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トランスサイレチン型心アミロイドーシス〔ATTR-CM:transthyretin amyloidosis cardiomyopathy〕

1 疾患概要■ 概念・定義アミロイドーシスは、βシート構造を豊富にもつ蛋白質がさまざまな病因により前駆蛋白となり、立体構造を変化させながら、重合、凝集を来すことによりアミロイド線維を形成し、細胞外間質に沈着することで臓器障害を生じる疾患の総称である。アミロイド前駆蛋白の種類により、障害される臓器が異なる。心アミロイドーシスとして、臨床的な心臓の障害を呈するのは、トランスサイレチン(transthyretin:TTR)を前駆蛋白とするATTRアミロイドーシスと免疫グロブリン軽鎖(L鎖)を前駆蛋白とするALアミロイドーシスが主な病型である(図1)。さらにATTRアミロイドーシスは、TTR遺伝子変異を認めない野生型ATTRアミロイドーシス(ATTRwt)とTTR遺伝子変異を認める遺伝性TTRアミロイドーシス(ATTRv)に分けられる。図1 心アミロイドーシスの病型分類画像を拡大する(日本循環器学会.2020年版 心アミロイドーシス診療ガイドライン.https://www.j-circ.or.jp/guideline/guideline-series/(2021年2月閲覧).2020.p.11より引用)■ 疫学本症は従来まれな疾患と考えられてきた。しかし、後で述べる検査法の進歩により、とくにATTRwt心アミロイドーシスは、高齢者の心不全(高齢者心不全の数%の可能性)や大動脈弁狭窄症にある一定数存在することが明らかになり、日常臨床で比較的遭遇する疾患であると考えられるようになった。性差があり、高齢男性に多い。ATTRvアミロイドーシスの患者は、わが国は、ポルトガル、スウェーデンに次いで世界で3番目に多いと考えられている。数百人の患者が報告されているが、診断されていない患者も相当数いると考えられる。■ 病因TTRはおもに肝臓、一部脳の脈絡叢や網膜色素上皮細胞で産生される127個のアミノ酸からなる蛋白質であり、甲状腺ホルモンであるサイロキシンやレチノール結合蛋白を運搬する役割を担っている。TTRは、血中では四量体を形成することで安定して存在するが、何らかの原因で四量体が不安定となると解離し、単量体を形成しアミロイド線維の基質となる。TTRが不安定となる原因としては、TTR遺伝子変異が挙げられる。TTR遺伝子における140種類以上の変異型が報告されている。わが国では、30番目の アミノ酸であるバリンがメチオニンに変異するVal30Met変異型がもっとも高頻度に認められる。高齢者に多いTTR遺伝子変異を認めないATTRwtアミロイドーシスでは、単量体への解離がアミロイド線維形成に重要と考えられているものの、具体的な病態分子メカニズムについては不明な点が多い。■ 症状心アミロイドーシスの特異的な症状はなく、心不全による症状や不整脈や伝導障害による脳虚血症状などを認める。ATTRwtアミロイドーシスの主な障害臓器は、心臓に加え、腱や末梢神経が多い。手根管症候群や脊柱管狭窄症が心症状に数年先行して出現することが多く、診断の一助となる。ATTRvアミロイドーシスは、全身臓器障害による多彩な症候を認める(図2)。図2 ATTRv アミロイドーシスの多様な全身症状(日本循環器学会.2020年版 心アミロイドーシス診療ガイドライン.https://www.j-circ.or.jp/guideline/guideline-series/(2021年2月閲覧).2020.p.23より引用改変)■ 予後ATTRwtアミロイドーシスは、確定診断からの生存期間の中央値は約3年半、ATTRvアミロイドーシスでは、未治療の場合は発症からの平均余命は10年程度と報告されている。2 診断 (検査・鑑別診断を含む)心アミロイドーシスの診断において最も重要なことは、原因不明の心不全や心肥大などにおいて本症を疑うことである(図3)。図3 心アミロイドーシス診療アルゴリズム画像を拡大する(日本循環器学会.2020年版 心アミロイドーシス診療ガイドライン.https://www.j-circ.or.jp/guideline/guideline-series/(2021年2月閲覧).2020.p.62より引用)1)スクリニーング検査(1)心電図検査心房細動や伝導障害を認めることが多い。従来心アミロイドーシスの特徴といわれた低電位と偽心筋梗塞パターンの出現頻度は、ATTR心アミロイドーシスでは高くはないので注意が必要である。(2)心エコー左室壁の肥厚、心房中隔の肥厚、心房の拡大、左室心筋のgranular sparklingを認める。ドプラー検査では左室の拡張障害を認める。病期が進行すると左室長軸方向のストレイン値は心室基部から低下していくため、apical sparing(心基部の長軸方向ストレインが低下し、相対的に心尖部では保たれている所見)を認める。(3)採血検査高感度心筋トロポニンの持続高値が診断に有用である。重症度に応じて、B型ナトリウム利尿ペプチド(BNP)およびB型Na利尿ペプチド前駆体N端フラグメント(NT-proBNP)が上昇する。(4)心臓MRICine MRIによる肥大の確認と遅延造影 MRIにおける左室内膜下優位のびまん性(late gadolinium enhancement:LGE)が典型的な所見である。T1 mapping法による心筋性状の評価が、ほかの肥大心との鑑別に有用である(心アミロイドーシスではNative T1値高値、細胞外容積分画(ECV)高値)。2)二次検査(1)骨シンチグラフィ(99mTcピロリン酸シンチグラフィと99mTc-HMDPシンチグラフィ)99mTcピロリン酸シンチグラフィおよび99mTc-HMDPシンチグラフィが、ATTR心アミロイドーシスで高率に陽性になり、診断に有用である(図4)。実際には判断が困難な例も存在するが、高い感度、特異度で非侵襲的に本症を疑うことが可能である。図4 99mTc ピロリン酸シンチグラフィ画像を拡大する(2)M蛋白ALアミロイドーシスの除外診断のため、血液あるいは尿中のM 蛋白の有無を確認することも重要である。3)生検および病理診断によるアミロイドタイピング諸外国では、骨シンチの高い診断能のため、生検なしでATTR心アミロイドーシスの診断が可能とされているが、わが国では、現時点(2024年12月)で確定診断のためには組織へのアミロイド沈着の証明と病理学的なタイピングが必要である。心筋生検の陽性率は100%とされるが、その侵襲性の高さより、まずは腹壁脂肪吸引、皮膚生検、口唇唾液腺生検、胃・十二指腸などからの生検が行われるが、いずれの部位もアミロイドの検出は100%ではなく、1つの部位からの生検が陰性の場合は、他部位からの生検や繰り返しの生検、心筋生検を検討すべきである。とくにスクリーニングとして行われることの多い腹壁脂肪吸引は、ATTRwtアミロイドーシスでは陽性率が低いので注意が必要である。病理検査でアミロイドの沈着が証明された場合、各種抗体を用いた免疫染色によるタイピングが必須である。免疫染色でアミロイドタイピングの鑑別ができないときには、質量解析が有用である。4)遺伝子診断アミロイドタイピングでATTRアミロイドーシスと診断された場合、十分な配慮のもと遺伝子診断を行い、ATTRvかATTRwtかの確定診断を行う。5)診断基準アミロイドーシスに関する調査研究班が各学会のコンセンサスのもと作成したATTRwtおよびATTRvアミロイドーシスの診断基準を示す(図5)。図5 ATTRvおよびATTRwtアミロイドーシスの診断基準画像を拡大する(日本循環器学会.2020年版 心アミロイドーシス診療ガイドライン.https://www.j-circ.or.jp/guideline/guideline-series/(2021年2月閲覧).2020.p.18-20.より引用)3 治療1)アミロイドーシスに対する一般的治療(1)心不全基本は利尿剤を中心とした治療である。左室駆出率の低下した心不全(HFrEF)で生命予後改善効果のあるβ遮断薬やACE阻害薬/アンギオテンシン受容体拮抗薬の効果は明らかでは無い。(2)不整脈心アミロイドーシスに伴う心房細動では塞栓症を来しやすく、禁忌でない限りCHADS2スコアに関係なく抗凝固療法を行うべきである。心房細動の心拍数管理に関して、ジギタリスは副作用を来しやすいため禁忌である。ベラパミルも変時作用や変陰力作用が強く出やすく、左室収縮性の低下した症例では禁忌である。完全房室ブロックなどの徐脈性不整脈を認めれば、恒久的ペースメーカーを植え込む。2)TTRアミロイドーシスに対する疾患修飾治療(図6)(1)TTR産生の抑制ATTRvアミロイドーシスに対して、異常なTTRの産生を抑える目的で、肝移植による治療が行われてきた。一方、TTRのほとんどが肝臓で産生されるため、遺伝子サイレンシングの手法を用いた遺伝子治療の良い標的と考えられる。ブトリシラン(商品名:オンパットロ)は、TTRメッセンジャーRNAを標的とし、遺伝子発現を抑制し、TTRの産生を阻害する低分子干渉RNA製剤である。現時点(2024年12月)では、トランスサイレチン型家族性アミロイドポリニューロパチーに対し使用可能である。(2)TTR 四量体の安定化TTRを安定化させ、単量体になることを防ぐことで、TTRアミロイドーシスの進行が抑制されることが期待される。タファミジス(同:ビンマック)およびタファミジスメグルミン(同:ビンダケル)は、TTRのサイロキシン結合部位に結合し、四量体を安定化させる。ATTR-ACT試験において、ATTRwtおよびATTRvによる心アミロイドーシス患者に対して、全死因死亡と心血管事象に関連する入院頻度を減少し、トランスサイレチン型心アミロイドーシス(野生型および変異型)に対して適応拡大が行われた。心アミロイドーシス患者に投与する際の適正投与のための患者要件(資料)、施設要件、医師要件に関するステートメントが日本循環器学会より出されている。図6 ATTRアミロイドーシスに対する治療の進歩画像を拡大する図7 トランスサイレチン型心アミロイドーシス症例に対するビンダケル適正投与のための患者要件(1)野生型の場合ア心不全による入院歴または利尿薬の投与を含む治療を必要とする心不全症状を有することイ心エコーによる拡張末期の心室中隔厚が12mmを超えることウ組織生検によるアミロイド沈着が認められることエ免疫組織染色によりTTR前駆蛋白質が同定されること(2)変異型の場合ア心筋症症状および心筋症と関連するTTR遺伝子変異を有することイ心不全による入院歴または利尿薬の投与を含む治療を必要とする心不全症状を有することウ心エコーによる拡張末期に心室中隔厚が12mmを超えることエ組織生検によるアミロイド沈着が認められること4 今後の展望ATTR心アミロイドーシスに対するvutrisiran、ATTR心アミロイドーシスに対するTTR四量体安定化剤acoramidisの第III相試験の結果が報告され、今後の臨床現場での使用が期待されている。さらにATTRアミロイドを標的としたモノクロナール抗体などの試験が現在進行中である。5 主たる診療科循環器内科、脳神経内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報日本アミロイドーシス学会(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)難病情報センター 全身性アミロイドーシス(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)日本循環器学会 トランスサイレチン型心アミロイドーシス症例に対するビンダゲル適正投与のための施設要件、医師要件に関するステーテメント(医療従事者向けのまとまった情報)1)安東由喜雄 監修. 最新アミロイドーシスのすべてー診療ガイドライン2017とQ&A―. 医歯薬出版:2017.2)2020年版 心アミロイドーシス診療ガイドライン(2024年11月25日閲覧)3)佐野元昭 編. Heart View 11月号.Medical View:2020. 4)Ruberg FL, et al. J Am Coll Cardiol. 2019;73:2872-2891.5)Kittleson M, et al. Circulation. 2020;142:e7–e22.公開履歴初回2021年4月5日更新2024年12月26日

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チューインガムは心不全の口渇感を減らす【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第181回

チューインガムは心不全の口渇感を減らすいらすとやより使用前回から引き続き、チューインガムの論文です。まさか心不全にも有効とは、もはや万能のお菓子ですやん!チューインガム、マストバイ!Allida SM, et al.A Randomised Controlled Trial of Chewing Gum to Relieve Thirst in Chronic Heart Failure (RELIEVE-CHF)Heart Lung Circ . 2020 Oct 5;S1443-9506(20)30480-7.慢性心不全の患者さんでは、口渇感に悩まされる人が結構います。ガブガブ飲んでしまうと心不全が悪化してしまうこともあって、さらなる悪循環に陥ります。そんなときに!チューインガム!いや、本当かな……。疑念を抱きつつ、論文を読んでみることにしました。これは経口ループ利尿薬を内服している慢性心不全の患者さん71人を集めた、前向きランダム化比較試験です。おおお、なんかチューインガムが素晴らしいものに見えてくる。ランダム化から短期間(平均24時間~7日)と長期間(ランダム化7日~28日目)の口渇感を比較しました。結果、チューインガム群の患者さんは、4日目、14日目のいずれの時期においても、有意に口渇感が減ることがわかりました(VAS:p=0.04、p=0.02)。画像を拡大する唾液を分泌させて、うまく身体をごまかしているのかどうかは定かではありませんが、口渇感の解消のためにたくさん水を飲まれるより、はるかにマシです。ただ、ガムにハマりすぎて激ヤセしたチューイングダイエット事例も報告されているので1)、過ぎたるは及ばざるがごとし、ほどほどに噛んでもらうくらいでよいと思います。1)Bauditz J, et al. Severe weight loss caused by chewing gum. BMJ. 2008 Jan 12;336(7635):96-7.

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COVID-19入院患者、ACEI/ARB継続は転帰に影響しない/JAMA

 入院前にアンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACEI)またはアンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)の投与を受けていた軽度~中等度の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の入院患者では、これらの薬剤を中止した患者と継続した患者とで、30日後の平均生存・退院日数に有意な差はないことが、米国・デューク大学臨床研究所のRenato D. Lopes氏らが実施した「BRACE CORONA試験」で示された。研究の詳細は、JAMA誌2021年1月19日号で報告された。アンジオテンシン変換酵素2(ACE2)は、COVID-19の原因ウイルスである重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)の機能的な受容体である。また、RAAS阻害薬(ACEI、ARB)は、ACE2をアップレギュレートすることが、前臨床試験で確認されている。そのためCOVID-19患者におけるACEI、ARBの安全性に対する懸念が高まっているが、これらの薬剤が軽度~中等度のCOVID-19入院患者の臨床転帰に及ぼす影響(改善、中間的、悪化)は知られていないという。ブラジルの29施設が参加した無作為化試験 本研究は、軽度~中等度のCOVID-19入院患者において、ACEIまたはARBの中止と継続で、30日までの生存・退院日数に違いがあるかを検証する無作為化試験であり、2020年4月9日~6月26日の期間にブラジルの29の施設で患者登録が行われた。最終フォローアップ日は2020年7月26日であった。 対象は、年齢18歳以上、軽度~中等度のCOVID-19と診断され、入院前にACEIまたはARBの投与を受けていた入院患者であった。被験者は、ACEI/ARBを中止する群、またはこれを継続する群に、1対1の割合で無作為に割り付けられた。 主要アウトカムは、無作為化から30日までの期間における生存・退院日数(入院日数と、死亡からフォローアップ終了までの日数の合計を、30日から差し引いた日数)とした。副次アウトカムには、全死亡、心血管死、COVID-19の進行などが含まれた。全死亡、心血管死、COVID-19の進行にも差はない 659例が登録され、ACEI/ARB中止群に334例、継続群には325例が割り付けられた。100%が試験を完了した。全体の年齢中央値は55.1歳(IQR:46.1~65.0)、このうち14.7%が70歳以上で、40.4%が女性であり、52.2%が肥満、100%が高血圧、1.4%が心不全であった。無作為化前に中央値で5年間(IQR:3~8)、16.7%がACEI、83.3%がARBの投与を受けていた。β遮断薬は14.6%、利尿薬は31.3%、カルシウム拮抗薬は18.4%で投与されていた。 入院時に最も頻度が高かった症状は、咳、発熱、息切れであった。発症から入院までの期間中央値は6日(IQR:4~9)で、27.2%の患者が酸素飽和度(室内気)94%未満であった。入院時のCOVID-19の臨床的重症度は、57.1%が軽度、42.9%は中等度だった。 30日までの生存・退院日数の平均値は、中止群が21.9(SD 8)日、継続群は22.9(7.1)日であり、平均値の比は0.95(95%信頼区間[CI]:0.90~1.01)と、両群間に有意な差は認められなかった(p=0.09)。また、30日時の生存・退院の割合は、中止群91.9%、継続群94.8%であり、生存・退院日数が0日の割合は、それぞれ7.5%および4.6%だった。 全死亡(中止群2.7% vs.継続群2.8%、オッズ比[OR]:0.97、95%CI:0.38~2.52)、心血管死(0.6% vs.0.3%、1.95、0.19~42.12)、COVID-19の進行(38.3% vs.32.3%、1.30、0.95~1.80)についても、両群間に有意な差はみられなかった。 最も頻度が高い有害事象は、侵襲的人工呼吸器を要する呼吸不全(中止群9.6% vs.継続群7.7%)、昇圧薬を要するショック(8.4% vs.7.1%)、急性心筋梗塞(7.5% vs.4.6%)、心不全の新規発症または悪化(4.2% vs.4.9%)、血液透析を要する急性腎不全(3.3% vs.2.8%)であった。 著者は、「これらの知見は、軽度~中等度のCOVID-19入院患者では、ACEI/ARBの適応がある場合に、これらの薬剤をルーチンに中止するアプローチを支持しない」としている。

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「時間軸を考えた急性心不全治療」でも病態の把握は必要である(解説:原田 和昌 氏)-1343

 わが国の代表的な登録研究である、東京都CCUネットワーク登録において急性心不全患者(平均77歳)の院内死亡率は約8%と依然として高く、いくつかの心不全登録研究における30日の再入院率も5~6%で近年まったく改善していない。ガイドラインでは、中用量の利尿薬、早期の硝酸薬開始、必要なら非侵襲的陽圧呼吸(NPPV)、増悪因子(ACS、AF、感染など)の探索と治療を推奨している。 ELISABETH試験は、Mebazaa氏がフランスの15施設にて行った、クラスター(施設などの一つのまとまり)レベルで介入時期をランダム化し、順番に観察期から介入期に移行(介入の導入時期をずらして順次適用)し、介入の優越性を検定する非盲検のデザインの試験である。救急入院した高齢者急性心不全患者の予後を、(投与時間も規定されている)推奨の治療セットが改善するかを調べたが、事前規定の治療セット群と、担当医に治療を任せた群とで、生存日数、30日の再入院率に差はなかった。 そもそも急性心不全の治療のエビデンスは多くない。3CPO試験ではNPPVにより、急性心原性肺水腫で入院した患者の症状がより迅速に解消されたが、標準的な酸素療法と比較して生存に影響はなかった。しかし、わが国のADHERE登録によると血管作動薬(強心薬あるいは血管拡張薬)による治療が遅れるほど院内死亡率が有意に高くなり、また、末永氏らの研究によると利尿薬治療を1時間以内に行うことで院内死亡率が低下したことから、「時間軸を考えた急性心不全治療」(発症から早期の治療が予後を改善する)という概念が作られた。 急性心不全の初期対応の目的は、できるだけ短時間に診断を行い、早期に治療介入することで、循環動態と呼吸状態の安定化を図ることにある。急性心不全の病態生理は3つに大別される。1)急性肺水腫:神経体液因子の亢進が中心で心拍出量の低下が少ない場合、血圧が上昇し、左室の後負荷上昇により心拍出量が低下する。治療はNPPVによる速やかな酸素化の改善と血管拡張薬(硝酸薬)による後負荷の低下である。2)体液貯留:LVEDPが上昇し左室が拡大することで、心拍出量を保とうとする。利尿薬(フロセミド)の静注が第1選択である。尿量が増加しないなら、利尿薬の増量か他の利尿薬を併用する。3)低心拍出・低灌流:非常に高いLVEDPでなければ心拍出量が維持できない状態、または体液量が不足した状態で、末梢循環不全の指標の乳酸値が上昇する。補液、強心薬、ないしは機械的循環補助が必要となる。 急性心不全の治療に関するわが国のガイドラインを概説する。まず、患者の救命と生命徴候の安定化(10分以内):CS3(<100mmHg)に相当する低心拍出・低灌流、ショックでは、速やかに強心薬や機械的循環補助の必要性を判断して、施行する。次に、血行動態の改善と酸素化の維持(次の60分以内):呼吸不全があり、必要なら酸素吸入、NPPV、気管内挿管を行う。高齢者ではNasal High Flowも選択肢の一つである。そして、呼吸困難などのうっ血症状・徴候の改善:大まかにCS1(>140mmHg)は急性肺水腫、CS2(100~140mmHg)は体液貯留に相当するため、CS1では血管拡張薬(硝酸薬)、CS2では利尿薬静注が有効であることが多い。 引き続いて速やかに心エコー検査を施行して病態診断を行う。臓器障害の進展予防:CS1に血管拡張薬、CS2に利尿薬の投与が必ずしも適切でないことがある。CS1でも約半数がEFの低下した体液貯留であることから、少量の利尿薬が有効なことが多いが、残りの半分のHFpEFに対する利尿薬の大量投与はWRF(worsening renal function)を来して予後を悪化することがある。また、血圧が低め(<140mmHg)のCS2に血管拡張薬を使用すると院内死亡が高くなる(白石氏ら、東京都CCUネットワーク登録研究)。初期対応で開始した治療については、心不全症状および体重変化などにより病態の変化を再評価し、必要に応じて速やかに修正、最適化する。 Mebazaa氏は、心エコー所見や病態に関係なく、入院1時間以内にフロセミド40mg(または日常使用量)静注と硝酸薬の静注(血圧100mmHgに至るまで用量調節)を開始するという治療セットを用いて、「時間軸を考えた急性心不全治療」が予後を改善するということを証明しようとしたが、うまくいかなかった。この時代、AIにより心エコー所見や病態に基づく個別化治療のアルゴリズムを作り、それを検証するほうがむしろ現実的かもしれない。

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SGLT2阻害薬の適正使用に関する Recommendationを改訂/日本糖尿病学会

 日本糖尿病学会(理事長:植木 浩二郎)は、2014年に策定された「SGLT2阻害薬の適正使用に関する Recommendation」を改訂し、2020年12月25日に第6版を公表した。 2017年9月以降より発売されているSGLT2阻害薬とDPP-4阻害薬の配合薬の留意点、成人1型糖尿病患者におけるインスリン製剤との併用療法でのケトアシドーシスのリスクや注意点についてなどについて記載されている。学会では、これらの情報がさらに広く共有されることで、副作用や有害事象が可能な限り防止され、適正使用が推進されるように注意を促している。SGLT2阻害薬の適正使用に関する8つの Recommendation1)1型糖尿病患者の使用には一定のリスクが伴うことを十分に認識すべきであり、使用する場合は、十分に臨床経験を積んだ専門医の指導のもと、患者自身が適切かつ積極的にインスリン治療に取り組んでおり、それでも血糖コントロールが不十分な場合にのみ使用を検討すべきである。2)インスリンやSU薬などインスリン分泌促進薬と併用する場合には、低血糖に十分留意して、それらの用量を減じる(方法については下記参照)。患者にも低血糖に関する教育を十分行うこと。3)75歳以上の高齢者あるいは65歳から74歳で老年症候群(サルコペニア、認知機能低下、ADL低下など)のある場合には慎重に投与する。4)脱水防止について患者への説明も含めて十分に対策を講じること。利尿薬の併用の場合には特に脱水に注意する。5)発熱・下痢・嘔吐などがあるときないしは食思不振で食事が十分摂れないような場合(シックデイ)には必ず休薬する。また、手術が予定されている場合には、術前3日前から休薬し、食事が十分摂取できるようになってから再開する。6)全身倦怠・悪心嘔吐・腹痛などを伴う場合には、血糖値が正常に近くてもケトアシドーシス(euglycemic ketoacidosis:正常血糖ケトアシドーシス)の可能性があるので、血中ケトン体(即時にできない場合は尿ケトン体)を確認するとともに専門医にコンサルテーションすること。特に1型糖尿病患者では、インスリンポンプ使用者やインスリンの中止や過度の減量によりケトアシドーシスが増加していることに留意すべきである。7)本剤投与後、薬疹を疑わせる紅斑などの皮膚症状が認められた場合には速やかに投与を中止し、皮膚科にコンサルテーションすること。また、外陰部と会陰部の壊死性筋膜炎(フルニエ壊疽)を疑わせる症状にも注意を払うこと。さらに、必ず副作用報告を行うこと。8)尿路感染・性器感染については、適宜問診・検査を行って、発見に努めること。問診では質問紙の活用も推奨される。発見時には、泌尿器科、婦人科にコンサルテーションすること。そのほかの記載事項・副作用の事例と対策・重症低血糖・ケトアシドーシス・脱水・脳梗塞等・皮膚症状・尿路・性器感染症

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75歳以上急性心不全、救急外来でのケアバンドルは生存退院を改善せず/JAMA

 急性心不全を呈した75歳以上の高齢患者に対する、救急外来(ED)での早期硝酸薬急速静注を含むガイドライン推奨ケアバンドルの実施は通常ケアと比較して、30日時点で評価した生存退院日数の改善に結び付かなかったことが示された。フランス・ソルボンヌ大学のYonathan Freund氏らが、503例を対象に行った無作為化比較試験の結果で、JAMA誌2020年11月17日号で発表した。EDでの急性心不全患者に対する早期治療について、臨床ガイドラインの推奨は中等度のエビデンスのみに基づくものであり、ガイドラインの順守度は低いものとなっており、ガイドライン推奨ケア順守を改善する介入が、30日時点の退院および生存を改善するかを検討した。ケアバンドルでは、誘発因子の管理も実施 研究グループは、2018年12月~2019年9月にかけて、フランス15ヵ所のEDで、75歳以上の急性心不全患者を対象に、ステップウェッジ(stepped-wedge)法でのクラスター無作為化試験開始し、30日間追跡した(最終フォローアップは2019年10月)。 全EDは4週間のコントロール期間後、2週間の介入期間ごとに介入ケアと対照ケアを切り替えて行うよう無作為に割り付けられた。 介入ケアでは、臨床ガイドライン推奨のケアバンドルを実施。ケアバンドルの内容には、早期の硝酸薬急速静注、急性冠動脈症候群や感染症、心房細動などの誘発因子の管理や、中等量の利尿薬静注などが含まれた。対照ケアでは、現場の救急担当医の裁量に任せた治療が行われた。 主要エンドポイントは、30日時点の生存退院日数だった。副次エンドポイントは、30日全死因死亡、30日心血管死、予定外再入院、入院日数、腎不全などだった。30日全死因死亡、心血管死なども両群で同等 503例(年齢中央値は87歳、59%が女性)が無作為化を受け(介入群200例、対照群303例)、502例が解析に含まれた。硝酸薬急速静注を、介入群では4時間以内に中央値27.0mg(四分位範囲:9~54)投与されたのに対し、対照群は同4.0mg(2.0~6.0)だった(補正後群間差:23.8[95%信頼区間[CI]:13.5~34.1])。誘発因子に関する治療が行われた割合は、介入群が対照群よりも有意に高率だった(58.8% vs.31.9%、補正後群間差:31.1%[95%CI:14.3~47.9])。 主要エンドポイントの30日時点の生存退院日数は、両群とも中央値19日(四分位範囲:0~24)で、統計的有意差は認められなかった(補正後群間差:-1.9[95%CI:-6.6~2.8]、補正後比:0.88[0.64~1.21])。 また30日時点で、死亡(8.0% vs.9.7%、補正後群間差:4.1%[95%CI:-17.2~25.3])、心血管死(5.0% vs.7.4%、2.1%[-15.5~19.8])、予定外再入院(14.3% vs.15.7%、-1.3%[-26.3~23.7])、入院日数中央値(8日vs.8日、2.5[-0.9~5.8])、腎不全(1.0% vs.1.4%)であり、両群で有意差はなかった。

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SGLT1/2阻害薬sotagliflozin、心不全悪化の糖尿病患者に有効な可能性/NEJM

 心不全の悪化で入院した糖尿病患者において、退院前または退院直後にナトリウム・グルコース共輸送体1/2(SGLT1/2)阻害薬sotagliflozinによる治療を開始すると、心血管死と心不全による入院・緊急受診の総数が、プラセボに比べ有意に低下することが、米国・ブリガム&ウィメンズ病院のDeepak L. Bhatt氏らが行った「SOLOIST-WHF試験」で示された。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2020年11月16日号に掲載された。SGLT2阻害薬は、安定心不全患者において、心不全による入院および心血管死のリスクを低減すると報告されている。一方、非代償性心不全のエピソード後に間もなく開始したSGLT2阻害薬投与の安全性と有効性は知られていないという。32ヵ国306施設が参加したプラセボ対照無作為化第III相試験 研究グループは、心不全の悪化により入院した糖尿病患者の治療におけるsotagliflozinの安全性と有効性を評価する目的で、二重盲検プラセボ対照無作為化第III相試験を実施した(SanofiとLexicon Pharmaceuticalsの助成による)。32ヵ国306施設が参加し、2018年6月~2020年3月の期間に患者登録が行われた。 対象は、年齢18~85歳、心不全の徴候および症状がみられたため入院し、利尿薬の静脈内投与を受け、初回入院前に2型糖尿病と診断されるか、初回入院中に検査で2型糖尿病の診断を支持する証拠が得られた患者であった。被験者は、退院前または退院後3日以内にsotagliflozinもしくはプラセボの投与を受ける群に無作為に割り付けられた。sotagliflozinは、副作用を考慮しつつ400mg(1日1回)まで増量してよいとされた。 本試験は、出資者からの資金提供を失ったため早期中止となった。主要エンドポイントは、試験の検出力を高めるために、心血管死、心不全による入院・緊急受診の総数に変更された。退院前・後の投与はいずれも良好、心血管死・全死因死亡には差がない 1,222例が登録され、sotagliflozin群に608例、プラセボ群には614例が割り付けられた。全体の年齢中央値は70歳、女性が33.7%、白人が93.2%であった。79.1%が左室駆出率50%未満で、推定糸球体濾過量中央値は49.7mL/分/1.73m2、糖化ヘモグロビン中央値は7.1%、NT-proBNP中央値は1,799.7pg/mLであった。48.8%が退院前に試験薬の初回投与を受け、51.2%は退院後に受けた(中央値で退院後2日[IQR:1~3])。追跡期間中央値は9.0ヵ月。 主要エンドポイントのイベントは600件(sotagliflozin群245件、プラセボ群355件)発生した。100人年当たりの発生割合は、sotagliflozin群がプラセボ群よりも低かった(51.0件vs.76.3件/100人年、ハザード比[HR]:0.67、95%信頼区間[CI]:0.52~0.85、p<0.001)。事前に規定されたすべてのサブグループにおいて、主要エンドポイントはsotagliflozin群で良好な傾向が認められ、退院前(0.71、0.51~0.99)および退院後(0.64、0.45~0.90)の投与開始のいずれにおいても有意に優れた。 主要エンドポイントに、入院の原因となった心不全による緊急受診を重複して含めている懸念があったため、心不全による緊急受診を除外し、心血管死と心不全による入院の総数を検討したところ、主要エンドポイントと一致した結果(HR:0.68、95%CI:0.53~0.88)が得られた。 また、心不全による入院・緊急受診の発生割合(40.4% vs.63.9%、HR:0.64、95%CI:0.49~0.83、p<0.001)もsotagliflozin群で低く、主要エンドポイントの結果と一致していた。心血管死(10.6% vs.12.5%、0.84、0.58~1.22、p=0.36)および全死因死亡(13.5% vs.16.3%、0.82、0.59~1.14)には両群間に差はなかった。 変更前の主要エンドポイント(心血管死または心不全による入院)の結果(HR:0.71、95%CI:0.56~0.89)も、変更後の主要エンドポイントと一致していた。 投与中止の原因となった重篤な有害事象は、sotagliflozin群3.0%、プラセボ群2.8%で発現した。最も頻度の高い有害事象は、低血圧(sotagliflozin群6.0% vs.プラセボ群4.6%)、尿路感染症(4.8% vs.5.1%)、下痢(6.1% vs.3.4%)であった。急性腎障害はsotagliflozin群4.1%、プラセボ群4.4%で認められ、重篤な低血糖はsotagliflozin群で頻度が高かった(1.5% vs.0.3%)。 著者は、「本試験では、駆出率が保持された心不全患者におけるsotagliflozinの有益性の評価を行う予定であったが、試験の早期終了およびこのサブグループの患者数が少なかったことから、この点に関して確固たる結論を導き出すのは困難であった」としている。

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英国ガイドラインにおける年齢・人種別の降圧薬選択は適切か/BMJ

 非糖尿病高血圧症患者の降圧治療第1選択薬について、英国の臨床ガイドラインでは、カルシウム拮抗薬(CCB)は55歳以上の患者と黒人(アフリカ系、アフリカ-カリブ系など)に、アンジオテンシン変換酵素阻害薬/アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ACEI/ARB)は55歳未満の非黒人に推奨されている。しかし、英国・ロンドン大学衛生熱帯医学大学院のSarah-Jo Sinnott氏らによる同国プライマリケア患者を対象としたコホート試験の結果、非黒人患者におけるCCBの新規使用者とACEI/ARBの新規使用者における降圧の程度は、55歳未満群と55歳以上群で同等であることが示された。また、黒人患者については、CCB投与群の降圧効果がACEI/ARB投与群と比べて数値的には大きかったが、信頼区間(CI)値は両群間で重複していたことも示された。著者は、「今回の結果は、最近の英国の臨床ガイドラインに基づき選択した第1選択薬では、大幅な血圧低下には結び付かないことを示唆するものであった」とまとめている。BMJ誌2020年11月18日号掲載の報告。12、26、52週後の収縮期血圧値の変化を比較 研究グループは、英国臨床ガイドラインに基づく推奨降圧薬が、最近の日常診療における降圧に結び付いているかを調べるため観察コホート試験を行った。英国プライマリケア診療所を通じて2007年1月1日~2017年12月31日に、新規に降圧薬(CCB、ACEI/ARB、サイアザイド系利尿薬)の処方を受けた患者を対象とした。 主要アウトカムは、ベースラインから12、26、52週後の収縮期血圧値の変化で、ACEI/ARB群vs.CCB群について、年齢(55歳未満、または以上)、人種(黒人またはそれ以外)で層別化し比較した。2次解析では、CCB群vs.サイアザイド系利尿薬群の新規使用者群の比較も行った。 ネガティブなアウトカム(帯状疱疹の発症など)を用いて、残余交絡因子を検出するとともに、一連の肯定的なアウトカム(期待される薬物効果など)を用いて、試験デザインが期待される関連性を特定できるかを判定した。ACEI/ARB服用約8万8,000例、CCB約6万7,000例、利尿薬約2万2,000例を追跡 52週のフォローアップに包含された各薬剤の新規使用者は、ACEI/ARBが8万7,440例、CCBは6万7,274例、サイアザイド系利尿薬は2万2,040例だった(新規使用者1例当たりの血圧測定回数は4回[IQR:2~6])。 非糖尿病・非黒人・55歳未満の患者について、CCB群の収縮期血圧の低下幅はACEI/ARB群よりも大きく相対差で1.69mmHg(99%CI:-2.52~-0.86)だった。また、55歳以上の患者の同低下幅は0.40mmHg(-0.98~0.18)だった。 非糖尿病・非黒人について6つの年齢群別で見たサブグループ解析では、CCB群がACEI/ARB群より収縮期血圧値の減少幅が大きかったのは、75歳以上群のみだった。 非糖尿病患者において、12週後のCCB群とACEI/ARB群の収縮期血圧値の減少幅の差は、黒人群では-2.15mmHg(99%CI:-6.17~1.87)、非黒人では-0.98mmHg(-1.49~-0.47)と、いずれもCCB群でACEI/ARB群より減少幅が大きかった。

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vericiguat、HFpEF患者の身体機能制限を改善せず/JAMA

 左室駆出率の保たれた心不全(HFpEF)で、代償不全がみられる患者の治療において、新規の経口可溶性グアニル酸シクラーゼ刺激薬vericiguatはプラセボと比較して、身体機能制限を改善せず、6分間歩行距離(6MWD)の延長にも有意な差はないことが、カナダ・アルバータ大学のPaul W. Armstrong氏らが実施した「VITALITY-HFpEF試験」で示された。研究の成果は、NEJM誌2020年10月20日号に掲載された。HFpEF患者は、死亡や入院のリスクとともに、運動耐容能や生活の質(QOL)の低下のリスクが高い。vericiguatは、サイクリックグアノシン一リン酸(cGMP)を直接的に産生させ、内因性一酸化窒素に対する可溶性グアニル酸シクラーゼの感受性を回復させるという。vericiguatを2用量で評価するプラセボ対照無作為化第IIb相試験 研究グループは、HFpEF患者の治療におけるvericiguatの有効性を、カンザスシティー心筋症質問票(KCCQ)の身体機能制限スコア(PLS)を用いて評価する目的で、多施設共同二重盲検プラセボ対照無作為化第IIb相試験を行った(BayerとMerck Sharp & Dohmeの助成による)。 対象は、年齢45歳以上、慢性HFpEFと診断され、左室駆出率(LVEF)≧45%またはNYHA心機能分類クラスII/III度の症状がみられ、直近6ヵ月以内に代償不全(心不全による入院または非入院での心不全に対する利尿薬静脈内投与)が認められ、ナトリウム利尿ペプチド値が上昇し、標準治療を受けている患者であった。 被験者は、標準治療に加え、vericiguat 15mgまたは10mgを1日1回経口投与する群またはプラセボ群に、1対1対1の割合で無作為に割り付けられ、24週の治療が行われた。 主要アウトカムは、ベースラインから24週時のKCCQ PLS(0~100点、点数が高いほど身体機能が良好)の変化とした。副次アウトカムは、ベースラインから24週時の6MWDの変化であった。vericiguatは2用量とも主要・副次アウトカムを達成できず 2018年6月~2019年3月の期間に、21ヵ国167施設で789例(平均年齢72.7歳[SD 9.4]、385例(49%)が女性、平均LVEFは56%、N末端プロ脳性ナトリウム利尿ペプチド値[NT-proBNP]中央値1,403pg/mL)が登録され、vericiguat 15mg群に264例、vericiguat 10mg群に263例、プラセボ群には262例が割り付けられた。761例(96.5%)が試験を終了した。 ベースラインおよび24週時の平均KCCQ PLSは、vericiguat 15mg群がそれぞれ60.0点および68.3点、vericiguat 10mg群が57.3点および69.0点、プラセボ群は59.0点および67.1点であり、各群の最小二乗平均変化量はvericiguat 15mg群が5.5点、vericiguat 10mg群が6.4点、プラセボ群は6.9点だった。KCCQ PLSの群間の最小二乗平均差は、vericiguat 15mg群とプラセボ群が-1.5点(95%信頼区間[CI]:-5.5~2.5、p=0.47)、vericiguat 10mg群とプラセボ群は-0.5点(-4.6~3.5、p=0.80)であり、いずれも有意な差は認められなかった。 また、ベースラインおよび24週時の6MWDの平均値は、vericiguat 15mg群がそれぞれ295.0mおよび311.8m、vericiguat 10mg群が292.1mおよび318.3m、プラセボ群は295.8mおよび311.4mであり、各群の6MWDの最小二乗平均変化量はvericiguat 15mg群が5.0m、vericiguat 10mg群が8.7m、プラセボ群は10.5mだった。6MWDの群間の最小二乗平均差は、vericiguat 15mg群とプラセボ群が-5.5m(95%CI:-19.7~8.8、p=0.45)、vericiguat 10mg群とプラセボ群は-1.8m(-16.2~12.6、p=0.81)であり、いずれも有意な差はみられなかった。 有害事象は、vericiguat 15mg群が65.2%、vericiguat 10mg群が62.2%、プラセボ群は65.6%で発生した。症候性低血圧が、vericiguat 15mg群の6.4%(17例)、vericiguat 10mg群の4.2%(11例)、プラセボ群の3.4%(9例)に認められた。失神は、それぞれ1.5%(4例)、0.8%(2例)、0.4%(1例)で発現した。全死因死亡率は、3.8%(10例)、5.7%(15例)、2.7%(7例)であり、心血管死亡率は、3.0%(8例)、4.6%(12例)、1.5%(4例)だった。 著者は、「本試験の理論的根拠は、以前に行われた無作為化第II相試験であるSOCRATES-PRESERVED試験のKCCQ PLSデータの探索的な事後解析に基づくが、この試験の結果は偶然の作用によってもたらされた可能性がある」としている。

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第二アンジオテンシン変換酵素(ACE2)は、ヒトの運命をつかさどる『X因子』か?(解説:石上友章氏)-1309

 米国・ニューヨークのマクマスター大学のSukrit Narulaらは、PURE(Prospective Urban Rural Epidemiology)試験のサブ解析から、血漿ACE2濃度が心血管疾患の新規バイオマーカーになることを報告した1)。周知のようにACE2は、古典的なレニン・アンジオテンシン系の降圧系のcounterpartとされるkey enzymeである。新型コロナウイルスであるSARS-CoV-2が、標的である肺胞上皮細胞に感染する際に、細胞表面にあるACE2を受容体として、ウイルス表面のスパイクタンパクと結合することが知られている。降って湧いたようなCOVID-19のパンデミックにより、にわかに注目を浴びているACE2であるが、本研究によりますます注目を浴びることになるのではないか。 Narulaらの解析によると、血漿ACE2濃度の上昇は、全死亡、心血管死亡、非心血管死亡と関係している。さらに、心不全、心筋梗塞、脳卒中、糖尿病の罹患率の上昇にも関係しており、年齢、性別、人種といったtraditional cardiac risk factorとは独立している。ここまで幅広い疾病に独立して関与しているとすると、あたかも人の運命を決定する「X因子」そのものであるかのようで、にわかには信じることができない。COVID-19でも、人種による致命率の差を説明する「X因子」の存在がささやかれていることから、一般人にも話題性が高いだろう。COVID-19とRA系阻害薬、高血圧との関係が取り沙汰されていることで、本研究でも降圧薬使用とACE2濃度との関係について検討されている(Supplementary Figure 1)。幸か不幸か、ACE阻害薬、ARB、β遮断薬、カルシウム拮抗薬、利尿薬のいずれの使用についても、有意差はつかなかった。血漿ACE2濃度は、血漿ACE2活性と同一であるとされるが、肺胞上皮細胞での受容体量との関係は不明である1)。したがって、単純にSARS-CoV-2の感染成立との関係を論ずることはできない。 COVID-19の「X因子」については、本年Gene誌に本邦のYamamotoらが、ACE遺伝子のI(挿入)/D(欠失)多型であるとする論文を発表している2)。欧米人と日本人で、ACE遺伝子多型に人種差があることで、COVID-19の致命率の差を説明できるのではないかと報告している。欧州の集団はアジアの集団よりもACE II遺伝子型頻度が低く、一方、高い有病率とCOVID-19による死亡率を有していた。何を隠そう、ACE遺伝子多型に人種差があることを、初めて報告したのは本稿の筆者である3)。自分の25年前の研究とこのように再会することになるとは、正直不思議な思いである。

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第40回 降圧薬は就寝時服用でより心血管イベントリスクを低減の報告【論文で探る服薬指導のエビデンス】

 痒みなどのアレルギー症状や喘息発作、片頭痛発作など、特定の時間に症状が出やすい疾患では、日内リズムや薬物の時間薬理学的特徴に応じて薬剤の服用タイミングが設定されることがあります。血圧にも日内変動がありますが、こうした時間治療(chronotherapy)は高血圧に対しても有用なのでしょうか。今回は、降圧薬の服用タイミングと心血管イベントについて検討したHygia Chronotherapy Trial1)を紹介します。対象は、スペイン在住の18歳以上の白人で、普段は日中に活動して夜間は就寝し、1剤以上の降圧薬を服用している高血圧患者1万9,084例(男性1万614例、女性約8,470例、平均年齢60.5歳)です。夜勤のある人やほかの人種では結果が変わるかもしれない点には注意が必要です。降圧薬を就寝時に服用する群9,552例、起床時に服用する群9,532例に分け、中央値6.3年追跡しています。ランダム化の方法は厳密には本文からは読み取れませんが、結果的に振り分けられたベースラインでの群間の特徴は似通っているため、おおむね平等な比較とみてよいかと思います。試験期間を通して定期的な血圧測定を行い、さらに年に1回は2日間にわたり携帯型の自動血圧計を装着して、自由行動下の24時間血圧も測定しています。服用薬の内訳は、アンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)、ACE阻害薬、Ca拮抗薬、β遮断薬、利尿薬で、評価者のみを盲検化するPROBE(Prospective Randomised Open Blinded-Endpoint)法を用いて評価しています。アウトカムは、主要なCVDイベント(CVDによる死亡、心筋梗塞、冠動脈再建術、心不全、脳卒中)の発生でした。医師と患者のいずれも治療内容を知っているためバイアスは避けられませんが、実臨床に近いセッティングともいえるでしょう。判断に揺らぎが出やすいアウトカムだと評価者の判断が影響を受けかねませんが、心筋梗塞や死亡など明確な場合は問題になりづらいと思われます。結果としては、追跡調査期間中に、1,752例で主要なCVDイベントがあり、就寝時服薬群の起床時服薬群と比較してのハザード比は次のとおりでした。 心血管イベントの複合エンドポイント 0.55(95%信頼区間[CI]: 0.50-0.61) 心血管死亡 0.44(95%CI:0.34~0.56) 心筋梗塞 0.66(95%CI:0.52~0.84) 冠動脈再建術 0.60(95%CI:0.47~0.75) 心不全 0.58(95%CI:0.49~0.70) 脳卒中 0.51(95%CI:0.41~0.63)降圧薬を起床時に服用した群と比べて、就寝時に服用した群では、心血管死亡リスクは56%、心筋梗塞リスクは34%、血行再建術の施行リスクは40%、心不全リスクは42%、脳卒中リスクは49%、これらのイベントを併せた複合アウトカムの発症リスクは45%と、それぞれ有意に低いという結果でした。これらの結果は、性別や年齢、糖尿病や腎臓病といったリスク因子の有無にかかわらず一貫しています。就寝時服薬群は24時間血圧で夜間の血圧が低下本文では著者らは相対ハザード比のみを報告し、絶対リスク減少率(ARR)や必要治療数(NNT)を報告していませんでしたが、批判を受けたためコメント欄に補足する形で各アウトカムのARRとNNTを追記しています。それによると、全CVDイベントは起床時服用群で1,566、就寝時服用群で888、ARRは 7.08(95%CI:6.13~8.02)、NNTは14.13(95%CI:12.46~16.30)でした。24時間血圧の測定値からも、就寝時服用群では睡眠中の血圧値が有意に低いこともわかっており、心筋梗塞や脳卒中のリスク因子である夜間高血圧の改善が結果に寄与したのではないかと仮説が述べられています。現時点では高血圧症診療ガイドラインに服用タイミングについて明確な言及はありませんが、就寝時の処方が増えてもおかしくない結果ではないでしょうか。もちろん、夜間の血圧が昼間に比べ20%以上低くなるようなextreme-dipper型などでは注意が必要です。利尿薬を夜に服用することを避けたいという患者さんもいれば、一部のCa拮抗薬は朝食後服用となっているものもあります。そうした個別の事情を踏まえつつ、用法提案の1つの選択肢として覚えておいて損はないかと思います。1)Hermida RC, et al. Eur Heart J. 2019; ehz754.

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COVID-19重症化への分かれ道、カギを握るのは「血管」

 COVID-19を巡っては、さまざまなエビデンスが日々蓄積されつつある。国内外における論文発表も膨大な数に上るが、時の検証を待つ猶予はなく、「現段階では」と前置きしつつ、その時点における最善策をトライアンドエラーで推し進めていくしかない。日本高血圧学会が8月29日に開催したwebシンポジウム「高血圧×COVID-19白熱みらい討論」では、高血圧治療に取り組むパネリストらが最新知見を踏まえた“new normal”の治療の在り方について活発な議論を交わした。高血圧はCOVID-19重症化リスク因子か パネリストの田中 正巳氏(慶應義塾大学医学部腎臓内分泌代謝内科)は、高血圧とCOVID-19 重篤化の関係について、米・中・伊から報告された計9本の研究論文のレビュー結果を紹介した。論文は、いずれも同国におけるCOVID-19患者と年齢を一致させた一般人口の高血圧有病率を比較したもの。それによると、重症例においては軽症例と比べて高血圧の有病率が高く、死亡例でも生存例と比べて有病率が高いとの報告が多かったという。ただし、検討した論文9本(すべて観察研究)のうち7本は単変量解析の結果であり、交絡因子で調整した多変量解析でもリスクと示されたのは2本に留まり、ほか2本では高血圧による重症化リスクは多変量解析で否定されている。田中氏は、「今回のレビューについて見るかぎりでは、高血圧がCOVID-19患者の重症化リスクであることを示す明確な疫学的エビデンスはないと結論される」と述べた。 一方で、米国疾病予防管理センター(CDC)が6月25日、COVID-19感染時の重症化リスクに関するガイドラインを更新し、高血圧が重症化リスクの一因であることが明示された。これについて、パネリストの浅山 敬氏(帝京大学医学部衛生学公衆衛生学講座)は、「ガイドラインを詳細に見ると、“mixed evidence(異なる結論を示す論文が混在)”とある。つまり、改訂の根拠となった文献は、いずれも高血圧の有病率を算出したり、その粗結果を統合(メタアナリシス)したりしているが、多変量解析で明らかに有意との報告はない」と説明。その上で、「現時点では高血圧そのものが重症化リスクを高めるというエビデンスは乏しい。ただし、高血圧患者には高齢者が多く、明らかなリスク因子を有する者も多い。そうした点で、高血圧患者には十分な注意が必要」と述べた。降圧薬は感染リスクを高めるのか 高血圧治療を行う上で、降圧薬(ACE阻害薬、ARB)の使用とCOVID-19との関係が注目されている。山本 浩一氏(大阪大学医学部老年・腎臓内科学)によれば、SARS-CoV-2は気道や腸管等のACE2発現細胞を介して生体内に侵入することが明らかになっている。山本氏は、「これまでの研究では、COVID-19の病態モデルにおいてACE2活性が低下し、RA系阻害薬がそれを回復させることが報告されている。ACE2の多面的作用に注目すべき」と述べた。これに関連し、パネリストの岸 拓弥氏(国際医療福祉大学大学院医学研究科)が国外の研究結果を紹介。それによると、イタリアの臨床研究1)ではRA系阻害薬を含むその他の降圧薬(Ca拮抗薬、β遮断薬、利尿薬全般)について、性別や年齢で調整しても大きな影響は見られないという。一方、ニューヨークからの報告2)でも同様に感染・重症化リスクを増悪させていない。岸氏は、「これらのエビデンスを踏まえると、現状の後ろ向き研究ではあるが、RA系阻害薬や降圧薬の使用は問題ない」との認識を示した。COVID-19重症化の陰に「血栓」の存在 パネリストの茂木 正樹氏(愛媛大学大学院医学系研究科薬理学)は、COVID-19が心血管系に及ぼす影響について解説した。COVID-19の主な合併症として挙げられるのは、静脈血栓症、急性虚血性障害、脳梗塞、心筋障害、川崎病様症候群、サイトカイン放出症候群などである。SARS-CoV-2はサイトカインストームにより炎症細胞の過活性化を起こし、正常な細胞への攻撃、さらには間接的に血管内皮を傷害する。ウイルスが直接内皮細胞に侵入し、内皮の炎症(線溶系低下、トロンビン産生増加)、アポトーシスにより血栓が誘導されると考えられる。また、SARS-CoV-2は血小板活性を増強することも報告されている。こうした要因が重ることで血栓が誘導され、虚血性臓器障害を起こすと考えられる。 さらに、SARS-CoV-2は直接心筋へ感染し、心筋炎を誘導する可能性や、免疫反応のひとつで、初期感染の封じ込めに役立つ血栓形成(immnothoronbosis)の制御不全による血管閉塞を生じさせる可能性があるという。とくに高血圧患者においては、血管内細胞のウイルスによる障害のほかに、ベースとして内皮細胞の障害がある場合があり、さらに血栓が誘導されやすいと考えられるという。茂木氏は、「もともと高血圧があり、血管年齢が高い場合には、ただでさえ血栓が起こりやすい。そこにウイルス感染があればリスクは高まる。もちろん、高血圧だけでなく動脈硬化がどれだけ進行しているかを調べることが肝要」と述べた。 パネリストの星出 聡氏(自治医科大学循環器内科)は、COVID-19によって引き起こされる心血管疾患の間接的要因に言及。自粛による活動度の低下、受診率の低下、治療の延期などにより、持病の悪化、院外死の増加、治療の遅れにつながっていると指摘。とくに高齢者が多い地域では、感染防止に対する意識が強く、自主的に外出を控えるようになっていた。その結果、血圧のコントロールが悪くなり、LVEFの保たれた心不全(HFpEF、LVEF 50%以上と定義)が増えたほか、血圧の薬を1日でも長く延ばそうと服用頻度を1日おきに減らしたことで血圧が上がり、脳卒中になったケースも少なくなかったという。星出氏は、「今後の心血管疾患治療を考えるうえで、日本においてはCOVID-19がもたらす間接的要因にどう対処するかが非常に大きな問題」と指摘した。

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フロセミドによるK値低下 カリウム追加ではなく抜本的な解決を提案【うまくいく!処方提案プラクティス】第26回

 今回は、フロセミド服用中に血清カリウム値が低下した症例です。フロセミドなどのループ利尿薬は、作用機序由来の低カリウム血症を来しやすいため、カリウム値の補正のためにカリウム製剤が追加されることがあります。今回は、カリウム製剤の追加ではなく、原因となるループ利尿薬そのものを変更することでカリウム値の改善ができたケースを紹介します。患者情報70歳、男性(施設入居)基礎疾患高血圧症、糖尿病、慢性心不全(HFpEF)、心房細動、認知症既往歴50歳時に心筋梗塞のため左前下行枝(LAD)にステント留置副作用歴スピロノラクトンが女性化乳房による乳房痛で服用中止訪問診療の間隔2週間に1回服薬管理介護士が管理処方内容1.ベニジピン錠4mg 1錠 分1 朝食後2.カンデサルタン錠8mg 1錠 分1 朝食後3.テネリグリプチン錠20mg 1錠 分1 朝食後4.グリメピリド錠0.5mg 1錠 分1 朝食後5.フロセミド錠20mg 1錠 分1 朝食後6.エドキサバン錠30mg 1錠 分1 朝食後7.カルベジロール錠2.5mg 2錠 分2 朝夕食後8.ピタバスタチン錠2mg 1錠 分1 夕食後9.センノシド錠12mg 2錠 分1 夕食後本症例のポイントこの患者さんは、複数の基礎疾患に加え、慢性心不全を患っていました。認知症もあったため自宅での生活が困難となり、施設に入居して3年目です。2週間に1回の訪問診療で体調確認を行い、半年に1回血液検査を行っていました。訪問診療に同行した際に、医師より「筋力低下やふらつきなどの自覚症状の訴えはないが、利尿薬の影響もあってカリウム値が3.8mg/dLから3.3mg/dLに下がってきている。アスパラカリウム錠300mgを3錠 分3 毎食後で補正するのはどうか?」と相談がありました。そこで、いくつか考えるポイントがあったので整理することにしました。フロセミドの治療効果と代替薬の服薬負担を検討患者さんは、慢性心不全によるうっ血症状の浮腫を改善する目的でフロセミド錠を長期服用していました。低カリウム血症をこのままにした場合、不整脈などから心不全悪化の引き金になりかねないので、カリウムの補正は必須です。しかし、カリウム製剤は分3投与になるため患者さんの服薬負担が増すことから避けたいと考えました。また、フロセミド錠は作用時間が短く、バイオアベイラビリティ(生物学的利用能)も約50%と低いことから、利尿薬治療抵抗性などにつながると指摘されていることも気掛かりでした。そこで、同系統のループ利尿薬のトラセミド錠への変更を検討しました。トラセミド錠は、抗アルドステロン作用によるカリウム保持性があり、バイオアベイラビリティも外国人データで79~91%と高いため、長期的に服用しても安定感があると考えました。カリウム製剤を追加するのではなく、フロセミド錠をトラセミド錠に変更することでカリウムの補正にもつながります。なお、別の案としては、カリウム製剤ではなく、選択的アルドステロンブロッカーのエプレレノン錠を追加する方法もありましたが、今回は服用錠数を増やすことなく治療効果を維持することを優先して、トラセミド錠への変更を提案することにしました。処方提案と経過医師へカリウム製剤の追加投与ではなく、フロセミド錠からトラセミド錠への変更をすることでカリウムの補正が可能になることを提案しました。服用錠数や用法を変えずに対応できることが医師に評価され、2週間後に採血でモニタリングしてみようと処方提案が採用されました。フロセミド錠からトラセミド錠への変更後、下腿浮腫の増悪やうっ血症状の増悪はなく経過し、4週間後の採血結果は血清カリウム値が3.6mg/dLと補正されました。その後も電解質異常やうっ血症状の出現はなく経過しています。フロセミド錠10mg/20mg/40mg インタビューフォームトラセミド錠4mg/8mg インタビューフォーム

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ロケルマ:45年ぶりに誕生した高カリウム血症改善薬

2020年5月20日、高カリウム血症改善薬ロケルマ懸濁用散分包5gおよび10g(一般名:ジルコニウムシクロケイ酸ナトリウム水和物)(以下、ロケルマ)がアストラゼネカ株式会社より発売された。ロケルマは、同疾患改善薬としては45年ぶりの新有効成分含有薬となる。アンメットニーズが高い高カリウム血症高カリウム血症は、CKD例や心不全例に高頻度に合併し、日本の300床超の病院にて治療中の患者では、全例、CKD例、心不全例、RA系抑制薬服用例のうち、6.8、22.8、13.4、14.2%に合併していると報告されている1)。そして、血清カリウムが異常高値になると致死性不整脈や心停止を引き起こしうる臨床上重大な疾患である。しかし、現在の主な治療法(食事制限、原因薬剤の減量・休止、利尿薬、陽イオン交換樹脂)では、効果発現までの時間や忍容性の問題から期待した効果が得られないこともある。ロケルマは速やかな血清カリウム値の低下を実現ロケルマは、非ポリマー無機陽イオン交換化合物の経口剤である。消化管内でカリウムイオンを選択的に捕捉し、初回投与開始後1時間から血清カリウム値の低下を示し、水分による膨潤をしないという特徴を有している。透析例および非透析例への試験結果から効果発現、持続性、安全性に期待ロケルマは、2つの国内試験(第II/III相試験、長期投与試験)および2つの国際共同試験(HARMONIZE Global試験、DIALIZE試験)の結果に基づき承認された。HARMONIZE Global試験は、高カリウム血症患者267例(うち日本人68例)を対象に、ロケルマ10gを48時間投与し、正常カリウム値に達した患者に同剤10g、同剤5gまたはプラセボのいずれかを1日1回28日間投与した試験である。補正期において、投与24および48時間後に正常カリウム値に達した患者の割合は、それぞれ63.3%および89.1%であった。主要評価項目である22日間の血清カリウム値の最小二乗幾何平均は、同剤10g群、5g群およびプラセボ群それぞれ4.4、4.8、5.3mmol/Lであり、プラセボ群と比較していずれも有意に低値となった(いずれもp<0.001)。DIALIZE試験は、血液透析患者196例(うち日本人56例)を対象に、最大透析間隔(血液透析日以外の2日間)後の血液透析前のカリウム値を4.0~5.0mmol/Lに維持するよう、ロケルマを4週間、適宜増減投与し、その後用量を変更せずさらに4週間投与した。ロケルマ群はプラセボ群と比較して奏効例(後半4週間における最大透析間隔後の4回中3回で透析前血清カリウム値が4.0~5.0mmol/Lで、レスキュー治療を受けなかった患者の割合)が有意に高かった(41.2% vs1.0%、p<0.001)。副作用としては、両試験ともに浮腫、便秘、低カリウム血症が認められている。高カリウム血症治療の指針策定を期待させる新薬高カリウム血症に45年ぶりに新有効成分含有薬が登場し、CKD例や心不全例の高カリウム血症の是正による不整脈や突然死の抑制はもちろん、ARB/ACEIの減量や厳しい食事制限の負担軽減が可能となるケースも考えられ、今後、高カリウム血症治療が変貌することは想像に難くない。一方、45年間新有効成分含有薬が出なかったということは、それだけ治療に大きな進歩がなかったことの裏返しでもある。はたして、高カリウム血症は治療開始カリウム値、目標値の明確な指針が示されておらず、医師個人個人の判断によって治療が行われている。学会から新たに高カリウム血症の治療指針が示されるかもしれない。そのような期待を抱かせる新薬が誕生した。1)Kashihara N, et al. Kidney Int Rep. 2019;4:1248-1260.

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COVID-19の入院リスク、RAAS阻害薬 vs.他の降圧薬/Lancet

 スペイン・University Hospital Principe de AsturiasのFrancisco J de Abajo氏らは、マドリード市内の7つの病院で新型コロナウイルス感染症(COVID-19)入院患者の調査「MED-ACE2-COVID19研究」を行い、レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系(RAAS)阻害薬は他の降圧薬に比べ、致死的な患者や集中治療室(ICU)入室を含む入院を要する患者を増加させていないことを明らかにした。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2020年5月14日号に掲載された。RAAS阻害薬が、COVID-19を重症化する可能性が懸念されているが、疫学的なエビデンスは示されていなかった。重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)は、そのスパイクタンパク質の受容体としてアンジオテンシン変換酵素2(ACE2)を利用して細胞内に侵入し、複製する。RAAS阻害薬はACE2の発現を増加させるとする動物実験の報告があり、COVID-19の重症化を招く可能性が示唆されている。一方で、アンジオテンシン受容体遮断薬(ARB)は、アンジオテンシンIIによる肺損傷を抑制する可能性があるため、予防手段または治療薬としての使用を提唱する研究者もいる。また、RAAS阻害薬は、高血圧や心不全、糖尿病の腎合併症などに広く使用されており、中止すると有害な影響をもたらす可能性があるため、学会や医薬品規制当局は、確実なエビデンスが得られるまでは中止しないよう勧告している。他の降圧薬と入院リスクを比較する症例集団研究 研究グループは、COVID-19患者において、RAAS阻害薬と他の降圧薬による入院リスクを比較する目的で、薬剤疫学的な症例集団研究を実施した(スペイン・Instituto de Salud Carlos IIIの助成による)。 2020年3月1日~24日の期間に、マドリード市内の7つの病院から、PCR検査でCOVID-19と確定診断され、入院を要すると判定された18歳以上の患者を連続的に抽出し、症例群とした。対照群として、スペインの医療データベースであるBase de datos para la Investigacion Farmacoepidemiologica en Atencion Primaria(BIFAP)から、症例群と年齢、性別、地域(マドリード市)、インデックス入院の月日をマッチさせて、1例につき10例の患者を無作為に抽出した。 RAAS阻害薬には、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬、ARB、アルドステロン拮抗薬、レニン阻害薬が含まれた(単剤、他剤との併用)。他の降圧薬は、カルシウム拮抗薬、利尿薬、β遮断薬、α遮断薬であった(単剤、RAAS阻害薬以外の他剤との併用)。 症例群と対照群の電子カルテから、インデックス入院日の前月までの併存疾患と処方薬に関する情報を収集した。主要アウトカムは、COVID-19患者の入院とした。重症度にかかわらず、入院リスクに影響はない 症例群1,139例と、マッチさせた対照群1万1,390例のデータを収集した。年齢(両群とも、平均年齢69.1[SD 15.4]歳)と性別(両群とも、女性39.0%)はマッチしていたが、心血管疾患(虚血性心疾患、脳血管障害、心不全、心房細動、血栓塞栓性疾患)の既往(オッズ比[OR]:1.98、95%信頼区間[CI]:1.62~2.41)と、心血管リスク因子(高血圧、脂質異常症、糖尿病、慢性腎不全)(1.46、1.23~1.73)を有する患者の割合が、対照群に比べ症例群で有意に高かった。 RAAS阻害薬の使用者では、他の降圧薬の使用者と比較して、入院を要するCOVID-19のリスクに有意な差は認められなかった(補正後OR:0.94、95%CI:0.77~1.15)。また、ACE阻害薬(0.80、0.64~1.00)およびARB(1.10、0.88~1.37)のいずれでも、他の降圧薬に比べ、入院を要するCOVID-19の有意な増加はみられなかった。これらの薬剤は、単剤および他剤との併用でも、入院リスクに有意な影響はなかった。 性別、年齢別(<70歳vs.≧70歳)、高血圧の有無、心血管疾患の既往、心血管リスク因子に関しては、他の降圧薬と比較して、RAAS阻害薬の使用による入院を要するCOVID-19のリスクに有意な交互作用は確認されなかった。一方、RAAS阻害薬を使用している糖尿病患者では、入院を要するCOVID-19患者が少なかった(補正後OR:0.53、95%CI:0.34~0.80、交互作用検定のp=0.004)。 COVID-19の重症度を最重症(死亡、ICU入室)と、低重症(最重症以外のすべての入院患者)に分けた。いずれの重症度でも、RAAS阻害薬、ACE阻害薬、ARBは、他の降圧薬と比較して、入院を要するCOVID-19のリスクに有意な差はなかった。 これらの結果を踏まえて著者は、「RAAS阻害薬は安全であり、COVID-19の重症化を予防する目的で投与を中止すべきではない」と指摘している。

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COVID-19、主要5種の降圧薬との関連認められず/NEJM

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者が重症化するリスク、あるいはCOVID-19陽性となるリスクの増加と、降圧薬の一般的な5クラスの薬剤との関連は確認されなかった。米国・ニューヨーク大学のHarmony R. Reynolds氏らが、ニューヨーク市の大規模コホートにおいて、降圧薬の使用とCOVID-19陽性の可能性ならびにCOVID-19重症化の可能性との関連性を評価した観察研究の結果を報告した。COVID-19患者では、このウイルス受容体がアンジオテンシン変換酵素2(ACE2)であることから、レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系(RAAS)に作用する薬剤の使用に関連するリスク増加の可能性が懸念されていた。NEJM誌オンライン版2020年5月1日号掲載の報告。患者1万2,594例について、降圧薬とCOVID-19陽性および重症化との関連を解析 研究グループは、ニューヨーク大学の電子カルテを用い、2020年3月1日~4月15日にCOVID-19の検査結果が記録された全患者1万2,594例を特定し検討を行った。 ACE阻害薬、ARB、β遮断薬、Ca拮抗薬およびサイアザイド系利尿薬の治療歴と、COVID-19検査の陽性/陰性の可能性、ならびに陽性と判定された患者における重症化(集中治療室への入室、非侵襲的/侵襲的人工呼吸器の使用または死亡と定義)の可能性との関連を評価した。 解析はベイズ法を用い、上記降圧薬による治療歴がある患者と未治療患者のアウトカムを、投与された薬剤クラスについて傾向スコアマッチング後に、全体および高血圧症患者とで比較した。事前に、10ポイント以上の差を重要な差と定義した。陽性率は全体46.8%/高血圧患者34.6%、重症化率17.0%/24.6% COVID-19の検査を受けた1万2,594例中5,894例(46.8%)が陽性で、このうち重症化したのは1,002例(17.0%)であった。高血圧症の既往歴を有する患者は4,357例(34.6%)で、うち2,573例(59.1%)が陽性、さらにこのうち634例(24.6%)が重症化した。 薬剤のクラスとCOVID-19陽性率増加との間に、関連性は確認されなかった。また、検討した薬剤のいずれも、陽性患者における重症化リスクの重要な増加と関連がなかった。 なお著者は、COVID-19検査の診断特性の多様性、検査の真の感度が不明なままであること、COVID-19の重症例の割合が過大評価されている可能性などを挙げ、本研究の結果は限定的であるとしている。

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HFrEFへの経口sGC刺激薬、複合リスクを有意に低下/NEJM

 左室駆出率(LVEF)が低下したハイリスクの心不全患者に対し、新しい経口可溶性グアニル酸シクラーゼ刺激薬vericiguatの投与はプラセボと比較して、心血管死または心不全による入院の複合イベントリスクを有意に低下することが示された。カナダ・アルバータ大学のPaul W. Armstrong氏らが、5,050例を対象に行った第III相プラセボ対照無作為化二重盲検試験の結果で、NEJM誌オンライン版2020年3月28日号で発表した。LVEFが低下し直近に入院または利尿薬静注を受ける心不全患者におけるvericiguatの有効性は明らかになっていなかった。NYHA心機能分類II~IV、LVEF 45%未満を対象に試験 研究グループは、NYHA心機能分類II~IVの慢性心不全でLVEF 45%未満の患者5,050例を対象に試験を行った。 被験者を無作為に2群に分け、ガイドラインに基づく薬物治療に加え、一方にはvericiguat(目標用量1日1回10mg)を、もう一方にはプラセボをそれぞれ投与した。 主要アウトカムは、心血管死または心不全による初回入院の複合とした。心血管死・心不全入院リスク、vericiguat群で0.90倍に 追跡期間中央値10.8ヵ月において、主要アウトカムの発生は、vericiguat群897/2,526例(35.5%)、プラセボ群972/2,524例(38.5%)だった(ハザード比[HR]:0.90、95%信頼区間[CI]:0.82~0.98、p=0.02)。 心不全による入院は、vericiguat群27.4%(691例)、プラセボ群29.6%(747例)であり(HR:0.90、95%CI:0.81~1.00)、心血管死はそれぞれ16.4%(414例)、17.5%(441例)で(同:0.93、0.81~1.06)、いずれも有意差はなかった。 一方、全死因死亡または心不全による入院の複合は、それぞれ37.9%(957例)、40.9%(1,032例)で、vericiguat群で低率だった(HR:0.90、95%CI:0.83~0.98、p=0.02)。 症候性の低血圧症が、vericiguat群9.1%、プラセボ群7.9%で(p=0.12)、また、失神がそれぞれ4.0%、3.5%で発生が報告された(p=0.30)。

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第35回 CKDは水分摂取量を増やすほど腎機能低下が抑制されるわけではない【論文で探る服薬指導のエビデンス】

 水分管理は、慢性腎臓病(CKD)患者の重要な治療の1つです。腎臓が血中の老廃物をろ過し、尿として排泄するためには水分が必要ですので、水分をしっかり摂取するように、と説明する機会は多いと思います。脱水は腎障害の原因となるため避けなければなりませんが、それ以上の水分摂取はCKD患者の腎機能維持にどの程度寄与しているのでしょうか。まず、CKD患者の飲水励行が腎機能に与える影響については、米国国立健康統計センターのNHANESデータの分析調査があります1)。NHANESは、National Health and Nutrition Examination Survey(米国国民健康栄養調査)の略で、米国疾病予防管理センター(CDC)下の国立健康統計センターにより継続的に実施されていて、その知見はCDCのホームページに掲載されています2)。今回紹介するのは、2005~06年のデータでの横断分析で、利尿薬を服用していないeGFR≧30mL/min/1.73m2の成人を対象として、食品および飲料からの総水分摂取量を、少量(<2.0L/日)、中量(2.0~4.3L/日)、多量(>4.3L/日)に分類し、総水分摂取量とCKD(eGFR 30~60mL/min/1.73m2)、自己申告による心血管疾患(CVD)の関連を調べたものです。その結果、3,427例(平均年齢46歳、平均eGFR 95mL/min/1.73m2)のうち、13%がCKDで、18%がCVDでした。CKDの割合は総水分摂取量が少ない群では、多い群よりも高く(調整オッズ比:2.52、95%信頼区間[CI]:0.91~6.96)、通常の飲料水とその他の飲料の摂取量で層別化すると、CKDは水道水やミネラルウォーターなどの飲料水の少量摂取と相関していました(調整オッズ比:2.36、95%CI:1.10~5.06)。一方で、ほかの飲料では調整済みオッズ比0.87(95%CI:0.30~2.50)と相関なしです。また、水分の少量摂取とCVDについても、調整オッズ比0.76(95%CI:0.37~1.59)と相関なしです。論文中の表からは、CKDの有病率は水分摂取量が少ない群で最も高く、摂取量の増加に伴って減少する傾向が読み取れます。まとめると、利尿薬を服用していないeGFR≧30mL/min/1.73m2のCKD患者では、水道水やミネラルウォーターなどの飲水量が多いほど腎保護効果がありそうですが、CVDでは関係が見いだされないという結果でした。横断調査のため、因果関係を判断しづらい面もありますが、日常的な疑問に対して重要な示唆が得られる内容です。通常より水分摂取を増やしても1年後の腎機能低下に寄与なしランダム化比較試験ではどうかというと、CKD患者により多くの水を飲むように勧めることにより、腎機能の低下を1年間にわたって抑制できるか検証した研究があります3)。対象はカナダのオンタリオ州の9施設で、2013年4月~2017年5月25日の間にフォローされたCKDステージ3かつ尿量が3L/日未満の患者631例という大規模な研究です。患者の平均年齢は65歳、平均eGFRは43mL/min/1.73m2、平均尿中アルブミンは123mg/日でした。イメージとしては、おおむね正常な腎臓の1/3~2/3程度の機能で、むくみや尿量変化、疲れやすさなど症状が軽度であっても存在し、カリウム制限も始めているくらいだと思います。介入群316例には通常の飲水量に加え、性別や体重に応じて1~1.5L/日以上の増量を勧め、対照群315例には通常の飲水量を維持するように説明がなされました。両群の患者像のベースラインは似通っており、おおむね平等な比較だと思います。主要評価項目は12ヵ月後までのeGFRの変化で、二次評価項目として12ヵ月後の血清コペプチン濃度の変化などがみられています。その結果、24時間尿量は、介入群で0.6L(95%CI:0.5~0.7)有意に増え、eGFRの変化は介入群-2.2mL/min/1.73m2、対照群-1.9mL/min/1.73m2で、CKDステージ3の患者が水分摂取量を増やしても1年後の腎機能低下の度合いを遅らせることはできないという結果でした。血清コペプチンが有意に減っているため、抗利尿ホルモンの放出は有意に抑制されたとみることができます。CKDステージ3クラスなら、おおむね1~1.5L/日の水分摂取ができていれば、それ以上の水分摂取増量を勧めるよりも、ほかのオプションを患者さんと相談できるとよいのかなと思います。1)Sontrop JM, et al. Am J Nephrol. 2013;37:434-442. 2)CDC National Health and Nutrition Examination Survey 3)Clark WF, et al. JAMA. 2018;319:1870-1879.

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降圧薬使用と認知機能との関連~メタ解析

 高血圧は、修正可能な認知症のリスク因子の1つである。しかし、認知機能を最適化するために、降圧薬のクラスエフェクトが存在するかは、よくわかっていない。オーストラリア・Neuroscience ResearchのRuth Peters氏らは、これまでの参加者データを含む包括的なメタ解析を用いて、特定の降圧薬クラスが認知機能低下や認知症リスクの低下と関連するかについて検討を行った。Neurology誌2020年1月21日号の報告。 適切な研究を特定するため、MEDLINE、Embase、PsycINFO、preexisting study consortiaより、2017年12月までの研究を検索した。プロスペクティブ縦断的ヒト対象研究または降圧薬試験の著者に対し、データ共有および協力の連絡を行った。アウトカム測定は、認知症発症または認知機能低下の発現とした。データは、中年期および65歳超の高齢期に分類し、各降圧薬クラスは、未治療および他の降圧薬治療との比較を行った。メタ解析を用いて、データの合成を行った。 主な結果は以下のとおり。・27研究より5万例超が抽出された。・利尿薬を除き、各降圧薬クラスにおける65歳超の高齢者の認知機能低下や認知症との関連は、認められなかった。・一部の分析において、利尿薬の有用性が示唆されたが、その結果は、フォローアップ期間、比較群、アウトカムにおいて一貫していなかった。・65歳以下のデータは限られていたため、分析できなかった。 著者らは「認知症や認知機能低下の観点から、降圧目標達成を目指す治療レジメンの選択は、降圧薬クラスによらず、自由に選択可能である」としている。

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