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ダビガトランの服薬順守のカギは薬剤師?/JAMA

 67ヵ所の米国退役軍人病院を対象に、非弁膜症性心房細動患者のダビガトラン(商品名:プラザキサ)の服薬アドヒアランスを調べたところ、病院間でばらつきがあることが明らかにされた。適切な患者選択や薬剤師によるモニタリングを行っている施設では、アドヒアランスが高かったという。米国・エモリー大学のSupriya Shore氏らが報告した。同じ経口抗凝固薬でも、ワルファリンと異なりダビガトランは、ルーチンの検査と用量調整を必要としない。一方で、アドヒアランスが悪くてもそれを改善する適切なフォローアップ法は知られていなかった。JAMA誌2015年4月14日号掲載の報告より。被験者4,863例を対象に調査 Shore氏らは、2010~2012年に非弁膜症性心房細動でダビガトランの処方をした患者が20人以上いる67ヵ所の米国退役軍人健康管理施設を対象に、後ろ向き試験を行った。被験者総数は4,863例で、1施設当たりの患者数中央値は51例だった。質的調査には41施設、47人の薬剤師が参加した。 施設ごとのダビガトラン服薬アドヒアランスのばらつきと、薬剤師による患者教育との関連などについて分析を行った。 主要評価項目は、平均治療日数カバー比率(PDC)80%以上で定義した、ダビガトランの服薬アドヒアランスであった。適切な患者選択と薬剤師によるモニタリングで上昇 結果、患者のダビガトラン服薬アドヒアランスの中央値は、74%(四分位範囲:66~80)だった。多変量補正後の、施設によるアドヒアランスばらつきのオッズ比中央値は1.57だった。 施設の患者への対応について調べたところ、適切な患者選択を行っている施設は31ヵ所、薬剤師による患者指導は30ヵ所、薬剤師によるモニタリングは28ヵ所で行われていた。 アドヒアランスは、適切な患者選択の実施施設では75%に対し、非実施施設69%であった。また、患者教育実施施設では76%に対し非実施施設66%、モニタリング実施施設では77%、非実施施設65%と、いずれも各対応の実施施設のほうが高率だった。 適切な患者選択(相対リスク:1.14、95%信頼区間:1.05~1.25)と、薬剤師によるモニタリング(同:1.25、1.11~1.41)は、いずれもアドヒアランスと有意な関連が認められた。モニタリングは期間が長いほど、またアドヒアランスが低い患者について臨床医と共同でより積極的に行うほど、アドヒアランスの改善が大きかった。 なお薬剤師による患者指導については、アドヒアランスとの有意な関連は認められなかった。

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心房細動の患者さんへの説明

心房細動監修:公益財団法人 心臓血管研究所 所長 山下 武志氏Copyright © 2015 CareNet,Inc. All rights reserved.心房細動とは?・洞結節由来の心房波が消え、複数あるいは単一の興奮波が心房の中を旋回しています。・肺静脈の開口部にある心筋細胞から生じる心房期外収縮が引き金になります。・心房細動が起こると、1分間に350回以上心房が興奮します。通常の心臓はこのように興奮が伝わりますが…①洞結節心房細動では、心房が速い速度で細かく収縮するため、外から見るとけいれんしているような状態になります。①洞結節②房室結節②房室結節③ヒス束③ヒス束④脚④右脚⑤プルキンエ線維プルキンエ線維Copyright © 2015 CareNet,Inc. All rights reserved.心房細動とは?◆通常の心臓は興奮が伝わり規則正しく収縮しますが…トントントントン◆心房細動では、心房が速い速度で細かく収縮しますが、収縮の一部は心室に伝わらないので、心室の収縮は不規則です。そのため、脈拍は1分間に50回前後のこともあれば、100回を超えるような方もいます。トントントントントン人によって脈の速さが大きく違うため、まったく無症状の方から、ひどい動悸、息切れ、脈が速くなる・でたらめになる、などの症状を訴える方までさまざまです。持続時間もまちまちで、発作的に数分から数時間起きる方(発作性心房細動)もいれば、慢性的に起きる方(慢性心房細動:1週間上持続するもの=持続性心房細動、1年以上持続しているもの=永続性心房細動)もいます。Copyright © 2015 CareNet,Inc. All rights reserved.心房の収縮心室の収縮(脈)心房細動とは?・人口の1%と、比較的ありふれた不整脈ですが、加齢により増加し、80歳以上では5%の方がかかっています。・心房細動自体が直接命に関わることはありませんが、脳梗塞や心不全を引き起こす原因となるため、脳梗塞へのなりやすさなどを考え治療を決めます。血栓が血管を閉塞脳梗塞心房細動や心房粗動では、心房がけいれんするように小刻みに震えて、規則正しい心房の収縮ができなくなります。このため心房内 の血液の流れがよどみ、心房の壁の一部に血の固まり(血栓)ができ、これがはがれて心臓から動脈に沿って、脳 の中の大きな血管を突然閉塞するのが心原性脳塞栓症です。心房細動がある人は心房細動のない人と比べると、脳梗塞を発症する確率は約5倍といわれています。この塞栓症を予防することが心房細動や心房粗動治療の最も重要な目的です。血液がよどむ→血栓ができる→血栓が全身に飛ぶ(運ばれる)→脳梗塞、心筋梗塞などの塞栓症Copyright © 2015 CareNet,Inc. All rights reserved.心房細動の治療は・脳梗塞を起こす危険がある場合は、血栓が起きないように抗血栓薬を飲みます。・心房細動を止める必要がある場合は、薬(抗不整脈薬など)を服用するか、カテーテルアブレーションを行います。高周波通電カテーテルアブレーション高周波発生装置電極カテーテルアブレーション血管を通して心臓まで細い管(カテーテル)を入れ、不整脈の原因となっている場所を探して、その部位を低温やけどさせ、不整脈の原因を取り除くという治療です。心房細動では左心房にある肺静脈の血管内やその周囲から発生する異常な電気信号をきっかけに起こるため、肺静脈を囲むようにしてアブレーションの治療を行い、肺静脈からの異常電気信号が、心臓全体に伝わらないようにします。Copyright © 2015 CareNet,Inc. All rights reserved.生活上の注意◆高血圧、糖尿病、心臓の病気などがあると脳梗塞を起こしやすくなるので、しっかり管理してください。◆睡眠不足、ストレス、アルコールは心房細動を起こしやすくしますので注意してください。◆生活改善を行っても症状が気になる場合は、薬物療法を行い、症状を少なくします。◆脳梗塞の危険性が高い場合は、脳梗塞予防薬を毎日忘れないように服用します。Copyright © 2015 CareNet,Inc. All rights reserved.抗血栓薬による脳梗塞予防◆血栓の形成を抑制する薬剤を用いた治療です。◆ワルファリンは血液の凝固に必要なビタミンKを減らすことによって血栓ができるのを抑えます。◆薬の必要量には個人差があり、また他の薬剤や食事の内容に影響されるため、適正な量を決めるために受診のたびに血液検査を行う必要があります。◆ビタミンKを多く含む納豆や青汁、クロレラといった食品を食べると薬が効かなくなります。最近では、そのような食事制限の必要のない新しい抗凝固薬も使用できるようになっています。Copyright © 2015 CareNet,Inc. All rights reserved.

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結果が矛盾する論文をどう解釈すべきか【Dr.桑島が動画で解説】

プレゼント応募はこちら抽選の申し込みをする応募受付期間を終了いたしました。抽選で100名様に『脳・心・腎血管疾患クリニカル・トライアル Annual Overview 2015』を進呈!応募期間: 2015年4月24日~2015年5月25日 正午まで当選の通知方法 : プレゼントの発送をもって、当選のお知らせとさせていただきますプレゼント発送予定日 : 2015年6月上旬ごろ予定  3月4月に最も読まれたCLEAR!ジャーナル四天王 TOP51位)「エドキサバンは日本の薬なのに…」1~遺伝子型と抗血栓療法下の出血、血栓イベントの関係~:ENGAGE AF-TIMI 48試験(解説:後藤 信哉 氏)2位)DPP-4阻害薬の副作用としての心不全-アログリプチンは安全か…(解説:吉岡 成人 氏)3位)降圧は「The faster the better(速やかなほど、よし)」へ(解説:桑島 巌 氏)4位)ガイドラインでは薬物相互作用を強調すべき(解説:桑島 巌 氏)5位)COSIRA試験:血管を開けるのか?それとも、閉じるのか? 狭心症治療に新たな選択肢(解説:香坂 俊 氏)J-CLEARのメンバーが評論した論文を紹介したコーナー「CLEAR!ジャーナル四天王」最新記事一覧はこちらをクリック前回の動画はこちら第1回 Dr.桑島の動画でわかる「エビデンスの正しい解釈法」MRの話はどこまで信じていいのか・・・と感じた経験ありませんか?「適切なエンドポイントか」「実験の実施主体はどこか」など見極めるポイントをわかりやすく解説

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心房細動においても多職種が介入する疾病管理の概念が重要(解説:小田倉 弘典 氏)-346

 多職種が介入する慢性心不全の疾病管理プログラムは、国内外のガイドラインにおいても推奨度が高く、Class Iに位置付けられている。疾病管理とは、具体的には多職種(医師・看護師・薬剤師・栄養士など)によるチーム医療、退院時指導、フォローアップ計画(病診連携)、ガイドラインに沿った薬物治療、十分な患者教育・カウンセリング、患者モニタリングによる心不全増悪の早期発見などが挙げられる1)。しかしながら、心房細動においてはいくつかの報告があるものの、レベルの高いエビデンスに乏しかった。 本論文は、オーストラリアの三次医療機関において施行された、心房細動に特異的な疾病管理の有効性を検討したものである。 対象は、オーストラリア3ヵ所の三次医療機関において、新規に慢性心房細動と診断された心不全のない非弁膜症性心房細動335例。無作為割り付けにより、退院後ルーチンのプライマリケアと外来診察によるフォローアップから成る標準管理群(167例)と、心房細動に特異的な管理を行った「SAFETY管理群」(168群)に振り分けた。SAFETY管理の内容は、退院後7~14日間、心臓専門看護師による家庭訪問とホルターモニタリング、訪問時の家庭環境、症状、薬剤処方計画の確認、プライマリケア医、救急病院の連携、必要に応じた運動プログラム、ソーシャルワーカーや地域薬剤師のサポートなどから成る。 最低12~24ヵ月ごとに臨床的評価を施行。主要評価項目は全死亡、予期せぬすべての入院、副次評価項目としてイベントフリー時間、生存および非入院期間の実期間と最大期間の比率が設定された。 結果は、以下のとおりであった。 1)平均追跡905日、2)死亡49例、予期せぬ入院987例(全入院5,530日)、3)死亡+予期せぬ入院:SAFETY管理群76%・平均イベントフリー時間183日 vs. 標準管理群82%・199日;ハザード比0.97、p=0.851、4)生存および非入院時間の最大値に占める実測値の理合:SAFTY管理群99.5% vs. 標準管理群99.2%;p=0.039。心房細動に特化した管理は、標準管理に比べ生存日数や非入院日数の延長に関連し、疾患特異的な管理は慢性心房細動患者の乏しい健康アウトカムの改善戦略として有望と結論付けられている。 それぞれのケアの内容が重要なのでもう少しみてみると、標準管理とは、不具合時の対処や心房細動管理のキーポイントを記載した退院時の教育的ブックレット(「心房細動と共に生きる」)配布や、退院時の医師のサマリーおよび各種トライアルの情報の提供などであった。一方SAFETY管理は、退院後のナースの家庭訪問、GARDENメソッドによる個々の包括的な環境やセルフケアの能力の把握、臨床状況やガイドラインに基づいての管理の記録などである。ナースはこれら包括的なレポートを医療チームに送り、適切な抗凝固薬を選択し、心機能低下の進行を遅らせ、臨床的安定を図るとされている。 心房細動治療の慢性管理の目標は、心原性脳塞栓と心不全の予防である。とくに前者では抗凝固薬服用のアドヒアランスの維持、出血などのトラブルシューティング、後者では心不全症状の早期発見、食事運動といった管理などが主眼と考えられる。こうした管理は、医師だけで完結できるものではない。慢性心不全の管理同様、多職種で多角的に介入することにより管理の精度が向上することは容易に予想される。そのことが無作為割付試験で明確化された点で意義のある研究といえる。 ただし、死亡・入院といったイベント数だけをみると、標準管理と比べ有意差はなく、非入院期間の延長が複合評価項目の改善に寄与していた。本論文では看護師チームの定期的訪問が最大の特徴だが、この訪問により、抗凝固薬の服薬アドヒアランスや出血時の対処能力などの高まりが予測される。一方、大きなイベントを回避するまでのパワーには、いまだに不足している可能性がある。 また、訪問看護によるコストに関しては考慮されていない。現時点では、日本では心不全のない軽症の心房細動患者に対する訪問看護は保険償還されない。 しかしながら、看護師主導の心房細動ケアが心血管イベントを減らすとする別の無作為化試験も報告されており2)、医師だけでなく、多職種が介入することにより包括的に心房細動の慢性期を管理するという考え方は、非ビタミンK阻害経口抗凝固薬が出揃った現在、新たな心房細動治療の概念として重要視されることは間違いないと思われる。

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新しい結論がないことが結論(解説:野間 重孝 氏)-343

 多くの循環器科医師たちが、薬物溶出ステント(DES)と抗血小板薬2剤併用療法(DAPT)とその持続期間に関するコンセンサスとして考えていることは、以下のようなものではないかと思う。(1)適切なDAPTを行うことにより、DESにおける遅発性ステント血栓症をある程度確実に抑制することができる。(2)DAPTを長期にわたって行うことと一連の出血性合併症の発生は、いわばトレードオフの関係にある。(3)そこで、臨床医は各患者の年齢、病変形態、合併症、全身状態などを勘案し、(一応の指針はあるものの)DESの期間については各患者について適宜判断する必要がある。  本論文は、最近発表された10の論文を取り上げてメタアナリシスを行うことにより、上記の内容をほぼ追認した形になっている。ただし(2)については単純なトレードオフとはいえず、長期DAPT群では心臓死の減少分を非心臓死の増大分が上回るため、長期DAPT群では死亡率にわずかではあるが上昇がみられるという知見を付け加えた。 これまでもDAPTの継続期間に関する論文が数多く出版されているが、いまだに決定的な回答が得られるには至っていない。その理由としては次のようなものが挙げられると思う。1. 最大の原因はまず母集団が均等でないことである。使用されたステントの薬物、薬物放出プログラム、ステントデザインはさまざまであり、かつステント以外の要素(年齢、病変形態、使用薬剤、合併症など)も一様ではない。また、PCIに関する臨床研究はその性格上無作為二重盲検は不可能である。2. silentに発生しているものまで含めたステント血栓症の、真の発生頻度は不明であること。なぜなら、ステント血栓症は臨床的に何らかの合併症を起こして初めて認識されるものだからである。3. 治療の進歩により心筋梗塞、脳卒中の急性期の臨床成績は向上しているため、心血管事故がただちに死亡に結び付くことが少なくなった。同様のことが他の死亡原因についてもいえる。4. 対比される非心臓死についての分析がどうしても不十分になる。とくにメタアナリシスではほぼ無視されている。たとえば、この論文でもがん患者において長期DAPTの死亡率が高いことが挙げられているが、理由は不明である。 高齢者、抗凝固療法が必要な患者、他の重大な合併症を有する患者では、当然DAPTの期間は短いほうが望ましいため、いわゆる第2世代ステントが主流になって以来、さまざまな形でDAPT期間の短縮が図れないかと、研究が行われている。しかし、上記のコンセンサスをはっきり越える結論は得られていないのが実情である。実際私は、この分野で現在進行中のいくつかの研究についても、正直多くを期待していない。 私は、この問題にははっきりした結論が出ないまま、時代は次世代の治療法へと移行していくのではないかと予想している。少し乱暴な言い方に聞こえる向きもあるかと思うが、医学では疾病や治療法の枠組みが変わるときによく起こることなのである。そして、私たちはいつまでも同じ地点に立ち止まって、同じような議論を繰り返していてはいけないのである。 現在ざっと考えてみても、まず生体吸収型ポリマーの開発があり、これはすでに一部で実用化されている。さらに、ポリマーを溶着させる際に下塗りに使っているパリレンなどを使用せずに、ポリマーを溶着させる技術が考えられる。これはまだ実用化には至っていないが、技術的には可能な段階に来ている。生体吸収型ステントはすでに製品化されているが、現在のステントに取って代わるにはまだ少し時間がかかりそうである。さらに、術後にステントを使用しなくても再狭窄を来さないような新しいdebulking device開発の問題があるが、これはまだ端緒についていない。もちろん、今考えつきもしないような治療法が登場する可能性も十分にあるだろう。 本論文の内容は、ほとんどの循環器科医がコンセンサスとしている事柄を確認したに過ぎないため、一種のnegative studyのように思われるかもしれない。しかし、私はこの問題には、結局1つだけの正解はないことを示したことに意義があると考え、むしろ積極的に評価したい。最近、インターベンションの世界に一種の閉塞感のようなものが漂っているように感じるのは、私だけではないと思う。しかし、明日は必ずやってくる。そうしたとき振り返ってみて、本研究が1つの道標となっているならば、著者たちにとって、これこそが最高の喜びなのではないだろうか。

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天馬PEGASUSは空を駆けるか?心筋梗塞後長期の抗血小板療法の意味と価値:PEGASUS-TIMI 54試験(解説:後藤 信哉 氏)-340

 1980年代に循環器内科に進んだわれわれ世代の循環器内科医にとって、「心筋梗塞は死に至る病」であった。実際、再灌流療法も、抗血栓療法も標準化していない当時の心筋梗塞は院内死亡率も10%を超えていた。日本以上に冠動脈疾患の有病率の高い欧米では、「心筋梗塞」が日本の「がん」並みに恐ろしい病気と理解されたことは容易に想像できる。1970~80年代には心筋梗塞の原因が「冠動脈血栓」であるとの知識も普及していなかった。筆者ら、血栓症の専門家がAHA、ACCなどの欧米のmajorな学会では1990年代になってもマイノリティーであった。 循環器内科医一般に血栓症と抗血栓療法の知識が乏しかったため、心筋梗塞、ステント血栓症などの冠動脈イベントが「血栓症」とわかった後は、メーカーの強烈な宣伝に抗うすべもなく、抗血栓薬は循環器内科領域の標準治療として急速に普及した。多くの循環器内科医は、アスピリン、クロピドグレルの薬効メカニズムは理解していないが、使用の経験は蓄積されている状態にある。実際、アスピリンは抗血小板薬と言い切れない部分もある各種細胞のシクロオキシゲナーゼ(COX)-1阻害薬であるが、薬効メカニズムの詳細は筆者にもよくわからない。 クロピドグレルも臨床試験の結果に基づいて1997年に米国で承認された。「心筋梗塞が怖い」欧米人は、「冠動脈血栓予防」のためにクロピドグレルも大量使用した。クロピドグレルの薬効標的P2Y12がクローニングされたのは2001年である。われわれは、抗血小板薬は薬効メカニズムもわからないままに使用していたのだ。これが1990年代の医療の実態であった。P2Y12クローニング後、この標的に対する選択的阻害薬が開発された(日本のプラスグレルはクロピドグレルの類似薬として開発された)。その成功例がチカグレロルである。P2Y12 ADP受容体はADPに特異的な受容体であるが、構造上ADPはATPに近い。チカグレロルの構造もATPに近い。低分子の非可逆的受容体阻害薬である。 薬効もわからないクロピドグレルの急性冠症候群の試験が成功したので、薬効を理解したチカグレロルはクロピドグレルに対する優越性を示すPLATO試験に挑戦した。試験の内部には不均一性があり、日本と東アジアにて施行されたPHILO試験もPLATO試験と同様の傾向ではないので、PLATO試験の全体としての成功は「運の良さ」の寄与が大きい。それでもPLATO試験では死亡率低減効果を示したので、欧州では急性冠症候群に対する標準治療になろうとしている。 さて、チカグレロルが天馬の如く世界を駆けるか否かを規定するのは、急性冠症候群以外の慢性期の疾病適応を取得できるか否かにかかっている。クロピドグレルは、「冠動脈疾患、脳血管疾患、末梢血管疾患」という広い適応をCAPRIE試験により取得した。国際共同試験に「脳血管疾患」を入れると、画像診断の普及していない諸国にて脳梗塞と脳出血の弁別ができず、脳出血の増加により試験が失敗するリスクがある。 PEGASUS試験を実施したTIMI groupは、クロピドグレルの類似薬プラスグレル、トロンビン受容体vorapaxarの開発試験のデータベースを保有しているので、「脳血管疾患」の危険性を十分に理解していた。クロピドグレルのように「冠動脈疾患、脳血管疾患、末梢血管疾患」という広い適応が取れなくても、「心筋梗塞後慢性期の血栓イベント抑制」の適応を取得できれば、冠動脈疾患は急性期から慢性期までチカグレロルを天馬として羽ばたかせることができる。その意味でPEGASUS試験はきわめて重要であり、医師、企業関係者、投資家などの注目を集めた。 Gene Braunwald氏率いるTIMI groupは、「臨床の科学」にも妥協のない科学者グループである。PLATO試験ではチカグレロル群において出血が多い傾向を認めたことから、発症後1~3年の心筋梗塞では出血リスクが血栓リスク低減効果を超えることを危惧した。急性期に用いた90mg1日2回に加えて、60mg1日2回のチカグレロルのアームを作った。低用量のアームがあったことで、安全性重視のわが国の参加もPLATO試験よりは容易になった。実際、PLATO試験には本邦は参加しなかったが、PEGASUS試験には参加した。 「臨床の科学」の質を上げるためには、ランダム化した症例の追跡の徹底化を図る必要がある。実際、追加リスクがあるとはいっても、心筋梗塞後1~3年後の症例の心血管イベントリスクは、アスピリン単剤でも年率3%程度にすぎない(9.04%/3年)。60mg、90mgのチカグレロル服用により、年率2.6%程度(7.77%/3年:60mg、7.85%/3年:90mg)に低下したとはいっても、これだけの軽微な差異を統計学的に検出するためには、数例の追跡不能すら許されないのだ。心血管領域では、標準治療の進歩により「現在の標準治療」下における心血管イベントリスクが低い。1980年代に「怖い病気」であった心筋梗塞の「怖さ」は21世紀になって激減した。わずかな差異を科学的に占めるためには大量の症例を登録し、徹底的に追跡する必要がある。有効性を示したことでチカグレロルは天馬になるかもしれないが、関係者が尽くした努力は計りしれない。 抗血小板薬なので、出血リスクが増えることは予測の範囲である。「科学的に質の高い」試験であるため、出血イベントも精緻に計測した。われわれは、2次予防におけるアスピリン服用時の重篤な出血イベント発症率を、年率0.2~0.5%程度と理解して、患者からインフォームド・コンセントを取得していた。PEGASUS試験はわれわれの想定が現在も大きく違っていないことを裏付けた。アスピリン群の重篤な出血イベント発症率は1.06%/3年(年間0.3%程度)であった。60mg1日2回、90mg1日2回のチカグレロルを追加すると、重篤な出血イベント発症率は2.30%/3年、2.60%/3年と2倍以上に増加した。プラセボとの比較において、アスピリン服用者の頭蓋内出血が約1.6倍に増加していた過去の事実に比較すると、頭蓋内出血、致死性出血が増えていないことに関係者は胸をなでおろしたであろう。 アスピリン使用時には「この薬を飲むと1,000人のうち、2~5人くらいが重篤な出血を起こすけど、将来の心筋梗塞を25%減らせる。どうしようか?」との患者さんとのICのプロセスが、「アスピリンにチカグレロルを追加すると、1,000人のうち、5人に重篤な出血が起こるけど心筋梗塞や心血管死亡、脳卒中は15%くらい減る。どうしようか?」となる。重篤な出血に頭蓋内出血、致死的出血が含まれないことは朗報であるが、このような説明によって、どの程度の患者さんが長期のチカグレロルの服用を希望するかを予測することは難しい。ATPに似たチカグレロルでは徐脈、呼吸困難感などの自覚的、他覚的副作用の増加も実臨床では問題になる。認可承認後に爆発的に売り上げを伸ばしたクロピドグレルは、CAPRIE試験ではほんのわずかにアスピリンに勝る優越性を示したのみであった。筆者ら血小板研究の専門家は、クロピドグレルの爆発的売り上げを予測できなかった。抗血小板薬に比較すれば、はるかに重篤な出血イベントリスクの多い新規経口抗トロンビン薬、抗Xa薬が予防介入において広く使用されているのも、ランダム化比較試験を主導した研究者としての筆者の予測を超えた。チカグレロルがクロピドグレル並みの天馬となれば、わずかの差異のランダム化比較試験の結果が世界の医療界に影響を与える「てこ」のメカニズムを理解したいものである。

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歴史的なジギタリスと心房細動:ROCKET-AF試験(解説:後藤 信哉 氏)-338

 筆者の世代の循環器医にとって、ジギタリスはなじみの深い薬物である。学生のころ、ジギタリスは南米の矢毒から分離されたと教わったが、本当であるか否かを確認していない。筆者の世代にとって、心不全治療の唯一の選択ともいえる時代があった。ジギタリスは房室伝導を阻害するので、頻拍性不整脈に対しても広く使用されていた。また心房細動症例に対しても、脈拍コントロールのための主要薬剤であった。 心不全症例にジギタリスを使用しても効果がないとの報告はあった。それでも筆者の世代の循環器医は、若い時代からの慣習によりジギタリスを広く使用している。慢性心房細動の心拍コントロールにも実臨床ではいまだに広く使用されている。 今回発表されたROCKET-AFのデータベースでも、心房細動症例の37%がジギタリスを使用している実態を示した。ランダム化比較試験に登録される症例は、厳密な症例登録基準と除外基準を満たし、いわゆる治験慣れした施設からの特殊な症例サンプルである。また、ROCKET-AF試験の目的はPT-INR 2~3のワルファリン治療と、1日20mgを標準用量とするリバロキサバンの脳卒中・全身塞栓症予防効果の差異の有無の検証であって、死亡は2次エンドポイントにすぎない。そのため、本サブ解析はLancetというインパクトファクターの高い雑誌に発表され、統計解析はそれなりに充実しているが、発表された結果が実臨床に応用可能であるか否かの判断には、慎重になる必要がある。 ROCKET-AFに登録されたCHADS2 score 2点以上の非弁膜症性心房細動症例は、年間100例当たり4例以上が死亡する、死亡リスクの高い集団である。ジゴキシン使用と総死亡、血管死亡、突然死の増加も興味ある課題であるが、死亡に関するサブ解析が可能なほど死亡リスクの高い患者集団において、死亡率よりも低い脳卒中・全身塞栓症が1次エンドポイントであった事実を、臨床家は再認識する必要がある。非弁膜症性心房細動の症例を見たら、とくに抗凝固療法をしている症例では近未来の死亡リスクにこそ、注意を向ける必要があるのだ。

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「エドキサバンは日本の薬なのに…」1~遺伝子型と抗血栓療法下の出血、血栓イベントの関係~:ENGAGE AF-TIMI 48試験(解説:後藤 信哉 氏)-336~

 エドキサバンは、日本企業が開発した薬剤である。日本が国際共同試験をリードして、日本国内に臨床データベースがあれば、日本の研究者は数多くの興味深い臨床的研究を発表できたはずである。今回Mega博士らが発表した遺伝子型とワルファリンの薬効については、高橋 晴美博士をはじめ、日本人研究者による先行研究がある。ENGAGE AF-TIMI 48試験は科学的にきわめて質の高い研究であり、かつ登録された症例の数が多いので、Mega博士らの本研究は今後も世界にインパクトを持つ。 ワルファリンは血漿蛋白に結合する。結合しなかったfreeワルファリンが、肝臓のCYP2C9により活性型ワルファリンに転換される。活性型ワルファリンの産生速度は、CYP2C9の遺伝子型に強く作用される。さらに、活性型ワルファリンはVKORC1による凝固因子の機能的完成を阻害する。その作用もVKORC1の遺伝子型に影響を受ける。薬理学的シミュレーション研究でもCYP2C9の遺伝子型とワルファリンの効果の関係の大きさは示唆されていた。この2つの遺伝子型を事前に知っていれば、ワルファリン治療に過剰に反応するグループ、大量のワルファリンが必要な患者グループの同定が可能との仮説が持たれていた。本研究では遺伝子型とワルファリン使用例の、使用早期の出血リスクの関係を示した。 個人の遺伝子を低廉に取得できる時代には、遺伝子型に基づいた個別化医療が期待できる。ワルファリンは個別化医療の恩恵を最も受ける薬剤と想定される。Mega博士らは、CYP2C9とVKORC1の遺伝子型を知れば、ワルファリン服用早期の出血イベントが低下することを示した。パーソナルゲノム情報を基盤とする、未来の個別化医療へのインパクトの高い研究である。日本企業の薬剤でありながら、日本の研究者は共著者にもいない。とてもインパクトの高い研究だけに、臨床データベースを国内に持てない悔しさを、あらためて感じさせる研究であった。

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「エドキサバンは日本の薬なのに…」2~エドキサバン減量と出血、血栓イベントの関係~:ENGAGE AF-TIMI 48試験(解説:後藤 信哉 氏)-337

 EBM(Evidence Based Medicine)を基本原理とする現在の医療において、臨床データベースの保有には圧倒的な意味がある。エドキサバンは日本企業が開発した薬剤である。日本企業には抗トロンビン薬があるがトロンビンの時代から、選択的凝固因子阻害薬の開発力は外資企業に先行していた。残念ながら、分子としての抗Xa薬を介入したときの個人の反応は予測不可能な程度にしか、現在の医学は成熟していない。結果として、エドキサバン介入時の臨床データベースを持っているものが強い。 第一三共の開発したエドキサバンであるが、非弁膜症性心房細動におけるワルファリンとの比較試験「ENGAGE AF-TIMI 48」は、ハーバード大学のTIMI groupをスポンサーとして施行された。膨大なデータベースからは、多くの科学的事実が公表される。本論文も重要なサブ解析の1つである。日本企業が開発した薬剤を用いた試験の重要なサブ解析であるが、残念ながら日本人は著者として参加していない。 ENGAGE AF-TIMI 48試験のプロトコルは単純ではなかった。ワルファリンと2用量のエドキサバンの有効性、安全性の検証を目指した部分のみでも、十分に複雑であった。さらに、本試験では来院時にクレアチニン・クリアランスが30~50mL/分の人、体重が60kg以下の人、または、P糖タンパク質の相互作用のある併用薬を服用したときには、エドキサバン投与量を半減した。試験の最初のみでなく、中途でも減量する基準を設けることにより、抗Xa効果の標準化を目指した。試験の規模が大きいので、プロトコルに規定された30、60mgの標準投与量から減量した5,356例と、減量しなかった1万5,749例の比較が可能であった。抗Xa活性のトラフ値を6,780例にて把握できたことも、科学的試験として、多くの情報をわれわれに与えることができる試験であったといえる。 ランダム化比較試験では、基本的に1つの臨床的仮説の検証のみが可能である。ENGAGE AF-TIMI 48試験では、二重盲検二重ダミー試験として、実臨床に近い0.5mg刻みのワルファリンのコントロールを行った。PT-INR 2.0~3.0を仮の「標準治療」とすることも徹底していた。TTRもきわめて高い。質の高いワルファリン治療下では、血栓イベントも出血イベントも起こりにくい。仮説検証試験としてはエドキサバンの優越性は示せなかった。 50年使用してきたワルファリンに「PT-INR 2.0~3.0」という枠をはめても、ワルファリンが優れた薬剤であることを示したのがENGAGE AF-TIMI 48試験であった。それでも、臨床的特徴に基づいて減量することにより、エドキサバン群の出血イベントリスクを示すことができたので、減量好きな日本の臨床家にはありがたい研究結果であったといえる。 筆者は本試験のDSMB(Data and Safety Monitoring Board)であったので、筆者には資格がないが、本試験に症例を登録した研究者であれば、ぜひ、本研究のような日本の臨床家に役立つサブ解析を主導したいと思った。主導するのがTIMI groupであることを受け入れるとしても、日本人研究者の1人として共著者になり、論文作成段階から寄与したかった魅力的研究である。

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急性冠症候群、経橈骨動脈アクセスの安全性/Lancet

 急性冠症候群(ACS)患者に対する侵襲的処置では、経橈骨動脈アクセスが、経大腿動脈アクセスに比べ臨床的有害事象の抑制効果が優れることが、オランダ・エラスムス医療センターのMarco Valgimigli氏らが行ったMATRIX Access試験で確認された。ACS患者に対する抗血栓療法を併用した早期の侵襲的処置の重要な目標は、出血イベントを抑制しつつ効果を維持することである。侵襲的処置で頻度の高い出血部位は心臓カテーテル検査時の大腿動脈穿刺部であり、経橈骨動脈アクセスは技術的な困難を伴うが止血の予測がしやすいとされる。2つのアクセス法の有害事象を比較した試験では、相反する結果が提示されているという。Lancet誌オンライン版2015年3月13日号掲載の報告。2つのアクセス法の有害事象を無作為化試験で比較 MATRIX Access試験は、経橈骨動脈的インターベンションにおける穿刺部位の出血や血管合併症の抑制効果を検討する多施設共同無作為化試験(Medicines Company社などの助成による)。対象は、冠動脈造影や経皮的冠動脈インターベンション(PCI)の適応とされるACS患者(ST上昇型心筋梗塞、非ST上昇型心筋梗塞)であった。 被験者は、経橈骨動脈または経大腿動脈的にアクセスする群に無作為に割り付けられた。主要評価項目は、30日時の重度の冠動脈有害事象(死亡、心筋梗塞、脳卒中)と、最終的な臨床的有害事象とした。後者の定義は、重度の冠動脈有害事象または冠動脈バイパス移植術(CABG)とは関連のない大出血(Bleeding Academic Research Consortium[BARC]の出血性合併症重症度分類の3または5型)とした。 2011年10月11日~2014年11月7日までに8,404例が登録され、経橈骨動脈群に4,197例、経大腿動脈群には4,207例が割り付けられた。平均年齢は経橈骨動脈群が65.6歳、経大腿動脈群は65.9歳で、75歳以上はそれぞれ25.4%、26.2%含まれ、男性が74.5%、72.4%を占めた。メタ解析で大出血、冠動脈有害事象、死亡が改善 30日時の重度の冠動脈有害事象の発現率は、経橈骨動脈群が8.8%、経大腿動脈群は10.3%(率比[RR]:0.85、95%信頼区間[CI]:0.74~0.99、p=0.0307)であり、有意な差は認めなかった[α水準が2.5%(p<0.025)の場合に有意差ありと定義]。 最終的な臨床的有害事象の発現率は、経橈骨動脈群が9.8%、経大腿動脈群は11.7%(RR:0.83、95%CI:0.73~0.96、p=0.0092)と、有意差がみられた。この差には、非CABG関連のBARC 3/5型大出血(1.6 vs. 2.3%、RR:0.67、95%CI:0.49~0.92、p=0.0128)および全死因死亡(1.6 vs. 2.2%、RR:0.72、95%CI:0.53~0.99、p=0.0450)の影響が大きかった。 また、既報の試験(RIVAL試験)に本試験のデータを加えてメタ解析を行ったところ、経橈骨動脈アクセスにより大出血(RR:058、95%CI:0.46~0.72、p<0.0001)、重度の冠動脈有害事象(RR:0.86、95%CI:0.77~0.95、p=0.0051)、全死因死亡(RR:0.72、95%CI:0.60~0.88、p=0.0011)が減少したが、心筋梗塞や脳卒中の発症には影響はなかった。 さらに、本試験に関連してコホート内症例対照研究を行ったところ、BARC 2/3型の出血は出血以外の原因による死亡と強く関連した。 著者は、「経橈骨動脈アクセスは、ACS患者に対する侵襲的処置の標準とすべきことが示唆された」と結論付けている。

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ワルファリン出血の急速止血に新たな選択肢?(解説:後藤 信哉 氏)-333

 臨床家は50年にわたり、ワルファリンを使用してきた。新規の経口抗トロンビン薬、抗Xa薬が開発され、使用可能になったとはいっても、真の意味での血栓イベントリスクが高くない非弁膜症性心房細動など、薬剤の必要性が必ずしも高くない症例なので、これらの症例で出血が怖ければ薬剤を使用しないとの選択があった。ワルファリンを使用している症例は、人工弁、血栓性素因など抗凝固薬の必要性が著しく高い症例である。これらの症例でも、ワルファリンコントロールの良否にかかわらず、重篤な出血イベントが起こる場合がある。消化管出血などであれば、開腹、長時間の圧迫止血など、薬剤以外の手段がまったくないわけではない。頭蓋内出血となると、とても困る。時間と共に症状が増悪している頭蓋内出血では、頭蓋内圧増加が止血に寄与しても、ワルファリンの効果が持続している状態では止血は期待し難い。 ワルファリンは、ビタミンK依存性の凝固因子の機能的完成を阻害する薬剤なので、凝固因子を外部から補えば止血に寄与できるとの発想があった。しかし、新鮮凍結血漿の凝固因子濃度は濃くない。血友病治療に用いる第VII因子濃縮製剤は、うまくいかなかった。血液凝固システムは複雑である。ワルファリンは、血小板上での活性化凝固因子複合体の産生阻害を介して抗凝固効果を発揮するので、単一凝固因子を補うよりも、複数因子からなる活性化凝固因子複合体を投与したほうが、止血効率が高いと想定された。同時に補給して酵素カスケード反応を効率化しようというのが、今回の臨床試験の試みである。複数因子を含む製剤の中でも第VII因子がほぼ正常の製剤と、第VII因子を少量含む製剤がある。本試験では、第VII因子を正常量含むfour factor PCCと新鮮凍結血漿の止血効果とPT-INRに及ぼす効果が検証された。 臨床家にとっては止血効果こそ重要である。試験に参加した医師は、止血効果を実感したと想定される。しかし、止血効果は感覚的なので科学的エンドポイントとしては十分性が乏しい。そこでPT-INRに対する効果も検証された。試験は薬剤開発の後期第II相試験である。 試験はオープンラベルの非劣性試験である。薬剤開発試験であるため、スポンサーバイアスもあるかもしれない。止血効果は活性化凝固因子複合体製剤が優越していた。INRの改善も認めた。「心房細動の脳卒中予防に対する抗凝固薬」の有効性を確認する試験など、薬剤が標的とするイベントの発現率が著しく低く、かつ、薬剤中止という選択により実際に患者さんが困るケースが少ない場合には、オープンラベルの第II相試験の後に、有効性を科学的検証する第III相試験が必要かもしれない。しかし、今回の試験の対象薬は「出血により時事刻々と実際に困っている症例」が対象である。認可承認のハードルを低くしても、実際に医師が臨床現場で使用すれば有効性を実感できる。少なくとも「医は仁術」として、ビジネスを度外視している日本の医師は、認可承認の後に「出血により時事刻々と実際に困っている症例」を救えない薬剤は使用しない。このような薬剤は、試験の科学的価値が低くても、臨床現場に早く届ける価値がある。実際に使用する症例数は多くないと想定されるので、認可承認の後、全数の登録レジストリなどをスポンサーに課して、期限内に科学的根拠を示せなければ、承認取り消しの条件に早期承認を可能とするシステムを考えたらよいと筆者は考える。

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PROTECT AF試験:経皮的左心耳閉鎖術~心房細動患者が抗凝固療法を中止できる日は本当に来るのか(解説:矢崎 義直 氏)-329

 PROTECT AF試験は、非弁膜症性心房細動に対する経皮的左心耳閉鎖術の有効性および安全性をワルファリン療法と比較した非盲検無作為化試験である。 経皮的左心耳閉鎖術とは、血栓の好発部位である左心耳の入口部に傘状のWATCHMANデバイス(Boston Scientific社製)を挿入し、左心耳を閉塞させ血栓形成を予防する方法である。心房細動患者に対する抗凝固療法の中止が期待できるのは、カテーテルアブレーションでの根治以外に、この左心耳閉鎖術が有力である。本試験の観察期間18ヵ月および2.3年の結果はすでに報告されているが、今回は3.8年と長期成績の報告である。 ワルファリン投与群のTTR(Time in Therapeutic Range)は70%であり、比較的良好な凝固コントロール群との比較である。左心耳閉鎖術は、ワルファリンと比較して、主要エンドポイントである複合イベント(脳卒中、全身性塞栓症、心血管死)について、非劣性であり全死亡を有意に抑制させた。 左心耳閉鎖術は、ワルファリン療法と同等以上の効果と安全性が示されたわけであるが、当然、NOACs(新規経口抗凝固薬)との比較が気になるところである。本試験の対象は707例であり、1万例を超えるNOACsの大規模臨床試験と直接の比較はできないが、それぞれのデータを見比べてみる。 本試験のCHADS2スコアは平均2.2とRELY試験(ダビガトラン)やARISTOTLE試験(アピキサバン)と類似する。複合イベント発生は有意に低下させたが、ワルファリン群と比べて虚血性脳卒中に差がついていない点は、RELY試験におけるダビガトラン300mg投与群を除くすべてのNOACsの試験と同様の傾向である。出血性脳卒中や心血管死、全死亡は低く、これらがエンドポイントに影響している可能性があり、これも他の試験と類似している。それぞれの試験デザイン、解析方法も違うが、効果に関してはNOACsと同等という印象である。 安全性の複合エンドポイント(頭蓋内出血、輸血を要する出血、LAA閉鎖術群では手技に関連する出血)の発生率は、左心耳閉鎖術はワルファリン群と同等となっているが、2つの点で改善の余地がある。まずは、左心耳閉鎖術はある程度のラーニングカーブが必要であり、手技の習得システムの確立と症例の経験により、周術期の出血の合併症を減らす事ができる。 もう1つ複合イベントの多くを占めているのが、術後の大出血である。デバイス挿入後の抗血栓療法は、ワルファリンとアスピリンの併用となる。動物実験の結果を基に、デバイスが内皮化するとされる術後45日頃に、経食道エコーで左心耳からのリークがなければワルファリンを中止する。代わりにクロピドグレルを追加し、半年間は抗血小板薬2剤となる。半年以降はアスピリン単剤となる。もとよりこのデバイスは出血のハイリスク症例が適応となるため、術後半年の抗血栓薬の併用療法が、大出血の要因となりかねない。小規模な試験ではあるが、術後の抗血栓療法なしの安全性も報告されており、今後のエビデンスの構築が望まれる。 また、本試験の対象はCHADS2スコアが比較的低く、発作性心房細動が43%も含まれており、このような症例にはアブレーションによる根治、抗凝固療法の中止が期待できるわけである。今後、より心耳閉鎖術の適応となるであろうROCKET AF試験(リバーロキサバン)のようなCHADS2スコアの高い、根治が困難な永続性心房細動を対象とした比較試験が必要と考える。さらには、本試験の症例は9割が白人であることには留意すべきで、とくに凝固能には人種間の差があるため、日本人独自の臨床試験が必要である。 WATCHMANデバイスによる左心耳閉鎖術が、つい先日(2015年3月13日)FDAにより承認されたので、近い将来この技術が日本にも入ってくる。デバイス挿入のサポートには経食道心エコーの技術が必須であり、当然全身麻酔も必要となる。日本のカテーテル検査室の現状を考えると、このデバイスを導入するにはいくつかのハードルを越えなければいけないが、抗凝固療法を中止できるのは非常に魅力的であり、脳梗塞予防における治療の選択肢の1つとして期待される。

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アリスミアのツボ Q24

Q24 抗凝固療法、抗血小板薬2剤の併用(triple therapy)は大丈夫? 「混ぜるな、危険」が基本ですが…… ヒトは太古の昔から出血と闘ってきました。今でこそ血栓症が死因の多くを占めますが、つい江戸時代までは斬る、斬られるで、大出血や感染症が死因の多くを占めていたと考えられます。 そして、この大出血を防ぐための生体のシステムが、血小板と凝固カスケードです。と考えれば、抗凝固療法で凝固カスケードをブロックし、抗血小板薬2剤併用で二方向から血小板機能をブロックすれば、大出血を防ぐためのシステムがなくなり……その結果すべての出血が大出血へと変化してしまいます。“The more, the better”は、そもそもこの領域には当てはまらないのです。 なので、抗血栓薬は「混ぜるな、危険」が基本です。ただ、人間の行動には慣性モーメントが働いています。これまで動脈血栓予防には抗血小板薬を、静脈血栓予防には抗凝固薬をと身に染みつくくらい習ってきたので、両方のリスクがあるなら抗血栓薬を重ねるという慣性モーメントが働いてしまいます。 まだ、この分野には十分なエビデンスがなく、最低限これだけで大丈夫とはいえないのですが(具体的な処方はまだ確定していません)、できるだけ抗血栓薬は少なくできないかを考える機会を持つことが重要でしょう。そのとき、 (1)ステントを用いていない場合は、抗凝固療法は抗血小板薬を兼ねる (2)ステントが入っている場合でも、ステントの改良で抗血小板薬2剤の併用が必要となる期間は短縮している という2つの知識が生かされると思います。長い間お楽しみいただいた「Dr山下のアリスミアのツボ」は、今回で最終回となります。ご愛読ありがとうございました。

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生データによるメタアナリシスの診療ガイドラインへの引用割合(解説:折笠 秀樹 氏)-325

 診療ガイドライン策定に当たり、系統的レビューやメタアナリシスがよく引用されるのは周知のとおりである。メタアナリシスとは複数の研究結果を統合する解析法のことであるが、通常は研究論文中に掲載されている数値を基にして結果を併合する。一方、生データを取り寄せ、それらに基づき統合するメタアナリシスも存在する。この方法をIPDメタアナリシス(今後、IPD-MAと略す)と呼んでいる。ちなみに、IPDはIndividual Participant Dataの頭文字を取った。本論文では、診療ガイドラインにIPD-MAがどれくらい引用されているかを調査した。 精選された医療情報を収集し、それらをメタアナリシスで統合し、世の中へ提供しているグループがある。それはコクラン共同計画(Cochrane Collaboration)という団体である。このコクラン共同計画の中に、IPD-MA Methods Groupという専門部会がある。そこが所有するIPD-MAデータベースから33件のIPD-MAが調査された。ちなみに、本論文の著者はこの専門部会のメンバーである。これら33件のIPD-MAの内容に合致した診療ガイドラインとして177件が選ばれた。そして、診療ガイドラインでの引用率をIPD-MAごとに算出した。まったく引用されていないIPD-MAが8件(8/33=24%)もあった。その一方で、88%(14/16)も引用されたIPD-MAがあった。それはATT(Antithrombotic Trialists’ Collaboration)である。コクラン共同計画が主導したIPD-MAであり、アスピリンなどの抗血栓薬の有効性を示した。また、スタチンなどの脂質改善薬に関するIPD-MAであるCTT (Cholesterol Treatment Trialists’ Collaboration)でも43%(6/14)引用されていた。平均的には37%の引用率のようであった。 IPD-MAにもピンキリがあり、コクラン共同計画や主要学会が主導する立派なものから、一部の研究者が主導する低質のものまで存在する。前者は診療ガイドラインにかなり引用されているので、一概にIPD-MAが診療ガイドラインへ引用されないともいい切れないだろう。それよりも、質の高いIPD-MAをもっと行うべきではないかと思う。IPD-MAでは生データが必要となるが、昨今の研究データの公開化が進めばやりやすくなることだろう。

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エドキサバン、臨床的特徴で減量しても有効?/Lancet

 心房細動患者に対し、エドキサバン(商品名:リクシアナ)の投与量を、臨床的特徴に応じて半減しても、脳卒中・全身性塞栓症の予防効果は維持され、大出血リスクは低下することが明らかにされた。米国ハーバード・メディカル・スクールのChristian T Ruff氏らが、2万人超を対象に行った二重盲検無作為化試験「ENGAGE AF-TIMI 48」のデータを分析し報告した。Lancet誌オンライン版2015年3月10日号掲載の報告より。クレアチニン・クリアランス値や体重に応じて投与量を半減 ENGAGE AF-TIMI 48は、2008年11月19日~2010年11月22日にかけて、心房細動患者2万1,105例を対象に行われた。試験では被験者を、エドキサバン60mg/日(高用量群)、または同30mg/日(低用量群)、もしくはワルファリン(国際標準化比[INR]:2.0~3.0)のいずれかの投与を受ける群に無作為に割り付け比較検討された。 また同試験では、ベースライン時、または試験実施期間中に、クレアチニン・クリアランスが30~50mL/分、体重が60kg以下、またはP糖タンパク質の相互作用のある併用薬を服用している人については、エドキサバン投与量を半減した。 研究グループは、こうしたエドキサバンの投与量の調整と、過剰な血中濃度および出血イベントの予防との関連を検証した。投与量半減で血中濃度は3割減 投与量を減少した患者は5,356例、減少しなかった患者は1万5,749例だった。減少した患者のほうが、脳卒中、出血、死亡の発生が高率だった。 エドキサバンの投与量は15~60mgにわたり、血中濃度の平均トラフ値(データが入手できた患者6,780例において16.0~48.5ng/mL)、および抗Xa因子活性の平均トラフ値(データが入手できた患者2,865例において0.35~0.85IU/mL)は2~3倍の範囲にわたった。 分析の結果、エドキサバン投与量の減少によって、血中濃度平均値は高用量群で29%(48.5ng/mLから34.6ng/mL)、低用量群では35%(24.5ng/mLから16.0ng/mL)、それぞれ減少した。抗Xa因子活性の平均値についても、それぞれの投与群で、25%(0.85IU/mLから0.64IU/mL)、20%(0.44IU/mLから0.35IU/mL)減少した。 また、エドキサバン高用量群、低用量群ともに用量を減少しても、脳卒中や全身性塞栓症の予防について、ワルファリン投与群と比べた有効性は維持された(高用量群p=0.85、低用量群p=0.99)。一方、大出血については、そのリスクの低下が認められた(高用量群p=0.02、低用量群p=0.002)。 これらの結果を踏まえて著者は、「エドキサバンの投与量を患者の臨床的特徴のみで調整することで、過剰な血中濃度を防ぎ、虚血性イベントリスクと出血イベントリスクの適正化に寄与する」と結論付けた。■「リクシアナ」関連記事リクシアナ効能追加、静脈血栓症、心房細動に広がる治療選択肢

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ガイドラインでは薬物相互作用を強調すべき(解説:桑島 巌 氏)-322

 わが国と同様、世界の先進国は超高齢化社会を迎えている。一方において、各国は主要な疾患に対してガイドラインを制定して、標準的治療の推進を呼びかけているという事実がある。実は、この2つは大きな矛盾も抱えているのである。すなわち超高齢化社会の最大の特徴は多様性であり、画一的な集団での研究から得られた臨床研究の結果であるガイドライン、あるいは標準的治療とは必ずしもそぐわないのである。 NICEガイドラインは、イギリスの国立医療技術評価機構(National Institute for Health and Clinical Excellence)によって策定された治療指針であり、治療法や臨床運用のみでなく、それぞれの医療技術の費用対効果も盛り込むなど、世界的に最も洗練された評価の高いガイドラインである。 超高齢者では腎機能障害を有する例が多いことと、多疾患であることも特徴であり、この点は高齢者で薬物治療を行うに当たって最大の注意を払うべきポイントである。 本論文は、NICEが策定した12のガイドラインのうち、高齢者に多い2型糖尿病、心不全、うつ病の3疾患と、11の一般的症状または併存疾患との関連について、薬剤誘発性疾患あるいは薬物間相互作用を詳細に分析した報告である。 その結果によると、重篤な薬物-疾患相互作用や薬物間作用についての記述は数多く認められてはいるものの、強調されているとはいえないとして、ガイドライン作成者は他疾患を併存する場合を想定した、薬物相互作用あるいは薬物誘発性疾患について系統的アプローチを考慮すべきと結論付けている。 翻ってわが国の、たとえば「高血圧治療ガイドライン2014」をみてみると、薬物相互作用についての記載はごくわずかであり、きわめて一般的なことに限定されており、腎機能障害などとの関連についての記載は非常に乏しい。 とくに最近登場した新規抗凝固薬(NOAC)や、新規糖尿病治療薬による有害事象が頻発しているが、ガイドラインでは、これらの新薬に関して腎機能との関連や薬物相互作用にはもっとページを割くべきであった。

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