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ニルセビマブ、乳児のRSV感染症入院リスクを83%減少/NEJM

 実臨床において、長時間作用型の抗RSVヒトモノクローナル抗体であるニルセビマブは、RSウイルス(respiratory syncytial virus:RSV)関連細気管支炎による入院リスクの低下に有効であることが示された。フランス・Paris Cite UniversityのZein Assad氏らが、生後12ヵ月未満の乳児を対象とした多施設共同前向きマッチング症例対照研究「Effectiveness of Nirsevimab against RSV-Associated Bronchiolitis Requiring Hospitalization in Children:ENVIE研究」の結果を報告した。RSVは細気管支炎の主な原因であり、世界中で毎年300万例が入院している。ニルセビマブ承認後の、実臨床におけるRSV関連細気管支炎に対する有効性については不明であった。NEJM誌2024年7月11日号掲載の報告。前向きマッチング症例対照研究でニルセビマブの有効性を検証 フランスでは2023~24年のRSウイルス感染症シーズンに向けて、2023年2月6日以降に同国で生まれたすべての小児にニルセビマブ単回投与を無料で行うことが推奨され、このニルセビマブプログラムは2023年9月15日にフランス都市圏で開始された。 研究グループは、2023年10月15日~12月10日に、PCR法でRSVが検出されたRSV関連細気管支炎のために入院した乳児を症例群、RSV感染とは関係のない症状で同じ病院を受診した乳児を対照群として、年齢、病院受診日、試験施設を2対1の割合でマッチさせ、交絡因子を調整した多変量条件付きロジスティック回帰モデルを用いて、ニルセビマブのRSV関連細気管支炎による入院に対する有効性を算出した。いくつかの感度解析も実施した。 解析対象は1,035例で、症例群690例(年齢中央値:3.1ヵ月[四分位範囲[IQR]:1.8~5.3)、対照群345例(3.4ヵ月[1.6~5.6])であった。このうち、症例群60例(8.7%)、対照群97例(28.1%)にニルセビマブ投与歴があった。入院リスクを83.0%減少、重症化リスクを67.2~69.6%減少 RSV関連細気管支炎による入院に対するニルセビマブの調整推定有効率は83.0%(95%信頼区間[CI]:73.4~89.2)であった。すべての感度解析で、主要解析と同様の結果が得られた。 小児集中治療室(NICU)入室を要するRSV関連細気管支炎に対するニルセビマブの有効率は69.6%(95%CI:42.9~83.8)(症例群14.0%[27/193例]vs.対照群32.2%[47/146例])、人工呼吸器を必要とするRSV関連細気管支炎に対する有効率は67.2%(95%CI:38.6~82.5)(症例群14.3%[27/189例]vs.対照群30.5%[46/151例])であった。 著者は本研究の限界として、観察症例対照試験であるため因果関係についての結論を導き出すことはできないこと、対照群ではRSVのPCR検査が実施されていないこと、さらに対照群は小児救急外来を受診した患者であったが症例群は入院患者であったこと、ニルセビマブの有効性が国内プログラム開始後の非常に早い段階で評価されたことなどを挙げている。

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肺炎診療GL改訂~NHCAPとHAPを再び分け、ウイルス性肺炎を追加/日本呼吸器学会

 2024年4月に『成人肺炎診療ガイドライン2024』1)が発刊された。2017年版では、肺炎のカテゴリー分類を「市中肺炎(CAP)」と「院内肺炎(HAP)/医療介護関連肺炎(NHCAP)」の2つに分類したが、今回の改訂では、再び「CAP」「NHCAP」「HAP」の3つに分類された。その背景としては、NHCAPとHAPは耐性菌のリスク因子が異なるため、NHCAPとHAPを1群にすると同じエンピリック治療が推奨され、NHCAPに不要な広域抗菌治療が行われやすくなることが挙げられた。また、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行を経て、ウイルス性肺炎の項目が設定された。第64回日本呼吸器学会学術講演会において、本ガイドライン関するセッションが開催され、進藤 有一郎氏(名古屋大学医学部附属病院 呼吸器内科)がNHCAPとHAPの診断・治療のポイントや薬剤耐性(AMR)対策の取り組みについて解説した。また、ウイルス性肺炎に関して宮下 修行氏(関西医科大学 内科学第一講座 呼吸器感染症・アレルギー科)が解説した。NHCAPとHAPは耐性菌のリスク因子が異なる NHCAPとHAPは「敗血症性ショックの有無の判断」「重症度の判断(NHCAPはA-DROPスコア、HAPはI-ROADスコアで評価)」「耐性菌リスクの判断」を行い、治療薬を決定していくという点は共通している。しかし、耐性菌のリスク因子は異なる。進藤氏は、「この違いをしっかりと認識してほしい」と語った。なお、それぞれの耐性菌リスク因子は以下のとおり。NHCAP:経腸栄養、免疫抑制状態、過去90日以内の抗菌薬使用歴、過去90日以内の入院歴、過去1年以内の耐性菌検出歴、低アルブミン血症、挿管による人工呼吸管理を要する(≒診断時に重度の呼吸不全がある)HAP:活動性の低下や歩行不能、慢性腎臓病(透析を含む)、過去90日以内の抗菌薬使用歴、ICUでの発症、敗血症/敗血症性ショック HAPでは、「重症度が低く、耐性菌リスクが低い(リスク因子が1つ以下)場合」は狭域抗菌治療、「重症度が高い、または耐性菌リスクが高い(リスク因子が2つ以上)場合」には広域抗菌治療を行う。NHCAPでは、外来の場合はCAPに準じた外来治療を行う。また、入院の場合も非重症で耐性菌リスク因子が2つ以下であれば、CAPと類似した狭域抗菌治療を行い、重症で耐性菌リスク因子が1つ以上あるか非重症で耐性菌リスク因子が3つ以上であれば広域抗菌治療を行うという流れとなった(詳細は本ガイドラインp.54図3、p.64図3を参照されたい)。不要な広域抗菌薬の使用は依然として多い 進藤氏は、名古屋大学などの14施設で実施した肺炎患者を対象とした前向き観察研究(J-CAPTAIN study)の結果を紹介した。本研究では、CAP患者をNon-COVID-19肺炎とCOVID-19肺炎に分けて検討した。その結果、Non-COVID-19肺炎患者(1,802例)の10%にCAP抗菌薬耐性菌(β-ラクタム系薬、マクロライド系薬、フルオロキノロン系薬のすべてに低感受性と定義)が検出された。CAP抗菌薬耐性菌のリスク因子としては、過去1年以内の耐性菌検出歴、気管支拡張を来す慢性肺疾患、経腸栄養、ADL不良、呼吸不全(PaO2/FiO2≦200)が挙げられた。これらの項目は本ガイドラインのシステマティックレビューの結果と類似していたと進藤氏は語った。 また、本研究においてNon-COVID-19肺炎患者では、CAP抗菌薬耐性菌の検出がなかった患者の29.2%に広域抗菌薬が使用されていたことを紹介した。AMR対策としては、このような患者における広域抗菌薬の使用を減らしていくことが重要となると進藤氏は指摘する。CAP抗菌薬耐性菌のリスク因子が0個であった患者は、Non-COVID-19肺炎の61.2%を占め、そのうち21.8%で広域抗菌薬が使用されていた結果から、進藤氏は「AMR対策上、耐性菌リスクのない症例では広域抗菌薬の使用を控えることが重要である」と強調した。ウイルス性肺炎は想定以上に多い? 2018~20年に九州の14施設で実施された観察研究では、CAP患者の23.3%にウイルスが検出されており2)、肺炎へのウイルスの関与が注目されている。そこで、宮下氏は本ガイドラインに新たに追加されたウイルス性肺炎について、その位置付けを紹介した。 CAPは、(1)CAPとNHCAPの鑑別→(2)敗血症の有無・重症度の判断(治療場所の決定)→(3)微生物学的検査→(4)マイコプラズマ肺炎・レジオネラ肺炎の推定→(5)抗菌薬の選択といった流れで診療が行われる。この流れに合わせて、ウイルス性肺炎の特徴を考察した。 COVID-19肺炎患者の1年後の身体機能をみると、CAPと比較してNHCAPで予後が不良である3)。したがって、宮下氏は「CAPとNHCAPでは予後がまったく異なるため、治療方針を大きく変えるべきであると考える」と述べた。 本ガイドラインでは、重症度の評価をもとに治療場所を決定するが、CAPで用いられるA-DROPスコアによる評価がCOVID-19肺炎においても有用であった。ただし、COVID-19(デルタ株以前)ではA-DROPスコア1点(中等症、外来治療が可能)であっても、R(呼吸状態)の項目が1点の場合は疾患進行のリスクが高いという研究結果4,5)を紹介し、注意を促した。 前版で細菌性肺炎と非定型肺炎の鑑別に用いられていた鑑別表は、細菌性肺炎とマイコプラズマ肺炎の鑑別表(本ガイドラインp.32表4)に改められた。実際に、この鑑別表を非定型肺炎であるCOVID-19肺炎に当てはめると診断の感度は不十分であり、マイコプラズマ肺炎と細菌性肺炎の鑑別に用いるのが適切と考えられた。また、今回のガイドラインではレジオネラ診断予測スコアが掲載された(本ガイドラインp.33表5)。この診断スコアを用いた場合、COVID-19はいずれの株でもレジオネラ肺炎との鑑別が可能であった。 最後に、宮下氏はオミクロン株の流行後にCOVID-19肺炎において誤嚥性肺炎が増加し、誤嚥性肺炎を発症した患者の退院後の顕著な身体機能低下が認められていることに触れ、「早期診断・早期治療が重要であり、肺炎球菌ワクチンやインフルエンザワクチンに加えて新型コロナワクチンによる予防も重要であると考えている」とまとめた。

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ベイフォータス、新生児および乳幼児のRSウイルス発症抑制・予防にて製造販売承認取得/AZ

 アストラゼネカとサノフィは2024年3月27日付のプレスリリースにて、長時間作用型モノクローナル抗体であるベイフォータス(一般名:ニルセビマブ[遺伝子組換え])が「生後初回または2回目のRS(Respiratory Syncytial)ウイルス感染流行期の重篤なRSウイルス感染症のリスクを有する新生児、乳児および幼児における、RSウイルス感染による下気道疾患の発症抑制」ならびに「生後初回のRSウイルス感染流行期の前出以外のすべての新生児および乳児におけるRSウイルス感染による下気道疾患の予防」を適応として、3月26日に日本における製造販売承認を取得したことを発表した。 ニルセビマブは、重症化リスクの高い早産児、特定の疾患を有する新生児、乳幼児におけるRSウイルス感染による下気道疾患(LRTD)の発症抑制に加え、世界で初めて健康な新生児または乳児をRSウイルスから守るために承認された予防を効能・効果とする薬剤である。今回の承認は、ニルセビマブの3つの主要な後期臨床試験に基づく。すべての臨床評価項目において、ニルセビマブの単回投与は一般的なRSウイルス感染流行期間とされる5ヵ月間にわたり、RSウイルス感染によるLRTDに対して一貫した有効性を示した。 長崎大学大学院医歯薬学総合研究科 小児科学 主任教授の森内 浩幸氏は、「2歳までにほぼすべての子供が罹患し、その数十%は細気管支炎や肺炎を起こします。流行すると小児病棟はこの病気の患児が増加し場合によっては酸素が投与され、人工呼吸器装着や集中治療管理が必要なことも経験します。RSウイルスはずっと昔からいて、毎年多くの子供たちを苦しめてきました。元々健康な子を含むすべての乳児がこのウイルス、RSウイルスのリスクに曝されています。幸いRSウイルス感染症の重症化を防ぐ手段が登場し、小児科医にとって朗報です」と述べている。<製品概要>販売名:ベイフォータス筋注50mgシリンジ、ベイフォータス筋注100mgシリンジ一般名:ニルセビマブ(遺伝子組換え)効能又は効果:1. 生後初回又は2回目のRSウイルス(Respiratory Syncytial Virus)感染流行期の重篤なRSウイルス感染症のリスクを有する新生児、乳児及び幼児における、RSウイルス感染による下気道疾患の発症抑制2. 生後初回のRSウイルス感染流行期の1. 以外のすべての新生児及び乳児におけるRSウイルス感染による下気道疾患の予防用法及び用量:生後初回のRSウイルス感染流行期には、通常、体重5kg未満の新生児及び乳児は50mg、体重5kg以上の新生児及び乳児は100mgを1回、筋肉内注射する。生後2回目のRSウイルス感染流行期には、通常、200mgを1回、筋肉内注射する。製造販売承認年月日:2024年3月26日 製造販売元:アストラゼネカ株式会社販売元:サノフィ株式会社

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第206回  ALS女性患者嘱託殺人裁判が改めて問う、積極的安楽死が日本で認められるための条件

こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。野球シーズンが始まりました。米国MLBでは、ロサンゼルス・ドジャースの大谷 翔平選手の元通訳、水谷 一平氏の違法賭博問題はまだ収束の兆しが見えず、大谷選手にも疑惑の目が向けられているようです。セントルイス・カージナルスとの開幕4連戦も打率2割6分9厘、ホームランなしと湿った成績で、賭博問題が少なからず影響している気もしました。私はといえば、金曜日の神宮球場のNPB開幕戦、東京ヤクルトスワローズ対中日ドラゴンズを観戦に行ってきました。昨シーズン、“令和の米騒動”で話題となったドラゴンズの視察です。巨人から移籍した中田翔選手のホームランは見ごたえがあったのですが、若手中心の野手陣の守備がひどく(とくにクリスチャン・ロドリゲス内野手)、今年もAクラス入りは厳しいのではと感じた次第です。さて、今回は、判決から少々時間が経ってしまいましたが、ALSの女性患者に対する嘱託殺人罪や別の殺人罪に問われた医師、大久保 愉一被告(45)の裁判員裁判の判決公判が3月5日にありましたので、判決文の内容を紹介しつつ、この事件について改めて書いてみたいと思います。判決で川上 宏裁判長は、嘱託殺人について、「被告人は、医師でありながら、被害者とのSNS上での短いやり取りのみでその嘱託に応じ、診察や意思確認もろくにできないわずか15分程度の面会で軽々しく殺害に及んでいる。130万円の報酬の受領を持って行動に移していることも併せて考慮すれば、被告人が、真に被害者を思って犯行に及んだとは考え難く、利益を求めた犯行であったといわざるを得ない。(中略)被告人の生命軽視の姿勢は顕著であり、強い避難に値する」として、懲役18年(求刑懲役23年)を言い渡しました。大久保被告は共犯者である山本 直樹被告(46)とその母と共謀し山本被告の父親を殺害したとする殺人罪にも問われていましたが、この判決で共犯が認められました。なお、大久保被告の弁護側は3月18日、懲役18年とした京都地裁判決を不服として控訴しました。「死を望む女性患者の自己決定権を保障する憲法13条に違反する」と弁護側は主張ALSの女性患者の嘱託殺人については、本連載でも何度か取り上げてきました。事件発覚当初の2020年8月には、「第17回 安楽死? 京都ALS患者嘱託殺人事件をどう考えるか(前編)」、「第18回 同(後編)」で、日本における積極的安楽死の罪の根拠となっている1991年に起きた「東海大学安楽死事件」と 1998年に起きた「川崎協同病院事件」について振り返り、ある有識者の「(この事件は)安楽死議論の対象にもならない」というコメントを紹介しつつ、「果たして本当にそうでしょうか。少なくとも、医療関係者も目を逸らしてきた、積極的安楽死についての議論を再開するきっかけにはなると思うのですが、どうでしょう」と問い掛けました。そして裁判が始まった直後の今年1月には、「第195回 ALS患者嘱託殺人、主犯とされる医師の裁判員裁判始まる、被告は『願いをかなえるためにやった』と証言」において、「嘱託殺人罪の適用を『死を望む女性患者の自己決定権を保障する憲法13条に違反する』とする弁護側の主張が、どこまで通るのかが裁判のポイントになりそうです」と書きました。13条の「生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利」は「個人が生存していることが前提」大久保被告が憲法13条に違反することを根拠に無罪を訴えていたことに対し、川上裁判長は、同条に書かれている生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利は、「個人が生存していることが前提であると解釈されることなどからすれば、たとえ恐怖や苦痛に直面している状況であったとしても、憲法13条から直ちに『自らの死を援助してくれる医療従事者がいる場合に、その医療従事者が刑事罰から免れるように求める権利』などが導き出されるものではない。したがって、憲法13条違反を直接的な理由・根拠として本件に嘱託殺人罪を適用しないとの結論を採用することはできない」と断じました。患者の症状の判断や、本人や家族等への説明や意思確認など詳細な手順を明示今回の事件、起こった当初は「安楽死議論の対象にもならない」との批判もありましたが、京都地裁判決では、嘱託殺人罪を問わない要件を細かく明示しており、その点では議論が半歩くらいは進んだ、と言えるでしょう。判決では、「死期が間近に迫り、耐え難い肉体的苦痛に苦しんでいる患者や、本件の被害者のように、現代の医学では病状の進行を止めることができず、迫り来る死や、自立的な意思伝達手段の喪失のおそれに直面して日々恐怖に怯えたり、絶望したりしつつも、身体的な自由がきかないことで自殺することもままならないような患者」の存在について言及、そうした患者からの嘱託についても例外なく嘱託殺人罪を当てはめてしまえば、患者らの嘱託に応えようとする医療従事者は現れず、患者らに耐え難い苦痛や恐怖・絶望を強いることになり酷であるとして、「可罰的違法性がないとして嘱託殺人罪に問うことが相当ではないと評価される事案の存在はあり得る」としました。しかし、そのためには、少なくとも、「(1)上記のような状況下にある患者らに対し、その病状による苦痛等の除去・緩和のために他に取るべき手段がなく、かつ、患者が自らの置かれた状況を正しく認識した上で、自らの命を絶つことを真摯に希望するような場合に、(2)医療従事者が、1)医学的に行うべき治療や検査等を尽くし、他の医師等の意見等も徴して、患者の症状をそれまでの経過等も踏まえて診察し、死期が迫るなど現在の医学では改善不可能な症状があること、それによる苦痛等の除去・緩和のために他に取るべき手段がないことなどを慎重に判断し、2)その診察・判断を基に、患者に対して、患者の現在の症状や予後を含めた今後の見込み、取り得る選択肢の有無等について可能な限り説明を尽くし、それらについての正しい認識に基づいた患者の意思を確認するほか、患者の意思をよく知る近親者や関係者等の意見も参考に、患者の意思の真摯性及びその変更の可能性の有無を慎重に見極めた上で、3)患者自身の依頼を受けて、苦痛の少ない医学的に相当な方法を用い、4)事後検証可能なように、それら一連の過程を記録化することなどが最低限必要であるというべきである」――としました。1991年「東海大学安楽死事件」で横浜地裁判決が示した積極的安楽死が許容されるための4要件「安楽死」については、回復が見込めない患者の死期を医師が薬剤を使用するなどして早める「積極的安楽死」と、終末期の患者の人工呼吸器や人工栄養などを中止する「消極的安楽死」の2つの概念があります。前者の「積極的安楽死」は、現在の日本においては今回の裁判のように、嘱託殺人罪や殺人罪などに問われることになります。積極的安楽死の罪の根拠となっているのは、1991年に起きた「東海大学安楽死事件」と 1998年に起きた「川崎協同病院事件」です。東海大学安楽死事件では、家族の要望を受けて末期がんの患者に塩化カリウムを投与し、患者を死に至らしめた医師が殺人罪に問われました。1995年、横浜地裁は、被告人を有罪(懲役2年執行猶予2年)とする判決を下しました(控訴せず確定)。患者自身による死を望む意思表示がなかったことから、罪名は嘱託殺人罪ではなく、殺人罪になりました。この判決では、医師による積極的安楽死が例外的に許容されるための要件として、1)患者が耐えがたい激しい肉体的苦痛に苦しんでいること2)患者は死が避けられず、その死期が迫っていること3)患者の肉体的苦痛を除去・緩和するために方法を尽くし他に代替手段がないこと4)生命の短縮を承諾する患者の意思表示が明示されていることという4つの要件が提示されました。フランスは「死への積極的援助」を導入する法案を発表今回の京都地裁判決は、日本において積極的安楽死が認められる要件をさらに詳細に定めたとも言えるでしょう。「東海大学安楽死事件」の横浜地裁判決で示された積極的安楽死が例外的に認められる4要件に加えて、医療従事者が具体的にどのような手順を踏むべきかをより具体的に示したからです。もっとも、患者の症状の判断や、本人や家族等への説明や意思確認など、相当厳格かつ慎重な手順を踏まなければならず、実際の臨床の現場で実行に移されるかどうかは未知数です。ALS女性患者嘱託殺人裁判の判決が出た1週間後の3月12日、共同通信は「フランスのマクロン大統領は3月11日までに、終末期患者に厳格な条件の下で致死量の薬の投与を認める『死への積極的援助』を導入する法案を発表した」と報じました。自身で死を決断できる能力があり、短期・中期的に死の恐れがある重病に冒され、苦痛を和らげることができない成人に限って安楽死を認めるという法案です。5月から議会で審議するとしています。報道によれば、フランスでは2016年に終末期患者の意識を低下させる鎮静薬投与を医師に認める法律が成立したものの、オランダなどで認められた患者の意思により医師が薬物などで死に導く安楽死や、スイスで認められているような医師が処方した薬物を患者が自ら使用する自殺ほう助はまだ禁じられています。今回の「死への積極的援助」を導入する法案はそうした現状を打破するためのものと言えそうです。オランダ、スイス、そしてフランスなどの安楽死容認に向けての動きが、今後、日本における積極的安楽死の議論にどう影響してくるかが注目されます。

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院外心停止患者への市民による心肺蘇生、AED使用で生存が2倍以上に/日本循環器学会

 院外心停止(OHCA)患者の予後を改善するためには、市民による質の高い心肺蘇生法(CPR)と自動体外式除細動器(AED)の即時使用率をさらに高める必要がある。総務省消防庁は、1994年に市民を対象としたCPRの認定講習会を全国で開始し、2019年には受講者が年間約200万人に及び、認定者数は増加傾向にある。しかし、市民のCPR普及率やOHCA患者の生存率に及ぼす影響については十分に検討されていなかった。そのため、虎の門病院の山口 徹雄氏らの研究グループは、市民介入によるCPRと、患者の1ヵ月後の転帰との関連を評価した。本結果は、3月8~10日に開催された第88回日本循環器学会学術集会のLate Breaking Cohort Studies 1にて、山口氏が発表した。なお本研究はResuscitation誌2024年2月号に掲載された1)。 本研究では、総務省消防庁が2005年より開始した国内のOHCAレジストリであるAll Japan Utstein Registry Dataを用いた。2005~20年に登録されたOHCA患者35万8,025例から、市民が居合わせた心室細動または無脈性心室頻拍の初期リズムがショック適応の患者7万3,387例を抽出し、心肺蘇生講習会認定者数と全国の市民によるCPR実施率との関連をポアソン分布とコクラン・アーミテージ検定による傾向検定により解析した。市民が実施したCPRを、胸骨圧迫のみ、胸骨圧迫と人工呼吸、胸骨圧迫と人工呼吸とAEDの使用で分類し、転帰との関連について多変量混合ロジスティック回帰分析を用いて評価した。主要評価項目は1ヵ月後の神経学的に良好な生存、副次評価項目は病院到着前の蘇生と1ヵ月後の生存とした。 主な結果は以下のとおり。・CPR講座の累積認定者数は、2005年の993万327人から直線的に増加し、2020年には3,493万8,322人であった(年間増加率:1.03、p<0.001)。これは15歳以上の日本人の32.3%を占める。・OHCA患者は、2005年では1万7,414例(年齢中央値 75歳[IQR 64~84])だったが、2020年には2万4,291例(80歳[IQR 70~87])に増加、高齢化していた。・居合わせた市民(バイスタンダー)による心肺停止患者へのCPR実施率は、2005年の40.63%から2020年には56.79%へと一貫して増加していた(傾向のp<0.001)。・2005~20年の初期リズムがショック適応のOHCA患者7万3,387例のうち、CPRを受けたのは4万1,678例(56.8%)であった。・CPRを受けた患者4万1,678例のうち、胸骨圧迫は98.28%、人工呼吸は22.81%、AEDの使用は8.41%の症例に施行された。・臨床転帰について市民によるCPR実施(CRP+)群とCPRを実施しなかった(CRP-)群を比較すると、以下のすべてにおいてCPR+群のほうが転帰が良好であった。 -神経学的に良好な1ヵ月後の生存率は、CPR+群:25.54% vs.CPR-群:15.5%(p<0.001)。 -1ヵ月後の生存率は、35.30% vs.26.47%(p<0.001)。 -1ヵ月後の生存者のうち神経学的に良好な者の比率は、72.36% vs.58.74%(p<0.001)。 -病院到着前の蘇生率は、35.42% vs.27.01%(p<0.001)。・市民のCPRのエンゲージメントが高いほど、患者の神経学的に良好な1ヵ月後の生存率が高いことが示された。CRP+群のエンゲージメント分類別に、CRP-群と比較した転帰は以下のとおり。 -胸骨圧迫のみ オッズ比(OR):1.24(95%信頼区間[CI]:1.02~1.51、p=0.029)。 -胸骨圧迫+人工呼吸 OR:1.33(95%CI:1.08~1.62、p=0.006)。 -胸骨圧迫+AED OR:2.27(95%CI:1.83~2.83、p<0.001)。 -胸骨圧迫+人工呼吸+AED OR:2.15(95%CI:1.70~2.73、p<0.001)。 本研究により、CPRの市民への普及率は着実に増加しており、OHCA患者に対して市民のCPR実施はCPRをしなかった場合と比較して、患者の1ヵ月後転帰を有意に改善していたことが示された。山口氏は発表の最後に、CPR教育が普及しているデンマークと日本を比較し、日本では市民によるCPR実施率57%、全OHCA患者の1ヵ月後の生存率9.7%に対して、デンマークでは市民によるCPR実施率77%で、全OHCA患者の1ヵ月後の生存率が16%に及ぶことを挙げ、日本でさらにCPR実施率を上げるためには、デンマークのように学校でのCPR講習の義務化、および自動車運転免許更新でのCPR講習の義務化が効果的ではないかと指摘した。また、8.4%に留まっているAED使用率を上げるには、AEDの設置場所や使用法を確認するためのスマートフォン用アプリ2,3)の使用や、諸外国で使用されているドローンを用いたAEDの配送システムの導入を推奨した。

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第187回 医療事故の報告件数が増加傾向、分娩を含む手術が最多/医療安全調査機構

<先週の動き>1.医療事故の報告件数が増加傾向、分娩を含む手術が最多/医療安全調査機構2.マダニ感染症SFTS、ヒトからヒトへの感染、国内で初めて報告/国立感染症研究所3.看護師国家試験、合格率87.8%と4年ぶりに低下/厚労省4.不整脈手術中の医療過誤、福岡高裁が九州医療センターに約2億円の賠償命令5.同一の執刀医による肝臓がん手術後の3人の死亡事故を公表/東海中央病院6.コロナ補助金8,500万円を不正受給した病院に返還命令/福岡県1.医療事故の報告件数が増加傾向、分娩を含む手術が最多/医療安全調査機構日本医療安全調査機構は、医療事故調査・支援センターの2023年の年報を発表した。対象期間は2023年1月1日~12月31日。この期間に報告された医療事故件数は361件と前年より2割ほど増えた。新型コロナウイルス感染拡大時は、医療事故発生報告件数の減少が認められたが、新型コロナウイルス感染症の5類移行に伴い、医療事故発生報告件数に増加傾向がみられた。2015年10月の医療事故調査制度開始以来、2023年末までに2,909件の医療事故が報告され、その87.3%で院内調査が完了していた。年報によると、1施設当たりの医療事故発生報告件数が最も多かったのは「900床以上」(1床当たり0.53件)で、ついで多かったのが「600~699床」(1床当たり0.44件)と病床規模が大きな病院ほど1床当たりの事故件数が多い傾向が認められた。また、人口100万人当たりで最多の医療事故報告数を記録したのは宮崎県であり、医療事故の起因としては依然として「分娩を含む手術」が最も多くを占めていた。医療事故報告から院内調査結果報告までの期間は平均458.5日に短縮していた。センターへの調査依頼は遺族から21件、医療機関から7件であり、センターへの相談件数はコロナ禍前の水準を超える2,076件だった。これらのデータは、医療事故の正確な報告と透明性の向上、再発防止策の重要性を浮き彫りにしているだけでなく、医療施設での安全対策強化への取り組みがますます求められており、医療事故報告数が多いことが必ずしも医療安全に問題があるわけではなく、正しく報告する文化の醸成が重要であることが示されている。参考1)『2023年 年報』について(日本医療安全調査機構)2)医療事故調査・支援センター 2023年 年報(同)3)医療事故調査・支援センター 2023年 数値版(同)4)人口100万人あたり医療事故報告件数の最多は2023年も宮崎県、手術・分娩に起因する医療事故が依然多い!-日本医療安全調査機構(Gem Med)2.マダニ感染症SFTS、ヒトからヒトへの感染、国内で初めて報告/国立感染症研究所マダニが媒介する感染症「重症熱性血小板減少症候群(SFTS)」のヒトからヒトへの感染例が国内で初めて確認されたことが、国立感染症研究所によって明らかにされた。2023年4月、90代男性患者がSFTSと診断された後、患者を担当した20代の男性医師が、患者の死後に行った処置により感染。医師は処置時にマスクや手袋を着用していたが、ゴーグルはしておらず、11日後に38℃の発熱などSFTSの症状が現れた。患者と医師のウイルス遺伝子が同一と判断され、これが国内初のヒトからヒトへの感染例と認定された。医師の症状は現在軽快している。これまで、SFTSのヒトからヒトへの感染は中国や韓国で報告されていたが、わが国での確認はこれが初めて。SFTSは、主にマダニに刺されて感染する感染症で、発熱や腹痛などを引き起こし、重症化すると死亡することもある。国立感染症研究所と厚生労働省は、医療従事者に対して患者の血液や体液に触れる可能性がある際の感染予防対策の徹底を改めて呼びかけている。参考1)本邦で初めて確認された重症熱性血小板減少症候群のヒト-ヒト感染症例(国立感染症研究所)2)マダニの媒介による感染症SFTS ヒトからヒトへ感染 国内初確認(NHK)3)マダニ感染症、国内初の人から人への感染確認…患者を処置した医師に症状(読売新聞) 3.看護師国家試験、合格率87.8%と4年ぶりに低下/厚労省厚生労働省は、第113回看護師国家試験の結果を発表した。これによると今年の合格率は87.8%で、4年ぶりに9割を下回ったことが明らかとなった。2月11日に実施された看護師国家試験は、6万3,301人が受験し、そのうち5万5,557人が合格した。新卒者の合格率は93.2%となり、新卒者の合格者数は5万3,903人だった。一方で、経済連携協定(EPA)に基づく外国人看護師候補者の合格者は17人(受験者294人)だった。助産師および保健師の国家試験においても、助産師は98.8%、保健師は95.7%といずれも新卒者の合格率が高くなっていた。今回の結果は、国の医療人材育成の現状を示すと同時に、外国人看護師候補者に対する支援の必要性を改めて浮き彫りにしている。参考1)第110回保健師国家試験、第107回助産師国家試験及び第113回看護師国家試験の合格発表(厚労省)2)看護師国家試験2024、新卒合格率は93.2%(リセマム)3)看護師国家試験、合格率87.8% 4年ぶりに9割を下回る(CB news)4)看護師国試、外国人候補者は17人合格(MEDIFAX)4.不整脈手術中の医療過誤、福岡高裁が九州医療センターに約2億円の賠償命令カテーテルアブレーション手術中の医療過誤をめぐる医療訴訟で、福岡高等裁判所は九州医療センター(福岡市)に約2億円の賠償命令を命じた。福岡県内の60代男性が不整脈の手術中に心停止し、その際の蘇生措置の遅延により低酸素脳症による意識障害の後遺症を負ったとして、約2億円の損害賠償を求めていた。1審では医療ミスを認めず訴えを退けたが、福岡高裁は控訴審判決で医師の過失を認め、1審判決を変更し約1億8,600万円の賠償を命じた。判決によると、男性は平成26年11月にカテーテルアブレーション治療中に心停止が発生し、医師らによる胸骨圧迫の蘇生措置の開始が遅れたため、約4分50秒間、脳への血流が停止状態にあったことが、男性の重い後遺症と因果関係があるとされた。この過失と後遺症の間の因果関係を認め、1審とは逆に男性側の訴えを認めた。男性の妻は医師の過失が認められたことに対して安堵のコメントを表明するとともに、病院には再発防止に努めるよう要望している。国立病院機構九州医療センターは判決文を精査した上で今後の対応を検討するとしている。参考1)心臓手術後寝たきり状態、国立病院機構に1億8,600万円賠償命令…請求棄却の1審判決を変更(読売新聞)2)手術中の医療過誤認める、国立病院機構に約2億円賠償命令「蘇生措置の開始に遅れ」(産経新聞)3)九州医療センターの過失認め 約2億円賠償命じる 福岡高裁(NHK) 5.同一の執刀医による肝臓がん手術後の3人の死亡事故を公表/東海中央病院岐阜県の東海中央病院(岐阜県各務原市)は、2016~2022年にかけて、同一の外科医が行った肝臓がんの手術により患者3人が死亡した医療事故を公表した。病院によると肝臓がんの手術中に大量出血が発生し、患者はいずれも出血性ショックで死亡した。執刀していた外科医は2023年6月に依願退職している。病院側は医療事故調査委員会の調査結果をもとに報告書をまとめ、医療事故調査・支援センターに再発防止策を含め報告した。報道によれば、病院側は3件のうち2件を医療事故と認めていなかったが、岐阜県の行政指導を受けて全件を医療事故として認定した。病院は、外部委員を含む調査委員会を設置し、再発防止策を公表した。これによると、施設内で対応可能な手術症例の明確化、術前・術後カンファレンス実施体制の構築、病院幹部への再教育などが含まれている。病院は患者の遺族に対して説明を行い、事故調査の結果を真摯に受け止め、医療の安全確保と再発防止に努めると表明した。参考1)当院で発生した医療事故について(東海中央病院)2)東海中央病院 患者3人が死亡する医療事故公表 岐阜 各務原(NHK)3)同じ外科医の手術中に患者3人死亡 各務原の東海中央病院で医療事故、肝切除の手術(中日新聞)4)同じ医師の手術で死亡事故3件、がん患者が肝切除で大量出血…2件は「事故でない」判断覆す(読売新聞)6.コロナ補助金8,500万円を不正受給した病院に返還命令/福岡県「飯塚みつき病院」(福岡県飯塚市)が、新型コロナウイルスに関連する補助金を不正に受給した問題で、福岡県から8,500万円余りの返還命令が出された。この補助金は、新型コロナウイルス感染症の入院患者を受け入れるための病床確保や設備整備を支援する目的で提供されていたが、同病院は実際には患者受け入れのための体制が整っていないにも関わらず、不正に補助金を申請していたことが判明した。2022年9月~2023年9月にかけての不正申請により、約7,600万円がすでに交付されており、さらに加算金約900万円の支払いが求められている。会計検査院と県の実地検査で、病院が必要な看護師を配置していないことや、補助金申請に際して虚偽の申請書を作成していたことが明らかになった。とくに、病院では2022年度、新型コロナの患者を1人も受け入れておらず、感染症対策として必要な病棟工事や人工呼吸器の購入などに関する証拠もみつからなかったと報告されている。さらに、病院は今年2月、職員が大量に退職し、診療継続が困難な状況に陥っているため、高齢者を中心とした入院患者は、他の病院への転院を余儀なくされている。福岡県は、この問題を重要視し、不正行為を行ったと判断し、返還命令を出した。病院側は、不正申請の経緯について「前任者に聞かないとわからない」と説明しており、県は県警に情報を提供している。福岡県は、このような悪質な不正行為を許すことはできないとして、他の医療機関に対しても同様の不正がないか調査を進めることにしている。参考1)コロナ病床の補助金8,500万円不正受給…福岡県飯塚市の病院、22年度の患者受け入れゼロ(読売新聞)2)飯塚市の病院 県の新型コロナ補助金8,500万円余を不正申請(NHK)3)新型コロナウイルス感染症対策事業の不正行為の対応について (福岡県)

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歯磨きは入院患者の肺炎リスクを低下させる

 院内肺炎(hospital acquired pneumonia;HAP)は入院患者に発生する肺の感染症で、死亡率の上昇や入院期間の延長、医療費の増大などを招く恐れがある。しかし、毎日、歯を磨くことでHAP発症リスクを低減できる可能性のあることが、新たな研究で示唆された。集中治療室(ICU)入室患者では、歯磨きにより死亡リスクが有意に低下する傾向も示された。米ブリガム・アンド・ウイメンズ病院内科のMichael Klompas氏と米ハーバード大学医学大学院Population Medicine分野のSelina Ehrenzeller氏によるこの研究結果は、「JAMA Internal Medicine」に12月18日掲載された。 Klompas氏は、「歯磨きが死亡リスク低下に対して驚くほど効果的なことが示唆された」と述べ、「病院での予防医学において、このような安価なのに高い効果を見込める方法は珍しい。今回の研究結果は、新しい機器や薬剤ではなく、歯磨きのような簡単なことが患者の転帰に大きな違いをもたらす可能性があることを示唆するものだ」との考えを示している。 Klompas氏らは、毎日の歯磨きが入院患者のHAP罹患やその他の患者転帰に与える影響を検討するために、総計1万742人の対象者(ICU入室患者2,033人、ICU非入室患者8,709人)から成る15件のランダム化比較試験を抽出。ICU以外の患者を対象にしたクラスターランダム化試験を有効なサンプルサイズに削減し、最終的に2,786人の患者を対象にメタアナリシスを行った。 その結果、毎日歯を磨いた患者ではHAP発症リスクが有意に低下し(リスク比0.67、95%信頼区間0.56〜0.81)、またICU入室患者では、歯を磨くことで死亡リスクも有意に低下することが明らかになった(同0.81、0.69〜0.95)。人工呼吸器装着の有無で分けて歯磨きによるHAP発症リスクの低下を見ると、人工呼吸器装着患者ではリスク低下は有意だったが(同0.68、0.57〜0.82)、非装着患者では有意ではなかった(同0.32、0.05〜2.02)。さらに、ICU入室患者では、歯磨きを行った患者では、歯磨きを行わなかった患者と比べて、人工呼吸器装着期間(平均差−1.24日、95%信頼区間−2.42〜−0.06)とICU入室期間(同−1.78、−2.85〜−0.70)が有意に短縮していた。 研究グループは、「肺炎は、口腔内の細菌が気道に吸い込まれて肺に感染することで発症する。フレイル状態にある患者や免疫力が低下している患者は、入院中に肺炎を発症するリスクが特に高まる。歯を毎日磨くことで口腔内の細菌量が減少し、肺炎の発症リスクが低下する可能性がある」と述べている。 また、研究グループは、「今回のレビューで対象とした研究のほとんどがICUで人工呼吸器を装着している患者を対象としていたものの、歯磨きの肺炎予防効果は他の入院患者にも当てはまるはずだ」との考えを示している。 Klompas氏は、「本研究で得られた知見は、入院患者に歯磨きを含む口腔衛生をルーチンで実施することの重要性を強調するものだ。われわれの研究が、入院患者が毎日確実に歯を磨くようにするための政策やプログラムのきっかけになることを願っている。患者が自分で歯を磨けない場合は、患者のケアチームのメンバーがサポートすると良いだろう」と話している。

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既往帝王切開、多面的介入で周産期合併症が減少/Lancet

 帝王切開分娩歴が1回の女性において、分娩方法の選択を支援しベストプラクティスを促進する多面的な介入により、帝王切開分娩や子宮破裂の発生率が増加することなく、主要な周産期合併症および妊産婦合併症の罹患率が有意に減少した。カナダ・ラヴァル大学のNils Chaillet氏らが、多施設共同クラスター無作為化非盲検比較試験「PRISMA試験」の結果を報告した。帝王切開分娩歴のある女性は、次の妊娠で難しい選択に直面し、再度帝王切開分娩を行うにしても経膣分娩を試みるにしても、いずれも母体および周産期合併症のリスクがあった。Lancet誌2024年1月6日号掲載の報告。意思決定支援やベストプラクティスなどの介入群vs.非介入(対照)群 研究グループはカナダ・ケベック州の公立病院40施設を、1年間のベースライン期間後にブロック無作為化法により医療レベル(地域病院、基幹病院、3次病院)で層別化して介入群と非介入(対照)群に1対1の割合で無作為に割り付けた。 介入群には、帝王切開分娩歴のある女性の分娩期ケアに対するベストプラクティスに関する研修や臨床ツール(陣痛モニタリングの臨床アルゴリズムと改良パルトグラフ、分娩方法に関する意思決定支援ツール)の提供を行い、ベストプラクティスの実施、経膣分娩の可能性や超音波検査による子宮破裂リスクの推定などを実施することとした。対照群は介入なしとした。実施期間は5~8ヵ月で、介入期間は2年であった。 主要アウトカムは、死亡を含む主要周産期合併症(分娩時または新生児死亡、Apgarスコア5分値4未満、代謝性アシドーシス、重症外傷、脳室内出血、脳室周囲白質軟化症、痙攣発作、侵襲的人工呼吸、重大な呼吸器疾患、壊死性腸炎、低酸素性虚血性脳症、新生児敗血症、昇圧剤を要する低血圧)の複合リスクとし、帝王切開分娩歴が1回のみで、参加施設で出産し、新生児の在胎週数が24週以上、出生時体重500g以上の単胎妊娠の女性を解析対象とした。介入群で主要周産期合併症、母体の主要合併症が有意に減少 2016年4月1日~2019年12月13日に分娩した適格女性は、2万1,281例であった(介入群1万514例、対照群1万767例)。追跡不能例はなかった。 主要周産期合併症罹患率は、対照群ではベースライン期間の3.1%(110/3,507例)から介入期間は4.3%(309/7,260例)に増加したが、介入群では4.0%(141/3,542例)から3.8%(265/6,972例)に減少し、介入群において対照群と比較しベースライン期間から介入期間の主要周産期合併症罹患率の有意な減少が認められた(補正後オッズ比[OR]:0.72[95%信頼区間[CI]:0.52~0.99]、p=0.042、補正後絶対群間リスク差:-1.2%[95%CI:-2.0~-0.1])。介入の効果は、病院の医療レベルにかかわらず同等であった(交互作用のp=0.27)。 母体の主要合併症(妊産婦死亡、子宮摘出、血栓塞栓症、4日以上のICU入室、急性肺水腫、心原性ショック、敗血症、内臓損傷、子宮破裂)の罹患率も、対照群と比較して介入群で有意に減少した(補正後OR:0.54、95%CI:0.33~0.89、p=0.016)。 軽度の周産期合併症および母体合併症の罹患率、帝王切開分娩率、子宮破裂率については、両群間で有意差は確認されなかった。

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2023年、読んでよかった!「この医学書」/会員医師アンケート

2023年も多くの医学書が刊行されました。CareNet.comでは、会員医師1,000人(内科、循環器科、呼吸器科、消化器科、精神科/心療内科・各200人)に、「今年読んでよかった医学書」についてアンケートを実施しました(今年刊行された本に限らず、今年読んだ本であればOK)。アンケートでは「ご自身の専門分野でよかった本」「専門分野以外でよかった本」を1冊ずつ、理由も添えて挙げてもらいました。本記事では、複数の医師から名前の挙がった書籍を、お薦めコメントと共に紹介します(アンケート実施日:12月5日)。ぜひ、年末年始の読書の参考にしてください。内科幅広いテーマの書籍が「専門分野」として挙げられた内科。『今日の治療薬』(南江堂)、『ハリソン内科学』(メディカル・サイエンス・インターナショナル)、『当直医マニュアル』(医歯薬出版)といった「ド定番」のほか、糖尿病治療に関する書籍と「日本内科学会雑誌」を挙げる人が目立ちました。『ジェネラリストのための内科外来マニュアル 第3版』(金城 光代ほか[編]、医学書院、2023年)内科外来のトップマニュアルが6年ぶりの改訂。内科医以外からも多くの推薦がありました。●推薦コメント「外来診療に役立った」「疾患別に緊急性や重症度などを考えさせるように導く内容となっていて面白い」『胃炎の京都分類 改訂第3版』(春間 賢[監修]、日本メディカルセンター、2023年)多くの画像で胃炎を解説する定番書の改訂第3版。●推薦コメント「慢性胃炎に対する内視鏡的・肉眼的考察により、これまでの慢性胃炎の概念を体系化した書物」「臨床に生かせる」『内科学 第12版』(矢崎 義雄・小室 一成[編]、朝倉書店、2022年)初版は1977年、病態生理を中心に内科的疾患の最新の知見を集大成した改訂12版。●推薦コメント「鉄板です」「ザ・定番と思われるため」循環器科内科医からも多くの推薦があった『ジェネラリストのための内科外来マニュアル』のほか、個別テーマでは心電図、PCIを扱った書籍が多く挙げられました。『循環とは何か? 虜になる循環の生理学』(中村 謙介[著]、三輪書店、2020年)難解な循環の生理学を、深くかつわかりやすく解説。●推薦コメント「面白い」「知識の整理になった」『PCIで使い倒す IVUS徹底活用術 改訂第2版』(本江 純子[編]、メジカルビュー社、2020年)「もっとこうしたらIVUSをより有効に活用できる」という手順・方法などを、実例と共に解説。●推薦コメント「IVUSの基本的な読影やトラブルシューティングなど、理論的にわかりやすかった」「説明がわかりやすく、実践的」『心不全治療薬の考え方,使い方 改訂2版』(齋藤 秀輝ほか[編]、中外医学社、2023年)心不全治療薬の整理のほか、使い分けや未知の事柄も追記した実践的な書の改訂版。●推薦コメント「いつも参考にしています」「心不全治療薬の“革命”を経て…、U40新世代が作り上げるバイブル」呼吸器科「間質性肺炎」「肺がん」「喘息」「気管支鏡」「人工呼吸」「咳」など、「専門」とする書籍テーマのバリエーションが多様だった呼吸器科。回答者によってさまざまな疾患に対応していることが垣間見える結果となりました。『ポケット呼吸器診療2023』(倉原 優[著]、シーニュ、2023年)CareNet.comの連載でもおなじみの倉原氏による定番の一冊の最新版。●推薦コメント「毎年非常に詳しく書かれているから」「ガイドラインや最新の治療薬のアップデートを記憶するのに役立つ」「呼吸器診療のtipsがコンパクトにまとめられている」『誤嚥性肺炎の主治医力』(飛野 和則[監修]、吉松 由貴[著]、南山堂、2021年)飯塚病院 呼吸器内科の著者らによる誤嚥性肺炎診療の実践書。●推薦コメント「気を付けるポイントを再認識した」「読みやすく、わかりやすかった」『抗菌薬の考え方,使い方 ver.5』(岩田 健太郎[著]、中外医学社、2022年)未曽有のコロナ禍を経て、新たに刊行された改訂版。●推薦コメント「大学の授業で習うべき重要な内容」「基本的な抗菌薬の知識を臨床の面から解説してある」「普段何気なく使用している抗菌薬の使用方法を見直すきっかけになった」消化器科内科医からも多く挙げられた『胃炎の京都分類 改訂第3版』のほか、医学誌「胃と腸」や『胃と腸アトラス』を「基本知識、専門知識がよくわかる」「読影の参考になる」「症例問題集が面白く勉強になる」と推薦する声が目立ちました。『専門医のための消化器病学 第3版』(下瀬川 徹ほか[監修]、医学書院、2021年)消化器専門医が知っておきたい最新知見を各領域のエキスパートが解説。●推薦コメント「内容が新しくてよい」「専門医として知っておくべき内容がまとめてあり、わかりやすい」「網羅的に消化器病の知識が記されており、教科書兼辞書として重宝している」『カール先生の大腸内視鏡挿入術 第2版』(軽部 友明[著]、日本医事新報社、2020年)内視鏡手技をテーマとした書籍が多いなか、内視鏡挿入のテクニックを動画付きで解説した本書を挙げる人が目立ちました。●推薦コメント「図が豊富」「基本的な内容が理解できた」「わかりやすく、新しい発見があった」『患者背景とサイトカインプロファイルから導く IBD治療薬 処方の最適解』(杉本 健[著]、南江堂、2023年)炎症性腸疾患(IBD)の治療薬について、著者独自の観点から患者ごとの最適解の考え方を提供。●推薦コメント「目から鱗でした」「わかりやすく、的確な具体例もある」精神科/心療内科他科と比較して同じ本を選択した回答者が多く、刊行から時間が経過した本も多く選ばれる傾向がありました。『精神診療プラチナマニュアル 第2版』(松崎 朝樹[著]、メディカル・サイエンス・インターナショナル、2020年)精神診療に必要かつ不可欠な内容をハンディサイズに収載。●推薦コメント「ノイヘレン(新人)時代にこういった入門書があればよかった。今でも復習に役立つ」「内容がわかりやすくまとまっている」「最新の話題が記載されている」『[新版]精神科治療の覚書』(中井 久夫[著]、日本評論社、2014年)「医者ができる最大の処方は希望である」。精神科医のみならず、すべての臨床医に向けられた基本の書。●推薦コメント「読みやすい」「改めて読み直してみて、初心を思い出せた」『カプラン臨床精神医学テキスト 第3版』(井上 令一[著・監修]、メディカル・サイエンス・インターナショナル、2016年)DSM-5準拠、高評と信頼を得た最高峰のテキストの改訂版。●推薦コメント「精神科医が学ぶことがおおむね網羅されている」「DSM-5に準じ体系化されていて、たくさんの疾患が網羅されている」「精神科専門医試験もここから多く出ていた」専門も専門外も!「信頼のシリーズ」アンケートの設問では「事典やガイドライン、医学雑誌以外の本を推薦ください」と条件を付けたものの、医師にとって最も身近であるこれらの書籍や、医学生・研修医、非専門医、コメディカルを対象とした定番シリーズを挙げる方も多くいました。「極論で語る」シリーズ(丸善出版)●推薦コメント「循環器疾患についてメカニズムと対応方法をわかりやすく解説してくれる」(『極論で語る循環器内科』/循環器科)、「体液コントロールにおける腎臓の視点を取り入れることができる」(『極論で語る腎臓内科』/循環器科)「病気がみえる」シリーズ(メディックメディア)●推薦コメント「看護学校の講師をしていますが、初心に返ることができた」(循環器科)、「基礎の確認になった」(循環器科)「レジデントのための」シリーズ(日本医事新報社)●推薦コメント「内科診療の疑問をEBMの側面でまとめてくれている」(『レジデントのための 内科診断の道標』/精神科)、「実臨床に即しており、非常にわかりやすい」(『レジデントのための これだけ輸液』/呼吸器科)どの科も必須「このテーマ」新型コロナウイルス感染症が収まり切らないなか、「専門外」の良書としてどの科の医師からも名前が挙がった本には、感染症をテーマとするものが多数ありました。『レジデントのための感染症診療マニュアル 第4版』(青木 眞[著]、医学書院、2020年)初版から20年。読み継がれてきた「感染症診療のバイブル」の最新版。●推薦コメント「抗菌薬の選択に参考となる」(呼吸器科)『感染症プラチナマニュアル Ver.8 2023-2024』(岡 秀昭[著]、メディカル・サイエンス・インターナショナル、2023年)2015年初版、ベストセラー「感染症診療マニュアル」の改訂第8版。●推薦コメント「実臨床に即しており、非常にわかりやすい」(呼吸器科)キラリと光る「新定番」絶対数としてはさほど多くないものの、最近刊行された注目の書籍が、複数の科の医師から「専門外の好著」として名前が挙がりました。『誰も教えてくれなかった皮疹の診かた・考えかた』(松田 光弘[著]、医学書院、2022年)皮膚科疾患のロジックが身に付く、フローチャートを用いた解説が好評の一冊。●推薦コメント「皮膚科が苦手だったが、まさに目からウロコ」(内科)、「皮疹を診る際の皮膚科医の思考過程がよくわかる」(内科)、「他科の医師でも皮疹診療についての基本がわかる」(呼吸器科)『世界一わかりやすい 筋肉のつながり図鑑』(きまた りょう[著]、KADOKAWA、2023年)100点以上のオールカラーイラストで筋肉のつながり・仕組みを平易に解説した一般書のベストセラー。●推薦コメント「筋肉の解剖学的特徴がわかりやすい」(内科)、「イラストがよい、わかりやすい」(消化器科)『心電図ハンター 心電図×非循環器医』(増井 伸高[著]、中外医学社、2016年)非循環器医をターゲットに、即座に判断できない微妙な症例を集め、心電図判読のコツを紹介。●推薦コメント「実際の臨床の場面を想定した形での判断基準などがわかりやすい」(内科)、「知りたいことがコンパクトにまとめてある」(呼吸器科)こんな本も! 医師ならではの一冊医学書以外でも、医師ならではの視点から、熱のこもったコメントと共に寄せられた本がありました。『蘭学事始』(杉田 玄白[著]、緒方 富雄[校註]、岩波文庫、1959年)江戸後期、杉田 玄白が著した蘭学創始期の回想録。●推薦コメント「印象に残った」(呼吸器科)『医療現場の行動経済学 すれ違う医者と患者』(大竹 文雄・平井 啓[編著]、東洋経済新報社、2018年)●推薦コメント「インフォームドコンセントからSDMになり、なんとなく感じていた違和感が、行動経済学的な考え方によりすっきりした」(消化器科)『嫌われる勇気』(岸見 一郎・古賀 史健[著]、ダイヤモンド社、2013年)アドラー心理学を解説する、100万部突破のベストセラー。●推薦コメント「承認欲求に気付くことができた」(循環器科)『わたしが誰かわからない ヤングケアラーを探す旅』(中村 佑子[著]、医学書院、2023年)●推薦コメント「一体ヤングケアラーとは誰なのか。世界をどのように感受していて、具体的に何に困っているのか。取材はドキメンタリーを読むようだ」(消化器科)

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重症ARDS、ECMO中の腹臥位は無益/JAMA

 重症急性呼吸窮迫症候群(ARDS)で静脈脱血・静脈送血の体外式膜型人工肺(VV-ECMO)による治療を受けている患者において、腹臥位療法は仰臥位療法と比較し、ECMO離脱成功までの期間を短縮しなかった。フランス・ソルボンヌ大学のMatthieu Schmidt氏らが、同国14施設の集中治療室(ICU)で実施した医師主導の無作為化並行群間比較試験「PRONECMO試験」の結果を報告した。腹臥位療法は重症ARDS患者の転帰を改善する可能性が示唆されているが、VV-ECMOを受けているARDS患者に対して、仰臥位療法と比較し臨床転帰を改善するかどうかは不明であった。JAMA誌オンライン版2023年12月1日号掲載の報告。ECMO施行48時間未満の重症ARDS患者を無作為化、60日以内のECMO離脱成功を比較 研究グループは2021年3月3日~12月7日に、ICUにてVV-ECMO施行開始から48時間未満の18歳以上75歳未満の重症ARDS患者を、腹臥位ECMO群または仰臥位ECMO群に1対1の割合に無作為に割り付けた。 腹臥位ECMO群では、腹臥位療法の早期中止基準を満たさない限り、最初の4日間に16時間の腹臥位を少なくとも4回行い、仰臥位ECMO群ではECMO施行中の腹臥位を60日目まで禁止した。 主要アウトカムは、無作為化後60日以内のECMO離脱成功までの期間。離脱成功は、ECMO中止後30日間、ECMOまたは肺移植を受けず生存した場合と定義した。副次アウトカムは、無作為化後90日時点の全死亡、ECMOおよび人工呼吸器非装着期間、ICU在室および入院期間などであった。また、有害事象(無作為化後7日間の褥瘡を含む)および重篤な有害事象についても評価した。腹臥位療法と仰臥位療法で、主要アウトカムおよび副次アウトカムに有意差なし 適格性を評価された250例のうち170例が無作為化され(腹臥位ECMO群86例、仰臥位ECMO群84例)、全例が追跡調査を完了した。 170例の年齢中央値は51歳(四分位範囲[IQR]:43~59)、女性は60例(35%)。170例中159例(94%)は、ARDSの主な原因が新型コロナウイルス感染症(COVID-19)肺炎であった。ECMO開始前に164例(96%)が腹臥位で、呼吸器系コンプライアンス中央値は15.0mL/cm H2O(IQR:10.7~20.6)であった。 無作為化後60日以内にECMO離脱に成功した患者は、腹臥位ECMO群86例中38例(44%)、仰臥位ECMO群84例中37例(44%)であった(群間リスク差:0.1%[95%信頼区間[CI]:-14.9~15.2]、部分分布ハザード比:1.11[95%CI:0.71~1.75]、p=0.64)。 また、無作為化後90日以内に腹臥位ECMO群で44例(51%)、仰臥位ECMO群で40例(48%)が死亡し(絶対群間リスク差:2.4%、95%CI:-13.9~18.6、p=0.62)、90日以内のECMO装着期間(日数)の平均値はそれぞれ27.51および32.19(絶対群間差:-4.9、95%CI:-11.2~1.5、p=0.13)であり、すべての副次アウトカムで両群間に有意差はなかった。 重篤な有害事象については、心停止の発生率は腹臥位ECMO群より仰臥位ECMO群で有意に高かったが(3.5% vs.13.1%、絶対群間リスク差:-9.6%[95%CI:-19.0~-0.2]、相対リスク:0.27[95%CI:0.08~0.92]、p=0.05)、それ以外の重篤な有害事象の発現率は両群で同等であり、両群とも不測のECMO脱血管、予定外の抜管および重度の喀血の発生は認められなかった。

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外傷患者への人工呼吸器の深呼吸機能は有効か/JAMA

 急性呼吸窮迫症候群(ARDS)のリスク因子を有し、人工呼吸器による管理を受けている外傷患者では、通常ケア単独と比較して、通常ケアに人工呼吸器による深呼吸を追加しても、28日目まで人工呼吸器不要日数は増加しないが、死亡率は改善したとの結果が、米国・コロラド大学のRichard K. Albert氏らが実施した「SiVent試験」で示された。研究の詳細は、JAMA誌2023年11月28日号で報告された。米国15施設の実践的な無作為化試験 SiVent試験は、米国の15の外傷治療施設が参加した実践的な無作為化試験であり、2016年4月~2022年9月の期間に患者の無作為化を行った(Department of Defense Peer-Reviewed Medical Research Program Clinical Trial Awardの助成を受けた)。 年齢18歳以上、人工呼吸器の使用時間が24時間未満の外傷患者で、ARDS発症の5つのリスク因子のうち1つ以上を有し、今後の人工呼吸器の使用時間が24時間以上、生存期間が48時間以上と予測される患者524例(平均年齢43.9[SD 19.2]歳、男性75.2%)を登録し、通常ケア+人工呼吸器による深呼吸を行う群(深呼吸群)に261例、通常ケアのみを行う群(通常ケア群)に263例を無作為に割り付けた。 深呼吸群では、人工呼吸器により6分ごとにプラトー圧35cmH2O(BMI値>35の患者は40cmH2O)の深呼吸を導入し、通常ケア群では、医師が患者の希望に応じて治療を行うこととした。 主要アウトカムは、人工呼吸器不要日数(VFD)とし、28日目までの、侵襲的換気の再導入がなく、呼吸補助なしの日数と定義した。副次アウトカムは、28日目までの全死因死亡などであった。抜管成功までの期間は深呼吸群で短い 28日目までのVFD中央値は、深呼吸群が18.4日(四分位範囲[IQR]:7.0~25.2)、通常ケア群は16.1日(1.1~24.4)であり、両群間に有意な差を認めなかった(p=0.08)。VFDの補正前平均群間差は1.9日(95%信頼区間[CI]:0.1~3.6)、事前に規定された補正後平均群間差は1.4日(95%CI:-0.2~3.0)だった。 抜管成功までの期間は深呼吸群のほうが短かった(部分分布ハザード比[HR]:1.21、95%CI:1.00~1.47、p=0.05)。 また、28日死亡率は、通常ケア群が17.6%(46/261例)であったのに対し、深呼吸群は11.6%(30/259例)と良好であった(オッズ比[OR]:0.61、95%CI:0.37~1.00、p=0.05)。死亡の補正前HRは0.64(95%CI:0.41~1.02、p=0.06)、同補正後HRは0.70(0.43~1.15、p=0.16)だった。非致死性の重篤な有害事象の頻度はほぼ同じ ICU非入室日数中央値は、深呼吸群が13.7日(IQR:2.0~20.6)、通常ケア群は11.9日(0~20.0)であった(p=0.10)。 合併症の発生率には、両群間に差を認めなかった。また、非致死性の重篤な有害事象の割合は、深呼吸群で30.9%(80/259例)、通常ケア群で30.7%(80/261例)と両群で同程度であったが、深呼吸群で低血圧(2.7%[7例]vs.0%)が多くみられた。 著者は、「死亡率が低下し、合併症が増加しなかったことなどから、人工呼吸器による深呼吸の導入は忍容性が高く、臨床アウトカムを改善する可能性があることを示唆する」と指摘し、「深呼吸と死亡率低下を結び付けるメカニズムは推測しかできない」としている。

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3日間のアミカシン吸入、長期挿管患者の人工呼吸器関連肺炎発生を軽減(解説:栗原宏氏)

Strong point ・多施設二重盲検ランダム比較試験で結果の信ぴょう性が高い・手技が簡便かつ重篤な副作用の発症が少ない・治療効果が臨床的に有意義研究デザイン上の限界・ICU、入院期間全体を短縮するかの評価は試されていない 人工呼吸器関連肺炎(VAP)は、気管挿管後48~72時間以上経過して発生する肺炎を指す。報告によって幅があるが全挿管患者の5~40%に発生するとされ、ICUでしばしばみられる感染性合併症である。死亡率は約10~30%と院内肺炎の中でもかなり高い。 気管チューブから侵入した細菌が気管チューブ、気管支肺胞系、肺実質で増殖することがVAPの原因となる。抗菌薬吸入療法はこれらの部位に直接高濃度の抗菌薬投与が可能であり、小規模試験のメタ解析によればVAP予防に有効であることが示されている。これを踏まえて、著者らは人工呼吸器導入後3日目以降に、1日1回3日間、理想体重1kg当たり20mgのアミカシン吸入療法を行い、VAPの発生率が減少するかを検討した。 VAPの発症は肺検体の定量的細菌培養で陽性、および白血球増多、白血球減少、発熱、胸部X線撮影で新たな浸潤影を伴う化膿性分泌物のうち、少なくとも2つを満たすと定義され、期間も28日間と実臨床に即した判定法といえる。 主要アウトカムは以下のとおりで、臨床的にも意義があると考えられる。・VAP発症:アミカシン群62例(15%) vsプラセボ群95例(22%)・VAP発症までの境界内平均生存期間(RMST)の群間差:1.5日(95%信頼区間[CI]:0.6~2.5、p=0.004)・侵襲的人工呼吸管理1,000日当たりのVAP初回エピソード発生頻度:アミカシン群16 vsプラセボ群23(発生率比:0.68、95%CI:0.49~0.94) ※RMSTは、「境界時間内のイベント発現までの時間に対する平均値」と定義され、短い観察期間でも生存曲線の要約情報を得ることができる。従来用いられていたCox比例ハザードモデルが厳密には適用できない場合があるため、新たな生存時間解析の指標として広まりつつある。 治療に起因する重篤な副作用(気管チューブの閉塞、気管支痙攣、呼気リンパフィルターの抵抗増加)はみられたが、1.7%(417例中7例)程度かつプラセボ群との有意差もなく、治療自体のリスクは低いと考えらえる。 本調査のアミカシン吸入療法によってVAP発症率を改善することが示されたが、デザイン上、28日間でのVAP発症の有無自体をエンドポイントとしており、ICU、入院期間全体の短縮に寄与するかは不明である。この点に関して今後の調査が期待される。 VAPの高い死亡率、治療の簡便さ、治療自体の危険性を総合的に考えると、長期の挿管が予想される患者に対して予防的なアミカシン吸入療法の実施は検討に値すると思われる。

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アミカシン吸入、人工呼吸器関連肺炎発症を抑制/NEJM

 少なくとも3日間侵襲的人工呼吸管理を受けている患者において、アミカシン1日1回3日間吸入投与はプラセボと比較し、28日間の人工呼吸器関連肺炎(VAP)の発症を有意に減少したことが、フランス・トゥール大学のStephan Ehrmann氏らCRICS-TRIGGERSEP F-CRIN Research Networksが実施した多施設共同無作為化二重盲検プラセボ対照優越性試験「AMIKINHAL試験」において示された。予防的な抗菌薬吸入投与がVAPの発症を減少させるかどうかは不明であった。NEJM誌オンライン版2023年10月25日号掲載の報告。侵襲的人工呼吸管理が72時間以上96時間未満の患者を無作為化 研究グループは、フランスの19施設のICUにおいて、侵襲的人工呼吸管理を72時間以上受けている成人患者をアミカシン(標準体重1kg当たり20mg)群またはプラセボ(同量の0.9%塩化ナトリウム)群に1対1の割合に無作為に割り付け、1日1回3日間吸入投与した。 侵襲的人工呼吸管理を96時間行った患者、VAPが疑われるか確認された患者、腎代替療法を受けていない重症急性腎障害患者、慢性腎臓病(糸球体濾過量<30mL/分)患者、気管切開チューブを留置している患者、24時間以内に抜管が予定されている患者、アミノグリコシド系薬の全身投与を受けている患者は除外した。 主要アウトカムは、無作為化後28日間のVAP発症(肺検体の定量的細菌培養で陽性、および次の所見のうち少なくとも2つを満たすと定義・盲検下中央判定:白血球増多、白血球減少、発熱、胸部X線撮影で新たな浸潤影を伴う化膿性分泌物)で、安全性についても評価した。28日時までのVAP発症は、プラセボ群よりアミカシン群で少ない 2017年7月3日~2021年3月9日に、計850例が無作為化され、同意撤回の3例を除く847例(アミカシン群417例、プラセボ群430例)がITT解析対象集団となった。アミカシン群では337例(81%)、プラセボ群では355例(82%)が1日1回計3回の投与を完了した。 28日間のVAP発症は、アミカシン群62例(15%)、プラセボ群95例(22%)に認められ、VAP発症までの境界内平均生存期間(RMST)の群間差は1.5日(95%信頼区間[CI]:0.6~2.5、p=0.004)、侵襲的人工呼吸管理1,000日当たりのVAP初回エピソード発生頻度はアミカシン群16、プラセボ群23(発生率比:0.68、95%CI:0.49~0.94)であった。 感染に関連した人工呼吸器関連合併症は、アミカシン群74例(18%)、プラセボ群111例(26%)に発生した(ハザード比:0.66、95%CI:0.50~0.89)。 試験に関連した重篤な副作用は、アミカシン群で7例(1.7%)、プラセボ群で4例(0.9%)に認められた。

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日本人は肥満が重症コロナ転帰不良のリスク因子でない?

 アジア人の肥満は、人工呼吸器を要する重症新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者において、転帰不良のリスク因子ではないことを示唆するデータが、国内多施設共同研究の結果として報告された。東京医科大学病院救命救急センターの下山京一郎氏らによる論文が、「Scientific Reports」に7月24日掲載された。 COVID-19パンデミックの比較的初期の段階で、肥満が重症化リスク因子の一つであると報告された。しかし重症化して人工呼吸器を要した患者において、肥満が予後に影響を与えるのかは未解明であった。また、アジア人においては大規模なコホート研究がされておらず、知見がより少ない。これを背景として下山氏らは、国内のCOVID-19治療に関するレジストリである「J-RECOVER」のデータを用いた過去起点コホート研究により、ICUに収容され人工呼吸器を要した患者の転帰に肥満が関与しているか否かを検討した。J-RECOVERは国内66施設が参加して実施され、2020年1~9月に退院したCOVID-19症例4,700件の診療報酬包括評価(DPC)データや治療転帰などの情報が登録されている。 解析対象は、ICUにて侵襲的機械換気(IMV)が施行されていた580人から、BMIデータが記録されている477人とした。またアジア人の肥満の影響を検討するという目的から、アジア人以外は除外している。 この477人の年齢は中央値67歳(四分位範囲56~75)、男性78.4%、BMI中央値25.0(22.3~28.1)であり、BMI25未満の非肥満群が242人(50.7%)、BMI25以上の肥満群が235人(49.3%)。各群のBMI中央値は、非肥満群22.4、肥満群28.2だった。 肥満の有無で比較すると、年齢は肥満群のほうが若年で(中央値61対70歳、P<0.001)、糖尿病が多い(33.2対22.7%、P=0.014)という有意差が見られた。ただし、両群ともにチャールソン併存疾患指数(CCI)が中央値0、ICU患者の重症度の指標であるSOFAスコアは4、ICU滞在期間13日で、いずれも同等であり、慢性腎臓病、心不全の有病率も有意差がなかった。 主要評価項目として検討した院内死亡は、非肥満群が71人(29.3%)、肥満群は49人(20.9%)であり、肥満群の方が少なかった(P=0.035)。単変量解析の結果、肥満は院内死亡との有意な負の関連が見られた〔オッズ比(OR)0.634(95%信頼区間0.417~0.965)〕。ただし、説明変数に年齢、性別、CCIを加えた多変量解析では単変量解析で見られた負の関連は消失し、肥満は院内死亡との関連は見られなかった〔OR1.150(同0.717~1.840)〕。 副次的評価項目として検討した体外式膜型人工肺(VV-ECMO)の施行は、非肥満群が38人(15.7%)、肥満群は52人(22.1%)であり有意差がなかった(P=0.080)。単変量解析の結果、肥満は有意な関連因子でなく〔OR1.530(同0.960~2.420)〕、多変量解析の結果も非有意だった〔OR1.110(同0.669~1.830)〕。 著者らは、本研究が後方視的解析であることなどの限界点を述べた上で、「国内のICUにてIMVを要したCOVID-19患者では、肥満は院内死亡リスクと関連がないことが示された。肥満を有することは重症COVID-19転帰不良のリスク因子ではないのではないか」と結論付けている。 なお、欧米での一部の先行研究と異なる結果となった理由について、アジア人の肥満は欧米人ほどBMIが高くなく、本研究においても肥満群のBMIは中央値28.2であって欧米の過体重の範囲にあるという相違の影響を、考察として指摘している。また、肥満群のほうが若年であったこと、および、パンデミック当初に肥満が重症化リスク因子であると報告されていたため、肥満患者に対してより早期に積極的な治療が行われていた可能性の関与も考えられるという。

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筋肉が脂肪化していると非肥満でもCOVID-19が重症化しやすい

 体組成と新型コロナウイルス感染症(COVID-19)重症化リスクとの関連が報告された。COVID-19が重症化した患者はBMIや内臓脂肪面積が高値であることのほかに、非肥満で重症化した患者は筋肉内の脂肪が多いことなどが明らかになったという。三重大学医学部附属病院総合診療部の山本貴之氏、山本憲彦氏らの研究によるもので、詳細は「PLOS ONE」に7月28日掲載された。 肥満がCOVID-19重症化のリスク因子であることは、パンデミックの初期から指摘されている。ただし、肥満か否かを判定するための指標であるBMIには体組成が反映されないため、例えば内臓脂肪の蓄積のみが顕著であまり太っているように見えない、いわゆる“隠れ肥満”では、肥満と判定されないことがある。反対に筋肉質であるために高体重の場合に肥満と判定されてしまうようなことが起きる。 また最近では、COVID-19重症化リスクはBMIよりむしろ内臓脂肪量と強く相関することなどが報告されている。ただしこれまでのところ、体組成とCOVID-19重症化リスクとの詳細な関連は明確になっていない。加えて、BMIや体組成と疾患リスクとの関連は人種/民族により異なることから、日本発の知見が必要とされる。これらを背景として山本氏らは、日本人COVID-19患者におけるBMIや体組成と、COVID-19重症化リスクとの関連を検討した。 研究対象は、2020年8月~2021年9月に同院に入院したCOVID-19患者のうち、体組成を評価可能な画像検査データが記録されていた連続76症例。年齢は中央値59歳(範囲22~85)、男性71.1%、BMIは中央値26.8(同17~58.6)で、2型糖尿病が36.8%であり、59.2%に脂肪肝が認められた。体組成関連の指標は、内臓脂肪面積(VFA)が中央値128.7cm2(13.6~419.5)であり、また、筋肉の質の指標とされている筋肉内脂肪組織含有量(IMAC)は-0.33(-0.73~-0.02)だった。なお、IMACは値が高いほど、筋肉が脂肪化していることを意味する。 入院中に48人が気管挿管と人工呼吸管理を要する状態に重症化していた。重症化群と非重症化群を比較すると、前者は炎症マーカー(CRP、白血球数)が有意に高く、体重(中央値76.0対67.0kg)、BMI(27.7対24.0)、VFA(159.0対111.7cm2)も有意に高値だった。年齢、性別、糖尿病患者の割合、クレアチニン、リンパ球数、血小板数、凝固マーカー(Dダイマー)、およびVFA以外の体組成関連指標(IMACや大腰筋質量指数など)には有意差がなかった。 重症化した48人のうち13人が入院中に死亡した。この群を生存退院した35人と比較すると、腎機能の低下(クレアチニンが中央値1.41対0.73mg/dL)と、血小板数の減少(139対214×103/μL)が見られた。その一方で、年齢や性別、および体重・体組成関連指標も含めて、評価したその他の項目に有意差はなかった。 次に、全体を肥満度で3群(BMI25未満、25~30未満、30以上)に層別化し、重症化群と非重症化群の体組成を比較。するとBMI25以上の場合には体組成関連指標に有意差がなかったが、BMI25未満の場合は重症化群のIMACが非重症化群より有意に高値を示していた(P=0.0499)。また、BMI25以上では重症化群と非重症化群で年齢に有意差がなかったが、BMI25未満では重症化群の方が高齢だった(P=0.015)。なお、死亡リスクについては、肥満度にかかわらず、IMACとの有意な関連は認められなかった。 著者らは、本研究が単一施設で行われたものであり、サンプル数が比較的少ないなどの限界点があるとした上で、「非肥満の日本人ではIMACで評価される筋肉の質が低下しているほど、COVID-19罹患時に重症化しやすい可能性がある。ただし、肥満患者ではこの関連が見られず、またIMACは死亡リスクの予測因子ではないようだ」と結論付けている。なお、この関連の背景については既報研究を基に、「筋肉の質の低下によって呼吸器感染症からの防御に重要な咳嗽反応(せき)が十分でなくなること、筋肉由来の生理活性物質(サイトカイン)であり炎症反応などに関わるマイオカインの分泌が低下することなどの関与が考えられる」と考察している。

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米国の病院から学んだ急性期緩和ケア【非専門医のための緩和ケアTips】第58回

第58回 米国の病院から学んだ急性期緩和ケア先日、米国・ロサンゼルスにあるCedars-Sinai Medical Center(CSMC)を見学する機会がありました。日本と米国の医療制度は健康保険、職種ごとの権限、運営資源など異なる点も多いものの、共通の課題や参考になる点も多くありました。今日の質問先日、人工呼吸器装着や延命治療の中止に関するニュースを見ました。長く議論されている話題ですが、法整備や現場での運用はどうなっていくのでしょうか?今回は生命維持治療の中止についての質問をいただきました。緩和ケアには「急性期医療」の分野があります。緩和ケアというと「がん患者の終末期ケア」というイメージが根強いですが、急性期医療の分野でも症状緩和や意思決定支援、倫理的な問題を緩和ケアの一環として議論する機会が増えてきました。米国で見学したCSMCは急性期病院で、緩和ケアの対象は非がん疾患の方が多く、集中治療領域における緩和ケアのコンサルテーションにしばしば対応している、とのことでした。今回の質問にある生命維持治療の中止については、米国でもしばしば議論になるそうです。CSMCの緩和ケア医と議論した際、治療中止の際の苦痛緩和や家族へのケアを標準化していることが印象的でした。たとえば、人工呼吸器の装着を終了する際には呼吸困難を和らげる薬剤を準備し、家族に対して状況や見通しを共有する、などに多職種で取り組んでいるそうです。ケースや医療者ごとに対応がバラつきがちな日本と大きく異なる点だと感じました。治癒の見込みのなくなった患者に対する治療の中止は、医学的にはもちろん、倫理的にも難しい判断です。米国では本人の自立性を尊重し、本人の希望に沿って治療の中止を決断できるのでしょうか? 実はここはさまざまで、日本と同様に家族間で意見が異なる場合や、遠方の親族の意見を聞くために時間を要することがあるそうです。ここからは私の意見ですが、日本においても回復の見込みのなくなった患者の生命維持治療の中止をどのように考えるか、というのは今後避けては通れない議論でしょう。無益で患者の望まない治療を適切な時期に中止するため、必要な法的整備や現場での実践についてさらに議論していく必要があるでしょう。米国の病院の急性期緩和ケアを見学し、こんなことを感じました。いろいろな意見がある分野だと思います。皆さんの意見も聞かせてください。今回のTips今回のTips急性期の緩和ケア、延命治療中止に関する議論が求められています。

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ウクライナの戦争負傷者で薬剤耐性菌が増加

 ウクライナで戦争により負傷して入院した患者の多くが、極度の薬剤耐性を獲得した細菌に感染していることが、ルンド大学(スウェーデン)臨床細菌学分野教授のKristian Riesbeck氏らによる研究で示された。研究グループは、このような状況が戦争により荒廃したウクライナの負傷者や病人に対する治療をいっそう困難なものにしているとの危惧を示している。この研究は、「The Lancet Infectious Diseases」7月号に掲載された。 Riesbeck氏は、「私はこれまでに多くの薬剤耐性菌と患者を目にしてきたため慣れているが、今回目撃したほど強烈な薬剤耐性菌に遭遇したことは、これまでなかった」と話している。 今回の研究は、国立ピロゴフ記念医科大学(ウクライナ)の微生物学者であるOleksandr Nazarchuk氏が、戦争で負傷した入院患者から採取した検体に含まれる細菌が、どの程度薬剤耐性を獲得しているのかを調べるために、ルンド大学に協力を求めて実施された。対象患者はいずれも、重症のやけどや榴散弾による負傷、骨折により緊急手術や集中治療が必要だった。患者の傷ややけどの部位に感染の兆候が認められた場合には、皮膚や軟部組織から検体を採取した。また、中心静脈カテーテルを使用している患者に感染の兆候が認められた場合にはカテーテル先端の培養を行い、人工呼吸器関連肺炎の兆候が認められた患者からは気管支洗浄液の採取を行った。総計141人(負傷した成人133人、肺炎と診断された乳幼児8人)の患者から156株の細菌株が分離された。これらの菌株について、まず、広い抗菌スペクトルを持つカルバペネム系抗菌薬のメロペネムに対する耐性をディスク拡散法で調べた。次いで、耐性が確認されるか抗菌薬への曝露増加に感受性を示した株については、微量液体希釈法での分析が行われた。 その結果、テストした154株中89株(58%)がメロペネム耐性を示すことが明らかになった。耐性を示した菌株は、肺炎桿菌(34/45株、76%)とアシネトバクター・バウマニ複合体(38/52株、73%)で特に多かった。また、微量液体希釈法での分析を行った107株中10株(9%;肺炎桿菌9株、プロビデンシア・スチュアルティ1株)は、「最後の砦」とされる抗菌薬のコリスチンにさえ耐性を示した。さらに156株中の9株(6%、いずれも肺炎桿菌)は、新しい酵素阻害薬(β-ラクタマーゼ阻害薬配合抗菌薬)を含む、今回の試験で試した全ての抗菌薬に対して耐性を示した。 Riesbeck氏は、「私は以前、インドや中国で同様のケースに遭遇したことはあるが、この研究で観察された薬剤耐性菌の耐性は次元が違う」と驚きを表す。同氏は特に、肺炎桿菌で認められた耐性に懸念を示す。肺炎桿菌は、健康で免疫系が十分に機能している人にさえ病気を引き起こす可能性があるからだ。同氏は、「これは非常に心配な結果だ。これほど高いレベルの耐性を持つ肺炎桿菌に遭遇することはまれであり、われわれもこのような結果が出るとは予想していなかった」と付け加えた。 Riesbeck氏は、「多くの国がウクライナに軍事援助や資源を提供しているが、同国で進行している薬剤耐性菌の増加という事態への対処を支援することも、それと同じくらい重要だ。薬剤耐性菌のさらなる広がりは、欧州全体にとっての脅威となる可能性がある」と述べている。

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ワクチン別、デルタ/オミクロン期の重症化抑制効果/BMJ

 米国退役軍人の集団において、デルタ株およびオミクロン株の優勢期で、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に感染して30日以内の人を対象に、ワクチン接種の回数や種類と、入院や死亡などの重症アウトカムとの関連性を調べた後ろ向きコホート研究が、米国・Lieutenant Colonel Charles S. Kettles VA Medical CenterのAmy S. B. Bohnert氏らにより実施された。本研究の結果、ワクチンの種類にかかわらず、未接種者よりも接種者のほうが重症化率や死亡率の低下が認められた。また、mRNAワクチンに関しては、ファイザー製よりもモデルナ製のほうが高い効果が得られることが示唆された。BMJ誌2023年5月23日号に掲載の報告。 本研究の対象となったのは、デルタ株流行期(2021年7月1日~11月30日)およびオミクロン株流行期(2022年1月1日~6月30日)において、SARS-CoV-2感染が初めて記録された退役軍人会に所属する18歳以上の27万9,989例で、平均年齢59.4歳(SD 16.3)、男性87%であった。なお、対象者は試験登録以前の18ヵ月以内にプライマリケアを受診していない人に限られた。対象者が接種した新型コロナワクチンは、ファイザー/ビオンテック製(BNT162b2)、モデルナ製(mRNA-1273)、ヤンセンファーマ/ジョンソン・エンド・ジョンソン製(Ad26.COV2.S)のいずれかで、異なる種類のワクチンの組み合わせは除外した。主要評価項目は、SARS-CoV-2陽性判定から30日以内での入院、ICU入室、人工呼吸器の使用、死亡とした。 主な結果は以下のとおり。・デルタ株流行期では、9万5,336例が感染し、47.6%がワクチン接種を1回以上受けていた。2回接種は3万5,994例(37.8%)、3回接種は1,691例(1.8%)。・オミクロン株流行期では18万4,653例が感染し、72.6%がワクチン接種を1回以上受けていた。2回接種は5万6,911例(30.8%)、3回接種は5万6,115例(30.4%)。・デルタ株流行期では、mRNAワクチン2回接種は、ワクチン未接種と比較して、重症アウトカムの発生率低下と関連していた。入院 調整オッズ比(OR):0.41(95%信頼区間[CI]:0.39~0.43)、ICU入室 OR:0.33(95%CI:0.31~0.36)、人工呼吸器 OR:0.27(95%CI:0.24~0.30)、死亡 OR:0.21(95%CI:0.19~0.23)。・オミクロン株流行期では、mRNAワクチン2回接種は、ワクチン未接種と比較して、重症アウトカムの発生率低下と関連していた。入院 OR:0.60(95%CI:0.57~0.63)、ICU入室 OR:0.57(95%CI:0.53~0.62)、人工呼吸器 OR:0.59(95%CI:0.51~0.67)、死亡 OR:0.43(95%CI:0.39~0.48)。・さらに、オミクロン株流行期でmRNAワクチン3回接種は、2回接種と比較して、入院OR:0.65(95%CI:0.63~0.69)、ICU入室 OR:0.65(95%CI:0.59~0.70)、人工呼吸器 OR:0.70(95%CI:0.61~0.80)、死亡 OR:0.51(95%CI:0.46~0.57)となり、すべてのアウトカムの発生率低下と関連していた。・ヤンセン製ワクチンは、ワクチン未接種と比較して転帰が良好であったが(オミクロン期における入院 OR:0.70[95%CI:0.64~0.76]、ICU入室 OR:0.71[95%CI:0.61~0.83])、mRNAワクチン2回投与と比較して、入院およびICU入室の発生率が高かった(オミクロン期における入院 OR:1.16[95%CI:1.06~1.27]、ICU入室 OR:1.25[95%CI:1.07~1.46])。・ファイザー製ワクチンは、モデルナ製ワクチンと比較して、より悪いアウトカムと関連している傾向が示された。オミクロン期で3回接種の場合、入院 OR:1.33(95%CI:1.25~1.42)、ICU入室 OR:1.21(95%CI:1.07~1.36)、人工呼吸器 OR:1.22(95%CI:0.99~1.49)、死亡 OR:0.97(95%CI:0.83~1.14)。・オミクロン株流行期でmRNAワクチン接種を3回受けた人では、最後のワクチン接種からの期間が7~90日よりも91~150日のほうが、より悪いアウトカムと関連していた。入院 OR:1.16(95%CI:1.07~1.25)、死亡 OR:1.31(95%CI:1.09~1.58)。 著者らは、「重症アウトカムを起こした患者の割合は、デルタ期よりもオミクロン期のほうが低かったが、ワクチン接種のステータスと結果については、2つの期間で同様のパターンが観察された。この結果は、治療薬がより普及していても、新型コロナの感染予防だけでなく重症化や死亡リスクを低減するための重要なツールとして、ワクチン接種が引き続き重要であることを裏付けている」とまとめている。

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ヒドロコルチゾン単体では敗血症性ショックによる死亡リスクは低下せず

 敗血症性ショックの患者に副腎皮質ステロイド(以下、ステロイド)のヒドロコルチゾンを単独投与しても死亡リスクを低下させることはできないが、他のステロイドと併用することで生存率が向上し、昇圧薬を使用せずに済む可能性のあることが、新たな研究で明らかになった。米カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)の麻酔科教授であるRomain Pirracchio氏らが実施したこの研究結果は、「NEJM Evidence」に5月22日掲載された。 敗血症とは、感染に対して全身が極端な反応を示し、心臓や肺などの体の重要な臓器に障害が生じる病態をいう。毎年、世界中で約5500万人が敗血症を発症し、1100万人が死亡している。敗血症では早期に気付くことが重要であり、治療としては、感染源のコントロール、抗菌薬の投与、輸液、昇圧薬(血圧を上昇させる働きを持つ薬剤)の投与などが行われる。敗血症のうち、輸液負荷を行っても血圧が危険なレベルに低下した状態が続き、血中乳酸値が高いままの病態を敗血症性ショックと呼ぶ。 敗血症性ショックに対する治療では、ステロイドが50年以上前から使用されているが、それが患者の死亡に与える影響については不明な点が多い。今回、Pirracchio氏をメンバーに含む国際共同研究チームは、敗血症性ショックの成人患者の管理におけるヒドロコルチゾンの静脈内投与の効果について、メタ解析で検討した。最大400mg/日のヒドロコルチゾンの静脈内投与を72時間以上受けた敗血症または敗血症性ショックの成人患者の群と、プラセボか通常のケア、または別のレジメンでヒドロコルチゾンの投与を受けた対照群を比較したランダム化比較試験を検索し、計24件の臨床試験(対象者の総計8,528人)を選出した。このうち17件の研究(同7,882人)には個々の患者データが、また7件の研究(同5,929人)には90日間での死亡率に関するデータがそろっていた。主要評価項目は90日間での全死亡、副次評価項目は、28日および180日時点での集中治療室での全死亡または退院、昇圧薬や人工呼吸器離脱までの時間、昇圧薬や人工呼吸器の使用・臓器不全が認められない日数とした。 その結果、ヒドロコルチゾン群では対照群と比べて90日間での死亡率の有意な低下は認められなかった(相対リスク0.93、95%信頼区間0.82〜1.04、P=0.22)。ただし、二次解析では、ヒドロコルチゾンに加え、同じくステロイドのフルドロコルチゾンを併用した場合には、対照群に比べて90日間での死亡率に有意な低下が認められた(同0.86、0.79〜0.92)。副次評価項目に関しては、昇圧薬の使用についてのみ、対照群との間に有意な差が認められ、ヒドロコルチゾン群では昇圧薬を必要としない日数が平均1.24日多かった。 Pirracchio氏は、「本研究は、敗血症性ショック患者に対するヒドロコルチゾン投与の効果を、これまでに報告された主なランダム化比較試験の個々のデータの分析により初めて検討したものだ」と述べる。そして、「本研究により、敗血症性ショックによる死亡に対するヒドロコルチゾン投与の効果はわずかではあるが、投与することで患者への昇圧薬の使用を控えることができ、その結果、合併症を予防できる可能性のあることが明らかになった。また、ヒドロコルチゾンとフルドロコルチゾンの併用は、死亡率の点では大きなベネフィットをもたらす可能性も示唆された」と話している。

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米FDAが治療困難な細菌性肺炎の治療薬を承認

 米食品医薬品局(FDA)は5月23日、Acinetobacter baumannii-calcoaceticus complex(以下、A. baumannii)に起因する細菌性の院内肺炎および人工呼吸器関連細菌性肺炎に対する新しい治療薬として、Xacduro〔一般名sulbactam for injection(スルバクタム静注用);durlobactam for injection(デュロバクタム静注用)〕を承認した。投与対象は18歳以上で、静脈内投与される。 グラム陰性球桿菌であるアシネトバクター属には多くの菌種が存在するが、医療機関で肺炎などの感染症の原因菌となることが最も多いのがA. baumanniiである。A. baumanniiは、互いに区別することが困難な4菌種の総称で、体のさまざまな部位に感染を引き起こす。A. baumanniiはまた、薬剤耐性を獲得しやすい。現状では、薬剤耐性A. baumannii感染に対する治療法は限定的である。 Xacduroは、ペニシリンに似た構造を持つ薬剤であるスルバクタムと、デュロバクタムで構成されている。スルバクタムはA. baumanniiを殺す作用を持ち、デュロバクタムはA. baumanniiが産生する可能性がある酵素によりスルバクタムが分解されるのを防ぐ作用を持つ。 Xacduroの安全性と有効性は、カルバペネム系抗菌薬に対して耐性を示すA. baumanniiによる肺炎で入院した成人患者177人を対象とした、多施設共同アクティブコントロール、オープンラベル(医師非盲検、評価者盲検)非劣性試験に基づいている。対象者は、Xacduroまたは対照抗菌薬としてコリスチンを最長14日間投与された。その結果、治療から28日以内にあらゆる原因で死亡した患者の割合は、Xacduro投与群での19%に対し、コリスチン投与群では32%に上った。Xacduro投与群で最も頻繁に生じた副作用は、肝機能検査での異常だった。 FDA医薬品評価研究センター(CDER)抗感染症部門でディレクターを務めるPeter Kim氏は、「FDAは、A. baumanniiなどの細菌を原因とする治療困難な感染症に対する安全で効果的な治療法の開発への支援に精力を傾けている。米国の重症の細菌性肺炎患者の一部に新たな治療選択肢を提供した今回の承認は、医療に関する高いアンメットニーズに応えるものだ」と述べている。 なお、Xacduroの承認は、Entasis Therapeutics社に対して付与された。

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