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ペリー症候群〔Perry syndrome〕

1 疾患概要■ 概念・定義ペリー症候群は、パーキンソニズム、うつ・アパシー、原因不明の体重減少、中枢性呼吸障害を来す常染色体優性の家族性パーキンソン病である。ペリー症候群はDCTN1遺伝子が原因遺伝子であり、病理学的にはTAR DNA-binding protein 43(TDP-43)プロテイノパチーに分類される1,2)。■ 疫学ペリー症候群は、世界でこれまでに20家系を超える報告があり、世界中に分布しているが、わが国からは5家系の報告がある。うち4家系は九州にみられるが、それぞれの変異は異なる。他の家族性パーキンソン病と比較しても、まれな疾患である。■ 病因ペリー症候群は、DCTN1遺伝子が原因遺伝子であり、DCTN1はダイナクチン複合体の最も大きなサブユニットであるp150gluedをコードする。ダイナクチン複合体は微小管に沿って細胞内輸送を行い、ペリー症候群の遺伝子変異はp150gluedの微小管結合部位あるいはその近傍に認める1)。培養細胞研究ではペリー症候群遺伝子変異を過剰発現させた細胞で微小管結合能低下が報告されている3)。病理学的検討によりパーキンソニズムは黒質のドパミン神経細胞脱落と、うつは縫線核や青斑核の神経細胞脱落と、中枢性呼吸障害は延髄腹外側のpre-Botzinger complex(注:Botzingerのoはウムラウトが付く)の神経細胞脱落との関連が報告されている4,5)。体重減少については、視床下部の神経細胞減少との関連の可能性が報告されている4)。ペリー症候群はTDP-43プロテイノパチーに分類されるが、筋萎縮性側索硬化症や前頭側頭型認知症とはTDP-43凝集体の分布が異なり、ペリー症候群では脳幹部、基底核に局在するTDP-43病理がみられる。また、TDP-43凝集体は、neuronal cytoplasmic inclusions(NCIs)、neuronal intranuclear inclusions(NIIs)、dystrophic neurites(DNs)、axonal spheroids、oligodendroglial cytoplasmic inclusions(GCIs)、perivascular astrocytic inclusions(PVIs)に分類され、筋萎縮性側索硬化症や前頭側頭型認知症ではNCIsやGCIsが多くみられるが、ペリー症候群ではNCIsやDNs、PVIsが多くみられる2)。ペリー症候群のTDP-43凝集体の電子顕微鏡像も筋萎縮性側索硬化症や前頭側頭型認知症とは異なり、アルツハイマー病に類似している。筆者らの検討では、ペリー症候群脳ではさらにダイナクチン蛋白凝集もみられたが、これらは筋萎縮性側索硬化症や前頭側頭型認知症ではみられなかった2)。以上よりペリー症候群は、筋萎縮性側索硬化症や前頭側頭型認知症とは病理学的特徴が異なり、新たなTDP-43プロテイノパチーといえる。■ 症状・予後ペリー症候群は、パーキンソニズム、うつ・アパシー、原因不明の体重減少、中枢性呼吸障害の4徴候が特徴である。ペリー症候群は、孤発性パーキンソン病と比較して若年発症で経過が早く、わが国のペリー症候群の発症年齢は48歳前後で(範囲:35~70歳)、罹患期間が約5年(範囲:2~12年)である。筋強剛、動作緩慢、姿勢保持障害がみられ、体重は半年単位で10kg以上の減少がみられる症例が多い。うつやアパシーが高頻度でみられ、うつは重症であることが多い。睡眠障害の合併もみられ、不眠、中途覚醒の頻度が多い。夜間に呼吸不全に陥る症例が多く、死亡原因は呼吸不全、肺炎、自殺、突然死などである。認知機能障害や前頭葉症状、自律神経障害、嚥下障害、垂直性の眼球運動制限などの眼球運動障害の報告もある1)。これまでの家系報告では家系間において類似した臨床症状、臨床経過を呈すると報告されてきたが、大牟田家系(F52L変異)では他の家系と比較し、発症年齢が高く、進行も緩徐である1,3)。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)■ 検査頭部MRIで特異的な所見を示さないことが多いが、進行期に前頭葉萎縮を示す症例や脳血流SPECT検査で前頭葉に血流低下を認める症例もある1)。ドパミントランスポーターシンチグラフィやMIBG心筋シンチグラフィーでの取り込み低下の報告もある1,3)。■ 遺伝学的検査2009年に筆者らとメイヨー・クリニック(米国)のグループによりDCTN1原因遺伝子変異が発見され、現在までに9つの遺伝子変異(p.F52L、p.K56R、p.G67D、p.G71A、p.G71E、p.G71R、p.T72P、p.Q74P、p.Y78C)が報告されている。ペリー症候群の診断においてDCTN1遺伝子変異の検出が必要であるが、遺伝学的検査施行に先立って遺伝カウンセリングを行う必要がある。■ 鑑別診断他の遺伝性パーキンソン病や進行性核上性麻痺、MAPT変異を伴う前頭側頭葉変性症などが鑑別となる。病初期においては孤発性パーキンソン病と鑑別が困難な症例も存在する1,3)。垂直性眼球運動障害を呈するペリー症候群患者の症例もあり、進行性核上性麻痺との鑑別が必要である1)。わが国から、MAPT変異を伴う前頭側頭葉変性症患者で、ペリー症候群患者でみられる4徴候を呈した症例が報告されたが、剖検脳ではTDP-43病理はみられなかった6)。■ 診断基準筆者らは診断基準を作成した1)。作成した診断基準を次に示す。確実例は、(1)パーキンソニズムとパーキンソニズムの家族歴または中枢性の低換気や無呼吸の家族歴を伴い、DCTN1遺伝子変異を認める症例、(2)ペリー症候群の4徴候を認め、DCTN1遺伝子変異を認める症例、(3)ペリー症候群の4徴候を認め、神経病理学的検討で黒質の神経細胞死とTDP-43病理を認める症例である。ただし、DCTN1遺伝子変異以外の遺伝子変異がみられる場合は、黒質の神経細胞死とTDP-43病理を認めること、神経病理で他の神経変性疾患に特徴的な所見がみられた場合は、DCTN1遺伝子変異を検出する必要がある。ペリー症候群診断基準1)(A 症状)(主要症状(家族歴を含む)1)パーキンソニズム(動作緩慢、筋強剛、姿勢時振戦を含む振戦、姿勢保持障害のうち2つ以上の症状)2)うつまたはアパシー3)低換気や無呼吸などの呼吸障害(心疾患や呼吸器疾患に伴わない症状)4)原因不明の体重減少5)パーキンソニズムの家族歴または中枢性の低換気や無呼吸の家族歴支持症状1)5年以内の急速な症状の進行2)50歳未満の発症B 検査項目(遺伝子変異および病理所見)1)DCTN1遺伝子変異2)神経病理学的検討で黒質の神経細胞死とTDP-43病理(主に脳幹や基底核の神経細胞質内のTDP-43陽性の凝集体、神経細胞核やグリア細胞にTDP-43陽性凝集体が認められる)C 参考項目症状1)認知機能障害2)前頭葉症状3)眼球運動障害(垂直性の眼球運動制限など)4)自律神経障害5)睡眠障害検査所見1)頭部MRI/CTは正常もしくは前頭側頭葉の萎縮2)脳ドパミントランスポーターシンチグラフィで線条体への取り込み低下3)MIBG心筋シンチグラフィーで心筋への取り込み低下4)脳血流シンチグラフィーで前頭側頭葉の血流低下D 鑑別診断パーキンソン病、進行性核上性麻痺、MAPT変異を伴う前頭側頭葉変性症など<診断のカテゴリー>・確実1)主要症状の1)パーキンソニズムと5)パーキンソニズムの家族歴または中枢性の低換気や無呼吸の家族歴を伴い、検査項目の1)DCTN1遺伝子変異を認めること。2)主要症状の1)パーキンソニズム、2)うつまたはアパシー、3)低換気や無呼吸などの呼吸障害、4)原因不明の体重減少を伴い、検査項目の1)DCTN1遺伝子変異を認めるか、2)神経病理学的検討で黒質の神経細胞死とTDP-43病理を認めること。※DCTN1遺伝子変異以外の遺伝子変異もしくは神経病理で他の神経変性疾患に特徴的な所見がみられた場合は、検査項目の1)DCTN1遺伝子変異を認めるか、2)神経病理学的検討で黒質の神経細胞死とTDP-43病理を認めることの両方の基準を満たす必要がある。・ほぼ確実主要症状のすべての項目を満たす。・可能性がある主要症状の1)パーキンソニズムと5)パーキンソニズムの家族歴または中枢性の低換気や無呼吸の家族歴を伴い、支持症状の1)5年以内の急速な症状の進行または2)50歳未満の発症を認めること。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)L-dopa治療効果はほぼ全例にみられるが、孤発性パーキンソン病と比較して効果は乏しく、早期に運動合併症がみられる。孤発性パーキンソン病と同様にpundingや衝動制御障害の報告もある1)。うつに対して抗うつ薬などの薬物療法が考慮されるが効果は乏しい1)。中枢性呼吸障害に対しては、人工呼吸器管理が必要である。ペリー症候群患者で横隔膜ペーシングを導入した報告があり1)、人工呼吸器装着を回避できる画期的な治療法となる可能性がある。4 今後の展望ペリー症候群はパーキンソニズム、うつ・アパシー、原因不明の体重減少、中枢性呼吸障害の4徴候がみられ、DCTN1遺伝子が原因遺伝子で、病理学的にはTDP-43プロテイノパチーに分類される。筆者らは前述のようにペリー症候群の診断基準を作成し、臨床、病理、遺伝学的疾患概念としてペリー病への名称変更を提唱した1)。5 主たる診療科神経内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター ペリー症候群(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)1)Mishima T,et al. J Neurol Neurosurg Psychiatry. 2018;89:482-487.2)Mishima T, et al. J Neuropathol Exp Neurol. 2017;76:676-682.3)Araki E, et al. Mov Disord. 2014;29:1201-1204.4)Wider C, et al. Parkinsonism Relat Disord. 2009;15:281-286.5)Tsuboi Y, et al. Acta Neuropathol. 2008;115:263-268.6)Omoto M, et al. Neurology. 2012;78:762-764.公開履歴初回2018年07月24日

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気管切開の事故防止に向け提言 医療安全調査機構

 気管切開チューブ挿入患者のケアには常に注意を要するが、とくに気管切開術後早期*のチューブ交換時に、再挿入が困難になるリスクが高いことから、日本医療安全調査機構(医療事故調査・支援センター)では、この時期のチューブ逸脱・迷入による事故防止のための提言(医療事故の再発防止に向けた提言 第4号)を公表している(6月5日)。逸脱を防ぐための移動・体位変換時の注意事項や、逸脱・迷入が生じてしまったときの具体的対応などについて、以下の7つの提言が示された。*本提言では、気管切開孔が安定するまでの時期とし、気管切開術当日からおよそ2 週間程度と定義。そのうえで、「術後 2 週間を過ぎれば生じないということではない」と注意喚起している。 提言1(リスクの把握):気管切開術後早期(およそ 2 週間程度)は、気管切開チューブの逸脱・迷入により生命の危険に陥りやすいことをすべての医療従事者が認識する。 提言2 (気管切開術):待機的気管切開術は、急変対応可能な環境で、気管切開チューブ逸脱・迷入に関する患者ごとの危険性を考慮した方法で実施する。 提言3(気管切開チューブ逸脱に注意した患者移動・体位変換):気管切開術後早期の患者移動や体位変換は、気管切開チューブに直接張力がかかる人工呼吸器回路や接続器具を可能な限り外して実施する。 提言4 (気管切開チューブ逸脱の察知・確認):「カフが見える」「呼吸状態の異常」「人工呼吸器の作動異常」を認めた場合は、気管切開チューブ逸脱・迷入を疑い、吸引カテーテルの挿入などで、気管切開チューブが気管内に留置されているかどうかを確認する。 提言5 (気管切開チューブ逸脱・迷入が生じたときの対応)気管切開術後早期に気管切開チューブ逸脱・迷入が生じた場合は、気管切開孔からの再挿入に固執せず、経口でのバッグバルブマスクによる換気や経口挿管に切り替える。 提言6 (気管切開チューブの交換時期):気管切開術後早期の気管切開チューブ交換は、気管切開チューブの閉塞やカフの損傷などが生じていなければ、気管切開孔が安定するまで避けることが望ましい。 提言7(院内体制の整備):気管切開術後早期の患者管理および気管切開チューブ逸脱・迷入時の具体的な対応策を整備し、安全教育を推進する。 この提言は、医療事故調査制度のもと収集した院内調査結果報告書を整理・分析し、再発防止策としてまとめているもの。これまでに「中心静脈穿刺合併症」、「急性肺血栓塞栓症」、「注射剤によるアナフィラキシー」をテーマとした各号が公表されている。 今回の第4号では、同制度開始の2015年10月から2018年2 月までの期間に、同機構に提出された院内調査結果報告書607件のうち、「気管切開術後早期の気管切開チューブ逸脱・迷入に係る死亡事例」」として報告された5事例を分析。“死亡に至ることを回避する”という視点で、同様の事象の再発防止を目的としてまとめられている。■参考日本医療安全調査機構:医療事故の再発防止に向けた提言 第4号■関連記事注射剤のアナフィラキシーについて提言 医療安全調査機構中心静脈穿刺の事故防止に向けて提言公表 医療安全調査機構

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第5回 地域連携室とつながっています【はらこしなみの在宅訪問日誌】

在宅訪問専任薬剤師のはらこし なみです。担当ケアマネがいない方への訪問指示をもらう先日から、A病院受診の方と契約し訪問しています。要支援ですが、介護サービスを利用していないため、担当ケアマネさんがいません。高齢者専用住宅に入居されており、そこのスタッフさんから相談がありました。息子さんは医薬業界の方だとか・・じいちゃん、お薬は持ってきてもらえるんだよ!と言われたそうです。A病院には地域連携室があり、そちらに連絡するとスムーズに話が進みました。月1回診療情報提供書をもらうこと、報告書の送付は直接医師に、などとともに医師の訪問指示を確認。薬局の書式を見たい、と言われたので「診療情報提供書・訪問依頼書」をFAXしました。人工呼吸器と腸ろうのALS患者さんを担当します話は変わって...。ALSの患者さんが自宅に戻る方向で調整が進んでいます。お薬をお届けする予定です。人工呼吸器を装着し、腸ろう...なかなか目にすることがありません。誤解を恐れずに言えば、とっても不安です...!!病院主催の緩和ケア勉強会で、この患者さんの話になりました。専門用語が飛び交う中、訪問看護師さんが「人工呼吸器を扱ったことがないので...」と発言し、(わたしもです!)と心の中で叫びました。「じゃ、勉強会したら?」と先生。勉強会への参加をお願いしました。気管切開の方を訪問しています訪問しているBさんは気管切開し、カニューレを装着しています。スピーチバルブを装着して喉のふるえで、音にします。私は全然聞き取れません(涙)Cさんも気管切開されており、訪問看護師さんがカニューレ交換をされますが、うぐぐ~ごぼ、ヒュー、ズボッ...。ゴメンナサイ、怖くて見ていられませんでした(涙)

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医師の政治信条、終末期治療に影響を及ぼすか/BMJ

 米国では、医師の政党支持は、全国規模の医療施策に関する見解の違いと関連することが知られている。米国・ハーバード大学医学大学院のAnupam B. Jena氏らは、医師の政党支持と入院患者への終末期治療の関連を検討し、支持政党の違いは終末期の支出や強化終末期治療の施行状況などに影響を及ぼさないことを示した。研究の成果は、BMJ誌2018年4月11日号に掲載された。医師の政党支持は、二極化した医療上の争点を反映した仮想的な臨床シナリオにおいて、治療の推奨と関連するとの報告があるが、医師の政治信条の終末期の治療への影響は、これまで知られていないという。支持政党別の終末期治療の違いを後ろ向きに検討 研究グループは、メディケア加入の入院患者への内科医による終末期治療を、支持政党別(共和党、民主党)に後ろ向きに比較する観察研究を行った(外部からの助成は受けていない)。 2008~12年の期間に、一般的な病態で入院し、その後病院で、または退院後早期に死亡したメディケア加入者のデータを収集した。 病院で死亡した患者および退院後にホスピスを紹介されたが30日以内の死亡リスクが高いと予測された患者における、総入院費、集中治療室の使用、強化終末期治療(挿管・人工呼吸器装着、気管切開、胃瘻管挿入、血液透析、経腸栄養、心肺蘇生)を主要アウトカムとした。医師は、連邦政治献金データを用いて共和党支持、民主党支持、支持政党なしに分類された。 解析の対象となった148万808例のうち、9万3,976例(6.3%)が1,523人の民主党を支持する医師に、5万8,876例(4.0%)が768人の共和党支持の医師に、132万7,956例(89.6%)は2万3,627人の支持政党なしの医師による治療を受けた。 5万1,621例(3.5%)が病院で死亡した。退院後30日、60日、90日以内の死亡は、それぞれ14万8,457例(10.0%)、21万1,604例(14.3%)、25万4,856例(17.2%)だった。早期死亡リスクの高い患者のホスピス入所率にも差はない 患者の人口統計学的および臨床的な背景因子は3群間でほぼ同様であった。平均年齢は、民主党支持の医師の治療を受けた患者が74.4歳、共和党支持の医師の治療を受けた患者は75.3歳(p=0.002)で、女性がそれぞれ58.8%、60.2%(p=0.002)、白人が80.1%、83.3%(p=0.002)であり、主な慢性疾患では高血圧が89.2%、90.2%(p=0.002)、急性心筋梗塞が68%、69.4%(p=0.03)などと有意な差がみられたものの、その差はわずかであり、一定の方向性もないため、重大な交絡因子となる可能性はないと考えられた。 民主党支持の医師は共和党支持の医師に比べ、平均年齢が若く(48.8 vs.51.0歳、p<0.001)、女性が多く(24.6 vs.14.7%、p<0.001)、米国の医学校の上位20校の卒業生が多かった(14.8 vs.6.4%、p<0.001)。支持政党なしの医師は、支持政党ありの医師に比べ平均年齢が若く(43.0歳、p<0.001)、女性が多く(36.8%、p<0.001)、上位20校の卒業生が少なかった(5.7%、p<0.001)。 患者の共変量と病院別の固定効果で調整後の終末期の平均支出は、民主党支持の医師が1万7,938ドル(1万2,872ポンド、1万4,612ユーロ、95%信頼区間[CI]:1万7,176~1万8,700ドル)、共和党支持の医師は1万8,409ドル(95%CI:1万7,362~1万9,456)であり、補正後群間差は472ドル(95%CI:-803~1,747ドル、p=0.47)と、有意な差は認めなかった。 病院で死亡した患者における終末期の集中治療室の使用(民主党支持の医師:52.5% vs.共和党支持の医師:54.6%、p=0.22)および強化終末期治療(38.0 vs.40.6%、p=0.14)には、医師の支持政党の違いによる差はみられなかった。 退院後にホスピスに入所した患者の割合にも、医師の支持政党による差はなかった。たとえば、退院後30日以内の予測死亡リスクが高い上位5%の患者7万4,048例の補正後ホスピス入所率は、民主党支持の医師の患者が15.8%、共和党支持の医師の患者が15.0%、支持政党なしの医師の患者は15.2%であった(民主党支持と共和党支持の補正後群間差:-0.8%、95%CI:−2.7~0.9%、p=0.43)。 著者は、「医師の政治的な好みによる、外来患者や、医療に関する政治的議論のある他の領域への影響を理解するために、さらなる検討を要する」としている。

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まず冷静にエビデンスを求める(解説:野間重孝 氏)-842

 わが国の救命救急士制度は米国の制度に倣う形で1991年に創設された。このモデルとされた米国のパラメディックには気管挿管が認められていたが、わが国では主として麻酔科学会の強い反対から許可されず、救命救急士は点滴、除細動、器具を使った気道確保だけが許可される形でスタートした。 ところが2001年に報道されたニュースにより、救命救急士の業務に対して大きな議論が巻き起こることになった。秋田県の消防では救命救急士が日常的に気管挿管を行っており、しかもそれが秋田県の消防の組織ぐるみの行為であることが明らかになったからだ。この問題の根は深く、その後の調査で、1996年から6年間にわたり、14の消防本部で心肺停止患者2,007人の8割、1,592人に気管挿管が行われていたことが明らかになるに至った。結局この問題はさまざまな議論の末、世論に押される形で2004年に「全身麻酔の臨床30例以上の成功」という条件付きで救命救急士の気管挿管が許可されることとなり、現在に至っている。 心肺停止患者蘇生時の気管挿管は、しばしば問題になる嘔吐への対応を容易にするだけでなく、心臓マッサージとの同期に必要以上気を使う必要もない。つまり、きちんと挿管されさえすれば、その後の作業がやりやすいのである。しかし同時に、これは救命救急士だけではなく医師も含めて、設備の整わない慌ただしい環境下での気管挿管には常に危険がつきまとうことも事実である。食道挿管や片肺挿管となっていて長時間気づかれなかったなどという、通常の臨床現場ではあり得ないような事故も決して珍しくはない。 この論文評を上記のような社会問題から書き起こしたが、このような救急処置の問題を論ずる場合には救命救急士がどうといった、「誰が」が問題なのではなく、エビデンスが問題なのであって、エビデンスがないならば医師でも行うべきではないという議論の方向こそ“まともな”議論の方向なのではないかと思うのである。評者には今世紀はじまりの一連の議論は、エビデンスがはっきりしないままの感情論であった気がしてならない(実は救急医学会では「気管挿管には救命率向上のエビデンスがない」という議論がむしろ主流だったともいわれる…)。 本論文の主旨はきわめて単純である。院外心肺停止患者約2,000例を対象として、バックマスクにより人工呼吸を行った場合と気管挿管を行った場合とで、28日後に神経学的な生存率を比較したもので、少なくとも気管挿管に優位性は見られなかったと結論したものである。研究の対象から統計学的に複雑な問題は発生しようがなく、著者らは謙虚に研究の限界を提示してはいるが、結果は明らかであろう。気管挿管にその後の操作上のメリットがあることは確かであるにせよ、たまたまきわめて気管挿管に熟練した術者が居合わせたといったまれなケースを例外として、心肺蘇生時の人工呼吸はバッグマスクで行うことが適当で、それが“医師であろうと救命救急士であろうと”原則無理な挿管は試みるべきではない、というのが結論であり、現場へのメッセージである。同時に、議論を蒸し返すようだが、エビデンスのない感情論には意味がないことを言外に教授したものといえる。 何か問題が起こったら頭を冷やして、冷静にエビデンスを求める。この当たり前のことを当たり前にやってみせた論文として、高く評価したい。

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敗血症性ショック、ステロイド2剤併用で死亡率低下/NEJM

 敗血症性ショック患者に対する検討で、ヒドロコルチゾン+フルドロコルチゾン投与はプラセボ投与と比較して、90日全死因死亡率が低いことが示された。フランス・Raymond Poincare病院のDjillali Annane氏らが、1,241例を対象に行った多施設共同二重盲検無作為化試験の結果を、NEJM誌2018年3月1日号で発表した。敗血症性ショックは、感染に対する宿主反応の調節不全が特徴で、循環異常、細胞異常、代謝異常を呈する。研究グループは、ヒドロコルチゾン+フルドロコルチゾンによる治療、または活性型drotrecogin αによる治療は、宿主反応を調節可能であり、敗血症性ショック患者の臨床的アウトカムを改善する可能性があるとの仮説を立てて、検証試験を行った。昇圧薬非使用日数、人工呼吸器非装着日数なども比較 試験は2×2要因デザインにて、集中治療室(ICU)の入院患者で、24時間未満に敗血症性ショックと診断された患者(疑い例含む)を対象に行われた。 対象患者を無作為に分け、ヒドロコルチゾン+フルドロコルチゾン療法、活性型drotrecogin α単独療法、これら3剤の併用療法、各療法に適合させたプラセボを投与した。 主要評価項目は、90日全死因死亡率。副次的評価項目は、ICU退室時および退院時、28日時点、180日時点の各時点における死亡率と、生存日数、昇圧薬非使用日数、人工呼吸器非装着日数、臓器不全の非発生日数とした。 同試験は、中途で活性型drotrecogin αが市場から撤退したため、その後は2群並行デザインで継続した。ヒドロコルチゾン+フルドロコルチゾン療法を行った群と、両薬を投与しなかったプラセボ群について比較分析した。ICU退室時死亡率・退院時死亡率は約6ポイント減少 試験に組み入れた被験者1,241例(ヒドロコルチゾン+フルドロコルチゾン群614例、プラセボ群627例)において、90日死亡率は、ヒドロコルチゾン+フルドロコルチゾン群が43.0%に対し、プラセボ群は49.1%と高率だった(p=0.03)。ヒドロコルチゾン+フルドロコルチゾン群の死亡に関する相対リスクは、0.88(95%信頼区間[CI]:0.78~0.99)だった。 また、ICU退室時死亡率も、プラセボ群41.0%に対しヒドロコルチゾン+フルドロコルチゾン群は35.4%(p=0.04)、退院時死亡率はそれぞれ45.3%と39.0%(p=0.02)、180日死亡率は52.5%と46.6%(p=0.04)で、いずれもヒドロコルチゾン+フルドロコルチゾン群が有意に低率だった。一方で28日死亡率については、38.9%、33.7%と、両群で有意差はなかった(p=0.06)。 28日目までの昇圧薬非使用日数は、プラセボ群が15日に対しヒドロコルチゾン+フルドロコルチゾン群は17日(p<0.001)、臓器不全非発生日数もそれぞれ12日、14日で(p=0.003)、ヒドロコルチゾン+フルドロコルチゾン群で有意に長かった。一方で人工呼吸器非装着日数は、それぞれ10日、11日と両群間で差はなかった(p=0.07)。 重篤有害事象の発生頻度は両群で同程度だったが、高血糖症の発生頻度がヒドロコルチゾン+フルドロコルチゾン群で高かった。

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敗血症性ショックに対するグルココルチコイドの投与:長い議論の転機となるか(解説:吉田 敦 氏)-813

 敗血症性ショックにおいてグルココルチコイドの投与が有効であるかについては、長い間議論が続いてきた。グルココルチコイドの種類・量・投与法のみならず、何をもって有効とするかなど、介入と評価法についてもばらつきがあり、一方でこのような重症病態での副腎機能の評価について限界があったことも根底にある。今回大規模なランダム化比較試験が行われ、その結果が報告された。 オーストラリア、英国、ニュージーランド、サウジアラビア、デンマークのICUに敗血症性ショックで入室し、人工呼吸器管理を受けた18歳以上の患者3,800例を、無作為にヒドロコルチゾン(200mg/日)投与群とプラセボ投与群とに割り付けた。この際、SIRSの基準を2項目以上満たすこと、昇圧薬ないし変力作用のある薬剤を4時間以上投与されたことを条件とした。ヒドロコルチゾンは200mgを24時間以上かけて持続静注し、最長で7日間あるいはICU退室ないしは死亡までの投与とした。ランダム化から90日までの死亡をプライマリーアウトカム、さらに28日までの死亡、ショックの再発、ICU入室期間、入院期間、人工呼吸器管理の回数と期間、腎代替療法の回数と期間、新規の菌血症・真菌血症発症、ICUでの輸血をセカンダリーアウトカムとし、原疾患による死亡は除いた。 患者の平均年齢は約62歳、外科手術が行われた後に入室した患者は約31%、感染巣は肺(35%)、腹部(25%)、血液(7%)、皮膚軟部組織(7%)、尿路(7%)の順であり、介入前の基礎パラメーターや各検査値に2群間で差はなかった。なおショック発症からランダム化までは平均約20時間、ランダム化から薬剤投与開始までは0.8時間(中央値)であり、ヒドロコルチゾンの投与期間は5.1日(中央値)であった。 まずプライマリーアウトカムとしての90日死亡率は、ヒドロコルチゾン投与群では27.9%(1,832例中511例)、プラセボ投与群では28.8%(1,826例中526例)であり、有意差はなかった。次いでセカンダリーアウトカムでは、ショックから回復するまでの期間も、ICU退室までの期間も、さらに1回目の人工呼吸器管理の期間もヒドロコルチゾン投与群で有意に短かった(それぞれ3日と4日、p<0.001、10日と12日、p<0.001、6日と7日、p<0.001)。ただし再度人工呼吸器管理が必要な患者もおり、人工呼吸器を要しなかった期間としてみると差はなかった。輸血を要した割合も前者で少なかったが(37.0%と41.7%、p=0.004)、その他、28日死亡率やショックの再発率、退院までの日数、ICU退室後の生存期間、人工呼吸器管理の再導入率、腎代替療法の施行率・期間、菌血症・真菌血症発生率に差はなかった。 これまでの検討では、グルココルチコイドは高用量よりは低用量のほうが成績がよかったものの、二重盲検ランダム化比較試験では一致した結果が得られなかった1,2)。現行のガイドラインでも“十分な輸液と昇圧薬の投与でも血行動態の安定が得られない例”に対し、エビデンスが弱い推奨として記載されている3)。本検討は、上記のランダム化比較試験よりも症例数がかなり増えているのが特徴であり、2群で比較が可能であった項目も多い。したがって、グルココルチコイド投与の目的—改善を目指す指標—をより詳しく評価できたともいえる。一方で21例対6例と少数ではあるが、グルココルチコイド群で副作用が多く、中にはミオパチーなど重症例も存在した。グルココルチコイドとの相関の可能性を含んで、この結果は解釈したほうがよいであろう。本検討は、これまでの議論の転機となり、マネジメントや指針の再考につながるであろうか。これからの動向に注目したい。

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敗血症性ショックへの低用量ステロイド、死亡率は低下せず/NEJM

 人工呼吸器を装着した敗血症性ショック患者において、低用量ステロイド(ヒドロコルチゾン持続静脈内投与)は、プラセボと比較し90日死亡率を低下させるという結果は得られなかった。オーストラリア・ニューサウスウェールズ大学のBalasubramanian Venkatesh氏らが、国際共同無作為化二重盲検プラセボ対照並行群間比較試験「ADRENAL(Adjunctive Corticosteroid Treatment in Critically Ill Patients with Septic Shock)試験」の結果を報告した。現在、敗血症性ショックに対する低用量ステロイド療法は、敗血症ガイドラインにおいてショックの離脱を目的とした投与は推奨されているが、エビデンスの質が低く推奨度は低い。死亡率低下については賛否両論が報告されていた。NEJM誌オンライン版2018年1月19日号掲載の報告。敗血症性ショック3,800例で、低用量ステロイドとプラセボの90日死亡率を比較 研究グループは、18歳以上で敗血症性ショックにより人工呼吸器を装着している患者を、ステロイド群(ヒドロコルチゾン200mg/日)またはプラセボ群に無作為に割り付け、7日間または死亡/ICU退室までそれぞれ投与した。主要評価項目は90日全死因死亡率で、ロジスティック回帰分析により解析した。 2013年3月~2017年4月に、3,800例が無作為化され、うち3,658例(ステロイド群1,832例、プラセボ群1,826例)が主要評価項目の解析対象となった。90日全死因死亡率は両群で有意差なし 90日時点で、ステロイド群27.9%(511例)、プラセボ群28.8%(526例)で死亡が認められた(オッズ比[OR]:0.95、95%信頼区間[CI]:0.82~1.10、p=0.50)。事前に定義された6つのサブグループ(入院の種類、カテコールアミン投与量、敗血症の主要部位、性別、APACHE IIスコア、ショックの期間)において、有効性は類似していた。 ショックからの離脱については、ステロイド群がプラセボ群より早かった(中央値[四分位範囲]で3日[2~5]vs.4日[2~9]、ハザード比[HR]:1.32、95%CI:1.23~1.41、p<0.001)。また、ステロイド群はプラセボ群と比較し、初回の人工呼吸器の使用期間が短かったが(6日[3~18]vs.7日[3~24]、HR:1.13、95%CI:1.05~1.22、p<0.001)、人工呼吸器の再装着を考慮すると、人工呼吸器から離脱した状態での生存日数に有意差は認められなかった。 ステロイド群ではプラセボ群と比較し、輸血を受けた患者が少なかったが(37.0% vs.41.7%、OR:0.82、95%CI:0.72~0.94、p=0.004)、28日死亡率、ショック再発率、ICU退室後の生存日数、退院後の生存日数、人工呼吸器の再装着、腎代替療法率、菌血症/真菌血症の新規発生率は、両群間に差はなかった。

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新型インフルエンザ対策の最前線

 2017年11月5日、厚生労働省は都内において、「新型インフルエンザ対策に関する研修」を開催した。当日は、新型インフルエンザの疫学、治療ガイドライン、感染対策、行政の動向について4名の演者による講演が行われた。急がれるH7N9ワクチン はじめに「鳥インフルエンザの疫学について」をテーマに小田切 孝人氏(国立感染研インフルエンザウイルス研究センター WHOインフルエンザ協力センター センター長)が、鳥インフルエンザの動向、最新の知見を解説した。 インフルエンザAタイプは人獣共通感染症であり、野生のツルやカモなどの水禽類が宿主となっている。このタイプは、ヒト、トリ、ブタ間でも感染し、現在トリではH5N1、H5N6、H7N9、H9N2が、ブタではH1N2v、H3N2vがヒトに感染することがわかっている。とくに患者数が多かったH5N1は、その数が減少する傾向にあるものの、高病原性ゆえに致命率は53%と高いという。 問題は、突然変異によるパンデミックポテンシャルをウイルスが持っていることであり、トリがこうしたウイルスを獲得していないかどうか、常に監視する必要があると警告する。 ワクチンについては、世界保健機関(WHO)がインフルエンザウイルスのリスト化とワクチン株の保存を行い、日本、米国、英国の施設で新型インフルエンザワクチン製造株を作製・提供を実施しており、中国でも開発中であるという。 その中国では、2013年より鳥インフルエンザ H7N9が流行。2017年8月31日時点で、1,531例の感染例(うち死亡604例)と高い致命率(39.5%)が報告された。また、旅行など人の移動が感染拡大を助長したこと、高齢者の感染例が多いことも報告された(H5N1は青年に多かった)。 H7N9は、飛沫感染する例も動物実験で報告され、ワクチンの開発が急がれているが、予防接種の免疫獲得が低いことや免疫細胞に認識されないなどの問題があり、現在も研究が続けられている。 最後に、日本で中国のようなアウトブレイクが起きるかどうかについて、「わが国の検疫対応をみると発生しないだろう」と現状からの予測を語り、レクチャーを終えた。新型インフルエンザには抗ウイルス薬の使用をためらわない 次に川名 明彦氏(防衛医科大学校 感染症・呼吸器内科 教授)が、「成人の新型インフルエンザ治療ガイドライン改訂の方向性について」をテーマに解説を行った。 2014年3月に現在の治療ガイドラインが発行され、現在は改訂(第2版)の最終段階であり、12月中には最新のガイドラインが発行されるとの見通しを述べた。 ガイドラインで示される治療の範囲は、入院診療の治療がメインとなり、とくに意識障害、肺炎の有無別による治療にページが割かれるという。また、予想される新型インフルエンザの臨床像は、過去のインフルエンザの事例、鳥インフルエンザの重症例、季節性インフルエンザの重症例などから検討され、インフルエンザ肺炎の中でも原発性、混合性、二次性の大きく3つに分けた治療が記されるという。 現在、日本で使用できる抗ウイルス薬には、オセルタミビル(商品名:タミフル)、ザナミビル(同:リレンザ)、ラニナミビル(同:イナビル)、ペラミビル(同:ラピアクタ)の4種がある。治療では、米国疾病管理予防センター(CDC)の原則に沿い、早期投与が勧められているほか、入院患者、2歳以下の小児、65歳以上の高齢者、循環器や代謝異常などの既往症、免疫抑制状態、妊婦(出産後2週間以内も含む)、病的肥満(BMI 40以上)、長期療養施設に入所など、ハイリスク患者には可能な限り早期に投与するとしている。 症状が、軽症、中等症、肺炎合併がない場合の新型インフルエンザの治療では、季節性インフルエンザと同じ治療としつつ、肺炎を合併した場合は、できるだけ早く抗ウイルス薬の投与を示している。とくに重症例ではペラミビルの選択、増量や投与期間の延長、ファビピラビル(同:アビガン)との併用も考慮するとしている(ただしファビピラビルは妊婦または妊娠している可能性のある婦人へは投与しない)。 新型インフルエンザ肺炎への細菌感染の合併例については、頻度の高いものとして肺炎球菌、黄色ブドウ球菌などのウイルス細菌混合性肺炎と、緑膿菌、アシネトバクターなどの二次性細菌性肺炎を挙げ、入院を要する症例ではただちに抗菌薬療法を開始する。そして抗菌薬の選択はガイドラインを参考に行い、病原体確定後に、より適切な抗菌薬へde-escalationすることとしている。その他の薬物療法として副腎皮質ステロイド薬は、ウイルス性肺炎では喘息合併に限り重症化を抑制するほか、細菌性肺炎では敗血症性ショック時の相対的副腎不全に低容量で有効とされている。また、マクロライド系薬は、細菌性肺炎の重症化例で予後を改善するとの報告がある。 肺炎時の呼吸管理では、人工呼吸を躊躇しないで使用するほか、悪化または改善がみられない場合は、特殊な人工呼吸法(ECMO)の導入やより専門的な施設への転送をするとしている。 インフルエンザ肺炎の重症度評価では、PSI、A-DROP、CURB-65などの市中肺炎の重症度評価法よりも、重症度が過小評価されることに注意が必要と指摘する。 最後に、川名氏は「“新型インフルエンザ”の病態は未知であるが、病原性の高いインフルエンザの出現を想定し、準備する必要がある。ガイドラインも、出現時にはウイルスの特徴に応じてただちに再検討する必要がある」とまとめ、レクチャーを終えた。感染対策は手指衛生と予防接種が大事 次に加藤 康幸氏(国立国際医療研究センター 国際感染症センター国際感染症対策室 医長)が、「感染対策について」をテーマに解説を行った。 インフルエンザの院内感染の特性は、新型も季節性も、新生児、骨髄移植患者、長期療養型病棟で致死率の高い流行を起こすことがあり、医療従事者においては患者からの感染と患者の感染源になるという2つのリスクがあると説明する。そして、新型インフルエンザ流行時には、感染被害の軽減と封じ込めの同時進行が必要であり、過去の拡大例を検証すると、医療従事者から患者への飛沫感染対策は重要であるという。 そして、医療機関における具体的な感染対策としては、「感染源対策」「患者・職員の健康管理」「感染経路の遮断」の3つが必要とされ、CDCの推奨でも予防接種、患者との接触を減らす、標準予防策の順守、飛沫予防策の順守、訪問者の制限なども掲げられ、実践されることが期待される。 とくに飛沫感染対策・咳エチケットとして、医療機関の入口での注意の掲示、1m以上の距離を隔てた待合用の座席、待合室の手近な場所への手指衛生設備の設置などが必要となる。同様に、医療スタッフへの指導では、個人防護具(手袋、ガウン、シールド付きサージカルマスクなど)の装着・脱着の研修は有効であるという。 最後に加藤氏は「院内感染対策では、手指衛生と(患者、医療従事者の)予防接種の2つが有効とされている。新型インフルエンザの対策も、季節性インフルエンザの延長にあると考え、流行に備えてもらいたい」と語り、解説を終えた。新型インフルエンザではWeb情報も活用を! 最後に、厚生労働省の海老名 英治氏(健康局結核感染症課 新型インフルエンザ対策推進室 室長)が「行政動向について」をテーマに、新型インフルエンザ対策の法令、ワクチンの備えに関して説明を行った。 新型インフルエンザへの対策は、水際での侵入阻止と早期封じ込めによる感染拡大の抑制と流行規模の平坦化、それと同時にワクチンの開発、生産、接種によって流行のピークを下げること、医療への負荷を減らすことであるという。 2012年5月に「新型インフルエンザ等対策特別措置法」が公布され(施行は2013年6月)、流行時の各種対策の法的根拠が明確化された。具体的には、体制整備として国・地方公共団体の行動計画や訓練、国民への啓発のほか、流行発生時の対策本部の設置、特定接種の指定などが決められ、「新型インフルエンザ等緊急事態」発生の際の措置では、外出自粛要請、興行場等の制限などの要請・指示、住民への予防接種の実施、医療提供体制の確保、緊急物資の運送の要請・指示などの規定が挙げられる。 また、国のインフルエンザ対策として、時間軸で海外発生期、国内発生早期、国内感染期、小康期の4つに区切り、各段階で(1)実施体制、(2)サーベイランス・情報収集、(3)情報提供・共有が行われると説明を行った。 現行の被害想定はいずれも最大数で、罹患者を人口の25%、医療機関受診者を約2,500万人、入院者を約200万人、死亡者を約64万人、欠勤者を従業員の約40%とし、抗インフルエンザウイルス薬の備蓄は人口の45%を目標としている(2017年7月時点の有識者会議で、全人口の25%が罹患するとして再検討されている)。また、「これら抗ウイルス薬の備蓄方針、季節性インフルエンザとの同時流行時の規模や重症患者への倍量・倍期間治療、予防投与についても、省内の厚生科学審議会で継続的に審議されている」と説明する。 最後に海老名氏は、「審議会などの新しい情報も厚生労働省のウェブサイトなどを通じて日々発信しているので、新型インフルエンザの対策ではこれらも参考に準備をしていただきたい」と述べ、説明を終えた。■参考厚生労働省 インフルエンザ(総合ページ)内閣官房 新型インフルエンザ等対策厚生労働省 セミナー当日の配布資料

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ARDSへの肺リクルートメント手技+PEEP最適化、その意義は?/JAMA

 中等症~重症の急性呼吸窮迫症候群(ARDS)患者において、肺リクルートメント手技+呼気終末陽圧(PEEP)の最適化は、従来の低PEEP管理と比較し、28日死亡率が有意に増加することが明らかにされた。ブラジル・HCor Research InstituteのAlexandre Biasi Cavalcanti氏らによる多施設共同無作為化臨床試験(Alveolar Recruitment for ARDS Trial:ART)の結果で、著者は「これらの患者では肺リクルートメント手技+PEEP最適化のルーチン使用は推奨されない」と述べている。ARDS患者において、肺リクルートメント手技+PEEP最適化が臨床アウトカムに与える影響は、これまで不明であった。JAMA誌オンライン版2017年9月27日号掲載の報告。中等症~重症ARDS患者約1,000例で、28日死亡率を評価 研究グループは2011年11月17日~2017年4月25日に、9ヵ国の集中治療室(ICU)120ヵ所における、発症後72時間以内かつ人工呼吸器管理中の中等症~重症ARDS患者1,010例を登録し、肺リクルートメント手技(一時的に気道内圧を高圧にして虚脱した肺胞を再開通させる)+最良の呼吸器系コンプライアンスに従ったPEEP最適化による実験的戦略(実験)群(501例)と、ARDSNetで推奨される低PEEP戦略を受ける対照群(509例)に、1対1の割合で無作為に割り付けた。他の呼吸器設定は統一され、全患者は人工呼吸器離脱まで従量式補助/調節換気(A/C)モードを受けた。 主要アウトカムは28日間の全死因死亡率、副次アウトカムはICU在室期間、在院日数、28日間で人工呼吸器が未使用だった期間、7日以内のドレナージを要した気胸、7日以内の圧外傷、ICU死亡率、院内死亡率、6ヵ月死亡率とした。統計には、Cox比例ハザードモデルを用いてintention-to-treat解析が実施された。実験群で28日死亡率、6ヵ月死亡率、気胸・圧外傷リスクが増加 登録された1,010例の患者背景は、女性37.5%、平均(±SD)年齢50.9(±17.4)歳であった。 28日時点において、実験群で501例中277例(55.3%)、対照群で509例中251例(49.3%)が死亡した(ハザード比[HR]:1.20、95%信頼区間[CI]:1.01~1.42、p=0.041)。対照群と比較して実験群では、6ヵ月死亡率の増加(65.3% vs.59.9%、HR:1.18、95%CI:1.01~1.38、p=0.04)、人工呼吸器未使用期間平均日数の減少(5.3 vs.6.4、群間差:-1.1、95%CI:-2.1~-0.1、p=0.03)、ドレナージを要した気胸リスクの増加(3.2% vs.1.2%、群間差:2.0%、95%CI:0.0%~4.0%、p=0.03)、および圧外傷リスクの増加(5.6% vs.1.6%、群間差:4.0%、95%CI:1.5%~6.5%、p=0.001)が認められた。ICU在室期間、在院日数、ICU死亡率および院内死亡率は、両群で有意差は認められなかった。

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脊髄性筋萎縮症患児の命を救う新薬登場

 バイオジェン・ジャパン株式会社は、脊髄性筋萎縮症治療薬ヌシネルセンナトリウム(商品名:スピンラザ髄注)のわが国での承認に寄せ、2017年7月19日、都内でメディアセミナーを開催した。 脊髄性筋萎縮症(SMA)は、進行性の運動ニューロンの脱落を特徴とする疾患で、筋萎縮や筋無力を引き起こす希少疾病である。とくに乳児の重症型では1歳まで生きることができないとされる。 セミナーでは、本症診療の概要とヌシネルセンナトリウムの特徴について解説が行われた。型で異なるSMAの臨床像 はじめに齋藤 加代子氏(東京女子医科大学附属遺伝子医療センター 所長・特任教授)が「脊髄性筋萎縮症の臨床・病態・治療」をテーマに講演を行った。 SMAは、脊髄前角細胞変性による筋萎縮と進行性筋力低下を特徴とする下位運動ニューロン病であり、I~IV型の4型に分類される。・I型(重症型)は、生後6ヵ月までに発症し、生涯呼吸器の補助が必要となる。臨床像としては、体が柔らかく、手・足・首がダランと垂れたり筋肉が萎縮する。成長後の最高到達運動機能では座位ができない。・II型(中間型)は、生後1歳6ヵ月までに発症し、生涯車椅子が必要となる。臨床像としては、痩せや食事ができない。筋肉の萎縮や背骨が曲がるなどがあるが、知性には問題はないとされる。成長後の最高到達運動機能では立位ができない。・III型(軽症型)は、生後1歳6ヵ月以降で発症し、次第に歩行が難しくなり思春期のころには車椅子が必要となる。臨床像としては、足がX脚で、閉じると不安定になる。体幹の筋肉が弱く、立位ではお腹を突き出す姿となる。成長後の最高到達運動機能では単独での立ち上がりや歩行ができない。・IV型(成人型)は、20歳以降で発症する。SMAの早期の診断で命を救う治療へ SMAの診断では、厚生労働省特定疾患調査研究班による診断基準が使用され、下位運動ニューロン症候、腱反射減弱から消失などの臨床所見、血清CK値が正常上限の10倍以下、筋電図で神経原性所見の認知などの検査所見、筋萎縮性側索硬化症などとの鑑別診断、SMN1遺伝子の欠失などの遺伝学的検査の4項目の総合的見地から診断される(難病や小児慢性疾患の認定でも使用される)。 治療としては、呼吸の維持・管理や栄養状態の管理、可動域の維持のための理学療法、脊柱固定術などの外科手術といった対症療法が行われる。とくに乳幼児では、排痰ができないために肺炎になりやすく、気管切開や人工呼吸器設置を含め呼吸管理は重要だという。 今回承認されたヌシネルセンナトリウムは、乳幼児型SMAに対して適応があり、完全に機能するSMNタンパク質の産生を増やすことで筋萎縮などの症状を抑えるものである。治療は、主に小児専門医(とくに小児神経専門医)が担うことになり、髄注という高度な手技が要求される治療薬であるが、髄液検査に習熟した医師であれば、手技は問題ないという。 最後に齋藤氏は、「本症の診断は比較的つきやすく、早く治療介入すれば、患児の生命を救うことができる。医師が早く本症を診断できることに期待したい」と抱負を述べ、レクチャーを終えた。ヌシネルセンナトリウムは髄注で投与 続いて、飛田公理氏(同社メディカル本部 希少疾患領域 部長)が、ヌシネルセンナトリウムの特徴を説明した。 本剤は、SMN2mRNAを標的とするアンチセンスオリゴヌクレオチドで、完全長の機能性SMNタンパク質を増加させる特性を持つ。投与法は、腰椎穿刺により髄腔内の脳脊髄液に直接投与する。初回投与後、2週、4週、9週で投与し、以降は4ヵ月間隔で投与を継続する。国際共同第III相臨床試験(ENDEAR試験)では、乳児型SMA患児121例(うち日本人3例)で実施され、運動発達の目標(たとえば転がる、這う、立つなど)達成は対照群0%と比べ51%であった。また、生存率についても対照群61%に比べ84%と有意な臨床効果を有していたという。副作用については、11.3%に発現があったが重篤なものはなく、発熱、頻脈、貧血母斑などが報告されていた。 本剤の保険収載は、8月末ごろの予定。現在遅発型SMAについても申請に向け作業を進めている。■参考SMA特設サイト(バイオジェン・ジャパン株式会社提供)SMA患者登録システムSMART(SMARTコンソーシアム)

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レボシメンダン、心臓手術後の循環動態補助の上乗せ効果なし/NEJM

 心臓外科手術で循環動態の補助を必要とする患者において、標準治療に低用量のlevosimendanを追加しても、30日死亡率はプラセボと同等であることを、イタリア・ビタ・サルート・サンラファエル大学のGiovanni Landoni氏らが、周術期左室機能不全患者を対象に、標準治療へのlevosimendan追加により死亡率が低下するかどうかを検証したCHEETAH試験の結果、報告した。急性左室機能不全は心臓外科手術の重大な合併症であり、死亡率上昇と関連している。これまで、小規模試験のメタ解析では、levosimendanは他の強心薬と比較して心臓外科手術を実施した患者の生存率を上昇させる可能性が示唆されていた。NEJM誌オンライン版2017年3月21日号掲載の報告。標準治療+levosimendanの有効性、対プラセボで評価 CHEETAH試験は、2009年11月~2016年4月にイタリア、ロシア、ブラジルの14施設で実施された多施設共同無作為化二重盲検プラセボ対照試験である。 対象は、術前の左室駆出率が25%未満または機械的な循環動態の補助を必要とする周術期心血管機能不全患者で、標準治療+levosimendan(0.025~0.2μg/kg/分、持続静注)群、または標準治療+プラセボ群に無作為に割り付け、それぞれ最長48時間または集中治療室(ICU)入室から退室まで投与した。 主要アウトカムは30日死亡率で、統計解析はintention-to-treat集団で実施した。主要アウトカムの30日死亡率は12.9% vs.12.8%で有意差なし 本試験は、506例(levosimendan群248例、プラセボ群258例)が登録された段階(当初予定の50%)での解析で、試験続行の無益性が確認されて中止となった。試験の計画段階での予想死亡率は、プラセボ群10%、levosimendan群5%であった。 解析の結果、30日死亡率は、levosimendan群32例(12.9%)、プラセボ群33例(12.8%)で、両群間に有意差は認められなかった(絶対リスク差:0.1%、95%信頼区間[CI]:-5.7~5.9、p=0.97)。 人工呼吸器使用期間中央値(levosimendan群19時間、プラセボ群21時間、群間差:-2時間、95%CI:-5~1、p=0.48)、ICU在室期間中央値(それぞれ72時間および84時間、群間差:-12時間、95%CI:-21~2、p=0.09)、入院期間中央値(14日および14日、群間差:0日、95%CI:-1~2、p=0.39)も、両群で有意差は確認されなかった。また、低血圧や不整脈の割合も両群で差はなかった。

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小児/青年ICU患者の急性腎障害、重症度と死亡リスク/NEJM

 小児集中治療室に入院中の重症小児・若年成人において、急性腎障害(AKI)の発症頻度は高く、死亡率増加など予後不良と関連している。米国・シンシナティ小児病院のAhmad Kaddourah氏らによる、国際共同前向き疫学研究(Assessment of Worldwide Acute Kidney Injury, Renal Angina, and Epidemiology:AWARE)の結果、明らかになった。結果を踏まえて著者は、「ICU入室時には急性腎障害の系統的な検査が必要である」と強調している。小児および若年成人におけるAKIの疫学的特徴は、これまで単施設および後ろ向き研究で示されてきたが、AKIの定義や重症度などが異なり一貫した結果は得られていなかった。NEJM誌オンライン版2016年11月18日号掲載の報告。ICU入室の小児・若年成人を前向きに追跡しAKI発症を調査 研究グループは、2014年の連続した3ヵ月間に、アジア、オーストラリア、欧州、北米の小児ICU、32施設に、48時間以上入室した生後3ヵ月~25歳の全例について前向きに調査した。AKIの確定診断には、Kidney Disease:Improving Global Outcome criteria(KDIGO診断基準)を使用し、ステージ2および3(血清クレアチニンがベースラインの2倍以上、もしくは尿量0.5mL/kg/時未満が12時間以上持続)を重症AKIと定義して、ICU入室の最初の7日間におけるAKIを評価した。 主要評価項目は28日死亡率、副次的評価項目はICU在室期間、人工呼吸器使用の有無および期間、腎代替療法の実施などであった。ICU入室後7日間で27%がAKIを発症、重症AKIでは死亡リスクが約2倍に 解析対象は4,683例で、このうち1,261例(26.9%、95%信頼区間[CI]:25.6~28.2)がAKIを発症した。 重症AKIは543例(11.6%、95%CI:10.7~12.5)で発症が認められた。16の共変数を補正後、重症AKIは28日までの死亡リスクを有意に増加させることが確認された(補正オッズ比:1.77、95%CI:1.17~2.68、p<0.001)。死亡は、重症AKI患者で543例中60例(11.0%)に対し、非重症AKI患者では4,140例中105例(2.5%)であった(p<0.001)。 重症AKIは、人工呼吸器や腎代替療法の利用増加とも関連していた。また、AKIの重症度に応じて、28日死亡率が段階的に増加した(log-rank検定によるp<0.001)。尿量減少患者の67.2%は、血清クレアチニン値のみによるAKIの評価ではAKIと診断できなかった。

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急性心筋梗塞後の心原性ショックに対する循環サポートの比較―Impella vs.IABP

 治療の進歩にもかかわらず、急性心筋梗塞による心原性ショックの死亡率は依然高いままである。短期間の循環補助デバイスは急性期の血行動態を改善するもので、大動脈内バルーンパンピング(IABP)は過去数十年にわたって最も広く使用されてきたが、急性心筋梗塞後の心原性ショックに対する有用性は、大規模ランダム化試験では明らかになっていない。一方、Impellaは新しい循環補助デバイスで、IABPよりも強力な血行動態の補助をもたらす。今回、オランダの施設が、急性心筋梗塞後の心原性ショックに対して、IABPとImpellaの前向きランダム化比較試験を実施した。Journal of the American College of Cardiology誌オンライン版2016年11月号に掲載。IABPもしくはImpella CPを使用し、30日後の死亡率を比較 本研究は多施設共同による、オープンラベル前向きランダム化試験で、48例の急性心筋梗塞に伴う重症心原性ショック患者をImpella CP(24例)とIABP(24例)に割り付け、Impella CPがIABPと比較して、ST上昇急性心筋梗塞による心原性ショックを有する患者の30日での予後を改善するかを評価する目的として行われた。 Impellaには、Impella 2.5(最高拍出量2.5L/分)、Impella CP(最高拍出量3.7L/分)、Impella 5.0、Impella LD(共に最高拍出量 5.0L/分)などがあるが、今回は、大腿動脈から経皮的に標準的なカテーテル操作で留置可能で、より高い心拍出量を生みだすImpella CPが用いられた。 なお、収縮期血圧が90mmHg未満、強心剤あるいは血管作動薬を必要とし、人工呼吸器が必要となった場合を、重症心原性ショック状態と定義した。主要評価項目は、30日以内の全死亡率とした。また、全例においてprimary PCI(経皮的冠動脈形成術)が施行された。30日後の死亡率は両群で同等 30日後の時点で、IABP、Impella CP両群における死亡率は同等であった(50% vs.46%、ハザード比[HR] :Impella CP群で0.96、95%信頼区間[CI]:0.42~2.18、p=0.92)。6ヵ月の時点では、Impella CP群およびIABP群の死亡率は、共に50%であった(HR:1.04、95%CI; 0.47~2.32、p=0.923)。なお、IABP群のうち3例において、無作為化後にImpellaへのアップグレードが行われている。 急性心筋梗塞後に人工呼吸器を必要とする心原性ショックを発症した患者を対象とした本研究では、ルーチンにImpella CP を使用した治療は、IABPと比較して、30日での死亡率を減少させなかった。筆者らは、本研究は小規模であり、Impellaの本当の価値を評価するにはより大規模なランダム化試験が必要だとしている。(カリフォルニア大学アーバイン校 循環器内科 河田 宏)原著論文Ouweneel DM, et al. J Am Coll Cardiol. 2016 Oct 27.[Epub ahead of print]関連コンテンツ循環器内科 米国臨床留学記

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高リスク抜管後患者への高流量酸素療法、NIVに非劣性/JAMA

 高リスクの抜管後患者に対する高流量鼻カニューレ酸素療法は、再挿管および呼吸不全の予防に関して非侵襲的人工呼吸器療法(NIV)に非劣性であることが、スペイン・Hospital Virgen de la SaludのGonzalo Hernandez氏らが行った3施設604例対象の多施設共同無作為化試験の結果、示された。両療法とも再挿管の必要性を減じるが、高流量鼻カニューレ酸素療法のほうが、快適性、利便性、低コスト、付加的な生理学的機構の面で優っていた。今回の結果を踏まえて著者は、「高リスクの抜管後患者には、高流量鼻カニューレ酸素療法のほうが有益のようだ」とまとめている。JAMA誌オンライン版2016年10月5日号掲載の報告。抜管後72時間以内の再挿管および呼吸不全を評価 試験は、スペインの3ヵ所のICUで2012年9月~2014年10月にかけて行われた。クリティカルな疾患を有し、計画的な抜管の準備ができており、以下のうち1つ以上の高リスク因子を有する患者を対象とした。すなわち、65歳以上、抜管日のAPACHE(Acute Physiology and Chronic Health Evaluation)スコアが12超、BMIが30超、分泌物の管理不十分、ウィーニング困難または遷延、1つ以上の併存疾患あり、人工呼吸器装着の主要指標としての心不全、中等症~重症のCOPD、気道開存に問題、長期人口呼吸器(PMV)であった。 患者は抜管後24時間以内に、高流量鼻カニューレ酸素療法またはNIVを受ける群に、無作為に割り付けられた。 主要アウトカムは、抜管後72時間以内の再挿管および呼吸不全の発生で、非劣性マージンは10%と定義された。副次アウトカムは、呼吸器感染症、敗血症、多臓器不全、ICU入室の長期化、死亡、有害事象および再挿管までの時間などであった。高流量酸素のNIVに対する非劣性を確認 604例(平均年齢65±16歳、男性64%)が無作為に、NIV群(314例)、高流量酸素群(209例)に割り付けられた。 結果、再挿管を必要としなかった患者は、高流量酸素群66例(22.8%)、NIV群60例(19.1%)であった(絶対差:-3.7%、95%信頼区間[CI]:-9.1~∞)。また、抜管後呼吸不全を呈した患者は、それぞれ78例(26.9%)、125例(39.8%)であった(リスク差:12.9%、95%CI:6.6~∞)。 再挿管までの時間中央値について、両群間で有意差は認められなかった。高流量酸素群26.5時間(IQR:14~39)、NIV群21.5時間(10~47)であった(絶対差:-5時間、95%CI:-34~24)。 無作為化後のICU入室期間中央値は、3日間(IQR:2~7) vs.4日間(2~9)で、高流量酸素群が短かった(p=0.48)。 割り付け療法の中断を要した有害事象の発生は、高流量酸素群では観察されなかったが、NIVでは42.9%観察された(p<0.001)。

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第32回 精神科領域の巡回看視義務の範囲は?

■今回のテーマのポイント1.精神科疾患で1番訴訟が多いのは統合失調症、次いでうつ病であり、ともに約1/3を占めている2.統合失調症に関する訴訟では、巡回・看視義務が主として争われている3.統合失調に関する訴訟は、器質的疾患に関する訴訟と比し、原告勝訴率が低いことが特徴である■事件のサマリ原告患者Xの遺族被告Y病院争点不当拘束、診療の不措置、注意義務違反などによる死亡の損害賠償責任結果原告敗訴事件の概要36歳女性(X)。平成7年5月頃より、幻聴、独語、空笑などが出現したため、Y病院に入院し、以後も、情動不安定で興奮状態になることがあり、平成13年までの間に計6回入院して治療を受けていました。平成15年10月14日、被告病院を受診した際、急に暴れだして錯乱状態に陥ったことから、医療保護入院となり、保護室において身体拘束を実施されて治療を受けることとなりました。Xは点滴加療を受けていたものの、状態は不安定で、興奮も見られたことから、Xに対する身体拘束は継続されていました。身体拘束中、Xに対しては、看護師による約30分おきの巡回が行われていました。同月26日午前1時30分ころに行われた巡回時には、特に異常は認められなかったのですが、午前1時52分ころに看護師が巡回した際、Xは心肺停止の状態で発見されました。直ちに蘇生措置がとられ、救急病院への転送がなされましたが、結局、1度も心拍が再開することなく、午前2時55分に死亡が確認されました。これに対しXの遺族は、不必要な身体拘束をしたこと、肺動脈血栓塞栓症に対する予防措置をとるべきであったこと、および、巡回観察義務違反などを理由にY病院に対し、8,425万円の損害賠償請求をしました。事件の判決「約30分おきに臨床的観察等を実施すべき義務の違反」について原告らは、被告病院の担当医師又は担当看護師において、Xに対し、約30分おきに臨床的観察等をすべき義務があったのに、これを怠り、25日午後8時ころのA医師による回診以降、臨床的観察を実施しなかった旨主張する。しかし、上記認定事実によれば、本件において、上記回診以降も約30分おきに臨床的観察は実施され、26日の午前0時30分ころ、午前1時ころ及び午前1時30分ころの観察では異常は発見されず、午前1時52分ころの観察で異常が発見されたと認められるから、約30分おきの臨床的観察が法的に義務づけられるとしても、被告病院の担当の医師又は看護師においてその義務に違反したとはいえない。なお、Xは呼吸停止状態で発見されたこと、別紙知見によれば、呼吸停止後に人工呼吸を開始した時間が2分後だと約90パーセントの救命率があるが、3分後だと75パーセント、5分後だと25パーセント、8分後にはほとんどゼロとなるとされていることを踏まえると、本件において30分おきの観察によってXの異常を救命可能な段階で発見できたと認めるに足りる証拠はないというべきであり、そうすると、30分おきの観察とXの救命との間に相当因果関係を認めることはできない。(*判決文中、下線は筆者による加筆)(東京地判平成18年8月31日)ポイント解説■精神科疾患の訴訟の現状今回は精神科疾患です。精神科疾患で最も訴訟が多いのは、統合失調症、次いでうつ病となっており、2疾患ともに約1/3を占めています。また、その後は境界性人格障害、アルコール依存症などと続いています(表1)。画像を拡大する精神科疾患に関する訴訟の特徴として、患者が疾患により希死念慮や自殺企図を抱き、その結果、入院・外来治療中に自殺したといったケースが多く見られること、そして、平均年齢が若いことから請求額および認容額が高額となることが挙げられます。その一方で、被害妄想や好訴妄想といった疾患自身の症状から訴訟に到ることがあるため、代理人を介さない本人訴訟の割合が高く、その結果、原告勝訴率が低くなっています(表2)。画像を拡大する■統合失調症に関する訴訟統合失調症に関する訴訟において最も多く争点となるのは、巡回・看視義務であり、次いで、薬剤の説明義務、救命措置、救急搬送と続いています(表3)。統合失調症に関する訴訟では、その多くで入院患者が自殺ないし突然死したことを受けて生じているため、これらの争点が多くなっているのです。画像を拡大するしかし、巡回監視義務違反が争われた11事例中、義務違反が認められた事例は3件ありますが、平成14年以降は、1度も巡回看視義務違反は認められていません。それは、そもそも本判決において示されているように、いくら定期的に巡回看視を行ったとしても、それによって自殺や突然死を回避することができないためです。巡回看視義務が争われる類型の1つに「転倒、転落」がありますが、転倒、転落に関する判決においても、「過失があると認められるためには、過失として主張される行為を怠らねば結果を回避することができた可能性(結果回避可能性)が認められることが必要であるところ、転倒はその性質上突発的に発生するものであり、転倒のおそれのある者に常時付き添う以外にこれを防ぐことはできないことからすると、被控訴人の動静を把握できないという上記職員らの行為がなければ本件事故を回避できたものと認めることはできない。(中略)…よって、職員らに、被控訴人の動静の把握を怠ったことを内容とする過失があったということはできない」(福岡高判平成24年12月18日)と本判決と同様の論理構成によって棄却する判断がなされています。裁判例のリンク次のサイトでさらに詳しい裁判の内容がご覧いただけます。(出現順)東京地判平成18年8月31日福岡高判平成24年12月18日:この判例については、最高裁のサイトでまだ公開されておりません。

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急性呼吸不全のICU入院患者に標準化した多面的リハビリテーションの早期介入を行うと入院期間を短縮できるのか?(解説:山本 寛 氏)-572

 急性呼吸不全の患者の予後は不良であり、もし生存しても身体機能の低下が待っている。こうした患者の身体機能を維持するためには、患者ごとに異なるアプローチが必要なことも多い。これまでにも、ICU入院患者に対する身体リハが入院期間を短縮したり、身体機能を改善させたりといった効果が報告されてはいるが、異論もあるところである。標準化された多面的なリハビリテーションによる早期介入が、ICUに入室した急性呼吸不全の患者の転帰を改善させるかもしれないと考えた著者らは、急性呼吸不全患者に対して、標準化された多面的なリハビリテーション(Standardized rehabilitation therapy;SRT)で早期介入を行った場合と、通常のICUケアを行った場合とを比較検討した。 試験デザインは、単施設(Wake Forest Baptist Medical Center, NC)、ランダム化比較試験である。ICUで機械的人工換気を要する急性呼吸不全の患者300例(平均58歳、うち女性が55%)をSRT群(n=150)と通常ケアを受ける群(n=150)とにランダムに割り付けた。試験期間は2009年10月から2014年5月までで、6ヵ月の観察期間が設定されている。 SRT群の患者には、退院までの毎日、他動的関節可動域訓練、理学療法、漸増抵抗訓練を行った。通常ケア群の患者には、平日のみ、とくに臨床チームから依頼があった場合のみ理学療法を行った。SRT群では、中央値で8.0日(IQR;5.0~14.0)の他動的関節可動域訓練、5.0日(IQR;3.0~8.0)の理学療法、3.0日(IQR;1.0~5.0)の漸増抵抗訓練が行われた。通常ケア群に対する理学療法施行日数の中央値は、1.0日(IQR;0.0~8.0)であった。 ICU在室中、退院後2、4、6ヵ月後の各ポイントで、評価者盲検で各種のテストが行われた。主要評価項目は、入院期間(hospital length of stay;LOS)に設定された。副次的評価項目は人工呼吸器装着期間、ICU入室日数、簡易身体能力バッテリー(Short Physical Performance Battery;SPPB)スコア、健康関連QOL(36-item Short-Form Health Survey;SF-36)、日常生活の困難さを評価する指標となるFunctional Performance Inventory(FPI)スコア、認知機能を評価するMini-Mental State Examination(MMSE)、握力、ハンドヘルド・ダイナモメーターで測定した筋力であった。 結果であるが、SRT群のLOSは10日(IQR;6~17)、通常ケア群のLOSも10日(IQR;7~16)であり、両群間で有意差を認めなかった(median difference 0 [95%CI:−1.5~3]、p=0.41)。人工呼吸器装着期間やICU入室期間にも差がなかった。6ヵ月後の握力にも差はなく(difference 2.0kg [95%CI:−1.3~5.4]、p=0.23)、ハンドヘルド・ダイナモメーターで測定した筋力も有意な差を認めなかった(difference 0.4lb [95%CI:−2.9~3.7]、p=0.82)。SF-36でみたphysical health(difference 3.4 [95%CI:−0.02~7.0]、p=0.05)、mental health(difference 2.4 [95%CI:−1.2~6.0]、p=0.19)、さらにMMSEでみた認知機能についても有意差を認めなかった(difference 0.6 [95%CI:−0.2~1.4]、p=0.17)。一方、SPPBスコア(difference 1.1 [95%CI:0.04~2.1]、p=0.04)、SF-36の身体機能スケール(difference 12.2 [95%CI:3.8~20.7]、p=0.001)、FPIスコア(difference 0.2 [95%CI:0.04~0.4]、p=0.02)のいずれも、6ヵ月後のフォローアップ時点で比べるとSRT群のほうが有意に良好な結果であった。 以上から著者らは、急性呼吸不全で入院した患者に対しては、標準化した多面的リハビリテーションによる早期介入を行っても入院期間の短縮にはつながらないと結論している。 通常ケア群では、入院期間のわずか12%の日数しか身体リハビリを行っておらず、漸増抵抗訓練に至ってはまったく行っていない。しかも、SRT群と違って平日しかリハビリの介入がなされていない。にもかかわらず、SRTを行っても入院期間を短縮できなかったのはなぜなのか? 6ヵ月後のフォローで、副次的評価項目のSPPBスコア、SF-36(physical)、FPIスコアのいずれも良好だったことから、critical care領域での効果を探る際に、その長期効果を主要評価項目に設定した臨床試験を計画する価値は、今後ありそうである。 また、著者らも指摘していることだが、フォローアップ期間の脱落者が24%もいることは問題である。試験開始に当たり、脱落率を10%と予想してサンプル数を設定しているのだから、結果の解釈には当然バイアスを与えてしまう。脱落の理由は論文上で明確に記載すべきである。単施設で行われた研究である点も、本研究の限界といえる。著者らは“no clinical difference”としているが、SRT群では基礎肺疾患を有する患者がやや多い点も気になるところである(SRT群34.0%、通常ケア群30.7%)。著者らが示したSupplement dataによると、 長期フォローができなかった、基礎肺疾患のある患者の割合はSRT群で36.4%、通常ケア群で17.4%と、SRT群で多いようにみえる。基礎肺疾患のある患者がSRT群に多かったことがnegative studyとなった一因かもしれないし、またそうした患者の長期フォローができなかったことで、結果的にSRT群の長期フォローアップ後の結果を良好にみえるのかもしれない。また、ICU入院中の鎮静プロトコルがまちまちであった。人工呼吸器装着中の鎮静は必要だが、早期リハビリテーションの介入効果に影響を与える可能性がある。最近、通販などで話題になっているEMSのような手法が有効かどうかについても、今後検討されるかもしれない。

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抗精神病薬の過量投与は減少しているのか

 薬物中毒の罹患率や死亡率は、30年間減少している。これは、より安全な薬が開発され、過量投与に対するより良いアウトカムが得られたことによる。オーストラリア・Calvary Mater NewcastleのIngrid Berling氏らは、26年間にわたり抗精神病薬の処方変更と過量投与の変化との関連を検討した。British journal of clinical pharmacology誌2016年7月号の報告。 1987~2012年のtertiary referral toxicology unitが発表したすべての抗精神病薬中毒を検討した。人口統計、薬物摂取情報、臨床効果、合併症、治療に関するデータをプロスペクティブに収集した。オーストラリアにおける抗精神病薬の使用率は、1990~2011年のオーストラリア政府出版物から収集し、郵便番号で過量投与入院とリンクさせた。 主な結果は以下のとおり。・抗精神病薬の過量投与は3,180件(第1世代抗精神病薬1,235件、第2世代[非定型]抗精神病薬1,695件、リチウム250件)であった。・26年間で、抗精神病薬の過量投与は1.8倍に増加した。第1世代抗精神病薬はピーク時より5分の1に減少し(80件/年~16件/年)、第2世代抗精神病薬は2倍に増加した(160件/年)。そのうち、オランザピンとクエチアピンが78%を占めていた。・すべての抗精神病薬過量投与において、ICU滞在時間中央値18.6時間、ICU入院15.7%、人工呼吸10.4%、院内死亡0.13%であり、第1世代、第2世代抗精神病薬ともに同様であった。・同期間の抗精神病薬処方は2.3倍に増加していた。第1世代抗精神病薬が減少する一方、第2世代抗精神病薬は急激に上昇した(主にオランザピン、クエチアピン、リスペリドンで79%)。 結果を踏まえ、著者らは「26年にわたる抗精神病薬処方の増加は、過量投与の増加と関連付けられる。抗精神病薬の種類は変更されているが、過量投与は増加しており、罹患率や死亡率は同じままである」としている。関連医療ニュース 抗精神病薬の併用療法、有害事象を解析 抗精神病薬多剤併用による代謝関連への影響は 統合失調症入院高齢患者、アジアでの多剤併用率は50%以上

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ICU患者家族への緩和ケア医の介入、逆効果の場合も/JAMA

 集中治療室(ICU)に入室し長期間の人工呼吸器装着が必要となったクリティカルな患者の家族に対して、緩和ケア専門医による面談などの介入は、ICUスタッフによるルーチンの面談などと比べて、不安やうつを軽減せず、むしろ外傷後ストレス障害(PTSD)症状を増す可能性があることが、米国・ノースカロライナ大学のShannon S. Carson氏らが行った多施設共同無作為化試験の結果、示された。JAMA誌2016年7月5日号掲載の報告。ルーチンのICUスタッフによる介入と比較 研究グループは、クリティカルな患者家族への緩和ケア専門医による情報提供やエモーショナルサポートが、家族の不安やうつ症状を改善するかを検討した。2010年10月~2014年11月に、米国内4つのICUで、7日間以上の人工呼吸器装着が必要となった成人(21歳以上)患者を適格とし、介入群と対照群の2群に無作為化。代理意思決定を担う患者家族を試験に登録し、割り付けを知らせず主要アウトカムについて評価を行った。 介入群(患者130人、患者家族184人)には、緩和ケア専門医による2回以上の構造化家族面談と小冊子を提供、対照群(126人、181人)には、小冊子提供とICUチームによるルーチンの家族面談が行われた。 主要アウトカムは、3ヵ月のフォローアップインタビューで評価した患者家族のHospital Anxiety and Depression Scale(HADS)症状スコア(範囲0[最も良好]~42[最も不良])で、臨床的に意義のある最小スコア差は1.5と定義した。副次アウトカムは、Impact of Events Scale-Revised(IES-R)スコア(範囲0[最も良好]~88[最も不良])で評価した家族のPTSD症状、また、患者の意向についての話し合い、入院期間、90日生存率などであった。不安・うつを軽減せず、むしろPTSD症状を有意に増大 患者家族(両群計365人、平均年齢51歳、女性が71%)のうち、試験を完了(3ヵ月のフォローアップインタビュー)したのは312人(介入群163人、対照群149人)であった。 3ヵ月時点で、患者家族の不安およびうつ症状について両群間で有意差は認められなかった(介入群 vs.対照群の補正後平均HADSスコア;12.2 vs.11.4、群間差:0.8、95%信頼区間[CI]:-0.9~2.6、p=0.34)。 一方、PTSD症状スコアは、対照群が有意に高かった(補正後平均IES-Rスコア;25.9 vs.21.3、群間差:4.60、95%CI:0.01~9.10、p=0.0495)。 患者意向の話し合いについて有意差はみられなかった(75% vs.83%、オッズ比[OR]:0.63、95%CI:0.34~1.16、p=0.14)。また、入院期間中央値(19日 vs.23日、両群差:-4日、95%CI:-6~3日、p=0.51)、90日生存率(HR:0.95、95%CI:0.65~1.38、p=0.96)も、有意な差はなかった。 著者は、「結果は、長期のクリティカルケアが必要となったすべての患者家族に対して、緩和ケア専門医によるケアのゴールについての話し合いをルーチンまたは必須なものとして行うことを支持しないものであった」とまとめている。

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急性呼吸不全のICU入院患者に早期リハビリは有効?/JAMA

 急性呼吸不全で人工呼吸器を要するICU入室患者に対し、早期からリハビリ療法を行っても、ICU通常治療を行った場合に比べ、入院期間の短縮にはつながらなかった。米国・ケンタッキー大学のPeter E. Morris氏らが、300例を対象に行った無作為化比較試験の結果、明らかにした。JAMA誌2016年6月28日号掲載の報告。人工呼吸器使用日数やICU入院日数、SPPBスコアなども比較 研究グループは2009年10月~2014年5月にかけて、単施設(ノースカロライナ州にあるウェイクフォレスト・バプティスト医療センター)にて、急性呼吸不全で人工呼吸器を要する患者300例を対象に無作為化比較試験を行った。被験者を無作為に2群に分け、一方には標準化したリハビリ療法(SRT)を毎日実施。もう一方の対照群には通常のICUにおける治療を行い、臨床チームから要請があった場合にのみ平日に理学療法を行った。SRT群には、受動的関節可動域訓練(実施日数中央値:8.0日)、理学療法(同:5.0日)、筋力増強訓練(同:3.0日)を行った。対照群の理学療法実施日数中央値は、1.0日だった。 主要評価項目は、入院期間だった。副次的評価項目は、人工呼吸器使用日数やICU入室日数、身体能力を評価するSPPB(Short Physical Performance Battery、簡易身体能力バッテリー)スコア、健康関連QOLの尺度であるSF-36(36-item Short-Form Health Surveys)スコア、日常生活難易度を評価するFPI(Functional Performance Inventory)スコア、認知機能を評価するMMSE(Mini-Mental State Examination)スコア、握力・ハンドヘルド・ダイナモメーター測定力だった。  両群ともICU退室時および退院時、2、4、6ヵ月時に、評価者盲検テストを受けた。6ヵ月後のSPPB・SF-36身体機能スコアではSRT群が高値 被験者の平均年齢は58歳、うち女性は55%だった。入院日数の中央値は、対照群が10日(四分位範囲:7~16)に対し、SRT群も10日(同:6~17)と同等だった(p=0.41)。人工呼吸器使用日数やICU入院日数についても、両群で有意差はなかった。 6ヵ月後の握力(p=0.23)やハンドヘルド・ダイナモメーター測定力(p=0.82)、SF-36身体スコア(p=0.05)、SF-36メンタルヘルススコア(p=0.19)、MMSEスコア(p=0.17)のいずれについても、両群で同等だった。 一方で、6ヵ月後のSPPBスコアは、SRT群が対照群より有意に高かった(群間差:1.1、p=0.04)。SF-36身体機能スコア(群間差:12.2、p=0.001)、FPIスコア(群間較差:0.2、p=0.02)についても、SRT群が対照群より有意に高かった。

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