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心臓外科手術の赤血球輸血、制限的 vs.非制限的/NEJM

 死亡リスクが中等度~高度の心臓外科手術を受ける成人患者に対し、制限的赤血球輸血は非制限的赤血球輸血に比べ、術後複合アウトカム(全死因死亡・心筋梗塞・脳卒中・透析を要する腎不全の新規発症)について非劣性であることが示された。検討において1単位以上赤血球輸血の実施率は、制限的赤血球輸血が有意に低かった。カナダ・セント・マイケルズ病院のC.D. Mazer氏らが、5,243例を対象に行った多施設共同無作為化非盲検非劣性試験の結果で、NEJM誌2017年11月30日号で発表した。これまで心臓外科手術を行う際の赤血球輸血戦略について、制限的実施と非制限的実施の臨床的アウトカムへの影響は明らかになっていなかった。退院後28日までの臨床的アウトカムを比較 研究グループは、心臓手術を受ける成人患者で、心臓外科手術用に開発された術後リスク予測モデル「European System for Cardiac Operative Risk Evaluation(EuroSCORE)I」(スケール0~47、高値ほど術後死亡リスクが高いことを示す)が6以上の5,243例を対象に検討を行った。被験者を無作為に2群に分け、一方には制限的赤血球輸血(ヘモグロビン値7.5g/dL未満の場合に全身麻酔の導入以降に輸血)を、もう一方には非制限的赤血球輸血(手術室・集中治療室においてヘモグロビン値9.5g/dL未満の場合、それ以外では8.5 g /dL未満の場合に輸血)を、それぞれ行った。 主要評価項目は複合アウトカム(全死因死亡・心筋梗塞・脳卒中・透析を要する腎不全の新規発症)で、退院までもしくは28日までの初発で評価した。副次アウトカムは、赤血球輸血率やその他の臨床的アウトカムが含まれた。全死因死亡率も両群で有意差なし 主要複合アウトカムの発生率は、制限的赤血球輸血群11.4%に対し非制限的赤血球輸血群は12.5%で、制限的赤血球輸血群の非劣性が示された(群間絶対差:-1.11%、95%信頼区間[CI]:-2.93~0.72、非劣性のp<0.001)。 また全死因死亡率は、制限的赤血球輸血群3.0%に対し非制限的赤血球輸血群3.6%と、両群で同等だった(オッズ比[OR]:0.85、同:0.62~1.16)。  一方で赤血球輸血(1単位以上)実施率は、制限的赤血球輸血群52.3%に対し、非制限的赤血球輸血群は72.6%だった(OR:0.41、同:0.37~0.47、p<0.001)。その他の副次アウトカムについて両群で有意な差は認められなかった。

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大手術後の血圧管理、個別的 vs.標準/JAMA

 主に腹部手術を受ける術後合併症リスクが高い成人患者において、個別的な収縮期血圧目標値の下で行う血圧管理戦略は、標準血圧管理と比べて術後臓器障害リスクを低下することが示された。フランス・クレルモン・フェラン大学病院のEmmanuel Futier氏らが、多施設共同無作為化試験の結果を報告した。周術期における低血圧症は、術後罹患や死亡の増大と関連する。しかし適切な血圧管理戦略は明らかになっていなかった。JAMA誌オンライン版2017年9月27日号掲載の報告。術後7日目までの全身性炎症反応症候群と1つ以上の臓器障害の複合発生を比較 研究グループは、個々の患者に合わせた個別的な血圧管理戦略が、術後臓器障害を減じるかを調べるため、フランスの大学および非大学病院9施設で、Intraoperative Norepinephrine to Control Arterial Pressure(INPRESS)試験を行った。 被験者は、術前急性腎障害(AKI)リスク指標がclass III以上(術後腎障害のリスクが中等度~重度を示す)で、全身麻酔下にて2時間以上を要する大手術を受ける成人患者298例であった。無作為に、個別的血圧管理戦略群と標準血圧管理群に割り付け、前者では、収縮期血圧(SBP)の参照値(例:患者の安静時SBP)±10%以内を目標にノルアドレナリン持続注入によって血圧を管理した。後者では、SBPが80mmHg未満に低下もしくは術中および術後4時間の参照値の40%未満値に低下した場合に、エフェドリンを静脈内ボーラス投与する処置で血圧を管理した。 被験者の登録期間は2012年12月4日~2016年8月28日、最終フォローアップは2016年9月28日。 主要アウトカムは、術後7日目までの全身性炎症反応症候群と1つ以上の臓器障害(腎臓系、呼吸器系、心血管系、中枢神経系、凝固系)の複合であった。副次アウトカムは、術後30日時点の主要アウトカムの各項目の発生、ICU在室期間、入院期間、有害事象、全死因死亡などであった。個別的血圧管理群の主要アウトカムの発生HRは0.73 無作為化を受けた298例のうち、292例(年齢70±7歳、女性44例[15.1%])が試験を完了し、修正intention-to-treat解析に包含された(個別的血圧管理戦略群147例、標準血圧管理群145例)。 主要アウトカムの発生は、個別的血圧管理戦略群56/147例(38.1%)に対し、標準血圧管理群は75/145例(51.7%)であった(相対リスク:0.73、95%信頼区間[CI]:0.56~0.94、p=0.02、絶対リスク差:-14%、95%CI:-25%~-2%)。 30日間の術後臓器障害発生は、個別的血圧管理戦略群68例(46.3%)、標準血圧管理群は92例(63.4%)であった(補正後ハザード比:0.66、95%CI:0.52~0.84、p=0.001)。一方、重篤な有害事象や30日死亡率について、群間で有意な差は認められなかった。

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魔法ってないのかな?(解説:岡村毅氏)-718

 私たちの「こころ」や「意識」と呼ばれるものが形而上のものなのか、形而下のものなのかという問題はさておき、脳という電気活動の集合が関与していることは明らかであり、外部からの電気刺激が影響を与えるであろう。  本論文は、経頭蓋直流電気刺激(transcranial direct-current stimulation以下tDCS)のうつ病に対する効果を抗うつ薬(SSRI)およびプラセボと比較した報告である。プラセボに比べると有意に効果はあるものの、SSRIに比べると弱いようだ。  はじめに述べておくと、tDCSはわが国の精神医学においては保険診療で認められていない。世界的にもまだ非常にマイナーな手法である。ただし、脳梗塞後の麻痺などでの臨床実績、体表に電極を置いて微弱な電流を流すだけという安全性を考えると、今後精神科領域で使われる可能性はないとは言えず、アンテナを張っている読者諸兄におかれては頭の隅に入れておいてもよいかもしれない。  少し突き放して書いたのは、「きっと誰も知らない、自分の主治医も知らない治療法があるのだ」とか「週刊誌に素晴らしい治療法が書いてあったのに自分の主治医は自分に隠しているのだ」とか、さまざまなことをおっしゃる患者さんがいるからで、この治療法は標準から離れた異端に飛びつく人に好かれそうだなあと感じたからである。  うつ病の治療法は、(1)精神療法、(2)環境調整、(3)薬物療法等に大きく分けられる。  ひどいうつ状態で、考えることも休むこともできない状態のときは、(3)薬物治療等は効果的である(こういうときに精神療法だけでいくというのは、患者さんにとっては大変つらいだろう)。ここには、SSRIをはじめとする新規抗うつ薬、経験値がないと使いにくいが効果も大きな古典的抗うつ薬、非定型抗精神病薬、気分安定薬、抗不安薬、漢方薬などが含まれる。(3)の中の極めて狭い領域に、電気的脳神経刺激としてmECT(modified electroconvulsive therapy)やrTMS(repetitive transcranial magnetic stimulation)が含まれる。前者は全身麻酔が必要だが効果は絶大、後者は外来でできるが高い機材が必要でまだ臨床実績が不十分という長短がある。ここに安価なtDCSが加わる可能性があるかもしれないということである。  会社でうつになった人のうつ状態を良くして会社に送り返しても、そこがブラック過ぎたらすぐに再発するだろう。さまざまな社会資源につなげるなど(2)環境調整は実は薬物治療よりも重要かもしれない。  そもそもうつ病になる過程には本人のものの見方・考え方が関わっている可能性も高いので、そこに働きかける(1)精神療法こそが、本人の幸せにつなげる精神医学の本質ともいえよう。  そういうわけで、本論文は偽tDCSを施行するなど妥当な方法論に基づいたきちんとした論文ではあるものの、臨床への影響は限定的だ。東京都西之島では噴火により新たな島が生成し、日本の面積がいくらか増大したというが、日本全体の面積と比べれば微々たるものであろう。臨床医としては、本論文はその程度(西之島分)のエビデンスの付与であるように個人的には思う。でもそれは価値があることなのだ。

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高齢者の術後せん妄予防にケタミン、悪影響の可能性/Lancet

 高齢者の術後せん妄予防目的のケタミン投与は、効果がないばかりか、幻覚やナイトメア症状を増大する可能性が、米国・セントルイス・ワシントン大学のMichael S. Avidan氏らによる国際多施設共同二重盲検無作為化試験「PODCAST」の結果、示された。せん妄は頻度が高く重大な術後合併症である。一方で、術後疼痛を軽減するために周術期静脈内ケタミンの投与がしばしば行われており、同投与のせん妄予防効果を示唆するエビデンスが報告されていた。研究グループは、高齢者の術後せん妄予防に対するケタミンの有効性評価を主要目的に今回の試験を行った。Lancet誌オンライン版2017年5月30日号掲載の報告。プラセボ vs. 0.5mg/kgケタミン vs. 1.0mg/kgケタミンの無作為化試験 PODCAST(Prevention of Delirium and Complications Associated with Surgical Treatments)試験は4ヵ国10施設(米国6、カナダ2、韓国1、インド1)で、全身麻酔下にて心臓または非心臓の大手術を受ける60歳以上の患者を対象に行われた。コンピュータ無作為化シーケンス法で被験者を1対1対1の割合で3群に割り付け、それぞれ術前の麻酔導入後に、(1)プラセボ(生理食塩水)、(2)低用量ケタミン(0.5mg/kg)、(3)高用量ケタミン(1.0mg/kg)を投与した。参加者、臨床医、研究者に割り付けは明らかにされなかった。 せん妄の評価は、術後3日間、Confusion Assessment Method(CAM)を用いて1日2回行われた。解析はintention-to-treat法にて行われ、有害事象についても評価した。3群間のせん妄発生率に有意差なし、ケタミン群で幻覚、ナイトメアが増大 2014年2月6日~2016年6月26日に、1,360例の患者が試験適格の評価を受け、672例(平均年齢70歳、女性38%)が無作為に3群に割り付けられた(プラセボ群222例、低用量ケタミン群227例、高用量ケタミン群223例)。 術後3日間のせん妄発生率は、プラセボ群19.82%、低用量ケタミン群17.65%、高用量ケタミン群21.30%であった。せん妄発生率について、プラセボ群と低・高用量ケタミン複合群(19.45%)の群間に有意差は認められなかった(絶対差:0.36%、95%信頼区間[CI]:-6.07~7.38、p=0.92)。また、3群間の有意差も認められないことが確認された(Cochran-Armitage検定のp=0.80)。ロジスティック回帰モデルの評価では、ケタミンの低用量群と高用量群がそれぞれ、術後せん妄発生の低下を独立して予測することが示されたが、有意差は認められず、さらに潜在的交絡因子で補正後、せん妄の発生までの時間、期間、重症度について3群間で有意差は認められなかった。同評価では、60歳超、心臓手術、うつ病歴がせん妄の独立予測因子として示唆されている。 有害事象(心血管系、腎機能、感染症、消化管出血)の発生は、個別にみても(それぞれのp>0.40)、総体的にみても(プラセボ群36.9%、低用量ケタミン群39.6%、高用量ケタミン群40.8%[p=0.69])、3群間で有意差はなかった。 一方で、プラセボ群と比べてケタミン群の患者で、術後の幻覚症状(プラセボ群18%、低用量ケタミン群20%、高用量ケタミン群28%[p=0.01])、ナイトメア(8%、12%、15%[p=0.03])が有意に増大したことが報告された。

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CDC「手術部位感染予防のためのガイドライン」18年ぶりの改訂

 米国疾病管理予防センター(CDC)は、「手術部位感染予防のためのガイドライン」を1999年以来18年ぶりに改訂し、エビデンスに基づく勧告を発表した。手術部位感染治療のための人的および財政的負担の増加を背景に、専門家の意見を基に作成された1999年版から、エビデンスベースの新たなガイドラインに改訂された。著者らは「これらの勧告に基づく手術戦略を用いることで、手術部位感染のおよそ半分が予防可能と推定される」と記している。手術部位感染予防のためのガイドラインはコアセクションと人工関節置換術セクションで構成 CDCの医療感染管理諮問委員会(HICPAC)は、1998年から2014年4月の間に発表された論文を対象にシステマティックレビューを実施し、5,000超の関連論文を特定。さらにスクリーニングを行った結果、170の論文を抽出し、エビデンスを評価・分類した。 新しい手術部位感染予防のためのガイドラインは、外科手術全般の手術部位感染予防のための勧告(30件)を含む「コアセクション」と人工関節置換術に適用される勧告(12件)を含む「人工関節置換術セクション」によって構成されている。 改訂された手術部位感染予防のためのガイドラインで更新された勧告の中で主なものは以下のとおり。・手術前、少なくとも手術前夜には、患者は石けん(抗菌性もしくは非抗菌性)または消毒薬を用いたシャワーや入浴(全身)をすべきである。・予防抗菌薬は、公開されている臨床実践ガイドラインに基づいた適用のときのみに投与する。そして、切開が行われるときに、血清および組織における抗菌薬の殺菌濃度が確保されるタイミングで投与する。・帝王切開においては、皮膚切開の前に適切な予防抗菌薬を投与する。・術前の皮膚処置は、禁忌の場合を除き、アルコール系消毒薬を使用して行う。・清潔および準清潔手術では、手術室内で閉創した後はドレーンが留置されていても、予防抗菌薬を追加投与しない。・手術部位感染予防のために、外科切開部に抗菌薬の局所的な適用は行わない。・周術期の血糖コントロールを実施し、すべての患者で血糖の目標レベルを200mg/dL未満として、正常体温を維持する。・全身麻酔を受けており気管内挿管がある正常な肺機能を有する患者では、手術中および手術直後の抜管後に、吸入酸素濃度を増加させる。・手術部位感染予防のために、手術患者への必要な血液製剤の輸血を控える必要はない。 新しい手術部位感染予防のためのガイドラインはJAMA surgeryオンライン版2017年5月3日号に掲載された。

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歯科治療で突然のむくみ!? 「遺伝性血管性浮腫」の危険性と予防

 2017年5月10日、都内にて「遺伝性血管性浮腫」をテーマにプレスセミナーが開催された(主催:CSLベーリング株式会社)。本セミナーは、今年3月に同社のベリナートP静注用500(一般名:乾燥濃縮人C1-インアクチベーター、以下ベリナート)が、「侵襲を伴う処置による遺伝性血管性浮腫の急性発作の発症抑制」に対する、適応追加承認を取得したことを受けて行われたものである。むくみが引き起こす、致死的な症状…HAEの危険性とは 遺伝性血管性浮腫(Hereditary angioedema、以下HAE)は、指定難病「原発性免疫不全症候群」の1つに認定されている疾患である。HAEは遺伝子の変異が原因で血液中のC1インヒビターの減少により、皮膚や消化管など、全身のあらゆる箇所に繰り返し腫れが起こる。 とくに、咽頭浮腫は、気道を塞いで呼吸困難を招き、致死的な状況に陥る場合もある、HAEの最も危険な症状である。セミナーの演者の1人、堀内 孝彦氏(九州大学病院 別府病院)は、咽頭浮腫が発症してから気道閉塞に至るまでの平均時間は8.3時間であったというデータを紹介し1)、症状を経過観察とすることで、窒息死に陥るケースがあることを紹介した。さらに、咽頭浮腫を呈していながら適切に治療しなかった場合の致死率は30%程度2)であることから、見逃してはいけない深刻な難病であることを強調した。意外と簡単? HAE早期鑑別のコツは、「あの問診と、この検査」 むくみが起こる原因として、とくに、抜歯などの歯科治療や、挿管が必要な全身麻酔は急性発作の強力な誘因として知られている。このように、血管性浮腫の原因は多彩であるが、堀内氏は「“家族歴の聴取”に加え、消化管浮腫による“激しい腹痛”の有無を聴取することで、HAEを疑うことができる」とコメントした。確定診断には補体C4値とC1-INHタンパク定量の2つの保険適応になる検査があるため、HAEを疑うことができれば、早期鑑別は比較的容易であるという。ベリナートの予防的短期投与がもたらすメリットとは もう1人の演者、田中 彰氏(日本歯科大学 新潟生命歯学部 口腔外科学講座)は自身の患者の歯科治療でHAE発作を初めて起こした症例を経験した。この経験をきっかけに、問診に加えて、高侵襲な歯科治療や抜歯において、術前の短期的予防投与が浮腫発作の抑制に有用であると強く感じたという。 ベリナートは、国内唯一のC1インアクチベーター製剤だが、身体への侵襲を伴う処置前の予防的な投与に対しても適応追加されたことで、患者さんが外科的治療や歯科治療を受ける際の急性発作のリスクを大きく低減することが期待される。

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術前デキサメタゾン追加で術後24時間の嘔吐が低減/BMJ

 大腸および小腸の手術では、麻酔導入時にデキサメタゾン8mgの静脈内投与を追加すると、標準治療単独に比べ術後24間以内の悪心・嘔吐が抑制され、72時間までの制吐薬レスキュー投与の必要性が低減することが、英国・オックスフォード大学のReena Ravikumar氏らが実施したDREAMS試験で示された。デキサメタゾン追加による有害事象の増加は認めなかったという。研究の成果は、BMJ誌2017年4月18日号に掲載された。術後の悪心・嘔吐(PONV)は、最も頻度の高い術後合併症で、患者の30%以上にみられる。腸管の手術を受けた患者では、PONVは回復を遅らせることが多く、術後の栄養障害を引き起こす可能性もあるため、とくに重要とされる。デキサメタゾンは、低~中リスクの手術を受ける患者でPONVの予防に有効であることが示されているが、腸管手術を受ける患者での効果は知られていなかった。デキサメタゾンの術後制吐効果を1,350例で検討 本研究は、英国の45施設が参加したプラグマティックな二重盲検無作為化対照比較であり、2011年7月~2014年1月に1,350例が登録された(英国国立健康研究所・患者ベネフィット研究[NIHR RfPB]などの助成による)。 対象は、年齢≧18歳、病理学的に悪性または良性の病変に対し、開腹または腹腔鏡による待機的腸管手術を施行される患者であった。 すべての患者が全身麻酔を受け、麻酔科医が決定した標準治療として術前に制吐薬(デキサメタゾンを除く)が投与された。デキサメタゾン群は術前にデキサメタゾン8mgの静脈内投与を受け、対照群には標準治療以外の治療は行われなかった。 主要評価項目は、24時間以内に患者または医師によって報告された嘔吐とした。副次評価項目は、術後24時間以内、25~72時間、73~120時間の嘔吐および制吐薬の使用、有害事象などであった。デキサメタゾン群が標準治療群に比べ有意に低かった デキサメタゾン追加群に674例、標準治療単独群には676例が割り付けられた。全体の平均年齢は63.5(SD 13.4)歳、女性が42.0%であった。腹腔鏡手術は63.4%で行われた。直腸切除術が42.4%、右結腸切除術が22.4%、左/S状結腸切除術が16.4%であった。 24時間以内の嘔吐の発現率は、デキサメタゾン群が25.5%(172例)と、標準治療群の33.0%(223例)に比べ有意に低かった(リスク比[RR]:0.77、95%信頼区間[CI]:0.65~0.92、p=0.003)。1例で24時間以内の嘔吐を回避するのに要する術前デキサメタゾン投与による治療必要数(NNT)は13例(95%CI:5~22)だった。 24時間以内に制吐薬の必要時(on demand)投与を受けた患者は、デキサメタゾン群が39.3%(265例)であり、標準治療群の51.9%(351例)よりも有意に少なかった(RR:0.76、95%CI:0.67~0.85、p<0.001)。また、術前デキサメタゾン投与のNNTは8例(95%CI:5~11)だった。デキサメタゾン群は制吐薬の必要時投与が少なかった 25~72時間の嘔吐の発現に有意な差はなかった(33.7 vs.37.6%、p=0.14)が、制吐薬の必要時投与はデキサメタゾン群が有意に少なかった(52.4 vs.62.9%、p<0.001)。73~120時間については、嘔吐、制吐薬の必要時投与はいずれも両群間に有意差を認めなかった。 死亡率は、デキサメタゾン群1.9%(13例)、標準治療群は2.5%(17例)と有意な差はなく、両群8例ずつが術後30日以内に死亡した。有害事象の発現にも有意差はなかった。30日以内の感染症エピソードが、それぞれ10.2%(69例)、9.9%(67例)に認められた。 著者は、「PONVの現行ガイドラインは、おそらく過度に複雑であるため広範には用いられていない。今回の結果は、腸管手術を受ける患者におけるPONVの抑制に簡便な解決策をもたらす」としている。

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ハイリスクな僧帽弁逆流症に対するTMVR―その有効性と安全性

 症候性の僧帽弁逆流症(MR)は罹患率および死亡率が高い。外科的な修復および弁置換術で改善が期待できるにもかかわらず、多くのMR患者は外科手術を受けていない。カテーテルを用いた僧帽弁置換術(Transcatheter mitral valve replacement:TMVR)は、重症のMR患者に対して選択肢となりうると考えられている。St.Vincent’s Hospital(シドニー、オーストラリア)のDavid W.M.Muller氏らによる本研究は、開心術がハイリスクと考えられる自己弁のMR患者に対して、TMVRが有効かつ安全であるかを評価する目的で行われた。Journal of the American College of Cardiology誌2016年12月号の掲載。全身麻酔下での左側胸アプローチ、小開胸、心尖部アプローチ 患者はオーストラリア、米国、ノルウェーの8つの施設で登録された。全身麻酔下での左側胸アプローチで、小開胸後、カテーテルを用いて自己拡張型の僧帽弁デバイスが心尖部から植込まれた。前向きレジストリによる、短期および30日のアウトカムが調査された。人工僧帽弁に使用されたTendyne僧帽弁システムは、ニチノール(ニッケル・チタン形状記憶合金)で作成された自己拡張型僧帽弁である。植込みの成功率は93.3% 重症度III~IVのMRを有する患者30例(平均年齢:75.6±9.2歳、25例が男性)がTMVRを受けた。MRの原因は二次性(23例)、一次性(3例)、そして両方の混合型(4例)であった。STS-PROM(米国胸部外科学会死亡リスク予測因子)のスコアは、7.3±5.7%であった。デバイスの植込みは28例(93.3%)で成功した。急性期の死亡、脳梗塞、心筋梗塞は認められなかった。TMVRから13日後、院内肺炎により1例が死亡した。また、フォローアップ中に1例で人工弁の血栓症が認められたが、ワルファリンによる抗凝固で消失した。30日後の時点の経胸壁エコーにおいて、TMVRによって人工弁が植込まれた27例の内、I度の中心性MRが1例で認められたが、残りの26例においては、残存MRは認められなかった。左室の拡張末期容積係数(90.1±28.2 mL/m2ベースラインvs.72.1±19.3 mL/m2フォローアップ、p= 0.0012)および左室収縮末期容積係数は減少した(48.4±19.7 mL/m2 vs.43.1±16.2 mL/m2、p=0.18)。75%の患者は軽症もしくは無症候にまで改善 フォローアップの時点で、75%の患者は軽度の症状もしくは無症状と報告した(NYHA分類 I度またはII度)。30日間における心臓血管に伴う死亡、脳梗塞および植込み弁の異常がなく、植込みが成功した患者は86.6%であった。 登録された患者において、TMVRは症状を伴った自己弁のMRの患者に対して有効かつ安全であった。著者らは僧帽弁のためにデザインされた人工弁を用いたTMVRのさらなる評価が必要であるが、この侵襲的手技によって、ハイリスクな僧帽弁逆流症患者の満たされていないニーズが改善される可能性がある、と結論付けている。(カリフォルニア大学アーバイン校 循環器内科 河田 宏)関連コンテンツ循環器内科 米国臨床留学記

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てんかん重積状態への低体温療法は有益か/NEJM

 痙攣性てんかん重積状態の患者に対し、標準治療に加えて低体温療法を行うことで神経保護効果が得られるのか。フランス・ベルサイユ総合病院のStephane Legriel氏らが多施設共同非盲険無作為化試験を行った結果は、90日アウトカムについて有意な差は認められないというものであった。低体温療法の抗てんかん作用および神経保護効果は、動物モデル試験で認められ、ヒトにおいても超難治性てんかん重積患者にアジュバント療法として用いられている。さらに、これまで脳梗塞や脳出血、脳外傷といったてんかん重積状態の基礎的疾患において、神経保護治療としての検証が行われているが、結果は概して否定的なものであった。NEJM誌2016年12月22日号掲載の報告。270例について標準治療+低体温療法 vs.標準治療単独の無作為化試験 研究グループは無作為化試験にて、痙攣性てんかん重積状態の患者への標準治療+低体温療法が、標準治療単独(対照)と比較して、良好な神経学的アウトカムをもたらすかを調べた。試験は、2011年3月~2015年1月にフランスの11ヵ所のICUで行われ、人工換気療法を受ける痙攣性てんかん重積状態の急性・重症患者270例が無作為化を受け、268例(低体温療法群138例、対照群130例)が解析に包含された。低体温療法は、無作為化後できるだけ速やかに深部体温を、32~34℃を目標に低下し24時間維持した。 主要アウトカムは、90日時点の良好な機能アウトカムで、グラスゴー転帰尺度(GOS、範囲:1~5、1は死亡、5は神経学的障害なしまたはわずか)のスコア5で定義した。主な副次アウトカムは、90日死亡率、脳波(EEG)で確認したてんかん重積状態への進行、1日目の難治性てんかん重積状態、超難治性てんかん重積状態(全身麻酔に不応)、90日目の機能的後遺症とした。90日時点のGOSスコア5の患者は1.22倍増大も有意差は示されず 結果、90日時点でGOSスコア5であった患者は、低体温療法群67/138例(49%)、対照群56/130例(43%)であった(補正後共通オッズ比:1.22、95%信頼区間[CI]:0.75~1.99、p=0.43)。 初日におけるEEG確認てんかん重積状態への進行率は、低体温療法群11%と対照群22%より有意に低かった(オッズ比:0.40、95%CI:0.20~0.79、p=0.009)。しかし、その他の副次アウトカムについては群間の有意差は認められなかった。 有害事象(全グレード含む)の発生頻度(1つ以上)は、対照群(77%)と比べて低体温療法群(85%)のほうが高かった。

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【第81回】クリスマスツリーの誤嚥にご注意を

【第81回】クリスマスツリーの誤嚥にご注意を FREEIMAGESより使用 クリスマスに関連する論文といえば、BMJのクリスマス特集が思い付きますが、このコーナーではあえて真面目な論文を選ぶことにしています。今回紹介するのは、クリスマスツリーの誤嚥の論文です。オイオイちょっと待てよ、そんなの無理だろう。 Philip J, et al. A Christmas tree in the larynx.Paediatr Anaesth. 2004;14:1016-1020.15ヵ月の喘鳴と嗄声を訴えて、2歳の男児が急性発症の上気道閉塞のために来院しました。なぜ15ヵ月もガマンしていたのだろうか…。全身麻酔の下、緊急的に実施された喉頭~気管支の内視鏡的検察によって、何かが上気道を閉塞していることがわかりました。うーむ、何だろう…何か木のように見えるが…。こ、こ、これは…クリスマスツリーだ!なんと、クリスマスツリーが喉頭に詰まっていたのです。そんなバカな! …とはいっても、あのモミの木が丸ごと喉頭に詰まるはずはなく、プラスチック製のおもちゃのクリスマスツリーが肉芽を形成し、ほぼ喉頭を閉塞しかけていたそうです。その後、クリスマスツリーを除去した後、男児の声は元に戻ったそうです。重篤な後遺症が残らなくてよかったですね。治療後、主治医に向かって家族は言いました。「そういえば、2年前のクリスマス(つまり生後間もない頃)に、咳き込んで急に声が変わったことがあった」、 と。症状が軽かったので受診が遅れたのかもしれませんが、よく1年以上もクリスマスツリーが喉に挟まっていたものですね。インデックスページへ戻る

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現場の医師を守るために何が必要か~柳原病院事件

 11月27日、第7回医療法学シンポジウムが都内で開催された。シンポジウムでは、現在公判中の「柳原病院事件」を取り上げ、医療現場の日常を刑事司法でどのように取り扱うべきか、聴衆も参加し、シンポジストと議論が行われた。※ 柳原病院事件とは、「乳房切除術直後の患者(全身麻酔後)に対し、術後約30分後に行われた医師の診察時に医師が切除していない側の乳房にわいせつな行為をしたとして準強制わいせつ罪にて逮捕、勾留され、起訴された事件。病院は、術後せん妄による症状であり、せん妄状態にある患者の証言を頼りに現場の医師が逮捕されるのは不当であるとして抗議している」医療現場で求められる適法行為の判断フレーム はじめに大磯 義一郎氏(浜松医科大学医療法学 教授/弁護士/医師)が、事件の概要を述べ、論点整理を行った。 本事件の論点としてまず(1)事件が被告医師に与えた影響として、被告医師が実名報道されたことで、今後の診療活動などに多大な影響を与えるほか、長期間にわたる勾留により被告医師の心身への影響が懸念される。(2)逮捕・勾留について、刑事訴訟法の要件を提示しつつ、その必要性について疑問を呈したほか、将来無罪であったとしてもすでに個人に与えられた社会上の影響は甚大であり、そもそも初動捜査段階で医療の実情に即した、適切な対応がなされるべきではなかったかと疑問を提起した。 次に(3)医療行為との相違については、わいせつ事件の典型である痴漢事件と比較。男性が女性に触れるという行為は、痴漢では違法行為である一方、医療では正当業務行為であり、そもそも本件の行為に痴漢の判断フレーム(たとえば被害者の供述のみで捜査など)を用いたことが不当であり、医療行為に合った判断フレームで行うべきだったと指摘する。 次に(4)裁判上の事実と客観的事実については、起訴後の有罪率99.9%というわが国の刑事司法の現状において、被告人への無罪推定の原則(「有罪宣告を受けるまでは無罪と推定する」という近代法上の原則)の再認識を促すとともに、こと冤罪が多い痴漢事件などへ刑事司法の慎重な判断を要求した。 最後に(5)本件が医療現場に及ぼす影響については、違法行為になってしまうのではないかという懸念から医療萎縮が起こり、最終的に患者の生命・健康を損ねることになると問題点を指摘し、適法行為ができるように類型された明確なルール作りが必要になると提案した。そのためにも類似の案件があった場合、有罪無罪の判断スキームの透明化が求められるが、その際、判断スキームは医療現場の実情を踏まえたものが求められる。今後は適切かつ明確な判断フレームについて、議論を深めていきたいと期待を寄せた。術後せん妄が起こる仕組みと予防の可否 続いて鈴木 宏昌氏(横浜医療センター 副院長/手術部長)が、「麻酔によるせん妄について」をテーマに、臨床現場におけるせん妄の実際について解説を行った。 せん妄は、「意識低下を背景に、不安、興奮、妄想、幻覚などの認知機能障害や精神症状を呈する症候群。多くは可逆的で、数日から数週間で改善する。術後せん妄は麻酔や手術が契機になったものをいう」と定義されている(ただし、妄想、幻覚は典型的ではあるが特有ではない)。そして、せん妄は、過活動型と抑制型に大きく分けられ、発生率ではICU入室患者で多くみられる。また、危険因子として、アルコール乱用、高齢者、低栄養、脱水などが挙げられ、若年者のせん妄の多くが薬剤由来(麻酔薬)だという。 今回の事件で病院より指摘されている麻酔覚醒時せん妄の危険因子としては、術前からのうつ状態やPTSD、睡眠薬などの薬物使用、アルコール乱用、小児・高齢者、乳腺外科や腹部外科手術、脱水などがある。 とくに乳がん手術で特有な事象として、手術では侵襲度が低い代わりに皮膚切開が大きいこと、患者(女性が99%)の不安が大きく心理的負担が重いこと、審美性を考慮するため手術時間が長いこと、術中出血を抑えるためにアドレナリンの局注や血圧コントロールが行われることが列挙され、これらが麻酔覚醒時せん妄が多い原因となっている可能性があると示唆を述べた。 まとめとして鈴木氏は、「術後せん妄の発生には、多くの要因が関わるため完全に防ぐことが難しい」と臨床現場の課題を説明した。医療行為はわいせつか 続いて、趙 誠峰氏(早稲田リーガルコモンズ法律事務所 弁護士)が「刑事司法について 痴漢冤罪事件から学ぶこと」と題し、解説を行った。 医療現場の出来事が犯罪になるのは、医療行為そのもの(たとえば業務上過失致死など)と診療・検査などでの違法な出来事(たとえば準強制わいせつなど)に2分される。 普通の強制わいせつであれば、行為そのものにわいせつ性があり、犯罪の端緒となるが、本件のように医療行為は行為自体がわいせつ性に直接結び付かないことから、わいせつ性を裏付ける別の証拠が必要(たとえば指紋、唾液、精液など)となるはずである。また、わいせつ性の判断にあたっては、その行為がルーチンから逸脱した行為だったか、TPOはふさわしいか、被害者(患者)の供述に信ぴょう性はあるかなどが、本来勘案されなければならないところに、通常のわいせつ事件と同じ判断で捜査がされてしまった点に問題があると指摘した。 パネルディスカッション パネルディスカッションでは、大磯氏が「現場の負担にならない解決策についてどう思うか」と水を向けると鈴木氏が「術後の患者の発言をいかに考えるか、医師は注意深く聞いておく必要がある。きちんと医師と患者の信頼構築がないと類似の事案が増えるかもしれない」と私見を寄せた。 また、具体的な予防策として参加者から「実際には難しいかもしれないが、男性医師が女性患者を診療するときは看護師を同席させる」、「場合により録画や録音が必要だ」、「カルテや看護記録に診療の内容や発言内容をすぐに残しておく」などの提案が寄せられ、活発な議論が行われた。(ケアネット 稲川 進)参考サイト MediLegal 医療従事者のためのワンポイント・リーガルレッスン  臨床に役立つ法的ケーススタディ 

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血栓除去術の鎮静管理は、全麻に比べ早期の神経学的改善をもたらさない(解説:中川原 譲二 氏)-620

 Heidelberg大学病院神経科のSchonenberger氏らは、血栓除去術が行われた前方循環の急性虚血性脳卒中患者において、鎮静管理群と全身麻酔管理群を無作為に比較したところ、鎮静管理は24時間後の神経学的改善をもたらさなかったことを示した。この研究結果から、鎮静管理の利点を支持しないと結論した(JAMA誌オンライン版2016年10月26日号掲載の報告)。【研究背景】 急性虚血性脳卒中患者に対する血栓除去術中の鎮静または全麻による至適な患者管理については、無作為化比較試験に基づく証拠が欠如しているため、その優劣に関する結論が出ていない。【研究目的】 血栓除去術が行われた患者の早期の神経学的改善に関して、鎮静が全麻よりも優れているかどうかを検証すること。【研究デザイン】 2014年4月~2016年2月にわたり、転帰の盲検評価を用いた単一施設、無作為化、2群設定、オープンラベル治療からなるSIESTA(Sedation vs.Intubation for Endovascular Stroke Treatment)研究が、Heidelberg大学病院で行われた。前方循環の急性虚血性脳卒中患者150例、NIHSSスコア>10、内頸動脈および中大脳動脈のすべてのレベルの閉塞を対象とした。【介入割付】 患者は、挿管下全麻群(73例)と非挿管鎮静群(77例)に無作為に割り付けられた。【主要転帰】 主要転帰は、24時間後のNIHSSに基づく早期の神経学的改善(0~42、4ポイント≦を改善)であった。副次転帰は、3ヵ月後のmRSによる機能的転帰(0~6)、死亡率、安全性に関する周術指標などであった。全麻群では、3ヵ月後、より多くの患者が機能的に自立【研究結果】 150例(女性60例、平均年齢71.5歳、NIHSSスコアの中央値17)の中で、主要転帰は、全麻群(NIHSSスコアの低下-3.2ポイント[95%CI:-5.6~-0.8])と鎮静群(同-3.6ポイント[95%CI:-5.5~-1.7 ])で両群間に有意差なし(p=0.82)。あらかじめ設定した副次転帰47項目のうち、41項目で有意差なし。全麻群では、患者の動きがない(0% vs.9.1%、p=0.008)が、低体温(32.9% vs.9.1%、p<0.001)、抜管の遅れ(49.3% vs.6.5%、p<0.001)、肺炎(13.7% vs.3.9%、p=0.03)などの合併症が多かった。全麻群では、3ヵ月後、より多くの患者が機能的に自立していた(mRS 0~2:全麻群37.0% vs.鎮静群18.2%、p=0.01)。3ヵ月後の死亡は、両群で差はなかった。 本SIESTA研究は、単一施設で行われたRCTであるが、血栓除去術における鎮静管理と全麻管理の転帰を初めて検証した無作為化比較試験である。鎮静管理では早期の神経学的改善が得られず、全麻管理では3ヵ月後により多くの患者で機能的自立が得られたことは注目に値する。血栓除去術の治療成績は、発症から再開通までの時間が短いほど良好であることから、全麻管理を選択する場合でも、その手技に時間を要することがないように注意が必要となる。

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脳梗塞の血栓除去術、全身麻酔 vs.意識下鎮静法/JAMA

 前方循環系の急性虚血性脳卒中患者に対する血栓除去術において、意識下鎮静法は全身麻酔と比較し24時間後の神経学的状態を改善しない。ドイツ・ハイデルベルク大学病院のSilvia Schonenberger氏らが単施設で行った、無作為化非盲検比較試験SIESTA(Sedation vs Intubation for Endovascular Stroke Treatment)試験で示された。急性虚血性脳卒中に対する血栓除去術中の適切な鎮静と気道の管理については、無作為化試験のエビデンスが少なく、議論の的となっていた。著者は、「今回の結果は、意識下鎮静法の使用を支持しないものであった」と結論している。JAMA誌オンライン版2016年10月26日号掲載の報告。150例対象に、血栓除去術24時間後のNIHSSスコアの変化を比較 SIESTA試験は、2014年4月~2016年2月の間にドイツのハイデルベルク大学病院で実施された、評価者盲検の無作為化並行群間非盲検比較試験(PROBE試験)である。 研究グループは、脳卒中重症度評価スケール(NIHSS)スコアが高値(>10)で、内頸動脈または中大脳動脈の閉塞を来した前方循環系の急性虚血性脳卒中患者150例(女性40%、平均年齢71.5歳、平均NIHSSスコア17点)を、血栓除去術中に挿管下全身麻酔を施行する麻酔群(73例)と、非挿管意識下鎮静法を鎮静群(77例)に無作為に割り付けた。 主要評価項目は、24時間後のNIHSSの早期神経学的改善(0~42点[点数が高いほど神経学的欠損の重症度が高い。4点差は臨床的関連ありと判断される])で、副次評価項目は、3ヵ月後の修正Rankinスケール(mRS)による機能的アウトカム(0~6点[症状なし~死亡])、死亡率、実現可能性(実際の患者動作や再開通困難によって評価)の周術期パラメーターおよび安全性(重度の高血圧または低血圧、換気または酸素化障害、術後合併症)とした。主要評価項目について有意差なし、術後合併症は多いが機能回復の点で麻酔群が優位 主要評価項目は、麻酔群(平均NIHSSスコア:入院時16.8 vs.24時間後13.6、差:-3.2[95%CI:-5.6~-0.8])と鎮静群(同:17.2 vs.13.6、-3.6[95%CI:-5.5~-1.7])で、有意差は認められなかった(平均群間差:-0.4、95%CI:-3.4~2.7、p=0.82)。 事前定義した副次評価項目の解析では、47項目中41項目で両群間に差はなかった。麻酔群では、鎮静群と比較して、実際の患者動作の頻度が少なかったが(0% vs.9.1%、差:9.1%、p=0.008)、術後合併症に関しては、麻酔群のほうが、低体温症(32.9 vs.9.1%、p<0.001)、抜管遅延(49.3 vs.6.5%、p<0.001)、肺炎(13.7 vs.3.9%、p=0.03)の頻度が高かった。一方で、麻酔群は鎮静群より機能的自立(3ヵ月後の非補正mRSスコアが0~2点)が得られた患者が多かった(37.0% vs.18.2%、p=0.01)。3ヵ月後の死亡率は、両群で有意差は認められなかった(両群ともに24.7%)。 今回の研究について著者は、単施設の試験で一般化はできず、主要評価項目の評価時期が短いことや、通常は全身麻酔が広く行われていることなどを指摘し、限定的であるとしている。

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難治性てんかん重積状態への有用な対処法

 小児の痙攣難治性てんかん重積状態の治療における、全身麻酔導入前のレベチラセタムおよびバルプロ酸の有効性、安全性を比較した研究は不十分である。トルコ・Dr Behcet Uzこども病院のRana Isguder氏らは、2011~14年に小児集中治療室に入院した痙攣てんかん重積状態の患者における抗てんかん薬の有効性を比較するため検討を行った。Journal of child neurology誌オンライン版2016年4月14日号の報告。 難治性てんかん重積状態の患者78例に対し、46例(59%)にはレベチラセタムを、32例(41%)にはバルプロ酸を投与した。 主な結果は以下のとおり。・反応率は、2群間で差はなかった。・有害事象は、レベチラセタム群では認められなかったが、バルプロ酸群では肝機能障害が4例(12.5%)に認められた(p=0.025)。 結果を踏まえ著者らは、「本研究では、全身麻酔導入前の難治性てんかん重積状態に対する治療にレベチラセタムおよびバルプロ酸を用いることができる。レベチラセタムは、バルプロ酸と同様の有効性を示し、より安全に使用できることが示唆された」としている。関連医療ニュース てんかん重積状態に対するアプローチは 日本人難治性てんかん、レベチラセタムは有用か てんかん重積状態の薬物療法はエビデンス・フリー・ゾーン

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駆出率低下心不全、一方向性シャント作成デバイスの有効性をヒトで確認/Lancet

 駆出率が低下した進行心不全患者において、一方向性の心房間シャント作成デバイスは安全に留置でき、早期の臨床転帰や血行動態転帰が改善される可能性があることが、カナダ・ラヴァル大学のMaria Del Trigo氏らの検討で示された。心不全患者では、上昇した左房圧を低下させることで症状が軽減し、入院のリスクが減少するとされる。V-Wave心房間シャント作成デバイスは、左心房から右心房への一方向性のシャントを作成することで左房圧を低下させるという。Lancet誌2016年3月26日号掲載の報告より。10例で有用性を検証する概念実証コホート試験 研究グループは、駆出率が低下した心不全患者に対するV-Wave心房間シャント作成デバイスの安全性と有効性をヒトで初めて検証する概念実証コホート試験を行った(V-Wave社の助成による)。 対象は、年齢18歳以上、6ヵ月以上持続する慢性の虚血性または非虚血性の心筋症の既往歴を有し、NYHA心機能分類III度、ACC/AHA Stage Cの心不全であり、左室駆出率≦40%、肺毛細血管楔入圧(PCWP)の上昇(>15mmHg)がみられる患者であった。 デバイスは、砂時計様の形状の自己拡張型のニチノール製フレームに、3つのブタ心膜由来の弁尖が縫合されており、砂時計の首の部分が卵円窩に位置し、左心房側に入口、右心房側に出口が漏斗状に拡張するように留置される。 留置は、全身麻酔下に経食道心エコーガイド下経心房中隔カテーテル術により行われ、ベースライン、留置後1、3ヵ月時に臨床評価と心エコー検査が実施された。 2013年10月10日~15年3月27日までに、カナダの単一施設(ラヴァル大学ケベック心肺研究所)に10例が登録された。安全で実行可能、症状、QOL、運動能、PCWPが改善 10例の平均年齢は62(8 SD)歳、男性が9例(90%)で、平均BMIは31(5 SD)、平均左室駆出率は25(8 SD)%であった。高血圧、糖尿病、心房細動がそれぞれ7例に、冠動脈疾患が9例に、慢性腎臓病(推定糸球体濾過量[eGFR]<60mL/分/1.73m2)が5例にみられた。 平均手術時間は59(26 SD)分であった。全例でデバイスの留置が成功し、合併症が発現することなく翌日に退院した。3ヵ月のフォローアップ期間中にデバイス関連および手技関連の有害事象は発生せず、右心房から左心房へのシャントが発生した患者はいなかった。 また、心不全の増悪で入院した患者はなかった。1例(10%)が1ヵ月時に消化管出血で入院した。左室駆出率15%、NT-proBNP 4,760pg/mL、心室性不整脈の既往のある1例(10%)が、持続性の難治性心室頻拍(VTストーム)により2ヵ月時に末期心不全を来して死亡した。 1ヵ月時の経食道心エコー検査では、すべてのシャントが開存しており、血栓症やシャントの移動は認めなかった。 ベースライン時にNYHA心機能分類III度の9例のうち7例(78%)が3ヵ月時にはII度に、1例(11%)がI度に改善し、1例は不変であった(p=0.0004)。 デューク活動状態指標によるQOL評価では、平均スコアがベースラインの13(6.2 SD)点から3ヵ月時には24.8(12.9 SD)点に改善し(p=0.016)、カンザス市心筋症質問票では平均スコアが44.3(9.8 SD)点から79.1(13.0 SD)点へと有意に改善した(p=0.0001)。 また、6分間歩行距離も244(112 SD)mから318(134 SD)mに有意に延長した(p=0.016)。 PCWPは、ベースラインの平均23(5 SD)mmHgから3ヵ月時には平均17(8 SD)mmHgへと低下した(p=0.035)。右室圧、肺動脈圧、肺血管抵抗には変化はみられなかった。 著者は、「デバイスを用いた左心房から右心房への一方向性のシャント作成の有効性が示されたことにより、駆出率が低下した心不全患者の治療において重要な転換が起きる可能性があり、大規模な無作為化試験の実施が正当化される」と指摘している。

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卵円孔開存への経皮的閉鎖術、片頭痛の頻度は減少せず

 西洋諸国における片頭痛の有病率は8~13%と言われおり、幾つかの研究が、片頭痛と卵円孔開存(PFO)の関連性を指摘している。今回、前兆を伴う片頭痛患者に対する経皮的PFO閉鎖術の効果を無作為化比較で検討した試験の結果が、European Heart Journal誌オンライン版2016年2月22日号に発表された。スイス、ドイツ、イギリスなどの20施設による共同発表。なお、本試験は、Amplatzer卵円孔開存閉鎖栓の製造元であるSt. Jude Medical社がスポンサーとなっている。卵円孔閉鎖術と薬物治療による無作為化比較試験 PRIMA(The Percutaneous Closure of PFO in Migraine with Aura)試験は、内服治療が無効な片頭痛患者に対するカテーテルを用いた経皮的PFO閉鎖術の有効性の評価を目的とした、多施設共同無作為化試験である。前兆を伴う片頭痛とPFOを有し、かつ片頭痛に対する予防的な内服が無効であった患者をPFO閉鎖術群と内服治療群に無作為化したうえで、片頭痛の頻度を比較した。両群ともアセチルサリチル酸(75~100mg/日、6ヵ月間)とクロピドグレル(75mg/日、3ヵ月間)が投与された。 主要評価項目は、無作為化前の3ヵ月間(ベースライン)と比較して、無作為化後9~12ヵ月の3ヵ月間における片頭痛の頻度の減少とされた。患者がどちらの群に属するかは、頭痛日記を確認するメンバーにはわからないようになっていた。片頭痛の頻度の減少は閉鎖群-2.9日/月、対照群-1.7日/月で有意差なし 107例が、Amplatzer卵円孔開存閉鎖栓での治療群53例、対照群54例に無作為に振り分けられた。患者の組み入れのペースが遅すぎたため、スポンサーが中止を決定し、試験は終了となったが、83例(閉鎖群40例、対照群43例)が12ヵ月のフォローアップを終了した。ベースラインでの1ヵ月当たりの平均片頭痛日数(±SD)は、閉鎖群で8±4.7日、対照群で8.3±2.4日。主要評価項目は、閉鎖群-2.9日/月、対照群-1.7日/月で、有意差は認められなかった(p=0.17)。閉鎖群で5つの合併症が起きたが、一時的な後遺症にとどまった。試験後の解析では、閉鎖群における前兆を伴う片頭痛の頻度は、対照群に比べて有意に減少した(-2.4日/月 vs.-0.6日/月、p=0.0141)。 著者らは、当初、対照群に偽の手技を行うことも検討したが、それには、閉鎖術に必ずしも必要のない鎮静や全身麻酔を行わなければならないため、認められなかった。そのため、閉鎖群にプラセボ効果が生じ、結果にバイアスが生じている可能性があるとしている。(カリフォルニア大学アーバイン校 循環器内科 河田 宏)関連コンテンツ循環器内科 米国臨床留学記 

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【第59回】携帯電話を飲み込んだ男

【第59回】携帯電話を飲み込んだ男 FREEIMAGESより使用 異物を飲み込む論文。世の中には「オイオイ、さすがにそりゃ飲み込めないだろう!」というくらい大きな異物を飲み込んだ医学論文が存在します。たとえば、携帯電話。 皆さんの手元にある携帯電話はどのくらいの大きさでしょうか。私のスマホは10cmくらいあります。こんなもん飲み込めません。 Ali MM, et al Accidental cell phone ingestion with pharyngeal impaction. Del Med J. 2014 ;86:277-279. 主人公は35歳の酔っぱらった男性です。全文が読めなかったのでインターネットでこの事件の詳細を調べてみたのですが、アルコールに酔っていたのか薬物中毒で酩酊状態だったのか、よくわかりませんでした。とにもかくにも、白黒の判別がつかない彼は、自分の携帯電話を飲み込んでしまったそうです。…想像してみたんですが、どうやっても普通入らないでしょ…。もちろん胃の中にまで到達したワケではなく、喉の奥にガッポリつっかえてしまいました。男性はパニック状態。携帯電話は全身麻酔下で摘出されたそうです。普段から異物論文を定期的に検索しているとわかってくることがあるのですが、こういった異物を飲み込む論文は往々にして精神科疾患がベースにあることが多いです。外科的に取り出さねばならないほどの大きな石を飲み込んだ症例も報告されています1)。参考文献1)Mallick FR, et al. Ann R Coll Surg Engl. 2014;96:e11-13.インデックスページへ戻る

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乳幼児期の全身麻酔、2歳時の神経発達への影響は/Lancet

 生後60週未満の乳幼児に対するセボフルランによる全身麻酔は、意識下局所麻酔と比べ、2歳時点における神経発達アウトカムへの影響は認められなかったことが報告された。オーストラリア・Murdoch Childrens Research InstituteのAndrew J. Davidson氏らが行った、無作為化比較試験の副次評価項目で示された。Lancet誌オンライン版2015年10月23日号掲載の報告より。オーストラリア、イタリアなど7ヵ国28病院で試験 研究グループは、2007年2月9日~13年1月31日にかけて、オーストラリア、イタリア、米国など7ヵ国28ヵ所の病院を通じて、生後60週未満で、胎在週数26週を超えてから生まれ、鼠径ヘルニア縫合術を受けた幼児722例を対象に試験を行った。 無作為に2群に分け、一方には意識下局所麻酔を(363例)、もう一方にはセボフルランによる全身麻酔を行った(359例)。 主要評価項目は、5歳時点でのウェクスラー就学前・小学生知能評価尺度第3版(WPPSI-III)スコアだった。今回の報告では、副次的評価項目の2歳時点でのベイリー乳幼児発達尺度第3版の認知機能複合スコアが発表された。全身麻酔時間中央値は54分 被験者のうちアウトカムが得られたのは、局所麻酔群が238例、全身麻酔群が294例だった。 2歳時点でのベイリー乳幼児発達尺度認知機能複合スコア平均値は、局所麻酔群が98.6(SD:14.2)、全身麻酔群が98.2(同:14.7)で、両群の差は0.169(95%信頼区間:-2.30~2.64)と同等だった。 なお、全身麻酔群の麻酔時間中央値は54分だった。

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心臓手術におけるRIPC、臨床転帰は改善するか/NEJM

 心肺バイパスを要する待機的心臓手術において、遠隔虚血プレコンディショニング(RIPC)を行っても、臨床転帰は改善しないことが示された。ドイツ・フランクフルト大学病院のPatrick Meybohm氏らが、約1,400例を対象に行った多施設共同前向き無作為化二重盲検試験の結果、報告した。心臓手術患者へのRIPCにより、虚血・再灌流傷害バイオマーカーの低下が報告されていたが、臨床転帰については不明なままだった。NEJM誌2015年10月8日号(オンライン版2015年10月5日号)掲載の報告。プロポフォール静注による全身麻酔下でRIPC 研究グループは、プロポフォール静注による全身麻酔下で、心肺バイパスを要する待機的心臓手術を受ける成人患者1,403例を対象に試験を行った。被験者を無作為に2群に分け、一方の群には上肢にRIPCを、もう一方には偽処置を行い、それぞれのアウトカムを比較した。 主要評価項目は、退院時までの死亡、心筋梗塞、脳卒中、急性腎不全の複合エンドポイントだった。副次評価項目は、主要評価項目それぞれ、および90日後までの主要評価項目の発生などだった。主要・副次評価項目のいずれも両群で有意差なし 被験者のうち、分析の対象となったのはRIPC群692例、偽処置群693例の合わせて1,385例だった。 主要評価項目の発生率は、RIPC群14.3%(99例)、偽処置群14.6%(101例)と同程度だった(p=0.89)。 また、主要評価項目の各項目の発生率も、死亡がそれぞれ1.3%と0.6%(p=0.21)、心筋梗塞が6.8%と9.1%(p=0.12)、脳卒中が2.0%と2.2%(p=0.79)、急性腎不全が6.1%と5.1%(p=0.45)と、いずれも有意差はなかった。 さらに、トロポニン放出量、人工呼吸器の使用期間、ICU入室または入院期間、心房細動の新規発生率、術後せん妄の発生率についても、両群で有意な差は認められなかった。 なお、RIPC関連の有害事象の発生は報告されていない。

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周術期の音楽が術後の疼痛・不安を軽減/Lancet

 成人患者の手術後の疼痛や不安感の軽減を支援する手段として、音楽が有効であることが、英国・ロンドン大学クイーンメアリー校のJenny Hole氏らの検討で明らかとなった。医療における音楽の使用の歴史は長く、19世紀半ばにはフローレンス・ナイチンゲールが入院患者の回復を目的に導入しており、周術期の患者支援としては1914年にEvan Kane氏が初めて報告した。音楽は、施行が簡便で失敗がほとんどなく、非侵襲的で安全かつ安価な介入法であるが、その有用性についてはこれまでに包括的なレビューがいくつかあるものの、メタ解析は行われていないという。Lancet誌2015年8月12日号掲載の報告。種々の対照と比較した73件の無作為化試験を解析 研究グループは、術後の回復における音楽の有効性を検討した無作為化対照比較試験の論文を系統的にレビューし、メタ解析を行った(研究助成なし)。 対象は、手術を受けた成人患者の術後の回復に関して、周術期の音楽による介入と、標準的なケアまたは薬物以外の介入(マッサージ、安静、リラクゼーションなど)を比較した試験とした。中枢神経系や頭頸部の手術は除外し(聴覚障害の可能性があるため)、英語以外の論文も可とした。 関連文献の検索には4つの医学関連データベースを用いた。2人の研究者が試験の適格性を評価し、別個にデータの抽出を行った。メタ解析にはReview Manager(version 5.2)を用いた。ランダム効果モデルで参加者や介入法の異質性を調整し、アウトカムの測定法の違いを調整するために標準化平均差(SMD)を算出した。 質的な統合解析は日本の試験を含む73試験で行われ、メタ解析はこのうち72試験で実施された。各試験の参加者は20~458例までの幅があり、手術手技は内視鏡による小手術から移植手術までさまざまで、ほとんどが待機的手術の試験であった。全身麻酔下でも有効、患者満足度が向上、施設で工夫も可 選曲は患者または研究者が行っていた。患者だけが聴く場合はヘッドホンや音楽枕(音楽の再生機能がある枕)を使用し、医療者も聴けるようにスピーカーを用いた試験もあった。介入時期は術前、術中、術後のほか、これらを組み合わせた試験もあった。 介入は覚醒下または麻酔下に行われ、音楽の再生時間は数分のものから一定時間を数日間にわたり繰り返す場合もあった。比較対照はさまざまで、通常のケアのほか、無音のヘッドホン装着、ホワイトノイズ、平静な床上安静などが含まれた。 メタ解析の結果、音楽は対照に比べ、術後の疼痛(SMD:-0.77、95%信頼区間[CI]:-0.99~-0.56)、不安感(-0.68、-0.95~-0.41)、鎮痛薬の使用頻度(-0.37、-0.54~-0.20)を有意に改善した。 疼痛と鎮痛薬の使用は、患者自身が選んだ音楽のほうが、患者の選択ではない場合よりも良好で、不安はむしろ患者が選んでいない音楽ほうが良好な傾向がみられたが、これらの差はいずれも小さかった。 また、音楽による介入の時期は、疼痛、不安、鎮痛薬の使用のいずれにおいても、術前が最も効果が高く、次いで術中、術後の順であったが、これらも差は大きくなかった。 一方、術中の音楽が患者の回復に及ぼす効果は、全身麻酔を用いない場合(疼痛:-1.05、-1.45~-0.64、不安感:-0.91、-1.33~-0.48、鎮痛薬の使用:-0.58、-1.05~-0.11)のほうが、全身麻酔を行った場合(-0.49、-0.74~-0.25、-0.48、-0.91~-0.05、-0.26、-0.44~-0.07)よりも優れたが、全身麻酔下の改善効果も対照に比べ有意に良好だった。 さらに、音楽は、対照に比べ患者満足度を有意に向上させた(1.09、0.51~1.68)。入院期間には差を認めなかった(-0.11、-0.35~0.12)が、入院期間の評価を行った試験は少なかった。また、音楽による介入が感染症や創傷治癒、医療費に及ぼす影響を評価した試験はなかった。 著者は、「音楽は術後の疼痛や不安感からの回復に有効であり、介入の時期や方法は個々の施設や医療チームの状況に合わせて変えてよいと考えられる」とまとめ、「実際に臨床の現場に導入するには、著作権や知的財産の問題などの障壁があり調査を要するが、個別の手術では患者向けの情報冊子や施設のガイドラインで患者に音楽を聴くよう薦めてよいと考えられる」と指摘している。

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