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認知症リスクが排便回数と便の硬さに関連~日本人4万人の研究

 中年期以降の排便習慣と認知症との関連について国立がん研究センター中央病院の清水 容子氏らが解析した結果、男女とも少ない排便回数および硬い便が高い認知症リスクと関連することが示された。Public Health氏オンライン版2023年6月29日号に掲載。認知症発症リスク、排便回数1回/日と比較して3回/週未満でハザード比1.79 本研究は、介護保険の認定記録を用いたコホート研究で、JPHC研究における8地区で排便習慣を報告した50~79歳の参加者を対象に、2006~16年の認知症の発症について調査した。生活習慣因子や病歴を考慮したCox比例ハザードモデルを用いて、男女別にハザード比(HR)と95%信頼区間(CI)を推定した。 中年期以降の排便習慣と認知症との関連について解析した主な結果は以下のとおり。・男性1万9,396人中1,889人、女性2万2,859人中2,685人が認知症と診断された。・排便回数について、1回/日と比較した多変量調整HR(95%CI)は男性、女性の順で以下のとおり(傾向のp値:男性<0.001、女性0.043)。 2回/日以上:1.00(0.87~1.14)、1.14(0.998~1.31) 5~6回/週:1.38(0.16~1.65)、1.03(0.91~1.17) 3~4回/週:1.46(1.18~1.80)、1.16(1.01~1.33) 3回/週未満:1.79(1.34~2.39)、1.29(1.08~1.55)・便の硬さについて、正常な便と比較した調整HR(95%CI)は男性、女性の順で以下のとおり(傾向のp値:男性0.0030、女性0.024)。 硬い便:1.30(1.08~1.57)、1.15(1.002~1.32) 非常に硬い便:1.84(1.29~2.63)、2.18(1.23~3.85)

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糖尿病の正しい理解と持続性GIP/GLP-1受容体作動薬マンジャロへの期待

 2023年6月8日、日本イーライリリーと田辺三菱製薬は、「2型糖尿病治療におけるアンメットニーズと展望」をテーマに、メディアラウンドテーブルを開催した。マンジャロのHbA1c低下効果について検証されたSURPASS J-mono試験 前半では日本イーライリリー 研究開発・メディカルアフェアーズ統括本部の今岡 丈士氏が、イーライリリー・アンド・カンパニー(米国)による世界初の持続性GIP/GLP-1受容体作動薬「マンジャロ皮下注アテオス」(一般名:チルゼパチド、以下「マンジャロ」)の特徴を紹介した。 イーライリリー・アンド・カンパニーは米国において、マンジャロを2022年6月7日より販売した。日本においては、マンジャロの全6規格のうち、2023年4月18日に開始用量、維持用量の2規格(2.5mg、5mg)を先行で、6月12日には高用量の4規格(7.5mg、10mg、12.5mg、15mg)を販売開始した。 マンジャロは、天然GIPペプチド配列をベースに、GLP-1受容体にも結合するように構造を改変した薬剤である。GIPとGLP-1の両受容体に結合して活性化することで、グルコース濃度依存的にインスリン分泌を促進させる働きを有する。 国内第III相臨床試験であるSURPASS J-mono試験は、HbA1cのベースラインから投与52週時までの平均変化量を指標として、チルゼパチド5mg/10mg/15mgを週1回投与したときのデュラグルチド0.75mg投与に対する優越性の検討を目的として実施された。対象は食事療法および運動療法のみ、またはチアゾリジン薬を除く経口血糖降下薬の単独療法で血糖管理が不十分な日本人2型糖尿病患者636例(平均年齢56.6歳)で、チルゼパチド5mg、10mg、15mg投与群およびデュラグルチド0.75mg投与群に、ほぼ同数となるように無作為に割り当てられた。チルゼパチドの各投与群では、2.5mgから投与を開始し、その後目的の用量まで2.5mgずつ増量していった。 主要評価項目であるHbA1cのベースラインから投与52週時までの変化量は、チルゼパチド5mg、10mg、15mg投与群でそれぞれ-2.4%、-2.6%、-2.8%であり、デュラグルチド0.75mg投与群の-1.3%と比較して有意なHbA1c低下量が認められた(p<0.0001)。発現が認められた有害事象にチルゼパチド各投与群とデュラグルチド投与群で大きな差はなく、主な有害事象は上咽頭炎、悪心、便秘などであった。重篤な有害事象はチルゼパチド投与群で前立腺がん、デュラグルチド投与群でCOVID-19肺炎などが認められた。糖尿病のスティグマを払拭するためには 後半では国家公務員共済組合連合会 虎の門病院 院長の門脇 孝氏により、「糖尿病のない人と変わらない寿命とQOL達成」について語られた。 糖尿病の遺伝・環境因子の包括的な解析のために、3万6千人以上の日本人糖尿病患者を対象にゲノムワイド関連解析(GWAS)が実施され、2019年にはβ細胞の遺伝子発現調節やインスリン分泌制御に関与する日本人特有の遺伝子が報告された。さらにGWASの結果を基にして、個人の糖尿病に関連する一塩基多型を調べ、高い精度で糖尿病の発症リスクを予測するという臨床応用も検討されているという。 このように糖尿病治療は進んでいる一方、40~50年前の糖尿病のイメージの定着による誤解、糖尿病患者は自己管理が欠如しているという偏見が払拭されていないという。日本人の糖尿病は高度経済成長期に増加し、当時は網膜症による失明が多く治療も限られており、悲惨な病気というイメージが強く、この頃のイメージが社会に定着し、その後の誤解や偏見につながっているとされる。一方で、2022年の調査では糖尿病患者と非糖尿病患者では平均死亡時年齢は2.6歳の差にすぎないという結果が報告されている。また、2型糖尿病は約50%を遺伝子、残りの約50%を、社会環境要因を主とした環境要因により決定するとされており、「糖尿病は性格の欠点、個人の責任感の欠如のせいという自己責任論は二重、三重に誤りである」と門脇氏は語った。 スティグマとは「誤った知識や情報が拡散することにより、対象となった者が精神的、物理的に困難な状況に陥ることを指す」とされる。糖尿病のスティグマは社会や医療従事者から発信され、自分の病気を周囲に隠す、社会生活への参加を避けるなどのネガティブな影響を糖尿病患者に与えてしまう。そうした中、2019年に日本糖尿病学会と日本糖尿病協会の合同によるアドボカシー委員会が設立され、糖尿病であることを隠さずにいられる社会づくりを目指し、糖尿病の正しい理解を促進する活動が展開されている。門脇氏は「糖尿病のある人に対するさまざまな誤解や偏見を払拭していくアドボカシー活動が大事であり、そのような治療環境を整えることが糖尿病治療の目標達成のうえでとても重要である」とし、「糖尿病治療目標である糖尿病のない人と変わらない寿命とQOLを達成するために、チルゼパチドへの期待が高まっている」と締めくくった。

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進行乳がんへのHER3-DXd、効果予測因子は?(ICARUS-BREAST01)/ESMO BREAST 2023

 HR+/HER2-の進行乳がん患者に対し、HER3を標的としたpatritumab deruxtecan(HER3-DXd)を投与した第II相ICARUS-BREAST01試験において、ベースライン時のHER3+の血中循環腫瘍細胞(CTC)数が多い患者、または1サイクル目でHER3+のCTC数が大きく減少した患者では、治療反応が早期に得られやすい傾向にあったことを、フランス・Gustave RoussyのBarbara Pistilli氏が欧州臨床腫瘍学会乳がん(ESMO Breast Cancer 2023、5月11~13日)で報告した。 これまで、HER3+の再発/転移乳がん患者(HR+/HER2-、HER2+、トリプルネガティブ)に対する第I/II相U31402-A-J101試験において、HER3-DXdの有効性と安全性が示されている。この有用性はすべてのサブタイプで同様であり、HER3-DXdはHER3の発現量にあまり依存しない可能性が示唆されており、HER3-DXdに対する反応性/抵抗性のバイオマーカーは不明である。 そこで、本試験は複数治療歴のあるHR+/HER2-進行乳がん患者におけるHER3-DXdの予測因子を明らかにすることを目的として現在行われている。データカットオフは2023年2月15日で、今回は3ヵ月奏効率と安全性データが報告された。なお、IHCでのHER3発現状況の登録は、2022年4月21日より削除された。・対象:CDK4/6阻害薬+内分泌療法歴、1ラインの化学療法歴のあるHR+/HER2-またはHER2低発現の進行乳がん(切除不能の局所進行もしくは転移を有する乳がん)患者・試験群:HER3-DXd 5.6mg/kg 3週間ごとに静脈内投与(治療前、治療中、治療終了時に腫瘍生検) ・評価項目:[主要評価項目]奏効率[副次評価項目]無増悪生存期間、奏効期間、クリニカルベネフィット率、全生存期間、安全性 主な結果は以下のとおり。・データカットオフの時点で85例の患者が試験に参加し、うち56例が評価可能であった。・ベースライン時の患者特性は、年齢中央値56歳(範囲:28~82歳)、全例が女性、HER3+が51.8%、前治療のライン数中央値2(範囲:1~4)、HER3-DXdのサイクル数中央値8(範囲:1~20)であった。・3ヵ月奏効率は、部分奏効が28.6%(16例)、病勢安定が53.6%(30例)、進行が17.8%(10例)であった。・HER3-DXd投与1~2サイクル後に、主にHER3+のCTC数の中央値が減少した。・HER3-のCTC数と治療効果に関連はなく、病勢進行時もHER3-のCTC数の増加はみられなかった。・ベースライン時のHER3+のCTC数が多い患者、または1サイクル目でHER3+のCTC数が大きく減少した患者では、治療反応が早期に得られやすい傾向にあったが、統計学的な有意差は認められなかった。・治療関連有害事象(TRAE)は100%に生じ、多かったものは疲労89.3%、悪心75.0%、下痢46.4%、脱毛44.6、便秘26.8%であった。Grade3以上のTRAEは48.2%で、疲労14.3%、悪心3.6%、下痢3.6%、便秘5.3%であった。間質性肺疾患は1例(1.8%)報告された。 ICARUS BREAST01試験は現在も進行中であり、さらなる有効性と効果予測因子の解析が行われる予定である。

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TN乳がんへのHER3-DXd、CelTILスコアが有意に増加(SOLTI TOT-HER3)/ESMO BREAST 2023

 未治療のHER2-早期乳がん患者に対するHER3を標的とした抗体薬物複合体(ADC)patritumab deruxtecan(HER3-DXd)5.6mg/kgを単回投与した第II相SOLTI TOT-HER3試験(part B)の結果、病理学的完全奏効(pCR)の予測スコアとして開発されたCelTILスコアが有意に増加し、ホルモン受容体の発現状況にかかわらず約30%の奏効率(ORR)が得られたことを、スペイン・Vall d'Hebron University HospitalのA.M. Antunes De Melo e Oliveira氏が欧州臨床腫瘍学会乳がん(ESMO Breast Cancer 2023、5月11~13日)で報告した。 昨年のESMO Breast Cancer 2022において、SOLTI TOT-HER3試験part Aの最終結果が報告され、未治療のHR+/HER2-早期乳がん患者に対するHER3-DXdの術前単回投与は、CelTILスコアの有意な増加と関連し、ORRは45%であった。今回報告されたpart Bでは、トリプルネガティブ乳がん(TNBC)患者も登録され、有効性と安全性が検証された。なお、part AではHER3-DXdは6.4mg/kgが投与されたが、part Bでは5.6mg/kgが投与された。<SOLTI TOT-HER3試験(part B)>・対象:未治療、HER2-、手術可能(超音波検査またはMRIで腫瘍径≧1cm)、Ki67≧10%の閉経前/後女性および男性乳がん患者・試験群:HER3-DXd(5.6mg/kg)を単回投与 37例(HR+/HER2-患者20例、TNBC患者17例)・評価項目:[主要評価項目]治療前と治療後(サイクル1の21日目)のCelTILスコア(-0.8×tumor cellularity[%]+1.3×TILs[%]:pCRと相関)の変動[副次評価項目]治療後の超音波検査によるORR、治療前のERBB3 mRNAレベルおよびIHCでのHER3タンパク質発現状況とCelTILスコアの変化など 主な結果は以下のとおり。・ベースライン時の患者特性は、年齢中央値:51歳(HR+/HER2-群51歳、TNBC群50歳)、閉経前:54%(60%、47%)、腫瘍径中央値:21mm(21.5mm、26mm)、cN0:76%(85%、65%)、Ki67中央値:30%(20%、70%)であった。・治療前と比較した治療後のCelTILスコアの変化は、全体では平均差+9.4(p=0.046)で、TNBC群(平均差+17.9)のほうがHR+/HER2-群(平均差+2.2)よりも顕著であった。・ORRは、全体32%、HR+/HER2-群30%、TNBC群35%で、part Aと同様にCelTILスコアの変化量はORRと関連していた(AUC=0.693、p=0.049)。・治療前のERBB3 mRNAレベルおよびIHCでのHER3タンパク質発現状況と、CelTILスコアの変化量やORRとの関連はみられなかった。・PAM50サブタイプは、治療前がLuminal A:9例、Luminal B:7例、HER2-Enriched:4例、Basal-like:17例で、治療後はLuminal A:10例、Luminal B:4例、HER2-Enriched:2例、Basal-like:8例、Nomal-like:6例、No residual tumor:7例であった。・Gradeを問わない治療関連有害事象(TRAE)は84%(31例)に生じた。多かったものは、悪心65%(24例、うち1例はGrade3)、疲労46%(17例)、脱毛27%(10例)、下痢22%(8例)、便秘14%(5例)、頭痛14%(5例)、トランスアミナーゼ値上昇14%(5例)などで、以前に報告されたものと一致していた。Part Aと比較して、血液毒性および肝毒性の発現率は低かった。間質性肺疾患は報告されなかった。 現在、HR+/HER2-乳がんを対象に、術前にHER3-DXdを5.6mg/kgを6サイクル投与する第II相SOLTI-VALENTINE試験が実施されている。

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HER2低発現進行乳がんへのT-DXd、ER低発現でもPFS・OS延長(DESTINY-Breast04)/ESMO BREAST 2023

 第III相DESTINY-Breast04試験のサブグループ解析の結果、HER2低発現(IHC法でER陽性細胞が1~10%)で、エストロゲン受容体(ER)低発現の切除不能または転移のある乳がん患者(MBC)において、トラスツズマブ デルクステカン(T-DXd)が医師選択化学療法(TPC)よりも無増悪生存期間(PFS)と全生存期間(OS)を有意に改善し、その結果はER陰性(IHC法でER陽性細胞が0%)患者と同様であったことを、英国・エディンバラ大学のDavid A. Cameron氏が欧州臨床腫瘍学会乳がん(ESMO Breast Cancer 2023、5月11~13日)で報告した。 ASCO2022のプレナリーセッションで、HER2低発現のMBC患者に対するDESTINY-Breast04試験の結果が報告されており、ホルモン受容体(HR)の発現状況にかかわらずT-DXd群ではPFSおよびOSが有意に延長したことが示されている。今回のサブグループ解析では、ER低発現の患者における有効性と安全性の探索的解析が行われた(データカットオフ:2022年1月11日)。<DESTINY-Breast04試験 サブグループ解析>・対象:1~2ラインの化学療法歴があり、HER2低発現(IHCスコア1+またはIHCスコア2+かつISH-)のMBC患者110例(ER陰性[0%]58例、ER低発現[1~10%]52例)・試験群(T-DXd群):T-DXdを3週間間隔で5.4mg/kg投与 75例・対照群(TPC群):カペシタビン、エリブリン、ゲムシタビン、パクリタキセル、nab-パクリタキセルから選択 35例・評価項目:[主要評価項目]HR陽性患者の盲検下独立中央評価委員会(BICR)によるPFS[副次評価項目]全患者のBICRによるPFS、HR陽性患者および全患者のOSなど 主な結果は以下のとおり。●サブグループ解析には110例が組み込まれた(括弧内は順に年齢中央値、化学療法歴が1ラインの割合、CDK4/6阻害薬による治療歴ありの割合)。- ER陰性:T-DXd群40例(58.9歳、40.0%、5.0%)、TPC群18例(55.9歳、27.8%、0%)- ER低発現:T-DXd群35例(57.6歳、60.0%、62.9%)、TPC群17例(47.1%、52.9%)●PFS中央値は、T-DXd群がTPC群よりも良好であった。- ER陰性:T-DXd群8.5ヵ月(95%信頼区間[CI]:4.3~11.7)vs.TPC群2.9ヵ月(95%CI:1.4~5.1)、ハザード比[HR]:0.46(95%CI:0.24~0.89)- ER低発現:T-DXd群8.4ヵ月(95%CI:5.6~12.2)vs.TPC群2.6ヵ月(95%CI:1.2~4.6)、HR:0.24(95%CI:0.12~0.48)●OS中央値も、T-DXd群ではTPC群よりも良好であった。- ER陰性:T-DXd群18.2ヵ月(95%CI:13.6~NE)vs.TPC群8.3ヵ月(95%CI:5.6~20.6)、HR:0.48(95%CI:0.24~0.95)- ER低発現:T-DXd群20.0ヵ月(95%CI:13.5~NE)vs.TPC群10.2ヵ月(95%CI:7.8~14.5)、HR:0.35(95%CI:0.16~0.75)●確定奏効率も、T-DXd群ではTPC群よりも良好であった。- ER陰性:T-DXd群50.0%(95%CI:33.8~66.2)vs.TPC群16.7%(95%CI:3.6~41.4)- ER低発現:T-DXd群57.1%(95%CI:39.4~73.7)vs.TPC群5.9%(95%CI:0.1~28.7)●T-DXd群においてGradeを問わず多く発現した治療関連有害事象(TRAE)は、悪心(77.3%)、嘔吐(40.0%)、疲労(37.3%)、食欲低下(34.7%)、脱毛(33.3%)、便秘(33.3%)、貧血(30.7%)、下痢(29.3%)、トランスアミナーゼ値上昇(26.7%)などで、これまで得られていた結果と一致していた。Grade3以上のTRAEは、T-DXd群では53.3%(40例)、TPC群では75.0%(24例)に生じた。

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日本初の肥満症治療薬「ウゴービ皮下注0.25mg/0.5mg/1.0mg/1.7mg/2.4mgSD」【下平博士のDIノート】第120回

日本初の肥満症治療薬「ウゴービ皮下注0.25mg/0.5mg/1.0mg/1.7mg/2.4mgSD」今回は、肥満症治療薬「セマグルチド(遺伝子組換え)(商品名:ウゴービ皮下注0.25mg/0.5mg/1.0mg/1.7mg/2.4mgSD、製造販売元:ノボ ノルディスク ファーマ)」を紹介します。本剤は肥満症を適応として承認された日本で初めてのGLP-1受容体作動薬であり、高血圧などを有し、食事・運動療法を行っても十分な効果が得られない肥満症患者の体重減少効果が期待されています。<効能・効果>肥満症の適応で、2023年3月27日に製造販売承認を取得しました。本剤は、高血圧、脂質異常症または2型糖尿病のいずれかを有し、食事療法・運動療法を行っても十分な効果が得られず、BMIが27kg/m2以上かつ2つ以上の肥満に関連する健康障害を有する患者、あるいはBMIが35kg/m2以上の患者に処方されます。<用法・用量>通常、成人には、セマグルチド(遺伝子組換え)として0.25mgから投与を開始し、週1回皮下注射します。その後は4週間の間隔で、週1回0.5mg、1.0mg、1.7mg、2.4mgの順に増量し、以降は2.4mgを週1回皮下注射します。患者さんの状態に応じて適宜減量します。<安全性>日本人被験者が参加した第III相試験(NN9536-4373試験、NN9536-4374試験、NN9536-4382試験)において、2,008例中1,359例(67.7%)に副作用が発現しました。主なものは、悪心(36.4%)、下痢(23.5%)、嘔吐(19.1%)、便秘(19.0%)などでした。なお、重大な副作用として、低血糖、急性膵炎(0.1%)、胆嚢炎、胆管炎、胆汁うっ滞性黄疸が設定されています(発現率の記載のないものは頻度不明)。<患者さんへの指導例>1.この薬には、脳に作用して食欲を抑えることで、体重を減らす作用があります。2.血糖値を下げる作用があるため、脱力感、倦怠感、高度の空腹感、めまいなどの低血糖症状が現れた場合は糖質を含む食品を取ってください。また、高所作業、自動車の運転などに注意してください。3.1週間に1回、同一曜日に皮下に注射してください。適切な在宅自己注射教育を受けた患者さんまたはご家族は自己注射することができます。注射は、腹部、ふともも、上腕に行います。注射箇所は毎回変更し、少なくとも前回の場所から2~3cm離して注射してください。4.1回使い切りの注射薬です。5.嘔吐を伴う持続的な激しい腹痛などの症状が現れた場合は、使用を中止して速やかに医師の診察を受けてください。6.次回の投与日を忘れないように、カレンダーなどに書き留めることをお勧めします。7.凍結を避けて冷蔵庫(2~8℃)で保管してください。<Shimo's eyes>本剤は、肥満症治療薬として承認された唯一のGLP-1受容体作動薬です。固定注射針付きシリンジを注入器にセットした単回使用のコンビネーション製品で、週1回皮下投与します。名称の「SD」は、単回投与を意味するSingle Doseの頭文字に由来します。GLP-1は小腸のL細胞から分泌されるインクレチンホルモンであり、血糖降下作用のほか、中枢における摂食抑制作用を有するため、体重を減少させる効果があります。本剤とDPP-4阻害薬はいずれもGLP-1受容体を介した血糖降下作用を有しているため、2型糖尿病を有する患者において両剤が併用された際の有効性および安全性は確認されていません。投与する対象患者については厳しい条件が課せられていて、(1)高血圧、脂質異常症または2型糖尿病のいずれかを有していること、(2)食事療法・運動療法を行っても効果が不十分であること、(3-1)BMIが27kg/m2以上かつ2つ以上の肥満に関連する健康障害を有していること、または(3-2)BMIが35kg/m2以上であることが求められます。日本人が参加した国際共同第III相試験(NN9536-4373試験、NN9536-4374試験)および国際共同第III相試験(NN9536-4382試験)において、投与68週時までの体重変化率および5%以上の体重減少達成率でプラセボに対する優越性を示しました。重大な副作用として、低血糖、急性膵炎が現れることがあります。嘔吐を伴う持続的な激しい腹痛などが現れた場合は急性膵炎の可能性を考慮し、使用を中止して速やかに医師の診察を受けるように指導しましょう。本剤と同じセマグルチドを有効成分とする薬剤として、週1回投与の注射剤であるオゼンピック皮下注が2018年3月に、1回使い切りの同SD製剤が2020年3月に、1日1回投与の経口薬であるリベルサス錠が2020年6月に、それぞれ2型糖尿病を効能・効果として承認されています。自由診療において、これらの薬剤がダイエット・美容目的で適応外処方されることが問題となっています。ウゴービ皮下注の臨床試験では、BMIならびに肥満に関連する健康障害の参加基準が厳格に定められていたことから、これらの薬剤の不適正使用について日本糖尿病学会から注意喚起されており、健康被害の防止と適正使用の推進が求められています。なお、本剤は「最適使用推進ガイドライン対象品目」であり、処方には条件が付く可能性があります。関連サイトGLP-1受容体作動薬およびGIP/GLP-1受容体作動薬の適応外使用に関する日本糖尿病学会の見解

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経口difelikefalin、CKD患者のかゆみの軽減に有望

 そう痒症は、後期慢性腎臓病(CKD)患者において多く認められるが、中等度~重度のそう痒症を伴うCKD(ステージ3~5)患者において、経口の選択的κオピオイド受容体作動薬difelikefalin(本邦では静脈注射用製剤が申請中)が、そう痒を大幅に軽減し、その状態を維持することが示された。米国・University of Miami Miller School of MedicineのGil Yosipovitch氏らが、第II相二重盲検無作為化プラセボ対照用量設定試験の結果を報告した。Journal of the American Academy of Dermatology誌オンライン版2023年4月12日号掲載の報告。 研究グループは、非透析CKD患者と透析治療を受けるCKD患者のかゆみの軽減について、経口difelikefalinの有効性と安全性を評価した。 本試験の対象は、中等度~重度のそう痒症を伴うCKD(ステージ3~5)の非透析患者および透析治療を受ける患者であった。対象患者を経口difelikefalin(0.25mg、0.5mg、1.0mg)各用量群またはプラセボ群へ無作為に均等に割り付け、1日1回12週間投与した。 主要エンドポイントは、12週時の週平均Worst Itch Numeric Rating Scale(WI-NRS)スコアの変化であった。 主な結果は以下のとおり。・269例が無作為化され、ベースライン時のWI-NRSスコア(平均値±標準偏差)は7.1±1.2であった。・経口difelikefalin 1.0mg群はプラセボ群と比較して、2週時から週平均WI-NRSスコアが有意に減少し(p<0.05)、12週時においても有意に減少していた(最小二乗平均差:-1.1、p=0.018)。経口difelikefalin 0.25mg群および0.5mg群においても、週平均WI-NRSスコアの数値的な減少が観察された。・12週時において、経口difelikefalin 1.0mg群では38.6%が完全奏効(WI-NRSスコア0~1)を達成した。一方、プラセボ群の達成率は14.4%であった。・経口difelikefalin 1.0mg群はプラセボ群と比較して、そう痒に関するQOL尺度のベースラインからの変化が、20%程度数値的に改善した。・治療下で発現した有害事象のうち、最も多くみられた事象は、めまい、転倒、便秘、下痢、胃食道逆流性疾患、疲労、高カリウム血症、高血圧、尿路感染であった。

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手持ち不足の薬剤の処方依頼前に継続の必要性を再検討【うまくいく!処方提案プラクティス】第53回

 今回は、手持ちの薬がなくなって服薬ができていなかった症例を紹介します。患者さんの希望で処方依頼をするシチュエーションは多々ありますが、状態によっては継続ではなく中止を提案することもあります。治療効果を意識して体調の変化を確認しましょう。患者情報80歳、男性(施設入居)基礎疾患気管支喘息、慢性気管支炎、前立腺肥大症、高血圧症、緑内障、便秘症、アレルギー性鼻炎介護度要介護2服薬管理施設職員が管理処方内容1.アジルサルタン錠40mg 1錠 分1 朝食後2.タムスロシン錠0.2mg 1錠 分1 朝食後3.ミラベグロン錠25mg 1錠 分1 朝食後4.アンブロキソール徐放錠45mg 1錠 分1 朝食後5.ベポタスチン錠10mg 2錠 分2 朝夕食後6.モンテルカスト錠10mg 1錠 分1 就寝前7.酸化マグネシウム錠330mg 3錠 分3 毎食後8.センノシド錠12mg 2錠 分1 就寝前9.ヒアルロン酸点眼液0.1% 1日3回 両眼10.タフルプロスト点眼液0.015% 1日1回 両眼本症例のポイントこの患者さんは、施設入居から4日目に当薬局に訪問介入の依頼がありました。入居前は薬剤を自己管理していたようですが、過去の飲み忘れも含めて約1ヵ月半分の持参薬があり、用法ごとの残数もそろっていない状況でした(朝:42、昼:66、夕:58、就寝前:70日分)。気管支喘息の診断を受けていたとのことで、ブデソニド・ホルモテロールの空容器を持参していましたが、夜間は不安だからプロカテロール吸入薬も吸入したいので処方してもらいたいという患者さんからの依頼がありました。よくよく話を聞いてみると入居3週間前からブデソニド・ホルモテロールもプロカテロールも残薬がなくなっていて、手元にないと不安なので処方してほしいとのことでした。情報分析これまでの情報から私なりに分析してみました。まず、大量かつ不均等の持参薬から患者さんの服薬アドヒアランスは不良であることが想像できます。薬に対する依存度が強く、患者さんから医師にさまざまな薬を要望している様子もあったため、使用していた薬剤の種類と処方理由を明確にしておく必要があると考えました。なお、患者さんが要望している吸入薬はどちらも約1ヵ月間使用していませんでしたが、喘息発作などは起きていません。前医の診療情報書に目を通したところ、小児喘息や成人時期の喘息発作の経験はなかったものの、患者によると喘息の素因があるとのことで、感冒の際に希望があり処方しているという文面を確認することができました。患者さんはその後、長期間にわたって吸入薬を使用していました。基礎疾患にある気管支喘息の診断情報に疑問をもち、訪問診療医に相談することにしました。処方提案と経過患者さんとの初回面談から3日目に訪問診療医の初診があったため同行することにしました。診察前に、医師に初回面談時のやりとりを共有しました。入居前は服薬アドヒアランスが安定していなかったと考えられ、患者さんの希望から吸入薬が追加されている可能性があるものの、約1ヵ月間使用していなくても発作症状はないことなどを伝えました。医師からは、診察時に呼吸音や病状を確認し、診断の見直しをするという返答がありました。その結果、気管支喘息を積極的に疑う所見ではないので、このまま吸入薬をやめて様子をみようという判断になりました。その2週間後の診療でもその間の喘息発作は認められませんでした。患者さんからは、吸入の負担が減って精神的に楽になったと聞き、その後も状態が悪化することなく施設で穏やかに生活されています。

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【GET!ザ・トレンド】第2の聴診器ポケットエコーの進化はAirへ

(協力:GEヘルスケア社)医療検査機器の進歩は目覚ましいものがある。とくにCTやMRIは、さらに高画質化し、読影も立体的になるなど、最近ではソフトウェアの進歩も著しい。また、超音波も同様に高画質化、コンパクト化がはかられ、ベッドサイドではなくてはならない検査機器となりつつある。こうした診療機器を一堂に集めた国際医用画像総合展(ITEM 2023)が4月14日から3日間、パシフィコ横浜で開催される。ITEMの開催を前にCareNeTVやケアネットDVDでもお馴染みの白石 吉彦 氏(島根大学医学部附属病院 総合診療医センター センター長/隠岐広域連合立隠岐島前病院 参与)にポケットエコーの進化を振り返り、臨床現場での使い方のポイントや検査・読影のコツ、そして、今後の展望についてお聞きした。質問 ポケットエコーの進歩とハードウエアの課題について教えてください2010年にVscan(GEヘルスケア社製)がポケットエコーの嚆矢として発売されました。非常に衝撃的ではありましたが、当時は心エコーなど限定された部位・機能であり、現在のように処置などに使えませんでした。2010年に発売されたポケットエコーVscan(GEヘルスケア社製)その後、他のメーカーもポケットエコーを開発・発売していくなかで、先のVscanはプローブのデュアル化をしました。1個のプローブにセクタ型とリニア型が一体となり、携帯する機材の省力化で、臨床現場での使い勝手が向上しました。Vscan Dual Probe(GEヘルスケア社製)その間にも個々の機種は充電がしやすくなったり、起動までの時間が短縮化されたり、軽量化なども図られるとともに、本体の価格もかなり安くなっていきました。そして、現在の進化はVscan Air(GEヘルスケア社製)のように無線化であり、邪魔なコードがなくなり、プロ―ブを検査したいところに当て、機動性良く検査ができるようになりました。また、所見はタブレットやスマホに送ることができて、その画面で読影ができるようになりました。Vscan Air Carotid Artery(GEヘルスケア社製)臨床では、臨床判断と手技の向上に役立てる超音波検査を“point-of-care ultrasonography”(POCUS)と呼び、一般社団法人 日本ポイントオブケア超音波学会(j-pocus.com)が設立されるなど環境も大きくかわりつつあります。ポケットエコーで今後期待されることとしては、画質や画面の大きさ、価格、質の担保があります。たとえば、胆嚢炎について、本症では読影時に胆嚢壁の厚さや形状を知ることが大事です。ポータブルエコーでは、カラードップラーも使え、鮮明に壁の厚さもわかりやすい一方で、ポケットエコーではまだそこまで到達できていません。ほかに重要な点として非接触充電ができるようになったり、機能的にも良くなっていますが、「電池の持ち時間」がユーザーとしては気になります。もっと長時間使用できるようになって欲しいと思います。1点注意しなければいけないこととして、最近ではインターネットサイトで非常に安価なポケットエコーを入手することができます。サイトで買われたポケットエコーは、自己トレーニングなどでの使用は問題ありませんが、薬機法(医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器、再生医療等製品について安全性と、体への有効性を確保するための法律)を通っていない機器は、診療で使用すると法に抵触する恐れがあります。この点を医療者はよく理解して、診療にあたらなければいけないということがあります。質問 ポケットエコーの臨床現場での活用法やビギナー向けのポイントを教えてくださいポケットエコーは在宅診療をされている医療者などでは結構普及していますが、医師全体からすると、まだ5%も普及していません。理由はいろいろとありますが、はじめの頃は250万円くらいの高価なデバイスであったことが要因かと思います。ポケットエコーのメリットは、携帯性、経済性、起動時間の早さにあります。診療に使うことで診断精度と治療精度の向上が望めます。私の勤める病院では、看護師にも積極的にポケットエコーを扱ってもらっています。一例として「導尿」の有無の判断に膀胱にエコーを当て、導尿の必要があるかどうかを判断しています。導尿では、感染症のリスクや患者さんの羞恥心もあり、できればしたくない処置です。そこでエコーを当て要否を判断することで確実に導尿が必要な患者さんにだけ処置を施すことができます。これは全国でもまれかもしれません。また、膀胱の背側にある直腸の便を確認することもできます。膀胱横断面所見(提供:GEヘルスケア社)画像を拡大する診断の補助として、たとえばひざの腫れであれば、関節液の貯留か軟部組織の炎症による腫脹か、それ以外の原因なのか、ベテランでないと難しい診断もポケットエコーを使えば診断がし易くなります。触診した部位を見える化することによりポケットエコーで身体所見の診断の答え合わせもできます。ほかにもプライマリ・ケアでよくある主訴の「頻尿」では、問診では判断が難しい過活動膀胱か神経因性膀胱かどうかについて、ポケットエコーで膀胱の容量を把握し、残尿があるかないかを確認することができます。両疾患では治療薬も異なるので、適切な治療につなげることができます。エコーは軟部組織や水をよく描出するので胸水、肺B-line、胸膜、膝などの診断に強みを発揮します。今では初期の大動脈瘤の発見もできる精度であり、みつけることができれば予防的な治療も可能です。膀胱、前立腺所見(提供:GEヘルスケア社)画像を拡大する腹部大動脈所見(提供:GEヘルスケア社)画像を拡大する処置で使うのであれば、ひざの穿刺などで注射を必要な部位にピンポイントで施行できますし、膀胱、便秘、肺エコー、大静脈の点滴の適否、末梢血管確保についてポケットエコーは有効です。エコーを使用した処置により、ベテランでもそうでなくとも同じ視覚で処置ができるので、医療の均てん化にも役立つと考えています。質問 超音波所見の読影のコツやビギナー向けの学習法について教えてくださいエコーの上達については、とにかく「日々プローブを当てること」が基本です。自分でも仲間同士でもプローブを当て、手技や読影を訓練することです。もちろんこのときには指導する先輩医師の役割も重要ですし、身近にすぐできるエコーがあることも必要です。そういう意味ではポケットエコーは、エコーに馴染むという意味ではよいツールとなります。また、読影でわからない場合で先輩医師がいない場合には、成書やDVDなどで学習し、それでも難しいときは研修会などで勉強することが必要です。本当は、医学生のころからエコーに慣れ親しむのがいいのですが、現在、医学部でのエコーの講義や実習は、力の入れ具合に差があります。私が所属している島根大学医学部では、医学生にエコーの勉強会を実施していますし、エコーを使った診療の動画も島根大学医学部附属病院 総合診療医センターのサイトで公開して、学習のサポートを行っています。今年の7月には私が会長で行う「第15回 日本ポイントオブケア超音波学会学術集会」を島根で開催します。エコーに少しでも興味のある医療者にはぜひ参加していただきたいと思います。質問 ポケットエコーの将来の展望について教えてください診療でポケットエコーが普及していけば、診療ガイドラインなどにも記載されるようになるでしょう。日本ポイントオブケア超音波学会(JPOCUS)では、ガイドラインから試案を作成したりしていますし、日本救急医学会では「救急point–of–care超音波診療指針」を公開していますので、じわじわと臨床の中に入っていくと思われます。今後、プライマリ・ケアでも症状や病態の見える化は需要が増していきますので、「第2の聴診器」として医療者には必要な手技・スキルになると考えます。繰り返しますが、ポケットエコーの理想形としては、より小さく、軽く、鮮明な画像で、値段もお手ごろ、電池も長持ちし、操作も簡単、プローブのバリエーションもあり、そして、院内のPACSにつながるポケットエコーの登場を期待します。(インタビューは2023年3月6日に実施/ケアネット 稲川 進)

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「当事者にも目を向けて」―レビー小体型認知症の多様な症状

 2023年1月17日、住友ファーマ主催のレビー小体型認知症(DLB)に関するプレスセミナーが開催され、大阪大学大学院医学系研究科 精神医学教室 教授の池田 学氏から「第2の認知症、レビー小体型認知症(DLB)の多彩な症状と治療法の進歩」について、近畿大学医学部 精神神経科学教室 主任教授 橋本 衛氏からは「当事者に目を向けた診療のすすめと当事者、介護者、主治医に伝えたいこと」について語られた。 多様な症状を示し、アルツハイマー型認知症と比べてケアが難しいDLBでは、当事者、介護者、主治医の3者の理解が深まることで、当事者のQOL向上と介護者の負担軽減が期待される。DLBの臨床症状 DLBは、進行性の認知機能障害や幻視、妄想、パーキンソニズム、便秘や低血圧などの自律神経障害など、きわめて多様な臨床症状を示す。これらの症状は同時に起こることも多い。これらを踏まえて池田氏は、「DLBにはさまざまな症状があるということを知り、認知機能障害以外の症状にも目を向けないと、患者さんが早期に受診しても見落とす可能性がある」と、主治医がDLBの臨床症状を把握する重要性について訴えた。DLBの薬物治療、ケアのポイント さらに池田氏は、「DLBの薬物治療では、症状に合わせて、抗認知症薬、抗パーキンソン病薬、抗精神病薬などが用いられているが、いずれも副作用の発現や症状の悪化を引き起こす可能性があり、慎重に使用すべきである。ただ、副作用を避けながらの薬物治療は難しく、家庭では安全を保てない場合もあるため、必要に応じて入院や入所も積極的に考慮してほしい」と述べた。当事者の意向を尊重した認知症医療 従来のDLB治療では、当事者は認知症に対して自覚はなく、自分から症状を適切に判断して訴えることはできないという思い込みから、当事者不在の医療が行われることがあった。このことから橋本氏は、「当事者の半数以上は自分の治療ニーズを伝えることができる。また、当事者主体の医療・介護等の徹底について、厚生労働省の新オレンジプラン(認知症施策推進総合戦略)でも掲げられている。介護者だけではなく、当事者にもっと目を向けた診療を心掛ける必要がある」と強調した。当事者と介護者の治療ニーズと主治医の理解度 当事者と介護者が困っている症状は多岐にわたるため、専門医であってもその症状を完璧に把握することは難しい。とくに、自律神経障害、睡眠障害は見逃されやすい。橋本氏は、「DLBの症状を理解したうえで、当事者や介護者は治療ニーズをしっかりと主治医に伝え、主治医は両者の治療ニーズにしっかりと目を向けることで、当事者の意向を尊重する診療が広まっていくことを期待している」と講演を締めくくった。

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日本におけるレビー小体型認知症患者・介護者の治療ニーズ

 レビー小体型認知症(DLB)に対する治療戦略を考えるうえで、患者の治療ニーズを把握することは不可欠である。近畿大学の橋本 衛氏らは、DLB患者とその介護者における治療ニーズおよびこれらの治療ニーズを主治医がどの程度理解しているかを調査するため、横断的観察研究を実施した。その結果、DLB患者およびその介護者の治療ニーズのばらつきは大きく、主治医は専門知識を有しているにもかかわらず、DLBのさまざまな臨床症状のために、患者やその介護者にとって最優先の治療ニーズを理解することが困難であることが明らかとなった。著者らは、主治医には自律神経症状や睡眠関連障害により注意を払った治療が求められるとしている。Alzheimer's Research & Therapy誌2022年12月15日号の報告。 DLB患者、その介護者および主治医を対象にアンケート調査を実施した。DLBで頻度が高く臨床的に重要な52の症状を、7つの症状ドメイン(認知機能障害、パーキンソニズム、睡眠関連障害、摂食行動関連問題、睡眠障害および摂食障害以外の精神症状、自律神経症状、感覚障害)に分類した。患者および介護者の治療ニーズは、「最も苦慮している症状」と定義し、各回答を集計した。患者および介護者の治療ニーズに対する主治医の理解度を評価するため、各回答に対する「患者と主治医」および「介護者と主治医」の一致率を症状ドメインごとに算出した。 主な結果は以下のとおり。・調査対象は、患者および介護者263組、主治医38人。・患者の平均年齢は79.3歳、ミニメンタルステート検査(MMSE)の平均総スコアは20.9であった。・最も苦慮している症状として、患者は35症状、介護者は38症状を選択した。・患者の治療ニーズとして最も選択されていた症状は記憶障害であり、次いで便秘、運動緩慢が選択された。・介護者においても、最も苦慮している症状として選択された症状は記憶障害であり、次いで幻覚が選択された。・患者または介護者が最も苦慮する症状ドメインにおける主治医との一致率は、「患者と主治医」で46.9%、「介護者と主治医」で50.8%であり、約半分程度しか一致していなかった。・ロジスティック回帰分析では、自律神経症状や睡眠関連障害が最も苦慮する症状ドメインとして選択された場合、「患者と主治医」と「介護者と主治医」の治療ニーズの一致率はより低かった。

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統合失調症に対する高用量ルラシドンの有効性

 福島県立医科大学の三浦 至氏らは、急性増悪期の統合失調症患者を対象に、ルラシドン80mg/日の有効性および安全性を検討した。その結果、ルラシドン40mg/日で治療した急性期統合失調症患者において、用量を80mg/日に増量した場合でも忍容性は良好であった。また、ルラシドン80mg/日への増量では、40mg/日を継続した場合と比較し、陽性・陰性症状評価尺度(PANSS)サブスケールスコアのより大きな改善が認められた。Neuropsychiatric Disease and Treatment誌2022年11月9日号の報告。 ルラシドンの6週間二重盲検試験を完了した統合失調症の成人患者289例を対象に、12週間の非盲検延長試験を実施した。フレキシブルドーズでルラシドン40mg/日または80mg/日で治療を行った。有効性の評価には、PANSSサブスケール、臨床全般印象度の重症度(CGI-S)、統合失調症に関するカルガリーうつ病尺度(CDSS)のスコアを用い、分析にはLOCF解析を用いた。安全性/忍容性の評価には、有害事象、体重、臨床検査値、有害事象による治療中止を含めた。 主な結果は以下のとおり。・ルラシドン80mg/日群は136例、40mg/日群は153例であった。・有効性評価尺度の平均変化は、以下のとおりであった。 【PANSS陽性尺度】80mg/日群:-3.0、40mg/日群:-2.3 【PANSS陰性尺度】80mg/日群:-1.9、40mg/日群:-1.7 【PANSS総合精神病理尺度】80mg/日群:-5.1、40mg/日群:-3.8 【CGI-S】80mg/日群:-0.5、40mg/日群:-0.4 【CDSS】80mg/日群:-0.7、40mg/日群:-0.1・有害事象による治療中止率は、80mg/日群で4.4%、40mg/日群で7.2%であった。・80mg/日群において高頻度で発現した有害事象は以下のとおりであった。 ●鼻咽頭炎:7.4%(40mg/日群:4.6%) ●便秘:5.9%(40mg/日群:2.0%) ●頭痛:5.9%(40mg/日群:2.0%)

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英語で「便秘」は?【1分★医療英語】第60回

第60回 英語で「便秘」は?My son recently has stomach pain.(うちの息子は、最近お腹が痛いと言っています)Is he constipated?(便秘気味ですか?)《例文1》Do you have any medications for constipation?(便秘に効く薬はありますか?)《例文2》How long have you been constipated?(どのくらいの期間、便秘なのですか?)《解説》今回は「便秘」にフォーカスを当てたいと思います。便秘を主訴とする、または腹痛の背景に便秘がある患者さんは頻繁に遭遇しますよね。便秘は“constipation”(コンスティペイション)で表すことができます。たとえば、「私は便秘気味です」であれば“I am constipated.”もしくは“I have constipation.”で表現することができます。どちらも正解ですが、前者のほうがよく聞く印象です。医療者同士での会話でも同様に“This patient is constipated.”と使ったり、“This constipated patient is~”のように形容詞として使ったりします。ちなみに、便秘には“obstipation”(アーブスティペイション)という言葉もあり、これは“severe form of constipation”、つまり「かなりひどい便秘症状」の際に時々用いられます。医療現場で使う「排便」という表現には、“bowel movement”が使われます。使い方としては、“Do you have any bowel movements yesterday?”(昨日排便はありましたか?)や、“How many bowel movements do you have per day?”(1日に何回排便しますか)といったように使用されます。小児領域に関しては、“poop”という表現がお子さんに伝わりやすいので、親が外来に来た際に、“She has not pooped for three days.”(うちの娘は3日間うんちが出ていません)と説明したり、医療者も“Do you poop every day?”(うんちは毎日出ていますか?)と聞いたりします。ただし、日本語の「うんち」のトーンなので、幼い子ども相手の使用に留めておくほうが無難でしょう。医療現場で大人の患者さんに使うと少しびっくりされるかもしれません。医療現場でたびたび遭遇する「便秘・排便」の表現を使いこなせるようになりましょう!講師紹介

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世界初の持続性GIP/GLP-1受容体作動薬「マンジャロ皮下注アテオス」【下平博士のDIノート】第111回

世界初の持続性GIP/GLP-1受容体作動薬「マンジャロ皮下注アテオス」今回は、持続性GIP/GLP-1受容体作動薬「チルゼパチド注射液(商品名:マンジャロ皮下注2.5mg/5mg/7.5mg/10mg/12.5mg/15mgアテオス、製造販売元:日本イーライリリー)」を紹介します。本剤は、GIPとGLP-1の2つの受容体に単一分子として作用する世界初の持続性GIP/GLP-1受容体作動薬であり、選択的かつ長時間にわたる血糖値の改善が期待されています。<効能・効果>本剤は、2型糖尿病の適応で、2022年9月26日に製造販売承認を取得しました。<用法・用量>通常、成人には、チルゼパチドとして週1回2.5mgを4週間皮下投与した後、維持用量である週1回5mgに増量します。患者の状態に応じて適宜増減し、週1回5mgで効果不十分な場合は、4週間以上の間隔を空けて2.5mgずつ増量することができます。最大用量は週1回15mgです。<安全性>日本人および外国人2型糖尿病患者を対象とした国際共同第III相試験、日本人2型糖尿病患者を対象とした国内第III相試験の本剤5mg投与群において、副作用は544例中232例(42.6%)で報告されています。主なものは、悪心60例(11.0%)、下痢48例(8.8%)、食欲減退46例(8.5%)、便秘44例(8.1%)などでした。なお、重大な副作用として、低血糖(頻度不明)、急性膵炎(0.1%未満)が報告されています。<患者さんへの指導例>1.この薬は、GIP/GLP-1受容体作動薬と呼ばれる2型糖尿病の治療薬です。血糖値が高くなるとインスリンの分泌を促進し、またインスリンを効きやすくすることで血糖値を下げます。2.週1回、同じ曜日に投与してください。オートインジェクター型注入器は1回使い切りです。3.めまいやふらつき、動悸、冷や汗などの低血糖症状を起こすことがあるので、高所作業、自動車の運転など危険を伴う作業を行う際は注意してください。これらの症状が認められた場合は、ただちに糖質を含む食品を摂取してください。4.悪心、嘔吐、下痢、便秘、腹痛、消化不良、食欲減退が強い場合はご相談ください。5.嘔吐を伴う激しい腹痛が現れた場合は使用を中止し、速やかに受診してください。6.冷蔵庫内などで光が当たらないように保管してください。凍結は避けて、もし凍結した場合は使用しないでください。室温で保管する場合は、外箱から出さずに保管し、21日以内に使用してください。30℃を超える場所では保管しないでください。<Shimo's eyes>本剤は、39個のアミノ酸を含む合成ペプチドであり、単一分子でグルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド(GIP)受容体およびグルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)受容体の双方に作用する世界初の持続性GIP/GLP-1受容体作動薬です。GIPとGLP-1はいずれも食事が小腸を通過することで分泌されるホルモンで、血糖が高い場合には膵臓におけるインスリン分泌を促進するとともに、食欲減退や満腹感亢進による体重増加の抑制作用が期待されています。なお、米国では2022年5月に「成人2型糖尿病治療における血糖コントロール改善のための食事および運動療法の補助療法」として承認を取得しているので、わが国よりも早期のステージでの使用が想定されます。注入器のアテオスは、既存のトルリシティにも使用されているオートインジェクターで、1回使い切りのキットです。注射針付きのシリンジがあらかじめ装填されており、空打ちをすることなく、ボタンを押すだけで自動的に投与することができます。医療機関において、適切な在宅自己注射教育を受けた患者さんやご家族は本剤の自己注射が可能です。国内の実薬対照二重盲検比較試験(SURPASS J-mono試験)では、主要評価項目であるHbA1cのベースラインから投与52週時までの平均変化量について、デュラグルチド0.75mg(商品名:トルリシティ)に対する本剤5mg、10mg、15mgの優越性が認められました。また、非盲検長期安全性試験(SURPASS J-combo試験)では、本剤5mg、10mg、15mgを経口血糖降下薬単剤と併用し、安全性および有効性が確認されました。主な副作用として、悪心、嘔吐、下痢、便秘、腹痛、消化不良、食欲減退などの消化器症状が報告されており、投与開始時の用量の漸増は、胃腸障害リスクの回避・軽減を目的としています。用量依存的な体重減少も認められているため、過度の体重減少にも注意する必要があります。投与開始時のBody Mass Index(BMI)が23kg/m2未満の患者での有効性および安全性は検討されていません。なお、本剤とDPP-4阻害薬はいずれもGLP-1受容体およびGIP受容体を介した血糖降下作用を有しています。両剤を併用した際の臨床試験成績はないため、併用処方の場合には疑義照会が必要です。

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低用量徐放性モルヒネ、COPD患者の慢性息切れを改善せず/JAMA

 重度の慢性的な息切れを伴う慢性閉塞性肺疾患(COPD)患者において、低用量徐放性モルヒネの毎日の使用はプラセボと比較して、治療開始から1週間後までで、最も重度な息切れに有意な改善は認められず、1日の平均歩数にも有意な変化はなかったことが、スウェーデン・ランド大学のMagnus Ekstrom氏らが実施した「BEAMS試験」で示された。研究の詳細は、JAMA誌2022年11月22・29日合併号に掲載された。オーストラリアの無作為化プラセボ対照比較試験 BEAMS試験は、オーストラリアの20施設が参加した二重盲検無作為化プラセボ対照比較試験であり、2016年9月~2019年11月の期間に患者の登録が行われた(オーストラリア国立保健医療研究評議会[NHMRC]などの助成を受けた)。 対象は、年齢18歳以上、COPDと診断され、呼吸器内科医によって確定された根本的な原因に対する至適な治療を行っても重度の慢性的息切れ(修正MRC息切れスケールのスコア3または4[「平坦な道を約100ヤード〈91.4m〉または数分歩くと息切れのため立ち止まる」「息切れがひどくて家から出られない」「衣服の着替えをする時にも息切れがする」])がみられる患者であった。 被験者は、徐放性モルヒネ8mg/日、同16mg/日、プラセボを1週間経口投与する群に、1対1対1の割合で無作為に割り付けられ、ベースラインの受診時に手首にアクチグラフ装置が装着された。さらに、2週目と3週目にも、それぞれ徐放性モルヒネを1週目の用量に加えて8mg/日またはプラセボを投与する群に、1対1の割合で無作為に割り付けられ、3週目にはモルヒネ8mg/日、同16mg/日、同24mg/日、同32mg/日、プラセボを投与する5つの群に分けられた。 主要アウトカムは、プラセボと比較した徐放性モルヒネ投与例における、患者報告による最も重度な息切れの強度の変化とされ、ベースライン(-3~-1日目)と投与開始1週目(5~7日目)の平均スコアを用いた数値スケール(0[なし]~10[最も悪いまたは最も強い])で評価した。副次アウトカムには、アクチグラフを用いた1日の歩数の変化が含まれ、ベースライン(-1日目)と3週目(19~21日目)の平均歩数が比較された。漸増された4つの用量で、平均1日歩数に差はない 156例(年齢中央値72歳[四分位範囲[IQR]:67~78]、女性48%)が主解析に含まれ、モルヒネ8mg群に55例、同16mg群に51例、プラセボ群に50例が割り付けられた。138例(48例、43例、47例)が1週目の投与を完了した。修正MRC息切れスケールのスコア3が121例(78%)、スコア4は35例(22%)だった。 1週目における最も重度な息切れの強度の変化は、モルヒネ8mg群とプラセボ群で有意な差はなく(平均群間差:-0.3、95%信頼区間[CI]:-0.9~0.4)、同16mg群とプラセボ群の間にも差は認められなかった(-0.3、-1.0~0.4)。 3週目における平均1日歩数の変化は、モルヒネ8mg群とプラセボ群(平均群間差:-1,453歩、95%CI:-3,310~405)、同16mg群とプラセボ群(-1,312歩、-3,220~596)、同24mg群とプラセボ群(-692歩、-2,553~1,170)、同32mg群とプラセボ群(-1,924歩、-4万7,699~921)のいずれにも有意な差はみられなかった。 治療関連有害事象は、1週目にモルヒネ8mg群の64%、同16mg群の78%、プラセボ群の48%で発現し、多くが一般的なモルヒネ関連有害事象(便秘、疲労、めまい、吐き気、嘔吐など)であった。有害事象による投与中止は、それぞれ2例、5例、0例で認められた。入院や死亡を含む重篤な治療関連有害事象は、全用量のモルヒネ群が139例中46例(33%、85件)、プラセボ群は17例中2例(12%、2件)でみられた。 著者は、「今後は、モルヒネは特定のCOPD患者に息切れの軽減をもたらすか、より高用量のモルヒネによって利益を得る患者は存在するかを検討する研究や、重度の息切れにおける短時間作用型オピオイドの役割を明らかにするための研究が必要である」としている。

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1日1回投与の新規骨形成促進薬「オスタバロ皮下注カートリッジ1.5mg」【下平博士のDIノート】第110回

1日1回投与の新規骨形成促進薬「オスタバロ皮下注カートリッジ1.5mg」今回は、骨粗鬆症治療薬「アバロパラチド酢酸塩注射剤(商品名:オスタバロ皮下注カートリッジ1.5mg、帝人ファーマ)」を紹介します。本剤は、骨吸収作用に対して骨形成作用がより優位な新規の骨形成促進薬であり、1日1回の皮下投与により、骨量の増加と骨折の抑制が期待されています。<効能・効果>本剤は、骨折の危険性の高い骨粗鬆症の適応で、2022年8月31日に製造販売承認を取得しました。なお、オスタバロ皮下注3mgが2021年3月に同様の適応で製造販売承認されていますが、3mg製剤は28日投与の製剤であり、新薬の14日処方制限への対応が必要であったため現時点での薬価収載は見送られています。<用法・用量>通常、成人には1日1回アバロパラチドとして80μgを皮下に注射します。本剤の投与期間は18ヵ月間までです。なお、本剤は使用開始前も開始後も冷蔵庫で保管します。<安全性>国内および海外の第III相試験を統合した結果、臨床検査値異常を含む副作用は962例中357例(37.1%)で報告されました。主な副作用は、高カルシウム尿症81例(8.4%)、浮動性めまい55例(5.7%)、悪心52例(5.4%)、頭痛34例(3.5%)、動悸33例(3.4%)などでした。重大な副作用として、アナフィラキシー(頻度不明)が設定されています。<患者さんへの指導例>1.本剤は、骨形成を促進して骨量を増やすことで、骨折を予防します。2.投与後30分程度はできる限り安静にして、高所での作業、自動車の運転など危険が伴う作業に従事する場合は注意してください。3.投与後に血圧低下、めまい、立ちくらみ、動悸、気分不良、悪心、顔面蒼白、冷汗などが生じた場合には、症状が治まるまで座ったり横になったりしてください。4.悪心、嘔吐、便秘、食欲減退、腹痛などが生じた場合は受診してください。5.(妊娠可能な女性に対して)本剤の投与期間中は避妊してください。<Shimo's eyes>骨粗鬆症に伴う骨折は、日常生活動作やQOLの低下、生命予後の悪化につながるため、初回骨折の予防に加え、すでに骨折が生じた場合は次の骨折を予防して、骨折の連鎖を起こさないための治療が重要です。本剤はヒト副甲状腺ホルモン関連蛋白質(hPTHrP)のアミノ酸配列の一部を改変したアナログ製剤で、骨代謝に関わるPTH1型受容体のRG型を選択的に刺激するため、骨量の増加と骨折抑制が期待できます。既存の副甲状腺ホルモン製剤(PTH製剤)としては、テリパラチド(遺伝子組換え)(商品名:フォルテオ皮下注キット)、テリパラチド酢酸塩(同:テリボン皮下注用、テリボン皮下注オートインジェクター)などが発売されています。また、抗体薬としては、抗ランクル抗体のデノスマブ(遺伝子組換え)(同:プラリア皮下注)、抗スクレロスチン抗体のロモソズマブ(遺伝子組換え)(同:イベニティ皮下注)が発売されており、超高齢社会に対応すべく効果の高い骨粗鬆症治療が近年続々と登場しています。本剤は、海外における骨折の危険性の高い閉経後骨粗鬆患者を対象とした海外第III相試験(BA058-05-003試験、ACTIVE試験)において、プラセボに比べて投与18ヵ月の新規椎体骨折の発生率が低く、最初の非椎体骨折の発生までの期間が有意に延長されました。また、本剤投与終了後のアレンドロネートによる継続治療により、プラセボ投与終了後のアレンドロネート治療群と比較して、ACTIVE試験の開始から投与後25ヵ月および43ヵ月までの新規椎体骨折発生率が有意に低く、最初の非椎体骨発生までの期間に有意な延長が認められました(BA058-05-005試験、ACTIVE延長試験)。本剤の電動式注入器(オスタバロインジェクター)は、製剤カートリッジを14日ごとに交換するよう設計されていて、液晶画面には操作手順、投与履歴、累計投与回数が表示されるとともに、カートリッジの交換や冷所保管忘れの通知機能なども備えられています。診察では、インジェクターに記録された投与履歴や累積回数を確認することができます。なお、本剤の使用にあたっては、インジェクターのほかに製剤カートリッジ、A型専用注射針、消毒用アルコール綿が別途必要となるので、処方の確認が必要です。安全面では、活性型ビタミンD製剤との併用は、血清カルシウム値が上昇する恐れがあるため避けることが望ましいとされています。本剤投与直後から数時間後にかけて、一過性の急激な血圧低下が現れることがあるので注意が必要です。また、一過性の血清カルシウム値上昇がみられることもあり、悪心、嘔吐、便秘、食欲減退、腹痛などが生じた場合は速やかに診察を受けるように患者さんに指導しましょう。

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オピオイドの嘔気、制吐薬は必須?【非専門医のための緩和ケアTips】第38回

第38回 オピオイドの嘔気、制吐薬は必須?オピオイドの副作用といえば「便秘」と「嘔気」ですね。内服を開始した当初は眠気が強い方もいます。今回は副作用のうち、嘔気について考えていきましょう。今日の質問高齢の肺がん患者さんが通院していて、骨転移の痛みに対して医療用麻薬を使用しています。医療用麻薬は1ヵ月前から内服を始め、痛みは和らいでいるようです。制吐薬を飲み続けているのですが、いつまで続ければいいのでしょうか?「オピオイドを内服開始する時には、必ず制吐薬を処方しましょう!」これは私が緩和ケアの仕事を始めた10年以上前によく言われていたことです。医療用麻薬という名前だけで不安を感じる方がいるのに、飲んでみたら痛みは和らいだけど吐き気がする…。こんなことがあると、「もうこんな怖い薬は飲みたくないです」と言われてしまいます。また吐き気ってつらいのですよね。そういった意味でも、制吐薬は重要な併用薬として見なされていました。しかし近年、この「オピオイド開始の際に予防的に制吐薬を内服する」というプラクティスは見直されつつあります。その背景には、高齢患者が増え、制吐薬による副作用への懸念が高まったことがあります。制吐薬の多くが抗ドパミン作用を持ち、代表的な副作用は錐体外路症状です。錐体外路症状としてはアカシジア(静座不能症)などが有名です。一方、オピオイド服用に伴う嘔気は、便秘と異なり、すべての患者さんに生じるわけではありません。またオピオイドの投与開始後1~2週間で軽減することも知られています。このような嘔気に対し、錐体外路症状の懸念のある制吐薬を全員に投与するのか? という議論が生じてきたのです。今回の質問のように、医師が気付いて「もうこの制吐薬はやめてもいいのでは?」と考えられればよいのですが、気付くと何ヵ月も不要と思われる制吐薬を内服し続けていたといったケースも見聞きします。今回の質問のケースでも、嘔気がないのであれば制吐薬は中止して問題ありません。医療用麻薬を処方する際、すべての患者さんにルーチンで制吐薬を処方するのではなく、「個別に必要性を判断すること」「長期投与にならないように注意すること」が重要になっているのです。では、どんな患者さんには制吐薬を処方すべきなのでしょうか。私のやり方としては、医療用麻薬に対する心配が強いこうした方には「吐き気が出てもクスリが手元にあると安心ですよね」と言葉を添えて処方するケースが多いです。嘔気が生じやすい病態腸閉塞を繰り返している患者さんなどは、「最初の1週間だけ内服しましょう」といって制吐薬を処方することがあります。一方、入院患者さんの場合は、嘔気が出ても迅速に対応できるので、制吐薬の処方は控えるケースが多くなります。「個別性に配慮した緩和ケア」としては、各医師の腕の見せどころかもしれません。皆さんはどうされているでしょうか?今回のTips今回のTipsオピオイドと併用する制吐薬の処方は、適応を考えて個別に判断しましょう。

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10月7日 おなかを大切にする日【今日は何の日?】

【10月7日 おなかを大切にする日】〔由来〕気温が下がることでお腹が冷えて腸のぜん動運動が鈍くなったり、寒暖差による自律神経の乱れから便秘など腸の不調が出やすいこの時期に、腸活への関心を高めてもらいお腹の調子を良くして健康な毎日を送ってもらおうと、ビオフェルミン製薬株式会社が「重10要なおな07か」の語呂合わせから制定。関連コンテンツその腹痛、重症?【救急診療の基礎知識】腹痛患者、波があれば“管”を疑おう!【Dr.山中の攻める!問診3step】下痢症状から急性胃腸炎を診断、ゴミ箱診断を防ぐには?【Dr.山中の攻める!問診3step】お腹が痛いときの症状チェック【患者説明用スライド】新薬・エビデンス続々、心理的ケアの認知高まる―『機能性消化管疾患診療ガイドライン2020』

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ペムブロリズマブ、高リスク早期TN乳がんへの術前・術後療法に適応拡大/MSD

 MSD株式会社は2022年9月26日、抗PD-1抗体ペムブロリズマブ(商品名:キイトルーダ)について、「ホルモン受容体陰性かつHER2陰性で再発高リスクの乳癌における術前・術後薬物療法」の効能または効果で、国内製造販売承認事項一部変更の承認を取得したことを発表した。 今回の承認は、ホルモン受容体陰性かつHER2陰性で再発高リスクの周術期の乳がん患者1,174例(日本人76例を含む)を対象とし、術前薬物療法としてのペムブロリズマブと化学療法との併用療法、および術後薬物療法としてのペムブロリズマブ単独療法の有効性と安全性を、術前薬物療法としてのプラセボと化学療法との併用療法、および術後薬物療法としてのプラセボ投与を対照として評価した国際共同第III相試験(KEYNOTE-522試験)の結果に基づいている。 本試験において、術前のペムブロリズマブと化学療法との併用療法および術後のペムブロリズマブ単独投与は、術前のプラセボと化学療法との併用療法および術後のプラセボ投与と比較して主要評価項目の1つである無イベント生存期間(EFS)を有意に延長した(ハザード比[HR]:0.63、95%信頼区間[CI]:0.48~0.82、p=0.00031)。安全性については、安全性解析対象例783例中774例(98.9%)(日本人45例中45例を含む)に副作用が認められた。主な副作用(20%以上)は、悪心495例(63.2%)、脱毛症471例(60.2%)、貧血429例(54.8%)、好中球減少症367例(46.9%)、疲労330例(42.1%)、下痢238例(30.4%)、ALT増加204例(26.1%)、嘔吐200例(25.5%)、無力症198例(25.3%)、発疹196例(25.0%)、便秘188例(24.0%)、好中球数減少185例(23.6%)、AST増加157例(20.1%)だった。 <製品概要>・販売名:キイトルーダ点滴静注100mg・一般名:ペムブロリズマブ(遺伝子組換え)・効能・効果:ホルモン受容体陰性かつHER2陰性で再発高リスクの乳癌における術前・術後薬物療法・用法・用量:通常、成人にはペムブロリズマブ(遺伝子組換え)として1回200mgを3週間間隔または1回400mgを6週間間隔で30分間かけて点滴静注する。投与回数は、3週間間隔投与の場合、術前薬物療法は8回まで、術後薬物療法は9回まで、6週間間隔投与の場合、術前薬物療法は4回まで、術後薬物療法は5回までとする。・承認取得日:2022年9月26日

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第127回 アマゾン処方薬ネット販売と零売薬局、デジタルとアナログ、その落差と共通点(後編)

コロナ終息とエリザベス女王国葬こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。WHOのテドロス事務局長は9月14日の記者会見で、新型コロナウイルスの世界全体の死者数が、先週、2020年3月以来の低い水準になったと指摘、「世界的な感染拡大を終わらせるのにこれほど有利な状況になったことはない。まだ到達していないが、終わりが視野に入ってきた」と述べたそうです。同日、厚生労働省の新型コロナウイルス対策を助言する専門家組織「アドバイザリーボード」も、全国的に新規感染者数の減少が続いている、との分析を公表しました。世界的に流行が終息に向かっていることは、米国MLBの中継や、英国エリザベス女王の国葬の様子を見ても実感することができます。国葬もそうでしたし、女王の国葬に先立つウエストミンスター宮殿での公開安置の行列でも、マスクをしている人はほとんどいませんでした(デビット・ベッカム氏も!)。その点、日本人は真面目というか、融通が効かないというか、街中の屋外では、皆、まだマスクをしています。こうした、お上の言うことに真面目に従い、世間体(周囲)を気にする他人任せな点が、日本でセルフメディケーションがなかなか進まない一因なのかもしれません。アマゾンの処方薬ネット販売の背景さて前回は、米アマゾン・ドット・コム(以下、アマゾン)が日本で処方薬のネット販売に乗り出すことになった、というニュースについて書きました(「第126回 アマゾン処方薬ネット販売と零売薬局、デジタルとアナログ、その落差と共通点(前編)」参照)。アマゾンの処方薬ネット販売進出の背景にあるのは、オンライン診療、オンライン服薬指導の普及・定着と、来年から始まる予定の電子処方箋の運用です。電子処方箋が運用されれば、処方箋のやりとりだけでなく、処方薬の流通についても徹底した効率化が求められるようになります。近い将来やってくるであろう調剤・配送集中化の時代を見据え、アマゾンとしてはまずは同社の服薬指導のシステムを普及させることで、地域の薬局をネットワーク化しておきたいというのが、その大きな狙いとみられます。こうした動きに対し、日本保険薬局協会の首藤 正一会長(アインホールディングス代表取締役専務)は記者会見で、「リアル店舗やかかりつけ薬剤師の存在感を高めることで、アマゾンに対抗する」といった趣旨のコメントをしたそうです。その記事を読んで、私は首をかしげてしまいました。世の中で「かかりつけ薬剤師」は「かかりつけ医師」よりももっと曖昧な存在です。そんなものに力を入れることで、果たして巨大アマゾンに対抗できるのでしょうか。そんなことを考えていたら、アマゾン報道の1週間ほど前に利用した都内の零売(れいばい)薬局のことを思い出しました。大都市圏で増える零売薬局零売薬局はコロナ禍で医療機関の受診控えが起こったことなどを背景に、東京都内をはじめ、大都市圏で急増しています。「処方箋なしで病院の薬が買える」などのキャッチフレーズで、新宿、渋谷、池袋など、特に若者が多く集まる街で増えている印象です。その動きは地方にも及んでいます。東海テレビ(愛知県)は7月29日の放送で、名古屋で初めての零売薬局、「セルフケア薬局」が繁華街である地下鉄名城線栄駅・南改札すぐのところにオープンした、と報じています。「セルフケア薬局」は、東京に本拠を構える零売薬局チェーンで、東京、神奈川のほか、大阪、京都などでも店舗を展開しています。厚労省が零売を公式に認めたのは2005年そもそも零売とは、医療用医薬品を、処方箋なしに容器から取り出して顧客の必要量だけ販売することをいいます。「零」は「ゼロ」を意味する漢字ですが、「少ない」「わずか」と言う意味もあります。つまり零売とは「少数や少量に小分けして売ること」という意味なのです。厚生労働省が処方箋医薬品以外の医療用医薬品の販売、すなわち零売を公式に認めたのは、2005年とそんなに昔のことではありません。それ以前は法令上での明確な規定がなく、一部薬局では医療用医薬品の販売が行われていました。厚労省が零売を容認するきっかけとなったのが2005年4月の薬事法改正です。医薬品分類を現在の分類に刷新するとともに「処方箋医薬品以外」の医療用医薬品の薬局での販売を条件付きで認める通知を発出しました。同年3月30日の厚生労働省から発出された「処方せん医薬品等の取扱いについて」(薬食発第0330016号厚生労働省医薬食品局長通知)は、「処方せん医薬品以外の医療用医薬品」は、「処方せんに基づく薬剤の交付を原則」とするものであるが、「一般用医薬品」の販売による対応を考慮したにもかかわらず、「やむを得ず販売せざるを得ない場合などにおいては、必要な受診勧奨を行った上で」、薬剤師が患者に対面販売できるとしました。なお、零売に当たっては、1)必要最小限の数量に限定、2)調剤室での保管と分割、3)販売記録の作成、4)薬歴管理の実施、5)薬剤師による対面販売――の順守も求められることになりました(本通知の内容は現在、2014年3月18日付薬食発0318第4号厚生労働省医薬食品局長通知「薬局医薬品の取扱いについて」に引き継がれています)。医療用医薬品約1万5,000 種類のうち半数は処方箋なしでの零売可能2005年4月施行の改正薬事法は、処方箋医薬品の零売を防ごうとしたのも目的の一つでした。それまでの「要指示医薬品」と、全ての注射剤、麻薬、向精神薬など、医療用医薬の約半分以上が新たに「処方箋医薬品」に分類されたわけですが、逆に使用経験が豊富だったり副作用リスクが少なかったりなど、比較的安全性が高い残りの医薬品が「処方箋医薬品以外の医薬品」に分類され、零売可能となったわけです。現在、日本で使われる医療用医薬品は約1万5,000種類あり、このうち半分の約7,500 種類は処方箋なしでの零売が認められています。鎮痛剤、抗アレルギー薬、胃腸薬、便秘薬、ステロイド塗布剤、水虫薬など、コモンディジーズの薬剤が中心で、抗生剤や注射剤はありません。また、比較的新しい、薬効が強めの薬剤も含まれません(H2ブロッカーはあるがPPIはない等)。ついでだからとリンデロンVG軟膏5mgも買ってしまうさて、9月初旬に私が利用したのは、都内のとある零売薬局です。いつも通っている整形外科の診療所でいつもの鎮痛剤と湿布薬を処方してもらうつもりだったのですが、外来で2時間近く待つ時間的余裕がなく、仕方なしに山手線の某駅近くにある零売薬局を利用することにしたのです。店内に入ると女性の薬剤師がカウンターに座るよう促しました。こちらの症状や、欲しい薬剤をヒアリングし、パソコンの画面を見せながら推奨する薬剤を勧めるという流れです。私は整形外科で処方してくれている鎮痛剤のエトドラク錠200mgと、ジクロフェナクテープ30mgを希望しました。しかし、「いずれも処方箋医薬品以外の医薬品ですが、当店では扱っていません」とのことで、同種のロキソプロフェンNa錠60mgとロコアテープを勧められ、それらを購入することにしました。また、雑談(!)の中で、二日酔いの薬やビタミン剤、虫刺されの薬などの話も出たので、ついでだからとリンデロンVG軟膏5mgも買ってしまいました。リンデロンVGは、山登りや沢登りでの虫刺されにてきめんに効く薬ですが、ステロイドの含有量が多いこともあって普通の薬局・薬店では買えません。「前は調剤薬局にいたが、今の仕事のほうが面白い」と、なんだかんだで薬剤師と20分近く会話をして、約4,000円の買い物をしてしまいました。薬局を出てから、今までかかってきた整形外科でも、その門前にある調剤薬局でも、鎮痛剤や湿布薬についてここまで詳しく説明を聞いたことがなかったことに気付きました。エトドラク錠と、ジクロフェナクテープがなかったのは、単にこの薬局が仕入れる薬剤リストに入っていないためか、あるいは薬効や副作用などから自主的に販売していなためかはわかりませんが、少なくとも代替薬を勧める薬剤師の説明は理には適っていました。症状を自分で聞いて、薬を選択するアドバイスをし、客の人となりを見て他の薬剤も勧めるには、それなりの知識とコミュニケーション力が要るでしょう。私を担当した薬剤師は最後に、「前は調剤薬局で働いていたが、今の仕事のほうが面白い」と話していました。零売薬局の不適切事例に厚労相が注意喚起の通知というのが私の零売薬局体験なのですが、調べてみるとコロナ禍で急増した零売薬局の中には、不適切事例も相次いでいるようです。厚労省は2022年8月5日、処方箋医薬品以外の医療用医薬品の薬局での販売の不適切な販売事例について、都道府県などに再周知を促す通知「処方箋医薬品以外の医療用医薬品の販売方法等の再周知について」(薬生発0805第23号厚生労働省医薬・生活衛生局長通知)を発出、不適切な事例について指導を徹底するよう求めています1)。前述したように2005年の通知、それを引き継いだ2014年の通知で、零売は「一般用医薬品の販売等による対応を考慮したにもかかわらず、やむを得ず販売等を行わざるを得ない場合」に例外的な販売が認められていますが、そうした“考慮”をすることなく販売されている事例を、「不適切」として注意喚起したわけです。私自身のケースも考えてみればそうでした。今回の通知ではまた、「同様の効能・効果を有する一般用医薬品等がある場合は、まずはそれらを販売すること」、「在庫がない場合は他店舗の紹介などによる対応を優先すること」され、さらに販売に当たっての遵守事項として「反復継続的に医薬品を漫然と販売等することは、医薬品を不必要に使用する恐れがあり不適切」とも改めて明示されました。さらに、広告やホームページなどで次のような表現を用いて処方箋医薬品以外の医療用医薬品の購入を消費者等に促すことは不適切ともされました。「処方箋がなくても買える」「病院や診療所に行かなくても買える」 「忙しくて時間がないため病院に行けない人へ」 「時間の節約になる」 「医療用医薬品をいつでも購入できる」 「病院にかかるより値段が安くて済む」…。コモンディジーズならば医療機関の受診をはしょれるこの通知は増える零売薬局への強烈な牽制と考えられます。実は厚労省は同様の指摘を2021年に一般社団法人日本零売薬局協会に対して行っており、同協会は12月、「厚生労働省からのご指摘について」という文書を会員に対して配布、広告表現等について注意するよう促しています2)。私自身は、ここまで零売に足かせをはめる必要はないと思います。医療保険が使えず、現状極めてアナログなシステムと言えますが、少なくともコモンディジーズならば医療機関の受診をはしょれます。患者は勝手知ったる薬を手早く入手できますし、国の医療費削減にも寄与します。一方、薬剤師も医師の処方にただ従って調剤するのではなく、自らの判断で薬剤を選ばなければならないので、説明も責任をもって行うようになるかもしれません。プリントされた薬剤情報提供書を機械的に渡すだけの調剤薬局の薬剤師とは異なる職能も求められ、仕事としての面白味も増しそうです。日本の薬局や処方箋調剤が抱える“欠点”DXの最先端であるアマゾンとアナログの極みとも言える零売薬局。日本の薬局や処方箋調剤が抱える“欠点”に対するアンチテーゼという意味でも共通点があります。その“欠点”とは服薬指導です。処方薬の場合、現状、すべてのケースで服薬指導を行わないと、処方薬を患者に渡すことはできません。もし、患者の希望によって、あるいは一部の薬剤においてそのプロセスをはしょることができれば、電子処方箋の運用はもっとスムーズなものになるはずです。患者はオンライン診療を受けるだけで(オンライン服薬指導を受けなくても)、薬剤が手元に届くことになるからです。一方、リアルでアナログな薬局である零売薬局ですが、そこで行われている服薬指導のほうが薬剤師は熱心だし、責任をもってやっている、というのも皮肉な話です。OTC販売では構築できなかった新しい「患者-薬剤師関係」が生まれる可能性もあります。何より、零売は医療機関を受診しない(保険診療ではない)ことで、医療費の削減につながります。国が言う、セルフメディケーション推進の流れにも合っているわけで、風邪や下痢などのコモンディジーズや患者自身も十分に理解している疾患に限っては、零売は「規制」よりも「推進」があるべき形だと考えられます。10月にも岸田 文雄首相を本部長とする「医療DX推進本部」がいよいよ発足します。現状の仕組みをすべてシステムの中に落とし込もうとするのではなく、服薬指導や医療機関受診といった現在のプロセスの中のはしょれる部分を大胆にはしょった上で、新たにシステムを組み直すほうが真のDXになると思いますが、皆さんいかがでしょう。ドラゴンクエストの世界のような、エリザベス女王の国葬をテレビ中継で観ながら、そんなことを考えていた雨の週末でした。参考1)処方箋医薬品以外の医療用医薬品の販売方法等の再周知について/厚生労働省2)厚生労働省からのご指摘について/一般社団法人日本零売薬局協会

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