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デュルバルマブ+tremelimumab+化学療法は長期フォローアップ後でも、NSCLC1次治療の予後改善を維持(POSEIDON)/ESMO2022

 転移のある非小細胞肺がん(NSCLC)に対する1次治療としての、デュルバルマブとtremelimumabと化学療法の併用効果に関する長期フォローアップの結果が、米国・Sarah Cannon Research InstituteのMelissa Johnson氏から欧州臨床腫瘍学会(ESMO Congress 2022)で発表された。 これは、2021年に発表のあった第III相の国際共同オープンラベルのPOSEIDON試験の観察期間中央値4年を超えるフォローアップの結果である。・対象:未治療のEGFR/ALK野生型の転移のあるNSCLC症例・試験群: -DurTre群:デュルバルマブ+tremelimumab+化学療法→デュルバルマブ+tremelimumab(338例) -Dur群:デュルバルマブ+化学療法→デュルバルマブ(338例)・対照群:化学療法(CT群:337例) 化学療法は、ゲムシタビン+シスプラチン、カルボプラチン+ペメトレキセド、nabパクリタキセル+カルボプラチンなど・評価項目[主要評価項目]Dur群対CT群における無増悪生存期間(PFS)、全生存期間(OS)[副次評価項目]DurTre群対CT群におけるPFS、OSなど 主な結果は以下のとおり。・データカットオフ(2022年3月)時点の観察期間中央値は46.5ヵ月であった。・OS中央値はDurTre群で14.0ヵ月、CT群で11.7ヵ月、ハザード比(HR)は0.75(95%信頼区間[CI]:0.63~0.88)、Dur群ではOS中央値13.3ヵ月、HRは0.84(95%CI:0.71~0.99)であった。3年OS率はDurTre群25.0%、Dur群20.7%、CT群13.6%であった。・病理組織型別では、非扁平上皮がんのOS中央値はDurTre群17.2ヵ月、CT群13.1ヵ月でHRは0.68(95%CI:0.55~0.85)であった。Dur群ではOS中央値14.8ヵ月、HRは0.80(95%CI:0.64~0.98)だった。・STK11変異は87例に認められ、DurTre群対CT群のOS HRは0.62(95%CI:0.34~1.12)で、Dur群のOS HRは1.06(95%CI:0.61~1.89)であった。3年時OS率はDurTre群25.8%、Tre群14.7%、CT群4.5%であった。・KRAS変異は182例で、DurTre群のOSのHRは0.55(95%CI:0.36~0.85)で、Dur群のOS HR:0.78(95%CI:0.52~1.16)であった。3年OS率は、DurTre群40.0%、Dur群26.1%、CT群15.8%であった。・KEAP1変異は29例で、DurTre群のOSのHRは0.43(95%CI:0.16~1.25)、Dur群ではHR:0.77(95%CI:0.31~2.15)だった。・長期のフォローアップにおいても新たなる安全性の懸念は報告されなかった。 最後に演者は「今回の追跡結果においてもOSの優位性は変わらず認められ、種々の遺伝子変異や病理組織型においても、デュルバルマブ+tremelimumab+化学療法の有用性が確認され、今後このレジメンが、NSCLCの1次治療の選択肢となり得る」と述べた。

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プラチナダブレット不適NSCLCに対するアテゾリズマブ1次療法の有用性(IPSOS試験)/ESMO2022

 プラチナ化学療法の1次治療が不適格な進行非小細胞肺がん(NSCLC)に対して、アテゾリズマブは単剤化学療法(ビノレルビンまたはゲムシタビン)よりも全生存期間(OS)を有意に延長した。 NSCLCの実臨床では、複数の合併症を持つなど治療忍容性の低い高齢者が多い。また40%以上がPS≧2と全身状態不良の患者である。実臨床で多いこれらの患者はほとんどの臨床試験から除外されており、新たな治療選択肢を検討する研究への医学的なニーズは高い。 そのような中、これらの患者を対象とした、多施設オープンラベル無作為化第III相試験IPSOSが行われている。欧州臨床腫瘍学会(ESMO2022)では、英国・ロンドン大学のSiow Ming Lee氏がその試験結果を報告した。・対象:ECOG PS 2〜3(70歳以上で併存疾患がある、またはプラチナダブレット不適の場合はPS0〜1も許容)の未治療StageIIIB/IV NSCLC(EGFRおよびALK陽性は除外、無症状の安定した脳転移は許容)・試験群:アテゾリズマブ 1,200mg 3週ごと(302例)・対照群:単剤化学療法(ビノレルビンまたはゲムシタビン) 3週~4週ごと(151例)・評価項目:[主要評価項目]OS[副次評価項目]6、12、18、24ヵ月OS率、無増悪生存期間(PFS)、奏効率(ORR)、奏効期間(DoR)、PD-L1陽性患者におけるOSとPFS 主な結果は以下のとおり。・追跡期間中央値41.0ヵ月のOS中央値は試験群10.3ヵ月、対照群9.2ヵ月、2年OS率はそれぞれ24.4%と12.4%、と試験群で有意な改善を認めた(ハザード比[HR]:0.78、95%信頼区間[CI]:0.63〜0.97、p=0.028)。・年齢、全身状態(PS)、組織型、PD-L1発現レベルなどのすべてのサブグループにおいて、試験群のOS改善効果は一貫して示されていた。・ORRは試験群16.9%、対照群7.9%であった。・DoR中央値は試験群14.0ヵ月、対照群7.8ヵ月であった。・PFS中央値は試験群4.2ヵ月、対照群4.0ヵ月(95%CI:2.9~5.4)で、試験群の対照群に対するHRは0.87(95%CI:0.70~1.07)であった。・試験群の20.2%、対照群の29.8%が後治療を受けており、試験群では化学療法(15.9%)、対照群では免疫療法(18.5%)や化学療法(10.6%)などの後治療が多かった。・Grade3/4の治療関連有害事象の発現率は、試験群が16.3%、対照群が33.3%であり、有害事象により投薬中止に至ったのは、試験群で13.0%、対照群で13.6%であった。・試験群では健康関連QoLの安定化が見られ、胸痛の増悪が確認されるまでの期間の改善に関するHRは0.51(95%CI:0.27〜0.97)であった。 発表者のLee氏は、IIPSOS試験により、生命予後の悪いこれらの患者に対し、アテゾリズマブの1次治療によるOS改善が初めて無作為化試験で示された、とまとめた。

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dMMR大腸がん術前療法としてニボルマブとイピリムマブの併用が有用な可能性(NICHE-2)/ESMO2022

 DNAミスマッチ修復機能欠損(dMMR)の大腸がんに対する術前療法としてのニボルマブ・イピリムマブ併用療法の有用性が、オランダ・Netherlands Cancer InstituteのMyriam Chalabi氏から、欧州臨床腫瘍学会(ESMO Congress 2022)で発表された。 2020年にNICHE-1試験において両剤併用の術前療法としての有用性は報告されている。今回は同様にオランダ国内で実施されたNICHE-2試験の結果も統合しての解析結果発表である。・対象:他臓器転移のないdMMR大腸がん(T3以上またはN+)(112例)・試験群:ニボルマブ3mg/kg+イピリムマブ1mg/kgを1回投与、その2週間後にニボルマブ3mg/kgを1回投与初回投薬から6週以内に手術を施行・評価項目:[主要評価項目]安全性、忍容性、3年無病生存率(DFS)[副次評価項目]病理学的効果、ctDNA解析など病理学的奏効率(pRR:原発巣の残存腫瘍が50%以下)、主要病理学的奏効率(mPR:原発巣の残存腫瘍が10%以下)、病理学的完全奏効率(pCR:原発巣とリンパ節の両方共に残存腫瘍が0%) 主な結果は以下のとおり。・NICHE-1試験からの32例とNICHE-2試験からの80験の全症例が安全性解析の対象となり、5例が除かれた107例が有効性判定に用いられた。・症例背景は、年齢中央値が60歳、病期分類は高リスクIII期が74%であった。高リスクの内訳はT4aが35%、T4bが28%、N2が62%、T4かつN2だったのが48%だった。・免疫関連性有害事象については61%の症例に認められ、Grade3以上の事象は膵臓機能障害、肝炎、筋炎、皮膚障害などで4%に発現した。・全症例で中央値5.4週間以内にR0切除術が施行された。・各奏効率はpRRが99%、mPRが95%、pCRは67%と高率であった。とくにリンチ症候群症例ではpCRが78%であった。・14例で術後化学療法が追加され、追跡期間中央値13.1ヵ月時点で、1例も再発の報告は無かった。 演者は「dMMR大腸がんに対する術前の免疫チェックポイント阻害薬の使用は、今後の標準治療となる可能性を示した」と結んだ。

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乳房温存手術後の遠隔再発と局所再発を最小にするマージンを検討/BMJ

 早期浸潤性乳がんの乳房温存手術においてマージン状態が遠隔再発と関連するかどうか、また局所再発リスクと遠隔再発リスクの両方を最小にするために必要なマージンについて、英国・リーズ大学のJames R. Bundred氏らが系統的レビューとメタ解析により検討し報告した。BMJ誌2022年9月21日号に掲載。 本研究では、Medline(PubMed)、Embase、Proquestのデータベースから、乳房温存手術(StageI~III)を受けた乳がん患者を対象にマージン状況との関連でアウトカムを推定可能な追跡期間60ヵ月以上の研究を検索した。非浸潤性乳管がん(DCIS)の患者、術前化学療法を受けた患者、乳房切除術を受けた患者を除外し、断端陽性(tumour on ink)、断端近接(no tumour on inkだが2mm未満)、断端陰性(2mm以上)に分類した。 主な結果は以下のとおり。・1980年1月1日~2021年12月31日の68研究、11万2,140例の乳がん患者が適格とされた。・これらの研究全体では、患者の9.4%(95%信頼区間[CI]:6.8~12.8)が断端陽性、17.8%(同:13.0~23.9)が断端陽性または断端近接であった。・遠隔再発率は、断端陽性で25.4%(同:14.5~40.6)、断端陽性または断端近接で8.4%(同:4.4~15.5)、断端陰性で7.4%(同:3.9~13.6)であった。・断端陽性は断端陰性と比較して、遠隔再発リスク(ハザード比[HR]:2.10、95%CI:1.65~2.69、p<0.001)および局所再発リスク(HR:1.98、95%CI:1.66~2.36、p<0.001)とも高かった。・術後化学療法および放射線療法の調整後、断端近接は断端陰性と比較して遠隔再発リスク(HR:1.38、95%CI:1.13~1.69、p<0.001)および局所再発リスク(HR:2.09、95%CI:1.39~3.13、p<0.001)とも高かった。・2010年以降に発表された5研究では、遠隔再発リスクは断端陰性と比べて、断端陽性(HR:2.41、95%CI:1.81~3.21、p<0.001)および断端陽性または断端近接(HR:1.44、95%CI:1.22~1.71、p<0.001)で高かった。 今回のメタ解析の結果、早期浸潤性乳がんの乳房温存術後の患者において、断端陽性または断端近接の場合は遠隔再発リスクおよび局所再発リスクが高かった。著者らは「外科医は、1mm以上で最小のクリアマージンを達成することを目指すべき」としている。

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PD-L1高発現の進行NSCLCに対する1次治療として、3年間にわたり抗PD-1抗体cemiplimabが有効(EMPOWER-Lung1試験)/ESMO2022

 PD-L1発現50%以上の進行非小細胞肺がん(NSCLC)に対する抗PD-1抗体cemiplimabの1次治療は、3年間の追跡期間においてもプラチナダブレットと比べ、全生存期間(OS)と無増悪生存期間(PFS)を有意な改善を示した。トルコ・Istanbul University-CerrahpasaのMustafa Ozguroglu氏が、欧州臨床腫瘍学会(ESMO2022)で報告した。・対象:PD-L1(TPS)≧50%の未治療のStageIIIB/CおよびStageIV扁平上皮/非扁平上皮NSCLC・試験群:cemiplimab 350mgを3週ごとに最大108週間または増悪まで投与。増悪した場合は、cemiplimib継続かつ化学療法4サイクル追加のオプション・対照群:プラチナダブレット化学療法4〜6サイクル投与。増悪した場合は、cemiplimab単剤投与へのクロスオーバーのオプション・評価項目:[主要評価項目]OS、PFS[副次評価項目]奏効率(ORR)、奏効期間(DoR)、健康関連QOL、安全性 主な結果は以下のとおり。・ITT解析対象は試験群357例、対照群355例であり、対照群のcemiplimabへのクロスオーバー率は75%であった。・3年間フォローにおいて、試験群の対照群に対するOSおよびPFSのハザード比[HR](95%信頼区間[CI])はそれぞれ0.63(0.52~0.77、p=0.0001)、0.56(0.47~0.67、p=0.0001)であり、対照群での高いクロスオーバー率にもかかわらず、OS、PFSともに試験群での有意な改善効果が認められた。・PD-L1 50%以上のITT解析対象は、試験群284例、対照群281例であり、3年間フォローにおいて、試験群の対照群に対するOS、PFSのHR(95%CI)はそれぞれ0.57(0.46~0.71、p=0.0001)、0.51(0.42~0.62、p=0.0001)であった。・Grade3以上の有害事象の発現率は、試験群が45.8%、対照群が51.6%であった。 以上の結果を受け、Ozguroglu氏は「PD-L1が50%以上の進行期および転移のあるNSCLCに対して、cemiplimab単剤療法は1次治療の新たな選択肢になる」とまとめた。

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ペムブロリズマブ、高リスク早期TN乳がんへの術前・術後療法に適応拡大/MSD

 MSD株式会社は2022年9月26日、抗PD-1抗体ペムブロリズマブ(商品名:キイトルーダ)について、「ホルモン受容体陰性かつHER2陰性で再発高リスクの乳癌における術前・術後薬物療法」の効能または効果で、国内製造販売承認事項一部変更の承認を取得したことを発表した。 今回の承認は、ホルモン受容体陰性かつHER2陰性で再発高リスクの周術期の乳がん患者1,174例(日本人76例を含む)を対象とし、術前薬物療法としてのペムブロリズマブと化学療法との併用療法、および術後薬物療法としてのペムブロリズマブ単独療法の有効性と安全性を、術前薬物療法としてのプラセボと化学療法との併用療法、および術後薬物療法としてのプラセボ投与を対照として評価した国際共同第III相試験(KEYNOTE-522試験)の結果に基づいている。 本試験において、術前のペムブロリズマブと化学療法との併用療法および術後のペムブロリズマブ単独投与は、術前のプラセボと化学療法との併用療法および術後のプラセボ投与と比較して主要評価項目の1つである無イベント生存期間(EFS)を有意に延長した(ハザード比[HR]:0.63、95%信頼区間[CI]:0.48~0.82、p=0.00031)。安全性については、安全性解析対象例783例中774例(98.9%)(日本人45例中45例を含む)に副作用が認められた。主な副作用(20%以上)は、悪心495例(63.2%)、脱毛症471例(60.2%)、貧血429例(54.8%)、好中球減少症367例(46.9%)、疲労330例(42.1%)、下痢238例(30.4%)、ALT増加204例(26.1%)、嘔吐200例(25.5%)、無力症198例(25.3%)、発疹196例(25.0%)、便秘188例(24.0%)、好中球数減少185例(23.6%)、AST増加157例(20.1%)だった。 <製品概要>・販売名:キイトルーダ点滴静注100mg・一般名:ペムブロリズマブ(遺伝子組換え)・効能・効果:ホルモン受容体陰性かつHER2陰性で再発高リスクの乳癌における術前・術後薬物療法・用法・用量:通常、成人にはペムブロリズマブ(遺伝子組換え)として1回200mgを3週間間隔または1回400mgを6週間間隔で30分間かけて点滴静注する。投与回数は、3週間間隔投与の場合、術前薬物療法は8回まで、術後薬物療法は9回まで、6週間間隔投与の場合、術前薬物療法は4回まで、術後薬物療法は5回までとする。・承認取得日:2022年9月26日

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KRASG12C阻害薬ソトラシブ、パニツムマブ併用でmCRC患者に有用性示す(CodeBreaK101)/ESMO2022

 CodeBreaK100試験によって、KRASG12変異のある固形がん患者に対するKRASG12C阻害薬ソトラシブの有用性が報告されている。CodeBreaK101試験は、KRASG12変異陽性で転移のある大腸がん(mCRC)患者を対象に、ソトラシブ単剤療法およびほかの抗がん療法と併用した場合の安全性、忍容性、薬物動態、および有効性を評価することを目的としている。大腸がんにおいてはKRASG12変異のある患者は全体の3%ほどとなっている。 9月に行われた欧州臨床腫瘍学会(ESMO Congress 2022)では、国立がんセンター東病院の久保木 恭利氏が、mCRC患者40例を対象にソトラシブと抗EGFR抗体薬パニツムマブの併用療法の有用性をみた第I相CodeBreaK101試験の初期データにおいて、有望な抗腫瘍効果が示されたとの結果を報告した。・対象:KRAS変異陽性のmCRC 患者40例(女性75%、年齢中央値57.5歳)。フルオロピリミジン、オキサリプラチン、イリノテカン、血管新生阻害薬の前治療または後治療歴・試験群:ソトラシブ960mg/日を経口投与+パニツムマブ6mg/kgを2週間ごとに点滴静注・評価項目:[主要評価項目]安全性[副次評価項目]抗腫瘍活性(奏効率[ORR]、病勢コントロール率[DCR]、無増悪生存期間[PFS]、全生存期間[OS]など)、薬物動態(PK) 主な結果は以下のとおり。・2022年3月25日までに登録された40例が対象となった(女性75%、年齢中央値58歳)。・Gradeを問わない治療関連有害事象は37例(93%)に発現した。Grade3の有害事象は9例(22.5%)に発現し、中断や減薬に至った有害事象はソトラシブ6例(15%)、パニツムマブ10例(25%)だった。Grade4以上や治療中止に至った有害事象はなかった。・最も多い有害事象は痤瘡型皮膚炎で全体の50%に発現したが、大半がGrade2までだった。・安全性に関する所見は、ソトラシブおよびパニツムマブの既知のプロファイルと一致していた。・ORRは30%(95%CI:16.6~46.5)、DCRは93%(95%CI:79.6~98.4)であった。35例(88%)で腫瘍の縮小が確認された。ソトラシブの薬物動態は単剤療法で観察されたものと一致していた。 著者らは「今回のデータは、対象患者におけるソトラシブとパニツムマブの併用療法の安全性と忍容性をさらに証明するもので、ソトラシブ単剤療法よりも3倍高いORRを示し、この併用療法の今後の開発を支持するものである。今後、奏効期間、PFS、OSなどの長期追跡データも発表される予定であり、さらに併用療法と医師選択の化学療法を比較するCodeBreaK300試験も進行中だ」としている。

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がん患者は血圧140/90未満でも心不全リスク増/東京大学ほか

 がん患者では、国内における正常域血圧の範囲内であっても心不全などの心血管疾患の発症リスクが上昇し、さらに血圧が高くなるほどそれらの発症リスクも高くなることを、東京大学の小室 一成氏、金子 英弘氏、佐賀大学の野出 孝一氏、香川大学の西山 成氏、滋賀医科大学の矢野 裕一朗氏らの研究グループが発表した。これまで、がん患者における高血圧と心血管疾患発症の関係や、どの程度の血圧値が疾患発症と関連するのか明らかではなかった。Journal of clinical oncology誌オンライン版2022年9月8日号掲載の報告。 本研究では、2005年1月~2020年4月までに健診・レセプトデータベースのJMDC Claims Databaseに登録され、乳がん、大腸・直腸がん、胃がんの既往を有する3万3,991例(年齢中央値53歳、34%が男性)を解析対象とした。血圧降下薬を服用中の患者や、心不全を含む心血管疾患の既往がある患者は除外された。主要アウトカムは、心不全の発症であった。 主な結果は以下のとおり。・平均観察期間2.6年(±2.2年)の間に、779例で心不全の発症が認められた。・米国ガイドラインに準じて分類した正常血圧(収縮期血圧120mmHg未満/拡張期血圧80mmHg未満)と比較した心不全のハザード比は、ステージ1高血圧(130~139mmHg/ 80~89mmHg)が1.24(95%信頼区間:1.03~1.49)、ステージ2 高血圧(140mmHg以上/ 90mmHg以上)が1.99(同:1.63~2.43)と血圧が上がるほど上昇した。・心不全以外の心血管疾患(心筋梗塞、狭心症、脳卒中、心房細動)においても、血圧上昇に伴う発症リスクの上昇が認められた。・この影響は、化学療法などの積極的ながん治療を行っている患者においても認められた。 高血圧は、がん患者においても高頻度に認められる併存症であるが、臨床においては血圧低下(食欲不振に伴う脱水など)が問題となることも多いため、高血圧については積極的な治療が行われない場面もあったと考えられる。それを踏まえて、研究グループは、「本研究において、がん患者では、降圧治療を受けていないステージ1高血圧やステージ2高血圧においても、心不全や他の心血管疾患のリスクが高かった。がん患者においても、適切な血圧コントロールが重要である」とまとめた。

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ソトラシブ、KRAS G12C変異陽性NSCLCのPFSを有意に延長(CodeBreaK-200)/ESMO2022

 KRAS G12C変異陽性の既治療の進行非小細胞肺がん(NSCLC)に対して、ソトラシブがドセタキセルよりも有意に無増悪生存期間(PFS)を延長することが、米国・Sarah Cannon Research InstituteのMelissa L. Johnson氏から、欧州臨床腫瘍学会(ESMO Congress 2022)で発表された。 ソトラシブの有効性は単群試験のCodeBreaK100で示されていたが、今回発表されたのは、日本も参加した国際共同無作為化比較第III相試験CodeBreaK 200試験の主解析の結果である。・対象:免疫チェックポイント阻害薬と化学療法薬の治療歴を有するKRAS G12C変異陽性のNSCLC(過去の脳転移治療例は許容)・試験群:ソトラシブ960mgx1/日(Soto群:171例)・対照群:ドセタキセル75mg/m2を3週ごと(DTX群:174例)DTX群からSoto群へのクロスオーバー投与は許容・評価項目:[主要評価項目]独立評価委員会評価によるPFS[副次評価項目]全生存期間(OS)、奏効率(ORR)、奏効期間(DoR)、安全性、患者報告アウトカムなど 主な結果は以下のとおり。・試験は2020年6月から開始されたが、2021年2月にプロトコール修正が行われ、登録症例数が650例から330例へと変更になり、DTX群のSoto群へのクロスオーバー投与も認められた。・DTX群からSoto群へのクロスオーバー率は26.4%で、DTX治療の後治療として別のKRAS阻害薬の投与を受けた割合は7.5%であった。・両群の年齢中央値は64.0歳、脳転移の既往有りが約34%、前治療歴は2ライン以上が55%であった。・データカットオフ時(2022年8月)のPFS中央値はSoto群が5.6ヵ月、DTX群が4.5ヵ月で、ハザード比(HR)は0.66(95%信頼区間[CI]:0.51~0.86)、p=0.002と有意にSoto群が良好であった。1年PFS率は、Soto群24.8%、DTX群10.1%だった。・ORRはSoto群が28.1%、DTX群が13.2%、p<0.001とSoto群が有意に高かった。腫瘍縮小効果があった割合は、それぞれ80.4%と62.8%であった。・DoR中央値はSoto群8.6ヵ月、DTX群は6.8ヵ月で、奏効までの期間中央値は、それぞれ1.4ヵ月と2.8ヵ月であった。・症例数が大幅に減ったこととクロスオーバー投与が許容されたことで、OSにおける両群間の差は検出されなかった。OS中央値は10.6ヵ月と11.3ヵ月、HRは1.01(95%CI:0.77~1.33)であった。・Grade3以上の有害事象は、Soto群で33.1%、DTX群で40.4%に発現した。重篤な有害事象はそれぞれ10.7%と22.5%であった。・Soto群で多く認められたGrade3以上の有害事象は、下痢、肝機能障害で、DTX群で多く認められたものは、倦怠感、貧血、脱毛、好中球減少(発熱性好中球減少症含む)などであった。・患者報告アウトカムは、Soto群で良好であり、がん関連の身体症状悪化までの期間もSoto群の方がDTX群よりも長かった。

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HER2低発現進行乳がんへのT-DXd、患者報告アウトカム(DESTINY-Breast04)/ESMO2022

 HER2低発現で既治療の進行乳がん患者に対する、トラスツズマブ デルクステカン(T-DXd)と治験医師選択の化学療法(TPC)を比較した第III相DESTINY-Breast04試験における、患者報告アウトカムの解析結果が報告された。米国・テキサス大学MDアンダーソンがんセンターの上野 直人氏が、欧州臨床腫瘍学会(ESMO Congress 2022)で発表した。 DESTINY-Breast04試験では、T-Dxd群でHR+コホートにおけるPFS中央値(10.1ヵ月vs.5.4ヵ月、HR:0.51、p<0.0001)およびOS中央値(23.9ヵ月vs.17.5ヵ月、HR:0.64、p=0.0028)を有意に改善した。安全性については、Grade3以上のTEAEはT-Dxd群53% vs.TPC群67%で発生し、T-Dxd群で多くみられた治療関連TEAEは、吐き気(73% vs.24%)、倦怠感(48% vs.42%)、TPC群では好中球減少症(33% vs.51%)だった。・対象:HER2低発現(IHC 1+またはIHC 2+/ISH-)、1~2ラインの化学療法歴のある切除不能および/または転移を有する乳がん患者(ホルモン受容体陽性[HR+]の場合は内分泌療法抵抗性) 557例 以下の2群に2対1の割合で無作為に割り付け・試験群(T-DXd群):T-DXdを3週間間隔で5.4mg/kg投与 373例・対照群(TPC群):治験医師選択の化学療法(カペシタビン、エリブリン、ゲムシタビン、パクリタキセル、ナブパクリタキセルのいずれか) 184例・評価項目:[主要評価項目]HR+患者における無増悪生存期間(PFS)[副次評価項目]全例におけるPFS、HR+患者および全例における全生存期間(OS)、安全性、HR+患者における患者報告アウトカム(PRO)など・PROの測定:EORTC QLQ-C30、EORTC QLQ-BR23およびEQ-5D-5Lの質問票を用いて、3サイクル目までは各サイクルごと、以降は2サイクルごと、治療終了40日後、3ヵ月後に実施。ベースラインからの変化および決定的な悪化までの時間(TDD)が評価された。悪化は10点以上の増加と定義された。 主な結果は以下のとおり。・HR+コホートは、T-Dxd群331例vs.TPC群163例。年齢中央値は56.8歳vs.55.7歳、IHC 1+の患者が両群とも約58%を、前治療はCDK4/6阻害薬が約70%を占めた。・両群とも、ベースラインで92%超、2~27サイクルでは80%超の質問票遵守率だった。・ベースラインでの平均GHSスコアは、T-Dxd群36.3±21.8 vs.TPC群37.8±22.5だった。・QLQ-C30のGHS/QOLの平均変化量は、T-Dxd群では27サイクルまで安定(±10点)しており、TPC群では13サイクルまで安定していた。・倦怠感については、両群ともに治療中全サイクルを通じてQLQ-C30のスコア変化は<10点で安定していた。吐き気については、T-Dxd群で早期サイクルで<10点のスコア上昇がみられたが、7サイクル以降は減少し、安定的なスコアとなっていた。・GHS/QOLのTDD中央値はT-DXd群11.4ヵ月vs.TPC群7.5ヵ月(ハザード比[HR]:0.69、95%信頼区間[CI]:0.52~0.92、p=0.0096)で、吐き気を除くすべての事前に規定したQLQ-C30サブスケールにおいてT-DXdの方がTDDが長く、痛みについてのTDD中央値はT-DXd群16.4ヵ月vs.TPC群6.1ヵ月(HR:0.40、95%CI:0.30~0.54、p<0.0001)だった。 上野氏は、今回の結果はT-DXdによる治療がTPCと比較してGHS/QOLスコアを長く維持し、QOLベネフィットを示したとし、患者視点でのQOLの向上が、DESTINY-Breast04試験の有効性・安全性を裏付けているとコメントした。

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NSCLC術後補助療法 ペメトレキセド+シスプラチンはビノレルビン+シスプラチンと同様のOS(JIPANG)/ESMO2022

 完全切除を受けた非扁平上皮非小細胞肺がん(NSCLC)に対する術後化学療法として、ペメトレキセド+シスプラチン療法とビノレルビン+シスプラチン療法の無再発生存期間(RFS)と全生存期間(OS)に関する最終結果を、国立がん研究センター東病院の葉清隆氏が欧州臨床腫瘍学会(ESMO Congress 2022)で発表した。 これは日本で実施された第III相試験であるJIPANG試験の最終解析報告であり、すでにRFSと忍容性については報告がなされている。・対象:Stage II~IIIAで完全切除を受けた非扁平上皮NSCLC症例・試験群:ペメトレキセド+シスプラチン(PC群) ・対照群:ビノレルビン+シスプラチン(VC群)両群ともに3週ごとに4サイクルまで投与・評価項目:[主要評価項目]RFS[副次評価項目]OS、治療完遂率、毒性 主な結果は以下のとおり。・2012年3月〜2016年8月に登録された783例が解析対象となった(PC群389例、VC群394例)。・病期はStage IIIAがPC群53.0%、VC群52.5%、EGFR変異陽性(EGFR+)はそれぞれ24.9%と24.1%であった。・観察期間中央値72.7ヵ月時点でのRFS中央値はPC群が43.4ヵ月、VC群が37.5ヵ月で、ハザード比(HR)は0.95(95%信頼区間[CI]:0.79~1.14)であった。5年時RFS率は、PC群44.9%、VC群42.6%であった。・観察期間中央値77.3ヵ月時点でのOS中央値は両群ともに未到達で、HRは1.03(95%CI:0.80~1.32)であった。5年時OS率はPC群が75.0%、VC群が75.6%であった。・OSのサブグループ解析において、EGFR+グループではVC群が良好で(HR:1.93、95%CI:1.13~3.28)、Stage IIIAグループにおいてもVC群が良好(HR:1.43、95%CI:1.03~1.98)であった。また、Stage IIグループではPC群が良好(HR:0.63、95%CI:0.41~0.95)であった。・Grade3以上の有害事象は、PC群47%、VC群89%であった。・主な再発部位はリンパ節(35~39%)と肺(29~41%)であり、脳転移はEGFR+グループでPC群30.3%、VC群18.6%、EGFR野生型グループではPC群18.6%、VC群27.5%であった。

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TILsを有するTN乳がんへの術前ニボルマブ±イピリムマブ、高い免疫活性示す(BELLINI)/ESMO2022

 術前化学療法への免疫チェックポイント阻害薬(ICI)の追加による、早期トリプルネガティブ(TN)乳がん患者の転帰改善が報告されているが、どのような患者にICIが有効なのか、そしてどのような患者で術前化学療法のde-escalationが可能なのかは分かっていない。また早期TN乳がんでは、抗PD-1抗体への抗CTLA-4抗体の追加は検討されていない。オランダ・Netherlands Cancer InstituteのMarleen Kok氏らは、ニボルマブ±低用量イピリムマブの投与が、TILsを有するTN乳がんにおいて免疫応答を誘発するという仮説の検証を目的として、第II相非無作為化バスケット試験(BELLINI試験)を実施。その最初の結果を欧州臨床腫瘍学会(ESMO Congress 2022)で発表した。・対象:T1c~T3、TILs≧5%のTN乳がん患者 31例・試験群:ニボルマブ群(NIVO群):ニボルマブ(240mg)×2サイクル 16例ニボルマブ+イピリムマブ群(NIVO+IPI群):ニボルマブ(240mg)×2サイクル+イピリムマブ(1mg/kg)×1サイクル 15例※両群ともにTIL5~10%:5例、TIL11~49%:5例、TIL≧50%:5例※両群ともに4週間後患者は術前化学療法あるいは手術を受ける・評価項目:[主要評価項目]4週間後のCD8+T細胞および/またはIFN-γ発現の2倍変化で定義される免疫活性化[副次評価項目]安全性、放射線学的反応(RECIST1.1)、トランスレーショナル解析※Simonの2段階デザインにより、30%の患者で免疫活性が確認された場合、コホートの拡大が可能となる。 主な結果は以下のとおり。・ベースライン時点の年齢中央値はNIVO群48歳、NIVO+IPI群50歳。grade3腫瘍が93.8%、73.3%。BRCA1/2変異有が18.8%、20.0%だった。無作為化されていないため、NIVO群ではN0が81.3%と最も多かったのに対し、NIVO+IPI群ではN1が60.0%と最も多かった。・4週間後の放射線学的部分奏効(PR)は7/31例(23%)で認められ、うちNIVO群3例(19%)、NIVO+IPI群4例(27%)であった。また、7例のうち3例はTIL≧50%、4例はTIL11~49%だった。・主要評価項目である4週間後の免疫活性化はNIVO群8例(53.3%)、NIVO+IPI群9例(60.0%)でみられ、コホート拡大基準(30%)を満たした。・PRを示した患者ではベースライン時点のIFN-γ発現量が多かった(p=0.014)。・ベースライン時点のCD8+T細胞レベルは奏効と相関しなかったが、空間解析により、CD8+T細胞が腫瘍細胞により隣接していることが奏効と強く関連していることが明らかになった(p=0.0014)。・ベースライン時点では全体の83%の患者でctDNA陽性が確認されたが、4週間後のctDNAクリアランスは24%の患者で確認された。・安全性については、Grade3以上の有害事象はNIVO群1例(6%、甲状腺機能亢進症)、NIVO+IPI群1例(7%、糖尿病)のみであった。 Kok氏らは、TILsを有するTN乳がん患者の多くが、わずか4週間のICI投与で免疫活性の上昇を示し、臨床効果が得られたことから、TN乳がん患者に対する術前化学療法なしのICI投与の可能性が示唆されたと結論付けている。そのうえで同氏は今後の展望として、NIVO群vs. NIVO+IPI群のシングルセル解析や、TIL>50%・N0の患者群における6週間のニボルマブ+イピリムマブ投与後手術を行った場合のpCR率の評価が必要とした。

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第126回 これは屁理屈なんじゃ…国産コロナ薬への補足説明を見てビックリ!

先日の本連載(第125回)で取り上げた日本感染症学会と日本化学療法学会による新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)の治療薬候補エンシトレルビル(商品名:ゾコーバ)の緊急承認を求めた合同提言。SNS上などでは非難囂々だったが、これに対し学会側が9月8日、補足説明なる文書を改めて発表した。この文書を読んでみたが、正直な感想を言えば「は?これが補足説明?」と思ってしまった。今回はこの内容について私見ながら批判的吟味を加えてみたい。補足説明は6項目に分かれている。1.本提言の公表までのプロセス2.この時期に提言を出した理由について3.抗ウイルス薬が十分に使われていない現状に関して4.ウイルス量を早期に減らすことの意義に関して5.今回ゾコーバに関して緊急承認の適応を求めたことに関して6.今回の提言と4学会声明の違いについてこの中で個人的に気になったのは、1、2、4、5番目の内容である。まず1番目。これによると、提言のきっかけは、2022年7月20日に行われた薬事・食品衛生審議会医薬品第二部会・薬事分科会の合同審議の後に「“多くの患者さんが連日亡くなられており医療逼迫・医療崩壊が起こっている状況にもかかわらず、審議会ではその状況を踏まえた検討がなされていないのではないか。また、当日の議論が抗ウイルス薬としての評価ではなく、ほかの内容がほとんどを占めているのは問題ではないのか”とのご意見が寄せられ、“感染症学会・化学療法学会として提言を出すべきではないか”とのご意見がありました」という状況を踏まえてのことだったという。この“意見”なるものの認識がずれているように思う。そもそも今回のエンシトレルビルに関しては、合同審議に先立って開催された薬事・食品衛生審議会医薬品第二部会単独の審議で、医薬品医療機器総合機構(PMDA)の審査結果の説明とそれを基にした議論で抗ウイルス効果については検討済みである。しかも、そのうえで緊急承認制度が必須とする薬事分科会も含めた合同会議で再度検討が行われており、抗ウイルス効果について科学的議論がおろそかにされた形跡はない。補足説明ではこの“意見”を基に「日本感染症学会・日本化学療法学会で今後の方向性について話し合って頂く方を両学会から選出した後、ウェブ会議を8月中に2回行うとともにメールでの意見交換を行いました。意見をふまえて作成した提言案を、さらに両学会の役員(理事・監事)全員にお示ししてご意見を伺いました。頂いたご意見はさまざまでしたが、提言を出すことに対して反対意見はありませんでした。役員の先生方のご指摘をなるべく反映させる形で修正を行い、8月下旬に最終案をまとめました」とある。審議経過に不審な点はないと強調したいのだろう。だが、気になるのは「今後の方向性について話し合って頂く方を両学会から選出」と言う点である。この際の選出基準はどのようなものであったのか、また、中核になって議論したメンバーが誰かも不明である。たとえば、日本感染症学会では過去にもさまざまな提言を発表しているが、その際は検討した委員会名や委員名、その利益相反が開示されていることが多い。少なくとも過去と比べ、今回の提言はこの点で透明性が確保されているとは言いがたい。次に2番目。要約すると、すでにオーストラリアや東アジアでインフルエンザが流行しており、それを踏まえると、今秋以降に日本で同様のことが起こりえること、そこに新型コロナの流行も重なれば、医療逼迫が深刻化する恐れについて言及している。これを踏まえて▽新型コロナウイルス感染症の早期診断、早期治療の必要性▽ニルマトレルビル/リトナビルやモルヌピラビルの高齢者や基礎疾患保有者への投与▽後遺症で苦しむ可能性がある重症化リスクのない患者へのエンシトレルビルの投与を可能にする、ことで医療逼迫を回避すべきと指摘している。ここで突如、エンシトレルビルの話が出てくる。重症化しにくい若年者でも新型コロナの後遺症リスクがあるのは確かだが、ここで後遺症いわゆるLong COVIDに言及したことで、私は7月20日の審議のある光景が浮かんでしまう。それはまさにこの審議に参考人として出席した日本感染症学会理事長の四柳 宏氏が、あるデータを基に意見陳述した光景である。あるデータとは塩野義製薬がエンシトレルビルについて行った第II/III相試験の第IIb相パートのサブ解析結果の1つで、合同審議の際に追加的に提出されたもの。それによると、エンシトレルビルあるいはプラセボ投与開始から3週間後の新型コロナ関連12症状の有無では、プラセボ群に比べ、エンシトレルビル群では有症状者の割合が有意に低率だったというものだ。確かにデータ上はその通りだ。しかし、そもそもエンシトレルビルの緊急承認が保留になった最大の要因は、過去の本連載(第118回)でも触れたようにエンシトレルビル群ではプラセボ群に比べ、ウイルス力価とウイルスRNA量の低下が有意に認められながら、新型コロナ関連12症状の改善では有意差がなかったことに起因している。そして塩野義製薬や参考人だった感染症専門医は、この12症状のうちオミクロン株感染時に特徴的な呼吸器症状などの4症状では改善効果があったとし、オミクロン株感染者の薬効評価では12症状改善を指標にすることの妥当性にもやんわり疑問を呈している。にもかかわらず、Long COVIDになると、エンシトレルビル群で12症状改善の面で有意差を認めた、と言われても「都合の良いサブ解析結果を総動員させているだけでは?」と疑われて仕方がないのではないだろうか。補足説明の4番目では、まず「抗ウイルス薬に期待する薬効は臨床症状の改善であり」とある。これはその通りで、エンシトレルビルではまさにこの点に?が付いたのである。しかし、その後段では「エンシトレルビルの治験では、ウイルス株の変異に伴い、ラゲブリオやパキロビッドの治験のような入院や死亡率の減少を証明できなかったものの、ウイルス量の減少が有意差をもって確認されています。また発熱や呼吸器症状の改善を認めました。こうした結果より、エンシトレルビル投与によるウイルス量の早期の減少は、臨床症状の改善につながると考えられ、その結果は今後の臨床試験で明らかにされることが期待されます」と最初の提言と変わらぬ主張を繰り返している。この点に関して私が言いたいことは、ほぼ前回と変わらない。サブ解析結果はあくまで参考値に過ぎない。そもそも企業治験では、新薬候補の効果が最大限発揮できるように主要評価項目や試験デザインを設定する。もし、サブ解析で新たな知見が示されたならば、あくまでその結果を正しく証明できる試験デザインで再度検証することが求められる。前回も記述したように、サブ解析結果で示されたことが再度の臨床試験で否定されることは決して珍しくない現象だからだ。この現実を日本感染症学会と日本化学療法学会の理事の皆さんは軽視するつもりなのだろうか?かなり酷なことを言うかもしれないが、このエンシトレルビルの結果の速報値が発表されたのは2月である。もし塩野義製薬が科学的な知見を重視して、なお緊急承認を求めるならば、同社が主張するオミクロン株に特徴的な4症状の改善を主要評価項目に設定した小規模のパイロット的な試験などを実施すべきである(治験実施が容易ではないのは百も承知だが、小規模のパイロット試験なら不可能とは言えない)。もっと言えば、今回の緊急承認制度は「探索的な臨床試験(後期第II相試験)で有効性が認められれば承認可能」としているが、少なくともこの文言は探索的な臨床試験の主要評価項目は達成されたうえでと解釈するのが自然である。それができずに製薬企業や学会がゴリ押しするのは、せっかく新設された緊急承認制度に対する冒とくとさえ個人的には思える。そして5番目を読むと、ため息が出てしまう…。そこには以下のような記述がある。「現時点で60歳以下のリスクのない方に対する抗ウイルス薬はありませんから、この群に対する効果が期待され、その結果感染・健康被害の拡大が防止できる薬であれば緊急承認の適応ということになります。今回2学会が提言を出したのは“60歳以下のリスクのない方”に対する効果が期待され、その結果“感染・健康被害の拡大が防止できる薬であるかどうか”の確認が充分行われたように思えなかったことがきっかけです」要は前述の7月20日の審議の際に一部の委員から同一作用機序のニルマトレルビル/リトナビルがあるなかで、エンシトレルビルの承認に緊急性があるとは必ずしも思えないと言われたことへの反論らしい。しかし、あくまで私見に過ぎないかもしれないが、ここまでくると「屁理屈」とさえ映ってしまう。そして7月20日の審議では60歳以下のリスクのない人での投与に関して、薬事分科会の委員で日本医師会常任理事の神村 裕子氏が発言したことを日本感染症学会と日本化学療法学会の役員の皆さまはお忘れなのだろうか? 念のために再掲したい。「私は女性の医師ですので、女性の患者さんがたくさんいます。この中でたとえば妊娠の可能性のある患者さんに禁忌という場合、妊娠しているかどうかわからないとなると、とても怖くて使えない。また、錠剤が大きくて飲み難いことはありますが、すでに同じような作用機序のニルマトレルビル/リトナビルがあるなかで、なぜそちらではダメなのかと考えている。当然ながら私が臨床の外来で、この程度の呼吸器症状の有効性の差が出たと言われても、『とても使いたくはないな』と、申し訳ないですけれども率直にそう感じました」塩野義製薬や参考人が主張するオミクロン株特有の有効性を踏まえたうえでも、その差は小さく、なおかつエンシトレルビルが持つ催奇形性のリスクを考慮すれば臨床では有益性があるとは思われないという発言である。正直、補足説明が出たというので、もう少しマシな主張をするのではないかと期待したが「我田引水、ここに極まれり」と言わざるを得ない。

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HER2低発現のHR+転移乳がんに対するSGの有効性(TROPiCS-02)/ESMO2022

 複数の治療歴があるHR+/HER2-転移乳がん患者に対する抗体薬物複合体sacituzumab govitecan(SG)の有用性を評価する第III相TROPiCS-02試験で、SGが医師選択治療(TPC)より無増悪生存期間(PFS)を改善したことがASCO2022で報告されている。今回、本試験の事後解析として、HER2低発現(IHC1+、またはIHC2+かつISH陰性)患者とHER2 IHC0患者に分けて評価した結果について、ドイツ・Heidelberg UniversityのFrederik Marme氏が欧州臨床腫瘍学会(ESMO Congress 2022)で発表した。・対象:転移または局所再発した切除不能のHR+/HER2-乳がんで、転移後に内分泌療法またはタキサンまたはCDK4/6阻害薬による治療歴が1ライン以上、化学療法による治療歴が2~4ラインの成人患者・試験群:SG(1、8日目に10mg/kg、21日ごと)を病勢進行または許容できない毒性が認められるまで静注・対照群:TPC(カペシタビン、エリブリン、ビノレルビン、ゲムシタビンから選択)・評価項目:[主要評価項目]盲検下独立中央評価委員会によるPFS[副次評価項目]全生存期間、客観的奏効率(ORR)、奏効持続期間、クリニカルベネフィット率、患者報告アウトカム、安全性 今回の解析において、ITT集団(543例)におけるHER2発現状況をIHCおよびISHで後ろ向きに評価したところ、HER2 IHC0患者が217例(SG群101例、TPC群116例)とHER2低発現患者が283例(SG群149例、TPC群134例)であった。なお、HER2陽性と判明した患者(SG群22例、TPC群21例)は本解析から除外した。 主な結果は以下のとおり。・HER2 IHC0患者とHER2低発現患者におけるベースライン特性はITT集団と類似していた。・PFS中央値は、HER2低発現患者ではSG群6.4ヵ月、TPS群4.2ヵ月(HR:0.58、95%CI:0.42~0.79、p<0.001)、HER2 IHC0患者ではSG群5.0ヵ月、TPC群3.4ヵ月(HR:0.72、95%CI:0.51~1.00、p=0.05)だった。・ORRは、HER2低発現患者ではSG群26%、TPS群12%(オッズ比:2.52、95%CI:1.33~4.78)、HER2 IHC0患者ではSG群16%、TPC群15%(オッズ比:1.10、95%CI:0.52~2.30)だった。・HER2低発現患者、HER2 IHC0患者におけるSGの安全性プロファイルは、試験全体や他の試験と同様で、管理可能だった。 Marme氏は、「ITT集団と同様、HER2低発現およびHER2 IHC0のHR+/HER2-転移乳がんにおいて、SGはTPCに比べてアウトカムを改善した。IHCスコアにかかわらず、SGはHR+/HER2-転移乳がんに対する有効な治療選択肢と考えるべき」と結論した。

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オシメルチニブのEGFR陽性NSCLCアジュバント、3.6年で5.5年の無再発生存(ADAURA)/ESMO2022

 完全切除EGFR変異陽性非小細胞肺がん(NSCLC)に対する、第3世代EGFR-TKIオシメルチニブの術後補助療法の有効性と安全性を評価する第III相無作為化二重盲検比較試験ADAURAの第2回解析が発表され、オシメルチニブの有効性が持続していることが明らかになった。 ADAURAの初回解析における、術後オシメルチニブ±補助化学療法はプラセボと比較して統計学的に有意かつ臨床的に意味のある無病生存期間(DFS)の改善を示した。DFSのハザード比(HR)はStage II/IIIAで0.17(p<0.001)、IB/II/IIIAでは0.20(p<0.001)であった。欧州臨床腫瘍学会(ESMO Congress 2022)では、国立がん研究センター東病院の坪井 正博氏が、初回解析から2年間を加えた追跡調査でのDFSの更新データと再発パターンの探索的研究の結果を報告した。・対象:EGFR変異陽性(ex19del/L858R)のStage IB/II/IIIAの完全切除された非扁平上皮NSCLC患者(術後化学療法は許容)・試験群:オシメルチニブ80mg/日 最大3年間治療・対照群:プラセボ・評価項目:[主要評価項目]治験担当医師評価によるStage II/IIIA患者のDFS、推定HR=0.70[副次評価項目]全集団のDFS、全生存期間(OS)、安全性、健康関連QOL[事前に指定された探索的研究]再発パターン、中枢神経系病変(CNS)の再発または死亡(CNS DFS) 主な結果は以下のとおり。・追跡期間中央値はオシメルチニブ群44.2ヵ月、プラセボ群19.6ヵ月であった。・主要評価項目であるStage II/IIIAのDFS中央値はオシメルチニブ群65.8ヵ月、プラセボ群21.9ヵ月で、HRは0.23(95%CI:0.18〜0.30)であった。・すべてのサブグループでオシメルチニブ群が良好であり、事前の化学療法の有無によるDFS HRは、化学療法施行群0.29、化学療法なし群0.36、と事前の化学療法の有無にかかわらずオシメルチニブ群が良好であった。・全体集団(Stage IB/II/IIIA)のDFS中央値はオシメルチニブ群65.8ヵ月、プラセボ群28.1ヵ月で、HRは0.27(95%CI:0.21〜0.34)であった。・Stage II/IIIA症例でのCNS DFS中央値は両群とも未到達だが、HRは0.24(95%CI:0.14〜0.42)、とオシメルチニブ群で良い傾向であった。・初発再発が多い肺、リンパ節、CNSのオシメルチニブ群、プラセボ群の再発率はそれぞれ、12%対26%、6%対17%、6%対11%、といずれもオシメルチニブ群で低かった。・36ヵ月時点のCNS再発の条件付き(非CNSの再発・死亡なし)確率はオシメルチニブ群2%、プラセボ群13%であった。・長期的な安全性プロファイルは、オシメルチニブのオシメルチニブの既知のものと一致していた。オシメルチニブ群の間質性肺疾患発現は3%(11例)で、すべてGrade1か2であった。 坪井氏は、このアップデートデータは、完全切除EGFR変異Stage IB/II/IIIAのNSCLCに対するオシメルチニブ±化学療法の術後補助療法を標準治療として裏付けるもの、との結論を示した。

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HR+/HER2+進行乳がんへのアベマシクリブ+トラスツズマブ+フルベストラント、OS最終結果(monarcHER)/ESMO2022

 ホルモン受容体(HR)陽性/HER2陽性(HR+/HER2+)の進行乳がんに対する、アベマシクリブ+トラスツズマブ+フルベストラントの3剤併用療法が、トラスツズマブ+化学療法と比較して数値的に全生存期間(OS)を改善した。フランス・Gustave RoussyのFabrice Andre氏が、欧州臨床腫瘍学会(ESMO Congress 2022)で第II相monarcHER試験の最終解析結果を発表した。 同試験については、すでに主要評価項目である無増悪生存期間(PFS)を3剤併用群で有意に改善したことが報告されている1)。・対象:HR+/HER2+進行乳がんで、抗HER2療法を2ライン以上受けており(T-DM1とタキサン系抗がん剤の治療歴は必須)、さらにCDK4/6阻害薬とフルベストラントは未投与である患者237例・試験群:アベマシクリブ+トラスツズマブ+フルベストラント(ATF群)またはアベマシクリブ+トラスツズマブ(AT群)・対照群:トラスツズマブ+主治医選択の化学療法(TC群)・評価項目:[主要評価項目]ATF群とTC群における主治医評価による無増悪生存期間(PFS)の比較(ATF群とTC群の比較で有意差が認められた場合、次にAT群とTC群の比較をする段階的な設定)[副次評価項目]全生存期間(OS)、奏効率(ORR)、安全性、患者報告アウトカム、体内薬物動態  主な結果は以下のとおり。・2016年5月~2018年2月に14ヵ国、75施設から患者が登録された。・追跡期間中央値は52.9ヵ月であった(データカットオフ2022年3月31日)。・OS中央値はATF群31.1ヵ月、AT群29.2ヵ月、TC群20.7ヵ月だった。ATF群vs.TC群のハザード比(HR):0.71(95%信頼区間[CI]:0.48~1.05、両側p=0.086)、AT群vs.TC群のHR:0.84(95%CI:0.57~1.23、両側p=0.365)。・事前設定されたすべてのサブグループにおいて、アベマシクリブ投与によるOSベネフィットが観察された。・乳がんの内因性サブタイプが予後に与える影響を評価するため探索的RNAシーケンス解析が行われ、luminalタイプはnon-luminalタイプと比較して、より長い PFS(8.6ヵ月vs. 5.4ヵ月、HR:0.54、95%CI:0.38~0.79)、およびOS(31.7ヵ月vs.19.7ヵ月、HR :0.68、95%CI :0.46~1.00)と関連していた。・更新された PFS および安全性は、1次解析結果と一致していた(データカットオフ2019年4月8日)。 ディスカッサントを務めた韓国・Asan Medical CenterのSung-Bae Kim氏は、この化学療法を行わない3剤併用療法が複数治療歴のあるHR+/HER2+進行乳がんの治療オプションの1つになることが示唆されたとコメントした。

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DWIBSは不明熱の診療にも有用?【知って得する!?医療略語】第19回

第19回 DWIBSは不明熱の診療にも有用?PET-CT以外にも全身の腫瘍を検索する方法があると聞きました。2年前に保険収載されたDWIBS法というMRIを使用した全身検査があります。≪医療略語アプリ「ポケットブレイン」より≫【略語】DWIBS【日本語】背景抑制広範囲拡散強調画像・ドゥイブス法【英字】diffusion-weighted whole body imaging with background suppression【分野】腫瘍関連【診療科】全診療科実際のアプリの検索画面はこちら※「ポケットブレイン」は医療略語を読み解くためのもので、略語の使用を促すものではありません。DWIBS(diffusion-weighted whole body imaging with background suppression)は2004年に放射線科医の高原 太郎氏(東海大学工学部医用生体工学科 教授)により開発された画像検査方法で、背景信号を抑制した全身のMRI拡散強調画像を撮影します。全身の拡散強調画像を1回で撮影でき、PET-CTと比較して遜色ないがんの描出ができるとされ、全身の悪性腫瘍の検索やリンパ節転移の検出、他臓器転移の検出への利用で注目を浴びています。DWIBSの利点は、造影剤や放射性医薬品が不要、放射線被爆がなく、繰り返しの検査でも被爆を心配する必要がないことです。また、検査価格もDWIBSはPET-CTの1/3~1/6程度と低価格です。このためDWIBSは経時的フォローに向いていると言えます。従来であれば、化学療法の効果判定は、腫瘍サイズの縮小などの形態変化から判断していましたが、DWIBSを利用すると腫瘍病変の信号強度の変化を捉えることで、抗がん剤の効果を判定することが可能となり、より早く効果判定することができます。DWIBSは2020年に保険収載されました。PET-CTとは異なり、原発不明がんの精査でも保険診療が可能で、造血器腫瘍は悪性リンパ腫のみならず、白血病や多発性骨髄腫にも保険適応があります。メディカル・データ・ビジョン株式会社のデータベース(MDV analyzer)で調べると、2020年4月~2022年6月の期間、全国調査対象の466施設中、18施設が全身MRI撮影加算を算定しており、検診領域のみならず一般診療にもDWIBSが利用され始めていることが分かります。悪性腫瘍の全身スキャンで注目を浴びるDWIBSですが、炎症部位の検出にも有用とされます。不明熱の患者さんで通常のCTやMRIで熱源や炎症フォーカスを特定できない時にPET-CTを行うこともありますが、DWIBSに置きかえられる可能性があり、PET-CTより低価格で簡便に検査が実施できる可能性があります。実際に発熱の熱源精査にDWIBSを使用し皮膚筋炎の診断に繋がった報告もあります。一方で腫瘍の良・悪性の鑑別には利用が難しいとする報告もあります。DWIBSの利用と可能性の限界について知見の集積が進み、より一般診療で活用できることをとても期待しています。1)今井 裕ほか. 日消誌. 2010;107:712-717.2)加藤 愛美ほか. Clin Rheumatol. 2016;28:150-157.3)Komori T,et al. Ann Nucl Med. 2007;21:209-215.4)今野 信宏. 頭頸部外科. 2021;31:85-89.

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抗体薬物複合体SG、HR+/HER2-転移乳がんのOSを改善(TROPiCS-02)/ESMO2022

 複数の治療歴があるHR+/HER2-転移乳がん患者に対して、抗体薬物複合体sacituzumab govitecan(SG)と医師選択治療(TPC)を比較した第III相TROPiCS-02試験において、SGが無増悪生存期間(PFS)を有意に改善(HR:0.66、95%CI:0.53~0.83)したことはASCO2022で報告されている。今回、事前に予定されていた全生存期間(OS)の第2回中間解析の結果について、米国・UCSF Helen Diller Family Comprehensive Cancer CenterのHope S. Rugo氏が欧州臨床腫瘍学会(ESMO Congress 2022)で報告した。 本試験におけるOSの第1回中間解析(293イベント発生時点)では、SGによる改善傾向がみられたもののデータがmatureしていなかった。今回発表された第2回中間解析(データカットオフ:2022年7月1日)は、390イベントの発生後に行われ、追跡期間中央値は12.5ヵ月だった。・対象:転移または局所再発した切除不能のHR+/HER2-乳がんで、転移後に内分泌療法またはタキサンまたはCDK4/6阻害薬による治療歴が1ライン以上、化学療法による治療歴が2~4ラインの成人患者 543例・試験群:SG(1、8日目に10mg/kg、21日ごと)を病勢進行または許容できない毒性が認められるまで静注 272例・対照群:TPC(カペシタビン、エリブリン、ビノレルビン、ゲムシタビンから選択)271例・評価項目:[主要評価項目]盲検下独立中央評価委員会によるPFS[副次評価項目]OS、客観的奏効率(ORR)、奏効持続期間(DOR)、クリニカルベネフィット率(CBR)、患者報告アウトカム(PRO)、安全性 主な結果は以下のとおり。・OS中央値は、SG群(14.4ヵ月)がTPC群(11.2ヵ月)より3.2ヵ月長く、死亡リスクが21%低かった(HR:0.79、95%CI:0.65~0.96、p=0.020)。・TPCに対するSGのベネフィットは、化学療法3ライン以上の症例、内臓転移症例を含む事前に規定されたサブグループで同様だった。・SG群はTPC群と比較して、ORR(オッズ比:1.63、95%CI:1.03~2.56、p=0.035)、CBR(オッズ比:1.80、95%CI:1.23~2.63、p=0.003)が有意に高かった。・DOR中央値は、SG群(8.1ヵ月)がTPC群(5.6ヵ月)より延長した。・SG群では健康関連QOLが有意に良好で、疲労およびglobal health status/QOLスケールの悪化までの時間(TTD)をTPCより有意に延長した。・本解析におけるSGの安全性プロファイルは、これまでの試験と同様であり、新たな安全性シグナルは確認されなかった。 Rugo氏は、「本試験におけるTPCに対するSGの統計学的に有意で臨床的に意味のあるベネフィットは、前治療歴のあるHR+/HER2-転移乳がん患者に対する新たな治療としてSGを支持する」とした。

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乳がん周術期に新しい選択肢/リムパーザ錠適応追加

HER2陰性乳がんの周術期に新しい選択肢 2022年9月5日、アストラゼネカは、都内にて「早期乳がん治療におけるリムパーザの役割」をテーマにメディアセミナーを開催した。BRCA遺伝子変異陽性がんで使用されるリムパーザ リムパーザはBRCA1および/またはBRCA2遺伝子の変異などの相同組換え修復(HRR)の欠損を有する腫瘍細胞において、PARPを阻害し、DNAの修復を阻止することでがん細胞死を誘導する。 日本では2018年1月に「白金系抗悪性腫瘍剤感受性の再発卵巣癌における維持療法」を効能・効果として承認され、同年7月に「がん化学療法歴のあるBRCA遺伝子変異陽性かつHER2陰性の手術不能又は再発乳癌」を適応として乳がん治療での使用が承認された。そのほかにもBRCA遺伝子変異陽性の卵巣がんにおける初回化学療法後の維持療法などさまざまながんで使用されている薬剤である。 そして、2022年8月24日、リムパーザは「BRCA遺伝子変異陽性かつHER2陰性で再発高リスクの乳がんにおける術後薬物療法」で追加承認を取得した。早期乳がん患者を対象としたOlympiA試験 セミナーでは国際共同第III相試験、OlympiA試験について、愛知県がんセンター副院長・乳腺科部長、岩田 広治氏が詳しく説明した。 OlympiA試験は国際共同第III相試験であり、日本人140名を含む生殖細胞系列BRCA1/2遺伝子変異陽性HER2陰性の早期乳がん患者1,836名が対象。 主な選択基準はStageII~IIIのHER2陰性(HR+ or トリプルネガティブ)でありBRCA1/2遺伝子変異陽性、そして標準的な化学療法を受けた患者であり、リムパーザ投与群とプラセボ投与群に1:1で割り付けられた。 主要評価項目である無浸潤疾患生存期間(iDFS)は12ヵ月、24ヵ月、36ヵ月時点でそれぞれリムパーザ投与群で93.3%、89.2%、85.9%、プラセボ投与群で88.4%、81.5%、77.1%であった。観察期間中央値はリムパーザ投与群で2.3年、プラセボ投与群で2.5年であった。ハザード比は0.58(95%信頼区間[CI]:0.490~0.816)、p=0.0000073であり、リムパーザ投与群でIDFSの有意な延長が検証された。 安全性に関して、リムパーザ投与群で10%以上の頻度で認められた有害事象は悪心、疲労、貧血、嘔吐、頭痛などであった。特徴的な有害事象としては貧血が挙げられる。リムパーザ投与群で貧血は全Gradeで23.6%、≧Grade3で8.7%認められた。周術期に使用しても貧血には注意する必要がある。また、嘔吐などの消化器毒性にも同じく注意が必要である、と岩田氏は指摘した。周術期の新たな選択肢 リムパーザの効能追加により、乳がん周術期の治療選択はどう変わっていくのか。「これまではエストロゲン受容体、プロゲステロン受容体、HER2発現などを見て治療を組み立てていたが、今後はBRCA遺伝子変異の有無を確認する必要が出てきた。初回の乳がん診断確定時、つまり周術期のBRCA検査の意義は遺伝性乳がん卵巣がん症候群の確定診断のみであった。しかし、リムパーザの効能追加によってコンパニオン診断としての意義が加わることになる。今後はBRCA検査を実施し、陽性であれば術式選択と同時にリスク低減手術を考慮する。そして、再発高リスクならリムパーザを投与する、という流れで乳がん治療を組み立てていく必要があると考えている」と岩田氏は強く訴え、セミナーを終了した。

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アベマシクリブ+アロマターゼ阻害薬、進行乳がんのOS改善傾向(MONARCH 3)/ESMO2022

 HR+/HER2-進行乳がん1次治療での非ステロイド性アロマターゼ阻害薬(NSAI)へのアベマシクリブの上乗せ効果を検討した国際共同第III相MONARCH 3試験では、主要評価項目の無増悪生存期間(PFS)はアベマシクリブ併用群が有意に延長したことがすでに報告されている。今回、副次評価項目の全生存期間(OS)の第2回中間解析を行った結果、アベマシクリブ上乗せによりITT集団、内臓転移患者ともにOS中央値が12ヵ月以上延長したことが報告された。ただし、どちらも事前に規定された統計学的有意性は示されなかった。米国・Mayo ClinicのMatthew P. Goetz氏が、欧州臨床腫瘍学会(ESMO Congress 2022)で発表した。・対象:転移/局所再発のHR+HER2-乳がんの閉経後女性で、転移/局所再発後に全身療法を受けたことのない患者 493例・試験群(アベマシクリブ群):アベマシクリブ150mg1日2回+NSAI(アナスロトゾール1mgまたはレトロゾール2.5mg)1日1回を病勢進行するまで投与 328例・対照群(プラセボ群):プラセボ+NSAI 165例・評価項目:[主要評価項目]主治医判定によるPFS[副次評価項目]OS、奏効率、安全性 本試験の第2回中間解析は、ITT集団において約252イベント(最終OS解析予定イベントの80%)の発生後に実施することが事前に規定されていた。なお、OSの有意性の評価には、層別log-rank検定および事前に定義したエラー消費手法を用いている。 主な結果は以下のとおり。・第2回中間解析(データカットオフ:2021年7月2日、追跡期間中央値:5.8年)において、ITT集団のOS中央値はアベマシクリブ群67.1ヵ月、プラセボ群54.5ヵ月(HR:0.754、95%CI:0.584~0.974)と12.6ヵ月の差が認められたが、α消費手法による有意差を示す閾値に到達しなかった(p=0.0301)。また、OS改善傾向はどのサブグループでも同様にみられた。なお、病勢進行後にCKD4/6阻害薬を投与した患者の割合はアベマシクリブ群10.1%、プラセボ群31.5%だった。・内臓転移患者のOS中央値はアベマシクリブ群65.1ヵ月、プラセボ群48.8ヵ月(HR:0.708、95%CI:0.508~0.985)と16.3ヵ月の差が認められたが、有意差は示されなかった(p=0.0392)。・ITT集団のPFS中央値はアベマシクリブ群29.0ヵ月、プラセボ群14.8ヵ月(HR:0.518、95%CI:0.415~0.648、p<0.0001)であった。・ITT集団の無化学療法生存期間(CFS)中央値は、アベマシクリブ群46.7ヵ月、プラセボ群30.6ヵ月(HR:0.636、95%CI:0.505~0.801)であった。・アベマシクリブの長期投与による新たな安全性シグナルはみられなかった。 本試験はフォローアップ継続中で、最終OS解析は2023年に予定されている。

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