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第28回 原因は1つとは限らない【救急診療の基礎知識】

●今回のPoint1)検査で異常値をみつけたからといって今回の原因とは限らない。2)検査で異常が認められないからといって異常なしとは限らない。3)症状を説明し得るか、結論付ける前に再考を!【症例】81歳男性。意識障害自宅で反応が乏しいところを仕事から帰宅した息子が発見し救急要請。●受診時のバイタルサイン意識20/JCS血圧148/81mmHg脈拍92回/分(整)呼吸18回/分SpO295%(RA)体温36.1℃瞳孔4/3.5 +/+既往歴認知症、高血圧、脂質異常症、便秘、不眠内服薬ドネペジル塩酸塩、トリクロルメチアジド、アトルバスタチンカルシウム水和物、酸化マグネシウム、ゾルピデム酒石酸塩所見顔面の麻痺ははっきりしないが、左上肢の運動障害あり検査の異常が今回の原因とは限らない採血、心電図、X線、CTなどの検査を行い異常がみつかることは、よくあります。特に高齢者の場合にはその頻度は高く、むしろまったく検査に異常が認められないことの方が多いでしょう。しかし、異常を認めるからといって今回の主訴の要因かというとそんなことはありません。腎機能障害、肝機能障害、貧血、電解質異常、中には急を要する場合もありますが、症状とは関係なく検査の異常が認められることはよくあるものです。そのため、検査結果は常に病歴や身体所見、バイタルサインを考慮した結果の解釈が重要です。以前から数値や所見が変わっていなければ、基本的には今回の症状とは関係ないことが多いですよね。慢性腎臓病患者のCr、Hb、心筋梗塞の既往のある患者の心電図など、けっして正常値でありません。急性の変化か否かが、1つのポイントとなりますので、以前の検査結果と比較することを徹底しましょう。検査で異常が認められないから原因ではないとは限らないコロナ禍となり早2年が経過しました。抗原検査、PCRなど何回施行したか覚えていないほど、皆さんも検査の機会があったと思います。抗原陰性だからコロナではない、PCR陰性だからコロナではない、そんなことないことは皆さんもよく理解していると思います。頭痛患者で頭部CTが陰性だからクモ膜下出血ではない、肺炎疑い患者でX線所見陰性だから肺炎ではない、CRPが陰性だから重篤な病気は否定的、CO中毒疑い患者の一酸化炭素ヘモグロビン(CO-Hb)が正常値だからCO中毒ではないなど、例を挙げたらきりがありません。皆さんも自身で施行した検査結果で異常の1つや2つ、経験ありますよね?!原因が1つとは限らない今回の症例の原因、皆さんは何だと思いますか? もちろんこれだけでは原因の特定は難しいかもしれませんが、高齢男性の急性経過の意識障害で麻痺もあるとなると脳梗塞や脳出血などの脳卒中が考えやすいと思います。低血糖や大動脈解離、痙攣なども“stroke mimics”の代表であるため考えますが、例えばMRI検査を実施し、画像所見が光っていたらどうでしょうか? MRIで高信号な部分があるのであれば、「原因は脳梗塞で決まり」。それでよいのでしょうか?脳梗塞の病巣から症状が完全に説明できる場合にはOKですが、「この病巣で意識障害来すかな…」「こんな症状でるのかなぁ…」こんなことってありますよね。このような場合には必ず「こんなこともあるのだろう」と思考停止するのではなく、他に症状を説明し得る原因があるのではないかと再考する必要があります。この患者さんの場合には、脳梗塞に加え低栄養状態に伴うビタミン欠乏、ゾルピデム酒石酸塩による薬剤性などの影響も考えられました。ビタミンB1欠乏に伴うウェルニッケ脳症は他疾患に合併することはけっして珍しくありません1)。また、高齢者の場合には「くすりもりすく」と考え、常に薬剤の影響を考える必要があります。きちんと薬は飲んでいるのに…患者さんが訴える症状が、内服している薬剤によるものであると疑うのは、どんなときでしょうか?新規の薬剤が導入され、その後からの症状であれば疑うことは簡単です。また、用法、用量を誤って内服してしまった場合なども、その情報が得られれば薬剤性を疑うのは容易ですよね。意外と見落とされがちなのが、腎機能や肝機能の悪化に伴う薬効の増強や電解質異常などです。フレイルの高齢者は大抵の場合、食事摂取量が減少しています。数日の単位では大きな変化はなくても、数ヵ月の単位でみると体重も減少し、食事だけでなく水分の摂取も減少していることがほとんどです。そのような場合に、「ご飯は食べてますか?」と聞くだけでは不十分で、具体的に「何をどれだけ食べているのか」「数ヵ月、半年前と比較してどの程度食事摂取量や体重が変化したか」を確認するとよいでしょう。「ご飯は食べてます」という本人や家族の返答をそのまま鵜呑みにするのではなく、具体的に確認することをお勧めします。骨粗鬆症に対するビタミンD製剤による高Ca血症、利尿薬内服に伴う脚気心、眠剤など、ありとあらゆる薬の血中濃度が増加することに伴う、さまざまな症状が引き起こされかねません。薬の変更、追加がなくても「くすりもりすく」を常に意識しておきましょう。最後に高齢者は複数の基礎疾患を併せ持ち、多数の薬剤を内服しています。そのような患者が急性疾患に罹患すると検査の異常は複数存在するでしょう。時には検査が優先される場面もあるとは思いますが、常にその変化がいつからのものなのか、症状を説明しうるものなのか、いちいち考え検査結果を解釈するようにしましょう。1)Leon G. Clinicians Who Miss Wernicke Encephalopathy Are Frequently Called Defendants. Toxicology Rounds. Emergency Medicine News. 2019;41:p.14.

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オピオイドによる便秘に新たな薬が登場【非専門医のための緩和ケアTips】第24回

第24回 オピオイドによる便秘に新たな薬が登場オピオイドを服用している患者さんで頻発し、かつ対策が必要な副作用の代表例が便秘です。そんなオピオイドが原因の便秘に対し、新たな薬が登場しています。今日の質問がん疼痛がありオピオイドを処方している患者さんの中で、便秘に悩んでいる方がいます。マグネシウム製剤や大腸刺激性下剤などを処方してみるのですが、頑固な便秘に良い対策はありますか?オピオイドを使用している際の便秘は、オピオイド誘発性便秘症(OIC:opioid-induced constipation)と呼ばれます。オピオイドは、脊髄のμオピオイド受容体に作用することで痛みの伝達をブロックし、鎮痛効果を発揮します。このμオピオイド受容体は中枢神経だけでなく、末梢にも分布しています。消化管に分布する末梢μオピオイド受容体にオピオイドが作用することで、腸管蠕動が抑制され、便秘になってしまうのです。OICはオピオイドを服用している限り、改善することはありません。基本的には「オピオイド服用中はOICが生じる」と考えて対処する必要があります。従来、薬物療法としては、一般的な便秘薬であるマグネシウム製剤や大腸刺激性下剤が用いられてきました。それで症状が緩和されればよいのですが、それでも持続する頑固な便秘もあります。そんな悩みに対して2017年に登場した薬が、今回ご紹介するナルデメジン(商品名:スインプロイク)です。ナルデメジンは先ほど出てきた末梢のμオピオイド受容体と結合することで、オピオイドと拮抗し薬理効果を発揮します。緩下剤などの対症療法と比較して、OICの原因に直接的なアプローチをする薬剤であることがわかるかと思います。ここでふと、「あれ、μオピオイド受容体に結合することでオピオイドに拮抗するなら、鎮痛作用も発揮できなくなるのでは?」と感じた方がいるかもしれません。そこは心配無用で、ナルデメジンは中枢神経のμオピオイド受容体には作用しないため、鎮痛効果は保たれます。ナルデメジンは1日1回0.2mgを内服します。内服回数が少ないことも良い点ですね。腎機能が落ちていても服用できるので、マグネシウム製剤などが使用できない方には良い選択肢です。他の便秘薬同様、処方の際は消化管閉塞がないことの確認が必要です。OICに対する比較的新しい薬剤であるナルデメジンを紹介しました。もちろん、便秘解消には薬だけでなく、食事内容や水分摂取といった生活指導も併せて大切です。今回のTips今回のTipsナルデメジンはオピオイドの副作用による便秘に対する新しい薬。排泄ケアと併せて処方を検討しよう。

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アセナピンとオランザピン、日本人統合失調症患者での治療継続率

 アセナピンは、多元受容体作用抗精神病薬(MARTA)に分類される第2世代抗精神病薬であり、その薬理学的特徴はオランザピンと類似している。藤田医科大学の松崎 遥菜氏らは、実臨床データを用いて、統合失調症に対するアセナピンとオランザピンの治療継続率や中止理由についての比較を行った。Neuropsychiatric Disease and Treatment誌2021年12月14日号の報告。アセナピン群の6ヵ月間の治療継続率は27.3%、オランザピン群で50.8% 本研究は、レトロスペクティブ研究として実施した。主要エンドポイントは、6ヵ月間に治療継続率のカプランマイヤー推定とし、潜在的な交絡因子で調整するため傾向スコア法を用いて評価した。 統合失調症に対するアセナピンとオランザピンの治療継続率や中止理由について比較した主な結果は以下のとおり。・統合失調症患者95例(アセナピン群:46例、オランザピン群:49例)を対象とし、分析を行った。・一致したデータを6つの共変量(年齢、性別、クロルプロマジン換算量、ジアゼパム換算量、クロザピンの使用歴、修正型電気けいれん療法の使用歴)を考慮し調整した。・一致したデータにおける6ヵ月間の治療継続率は、アセナピン群で27.3%(95%信頼区間[CI]:15.6~47.6)、オランザピン群で50.8%(95%CI:34.3~75.3)であった(ハザード比[HR]:0.41、95%CI:0.21~0.82、p=0.0088[Log rank検定])。・効果不十分による中止率は、アセナピン群で13.0%、オランザピン群で10.2%とほぼ同様であった。・アセナピン群のみで観察された副作用は、苦みによる中止(6.5%)、投薬方法の負担(6.5%)であり、オランザピン群のみで観察された副作用は、口渇(4.1%)や便秘(2.0%)などの抗コリン作用系副作用であった。 著者らは「実臨床におけるアセナピンの治療継続率の低さは、苦みや投薬方法などの特定の因子に関連している可能性が考えられる」としている。

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年末年始の当直・輪番当番は増えた、減った?/ケアネット

 2022年も新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が流行する中で迎えた。とくに初冬より流行し始めたオミクロン株は感染力の強さもあり、わが国全体が不安と戸惑いの中で新しい年を迎えた。そうした環境の中で、果たして年末・年始の当直・輪番当番に大きな動きはあったのであろうか。CareNet.comは1月13日(木)にWEBアンケートで医師会員400名に年末・年始の当直・輪番当番について調査を行った。■アンケート概要実施期日:2022年1月13日(木)調査方法:インターネット対象者:医師会員400名(年齢別に20・30代/40代/50代/60代以上に区分)「年代が若い」「病床規模が大きい」の項目で当直・輪番当番が「あり」の回答が増加 質問1として「年末年始に当直当番また輪番当番があったか」(単回答)をたずねたところ、医師会員全体(n=400)で「あった」が206名(51.5%)、「ない」が194名(48.5%)とほぼ同程度だった。20・30代の医師会員(n=100)では「あった」が63名、「ない」が37名と「あった」と回答した医師が多かったが、60代以上の医師会員(n=100)では「あった」が43名、「ない」が57名と「ない」が回答を逆転した。 また、病床別では「あった」について200床以上(n=236)で146名(61.9%)、20~199床(n=81)で38名(46.9%)、0~19床(n=83)で22名(26.5%)と規模により大きく分かれた。 質問2として「年末年始の当直当番または輪番当番の頻度はどれくらいか」(単回答)をたずねたところ、医師会員全体(n=400)では「3~4日に1回程度」が83名(20.75%)と回答した医師会員が一番多かった(「なかった」を除く)。また、「4~7日に1回程度」が79名(19.75%)も2番目に多く、短期のローテーションで当番に入っていた。病床別でもほぼ同様の回答傾向だった。 質問3として「1年前の年末年始と比較して来院患者数に増減はあったか」(単回答)をたずねたところ、医師会員全体(n=400)では「同程度」が187名(46.75%)、「減った」が49名(12.25%)の順で多く、「増えた」のは37名(9.25%)だった。医師会員の回答では、例年通りの年末年始の来院者数だったことがうかがえる(不明または診療していないを除く)。病床別でもほぼ同様の回答傾向だった。 質問4として「年末年始の当直当番や輪番当番について改善すべき点」(複数回答)をたずねたところ「当番可能な医師・医療スタッフの増員」が180名、「COVID-19疑い患者用の特別外来の設置と誘導」が135名、「患者さんへの疾患啓発」が112名の回答順で多かった。 最後に自由記載として「年末年始の診療でとくに印象に残った症例や患者さんのエピソード」についてたずねたところ、「モチによる気道の閉塞」「患者の問題受診行動(例:コンビニ受診、救急車をタクシー代わりなど)」「高齢者の便秘」「切迫した急な手術」などが寄せられた。

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急性ポルフィリン症〔acute porphyria〕

1 疾患概要■ 概念・定義ポルフィリン症とはヘム合成経路に関与する8つの酵素いずれかの先天異常が病因でヘム合成経路(すなわち、律速酵素である第1番目のデルタアミノレブリン酸(ALA)合成酵素(ALAS))が亢進し生じる疾患の総称。ポルフィリン代謝異常に基づく症候を呈し、ポルフィリンやその前駆物質が大量に生産され、体内に蓄積し、尿や糞便に多量に排泄される。ポルフィリン症は、病因論的には本経路の異常が生じる主たる臓器の違いにより肝型と骨髄型の2型に大別される(図1)。臨床的には急性腹症、神経症状、精神症状などの急性発作を起こす急性ポルフィリン症(ALA脱水酵素欠損ポルフィリン症〔ADP〕、急性間欠性ポルフィリン症〔AIP〕、遺伝性コプロポルフィリン症〔HCP〕、多様性ポルフィリン症〔VP〕)および、光線過敏症を呈する皮膚ポルフィリン症(先天性骨髄性ポルフィリン症〔CEP〕、晩発性皮膚ポルフィリン症〔PCT〕、肝性骨髄性ポルフィリン症〔HEP〕、骨髄性プロトポルフィリン症〔EPP〕および、間欠期のHCPとVP)とに分けられる。AIP以外の急性ポルフィリン症は皮膚症状も呈し、皮膚ポルフィリン症でもある。また、EPPの症例で病因遺伝子がフェロキラターゼでは無く、ALAS2遺伝子の機能獲得型変異やALAS2の安定性を制御する蛋白ClpXの遺伝子異常が病因となった症例も近年報告されており、病因遺伝子異常は2種類増えた。図1 ヘム合成経路と異常症画像を拡大する■ 疫学報告は、本症の知見が高まった1966~1985年の間になされたものが大半であり、ここ10年間の報告はむしろ減少している。次第にありふれた疾患として認識されるようになり、報告が減ったと考えられ、実際はこれよりはるかに多い症例があるものと思われる。急性ポルフィリン症の半数以上がAIPで、ついでHCP、VPと続く。ADPはきわめてまれである。1980~1984年の全国調査ではポルフィリン症の有病率は、人口10万人対0.38人とされているが、その10倍との報告もある。厚生労働省遺伝性ポルフィリン症研究班による2009年の調査では、1年間の受療者は35.5人と推定されているが、欧州の発症率(5.2人/100万人)と同等として計算すると648人となることにより、わが国では多くの未診断症例が埋もれている可能性が高いと思われる。■ 病因ヘムは、生体内においては、主に骨髄と肝臓で合成されている。約70~80%のヘムは、骨髄の赤血球系細胞で合成され、グロビンに供給されヘモグロビンを形成する。残りは主に肝臓で合成され、シトクロムP450などのヘム蛋白の配合族として利用されている。ヘム合成経路の律速酵素は、第1番目の酵素であるALASであり、本酵素活性の増減が細胞内ヘム蛋白量を調整している。ALAS酵素活性は、最終産物であるヘムにより、肝臓ではネガティブフィードバックを受けており、ヘムの量は一定に保たれる。ALASの酵素活性は、ヘム合成経路で最も低い(したがって律速酵素たりうる)。ポルフィリン症の病因は、それ以外のヘム合成系酵素の活性が遺伝子異常により低下し、ALAS活性より低くなることで、本経路の異常が生じることである。ウロポルフィリン(UP)、コプロポルフィリン(CP)、プロトポルフィリン(PP)などのポルフィリンの蓄積が光線過敏性皮膚炎の病因であることは確定しているが、後に述べる急性発作(神経系の機能異常が病因)を引き起こす機序は未確定である。上流の基質であるポルフォビリノーゲン(PBG)、およびALAの増加を病因とする神経毒性前駆物質説、ならびに、ヘム蛋白やヘム酵素の機能低下を病因とするヘム欠乏説があり、どちらが主であるかの決定的なデータはいまだみられない。なお、最終産物であるヘムの低下は、ネガティブフィードバック機序を介してALASの酵素活性を増加させ、異常酵素とALASの酵素活性の逆転状況をさらに助長させる。したがって、この酵素活性のバランスに影響を与える何らかの誘因(薬物など)により、異常酵素とALASの酵素活性の逆転状況がわずかに増強されただけで、悪循環の過程を経て、急性に病状の悪化(急性発作)を生じる。誘因としては、外傷、感染症、ストレス、甲状腺ホルモン、妊娠、あるいは飢餓など(狭義の誘因)、バルビタール、サルファ薬などの誘発薬剤、ヘム合成系酵素を直接障害し、ヘム合成能力をヘムの需要量以下に低下させる(発症剤)、セドルミッド、グリセオフルビンなどが挙げられる。薬剤については、下記のウェブサイトに記載されているので参照していただきたい。The American Porphyria Foundation(APF)European Porphyria Network(EPNET)■ 症状1)急性ポルフィリン発作腹部症状、精神症状、神経症状(三徴)。急性腹症を思わせる腹部症状が初期にみられ、後にヒステリーを思わせるような精神症状を呈し、最後には四肢麻痺、球麻痺などの神経症状を呈し、死に至ることもある急性発作がみられる。このときみられる腹部症状に対応する器質的な異常は認められず、機能的異常によるものと考えられている。このように、病状の進行に応じて多彩な症候を呈するので、種々の間違った診断の下に治療されるケースが多い。(1)腹部症状:腹痛、嘔気、嘔吐、便秘、下痢、腹部膨満など(2)精神症状:不眠、不安、ヒステリー、恐怖感、興奮、傾眠、昏睡など(3)神経症状:四肢脱力、知覚異常、言語障害、嚥下(飲み込み)障害、呼吸障害など2)光線過敏性皮膚炎HCPおよびVPでは、光線過敏性皮膚炎がみられることもある。3)非発作時(間欠期)無症状■ 予後いったん発症すれば、死亡率は20%を超え、予後不良と考えられていた。これは、診断がつかないまま、バルビタールなどの使用禁忌薬やほかの誘因が重なって、病状が悪化した症例が多いことも原因であり、診断がつき、適切な治療が行われた場合、大半は完全に回復する。繰り返し発症する症例では、発症に対する不安神経症を呈することもあり、発症早期から適切な治療をすることが望まれる。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)ヘム合成経路の酵素活性の低下は、その酵素による反応部位より上流の基質の増加と最終産物であるヘムの低下を引き起こす。したがって、増加した基質(ALAおよびPBG)や基質の代謝産物であるUPおよびCPなどを測定することにより、酵素異常の部位がわかる。臨床症状、検査値などを含め総合的に診断することが必要だが、検査値で考えると下に示した図2のフローチャートに従って検査を進めることになる。本症では、病因となる遺伝子異常を持っているが、いまだ発症していない人(潜在者)が少なからずみられる。その発症前診断には、上記のような代謝産物の測定および酵素活性の測定では不十分なことがあり、遺伝子診断が必要となることが多い。図2 急性ポルフィリン症診断のフローチャート画像を拡大する■ 検査成績(ポルフィリン関連)血中および尿中のPBG、ALA、ポルフィリンなどの値は、各種ポルフィリン症の病型に応じて異なるが、急性ポルフィリン症に共通する(まれな病型であるADPを除く)所見として尿中PBGの増加がある(定性的に調べる検査であるWatson-Schwartz法で陽性)。また、尿中ポルフィリンも増加し、肉眼的には特有のぶどう酒色(ポルフィリン尿)を呈する(10~30%の症例でみられる)。しかし、ADPやAIPでは、尿中ポルフィリンはあまり増加せず褐色調に留まることが多い。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)■ 急性発作の予防誘因を避けるように指導することが大切である。飢餓が誘因となるので、十分な摂食をさせる(ダイエットは禁)。また、医療機関での薬剤投与に注意が必要となる。患者には使用可能薬剤の一覧などの携帯を勧める。月経に伴い急性発作を起こす症例では、LH-RHアナログを用いて、月経を止めることも効果がある。■ 発症時の治療1)グルコースを中心とした補液詳細な機序は不明だが、ALASの酵素活性を抑制し、急性発作を改善させるといわれている。わが国で、最も一般的に行われている治療法。インスリンを併用するとさらに効果が増す。2)ヘム製剤本薬剤はヘム製剤で、細胞内ヘムの上昇を引き起こし、ALASの酵素活性を抑え(ネガティブフィードバックにて)、ヘム合成系の相対的亢進を緩和させる。ポルフィリン症の治療としては、病態に則した治療法であり、欧米では40年来使用されており第一選択療法と位置づけられている。わが国では、2013(平成25)年8月、ヘミン(商品名:ノーモサング)が発売され、使用できるようになった。3)シメチジン作用機序は不明だが、ALAおよびPBGを減少させる効果がある。4)対症療法ポルフィリン症にみられる各種症候に対しては、下記のような対症療法が行われる。ここで大切なことは、使用禁止薬剤(誘因となる薬剤)を絶対に使用しないことである。(1)疼痛、腹痛には、クロルプロマジンおよび麻薬(2)不安、神経症には、クロナゼパム、クロルプロマジン(3)高血圧、頻脈には、ベータ遮断薬(4)抗利尿ホルモン不適合分泌症候群(SIADH)には、補液による電解質の補充■ 発作が頻回に起こるときの発作予防薬ギボシラン(商品名:ギブラーリ):ALAS1を標的としたsiRNA。ALAs1の発現を抑制し、急性発作の発症を予防することを目的とした薬剤。2019年に米国で承認され、わが国でも2021年に承認された。4 今後の展望ヘム製剤やギボシランが治療に使えることとなり、国際標準に追いついたと言える。また、これら治療薬は高額だが、難病指定もなされ医療費補助もあり、治療は円滑に行える。しかし、確定診断の補助となる遺伝子解析が保険収載されておらず、これが認められると診断の精度が高まるので、現在、保険収載を要望中である。5 主たる診療科内科では代謝内科、消化器内科、神経内科。皮膚症状に対しては皮膚科。※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報ポルフィリン症相談(医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報全国ポルフィリン代謝障害友の会「さくら友の会」(患者と患者家族の会)1)大門 真.ポルフィリン症.In:矢崎義雄編.内科学.第11版.朝倉書店;2017. p.1815-1820.2)大門 真. ポルフィリン症の診断と分類. In: 岡庭 豊ほか編. year note 内科・外科等編 2010年版. 第19版. メディックメディア; 2009. p.719-729.3)難病情報センター ポルフィリン症(2022年1月17日アクセス)公開履歴初回2013年09月05日更新2022年01月20日

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更年期障害のHRTに保険適用を有する黄体ホルモン製剤「エフメノカプセル100mg」【下平博士のDIノート】第88回

更年期障害のHRTに保険適用を有する黄体ホルモン製剤「エフメノカプセル100mg」今回は、天然型黄体ホルモン製剤「プロゲステロン(商品名:エフメノカプセル100mg、製造販売元:富士製薬工業)」を紹介します。本剤は、更年期障害および卵巣欠落症状のホルモン補充療法(HRT)に使用される卵胞ホルモン剤による子宮内膜増殖症の発症を抑制することが期待されています。<効能・効果>本剤は、更年期障害および卵巣欠落症状に対する卵胞ホルモン剤投与時の子宮内膜増殖症の発症抑制の適応で、2021年9月27日に承認され、同年11月29日に発売されました。<用法・用量>卵胞ホルモン剤との併用において、以下のいずれかを選択します。持続的投与法:卵胞ホルモン剤の投与開始日からプロゲステロンとして100mgを1日1回就寝前に経口投与。周期的投与法:卵胞ホルモン剤の投与開始日を1日目として、卵胞ホルモン剤の投与15~28日目までプロゲステロンとして200mgを1日1回就寝前に経口投与。これを1周期とし、以後この周期を繰り返す。<安全性>国内第III相試験において報告された主な副作用は、不正子宮出血117例(33.5%)、乳房不快感16例(4.6%)、頭痛11例(3.2%)、下腹部痛、浮動性めまい各10例(2.9%)、腹部膨満、便秘各8例(2.3%)、腟分泌物7例(2.0%)などでした。なお、重大な副作用として、血栓症(頻度不明)が報告されており、心筋梗塞、脳血管障害、動脈または静脈の血栓塞栓症(静脈血栓塞栓症または肺塞栓症)、血栓性静脈炎、網膜血栓症が現れることがあります。<患者さんへの指導例>1.この薬は、更年期障害などに伴う症状を軽減する目的で投与される卵胞ホルモン剤とともに服用することで、卵胞ホルモン剤による子宮内膜への影響を軽減します。2.ふくらはぎの痛み・腫れ、手足のしびれ、鋭い胸の痛み、突然の息切れなどの症状が現れた場合、血栓症を引き起こしている可能性があるので、直ちに医師・薬剤師に連絡してください。自己判断での中止や量の調節はしないでください。3.眠気や浮動性めまいを引き起こすことがあるので、自動車などの危険を伴う機械の操作には注意してください。4.突然服用を中止すると、不安や気分変化を引き起こす恐れがあります。<Shimo's eyes>本剤は、更年期障害および卵巣欠落症状に対する卵胞ホルモン剤投与時の子宮内膜増殖症の発症抑制を目的とした天然型黄体ホルモン製剤です。経口投与では吸収されにくい天然型黄体ホルモンをマイクロナイズド化(微粒子化)することで吸収率を上げています。ホルモン補充療法(HRT)は、エストロゲン欠乏に伴う更年期障害などの諸症状や疾患の予防・治療に有用です。しかし、エストロゲン製剤を単独投与すると、子宮内膜増殖作用により子宮内膜がんを発症する懸念が高まります。エストロゲン製剤に黄体ホルモン製剤を併用することで、子宮内膜がんの発症が抑制されるという報告を踏まえ、現在では子宮を有する患者にHRTを行う際には、黄体ホルモン製剤を併用することが一般的です。国際閉経学会などでは、天然型黄体ホルモンは乳がんリスクや血栓症リスクが低いことが示唆されています。しかし、わが国では子宮内膜増殖抑制に関する適応のある経口剤はなく、これまで適応外で合成黄体ホルモン製剤が使用されてきました。このような背景から、日本産科婦人科学会および日本更年期医学会(現:日本女性医学学会)から開発の要望書が提出され、「医療上の必要性の高い未承認薬・適応外薬検討会議」の評価に基づき、厚生労働省が製薬企業を募集し、開発されました。用法としては、エストロゲン製剤と本剤を初めから併用する「持続的投与法」と、最初の2週間はエストロゲン製剤単独で、あとの2週間は本剤も併用する「周期的投与法」のいずれかを選択します。本剤は食後投与では絶食下に比べてAUCとCmaxが上昇し、服用後1~3時間は一過性の傾眠・めまいを起こす可能性があるため、就寝前に服用します。副作用では、不正性器出血が高い頻度で報告されています。継続服用に伴い徐々に軽減してゆくので、服薬を中断しないように前もって説明する必要があります。重大な副作用としては、血栓症に注意が必要です。血栓症の初期症状について説明するほか、定期的に体を動かしてこまめに水分補給をするなどの生活上の工夫も伝えましょう。参考1)PMDA 添付文書 エフメノカプセル100mg

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「ブスコパン」の名称の由来は?【薬剤の意外な名称由来】第80回

第80回 「ブスコパン」の名称の由来は?販売名ブスコパン®錠10mg※ブスコパン注20mgは錠剤のインタビューフォームと異なるため、今回は情報を割愛しています。ご了承ください。一般名(和名[命名法])ブチルスコポラミン臭化物 (JAN)効能又は効果下記疾患における痙攣並びに運動機能亢進胃・十二指腸潰瘍、食道痙攣、幽門痙攣、胃炎、腸炎、腸疝痛、痙攣性便秘、機能性下痢、胆のう・胆管炎、胆石症、胆道ジスキネジー、胆のう切除後の後遺症、尿路結石症、膀胱炎、月経困難症用法及び用量通常成人には1回1~2錠 (ブチルスコポラミン臭化物として10~20mg) を1日3~5回経口投与する。なお、年齢、症状により適宜増減する。警告内容とその理由該当しない禁忌内容とその理由(原則禁忌を含む)【禁忌(次の患者には投与しないこと)】(1)出血性大腸炎の患者[腸管出血性大腸菌(O157等)や赤痢菌等の重篤な細菌性下痢患者では、症状の悪化、治療期間の延長をきたすおそれがある。](2)閉塞隅角緑内障の患者[抗コリン作用により眼圧が上昇し、症状を悪化させることがある。](3)前立腺肥大による排尿障害のある患者[更に尿を出にくくすることがある。] (4)重篤な心疾患のある患者[心拍数を増加させ、症状を悪化させるおそれがある。](5)麻痺性イレウスの患者[消化管運動を抑制し、症状を悪化させるおそれがある。](6)本剤に対し過敏症の既往歴のある患者※本内容は2021年12月1日時点で公開されているインタビューフォームを基に作成しています。※副作用などの最新の情報については、インタビューフォームまたは添付文書をご確認ください。1)2019年7月(改訂第6版)医薬品インタビューフォーム「ブスコパン®錠10mg」2)サノフィe-MR:製品情報

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第86回 COVID-19後遺症、感染と関連したのは無嗅覚のみ?

フランスのおよそ3万人(26,823人)の試験の結果、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に感染したと自己申告した人は調べた20近いさまざまな症状のほぼすべてのいずれかを長く(8週間以上)経験していましたが、抗体検査や医師の診断等で裏が取れたSARS-CoV-2感染と関連した症状は嗅覚消失の1つのみでした1,2)。調べた症状は睡眠障害、関節痛、背痛、胃腸異常(胃痛、下痢、便秘)、筋肉痛、疲労、注意困難、皮膚の異常、感覚症状(ヒリヒリしたり焼けるような感じ等)、聴覚障害、頭痛、呼吸困難、動悸、めまい、胸痛、咳、無嗅覚、その他の18項目で、SARS-CoV-2感染の自認は聴覚障害と睡眠障害を除く他全部と関連しました。対照的に、感染したことを裏付ける抗体検査陽性はただ1つ無嗅覚(嗅覚消失)とのみ関連しました。抗体検査陽性の人数は1,091人で、そのうち4割ほどの453人が感染を自認していました。医師や臨床検査(laboratory test)による判断でSARS-CoV-2感染が確認されていることも抗体検査陽性と同様に無嗅覚とのみ唯一関連しました。それらの結果によると新型コロナウイルス感染症(COVID-19)後に長く続く症状は感染そのものより感染したという念に駆られること(belief in having experienced COVID-19)とより関連するようです。SARS-CoV-2自体のせいではなさそうなCOVID-19後の長患いが生じる仕組みを今後の研究で調べる必要があります。大学の運動部学生のCOVID-19後遺症は稀感染したという思い込みに起因するものを含めて理由はどうあれCOVID-19後の患者の多くが後遺症を被ります。たとえばスイスのジュネーブの外来患者を調べた試験ではCOVID-19診断から30~45日時点の少なくとも約3人に1人(32%)に長引く症状が認められています3)。しかし、常に体を鍛えている若者にCOVID-19後遺症が付け入る余地はどうやらほとんどないらしく、米国の大学の運動部の学生3千人超を調べたところSARS-CoV-2感染後の後遺症はほとんど認められませんでした4)。発症から3週間を超えて症状が続いた学生の割合は1.2%(44/3,529人)、12週間を超えて症状が続いていた割合は僅か0.06%(2/3,529人)でした。部活に復帰してからの胸痛、息切れ、疲労、動悸等の労作性症状の割合も低く4%(137/3,393人)でした。ただし、部活に復帰してから胸痛があって心臓MRI検査を受けた学生のうち21%(5/24人)におそらくまたは確実な心臓の支障が見つかりました。運動部の大学生のCOVID-19後遺症は少ないと分かって一安心ですが、感染後に部活に復帰した選手の体調は気をつけて見守って把握し5)、もし労作性の胸痛があれば心臓MRI検査を検討するべきでしょう。参考1)Long COVID symptoms may have causes other than SARS-CoV-2 / University of Minnesota2)Matta J, et al. JAMA Intern Med.2021 Nov 8. [Epub ahead of print]3)Nehme M, et al.Ann Intern Med2021 May;174:723-725.4)Petek BJ, et al.Br J Sports Med. 2021 Nov 1:bjsports-2021-104644. 5)Lingering COVID symptoms in young, competitive athletes rare, large study finds / Eurekalert

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4週に1回の投与で片頭痛発作を予防する「アイモビーグ皮下注70mgペン」【下平博士のDIノート】第85回

4週に1回の投与で片頭痛発作を予防する「アイモビーグ皮下注70mgペン」今回は、ヒト抗CGRP受容体モノクローナル抗体製剤「エレヌマブ(遺伝子組換え)(商品名:アイモビーグ皮下注70mgペン、製造販売元:アムジェン)」を紹介します。本剤は、4週間に1回の投与で、片頭痛発作の発症を抑制することが期待されています。<効能・効果>本剤は、片頭痛発作の発症抑制の適応で、2021年6月23日に承認され、8月12日に発売されました。片頭痛発作の前兆の有無にかかわらず月に複数回以上発現している、または慢性片頭痛であることを確認したうえで本剤の適用を考慮します。なお、非薬物療法、片頭痛発作の急性期治療などを適切に行っても日常生活に支障を来している患者にのみ投与できます。<用法・用量>通常、成人にはエレヌマブ(遺伝子組換え)として70mgを4週間に1回皮下投与します。なお、本剤投与開始後3ヵ月が経過しても症状の改善が認められない場合や、頭痛発作発現の消失・軽減などにより日常生活に支障を来さなくなった場合は、本剤の投与中止を考慮します。<安全性>片頭痛患者を対象とした国内第III相試験において、副作用はプラセボ群で3.1%(4/131例)、本剤投与群で8.5%(11/130例)が認められました。主な副作用は、便秘、注射部位反応(紅斑、そう痒感、疼痛、腫脹など)、傾眠などでした。なお、重大な副作用として、発疹、血管浮腫およびアナフィラキシーを含む重篤な過敏症反応と重篤な合併症(腸閉塞、糞塊、腹部膨満およびイレウスなど)を伴う便秘が海外で報告されています。<患者さんへの指導例>1.この薬は、片頭痛に関与するとされる神経ペプチドの受容体をブロックすることで、片頭痛発作の発現を予防します。2.発熱、発疹、まぶたや口唇周囲の腫れ、呼吸困難など、アナフィラキシーが疑われる症状が現れた場合は、すぐに報告・受診してください。注射後1週間以上経過してから発現することもあります。3.注射した部位に、赤み、かゆみ、痛み、腫れなどの症状が現れることがあります。これらの症状が長引く場合は、ご相談ください。4.お薬のせいで眠くなることがあります。車の運転や機械の操作、高所での作業などを行う場合はご注意ください。5.本剤の使用中に、血圧が上昇したり高血圧が悪化したりすることがあります。自宅で血圧計を用いるなど、血圧の変動に注意してください。6.まれに重い便秘症状が現れることがあります。とくに初回投与後は便通の変化に注意し、便秘症状が続く場合には早めにご連絡ください。<Shimo's eyes>片頭痛が起きる成因として、三叉神経から放出された神経ペプチドであるCGRPがCGRP受容体に結合することで、血管が過度に拡張して炎症が波及して片頭痛発作が起こるという説が有力です。予防にはロメリジン、バルプロ酸、プロプラノロール、アミトリプチリン、ベラパミルなどが用いられています。効果を得られない患者も少なくありませんでしたが、抗体医薬品が登場したことにより、片頭痛の治療選択肢が広がりました。本剤は、世界で初めて承認されたカルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)関連の抗体医薬品であり、わが国では2021年4月にガルカネズマブ(商品名:エムガルティ)、同年8月にフレマネズマブ(同:アジョビ)が発売されました。この2剤はCGRPに結合して活性を阻害しますが、本剤はCGRPの受容体に直接作用し、CGRPの結合を防いでシグナル伝達を阻害します。CGRP関連薬剤は4週間に1度(フレマネズマブは4週間に1度あるいは12週間に1度)の皮下投与で予防効果を発揮します。なお、すでに発現している片頭痛発作を緩解する薬剤ではないため、本剤投与中に発作が発現した場合には、必要に応じてトリプタンなどの急性期治療薬を使用します。本剤の注射針カバーは天然ゴム(ラテックス)を含み、アレルギー反応を起こす恐れがあるため、投与に際してはアレルギー歴の確認が必要です。デバイスはオートインジェクターであり、外箱を冷蔵庫から取り出し、30分以上待って室温に戻してから使用します。現状は自己注射が認められておらず、原則として外来受診時の投与となります。主な副作用として、便秘、注射部位反応、傾眠などが報告されています。便秘の既往歴を有する患者および消化管運動低下を伴う薬剤を併用している患者では発現リスクが高くなる恐れがあるので注意が必要です。参考1)PMDA 添付文書 アイモビーグ皮下注70mgペン

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非がん性疼痛へのトラマドール、コデインより死亡リスク高い?/JAMA

 欧米では、非がん性慢性疼痛の治療にトラマドールが使用される機会が増えているが、安全性を他のオピオイドと比較した研究はほとんどないという。英国・オックスフォード大学のJunqing Xie氏らは、トラマドールの新規処方調剤はコデインと比較して、全死因死亡や心血管イベント、骨折のリスクを上昇させることを示した。便秘やせん妄、転倒、オピオイド乱用/依存、睡眠障害には両薬で差はなかった。研究の成果は、JAMA誌2021年10月19日号に掲載された。スペインの後ろ向きコホート研究 研究グループは、外来で使用されるトラマドールとコデインについて、死亡および他の有害なアウトカムの発生状況を比較する目的で、人口ベースの後ろ向きコホート研究を実施した(IDIAP Jordi Gol Foundationの助成を受けた)。 解析には、System for the Development of Research in Primary Care(SIDIAP)のデータが用いられた。SIDIAPは、スペイン・カタルーニャ地方(人口約600万人)の人口の80%以上を対象とし、匿名化したうえで日常的に収集される医療・調剤の記録が登録されたプライマリケアのデータベースである。 対象は、年齢18歳以上で、1年以上のデータがあり、2007~17年の期間にトラマドールまたはコデインが新規に調剤された患者であった。両薬が同じ日に調剤された患者は除外された。 評価項目は、初回調剤から1年以内の全死因死亡、心血管イベント(脳卒中、不整脈、心筋梗塞、心不全)、骨折(大腿骨近位部、脊椎、その他)、便秘、せん妄、転倒、オピオイド乱用/依存、睡眠障害とされた。解析の対象は、傾向スコアマッチング法で選出された。また、原因別Cox比例ハザード回帰モデルで、絶対発生率差(ARD)とハザード比(HR)、95%信頼区間(CI)が算出された。若年患者で死亡の、女性で心血管イベントのリスクが高い 109万3,064例が登録され、このうち32万6,921例がトラマドール群、76万2,492例がコデイン群であり、3,651例は両方の薬剤が調剤されていた。傾向スコアマッチング法で選出された36万8,960例(両群18万4,480例ずつ、平均年齢53.1歳、女性57.3%)が解析に含まれた。 トラマドール群はコデイン群に比べ、1年後の全死因死亡(発生率:13.00 vs.5.61/1,000人年、HR:2.31[95%CI:2.08~2.56]、ARD:7.37[95%CI:6.09~8.78]/1,000人年)、心血管イベント(10.03 vs.8.67/1,000人年、1.15[1.05~1.27]、1.36[0.45~2.36]/1,000人年)、骨折(12.26 vs.8.13/1,000人年、1.50[1.37~1.65]、4.10[3.02~5.29]/1,000人年)のリスクが有意に高かった。 便秘(発生率:6.98 vs.6.41/1,000人年)、せん妄(0.21 vs.0.20/1,000人年)、転倒(2.75 vs.2.32/1,000人年)、オピオイド乱用/依存(0.12 vs.0.06/1,000人年)、睡眠障害(2.22 vs.2.08/1,000人年)には両群に差はみられなかった。 トラマドールによる死亡リスクの上昇は、若年患者(18~39歳)が高齢患者(60歳以上)に比べて大きかった(HR:3.14[95%CI:1.82~5.41]vs.2.39[2.20~2.60]、pinteraction<0.001)。心血管イベントのリスク上昇は、女性が男性よりも大きかった(1.32[1.19~1.46]vs.1.03[0.93~1.13]、pinteraction<0.001)。また、併存疾患が最も多い患者(チャールソン併存疾患指数[CCI]≧3点)は最も少ない患者(CCI=0点)に比べ、骨折のリスクの上昇が大きかった(HR:2.20[95%CI:1.57~3.09]vs.1.47[1.35~1.59]、pinteraction=0.004)。 著者は、「未評価の交絡因子が残存している可能性があるため、これらの知見の解釈には注意を要する」としている。

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副作用の説明にこんな工夫【非専門医のための緩和ケアTips】第14回

第14回 副作用の説明にこんな工夫患者さんに新しい薬を処方するとき、いつも以上に慎重な説明が求められますよね。とくに副作用についてはしっかりと説明しておかないと、後から「聞いてなかった!」なんてクレームにもなりかねません。今回はそんな副作用の説明についてです。今日の質問外来でフォロー中の進行がん患者さん。腫瘍が増大傾向で現在の鎮痛薬では効果不十分と判断してオピオイドを勧めました。眠気、吐き気、便秘といった副作用を説明したところ顔を曇らせ、「そんなに副作用がある薬は飲みたくないです」と拒否されてしまいました。副作用を伝えないわけにはいかないと思いますが、どうすればよかったのでしょうか?今回のご質問も緩和ケアの実践ではよくあるテーマですね。まずはこういった病状の方の外来診療をしっかりされていることや、地域の診療所で緩和ケアが届けられるようご尽力いただいていることに感謝を申し上げたいと思います。さて、この「しっかり説明すると不安にさせてしまう」という問題、なかなか難しいのですが、工夫の余地はありそうです。人にはそれぞれ「バイアス」が存在します。何かをやった結果としての「良いこと」と「悪いこと」を比較すると、悪いことの影響のほうを大きく感じることが知られています。行動経済学ではこういった特性を「損失回避」という言葉で説明しています。「人は何かしたせいで良くないことが起きることを嫌う傾向が強い」というわけです。処方の時点で、医師としては使用するメリットが副作用のデメリットよりも大きいと判断しているわけです。医師側は自明と思いがちですが、その点をあらためて患者さんに伝えましょう。「メリット」と「デメリット」の説明量を同じにすると患者さんはデメリットのほうを強く感じます。まして、「後々にトラブルにならないよう、副作用についてしっかり説明した」といった説明量のバランスであれば、おそらく患者さんを「めちゃくちゃビビらせる」説明になっていることでしょう。ではどうすればよいか、具体例を少し考えてみましょう。「今の症状に対して、オピオイドを使用したほうがいいと思います(=明確に言い切る)。症状に悩まされる時間が少なくなるはずです(=メリットを先に)。人によっては眠気や吐き気といった症状が出ることがありますが(=デメリットを事実ベースで)、予防薬もあるので安心してください。便秘が続く場合も便秘薬を調整しながら経過を見ます(=デメリットにも対処できる)。今の症状を減らすことで、ご自宅でより過ごしやすく、夜も眠りやすくなると思うので、試してみませんか?(=再びメリットを伝えたうえで、最終判断は委ねるというトーン)」いかがでしょう? 私もまだまだ試行錯誤中なので、皆さんの工夫もぜひ教えていただければと思います。今回のTips今回のTips薬剤の説明はメリットを先に。副作用などのデメリットも共有しつつ、安心感が伝わるコミュニケーションを工夫しよう。

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胃腸症状とうつ病との関連~米国健康栄養調査

 最近、多くの調査において、うつ病の病因としてのマイクロバイオームの役割がトピックスとなっている。調査結果によると、腸内細菌叢による一般的な症状である腸内尿毒症が胃腸症状の問題の根底にあり、これがうつ病と関連していることが示唆されている。米国・タフツ大学のSarah J. Eustis氏らは、胃腸症状の徴候が認められる人では、抑うつ症状のオッズ比(OR)が有意に高いかどうかを検証するため、本研究を実施した。Journal of the Academy of Consultation-Liaison Psychiatry誌オンライン版2021年8月27日号の報告。 2005~16年に実施された米国健康栄養調査(3万6,287人)より、成人3万1,191人のデータを分析した。アウトカムには、過去1ヵ月間の粘液性または液性の排便および胃疾患、過去1年間の下痢、1週間当たりの排便回数を含めた。本分析では、マイクロバイオームのサンプルは含まず、自己申告による胃腸症状のみとした。抑うつ症状は、こころとからだの質問票(PHQ-9)を用いて評価した。中等度、中等度~重度、重度のスコアは、肯定的なアウトカムとしてレコード化した。 主な結果は以下のとおり。・中等度~重度の抑うつ症状を有する人は、抑うつ症状のない人と比較し、以下の胃腸症状のORが高かった。 ●腸粘液(OR:2.78、95%CI:1.82~4.24) ●腸液(OR:2.16、95%CI:1.63~2.86) ●胃疾患(OR:1.82、95%CI:1.31~2.53) ●下痢(時々あり対なしのOR:1.72、95%CI:1.30~2.29) ●便秘(時々あり対なしのOR:2.76、95%CI:2.11~3.62)・全体として、胃腸症状を有する人では、抑うつ症状を示す可能性が有意に高かった。 著者らは「複雑な脳腸軸(brain-gut axis)については、分子レベルで調査されている。そのような中で、抑うつ症状と腸内尿毒症の徴候との関連を示唆する本研究結果は、さらなるエビデンスの蓄積に貢献し、医療従事者や患者にとって有益な情報となる可能性がある」としている。

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事例035 加味逍遙散エキスの査定【斬らレセプト シーズン2】

解説不定愁訴を訴えていた64歳男性が更年期障害と診断され、投与された加味逍遙散エキスがC事由(医学的理由による不適当)にて査定となりました。医師は査定事由に思い当たることがないとのことで、査定された理由を調べるために、当該医療機関が使用している加味逍遙散エキスの添付文書をみてみました。効能または効果の欄には、「体質虚弱な婦人で肩がこり、疲れやすく(中略)、時に便秘の傾向がある次の諸症」とあり、諸症の中に更年期障害も含まれていました。傷病名の適用はあると考えましたが、文の前段に「婦人」と表現されています。主に女性に対して使用される漢方薬であって、男性への投与は適用外として判断されたものであろうと推測しました。複数他社の添付文書を参照したところ、同じ加味逍遙散エキスでも男女の区別がない場合もあるなど効能および効果の差が確認できました。男女が異なっていても加味逍遙散エキスは複数社が販売しています。添付文書の証と事例の身体状況が特徴的に一致しており、診断病名も添付文書に表示されていたため、適用があるものと考え、著効があったことを加えて再審査請求をしましたが、原審通りでした。保険診療における医薬品の使用は、療養担当規則第19条に、厚生労働大臣の定める医薬品以外の原則使用禁止が定められています。この表現の中には、医薬品ごとに承認された効能・効果・用法・用量なども含まれます。「など」には、性差や年齢も含まれるとして、規則が厳格に適用されたものと考えられます。薬剤システムとレセプトシステムに、男性への投与時に注意が表示されるように設定変更をして査定対策としました。(※ 販売元社名は割愛しました)

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ミトコンドリアを介する新規作用機序の2型糖尿病治療薬「ツイミーグ錠500mg」【下平博士のDIノート】第82回

ミトコンドリアを介する新規作用機序の2型糖尿病治療薬「ツイミーグ錠500mg」今回は、2型糖尿病治療薬「イメグリミン塩酸塩(商品名:ツイミーグ錠500mg、製造販売元:大日本住友製薬)」を紹介します。本剤は、ミトコンドリアに作用する新しい機序の糖尿病治療薬であり、インスリン分泌低下型、インスリン抵抗性亢進型のいずれであっても血糖降下作用が期待できます。<効能・効果>本剤は、2型糖尿病の適応で、2021年6月23日に承認され、同年9月16日に発売されました。本剤の適用は、あらかじめ糖尿病治療の基本である食事療法、運動療法を十分に行った上で効果が不十分な場合に限り考慮します。<用法・用量>通常、成人にはイメグリミン塩酸塩として1回1,000mgを1日2回朝、夕に経口投与します。なお、本剤とビグアナイド系薬剤は作用機序の一部が共通している可能性があります。臨床試験でも両剤を併用した場合は、ほかの糖尿病用薬との併用療法と比較して消化器症状が多く認められたことから、併用薬を選択する際は注意が必要です。<安全性>臨床試験において、本剤が投与された安全性評価対象1,103例中、副作用発現数は168例(15.2%)でした。主な副作用は、低血糖6.7%(74例)、悪心2.1%(23例)、下痢1.9%(21例)、便秘1.3%(14例)などでした。なお、低血糖は重大な副作用としても報告されています。<患者さんへの指導例>1.この薬は、血糖値に応じてインスリンの分泌を促す作用と、インスリンが働きにくい状態を改善する作用によって血糖値を改善します。2.薬の服用により、低血糖症状を起こすことがあります。脱力感、高度の空腹感、発汗、震えなどの症状が認められた場合には、飴やジュースなどで糖分を摂取してください。α-グルコシダーゼ阻害薬を併用している場合はブドウ糖を摂取してください。<Shimo's eyes>本剤は、既存の経口糖尿病治療薬とは異なる構造を有しており、ミトコンドリアへの作用を介してグルコース濃度依存的なインスリン分泌を促す膵作用と、肝臓・骨格筋での糖代謝を改善する膵外作用(肝臓での糖新生抑制、骨格筋などでの糖取り込み能改善)の2つによって血糖降下作用を示します。インスリン分泌低下型、インスリン抵抗性亢進型のいずれの病態であっても効果が期待できるという特徴があります。製品名は、2つを意味する“twin”と一般名の“imeglimin”に由来しています。2型糖尿病患者を対象とした長期投与試験において、単独療法または併用療法でHbA1c改善効果を示し、52週にわたってその効果が維持されました。主な副作用には、悪心、下痢、便秘などがあります。重大な副作用として低血糖(6.7%)が報告されていますが、本剤の作用によるインスリン分泌はグルコース濃度依存的で、低血糖時にはインスリンを分泌させないことが報告されており、単剤使用での重症低血糖のリスクは低いと考えられます。腎機能障害のある患者では、腎臓からの排泄が遅延し、本剤の血中濃度が上昇する恐れがあることから、eGFRが45mL/min/1.73m2未満(透析を含む)の患者への投与は推奨されていません。注意すべき点は、メトホルミンとの併用により消化器症状が増大する恐れがあることです。また、インスリン製剤やSU薬、速効型インスリン分泌促進薬と併用すると低血糖のリスクが上がるため、これらの薬剤を併用する際には減量の検討が必要です。参考1)PMDA 添付文書 ツイミーグ錠500mg

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便秘からがんを疑うアラームサインを読み取る【Dr.山中の攻める!問診3step】第6回

第6回 便秘からがんを疑うアラームサインを読み取る―Key Point―大腸がんを疑うアラームサインに注意しよう薬剤が便秘の原因となっていることは多い下剤を処方する際、「酸化マグネシウム」は腎機能低下時に高マグネシウム血症を起こすので要注意!症例:76歳男性主訴)排便困難現病歴)12日前から便が突然出なくなった。4日前に近医で浣腸をしてもらったが排便なし。酸化マグネシウムと大腸刺激性下剤の処方を受けたが、やはり排便がないため当院を受診した。嘔吐はあるが腹痛はない。既往歴)老人性難聴薬剤歴)定期内服薬なし生活歴)たばこ:10本/日 x 55年間、酒:1合/日身体所見)意識清明、体温36.7℃、血圧120/50mmHg、心拍数92/分、SpO2:95%[室内気]直腸診を施行したところ、肛門から8cm、12時方向にカリフラワー様の約4×4cmの腫瘤を触知し易出血性であった。結局、直腸癌と診断され人工肛門増設のため緊急手術となった。大腸イレウスは珍しいが、穿孔すれば腹膜炎となるので緊急処置が必要となることも念頭に入れておくべき。◆今回おさえておくべき臨床背景はコチラ!大腸がんを疑うアラームサイン1) ―大腸がんの可能性はないのか鉄欠乏性貧血体重減少便潜血陽性血便便の狭小化高齢者の急性便秘大腸がんの家族歴50歳以上で大腸内視鏡検査を受けたことがない【STEP1】患者の症状に関する理解不足を解消させよう【STEP2】二次性の便秘を考える薬剤は二次性便秘の最大の原因である。薬剤歴の正確な聴取が大切である便秘を起こす薬剤2)3)はこちら降圧薬(カルシウム拮抗薬、利尿薬)、麻薬抗コリン薬(ブチルスコポラミン、抗うつ薬、抗精神病薬、抗パーキンソン病薬)抗ヒスタミン薬、NSAIDs、鉄剤高齢者の鉄欠乏性貧血は消化管の悪性腫瘍をまず考える便の狭小化+腹痛+液状便はS状結腸から直腸にかけての高度狭窄が示唆される症状である。大腸内視鏡の前処置で腸閉塞や腸管穿孔をきたす可能性があるため、腹部レントゲン検査と腹部CT検査を検査前にオーダーする甲状腺機能低下症、自律神経障害を起こす糖尿病やパーキンソン症候群、低カリウム血症、高カルシウム血症、うつ病、妊娠は便秘の原因となる【STEP3】治療1)を検討しよう毎日排便がないのは異常であるというイメージが TVコマーシャルなどによって作られているが、週に3回または1日3回の排便は正常である週3回以上排便があれば、病的ではないことを伝える。水分と食物繊維を十分にとる。朝食後15分間はトイレに座り、力まずに排便するよう指導する。改善がなければ、ポリエチレングリコール(商品名:モビコール)または酸化マグネシウムを処方する。酸化マグネシウムは腎機能低下時に高マグネシウム血症(嘔気・嘔吐、血圧低下、徐脈、筋力低下、意識障害)を起こす。効果が不十分ならルビプロストン(商品名:アミティーザ)を少量から検討する。大腸刺激性薬剤(センノシド、ピコスルファート)は習慣性や依存性が強いので頓用で用いる<参考文献・資料>1)山中 克郎企画. 総合診療 ヤブ化を防ぐ!総合診療基本のき. 医学書院.2019. p.1089-1091.(中野弘康 便秘)2)John P, et al. MKSAP18 Gastroenterology and Hepatology. 2018 .p.35-38.3)日本消化器病学会関連研究会 慢性便秘の診断・治療研究会編. 慢性便秘症診療ガイドライン. 2017.

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認知症発症を抑える食材、新たな候補はビフィズス菌?

 2021年8月27日、認知症に関する正しい情報発信とリスク低減への早期取り組みの重要性を啓発する「40代からの認知症リスク低減機構」は、『「脳寿命を延ばす いまの状態を把握し、対策を考える」~脳と腸からはじめる認知症予防の可能性~』と題するメディアセミナーを開催した。 今まで便秘や下痢、免疫対策として注目されていた“腸”には、“脳”との関係性「脳腸相関」もあると明らかになってきている。このことから、両者の関係が認知症研究においても注目されるようになった。近年、腸内細菌やそれらが作り出す成分による脳の健康状態への影響に関する研究が多数行われている。本セミナーでは、新井 平伊氏(アルツクリニック東京院長、順天堂大学医学部名誉教授)、佐治 直樹氏(国立長寿医療研究センター もの忘れセンター 副センター長)、清水 金忠氏(森永乳業株式会社 研究本部 基礎研究所長)の3人が、認知症と脳腸相関に関する最新の研究と、認知症予防のための食品開発について講演を行った。認知症発症を遅らせるための先制医療としての食事 1人目の登壇者である新井氏は、認知症のリスク低減のための対策について解説した。アルツハイマー型認知症(AD)の進行の原因として考えられているアミロイドβは、40代から徐々に脳に蓄積し、SCD(主観的認知機能低下)やMCI(軽度認知障害)といった未病の段階からADへ進行させると考えられている。ADの発症を止めることはできないことから、未病段階から発症を予測して遅らせるという「先制医療」が注目されてきているという。 脳の老化を予防するには生活習慣病の改善のほか、囲碁や将棋といった対人ゲーム、運動をしながら歌うといった体と脳を同時に使うデュアルタスク、睡眠の質の向上といったことが効果的である。とくに、近年では食事による脳機能への影響が研究されており、脳機能の改善を目指した食品の成分・素材に関する研究、商品化が進んでいる。先制医療の観点からも、認知症を発症する前の段階で、普段の食事に気を使って発症予防に努めることが重要であると考えられる。一方で新井氏は、臨床レベルの十分な信頼性のあるデータがそろっているものは多くなく、商品を選ぶうえで、「再現性があるか」「効果はどのように確立されたものであるか」「副作用や安全性はどうか」の3点について見極めることが重要であるとの考えを示した。腸内細菌や食事内容も認知症に影響? 2人目の登壇者である佐治氏は、腸内細菌が与える脳への影響について解説した。脳と腸が自律神経などを介して互いに影響しあう「脳腸相関」という言葉が最近になって知名度を上げてきたが、近年では腸内細菌叢がADやパーキンソン病などの神経疾患の発症の因子であることが示唆されている。認知症においては、発症している人では発症していない人と比較して、常在菌であるバクテロイデスの数が少なく腸内細菌叢の構成が異なっていることが明らかになっている。さらに、アンモニアや有機酸といった腸内細菌による代謝産物が認知症リスクを高めることも明らかになったという。 また、佐治氏は、食事が認知機能に与える影響を調査した自身の研究についても解説した。認知機能と食事内容の関係を調べた結果、認知機能の高い患者では魚介やキノコ類、大豆類、コーヒーの摂取率が高かったことが明らかになった。この結果から、食事の内容が認知機能に影響を与えることが示唆された。認知症発症の抑制が期待されるビフィズス菌 3人目の登壇者である清水氏は、ビフィズス菌MCC1274の臨床試験の結果について紹介した。MCC1274は、森永乳業が保有するビフィズス菌株の中から、アルツハイマー型認知症の発症を抑制する可能性がある菌株として特定された。 プラセボ対照ランダム化二重盲検並行群間試験では、50歳以上80歳未満でMMSEスコアが22点以上でありMCIの疑いがある80例をMCC1274カプセル(生菌200億/日)群またはプラセボ群に割り付け、16週間摂取後のアーバンス(RBANS)神経心理テストの結果を比較した。その結果、主要評価項目であるRBANSスコア合計の摂取後の実測値、そして前後の変動値とも有意な改善が認められた。また、認知機能の中でも、即時記憶、視空間・構成、遅延記憶に関する項目のスコアが有意に改善した。 本試験の結果は、臨床試験において単一のビフィズス菌生菌体のみで加齢に伴い低下する認知機能を維持することが報告された世界で初めての報告であるという。また本試験の結果を受け、ビフィズス菌MCC1274を用いた商品の機能性表示食品の届出が消費者庁に受理された。機能性表示食品の届出がされた商品のうち認知機能の改善に関連するものは350件以上存在するが、菌体を成分として受理されたものはビフィズス菌MCC1274が初だという。今後は、軽度の認知症に対する効果についても研究を進めていきたい、と清水氏は語った。

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ポリオワクチン【今、知っておきたいワクチンの話】各論 第9回

ポリオについて急性灰白髄炎(ポリオ)は、ポリオウイルスの感染によって引き起こされる感染症で、ヒトのみに生じる。ポリオウイルスには1型、2型、3型の3つの型があり、どの型でも同じ症状を起こす。軽症では、軽い感冒様症状や胃腸炎症状のみだが、麻痺型ポリオでは麻痺などの中枢神経症状を起こし、数日間の高熱の後に非対称性の四肢の弛緩性麻痺となるため、小児麻痺(しょうにまひ)とも言われる。わが国では1940年代頃から全国で流行し、麻痺の後遺症を残した患児が多かったが、1961年より経口生ポリオワクチンを使用するようになってから次第に減少し、1980年の1例を最後に国内での患者の発生はなく、2000年にポリオが排除状態にあることが宣言された。海外では、2020年8月、WHO(世界保健機関)がアフリカでの野生株ポリオの根絶を宣言し、流行国はアフガニスタンとパキスタンの2ヵ国を残すのみとなっている。ポリオウイルスの感染経路は経口(糞口)感染である。ポリオウイルスで汚染された水などが人の口に入り、腸の中で増殖して全身に感染が広がる。特に上下水道が整備されていない衛生状態が悪い環境では、下水に流入したウイルスが他の人の口に入り、感染が拡大する。現在、ポリオは野生株に加えて、ワクチン由来ポリオウイルス(cVDPV、後述)が課題となっている。そのため排除宣言後の今でも海外渡航時や感染者が本邦へ入国した際に、ポリオが国内に持ち込まれて感染する可能性は続いている。学校保健安全法では第1種感染症、感染症法では2類感染症に分類されている。主な症状ポリオの感染者の多く(90~95%)は症状がない不顕性感染で自然に治癒する。発症者が1人いれば、その周囲に100人の不顕性感染者がいると推定される。感染者の約5%前後では、発熱、頭痛、咽頭痛、悪心、嘔吐、倦怠感、便秘などの症状を認め、感染者のうち1〜2%は上記の症状に引き続き無菌性髄膜炎を起こす。腸管から体内に入ったウイルスはウイルス血症を経て、血液脳関門か神経軸索を介して中枢神経組織に侵入する。ウイルスの感染から麻痺発症までは3日~1ヵ月間である。麻痺は0.1~2%に生じ、ひとたび麻痺が発症するとその進行を止めたり、麻痺を回復させるのは困難である。また、呼吸筋の麻痺などで死亡することもあり、致死率は小児で2~5%、成人で15~30%に達する。診断主な診断方法は、糞便からのウイルス分離である。麻痺が出現して早期に糞便や咽頭分泌液などを採取して検査する。血液検査でも診断可能だが、ワクチン接種によって免疫を持っている人が多いため補助的手段となる。治療法ポリオウイルスに対する薬はなく、症状に応じた対症療法のみである。予防法有効なワクチンがある。ワクチンポリオワクチンは、毒性を弱くしたウイルスを口から飲むタイプの経口生ワクチンと、ウイルスの成分の一部が含まれた注射の不活化ワクチンがある。わが国では1963年から経口ポリオワクチン(OPV)が乳児期に接種された。しかし、ポリオ生ワクチンの接種後にワクチン株によるポリオ様の麻痺(vaccine-associated paralytic poliomyelitis:VAPP)が生じることが報告されるようになった。そのため、2012年9月以降は生ワクチンでの定期接種は中止され、不活化ポリオワクチン(IPV)の定期接種が導入された。さらに2012年11月以降は四種混合(DPT-IPV)ワクチンが定期接種として乳児期に接種されるようになっている。接種のスケジュール(小児/成人)経口ポリオワクチンは2回接種だったが、不活化ワクチンは4回接種を行う。不活化ワクチンのスケジュールは、初回接種として生後3ヵ月で1回目、4ヵ月で2回目、5~11ヵ月で3回目の接種を行い、追加接種として生後12~23ヵ月で4回目の接種である。不活化ワクチンは効果が弱いためにより多くの接種回数を必要とする。いずれも接種回数が不足している場合はポリオに感染する可能性があるため、母子手帳で確認し、不足している場合は医療機関に相談してワクチン接種を終わらせることが肝要である。さらに、ポリオワクチンによる免疫効果は、ポリオ含有ワクチンの4回目の追加接種後、4年で抗体価が防御レベルを下回る可能性が示唆されており、厚生労働省で5回目の追加接種の導入とその実施時期などに関して検討が行われている。4~6歳の時期にポリオ含有ワクチンの追加接種を行うと十分に抗体価が上昇し維持することが知られており、世界の多くの国ではこの就学前の時期に2期としてポリオワクチンの追加接種が行われている。今後、わが国でも就学前などにポリオ含有ワクチンの追加接種が制度として整備されることを期待する。伝播型ワクチン由来ポリオウイルス経口生ワクチンに含まれるポリオウイルス(ワクチン株ウイルス)は、接種された人の腸管で増殖し、一部は便に排出され下水などに流入する。通常、このワクチン株ウイルス自体では病気を起こすことはない。しかし、このワクチン株ウイルスが下水などの環境の中で長期間循環し続けると、ごくまれに遺伝子変異を起こし、従来のポリオウイルス(野生株ウイルス)のように、ポリオと同様の麻痺性の病気を起こすようになる。これを「伝播型ワクチン由来ポリオウイルス(circulating vaccine-derived poliovirus:cVDPV)」と呼ぶ。野生株のみならずこの伝搬型ワクチン由来ポリオウイルスの感染例は世界の国々で確認されており、2020年には、23ヵ国で441例が報告されている。ウイルスが国内に持ち込まれて感染する可能性があるため、ワクチン接種を継続して免疫を維持しておく必要がある。今後の課題・展望不活化ポリオワクチンは、定期接種としての1回の追加接種のみでは抗体価が減衰し、2回目の追加接種を4~6歳で行うことで抗体価が大きく上昇することが確認されている。欧米の多くの国が4歳以降に就学前の追加接種を行っており、長期にわたりポリオ抗体価を維持するためには、5~7歳頃(就学前)の2回目の追加接種が必要である。日本では、任意接種として、不活化ポリオ単独ワクチン(IPV)を2回目の追加接種(計5回目)として接種できる。しかし、任意接種であるため知らない人も多く、接種率は高くない。青森県藤崎町などのいくつかの自治体は不活化ポリオワクチンの就学前追加接種に対して全額公費助成を行っている。また、日本プライマリ・ケア連合学会、日本小児科学会もワクチンスケジュールの中で就学前の2回目の追加接種を推奨している。世界のポリオは、紛争やテロ活動によりワクチン接種が妨げられると根絶が難しくなり、世界からの根絶まではまだ時間がかかると思われる。また、野生株は減っているものの、伝播型ワクチン由来ポリオウイルス(cVDPV)は多くの国で報告されている。そのため、ポリオ発生地に渡航する際には、成人も不活化ワクチンによる追加接種を受けることが望ましい。今後、わが国でも就学前のポリオ含有ワクチンの追加接種が制度として整備されること、そして、成人も世界のポリオの流行状況や日本への輸入のリスクを考慮して、不活化ポリオワクチンの追加接種の検討が必要である。参考となるサイト厚生労働省 ポリオとポリオワクチンの基礎知識日本プライマリ・ケア連合学会 こどもとおとなのワクチンサイト日本小児科学会 ワクチンスケジュール講師紹介

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15年前の腹腔内の忘れ物【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第193回

15年前の腹腔内の忘れ物pixabayより使用例えば緊急手術時、腹腔内にガーゼや針などが忘れられて残ってしまい、それが何年も後になって膿瘍や腹膜炎を発症して……という事例が報告されます。そのため、閉創前にガーゼの数などをきっちりと数える必要があります。Kastiunig T, et al.Intra-abdominal foreign body as unexpected discovery mimicking suspicious malignancy.J Surg Case Rep. 2021 Jun; 2021(6): rjab248.今回報告されたのは、「え、それを忘れちゃったの!?」という1例です。63歳の男性が、吐き気、嘔吐、便秘で入院してきました。既往歴は、15年前の虫垂切除術くらいです。腹部CTを撮影すると、回腸末端近くの右腹部に、腹部症状の原因となっている腫瘤性病変がありました。開腹手術を受けると、3×5cmの異物が見つかりました。愛護的に除去されました。さて、これは一体なんだろうか……。「あれ、これってゴム手袋じゃない?」そう、しわくちゃになった手術用手袋が、腹腔内に残っていたのです。15年前の虫垂切除術で、一体どのタイミングで手袋が腹腔内に残留していたのか、謎です。閉創前に「へい、あとはよろしく!」と手袋を脱いでポイと腹腔内に投げたわけではないでしょうけど……。術後経過は良好で、患者さんは後遺症なく退院することができました。ちなみに、腹部外科医人生で、1~2回くらいは”置き忘れ”を経験するとされているので1)、どれだけ注意していても、最後の最後で起こり得るインシデントだということを認識する必要があります。また、緊急手術ではそのリスクが高くなります2)。さらに、大量出血があると視覚的に見逃しのリスクが増えますので、やはり頻度が高くなるそうです。1)Szymocha M, et al. Leaving a foreign object in the body of a patient during abdominal surgery: still a current problem. Przegl Chir. 2019;91:35–40.2)Sonarkar R, et al. Textiloma presenting as a lump in abdomen: a case report. Int J Surg Case Rep. 2020;77:206–9.

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atogepant予防的投与で、片頭痛日数が減少/NEJM

 片頭痛の予防治療において、小分子カルシトニン遺伝子関連ペプチド受容体作動薬atogepantの1日1回経口投与はプラセボと比較して、12週間の片頭痛日数および頭痛日数を減少させ、片頭痛急性期治療薬の使用日数やQOLも良好であり、有害事象の頻度は同程度であることが、米国・MedStar Georgetown University HospitalのJessica Ailani氏らが実施した「ADVANCE試験」で示された。研究の成果は、NEJM誌2021年8月19日号に掲載された。3用量を評価する米国の無作為化プラセボ対照比較試験 本研究は、atogepantの3つの用量の1日1回経口投与の有効性と安全性の評価を目的とする第III相二重盲検無作為化プラセボ対照比較試験であり、2018年12月~2020年6月の期間に、米国の128施設で患者登録が行われた(Allerganの助成を受けた)。 対象は、年齢18~80歳、初回受診前の3ヵ月間に片頭痛が毎月4~14日発現し、予防治療の対象として適切と見なされた患者であった。また、参加者は、前兆の有無を問わず片頭痛罹患期間が1年以上で、発症年齢が50歳未満とされた。被験者は、atogepant 10mg、同30mg、同60mgを12週間、1日1回経口投与する群またはプラセボ群に、1対1対1対1の割合で無作為に割り付けられた。 910例(atogepant 10mg群222例、同30mg群230例、同60mg群235例、プラセボ群223例)が登録され、このうち安全性の評価に902例、有効性の評価には873例(修正intention-to-treat[mITT]集団)が含まれた。805例(88.5%)が試験を完了した。 安全性評価集団の平均年齢は41.6歳(範囲 18~73歳)、多くが女性(88.8%)であり、平均BMIは30.6、過去3ヵ月間における片頭痛発現の月平均日数は7.4日だった。スクリーニング時に、99.3%が片頭痛急性期治療薬の使用を、70.3%が過去に片頭痛の予防治療を行ったことを報告した。片頭痛日数/月がプラセボより1.2~1.7日減少 mITT集団の各群におけるベースライン時の片頭痛発現の月平均日数は7.5~7.9日であった。主要エンドポイントである「ベースラインから12週間までの1ヵ月当たりの平均片頭痛日数の変化」は、atogepant 10mg群が-3.7日、30mg群が-3.9日、60mg群が-4.2日であり、プラセボ群は-2.5日であった。ベースラインからの変化のプラセボ群との平均差は、atogepant 10mg群が-1.2日(95%信頼区間[CI]:-1.8~-0.6)、30mg群が-1.4日(-1.9~-0.8)、60mg群は-1.7日(-2.3~-1.2)だった(プラセボ群との比較でいずれもp<0.001)。 副次エンドポイントに関しては、「1ヵ月当たりの頭痛日数」「1ヵ月当たりの片頭痛急性期治療薬の使用日数」「1ヵ月当たりの片頭痛日数の3ヵ月間の平均値がベースラインから50%以上低下した患者の割合」「片頭痛特異的QOL質問票(MSQ ver 2.1)の役割機能制限ドメイン」の結果が、いずれもatogepantの3つの用量群でプラセボ群に比べ有意に良好であった(すべてp<0.001)。また、「片頭痛活動障害・ダイアリー指標(AIM-D)の日常活動実施能力ドメインのスコア」と「AIM-Dの身体障害ドメインのスコア」は、10mg群ではプラセボ群と差がなかったものの、30mg群と60mg群は有意に優れた。 有害事象は、atogepant群では52.2~53.7%に発現し、プラセボ群では56.8%にみられた。atogepant群で最も頻度の高い有害事象は、便秘(3用量群で6.9~7.7%)、悪心(4.4~6.1%)、上気道感染症(3.9~5.7%)であった。atogepant群で認められた重篤な有害事象は、10mg群の気管支喘息発作1例および視神経炎1例であった。 著者は、「片頭痛予防におけるatogepantの効果と安全性を明らかにするには、より長期で大規模な臨床試験が求められる」としている。

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下痢症状から急性胃腸炎を診断、ゴミ箱診断を防ぐには?【Dr.山中の攻める!問診3step】第5回

第5回 下痢症状から急性胃腸炎を診断、ゴミ箱診断を防ぐには?―Key Point―下痢症状から急性胃腸炎の診断をするときは、本当に診断が正しいのかどうか後ろめたい気持ちにならなければならない。なぜなら、ゴミ箱診断の可能性があるからである。48歳男性が動悸を主訴に救急室を受診。1週間前から臥位で寝ると息苦しいという。3日前に下痢と発熱が出現。昨日は37.9℃、水様便10回と嘔吐20回あり。意識清明で38.2℃、血圧230/102mmHg、心拍数132回/分(絶対性不整脈)、呼吸回数22回/分だった。ベラパミル(商品名:ワソラン)5mgを2回静注しても頻脈は変化なし。甲状腺機能を調べるとTSH:0.01μIU/mL(基準値:0.3~4.0)、 FT4:8ng/dL(基準値:0.9~1.7)であった。このとき優秀な後期研修医が「発熱+下痢+嘔吐+頻脈+心不全、これって甲状腺クリーゼじゃないの」と気が付いてくれた。◆今回おさえておくべき疾患はコチラ!経口摂取や消化液の分泌により、毎日7.5Lの水分が消化管に流れ込む。小腸でほとんどの水分が吸収され、1.2Lの水分が大腸に到達する。大腸は1Lの水分を吸収するため、正常の便は200mLの水分を含む。したがって、大量の下痢は小腸に病変があることを示す1)急性下痢は感染症、慢性下痢は感染症以外で起こることが多い急性下痢では脱水になっていないかの評価が重要である就寝中に起こる下痢は器質的疾患の存在を示唆する大腸がんでは便秘のみならず下痢となることもある【STEP1】患者の症状に関する理解不足を解消させよう【STEP2】疾患の緊急性を見極める下痢は腸管以外の原因から考える。下痢の原因は腸管にあると考えがちだが、緊急性が高い腸管以外の疾患から考えるようにするとよい。●緊急性が高い“腸管以外”の疾患甲状腺クリーゼ、アナフィラキシー、トキシックショック症候群(TSS)、敗血症、腹膜炎、膵炎、薬剤●うんちしたい症候群(しぶり腹)大動脈瘤の切迫破裂、直腸がん、異所性妊娠、虚血性腸炎、炎症性腸疾患、細菌性大腸炎、急性虫垂炎、憩室炎、直腸異物*しぶり腹とは激しい便意にもかかわらず、ほとんど便が出ない状態*S状結腸や直腸に刺激が加わるとしぶり腹になる●血便が出る感染性下痢症腸管出血性大腸菌、赤痢菌、サルモネラ、カンピロバクター、赤痢アメーバ【分類】■急性下痢(1)炎症性(大腸型)下痢腸管出血性大腸菌、赤痢菌、サルモネラ、カンピロバクター、赤痢アメーバ*発熱、少量頻回(8~10回/日)の血性下痢、しぶり腹(2)非炎症性(小腸型)下痢ノロウイルス、ロタウイルス、コレラ、ウェルシュ、ランブル鞭毛虫*軽度の発熱、多量の水様下痢(3~4回/日)、悪心嘔吐、脱水■慢性下痢2)(1)浸透圧性下痢乳糖不耐症、下剤*乳糖不耐症は大人になって起こることがある*絶食により下痢は軽快する(2)炎症性下痢炎症性腸疾患、顕微鏡的大腸炎、放射線照射性腸炎、好酸球性腸炎、悪性腫瘍(大腸がん、悪性リンパ腫)*NSAIDsやプロトンポンプ阻害薬は顕微鏡的大腸炎を起こす*炎症性腸疾患は30~40代で多く、顕微鏡的大腸炎は70~80代に多い。(3)吸収不良症候群慢性膵炎、small intestinal bacterial overgrowth(SIBO、小腸内細菌異常増殖症)、短腸症候群*脂肪便は悪臭を伴い、便器に付着したり水に浮いたりする(4)分泌性下痢神経内分泌腫瘍(カルチノイドやVIPoma)、胆汁酸による下痢(5)腸管運動の異常過敏性腸症候群、糖尿病、甲状腺機能亢進症、強皮症(6)慢性感染症ランブル鞭毛虫、アメーバ赤痢、Clostridium difficile【STEP3】検査で原因を突き止める●急性下痢のほとんどは自然治癒するので検査は不要●以下の症状があれば検査が必要発熱(38.5℃超)、血便、脱水、ひどい腹痛、免疫力が低下している、高齢者(70歳超)、衛生状態が悪い外国から帰国症状に応じて血算、生化学、ヘモグロビン、便中白血球、便培養、CD毒素/抗原、寄生虫、大腸カメラを考慮する。●薬が原因の下痢は多い(薬剤性下痢)化学療法薬、抗菌薬、NSAIDs、アンギオテンシンンII受容体拮抗薬(とくにオルメサルタン)、プロトンポンプ阻害薬、ジゴキシン、メトホルミン、コルヒチン、ジスチグミン*、人工甘味料、アルコール*ジスチグミン(商品名:ウブレチド)はコリン作動性クリーゼを起こす<参考文献>1)Mansoor AM. Frameworks for Internal Medicine. p.176-197.2)Alguire PC, et al. MKSAP18 Gastroenterology and Hepatology. 2018. p.26-35.

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