比[HR]:1.54、95%信頼区間[CI]:1.33~1.78/1999~2005年コホート同:1.40、1.27~1.53、両コホートともp<0.001)。しかし、1cm以下の浸潤性乳がんについては、有意差はみられなかった(2006~12年コホートT1b vs.T1aのHR:1.04、95%CI:0.88~1.22、p=0.677;1999~2005年コホート同:1.09、0.99~1.20、p=0.098)。リンパ節転移の進行度とは独立した関連がみられた(2006~12年コホートN1 vs.N0のHR:1.25、95%CI:1.17~1.32;1999~2005年コホート同:1.35、1.30~1.39、両コホートともp<0.001)。

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非扁平上皮NSCLCの2次治療、ニボルマブがOS延長/NEJM

 プラチナ製剤ベースの化学療法を行っても病勢が進行した非扁平上皮非小細胞肺がん(NSQ-NSCLC)の治療において、ニボルマブはドセタキセルに比べ、全生存期間(OS)を有意に延長することが、米国・フォックスチェイスがんセンターのHossein Borghaei氏らが行ったCheckMate 057試験で示された。NSCLCの2次治療では、新規薬剤であるペメトレキセドやエルロチニブは、標準治療薬であるドセタキセルよりも副作用プロファイルが良好だがOSの優越性は確認されていない。一方、完全ヒト型IgG4 PD-1免疫チェックポイント阻害抗体であるニボルマブは、第I相試験でNSCLCの全サブタイプで持続的な抗腫瘍効果と有望なOSが確認され、多くの前治療歴のある進行NSQ-NSCLCでは奏効率17.6%、1年OS 42%、3年OS 16%、1年無増悪生存率(PFS)18%と良好な成績が報告されている。NEJM誌オンライン版2015年9月27日号掲載の報告。2次治療での有用性を582例の無作為化試験で評価 CheckMate 057試験は、NSQ-NSCLCの2次治療におけるニボルマブの有用性を評価する国際的な非盲検無作為化第III相試験(Bristol-Myers Squibb社の助成による)。 対象は、年齢18歳以上、全身状態が良好(ECOG PS 0~1)で、プラチナ製剤ベースの2剤併用レジメンによる1次治療中または治療終了後に再発または病勢が進行したStage IIIB/IVのNSQ-NSCLC患者とした。 被験者は、ニボルマブ3mg/kgを2週ごとに静脈内投与する群またはドセタキセル75mg/m2を3週ごとに静脈内投与する群に無作為に割り付けられた。治療は、病勢進行または毒性による治療中止となるまで継続された。 主要評価項目はOSとし、副次的評価項目には担当医評価で確定された客観的奏効率、PFS、PD-1発現レベルによる有効性などが含まれた。 2012年11月~13年12月までに582例が登録され、ニボルマブ群に292例、ドセタキセル群には290例が割り付けられ、それぞれ287例、268例が治療を受けた。 全体の年齢中央値は62歳、男性が55%で、PS 1が69%、Stage IVが92%、喫煙者/元喫煙者が79%であり、前治療の最良の効果は完全奏効(CR)/部分奏効(PR)が24%、安定(SD)が34%、進行(PD)が39%であった。死亡リスクが27%低下、奏効期間が約1年延長 最短のフォローアップ期間が13.2ヵ月の時点におけるOS中央値は、ニボルマブ群が12.2ヵ月(95%信頼区間[CI]:9.7~15.0)と、ドセタキセル群の9.4ヵ月(95%CI:8.1~10.7)に比べ有意に延長した(死亡のハザード比[HR]:0.73、96%CI:0.59~0.89、p=0.002)。 1年OSはニボルマブ群が51%(95%CI:45~56)、ドセタキセル群は39%(同:33~45)だった。ほとんどの事前に規定されたサブグループで、ニボルマブ群のOS中央値が良好であった。 客観的奏効率は、ニボルマブ群が19%(CR 4例、PR 52例)であり、ドセタキセル群の12%(1例、35例)よりも有意に優れた(オッズ比[OR]:1.7、95%CI:1.1~2.6、p=0.02)。奏効までの期間中央値はそれぞれ2.1ヵ月、2.6ヵ月、奏効期間中央値は17.2ヵ月、5.6ヵ月であった。 PFS中央値(2.3 vs. 4.2ヵ月、p=0.39)はニボルマブ群のほうが短かったが、1年PFS(19 vs. 8%)はニボルマブ群が良好だった。 ニボルマブ群は、事前に規定された腫瘍細胞膜上のPD-1リガンド(PD-L1)の発現レベル(≧1%、≧5%、≧10%)のいずれにおいても、すべてのエンドポイントがドセタキセル群よりも優れていた。 治療関連有害事象の発現率は、ニボルマブ群が69%、ドセタキセル群は88%、重篤な有害事象の発現率はそれぞれ10%、54%であり、ニボルマブ群で頻度が低かった。ニボルマブ群で頻度の高い有害事象として、疲労(16%)、悪心(12%)、食欲減退(10%)、無力症(10%)がみられ、ドセタキセル群では好中球減少(31%)、疲労(29%)、悪心(26%)、脱毛(25%)の頻度が高かった。 著者は、「PD-L1の発現していない患者では両群間にOSの差を認めなかったが、安全性プロファイルや奏効の持続期間がニボルマブ群で良好であったことから、PD-L1発現の有無にかかわらず、ニボルマブは治療選択肢となる可能性がある」と指摘している。

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FDA、pembrolizumabを非小細胞肺がんに承認

 米国食品医薬品局(FDA)は2015年10月2日、抗PD-1抗体pembrolizumab(Keyrtruda, Merck&Co.)を進行非小細胞肺がん(NSCLC)治療薬として迅速承認した。PDL-L1のコンパニオン診断キットPD-L1 IHC 22C3 pharmDx(Daco North America Inc.)とともに用いることとなっている。 pembrolizumabの有効性は、550例の進行NSCLC患者による多施設、オープンラベル試験Keynote001のサブグループ解析として61例の患者で評価された。対象はプラチナベースの化学療法治療によって、またALKやEGFRなどの遺伝子変異がある場合は適切な分子標的薬によって治療されたにもかかわらず進行したNSCLCで、PD-L1発現陽性の患者。被験者はpembrolizumab10mg/kgを2週または3週ごとに投与された。その結果、患者の41%に腫瘍縮小がみられ、効果は2.1~9.1ヵ月持続した。 安全性は、Keynote001に登録された550例で評価された。頻度の高い有害事象は疲労感、食欲減退、息切れ、呼吸困難、咳であった。免疫関連有害事象の発症は肺、結腸、内分泌腺にみられ、まれなものとして皮疹、血管炎などがあった。また、発育中の胎児、新生児の影響から、妊娠中および授乳中の患者への投与は避けることとなっている。 pembrolizumabは当該適応のブレークスルー治療薬に指定され、優先審査の対象となっていた。FDAのプレスリリースはこちら

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膵神経内分泌腫瘍〔P-NET : pancreatic neuroendocrine tumor〕

1 疾患概要■ 概念・定義神経内分泌腫瘍(neuroendocrine tumor: NET)は、神経内分泌細胞に由来する腫瘍の総称で、膵臓、下垂体、消化管、肺、子宮頸部など全身のさまざまな臓器に発生する。NETは比較的まれで進行も緩徐と考えられているが、基本的に悪性のポテンシャルを有する腫瘍である。ホルモンやアミンの過剰分泌を伴う機能性と非機能性に大別される。■ 疫学1)pNETの発症数欧米では膵神経内分泌腫瘍(pancreatic neuroendocrine tumor: pNET)は膵腫瘍全体の1~2%、年間有病数は人口10万人あたり1人以下と報告されている。日本における2005年の1年間のpNETの受療者数は約2,845人、人口10万人あたりの有病患者数は約2.23人、新規発症率は人口10万人あたり約1.01人と推定された。発症平均年齢は57.6歳で、60代にピークがあり、全体の15.8%を占めている。一方、2010年1年間のpNETの受療者数は約3,379人、人口10万人あたりの有病患者数は約2.69人、新規発症率は人口10万人あたり約1.27人と推定され、増加傾向がみられた。2)疾患別頻度2005年のわが国の疫学調査では、非機能性pNETが全体の47.4%を占め、機能性は49.4%を占めていた。2010年では、非機能性・機能性pNETの割合はそれぞれ34.5%と65.5%であり、非機能性腫瘍の割合が増えた。インスリノーマ20.9%、ガストリノーマ8.2%、グルカゴノーマ3.2%、ソマトスタチノーマ0.3%であった。機能性・非機能性腫瘍の割合は、欧米の報告に近づいたが、わが国では機能性腫瘍においてインスリノーマが多い傾向にある。■ 病因NETの発生にPI3K (phosphoinositide 3-kinase)-Akt経路が関わっていると考えられている。NETでは家族性発症するものが知られており、多発性内分泌腫瘍症I型(MEN-1)では原因遺伝子が同定され、下垂体腫瘍、副甲状腺腫瘍やpNETを来す。また、結節性硬化症、神経線維症、Von Hippel-Lindau(VHL)病を含む遺伝性腫瘍性疾患ではpNETの発生にmTOR経路が関連していると考えられているが、病因の詳細はいまだ不明である。■ 症状2005年のわが国における全国疫学調査によると、「症状あり」で来院した症例が全体の60%で、最も頻度が高いのは低血糖由来の症状であった。一方、無症状で検診にて偶然発見された症例は全体の24%であった。また、有症状例において何らかの症状が出現してからpNETと診断されるまで、平均約22ヵ月を要している。1)機能性腫瘍の症状機能性pNETは腫瘍が放出するホルモンによる内分泌症状をもたらすが、転移性のものは悪性腫瘍として生命予後に関わるという別の側面も持つ。また、ホルモン分泌も単一ではなく、複数のホルモンを分泌する腫瘍も認められる。主な内分泌症状を表1に示した。画像を拡大する2)非機能性腫瘍の症状非機能性腫瘍では特異的症状を呈さず、腫瘍増大による症状(周囲への圧迫・浸潤)や遠隔転移によって発見されることが多い。初発症状は腹痛、体重減少、食欲低下、嘔気などであるが、いずれも非特異的である。有肝転移例の進行例では、肝機能障害・黄疸が認められる。■ 分類上述したとおり、機能性腫瘍と非機能性腫瘍に大別される。遺伝性疾患(MEN-1、VHL)を合併するものもある。わが国においてはMEN-1合併の頻度は、2010年の調査ではpNET全体で4.3%であった。その中で、ガストリノーマは16.3%と最も高率にMEN-1を合併しており、非機能性pNETでは 4.0%であった。欧米の報告では非機能性pNETのMEN-1合併頻度は約30%であり、日本と大きな差を認めた。pNETの病理組織学的診断は、とくに切除不能腫瘍の治療方針決定に重要な情報となる。WHO 2010年分類を表2に示す。画像を拡大する■ 予後予後に与える因子は複数認められ、遠隔転移(肝転移)の有無、遺伝性疾患の有無、組織学的分類が影響を与える。欧米の報告によると5年生存率は、腫瘍が局所に留まっている症例で71%、局所浸潤が認められる症例で55%、遠隔転移を有する症例で23%とされる。インスリノーマ以外は遠隔転移を有する率が高く、予後不良である。単発例で転移がなく、治癒切除が施行できた症例の予後は良好である。WHO 2010分類でNECと診断された症例は、進行が早く、予後はさらに不良である。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)■ 存在診断症状や画像所見よりpNETが疑われた場合、各種膵ホルモンの基礎値を測定する。MEN-1を合併する頻度が高いことから、初診時に副甲状腺機能亢進症のスクリーニングで血清Ca、P値、intact-PTHを測定する。腫瘍マーカーとして神経内分泌細胞から合成・分泌されるクロモグラニンA(CgA)の有用性が知られているが、わが国ではいまだに保険適用がない。ほかに腫瘍マーカーとしてはNSEも用いられるが感度は低い。症状、検査などからインスリノーマやガストリノーマが疑われた場合、負荷試験(絶食試験、カルチコール負荷試験)を加えることで存在診断を進める。■ 局在診断pNETの多くは、多血性で内部均一な腫瘍であり、典型例では診断は容易であるが、乏血性を示すものや嚢胞変性を伴うような非典型例では、膵がんや嚢胞性膵腫瘍など他の膵腫瘍との鑑別が問題となる。インスリノーマやガストリノーマでは腫瘍径が小さいものも多く、正確な局在診断が重要である。症例に応じて各種modalityを組み合わせて診断する。1)腹部超音波検査内部均一な低エコー腫瘤として描出される。最も低侵襲であり、スクリーニングとして重要である。2)腹部CTダイナミックCTにて動脈相で非常に強く造影される。肝転移やリンパ節転移の検出にも優れており、ステージングの診断の際に必須である。3)腹部MRIT1強調画像で低信号、T2強調画像で高信号を呈する。CT同様、造影MRIでは腫瘍濃染を呈する。4)超音波内視鏡(EUS)辺縁整、内部均一な低エコー腫瘤として描出される。膵全体を観察でき、1cm以下の小病変も同定できる。診断率は80~95%程度とCTやMRIより優れており、原発巣の局在診断において非常に有用である。さらにEUS-FNAを併用することで組織診断が可能である。 5)選択的動脈内刺激薬注入法(SASI TEST)〔図1〕機能性腫瘍の局在診断に有用なmodalityである。腹部動脈造影の際に肝静脈内にカテーテルを留置し、膵の各領域を支配する動脈から刺激薬(カルシウム)を注入後、肝静脈血中のインスリン(ガストリン)値を測定し、その上昇から腫瘍の局在を判定する方法である。腫瘍の栄養動脈を同定することで他のmodalityでは描出困難な腫瘍の存在領域診断が可能であり、インスリノーマやガストリノーマの術前検査としてとくに有用である。画像を拡大する6)ソマトスタチンレセプターシンチグラフィー(SRS)pNETではソマトスタチンレセプター(SSTR)、とくにSSTR2が高率に発現している。SSTR2に強い結合能を持つオクトレオチドを用いたソマトスタチンレセプターシンチグラフィー(SRS)が、海外では広く行われており、転移巣を含めた全身検索に有用である。わが国では保険適用がないため、臨床試験として限られた施設でしか施行されていない。早期の国内承認が期待される。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)■ 外科的治療pNETの治療法の第1選択は外科治療であり、小さな単発の腫瘍に対しては、腫瘍核出術が標準術式である。多発性腫瘍、膵実質内の腫瘍など核出困難例は膵頭十二指腸切除術、幽門輪温存膵頭十二指腸切除術、または膵体尾部切除術、膵分節切除術が行われる。肝転移を有する症例でも切除可能なものは積極的に切除する。1)分子標的薬近年、pNETに対するさまざまな分子標的薬を用いた臨床試験が行われてきた。その結果、mTOR阻害薬であるエベロリムス(商品名:アフィニトール)とマルチキナーゼ阻害薬であるスニチニブ(同:スーテント)が進行性pNET (NET G1/G2)に有効であることが示された。米国NCCNガイドラインでも推奨され(図2)、最近わが国でもpNETに対して保険適用が追加承認された(表3)。2015年の膵・消化管神経内分泌腫瘍(NET)診療ガイドラインでは、pNETに対するエベロリムスやスニチニブ療法はグレードBで推奨されているが、さまざまな有害事象に対する注意や対策が必要である(表3)。画像を拡大する画像を拡大する画像を拡大する画像を拡大する2)全身化学療法(殺細胞性抗腫瘍療法)進行性pNETに対する全身化学療法は、わが国においてはいまだコンセンサスがなく、保険適用外のレジメンが多い。(1)NET G1/G2に対する全身化学療法進行性の高分化型pNET(NET G1/G2相当)に対し、欧米で使用されてきた化学療法剤の中ではストレプトゾシン(STZ[同: ザノサー点滴静注])が代表的であるが、わが国ではこれまで製造販売されていなかった。国内でpNETおよび消化管NETに対するSTZの第I/II相試験が多施設共同で行われ、2014年にわが国でも保険適用され、2015年2月より国内販売された。膵・消化管神経内分泌腫瘍(NET)診療ガイドラインでは、pNET に対するSTZ療法はグレードC1と位置づけられている。他ではアルキル化剤であるダカルバジン(同: ダカルバジン)の報告もあるが保険承認されていない。(2)NECに対する全身化学療法pNETのうち低分化型腫瘍(WHO分類2010でNEC)は病理学的に小細胞肺がんに類似しており、進行も非常に速いことから、小細胞肺がんに準じた治療が行われている。肝胆道・膵由来のNECに対するエトポシド/CDDP併用療法の結果をretrospectiveに解析した報告では、奏効率14%、PFS中央値 1.8ヵ月、OS中央値が5.8ヵ月であった。わが国で実施された小細胞肺がんに対する第III相試験においてイリノテカン/CDDP併用療法がエトポシド/CDDP併用療法より効果を示したことを受けて、肺外のNECに対しても期待されている。現在、膵・消化管NECに対し、エトポシド/CDDP併用療法 vs. イリノテカン/CDDP併用療法の国内比較第III相試験が行われている。3)ソマトスタチンアナログ(SA)SAは広範な神経内分泌細胞でのペプチドホルモンの合成・分泌を阻害する作用を有している。オクトレオチド(同:サンドスタチン)を含むSAが持つ機能性NETに対する効果について、症候に対するresponseが平均73%(50~100%)といわれている。2009年に中腸由来の転移性高分化型NET(NET G1/G2相当)に対するオクトレオチドLARの抗腫瘍効果が示された(PROMID study)。pNETに対するSAの抗腫瘍効果に関しては、これまで十分なエビデンスは得られてこなかったが、2014年にランレオチド・オートゲル(同:ソマチュリン)のpNET・消化管NETに対する無増悪生存期間延長効果が報告された(CLARINET study)。それを受けてNCCNガイドラインでは、pNETに対するSAの位置づけが変わったが(図2)、わが国のガイドラインでは抗腫瘍効果を目的とした、NETに対するSAの明確な推奨はない。現在、わが国での承認を目的に、ランレオチド・オートゲルの国内第II相試験が進行中である。■ 肝転移に対する治療pNETの肝転移は疼痛や腫瘍浸潤による症状、もしくは内分泌症状が認められるまで気が付かれないことも多く、肝転移を伴った症例の80~90%は診断時すでに治癒切除が困難である。pNETの肝転移は血流が豊富であり、腫瘍への血流は90%以上肝動脈から供給されていることから、肝細胞がんと同様に動脈塞栓療法(transarterial embolization: TAE)や動脈塞栓化学療法(transarterial chemoembolization: TACE)がpNETの肝転移(とくに高腫瘍量)の局所治療として有用である。TAE後の生存率に関する報告はさまざまで5年生存率が0~71%(中央値50%)、生存期間中央値も20~80ヵ月と幅がある。腫瘍数が限られている症例では、ラジオ波焼灼術(RFA)が有用とする報告もある。わが国の診療ガイドラインでは、肝転移巣に対する局所療法はグレードC1と位置付けされている。4 今後の展望今までpNETに関しての診断・治療に関する明確な指針が、わが国にはなかったが、2013年にweb上でガイドラインが公開され、2015年には「膵・消化管神経内分泌腫瘍(NET)診療ガイドライン」として発刊された。今後、わが国におけるpNET診療の向上が期待される。pNETに対する薬物療法の臨床試験としては、進行性のG1/G2 pNETを対象に新規SAであるSOM230(パシレオチド)/RAD001(エベロリムス)併用療法とRAD001単独療法を比較したランダム化第II相試験がGlobal治験として行われ、現在解析中である。テモゾロミド(同: テモダール)は、副作用が軽減されたダカルバジンの経口抗がん剤であり、国内では悪性神経膠腫に保険適用を得ている薬剤であるが、進行性NET患者に対する他薬剤との併用療法の臨床試験が行われており、サリドマイド(同: サレド)やカペシタビン(同: ゼローダ)やベバシズマブ(同: アバスチン)などの薬剤との併用療法が期待されている。最近の話題の1つとして、WHO分類でNECに分類される腫瘍の中に、高分化なものと低分化なものが含まれている可能性が指摘されている。高分化NECに対する分子標的薬治療の可能性も提案されているが、今後の検討が待たれる。診断ツールとして有用な、血中クロモグラニンAの測定や、SRSが1日も早くわが国でも保険承認されることを希望するとともに、海外で臨床試験として施行されているPRRT(peptide receptor radionuclide therapy)の国内導入も今後の希望である。5 主たる診療科消化器内科、消化器外科、内分泌内科、内分泌外科、腫瘍内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療・研究情報日本神経内分泌腫瘍研究会(Japan NeuroEndocrine Tumor Society: JNETS)(医療従事者(専門医)向けのまとまった情報)独立行政法人 国立がん研究センター「がん情報サービス」(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)NET Links(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)がん情報サイト(Cancer Information Japan)(患者向けの情報)がんを学ぶ(患者向け情報)(患者向けの情報)患者会情報NPOパンキャンジャパン(pNET患者と家族の会)1)日本神経内分泌腫瘍研究会(JNETS) 膵・消化管神経内分泌腫瘍診療ガイドライン作成委員会編.膵・消化管神経内分泌腫瘍(NET)診療ガイドライン; 2015.2)Ito T, et al. J Gastroenterol. 2010; 45:234-243.3)Yao JC, et al. N Eng J Med. 2012; 364:514-523.4)Raymond E, et al. N Eng J Med. 2011; 364:501-513.公開履歴初回2013年02月28日更新2015年09月18日

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ステージII結腸がんへの補助化学療法、再発・生存・QOLへの影響は?

 米国インディアナ大学のCari Lewis氏らは、ステージII結腸がん患者において、診断から24ヵ月にわたり補助化学療法とQOL・再発・生存との関連を検討するコホート研究を行った。その結果、ステージII結腸がんで化学療法を受けた患者は、受けなかった患者に比べ、24ヵ月後のQOL・再発・全死因死亡が不良という傾向がみられた。著者らは「今後、追跡期間の延長とともに、化学療法の種類に焦点を当てた研究が必要である」としている。Supportive care in cancer誌オンライン版2015年9月9日号に掲載。 著者らは、2009~2011年にノースカロライナ州における453例の患者をリクルートし、診断時および診断後12ヵ月と24ヵ月の時点で、QOL、健康維持行動、治療に関して選択式の調査でインタビューした。死亡率のデータはNational Death Indexシステムより取得した。 主な結果は以下のとおり。・計265例が化学療法を受けた。・化学療法の実施は、Functional Assessment of Cancer Treatment(FACT)-Generalの総スコア(p<0.01)、およびFACT-大腸がん用(p<0.01)、身体面(p<0.01)、心理面(p=0.02)、機能面(p<0.01)のスコアと逆相関を示した。・化学療法の実施と精神的健康との逆相関の関係は、白人では維持された(交互作用のp=0.049)がアフリカ系アメリカ人では認められなかった。・化学療法を受けた患者は、再発(OR 2.74、95%CI:1.18~6.35)と全死因死亡(OR 1.95、95%CI:1.05~3.62)のオッズが有意に高いことが示された。

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難治性多発性骨髄腫、新規CD38標的薬が有望/NEJM

 有効な治療選択肢がほとんどなく治療がきわめて困難な難治性の多発性骨髄腫の患者に対して、daratumumabは単剤で良好な安全性プロファイルを示し、有望な効果を発揮することが、オランダ・アムステルダム自由大学医療センターのHenk M Lokhorst氏らの検討で明らかとなった。プロテアソーム阻害薬や免疫調節薬は多発性骨髄腫の転帰を改善するが、多くの患者が再発し、再発後の予後はきわめて不良である。一方、多発性骨髄腫細胞で過剰発現がみられるCD38は、本疾患の治療標的となる可能性が示唆されている。daratumumabは、CD38を標的とするヒトIgG1κモノクローナル抗体で、前臨床試験では多彩な機序を介してCD38発現腫瘍細胞の標的細胞死を誘導することが確認されていた。NEJM誌オンライン版2015年8月26日号掲載の報告。用量漸増試験30例と用量拡大試験72例で評価 研究グループは、難治性多発性骨髄腫患者に対するdaratumumabの有用性を検討する第I/II相試験を行った(Janssen Research and Development社などの助成による)。 対象は、年齢18歳以上、ECOG PSが0~2で、免疫調整薬やプロテアソーム阻害薬、化学療法薬、自家造血幹細胞移植などによる治療後に再発またはこれらのうち2つ以上の前治療歴のある難治性の多発性骨髄腫患者であった。 用量漸増試験では、daratumumabの0.005~24mg/kgまでの10種の用量を設定し、最も低い2種の用量は1+3デザインで、それ以外の8種の用量は3+3デザインで評価した。初回投与後、安全性と薬物動態の評価を行うために3週間のウォッシュアウト期間を置き、その後は週1回、合計6回の投与を行った(治療期間8週)。 用量拡大試験では、8mg/kgが3種、16mg/kgが2種の合計5種の投与スケジュールの評価を行った。8mg/kg投与群は、週1回で8回、月2回で8回、その後は月1回投与した。16mg/kg投与群は、初回投与後、薬物動態データの収集のために3週間のウォッシュアウト期間を置き、週1回で7回、月2回で7回、その後は月1回投与した。治療期間はいずれも最長で24ヵ月であった。 2008年3月27日~2015年1月9日までに登録された患者のデータを解析した。用量漸増試験には32例が、用量拡大試験には72例が登録された。MTDは同定されず、16mg/kg投与で全奏効率36%、PFSは5.6ヵ月 用量漸増試験では、用量制限毒性(DLT)が0.1mg/kgで1例(Grade 3の貧血)、1mg/kgで1例(Grade 3のAST上昇)に発現したが、24mg/kgまで安全に増量され、最大耐用量(MTD)は同定されなかった。 用量拡大試験の72例のうち、8mg/kg投与群が30例(年齢中央値59歳、女性9例)、16mg/kg投与群は42例(64歳、15例)であった。診断後の経過期間中央値は5.7年、前治療数の中央値は4(範囲:3~10)だった。 このうち難治性病変の患者は79%であり、プロテアソーム阻害薬と免疫調節薬に不応性の患者は64%、ボルテゾミブとレナリドミドに不応性の患者も64%含まれ、76%は自家造血幹細胞移植を受けていた。 用量拡大試験における注射関連反応の発現率は71%であったが、Grade 3の1例を除きGrade 1~2であり、注射関連反応による治療中止例はなかった。また、用量依存性の有害事象は認めなかった。 Grade 3/4の有害事象は、8mg/kg投与群の53%、16mg/kg投与群の26%にみられ、肺炎が5例、血小板減少が4例で、好中球減少、白血球減少、貧血、高血糖が各2例に認められた。重篤な有害事象はそれぞれ40%、33%にみられ、感染症関連イベントが17%、10%と最も高頻度であった。 用量漸増試験の4~24mg/kg投与の12例中4例で部分奏効(PR)が達成され、持続的な臨床的奏効が観察された。また、用量拡大試験では、8mg/kg投与群はPRが3例で全奏効率は10%であり、16mg/kg投与群は完全奏効(CR)が2例、最良部分奏効(very good PR)が2例、PRが11例で得られ、全奏効率は36%であった。 16mg/kg投与群の無増悪生存期間(PFS)中央値は5.6ヵ月(95%信頼区間[CI]:4.2~8.1)であり、奏効例のうち12ヵ月時に病勢が進行していなかった患者の割合は65%(95%CI:28~86)だった。 著者は、「daratumumab(16mg/kg)単剤療法は、標準治療に不応となった患者が多く含まれる集団で、経時的に深まる持続的な奏効をもたらし、奏効例の1年PFSは65%に達した。また、PR以上の患者では全般に骨髄中の形質細胞が著明に低下した」とまとめ、「本薬の治療標的や作用機序は既存の治療法とは異なるものである」としている。

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