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周囲でもポツリポツリと陽性者がこんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。1月7日に緊急事態宣言が出せれてからまもなく3週間が経とうとしています。東京都の1日当たりの陽性者数は1月26日時点で1,026人と、2,000人を超えた1月7~9日と比べるとずいぶん落ち着いて来たようには見えます。しかし、街の賑わいは変わらず、変異ウイルスの伝播も考えられるため、そうは簡単に500人レベルまでは下がらない気もします。さて、私の周囲でもポツリポツリと陽性者が出ています。症状があったにもかかわらず、最初に民間の検査を受けてしまった友人(Aさん、都内在住)のケースが興味深かったので、本人の了解を得たうえで紹介します。発熱相談センターにつながらず民間検査へAさんは50代の男性。正月明けの1月5日に寒気、喉の痛み、発熱の症状が出ました。「これはコロナかも?」と思い、東京都発熱相談センターに電話したのですが、まったくつながりません。ちょうど東京都の患者数が激増していた頃で、発熱相談センターもパニックになったいたのかもしれません。幸い症状は軽く、重症化する感じもなかったので、この日はそのまま様子を見ることにしました。翌1月6日、熱がさらに上がり、症状も悪化してきたため、止むなくマスコミでも大きく報道された、木下グループが運営する「新型コロナPCR検査センター」新宿店をネットで予約しました。同センターは新橋、新宿の2店舗ありますが、新宿店のほうが空いていたそうです。それでも最短の予約日は1月9日でした。検査当日、Aさんは山手線で新宿に向かい、歌舞伎町の入り口近くにある新宿店で検査を受けました。方法は、店内のブースで採取セットを使って自分で唾液を採取し、提出する、というものです。Aさんによれば「店舗のスペースは小さな立ち食いそば屋くらい。狭くて外に検査待ちの行列ができていた」とのことです。症状が出て、陽性が疑われる人間が公共交通機関を使って繁華街にある検査所に行く、という行為は少々責められるべきかもしれませんが、都の発熱相談センターにアクセスできなかったのですから、ここは大目に見てあげたいところです。検査料金は3,190円(税込)と激安だったそうです。未承認の研究用試薬で料金圧縮か同センターのWebサイトには、検査について次のように説明されています。「厚生労働省健康局結核感染症課及び国立感染症研究所が、『臨床検体を用いた評価結果が取得された2019nCoV遺伝子検査方法について(2020年9月30日版)』として公表している中で、感染研法との陽性一致率及び陰性一致率を求めた結果が、陽性一致率及び陰性一致率ともに100%である製品となります。本検査は、この製品を用いたリアルタイムPCR法による遺伝子検査を行います」。試薬は東洋紡の「SARS-COV-2 Detection Kit Multi NCV-403」。医薬品医療機器等法に基づく体外診断用医薬品としての承認を受けていない研究用試薬です。東洋紡のWebサイトでは100回用セットが9万8,000円となっており、そうしたところで料金の低廉化を図っているのかもしれません。なお、民間のPCR検査としては、一部の診療所が自費検査を実施していますが、料金の相場は2〜3万円と高額です。本連載の「第12回 夏本番!冷やし中華ならぬ『抗体検査始めました』の怪」でも書きましたが、最近はPCR検査も「外来患者が減った医療機関にとっては、割のいい“臨時収入”」となるため、導入するところが増えています。しかし、そうした医療機関に限って、東京都発熱相談センターからの紹介患者を受ける「新型コロナ外来」には協力してないという話も聞きます。それはそれで問題と言えそうです。「陽性2、陰性2だから、まだわからないな」さて、Aさんの検査結果は翌10日24時(11日0時)までに新型コロナPCR検査センターからメールで届くことになっていました。検査後は自宅にこもって療養していたAさんに結果が届いたのは、10日の23時過ぎでした。結果は「感染が疑われる結果となりました」。予想はしていたもののショックを受けたAさんでしたが、その5分後に再び届いたメールで混乱に陥ります。同じセンターから今度は、「結果は、陰性となりました」という内容が届いたのです。Aさんはすぐさま同センターに対し、「どちらが正しいのか? 検査結果に不備があるなら返金してほしい」とメールで質問しました。すると、約30分後に「記載に不備があり、大変申し訳ございません。訂正して、再送させていただきます。結果は陰性となりました」というメールが届きました。この時点で「ひとまず安心」と思ったAさんですが、さらにその30分後。今度は「お詫び」というタイトルでメールが届きました。なんと4通目です。その内容は「システム上に不備があり、急ぎ、代替システムを使用する過程において誤動作がありました。正しい情報は『感染が疑われる結果となりました』です」というものでした。この時点で、怒りを通り越して呆れたAさんは、「陽性2通、陰性2通だから、まだわからないな」と考えることにし、お酒を飲んで寝てしまったそうです。なお、12日の夜、再び「念のため再度送ります。感染が疑われる結果となりました」という旨のメールが届いたため、同センターの結果は「3対2で陽性有利」となったそうです。結局、近所の「新型コロナ外来」へシステム上の不備とはいえ、このドタバタはちょっとひどいですね。おそらく、この日の同センターの結果報告の混乱はAさんだけではなく、相当数の被害者がいたに違いありません。11日朝、Aさんは私に怒りの電話をしてきました。「3,000円をドブに捨てた。どうしたらいいか?」と聞かれたので、「根気よく都の発熱相談センターに連絡し、つながったら『民間検査で陽性になった。近所で検査してもらえる医療機関を紹介してくれ』と相談したら」とアドバイスしました。結果、その日の夕方に何とか電話がつながり、Aさんは翌12日朝に、近所の診療所で検査を受けられることになりました。診療所から検査結果を伝える電話が来たのは14日の夕方で、「陽性でした。保健所からの連絡を待って下さい」と言われました。保健所から連絡が来たのはそのまた2日後の16日の夕方でした。この間、咳がひどくなったり、倦怠感が続いたりはしましたが、とくに重症化することなく徐々に軽快していったAさん。保健所の担当者からも「(医師と相談した結果)発症から10日以上経って、軽快されているので、もう自宅療養も解除していいです」と言われ、一件落着となったとのことです。Aさんは「最初から近所の診療所に行けばよかった」と後悔しきりでしたが、東京都は埼玉県のように公費(行政検査)でPCR検査をする「新型コロナ外来」がある医療機関名を公開していません(基本、発熱相談センターの担当者が必要と判断した場合のみ、医療機関名を教える仕組みになっています)。そのあたりも今後、改善の余地がありそうです。急拡大する民間PCR検査マーケット1月16日付の日本経済新聞の「民間検査 医療機関と連携」という記事によれば、「厚生労働省は新型コロナウイルスの検査で、民間検査機関に医療機関との連携を促す。現在は結果が陽性でも医療機関に連絡が届かず、患者の治療や隔離が進まない場合がある。感染症法の改正で医療機関との連携を国が勧告できるようにする」とのことです。この記事では「日本経済新聞社の調べによると、木下グループやソフトバンクグループなど主要4社の1日あたりの検査可能件数は2月末に計7万5,000件になる見通しで、12月末比で3倍強に膨らむ」と民間検査会社の急拡大も報じています。民間検査会社と医療機関を連携させることは妥当な対策だとは思いますが、システムがぐちゃぐちゃで、陰性か陽性もはっきりしない、利用者を混乱させるだけの結果しか出せない企業も存在することを考えると、安易に結果だけを医療機関と連携しても、混乱がさらに増すだけのような気もします。幸い私の友人は軽症で済みましたが、万が一重症化していたら、このケースは事件になっていた可能性もあります。民間検査会社に対しては、単に検査の精度向上を求めるだけではなく、全体の運用についても、相応の監視システムやレギュレーションが必要ではないかと切に感じたお正月の出来事でした。