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ASCO2019レポート 肺がん

レポーター紹介2019年のASCO、とくに肺がん領域は、このところ続いた免疫チェックポイント阻害薬による新境地の開拓の連続とは異なり、比較的おとなしいエビデンスの報告が主体であった。その中でも、RELAY試験の中川先生、JIPANG試験の劔持先生、COMPASS試験の瀬戸先生、そして大規模な外科切除データに基づく発表が注目された津谷先生といった日本人演者のOral presentationが多数報告され、活況を呈した。今回はその中から、とくに注目すべき演題について概観したい。RELAY試験EGFR遺伝子変異陽性非小細胞肺がんの患者を対象に、試験治療としてのエルロチニブとラムシルマブの併用療法を標準治療としてのエルロチニブと比較したRELAY試験の結果が報告された。本試験には、Exon19欠失変異、Exon21 L858R変異があり、PS 0-1、血管新生阻害薬の一般的な適格規準を満たし、脳転移のない患者が合計449例登録された。主要評価項目はPFS、副次評価項目は安全性、OS、奏効割合などが設定されている。本試験はこれまでのEGFR-TKIと血管新生阻害薬の試験に比べ多数の症例が登録されており、また、アジア例が77%、そのうち日本人が多数を占めるという点も特徴的である。主要評価項目であるPFS中央値は、試験治療群で19.4ヵ月、標準治療群で12.4ヵ月、ハザード比は0.591(95%信頼区間0.461~0.760)であり、有意にエルロチニブ+ラムシルマブ併用群が良好な成績であった。探索的に実施されたPFS2の解析でも、ハザード比0.690(95%信頼区間0490~0.972)であった。安全性に関しては、Grade 3以上の有害事象が試験治療群で72%、標準治療群で54%報告されており、両者の違いは多くは高血圧であり、皮膚障害などの有害事象はCTCAE Gradeでは大きな違いを認めなかった。脳転移のない患者集団であることは考慮する必要があるものの、PFSの中央値でオシメルチニブのFLAURA試験と同等の結果が得られたことは、今後明らかになる全生存期間の解析に期待が持たれる結果であった。ゲフィチニブ+カルボプラチン+ペメトレキセド併用療法EGFR遺伝子変異陽性非小細胞肺がんの患者を対象に、試験治療としてゲフィチニブとカルボプラチン+ペメトレキセド療法を併用する治療と、標準治療としてのゲフィチニブを比較するPhase III試験の結果が、インドから報告された。本試験には、Exon 19欠失変異、Exon 21 L858R変異があり、PS 0~2の患者が350例登録された。主要評価項目はPFS、副次評価項目はOS、安全性、奏効割合などであった。本試験に登録された患者の年齢中央値は50代半ばであり、PSに関しては2の患者が21~22%登録されており、わが国で実施されたNEJ009試験とは患者集団が異なる可能性が高い試験である。PFS中央値は試験治療群で16ヵ月、標準治療群で8ヵ月であり、ハザード比0.51(95%信頼区間0.39~0.66)と、良好な成績であった。OSについては試験治療群の中央値は到達しておらず、ハザード比は0.45(95%信頼区間0.31~0.65)であり、副次評価項目ながら併用療法群が良好な結果であった。NEJ009試験で話題となったゲフィチニブ、カルボプラチン+ペメトレキセド療法がPDとなった後のPSや腫瘍量などについての情報は開示されなかったものの、同様にOSを延長する結果が得られたことは評価に値する。ただ、FLAURA試験の結果でオシメルチニブが初回治療で注目されており、オシメルチニブを基本として今回と同様のデザインでどのような結果が得られるか、注目がさらに集まっている。JCOG1210/WJOG7813L試験75歳以上の高齢者を対象として、試験治療としてのカルボプラチン+ペメトレキセド療法と標準治療ドセタキセルと比較したPhase III試験である、JCOG1210/WJOG7813L試験の結果も報告されている。本試験には未治療、PS 0~1の75歳以上の非扁平上皮非小細胞肺がん患者433例が登録され、試験治療としてカルボプラチン+ペメトレキセド併用療法とその後の維持療法が、標準治療としてドセタキセル単剤療法が実施された。主要評価項目はOSの非劣性であり、非劣性マージンはハザード比で1.154に設定された。登録された患者の年齢中央値は78歳、試験治療群では最高87歳、標準治療群では最高88歳の高齢患者が登録されている。OSは中央値で試験治療群が18.7ヵ月、標準治療群が15.5ヵ月、ハザード比は0.850(95%信頼区間は0.684~1.056)であり、カルボプラチン+ペメトレキセド併用療法のドセタキセルに対する非劣性が証明された。安全性については、試験治療群で貧血が多い傾向にあり、標準治療群で白血球減少、好中球減少が多い傾向を認め、治療関連死はそれぞれ2例ずつ報告されている。FACT-LCを用いたQOL評価では、試験治療群が良いことが示されている。非劣性が証明され、かつ有害事象やQOLでも試験治療群が想定されたとおり良好な結果であったことを受け、カルボプラチン+ペメトレキセド併用療法とそれに続くペメトレキセド維持療法が、75歳以上の高齢者における標準治療と考えて問題ない結果であった。サブセット、フォローアップ今回、肺がん領域では、主たる結果が発表済みの試験においても盛んにサブセット解析、フォローアップ解析の結果が報告された。IMpower150試験は、進行期非小細胞肺がんにおいて、カルボプラチン+パクリタキセル+ベバシズマブにアテゾリズマブを上乗せすることの優越性を示したPhase III試験である。本試験ではこれまでのベバシズマブを用いた試験の結果を受け、肝転移の有無が層別化因子に加えられていた。今回報告された肝転移の有無で分けられたサブセット解析では、肝転移を有する症例で、カルボプラチン+パクリタキセル+ベバシズマブ療法に対し、アテゾリズマブを加えることで、PFS、OSのハザード比がそれぞれ0.41(95%信頼区間0.26~0.62)、0.52(95%信頼区間0.33~0.82)と、いずれも明らかに改善していることが認められた。AACRでは、KEYNOTE189試験において、層別化因子には含まれていなかったものの肝転移の有無でのサブセット解析結果が報告されており、同様に肝転移症例でも有効であることが示されている。肝転移症例が予後不良であることはすでに報告されており、この患者集団においてもプラチナ併用療法と免疫チェックポイント阻害薬の併用療法の意義を示すエビデンスが積み重ねられている。一方、フォローアップデータとしては、KEYNOTE189試験のアップデート、PACIFIC試験のアップデート等が報告され、いずれも良好な傾向が維持されていることが示されている。なかでも注目を集めたのはLate breakingで報告されたKEYNOTE001試験の5年生存のデータである。KEYNOTE001試験は、ペムブロリズマブのPhase I試験であり、この中から同薬の安全性や至適投与量のデータだけでなく、PD-L1のTPSカットオフについての知見も得られている。今回報告された5年生存のデータでは、未治療患者、治療歴のある患者それぞれについて、PD-L1発現別のサブセットを含め長期生存のデータが評価された。5年生存割合は、未治療患者では23.2%、治療歴あるセカンドライン以降の患者では15.5%であった。すでにニボルマブの長期生存のデータが報告されており、既治療の患者集団での成績は大きく異ならない印象であった。一方、未治療の患者における23.2%の5年生存割合はこれまで報告されていなかった情報であり、初回治療から免疫チェックポイント阻害薬を使用する場合の5年生存割合の新たな指標として受け止められる結果であった。PD-L1 TPS別の解析結果でも、PD-L1 50%以上の集団では、未治療、既治療問わず、5年生存割合が25%を超えるという驚くべき結果であった。ただし、Phase I試験のデータであるなど、対象となった患者集団は日常臨床の患者集団とは異なる、具体的にはより状態が良い可能性もあり、この結果が一般臨床でも再現されるかは、今後の追加情報を待つ必要がある。周術期治療NEOSTAR:術前のニボルマブ+イピリムマブ併用療法の有効性と安全性を評価するPhase II試験である。本試験には、切除可能Stage I~IIIA(Single N2)症例44例が登録され、ニボルマブ単剤療法とニボルマブ+イピリムマブ併用療法にランダム化された。主要評価項目はMajor Pathologic Response(<10% viable tumor)とされた。両群併せて手術検体が得られた41例中10例(29%)、ニボルマブ単剤では20%、ニボルマブ+イピリムマブ併用療法では43%でMPRが達成されていた。有害事象に関しては、ニボルマブ群1例でbronchopleural fistulaとそれに伴う肺臓炎による死亡例が報告されており、それ以外にも、肺臓炎、低酸素血症、低マグネシウム血症、下痢などがGrade 3の有害事象として報告されている。免疫チェックポイント阻害薬による術前導入療法については、本試験以外にも複数実施されており、注目が高まっている。評価手法として用いられたMPRについて、従来からあるpCRを含めた病理学的効果判定の意義や、長期生存のデータとの関連性等について今後さらなる解析が必要と考えられる。JIPANG:Stage II~IIIAの非扁平上皮非小細胞肺がんの術後化学療法として、試験治療としてシスプラチン+ペメトレキセド併用療法を、標準治療であるシスプラチン+ビノレルビン併用療法と比較したPhase III試験である。本試験には、完全切除後のpStage II-IIIAの非扁平上皮非小細胞肺がん患者804例が登録され、性別、年齢、pStage、EGFR遺伝子変異の有無、施設を層別化因子としてランダム化された。主要評価項目は無再発生存期間、副次評価項目はOS、安全性等とされ、優越性試験のデザインで実施された。無再発生存期間の中央値は、試験治療群で38.9ヵ月、標準治療群で37.3ヵ月、ハザード比は0.98(95%信頼区間0.81~1.20)であり、試験治療の優越性は証明されなかった。安全性に関しては、Grade 3以上の有害事象の発生頻度は、試験治療群で47.4%、標準治療群で89.4%であり、試験治療群がより良好な結果であった。確かに優越性は証明されなかったものの、有効性は大まかには同等といえ、かつ安全性においてもシスプラチン+ペメトレキセドが良好な傾向を示したことが、会場でも話題になっていた。分子標的薬今回のASCOではMET阻害薬のデータが複数報告された。capmatinibとtepotinibは従来からMET exon14 skipping変異に対する有効性が報告されており、今回もそのフォローアップならびに追加データが示された。capmatinibに関しては、MET amplificationに対しても開発が進められている。MET阻害薬の発表と同時に、クリゾチニブを中心としたMETに対するTKIの耐性機序についても小数例ながら報告が行われており、EGFR等と並んで耐性機序の克服についても将来的には課題となってくることが示唆された。EGFRについては、通常のEGFR-TKIでは効果が限定されるExon 20 insに対する治療薬である、TAK788のPhase I試験の有効性と安全性が報告された。一方、EGFR等Driver oncogeneに対する治療の耐性因子としてMETに対する治療開発も盛んであり、今回ADCであるTeliso-V、EGFRとc-METのbispecific抗体であるJNJ-61186372についても発表があった。EGFR遺伝子変異陽性患者におけるADCであるTeliso-Vとエルロチニブの併用療法、EGFRとc-METを標的とする抗体療法によって、EGFR遺伝子変異陽性肺がんにおける新たな治療戦略が開拓されることが期待されている。最初に記載したとおり、今回のASCO肺がん領域では、いくつかの重要なPhase III試験の結果発表とともに、免疫チェックポイント阻害薬による術前治療、新たな分子標的薬等、近い将来の標準治療の変革を示唆する情報が多数報告された。今後の各学会、来年のASCOに期待したい。

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胃がん、ペムブロリズマブによる1次治療の結果(KEYNOTE-062)/ASCO2019

 国内の進行・再発胃がんでの免疫チェックポイント阻害薬の使用は、化学療法無効後のニボルマブ、同じく化学療法無効後の高頻度マイクロサテライト不安定性(MSI-High)例に対するペムブロリズマブがそれぞれ単剤療法で承認されている。ただ、現時点ではこうした進行・再発胃がんでの1次治療で承認されている免疫チェックポイント阻害薬は存在しない。KEYNOTE-062、胃がんのペムブロリズマブ1次治療の有効性を評価 そうした中、進行胃・胃食道接合部腺がんに対する1次治療での抗PD-1抗体ペムブロリズマブの有効性を評価した第III相試験「KEYNOTE-062」の結果から、PD-L1陽性(CPS1以上)の患者で、ペムブロリズマブ単独療法は標準治療の化学療法に対して、全生存期間(OS)で非劣性、CPS10以上では臨床的に意義のある改善を示すことがわかった。また、ペムブロリズマブと化学療法の併用は、化学療法単独に対してOSで優越性を示せなかった。スペインVall d’Hebron University Hospital and Institute of OncologyのJosep Taberneroがシカゴで開催された米国臨床腫瘍学会年次総会(ASCO2019)で報告した。 同試験の対象はPS0~1でHER2/neuタンパク陰性、PD-L1陽性(CPS1以上)の局所進行で手術不能あるいは転移のある胃がん・胃食道接合部腺がん患者763例。登録患者はペムブロリズマブ単独群256例、ペムブロリズマブ+化学療法(シスプラチン+5FUあるいはカペシタビン)群257例、プラセボ+化学療法群250例に無作為に割り付けられた。いずれの群も毒性による忍容性の限界、病勢進行、患者本人および医師による中断決定まで投与が実施された。 主要評価項目はOS、無増悪生存期間(PFS)、副次評価項目は客観的奏効率(ORR)、安全性。 ペムブロリズマブ単独群とプラセボ+化学療法群との比較では、CPS1以上でのOS中央値はペムブロリズマブ単独群10.6ヵ月、プラセボ+化学療法群11.1ヵ月で、ペムブロリズマブ単独療法は化学療法単独に対して非劣性だった(HR:0.91、95%CI:0.69~1.18)。一方でCPS10以上では、OS中央値がそれぞれ17.4ヵ月、10.8ヵ月で有意なOS改善が認められた(HR:0.69、95%CI:0.49~0.97)。ただ、PFSについてはCPS1以上でのPFS中央値はペムブロリズマブ単独群が2.0ヵ月、プラセボ+化学療法群が6.4ヵ月(HR:1.66、95%CI:1.37~2.01)、CPS10以上でそれぞれ2.9ヵ月、6.1ヵ月(HR:1.10、95%CI:0.79~1.51)で化学療法に対するペムブロリズマブの優越性は示せなかった。ORRはCPS1以上でそれぞれ14.8%、37.2%、CPS10以上で25.0%、37.8%だった。胃がんの1次治療におけるペムブロリズマブは化学療法と同等のベネフィット ペムブロリズマブ+化学療法群とプラセボ+化学療法群の比較では、CPS1以上でのOS中央値はペムブロリズマブ+化学療法群が12.5ヵ月、プラセボ+化学療法群が11.1ヵ月(HR:0.85、95%CI:0.70~1.03、p=0.046)、CPS10以上ではそれぞれ12.3ヵ月、10.8ヵ月(HR:0.85、95%CI:0.62~1.17、p=0.158)で、いずれも化学療法単独に対するペムブロリズマブ+化学療法の優越性は示せなかった。PFS中央値はCPS1以上でペムブロリズマブ+化学療法群6.9ヵ月、プラセボ+化学療法群6.4ヵ月(HR:0.84、95%CI:0.70~1.02、p=0.039)、CPS10以上でそれぞれ5.7ヵ月、6.1ヵ月であった(HR:0.73、95%CI:0.53~1.00)。ペムブロリズマブ+化学療法群のORRはそれぞれCPS1以上で48.6%、CPS10以上で52.5%であった。 全有害事象発現頻度はペムブロリズマブ単独群が54%、ペムブロリズマブ+化学療法群が94%、プラセボ+化学療法群が92%、Grade3以上の有害事象発現頻度はそれぞれ16%、71%、68%となり、ペムブロリズマブ単独では良好な安全性で、ペムブロリズマブ+化学療法と化学療法のみでは同等だった。なお、いずれの群でもこれまで知られていない副作用の発現は認められなかった。 Tabernero氏は「CPS1以上のPD-L1陽性進行胃がん・胃食道接合部がんの1次治療ではペムブロリズマブは化学療法と同等、CPS10以上ではより良好なOSベネフィットがあり、忍容性ではペムブロリズマブが良好」と最終結論を述べた。

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IV期NSCLCにおける放射線治療と免疫CP阻害薬の相乗効果

 切除不能な局所進行非小細胞肺がん(NSCLC)に対する化学放射線同時療法の維持治療にデュルバルマブが適応になるなど、放射線治療と免疫チェックポイント阻害薬との組み合わせは相乗効果をもたらすとされる。しかし、IV期NSCLCにおける放射線治療の意義を明確に示した報告は少ない。埼玉医科大学国際医療センターの山口央氏らは、放射線療法(RT)の治療歴がその後のニボルマブ(抗PD-1抗体)の治療効果や予後に影響を与えるかを後方視的に解析した。Thoracic Cancer誌2019年4月号の掲載報告。 2016年2月~2017年12月に既治療の進行NSCLC患者124例にニボルマブが投与された。この研究では、それらの患者をニボルマブ開始前に何らかの放射線治療歴のある群(RT群)と放射線治療歴のない群(非RT群)に分け比較検討した。 主な結果は以下のとおり。・124例中RT群は66例(53%)で、脳以外への照射が52例(42%)、胸部への照射は40例(32%)であった。・ニボルマブ治療期間の中央値は4サイクルであった。・ニボルマブ治療全体(124例)の客観的奏効率(ORR)は28.0%、病勢コントロール率(DCR)は58.4%であった。・RT群のORRは36.4%、非RT群は19%で、RT群で有意に高かった。・ニボルマブの治療効果はとくに脳以外に照射歴のある非腺がん患者(59例)および扁平上皮がん患者(38例)で高く、非腺がんのORRは48.3%、DCRは87.1%、扁平上皮がんのORRは52.6%、DCRは84.2%であった。・多変量解析では放射線治療歴と喫煙歴が無増悪生存期間(PFS)の独立した予後因子であった。・脳以外に照射歴のある非腺がん患者(59例)を対象とした予後解析ではRT群は非RT群に比べPFSと全生存期間が有意に延長していた。 RTはニボルマブ治療との相乗効果を示し、進行NSCLC患者のORR、PFSを改善することが確認された。RT治療歴は、ニボルマブの治療効果に関する予後良好因子の1つ考えられる。

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がんゲノム医療の今

 手術や放射線治療では根治できないと判断された進行固形がんにおけるがん薬物療法は、正常細胞とがん細胞との“生物学的な違い”をターゲットにする「分子標的薬」や「免疫チェックポイント阻害薬」が主流になりつつある。わが国におけるがんゲノム医療の現状は、どのようになっているのだろうか。 2019年4月、中外製薬株式会社が「第1回 がんゲノム医療に関する基礎メディアセミナー」を都内にて開催した。そこで、土原 一哉氏(国立がん研究センター 先端医療開発センター トランスレーショナルインフォマティクス分野 分野長)が講演を行った。米国に引けを取らないがん遺伝子検査 従来のがん薬物療法は、がん種を診断した後、そのがんに承認されている薬を使っていく形式だが、将来的には治療前に遺伝子診断を行うことで、患者さんにとって最もメリットの高い治療が効率的に選ばれる時代になることが期待されている。 ヒトゲノムの解析コストは、次世代シーケンサーの登場とともに劇的に低下しているが、全ゲノムシークエンスを実臨床に用いるには、解析結果から変異を抽出する作業やクオリティコントロールに高いコストがかかるため、もう少し時間がかかると言われている。検査の効率化を目指して、任意のゲノムを選択的に読み取るターゲットシークエンスや全エクソンシークエンスなども並行して開発が進んでおり、治療の選択に必要なバイオマーカーの研究も進展している。 「“日本のゲノム医療は米国と比較して遅れている”と言われる傾向にあるが、米国が承認したがん関連遺伝子検査は日本でも1年以内に承認されており、現在わが国で全国的に使えるものに関しては、日米でそれほど大きな差はない」と土原氏は説明した。整備されるがんゲノム医療の実施体制 わが国におけるがんゲノム医療の実施体制は整えられつつあり、2019年4月現在、全国に「がんゲノム医療中核拠点病院」が11ヵ所、「がんゲノム医療連携病院」が156ヵ所設置されている。中核拠点病院は、がんゲノム医療を牽引する高度な機能を有する医療機関として、連携病院は、中核拠点病院と連携して遺伝子検査結果を踏まえた医療を実施する医療機関として、国が指定した。 これにより、均てん化されたがんゲノム医療の提供が可能になり、質の高い遺伝子検査や公的保険の整備、説明・同意手順の標準化による患者保護などの、がんゲノム医療のベストプラクティスが目指されている。また、「がんゲノム情報管理センター」が国立がん研究センター内に設置され、中核拠点病院などから得られたゲノム情報や臨床情報をデータベースとして集約し、今後の診療や研究開発に役立てることが目標とされている。がんゲノム医療は拡大しつつあるが、まずは安全性が第一 従来から、エビデンスに基づいた承認薬によるがんゲノム医療は全国の保険医療機関で実施されており、最近は「遺伝子プロファイル検査」の導入も検討されるようになった。これは、中核拠点病院などで実施された患者の遺伝子検査結果などをもとに、専門家会議で総合的に判断し、医学的に効果が期待できる未承認薬を臨床試験や適応外使用として考慮するというもので、今後の適応拡大への足掛かりとして位置付けられている。 がん治療において、結果的に治療薬の効果が得られなかった場合、身体への侵襲性やコストなどを考えると、患者にとって非常にデメリットが大きい。医療経済的な側面を考えても、今後そういったミスマッチを減らしていくのは大きなポイントだという。 同氏は「新しい薬を使う際、その薬が効くか効かないかより、安全性が担保されているのか、予期せぬ副作用への対処法が確立されているのかをまず確認しなければならない。新しい薬の使い方は、わが国の医療全体で確立していくべき。これは、ゲノム解析だけでは解決できない」と慎重な姿勢を示した。がんゲノム医療の情報を医療機関で制御することも必要 1回の検査で複数の変異遺伝子を調査できる「がん遺伝子パネル検査」は、現在薬事承認の段階で、今年度中の保険適用が目指されている。2017年には日本臨床腫瘍学会・日本癌治療学会・日本癌学会が合同で『次世代シークエンサー等を用いた遺伝子パネル検査に基づくがん診療ガイダンス(第1.0版)』を発刊した。しかし、本ガイダンスは遺伝子パネル検査が先進医療として認められる前に発刊されたため、現場での経験などを踏まえ、より使いやすいよう今年度に改訂予定だという。 「現在は、最先端医療を支えるための体制として、まず仕組みを作った段階。ゲノム医療についてTVなどで報道されると、医療現場にはさまざまな質問が寄せられる。患者が情報に溺れないよう、医療者側は正しい認識を持ち、患者に方向性を示すことも必要」と呼びかけた。がんゲノム医療の今後の課題はすでに見えてきている 遺伝子異常の“臨床的意義付け”に関する情報は日々更新されており、3ヵ月前の情報はすでに古くなっている可能性がある。診断をする際、最新の情報にどうアクセスするか、さらに、検査結果を伝えた後の患者などに、その情報をどう伝えていくかなどの方法を今後検討していく必要がある。 より確実な治療効果を予測するためには、多数例のゲノム情報と治療効果を含む臨床情報の集積が求められる。新しい技術をどれだけ早くコストをかけずに実現するのかはがんゲノム医療の当面の課題だが、研究と臨床のインターバルは短くなってきており、現在研究中の技術が実臨床に移るのはそう遠くない未来と考えられている。 同氏は「保険診療などの堅牢な規制と先進医療などの柔らかな規制を組み合わせて、より柔軟な枠組みが必要。新しい技術については、費用対効果の検証をどれだけ早く系統的に行うかなど、課題はひとつひとつ解決していかなくてはならないが、現段階においては安全性が最優先であることを念頭に置いてほしい。また、患者にはゲノム医療がすべての人に効果があるわけではないことをあらかじめ理解してもらう必要がある。医療者側は常に最新情報のアップデートをしていってほしい」と講演を締めくくった。

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進行性多巣性白質脳症、ペムブロリズマブで臨床的改善/NEJM

 進行性多巣性白質脳症(PML)の患者に対し、PD-1阻害薬ペムブロリズマブ投与により8例中5例で脳脊髄液(CSF)中のJCウイルス量が減少し、臨床的改善や安定化につながったことが示された。米国・国立神経疾患・脳卒中研究所のIrene Cortese氏らによる試験の結果で、著者は「PML治療における免疫チェックポイント阻害薬のさらなる研究の根拠が得られた」とまとめている。NEJM誌2019年4月25日号掲載の報告。ペムブロリズマブ2mg/kgを4~6週間ごと、1~3回投与 PMLは、JCウイルスが原因の脳の日和見感染症で、免疫機能が回復できなければ通常は致死的である。PD-1は、ウイルスクリアランスの障害に寄与する可能性がある免疫応答の制御因子であることが知られている。しかし、PD-1阻害薬ペムブロリズマブがPML患者において、抗JCウイルス免疫活性を再活性化しうるかは明らかになっていなかった。 研究グループは、「ペムブロリズマブはJCウイルス量を低下し、CD4陽性細胞およびCD8陽性細胞の抗JCウイルス活性を上昇させる」との仮説を立て試験を行った。 PMLの成人患者8例に対し、ペムブロリズマブ2mg/kgを4~6週間ごとに、1~3回投与した。被験者には、それぞれ異なる基礎疾患が認められた。in vitroでCD4陽性、CD8陽性の抗JCウイルス活性の上昇も確認 被験者はいずれも、少なくとも1回の投与を受け、3回超の投与は受けなかった。 全8例で、ペムブロリズマブによる末梢血中とCSF中のリンパ球におけるPD-1発現の下方制御が認められた。 5例については、PMLの臨床的改善や安定化が認められ、CSF中のJCウイルス量の減少と、in vitroのCD4陽性細胞およびCD8陽性細胞の抗JCウイルス活性の上昇も認められた。 一方で残りの3例については、ウイルス量や、抗ウイルス細胞性免疫応答の程度について、意味のある変化はみられず、臨床的改善も認められなかった。

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ASCO-GI2019レポート

レポーター紹介2019年1月17日~19日まで、米国・サンフランシスコにて米国臨床腫瘍学会消化器がん会議(ASCO-GI)が開かれた。今年は連日雨で、とくに1日目は風が強く、一部の国内線はキャンセルになるほど天候が良くなかった。そんな中、連日朝7時から始まるRapid-Fire Abstract Sessionには多くの聴衆が詰め掛けていた。本稿では、Oral Presentation、Rapid-Fire Abstract Session、Poster Presentationから注目すべき演題をいくつか紹介し、<マイコメント>として私見も述べさせていただく。KEYNOTE-181試験(abstract #2)進行性食道がんの2次治療として免疫チェックポイント阻害薬ペムブロリズマブが有効であるかを検証したKEYNOTE-181試験の結果が報告された。事前にプレスリリースされていたため、試験結果がpositiveであることはわかっていたが、詳細の発表について注目が集まった。1次治療後の進行性食道がん(扁平上皮がんまたは腺がん)628例が1:1にペムブロリズマブ群(200mg、3週ごと)と化学療法群(PTX、DTX、またはIRI)に分けられた。プライマリ・エンドポイントは3つ、PD-L1 CPS(combined positive score)≧10での全生存期間、扁平上皮がんでの全生存期間、全症例での全生存期間であった。扁平上皮がんの割合が、ペムブロリズマブ群63%、化学療法群65%、PD-L1 CPS≧10の症例は、それぞれ34%と37%であった。PD-L1 CPS≧10において、全生存期間中央値は9.3 vs.6.7ヵ月(HR:0.69、p=0.0074)で、ペムブロリズマブ群で有意に良好であった。一方、扁平上皮がんにおいては、8.2 vs.7.1ヵ月(HR:0.78、p=0.0095)とペムブロリズマブ群で中央値は良好であったが、事前に設定した統計解析上では統計学的に有意差がない結果となった。しかしながら、奏効率は良好で、PD-L1 CPS≧10で21.5% vs.6.1%、扁平上皮がんでも16.7% vs.7.4%とペムブロリズマブ群で高い奏効率であった。毒性評価においては、ペムブロリズマブ群においてこれまで同様の毒性がみられた程度であった。マイコメント統計学的にはPD-L1 CPS≧10症例だけにおいてペムブロリズマブの優越性が示されたが、扁平上皮がんにおいても臨床的有用性を認めるような結果であった。今後、本邦においてどのような対象に薬事承認がされるのかが注目される。PD-L1 CPS≧10であれば腺がんでもペムブロリズマブが有用であることになるが、CPS≧10におけるサブ解析では、腺がん症例におけるHRが1.0付近であり、有用であるかどうかには慎重な判断が必要であろう。CPS≧10かつ扁平上皮がん症例が確実な“responder”のようにみえる。ACTS-CC 02試験(abstract #484)本邦から大腸がん術後補助化学療法のレジメンを検証した第III相試験の結果が報告された。N2を有するHigh-risk StageIII結腸がんの症例を対象に、UFT/LV療法(5週ごと、5コース)とSOX(オキサリプラチン100mg/m2、3週ごと、8コース)療法が比較検証され、プライマリ・エンドポイントは無病生存期間であった。966例が1:1にランダム化され、UFT/LV群でStageIIIB/IIIC(TNM分類7th)が51%/48%、SOX群で49%/50%であった。フォローアップ期間中央値58.4ヵ月、396イベントが確認され、3年無病生存率は、それぞれ60.6% vs.62.7%でHR:0.90、p=0.278とSOXレジメンの優越性は証明されなかった。サブグループ解析では、Nファクター、Stageにおいて進行症例ほどSOX群が良好の傾向を認めたが、統計学的に有意な差は示されなかった。マイコメント本邦で汎用されているSOXレジメンが結腸がん術後補助化学療法レジメンとして加わるかを検証した重要な試験であった。残念ながらnegativeな結果となったが、StageIII結腸がんに対するオキサリプラチンの上乗せ効果が否定された結果ではないと判断する。オキサリプラチンの量が100mg/m2ではなく、130mg/m2であったらどうだったか? 『大腸癌治療ガイドライン』が2019年版に改訂されたが、補助療法のpreferredレジメンはCapeOXまたはFOLFOXである。TAS-102±Bev比較試験(abstract #637)デンマークからTAS-102にベバシズマブ(Bev)を上乗せする効果を検証した比較試験の結果が報告された。TAS-102+BevレジメンはC-TASK FORCE試験(Kuboki Y, et al. Lancet Oncol. 2017;1172-1181.)で有用性が示されているが、Bevの上乗せ効果に関してはこれまで比較試験がなく、エビデンスがない状態であった。80例の症例が、TAS-102群41例、TAS-102+Bev群39例にランダム化され、プライマリ・エンドポイントとして無増悪生存期間が評価された。両群とも約60%の症例が3次治療まで受けており、80~85%の症例で前治療までにBevが使用され、約60%がRAS変異型であった。無増悪生存期間中央値は、TAS-102群で2.6ヵ月、TAS-102+Bev群で5.6ヵ月、HR:0.51、p=0.01で統計学的有意にTAS-102+Bev併用群で良好であった。全生存期間中央値はそれぞれ6.7ヵ月、10.3ヵ月、奏効率は0%、3%であった。毒性評価では、TAS-102群に比べてTAS-102+Bev群で好中球減少、下痢、発熱性好中球減少症が多い傾向だった。この試験のほかに、TAS-102+Bevレジメンを評価した本邦の第II相試験の結果が2つ報告されていた。TAS-CC3試験(abstract #617)では奏効率6.3%、無増悪生存期間中央値4.5ヵ月、全生存期間中央値9.2ヵ月、BiTS試験(abstract #647)では奏効率0%、無増悪生存期間中央値4.3ヵ月、全生存期間中央値8.7ヵ月であった。マイコメントTAS-102+Bevレジメンは本邦のC-TASK FORCE試験で有効性が示されたものの、試験の症例数の少なさから施設によってはレジメン登録が難しいところもあったことであろう。Bev併用効果を検証した前向き試験が望まれていた中での大変貴重な試験結果である。少数例の第II相試験ではあるが、positiveな結果はTAS-102+Bevの日常臨床での使用を大きくサポートするものであり、本邦からの2つの第II相試験結果も既報と同様のものであることから、TAS-102+Bevはほぼ確立したレジメンとして考えてよいであろう。Prep-02/JSAP-05試験(abstract #189)切除可能膵がんにおける周術期治療に関する重要な試験結果が本邦より報告された。現在の標準治療である術後補助化学療法S-1に対して、術前ゲムシタビン+S-1(GS)併用療法(3週ごと)2コースの追加により予後延長効果が得られるかを検証した試験である。S-1治療群の2年生存率を35%、GS併用療法群の2年生存率を50%として、α-エラー0.05、パワー0.8で、両群で360症例が必要のところ、364症例が登録された。本試験は第II/III相試験であり、第II相試験パートでは切除率が検証され、S-1治療群(術前化学療法なし)82%のところGS併用療法群93%と良好な結果が示され、その後第III相パートに進んだ。S-1治療群180症例のうち129症例で治癒切除が施行され、GS併用療法群では182症例のうち140症例で治癒切除が施行された。プライマリ・エンドポイントの全生存期間中央値は、S-1治療群で26.65ヵ月、GS併用療法群で36.72ヵ月、HR:0.72(95%CI:0.55~0.94、p=0.015)で、術前GS併用療法の有用性が示された。手術に関するファクター(出血量、手術時間、合併症など)において両群に有意な差は認めなかった。病理学的評価では、pN1症例がS-1治療群で81.5%であったのに対し、GS併用療法群で59.6%と有意に低かった。また、再発形式では、肝転移再発が47.5% vs.30.0%とGS併用療法群で有意に低かった。マイコメント本邦の切除可能膵がんの標準治療を変えうる、とても重要な試験結果である。術前にGS療法2コースを行うことで、これほど大きな生存期間延長効果が得られたことは正直驚きであった。今後、日常臨床で本試験結果をどのように反映させるか、各施設での議論が必要になるが、試験結果の詳細・論文発表にも注目すべきである。まとめ今年は全体的に上部(1日目)や肝胆膵領域(2日目)に注目演題が集まっており、下部(3日目)の演題に話題性は乏しかったものの、日本からの臨床試験の発表もあり、蓋を開けてみれば連日面白い学会であった。食道がんの標準治療として今後免疫チェックポイント阻害薬が入ってくることや、本邦の膵がん診療の標準治療が変わりうる演題があり、これらの演題に関する今後の論文発表に注目すべきである。

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膵がん死を減らせるか? 膵がん切除後の補助療法:mFOLFIRINOXかゲムシタビンか(解説:上村直実氏)-998

 消化器領域のがんでは感染症である肝がんと胃がんによる死亡者が激減し、著明な増加を示していた大腸がん死亡者数も肺がんと同様にプラトーに達し減少に転じている。その中で早期発見が困難でかつ発見時には手術不能例が多い膵がんによる死亡者数のみが年間3万人を超えて増加の一途をたどっている。膵がん死を防ぐ方法としては、完治できる外科的手術が理想的であるが、早期に発見された切除可能膵がんでも手術単独の5年生存率はわずか10%とされており、生存率の向上を目的として、術前・術後の補助療法が模索されているが、とくに局所病変が切除可能で転移に乏しい患者に対する術後の補助療法は必須となっている。 このたび、フランスとカナダで施行された第III相試験(RCT)の結果として、切除可能膵がん患者に対する術後補助療法として、毒性の強いFOLFIRINOX(フルオロウラシル/ロイコボリン+イリノテカン+オキサリプラチン併用)の用量を調整したmodified FOLFIRINOXと欧米における標準治療であるゲムシタビン(GEM)を比較した結果、前者がより有効であることがNEJM誌に報告された。mFOLFIRINOX群の無病3年生存率39.7%がGEM群の21.4%に比べて有意に延長した結果は今後に期待を持てる数字といえる。一方、日本では欧米の評価と異なりGEMとともに標準治療とされているS-1の評価が必要であると考えられる。 いずれにせよ、わが国における今後の膵がん対策として、実地医家など第一線の診療現場と専門医を有する中核施設の協力体制による早期発見システム(尾道方式など)の構築が必要であり、一方、補助化学療法としては、GEMとS-1を標準治療として有効性を示す新規薬剤の模索が進行中であるが、今後、MSI-highの膵がんに対する免疫チェックポイント阻害薬の有用性が早急に検討されることが期待される。

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ニボルマブ、食道がん第III相試験でOS延長(ATTRACTION-3)/小野薬品

 小野薬品工業株式会社は、2019年1月9日、ニボルマブ(商品名: オプジーボ)について、フルオロピリミジン系薬剤およびプラチナ系薬剤を含む併用療法に不応または不耐となった切除不能な進行または再発食道がん患者を対象に実施した多施設国際共同無作為化非盲検第III相臨床試験(ATTRACTION-3:ONO-4538-24/CA209-473)の最終解析において、ニボルマブ群が化学療法群(ドセタキセルまたはパクリタキセル)と比較して、主要評価項目である全生存期間(OS)の有意な延長を示したと発表。 ニボルマブは、切除不能な進行または再発食道がんにおいて、腫瘍細胞のPD-L1発現を問わない集団全体においてOSの有意な延長を示した世界で初めての免疫チェックポイント阻害薬となる。なお、本試験の結果については、今後、関連学会にて公表する予定とのこと。

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75歳以上の日本人進行非小細胞肺がん患者への免疫療法、有効性と安全性/日本肺癌学会

 75歳以上の非小細胞肺がん(NSCLC)患者における、免疫チェックポイント阻害薬(ICI)による治療の有効性と安全性については、議論が定まっていない。日本人高齢NSCLC患者を対象に、免疫療法の影響を評価した後ろ向き多施設共同研究の結果が、2018年11月29日、第58回日本肺癌学会学術集会で岡山大学病院の久保 寿夫氏により発表された。 本研究では、2015年12月~2017年12月に、日本国内の7つの医療機関でペムブロリズマブあるいはニボルマブによる治療を受けた進行NSCLC患者434例について後ろ向きに分析を行った。無増悪生存期間(PFS)、奏効率(ORR)のほか、PS、PD-L1発現状態、血清アルブミン値、G8スコアによる生存期間の比較、安全性などが評価された。 G8は高齢者の治療方針を決める際などに、高齢者機能評価を行うべき患者を抽出するために用いられる簡易スクリーニングツールで、日本臨床腫瘍研究グループ(JCOG)も高齢者研究での使用を必須としており1)、食事摂取量や体重減少などについての8項目からなる。本研究では診療記録を用いた評価のため、「同年齢の人と比べて、自分の健康状態をどう思いますか」という質問項目を除く7項目の修正版が用いられた。 主な結果は以下のとおり。・434例の患者のうち、100例が75歳以上(中央値:79歳、範囲:75~90歳)であった。 うちPS 3の5例については除外された。・男性が77例(81.1%)、PD-L1発現<1%:4例(4.2%)/ 1~49%:10例(10.5%)、≧50%:26例(27.4%)、不明:55例(57.9%)であった。・組織学的所見は、非扁平上皮がん55例(57.9%)、扁平上皮がん40例(42.1%)。・20例(21.1%)で1次治療としてICIが投与され、75例(78.9%)で2次治療以降に投与されていた。67例(70.5%)がニボルマブ、28例(29.5%)がペンブロリズマブによる治療を受けていた。・ECOG PS0:16例(16.8%)/ PS1:60例(63.2%)/ PS2:19例(20.0%)、修正G8スコアの中央値は11.5(範囲:5.5~15.5)であった。・PFS 中央値は1次治療群で6.1ヵ月(95%信頼区間[CI]:1.6~7.7)、2次治療以降群では2.9ヵ月(95%CI:1.9~4.6)であった。・生存期間中央値(MST)は1次治療群で8.7ヵ月(95%CI:7.9~NR)、2次治療以降群では15.5ヵ月(95%CI:5.5~NR)であった。・ORRは1次治療群で35.0%(CR:0例、PR:7例、SD:6例、PD:5例、NE:2例)、2次治療以降群で20.0%(CR:0例、PR:15例、SD:18例、PD:31例、NE:11例)であった。・MSTを各層別因子ごとに比較した結果、PSと修正G8スコアによる有意な差が認められた: PS 0~1 vs.PS 2:17.8ヵ月 vs.3.1ヵ月(ハザード比[HR]:0.23、95%CI:0.11~ 0.46、p<0.01) 修正G8スコア ≧11 vs.<11:NR vs. 8.2ヵ月(HR:2.17、95%CI:1.11~4.17、 p = 0.02)・Grade2以上の免疫関連有害事象発生率は23.3%(甲状腺疾患:4.2%、間質性肺疾患:10.5%)であった。 久保氏は、本研究の観察期間は短く、後ろ向きの検討であることに触れたうえで、「ICI は75歳以上の患者においても良好な治療効果を認め、有害事象も忍容可能なものであった。また、PS良好例やG8スコア高値の患者で予後良好であった」とまとめている。 今後ICIと細胞障害性抗がん剤との併用療法導入にあたっては、「併用療法が有効な患者集団を抽出するために、G8などの高齢者機能評価の有用性を改めて評価する必要がある。実臨床では、今回の検討でもPS良好例では予後良好な傾向がみられており、高齢者においてもまずはPSを1つの指標として治療選択を考えていくべきではないか」とコメントした。■参考1)日本臨床腫瘍研究グループ(JCOG)ホームページ「高齢者研究委員会」■関連記事高齢者への抗がん剤治療は有効か―第19回 肺がん医療向上委員会※医師限定肺がん最新情報ピックアップDoctors’ Picksはこちら

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本庶 佑氏ノーベル賞授賞式に…世界のがん治療に進化を与えた日本の研究

 2018年のノーベル生理学・医学賞を共同受賞した、本庶 佑氏(京都大学高等研究院 特別教授)とJames P. Allison氏(テキサス州立大学 MDアンダーソンがんセンター 教授)が、12月10日、授賞式に出席した。本庶氏と同じく京都大学出身で、現在、腫瘍内科医として、米国でがん臨床に携わるダートマス大学 腫瘍内科 准教授の白井敬祐氏に聞いた。―米国での「がん免疫治療に関する発見」のノーベル生理学医学賞受賞の反響は? ニューヨークタイムスなどの一流紙でも取り上げられるなど、多くのメディアで報道されています。新聞の切り抜きを持って来院し、「この薬は私には使えないか」「これは私が使っている薬か」などと尋ねる患者さんも多くなりました。医療者のみならず、患者さんや家族、サバイバーといった一般の方に対しても大きな反響があります。 この発見から開発されたPD-1阻害薬やCTLA-4阻害薬について、現在はTVでも大々的にCMが流されており、一般の方の知名度も高いと思います。ちなみに、CTLA-4およびPD-1へのモノクローナル抗体を開発したのは、ダートマス大学の免疫学の研究者が創立したMedarex社であり、その辺りにも縁を感じます。―白井先生は京都大学出身ですが、本庶先生の講義を受けられていたとか・・・ 在学当時、本庶先生の講義も受けていました。生化学の授業だったのですが、とても厳格な先生という印象でした。英語の発音にもこだわっておられましたね。米国に来てからは、本庶先生がボストンで講義をされたときに聴講に伺い、ご挨拶させていただきました。―この発見が生み出した免疫チェックポイント阻害薬のがん治療への影響は? 私の専門であるメラノーマと肺がんだけ見ても大きな影響があります。たとえば、StageIVのメラノーマについて、以前であれば、まずベストサポーティブケアが頭に浮かぶほど予後不良な疾患でした。しかし、PD-1阻害薬やCTLA-4阻害薬が登場し、効果が期待できるようになりました。私も、StageIVでPD-1阻害薬ニボルマブとCTLA-4阻害薬イピリムマブの併用療法で完全奏効(CR)となったケースを経験しています。これらの薬剤の登場で、患者さんへの説明の仕方もまったく変わりました。 また、肺がんについても米国では大きな意義がある薬剤です。ドライバー遺伝子変異がある非小細胞肺がん(NSCLC)の患者さんには、分子標的薬が非常によく奏効しますが、米国では治療対象となるドライバー遺伝子変異患者の割合は少ないのです。日本の非小細胞肺がんの約半数にEGFR変異が認められますか、米国におけるEGFR変異は5~10%程度です。一方、米国のNSCLCで、PD-1阻害薬のバイオマーカーの1つであるPD-L1強陽性の患者さんは、3分の1を占めるとされます。実際、私のNCSLC患者さんで、脳転移があったにもかかわらず、ニボルマブの投与で3年間CRが持続している患者さんがいます。しかも、ほとんど副作用がなくフルタイムで働いておられます。 このように、日本以上に免疫チェックポイント阻害薬の役割は大きく、今回の発見はがん治療に非常に大きな意味を持つものだといえます。

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いよいよ臨床へ、がん種を問わないMSI-H固形がんをどう診断し、治療していくか

 2017年の米国FDAでの承認に続き、本邦でもがん種横断的な免疫チェックポイント阻害薬による治療法が臨床現場に登場する日が近づいている。がん種によって頻度が異なる高度マイクロサテライト不安定性(MSI-H)の固形がんを有する患者を、どのように診断して治療につなげていくのか。2018年11月16日、都内で「キイトルーダとがん種を横断したMSI診断薬利用の意義と今後の医療に与えるインパクト」と題したメディアセミナーが開催され(主催:株式会社ファルコホールディングス)、吉野 孝之氏(国立がん研究センター東病院 消化管内科長)が講演した。MSI-Hの固形がんに強烈に効く可能性がある薬 米国で39のがん種、1万例以上を対象とした研究で、MSI-Hの固形がんは27がん種、3.8%で確認されている1)。全体でみると大きなポピュレーションとは言えないが、「これまでの試験結果から、MSI-Hの固形がん患者に対するペムブロリズマブの効果は“著効”と言えるもので、膵がんなどの一般的に予後が悪いがん種でも完全奏効する例が確認された意義は大きく2)、今までの治療体系を大きく変えるものと言える」と吉野氏。対象となる患者を確実に診断していくことの重要性を指摘した。MSI検査は腫瘍部組織のみで可能。ただし慎重になるべき症例も MSI-H固形がんに対するペムブロリズマブの適応拡大に先立ち、本邦では2018年9月10日にMSI検査キット(FALCO)がコンパニオン診断薬として製造販売承認を取得し、12月1日より保険適用されている (保険点数は2,100点)。FDAの承認ではコンパニオン診断薬の指定はなく、がん種横断的なコンパニオン診断薬が承認されたのは世界初。従来法では、正常部と腫瘍部の組織が必要だったが、本キットを使った検査では腫瘍部の組織のみで検査可能な点が特徴だという。吉野氏は、「腫瘍部の組織だけで検査可能なため、MSI検査を追加するに当たり、検体採取について現場で新たな手順を加える必要がないことは大きい」と話した。 ただし、腫瘍組織のみで判断することに慎重になるべき症例も存在する。本検査法では、マルチプレックスPCR法による電気泳動波形を目視で判定するが、特定のがん種で正常範囲として設定された波形とのズレが小さく、腫瘍組織のみでの判断が難しい場合があるという。吉野氏は「大腸がんでは正常範囲とのズレが大きく、明らかな波形の違いがみられるが、子宮がんや卵巣がん、乳がんなどではズレが小さく、判断が難しいケースが確認された。そのような場合は、正常部との比較が必要になる」と話し、特にこれらのがん種では慎重な対応を求めている。MSI-Hを有する固形がんにペムブロリズマブの適応を追加 固形がんにおけるMSI-H頻度については、子宮内膜がんや胃がん、大腸がんや膵がんなど、婦人科系・消化器系がんで高い傾向が報告されている2,3)。しかし日本人では消化器がん以外のデータがほとんどなく、まずはそのデータを蓄積していく必要性を吉野氏は指摘した。米国のデータでは、悪性リンパ腫や急性骨髄性白血病(AML)など12のがん種ではMSI-Hが確認されていない1)。「がん種横断的といってもどこまで検査すべきか、現状では世界的に指針がない。患者さんにとっては非常に大きな問題であることは間違いなく、どのように適正使用を促していくかは大変大きな問題。何らかの形で国際的なコンセンサスを取り、レコメンデーションを発出していく必要があると考えている」と同氏はコメントした。 また、「臓器横断的なゲノムスクリーニングに対する知識の習得」を目的とした医師・CRC向けのe-leaningシステム(e Precision Medicine Japan)を紹介し、MSI-H(MMR genes)を含む各ドライバー遺伝子別のエビデンスや薬剤承認状況等の把握・学習に役立ててほしいと話した。 なお、厚生労働省の薬事・食品衛生審議会医薬品第二部会は2018年11月29日、ペムブロリズマブの適応に、「進行・再発のMSI-Hを有する固形がん」を追加することを了承した(化学療法後に増悪しており、標準的な治療が困難な場合に限る)。近く承認が見込まれている。

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がん治療に大変革をもたらした2つの研究~がん免疫療法のいま・未来~

 2018年のノーベル生理学・医学賞を共同受賞した、本庶 佑氏(京都大学高等研究院 特別教授)とJames P. Allison氏(テキサス州立大学 MDアンダーソンがんセンター 教授)が、現地時間の12月10日(日本時間 12月11日未明)、授賞式に出席した。 両氏の研究成果は、がん免疫療法の発展に大きく寄与している。本庶氏は日本医師会での講演にて、がん免疫療法によって「今世紀中にがん死はなくなる可能性が出てきた」と語っている。いま一度、両氏の功績を振り返るとともに、がん治療に大変革をもたらした免疫チェックポイント阻害薬の開発までの軌跡をたどる。がん免疫療法、はじめの一歩 免疫チェックポイント阻害薬の標的である免疫チェックポイント分子のうち、最初に発見されたのがCTLA-4(cytotoxic T-lymphocyte-associated protein 4)であった。 1987年、CTLA-4は活性化T細胞上に発現する分子として発見され1)、1990年代半ばにはCTLA-4が抑制性受容体であり、T細胞のブレーキ機能を果たすことが明らかにされた2)。これに着目し、がん治療への応用を考えたのがAllison氏らだ。Allison氏らはマウスを用いた実験でCTLA-4をモノクローナル抗体で遮断し、いわばT細胞のブレーキを外すことで、抗腫瘍免疫応答を活性化できることを証明した3)。これは、最初の免疫チェックポイント阻害薬である抗CTLA-4抗体の臨床開発につながる大きな発見だった。大変革への架け橋 時を同じくして、1992年に本庶氏らは、もう1つの免疫チェックポイント分子を発見する。それがPD-1(Programmed cell Death 1)分子だ。本庶氏らはPD-1がCTLA-4と同様にT細胞のブレーキとして機能するものの、CTLA-4とは異なる機序で作動することを示した4)。そして1990年代後半には、本庶氏らが実施したPD-1欠損マウスでの研究5)からPD-1分子による免疫抑制作用が明らかにされた6)。2000年にはPD-1のリガンドであるPD-L1(Programmed cell Death ligand 1)が同定された。T細胞上のPD-1が、がん細胞に発現したPD-L1と結合すると、T細胞にブレーキが掛かり活発な免疫反応が妨げられる。その結果、がん細胞は免疫システム攻撃から逃れていることを解明したのだ7)。 この本庶氏らの研究成果は、抗PD-1抗体開発につながる偉大な功績となった8)。がん免疫療法のいま・未来 2000年代に入り、抗CTLA-4抗体や抗PD-1抗体といった、免疫チェックポイント阻害薬の臨床試験が開始された。2010年、抗CTLA-4抗体のイピリムマブの、悪性黒色腫に対する顕著な効果が示された9)。 また2012年には、抗PD-1抗体であるニボルマブの、非小細胞肺がん(NSCLC)、悪性黒色腫、腎細胞がん(RCC)といった複数のがん種に対する臨床試験において、既存の治療法と比べて、全生存期間および奏効率の双方に関する臨床的に著しい改善が示された10-12)。まさにがん治療の大変革が現実のものとなったのだ。 その後本邦では、2014年7月に世界に先駆けてニボルマブが、2015年7月にはイピリムマブが承認を取得した。両剤は免疫チェックポイント阻害薬のトップランナーとして、実臨床で高い効果を発揮し、がん治療に大きな貢献を果たしている。 現在、多数のがん種において、さまざまな免疫チェックポイント阻害薬の開発が進む中、がん免疫療法単独での効果を増強する目的で、作用機序が異なるがん免疫療法同士を組み合わせた、複合がん免疫療法の開発が盛んに行われている13)。イピリムマブとニボルマブの併用療法も一部のがん種で承認され、治療の幅が広がっている。今後もがん免疫療法の発展は続いていくようだ。 免疫チェックポイント阻害薬はがん治療に大きな変革をもたらした。本庶氏が語るように、がん免疫療法によってがん克服が可能になる日も遠くないのかもしれない。■参考1)Brunet JF, et al. Nature. 1987;328:267-270.2)Krummel MF, et al. J Exp Med. 1995;182:459-465.3)Leach DR, et al. Science. 1996;271:1734-1736.4)Ishida Y, et al. EMBO J. 1992;11:3887-3895.5)Nishimura H, et al. Science. 2001;291:319-322.6)Nishimura H, et al. Immunity. 1999;11:141-151.7)Freeman GJ, et al. J Exp Med. 2000;192:1027-1034.8)Iwai Y, et al. Int Immunol. 2005 Feb;17:133-144.9)Hodi FS, et al. Proc Natl Acad Sci U S A. 2003;100:4712-4717.10)Brahmer J, et al. N Eng J Med. 2015;373:123-135.11)Weber J, et al. N Engl J Med. 2017;377:1824-1835.12)Motzer RJ, et al. N Eng J Med. 2018;378:1277-1290.13)河上 裕. 日臨. 2017;75:175-180.

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症状からの逆引きによるirAEマニュアル/日本肺癌学会

 免疫チェックポイント阻害薬(ICI)は、今後肺がん治療の中心になっていくと思われる。それに伴い、ICIによる有害事象(irAE)の対策をさらに整備していく必要がある。滋賀県・市立長浜病院 呼吸器内科 野口 哲男氏は、症状からの逆引きによるirAEマニュアルを作成し、第59回日本肺癌学会学術集会ワークショップ6で紹介した。頻度の高いirAEの主訴8項目から疑われる病名にたどりつける とくに夜間・時間外の救急外来では、患者は症状があって受診する。それはirAEにおいても同様である。あらかじめirAEの種類や症状を知っておくことで、早期発見と対処につながる。とはいえ、irAEの症状は多岐にわたり、発現パターンもさまざまである。問診で患者から診断に結びつく症状を申告するとは限らない。さらに、ICIを用いることのない診療科や研修医がirAEの初診を行うことも考えられる。このようなことから、症状から疑わしい病名を想起させ、その後の対応を調べられる、実際に即したirAEマニュアルが必要となる。 野口氏は、頻度の高いirAEの主訴8項目から疑われる病名にたどりつける『irAE逆引きマニュアル』を作成した。8項目は、発熱、吐き気、意識レベル低下、だるさ(倦怠感)、呼吸困難、腹痛、頭痛、手足の脱力。たとえば、発熱の場合、追加の症状聴取で呼吸困難・空咳があればILD、背部痛があれば膵炎、といったように数個の症状を組み合わせることで、可能性のあるirAEの病名が記載されている。実際、このirAE逆引きマニュアルの効果を前期研修医で検証したところ、いずれの研修医も、マニュアルを用いることで、短時間で病態を把握できることが示された。 この『irAE逆引きマニュアル』を参考に、当直医が初期検査をした上でICI処方科の待機医師に報告を行い、その後はICI処方科から専門科(1型糖尿病なら内分泌内科など)へコンサルトされる。また、電子カルテの付箋機能に「ICI投与中」「気を付ける副作用一覧」を表示するなど、他科医師およびメディカルスタッフとの連携を進めているという。 この「irAE逆引きマニュアル」は野口氏のホームページからダウンロード可能である。■参考「呼吸器ドクターNのHP」irAE逆引きマニュアル

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免疫チェックポイント阻害薬であるアテゾリズマブとnab-PTXの併用は未治療の進行/転移性乳がんの予後を改善する(解説:矢形寛氏)-962

 乳がん領域での免疫チェックポイント阻害薬の有効性に関する初のP3 RCTの報告である。化学療法は腫瘍抗原の放出と免疫チェックポイント阻害薬の抗腫瘍効果を高めるようであり、とくにタキサンはToll様受容体の活性化と樹状細胞の活動性を促進するため、併用効果が期待されてきた。 本試験ではnab-PTXとヒト型抗ヒトPD-L1モノクローナル抗体アテゾリズマブの併用効果が検証され、追跡期間約1年でPFSの有意性が示された。また、PD-L1が免疫染色にて腫瘍浸潤免疫細胞の1%以上発現がみられるものは、より有効性があるようであった。Grade3以上のアテゾリズマブに関連する有害事象はとくにないようであった。OSはmarginalであったが、症例数の設定とTNBCという一般的に予後が短い特殊な集団であることを考えると、OSへの寄与も十分見込めるのではないかと考えられる。 コストの問題は常につきまとうが、乳がん領域への重要な知見である。PD-L1の免疫染色の臨床的有用性だけでなく、マイクロサテライト不安定性や遺伝子変異数(Tumor Mutation Burden:TMB)との関連も検証してほしい。■「nab-PTX(ナブパクリタキセル)」関連記事進行膵がんのnab-PTX+GEM療法、新たな標準治療のエビデンス/NEJMnab-パクリタキセル+アテゾリズマブ、トリプルネガティブ乳がんでPFS延長(IMpassion130)/ESMO 2018

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新たな免疫CP阻害薬《私を食べて》-さまざまながん腫に対する有用性を示唆(解説:大田雅嗣 氏)-961

 NEJM誌11月1日号に「CD47 Blockade by Hu5F9-G4 and Rituximab in Non-Hodgkin’s Lymphoma.」のタイトルで論文が掲載された1)。スタンフォード大学のWeissmanらのグループの長年にわたる基礎研究が実を結び治療薬として脚光を浴びることとなった。 CD47(インテグリン関連蛋白)はマクロファージ、樹状細胞などが介するphagocytosisの調節機能を担う蛋白で種々の細胞表面に発現している。CD47は免疫担当細胞の細胞表面膜の受容体の1つであるSIRPα(signal regulating protein α)のリガンドでもあり、双方の結合によりphagocytosisを抑制する“do not eat me”シグナルを伝達することが判明しており2)、腫瘍細胞は免疫担当細胞による捕食から身を守るシステムを有している。 この“do not eat me”シグナルをCD47に対する抗体で抑制することによりマクロファージを活性化し腫瘍細胞のphagocytosisを促進し、またT細胞を介した抗腫瘍効果が期待された。これまでリンパ腫を含む種々のがん細胞でCD47の高発現が観察されており、予後不良因子とされた。in vivoでCD47に対する抗体が急性骨髄性白血病(AML)細胞のphagocytosisを促進させることが判明 3)。さらに、AML、非ホジキンリンパ腫(NHL)や種々の固形がんの担がん免疫不全マウスモデルで、CD47抗体ががん細胞に対して殺細胞的に働くことが示された4)。また急性リンパ芽球性白血病細胞担がんマウスモデル5)、固形腫瘍担がんマウスモデル6)でも同様の抗腫瘍効果が示された。 今回の論文で用いられたヒト化抗CD47単クローン抗体はHu5F9-G4 (IgG4 isotype)と命名され、抗CD20抗体であるリツキシマブと相乗的に、リンパ腫担がんマウスモデルでリンパ腫細胞に対して殺細胞的に作用し、リンパ腫の治癒を可能にすることが示された7)。 本論文では再発または難治性B細胞性非ホジキンリンパ腫22症例を対象にHu5F9-G4とリツキシマブを投与し、全奏効率50%(びまん性大細胞型B細胞リンパ腫で40%、濾胞性リンパ腫で71%)、奏効例での91%が解析時点でも奏効を保ったという優れた成績が示された。有害事象としては、頭痛、疲労感、貧血、下痢、infusion reactionが多かった。とくに貧血はGrade3が半分を占めたが、これはCD47を発現している赤血球がマクロファージによって捕食されたことによる当然のon-target effectと考えられる8)。 現在NIH主導で米国内では、本論文に掲載されている再発・難治性B細胞非ホジキンリンパ腫に対するHu5F9-G4と抗CD20抗体リツキシマブとの併用療法、固形がん、進行大腸がんに対する抗EGFR抗体セツキシマブとの併用療法、再発・難治性AML、高リスクMDS(骨髄異形成症候群)に対するアザシチジンとの併用療法のトライアルが進行中である。日本では再発・難治性乳がんに対する抗HER2抗体トラスツズマブとの併用療法が臨床研究中である。 マクロファージを活性化する新たな免疫チェックポイント阻害薬の登場で、がん免疫療法はまた新たな段階を迎えることになる。今後の臨床試験の成果に注目していきたい。■参考文献1)Advani R, et al. N Engl J Med. 2018;379:1711-1721.2)Jaiswal S, et al. Cell. 2009;138:271-285.3)Majeti R, et al. Cell. 2009;138:286-299.4)Liu J, et al. PLoS One. 2015;10:e0137345.5)Chao MP, et al. Cancer Res. 2011;71:1374-1384.6)Willingham SB, et al. Proc Natl Acad Sci U S A. 2012;109;6662-66677)Chao MP, et al. Cell. 2010;142:699-713.8)Oldenborg PA, et al. Science. 2000;288:2051-2054.

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ESMO2018レポート 消化器がん

レポーター紹介胃がんに対する後方ライン治療(1)-ATTRACTION-2試験長期成績-切除不能胃がんに対する標準治療は1次治療フルオロピリミジン+白金製剤(HER2陽性の場合にはさらにトラスツズマブ併用)、2次治療パクリタキセル+ラムシルマブである。3次(後方ライン)治療以降は、ニボルマブもしくはイリノテカンが治療選択肢である。ニボルマブは、2レジメン以上の化学療法不応の切除不能胃がん(胃食道接合部がん含む)を対象としたプラセボ群との比較第III相試験(ATTRACTION-2)で有効性が示され、本邦でも2017年9月に胃がんへと適応拡大された。ESMO2018では、ATTRACTION-2のアップデート結果が報告された。2018年2月までの2年間の長期追跡でも、ニボルマブ群はプラセボ群と比較して有意なOS延長が確認され、2年全生存(OS)割合は、ニボルマブ群10.6%、プラセボ群3.2%、2年無増悪生存(PFS)割合は、ニボルマブ群3.8%、プラセボ群0%であった。奏効例のOS中央値26.61ヵ月、2年OS割合61.3%であった。また、SD症例におけるOS中央値は、ニボルマブ群8.87ヵ月、プラセボ群7.62ヵ月(ハザード比[HR]:0.80、95%信頼区間[CI]:0.52~1.23)であり、有意差はないもののニボルマブ群で良好であった。本結果は、実施臨床でのニボルマブ使用においても実感できる。奏効例では長期奏効が得られることも多く、まさにノーベル賞受賞の最近の報道でなされる“奇跡の薬”との表現にも同意する。一方で胃がんでのニボルマブの奏効率はわずか10%程度であり、治療のメリットが実感できない場面が多いのも事実である。さらに、最近は約10%にhyperprogressionが認められ、むしろdetrimentalに働く集団の存在も示唆されている。抗PD-1抗体薬の効果予測バイオマーカーが必要であり、有効もしくは無効のバイオマーカーがないと、1次・2次治療や補助療法での抗PD-1抗体薬の使用は困難であろう。胃がんに対する後方ライン治療(2)-新たな治療選択肢の登場-TAGS試験(TAS-102 Gastric Study)は、2レジメン以上の前治療歴のある切除不能胃がんに対するTAS-102の有効性を検証したプラセボ対照第III相試験である。結果はすでに本年の世界消化器癌学会議(ESMO-GI)で発表されているが、ESMO2018ではサブグループ解析と腫瘍縮小効果の結果が追加された(TAS-102群:337例、プラセボ群:170例)。主要評価項目であるOS(中央値/12ヵ月OS割合)は、プラセボ群3.6ヵ月/13%に対して、TAS-102群5.7ヵ月/21%(HR:0.69、95%CI:0.56~0.85、p=0.0003)であり、TAS-102群が有意に良好であった。サブグループ解析でも、各サブグループにおいてTAS-102群が良好な結果であった。腫瘍縮小効果はTAS-102群で1例の完全奏効(CR)と部分奏効(PR)12例を認め、奏効割合(ORR)は4%であった。安定(SD)も含めた病勢制御割合(DCR)はTAS-102群44%であり、プラセボ群14%に比べ有意に良好であった。有害事象は、TAS-102群においてgrade 3以上の有害事象が多くみられ(TAS-102 80% vs.プラセボ58%)、好中球数減少(38% vs.0%)や白血球減少(21% vs.0%)、貧血(19% vs.7%)、血小板数減少(6% vs.0%)などの血液毒性が主であった。これら有害事象によるTAS-102の減量・休薬は58%で、13%の症例は試験治療中止となり、16%の症例でG-CSFが投与されていた。本試験より、TAS-102は胃がん後方ライン治療の新たな選択肢として、本邦においても使用可能となるだろう。位置付けはニボルマブと同様になると思われる。有害事象も大腸がんでの報告と同程度であり、胃がんでも比較的スムーズに臨床導入できるだろう。一方で、胃がんと大腸がんの病態の違いには注意が必要である。つまり、胃がんの方がよりaggressiveな病態を呈する患者が多く、経口摂取が困難となるケースも多い。本試験でもTAS-102後の後治療移行率は、TAS-102群25%、プラセボ群26%と両群ともきわめて低率であった。ニボルマブ、TAS-102、イリノテカンをすべて単剤療法として使い切るストラテジーよりも、併用療法の開発が期待される。大腸がん1次治療としてのTriplet療法の再検証-TRIBE2試験-大腸がん1次治療においてFOLFOXIRI+ベバシズマブ療法は、本邦におけるガイドラインでも推奨されるレジメンの1つである。その根拠となったTRIBE試験は、FOLFOXIRI+ベバシズマブ療法(Triplet)とFOLFIRI+ベバシズマブ療法との第III相試験であり、ORR 65% vs.53%(p=0.006)、PFS中央値12.1ヵ月vs.9.7ヵ月(ハザード比[HR]:0.75、p=0.003)、OS中央値29.8ヵ月vs.25.8ヵ月(HR:0.80、p=0.030)と、いずれもTriplet群が有意に良好であった。しかし本試験では、FOLFIRI群の後治療のオキサリプラチン導入割合が低く、本邦の実地臨床への外挿に疑問の声もあった。ESMO2018では、続編としてTriplet+ベバシズマブ療法を1次治療および2次治療で使用する群(triplet群)と1次治療FOLFOX+ベバシズマブ療法→2次治療FOLFIRI+ベバシズマブ療法を逐次的に行う群(doublet群)を比較した第III相試験(TRIBE2試験)の結果が報告された。すべての治療は最大8コースの施行とされ、その後は、増悪まで5-FU+ベバシズマブ療法継続が実施された。679例が登録され、患者背景は両群に大きな差はなく、RAS変異型60%程度、BRAF変異型10%、右側結腸38%と、一般的な大腸がんのpopulationよりも多い傾向であった。主要評価項目であるPFS2(2次治療終了までの無増悪生存期間)中央値は、doublet群16.2ヵ月、triplet群18.9ヵ月(HR:0.69、95%CI:0.57~0.83、p<0.001)とtriplet群で有意に良好であった。1次治療PFSはdoublet群9.9ヵ月、triplet群12.0ヵ月(HR:0.73、p<0.001)、2次治療PFSの中央値はdoublet群5.5ヵ月、triplet群6.0ヵ月(HR:0.86、95%CI:0.70~1.05、p=0.120)と有意差を認めなかった。doublet群の86%(248/288例)、triplet群の74%(194/261例)が2次治療に移行し、規定された2次治療が、doublet群では88%(FOLFIRI±Bmab)、triplet群では76%(FOLFOXIRI±Bmab)に行われていた。有害事象は既報のとおりで、1次治療における安全性は、grade 3以上の有害事象のうち、下痢(doublet群5% vs.triplet群17%、以下同様)、好中球減少(21% vs.50%)、発熱性好中球減少症(3% vs.7%)で群間差を認めた。本発表は、初回治療におけるtripletの有効性を再現したものと考えられる。doublet群の88%で2次治療に移行できているにもかかわらずtriplet群でPFS2が良好であったことはインパクトが大きいが、その理由は明らかではない。治療早期に強いレジメンを実施し、腫瘍縮小を達成することが生存延長につながっているのであろうか。とくに本試験の対象として多く含まれているRAS/BRAF変異型や右側結腸原発症例で有用である。今後発表されるOS結果にも注目したい。大腸がんに対する免疫療法の明暗-Checkmate142試験とMODUL試験-大腸がんに対する免疫チェックポイント阻害剤は、高頻度マイクロサテライト不安定性(MSI-H)やミスマッチ修復(mismatch repair:MMR)タンパク発現消失を示すMMR機能欠損(deficient MMR:dMMR)がんとMMR機能欠損を示さないproficient MMR(pMMR)がんに分けて治療開発が行われている。dMMR例は遺伝子変異数(tumor mutation burden:TMB)が多く、腫瘍浸潤性リンパ球(tumor infiltrating lymphocyte:TIL)の強い免疫腫瘍環境を有することから、免疫チェックポイント阻害薬の効果が期待できる。CheckMate142試験は抗PD-1抗体薬ニボルマブ(NIVO)単剤療法、NIVOと抗CTLA-4抗体薬イピリムマブ(IPI)との併用療法を検討した第II相試験であり、ESMO2018では1次治療としてのNIVO+IPI併用療法コホートの結果が報告された。本コホートは、dMMR例を対象に、NIVO(3mg/kgを2週間隔)と低用量IPI(1mg/kgを6週間隔)の併用療法であり、既報の同薬剤併用の既治療コホート(NIVO 3mg/kg+IPI 1mg/kgを3週間隔×4回→その後はNIVO 3mg/kgを2週間隔)とは異なったスケジュールである。今回のコホートには45例が登録され、BRAF変異型38%、Lynch症候群18%が含まれていた。主要評価項目である担当医判定によるORRは60%(完全奏効[CR]:3例[7%]を含む)、DCRは84%であった。BRAF変異例17例でも、ORR 71%、DCR 88%と良好だった。解析時点において82%の症例が効果継続中であり、12ヵ月PFS割合77%、OS割合83%と、長期の生存延長効果が期待された。Grade 3以上の重篤な有害事象割合は16%であり、治療中止に至る有害事象も7%と低かった。今回の報告は既治療例通常用量のNIVO+IPIコホートと比較して有効性は同程度、重篤な有害事象は少ない傾向であった。これが、低用量IPIのおかげなのか、それとも初回治療例を対象としたものかはランダム化比較試験でないため確証はないが、個人的には有害事象と有効性のバランスが良い本投与法を実地臨床では使用したい。とくにBRAF変異型も含めた高い有効性は魅力的である。dMMRがんに対するpembrolizumabは本年度中に適応拡大予定であるが、NIVO+IPI療法もdMMR大腸がんに必要なレジメンと考えられる。一方でpMMR大腸がんに対する免疫チェックポイント阻害薬の治療開発は、いまだ成功していない。MODUL試験は、大腸がんにFOLFOX+ベバシズマブ導入化学療法後の維持療法に関するランダム化比較試験で、バイオマーカーに基づくアンブレラ型試験である。今回、BRAF野生型コホート(コホート2)としてフッ化ピリミジン系薬剤+Bevacizumab(Bmab)とAtezolizumabの併用療法との比較パートの結果が発表された。患者背景はRAS変異型60~65%、dMMR2%であり、本試験はpMMR大腸がんへの免疫チェックポイント阻害剤の有効性を探索する試験と言える。追跡期間中央値18.7ヵ月時点におけるupdate analysisでのPFS中央値は試験治療群7.20ヵ月、標準治療群7.39ヵ月(HR:0.96、95%CI:0.77~1.20、p=0.727)、OS中央値は試験治療群22.05ヵ月、標準治療群21.91ヵ月(HR:0.86、95%CI:0.66~1.13、p=0.283)と、有意差は認められなかった。ESMO-GIでは後方ラインでのAtezolizumab(+cobimetinib)の第III相試験(COTEZO)もnegativeな結果が報告された。pMMR大腸がんへの免疫療法は、まだまだ暗い闇の中といったところである。

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ESMO2018レポート 肺がん

レポーター紹介ESMO(European Society for Medical Oncology)2018はドイツのミュンヘンで、2018年10月19~23日の期間に行われた。今年は9月に世界肺癌学会がカナダのトロントで行われたこともあり、昨年のESMOと比べると少しトピックスが少ない印象ではあったが、2万8千人が参加し、多くの演題が報告された。肺がん領域でのトピックスをいくつか紹介する。分子標的治療薬のトピックスオシメルチニブの耐性機序EGFR遺伝子変異陽性の非小細胞肺がん患者で、1次治療としてEGFRチロシンキナーゼ阻害剤(EGFR-TKI)で治療された後、耐性遺伝子の1つであるT790M変異が陽性であった場合に、第3世代EGFR-TKIであるオシメルチニブもしくはプラチナ製剤+ペメトレキセドに割り付けられる第III相試験であるAURA3の試験における、耐性メカニズムについて報告された。ベースラインの血漿サンプルでEGFR遺伝子変異陽性であり、耐性後に血漿検体の評価ができた73例の検討では、49%でT790Mの消失を認め、C797Sが14%で認められた。(Papadimitrakapoulou V, et al, LBA51)また、EGFR遺伝子変異陽性の非小細胞肺がん患者で、1次治療として第1世代のEGFR-TKIとオシメルチニブを比較する第III相試験であるFLAURA試験における耐性メカニズムについても報告された。第1世代のEGFR-TKIで治療され、ベースラインの血漿でEGFR遺伝子変異が陽性であった129例の検討では、T790M陽性が47%と最も多く、METの増幅が4%、PIK3CAの変異が3%で認められた。また、オシメルチニブ群で血漿のEGFR遺伝子変異が陽性であった91例の検討では、METの増幅が15%で最も多く、C797X変異が7%、PIK3CA変異が7%で認められた(Ramalingam SS, et al LBA50)。血漿での検討ではあるが、オシメルチニブの耐性メカニズムの検討として重要な報告であったと考える。ALESIAアジアで行われた、ALK融合遺伝子陽性の非小細胞肺がんの初回治療として、クリゾチニブとアレクチニブを比較する第III相試験の結果が報告された。本試験には187例が登録され、125例がアレクチニブ(600mgを1日2回内服)群に、62例がクリゾチニブ群に割り付けられた。主要評価項目である研究者による評価の無増悪生存期間(PFS)は、アレクチニブ群で有意に良好であった(PFS中央値、アレクチニブ群:未到達、クリゾチニブ群:11.1ヵ月、ハザード比[HR]:0.22、95%信頼区間[CI]:0.13~0.38、p<0.0001)。また、Grde3以上の毒性においても、アレクチニブ群では28.8%でみられたのに対し、クリゾチニブ群で48.8%であり、毒性においてもアレクチニブ群で軽いことが3つ目の第III相試験でも確認された(Zhou C, et al. LBA10)。ALK融合遺伝子陽性の非小細胞肺がんにおけるアレクチニブの有効性が改めて確認された一方で、日本のみアレクチニブの用量が異なることが、今後のALK融合遺伝子陽性の非小細胞肺がんの治療開発において、問題となることが危惧される。免疫チェックポイント阻害薬のトピックスPACIFIC試験の全生存期間に関する探索的検討III期の非小細胞肺がんに対し、化学放射線療法後にデュルバルマブとプラセボを比較する第III相試験であるPACIFIC試験において、SP263で評価したPD-L1の発現によるサブグループ解析の結果が報告された。PFSにおいては、PD-L1が1%以上の集団、PD-L1が1%未満の集団ともにデュルバルマブ群で良好な結果であった。しかし、全生存期間(OS)においては、PD-L1が1%以上の集団ではデュルバルマブ群で良好な結果であったが、PD-L1が1%未満の集団ではプラセボ群で生存曲線が上回る結果であった(Faivre-Finn C, et al. 1363O)。PD-L1の発現評価が可能であったのは全体の60%強であり、またそのうちのサブグループ解析であるため、この結果の解釈には注意が必要であり、この結果をもってPD-L1が1%未満にはデュルバルマブの効果が低いという結論には至らない。しかし、化学放射線療法施行例において、PD-L1発現と予後の結果については今後も検討を行う必要があることが示唆されると考える。IMpower130IV期の非扁平上皮非小細胞肺がんの初回治療として、カルボプラチン+ナブパクリタキセル+アテゾリズマブの3剤併用療法後にアテゾリズマブの維持療法(Atezo+CnP)とカルボプラチン+ナブパクリタキセル併用療法後に支持療法もしくはペメトレキセドの維持療法(CnP)を比較する第III相試験の結果が報告された。主要評価項目の1つである研究者評価のPFS(遺伝子変異陰性患者での)はAtezo+CnPで有意に良好であった(PFS中央値、Atezo+CnP:7.0ヵ月、CnP:5.5ヵ月、HR:0.64[95%CI:0.54~0.77]、p<0.0001)。またもう1つの主要評価項目であるOS(遺伝子変異陰性患者での)においても、Atezo+CnPで有意な改善を認めた(OS中央値、Atezo+CnP:18.6ヵ月、CnP:13.9ヵ月、HR:0.79[95%CI:0.64~0.98]、p=0.033)。EGFRもしくはALK陽性の患者において、PFSとOSともにカルボプラチン+ナブパクリタキセル併用療法に対するアテゾリズマブの上乗せ効果は認められなかった。遺伝子変異陰性の非小細胞肺がんに対する、初回治療としての、プラチナ製剤を含む併用療法に対するアテゾリズマブの上乗せ効果が再確認された結果であった。一方で、遺伝子変異陽性の患者に対する、プラチナ製剤を含む併用療法に対する免疫チェックポイント阻害薬の効果については、いまだ不明のままである。大規模な比較試験の結果が待たれる。(Cappuzzo F, et al. LBA53)B-F1RST局所進行または転移性非小細胞肺がん患者における、アテゾリズマブ単剤の単群第II相試験の結果が報告された。本試験の主解析として、血液検体を用いたtumor mutation burden(bTMB)のカットオフを16とした解析が含まれている。152例のITT集団のうち、バイオマーカーの評価可能でmaximum somatic allele frequency≧1%の患者が119例であり、bTMB≧16の患者は28例であった。bTMB≧16の患者での奏効割合が28.6%に対し、bTMB<16の患者では奏効割合4.4%であった。また、PFSはbTMB≧16群でよい傾向であったものの、統計学的な有意差は認めなかった(PFS中央値、bTMB≧16:4.6ヵ月、bTMB<16:3.7ヵ月、HR:0.66[95%CI:0.42~1.02]、p=0.12)。本試験のみで、bTMBのバイオマーカーとしての有効性の評価は難しいが、高い期待が持てる結果とはいえない。現在、bTMBが高い集団に対する第III相試験が進行中であり、その結果が待たれる。(Kim ES, et al. LBA55)

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IV期扁平上皮がんへの免疫療法+化学療法併用について(解説:小林英夫氏)-950

 肺がんの組織型は非小細胞がんが多くを占め、とりわけ扁平上皮がんと腺がんが中心となっている。1980年代までは扁平上皮がん、なかでも肺門型(中枢型)の扁平上皮がんが多かったが、その後徐々に腺がんが多数となり、扁平上皮がんを診療する機会が減少していた。ところが近年になり、以前の肺門型扁平上皮がんではなく、肺野末梢に発生する扁平上皮がんを経験する機会が増加してきている。なぜ再増加しているのか理由は定かではない。また、切除不能であるIV期の非小細胞肺がんの治療面では、2000年代以降になり遺伝子変異陽性の腺がんに対しチロシンキナーゼ阻害薬などの分子標的治療薬が急速に普及し、腺がんの標準治療は大きく変化してきた。一方で、IV期扁平上皮がん治療に有効な分子標的薬は導入できておらず、細胞障害性抗腫瘍薬または免疫チェックポイント阻害薬が現時点における治療の主役だが、まだまだ十分な効果は得られていない状況にある。 本論文は、非扁平上皮がんに対する治療としてプラチナ製剤を含む化学療法+ペムブロリズマブ(商品名:キイトルーダ)が生存期間延長をもたらす可能性が示された既報を受けて、扁平上皮がんへの同併用療法の効果を検証した二重盲検無作為化第III相試験である。全例がカルボプラチンをベースにした化学療法を受け、その半数にペムブロリズマブ、残りの群はプラセボが投与され、両群が比較検討された。主要エンドポイントである全生存期間中央値は、ペムブロリズマブ群15.9ヵ月がプラセボ群11.3ヵ月に比べ有意に延長した。無増悪生存期間中央値もペムブロリズマブ群が6.4ヵ月で、プラセボ群4.8ヵ月に比し良好であった。ペムブロリズマブ群がプラセボ群を上回ることはある程度予想された結果と考えられる。一方、投与薬剤が増えるため有害事象発現も重要課題で、有害事象による治療中止はペムブロリズマブ群が高かった(13.3 vs.6.4%)。治療関連死はそれぞれ3.6%、2.1%にみられた。 2018年ノーベル生理学・医学賞受賞により、がんの免疫療法、チェックポイント阻害薬がますます脚光を浴びている。かつて日本で話題になった丸山ワクチンのような免疫療法と現在の免疫チェックポイント阻害薬はまったく別の機序で作用しており、チェックポイント阻害薬が著効する症例も数多く報告されている。しかし同薬が万能薬ではないことも事実であり、今後、扁平上皮がん治療のキードラッグとしてどのような投与法が最適なのか、まさに研究が進行している。

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「がんだけ診ていればよい時代」は終わった?日本腫瘍循環器学会開催

 2018年11月3~4日、都内にて第1回日本腫瘍循環器学会学術集会が開催され、盛んな議論が行われた。「がんだけ診ていればよい時代」は終わった 日本腫瘍循環器学会理事長の小室 一成氏は、理事長講演で以下のように述べた。 がんと心血管疾患の関係は以前からみられる。近年、がん治療の進歩が生存率も向上をもたらした。そこに、がん患者の増加が加わり、がんと心血管疾患の合併は増加している。さらに、抗がん剤など、がん治療の副作用は、心血管系合併症のリスクを高め、生命予後にも影響することから、がん患者・サバイバーに対する心血管系合併症管理の重要性が増している。実際、乳がん患者の死因は、2010年に、がんそのものによる死亡を抜き、心血管疾患が第1位である。 がん治療において重要な心血管系合併症の1つは心機能障害である。心機能障害を起こす抗がん剤は数多い。アドリアマイシンによる心筋症は予後が悪いことで知られている。また、免疫チェックポイント阻害薬による心筋炎も、発症率は少ないが、いったん発症すると重篤である。もう1つの大きな問題は、がん関連血栓症(cancer associated thrombosis:CAT)として注目されている、血栓塞栓症である。がん患者では血液凝固系が活性化されているが、そこに、抗がん剤による血栓症や内皮細胞傷害のリスクが加わり、がん患者はさらに血栓塞栓症になりやすくなる。また、血栓塞栓症を合併したがん患者の予後は不良である。血栓塞栓症は、がん外来化学療法患者の死亡の10%を占め、死因の第2位となっている。 そのような中、海外では、90年代から、学会の設立、ガイドラインの発行など、さまざまな取り組みが始まっている。わが国では昨年(2017年)10月に日本腫瘍循環器学会が設立された。同学会では、がん患者・サバイバーのために、腫瘍と循環器の専門医が一緒に活動し、疫学・レジストリ研究、基礎研究・臨床研究の推進、診療指針(ガイドライン)の策定、医療体制の整備、教育研修に取り組んでいく。求められる腫瘍および循環器専門医のチームワーク 日本腫瘍循環器学会副理事長で第1回学術集会の会長である畠 清彦氏は、会長講演で以下のように述べた。 がん対策基本法が制定されて、どの地域でも標準治療が受けられるようになり、全体に底上げされて、今までになかったようなサポート体制が出来上がった。一方で、がん患者はどんどん高齢化し、心血管系合併症も増加している。しかし、がん専門施設での循環器内科医不足など、腫瘍循環器の分野は十分とは言えない。多くの薬が登場する中、心臓血管障害の問題があっても、その対策は各施設に任されている状況である。 また、最近の分子標的治療薬をはじめとする抗がん剤は、短期間の観察で承認される。長期的にどのような副作用が出るか報告が必要となる。心血管系の副作用を正確に報告するためにも、循環器と腫瘍の専門家が協調する必要がある。今後、さらに腫瘍専門医と循環器専門医のチームワークが求められるであろう。

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マクロファージ免疫CP阻害薬、再発・難治性リンパ腫に有望/NEJM

 中悪性度および低悪性度のリンパ腫の治療において、マクロファージ免疫チェックポイント阻害薬Hu5F9-G4(以下、5F9)は、リツキシマブとの併用で有望な抗腫瘍活性をもたらし、臨床的に安全に投与できることが、米国と英国の共同研究で示された。米国・スタンフォード大学のRanjana Advani氏らが、NEJM誌2018年11月1日号で報告した。5F9は、マクロファージ活性化抗CD47抗体であり、腫瘍細胞の貪食を誘導する。CD47は、ほぼすべてのがんで過剰発現している抗貪食作用(“do not eat me[私を食べないで]”)シグナルであり、マクロファージなどの食細胞からの免疫回避を引き起こす。5F9は、リツキシマブと相乗的に作用してマクロファージが介在する抗体依存性の細胞貪食を増強し、B細胞非ホジキンリンパ腫細胞を除去するとされる。3+3デザインを用い3種の用量で漸増する第Ib相試験 研究グループは、再発または難治性の非ホジキンリンパ腫患者を対象に、5F9+リツキシマブの安全性と有効性を明らかにし、第II相試験の推奨用量の提示を目的とする第Ib相試験を行った(Forty Sevenと米国白血病・リンパ腫協会の助成による)。 対象は、CD20の発現がみられるB細胞リンパ腫(びまん性大細胞型B細胞リンパ腫[DLBCL]または濾胞性リンパ腫)で、再発または2ライン以上の前治療歴のある難治性の患者であった。全身状態(ECOG PS)は0~2とした。3+3デザインを用いて、3種の用量にそれぞれ最少3例を登録した。用量制限毒性の評価は投与開始から28日まで行った。 5F9は、全例に初回用量1mg/kg体重を静脈内投与し、1週間後からの維持用量を10、20、30mg/kg(週1回)と増量した。リツキシマブは、1サイクル目は第2週から毎週375mg/m2体表面積を静脈内投与し、2~6サイクル目は毎月1回投与した。推奨維持用量は30mg/kg、36%で完全奏効 2016年11月~2017年10月の期間に、再発・難治性のDLBCL患者15例と、濾胞性リンパ腫患者7例の合計22例が登録された。5F9の維持用量別の症例数は、10mg/kgが3例、20mg/kgが6例、30mg/kgが13例となった。 全体の年齢中央値は、59歳(範囲:44~82)、男性が12例(55%)で、21例(95%)がECOG PS 0/1、4例(18%)が自家幹細胞移植を受けていた。前治療数中央値は4(範囲:2~10)であり、21例(95%)がリツキシマブ抵抗性で、14例(64%)は直近の治療レジメンに抵抗性であった。 治療期間中央値は22週(範囲:1.7~70.7、治療中の患者を含む)で、22例全例が2剤の投与を受けた。1例が、治療開始から約2週時に有害事象(特発性血小板減少性紫斑病)により投与中止となり、有効性の評価ができなかったが、非奏効例として解析に含まれた。3例が死亡し、全死因死亡率は14%だった。 有害事象は、主としてGrade1または2であった。頻度の高い有害事象は、悪寒、頭痛、貧血、およびinfusion-related reactionsであった。貧血(予測された標的作用)は、5F9の初回投与と維持投与を調節することで軽減された。 用量制限副作用は3例(20mg/kg群の1例[Grade3の肺塞栓症]、30mg/kg群の2例[Grade4の好中球減少、Grade3の特発性血小板減少性紫斑病])に認められたが、最大耐用量には到達せず、第II相試験の5F9の推奨用量は30mg/kgとした。 5F9の初回用量1mg/kgと維持用量30mg/kgにより、循環血中の白血球と赤血球のCD47受容体占有率はほぼ100%となった。 11例(50%)で客観的奏効(完全奏効+部分奏効)が得られ、8例(36%)で完全奏効が達成された。客観的奏効率と完全奏効率は、DLBCL患者でそれぞれ40%と33%、濾胞性リンパ腫患者では71%と43%であった。奏効までの期間中央値は1.7ヵ月(範囲:1.6~6.6)で、フォローアップ期間中央値がDLBCL患者6.2ヵ月、濾胞性リンパ腫患者8.1ヵ月の時点で、奏効例の91%(10/11例)で奏効が持続しており、奏効期間中央値には未到達だった。 著者は、「新たなマクロファージ活性化抗CD47抗体は、リツキシマブとの併用で安全に投与が可能であり、持続的な完全奏効をもたらすことが示された」としている。現在、第II相試験が進行中だという。

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